07/12/07 医道審議会医道分科会診療科名標榜部会第4回議事録 第4回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会 日時 平成19年12月7日(金) 15:30〜 場所 都道府県会館402会議室 ○保健医療技術調整官   定刻になりましたので、第4回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会を開催いた します。委員の皆様方におかれましては大変お忙しい中、当部会にご出席をいただき まして誠にありがとうございます。議事に入ります前に本日の委員の方々の出席状況 についてご報告いたします。本日、東北福祉大学岩渕委員からご欠席のご連絡をいた だいております。また、南委員からは遅れる旨のご連絡をいただいております。辻本 委員は少し遅れている状況でございます。続きまして、お手元の資料ですが、議事次 第、座席表、委員名簿のほかに、資料を4点まとめて付けさせていただいております。 資料1がこれまでの議論を踏まえた整理の抜粋、資料2が緊急医師確保対策について、 資料3が総合科の新設について(案)、資料4が医療政策の経緯、現状及び今後の課題 についての抜粋ということです。委員のお手元に、前回までに使用いたしました資料 を参考としてご用意しておりますのでご確認ください。以上です。 ○部会長   それでは、議事に入りたいと思います。今日の議題はすでにご案内のとおり総合科 と総合科的な診療能力を持つ医師の養成ということで、大変な議論になるかもしれま せん。まず、先ほどご紹介にあった資料を事務局から説明してください。 ○保健医療技術調整官   それでは、資料1から資料4までまとめてご説明させていただきます。資料1のこ れまでの議論を踏まえた整理ですが、2頁をご覧いただきたいと思います。これは平 成18年7月に医政局で取りまとめた医療施設体系のあり方に関する検討会の中間整理 です。こちらの会議は平成17年12月の社会保障審議会医療部会の医療提供体制に関 する意見書の中で、資料のほうにありますが、検討を進める旨が指摘されている事項 が3点ありまして、そちらを中心にして議論を進めたものです。内容については平成 18年の医療法の改正の状況も踏まえまして、医療提供に関する病院から診療所、かな り幅広い地域医療を担う医療施設体系の今後のあり方に関する論点について議論をし たものです。本日はこの中で総合科・総合医に関係する部分がありますので、4頁、5 頁、6頁で抜粋をして用意いたしました。   中身ですが、4頁も抜粋ですが、医療連携体制・かかりつけ医、医師確保との関係 についてということで、「医療連携体制の中でプライマリケア及びそれを支える医師の 位置づけ・役割」という下線を引いている項目が立っております。   4頁から5頁にかけてご覧いただきますように、ここではかかりつけ医という点に ついてどのような役割が求められるのか。かかりつけ医についても、その機能や役割 についてもう少し明確にする必要があるという指摘をしておりますので、かかりつけ 医についてどうなのか。そして、5頁の下線を引いている所ですが、かかりつけ医と は違う項目立てとして「地域医療を支え、総合的な診療能力を担う医師の育成が必要 である」という項目を立てております。この下線部の所にありますように、こういっ た総合的な診療を担う医師の位置づけ・専門性をどう考えるか。プライマリケア、地 域医療の実地研修等を通じて専門医として育成していくという観点から、学会等の取 り組みを踏まえて具体的な育成のあり方を考える必要があるのではないか。また、そ うした修練を積んでいない医師が開業する段階で一定の研修プログラムを経るとか、 そういった仕組みは考えられないか。こういったことについての指摘をしております。 そして、下線が引いてある○ですが、こちらではそのような総合的な診療に対応でき る医師を育成していくということで、例えば能力を発揮できる勤務場所の普及、医師 のキャリアパス形成への配慮といったものについての留意が必要だと、このようなこ とを書いております。   続きまして、7頁の資料2ですが、こちらは平成19年5月31日政府・与党が決定 をして公表しました「緊急医師確保対策について」というものです。こちらは資料と しては1枚の紙、8頁です。ここに6つの柱が掲げてありますが、この中で本日のテ ーマに関係する部分としては2の「病院勤務医の過重労働を解消するための勤務環境 の整備等」です。こちらの最後の所に下線が引いてありますように、一次救急を含め て地域医療を担う総合医の在り方について検討するということが書かれております。 こういった地域医療を担うという観点で総合医がどのような役割、在り方なのかとい うことについて検討すべきということでございます。   そして、9頁の資料3ですが、総合科の新設についての案でございます。これは第1 回の医道審議会医道分科会診療科名標榜部会に事務局からまとめて提出した資料です。 これにつきましては、細かい部分はご説明を省略させていただきますが、10頁が総合 科としての一つのイメージの提案です。下のほうに「求められる能力」として、内科、 小児科を中心として診療科全般にわたって高い診療能力を有しているということ。も う1つの能力として、患者の疾患の状況、状態に合わせた医療の選定など、基本的な 予防から治療、そしてリハビリテーションに至る過程において継続的に地域の医療資 源を活用できる能力を有していること。こういうことで出させていただいています。 11頁、12頁は総合診療に関する既存の研修プログラムがカバーする領域の例というこ とで、日本家庭医療学会、日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療医学会、こうい った関連学会のプログラムを例として出している資料でございます。   そして、13頁の資料4ですが、こちらは14頁をご覧いただきたいと思います。こ れは平成19年4月に取りまとめられて公表されたものですが、表題は「医療政策の経 緯、現状及び今後の課題について」ということで、医療計画作成にあたる都道府県職 員向けの参考資料という形で出されたものです。作成したのは厚生労働省の医療構造 改革推進本部総合企画調整部会という所がまとめたものです。14頁の真ん中からやや 下の所ですが、医療制度、医療政策というものを考える上で当面急がれる課題につい て集中的に検討を進めたものでありまして、「医療提供体制を中心とした医療政策のあ り方に関し、これまでの経緯や現状を踏まえつつ、今後の検討にあたっての方向性に ついて取りまとめたものである」というものでございます。   15頁には下線が引いてありますが、これはこういった取りまとめの紙ですが、政策 として実現していくにあたっては審議会、検討会等さまざまな角度からのご議論を踏 まえた上で実施に移していく必要があると、こういう留意が付けられております。16 頁には、そこの部分からの抜粋の所を出しておりますが、たくさんある資料ですが、 その中で開業医の役割の重視と総合的な診療に対応できる医師の養成・確保と、この ような観点の部分があります。ここで下線を引いてありますが、臓器別の専門医だけ ではなく、人間全体を診る総合的な診療に対応できる医師の養成・確保を図ることが 必要である。そして、その下の所ですが、これは先ほどと同じような中身になってい ますが、こうした医師の位置付けについて関係団体・学会の意見も踏まえつつ検討を 行う必要があると、こういうペーパーでございます。本日ご用意したのはこういった ペーパーですが、この資料を踏まえまして、本日は今後総合医に関して詰めていくポ イントなどをご議論いただければと考えておりますので、よろしくお願いいたします。 ○部会長   ただいまの資料に基づく説明について直接的な質問はございませんか。よろしいで すか。それでは、総合科・総合医についてということですが、ご記憶だと思いますが、 今日の資料の3、かつてこの委員会で出てきた資料ですが、そのときの議論としては、 まずはそれぞれの標榜診療科について議論をするけれども、いずれこの総合科という ことに関しても議論をし合おうと。ただ、現在、医師会なり、先ほど名前が出たよう な学会のほうでも検討をしているのでその動きを見つつという話ではなかったかと思 います。そのようなことも踏まえて何かご意見がありましたらどうぞ。 ○高久委員   いま部会長がおっしゃったとおりで、日本医師会の生涯教育推進会議で総合医の認 定制を検討するということで作業部会をつくって、ここにある3つの学会と日本医師 会で、どういうカリキュラムをつくるかということと、どういう形で認定をするかと いうことの議論を始めたときに、厚生労働省のほうで総合科をつくってその審査と認 定を行うというふうに新聞に大きく出たものですから、一部の医師会からそれはおか しいという話があって、折角進んでいた総合医の認定のプロセスが少しスローダウン した経緯があります。しかし、今は聖路加病院の院長の福井先生が座長になられて、 福井先生は医師会の生涯教育委員会の委員長でもありますので、医師会の生涯教育と 関連して、総合科を担う者は総合医になる可能性があるのではないかと思うのですが、 その認定制のことを3つの学会と一緒に検討していますので、あまり早くこちらのほ うが総合科に進んでしまうとかえってマイナスになる。私は将来的には総合科が必要 だと思います。しかし、診療科全般にわたって高い診療能力を有するというのは大変 なことでして、そう簡単に総合科の看板まで勝手に出されても患者さんも信用しない。 3つの学会が一緒になって1つの学会になるという動きもあります。そういう経緯で だいぶ動いているので、もう少し様子を見たほうがいいのではないか、いますぐこれ が出るとかなり混乱をしてしまうのではないかと思います。   それから、外国では家庭医やGPについてのレジデント制度があって専門として認め られていますので、総合医の養成という後期研修コースをつくらないと、ただ漠然と 総合科というのでは困ると思います。それから、初期研修でプライマリケアと謳って います。私は地域保健実習ができたのは非常にいいと思うのですが、あのカリキュラ ムでプライマリケアの教育が十分にできるとは夢にも考えられないので、本格的に総 合的な医師を養成する後期研修制度を、おそらくこの3つの学会が一緒になればそこ が牽引力となってプログラムができて、そこで養成する。それから、現在開業してお られる先生方の中で総合科を希望される方には、講習カリキュラムをつくって、どれ だけ勉強されたかというテストをして、そして認定をするというシステムをつくらな ければならないということが生涯教育委員会の作業部会でディスカッションされてい ます。そこらの結論を少し待っていただければと思っております。 ○部会長   学会あるいは医師会の動きについてのご説明があったわけですが、医師会から内田 委員、どうですか。 ○内田委員   いま高久委員がおっしゃったとおりでありまして、おそらく、この会議に出席され ている先生方皆さん、総合的な診療能力を持った医師が地域に必要であるという認識 では一致していると思うのです。それを今の時点から厚生労働省が認可を出す、審査 をするという話ではないのだろうということを私も強く感じています。これは総合的 な診療能力を持った医師が育つシステムがきちっと確立した上でそういう話が出てく るということではないかと思っておりますので、日本医師会としても、もちろんそう いう総合的な診療能力を持った医師、地域でそういうものを担う医師の養成について、 今、生涯教育推進委員会、学術推進委員会という所でカリキュラムの検討をしている ところですし、これに関するシステムはかなりしっかりしたものができるのではない かということを期待しているところです。   それで、私、今日一つ確認させていただきたいのは、実は、今年の4月17日に厚生 労働省から「医療政策の経緯、現状及び今後の課題について」ということで、参考資 料ということで「普段自分がかかっている医師の中から在宅主治医を選ぶこととし、 その在宅主治医が必要に応じ関係する医師の間の調整を行う。病気になるまでは地域 に主治医がいない患者の場合でもあらかじめ公表された地域の医師の中から在宅主治 医を選び」云々という後期高齢者の制度も睨んだものが参考資料という形で出ました。 その後、5月21日にこの審議会の診療科標榜部会が発足して最初の会合を持ち、その 中では国の個別審査による標榜医資格付与、そして内科・小児科を中心として診療科 全般にわたって高い診療能力を有しているというようなことが謳われています。その 後、10月4日になりまして、保健局の主治医というところ、特別部会の「後期高齢者 医療の診療報酬体系の骨子案」というところで「患者自らの選択を通じ決定していく 形を想定、1人の患者が持つ主治医は1人」という文書が出されました。この辺の流 れを踏まえると、これは単なる総合科の認定ということを厚生労働省が行うというこ とに加えて、今後の後期高齢者医療制度が発足する中で主治医制度という、いわゆる 人頭割みたいな形での医療提供体制というものを睨んでの流れではないかということ が明確に読み取れるわけです。医政局の説明で、この会議でのご説明ではそれとは全 然リンクしないのだということを一貫して言われていますが、同じ厚労省の中でそう いう主張というのは通るのか、国民に対して説明できるのかということを非常に強く 感じているところです。その辺についての見解を聞かせていただければと思います。 ○保健医療技術調整官   いまご指摘があったのは、おそらく、今年の春から総合科の議論と後期高齢者の中 での在宅主治医の議論が並行して進められたことから、関連があるのではないかとい うご懸念のご発言だと思います。すでに私どもがお答えしているようなことで内田委 員からもご発言があったのですが、今日資料でご用意いたしました5頁の下線を引い ている所にも少し書いておりますが、私どものほうで総合的な診療を担う医師という ものを考えたときに、現時点でここの領域の問題とかその医師が提供する診療のレベ ルの問題とか、そういうものを含めて位置づけや専門性をどう考えるかという形で議 論を提示しております。ここにもかかりつけ医と総合的な診療を担う医師とをあえて 分けて書いていることもありますので、総合科・総合医というものについて一つの概 念では括れない、概念をある程度整理して役割も少し丁寧に議論していく必要がある のではないかという認識でおりますので、必ずしも一緒が前提ということでお話をし ているものではありません。 ○内田委員   それでしたら、厚生労働省のほうで後期高齢者のほうでも出してきていますが、こ ういう主治医を1人に決めて、その方が総合的な管理を生涯にわたってやるというよ うな方針については、医政局としては明確にこれは関係ない、否定するということで よろしいのでしょうか。 ○総務課長   繰り返しになるかと思いますが、ここでご議論いただきたいということでたたき台 をお諮りしたことで言えば、そういった後期高齢者に限らず、子どもさんからいろい ろな患者全体について、地域で必要な医療を全体として診ていただける人をどうやっ て育てていくのだと。それについての一つのやり方として、これまで専門医は大学の 教育とその後の研修制度の中で専門医という形が学会のご尽力によって育てられてい ると思うのですが、総合医といいますか総合科といいますか、そういった先生を育て るプログラムがなかったというような、そういった問題意識に立ちましてこの審議会 でご議論いただきたいということでお諮りしたと。一方、後期高齢者制度というのは 法律が成立していて近く施行される。そういった中で、後期高齢者にあたっては、主 治医といいますか、その患者さんが選ぶ意味で患者さんからいろいろ相談をしたりす るような存在が必要なのではないかということで、別途の形で議論が進められたとい うことでございまして、全く別の切り口からの提案といいますか、そういうものだと 考えております。 ○内田委員   そうであるならば、主治医制度、人頭割ということに結び付けるものではないとい うことであれば、厚生労働省が許認可するという総合医という制度は全く必要ないの ではないか。厚生労働省がそこに関与しなくても、医師会なり3学会なりが共同して そういうシステムでしっかり質を担保するということを申し上げているわけですから、 そういうことになるのではないでしょうか。これを厚労省が認可するということは、 主治医制度のほうにダイレクトに行くということは、特に4月17日に出された参考資 料の文章の流れからいくと、厚労省の意図としてそういうふうにとられてもしかたが ないだろうということを強く危惧するわけです。 ○部会長 わかりました。大事なご意見として受けとらせていただきます。ほかにいか がでしょうか。いくつかの問題設定があると思うのですが、まずはご自由なご意見をい ただこうと思います。 ○高久委員   私もいま主治医制や人頭制を持ち出すと話が全く進まなくなると思います。イギリ スのNHSは人頭制になっていますが、アメリカは人頭制にはなっていない。それでも アメリカではルールとしてもGPを通して、その後に専門医に行くようになっている。 必ずではなくて、GPを通すのがルールになっているので、日本でもだんだんそういう 習慣をつくる。そのためには住民の人に理解してもらう必要がありますが、そういう 体制にだんだん変えていく必要はあるのだろう。そうでないと病院が疲弊してしまい ます。医療のゲートキーパーになるのが総合医であり総合科であると思いますから、 その方向性は必要だと思います。その方向性を進めていくためには人頭制という言葉 は出さないほうがいいのではないか。イギリス方式では住民も変なお医者さんに当て られて困っている点がありますので、その総合医は住民が自由に選べるという形をと らないとまずいのではないかと思います。 ○内田委員   いまの関連でもう1点ですが、イギリスの医療制度がGP制をとったのは御上が決め ているGPなのです。アメリカの制度は保険会社が決めているGPなのです。日本だけ が、こういう形で患者が決める主治医なのです。そのフリーアクセスが担保されたか らこそ、日本のこれまでの医療の成果がWHOが認定しているような世界一の医療制度 であり医療の実績であるということが結果としてあるわけです。そこのところはしっ かり考える必要がある。 ○部会長   いまのお話は私もかつてはイギリスにいましたので大変よくわかるのですが、最近 はイギリスも患者さんが選べるのです。ちょっと変わってきました。 ○内田委員    そうですね。その反省に立って変えてきているのです。 ○高久委員   アメリカは保険会社が選んでいるのですね。ですから、行かないと金を払わないと いうので、おっしゃるとおりだと思います。 ○江里口委員   このGPという問題においては、歯科は従前からずっとこのようなシステムでうまく いっているのではないかと思います。一般というのはどういう意味だと我々すら疑問 があるのですが、歯科の狭い範囲なので医科の総合医ほど大変なものではないのです が、すべてのことができるということ、また、診断ができると。総合医は診断ができ るということがいちばん大きなことだと思うのです。そこで自分で診療するよりも専 門医に紹介したほうがいいというようなシステムが戦後から開業医を支えてきたと思 います。それから、必ず専門医に行った後に患者さんを戻してくれるというか、元の 開業医に返すルールが歯科は非常にうまくいっています。歯科のように狭い分野での 総合医みたいなものと、一般医科のほうでは共通するところはなかなかないかもしれ ませんが、歯科は大変うまくいっているのでこのままずっとこのシステムで行ってい いのではないかという気がいたします。   もう1つは、専門医制とも絡むのですが、専門医は学会を中心として制度が成り立 っていますが、総合医に関しては地域密着型なので、学会というのも確かに必要なの ですが、医師会や、全国的な何か組織で質の担保を常にしていかないと、学会などで 1回認定を受けて例えば5年に一遍とか3年に一遍ぐらいの研修で更新していくとい うよりも、地域の医師会などで毎年やっている生涯学習を受けることによってずっと 質の担保をしていく、あるいは医療というのは地域によって随分違ってくると思いま す。東京の様な所と群地区では全く違う医療体系を持っていると思うのです。医師会 はそこに合った生涯学習を必ず組んでいると思いますので、その辺を少し尊重してこ のシステムをつくっていったほうがいいのではないかと思います。 ○大島委員   いま江里口委員が言われたこと、あるいは内田委員が言われたことは、私もそうだ なと思いながら伺っていました。高齢者が急激に増えてきて、今までの急性期型モデ ルとか特定病院論、いわゆる科学的な医療モデルではもう対応できなくなったという ところに背景があって、それで総合的に人を診る医者が非常に必要だということ、も うそういう状況になってきているということについては誰も異論がないと思うのです。 それで、いわゆる総合医を養成しなければいけないし、そういった診療の体系をつく っていかなければいけないというところについても、おそらく、誰も異論はない。問 題は、その事態が急速に変化をしてきていて、その要請が現実に高まってきているに も関わらず対応が後手に回っている。本来であれば、プロフェッションの集団が一枚 岩になっていて、こういった問題が出てきたときにそこにポンと投げれば、お任せく ださいと。こういったものに対してはこういった質を担保できるような教育システム、 診療システムをきちんと用意してすぐ提案できますと。半年ください、1年ください というようなことで対応ができるという状況があれば、全く問題はないと思うのです。   先ほど内田委員は、3学会がきちんとやる、医師会がきちんと担保するからと。高 久委員もおっしゃられましたし、基本的には私も医師会が一生懸命やっているのを実 際に目で見ていますし、それはきちんと見守るべきだなと思うのです。しかし、医師 会あるいは3学会に任せておいてちゃんとやってくれるのかという危惧があると思い ます。先ほど、専門医制度の問題も出ましたが、これは社会的な問題にほとんどなっ ていますが、専門医制度のあの混乱状況をずっと見ていると、いまだに、専門医とい うのは一体何なのかということについて、医学界は社会や国民が納得できるようなス ッキリした形で答えを出してきていない。そんな医学界に任せて、今の急速に起こっ ている変化に応えられるものがきちんと出てくるのかなという心配があるのではない かと思うのです。しかし、今の置かれた状況の中での選択肢としては、高久委員が言 われたことが残された選択肢としては非常に重要な選択肢だし、あの方向できちんと した答えを出していくべきだろうと思います。   それで、何が言いたいのかということなのですが、いまのところ現実的な選択肢と しては限られているので、そこが納得できるようなきちんとした答えを出すように、 それを社会がウォッチしていくということもあるのかもしれませんが、そういった方 向で行くしかないと思います。 ○部会長   医者の立場と同時に患者の立場でもあるご意見だったかなと思います。是非伺いた いと思ったのは、総合科・総合医というテーマですが、中身としては総合的かつ高度 な診断能力を有する、これは診療能力と読み換えてもいいと思いますが、そういう医 師を国民が求めているということ、あるいは医療の現場でも必要になってきていると いうことに関しては異論がないというご意見だったと思います。私も基本的には賛成 なのですが、そこのところをもう少し議論していただけませんか。つまり、いままで は大きな病院の中で総合診療科に類似したもの、あるいは総合診療医のようなものを 置いてもうまくいかなかったのが現実です。それを踏まえた上で是非議論していただ きたい。 ○高久委員   確かに、いまの形の総合診療医がうまくいっている所とうまくいっていない所があ ります。一般内科的なことを中心に運営している所はうまくいっている様です。です から、運営の仕方だと思います。大学病院は専門医の集まりですから、医療の体制が 総合医から専門医に紹介するような体制がきっちりできれば、学生や研修医の教育も 大学の外に出せばいいわけです。イギリスはそうやっています。ですから、大学病院 の総合診療医の意義が問われるようになってくるのではないでしょうか。一部の大学 は総合診療科をやめています。 ○部会長    しかし、そういう所で教育をされるわけですね。 ○高久委員   すべての分野で高度な診療能力というのは難しいと思うので、幅広い診療能力とい うことになる。そんなスーパードクターはいないと思います。必要なのは、自分の能 力の限度を知っていて、しかるべき専門医に的確に紹介する。それがいちばん必要な 能力だと思います。ただ、一般の方が必ずしもその点をよく理解されていないのでは ないか。よく言われることは、「当直で小児科の患者さんを診ると親御さんから先生は 小児科の専門医かと聞かれる」という事です。外国でもそうですが、総合医の概念の 中には、せめて学童ぐらいは診る必要があるのではないかと。ですから、プライマリ ケア医は小児科と内科を兼ねてもいいと思います。むしろ患者さんのほうが了解をし ない。一般の方にも理解していただく努力がこの総合科・総合医を養成するときには 必要だと思っています。 ○部会長    まさに、そういうことを議論していただきたかったのです。 ○辻本委員   今、いくつか民間の病院でも総合診療科を標榜している病院が現れてきています。 それは患者が選ぶのではなくて、病院のシステムとして初診の方はそこで診ていただ いてからというふうに、患者が自らの意思で選べない科という位置づけになっていま す。そうすると、患者の理解を得るも何も、何を診てもらえるのかがよくわからない ままにシステムの流れに乗せられてしまっている、という理解でしかないという現状 が印象として持っています。   それと、一部大学でなくなってしまった所もあるというお話もありましたが、頑張 っている所も、その患者にとって入り口であるのか、こういう表現がいいのかどうか わかりませんが、出口というのでしょうか、いろいろな所を回って結局どこも対応し きれないから総合診療部で診てもらってという最後に行き着く所というような、両極 端に言えばそんなふうに一部の患者の目に映っているということも、一つの現実とい うことでご報告させていただきたいと思います。 ○部会長   どうしたらいいと思われますか。それはあなたのおっしゃるとおりなのですね。だ から、そこはどうしたらいいのでしょう、どうあるべきかと。それを皆さんに少しず つ伺いたいのです。 ○辻本委員   他の検討会だったのでちょっと遅れてしまったのですが、私などはその3学会がも うしばらく待ってくださいとおっしゃっていて、待つと何が出てくるのだろうという 素朴な疑問もあります。医師会が国の関与を嫌われることは心情的にすごく理解でき るのですが、そこで何を出そうとしていらっしゃるのか、何が問題になっているのか、 その辺りが全く見えないのです。だから、その3学会対医師会という構図の中で、一 体何をしているのか、何が問題なのかというところに、ひょっとすると国民・患者が 総合医やかかりつけ医を理解していく上に大切なポイントが隠されているのではない かと思います。できれば教えていただきたいのですが。 ○高久委員   3学会と対立しているのではなくて、3学会と一緒にやろうということです。初めは 医師会だけでと考えていたのですが、ほかの専門医制度が全部学会と関連しているし、 また、この3つの学会もプライマリケア医の専門性を検討していたものですから、そ のノウハウも教えてもらいたい。ですから、一緒にやろうということで今は進んでい る最中なのですが、繰り返しになりますが、厚労省が審査をして認可をするというこ とが新聞に出たものですから、一部の医師会の方が非常に警戒をされて少し進みにく くなっています。その点はいずれ解決できると思いますので、そうしたら一気に進も うと思っています。 ○内田委員   見えにくいというお話があったのですが、医師会ではもちろん総合的な診療能力を 持った医師ということを言っていますが、それは先ほど高久委員がおっしゃったよう に広く深くということではなくて、幅広い診療能力、あるいは幅広い疾患に対応でき る能力ということだと思います。それは、これまで家庭医療学会とかプライマリケア 学会が取り組んできたカリキュラムを取り入れる形でかなり精緻な、ハードな内容を いま検討しているところだと認識しております。   もう1つは、それプラス地域の医療資源についてよく熟知している。ですから、こ ういう疾患だと思ったらそこの専門の医療機関に紹介するとか、これは療養病床のほ うがいいだろうとか、リハビリで老健に紹介したほうがいいだろうとか、ボケが入っ ているとか、そういうところを適切な専門医療機関につなぐという役割です。3つ目 は、学校保健とか休日急患の診療所とか、開業の診療所の先生はいろいろな社会的な 役割も果たしているから、その辺についてもしっかり参加していただいて地域医療を 支えていただく。この3つを柱にして検討していただければということを私自身は思 っていますし、おそらくそういう方向性で進んでいるというふうに考えております。 これは3学会と全く対立しておりません。3学会のノウハウを是非教えていただいて 医師会の中で取り組んでいこうということです。   もう1つは、日本医師会の中でも同じような制度で日本医師会認定産業医とか日本 医師会認定健康スポーツ医、あるいは学校医というところで、そういう制度に対応す る専門的な能力を持つ医師にかなりタイトなスケジュールで勉強していただいて、そ ういう認定制度もこれまですでに運用しておりますので、そういうノウハウもあると いうことからこのシステムはきっとうまくいくのではないかと考えています。 ○部会長    いまのは辻本委員に対する答えだと思うのですが、どう思われますか。 ○辻本委員   対立ではないということはよくわかりました。期待したいと思います。ただ、いよ いよ来年の4月1日から後期高齢者の新たな保険制度がスタートします。現実には制 度が始まらなくても、いま在宅で診てもらえなくて困っているという患者の声が私た ちの電話相談にたくさん届いてくるわけです。ですから、新しい制度がスタートする 以上、その制度の下で今までよりも安心できる状況、納得できる状況ということを国 民は希求していますので、そんなに待てない状況が患者側、国民側にはあるというこ とをお受けとめいただけたらありがたいと思います。 ○住友委員   まず、医療法6条の6の第1項でこの総合科・総合医が取り上げられていると思う のです。国が個別審査によって標榜医資格を付与するということになっていますが、 実際にこの制度ができたときに総合医に手を挙げる人がいるのかいないのかという話 です。例えば、医療法6条の6の1というのは特殊標榜ですが、麻酔科と、いま議論 になっている総合科、これは総合医を含めてですが、例えば歯科には歯科麻酔科とい うのがあって、これを特殊標榜として随分長く要望しているのです。そうすると、歯 科麻酔科という特殊標榜で国がこういう標榜医資格を付与するというのがあるとたく さんの人が手を挙げたいという意向があるのです。ところが、この総合医というのは、 医科側で考えたときに、国がこういう個別審査をするということについて、もしこの 制度ができたときに手を挙げる方がいるか。もしくは、この総合科・総合医になりた いという人がいるのかどうかというところを、内田委員にお聞かせいただきたい。状 況はわかりますが、その前にもって、内部の方々の意向といいますか、この総合医と いうものは必要ないと考えている、このライセンスなり標榜を必要と思っていらっし ゃる人は少ないという認識があるのでしょうか。 ○内田委員   厚労省の認定に関してはおそらくそうだと思います。要するに、実質が問題ですか ら、その資格をどうやって認定するのかとか、これからいろいろな問題が出てくると は思いますが、それは単に厚労省が名前を与えるだけであるということであれば、そ ういう内実を伴った人に関して、医師会あるいは3学会がきちんと研修をしてそうい うスキルアップをしたいという方はたくさんいらっしゃると思います。 ○住友委員    3学会と医師会が一緒になってやった場合は手を挙げる方が多い。 ○内田委員    手を挙げる方が多いというか、是非手を挙げていただきたいというところです。 ○住友委員    わかりました、ありがとうございました。 ○部会長   皆さんからご意見をいただいている最中なのですが、後で少しまとめたいと思うの ですが、ご意見をいただいていない方は南さんと岩井さんなのですが、ご意見いただ けませんか。患者の立場でもいいし、どういうお立場でも結構です。 ○岩井委員   これから非常に高齢化も進んでまいりますし、かかりつけ医のお医者さんというも のを得たいという感じからも、いろいろなことについてすべて相談できるお医者さん といいますか、そういう方が地域にいらっしゃることは非常に心強いことになるので はないかと思っておりまして、是非そういうお医者さんを育てるシステムをつくって いただきたいと思っております。 ○南委員   私は問題はいくつかあって、1つは、先ほど部会長が本当に国民は総合科・総合医 というものを望んでいるのかどうかというところに議論を戻したいというふうにいみ じくも言われたのですが、確かに、今のままだと、国民は現状では自分はどこが悪い から内科とか心臓とか循環器といってかかっている現状を放っておいて、総合医が必 要な認識に変わるという状況ではないと思うのです。今、総合科ができましたよと言 って鳴物入りでできてきても、果たして本当に国民がそこを選ぶのかどうかというの は、現実にいくつかの大学でやってみて閉じたということを見てもそれは明らかなの ではないか。ただ、医療資源とか財政とか、いろいろなことを考えた上でどうしても これから日本の国民医療において専門医に立脚した医療制度だけでは立ち行かないと いうことをきちんと国民に理解してもらった上で、人頭とか何とかということではな くて、それを何と呼ぼうが、かかりつけ医とか家庭医とか、呼び方はどうでもいいと 思うのです。1980年代の半ばに家庭医をめぐる大変な議論があって、ここまで20数 年来てしまっていて、まさしく失われた何十年だと思うのです。ですから、呼び方は どうであれ、国民がこうなるべきというものを、先ほど大島委員もおっしゃいました が、受けとめてきちんと用意してくださるオーソリティといいますか、エスタブリッ シュメントがきちんとあったらよかったのですが、現実は残念ながらそうなっていな い。だから、国民側にも医療提供側にもどっちにも問題があるのではないか。これを きちんと解いて、これからの財政・その他の事情でこういう形が理想的であるという ことを国民にきちんと理解していただいた上で、総合科を通らなければ専門医にはか かれない、それが公平で平等な医療制度を担保していくための方法である、というそ の両方の了解事項がどうしても不可欠なような気がいたします。 ○部会長   大変大事な整理をしていただいたのですが、言葉の問題はともかくとして、かかり つけ医のイメージとしては地域の開業の方をイメージされているのだと思いますが、 そういうことと総合的な診療能力を持っているお医者さんということと、外国のGP とか家庭医というものと、国が認定された総合科というものと、いまは議論がゴッチ ャになっているのですね。それが収束しにくいものの一つだと思うのですが、それを 南委員に少し解きほぐしていただいたのですが、岩井さんがおっしゃるとおりで、患 者さんの立場から見れば、身近に何でも相談できる、大体のことは答えてくれるお医 者さんがいたらありがたいと思われるのは皆さん同じではないかと思います。その辺 を出発点に考えたらどうだろうかという気がしているのです。総合科とか標榜科の問 題はちょっと当面置いといて、人頭制の問題は別なのですが、本来の医療というのは そういう隣組みといいましょうか、ごく近所で自分の健康について普段から相談でき て、大体のことはやってもらって、ちょっとした怪我ぐらいは縫ってもらえて、これ は大変だというときにはしかるべき所を紹介してくださるという、そういう方を皆さ ん求めていらっしゃるのではないかという気がするのですが、どうですか。 ○高久委員   自分の大学のことを言って恐縮ですが、自治医大の卒業生は2年間の研修を終わっ た後7年間の義務年がありますので、全部ではありませんが、ほとんどの者は離島・ へき地に行っていますので、彼らは非常に幅の広い診療能力を持っていまして、ほと んどの科をカバーできます。いろいろな分野を診ますから、地方の中小病院に行くと 非常に重宝がられる様です。そういうドクターが必要だと思います。   それに関連して言うと、5頁に能力を発揮できる勤務場所の普及を図ると書かれて いますが、それこそ、医者のいない所に行って1人で診療すれば、もちろんコンサル テーションなどをするバッツクアップ体制は必要ですが、第一線で若いときに鍛えれ ば十分に能力はできると思います。それにはカリキュラムが必要なので、先ほどから 言いましたように、日本医師会と3学会でカリキュラムをつくる。そのカリキュラム の中に、当然、診療所の勤務が入ってくると思っています。かかりつけ医というのは 意味はよくわかるのですが、大学の専門外来に通っている人には大学の専門の先生が かかりつけ医になるので、システムとしてつくるときにはかかりつけ医という名前よ りは別の名前のほうが良いと思います。家庭医という名前もあるのですが、日本では 家庭医という言葉には歴史的な経緯がありますし、必ずしも家庭医的な能力だけでは なくて産業医や学校医的な能力も要望される。また、診療医ではないので総合診療医 というよりは総合医のほうがいいのではないかという議論が医師会の学術推進会議で ありました。 ○内田委員   実は、11月26日の社会保障審議会医療保険部会に健保連が調査をした結果を出し ているのです。ちょっと興味深いので今日持ってきたのですが、「医療機関の受診のあ り方に関する考え方」というアンケート調査をやっているのです。数は少ないのです が、それで申し上げますと、「病気の症状の程度にかかわらず病院と診療所の区別なく 自分の選んだ医療機関を受診する」ということで、これにどちらかというと賛成とい う方が33%。もう1つは、「最初に決まった医師を受診しその医師の判断で必要に応 じて病院等の専門医療機関を受診する」ということで、どちらかといえば賛成という 方が53.0%。なかなか興味深い結果だと思うのですが、これが日本の医療の大体の現 状であって、その両方を選択できるというところが日本の医療の良さだと私は思って いるのです。いかがでしょうか。 ○部会長    いまの数字は本当かな。対象者は何人ぐらい。 ○内田委員   調査は1,263人です。これは日本リサーチセンターが保有する全国のNRCパネル6 万4,087人から2,000人を抽出ということです。 ○部会長   そうですか、結構な数字ですね。どうも印象とちょっと違うけど、まあいいでしょ う。ありがとうございました。 ○内田委員   それで、最初に決まった先生にかかるという部分の先生に総合医のトレーニングを 受けてほしいということをすごく思います。 ○大島委員   今まで日本がつくり上げてきた医学教育とか医療提供体制が、当時はとにかくそれ がいちばんいい価値であったということは間違いなくて、その方向でずっと来すぎて しまったと思うのです。きた結果、人口動態も疾病構造も大きく変わったと。そこの 中で、違った価値というものが明らかに求められてきているということが今の状況だ と思います。自分が長寿医療センターにいるものだから高齢者の話ばかりするのでは ないかと言われるかもしれませんが、高齢者の場合、どの教科書を見てもはっきり書 いているのは「非定形」とか「多様性」とか「個別性」と書いてあるのです。お年寄 りになればなるほどいろいろな病態が複雑に出てくるというのは、これはそんなに考 えるのも難しくないと思うのです。80歳を超えれば20%には認知症が隠れていますし、 年をとれば必ず衰退していくわけです。その過程が入ってきますから、若いころは正 常な状態が崩れればそれを病気というのですが、その病気、疾病だけではなくて老化 という過程が入ってくるために非常に複雑な病態をとってきます。   そして誰もが死に向かうわけですが、その死に向かうプロセスの中で、成人で健康 な状態の人たちの疾病に対する価値観というのは、完全治癒を目指して救命を目指そ うと。これについては異論はほとんどないと思うのです。ところが、年をとっていけ ばいくほど、完全治癒、社会復帰、延命・救命というものも一つの選択肢に変わって きます。あくまでも一つの選択肢であって、それが絶対的な価値ではない。ときには、 病気と共存してでもいいのだという価値観があって不思議でもありませんし、そのと きどきによって、それこそ、その人の人生の中における価値の多様性のようなものが 具体的に診療行為の中にどう反映されていくのかということが、高齢者の場合にはい ろいろな形でもって求められてくるということがありますが、そういう意味での総合 医というのが一つのイメージかと思います。   もちろん、南委員がおっしゃったように、いわゆる専門性の非常に高い医療が必要 ではないとは全然言っていないのです。今までそれにあまりにも偏重に来すぎたと。 偏重に来すぎた結果、気がついてみたらそういった変容が明らかに間違いなく起こっ ていて、そのバックに財政問題ももちろんありますが、財政問題は財政問題として同 時に、医療とは一体何なのという「そもそも論」も浮かび上がってきたと思うのです。 総合医というか、総合医でもかかりつけ医でも何でもいいのですが、総合的に人を診 るような医者が求められているという背景というのはそういうところにあるのだろう と思います。   それで、内田委員にあえてこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、先ほど内 田委員は厚労省のほうで考え方が分裂しているのではないか、この点ははっきりと言 明してくれ、というふうにおっしゃいましたが、同じように、先ほど内田委員が、総 合医という、いま議論になっているような医者の最も重要な部分を握っているのは医 師会の団体であるとおっしゃいましたよね。私もそう思うのです。医師会の先生方が 本当に地域の中でいま議論になっているような総合医的な機能を担っているし、これ からもやっていくべきだと思うのです。ということであれば、全国民に対して、我々 が絶対に質を担保しますと宣言すべきだと思うのです。宣言して、国に人頭制は絶対 にやりませんと宣言しろ、資格制度は絶対にやらないと宣言しろと言って迫るのもい いと思うのですが、それと同じような意味で、いまここで議論になっている大きな不 安が国民の中にあるとすれば、会長が、今はこんな議論になっているけれどもこれは 医師会の責任でもってきちんとやります、安心してください、ということをはっきり と声明なり宣言なりを出すべきではないですか。しかも、これだけ緊急な状況になっ ていますから、いつまでにこういう体制で医療界をきちんとまとめますというぐらい のことを言われるべきではないかと私は思うのです。 ○内田委員   会長はいろいろな所での話でそういうふうに申し上げているところです。ただ、時 間をいついつまでに、どれだけの人間を育てるとか、そういう具体的なところは出し ておりませんけれども、責任をもって医師会が担うということは申し上げているとこ ろです。 ○大島委員    この問題の解決は、少なくとも期限を切っていつまでには答えを出しますと。 ○南委員   誤解をされているといけないので、私は、たぶん、大島委員がおっしゃっているこ ととほとんど心は同じかと思うのですが、今まで現状で来たもので国民が自分で勝手 に専門医を選んでかかるようになってきているので、総合医というものをいま出され ても、このままでは国民が放っといてもかかるようにはならないのではないかという ことを申し上げたのであって、総合医と呼ぶか何と呼ぶかわかりませんが、ここに書 かれているような総合的な診療・診断能力を持った医師が必要であるということは、 別に、高齢社会でなくても必要であるということは議論のないところであると思いま す。ただ、本当にそれをどういうものにするのか。だいぶ前にも高齢者医療のことは 申し上げたのですが、在宅の高齢者なり学童なり、誰であっても総合的に診る医師と いうものは本来はきちんと能力を備えた医師がいてほしいのですが、残念ながら、こ こまでの制度で国民がそういうものを、「でもしか」というと言葉が悪いのですが、専 門医のほうがあたかも高いように、私は幻想だと思いますが、そういうものを抱いて きたのではないか、そこを直さない限りはいま総合医と言ってもちょっと難しいので はないですかと。たぶん、考えていることはあまり違わないと思います。 ○高久委員   南委員がおっしゃるとおりでして、総合科・総合医の認定制をつくって、そこを基 本にして、というのは大変革になると思います。医療提供体制が大きく変わることに なる。開業の先生のあり方、日本医師会のあり方も大変革になります。しかしこれは 本当に必要だと思います。日本の医療の将来を考えると、そういう医療提供体制をつ くっていかないと持たないと思います。ですから、相当に腰を入れてやる。しかしあ まり拙速にやって20年前の家庭医のときと同じ失敗を繰り返したくないので、私は、 慎重に、しかしステディにやっていく必要があると思います。そうしないと、日本の 医療が持たなくなる。今医療崩壊という言葉が使われていますが、その理由の1つに 医療提供体制がゴチャゴチャになっていて病院のドクターが疲弊して辞めてしまうこ とがあると思います。そういう意味では非常に重要なステップだと思っています。 ○住友委員   私は非常にシンプルにしか考えられないところがあるのですが、ここで言う総合科 の新設についてというのがあって、皆さんの議論を聞くと、いろいろな形があろうと しても、この総合科に相当する、いま議論をしているものは必要であるというふうに 認識されるのです。結局、それを誰がどこでやるかというところに尽きるのではない か。先ほど内田委員のお話を聞いて、日本医師会、3学会、それから厚生労働省でし ょうね、こういう形でつくり上げればいいのではないかと思うのです。もしこれが本 当に必要であればもうそれに尽きるのではないか。しかし、皆さん方の意見を聞いて いる限りにおいて、総合科・総合医が必要であるという認識を私は受けています。 ○部会長    ほかにいかがですか。 ○南委員   もう1つ、今すでにいらっしゃる先生方にとっての生涯教育という意味でもそうな のですが、これからどんどん新しく医師になっていく方々のためには、何と呼ぶかは ともかく、総合的な技術を持った臨床科の技能を担保するのは、例えば自治医科大学 で離島で1人でやっている方などは結果的にそういうふうにできているわけですよね。 でも、それをきちんとプログラムとしてつくっていくということは、これからの医師 として巣立つ方々でもそういうものをどうしても必要とすると思いますので、おっし ゃるように、これは医学教育、文部科学省とか、いろいろな所が絡む本当に大改革の 話なのだろうというふうに理解します。 ○内田委員   いまの総合的な能力を持つ医師の養成なのですが、これは医師臨床研修制度の発足 はそもそもそこに狙いがあったということです。先ほどの住友委員のご指摘で、皆が 認めればつくればいいのではないかという話ですが、私が先ほど申し上げたのは、厚 労省が許認可するということに関してはその後につながるものが何かあるのではない かということで反対しているわけです。これに関してはそうではないということを厚 労省の中できちんと意見統一してもらいたいということを申し上げたいのです。もう 1つは、先ほどの大島委員の話ですと、医師会はあたかも開業医の集まりというよう な匂いもちょっと感じたのですが、医師会の今の構成は半分が勤務医で半分が開業医 です。勤務医の先生も、かなりの部分で将来的には開業される先生も非常に多いと考 えておりますので、これは全体として勤務医の先生方も対象にしたものにしていかな くてはいけないと考えています。それから、これからの医師にそういうものが必要だ という南委員のお話はそのとおりなのですが、現状ですでに決まった先生に受診して、 その方の紹介で専門の医療機関に行くという方が53%いらっしゃるわけです。ですか ら、現状でそういう働きをしていらっしゃる先生方も地域にたくさんいるということ は言えるのではないかと思います。 ○高久委員   それから、医師会の生涯教育委員会で問題になった事は、ずっと大学病院に勤めて、 急に開業されるのは困るのではないか。総合的なカリキュラムをきちんと勉強してか ら開業されないと困る。大学の外科の教授が開業して内科を標榜される例がなきにし もあらずで、そうすると一般の方の信頼を失ってしまう。医師会の自己防衛のために もこういうシステムをつくっていく必要があるということが議論されました。それか ら、若い人は家庭医療や総合診療に結構興味を持っているし、西村先生のカレスアラ イアンス、亀田総合病院の家庭医の後期研修は非常に人気があって希望者がたくさん いる、これらの施設では初期研修の希望者も非常に増えたということで、総合的な診 療能力に憧れを持っている若い人はかなりいると思います。 ○辻本委員   いまお話がありました家庭医ですが、私どもも、活動を通して学生のころから本当 に患者さんの思いを受けとめたい、理解したいということで事務所に出入りして議論 を重ねた人たちが、今は家庭医として本当に現場で頑張ってくれていることに胸が熱 くなるような思いを何度もしております。その方たちは、ある意味では教育で育まれ たものではなく、本来持っていらっしゃる資質ではないのかと思ったりもするのです。 実は、私が申し上げたいのは、20年前は患者は訳もわからずに盲目的に医者に信頼を 寄せていた時代だったと思うのです。それが、この医療危機、医療崩壊ということが 叫ばれるようになった背景に、実に患者も我が儘になったということもあるのです。 情報を手にするようになって現実も知るようになったり、あるいは根深い不信感を抱 いてしまったり、権利意識ばかり高めてきてしまった背景に、国民・患者の不信感を 生んできてしまっているということが一方にあるわけです。その人たちが、今度、総 合医というようにいま謳われている総合的診断能力を持ったドクターというような標 榜があると、かなり高いレベルの要求をするだろうと。その高いレベルの要求の中に、 6年間の医学教育の中で人格涵養ということは十分に謳われてもなお現状ということ から考えたときに、総合医を養成するカリキュラムをつくることで例えば後期高齢者、 在宅で死を迎える人に十分に寄り添って医療を提供するような人がある日突然誕生す るのかという心配も患者の立場としては持つわけです。そうすると、今、新たな信頼 関係を構築しなければならない時代の中の、この患者の高い要求レベルということを、 3学会も含め、医師会も含め、どのように受けとめていらっしゃるのか。その辺りを お聞きしたいなと思います。 ○内田委員   大変難しい話だと思います。私は、おそらく、その信頼関係の再構築というのは非 常に厳しい話だというふうに思っています。辻本委員は、今は患者・医者関係は反抗 期である、ということをいつもおっしゃっていますが、私が持つ印象は、これは一つ の日医総研の調査なのですが、医療を受けた患者がその受けた医師に対しては信頼し ているというのが80%を超えているのです。「日本の医療は」という一般的な質問を すると50%ぐらいです。もう1つ、これは総研とは関係ないのですが、今の子どもた ちに「あなたは親を信頼しますか、尊敬しますか」というと、日本は20%ちょっとぐ らいしかないのです。非常に特殊な国です。韓国やアメリカとかは80%を超えている のです。非常に問題があります。同じ子どもに「学校の先生を尊敬しますか」という 質問をすると、これは20%を切っているのです。こういう非常に危機的な状況にある 中で医師・患者間の本当の信頼関係が再構築できるのかというのはものすごい問題だ と思っています。それに対して何をすべきかというのは、我々は誠心誠意、自分ので きる限りでの誠実な医療を提供していくということしかないと思うのですが、その辺 がどこに起因しているのかということをしっかり究明していかなければ、おそらく日 本の社会はガチャガチャになってしまうだろうなということをすごく感じています。 ○高久委員   私どもの大学は、5年生のときに学生全員を自分の出身の県の先輩がへき地の診療 所で診療をしている所に2週間ほど行かせています。その前に大学で病院実習を1年 間しています。彼らの報告書を私はいつも感想の所だけ読むのですが、へき地に行っ ていちばん感心することは、そこに行くとドクターと住民の方の間に信頼関係がある。 これは大学の病院ではよくわからなかった、これが医療の原点である、ということを 随分たくさんの学生が書いています。開業の先生が住民と年中接するようにすると信 頼関係が生まれてくる。そうすると、そこを通して専門医のほうにかかるようになり ます。   これは10年以上前の事ですが、ある日、地元の婦人会の人が来て、先生は高名な方 のようだが講演をしてくれといわれ、日曜の夕方、おじさんおばさん30人ぐらいに生 活習慣病の講演をしました。そのときに私は、私みたいに地元の人を直接診ない者が 講演をするよりも、本当は医師会の先生がこういうことをずっと地元の人にやられれ ばいいのではないかと思いました。実際にへき地に行っている卒業生はよく健康教育 講演をしています。住民教育に熱心で、糖尿病の話とかを夜やっている。そういう地 道な活動を医師会の先生方もされれば信頼関係ができて、総合医を経てという医療提 供体制ができてくるのではないか。道は大変ですけれども。 ○大島委員   これは私が全く個人的に考えていることなのですが、今までの大学の教育モデルは 非常に大きな問題があったのだと最近思い始めていまして、同じようなことの繰返し になりますが、ほとんどが臓器とか疾患を対象にした教育なのですね。いま高久委員 がおっしゃいましたが、地域の生活の中に学生を出して、そこの中で地域の医療がど うなっているとか地域の人たちがどうなのかということを体験させる。本当はそうい う教育というか、どういう言葉で言ったらいいかわからないのですが、1分1秒でも 長く延命をさせる。そして、とにかく早く治して社会に戻すということが絶対的な価 値だったわけです。それは社会の企業人としてというか、生産能力としてというか、 そこまで言ってしまうと言いすぎかもわかりませんが、そういう価値観が社会の価値 観と合致していて、医療の中にもそういうものが求められてきた。ところが、人間と いうのはそんな単純なものではなく、それぞれにいろいろな生活があって、生活の中 に人があるのだという教育が、大学医学教育の中にないのです。だから、そういった ものが今こういう形で噴出してきているのかな思ったりしています。 ○部会長   ちょっと1つだけ言わせていただきたいのですが、今日出なかった議論として、地 域という言葉は出ましたが地方自治体の話が全然出てきてないのです。少し妙なこと を申しますが、総合診療医なり、患者さんの比較的そばにいる医療機関という点から いくと、地方自治体というのは住民の健康を守るという使命があるわけです。そうい う立場からかかりつけ医を持つなりいつも相談できる医者をつくりなさいということ を言うことは決しておかしくないと私は思うのです。そのあげくで何が起こるべきか というと、地方自治体は家族なり患者たちに勧めるべきかというと、自分でいいお医 者さんを選んで、その方ときちんとコンタクトをとってということを言うことは決し ておかしくない。しかも、その場合に開業の方々は経験がおありですから、そういう ものを大事にしていく。もちろん、医者ですからいろいろな人がいますけれども、こ れはという方にご相談になればいいのではないかと。正直言うと、それと厚生省とは 無関係だと思うのです。だから、そういうプロセスを経て先ほどの53%が60%になり 70%になり、うまくすると80%まで行くかもしれない。私はそういうものを望んでい るのですが、地方自治体の話が全然出てこないのでちょっと不思議に思えてしかたが ないのだけれども、どうぞ反論してください。 ○江里口委員   医科もそうですが、歯科では成人検診を東京でいうなら各区民に対して役所から  受診票を郵送して、ほとんどが自分の誕生日を前後に2カ月ぐらいの猶余を持ってや るようなことが結構多いです。昔は葉書1本で「行ってください」みたいなやり方を しているとなかなか受診しない。しかし、受診票に問診表まで入ったような部厚いも のを誕生日にあわせてポンと送ると、何となくイメージとして行きたくなる。そうし ますと、今までかかっていた先生の所に行く方もいらっしゃいますが、その検診票を 持っていれば、試しにあそこの歯医者は新しくできたけれどもどうかな、という感じ で行く方もいらっしゃると思うのです。そうすることによって、今までずっと同じ地 区で同じ先生に診てもらっていたのがちょっと目先を変えるということもあるので、 そういう意味では総合医という看板を掲げていればその総合医のほうに行くというよ うなケースも、これからはあるのではないかと思います。   それから、それに伴って、先ほど南委員からも言われましたが、総合医というもの の地位の問題です。1例ですが、イギリスのある時期のように、ドクターかサージョ ンかということでどちらが上か、ドクターであればホテルの1ランク上に上げてくれ るぐらいに尊敬をしていたという時期が、逆に今はサージョンのほうがどちらかとい うと上になってきているような時代になっています。それから、出てくる論文にイン パクトファクターが付けるとすると、どうしても専門の先生のほうがインパクトファ クターを付けられる、総合医の研究は疫学的なものしかできなくなるというと、世間 がそれを低いレベルで見る。そういうことも含めて、総合医のレベルアップを国民全 体でやっていかないとなかなかうまくいかないのかなという気がします。ですから、 総合医というものをここで本当に決めて、この部会で「いいね」と皆で温かく送り出 せれば素晴らしいことだと思うので、質の担保というよりも、まずはそういう地位を 確保してあげるということを医師会と国民とマスコミも含めて一緒にやっていく。制 度云々よりも、温かく育ててあげるということのほうが大切なのではないかという気 がするのです。 ○辻本委員   厚労省にお願いをしたいのですが、もし調査をしていたら初回率云々という数字を 出していただきたいのです。自治体の病院でも、あるいは民間の病院でも、もっと言 えば大学の病院ですら玄関入口に地域の開業医の方の顔と情報というものを並べてそ ちらに戻っていただくような仕組みを一生懸命取り組まれています。その動きがすで に2年、3年ぐらい経っていると思うのですが、そのことによって患者が本当に地域 に戻ったのかどうかという、その辺りの調査みたいなものがあれば教えていただきた いと思います。 ○保健医療技術調整官    探してみます。 ○部会長   いろいろご意見を頂戴しましたが、そろそろ時間になります。実は、次回からのこ とについてのお願いなのですが、総合診療あるいは総合科といういろいろな言葉が使 われましたが、そのあり方についてさらにこれから議論を進めるための準備はできた のではないかと思いますので、外部の有識者からのご意見を伺おうと思っております。 そこから先がお願いなのですが、プレゼンテーションをしていただく方をご推薦いた だきたいというわけです。どういう方にお願いしたらいいかということで、是非、事 務局に伝えていただければと思います。最終的にたくさんのご推薦をいただいた場合 は、やむを得ません、私がご相談をしながら選択をさせていただきたいと思いますけ れどもお許し願いたいと思います。 ○保健医療技術調整官   次回以降の日程につきましては現在調整中ということでございます。日時が確定い たしましたらまたご連絡を差し上げます。 ○部会長    わかりました。今日はどうも長い時間いろいろとご意見をありがとうございました。 1