03/06/06 第4回労働政策審議会勤労者生活分科会議事録            第4回労働政策審議会勤労者生活分科会                     日時 平成15年6月6日(金)                        15:30〜                     場所 労働基準局第1・2会議室 ○企画課長  ただいまから第4回勤労者生活分科会を開催させていただきます。本日は委員の皆 様、大変お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日は、1 名の代理の方を除き、全員御出席予定ということで、大変お忙しい中、お集りいただき ましたことを御礼申し上げます。私は厚生労働省労働基準局勤労者生活部企画課長の伊 岐でございます。分科会長の選任が終わるまで、私が議事進行役を務めさせていただき ますので、どうぞよろしくお願いいたします。  まず事務局を代表して、厚生労働省労働基準局長の松崎より、ご挨拶申し上げます。 ○労働基準局長  委員の皆様方には本分科会の委員としてご就任いただき、誠にありがとうございま す。また、本日はお忙しい中ご出席いただきまして、お礼申し上げます。  財形制度につきましては、従来から審議会の場を通じて、あるいは皆様方のいろいろ なご提案、ご審議を通じて、少しずつ制度改善を進めてきたところです。しかしなが ら、こういった経済情勢の中では、企業内の福利厚生はだんだん見直しと言いますか、 だんだん整理統合、あるいは外注が進んでおります。そういう中で財形制度がどういう 魅力を持ち続けられるのかが、大きな問題ではないかと思っております。さらに低金利 の中で、貯蓄をする魅力が非常に薄まっております。住宅融資につきましては、利率に おいては一般の融資に勝っており、魅力があるわけですが、貯蓄をするほうの魅力が、 薄まっているのではないかと思っております。  しかし逆に考えますと、これは全くの私見ですが、貯蓄をするほうの魅力である税制 の優遇措置を維持しているために、いろいろな拘束があります。果たして今後はこの拘 束と言いますか、いろいろな制度上の制限と、どう調整を取っていくのかといったこと も、これから考えなければいけないのではないかといった感じもしております。これか らすぐに答えは出ないかもしれませんが、そういった点も含めて財形制度のあり方、根 本の議論にまで踏み入ってご論議いただきたいと考えております。  本日は昨年度、委託研究を行った報告等もございます。また財形制度の平成14年度の 実績や運営状況についても、ご説明があります。そういったことを通じて、これからま たかなり難しい議論になるかと思いますが、是非先生方のご議論をお願いしたいと思っ ておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○企画課長  本日は委員改選後初めての会合ですので、次に委員および臨時委員のご紹介をさせて いただきます。お手元に資料1として、「勤労者生活分科会委員名簿」をご配付してお りますので、この名簿順にご紹介申し上げたいと思います。まず公益代表委員は、鵜飼 克様、勝悦子様、齋藤邦彦様、新村保子様、西村万里子様、日高荘平様、藤田伍一様、 三井康壽様です。労働者代表委員は、大賀康幸様、荻原保夫様、南雲三雄様、野澤雄三 様、宮野弘毅様、山口登守様です。使用者代表委員は、伊藤理恵様、奥村直嗣様、倉島 光一様、田沼千秋様については、本日は代理の中村六彌様、前田薫様、松井博志様で す。続いて私及び先ほどご挨拶申し上げた局長のほか、事務局のご紹介もさせていただ きます。奥田勤労者生活部長、浦原勤労者生活課長、犬飼勤労者福祉事業室長です。ま た本日は幹事ということで、各省庁からもご出席いただいておりますが、参考5に幹事 名簿をご配付しておりますので、これによりご紹介に代えさせていただきたいと思いま す。  それでは議題に入ります。議題1は、本分科会の分科会長及び分科会長代理の選挙で す。労働政策審議会令第6条第6項については、参考2の条項を後ほどご確認いただけ ればと思います。こちらで「分科会には分科会長を置き、当該分科会に属する公益を代 表する委員のうちから、当該分科会に属する委員が選挙する」となっております。た だ、労働政策審議会の公益委員たる本分科会の公益代表委員は、齋藤委員だけですの で、齋藤委員に分科会の会長をお務めいただくことになりますが、ご異議はございませ んか。                  (異議なし) ○企画課長  ありがとうございます。大変恐縮ですが、齋藤委員、分科会長席へお移りいただけま すか。 ○齋藤分科会長  齋藤でございます。どうかよろしくお願いいたします。これから私が議事進行を務め させていただきたいと思います。  まず最初に、今日は田沼委員が欠席しておられます。代理としてグリーンハウス常勤 監査役の中村六彌様の出席が申請されております。代理の出席については、勤労者生活 分科会運営規定第5条で、「委員等は分科会長の許可を受けて、代理者を出席させるこ とができる」となっております。私としては異存ありませんので、代理出席を認めるこ とにしたいと思います。よろしくお願いします。  それでは分科会長代理の選出に移ります。分科会長代理については、労働政策審議会 令第6条第8項に、「分科会長に事故あるとき、当該分科会に属する公益を代表する委 員又は臨時委員のうちから、分科会長があらかじめ指名する者がその職務を代理する」 となっております。私としては一橋大学社会学研究科教授の藤田先生にお願いしたいと 思いますが、よろしゅうございますか。                  (異議なし) ○齋藤分科会長  では藤田先生にお願いします。よろしくどうぞお願いします。  議題2は、「企業内福利厚生のあり方と今後の勤労者財産形成促進制度の課題」につ いて、事務局からご報告をお願いしたいと思います。 ○企画課長  この議題の説明に際しては、資料2をご覧いただきながらお聞きいただきたいと思い ます。資料2は、今般の勤労者生活分科会の議論を踏まえて設置した、委託研究の場で の研究成果を簡単に要約したものです。委託研究そのものの成果物としては、黄色い表 紙の資料です。大変大部にわたるものですので、要約してご紹介したいと思います。な お、この研究をするに際しては、先ほど分科会長代理に指名された藤田先生、あるいは 労使から奥村・山口両委員のご参画もいただき、大変懇切なご審議、ご研究を賜りまし たことを、この席をもって御礼申し上げたいと思います。  資料2の参考資料1が、先ほどご紹介した委託研究のメンバーの名簿です。この参考 資料2というのが、資料2の後ろに付いております。これが統計資料ですので、これも 併せてご参照いただきながら、お聞き取りいただければと思います。  まず「研究の概要」ですが、福利厚生をめぐる状況、我が国の経済状況、労働市場や 雇用の状況については、ご参集の皆様もよくご案内のとおりです。そういう大きな変革 期にある企業の福利厚生、あるいは財形制度をどうしていくべきかということで、委託 研究をさせていただきました。「研究の概要」の下のパラグラフにありますように、委 託研究としては、2つのテーマをもって実施いたしました。(1)が「企業内福利厚生の あり方についての検討」、(2)が「財形制度のあり方についての検討」ということで、 大きく2点を目的とした研究会を半年間、株式会社ニッセイ基礎研究所さんへの委託と して実施させていただきました。会合については7回、委員の先生方にお集まりいただ いて議論し、報告書を取りまとめていただいたところです。  II「報告書の概要」の1が環境変化ですが、ここはもうご案内のとおりですので、ず っと端折らせていただき、(5)だけ、少しご紹介したいと思います。「勤労者生活の 変化」については、参考資料2の図表1をご覧ください。日本は非常に貯蓄率の高い国 民であると、よく言われておりましたが、勤労者生活のここ近年の変化としては、ここ 数年で家計貯蓄率が非常に低下しております。勤労者世帯の家計収入も減少し、貯蓄残 高の伸び率も鈍化している状況にあることを指摘しております。これは『国民経済年報 』から取った数字ですが、日本の貯蓄率は平成13年ベースで、6.9となっております。 さらに下がったという情報も、新聞等で拝見しております。このように過去の高い貯蓄 率から変化しており、諸外国と比べても必ずしも高いとは言えない状況になったという ことを、ご紹介申し上げております。「そういう中で経営環境の変化により、雇用をめ ぐるリスクが高まっていることに加え、賃金の変動要因も高くなってきたことにより、 生活設計の必要性が従前より高まってきている。特に貯蓄余力の乏しい勤労者にとっ て、早い段階からの貯蓄がより重要になってくると考えられる」ということを指摘して いただいております。  「持家率の推移」も、図表2をご覧ください。図表2というのは、今回委託研究を実 施した際、委託研究の内容として行われたアンケート調査です。これは推移と言うより も定点観測のものです。対象になった個人調査対象者のうち、すでに持家を持っている 方は56.7%です。ただ持家でない方についてもその中の過半数が、今後持家を取得する 意向を持っているという状況です。日本全体の持家率は年々伸びており、そういう意味 ではもう持家政策はいいではないかという声もあるところですが、今回の委託研究の中 で調査した結果を見ますと、まだニーズがあるのではないかというところが出てきてお ります。  3頁が、「企業内福利厚生の動向と課題」と題する部分です。いよいよ本論のほうに 入ってまいります。現状としては図表3をご覧ください。これも厚生労働省が実施し た、就労条件総合調査というもので、いわゆる労働費用、法定福利費、法定外福利費を 調べたものです。法定福利費は増加傾向が続いてきていますが、平成13年には現金給与 総額の落込みなどにより、法定福利費、法定外福利費共に下がっております。これは必 ずしも社会保障率が下がったということではなく、実際に平均して、1人当たり負担す る法定内外の福利費が下がっているということです。この背景には、いわゆる法定福利 なり法定外福利の負担の少ない正社員の増加が隠されており、平均して結局落ち込んで きているということが出てきております。企業内福利厚生の格差については、今日詳し い説明は省きますが、細かい個々の福利厚生の実施率を見ますと、やはり企業規模によ る格差もあり、就労形態による適用率の格差が見られます。  「福利厚生そのものの役割・機能の動向」です。日本的な雇用慣行のもとでの福利厚 生の役割は、従来から従業員の定着であったわけですが、それが大きく変化したのかど うかということを、今回みてみたわけです。これが図表4、5辺りです。まず結論から 申し上げますと、定着というのは必ずしも大幅に減ってはいませんが、やはり今後重視 する役割という意味では、従業員の定着に対する重きは若干減ってきています。一方、 特に大企業においては従業員の自立支援を、現在よりも重視するという動向が顕著に出 てきております。ただ、これは中小企業にはあまり見られないところが問題ではないか という議論が、研究会の中でも議論されたところです。  勤労者の企業内福利厚生に関する意識を見ますと、「福利厚生があると安心だ」とい う回答も含めて、企業内福利厚生については、かなり一定の信頼なり期待なりが高いと いうことが、今回の調査で明らかになっております。この辺りは図表6に現れておりま す。特に福利厚生があると安心だと思っている方々の属性を見ますと、決して正社員だ けでなく、実際に福利厚生の恩恵を被る役割の少ないと思われる非正社員の方も、そう いう意識をお持ちになっているというのが出てきております。  「運営手法等の動向」です。福利厚生施設・サービス等を提供する民間企業が増えつ つあり、近年、大企業を中心に利用が増加しております。  次の「課題と方向性」は、さまざまな企業調査、個人調査をした結果を踏まえ、議論 いただきながら出してきたものです。まず「企業内福利厚生に対する労使のニーズへの 対応」があります。詳細なご紹介は省きますが、企業内福利厚生について企業が重きを 置くものと、労使が期待するものとは、今回のアンケートでもかなりのズレが出てきて おります。つまり企業の方向性と勤労者のニーズは、必ずしも一致しない面があるわけ です。これは常に当たり前と言いますか、ニーズが全く一致しているような企業のほう が珍しいのかもしれません。しかし、やはりこういう労使のニーズも踏まえた上で、行 政としても企業内福利厚生の支援のあり方を、どうしていくのかを見極めていく必要が あろうかと思っております。大きく言えば、企業は良質な労働力を保全する、あるいは 労働力の質を高めるための条件を重視する、勤労者は不安への備えに対する支援を求め るというようにズレがあるわけですが、こういう厳しい経済情勢のもとで、仮にそのよ うなニーズの違いがあるとすれば、どうすればいいのかということです。  「企業内福利厚生の運営の効率化への対応」は、今回のアンケート調査でも、「外部 機関への運営委託は、有効な手段であると考えられる」ということで、「単独では実施 が困難な福利厚生施策の実施について、外部機関をより有効に活用できるような環境整 備を図っていくことが望まれる」というご指摘をいただいております。  また、「企業内福利厚生と賃金」についても議論いたしました。外部の学者の先生な どは、もう福利厚生費用は可能な限り抑制し、むしろ賃金の原資に充て、賃金化してい くべきだというご議論もあったところですが、今回のアンケート調査結果でも否定的で あり、賃金化が一般的な流れになるとは考えられないのではないかということになって おります。  「企業内福利厚生の格差」です。企業間の規模間の格差というのは、すべてがけしか らん格差というわけではなく、大企業特有の必要性に応じて実施されている福利厚生も あるだろうということが議論されました。しかしながら一方で、中小企業にも必要性の 高い福利厚生施策については、中小企業への制度普及や支援を図る必要性があるのでは ないかということをご指摘いただいております。もう一つ、大企業や中小企業という企 業規模の格差のほかに、いわゆる正規労働者と非正規労働者、あるいは正社員と非正社 員の格差が、このところ顕在化し、さまざま議論されているところです。これもそれぞ れ必要があって、正規労働・非正規労働の雇用契約を結んでいるわけです。さりなが ら、やはり非正規社員に適用することに意義がある施策もあるのではないか、その部分 について場合によっては国としても、制度普及や支援を図るような政策展開の必要性も あるだろうというご指摘をいただいております。  このような「課題と方向性」を踏まえた中で、今般は企業内福利厚生の位置づけ、公 的福祉と自助努力の関係を議論していただきました。では、いままでの性格からどう変 化していくのか。戦後の混乱期以降、一時、企業内福利厚生が公的福祉を補完するとい う側面を強く意識させた時代もあったわけですが、さて、そういう役割はどうなのかと いうことも議論していただきました。これについては、もちろん一定の限界はあるけれ ど、使用者の生活の安定、健康・安全の確保、さらには能力開発等、社会的に重要性の 高い事項については、企業の役割に対する期待は大きいわけです。もちろん企業の余力 に限りがあるとしても、そのような企業内福利厚生を実施していく意欲を減少させない ような、政策努力が求められるのではないか。  さらに公的福祉と企業内福利厚生、勤労者自らの自助努力をいかに効率的に組み合わ せてバランスを取っていくかということが、勤労者福祉の実現のためにより重要な課題 になっているという認識のもとで、例えば財形制度が自助努力を国および事業主が支援 する制度であって、このあたりで積極的な利用ができるような機能の見直しも要るので はないか、というご指摘もいただいております。このくだりは、まさに研究委託してお ります2つのテーマの繋ぎという感じで、両者の関係を論じていただいたところです。  福利厚生制度と自助努力の関係です。さまざまなリスクを含め、将来の生活設計につ いて考える機会を提供することが、特にこういう時代には勤労者自身に求められます。 自助努力に対する企業内福利厚生の支援、公的支援の内容についての情報の共有化が あって、初めて公的福祉、企業内福利厚生、自助努力の効率的な組合わせが可能になる だろうというご議論でした。以上が福利厚生関係です。  次は「財形制度の動向と課題」です。現状については省略させていただきます。財形 制度とは一体何なのか、その位置づけは何なのかというご議論も、かなりタイトにして いただきましたので、このあたりが5頁の3の(2)に書いてあります。特に活用状況 が伸び悩んでいるというのが、前回2回にわたる勤労者生活分科会での議論にもあった ところです。また政府の政策が貯蓄から投資へという流れにあるということで、この世 の中で財形制度の位置づけ意義は一体何なのか。先ほど魅力は何なのかということを、 局長自身の口からも話していたかと思いますが、そういういろいろな疑問に対してどう 答えるのかというご議論をいただきました。しかしいろいろ議論をする中で、やはり現 役勤労世代の貯蓄を下支えし、勤労者の生活の安定を図ること、すなわち計画的な財産 形成の促進という財形制度の目的は、今日的にも意義があるのではないか、特に企業内 福利厚生の中で、財形制度を国の政策として引き続き支援する必要があるのではない か、というご結論をいただきました。  「財形制度の必要性」の理由については、6頁に、四角で囲ってまとめております。 1つは、老後の生活のための資産形成、病気・事故など、万一のための金銭的な準備と いう、将来の不安への備えという部分について、勤労者が強く求めているということが あります。持家についても、持家水準が一定水準まで上昇してきたにせよ、一方で住宅 取得に対するニーズは根強いのではないかというのが2点目です。3点目は、さまざま な企業内福利厚生としての位置づけを議論する中で、特に企業が自前で個別に金融機関 と提携して実施する社内預金、あるいは社内融資という政策については、それぞれの企 業の努力によって、効率化が図られる部分も多々あるわけですが、一般的には企業倒産 のリスク回避やコストという面で、なかなか難しい面もあります。そういう中で外部積 立という形である財形制度は、従業員が安心して仕事をしていく上で有益な政策です。  また貯蓄政策の転換期ということにはなっているけれど、実は貯蓄率というのは前提 としている、貯蓄から投資へといった流れの議論をはるかに超えて、どんどん下がって いるということも考えて、もう貯蓄率が高いということにはなっていないのではない か。財形制度の長期的方向性に関しても、今回アンケート調査をさせていただきまし た。財形貯蓄、財形融資制度はもう要らない、他の支援も要らないというような、財形 制度の意義を否定するようなお考えは、ほとんど見られませんでした。これは企業、労 働者共に、そういうお答えの方は少なかったわけです。これは17頁の図表8でご紹介し ている企業調査、個人調査の結果です。いちばん左の箱が「現状どおり実施してほしい 」、次の箱が「一層の充実を図ってほしい」です。逆に「必要ない」「やめてほしい」 というのは、非常に細いグラフの棒の幅になっております。なお、ここでは一方で特に 意見がない、あるいは無回答の数が多くなっているのが問題で、労使共に無関心層がい るということが問題ではないかという議論も、併せて出されたところです。  次に、確定拠出年金制度との関係も議論いただきました。特に確定拠出年金制度の個 人型が普及すれば、もう要らないのではないかという議論もありましたが、このあたり は老後の資産形成支援制度として、できる限り多くの企業が勤労者の自助努力を支援で きるようにすることが重要ではないか。現状は個人型の活用条件が非常に厳しくなって おり、他の確定拠出年金制度との併用が難しいことから、そういう中ではむしろ財形年 金貯蓄制度が確定拠出年金制度等と異なる特徴を有する選択肢として、併存することが 望ましいという結論が出ております。財形制度の公共政策的側面については、ここに書 いてあるとおりです。  「現行制度が直面する課題」という部分ですが、今般、財形制度も福利厚生制度も意 識した企業調査、そして企業を通じての個人調査をした中でも、財形に関する部分で、 課題を抽出しております。まず勤労者については、「勤め先の制度や勤労者の制度にお ける認知不足が、利用低迷に少なからず影響を与えているのではないか」というご議論 がありました。これは18頁の図表9にあります。個人が財形を利用しない理由として は、「貯蓄する余裕がない」というのも結構高率でありますが、「制度がない」「勧め られない」「知らない」というのが上位に上がっております。  一方、企業については「自助努力支援の重要性や勤労者ニーズに対する認識不足、事 務への負担感が制度普及の障害になっていると考えられる」ということで、図表10をご 覧ください。財形制度を導入しない理由として、「ニーズがないと考えている」「事務 負担が重いと考えている」など、様々なものがあります。必要ないと考えているという 認識がこのように多くあるのは、労働者の認識をきちんと理解していないのではないか というご議論がありました。  図表11が、「勤労者が財形貯蓄制度を利用する理由」です。「給与天引きにより簡単 に貯蓄できる」というのが非常に高く、87.3%の率になっております。手軽に貯蓄でき ることによって安心に繋がるというのが、財形制度の利用に繋がっているのではないか ということです。  「環境変化への対応」については、財形制度では労働市場・就業構造の変化への対応 が遅れているのではないかというご指摘でした。まず失業や転職への対応については、 転職継続制度というものがあるのですが、この認知度を上げることが必要ではないか。 また転職継続制度の要件についても、例えば退職後1年以内の手続が必要となっており ますが、失業期間が長くなっている中で、1年では不十分ではないかということがあり ます。  非正社員の増加傾向に対応するものとしては、計画的な財産形成という観点から、い わゆる継続性については一般財形で3年以上、財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄で5年以上 にわたる積立が、あらかじめ加入要件として明確にされておりますが、ここが厳しすぎ るのではないか、非正社員の加入を難しくしているのではないかということがありまし た。  また金融の自由化への対応の遅れというご指摘もありました。特に財形年金・財形住 宅の両貯蓄は、利子非課税措置の関係もあり、預替えが非常に狭くしか認められており ません。金融機関の経営破綻や転職というケースだけですので、このあたりの制約が大 きいのではないか、もう少し破綻する前の自由な預替え、予防的な預替えも認めるべき ではないかということが指摘されました。金融商品の選択が拡大する中で、今度はハイ リスク・ハイリターン型の投資商品にも選択肢を広げるという意味では、こういう場で 要件緩和をすべきではないかというご議論もありました。これについては計画的な財産 形成という目的を踏まえると、安定的な資産形成に資する商品だけに限るのが本筋であ って、リスクの大きな金融商品まで選択肢に加えるのがいいかどうか、むしろそういう ものは危険ではないかという強い反対意見もあり、かなり議論が行われたところです。 ここは意見が大きく割れたという感じがしております。  次に、8頁の「企業の組織再編や人事システムの変化への対応の遅れ」です。ここで は外部化や共同化を一層推進していく必要があるのではないかという前提のもとに、い まは中小企業だけに認められている、あるいは一定の要件を満たした場合に認められて いる事務代行制度の拡充により、企業の負担を軽減することが必要ではないかというこ とが指摘されております。なお、政策金融の見直しということでは、住宅金融公庫の動 向も注意する必要があると言われております。  「制度に内在する課題」ということで整理されたものが、いくつかあります。1つ が、中小企業問題、中小企業への普及の停滞です。ほかの調査でも規模間で普及率に大 きな差異があることは分かっていたわけですが、財形貯蓄制度の普及率を、今回のアン ケート調査で見たところ、19頁の図表12で示されているように、非常に顕著な規模間格 差があります。一方、29人以下でも「制度あり」というのが、それなりのパーセンテー ジがあるというのは、ほかの福利厚生制度に比べれば、かなり浸透しているのではない かという議論も、もちろんあるわけです。さりとて中小企業にはもう一層の普及という のが、やはり重要ではないかということです。  「その他の課題」として、財形給付金制度については、制度のメリットが十分認知さ れていないのではないか、財形活用助成金制度や中小企業財形共同化支援事業助成金制 度など、助成金等の中であまり活用が進んでいないものについては見直すべきである、 特に財政状況も逼迫しているので、場合によっては廃止もあり得るべし、というご意見 も中にはありました。  次が、「諸外国の動向及び我が国における新たな政策課題」です。諸外国の動向につ いては、欧米や韓国の状況など、他の調査などを引いて整理させていただきました。 「我が国における新たな政策課題」としては、やはり財形貯蓄は企業の福利厚生を支援 する国の制度という位置づけです。この念頭に置かれているのは長期継続型の労働者 で、そういう方々が永々と貯めたお金を、老後の資金や住宅資金に使えるようにという ことですが、さまざまな変化が勤労者にも事業主にも起こっているわけです。そもそも 計画的という要件について、見直すことは要らないのか。例えばいま申し上げたよう な、典型的な積み立てたお金の使い道のほかに、能力開発、教育、病気、失業といった 不安への対応など、勤労者の生活の安定に資するという広い目的の中でも、新たな問題 対応型の使い方もあるのではないかということです。  「諸外国の動向を踏まえた制度改善の検討」ですが、諸外国には株価関係の税制優遇 を持った、さまざまな措置があります。特に業績株価連動型の報酬制度への関心は、我 が国でも高まっていることもあり、例えば企業にとってさまざまなメリットを有する、 自社株等による勤労者の財産形成支援制度の導入を考えてはどうか、というご意見もあ りました。ただ一方で、財産形成の手段に自社株などを組み込むという欧米の制度を意 識した制度というのは、非常に危険も伴いますし、欧米でもさまざまな事故が起こって いますので、やはり計画的な財産形成という目的に馴染むかという議論も必要だ、とい うご指摘もありました。  これらのご議論を踏まえ、「時代の要請に適合した制度の構築等に向けて」というこ とで、財形制度を見直すというさまざまな観点から、制度の個別の事業なり制度全体な りを見直すことについて、どういう考え方で見直すかを論じていただいたのが次です。 基本的な考え方として4点ほど挙げております。1つは、いわゆる多様化です。やはり さまざまな場面で一人一人の勤労者が、個人事情に応じた多様な選択が可能となるよう な制度にすべきではないかということです。商品設定しかり、その他のさまざまな預替 えも含めた状況しかりです。  また国が運営する制度として維持するからには、より多くの勤労者がメリットを享受 できるような制度にすべきである。正社員の割合が減っている中で、従来型の正社員を 意識した制度にしておきますと、享受できる人の範囲が狭くなってしまうのではないか という問題意識です。  もう一つは、企業内福利厚生を支援する国の制度という位置づけがある一方、厳しい 経営状況のもとでの企業の負担感というのは、やはり年々強くなってきております。あ るいは企業の組織再編というものから、そもそも企業の関与について、企業の存廃と言 いますか、存在の流動性自身が非常に高まっておりますので、企業の関与を基本としつ つも、企業形態の変化や労働慣行の変化を受けて、できる限り無用な企業の負担を避け たり軽減したりする方向での検討が要るのではないかというのが、考え方の3点目で す。これらが制度の運営上、あるいは実務上の視点としての大きな3つの課題かと思い ます。  そのほかにあり方そのものへの課題ということで、4点目が挙げられております。や はり新たな領域への勤労者政策の拡充なども視野に入れ、中長期的な検討も必要ではな いか。要は、いまの目的だけに限った検討では狭すぎるのではないかということです。 以上、抽象的ではありますが、基本的な考え方の整理のもとに、具体的な改善策を申し 上げましたが、これはこうでなければならないという結論というよりも、今後検討が必 要な改善策のリストという意識で議論いただいたのが、これ以降です。そういう趣旨で すので、挙げられた改善策の中には、必ずしも研究会委員の総意によるものではないも の、あるいは実現のためには多くのハードルが存在するものも含まれております。  これからが改善策の中身で、まさに多様な選択関係の改善策です。1点目が「預替え の拡充」です。これまでご説明したことと重複いたしますので、背景事情の説明は省略 いたしますが、預替えの拡充改善策に関しては、制度的に必要だとしても、金融機関の 事務コストやシステム開発コスト、さらには非課税限度額管理を担保するための措置等 についての考慮が必要ですので、必ずしも理想的なものが直ちに実施できるわけではな いということを、重ねて留意しております。  その中で、3年という一般財形貯蓄の預替え期間の短縮というのがあります。あるい は財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄の任意預替えの導入については、いま現在は転職や破綻 という非常に狭い場合にしか認められておりません。また貯蓄残高の分割預替えの導入 も、年金や住宅ではそれぞれ分割が認められておりません。そもそも複数の金融機関へ の預入れが認められておりませんので、当然預替えもできないという状況を改善できな いか。あるいは、いま申し上げた複数契約を認めてはどうかというのが、ニです。ホ は、一企業当たりどのぐらいの数の金融機関が利用できるようになっているかを、アン ケートで調べたものです。平均3.3社、中小零細ではほとんど例外なく、1社しか利用 できないということで、選択の可能性は非常に少ないという運営状況になっておりま す。それを事業主が複数の金融機関で使えるように義務付けてはどうかという案です。  「投資商品の拡充」については、両論あるというご紹介をしましたが、その中でもい くつかあります。イが「対象となる投資信託への要件緩和」です。現在、株式投資の組 入率は70%以内という要件があるのを、100%まで認めてはどうかということです。対 象となる有価証券としては自社株も含めて、いわゆる個別の株式は認められていないけ れど、これも検討の余地があるのではないか。投資信託の銀行等への拡大については、 いま一般の銀行は投資信託を一般業務の中で、商品として取り扱えるのですが、財形制 度の中では使えない制度になっております。これをもう少し拡大してはどうか。  裾野を広げるという方向性での改善策は、いわゆる中小企業対策等です。aにある「 事務代行制度の拡充等」が、かなり議論されております。制度そのものが十分普及して いないという問題もありますが、そのほかにも「代行団体の要件緩和」として、構成委 員の事業主総数の要件が、中小企業の占める割合が3分の2という要件を緩和すべきで はないか、事務代行団体の届出制は、いまは大臣の指定制になっておりますが、指定な どという煩雑なものは要らないのではないか、「事務代行団体の公益化による活用促進 」として、いま現在は都道府県レベルまでの、域内での活動を予定した団体指定になっ ておりますが、もうちょっと広範な事務代行を認める制度があってもいいのではない か、そもそも事務代行の範囲の拡大で、代行団体として認められている事業主団体以外 にも、例えば福利厚生会社、金融機関、さらには組合といったものにまで広げていって はどうかなど、さまざまなご提案やご議論がありました。  「非正社員の増加への対応」については、イにありますような「非正社員の財形制度 の普及啓発」のほかに、有期契約労働者や派遣労働者にも使いやすくするために、例え ば3年、5年という預入期間の要件を少し緩和し、利用の可能性を拡大するものがない のか。さらには事務代行団体を通じての直接加入ということで、実はいま特例自己積立 制度というもので、非常に限定的に認められている直接加入のような仕組みを、転職が 頻繁である派遣や有期契約労働者にも適用できないかということです。  企業のさまざまな状況変化に対応する負担軽減を、企業が意識して対応するものの1 つに、「雇用の流動化への対応」があります。これは主として転職関係です。転職継続 制度についての普及啓発のほかに、承継可能期間の延長、適格払出要件の拡充がありま す。適格払出要件とは、財形年金であれば一定の年齢に達したこと、財形住宅であれ ば、住宅を建てることという、一定の本筋の払出要件のほかに、死亡であったり重度障 害であったり、本来の目的ではないけれど利子非課税の恩典を外すのはかわいそうとい うか、払出要件に例外的に認められているものがありますので、それに失業も含めて広 げてはどうかと。「特例自己積立制度及び事務代行制度の拡充」については、本日は省 略いたします。  「財形年金貯蓄の据置期間の延長」は、5年間が認められておりますが、5年積み立 てないで置いておけるといっても、例えば50歳や45歳でリストラされた人が、結局、財 形年金貯蓄を払い出さなければいけなくなってしまう事態を何とかできないか、さらに は55歳までとなっている利子非課税の財形年金・財形住宅貯蓄について、利子非課税の 恩典が受けられる年齢制限を、もう少し上げてはどうか。また「財形教育融資の拡充」 といったものもあります。  事業主の負担の軽減や関与のあり方という観点からは、そもそも給与天引きというも のの見直しはあるのか。これには財形制度の意義を損なわない方策があり得るのかとい う前提で、検討しなければいけません。さらに財形住宅融資をする場合、事業主の負担 軽減措置の存在が要件となっているのを、撤廃ないし緩和できないか、事業主が担って いる非課税管理の負担の軽減はできないかと。その中で預入限度方式への変更や、財形 年金貯蓄と財形住宅貯蓄の統合により、両者が別々に運営されながら、合算されて550 万円が非課税限度額だという非常に管理の難しい問題を、何とか解消できないか。財形 給付金、財形基金制度の見直し、福利厚生会社への出資要件の見直しといったこともあ ります。  また企業のIT化がどんどん進んでいる中で、財形の諸手続を書面で行うことは煩雑 ではないかという意味で、さらなるIT化への対応があります。非課税関係の税制申告 書類のIT化については、財務省でも積極的な検討をしているようですが、そちらが進 みませんと、財形のほうもできません。いずれにしてもそういう問題があります。  次の「新たな領域での勤労者政策の拡充」は、中長期的な課題です。イにあるよう に、従業員持ち株制度やストック・オプション等の業績・株価連動型の利益分配制度に ついて、給付金や基金制度への導入の可能性はないか、あるいはロにあるように、非雇 用型の多様な働き方が増加していることを踏まえ、一定の雇用契約に基づかない勤労者 であっても、財形制度の対象とすることができないか、さらには財産形成の範囲を、貯 蓄や持家取得以外の分野にも拡大し、勤労者の生活の安定といった制度目的を拡大する ような方向での見直しができないかということです。  最後に、「現行制度についてのその他の改善策」ということで、若干分類不能なもの を挙げております。1つ目が、いわゆる非課税限度額の拡大です。これは現在、550万 円、生命保険については385万円というように、預入方式でなっておりますが、これを 拡大できないか。また非課税限度額を超えた場合、現在では一から全部課税になってし まいますが、これを超過分だけにできないかという要望に近いものが、アンケート調査 でも強く出ましたので挙げております。ただ、これまでの税務当局との折衝の経過か ら、これは非常に実現が難しいということで、あえてこちらに分類しております。  逆に、今度は制度簡素化の観点から、拡充するばかりではなく、まさにスクラップ& ビルということで、要らないものは見直してやめてはどうかというものもあります。財 形融資制度の中でも、分譲住宅融資や共同社宅融資といった、残念ながら今ではほとん ど利用の進んでいないものもあります。財形活用助成金についても利用が十分でないの で、見直してはどうかということでした。  以上、重ねて申し上げますが、すべて結論ではありません。この改善策の中にも実現 を阻むさまざまな問題点、技術的な検討をさらに進めないと、結論が出せないものがあ ります。しかし、あえてそれを認識した上で、幅広に挙げていただき、整理したものが 以上のようなものです。こういうことを挙げた上で、さらなる幅広い検討が期待される というところで、この報告書は終わっております。 ○齋藤分科会長  資料3については、特段ご説明をいただくようなことはありますか。 ○企画課長  よろしければ、引き続きごく簡単にご紹介して、一括してご質問を賜れればと思いま す。資料3は勤労者財産形成促進制度のご紹介と実績です。今日は新任の先生もおられ ますが、それぞれあらかじめ一定のご説明をする機会を持たせていただいたかと思いま すので、制度のご紹介は省略させていただきます。実績については、ここに数字があり ますが、むしろビジュアルに見ていただくためには、資料3の後ろの図表1から、引き 続く図表がありますので、これで感覚的にとらえていただくのがよろしいかと思いま す。  まず「財形貯蓄の推移一般」ですが、契約件数は趨勢的に低下傾向で、過去2回の分 科会でもこの要因分析や様々なご意見が出されたところです。その傾向がそのまま継続 して、昨年度から同じような傾向になっております。年金貯蓄についても同様ですし、 住宅貯蓄についても同様です。財形持家分譲融資については、先ほどの研究会報告でも ありましたように、決定件数はほとんどなくなっているという状況になっております。  一方、「個人融資の貸付決定の推移」は、利率の改定などをした関係もあり、件数は 増加傾向にあります。教育融資は、残念ながら非常に利用が低迷しており、この状況は 昨年と同じで、さらに下がっております。給付金制度についても、総資産残高が低減傾 向にあります。資格者数は急激に落ちております。これは大口の給付金制度実施企業が やめてしまい、資格者が減っているためです。財形基金制度もしかりということで、趨 勢的には基金数が減り、総資格者数も減っているという状況です。活用助成金の支給実 績その他についても書いてありますように、支給件数もあまり十分に伸びているとは言 えない状況です。私どもとしては中小企業に是非お使いいただきたいと思っているわけ ですが、中小企業にご活用いただくには、なかなか至っていないという状況です。 ○齋藤分科会長  どうもありがとうございます。いまのご報告に関連して、ご質問、ご意見がございま したら、ご自由にどうぞ。 ○奥村委員  資料3で、非常に簡潔にご報告いただいたと思いますが、2001年度が終わったとき に、財形の事業制度運営ということで、どういう実態にあるのかという質問等をさせて いただいたことがあります。ここには図表9で、「財産形成貯蓄活用助成金支給実績」 がありますが、そのときはこれ以外にもいろいろな融資制度や、制度を運営する上でこ ういう費用がかかり、実績はこうだったということを、私の経験では初めて出していた だき、非常によかったと思います。  今後、検討を続けていく上でも、いろいろな存否も含めて、実際にどのぐらいのお金 や手間をかけて制度を実施しているかを見せていただいて、この財形制度をどう運営す るのかを検討することが必要だと思うのです。研究会ということで、前回の分科会から 非常に時間が経ってしまいました。2001年度と同じように、2002年度も終わって2カ月 経ってしまったわけですから、その辺りのところも我々に示していただきたいと思いま す。是非ともよろしくお願いします。 ○企画課長  適宜ご説明できるような形で、お示ししたいと思います。 ○齋藤分科会長  ほかに何かご意見はございますか。 ○宮野委員  3点あります。いくつかの課題があって、今回その改善策ということで、メニューが 示されています。特に「環境の変化への対応」では、そのポータビリティーや非正社員 への対応、預替えへの対応といったものがいくつか挙がっています。この中で、非課税 と言いますか、税制優遇の話があり、そのためにいろいろな制限が加えられ、今後その バランスを取っていくべきだというお話が冒頭、局長よりありました。こういった対応 策と言いますか、改善策の中で、税制優遇は勤労者の立場からすれば、おそらく非常に 魅力的な制度です。この税制優遇を維持しながら、改善が図られるものとそうでないも のをしっかり切り分けながら、改善の部分では対応をしてみてはどうか。  事務代行の制度で質問です。事務代行は事務的な負担があることが企業側ではひとつ のネックになっていますという話がありましたが、これはその事務代行という制度をそ もそも知らないことによるものなのか、それとも知った上で使い勝手が悪いことによっ て普及しないものなのか。  最後に、個人の調査によると、給与天引きが非常にメリット感があり、87.3%がこれ により非常に魅力を感じていますという意見が出ている中で、11頁の(3)のBの「事業 主の負担の軽減」で、イの給与天引きの見直しは若干乱暴かと思っています。以上で す。 ○齋藤分科会長  ありがとうございました。第1点はこれからの検討のときの手法ですので、別にし て、第2点と第3点をお願いします。 ○企画課長  実はアンケート調査をしましたら、事務代行についてかなり知らない率が高かったこ とは現実にあります。逆に知っている中でも、いろいろとご指摘があることも事実で す。両方やらなければいけないわけですので、例えば事務代行のいろいろな要件の問題 は十分に見直しをしながら、一方で広報もしなければいけないだろうと認識をしていま す。  天引きの話は、あえて書いてはいますが、なかなか難しいという意識の下、整理をし 明記しているところです。一方でなぜこういう問題を申し上げたかというと、インター ネット上で、さまざまな預け入れなり振り込みもできるようなIT社会の中で、天引き というようなやや古びた仕組みがそもそも必要なのか。例えばどこに行っても、まさに 引き出しが可能なATMがたくさん出てきていまして、そういうものが利用できるよう な仕組みに作り替えるべきではないかというお声もありました。それをするためには今 度は事業主の払い込みという前提を外して、もう少し幅広く考える余地があるのかとい う問題意識が当方にはあり、むしろそういうことを提案申し上げた上で議論をし、なか なか難しいなと思いながらも整理をしたということです。 ○齋藤分科会長  ほかに何かありますか。 ○倉島委員  この度のレポートの中で、特に中小企業の数字を挙げて出していただいたことについ ては大変適切だったと存じています。特に企業と個人の認識の差は、今後こうした点を 広く認識されるような作業をしていただくことが必要だと思っています。これは単なる 企業だけではなくて、私の所属している中小企業ですと親会社その他は、こうした問題 は極力縮めてしまいなさい。ローコストでいけという極めて厳しい要請もありますの で、それらの大きなところで下請けに出されているような所についても、そうしたご認 識をいただく必要があると存じています。  2点目として具体的には、事務代行は事業主が400人ということですが、中小企業にお いて400人の事業主はほとんどないと言っていいだろうと思います。私どもの所属してい る関係上、事業協同組合は全国に約4万7,000ありますが、そのうち100人以上とライン を引いても、まだはっきりした数字は掴んでいませんが、精々3,000社ぐらいかと推定 している状態です。400事業主以上ということでは、事務代行の扱いは極めて困難だと 存じています。特に事業協同組合、いわゆる同業組合等で、個人と企業団体が密接にあ るような方々がお勧めをする財形に対し認識をいただくものには最も適切だと思いま す。これらの活用になると具体的に、どのぐらいハードルを下げるか、是非ご検討いた だければいいのではないか。 ○野澤委員  資料の4頁の「企業内福利厚生の格差」で、「中小企業の勤労者にとって必要性の高 いような福利厚生施策については、中小企業の制度普及や支援を図る必要があるのでは ないか」という表現があるのです。別冊でいただいた報告書の31頁に、従業員にとって 必要性の高い項目の「企業から見た場合と個人から見た場合」を見ますと、持家取得の ための資産形成は経営側も従業員側も中小企業と言いますか、小規模のところは比率が 低いのです。このあたりはこういう文言との関係で、何かコメントがあったのかどう か。このあたりで少し補足があればお聞きをしておきたい。  2つ目は、9頁の「基本的な時代の要請に適合した制度の構築に向けて」の(3)「無 用な企業の負担を下げたり軽減する方向で」という記載がありますが、無用とはいった いどういうことなのかを具体的にご説明をいただきたい。以上の2点です。 ○企画課長  倉島委員のおっしゃった2点の1点目は多分ご要望で、2点目は私どもからご回答を しなければいけないことなのかと認識しています。いま事務代行で要件となっている、 事業主団体に所属する事業主の数が400要件では厳しすぎるのではないかというご指摘で あったかと思いますが、事務代行制度というのは勤労者財産形成促進法の中で、14条の 2がまさに事務の委託を規定している条文で、14条の3はその助成金の根拠条文となっ ています。いま現在事務代行団体については、助成要件イコール代行団体としての指定 要件という形で運営させていただいておりまして、そういう意味ではお金をもらわずに 代行事務だけをやるということであれば、率直に言って、もう少し機動的な指定をする ことによって裾野を広げることも考え得るのか、と事務局としては思っているところで す。  一方、事務代行団体としての助成制度を受けたいという意味で400事業主の要件をと いうことでありますと、やはりその助成金をお受けいただく前提としてもさまざまな有 効活用の可能性や、その助成制度自体は事務代行をしていただくことに対しての助成と いうことではなくて、事務代行制度を普及して財形がより中小企業にたくさん普及して いくことが目的の助成になっていますので、そのあたりで希望要件を全く無視すること は難しいのかなという感じがします。ただ400というのがどの程度リジットに説明でき る数字なのかということもあります。また、一方で、助成金の要件の中でも400という 事業主団体の数の要件のほかに、実際に財形制度の委託をしてくださる事業主が少なく とも40以上という要件も課していますので、そのあたりのバランスでどうやって運用が できていくのかという問題もありまして、少しく研究をさせていただきたいと思ってい ます。いずれにしても、助成金で小さい団体にまで裾野を広げることは、普及を目的と した助成金であることを考えるとなかなか難しいのかなという感じがしています。  野澤委員のご指摘の持家については、あまり従業員からも希望していないのになぜや るのかということだと思いますが。 ○野澤委員  やるのかではなくて、止めなさいということにはなっていないのですよねということ です。 ○企画課長  これは冒頭に申し上げましたように、そもそも今回の調査対象の個人の方の過半数が 既に持家を持っている方で、持家を持っている過半数の残りの中では、かなり持家志向 が強いというご紹介をしました。したがって、この持家についての志向が低いという評 価ではなくて、むしろまだ持家がない人にとってはかなり高率で持家取得のための資産 形成についての希望があると、労働者のほうは見るべきかと思っているところです。  いったい無用な企業の負担は何かということですが、いま現在どこに無用な企業の負 担があるということではなくて、なるべく制度設計については企業が導入しやすいよう に、逆にいえば負担があるから導入したくないという結論にならないようにすべきでは ないかという前提です。端的に考えられるのは、書面での手続が非常に煩雑すぎないか という問題もあります。もう1つは非課税限度額管理が非常につらいということがよく 言われていまして、無用という言葉がちょっときつすぎるかもしれませんが、事業主で はなくて例えば金融機関にお任せできる部分がもっとあるのではないかとか、そういう ことも多角的に検討すべきというご指摘だと理解しています。 ○倉島委員  そうしたところで、事務代行は普及だけなら、助成金がなければできるということで すが、年間約30万社が廃業して、20万社が新しく出ていますので、合計10万社ぐらいが 減っている中で、協同組合ないしは事業組合を利用することになると、事業組合自体が 極めて運営財政上厳しいこともありますので、助成金と繋がっていかないとなかなか引 き受け手がないことを申し上げておきたいと思います。これはやはり繋げて助成金と普 及ということを一緒にいかないと、事業組合等での普及は非常に困難だと思いますの で、そうした点もご考慮いただきたいと存じます。 ○松井委員  いまのご意見に対して特に反対するわけではないのですが、私どもとしては財形事務 だけの代行で、本当にペイした形での作業、あるいはそれなりに手数料を取って行える のかが甚だ疑問のような感じがします。したがいまして、先ほど福利厚生会社の利用や 違った意味合いで、例えば大企業がさまざまな形で分社化していく中にあっては、分社 化したら事業主が変わるという手続面でもあります。ですから、中小企業あるいは中小 の事業協同組合の財形の普及のあり方も、福利厚生制度全体の仕組みの中あるいは給与 計算等々も含めたトータルな形で、うまく組み込んでいかれるような仕組みが本来ある べきではないかと思います。それは今後、この分科会等で議論をしていっていただけれ ばと思います。 ○奥村委員  実は、この研究会のメンバーとして今回参加させていただきました。そのことでちょ っと感じるところを申し上げたいと思います。7回という長期の期間を要して、前回の 分科会は相当以前に開かれたのですが、財形制度に問題があるので、早く検討をしてや るべきところはやろうというご指摘があったと思います。そういう意味からすると財形 自体の議論に入るまでに、かなり一般的な福利厚生に関する議論に時間を費やしてしま ったこと。それから中小企業へのアンケートでは、中小企業の実態をどう理解して掴む かに関して、これも議論がある。まだそのアンケート調査のベースになるところを十分 に確認すべきだと思っています。そういう意味では研究会に参加したメンバーとして、 非常に時間がかかったことは申し訳ないという気持です。  ただ、今後どういう検討がされるか。日本経団連がかねてから指導してきたいろいろ な項目が、具体的にこの研究報告会の報告書の中に記載されていますので、まずは動き 出すことにはなっているのだろう。また、これを機会としたいろいろな議論、検討を やっていきたい。さらにスピードアップして企業の実状に応じた形での議論。特に中小 企業は具体的なテーマとしてなかなか取り上げられることもなかった。言ってみれば、 財形の活用助成金給付金制度については、制度ができるところから、これが本当に中小 企業への普及のための必要な施策なのかという指摘もさせていただいたが、結果として 実際には、なかなか普及できていない現実があるわけです。今回はこういう形でとりあ えずまとまったということがあって、これをベースにした形で勤労者のための制度がど うあるべきかを早く結論を出して実行していきたいと思っています。よろしくお願いし ます。 ○松井委員  その点で事務局に対するお願いなのですが、今回の報告書の中にはいろいろな課題が リストアップされている。おそらくその中には法改正が必要なもの、違った政省令レベ ル、通達レベル、それ以外の税制も含めたいろいろなものがあるかと思います。次回以 降この分科会で議論する中で、それが現行法制上どう関係があって、どういうものは直 さないとできないのか。そういう意味では先ほど伊岐課長からご説明がありましたが、 ハードルの高いもの低いものといろいろとあろうかと思いますが、そのようなものも今 後精査した形で、この分科会にご報告願えればと思います。 ○齋藤分科会長  私から申し上げるのはどうかという気がしますが、今日のお話を伺っていて、非常に 皆さん努力をして研究していただいて、立派なものができたと思います。ただ、これか らどういう財形制度を考えていくかに当たって、その基本となる考え方で企業内の福利 厚生というのは、いったいこれから何なのだろうという理屈をもう少し掘り下げていか ないといけない気がします。単に企業を取り巻く経済環境なりから企業の経営も非常に 厳しくて、したがってそういうところへ資金を出す余裕はないとか、人出はたくさんあ って人件費をできるだけ減らそうとしなければいけないからだとか、福利厚生をやめて も別に企業の従業員でやめる人はいないとか、そのような話ではないと思うのです。  根っこは物の考え方が変わってきている。企業というのは、利益を追及するひとつの 組織体として、それ以外のことはあまりやるまい。あるいは、その目的に合わないもの は、ほかの所でやってほしいとか、もっと合理的に物事を考えたいという発想が非常に 強くなってきているのではないか。したがって、どんなに利益が上がって高い配当率を 持っている企業でも、企業内福利厚生にそんなに経費をかけるのは嫌だとなるのだろう と思うのです。私は企業の経営者でないのでわかりませんが、おそらく企業の経営者の 方はそう思われるだろう。そういう意味から考えると、これからの財形制度を考えるに 当たって、企業の福利厚生はどうしているのか。あるいは、それについて一定の基準な り全国に通ずるようなシステムをどうして作らなければいけないのかをもう少し議論し ておかないと、いい案を考えても皆さんにご納得いただけないことになるのではないか という気がします。これから議論をするときはもう少しそういうところも掘り下げて、 ここに書いてある環境の変化というのは、どこの制度見直しでもみんな言うことであっ て、それだけでは済まないのではないかという気がします。だからといって、私がそれ に替わる概念を打ち立てられないのは残念です。 ○企画課長  いま、まさに分科会長が言われた、根っこの部分がないと財形だけの検討では次世代 の財形は考えにくいだろうということで、ちょっと時間を取りましたが、かなり企業内 福利厚生の考え方をいろいろと探るための研究をしたつもりです。かなり検討していた だいたと思っていますが、事務局側も思い迷っている部分もありまして、グッサリと踏 み込むほどの書き振りにまでは至っていません。  ただ報告書を見ていただければわかりますが、アンケート調査をする限りにおいて、 いま現在日本の企業の認識は、利益追及型で、福利厚生は全く切り捨てるところまでに 変化しているわけではなく、宣伝されるほどのいわゆるアングロサクソン型の利益追求 型にはまだなっていないのではないかというのが、相対的に今回研究させていただいた 感触です。ただ、確かにおっしゃるように、さりながらもっと部分的には深く詰めなけ れば解決しないものもありますので、さらに事務局のほうも勉強をさせていただきたい と思っています。 ○齋藤分科会長  これからの議論の進め方について、何かお考えはありますか。 ○企画課長  事務局としましては、いま奥村委員や松井委員からご意見がありましたように、急い で検討をしなさいというご指摘を受けてこういう研究をしたわけですので、取りまとめ られたひとつのリストアップされた改善策を踏まえて、さらなる検討が必要であると考 えています。したがいまして、その検討を進めるに当たっては参考の4にお付けしてい ますが、労働政策審議会の勤労者生活分科会運営規程の第9条第1項に規定されている 基本問題懇談会を置けることになっていますので、置かせていただきたいと思っていま す。基本問題懇談会においては、先ほど分科会長が言われたように、意識をしながらも 十分に切り込みがし得なかった問題も念頭に置きつつ、一方で松井委員がおっしゃられ たように比較的に簡易に解決を図れるものは、そういうことに向けての検討、さらには 中長期的な視野でやらなければいけないものについても整理する。また、これまでのよ うに、専門的な見知から検討をいただく立場で基本問題懇談会を持たせていただき、従 前持っていたときの位置付けよりはもう少し息の長い形でさまざまな角度から、あるい は検討いただくテーマも短期的なものと長期的なものといろいろ仕分けをしながらも、 着実に議論をするような形で運営をさせていただきたいと思っています。  基本問題懇談会の委員については、運営規程の第9条第2項で分科会長がご指名いた だくことになっていますので、分科会長からご指名をお願いしたいと思いますが、いか がでしょうか。 ○齋藤分科会長  これから少し議論を深めていくためには基本問題懇談会を置いて、そこで議論をする ということが提案の趣旨だと思いますが、それでよろしいでしょうか。                  (異議なし) ○齋藤分科会長  よろしければ、そういうことにさせていただきたいと思います。委員を指名させてい ただきます。過去の例によると公益代表委員から4人、労働者側代表委員から2人、使 用者側代表委員から2人の合計8人ぐらいが適正かと思います。公益代表委員からは勝 先生、新村さん、日高さん、藤田先生にお願いします。労働側代表委員からは大賀さ ん、山口さんにお願いします。使用者側代表委員からは奥村さん、松井さんにお願いし ます。この指名された委員の方だけではなく、分科会のほかの委員の方もご都合のつく 方は自由にこの基本問題懇談会に参加していただいて、少し幅広く議論をしたらどう か。できるだけ多くの方、ご都合のつく方はお集まりいただいて議論に参加していただ いたほうが有意義だろうと思いますので、是非そうしていただきたいと思います。よろ しいでしょうか。                  (異議なし) ○齋藤分科会長  では、そうさせていただきます。 ○野澤委員  進め方はそれでいいと思うのですが、先ほど奥村委員が今回のまとめを含めて時間を かけたと言われました。しかし、雇用環境が変わっていますから、この財形問題は早く 討論しなければいけない部分です。それでいうと労働側の指摘したことも含めて盛り込 まれており、しかもこの研究会は9月からですが、去年からですと1年が経っている。 基本的なものをすべてズバッとやらないと前に進まない、というのではなくて、時間と 環境との関係で、早くやるものは早く答えを出すことを拙速にしろとは言いませんが、 掲げている課題は決まっているわけですから、ある程度それを優先にしながら1つの答 えを出していただきたい。これがまた来年度、再来年度の予算からでないと適応されな いということがないように、是非以降の取り組みも含めて分科会長からも、よろしく取 り計らいのほどをお願いしておきたいと思います。 ○齋藤分科会長  それでは、本日はこれで終わりにさせていただきます。議事録署名人は私と指名する お2人の委員が署名することになっています。今日は、南雲委員と倉島委員にお願いし ます。  本日は、どうもありがとうございました。                  照会先                  労働基準局勤労者生活部企画課企画係                   電話 03−5253−1111 内線5352