06/08/07 第7回社会保障審議会人口部会議事録 第7回社会保障審議会人口部会 ○ 日 時  平成18年8月7日(月)10:00〜12:00 ○ 場 所  厚生労働省 省議室(9階) ○ 出席者  〈委員:五十音順、敬称略〉   阿藤 誠、鬼頭 宏、国友直人、小島明日奈、榊原智子、        白波瀬佐和子、鈴木隆雄、津谷典子、樋口美雄、廣松 毅、        宮城悦子、山崎泰彦、山田昌弘 〈事務局〉 塩田幸雄 政策統括官(社会保障)、城 克文 政策企画官 佐藤裕亮 社会保障担当参事官室長補佐 村山令二 統計情報部人口動態・保健統計課長 高橋重郷 国立社会保障・人口問題研究所副所長 金子隆一 国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部長 ○ 議事内容 1.開会 (城政策企画官)  定刻には少々早いですが、委員がおそろいになりましたので、ただ今から第7回社会保 障審議会人口部会を開会させていただきます。委員の皆様におかれましては、お忙しい中、 ご出席いただきまして、ありがとうございます。議事に入ります前に、本日、初めてのご 出席になる委員がいらっしゃいますので、ご紹介を申し上げます。山崎泰彦委員、神奈川 県立保健福祉大学教授でいらっしゃいます。 (山崎委員)  山崎です。よろしくお願いいたします。 (城政策企画官)  山田昌弘委員、東京学芸大学教育学部教授でいらっしゃいます。 (山田委員)  山田です。よろしくお願いいたします。 (城政策企画官)  なお、本日、岩渕委員につきましては、ご都合によりご欠席ということで伺っておりま す。それから榊原委員につきましては所用により遅れるというご連絡をいただいておりま す。本日、ご出席の委員が全体の3分の1を超えておりますので、会議は成立しておりま すことをご報告申し上げます。それでは、以後の進行につきましては廣松部会長にお願い いたします。よろしくお願いいたします。 2.報告聴取 日本人の平均余命 (廣松部会長)  おはようございます。大学関係者の中には夏休みの方もおいでになるかもしれませんが、 また、屋外はもちろん屋内も暑い中、お集まりいただきまして、誠にありがとうございま す。それでは早速議事に入りたいと存じますが、お手元の資料にございますとおり、本日 は報告聴取が1件、日本人の平均余命でございます。それから将来人口推計の方法と検証 に関する議論をお願いしたいと存じます。  まず、議事の第1といたしまして、日本人の平均余命について、大臣官房統計情報部の 村山人口動態・保健統計課長からご説明を受けた後、質疑を行いたいと存じます。それで は村山課長、よろしくお願いいたします。 (村山課長)   統計情報部人口動態・保健統計課長でございます。日本人の平均余命ということで、資 料1、日本人の平均余命という資料をご覧ください。表紙の1枚紙を外していただきます と、日本人の平均余命という資料が1冊、これが本体でございます。その後ろに平成17年 の簡易生命表のポイントというもの、この2組の資料がございます。最初に、簡易生命表 のポイントの1ページ目からご説明させていただきますので、よろしくお願いいたします。  まず、日本人の平均余命、あるいは平成17年の簡易生命表についてでございますけれど も、これは、前回の本部会でご説明させていただきました、平成17年の人口動態統計月報 年計(概数)の死亡データと、そのときに使っている人口を用いまして、我が国の死亡状 況を表したもので、7月25日に公表したものでございます。それから、今回、平成17年の 簡易生命表をご説明させていただきますが、平成17年は国勢調査の年でございまして、国 勢調査があった年はいつもそうなのですけれども、これは死亡につきましては概数の死亡 データを用いていますが、死亡データの確定数、それからこの秋に公表されます国勢調査 の確定数を用いまして、同じ平成17年につきまして、完全生命表というものを作成するこ ととしております。そういう意味で平成17年については、この簡易生命表の後に、もう一 つ、完全生命表というものが作成されることになっているということでございます。  この簡易生命表、一般に、生命表は平成17年の死亡状況だけで計算され、現実の我が国 の人口構成によらないので、年次比較、地域比較、後で申し上げます国際比較というもの が可能になっております。余命というのは、ある年齢からそれ以降に生きる平均年数とい うことで、特に0歳の平均余命は平均寿命と言い、保健福祉水準の総合指標として、よく 使われます。  このポイントの1ページ目にございますけれども、平成17年の死亡状況、具体的には年 齢別の実績の死亡率でございますけれども、0歳の者がその死亡率に従って亡くなってい くとした場合、生きることになる平均年数である平均寿命は男性が78.53年、女性が85.49 年で、前年を男性は0.11年、女性は0.10年下回ったということでございます。男性の方が 低くなっており、男性女性差は6.96年で、前年より拡大したということでございます。ま た、その下にあります日本人の平均寿命と延びの推移というところの、延びのところをご 覧いただきますと、平成17年は男性も女性も前年を下回ったということですが、さかのぼ って見ますと、平成11年にも、男性と女性、それぞれ延びが前年を下回ったということが ございまして、6年ぶりに前年を下回ったということでございます。  この点については1枚目のみとさせていただきまして、本体の方「日本人の平均余命」 という厚い資料をご覧いただきたいと思います。本体の2ページ、表1でございます。ま ず、0歳の平均余命、すなわち平均寿命をご覧いただきましたが、表1は0歳以外の、ほ かの年齢の平均余命とその延びもございます。0歳以外の平均余命、例えば60歳の平均余 命について、男性の平成17年の60歳というのをご覧いただきますと、22.06年となっており ます。78.53年から60年を引くと18.53年ですが、それよりも長くなっております。この、 男性の0歳の78.53年というのは、60歳までに亡くなる人と60歳まで生きている人、両方の 平均ですが、60歳の平均余命は、60歳まで生きている人だけの平均ということなので、こ の22.06年というのは、78.53から60を引いた年数よりも長くなっています。男性も女性も、 延びを見ますと、全年齢において前年より下回っております。特に高齢のところで延びの 低下幅が大きいという特徴があります。  平均寿命が前年を下回った要因を死因別に見たものが図1でございます。平均寿命の延 びに対する死因別寄与年数というものの見方ですけれども、平成16年の死亡率と平成17年 の死亡率を比べたときに、死亡率が上昇すると寿命が短くなりまして、その場合には、寿 命への寄与としてはマイナスとなり、下の方に棒グラフが延びています。それから逆に、 死亡率が、平成16年に比べて平成17年が小さくなる場合には、寿命が延びるため、上の方 に棒グラフが延びているということでございます。  これは主な死因だけですが、悪性新生物、脳血管疾患、それから交通事故等は死亡率の 低下により寄与年数がプラスとなっております。死亡率の低下といっても全年齢にわたっ ている必要はなく、特定のところが改善していても全体での寄与がプラスになるというこ とがありますが、これらは寿命を延ばす方向となっています。一方、心疾患や肺炎、それ から少しですけれども自殺の死亡率が悪化しており、平均寿命を引き下げるようになって います。心疾患や肺炎というのは、基本的に高齢者に多い疾患ということで、このような 結果になっています。  その要因につきまして、さらに見たのが、先ほどのポイントという冊子の5ページ目で ございます。これはポイントではなくて参考資料ですけれど、番号は通しでつけてありま す。5ページ目になります。これは、平成17年における主な死因別死亡数の月別の動向で、 対前年同月比でございます。人口動態統計におきましては、毎月、月報で死亡について死 因の統計を公表しております。それをまとめたものでございます。まず、一番上に全死因 とありますが、これは死因全体の対前年同月比でございます。2月、3月、4月とあって、 2月は3.2%と低いように見えますが、平成16年が閏年で、下の注にありますように、日数 の差分を調整しますと6.9%で、ほかの月に比べても高いということで、2、3、4月にお いて、17年は死亡が多い、つまり死亡率が高い、すなわち平均寿命を低下させる方向にな っているということです。  死因の内訳を見ていただきますと、枠で囲っているのは対前年同月比が20%を超える死 因ですが、肺炎とか慢性閉塞性肺疾患等の呼吸器系の関係のほか、心疾患、あるいは腎不 全といったところで多くなっています。よく見ると高齢者の死亡が多いということがわか るのですが、この時期はインフルエンザの流行の時期と重なりまして、もともと病気を持 っているお年寄りが、インフルエンザの流行によって持病でお亡くなりになっているとい うことでございます。  そこで死因の考え方ですけれども、人口動態統計では、具体的には原死因すなわちunder lying cause of deathというもので、WHOの定義にしたがって取っております。内容は、 直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病もしくは損傷ということで、そ の直接の死因ということではなく、もともと病気をお持ちの方がインフルエンザで亡くな った場合、いろいろ複雑なルールがあるのですが、起因となった疾病ということで、イン フルエンザよりもむしろこういう病気で計上されるということです。もちろん自殺などは 致命傷を負わせた事故もしくは暴力の状況という原死因の統計です。インフルエンザの流 行につきましては、定点観測等のインフルエンザ発生統計からも裏打ちされており、要す るに平成17年の平均寿命が前年を下回ったのは、インフルエンザの流行が大きな要因です。 先ほど言いました、自殺も若干増えており、それも要因の一つでございます。  本体の3ページに戻っていただきまして、寿命中位数等生命表上の生存状況ということ でございます。表3、これは生命表上の特定年齢まで生存する者の割合ということで、0 歳の人が、男性の場合は80歳まで生きるのがどのくらいの割合になっているかを見ると平 成17年ですと55.0%、半分以上の人が80歳まで生きることになっている。一方、女性の場 合ですと76.8%、4分の3の方は80歳まで到達するという状況であるということです。  表5、右下でございます。今度は逆に、割合を中心に見たもので、特にその年に生まれ た者のうち半数が生存すると期待される年数を寿命中位数といい、その寿命中位数を見た のが表5でございます。男性は平成17年で81.49年、それから女性は88.27年で、女性の方 は平成14年から88歳、いわゆる米寿を超えているという状況でございます。それから寿命 中位数について、男性の81.49年、女性の88.27年が、平均寿命の男性の78.53年、女性の85. 49年よりも長くなっております。長くなっている理由は、死亡の統計を見ますと、多くの 人は長生きをする一方、1歳未満で亡くなるのが1,000人のうち3人ぐらいいるというよう に、少数ではありますけれども非常に早く亡くなる人がいる状況で、平均を取ると短めに なります。しかし、人数で数えていくと長くなるということで、寿命中位数は平均寿命よ り長めになっているということでございます。  続きまして4ページでございます。先ほど言いましたように、その年の人口構造によら ないということで国際比較ができるということでございます。そうは言っても諸外国との 国際比較の場合は、国によって作成基礎期間が異なるということで、厳密な比較はなかな か困難ということでございまして、現在、私どもが、この公表に当たって入手した資料を 用いて比較した、その限りの比較ということでございます。男性については、この表の中 では4位という形になります。それから女性については、1位ということで、過去を調べ ても昭和60年以来21年間、ずっと1位のまま来ております。右の図3を見てもわかります が、そのような状況でございます。女性は世界1位、男性は4位ですが年によっては順位 が変動したりしておりますので、日本はトップクラスであると申し上げられます。  続きまして6ページ、死因分析でございます。先ほど申しましたように、死亡数だけで はなくて死因についても見ておりますので、特定の年齢の人が、どのような死因で死亡す るかという確率を計算することができるので、それをまとめたものでございます。図4を ご覧いただきたいと思います。死因別の死亡確率です。左の、男性を見ていただきますと、 0歳の人が、将来、何で亡くなるかという確率ですが、1位は悪性新生物(がん)、2位 は心疾患ですが、3位は三大疾病のうちの一つである脳血管疾患ではなくて肺炎でござい ます。肺炎が3位、その次が脳血管疾患となっておりますが、年齢が上がるにしたがって、 80歳以上の場合ですと、肺炎が2位まで上昇するというのが男性の特徴です。それから右 が女性ですが、こちらは悪性新生物、心疾患、脳血管の順ではありますが、高齢になると、 男性と違って心疾患が1位に上昇するという状況でございます。  男性について、実績死亡数の3位である脳血管疾患と4位の肺炎が死亡確率として入れ 替わっているということにつきまして、ポイントという別冊の4ページ、右肩に参考資料 とあるものをご覧ください。これは実績人口と生命表上の定常人口の比較をしたものでご ざいます。死亡統計の実績では男性は悪性新生物、心疾患、その次が脳血管疾患、肺炎で、 脳血管疾患が3位、肺炎は4位でございますが、確率の上ではそうなっていないという理 由です。  4ページをご覧いただきますと、グラフが2本あります。男性の方でご覧いただきます と、65〜69歳の人口を100としたときに、それより上の5歳階級がそれぞれどのくらいの割 合になるかを描いたもので、実線が実績人口です。一方、破線は、65〜69歳が100人いたと して、それが17年の死亡の状況で亡くなっていくとしたら、どんな経緯をたどるかという のを描いたものでございます。死亡確率は、実線の方で計算しているのではなくて破線の 方で計算して、どのくらいの確率かを見ています。  肺炎と脳血管疾患でございますけれども、既に実績の統計でもわかっておりますが、80 歳以上については肺炎の死亡率は脳血管疾患よりも高くなっております。したがいまして、 この実績人口で見ますと、高齢者の人数は相対的に少なく、その前の年齢階級のところで は脳血管疾患の死亡率の方が高いので、脳血管疾患が3位になるのですが、生命表の人口 になりますと、80歳以上の人口の割合が高くなっておりますので、80歳以上で死亡率の高 い肺炎の死亡率が効いてきて、肺炎の順位が3位になるということでございます。女性は 下の方でご覧いただけるように、確かに生命表の人口は上回っているのですけれども、肺 炎が脳血管疾患の死亡率を上回るのが90歳以上ということで、順番を変えるほどではなか ったということでございます。男性で肺炎が死亡確率として3位になったというのは今年 が初めてではなくて、平成16年からそういう状況になっております。  続きまして本体の7ページをご覧ください。今度は特定死因を除去した場合の平均余命 の延びでございます。特定死因を除去というのは、ある死因が克服されて、その死因によ って死亡しなくなった場合の平均余命の延びを計算したものでございます。その死因で死 亡しなくなるということは、ほかの死因で亡くなりますので、死亡が繰り延べられ、その 分、平均余命が延びるということでございます。表8をご覧いただきますと、一番死亡の 割合の高い悪性新生物(がん)ですと、男性は4.00年、女性は3.02年でございます。三大 死因のどれでも亡くなることがないという状況ですと、男性は8.49年、女性は7.68年延び るということで、平均寿命が男性の場合、87.02歳まで、女性の場合は93.17年まで延びる ことになるということでございます。  以降、本体の8〜11ページが本来の簡易生命表の資料で、14ページに、先ほど死亡確率 のところで4つの死因しか見ていなかったのですが、それ以外の疾患についても掲載して おります。15ページは、特定死因を除去した場合の平均余命の延び、これも4つの死因し かありませんでしたが、それ以外についても記載してあります。先ほど自殺が前年より平 均寿命を引き下げる要因の一つということでありました。特定死因を除去した場合の平均 余命の延びの表の真ん中あたりに自殺がございますが、男性ですと平成17年が0.78年、つ まり自殺が死因としてなくなれば、寿命が0.78年延び、女性の場合は0.34年延びるという ことでございます。そのすぐ上に不慮の事故というのがありますが、不慮の事故よりも自 殺の方が、平均余命の延びについて男性の場合は効果があるということでございます。説 明は以上でございます。 (廣松部会長)  ありがとうございました。ただ今のご説明に関しまして、何かご質問はございますか。 (阿藤部会長代理)  この生命表と、多少離れるのですけれど、今、健康寿命とか、あるいは別の呼び方もい ろいろとあるようですけれど、そういうものに関して、計算方法も発達し、様々な研究成 果も出ているようです。WHOなどは、もう何年か前から、これを各国比較の形で、平均 寿命と並んで発表するという形をとってきているのですが、日本ではそういうものについ て、例えば統計情報部で、これから発表していこうというような計画をお持ちなのかどう か、その辺を伺いたいと思います。 (村山課長)  WHOの統計も2002年に載ったきりで、私どもの方で具体的な計算方法等がよくわから ないということと、詳しいことはよくわかりませんが、計算方法も変えたりしているよう で、健康寿命そのものの計算が非常に難しいようでございます。それから考え方として、 健康ということをどうとらえるかということがあります。統計部門の私どもより、むしろ 政策部門の方で、どのようなとらえ方をするのか最初に議論があって、その上で、私ども は平均寿命を計算しておりますので、お手伝いをすることになるだろうと思います。現在、 私どもの方では、政策部門において健康というもののとらえ方、考え方について議論はさ れているとは聞いておりますが、こういう前提で計算を行うようにとお話を承っているわ けではございませんので、現在のところ、計算しておりません。まさしく今後の課題と思 っております。平均寿命の場合には、生きているか死んでいるかということですが、健康 寿命の場合には、どういうものを健康ととらえるかということが問題となります。介護を 受けておられる方、あるいは病気をお持ちの方は不健康なのかどうか、これはなかなか難 しい問題があろうかと存じます。これは私どもの判断ではございませんが、そのようなこ とで、特に今、健康寿命を計算することを予定している訳ではございません。 3.将来人口推計の方法と検証 (廣松部会長)  ほかにご質問はございますか。よろしければ、報告聴取に関しましては、以上にさせて いただきます。  それでは次に、議事の2でございます。これが本日のメインの議題でございますが、「将 来人口推計の方法と検証?平成14年推計の仕組みと評価」について、ご議論をいただきた いと思います。まずその前に、国立社会保障・人口問題研究所の金子人口動向研究部長か らご説明をお願いしたいと思います。ご説明いただいた後、質疑応答の時間を取りたいと 思います。それでは金子部長、よろしくお願いいたします。 (金子部長)  社会保障・人口問題研究所の金子でございます。本日は「将来人口推計の方法と検証」 についてのお話をさせていただきます。配布資料もございますけれども、主にスライドを 中心にご説明をさせていただきます。  内容の概略でございますが、まず、将来人口推計の仕組みについて、平成14年推計を中 心にしまして、その方法を少しお時間をいただいて詳しくご説明をいたしたいと思います。 次いで、将来人口推計の検証として、平成14年推計以降に得られた実績値と推計値との比 較について、こちらは、どちらかといえば簡単にご報告をさせていただきます。  早速、将来人口推計の仕組みにつきまして、ご説明をいたします。推計の枠組みといた しましては、コーホート要因法を用いております。コーホート要因法と申しますのは、3 つの人口変動要因すなわち出生、死亡及び人口移動の仮定に基づきまして、コーホートご とに将来人口を推計する方法で、現在、国際的にも標準的に用いられている方法でござい ます。その基本的な仕組みについてですが、まず、出発点となる基準人口、こちらを用意 しまして、これに対して出生、死亡、移動という3つの変動要因に対する将来の仮定値を 設け、これによって将来人口が推計されるという形になります。  その手順について、やや詳しく見ると、以下のようになります。コーホート要因法では 1年ごとの推計を繰り返すことで将来推計を行っております。したがいまして、ここでは 最初の1年についてご説明をいたします。当年の人口から翌年の人口を推計するという手 順でございます。1歳以上の人口につきましては、そのまま年齢を上げるということにな るわけですが、その間に死亡とそれから人口移動が発生いたします。死亡につきましては 年齢別生残率によって死亡数を推計いたしまして、出入りについては国際人口移動の数、 あるいは率を用いて、これを差し引きして翌年の各年齢の人口とするということでござい ます。  ここで0歳につきましては、この方法を用いることができません。0歳につきましては 出生数によって計算を行うわけでございます。この出生数ですが、15〜49歳の人口、すな わち今し方計算しました2つの年次の人口から延べ人口を計算しまして、これに年齢別出 生率と出生性比を掛け合わせることによって、男女別の出生数が計算できます。詳しく書 きますと、こちらのスライドのように、15歳の延べ人口に対して15歳の出生率を掛ける、1 6歳についても同様にする。これを49歳まで続けまして、この積和をとったものが出生数と なります。ただし、0歳人口とするためには、やはり死亡と出入国を差し引きする必要が あるため、これにつきましては、やはり生残率と人口移動の仮定を用いるということにな ります。  したがいまして、将来人口推計に必要なデータというものは大きく4つあり、1つは基 準人口、そして3つの仮定値ということになります。基準人口につきまして、これは男性 女性年齢別人口であり国勢調査の結果を用いております。これを視覚的に見ますと、実は これは人口ピラミッドで表される基準年次、平成14年推計で言いますと2000年時点の、人 口の姿にほかならないということになります。  次に、3つの仮定につきまして、詳しく見ていきたいと思います。まず出生でございま す。こちらは将来の年齢別出生率と出生性比についての仮定を設けるということになりま す。まず、年齢別出生率というものにつきまして、ご説明をさせていただきます。これは 女性に関するものでございますけれども、人口の分野では、この年齢別出生率のことを、 女性の出生スケジュールと呼ぶことがございます。その出生スケジュールでございますけ れども、具体的にこのような形をしております。横軸に年齢、縦軸に出生頻度を表す出生 率をとりまして、こちらは2000年の女性の年齢別出生率を描いたものでございます。そう しますと、このように30歳前後をピークとする山型を示します。そして、実を申しますと、 この年齢別出生率の和、グラフで言いますと、このグラフの面積が、この年、2000年の出 生の全体の頻度を表す、すなわち合計特殊出生率に相当するということになっております。  したがいまして、よく見かける合計特殊出生率の年次推移との関係をお示ししますと、 この面積が、この2000年の合計特殊出生率のレベルに相当するということになります。せ っかくですので、過去の状況についても見ていただくことにいたしますと、例えば、この ように年齢別のスケジュールは、年次によって随分違う訳ですけれども、例えば1970年で すと、紫の面積に相当する部分、これが2.13でございました。さらに1950年でございます が、この黄色の面積に相当し、かなり広いということがわかりますが、3.65となっており ます。  さらに出生スケジュールは、出生順位別の出生スケジュールというものに分解すること ができます。第1子から、ここには第4子以上をまとめたものまで、4つのカテゴリーを 示してございます。逆に申しますと、全体の合計特殊出生率というものは、この出生順位 別の出生率の和として構成されるものでございます。それぞれの面積を足し上げたものが、 合計特殊出生率になるということになっています。以上が出生スケジュールのおおまかな 構造ということでございます。  推計では、将来の各年次におけるこれらの年齢別出生率が必要となってくる訳でござい ますけれども、これを得るためには、実はもう一つ別の種類の出生スケジュールが必要と なります。それはコーホートごとの出生スケジュールというものでございます。これを推 計いたしまして、組み換えることによって、将来の年齢別出生率を得るということにして おります。そのコーホートの出生スケジュールというものは、例えば1950年生まれの女性 につきましては、このような形になっております。合計特殊出生率、こちらはコーホート 合計特殊出生率でございますけれども2.03ということで、先ほどの年次別のスケジュール と、それほど変わらないように見えるわけでございますが、面積はかなり違っているとい うことになります。  ほかのコーホートについても見ますと、こちらは1960年生まれのコーホートの出生スケ ジュールでございます。実は2000年時点のデータとして描いておりますが、この時点では、 このコーホートにつきましては40歳までのスケジュールしかございません。次に1965年生 まれでは、このように35歳までのデータしか得られておりません。同様に1970年生まれで は30歳までということになっております。このように、コーホートの出生スケジュールが 年次のスケジュールと大きく異なる点は、若いコーホートで途中までのスケジュールしか データがないといった点で、これが推計を行う上で大きく異なる点ということになります。 さらに1975年生まれに至りましては、そのスケジュールのほとんどの部分が、データがな いという状況でございます。  ここで少し、コーホートと年次、2つの出生スケジュールというものの関係の理解を深 めておきたいと思います。そのためには年次と年齢の座標系というものを用いると便利で す。こちらでは横軸に年次をとりまして、1960年から2050年まで。また、縦軸に年齢、こ こでは0歳から60歳までを描いております。こういった座標系によってデータの所在を把 握していくということになります。どういうことかと申しますと、例えばこのピンクの領 域ですが、ここが再生産年齢(満15〜49歳)、女性の出生率のデータの存在する領域でご ざいます。これに対しまして、2000年時点で得られたデータはどうであるかということで すが、このブルーの領域が2000年時点で得られた出生率の実績データであり、ピンクの領 域はまだ得られていない出生率ということになります。2000年の、先ほど見ました年齢別 出生率は、この青いライン、2000年のラインですが、15歳から50歳未満にわたるこの青い ラインの上に、この年齢別出生率が存在しているというように考えることができます。  これに対してコーホートの方、1950年生まれのコーホートを例にとりますけれども、こ のコーホートですと、1960年に10歳、次いで1965年に15歳ということで再生産年齢に達し て、そのまま2000年には50歳に達している。したがいまして、この斜めのライン、こちら の上にコーホートの出生率が存在しているということになります。このように、縦の断面 と斜めの断面として、年次別とコーホートの出生スケジュールというものが得られるとい うことになります。  次に、ほかのコーホートについても見ておきますと、例えば1965年生まれのコーホート につきましては、こういった形で存在しております。先ほど見ましたように、2000年時点 でデータは切れているという状態になります。もう1つ見ますと、1975年ですと、2000年 時点で切れていますので、ほとんどの領域が実現されていないという状況になっておりま す。  将来人口推計において必要となる出生率の仮定を設けなければならない領域というのは、 このピンクの領域が全部埋まっていないと人口が推計できないということになります。し たがいまして、まだ出生過程の途上である、ここに示しましたような、例えばこういった コーホートにつきまして、出生率を投影によって求めるということが必要になります。  それでは、こういった切れたスケジュールについて、どのように行うのかということに なります。実は先ほど見ましたコーホートのスケジュールの未知の部分につきまして、統 計的な推定などによって投影を行うということになります。例えば実績のデータに対して モデルを当てはめて残りの部分を推定する。65年生まれですと、このような形で推定が行 われます。したがいまして、その合計特殊出生率の方も、未知の部分が判明してくるとい うことでございます。70年生まれですと、こういった形になります。さらに75年生まれは というふうに、こういった形で推計がなされるということになります。これらに用いられ ましたモデルでございますけれども、これはある種の数理モデルをベースにしたモデルを 使って推定を行っております。スライドにありますような、女性コーホートの年齢別出生 率は、その結婚・出生行動の特徴を表す幾つかのパラメータを持つ適合的な数理モデルを 用いて、出生順位別に投影を行うということでございます。  しかしながら必要な将来のスケジュールというものが、すべてそのように統計的に求ま るかと申しますと、なかなか、そうはいきません。あるコーホートについては実績データ がたくさんあるけれども、別のコーホートについては実績データがほとんど得られない、 そういったことによって違った方法をとるということになります。  平成14年推計では、そういった方法を、A〜Eの5つのグループに分けて投影を行って おります。まず実績データが少なくとも1つは得られるようなコーホート、これを3つに 分けまして、まず、Aコーホートと名づけましたけれども、実績が確定しているコーホー ト。これはもう、推定をする必要がない訳でございます。それはこの座標系で言いますと、 今お示ししている部分のコーホートに相当いたします。その境目として、平成14年推計で すと1950年生まれコーホートというのが境目になるということです。次に、モデルによる 統計的推定が可能なコーホートということでございます。それはこの座標系では、ほぼ35 歳以上までの実績が得られるコーホートということで、その境としては1965年生まれあた りということになります。この緑に塗った部分が、統計的に推定を行われる部分というこ とになります。  次に、モデルによる統計的推定が難しいコーホート。先ほどのコーホートより下のコー ホートです。これにつきましては、実績データは得られるけれども、統計的に自動的に推 定するのが難しいということでございます。その境目は、実績データが15歳として1つだ け存在する1985年生まれコーホート、これが境となります。したがいまして、この黄色の 領域を推定しなくてはならないということになります。そうなりますと、かなり統計的な 推計が難しい訳ですから、何らかの別の方法をとらなくてはいけません。そこでこの1985 年生まれの出生コーホートを参照コーホートと名付けまして、これについては後述します ような別の方法でもって、その出生率を見通していくということを行います。スライド上 におきまして、これが参照コーホートということになります。  さらにデータの存在しないもう2つのコーホートについても見ておきますと、Dコーホ ートは実績データの存在しないコーホートで、ただし2000年時点で既に生まれているコー ホートということでございます。それら2つのコーホートは、ここに相当する。2000年生 まれというのが、推計時点で存在しているかいないかという境目のコーホートでございま す。このように、まだ生まれていないコーホートについても、出生率を仮定しなくては、 将来推計ができないということになります。  具体的にどのようにやるかということですが、Dコーホートにつきましては、先ほど見 ました2000年コーホート、推計時点で生まれている、存在している、ぎりぎりのコーホー トを最終コーホートと名づけまして、そこまでは参照コーホートまでの趨勢を機械的に延 長するという方法をとっております。その後の、まだ生まれていないコーホートについて の結婚、出生、その他による出生率の推定というのは大変難しいことになる訳ですが、そ ちらにつきましては、最終コーホートの値を固定して延長しているということになります。  次に参照コーホートの出生仮定の設定の考え方でございますが、参照コーホートの合計 特殊出生率は以下のような変動要素によって構成されております。すなわち生涯未婚率、 期待夫婦完結出生児数、それから結婚出生力低下係数、離死別効果係数、そして、多少離 れておりますけれども右側の方にある平均初婚年齢です。こちらはコーホートの合計特殊 出生率の算出式に直接は入っていないのですけれど、生涯未婚率あるいは夫婦の出生力を 決める際に重要なファクターとなっております。これらの人口変数につきましては、実際 に国勢調査等を基にして決定します。生涯未婚率につきましては国勢調査を用います。そ れから夫婦の出生力、それから結婚出生力低下係数といったあたりにつきましては出生動 向基本調査を、それから平均初婚年齢につきましては人口動態統計を用います。そして離 死別効果係数については人口動態統計と出生動向基本調査の両方を用います。こういった 形で実績値が得られるということになります。  実際に参照コーホートのそれぞれの変数の決め方でございますけれども、まず生涯未婚 率につきましては国勢調査における全国の年齢5歳階級別コーホート別の未婚率の過去5 年間の変化率を一定としまして、生涯の未婚率を計算いたします。そうしますと、前回、 平成14年推計の中位の仮定ですと16.8%という数値が算出されております。次に、平均初 婚年齢の出し方でございますけれども、これは先ほど求めました生涯未婚率、これと平均 初婚年齢との間には、過去のデータから一定の関係が見出されております。それがこの下 のグラフでございますけれども、この関係を用いまして、先ほど算出した生涯未婚率を使 いまして、平均初婚年齢が中位の仮定として27.8歳というように求まるということになり ます。同様に、低位、高位につきましては、それぞれ地域別の同様の考え方で、東京都、 それから比較的出生率の高い10県から、同じような考え方で、仮定値の数値を算出してお ります。  次に、期待夫婦完結出生児数でございますけれども、こちらは出生動向基本調査から、 初婚年齢と夫婦完結出生子供数の間における比較的安定した関係が求まっております。こ れを用いまして、先に設定されました平均初婚年齢から決まる初婚年齢分布に対応した、 そのコーホートの期待夫婦完結出生児数というものを計算することができます。これを計 算したものが、前回推計ですと、中位推計で1.89という数字になっております。  さらに結婚出生力低下係数というものでございますけれども、これは、従来は先ほど見 ました初婚年齢と、夫婦の完結出生子供数というのは非常に安定をしていた訳でございま すけれども、1960年代生まれのコーホートから、このモデルから乖離が生じまして、より 低下が大きくなるということが見られます。これを平成14年推計では、結婚出生力低下係 数と表現いたしまして、これを近年の年次別の出生率の推移と、時系列モデルによってそ れを若干延ばした数値によって、これを最もよく再現する値として、中位の仮定、0.911と いうものを求めております。それぞれ高位、低位につきましても、高位につきましては、 その低下係数が元に戻るというような仮定ですけれども1.0、低位につきましてはさらに下 がるということで0.822という数字を設定してございます。  最後に離死別効果係数でございますけれども、これは出生動向基本調査と人口動態統計 から得られる過去の実績値の比率を用いて算出いたします。これは高位、中位、低位、共 通の値を用いて0.971という算出がなされております。  これらを実際に参照コーホートの、中位の仮定でございますけれども、算出式に入れた ものがこちらでございます。そうしますと1.39というコーホート合計特殊出生率が算出さ れたということになります。高位、低位につきましては、それぞれ1.62、1.12という数字 になっております。  これを表の形にまとめたのが、こちらでございますが、こういった参照コーホートのパ ラメータ、人口変数が求まってまいりますと、そこまでの補完ないし、そこまでの趨勢の 延長ということで、途中のコーホート、それ以降のコーホートが、モデルによって投影で きるということになります。これは1985年生まれのところまでについて、実績とともに投 影の様子を示したものでございます。  年齢別にコーホートの累積出生率というものを、実績値として求めますと、こちらに描 くような赤いマークの線が得られておりますが、先ほどの方法によって延長、投影いたし ました仮定値が点線で示されております。参照コーホートは1985年時点で1.39ということ になります。最終コーホートが中位ですと1.39ということで、一定の低下をして一定値と なるという形でございます。これを、コーホートの合計特殊出生率の実績値と推計を比較 するという形で、要約をいたしたいと思います。  ここに示しておりますのは2000年時点でのコーホート出生率の実績値でございます。こ れに対しまして、推計を行った結果が、このような形になっております。中位推計、高位 推計、それぞれ示しておりますけれども、ここでご確認いただきたいことは、中位推計及 び低位推計の仮定におきましては、今後の実績が判明していくコーホート、若いコーホー ト、すべてにつきまして、出生率は低下をする一方であると仮定されているということで あります。よくある誤解ですが、出生率が回復するような仮定を置いているのではないか ということですが、コーホートの出生率で見ていただくと、はっきりとそうではないとい うことが見て取れます。参照コーホートが1985年生まれ、最終コーホートが2000年生まれ ということになります。  しかしながら、年次として得られた合計特殊出生率の仮定値の推移を示しますと、この ようになります。コーホートで出生率の回復を全く仮定していないにもかかわらず、中位 推計において反転を示しているということが見られます。ここは重要な疑問点であります ので、なぜ仮定された年次別の合計特殊出生率が反転を示しているのかということについ て簡単にご説明をしたいと思います。  そのためには、まず、年次別の出生スケジュールが、非常に多くのコーホートの出生ス ケジュールの断片を寄せ集めてできているという、このことを理解することが必要になり ます。例えば、これは2000年の年齢別出生率でございますけれども、20歳以下の部分、こ れは1980年前半生まれのコーホートの、この同じ年齢の出生率がここに来ている訳です。 次に20代前半につきましては、70年代後半生まれのコーホートの率が来ております。同様 に20代後半につきましては70年前半のコーホート、順次、だんだん昔のコーホートの率が、 この2000年の年齢別出生率を形成しております。したがいまして、例えば2000年の年齢別 出生率というのは、このようにたくさんのコーホートによって合成されたものであるとい うことでございます。  そうしますと、一体どのような不具合が生じるのか。そのことによって、どういう問題 が生じるのか。これについて、実験を行ってみたいと思います。こちらは仮想的な出生率、 出生スケジュールを描きました。例えばこれを1965年生まれとします。出生率は、わかり やすくするために1.00としております。そうしますと2000年において観察されるのは、こ の35歳のところの出生率でございます。この年齢別スケジュールがコーホートによって晩 産化を起こすという状況をつくってみました。そうしますと1966年生まれですと2000年で は34歳のところが観察される。次に67年生まれですと、またその晩産化によって分布が年 齢の高い方に移るわけですけれども、2000年では33歳の出生率として観察される。こうい うことが続く訳です。  これを一気にシミュレートしてやりますと、こういった形で、2000年の年次の出生率が 赤いラインとして描かれるということになります。これをご覧いただきますと、1965年生 まれから1975年生まれまで晩産化が続いたというような実験でございますけれども、コー ホートの出生率は1.00で全然変わっておりません。時期が変わっただけであります。しか しながら、2000年の段階で観察される年齢別出生率のパターンというのは、この赤いライ ンの面積ですから、実際に計算しますと0.51という、ほぼ半分の出生率になります。これ はどういうことかといいますと、晩産化が起きている期間、年次出生率はコーホート出生 率に比べて小さな値となるという現象が生じるということでございます。したがいまして、 もしこの晩産化が止まりますと、この年次別出生率というのは、このコーホートの出生率 に戻ってまいりますので、出生率がコーホート出生率に戻る。したがって高まっていくと いう現象が生じるということでございます。  これは現在の状況について、どういうことを言っているかといいますと、現在、晩婚化 に伴う晩産化というのが起きております。したがいまして、今、実験で見ましたような、 あれはかなり極端な例でございますけれども、出生スケジュールの変化が起きている。そ うしますと、年次ごとに観察される合計特殊出生率というのは、それよりもかなり低い値 となるということでございます。ですから2000年の1.36という数値は、そういった効果を 含んだ数値であろうと考えられる訳であります。そしてその晩婚化、晩産化が永遠に続く としますと、平均年齢が40歳を超え、50歳を超え、ということになってしまいます。どこ かで止まることになろうかと思いますが、その晩産化が止まりますと、年次別出生率が、 タイミングによって下がるという効果が消えてまいりますので、そういったメカニカルな、 構造的な要素によってこの中位推計の年次別の出生率、コーホートについては全く低下を 仮定していないにもかかわらず、反転するというようなことが起きているということでご ざいます。  次に、出生の残りの部分、出生性比でございますが、こちらはもう、極めて安定して推 移しております。これは生物学的にほぼ、男性女性の生まれる比率というのは、安定して ございますので、将来推計では5年間の平均を一定として用いております。  次に、仮定値としましての死亡についてでございますけれども、こちらはやはり男女年 齢別の生残率というものの仮定を行うということになります。こちらも死亡スケジュール と呼んでございます。こちらにつきましては、これが実績でございます。1965年から2004 年までの、女性の年齢別の死亡率。これを死亡スケジュールと呼ばせていただきますが、 横軸は0歳から100歳まで、縦軸は対数スケールでございます。非常に安定したパターンを 描いているというのがご覧いただけるかと思います。上から下に向かって年次推移をして いるということでございます。したがいまして、これを平均したもの、これがほぼ共通の 年齢パターンであろうということになります。この年齢パターンからの各年次の年齢別ス ケジュール、この隔たりを描いたものがこちらでございます。こちらも比較的安定した形 を描いて推移をしているということがわかります。  こういった死亡につきましては、極めて安定性の高い性質がございます。これを利用し まして、リレーショナルモデルというものが開発されております。特に最近使われている ものとしてリー・カーターモデルというのがあります。真ん中あたりにある数式によって 表現されますが、mx,tというのはt年、x歳の死亡率。その対数変換がこのような線形の 式で表されるということでございます。ax+bx・ktと、それに加えて誤差項ということ でございます。これはどういうことかというと、簡単に言うと、axというのは先ほど見ま した平均であると思っていただいて結構です。これに対して安定した差分というものが時 系列によって表現され、この2つの項を足し上げたものがリー・カーターモデルであると いうことです。  実際に平成14年推計で使われたax、bxが、左の方に示してあります。これに対して時 系列の変化を示すパラメータであるktが右側に示してあります。このktというのが、極 めて直線性が高いというのが、このリー・カーターモデルの特徴でございます。実際に平 成14年推計では、kの実績値、赤いマークに対しまして、このような数理的な曲線を当て はめてございます。その結果、右側のような将来の年齢別死亡率が得られたということに なります。  次に、3つ目の要因である国際人口移動でございますけれども、日本人と外国人につい て別々に仮定を行っております。この国際人口移動に関しましては、外国人、日本人、ど ちらにつきましても、経験的な年齢パターンというものを求めるような方法を採用してお ります。具体的にはここに示しましたのは日本人の男性、女性の年齢別入国超過率ですが、 直近5年間の実績値を平均して平滑化するというようなことで、将来のパターンを得てい るということでございます。外国人につきましては、1990年代に、若干変動がありました ので、これを表現するために、将来につきましてもその1990年代の外国人入国超過の増加 というものを表現する数式で投影を行っております。年齢パターンにつきましては、経験 的なパターン、右側に示しております男性、女性、これを平均したもの、平滑化したもの、 こちらを用いて推計を行っているということになります。  次に、そのような形で推計を行ってきた場合に、社会経済的な要因というものは全く考 えないのかということが疑問として浮かんできます。実はそんなことはなく、実を言いま すと、この社会経済的な環境というのは、過去の趨勢を通しまして、人口学的データに反 映をされている考えることができます。したがいまして、過去の人口データの趨勢を延ば した将来人口推計、投影をした推計というのは、間接ではございますけれども社会経済の 変化というものをとらえているということになります。  もう少し詳しく見ますと、これは前回申し上げたことですけれども、公的な将来人口推 計は非常に広範な目的に対する基準となることが重要な役割ということで、客観性、中立 性が重要であるということでしたが、さりとて将来というのは確定したものでもありませ んし、正確に知り得るものでもなく、科学的に、定量的に描くという方法はありません。 その場合にどうしたらいいのでしょうか。そこで人口推計では、投影という考え方を前面 に出して行っております。これは公的将来推計ということでございますけれども、極力客 観的なデータに準じて、標準的な手法を用いて行う、科学的根拠に基づく推計を目指す、 エビデンスベースドの推計を目指すということが、公的推計の一つの目指す方向であろう ということでございます。したがいまして、意図的な仮定、あるいは実績データに基づか ない仮定というのは投入しないというのが、この、公的な将来人口推計の原則でございま す。  これについて社会経済的な要因というものを、もう少し考えてみますと、公的な将来人 口推計に用いるには、やはり要因の数が非常に多くて相互の関係が複雑であるということ が言えます。そして人口変動要因との定量的な関係が安定的ではございません。また、仮 にそういった関係が特定されたとしても、そういった個々の社会経済変動要因を、将来、 長期にわたって仮定するというのは困難なことではないだろうかと考えられる訳でござい ます。こちらでは人口変動要因と社会経済要因との関係の不安定性を示す例を2つほど挙 げておりますけれども、こちらはご覧いただくとしまして、同じ政策に対しても、複数の 研究者によって異なる定量的な分析結果、あるいは定性的な分析結果が得られることが、 ままある訳でございます。したがいまして、公的な将来人口推計では、社会経済要因や政 策について特定の仮定を用いるべきではなく、人口変動要因の投影によって作成すること が必要であろうと考えております。したがいまして、各国の推計で、こうした社会経済要 因というものを直接取り入れている例はございません。  ただし研究分野におきまして、社会経済要因と人口との関係や、それらの将来変化をモ デル化してシミュレーションを行うということは極めて有効でありまして、学問的な発展 のためにも重要なことであろうと思います。ここで今お話ししているのは公的な人口推計 について、社会経済要因の扱いが難しいという、そういうお話をしております。したがい まして、社会経済要因というのは、過去の人口変動要因の中に包括的に含まれる形で、将 来の推計人口に反映されるという形をとっております。  次に、簡単にではございますけれども、将来人口推計、平成14年推計の推計値と実績値 が、既に4〜5年ほど得られておりますので、その比較を行っていきたいと思います。た だし、ここでは検証、評価というように題しておりますけれども、時間の関係等もござい まして、今回は実績との比較に留めまして、その要因であるとか、より深いことに関して は、次回以降の課題にしたいと考えております。  まず、人口の実績値と推計値の差でございますけれども、この表にございますように、 実数でいきますと、5万1,000人のマイナス。これは推計が5万1,000人過小であったとい うことを示しております。年齢別に見ますと、0〜4歳が9万4,000人の過大。5〜64歳が、 9,000人の過大。その上、65〜74歳の老年人口ですと、およそ4万人の過小。75歳以上です と11万5,000人の過小という結果になっております。この要因による寄与を見ますと、全体 で見ますと、出生率による過大が9万7,000人、生残率による過小が22万2,000人、国際人 口移動による過大が7万4,000人ということでございます。実数だけですと誤差の程度とい うのがわかりませんので、こちらで実績値を100とした場合の比較を行っております。そう しますと、おおむね2%までの差というものは、どこでも見られておりません。多いとこ ろで、出生の関係している0〜4歳のところで1.69%、それから生残率の関係している75 歳以上のところでは1.68%の過小となっております。  これを年齢別に、実際に視覚的に比較したのがこちらでございます。これはマークが実 績、色のついたラインが推計でございます。これだと、ほとんど違いがないので差を見ま すと、0〜4歳、それから高齢のところで乖離が生じているということがご覧いただけま す。それぞれの要因につきまして、出生、死亡、移動につきまして簡単に言いますと、こ ちらが出生数の比較でございます。実績と中位推計。視覚的にはこのようになっておりま す。これを拡大いたしますと、このように、中位推計と低位推計の間に入っているという ような形になります。  次に出生率。合計特殊出生率につきましては実績と推計は、このような推移をいたして おります。この部分を拡大いたしますと、このような形になっております。ただし2005年 につきましては暫定値ということになっております。  もう少し詳しく見ていきますと、これが出生順位別です。出生順位別で見ますと、第1 子のところで実績の方がかなり下回っているということがご覧いただけます。これが先ほ ど見ましたコーホートの合計特殊出生率の実績と推計でございますけれども、緑の点が新 たに得られた実績値でございます。おおむね、視覚的にはラインの上に載っているという ところでございます。各年齢時点でコーホートの出生率、累積出生率がどうであったかに ついてですが、こちらも視覚的には、この緑の実績値というのは、赤い推計値の上に載っ ているということでございます。年齢別出生率をそれぞれについて見ますと、これは1960 年生まれですが、40歳以上のところ、赤いドットが見られますが、ここが実績値であり、 青いラインが推計値ということになります。1965年から順次見ていきますと、1980年まで このような形になっております。  次に、年次別の出生率、年次別に見た出生スケジュールの違いを見ていきますけれども、 2001年から2003年はこのような形です。2004年につきまして、20代後半で若干、実績値が 下回っていますが、これにつきましては、低位推計と高位推計を同時に描くとこうなりま す。2005年につきましては実績値の方が暫定ではございますけれども、同様に描きますと、 このような形で、比較的若い年齢の方では低位推計の方に近く、30代、ピークを過ぎたあ たりから中位推計の方に近いというような形になってございます。したがいまして、その 要約としまして、合計特殊出生率の実績値と推計値はこのようになっております。出生性 比については仮定値が青いラインですが、ほぼ安定しているということです。  次に、死亡につきましても簡単に見ていきます。これは年齢階級別の死亡数についての 比較でございますが、若干、実績値の方が推計値よりも死亡数が少ないというのが、ご覧 いただけるかと思います。女性でもこのように、高年齢のところで若干そういった差が出 ております。年齢別スケジュールを比較しますと、出生率の方はほとんど視覚的には推計 値と差はございません。これを拡大したものが右側のラインですが、これによりまして、 年齢別にどこが違っているかというのはわかるのですが、これは非常に小さな値になって います。ただし全般に高年齢のところで推計は過小になっているというのが観察されます。  これは年齢別の平均余命を実績値と推計値で比較したものです。平均余命は、どの年齢 でも実績値の方が若干、推計値を上回って推移しています。これが平均寿命全体ですけれ ども、平均寿命全体につきましては、この5年間の実績値、先ほど報告がありました簡易 生命表が2005年の最新の値でございますけれども、これを見る限り、若干推計が過小にな っているということが見られます。国際人口移動につきましては年齢別に実績値と、この 黒いラインが推計値でございますが、このような分布にある。ただしこのピンク色と青色 がかなり離れているように見えますが、これは実は2001年、2002年の同時多発テロのとき の入出国の乱れがございまして、これを取り除きますとおおむね安定した年齢パターンを 描いております。こちらは日本人の女性女性でございますけれども、やはりピンク色と青 色、2001年と2002年のところで不規則な変化をしていますが、これを除くと安定的な推移 をしています。平常年次においては、これを安定しているというように考えてもそれほど 間違いではないだろうと思われます。  外国人の推移につきましては、青が男性、赤が女性です。これが入国超過数の仮定値と 実績を示しておりますが、かなり変動が激しいということがわかります。これにつきまし て、更に年齢別のパターンについては、このマークが実績でございまして、このラインが 仮定した年齢パターンでございます。男性、女性とも、若干、20歳のところで差が出てい ます。  少々時間を超過しましたけれども、以上が今回のご報告でございます。どうもありがと うございました。 (廣松部会長)  ありがとうございました。いただいた資料で、スウェーデンの将来推計人口のものが付 いていますが、説明はよろしいですか。 (金子部長)  これは前回の部会で榊原委員からご質問があった点について、スウェーデンの将来推計 人口を示しております。北欧等ということでございましたけれども、なかなか、北欧の国々 の資料は得にくいものがございまして、スウェーデンにつきましては、どうにか資料を得 たものでございますけれども、どうにもスウェーデン語で、細かいところはよくわからな いということで、わかった範囲でお示しをしてございます。  さらにもう一つ、個別の国で行われているものについては、わからない部分も多いので すけれど、EUROSTATで25カ国の加盟国の将来推計を行っておりまして、榊原委員のご質問 では、出生率を回復しているような将来推計について、例を見たいということでございま したけれども、ヨーロッパに関しましてはどの国を見ましても、既にかなり低出生になっ ているということから、おおむね現在の値よりは高い値が将来値として設定されておりま す。この中では特にポーランドが最近、極めて急激に出生率が低下しておりますので、こ れは先ほどご説明しましたけれども、タイミング効果といった効果の影響であるという考 え方から、かなり回復をするようなパターンを描いているということでございます。 (廣松部会長)  ありがとうございました。平成14年の推計を中心に、将来人口推計の仕組みと、それか ら平成14年以降の実績値との比較という形で、その検証ということに関するご説明をいた だきました。どうぞ委員の方々から、ご質問、ご意見をいただければと存じます。 (鬼頭委員)  2つ質問させてください。1つは非常に単純な事実について確認させていただきます。 5ページに2000年の出生スケジュールが出ていますが、そこのところで33歳、34歳のとこ ろで、少し変な動きをしていて、特に34歳と読めるのですが、そこのところは高い傾向が あるように見えます。これは恐らく丙午の生まれの年の女性で、彼女たちが少ないのはわ かるのですけれど、それがどういう形で出生行動に影響を与えているのかというのが第1 の質問です。  それからもう1つは、今日の一番のポイントと思って一生懸命聞いていましたが、最終 的にまだもう少し勉強が足りないと思ったのですが、将来の出生率を推計していく、その まとめが16ページぐらいのところにあって結果が示されています。そうやって合成されて 推計されたTFRが、何らかの意図的な、どこかで上げようといったことに基づかないと いうことは、よくよく理解させていただいたのですけれど、結果として反転するというこ とが現実に起き得るのでしょうか。そこの判断で、そういう推計をカットするとかしない とかということは、今まではなかったのかどうかということをお聞きしたいと思います。 そのプロセスについては非常に厳密で、なるほど恣意的なところはないということはよく 理解できたつもりですけれど。この2点についてお願いします。 (金子部長)  まず第1点目でございますが、5ページの年齢別出生率、33歳、34歳のところ、これは 確かに丙午の影響でございます。ただしこれは、丙午のコーホートがほかのコーホートと 出生行動が違うということではありませんで、ここに示しました出生率というのは、公表 されている年齢別出生率ですが、実は分母の人口に10月1日人口を使っております。した がいまして、分母になります、まさに丙午のような一過性の人口の変動がありますと、そ の分母の影響でもって大きくデータが動きます。これは年央人口と申しますが、ちょうど 7月1日に当たるような人口でもって計算をし直しますと、こういった影響はほとんど消 えます。したがって人為的なものでございます。  2点目でございますけれども、18ページの上の出生率中位が反転を示しています。これ につきましては、反転しないこともあり得ます。というのは、低位の推計をご覧いただく と、おわかりになるかと思いますが、先ほどご説明いたしましたような仮説コーホートに つきましての、結婚であるとか出生といったいろいろなパラメータにつきまして、非常に 低調な再生産行動というものを仮定いたしますと、先ほどのタイミング効果というものを 相殺して、その効果がなくなって、反転というのが、見かけ上、見られなくなるというこ とでございます。ただし、この中でも反転の効果そのものは存在してはいる訳でございま して、もしその反転の効果がなければ、つまり、タイミングの効果がなければ、低位推計 はもっと下がっているということになる訳でございます。 (阿藤部会長代理)  今の鬼頭先生のご関心といいますか、ご疑問に関しては、例えば日本のデータだけを見 ていると、ともかく十数年間、下がりっぱなしです。更に言えば三十何年間です。ただ、 例えば西欧諸国のデータを年齢別に、つぶさに眺めてみると、比較的高い出生率を維持し ている国は、当初は日本と全く同じように晩婚、晩産で、そして20代で下がって、ところ が80年代半ばぐらいから、軒並み、30代の出生率が上がりはじめています。それが比較的 緩やかな出生率を維持している国の年齢スケジュールであり、そのように変わってきてい るということが見て取れます。日本だけを見ていると、そのようなことはあり得ないとい うふうに思いがちですが、現実の国際比較を見てみれば、そうになった国の方が、むしろ 多い例なのかもしれません。  それで、1つだけ質問があります。17ページの上のグラフで、いわゆる晩婚・晩産によ り、高年齢にずれてきます。それをある程度、曲線を当てはめたり、わからないものは参 照コーホートという形で、別の形で推計をするのですが、それによって30代後半から40代 前半ぐらいまでをそのモデルに当てはめれば、少しずつ出生率が上がっていくということ になります。この辺が、出生率がある程度回復している、あるいは高い水準を維持してい る国で、例えば40代の出生率でここまで上がり得るのかどうかとか、そういう国でも、さ すがに40代前半というのはここまでしか上がらないとか、何かそういうチェックをどこか でされているのでしょうか。40代前半というのは、かなり生みにくい状況になってくると 思うのですが、例えば30代の末の方も含めて、その辺のチェックが必要なのかどうか、あ るいはしていなければ、これからはそういうことも考えられてはどうかと思ったものです から。 (金子部長)  高年齢の方における出生率がどこまで回復をし得るかということ、これについて他の国 で比較を行っているかということでございますが、もちろん比較は行っております。しか し、例えばこの資料ですと6ページの上のグラフに、たまたま1950年の我が国の出生スケ ジュールが描いてありますけれども、ここの30代後半から40代の前半のところを見ていた だきますと、もう格段に高い出生率が見える訳です。ある意味では、潜在力としては、こ のぐらいあると言えます。これは戦後、3.65ですから、もう既にかなり下がった段階での 出生率ですけれども、潜在力としてはこういったパターンがあり得ます。ただし現在の先 進国において、そういったことがあり得るかというと、当然、このような高い値というの は想定されないわけでございますけれども、やはり国によって、かなり事情が異なってお りまして、比較的高年齢でも高い部分、それから比較的早く産み終わってしまうような部 分、それからその分散、広い年齢にわたって子供を産む国、非常に狭い年齢で子供を産む 国(バンチドバースと呼ばれるもので、日本などはそれに当たりますけれども)、そうい った国がありまして、国や時系列によるチェックというのが、なかなかうまく機能しない という問題がございます。  それで、どうしているかといいますと、近年の日本の出生コーホートの、やはりこれも 先ほどの説明にありましたコーホートごとのパラメータの比較ということになりますけれ ども、高年齢における、いわゆるハザードと呼ばれているところですが、やはり限界があ るようです。ある程度の晩産になりますと、まだ1人しか産んでいなくても、もうそこで あきらめてしまうというような、あるいは生理的な問題かもしれませんけれども、一定以 上は確率が上がらないということが、どうも見られておりまして、そういった面からも確 認を進めているところでございます。 (津谷委員)  先ほどの阿藤先生のコメントに、少し付け加えさせていただきます。もう半分ぐらい金 子部長がお話しになりましたけれど、この、テンポとカンタム、つまりタイミングと最終 的にどれぐらい女性がコーホートとして子供を産むか、この2つの要因で年次率とそれか らコーホート率、これはまったく関係ない訳ではないのですが、別のものですので、その 理解をできる限り周知徹底していただきたいと思います。私たちがわかっているだけでは なく、広報を進めていかなくてはいけないと、前から思っておりました。  先ほどから出ています、この反転するということ、これは本当によくあることでして、 何でこんなに下がっているのに最後で上がるのか、何か変なconspiracyがあるのではない かと思われがちですが、そんなことは全然なく、先ほどから出ていますけれども、特にこ のスウェーデンは、ピリオドだけ見ますと実は80年代前半に1.6ぐらいまで下がりまして、 80年代半ばから90年代の前半・初頭ぐらいまで、今度は2.0を超える置きかえ水準までまた 激増して、その後、今度はまた反転するというように年次別のTFRはローラーコースタ ーのように変動した訳ですが、コーホートTFRは大体2.0を少し上回るぐらいの置きかえ 水準で、ずっとここのところ安定をしてきております。そういう国もある訳です。  一つこれはいい例なのですが、何があるかといつも見ているのですが、北欧の国は、ス ウェーデンもそうですけれど、もともと一番出生率が高かったのは20代前半です。それが 非常な晩産化で20代後半の方までずっとずれ込んできた。そしてその後、30代で非常に上 がってキャッチアップ、すなわち追いつきが成功して、最終的なカンタムとしてのレベル は余り変わらないで、大体置きかえ水準を維持しているという感じです。  ただ、日本の場合は、もともと20代の後半が一番高くて、それがもう、本当に砂山が崩 れるように、急激に下がったため、30代は上がっているのです。ただ、この1.25になりま して、その前年、2005年と2006年を見てみますと、唯一上がっているのが30代の前半です。 そして、我が国史上初めてだと私は思うのですけれど、20代後半の出生率よりも30代前半 の出生率の方が高くなっています。そうなってくると、先ほどの全体が1.0というので、年 次率はテンポの差で変動しますけれど、最終的には同じだということにが、生理的な妊孕 力というものが関わってきます。  女性は閉経が始まりますと、集団としては、どんどん出生率が落ちてきますので、もと もとの出発点が違うということで、先ほど金子部長もおっしゃっていましたけれど、どこ かでスレッシュホールドがあるのではないか、分岐点があるのではないかと思われます。 つまり20代前半でたくさん産んでいたのが20代後半にずれ込んでも、TFRが2.0ぐらいで すと、その後の追いつきが効くのですけれど、もともと遅いところが更に遅くなって、ま た遅くなった場合、後ろはもう生物学的な時計がアウトになってしまいます。  これは前回の推計で、タイミング効果以外の夫婦出生力のあのkですね、先ほどおっし ゃった、あれを3つの仮定でおやりになって、1.0と0.8と0.6ぐらいでしたか、ここでおっ しゃいましたけれど、それ以外に晩産化というのは基本的には晩婚化が最大の要因ですか ら、同じ5年ずれるにしても、出発点が違うということについて、これは勉強していらっ しゃると思いますが、そういう意味で、割合でproportionatelyにやるだけではなくて、こ こまで来たら急激に下がることがわかります。ここ1〜2年のことを見ると、私は大変心 配で、そういう意思はあるだろうと思いますけれども、いろいろな施策も含めて、例えば 不妊治療のお話もある訳ですけれども、これは検討する余地があるのではないかと思いま す。  最後に一つ。この推計ですけれども、これは将来推計で、まだ生まれてもいないコーホ ート、それからまだ子供を産んでもいないコーホートも、みんなこれから関わってくる訳 で、これをTFRとして、年次TFRであれ、コーホートTFRであれ、小数点以下2桁 までピンポイントで当てるというのは、別に援護するわけではありませんが、これは絶対 に不可能です。これからのこと、特に出生というのは人間の恣意的な行動ですから、結婚 するのも子供を産むのも基本的に個人の選択であります。ただし、全く当たらないのでは だめですけれど。私がもう一つ、広報で大事だと常に思っているのは、推計は幅で読むと いうことです。当然、政策当局、政治家の方は、幅どころではなく、反対に一つ、ワンナ ンバーを欲しがります。日本は3つ、出生率だけ幅をつけているわけですけれど、国によ っては3×3×3=27も幅をつけている国もあります。オーストラリアなんかはそうであ って、そのようなものを出されると、政治家は特に嫌になってしまうらしいですけれど、 ただ、これは本当に大変大事な問題で、やはり幅で読むべきです。中位推計だけを見て、 間違っているとか、外れていると言うことは、もちろん簡単ですし、そういうことは必要 なのですけれども、やはりシナリオとしてどのようになっていくのかということを、私た ちも含めて、広報していかなくてはいけないのではないかと思います。 (廣松部会長)  ありがとうございました。では、一通り先にご意見を伺っておきましょう。 (樋口委員)  もう既に出ている点は、私も同じ考えで、恣意性が含まれていないということは十分理 解できました。その上で、1985年の参照コーホートの合計特殊出生率1.39、その後、晩婚 化が起こっても、最終コーホートまで1.39の合計特殊出生率が続くというように、今、想 定しているのだろうと思いますが、まず、この私の理解に間違いはないかどうかという点 と、もしそうだとすると、その仮定は一体何だったのかという疑問があります。晩産化が 起こっても、結局は人間、1.39に落ち着く。この状態というのはコーホートが変わっても 今後も続くというように想定していた訳で、この仮定がいいかどうかということが、皆さ んが検証するべきことだと、そういうようなことをおっしゃったのだろうと思います。私 もその点、全くそのとおりだと思いますが、ある意味では、恣意性はないと思いますが、 その仮定を置いたということは、何らかの透明性から考えて、それは何を意味するのだろ うか、現実にあり得るのだろうか、というようなことを理解させてもらわないと、納得が いかないことが出てくるのではないでしょうか。  これは非常に丁寧に、仮定設定という形で、プレディクションではなくて、仮定を置い て、それを延ばしたらどうなるかということです。既に過去の経済社会要因というのも、 トレンド的に変わってきて、それが、様々な人口の変数も変えてきているのだから、それ をそのまま延ばせばいいだろうということだった訳ですが、ある意味では1.39に固定して しまうということは、今までの延び方、今までの社会の変化がそのまま続くとは限らない ということを想定しているということだと思うのです。参照コーホートの世代が生む時点、 その環境が今後も続くというように考えているのだろうと思うのですが、その仮定は果た していいのでしょうか。経済学をやっている立場から考えると、やはりタイムトレンド的 に経済社会環境が変わってきたということは、なかなか想定できない訳です。  1990年代の「失われた10年」ということがあるように、歴史はただ単に先延ばしでスム ーズに動いている訳ではなくて、逆行するようなこともあれば、急激に進むというような こともあります。女性の社会参加といったことについても同じでしょうし、失業の問題等々、 あるいは経済環境等々も大きくトレンドでは把握できないようなことがある訳で、これを モデルに入れるというのは非常に難しいと思いますが、先ほどシミュレーションでの検討 をするということも一つあるのではないかというようなご意見があったので、その点はぜ ひ考えていただきたいと思います。  最後のところですが、評価のところです。これは平成14年に推計した値と、5年後の今 の実績を比較しての評価ということですが、その差というのは非常に小さくなっています。 人口ベースでも5万人程度しか、プロジェクションと実績が違わないということなのでし ょうけれど、これは5年だと、実はほとんど変わらないのですね。20年前にやった予測と 現実がどう違っているかということになると、5年分の差がずっと累積していく可能性が ある訳です。ですから平成14年の推計による予測と現実との食い違いを見るだけではなく て、過去に推計したものも見なくてはいけない。これは以前にも5年に1度、ずっとやっ てきた訳ですから、例えば20年前にやった予測を使って、そして現在まで延ばしたら、現 実と推計値の間にどれだけ乖離があったのか、これはやはり調べておく必要があるのでは ないでしょうか。これがあまりにも違うということになってくると、やり方も再検討する 必要があるのではないかと思います。  それとの関連で言うと、平成14年の推計方法というのは、これは以前とは違った推計方 法になったのでしょうか。どこがどう変わったのかということを教えていただけると、今 後の議論に資するのではないかと思います。 (山田委員)  私は参照コーホートの出生仮定設定の考え方、実は5年前にも同じ質問をしたのですけ れど、16ページの上の図に関して質問をいたします。私は、家族社会学をやっております ので、特に離婚の動向には関心を払っています。ここ5年の間の離婚は、年間約26〜27万 組です。離婚した人が、2回離婚した人もいると思いますけれど、累計250万人ぐらいには 達している訳です。それも主に出生年代です。それが出生率に影響を及ぼしていない訳で はないと思うのですけれど、この表の中に入れ込んでしまうと、単に係数になって、定数 になっています。つまり離婚が増えるとか減るとか、そういうことが入っておらず、ただ 離婚の効果というのが0.971という数になっています。  そうなると、例えば夫婦の最終的な子供数といった場合に、完結する前に離婚をして1 人になってしまったら完結しない訳ですから、結局、離婚しない夫婦が2人産んでいると いうだけかもしれないということで、その効果について考えなくてはならないと思います。 つまり、10年はともかく20年ぐらい前でしたら離婚経験率は1〜2割で済んでいたから、 多分、5年前に私が質問したときは、余り離婚による効果はないのだと、確か回答をいた だいたと思うのですけれども、この10年の間にここまで増えてしまうと、離婚者の動向と いうものを仮定・推定に入れる必要があるのではないかと私は考えています。  あともう一つは、前も同じなのですが、未婚女性の出生率が入っていないことです。確 かに日本は非常に低くて2%程度であり、余り影響はないだろうと言われていますが、た だ未婚者自体が増えていますので。30代前半の女性未婚者が32.6%でしたか、そういう割 合になったので、多分その影響というものも、実数としては相当増えていると思いますの で、その点についても、例えばこの推計に算入するおつもりがあるのかどうかということ を、一応聞いておきたいのですが。 (廣松部会長)  では、とりあえず今までのご質問に関して、可能な範囲でお答えいただければと思いま す。 (金子部長)  大変難しいご質問が多かったように思いますが、まず樋口先生から最初にご指摘いただ きました参照コーホート以降で固定してしまうということは、それ以降の社会の変化はな いということを考えているのかというようなご指摘だったかと思いますけれども、これに つきましては公的な将来人口推計というものをどのように位置付けるかということに関係 してくるかと思うのですけれど、我々としましては、前回のご報告以来言っておりますけ れども、一つの基準を与えるものであると考えています。すなわち、人口の将来像に関し て国民の間に、共通の基準を与えるものであるという役割が非常に大きいのではないかと 考えております。  したがいまして中立性であるとか客観性ということを重視しているということを申し上 げているところでございますけれども、もちろん将来について、本当に向かっている方向 というものが描けるという確証がある、そういった信頼すべきデータがある、そういうこ とであるならば、是非、そういうものを取り入れていきたいと思う訳でございますけれど も、現在、我々が持っている技術あるいは知見において、でき得る最良のことは何かと考 えますと、一つの現状においてできる限りの情報を集めて、データを集めて、標準的な、 透明性のある方法を使って推計を行うことと思われます。その結果の見方ですけれども、 これを予測として、将来はそのような世の中になるのだと見るのか、あるいは、そうでは なくて、その時点で客観的に延ばした一つの基準であると考えるのか、になると思われま す。したがって例えば今回の5年間の比較もそうですけれども、そこから現実が違ってく るといったときに、例えば出生率がより低い方に移っているというときに、その時点の状 況から投影できるものよりも更に加速的に少子化、出生率の低下が進んだという見方をす ます。そういった使い方が、公的な将来人口推計の一つの見方を示すのではないかという ふうに思います。  参照コーホートというのは1985年生まれのコーホート、これは2000年の推計時点におい て15歳、まだ子供を産みはじめていない世代の、生涯における出生率と出生スケジュール というものを仮定した訳でございますけれども、そこより先は、いくら趨勢を使っても、 その基準たり得る、中立たり得るようなデータを得るのは、なかなか難しいというのが現 状ではないかと、私どもでは考えております。  それから、前回推計だけではなくて、それ以前の推計についての検証も行うべきである ということ。これは、我々としては、常に行ってきていることでございますので、ご報告 することは、やぶさかではございませんけれども、ただ、今申し上げましたような、ある 時点での将来の人口の基準を与えるという観点からしますと、余り過去の推計というのが、 現実とどう乖離しているかということが、どういった意味あいを持ってくるのかというこ とが一つ、問題としてあろうかと思います。  平成14年の推計の、それまでの推計との異なる点でございますけれども、その一番大き な点は、そこまでの仮定では夫婦の出生パターン、出生行動というのが非常に安定してお りましたので、平成9年推計までは、夫婦の出生行動というものは、これまでを踏襲する という形で投影がなされたわけですけれども、平成14年推計では90年代における夫婦出生 の低下というのがデータとしてとらえられましたので、これを反映した形で夫婦出生の低 下というものを係数として取り入れて行ったという点が、一番大きな違いだと思います。  その辺は山田先生の16ページのところでのご指摘と、それから樋口先生のご指摘も関連 すると思いますけれども、離婚のことを特に取り上げてお話をいただきました。離婚に関 しましては、この離死別効果係数というものに含まれております。この離死別効果係数は、 これまではすべてのコーホートで固定でございました。それから1960年代以降の夫婦出生 力の低下というものの中に、離婚の影響というものが組み入れられております。したがい まして、この0.911というものにも、離婚による夫婦出生力の低下が含まれているというこ とになります。したがいまして、一部につきましては、夫婦の出生力の低下係数というと ころで反映されております。もちろん平成14年推計においては、この離死別効果係数とい うのは、すべてのコーホートで固定しておりますが、この辺の動きについてもモニタリン グをしておりますので、新しい推計においては、場合によってはすべてのコーホートで共 通の値ということではなくなる可能性も考えられます。  それから未婚者の出生力については、これも離死別効果係数の方に実は入っていて、あ る意味ここは、そのようないろいろな、このモデルに合わない部分を吸収するという効果 があるのですけれど、この辺につきましてもデータが得られる限りは、分離することは可 能ですので、そういった精緻化をしていきたいと考えております。 (廣松部会長)  ありがとうございました。では榊原委員、どうぞ。 (榊原委員)  今日は遅れて参りまして失礼いたしました。前回お願いしました、各国のデータを取り そろえていただきまして、ありがとうございました。恐らく相当ご苦労をかけたものと思 います。参考になります。これは感想ですけれど、各国の出生率中位仮定の国際比較とい うデータを拝見すると、例えば私たちが報道をする際に、出産、子育てに対して社会を挙 げて支援をしている国ということで参考にさせていただいているような国々、例えばフラ ンス、イギリス、カナダといった国々の将来の出生率仮定値が現状の数値をそのまま置い たままにしている、上下がない、というような傾向が見える、という印象があります。一 方で、日本も含めて少子化国と括られている国の中には将来は上がるというように見通し ている国が多いこと、そういう傾向があるのか、という印象がありました。これは感想で す。  それから、先ほど、非常に精緻に、どのように人口推計を出しているのか、出生動向を 分析しているのかということを、改めてご説明いただきまして、幾つかわかったこと、勉 強させていただいたことがあります。一つが、なぜ仮定された年次別の出生率というのが 反転しているのかということです。将来の推計値が反転しているのか、私は今まで、なか なか理解できませんでした。今日ご説明いただいたことで一つ理解できたのは、つまりこ のように精緻に中立的にデータを読んで出していただいた推計では、出生率は上がるとい うところと、私は今44歳で、出産・子育て世代で、まわりに同様に出産や子育てで悩んで いたり、産みたくても産めないという人がたくさんいるという状況の中で、肌感覚で、こ のままでは出生率が上がるはずはない、もっと下がるだろうと感じている実感との乖離と いうものが何で起きているのだろうかという疑問がずっとあったのですけれど、私なりに 理解できた1点目が、晩産化の影響というものが、きちっと加味されていないのではない かということです。  どういう意味かといいますと、晩婚化・晩産化で、出産年齢がどんどん上がっていくと、 このように出生数のカーブが上がって下りるというのが、右にどんどんずれていく。それ がしかし、永遠に晩婚化・晩産化が進む訳ではなく、どこかで止まるであろうと仮定され ているというのは、ごもっともだと思うのですけれども、一つは、年齢が高い産婦という のは、30代後半から40代にかかってくると非常に体力が落ちてきて、産み育てるというと ころで、皆さん、相当に限界を感じます。特に日本のように、社会的に子育てに対する支 援が乏しく、かつ父親の子育て支援が乏しい国では、母親個人に相当、気力・体力の面で 出産・子育ての負担がかかる訳です。その母親の体力が非常に落ちてくる30代後半以降の 人たちが、それまでと同じぐらいの数を、遅くから産みはじめて産めるはずがありません。 その、体力の低下ということが読まれているのかどうかということに疑問があります。  また、年齢が高い女性になればなるほど、機会費用も高くなります。働いている人はも ちろん、働いていない人でも、いろいろな意味の機会費用があります。その機会費用がま すます高くなってきています。一人一人、子供を産むたびにかかってくる機会費用のその デメリットのところというものも加味されているのかどうかということに疑問があります。 また、産みはじめが遅くなると、子供の教育費も親だけの負担になっている国ですから、 教育費をずっと見なくてはいけない。自分たちの定年の年齢が来るところまでに子供が育 ち上がるかという計算もすると、教育費用を負担できるのかどうかという不安も出てきて、 出生数にブレーキとなってかかるのではないでしょうか。そういった晩産に伴う、出生に ブレーキをかける要因といったものが、十分に加味されているのだろうかというところに 疑問が一つありました。  もう一つは、取材で、現在の出産・子育て世代の生活を見て、いろいろな話を聞いてま わると、世代ごとに、出産状況に違いが生じているということに気が付きます。まず体力、 それは年齢によって体力が変わるだけではなくて、ご存じのとおり、今、小学生の子供た ちの体力測定で、非常に体力が落ちてきているということが、数字として出てきています けれども、小学生でなくても例えば10代、20代でなだらかに、今、体力が相当落ちてきて います。今の小学生の子供たちの背筋力ですが、背筋のテストをやると背骨を傷めてしま う子がいるから背筋のテストをやめたぐらい、実は背筋力が落ちてきて、その数字が低い ままこのまま大きくなったときに、赤ちゃんが抱けなくなる数字になるということを、小 児科の先生たちが危惧されるぐらい、体力の低下というのが、今、日本人の中で起きてい る訳です。世代ごとに体力が落ちていて、それで若い母親たちの間では、難産が非常に増 えているとも聞いています。また、出産できた後でも車椅子がないと動けなかったり、相 当な腰痛が残ったり、出産後のうつも非常に増えています。このように、世代ごとに体力 の低下が起きていて、それが出産の意欲を減じさせているという面があるのではないかと いうことを感じています。  もう一つは、世代ごとに育った環境が違うことに気が付きます。育った環境の何に着目 すべきかと考えているかというと、子育てや、小さい子供たちと接した率というのが非常 に落ちてきている訳です。今の20代の前半ぐらいの若いお母さんたちは、例えばおっぱい をあげているシーンを生で見たことのない人が多くて、どうやっておっぱいをあげるのか すらわかっていないと言われるぐらい、周りに子供が既に少なくなってきたり、核家族化 やマンション化が進んでいたりということで、子育てを見ていない人たちが多くなってい て、出産、子育てに対するハードルの高さというのが、ますます高くなっているように思 います。そこを超えるような社会的支援がない状況のままでは、世代ごとに出産、子育て に対する壁がどんどん高くなっているという傾向もあるように感じています。  また、今、経済状況も、若い世代ほど非常に苦しくなっているということがあります。 体力と育った環境の違いと経済環境というところで、若い世代ほど、非常に産みづらくな ってきているという、その世代ごとの違いというものが加味されていないのではないかと いうことも思いました。若い世代では、産み方が低位推計に近いというご指摘があったの は、背景にそういったことがあるのではないかというように感じていて、低位推計という のは、つまり東京の出生率が指標になっていると伺っていますけれども、東京型のライフ スタイルに近い人たちが、若い世代ほど増えているというところも、加味する必要がある のではないかと思います。  それからもう一つ、阿藤先生がご指摘になった、現実にはほかの国々、出生力が一定程 度回復している国々の中で、その出生率の上昇が起きた国々があるということは、念頭に 置くべきだというご指摘はそのとおりだと思いまして、お聞きしたのですけれども、では、 そういった出生率が一定程度回復した国々というのは、どういう要因の変化が起きたのか ということは分析されているのかどうか、もし分析されているんだとしたら、そういった ところのご説明もいただければとも思いました。 (国友委員)  私も質問・意見が2つあります。一つは樋口先生の話と大分重なります。簡単に言えば、 参照コーホートと最終コーホートの設定方法について、確かに中位推計というような中位 数(メディアン)による将来人口の推計で見るときは、同一に設定するというのは納得で きますが、もう少し幅を持って人口を推計するということになると、低位推計や高位推計 においてもほとんど変わらない数字に設定するのは若干違和感があります。関連して、や はり中位推計があまりにも重視され過ぎているという印象を持っています。中位推計の数 値のみを重視するのではなく、推計の幅をどのように政策当局が利用していくかという論 点をもっと議論した方が良いと考えています。  それから第二点ですが、生命表についての前回の推計ではリー・カーターモデルを大分 使われたという説明がありました。先ほどいただいた説明資料で見ると、変数K(1)で 表される時間効果の水準が、最近はほとんどゼロになっている訳です。ゼロになっている ということは、ほとんど説明効果がないとみると、過去から値をそのまま予測して負の値 として将来推計に利用するということが、むろん私は全く検討していませんが、高齢者の ところで推計にかなり誤差が出るという経験的な説明と関係しているのではないかという 感想を持ちました。これについては、後でご説明いただければよいと思います。 (廣松部会長)  続いて、まとめてご意見をいただいておきましょう。まず、宮城委員からお願いいたし ます。 (宮城委員)  私は産婦人科の委員として参加させていただいておりますので、先ほどの津谷先生のご 意見のところに関しての質問をさせていただきます。15ページにある参照コーホート出生 仮定設定の、仮定の係数ですけれど、これには先ほど津谷先生がおっしゃっていたように、 生物学的に35歳を超えてくると、確実に、欲しくても子供はできにくくなってきます。そ の数字というのは、今日お持ちしませんでしたが、海外文献などで確実に医学統計として 発表されています。例えば40歳なら、子供が欲しくて普通の夫婦生活をされていても、こ のぐらいの割合でできないとか、そういう数字があるはずです。この仮定設定というのは、 35歳で結婚された場合と25歳で結婚された場合の違いが入った数字なのかというのが疑問 です。この晩婚化が統計で出ていることから思えば、その係数というのは、かなり低めに 設定しないと、実際の出生率予測の数字に反映されないと感じました。文献については時 期が来たらお持ちしたいと思っております。  それから不妊の影響ですが、これは先ほどのお話の中では社会的な要因になるので、シ ミュレーションとして使っていただけるかどうかということになると思います。前回配ら れた資料で私が着目しましたのが、不妊を心配したことのある夫婦が4組に1組というこ とですこれはもう晩婚化すれば当然出てくることで、さらに、それに不妊の検査や治療を 行うと、妊娠する率がこれぐらい増える可能性があるというのも、多分、数字としては医 学的にはある程度の統計は出ていると思います。シミュレーションの中に政策としての不 妊症対策の影響を加えるなどして、晩婚化は当たり前で出産はまだまだ大丈夫と思ってい たら、子どもが欲しくなったときには自然にはできなくなっているというようなこともあ るとの報道などにより、そのような晩婚化の妊孕能への影響が国民に周知された場合には、 実は少子化対策にもかなり影響力があるのではないかと感じております。 (山崎委員)  2点あります。1点は、ほとんど榊原委員がおっしゃったことですが、あえて言います と、14ページで中位、高位、低位の3つの仮定を置いていて、榊原委員から、若い世代に おいては東京型、都市型のライフスタイルが相当浸透してきているのではないかというお 話がありましたけれど、もう1点、国内の人口移動を仮定しておられるのかどうかという 疑問があります。明らかに子供を産みにくい、東京を代表とするような都市部にまだまだ 人口が移動して、そういった地域の人口が増えている訳です。子供を産みやすい地方の若 い人が都会に出てきて、産みにくい環境の中で子づくりをする訳ですから、やはり中位推 計よりも下回るのは当然だと思うのですが、そういった国内での人口移動を考慮しておら れるのかどうかということが1点です。  それから2点目は全く違うのですが、社会保障全体を見ておりますと、少子化だけでは なくて高齢化、特に寿命の延びというのが、政策を考える場合の非常に大きな要因になっ ている訳ですけれども、死亡率の仮定はなぜ1本なのでしょうか。実績から言うと死亡率 も見込み以上に改善してきている訳ですが、そのことによって、医療や介護にもかなり大 きな影響を及ぼしてきます。年金ももちろんです。例えば今は生活習慣病対策だとか、あ るいは介護予防というものに、国を挙げて取り組もうとしている訳ですけれども、場合に よれば、寿命が予定以上に、これまでの実績も大体そうだったのですが、延びていきます と、それにより期待されている効果も打ち消される可能性がある訳です。したがって3本 出すのであれば、出生率とは別にまた死亡率についても3本という、幅を持った推計をし ていただければと思います。以上、2点です。 (廣松部会長)  ありがとうございました。少々時間をオーバーしておりますが、とりあえず今の段階で 金子部長の方から何かお答えを、それから現時点でのお考えを伺えればと思います。 (金子部長)  何人かの委員の方から、共通のご指摘としていただいたものですけれども、晩婚化、晩 産化に伴う妊孕力であるとか、あるいは機会費用の増大であるとか、あるいは体力の低下、 高齢での教育費用への不安感といったことが、高齢における出生率を、本来よりも下げる のではないかというご指摘が何点かあったかと思います。  これについて、推計ではどのように扱っているかということを簡単にご説明いたします と、資料の15ページの上のグラフでございます。ここに期待夫婦完結出生児数という、出 生動向基本調査から得られたグラフを描いております。横軸は妻の初婚時の年齢でござい ます。縦軸が最終的な夫婦の子供数ということで、結婚年齢が高くなれば高くなるほど、 その結婚における最終的な子供の数は減っていくという関係がとらえられております。し たがいまして、過去においてとらえられた高齢における出生低下の諸々の要因というのは、 こうしたデータによってとらえられていると考えられます。さらに平成14年推計で取り入 れました、その下のグラフにあります結婚出生力低下係数というのは、さらにこのパター ンよりも低下が起こっているコーホートがある、若いコーホートではそういうことが起き ているということで、この係数を取り入れております。したがいまして、高齢における妊 孕力、体力低下、そのような要因による効果というのは、一応、データ上では含まれてい るというふうにお答えしたいと思います。ただ、これを将来的にどのように考えていくの かというのはまた別の話で、これにさらに仮定値を設けるとか、そのようなことはまた別 の話であろうと思います。  それから、国友先生からいただきましたKtの、リー・カーターの問題は、かなり専門的 な話になりますので、詳しくは改めてお話ししたいと思いますけれども、基本的にこのKt というのはプラスからマイナスへ変化していく数字でありまして、先ほどの図で言います とaxというのをどの時点の死亡率としてとらえるかということによって、そのKtの0点 というのが決まることになります。したがいまして、先ほどの説明はちょっと簡略化して、 平均値のまわりの分散、隔たりを将来に投影するというような説明でございましたけれど も、実を言いますと、細かな操作がございまして、axは、若干、もう少し最近の安定した ところのパターンを使っているというようなことがありますので、そのKtの値というもの の解釈が異なってくるということでございます。  それから山崎委員から、人口移動を考慮しているかというようなご指摘でございますが、 これは必ずしも、これから起きる人口移動につきまして、この全国の人口推計においては 明示的に導入してはおりません。あくまでも、先ほどお示ししましたような社会経済要因 の一つとして、過去のコーホートの世代ごとの変化の中にそのようなものが表れれば、反 映されるというようなことになります。しかしながら、この人口移動に関しましては、国 内の都道府県別あるいはそのほかの地域別の将来推計人口を、私ども社人研で行っており まして、そちらの方で詳しく扱っているものでございます。  それから寿命の延びに関しても、死亡率の仮定を1本ではなくて複数にするべきではな いのかというご指摘だと思いますが、私どももそのように考えております。死亡率の変動 といいますか、寿命の延びというのは、各国とも、これまで見通されてきた推移というも のから、かなり乖離して寿命がどんどん延びており、高齢における死亡率が予想以上に下 がっているという状況が、各国とも見られております。したがいまして、その死亡につき ましても、不確定要素が存在するというふうに認識しております。  ただ、一つ問題点としましては、死亡の仮定を例えば3つにしますと、出生の仮定とあ わせまして3×3=9通りの推計が出てくるということになります。これはまた、使う立 場としてどうであろうかということになります。それは別の問題ですけれども、そういっ たこともございます。おおむね、以上でございます。 (廣松部会長)  先ほど鈴木委員から手が挙がりました。時間を過ぎておりますので簡潔にお願いいたし ます。 (鈴木委員)  今までのお話を伺って、将来人口の推計にあたっては非常に精密にプロジェクションを されているので、基本的には大変結構だと思います。ただ、手法については、例えば将来 起こるべきパラメータの基準をどうするかという議論はあると思うんです。特に出生と死 亡に関しては多くの委員からご指摘があったように、例えば体力とか健康度というのは、 非常に大きいパラメータではないかと思っております。今の、前期の高齢者、65〜74歳ぐ らいの高齢者というのは、かつての15〜10年前の高齢者よりも、例えば握力であるとか歩 行能力で見たときに、その能力が非常に高くなっています。恐らく彼らは、今の一本調子 の死亡率ではなくて、やはりもっと下方の、死なない方へ変更しなければいけないという のは、私自身、高齢者の体力を見ていて、実感として思っています。  しかし、それがいつまで続くのでしょうか。これは非常に難しいのですけれど、団塊の 世代が終わった次の世代は、また体力が下がってくる世代だと見ています。それは先ほど 榊原委員がご指摘になったように、文部科学省でずっと実施している学童の体力調査、こ れが一本調子で下がってきているということがあります。先ほど榊原委員は、出産をする 女性の側についてそれを見ておられましたけれど、例えば2050年という長期のスパンで見 ていった場合に、この体力の低下と、それからもう一つは職域での健診での有所見率が確 実に増えているということを見ると、これは非常にゆゆしき問題であろうということで、 やはり人口構造や国民の基本的な生命力といったものを大きく変えてしまうと思われます。  したがいまして、今回、議論になるのかどうかわかりませんけれども、そういった「健 康度」と言われるようなもの、あるいは「体力」と言われるようなものは、潜在的なパラ メータなのかもしれませんが、大切な考え方だと思っています。先ほど阿藤委員が最初に ご指摘されたように、「健康寿命」というのを考えておられるかということでしたけれど、 まさに実は大事な視点だと私は思っております。そういう変数は、なかなか数値化するの は難しく、どういう定義でやるかというのはあるのですが、しかしそれらは、かなり多く の老年学での研究で使われておりますし、日本でも幾つかあると思うので、そういう変数 をやはりEBMとして採用することは可能だと思っております。  ですから、社会保障制度全体を支える、あるいは公的年金を今後どういうふうに維持す るかといったときに、例えば高齢者の、少なくともこれから15年続く、健康度の非常に高 い高齢者集団が出てきたときに、今のように65歳を高齢者と一律に定義してしまっていい のかどうかという議論も場合によっては必要だと思います。大変な作業であるということ はわかりますし、そう簡単にモデルとして投入するということはなかなか困難であるとい うことはよくわかりますが、是非、そこを考えていただければと思います。それを一つ明 らかにするには、やはり過去のプロジェクションが、例えば10年とか20年前のデータを使 って今と同じ手法を使ったときに、一体どのぐらいずれが出るのか、ずれが出た原因は一 体何なのかということが明らかになれば、出生・死亡・移動以外に、次に投入すべき、あ るいは考慮すべき変数というものの糸口がつかめるのではないかという、勝手な部外者の 言い方なのかもしれませんが、そう思っております。これだけ精緻にやっておられるわけ ですので、やはり、過去のデータで現在を推計したときのずれに対する要因というものが 何だったのかというのを明らかにしていただければと思います。 (廣松部会長)  ありがとうございました。ただ今の鈴木委員のご意見に関しては、今、直接お答えいた だくというよりも、次回、鈴木委員以外の、ほかの委員からも出ましたご意見に対するお 答えという形でまとめていただければと存じます。本日は、皆様方から大変積極的なご意 見をいただきまして、時間が大変オーバーしてしまいました。誠に失礼をいたしました。 それでは、本日の部会はこれで終了させていただきたいと存じます。なお、次回につきま しては、9月を予定しておりますが、詳細は改めて事務局の方で、委員の方々の日程を調 整していただき、皆様にご連絡することとしたいと存じます。本日は長時間、どうもあり がとうございました。これで終了いたします。 (終了) 照会先 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室 代)03−5253−1111(内線7714、7692) ダ)03−3595−2159 国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部 代)03−3595−2984(内線4474、4475) ダ)03−3595−2992