04/12/01 労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会第10回議事録         第10回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会 1 日時 平成16年12月1日(水)16:00〜 2 場所 厚生労働省 専用第21会議室(17階) 3 出席者  〔委員〕    公益代表  保原委員(会長)、石岡委員、稲葉委員、岩村委員、          金城委員    労働者代表 佐藤委員、須賀委員、高松委員、寺田委員、真島委員    使用者代表 川合委員、紀陸委員、杏委員、久保委員、下永吉委員、          早川委員 4 議題  通勤災害保護制度の見直し等について 5 議事 ○保原部会長  ただいまから、第10回「労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」を開催いたし ます。本日は、岸委員と内藤委員が欠席です。  本日の議題に入ります。前回、複数就業者に係る事業場間の移動及び単身赴任者の赴 任先住居・帰省先住居間の移動について概ね意見の集約が得られたと思います。これに 対して、3点目の複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法の見直しについては、前回 さまざまな意見が出されました。本日は、前回意見の集約に至らなかった複数就業者の 給付基礎日額について、前回出された意見を踏まえて論点を整理したものを用意してお ります。これに基づいて議論していきたいと思います。  また、前回の部会で概ね意見の集約が得られた事項について、労災保険部会における 検討結果の骨子(案)としてまとめたものを用意しております。初めに、事務局から資 料の説明をお願いいたします。 ○労災管理課長  前回第9回の資料を参考として配付させていただきました。本日は第10回ですので第 10回の資料をお願いいたします。資料1は部会長から説明がありましたが、前回の議論 を踏まえ、事務局において改めて論点を整理させていただいたものです。給付基礎日額 の算定方法につき、前回さまざまな議論をいただきました。これを踏まえて事務局とし て整理したものをご紹介させていただき、併せて事務局のコメントも付け加えた上でご 紹介申し上げます。  1点目として、負担の在り方についての議論がありました。複数事業場の賃金を合算 したものを、給付基礎日額の算定の基礎とする場合には、給付の増加に係る負担の在り 方についてどう考えるかという論点として整理いたしました。具体的に申しますと、個 別事業主については、メリット制の算定上不利にならないように措置することが考えら れていたわけです。給付基礎日額の算定方法の見直しによって給付の増加が行われる場 合、その負担について保険料率全体の問題として見る場合に、災害の発生した事業場が 属する業種が負担するのか、あるいは全業種で負担するのかといった問題が論点として あろうかと考えております。  2点目は、手続の在り方の問題です。これについては、災害の発生と無関係な事業主 に賃金証明等の手続的な負担が求められることをどう考えるか。特に、兼業禁止規定が あり、その規定に反した場合の兼業先での事故について、手続的負担を事業主が求めら れることについてどう考えるか、という論点が前回提起されました。  この点についてご説明させていただきますと、複数事業場の賃金を合算したものを給 付基礎日額の算定の基礎とする場合には、複数事業場で支払われていた賃金額を行政と して把握する必要があることになりますので、災害の発生に関係した事業場だけではな くて、災害の発生に関係のない事業主に対しても、賃金の証明を求めることが必要にな ってくるという問題が実務上あります。具体的には、労災保険の給付に係る請求は、被 災労働者ないし遺族の方がされるわけですけれども、請求書を労働基準監督署に提出す る際に、賃金の額については事業主の証明を求めた上で請求書を提出する、というのが 実務上の取扱いです。  3点目は、算定方法の問題の点の指摘がありました。給付基礎日額の算定方法につい ては、複数就業者といってもいろいろな類型が考えられるので、そういう類型に応じて 緻密に設定していく必要があるのではないかという論点です。この点について補足して 申し上げますと、給付基礎日額の考え方は、被災労働者の稼得能力に見合った額を算定 していくという考え方であるわけですが、原則として労働基準法の平均賃金ということ になっています。労働基準法の平均賃金の算定方法においても、月給制の場合や日給 制、時間給制の場合と分けて算定のルールを定めています。こういうことを考えてみて も、複数就業者に応じた給付基礎日額の算定方法についてはご指摘にもありましたよう に、緻密な検討を行っていく必要があるものと考えております。  4点目の、複数就業者の把握の問題については、前回の議論では直接出ていなかった かもしれませんが、事務局として改めて論点を整理し直す中で論点として出させていた だきました。労災保険においては、労働者を使用する事業を適用単位としておりますけ れども、労働者個人ごとの被保険者管理は行っておりませんので、被災した労働者が複 数就業をしているかどうかという点については、保険給付の請求があった時点で、行政 の側で当然に把握できる仕組みになっていないということがあります。  他方で、これまで給付基礎日額というものは、行政において客観的な事実に基づいて 適切な額を算定する、という仕組みであるわけですけれども、複数就業者の問題につい ては行政において把握する仕組みがないということを前提にすると、合算の手続を行う 場合の制度設計としては、被災労働者等の申し出があった場合に、行政として事実を確 認して算定を行う、ということがまず考えられるのではないかと思います。  申し出によるとした場合には、被災労働者等の申し出がない場合には、複数事業場の 賃金の合算は行わないことになります。したがって、申し出の有無によって給付基礎日 額が異なることになります。行政が職権で妥当な額を決めていくというこれまでの考え 方と違う運用になることについて、それでよいかという問題もあろうかと考えておりま す。  5点目として、通勤災害の場合だけでなくて、業務災害の場合についても給付基礎日 額を合算することについての論点の提起が前回ありました。この点について、研究会の 検討の中においては、複数就業者の問題を検討する中で、通勤災害であるか業務災害で あるかを問わず、複数事業場の賃金を合算したものを給付基礎日額の基礎とするのが適 当という取りまとめになっていました。この問題については、労働者の稼得能力を評価 していくときに、通勤災害の場合と業務災害の場合とを分けて考えていくというのは適 切ではないのではないかと考えております。前回の議論を踏まえ、整理した論点につい ては以上のとおりです。  資料2は、前回の議論の中で考え方の集約が得られた2点について整理した上で、第 3の論点についてはペンディングということで、検討結果の骨子(素案)ということで 整理させていただきました。  1点目の複数就業者に係る事業場間の移動については、移動先の事業場における労務 の提供に不可欠なものであること、通常、一の事業場から他の事業場に直接移動する場 合には私的行為が介在していないこと、事業場間の移動中の災害は、ある程度不可避的 に生ずる社会的な危険であると評価できること等から、通勤災害保護制度の対象とする ことが適当であると整理させていただきました。  2点目の、単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動についての論点について は、単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動については、単身赴任は労働者を自 宅からの通勤が困難な場所で就労させなければならないという事業主の業務上の必要性 と、労働者の家庭生活上の事情を両立させるためにやむを得ず行われるものであるこ と、労働者が労務を提供するため、家族と別居して赴任先住居に居住していることか ら、赴任先住居・帰省先住居間の移動中の災害は、ある程度不可避的に生ずる社会的な 危険であると評価できること等から、就業に関連する赴任先住居・帰省先住居間の移動 を、通勤災害保護制度の対象とすることが適当であると整理させていただきました。  3点目の、複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法についての論点についてはペン ディングにさせていただきました。以上です。 ○保原部会長  ただいま説明のありました点について、ご質問、ご意見等がありましたらお願いいた します。 ○佐藤委員  前回で意見も出尽くしたわけですが、使用者側のおっしゃられることについてもかな り説得力があるような気もします。現実の問題を考えてみると、複数の事業場で働く方 は、この資料では学校の先生などが多くなっています。私の知る範囲で言えば、女性 で、パートタイマーで、コンビニで働いたり、スーパーに行ったりという形で労働して います。それは、生活を支えるためにやっているのだ、というふうに基本的には考えら れると思います。そういう観点に立てば、今回の提起は非常に画期的なことだろうと思 います。  前回、部会長が話されましたように、労働時間については、2つの事業場であれば2 つの事業場をプラスして合計するのだということで考えれば、労働者の労働というもの についてのとらえ方は一定に完結しているのではないか。その人が複数であろうが単数 であろうがです。そんなことから考えれば、今日の就業の多様化で、ますますそういう 人たちが増えていくことを考えれば、この際いろいろな問題点を残しているかもしれま せんが、基本的には通勤災害と同じように業務災害の給付基礎日額についても合算す る、という結論が得られるのが望ましいのではないかと思います。 ○保原部会長  佐藤委員のご意見は、複数就業者については、通勤災害についても業務災害について も通算する、という考え方でいこうというご意見です。 ○紀陸委員  前回も主張させていただいたとおりですが、業務上災害も通勤災害も、基本的に事業 主が二重の就業の実態を知らないような場合にまで広く補償を及ぼすというのは時期尚 早だという感じがしております。この辺は慎重に論議していただきたいと思います。特 に、現実には兼業を禁止している事業場が非常に多いわけですので、その間の労使の約 束というのは尊重していくべき必要が特にこういう面においてはあるのではないかとい う考え方です。 ○岩村委員  前回私は欠席しておりまして、残念ながらこの華々しい議論のときにはいなかったも のですから、完全に議論を把握しているわけではないので、意見を述べるのが適切かど うかわかりません。ただ、前々回は出席させていただいて、その折りには若干意見を申 し上げました。  基本的には、複数就業者の場合の事業場間の移動について、今回通勤災害の制度を拡 張するというのは適切だろうと考えております。その場合に、まさに本日問題になって おります給付基礎日額の算定方法をどうするかということです。第1に、少なくとも現 行法では、給付基礎日額については通勤災害と業務災害との間で差を設けていない。通 勤災害にせよ、業務災害にせよ、同一の算定方法を採用する、という考え方を維持する というのが適当であろうと思います。  その上で、複数事業場の従業者の場合に、給付基礎日額をそれぞれ合算したもので算 定するのかということでありますが、私は合算するのが適当であろうと考えておりま す。労災保険制度というのは、労働者が業務災害、あるいは通勤災害に遭った場合に、 特に就業ができない、一時的な休業にせよ、障害が残った場合にせよ、それによって賃 金が得られなくなる、賃金が下がるということに対してそれを補償し、労働者の生活を 確保する仕組みでありますから、現実に複数の事業場で就労していて、それをもって生 活を立てている場合には、それをベースに補償を考えるのが労災保険の基本的な考え方 に合致するのではないかと思います。  使用者側から、先ほど紀陸委員もおっしゃいましたし前々回もおっしゃっていました が、兼業禁止規定がある場合というのは、確かに我が国の企業の場合には多いのだろう と思います。これ自体は、少なくとも現在の多くの裁判例、学説の考え方では兼業禁止 規定があったからといって、当然に兼業が禁止されているのか、兼業禁止規定に違反し たら懲戒処分できるのか、ということについてはそうではないと考えております。  確かに労使間の約束は大事だと思いますが、兼業禁止規定の法的効力がかなり限定さ れているということがあり、もう1つは労災保険の場合は、ある意味で公法的な制度で すから、労使間の労働協約、就業規則の定めよりは、労災保険の考え方のほうが優先す るのではないかと思っております。  そういう意味で、私は給付基礎日額については合算するという考え方でよいのではな いかと思いますが、他方で事務局から説明がありましたように、手続の問題や、実際に 給付基礎日額の認定のやり方をどうするかといった論点が残っていることも確かではあ ります。給付基礎日額の合算の問題については、もう少しどこかで改めて検討の場を設 けて、詳細に詰めて、詳細な点についてより具体的な検討をした上でまた考えてみる、 ということでもよろしいのではないかと考えております。 ○久保委員  いまお話がありましたように、パートとかアルバイトというように二重就労が増えて いる実態がありますし、それはそのとおりだと思います。そういう形で、要は企業の中 で兼業が認められて、なおかつそういう実態があるということからいけば、そこは別に 否定するものではありません。そういう場合にははっきりしているわけですから、加算 されても結構だと思っています。  いかんせん多くの企業で兼業禁止を就業規則で決めていて、就業規則上は届出がない 場合には解雇するという形までとっています。そういう実態がありますので、その部分 についてはなかなか納得しにくいということがあります。規定がありながら、兼業して いるという方はごくわずかだと思うのです。大方は兼業規定がない、あるいは会社も認 めているということで就労されていると思いますので、大きく言えば大半の部分はそこ でカバーされるわけです。例えば、兼業規定があるような場合については除外する、と いうことでもそんなに大きな影響はないのかと思っています。いま議論がありましたよ うに、この点については最後はもう少し慎重に検討していただきたいという感じを持っ ております。 ○石岡委員  今回、事務局で給付基礎日額の算定方法の見直しに係る論点を5つ整理していただき ました。1番の負担の在り方についても、※に書いてありますように、給付の増加に係 る負担分については、災害が発生した事業場が属する業種が負担するのか、広く全業種 が負担していくのかについては、コンセンサスが得られないといけないと思います。こ れは、なかなか重要な問題ではないかと思います。時間をかけて議論するに値する問題 ではないかと思います。  2番にしろ、3番にしろ、4番にしろそれぞれ問題ですし、5番もこれまた1番と共 通して、いろいろな負担の在り方の合意形成はなかなか難しい問題ではないかと思いま す。確かに岩村委員がおっしゃいましたように、合算というのは1つの考え方ですが、 いま申し上げましたように、給付基礎日額の算定の方法の見直しについては、現実とし ていろいろな問題がありますので、検討の場を設け、時間をかけて検討すべきではない かと考えます。  しかしながら、それをやっていると複数就業者に係る事業場間の移動についての制度 が発足できませんので、資料の1から2にわたって恐縮ですが、素案に書いてあるよう にとりあえず通勤災害の制度の対象として、複数事業場間で移動する場合について救済 を図っていってはいかがかと考えます。 ○佐藤委員  同じようなことを言うかもわかりませんが、兼業禁止規定が会社にある、就業規則を 示される、労働者はそれを読む、ある意味ではそれで契約が成立したことになります。 労働組合があってもなくてもという言い方はおかしいのですが、雇用、非雇用という考 え方からいけば、兼業禁止規定がある就業規則を、私はそれを認めませんと最初から言 える労働者はなかなかいないと思います。  先ほど言われたように、法律はその上をいかなければいけないわけですので、時代の 趨勢を見るということからいえば、この際いろいろな問題を解決するために検討の場を 持つのは正しいと思いますが、根底へ戻してこの議論のやり直しをするというのはちょ っと戻りすぎではないかと思います。 ○須賀委員  私も、この間しばらく出ておりませんが、状況については傍聴させていただいた私ど もの事務局から聞いておりますし、これまでの議論の経過も把握しているつもりですの で、その上で議論に参加させていただきます。  兼業禁止規定とのかかわりがありますが、そもそも労災保険制度は被災者、遺族の迅 速な保護、労働条件の確保が大きな目的として謳われております。そういう意味からす ると、契約上就業禁止規定とのかかわりが問題になるのであれば、それはそれとして一 方に置きつつ、労働者の保護、救済をどうしていくのかという視点でここは考えていく 必要があると思います。  そうした意味からすると、通勤途上災害の部分と、労災の部分で、それぞれ給付の在 り方を分ける、兼業禁止規定があるからといって、給付基礎日額の算定を分けるという ことは、この保険制度の根幹にかかわる部分ですからそこはすべきでない、というのが 労働者救済という視点からすると非常に重要なことだろうと考えております。そういう 意味では、両者を分けるような考え方に立つべきではないと思っております。  今回、画期的な枠組みとして、新しく通勤途上災害の中に事業場間の移動、単身赴任 等の関係での移動を入れようとしているわけですので、幅広く救済しようという視点か らすると、結果において二重就業であるがゆえに、収入の道が途絶えるということに関 して、合算して補償していくことについてはそれなりの理由が立つのではないかと考え ます。是非、労働者救済という視点で検討していただければありがたいと考えます。 ○石岡委員  質問ですが、いままで議論してまいりましたこの問題については、労災保険制度の中 での議論でありました。しかし、国家公務員や地方公務員は別の制度で保護されており ます。国家公務員の実態はよくわかりませんが、国家公務員法第101条で、法律又は命令 の定めるところにより兼業が許される場合があります。したがって、国家公務員が民間 の事業場に複数就業者として働く場合もあるでしょうし、逆はあるのかどうかわかりま せんが、そういう他制度と労災補償制度間の複数就業者の事業場間の移動の問題などに ついてはどのように考えているのでしょうか。 ○労災管理課長  その点については、どのように制度を仕組んでいくかというふうに、具体的に制度化 する段階で明確に決めていかなければいけない問題だと思います。労災保険制度の中 で、複数事業場に跨がる場合には、労災保険制度としてどういうふうにするかというこ とを決めていけばいいわけですからそのような決め方になります。  他制度に跨がる場合についてどうするかという点については、労災保険制度として国 家公務員災害補償適用事業場から労災適用事業場に向かっていく途中で起きた事故につ いてどうするかということを決めて、それについては救済するという形で制度を作って いくことが決め方として1つあり得ると考えられます。  ただ、制度間に跨がって調整をさらに図って、両方でそこをカバーしていくという場 合には、制度間調整として制度に跨がる調整の仕組みというものまで仕組んでいかなけ ればいけません。そこをどうするかというのは、労災保険の割切りとしてだけ、そこは 他制度にまたがる場合であっても労災保険の部分については救済するという制度にする かどうかというのが1つの考え方になってくるのかという感じがいたします。そこをさ らに踏み込んで、制度間調整までするということだと、またさらに議論としては難しい 論点があるかという感じがしております。 ○保原部会長  おそらく、労災保険の中でどうするかを考えて、その後に制度間調整については石岡 委員がご指摘になられたような問題などいろいろありますから、結構大きな問題になる と思います。これからは、独立行政法人である公的な大学と、民間企業が入り乱れて業 務を行うというようなのがどんどん増えてくると思いますので、いずれ検討の必要が出 てくるだろうと思います。  いままでの議論を伺っていますと、必ずしも1つの方向に向かっているとは受け取れ ないのですが、全体としてこの問題はもう少し時間をかけて別の場所で検討したほうが いいのではないか、という感じが多数かという気がしております。つまり、複数就業者 の給付基礎日額の算定の基礎を、複数の事業場の賃金を基礎とするのか、そうでないの かという問題については、もう少し議論をする。改めて場を設けて、そこで議論しても らうというのがいいのかという気がしています。全体として、そんなまとめでよろしい でしょうか。 ○須賀委員  その場合に、どういう場で検討する、ということを想定していますか。 ○保原部会長  この問題について、私は事務局と全然相談をしていませんけれども、例えば複数就業 者や単身赴任者の問題を議論していた、労災保険の在り方検討会がいいのか、あるいは 別のものがいいのかまだわかりません。いずれにしても、もう少し勤務とか賃金の実態 を踏まえた調査・研究等を行って、その上での議論になるということだろうと思いま す。 ○佐藤委員  検討会が持たれて、こういうものが出されたわけです。相当練っていただいたあげく に出されたものだと初めは受け取りました。2点は既に部会長の確認ですが、また振り 出しに戻る議論であれば、平行線を辿ったまままとまらない問題で先送りというのは、 先ほどから言われている労働者保護の前進の問題につながらないような気がするので す。  ある程度歯止めをしておいた上で、休業した間の賃金の証明をどうするのかという問 題だけに絞ってやってもらうべきで、それ以上はいいのではないかと思っています。 ○保原部会長  いま我々に課されている問題の1つは、単身赴任者と複数就業者の通勤経路のどの部 分を保護するかという問題であります。それについては、ほぼコンセンサスが得られた と考えております。これに対して、2つ目の問題である給付基礎日額の算定の基礎とな る賃金については意見が分かれている状態です。  法案などの時期を考えますと、差し当たりは単身赴任者と複数就業者の通勤災害の保 護の拡充を図るという立法を先にして、給付基礎日額の算定についてはもう少し継続的 な検討をしていただくのがいいのかと思っております。 ○岩村委員  給付基礎日額の算定方法については先ほど申し上げたように、私自身は合算したほう がいいと思っています。いま部会長がおっしゃったように、また資料2にあるように、 事業場間の移動について通勤災害扱いをするということと、単身赴任者の住居と職場と の間の移動についても通勤扱いをすることについては、概ね合意が得られているという ことであれば、そちらを先行させて立法化するのがいいのではないかと思います。  そうして立法化した上で、具体的に複数就業者の場合の事業場間の移動についての通 勤災害の事例によって蓄積されていくことになりますから、そういうものをベースにし て給付基礎日額の考え方を整理することも可能になるのではないか。部会長もおっしゃ ったように、さまざまなデータの収集も必要だろうと思いますし、実務上の問題もあろ うと思いますので、複数事業場間の移動の通勤災害の制度をまず動かしてみて、その上 でより一層検討を深めて問題を整理し、より妥当な解決を模索することが適当ではない かと思います。  そういう意味では、部会長がおっしゃったように、概ね合意が得られている資料2の 1点目と2点目について、まず先行して立法化を図り、3点目の給付基礎日額の算定に ついてはもう1つ別の場を設けて検討するのが、現段階では妥当ではないかと考えてお ります。佐藤委員がおっしゃるように、確かに何か歯止めが必要だという考え方もわか るのですが、これだけ労使の委員の意見が分かれてしまっていると、直ちにというのも 困難だと思いますので、より実態に即した、また実務に合致した解決を見つける期間を 置いてもよろしいのではないかと思います。 ○須賀委員  仮に、いま岩村委員がおっしゃったようなことで、枠組みだけを法に反映するという 形でやった場合に、実務的にそれが給付基礎日額に関する定めがなくても法としてやれ るものなのでしょうか。実務的なことをお伺いします。 ○保原部会長  給付基礎日額について何も規定を新たにしないということになれば、関連の事業場か ら貰う賃金だけ、つまり1つの事業場から貰う賃金だけということになります。例え ば、第1の職場から第2の職場に行く途中の通勤災害については、第2の職場へ行く途 中ですから、そこの賃金が給付基礎日額の算定の基礎になることになると思います。 ○佐藤委員  部会長に教えてほしいのですが、労働時間の通算の考え方というのは、ある意味では 給付基礎日額の合算の考え方と似ていると思うのです。人間が人間らしい生活をしよう と思えば、8時間労働だということを基本にして考えていく場合、こちらで6時間、こ ちらで2時間というのなら6対2の割合になってしまって、それに相応して逆転の場合 もあるかもしれませんが、賃金の補償しか受けられないということになるのだと思うの です。  本日置かれている本にはそういう説明がないのですが、古い本だからそういう理解が 成り立つのかどうかわかりませんが、通算して所定労働時間よりオーバーした場合につ いては、割増賃金を払わなければいけないという解釈が出ているように思うのです。そ れが生きているのだとすると、給付基礎日額の考え方がそこに入っているのだと思うの ですがいかがですか。 ○保原部会長  私の個人的見解ですけれども、そういう問題も含めてもう少し考えていかなければい けないのではないかと思います。例えば、6時間働いて、さらに2時間働くという場合 に、本当に2時間分でいいのかということを、勤務実態や賃金実態を考えて、必ずしも そういうタイプだけではなくて、4時間と4時間とか、場合によってはかなり時間をオ ーバーして、片方で8時間働いて、片方で4時間働くということもあると思いますの で、そういう場合はどうするのだとか、考えることはたくさんあると思います。ここで 議論を切らないで継続審議をする。どこかに改めて場を設けて検討してもらうのがいい のかと思っております。 ○真島委員  そうしますと、3つ目の議論はいつぐらいまでにまとめるのだ、というお考えはある のでしょうか。その見通しが見えないと、というのもあるのですがいかがですか。 ○労災管理課長  本日いろいろご議論があるわけですが、引き続き検討する場合にどのようにやってい くかということについては、率直に申し上げて、行政としてもまだ具体的に考えており ません。ただ、本日のご議論を伺っておりまして、もともと研究会報告の中で複数就業 者に関しても、給付基礎日額については稼得能力をできる限り給付に適確に反映させる ことが適当という考え方から出発しての提案だったと考えております。  ただ、それを具体的な制度に落とし込んでいくときに、前回以来ご指摘がありました ように、いろいろな形での問題点があって、それをきれいに整理してクリアしていくこ とが難しいのではないかということかと受け止めております。確かにご議論の中にあり ましたように、兼業禁止規定等との関係でも、問題なく救済していいではないかという ケースもあるのではないかという指摘も一方ではあるわけですが、他方で公的制度であ る労災保険制度について、民事上の状況に応じてケース・バイ・ケースで対応していく ことはなかなかなじまないということですから、全体を通じて制度の運用について納得 性が得られるような交通整理をしていかなければいけないという点について考えてみま すと、まだ、いろいろな点について実態等も踏まえた検討が必要というのが、本日ここ でのご議論で、部会長からもご提起があったのではないかと考えております。  それをどういう形で行政として受け止めてやっていくか、という点については本日直 ちにここではお答えできませんので、少し考えさせていただきたいと思います。 ○須賀委員  労働側委員で少し打ち合わせをさせていただきたいので、5分ほど時間をいただけな いでしょうか。 ○保原部会長  ほかの委員の方はよろしいでしょうか。                   (了承) ○保原部会長  それでは、5分間休憩させていただきます。                   (休憩) ○保原部会長  再開します。須賀委員どうぞ。 ○須賀委員  労働側の委員で相談させていただきました。1項と、2項は既に全体の合意になって おりますので、部会長がおっしゃったようなことで構わないと思います。3項の扱いに つきましては、部会長もこの委員の中に入っておられて、研究会のまとめがされている わけです。そのまとめの趣旨を踏まえて、給付基礎日額の算定の在り方については検討 するということ。そして、実態の把握も当然必要でしょうから、少なからず1年程度か けて実態を把握するというようなことの中から、一定の結論を見出していくということ の中で是非検討いただけないか、というのが労働側の意見です。 ○保原部会長  いま、須賀委員から労働側の意見として申し出がありましたが、この点につきまして 使用者側委員、公益委員の方はいかがでしょうか。 ○紀陸委員  実態調査とかいろいろ意見が分かれているので、論議を積み重ねて得心がいくまでの 時間が必要だと思います。それが、1年以内というのを上限として付すかどうか、とい う点については我々は留保してほしいです。いま使用者側委員で話したのは、趣旨が労 働者の保護という点もありますけれども、二重就業の禁止というのは、企業にとっては きちんと仕事をしてもらうという趣旨で付いているものなので、人事労務管理上非常に 重要な話です。  それが破られた場合に、公の趣旨が優先すると言われても、企業としては毎日毎日の 仕事をきちんとやってもらわなければいけない、ということでこの規定が置いてあるわ けですから、そこの重みというのは非常に重要なのです。全然そういうのを関係なく業 務災害が起こって、片方は知らないのに、なぜそこで通算だという論議が起こるのか、 それはどうしても使用者側としては納得がいきません。そういうものに対して得心をい ただくまで、そう簡単にイエスとは言えないです。その点だけはお含みおきいただきた いと思います。 ○久保委員  付け加えさせていただきます。今回の問題の1つは、通勤災害とのバランス上で、業 務上災害まで合算すべきだ、というふうに出されているわけです。この間もお話したの ですけれども、業務上災害のほうが、通勤災害よりも頻度が高いでしょう。それから企 業にとってみれば、兼業禁止規定を置きながら、例えば第1事業者でそういうのがあっ たと。第2事業者は知らなかったけれども、合算しなければいけないという問題も出て まいります。そういうことも含めて、いろいろなケースについてどのように整理したら いいかをご検討いただきたいと思います。 ○保原部会長  大変恐縮ですが、私と事務局で打ち合わせをしますので、3分間休憩させてくださ い。                   (休憩) ○保原部会長  再開します。私の原案を申し上げます。複数就業者の給付基礎日額の算定の方式につ きましては、しかるべき機関を設けて検討をするということでいかがでしょうか。い ま、労働側委員からも意見がありました、在り方研の報告の趣旨を踏まえて、できれば 1年以内という考え方もあると思いますが、それについては次回の21日までそれぞれ検 討していただくということでいかがかということです。 ○佐藤委員  2度同じような議論になりますよね。しかるべき機関、というのは何を指しているの ですか。 ○保原部会長  しかるべき検討の場を設けてということです。法案作成などの関係で日が迫っていま すので、一応こういう線でやると。ただし、複数就業者の給付基礎日額の算定に関する 論点については、まだ煮詰まっていないので継続審議ということで、ご理解いただける と思います。 ○岩村委員  私もそれでよろしいと思うのですが、在り方研の意見を踏まえてということになる と、それぞれの立場もあって難しいかと思いますので、在り方研で示された専門的な意 見を参照しつつとか、何かそのようなことで検討を行うという考え方もあり得るかとい う気はいたします。 ○保原部会長  大変貴重なご意見をありがとうございます。 ○稲葉委員  私もそれでいいと思うのですけれども、その場合に1と2についてはこのまま走らせ る、という認識でよろしいですか。 ○保原部会長  3の問題についてはしかるべき場を設けて継続的に検討するということです。  これから正式にお諮りしますけれども、1と2については大体コンセンサスが得られ たと考えておりますので、1と2は原案どおりで、3については継続的にしかるべき場 を設けて検討する。いま労働者側から要望があった点については、21日までよく考える ということです。そんなことでよろしければ事務局に整理していただきます。 ○労災補償部長  先ほどのご質問にも関係してくるのですが、給付基礎日額の合算については、本日の ご議論では両方のご意見があるということで、すぐに結論を出すことはできないので、 引き続き検討という形で今いただいたわけです。そうなった場合に、どういうふうに実 際はなるのかということですが、1番の二重就職者の場合には、研究会の報告では、第 1の事業場と第2の事業場の場合、第2の事業場の勤務のために移動してくるというこ とですので、基本的には第2の事業場におけるいろいろな事務手続、第2の事業場にお ける給付基礎日額で計算をしていくという考え方が妥当ではないかと思っています。合 算がないとすれば、そういう前提でいくのではないかと思っております。 ○保原部会長  確認をさせていただきたいのですが、資料2をご覧ください。先ほど労災管理課長か ら説明がありましたが、資料2の第1点、複数就業者に係る事業場間の移動について、 それから単身赴任者の赴任先住居・帰省先住居間の移動についてというのはこの線でご 了解をいただいたということでよろしいですか。                   (了承) ○保原部会長  3点目の、複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法については、引き続きしかるべ き場を設けて検討する。なお、労働者側委員からの要望については21日に検討するとい うことでよろしいでしょうか。                   (了承) ○保原部会長  大変恐縮ですが、そういう線でまとめをさせていただきます。そのような整理をさせ ていただきまして、次回は、今日までの議論を踏まえ、私のほうで事務局と相談をし て、当部会としての最終的な検討結果の取りまとめの案を作成し、提出したいと思いま す。それについてご議論をいただき、当部会としての検討結果の取りまとめをしたいと 思います。次回第11回労災保険部会の日程について、事務局から説明をお願いいたしま す。 ○労災管理課長  次回は、12月21日(火)の16時から、16階専門第17会議室で開催させていただきま す。お忙しい中恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。 ○保原部会長  なお、本日の議事録署名委員は、労働者側代表として高松委員、使用者側代表として 下永吉委員にお願いいたします。本日はこれで終わらせていただきます。どうもありが とうございました。                照会先:労働基準局労災補償部労災管理課企画調整係                    電話03-5253-1111(内線5436)