06/11/27 第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会議事録 第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会 議事録                            平成18年11月27日(月) 於・三田共用会議所大会議室 ○矢野補佐  定刻になりましたので、ただいまから第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委 員会を開催いたします。  本日は、相川委員、貫井委員、松田委員、山本委員から御欠席の連絡を受けておりま す。  また本日は、議事に即しまして、松江青葉クリニックの春木繁一先生に参考人として 御出席いただいております。  次に、資料の確認をさせていただきます。  議事次第  資料1.日本移植学会倫理指針(生体腎移植の提供に関する補遺等)  資料2.生体腎移植の精神医学的理解(春木繁一参考人提出資料)  資料3.第23回臓器移植委員会で指摘された論点  資料4.腎疾患等の患者から摘出された腎臓の移植について  参考資料1.臓器の移植に関する法律  参考資料2.「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)  参考資料3.日本移植学会倫理指針  以上、不備等がありましたら事務局までお伝えください。  それでは、議事進行を永井委員長にお願いいたします。 ○永井委員長  それでは、早速議事に入りたいと思います。本日は報告事項が2件ございます。まず、 臓器の移植に関する法律第11条違反事件を受けた論点整理についてということで、日本 移植学会における検討状況について大島委員から御報告をいただきます。続いて、春木 参考人から意見聴取を行うことになっております。また、その後、前回の臓器移植委員 会で指摘された論点の整理について、事務局から説明がございます。  それでは、大島委員から御説明をお願いいたします。 ○大島委員  それでは、その後の臓器売買に関する問題につきまして、日本移植学会での対応につ いて御報告申し上げたいと思います。その後、腎臓の病気の問題が新たに出現しまして、 その方の問題が非常に大きくなっていますので、その問題につきましては後の議題2で 学会の対応等について御報告を申し上げたいと思います。  11月13日に理事会を開きまして、前回のところで幾つかの宿題といいますか問題に なっていました点について、方針を決定いたしました。生体臓器提供に係る特別委員会 が答申したことについて、最終的に理事会が決定したものであります。  まず、臓器提供者の本人意思及び本人であることの確認につきましては、本日の資料 1にあります日本移植学会倫理指針、生体腎移植の提供に関する補遺の1、2、3を倫 理指針に盛り込むことを決めさせていただきました。  1番の、もともとある家族以外の第三者による確認について、第三者とは「倫理委員 会が指名する精神科医などの複数の者とする」というのが1点であります。  そして、提供者の本人確認につきまして、顔写真つきの公的証明書で確認をする。そ して、主治医が確認したことを診療録に記載するとともに、公的証明書の写しを添付す る。顔写真つきの公的証明書を所持していない場合は、倫理委員会に本人確認のための 資料を提出し、倫理委員会が本人確認を決定する。  3番目として、もし、提供者と移植希望者との間に金銭授受などの利益供与が疑われ る場合には、即座に提供に至るプロセスを中止する。  2ページ以降、生体腎移植実施に至るまでの手順について書いてあります。主なとこ ろは、2ページの一番下の○提供候補者は腎提供に関する十分な知識を得た後に、腎提 供の承諾書に署名をする。  そして3ページの特に2)でありますが、提供候補者が質疑応答によって腎提供に関 する十分な知識を得ることができる医療相談体制を整えること。そして、提供候補者の 意思決定を支援できる医療体制を整備する。  次の○、提供候補者は自発的意思で提供するという同意の上で、生体腎移植提供承諾 書に署名をする。  次の○、最終的な自発的意思の確認は、倫理委員会が指名する精神科医、弁護士、移 植コーディネーターなど、複数の第三者による面接によって行う。その上で、第三者に よる提供候補者の自発的意思の確認を得る。  というような内容の手順をお示しいたしました。  これにつきましては腎臓と限定して話が進んできておりますが、腎臓だけではなく、 他の生体臓器についても同様の扱いとするということを確認いたしています。  次に、現状は一体どうなっているのか、ということについてアンケート調査をいたし ました。それが資料1の5ページにあります。238の、特に移植施設の責任者に対する アンケート送付でありますが、その回答数は204で、回答率が85.7%であります。  1番の「貴施設に倫理委員会がありますか」というのに「ない」と答えたのが11あり まして、実はこれが一番私どもにとってはショックなことであります。これにつきまし ては、とにかく移植をやる以上は倫理委員会がないのは言語道断であるという立場で整 備を進めなければいけないという勧告をいたしているところであります。  その後の「どなたが第三者として確認しておられますか」、あるいは6ページの「提供 意思の自発性をICなどの文書で確認をしておられますか」という点で、「いない」とい うのが81。そして、「親族であることをどのように確認しておられますか」では「自己 申告」が主であって、あとは「HLAなどの医学的な検査」という実態が浮かび上がっ ております。  これについては予測より余りよくなかったなという目で見ておりますが、早急に先ほ ど示した手順に従ってやっていただけるように学会としては推進をしていこうというこ とで進めているところであります。  それから、国際的な状況がどうかということについて調査をさせていただきました。 生体臓器提供についての法整備はあるところとないところがありますが、法整備につい ては、提供者の範囲を決めているところが幾つかの国であります。日本の場合には、生 体臓器提供についての法整備はないわけでありますが、移植学会の倫理指針の中で6親 等以内とうたわれていますが、最も広い範囲は台湾の5親等以内、そして韓国、英国の 4親等以内、フランス、ドイツの2親等ということで、これは法律に定められていると ころであります。アメリカについては法律がない。そして、WHOでも親族等の範囲に ついて規定はされていません。というのが現状であります。  もう一つ、学会員に対して倫理指針の遵守を徹底する意味で、18年11月13日付で日 本移植学会理事会名で、会員各位に当たって「倫理指針の遵守について」という文書を つくり、それを送付してこの徹底を図っているところであります。  生体臓器提供者の範囲についての倫理指針そのものをどう扱うかという問題について は、国際学会の動向や来春改定が予定されておりますWHOの新しいガイドラインを参 考にしながら検討したいという状況になっております。  以上が日本移植学会で対応した現状でありますが、以下は私の感想のようなことであ ります。学会では、このような新たな方針を決めまして学会員に徹底するように指示を 出しましたが、今回の臓器売買問題では法的には問題なく、しかも学会員でなければ学 会の方針に従う必要もないことになりますが、そうであれば、今までどおりやっていて 何も問題がないということであります。このように考えますと、今回の臓器売買問題は、 患者のことを必死で思う善意の医師が自分の考え方でやってきたことに何も問題がなか ったということを確認しただけということになりかねないわけであります。というよう なことを考えますと、何のためにこれほど大騒ぎになったのか、非常に複雑な気持ちで あるというのが正直なところであります。これは、私の個人的な感想として受け取って いただければよいと思います。  以上です。 ○永井委員長  ありがとうございました。ただいまの御説明に対して、御質問、御意見等をお願いい たします。 ○北村委員  今、大島委員からの、フランス、ドイツは生体臓器移植に対する法律があって2親等 とおっしゃっていますが、先ほど室長とちょっとお話ししていたのですが、アメリカで は行われている事を知っているのですが、ドイツでも友人からの生体提供が行われてい るという話があったのですが、その友人というものはどうなっていますか。 ○大島委員  「特別親密な人」というのが一つついております。 ○北村委員  それは何親等に関係はなしで。 ○大島委員  そうですね。再生不能臓器は2親等以内、配偶者、婚約者、特別親密な人に限る、と。 ○北村委員  それが例外事項としては入っているわけですね。 ○大島委員  そこまで言われますと、法に記されていることですので、その解釈をどうするかとい う問題ではないかと勝手に思いますが。 ○北村委員  はい。 ○永井委員長  いかがでしょうか……。あと、本人同定を公的な書類で行うということですが、生体 肝移植などでかなり急ぐような場合でもそれは遵守すべきということでしょうか。その 点について意見はございませんでしたでしょうか。 ○大島委員  基本的にこれを準用するということですが、非常に緊急性の高い場合にどうするのか という議論までのコンセンサスは、今のところ得られておりません。 ○大久保委員  最後の方で大島先生が自分の御意見というのをおっしゃいましたが、今回、この後の 問題もあるのですが、学会がこういう倫理指針を決めて、学会の中だけではなくて外部 の人も入れた倫理委員会をつくって、そういう中でこういうことをやっていったらどう かということを決められたと思うのですが、今回のように学会員ではない。法律に別に 規定しているわけではないですから、これもまた法律違反でもない。それなら一体どう すればいいのかなと、本当に。この前、生体移植についてもこういった場で議論するこ とが大事ではないかということで皆さんの御意見があったと思うのですが、ここで意見 を交わして、生体移植の形がある程度、ガイドラインではないですが、こういう形が望 ましいということで、学会なら学会でこれを遵守しましょうということで決まったとこ ろで、今回のようなこういう施設については一体どうすればいいのかなというのが、本 当にこれで終わってしまうのかなと、今、先生がおっしゃったように非常にひっかかる ものがあるので、一体どうすればいいのかというのが一番大きな疑問です。 ○永井委員長  厚労省としては、その辺はどのようにお考えでしょうか。 ○原口室長  こうして学会での倫理指針のほかにもガイドラインをつくるべきだという議論を提起 しましたのは、今回の事件が学会員以外によるものであったからでございます。どうあ るべきかを整理することと、それをどう徹底させるのかということになると思いますが、 学会で倫理指針をつくっていただいて、それでやっていただくだけでなく、さらに対応 していきたいと、そういう認識でございます。あとは、どのように徹底するかの御指摘 であると考えております。 ○永井委員長  いかがでしょうか。非常に難しい問題ですが、例えば「学会員以外は行ってはいけな い」といったら、それは行き過ぎなのでしょうか……。その辺、非学会員に対するガイ ドラインというものをどのように考えていくかという問題だと思うのですが。 ○北村委員  ちょっと話が変わるかもしれませんが、厚生労働省が生体臓器移植に関与できる点、 例えば診療報酬から社会保険庁を通して調べるとかいうことも記事に出ておりましたが、 この臓器対策室に限らず、厚生労働省が今回のようなことにも関係して踏み込める範囲 は明確に我々に示していただくことができるものなのか。できるのであれば、どこが行 政として踏み込める点か。非常に難しいとおっしゃられるのか。学会の意見は今、大島 先生が私的な御意見と申され、複雑で難しさがあるという観点があるわけですが、行政 としてはどこまで生体臓器移植に踏み込む権限をお持ちかということがありましたら教 えていただきたい。 ○原口室長  お尋ねでございますので、初めに診療報酬の話がございました。これは省の中で必要 あれば情報交換しながらそれぞれ取り組んでいるところでございます。ただ、この指針 に関して議論します際には、まずは学会員に限らず共通してどうあらねばならないかの 議論をお願いしたいと考えておりまして、議論をいただく際に、あらかじめほかの制度 との関係はこうなります、というところまでは申し上げられないことになります。  そのほか、どこまでの踏み込みができるのかということでございますが、現行法の法 制としましては、医師であれば非常に幅広く診療できることが原則だというのが医事法 制の基本的な成り立ちでございますので、そのことを禁止してしまうことはできない。 ただ、あるべき姿は当然こうだと示すことはできる、ということであろうと思います。 そのようにしました上で、省全体としてできるだけ徹底させるために関係の部署と共同 して対処することになる、そういう対応になるだろうと思います。 ○永井委員長  ということは、まず学会のガイドラインを少し変えていただいて、それをできるだけ 周知するということでしばらく様子をみるというのか、もう少しいろいろな情報を集め て総合的に対応を考えるということなのでしょうか。今のところでは、まずは足元から 固めていくということなのではないかと思いますが。  今回の移植学会の改定に関して個別の問題で御意見等がございましたら、もう少しお 伺いしたいと思いますが……。中にはプライバシーといいますか、それぞれの家庭のい ろいろな事情で余り明らかにできない場合もあるとは思うのですが、そういう問題は今 議論するというよりも、まずは大きな枠組みを考えているということでしょうか。 ○大島委員  そうですね。細かい事例について考え始めますと、それについての規定、規定、ある いは指針、指針という形になってきますと、これは相当いろいろなバリエーションが出 てくる可能性がありますので、全体枠をきちんと決めた上で、しかし医療というのは常 に例外的な事項が生まれるものであるということをきちんと押さえた上で、その場合に どうするのかという対応の仕方を別項設けておくということだろうと思います。 ○永井委員長  そういうことでよろしいでしょうか。これは既に周知なされたわけですね。 ○大島委員  学会の中では、一応この方向で全部進んでいます。 ○大久保委員  では一つだけ。これは今、当然倫理委員会がなければいけないということで、ないと ころについては早急につくる。それがなければだめだよということなのか、それとも、 今はやってもいいけれども、とりあえず早くつくれということなのですか。 ○大島委員  とりあえず早くつくれという。だめだよ、というところまではいっていません。 ○永井委員長  よろしいでしょうか。 ○町野委員  移植学会のガイドラインと言いますか、それとの関係は問題なのですが、移植学会は 何といっても任意団体でございまして、それをそのまま公的なものとするわけにはいき ませんから、移植学会が、私もそこの倫理委員ではありますが、自分たちでまず検討し なければいけないことですが、これをこの場に乗せていただくことが私は必要ではない かと思います。そして、その上で内容を何らかの格好で、ガイドラインをつくるか行政 指導か知りませんが、そういう格好で指導していくことが必要ではないかと思います。 現在の移植学会のガイドライン自体も、前にもお話がありましたとおり、少人数の委員 の間でつくられたものがそのまま理事会でオーソライズされているという格好になって おりますから、もうちょっと詳しくするとかいろいろなものがあるのではないかと思う のです。「親族に準ずる者」というような書き方だけでいいかとかいろいろな問題がある と思いますので、そこらを移植学会だけではなくてこの臓器移植委員会とかいろいろな ところで議論いただいてやった方がいいように思います。私は、移植学会の考え方その ものをただちに実行するというわけにはいかないのではないかと思います。 ○永井委員長  そうすると、これを参考にしてさらに行政とも一緒に詰めていくということになりま すか。 ○町野委員  はい。 ○永井委員長  よろしいでしょうか……。  もしよろしければ、続いて、春木参考人をお招きいたしておりますので、お話を伺い たいと思います。 ○春木参考人  精神科医の春木でございます。スライドを用意しましたが、手元に厚生労働省で同じ ものをコピーしていただきましたので、どちらでもごらんいただいて。30分の時間をい ただきましたが、皆様にお配りした10数枚の資料について一つ一つていねいに御説明は できませんので、省略しながらお話ししていきます。  表紙の絵は、国立岡山医療センターで死体腎移植を受けられたレシピエントの方がお 描きになられたものですが、田中信一郎先生という移植医の方からもう4〜5年前にい ただきました。この絵は、ただ単に描かれたものではなくて、パッチワークのような特 別な手法を用いてつくられたものらしいですが、何かのコンクールで賞をもらわれた。  私は、ほぼ35年、東京女子医科大学で透析患者と移植患者さんの精神科医としてのコ ンサルテーションリエゾンと申しますが、本職は精神科医ですので、日ごろは精神障害 の患者さんを相手に仕事をしておりますが、続けてきました。この絵は精神医学的にみ るといろいろな意味がありますが、そういう解説は抜きにいたしまして、移植後、本当 に気持ちも明るくなられて、フルートを吹いているのが患者さんの投影だと思いますが、 後ろについている伴奏者はもちろん移植医やそのスタッフですし、ドナーを含めた家族 だろうと思います。多くの移植を受けられない透析患者さんは、こういうカラフルな明 るい絵は決して描けないということです。これは、厚生労働省の方が多分私の意図を酌 み取って、白黒ではなくてカラーにしてくださったのだと思います。非常に心温まるも のだと思います。  希望に満ちたと言いましょうか、この方は死体腎移植でしたが、そういう方は無条件 にうれしさというか感動とか喜びというものを素直に表現しておられると思います。  2ページは、皆さんは普段、精神医学に余りなじみがない方が多いだろうと思いまし て、私が透析患者さん及び移植患者さんに面接をするときに、この順序に従って患者さ んの心をとらえていくという精神科医としての基本的な心構え、この順序で大体患者さ んの心は動いていって最後の答えになる。しかしここまでは、私は散髪屋のマークと呼 んでおりますが、あたかもタッタッと下の方へいったかと思うと、もう一度もとへ戻り ます。そういうことを何回も繰り返し繰り返し、散髪屋のマークのように行ったり来た りしますが、それがやっととまったところが答えになりますが、なかなかとまらないの が透析患者さんであり、まして移植の患者さんも。  移植前の患者さんはまだ透析を受けておられるので、透析患者さんということになり ます。ただ、移植を前提にしますと少し違ってまいりますので、移植前に面接をします と、少しとまってくれる時期があります。それから、ドナー候補者もこの粗筋で面接を 進めてまいります。  少し解説を加えます。インフォームド・コンセントとしきりに言われますが、日本の ドクターはインフォームドに随分力を込めておられると思いますが、精神医学的に言う とコンセントの方に大切な意味があると思います。ギリシャ語なりラテン語でコンセン ティエールという言語がありますが、コンというのは「ともに」という意味です。英語 でいうとトゥギャザーになります。センティエールは、感じるというセンスとかそうい うことからおわかりのように、トゥフィールという意味です。ですから、トゥフィール トゥギャザー、ともに感じ合う。これは、だれとだれがともに感じ合うか、もうおわか りだと思いますが、医師と患者がともに、医者だけが感じてもいけないし、患者さんだ けが感じてもいけない。いろいろステージを踏みながら感じ合っていく。共感というの はそういうことですが、そうしますと患者さんの心がわかってまいります。  先ほど散髪屋のマークと言いましたが、段階を踏んでわかってきましても、またしば しばもとへ戻るが患者さんの心理です。よく「そんなことは聞いてなかった」というの に対して「あれだけ説明したのに」というドクターの話がありますが、それはほとんど インフォメーションにだけ、コンセントという点に重きを置いておられないということ があると思います。それは、コンセントできる能力というのが、いろいろな精神医学的、 心理的な問題で患者さんは大体落ちています。その同意能力をいかにして上げていくか。 そこは精神医学的困難とか心理的な問題、その他いろいろな精神症状をお持ちの場合が 多いので、どうしてもそれは理解とか認知とか、まして心の中でわかっていくというだ けの余裕がないということがあります。それをこちら側が、精神科医ですから、同意能 力をゆっくり上げていくということは、実は精神科の患者さんでも同じことです。こう いうふうに極限状況に置かれた透析患者さんなり移植の前の患者さん、あるいはドナー の方々、ドナー候補者と言った方が正確ですが、そういう方々は簡単にはコンセントが できにくい状況に置かれていることを承知しておかれた方がいいだろうと思います。  しかし、話を聞いていきますとどこかで、我々精神科医ですと、ああそうだったのか、 とか、ああ、今はそういう気持ちなのか、という腑に落ちるということが起きてまいり ます。この腑に落ちるということが大事でして、これは五臓六腑に掛けた意味がありま す。内臓の移植なので腑に落ちるという言葉を使いましたが、臓器移植というのは関係 者がどこか腑に落ちないことがあると後で齟齬が生まれてくるという意味で、あえて使 わせていただきました。日本語にはいい意味がありまして、腑に落ちるというのは、単 なる納得とか理解とかというものを超えていると思います。お腹でわかる、心でわかる ということです。  そのために我々の一つの基本的な姿勢と言いますか考え方としては、まずは相手の身 になってお話を聞いていく。身になるということは、まさか自分が患者になるわけには いきません、ドナー候補者になるわけにはいきませんが、想像力とか自分を相手の立場 に置きかえてみる。これが、例えば自分の家族、お若いドクターならば両親でもいいで すし、あるいは将来の御自身でもいいですし、あるいは小児や思春期の患者さんだった ら、自分の子供さんがそうなった場合というふうに、少なくとも相手を家族とか身内に 置きかえて考えますと、少し近づくことができると思います。  そしてゆっくり話していただくわけですが、彼らは話は上手ではありません。やはり 繰り返し繰り返し聞いて受けとめてあげる。その中で私どもが一番ポイントに置いてお りますのは、透析患者さんはもちろんですが、移植の前の患者さんであろうと、さかの ぼって、あなたの人生のいついかなる時期に運悪く腎不全になって透析患者になったの かという、これは透析歴によってその暦年齢が違うわけですが、何年か前のその時点ま でさかのぼってその辺の歴史と言いますか事情をよくお聞きする。そうすると、なぜ移 植したくなったのかということもおのずから見えてまいります。  大体その話の中には、しかし自分に都合よくといいますか、ここは防衛といいますが、 心理的防衛が働いていまして、大体否認とかカモフラージュ。カモフラージュとあえて 使ったのはドナー候補者が念頭にありますが、要するに自分で自分自身をごまかしてい る。自分の本当の心はできるだけ認めたくないという気持ちでいることが多いので、こ れをそのまますぐにこちらが、そうではないでしょう、とかいうふうに打ち破らないで、 そのままそうっと、うそのつき合いと書きましたが、患者さんあるいはドナー候補者の うその部分もそのままそっくり受けとめて支えていく。そして、ああ、この医者は、つ まり精神科医ですが、ああ、この先生はそう簡単に切り込んでこないんだ、詰問してこ ないんだということがわかって信頼関係の構築を面接の中でやっていきますと、少し違 ってまいります。  この辺は、ちょうど刑事コロンボが犯人とわかっている人の話を、うそだとわかって いながらゆっくり聞いていく。最後の最後の土壇場で彼は直面化というのをやって、あ の場合は犯罪ですから犯人逮捕と言いますか明らかにする仕事をするわけですが、彼の、 そのまま正直に素直に、あたかもだまされたように聞いていく、そういうやり方といい ますか、それが一つの精神科医のテクニックですが、それはテクニックだけに頼るとい うことではなくて、こういう基本的な考え方で面接を進めていくことになります。  私はここ最近、しばしばあちこちのマスコミから取材を受けまして、新聞社の方もそ の他のマスコミの方も同じ手法を用いておられるなということがよくわかりました。ほ とんど我々の話を黙って聞いておられて、核心部分、一番聞きたいところは最後に突っ 込んでこられる。ですから、彼らの手法は長い時間をかけてゆっくり相手の話を聞きな がら、場合によっては話しすぎてぼろを出してしまうことも起こり得るなということが 自分の経験でわかりましたが、ドナー候補者のいろいろな今問題になっておりますよう な、言葉は悪いですが少し怪しいと言いますかそういう関係性も、すぐ見破ったから追 及するということではなくて、それすらもずっと置いておいて、最後にぼろが出るとい う形が一番穏当なやり方だと思っています。  ドナー候補者にしろ移植の患者さんにしろ、結局は、特にこれはドナー候補者のこと が念頭にありますが、最後の二つ、「直面化、しっかり悩んでもらう、正当に悩むことが できるように援助する」というのは、大部分のドナー候補者は、提供したくて来たとお っしゃいますが、実はいろいろに心が揺れておられます。先ほどの散髪屋のマークとい うのに象徴されるように、あるいは時計の振り子のように右に揺れ左に揺れております。 それについていきながら、私は半歩おくれてついていくといっています。一歩おくれる とおくれすぎです。半歩おくれてついていく。面接者としてはそのくらいについていき ながら、そして最後は、どうされるか。ここに限って言いますと、提供するのかしない のかという答えを出していただく、こういう手順になります。  2ページからは、このスライドは一昨年、ドナーの精神医学的問題ということで移植 学会で講演させていただいたのを使っておりますので、お読みいただければ、こういう 問題があるということがおわかりいただけると思います。4ページもそうですし、5ペ ージもそうです。いろいろ矛盾する問題が、特に移植後には続いて出てまいります。  建前と本音というところも、7ページ、8ページ、9ページに書いておりますが、こ れは主として母親の言葉です。母子の腎移植は愛情に基づいて純粋なものだと観念的に とらえられがちですが、お母さんですら、実は移植前のお話と移植後に伺うお話では随 分違っております。ここに具体的に一つ一つ、お話しになられた言葉を幾つか拾い出し て書いておきました。びっくりするような、十分面接したつもりでもこのようなことが 出てまいります。  10ページ、今度は兄弟ですが、同胞がドナーになる場合もいろいろなことがあります。 親子よりももっと複雑な関係ですので、これもお読みいただければ、なるほどとお思い だと思います。アンビバレンシーというのは、提供したい気持ちとしたくない気持ちと 両方持っておられる、相矛盾するということです。だから、移植医の前では内心と反対 の態度をとっておられることが多いということがあります。  それから補償要求とか、しばしばアンビバレンシーを無視して、つまり先ほどの散髪 屋のマークなり時計の振り子がとまらないうちに移植医療に突き進みますと、一転して、 入院されてから病棟で攻撃性が移植のスタッフへ向けられる。しばしば主治医よりも看 護スタッフへ、準夜、深夜帯の時間に向けられて、看護婦は非常に倫理的な葛藤も含め ましてこういう場面に直面して困ることになります。  それから同胞の場合、結婚しておられるかしておられないかということによって、ド ナー候補者の方が提供される場合も随分違ってまいります。もちろん配偶者の方が心か ら賛成してくださる、応援、支持があるというときにはまあ大きな問題は起きませんが、 しかしドナーの知らないところで、これは私はノン・ドナーと呼んでおりますが、ドナ ーを除いたところでいろいろな関係が生じていて、家族内でドナーの知らない話がまと まっていたりすることがあります。これもしばしば移植後ということで、ノン・ドナー までには面接がなかなかできにくいということがあって、ああそうだったのかという先 ほどの話が、移植前では、ああそうだったか、にならないということもあります。  それから、配偶者が提供に反対の場合は、もうこれは御経験がおありの移植医の先生 がおられると思いますが、なかなかの葛藤、あつれき、対立が生じて、しばしば中断、 保留になることがありますし、そうでなくても、対立のまま実施されますと、ドナーの 家族の離婚とかその他いろいろなことが起きてまいります。  逆に配偶者及びその親たちに反対してもらうことで提供を逃れる、そういうドナー候 補者もおられるということがあります。それは、レシピエントの家族との葛藤やあつれ きを回避したいということだと思います。  それから、夫婦間生体腎移植について少し詳しくお話し申し上げます。女子医大では、 1980年代だったと思いますが、もう20年ちょっと前になると思いますが、今は新潟大 学に移られた高橋公太先生がABO不適合の移植を可能にされたことで、ABOの血液 型が一致しなくても夫婦間で移植が可能になったということがあります。最初は移植医 だけでドナーの自発性の問題を判定しておりましたが、それはやはり精神科医がきちん と診ないといけないのではないかということが、数例経験するうちにわかりまして、私 が夫婦間生体腎移植のすべてのケースを移植前に面接をしてドナーの自発性を確かめて から、移植を行うか行わないかということを私から移植医に意見をさしあげる。私の意 見をもとに移植医が最終的に判断いただく、という仕組みをとってまいりました。  これは平成13年ぐらいまでの記録しか手元にまとめられませんでしたが、これを足し ますと61組の夫婦が移植をしたいといってこられたことになります。Aグループは24 組です。これは一致型と呼んでいますが、これは長期透析患者さんが圧倒的に多いです。 よくお父さんは頑張ってくれた。大体40代後半から50代の方が多いですが、もうこの 年になれば子供もどうやら成人して、私の腎臓を片方取っても大丈夫だ。お父さんにも しものことがあればと思っていたけど、何とか透析でお父さんも頑張ってくれていて、 感謝のプレゼントとしてお父さんにあげたい。というのは、長期透析患者さんはこのこ ろはアミロイドーシスという骨関節が痛む、隣のベッドでウンウン言ってほとんど眠れ ない。透析中も2〜3時間たつと痛くなってくるという状態で、本当に苦しがって透析 を受けておられますが、夫のそういう状態を見るに見かねて、提供したい。  レシピエントと同席面接しますと、これは大体7対3の比率になりまして、奥様が提 供者になられるのが7、ご主人が3です。これはアメリカでも私は学会で報告しました ら、アメリカ人はレディーファーストだからもう少し夫の提供が多いと思っていました ら、アメリカもやはり7対3なのだそうです。だから、余り世界的に変わらないのだろ うと思います。日本人だからということではなさそうでした。お父さんが頑張ってくれ たからだといって私に話している横で、レシピエントになる御主人は涙を流しながら奥 様の言葉を聞いておられるというのが、典型的なAグループの組です。  ですから、この場合は大体1回の面接、2回の面接ぐらいで移植医に、移植されてオ ーケーでしょう、と御返事ができます。  17組のBグループですが、これは移植医のところへは「したい」といって来られた。 そして1回目の同席面接でもそうおっしゃいます。しかし、後でドナーの提供の自発性 を知るためのコツということで少し詳しくお話ししますが、とにかく、これは何となく 変だなと思って、2回目以降、ドナーだけ単独の面接を続けますと、すぐ2回目で出て くる場合もありますし、3回目、4回目ぐらいでやっと出てくる場合もありますが、と にかくしたくないのだけど、ノーと夫に言えば何をされるかわからない。暴力も含めて、 あるいは極端な場合は離婚だというようなことで、あのお父さんは何をするかわからな いからとにかく連れて来られたのだけど、ひとりだから申し上げますと、私の本当の気 持ちは提供したくないのだ、ということをおっしゃいます。  しかし、自分が提供したくないと言ったということは絶対夫に言わないでほしい。理 由は、私の何らかの身体医学的な理由で、大体、腎臓が何かだめだということにしてほ しいということをおっしゃいます。そして、私からではなく、移植医の先生が場合によ っては自分を入院させてでも調べて、細かく調べたらやはり奥さんの腎臓は使えないと いうふうにプロセスを踏んでから、いきなり私の面接が終わってすぐ移植医が何かとっ てつけた理由で言わないで、そこのところは上手にカモフラージュをしてほしいという 要請をされます。  これは、表面的には移植すると言ってこられた中に17組もおられるわけです。精神科 医に、そういうふうに正直な気持ちをおっしゃっていただけます。これは、冒頭にお話 ししたプロセスを踏みながらゆっくり聞いていき、ここまで信頼関係の構築ができてか らでないと、この話が漏れてしまうとたちまちにして悲惨な家庭状況になりますので、 主に彼女らですが、彼女らがそこのところは非常に気を遣っていることがありありと伝 わってまいります。  Cグループは少ないのですが、ドナー主導型と私は呼んでおります。レシピエントは 透析でもいいなあと思っておりますが、どうしてもドナーの方が提供したい、と。典型 的なケースは、これは御主人が奥様にあげるケースで珍しいのですが、婚前に既に2回 ぐらい性的交渉があって、いずれも人工妊娠中絶をしてもらっている。正式に結婚した ときに妊娠されたのが、途中で妊娠中毒症になって、結局妊娠腎から腎不全になられた。 子供も得られないだけではなくて、奥様が腎不全になられて透析になった。たまたまA BO不適合でも移植できるというニュースを新聞で見て、地方から女子医大まで飛んで こられて、自分の腎臓を提供してほしいとおっしゃる御主人というのが一番印象に残っ ております。  御夫婦の間で御主人の方が提供するということは、過去に何らかの自責感といいます か罪責感といいますか、自分が奥様にかなりの被害を与えた、それのおわびといいます か弁償、そういう心理が働いていることが多いわけです。これが6組。  それから、最近の20代、30代の御夫婦は意外にドライでして、Dグループ。まだ少 ないですが、ある若い奥さんですが、このまま透析患者でいてもらったのでは、私と子 供の将来も含めて、いつ死ぬかわからないし、今の夫の経済力ではやっていけない。そ れなら自分の腎臓を一つやって、もっと働いてお金を儲けてほしいと、ざっくばらんに おっしゃいます。夫はそれを聞いて喜んで、では、ということでやってこられる。ドナ ー主導型というよりも、これはレシピエントとドナーの利害が一致している。夫婦間の ある意味のギブ・アンド・テイクですし取り引きです。これを倫理的にどう解釈される かは難しいところだと思いますが、お互いがわりとケロッとおっしゃいますので、移植 医には、そういう移植ですが私はいいと思います、と御返事申し上げる。これは実際に 移植されております。  それから意外に多かったEグループは、移植医から私に面接の依頼があるわけですが、 初回からもうキャンセル、つまり精神科医が登場することを知って、もう来られなくな る。移植をあきらめられるか、それともよその病院に行かれるか。精神科医が出てくる ことを知ってということは、二つあります。つまり、Bグループだった方が、夫もわか って、ではやめようという話になったのか、それとも、何らかのやましいところがあっ て、これ以上追及されたくないということで来られなくなった。2回目、3回目と私の ところへ来ておられて、途中で来られなくなっておしまいになってしまう。これも、ド ナーの本音を少しずつ伺っていくと、ドナー自身、あるいはレシピエント自身が、待た せることに意味があるということは後で申し上げますが、ああ、ドナーはそういう気持 ちでいたのかということに気づいて、つまり家庭内で、あるいは夫婦間でこの話は中断 になってしまうということであろうと思いますが、いずれにしても来られなくなってし まうので、その後の結果がどうだったかはわかりません。当然、このグループは成立し ない。  しかし、61組来られて11組も成立しない。Bを含めると28組の方が、精神科医が登 場しなければ、もしかしたら移植をそのままされていた場合があるとすれば、ドナーの 腎臓提供の自発性の確認は大切なことだと思います。  私も35年やっていまして、それが昔の移植では十分確認されていなくて、移植後、い ろいろな精神医学的な問題になってあらわれまして、その対応に苦慮いたしました。大 部分の方はそういう問題が起きてこないのに、こういう人たちはどうしてなのだろうと いうのが最初の疑問でしたが、いろいろ経験するうちにドナーの自発性、移植したいと 来られたとしてもいろいろカモフラージュしておられました。段階としては3カ月前に 本格的な面接を、つまり半年も1年も前では余り逼迫性がない。透析患者さんですので、 3カ月前ぐらいから始めて、もし問題があって4カ月、5カ月といって待っていただい ても大体は大丈夫。緊急性が余りないということがあります。  もう時間がなくなったので、(1)は重複しますのでやめます。  14ページ、(2)ですが、ジェノグラムというのをときどきつくっていただくことにして おります。ここでの例は車家のジェノグラムですが、車家は2親等関係はだれもいない、 実の親子はだれもいない不思議な家族です。もしこの寅次郎さんが糖尿病性腎症で透析 患者になったらどういうことが起きるか、というのをしばしば講演に使います。これで 彼が移植を希望した場合に、この家族の中からだれがドナーになるかと考えると、なか なか複雑なものがあると思います。こういう家族は実際におられるということです。  ジェノグラムをつくってもらうというのは、こういうふうにレシピエント、ドナーで 協力して私の目の前でつくっていただきますと、もし本当の関係でないとこれがうまく つくれないということがあります。これで真の家族か家族でないかということがわかり ますし、それから幼児期のあだ名とかどう呼んでいたかということまで聞きますと、同 胞とか夫婦を装っておられても、大体どこかで何かうそが入ってまいります。  これは私の私見ですが、倫理委員会というのはエティカルということですが、私ども から言うとサイコエティカル、揺れ動いている心というものを念頭におかないと、人の 心はスタティックなものではないということがありますので。  「面接のコツ」というところに書いてありますが、NBM、ナラティブスベースドメ ディシン、ナラティブサイコテラピーといって、物語精神療法という考え方がございま すが、個々の物語を語っていただく中でこそ初めて心が見えてくるということで、上に 「閉ざされた面接」と書きましたが、これは病気を持っておられる方の症状については 非常にクリアカットにわかりますが、残念ながらドナー候補者は健康な人です。レシピ エントも移植前にはある時点では精神的には一時健康になります。移植を前にしては、 皆さん、健康になります。ですから、病気ということを発見するよりも心の動きを知る という意味では「開かれた面接」と私は呼んでおりますが、必ずしもサイエンティフィ ックではありませんが、心というのは残念ながらそういう手づくりの部分といいますか、 職人芸的なところをまだ必要とする領域だと考えております。  時間をオーバーして大変失礼いたしました。 ○永井委員長  どうもありがとうございました。ただいまの御意見について、何か御質問、御意見は いかがでしょうか。 ○北村委員  春木先生に一つだけ教えていただきたいのですが、生体臓器提供者は、同時に自分の 死後、あるいは脳死後に臓器提供をしたいと思っている方が多いのか、特定の人に対し ては強いそういう気持ちをお持ちですが、不特定の場合には必ずしもそうでないのか、 わかっておれば教えていただきたい。 ○春木参考人  残念ながら、面接でそこまでお聞きしたことはございません。 ○永井委員長  しかし、これから本人の自発性あるいは本人の同意ということを進めていく上では、 相当気をつけて進めていかないと、新たな問題を生み出すことになりますね。 ○春木参考人  我々が知っている家族像というのは、かなり昔の日本の家族像を描いていますが、現 代は本当に、社会的問題、いじめとかああいうものにみられるように、家族というのは 随分変わってきている。事実、法律的に例えば夫婦別姓とか内縁関係とか事実婚とかい ろいろな形で認められている家族がありますので、単に戸籍抄本とか、ましてや住民票 といったものではほとんど意味をなさないと思っています。 ○永井委員長  大島先生、日本移植学会ではこういう精神的なサポートについても議論されてきたの でしょうか。 ○大島委員  学会等では、今、春木先生がおっしゃられたような話はかなりいろいろな形で議論さ れていまして、今、春木先生がお話しされたようなサポートをどういう形で、特にドナ ーに行っていくのかというのは非常に大きなテーマの一つであったと、今でもそうです が、と考えていただいていいと思います。 ○小中委員  貴重なお話をありがとうございました。お教えいただきたいのですが、春木先生がお 話をされた生体ドナーの方は、特定の病院だと思うのですが、その施設では全ての生体 ドナーの方に精神科医の先生がお話をなさっているのかということが一つと、もう一つ 教えていただきたいのですが、先ほど、五つのグループ化をなさって、そのうちのEの グループは成立していないとお伺いしたのですが、AからDまでというのはすべて御提 供になったのかどうかという点についてお教えいただきたいのですが。 ○春木参考人  Eは当然、移植は成立していませんし、Bは移植は成立しておりません。  それから、その前の質問は何でしたか。 ○小中委員  先生のかかわっておられる施設ですべての生体ドナー候補者にお会いになっているか どうか。 ○春木参考人  私は最初の8年間は東京におりましたので、そのころは移植の例数も少ないので会っ ておりましたが、非常勤になりましてからは、移植医のアンテナにひっかかった親子、 同胞。移植医も経験を積んできますと、もう大島先生ぐらいになるとピンとくるので、 そういったケースを私の面接に回していただいている。ただし、夫婦間生体腎移植はい ろいろな問題があるので、すべてを見させていただいております。 ○金井委員  一つお聞きしたいのですが、夫婦間でない場合の生体の場合との差は何かありました か。 ○春木参考人  親子とか同胞ですか。 ○金井委員  はい。 ○春木参考人  やはり、夫婦はもと他人ということがありまして、Bグループの存在というのは私に とっては意外でした。親子、兄弟はかなり家庭内で、移植医の前にあらわれるまでに相 当もまれてもまれて、つまりノンドナーも参加して、だれがドナーになるかということ について随分それなりの家族内のディスカッションが行われて、そのプロセスで自発性 のない方はだんだん落ちていく。しかし、夫婦間生体腎移植は2人の間だけで話が進む という、だれにも相談できない。場合によっては、Bグループの奥様などは、こんなこ とは実家の両親にも相談はできないというようなことがありまして、孤立無援という状 態におかれていることもあります。そのほかのグループもそうですが、そういう親族に 話してしまうと反対されてつぶされてしまうという危機感をお持ちです。たとえAグル ープの奥様でも、そういうふうにおっしゃっても、子供さんにも内緒にしておられると いうこともあります。もちろん、子供さんも大きくなって応援してくれている、という 方もおられました。  概して夫婦というのはほかの親子兄弟よりも応援団が少なくて、お互い孤立しながら 決めている、そういう環境にあると思います。 ○永井委員長  ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいでしょうか……。それでは、春木先 生、ありがとうございました。  続きまして、前回の臓器移植委員会で指摘された問題点につきまして、論点整理を事 務局からお願いいたします。 ○原口室長  それでは、資料の3をごらんください。この資料は、前回の会議においては、公的指 針である臓器移植法の運用指針に生体移植にかかわる規定を追加する形での改定をした 方がよいのではないか、ということを申し上げたわけでございまして、この運用指針に 追加する内容を検討するその前提としまして、前回の会議で議論がございました事項を 整理したものでございます。  1と2に大きく分けておりまして、1点目がいわば総論でございますが、事件を受け た対応が必要だということにかかわる御意見を整理いたしております。生体移植にかか わる問題点ということで、4点ほどにまとめております。  一つ目には、生体移植の可能性が広がっている中で議論が必要だという御指摘。  2点目は、再検討し、考え方を改めて明らかにする機会であるという御指摘。また、 再度このようなことが起きないようにあり方の再検討ということでございました。  3点目にまとめておりますのは、今回の事件が移植医療の抑制につながっていくこと があってはいけないのではないかという御指摘があり、可能な対応を迅速に行っていか なければいけないという御指摘がございました。  4点目も同じ趣旨でございますが、今現に起きている問題であるということでの対処 の必要性の御指摘があり、今まで特段の公的な指針等はございませんでしたが、対応の 必要をいろいろな形で御指摘をいただいたわけでございます。  (2)として「事件の性格」というまとめ方をしておりますが、今回のことがかなり特 別な事案だという面があるという御指摘が幾つかございましたので、まとめてございま す。  一つ目ですが、高い倫理性を要求される移植医療の特殊性とドナーが少ないという我 が国の事情、さらに当該医療機関や医師の特殊性としては、多くの術数をこなす医療機 関であるけれど、倫理委員会を開かず文書によるインフォームド・コンセントもとって いない、これが複合したものではないか。  二つ目に、事件について、同じように脳死下での臓器提供を抑制することが懸念され ることから、今回の事件の特殊な面があるという性格を説明すべき、という御指摘もご ざいました。  3点目に、生体移植の問題について適切に実施されていると考えられてきたけれども、 特異の考えの者がいて、議論しなければいけない点が出てきたということではないか。  こうした御指摘があったわけでございます。  2ページからは今度は各論という形でございまして、左側には前回の委員会で指摘さ れた論点を書き、右側に現在の日本移植学会の倫理指針、あるいは先ほど御説明のあり ました指針の補遺、あるいは生体腎移植実施までの手順、こうしたものを対比しながら 並べたものでございます。  こちらで臓器移植法事件を受けた論点ということで整理しております事項について、 臓器移植法違反事件を受けて運用指針の中で内容として定めてはどうかと考えられる事 項になるのではないか、そうした形で事項立てをしているつもりでございます。  1点目は、生体からの臓器移植の取り扱いに関して、生体臓器移植が健康人にメスを 入れるという、一般の医療行為であれば行われない行為が前提になっている、という指 摘がございました。この関係は、移植学会の倫理指針で「本来望ましくない」というよ うな記載もされているということで対応させてございます。  (2)ですが、提供意思の任意性の確認の必要についての御指摘がございました。本人 の自由な意思によって臓器提供が決定されたかについての確認が重要だ、という御指摘 がございました。ここのところは倫理指針等で指摘されている事項は非常に多岐にわた りますが、すべて書いてみております。例えば1点目の「倫理指針において本人の自発 的な意思によって行われるべきものであり、報酬を目的としてはならない」から始まり まして、あとは第三者による意思確認の事項、あるいは第三者の範囲について今回、補 遺の中で規定された事項。あるいは3ページに入りまして●になっておりますが、提供 候補者に対する手続として「説明文書を持ち帰り考慮期間を設ける」といったことを行 って、十分考えていただく時間を持つべきだ、こういった御指摘も手順の中で新たに設 けられたところでございます。  時間のこともございますので、次のページへ進ませていただきます。(3)で、インフ ォームド・コンセントの実施にかかわる事項ということをまとめてございます。インフ ォームド・コンセントと患者の自己決定を基本とする医療が既に根づいているのだとい う御指摘、あるいは二つ目でございますが、今回の事件について1回しかドナーに会っ ていないとか、信頼関係がすべてだということでインフォームド・コンセントを書面に 残す必要を認めないという発言は、一般の医療としても異質な対応だったのではないか、 こういう御意見があったところでございます。※で規定しておりますが、臓器移植法の 第4条では、生体移植を含めまして移植術を受ける者に対する説明義務が課されている ということでございます。  これらに対応しまして、右側の欄には倫理指針の該当する事項を掲げてございます。 こちらもかなり事項がございまして、一番上のところは、ドナーへのインフォームド・ コンセントに際して、ドナーにおける危険性と、それだけではなくて今度はレシピエン ト患者の手術において推定される成功の可能性と、リスクを冒した結果、どれだけ提供 相手の方のためになるかということを含めて説明するというのが学会の倫理指針上の事 項になっているわけでございます。  また●では、先ほどの手順のところで新たに規定されました文書を用いての説明でご ざいますとか、術前・術後の危険性についての内容を規定すべきであるとか、こうした ことを新たに規定いただいたということでございます。  次に6ページで(4)本人確認の実施ということでございます。作為を伴うものを完全 に見抜くことは難しいものの、今回の事件では確認手続が不適切であったことが問題、 という御指摘。他の医療機関を含め徹底すべきだという御指摘があったところでござい ます。ここのところの関係では、学会の倫理指針の補遺で、本人確認に関して新たに顔 写真つきの公的証明書で確認する、等の事項が書かれまして、こういったものを所持し ていない場合には倫理審査委員会で資料に基づいた確認を行う、という手続を踏むべき だろう、こういうことを規定いただいているところでございます。  この本人確認に関しましては、親族関係を確認することと、その親族本人であること を確認するという二つの要素があるのだろうと考えますので、顔写真つきの公的証明書 と規定いただいているところでございますが、これを運用指針で規定する場合には補足 していくような部分もあるのではないかと思っております。  (5)は倫理委員会への付議ということでございます。ここでは、ほかの医療に比べま して倫理問題が発生しやすい移植医療を、しかも全国で多くの数を行っている施設で倫 理委員会が開催されていなかったことが問題という御意見がございました。この点につ きまして、あとは本人確認や倫理委員会の開催等を通達するなど、有効で迅速な対応を した方がよいという御指摘がございました。  ここのところの関係規定として、※で臓器移植法第2条第3項が書いてございます。 これは、生体移植を含めて適切な移植医療の実施という基本理念を定めた規定でござい ます。対応する形で倫理指針について記載しておりますのは、親族に該当しない場合に おいては、当該医療機関の倫理委員会において症例ごとに個別に承認を受けるという形 で、現在、倫理指針上、位置づけておられる。この中で、有償提供の回避策や任意性の 担保などに留意していただくという形になっているということでございます。  7ページの(6)財産上の利益供与の防止ということでございます。今回の問題の一つ は、利益供与を伴う臓器提供が行われたことだと。今の日本の移植施設では、血縁関係 のない者についてはほとんど夫婦間しか認めていないということで、こういう問題はほ とんど日本では起こらないだろうという御指摘もございました。また、臓器売買の問題 は法律で禁止され、処罰されるという位置づけになっているということで、法律上の問 題でなく、これをどう徹底するかだという御指摘がございました。  ※で書いておりますが、もちろん臓器移植法11条は生体移植にも適用がある規定だと いうことでございます。  これにかかわる倫理指針等の規定でございまして、提供は本人の自発的な意思によっ て行われるべきものであるということ、あるいは対価の授受の禁止といったことがあり、 今回の補遺では、「利益供与が疑われる場合は即座に提供に至るプロセスを中止する」と いうことを規定されているところでございます。  こうしたことが前回の会議の主な論点、あるいは日本移植学会の倫理指針において規 定されている関連する事項であると考えて整理をいたしました。  以上の形で整理をいたしまして、これらについて、本日欠席されている委員の方にも 御確認をいただいていこうというのが1点と、もう一つ、議事の次のところで病腎移植 問題について御報告させていただきますが、これについて現在、調査が始められた状態 でございます。この調査がある程度進んだところで何か加えるべき論点がないかという ことも検討した上で、臓器移植法運用指針について改正をどう考えるかということを整 理、議論させていただければと考えております。本日はこの病腎の問題ではなくて、前 回、臓器移植法違反事件を受けて議論として出されました論点を整理し,項目としてど う考えられるかということを整理してみたものということで御説明をいたしました。 ○永井委員長  ありがとうございました。ただいまの御説明に御意見等がございましたら、よろしく お願いいたします。  そうしますと、これを踏まえて運用指針の改定へもっていくということでしょうか。 ○原口室長  そうした方向を考えさせていただきたいと思います。前回、そういう御提案を申し上 げたわけでございますが、違反事件を受けての事項をまずは資料3に整理しました。追 加の必要があるかどうか、もう少し事態をみたいということでございます。 ○永井委員長  よろしいでしょうか。 ○町野委員  この中で施設内の倫理委員会に触れているところがあるのですが、私の理解では、日 本移植学会の倫理指針の考え方は、親族間の提供についてはこの倫理委員会は審査を要 しない。ただ、親族以外の者が提供する場合についてはまず倫理委員会で決めて、そし てその点についての意見を移植学会に聞く、そういう手順になっていたと思うのです。 これからどうされるかわかりませんが、施設内の倫理委員会をこれから全部つくるべき だということになりますと、どこの範囲を審査するか。先ほどの御議論ですと、任意性 の担保まで倫理委員会のスクリーンをかけるべきだという御議論があったように思いま すが、かなりこれは大幅な改正になると思いますし、同時に、これは行政的なガイドラ インでやることになりますとかなりの負担がそれぞれの医療関係者にかかるということ ですので、いろいろそこら辺は御議論いただきたいと思います。 ○永井委員長  いかがでしょうか。 ○大久保委員  町野先生に伺いたいのですが、先ほどの話ではないですが、学会の倫理指針だけでは 結局は何もできないというお話だと思うのです。この委員会の中で生体移植に関する指 針をつくって、それを周知するということですが、そのあとの問題として、それはどの 程度効力を発揮できるものなのか、どの程度有効なのかと考えるのですが、先生はどの ようにお考えですか。 ○町野委員  学会の倫理指針だけでは、恐らく余り変わらないだろうと思います。ですから、学会 の倫理指針的なものをまずつくっていただいて、そして先ほどの御議論のように臓器移 植マニュアルみたいなものを改定の中に入れるとかそういうことをして、いわば行政指 導の一環としてこれを行うということにすると、ある場合に意味を持つのかなと。これ はあくまでの行政指導の一つですから、法律そのものの執行ではないですから、行政指 導として行われることがどれだけの強制力と言いますか、それに違反したとき、行政的 にどのような措置をとり得るか、その問題はまだ検討を要すると思いますが、かなりの 医療関係者の方は、学会に入っていらっしゃらなくてもそのような措置をとられれば従 われるのではないかと私は思いますが、それは私は医療関係ではないからちょっとわか らないですが、そのように思います。 ○大久保委員  ありがとうございます。 ○大島委員  先ほどの町野先生のお話ですが、自発的意思の確認については、これは倫理委員会が 指名するということであって、倫理委員会がすべてそれをかけてどうのこうのという話 とはちょっと違うと思うのです。したがって倫理委員会で検討しなければいけないのは、 本人確認がどうも怪しいという状況になって、ここに示されている方法とか既存の方法 で本人確認というのは非常に難しい状況だと判断された場合に、倫理委員会にかけると いう理解で私はいますけれども。 ○永井委員長  よろしいでしょうか。そういたしましたら、ただいまの案を、今日欠席の方にも御意 見を伺って、その上で運用指針の改定という方向で検討させていただきたいと思います。 よろしいでしょうか。  (「はい」の声あり)  では続きまして、腎疾患等の患者から摘出された腎臓の移植について、という問題が 発生しております。これについて、事務局から御報告をお願いいたします。 ○矢野補佐  それでは、資料の4を御覧いただきたいと思います。既にお話のありました病気腎臓 の移植の問題につきまして、事務局でこれまでに関係県等の協力により情報収集をして まいりましたので、本日はその経緯と概要について御報告させていただきます。  まず初めに宇和島徳洲会病院に係る経緯ですが、この10月に臓器売買の事件がありま して容疑者が逮捕されたわけですが、この臓器売買の事件に係る生体腎移植が宇和島徳 洲会病院で行われていたことを受けまして、当該病院で調査委員会を設置して過去の生 体腎移植の症例について検証を行っているところでございます。そして、11月2日に調 査委員会が開かれまして、その結果が報道各社に発表されました。それによりますと、 平成16年4月から18年9月までの間にこの病院で実施された生体腎移植が78例ありま して、そのうち、腎臓摘出対象疾患患者から摘出されたものが11件あったということが 明らかになったものです。  この11件の摘出された腎臓の状況でございますが、資料にありますとおり、腎臓がん 2件、ネフローゼ2件、尿管狭窄2件、腎動脈瘤2件、腎臓結石1件、血管筋脂肪腫1 件、良性腫瘍1件とされております。そしてこの11件につきまして、病院では当該手術 の合理性、透明性を担保するために、外部の泌尿器科医師を加えた専門委員会で移植手 術に至った経緯、医学的観点からの検討を実施する。それから、弁護士が腎臓の提供者 に対して提供の意思などを確認をされた経緯とその本意を聞き取り調査をするというこ とを公表しているところでございます。  次にそのほかの病院に係る経緯ですが、この宇和島徳洲会病院以外にも宇和島市立病 院、広島の呉共済病院においても腎臓病の患者から摘出された腎臓の移植が行われたこ とが明らかとされました。これらの病院では、それぞれ第三者の専門家を含む調査委員 会を設置をして調査をすることとされているところでございます。  そしてこれら移植を行った3病院については、移植に当たってほかの病院において腎 臓病の患者さんから摘出された腎臓を移植した事例があることが明らかとなったところ でございます。  こうした状況を受けまして、厚生労働省では関係都道府県と関係学会と協力をして調 査を進めることといたしまして、関係都道府県に対して本件にかかわる事実関係の調査 や情報提供の依頼を行いました。また、当省の職員を派遣いたしまして、当該病院から 事実関係を聴取したところでございます。  さらに、この3病院以外の病院、3病院で移植に使われた腎臓の摘出が行われた病院、 これを「移植を実施した病院以外の病院」という表現にしておりますが、これらの病院 に関して必要な調査を行うために、厚生労働省と関係学会が参画する調査班を設置して 調査を進めることとしております。  また、移植を実施したことが明らかとなっている3病院の調査委員会については、こ の審議状況を確認、フォローするとともに、調査結果について報告を求めることといた しております。  これまで関係の県から情報提供があったものの概要を、3ページに記載をしておりま す。一部、報道による補足を行っております。これは逐一御説明は省略いたしますが、 左の3病院が病気腎の移植を行った病院名、それから院内提供、院外提供、これは腎臓 が院内で摘出されたもの、院外で摘出されたもの、という分類をしております。その摘 出された腎臓の疾患名、摘出した患者さんに対してこれを移植に提供していいかという 同意をどのようにとられていたかということを記載しております。それから、倫理委員 会への付議の状況、さらに右半分は、移植を受けた患者さんに対する移植の同意をどの ような形でとっていたか。それから、倫理委員会に付議されていたか、ということを整 理しております。  以上です。 ○永井委員長  ありがとうございます。ただいまの御説明に、何か御質問、御意見はございますでし ょうか。移植学会では、何かこの件に関しては検討されていらっしゃいますか。 ○大島委員  少しお時間をいただいて、話をさせていただきたいと思います。  今、厚労省から報告のありました病気の腎臓の移植につきましては、臓器売買の問題 を検討している過程で宇和島の徳洲会病院での調査委員会から報告されたものでありま して、私ども移植学会としては11月13日の、もともとは臓器売買の問題を検討するた めに設置された臨時の理事会において、むしろこの問題について多くの時間を費やして 議論をしてきたところであります。  結論から言いますと、各病院の調査委員会及び国と共同の調査委員会につきましては、 全面的に移植学会として調査に協力する。しかし、現時点でもそうでありますように、 毎日のように新しい事実が出てくるような状況であるために、学会としては現時点での 正式なコメントについては差し控えさせていただいて、調査がある程度以上進んだ後に するという決定をいたしております。ここでは、今わかっている事実だけをもとにいた しまして、学術専門職能団体として判断しなければならない、あるいは学術専門団体で しかできないという意味での医学的、倫理的状況について現時点で考えられることを少 しお話をさせていただきたいと思います。  現在、事実として判明していることにつきましては、今、厚労省から報告されました ように、これをまとめますと、一つは、病気の患者をドナーとして移植を行ったという こと。二つ目は、生体腎移植数78例中11例と、これを例外と考えるには非常に多い症 例数が行われているということ。3番目としては、これは正しいかどうかよくわかりま せんが、提供病院も含めて10機関という複数の医療機関が関与しているということ。4 番目として、移植医療では禁忌とされている腎がんの移植が行われていたということ。 5番目として、治療法としては認知されていないネフローゼの患者の腎臓を摘出すると いうことが行われ、その腎臓を使用しての移植が行われていたこと。6番目として、イ ンフォームド・コンセントを含め、今まで試みられたことのない医療を行う際には必要 とされている一般的な手続がとられていなかったという事実に対して、医学的、倫理的 に、我々の専門職能団体として考えられる考え方について述べたいと思います。  まず、病気の腎臓の移植の医学的な考え方についてですが、現段階での腎移植医療に おける病気腎の医学的な位置づけについては、この問題はちょっと複雑で理解しにくい ところがありまして、医療関係者が理解することについてはそんな難しい話でも何でも ないのですが、普通の方には多少わかりづらいところですので、注意深く報告をさせて いただきたいと思います。  まず、病気の腎臓を移植の対象と考えてよいのかどうかという点であります。ここが 一番誤解を生みやすいところですので、誤解のないように説明をいたしたいと思います。 病気の腎臓を移植して、その腎臓が機能を発揮するかどうかという意味では、病気の部 分を治療したあとに腎臓の機能が十分に残っていれば、移植をしても問題はないという ことであります。例えば子供に腎臓を提供したいと希望されている方が、提供を希望さ れて来院すれば、医学的に問題がないかどうかということを必ず手術前に検査をいたし ます。そのときに、まれではありますが外科的治療を必要とするような腎臓病が見つか る場合があります。このような場合には、移植手術のときに腎臓を摘出して、同時に腎 臓の疾患部を治療して、その腎臓を移植するというのがあたりまえに行われているやり 方であります。したがって、腎臓の機能が残っている良性の疾患であるという病気の腎 臓では、これを移植することがいけないわけでもなんでもないわけであります。  今回の病気の腎臓の移植はこのようなケースとは異なりまして、腎臓に病気が見つか って、それを治療するために手術が必要となった人の腎臓が移植に使われたということ であります。この場合は、先ほどの腎臓を提供したいという希望が最初にあるのではな くて、患者さんが病気を治したいという希望がまずあって、そのための治療が目的で来 院したという点で全く違うわけであります。  このような場合に、現在の医学水準、医療水準の状況はどうかと言いますと、外科的 手術を必要とするような腎臓病では、ほとんどの場合、治療が可能でありまして、これ が泌尿器科学の現時点における標準的な医療水準であります。したがって、治療後にも 機能が十分に残るような腎臓は本人に残すというのが原則的な考え方であります。泌尿 器科医はこの原則に従って診断・治療を進めていきますので、機能のある腎臓を摘出す るというような選択肢を治療にきた方の前で提示することは一般的にはあり得ないわけ であります。したがいまして、治療目的に来た人がみずからの治したいという目的、治 療を放棄して提供に同意したというようなことがあるとするなら、それ相応の理由があ るはずだと考えられるわけであります。  というのが良性の疾患についての考え方でありまして、今回の件で特に区別して考え なければならないのは悪性腫瘍の場合です。すなわち、腎がんの場合とネフローゼの場 合でありまして、これらについてはほかの疾患と同じように論ずるわけにはいかないと いうことであります。悪性腫瘍については、たとえ腫瘍の部分を取り除いたとしても、 移植医療ではこのような腎臓を移植することは禁忌とされています。理由は、移植患者 が移植と同時に免疫抑制療法を受けるために低免疫状態となります。このような状態は がん細胞の成育を助長しやすいような生体環境がつくられることになるわけであります。 同じ意味で、感染症の臓器を移植することも絶対的な禁忌とされているわけであります。  また、ネフローゼの患者さんの場合ですが、これを両腎を摘出してその腎臓を移植す るということに関しては、ネフローゼの治療法として腎臓を摘出するという治療法が許 されているのかどうか、聞いたことがありません。ネフローゼの患者の腎臓を摘出する という治療法がないとすれば、当然、その腎臓を移植するという選択肢もあり得ないわ けでありまして、私の知る限りではそのような例は今回の例以外にはないのであります。 しかしこの点につきましては、腎臓内科の専門家の意見を確認するのがよいと思います。  以上をまとめますと、治療を目的としてきた外科的治療を要する腎臓疾患を持つ患者 からの腎臓提供を、特殊な例外を除けば理学的な見地から想定することは全くできない のが現状であります。  次に、これらの一連の問題につきまして、倫理的な意味というか、医師と患者、ある いは社会との関係について、我々専門職能団体としての人間が日常的に考えているあり 方について、医療とは患者の病苦を取り除くのが目的でありまして、医師はこの目的を 達成するために医療技術という手段で患者の身体に介入するわけであります。医師にこ れが許されるのは、国で認められた資格を条件にして患者に最大の利益をもたらすよう に誠心誠意努力すること、そして医療を、不当な利益を得るなど、決して悪用しないこ と、本人の同意を得ずして医療行為を行わないことを約束して、これを守ることによっ てであります。医聖と言われた紀元前のヒポクラテスは、このような約束を神に向かっ ていたしましたが、今の日本ではこの約束は社会、国民に対して行い、これを守ると誓 うことであると理解をしています。  次に、移植医療における規範についてであります。移植医療においては、臓器の提供 者という第三者の関与が避けられません。目的は臓器不全の方たちの命を救い病苦を軽 減することにありますが、実際の移植に際しては何よりも臓器の提供者に不利益が生じ ないよう、臓器の提供者の人権が損なわれることのないように配慮することが最優先さ れなければならないと考えています。亡くなられた方からの提供においても、健康な方 からの場合にも、そして今回、問題になっている病気の方からにおいても、この原則は 守らなければならないと考えています。  1997年に施行されました臓器の移植に関する法律の制定に当たっての議論の渦中で、 日本移植学会は、オープン、ベスト、フェアの原則を守って移植医療を行うことを国民 社会に約束いたしました。すなわち、移植の医療にかかわるすべての過程を公開し、も ちろん個人情報についてはこれを秘守することは当然でありますが、そして今の日本で 行い得る最高の医療を提供すること、提供された臓器は、それを必要としている患者に 社会で決められたルールに従って公平公明に配分して行うことを約束して、今まで行っ てきています。日本移植学会はこれを社会に公表し、そして守り、移植医療を続けてき ておりますが、学会員である限りこれを遵守しなければならないのは当然であります。  次に、医療と社会との関係のあり方についてであります。20世紀の後半になりまして、 それまでの医療のあり方、医師と患者との関係のあり方については革命的な変化が起こ ったと考えています。紀元前から続いてきたパターナリズムの医療がパートナーシップ の医療に変わったわけであります。パターナリズムとは、医師が父親が子供をみるとき の気持ちで患者に接するという考え方でありますが、医師にすべてを任せておけばよい というこのような考え方が、仮に医師が真摯に患者のことを考えて医療を行ったとして も、患者の人生は患者のものであり、どのような選択をするかは、病気という人生の危 機的状況の中では患者本人が選択し決定すべきであるという生命倫理の考え方が生まれ、 その考え方が我が国でも医師と患者の関係のあり方の基本となって根づいてきていると 考えています。というような考え方で我々は行ってきております。  それから実験的な医療については、きちんとした臨床研究、臨床指針がもう既にでき あがっておりまして、それを遵守するというのが我々の基本的な考え方であるというこ とであります。 ○永井委員長  ありがとうございました。またこれは、学会から何か声明のような形で出されるので しょうか。 ○大島委員  いえ、今のところは、先ほど申しましたように経緯を見守った上で全体の像が解明さ れた段階で何らかの対応をいたしたいということであります。 ○永井委員長  この際、ぜひお聞きしておきたいということはございますでしょうか。 ○大久保委員  先ほど事務局から、病気腎疾患の患者からの摘出された腎臓の移植についてというこ とで御報告いただいたのですが、その中で、実際に受けられた方たちのその後の部分に ついて御報告をするかしないかというのはここに書かれていないのですが、その辺につ いての調査はどうなっているのでしょうか。 ○矢野補佐  現在、移植を行った病院では、病院で調査委員会を設置して調査をしておりまして、 その中で患者さんのその後の状況についても調査をしていると聞いておりますので、今 後状況が明らかになってくると思います。 ○木下委員  今の学会の声明というか考え方は当然のことだと思うのですが、そもそもこれは移植 という視点ではなくて、手術の適応自体が問題にならないのでしょうか。何か刑法に抵 触しないかどうかという問題はないでしょうか。ですから、先ほど町野さんがおっしゃ ったように、こういう特殊な事件のために行政指導的な規制が厳しくなるということに なってはいけないと思うのです。関係した医師のように学会員以外だったら何をやって もいいのかというのは問題で、学会員以外でもやってはいけない規範はあって当然だと 思います。病気の腎臓を移植に使わないことは、普通の医者にとっては常識だろうと思 うのですが、今回の事件は極めて異例なことだと思います。こういう特殊ケースに対し ては、行政処分など役所の方で対応することも考えるべきだと思います。  今回は非常に特殊な事例であり、犯罪性を感じないではいられないのですが、そうい う特殊な例に規制するために行政や法律で厳しく縛りすぎて、今までのスムーズな流れ が途絶えていくことだけは抑えていただきたいと思います。  それから、先ほど、町野さんが学会というのは任意団体だからその規制力は余りない のだと言われてましたが、少なくともこういう特殊な医療は学会員にならなければやっ てはいけないとかいうような縛りはできないのでしょうか。 ○永井委員長  いろいろ御意見があると思うのですが、今は状況の全体像が見えないところですので、 各病院の調査、これから厚労省、関係学会が参加する調査班ができると思いますので、 そちらを見ながらさらに検討を続けるということでいかがでしょうか。 ○町野委員  非常に手短に、今の御質問について。一つ、犯罪にならないかということですが、こ れは恐らく今までのやり方だと難しいだろうと思います。要するに不必要な摘出手術を したということが一つですね。それから、後で移植をした相手方に対して何か不利益が 生じたときはもちろん刑事事件の訴訟は起こりますが、不適切な摘出手術をしたという のも、前に富士見産婦人科事件というのがありまして、あれは結局のところ刑事事件に ならなかった。あのところではかなり医療の裁量性が広く認められている経緯がありま すので、今回、それを急にきつくすることは難しいだろうと思います。  それから、日本移植学会というのは任意団体であるから強制力は難しいと非常に簡単 に申しましたが、現在のところ、臓器移植については認定施設でなければやってはいけ ないことになっていますが、これは法律の執行の問題として行政の方でそのようなもの をやっている。ただ今回、生体移植については法律がないというのは先ほどの話ですか ら、その法律をつくれば今のようなことはできると思います。しかし、日本移植学会と いうのを法令の中に書くわけにはいかないのが現状ですので、行政指導の一環として、 行政が認定した施設でなければ、そしてこのような設備を持っていなければやってはい けない、ということは可能だと思います。しかし、法律がないところではこれは難しい ということだと思います。 ○永井委員長  よろしいでしょうか。 ○大島委員  我々は学術団体ですので、その部分で我々にしかできないことは、医学的な意味で一 体何が起こったのかという判定をきちんと行っていくことだと考えております。その周 辺の問題について非常に多くのコメントをいろいろなところから求められるのですが、 これは私たちが判断して今できることではないと考えておりますので、むしろ社会全体 でどう考えていくのか。まるで我々が、やったことのよしあしとか良否の問題、悪い・ いいというところまでコメントを求められますと非常に難しい状況になりますので、そ の点を本当に全体で考えていただきたいと思います。 ○永井委員長  よろしいでしょうか。ちょっと時間が押していますのできょうはここまでで、さらに 続けて検討したいと思います。調査の状況を見ながら、臓器移植法の運用指針の改定と いう方向にいくのではないかと思います。  では、最後に事務局から今後の予定についてお願いいたします。 ○矢野補佐  次回の日程については早急に調整をさせていただきまして、決まり次第御連絡をいた します。日程調整に御協力いただければと思います。 ○永井委員長  それでは、本日はどうもありがとうございました。 (終了) 照会先:健康局臓器移植対策室 丹藤、矢野 内 線:2362、2366