08/07/23 薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会・安全技術調査会 合同委員会 平成20年7月23日議事録 平成20年度薬事・食品衛生審議会薬事分科会 血液事業部会運営委員会・安全技術調査会合同委員会 議事録 1.日時及び場所   平成20年7月23日(水)13:00〜   財団法人日本教育会館(9F) 喜山倶楽部「平安の間」 2.出席委員(16名)五十音順 今井 光信、内山 巌雄、大平 勝美、岡田 義昭、菊地 秀、杉浦 亙、高橋 孝喜、 ◎高松 純樹、新津 望、花井 十伍、半田 誠、水落 利明、山口 一成、山口 照 英、○吉澤 浩司、脇田 隆字   (注)◎運営委員会委員長(座長)、○安全技術調査会委員長  欠席委員(1名)   高本 滋 3.行政機関出席者   新村 和哉(血液対策課長)   林 憲一(血液対策企画官) 他 4.議題   1.非臨床試験の考え方と方法     独立行政法人 医薬品医療機器総合機構     スペシャリスト(毒性) 小野寺 博志氏   2.海外における不活化技術導入の状況について     日本輸血・細胞治療学会 理事長 大戸 斉氏   3.不活化技術導入について(日本赤十字社)   4.その他 5.備考   本合同委員会は、公開で開催された。 ○事務局(秋野課長補佐) それでは、定刻となりましたので、ただ今から「平成20年度 薬事・食品衛生審議会薬事分科会血液事業部会運営委員会・安全技術調査会 合同 委員会」を開催いたします。  本日は、議題1について、独立行政法人医薬品医療機器総合機構スペシャリスト小野 寺博志先生、議題2について、日本輸血・細胞治療学会理事長大戸斉先生に、それぞ れお越しいただいており、御意見を伺うこととしています。  また、本日は、安全技術調査会高本委員から御欠席との御連絡をいただいています。  本日は、採血事業者で、血液事業の担い手として日本赤十字社血液事業本部経営会 議委員田所憲治さん、副本部長日野学さん、東京都西赤十字血液センター所長佐竹正 博さんにもお越しいただいておりますので、どうぞよろしくお願いします。  初めに、事務局に異動がありましたので、御紹介させていただきます。植村展生血液対 策企画官の後任として、林憲一血液対策企画官が着任をいたしました。 ○血液対策企画官 7月11日付で植村の後任として、血液対策企画官を拝命いたしま した林と申します。よろしくお願いいたします。 ○事務局(秋野課長補佐) 議事に入らせていただく前に、本日の合同委員会において は、個別品目の承認の可否や個別品目の安全対策措置の要否の審議はありませんが、 血液事業の運営において、日本赤十字社が調達する技術の提供企業との利益相反を 確認しておく観点から、「平成20年3月24日薬事・食品衛生審議会薬事分科会申し合 わせ、審議参加に関する遵守事項」に基づいて利益相反の確認を行いましたところ、審 議及び議決への参加については、退室委員及び議決に参加しない委員は、ともになしと なっています。  このあとの進行については、本日合同委員会の座長をお願いいたしました高松運営委 員会委員長によろしくお願い申し上げます。 ○高松委員長 早速、事務局より、今日の資料の確認をお願いしたいと思います。 ○事務局(秋野課長補佐) 資料の確認をさせていただきます。まず、議事次第のあとに、 座席表、名簿が2種類あります。資料1は小野寺先生からの資料です。資料2は、大戸 先生からの資料です。資料3、「不活化技術の導入について」、日本赤十字社の提出資 料です。なお、参考資料1の「議事概要」は、先日委員の先生方に御確認いただいたも のを、厚生労働省ホームページに掲載させていただいています。資料の確認は以上で す。 ○高松委員長 ありがとうございました。本日の議題1、「非臨床試験の考え方と方法」で、 独立行政法人医薬品医療機器総合機構スペシャリスト小野寺博志先生にまず、毒性の 専門家の立場からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いい たします。 ○小野寺氏 御紹介いただきました小野寺です。本日の話の内容は、私自身は血液の 専門家ではありませんので通常、医薬品の毒性を審査している中で、その概略と、どうい う試験が必要なのか、ICHではどのようなガイドラインが求められているのか、基本的な 内容についてお話したいと思います。その中で、先生方に少しでもお役に立ち、血液の安 全性評価に外挿できるようなところがありましたら、質問をお受けしお答えできる限りお答 えしたいと思いますので、よろしくお願いします。  まず、本日の話は不活化の安全性に関することではなく、一般的な毒性試験はどのよ うに実施するかをお話したいと思います。  まず、毒性試験を実施する時には、何を対象とするか明確にすることが必要で、全く未 知のものを検索する毒性試験のやり方と、ある程度対象物が分かっていて、そのメカニ ズムなり発現頻度、強さを明らかにする試験のやり方があります。それに沿って医薬品の 安全性を評価する時の手順からお話したいと思います。  まず、一般的な毒性試験法と、がん原性試験がどのように行われるかということです。 試験の実施必要性と内容は基本的に医薬品の場合はケース・バイ・ケースで一つひとつ 対応していきます。リスク・アンド・ベネフィットのバランスから、全くリスクがなく、ベネフィッ トだけの医薬品はありません、その中で使われる状況などを考えて、どれだけベネフィット を得てリスクを回避する事が可能かという点で毒性を評価していきます。  まず毒性を考える基礎としては、一般的に食品添加物、農薬・殺虫剤、一般化学物質、 環境汚染物質、天然毒性物質などの毒性物質、毒性があると言われるものには、無意 識に人がばく露される事になり、これは限りなくゼロハザード、すなわち回避が不可能なも のですから、限りなく身近から排除しようという考え方です。  ところが、医薬品の場合は、いくらかのベネフィットを得ることを目的とし、意図的に摂取 するものでありますから、リスクはある程度覚悟の上、ベネフィットを求めて行います。もち ろん、可能な限りリスクは回避する努力はします。  皆さんが混同するところで、何かの毒性を考える時、こちらの毒性で考えるのか、これら の毒性という一般的な言葉で考えるのか、こちらの毒性を考えるのかによって全く評価が 違うということを、まず頭の中に入れておいてほしいと思います。  医薬品の中においても、遺伝子治療薬、バイオ医薬品、一般の低分子化学化合物に おいても、やはりこの毒性に対する考え方が変わってきます。例えばホルモンなどの毒性 評価は、生理活性物質であるものですから、過剰に投与した場合や、必要ない人に投与 すれば毒性が出て来るのは当たり前です。ところが、欠乏や欠損してる人にとっては、こ のホルモンはベネフィットとなるわけです。ですから同じ毒性と言っても、その対象となる人 によっては全く意味が異なり、一様な毒性評価ということはあり得ないということを頭の中 にきちっと整理してほしいと思います。  その中で、一般的な毒性評価をするには、すべて、医薬品の場合もそうですが、まず有 害性の確認ということで、何が毒性であるかを確認することです。あるとするならば、どう いう状況で、どこの臓器に発現してくるかを、まずは検討します。その次に、その発現した 変化、所見は用量反応性があるか、必ずしも用量反応性というのはリニアなカーブでなく、 量が多ければ発現し、少なければでないというものでもありません。例えば必須元素みた いなものですと、欠乏しても有害事象が出てきます。至適量域があって、過剰にあっても 毒性が出てきます。そういう場合もあるということです。ばく露評価とは、どのような状態で、 どのような条件なら、ばく露が原因で所見が出て来るかということです。ここまでは種々の 毒性試験から得られるデータです。  今度はそのデータのリスク判定をして、マネージメントをして、コミュニケーションとしてど のような情報を出していくか、どのような使い方をするか、どういう評価をするかは、上の 三つの毒性試験を元にしながら下を判定していくのが毒性評価だと思っています。  用量反応とばく露のところで、よく皆さん耳にする、ADI、TDI、VSDという言葉が一般 に使われています。これは先ほど言いました無意識にばく露されるものに対して、いわゆ る、これぐらいまでばく露されても大丈夫だという許容できる量です。ところが、医薬品の 場合は、そういう値は普通使いません。なぜかと言うと、どこまで使ったら大丈夫かという 意味で、DLTとかMTD、MADという言葉が、よく抗がん剤などで使います。それは、ここ まで使ってもまだ大丈夫だ、毒性が出ても、その毒性に対処できると考え、それでもベネ フィットを求め、薬としての役目を得るということで、医薬品の場合はこのように使います。 ですから、毒性が出ても当り前という前提で使われることが多いのです。  その毒性をどのようにして回避するかが重要なわけなのです。評価する毒性データの求 め方なのですが、いろいろな所でいろいろな試験が行われます。それゆえ試験の質が一 緒でなければ相互での比較ができないことになります。そのため、ICHという国際的にハ ーモナイズして決めた試験法を利用します。これは日本欧州、米国の3局規制当局と各 製薬工業会が話し合って、こういう試験で資料を作りましょうと規則を決め、どこの局でも 同じような評価ができる資料を作成します。  その中は1部から5部で構成され、提出される資料として、毒性に関係あるのは第2部、 非臨床試験の総括部分と、第4部の非臨床試験の詳細なデータ部分です。第1部は、 各局での使い方や承認状況など各局での行政情報です。第2部は、各非臨床試験、品 質、動態などで、その他臨床試験の資料がついてきます。その内容がeCTDと言われる コモン・テクニカル・ドキュメントという形で標準化されて提出されます。  その非臨床試験の内容はどんなものがあるかを、私の担当範囲でお話します。一般毒 性試験と言われるものの中には、単回投与毒性試験、反復投与毒性試験、これは急性 毒性試験、慢性毒性試験という呼ばれ方もします。投与する回数が単回か、反復で、試 験期間の違いもあり、反復投与毒性試験でも2週間から1年以上の試験と様々です。  そのほか特殊毒性試験の中には遺伝毒性試験、がん原性試験、生殖発生毒性試験、 局所刺激性試験、免疫毒性試験などもあります。場合によりもっと必要とされる試験とし ては依存性試験、抗原性試験、皮膚感作性試験、皮膚光感作性試験、光遺伝毒性試 験などもあります。もう一方では薬理試験があって、薬理試験の中には、薬効を求める一 般薬理試験や相互作用を検討する試験などがあります。その中で毒性試験と薬理試験 を橋渡しする位置で安全性薬理試験があります。これは、初めて人に投与する時、生命 にかかわるような重大なイベントが起きないかどうか検討する目的で、中枢神経系、呼吸 器系と循環器系に関して、重大なイベントがとにかく起こらないということだけを見るため だけの試験です。そういうところから、動物試験全体を、非臨床試験の中でADMEの部 分、吸収、分布、代謝、排泄などのデータを全部引っ括めて総合的に毒性を判断するこ とになります。  その中で、こういう試験の資料はどのようにして作られているかを簡単にお話します。よ くGLP(Good Laboratory Practice)という言葉を聞くと思います。これは、あくまでも試験 結果の内容を保証するものではなくて、試験のフォーマット、試験の品質と信頼性を保証 しているものです。ですから、GLPで行われた試験の内容が正しいと誤解してはいけませ ん。先ほど言いましたように、申請される資料は、基本的にはGLPに適合性した試験で、 これを評価資料として使います。省令により、「安全性に関する非臨床試験に係る資料 はGLPに従って収集され、かつ、作成されなければならない」と通知されています。  では、そのGLP以外の試験はどのような扱いとなると言うと、それは非適合性試験であ り、参考資料として位置付けられます。評価資料と参考資料の違いをお話します。評価 資料は、いわゆる、先ほども言いましたように、GLPに適合した施設においてGLPに適合 した試験が行われているということで、何が大きく違うかと言いますと、試験の生データに まで我々がアクセスできることです。  参考資料としては論文とか書籍類を見ますが、それを資料として見る場合、生データに アクセスできない欠点があります。皆さんも御存じのように、公表されているジャーナルや 論文は、試験の一部のデータしか載せていないし、データのまとめ方も、その目的に合っ たところしか提示と言いますか公表されていませんので、それ以外の部分についてのデー タを見ることができないわけです。  我々は、申請者が提出したデータと我々が見たいデータを探していき、提示されていな いデータがないことを確認し、漏れがないような形で見るようにしています。ですから、そこ のところが評価資料と参考資料との扱いの違いになるわけです。  その毒性試験一つひとつにガイドラインが決められています。ガイドラインは沢山ありま すが、日本は、昭和38年に起こった、例のサリドマイドが見つかった時に初めて、いわゆ る胎児毒性に対する試験法のガイドラインが作られたのが毒性試験ガイドラインの最初 です。その後、いろいろ作られてきまして、最終的にと言いますか、今現在申請資料の中 で試験項目として挙げられている試験はこの七つです。単回投与毒性試験と反復投与 毒性、遺伝毒性、がん原性、生殖発生、局所刺激、その他の毒性という項目を先ほどの 評価資料に、CTDの項目として載せなければならないことになっています。  その項目として載せる試験ですが、一つひとつの試験に関しては、こういう形でやるので すよという細かいフォーマットが決められています。その細かいフォーマットの内容が決め られているのが、このICHガイドラインです。ICH S1、S2、S3と出ていますが、このSは 安全性SafetyのSです。S1というガイドラインはがん原性に関するガイドライン、S2は 遺伝毒性に関係するガイドラインです。現在はS8まであります。今、ICHでS9が新しく検 討されている途中で、まだ実行されるガイドラインとなるまでには時間がかかると思いま す。  余談ですが、このS9のガイドラインは、抗がん剤を人に投与するまでに非臨床試験とし て最低必要な非臨床試験は何かということで、討論しています。抗がん剤は、今ものすご い勢いでバイオ医薬品、抗体薬も含めてですが、有効性が見つかり開発が盛んですが、 人に投与するまでに、非臨床試験の必要な試験を全て実施しているとすごく時間と経費 がかかります、ともかく早くヒトに投与し効果を見たいということで、最低限必要な毒性試 験は何かということを、S9で整理しているわけです。  そういうように、いわゆる毒性試験一つひとつに関して、きちんとしたガイドラインがあっ て、そのとおりに実施することで評価が可能になっています。  今日お話するがん原性試験についてはたくさんのガイドラインが出されています。まず は、著しく毒性が低い物質、例えばそれを、最大耐量を投与することになると、とんでもな い量をグラム単位で投与しなければならない。そうするとその薬物の影響よりも大量投与 した物理的な影響が強く、どういう試験をしているのか分からないということがおこります、 そこでガイドラインの最初に用量設定では、最大耐量を設けることとなっているのですが、 最大耐量まで投与すると物理的な影響が多くて、何を見ているか分からないことがないよ う、最高用量は100倍までで良く、推定臨床用量の100倍までで可となっています。  もう一つ、用量設定するための最大耐量もさることなのですが、薬物動態指標で、吸収 飽和がプラトーになった量とか、技術的に投与可能最大量とか、そういうところで最高用 量を決めればいい。なぜそういうことが必要かと言いますと、がん原性試験を実施した場 合、もしもネガティブな結果が得られた時、本当にその用量が適切であったかどうか、もし かしたら投与量が足りないのではないかという疑問が出た時に、その十分性を説明する ために最高用量の設定根拠は必要となります。  すべての医薬品に対してがん原性試験が必要であるかということになると、それは大変 な時間と費用がかかります、遺伝毒性試験の結果とか情報のない物質とか、既知の発 がん物質と構造相関活性があるとか、反復投与試験で前がん病変や過形成など、いろ いろ疑わしいものが見られるとか、特異な場所に蓄積し臓器障害性があって、将来的に がんが起きる可能性があるなどと、いわゆる、どういう状況ならがん原性試験が必要なの かもガイドラインで述べられています。  もう一つは、臨床使用期間が6カ月以上継続して使われる医薬品は、基本的にがん原 性試験が求められています。しかし抗がん剤とか抗生物質、ホルモン剤みたいなものに 関しては、がん原性試験は基本的には求められないということです。  では、試験をするためにはどういう方法があるかと言いますと、通常は2種類のげっ歯 類、通常はラットとマウスを基本的に使うのですが、そのほか代替法として最近、遺伝子 改変動物、トランスジェニックマウスが開発されてきまして、人型の遺伝子、がん遺伝子を 入れたものとか、抑制遺伝子をノックアウトしたものとか短期間で実施できるものが使用 できるようになりました。  もう一つは、イニシエーション・プロモーション試験で、発がん物質を少量、ガンが起きな い閾値を投与し、感受性を高くしておいた動物に薬物を与えると、強く反応が出てくる。い わゆる通常の量では出てこないものが、半量とか、それ以下の少ない量や、半分の期間 で検出できるという試験法もあります。  もう一つは、新生児動物を使ったモデルで、生後1週間以内ぐらいに薬物を1回投与し、 そのまま終生観察するというやり方があって、これの特徴は、その検体が微量で済むとい うことですが、生後間もない動物に投与するというのは、非常に技術的な困難とバイアス が大きく、一応この三つの方法は、一つのげっ歯類、主にマウスの代替法としてICHで認 められているのですが、私はこの新生児動物の試験が実施されたのを今のところ見たこ とがありません。  もう一つは、先ほどの用量の選択のところで、2年後に出立されたのですが、遺伝毒性 試験結果が陰性の場合で、臨床の使用量が500mg/日未満の場合、げっ歯類でのばく 露量が人の10倍ある場合には、その最高用量を1,500mg/kgで良いこととしました。それ 以上の量はやらなくてもいいですよという最高用量のガイドラインです。ところが、臨床の 最大用量が500mg/日以上の場合には、投与可能最大量までの用量で検討しなければ いけないことになっています。  重複になりますが、がん原性試験と言っても、遺伝毒性が明らかにポジティブなものに 関しては、将来的にがんになる可能性、ポテンシャリティが非常に高いので、何も動物で 試験してそれを確認しなくてもヒトにも危険性が高いということで、試験の実施は不要なこ とになっています。  もう一つは、いわゆる製品レベルからのばく露と言いますか、種々のニトロソ化合物が 含まれる場合や、アルキル化剤などに関しては、がんのポテンシャリティがあり、長期使 用で発がん性を示すデータがある場合には、これも試験はしなくてもいいという、いわゆる 結果が明らかにポジティブな場合は、がん原性の試験の必要がないことが謳われていま す。  先ほど申しましたように、反復投与試験において過形成などの前がん病変、腫瘍に関 連するような所見が見られた場合には、がん原性試験が必要だということです。  また長期間、未変化体とは限らず代謝物など、どんなかたちでも長い時間そこの臓器 に滞留し組織障害を起こすような場合は、がん原性試験が必要です。それは先ほどの繰 り返しになります。  がん原性試験を実施する場合、実際にどのように実施するかの手順です。まず動物を 選ばなければなりません。先ほどはラットとマウスと言いましたが、ラットにもいろいろな系 統があります。例えばある系統では、最大の体重が1kgを超えるようなラットもいます。そ んなことから、どのような種・系統を選ぶかについて、一応ガイドライン的には、いわゆる 感染性疾患に対する抵抗性があって、寿命がある程度まっとうできると言いますか、あま り短命でないこと、自然発生腫瘍の頻度が少いことなどです。  自然発生腫瘍の頻度というのは、ラットやマウスのげっ歯類を長期間飼いますと、必ず 腫瘍が発生してきます。ゼロということはありません。系統によっては、100%の腫瘍が出 てくることもあります。SD系のラットだと乳腺腫瘍が多いとか、下垂体腫瘍が頻発すると か、F344系の雄ラットだと精巣腫瘍がほとんど100%に出てきて、むしろ2年間生存して 精巣腫瘍が出ないラットが異常という系統もあります。ですから、目的とするのに合った 系統を選ぶことも必要です。それと代謝につてはトキシコキネティクスをみることです。投 与経路は、なるべく人と同じ経路にするのが推奨とされていますが、適切にばく露される 経路を選ぶことです。  動物数ですが、各群、50匹とされ、雌雄50匹なので、1群で100匹です。それが投与 群として3群必要なのです。ということは、最低限、コントロールを入れると、400匹は必要 だということです。なぜ一群50匹も必要かと言いますと、2年間飼いますと、その最中でい ろいろな事象が生じ、途中で死亡したりして死後変化のために病理組織学的な検査がで きなくなって、有効数から除外せざるをなくなったり、軽度な変化が見られた時、有意差を 検定する場合1匹、2匹の発生が、本当にそれを重要な結果として評価できるかどうかと いうことなので、試験終了時に生存している匹数や何匹以上検討できなければいけない という規定もあります。  今の時代ではないのですが、昔の感染性に対する防御が悪かった頃は、1年も長期に 飼うと半分ぐらいが感染症で死んでしまったということもありました。そういう試験では、が ん原性の評価ができないということで、試験自体が無効となります。  投与期間としては、ラットは24カ月以上30カ月以内、マウス/ハムスターだと18カ月以 上24カ月以内で実施しなさいとなっています。投与は、原則として週7日連日投与です。  先ほど言いました代替法でトランスジェニックマウス、ラットでもいいのですが、遺伝子改 変動物、イニシエーション・プロモーション法、新生児マウスについて、なぜこれが良いか というと、試験期間が短縮できることであります。遺伝子改変動物を使った場合には、半 年の投与期間で良いことになっています。それ以上長期に飼うと必ず腫瘍の発生や死亡 率が高くなるのが分かっていますので、その前に終了し、いわゆる対照と比較しようという 意図です。  がん原性試験にかかる費用と時間ですが、ラットでのがん原性試験を実施すると、先ほ ど言いましたように、投与群が3、対照群が1で、合計、雌雄で各50で400匹使って、薬 物の投与量も例えば100mg、50mg、15mg/kgと3段階の用量を設定するとします。それ と、病理組織的検査は最高用量群と対照群の2群だけにします。そうすると、大体概算 で1億5,000万円から3億円は必要です。病理学的検査を中間用量、低用量も実施す ると、もっと必要となりますし、途中でTKの動態を計測とすると、その動態を測定するた めの検討を予備試験からするので、概算額の3倍は軽く超えると思います。またこれだけ の用量で動物に投与すると、原体量として大体10kgくらい必要となります。  試験を始めてから最終報告書が出来上がるまでの期間は、予備検討なしですぐ試験を スタートしても、最低投与期間が2年間あります、2年間経過して剖検、病理学的な検査 を実施して、それを評価して報告書まで仕上げると、最高に頑張っても1年はかかるので、 最終報告書が完成するまで、試験がスタートしてから4年はかかることになります。  これが通常の医薬品でのがん原性試験のプロトコールです、化審法の中でいわれてい る、いわゆる慢性毒性のデータを求める、長期毒性試験は1年間の慢性の毒性というこ とでやっています。この場合は化審法なので、ADIを算出した時の1年間の投与試験だと 安全係数が100ということになります。人に外挿する場合に、安全係数を100にして計算 できます、この量で投与期間の短い90日試験、3カ月試験だと、安全係数を1,000に設 定しなければいけないことになっています。  以上のように、毒性試験を実施する場合には、何を対象としての毒性試験が必要なの かをきちんと把握しないと、先ほど示したがん原性試験はみたいにとんでもないお金と時 間がかかる試験を実施することになります。がん原性を検索するために、別の方法もあり ます、最初に言いましたように未知のがん原性を検索するやり方と、ある程度目的をもっ て、腫瘍の発生のメカニズムなり強度を検討する方法もいろいろあります。有効成分で実 施するのか未変化体を使うのか、代謝物を検討するのか。代謝物にしても、人に特異的 な代謝物をやるのか、動物にも共通な代謝物の毒性を見るのかによっても、試験のやり 方が変わってきます。  また、その製剤中に入っている不純物、分解物になってきますと、不純物のガイドライン がありまして、ある程度の量に関しては、品質の規格のところで押さえておけば、いわゆる 有効成分としての一括した毒性試験で網羅できると考えることもできます。  ところが、不純物の量が多い、1%以上入っているものに関しては、別途いわゆる不純 物だけの毒性試験を課さなければならないというガイドラインがあります。ですから我々も その医薬品を評価する場合に、不純物が、例えば5%検出された時には、規格設定のと ころで不純物を1%以下まで減ずるか、不純物に対する新たな毒性試験を実施して、不 純物の毒性評価をする選択を検討することになります。試験を実施する判断は、品質と 規格で、どこまで可能性があるかというところだと思います。  これが一般的な医薬品を中心とした毒性試験のやり方で、先生方が懸念している毒性 評価は、今述べた試験方法の中で、どのように当てはめられるかということと、何を目的 として、何の毒性を見たいかによって、試験法や検定方法は、いくつか選択できる可能性 はあると思います。以上です。 ○高松委員長 ありがとうございました。それでは、ただ今のプレゼンテーションについて 御質問、あるいは御意見ございますでしょうか。 ○新津委員 白血病の患者さんなどは大量の抗がん剤をやった後に血小板輸血をする と思うのですけれども、大量の抗がん剤だけでもいろいろな有害反応、発がん性があると 思うのですが、その後に、例えばこのような不活化製剤を使ったときの発がん性とか有害 事象を調べる前臨床試験はどのようにやればいいのかということと、臨床試験に持ってい く前までにはどういうことが分かっていなければいけないかを教えていただきたいのです。 ○小野寺氏 これはケース・バイ・ケースで考えるべきだと思うのですけれども、抗がん剤 を投与すると多くの場合血液毒性、骨髄毒性が必ず出てきます。しかし、動物試験の場 合は正常動物に投与するわけなので、血液毒性が出てきた場合は、その程度と回復性、 どのぐらいの量までが許容できるかというところまでしか動物試験では見られません。  その中で、先ほども申しましたように抗がん剤の場合は、長期のがん性試験は求めな いとなっています。ところが、今は毒性が低い抗がん剤も出て参りまして、長く維持療法 や予防的に使われるものがあります。そういうものに関しては、がん原性試験というか長 期毒性試験は抗がん剤でも求めています。ただ、今のガイドラインの中で併用毒性に関 ガイドラインはございません。その中で、先生が今おっしゃいましたように抗がん剤で骨髄 に障害性があったときに、他の薬剤影響をどうやって見るかとなったときには、疾患モデ ル動物を作るか、それに適したケース・バイ・ケースの試験法、目的に合ったものを考え 出さないといけないとおもいます。既存のガイドラインパッケージでは、全て評価ができる というものはありません。 ○高松委員長 ほかに御意見、御質問はありますか。 ○山口(一)委員 同じような質問になるかと思いますが、輸血の場合は繰り返し、場合 によっては一生使うこともあり得るわけですね。そういった反復長期の副作用を動物実験 からどういうふうに外挿できるのかのお考えというか、どう考えたらよろしいでしょうか。 ○小野寺氏 これも非常に難しい質問で、プレゼンテーションした中で長期毒性試験とが ん原性試験で動物への投与期間というのは、基本的には連日投与で行います。ところが、 抗がん剤の場合は連日で投与しますと、投与量が臨床用量の10分の1とか100分の1 でなければ毒性により投与できないようなものもあります。そういうときには基本的にはヒ トでの臨床投与方法、いわゆるサイクルといいますか、週に1回投与で2週間休薬してす るという投与も、動物実験でやることが可能です。ただ休薬期間中に回復性が示される のもは1サイクルだけで十分な場合もあります。繰り返して投与を行う間欠的な投与でも、 今のガイドラインでは6カ月以上の期間になる場合には、長期の毒性試験、がん原性試 験が必要ということになっています。例えば、抗生物質みたいなもので、ある程度短期間 に投与を行って、緩解したが、またいつか再発・感染したときに、同様に短期投与を行う。 そういう薬も中にはありますが、一般的に繰り返し定期的に間隔を置きながら投与する薬 は抗がん剤以外、今のところあまり見ないと思います。 ○杉浦委員 このラットでのがん原性試験を実施して、今までいろいろな医薬品が承認さ れていると思いますが、この結果と実際に臨床で使われた場合の乖離の事例はあるので しょうか。それとも、大体この試験をすれば、その後の実際に人に使った場合のリスクとい うものは判定できるということなのでしょうか。そのあたりはいかがでしょうか。 ○小野寺氏 動物試験のがん原性というのはあくまで可能性としての情報でありまして、 人での安全性を完全に担保するものではないと考えています。結局のところ動物での試 験というのは、先ほど言いましたように高用量ではありますが非常に単純に単体で投与し ている、条件が一定なところでのそのもの自身のイベントの評価をしているのでありまして、 例えば実際の臨床の現場で薬剤の使用実態を見てみますと、単剤で治療していることは ほとんどありません。種々の疾病を持っている場合や、同じ疾病にしてもいくつかの多剤 治療が行われていますが、それに関する毒性評価は動物では限界があると思います。そ のため、情報として添付文書やインフォメーションとして、動物での発がん作用を誘発す る可能性はあるというか、認められる所見をいかに引き出すか。その結果より、そのリス クを上回るだけのベネフィットが得ることが出来るか評価することだと思います。最初に申 しましたリスク・アンド・ベネフィットという意味は、動物試験は人での安全性を担保するも のではなくて、可能性の情報を引き出すための手段であるのが動物を使った毒性試験だ と思います。 ○山口(照)委員 最初にお話いただいたときに、患者に有効な成分による副作用という ことで、リスク・アンド・ベネフィットの考え方が一番重要だという話をしていただいたと思い ますが、例えばウイルスの不活化剤というのは、ある意味ではそれそのものは薬の成分 ではないという一面があります。そういった場合に、添加剤の安全性と似ているのかなと 思っていたのですが、そういう観点で見たときに添加剤と薬の成分とを比較して、安全性 とかこの辺の試験について求められる試験の中身とか、その辺は違ってくるものなのでし ょうか。 ○小野寺氏 血液製剤については非常に難しいと思います。はっきり言って、これなら絶 対という判断するのが難しい。それを動物試験で検証していくというのは容易ではありま せん。まず基本的な考え方としてですが医薬品の場合、例えば今山口先生がおっしゃい ましたように、添加物、例えば保存料など有効成分以外のものリスクがベネフィットを上 回わったならば、それば極力回避していくべきだと思います。その手段として、代替物が あるかないかというところからまず検討し、他になかったならばそれを使うだけのメリットと、 使わなかったために出てくるデメリットをリスク・アンド・ベネフィットの観点から評価していく 以外にないと思います。事前に頂いた資料を勉強する時間がなかったのですが、ウイル スの不活化を目的に添加するわけで、その毒性を考えすぎてウイルスが増殖する可能性 があったときは、中途半端な量は入れられないでしょう。完全にウイルスがなくなる量をつ かわなければ、添加する意味がないと思います。その目的以外には必要のないものです。 どちらのリスクを取るかということは、先生方が臨床現場でいろいろの現状等を考えて総 合的に判断というか、天秤に掛ける以外はないのではないかと思います。毒性学的には、 この物質がこのレベルに達したら、こういう毒性が出る、ここまでの量なら大丈夫の可能 性が高い、種々の動物やいろいろな手法を持って検索できれば、その確立も高くなると思 いますが、だからと言ってそれが絶対的な数値ではなく、それが絶対的な評価でもないと 思ってます。その評価は一番最初のスライドで示した三つのリスクの評価のところでいか に利用するか。皆んなでどのように考えるかではないかなと思います。私が考える毒性学 の立場で言えば、絶対これで大丈夫という確証は難しいと思います。 ○内山委員 大変興味深く聞かせていただきましたが、一般の化学物質と違うところは、 薬の効果としての個体差と副作用が出るときの個体差の両方を考えなければいけない のかなと。リスク・アンド・ベネフィットということがあるとすると、そこら辺は動物実験ではど のように考えて評価をされるというのがあるのでしょうか。普通の一般確率ですと、ただ単 に先ほどの安全係数の個体差10と考えてしまうのですが、薬の場合は両方ありますよね。 薬が効果があるかないかの個体差と、副作用が出るか出ないかの個体差。同じ個体で、 そこら辺はどう考えればよろしいですか。 ○小野寺氏 ある薬物を投与したときに発現する毒性の一つは、薬物に直接影響する 毒性、いわゆる薬効の延長上の毒性を評価することです。これは単純に量が多いとか、 局所でのばく露量が多いということで薬理作用から考えられるもの。もう一つは、薬理作 用のためいろんなイベントが起きて、二次的に薬理作用と別個のところで出てくる作用の 毒性があります。例えばタンパクと結合して腎不全が起きるとか、肝臓での代謝が亢進し ていろいろな拮抗とか阻害作用が起きるとか、本当の目的ではないところで起きる毒性と いうのがあると思います。それを我々が評価するときに、どこまで予測できるか。偶然なの か普遍的なものなのか予測できる中にも、先ほど先生がおっしゃいましたように個体差と いうのも大きく関係します、代謝の場合でも種差というのは非常に大きく、動物で認めら れないヒト特有の代謝物が毒性を示す場合もあります。動物試験で何の毒性を示さなく て、ヒトに投与して初めてその毒性が出てくる場合です。ですから、動物で得られたデータ が必ずしもヒトに100%外挿できるかということではなくて、あくまでもそういう可能性があ るという示唆をするところで、ヒトでのデータを精査してみないと、その差というのがハッキ リと分からないと思います。 ○岡田委員 反復投与した場合に、臓器に蓄積性を持って毒性ということを評価できる のでしょうか。 ○小野寺氏 それは、そのもの自体の代謝を含めた薬物の動態を詳細に検討します。ラ ベル体を付けた薬物が経口投与と静脈投与で挙動が異なるとか、どんな臓器にどのくら い分布して、どのくらいの時間で消失するかなど、それは薬理学的試験で多くのデータが 出てきますから、毒性を評価する場合はまずそれらのデータを見て、どこの臓器に一番 多く暴露、蓄積しているか。評価する臓器の基本としては、そこからスタートしていきます。 そういう基礎的データがなにもなく、例えば投与したネズミ、サルでもいいですが、どこに 何の毒性が出てくるか見ろと言われると、極端な場合頭の天辺から尻尾の先まで全部詳 細に検査しなければならなくなります。相当な労力と時間が要るわけです。少しでも効率 よく評価するためには、薬理学的な動態とか蓄積性とか、半減期とかの出来るだけ基礎 データを参考として、基本的な生理作用や構造からどのような変化が起こる可能性があ るかを一応頭の中で整理して、関連する臓器から順に検索していく方法を取るのが通常 行われると思います。 ○岡田委員 臓器によって非常にバインディングというか、あるものが量的には少なくても 代謝されずに残っていて、違う臓器では多く集まりますが、代謝が早くてあっという間にな くなる。つまり、1カ月とかの間を開けて検索すると前に多かった臓器は消えているけれど も、少ない蓄積量の臓器がずっと同じ量で溜まっていたとか、そういうことも反復投与で 分かることはありますか。 ○小野寺氏 それは実験のやり方や、プロトコールの作り方次第だと思いますが、例えば 臓器蓄積性に関しても、短期の高用量ばく露での臓器の蓄積と低用量で長期間投与し た場合の暴露では、同じ臓器に同じ量だけが蓄積するとは限らないと思います。それは、 蓄積するものによって異なるのと、種々の実験データを見て総合的にみなければ難しいと 思いますが、必ずしも急性の毒性変化と慢性の毒性変化で臓器が一致しないことは 多々あります。 ○高松委員長 ありがとうございました。まだ議論はいろいろあると思いますが、時間も超 過しています。小野寺先生、どうもありがとうございました。いろいろ御意見をいただきまし て、ありがとうございました。  本日の議題2です。海外における不活化技術導入の状況について、日本輸血・細胞治 療学会理事長の大戸斉先生から、海外視察の状況について御報告いただきたいと思い ます。大戸先生、よろしくお願いします。 ○大戸氏 6月24日から7月3日まで、ヨーロッパに調査に行って参りました。当初アメ リカに行くことも考えていたのですが、アメリカの情報がいろいろな所から入ってきまして、 この病原体低減/不活化技術については、別に超法規的な手続を取らないでほかの薬 剤と同じようにきちんと評価した上で、採用するかどうかを決めるというFDAの考え方が 伝わって参りましたので、アメリカの情報は十分に得られているものと考えてヨーロッパだ けにしました。  ヨーロッパの4カ国を回ってきました。ベルギー、ドイツ、オランダ、フランスの5施設です。 これが全体の結論にもなりますが、回った4カ国の間だけでも輸血の感染症のレベルと か頻度はほぼ同じような国々だと思いますが、感染対策は大きな開きがありました。それ から、この病原体低減/不活化技術については、今まで日本で流れていた情報と実際に 現地に行って調査した採用している状況には、大きな開きがありました。この4カ国はお 互いに隣合った近所の国々ですが、どの国も新興・再興感染症に対しては苦渋していま した。どのぐらいのものが起きるだろうか。どのような対策が一番適当だろうか。そのよう な情報集めにどの国も力を注いでいました。そのようなことと、得られるベネフィットとコス トを勘案しつつ、この技術の導入、試行、研究を検討しているのが現実的な姿でした。  これはおさらいになりますが、新鮮凍結血漿には界面活性剤処理、SD、メチレンブルー が実際に応用可能で使われています。今回、回ってきたのはアモトサレン、インターセプト とリボフラビンの二つの技術。この二つは、血小板に対して有効な技術だからです。それ から、紫外線照射だけの情報も得ることができました。赤血球については、ほとんど情報 は得られませんでした。  日本の人口が1億2,000万人。フランスがその半分。ベルギー、オランダは日本の約10 分の1です。使っている病院数は日本が1万1,000カ所。フランスが1,600カ所、ベルギ ー、オランダが100を超える程度です。血液センターは40、14、8、4という数字です。バッ クグランドです。血液センターの経営母体は、フランスとオランダはそれぞれ名前がEFSと Sanquinに変わっていますが、もともとは赤十字社でした。ベルギーとドイツには私立とい うか、赤十字から独立した病院が経営している血液センターがあります。それから軍とか、 そういうところもあります。  血小板製剤は、日本はほぼすべて100%献血由来、成分献血由来がほとんどですが、 ドイツ、オランダではまだ全血由来の血小板が多いです。初流血除去は、四つの国ともす べて導入していました。この病原体低減/不活化技術ですが、フランスは海外の3県、国 内の1センターはパイロットセンターとして導入しています。ベルギーはトライアルの段階で す。正式認可にはまだ至っていない。ドイツは1センターがトライアル。1センター、1研究 所が研究をしている。オランダは、試験管内の研究段階に止まっています。  ベルギーの報告です。ベルギーは2カ所行きました。一つは連邦医薬品機構で、日本 の厚生労働省に相当する部門かもしれません。ベルギーは、全体の15%にインターセプ ト技術が処理されています。しかし先ほど言いましたように、正式認可に至っていない。 2005年に二つの赤十字血液センターと1病院の3センターに、研究的試行を許可しまし た。ベルギー独自の研究は実施せずに、効果とその毒性試験については今までに研究 発表された論文、あるいはメーカーが提示したデータをそのまま受け入れました。小児や 妊婦にも制限することなく投与しています。長期的な毒性反応については、注意を続けな くてはならないということでは意見が一致しています。  2005年から2年間の研究計画は過ぎましたが、特にやめる理由もないということで、そ のままこの技術を15%の血小板に使用しています。最終決定は政府がすることになりま すが、おそらく2年以内に100%施行をする予定である。一旦承認されれば、センターごと に何を使ってもいい。血小板へのコストの上乗せは難しい。この新興・再興感染症が起こ っていない、例えば今みたいなところですと、1QALYを得るのに約6億円かかっている。し かし、おそらくこの新興感染症が感染した時期には、その10分の1以下の3,000万円程 度にコストは下がるだろうと計算しています。  もう一つは、実際に導入しているモン・ゴディン大学のオセラー博士の所に行ってきまし た。これは、ブリュッセルから特急で1時間半かかる山間地域にあります大学付属の血 液センターです。大学で使うだけではなくて、周辺の医療機関にも血液を製造供給してい ます。赤十字からは完全に独立していますが、核酸検査まで完全に実施しています。こ のオセラー博士が導入した最大の理由は、消毒方法を改善して、かつ初流血除去を実 施しても、2003年までに血小板で細菌感染が2件も起きてしまった。ためらうことなく、イ ンターセプト技術を導入したということです。それ以降、1万5,000本の血小板を輸血して いますが、細菌感染の報告はないということです。処理することによって、血小板の約 10%ほどロスするけれども、出血のエピソードはない。血小板と赤血球の輸血量も増えて いない。1血小板製剤あたり80ユーロが余計にかかるけれども、逆に培養検査をしない で済むこと。あるいは、サイトメガロウイルス検査をやらないで済むようになったことで節約 できた。それから、血小板の有効期限が今までは5日だったものが7日に延長したので、 有効期限切れが2%に減って、このかかった分のコストは回収できているということです。  次に、ドイツのケルン大学に行ってきました。この大学では、たくさんの病原体低減/不 活化技術についてのデータを持っていました。この処理をすることによって血小板が活性 化したり、処理した血小板が保存に伴って劣化現象が起きることの多くのデータを蓄積し ていました。しかし、試験管内のデータをたくさん持っていますが、患者にはまだこの処理 した血小板は使用していないということです。  次に、オランダのサンキン輸血血液財団に行って、ポール博士とコルテ博士と質疑応 答して参りました。欧州であっても、同じメソッドが一律に欧州全体に安全をもたらすもの ではない。例えば、ヨーロッパの南と北では違うだろうしということを言っていました。その 最高の安全性を求めるのではなくて、納得できる安全性を追うことがこの国のポリシーだ ということです。なぜか。オランダは海抜マイナス4mの国のゆえに、何よりも国土を水没 させないことが重要である。政府には有用な統計処理官がたくさんいるけれども、血液事 業にどのぐらいの金額を使うべきなのか。医療費全体のどのぐらいを血液事業に使うべ きなのかをきちんと計算することもできない。また、ジレンマである。どこでも同じですが、 いろいろな感染症を含めて年に数回の感染症がある。そうすると、一般的には「そんなに たくさん」という反応が起きるけれども、逆に数百万本に1件と説明すると、同じ現象です が、「そんなに少ない」という反応をするということです。  現在、世界中に可能な技術として、血小板の方に使えるリボフラビン(Navigant ミラソ ル)、S-59(Cerus インターセプト)、メチレンブルー、SD処理がある。しかし、赤血球に可 能な技術は一つもない。赤血球製剤が一番重要な輸血製剤ですが、それに可能な処理 方法がない戦略にどのぐらいの意味があるのだろうかということです。赤血球製剤につい ての最近のデータを見ても、赤血球製剤は処理が困難であること。膜の変化が起きてし まって、赤血球自体を処理すると脱水されてしまう損傷を持っている。オランダにおいては、 この初流血除去と血小板製剤にバクテリア培養検査を入れたことで、非常に効果が上が っている。このバクテリア培養検査を入れてから、1例も輸血敗血症は経験していない。 血小板有効期限を7日に延長できて、期限切れは20%から8%まで減少したということ です。  続いて、同じサンキン血液財団からです。行く前に少し我々が注目していたのは、紫外 線単独の照射でした。化学的な物質を外から加えないで病原体を削減/不活化できると いう論文がありましたので、そのことをたくさん聞いて参りました。しかし、HIVに有効性が ないこと。血小板の膜タンパクにダメージを大きく与え、血小板を活性化するなど、あまり 現実性がある技術とは思えないことを言っていました。今後のオランダの方針ですが、こ の病原体低減/不活化技術については慎重である。新鮮凍結血漿に対しても、この低減 /不活化技術が必要だとは考えていない。しかし、2、3年後には正式に決定したい。日本 でも導入しているクアランチン。次に同じドナーがやってきて、その時点でも陰性だ、安全 だということを確認するまで輸血しないということですが、これが十分機能していて最も安 全な方法とオランダは考えている。今後も、このクアランチンを主要な技術として取ってい きたいということです。それから個別NAT検査、個別核酸検査はやらないと明言していま した。  現在の病原体低減/不活化技術についてですが、いくつか無効な病原体がある。例え ばE型肝炎。そして、また新興・再興感染症が起きたときに、効く病原体が入ってくるのか。 効く病原体であっても、それが効く濃度で入ってくるのか。効かない超高濃度で入ってくる ようなことはないのかということを危惧していまして、雲をつかむような話であるとも言って いました。  次にフランスに参ります。フランスは海外の3県は導入していますが、国内においてはド イツに近い方のアルサス血液センター、人口200万人のところがパイロットセンターとして 実験的に採用して、いろいろな副作用とか有効性を見ています。フランスの血漿、病原体 不活化に対してですが、ここが先ほど言いましたアルサスです。ここには、血漿に対して はインターセプト技術を使っている。ブルーのところはメチレンブルー。ここは、クアランチン も同時に採用している。このところはSDであるということです。  フランスは、基本的には二本建政策です。片方がたとえ駄目な技術あるいは効かない 技術であった、有効でないものが入ってきたときに安全保障的な考え方を取っていまして、 二本建政策を取っている。血漿に対してはS/D処理が50%、メチレンブルー処理が50%。 原則として、2種類の方法を用意する。海外圏であるレ・ユニオン島では、人口の3分の1 がチクングニアに感染して、採血が不可能になったという経験があります。アルサス血液 センターは、人口200万人。パイロットセンターとして2006年からインターセプトを導入し ている唯一の国内センター。このアルサス血液センターは、血小板はすべてインターセプ トで処理している。このインターセプトを導入してから、サイトメガロウイルス検査と、輸血 後GVHD予防のためのγ線処理は同時にやめた。血小板保存期間は5日間のままだけ れども、実際にはほとんど3日以内に供給されている。血小板製剤と赤血球の使用量に 増加は見られない。ヘモビジランスで、血漿除去のみで免疫学的副作用は下がってしま ったという結果が得られています。非処理の時代、血漿除去のみの時代、インターセプト を導入してからの時代、フェーズI、II、III。3群ともにバクテリアの感染はなかった。  このインターセプトを導入してから37例の急性輸血反応があった。19例は、赤血球によ る反応であった。8例は発熱、3例はアレルギー、1例は輸血関連急性肺障害。一種の輸 血と関連した肺炎のような症状ですが、これがわざわざ書いてあるのは、インターセプト処 理によって血小板に損傷を与えますので、血小板から油性成分が流出してきて、その結 果輸血関連急性肺障害(TRALI)が増えるのではないかという危惧がありました。しかし、 実際はインターセプト処理による急性関連肺障害ではなくて、ドナーが白血球抗体を持っ ていて起きた古典的な急性肺障害でした。インターセプトは、関係がなかったという結論 です。  引き続きフランスです。新鮮凍結血漿は、100%インターセプト処理している。クアランチ ンはやめた。クアランチンは、ドナーの再来が困難で供給を困難にするからだと言います が、実際はアルサス血液センターでの3カ月後のドナーの再来は60%か70%で、決して 悪い数字ではありませんでした。このインターセプト処理に使うアモトサレンの品質管理用 データがありました。品質管理のために、処理製剤の1%に残留アモトサレンを測定して いました。平均残留値は、血小板で0.24マイクロモル、FFPで0.5マイクロモルで、いずれ も基準値の2マイクロモルを下回っている。血小板製剤を1,000本ほど輸血した血液疾 患の患者でも、蓄積はなかったということです。この処理血小板を輸血している患者は、 通常のヘモビジランスに加えて義務ではないけれども、特別のレジストリーを作成して監 視している。製剤の処理前のサンプルを5年間保存している。今後のフランスの方針です が、最終的には1、2年後に決定したい。チクングニアの経験があるので、新興・再興感 染症への予防対策としての考え方は強い。処理血小板は同じ価格で供給しているけれ ども、全国展開するときにはコストが最大の問題になるだろうということです。先ほどと同 じスライドです。以上です。 ○高松委員長 ありがとうございました。ただ今のプレゼンテーションについて、御意見、 御質問はありますか。 ○半田委員 大変よく分かりました。今の先生のプレゼンテーションと我が国のを照らし 合わせることは非常に重要だと思いますが、一つ私の印象ではリスクを分散しているなと いう感覚があります。一つお聞きしたいのは、3ページのベルギーの事例ですが、アフェレ ーシス製剤がベルギーでは約50%ですよね。2の段落の3行目に一旦承認されれば、セ ンターごとに選択しても良いと書いてあるのは、アフェレーシスの血小板に関しては100% 不活化が導入されて、全血に関してはそのまま生のものを使うという二つの選択肢があ るという意味でしょうか。私が聞きたいのは、ベルギーでも盲目的にこれを1種類だけにす るのではなくて、必ず不活化していないものもオプションとしてこのまま存続させるかどうか。 ここに書いてあることは、そういう決定ということでしょうか。 ○大戸氏 実はいろいろな意味があったのですが、半田先生がおっしゃるようにリスクを 分散するという考え方が確かにありました。このベルギーの中で、特に血小板製剤に二 つの方法で細菌感染症を減らすことにしている。一つは、細菌培養検査を導入すること。 もう一つは、このようなインターセプトを導入すること。そういう意味では、細菌培養検査を して血小板の安全性を担保するという方法でもいいし、インターセプトを導入して安全性 を保つ方法でもいいということです。ここの意味では、それがバックにありながらもう少し広 い意味で言っていたように思います。最終的にはEUの決めたいろいろな方針になるべく 早く則っていこう。EUが承認したものについては、ベルギーにおいては早く承認していき たいということで、一旦承認されればセンターごとに何を使ってもいいというのは、ここでは インターセプトのことを言っているのですが、もう一つリボフラビンの方も何らかの方法で 導入され、承認されれば、それも承認を与えるという意味に理解しました。 ○菊地委員 先生御苦労さまでした。ほかの3カ国と違いまして、ドイツがなぜそんなにい ろいろなデータを持ち合わせておきながら慎重なのか。それは国民性によるものなのか、 データの中で安全性がまだ確保されないということによるのか、その辺をもう少しお話いた だければありがたいです。 ○大戸氏 実は、ドイツ全体で不活化処理をしているというのがよく分かりませんでした。 ここの資料では、一つのセンターがトライアルしているレッドクロスですね。そこには参りま せんでした。むしろ、その論文をたくさん出しているケルン大学に行ってきました。ケルン大 学では、実際に患者に使う前にいろいろなデータを集約して、本当に安全なのか。安全 性が確認されて、特にその病原体が生き延びるだけではなくて、逆に凝固が活性化され るとか血小板が活性化されるとか、そういう現象で患者が脳梗塞とか心筋梗塞になって しまう可能性も、ここからのデータからは読み取れないこともないわけです。そういうデータ でいろいろなものを集めている段階で、ケルン大学の先生方は非常に謙虚な先生方です が、それでもなおより安全性を確かめたいというふうに感じられました。 ○山口(一)委員 リスクを分散すべきということですが、リスクを分散しているというのは よく分かりますが、外国ではこういったいくつかの製剤を用意して、それは患者にはインフ ォームドコンセントを取って投与をされているのでしょうか。 ○大戸氏 それは、ベルギー連邦血液監視局に行ってムレ博士に聞いたところ、患者に は別に承諾書をもらっているとか説明しているとか、そういうことはしていないと言っていま した。普通の血小板と同じように供給して、患者には何も情報を与えていないということを 言っていました。だから、それはちょっと我々からすると意外な感じだったです。 ○半田委員 もう一つフランスについての質問です。アルサスは、100%導入された血小 板を使っているわけですが、その際には必ず安全技術間のコンペティションがあって、ほ かのものをおろしてということですね。そうすると、リスクの分散とコストというところですよ ね。それもかなり各国とも、ある程度コストということも考えながら不活化というものを位置 付けているところはあるのでしょうか。例えば、アルサスでは放射線照射等々がやめられ ていますよね。その辺はどういう考え方なのでしょうか。 ○大戸氏 最初に言うのを忘れましたが、私自身はフランスに行く前に帰国しまして、ほ かの先生方のレポートをまとめて今日提示しています。もし私が間違った説明をしたら、 会場にいらっしゃる先生方に直してほしいです。コストの問題については、まずベルギー は輸血血液製剤として、血液に上乗せするという考え方をやめているということです。つ まり、新興・再興感染症が起きたときの社会セキュリティというか、一種の防衛政策、社 会防衛といいますか、そういうこととして輸血代金には上乗せしないで別のところからお金 を持ってきて、かかった分は出しているということです。  フランスについては、コストの問題が非常に大きい。フランスでアルサスが使っている方 法を国内全体に応用するときには、おそらくいろいろなところからコストが問題になって、 全国展開導入は難しいという話になるのではないかということを言っていました。 ○高松委員長 ほかにいかがですか。 ○新津委員 フランスの件です。7ページの5番目のフェーズIIIで37例の急性血液反応 というのがありますが、何例中37例かということと、これはインターセプトで起こった有害 事象がなかったということでしょうか。それとも発熱とかアレルギーの中で、インターセプト が関係する副作用があったということでしょうか。 ○大戸氏 ここは、インターセプトが原因であるという副作用は言っていなかったのではな いかと思います。インターセプトを導入してから37例の副作用があったことに止まってい て、本当に科学的に言うならばインターセプトであることを証明した症例もなかったし、イン ターセプトでないことを証明したこともなかったというのが正しいかもしれません。 ○高橋委員 さまざまな考え方があり得る。特にオランダの方が言っているような、最高 の安全性というよりは合理的な安全性というのでしょうか、そういうふうに求める考え方と か、ある程度新しい技術の導入の限界を見据えた考え方というのは非常に有用だと思い ますが、一方で先ほどのインフォームドコンセントをはっきりしない形でやっているという各 国のやり方について、少し日本が参考にすべきものと、逆にそれは採用しない方がいい のではないかということが混在しているような感じがするのが印象です。先生の御意見と しては、日本が一番こういう点を参考にすべきだということがあったら教えていただきたい です。 ○大戸氏 先ほどの話でもありましたが、一種の添加剤で主要な効果を期待する物質で はない。これによって予防できる疾患と、ひょっとしたら新たな疾患を作り出すかもしれな いという謙虚な立場で、きちんとモニターできる、副作用が起きたときに、それを検出でき るようなシステムを作り上げることを、試験的に導入するとしても、そのような体制を作るこ とは不可欠と感じました。 ○大平委員 ドイツの話が出ましたが、私もなぜドイツが慎重なのかというところが疑問で した。ただ、1センターでかなりやられているというデータですか。その経験年数とかがここ には出ていないのですが、実際の処理数やそういう経験からドイツとしてもまだ慎重だと いうところになるのか。なかなか理解に難しいところがあります。  それから、各国それぞれ違っていて、ベルギーは2年後に全面的にとなっていますが、 それぞれの国がかなりリスクを考えて、どちらにもできるように選択をまだ模索している感 じを受けますが、ベルギーが2年で欧州の方で全面的に実施していくような方向性みたい なものがここに書いてありますが、欧州全体としてもそちらの方向に2年でいくような感触 というのを、先生が視察されてお感じになったかどうかをお聞かせ願いたいです。 ○大戸氏 まず最初に、ドイツがなぜ慎重かについては本当のことを言ってよく分かりま せんでした。たまたま私たちが行ったケルン大学の先生方だけが特殊で慎重だったのか、 理由は特に分かりませんでした。あるいは、ドイツが今新興・再興感染症がない時代にお いて、あえてこれを導入することによって新たな別な病気を作るよりは、その技術を研鑽、 検証しておいて、何かしらが起きたときには緊急にそのときに備えようということがあるの かもしれません。これはあえて推定したことで、全体を代表する意見ではありません。私だ けの意見になります。  欧州全体としてのことですが、僅か4カ国行っただけで、隣の国々なのにこんなにも取っ ている政策が違うということで、2年以内に欧州全体が取り入れることは、まずそのように は伺えませんでした。研究を続けなくてはいけない。副作用が起きることを念頭に置きな がら注意を払わなければいけないということではみんな意見が一致していたと思うので、 かつ何かしら事件が起きたときに、どのような対策が最も効果的なのかについても、一生 懸命に正しい答えは何なのかを探していると感じられました。 ○高松委員長 最後にお願いします。 ○高橋委員 この導入という言葉と製造承認という言葉が、時に混同しているような感じ を抱いていますが、いずれの国も基本的には製造承認はいくつか得られているけれども、 導入については濃淡がある。あるいは、非常に懐疑的な方もあれば非常に積極的な考 え方もある。そういうことでよろしいでしょうか。 ○大戸氏 おそらくフランスのアルサス血液センターは、製造承認をパイロットセンターと して受けているのだと思いますが、そのほかのセンターすべてが導入あるいは製造承認 を国から受けているということではないと思います。非常に積極的なベルギーでさえも、正 式な認可を与えていない。試験研究、臨床研究の段階で4段階のあるうちのステップ2 のところだと言っていますから、導入に関しては少なくとも行った4カ国は日本の導入とは だいぶ違うのではないかと思います。 ○高松委員長 ありがとうございました。欧州4カ国の現状をお話いただきました。国の 状況が全然違いますので、これを単純に先生方の意見を聞くわけではありませんが、参 考にしていきたいと思っています。大戸先生、どうもありがとうございました。  本日の議題3です。日本赤十字社から不活化技術導入についてということで御説明を 頂きたいと思います。これは前回の合同委員会で、メーカー以外にも日本赤十字社から 現在までの状況あるいは今後の考え方をお話いただきたいということです。それでは、日 赤の御発表をお願いします。 ○日野担当者(日本赤十字社) 資料3をよろしくお願いします。今先生からお話があり ましたが、前回の最後に日赤が検討した事項について報告するようにということでしたの で、今回まとめて報告したいと思います。  資料3の構成を少しお話します。1ページは本題に入る前に、今まで日赤が何をしてき たかを書いています。2ページから11ページまでが、日赤の検証の結果について。12、13 ページは最終的に不活化導入に向けた基本的な考え方を日赤がまとめましたので、それ について述べます。最後にA3の表がありますが、不活化法の導入に向けた考え方の整 理ということです。赤血球製剤は先ほど来お話にあるようにまだ技術が開発されていない ということで、FFPとPCについてその必要度から始めまして、安全性、容量の規格、献血 者への影響を総合的にどうするかについてまとめたものです。こちらは御参考までに、あ とで見ていただければと思います。  1ページの輸血用血液製剤における不活化技術の導入についてです。1.日本赤十字 社の安全対策と不活化技術の検討。今まで、日赤が何をしてきたかについて簡単に触 れます。平成15年に8項目の総合的な安全対策を日赤が掲げましたが、その中の一つ として不活化技術の検討がありました。8項目の安全対策としては、不活化以外の(1)か ら(7)本人確認の実施遡及、貯留保管、NATの精度向上。こちらは、今移行している段階 です。輸血用血液の感染症の全数調査、HEVの北海道における疫学調査、保存前白 血球除去及び初流血の除去ということで、不活化以外はもうすべて導入済み、または継 続している段階で、残存のリスクはどれだけになったのかということとか感染症報告がど の程度減少したかの評価をして、不活化技術を導入している海外の使用実績または開 発中の方法について、さらに検討していく、情報をもらうということで、今後の方針につい ては国をはじめ、関係者と広く協議する予定にしていた状況です。それとメチレンブルー、 リボフラビン、アモトサレンについては不活化キットを入手しまして、代表的なウイルスです が、細菌と併せて不活化能の検討と血液成分の品質への影響、技術の操作性、製造工 程への影響、安定供給への影響について総合的に評価して参りました。また、安全性に かかる情報については開発メーカーから毒性の試験、臨床試験結果及び市販後の調査 の情報収集を併せて、慎重に評価してきました。開発中の血小板製剤に対する紫外線C の単独の照射の技術とか、不活化といった技術、また新たにリボフラビンについても、開 発メーカー及び研究者からの情報を現在も継続的に情報収集をしている段階です。  2.の技術の導入に際しての留意点ということで、これだけは国民の皆様には知っておい ていただきたいことについて六つ書きました。一つ目は、今回いろいろ協議していますが、 不活化技術そのものはまだ開発途上の技術であること。二つ目は、その技術は一部の 技術を除いて薬剤を添加することがありますので、不活化技術自体の安全性が非常に 問題となること。三つ目は、多少なりとも製剤の品質、例えばFFPであれば凝固因子活 性が低下、血小板製剤であれば機能が低下することがあること。四つ目は、技術の開発 メーカーが承認を取得している処理製剤の容量規格に制限があること。我が国の献血状 況や現行の輸血療法と合致しない点もありますので、安定供給するためには現行の日 赤が持っている容量規格の整理及び、開発メーカー側の容量規格の変更というのが必 要になるかなと思います。五つ目は、これは最終的に入った段階の話ですが、品質の問 題も含めてのキットの安定供給ということと、照射装置そのものの保守管理体制。日赤 は24時間365日製造していますので、そういった整備を十分勘案する必要があること。 六つ目は、施設・機器の整備及び実運用に莫大なコストがかかることが挙げられます。 以上、少し前置きをしました。  2ページから病原体の不活化技術に対する日赤の評価ということで報告します。そのス タンスですが、得られた情報の信憑性について現時点で応用可能な不活化技術、メチレ ンブルー、リボフラビン、アモトサレンに対して、安全性に関する試験を除いた次の事項に ついて、確認と評価をしてきました。病原体への不活化の効果に関してはウイルスの不 活化ですが、こちらの方はエンベロープがあるウイルスの代表としてVSV、エンベロープ がないウイルスの代表としてEMCVを使用しまして、(1)がメチレンブルーの血漿製剤、(2) がリボフラビンの血漿製剤、リボフラビンの血小板製剤、(3)がアモトサレンの血漿製剤と 血小板製剤ということで、それぞれ確認をしました。  3ページの下の病原体への不活化効果についてということで、不活化技術の開発メー カーからの情報どおり、広範囲のウイルスに対して有効であると思われますが、ウイルス の種類やウイルスの量などによって効果に限界があることも周知される必要があると考 えています。  1)エンベロープウイルスには概ね有効ではありますが、ウイルス濃度が最高となる時期 の不活化効果は担保されていないというのがあります。2)A型肝炎やパルボのようなエン ベロープウイルスに関しては、いずれの方法でも低いか無いというのがありますが、リボフ ラビンが最も高く、次いでメチレンブルー、アモトサレンという順番であった。3)アモトサレン は血漿を保存液で置換することがありますが、血小板製剤に比べて、血漿製剤ではウイ ルス不活化能が弱い結果が得られたということがあります。これは、3ページの(3)の血漿 製剤と血小板製剤を見ていただければ分かると思います。  4ページからは、血小板製剤に対する細菌の不活化です。セラチアとスタフィロコッカス の2種類を使用して評価しました。メチレンブルーに関しては、血漿製剤が対象の不活化 技術であることもありますので、これに対しては評価は行っていません。リボフラビンに関 してが、4ページの真ん中になります。リボフラビンの方は、エピデルミディスの不活化に 関しまして2回やっています。1回目の試験評価で不活化処理後に細菌が増殖したこと もあって、追試をしたということがあります。その結果が、*の部分の結果になります。4ペ ージの(3)はアモトサレンです。こちらは情報どおり、セラチアにおいてもスタフィロコッカス のエピデルミディスにおいても5ページになりますが、それぞれ有効であったということが 分かりました。  5ページの真ん中に、追加データということで少し書いています。血小板製剤による敗血 症に関しては、日赤のデータでは7年間に2例の症例を確認しているというのがあります が、これは問診とか徹底した皮膚消毒に加えて、海外と比べて有効期間が短いというの が安全対策上の効果として大きかったのではないかと思います。ただし、その2例に関し て言いますと、発症例の転帰は死亡であったということで、非常に重篤な症例になってし まったというのがあります。  血小板製剤を対象に、初流血除去について評価をした結果が真ん中の表になります。 いずれのアクネ菌を除くすべての細菌の比較においても、初流血除去導入前と後におい ては、半分以下またはそれ以上の効果はあったことが分かりました。細菌不活化のまと めが1)から3)にありますが、一般に細菌については広範囲に不活化ができるけれども、 芽胞菌に対する不活化効果が低いと言われていることが一つ。二つ目は、アモトサレン は2種類の細菌への不活化ができたとありますが、リボフラビンに関しては特定のブドウ 球菌に対して不活化効果が弱かった事実があった。三つ目は、リボフラビンについては 血漿60〜70%を除去した後に、リボフラビンを加えて不活化する方法が今開発されてい ますが、こちらについても日赤が今後評価していく予定であるということです。  6ページは、不活化処理した製剤の影響です。一つ目は血漿製剤についてです。いず れの方法もここに御覧のように、品質の低下が認められるのがあります。6ページの一番 下の片括弧ですが、不活化処理工程によって血漿は約10%ぐらいは低下するというの がありますが、代表的な不安定因子である第8因子やフィブリノゲンに関しては、60〜 70%程度まで活性が低下するという記述。二つ目は、唯一臨床使用されているメチレン ブルー処理製剤については、未処理製剤と比べて使用量に変化がないという報告があっ た。そうはいいましても、大量出血時の希釈性の凝固障害時には、不活化処理血漿の 使用量が増加する可能性が示唆されるというところがありました。  7ページ以降は、血小板に関しての機能の影響を見たものです。9ページを御覧くださ い。後段の1)の処理後の血小板の回収率に関しては、アモトサレンが約90%、リボフラ ビンが97%であり、これを見込んだ採血が必要だということがあります。それと、処理後の 5日目の血小板機能のうち、pHと凝集能について対照と比較してみたところ、8ページの 一番上の左がリボフラビンのpH、右がアモトサレンのpHですが、pHに関しては差はあり ませんでしたが凝集能の低下が見られたというのがアモトサレン。リボフラビンに関しては、 pHの低下は見られたけれども、凝集能に差はなかった。三つ目は、リボフラビン処理で は対照に比べてグルコースの低下、乳酸の増加、P-セレクチンの増加が見られたという ことがありますが、アモトサレンはパス3で置換する工程がありますので、そういう観点か らすると保存液の有無が大きな要因ではないかと推察されます。四つ目は、リボフラビン とアモトサレンの臨床治験においては、予防的投与で使用量に変化は「ない」という報告 と「ある」という報告がされているということがありました。  10ページは、実際に血液センターで製造するときにどういった状況なのかということを表 わしたものです。10ページの一番上に、それぞれの不活化法別の処理条件というのがあ ります。例えばメチレンブルーであれば、血漿の部分を見ていただきたいのですが、元の 容量が200〜315ml、リボフラビンが170〜360ml、アモトサレンが400〜650mlということで す。血小板に関しては、リボフラビンが170〜360mlの状況で薬剤を添加するというのが ありますので、これに対応するのが日赤の製剤でいえば10単位以上のものが適用され ることになります。アモトサレンは255〜325mlが照射処理の対象容量ですので、それに 対応するのが日赤の製剤では15単位から20単位の高単位が対応することになります。 ちなみに参考に書いてありますが、血小板に関しては供給比率の約80%が10単位製剤。 これは、容量が約200ml程度です。血漿に関しては、約70%が400ml献血由来。こちら は、今240mlの容量で製造されています。そういうことがありまして、注意書きにあります が、血小板製剤に対する不活化技術は現行のリボフラビン処理法を除いて、いずれの方 法も血小板に関してはその血漿を事前に除去しなければならないというのがありますので、 採血装置の基盤整備が必須の条件になってきます。ちなみに10ページの(1)の血漿製剤 の製造体制に関しては、例えば血漿を製造する場合に1日1,000本を製造する血液セン ターがあったとすると、そこでは照射装置が約12台から18台。その面積は120平米程 度は必要になる。作業員が10名程度ということになります。  次のページは、血小板製剤の製造体制についてまとめたものです。こちらはBを見てい ただくと、1日約250本。250本といいますと、大体東京都センターの現行の製造数に当 たりますが、そちらですとリボフラビンは出庫時間が今よりも若干遅くなります。今は大体 8時から9時ごろに出庫作業というのがありますが、それが11時ごろに。アモトサレンの 場合は18時だから、夕方になってしまうというのがあります。そういう観点からすると、確 実に期限の延長というものが必要になってくることになります。  製造に関してまとめたものがその下にありますが、血漿製剤についてはメチレンブルー とリボフラビンが400ml由来に対応している。成分由来に関しては、メチレンブルーとアモ トサレンが対応している。2番目に関しては、血漿の処理というのに製剤上の基準があり まして、採血から凍結までに至る時間というのがありまして、6時間から8時間という制約 の中でFFPを凍らせることになっていますが、不活化を処理する場合にはこの時間内で は非常に困難というのがありますので、一度凍結したものを再融解してFFPを製造してい くことになるかなと思います。そういうことがありますので、製剤基準の見直しについて欧 米と同様に翌日分離の血漿についても、製造が可能とするということが必要になると考え ています。血小板については、リボフラビンに関しては10単位以上、アモトサレンに関して は15〜20単位のみが使用可能ということがあります。血小板の供給比率に関しては、15 〜20単位は15%程度ですので、こちらの方は医療側の需要にも合致していないというの があって、採血面においても15単位以上採取可能な献血者で、すべてを確保することは 困難。非常に不可能であると考えています。また基盤整備というのが必要になりますので、 アモトサレンに関して紫外線のCに関しても、血漿置換が可能な採血機種でなければなら ないというのがあります。それと、メチレンブルー血漿、アモトサレン血漿・血小板に関して は、一旦添加した薬剤を除去する工程というのが加わりますので、例えばアモトサレンの 血小板であれば最低4時間はそういった除去の工程が必要というのがありますので、血 小板の供給という時間が少し今よりも遅れてくるということがあるかなと思います。  12ページです。日赤はどう考えているのかのまとめをしたいと思います。不活化技術導 入に向けた基本的な考え方ということで、現時点での輸血用血液製剤に対する安全対 策の検証結果から、安全性は欧米諸外国と比較して同等かそれ以上と考えていますが、 さらなる安全対策を考慮して、優先的に講じる必要があると考えられる事項について次 にまとめました。  対象の病原体のターゲットは何にするかですが、それは細菌が妥当だろうと考えていま す。輸血後の感染症に関しては、諸外国と比べても少ないですが、先ほどもお話したとお り2症例あったということと、それが両方とも死亡につながったということがあります。また、 初流血除去はやっていますが、半数はまだ残存する事実があるということと、アメリカなど では血小板製剤に対して培養品質試験の一環として入れている状況がありますが、その 培養試験を入れたとしても試験には限界があって、実際にアメリカにおいては死亡症例 が4例出ているというのがあります。  新興・再興の感染症の病原体に関しては、スクリーニングしていないA型、E型に対して 不活化効果が低い、それかないというのがありますが、ウエストナイルやマラリアに関して は、高濃度の状況でなければ効果が期待できるだろうというのがあります。ただし、よくこ このところ社会的な問題にもなっているところですが、新型インフルエンザが大流行したと きには安全性の話よりも、そもそも献血者の確保ということが大きな問題になるだろうと思 っています。  HBV、HCV、HIVに関しては、今導入を進めている次期のNATのスクリーニングという ものが現行の約3倍程度の感度の精度が期待できる状況ではありますが、まだまだごく 微量のウイルスの存在というのは残り得る状況にあります。以上のような観点からすると、 現時点で考えられる病原体のうちで不活化効果を期待する主たる病原体に関しては、そ の感染症が極めて重篤になり得る細菌であって、次に献血制限だけでは防ぐことが非常 に厳しい新興・再興の感染症の予防だろうと考えています。  二つ目は、ターゲットとする輸血用製剤は何かということになりますが、こちらは赤血球 製剤はありませんので、新鮮凍結血漿か血小板ということになります。新鮮凍結血漿に 関しては受け身ではありますが、6カ月の貯留保管ということを実施している状況があっ て、貯留の導入の前後で見てみますと、その4分の1程度に感染症が低減化している事 実もあることを併せて考えると、血小板製剤に導入するのが妥当だろうというのがありま す。  12ページの一番最後は「また書」になります。開発メーカー側の容量規格が変更されて、 全規格に対応可能とできる場合には血小板製剤の場合、その血漿の大部分を保存液 で置換するという工程になりますので、輸血副作用の低減化、いわゆる非溶血性副作用 の低減化ということも期待できることと、その血漿の部分をさらに有効に活用できるという メリットがあるかなと思います。  三つ目は、不活化技術の安全性の情報の収集ということで、不活化技術に関してはス クリーニングの検査とは異なって、薬剤を添加することがあります。処理後には除去する というのがありますが、微量には残存するだろうということで、より安全な技術の適用とい うことが必要になると思います。そのためにも、技術に関する情報収集と日赤独自の評 価は継続してやっていきたいと考えております。  また、今まで日赤の安全対策は全国一律でやっていくということがありましたが、不活 化に関しては供給または地域及び医療機関を限定して、市販後の副作用情報の収集 及び安定供給、並びに献血者への影響も含めて評価した上で、全国展開していくかどう かを検討していきたいと考えております。なお、不活化技術の開発メーカーが取得してい る容量の承認規格に関しては、日赤の規格と一部異なる部分があるので、開発メーカー による承認規格の変更や追加が望まれます。  以上、日赤の検証結果と不活化技術導入に向けた考え方を述べさせていただきました。 不活化技術は、いまだ開発途上の技術であるということもありますので、日赤としては安 全性を重視して事を進めたいと考えております。まずは、血小板製剤に対して導入に向 けた準備を進めていきたいと考えており、御審議のほどよろしくお願いします。どうもあり がとうございました。 ○高松委員長 ありがとうございました。現時点における今までの検討結果をお話いただ きました。血小板製剤について、不活化技術の導入に向けた準備を開始するということ です。この内容については、またあとでいろいろディスカッションをいただきたいと思います が、ただ今の説明について御意見、御質問はございませんか。 ○大平委員 貴重な御報告ありがとうございました。不活化導入に日本赤十字社で取り 組んでいて、メチレンブルーやリボフラビン等の不活化処理については、今日御報告いた だいていますが、日本赤十字社としては、いつごろからこれに関心を示して検討をしてこ られたのでしょうか。今日の資料ですと、時系的なところは何も出ていないので、8項目の 安全対策から始まったのか、それ以前からリボフラビンの検討等いろいろやられているこ とはお聞きしたことがあるのですが、その辺りを教えていただきたいと思います。 ○日野担当者(日本赤十字社) 実は、1ページ目に8項目の話が入っていますが、15 年に始まったのではないのです。1998年当時から、NATが入る前なのですが、NATを導 入するかどうかと不活化技術をどうするか、当時はまだ血漿製剤に対する不活化技術が ありませんで、いわゆるSD処理のプラズマとメチレンブルーがありました。ただし、メチレン ブルーは今のような非常に簡単な方法ではなくて、血漿1本1本のグラム数を測って、そ こにメチレンブルーを添加するという複雑な工程だったのです。そういった方法で、1998年 からプロジェクトを立ち上げて、情報を集収してきたということがあります。  その後、NATが結果的に先に入ったわけですが、血漿に関してはSDプラズマでいこう ということまで、日赤の中では決まった時期がありました。というのは、先ほど言いました ように、当時FFPに関しては40万リットルのFFPを使用していました。今は2〜3万リット ルまで減っており、40万リットルのFFP1本1本の重さを測定してメチレンブルーを添加す ることは、個別に処理するという観点からはいいのですが、非常に実効性は厳しいだろう ということで、プールするという難点はあったのですが、SDプラズマを選んだ時期がありま した。それを選んだ直後、アメリカのSDプラズマでパルボウイルスによるウイルス血漿リコ ールの騒ぎがありまして、ちょっと待てよということでペンディングになったことが一つと、ち ょうどその時期に、今日御説明しましたS-59とかリボフラビンのような血小板製剤、いわ ゆる細胞の輸血用血液製剤に対する不活化技術の情報が入ってきたのです。そういうこ とで、FFPに関してはもう少し様子を見ようということと、血小板については新たに情報収 集をしていこうということで、今に至っています。 ○高橋委員 2点ありまして、一つは効果の限界ということで、ウイルス感染症に関して 濃度の関係が言われていますが、これは血液学的検査あるいはNAT検査などで検出で きない、いわゆるウインドウ期の状況であれば、十分不活化効果を期待できると。例えば、 新興・再興感染症も、何らかのスクリーニング検査と併用すれば有効になり得るという考 え方なのでしょうか。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) それにつきましては、全くそのとおりです。ですので、現 在NATを行っているものは、スクリーニングNATを外すことはおそらくできないと思います。 スクリーニングNATをしながら、低濃度のものは不活化する。ただし、スクリーニングして いないものについては、非常に高濃度のものが入ってくる可能性はあるということです。 ○高橋委員 あと、メインのターゲットである細菌感染症に関しては、アメリカの事例で細 菌培養試験陰性例で死亡症例があるということですが、先ほどのヨーロッパのお話で、検 体量を多くすれば防げるのではないかというお話がありますが、その点についてはいかが でしょうか。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) アメリカでは、死亡例、リークが出たことから、検体量を 倍に増やしております。それについての新たな結果は、これから出てくるものと思われま す。 ○高橋委員 大きな問題は、1ページ目の不活化技術導入に際しての留意点の所で、こ れには日赤が対応する際に検討しなければならない大きな問題が書かれていると思いま すが、実際に臨床応用する際にどのような形で説明するかとか、どのような形で施設限 定、あるいは患者を選択するかということだと思うのです。そういう臨床への条件も明示し ていただければありがたいと思います。最後の方に「地域及び医療機関を限定して」云々 と書かれていますが、この場合でも、オプションとして従来のものと選択できる余地を残す ことが可能なのかどうかが大きなことだと思うのですが、いかがでしょうか。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) 臨床側からそのような御要望があるかと思います。血 液センター側からだけの話ですと、いわゆるダブルインベントリー、つまり不活化していな いものとしたものとを用意して、その日その日の需要に応じてどちらかを完璧に要望にお 応えして出すことは、極めて難しい場合があります。臨床側の要望の方が大事ですので、 何とかしなければならないのですが、そのようなことをやっている所は、現在世界ではない はずです。入れた所は、その地域については不活化を全部という格好でないと、こちらも 採血した直後にすぐ作らなければなりませんので、実際にどちらの要望が来るかは、その あとに来るので、作り置きをするという意味では全く予想のつかない製造をしなければな らないということがあります。我々の方から言えば、どちらかだけの方がいいのですが、あ くまでも患者、主治医の先生の御要望であれば、そのようなことも考えていかなければな らないと思います。 ○高橋委員 それはリスクベネフィットの考え方で、相当ベネフィットが大きければ、リスク が相当小さければ、ある程度決め打ち的に医療機関や地域を定めて、ある医療機関で は不活化製剤というやり方もできるかもしれませんが、非常に微妙な判断という場合には 両者選択型で、ある患者は不活化を選ぶというスタイルでやっていただいた方がいいと思 います。  また、副作用の収集体制を強化して、導入前と導入後、導入後も不活化製剤を使用し たものと使用しないものとの比較ができるので、相当のデータが得られる形でないと恐い ような気がします。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) 先ほど日野の方から申し上げましたが、現実に、例え ば血小板ですと処理できるものは10数%しかないわけです。15単位以上のものについて 言えば、ほかのものを選択すれば別ですが、そのような状況の中では、すべてを不活化し て需要をすべて満たすわけにはいかないところが現状ではあります。そのような意味でも、 かなり限定的な、承認を得たとしてもトライアル的な使い方しかできないということがあると 思います。  開発していくことに積極的な病院、先ほどフランクフルトで一つの赤十字がやっていると いうお話がありましたが、それは3大学病院だけを対象に白血病等の患者、いわゆる化 学療法をしていて、すでにリスクの高い患者だけを対象にして、しかもモニターをしながら やると。その中で、病院側が本当にそれを希望するのか、ロジスティックス上うまくいくの かどうかも評価しながら、2〜3年はその状況で続けるというお話を聞いておりますので、 それと似たような考え方で試行しながら、情報も集めざるを得ないのではないかと思って います。そのような意味では、従来の製造承認とは少し考え方を変えていただかないと、 これを入れていくわけにはいかないかなと考えています。 ○半田委員 臨床試験となると具体的な話になって、非常に難しいのは、もともと有効性 に関するエンドポイントを取ることができないのです。なぜかというと、細菌感染の発生率 が非常に少ないのです。もう一つ付け加えなければいけないのは、血小板製剤を使って いる患者は血液疾患の患者ですので、具体的な数字は分かりませんが、もともと予後が 悪い患者群です。したがって、例えば2〜3年などある程度中長期的な予後となると病気 に限定されて、半分まではいきませんが、そのぐらい予後であるということです。だから、 逆に言うと、臨床試験となるとエンドポイントをどう持っていくかが極めて難しい。何のため にやるか、大きな有害事象がなければいいのかどうかという話になってしまうのです。です から、その辺りは非常に難しいので、よくよく考えないといけないと思います。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) 全くおっしゃるとおりで、世界で行われているいろいろな スタディも、このエンドポイントは不活化の有効性を見ることの目的には一切なっておりま せん。それは、見ることが不可能だからです。ですので、この場合の臨床のスタディの目 的は、有害事象があったかなかったか、輸血効果が得られたかどうかしかないと思いま す。 ○高松委員長 いかがでしょうか。地域を限定し、あるいは先ほどのドイツのようにある程 度の病院、あるいは患者を対象にということは、裏返せば全面展開は当分考えていない ということですね。そうすると、フランスはある地域で感染症が起こって導入したという経緯 があるわけですが、そのような視点で当面の間検討されると理解してよろしいのでしょう か。 ○田所担当者(日本赤十字社) そうすることで、技術的には導入をしておいて、必要性 がいろいろな諸問題を上回るだけの状況があるとすれば、そのときには承認された技術 をもって広げていくことができる条件にすると。ですから、そのような意味では、当面はでき る範囲内で技術の使用を可能にしておくというぐらいで考えております。 ○山口(一)委員 ウイルスであればある地域という話は通用すると思いますが、細菌が 対象であれば、ある地域と言うことはできないと思うのです。先ほどから出ているように、 血液疾患に限っての臨床試験など、疾患を選ぶという話にしかならないような気がするの ですが、いかがでしょうか。細菌汚染には、地域差はないと思うのです。 ○田所担当者(日本赤十字社) そういう意味では、細菌汚染に地域を選びはしないわ けですが、そうではなくて、全国的な展開をできる状況にはまだない中では、地域的な限 定をしてきちんとモニターのできる病院と連携をしながら、技術を検証しながら広げていく という考え方で、そのような意味での地域限定をせざるを得ないだろうということです。で すから、ウイルスがある地域に入るだろうから、そこの地域だけに限定しようという考え方 ではありません。 ○高松委員長 よろしいですか。つまり、血液センター側もきちんとできる、臨床側も感染 症の検査、あるいは製剤そのものの取扱いにしても、非常に熟知しているという形での地 域限定ということで、おっしゃるとおりここだけで大流行することはないと思います。 ○岡田委員 今、医薬品として承認を取ると供給する義務が生じるということがあるので、 血液に関してはそれをある程度緩和しないと、話は進まないのではないかと思うのです。 確かに、不活化の場合、血小板に関してはかなり現状が安全ということで、不活化技術 が患者にとってベネフィットがあるとなると、ある程度のリスクを持った人、つまり反復して 血小板を非常に多く使う人、ある程度リスクが通常血小板を使う人よりも高い人を対象 にして使うとすれば使うことになると思うのです。そうすると、臨床試験をやって承認となっ たときに、絶えずその製剤を供給するのか、それとも技術だけは持っておいて、必要に応 じてある地域なりある集団に供給するのか、システムを作らざるを得ないと思うのです。そ の場合、承認を取ってしまうと供給する義務が生ずるはずなのですが、その辺りはどうお 考えでしょうか。 ○佐竹担当者(日本赤十字社) それについては、最初の説明で日野が申しましたように、 これまでの枠組みでは、1万例や2万例といったことは承認を取らないとやっていけない 世界なわけです。承認すれば、オーダーがあり次第全部供給しなければならないというの は全くそのとおりですので、今までとは別の枠組みを薬事に関して作っていただかないと、 それまでのスタディさえも非常に困難な状況です。それは最初に申し上げたと思います。 ○高松委員長 従来の枠組みとは違う組立てでいかないと、現実にはできないということ ですね。それはそれで事務局はよろしいのですか。 ○血液対策課長 今日どういう結論になるかにもよりますが、仮に地域なり医療機関を 限定してやるということで、この委員会のコンセンサスが得られるのであれば、そのような 条件で日赤で進めていただくことになるわけです。そのような審議会の御意見ということで 日赤が、当局と言っても私どもとは直接は違って審査管理課になりますし、あるいは総合 機構と相談いただくことになると思いますが、御審議の結果を踏まえて相談をして、承認 申請に進んでいくのだろうと思いますので、その辺りは十分内部でも意思疎通をしていき たいと思います。 ○高橋委員 この資料で、今まで日赤が検討されてきた概要はよく分かるのですが、今 までの議論にありますように、ほかの保存前白血球除去とかさまざまな安全対策と違っ て、相対的で臨床側とどのような協力体制でやるかという事項が、非常に重要だと思うの です。ところが、この報告書では、導入して供給するところまでしか整理がされていなくて、 その後臨床側で実施する治験をどのようにやるかとか、その場合どこまで可能かといった 点を、是非もう少し整理して提示していただければありがたいと思います。  1ページ目に、今までこのように検討して、適当な時期にという意味でしょうか、国を初 め関係者と広く協議する予定としていたとありますが、今まで予定が果たされなくて、まと まって今議論になっているわけで、これはこれだけ難しい問題なので、定期的に整理しな がら、最終ゴールに行く道筋も提示していただきながら議論すべきではないかと思うので すが、いかがでしょうか。 ○田所担当者(日本赤十字社) いろいろ検討してきたことを、もっと速く提示すればよか ったのではないかという御指摘で、一面そのとおりの点もあるのですが、もう一面では先 ほど言いましたように8項目のうちの他の項目を進めていて、まだ進行中で、血小板につ いても初流血除去等は去年やって、その後1年間データを取ってどこまでのリスクかを評 価し、ウイルスについては今まさに核酸増幅検査を、新しい機種に変えて精度を3倍程 度上げている状況があります。それらを踏まえてやろうとしていたのが本当のところですの で、その意味では途中経過でもというのはあるかもしれませんが、評価の途中であったと いうことも御理解いただければと思います。  承認を得たあとについては、他国でもやっているように、先ほど言いましたように通常の ヘモビジランスよりもう少しレベルの高い、登録した病院ときちんと患者をフォローする体 制を組む必要があるのではないかと考えています。モデルとしては、リコンビナントアルブ ミンについて、病院はかなり承認しましたが、限定された病院で前後の検査も含めてやろ うとしています。すでに日本でもやっているので、似たような考え方はできないわけではな いのかなという気はしています。 ○吉澤委員長 限定した地区で限定した病院でというのは、そのとおりだと思います。細 かくフォローしていくことが必要だと思いますが、これを具体的に実施するにあたっては、 それを全部日赤に背負わせるのではなく、フォローの体制を何らかの格好で、公的なもの にしていく体制の整備も必要だと思います。また、データも途中途中のものを、何らかの 形で公開しながらやっていくことが、非常に大事なことではないかと思うのです。何か不活 化技術を導入せざるを得ない事態が起こったときのために、技術の蓄積とデータの蓄積、 チームの整備をしておくという基本的な考え方で進めるのがいいのではないかと思いま す。 ○高松委員長 御意見はございますか。今年の2月から、この不活化の問題についてい ろいろ討議をしてきましたが、かつて輸血が買血の時代、あるいはB型肝炎の検査ができ ない時代、C型肝炎の検査ができない時代を経て、少なくとも肝炎については、現在は非 常に安全になってきております。この討議は、輸血の安全が、血液製剤そのものが安全 だという時代だった20〜30年前とは状況が違うことが、非常に重要なことだと思います。 ただ、そうは言っても輸血製剤の安全性は感染症のみならず、血小板輸血によっていま だにアナフィラキシーが起こったりTRALIが起こることを考えますと、血液製剤の安全を 不活化だけに限らず、将来のベクトルとして洗浄血小板や置換血小板という血小板製剤 に限って言えば、そのようなことも広く視野に入れて、今後の不活化技術の導入に向けて 準備を開始していただくとともに、先ほどたくさん御意見のあった治験の問題や、どのよう な供給対策を取るか、どのような医療機関、選ぶとしたらどのような疾患をするかといった 細々したことも含めてさらに検討していただき、今年の末ぐらいまでに御意見をいただけ ればと思いますが、いかがでしょうか。そのようなことで、もし日赤の方で今後さらに検討 を進めていただくのであれば、是非よろしくお願いしたいと思います。 ○水落委員 大戸先生にお聞きしたいのですが、赤血球に関する不活化については、ヨ ーロッパではどのような感触だったのでしょうか。あまりデータを示していただけなかったの ですが。 ○大戸氏 赤血球の不活化については、今出されているデータを見る限りでは、赤血球 の膜に変化を与えて、膜だけではなく細胞の中まで変化を与える技術しかないということ です。 ○水落委員 諦めているのか、それとも何か研究を進めていく感触があるのかですが、こ れから日赤が不活化を入れるにしても、赤血球はどうしても残ってしまいますね。 ○大戸氏 諦めるかどうかは、血液センターの話ではなくて、むしろ技術を開発しているメ ーカーの話なので、そこからは何とも読み取れませんでした。 ○水落委員 ポジティブな感触は全然得られなかったということですか。 ○大戸氏 赤血球のことを私たちも知っていたので、聞く作業自体を進めなかったのです が、おそらく得られる返事は同じく、臨床に使えそうな技術は現時点ではないと。開発者 がいないということではないと思うのですが、何らかの別のアイデアで挑もうとする人たち が出てくるかもしれません。 ○高松委員長 ありがとうございました。日赤の御報告は以上にしまして、議題4ですが、 特にございませんか。なければ、本日の会議はこれで終了したいと思います。司会の不 手際で時間が延長しましたことを御詫びいたします。  次回の日程につきましては、後日事務局の方から御連絡いたしますので、よろしくお願 いします。本日はどうもありがとうございました。 ( 了 ) 連絡先: 医薬食品局血液対策課 後藤(内線2902)