03/06/27 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会議事録             薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会                   毒性部会                    議事録 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会議事次第 1.日時:平成15年6月27日(金) 14:34〜16:48 2.場所:経済産業省別館第944会議室 3.議題   (1) 審議事項      米に係るカドミウムに関する規格基準の改正の可否について   (2) その他     ・ 平成14年度厚生労働科学研究「加工食品中のアクリルアミドの測定・分析      及びリスク評価等に関する研究」の報告     ・ ニトロフラン類及びその代謝物の安全性について 出席委員 香山不二雄、菅野純、鈴木勝士、寺本昭二、林眞、廣瀬雅雄、福島昭治、      三森国敏(敬称略) 参考人  有澤孝吉(長崎大学医学部助教授)      池田正之((財)京都工場保健会理事)      石本二見男(東京慈恵会医科大学客員教授)      櫻井治彦(中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長)      遠山千春((独)国立環境研究所環境健康研究領域長) 事務局  遠藤食品保健部長、中垣基準課長、桑崎輸入食品安全対策室長、      小出企画官、太田補佐 他 ○事務局  それでは、定刻となりましたので、ただいまから「薬事・食品衛生審議会 食品衛生 分科会 毒性部会」を開催いたします。本日は御多忙のところお集まりいただきまして ありがとうございます。  本日は、毒性部会12名中7名の委員に出席いただいておりますので、当部会は成立し ておりますことを御報告申し上げます。  なお、鈴木委員は少し遅れられるとの御連絡をいただいております。  また、参考人としてカドミウムの厚生労働科学研究の主任研究者である中央労働災害 防止協会の櫻井所長、分担研究者であります京都工場保健会の池田理事に御出席いただ いております。  また、カドミウムに関する疫学・毒性学の専門家として、長崎大学の有澤助教授、独 立行政法人国立環境研究所の遠山領域長に、臨床医学の立場から東京慈恵会医科大学の 石本先生にお越しいただいております。  それでは、座長を部会長の福島先生にお願いしたいと思います。福島先生、よろしく お願いします。 ○福島部会長  福島でございます。どうぞよろしくお願いします。  まず初めに、配布資料の確認を事務局お願いできますか。 ○事務局  それでは、資料の確認をさせていただきます。  配布資料ですが、最初に「議事次第」と書いてあるものがございまして、次が、資料 1でございますが「毒性部会委員名簿」です。  資料2が「部会におけるこれまでの検討経緯等」です。  資料3が「コーデックス委員会等における検討状況」です。  資料4が「第61回FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)結果報告」でございま す。  資料5が「カドミウムの毒性評価に当たっての検討事項について(案)」です。  資料6−1が「平成14年厚生労働科学研究『加工食品中のアクリルアミドの測定・分 析及びリスク評価等に関する研究』」です。  資料6−2が「茶類のアクリルアミド分析結果」です。  資料7が「ニトロフラン類及びその代謝物の安全性について」です。  資料ございますでしょうか。 ○福島部会長  よろしいですか。  それでは、これから議事に入りたいと思います。本日の議題(1)「米に係るカドミ ウムに関する規格基準の改正の可否について」、これから御審議をお願いしたいと思い ます。まず資料1から資料4につきまして、事務局から御説明していただきます、お願 いします。 ○事務局  それでは、資料について説明させていただきます。  資料1が委員名簿です。  資料2にまいりますが「部会におけるこれまでの検討経緯等」ということでございま して、この資料は前回の5月23日の毒性部会においても提出させていただいておりま す。ただ一つ変わっておりますのが、一番最後に5月23日の内容を書いているというこ とでして、平成14年度厚生労働科学研究の報告、またそれに関する議論、カドミウムの 毒性評価に関する検討というのを付け加えさせていただいております。  資料3にまいりますが、本資料につきましても前回部会で御説明しております。ただ し変わっておりますのが、それ以降、6月10日から6月19日までローマにおきまして 「FAO/WHO合同食品添加物専門家会議」というものが開かれておりまして、そのことに ついて少し触れておるということでございます。  次に、資料4にまいりますが前回の部会以降、国際的に動きがあった点ということで FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)がローマにおいて行われております。それ のまとめが「SUMMARY AND CONCLUSIONS」という形で昨日、FAOのホームページに掲載さ れたものでございます。  時間の関係もございまして、十分に訳しきれていないのですが簡単に説明させていた だきます。1枚めくっていただきまして、下にページ数が書いてあるんですが22ページ のうちの9ページ目というところです。「8.Contaminants」と書かれておりまして、 カドミウムはProvisional tolerable weekly intake(PTWI)7μg/kg bw(maintained) ということで週間耐容摂取量は維持されたということでございます。  その後に「SUMMARY AND CONCLUSIONS」が書かれておるわけですが、ちょっと全部説 明するのは時間的なものもありますので、最後に行きまして「Evaluation」というのが 一番最後のページに書かれております。そこについて簡単に説明させていただきます と、まず1行目のところにCommittee、つまり専門家会議は新たな情報、特に日本の一 連の疫学研究について議論を行ったということでございます。 この日本の疫学研究というものは、前回のJECFAにおいて、その研究の必要性が認識さ れ勧告されたものであるということでございます。  3行目にまいりますが、専門家会議は腎尿細管障害がカドミウムの毒性に関して重要 な健康に関する事項であることを確認したということが書かれてございます。  その次の行にまいりますが、感度の高いバイオマーカーを用いた最近の日本や欧州、 米国の研究では、腎機能や骨代謝の変化が尿中カドミウムに2.5μg/g cr以下で観察さ れたが、これらの変化の長期的な健康への影響は明らかな不確実性が依然あるとしたと いうことでございます。  その後に8行目の最後の方の「Although」のところからまいりますが、最近の研究で は糖尿病、高血圧、膵臓がん、胎児成長、それから神経毒性と、カドミウムのバイオ マーカーが関係しているとの報告があるが、評価するにはデータが依然不十分であると したということが書かれてございます。  11行目から13行目辺りに書かれておりますが、専門家会議はカドミウムが2.5μg/g cr 以下では腎尿細管障害は起こらないであろうと結論したと書かれてございます。 それ で下から9行目、「The Committee」ということで始まるところですが、専門家会合は 第55回会議以降、新しいデータが出されたが、週間耐容摂取量(PTWI)を変更するには 十分でないとして7μg/kg bwを維持したという具合に書かれてございます。  下から8行目の最後の方ですが、生物学的吸収率について、現行で最も適切と考えら れる過程においては、PTWI(7μg/kg bw)では腎尿細管障害は起こらないであろうと いう具合に判断したということでございます。  その下にまいりますが、影響のバイオマーカーの量反応の評価と疾患の発生との関 係、また生物学的半減期が長い汚染物質の長期の耐容摂取量等については、汚染物質の リスク評価に関する原則や手法をアップデートするというFAO/WHOの合同計画によって 検討されるということとしたということです。  一番最後の行にまいりますが、カドミウムの評価は、このFAO/WHOの合同計画のアッ プデートが完了後に再び検討されるということを推奨したということでございます。  簡単ではございますが、以上でございます。 ○福島部会長  ありがとうございました。  それでは、この資料4のJECFAの会議に出席されました香山先生と遠山先生から補足 説明いただきたいと思います。まず香山先生、お願いできますか。 ○香山委員  まず、2000年の第55回JECFAに櫻井先生と私とで参加させていただきまして、これが PTWI7μg/kg bwというものを半分にしようというシナリオだったんですけれども、科 学的に根拠が非常に乏しい部分があり、いろいろな追加調査をすべきであるということ で、PTWIがmaintainになったという経緯があります。  その後、疫学調査を行っていきまして多くの論文を出した結果、今回このような、か なりのことがわかったんだけれども、まだPTWIを下げるには確実性が足りないというこ とになりまして、このような結論になりました。  ただ、先ほど太田補佐から説明がございましたように、やはりこれを決めるに当たっ てのバイオマーカーを腎機能障害としまして、それ以外の骨密度や生命予後など、それ 以外のものは採用しないということで最終的に議論が進みまして、それでmaintainとい うことになりました。  最後の部分の再度リビジットするというくだりでございますけれども、やはりメチル 水銀に議論が集中いたしまして、時間的余裕があまりなく、カドミウムは充分に議論さ れなかったという要因がありまして、また再度議論すべきであろうということでござい ます。  それで、ここに書いてある文章で今度はPTMI、つまり生物学的半減期の長いカドミウ ムのようなものはもう少し長いスパンで基準を決めた方がいいのではないかと、また、 そういう議論を一品目ずつやるのではなく総合的に評価を、全体的に長い半減期を持っ ているものの基準の決め方をハーモナイズするというワークショップの後に、また再度 見直しを行うということであります。  以上であります。 ○福島部会長  ありがとうございました。  では遠山先生、お願いできますか。 ○遠山先生  今、香山先生がよくおまとめいただきましたが、今回のJECFAの会合はかなりメチル 水銀とカドミウムに焦点を当てて議論がなされたという会合であります。特にメチル水 銀に関して欧米、特にアメリカの環境保護団体から厳しい規制をするべきだというよう な動きがあって、どちらかと言うとこちらの方に焦点が当てられて話が進んだというこ とです。  今回はカドミウムの方ですから、そちらの方に限ってお話をいたしますが、カドミウ ムに関しましては、日本からさまざまな、カドミウムの尿中の排泄量が2.5μg/g cr以 下でも場合によっては、尿細管障害や骨に対する影響が起こり得るという報告もござい ましたし、あるいは一方で櫻井先生を中心とする御研究で、そういう傾向等はないんで はないかという、それに反する研究もございました。  それらをすべてとりまとめてバックグラウンド・ドキュメントとして、この検討会の 前の段階で整理をして情報を発信したということが、1つは大事なポイントだろうと思 います。  したがいまして、それらをすべて勘案した上で今回はここでとりまとめられている結 論に到達をしているということです。それが第1点です。  第2点、ちょっと太田補佐のお話の補足をしますが、2.5μg/g cr以下では腎尿細管 障害は起きないというふうに言われたんですが、「excess prevalence」ということな ので2.5μg/g cr以下でも通常ベースラインで起きている「renal tubular dysfunction 」を超えた形で過剰なプレバランスは恐らく起こらないだろうという、起こりにくいだ ろうということですので、その点はちょっと御注意いただきたいと思います。  あとは、それではどうして、先ほどお話ししたように疫学的に一見、相反する結果が 出ているのだけれども、それをとりまとめて今回、全体としては今までどおりでいいと いうふうにしたかということになりますが、そこに関しましては先ほど香山先生がおっ しゃったように、時間をかけて十分に議論するということが必ずしも行われたわけでは ないんですが、それぞれの疫学的な研究に伴う不確実な問題、例えば尿細管障害のマー カーのβ2−ミクログロブリンなどの正常値と異常値の指標をどこにとるかという、そ の値のとり方によってプレバランスは当然変わってくるわけですが、そのとり方の問題 であるとか、あとクレアチニンという人の筋肉量に応じて排出量が変わる、そうした指 標を基に割り算をして、標準化をして、若い人から年寄りの人までまとめてクレアチニ ン補正をした値として出すということの問題点であるとか、あとは筋肉量の違いも含め てですが人種による違いで欧米の、特に西洋の体の大きい方々とそうではない日本人の 場合とで比較をするというような人種差の問題であるとか、そうしたことをすべて考え ると今、現実において2.5μg/g cr以下で過剰な尿細管障害が起きるというふうに断定 をするのは、必ずしも科学的には妥当ではないのではないかという観点から、とりあえ ず今のままでよいのではないでしょうかという結論になりました。  あとPTMIに関しては、先ほど香山委員がおっしゃったとおりであります。  そのほか議論の過程で、このカドミウムに関してだけ、いわゆる不確実係数というの が入っていないんだけれども、それは将来的に不確実係数の考え方を入れるべきではな いかというような議論がちょっと出ましたが、これは確かに筋論からいくとほかの化学 物質すべてが不確実係数というものを入れて考えてまいりましたので、それはそれであ る意味では正論のようなところもあるんですが、これは25年間の過去の歴史の中でカド ミウムに関しては不確実係数を取り入れずに、むしろ疫学的、あるいはモデルを用いて 値を出しているので、今回それを新たに取り入れることをしていませんが、そこは今 後、毒性評価の上で議論になる可能性はございます。  あと何か忘れていることあるかもしれませんが、とりあえず全体としては以上であり ます。 ○福島部会長  ありがとうございます。また質疑の途中でも何かお気づきのことがありましたら、 言っていただきたいと思います。  今、このJECFAの内容につきまして説明していただきましたが、この点に関しまして 先生方から御意見をいただきたいと思います、何か御質問ございますか。  特に香山先生、それから遠山先生にこういうところをお聞きしたいというようなこと がございましたら、どうぞ。  どうぞ、有澤先生。 ○有澤先生  米の安全基準は、どのような結論になったのでしょうか。 ○遠山先生  JECFAというのは、コーデックスから依頼を受けて毒性の評価をするところであって、 食品の規格を決めるところではないので、したがって毒性評価が出たわけですから、あ とはそれぞれの個別の食品ごとに、個々の摂取量であるとか、その摂取パターンにのっ とって食品の中の基準をどうするべきかというのは、また別のところで議論をするとい うのが筋です。したがって今回はそういうことの議論は全くしていません。 ○福島部会長  よろしいですか。少なくとも、PTWIは今までどおりの7μg/kg bwというようなこと ですけれども。  ほかにございますでしょうか。  もし、ないようでしたら次に入りたいと思います。ありがとうございました。  それでは次に資料5の方を見ていただきたいのですが、前回の議論を踏まえまして、 櫻井先生を中心にする研究班において、「カドミウムの毒性評価に当たっての検討事項 について(案)」ということでとりまとめていただきました。この資料につきまして、 櫻井先生、池田先生、それから香山先生にこれから御説明していただきます。  この資料5、ちょっと膨大ですので4つに分けて説明して、そしてその説明の後に審 議という形をとりたいと思います。すなわち、まずセクション1と2、次にセクション 3、それからセクション4〜6、そして最後にセクション7というふうに4つに分けて 行いたいと思います。  まず最初に櫻井先生、セクション1と2について御説明いただけますか。 ○櫻井先生  わかりました。  1と2でございますが、まず最初「1 カドミウムの低用量暴露影響に関する全般的 事項」、これはもう既に御承知のことでございますので、ごく簡単に申し上げます。  「1−1 カドミウムとは」というところ、これは地球上にどこにでもある元素であ るということ、それから銀、銅、亜鉛等の金属とともに存在するために、日本では一千 年以上前から鉱山開発等によって掘り出されてきている。更に火山活動の影響もある、 つまり銅、銀、亜鉛等の鉱物は火山活動の影響で存在するわけで、鉱山開発と火山活動 は、一体をなしているようなものでございますから、そういった結果、土壌において我 が国では比較的高いレベルにあるという認識であります。  それから「1−2 体内蓄積及びその影響」、これは事実として出生時にはほとんど 体内にないけれども加齢に伴って蓄積していくと、特に肝臓と腎臓に顕著であるという ことです。  生体に摂取されると排泄速度が遅く、生物学的半減期は極めて長い。大体、生物学的 半減期は10年程度、あるいはそれ以上と推定されているので、低濃度長期暴露によって 数十年後に腎臓でのカドミウム濃度が有害レベルに達して、その段階で初めて腎機能障 害を起こす場合があるということであります。  したがって数十年後、つまり中年以降の人における腎機能障害を予防できるような摂 取量を考えるべきだという意味でございます。  更に最後の2行、「更に最近では同程度の曝露レベルのカドミウムが骨粗鬆症の発症 要因として関連しているとの報告もある」、これはそういう認識で疫学調査も行われた わけでございますので、こういうふうに書いてございます。先ほどのJECFAでは、こう いった考えは採用しないで、やはり主要な影響としては腎機能障害であるという結論の ようでございます。  「1−3 暴露及び生物学的利用」のところですが、暴露は食品、水、喫煙、労働環 境等を通じて起こるけれども、この場合食品に限定して考えたとしても食品は多岐にわ たり、生物学的利用が異なる。更に鉄、亜鉛欠乏等の状態においては腸管からの吸収が 増加するというような報告もあり、こういったことも考えてカドミウムの摂取を見積も ることは容易ではないという認識であります。  それから「1−4 週間耐容摂取量」ですが、日本では1−1で述べましたように、 火山による影響や歴史的な鉱山開発等によって土壌中のカドミウムレベルが比較的高 く、農産物中のカドミウム濃度が比較的高くなる地域が散見されます。  したがって、科学的なデータに基づいて耐容摂取量を設定すること、更に農産物中の カドミウムの安全水準を明らかにすることが非常に重要なことになっているけれども、 長期の暴露後に成立するこういった影響を未然に防止するための正確な耐容摂取量を明 らかにすることは容易ではないという認識でこざいます。  続けてよろしいでしょうか。 ○福島部会長  はい、2までお願いします。 ○櫻井先生  2の方も御説明をいたします。  「2−1 吸収(消化管からの吸収に限定)」でありますが、消化管からの吸収に限 定いたします。労働環境暴露では呼吸器からの吸収の問題になりますが、この場合は食 品に限定させていただきますが、後の方の20ページに「表1」というのがございまし て、これには食品由来カドミウムの吸収率に関する過去の研究及び今般、大前班、香山 班等が実施した研究結果を一覧にしたものでございます。  この「Absorption-related rate」と書いてあります、真ん中よりちょっと右の辺り がそれぞれの論文における結論でありますが、極めて大きく異なるわけでありますが 「Absorption-related」と書いてありますのは、実はそれぞれの研究において対象とし ている吸収率の定義がいろいろ異なるものですから全部をひっくるめて吸収に関連した 率という表現にしたわけであります。  これらを一応3つに分けて、「2−1−1」「2−1−2」「2−1−3」と分けて おりますが、まず「2−1−1 体内残存率を評価した研究」、これはFlanaganら、 McLellanら、あるいはNewtonら、3つございますが、いずれも塩化カドミウムのアイソ トープを2ないし4週間摂取した後に体内のカドミウムをシンチレーションカウンター で測定して、体内残存率が2.6〜7.5%であるというデータであります。  これは2.6〜7.5%の吸収率というわけではないであろうと、これは全身スキャン前に 尿、胆汁、糞便中に排泄されたカドミウムのアイソトープは測定には引っかかっており ませんので、真の吸収率を低く見積もっていると考えられます。  従来5%ぐらいと言われていて、それとは一致しているようなデータですけれども、 どう考えても実際に胆汁中等に排泄されると思われる量が入っておりませんので、低く 見積もっていると考えられるというふうに、一応まとめられております。  それから「2−1−2 摂取量と糞便中排泄量のバランスを評価した研究(摂取・排 泄バランス)」でありますが、これは食品からの摂取量と糞便中への排泄量の差を吸収 量として摂取量分の吸収量を吸収率と考えた研究です。  これをバランスというような表現にしておりますが、幾つかございます。  SuzukiとLu(1976)これは30日間のカドミウム摂取量の平均値が40μg と47μg/day という実験条件でカドミウム摂取・排泄のバランスが25.4%と23.4%であったと、それ からBunkerらは、老人に8.6μg/day を摂取させたときのバランスはむしろマイナスで 排泄の方が多く、マイナス15%であったと、Berglundら、Vahterらは、4日間5.7〜38 μg のカドミウムを摂取したときの摂取・排泄バランスがほぼ同等ということは、摂取 量と排泄量がほぼ等しかったということで、この際の見かけの吸収率はゼロだったとい うことになります。  それから、香山班の今般の研究のHoriguchi らの論文では、23歳から73歳の女性で平 均約500μg/weekのカドミウム摂取で年齢と負の相関があり、20歳から39歳では44%、 40歳から59歳で1%、60歳から79歳でマイナス5.9 %であったと、極めて明確な年齢に よる影響を示す報告です。  それから、大前班のNomiyamaら、これは「Table 1」というのが後ろの方に付いてお りますが、この9〜11日のデータから平均8.6μg/day のカドミウム摂取ではマイナス、 それからKikuchiらの報告では20〜23歳で50μg のカドミウム摂取では約24%、4.4μg/ day ではマイナス24.5%というようなふうに、この際いずれも摂取量の影響を受ける。 小さい摂取量の場合にマイナスになっていることが多く、大きい摂取量ではプラスにな っていることが多いということが見てとれます。  「2−1−3 腸管における真の吸収率に近いデザインの研究(吸収率近似値)」で ありますが、Crewらは2つございますが安定同位元素を使った、Kikuchiらはこれは大 前班の研究でありますが、糞便中の基礎カドミウム排泄量を差し引くというようなこと で、いずれも真の吸収率、つまり一旦消化管から吸収されたものに近いものを測定して いると、ただし腸肝循環を介して直近に吸収されたものの消化管への再排泄は評価でき ていないので、やはり過小評価しているだろうということですが、Crewらでは大体42% ぐらい、Kikuchi らでは47.2%あるいは36.6%というデータで40%近辺という、かつて ない、いずれも高い吸収率を示しております。  Vanderpoolらの塩化カドミウムのアイソトープの場合のデータでは10%ぐらいという ことで、これの差はなぜかはよくわからないけれども、摂取カドミウムの化学構造、一 方は食品に組み込まれたアイソトープを調べておりますし、こちらは塩化カドミウムと いうような化学構造の特性の違いである可能性があるけれども、いまだ裏づけの情報が ないということです。  いずれにしても、これらの研究を総括するとカドミウムの腸管からの見かけの吸収率 は年齢とともに大きく変化するということです。  それには腸管への排泄量が体内負荷量に依存して変化することが関わっていると推定 されますが、現段階でこれらの要因を定量的に明らかにするにはまだ科学的な知見が十 分ではないので、こういったモデル等を使って何らかの判断をするのには不確実性が大 きいと考えられるとまとめております。  「2−1−4 腸管吸収に影響を与える因子」としては、鉄、カルシウム、たんぱく 質、食物繊維、亜鉛、銅等が指摘されております。いろいろなデータがございますが、 まだ明確な結論には至っておりません。  それから「2−2 分布」につきましては、アルブミンまたはメタロチオネインと結 合して運搬される、肝と腎への蓄積が高い云々というようなことが書いておりますが、 特に後の方にサル実験におけるカドミウム投与量と臓器ごとのカドミウム量のデータ等 も示しておりますが、いずれにしてもこれは従来から知られているように、肝と腎が蓄 積濃度が最も高い臓器であるという結論に変わりはございません。  それから最後に「2−3 排泄」ですが、Tsuchiyaら及びKikuchiらのデータ等で見 ますと、いずれの年代におきましても尿中排泄量は糞便中への排泄に比べると非常に小 さいということであります。  カドミウムは胆汁中に排泄されることが知られておりますが、まだ定量的に評価でき る情報は見られておりません。  その他、毛髪、乳汁、唾液などへの排泄については量的には無視できるであろうとま とめております。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  今の櫻井先生の御報告で御質疑ございますか。  櫻井先生、吸収に関しまして、加齢による変化があるとのことですが、そこの辺りに ついて、腸管の面など、もう少し生理的な面から何か解析されているんでしょうか。 ○櫻井先生  それがこれからの課題ということで、現在サルで動物実験が進行中でございます。で すから現段階ではあくまでこういったデータからの仮説ということになりますけれど も、個人的な意見を述べさせていただきますと、消化管からの吸収率そのものには勿 論、いろいろな状況によって若干はあるだろうと思いますが、それほど大きな差がある とは考えにくい。  一方、明らかに相違があるであろうということは、体内負荷量に応じて尿中への排泄 も増えるし、消化管への排泄も増えるに違いない、それが最大の要因であろうと、した がって加齢している場合には体内負荷量が多いですから尿中への排泄量が多いので、消 化管からの吸収の方はそれほど大きな差がないから相対的に見かけの吸収率が小さくな ると考えられます。  それから、体内負荷量が多い人はそれまで比較的高いカドミウム負荷を受けていた。 それよりも低い小さな量のカドミを経口投与したときの実験では、過去の負荷の影響で 消化管への排泄量が多いですから、見かけの吸収率は小さい、あるいはマイナスになる というその2つの要因であろうと私は推測しております。 ○福島部会長  ほかにございますか、よろしいでしょうか。  ありがとうございました。  それでは、次にセクション3につきまして池田先生、説明お願いできますか。 ○池田先生  承知しました。池田でございます。  私がちょうだいしましたテーマは「3 腎機能への影響」ということでございます。  最初「3−1 イタイイタイ病の腎病変」のところをごらんいただきますと、これは イタイイタイ病の患者さんで亡くなった方の剖検例から、かなり明確に、イタイイタイ 病の腎障害というのは、糸球体への影響は小さくて尿細管の側に非常に強い影響がある ということが明らかにされております。  これは1974年の時点で既に明らかになっておりますし、1995年の時点では英文でほぼ 同じ内容の趣旨のものが公表されております。  したがいまして、以下の疫学研究におきましては、先ほど腎障害、骨の変化、あるい は生存率などか幾つかの指標のうちで、今回のJECFAの報告では腎障害を取り上げると いうことでございましたが、その中でも尿細管の変化の指標でありますβ2−ミクログ ロブリン、あるいはα1−ミクログロブリン、それからレチノール結合蛋白、それから 比較的新しくなりますがNAG、この辺りのものが使われているというのはイタイイタイ 病の患者さんからの所見とよく対応したものだというふうに考えております。  取り分け歴史的にはβ2−ミクログロブリンを使うのが最も一般的でございます。比 較的それよりも少ない研究になりますけれども、遠山先生が最初に指摘されたように α1−ミクログロブリンを使うことの有効性、NAGの有効性の指摘が最近ございました。  少しずつその分野の研究報告もございますが、以下申し述べます研究のほとんどすべ てがβ2 −ミクログロブリンを指標に使っているので、私の要約ではそれに集中して記 述をいたしました。  もう一つは、これもJECFAの報告ということで遠山先生がおっしゃったことに関連い たしますが、β2−ミクログロブリンをクレアチニンで割る、つまりクレアチニン補正 値を使うというのが研究の大部分でございます。  御存じのとおりクレアチニン濃度には年齢依存性がございまして、高齢になるに従っ てクレアチニン濃度は例えば30歳と60歳比べますと50%台まで低くなります。というこ とは、例えばクレアチニン補正をしなければβ2−ミクログロブリン濃度の変わらない 尿でもクレアチニンで割りますと、見かけ上はクレアチニン補正値は高くなってしまい ます。そういうことの指摘は、比較的以前からもございますが、全体の流れとしては β2−ミクログロブリンのクレアチニン補正値を使うというのが全世界的な流れでござ います ので、以下の報告にはそれを指標に申し述べております。  もう一つのバックグラウンド・インフォメーションとしては、我々のカドミウム負荷 はどれくらいかということです。  1960年代に既に当時の環境庁、それから多分同じ研究班のメンバーでいらしたと思い ますが、亡くなりました喜田村先生が記述をなさっておりまして、神通川流域ですと 600μg/dayぐらい、それから他の汚染地域でも300μg/dayを超えているという記述がご ざいます。  当時の非汚染地域の住民における値というのも、50μg/dayを超える値が報告されて おりまして、近年は40μg/day以下でございます。ごく最近になりますと、25μg/day程 度という報告がございます。  国立医薬品食品衛生研究所、以前の国立衛試でございますけれども、この研究所は経 年的にトータル・ダイエット・スタディトを実施していまして、1980年代ですと26〜42 μg/day、これは年ごとにかなりの変動がございますのでレンジで書いております。90 年代になりますと少し下がりまして、上が34μg/dayぐらいの値でございます。20年ば かりの値を直線回帰させますと、経年的には0.3〜0.4μg/yearぐらいの割合で少しずつ 下がっているというのが現状でございます。  一番後の方の表をごらんいただきますと、今、数字を申し上げておりましたのは「表 2」の値で、神通川の汚染地域で600 ぐらい、それから対馬、あるいは宮城県下の細倉 鉱山の下流、あるいは群馬県下の碓氷川・柳瀬川流域ですと300〜400μg/day、あるい はもう少し高い値でございまして、その後の経年変化を見ていきますと非汚染地域を見 ましても、かつては50μg/dayぐらいの値が報告されておりましたけれども、最近は25 μg/dayぐらいまで落ちてきたということです。  そこまで低下してきましても、しかし同じように米をたくさん食べる東南アジア、あ るいは南アジアの国々の値と比べますと、これは「表3」をごらんいただきますと、い ずれも陰膳方式、全く同じ方法で調査をした結果ですが国内で低くて25μg/dayぐらい で、国外と言いますかアジアの各地では低いところで9μg/dayぐらい、高いところで 20μg/dayぐらいです。我々のカドミウム負荷は、国際的には依然として高いというこ とが言えるかと思います。  こういう前提で、どういう疫学調査が行われたかを御紹介いたします。カドミウムの 疫学調査につきましては、職業性の負荷を中心にした疫学研究もたくさんございますけ れども、以下では食べ物由来の負荷あるいは環境経由での負荷に関しての疫学に絞って 申し上げたいと思います。  国外の研究としましては、カドミウム汚染地域ではベルギーで行われましたCadmibel という固有名詞を付けた調査がよく知られております。これはしかし、それほど汚染の 強いところではございませんで、カドミウムの尿中排泄量として一番高いところで1.4 から8.00μg/dayということです。資料中にはCd-U一日摂取量と記載しておりますが、 Cd-U一日排泄量の誤りですので訂正していただければと思います。  これは1日量を測定しておりますが、1.4 から8.00μg/dayぐらいでございます。1 日に2Lぐらいの尿排泄があるとしますと、0.7 から4.00μg/Lぐらいの値になると思い ます。クレアチニンで割りましても、ほぼ同じような値になろうかと思います。それほ ど高い汚染の地域ではございません。  しかし、β2−ミクログロブリンがdose-dependentに上がっている、あるいはNAGも dose-dependentに上がっているという報告でございます。  また、これを契機にしまして、β2−ミクログロブリンは例えば尿中でどれぐらい安 定なのかという批判が出てまいりまして、β2−ミクログロブリンは特に尿のpHが5.5 を割りますとかなり分解しやすくなるというのが国内外ともに確認されております。  それから、中国では比較的最近に、特に2000年代前後から、国内でかなりの汚染地域 があるということがわかり始めました。現在、比較的よく知られておりますのは、江西 省の大余地区と浙江省の温州地区、この2つの地区の事例でございます。これはかなり 強い汚染があったことがわかっておりますが、詳細はなおよくわかりません。  国内での汚染地域の研究では、先ほど御紹介しましたように神通川流域のイタイイタ イ病が発生した地域の研究がございます。ここでは、カドミウムの尿中濃度をμg/g cr で、かつ幾何平均値で表していきますと、一番高いところで30近く、それからβ2−ミ クログロブリンの幾何平均値も一番高いところで90,000です。元のものはmg/g cr単位 で表示してあったほど高い値でございました。  それから、特にイタイイタイ病認定患者6名につきましては、高い方ですと尿中のカ ドミウム濃度が48μg/g cr、β2−ミクログロブリンが167,000μg/g crと高値になって おります。  いま一つの汚染地域であります、石川県南部に流れております梯(カケハシ)川流 域、これも鉱山活動に伴う歴史的な汚染地域でございますけれども、尿中のカドミウム 濃度の幾何平均値が男女で8と10、β2 が7,000 と10,000ぐらいの値でございまして、 対照地域に比べまして明らかに高値を示しておりました。  3つ目の汚染地域、これは本日お見えになっております有澤先生のグループ、あるい はかつての上司であります斎藤先生のグループがなさったお仕事ですが、対馬の佐須地 域での汚染で特に高値の場合だけを御紹介いたしますと、70歳代の方で1つの地域では 男が12、女が15ぐらいの尿中カドミウム濃度(単位はμg/g cr)です。  もう一つの地域ですと、やはり70歳代の方で8と12μg/g crと、対照地域に比べて明 らかに高く、同時にβ2−ミクログロブリンも1つの地域では男子で4,000 、女子で 12,000μg/g cr ぐらい、それからもう一つの地域ですと70歳以上の方で幾何平均値が 700 と4,000μg/g crぐらいで、カドミウム濃度と対応してβ2−ミクログロブリンの値 が上がっているのは明らかでございます。  比較的最近にもう一つ、汚染地域についての報告がございました。新潟県下、これは 地域がどちらなのか論文には明確な記載がございませんが、こちらでも尿中のカドミウ ム濃度が男子と女子とでそれぞれ3と5μg/g crぐらいですが、β2−ミクログロブリ ンは上がっていないということが記載されてございます。この研究では、特に34名の方 につきましては自家消費米の中のカドミウム濃度を測定しておりまして、1ppmあるい は0.4ppmを上回る例がかなりたくさんあったことが記載されております。  次に、特定のカドミウム汚染を伴わない地域、いわゆるバックグラウンド・エリアで の疫学調査の事例を報告させていただきたいと思います。この分野につきましては、国 外の研究としては、スウェーデンの南部で行われましたOSCAR studyが比較的よく知ら れていると思います。ただし、OSCAR studyの場合には、尿中のβ2−ミクログロブリン をはからないで、α1−ミクログロブリンをはかっており、かつ、カドミウム濃度を nmol/mmol creatinineで表していまして若干読みにくくなりますが、実際にはこの単位 はμg/g crとほぼ同じ値ですのでそのまま読んでいきますと、尿中のカドミウム濃度が 0.3〜0.5nmol/mmol cr以下の場合にはORは有意には上がってないけれども、0.5〜1 nmol/mmol crの群では95%の下限値が1.4 と1を上回っておりまして有意であり、特に 非職業暴露群にだけ限定して解析をいたしますと、先ほど申し上げました0.3〜0.5nmol /mmol cr以下のグループでもORの95%下限値が1.1 と1を上回っているということ の報告がございます。  それから、国内の研究につきましては、一番下の行に1か所ミスプリがございまし て、最初の部分で「国内の2県3ケ所」と書いてありますが、これは「4ケ所」でござ います。県名で申しますと、千葉県と石川県の能登半島それぞれ2か所ずつでございま して、4か所で男女合わせますと2,800 名ほどの方の調査がございました。  この調査で特に尿中のカドミウム、それからβ2−ミクログロブリン、あるいはNAGを 指標にして、重回帰分析あるいはロジスティック回帰分析を行いますと、これらの尿細 管、その次は成長の「成」という字が書いてありますけれども、誤りでございます、機 能の「機」でございます、尿細管機能の障害の指標の間に有意な相関があるということ です。  したがって、バックグラウンドの曝露レベルでも尿細管機能障害は起こり得るのだと いう指摘がございました。  この研究は、これに先立ちまして、それぞれ石川県下2か所、それから千葉県下2か 所についての解析がありまして、別々に解析をしても、あるいは2つの報告を合わせて 4か所について解析しても、ほぼ同じ結論になるということが報告されております。  それから、3つの非汚染地域、この3つの非汚染地域がどちらであるのかちょっとわ かりませんけれども、その地域の労働者、あるいは地域住民から、この場合の労働者は 特にカドミウム暴露を受けていない労働者でございますが、24時間に尿を2回集めまし て、同じような解析を行った場合も尿中のカドミウム濃度と腎機能の指標との間には有 意な相関を示したことが報告されております。  ただ、この最後の小林ほかの報告は学会報告でございまして、やがて論文になろうか と思いますが、現段階ではこれ以上の詳しいことはわかりません。  以上の報告は、バックグラウンドの曝露レベルでも尿細管機能障害が起こり得るとい うことを指摘した報告でございますが、これに対しまして国内の19か所の非汚染地域の 農家の女性400 名弱から検体を得まして、血中、尿中のカドミウム、あるいはβ2−ミ クログロブリンを分析しまして推計学的な解析を行った結果では、カドミウム暴露の指 標が上昇しましても尿細管機能の指標の悪化をもたらすことがないという所見が出てま いりました。  同じく、ほぼ同じようなデザインで30か所について行いましても、同じような結論で ございました。ただ、この場合にカットオフ値を400μg/g crにしますと、尿中カドミ ウムとカットオフ値を超える値とはロジスティック解析で有意であるという結果が出て まいりますけれども、カットオフ値を1,000μg/g crにセットしますと有意差は消失い たしました。  更にもっと規模を大きくしまして、国内10か所で1万人ほどの女性から得た検体で尿 中のカドミウムとα1−ミクログロブリン、β2−ミクログロブリンとの対応を見ていき ますと、年齢が非常に強い交絡因子になるということがわかりました。年齢の影響を除 去しますと、例えば特定の年齢層で切って解析をしますと、明らかな関連性はなくなり ました。 もう一つ、この研究でわかりましたことは、カドミウムの尿濃度とβ2−ミ クログロブリンとは確かに対応する場合があるが、カルシウム、亜鉛、マグネシウムに ついてβ2−ミクログロブリンとの対応を見ますと全く同じ変化が起こってきますので、 β2−ミクログロブリンの若干の変化というのはカドミウムに特異的なものではなさそ うだという観察が出てまいりました。  この2つのグループ、先ほど御紹介しましたSuwazonoのグループと、それから一番最 後のEzaki らのグループ、実はこれは私どものグループそのものでございますけれど も、その結果がなぜ違うのかということにつきましては明確な結論がございません。幾 つかの要因が考えられると思います。  調査の規模もさることながら、年齢幅がSuwazonoの場合には比較的大きくなっていま して、クレアチニンは先ほど申し上げましたように年齢と逆相関いたしますので、クレ アチニン補正値を用いますと誤差要因として機能する場合が考えられる、あるいは、 β2−ミクログロブリンの上昇はカドミウムに必ずしも特異的でない。上昇幅の小さい β2−ミクログロブリンの上昇は医学的には必ずしも有意ではなくて、軽度の変化です と可逆性があり得るということが観察されておりますので、この部分での総合的な判断 が必要かと思っております。  「3−5」に移ります。実際に汚染地域と非汚染地域につきまして、既に報告されて いる諸論文12個をベースにして汚染地域での尿中カドミウムとβ2−ミクログロブリン の対応及び非汚染地域での対応の2つを検討し、回帰直線の勾配を比べてみますと、尿 中カドミウムが高い群での勾配は約6,000μgβ2−ミクログロブリン/μgカドミウムに なります。非汚染地域ですと実際には勾配がマイナスになりまして、どうもあるところ から急激に腎機能障害が起こるのではないかというのが既存文献の解析から出てまいり ました。  最後に、β2−ミクログロブリンの尿中濃度が高い人たちの予後はどうなっているの か、もう一つは、生命の予後はどうなっているのか、2つの問題が出てくるかと思いま す。後者の方は後ほど香山先生からお話しになると思います。私はβ2−ミクログロブ リンの予後に関しての研究例を報告したいと思います。  1つはKidoらの報告でございまして、梯川流域での解析によりますと、β2−ミクロ グロブリンの濃度が1,000μg/g cr以下であった場合は、5年後に観察しましても、そ の範囲にほぼ留まっておりましたけれども、当初から1,000μg/g crを超えていた事例 ですと5年後には更に急激な上昇を認めたという報告がございます。  それから、対馬にあるカドミウム汚染地域である佐須(サス)地域での解析によりま しても、当初からβ2−ミクログロブリンが1,000μg/g crを超えていた人たちですと、 その後約十年間の経過観察のうちに最初5,000μg/g cr弱で、次いで7,000μg/g cr強、 9,000μg/g cr弱というふうに時間の経過とともに急激に上昇していきましたのに対し て、当初から1,000μg/g cr以下であった人たちでは130、80、173と、余り著明な変化 は認められなかったという報告がございます。  これとほぼ対応する報告としまして、これはカドミウム暴露を受けていた労働者の場 合ですけれども、Roelsらはベルギーでの労働者の解析の結果で、この場合には尿中の カドミウム濃度が20μg/g crを超えたことがなくて、かつβ2−ミクログロブリンが300 〜1,500μg/g cr以下であった人では、β2−ミクログロブリン尿の程度に回復の兆候が 認められたけれども、当初から1,500μg/g crを超しており、かつ尿中のカドミウム濃 度が20μg/g crを超えているといった、暴露が比較的重くて、かつβ2−ミクログロブ リンが高かった人は、カドミウム暴露を打ち切ってもβ2−ミクログロブリン尿の進行 は止まらなかったという報告がございます。  そうしますと、梯川あるいは佐須地域での環境汚染を介しての暴露の場合とほぼ同じ 傾向ではございますが、もう少し変化の変曲点は高いところにあるかに見える報告でご ざいました。  以上でございます。 ○福島部会長  ありがとうございました。  腎機能への影響ということで報告していただきましたが、どなたか御質問ございます か。 どうぞ、遠山先生。 ○遠山先生  追加でちょっとコメントと言うか、よろしいでしょうか。 ○福島部会長  ではコメントをお願いいたします、どうぞ。 ○遠山先生  JECFAでの議論でもそうですし、日本におけるこうした低用量のカドミウムによって 腎機能障害が起きるかどうかというときの議論として2つ問題があるのですが、1つは 先ほどから問題になっている正常値の閾値をどこで切るかと、そのときにβ2−ミクロ グロブリンは300μg/g crで切るのか、400μg/g crで切るのか、1,000μg/g crぐらい で切るのか、その問題が1つです。  2つ目は、これは石本先生にお伺いした方がよろしいかもしれませんが、腎障害とし て1つのマーカーで見たときに、β2−ミクログロブリンが、300なら300μg/g crより 若干増えたというのがあくまでもsign and symptomのサイン、すなわち兆候であって、 実際の治療を要するような症状(symptom)ではないのかどうか、要するにその辺の判 断をちゃんとしておかないために、いつまで経っても300μg/g crとか400μg/g crとか 1,000μg/g cr未満のところの部分が直ちに腎障害といいますか、すぐに何らかの症状 をもたらすような意味での影響だというふうに見るような立場の方もいらっしゃるし、 あるいはそうではないという立場の方もいらっしゃいます。要するに臨床家の立場での 判断と言いますか、それをある時点でしておかないといつまで経っても議論がかみ合わ ないという問題があるのだろうと思います。  今回の場合には、したがって明らかにカドミウムに暴露しているところでクレアチニ ン補正をするかどうかという問題がございますが、β2−ミクログロブリンの尿中排泄 量が300から1,000μg/g crぐらいの間であれば、それはあくまでもカドミウム暴露のサ インであることは恐らく間違いはないのだろうと思いますし、したがってその暴露をで きるだけ減らすということについては減らすにこしたことはないんですが、直ちに治療 を要するとか何らかの問題が起きるという意味での問題はないだろうというのが、私の 考えなのですが、その辺りをきちんと、今後、毒性学的な評価という面で明らかにして おくべきだろうというふうに思っております。 ○福島部会長  池田先生、どうぞ。 ○池田先生  私は、今の御指摘の部分は非常に興味を持っておりました。その部分で特に、今日は 幸い有澤先生がお見えになっておりますので、佐須地域の解析の場合1,000μg/g crで データを整理されたのですが、その1,000μg/g crという値に特定の意味を持たせてお 切りになったのか、あるいはちょうど切れのいい値だからという辺りのことなのでしょ うか。  ただ、結果から言いますと1,000μg/g crというのは梯川の場合ともほぼ対応してい る結果で、非常に面白いと思って拝見しましたが、その辺り御教授いただければありが たいと思います。 ○福島部会長  有澤先生、どうぞ。 ○有澤先生  1,000μg/g crという数字を使うのは、私どもが始めたのではなく、これは前からそ ういう値を使うことが慣用として行われることが多かったので、それを行ってきたとい うことです。  ただ、その値というのは非汚染地域で95%tileをとったときに大体一致することが多 いという、それも考えて1,000μg/g crを使っているということです。 ○福島部会長  よろしいですか、池田先生。 ○池田先生  ありがとうございました。 ○福島部会長  石本先生、お願いします。 ○石本先生  それではお話しさせていただきます。  今、遠山先生の方から話がありました、臨床的にどうなのかと、これは私が土屋先 生、野見山先生、重松先生方と一緒に仕事をお手伝いさせてもらっていたときからの宿 題というか、まとまらない結果なのですが、私の意見から言えば多少β2−ミクログロ ブリンが増えただけでは腎障害とは認めないでいいと思います。  特に治療は必要ない、放っておいても悪くなりません。  実例としてよくあげるのですが、山形県の吉野川流域、吉野鉱山の下に吉野川流域が あって、これは、重松先生にお伺いすると、日本で一番汚染の軽いところではないかと のことですが、そこを10年間調査した経験があります。確かに、非汚染地区に比べて β2−ミクログロブリンの排泄量の多い方が相当数、10%台で、20や30%まではありま せんけれども、その方を10年間追跡してみますと、β2−ミクログロブリンの量は多い ことは多いけれども動かないのです。  したがって、腎機能障害を示すようなマーカーはほとんど出てまいりません。そうい う経験からしますと、また、臨床でよく腎毒性物質を使って近位尿細管障害が起こるこ とがあります、抗生物質でよく起こしますけれども、そういう場合は早めに処置すれば 腎障害は可逆的です。  ですから、ある程度の量で推移した場合は別に心配しないでもいいのではないかとい うのが臨床の考えです。  それで、その量の問題なのですけれども、ちょっと飛びますが今1,000μg/g crとい う数字が出たとおり、β2−ミクログロブリンを1,000μg/g crで一度線を引いた。これ は昭和55〜56年ごろに斎藤先生、野見山先生、私なんかがいろんなデータを分析してい たときに、大体1,000μg/g crくらいで線が引けるのではないか、どうもこれを超える と悪くなりそうだと。したがって今後は一応これを頭に入れて1,000μg/g crくらいの ところで見ていきましょうというのが慣行になって残ったんだろうと思います。1,000 μg/g crという数字が出たのは、そういう経緯であります。  それから、もう一つだけ、カドミウムの腎への影響ですけれども、腎障害、腎機能障 害、機能異常、いろいろ言葉がございます。  英語で言うとdisorderからdysfunctionといろいろありますけれども内容を一致して、 内容を合わせて使っている例というのはほとんどないです。dysfunctionが障害だった り異常であったりします。  したがって、β2 が増えただけで機能障害とおっしゃる先生もいらっしゃれば、機能 異常だからと言う先生もいらっしゃる。日本でも、この問題は統一してないのです。そ の点に関して、重松先生や土屋先生が随分努力なさったんですけれども、いまだに内容 の統一ができてない。したがって、使う先生によって内容が全部違うというのが実情で す。 私はβ2 が増えただけでは、これはdisorderであってdysfunctionにはなってい ないんだろうという見解です。それに先ほど遠山先生がおっしゃったので、やっと日本 もここまで来たかと思ったんですけれども、1つの指標で、この場合はβ2 だけ使って 物事を評価するというのは、これは間違いだと思います。  低分子量タンパク1つとっても、近位尿細管で処理されるのは3種類も4種類もあり ます。そのほかにも、いろんな機能があります。1個だけですべてを評価するのではな くて、私も前から言うんですが、2個ないし3個を使って総合的に判断してほしいと、 それでdysfunction、disorderの問題を解決してほしいと言うんですが、なかなかそれ も実施できていない。  今、やっと2つ指標を使って良い、悪いの議論ができてきたので大変ありがたいこと だと思います。  とりあえず、これくらいです。 ○福島部会長  ありがとうございました。  臨床面から見て、非常に説得力のある石本先生の御説明ですけれども、そのほかござ いますか。よろしいですか。  ないようでしたら、ちょっと時間の関係上、次のセクション4から6に入りたいと思 います。香山先生、お願いできますか。 ○香山委員  時間が押しておりますので、本当にごく簡単にお話しさせていただきます。 実際に イタイイタイ病は、最初に尿細管障害が起こりまして、カルシウム、リンの再吸収障害 が起き、それで骨におけるミネラルが減少しまして、実際には腎機能障害をまず基盤と するということが定説となっております。  ところが近年、腎機能障害が起こらない状態で骨密度が減少する、あるいはカルシウ ム代謝が障害を受けるという報告が幾つか出てきております。それが1番の今回の検討 すべき大きな問題点であります。  セクション4−2以降のことも簡単に申し上げますと、Cadmibel study、OSCAR study なども重回帰分析で骨密度との関係、カドミウムと骨密度の関係に負の相関を認めてい るのですが、我々の評価では統計解析で有意でないということで、統計解析の解釈に問 題があるのではないかというところを感じております。  それと実際にサンプルの数が大きく、自由度が大きいものですから、どうしてもp値 が小さくなると、そのp値が小さくなったということをもって有意差があるという報告 が見られます。  そこの統計学の解釈の問題点という、その差が結果の差になっているのではないかと 思います、それで差がないという報告もございます。  それから、次に骨代謝マーカーに関しましても差があると、すなわちカドミウム暴露 によって骨代謝が非常に亢進した状態、つまりどんどんつくられ、どんどん壊されると いう状況に陥るという報告もありますけれども、これもいろいろな統計解析をきちんと すると差がなくなってしまうということが、我々の結果を見ますと明らかになっており ます。  何と申しましても、骨密度というのは非常に関連する要因が多いもので、まず体重、 栄養、ビタミンD、それからカルシウムの摂取量、日照時間、運動量、その人の体格、 年齢、閉経の有無とか、非常に多くの交絡因子の解析がきちんと行われているかどうか ということも大きな問題であります。  それから、骨折リスクが増えるという報告もありますが、これもいろいろまだ議論の あるところでありまして、それからもう一つ、カドミウムを暴露するとカルシウムの排 泄量が増えるという論文もございます。  これに関しましても、見かけ上そういうようには見えるんですけれども、実際にはカ ルシウムの排泄量は腎機能障害と直接にパラレルに対応しておりまして、直接的にはカ ドミウムの暴露とは関係がないと、統計解析をすると、その間の相関はなくなってくる という結果も見られました。  以上、ビタミンDの活性化、鉄欠乏や閉経への影響などについてもいろいろな論文が 出てきておりますけれども、これらも本当に完全に確定的な定説となるほどの状況では ございませんで、更に検討をしていかなくてはいけないということは間違いないという 状況であります。そういうことでJECFAでも、この健康影響を予防するための基準とし ないという結論になったわけであります。  4のところは以上でございますが、よろしいでしょうか。 ○福島部会長  続けていただけますか。 ○香山委員  はい、5の生命予後に関するところでございますが、これは大部分が日本で行われま した調査であります。  これは富山県神通川及び石川県梯川、それから対馬での調査であります。  イタイイタイ病患者さんでは、その認定患者及び要観察者とを比較しまして、累積生 存率がカドミウム暴露によって短縮するということが報告されております。あと、腎機 能の影響のある方が生命予後が悪いという報告が見られます。  それから、腎機能評価がない被験者で解析していきますと、差がないという報告が散 見されるようになります。  以上、総合して考察いたしますと、死亡率、生命予後は腎機能障害の程度と相関する ことは、ほぼどの研究でも示されておりますけれども、腎機能障害がない場合のカドミ ウム暴露との相関については報告がいろいろあるということです。  すなわち、これらの低濃度のカドミウム暴露における生命予後に関しては、更に社会 的な環境とか喫煙、その他の交絡因子も含めて総合的に今後とも調査すべき点だという ふうに考えられます。  次の6もよろしいでしょうか。 ○福島部会長  どうぞ。 ○香山委員  はい、それからその他の影響でありますが、神経系への影響に関しましても、いろい ろな動物実験や神経生理学的な研究が行われております。  ただ、これらの研究に関しましても、多くの人における影響を調べた研究はまだござ いません。  それから、胎児への影響などに関しましても、動物実験などで行われておりますけれ ども、実際には大部分のものが大量に投与したときの研究報告でありまして、人や動物 に経口暴露による催奇形性を示す報告なども、まだ見られておりません。  最後に発がん性の問題でありますが、注射や吸入による暴露によって発がんが見られ たとか、金属鉱山で働いている労働者の吸入曝露によりまして肺がんができたという報 告がございますが、経口摂取によって発がん性があるという証拠はございません。  それからまた、血圧の変化や虚血性心疾患が増えるという疫学調査も散見されますけ れども、まだこれらすべてを明らかにサポートするようなデータは出ておりませんで、 まだ検討が必要であろうというところでございます。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  4から6まで今、報告していただきましたが、ここのところで御質問ございますか。  遠山先生、ここの骨のところ、JECFAとの関連で何か御追加ございますか、よろしい ですか。  マーカーとしてとらないということですか。 ○遠山先生  これは確か、ちょっと香山先生に補足をしていただいた方がいいかもしれませんが、 骨の部位によってカドミウムに対する感受性が違うという点で、研究の間でのポジティ ブな結果とネガティブな結果が出てますが、その結果を解釈するときにどの部分の骨を 対象とした調査をしているかによって、結果も異なってくるのではないかという点だけ は注意をしておく必要があると思います。 ○香山委員  よろしいですか。 ○福島部会長  どうぞ。 ○香山委員  その点はJECFAの評価文書の中で、かかとの骨の骨密度を超音波で測った研究が割と 大きく取り上げられておりまして、それが整形外科医に言わせると、そういう部分は非 常に体重に影響を受けますので、BMIが非常に大きく寄与しておりまして、そういうの はとらない方がいいというふうに申しました。ですからいろいろな論文がありますけれ ども、いろいろな重みづけをして、どれを主に採用するのかということが、やはり今後 とも重要だと思います。 ○福島部会長  ありがとうございました。  ほかにございますか。よろしいですか。  それでは次の「7 週間耐容摂取量の設定」というところに入ります。  櫻井先生、お願いいたします。 ○櫻井先生  週間耐容摂取量を設定する際の考え方ということでございますが「7−1 週間耐用 摂取量の設定」です。まず週間耐容摂取量を考える場合、何をエンドポイントとして考 えるかということに関しては、まず腎への影響を未然に防止するという観点から検討す べきであるというふうにまとめております。  これは骨の事は考えないでもいいだろうということです。  それで「その為には」というところですが、腎機能との量・影響関係を示すとか、あ るいは過去のカドミウム暴露を反映するという点から、尿中カドミウム濃度が幾つぐら いという1つの限界点をまず設定するということを出発点とすべきであるということを 言っております。  つまり、ここでは腎機能への悪影響を未然に防止する観点から目標とする適切な値と いうのは尿中カドミウムの値をどれぐらいに設定したらいいかということでございま す、それを基に週間耐容摂取量を設定すべきであるということです。  3番目のパラグラフですが、吸収、排泄、分布を踏まえたモデルから、この尿中カド ミウムの一定の量に対応したカドミウム摂取量を推定するのは現段階では無理であろう ということを言っております。  したがって「その為」というところでありますが、尿中カドミウムからカドミウムの 暴露量を推定するためには、ちょうど尿のカドミの濃度がピークに達する40歳代から50 歳代の尿中カドミ、仮に2.5 μg/g crを採用したとしますと、それになるようなそれま での食品からの摂取量のデータを何らかの形で最大限努力して集める、あるいはちょう ど40歳から50歳代の方々で平衡状態に達しているとすれば、その段階ではそのときに食 べている食品の糞便中の濃度が、すなわち、おおよそその尿のカドミウムに該当する量 である可能性が高いということで、そのようなデータを収集してこれらのデータから目 標とする尿中カドミウムに相当するカドミウム暴露量を推定するという方策が考えられ るのではないかということを指摘しております。  「7−2 バイオマーカーの量的反応関係」ですが、量反応関係につきましては先ほ どからいろいろ御議論ありましたように、β2−ミクログロブリン等のバイオマーカー については、クレアチニン補正、尿の濃縮・希釈の影響を受けることを踏まえ、量反応 関係についてまだ検討が必要であると、また尿のカドミウムとβ2−ミクログロブリン 等の腎機能の影響指標との関連、これについては推計学的な有意性が指摘されたとして も、そこに交絡因子が働いている可能性等もございますので、直ちに因果関係が存在す ると決定できるわけではない、あるいは医学的に有意であるということも必ずしも意味 しないというような点から、これらの影響指標の変化、つまり微妙な変化のことを言っ ておりますが、それの医学的有意性については総合的な考察が必要と思われるとまとめ ております。  最後に尿中カドミウムでございますが、我が国の非汚染地域で実施された池田班、あ るいは香山班らの報告で観察された尿のカドミウムの濃度、これは2.5μg/g crよりも 平均として多いグループも含まれており、そのグループにおいて明確な腎機能障害を認 め得なかったということから、JECFAで設定している暫定的週間耐容摂取量の推定の基 礎となっている2.5μg/g crであるならば、健康被害を未然に防止するという観点に立 脚したとしても、なお一定程度の安全域を有していると考えられるとまとめました。こ れは研究班の報告書の結論と同じ書き方でございます。  なお、尿カドミウムの目標値設定をこれから行うに当たっては、健康被害を未然に防 止する観点からこれまでの我が国の研究成果等を十分にレビューして、その上で設定す るべきであると考えられるというふうにまとめてございます。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  それでは、最後のところの御討論をお願いいたします。どなたかございますか。  石本先生、ちょっとお聞きしますが、先ほどdysfunctionとかdisorderというのをき っちりすべきだということを言われましたが、ここのところの要するに14ページの2つ 目のパラグラフで「腎機能への悪影響を未然に防止する観点から」ということで、ここ について先生、何かコメントございますか、このPTWIを決めるんだということに関しま して。 ○石本先生  尿中への低分子量タンパクが排泄、増加するということは、このカドミウムという物 質に限って言えば確かにCdの影響を表していると言っていいと思います。はっきりし ているのは、汚染地域と非汚染地域とでは、そのβ2−ミクログロブリンが増加した人 の出現率が大きく異なります。  ただ、その増えたこと自体が先ほどから言っておりますように、障害なのか、異常な のか、その辺の合意がまだできていないのではないかと思います。  対馬は鉱山から海までの佐須川の流域が非常に短い、したがって鉱山の廃石が非常に 川岸の近くに堆積しております。42年に重松先生と私の先生の上田先生が現地視察に 行ったんで、私と斎藤寛先生とついていったんですが、あそこで見た感じでは、なるほ どこれは汚染がひどいだろうなと思いました。  しかし、その状態で患者さんというか現地の方は皆さん元気なんですね。それで調べ てみると、代謝性アシドーシスも既に生じているという方も何人かおられると、ですけ れども、その方々に対して医学的な措置が必要か、当時も随分議論があったんですけれ ども、経過観察でいいのではないかというのが当時の研究班の結論でして、その域から 余り動いていないのではないかなという感じは持っていますが、β2−ミクログロブリ ンが増えたということは、Cd汚染地域に限って言えば、ほかに原因がない限り、やは りCdの影響と考えていいのだと思います。しかし、それが即治療を対象とする医学的 な処置が必要かと言えば、それはまた別の問題であるということだと思います。 ○福島部会長  ありがとうございました。  香山先生、どうぞ。 ○香山委員  最後のところの尿中カドミウム2.5μg/g crという値なのですけれども、この値は非 常に理想的な状況を示していると思うのですね。  諸外国ではこれが十分可能かと思うのですが、日本国内では例えば池田先生が全国10 か所、全部で1万人規模で調べられましたけれども、1か所の平均値は、それは1,000 人での平均値で3.1μg/g crというデータも出ておりますし、我々はどちらかと言うと 準汚染地域ですね、中程度の汚染地域の農家の女性の値を調べまして、尿中カドミウム の濃度は大体50歳代での平均値で4.1μg/g crという値になっておりまして、ですから そのくらいのレベルまで普通は到達するということです。だから、平均値でなくて40歳 代、50歳代、そのターゲットを求めていくところになりますと特にその年齢層、大体プ ラトーになるのが40〜50歳代ということで算定するとしますと、どういうリスク・マネ ージメントのための計画を立てるかということですが、この2.5μg/g crのままでいく ということは非現実的ということが調査をした者としては実感として感じております。  以上です。 ○福島部会長  櫻井先生、その辺りはどうでしょうか。 ○櫻井先生  追加でございますが、池田班、香山班の2.5μg/g crを超えている集団における尿中 β2−ミクログロブリン、たった一つだけでものを言うなとはおっしゃいますが、1,000 μg/g crを超えているパーセンテージは、他のもっと低い尿中カドミウムのグループと 変わりはないという事実がございます。 ○香山委員  ありがとうございます。 ○福島部会長  有澤先生、どうぞ。 ○有澤先生  先ほど対馬の話が出ましたのでちょっと補足させていただきますが、対馬で私も15年 間の追跡調査を行っておりまして、わかっていることは尿中β2−ミクログロブリンが 1,000μg/g cr以上のグループでは、対馬全体に比べて死亡率が1.4倍ぐらい高いという ことなので、β2−ミクログロブリンが上がっているからと言って全く心配が要らない ということは言えないのではないかと思っております。  これは石川県の梯川の結果でも全く同じで、1.4倍というのは本当にぴったりと一致 しております。  それから、β2−ミクログロブリンだけではなくて、血清のクレアチニンの上がって いる人の生命予後が悪いということも出ておりますので、影響が全くないということは 今のところ言えないのではないかと個人的には思っております。 ○福島部会長  石本先生、どうぞ。 ○石本先生  それでは、お答えしておきます。私が先ほど申し上げましたのは、動いたとしてもご く軽度な変動だけでは別に影響ないだろうということを申し上げたので、それは出方 が、これは斎藤先生の報告にもありますけれども、β2−ミクログロブリンが非常に高 いケースを集めた秋田の小坂の報告ですと、当然アミノ酸尿も出てリンの再吸収も悪 く、bicarbonateも下がっているというようないろんな近位尿細管の機能異常または障 害を示すサインが出ています。  そういうものと一定量以上、安全域を斎藤先生は1,000μg/g crで確か引かれたと思 うのですが、そういうケースと吉野川流域で示しているように、せいぜい正常の上限界 を多少超えた程度の量とを同様に論ずるというのは、ちょっと行き過ぎではないかとい うことです。 ○福島部会長  ありがとうございました、ほかにございますでしょうか。  どうぞ、遠山先生。 ○遠山先生  カドミウムの尿中排泄量の問題ですが、先ほど池田先生からの御報告の中にもありま したが、小林先生、能川先生のグループによるデータですと、いわゆる非汚染地域、そ こにおいてかなり2.5μg/g crよりも低いような集団を含む、要するに従来のいわゆる カドミウム汚染地域ではないところですが、そういうところにおいてβ2−ミクログロ ブリン、NAG等をたんぱく尿を含めて評価をしたときに、カドミウムの尿中排泄量との 間に相関関係があるというデータもあるので、やはりカドミウムの暴露の結果として 今、言ったようなマーカーが上がってきているということはあり得るので直ちに、石本 先生おっしゃっているように、臨床的な意味での障害ではないにしても暴露の影響はあ り得るので、それは今後暴露量を減らすという観点から考えなくてはいけないだろうと いうふうに思いますが。 ○福島部会長  ありがとうございます。  先ほどの報告で、尿中のカドミウムが2.5μg/g cr、それから香山先生の場合ですと、 もう少し上で5μg/g crぐらいとのことで、もう少し高い値をとった方がいいのではな いかという意見がありましたけれども、遠山先生、そこら辺についてはどうですか。 ○遠山先生  互いの研究の結果の間の整合性の問題が有ります。そして、先ほどの櫻井先生がこれ までの我が国の研究成果を十分にレビューしてと、とりまとめられている、まさにその とおりです。この3、4年の間に20近い疫学データのとりまとめが日本から発信されて いますので、そうしたデータを踏まえて今後検討していった方がよろしいのではないか と思います。 ○福島部会長  ありがとうございました。今後また、検討することが多いということですけれども、 そのほかございますか。  ないようでしたら、この議論をこれで打ち切りたいと思います。  それで、この櫻井先生の今日のレポートの1ページ目を見ていただきたいんですが、 2つ目のパラグラフのところに「本年7月に食品安全委員会が発足することから」とい うことで始まっているところです。今後、この議論は食品安全委員会の方で検討が行わ れるという予定になっております。  したがいまして、それに向けまして本日の議論を反映する形でとりまとめをしたいと 思います。要するに、この櫻井先生のレポートに今日の質疑の内容を加味したもので、 このレポートをつくるということですが、そのことに関しましては事務局の応援を得て 私の方で最終的にとりまとめたいと思いますので、御一任いただきたいと思いますがそ れでよろしいでしょうか。               (「異議なし」と声あり) ○福島部会長  どうもありがとうございました。では、そういうふうにさせていただきます。  それでは、議題の1を終わりまして「その他」に入ります。  まず、「平成14年厚生労働科学研究『加工食品中のアクリルアミドの測定・分析及び リスク評価等に関する研究』の報告」に移ります。  最初に、資料6−1について事務局の方から説明していただきます。  その後、菅野先生と林先生と廣瀬先生に補足説明がありましたらお願いしたいと思い ます。  お願いいたします。 ○事務局  それでは資料6−1について御説明させていただきます。  この研究は、国立医薬品食品衛生研究所の米谷食品部長を主任研究者といたしまし て、本部会の委員でございます、井上委員、廣瀬委員、菅野委員、林委員、それから有 機化学部の奥田部長に加わっていただき、昨年度、緊急的に特別研究事業として実施さ れ、このたび報告書がまとまったとのことですので本部会に御報告させていただきま す。  加工食品中のアクリルアミドにつきましては昨年4月のスウェーデンの研究報告以 来、世界各国で研究が始められ、我が国でも当研究班におきまして始めに加工食品中の アクリルアミド分析法の検討とその濃度測定が実施されました。  その結果につきましては、昨年10月の毒性部会において報告されまして、我が国の一 部の加工食品においてアクリルアミドが含まれるものがあるということが明らかとなり ました。この報告書の前半部分には、その内容が示されてございます。  一方、アクリルアミドの神経毒性、発がん性、遺伝毒性など毒性に関する検討と、食 品中でのアクリルアミド生成機序に関する検討については、まず、それまでに食品中に アクリルアミドが含まれるということが知られていなかったこともございますので、国 内外の文献収集を中心に既に行われておる研究成果にどういうものがあるんだろうかと いう整理と収集、それからその評価が主になされております。  結果につきましては5ページの部分をお開きください。  「E.結論」という部分をかいつまんで御紹介させていただきます。  Aの部分では、アクリルアミド含有量が高い食品は高温で加熱加工され、かつ水分が 少ない植物性食品であった、アクリルアミド生成を抑制するためには植物性食品の加熱 温度と加熱時間を見直す必要がある。それから、家庭における調理も含めて食材の過度 な加熱は避けることが賢明であろう、そして一旦生成したアクリルアミドが減少する反 応機構を明らかにする必要があるという指摘があります。  Bのところでは、アクリルアミド生成はアスパラギンが関与するメイラード反応に起 因することが明らかとなった、アクリルアミドの生成抑制方策は研究開発途上であると いうことです。  Cでは、アクリルアミドの毒性に関して、最も低用量で認められるのは神経毒性であ る。発がん性や精巣毒性の発現機構としてはアクリルアミド、あるいはその代謝物であ るグリシダミドとDNA、あるいはタンパクとの付加体形成の関与が示唆されていると いうことでございます。  Dでは、アクリルアミドは特に生殖細胞に対する染色体異常誘発性が示されており、 がん原性とともに後世代への遺伝的影響に関しても注意が必要であろうと、アクリルア ミドは明らかに遺伝毒性を示すことから、今後そのメカニズムの解明や人に対する正し いリスク評価が必要であるということです。  Eでは、アクリルアミドによる精巣障害に対して、解毒酵素を誘導するPEITCや、抗酸 化剤であるHTHQが部分的に障害を抑制することが明らかとなったとあります。  Fでは、アクリルアミドに想定される生体障害については、暴露の日常性に鑑みて、 暴露の完全回避は困難であるため「1」実効的な安全域の面からの沈着な理解と、2」 がん抑制効果の期待される食品の研究と相俟っての食生活そのものの改善への注意喚起 の、二面から考えることが重要である。」とのことでした。  今後は、本研究結果や昨年の毒性部会での御意見を踏まえ、アクリルアミドの生成抑 制と毒性抑制などに関する研究を進めるため、引き続き厚生労働科学研究において国立 衛研を中心とした新たな研究班を組みまして実施することとしております。  以上でございます。 ○福島部会長  ありがとうございました。  それでは、菅野先生、補足説明をお願いできますか。 ○菅野委員  私のところは毒性評価というところでございますが、まとめは先ほど御説明いただい たとおりでございます。  中身を簡単に申し上げますと、アクリルアミドは1980年代ごろからそれなりにきちん とした動物実験が行われておるという意味において、文献調査をまずやるべきだろうと いうことであります。  結論から言うと、先ほどおまとめいただいたとおりで、有害性の一番高そうなものは P450のCYPの2E1を介してアクリルアミドがグリシダミドに変換すると、このような系 を用いた、DNAアダクトまで届くような変化が考えられるということで、文献調査をし た範囲ではこれ以上緊急性を持って、更にもう1回2年間の慢性毒性試験とか発がん性 試験をやり直す必要はないであろうということが背後にありつつ、神経毒性が一番敏感 なエンドポイントであることが確認できたという結論に至ったわけであります。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  林先生、お願いいたします。 ○林委員  遺伝毒性に関しましては、先ほど事務局の方で御説明いただいたのでもうほとんど言 い尽くされていると思うんですけれども、このものにつきましては特に原核生物での gene-mutationというのはほとんど見つかっておりません。しかし細胞での染色体異常 を指標とした場合に、非常に強く発現しているというところが特徴でして、それはin vitroのみならずin vivo の方でも体細胞のみならず生殖細胞においても非常に強く誘 発しているというところが特徴的な点かと思います。  したがいまして、後世代への影響ということも十分考えながら評価をする必要があろ うかと考えます。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  では廣瀬先生、お願いいたします。 ○廣瀬委員  私たちのところでは、特別研究費ではそもそも文献調査をということが主体であった わけですけれども、我々のところではたまたま、やはり食品の加熱過程で生成するヘテ ロサイクリックアミンの発がん抑制ということを以前からやっておりましたので、アク リルアミドにつきましても、以前の結果を参考にして、すぐに抑制実験を始めようとい うようなことで実験を開始しました。  神経障害、あるいは精巣障害を対象としましたのは、これは実験期間が短くて済むと いうことでありまして、選んだ被験物質としては2-phenethyl isothiocyanate (PEITC)、これは解毒酵素を異常に強く誘導する物質でありまして、それからN- acetylcystein、これは抱合体の基質となる化合物です、それから先ほどHTHQというの が出てきましたけれども、これは抗酸化剤でありまして、同時にcytochrome P450 の 非特異的な阻害剤であります。  その結果、PEITC及びHTHQが神経症状及び精巣の毒性を有意に抑制するということが わかってまいりました。  今後も食品中にある成分を主体としまして、どういうものが精巣障害、あるいは神経 障害、また更に今後、発がん性ということも考えておりますけれども、そういうものを 抑制するかということと実験していきまして、どういう食べ合わせでこのアクリルアミ ドの毒性を軽減できるかということを更に研究を続けていくということで、今年度、幸 い厚生労働省の方から研究費がいただけるようになりまして、その研究班ではアクリル アミドの生成抑制、アクリルアミドの発がん性の抑制、神経・精巣毒性の抑制、アクリ ルアミドの代謝、アクリルアミドの遺伝毒性の抑制というようなことで3年間研究を 行っていくという予定であります。  以上です。 ○福島部会長  ありがとうございました。  それでは、続いて、資料6−2の方について事務局の方から説明していただけます か。 ○農林水産省  資料6−2については農林水産省から説明させていただきます。  今、6−1の方で厚労省の研究結果は説明いただきましたけれども、この中でかなり 多くの食品について分析していただいておりますが、その中でお茶類についても分析を していただいております。  ただ、その中で、報告書自体には資料6−1の25ページに出てくるんですが、ほうじ 茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶等を分析いただいたんですが、これらは全部お茶の葉っ ぱ、固形物をそのまま分析したという形でございましたので、農水省はこれを受けた追 加調査という形でお茶の液、浸出液の方についてもそれが出るのかということを、日本 食品分析センターに委託をいたしまして調べてみたのが、この資料6−2の結果でござ います。  ご覧いただくとおわかりのように、真ん中にその結果が載ってございますが、茶葉等 と浸出液と並べて出た結果を出しております。  緑茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、はと麦茶ということで分析したんです が、茶葉等の値につきましては、厚労省の方でやられた結果とほぼ同程度の値でほうじ 茶、麦茶については若干高い値が出ていると、それで一方、浸出液ですけれども、それ についても多くのものはndという形だったんですが、幾つかは2ngから14ngぐらいの 小さな値が検出されたということでございます。  食品の分析結果ということで、ちょっと厚労省さんの結果に追加する形で増やして調 査をしてみたという結果報告でございます。 ○福島部会長  それでは、この資料6−1と2のアクリルアミドについての報告ですが、御質問があ りましたらどうぞ。  どうぞ、鈴木先生。 ○鈴木委員  生殖細胞に対しても、特に染色体異常を中心として変異原性があるというお話なの で、ちょっと心配になってはいるんですが、これは閾値があるというようなところまで 用量を変えて調べられているのでしょうか。 ○福島部会長  それでは林先生、どうぞ。 ○林委員  これは少し古い報告なので、用量幅はそれほどなかったように記憶してます。でも優 性致死試験と、あとは実際に精原細胞の染色体異常試験、両方とも陽性になっていると いうことで、ちょっと今の閾値の問題はまだはっきりしませんけれども、かなりきちっ と陽性に出てきていることは確かです。 ○福島部会長  寺本先生、どうぞ。 ○寺本委員  今の例に関連してのことなのですけれども、多分2003年の論文で生殖発生毒性、特に 2世代のreproduction-studyを報告しているかと思うのですけれども、それでは閾値は あるようです。  それで特に生殖発生毒性があるというふうにここでは書かれているけれども、主体に なるのは雄に対しての影響のようです。雌に対しては影響がないということで、特に雄 の精巣に対しての影響ということのようです。 ○福島部会長  ありがとうございました。ほかにございますか。  三森先生、どうぞ。 ○三森委員  今回の厚生科学研究を見させていただいて、やはり閾値のない遺伝子障害性発がん物 質を、これからどうするのか、論点と思います。先ほど、基準課長がおっしゃっていた ように、アクリルアミドに対して例えばVSDで100 万分の1のリスク・マネージメント のような手立てを考えていかなくてもよいのでしょうか。 ○福島部会長  事務局の方、何か考え方ありますか。 ○中垣基準課長  担当課長がおりませんので代わってお答えいたしますと、大きく分けますと、例えば 添加物でございますとか、農薬でございますとか、そのような人工的につくられて意識 的に使用するというものと、このアクリルアミド、あるいはヘテロサイクリックアミン なんかもそうなのだろうと思いますが、調理の過程で否応なく出てくる、あるいは、汚 染物質的に入ってくるというようなものと、恐らく大きく2つに大別できるんだろうと 思います。  今までの考え方、特に閾値を中心とした考え方というのは前者に適用してきたところ だろうと思いますし、後者の汚染物質というのは端的に申し上げますと、安全域を見な がらできるだけ少なくというようなことも配慮しながら決めてきたもので、後者の点に つきましては閾値のない発がん物質であるからゼロにしろと言ったところでゼロにする こと自体がかなり難しいわけでございますから、その削減方策を考えてきたということ なんだろうと思います。そういう意味で今回の研究の中でも生成をいかに抑えるかとい うような研究がなされているというのは、そのような今までの方向性とも一致するんだ ろうと思いますが、確かに三森先生おっしゃっておられますように、後者の分野、すな わち汚染物質であるとか調理の過程で否応なく出てくるものであるとか、そういうもの をどうするのかということについてはもう少し学問的な研究を続けていく必要があるん だろうと思っています。 ○福島部会長  ありがとうございました。  鈴木先生、どうぞ。 ○鈴木委員  今の点について多分JECFAが今年になってカルバドックスの話でコメントを出してい ると思うんですけれども、genotoxic-carcinogenと言ってもメカニズムによっては閾値 がある可能性がある。その中の一つの例として、ここにあるような染色体に対して異常 があるような機序のものというようなところがありますので、この点、やはり機序を相 当綿密に今後調べていく必要がある、そうすると、その他のgenotoxic-carcinogenの閾 値の問題と違うところで安全性が担保される可能性も出てきますというようなことを指 摘しておこうと思います。 ○福島部会長  ありがとうございました。  林先生、関連ですね。 ○林委員  はい、今のことに関してなんですけれども、確かに閾値を認めてもいい遺伝毒性と認 められない遺伝毒性という考え方が、最近JECFAだけでなくほかでも出てきています。  それで今のこの場合なのですけれども、確かに染色体異常で、ある染色体異常のカテ ゴリーではその閾値を認めてもいい方に含まれるのですけれども、今回の場合はどうも DNAとの直接のインタラクションも認められている、それもin vivo で認められている ようですので、もし強いて分類するならば、閾値がない方ではないかと考えます。 ○福島部会長  菅野先生、関連ですか。 ○菅野委員  もっと包括的なことなのですが、よろしいでしょうか。 ○福島部会長  どうぞ。 ○菅野委員  食べ物の場合、非意図的及び食べ物そのものの成分の有害性というのは、もともと安 全係数が使えないですね。それに発がん性が加わったとしてもVSDも使えないというこ とですので、毒性の立場からそこを突っ込めと言われた場合には、先生がおっしゃるよ うに、あるいは中垣課長がおっしゃるように全く違う方法になるんですが、毒性部の立 場としてそれをずっと考えてきた流れから申し上げると、まさしくメカニズムで種差を 見るしかなく、食べ物の場合は人間も動物も安全係数1ということしか考えられないと いう立場で種差、あるいは個体差の問題をメカニズムベースでやるというのが1つと、 あとカドミウムのように大量に疫学データがある場合はそれを十分に活用すると、この 二本立てしかないのではないかというふうに考えております。 ○福島部会長  廣瀬先生、どうぞ。 ○廣瀬委員  そのリスク評価のことに関しましては、スウェーデンかノルウェーかちょっと忘れま したけれども、現状の暴露汚染状態では10万人に何人か、ちょっと実数値は忘れました けれども、何人かの発がんの増加の危険性があるというような報告は既になされており ます。  ただ、それで規制をどうこうするということは全く触れておりませんで、できる限り 生成を抑えると、今回の厚生労働省の対処案と同じようなことが言われていたというこ とです。 ○福島部会長  ありがとうございました。  この議論は尽きないと思います。このアクリルアミドもいわゆるgenotoxicな物質に 対する新しい方向性、我々はどういうような取り扱いをするかということを示してくれ ている例だと思います。また、この問題に関しては、これから何回もディスカッション がなされることと思います。  このことに関しましては、これで打ち切りたいと思いますが、今回はこの報告があっ たということでよろしいわけですね。  ありがとうございました。  ちょっと時間が過ぎておりますが、もう一つ入っております。ニトロフラン類及びそ の代謝物の安全性につきまして事務局の方からお願いいたします。 ○事務局  それでは、資料7をごらんいただきたいと思います。  まず「ニトロフラン類及びその代謝物の安全性について」ということで資料をまとめ させていただきましたけれども、それに至るまでの経緯といたしましては、本年4月に 在日EU代表部の方から日本の方に情報提供がございまして、インド産の卵製品、粉卵 ですけれども、そこから合成抗菌剤であるニトロフラン類の代謝物、これが3−アミノ −2−オキサゾリドン(AOZ)ですけれども、AOZの存在が確認されたという連絡が入っ て、その製品について日本に輸出しているということが通報されました。  また続報で、ニトロフラン類の別の代謝物として、セミカルバジドの存在が確認され て、そういったものも輸出されているということの連絡を受けました。  したがいまして、この代謝物であるAOZとセミカルバジドにつきまして安全性を検討 するということで、この報告をまとめさせていただきました。  まず、ニトロフラン類につきましては、フラン類の合成抗菌剤の総称でございまし て、化合物は多数ございます。このうち、日本で承認されているものとしてはニトロフ ラゾンがありますけれども、これは食用の畜水産物への使用は認められておりません。  ニトロフラン類の代謝につきましては、まだ完全に解明されている段階ではございま せんけれども、フラゾリドンでは今回検出されたAOZが代謝物として知られています。 また、ニトロフラゾンにつきまして、この代謝物はセミカルバジドということが知られ ておりますので、今回安全性を検討する上では、親化合物であるフラゾリドンとその代 謝物であるAOZ、そして別の親化合物であるニトロフラゾンとその代謝物であるセミカ ルバジド、以上4物質についてそれ以降に安全性をまとめさせていただいております。  まず、フラゾリドンの安全性につきましては、1ページから3ページにかけてござい まして、発がん性試験はマウスとラットを用いて実施されております。これらの結果に つきましては、乳腺腫瘍など各種腫瘍が認められたという結果になっております。  2ページ目の下の遺伝毒性試験でございますけれども、この結果につきましてはin vitroの試験におきましては、ほとんどの試験で陽性を示し、そしてin vivoの試験では 陽性を示したものがあったということでございまして、これらの発がん性試験や遺伝毒 性試験の結果から、3ページの上のまとめでございますけれども、このフラゾリドンと いう物質は、遺伝毒性を有する発がん物質であるということが考えられるということで まとめさせていただきました。  続きまして、その代謝物でありますAOZですけれども、これにつきましても遺伝毒性 試験につきましては、細菌を用いた復帰突然変異試験などで陽性を示すものがございま した。  それが、ア、イ、ウということで、それぞれについて陽性反応を示しているというと ころでございます。  3ページの下から4ページにかけて、反復投与毒性試験があります。これらについて は、犬やラットを用いて行われましたけれども、これらの結果からでは無毒性量を決定 することはできないということで結論づけております。  AOZに関する発がん性についてのデータについては、十分なデータがそろっておりま せんので、ここにはありません。  以上のことをまとめますと、AOZにつきましては、遺伝毒性を有するということが考 えられるということでございます。  続きまして、4ページ真ん中から、ニトロフラゾンとその代謝物質セミカルバジドの 安全性についてでございますけれども、まずニトロフラゾンにつきまして、これは発が ん性試験をマウスやラットを用いて実施しております。その結果、乳腺腫瘍など各種腫 瘍が認められているところでございます。  そして5ページ目、遺伝毒性ですけれども、遺伝毒性試験におきましては、DNA損 傷試験などのin vitroの試験では陽性を示しておりますけれども、一方でin vivoにつ きましては、染色体異常誘発性を指標とした試験系のみではございますけれども、これ については陰性を示しているというところでございます。  以上の結果から、ニトロフラゾンにつきましては、動物実験で発がん性は認められて いるということでございますけれども、遺伝毒性につきましては、これらの結果からは 遺伝毒性を有するか有しないかはまだ詳細なメカニズムもわからないので判断はつきま せんけれども、可能性はあるけれども低いのではないかということでまとめさせていた だいております。  続きまして、その代謝物でございますセミカルバジドでございます。5ページ目から 6ページ目にかけてありますが、まず発がん性試験でございますけれども、マウスやラ ットを用いて実施しておりまして、肺腫瘍など各種腫瘍が認められているところでござ います。  続いて遺伝毒性につきましては、サルモネラを用いた復帰突然変異試験などで弱い陽 性反応を示すものもございますし、またin vivoの試験で陰性を示しているものがござ いまして、これらについては結果がはっきりとしないとのことでございました。  以上のことから、セミカルバジドにつきましては、腫瘍の増加などが認められており ますので、発がん性を有することが考えられますが、遺伝毒性の有無については今回こ れらの試験からははっきりとしないものの、可能性は残されているということで結論し ております。  これらの4つの物質につきまして、発がん性などの安全性結果がある程度まとまりま したので、それに伴って総括でございますけれども、まず7ページ目を見ていただきま すと(1)といたしまして、ニトロフラン類の代表的化合物であるフラゾリドン自体、 遺伝毒性を有する発がん物質であると認められるということで、その代謝物であるAOZ につきましては、発がん性試験結果は報告されておりませんけれども、in vitroやin vivoの遺伝毒性試験において、いずれも陽性と判断されることから、発がん性を有す る可能性は極めて高いというところで考えさせていただきました。  あと、今回入手した資料から見る限り、許容1日摂取量、ADIということで安全域 を設定することは適当でないということで考えられております。  次に(2)といたしまして、セミカルバジドとその親化合物であるニトロフラゾンに つきましては、発がん性を示している試験結果がございますので、発がん物質であると いうことが考えられます。  ただ、その発がん性のメカニズムについては明らかではございません。  また、入手した資料から見る限り、ADIを設定することは先ほど(1)と同様に適 当ではないということで考えさせていただきました。  この(1)と(2)に基づきまして、今回最初に検出されたAOZやセミカルバジドの 残留が検出された食品については流通しないようにすることが適当であるということで (3)としてまとめさせていただきました。  あと(4)といたしまして、ではこの検出された粉卵を原料として使っている加工食 品、これは粉卵ということなので、ケーキなどの洋菓子やパンなどに使われるかと思い ますが、こういった加工食品につきましては、今回入手した資料から見る限りでは、こ れらの発がん性試験に用いた用量と実際の残留量には大きな差があることなどから直ち に、人の健康確保に大きな支障があるとは考えられないということで、加工食品につい ては回収を行うようなものではないということで考えさせていただきました。  なお、今回EUから情報提供がございましたけれども、このEUにおいても加工食品 については回収の対象としていないところでございます。 ○中垣基準課長  本件につきましては、この資料7の1ページに書いてございますとおり、今年の4月 にEUから情報提供がございましたので、取り急ぎ国立医薬品食品衛生研究所の安全性 生物試験研究センターの先生方を中心に資料を集め御検討をいただき、そのとりまとめ を本日、この案として出させていただいたものでございまして、毒性部会において御議 論を賜れば幸いと考えております。  よろしくお願いします。 ○福島部会長  今、事務局の方から説明がありましたが、この点に関しまして御議論していただきた いと思います。  ございませんか、特に国立衛研の先生方、この点に関しましてどうですか。追加ござ いますか、よろしいですか。  鈴木先生、どうぞ。 ○鈴木委員  最後の7ページの(4)のところに関連して教えていただきたいんですけれども、最 終的に加工食品については回収の対象としないということなのですが、この粉卵そのも のが原料として国内に入っているとしたら、それについてはどういう扱いにするという ことなのでしょうか。 ○中垣基準課長  現段階で粉卵として在庫があるものについては、チェックが必要なのだろうというふ うに考えておりますが、これの検査方法で非常に難しい点がございまして、しかも1ppb とか5ppbとかいうレベルでEUでも検査しておりまして、LC-MSか何かを使っていくん だろうと思いますけれども、そういうこともございますから粉卵である状態というのは チェックをする。ただ、加工食品で出回っているもの、これを今から回収していくかと いう点についての見解としては、こういう形でまとめていただいているということでご ざいます。 ○福島部会長  今、中垣課長が言われる、そのチェックをするというのはどういう意味ですか。 ○桑崎輸入食品安全対策室長  既に我が国に輸入されているもので、AOZとセミカルバジドが検出された粉の卵が200 トンぐらい入っております。これについては、今、輸出国に積み戻すように指示をした いと考えております。検出されたものについては、輸出国に積み戻したいということで ございます。 ○福島部会長  鈴木先生、よろしいですか。 ○鈴木委員  わかりました。 ○福島部会長  ほかにございますか。  三森先生、どうぞ。 ○三森委員  3ページのCのまとめのところです。マイナーなことかもしれませんが、フラゾリド ンのin vitroにおける遺伝毒性試験が陽性反応を示したこと、そしてラット・マウスで 悪性腫瘍が増加したことから、フラゾリドンが遺伝毒性を有する発がん物質であると表 現されているのは、ちょっときついんじゃないんでしょうか。  in vivoの遺伝毒性試験が陽性でない限り、遺伝毒性発がん物質とは言えませんので、 ここの文を遺伝毒性の可能性があるとか、もう少し考えて、修文された方が良いかと思 います。こういうふうに記載されると今までの評価とは異なるとみなされるのではない でしょうか。 ○中垣基準課長  ありがとうございました。そこの部分は、御専門の林先生もおられますから、また御 指摘をいただきたいと思いますが、Cのまとめの1行目、「・・・in vitroにおける遺 伝毒性試験が陽性反応を示し、in vitroにおける結果は交錯している。」でまず切っ て、次に、「マウス及びラットで悪性腫瘍が発生したことを踏まえると、フラゾリドン が遺伝毒性を有する発がん物質である可能性がある。」という形にさせていただこうと 思います。 ○福島部会長  林先生、どうぞ。 ○林委員  今のところなのですけれども、これは確かにin vivoの方ではっきりしてないのは確 かなのですが、毒性試験で1つははっきり陽性になっているものもあるということか ら、こういうふうな案をつくっていたのですけれども、確かに今、三森先生もおっしゃ るように、少し強過ぎた表現かもしれませんので、今の中垣課長の訂正の方がふさわし いかと思います。 ○福島部会長  私は可能性があるとなんていうと、非常に弱くなってしまうなという気がするんです けれども。 ○中垣基準課長  それでは、「可能性が高い」といたしましょうか。  いずれにいたしましても、7ページの4の総括の(1)の1行目から2行目にかけた 文章というのもそれに合わせたいと思います。 ○福島部会長  ほかにございますか。  ないようでしたら、今の意見、ここのところももう一度私の方で事務局と最終的にき ちっとした形にさせていただきたいと思いますが、御一任いただいてよろしいですか。  いずれにいたしましても、この総括の内容、今、7ページの4、総括というところで すが、ここの1〜4がございますが、これについてこの内容でよろしいでしょうか。               (「異議なし」と声あり) ○福島部会長  ありがとうございました。それでは、そのようにさせていただきます。  時間が15分オーバーしてしまいましたが、本日の議事はすべて終了いたしました。あ りがとうございました。  ほかに何かございますか。 ○事務局  最後になりましたが、本部会の閉会に当たり、遠藤食品保健部長より、一言御礼のご あいさつを申し上げます。 ○食品保健部長  食品保健部長の遠藤でございます。御承知のように、7月1日から食品安全委員会が 発足をするということで、厚生労働省において行ってまいりましたリスク評価は、特に この毒性部会を中心にして行っていただいておったわけでございますけれども、食品安 全委員会の方に事務を移管するというふうなことでございまして、本日午前中食品衛生 分科会を開催をいたしまして、7月1日以降毒性部会は廃止をするということにいたし ております。先生方には、長い間この分野で大変お世話になってきたわけでございます けれども、今後私どもといたしましては、食品安全委員会と連携を持ちつつ、引き続き リスク管理、あるいはリスクコミュニケーションに万全を期してまいりたいと考えてお りますので、今後とも御指導・御鞭撻賜りますよう、心からお願いを申し上げまして、 簡単でございますけれども、御礼のごあいさつに代えさせていただきたいと思います。 どうもありがとうございました。 ○福島部会長  只今、遠藤部長のごあいさつにもありましたが、この毒性部会は今回の審議で最後と なります。長い間議事進行、審議に御協力をいただきましたことを厚く御礼申し上げま す。  以上をもちまして、毒性部会を終了したいと思います。本日どうもありがとうござい ました。                                     (了) 照会先:医薬食品局食品安全部基準審査課 太田・横田 電話:5253−1111(内線2484・4280) ファックス:3501−4868