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公的年金制度に関する考え方

(第2版)




平成13年9月

厚生労働省年金局


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目次


第1 公的年金制度に対する基本認識

公的年金の必要性

公的年金の役割

第2 Q&A

Q1 公的年金はつぶれるのではないか。

Q2 企業年金が解散したり、保険料滞納者が増加(国民年金が空洞化)しているが、このままでは年金制度はつぶれるのではないか。

Q3 払った保険料よりも、もらえる年金の額の方が少ないのではないか。若い世代ほど今後の保険料負担が重くなり、負担できなくなるのではないか。

Q3-2 この計算は利子を計算していないのでおかしい。

Q4 個人年金や貯蓄の方が、利子等がつくので、公的年金よりも有利なのではないか。

Q5 未加入・未納はなぜいけないのか。

Q6 公的年金は世代間扶養というのなら、税方式の方がよいのではないか。なぜ社会保険方式をとるのか。

Q7 公的年金は基礎年金部分に限定して、報酬比例部分の厚生年金は廃止し、民営化すべきとの意見があるが、どう考えるか。

Q8 40年保険料を納めて支給される基礎年金の額が、保険料を納めずにもらえる生活保護額よりも低いのはおかしいのではないか。


公的年金制度に関する考え方(第2版)


平成13年9月
厚生労働省年金局


第1 公的年金制度に対する基本認識

公的年金は、将来の経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後の収入確保を約束できる唯一のもの

公的年金の必要性

【要点】

1.  生涯を安心して暮らすためには、やがて必ず訪れる老後において、現役時代と大きく変わらない生活のできる収入が確保されていることが必要

2.  このような収入を確保する上で、我々は、3つのリスク(不確定要因)に直面。

(1)  老後の余命期間は予測不可能。

(2)  現役時代から老後までの長い期間に起こるであろう賃金や物価の上昇などの経済社会変動は、大きく、かつ予測不可能。

(3)  さらに、老後を迎える前に、障害を負う可能性、死亡して遺族が残される可能性も皆無ではない。

3.  このようなリスクがある中で、老後の生活に必要となる収入を、個人レベルで確実に確保することは困難

(1)  貯蓄:自らの寿命や今後の経済社会変動が予測不可能な中で、老後に必要となる貯蓄額をあらかじめ見通し、貯蓄だけで確実に対応することは通常無理。

(2)  子供からの扶養:親子の扶養関係が変化する中で、年功制を薄めた賃金体系の導入、少子化の進展等を受け、親を扶養する場合の子供一人当たりの負担は大きくなっており、これに依存し続けることは困難。

4.  社会全体での世代間扶養を個々人の自助努力の下で行う仕組みをとっている公的年金だけが、将来の経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後の収入確保を約束できる


やがて必ず訪れる老後の収入確保の必要性
 生活水準の向上や医学の発達によって、国民の平均寿命は伸びており、多くの人にとって、若い時ほど働けなくなって、充分な収入を得られなくなる時は、やがて必ず訪れる。
 老後の生活の憂いなく、生涯を安心して暮らすためには、実際に老後の生活を送ることになる将来の経済社会において、それまでの暮らしと大きく変わらない生活のできる収入が確保されていることが必要である。

我々が直面する3つのリスク(不確定要因)
 我々がこのような収入をきちんと確保できるかどうかについては、次のようなリスク(不確定要因)がある。

(1)  多くの人にとって、あらかじめ何歳まで生きるか予測することは極めて難しい。65歳からを老後と考え、平均寿命を80歳と考えると、平均すると約15年の期間となるが、今日では90歳や100歳まで生きる人も珍しくなく、このような人々にとっては老後は25年から35年にも及ぶ。

(2)  成人した20歳の時から考えると、年金を受け取り始める65歳は45年後、平均寿命の80歳を迎えるのは60年後となる。このような長い期間に、賃金や物価の上昇など社会や経済に起こるであろう変動は大きく、また、誰にもあらかじめ見通すことができない。いわば、我々にとって、遠い将来の経済社会は常に不確実なものである。

(3)  さらに、人生80年時代となっても、老後を迎える前に、障害により働けなくなり収入を失ったり、死亡して配偶者や子が残されたりするリスクも皆無ではない。

個人のレベルで老後の所得保障が可能か?
 このようなリスク(不確定要因)がある中で、老後の生活に必要となる収入の確保を個人のレベルでできるかどうか、老後の所得保障を代表例に考えてみよう。この場合、自分で貯蓄して対応するか、自分の子どもからの扶養に頼るか、どちらかになる。

自分の貯蓄だけでの対応の限界
 自分で貯蓄して対応すると考えると、

(1) 自分の老後生活がどの程度の期間となるか、

(2) 実際に老後生活を送ることになる45年から60年後の経済社会がどのように変わるか(例えば、賃金や物価がどれくらいの水準になるか)、

(3) それに備えるためにどれ位貯蓄しなければならないか、

これらのことを、あらかじめ見通し、貯蓄だけで確実に対応することは、通常は無理といっても過言ではない。

 これまでの歴史においては、インフレや不況によって、せっかく蓄えた財産が大きく目減りしたり資産価値が下落したりしてしまったこともあった。むしろ、これまでの歴史を数十年の単位で見ると、大きな経済変動が起こることの方が一般的である。
 また、これまで科学技術の発展などによって経済は成長し、賃金や国民の生活水準も向上してきた。今後も生活水準が向上していく中で、貯蓄した財産だけでは、生活水準の更に向上した将来の社会で、生涯、従前の生活と大きく変わらない生活を送ることは通常難しい。

子どもからの扶養での対応の限界
 次に、自分の子どもからの扶養に頼ると考えても、

(1)  今日、長期継続雇用を前提とした雇用システムに変化が生じ、また年功制を薄めた賃金体系の導入も進む中で、今後老親を抱える個々の中高年層の側にも雇用に対する不安定性が増大するものと見込まれる一方、少子化が進行しており、親を扶養する場合の子ども一人当たりの負担も大きくなっていること、

(2)  扶養してもらうためには、子どもと同居することが普通であるが、親と子の扶養関係が変化する中で、いわゆる三世代同居が減少し続けるなど、同居が難しくなっているという現実がある。(同居できない場合、仕送りで生活を支えるとすると、同居した場合と比べてはるかに大きな費用がかかり、この大きな費用を長い老後の間、仕送りし続けることは難しい。)

(3)  また、子どもが病気や事故に遭って収入を失うと、その親も貧困に陥ることになるし、そもそも子どものいない人は、老後に頼るべきものが何もなくなることになる。

公的年金の役割

【要点】

1.  公的年金は、世代間扶養の考え方を基本においた社会保険方式を採っている。

(1) 世代間扶養:あらかじめ見通すことのできない長い期間に生ずるであろう賃金や物価の上昇などの経済社会の不確実な変化に対応するための、世代を超えた支え合いの考え方。

(2) 社会保険:社会全体が連帯し、国民一人一人が保険料を納めるという自助努力を果たしながら、互いに支え合う仕組み。
2.  社会全体での世代間扶養の仕組みに保険料納付という自助努力を組み合わせることが老後の生活を確実に保障できる唯一の仕組み
 公的年金は、「現在の現役世代が自助努力によって支払う保険料により現在の高齢者の年金給付を支え、現在の現役世代が将来高齢者となった時には、個々人の現役時代の保険料納付の実績、すなわちかつて高齢者の年金給付に対して個々人が行った貢献の度合いに応じて、次の世代の支払う保険料によって年金給付を受けるということを順繰りに行う」という考え方を基本として組み立てられている。
 これは、社会全体での世代間扶養という考え方に、国民一人一人の老後に向けての自助努力という考え方を組み合わせた仕組みである。この仕組みは世界の主要国でもほぼ例外なく採用されており、長期間の賃金や物価の上昇などの社会経済変動に対応し、広く国民の老後の生活を確実に保障できる唯一の仕組みであることを是非ともすべての国民にご理解いただく必要がある。

3.  加入が任意に委ねられている個人年金には、給付が賃金や物価にスライドして改定される仕組みをとっているものはない。
 どのように将来の経済社会が変化しようとも、賃金や物価にスライドし、その社会で従前の生活と大きく変わらない生活のできる収入を確保できる世代間扶養を基本とした社会保険の仕組みは、入るか入らないかを個人の任意に委ねることでは成り立たない

4.  このため、国民一人一人が、社会全体での世代間扶養を保険料納付という自助努力の下で行う仕組みの重要性を正しく認識し、この仕組みを守り育てていくことが必要。


社会連帯と自助努力による社会保険
 これまで述べたように、将来の経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後の生活を確実に保障する仕組みとしては、個人の貯蓄や家族による私的な扶養のみでは、どうしても限界があると考えざるを得ない。
 このため、社会全体が連帯し、収入のある時は保険料を納めるという自助努力を行って収入が得られなくなった者を支え、収入が得られなくなった時には収入のある者が納付する保険料に支えてもらうという、社会保険(社会保障)の仕組みである公的年金が存在し、老後をはじめ、障害や死亡の場合の所得保障が図られている。

世代間扶養による世代を超えた支え合い
 特に、45年から60年以上にわたる長い期間に生ずるであろう、賃金や物価の上昇といった、大きく、また、あらかじめ見通すことのできない不確実な社会の変化に対応して所得保障を行うには、時々の生産活動に従事する20歳から59歳までを基本とする幅広い現役の世代が、その時々の収入の得られなくなった高齢者の世代を支えるという、世代を超えた支え合い、すなわち「世代間扶養」の考え方を基本におかなければできない。

社会全体での世代間扶養の仕組みに保険料納付という自助努力を組み合わせることが老後の生活を確実に保障できる唯一の仕組み
 公的年金は、「現在の現役世代が自助努力によって支払う保険料により現在の高齢者の年金給付を支え、現在の現役世代が将来高齢者となった時には、個々人の現役時代の保険料納付の実績、すなわちかつて高齢者の年金給付に対して個々人が行った貢献の度合いに応じて、次の世代の支払う保険料によって年金給付を受けるということを順繰りに行う」という考え方を基本として組み立てられている。

 これは、社会全体での世代間扶養という考え方に、国民一人一人の老後に向けての自助努力という考え方を組み合わせた仕組みである。この仕組みは、世界の主要国でもほぼ例外なく採用されており、長期間にわたる賃金や物価の上昇などの社会経済の変動に対応し、広く国民の老後の生活を確実に保障できる唯一の仕組みであることを、是非ともすべての国民にご理解いただく必要がある。

社会連帯の重要性
 世代間扶養を基本とした社会保険の仕組みは、賃金や物価にスライドした年金を給付できるが、これは入るか入らないかを個人の任意に委ねることでは成り立たず、社会全体で仕組むことによって初めて可能になるものである。このことは、現に、加入が任意に委ねられている個人年金には、給付が賃金や物価にスライドして改定される仕組みをとっているものはないことからもわかる。

国民一人一人の取り組み
 したがって、どのように将来の経済社会が変化しようとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない生活のできる収入を確保していくため、国民一人一人が、社会全体での世代間扶養を保険料納付という自助努力の下で行う仕組みの重要性を正しく認識し、この仕組みを守り育てるために、公的年金にきちんと加入し、きちんと保険料を納付する義務を果たさねばならないということを、ご理解いただく必要がある。

積立金の保有
 なお、我が国においては、少子高齢化が急速に進行する中で、後世代の負担の増加は避けられない。世代間扶養の考え方を基本におきつつ、保険料負担が急速に上昇し過度なものとならないよう、運用収入を確保するための一定の積立金を保有することとしている。

(参考1)年金に加入し始めてから受給するまでの時間の長さと経済社会の大きな変動の図


(参考2)先進諸国の公的年金制度

【要点】

 ほとんどの主要国において、公的年金は、世代間扶養を基本とする社会保険方式(賦課方式の社会保険)を採用している。

※税方式: 一定の年齢になったら、個々人の保険料拠出と連動することなく、税によって、国が生活の基礎費用を一律に支給する方式

 人口が早くから成熟化しているドイツ等では、積立金は支払準備金程度の保有となっているが、我が国は、少子高齢化が急速に進行する中で、現役世代の保険料が急速に上昇し過度なものとならないよう、一定の運用収入を確保するため、比較的大きな積立金を保有している。

 ほとんどの主要国において、公的年金は、報酬(所得)に比例する給付(我が国の年金制度の2階部分に相当)を有する。

国名

公的年金の体系

公的年金の体系の図

対象者(社会保険方式に限る)
(◎強制△任意×非加入)
社会保険方式か

税方式か
社会保険方式における世代間扶養(賦課方式)の採否(括弧内は積立金の積立度合)
アメリカ 公的年金の体系の図
被用者(年830ドル(約10万円)以上の収入のある者)
自営業者(年400ドル(約5万円)以上の収入のある者)
× 無職
社会保険 世代間扶養

(給付費の約2年分)
イギリス 公的年金の体系の図
被用者(週に67ポンド(11,300円)以上の収入のある者)(それ以下の低所得者は△)
自営業者(年3,825ポンド(約65万円)以上の収入のある者)(それ以下の低所得者は△)
無職
社会保険 世代間扶養

(給付費の約2ヶ月分)
ドイツ 公的年金の体系の図
被用者(週15時間以内の短時間労働者、月620マルク(約3万円)以下の低収入者は△)
自営業者(業種によっては◎)、無職
社会保険 世代間扶養

(給付費の約1ヶ月分)
フランス 公的年金の体系の図
被用者、自営業者
無職
社会保険

(年金、所得の低い者には税による老人最低保障給付あり)
世代間扶養

(給付費の約1ヶ月分)
→今後、積立度合を増す予定
スウェーデン 公的年金の体系の図
被用者、自営業者
× 無職
社会保険

(年金の低い者には税による保証年金あり)
→1999年に税方式の基本年金を社会保険方式中心に改めた。
世代間扶養

(給付費の約4年分)
〈2000年〉
→1999年改革により部分的に積立方式を導入
カナダ 公的年金の体系の図
被用者、自営業者(年3,500ドル(約24万円)以上の収入のある者)
× 無職
社会保険

(年金、所得の低い者には税による基本年金、補足給付あり)
世代間扶養

(給付費の約2年分)
→1998年改革により
今後約4〜5年分に
積み増す予定
オースト
ラリア
公的年金の体系の図 (給与の8%を老後のために強制貯蓄。それを運用したものを老後に給付。)
老後のための強制貯蓄

(年金、所得の低い者には税による老齢年金あり)
→1992年に、従来の税方式を補足的なものに改め、老後のための強制貯蓄を導入

ニュージー
ランド
公的年金の体系の図 (税を財源とし、全居住者対象)
日本 公的年金の体系の図
被用者、自営業者、無職
社会保険
世代間扶養

(給付費の約5年分)
〈厚生年金〉
→今後高齢化に伴い約3年分に縮小


第2 Q&A

Q1  公的年金はつぶれるのではないか。

【要点】

1.  社会全体で世代間扶養を行う仕組みをとっている公的年金は、我が国の経済社会が存続する限り、決してつぶれることはない

(1)将来の経済社会において一定の生産活動が行われ、それを反映した暮らしぶりがある中で、現役世代の生産活動の一部を、その暮らしぶりを反映した形で年金給付にあてていけば、我が国の経済社会が存続する限り、決してつぶれることはない。

(2)仮に公的年金が存在しない場合の親の扶養を考えると、子どもが少なくなれば、当然、子どもが一人あたりの仕送りを増やすか、親が仕送りを少し我慢するか調整するはずで、公的年金でも同じことは可能。

(3)また、一定の積立金を保有し、その運用収入を充てることにより、将来世代の負担が急激に上昇し過度なものとならないように配慮。

2.  国民一人一人が、老後を守る唯一の仕組みである社会全体での世代間扶養の考え方を理解し、公的年金を守り育てていくとともに、将来に向けて支え手をいかに増やしていくかという課題に取り組んでいく必要。


世代間扶養の仕組みはつぶれることはない
 将来、経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後に、その社会において従前の生活と大きく変わることのない生活ができるよう、生活の基本的な部分を年金により保障するためには、社会全体での世代間扶養を国民一人一人の保険料納付という自助努力の下で行う仕組みが、いわば唯一の合理的な仕組みであり、世界の主要国においても世代間扶養を基本とした社会保険方式の年金制度が運営されている。

 将来の経済社会の変化をあらかじめ見通すことはできないが、どのような形であるにせよ、45年後には45年後の経済社会とその社会における暮らしがあり、60年後には60年後の経済社会とその社会における暮らしがある。

 世代間扶養の仕組みは、将来の経済社会において一定の生産活動が行われ、それを反映した暮らしぶりがある中で、現役世代の生産活動が生み出す成果の一部を、その社会の暮らしぶりを反映した形で高齢者世代の年金の給付にあてていこうという考え方であるので、公的年金は、我が国の経済社会が存続する限り、決してつぶれることはない。

子どもが減れば当然行われる親子間の調整
 「公的年金制度はつぶれるのではないか」との不安の背景には、人口の少子高齢化により、年金制度を支える現役世代が減っていくことがある。
 しかし、仮に公的年金が存在しない場合を考えると、年金保険料を支払う代わりに親を私的に扶養するということになるが、この場合であっても、一家族あたりの子どもが少なくなれば、子ども一人あたりの親への仕送りを増やすか、親が仕送りを少し我慢するかということになるはずであり、子どもが少なくなったからといって、子どもが仕送りそのものをやめてしまうとか、親が仕送りが全く受けられなくなるといったことにはならないだろう。

 公的年金でもこれと同じことが起こっているのであって、親子の間での調整と同じことを適切に行っていけば、制度がつぶれてしまうということはない。
 すなわち、人口の少子高齢化に伴って、今後年金保険料が増加することは避けられないが、その一方で、その保険料が過度に高くならないように、高齢者の年金給付水準についても見直しを行ってきている。
 また、我が国の場合、急速に少子高齢化が進行することが見込まれているので、一定の積立金を保有し、その運用収入を充てることにより、将来世代の負担が急激に上昇し過度なものとならないように配慮を行っている。

国の運営責任と国民一人一人の取り組み
 国としても運営責任をしっかりと果たしていく考えであるが、国民一人一人が、老後を守る唯一の仕組みである社会全体での世代間扶養の考え方を理解し、公的年金を守り育てていくことが必要である。

支え手を増やす取り組み
 また、今後は、急速な少子高齢化の影響をできる限り緩和するため、高齢者や女性の就労を含め、将来に向けて支え手をいかに増やしていくかという課題に取り組んでいく必要がある。

Q2  企業年金が解散したり、保険料滞納者が増加(国民年金が空洞化)しているが、このままでは年金制度はつぶれるのではないか。

【要点】

1.  企業年金は企業が主として負担する掛金が運用されて戻ってくる仕組みであり、企業の業績や資金運用の悪化の影響を直接受けて、場合によって解散するものが存在。

2.  社会全体で世代間扶養を行う仕組みである公的年金は、一つの企業の業績の変化を社会全体でカバーすることができ、一企業の業績に左右される企業年金のように解散することはない

3.  国民年金の未納者は、近年増加しているものの、これが公的年金の財政を大きく揺るがし、制度を崩壊させるという状況にはない

(1) 未加入者・未納者を合わせても被保険者全体の5%程度。

(2) 未加入・未納期間分については将来の年金給付はなく、「ただ乗り」は生じない仕組み。

4.  「自分が将来年金をもらえないことを承知の上であれば、保険料を納めなくてもよい」というわけではない。

(1) 基礎年金は、20歳から59歳までの国民全体で公平に支える仕組みであり、他の頑張って保険料を納めている者に迷惑をかける

(2) 親の老後の心配をせずに暮らしていられるのは、社会全体で支える公的年金があるからであり、未加入者や未納者も公的年金の間接的な恩恵を受けている

(3) やがて必ず訪れる老後生活の確実な保障は、入っても入らなくてもよいという私的年金では行うことはできず、社会全体の連帯により初めて可能なもの。未加入・未納は、高齢者の生活を社会全体で支えるという社会的連帯の輪の中での義務を果たしていないという点で問題。

5.  国民一人一人が、社会全体での世代間扶養を保険料納付という自助努力の下で行う公的年金の重要性を理解し、この仕組みを守り育てていくことが必要。国としても、公的年金の考え方や大切さを十分伝えるとともに、保険料収納対策も徹底して講じていく考え。

企業年金の解散について

企業年金:掛金が運用され戻ってくる仕組み
 企業年金が会社の倒産や業績悪化などを理由に解散するケースがあるが、企業年金は、世代間扶養を基本とする公的年金と異なり、企業が主として負担する掛金が運用されて戻ってくる仕組みである。
 このため、企業の業績や資金運用の悪化の影響を直接受けることととなり、場合によっては解散するものが存在している。

公的年金:社会全体で世代間扶養を行う仕組み
 一方、社会全体での世代間扶養を国民一人一人の保険料納付という自助努力の下で行う仕組みをとっている公的年金は、一企業の業績に左右される企業年金のように解散することはない。
 企業年金は一企業の業績の変動の影響を直接受けることとなるが、社会全体で考えれば、業績のよい企業も悪い企業もあり、ある企業は倒産しても別の企業が生まれるように、一つの企業の業績の変化を社会全体でカバーしていくことができるので、公的年金がつぶれることはない。

保険料滞納者の増加について

現在の未納者の増加が公的年金財政を大きく揺るがす状況にはない
 「国民年金は「空洞化」しており、このままでは崩壊する」と指摘されることもあるが、基礎年金を支える20歳から59歳までの国民全体で考えれば、近年未納者は増えてはいるものの、未加入者・未納者は被保険者全体の5%程度にとどまっている。しかも、未加入・未納期間分については将来の年金給付はなく、「ただ乗り」は生じない仕組みとなっている。
 したがって、現在の未納者の増加が、公的年金の財政を大きく揺るがし、制度を崩壊させるという状況にはない。

将来年金給付がないことを承知すれば保険料を納めなくてもよいのか?
 しかし、自分が将来年金をもらえないことを承知の上であれば、保険料を納めなくてもよいか、というと、そうではない。

 基礎年金の給付に必要な費用は20歳から59歳までの全国民で公平に負担する仕組みとなっているところ、保険料を納めない者が増えると、当面給付費が減ることはない反面、保険料収入が減ることから、一時的に納付者一人あたりの基礎年金の負担が重くなることとなる。すなわち、頑張って保険料を納付している者に迷惑をかけることになる。

 また、現役世代が親の老後の心配をせずに安心して暮らしていられるのは、社会全体で支える公的年金があるからであり、未加入者や未納者も含めて、現役世代全体が公的年金の恩恵を間接的に受けていると言える。

一人一人が義務を果たして初めて行うことのできる老後の保障
 社会全体での世代間扶養を国民一人一人の保険料納付という自助努力の下で行う公的年金が、将来経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後を確実に支える唯一の仕組みであること、そして、このような保障は、入っても入らなくてもよいという私的な年金で行うことはできず、社会全体の連帯により初めて可能である。

 公的年金に加入をしなかったり(未加入)、加入をしても保険料を支払わない(未納)ことは、自分の親も含めて高齢者の生活を社会全体で支えるという社会的連帯の輪の中での義務を果たしていないと言う点で問題である。

 国民一人一人が、社会全体での世代間扶養を保険料納付という自助努力の下で行う公的年金の重要性を理解し、この仕組みを守り育てていくことが必要である。
 国としても、高齢者の生活を社会全体で支えるという社会的連帯の輪の中での義務を果たしていない未加入者、未納者を減らしていくため、公的年金の考え方や大切さを十分伝えるとともに、保険料収納対策も徹底して講じていく考えである。

(参考)
公的年金加入者の状況


公的年金加入者の状況の図

*1: 平成12年3月末現在。なお、第1号被保険者には、任意加入被保険者(30万人)を含めて計上しており、免除者は法定免除者と申請免除者の計である。
*2: 平成10年10月15日現在(平成10年公的年金加入状況等調査より)
*3: 平成11年3月末(平成11年国民年金被保険者実態調査より。未納者とは、調査対象とした第1号被保険者1,652万人のうち、過去2年間1月も保険料を納付しなかった者。)。

Q3  払った保険料よりも、もらえる年金の額の方が少ないのではないか。若い世代ほど今後の保険料負担が重くなり、負担できなくなるのではないか。

【要点】

1.  長期間にわたる賃金や生活水準などの上昇を踏まえた給付を行い、現役時代と大きく変わらない生活のできる年金を約束することができるのは、世代間扶養を基本とする仕組みであるからであり、いわばかけがえのない公的年金について、本来損得の観点からみる次元の問題ではない

2.  あえて計算しても、平均的に長生きすれば、支払った保険料の総額より生涯受け取る年金額の合計の方が大きく、決して払い損にはなっていない

3.  いずれにせよ、少子高齢化が進むにつれて、より若い世代の保険料負担が上昇するのは事実。しかし、公的年金の保険料を払うことにより、親の老後を心配することなく安心して生活ができるという意味で、現役世代も、公的年金制度の間接的な恩恵を受けていることにも留意が必要。

4.  なお、前回(平成12年)の制度改正で、

(1) 厚生年金の保険料率は、将来においてもボーナス込みの賃金に対して労使あわせて2割程度(現在13.58%)となり、

(2) 国民年金の保険料についても、改正法の附則に規定された基礎年金に対する国庫負担の割合の引上げ(1 / 3→1 / 2)を図ることにより、将来も18,000円台(平成11年度価格)にとどめることができると考えており、

将来の保険料負担が過重なものとならないよう取り組んだところ。



損得よりも実際に老後の生活を支えるのに十分であるかどうかが重要
 社会全体で世代間扶養を行うことを基本とする公的年金は、将来、経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後に、その社会において従前の生活と大きく変わることのない生活ができるよう、生活の基本的な部分を保障することのできる唯一の合理的な仕組み、かけがえのないものであり、本来損だとか得だとかの観点からみる次元の問題ではない。

 1961年に拠出制の国民年金がスタートした時、月額保険料100円を25年間納付すると月額2,000円、40年間納付すると月額3,500円の年金が終身受け取れることになっていた。現在の社会での生活水準の保障という面から考えると、このような年金額では充分ではないことは、誰の目からもみても明らかである。
 このように、公的年金は損か得かという議論をしても、実際に支給される年金が、老後の生活を支えるのに十分なものでなければ意味がない。

 現在、国民年金の受給者が、満額で月額67,017円の基礎年金を受け取ることができるのは、国民年金がスタートした後、世代間扶養の仕組みを基本とすることにより、賃金や物価等の水準の変動に応じて年金額を引き上げることが可能となったからである。
 このように、公的年金は、世代間扶養を基本とする仕組みであるからこそ、長期間にわたる生活水準や賃金などの上昇を踏まえた給付を行い、現役時代と大きく変わらない生活のできる年金を約束することができる。

 あらかじめ何歳まで生きるか見通すことは誰にもできない。国民年金も厚生年金も終身年金であり、どんなに長生きしても亡くなるまで年金が給付される。また、現役時代に障害にかかったり、亡くなったりした時の障害年金や遺族年金があることも忘れてはならない。
 このような保障のあり方について、損得論だけで見るべきではないということを、ご理解いただく必要がある。

個人年金ではこのような約束はできない
 逆に、入るか入らないかが個人の任意に委ねられている個人年金(私的年金)では、このような約束をしているものは存在していない。

あえて計算しても決して払い損にはなっていない
 このように、自分が払う負担と自分が受ける給付の損得だけで年金制度を捉えるべきではないということを前提とした上で、平成11年の財政再計算結果に基づいて、あえて計算をしてみると、
  •  国民年金の場合、今年20歳の人(1981年生まれ)が40年間納める保険料の総額を単純に合計すると1,036万円となるが、平均的に長生きしたと考えて、65歳から80.5歳(男女の平均寿命の中間)までの受け取る年金額を単純に合計すると1,247万円となり、保険料の総額より生涯受け取る年金額の合計の方が大きい。

  •  国民年金の保険料は段階的に引き上げられることになっていることから、今年生まれた人(2001年生まれ)の方の保険料の総額は1,210万円と今年20歳の人より高くなるが、それでも年金額合計が上回っている。

  •  これらはいずれも、国民年金に対する国庫負担の割合を3分の1として計算しているが、この国庫負担の割合については、前回(平成12年)の制度改正で、2分の1への引上げを図ることとされ、現在そのための検討が鋭意行われている。国庫負担を2分の1に引き上げた場合で計算すると、一番保険料総額が高くなる今年生まれた人でも888万円に引き下げられることになる。

  •  なお、国民年金の保険料は、その全額が課税対象となる所得から控除される(社会保険料控除)ことから、保険料を納めることにより減税の恩恵を受けているという点にも、留意する必要がある。

  •  厚生年金の場合は、基礎年金分の国庫負担があることに加えて、保険料の半分は事業主が負担する仕組みとなっていることから、どの世代で考えても個人が払う額より受け取る年金の方が多い。
     このとき、事業主が負担している保険料も自分が払っているのと同じという人がいるが、この仕組みが無かった時に事業主が負担している保険料の分だけ給料が高くなるという保証は全くない。このことは、例えば、厚生年金の適用されていない短時間勤務者の給料が、事業主の保険料負担分だけ高くなっているかどうかを考えても理解できる。


現役世代が受ける間接的な恩恵
 いずれにせよ、少子高齢化が進むにつれて、2020年頃までにかけて、より若い世代の保険料負担が上昇するのは事実である。
 しかし、もし公的年金が存在しないとすると、個々人で自分の親の老後を支えなければならない。その場合、子どもの数が減れば、子どもの仕送り負担が増えることは避けられない。また、公的年金の保険料を払うことにより、親の老後を心配することなく安心して生活ができるという意味で、現役世代も、公的年金制度の間接的な恩恵を受けているということを留意しなくてはならない。
 そして、この間接的な恩恵の程度は、今後少子化が進むにつれ、大きくなっていくと考えられる。

将来にわたって過重な負担とならないようにした平成12年の改正
 なお、前回(平成12年)の制度改正で、厚生年金の保険料率は、将来においてもボーナス込みの賃金に対して労使あわせて2割程度(現在13.58%)にとどめることとしている。国民年金の保険料についても、改正法の附則に規定されたように、基礎年金に対する国庫負担の割合について、現在の3分の1から2分の1への引上げを図ることにより、将来25,000円台(平成11年度価格)と見込まれる保険料を18,000円台(平成11年度価格)にとどめることができると考えている。
 このように、将来の保険料負担が急激に上昇し過重なものとなり、負担できなくなるようなことのないように、取り組んだところである。


(参考)
国民年金 年金受給総額と保険料総額の図

【年金受給総額、保険料総額の算出方法】

年金受給総額は、65歳から男女の平均寿命の中間の80.5歳までの15.5年間、現在の基礎年金額(月額67,017円)の年金を受給したと仮定して、その合計額を計算

保険料総額は、平成11年財政再計算結果による保険料の段階的な引上げ計画で示している毎年の保険料額に基づき、20歳から60歳到達時までの40年間の保険料の合計額を計算
  • 2001〜2004年度 月額13,300円
  • 2005年度以後段階的に引き上げ、2020年度以後
     −国庫負担割合3分の1の場合 25,200円
     −国庫負担割合2分の1の場合 18,500円

(※1) 保険料を納め終わった60歳の平均余命の男女平均は約24年1ヶ月であり、65歳以降の年金受給期間約19年1ヶ月を用いて計算すると、年金受給総額は1,535万円となる。

(※2) 平成12年改正法附則第2条
 「基礎年金については、給付水準及び財政方式を含めてその在り方を幅広く検討し、当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の2分の1への引上げを図るものとする。」


Q3−2  この計算は利子を計算していないのでおかしい。

【要点】

1.  利子や年金の改定率を含めて計算する場合、45年から60年後という非常に長い期間の計算となるので、前提の置き方次第で、損得の結果はいかようにも変わりうるため、そのような試算には現実的な意味はない。

2.  今回の試算は、元本ベースでの単純な計算をあえて試み、決して払い損になってはいないことを示したもの。


公的年金と個人年金・貯蓄の仕組みの違い
 公的年金は、現役時代から考えて、45年から60年後といった老後までの長い期間に、経済社会がどのように変わろうとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない暮らしのできる年金を保障することを目的としており、賃金や物価の水準の上昇に応じて年金の水準を改定する仕組みである。
 一方、個人年金や貯蓄は、払った金額に利子がついて戻ってくるというのが基本となる仕組みであり、あらかじめ賃金や物価の水準に応じた給付の保障はできない仕組みである。

前提の置き方次第で結果はいかようにも変わりうる
 利子や年金の改定率を含めて計算をすることも一つの方法ではある。しかしながらこの場合、45年から60年後という非常に長い期間の計算となるので、率の小さな差が長期間の累積により、非常に大きく影響してしまうこととなり、そのような試算には現実的な意味はないと考える。
例えば、
  • 50年間年1%で伸ばすと 100 → 164
  • 50年間年2%で伸ばすと 100 → 269
と非常に大きな差が出る。
このことは、前提の置き方次第で、損得の結果はいかようにも変わりうるということを示唆している。
元本割れ、払い損にはなっていないという計算結果
 したがって、ここでは、公的年金が割に合わない、特に、払った保険料よりもらう年金の方が少ない、いわば「元本割れ」しているのかどうかということを問題視する考え方が多いことに対して、いわば元本ベースでの単純な計算をあえて試み、決して払い損になってはいないことをお示ししたものである。

Q4  個人年金や貯蓄の方が、利子等がつくので、公的年金よりも有利なのではないか

【要点】

1.  公的年金と個人年金・貯蓄とでは仕組みが異なる

(1) 公的年金:賃金や物価の水準の上昇に応じて給付水準を改定する仕組み。

(2) 個人年金・貯蓄:払った金額に利子が付いて戻ってくるという仕組みであり、あらかじめ賃金や物価の上昇に応じた給付の保障はできない。
2.  したがって、経済社会がどのように変わろうとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない暮らしのできる年金を保障するという公的年金の機能は、あらかじめ賃金や物価の上昇に応じた給付の保障のできない個人年金や貯蓄には代替できない

3.  このような役割を反映して、公的年金には、私的年金にはない有利な措置がとられている。
基礎年金に対する国庫負担、事務費に対する給付費とは別の国庫負担、保険料の課税所得からの控除(社会保険料控除)
 一方、個人年金では、保険料の相当部分が事務費として使われている。

4.  個人年金や貯蓄は、公的年金を補完して、多様化した老後生活のニーズに対応する役割。それぞれの役割を踏まえ、公的年金を土台として、両者を組み合わせて老後の収入を確保するという対応が求められる。


公的年金と個人年金・貯蓄の仕組みの違い
 公的年金は、現役時代から考えて、45年から60年後といった老後までの長い期間に、経済社会がどのように変わろうとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない暮らしのできる年金を保障することを目的としており、賃金や物価の水準の上昇に応じて年金の水準を改定する仕組みである。
 一方、個人年金や貯蓄は、払った金額に利子がついて戻ってくるというのが基本となる仕組みであり、あらかじめ賃金や物価の上昇に応じた給付の保障はできない仕組みである。


公的年金の機能は個人年金・貯蓄には代替できない
 国民が生涯を通じて安心して生活を送ることができるためには、まず、生活の基本的な部分については、経済社会がどのように変わろうとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない暮らしのできる年金の保障が必要であると考える。
 このような保障は、賃金や物価の水準の上昇に応じて給付水準を改定する仕組みでなければ行うことはできず、社会全体で世代間扶養を行う公的年金においてはじめて約束できるものである。
 このような公的年金の機能は、個人年金や貯蓄が代替することはできない。

公的年金の有利性
 このように、生活の基本的な部分を全国民に保障するという役割を反映して、公的年金には基礎年金に対する国庫負担や、事務費に対する給付費とは別の国庫負担が行われ、社会保険料には課税所得からの全額控除がなされている。一方、民間の個人年金の場合は、これらの措置がなく、保険料の相当部分が事務費として使われているという面においても、公的年金は有利な仕組みであると言える。

多様化した老後ニーズに対応し公的年金を補完する個人年金や貯蓄
 もちろん、老後の生活も多様になってきており、多様になった生活をすべて公的年金で支えることはできない。
 民間の個人年金や貯蓄は、あらかじめ賃金や物価の上昇に応じた給付の保障はないが、加入するか否か、どれくらい保険料を支払うかが個人の任意に委ねられ、運用の方法も多様化しており、公的年金を補完して、まさに多様化した老後生活のニーズに対応する仕組みとしてふさわしいものと考える。

 したがって、公的年金と個人年金等を比べて、どちらが得か損かという見方ではなく、それぞれの役割を踏まえ、公的年金を土台として、両者を組み合わせて老後の収入を確保するという対応が求められる。

Q5  未加入・未納はなぜいけないのか。

【要点】

1.  加入が任意に委ねられている個人年金には、給付が賃金や物価にスライドして改定される仕組みをとっているものはない。将来の社会がどのように変わろうとも、その社会で従前の生活と大きく変わらない生活ができる年金を保障できる世代間扶養を基本においた仕組みは、入るか入らないかを個人の任意に委ねることでは成り立たず、社会全体で仕組むことにより初めて可能となる。

2.  未加入・未納は、このような社会的連帯の輪の中での義務を果たしていないと言う点で問題。未加入者や未納者は、頑張って保険料を納めている者に迷惑をかける。また、親の老後を心配することなく安心して生活ができるという意味で、未加入者や未納者を含めて現役世代全体が公的年金制度の間接的な恩恵を受けていることにも留意が必要。

3.  未加入者や未納者は、保険料負担能力がある。

(1)低所得者には、保険料の免除制度が存在。

(2)未納者は所得面で納付者とそれほど大きな差はみられない。

(3)未納者の半分以上は生命保険や個人年金に加入し、相当額の保険料を支払っている。

4.  未納者と納付者の間には、老後生活への意識や公的年金への理解に差

(1)未納者は納付者に比べて、公的年金を当てにする者が少ない。

(2)老後について特に考えていないとする者が多い。

5.  かつてがんばって義務を果たして保険料を納めた方々は、現に老後に年金を受給し、年金制度を高く評価。 基礎年金額を利子収入やパート労働で得ようとするとどうなるか考えると、年金の重みを実感。

6.  これらのことから、公的年金の考え方の広報・普及を強化するとともに、徹底した保険料収納対策に努力。


世代間扶養により老後の生活を支えることのできる年金を保障
 公的年金は、将来の経済社会がどのように変わろうとも、やがて必ず訪れる長い老後に、その社会において従前の生活と大きく変わらない暮らしができるよう、生活の基本的な部分を保障する仕組みであるが、この仕組みは、社会全体での世代間扶養を国民一人一人の保険料の納付という自助努力の下で行うということを基本におくことにより、可能となっている。

社会全体で仕組むことにより初めて可能となる世代間扶養
 世代間扶養を基本とした社会保険の仕組みは、入るか入らないかを個人の任意に委ねることでは成り立たず、社会全体で仕組むことにより初めて可能になるものである。
 このことは、現に、加入が任意に委ねられている個人年金には、給付が賃金や物価にスライドして改定される仕組みをとっているものはないことからもわかる。

未加入・未納は、社会的連帯の輪の中での義務を果たしていない
 このように、公的年金制度は、国民一人一人が保険料を納めるという自助努力を行い、社会全体で高齢者の生活を支えることによりはじめて成り立つものであるから、公的年金に加入をしなかったり(未加入)、加入をしても保険料を支払わない(未納)ことは、社会的連帯の輪の中での義務を果たしていないという点で問題である。

頑張って保険料を納付している者に迷惑をかける
 また、基礎年金の給付に必要な費用は20歳から59歳までの全国民で公平に負担する仕組みとなっているところ、保険料を納めない者が増えると、当面給付費が減ることはない反面、保険料収入が減ることから、一時的に納付者一人あたりの基礎年金の負担が重くなることとなる。すなわち、頑張って保険料を納付している者に迷惑をかけることにもなる。

未加入者・未納者でも受けている間接的な恩恵
 また、自分が払う負担と自分が受ける給付のことばかり念頭に置かれることが多いが、親の老後を心配することなく安心して生活ができるという意味で、未加入者や未納者を含めて現役世代全体が、公的年金制度の間接的な恩恵を受けているということを留意しなくてはならない。
 そして、その間接的な恩恵の程度は、少子化が進むにつれ、大きくなっているであろうことにも留意しなくてはならない。

未加入者・未納者は保険料負担能力がある
 未加入者や未納者は、所得が低く保険料を支払うことのできない者ではない。
 低所得故に保険料を支払うことのできない人々については、保険料の免除制度が準備されており、それにあたらない未加入者や未納者は、保険料を支払う所得があるにもかかわらず、保険料を納付しない人々である。現に、現在の未加入者や未納者の実態をみても、所得面で納付者とそれほど大きな差はなく、また、未納者の半分以上は生命保険や個人年金に加入し、相当額の保険料を支払っている。

老後生活への意識や公的年金への理解の差
 一方、未納者は納付者に比べて公的年金をあてにする者が少なく、老後について特に考えていないとするものが多いなど、老後の生活設計について、納付者と未納者とでは大きな差がみられる。また、年齢が高まるにつれて、未納割合は減少することから、納付者となるか、未納者となるかは、老後の生活に対する意識や公的年金に対する理解の差であると考えられる。

年金受給者は年金制度を高く評価
 実際問題としても、かつて頑張って義務を果たして保険料を納めた方々は、現に老後に年金を受給し、年金制度を高く評価している。
 現在基礎年金は、満額の場合、夫婦で考えると約13万4千円となっている。これに相当する収入を利子で得ようと考えると、約1億2,400万円の国債を保有しなければならない(10年国債の利率1.29%で計算)し、パート労働で得ようと考えると、月に約150時間働かなければならない(パートの平均時給約900円として計算)。
 このような給付が終身にわたって保障されることの意味を、今一度考えてみる必要がある。

今後の取り組み
 これらのことから、今後、公的年金の考え方の広報・普及を強化するとともに、徹底した保険料収納対策に努め、未加入者・未納者を減らしていく努力を重ねてまいりたい。

(参考)受給者の声

私たちが年金を貰えるのも若い世代が掛けてくれるお陰と思うから、20歳と21歳の孫には「掛け金、しっかり掛けといてなー。」と、言うんですね。年金は、自分がやったことに対してのお返しだから、孫にも十分に務めを果たしてほしいなと思います。
(香川県 宮崎 富子さん)

少子高齢社会だから、若い人たちは、保険料を掛けるときは苦しいかもしれないけどね。だけど、「掛けてあるんだ。」というひとつの安心感って、あるんじゃないですかね。それに、実際に、年金を貰ったときの楽しみというのは、格別ですからねえ。
(愛知県 紅谷 安彦さん)

同年代の方でやはり年金を貰っていない方がおるわけですよ。そういう方々のことを思いますとね、やはり老後になって、収入はそうはありませんのでね。そしたらやはり若いとき、年金を積み立てて、いま貰えるようになったことは有難いなーと実感しています。
(新潟県 相田 恒雄さん)

年金は生活必需品じゃないですか。なかったら生活できないから、みんな無理しても若いとき掛けてたんですよね。これからは、自分で自分のことをやっていかなくちゃならないんですから、納めるとこは納めていなかったら、大変だと思いますよ。
(宮城県 渡邊 あいさん)

年金は、定期的に決まった額が入ってきますから、生活の心配をしなくていいんです。そして子供は、それなりに生活してますから、今のところホントに生活の不安ていうのがありませんね。また、自分名義のお金っていばって使えるんですね。
(福岡県 中島ユミ子さん)

国の年金というのは、いくら利回りが悪くたってですね、年金額を減らすなんていうことはありませんし、終身保障して頂けるし、インフレになった場合には、物価スライドをして頂けると。非常に有難い制度だなーと、いうふうに思ってますけどね。
(東京都 井内 美喜夫さん)


(参考) 納付者と未納者

 納付者と未納者とでは、所得分布状況、生命保険・個人年金の加入状況など保険料負担能力の観点からは、両者の間にそれほど大きな差は見られず、納付者となるか未納者となるかは、両者の意識の差によるところが大きいと思われる。

1.加入者の所得等

(1) 所得状況(本人を含む世帯の総所得金額)

 所得分布状況を比較すると、納付者と未納者との間にそれほど大きな差はない。

所得状況の図

(2) 生命保険・個人年金の加入状況

 生命保険・個人年金の加入状況をみると、加入割合は納付者の方が高いが、未納者でも半分以上が加入している。また、加入者1人あたりの保険料月額については、納付者と未納者との間に大きな違いはない。

【再掲】
  加入割合 生命保険 個人年金 両方とも加入
     加入割合  保険料月額  加入割合  保険料月額  加入割合  保険料月額
 
納付者 73.6% 71.3% 2万4千円 25.2% 1万9千円 22.8% 4万8千円
未納者 53.9% 52.1% 1万8千円 12.7% 1万6千円 11.0% 4万1千円

2.老後の生活設計についての意識

 老後の生活設計について、納付者と未納者とで大きな差が見られ、未納者は「特に考えていない」と答える者が多く、老後に対する準備の意識が低くなっている。

   公的年金  自分で働く  特に考えていない
納付者 55.0% 13.6% 9.2%
未納者 18.6% 23.3% 22.6%

Q6  公的年金は世代間扶養というのなら、税方式の方がよいのではないか。なぜ、社会保険方式をとるのか。

【要点】

1.  我が国の年金制度は、現役時に働いて得た収入から保険料を納めるという自助努力を行い、親世代の生活を支えた義務を果たした者に対して、親世代を支えた貢献の度合いである保険料納付実績に応じて、子や孫の世代から年金給付を受け取る資格が生じる、という社会全体の世代間扶養による社会保険方式を採用。

2.  社会保険方式の利点

(1) 自助と自律の精神を基本とする我が国の在り方にふさわしい

(2) 保険料の納付実績が記録され将来の給付の根拠となるため、権利として年金を主張できるという安心感のある仕組み。

(3) 基礎年金の給付費は、今後巨額に達する見込みであることから、社会保険方式を基本とした税財源との組み合わせが最も安定的な運営方法

(4) 主要先進国でも、公的年金はほぼ例外なく社会保険方式を採用

3.  税方式の問題点

(1) 一定の年齢が来たら、個々人の保険料拠出と連動することなく、税によって国が生活の基礎費用を一律に支給する制度(税方式)は、我が国の在り方と整合的か

(2) 個々人の負担の記録もなく、その記録に基づき将来の年金額を約束するという方式ではない税方式で、年金支給に必要となる巨額の費用負担について国民の合意が得られるか

(3) 税方式の場合、受給時の権利性が乏しくなることから、少子高齢化に伴って負担が増大していく過程で、給付水準のカット、所得制限の導入、受給対象者の絞り込みが行われる可能性

(4) これまで保険料負担をしてきた方々について上乗せの年金を支給する必要。このような過剰給付が妥当か。財源措置はどうするのか。

(5) 税方式化により事業主負担の減少及び被用者本人の負担の増加

(6) 未加入者・未納者は基礎年金を支える国民全体からみれば5%程度で、所得面でも納付者と大きな差異はない。このような者の存在を理由に、税方式に切り替えることが適当か

社会保険方式の考え方と利点

世代間扶養の社会保険方式
 我が国の年金制度は、現役時(主に20〜59歳までの40年間)に、働いて得た収入から保険料を納付するという自助努力を行い、自らの親等その当時の高齢者(65歳から亡くなるまで終身保障、平均で約15年)の生活を支える義務を果たした人について、将来、自分が高齢者になったときに、かつて高齢者に対して貢献した度合い、すなわち保険料納付実績に応じて、子や孫に当たるその時代の現役世代から、仕送りされてくる年金を受け取る資格が生じるというということを順繰りに行う、社会保険方式を採用している。

社会保険方式は我が国の基本である自助と自律の精神に立脚
 本来、健康で文化的な最低限度の生活は、国民の自助努力によって達成されることが基本である。
 社会保険方式は、現役時に働いて収入を得て保険料を払うという自助努力を行う者に対して、その努力に応じて年金給付を行うことを基本にしており、自助と自律の精神を基本とする我が国の在り方にふさわしい。

保険料の納付記録が給付の根拠となり年金を権利として主張できる
 現役時に働いて得た収入による保険料の納付実績が記録され、自分が高齢者になった時に、その記録が給付の根拠となり、記録に基づいて算定された額の年金が支給されることから、保険料の負担の合意が得やすく、また、後世代に対して、先世代を支えた実績を記録に残し、権利として年金を主張できるという安心感のある仕組みである。

社会保険方式を基本に税財源を組み合わせて安定的に運営
 基礎年金の給付費は、2001年現在約15兆円、2025年には約23兆円(平成11年度価格)という巨額に達する見込みであることから、以上のような利点を有する社会保険方式を基本に、税財源を組み合わせていくことが、最も安定的に運営していく方法である。

主要先進国でもほぼ例外なく社会保険方式を採用
 諸外国においても、税財源により、実質的に生活を保障する年金を保険料拠出に関係なく所得制限なしで支給する制度は、ニュージーランドにみられるのみである。
 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど主要先進国の制度は、すべて社会保険方式を採用している。

税方式について

 「国民年金の未加入者、未納者が増えており、社会保険方式ではすべての高齢者に満額の基礎年金を支給することができないことから、税方式を採用すべき」との意見があるが、次のような論点がある。

自助と自律の精神に立脚した我が国の在り方と整合的か?
  •  「自助と自律」の精神に立脚する我が国において、国民一人一人が老後に備えて保険料を拠出するという考え方をやめて、一定の年齢がきたら、個々人の保険料拠出と連動することなく、税によって国が生活の基礎費用を一律に支給する制度(税方式)とすることは、我が国の在り方と整合的か。

税方式で巨額の費用負担に国民の合意が得られるか?
  •  仮に、財源を消費税に求めたとすると、現在でも基礎年金だけで消費税率5.5%、2025年にはこれを9%に引き上げる必要がある。
     個々人の負担の記録もなく、その記録に基づき将来の年金額を約束するという方式ではない税方式で、年金支給に必要な巨額の費用負担に国民の合意が得られるか。
     すなわち、少子高齢化に伴い負担の引上げを行う際に、個々人でその負担をしなければ個々人で年金がもらえない、あるいは年金額が増えないという仕組みに比べ、個々人の負担とは連動せずに、年金が給付されること及びその額が既に決まっている中で、少子高齢化に伴い後から負担だけを引き上げるというのでは、実際の合意は得られにくいのではないだろうか。
     現に、この30年間でみた場合、国民負担の増加の多くは社会保障負担すなわち社会保険料の負担となっており、税負担とりわけ国税の負担率はほとんど変化していない。

    国民負担率の推移  1970年度    2001年度
    国民負担率 24.3%  →  36.9% (+12.6%)
     うち社会保障負担 5.4%  →  14.3% (+ 8.9%)
     うち税負担 18.9%  →  22.6% (+ 3.7%)
      〔国税 12.7%  →  13.4% (+ 0.7%)〕

給付水準のカット、所得制限の導入、受給対象者の絞り込みの可能性
  •  税財源による場合は、給付と負担につながりのないことから、受給時の権利性が乏しくなる。このため、少子高齢化に伴って負担が増大していく過程で、給付水準がカットされやすく、所得制限の導入や、受給対象者の絞り込みが行われる可能性があり、結果として基礎年金が「低所得者向けの老後給付」、「第2の生活保護」になるのではないか。
     この場合、通常は、現役時代に収入を得て保険料を納付するという努力をした者ほど給付を受けられないということになるが、これでは、働けなくなったときに生活の水準を現役時代から大きく低下させないという年金制度ができた由縁に沿わず、国民の期待に応えられないのではないか。

これまでの保険料納付者に対する上乗せの年金支給の必要性
  •  すべての高齢者に対して税財源により一律の給付を行う場合、これまで保険料負担をしてきた方々に対する約束を果たすために、一律の給付に加えて上乗せの年金を支給する必要があると考えられるが、そもそもこのような過剰な給付を行うことは妥当か。その場合の財源措置はどうするのか。

事業主負担の減少、被用者本人の負担の増加
  •  財源を消費税に求めるとすると、消費税は一般消費者が負担することから、税方式化により結果的に事業主負担の減少及び被用者本人の負担の増加につながることについてどう考えるか。

未加入者、未納者のために税方式に切り替えることが適当か?
  •  未加入者、未納者については、基礎年金を支える国民全体からみれば5%程度であり、これらの者は所得面で納付者と大きな差異はないが、このような者の存在を理由に、現に約7,000万人が加入し、約3,000万人の高齢者の生活を支えている現行制度を税方式に切り替えることが適当か。

Q7  公的年金は基礎年金部分に限定して、報酬比例部分の厚生年金は廃止し、民営化すべきとの意見があるが、どう考えるか。

【要点】

1.  年金制度の本質は、高齢期の稼得能力の喪失に対する補填にあり、退職するととたんに収入の途がなくなり、収入が大きく減少することになるサラリーマンにとっては、賃金や物価にスライドしてその時々の生活水準に対応できる報酬に比例した給付が重要な意味を持つ。

2.  報酬比例部分の民営化は、サラリーマンに対する保障の範囲や水準を大きく後退させることになる。

(1) 公的年金のように賃金や物価にスライドすることにより、将来におけるその時々の生活水準に対応した水準の給付を保障できない。

(2) 「民営化=企業年金化」の場合、現在企業年金を実施できない中小企業などの従業員には、報酬比例部分の給付がなくなる。

(3) 「民営化=個人拠出の私的年金化」の場合、事業主の負担がなくなり、その分従業員本人の保険料負担増となる。

3.  ほとんどの主要国において、公的年金は、報酬(所得)に比例する給付を有している


年金制度の本質は稼得能力の喪失に対する補填
 年金制度は、高齢で働けなくなり現役時代のように収入を得られなくなること(稼得能力の喪失)に対応し、現役時代の収入の一定割合を補うこと(補填)を保障することにより、老後に大きく生活水準が下がることを防止するものである。

サラリーマンに対する報酬比例給付の重要性
 店舗や土地等の資産をもち、かつ、ゆるやかに引退していく自営業者と異なり、サラリーマンは、退職すると途端に収入の途がなくなり、収入が大きく減少することになることから、賃金や物価にスライドしてその時々の生活水準に対応できる報酬に比例した給付が重要な意味を持つ。

 老齢年金を受給している夫婦の現役時代の経歴別の年金と収入額をみても、サラリーマンは報酬比例の給付があることで、自営業世帯と同程度の生活が可能となっている。

主たる経歴  公的年金以外の収入  公的年金額  収入額
夫・給与所得者 妻・無職 114万円 301万円 415万円
夫・給与所得者 妻・給与所得者 182万円 300万円 482万円
夫・自営業 妻・自営業 238万円 151万円 389万円

資料:「老齢年金受給者実態調査」(厚生省年金局、平成9年)


民営化はサラリーマンに対する保障の範囲や水準を大きく後退させる
 仮に、報酬比例部分を民営化する場合、公的年金のように賃金や物価にスライドすることにより、将来におけるその時々の生活水準に対応した水準の給付を保障できない。
 現に、賃金や物価のスライドを保障する個人年金(私的年金)は存在せず、株価の低迷や利回りの低下が続く中で、企業年金等も水準の見直しを進めている。

 民営化により、企業が拠出する企業年金として報酬比例部分を運営するのであれば、現在企業年金を実施できない中小企業などの従業員には、報酬比例部分の給付がなくなることとなる。
 また、民営化により、個人拠出の私的年金として報酬比例部分を運営するのであれば、事業主の負担はなくなり、その分従業員本人の保険料負担増につながる。

 いずれにしても、報酬比例部分を民営化することにより、サラリーマンに対する保障の範囲や水準が大きく後退することになる。

ほとんどの主要国において、公的年金は報酬比例部分を有している
 ほとんどの主要国において、公的年金は、報酬(所得)に比例する給付を有しており、サラリーマンに対しては、我が国の年金制度のいわば2階部分に相当する部分が保障されている。

Q8  40年保険料を納めて支給される基礎年金の額が、保険料を納めずにもらえる生活保護額よりも低いのはおかしいのではないか

【要点】

1.  本来、健康で文化的な最低限度の生活は、国民の自助努力によって達成されることが基本

2.  このような考え方の下、年金制度は、現役時代に働いて収入を得て、自立した生活に必要な一定の生活基盤を構築している者を念頭に置いて、現役時代の保険料納付実績に見合った年金を、受給時の個々の生活状況に関わりなく一律に支給するもの

3.  これに対し、生活保護は、年金を含めて、資産や能力その他あらゆるものを活用しても、健康で文化的な最低限度の生活水準に至らないときに、その不足分に限って税を財源に支給される救貧的な性格を持つもの。年金のように、どのような状況でも一律に支給されるものではないし、保護費を自由に貯蓄して、旅行をしたり、ぜいたくといえるような商品を好きに買うこともできない

4.  このように両制度の目的は異なるので、基礎年金で、全く身寄りも生活基盤もない単身の高齢者が最低限度の生活ができる生活保護基準に相当する給付を、誰に対しても行わなければならないという考え方はとり得ない。一方、生活保護は、最低限度の生活水準に対する不足分に限って支給されるものであって、誰でも基礎年金よりも高い給付をもらえるものではない。


自助努力によって達成されることが基本の「健康で文化的な最低限度の生活」
 本来、健康で文化的な最低限度の生活は、国民の自助努力によって達成されることが基本であり、老後の生活についても、公的年金を中核としつつ、勤労収入や私的年金、貯蓄等の自助努力を組み合わせて、必要な費用を賄うことを基本におくべきである。

年金:自立生活の基盤を構築している者に対する一律の給付
 このような考え方のもと、公的年金は、現役時代に働いて収入を得ていたものが、高齢により収入を失うことを補填する予防的な性格を持つものである。
 したがって、年金制度の基本的な考え方は、現役時代に働いて収入を得て、自立した生活に必要な一定の生活基盤を構築している者を念頭に置いて、現役時代の保険料納付実績に見合った年金を、在職老齢年金や無拠出の障害基礎年金等を除き、原則として受給時の個々の生活状況に関わりなく、一律に支給するものである。

生活保護:あらゆるものの活用が優先される
 これに対して、生活保護は、年金を含めて、資産や能力その他あらゆるものを活用しても、健康で文化的な最低限度の生活水準に至らないときに、その不足分に限って税を財源に支給される救貧的な性格を持つものである。
 したがって、

(1)  まず、貯蓄など本人の資産、年金など他制度の活用や、子など扶養義務のある者の扶養が厳格に調査され(資力調査)、

(2)  それらがある場合にはまずその活用が優先され、

(3)  それでも最低限度の生活水準に至らないときにはじめて、その不足分に限って支給されるもので、年金のように、どのような生活状況でも一律に支給されるものではないし、必要最低限度の給付であるので、例えば、保護費を自由に貯蓄して、旅行をしたり、ぜいたくといえるような商品を好きに買うこともできない。

給付水準について、基礎年金と生活保護では考え方が異なる
 このように両制度の目的は異なるため、水準についても、

(1)  基礎年金の水準は、老後の基礎的な費用を保障することにより、現役時代に自立した生活を営んで構築した生活基盤と合わせて、一定の水準の自立した生活を可能とする考え方で設定されており、基礎年金だけで生活保護の水準を上回らなければならないという考え方はとっていないのに対し、

(2)  生活保護基準額は、自立した生活に必要な生活基盤を全く有していない者に対しても最低限度の生活水準を保障できるように設定されているため、全く身寄りも生活基盤もない単身の高齢者などケースによっては、実際に受給する生活保護費の額の方が基礎年金より高くなることも生じる。

(3)  このように、給付水準について、基礎年金と生活保護では考え方が異なるため、基礎年金だけで、全く身寄りも生活基盤もない単身の高齢者が最低限度の生活ができる生活保護基準に相当する給付を、誰に対しても行わなければならないという考え方はとり得ない。一方、生活保護は、資産や能力などあらゆるものを活用した上で、最低限度の生活水準に対する不足分に限って支給されるものであって、誰に対しても基礎年金よりも高い給付をすることをあらかじめ約束しているものではない。

(参考1)生活保護基準額(平成13年度)

【高齢者夫婦(72歳男、67歳女)】

  1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
世帯最低生活費 150,570 145,440 138,570 133,520 121,550 116,630
  生活扶助 119,480 114,350 108,740 103,690 97,980 93,060
  第1類 69,190 66,320 62,970 60,190 56,740 54,080
第2類 50,290 48,030 45,770 43,500 41,240 38,980
老齢加算 18,090 18,090 16,830 16,830 15,570 15,570
住宅扶助 13,000 13,000 13,000 13,000 8,000 8,000

【高齢者単身(70歳女)】

  1級地-1 1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
世帯最低生活費 108,990 105,730 100,730 97,560 87,460 84,400
  生活扶助 77,900 74,640 70,900 67,730 63,890 60,830
  第1類 32,690 31,460 29,750 28,620 26,810 25,790
第2類 45,210 43,180 41,150 39,110 37,080 35,040
老齢加算 18,090 18,090 16,830 16,830 15,570 15,570
住宅扶助 13,000 13,000 13,000 13,000 8,000 8,000

(参考2)年金と生活保護の図



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