(別添1)   厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest:COI)の管理に関する指針      (平成20年3月31日科発第0331001号厚生科学課長決定) I 目的   公的研究である厚生労働科学研究の公正性、信頼性を確保するためには、利害関係が   想定される企業等との関わり(利益相反)について適正に対応する必要がある。本指針   は、利益相反について、透明性が確保され、適正に管理されることを目的とする。 II 定義  1 本指針の対象となる「利益相反(Conflict of Interest:COI)」   広義の利益相反は、「狭義の利益相反」と「責務相反」(注1)の双方を含み、「狹  義の利益相反」は、「個人としての利益相反」と「組織としての利益相反」の双方を含  んでいる。本指針では、基本的に「狭義の利益相反」の中の「個人としての利益相反」  (以下「COI」という。)を中心に取り扱う。   COIとは、具体的には、外部との経済的な利益関係等によって、公的研究で必要とさ   れる公正かつ適正な判断が損なわれる、又は損なわれるのではないかと第三者から懸念   が表明されかねない事態をいう。   公正かつ適正な判断が妨げられた状態としては、データの改ざん、特定企業の優遇、  研究を中止すべきであるのに継続する等の状態が考えられる。  (注1)責務相反とは、兼業活動により複数の職務遂行責任が存在することにより、         本務における判断が損なわれたり、本務を怠った状態になっている、又はそのよ         うな状態にあると第三者から懸念が表明されかねない事態をいう。  2 「経済的な利益関係」   「経済的な利益関係」とは、研究者が、自分が所属し研究を実施する機関以外の機関   との間で給与等を受け取るなどの関係を持つことをいう。「給与等」には、給与の他に   サービス対価(コンサルタント料、謝金等)、産学連携活動に係る受入れ(受託研究、   技術研修、客員研究員・ポストドクトラルフェローの受入れ、研究助成金受入れ、依頼   試験・分析、機器の提供等)、株式等(株式、株式買入れ選択権(ストックオプション)   等)、及び知的所有権(特許、著作権及び当該権利からのロイヤリティ等)を含むが、   それらに限定はされず、何らかの金銭的価値を持つものはこれに含まれる。なお、公的   機関から支給される謝金等は「経済的な利益関係」には含まれない。  3 本指針の対象となる「機関」及び「研究者」   本指針は、基本的に、厚生労働科学研究を実施しようとする研究者(以下「研究者」   という。)及び研究者が所属する機関(以下「所属機関」という。)を対象とするもの  である。なお、研究者と生計を一にする配偶者及び一親等の者(両親及び子ども)につ  いても、厚生労働科学研究におけるCOIが想定される経済的な利益関係がある場合には、  COI委員会等(IV2に規定する「COI委員会等」をいう。)における検討の対象としな  ければならない。 III 基本的な考え方   我が国では、科学技術創造立国を目指した取組の一環として産学連携活動が推進され   ている。厚生労働科学研究においても、大学や公的研究機関等における研究成果を社会   に還元するため、企業との共同研究や技術移転といった産学連携活動は適正に推進され   るべきものである。   その一方で、複数の業務が実施される場合、関係する個人・機関それぞれの利益が衝   突・相反する状態が生じ得る。これは、活発に研究活動が行われ、産学連携活動が盛ん   になれば、必然的・不可避的に発生するものである。   厚生労働科学研究は、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等の課題を解   決するための目的志向型の研究であり、産学連携活動が行われる可能性のある大学や公   的研究機関等においても実施される。いささかでもCOIの状態にあると考えられる研   究者をすべて排除するとすれば、厚生労働科学研究についてのCOIが問題になること   はないが、その一方で、それは活発に研究を行っている研究者を排除することになり、   また、各種研究事業を有機的に連携し、できるだけ早く研究成果を社会に還元しようと   する動きをも阻害することになる上、厚生労働科学研究に応募する研究者の減少、研究   の質の低下等も懸念され、適切ではないと考えられる。(注2)  (注2)米国における検討においても、特定のCOIそのものが問題であることはまれ         であり、問題はむしろCOIへの対応であって、ほとんどの場合、COIが明らかに     されないか、評価又は管理されない場合に問題が発生しているとされている。米     国の有力大学においてもCOIへの対応は様々であり、比較的厳しい対応を取って     いる大学においても、関係する企業等から年間1万ドルを超える収入等がある場     合には、関係する臨床研究への参加を原則禁止しているが、その研究者でなけれ     ば当該研究が実施できない等の事情がある場合には、個別に判断し、臨床研究の     実施計画の策定に携わらせない、データ分析などについては利害関係を持たない     他の人に任せる、臨床研究に対する第三者の監査などといった対策を講じて実施     を認めている。   ただし、公的研究である厚生労働科学研究の信頼性を確保していく上で、COIを適切   に管理する必要があり、公共の利益及び厚生労働科学研究の信頼性を確保するために必   要と判断されるような場合には、研究代表者の交代等の厳重な管理が必要な場合があり   得る。   また、大学においては、教育・研究という学術機関としての責任と、産学連携活動に   伴い生じる個人が得る利益との衝突・相反を管理するための取組が既に行われているこ   とから、混乱や無用な重複を避けるため、既存の取組とできるだけ整合性のある方法で、   厚生労働科学研究におけるCOIを管理するべきである。   COIの管理においては、被験者が不当な不利益を被らないことをまず第一に考え、イ   ンフォームド・コンセント等に十分留意した上で、公的研究である厚生労働科学研究と   研究者・企業間のCOI(例えば、規制当局が利用するデータを供する研究について、研   究者又はスポンサーとなる企業が自らに有利な結果を出すのではないかとの懸念)につ   いて、透明性の確保を基本として、科学的な客観性を保証するように管理を行うべきで   ある。(注3)     本指針は、意欲ある研究者が安心して研究に取り組めるよう環境を整備する趣旨で策   定するものであり、以下の事項を原則としている。     ・研究をバイアスから保護すること。   ・ヒトを対象とした研究においては被験者が不当な不利益を被らないようにするこ     と。   ・外部委員をCOI委員会等に参加させる等、外部の意見を取り入れるシステムを取り    入れること。   ・法律問題ではなく、社会的規範による問題提起となることに留意し、個人情報の保    護を図りつつ、透明性の確保を管理の基本とすること。   ・研究者はCOIの管理に協力する責任があり、所属機関はCOIの管理責任と説明責任が    あることを認識し、管理を行うこと。   ・客観性、公平性を損なうという印象を社会に与えることがないように管理を行うこ    と。   また、研究者と異なる機関から研究に参加する場合や、学会等が当該研究者をサポー   トする形で研究を実施する場合においても、関係者による適切なCOIの管理が必要で   あることに十分留意すべきである。  (注3)利益相反には、実際に弊害が生じていなくとも、弊害が生じているかのごとく         見られる状況が含まれる。このような状況であるとの指摘がなされても的確に説         明できるよう、研究者及び所属機関が適切な対応を行う必要がある(潜在的な可         能性を適切に管理し、説明責任を果たす必要がある。)。      なお、データの捏造や改ざん等の不正行為は別途の指針等で対応し、また、被         験者の保護等に関し、「ヘルシンキ宣言」や「臨床研究に関する倫理指針」等の         指針等を遵守することは当然である。 IV 所属機関の長の責務、研究者の責務  1 所属機関におけるCOIの管理に関する規定の策定   所属機関の長(以下「機関の長」という。)は、予め当該機関におけるCOIの管理に   関する規定を策定し、関連する規則等も含め、所属する研究者に周知するよう努めなけ   ればならない。   研究者は、所属機関のCOIの管理に誠実に協力しなければならない。また、研究者 は、  当該研究の研究分担者に本指針を遵守するよう求めなければならない。  2 COI委員会   機関の長は、原則として、当該機関における研究者のCOIを審査し、適当な管理措置  について検討するための委員会(以下「COI委員会」という。)を設置しなければなら  ない。また、機関の長は、COI委員会の設置が困難な場合には、COIに関する審査及び  検討を適当な外部の機関に委託することができる。  COI委員会又は機関の長からの委託を受けてCOIに関する審査及び検討を行う委員会  (以下「COI委員会等」という。)には、当該機関の外部の者(注4)が委員として  参加していなければならない。なお、COI委員会等においては、個人情報を取り扱うた   め、外部委員には、研究者の個人情報を匿名化した上で情報を提示することとしても差   し支えない。  (注4)例えば、利益相反の管理に精通している者、関連する法律等に詳しい者、産学         連携活動に詳しい者などが考えられる。    3 COI委員会等への報告等   厚生労働科学研究費補助金の交付申請書提出時までに、各研究者は、COI委員会等に   対して、「経済的な利益関係」について報告した上で、当該研究のCOIの審査について   申し出なければならない。   なお、研究の期間中は、年度毎に、又は新しく報告すべき「経済的な利益関係」が発   生する毎に、各研究者は、所属機関におけるCOI委員会等にその内容を報告しなければ  ならない。   また、COIの管理については、各所属機関において、一定の基準を設定し、それを超   える「経済的な利益関係」の報告を求めて管理することで差し支えない。一定の基準の  目安としては、例えば、産学連携活動の相手先との関係(株式(公開・未公開を問わな   い。)、出資金、ストックオプション、受益権等))について報告を求める他、[1]企業  ・団体からの収入(診療報酬を除く。)について、年間の合計金額が同一組織から  100万円を超える場合、[2]産学連携活動にかかる受入れ額(申請研究に係るもので、  申告者又はその所属分野が関与した共同研究、受託研究、コンソーシアム、実施許諾  ・権利譲渡、技術研修、委員等の委嘱、客員研究員・ポストドクトラルフェローの受入れ、  研究助成金・奨学寄付金の受入れ、依頼試験・分析、機器の提供 等を含む。)につい  て、年間の合計受入れ額が同一組織から200万円を超える場合などが考えられるが、  各所属機関の実情を踏まえて、一定の基準を設定して差し支えないものとする。   なお、研究者は、各所属機関において定められた基準に抵触しない場合であっても、   外部から弊害が生じているかのごとく見られる可能性が懸念される場合には、COI委員   会に積極的に相談する等、厚生労働科学研究の客観性、公平性を損なうという印象を社   会に与えることがないよう十分留意する必要がある。  4 COI委員会等の意見等   COI委員会等は、研究者の経済的な利益関係、研究者が実施しようとしている研究及   び講じられようとしているCOIの管理に関する措置等について、相談に応じ、必要に応  じて指導を行う。また、ヒアリング、審査及び検討を行い、COIの管理に関する措置に  ついて、機関の長に対して文書をもって意見を述べる。また、COI委員会等は、その活  動状況を機関の長に定期的に報告しなければならない。 5 COIの管理   機関の長は、COI委員会等の意見等に基づき、COIに関し、機関としての見解を提示   して改善に向けた指導、管理を行う。指導、管理の内容は、案件に応じて、例えば、以   下のようなものが考えられるが、これらに限られるものではなく、また、案件によって   適・不適があるため、各COI委員会等において、個別の研究課題及びCOIの状況等を踏  まえ、適切な管理の方法を検討し、それに基づき機関の長が適切な指導、管理を行う必  要がある。なお、適切な情報の開示等透明性の確保には十分留意する必要がある。   (1) 経済的な利益関係の一般への開示   (2) 独立した評価者による研究のモニタリング   (3) 研究計画の修正   (4) COIの状態にある研究者の研究への参加形態の変更   (5) 当該研究への参加の取りやめ   (6) 経済的な利益の放棄   (7) COIを生み出す関係の分離  6 厚生労働省等への報告   機関の長は、厚生労働科学研究に何らかの弊害が生じた、又は弊害が生じているとみ   なされる可能性があると判断した場合には、厚生労働省又は厚生労働省の委任を受けて   厚生労働科学研究費補助金の交付の決定等を行う機関(以下「配分機関」という。)に   速やかに報告し、その上で適切にCOIの管理を行うものとする。   機関の長が、この指針に基づくCOIの管理がなされずに研究が実施されていたこと   を知った場合も同様とする。  7 厚生労働省等からの指導   6の報告を受けた場合、厚生労働省又は配分機関は、必要に応じ、当該所属機関に対   し、厚生労働科学研究の公正性、客観性を維持するため、COIの管理に関して指導を行   うことができる。  8 関係書類の保存   研究者及び所属機関は、COIに関係する書類を5年間保存しなければならない。  9 個人情報、研究又は技術上の情報の保護   個人情報、研究又は技術上の情報を適切に保護するため、COI委員会等の委員等の関   係者は、正当な理由なく、COI委員会等における活動等によって知り得た情報を漏らし   てはならない。  10 COIに関する説明責任   COIに関係する問題が指摘された場合等における説明責任は、各所属機関にあり、機   関の長は、適切に説明責任を果たせるよう、予め、十分な検討を行い、必要な措置を講   じなければならない。 V 厚生労働省による調査等  1 調査及び調査への協力   厚生労働省又は配分機関は、必要があると認める場合には、自らが交付を決定した厚   生労働科学研究費補助金に係るCOIに関して、所属機関に対する調査を行うことができ、  所属機関は、調査に必要な情報提供(COIに関する検討状況、COIの管理の方法等)、記録  の提出、現地調査への協力などを行う。   調査は、関係者の個人情報等に十分留意して実施する。  2 調査結果の通知及び改善指導   厚生労働省又は配分機関が調査を行った場合は、速やかに調査結果を調査が行われた   所属機関に通知する。また、配分機関が調査を行った場合、当該配分機関は速やかに当   該調査結果を厚生労働省本省に報告する。   調査の結果、厚生労働科学研究費補助金に係る研究活動におけるCOIに対して適切   に対応しておらず、改善が必要と認められた場合、厚生労働省又は配分機関は、当該所   属機関に対し、改善の指導を行う。  3 改善指導に対して適切に対応しなかった場合の措置   COIの管理が適正に実施されていない状況にあり、改善指導が行われたにもかかわら   ず、正当な理由なく改善が認められない場合には、厚生労働省又は配分機関は、資金提   供の打ち切り、未使用研究費等の返還、研究費全額の返還、競争的資金等の交付制限等   の措置を講じることができる。 VI その他  1 経過措置  機関の長は、できるだけ早期にCOI委員会を設置するように努めなければならない。   原則として、平成22年度以降の厚生労働科学研究費補助金の交付申請書提出前にCOI   委員会が設置されず、あるいは外部のCOI委員会への委託がなされていない場合には、   平成22年度以降の厚生労働科学研究費補助金の交付を受けることはできない。なお、   詳細については、各年度の公募要項等を確認すること。  2 指針の見直し   本指針は策定から5年以内に、各所属機関におけるCOI委員会等の活動状況等を踏   まえて、見直しを行うものとする。 3 その他   本指針では、組織としての利益相反に関しては、明示的な規定は設けていないが、研   究者及び各所属機関においては、組織としての利益相反にも十分留意して、個々の研究   における利益相反の管理を検討し、透明性を確保し、研究の客観性や公平性に関して、   説明責任を果たせるように適切な管理措置を講じる必要がある。 - 1 -