03/3/19 第10回社会保障審議会議事録                第10回社会保障審議会 ○日時   平成15年3月19日(水)13:00〜15:15 ○場所   厚生労働省 省議室(9階) ○出席者  貝塚啓明会長、西尾会長代理       <委員:五十音順、敬称略>       浅野史郎、阿藤 誠、糸氏英吉、岩男壽美子、岩田正美、翁 百合、       鴨下重彦、岸本葉子、北村惣一郎、京極高宣、清家 篤、木 剛、       永井多惠子、中村博彦、廣松 毅、渡辺俊介       <事務局>       水田邦雄 政策統括官(社会保障担当)、青柳親房 社会保障担当参事官、       高原正之 統計情報部企画課長、中村吉夫 雇用均等・児童家庭局総務課長、       宇野 裕 社会・援護局総務課長、足利聖治 障害保健福祉部企画課長、       松田茂敬 老健局総務課長、島崎謙治 保険局保険課長、       高橋直人 年金局総務課長、伊原和人 政策企画官、       岩崎康孝 医政局総務課課長補佐 ○議事内容 1.開会 (伊原企画官)  まだお見えでない委員もおられますが、定刻になりましたので、ただいまから「第10 回社会保障審議会」を開催させていただきます。  審議に入ります前に、今回初めてご出席いただく委員のご紹介をさせていただきま す。国立循環器病センター総長の北村惣一郎委員でございます。  本日は、青木委員、稲上委員、奥田委員、長谷川委員、樋口委員、星野委員、堀委 員、宮島委員、山本委員、若杉委員がご欠席でございます。  出席いただいた委員が3分の1を超えておりますので、会議は成立しておりますこと をご報告いたします。  それでは、以後の進行は、貝塚会長にお願いいたします。 (貝塚会長)  皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。  それでは、本日の議題についてお諮りしたいと思います。  本日は、まず介護保険制度に関する部会の設置についてご審議いただくとともに、 「社会保障に関する制度横断的検討」として、「家計やライフサイクルからみた給付と 負担」について、順次審議したいと思います。  それでは、早速議事に移りたいと思います。  議題1の「部会の設置について」事務局から資料の説明をお願いします。 (松田老健局総務課長)  老健局の総務課長でございます。資料1ですが、介護保険(仮称)の設置について (案)というペーパーがございます。これに沿ってご説明申し上げます。  介護保険制度の見直しのための部会の設置につきましては、前回の総会におきまして も話が出たところですが、介護保険法の附則第2条において「介護保険制度について は、被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲、保険給付の内容及び水準、ならびに 保険料及び納付金の負担のあり方を含め、この法律の施行を5年を目途としてその全般 に関して検討が加えられ、その結果に基づき必要な見直し等の措置が講ぜられるべきも の」との規定があります。  平成12年の制度のスタートからほぼ3年が経過しましたが、来年度からは各市町村で 第2期の事業運営期間が始まりますので、これまでの実績も踏まえて課題を整理し、制 度見直しのご議論をいただくため、専門部会の設置をご承認いただきたいと存じます。  当面のスケジュールとしては、部会の設置が承認されましたら、早急に委員の委嘱を 行い、部会全体の構成が決定次第、部会の開催をお願いしたいと考えております。以 上、よろしくお願い申し上げます。 (貝塚会長)  ただいまの説明について、ご意見、ご質問がございましらた、お願いいたします。 (高木委員)  今のご提案では、発足の時期が「早期に」と書いてあるんですが、早期といってもい ろいろあるので、いつごろなんでしょうか。制度に関していろいろな課題があると聞い ておりますので、早期にというけど、できるだけ早くスタートさせるべきではないかと 思います。 (松田老健局総務課長)  ただいまご説明申し上げましたように、ご承認いただいた暁には委員の委嘱、部会全 体の構成をできるだけ早く行いまして、4月か5月には1回目の開催にこぎつけたいと 考えております。検討のほうも早く行う必要があると考えております。 (浅野委員)  2点ありまして、1点目は、この介護保険部会の検討事項の中に、障害福祉を介護保 険でというウイングを広げるというのも明確に位置づけられるのでしょうか。この適否 は中で議論されるんだと思いますが、課題として含まれるというふうに理解していいか どうか。  2点目は、法施行後5年を目途にというお話がありましたが、今の段階で次の法律改 正がいつというのは言えるのでしょうか。まだ決まってないとおっしゃるんでしょう が、可能性として16年という選択肢は今は消えてないというのか。それは最初からなく て、17年とか、そのへんになるのか。締切りがいつごろかということをもって発足して いただくべきではないかと思っておりますので、2点、確認させていただきます。 (松田老健局総務課長)  1点目の検討の範囲についてですが、検討の項目として、被保険者及び保険給付を受 けられる者の範囲ですとか、保険給付の内容といったことが検討の対象に入っておりま すので、ご指摘のようなことについても対象になろうかと考えております。  2点目の法律を出す時期につきましては、施行から5年というと17年3月ということ になりますが、実際のところ法案の提出時期はまだ決まっておりません。検討の進み具 合によって、早ければ平成16年の通常国会ということもありうると考えておりますが、 これについては、まさにこれからの検討の結果次第と考えております。 (浅野委員)  介護部会を発足する時に、いつまでの目標ということは示さないでやるんですか。早 ければ16年の通常国会もありうるというのはどういう意味ですか。来年の今ごろはもう 審議されてるという意味ですか。 (松田総務課長)  そういうことになると思います。 (浅野委員)  4月から発足して、部会の意見が出ても、それを法案化しなくてはいけませんから、 9月か10月には新しい部会での結論を出さないといけませんよね。議論の進み具合に よってはとおっしゃいましたけど、ただ議論してくださいというのではなくて、9月を 目途に結論を出してくださいとか、そのへんは今の段階で決まってないとおかしいです ね。それはどうなんでしょうか。 (松田老健局総務課長)  これまでも制度の見直しについては、やれるものは早くやるべきであるというご意見 がいろんなところから出ております。最後はいつまでということを今の段階で切ること はできないわけですが、議論がまとまれば、その段階で出すということもありうるし、 まとまらなければその先になるということもある。これから部会を立ち上げるというこ とですから、今の段階ではそこまでしか決まっておりません。 (貝塚会長)  西尾さんは給付費のほうの議論をやっておられますが、何かございますか。 (西尾委員)  いま浅野委員がお尋ねになったことについて特に私に見解があるわけではありません が、介護給付費分科会をやってまいりました中で、制度問題にわたる数々の論点提起が なされております。我々も給付費の問題を議論するにあたって制度のことに無関係では いられませんので、どんどん発言してくださって結構ですと申し上げましたので、数々 の論点が分科会で出ております。それの一応の整理がなされて論点集としてできてます から、部会が立ち上がれば、そこで出てきた論点、その他そこにあがってないような大 問題もありますので、それを含めて部会で議論することになるのではないかと思いま す。論点は多岐にわたってますから、早く結論を出せといわれると大変なことになるん じゃないかと思います。 (松田老健局総務課長)  補足しますと、先ほど申しましたように市町村の介護保険の事業期間は3年ごとに なっておりまして、12年から14年、15年から17年、その次は18年というふうになります が、制度の見直しを行ったとしても、市町村の実務の準備期間が必要になります。現 在、ゴールドプラン21を実施しておりますが、これも次のプランが17年からスタートす るという事情もありますので、制度見直しを早く行って、かつ、いろんな実施上の準備 期間をつくりながらいくということであれば早いにこしたことはないということです。 ただ、様々な議論がありますので、これについては今後の議論次第で進めていく、この ように考えております。 (貝塚会長)  ほかにご意見、ご質問はございませんか。それでは、部会の設置についてはご了承い ただいたということでよろしいでしょうか。  それでは次の議題2「社会保証に関する制度横断的検討」に移りたいと思います。事 務局から説明をお願いします。 (青柳参事官)  社会保障参事官の青柳でございます。資料2「家計・ライフサイクルと社会保障」に 基づいてご説明させていただきたいと存じます。  前回、2月の会議では社会保障の機能・役割、給付と負担の構造といったテーマにつ いて、ここ10年ぐらいの各種の提言、報告を検証しながら、主として国民経済との関係 などマクロの視点から現状についてご説明いたしました。  今回は主として家計あるいは個人のライフサイクルといったミクロの視点からの実態 と、一部、将来の簡単な見通しを織り交ぜてご説明させていただきたいと存じます。  まず1ページですが、今後、家計の分析を行っていく際に、家計の収支構造における 社会保障の給付・負担の関係を模式図としてお示ししたものです。  勤労所得に年金等の社会保障の現金給付を加えたものが家計にとっては収入となりま す。この中から社会保険料、直接・間接税等を負担して、その他各種の消費支出を行っ た残りが預貯金等という形で次期以降の消費にあてられるという構造になっています。  上の段にあります消費税は商品あるいはサービスの価格に転嫁される形で最終的に家 計が消費するということですから、消費支出の中に織り込んだ形で示しています。  真ん中に「社会保障給付」と点線で書かれていまして、下の収入のところには「現金 給付」、右端に別枠で「現物給付」という形にしております。これは税、保険料を財源 として現金ないしは現物給付として行うということを示したものです。  税の場合は、真ん中の右端に「他の公共サービス」という欄を設けていますが、社会 保障以外の教育その他の公共サービスの財源にもあてられるということで、そういった 関係を示しています。  税としては、このほかに法人税という形で企業が納税者になっているものがありま す。ここでは消費、支出の関係で示しがたい部分がありまして明示してありません。概 念的には製品価格に一部ないしは全部が転嫁され、家計としては価格の一部として消費 するということが実際の姿であることを付け加えさせていただきます。  2ページは、1人の人のライフサイクルでみた社会保障及び保育・教育等サービスの 給付と負担の関係を示しています。この絵は、平成11年の厚生白書の中で初めて作った ものを、その後の数字に基づいてリニューアルしたものです。13年度ベースの数字にし てありますが、直近の数字がないものは最新の数字で置き換えています。  給付面では、ライフサイクルに応じて一定の給付がありますが、特に高齢期に年金、 介護、医療という形で集中して給付を受ける。  負担面については、現役時代にそれぞれの所得等に応じて負担することになります が、従来は年齢が上がるにつれて企業の中での身分、所得も上がるという構造をとって おりましたから、この絵でも年齢に応じて所得が増大し、それにつれて負担が重くなる という形になっています。  そのほか教育関係での給付を受けますが、この絵は1人の個人に着目していますの で、5歳から20歳過ぎまでのところに大きく給付を受けることになっていますが、私ど もの生活感覚としては、教育については働き盛りの親が負担しているというのが実感で はないかと思います。  4ページは、モデル世帯でみた社会保険及び保育・教育等サービスの給付と負担につ いて図示しています。夫29歳、妻27歳で結婚、妻が28歳、31歳の時にそれぞれ出産した 場合の世帯をモデルとしています。これは最新の人口推計等の初婚年齢及び出産年齢の 平均値をベースにしています。平均的な勤労者の世帯という前提で作ったものです。  30代前半では幼児2人で、現金給付では児童手当という給付を受け、社会保険料、 税、あるいは社会サービス等を利用する場合の自己負担を負担することになります。  40代後半になると子どもは中学・高校生になり、働き盛りの年齢層ですので、負担に ついてはピークを迎える形になりますが、特に教育費の負担が重くなるのではないかと いうことで膨らんでいます。給付のほうでは雇用保険給付、例えば失業給付あるいは転 職等をするための給付を平均的には受けるという形が出てきます。  70歳になりますと子どもが育ち終わって巣立つということから、これに伴って負担が 減る。また、リタイアする方が大部分になるということから、給付のほうでは年金、医 療・介護等の給付が受けられるということです。  先ほど申しましたように13年ベースの数字を当てはめたものですので、今後、医療・ 介護の自己負担、保険料の負担が膨らむところもありますし、それに伴って給付のほう も全体として膨らむ部分が出てくるのではないかと考えられます。  これを具体的に家計調査等の実態の数字に置き換えてみて、いま申し上げましたよう な大きなパターンの変化を見てみることはできないかこいうことで、5ページから勤労 者世帯の家計の現状をお示ししてあります。  5ページでは、世帯における家計支出の状況を時系列で示しています。過去30年の データですが、社会保険料・税の負担割合は約2倍になっています。生活様式が多様化 したことを反映して、所得に占める基礎的消費の割合が低下し、交通・通信費、住宅費 の割合が増加しています。預貯金等の割合は、高度成長の時期、その後の安定成長、近 年の低成長の時期で若干のでこぼこはありますが、概ね10%前後で推移しています。  6ページは、ただいま申し上げました家計の構造を2000年時点で年齢階級別に調べた ものです。社会保険料・税の負担については、年齢階級の上昇に伴う所得の増大により 増加します。  年齢によって特徴的と思われる点は、40代で教育費が5.4 %と、他の年齢層に比べて 大きなウエイトを占めています。住宅費の負担は30代で14.9%となっていまして、ロー ンの負担などが大きくなっていると考えられます。  年齢の上昇に伴って社会保険料負担が増大しますが、50代の負担の盛りのところにつ いても平均を1.6 ポイント上回る程度で、年齢層による負担のばらつきはそれほど大き くないということが勤労世帯についてはいえるのかと考えています。  7ページは貯蓄と負債の現状を示しています。左側は過去30年の経年変化、右側は世 帯主の年齢階級別にみた状況です。貯蓄、負債とも増加しており、近年では、平均的に は概ね年収程度の純貯蓄(貯蓄−負債)を保有しているという状況です。デフレによっ て家計がいろんな形で金融資産等を保有しているからではないかという指摘もあるよう ですが、そういうことの反映ではないかと考えられます。  年齢階層ごとの貯蓄と負債の状況につきましては、定年を控えた50代の純貯蓄が大き くなっていることは当然と考えられます。子どもを養育したり住宅の負担が大変と思わ れる40代以下の年齢層においてもそれなりに純貯蓄が形成されていることがみてとれま す。  8ページからは大胆な将来見通しを計算しています。2000年までのケースは、失われ た10年を含むものの、比較的安定成長の中で家計が推移してきた時期ですが、今後、成 長率が大変低く見込まれ、かつ高齢化が急速に進んで社会保障の負担が重くなる将来に おいてどのように変化するかという点が国民の不安の原因になっているという指摘もい ただいております。  マクロの国民経済計算上これがどうなるかということは前回もお示ししまして、今さ らヨーロッパとの比較でもないじゃないかという厳しいご意見もいただきましたが、社 会保障制度の整っている欧米との比較でみた場合、それなりに日本の企業あるいは家計 全体としては負担余力があるのではないかということをマクロの数字でお示ししました ので、今度は家計でみた場合はどうなるかということを簡単にお示ししたものです。  この推計の前提になっている社会保障の給付、それを賄うための負担については、 2000年10月の「社会保障の給付と負担の見通し」では、給付費の総額、それらの内訳、 さらには国民所得(NI)との対比についてお示ししました。昨年5月、新しい人口推 計に基づいて改定作業をしました。ここでは、そこで前提とされたものを家計ベースに 置き直して計算しています。  経済前提は、右側の欄外に2002年以降の経済前提とありますように、賃金上昇率は 2007年までは1%、2008年以降は2.50%、物価上昇率は2007年までは0%、2008年以降 は1.50%と、先ほど申しました「給付と負担の将来見通し」と同じ数字を使っていま す。  基礎年金の国庫負担が2分の1になるか、それとも現行制度である3分の1になるか によって大きな違いが出てきますので、両方の推計をしています。8ページが前者、10 ページが後者の場合です。  国庫負担2分の1の場合、社会保障の給付と負担のマクロの数字で申し上げれば、国 民所得費でみて社会保障負担、つまり社会保険料の負担の総和は2000年時点では14.5% であるのに対して、改定後の2025年には25%に上昇するという数字を既にお示ししてあ ります。これを家計ベースに直すために厚生年金の保険料率、政管健保の保険料率、介 護保険の保険料率に置き直す必要があるということです。  これらを置き直したものは、今年の2月に社会保障審議会の年金部会でそういう内訳 をお示ししていますが、結果だけ申し上げると、それらを合計したものが総報酬ベース で2002年には23%程度のものが2025年には35%程度まで伸びるという数字になっていま す。  これを8ページでは2000年の家計調査の実態値のところで再掲しています。ここに置 き直さなければならないということで、単純計算して事業主と被保険者と2分の1ずつ の負担ということにしますと、10%を若干超える保険料率になりますが、2000年の実績 値は8.5 %になっています。  家計の中にはパートで就労している方の収入等が含まれていまして、そのために家計 の総収入に占める社会保険の負担割合が制度的な負担割合より小さくなるという傾向が あります。従って実績値としては8.5 %になっています。  今後、パート等について社会保障を適用した場合には家計の負担率が増えるのではな いかという見込みも成り立ちますが、ここでは現行のままそういったものが推移すると いう前提で計算しますと、家計ベースでの年金、健保、介護保険を合わせた制度的な保 険料率の見通し35%が2025年で13.5%になる。こういう関係になっています。  税については注3にありますように、直接税は賃金上昇率と同率で伸びる、消費税は 消費支出の伸び率と同率で伸びると仮定して、両方合わせたものを左から2つ目の欄で 示しています。2000年は9.6 %が2025年には9.1 %になる。消費支出自身が若干縮むこ とによって消費税のパーセンテージが縮むことが大きな要因になろうかと思いますが、 こういう形で推移することが見込まれています。  消費支出の伸びについては注の4に書いています。賃金の上昇率は先ほど申しました ような形で伸びていくと考えていますが、賃金が伸びても保険料、税等の負担が伸びて きますので、賃金の伸び率と同じ比率では消費は伸びないことになります。賃金の上昇 率から、この間の負担の伸びを毎年平均に置き直した年当たり0.2 %を引いたものを可 処分所得として、この可処分所得が伸びた時に消費がどのくらい伸びるかということを 考えました。  9ページに、いま申しました数字の過去30年間の実績を示しています。右端の欄をご 覧いただきますと、30年間の伸び率は、可処分所得は5.2 %、消費支出は4.9 %ですか ら0.3 %の違いがあります。今後、貯蓄に励まずにアメリカ型の消費重視のライフスタ イルになるんじゃないかというご指摘もあるかもしれませんが、可処分所得より消費支 出の伸びが0.3 %低いということですから、消費を少し切り詰める形で家計か行動する という大胆な前提を置いて推計しています。  この結果として、2025年の社会保険料負担、税負担はお示しした通りです。  左から3つ目の公費負担というオレンジの欄が2005年から2010年、2025年にかけて膨 らんでいます。昨年5月の「社会保障の給付と負担の見通し」の中で、基礎年金の国庫 負担を2分の1に引き上げること等に伴って国庫負担と増えざるを得ない。税について は先ほど申しましたように賃金上昇率、家計支出との関連で機械的に増えるという計算 をしましたので、足らずまいがどこかに生じてくることになります。その足らずまいを 消費税で負担するのか、所得税で負担するのか、その他の税で負担するのか。それはこ こでは前提としませんで、これだけの足らずまいが生じてきて、これをなんらかの形で 家計で負担せざるを得ないだろう。こういう前提でオレンジの欄を設けています。これ らを足し合わせたものが家計負担になるというふうに大胆に前提を置かせていただいた ところです。  8ページに戻りまして、2025年の時点でもかなり大きな負担をお願いしなければなり ませんが、家計支出と負担を差し引いた預貯金等の欄を見ていただきますと、2025年の 段階でも平均的には5.6 %程度の家計の余剰が期待できるのではないかという計算結果 になっています。  各年度の右端にオレンジ色の潜在的国民負担(財政赤字)という欄があります。赤字 国債の発行に伴って潜在的な国民負担率が増えていますが、NI比で出てきている数字 をそのまま潜在的国民負担として置いています。  推計前提の(3)に書きましたように、公費負担の国民所得に対する比率の増加分と同 率ということですので、潜在的国民負担については、2000年で2003年の予算ベースの数 字を仮定して、2005年以降は一定という前提にしています。どういう形で潜在的国民負 担を賄っていくのかということは私どもとしては判断のしようがないものですから、参 照数字ということで載せさせていただきました。  10ページは、基礎年金の国庫負担を3分の1にした場合の数字です。8ページと違う ところは、国庫負担が3分の1になると社会保険料が増えますので、その分だけ足らず まいを負担する公費負担の分が減ってくるわけですが、最終的に収支差として出てくる 預貯金等についてはほとんど違いはありません。負担の総額についても保険料でより多 く負担するか、広い意味での国庫負担、どういう形かは別にして、ここで負担するか、 この違いが表れているということをご参照いただければと存じます。  11ページは、有業人員が2人の世帯・有業人員が1人の世帯の家計支出の将来見通し です。国庫負担2分の1の場合です。  有業人員が1人の世帯の場合は全体としての社会保険・税の負担が増大することから 家計が厳しくなり、収支差としての預貯金等もかなり縮むということがみえています。 しかし潜在的国民負担の問題を抜きに考えれば、家計収支としては2025年の段階でも余 剰は生じるということが出ています。  12ページは国庫負担3分の1の場合ですので、ご参照いただきたいと思います。  13ページは年齢階層別にみた標準世帯の家計支出の現状です。子どもが2人いる標準 世帯においては今でも家計支出が苦しいのではないかというご疑念があるかと思いまし て、標準世帯、すなわち子どもが2人いる世帯で、有業者が世帯主(夫)1人だけの世 帯ということで2000年時点でみた数字です。  社会保険料・税の負担は、年齢階層の上昇に伴う所得の増大によって増加しますが、 40歳代でも標準世帯の平均を若干上回る程度ですので、年齢階層による違いはそれほど 大きくないということはいえるかと思います。  住宅費のウエイトが40代を境に軽くなる感じがみてとれます。  50歳以上では子どもが仕上がってない世代であり、大学で一番お金のかかる時期だと 思いますが、そういうことを反映して教育費が大きなウエイトになっています。結果的 に、この年齢層だけが家計支出が赤になっています。右端に−6.2 %とありますが、こ れは保険掛金ということではありませんで、黄色の基礎的消費がマイナスになるという 意味です。これは教育費の負担の反映であると私どもは考えています。  14ページは所得階級別にみた標準世帯の家計支出の現状です。所得の増大に伴って負 担が増大する傾向は当然のことですが、低所得者層では基礎的消費支出の割合が相対的 に高く、その分、教育費や住宅費が圧縮されていることがみてとれます。家計の将来の 姿を考える際に、所得階層による違い、特に支出構造の中で切り詰めることが難しい基 礎的消費が高いために、ほかのところにしわ寄せがきているということが一つの課題に なろうかと考えています。  15ページは社会保険料及び個人所得課税の実効負担率の国際比較です。横軸に収入、 縦軸に実効負担をとってお示ししています。  低所得のグループの数字をみますと、アメリカと日本では逆転している。アメリカの 場合は低所得層の実効負担率が極めて低く、400 万から450 万を境に日本のほうが実効 負担率が低くなっているという形が表れています。今の部分の除くと、日本の勤労者の 社会保険料・税の実効負担率は欧米諸国に比べると相対的に低い水準にあるということ がいえようかと思います。  16ページは家計における消費支出内訳の国際比較です。  国によって生活の形とか社会の仕組みが違いますから単純に比較することは慎重でな ければならないと思います。生活のパターンの違いをイメージできるようにということ で、17ページに各種生活指標の国際比較という数字をつけております。  16ページと比較してみる場合にポイントとなろうと思われる点は、住むという緑色の 欄では、持家率の違いと住宅費の家計に占める割合の違いとか、育てるというところで の子どもにかかわる部分と教育費の意味合いとか、家計貯蓄率の違いが最終的に消費行 動の中で収支差にどう反映しているかということが、こういうものをみていく時の一つ のポイントになろうかと思います。  そのような前提の上で特徴的なことのみ16ページで申し上げれば、アメリカについて は交通・通信費のウエイトが24.4%と高い数字になっています。国土が広くて移動する にも飛行機を頻繁に使うことが一つの理由かとみていますが、日本の2倍以上のウエイ トであることは特徴的な点かと思います。  教育費についてはスウェーデンなどは0.2 %ですが、日本は3.7 %と高く、各種指標 での社会の違いが反映されているのかなとみています。  住居・光熱については、耐用年数の長い住宅で、かつ賃貸で住むケースが多い国と、 日本のように持ち家志向が高く、日本の気候風土の中で長持ちのする住宅というのは物 理的に難しい国との間では違いがあるのかなと思っておりますが、数字の上ではここに お示ししたような形になっています。  資料2の説明は以上ですが、前回の資料の一部に誤りがありました。社会保障の関係 の雇用のところでして、先生方には訂正についてご連絡申し上げましたが、この場を借 りまして改めておわびを申し上げます。大変申し訳ございませんでした。以上です。 (貝塚会長)  ただいま説明がありましたが、多少付け加えますと、統計も推計の部分があって、推 計というのは前提に基づいて先へ伸ばしていくんですね。推計の前提が少し違うと数字 が変わるんですが、そういう性格のものが入り込んでいて、先になればなるほどそうい う要素が強くなるということです。  また、国によって制度がずいぶん違うとか、どの程度の人が共稼ぎでやってるとか、 いろんなことの違いがありまして、国際比較をやるというのはけっこう難しい。そもそ も統計の定義が同じであるかどうかという問題はありうる話で、どこかでずれてること がありうるんですが、それは目をつぶってというところがあるんじゃないかと思いま す。  社会保障の今後を考える時に、個別の家計にとって所得階層別とか年齢別によって違 いが出てくるわけですが、今後こういう感じになるのではないかということであれば、 そのままほっておけばそうなるということですので、変えるとすればどういうところが ありうるかという話とも結びつくと思います。  ご質問、ご意見をお願いしたいと思います。 (糸氏委員)  社会保障の役割というのはセーフティネットという言葉がよく使われるんですが、国 民のライフサイクルに応じた生活と生命の、国家安全みたいな生命の安全保障、健康の 安全保障という位置づけが必要かと思います。そういうことが共通の認識として前提に 議論される必要があるのではないかと思っております。  今日は貴重な資料を出していただいて、今後これは役に立つと思うんですが、本日の 配付資料をみますと、社会保障制度全体の財務状況を示すものが見当たらない。社会保 障のそれぞれの制度の損益計算書とか貸借対照表を企業会計原則に沿って作成して、そ の上で連結して、社会保障全体の財務状況がどうなっているかということを把握する必 要が議論の前提としてあるのではないかと思います。  現状の社会保障制度にかかわる会計構造、収支、財務状況、こういうものを把握した 上で、どこに問題があるかということをこの審議会で明確にし、その上で負担の問題を 討議するのが一つの筋道ではないかと思っております。そういうことで、要望ですが、 連結した財務諸表を出してほしいということです。以上です。 (貝塚会長)  もともと政府の勘定は分立しておりまして、これはなかなか難いい話ですね。ただ、 社会保障全体の見通しができればいいということは糸氏委員がおっしゃる通りだと思い ます。 (青柳参事官)  社会保障全体の給付・負担の姿というのは、社会保障・人口問題研究所で社会保障給 付費の各年度の決算ベースの数字を取りまとめるということでやっているものが我が国 の中で最も正確かつ権威のあるきちんとした数字であろうと思っております。ただし、 それは社会保険会計のように収支均等が原則になっており、その中で将来の積立金ない しは積立不足のようにストックベースでの対比が可能なものもあれば、通常の各種手当 を含む社会保障の福祉系のサービスあるいは保健・医療のサービスといったような形 で、ストックベースでの対比が不可能なものもございます。  私どもが今の時点で責任をもって全体像がお示しできるとすれば、社会保障の給付と 負担についての社会保障給付費という形で、これは国際比較もできるような形のデータ が平成12年のベースまで既に取りまとまっており、公表もしておりますので、これをな んらかの形でご説明するということは責任をもってできるかと存じますが、それを超え てストックベースの話までということになると、残念ながら手の及ばないものであると いうことでご了承いただけないかと存じます。 (貝塚会長)  社会給付費全体の推計を毎年やっておられて、それは他の国と同じ統計ベースで、国 際比較がかなり正確にできる。今年どれだけ使ったかというのは全体としてわかるんで すが、年金などの話ではそれだけでは不十分で、そういう部分はなかなか難しいという のが参事官のいわれた点じゃないかと思います。 (岩田委員)  貯蓄に関してなんですけど、8ページの見通しのところでの預貯金等というのには私 保険等の保険掛金は入ってないわけですね。 (青柳参事官)  家計支出のほうに保険掛金が入って、預貯金等のところには入っておりません。 (岩田委員)  7ページの貯蓄というところには入っているんでしょうか。 (青柳参事官)  保険掛金は入っております。 (岩田委員)  なぜこんなことを申し上げるかというと、預貯金の中でも資産的なものというかスト ックになっていく部分と流動的な金融資産とでは意味が違うと思うんですね。社会保障 の設計において社会保障の給付を基礎的なものに次第に限定していくとすれば、それは 自己努力ということで、私保険への加入等の自己努力というのがかなり求められるとい うことははっきりしているわけですから、自然に赤字・黒字になるというよりは、預貯 金の中の構造というか、消費支出のように簡単に縮小したり、やりくりが大変難しい。 取り崩してしまうと基盤そのものが違う家計構造に転化していきますので、社会保障に とっては大きな部分だと思うんですね。  こういうものを出していただいたのは大変参考になるので、そういうことを識別した ようなものをお作りいただきたい。家計の内部というのは、特に日本の場合は貯蓄率が 一般的に高いと言いますけど、その中で保険等の意味というのがだいぶ違っていまし て、社会保障そのものを基礎型にするとすれば、民間保険をどう考えるかというのは大 きな問題なので、そのへんがわかるような形の資料に、いずれで結構ですけど、修正し ていただけないかというお願いです。 (青柳参事官)  先ほどの説明でよくおわかりいただけなかったのかもしれないんですが、消費支出の 伸びをどうみるかというと、可処分所得と同じ比率で伸びるのではなくて、それよりも 小さな比率で伸びる。消費を切り詰めてでも一定の貯蓄なり余剰を残すという家計行動 を理論的にうまく説明できなかったんですが、過去30年間の動きをみると、それを前提 にせざるを得ない。いま岩田先生がおっしゃったようなことが、そういう現実を説明す るのだろうと得心しました。実際の計算をどうしていくかということになると私どもも 技術的に及ばない部分があって難しいんですが、いまのようなお話が将来予測の中にも 反映しているということを、今後、自信をもって説明できるかなと思った次第です。 (貝塚会長)  将来のセーフティネットを考える時に民間の生命保険というのが重要な要素なんです が、その部分を入れるというのは難しい問題だと思います。ただ、個人年金とかいろん な民間のものがありますから、社会保障だけじゃなくて、それ以外に自分でやってる生 活保障というか、そういうものもカウントする必要があるというのはおっしゃる通りだ と思います。数字的にどの程度うまくいくかという話はありますが。 (岩田委員)  黒字・赤字という形で流動的な預金は縮むけど、民間保険を入れることによって保障 がしっかりするというのは国民としても納得がいくかもしれない。しかし、その保障は 一定の自己努力と抱き合わせということですから、その支出は削れないということにな りますよね。先ほど50歳の年齢モデルがありましたけど、あれが赤字になる時に、その へんはどういう意味をもつのか。特に高齢期の年金型の保険等を考えますと大きな問題 になるかと思います。掛け捨て型とか貯蓄型の保険とかいろいろありますので、ややこ しいとは思いますが。  もう1点は、今回、年齢別及び階層別の13、14ページのような細かい表を作っていた だいたのは大変ありがたいと思いましたが、標準世帯で年齢別というふうにするんじゃ なくて、こういう標準世代はどの年齢を代表するのかというふうに考えていただいたほ うが現実的なのではないか。40代、50代になると世帯主1人だけが働いてというのはむ しろイレギュラーな感じがしますし、20代、30代ですと子どもが2人もいないだろうと か、家計調査自体の限界ですから難しいんですが、増え続けている単身世帯をどう考え るか。さっきの70歳の無職2人世帯でも、2人のモデルの次は1人がくるんですね。一 緒に死ぬことはまれですので、必ず1人になってしまう。その時にどうするかというの が大きいわけです。  14ページの所得階層別にみた家計支出でも、所得自体を家族構成や人数でどういうふ うに調整するかということを本当はしなければいけないんですが、それを無視したとし ても、低所得階級は一般的には世帯人員が小さい傾向にあります。その所得階級を代表 する世帯の標準のありようというか、標準ではなくて、複数モデルを作らないと…。こ れは家計調査では難しいというのは私も承知しております。  今度、全国消費実態調査も出るんでしょうか。ちょっと前になりますけど、横断的な 調査件数の多いものですと、高齢期だけでなくて2人世帯も多いわけですから、4人世 帯モデルというのは私の個人的な意見ですけど、もうやめたほうがいいんじゃないかと さえ思うんですね。平均値というのはモデルではなくて平均でしかありません。所得格 差が本当に開いてるとすると、平均というのはその間ですから、なんの現実も反映しな いことになります。こちらの責任というよりは統計上の問題だと思いますけど、何か ちょっと工夫をして、より現実感覚に近い形で出した上で、納得のいくような改革が大 事ではないかと思いますので、よろしくお願いいたします。 (貝塚会長)  標準世帯というのは確かに問題になってるんですね。税制調査会でも何をもって標準 世帯とするのか。廣松委員と阿藤委員と統計の専門の方がおられますので、コメントを お願いできればと思います。 (阿藤委員)  4ページのモデル世帯、30代前半、40代後半とありますが、30代前半の男性の未婚率 は4割を超える。非常に多くが独身ですから単身世帯なんですね。30代前半で子ども2 人の平均的な勤労者世帯というのは、その残りの中の部分ということになります。70年 代半ば以前と以降で人口動態なり世代動態なりが大きく変化して、それ以前であれば、 同じような年齢で大部分の人が結婚するし、本当にパターン化されていたんですね。そ の後、そのパターンが崩れてきておりまして、平均値をとっても分散が非常に大きく なってる。それだけ人々のライフスタイルが多様化していて、その結果が世帯構造に反 映されるということで、何が標準世帯かというのは難しくなってるという現実があるわ けです。これからますますそれが進んでいくんですが、どうするかというと、それに即 応したデータが追いついてない。特に経済的なデータが追いついてないという問題があ るので、理想的な解決策は難しいかなと個人的にも思います。  もう一つ難しいことを付け加えれば、クロスセクショナルなライフサイクルという か、そういう変化をパッと見て、今の世代も将来の世代も同じような過ごし方をするの かというと、これも非常に怪しい。社会保障の問題を考える時には、コーホートの世代 による違いも大きいわけです。そういうことまで考えていかないと、給付と負担といっ ても世代によって違うんだという議論がいつも出てくるので、そういうこともデータで どこまで詰められるかということをやる必要がある。そういうことも理想論としては考 えられるんですが、こういうところですぐにデータが出てくるかというと、それは実際 には難しいので、研究所あるいはデータを作る側がどれだけ努力できるか、そういうこ とを要求していくことがますます必要になっているのではないかと思っています。 (廣松委員)  まず統計調査に基づくデータのほうから申し上げますと、この資料は家計調査に基づ いて作っていただいてます。家計調査の利用として当を得たものだと思うんですが、家 計調査にはいくつか限界があります。まず1つは、現在は単身世帯も含めた8,800 世帯 を調査しておりますが、そのうち単身世帯は800 だけです。従って家計調査の本体は勤 労世帯です。その点は残念ながらデータの制約といわざるを得ない。単身世帯に関して は若年層と高年齢層では家計の状況がかなり違うと思うんですが、そこまで分けると データとしての信頼性の確保が難しいという限界があります。  2つ目は、家計調査は資産に関しては調査はしておりません。資産に関しては全国消 費実態調査が家計調査よりも大きなサンプルに基づいて調査しておりますが、これは5 年ごとです。直近のデータは平成11年の調査で、次回は16年に調査を予定しています。 5年というタイムスパンを長いと考えるか短いと考えるか評価が分かれると思います。 一つの考え方として、資産というのは比較的安定してるから、平成11年のデータで現状 を示することも可能だろうと思います。  2番目の大きな点として統計技術的な話があります。ここでは標準世帯とか平均とい う考え方が用いられてるわけですが、収入とか支出のデータに関しては分布は右に裾を 引くと言いまして、ごく少数、高額の所得があり支出をしている世帯ないし個人がいま す。平均をとると、そちらに引っ張られます。従って、1世帯の平均所得とか平均支出 額というと、大抵の方が多すぎるという感覚を持ちます。それは当然のことです。最近 では平均と同時にメディアンと言いますが、上から50%、下から50%の数値を出す。そ れにもう少しデータを付け加えた四分位数と言いますが、3点を求めることが多くなり つつあります。そして、統計の用語では箱ひげ図、英語ではボックス・ウイスカー・ダ イアグラムといってますが、そういう表示の仕方をする場合もあります。  今回は基礎的な情報として平均値を出していただいたわけですが、もう少し細かい分 析をするという意味ではメディンとか箱ひげ図といった情報を提供することも考えられ ると思います。  現在、政府が行う統計調査というのは、その時点の日本の社会を代表するサンプルを 選んで調査をするというのが基本です。それは、例えていうとスナップ写真なわけで、 それを何枚か重ねていくと社会の動きが読みとれるんですが、その時写真に写ってる人 の顔は全部違います。1人の人のライフスタイルはどうかというような、個人のパーソ ナルヒストリーを見るというのは、今の政府が行っている調査の中にはありません。た だし、厚生労働省が一昨年から縦断調査という名前で、生まれたばかりの赤ん坊と、そ の時点で20歳から34歳の世代に関する調査が始まりました。しかし、そのデータを50年 分蓄積するには50年かかります。我々は生きてるかどうかわからない大変長期なものな わけです。ここにあるようなライフサイクルでみた時の動きを知るにはこのように長期 のデータの蓄積が必要なわけです。それをなんとかこれからやっていく必要があると思 います。  もう1点、前回も気がついた点で、申し上げておきたいと思ったのは、今日の資料で は17ページのところでジニー係数というのが平等度を表す指標として用いられます。こ れが小さいほど平等度が高い、不平等度が小さいと読めるんですが、その前提として ローレンツ曲線というものがありまして、本当はその曲線の形状のほうが問題であっ て、たとえジニー係数が同じであっても、各階層ごとの累積値を求めたローレンツ曲線 の形が違うと意味は異なります。前回、マクロ的な観点からおまとめいただいた時にも ジニー係数がよく出てきたんですが、今申し上げた点はこの係数を読む時に注意を要す ると思います。  最後にもう1点、家計の支出の議論において、現時点で問題になっていますのは、典 型的には16ページとか13ページの50歳代のところで赤が出ているという時の支出の細分 です。ここでお示しいただいたのは極めてオーソドックスな細分割の仕方で、50歳代で 赤字になるのは教育費の割合が大きいという指摘がありましたが、問題は青いところ、 その他の消費支出というところです。これは一番くせ者でして、雑費という言い方をす ることもありますが、最近、雑費の動きが悩ましい。今まではここにあるような代表的 な支出の品目で議論ができたんですが、その他の消費支出というのは典型的にはサラリ ーマンが昼食をとるとか本を買うというのものですが、それらが区別できないまま、そ の他の雑費に含まれている可能性があります。  13ページの場合、50歳代のところでみますと、青い部分が大きなウエイトを占めてい ます。もちろん、教育費もそうなんですが、こういう支出を細分化した議論の時に、そ の他というのは具体的に何かというのを細かくみる必要があると思います。 (貝塚会長)  どの所得階層の人が一番多いかというと、平均より低いところが多くて、その先は ずっとなだらかに、すごいお金持ちまで入ってまして、平均でとっちゃうと、我々が社 会で観察している人の所得は平均より低いんですね。新聞に家計調査が出てくると、平 均は高すぎるんじゃないか、生活の実感に合わないんじゃないかというんですが、統計 がそうなっちゃってるんで、世の中で議論する時には平均よりも実際に社会で観察され る頻度の多いところを皆さん議論されてる場合が多い。ということで、統計の問題は複 雑だと思います。 (京極委員)  3点申し上げたいと思います。1つは、大変貴重なデータで、今後いろいろ検討する のに役立つデータを作っていただきましてありがとうございました。ただ、予測の場 合、長期の場合に25年となりますと、2008年から賃金上昇率、物価上昇率を仮定でやっ てますけど、そういう変動はおいといて、とりあえず予想するのが通常のやり方ではな いかと思うんです。長期予測の場合、そういう要素をいろいろ入れちゃうと、何年で切 るかという細かい問題なんで、そういうものがあったら変化させるということにしたほ うがいいのではないかと思います。  2番目は大ざっぱなことなんですが、社会保障全体として発展していきますと、国際 的にみても預貯金とか私的保険は若干抑えぎみになるということがいえるわけです。ス ウェーデンなんかみますと預貯金や私的保険はない。アメリカはかなり私的保険があっ て、税制上の減税措置がありますから、半分は社会保障に近い、半分は私的であるとい うヌエ的な性格をもっています。日本の場合はこれまで預貯金ということでやってきま したけど、これから25年を予測すると、そういうパターンが変わってくるのではない か。そのあたりをどう読み込むか。日本人の性向として変わるものと変わらないものと ありますけど、社会保障が進展していく中で、介護保険が一番いい例で、介護のために お金をためる人が少なくなった。そういうことを視野に入れて将来を見通す必要がある のではないかと思います。  可処分所得というと税と社会保険料を引いたものというんだけど、実際には老後に備 えてお金をためるとか、私的保険をかけるとか、そういうのを除くと、実質的な消費支 出が抑えられてる。近年は消費者金融が発達してきて、一時的にはたくさん物を買うか ら購買力が増すんですが、金利のしわ寄せによって、長い目でみると消費水準を落とし ているような気がします。そんなことをいろいろ考えてみる必要があるのではないかと 思います。  廣松先生が委員長をやっておられる統計分科会で申し上げたんですが、国際比較をす る時に、我が国だけは省がまたがってるために社会保障統計が一発でみられないんです ね。アメリカの学者が日本人は隠してるんじゃないかというんですが、隠してるんじゃ なくて縦割りになってるものですから、労働省の統計と厚生省の統計が一緒にならない とか、そういうことが非常にあります。社会保障ブリテンというか、特に社会保障・人 口問題研究所にお願いしたいと思ってるんですが、そういうものを作って、それと外国 と比較して、向こうの方も日本の数字を使いながら分析したり、お互いに国際交流をし たり、そういうことをやる時代ではないかと思ってまして、せっかく厚生労働省になり ましたので、そのへんのご努力が必要ではないかと思っております。 (貝塚会長)  かつての労働省が扱っていたデータは同時に使ってやっっておられて、実質的には雇 用保険が一番多いんですかね。 (高木委員)  2ページの図はライフサイクルでみたということなんですが、意図してこういう図を 作られたのか。保育所・幼稚園費用負担、学校教育費の保護者負担、このへんは、上の ほうの給付を受けるのは自分だったとしたら、下のほうは親の負担ですよね。下の負担 部分だけを25歳か30歳に移動させたら、このへんの世代の負担はかなり高い。いま子育 て支援の問題が議論になってますので、今後議論すべき主な論点(案)というペーパー があったと思いますが、社会保障改革の基本的視点という項の2番目の○のあたりに、 せめて子育て支援とか子育てとか、そんなことも検討しますぐらいのことが入ってない といかんのではないか。  とにかくこの絵は終始一貫しない絵であって、特に子育てということで、少子化とい う言葉がいいのかどうかわかりませんが、そういう観点からみると、そんな気がしま す。  先ほど糸氏さんからお話がありましたが、社会保障をトータルでみた時に将来どう考 えるのかということを一つの大きな論点にしなさいというお話だろうと思うんです。社 会保障の仕組みで、長期的にバランスをとる仕組みと、短期間にバランスをとっていけ る仕組みが混在してますけど、連結貸借対照表ぐらいのことは社会保障トータルでやり 得るのではないか。費用のブレークダウンをどうするかとか、若干整理をしなきゃいか んところがあるかもしれませんが、いま我々に求められているのは、連結して損益計算 書までという概念がなじむかは別として、少なくとも貸借対照表の世界はいっぺんみて おかなくてはいかんのじゃないか。会長はそちらのほうもご専門だと思いますが、お知 恵を出していただいて、そんな作業をしてもらえないか。雇用保険の世界も入れて、 トータルでみていただきたい。これはお願いです。 (貝塚会長)  経済財政諮問会議のある学者の委員から、社会保障に関して全体の個人勘定的なもの を作ったらどうかという提案があります。それと似ていると思います。 (高木委員)  個人勘定も意義があるかもしれませんが、トータルの日本社会保障株式会社という発 想でみる。 (貝塚会長)  今の点、事務局はいかがですか。 (青柳参事官)  高木委員が最初におっしゃった件は、私の説明が不足だったかもしれませんが、2ペ ージは1人の人間ということでみた時に給付と負担の関係を一生の中に置いてみようと いう関係で、教育費等については親が負担してるのに、時期としては教育期間の裏返し になるという意味で、ここに書かれているというのはご指摘の通りです。そういうこと もあって、4ページのように世帯に置き直してみて、それを輪切りにした時に、今度は 世帯という目でみた時にどうかというものが必要かなということで用意したつもりで す。ご指摘はもっともですし、私どもも問題意識としてはご指摘の通りと思っておりま す。2つのものは決して同じものをいってるのではなくて、足らざる部分を補うために 2ページと4ページと両方資料を作ったというふうにご理解いただきたいと思います。  今後論議すべき主な論点(案)についてご指摘のあった点は、この後で先生方にご相 談しようと思っている点のフライングぎみのご発言でしたので、その点は後ほどきちん とご議論いただければと思っております。  最後に出てまいりました問題は、先ほど糸氏先生からもご指摘いただいた点ですが、 難しい点はいくつかあると思います。社会保険のように収支相応のという原則が一応あ るがために、それなりの貸借関係なりが示しやすいものと、社会福祉、保健・医療サー ビスのように1対1対応をしてないがために示しがたいものと性格の違いがあるという ことが一つポンイントとしてあるだろうと思います。  社会保険の部分についても、将来の保険料の負担ひとつとっても、どういう形でどの くらい、いつ負担していただけるかということを各時代で合意形成をしなが段階的に決 めなくてはいけないものについては、将来的に給付をカットすることを国民にお選びい ただくような可能性を切ることができないとするなら、将来の分も含めた部分を貸し方 なり借り方に載せるというのが適切な判断かどうかという問題もあるかと思います。大 きな制約を置きながら限定的に、年金のように現在お約束している給付をお出しすると したら、どのくらいの財源が必要であり、それについて積立金はこの程度ある、保険料 についてはここまではお約束いただけてるということが、前提さえ置けば計算できるも のと、そういうことが難しい経費があると思います。現時点ではイメージとしてはご指 摘いただいた点はボヤッとは浮かぶのですが、実際に計算してみろといわれると胸を 張ってお答えできないというのが現状でございます。申し訳ありません。 (貝塚会長)  貸借対照表は負債の部分があって、年金の例でいえば、将来支払わなくてはいかん部 分があって、現在どのくらい資産として積み立ててるか。推計値を置いて将来を計算し て、年金部会も2つか3つのケースを出してますね。ここに出されてるのも細かくいえ ば、それぞれの推計が違えばこういうケースはこうなりますよということをいえばいい んですけど、計算量が大変になってきます。もともとの前提がちょっと違えば数字とい うのは違ってくる可能性があるので、そのへんのチェックも必要だというのはその通り だと思います。 (高木委員)  計算なんかコンピュータがすぐやってくれるわけです。キャッシュフローがとれてる 制度がどうだとか、そんなことはいってないわけで、ともかく実態はどうなってるかと いうのを、ある一時点の静態的なものかもしれませんけど、それを前提を置いて仕分け たら作れるんじゃないかということです。 (中村委員)  今の話を聞いておりますと、いつかの時点で社会保障の給付と負担の部分で国民は何 を望んでいるかという集約が必要ではないでしょうかね。 (貝塚会長)  今までもアンケート調査ないし、ある種のそういう調査をされたんですが、最近はど うでしょうか。内閣府でやってることもあるんでしょうね。 (青柳参事官)  有識者検討会の前後だったかと記憶しておりますが、社会保障についての不満なり不 安なりについてアンケート調査して、社会保障についてはどういうところが問題だと国 民が考えているかという大規模なアンケート調査をしたことがあります。それを整理し て、お示しできるだろうと思いますが、新しい調査を大々的にやるというのは当分は予 定しておりません。 (清家委員)  先ほど来議論が出ておりますように、こういう推計というのは一定を前提を置いて、 その前提のもとで一生懸命推計されたなと思いますが、前提について申し上げると、社 会保険料とか税の負担についての大前提というのは社会保障給付を含めた社会的支出が どうなっていくかというものがあって負担が出てくるわけです。年金などは制度を一定 のものとすれば、給付がいくら出ていくかというのは人口構造の変化と掛け合わせて出 てくるわけです。  阿藤委員の社人研でとてもいい研究が進んでるんですが、ネットの社会支出について の国際比較の研究をやられてまして、成果が出てきています。資料の最後に出てきた日 本で負担が低いというのはネットの社会的支出が少ないことを示してもいるわけです が、大きな理由が失業給付と生活扶助のところなんですね。特に国際比較でみた場合 は。失業給付については、これから労働市場がどうなっていくかというところに大きく かかってきますので、もし構造的な失業率が高まってきてヨーロッパ型の労働市場構造 になると、そこのところで社会的支出が増えてきますので、負担のところも変わってく るかと思います。生活扶助についても複合世帯が生活扶助を少なくしているという指摘 もありますので、単身者世帯が増えてくるような形になると、そこのところも増えてく る可能性はあると思います。これからの労働市場をどうみるかということと生活構造、 特に世帯間の扶助の在り方をどうみるかということで、だいぶ変わってくるのではない かという気がします。もちろん、今の前提のもとでの試算はこれでいいと思いますが。 (翁委員)  3点あるんですが、1点目は何人かの先生がご指摘になられた点で、消費と貯蓄の貯 蓄の選択に関しては皆さんおっしゃる通り、貯蓄の動機というのは社会保障の制度その ものにも相当影響を受けますし、一概に消費をマイナスすることによって出てくるとい うものではないと思います。金融中央広報委員会という組織が、毎年、貯蓄動機がどの ように推移しているかというアンケート調査をしていまして、老後の不安とかそういっ たものがどういうふうに動いてきているかというのが、いろいろなものを調べていく上 で参考になるのではないかと思います。  2点目も多くの先生がご指摘になった点ですが、最近は規制緩和が進んで、変額年金 保険とか医療保険など、公的医療保険とか公的年金を代替する民間のいろんな金融商品 が出てきていることも事実です。こういう代替的手段がどの程度用意されつつあるのか ということをきちんと把握しておくことは意味があるのではないかと思います。家計調 査ベースでは有価証券とか預貯金だけなっていますが、様々な新しい商品が出てきた時 に、これをどう考えていくのかということがあると思います。  また、生保とか経営状態が悪くて、そういうところに公的資金が投入されており、公 的な保障が必ずしも直接的でなく国民の生活を維持するために間接的に使われていると いう面もありまして、そういうことも考慮しておく必要があると思います。  3点目は、連結の貸借対照表というのは国ベースでは試算が出されていて、数年前か ら国全体の貸借対照表を出しています。900 兆円ぐらい負債があって、一般会計の国債 の部分が圧倒的です。年金は3段階ぐらいの前提を置いて、いくつかのケースがあるん ですが、貸借対照表という形にすると圧倒的に年金の負債というのが社会保障の部分で はきいてくるということだと思います。国全体でのレベルとしてはいくつかの試算が出 てきてますが、そういうのを材料に議論するということもあると思います。 (岸本委員)  先ほどから預貯金と民間の生命保険のことが出ていますが、もう一つ住宅を付け加え たいというのが私の実感です。私は単身者ですので、私にとっての住宅費というのは将 来の介護原資というか、住んでいる自治体の福祉公社の介護を受けるための原資という 認識で、どちらかというと生命保険に近いものなんですね。住宅を購入する動機という のも1970年ぐらいまでと現在とではだいぶ違っているのではないかと思います。少し前 までは子どもに残したいという思いがあって、今はそれがパラサイトシングルの温床に なって、社会的な富の再分配がうまくいかないみたいなことになってるかと思います。 いま買いつつある人というのは、もう少し流動的なものとして、国の社会保障のベース には乗らないものですけど、私的あるいは市町村ぐらいの半公の保障を受ける原資とし て考えているのではないかと思います。  これはこうした統計には出にくいことで、統計に反映してくださいということではな いんですけど、1ページの表の社会保障のもとのお金になるであろう社会保険料、直接 税というところばかりをにらんでいても増やす方法は限られているので、個人ベースと しては家計内の内訳を分けてとらえております。以上です。 (貝塚会長)  先ほど翁委員がいわれた日本銀行の貯蓄に関する調査があって、それはずいぶん前か らやってましたし、変わりつつあることは間違いないと思います。住宅というのは我々 の世代にとっては大変な目標だったんですが、今の世代にとってはかなり違ってきてい ると思います。 (北村委員)  2025年になると人口の4分の1程度が年金を取る側に移動してますよね。平均年齢も 1歳ほど上がっているかもしれない。いまご説明いただいた個人あるいは世帯の社会保 障に対する支払額が少しずつ増加していってる。このレベルまで増加させれば現在の社 会保障レベルは維持できるという計算でご説明いただいたんですか。それとも赤字国債 等を現状のまま発行し続けて維持できるということなのでしょうか。 (青柳参事官)  8ページで申し上げると、その段階で国全体がどうなってるかということは全く判断 しておりません。潜在的国民負担は今のまま維持されるということで11%というのを外 枠に置いてますが、そこは判断しておりません。13.5の保険料率、9.1 の税負担以外に 4.9 %をなんらかの形で国民に負担していたく部分が賄えるとすれば、基礎年金の国庫 負担は2の1にして、現行の年金、医療、介護の制度は維持できる。こういうことで計 算したものでして、そのベースは昨年5月に、これはマクロの数字で出しましたけど、 社会保障の給付と負担の見通しと平仄を合わせたものです。  今後の議論としては、給付の効率化を図ることによって負担を抑制すべきであるとい う議論や、足らずまいの必要な財源はなんらかの形で確保することに向かう議論になる のか、国の財政赤字全体のことを考えて社会保障もふるまえというご指摘をいただくの か、そこは私どもは現時点では全く判断しておりません。 (貝塚会長)  国の赤字全体が現在の国債発行でやっていって、そのまま発散しちゃうというのはバ ンクラプトなんですが、サステナブルというのは、あるところで持続できていればなん とかなるでしょうというのが財政の将来の話です。年金についても制度が持続できます かというのが前からの重要な条件なんですね。元来、お役所の方は持続可能であるとい うことを前提にして、その前提が満たされてる中で選んでるはずなんですね。経済学者 にとってこの問題は簡単なものではないということだけ申し上げておきます。 (岩男委員)  推計は前提を置いて、それに基づいてするというお話があったんですが、8ページの 推計にしても10ページにしても、2002年以降の経済前提ということで、賃金上昇率が 2008年以降2.5 %と高率になっていささか驚いています。どういう前提を置くにして も、説得力があるというか、こんなところかなと納得させるようなものを使わないとい けないと思うんですが、こんなに増えると思っていて大丈夫なんでしょうか。 (清家委員)  生産性の伸びと労働の需給バランスと両方の前提を置かないと出てこないと思いま す。何%が妥当かというのは難しいと思いますけど、2.5 %は少し高めの前提かなとは 思います。高木委員が頑張れば、また別の話になるでしょうけど。 (岩男委員)  最近、預貯金に対する行動がかなり変わってると思うんですね。高金利時代は貯金す る楽しみがありましたけど、今のようにほとんど金利がつかないような時に、お金はど こにいくんだろうか。たんす預金などというものはつかまえどころがなくて、そういう ものも勘案しながら調査するというのは難しいかもしれませんけど、より現実に近づけ ないといけないんじゃないかと思いました。 (貝塚会長)  その問題は複雑でして、ペイオフの話の時にガタガタしましたけど、ペイオフは延期 しましたので、皆さんじっと…。その問題は潜在的には後ろに隠れてますね。預貯金だ けで十分か、金融資産で十分かという問題のほかに、これは非常に難しい問題ですね。 アメリカに貸すかという話もあるんですけど、これまた非常に難しい。 (高木委員)  賃金というのはどういう意味で定義されているのか。失業率等も含めたマクトの賃金 というとらえ方なのか。物価上昇率が2007年までゼロで、あと3年、4年はデフレが続 く。2008年から1.5 %ぐらい、これがインフレといえるのかどうかわかりませんが、イ ンフレターゲット論をいわれる人たちはこのへんの数字をいわれたりする。いろんな因 子がどういうふうになっていくかによって違ってくるんですね。  国税庁が毎年お出しになる丸々の収入に対する課税の統計をみてみますと、私ともの 組合員の平均賃金は500 万いってないんです。標準というか、どこにでもいる労働者の 家計をみると、かなり傷んできています。一方では企業がどうのこうのという話がいろ いろありますから、そのバランスで、今年のような交渉をやらせてもらっておる。だけ ど傷みがひどくなったら、そんなことばかりいってられないというのも近い将来またき そうな気もします。今日は奥田さんがおられんから論争するわけにもいきませんが。こ んな数字もあり得るかもしれんし、その時になってみないとわからんということかもし れません。 (廣松委員)  6ページのところに「15.7%を1.6 %上回る」と書いてありますが、最近はこういう 場合1.6 ポイント上回る、あるいは1.6パーセントポイント上回るという言い方をしま す。といいますのは、このままですと、15.7%の1.6 %、すなわち約0.25%というふう に誤解されることもあるので、1.6 ポイントとかパーセントポイントという書き方をす ることが多くなっていますので、そのほうがいいのではないかと思います。 (貝塚会長)  いろいろなご意見が出て、事務局としては今後考えて資料を作らなくてはいけない問 題が多いと思います。  次回以降、どのように議論を進めていくかということですが、今後の進め方について 項目を考えておられますので、お願いします。 (青柳参事官)  会長からお話がございましたように、昨年来3回にわたってご議論いただいた内容を 踏まえ、事務局において「今後議論すべき主な論点(案)」を整理しましたので、資料 を配付させていただき、ご説明させていただきます。  これまでは方向性とか判断をさしはさまずに、事実に基づいてご自由にご議論いただ きたいということで進めてきましたが、次回からは新しい年度に入りますし、ここでの 議論を具体的な施策に反映させるということで考えますと、今年の夏の概算要求をにら んで議論を進めていることが必要ではないかと感じております。  これまで事務方から資料説明の中で問題提起をさせていただいた点、その際に委員か らいただいた意見と合わせて、4月以降にこういう点についてご議論いただきたいと考 えている問題などをとりまぜて整理をしてお示ししたものです。ほかにも論ずべき点が あろうかと存じますので、ご指摘いただきたいと存じます。  3枚目に別紙として、これまで指摘のあった各制度に係る個別の論点ということで3 点ほど整理をさせていただきましたが、これまでいただいた意見を整理したものです。 今後もこういう点を意識しながらご議論いただく必要があろうかと存じますが、制度横 断的な議論をお願いするという趣旨からしまして、別に整理をしたほうがいいかなとい うことで別紙という形で整理したものです。  案の中身を簡単に説明させていただきます。  まず社会保障改革の基本的視点として2つあげております。  1点目は、急速な人口変動や社会経済の変動の中で、社会保障制度が今後とも果たす べき機能・役割は何か。それを維持可能なものとするための給付と負担のバランスをど のように考えるか。これにつきましては、前回、セーフティネットについてご説明させ ていただいたり、近年10年間ぐらいの各種の提言、報告についてご紹介させていただ き、材料を提供させていただいたつもりです。また、社会保障が経済活動にどういう貢 献をしているかということも資料をご説明させていただいたところです。  2点目は、年金、医療、介護などの給付と負担について、家計やライフサイクルと いった点からとのように考えるか。これにつきましては今回いろんなご説明をさせてい ただきましたが、これまでも全体をパッケージで議論すべきじゃないかということで岩 田委員から、負担はトータルで考えるべきだということで糸氏委員からご指摘をいただ きました。年金を中心に医療、介護の機能を全体として考えるべきというご指摘は貝塚 会長、翁委員からいただきました。  給付の在り方について4点、整理をさせていただいております。  1点目の問題は基本的視点ともかかわるところですが、社会保障が果たしているセー フティネットとしての役割、負担の維持可能性・公平性等を踏まえた給付の範囲、水準 などについて次回に資料を用意してご議論いただければと考えております。  2点目は、急激な人口変動を踏まえ、世代間の給付のバランスという観点から、給付 構造の在り方をどう考えるか。この点については前回までに岩田委員、翁委員からご指 摘いただきましたが、次回にまとめてご議論いただければと考えております。  3点目は、社会保障の総合化という観点から給付の効率化や相互関係についてどのよ うに考えるか。これも次回にご議論いただきたいと存じます。前回、樋口委員から、子 どもに関する問題を社会保障の中に位置づける視点が必要ではないか。先ほど高木委員 からも同様な趣旨のご指摘をいただいかと思いますが、それは社会保障の総合化という 観点の中で相互の制度をどう考えるかという問題意識で私どもは念頭に置いてるつもり でございます。  4点目は、多様な働き方への対応など、社会保障給付と雇用との関係についてどのよ うに考えるか。これまで岩田委員、高木委員、京極委員、長谷川委員からご指摘をいた だいておりますので、これも併せて次回にご議論いただければと考えております。  2ページの負担の在り方につきましては、1点目は、経済・財政とのバランス、世代 間の公平性の確保等の観点を踏またマクロベース及び家計ベースでみた今後の社会保障 負担の在り方についてどのように考えるかということですが、これは5月の会でご議論 いただければと考えております。  2点目の社会保障費用を賄うための利用者負担、保険料負担と税負担の適切な組み合 わせについては、給付と負担をパッケージで議論すべきだということで、前回、奥田委 員、岩田委員、星野委員からご意見をいただいておりますので、これも5月の会でご議 論いただければと考えております。  3点目は、低所得者・高所得者の負担の在り方についてどのように考えるか。本日も ご意見がありましたが、これまでも岩田委員、糸氏委員、樋口委員からご意見をいただ いておりますので、これも5月にご議論いただければと考えております。  その他として、教育、住宅など、他の関連分野との施策の連携についてどのように考 えるか。本日も家計ベースのデータをお示ししましたが、これまでも奥田委員から教育 との関係についてご指摘いただきましたし、本日は岸本委員から住宅との関係について ご指摘をいただいたものを踏まえて、5月以降にご議論いただければと思っておりま す。以上、事務局としての考えを申し述べました。 (貝塚会長)  ただいま事務局から説明していただきました論点について、ほかにどういう論点があ るかとか、お気づきの点がありましたらご発言をお願いいたします。 (阿藤委員)  給付の在り方の3点目で子どもの話に触れられはしたんですが、先ほど中村委員から コメントがありましたように、社会保障制度を支えるのは現役の世代で、そのもとにな るのは子どもなわけです。それが少子化ということで危機に瀕している。ひいては社会 保障制度の長長期的な制度維持の根幹にかかわってくるのではないか。  基本的視点の1点目で「急激な人口変動の中で」と、人口変動を前提として書かれて いるわけですね。2点目には「年金、医療、介護など」と、そこでも子ども、家族のこ とが出てこないというのは基本的な視点を欠いてるのではないか。これは論点ですか ら、そのへんは十分に留意して議論をしていただきたいと思います。 (貝塚会長)  家族政策の問題は基本的に重要なポイントであって、それを前面に出すべきではない かということですが、基本的な論点だと思いますので、事務局でもお考えください。 (岩田委員)  社会保障というと日本の場合は社会保険だけが取り上げられてきたんですが、保険と 扶助と手当の組み合わが大事だと思います。手当というとあいまいですが、阿藤先生の ご意見との関連でいえば、児童手当、公的扶助制度、生活保護制度、保険の中では失業 保険、雇用保険、これを文言として出す。医療とか年金とか分野ごとの社会保険論とい うのが中心になってしまいがちなんですが、総合的に考える場合には方法論の違いを踏 まえて、それをどう組み合わせていくか。社会保険が中心であっても、それだけではい かないわけですから、社会保障という意味があるとすれば、文言としてそれを置いてい ただければと思います。 (渡辺委員)  社会保障を横断的に考える時に、社会保障の中に潜む矛盾というとオーバーだけど、 その一例として、子どもが多く生まれれば生まれるほど老人への拠出金が増えるといっ た仕組みになってますね。社会保障の中に、そういったある意味の矛盾がある。以前、 そういったものについて議論したいと申し上げたんですが、それが入ってないようです ので、できれば入れていただきたいと思います。 (浅野委員)  めちゃくちゃ難しい問題なんですが、現実性を帯びてきた外国人労働者、難民の問題 です。人口構造の問題に関連しますが、若年労働者がいなくなって日本の社会そのもの がもつのか。好むと好まざるにかかわらず、社会の仕組みとして外国人労働者を入れざ るを得ないということがあるのではないか。  イラク、北朝鮮からの難民を日本は受け入れないということはないと思いますけど、 社会保障が大変になるから受け入れないというのも少しはあるかもしれません。これは 議論するつもりはありませんが、将来を考える際に外国人の問題は避けて通れないので はないかということが一つ。  これは各論で入ってくると思うんですが、人口の対応として、女性、障害者、高齢者 ということです。各論だから中身はあまり言いませんが、女性は必ず出てくると思いま す。専業主婦をどう扱うか、年金のところでも目の前で問題になってますが。障害者に ついても、例えば障害年金の資格要件の問題で、全盲だったら1級とか、社会保障の考 え方としておかしいですね。稼得能力を失ったから年金をもらうのであって、目が見え なくなったから年金をもらうのではない。昔からある議論ですが、これは各論になると 思います。  我が国の社会福祉の中だと思いますけど、高齢者イコール低所得者というのがまだ払 拭されてないということがあって、このへんをどう考えるか。各論だと思いますので、 どこかに入れられると思うので、あまり強くは言いませんが、外国人の問題は明示的に 入れておかないといけないんじゃないかと思います。 (貝塚会長)  私は個人的には浅野委員と全く同意見です。前回の有識者会議では外国人労働者の話 は避けて通ったんですが、もはや避けて通ることはできない時代に入ったわけですか ら、どこかで議論して、賛否両論をきっちりとまとめる必要がありますね。どうするか という結論は別としても。 (糸氏委員)  論点ではありませんが、私どもの資料を出しております。1点は、いま問題になって いる医療制度改革の方向性、診療報酬の問題ですが、次回あるいはその次の時に参考に なるかと思います。高齢者医療制度については今月いっぱいに厚生労働省がお出しにな るということですが、これに対する考え方、保険者の統合・再編の道筋について、お暇 な時に目を通していただければ結構かと思います。  いま問題になっております次回からの論点ですが、社会保険からスタートして、保険 では律しきれないで、社会保障としてとらえざるを得ない部分があります。高齢者なん かそうなんですが、こういう問題をしっかり掘り下げて、先ほど申しましたように現実 的に財政面でそれがプラス・マイナスどうなっているか。一方で政策面で国の政策とし て社会保障として、国家安全保障みたいな形で人の命の安全を国が責任をもってどう やって守るかという問題まで突っ込んで話をすべきところまできているのではないか。 これからの不安定な経済・社会の前途を考える時に、その時その時に右へいったり左へ いったりするのではなくて、国の理念としてどうあるべきかということを、有識者の 方々が集まっておられますので、ご議論いただいて、提言をしていただきたいと思って おります。 (高木委員)  いま糸氏さんから75歳以上の高齢者のところの仕組みの話が出ましたが、医療制度の 問題については今月中には、ということをかねて聞いておりました。その検討の状況が どうなっているのか。どこで誰がどういう議論をしたら通るのか。3月18日に日経新聞 に老健制度はこんなふうになりますという記事が出ていましたが、あれは本当なのか。 そのへんのことについてどうなっているのか。  もう一つは全く違う話なんですが、年金資金運用分科会の意見書が出されましたね。 株式はリスクがあるものの、運用のバスケットの中に今後も入れていくのが適当という ことなんですが、普通の被保険者の感覚は、そういうふうにせんでくれということで、 当たり前だと思うんですね。PKOに組み込まれてるとかいろんなことがあるのかどう か知りませんが、ちゃんとメリットをとってこられるのならやってください。累積で3 兆何千億とか、さらにそれが増えてるという時に、こぼす可能性が強いと思われる状況 の中で、なぜ株の問題にそこまでこだわっているのか。  何もせんでおいてくれたほうがいいと思ってるぐらいの感情があるということはよく 承知しておかんといかんのじゃないか。いまさらいっても直せないぐらい厚生年金等の 自主運営をなさってるお金が塩漬けにされてるのか。そのへんの事情はよく知りません けど、一般的な労働者、被保険者としてはそういう気分が非常に強い。運用されてる皆 さんも苦労はされてるんだろうけど、そういうと、誰も損したくてやってるわけではあ りませんという。その通りだろうと思うけど、みすみす損する確率が高いような運用は いかがかと、あえて申し上げます。 (貝塚会長)  医療保険の現状ですが、保険局の方がおられるので、どうぞ。 (島崎保険局保険課長)  保険局保険課長の島崎でございます。いま高木委員から基本指針についてのご質問が ございましたので、お答え申し上げます。昨年の健保法の改正にあたりまして、サラリ ーマンの3割負担の問題が大きな議論になりましたが、その際、医療制度改革をきちっ と着実に進めていく、とりわけ医療保険制度体系、新しい高齢者医療制度の創設、診療 報酬体系、この3つの課題につきましては、3割負担が導入されます今年の4月1日の 前に基本方針を定めるということになったわけです。  残された時間はわずかですが、この問題につきましては、昨年12月に厚生労働省とし て試案を提出いたしまして、その後、大臣自ら関係団体等々からヒアリングを行うとい った手順を踏みまして、現在、調整中でございます。  なお、新聞記事の内容につきましては、私どもは承知をしておりません。 (高橋年金局総務課長)  3月13日に開かれた当審議会の年金資金運用分科会において、株式への分散投資の是 非についてご意見をいただきました。昨年秋から株式を含む運用の在り方についてずっ と議論を重ねてきていただいておりますが、意見書の要点をかいつまんで申し上げま す。民間の年金の場合は通常の預金とか保険商品とか、給付の名目額が決まったものに 対応しての運用ということが中心となるわけですが、公的年金の場合は年金の額が物価 とか賃金などの状況によって増加していくという性質がありますので、そういった特性 を考えると、債券のように名目が固定したものではなかなか難しいのではないでしょう か。  現下の情勢では株式は厳しい状況ですが、長期的には、株式あるいは債券全体にバラ ンスのとれた、分散した投資をする方が収益性が高いのではないか。現下の状況が大変 厳しいため、当座は株式はやめたらどうかというご意見もありました。株が上がった時 に買いに出ていったら、高いところを買いにいくことになる。こういった巨額かつ長期 の指針についてはきちっとスタンスを決めて、最も安定した運営をを図ることが大事だ ということで、株式については今後も続けていくべきだということを決めていただいて おります。  全体の長期ベースの運用の在り方につきましては国の経済財政諮問会議でもう一度検 討して、その中で分散投資のそれぞれの試算をやることになっています。15年度はどう するか、これにつきましてはさらに議論をしていく予定でございます。 (貝塚会長)  それでは、ただいま出されたご意見等も踏まえて、私と事務局とで再整理させていた だき、次回以降、これらの論点に沿って、順次、審議を進めていきたいと思います。  時間が過ぎましたが、事務局から何かありますか。 (伊原企画官)  資料の最後に参考資料をお配りしておりますが、3月6日の福祉分科会において、 「児童福祉文化財」として推薦を決定した一覧ですので、ご参照ください。  次回の審議会につきましては、別途正式にご案内させていただきますが、4月21日、 月曜日の3時から5時までを予定しておりますので、よろしくお願いいたします。 (貝塚会長)  それでは、本日はこれで閉会といたします。長時間にわたりありがとうございまし た。                                  − 以上 − 照会先 政策統括官付社会保障担当参事官室 政策第一係 代)03−5253−1111(内線7691) ダ)03−3595−2159