09/06/25 社会保障審議会 第24回少子化対策特別部会 議事録 日時:2009年6月25日(木) 10:00〜12:00 場所:厚生労働省 省議室 出席者:  委員   大日向部会長、岩渕部会長代理、岩村委員、大石委員、清原委員   駒村委員、佐藤委員、篠原委員、庄司委員、杉山委員、高尾委員   宮島委員、山縣委員、吉田委員  参考人(オブザーバー)   三重県健康福祉部総括室長(こども分野)  速水 恒夫参考人(野呂委員代理)  参考人(ヒアリング)   NPO法人「日向ぼっこ」理事長          渡井 さゆり参考人   神奈川県厚木児童相談所児童福祉司        山野 良一参考人   国立社会保障・人口問題研究所国際関係第2室長  阿部 彩参考人  事務局   伊岐審議官、高倉総務課長、朝川少子化対策企画室長   定塚職業家庭両立課長、今里保育課長、藤原家庭福祉課長   真野育成環境課長、宮嵜母子保健課長、杉上虐待防止対策室長 議題:  次世代育成支援のための新たな制度体系の設計について   ・社会的養護、「子どもの貧困」に関するヒアリング 等 配付資料:  資料1  社会保障審議会少子化対策特別部会委員名簿  資料2  社会的養護に関する今後の見直しについて  資料3  渡井参考人提出資料  資料4  山野参考人提出資料  資料5  阿部参考人提出資料  資料6  今後の保育関係の検討の場の設置について(案)  参考資料1  経済財政改革の基本方針2009  参考資料2  持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた        「中期プログラム」(一部改正)  参考資料3  安心社会実現会議報告  参考資料4  社会保障改革推進懇談会報告【概要】  参考資料5  社会保障改革推進懇談会報告  参考資料6  認定こども園の平成21年4月1日現在の認定件数について  参考資料7  ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム提言         (佐藤委員・宮島委員提出資料) 議事: ○大日向部会長  おはようございます。定刻になりましたので、ただ今から「第24回社会保障審議会少子 化対策特別部会」を開催いたします。委員の皆さま方におかれましては、ご多用のところお 集まりくださいましてありがとうございます。  会議に先立ちまして、事務局より本少子化対策特別部会における委員の交代について報告 をお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  お手元に配付させていただいております資料1をご覧いただければと思います。これまで 議論に参加いただいておりました日本経済団体連合会少子化対策委員会企画部会長の福島 伸一委員が、日本経済団体連合会における人事異動に伴い委員を辞任され、新たに日本経済 団体連合会少子化対策企画部会長の高尾剛正委員が就任されましたので、ご紹介いたします。 ○高尾委員  高尾でございます。よろしくお願いいたします。 ○大日向部会長  ありがとうございました。高尾委員におかれましては、どうぞよろしくお願い申し上げま す。  続きまして、事務局より人事異動に伴う幹部の交代について、紹介をお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  ご紹介申し上げます。大臣官房審議官、雇用均等・児童家庭局担当の伊岐典子です。 ○伊岐審議官  伊岐でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  なお、本日は別の公務により欠席しておりますが、雇用均等・児童家庭局長として北村 彰 が着任いたしております。  以上でございます。 ○大日向部会長  続きまして、事務局より資料の確認と委員の出席状況に関して、報告をお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  お手元に配布させていただいております資料の確認をさせていただきます。最初に議事次 第がございまして、その下に今見ていただきました資料1、その下に資料2として社会的養 護に関するもの、資料3としまして渡井参考人にご提出いただいた資料、資料4としまして 山野参考人に提出していただいた資料、資料5としまして阿部参考人にご提出いただいた資 料、資料6としまして「今後の保育関係の検討の場の設置について(案)」という資料、その 下に参考資料1〜7を配布させていただいております。もし不足等がございましたら、事務 局の方にお声をかけていただければと思います。  委員の出席状況でございますが、本日は内海委員、野呂委員、山本委員からご都合により 欠席とのご連絡をいただいております。また、杉山委員から電車の都合で少々遅れるという ご連絡をいただいております。なお、本日ご欠席の野呂委員の代理といたしまして、三重県 健康福祉部総括室長兼こども未来室長の速水恒夫参考人にご出席いただいております。  ご出席いただいております委員の皆さま方は定足数を超えておりますので、会議は成立し ております。  次に、本日参考人として本部会にご出席いただいております有識者のご紹介をさせていた だきます。まず、社会的養護の当事者参加の実現やネットワークづくりを目指すNPO法人 「日向ぼっこ」の理事長をされている渡井さゆり参考人です。 ○渡井参考人  どうぞ、よろしくおねがいします。 ○朝川少子化対策企画室長  次に、神奈川県厚木児童相談所の児童福祉司で『子どもの最貧国・日本』の著者でいらっ しゃいます山野良一参考人でございます。 ○山野参考人  山野でございます。よろしくお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  次に、国立社会保障・人口問題研究所国際関係第2室長で『子どもの貧困』の著者でいら っしゃる阿部 彩参考人でございます。 ○阿部参考人  よろしくお願いいたします。 ○朝川少子化対策企画室長  以上でございます。 ○大日向部会長  ありがとうございました。それでは、議事に入ります前に、本日ご欠席の野呂委員の代理 としてご出席いただいております三重県の速水恒夫参考人のご出席についてお諮りいたし ます。  ご異議はありませんでしょうか。 (「異議なし」の声あり) ○大日向部会長  ありがとうございます。それでは、議事に入りたいと思います。  本日はまず最初に、事務局より最近の動きの説明をお聞きした上で、続いて社会的養護に ついての事務局からの説明、参考人の方々のご説明をいただき、皆さまのご議論をお願いし たいと思います。後半では、いわゆる「子どもの貧困」について、参考人の方々にご説明い ただき、皆さまにご議論をお願いいたします。そして最後に、私より皆さま方に今後の検討 の進め方についてお諮りしたいと思います。  以上ですが、まず参考資料1〜7につきまして、事務局より説明をお願いします。 ○朝川少子化対策室長  それでは参考資料1から順に目を通していただければと思いますが、時間の関係で簡潔に ご紹介申し上げます。  まず参考資料1はいわゆる「骨太の方針」といわれているもので、つい先日政府としてま とまったものでございます。3枚目の13ページをお開きいただきますと、1の(1)の二つ目 のポツの3行目ですが、「人生前半の安心補償について、若年層の雇用を軸とした生活安心 補償を再構築するとともに、子ども成長過程や生活に対応して少子化対策を抜本的に拡充し、 社会の「安心」と「活力」を両立させる必要がある」と記述されておりまして、(2)では2 行目ですが、「新たな費用負担を伴う施策については、国民の納得が得られるよう税制抜本 改革を実施する前までに、改革内容や費用額を具体的に明らかにする。あわせて、格差の是 正・固定化防止等の政策で、少子化対策に含まれる政策については、「中期プログラム」の 枠内での確立・制度化を検討する」となっております。  その上で、(1)のところで2009年度〜2011年度までを安心再構築局面としまして、私ど もに関する記述もございます。一つ目のポツですが、別紙1で具体的にどのようなことをこ の期間にやるかが定まっております。22ページを見ていただきますと、2011年度までに講 ずるものとして、少子化対策の一つ目に書いてありますのは、この部会で議論していただい ております「新しい子育て支援制度の在り方の検討を進め、税制改革の動向を踏まえつつ、 必要な法制上の整備を図る」というのが2011年度までのものとして書かれています。あと は、今回補正予算でやったことがずっと書いてありまして、一番下のところですが、「これ らの取組を踏まえつつ、年内を目途に新しい『少子化社会対策大綱』を策定する」となって おります。  もう1枚おめくりいただきますと、これはその次の段階での話ですが、「中期プログラム」 の工程表で示されています諸課題の対応策の具体化ということで、一番下の欄に少子化対策 の話が書かれています。  戻っていただいて、14ページ目です。2011年度までの取組で本部会に関連するものとし ては、一番上のところに「幼児教育、保育のサービスの充実・効率化・総合的な提供、財源 確保方策とあわせた幼児教育の無償化について総合的に検討する」という記述がございます。 (2)では、2011年度ごろ〜2010年代半ばについて、二つ目のポツと三つ目のポツが当部会と も関係する部分でございます。(3)2010年代半ば〜2020年代初めの、上から二つ目のポツが、 やはりこの部会と関係するところでございます。  その上で、15ページ目でございますが、(3)の「安心社会に向けての行政基盤の強化」の 二つ目のポツで、「少子化対策」や困難を抱える子ども・若者を助け、自立させるための対 策を始めとする各般の「子ども・若者支援策」を総合的に推進するため、内閣府の体制を強 化する」という記述が関連するとものとしてございます。以上が「骨太の方針」です。  次に、参考資料2を見ていただきますと、これは昨年末に閣議決定されました「中期プロ グラム」ですが、若干の文言の修正的なものも含めてマイナーチェンジされておりますが、 最後の10ページ目を開いていただきますと、この表は左側が改正後で右側が改正前ですけ れども、その一番下の(4)を見ていただきますと、経済危機対策あるいは補正予算で、この 少子化対策に関しても時限的にいろいろな措置が講じられていますが、その時限的に講じら れた社会保障の機能強化の措置のその後の対応については「骨太の方針」における社会保障 の機能強化の必要性の観点等を踏まえつつ、財源確保と併せて検討するという記述がありま す。  次に、参考資料3でございますが、総理の下で官邸を中心に新しく開かれました会議で「安 心社会実現会議」というものがございましたが、これが6月15日に報告書の取りまとめが されています。私どもに関係するところでいきますと、まず4ページ目の下の方に2番とし て「安心して子どもを産み育てる環境」というパラグラフがございます。内容は省略いたし ますが、ここがまず関係する部分でございます。  10ページ目を見ていただきますと、4番として「取り組むべき優先課題」という項目が ございます。この最初のパラグラフの3行目の最後のところから少し書いてありますが、「社 会保障給付は高齢世代への支援が中心であった。経済社会の大きな転換を経て、これまでの 仕組みをそのまま維持することは困難である」。この行の最後のところで「現役世代および 次世代を対象とした給付の比重を拡大していく必要がある」という基本認識を示していただ いております。  その上で、同じページの下に「10の緊急施策」というものがありますが、(1)(2)(3)が当 部会とも関係するところでございます。  さらに、11ページ目を見ていただきますと、(10)の下のパラグラフの1行目の最後のと ころからですが、「給付付き児童・勤労税額控除にかかる費用については控除・給付を合わ せて約1〜4兆円程度と試算されている」ということも記述されています。  次に、参考資料4を見ていただきますと、社会保障改革推進懇談会の報告も6月18日に 行われております。本文は参考資料5にございます。これは昨年開かれておりました社会保 障国民会議の後継の懇談会でございまして、国民会議の提言を着実に実施に移していくため に設けられていた懇談会で、その報告が取りまとめられています。1ページの二つ目の箱「さ らなる改革の前進に向けて」というところに、関係する部分がございます。これは年金・医 療・介護・雇用・少子化という分野を扱っているわけですが、まず最初に少子化対策の分野 を項目として1番目に持ってきているところが特色でございます。  その上で、下の箱に1、2、3とございます。目標と守るべき三つの基本姿勢と具体的な 制度設計が書いてあります。言葉遣いが当部会と若干異なるところがあるのですが、基本的 に書かれている内容は当部会でも議論いただいているものと同じであると理解しています。  3ページ目を見ていただきますと、新たに提言されている部分がございまして、当部会に も関係ある部分でございますが、上のところに「子どもを守るセーフティネット機能の強化」 という部分が新しく記述されております。その2番目のところを見ていただきますと、「子 育て支援対策の一環として行うべきセーフティネット機能の強化」とありまして、「虐待を 受けた子どもの早期発見・適切な養護」ということで、本日のテーマになりますが、社会的 養護体制の拡充などが提言されておりますのと、二つめの丸のところで「虐待を予防するた めの子ども・家族に対する包括的な支援サービスの導入」という提言が新しくされていると ころでございます。  次に、参考資料6をご覧ください。これは私どもが昨日付で公表しているものでございま すが、認定こども園につきまして、今年4月1日現在の認定件数を公表しています。ポイン トは、まず1行目にございますが全国で358件に増えたということでございまして、その 下に主なポイントが三つ書いてあります。三つ目のポツにありますように、東京都・長崎県・ 神奈川県・鹿児島県といったところで比較的多く数が増えているという状況でございます。  最後に、参考資料7でございますが、先ほど「骨太の方針」のところでも少し出てまいり ましたが、政府は少子化社会対策基本法に基づいて少子化社会対策大綱を定めておりますが、 ちょうど今年が現行の大綱の見直しの年に当たっております。その大綱の見直しに向けて内 閣府中心で今、議論が進められておりますが、それに関しまして報告書がまとめられていま す。  以上でございます。 ○大日向部会長  ありがとうございました。今ご説明いただきました参考資料7「ゼロから考える少子化対 策プロジェクトチーム」の提言に関しましては、当部会委員の佐藤委員と宮島委員がメンバ ーとしておまとめになったと伺っております。従いまして、代表して佐藤委員よりこの報告 につきまして、一言お願いいたします。 ○佐藤委員  お時間をいただいて、どうもありがとうございます。今、ご説明があったような趣旨で設 置されたプロジェクトチームからの提言です。タイトルは「みんなの少子化対策」、副題が 「子どもへの投資が未来を支える 子育てセーフティネットの強化を!」とさせていただい ております。  まず、子育てセーフティネットを強化する必要性が何なのかということを整理させていた だきました。時代が変わったということです。従来と違って、そういうものがなければ、結 婚する人が結婚でき、子どもを持ちたい人が子どもを持ち、子育てできるという仕組みが変 わってきてしまった。過去に戻るわけにいきませんので、そういう意味では「子育てセーフ ティネット」の構築が不可欠な時代になってきたということを書かせていただきました。  では、そのような必要なものが、政府も取り組んでいるわけですが、なぜ進まないのかと いうことで、その理由として三つの「ない」を解消しないとなかなか進まないということで 整理させていただきました。  一つは国民的な合意として、つまり当事者はいろいろな課題を抱えているわけですが、国 民的合意がなかなか形成しにくいということと、対策はいろいろ打たれているのですけれど も、まだまだ不十分な部分や、対症療法的な側面があって、総合化と子どもの視点に沿った 再整理が必要ではないかというのが2番目です。あとは、やはり財源の問題です。財源は、 やはり国民的合意がないことが背景にはあるわけで、少子化対策・子育てセーフティネット 構築・国民的合意を得られるものをつくって、かつ財源を確保することが必要だろうという ことを書かせていただきました。  そして、それをやった結果として、右上にあります「子どもの笑顔あふれる日本社会の実 現」を目指そうというふうにさせていただいています。  具体的にどのようなことをするか。2枚目を見ていただきますと、三つの「ない」を解消 するために、少子化対策として「10の提言」というものをまとめさせていただいています。 具体的なそれぞれの中身については後ろの方に入れさせていただいておりますが、一つは、 結婚したカップルが子どもを持ちやすいようにするだけでなく、まず結婚という、そこから 始める必要がある。これは経済的な支援も大事ですし、結婚したい人が結婚できるような経 済的な支えから始まるということを書かせていただいております。  この分野でいくと、17ページに「保育・幼児教育」のことも書かせていただいておりま す。一刻も早く待機児童を解消ということで、いろいろな主体の参入等について書かせてい ただいておりますので、後で見ていただければと思います。  戻っていただきまして、「10の提言」と同時に、提言の方は基本的には政府なり地方自治 体にこのような取組をしてほしいということですが、もう一つ大事なことは、その後の「み んなの少子化対策のためのメッセージ」ということで、これは子育て中の人だけではなく国 民全体へのメッセージとしてプロジェクトチームで出させていただいたものです。先ほど、 国民的合意がないということがあったわけですけれども、政策に取り組んでいくと同時に国 民が自分たち自身で子育てしやすい家庭や地域社会をつくっていくという取組が大事だと いうことで「10のメッセージ」という形でまとめさせていただきました。  ですから、「10の提言」を取り組みながら、同時に国民自身も子育てしやすい社会をつく るという取組が大事だということを出させていただきました。  以上です。 ○大日向部会長  ありがとうございました。続きまして、資料2について説明をお願いいたします。 ○藤原家庭福祉課長  よろしくお願いいたします。家庭福祉課長の藤原と申します。本日、社会的養護の関係の 見直しの議論のご紹介ということで、資料2を用意させていただいております。これから申 し上げます資料のページはそれぞれ右下の隅に打っていますので、何ページということを申 し上げたときにはそれを参照いただければ幸いでございます。  まず、1ページをお開きいただきたいと思います。これは社会的養護の現状ということで、 基本的な子どもの数などを資料化したものでございます。里親制度の下での委託児童が、お よそ3,600人ぐらい。それから、施設の関係になりますが、乳児院におよそ3,200人ぐらい。 一番多いのが児童養護施設で、およそ3万1,000人の子どもがいます。また、軽度の情緒障 害を有する児童ということで、情緒障害児短期治療施設という施設がございますが、そちら にはおよそ1,200人。また、非行・不良行為といった傾向のある子どもの指導ということで 児童自立支援施設におよそ1,900人。一番右側にあります自立援助ホームという形態は、義 務教育を終了した児童で高校生ぐらいの年齢からということになりますが、そのような子ど もの自立を支援する、共同生活をするという形態でございますが、こちらはまだ少なくて 236人という規模でございます。  2ページをお開きいただきたいと思います。社会的養護体制の見直しに関する議論の経緯 をまとめさせていただいております。平成19年6月に児童虐待防止法及び児童福祉法の一 部改正が公布されておりますが、そのときの附則ということで社会的養護の体制の拡充につ いての検討ということが明示されたということがございます。これを受けまして、社会保障 審議会の児童部会の下に「社会的養護専門委員会」が一昨年の8月に設置されまして、その 報告が同年の11月にまとめられております。  その内容ですが、赤文字で書きました「早急に対応を行う具体策」ということで、具体的 には例えば里親制度の拡充やファミリーホーム制度の創設、また先ほど申し上げました自立 援助ホーム制度の強化、また「被措置児童等虐待」という言葉を使いますが、いわゆる施設 内の児童虐待への対応といったことを具体策として提言いただいております。また、青文字 の部分になりますが、こうした対応に加えまして「少子化対策全体の議論の動向を踏まえな がら進めるべき見直し」ということで、後ほど資料がございますが、施設機能の見直しとい う課題についてご指摘をいただいたところでございます。  この専門委員会の報告書の後、翌月の12月にご案内の「子どもと家族を応援する日本」 重点戦略検討会議のとりまとめの中でも、この先行課題である社会的養護をきちんと進める という点と、それから青文字の部分になりますが、包括的な次世代育成支援対策の制度設計 に当たっては、社会的養護を必要とする子どもに対する配慮を包含するということが盛り込 まれました。  この赤文字で記しました先行課題の対応の流れに関しましては、昨年の3月に児童福祉法 等の一部改正法案ということで国会に提出し、その後、審議未了で一度廃案となりましたが、 昨年の11月に再度法案を閣議決定し国会に提出し、12月3日に改正法が公布されています。  青文字で記しました施設機能に関する見直しの課題につきましては、本社会保障審議会少 子化対策特別部会の昨年5月の取りまとめの中におきまして、「新制度体系の設計に当たっ ては、虐待を受けた子ども、社会的養護を必要とする子ども、障害児など特別な支援を必要 とする子どもや家庭に対する配慮を包含することが必要」ということを基本的考え方の中で もお示しいただいたところでございます。  3ページをお開きください。その少子化対策また次世代育成支援対策の動向を踏まえて行 うとされております施設機能の見直しの議論の内容でございます。一昨年の11月の社会保 障審議会社会的養護専門委員会の報告書の中では、一番上の枠囲いにあるような指摘がされ ています。一つ目のポツですが、「子どもの状態や年齢に応じた適切なケア」がキーワード になりますが、これを実施できるように現行の施設類型のあり方を見直すとともに、人員配 置基準や措置費の算定基準の見直しを含めてケアの改善に向けた方策を検討する必要があ るということ。二つ目のポツでは、こうした見直しを具体的に進めるための前提と申します か、それに必要な財源の確保が一つ。それからもう一つは、現在施設内で行われているケア の現状についての詳細な調査・分析が必要であるというご指摘を報告書の中でいただいてお ります。  これを受けまして、まず昨年3月に社会的養護施設に関する実態調査を実施いたしました。 中身については、後ほどご紹介いたします。その内容は、昨年10月の社会的養護専門委員 会で基本的な集計をしたものについて中間まとめという形でご報告したところでございま す。また、もう一つ調査ということで、タイムスタディという手法を用いた調査になります が、これを本年1月から3月にかけまして、施設をピックアップいたしまして調査を実施し たところでございます。この調査につきましては、これから分析に入っていくところでござ いますが、今年5月の社会的養護専門委員会におきまして、先ほど申し上げました昨年3 月の実態調査について、さらに追加のクロス集計を行った内容、またタイムスタディをどの ような規模で実施したかという点についての実施状況についてご報告したところでござい ます。  今後の予定といたしましては、この調査結果についての分析作業をさらに進めまして、社 会的養護専門委員会において具体的な議論をしていただくことを予定しております。  次の4ページ、5ページは今、申し上げました社会的養護専門委員会の報告書の抜粋と社 会的養護専門委員会の構成についての資料でございます。内容は後ほどお目通しいただけれ ばと思います。  6ページをご覧いただきたいと思います。今、申し上げました調査に関しまして、フロー チャートのような形で示したものでございます。「施設機能の見直し」という点で調査を進 めているということでございますが、調査の内容につきまして7ページに二つの調査の関係 を資料にさせていただきました。上段が昨年3月に実施しました施設の実態調査ということ で、楕円形のところにございますように施設の概況について調査をしたもので、悉皆的な調 査として実施しています。施設の種類によって回収率が多少違っておりますが、例えば児童 養護施設であれば9割弱、乳児院で9割強の回収ができました。下の枠囲いの部分がタイム スタディの説明になります。それぞれの施設におきまして、職員が子どもに対してどのよう な種類のケアをどれぐらいの量を提供しているかということを詳細に調査するものですが、 時間の計測に併せまして、その施設の子どもの状態についてのアセスメントも行っています。 こうしたものを組み合わせて分析をするという調査でございます。これらの調査に加えて、 いろいろな関係の研究を組み合わせて、今後のケアのあり方についての検討を深めてまいり たいということでございます。  8ページからは、調査のポイントを簡単に紹介したものでございます。施設概況調査につ きましては、例えば平均入所期間や、職員1人当たりでどれぐらいの子どもをケアしている かという点を集計しています。なお、「職員一人あたり児童数」という数字は括弧書きにご ざいますように、「常勤換算した直接ケア職種の配置職員数」ということで、ここに数字が ありますが、これは1日8時間に換算した数字でございます。実際には子どものケアは休 日・夜間も行われていますので、数字をご覧いただくときにその部分は念頭に置いていただ く必要があるかと思います。また、「ケアの形態」を少し細かく概況調査の中ではデータを 集めました。養護施設の中には、大きな単位でケアをしているところから小さな単位でケア をしているところまでさまざまありますので、「大舎・中舎・小舎・小規模グループケア」 というようなケアの形態ごとに、全国でどれぐらいそのようなものがあって、どれぐらいの 子どもがそれぞれの形態に在籍しているかというものがこの数字でございます。  9ページをご覧いただきますと、概況調査の中では子どもに関する個票も取っておりまし て、「養護問題発生理由」ですが、こちらは複数回答ということで取った内容でございます。 その他、身体障害がある割合や虐待を受けた子どもがどれぐらいの割合でいるかについて調 査をまとめています。  10〜12ページは、「タイムスタディ調査」に関する資料でございます。これは調査結果と いうことではなくて、実施状況という点の資料になります。施設は全国で何百とあるわけで すが、その中で調査対象施設といたしまして(1)にございますように、それぞれの施設の種別 によって数は違うのですが、全体で40弱の施設を選びまして調査をしているところです。 施設を選ぶに当たりましては、(2)に選定の条件として書かせていただいていますが、特に養 護施設に関しましては、大きな単位でケアをしている所と小さな単位でケアをしている所が ございますので、このようなケアの形態の違いを特に踏まえて施設の選択を行っています。 全体としてタイムスタディの対象となった児童の数も資料の中で示させていただいていま す。児童養護施設ですと361人という規模の調査でございます。  11ページをご覧ください。タイムスタディということを先ほどから申し上げていますが、 (3)調査の概要の1)でございますけれども、「1分間タイムスタディ調査」という手法で調査 をしています。入所児童に対してどのようなケアをどれぐらい施設職員が提供しているのか。 どれぐらいというのは時間数でございますけれども、これにつきましては「他計式」といわ れる方式で調査委員が施設職員に張り付いて記録を取って、あらかじめ用意したケア行動に 分解して集計するという調査でございます。基本は2日間です。また、施設長のように調査 の対象とした子どもに必ずしも接することがない職員につきましては、7日間のタイムスタ ディを補足的に行っています。2)は入所児童のアセスメントでございます。今回は個々の対 象となった入所児童について、かなり詳細なアセスメントを実施しております。心身の状態 等についてアセスメントを実施しておりますので、1)の業務量調査と2)の子どもの状態調 査を組み合わせて分析していくというやり方になります。スケジュールは示させていただい ておりますので簡単にお目通しいただければと思います。  このような形で、現在、施設におけるケアの現状についての詳細な分析を進めておりまし て、今後、関係の議論を深めてまいりたいと考えております。  報告は以上でございます。 ○大日向部会長  ありがとうございました。ただ今のご説明に関しましては、参考人からのご説明を伺った 後、後ほどご議論をお願いしたいと思います。  それでは次にNPO法人「日向ぼっこ」理事長の渡井参考人よりご説明をお願いしたいと 思います。大変短い時間で恐縮ですが、15分程度でお願い申し上げます。 ○渡井参考人  社会的養護の当事者参加推進団体「日向ぼっこ」の渡井と申します。先ほどご紹介があり ました社会的養護に関して、当事者の立場からお話しさせていただきます。資料は、資料3 と打たれているものでA4の2枚です。話を大きく分けますと「日向ぼっこ」の取組に関し てと、2枚目の社会的養護の当事者の声をご紹介させていただきます。私どもは3年前に結 成したNPOですけれども、私たち自身も児童養護施設・里親家庭で生活しておりまして、 退所してから生きづらさ、実質的な困難さを抱えておりまして、私たち同士で手を組み、支 え合うことができないかということで結成したグループです。  どのような活動をしているかと申しますと、活動内容(1)として挙げておりますのが「居場 所・相談事業」です。こちらは昨年の8月から地域生活支援事業として東京都からも受託し ております。具体的には書いてあるとおりですけれども、社会的養護は15〜18歳で措置解 除になります。家庭復帰・家族再統合する方も小さいときにはいます。しかし、多くの方々 は家族再統合は難しく、退所後は一人で生活することになります。そのような若者たちが気 軽に集まれる居場所を運営しております。多くの方々が親御さんのサポートが望めず、親御 さんがもしいらっしゃったとしても逆に搾取するような親御さんが多いです。そのような 方々に家庭のようにくつろいでいただき、仕事での不満や仕事で認められた功績など日々の 喜怒哀楽を分かち合い、こらからのパワーを充電していただくための居場所が「日向ぼっこ サロン」です。右側の写真にありますように、仕事を終えた若者たちが集って食事をしたり、 団欒をしております。必要に応じて、相談やサポートも行っております。  相談・サポート内容は、大きく分けると2分類です。一つは就労や生活困難に関してです。 もう一つは、生きづらさや親・施設への思いの整理など精神的なものです。この二つが大半 です。前者の生活困難などに関しての相談は、社会的養護の下で生活能力が十分に育まれて いなかったという、子ども自体の能力ではない部分ですけれども、例えば月単位の収支を確 認して、どれだけ貯金をしてどれだけ使えるかなどを一緒に設定してその後を見守ったり、 学歴の部分も一般の方たちと比べると十分ではなく、施設が嫌で中卒という方も結構いらっ しゃいます。そのような方たちに高校卒業資格認定試験や定時制高校の受験のための学習支 援を行ったり、高卒であっても多くの方々が大卒で社会で生きている時代でハンディがあり ますので、安く資格が取れる職業能力開発センターへの受験などの支援をさせていただいた りしています。住む場所もなく貯金もなく食べる物もなく、頼れる方もいないという逼迫さ れている方には、役所に同行して生活保護の申請を行ったりと、その方々の状態に合わせて それぞれです。後者の精神的な相談に関しては、来られる方は逼迫されていて、親に捨てら れ、親に虐げられ、社会的養護の下でも義務感で、仕事として職員や養育者の方々に育てら れたという思いをもって、自分自身も義務感で生きているような若者たちが困難な状況に置 かれて「どうして自分は生きていかないといけないのだろう。もう嫌だ」という思いになら れる方で、置かれている状況から、「何を甘いことを言っているの」ではなくて「本当だよ ね。本当にそう思うよね」という方々が大半です。そのような方々には、まずじっくりとお 話ししていただいて「自分だけではない」「仲間がいる」「この人たちも楽しそうにやってい るから、私も何とかうまくできるかな」「何とか生きていけるかな」というように、関係の 中で徐々に感じていただいたり思っていただいたり、そのような時間を通して多くの方は 徐々に明るく、ご自身の力で前進されていっております。以上が「居場所・相談事業」です。  めくっていただきますと、もう一つ「日向ぼっこ」の取組として「当事者の声を集約・啓 発する事業」のご紹介があります。社会的養護は、まだまだマイノリティの分野で、当事者 活動も進んでおりません。ご高齢の方や身体障害や精神障害といったハンディのある方の分 野は、ご自身が語れなかったとしても、ご家族が代弁者となり権利擁護をすることが可能か と思います。しかし、私どもは家族から見放されてしまった社会の中で一番弱い立場の子ど もですので、養育者の方々が代弁していただかない限りは権利擁護が難しい。ただ、現場で はケアで手一杯で、権利擁護をしていただくのは難しいので、子どもであった私たちが声を 上げていくことを大切にしています。先ほど藤原家庭福祉課長のご紹介で資料2の10ペー ジに子どもたちの入所理由・措置理由が書かれていましたが、子ども自身が悪いことをした わけではないのです。児童自立支援施設などは子どもの監護が必要だからという理由が一番 上に挙げられていましたが、その子どもがどうして非行に走ってしまったかといいますと、 子ども自身が暴力を振るわれていたり命の危険があるというような家庭環境が良くないの で万引きをしたり、万引きをしないとご飯が食べられない状況に置かれている子どもたちな ので、本当に子ども自身が悪さをしているわけではないのです。そのような子どもたちが育 ちの時点で被っているハンディを解消するために私たちは声を集めて発信しております。  「日向ぼっこサロンに集う施設を巣立った人たちの声」のご紹介は、目を通していただけ ればと思います。  3ページ目以降の今日お伝えしたいことをお話しさせていただきます。先ほど、背景に関 しましてはご説明がございましたので割愛させていただきます。ただ、背景を受けまして、 確かに私たちは親から養育されなかった分、社会的養護の枠組みの中で養育されて、その面 では助かったし、ありがたいとは思います。しかし、措置期間中にもっと育んで欲しかった 面やケアして欲しかった面などはたくさんあります。はからずも私たちと同じように社会的 養護を必要とするこれからの子どもたちにとって、社会的養護が十分に機能する仕組みとな るよう、私たちの経験談や要望を伝えさせていただきます。  要点は大きく分けると二つです。決して「かわいそう」と思われたいわけではありません が、私たちは親がいないこと・親から虐げられたことによるハンディを背負っています。そ の欠如感や不遇感などの処理は、こうした運命を背負った私たち自身の課題です。しかし、 社会的養護の不十分さや退所後の環境との不整合は私たちの努力だけではどうにもならな い課題です。その社会的養護の不十分さですけれども、それがどのようなことを招いている かと申しますと、社会的養護を必要とした子ども、措置された子どもは養育面・教育面・精 神面で未発達なままです。また、私たち自身の特有の課題である親御さんとの関係の整理な どをしていただきたいのですが、中には虐待の後遺症がある方や発達障害を負っている方た ちもいらっしゃるので、各々の課題に対してケアをきちんとしていただきたいのですが、そ のような部分が十分とはいえない状態で、それによって私たちは退所後に生きづらさを抱え ております。原因として第一にいえることが、担い手が不足していることだと私どもは感じ ます。私たちは誰にでもあるだろう親を欠いてしまっているので、親に代わる、私たちと一 緒に生きてくれる存在が必要なのですが、そのような働きをされている養育者の方もいらっ しゃいますし、出会えて幸せに生きている施設や里親家庭で暮らしていた方ももちろんいら っしゃいます。しかし、十分かといったらまだ十分ではない状態です。  また、退所後の環境との不整合といいますと、現代社会で15〜18歳で自立している方は ほとんどいらっしゃらないと思います。そのことによるギャップを私たちはとても感じます。 例えば中卒で社会で働こうと思って職場を探したとしても、大体は「どうして高校に行かな いの。高校に行った方がいいよ」などと、例えばアルバイトの電話で事業主の方などは多分 その子のために思って言ってくれているのでしょうけれども、こちらからしたら「私は本当 は高校に行きたかったけれども行けなかった」という思いを、自分の中で「やはり私は何か 違うのだ」と感じております。高校まで行けたとしても、高校卒業で働いている方も少ない ので、それまでは違いを感じずに暮らせていた私たちも「やはり自分は特殊なのだ」という ことを感じながら生きざるを得ません。もし仮に18歳で退所することを仕方がなかったと 受け止められたとしても、親や保証人がいないことの障壁はとても大きなものです。仕事を するにも保証人が必要ですし、アパートで一人暮らしをするにも保証人は必要です。今、東 京都内ですと保証人を必要としない物件も増えていますが、地方ではそうはいかないです。 そして私たちが頼りにしてきた住み込みの就職先もなくなってきていますので、厳しい現状 に置かれています。原因は私たちが圧倒的にマイノリティであり、知られていないこと。退 所後に支えがないこと。アフターケアが何年か前の児童福祉法の改正で義務付けられている かと思いますが、実際にそれをきちんとされている施設があるかといったら疑問を感じます。 また、退所した人の声では、困ったことがあったから施設に電話したとしても「アフターケ アでなんとかしてあげるね」というようなことを言われて、「アフターケアとか言われても 嫌だな」と施設を頼れなくなるというような声も聞いております。条件が不利でも、一生懸 命努力すればそれなりの暮らしができるように制度の充実が必要だと強く思います。  最後に、今お伝えしたことの概要と申しますか養育面・教育面などについてご紹介してお りますが、こちらはお読みいただければと思います。貴重なお時間をどうもありがとうござ いました。 ○大日向部会長  ありがとうございました。短い時間で恐縮でございましたが、当事者ならではの大変貴重 なお話をありがとうございました。それでは、次に神奈川県厚木児童相談所児童福祉司の山 野参考人よりお話をいただきたいと思います。山野参考人には後ほど、いわゆる「子どもの 貧困」のテーマでもお話をいただきますので、この社会的養護に関しては短い時間で恐縮で すが、5分ほどでお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○山野参考人  山野です。よろしくお願いします。「子どもの貧困」のことで呼ばれたと思うのですが、 児童相談所の児童福祉司としてどうしても社会的養護のことを少しお話ししたくて、お願い して5分ほどいただきました。  資料を用意しているのですが、社会的養護の観点に関しては、アメリカで社会的養護の子 どもの研究をするに当たって、よく引用される三つの視点である「セーフティ」と「パーマ ネンシー」と「ウェルビーイング」の3点からお話をさせていただきます。  まず「セーフティ」、安全です。ご存じのとおり児童福祉法が今年改正されて、施設内虐 待に対する取組が法制化されました。画期的なことだと思っているのですが、施設内虐待の 防止にこれまでも積極的に取り組んできた神奈川県の現場から見ると、今、児童擁護施設で 目立ってきているのは、実は、施設内虐待の問題ではなく、子ども間のいじめや身体的、時 には性的な部分も含めての、集団的な連鎖のような問題です。そうした行為を行う加害の子 どもたちと話をしていくと、彼らの多くも実は幼いときにそうした加害行為の被害者である ことがほとんどであることが分かります。そうした連鎖のことを考えると、加害児童だけを 施設から排除すれば済むという問題ではなくて、集団的な連鎖が起きないような体制作りが 必要だと思います。それに当たっては、日本の児童養護施設などで特徴的に見られる、中舎 制や大舎制を中心とした集団養護のあり方そのものの限界がここにきて現れているのでは ないかと思います。  次に「パーマネンシー」です。これは日本語の適切な訳が見つからないのですが、アメリ カでは非常に重要視されています。アメリカではやや狭まった概念として使われていますけ れど、そのベースの考え方になっているのは資料にもあります「サイコロジカル・ペアレン ト(心理的な親)」というものです。アンナ・フロイトという学者がおっしゃったところから きていると思います。つまり、子どもたちには安定した恒久的な特定の大人とのかかわりが 必要だということです。では、日本の今の社会的養護の現場、特に児童養護施設で安定した 恒久的な特定の大人たちとのかかわりがどこまで子どもたちに保障できるでしょうか?実 は今、不安定な児童擁護施設などでは、職員の方たち、特に若い職員の方たちが3〜4年で どんどん辞めてしまう現実があります。子どもたちは、長い子では10年以上同じ施設に生 活しているにもかかわらず、職員はころころ替わってしまう。毎年のように職員が替わって しまうところもあります。そのような不安定な場で子どもたちが落ち着いて生活できるでし ょうか?そうした環境の変化によって情緒的に不安定になっていく子どもたちを現場にい て見受けます。ただ、辞めていく若い職員の人たちはやる気がないのかというとそうではな くて、社会的養護の現場は厳しいということを知っていて敢えてチャレンジしてくる方たち なのです。そのような職員の方たちが長く仕事を続けられない今の社会的養護の体制が一番 の問題だと思います。資料に新聞記事を添付していますけれども、高橋重宏東洋大教授がお っしゃるとおり、ここ30年変わっていない小学生以上の子ども6人に1人という職員配置 基準を抜本的に早急に解決していただきたいと思っています。 最後に「ウェルビーイング」という点からは、渡井参考人がおっしゃった自立支援という ところにもっと力点を置いていただきたいと思っています。ようやく自立支援という点に少 しずつ焦点が当たってきたと思っています。例えば、今年の4月から学習塾代が措置費の中 から支弁されるようになりました。ありがたい話だと思っています。ただ、どうしても日本 の場合、社会的養護の子どもたちに対する自立支援は、社会的養護にない子どもたち、つま り一般的な子どもたちとの差でしか語られないと思うのです。つまり多くの子どもたちが学 習塾に行くから社会的養護の子どもたちも学習塾に行く必要があるのではないかと。そうで はなくて、先ほど渡井参考人がお話ししたとおり、社会的養護を出た子どもたちは、出た後 に生きづらさを感じているわけです。そのような経過から、彼らが大人になったときに彼ら 自身の子どもたちにも同じような困難な生活体験をさせてしまう可能性が高まると思いま す。そのようなことを防ぐためにも、渡井参考人が先ほどおっしゃったような自立支援の部 分に関していろいろな支えが必要だと思います。それは渡井参考人がおっしゃったような精 神的・技術的なサポートもありますし、大学や高校の学歴を保障することや保証人の問題な ど、幅広くいろいろな部分に手当していただきたいと思っています。以上です。 ○大日向部会長  ありがとうございました。以上、社会的養護に関しまして事務局とお二人の参考人からご 説明をいただきました。ご質問も含めまして、ご議論をお願いいたします。では、清原委員 どうぞ。 ○清原委員  ありがとうございます。参考人の皆さま、貴重な報告をいただきましてありがとうござい ます。「日向ぼっこ」の渡井参考人に質問させていただきます。先ほど冒頭に事務局より紹 介いただきました資料2の9ページの調査結果の中で大変特徴的な面があります。児童の養 護問題の発生理由の中にも「虐待・酷使等」がありますが、被虐待児童の割合について乳児 院では34.6%、児童養護施設でも59.2%、情緒障害児短期治療施設では77.7%、児童自立 支援施設で65.3%、母子生活支援施設で43.7%です。先ほど渡井参考人が報告されました 貴重な活動の中で就労支援や就学支援だけではなく、精神的なケアというか支援が大変重要 な位置にあると伺いました。当事者の皆さんの「ピアサポート」というか、当事者でなけれ ば支えられない部分を支える活動を始められたわけですけれども、例えば私が調査させてい ただいた中でも、こうした社会的養護の経験をお持ちの方は、実の親から阻害され虐げられ た経験があるので、親役割というものについて習得がしにくい。ですから結婚をし、出産し、 あるいは父親となったときに、親としての役割を十分演ずることができないので、その中で 子どもを放棄してしまって結果的に自らの子どももまた、社会的養護を受けるような連鎖も あるとのことも言われています。先ほど山野参考人もおっしゃいました「加害児もかつては 被虐待児である」こともあるということと関係するのですが、連鎖を防ぐためには当事者と してかかわっていらっしゃる「日向ぼっこ」さんの取組の中にもやはり、繰り返しになりま すが、就労支援や修学支援だけではなくて社会的な役割を大人として果たしていくための具 体的な支援の活動というものもあるのではないかと思います。一つにはNPO法人だからで きる支援。それから、改めて社会的養護の中で、行政の方がこういうところを補強すべきで あるとか、拡充すべきであるとか、お考えになっている面がありましたら、補足的にご説明 をいただければありがたいと思います。以上です。 ○渡井参考人  ご質問ありがとうございます。まず、親役割の習得のしづらさに関してですけれども、実 は私の母親も施設にいたのでそういった面で親の部分から連鎖があったということはいえ るのですが、私が知り合っている親しい施設で暮らしていた方が連鎖をしているかといった ら、親の方は思い浮かぶ方が10人ぐらいなのですが、連鎖をしている方はお一人です。そ の方もどうして連鎖をしてしまっているかというと、決して虐待ではなく、その方がシング ルマザーであり、喘息をお持ちであり、お一人なので一生懸命仕事をして体を壊してしまっ て子どもを乳児院に預けなくてはならない状況があるので、施設や里親家庭で暮らしていた から親役割が抱きにくいというのは想定しやすいことではあるのですけれども、多くの方々 は自分が嫌だったから自分は施設で育ってよかったけれども、実際には、施設は子どもが育 つ場ではないと思っている方が多いので、涙を流しながら子育てをしたという声を聞いてお ります。施設で暮らしていた方々は集団生活をしていますので、とても協調性がある方が多 いのです。思いやりがある方も多く、子どもが好きな方も多いのです。たぶん、自分がかわ いがられたかったように子どもをかわいがるという方を多くお見受けしますので。確かに難 しさはあります。私も昨年結婚して今、妊娠したばかりなのですけれども、聞く人がいない というか結婚式もどうしたらよいかわからなかったですし。これからも、どうしたらよいか わからない。でも、わかないからできないかといったら、いろいろな人に支えてもらって、 私が経験したことをまた施設や里親家庭で育つ子どもたちに伝えていけたらという思いが あります。ですから、確かにそういったことを広めていく必要性、親になることに対して不 安を持っている方もたくさんいらっしゃるので、「大丈夫だよ、私もできたし、あなたもで きるよ」ということをこれから、「日向ぼっこ」で伝えていく必要があると思います。  皆さまにお伝えしたいことは、当事者の声を聞いていただくこと。今は、難しいと思いま すけれども、私たちが代弁者になって今、実際に施設や里親家庭を必要としている子どもた ちに集ってもらって、施設での暮らしの不満であったり、これからに対しての不安などを話 していただく機会を設けようと思っているので、そういった声を私たちが機会があるときに こういった場などでお伝えさせていただきたいと思っています。本当に制度や政策、そして 援助をお考えいただく際には、子どもたちの声を何より大切に、ハンディを被った私たちだ からこそ、ハンディを社会に出たときに感じなくても済むように制度での底支え、私たち自 身もできる努力は精一杯、みんな一生懸命こんなに親から虐げられて社会から虐げられた人 たちが歯をくいしばって頑張って生きていらっしゃるので、本人たちの努力では無理な部分 は制度の底支えでしていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○大日向部会長  杉山委員、お願いいたします。 ○杉山委員  一つずつ質問なのですが、「日向ぼっこ」さんは当事者のNPO法人活動というのは、始 まったばかりで期待の星というか希望だなと思って伺っていたのですが、運営上、困ってい ることや、ここが足りないというような部分がいくつかあるかと思います。その辺りをお聞 かせいただけたらと思っています。  もう一つは、山野さんに質問です。若い職員の方が3、4年でお辞めになってしまうとい うことですが、理由はチャレンジしたのだけれども職場の厳しさというもので続けられない と思われたことかと思います。それでは、どうしたらその部分を改善していくことができる のかというところを、どのようにお考えなのかを伺えたらと思います。 ○大日向部会長  それでは、渡井参考人からお願いいたします。 ○渡井参考人  足りない部分に関してですが、よくいわれるものはお金とかそういったものがすぐ出てく ると思いますけれども、私どもはゼロなことは当たり前、マイナスなことが当たり前、本当 に養育の時点でそうだったので、マイナスだからこそ自分たちで何とかしようという思いで 任意団体から始めたものですので、お金の面は賛助会員の方なり寄付をいただいたりで細々 と。また、ありがたいことに昨年から都の事業も受託することができたので、そういったこ とは感じていないというか、あるもので頑張るという癖があるのですけれども、足りない部 分はマンパワーに尽きるかなと感じています。私どもの特性というか当事者活動なので、同 じような境遇の方に仲間になって担っていただきたいのですけれども、みんながみんな私も 含めてですが、安定して社会の中で生きていられるわけではないので、波があったりする中 で、人生をともに分かち合うという仕事ですので。例えば、昨日も朝7時に早朝の仕事をし ている方から「行けなくてクビになってしまったよ」というお電話をいただきましたし、昨 日は休館日なのですが、夜の12時ぐらいまでいろいろな方からお電話がかかってきます。 私はやりたいからやらせていただいているのですが、電話をするというのも勇気が要ること なので、それを受け止めて快くやり取りするということは、自分の場合はできるから誰かに 押し付けられるかといったら、そうではないので。この活動が増えていく必要性はとても感 じているのですが、誰にでも頼めないというところに限界というか難しさを。今のところは 自分たちでどうにかしなくてはならない課題なのですが。とてもやりがいもあるので、同じ ような境遇の方で興味がある方に担っていただきたいとは思っています。以上です。 ○大日向部会長  それでは、山野参考人お願いいたします。 ○山野参考人  まず、職員の配置基準を何とかしていただきたいということがあるのですが。社会的養護 に関する資料2の8ページの中にある「地域小規模型養護施設」というのは、簡単にいうと 児童養護施設が持っている施設外にあるグループホームのようなものなのです。職員数を見 ていただきますと「大舎」「中舎」「小舎」の児童養護施設よりも恵まれているというか、割 りと厚い職員を付けていただいています。これは、厚生労働省の方で地域小規模型養護施設 に加配をしていただいているおかげだと思います。最近、大本の施設の職員の間から、地域 小規模型養護施設の職員の方々たちに対して、不満が出てくると聞いています。職員配置数 の違いから、地域小規模型養護施設の職員人たちの方がいきいきと仕事ができるということ があるようなのです。そうした例からしても職員配置の問題はとても大きなことだと思いま す。  もう一つは、私の資料の4ページの読売新聞の記事の下の方に黒田さんという方のお話が 出てくるのですけれど。黒田さんは今、施設内虐待が起きてしまう施設の改善の取組に力点 を置いてやっていらっしゃる方です。この取組として、グループ化をするということも一つ なのですが、もう一つ、黒田さんがよくお話をされるのは、民主的な施設の運営ができない 施設ほど虐待が起きてしまうという点です。児童養護施設は歴史のある施設が多くて、施設 長がワンマンで下の職員の意見を聞かないようなところもあって、そういった施設では若い 職員が続かないという感じが多いのです。こうしたことからも風通しのよい民主的な運営を どのように児童養護施設ができるかということは非常に大きな点だと思っています。以上で す。 ○大日向部会長  ありがとうございました。まだご質問もおありかと思いますが、進行の都合上、社会的養 護に関してはこの辺りとさせていただきたいと思います。しかしながら、以上の説明を伺い まして、私は大変貴重なご提言をいただけたと思います。例えば、世代間連鎖に関しまして も世の中には一面的な見方がございます。それに関して、渡井参考人から当事者として大変 適切な修正案を出していただきましたことをありがたいと思います。なお、子どもたちの責 任でないところで社会的養護の不十分さ、退所後の環境との不適合性をどのように制度とし て下支えしていくかということは、この部会でも重く受け止めさせていただきたいと思いま す。この社会的養護に関しましての調査というのは、数年来なされたことがない画期的な調 査と伺っております。この調査に関しましては、この部会からも山縣委員、吉田委員が入っ てくださっていますので、今後とも社会的養護の体制の確立、そして、退所後の環境の整備 という点に関しては心を尽くして議論を進めていきたいと思います。どうもありがとうござ いました。  それでは続きまして、いわゆる「子どもの貧困」について参考人の方々からご説明を伺い たいと思います。最初に、国立社会保障・人口問題研究所国際関係第2室長の阿部参考人か ら、同じく15分程度でご説明をお願いいたします。 ○阿部参考人  国立社会保障・人口問題研究所の阿部と申します。今回は貴重なお時間をありがとうござ いました。私から出させていただいたものはA4の紙2枚の資料となります。  「子どもの貧困」を私は自分自身が現場で毎日子どもたちと接しているというところでは ないのですけれども、統計的なところから見ていきたいと思います。今回出させていただい た資料は、今まで多くの「子どもの貧困」に関する統計がOECDなどから回っていますの で、そこのところはなるべく少なくして、新しく見えるところを提示させていただきたいと 思います。  まず最初に、これが昨年の秋にOECDから出された子どもの貧困率の推移です。1990 年代の半ばから2000年代半ばまでの推移を示しております。2000年代半ばで日本の子ど もの貧困率は、相対的貧困率と呼ばれるものですけれども、13.7%ということでOECD諸 国の中では23か国中9番目に高いということが指摘されました。ただ、この図で示したか ったのは子どもの貧困率とか、例えば子どもだけではなく日本全体の貧困率が、あたかも今 の100年に一度の未曾有の経済危機によって起こってきたものだという認識がなされるこ とが多いのですけれども、子どもの貧困は、その他の貧困もそうですが、ずっと前から1980 年代から浸透している構造的な問題であるということ。また、貧困率の上昇が、グローバル 化によって雇用形態を圧迫しなければいけないということを、あたかもそれがあるのでいた しかたないというような見方をなされる方も多いのですけれども、見ていただければわかり ますように先進諸国だけを見ても、必ずしもどこの国も子どもの貧困率が上がっているわけ ではございません。特に、一番グローバル化が激しいと思われるアメリカでは子どもの貧困 率が下がっておりますし、積極的な取組を始めたイギリスでは大幅に減少しております。こ ういうことから考えまして、子どもの貧困率が上がってくることをグローバル化の経済の中 でいたしかたないことだとしているのは、それに対して何も対処してこなかったということ の表れであって、決して、それは所与のものとして受け止めるものではないということです。  次に、どのような子どもが貧困かというところを見ていきたいと思います。この図もいろ いろなところが出ているのですが、日本の中では母子世帯の子どもの貧困率が圧倒的に突出 しています。私の推計では66%ですけれども、OECDの推計でも6割〜7割方ということ が報告されています。これは過去ずっとこのように高い数値なのです。母子世帯の経済状況 が近年、急激に悪化したからということだけではありません。ただ、図からわかりますよう に母子世帯の子どもというのは、構成比で見ると4.1%。若干定義を広げますと6%ぐらい になりますけれども、それぐらいの数だということです。貧困である子どもの家族構成を見 てみますと、母子世帯の子どもは大体3〜4割と推計されます。逆にいえば非常に高いので すが、母子世帯の子どもではない子どもたちも非常に多いということです。大体約5割の子 どもたちは核家族または三世代家族で、若干ですけれども父子世帯の貧困率も19%と高い ものもあります。構成ですが低いので数的には少なくなりますけれども、他の世帯の子ども たちも決して貧困ではないということではないことをご承知いただきたいと思います。  次に、年齢別で見てみますと、子どもの貧困率は年齢が低ければ低いほど高くなります。 この傾向が特に強まっていることが問題であると思います。この統計は、若干古くて2004 年までしかないのですが、2001年から2004年にかけて若干子どもの貧困率が減少したの です。これは、景気が回復してきたころだったということを反映していると思いますけれど も、その時期にもまして小さい子どもの貧困率が増加している。欧米などの研究によります と、就学前の子どもの貧困が就学前教育だけではなくてすべての子どもの貧困経験そのもの が子どもが成長した後のあらゆるアウトカムに対して大きく影響してくるということが言 われています。そのことを考えますと、特に0〜2歳の乳児の時期の子どもの貧困率が高ま っていることは危機的なことだと思います。なぜ、そこのところが高まっているかといいま すと、若い世代の親たちの雇用状況の悪化ということが一ついえると思います。その下に親 の就業状況別の子どもの貧困率を挙げましたけれども、自営業、契約や派遣などが入ると思 いますが、世帯内の最多稼得者の就業状況がこのような場合には子どもの貧困率は3割にま でなります。ここには出しておりませんけれども、父親の年齢別で見ますと、20〜25歳の カテゴリーの父親を持つ子どもの貧困率が一番急激に上昇している状況にあります。それが、 子どもの0〜2歳というところに出ているのではないかと思います。  次の2ぺ−ジ目に移りたいと思います。先ほど、社会的養護のお話を聞かせていただいて、 非常に勉強になりました。これは、社会的養護の方々はもちろん、この中でもいろいろな影 響を受けている方だと思いますけれども、そうでなく親と一緒の世帯で過ごしているにして も貧困の世帯に育つということが、いろいろな意味で悪影響を及ぼしていくということです。 先ほど「ハンディ」という言葉を使われましたけれども、私はここでは「不利」という言葉 を使っております。それは、栄養であったり医療へのアクセス、家庭環境、親のストレス、 学習資源の不足、住居の問題、近隣問題などといろいろあるわけです。ここでは、考えられ るものの一部を載せたに過ぎません。つまり、貧困で育つということはあらゆる形でのハン ディが上から上へと重なってくるというような状況にあるということです。例えば子どもの 貧困対策ということで、教育支援だけを述べる方もおります。例えば、貧困で育つというこ とは塾に行けないから学力が身に付かなくて高い学歴をつけることができない。だから貧困 の連鎖が起きるという短絡的な図式ですね。ただ、それはこちらの図の一つの経路にすぎな くて、その他の経路もいろいろあるということです。ただ、このハンディがいろいろある中 で、子ども期に対しての所得保障、それから現物給付という政府の介入によってこれらの不 利を緩和する効果があるということが、すでに欧米では実証的に研究されております。これ は先ほど、お二人の参考人がおっしゃった子どもたちのことですけれども、ただ単に他の子 どもたちと公平にするということではなくて、貧困で育つ子どもたちが負っているさまざま な不利を積極的に緩和する方向性がないと、この差は縮まらないということなのです。たと え塾費が出るとしても、それもこの中の一つの経路の中のたった一つにすぎない。もちろん それは役に立ちますけれども、他の子どもと同じだけで、やはり結果的には格差は縮まらな いわけです。そこのところの貧困の連鎖を本当に止めようと思うのであれば、積極的に緩和 しなければいけない。むしろ手厚くしなければいけないわけです。そして、所得保障という 所得というのはあらゆるところに関連してきます。学習資源の不足にもありますし、親のス トレスを減少させることもできますし、近隣地域が悪いのであればより良い地域に移ること など、いろいろなところで影響してきます。所得保障だけでは駄目です、その他にも現物給 付というところで質の高い就学前教育、食料給付、給食。給食も今は給食費を就学援助費で カバーしているところもあるのですが、十分であるとはいえない状況にあります。保育です と親の就労支援などいろいろなサービスがあると思いますけれども、できる限りすべてそろ えていく必要がある。いろいろなところの経路を絶っていく必要があるということがいえる と思います。特に、私はここのところで「質の高い」というところにアンダーラインを付け させていただきました。この就学前教育の効果に対しては、アメリカのヘッド・スタートや イギリスのシュア・スタート、それから各国のいろいろなものについて実際にどれぐらい効 果があるのかということの研究がなされています。そこでわかってきているのは、ただ単に、 保育をしているだけでは駄目だと、質の高い就学前教育をしなければいけないということな のです。ヘッド・スタートなどのように大きな施設でやっているようなところでは、あまり 効果が上がっていないけれども、小規模なところで質の高い教育、保育、サービスを提供し ているところには高い効果がみられるということまではわかってきています。現在、前回の 会のときに就学前教育の無償化という話が出たかと思いますけれども、今、貧困世帯の子ど もたちが集中しているのは保育園なのです。保育園の中での質の高い保育と就学前教育がど こまで確保できるかということが非常に重要な観点かと思います。これはもちろん、待機児 童の解消という量的な面も必要ですけれども、その他にも質的な面を積極的に取り入れてい くべきではないかと思っております。  最後に、国際比較から見た日本の子どもの貧困の特徴を3点ほど挙げさせていただきたい と思います。ここでは、悪いことばかり報じられるのですけれども、良いこともいくつか挙 げてみました。一つは、これは悪いことですが、母子世帯をはじめとする特定の世帯の貧困 率が突出して高いということです。ある程度、貧困の政策というものを特定世帯に集中的に 投入するというのは、必ずしも悪い方向性ではないと思います。ただ、漏れなくするという ことに関していいますと、特定世帯では高いのですけれども、他の世帯の子どもたちが漏れ てしまっているという状況があるかと思います。このごろは父子世帯に対する児童扶養手当 の拡大ということがいわれてきておりますけれども、だとすれば、母子家庭でもない父子家 庭でもない貧困の子どもたち、今の母子世帯の所得制限以下で暮らしている二親世帯の子ど もたちもたくさんおりますので、そういう子どもたちに対してどうしていくのかと。そうい う子どもたちは児童手当を少し上乗せするぐらいでよいのかという話をしていきますと、貧 困の世帯に対するのは漏れなく対象とする必要性があると思います。児童手当や児童扶養手 当だけではなく、いろいろなところの提案でもなされていますけれども、児童税額控除とか 新しい政策というものも必要だと思います。  2番目の特徴として、残念ですけれども現在の状況では政策による子どもの貧困削減効果 はほとんど認められません。唯一存在していたのが、母子世帯に対するものですけれども、 それも1980年代・1990年代に比べて政府の効果が大幅に減少しております。それをまず 是正する必要がある。  一方で悪いことばかりではなく、良いことも申し上げますと、再分配前の子どもの貧困率 は、諸外国に比べてそれほど高いわけではないのです。今、他の国に比べて9番目というと あまり良くない貧困率であるのですけれども、それは再分配後の話であって、再分配前はそ れほど低いわけではない。逆にいえば、ビフォワーの状況ですのでそれなりの財政投入をす れば、日本は優良国になる可能性も非常に高いということなのです。それは「貧困ギャップ」 という、あまり使われない指標ですが、これで見るとよく表れます。例えば、子どもの貧困 ギャップと高齢者の貧困ギャップ、貧困ギャップというのは何割の人が貧困であるかという だけではなく、どれぐらいの深さかということも考慮したものですが。それを見ると、子ど もに比べて高齢者の高齢情勢というのは圧倒的に悪いのです。逆にいえば子どもに対する投 入というのは、高齢者の貧困を救済することに比べれば財源投入しなくてもある程度の効果 をみることができるということです。  3番目に、女性の就労による貧困削減効果が非常に少ないということが挙げられます。今 現在、共働き世帯の子どもの貧困率と片働き世帯の子どもの貧困率を比べてみますと、ほと んど差がありません。諸外国では二親世帯で両親とも働いている場合の子どもの貧困率はほ とんどの場合5%以下まで落ちるのです。それが、日本の場合はそれほど落ちません。11% が10%に落ちる程度です。ということは、女性の就労状況があまりよくないということで す。それから、どのような世帯が共働きになっているかといいますと、非常に両極端になっ ております。非常にハイ・インカムで高学歴の夫婦というものもありますけれども、それ以 上に父親の収入も少ない、母親も働きに出なければいけないという世帯が共働きなのです。 ですから、貧困の解消の手立てとならないということになります。そのような世帯は保育所 などに子どもを預けていると思われますので、そういうところに現物給付の非常に質の高い ものを集中的に投入するということが効果的になるということになります。  一方で、片働き世帯の貧困率というのは、諸外国に比べてそれほど高いわけではありませ ん。むしろ低いといえます。これは、日本の社会も変わりつつありますけれども、まだメイ ル・ブレッドウィナーモデルが残っている世帯も他の国に比べてあるというところだと思い ます。方向性としては変わってきていますが、あまり日本の今の状況を悲観する必要もない のかなという気もいたします。  以上で、私の報告を終わらせていただきたいと思います。 ○大日向部会長  ありがとうございました。次に、山野参考人よりご説明をお願いしたいいたします。 ○山野参考人  阿部参考人の方で統計を使ってお話ししていただきましたので、私は児童相談所の職員と して現場から見える貧困家庭の課題を、統計をあまり使わずにお話ししてみたいと思います。 資料は2ページ目です。まずは、生活の余裕のなさというのを貧困家庭に共通して感じます。 それは、お金の余裕だけではなくて、それ以上に時間の余裕や精神的な余裕をもって子育て をしている方が本当に少ないと思います。  典型的には、先ほど阿部参考人の話にも何度も出てきた母子家庭を中心としたひとり親 家庭です。私が出会うひとり親家庭の方々は時間を切り売りしながら綱渡りのように毎日生 きていらっしゃる方が多いなと思います。家事、育児、仕事を1人でこなしているわけです。 仕事で身体的にも精神的にもストレスや疲労を抱えながらも、家に帰ってもほっとする間も なく家事・育児に取り掛からなければなりません。そうした生活を毎日のように、しかも、 数か月とか短い期間ではなく、数年間、場合よっては10年以上と長期間に渡ってやらなけ ればいけない。阿部参考人が本の中でおっしゃっているとおり、本当に日本の中で、父子家 庭もそうですけれどひとり親家庭ほどワーク・ライフ・バランスが崩れている家庭はないの ではないかと私は思います。  また、ひとり親家庭は、不安定な就労形態を取っている方が多いのです。大企業や官公庁 に勤めている方は、ごくわずかで少数派です。そうすると子どもが病気になっても職場に悪 くて仕事を休むことがなかなかできないとおっしゃる方が多いのです。また、仕事を休んで しまうと給料が減らされたり、場合によっては仕事を解雇されてしまうことを心配される方 も多いです。先日もある母子家庭の母親が、子どもが問題を起こしてしまうということで学 校に何度か呼ばれたのだけれど、この母親がぽつんとおっしゃったのは、「学校の先生には 私たちの職場の状況をわかってもらえないのですよね」ということでした。  また、こうした余裕のなさというのは、阿部参考人もおっしゃっているとおり、家庭内 の弱者、子どもたちに影響を与えてしまうと思います。阿部参考人の本でも引用されている ある研究では、6歳未満の幼児を養育している母子家庭では、平日で何と46分しか育児に 費やせないという実態がわかっています。共働きの同条件の子どもの母親の平均は約2時間、 113分かけられるわけです。こうしたかかわりの少なさが、今、日本の児童福祉や発達心理 学で注目を浴びているアタッチメントという部分にとても大きな影響を与えると思います。 アタッチメントというのは子どもの安心感のようなものだと思いますけれど、成長や発達の ベース、基地にあるものだと思います。母子家庭のこうした余裕のなさは、精神的な部分も 含めて子どもたちの発達面に大きな影響を与えていると思います。  次に低賃金、労働時間単位の単価の低さの問題です。私は低賃金の問題が貧困家庭の働き 方に大きな影響を与えていると思います。今は多くの人が多様な働き方をしているといわれ ますけれど、貧困家庭ほど多様な働き方をしないと生きていけない時代に入っているのでは ないかと思います。ひとり親家庭の調査で5人に1人がダブルワークをしているという調査 結果がありました。ひとり親家庭でなくても、こうしたダブルワークや長時間労働の問題は 貧困家庭に共通して見られることだと思います。私はある父親から、「あなたは公務員だか らいいですね、5時に帰れますからね」と言われてしまいました。児童相談所の職員は公務 員の中でも長時間労働を強いられている方だと思いますが、この父親は長距離トラックの運 転手をしている方で、本当に長時間労働と不規則な労働をしているのです。2日間まるまる 家に帰らないで仕事をして1日家に帰ってくる。夜、仕事に出ていって次の次の日の朝に家 に帰ってくる。そういった方たちから見ると、公務員というだけでとてもうらやましがられ てしまうということがあります。  さらに私は、低賃金の問題というのは子どもを直接的な危険性の中に置いている状況が あると思います。夜間などに親が働いて子どもたちだけで生活をする中で、火事などに遭っ て死んでしまうというニュースが毎年のように冬に起きます。夜間に子どもを放置している こうした親に話を聞くと、決まって昼間の低賃金のことを話します。同じ仕事でも夜間にな ると本当にわずかですけれど、100円200円300円という単位だけれど給料が上がるので す。それは彼らにとってはとても魅力的で、そういったものがないとなかなか生活できない という話をされます。もちろん、そうした親も夜間に子どもたちを放置していることは良い ことだとは思っていません。けれども彼らは生活と子どもの安全を天秤にかけなければいけ なくなってしまうのです。  次に孤立の問題です。孤立の問題は、都市化の進行で貧困家庭だけの問題ではないと思い ますが、いくつかの研究、北海道大学の研究とかアメリカの研究では、貧困家庭ほどこうし た孤立化が激しいことがいえるとされています。私が児童相談所で出会う家族も近隣や親類 から孤立して、必要な子育ての援助も得られずに自分たちだけで子どもを養育している家庭 がほとんどです。また、経済的に立ち行かなくなっている家庭ほど、そうした孤立感が大き いと思われます。  実はこうした孤立化というのは、貧困家庭ほど大きな影響を受けてしまうと思います。 つまり豊かな家庭であればいろいろなサービスを買うことでその孤立している部分を補う ことができると思いますが、貧困家庭はそういったサービスを買うことができません。また、 資料にも書いてあるとおり、近隣の方とのつき合いとか親類とのつき合いが少ないというこ とで、情報へのアクセスが本当に限られてしまうと思います。先日、ある低所得の御家庭で 初産の母親を訪問したときのことだったのですが、彼女は赤ちゃんが生まれてから1、2か 月は本当に大変だったのです。ちょうど私が市の職員と一緒に訪問して市のいろいろなサー ビスの話をしたのですけれど、母親はとても喜んでいました。この母親は本当に大変になっ てきて、ベビーシッターを雇おうかとも考えたそうです。しかし、父親の所得から考えると それが現実的ではないとわかって、ほとほと困っていたら、その市ではそういった場合にヘ ルパー事業を活用できるとわかって、母親はとても喜んでいました。  次に、私は居住空間の問題性を感じます。日本の住宅政策の専門家がおっしゃるのは、日 本というのは中流家庭に対する持ち家政策だけに偏ってきたという点です。公営住宅の数は 減少し、諸外国で見られるような賃貸のアパートを借りている低所得家庭の方に対する補助 金という制度が日本では全くありません。そうした中で、やはり貧困家庭ほど居住空間の狭 さがあると思うのです。こうした居住空間の問題は特に思春期の子どもたちに本当に深刻な 影響を与えていると思います。例えばプライバシーが保てなかったり、勉強に打ち込もうと 思っても落ち着いて勉強できる空間がなかったりすると思います。また思春期の子どもたち は親たちと不安定な関係が強まる時期にあります。思春期の子どもたちにとって、そうした 狭い居住空間で暮らすこと自体が大変だと思うし、それはまた親にとっても同じだと思うの です。それは兄弟関係でも同様だし、夫婦の間でも似たような問題が生じる可能性があると 思います。  次に、教育費の問題ですが、義務教育は無償化されているのですけれど、実は教材費や制 服代は別にかかってしまうのです。そういったものを補うために、もちろん就学援助の制度 があるのですが、就学援助の制度は市町村によってかなり広報の仕方が違うといわれていま す。その広報の仕方によって就学援助を受けている率に差が見られるという指摘もあります。 また就学援助の額だけでは教材費や給食費、制服代、部活動費などをすべて補うのはまず不 可能です。  次に、高等教育の学費です。大学の学費の高さのことはもう委員の方たちもよくご存じだ と思いますが、私は貧困家庭では高校に行かせることさえ大変だと思うのです。特に私立高 校の場合です。実は貧困家庭の子どもたちの中には公立高校に行く学力を得られない場合が 多々あります。それは阿部参考人がお話しされていたとおり、彼らはいろいろなハンディを 小さいときから背負っていて、なかなか学力を蓄えることができないからです。それから、 不登校になってしまうようなこともあると思います。そうした場合に、やはり公立高校にな かなか受からなくて、私立高校しか選択肢がないということがあるのですが、今は不況の波 からか公立高校を希望する子どもたちがどんどん増えていって、貧困な子どもたち、学力が ついていない子どもたちは私立高校に行くしかないという状況になってきていると思いま す。そうしたときに私立高校の学費の高さという現実は、子どもたちが早くから、中学校の 1、2年生くらいから「おれはもう高校に行けないよ」という感じで諦めることにつながっ てしまっていると思います。  次に、保育所についてです。保育所についてはこの部会でずっと議論されてきていると思 いますけれど、私は保育所は「貧困の防波堤」だと思っているのです。もちろん、保育所が 直接的に資源の再分配をやっているわけではないのですが、日本の保育所では豊かな子ども と貧困な家庭の子どもは同じ保育所に行っており、そのことが格差や貧困が子どもたちに与 える影響を一定程度防ぐことにつながっていると思うのです。家庭の経済力によって保育の 質に違いが出ないように、ぜひともご配慮いただきたいと思います。  また、保育所は私から見ると本当に子どものケアをしているだけではなくて、親のケア をかなりしていると思っています。子どもの送迎時などに、ほんのちょっとした時間なので すけれど、職員の方や所長が親御さんに声をかけてくれたり話を聞いてくれたりと、精神的 に支えてくれたり、時には踏み込んで叱咤激励してくれるというのは、とてもありがたいこ とです。  最後に、セーフティネットの点で、失業保険や労災、生活保護の問題はもう皆さんよくご 存じだと思いますが、私は生活保護というのは単に経済的な安定をもたらすだけではなくて、 それを活用することによって親子関係が安定に向かう場合が多いと思います。ある母親は最 近生活保護を活用できるようになったのですが、生活保護を受けたことで一番良かったと思 うのは、子どもの状態が悪いときも無理をせず仕事を休めるようになったことだとおっしゃ っていました。余裕が持てるといいですねとお話ししてくれました。実は彼女には発達障害 のある子どもがいるのですが、それまでは子どもの調子が悪いときも仕事を休むことができ ず、いつも時間のことを気にしながら仕事をしていたと言っていました。母親に余裕ができ たことで、子どもの状態もとても良くなりました。親に精神的余裕があるかないかというこ とは子どもにとって本当に大きなことだと思います。  最後に、これは私の不勉強かもしれませんが、保育料のことです。保育料というのは前年 度の所得に応じて決められているのですが、例えば急な失業や急な疾病でお金がかかったと きに保育料を減免していただく制度があると思いますけれど、これは私からみると市町村に よって格差があると感じますし、また広報の仕方が一体どうなっているのかということがあ ります。これは私の疑問なのですが、教えていただけるとありがたいと思います。 ○大日向部会長  ありがとうございました。それでは残された時間で、二人の参考人に対してご質問やご議 論をお願いしたいと思います。大変申し訳ありませんが時間も限られておりますので、一問 一答ではなく、ご質問を先にまとめて出していただきたいと思います。吉田委員お願いいた します。 ○吉田委員  阿部参考人に教えていただきたいのですが、最近は子ども家族政策でフランスが注目され ていますが、貧困率を見るとむしろイギリスがかなり顕著に貧困率が落ちている。それで先 ほどのお話にあったように、いわゆるシュア・スタート、人生の最初からしっかりスタート しましょうというプランで、それが保育の国家戦略にも結びついている。例えばチルドレン センターという総合施設があって、当初はイギリス全土の経済的に貧しい下位20%の地域 からそういう総合施設を置いて、保育や子育て支援だけでなくて就労支援であるとか医療サ ポートとか、かなりトータルなプランをやった。そうするとこの部会は、これから新しい次 世代育成支援の枠組みをつくるという観点からして、特にイギリスの貧困率の落ち方がちょ うどシュア・スタートの時期とほぼ重なっているように思いますので、その辺でもし何か参 考になる情報をいただければと思います。 ○大日向部会長  他に、いかがでしょうか。では、宮島委員お願いいたします。 ○宮島委員  吉田委員のご質問に関連してですけれども、政策によって日本の子どもの貧困の削減効果 がほとんどないというのは、やはり皆にとってショックな事実だと思います。イギリスに限 らず諸外国において政策による貧困の削減が成功している国では、どういう政策が比較的成 功に結びつきやすいかということを教えていただければと思います。 ○大日向部会長  山縣委員お願いします。 ○山縣委員  ほぼ宮島委員と同じ質問ですけれど、日本の経済政策は、なぜ効果がないのかというとこ ろも併せて教えていただきたいと思います。 ○大日向部会長  ありがとうございます。私も同じことの繰り返しになるかもしれませんが、阿部参考人に お尋ねしたいのは、日本は再分配前の子どもの貧困率は低いとおっしゃいましたね。でもご 著書で、再分配後かえって貧困率が高くなっている。したがって、社会保障制度、税制度に よって日本の子どもの貧困率はかえって悪化しているのだとお書きになっていますが、この 辺りの理由は何かということもお尋ねしたいと思います。  他にいかがでしょうか。よろしゅうございますか。では、ここでひとまず質問を打ち切っ て、それぞれお答えいただければと思います。 ○阿部参考人  最初の吉田委員のイギリスの質問と、あとのお三方の質問はたぶん同じ質問になるのでは ないかという気がします。まず、貧困率というのは非常に限定的なものの一つのデータだと いうことなのです。ここで言う貧困率は、どのような質の良い保育やサービスなどの現物給 付をしても貧困率には全く影響しないのです。これはあくまでも一つ一つの子どもの世帯の 手取り所得がどれぐらい変わったかということで、再分配の政策の効果だけなのです。それ を見た場合、なぜ日本には効果がなくて、他の国にはあるのか。なぜイギリスが大きく下げ ることに成功したかというのは非常に単純なもので、貧困の子どものある世帯に対する現金 給付が、その貧困世帯が出す税金や社会保険などいろいろな負担よりも多いからという、そ れだけのものなのです。日本の場合は、今どのような給付がなされているかというと、児童 手当がなされています。しかし、この額を見れば3歳未満は若干上がりましたけれども、そ れでもやはり子ども1人当たり6万円ですとか、その程度です。それに対して、ではどのよ うな負担をしているかというと、確かに貧困の世帯であれば所得最低限以下かもしれません けれど、住民税は払っているかもしれない。それから、一番大きく効いているのはやはり社 会保険料です。社会保険料の、国民年金であればもしかして減免になるかもしれないけれど も、そうでない国民健康保険のところには頭割部分が相当ありますので、そういう保険料を 払わなければいけない。それと児童手当とを勘案したら持ち出し部分の方が多くなるという、 それだけの単純な理由です。  なぜ、他の国でそれが変わるのかというと、子どものある世帯でかつ貧困である世帯、こ れは子どもがいる世帯全体の話ではないということを強調しておきたいのですけれども、子 どものある貧困世帯に対してはまず給付を多くする、フランスのように児童手当を非常に潤 沢にするというものもありますし、イギリスも貧困率が下がっているのは税額控除の枠組み を非常に大きくしたからなのです。そのような形で多くする、または負担を軽減する、また は両方するというような政策を取られるということだけです。そういうプラスマイナスでし て、再分配される側に回ることによって貧困率を削減します。それが持ち出し部分が多くな ってしまえば、例えそれが親の将来の年金給付のためだとしても一時的にその世帯は貧困に なってしまいます。また、貧困であったものがさらに貧困になってしまいますので、そこに 育っている子どもたちには影響してきます。それだけなので非常に簡単な足し算引き算の議 論になっているということです。 ○大日向部会長  ありがとうございました。何か、ありますか。今ご質問された方々は今のご説明でよろし いですか。他にいかがでしょうか。では、佐藤委員お願いします。 ○佐藤委員  まず、阿部参考人の説明でよくわからなかったのは、現物給付をトータルで考えてどうな のですか。例えばイギリスでも所得が増えて、でもサービスは購入しなければいけないです よね。例えば他の国で。そうするとトータルで考えると比較しにくいのかどうかですが。そ れは貧困ということではないのかもしれですけれども、所得の部分と実際にサービスを購入 する必要がありますよね。それを得た所得で購入する場合と、所得が少なくても現物給付で、 無料で供給するという両方を考慮したときにどうなるのかという、素人としての質問なので すが。 ○阿部参考人  他の国と比べて日本がどうかということですか。日本の場合は現物給付も非常に少ないの です。現金給付も少なくて現物給付も少ないというダブルパンチですので、日本が現物給付 を考慮したからといって大きく変わるということはないと思います。それは家族関連給付だ けを見ても現物給付が非常に少ないということがわかりますし、あとはそこに勘案されてい ないですけれど教育費ですね。無償教育を保育園から大学までやっている国は非常にありま す。日本の場合は高校でさえも有償であるという状況ですので、それを考えれば、実はイギ リスなどでも所得補償もしているけれども現物給付も日本よりずっとしているということ になります。 ○大日向部会長  よろしいでしょうか。他に、いかがですか。では、清原委員お願いします。 ○清原委員  先ほど山野参考人からセーフティネットのことに関して失業や病気をしたときに必ずし も的確に減免措置がその機能を果たしてしていないのではないかという問題提起がありま したので、自治体の立場でお答えしたいと思います。  例えば三鷹市の場合では、保育園に通っている家庭で失業あるいは長期の疾病等の事態が 生じて、所得が減少したり大きな支出が発生しましたときには、もちろんご相談に乗らせて いただいて、年度途中でも市の独自制度による減免という対応をさせていただいています。 ただ、このような問題提起が参考人から出されたのは、いろいろな部分で貧困の世帯、家庭 に対して適切に行政サービスの内容について情報が周知徹底されているかということもあ ったのだと思います。先ほど、保育所の重要性の中で「貧困の防波堤」という表現をされま したけれども、私たちにとりましても、必ずしも所得において貧困の家庭だけでなく、虐待 あるいは保護者に何らかの精神的な障害や変化が生じたことに関しましても早期発見・早期 対応ということで機能を強化しているところです。要支援児童のネットワークの要として保 育所も位置づけられているところもございますので、私たちとしては問題提起いただきまし たセーフティネットが欠如しているのではないかということについては、そういう不安や懸 念がないように対応していかなければいけないと改めて思ったところです。ありがとうござ いました。 ○大日向部会長  先ほどの質問にお答えいただき、ありがとうございました。大石委員。 ○大石委員  ありがとうございます。山野参考人にお伺いしたいのですけれども、レジュメの中で保育 所に関連しまして「保育所の偏在性の課題」について特にコメントなさらなかったのですが、 具体的な内容をお伺いしたいということ。  それから、この部会で中間取りまとめを出しまして、保育所の利用の仕方を変えるという ことを打ち出しているわけですけれども、例えば保育所と親が直接に契約するようなシステ ムに変えるとか、あるいは中間報告では地域によって最低基準を変えることはしないと言っ たわけですが、その地域的な問題について、どのようにお考えかをお伺いしたいと思います。 ○山野参考人  地域の最低基準というのは職員配置とかいうことではなくて面積などですね。まず最初に、 先ほど清原委員にお答えていただいて、ありがとうございました。実は私も地域によってそ こはかなりセンシティブにやっているところとそうでないところがあるのかなと思います。 それから、市役所の職員というのは、保育所を利用している親御さんが突然解雇されたかと かは、なかなかわからないわけで、保育所の所長や職員の方がそういったことにセンシティ ブに対応して、市と連携をしているかという点があると思います。  もう一つは、保育所の偏在性ということですが、私が仕事をしている厚木児童相談所管内 では顕著に見られるようになっています。というのも、保育所は徐々に駅前中心に立てられ るようになっていると思うのですが、一方で、貧困というものに徐々に日本でも地域による 偏在性が出てきているのではないかと感じるのです。つまり、家賃の安いアパートがあるの は交通の便があまり良くないような地域、つまり駅前でない郊外の地域に集中し始め、低所 得家庭はそうした郊外地域に集中して住み始めているのではないかと感じています。そうし た状況で、駅前でない郊外に保育所が十分あるかというと、実はそういった地域には保育所 が少ないということを私は感じています。こうした状況の中で、貧困の家庭にとって困るの は、交通のアクセスの問題なのです。つまり豊かな家庭であれば車で駅の近くの保育所まで 連れていけばよいのだけれど、郊外に住んでいる貧困な家庭は、そういった場合にはバスを 使うとか。それだけでも大変になってしまうし時間もかかってしまう。やはりそういった点 を考えると、保育所が偏在的になっていないかという調査がそろそろ必要ではないかと思い ます。  それから、直接的な契約ということでいうと、やはり児童相談所の立場からすると私は少 し危機感を持っています。利用者と保育所なりが契約するということですよね。児童相談所 では今、児童虐待の防止に当たって保育所というのはとてもありがたい存在なのです。そう したときに、親が自ら希望した保育所を利用するかというと、そうでない方もやはりいて、 その辺の配慮はぜひともいただきたいと思っています。 ○大日向部会長  ありがとうございました。最後の点に関しまして、第1次報告でも虐待や単身家庭の方に 対しては優先的に入所を考えることをきちんと自治体に求めると書いてあると思いますが、 貴重なご意見をありがとうございました。  以上を持ちまして、社会的養護、それから「子どもの貧困」に関しまして本日は3人の参 考人から大変貴重なご意見をいただきました。ありがとうございました。  それでは最後になりますが、今後の保育関係の検討の進め方に関して皆さまにお諮りした いことがございます。事務局と相談しまして資料をご用意しましたので、まず事務局から説 明をお願いします。 ○朝川少子化対策企画室長  資料6をご覧いいただければと思います。まず「1.設置の趣旨」ですが、2月にまとめて いただいた第1次報告を踏まえた検討をしていくに際しまして、特にこの保育の関係につい ては委員の先生方はご案内だと思いますが、検討項目は専門的かつ分量が非常に多いです。 そのために、この少子化対策特別部会の下に二つほど専門委員会を設置させていただいたら どうかという趣旨でございます。2番目の一つ目の丸で、したがいまして、今後の保育関係 の検討についてはどちらかといえばこの二つの専門委員会を中心に議論をいただいて、折に 触れ少子化対策特別部会においてこの二つの専門委員会からの報告を受け、それを踏まえた 議論を行っていただければと考えています。なお、この二つの専門委員会につきましては、 当部会の委員の皆さま方の一部のほか、保育関係者あるいは学識経験者などから構成できれ ばと考えています。  1枚おめくりいただいて、二つ設けると申し上げましたが、そのときの分け方のイメージ ですが、2ページ目の上の箱にあります一つ目の丸、二つ目の丸、四つ目、五つ目の辺りで す。認定から始まって給付の具体的な設計、あるいは認可保育所の質の改善といったところ で比較的共通しています。あとは、下から二つ目の「多様な保育サービスの詳細」の一部分 について一つの専門委員会で、それ以外の三つ目の丸、それから六つ目、七つ目の丸、その 辺りをもう一つの専門委員会でというようなイメージで考えています。なお、保育について はそういうことで専門委員会を設けさせていただきますが、それ以外のテーマ、放課後児童 クラブからその次のページにわたっての各種施策、本日の社会的養護や貧困関係も含めてで すけれども、それらにつきましては引き続き当部会においてご審議を継続していただければ と考えております。以上です。 ○大日向部会長  ありがとうございました。保育は次世代育成支援の中でも大変重要な制度であります。こ の保育に関しまして今後議論が専門的かつあまりにも多岐にわたることから、このように二 つの専門委員会を置くこととしてはどうかと考えたわけです。ただ今事務局にご説明いただ きました資料では、少子化対策特別部会の委員の一部の方々に専門委員として入っていただ くこととなっております。これは専門委員会の運営上そのような案としているものですが、 私といたしましては、これに加えまして今後人選をいただいた後、専門委員会の委員になっ ていただいた方以外でも本部会の委員の皆さまに可能な範囲で積極的に専門委員会にご出 席いただき、議論に参加していただいてはどうかと考えております。このようなことですが いかがでございますか。委員の皆さまからご質問・ご意見がありましたらお願いします。こ の二つの専門委員会の設置についてご了承いただけたということでよろしゅうございます か。 (「異議なし」の声あり) ○大日向部会長  ありがとうございます。それでは、この方向で二つの専門委員会の設置を進めていきたい と思います。それでは、本日はこの辺りとしたいと思います。  最後に、事務局から次回の日程につきましてご説明お願いします。 ○朝川少子化対策企画室長  本日は、誠にありがとうございました。次回の日程につきましては、改めて事務局からご 連絡申し上げます。引き続き、次世代育成支援のための新たな制度体系の設計についてご議 論をお願いしたいと考えていますので、ご出席いただきますよう、よろしくお願いいたしま す。 ○大日向部会長  それでは、改めて3人の参考人、今日は本当にありがとうございました。本日はこれで閉 会といたします。ありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省  雇用均等・児童家庭局総務課  少子化対策企画室  (内線7944)