08/10/17 第5回社会保障審議会年金部会経済前提専門委員会議事録 社会保障審議会年金部会経済前提専門委員会(第5回)議事録 日  時:平成20年10月17日(金) 10:00〜12:00 場  所:厚生労働省5階「共用第7会議室」 出席委員:米澤委員長、江口委員、小塩委員、駒村委員、樋口委員、本多委員、      増渕委員、山口委員 ○山崎数理課長 定刻となりましたので、これより社会保障審議会年金部会経済前提専門委員会 を開催いたします。  委員の皆様方には、本日、御多忙のところをお集まりいただきありがとうございます。  議事に入ります前に資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席図、名簿のほか、次の とおりでございます。資料1検討作業班における議論のポイント、資料2検討作業班における議 論に関する資料、資料3積立金の運用と財政検証における運用利回りの前提についてでございま す。資料はおそろいでしょうか。  次に、前回の委員会以降、厚生労働省の人事異動がありましたので新任の幹部を紹介させてい ただきます。大臣官房審議官の二川でございます。 ○二川審議官 二川です。よろしくお願いいたします。 ○山崎数理課長 大臣官房参事官資金運用担当の八神でございます。 ○八神大臣官房参事官 八神でございます。よろしくお願いします。 ○山崎数理課長 また、委員の出欠状況でございますが、本日は、権丈委員、吉冨委員は御欠席 でございます。また、江口委員は、交通機関の遅れで少し遅れられるとの連絡をいただいており ます。  では、以後の進行につきましては米澤委員長にお願いいたします。 ○米澤委員長 おはようございます。それでは、議事に入りたいと思います。  本委員会では、平成21年度末に行う財政検証における経済前提について、年金部会における討 議に資するために、専門的、技術的な事項について検討を行うことになっております。今年の7 月に新雇用戦略について等の説明を受け、委員の皆さんに問題意識をお聞きしたところです。本 日は、検討作業班における議論について、また、積立金の運用と財政検証における運用利回りの 前提についての2点について御報告をいただき、委員の先生方に御議論いただくことにしたいと 思っております。  まず、検討作業班における議論についてですが、本委員会の討議に資するために、小塩委員、 駒村委員、樋口委員、私の4名で構成される検討作業班をつくりまして、9月と10月に2回お集 まりいただきまして予備的な検討を行いました。本日は、その成果を御報告したいと思います。  それでは、検討作業班における議論について、まず小塩委員から、続けて事務局から説明をお 願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○小塩委員 小塩です。よろしくお願いいたします。  資料1を御覧ください。細かい作業の中身については山崎課長から詳細に説明していただきま すけれども、私からは、検討作業班で行われた議論のポイントだけをかいつまんで御説明いたし ます。  今までに2回ほど検討作業班で作業を進めたわけですが、基本的には、今回の年金改正に当た って経済前提の設定が必要になるのですが、それについて、従来どおりのアプローチですが、コ ブ・ダグラス型の生産関数をベースにして経済前提を置くという下で、その計算に必要なインプ ットとして、まず、(1)マンアワーベースで見た雇用者数の見通し、(2)全要素生産性(TFP)の 上昇率、(3)利潤率と実質金利、(4)その他の指標、それぞれについて、その設定方法の技術的な論 点に絞って議論を行ってまいりました。(1)のマンアワーベースで見た雇用者数の見通しに関して は、ここで設定した労働投入量と整合的な形で厚生年金被保険者数の推計をどのようにするかと いう点についても議論が行われました。これから、今申し上げた4点について若干細かく御説明 いたします。  まず、マンアワーベースで見た雇用者数の見通しですけれども、専門委員会の議論の中で、就 業者の非正規化が進んでいるので、正規と非正規の質的な違いを明確に意識して、年金財政を考 える場合も、今までのように頭数だけではなく、延べ労働時間でどのように労働サイドからのイ ンプットが変化するかという点についての検討が必要だという御意見をいただきましたので、コ ブ・ダグラス型生産関数に投入する労働サイドからのインプットとしては、従来はマンベースで したが、今回はマンアワーベースで労働投入量をインプットするという作業を行いました。  その場合、労働政策研究・研修機構が行った労働力需給推計を用いて、それから、過去の傾向 から、雇用者比率を算出して、フルタイムの雇用者、短時間の雇用者それぞれについて見通しを 作成し、それで総労働時間を計算するという段取りをしております。  また、専門委員会の御意見の中で、労働力人口の中の雇用者数をベースとして厚生年金の被保 険者数を推計すべきではないかという御意見をいただきましたので、フルタイム雇用者、短期間 の雇用者、それぞれについて、雇用者に占める厚生年金被保険者の割合を用いて厚生年金被保険 者数を計算するというアプローチをとっております。  続きまして、TFPの上昇率についてです。今までは、経済計画というよって立つ基盤があっ たわけですが、最近は、その根拠がだんだんなくなるということで非常に難しい作業であるので すが、今回は、内閣府の見通し等をベースとして、今後30年ぐらいを見通して、日本経済がどの ように展開していくかを考慮に入れた上でTFPの上昇率について想定を置くという考え方でT FPについての想定を置いております。実際のデータに当たってみると、前回の平成16年改正以 降の動きを見ると、足元でTFPは1%前後まで回復してきているという分析がなされています。 もう一つは、内閣府の日本経済の進路と戦略参考試算等において成長シナリオが出ていますが、 そこで、2011年度にかけて1.4〜1.5%程度までTFPが上昇するという前提が置かれております。  以上を踏まえまして、今回は長期的なTFP上昇率の前提として、基準ケースを1%、高いケ ースを1.3%、低いケースを0.7%と設定してはどうかという議論がありました。この数字は、前 回に比べてそれぞれ0.3%ポイントぐらい高めの数値となっております。  利潤率と実質金利については、専門委員会の中で諸外国の前提を見ても、実質金利については 経済成長と整合性が確保できていない中で、我が国の方法は、過去の利潤率と関連づけて推計す るという努力をしているけれども、もう少し工夫の余地はないかという指摘がありましたので、 その指摘を踏まえ、利潤率や総投資率に関して、ほかの関連する指標との関係等について議論を 行ってまいりました。  まず、総投資率については、一般的によく言われるように、高齢化に伴って家計貯蓄率が著し く低下する傾向があるのですが、その一方で、企業貯蓄は高まるという形になっておりまして、 民間全体では、貯蓄率はそれほど低下していない傾向が確認できますけれども、私どもが注目し ているのは日本全体の総投資率ですので、公的資金も考える必要がありますが、その公的資金を 含めた総貯蓄率では緩やかな低下傾向になっている点が確認できます。  こうした傾向を踏まえ、将来の総投資率については、前回の財政再計算と同じようなアプロー チとって、対数正規曲線で外挿する方法をとりあえず想定はどうかということで数字を固めてお ります。そのような従来のアプローチで総投資率を計算すると、平成16年の財政再計算の設定値 よりも1%から2%ポイント低下し、足元で24.1%という数字が平成54(2042)年時点では18.6 %にまで緩やかに低下する見込みになっております。  最後にそのほかの指標です。コブ・ダグラス型生産関数で議論する場合、今まで申し上げた数 字のほかにインプットする必要がある指標として、資本分配率と資本減耗率の2つがあります。 これらは、前回の財政再計算では、過去10年間の実績平均で一定であると置き、資本分配率は 37.3%、資本減耗率は8.2%と設定していたわけですが、これらの指標については、今回の財政 検証においても直近の状況を踏まえた上で、前回と同じように、過去10年間の実績の平均値で一 定とするという想定を置いてはどうかという議論が出ました。  単純に直近までデータを置き直して計算したところ、将来の試算に使われる資本分配率、資本 減耗率は、それぞれ39.1%、8.9%という数字を置いております。  以上、簡単ですが、私から、検討作業班における議論の概要を御説明いたしました。 ○米澤委員長 どうもありがとうございました。それでは、引き続き事務局から、細かい説明を お願いします。 ○山崎数理課長 数理課長でございます。引き続きまして、お手元の検討作業班における議論に 関する資料に沿って、ただいま小塩委員から御紹介があった議論の関連の技術的な詳細について 御説明いたします。  1ページは、今回、長期の経済前提を設定する際に用いるマクロ経済の関係式ということで、 基本的に、平成16年の財政再計算のときに用いられた手法を踏襲するということで、コブ・ダグ ラス型の生産関数を用いて長期の推計を行う考え方ですが、今回変えたところとして、下から3 つ目の枠囲いですが、「単位労働時間当たり実質GDP成長率=実質GDP成長率−労働成長率」 という式になっております。前回の財政再計算のときは、この「労働成長率」のところが、いわ ゆる頭数ベースということで、1人当たりの労働時間の変化は考慮しないということでしたので、 左側に出てくるのは、労働力人口1人当たりの実質GDP成長率でした。それを、1人当たりの 実質賃金上昇率の代理変数とするということで経済前提に用いるという考え方でしたが、労働成 長率が、今回は1人当たりの労働時間が変化する、短時間雇用の割合が増えることも加味して、 総労働時間の変化率としてこの労働成長率を投入するという考え方になっております。  そうしますと、実質GDP成長率から総労働時間で考えた労働成長率を引いたものは、結果的 に、単位労働時間当たりの実質GDP成長率。これは、時間当たり実質賃金の上昇率の代理変数 になります。そうすると、1人当たりの労働時間は若干短くなると、1人当たり賃金上昇率に更 に置き換えるときには、単位時間当たりの賃金上昇率に労働時間の変化が掛け合わさって、単位 時間当たりの賃金上昇率よりは1人当たり賃金上昇率が少し低くなるという要素、その要素を考 慮することになりますので、平成16年の再計算のときに比べて、労働力の構成の変化をより反映 する形の式になる。こういう点で改善を図るということが、今回の検討作業班における成果と考 えられます。  その下の資本成長率、利潤率の式は、前回の平成16年のときと同じものでございます。  次に、2ページのマンアワーベースでみた雇用者数の見通しについてというフローチャートで す。まず、基本的に、大本のデータとしては、平成18年12月の日本の将来推計人口が基礎になる データで、そこに更に、今年3月に世帯推計が追加で出ておりますので、それで有配偶割合を掛 けます。女性の場合、有配偶か無配偶かで労働力率が変わってきますので、そちらの傾向を入れ るということで世帯推計を掛け、更に、労働力政策研究・研修機構が推計した労働力需給の推計、 これは第3回委員会で詳細の御説明があったものですが、これを掛け合わせることによって、男 性、女性有配偶、女性無配偶の3区分別での年齢別の労働力人口までは労働サイドで既に出てい る形になります。そこから更に失業者の分を除くということで、労働力率分の就業率を掛けるこ とで就業者数まで持ってきます。これも労働力需給の推計に沿っておりますので、ここまでは労 働統計に基礎があります。この先は今回独自に推計を行ったもので、就業者数に占める雇用者の 比率、これは前回までの統計を見ていただきますと、この比率が増大していっている、雇用者化 が進んでいる傾向が過去から確認されているわけですが、これを将来にどう外挿するかについて、 今回、検討作業班で工夫をさせていただきました。これはこの後また御紹介いたします。  それで雇用者数の将来推計したところで、労働力率の変化の中には短時間雇用者が増える要素 が入っているので、これによってフルタイムの雇用者、短時間とフルタイムの区別は35時間とい うことで分けておりますが、所定労働時間35時間以上のフルタイム雇用者と35時間未満の短時間 雇用者が、将来、どのくらいの人数になってくるかが出てくるということで、このそれぞれにつ いての平均労働時間を置くことによってマンアワーベースの総労働時間が出てきます。そこに自 営業者の分を加え、日本全体としての労働投入インプットが出てくることと、同時に、フルタイ ム雇用者と短時間雇用者では、厚生年金の被保険者になる割合が違っています。  フルタイム雇用者は大半が厚生年金の適用ですし、短時間の方であれば、基本的には、30時間 から35時間の間の方が厚生年金の被保険者になるような仕組みになっています。これは、財政検 証で考える場合は現行制度で考えますので、基本的に現在の4分の3要件、一般労働者の4分の 3以上の労働時間の方が厚生年金適用になるという適用条件の下で、どのくらいの被保険者数に なるかということを推計することになります。総労働時間の算出と厚生年金の被保険者数の算定、 この両者が整合的になるような形で推計していく考え方になります。  ちなみに、平成16年の財政再計算のときはどういうやり方をしたかということは前々回に御説 明申し上げましたが、労働力人口までは労働力率の将来見通しから出して、それと、被用者年金 被保険者との比率をダイレクトに使って将来を推計するというやり方で、間に就業者数や雇用者 数の比率は経ないやり方で計算していたわけですが、今回は短時間労働が増えるという要素があ りますので、労働力率が上がった分だけ、そのまま厚生年金の被保険者が増えるわけでもないし、 頭数が増えた分だけ全く比例的に労働投入が増えるわけでもないという要素を推計の中に織り込 むことのために、こういう形で精密化を図りました。  3ページは使用したデータで、下に出典がありますが、日本の世帯数の将来推計ということで 2005年から2030年までの年齢階級別の人口見通しです。こういう形で、有配偶関係の推計は2030 年までしか出ていませんので、以後は、有配偶の割合は2030年の値で一定であるということで計 算を行いました。  次に4ページは、労働力率の将来推計で、労働市場への参加が進まないケース、進むケースに 分けて、2030年の状況でどうなっているかということを、これは男性ですが、全般的に労働市場 への参加が進むケースは労働力率が上がっていて、特に高齢のところでの上がり方が著しいとい うインプットデータになっております。  5ページは、有配偶の女性です。女性の場合は、労働市場への参加が進むケースということで、 特に30代での上がり方が著しいという見込みになっております。  6ページは無配偶の女性で、全般に労働市場への参加が進むケースで労働力率が高まるという 見込みになっております。  7ページ以降は就業率の見込みで、労働力率と就業率の差は、失業率分ですので、ほぼ労働力 率と同じような傾向になっております。7ページが男性、8ページが有配偶女性、9ページが無 配偶女性ということで同じようなグラフが並んでおります。  10ページは、今回新たに将来の雇用者数の比率を見通したのですが、その技術的な方法とし て、出生率の将来推計に用いられるコーホート要因法を用いてはどうかということで、同じ年に 生まれた同級生の集団が、1年を追うごとに、就業者の中での雇用者の比率がどうなっていくか ということのデータを追いかけてみるということで、最初から自営業者という方もおられますが、 まずは雇用され、その後独立して自営業になられる方が順次出てくることが考えられますので、 コーホートごとに年齢別の雇用者比率を見ると、若い年齢のところでは雇用者の比率が高くて、 だんだんその比率が減っていく。特に引退年齢になると、自営業の方は60歳で定年という概念は ないのでそのまま仕事をしておられるわけですが、サラリーマンは辞める人が多いとなると、そ このところで就業者の中での雇用者の比率は下がるということで、基本的に、あるコーホートを とりますと、雇用者比率は右下がりで、特に高齢のところでぐっと下がるということで、10ペー ジにあるような線になります。生まれ年が若い層ほど雇用者化が進んでいるということで、この 線が上にシフトするという傾向になります。10ページの図では、実線がその実績とお考えいただ いて、これで推計を行うと、5歳階級で考えると、5歳先輩の人の雇用者比率が、ある年齢から 年齢でどのくらい落ちているか、その落ちる傾向の傾きは生かして、足元のところ、同じ年齢で 雇用者比率がどのくらいかというのは若い層が少し持ち上がっているので、そこを出発点として 先輩と同じような傾きで落としていく。こういうやり方をすると、より若い生まれの世代ほど全 般的に雇用者比率は高くなります。年齢を追って雇用者比率が下がる様子は、先輩の最近の傾向 を反映する。こういう形での推計を行うことができます。こういう考え方で算出しまして、一番 下に※印がありますが、更に60代については、今後、労働力率が上がる、労働市場への参加が進 むケースでは、高齢者雇用が進展して60代の労働力率が上がる見込みになっていますので、それ はすなわち雇用者が増えることによって就業率が上がるという見込みです。そこの労働力率の増 加分はすべて雇用者の増が反映しており、それによって雇用者比率は更に持ち上がるという要素 を反映した推計を行っております。  具体的に見ていただきますと、11ページは、コーホート別に見た年齢別の男性の雇用者比率で す。実線が実績、点線が今申し上げたような方法で将来を推計したカーブで、60代のところで、 下のコーホートに比べて推計の部分の持ち上がり方が大きいのは、高齢者雇用の進展を反映して いる、下の※印にあるようなことでございます。  12ページですが、女性については、例えば1947年生まれのような古いコーホートの方につきま しては、30代のところで谷型の落ち込みがあります。これは、昔は、女性は結婚・出産を契機に 勤めを辞める傾向がかなりありました。一方で、自営業の方は、そこで特に就業関係が変化しな いということがありますので、就業者に占める雇用者の比率は30代ぐらいのところで大きく落 ち込む形でしたが、実績で見ていただいても、1967年生まれのところでは、落ち込みはかなり小 さくなっております。実際のところ、30代の未婚率も上昇しておりますし、既婚者の方も就業継 続する傾向が昔より強まっているということで、この谷が解消していっています。その傾向も反 映した形での将来推計になるということで、点線が推計値になります。  13ページは、今、コーホートで見たものを時系列変化で置き直す形で、年齢階級ごとの雇用者 比率がどういうカーブで持ち上がっていくのかという形にしたものです。これは男性についての もので、2007年の数値が推計の初期値で、実績で見ると、2007年の数値に向けてだんだん持ち上 がってきておりますが、持ち上がり方はだんだん緩くなってきている状況です。この状況を、今 申し上げましたようなコーホート要因法によって将来を推計するやり方で推計すると、点線のよ うな形で持ち上がっていきます。最終的に2057年では一番上の点線のような形に近づいていくこ とになります。  14ページを見ていただきますと、女性の場合も、足元の2007年のところまで、特に30代を中心 にかなり雇用者比率が持ち上がってきていますが、この傾向を外挿することによって、一番上の 点線のところまで将来は雇用者比率が上がっていく見込みになります。  これは年齢階級別ですが、これをマクロでの雇用者比率に置き換えることで、15ページの男女 計のグラフで見ていただきますと、左が実績で、2007年のところで就業者に占める雇用者の割合 が86.1%まで上がってきています。これが実績と接続しつつ、見通しでは緩やかに頭を打ち、概 ね9割ぐらいのところでほぼ一定になるという推計結果です。労働市場への参加が進むケースは、 高齢者の雇用延長が進むということで、こちらの方が若干高い数値になっております。  16ページは、それを男女別に見たものです。男性の方が高齢者雇用の延長の影響が大きい分、 参加が進むケースと進まないケースでの差が大きいという姿になっております。  続きまして17ページですが、短時間雇用者の比率が上がっていくことを、労働時間、厚生年金 の被保険者に反映させていくというものです。労働市場への参加が進むケースで、それがどのよ うな前提になっているかということですが、まず短時間雇用者比率は、2030年に35.4%まで持ち 上がるという見方になっています。平均労働時間については、フルタイムの方については、2006 年の月間180時間から2012年にかけて3%減の174.6時間になる。これは、長時間労働の是正とい うことでワーク・ライフ・バランスが進むことによって、フルタイムの方の平均労働時間は減る 見込みになっております。一方で、短時間雇用者の方は、2006年の90.2時間から、2030年に110.1 時間まで増加する。これは、一つの見方としては、フルタイムの方で、例えば女性などで、フル タイムのままではなかなか雇用継続しがたかった方が、労働時間を少し短くするようなフレキシ ブルな働き方を入れることによって就業継続できるようになる。そうすると、その方は、短時間 雇用者の中でも比較的長めの30〜35時間ぐらいの短時間雇用者になる。こういうことも考えられ るということかと思われます。そういうことで、短時間雇用者の平均の労働時間はかなり伸びて、 月に20時間ですから週当たり5時間ぐらい伸びる。一方で、フルタイムの方の平均は短くなる。 こういう像が描かれております。  18ページを御覧いただきますと、これは短時間雇用者比率の見通しの男女計で、2030年のとこ ろに労働市場への参加が進む場合は35.4%まで直線的に持ち上がって、以後はほぼ横ばいという 見込みになっております。  19ページですが、このような平均労働時間、短時間雇用者の割合等を入れて算定しますと、労 働市場への参加が進むケース、進まないケース、それぞれについて、総労働時間(マンアワー) を積算することができますが、いずれにしろ、基礎となる人口自体が減っているので、総労働時 間は減少せざるを得ないわけですが、それでも、労働市場への参加が進まないケースですと、 2030年の男女計で、単位は億時間ですが、1,211から1,003へ約17%の落ち込みになるものが、労 働市場への参加が進むケースでは1,086ということで、約10%の落ち込みにとどまるという見込 みになっております。  20ページですが、就業者1人当たりの月平均労働時間の推移です。労働市場への参加が進まな いケースでは労働時間も変化がないので、1人当たりの平均労働時間も全く横ばいですが、進む ケースでは1人当たりの時間が減ってきまして、男性の場合、足元に比べて4%程度の減少にな ります。短時間勤務の割合が多い女性の場合は、2030年で5.4%程度の減少ということで、1人当 たりの平均労働時間はこのくらい短くなるという見込みになります。  続きまして、21ページです。こういう労働力人口の見通しと整合的な形で厚生年金の被保険者 数を見通すということですが、推計方法としては、労働力需給推計を用いて作成したフルタイム 短時間別の雇用者数の見通しに対して、実態調査等のデータをもとに作成した厚生年金の被保険 者割合を乗じるということで、財政計算に用いる被保険者数の将来見通しを作成するという考え 方で、具体的な推計方法は、この下にありますように、「フルタイム雇用者×厚生年金被保険者 割合(フルタイム+短時間雇用者×厚生年金被保険者割合(短時間)」です。  ただ、これは足元の実績と合わせるために調整率を乗じる必要がありまして、厚生年金の適用 は、例えば5人未満の個人事業所等、適用対象外の事業所が存在しますので、そちらで、その適 用実態に合わせるためには調整率を、これは性・年齢ごとで、概ね0.9という数字になりますが、 こういうものを掛けてあわせていく必要があります。  厚生年金の被保険者割合については、平成15年の就業形態の多様化に関する総合実態調査の特 別集計結果を用いて算出し、フルタイムの場合は96.1%で固定。ほぼ大半の方が厚生年金適用に なるという見方です。一方で、労働市場への参加が進む場合、短時間雇用者の割合が増えるケー スですが、短時間といっても、その中で時間数の長い方が増加する、月に90時間から110時間程度 に増加するということですので、その傾向を加味して、2006年で足元では20.3%という厚生年金 適用割合のものが32.6%まで持ち上がります。この推計の考え方については引き続き御説明申し 上げますが、そういう推計値になります。  22ページを御覧いただきますと、就業形態の多様化に関する総合実態調査に基づくデータです。 下の表の(2)/(1)となっているところが、週所定労働時間別に見た厚生年金の被保険者割合です。 右の40時間以上の欄で96.5%、35〜39時間で91.8%。これを国勢調査における雇用者ベースでの 構成比率では、70.7%と6.4%とありまして、これを用いて加重平均すると、96.1%というフル タイムの方の適用割合を算定し、これを固定するという考え方で行っております。短時間の方に ついては、30〜34時間では47.5%、以下、短くなると減少していくというデータに基づいて算出 するということでございます。  23ページを御覧いただきますと、35時間未満の短時間雇用者の方について、その労働時間がど ういう分布になっているかについては、2005年の国勢調査が月平均89.8時間の場合、この分布が あります。足元2006年において90.2時間というものがほぼこれと一致しているので、足元はこの 分布でスタートする。将来、これが27.5時間に伸びるということで、そのような平均値の伸びに 合うように分布を動かしてやることが必要ですが、27.5時間というのは、25〜29時間の真ん中に なりますので、こちらを固定して、これより右にある30〜34時間の構成割合が増え、これより左 にある3つの階級の構成割合が減ることによって、結果的に平均労働時間110.1時間に合うような 形で分布を動かしていくことを行いまして、2030年のところでこうなる。間は直線ですので、こ れとこの前のページにある労働時間ごとの厚生年金の適用割合と両者を掛け合わせて算出する と、24ページにありますように、足元では35時間未満の短時間雇用者のうち20.3%の方が厚生年 金に適用されていたものが、短時間の方の中でも比較的労働時間が長い方の割合が増える見通し を反映して、2030年には32.6%の方が厚生年金適用という見込みになるという推計結果になりま した。  労働力関係の話は以上です。  25ページからは、全要素生産性設定の関係です。25ページは、前回、平成16年の財政再計算の ときの見通し、基準ケースで0.7ですが、こちらについては、実際のところ、前回の財形再計算を 行ったときの足元でのTFPはほとんどゼロという状況でしたが、将来もずっとゼロに置くのは 経済合理性に反するということで、このときは、平成13年度の内閣府の年次経済財政報告におい て、構造改革の実行を前提として、長期的には0.5から1%に高まることは十分可能という、経済 官庁における見通しに基づいて、0.5から1の真ん中やや低めをとるということで基準ケースを0.7 に置きました。  26ページですが、その後、日本経済が回復してきまして、26ページの資料は、前回第4回委員 会に出させていただいた資料をそのまま持ってきております。概ね足元のところで1%程度まで TFPが戻ってきておりまして、それを踏まえて、平成20年1月の日本経済の進路と戦略の参考 試算では、成長ケースで2011年度に1.5%程度まで上昇する。リスクケースでも、2000年度以降の 平均の0.9%に低下するという見込みを置いております。  それよりもやや慎重な見方をしている経済財政諮問会議に出された試算においても、成長ケー スで年度平均1.1%程度、制約ケースで年度平均0.8%程度という数値を置いており、こういう数 値を見ていただきました。  27ページですが、その後、検討作業半の中でTFPに関して最新データ等を収集し、経済産業 研究所の深尾先生、宮川先生の御研究がありまして、JIP2008という最新のところまで日本の 産業生産性のデータベースを用いて研究しました。一番下の○印にありますように、マンアワー 増加と労働の質上昇が減速し、資本投入増加の寄与もそれほど回復しない中で、TFP上昇率は 1%程度と堅調に推移しているという分析がなされております。  28ページを御覧いただきますと、TFP上昇は回復したかということで、図表を御覧いただき ますと、1990〜95のところは、TFPはゼロ、あるいは、下を見ていただきますとほんの少しマ イナスぐらいの数字だったものが、95〜2000年のところでプラス0.6ぐらいに回復して、 2000〜2005のところでは1%を超える水準になっていることが認められます。  29ページは、労働の質の変化についても検討作業班で検討したもので、エッセンスだけ申し上 げます。労働の質ということで、同じ労働時間でも、熟練労働、高学歴の方の労働は質が高いと いうことで、質も考慮して労働力投入量を考えるべきではないかという見方があります。そうい うことで一つの手法で計測したもので見ると、労働の質という要素、これは2005年を100として見 ると、過去からずっと上がってきております。これは、労働者の高学歴化、熟練化が進んでいる ということですが、足元の2005〜2006のところではほぼ頭打ちの状況で、これから将来に向けて 労働の質がはかばかしく変化することはないだろうという見込みの下で、労働の質の変化は将来 に向けては特に考慮しなくてもいいのではないかという議論がありました。  32ページに参ります。これ以降は参考ということで、前回の委員会以降、この夏に新たに発表 された経済官庁からの成長力等の見通しについて参考として御紹介したものです。32ページが年 次経済財政報告からの抜粋です。これはあくまでも仮定の計算で、足元のTFPの伸びを現状の 1%程度で固定すると、2020年代には潜在成長率が1%弱になるという見通しです。  33ページは、同じく年次経済財政報告からOECDのワーキングペーパーを紹介したものです。 このOECDのワーキングペーパーにおいても、TFPの上昇率は日米とも1.1%で試算されて おります。こちらの資料には書いてありませんが、OECDの比較の際には、フランスが1.0〜 1.1%、ドイツも1.1%という前提で試算を行っているということで、国際的に見ても正常な経済 状況の下ではTFPを1%程度に置くことはわりと一般的に行われております。  35ページは経済財政諮問会議の資料で、平成21年度予算の全体像に向けてということで7月22 日に発表されたものです。これでは、平成21年度の実質国内総生産、真ん中辺ですが、これを1.6 %程度に見ております。  37ページを御覧いただきますと、1月に出た進路と戦略の試算を夏に改めて見直して暫定的な 試算を行ったものでございます。真ん中左側の実質成長率のグラフを見ると、成長シナリオの場 合、2011年度で2.4%の成長率という見込みです。1月の試算のときはこれが2.6%の見込みであ ったということで若干の下方修正が行われていますが、それでもそれほど大きく下げているわけ ではなく、枠囲いの中にある見方では、成長シナリオではTFP上昇率が平成23年度に1.4%程度 まで徐々に上昇するという基本的な見方は変わっていません。平成21年1月には、新たな進路と 戦略の試算が出る見込みですので、財政検証における短期の経済前提はそれを踏まえることが必 要になるかと存じます。  39ページは、財政再計算で経済前提を設定する際に用いた長期金利の推計方法です。平成16年 再計算のときには、前回一度御説明申し上げましたが、39ページの下の表にありますように、過 去の実質長期金利の平均、これを過去15年平均、20年平均、24年間平均について、それぞれ2.8% ないし3.4%ぐらい。これは実績の数字で、一方で、実績の利潤率があります。将来のTFP等々 を置いて将来の利潤率を算定したものが、前回の平成16年再計算のときは6.5%で、過去に比べて 利潤率は低下する見込みになっております。この低下の割合分だけ過去の実績の長期金利に掛け 算することによって将来の長期金利の見込みを出します。要するに、過去の長期金利の実績値を そのまま使うという計算の仕方ではなく、利潤率が下がっている見込みであれば、それを反映し て低いものにする。こういう見込みになる一つの大きな要素としては、TFPの見方が、前回平 成16年の再計算のときには足元でゼロというものを踏まえて、0.7%と、一般的に諸外国で見られ るものより低く置いていることによって利潤率も低くなり、将来の長期金利の推計値もそれを反 映して低くなるという推計を行いました。  40ページは、実質金利と利潤率の推移のグラフを確認したものです。  41ページは、利潤率というものが国民経済計算上の数値ですので、民間部門だけではなく、家 計部門や政府部門を含んでいるということで、民間部門だけの営業利益率と対比するとどういう 関係にあるかを調べたものです。一般的によく使われる営業利益率は法人企業統計から得られま すが、これは営業利益を割る分母がすべての資産になりますが、利潤率の方は、資産の中でも土 地などは入りませんで、いわゆる生産設備に当たるものだけをカウントしたもので国民経済計算 から得られる利潤率となります。それと分母の考え方を合わせるということですと、凡例の一番 下にあります細い実線、営業利益率(対その他の有形固定資産、建設仮勘定)が対応するものに なり、この細い実線で見ていただくと、太い実線の日本経済全体の利潤率より高いところを動い ているということで、同じ形の分母で概念を対比させれば、民間部門だけで見た方が利潤率が高 くなっている状況を検証したものです。  次に42ページ、総投資率の設定です。こちらについては、総投資率の実績値が左側の青の実線 です。これを平成16年の財政再計算のときと同じ対数正規曲線による外挿を行った茶色の実線を 今回の設定値としてはどうかということで、上にある点線が平成16年のときの設定値で、それを 平行移動して若干低くなっている結果になっております。  次に43ページですが、資本分配率、資本減耗率についてグラフで見ていただきますと、資本分 配率の左側が実績値です。最近、資本分配率がかなり上がってきたものが、少し下がった状況の ところが直近までの状況で、過去10年平均ということで置くと、足元の数値よりは少し低いとこ ろ、ただし、前回の設定値よりは高いところに線が引かれます。資本減耗率についても、ずっと 上がってきたものが最近は少し下がっているということで、これを過去10年平均ということで設 定すると、グラフにありますように、足元よりは少しだけ低い水準、前回の設定値よりは高い水 準になる数字になります。  御説明が長くなりまして恐縮でした。以上でございます。 ○米澤委員長 どうもありがとうございました。それでは、ここまでで御意見がございましたら お願いいたします。  大体、各部品がでそろったような形で、あとはすぐに計算できるような状況にはなってきたか と思いますが、いかがですか。大所高所からでも結構ですし、今からであれば、いろいろ御意見 をいただいて調整することが可能だと思いますが。 ○江口委員 細かい話で恐縮ですが、22ページの厚年被保険者割合のデータを拝見すると、15時 間未満、15〜19時間でも厚年被保険者が若干いますね。イメージとして、15時間未満とか15〜19 時間の厚年被保険者というのはどういう方なのか、実際によくわからない。つまり、通常は40時 間労働で被保険者を考えるので、多少短い30時間とか20時間台ならまだしも、それよりも短くて 厚年被保険者となっているので、どういうイメージの方なのか、その辺おわかりであれば教えて いただきたいと思います。 ○米澤委員長 いかがでしょうか。 ○山崎数理課長 これは実態調査の結果なので、定量的にうまく合うかどうかわかりませんが、 一つ考えられるものとして、適用の際に、その事業所の一般労働者の4分の3程度以上の労働時 間ということで、もちろん、理論的に考えるのは、一般労働者の所定労働時間自体がもっと短い ことはありますが、さすがに15時間とかになると、そういう事業所は非常に特殊なところではな いかと思われます。一つ考えられますので、例えば経営的な仕事に就かれているような方で、必 ずしも所定労働時間が何時間ということではなくて、会社の経営層あるいは会社の顧問のような 方、全般的に経営に関与されているような方で、かつ、これは本人の回答ですので、所定労働時 間が短いところにつけられて、それでも仕事全体の対応を総合的に判断して厚生年金適用という ことは仕組みとしてありますので、そういう方も入っていると考えられると思います。 ○米澤委員長 よろしいですか。 ○江口委員 はい。 ○米澤委員長 我々大学の先生も自己申告すると、こんな数字が出てくるのかもしれません。  ほかにどうぞ。 ○増渕委員 質問でもなく、確たる意見でもなく、単なる感想めいたことを一つだけ申し上げま す。  生産性の上昇率、あるいは、それを含めた成長率については、ここ数カ月で、世界全体も日本 もガラッと足元及び短期的な見通しが変わってきてしまったと思います。例えば、資料の35ペー ジにある平成21年度マクロ経済の想定を見ても、わずか3カ月くらい前に出された数字のようで すが、今、今年度、来年度の成長率の見通しはどんなものかということで計算すると、とてもこ んな数字にはならないと思います。  しかし、そのことは、ここでの作業で、長い期間の見通しをつくるときに前提としようとして いる姿と相当乖離があるけれども、その乖離は説明可能なものであるというところをしっかり押 さえて説得していく必要があるという、モノローグのような感想です。 ○山崎数理課長 今の点に関して、まず、この経済前提をどう考えるかということですが、今、 長期の経済前提について御議論いただいていると考えていまして、短期のものについては、今の 足元の経済の混乱状況等は当然反映したものでなければならないわけです。その辺の見込みにつ いては、年金を担当している部局が考えるというよりは、むしろ、政府として、経済官庁等がど う考えてどう見通すかということで、政府としては、例年、「進路と戦略」の参考試算という形 で近未来の数値を引いておりますので、基本的にはそれに準拠する考え方になろうかと思います。  それから先、年金は概ね100年程度先を計算するわけですが、経済で100年はなかなか見通せま せん。そうはいっても、30年程度の長いスパンで、経済のサイクルなどのどの周期に合うかにか かわらず、ある程度長期的に安定した経済状況を最終的には想定して、その状態で平均的にどう かということを見ていくことが必要ではないかと思います。その際に一つの基礎となるのは、人 口の見込みは、少なくとも30年ぐらいで大きく変わっていくようなものではありません。それに 対して労働力というファクターがかかってきて、これはある程度政策的なものも入ってくるけれ ども、政策だけで労働力人口の減を完全にくい止めることはできないので、それでも、ある程度 それを緩和することができます。労働インプットが入ってきて、その上で資本投入もある程度見 通せるとすると、あとはそこでどれだけの技術革新があってということで、そこは、経済が混乱 しても、ある程度回復していけば、長期的に見てこの程度のものはあるだろうというものを置い た上で、ある意味、日本経済が全治3年なら3年で治った後、恒常時にどうなるかというところ を冷静に見通すことが必要ではないかと考えております。  短期の今の状況から、そうすぐには回復しないでしょうというところの足元がどうかという部 分は、むしろ、政府全体として、短期の経済見通しにどう反映するかというものを踏まえていく のではないかと、私どもとしては考えております。 ○米澤委員長 前回の計算もそうでしたが、足元は政府の数字を使って、その後は、基本的なこ れにうまく接続するような形で数字を出していきましたね。 ○山崎数理課長 足元は政府の短期のものにします。ただ、そこの接続の部分で、長期のものは 長期の平均になっておりますので、どうしても短期と長期の継ぎ目には段差が出ます。そこをき れいにつながるようなことをするのか、それとも、あるところから先は長期平均だから、その年 を当てにいっているわけではなくて、それから後の期間全体であるということで、そこの段差は あえて埋めないかというのは、また判断があるかと思います。  考え方としては、財政検証というものは100年タームの全体で見てどうかということで、単年 度を当てにいく性格のものではないので、そこのところが必ずしもきれいに接続していないとそ れ自体がおかしいとか、そういう性格のものではないのかなと思っております。 ○増渕委員 私が申し上げたことも、今、数理課長がおっしゃったことと同じことを申し上げた つもりです。つまり、この場にいる者はそのことはよく承知していると思いますし、そう理解し た上での作業ですが、世の中がどう受け取るかはまた別の話なので、そこのところが難しい。よ くよく説明する必要があるだろうということです。 ○米澤委員長 前回の計算のときも、この計算を始めると日本経済がショックを受け困ったもの です。2000年から3年間は収益率がマイナスだったときに作業を始めて、そのためにさっきのT FPなども弱気なところで数字を出したわけですが、そこから二、三年先になってから急に景気 が回復して、最初は下の方に予測しすぎたなという形で、実体経済はもっと上に行っていたわけ ですね。ですから、そのころまではそういう状況で、いい方にずれていたわけですが、四、五年 先を予測するというのは、逆に、そのくらいの予測が一番難しいのではないかと思っています。 ですから、今回も、足元は悪くて、前以上に実体へのマイナスの影響が大きいのかもしれません が、それがずっと続くというわけでもないということで、説明し、御理解いただくことになるか と思います。  ほかにはいかがでしょうか。  質問があれば、また戻って議論していただくということで、先に進みましょう。  次に、積立金の運用と財政検証における運用利回りの前提についての方に移りたいと思います ので、こちらを事務局から説明をお願いします。 ○山崎数理課長 お手元の資料3でございます。積立金の運用と財政検証における運用利回りの 前提についてです。最初の方は、前回お出しした資料をほぼそのままもう一回記述させていただ いておりますが、もう一度ざっと御説明申し上げます。  そもそも積立金の運用というものは、法律に規定されているとおり、まず長期的な観点から安 全かつ効率的に行うとされておりまして、これを踏まえて、現在、国内債券を中心としつつ、国 内外の株式等を一定程度組み入れた分散投資を行っております。  まず、安全という観点から考えると、リスクを低く抑えるということでは国内債券などの低リ スクの資産への投資が考えられますが、他の資産を組み合わせることによって、全額を国内債券 に投資するのとリスクは同じで、より高いリターンを期待することができますので、全額を国内 債券に投資する方法は、安全ではありますが、効率的ではないと言えるのではないかということ で、このように効率的な運用を行う観点からは、国内外の債券や株式を組み合わせたポートフォ リオ運用を行って、一定の許容されるリスクの下で、期待リターンをできる限り高めることが求 められております。  財形検証における運用利回りの前提は、このような積立金運用の考え方を踏まえて設定するこ とになります。当然、実際の積立金運用に当たってのポートフォリオの策定は、財政検証で設定 された経済前提の下での実質的な運用利回りを確保することを目標として行われます。  2ページはリスクとリターンの関係です。下のイメージ図にありますように、下の軸がリスク、 上がリターンということで、有効フロンティアということが書いてあります。これは、いろいろ な資産を組み合わせて一番効率的にした場合、このくらいのリスクをとるとこのくらいのリター ンが期待されるものを線で引いたものです。国内債券だけでは、あるリスクをとったときに、こ こに「国内債券」と点が打ってあるところを左にたどったようなリターンが得られます。しかし、 ポートフォリオ理論によると、外国債券や国内株式、外国株式、右側にそれぞれありまして、リ スクは高いが、それなりにリターンも高いというもの。これは単独ではリスクが高いのですが、 これを組み合わせると両者の間の相関がうまく作用して、組み合わせたポートフォリオは、例え ば国内債券と同じリスクで、より高い期待リターンが得られることが考えられます。  枠囲いにありますが、平成16年再計算のときには、国内債券の期待収益率がどのくらいになる かということを将来の日本経済の利潤率の見通しや過去における10年国債の利回り等と関連づけ て将来を予測することをまずしまして、それに対して、分散投資でどのくらい利回りが上積みで きるかということで、国内債券プラスアルファの利回りを考えて設定したものです。  今回、先ほどの資料2にありましたような枠組みの下で作業をすると将来の利潤率の見込みが 出てきますので、過去の債券利回りと関連づけた、同じようなやり方をするとすれば、国内債券 でどのくらい取れるというものが数字として出てくる。その上で、どのくらいほかの資産で上積 みできるか。これも、やり方はいろいろ考えられますが、平成16年にそれぞれの資産の収益をど う見たかというやり方について、今回御紹介するということで、引き続いて八神参事官から御説 明させていただきます。 ○八神大臣官房参事官 運用担当の参事官でございます。  それでは、3ページ以降について引き続いて御説明いたします。今、数理課長から説明があり ましたように、私からは、分散投資による効果がどのくらい見込めるかについて、前回、平成16 年の財政再計算時にどのように算出していったかということを御紹介するものでございます。  3ページですが、分散投資の効果を算出するためには3つの要素があります。各資産の期待収 益率とリスクと相関、それぞれについて御説明いたします。  まず、下の絵を御覧いただきながら御説明いたします。期待収益率については、短期資産、外 国債券、外国株式、国内債券、国内株式と5資産あります。それぞれについて、物価上昇部分と、 それを除いた実質的な収益部分に分けて推計し、積み上げる方法をとっております。平成16年の ときには、物価上昇率の予測値は1.0%でした。したがって、例えば短期資産であれば、下の絵で すが、物価上昇率1%に実質短期金利をどれだけ見込むかといったことで考えます。それぞれに ついて次の4ページから御覧いただきます。  まず短期資産です。4ページに説明がありまして、あわせて6ページにそのときの数値が載っ ております。まず4ページからまいります。短期資産に関しては、国全体の利潤率と実質短期金 利が概ね比例関係にあることに注目し、将来の実質短期金利については、過去の実質短期金利に 将来の利潤率がどのくらい伸びるかというものを掛け合わせる形で推計しました。6ページに数 値がありますので御覧いただきたいと思います。  これは、平成16年のときに出した数値ですが、参考1-1は表が3つに分かれております。TFP の上昇率1%、0.7%、0.4%の3つで推計しております。また、それぞれについて推計期間を過 去24年度、20年度、15年度と期間を分けてつくっております。したがって、数値としては9つの パターンが出ておりますが、例えばTFP上昇率1%で言うと、過去24年度で見ると、過去の実 績の実質金利2.26%に将来の利潤率の倍率を掛けて1.39%という形で推計しております。以下、 同じようなことです。このケースで言うと、一番下の過去15年度が1.00%、これが最小の数値で、 一番大きい数字は、TFP上昇率1%の上から2つ目、1.47%。この幅の間にあるということで 推計しております。  ちなみに、参考1-2ですが、これは短期資産の直近までの実績を御参考までに並べております。 ここは過去25年度(1982〜2006)の実質金利は1.85%です。前回は1978年から2001年まででした。 直近まで確定値があるものまで拾うと、参考1-2の数値になろうかという趣旨でございます。  4ページの(2)国内債券です。国内債券も同様に、国全体の利潤率と実質長期金利が概ね比例関 係にあることに注目し、過去の実質長期金利に将来の利潤率の伸びを掛けて推計しました。数値 は、7ページに参考2-1として載せております。やはり9つのパターンがありまして、最小1.74% から最大2.21%と数字が出ております。参考2-2は、直近の実質長期金利を入れたものです。  次に、4ページの(3)国内株式についてです。国内株式については、国全体の利潤率とROA (総資産利益率)が概ね比例関係であることに注目して算出しております。これは8ページに、 前回の数字を並べさせていただいております。字が小さくて恐縮ですが、上から、TFP上昇率 1%、0.7%、0.4%と3種類に分けてあります。一番右の欄に、実質の株式リターンということ で数値を出しておりますが、最小が下から3行目の3.42%、最大が上から3行目の4.28%という 数値が載っております。ちなみに、参考3-2は、直近のROAということで、2006年度までの数 値を並べております。この数字に該当する平成16年のものは、表の左から4列目に「ROA(過 去)」とあります。ここに当たる数字が直近のデータにすると参考3-2になります。  今度は外国の資産です。5ページの(4)外国債券です。基本的な考え方として、これは将来の推 計をするということではなくて実績から出しております。基本的には、円ベースの期待リターン ということで申しますと、現地の名目金利+現地通貨ベースのリスクプレミアム+為替期待騰落 率ということで為替で修正するということです。現地通貨ベースのリスクプレミアムというのは、 現地通貨ベースの長短の金利差の実績値から1.5%程度と設定しております。これは、9ページの 参考4-1を御覧いただきますと、過去25年平均、20年、15年、10年とやりまして、金利差がほぼ 1.5%に設定しました。参考4-2は、これを直近の数字まで置き直したものです。  また5ページに戻ります。(5)外国株式についても、外国債券と同様に円ベースの期待リターン は、円のインフレ率+円の実質短期金利+現地通貨ベースのリスクプレミアムということで、こ ちらは10ページに数値を出しております。参考5-1の超過リターンのところを御覧いただきますと、 数字が4つ並んでおります。過去の実績で6%弱です。ただし、このうち3%程度は株価が割高 になったということで、これを将来においてはこういうことにはならないと想定して3%と設定 したのが前回です。参考5-2は、直近の2006年までのものに置き直したものです。  以上がそれぞれの資産の期待収益率を前回どのように推計したかというものです。  11ページ、12ページが、それぞれの資産のリスク、それぞれの相関を推計したものです。11 ページがリスクです。前回平成16年は、1973年から2003年の31年間の分析をしたものです。使用 データはここにあるものです。結果が、下の表の下の行ですが、基本ポートフォリオ策定時に推 計したリスクが、それぞれの資産について、国内債権5.42%から並んでおります。ちなみに、こ れを2006年まで延ばすと、上の行の新たに推計したリスクということで5.45%になっております。  12ページが同様に相関係数を調べたものです。下の欄が現行の基本ポートフォリオの相関係数 で、やはり期間を2006年まで延ばすと上の表のような数字になります。  私からは以上です。 ○米澤委員長 どうもありがとうございました。では、こちらに関しての御意見をいただきたい と思いますし、御質問があれば、前者の方にもさかのぼって構わないと思いますので、いかがで しょうか。 ○山口委員 私は企業年金を専門にしていまして、規模は全然違いますが、企業年金の財政見直 しをするときに、退職率や死亡率、昇給率などいろいろな要素を取り替えます。そのときに、や はり一番大きな影響があるのは予定利率です。ですから、財政に与える影響は、恐らく、公的年 金でも大きな影響があると推定されます。この公的年金の財政の全体的な枠組みを考えた場合、 今はマクロ経済スライドという形で給付の調整をしていくことになっていますが、そのときに、 年金財政ですから企業年金も同じですけれども、収入と支出のバランスをとることと、毎年キャ ッシュフローがマイナスにならないという前提で設計がされます。収入と支出のバランスという ときに、収入は保険料や国庫負担、今議論になっている運用の収益になりますが、こうした収入 が今後の年金給付並びに最終年度における1年分の積立金の現在価値で評価したものの合計を下 回らない形で設計することになります。もし、その運用がうまくいかなかった、つまりダウンサ イドに振れた場合どうなるかということが、この問題を考えるときに重要な要素だと思います。  その場合の対応策の選択は、それはそのときになってまた議論ということになるでしょうけれ ども、一つは、財政調整を引き続き継続して、50.2%という所得代替率を更に引き下げる形で問 題を解決するか、あるいは、18.3%でしたか、最終保険料率を更に引き上げる形にするかという ことで、とにかく財政をもう一度つくり直さざるを得ないということだと思います。  そういう意味では、この予定利率を、将来の予測の前提として、一つの数字で見込んで計算し ている訳ですが、現実的な姿を想定しますとこれはむしろ、運用利回りの中心値というか、そう した広がりのあるものの代表値として計算されたものといえます。つまり、運用利回り自体が確 率変数的なものですから、それが上に行ったり下に行ったりブレることになります。そのときに、 ダウンサイドに行った場合に今の申し上げたような対応策が必要になるわけですから、順番があ るのでしょうけれども、例えば、財政調整を引き続き行うと考えた場合、50.2%の所得代替率を 下回る確率はどのくらいあるのか。例えば3つ位の許容リスクを定めて、それに見合うポートフ ォリオが3つあったとしたときに、そのポートフォリオA、ポートフォリオB、ポートフォリオ Cというものが、それぞれ50.2%を、将来、下回ることになる確率はそれぞれどのくらいかといっ たようなことをシミュレーションして、長期間のモンテカルロシミュレーションのようなことを して、それで財政に与える影響度合いを見ておくことをすることによって、今後の議論の選択肢 の幅もそれによってある程度確保できると思います。全体の財政計画と運用利回りの影響をあら かじめそういう形で示しておくことも、この中での議論としては必要なのではないかと思います。  もちろん、具体的なリスクのはかり方とかいうことは、今御説明があったような形で、モダン ポートフォリオセオリーをベースに考えていくということでよいと思いますが、更にその上に、 例えば3つぐらいの異なるリスクにもとづくポートフォリオについてそういうシミュレーション をしてみてはどうかと考えます。いかがでしょうか。 ○米澤委員長 極めて重要な点ですが、この辺は組織の関係も含めて数理課長から、わかる範囲 でお答えいただければと思います。 ○山崎数理課長 積立金の運用利回りに限らず、運用利回りそのものというよりも、むしろ賃金 上昇率や物価上昇率など全体をセットにした経済前提がどのくらい動けば所得代替率であらわさ れるような、年金財政にどのくらい影響を与えるかという、いわゆるセンシティビティアナリシ スが重要であることは当然だと思います。前回、平成16年の財政再計算においても、経済につい て3通りのケース、これはTFPが低い場合、真ん中、上の場合ということで3通りのものをお 出ししました。それと出生率も組み合わせた形になりますが、それによって最終の所得代替率が どうなるという形でバリエーションをお示ししているということで、あるケースを中心に確率分 布で動いて、幾らを下回る確率が何%というのは、学術的には一つの考え方ですが、国民にわか りやすくという目から言うと、いわゆるシナリオアプローチというか、このくらいの利回りでずっ と行ったときに最後はどのくらいという形のものの方が、わりと理解しやすいというか、そうい う面があろうかなというところがあります。  そういう意味では、経済前提はこれ1本で、これしかないという形でお見せするのはおかしい というのはまさにそのとおりなので、悪い場合、いい場合に、給付にどのくらい影響があるかを お示しすることは当然かと思います。それは、ポートフォリオなどと組み合わせてという形では なくて、むしろ、全体の経済前提のワンセットがどうなったときに、更に出生率等の人口推計等 も組み合わせて、こういう場合でこうなったときにどのくらいという見方、従来、それでお示し してきたものが基本になった上で、確率分布でどうというところも補助的に考えていくことかな と思っております。  一方で、ポートフォリオがどうという形で、例えば50%を割る確率が幾ら以下になるように逆 算して、ポートフォリオを定めるということですと、その他のファクターもいろいろありますし、 出生率でもかなり動いてきますので、そこだけ部分的に決めて、これが最適なポートフォリオで あるという形にはなかなかできないのではないかと思います。私の考えとしては、予定利回りは、 債券でこのくらい取れて、その上にどの程度の分散投資の収益を見込むか、そこをある程度保守 的に見るという見方があると思います。それを一応決めた上で、そこのところに、例えばTFP の違いでバリエーションがあって、経済によってどのくらい給付が影響を受けるかということを、 かなり大きなシナリオで示すという形の方が、経済が動いたときに将来の年金財政にどのくらい の影響があるかを、一般の国民にわかりやすく示すことになるのではないかと思っております。 確率アプローチはやや学術的というか、そこから更にもう一歩進んだところで活用できるのでは ないかと考えております。 ○駒村委員 私も今、山口委員と同じことを申し上げようと思っていました。課長の説明もごも っともな部分もあって、あらゆる事象は確率的なものですから、経済前提も出生率もみんな確率 的だと思います。ただ、経済前提委員会の役割はどこまでかということもありますが、利潤率ま ではきちんと予測で出してきて、その後、ポートフォリオのAという組み合わせ、Bという組み 合わせ、どっちを選ぼうかということは、前提委員会の役割というよりも、年金部会で議論して いただく。  そのときに年金部会は、Aをとった場合は、代替率50%を下回る確率がどのくらいあって、B をとったときにはどのくらいの確率があるかがわからないと、どっちがよろしいのでしょうかと 言われても議論のしようがないような気がします。全部確率的な現象ですと言えば、それはそう ですが、年金部会の方は、その議論はされると思います。Aにするか、Bにするか。そこは設置 の問題というか決めの問題のようなところもある、その影響について、積立金に与える影響で見 るのではなくて、やはり年金制度の最終ターゲットである給付率に与える確率を見せてあげた方 が、少なくとも年金部会に対しては必要ではないかと思います。 ○山崎数理課長 確かに、おっしゃるように、債券ではこのくらいの利回りということがあった として、それプラスアルファでどのくらい目指すべきかというとき、どのくらい目指せるのかと いう話と、例えば債券だけでも財政上は十分だから、それ以上リスクをとる必要はないとか、そ ういう御議論に資するためには、どのくらいリスクを増せばどのくらいリターンがプラスになっ て、そのリターンがプラスになることが年金財政にとってどれだけの利益を及ぼすのかという辺 りの定量的なことを見ないと、その辺の判断がなかなかつかないという点はおっしゃるとおりか と思います。  ただ、そのときに、50%という特定の数値を上回る、上回らないという話で見ていくというの は、その他のファクターもいろいろ入っているので、なかなかそういう形でかっちりしたものを お示しすることは難しいかと思います。むしろ、50とかの特定の数値を上回る、上回らないでは なくて、運用利回りがどのくらい変わったときに代替率がどの程度変動するのかという形であれ ば、おおよそこのくらいというものはあります。その上で、もちろん、50という線も、ぎりぎり のところであれば何かのファクターが少し変われば下回るわけですので、その辺、どのくらいセ ーフティを見るかというようなこともあると思います。そもそも運用利回りがどのくらい変わっ たときに代替率にどのくらい影響を与えるのかという辺りもにらんだ上で、そういう意味では少 しでも高いものを確保すれば50%を確保できる確率が増すことは当然で、具体的に確率何%とい うのは、そのほかのファクターがいろいろ入ってくるわけで、ある意味、期待リターンを上げて いけば、逆にダウンサイドリスクも大きくなる。その辺のリスクとリターンの関係のところが年 金財政にどのような影響を及ぼしていくのかという定量的なところを見た上でということに対し ては、そういうことを考えていく必要があると思います。ただ、具体的な、50を下回る確率とい うことでは、運用利回りだけでは決まってこないので、そこはなかなか難しいものがあるという ことではないかと思います。  実際のところ、ポートフォリオまで決めてしまうということではなくて、むしろ、リーズナブ ルなリスクの範囲内で、予定運用利回りとしてどこまで求めるかというところで、高く求めれば、 うまく取れればいいけれども、逆にリスクは大きくなっているからダウンサイドリスクも増すわ けで、そのダウンサイドリスクも判断しながら、予定運用利回りとしてどこまで求めるかという ことを決める際に、いわゆる所得代替率にどのくらい影響があるのかということを判断するため の材料が要るという御要請と受けとめさせていただきたいと存じます。 ○樋口委員 2ページにイメージ図を出されましたね。これは、ある意味では選択メニューにな っているわけですが、こうした形で、例えば縦軸は期待収益率で、そのときのリスクはどれくら いですよといったものを用表的に出してくださるのでしょうか。それとも、リスクが高ければ期 待収益率も上がりますという定性的な話ではなくて、定量的なメニューとしてこうしたものが出 てくるのかどうかということですが。 ○山崎数理課長 先ほどの検討作業班の議論に基づきまして、TFP等を置けば、それの下で将 来の利潤率等が算定されますので。あと、こちらにありますような各資産の期待収益率の推計の 考え方、前回平成16年の再計算のときの考え方に沿うということですと、その利潤率の推計値に 基づいて各資産の期待収益が出てきます。それぞれの資産ごとのリスクとか相関件数は一応過去 の実績を使うということですと、この有効フロンティアがその前提の下で引けます。そうすると、 2ページの図にありますような、国内債券でどのくらい、国内債券と同じリスクを持つようなこ とで考えると、国内債券プラス具体的に何%程度の期待収益が得られて、そのときのリスクがど のくらいだということは数値として出てきます。そういう意味では、単なる定性的な議論ではな くて、定量的に、国内債券並みのリスクだとこのくらいの期待リターンで、このくらいのリスク と。それをもう少しリスクをとれば、期待リターンがこのくらい高まるというようなものは、定 量的なものとして出てくる。そういう関係になるということでございます。  先ほどの議論は、そこから更に、それが単に利回りが何%で、リスクがいくらというものが、 例えば所得代替率という形で翻訳すると、それはどのくらいのリスクに相当するのかというとこ ろに関しても情報が必要ではないか。その上で、予定運用利回りをどのくらい保守的に見積もる のかというときに、ダウンサイドリスクをどう考えるかということを考える際に、まさにダウン サイドリスクが生じたときに、どのくらい所得代替率に影響があるのかということもにらんだ上 で判断する必要があるのではないかという御要請と受けとめているところです。 ○樋口委員 収益率についての密度関数を推計するところまでやってくださるという話ですね。 今のことだと、期待収益率は分布から出てくるわけですね。そして分散との設定で決まってくる わけですが、ここではそこまで出すということであれば、それが出さえすれば、後は勝手に我々 が計算すればいい、あるいは、国民が計算すればいいという話になると思いますが。 ○山崎数理課長 リスクとリターンということで申しますと、通常、リターンが期待値で、リス クは標準偏差で出て、基本的には確率分布は通常は正規近似のような形になると思いますので、 ここは専門的な見地ですが、ある期待リターンに対して正規分布になるのか、対数正規分布にな るのか、それはある意味、期待値があって分散があれば、基本的にはわりと対称的な形の分布に なることを想定して算出することになると思います。 ○江口委員 今までの議論の基本にあるのは、最近の市場のボラティリティが非常に高い。その まま過去の経験値をもとに議論してもいいのだろうか、こういう認識だと思います。特に、現代 ポートフォリオ理論といっても、我が国の場合には、ここにありますように、ベースになってい るデータが1973年からで、円が固定相場制のときは外国資産が評価できないという限界があって、 非常に短い期間です。そうすると、例えばここ一、二年の動きなどが全体の相関係数にものすご く影響し得るわけです。そういう中で、ポートフォリオ理論に基づいた分析で本当にいいのだろ うかということが背景にあるのでこういう議論が出るのではないかと思います。  ただ、かといって、ほかに何があるのかという議論も他方ではあるわけで、私が今までの議論 を聞いていて思うのは、一つは、今の金余り現象の中で、マーケットの評価は実体経済とかなり 乖離してしまったのではないか。これは推測でしかないわけですが、この問題というのは、我が 国だけではなくて世界中が直面しているのではないかと思います。したがって、今のブックビル ディング方式のような経験値をもとにするもの以外の方法がどこまで考えられるかについて、ほ かの国の情報がもう少し取れないだろうかということが1点です。  それと、しみじみ考えますと、期待収益率というものは、本来的には経済成長率とニアリーイ コールでいいのではないかという気もしないでもありません。そういう意味では、こうした現代 ポートフォリオ理論で導いた値をもとにするということと、経済成長率をどう見るかということ とのギャップをどう埋めるのかという辺りが、私は経済のことはよくわからないのですが、1つ の鍵になるのではないかと思います。  そういう意味では、今のポートフォリオ理論のやり方の問題点をどうクリアするかということ と、その結果としての数値が出てきて、それが年金計算全体にどういう影響を与えるかという問 題を、そこを一回分けて考え、それぞれ何らかの方法が考えられないかと考えた方が、今までの 議論をお聞きしていて、もう少し前に進めるのかなと思います。 ○米澤委員長 この話を始めるとなかなか収拾がつかなくなりそうですが、江口委員、この考え 方は、実体経済から企業の利潤を出して、そこに最終的な株式などの収益率を持ってくるという ことなので、極めて地に足がついたような形で求めています。ですから、むしろ最近の状況など は取り込めていないということですが。  例えば、全く過去のデータですると実体経済と離れるようなところも出てきかねないのですが、 ここのところでは企業の利益から持ってきたということで、そこは一つはクリアされているので はないかと思っています。それは、前回の経験からもいって、日本はバブルがあったし、その後 でクラッシュがあったということなので、少し実体経済からコンシステントなリターンを計算し ましょうということになっているので、これがベストかどうかはわかりませんが、江口委員がお っしゃった心配の半分ぐらいは対処できていると思います。問題が解決されているとは言いませ んが、一応そこは対処しているという理解です。 ○駒村委員 私の問題提起は、どちらかというとツールの問題ではなくて、山口先生も同じだと 思いますが、リスクコミュニケーションというか、どういうリスクがあるのかと。ただリスクと 言われても、Aがいいですか、Bがいいですかと言われたときに、AとBのリスクはこういう確 率の話ですよと言われても、それは年金財政にどういうインパクトがあるのかという、リスクの 表現方法を工夫されないと、年金部会では困ってしまうのではないかということで、その表現方 法をいろいろ考えていただきたいということをお願いしております。 ○米澤委員長 そちらの話に戻ると、2ページの図で見ていくと、何かしらリスクのところをわ かりやすく出すことが必要だと思います。リターンだけというか、どのくらい見込めるのかとい うことだけですと、リターンが高ければ高いほど年金財政がよくなるわけですので、そこはくれ ぐれも誤解がないような形で、説明する必要があります。結局、リスクが一番ポイントになって、 そのどこを取るのかということになるのかと思います。そもそもどこを取るのかということはな かなか難しいのですが、少なくとも、ここのところに関してはこのような違いがあるということ を、リスクの点は避けて通れないという感じがします。  もう一つは、年金部会の方々にこれをわかりやすく説明するのは少し大変かなということもあ ります。  僕がもう一つ最初に言いたかったのは、予定の運用利回りを決めるということで、それに伴っ てどの程度リスクがあるかということを大雑把に決められるのでいいかもしれませんが、最終的 なポートフォリオを決めるのはここではなくて独法のGPIF方なので、本当にかっちりと決まった リスク・リターンでというのは制約が強すぎるのかなという感じがしています。ですから、ここ では、大雑把というと語弊がありますが、全体としての運用利回りのところで、リスク、リター ンで合意を得ていくことが必要であるという感じがします。 ○本多委員 私の方が独法に少し関係しているということで申し上げさせていただきます。  前回の検証のときと今回の検証で大きく違う点として、140兆円と言われている数字がありま すが、それが本当に市場に、今回、証券として出ているということが、前回と今回の大きな違い ではないかと思っています。したがって、制度設計の問題と、それを実際に運用する独法に対し て、どういうマンデートやミッションを与えていくのか。どういうリスクを取ってよくて、どう いうリターンを追求してほしいのかということを明確にしていかないと、現場は結構困ってしま うかなと思います。  特に、安全かつ効率的というものはまだあれですが、長期的な観点ということを皆さんいろい ろなことをおっしゃっていて、私も非常に混乱しております。単年度での損益が云々ということ は、気にしなければいけないのですが、でこぼこは当然あるということなのか、今の議論で、積 立金の運用と年金財政全体の考え方のところで、今、長期的な議論をしていることと、実際にマ ーケットにお金を出している人でそこを担当している方々の考え方として、どのくらいのターゲ ットで時間軸を考えていけばいいのかというところは明確にしていただかないと、かなり混乱が 生じるのかなと思います。  もう一つは、制度設計上は実質でいっていることはよくわかりますが、実際に証券として市場 に出てしまっている以上、これは名目で動いてしまうわけです。そこのギャップをどうすればい いのか。独法で何とかするべきなのか、制度設計上の問題として吸収できるのかというようなこ とを、この場でこういうことを言っていいのかどうかわかりませんが、最終的なポートフォリオ の運用を任せる部隊はまた別にいるわけですから、そことのコミュニケーションが重要になって きていると思います。  先ほどからも御指摘がありましたけれども、そう考えていくと、名目での話、収益量やリスク 量、先ほどもありましたが、グローバルな資本市場の変化、ここ1週間ぐらいのグローバルな株 式市場の動きを見るだけで、過去に経験していなかったようなことが起きていますので、それも 含めて、実際の運用部隊にきちんと指示を出していくことを、今回改めて考えていく必要がある のではないかと思っています。それは、ひるがえって、実質ベースで長期的な観点から考えてい る年金財政の安定、年金財政に資する運用に直結してくると思います。 ○米澤委員長 ただ、最終的に期待インフレもこの場で決める必要がありますので、名目値まで 決めなければいけないことになります。 ○本多委員 ただ、結局、名目金利であるとかインフレ率も相当、5年単位ぐらいで動いてくる わけですよね。ですから、そこの動いてくる部分を意識するべきなのか、長期的な、30年とか 100年とかの単位で平均的な姿だからということで受けとめればいいのかというところが問題なの ではないかということだと思います。 ○山崎数理課長 今の点に関してですが、御指摘の点は、一つは、時間軸をどう考えていくかと いうこと。これは、先ほども御議論がありましたように、今は経済がかなり混乱した状態ですが、 こちらでの長期的な経済前提は、それがおさまった定常状態、かなり先を見通したものだと。た だ、一方で、足元のところに関しては、例えば進路と戦略の参考試算が入ってくるということで、 短期と長期をつなぐような形になるということが1点。  もう1点の御指摘としては、今もう現に140兆円の資産が現実の資産としてあって、それはま さに、例えば債券であれば名目で利回りが決まっているので、インフレがあっても、それは別に インフレ連動債になっているわけではない。そういう現実を踏まえて考えていく必要があるとい う御指摘かと思います。  それに関しましては、現に運用サイドの現実としてできないようなものを前提として年金財政 見通しを引くわけにはいきませんので、特に足元のところ、短期経済見通しと合わせることと同 時に、現在の運用資産がどういう構成になっているかということも反映した形での短期の経済前 提を工夫する必要があるという御指摘と受けとめまして、その辺についても配慮していく必要が あると考えております。 ○小塩委員 私のコメントは超越的なので無視していただいてもいいかと思いますが、方法論に ついて疑問がありまして、2点申し上げます。  一つは、私も現代ポートフォリオ理論は理解しているつもりで、リスクとリターンがあること はよくわかりますが、先ほどの江口先生のコメントと関連して、ファンダメンタルズから利潤率 を設定して、それも安全資産の収益率を計算しますね。それを長期的にずうっと上回るようなポ ートフォリオがあり得るだろうかということです。長期的には、どんな資産運用をしても、平均 的に同じようになるというのが経済学の考え方ですが、それはどちらかというと長期的な話です。 ポートフォリオというものは、そこまで議論されているのかどうかわかりませんが、ファンダメ ンタルズから計算される収益率を常に上回る部分が理論的にあり得るのかと。そんなことを言う と、運用している人から総スカンを食らうので、そういう疑問があるということだけ指摘してお きます。  次に、仮にポートフォリオを組んだら、ある程度おつりが出てくることが認められたとしても、 2ページのアルファという上乗せ部分は、今まではどのようにされてきたのかよくわかりません が、これは期待値なのでしょうか。例えば、ポートフォリオを組めば平均的に1%ポイント収益 率が上がるとわかっていれば乗せる、かつ、リスクがあるという解釈でしょうか。というのは、 経済学では、サータンティ・エクイバレンスという議論があります。平均的に1%ポイントを上 回るとしてもリスクはあるから、1%ではなくて、少し割り引いて0.7%ポイントぐらいにしま しょうというので、不確実な値を確実な値に読み替えるという操作をします。そうすると、仮に ポートフォリオを組んだとした場合、収益率が1%ポイント上回るということがわかったとして も、少し割り引いて0.7%ぐらいにしておこうかという考え方もあるのではないかと思います。 そんなことを言うと方法論が全部変わってしまうので余り強く言いませんが、それについてリプ ライをお願いします。 ○山崎数理課長 まず第1点ですが、ファンダメンタルズから利潤率を出してというところで、 その後、安全資産の利回りというところで、そこのところで利潤率からそのまま、フルにその利 潤が利子に転化して運用利回りになるという議論ではなく、あくまでも、その利潤率は過去の債 券の利回り実績と将来の債券の利回りの見込みですね。過去の債券の利回りの実績から将来を推 計するときに、利潤率というファクターをとって、その比をかけてみてやるわけなので、過去に おいても、債券に比べて、株式などは、期待値としては収益率が高くて、でもボラティリティが 高いと。利潤全体の分配で言うと、安全資産にはやや少なめに分配され、危険資産には、そのリ スクに対するプレミアムとして、平均的には多めに収益が分配されているという構造があります。 ただ、その全体のパイの大きさは、利潤が減ればパイも減ってしまうので、将来の利潤が小さく なれば全体として圧縮されるでしょうという考え方で将来を見ています。ですから、基礎となっ ているものが過去の債券の実績利回りですので、そういう意味では、現に出ている利潤の分配以 上のものが期待されているということではないと、理論的には受けとめております。  第2点のところですが、平成16年の財政再計算のときはどうしたかというと、いわゆるポート フォリオというか、運用の仕方自体も全額国債という考え方もあったし、ポートフォリオ運用と いう考え方もあったということで、もし全額国債で運用するのであれば、債券利回り、安全資産 の利回りということになりますし、ポートフォリオであれば、その当時既に運用していたもので、 債券+0.5くらいのプレミアムが取れる状態であったということで、ある意味、運用利回りの幅と しては、全額国債、安全資産だけのものがミニマムで、マキシマムとしては、より以上のリスク を取るということではなくて、その当時現実に運用しているようなものとして、当時としてプラ ス0.5をとって、結果的には、その真ん中をとるということで予定利率を決めています。かつ、端 数を切り捨てていますので、期待が0.5ある中で、財政上で見込んでいるものは0.2だけを見込ん でいると。そういう意味では、理屈は違いますが、先ほどおっしゃった掛け目に当たるものとし て0.4倍しているようなことに結果的にはなっているというのが、平成16年の計算です。  今回、御指摘があったように、期待値でいくらだからといっても、それはリスクを含んでいる ので、それをまるまるとれるように見込むのではなくて、そこはある種の掛け目が必要ではない かということは、前回は必ずしもそういう議論ではなかったのですが、結果的にはそうなってい るということで、非常に貴重な御指摘と受けとめております。 ○米澤委員長 最終的にROAをあるいは、ROEを取りにいこうということの理解なので、理 論的にも無理なことをしているわけではないという理解でいます。  予定の時間も迫ってきましたので、今日のところはこの辺でよろしいしょうか。どうもありが とうございました。  それでは、予定の時間になりましたので本日の審議を終了します。  次回の日程及び開催方法につきましては、追って事務局から連絡することになっておりますの で、それをお待ちください。  本日はどうもありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省年金局数理課 03−5253−1111(内線3355)