03/04/21 第11回社会保障審議会議事録               第11回社会保障審議会 ○日時   平成15年4月21日(月)15:00〜17:10 ○場所   厚生労働省 省議室(9階) ○出席者  貝塚啓明会長、西尾 勝会長代理       <委員:五十音順、敬称略>        青木 久、浅野史郎、阿藤 誠、糸氏英吉、岩男壽美子、岩田正美、        翁 百合、奥田 碩、鴨下重彦、岸本葉子、北村惣一郎、京極高宣、        清家 篤、木 剛、永井多惠子、中村博彦、長谷川眞理子、        廣松 毅、星野進保、堀 勝洋、若杉敬明、渡辺俊介       <事務局>        水田邦雄 政策統括官(社会保障担当)、青柳親房 参事官(社会保障担当)、        高原正之 統計情報部企画課長、中村吉夫 雇用均等・児童家庭局総務課長、        宇野 裕 社会・援護局総務課長、足利聖治 障害保健福祉部企画課長、        松田茂敬 老健局総務課長、間杉 純 保険局総務課長、        高橋直人 年金局総務課長、伊原和人 政策企画官、        岩崎康孝 医政局総務課課長補佐 ○議事内容 1.開会 (伊原企画官)  まだお見えになられていない委員もおられますが、定刻になりましたので、ただいま から「第11回社会保障審議会」を開会させていただます。私は社会保障担当参事官室の 政策企画官をしております伊原でございます。よろしくお願いいたします。  審議に入ります前に、委員に異動がございましたので、ご報告させていただきます。  樋口恵子委員がご都合により3月25日付で辞職しておられます。従いまして、委員の 総数は現在27名となっております。  また、本年1月の再任以来、初めてご出席いただく委員のご紹介をさせていただきた いと思います。  全国市長会会長の青木久委員でございます。  上智大学法学部教授の堀勝洋委員でございます。  東京大学大学院経済学研究科教授の若杉敬明委員でございます。  本日は、稲上委員、宮島委員、宮本委員からご欠席のご通知をいただいております。  なお、出席いただきました委員が3分の1を超えておりますので、会議は成立してお りますことをご報告いたします。  それでは、以降の進行は貝塚会長にお願いしたいと存じます。 (貝塚会長)  本日は皆様お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。  それでは、本日の議事についてお諮りいたします。本日は、従来から議論していただ いております社会保障に関する制度横断的検討として、社会保障の給付の在り方につい て審議したいと思います。  それでは、さっそく議事に移りたいと思います。議題1の「社会保障に関する制度横 断的検討について」、まず事務局から資料の説明をお願いします。 (青柳参事官)  私から資料説明させていただきます。まず最初に、2,3ご報告事項がございます。  1点目ですが、去る4月1日、内閣府に設置されております経済財政諮問会議におき まして「社会保障改革の進め方に関する報告」を求められました。当日、貝塚会長にも ご同席いただき、坂口大臣より、これまでの社会保障審議会での議論の状況及び今後の 課題につきまして、お手元の資料1をもとにご説明いたしまして、ご議論いただきまし た。内容につきましては、昨年12月以来、この社会保障審議会で事務局よりご説明した 資料、及びその際にご議論いただいた点をコンパクトにまとめたものですので、のちほ どご参照いただければと存じます。  なお、経済財政諮問会議におきましては、6月に予定されております「骨太方針」の 改定に向けまして、年金問題を中心に引き続きご議論がなされるものと承知しておりま す。  2点目ですが、資料2をご覧いただきたいと思います。前回、3月19日の当審議会に おいてご議論いただきました「今後議論すべき主な論点」でございます。その際に何人 かの委員からいただいたご意見の取り扱いについて貝塚会長ともご相談させていただき ました結果、ご指摘いただいた点がどのような論点にかかわって論じられるかというこ とが明確になるように、それぞれの事項ごとにカッコ書きでお示しすることといたしま した。  項目そのものを書き直すということについても事務局でいろいろ検討してみました が、そういう表現でご指摘いただいた点の意が尽くせるかどうか、また、これが書いて ある、これが書いてないということについて、将来、まぎれが出てもいかんということ から、稚拙な方法かとは思いますが、ご指摘いただいた点をカッコ書きで付記するとい う形で整理させていただきましたので、ご確認いただければと存じます。  3点目ですが、前回、ご要請いただきました資料がいくつかございました。それらの うち本日までにご用意できたものを参考資料1−1から1−4まで配付させていただき ました。  家計において貯蓄動機が非常に強いことから、どのような動機で貯蓄をするのかとい うことについて何か資料がないかというお尋ねがありました。参考資料1−1として、 総務省の郵政企画管理局が作りました「個人年金に関する市場調査」、参考資料1−2 として、日銀の金融広報中央委員会が作られた「家計の金融資産に関する世論調査」を お出ししております。資料の中身については私どもは説明能力が十分でございませんの で、ご参照いただきまして、更に調べてみる点があればご示唆をいただければと存じま す。  また、国の社会保障の財政構造を貸借対照表のような形で明確に示すものはないかと いうお尋ねがございました。社会保障の分野だけ特筆したものは私どもは持っておりま せんので、平成14年9月に公表されました国の貸借対照表の平成12年度版を参考資料 1−3として出させていただきました。  また、給付のストックベースとフローベースが示せるものという意味では、厚生年金 の給付現価と財源構成について作成したものがありましたので、参考資料1−4として 添付させていただきました。いずれもご参照いただければ幸いに存じます。  最後に1点、本審議会におきます社会保障の制度横断的検討の状況につきましては、 先ほど申しましたように経済財政諮問会議でも議論をしておられますが、このほか政府 の税制調査会において検討中の中期答申の参考に供するために、社会保障についての意 見を聞かせてほしいという要請をいただいております。具体的には、まず厚生労働省側 からどういう状況になっているかというヒアリングをしたいということで、5月13日と いうご要請ですので、私どものほうで対応させていただきたいと思います。  また、税制調査会、当社会保障審議会、両審議会の委員間で非公式の意見交換をした いという要請がありました。あちらのご要請が学識委員を中心に4、5名程度でという ことでしたので、貝塚会長とご相談の上、5月20日に貝塚会長のほか阿藤委員、翁委 員、京極委員、渡辺委員にご同席いただくようお願いしまして、内諾をいただいており ますので、ご報告いたします。  それでは、本日の主要課題であります社会保障給付の在り方につきまして、お手元の 資料3に沿ってご説明させていただきます。  前回までにご議論いただきました中で、現在、我が国の社会保障が果たしている機能 や役割が引き続き維持されることが必要である。今後、高齢化が一層進む中で社会保障 の負担が国民経済においても個々の家計においても増大が見込まれる。この場合の負担 増は十分負担可能ではあるが、かなり厳しいものになるのではないか。これに見合う給 付としては、マクロでみた場合は高齢分野への偏りが大きい、ライフサイクルでみた場 合でも高齢期への偏りがあるのではないかなど是正すべき面がみられる。こうしたこと が明らかになってきました。  今後、社会保障給付の在り方を考える際には、これまで様々な個別制度における見直 しが行われてきましたので、こうした前例も踏まえて検討することが必要ではないかと 考えました。  そこで、まず1ページでは、これまで個別制度において行われてきた給付の見直しが どういう視点に立って行われたのかということで、3つの視点をあげております。これ を踏まえて、今後の議論で必要な論点を整理しております。  2ページ以降、個別具体の視点ごとに、これまで行われてきた個別制度の改正はどう いうものであったかということを整理しております。  まず2ページですが、3つの視点のうちの第1点目、社会経済情勢の変化にどのよう に対応するかという視点です。これを更に細分しますと、4点ほど具体的な問題点があ ろうと考えております。  1つ目は、平均寿命や健康寿命の伸長、人口構造の急速な少子高齢化にどのように対 応していくかという視点です。  2つ目は、かつての高度経済成長から安定成長を経て、バブル崩壊後、現在はデフレ 基調の中での低成長を経験しているわけですが、こうした経済基調が変化する中で、勤 労世代の所得水準と社会保障給付とのバランスをどのように考えるかという視点です。  3つ目は、高齢者の就労の増加や労働力人口の減少の見通しなど、雇用環境の変化に どのように対応するかという視点です。  4つ目は、生活水準の向上、ライフスタイルの変化に伴うニーズの多様化にどのよう に対応するかという問題意識です。  右側に、これまでの主な制度改正の取り組み例を整理してみました。こうした制度改 正は様々な観点から行われたものですので、単純にこういう視点に立ってこういう改正 が行われたという1対1対応をしているものではありませんが、いま申しました4つの 点にあえて対応させてみますと、このような評価がされるのではないかということで整 理をしたものです。  1つ目、人口構造の変化等に関係する改正はいろいろありますが、一例をあげます と、先だっての健保法改正の中で老人医療の対象年齢が引き上げられました。後期高齢 者に施策を重点化するという観点から、これまで70歳以上を対象としていた老人医療の 対象年齢を5年間程度で段階的に75歳まで引き上げるという改正をしております。  少子高齢化への対応としては、1つは育児休業給付の見直しがあります。平成7年に この制度が創設され、雇用保険の被保険者が1歳未満のお子さんを養育するために育児 休業をとる場合、休業開始前賃金の25%が支給されることになりました。平成13年にこ の制度を改正し、給付率を40%に引き上げました。  また、平成11年には介護休業給付制度を創設し、休業開始前賃金の40%を最大3カ月 給付することとしています。  2つ目、経済基調の変化に伴う勤労世代の所得水準とのバランスに対応する制度の見 直しとしては、昭和60年の年金制度の改正の中で、被保険者期間の伸びに対応した老齢 厚生年金の給付水準を20年かけて段階的に切り下げる。具体的には給付乗率を1000分の 10から1000分の7.5 まで切り下げるという改正をしております。  また、平成6年の年金改正において年金額の可処分所得スライドを導入しています。 従来、賃金スライドということで現役の賃金が伸びた分だけ年金額の計算の基礎になる 過去の賃金を伸ばすという改定をしていましたが、現役の保険料、税の負担が急増して いくことを踏まえ、名目賃金の伸びではなくて、名目賃金から、その間の税や保険料の 負担増の分を差し引いた可処分所得の伸びに基づいて賃金スライドを行うという制度を 平成6年の改正で導入したわけです。  3つ目、高齢者の就労の増加や労働力人口の減少に伴う雇用環境の変化に対応する改 正としては、1つは老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げということで年金制度を改 正しまして、平成6年の改正では定額部分に相当する特別支給の年金部分を、平成12年 の改正では報酬比例の部分をそれぞれ65歳からの支給になるように段階的に引き上げを しています。  平成7年には高年齢雇用継続給付という制度を雇用保険の中に創設しました。60歳で 退職はしないが、従来の常勤的な雇用から賃金が下がる継続雇用に切り替わる方につい て、60歳時点の賃金より15%を超えて下がった場合、一定の雇用継続給付を支給すると いう改正をしています。  厚生年金においても在職老齢年金の見直しをしています。従来、在職老齢年金は、職 場が替わったり、同じ職場でも継続雇用ということで賃金が下がった場合、年金と賃金 を合わせたものが一定程度確保できるようにということで制度設計がされていました。 せっかく高年齢で雇用されても年金と賃金を合わせたものが増加しないのでインセン ティブが働かないという問題が指摘されていました。これに対して平成6年の改正では 年金と賃金を合わせたものが少しずつではあっても増大するような雇用促進的な仕組み に切り替えるということで改正しました。平成12年の改正でも、そういう仕組みを見直 すということで継続させていただいております。  4つ目、ニーズの多様化に伴う制度の見直しとしては、1つは昭和59年に医療保険に 導入された特定療養費制度があります。差額ベッド、歯科における材料、予約診療、時 間外診療などがその対象で平成14年度からは、大病院の再診等が追加されています が、患者さんのニーズに即して選択ができる部分を増やして、その部分を差額負担して いただくという仕組みを設けたものです。  平成6年の改正では、医療保険において入院時の食事について入院時食事療養費制度 を創設し、患者さんの選択の拡大、入院して療養している方と在宅で療養している方の 公平を図る観点から、家庭で必要とする程度の額を標準負担額として別途徴収するとい う仕組みを取り入れています。  3ページですが、視点の2点目は、世代間、世代内の公平性の確保という視点です。  世代間の公平性という観点としては、急激な人口構造の変化の中で、制度の持続可能 性や将来の負担増に対する現役世代の不安を解消するためには、どのような給付の見直 しを行うべきかという点です。  特に年金において行われている世代間の公平論議としては、これまで段階的に保険料 を引き上げる方式をとってきたことから、過去の方は保険料負担が極めて低い、今後の 世代の方は負担が段階的に上がっていくのではないかという指摘があります。しかし仮 に年金制度がない場合は、年金保険料負担のかわりに私的に年老いた親を扶養する負担 が発生する。また、少子化の進行に伴って私的に老親を扶養する負担も増加する。4人 の子どもが2人の親を扶養する時代ではなくて、2人の子どもが4人の親を扶養するよ うな時代になってきていることから、その負担の重さをどう考えるかということが必要 となっているところであります。  世代内の公平性という観点では、保険制度間の給付率の差、高額所得者に対する給付 の在り方をどう考えるべきかという点が問題になってきます。  これらに対応して、これまで制度改正を行ってきた主な取り組み例が右側に書いてあ ります。  保険料負担を一定範囲に抑えるための給付内容の見直しとしては、年金の平成12年改 正において、既に裁定を受けて年金を受給している方々の年金について65歳以降は賃金 スライドを停止して物価スライドのみで改定するというルールが導入されています。  老齢厚生年金の給付水準の適正化については、先ほどご紹介しました昭和60年の改正 を加速しまして、報酬比例の乗率を1000分の7.5 から更に改定するという仕組みが講じ られているところでありす。  育児休業期間中における被用者保険の保険料の免除ということで、現役世代の負担の 軽減を図っています。平成6年には厚生年金、健康保険の本人負担分のみの軽減をす る。平成12年には事業者負担分も軽減しまして、育児休業期間中は保険料を免除する、 給付は行うという形の改正をしました。  世代間の負担の公平という観点から、3歳未満の乳幼児については医療保険の給付率 を平成14年の健保改正によって8割給付に改善するという改正をしています。  世代内の公平の観点からは、1つは前回の健保法改正によって医療保険各制度を通じ て給付率を原則7割に統一するという制度改正を行っています。  年金制度においては昭和60年に基礎年金を導入するという形で一元化を図り、その 後、旧国鉄のほか公社3年金、農業共済年金について一元化という形の改正が行われて います。  所得のある高齢者については、医療保険の平成10年の改正において医療保険の給付率 の見直しを行い、給付率を1割と2割という2段階を設けて、高額の所得を有する高齢 者については2割の自己負担をしていただくという改正をしています。  4ページですが、視点の3点目は、制度間の機能の重複の調整という視点です。これ については3つのポイントがあります。  1つ目は、社会保障の各分野に横断的に関わる課題について、利用者の視点に立って 良質かつ効率的なサービスが提供されるよう、どのようにすべきか。  2つ目は、就労意欲を阻害しない社会保障給付の在り方という観点から、例えば雇用 保険制度と社会保障各制度の間でどのような調整が図られるか。  3つ目は、社会保障給付と税制との関係をどよのうに整理するかという問題意識もあ ります。  これらに対して、これまでの主な取り組み例が右側に書いてあります。  社会保障各分野に横断的に関わる課題についての総合化という観点からは、平成12年 に医療保険制度が創設されました。ここにおいては、かねてから懸案であった医療と介 護の役割分担をどのように図るかという点について、在宅と施設それぞれのサービスに ついて整合的なサービス提供が図られるようなメニューが整備されています。  利用者の選択という観点からは、選択できる制度ということで、具体的なケアプラン を作成しながら、利用者に最も良いサービスを提供できるようにするという制度設計が 図られています。  総合的なサービス提供という観点からは、ケアマネジャーが利用者と相談しながらケ アプランを作っていくということで、この中には医療と福祉、在宅と施設など、それぞ れのサービスを組み合わせて提供できるメニューが整備されています。  また、介護保険におきましては総合化という観点からは、費用負担に関わる点です が、年金受給者である1号被保険者の方々の保険料負担についてはそれぞれの公的年金 から源泉徴収が行われる仕組みが講じられています。  雇用保険と年金との調整という観点から申しますと、失業保険給付と老齢年金の調整 という点では、失業保険を受給している間は老齢年金を支給停止するという形での調 整、及び先ほどご紹介いたしました高年齢雇用継続給付と在職老齢年金について一定の 調整を行うという仕組みが平成6年の改正で導入され、平成10年から実施に移されてお ります。  先だっての児童扶養手当の改正におきましては、母子家庭等の自立促進対策として、 子育て生活支援、就業支援、養育費の確保、経済的支援等の総合的なメニューを提供す ることとし、児童扶養手当については就労による収入の増加と併せて雇用促進的な形で 手当が支給されるような仕組みに見直しをさせていただきました。  社会保障給付と税の関係につきましては、これまでその関係を整理して機能重複の調 整が行われた例は必ずしも明確ではありませんでした。しかし一例をご紹介申し上げる と、昨年の税制改正の中で配偶者特別控除、すなわち、専業主婦の方々がパート等で収 入がある場合に特別な控除を上乗せする仕組みがあったわけですが、これを廃止すると ともに、その財源の一部を少子化対策にあてるようにという与党の合意が行われており ますので、今後これが児童手当制度の改正など具体的な形で実現されるものと承知して おります。  また、先ほど紹介させていただきました政府の税制調査会におきましては、まさに社 会保障給付と税の問題について今後ご検討されるものと承っております。  5ページ以降は、いま申し上げました視点に基づいて具体的な論点をどのように論じ ていくかということを示しています。個別の制度についての具体の議論ということでは なくて、平成12年に総理主宰の有識者会議から提言された「21世紀に向けての社会保 障」、及び平成13年3月に政府・与党社会保障改革協議会がとりまとめた「社会保障 改革大綱」においてご指摘のあった点をご紹介しながら論点の整理をさせていただきた いと考えております。  まず5ページですが、論点の1点目、社会保障の役割、負担の維持可能性、公平性等 を踏まえた給付の範囲、水準の在り方をどのように考えるかという点です。  社会保障の役割につきましては、有識者会議、大綱ともにセーフティネーットの役割 が社会保障の第1の役割であり、有識者会議では「この役割を果たすために必要な給付 を確実に保障することが必要」であるとしています。大綱では「社会保障の給付につい て、その範囲や水準がセーフティネットとしての役割にふさわしいものであることが必 要」であるとしています。セーフティネットとしての社会保障の機能が維持できるよう な給付であることが第1に要請されるということであると認識しております。  負担の維持可能性、公平性という観点を論ずる際には、有識者会議は「将来世代が現 実的に可能な負担能力を前提として給付の在り方を考えていく必要がある」。大綱では 「将来にわたり負担、特に現役世代の負担が過重なものにならず、経済・財政と均衡の とれたものとすることにより、持続可能な制度とすることが必要」ということです。両 者を合わせると、一定の機能を果たす給付、それは将来世代が負担可能なもの、それを 両立させることがこの論点の中で要請された点であると認識しております。  6ページは2点目の論点ですが、世代間、ライフサイクルからみた場合、現在の給付 構造はどういう問題があるかという論点です。  有識者会議では、「持続可能なシステムを構築するためには、世代間に公平な仕組み を組み立てていく努力が必要」、大綱では、「所得や資産を有するなど負担能力のある 者は、年齢にかかわらず、その能力に応じて公平に負担を分かち合うことが必要」とい う指摘がなされています。  より具体的な問題意識として有識者会議では、「社会保障が国民のライフコースを通 じて、全体としてバランスのとれた安全装置として若い世代の理解を得るためにも、真 に少子化対策に有効な施策については、積極的に実施していく必要がある」というご指 摘もいただいております。  この点につきましては7ページに次世代育成支援に関する主な課題という形で論点整 理をさせていただきました。去る3月に「少子化対策推進関係閣僚会議」において「次 世代育成支援に関する当面の取り組み方針」をお決めいただきましたが、その概要をお 示ししたものが7ページのテーマでございます。  ここに示しています主な課題、これに基づく基本的な施策を推進するために、今国会 に「次世代育成支援対策法案」が上程されています。これは企業や自治体が行動計画を 作り、これらの具体的な課題をこなしていくための根拠法となります。  これと併せて、地域における子育て支援を推進するための児童福祉法の改正法案を今 国会に提出しております。  平成16年には児童手当制度の見直し、育児休業制度の見直し、多様な働き方を実現す るための条件整備等について検討し、所要の法案を提出することも予定しております。  7ページの課題について簡単にご紹介申し上げます。  1つ目は、出産や育児と両立できる働き方の確立ですが、従来、少子化対策というの は保育所の整備によって、働きながら出産、育児ができるような環境をどう整備してい くかというところに重点を置いた施策が中心でした。しかし一層の少子化を踏まえて、 男性を含めた働き方の見直し、育児休業制度等の見直しが必要ではないか。そのために 企業における行動計画を策定していただいて、それぞれの企業ごとに問題点を解決して いただくという取り組みをお願いすることにしております。  2つ目、育児等に対する社会的支援の充実という観点からは、働きながら子どもを産 み育てる母親だけでなく、専業主婦やひとり親世帯に対しても地域における子育て支援 が必要である。また、子育てを支援する生活環境の整備として、バリアフリーについて ソフトの面、ハードの面で条件整備していくことが具体の課題となっています。この点 につきましては地方自治体における行動計画の策定の中で明確にし、こなしていくこと が望まれています。  3つ目の柱は社会保障における次世代支援ですが、年金額計算における育児期間の配 慮等、社会保障の中に明示的に次世代育成支援というテーマをビルトインしていくとい う形で制度改正を行っていこうという問題意識です。  4つ目は次世代育成支援という観点からは迂遠な感じがするかもしれませんが、子ど もの社会性の向上や自立の促進を図ることを施策の1つの柱としていこうということで す。具体的には、現在の中高生には年の離れた弟、妹がいない世帯がほとんどですの で、地域の中、教育現場の中で、あるいは様々な母子保健等のメニューの中で赤ちゃん とふれあう場をつくっていこうということです。  それだけではなくて、若者がいつまでもパラサイトであるとかフリーターということ で親がかりになってるのではなくて、若者の安定就労や自立して生活できる環境を整備 していく。そういったことに施策の1つの柱を立たてていこうという取り組みです。  このような具体的なメニューの中で次世代支援に取り組ませていただいております。  8ページは論点の3点目ですが、社会保障の総合化という視点に立った給付の効率化 という点です。  この点につきましては、「年金、医療など個別制度の問題を超えて、社会保障制度を 総合的・効果的に機能させる観点からの見直しが必要」であると有識者会議でも指摘さ れております。  この議論をしていただくために、9ページに高齢者における年金・医療・介護の相互 関係がどのようになってなっているかを整理した図を載せております。  高齢期の生活の中心は公的年金ですが、若いころから様々な形で貯蓄や資産形成をし たものが私的年金・資産収入となり、高齢期になっても勤労所得がある方もあるだろう と考えられます。こうした所得をベースに、医療や介護といった社会保障給付を受給す る場合、そのための保険料、一部負担としての自己負担を賄っていただくことになりま す。  また、医療においてはアメニティという観点から様々な給付を上乗せということで自 己負担していただくケースも出てきています。介護においては上乗せ給付、横出し給付 を地域がメニューとして用意し、自分が選択して利用することができますので、これら に公的年金、資産を加味した中で高齢者の生活が成り立っているということになりま す。  高齢者においてはこのような年金・医療・介護の関係があり、現役世代が保険料・税 という形で制度全体として給付を賄っていく。こういう関係が年金・医療・介護の相互 関係として組み立てられているということです。  従って、いたずらに公的年金を削減するという施策をとっと場合には、医療や介護の 自己負担、保険料負担、アメニティ、上乗せ給付をどのように設計するかということに 問題がシフトしますし、現役世代にしてみれば、公的年金が削られていって老親の生活 が不自由になった場合には保険料・税のほかに私的に扶養していくことが必要になって くるという関係になっています。  この点を数字で押さえたのが10ページでして、高齢者世帯における年金・医療・介護 の相互関係を数字で示してみました。  ここではサラリーマンであった高齢者夫婦70歳代を例としてとってみましたが、月額 238,000 円余のモデル年金を受給している世帯です。  こうした高齢者世帯で、介護を必要としない、時々は病院に通うという平均的な世帯 の場合は、医療・介護について保険料は月額2万円程度。これは11ページに内訳が書い てありますが、医療保険については、年齢階級別1人当たり自己負担額の平成12年実績 に基づく数字として月額約2万円ということです。  医療は外来で通院して何らかの医療を受けているという前提ですので、8千円程度の 自己負担ということです。  給付のほうは介護のほうの給付を受けておりませんので、医療で通院している残りの 給付の部分の総額は月額10万円程度を受給しているということです。  この夫婦世帯はこうした社会保障の給付・負担以外に日常の生活費が必要ですので、 参考のところでお示ししているように、在宅で食料と住居費、光熱・水道費という極め て基礎的な消費の分だけ13年度の家計調査年報から抜粋しましたが、合わせて10万円を 切るぐらいの費用ですので、介護を必要としない世帯ではモデル年金額からしますと、 比較的余裕のある生活を送ることができるのかなということが見てとることができま す。  夫婦のどちらか1人が在宅で寝た状態になった場合を見てみますと、保険料について は介護・医療とも同額ですが、給付のほうは寝たきりになった場合の在宅給付の自己負 担が医療負担に重なって出てきます。  11ページにありますように、医療については、寝たきり状態の者の給付総額は寝たき り老人在宅総合診療科のモデル事例、介護については「介護給付の実態調査」で「要介 護度4の平均給付単位数」をもとに推計しています。  この場合の自己負担は月額3万円程度ですが、この時の給付費は、介護を必要としな い方の医療の分も合わせて月額約31万6千円となっています。この場合でも在宅であれ ば基礎的な生活費を合わせても暮らしに不自由はないということになろうかと思いま す。  しかし夫婦いずれかが特別養護老人ホームなり療養型病床群に入所された場合には、 施設入所に伴う自己負担が加算されますので、特別養護老人ホームの場合で約7万5千 円、療養型病床群の場合で約8万9千円です。これに生活費が必要ですが、参考で書き ました数字は2人分の在宅での生活費ですから、施設で生活される場合は単純に半分に はならないにせよ、6掛けなり7掛けになって、これに付加されることになります。  結論から申し上げると、モデル年金を受給している世帯では施設に入所された場合で あっても自己負担、保険料と合わせてモデル年金の中で夫婦2人で生活できる水準であ ろうかと考えております。  今後、年金についても名目額は削減する予定はないようですが、給与に対する比率と いう意味での実質額については何らかの形での効率化をプログラムに乗せていく必要が あり、かつ医療、介護については保険料及び自己負担分についても見直していく必要が あるということが具体の政策課題にも乗ってきていますので、その中で年金・医療・介 護の関係をどう考えるかということが大きな課題になっています。  いま申し上げましたモデル年金受給世帯については、そのほかに純貯蓄残高として中 位数をとった場合でも約1,500 万の貯蓄があるということを申し添えさせていただきま す。  8ページに戻っていただきたいと存じます。社会保障の総合化という観点から論じな ければいけない問題ですが、2点目として、年金を受給しながら長期に入院・入所して いる者の生活保障については、介護なり医療での給付と年金での給付という制度間に重 複があるのではないか、これを制度横断的な視点から整理していく必要があるのではな いかという点は、有識者会議、大綱ともに指摘されています。  この点につきましては、12ページに諸外国における介護施設入所者等に対する給付の 調整例を示しています。  ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、スウェーデンの例を示していますが、この うち介護保険制度をもっているのはドイツだけです。ドイツの介護保険においては施設 の居住費用は給付対象となっておらず、全額自己負担が原則ですが、所得がないために 本人が負担できない場合には社会扶助、日本でいえば生活保護に相当するものから費用 を支給するという仕組みにたっています。  フランス、アメリカ、イギリス、スウェーデンとも施設入所については居住費用は対 象にならず、自己負担が原則です。アメリカの場合は施設がメディケアでカバーします が、これは期間が限定されていますので、期間経過後は全額自己負担になります。低所 得者の場合はメディケイドによりカバーされます。受給者の死後、自宅など資産が残っ ている場合には、資産の売却によりメディケイドに要した費用を回収するという仕組み がとられているようです。配偶者が生きていて引き続きその家で生活している場合や子 どもさんたちが一緒に暮らしていた場合にはその住宅から追い立てることはないようで すが、そうでない場合は残った資産で清算するというやり方をしているということで す。  その他の国においても自己負担が原則ですが、低所得で負担ができない場合には何ら かの形で社会扶助をしてカバーするという仕組みがとられているようです。  再び8ページにお戻りいただきまして、3点目の問題ですが、「高額の所得や資産を 有する者に対する給付の在り方などについて検討する必要がある」ということが大綱の 中で指摘されています。  続きまして13ページですが、論点の4点目、多様な働き方への対応など社会保障給付 と雇用の関係をどのように考えるかということです。  これまでの主な指摘としては、1つは、「意欲に応じて働き、年金と組み合わせて豊 かな生活ができるようにする」という大綱の指摘があります。つまり雇用と年金の関係 をどのように調整を図っていくかという問題意識です。  具体的には、「社会保障制度について、パートタイマー等雇用形態の多様化に対応し た制度の見直し、女性の就労など個人の選択に中立的な制度への見直しをどのように進 めるか」という問題意識があります。  この点については14ページに、本年3月、年金局が「雇用と年金に関する研究会」で まとめた報告の概要を載せております。年金と雇用の関係についていくつかの問題があ りますが、それらについて現状、課題を示しています。  年金支給開始年齢と高齢者雇用につきましては既にご紹介いたしましたように、昭和 60年以来、平成6年、平成12年の改正において高齢者の雇用が進んできたことを踏まえ て支給開始年齢を引き上げる一方、失業給付との調整を行う、ないしは雇用促進的な在 職老齢年金の仕組みの講じる。更には高年齢雇用継続給付と整合的な制度とするという ことで、年金の側及び雇用保険の側でそれぞれの見直しを進めております。  その結果、65歳まで働ける場を確保する企業の割合は68%になりました。65歳まで希 望者全員を雇用する企業の割合も27%まで増えているという実態になっています。  課題としては、継続雇用の推進や多様な雇用・就業機会の確保による60歳代前半の雇 用の確保をどうするかということです。  在職老齢年金につきましては、高年齢の雇用など雇用促進的な仕組みを在職老齢年金 の中に組み入れていくという形での制度改正がこれまで何度か取り組まれています。  短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大という点では、現在の制度が「所定労働時 間が通常の勤労者の概ね4分の3以上の者」を被保険者にするというルールになってい ることから、パートタイマー等については厚生年金の被保険者にはしないという形で運 用がなされてきました。  課題としては、就労形態の多様化に対応する等の観点から、例えば「週の所定労働時 間が20時間以上、または、年収65万円以上の者」等の適用基準を検討したらどうかとい う提言がなされています。  派遣労働者につきましては、派遣期間が定まっている関係から、次の派遣期間までの 間の谷間において適用が切れて、基礎年金では2号被保険者から1号被保険者へ、厚年 から国年へと移り変わることが問題とされていましたが、昨年4月、「待機期間」が1 カ月を超えず、次の派遣が見込まれる場合には厚生年金の適用が継続されるような措置 がされています。  以上、4つの論点について、これまでの指摘を踏まえ、諸外国等の例もまじえてご説 明させていただきました。  15ページは、以上の論点をまとめて、高齢者への対応、働き方の見直し、次世代育成 支援の相互関係をイメージ図で示させていただきました。  社会保障、雇用の施策として厚生労働省が持っている様々な政策手段のうち、高齢社 会への対応についての年金・医療・介護などの制度改革、働き方の見直しといった雇用 政策、次世代育成支援という意味での少子化対策、この3つの政策を柱として考えた時 に、それぞれの政策は固有の政策目的を持っています。  高齢社会への対応を考えた時には、年金・医療・介護それぞれ高齢社会に適合した形 の財政運営をどうやって安定的に図っていくかという固有の問題を持つわけです。しか しながら同時に、年金制度の改正を進めていく上で多様な働き方に適合した給付や負担 の仕組みとしていく。例えばパートタイマーの厚生年金保険適用ができるような仕組 み、高齢者の雇用に対して雇用促進的な年金の仕組みをつくっていくことによって雇用 政策に大いに資することができるだろうと考えます。  一方、雇用政策は安定的な雇用の確立を図ることによって日本の経済・社会を更に発 展させなくてはいけないという固有の目的を持つわけですが、その中でも特に高齢者、 女性、障害者が働きやすい職場環境を整備し働き方の見直しに取り組んでいただくこと によって社会保障の支え手を形成する、そういった意味で、年金・医療・介護保険の制 度安定に大いに資する点があるということです。高齢社会の対応を一生懸命進めること と雇用政策を一生懸命進めることは、お互いを支え合っていくという政策上の関係にあ るということが言えようかと思います。  同様の関係が高齢社会への対応政策と次世代育成支援政策の間でも見てとれるわけで して、年金制度の中に次世代を育成するための制度をビルトインしていく。育児休業期 間中における年金給付の配慮、年金の積立金を活用した奨学金制度の充実などについて 年金制度の中で見直しをすることによって次世代育成支援に大いに資することができる だろう。そして次世代育成支援が効果のあるものとなり、少子化に幾ばくかの歯止めが かかることが可能となれば、年金や医療、介護の将来の支え手を増やすことにつながり ますので、高齢社会への対応を進めることと次世代育成支援政策を進めることがお互い を支え合っていく関係にあることが見てとれるわけです。  働き方の見直し、雇用政策の推進と次世代育成政策の推進との間にも同じことが見て とれるわけでして、出産や育児と両立できる働き方の確立、育児等に対する社会的支援 の環境整備を進めることが次世代育成支援を支えると同時に、パートタイマーを含む多 様な働き方が可能になってきます。  以上のようにそれぞれの施策を強力に進めていくことによって、世代間の利害対立を 超えて、それぞれの世代が他の世代を支えていくことが現実に可能になる。1人の人間 でみても、子どもの時期、子育ての時期、働き盛りの時期、高齢になった時というライ フサイクルの中でそれぞれの施策が連続して有効に作用する体制が整う。更にそれぞれ の社会保障施策が相互に連結して総合的に提供できる形になる。更に雇用と社会保障の 関係が明確な形で相互に支え合う形が可能になる、等々でございます。  いずれにしても、高齢化社会への対応、働き方の見直し、次世代育成支援という大き な柱立ての施策をそれぞれ強力に進めることによって、これらが全体として世代を超え て、更に時代を超えて国民生活の構造的な改革を可能にしていくという社会保障政策の 大きな目的を達成することにつながっていくことができるのではないか。  そのことは同時に経済・財政といった基盤、住宅・生活環境、更には教育・科学技術 といった部分、それぞれを大きな意味での社会保障が支え、日本の社会全体を生活構造 という観点から、より豊かなものにしていく可能性を我々も見ていくことができるので はないかというふうにイメージしてみたものでございます。  こういう形で社会保障給付を全体としてイメージしていく場合、これを可能とする負 担はどうなるかという問題については更に論じなければいけない点が残っていますの で、この点については次回に負担の在り方を論じていただく際に、負担のもとになる給 付のイメージとして15ページのような給付のイメージを念頭に置きながら負担の議論を していただければより具体的な議論になるのではないかと考える次第でございます。私 どもの用意させていただきました資料は以上のとおりでございます。 (貝塚会長)  ありがとうございました。  本日の議題は主として給付の見直しに関連する話で、それぞれの社会保障制度の横断 的な観点から、今までどういう施策が行われてきて、どういう考え方で政策が対応して きたかという話になりますが、少しずつ時代は変わっているわけで、新しい課題として どういうことがあり得るか。ただいまの説明に対するご質問、ご疑問も含めて、ご自由 にご発言いただきたいと思います。 (浅野委員)  まず大上段みたいな意見を申し上げて、各論的なことで終わりたいと思いますが、意 見です。社会保障とは何かという時に、多くの方は社会保障とか福祉というのはおまけ だと思っていたと思います。社会政策と経済政策があって、経済で生み出した財を社会 保障に回す。矢印の方向としては常にそちらの方向を向いてるというのが最近は変わっ てきましたけど、多くの方々の頭の中にはまだ残っています。我が宮城県の総合計画の 中で、そうではない、経済政策と社会政策は車の両輪というか2つの大きな柱であっ て、矢印の方向は総合性があるということを言いました。  具体的には社会保障と貯蓄の問題なんです。きんさん、ぎんさんがご存命のころに、 「きんさん、ぎんさん、テレビに出た出演料をどうするんですか」、「老後に備えて貯 金するんです」、それが冗談になってましたけど、冗談じゃないんですね。きんさん、 ぎんさんも老後に備えて貯金をしないと不安でしょうがない。きんさん、ぎんさんでさ えそうなんですから、それより若い人、あるいはああいうふうにテレビ出演もできない ような人にとっては老後というのは非常にリスキーなんですね。  従って、日本人の貯蓄率の高さ、しかも貯蓄が毎年ものすごい勢いでまだ増えてる。 消費と設備投資がそれに食われているわけで、貯蓄率の高さが日本経済の足を引っ張っ てると言われてる。一般の国民に対して社会保障が安心をもたらしてないんですね。社 会保障がこれだけ充実したと言いながら、多くの方にとっては貯蓄をしないと危なくて 生きていられないということが少なくとも主観的にあるということなんです。これは大 変よくない状況なんですね。  急に細かい議論になるんですが、9ページに医療保険と介護保険が並べてあります。 介護の上に「上限を上回る介護サービス」とあって、資産のほうから回ってくるという ふうに書いてあります。医療のほうは「先端医療、アメニティ」は一般の医療保険の対 象から外れてもしょうがないだろうということなんですが、介護保険は青天井じゃない というのが当たり前になってるというのは何なんだろうか。牽強付会にいうと、これが リスクの源泉なのかもしれません。介護保険はできたけど、寝たきりになってしまった 時に介護保険は一定程度までしか保障しませんよということで、やっぱり貯金しておか なくてはいけない。  1割負担の問題もあります。医療保険であれば高額医療費制度がありますから青天井 ではありません。なぜなんだろうか、説明してごらんといわれると、なかなか説明しに くい。介護の中でも入所施設に入ると一部負担は取られますけど、青天井です。ものす ごく重い方も、ここから上は家族に頼みなさいとか自分の金でやりなさいといわれませ んから、どうしても入所にバイアスがかかってしまうということもここにあるわけで す。  私が個別のことで言いたいのは、介護保険を青天井にしたらどうですかということな んです。冒頭に言った社会保障とはなんですか、安心を生み出すものだということから 言えば、介護保険における上限を上回る介護サービスがあたかも当然のごとく自己負担 だということがおかしいと感じなくてはいけないと思うんです。  これはもう一つあって、毎回申し上げてるように、障害福祉を介護保険に取り込もう という私のもくろみがあって、重度の身体障害者を介護に入れた場合でも、ホームヘル プサービスは月に何時間という上限を設けるのが当然ということがあるかのごとくなん ですが、なんでなんでしょうか。在宅で非常に重い障害をもった人が介護保険に入った としても、なぜ介護保険でみられる分は上限があるというふうにするんでしょうかとい うこともちょっと念頭にあります。それはまだ俎上にのぼってませんから言いません が、今ある介護保険の中で上限を上回る介護サービスは自己負担というのは、社会保障 という観点から、また保険制度であるということからおかしいんじゃないかという議論 があってしかるべきだ。その根っこは、我々にとって社会保障とはなんなんだろうかと いう議論に結びつくのではないかという大上段の議論です。 (貝塚会長)  ほかにご意見がありましたら、どうぞご自由に。 (渡辺委員)  8ページの社会保障の給付の横断的な効率化は私も賛成なんですが、これは古い議論 なのに全然進んでないというのは、一つは具体的な数字が出てないからじゃないかとい う気がするんです。手元に社会保障給付費の具体的な数字がありますが、2000年度は78 兆円程度で、うち40兆円ぐらいが年金の支払いで、医療費が自己負担を除いて26兆円、 あとはその他です。ここにも「介護施設に入所した場合に云々」とありますが、ああい う場合、どの程度給付調整できるのかという試算ができないんだろうかという気がする んですね。公的年金が40兆円を超えていて、医療費が26兆円でしょ。介護が新たに加わ って4兆円程度だけど、あてずっぽうで言えば数兆円単位の巨額な調整ができるんじゃ ないか。  介護保険ができる前夜に、介護保険ができたら老人医療が相当給付調整できる、当時 10兆円ぐらいだった老人医療費が3兆円程度はなくなるんじゃないかという意見もあっ たわけです。そういう具体的な数字があったけど、うやむやになってしまった。介護保 険ができて丸3年たつけど、どの程度老人医療費が節約できたのかいまだにわかってな い。  介護施設に入所した場合、年金から利用するといったようなことをしたら、どの程度 給付統制ができるのかという数字は、一定の仮定を置けばできると思うんですね。そう いう数字が出れば非常にわかりやすいし、そこで初めて先ほどご説明があったような年 金はどの程度にするか、医療、介護をどうするかという議論が成り立つのであって、そ の数字がないとなかなか進まないなという気がします。できればそういう数字を出して いただきたいと思います。  12ページに諸外国における給付の調整例があって、北欧というとスウェーデンが出て くるんだけど、私の知る範囲でスウェーデン以上に面白いのは、デンマークやフィンラ ンドのほうがもっとダイレクトに年金及び老齢者の現金収入の何%を天引きという形で 介護費にあててます。デンマークはコンミューンによって多少違うけど、よりわかりや すい例もありますので、できればそういった参考例をつけていただきたい。以上です。 (貝塚会長)  ただいまの件、事務局、よろしいですか。相互依存関係の時に、もう少し具体的な ケースをあげていただくほうがわかりやすいということだと思いますが。 (青柳参事官)  デンマークやフィンランドについては調べさせていただきたいと思います。  もう一つ、マクロでどのくらい調整できるかというご指摘があったんですが、ミクロ ていうと、10ページをご覧いただきますと、多少の感じが透けて見えるかなと思ってい るわけです。在宅で寝たきりの方と特別養護老人ホーム入所の方との給付費の違いとい うのは、ハウジングコストと呼ばれている部分に相当するのではないか。単純に引き算 をして何倍かするという話ではないと思うんですが、そういうものを家計の負担や自己 負担や保険料以外にプラスしていただいた時に、このモデル年金との関係でどうなる か、そういった関係になってくるのかなと思います。  年金との調整というのは、制度として年金の給付と調整するというやり方もあると思 いますし、年金は年金で払っておいて自己負担をいただくというやり方もあると思うの で、どっちに決めつけるという議論は私どもから提起するつもりはありません。ただ、 ミクロの個別の例で見た場合は、この10ページを透かして見ていただくと、そのくらい の違いが出てきて、その部分を年金との見合いをしながらどう考えていけばいいのかと いう議論が個別制度の議論としては出てくるのではないかというふうにイメージしてお りました。 (中村委員)  いつも何人かの委員から議論が出ていますが、サービスの質が問われてきました。そ れと同時にセーフティネット論の中から効率化、人材、コストという問題が出てきてい ます。今までタブーになっていた外国人労働者の雇用問題は早急に議論をしていかなく てはならないのではないか。少子社会の主要議題になるであろう労働市場、特に遅れて いる対人サービスの分野はクローズされてると思います。そのためにも、日本の外国人 労働者の解放状況をペーパーにして出していただき、人口減少時代に即応した議論を早 急に開始されたらどうかと思います。 (岩田委員)  社会保障がセーフティネットであるべきだということを前提にしますと、セーフティ ネットを前提とするリスクというのは、予想されるリスクと予想されにくいというか、 あるかどうかわからないけど、あるかもしれないという2種類あると思うんですね。高 齢とか介護とか病気というのは一般に予想されやすいんですが、それ以外にいろいろな リスクはあるわけです。失業とか、離婚して母子世帯になるとか、長期の病気から障害 を負って所得が下がってしまうとか、そういうことがあるわけでして、社会保障全体か らみますと、予想されたリスクに対して備えるというのはこれまでかなり努力されてき たことだと思いますし、日本の経済・社会環境の中で、そこにウエイトを置けばよかっ た時代だったと思うんですね。  私は再三申し上げておりますけど、時代認識として、予想されないリスクが今後もっ と増えるだろうということは深刻に考えておいたほうがいいのではないかと思います。  9ページの図は、私たちが一番不安に感じている人生の最後の期間における各制度の 相互関係なんですが、高齢者だけではなくて、あらゆる世代の生活の予想されないも の、予想されるもの全体に応用が可能だと思うんですね。一番下の公的年金のところを 生活費保障という形に置き換えますと、失業給付とか障害者の基礎年金とか生活保護と か、部分的には児童手当、児童扶養手当などがここに入ってきます。障害者であれば介 護、医療、普通の場合の医療が乗っかる形になると思うんです。  これをもう少し整理することができるし、公的年金のところは保険だけではなく、手 当や社会扶助といった多様な給付の原理の組み合わせがありうると思うんです。そうい う組み合わせを考えておいたほうが、予想されないリスクに対して国民が安心できると いう体制をつくりやすいのではないか。今までこの3つの制度できていますので、年金 といえば高齢者しか考えてない。しかし障害者、死別の場合の年金等の機能があるわけ ですから、もう少し広く社会保障の議論をしたほうがいいのではないかということを再 度申し上げたいと思うんです。  12ページの諸外国の例ですが、重複とか各制度を統合する場合、一つの視点は、重複 をどういうふうに整理するかというところにいくと思うんですね。その場合、前提とし て、9ページのような仕分けを合理的につけておいた上で調整しませんと、重複にばか り目がいってしまうんですね。施設入所者の過剰なコストをどう負担させるかという時 に、別の面では家賃補助とか住宅手当を必ず低所得者用にいろんな形で用意してるんで すね。それがドッキングして初めてそうした自己負担が成立する。  これは介護の自己負担や医療の自己負担でも同様だと思うんですけど、ここに社会扶 助という考え方で、社会保障が社会保険とくっついた社会扶助でセーフティネットが構 成されるということが、いろいろな側面で出てくるわけです。ハウジングコストという ことを今後あらゆる福祉施設、病院について考えていくとすると、その費用を払えない 人に対する扶助を、在宅の場合も一般的に家賃扶助として、もっと広く設定するという 考え方が出てくるだろうと思うんですね。  標準形はこの図で十分やっていけそうな感じなんですけど、やっていけない人が出て くるわけです。社会保障というのは、やっていけない時に出ていって初めてありがたみ がわかるというか、あってよかったなということになるわけですし、そのことを知った 時に、こうなっても大丈夫だと私たちが思うところに重要性があると思うんです。そう いうことに対して一定の減免制度とか補助、社会扶助など、もう少し多様な在り方を くっつけていくという側面も外側に置いていただくと、もうちょっと豊かな感じになる のではないかと思います。 (貝塚会長)  日本の社会保障制度の議論はビバレッジ報告以来、特定の保険がいくつかありまし て、それを中心に議論して、介護保険が新しく付け加わった。時代が変われば保険すべ き対象が増えてきて、そこをどうすべきかというのが難しい問題ですが、そういう新し い問題があるんじゃないかという気がします。 (糸氏委員)  社会保障の給付と負担の在り方を見る、特に今日は給付の話ですが、ミクロ的な問題 は先ほどご説明がありましたように多岐にわたると思うんですね。この審議会としては もっとマクロ的なと申しますか、社会保障全体をどのように位置づけるかという基本的 かつ総合的な検討が最優先されるべきではないかと思っております。究極の社会保障の 目的は、個々の国民が健康で生き生きと働いて、社会や経済のシステムに貢献する、そ れを下支えするというのが社会保障であろうと思っております。  そういう意味で医療、教育、年金、雇用保険、生活保護といった様々な柱があるわけ ですが、医療によって生命の安全とか安心が得られるし、教育によって社会生活、経 済・財政に貢献する能力を養うわけですし、失業に対しては雇用保険、それが長引いた 場合は生活保護というセーフティネットを用意しているわけですし、年金というのは働 く機会を若い人にバトンタッチすることに対する一つの対価ではないかと思っておりま す。そして人生の終末期を迎えて精神面でも肉体面でも障害が起こった場合に対応する のは介護ではなかろうかと思っています。  いくつもの柱があるわけですが、要するに社会保障とはライフサイクルを支える社会 的な共通資本ではないか。社会的共通資本が社会保障であり、これは国家安全保障とい うぐらいの考え方を持っていかなくてはいけないのではないか。我が国では既に総合規 制改革会議、当社会保障審議会、財政制度審議会、こういうところが社会保障に係る議 論をやっておられるわけですが、小泉総理が統括責任者ということになろうかと思いま す。  気づいた点を申し上げたいと思うのは、国民は社会保障に関しては応分の負担をして いるということです。少なくとも帳簿上では社会保障財政に165 兆円もの余剰金を残し ております。これは財政投融資に回されていますから、どの程度不良債権化しているか 知りませんが、相当なものを国民が負担しているわけです。もっと負担せよというご議 論があることは承知しておりますが、することはしている。これから社会保障財政を論 ずる場合、国民の負担限界というものをもう少し精緻に分析する必要があるのではない かというのが第1点でございます。  もう一つは、インターネットにも出ておりましたが、先日、自民党の行政改革改革推 進本部が示した特別会計を含む平成14年度の我が国の総予算は347 兆円といわれており ます。このうち厚生労働省予算は64兆円で、そのうちの60兆円は社会保障給付費分なん ですね。総予算に対する社会保障給付費分は何%かというと、17%ぐらいなんですね。 この17%という数字はインターナショナルに比較してどうか。アメリカのデータを見ま すと、医療はメディケア、メディケイドが入るわけですが、それと年金の予算合計は、 2002年度の総国家予算の40%を占めてるんですね。我が国は17%ですから、社会保障給 付費としては過大な支出ではない。こういうマクロ的な視点もとり入れながら今後議論 すべきではないかと思っております。以上です。 (阿藤委員)  一つは質問で、一つはコメントです。次世代育成支援という言葉が少子化対策プラス ワンのあたりから使われ始めて、今国会で法案化されてるわけです。先だって児童部会 でもご質問したんですが、改めて社会保障審議会としても事務局にお聞きしておきたい のは、今までの少子化対策という概念を次世代育成支援ということに変えた理由という か、あるいは変えてないのか、そのへんの関係はどうなのか。個人的には少子化はいい として、少子化対策というのは出生対策的なニュアンスが強いので、あまり好ましくな いなと思いつつ、政府の使う言葉なのであえて使っているのですが、そのへんの配慮が あってこういう言葉が出てきたのかということをお聞きしておきたいと思います。  15ページの図なんですが、社会保障制度を議論する中で、こういった形で高齢社会へ の対応と雇用、働き方の問題、そして3本柱の一つとして次世代育成支援が取り上げら れたのは初めてではないかと思うんですね。以前、小渕首相の社会保障を考える有識者 会議の議論でも大部分が年金・医療・介護の問題であったわけです。その時も少子化対 策の問題は触れられましたけど、なんとなく付け足しのような感じがしました。今回の 図では次世代育成支援、少子化対策が3本柱の一つとして位置づけられていて、問題意 識が明確になり、それくらい重要な問題としてとらえているということで、意を強くし た次第でございます。  今日お配りいただいた資料2の論点に即して言えば、次世代育成支援あるいは少子化 の問題が克服されない限りは社会保障制度そのもののサステナビリティが問えない、そ ういうことにもつながってまいります。  論点2で世代間の給付のバランスという場合、現役世代が高齢者を支えるために保険 料、租税という形で貢献しているにもかかわらず、自分たちの次世代育成と子育てとい うところには社会が冷たいと感じている。それをこういう形でしっかり支えていくとい うことは大変結構でありますし、これまであまりにもその点が寂しすぎたのではない か。先だって諸外国との比較で給付費の構造の中で家族に関する給付が日本ではパーセ ントがあまりにも小さいということがありましたが、まだまだこれからその点を強化し ていく必要があるというところにもつながるんだと思います。  論点の3番目に高齢化対策と少子化対策との整合性ということが入っております。こ れについては必ずしも議論されておりませんでしたが、7ページの次世代育成支援の中 で具体例として「年金額計算における育児期間の配慮」ということがあがっています。 本来、高齢者のため、あるいは退職後の生活費のための年金資金を次世代育成のために 現役世代のほうに振り向けるということですから、まさにここで高齢者対策と少子化対 策が競合するというか、そういうことを表しているのではないか。そういうことも含め て議論をしていき、15ページの3つの柱が全体としてバランスがとれるように議論を進 めていければと願っております。以上です。 (貝塚会長)  少子化対策が次世代支援に変わったという点について、事務局から何かありますか。 (伊原企画官)  いろいろ議論がございましたが、一つは少子化対策という言葉はイメージが悪いとい う話があったのは事実でございます。意味的に申しますと、少子化対策のほうが少し広 くなります。子どもが減ってきて日本の社会、経済がどうなっていくかということに なってきますと、外国人労働者の問題も入ってきますし、家族間とか、もう少し幅の広 い議論があるだろう。それに対して次世代育成支援というのは簡単に申しますと、子ど もを産みたいと思っているカップルが多くいる中で、実際には産めていない。そうする と子育てなどの環境整備が必要だろうということから、少し狭い意味で使って、政府と してはそういうところに一生懸命取り組んでいくという意味での言葉として次世代育成 支援を定義しているところであります。 (堀委員)  社会保障の給付を考える上での論点がたくさん出て、概ね妥当だと思います。  セーフティネット論が5ページに出ているのですが、これについてちょっとコメント したい。社会保障は一定のリスクとか事故が起きた時にそれをカバーして自立した生活 に戻す。そういう意味でセーフティネットは重要な概念だと思うのですが、それで現在 の社会保障についての理解は十分かというと、必ずしもそうではないのではないか。児 童の健全育成とか次世代育成とか、あるいは健康増進とか疾病の予防とか、一定のリス クにあったものに対する給付ということではなく、社会保障の範囲は広がっているの で、そこもカバーすべき概念を用いる必要があるのではないか。  セーフティネット論というのは対象の問題であって、給付水準の問題ではないんです が、これを最低生活保障だという議論が一部にあるのですね。そういう意味でセーフ ティネットというのは若干問題がある概念ではないかと感じています。  世代間と世代内の公平についてですが、私は2回欠席しておりますので、今までに議 論が出た問題だと思います。これも給付を考える上で重要な問題なのですが、公平性と いうのは世代間、世代内に限るわけではない。男女間とか制度間の公平とか、子どもを 持つ家庭と子どもを持たない家庭との公平というのもあります。それは世代内の公平に 入るのですが、それを世代内公平という形で論ずるのはどうかと思います。  この資料でいうと、5ページのほうでは世代間、世代内を使わない「公平性」という 語が出てるわけですね。世代間の公平というのは重要な問題であることはわかるんです が、もっと別の視点から公平性を考えて、給付についてもそういう意味で公平性を図っ ていく必要性があるのではないかと思います。以上です。 (廣松委員)  今までの各委員のご意見を伺った上での私見ですが、これまで日本では社会保障を国 民皆保険ということを原則としてやってきました。いま、そこにセーフティネットとい う考え方が導入されて、議論がいろいろなされている大きなリスクとそれに伴う損失に 対して、皆が広く薄く負担していると思います。語源的にさかのぼりますと保険という のはリスクシェアリングであって、リスクを被った人に対してその損失を補償するとい う形になっていますが、そこのところをあまり手厚くしすぎると今度はモラルハザード が起こるということはたびたび言われているところです。  日本の社会のいろんな層で、いろんな意味での不安を抱えている層がある、そういう 人たちに安心を与えるという意味で社会保障制度を充実させることは大変重要なことだ と思いますが、一方で、国民皆保険制度を前提とした時に、いま申し上げましたような 意味でのモラルハザード、具体的には保険金の未払いとか、不必要な多重受療行動とか を今後どういう形で、回避するのかという点も一つ議論を要する点ではないかと思いま す。  かなり以前、イザヤ・ベンダサンが「日本は水と安全はただだ」といったわけです が、現在では、水も安全も、そして安心も決してただではない。特に老齢に対する不安 を払拭して、老後に対して安心を持つということは決して安価なものではない。それな りの負担を負わなくてはいけないということではないかと思います。それが1点です。  2点目は、10ページで具体的なモデルをお示しいただいていますが、全体のご説明の 中でもちょっと気になった点があります。といいますのは、説明の中で、所得という か、フローの件に関してはかなり具体的な数値も含めてご説明いただいたわけですが、 資産に関しては必ずしもはっきりしない。もちろん、その理由は、資産はなかなか把握 しきれないからであり、これは日本の経済統計の一つの大きな弱点ではあるんですが。 ここには純貯蓄残高が中位数で1,550 万円という数字が出ておりますが、その意味は、 典型的には自宅という資産を持ってるか持ってないかによってかなり違うと思います。 世代間も含めて考えますと、資産形成のプロセスと資産の運用の仕方が、日本でも最 近、リバースモーゲッジの議論が出てきてはいますが、必ずしも、うまく機能してると はいえない側面があると思います。そういうも点も含めて資産という観点がこういう議 論をする時の一つ重要なキーではないかと思います。 (永井委員)  7ページの次世代育成支援に関する主な課題のところですが、出産や育児と両立でき る働き方の確立というところに矢印がついて、男性を含めた働き方の見直し、育児休業 制度等の見直しとなっています。これだけ見ますと、男も育児休業を取りなさいみたい な感じに単純化されると思うんですが、フリーター200 万という数字も出てきておりま すし、未来に希望が持てない若い人が出てきていると思います。育児休業が取れる、4 割の給付があるというのはすごいことだと思うんですが、これが取れるのは期間の定め のない恵まれた社員であるわけです。今は若い人を正社員にしようという企業も少なく なってきておりますし、仕事量に対して労働量は過剰になっていて、それが若い人のと ころにしわ寄せになっているのが実態だと思います。  いまだに日本は労働と余暇の人間らしいスタイルの文化というものを持ちえていない のではないかという感想を私は持っております。まだ労働基準局というのが厚生労働省 にあるんですよね。若い人の就労の在り方等について、そういうところの活躍を期待し たいと思うんですが、そのへんのところをもう少しはっきり書かれたらいかがかなとい う提案でございます。 (清家委員)  青柳参事官が雇用政策と社会保障政策は車の両輪のようなもので互いに補い合ってる ものだというご指摘をされたんですが、それは正しいと思います。一つだけ注意してお いたほうがいいと思うのは、社会保障政策と雇用政策は質的に違うものがあると思うん ですね。社会保障政策は国民合意の上で年金の支給開始年齢を65歳にしますといえば、 政府がそのように決めることができるわけです。あるいは給付水準をこのようにします と国民が合意すれば、政府がそのように決めることができるわけですが、雇用のほう は、もっと雇用を増やしましょうと国民がいくら合意しても自動的には増えないわけで すし、仮に増えた時に雇用のこれだけは60歳から64歳のところに割り当ててくださいと いっても、そうはいかないわけです。雇用は教科書的にいえば生産からの派生需要です から、生産活動が活性化しない限り雇用が増えることはありませんし、仮に増えた時に その雇用をどのように分配するかというのは労働市場が個別の労使の条件に応じて最終 的には決めることになります。  15ページの「働き方の見直し」のところとも関係しますが、これは労働基準法を中心 とした雇用関係法規等の所与のルールのもとで、最終的には労使が決めるという原則に なっていますので、その点は社会保障政策と雇用政策は違うと思います。社会保障政策 が注意しなければいけないのは、本来、労使が一定のルールのもとで決めるべき働き方 とか雇い方にできるだけ直接関与しないような形をとる。在職老齢年金とか雇用継続給 付金というのは現在の状況のもとでは高齢者の雇用を担保するために一定の役割を果た しているかと思いますが、長期的にこういうものが継続しますと、制度が一定の働き方 を固定しまうということになります。長期的にあるべき姿というのは、国民合意のもと で年金の支給開始年齢を65歳化するということを決めてるわけですから、そういう社会 的ルールのもとで65歳までは年齢を理由に解雇されることがないといったようなルール を決めていくというほうが正しいのだろうと思います。  誤解のないように申し上げますと、65歳まで年齢を理由に解雇されないという高齢者 の雇用を無条件で保障しているわけではないわけでして、少なくとも65歳までは年齢を 基準とした雇用をやめる。逆にいえば、そういうルールができた上であれば労使が工夫 して、65歳まで働けるような賃金制度とか雇用の仕組みを一定の期間内に早急に決めて もらうというような政策が望ましいと思います。  もう一つは、外国人労働の話が二、三出ておりますが、外国人に対しても日本人と同 じように最低賃金法とか労働基準法が厳格に適用されるのであれば、外国人労働力を直 接規制する必要はないと思います。ただし、日本人が安い賃金でやってくれない仕事が あるので、それを外国人にやってもらうということであれば、社会保障制度が労働条件 の劣悪化を助長することになりますので、外国人労働者を入れた場合、労働法規の適用 など労働条件の内外無差別化が必要になります。最近はサービス労働、サービス残業等 について雇い主を逮捕するような事件まで起きておりますので、労働基準法の適用等を 厳格にするということが一方であった上で、外国人労働者の導入の議論をすべきだろう と思います。 (京極委員)  社会保障を含めて社会政策全般と考えますと、社会政策の議論というのは労働経済に 偏っていた向きもあったので、改めて社会政策全体を考える必要があると思っていま す。その際に3点だけ申し上げたいと思いますが、1点は、15ページの図は非常に結構 な図だと思います。難をいえば、高齢社会への対応、働き方の見直し、次世代育成支 援、この真ん中に理念があって、競争社会から共生社会というか、これからの社会の在 り方として共生社会の理念というのをきちっと据える。そうしなければ、それぞれの対 応について、従来の価値観を引きずっていたのではなかなかできないだろうということ を申し上げたい。  2点目は、社会保障について、従来は年金・医療・福祉ということで、年金・医療中 心から福祉のほうにやや重点を移すということにしてきましたけど、その中には介護も 入ってるわけで、社会保障給付の78兆円のうち68.1%が高齢者に偏ってる。児童関係は わずか3.5 %という状況です。これまでの歴史的な経緯で高齢者に対する対応に軸足が あり、重点を置いてきたのはわかりますけど、21世紀もこのままずっといくのかという ことになった時に、次世代育成も考えた上で、もう少し児童とか家庭問題に力点を移す のは当然ではないか。障害者に対してもっと力を入れていくということになっていくの ではないか。そこの展望を持たないと見通しができない。働き方の見直しなども全部変 わってきます。  厚生労働省になったことで社会政策を総合的に実現できるという意味で期待してるん ですが、よく問題になりますのは、ゼロ歳児保育に国の予算を1カ月15万使っていて、 地方自治体が15万ぐらいで、30万ぐらい使ってるわけです。でも育児休業にはほとんど 使ってないわけで、それでいいのか。育児休業のほうに10万ぐらい出して、20万浮け ば、国家財政として喜ばしい。企業だって負担が楽になるので、政策間の調整をもっと 図る必要があるのではないか。給付と負担の個々の問題の在り方じゃなくて、政策全体 についてのスタンスを緩やかに変えていく必要があるのではないかということでござい ます。以上です。 (岩男委員)  公平性の議論について、若い世代を説得する必要があるので、3ページの左の四角の 中に、年金制度がないと私的に親を扶養しなければなりませんよ、コストがかかるじゃ ないですかという脅しのようなことが書いてあるんですけど、これは事実であっても、 こういう議論というのは若い人を不快にするだけで説得力を持たないと思うんですね。 社会のレベルで世代間のコントラクトという形で制度が出来上がっているわけで、こう いう形の議論はしないほうがいいように思います。  3号被保険者の問題というのは、そういう言葉では検討課題に出てきていなくて、個 人の選択に中立的な制度の見直しという形で出てきてるんですけど、それは非常に大事 なことですので、ぜひ進めていただきたいと思います。  もう一つは、公的年金の一元化ということなんですけど、終身雇用が崩れて転職する 人が多くなっている中で、どういう職業についてる人でも、どういうところにいても同 じ年金制度で、どこへでもポータブルであるという、そういうことが非常に大事な点だ と思います。  もう一つは外国人労働者の問題ですけど、前に有識者会議の時にも議論いたしまし た。国を開くというのは非常に大事なことで私も大賛成なんですが、外国人労働者の マーケットというのは国際競争力が働いているところなので、日本が勝手にこれだけ人 を入れたいとか入れるという議論をしても、本当に働いてほしいような人たちが日本に 来るというような甘い状況にはないということだけ一言付け加えておきます。 (鴨下委員)  15ページは大変わかりやすいんですが、この3本柱は決して対等の関係にはないと思 うんですね。先ほどのご説明を伺ってまして、高齢社会を支えるために次世代を育成支 援しようというふうに聞き取れたんですが、それが根本的な間違いだろうと思うんです ね。この3本柱の中で一番大事なのは次世代の育成だろうと思います。そういうふうに 考え方を変えませんと、高齢者のために子どもを産むなんていうことは今の若い人は考 えませんし、ますますパラサイトシングルが増えてきまます。パラサイトシングルの解 消とおっしゃいましたけど、具体的にどういうことをお考えなのか。できれば次回の審 議会では三角形の頂点に次世代育成支援を出していただきたい。それだけでございま す。 (奥田委員)  3つ申し上げたいと思います。1つは給付の抑制ということですが、先日、諮問会議 がございまして、改革の大方針として、安心の確保、経済活力の維持、持続可能な制 度、この3つをあげております。その上で、将来の潜在的な国民負担率について50%程 度に極力抑制するということを目標にすべきだ、こういう意見が大勢だったと思いま す。それを実現するためには、どうしても社会保障給付の徹底的な抑制と効率化に取り 組まなくてはならない。特に年金について世代間の不公平を是正するためにも既裁定者 も含めた給付水準の抑制ということがポイントであると思います。  財源論になるわけですが、少子高齢化が進む中で、経済の活力を維持して老後の安心 を国民全体で支え合う社会にするためには、基礎年金の財源について十分検討すべきで ある。この時に税方式とか社会保険方式とかいろいろあると思いますが、それはこれか ら議論を深めるべきところだと思います。  その時に小泉総理から出たんですが、年金給付の抑制のみならず、その前にやるべき こととして、医療、介護を含めた社会保障給付全体の抑制、さらには公共事業、人件費 を含めた国家の歳出全体の抑制が大前提であって、それをやらずに年金の問題に入って いくのは問題だということがございました。  もう一つは企業負担ですが、現在でも企業の社会保障負担は相当重いものになってお り、また、今後の日本の高齢化率を考えますと、諸外国に例をみないほどの速さで高 まっていくので、将来、社会保障負担が重くなっていけば企業の国際競争力の維持、向 上、国内の雇用の場の確保に大きな問題点を投げかけるだろうということです。  最後に、国民年金の未納・未加入問題がありますが、財政が逼迫する中で年金制度と して持続可能性を維持するために国民年金の未納・未加入問題に対する空洞化対策が喫 緊の課題として取り組むべき問題ではないか。そういう問題があるということをご認識 いただきたいということでございます。 (翁委員)  2点ほど申し上げたいと思います。1点目は15ページの図なんですが、この3つのポ イントが相互関係があるという認識は非常に重要だと思います。ただし注意すべきこと は、Aという制度の目標をBというほかの制度で対応するというのはちょっと違うので はないかということです。例えば年金制度で次世代育成の支援をするという時に、子ど もがいるいないにかかわらずニュートラルな制度にしていくことは重要です。年金の資 金を使って奨学金を設けるという提案がありましたけど、年金制度をしっかりとした制 度として後世代にツケを回さないような制度にしていくことが最大の少子化対策ではな いかと思っております。  奨学金の例ですと、育英会などでも多数のロスを出していたりとか、年金の運用でも グリーンピアの例などいろんな失敗があったわけで、政策目的に最も効果のある適切な 政策手段を割り当てていくということをした上での相互関係ではないかということが1 点目です。  2点目は、さっき岩田委員が年金と医療、介護のリスクのお話をされて、予見できる リスクと予見できないリスクということで考えていったほうがいいということがありま したけど、それと同時に、これからは政府としての負担の限界というか、政府で対応で きる部分の限界もあるので、民間との役割分担がいかにできるのかという視点も非常に 重要だと思っています。医療、介護というのは予見はある程度できても、民間の保険と いうのはなかなか成り立ちにくい制度ですし、年金と医療、介護というのは若干色合い が違うのかなと思いますので、こういった点についても組み合わせの中で考えていく必 要があるのではないかと思います。 (若杉委員)  今日、いろいろ論点を整理していただいたんですが、ここにない視点で一つ概念的な ことを申し上げたいと思います。社会保障というのは所得の再分配で、リスクシェアリ ングという形で所得を再分配するんですが、医療保険ですと健康な人から病弱の人への 所得の再分配、老齢年金ですと短命の人から長寿の人への所得の再分配、介護ですと年 とってから比較的元気な人からそうでない人への所得の再分配ということです。介護と いうのは所得の再分配といっても、所得のある人のある人の間での再分配なんですね。 それに対して生活保護とか社会扶助といわれるものは所得がある人からない人への補助 なんですね。医療、年金、介護、いずれにも生活扶助の部分が入ってるんですね。整理 をする時に、生活扶助の部分と、所得がある人の間での再分配の部分をきちんと考えな いと整理がうまくいかないのではないかと思って新しい視点を出させていただきまし た。 (高木委員)  厚生労働省からいろいろご説明があって、説明を聞いてると非常にきれいに聞こえる んですが、2ページ、3ページ、4ページに書かれているように、各制度ごとに財政問 題等これあり、やむにやまれず、時には行き当たりばったりでやってきた。それがみん な合成されるとこういうことになって、ハーモナイズされてるように見える。このよう にハーモナイズされるように見える背景には、どの制度も給付の切り下げ、負担の引き 上げという、その点だけは共通項としてあったから、こういうふうになんとなく整合し て見える。意図的にこういうふうに仕組んできたというとらえ方はどうかなと、そんな 思いで聞いておりました。  これは会長以下にお尋ねなんですが、先般、年金制度についてのアンケートを私ども のところにも送っていただきました。あの内容を拝見しますと、保険料固定方式なるも のを、お勧めのメニューですよというふうに受けとめられるような質問の仕方が多かっ たように思います。年金部会の議論で、こういう内容でアンケートしようやということ まで確認してやっておられるのか。将来はこういう方向でいこうということについての 部会としてのコンセンサスはまだないと聞いておりますが、妙な印象を与えたアンケー トじゃないかなという気がしましたので、お尋ねいたしました。  いま奥田さんから経済財政諮問会議のお話がありましたが、前回、私はバランスシー トみたいなものを作ってくださいというお願いをしました。私のお願いの仕方が悪かっ たのか、参考資料の1−3、1−4を見ても意味が全然わかりません。私は財政のこと はよくわかりませんが、これから我々は財源という意味での制約を持ちながら、どうい うニーズにどうベターアロケーションをしていくかという議論をするためにこの場にお るんだろうと思うんです。バランスシートという言い方が悪かったら連結決算でいいで すから、一度お示しいただきたい。そういうものがないと、先ほど渡辺さんも糸氏さん もいわれたような議論が的確にできないんじゃないかという気がしてなりません。  経済財政諮問会議でそういう議論がいろいろされる、財務省も経済産業省もいろいろ やっておられる、そういうものとここの議論がどういう関係を持つのか。それぞれで やったらいいという話なんでしょうか。  最後に1点、3月28日ですか、医療制度改革の基本方針が出た。これを見せていただ いて、具体的なことはあまり書いてありませんので、今後どうやって具体的に肉付けし ていくのか。広く国民の意見を聞いていただけると書いてあるんですが、厚生労働大臣 が各団体出てこいといってヒアリングをして、広く意見を聞いたことにしないでほし い。実質的にちゃんと意見を聴取してほしい。  私どもは何回もだまされてきましたから。負担割合を1割から2割にする時には2000 年までにちゃんとしますという、今度はそれが2008年までだといってる。それも「目指 す」と書いてある。「やります」と書いてないんですよね。難しい問題はいろいろある ことは承知しておりますけど、こういうアプローチの仕方に対する不信感が非常に強い ということを我々はよく承知して議論しないといけないのではないかと思います。 (青柳参事官)  医療保険の話が出ましたので、その点も含めて保険局から若干のご説明をさせていた だければと思います。 (間杉総務課長)  3月28日に医療制度改革の基本方針を閣議決定させていただきましたが、参考資料の 2−1から2−3までにお示ししております。今のお話にもございましたが、この閣議 決定の中でなかなか決めきれなかった点もございます。国保運営における県の役割をど う考えていくかという点、高齢者医療制度につきましても保険者をどうしていくか、財 源構成をどうしていくかなど、なかなか決めきれなかった点は多々ございます。  前回、たたき台の際には時間もないこともございまして誠に申し訳ございませんでし た。大臣が団体と直接やりとりをさせていただきましたが、今回、基本方針の中で制度 改革を要するものは概ね2年後を目途に制度改革をするということをうたわせていただ いております。大きな制度改革になると思いますので、私どもも十分な時間があるとい う認識はございませんが、十分な意見交換をさせていただきたいと思いますし、今後の 進め方を大臣ともよく相談させていただきたいと思っております。 (貝塚会長)  参考資料3−1、3−2がお手元に配付されておりますので、ご覧くださいというこ とです。  今日のご議論を伺いまして、これから先の社会保障を考えた時に、従来の発想法では なくて、もう少し別の視点が必要ではないか、目標についても従来の社会保険の考え方 よりも、次世代支援の問題とかいろいろありますが、全体のフィロソフィー的なものを 新しくしたほうがよろしいんじゃないかという感想を持ちました。  それでは、以上をもちまして本日の審議会を終了させていただきます。どうもありが とうございました。 (伊原企画官)  次回ですが、5月20日の火曜日、10時から12時まで、この会議室を予定しております ので、よろしくお願いしたいと存じます。                                    −以上−  照会先  政策統括官付社会保障担当参事官室 政策第一係  代)03−5253−1111(内線7691)  ダ)03−3595−2159