02/06/27 第15回厚生科学審議会生殖補助医療部会議事録           第15回 厚生科学審議会生殖補助医療部会                    議事録           厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課         第15回 厚生科学審議会生殖補助医療部会議事次第 日時  平成14年6月27日(木)14:00〜17:00 場所  厚生労働省専用第21会議室(第5合同庁舎)17階 議事  ○ 生殖補助医療に関する有識者からのヒアリング   ・平原史樹氏 横浜市立大学医学部教授(遺伝カウンセリングについて)   ・福田貴美子氏 蔵本ウィメングクリニック師長(コーディネーションについて)   ・吉村委員(インフォームド・コンセントについて) ○桑島生殖補助医療対策準備室長  それでは定刻になりましたので、ただいまから第15回厚生科学審議会生殖補助医療部 会を開催いたします。  本日は大変お忙しい中、お集まりをいただきまして誠にありがとうございます。  本日は荒木委員、石井委員、加藤委員、高久委員、松尾委員からご欠席のご連絡をい ただいてございます。また鈴木委員におかれましては1時間ほど遅れられるというご連 絡をちょうだいしております  それでは早速、議事に入りさせていただきたいと思います。部会長、どうぞよろしく お願いいたします。 ○矢崎部会長  本日、大分資料がたくさんあるみたいで、確認を事務局からお願いします。 ○桑島室長  それでは先生のお手元に配らせていただいております資料の確認をさせていただきま す。資料1は、検討課題2につきまして事務局で毎回出させていただいているものでご ざいます。資料2につきましては、平原先生からご説明いただきます「遺伝カウンセリ ング」の資料、資料3につきましては、「コーディネーションについて」の資料、資料 4につきましては、「生殖医療におけるコーディネーションの必要性」、資料5が「生 殖補助医療に関するインフォームド・コンセント」。  それから机上配布資料がございまして、1つは、毎回意見をいただいてございます平 成14年6月12日から6月21日までにお寄せいただきましたご意見をまとめさせていただ いたもの。机上配布2は、日本産科婦人科学会の倫理委員会からちょうだいいたしまし た資料でございます。  以上でございます。 ○矢崎部会長  それでは議事に入らせていただきます。今、参考資料と……。 ○桑島室長  申し訳ございません。間違いました。 ○谷口母子保健課長  失礼をいたしました。先ほど桑島から申し上げました「机上配布資料1」と言ったの は、実は参考資料1のことでございます。机上配布資料1が、「ART診療とコンサル テーションにおけるIVFコーディネーターの必要性と役割に関する研究」ということ で、福田先生からいただいた資料。机上配布資料2というのが学会の方からの資料でご ざいます。 ○桑島室長  失礼いたしました。 ○矢崎部会長  それでは議事に入らせていただきます。  まず最初は、前々回になりますけど、第13回に渡辺委員から、生殖補助医療における 児童精神薬のかかわりについてご説明いただきましたが、時間の都合で質疑応答ができ ませんでした。多くの先生方も随分昔のことですので、お忘れになっているかと思いま すので、参考資料2に渡辺先生の簡単な資料をいただきまして、きょう5分程度お話し をお伺いして、もしご質問あればお受けしたいと思いますので、二度で申し訳ありませ んが、渡辺先生よろしくお願いします。 ○渡辺委員  それでは参考資料2をごらんいただきながら、前々回、私が小日向先生、平山先生の お話の後、お時間をいただきまして述べた点についてちょっとかいつまんで復習をさせ ていただくとともに、その時点で時間いっぱいだったものですから、先生方からのご質 問を受けられなかった点をおわびしながら、きょうもしよければご質問いただきたいと 思います。  「生殖補助医療を受ける夫婦と生まれた子への心のケア」を小児精神保健の立場から お話させていただきましたけれども、そのときの1つのポイントは、小日向先生、平山 先生と同じく、生殖補助医療を受けるに至ったご夫婦の深い対象喪失の体験をともかく よく理解するという人間的な姿勢が、とにもかくもケアの基本として非常に大事だとい う点を小児精神保健の立場からやはり同感でした。  子どもというのは命を受けた時点から、恐らく胎内から今のサイエンスでは既に感覚 体験が始まっていると言われておりますけれども、生まれてくる子どもが願っている安 定した生理的、心理的社会的環境というのは自分がウェルカムされている実感だと思う のですけれども、それは即お子さんをお産みになるお母さんがハッピーであること。そ して、そのハッピーなお母さんを父親として守れているお父さんがいること。それには お父さんとお母さんの努力だけではだめで、社会が生殖補助医療で生まれる子どもさん のプロセスの大変さをお母さん、お父さんご自身が生殖補助医療を受けるプロセスの中 でいろいろなストレスを受けていることを理解しながら、お子さんの命が始まる前の段 階からのストレスをよく理解し共有し、人間として共感するところからサポートしなけ ればいけないという点をお話したと思います。  そういう意味で資料に掲げましたように、生殖補助医療を受けるご夫婦は自然な妊 娠・出産からの疎外体験と、非常にストレスの多い不妊治療というダブルのストレスと トラウマの中で生殖補助医療にかかわられるわけです。医者も大変ですけれども、その ご夫婦は新しい時代のパイオニアとして、新しい技術に身を委ねてくださるわけですか ら、そこに至る経過を理解する必要があるということでした。  そして、喪失体験には個人差がありまして、そういったストレスも意に介さず明るく 乗り越えていかれる方もいらっしゃいます。しかし一般には自分の希望と願いが必ずし もうまくいかない不確実なプロセスにおかれると、それまで生きてきた過去の自分のい ろんなトラウマが複雑な形でよみがえりやすくなります。そのためもともとこういう状 況がなければ健康で普通に順調に暮らされた方たちが思わぬ精神的なバランスを崩され て精神障害のような状況に陥られることもあるのだということを臨床現場から強調した いと思いました。  「喪の仕事」は、広くいろいろな現象に言われております。愛しい人を失ったことに 対して「喪の仕事」という心理学的な一連の心の作業があるわけですけれども、喪の仕 事自体は上手に喪の仕事をなし遂げていくと、ふつうの人にはない深さや成熟、人生を 力体的にとらえるしなやかさを獲得するので必ずしも悲劇ではなくて、むしろ幸福に転 じることも可能です。しかし余りにも理不尽大変な、不妊治療であったりすると、多く の方たちは喪の仕事の中途でこだわりや怒りや、自己不信に落ち込んで、本来の健やか な明るさを失われ、非常に暗いエネルギーの、渦まく世界に知らない間に追い込まれる ことがあります。  そこで精神科と心理学のカウンセラーが創意を発揮して最高級のケアをしていくよう な、専門性の確立が必要ではないかということをお話いたしました。  もう一方で、子どもさんに関しては生まれつきの資質というのがあり、何でもごされ というたくましいお子さんから、こまやかなちょっとした刺激で驚いたり、自分が悪 かったのではないかと勘違いして苦しむ、資質が胎内から、赤ちゃんのときからありま す。敏感な資質のお子さんにとっては、生殖補助医療というプロセスを経て生まれてく ることはすごく大変かもしれない。存在感の深い不安、それをPrimal Wound(原初的な 傷)というふうにアメリカのベティー・リフトン等が言っています。そういったものに 苛まれながら、幼児期から何かおかしいと思いつつ、善意に満ちたお父さんやお母さん に育てながらも、何か明るくなれない。本当に自分が生きていていいという実感を持て ずに思春期に入り、そこから深い自己のアイデンティティのクライシスに陥って、私ど もが想像もしなかった苦しい人生を送ることがあり得ると。  ですから一たん生まれてしまったお子さんに関してはライフサイクルにわたる新しい 緊張や思わぬストレスということが想定できますので、できる限りいい形で人生のス タートができるように、そういう意味で小児精神保健の立場からは、ご夫婦のケアを十 分にやりつつ生殖補助医療を進めていただきながら、みんなが責任を持ってかかわっ て、生まれたお子さんに関しては、ちょっと言い過ぎかもしれませんけど、その方のラ イフサイクルにわたって応援していくぐらいのプロジェクトとして扱っていただきたい という、そういう趣旨のお話をさせていただきました。  以上でございます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。ただいまの渡辺委員からのお話にどなたかコメント ございますでしょうか。よろしいでしょうか。生殖補助医療を受ける夫婦の心のケア、 「喪の仕事」というような視点から強調していただきました。どうもありがとうござい ました。  それでは、次の議題に入りたいと思います。先日、日本産科婦人科学会の倫理審議会 から、倫理審議会答申書(諮問事項 胚提供について)が公表されました。本日、荒木 委員からご説明いただこうと思ったのですが、本日ご欠席でございますので、次回にこ の学会の今後の審議の流れをご説明いただきたいと思っております。  荒木委員から机上配布資料2として今回皆様方に配布いたしましたのでお目通しいた だければ大変ありがたいと思います。  それでは、本日の本題であります生殖補助医療に関する有識者からのヒアリングに入 りたいと思います。これは検討課題2を検討するに当たって、各委員の方々に専門家か らのヒアリングを受けて共通の認識を深めるということで催して、きょうは第4回最終 回になります。  本日は「遺伝カウンセリングについて」、横浜市立大学教授の平原史樹先生、それか ら「コーディネーションについて」、蔵本ウィメンズクリニック師長の福田貴美子先 生、お二人の先生からお話しをお聞きし、そして「インフォームド・コンセントについ て」、吉村委員から説明をお願いすることになっております。  それでは、それぞれの方々に30分程度のご説明をいただいて、15分程度の質疑応答を 考えておりますのでよろしくお願いいたします。  それでは早速「遺伝カウンセリングについて」、平原先生からよろしくお願いいたし ます。                (パワーポイント映写) ◎遺伝カウンセリング ○平原先生 横浜市大の平原でございます。きょうは貴重なお時間をいただきまして、 遺伝カウンセリングの話をさせていただきます。ありがとうございます。 ◎平原史樹プロフィール  簡単にまず私のバックグラウンドの自己紹介をちょっとだけさせていただきます。  私自身は産婦人科の臨床医でございます。産婦人科の臨床の中で、私はかなり長い 間、習慣流産という繰り返し流産される方の臨床に携わってまいりました。  そういった関係ともう一つは、日母という日本産婦人科医会が1972年から、これはサ リドマイドの薬禍をきっかけにでき上がった調査組織なのでございますが、先天異常モ ニタリングという形で日本の全国の先天異常の赤ちゃんのモニタリングをする調査組織 を日母でやっております。そのセンターが横浜市大にございまして、ここに書いてござ いますけれども、国際先天異常監視機構というWHOの機関と日母の先天異常モニタリ ング機構がつながっておりまして、そのセンターが横浜市大の方にございます。そこに かかわっているというようなこともございますので、私自身、臨床遺伝の領域に足を踏 み入れたわけでございます。  そのような関係でカウンセリングのことも多少わずかばかりですけれども、経験がご ざいますので、きょうこのような機会をいただくことになりました。 ◎38才女性、不妊治療中、自然妊娠、羊水検査をまわりに勧められ来院  これは私どものカウンセリングの中でも、特に不妊症の方でかかわったケースで非常 に典型的なケースで、実はこういうケース非常に多いのですね。その一例を少しお見せ したいと思うのですが、ここに38歳の女性と書いてございますけれども、こういう年齢 の方が大勢いらっしゃいます。現実には私どものところには羊水の検査で染色体異常を 心配されて来られる方がいらっしゃるわけですけれども、私どものところは羊水検査と いうことで紹介されて来られました方たちに一応カウンセリングをさせていただいた り、これが世にいうところの「遺伝カウンセリング」ということになるわけですが、こ のカウンセリングをいたしまして、内容についてはまた後でお話し申し上げますけれど も、この方の場合は、不妊の治療をたしか何年間かにわたってずっとやられていたので すね。  不妊の治療をずっとされていたときには、実はとにかく元気な赤ちゃんが欲しいのだ と。一生懸命になって赤ちゃんが欲しかったという気持ちがあったのだけれども、いざ 妊娠してみると周りからいろいろと高齢妊娠、ちょうど38歳ですので高齢妊娠になるわ けですが、高齢妊娠であると。そうすると羊水検査した方がいいのではないかというの を周りから言われたりというようなことで来ましたと。いろいろとカウンセリングを受 けて、最後にデシジョンメーキングをしていただくわけですが、かつて一心に不妊の治 療をしていたころに、とにかく赤ちゃんが欲しいという気持ちがあったのに、今実際授 かってみると、なぜか自分のおごった気持ちが出てきているような気がしますというよ うなことをおっしゃいまして、結局この方は羊水検査をやめるというようなことになり ました。  私どものところは羊水検査をご希望されて来た方たちに一応カウンセリングするわけ で、最後に最終的なデシジョンを自分で決めていただくという形になりますけれども、 実際にこのように紹介されて来られても検査をキャンセルされるという方が結構いらっ しゃるということです。 ◎横浜市大遺伝でカウンセリング外来1990−(羊水染色体検査希望来院者のカウンセリ ング後の検査キャンセル率)  これはその累計ですが、これは1990年からつい最近まで出してありますけれども、こ ちらにパーセントが書いてございます。現時点では大体3分の1ぐらいの30%近い方 が、とにかく開業しておられる先生方とか雑誌とかで読まれて、羊水検査を受けたいと いうことで来られるわけですが、私どものところで遺伝カウンセリングを行いまして、 最終的に検査を受けられますか、どうしますかということになると3分の1ぐらいの方 がキャンセルされるということになるわけです。  どういうカウンセリングをしているかということになるわけですが、高齢妊娠で来ら れる方が多うございますので、比較的に念頭にいわゆるダウン症の羊水検査、染色体の 検査を希望されて来られる方が多うございます。1つは、話の中心にダウン症の話を 持ってくることになるわけですが、ダウン症という染色体異常がどういうことで起こる のか、あるいはダウン症の生活史でありますとか、さまざまなダウン症に関してのサ ポートの体制だとかいろんな話をするわけです。最終的にそこでデシジョンをしていた だくという形になるわけです。  結論としては3分の2の方が受けられるわけですけれども、3分の1の方は、検査を 受けますと言って最初に来られてもカウンセリングをした後に、やはり思いとどまりま すという結論を出されるというのが現実でございます。 ◎カウンセリングの基本姿勢  カウンセリングというのは、これはご専門の方いっぱいおられますので今さら申し上 げことがございませんが、傾聴、共感、受容というのは割合重要な柱になっております けれども、その上でいろいろなカウンセリングを行って、最終的に自己決定をすること になるわけです。 ◎困った相談 出生前診断をしてぜひ完璧な子どもがほしい。  私どものところに現実にこういうのがいっぱい来るのですけれども、特にマスメディ アを介しまして、最近の胎児診断がここまで進んでいるというような、現在は例えばお 母さんが妊娠3カ月、4カ月でも血液をちょっと採らせていただければ、赤ちゃんの、 DNAが血液の中に流れている。そのDNAを調べることによって出生前診断可能です というようなことがマスメディアを通してニュースに流れたりしますと、翌日にはもう 電話がかかってまいります。とにかく今妊娠しているのだけれども、出生前検査をして ください。ぜひ、私としては完璧な子どもが欲しいんですというようなことを言って来 られる方が結構いらっしゃいます。  現実には、出生前診断といいましても簡単にできるわけではございませんし、いろん なことをお話し申し上げるのですけれども、こういうのはクライアントと言ってよろし いのかどうかわかりませんが、こういう方たちもある意味では遺伝カウンセリングに来 られる人たちの考え方の基盤にあるというのもぜひ知っておいていただきたいと思いま す。何でもいいから完璧な検査をして完璧な子が欲しいのだという割合率直な意見を述 べられるというのが現実にございます。 ◎遺伝カウンセリングの定義  これは遺伝カウンセリングの定義でございますけれども、これはこちらの部会にもお られます古山先生の班が遺伝医療システムの構築と運用に関する研究班ということで、 既に5年目に入っていましょうか、ずっと遺伝カウンセリングに関しての遺伝医療シス テム並びに遺伝カウンセリングということに関して討議を進めているわけですけれど も、ここに書いてございますように、遺伝カウンセリングと遺伝カウンセラーが遺伝性 疾患の患者、その可能性を持つもの、家族に対して生活設計上の選択を自らの意思で決 定し行動できるよう臨床遺伝学的診断を行い、医学的判断に基づき適切な情報を提供し 支援する診療行為であると定義をしております。  結局臨床遺伝学的な正確な診断ということも非常に重要ですが、いろんな意味でのサ ポート・支援活動をするのだということ。その中にはいわゆるエルシーといいますか、 エシカル、リーガル、ソーシャル、イシューとか、そういったような問題もちゃんと含 めた話でありますというようなことで遺伝カウンセリングを定義づけているわけであり ます。 ◎もう一つ、WHOのガイドラインは95年に出ておりますが、ここでも同じようなこと が書いてありますけれども、遺伝学的な情報を公平な立場で提供すること。最終的には 自らの意思決定ができるようにサポートしていくのだというようなことが定義で述べら れております。 ◎遺伝カウンセリング  これは私どものところも含めて多くの遺伝カウンセリングを行っている機関がこのよ うな形でやっていると思うのですが、遺伝カウンセリングというのは基本的にはまず遺 伝の問題だということを認識して来られて、初めて遺伝カウンセリングが成立するんで すね。ところが遺伝という問題を念頭に置きながら来られる方というのは非常に少ない です。現実にはそうやって来られた方たちにお願いすることは、家系図を正確につくっ ていただけないでしょうかとか、病歴とか診断名ということになってきます。ところが 日本の中というのは、遺伝ということに関してのイメージがなかなかフランクに話せる 雰囲気がないというのが背景にございまして、診断名といっても親戚のどこかにこうい う異常らしい赤ちゃんが生まれたとか、こういう方がいらっしゃるというようなこと で、そこまで正確な医学的情報を得ようとしても、なかなか得られないというのが現実 でございます。それなりにとにかく情報を得ながら遺伝カウンセリングを始めるわけで すが、いわゆる正確な診断がなければ遺伝情報といっても、あるいはさまざまな遺伝子 に関する遺伝子検査とか、そんな体制に関しても話せないわけなんですが、いずれにし ましても、そういったような遺伝に関係した情報の伝達をしカウンセリングを行う。  この中にはここに書いてございますようにいろんな選択肢があるのだという、いろん なサポート体制、これは専門医がどこにいるのか、患者さんの団体がこのような支援活 動をしていますというようなこと、あるいは行政の支援とかいろんなことをここでお話 し申し上げるわけです。  こういったお話をいろいろとするのですが、大体1回小1時間ぐらいかかるわけなん ですが、頭が混乱して帰られますから、またしばらくたってからもう一度再カウンセリ ングをするというようなことを繰り返すわけであります。現実には1時間ぐらいするの ですが、私どもの施設ですと、最後に述べますけれども、1時間お話しても再診料の600 円か700 円でこれが終わるというのが現実でございます。 ◎横浜市大遺伝カウンセリングの外来(1990〜)  これは私どものところの90年以降で五百数十例の遺伝カウンセリングの症例がござい ます。私どものところは産科が中心ですので、実に特徴的なのですが、羊水検査にかか わるものが多くて、ちょうど赤のこの部分が妊娠中の相談になるんですね。3分の2が 妊娠中の相談になります。既に妊娠してから遺伝の問題を認識して来られる方が産科の 医療機関における遺伝カウンセリングの特徴であります。残りはご自分の現実向きな遺 伝的な問題として認識します。先天異常の問題でありますとか、染色体異常の遺伝の問 題ということが問題になります。 ◎遺伝カウンセリングの需要  遺伝のカウンセリングの需要といいますと、これも想像すればいろんなのが出てくる というのはおわかりになると思うのですが、いわゆる遺伝病はもちろんそうなんです が、先天異常も入りますし、染色体の異常でありますとか、これは多因子遺伝性健康障 害と書きましたけれども、いわゆる遺伝子1つだけではなくて、いろんな遺伝子が環境 因子とも絡み合いながら発症してくる遺伝的な背景を持った健康障害もカウンセリング の対象になります。あとは産科・生殖医療に関しては次に述べますけれども、そういっ たようなことが含まれます。  現実にここに書いてございますけれども、これも研究班でかつで奈良医大の吉岡教授 が発表されたのですが、推定した需要というのは恐らく1万人に対して5件ぐらいの遺 伝カウンセリングの需要があるだろうと推定されるわけです。私どものところの横浜市 は大体350 万ぐらいの人口ですので、年間2,000 件弱ぐらいの遺伝相談があってしかる べきなのですが、現実に私どもの施設には年間50例ぐらいでございます。横浜市で現実 に遺伝カウンセリングというのを名乗って窓口でつくっているのは2〜3カ所しかござ いませんので、実際には遺伝ということを認識して来られる方はほとんどいないのが現 実でございます。 ◎産科・生殖医療における遺伝カウンセリング  これは産科・生殖医療における遺伝カウンセリングですけれども、これは妊娠中に、 例えばお薬を飲まれましたと。このお薬は赤ちゃんに影響はないでしょうかというふう なことを相談されたりとか、あるいは流産、死産されたときにどういう問題があったの でしょうかというようなこと。一番多いのは出生前診断にかかわる相談でございます。 最近は非常に超音波診断でも画像が正確に出てくる時代になってきましたので、画像診 断に基づいた異常から来られる相談も増えております。あとは妊娠中に先天異常の検査 を受けた。あるいは先天異常の赤ちゃんがかつて生まれたけれども、今回はどうでしょ うかというような相談。そういったようなことが産科の診療の中では大きなウエイトを 占めております。 ◎不妊・生殖補助医療における遺伝カウンセリング  これは不妊・生殖補助医療における遺伝カウンセリングということでまとめてみまし た現実に私どものところは生殖補助医療をやっておるのですが、遺伝ということを念頭 に置きながら来られる方はそう多くはございません。例えば私自身が習慣流産というの にかかわっていましたけれども、これは10%弱ぐらいの確率でカップルのいずれかに染 色体の異常が出てくる場合がございますので、そういったのが相談の対象になってきた りいたします。不妊のカップルでも確かにある確率でおられますし、あるいは乏精子症 か無精子症などと染色体の異常、染色体の部分欠失、微小欠失等の問題もございますの で、そういったような問題は当然遺伝的な背景として相談の対象になってくると思いま す。  それから、これは現実には日本で行われていませんが、着床前の遺伝子診断というの はどういう状況で、現実としてあり得るのでしょうかというような相談は受けます。  あと、生殖補助医療に関しましてのいわゆる遺伝的な異常とか、そういう生殖補助医 療が何らかの先天異常を起こさないでしょうかといった相談を受けることも現実にござ います。あるいは遺伝性疾患が家族とか親戚とかにあるのですがどうでしょうかという ような相談を受けることがあろうかと思います。 ◎先天異常  私ども遺伝カウンセリングのときによくお話し申し上げるのですが、例えば羊水検査 を行われた方たちに、羊水検査でわかる検査は染色体異常しかわかりません。実際には 先天異常というのは全部の人口の大体5%ぐらいが先天異常があると言われておりま す。そんなにいるのでしょうかと言われても、現実に数字として出てまいります。中に は非常に典型的な遺伝病としての異常がございますし、染色体の異常というのも0.6 % ぐらい。これは先ほども申し上げましたけれども、いろんな遺伝子が少しずつ絡んでく るようなものになってきますと、これは非常に多うございます。たくさんの頻度で先天 異常の中に紛れ込んでくる形になります。先天異常そのもの、例えば指が1本多い、多 指症でありますとか、そういったような形態的な異常も4〜5%実際にあるということ で、現実には全部足しますと一般的には大体自然発生で先天異常というのは5%。  そうすると仮に羊水検査をして異常がないといっても、一般的に起こってくる先天異 常は、どんな人にも等しく起こりますからというようなお話を申し上げていくと、ご自 分が今考えられている染色体異常と先天的な異常が起こる頻度と恐らくバランスをとり ながら、決断をされるのか、恐らく心の中で葛藤がいろいろ決めていくのだと思うので すけれども、そういった形のプロセスが生じてくるわけであります。 ◎遺伝病 多因子(遺伝)病  遺伝子はまさに今ヒトゲノムのところで次々と遺伝子がはっきりしてきております が、純粋な遺伝病というのは、遺伝子1つ、あるいは遺伝子だけの異常で発症するもの ですが、多くの場合は、環境因子等がいろいろと絡み合いながら、遺伝子も1つでなく ていろんな複数の遺伝子が絡み合いながら発症してくるというのが多因子の遺伝病にな るわけで、実際には遺伝子はいろいろな疾患に少なからずかかわってきているというこ とが次々にわかってきているわけであります。今まで古くから言われていた古典的な遺 伝病というのは、純粋に遺伝子だけの異常で発症してくるという状況でございます。 ◎遺伝子異常はだれにでも  結局遺伝子異常ということを考えますと、これは純粋に遺伝性への疾患と考えていた だいて、遺伝子異常一個があると何らかの異常が起こるというような、遺伝子が対応し た疾患だけでも大体7,000 種、もっとあるということが言われております。重要なこと は劣性遺伝病というのはこの中にもありますが、劣性遺伝病というのは保因者でおりま すと、ご自身には何の健康の障害もないわけです。ただ、保因者と保因者の方がカップ ルになって子どもさんをつくると、初めて劣性遺伝病というのが疾患として出てくるこ とがあり得るわけですけれども、現実には我々人類というのは等しくみんなこの劣性遺 伝病の保因者、になっているということになっております。大体既にわかっている遺伝 性疾患だけでも6個から10個ぐらいの遺伝性疾患の保因者である。遺伝子異常はだれに でもあるのだということが現実として生物である限りは避けえない現実であります。  しかも突然変異というのがある確率でだれにでも起こりますから、そういったことも 考えますと、遺伝子異常というのは人類が営々と人類を継続して生物学的な営みをして いる限りは必ず起こっているということになるわけです。 ◎遺伝子異常は  実際にヒトゲノム計画でいろいろなことがわかってきた。あるいはスニップス(SN Ps)というような単一ヌクレオチド多型とかいろんなことがわかってくると、遺伝病 というのは純粋な遺伝病だけでなくていろんな生活習慣病すべてが遺伝子異常にかか わっているのだということがわかってきたわけであります。したがって遺伝子の異常と いうのは遺伝病という限られた遺伝的な特殊なものだけではないのだということがわ かってきたということであります。 ◎これからの医療  現実には、今我々がやっている医療というのは、症状とかぐあいが悪い、がんができ ましたとか、高血圧ですと言ってから初めて治療していくわけですが、ヒトゲノム計画 で次々明らかになってきて遺伝子に異常があると、たとえその人が症状が出てなくて も、あるいはがんができてなくても、高血圧でなくても、もう既にあなたはいずれいろ んな形で高血圧になりますよといった発症前に診断がつくようなことになってきている わけです。ですからそれに対して予防ができるのであれば、生活改善とかいろんなこと で予防ができる。ところが一部で予防ができない。ある時間がたつと必ず遺伝性の疾患 として出てくるというふうなことも中にはわかってくるというのが現実になってきたと いうことになります。これはさまざまな健康保険・社会保険、等保険の問題でいろんな ところで問題が生じてきているというのが現実であります。 ◎プレテストカウンセリング  結局遺伝的な検査、1つは出生前診断と発症前診断とか、今言ったような問題がある わけですが、その検査を受けることによって一体どういったことが生じますかというこ とは、日本人我々が非常に遺伝に関しては疎うございますので、そういったことが実際 に検査、出生前診断あるいは発症前診断するとどういうことが起こるのかということを お話してからでないと最終的にはその検査を受けるべきではないというのが遺伝カウン セリングのスタンスでございます。そのために「プレテストカウンセリング」と書いて ありますけれども、テストの前に必ずカウンセリングしてください。その結果が出てか ら、後またカウンセリングしてくださいと。多くの場合、結果が出てからいきなりカウ ンセリングに来られる方が多うございます。そうはしないというのが重要なところだと 思います。 ◎本邦の臨床遺伝専門医師の育成  時間がどんどん過ぎて申し訳ございませんが、簡単に現在の遺伝にかかわる医師の体 制をお話ししておきたいと思います。日本には今臨床遺伝学というかヒトの遺伝学にか かわる学会が人類遺伝学会というのと日本遺伝カウンセリング学会というのがございま す。これはそれぞれが専門医を養成しておりました。91年から日本人類遺伝学会が認定 医、遺伝カウンセリング学会の方は遺伝相談認定医師カウンセラーを94年からつくって きております。実際に認定医の数は非常にバランス悪いのですが、こちらは400 人、60 名ということで、遺伝カウンセリング学会の方はハードルが高いのでなかなか少なかっ たのですが、実際にはカウンセリングの方はカウンセラー養成課程というのは、厚生省 に後援していただきながら、1974年から育てて、現実には医師だけですが、899 名の医 師が既にこのカウンセラーの養成課程を終えて日本全国で活動しております。  この2つの専門医制度を2002年から臨床遺伝専門医ということで1つの資格に統一し ました。今大体400 名ぐらいの臨床専門医がいます。 ◎臨床遺伝専門医  臨床遺伝専門医というのは400 名いますが、みんな何かの片手間というのは語弊あり ますが、専門領域としてやっていた遺伝科のわずか60人ぐらいです。実際には先進国で は遺伝の専門医というのは遺伝だけを専門にする医師は、日本の人口にすると恐らく600 名か700 名ぐらい必要だろうと言われているのですが、日本は60名ぐらいです。400 名 のうちほとんどの人は小児科、内科医、産婦人科医でも、本業としてその片手間という 言葉はちょっと問題ありますが、どこかの隙間でやっているということになります。そ ういうのが現実でございます。これも古山班の調査でこのようなデータが出ておりま す。 ◎いでんネット登録 遺伝カウンセリング施設  これも皆さんのお手元の資料にございますけれども、実際には日本で遺伝子カウンセ リングやっている施設はどのぐらいかというと160 施設、これが一番新しいデータで す。もう少し前に調べますと、これは数年前の報告なのですが、名称だけのものも多い のですが、バランスを見ますと、総合病院、保健所、大学病院ということで分かれてい ますけれども、いろんなところでやっていることは事実なんですが、現実に活動として いるのは160 施設ということです。 ◎カウンセリング  カウンセラーというのも、これもまたいろんな名前でカウンセラーと呼ばれているの も現実です。今回、生殖医療部会では不妊ということを中心にしますと、不妊心理カウ ンセラーという言葉として出てきております。「生殖・遺伝カウンセラー」というのは 日産婦学会の方でも一度資料として出ております。いろんなカウンセラーがいろいろ錯 綜しているのが現実だと思うのですが、とにかくカウンセリングが大事であるというこ とは確かに言えるのですが、日本産婦人科学会では遺伝の部分を中心にしながらカウン セリングを行いましょうという形でアクセスをしてきているということになっているわ けです。 ◎遺伝子カウンセラーに必要なもの  カウンセラーに必要なものというのをここに書きましたけれども、正確な遺伝学的な 知識でありますとか、心理行動への知識あるいは技法というのもございます。倫理規 範、社会的な知識、こういったものが必要だろうと思います。 ◎専門職としての遺伝子カウンセラー  これは臨床遺伝専門医の到達目標として、生殖医療でもこんなにあるんですね。とて も一言ではちょっと述べられません。 ◎看護職への遺伝相談スタッフ育成研修  看護職に関しましても今古山班の方でいろいろ議論しているところなのですが、専門 職としての遺伝カウンセラーは、大学院の修士課程レベルの人であるべきだということ を言っているのですが、まだ存在しておりません。修士課程というのがようやくぽつぽ つと出始めた。看護職への養成も実際には現場の看護師さんたちを対象に行っていま す。 ◎インフォームド・コンセント  いずれにしましても、十分な情報と理解と選択というのがカウンセリングとしては重 要だということかと思います。 ◎遺伝カウンセリングの費用(実情)  これが現実に幾らぐらいお金かかっているかということですが、ほとんどが初診料、 再診料の実費だけで済ませているのが現実であります。古山班の方ではこのぐらいのお 金は取るべきだといった提言しておりますが、医療費削減の中では難しい問題になって います。 ◎いでんネット  これも皆さんのお手元にありますが、いでんネットは古山先生の班で、厚生労働省の ご指導でつくらせていただいたもので、日本全国の遺伝カウンセリングのシステムがこ れをアクセスするとわかります。               (パワーポイント映写終了)  時間ちょっと超過して申し訳ございませんでした。以上でございます。どうもありが とうございました。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。遺伝カウンセリングについて具体的なお話をいただ きましたが、委員の方々で何かご質問ございますでしょうか。  遺伝カウンセリング一般のお話で、生殖補助医療に関しては特に気をつけるべき、あ るいはポイントはございますでしょうか。 ○平原先生  実を言いますと、生殖補助医療は本当に安全ですかというようなことを実際聞かれる わけですね。例えば先天異常の発生率がどうなのかということに関しては、まだ最終的 な結論はなかなか出てないのが現実です。いろんな論文が確かに出てきております。I CSIを行うと染色体の異常が増えるというような報告、実際論文として出てきており ますし、そうでないという論文も出てきています。そのあたりのところの情報伝達とい うのは非常に難しい問題も入っているかなという気はしております。  もう一つは、不妊というカウンセリングを不妊の方の窓口としてしたときに、どこか らが遺伝という問題として認識して、遺伝カウンセラーにバトンタッチするか、あるい は遺伝カウンセリングをそこですべきかというあたりは非常に難しいと思うんですね。 先ほど申し上げましたように、遺伝ということを自分で認識すると初めて遺伝カウンセ リングなのですが、日常の診療の中にはどこからが遺伝でどこからが遺伝でないかとい うのはかかられている方にほとんどわからない。ただ、現実には遺伝の問題が大きくあ ちらこちらに出入りしているのですけれども、そのあたりが整理していくといっても、 遺伝ということに対する認識が日本の国民の中になかなか根づいてないというのが大き な問題かと思いますので、そういった問題があろうかと。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。確実に遺伝性の疾患を持っておられるご夫婦が妊娠あるいは診断 に関する、子どもを持つということに対する不安、というケースも多いのではないか。 ○平原先生  そうですね。現実にはそういう方も来られますね。例えば妊娠9週、10週ぐらいで絨 毛採取をするとか羊水検査をするというのは現実としてあり得るわけですけれども、こ れはあくまで赤ちゃんの情報を正確に知るというのが前提の検査ですので、そこから先 のデシジョンということはご夫婦で決めていただかなければいけないわけで、ただ、現 実にそういうのを気安く検査として受けられやすい環境が今どんどん出てきていますか ら、実際に結果が出てから、本当に決めなければいけないデシジョンというのが実に大 きな問題になっていることを認識しなければならない環境が今できつつあるという気が します。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。生殖補助医療に関してはドクターとクライアントのご夫婦だけで はなくて、第三者的な地点からカウンセリングするということは大変重要な課題になっ て、今検討課題2というのはそういうことをポイントにやっているわけですが、遺伝カ ウンセリングというのは、今先生お話のように、一部では産婦人科のお医者さんがご夫 婦と相談して決められるというケースが多くて、先生のように遺伝カウンセリングとし て独自の立場で公平にいろんな情報を伝達してご理解をいただくというのは、今は医療 の現状ではどんなものなのでしょうか。 ○平原先生  恐らく医療人的資源と医療経済的資源両方が非常に限られているので難しいのですが 、例えば産婦人科だけとりましても、産婦人科医でかつ遺伝の専門医というのは、1万 5,000 人ぐらいの産婦人科医のうち70名くらいしかおらないんですね。その人たちで、 例えば今議論しているところは、先ほども出しましたけれども、生殖遺伝カウンセリン グというのを産婦人科学会で議論している最中でございますけれども、こういったよう な、限られているけれども、人的資源をとにかく何らかの形で有効活用するというか、 生殖医療の中にもそういう人たちにアクセスしやすいルートをつくるとか、そういう人 たちがさらに生殖医療の中に、遺伝という部分に関してのいろいろな意味での啓発活動 を行うとか、情報を伝達するという形で活動していただくという、現実にはそれ以外、 人的資源からいって難しいのではないか。日産婦学会の方でも、そういうことを今倫理 委員会等で議論している最中でございます。 ○矢崎部会長  現実の医療の中でカウンセラーとして独立にある程度活動されるという場合に、病院 とかそういう場合には診療報酬の、あるいは病院の経営の中でどういう位置づけになる と先生はお思いになりますでしょうか。 ○平原先生  本来は全くニュートラルな立場で独立した診療行為としてあるべきだと思います。た だ、今の限られた医療経済資源の中でそれを求めて、実現すれば非常によろしいかと思 いますが、なかなか難しい問題が幾つもあろうかと思いますので、少なくとも医療実施 担当当事者からはカウンセリングはしないと、少なくともカウンセラーは第三者的な立 場アクセスできるようにするのは必要かと思います。欲を言えばきりがなくて、理想的 にはそういったような独立機関があって、そこが独立してクライアントの方から診療報 酬をいただいて、カウンセリングとしてもちゃんとしたお話を伝達できるのが理想だと 思いますけれども、なかなかそれも、古山班でもいろいろ議論している最中ですが、難 しいような気がしますけれども。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。 ○金城委員  先生がカウンセリングをなさる中でキャンセル率が30%ということですね。具体的に は先ほどのお話はわかったのですが、先ほどのお話では、そういう障害のある子が生ま れてもいいということでキャンセルなさったというお話ですが、ほかにどのような理由 でキャンセルなさるのでしょうか。 ○平原先生  例えば羊水検査ですと多くの場合ダウン症を考えておられるのだと思うんですね。実 は生まれてくる赤ちゃんの先天異常全部を見ると、ダウン症はほんとにごく一部ですと 。そういうふうなことを考えられますと、それだけ1つをとらえていても余り意味がな いのではないかというふうに考え直される方が非常に多うございますね。ですから必ず しも、先ほどは、不妊症で検査をされた方の話を出しましたけれども、みんながみんな ああいう感覚では決してないわけです。一般的には、もう一度冷静に考えてみると、羊 水検査ですとリスクがありますから、そういうリスクと全部考え合わせると、果たして それだけ受ける価値が十分にあるのだろうか、冷静に考えるとそういうふうに考える方 が多いなと思います。余りお答えになってないかもしれませんけど。 ○金城委員  外国などですと、最近ダウン症を対象にした検査がどんどん増えているんですね。で も日本の場合にはダウン症なら産んでも大丈夫だという判断がついておやめになるとい うようなことも言えるのでしょうか。 ○平原先生  そういう方はいらっしゃると思います。ただ、ダウン症の方にもいろんな程度がござ いますから、心臓に何も異常がなければ非常に軽かったり、心臓に異常があると寝たき りになるような方もいらっしゃるというのが現実ですから、そうするといろんな幅があ ると。ただ、それはこの羊水検査ではわかりませんというお話はするのですけれども、 そうすると確かに大学院出られたダウン症の方もいらっしゃるというような話も現実に は出てきたりいたしますし、今ホームページで結構ないろいろな情報が得られる時代で すから、そういうのをごらんになって、ご自分が考えていたダウン症の認識が変わった方は確かにいらっしゃいますね。 ○矢崎部会長  よろしいでしょうか。それでは平原先生、どうもありがとうございました。  次のご説明に、福田先生から「コーディネーション」ということでお話を伺いたいと 思います。よろしくお願いいたします。 ○福田先生  福岡の蔵本ウインズメンズクリニックの師長であり、体外受精コーディネーターをし ております福田と申します。座ったままで失礼させていただきます。  私のような者がこのような席でお話しするのは僣越ではございますが、実際に不妊治 療を受けられる患者さんと医療の現場で接してきまして、患者さんとのかかわりを通し て感じたことや、医療に対して患者さんが何を望んでいるのか、学んできましたことを 中心にご報告をさせていただきたいと思います。                (パワーポイント映写) ◎コーディネーションについて  生殖医療におけるコーディネーションの役割とは、1人の人間として患者さんを理解 しサポートすることにあると考えております。21世紀を迎え、生殖医療は子どもを産み たくても産めないカップルに対して重要な役割を果たしてきました。しかし、その一方 で、生殖医療自体の持つ人工性や複雑性、それから保険が適用しない。あるいは副作用 のリスクなどからいって患者さんの持つストレスは大きいと言えます。また、治療自体 の適用基準や排卵誘発法、その投与量なども施設によってまちまちですので、どの治療 が自分に合っているのか、治療方法の選択をすることに関しても患者さんは困惑を覚え ておられます。  さらにもう一つのこの治療の特殊性としては、妊娠に至るまでに治療を長期的に繰り 返すという特殊性があります。しかしながら実際に治療を受けられている患者さんは病 院に入院しているわけでもなく健康な体を持ち社会生活を送っている方なので、治療を 長期的に続けていくためには、患者さんの持つライフスタイルや職業、価値観、そう いったものを考慮せずには長期的な治療は続けていけません。  コーディネーションとは、生殖医療に対する適切な知識を持つスタッフが患者さんの 必要とする時期に適切に情報提供や説明を行い、そして医療と患者さんの生活とを調和 していくものであると考えています。 ◎ARTを受ける患者に対する調査  これはARTを受ける患者さんがどのようなことに不安や悩みを抱いているかを調査 をしたものです。1997年に当院でARTを受けている患者さん、350 名に対して調査を 行いました。治療中にどのようなことに不安や悩みを持っているのか、アンケートによ る無記名回答の調査を行い、282 名(24歳〜47歳)の患者さんから回答が得られ、回収 率は80%でした。この回収率の高さは恐らく医療の中で表出できないご自分たちの意思 とか希望をこのアンケートによって表現したいというあらわれであったのではないかと 思っています。 ◎ART患者の不妊治療に対する不安  そのアンケート調査の結果ですが、ARTの不妊治療に対する不安で、一番多くは治 療内容に関する不安が多く挙げられていました。次に妊娠の可能性、社会的・経済的な 不安、そして倫理的なもの、こういった順で不安が挙げられていました。  この不安に対してはいろいろな治療の経過に伴って不安に思う事柄を何項目も複数で 挙げていただきました。それでは1つずつどのようなことに患者さんが不安を覚えてい るのかをお示ししたいと思います。 ◎治療中の不安  治療中の不安に対して一番多かったのは卵子の状態に関するものでした。次に多かっ たのが受精に関する不安。次が排卵誘発剤の副作用、採卵時の痛み、未知の検査や治療 に関する不安、こういったものが挙げられていました。  ここから考えられることは、治療に対する妊娠率や治療の方法などといった基本的な 項目は医師よりインフォームド・コンセントされています。ですから、そういったこと が挙がってきていませんが、実際に患者さんは自分の体に起こってくることに対する不 安を、基本的な事柄以外にもたくさん持っているということです。 ◎妊娠の可能性  次に多かった妊娠の可能性についてですが、治療を受けられているほとんど多くの患 者さんが、治療中であるにもかかわらず絶望的な思いを抱いているという結果が得られ ました。これは今までの治療でなぜ自分は妊娠できなかったのか、あるいは自分は妊娠 できない体ではないか、そういった絶望感が見られていました。  一方、治療を続けていれば、いつかは妊娠できるかもしれないという漠然とした希望 を持たれている方もおられました。 ◎社会的・経済的な不安  社会的・経済的な不安として一番多かった事柄は、保険適用外の高額な医療費の捻出 に伴う不安が最も多く、次に仕事との両立が多く見られました。また、治療によって高 い成績の得られると思われた方は遠方からも通院される方がおられますので、通院に関 する不安なども見られました。 ◎倫理的な不安  倫理的な不安に関しては、人工的な操作に対する罪悪感や人工的な治療を受けること によって奇形率の発症が増えるのではないかといった不安が増えていました。 ◎ARTを受ける患者の心理  これはARTを受ける患者さんの心理について示したものです。先ほどお示ししまし た絶望感や希望、こういった心理以外に自分の外から起こる、抑圧から来るものも見ら れました。正常な生涯発達課題を果たした、女性として子どもを産んで育てた、経験を 持つ通常の方とは違う劣等感やまた周囲からのプレッシャー、そして子どもをつくらな いといけないというあせり、など自分の外から来る抑圧と、そして自分の中から来る、 こういった不安が患者さんの中には見られていました。 ◎ART治療中にストレスを感じる時期  これは治療中にストレスを感じる時期について示したものです。こちらから月経中、 排卵誘発剤投与中、採卵をしているところ、胚移植、胚移植が終わって妊娠結果を待つ 時期、妊娠していないとわかった時期。  最もストレスを感じる時期は胚移植が終わって結果を待つ時期、そして次が妊娠して ない時期でした。頻回に病院に通院して治療を受けて痛い処置や検査をされているとき よりも、結果を待つ時期の方が患者さんにとってはストレスを感じられているようでし た。 ◎患者のニーズ(病院を選ぶ基準)  これは患者さんのニーズについて調べたものです。病院を選ぶ基準として、まず高い 治療成績、インフォームド・コンセントの充実、心のケア、医療スタッフの対応、こう いったものが病院を選ぶ基準として多く挙げられていました。  しかしながら、日本のARTの現状は体外受精や顕微授精は胚移植あたりの妊娠率が 約2割ぐらいという、そんなに高くない妊娠率でありますし、また、その妊娠率自体も 胚移植あたりなのか採卵あたりなのか、そしてどの施設がどのくらいの成績を出してい るのか患者さん自体にはそれほど正確につかめる現状ではないと思います。  それからインフォームド・コンセントの充実に対しても説明はしてありますが、基本 的な妊娠率や方法以外にも患者さんが不安に思う事柄がいっぱいあり、それをきちんと 十分に説明してもらえる。そして、それがわかりやすいということ。それからわからな いことがあったら質問できる、こういったものが患者さんにとっては大切であるようで した。それから心のケア。医療スタッフの対応としては信頼感や温かさ、待ち時間、医 師や看護職以外の事務スタッフにもこういったことを求めているようでした。 ◎各施設のコンサルテーションの現状に関する調査  それでは、各施設の現状はどうなっているかを調査したものをお示しします。これは 1999年に日本産科婦人科学会の定めるART登録施設(448 施設)、これは1999年現在 の施設数です。これらの施設に対し診療状況についてアンケート調査をさせていただき ました。回収率は179 施設(40%)でした。この179 施設の内訳は、一般診療所、不妊 専門クリニック、100 床未満の病院、100 〜300 床の病院、300 床以上の病院、大学附 属病院という内訳でした。  年間の採卵件数別に見ましたところ、1年間に100 件未満の採卵をしている施設が約 半数(54%)、次に多かったのが100 〜300 件の施設、そして中には1年間に1,000 件 以上採卵をしている施設も1%見られました。 ◎1日あたりの患者受診状況  これは1日あたりの外来患者状況を集計したものです。こちらから順番に一般診療 所、不妊専門クリニック、100 床未満の病院、100 〜300 床の病院、300 床以上の病 院、大学附属病院を示しています。  この黄色い折れ線グラフが待ち時間で単位は分です。赤い折れ線グラフは患者数で単 位は人です。そして、このグリーンの折れ線グラフは診療時間で単位は分を示していま す。 外来患者数は不妊専門クリニックが最も多く、1日平均70人の患者さんが来られ ています。そして、待ち時間は最高3〜4時間以上という施設もありましたが、平均的 には1時間前後で施設の規模が大きくなるにつれて待ち時間も増えてきているという現 状が見られました。  一方、診療時間ですが、どの施設も約10分前後。しかしながらARTの場合は卵胞計 測などのモニタリングを十分に行うために実際に医師が患者さんと話す時間はさらに短 いことが考えられます。 ◎医師のコンサルテーションに対する患者の反応  これは患者さんから上がってきました医師のコンサルテーションやインフォームド・ コンセントに対する反応の多かったものを挙げたものです。検査や治療についてきちん と説明してくれなかった。専門用語が多く意味がよくわからなかった。聞きたくても忙 しそうで聞けなかった。 ◎ART患者の治療中の相談者  これはARTを受ける患者さんが治療中にだれに相談しているのかを示したグラフで す。1番は夫でした。次が医師、そして不妊仲間、看護職、親という順番でした。夫は 自分にとって一番親身になれる存在なので相談者として最も多いという結果が出ている と思いますが、先ほどのスライドのように、医師への質問に関しては不満を持ちながら も、医療機関の中では患者さんはだれに相談してよいかわからないのが現状です。  日本の中ではコーディネーターという職種はそれほど認知されていないため、ほとん どの方は治療に詳しいドクターに説明を聞いています。そして、寂しいことに看護職へ の相談がほとんど見られていません。看護職も今マンパワーの不足などによって患者さ んに十分に話や相談を受けたいと思っていても時間の足りなさできちんとそれらのケア をすることができていません。それが看護職自体のジレンマでもありますが、看護職が きちんと患者さんをサポートしていける、そういう体制が医療機関の中には必要になっ てくるのではないかと思います。 ◎コーディネーションとは  そこで、コーディネーションとは、不妊治療を受ける患者さんの心と体に視点を置き ながら、社会生活者としての患者さんを理解し、患者にとって納得したより良い生殖医 療であるように患者さん自身の自己決定を支援し医療と患者間の調整を行う、こういっ た役割を果たす人材が必要となってきます。  また、円滑な生殖医療を行うためにはチーム内のスタッフとのコミュニケーションを 図り、意思の統一とチーム医療の促進を図ることが必要です。医師と看護職の中間的役 割を果たす、それがコーディネーターであると思います。 ◎安心して医療を受けてもらうための調整  コーディネーションの目的の1つですが、安心して治療を受けてもらうための調整が 必要になってきます。これはインフォームド・コンセント上の医師・患者間の認識の違 いについて示したものですが、九州大学の杉町外科部長の先生が書かれました「イン フォームド・コンセントそしてセカンドオピニオン」という文献から抜粋させていただ きました。医師1,500 名と患者1,500 名に聞いたものです。  手術の危険性を説明した。医師(92.9%)。患者:説明を受けた(37.4%)。手術以 外の治療法の説明をした。医師(97%)。患者:説明を受けた(40.2%)。術後の見込 みについて説明した。医師(95.7%)。患者:説明を受けた(57.3%)。医師と患者に はこのような大きなギャップが見れています。このギャップを縮めていくのがコーディ ネーションの目的の1つであると思います。 ◎納得して治療を受けてもらうための調整 医師の目標と患者の目標が同じ方向を向く  もう一つの目的です。納得して治療を受けてもらうための調整です。医療の目標と患 者の目標が同じ方向を向くことが大切です。医療の目標は、患者にとってより良い医療 を提供することでありますが、難治性の方の場合、妊娠という結果はそれほど簡単に得 られないので、よりよい成績を出すために人工的な治療にどんどん進んでいってしまう 場合もあります。患者さん自身も、それに対して十分に考えることなく、レールに乗っ たように治療を続けていく場合もあります。  そこで患者さんが何を考えているのか、何を希望しているのかを明らかにし、あるい は患者さん自身にその考えを意識化してもらう。こういうサポートをしながら医療の目 標と患者の目標をつなげていくことがコーディネーションのもう一つの役割であると 思っています。 ◎看護職の行うコーディネーション  看護職の行うコーディネーションは、単に病名や病状、予後といったものだけではな く、検査や治療行為、また検査や治療行為そのものに伴って生じる生活上の変化や心理 的反応、療養のために利用可能な各種保険・福祉サービスについての情報、かかる費用 について説明し、検査や治療と日常生活との調和をとり、患者が治療を受けやすいよう に調整することが看護職の行うコーディネーションであると思っています。 ◎精神・生活上の危機の乗り越えを支援するコーディネーションの役割  看護職の行うコーディネーションは、患者さんの精神や生活上の危機の乗り越えを支 援するものです。治療内容に伴う不安、これに対しては患者さんが必要とする時期に必 要とする情報を適切に与えていく。あるいはドクターの説明した事柄がよく理解できな ければ、それをわかりやすく説明していく。また妊娠の可能性に対しては、その治療自 身の持つ治療成績を妥当に認識できるようにサポートしていく。あるいは心理カウンセ ラーにつないでいく、そういったことが必要となってきます。また、仕事を持つ患者さ んが長期的に治療を受けられるようにサポートしていく、こういったことが看護職の示 すコーディネーションの役割であると思います。 ◎人権を擁護するコーディネーションの役割 患者の代弁者となる。  また、コーディネーションの役割には人権を擁護するものもあります。この治療の中 で、よく患者さんから出てくることは、余剰胚や余剰卵の研究協力あるいは治療の中で 起こってくる不可抗力の行為に対して同意するということに対しては患者さんも納得さ れない場合もあります。あるいはこれから第三者の配偶子提供が許可されるようになっ たときに、その余剰のものをほかの人に与えるといった、そういった事柄に対すること も患者さんの意思を尊重してゆく必要があると思います。ほかのだれからも強要されな い自発的な同意やそれらの説明経過についての確認のための書類などの署名・捺印をす ること、これらのことをもし患者さんが積極的な同意を持って遂行できない場合は調整 する。これがもう一つの役割であると考えます。 ◎当院のシステム  もう一つのコーディネーションの役割は、医療チームの中のコーディネーションをす るということです。これは当院のシステムについて示してあるものですが、治療を受け られる患者さんを中心にいろいろな職種がチームで医療を行っています。ドクターは治 療とインフォームド・コンセントを行います。それから実際に患者さんからお預かりし た卵子や精子などを扱うエンブリオロジスト(胚培養士)という職種、そして心理カウ ンセラー、調整を行うコーディネーター、そして患者さんのケアを行う看護職、これら の職種がそれぞれ違う方向を向いて医療をするとこは患者さんにとってはよいとは言え ません。したがって、チームの中で同じ考えを持って治療が遂行できるように意思の統 一を図る。そういったこともコーディネーションの役割であり、あるいは必要なときに カウンセラーやドクターにつないでいく、こういうことがコーディネーションの役割で あると思います。 ◎体外受精コーディネーターの役割  実際に私が体外受精コーディネーターとしてクリニックの中で行っている業務をお示 しします。まず治療に関する患者の意思決定の支援を行っています。これはドクターの インフォームド・コンセントの補助をしております。それからコンサルテーション、説 明や相談。そして患者がセルフケア、自分できちんと自己選択できるように患者教育を 行っています。これは不妊教室などの集団教育を通しても行っていますし、個別的にも 健康の増進のための教育なども行っています。  それからスケジュールの管理、他職種との調整、看護スタッフの統括、精神的なサ ポート、このようなことを行っております。 ◎コーディネーションの主な役割  コーディネーションの主な役割としては、情報収集と評価、検査や治療内容に関する 説明や相談、患者管理、検査、診療や採卵・胚移植の介助、相談や介助を通しての心理 的支援、こういったものがコーディネーションの主な役割と言えます。 ◎不妊治療の中でのコーディネーション  本来ならばARTを行う患者さんだけではなく、不妊症であると認識して病院に訪れ たところから検査、タイミング法、人工授精、いろいろな段階で患者さんはいろいろな 不安や悩みを持っています。実際ならばこういうところにもきちんとコーディネーショ ンをしていく必要があるのではないかと思います。 ◎コーディネーションの内容と時期  これからはコーディネーションの内容と時期についてお示しします。初回受診時から 検査を遂行する時期、これに関してはお手元に不妊患者支援のためのガイドラインが先 日委員の先生方にお配りされているとお聞きしていますが、これは聖路加看護大学の母 性の森助教授が中心になってまとめられたもので、これも参考にして書かせていただい ています。  まず医療機関の中でコーディネーターが身近に患者さんと相談できる相手として認識 していただくことが大切だと思いますので、身近に相談できる相手として自己紹介を し、信頼関係を築くことが初診時の重要な役割です。それは一般的な問診をとっている とき、あるいはいろいろな情報を収集しているときにきちんと信頼関係を築く必要があ ると思います。そして、そのカップルに関する不妊治療歴や背景、価値観、検査や治療 に対する希望、ライフスタイルなどの情報を収集し評価する。そして検査や今後の治療 に対する適切な情報提供とそれに伴う相談を受け、患者の自己決定を支援する。セルフ ケアへの支援、これにはリソースの紹介も含まれています。また、スケジュール管理と 介助、他職種との調整、これがまず初期の時期のコーディネーションです。 ◎コーディネーションの内容と時期  これは治療が実際に始まってからの支援ですけれども、一番重要な支援は自己決定の 支援になってきます。医師から提示された治療を選択するかしないか。そしてそれをど のくらい続けていくのか。患者さんご夫婦がきちんと考えられるように支援していくこ とが重要で、情報提供と説明。そしてその項目に対する患者さんの考えの確認、それか ら日常生活との調和を図るための相談。そしてきちんと患者さんが意思を表出できるた めの配慮としてはプライバシーの保護を行いながらきちんとやっていくことも大切で す。  また、奥様だけではなくご主人と一緒にカップルで問題を解決していくことの重要化 に対する患者教育。それから見通し、どこまでこの治療をやっていくのか、どの時点が 来たらやめるのか、治療の見通しをきちんとご夫婦でたてていただく。それから周期的 に治療を繰り返している人あるいは治療終結に関する意思決定に関する支援は、カウン セラーと共同しながら、この治療を受けたことがつらく苦しい体験として残るのではな く、夫婦にとってかけがえのない体験だったと感じていただけるように援助していきた いと思っています。そしてセルフケアへの支援、スケジュールの管理と介助、他職種と の調整、こういったのが治療時のコーディネーションであります。 ◎コーディネーションの内容と時期  治療後のコーディネーションです。これは妊娠が成立した場合、あるいは成立したけ れども、流産した場合、そして妊娠が成立しなかった場合、治療を長期的に続けてきま したが、もう子どもを産むことをあきらめて断念する場合と4通りあります。  妊娠が成立した場合は、その後のこともきちんと説明していく必要があり、流産する こともある。あるいは妊娠中に異常が起こることもあるので、そういったときに対処で きるように妊娠の初期の状態について説明をしていきます。あるいは出産や育児に対す る情報提供、どういった病院を選べばよいのか、など説明していきます。  また、流産した場合は精神的サポートが最も必要になります。これはカウンセラーと 共同して行いますが、患者さんが悲嘆の過程から再起するまでをサポートしていくよう になります。あるいは流産した後に、今回の流産の原因がどういう原因だったのか。そ して今後の治療方針はどのようになっているのか、患者さんがきちんと聞けるように医 師と調整をとっていきます。それから、流産後の体の指導について行っていきます。  妊娠が成立しなかった場合、これも精神的サポートと医師やカウンセラーとの調整が 必要になります。そして妊娠が成立しなかった場合に今後どのような治療方法を希望し ているのか。いつごろからまた治療を再開したいのか、あるいはどのくらいお休みをと りたいと思っているのか、意思の確認をします。  そして治療を断念する場合、これも精神的サポートと医師やカウンセラーとの調整を 行っていきます。 ◎コーディネーションの客体(対象者)  コーディネーションの対象者には病院に訪れる患者さんだけではなく、配偶者も含ま れます。また、今後第三者の配偶子提供が許可されていく場合に、配偶子を提供する 人、提供者の配偶者、提供により生まれる子、これらの方々が対象となってくると思い ます。◎非配偶者間におけるコーディネーション  第三者の配偶子提供におけるコーディネーションで重要なことは、自分以外の、ほか の人へのリスク、を考えていかないといけないことだと思います。提供者が受ける排卵 誘発法や採卵法、それらに伴うリスクや副作用、さらにそれらが起こった場合の保証は どうなっているのか、これは提供者と受領者双方が知っておくべきことであると思いま す。また治療のスケジュール、費用負担について、それだけの負担やリスクをかけて 行った後の治療、日常生活の留意点、カウンセラーの紹介などについて説明する必要が あります。さらに提供を受ける場合、提供する場合に正常な心理過程にあるのか、心理 査定を行うカウンセラーとの調整。提供を受けた場合の親子関係、これは異常児が生ま れてきた場合も含めてのものになると思います。配偶子の提供により生まれた子が出生 を知る権利を希望した場合に備えた治療情報の厳格な管理。こういったものも、だれが 行っていくか、今後重要な課題になってくると思っています。 ◎コーディネーションを行うのに必要な能力と経験  今までお話してきましたコーディネーションを、今現在だれが行っているのか、ま た、各施設にコーディネーションを行うスタッフが不足しているということが今の一番 の問題であると考えています。コーディネーターをおくとすれば、どういった能力や経 験が必要になるかと申しますと、やはり生殖医療に関する医学的な知識が十分であるこ と。それから、検査や治療の介助を含めた患者のケアに関する知識が十分であること。 そして生殖医療はそれだけではなくて、倫理、法律、卵の採り間違いなどによるリス ク・マネジメント、カウンセリング、心理学等の知識、こういったものが必要になりま すし、さらにチーム医療における各職種間の調整能力、こういったものが必要になって くると思います。  これらを網羅してやっていくには、医師に近く、そしてカウンセラーにも近い、能力 を持つ看護職が適していると思います。看護職であっても中堅以上の、例えば5年以上 の経験を持ち、生殖医療に関しても3年以上の経験を持つようなものが適切に患者さん をサポートして行けると思います。生殖医療においてコーディネーターをチーム医療の 中に配置するシステムをつくっていただくことが患者さんを一人の人間としてサポート していくことに通じていくのではないかと考えております。               (パワーポイント映写終了)  以上で、私のご報告を終わらせていただきます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。具体的にしかも詳細なお話を伺いました。ありがと うございました。委員の皆様何かご質問など、どうぞ。 ○澤委員  貴重なお話ありがとうございました。コーディネーターの意味について、今、福田師 長もおっしゃっておられましたけれども、移植医療のコーディネーター、例えば骨髄バ ンクのコーディネーターというのは、どちらかというと医療を推進するためにコーディ ネートすると。それは割合と納得しやすいのですけれども、しかし子に恵まれないクラ イアントに対して、例えば養子を恵まれて幸せになるケースもあるとか、いや、あなた たちも子どもを持たなくても十分、ほかに別の方法があるんじゃないでしょうかという ような、必ずしも治療を推進するばかりでない選択肢をコーディネートしてあげること はすごく大切なことだと思います。  そういったことも、例えば患者さんをレールの乗せないであるとか、今スライドの中 に出て非常に感心したのですけれども、実際にそういう選択肢をチューズさせたケース はおありですか。治療を断念させたというのがあったみたいですけれども。 ○福田先生  治療を続けていくか断念するかというのは、生殖医療を受ける患者さんをサポートし ていく側としては永遠の課題であって、常にそこを考えずには次には進めないというこ とがあります。特に40代に近くなられた患者さんは、そのあたりのことを考えながらや っていかないといけないので、今後の治療についてどう思っているのかは、治療が終わ ったときに必ず聞くようにしています。  そして、最近は新聞でよくほかの人から卵をもらえるので、自分もそうしたいと言わ れる患者さんが結構多いのですけれども、それがその人にとってどういう意味を持つの か、そのあたりをきちんと説明しながらサポートしていくと、実際にはそういうことで はなく、二人だけで生活していくことの大切などをカップルで見つけて進んでいかれる 方もおられます。それから養子縁組を受けたいと言われる方もいますし、治療だけでは ないという結果を受けることがあります。  それは私だけの援助ではなくて、心理カウンセラーも一緒になりまして、自分の心を 整理する助けが必要であると思いますし、個人だけではなく同じ経験を持つ方が院内に はたくさんいますので、例えば40代の方だけの患者さんの会などをつくって、そういう ところに参加して心を整理するとか、そういうサポートもしております。 ○澤委員  わかりました。今非常に気がかりなのは、治療が実際に難しくて、金銭的にもかなり つらくなってきて、どうしても治療を断念し、一たん私たちは子どもはいいやと決めた カップルたちが、今の風潮ですと、第三者の配偶子を使って体外受精ができるような時 代がもうすぐ来るかもしれないというような、昨今の風潮を受けて、精神的にどのよう な状態にあるのだろうかというのが非常に興味があるというか非常に重視しなければい けない部分だと思いますので、ぜひ、そういうことをまたどんどん蓄積してまた教えて いただきたいと思います。 ○福田先生  ありがとうございました。 ○鈴木委員  お話ありがとうございました。同じような質問なのですけれども、通っている方がど うしても治療が長期化になっていくというようなお話もありました。まして長くなって いく治療をどうサポートしていくかということも大切だということもあったのですが、 私個人はむしろ長期化、いたずらに長期化させない工夫・配慮も非常に大事だろうとい うふうに考えるんですね。今のと似たような質問なんですが、具体的に例えば体外受精 はかなり今年齢制限を設けている病院なども多くなっています。そちらのクリニックで は年齢制限とかはいかがなんでしょうか。 ○福田先生  基本的には年齢制限という形で何歳以上の方はお受けしませんとかということはして いません。ただ、40代でも1歳毎に状況が変わってきますので、当院が昨年900 件ぐら い採卵しておりますけれども、実際の話が250 件ぐらいが40代の方なんです。それで40 代の方のデータを集積しまして1歳毎に妊娠率、胎のうの見える確率、心拍の見える確 率、出産する確率、そういうものを出していきますと、42〜43歳ぐらいから妊娠率は1 桁に近い、流産率も100 %に近い流産率になってくるので、そういったものをお示しし ながら治療を進めていっています。 ○矢崎部会長  そのほかどうぞ。 ○才村委員  コーディネーターの役割というものが、私自身が今聞かせてもらって多岐にわたって サポートをしておられるのだということで感心したのですけれども、先ほどの説明にあ りましたように、生殖補助医療だけではなくて養子を得るというふうな方法もあるよと いうことで言われたということで、私自身児童福祉を専攻していまして、またソーシャ ルワーカーでもあるのですけれども、非常にその辺では保健福祉的なサポートもされて いるということで、福祉の面でのサポートもこのコーディネーターの役割としてあるの かなと思ったのですけれども、その辺のところをもう少し、例えば私自身がよくわかっ てないのですけれども、病院におられる医療ソーシャルワーカーという方がおられます ね。生殖補助医療とかこういう不妊治療に医療ソーシャルワーカーという方がおられる のかどうかなのか、おられないのかなと思うのですけれども、医療ソーシャルワーカー とコーディネーターとの役割の違いみたいなものがあるのか。  それから、生まれた子どもさんにもサポートをするというのがコーディネーターの方 の役目ということでおっしゃっていたのですけれども、例えば病院に来られただけでは なくて、家庭まで出かけて行って、そこまでサポートされているかどうかわからないの ですけど、親子関係を調整するとか、家族の中の人間関係まで調整するというふうなこ とが役目の中に入っているのかどうなのかということについてお伺いできたらと思いま す。 ○福田先生  実際には医療ソーシャルワーカーという職種の者はまだ当院にはおりません。それで 現在私がしていることは、例えば育児の問題で、生まれた後に訪問しているのかどうか というところは、生後の管理表というのを患者さんにお配りしていて、どのぐらいの体 重でどういう分娩経過だったのかお知らせしていただくようにしていますので、小さく 生まれた場合とか、多胎とか育児上何か起こり得ると思われる方に関しては保健所にサ ポートを受けられるといった情報提供ぐらいまでしかしていません。 ○矢崎部会長  そのほかいかがでしょうか。 ○相良委員  とてもきめ細かいケアをされているので感心いたしました。2つほどお聞きしたいこ とがあるのですけれども、こういった生殖補助医療とか今後第三者の配偶子が入ってく るような医療になりますと、多分技術そのものよりも、こういった先生方がやられてい るようなコーディネーションの方が重要になってくると思うのですが、患者さんの数が 非常に多いと思うのですが、実際に毎回コーディネーターのところに行って、医者から こう言われたけれども、こういった治療は受けたくないとか、今後どうしたらいいかと いうのは相談するというようなシステムになっているのか。実際のやり方が1点。  それから今後のこれだけのことをやる優秀なコーディネーターを育てるということに 関して、先生のお考え、どういった方法がいいのかというようなことがあったらお尋ね したいのですが。 ○福田先生  初診のときに、ドクターの方から示された事柄に対して、患者さんがどういうふうに 考えているのか。そして今後どういう選択肢をとるのか、そういったところの情報提供 や説明、相談など、すべてお話しすると1時間くらいかかります。ですからすべての患 者さんにできるわけではないので初診制限というのを当院ではしていまして、1日に3 件から5件ぐらいしか初診の方はお受けできない感じなんです。それ以外にコーディネ ーションを行う時期としては、今から治療を始めるという排卵誘発剤を投与するとき。 それから採卵が決定したとき、それから妊娠判定の日、そういったときにコーディネー ションできるようにしておりますが、一人ではやはり不十分なので、何人か同じ業務を 行えるスタッフを配置して複数体制でやっています。  それと2番目の質問に対しては、今のところこれらの知識的なものとかいろいろなも のを網羅して人材を養成していくというのが大学教育にもありませんし専門学校にもあ りません。考えられるのは、ことしから看護協会が不妊認定看護師を育成するというこ とで、約6カ月かけて必要な事柄を教育するシステムを立ち上げているのですが、それ と同時にいろいろな学会とかいろいろなところからサポートをしていただいて、実際に コーディネーターの教育システムをつくっていただきたいというふうに私自身も考えて おります。 ○金城委員  具体的にいろんな医院でどのぐらいのパーセンテージでコーディネーターという方を 置いているのでしょうか。それも規模別でもし大体のことがおわかりになったら知らせ ていただきたいと思います。 ○福田先生  今コーディネーターとか不妊カウンセラーという名称を持って働いている者がいると すれば、もと自治医科大学の荒木重雄先生が中心になってされている生殖医療研究協会 というのがありまして、そこでコーディネーターやカウンセラーを養成しておられるの ですが、今のところ認定を受けているスタッフは400 名ぐらいだと聞いています。ただ 、ARTの登録施設自体もう500 件を超えているので、1施設に1人というわけではな いと思いますし、特に大きな病院になればなるほど、縦割りの体制があるので、コーデ ィネーターとしての認定を受け、そういう業務をしたいと思ってもできていないのが現 状なので、恐らく大きな病院にはコーディネーターは今のところはいないのではないか と思います。個人クリニックのベースでそういうサポートしているのが現状ではないか と思います。 ○矢崎部会長  この委員会は、生殖補助医療の実施に至るまでの手続とか実施機関の施設基準とか、 そういうものをこれから検討しなければいけないんです。先生のお話で、先ほどの九州 大学の杉町先生の統計にあるようにああいうお話いっぱいありますよね。というのは、 1つは、ここでは十分な説明の実施をしなければいけないというのが専門委員会の報告 なんです。十分な説明というのが、医師がやった場合、皆さん90%以上十分な説明をし ていると。ところが受ける側から見ると多くて半数であると、内容によってございます ので、先生は十分な説明の実施の条件というのは、例えば説明する方はどうも医師では だめではないかと。やはりそういうカウンセラーないしコーディネーターの、要するに 医師と医療を受ける患者さんだけではなくて、絶対的にそういう方が必要ではないかと いうふうなお考えでしょうか。 ○福田先生  それは医師の方が医学的な知識もあるので、患者さんに説明する場合にいろんな質問 とかに対応できるとは思いますけれども、実際には医師も多忙なので、患者さんが説明 を受けた事柄を自分の生活や治療と照らし合わせて考えていくには、医師ー患者間の認 識のずれを修正し、十分に説明する時間が必要であるし、患者さんに近いところでコー ディネーションしていく必要があると思っていますので、時間と知識を持って患者さん に近いところでサポートできる、そういったスタッフであるとすれば看護職が望ましい と思っています。 ○矢崎部会長  スタッフとして心理的なサポートを行う心理カウンセラーと、先生のように、生殖補 助医療の専門領域で知識を持った方がカウンセリング、コーディネート、いろんな相談 に乗れるということで、心理カウンセラーとコーディネーターの位置づけといいます か、先生も心理的なカウンセラーというのは必要であると。 ○福田先生  治療が長期化したり、女性としてあるいは男性としての価値観を揺るがすような状況 に直面することも生殖医療を受けている中ではあるので、そのあたりの心理的なトラウ マとかいろいろなことをサポートするのは専門職の臨床心理士とか心理カウンセラーが 望ましいのではないかと思います。  ただ、それ以前の情報提供であったり、治療にかかわる相談や説明などはコーディ ネーターが行った方がよいのではないかと思います。 ○鈴木委員  ちょうど私も今部会長がおっしゃるようなことお伺いしたいなと思っておりました。 夫婦間での不妊治療の場合、必ずしも心理カウンセラーがいなければならないというこ とはないとは思うんです。2つ確認があって、現実にはいわゆる心理の方にリファーし なければいけない、した方がいいなと思われるようなケースがどのくらいあるのかとい うことが1つ、それは夫婦間の今の現状の中で。  もう一つ、福田さんご自身が、いわゆる提供の場合について心理カウンセラーによる カウンセリングは不可欠だと考えていらっしゃるのかどうか、この2点をお伺いしたい のですが。 ○福田先生  夫婦間においてもやはり心理カウンセラーは必要だと思うのですけれども、私が大体 心理カウンセラーにつないでいる患者さんは、もともと精神的に抑うつ状態があって、 お薬を飲みながら治療されている方とか、精神的ストレスを強く受けられている方など でそういった方は心理士とのタイアップが必要になってくると思いますが、それほど多 くはいないと思います。  それと第三者の提供に関しては、それを受けられる状態にあるのかどうか、心理査定 を行う必要がありますがそれはカウンセラーがされた方がいいのではないかと思いま す。 ○矢崎部会長  なかなか大変なお仕事だと思いますが、あるいは治療を受けるご夫婦のいろんな条件 でカウンセリング、コーディネートする、ケース・バイ・ケースだと思いますが、そう いうものを進めるための、ある程度の共通事項といいますか、類型化といいますか、あ る程度こういう手順でこういうことをすればカウンセラー、コーディネーターとして実 効あるものとして実施したという、そういうことが得られるのでしょうか。あるいは ケース・バイ・ケースでそれぞれ悩みごとに対してきっちり答えなければいけない。質 問の仕方がわかりにくいかもしれませんが、1つはカウンセラー、コーディネーター全 部揃え、先ほどのエンブリオロジストを含めて全部揃ってなければ提供配偶子による生 殖補助医療はできないということが可能だと思いますが、何か基本的な内容とか方法が 定められればある程度安心して治療を受けられる……表現が難しいのですが、そういう ようなものは、例えば専門の先生方にお聞きすると、大体こういう方法とか内容を押さ えれば大丈夫ですよということは言える可能性あるのでしょうか。 ○福田先生  基本的なラインはコーディネーションの業務の体系化というか、それはしていった方 が患者さんにとって平均的なケアができると思いますので必要でないかと思います。た だ、システム化されたものをチェックリスト式にただ進めていくだけでは一人の人間と しての患者さんをサポートすることはできないので、そのあたりは応用的にやっていか ないといけないのではないかと思います。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。よろしいでしょうか。  どうも福田先生ありがとうございました。  それでは10分休憩させていただいて、52〜53分ぐらいでまた再開したいと思います。 両先生、お時間あれば、後半のインフォームド・コンセント含めてお話を伺えればと思 いますので、よろしくお願いいたします。                  (休 憩)                  (再 開) ○矢崎部会長  それでは検討会を再開させていただきたいと思います。  次に吉村委員から「インフォームド・コンセントのあり方について」、お話しを伺い たいと思います。よろしくお願いいたします。 ○吉村委員  お手元に資料5があると思いますが、それを見ながら説明をさせていただきます。  これは昨年度と一昨年で「生殖補助医療の適用及びその在り方に関する研究」、これ は厚生科学研究ですが、矢内原先生を主任研究者として行ったものの第3班の報告書で ありまして、これは名古屋市大の鈴森教授がおまとめになったものを、私も一部関与し ておりましたので説明をさせていただきます。  目次がございまして、その次のページですが、まず生殖補助医療一般についてのイン フォームド・コンセントはどのように行われいるかということをまず初めにご説明いた します。先ほど福田さんからのお話もありましたけれども、医療従事者は大変時間に限 られておりまして、患者さんに対して接する時間が、先ほどのデータでも15分程度とい うことになりますと、十分な生殖医療一般におけるインフォームド・コンセントをとる ことは大変難しくなってきているわけであります。ですから各機関において、例えば不 妊学級を1時間半程度行うとか、体外受精に関しましては特別に体外受精学級といった ものを行います。そういったところでお話し合いをするようにしております。  生殖医療一般においてどのようなことをまずインフォームド・コンセントをするかと 申しますと、(1)から(4)までございますが、(1)不妊検査の概略を説明いたします。まず 検査がかなり多岐にわたっております。  (2)不妊治療の概略、これも多岐にわたっております。  (3)が治療に要する期間、妊娠率、流産率、奇形率、染色体異常率など、こういったこ とをまずインフォームド・コンセントを得るわけであります。  (4)副作用につきましても、排卵誘発剤を使うことが非常に多くございますので、副作 用についても十分インフォームド・コンセントをとるということでございます。  この検査の概略につきましては、不妊検査、このように基礎体温から始まりまして、 精液検査、子宮卵管造影、頸管粘液検査、性交後試験、超音波検査、さまざまな検査が あるわけですが、これについてどういう意味があり、どういったことがわかるのかと いったことを説明いたします。  一般に不妊治療といいますと、生殖補助医療とARTといつも言われそうですが、不 妊治療で占めるパーセンテージというのは、本来であるならば、それがすべてではない ということです。検査に関しましても治療に関しましても一部がARTであるという理 解の方が私は正しいと思います。いつも言っているわけでありますが、ARTと申しま すのは、医療として本当に言えるのかどうかという問題点もございます。それはどうし てかと申しますと、ARTというのは常々病態を治しているわけでありません。常にバ イパス技術でありまして、ないものに対しては補ってやるとか、ないものをどうして、 要するに卵管が閉塞している患者さんに対して卵管を通すような努力をするとか、そう いった技術ではないわけであります。常にバイパス技術であると、こういったものが不 妊治療というものに対して大きなウエイトを占めるようになってきたということも不妊 治療については大きな1つの問題点であると私は思います。  ですから検査について、どういった検査があるのか。治療についても現在では生殖医 療の例えば専門クリニックへ行きますと、ともすれば体外受精が早く行われてしまった り、顕微授精がすぐに行われたりといったこともないわけではなく、そのほかの治療も あるということを十分に理解していただくことも大切だと思います。  治療に要する期間というのは、これは確実なことは言えないわけでありますが、妊娠 率におきましても、クリニックによっても当然のことながら妊娠率は異なりますし、そ れから我が国のデータといったもの、流産率、奇形の率、染色体異常率、こういったこ とも十分にインフォームド・コンセントをしなければならない。  副作用につきましても、排卵誘発剤が使われるようになりまして、完全に多胎妊娠、 多胎率というものは増えてきております。双胎、三胎といった多胎が非常に増えてきて おります。それから一定の割合でOHSS(卵巣過剰刺激症候群)というのが起こって まいります。特に妊娠した場合にはこのOHSSが非常に長引き、そして重症化する危 険性があるわけです。こういったこと。それから、当然のことながら手術操作によるリ スクといったことも説明しなければならないわけであります。  こういったことをインフォームド・コンセントするわけですが、次に内容について少 しご説明いたします。  (1) 生殖補助医療のインフォームド・コンセントというのはやはり生殖医療の経験が 豊かで、医療相談・カウンセリングに習熟した医師によって行われるべきであるという ことであります。しかしながら、先ほど福田先生もおっしゃいましたけれども、時間的 な余裕、患者さんが非常に聞きにくいという状況も当然のことながらございますので、 先ほど申されましたコーディネーター、こういった方が支援するというような形をとる のが正しいと思います。  (2) 最近の情報をカップルに提供するということであります。実施施設の治療サイク ル当たりの、例えば出生率でありますとか、全国平均の治療サイクル当たりの出生率 は、日本産科婦人科学会から出生率、妊娠率が出ておりますので、こういったものを説 明するということであります。治療手段の種類、適用、必要であれば年齢別の妊娠率、 生産率、流産率、多胎妊娠率、こういったもの。女性や生まれる子どもの副作用と危険 性の可能性、かかる費用、こういったことについてもICをとる必要があると思いま す。  (3) 当然のことながら、生殖補助医療というものは、それを受けるものの自律性に基 づいた意思決定に従って行われ、この自己決定については医師、カウンセラー(コー ディネーター)の示唆もしくは指導によって行われるように配慮しなければならない。  (4) ICを得た後であっても、患者の自由意思により、いつでもその同意を取り消す ことができる。これによって患者は何ら不利益を被るものではないということを十分に 患者さんに伝えておかなければならない。  (5) 本来当然のことながら、夫婦の自主性に基づく意思決定によってなされるべきで ありまして、親、家族、友人などからの同意を得て実行することは避けなければならな いといったこともICをとる必要があると思います。  (6) 不妊カップルの生殖医療の実行に関する申し出について、医師が判断をいたしま して、社会的、倫理的規範に照らしまして、あるいは医師の信条もあるかしれません が、同意ができない場合は、例えば関連学会の公表する会告、通達に違反すると思われ るような場合には、これを拒否することができるということであります。  (7) 当然のことながら、これも大切なことですが、生殖医療のプログラムに組み入れ られた患者個人、配偶者もしくは関係者の知りえた生殖機能や生殖遺伝に関する情報は 当然のことながら守秘義務の対象となるということであります。こういったことは医師 のみならずコメディカルスタッフも慎重な配慮が要求されるわけであります。  今までが通常の生殖医療一般にかかわることでございます。  3 次が非配偶者間の体外受精に関するインフォームド・コンセントの場合でござい ますが、当然のことながら生殖補助医療が普及した今日でも、配偶子である精子・卵 子、あるいは例えば子宮がない症例、こういった臓器がなければ、不妊カップルの遺伝 性を受け継いだ個体をつくることはできないわけであります。  1)こういったところから非配偶者間の体外受精、代理懐胎といったことが考えられ てきたわけでありますが、その際の説明の主体でありますが、これは当然のことながら 生殖補助医療に関するインフォームド・コンセントは医師が行わなければならない。当 然のことながら、その医師は、生殖医療の専門の施設の責任医師あるいは担当医が行い ます。  当然のことながら医師が十分に行うことができるとは限りませんので、必要があれ ば、体外受精のコーディネーターなどの意見を取り入れた上で十分に患者さんに納得し ていただくことが大切であると思います。  2)それから、精子提供については、男性は無精子症であるか、極端な乏精子症で顕 微授精を行っても受精をしないで妊娠不可能である症例であります。卵子提供に関しま しては、自己の卵子が使用できない場合に限られるということでございますが、この場 合の説明を受けて同意する客体は提供者とその配偶者、受容者とその配偶者ということ になるわけです。当然のことながら、クライアント夫婦と提供者、提供者に配偶者があ る場合には文書によるインフォームド・コンセントを得る必要があるわけであります。  この際に欧米などではよく行われていますが、卵子、特に胚の提供者に関しまして は、提供してよいという気持ちになった理由、予備的、遺伝的なスクリーニングによっ て提供者として適切であるかといった審査を受けることが前提条件になってくるわけで あります。  3)非配偶者間体外受精について説明する内容とインフォームド・コンセントの在り 方でございますが、(1)生まれてくる子どもの親権についてでございますが、これに つきましては、今法務省で親子法部会というのがございまして、そこで十分な検討をさ れています。親子法を明確にする法律の整備が必要となることは当然のことでございま す。各非配偶者間の生殖補助医療プログラムでは提供者、提供を受ける者の夫婦双方が 生まれてくる子どもの親権の帰属について、個別に医師やコーディネーター立会いのも とでお話し合いをいたしまして承諾、同意したという旨のインフォームド・コンセント に書面による同意・捺印が必要となるということでございます。  (2)もう一つの大きな問題点は、wrongful life baby、これを訳しますと不当な生 存児ということになるのですが、不当な生存児という言葉はよろしくないのではないか と思いますが、一般的には不当な生存児というふうに使われているようです。私ちょっ と変えまして、「予期しない生存児」ということにいたしましたが、第三者の卵子・胚 を用いる非配偶者間の体外受精では、出生児に予期しない突然変異の遺伝病、染色体異 常、奇形が生じることが当然のことながら、先ほどの場合と同じように起こってまいり ます。自分の遺伝的につながった子どもであれば、こういったことも許容されるという ことはあるわけですが、非配偶者間の場合にはこういったことが非常に大きな問題にな るわけであります。クライアントのご夫婦というのは、正常とは言ってはいけないので すが、全くそういったものがない、通常のお子さんが生まれるとお思いになっている場 合が多いと思いますが、こういった医療では十分にこういったことをインフォームド・ コンセントしなければならないといった状況が起こってまいります。どのような場合で あっても生まれてくる子どもに対する義務・責任の一切をクライアントの夫婦が負うこ と。それから提供者には一切の義務・権利が認められないということを双方の合意事項 としてインフォームド・コンセントに盛り込まれなければいけない大切な点であると思 います。  4)提供者の権利に関するインフォームド・コンセント  精子提供に関してはそれほどのリスクはございませんが、卵子提供者には卵巣刺激、 採卵などの際に予期しない副作用、合併症、時には入院が必要になることがあるわけで あります。通常大体体外受精におきましては、生殖内分泌委員会でまとめたデータによ りますと、7%ぐらい、10%弱の方が何らかの形で入院を要する場合があるわけです。 そういった際の治療、保障に対してだれが責任を負うかといったことを明確にしていか なければならないわけであります。 (1)卵子・胚の提供者の個人情報の保存・保護について  この部会ではまだ結論出ておりませんが、専門委員会の報告では、卵子提供者、胚提 供者は匿名が原則でございます。ですから、これはまたお話し合いで変わってくるかも しれませんが、この時点では専門委員会の報告を受けてつくりましたので、提供を受け る者が特定されるような個人情報は提供者には告げられないことにしております。また 反対に、提供者が特定される個人の情報も提供者が開示の許可を与えない限り、提供を 受ける者に教えられることはない。しかし、生まれた子どもが配偶子や胚の提供により 出生した事実を知った場合、提供者が特定することができないものについて子どもに知 らせる場合がある。こういった場合があるということの同意を提供者から得ておく必要 があります。一方、近親者や友人間の卵子・胚の提供はお互いに特定できる関係にある ということもございまして、提供者も提供を受ける者も子どもの出自を知られる事態が 起こりうることを認識していかなければならないということでございます。 (2)卵子・胚提供に関して提供者に告げられる情報について  これに関しては、提供した人がどのような情報を得られるかということにつきまして は、提供者に採卵後に与えられる情報は幾つぐらいの卵子が採れたのかということと、 卵子の成熟度ぐらいはお話しすべきでないか。エッグ・シェアリングの場合も同様でご ざいます。胚の提供者に関しては、胚の質と提供可能な胚の数を、提供者に関してこれ ぐらいの情報は与えておかなければならないということです。 (3)提供者の知り得る情報について  提供者は提供を受ける者や生まれてくる子どもを同定することはできない。提供され た卵子によって受精卵が得られたかどうか、卵子・胚の提供者に提供された卵子・胚に よって提供された者が妊娠・出産に成功したかどうかについては一切提供者に教えない といことに一応はいたしました。  5)提供者が受けるスクリーニングについて  医学的な背景を初めに申しますと、(1) これは家族歴で近親者にさまざまな病気があ るかどうか、こういったことは両親とか兄弟姉妹、子どもなどについて聴取する必要が あるのではないか。必要があれば、叔父さん、叔母さん、こういった方からも情報を得 るということでございます。  (2) 精子・卵子・胚の提供個人の医学情報については、家族歴のほかに既往歴、梅 毒、B型肝炎、C型肝炎、HIV、これは通常今のAIDにおいても行っております が、こういったことを行います。欧米ではそれに加えましてサイトメガロウィルス、ク ラミジア検査をいたしております。 (2)心理スクリーニングとカウンセリングについて  要するに特に卵子と胚のときに問題になると思いますが、提供候補者、提供を受ける クライアントの夫婦でございますが、欧米などではプログラムを開始する前に心理学的 なスクリーニング検査を受けることが義務づけられております。ですからこういったこ とも必要になるかもしれません。心理カウンセリングはこういった方に関しましては何 回でも受けられるということが必要であると思いますし、こういったカウンセリングに つきまして知り得た個人的な情報に関しては当然のことながら担当の医師、カウンセ ラーのもとに保存され守秘する義務があるということでございます。  こういったICに関しましては行う医師もあるかもしれませんが、やはり臨床心理士 のようなカウンセラーがこういったスクリーニングテストを行うのが妥当であると。も し、こういったスクリーニングによって提供者が不適格という情報が与えられた場合に は提供者リストには登録はしない。不適当だとされた場合には、その候補者は当然のこ とながら理由を説明される権利を有するということでございます。  6)提供候補者の登録と注意事項の説明 (1)(1) 精子・卵子・胚提供による体外受精の方法と管理についでございますが、 (2)これは少し医学的なことが入ってまいりますが、卵子提供者の場合には、当然のこと ながら経口避妊ピルを使用している場合には直ちに中止をしていただかねばなりませ ん。IUDの使用は差し支えないと思っております。  (3) 当然のことながら、卵子提供者として採卵周期に入ってゴナトロピンによる刺激 を始めた場合には性行為を禁止していただかねばなりません。  (4) 卵子提供の場合、採卵を確実に実施するためには、排卵誘発剤を用いるわけで す。この場合に、卵巣刺激を行うわけですが、そういった場合には卵胞の成熟度、要す るに卵胞がどのくらい大きくなったか。副作用があるかどうか、こういったために連日 通院をしていただかなければならないわけであります。この際に、提供者にはなぜ卵巣 刺激法が必要であるのか、どのくらい期間が必要であるのかといったことを十分な説明 をする必要があります。  (5) 卵胞の成熟が確認されれば、決められた時間に来院しまして、hMG という注射か らhCG という注射に切り替えるわけです。  (6) 採卵に関しましても当然のことながら超音波ガイド下で経膣採卵で行う。この際 には当然針で刺すわけですから、出血が起こり得るということでございます。  (7) 採卵を行う際には麻酔をかける。  (8) 採卵後のケアは一応24時間に関しましては、絶対安静ではありませんが、安静を 保っていただく。鎮痛剤、抗生剤を投与してもらわなければなりません。採卵後1週間 に関しましては、医療の専門の看護師さんでも結構ですし医者でも結構ですが、いつで もこういったときに質問や疑問に提供者に対してはお答えしなければならないというこ とでございます。 (2)非配偶者間体外受精の成功率と医学的リスク  これについてもある程度クライアント夫婦にはご説明をしていかなければならない。  (1) まだこれは決定したわけではございませんが、卵子の提供者が35歳未満というこ とに限定をいたしますと、通常の体外受精、顕微授精、こういったものの成績よりも好 成績が得られるのではないかとは考えております。  (2) OHSS(卵巣過剰刺激症候群)に対しても前駆症状に対しても十分な注意を当 然する必要があります。  (3) この際に、卵子提供者の場合には当然移植をいたしませんので、妊娠は成立当然 のことながらしないわけですから、OHSSの頻度というのは、通常の体外受精よりも 低い頻度になるだろうということが予想されます。  (4) 採卵のときに、先ほども申しましたが出血、感染、他臓器への穿刺、例えば腸な どを穿刺する場合もないわけではありません。非常に稀でありますが、私も腸を穿刺し たということは余り聞いたことありませんけれども、出血が起こるということはある程 度の頻度で起こってまいります。それから、麻酔を当然のことながら静脈麻酔で行って いるところが最近多いと思いますが、麻酔の合併症のリスクも当然のことながらお話し なければならない。  (5) ゴナトロピンで卵巣刺激を行っていますと、将来卵巣がんのリスクが高まってく るのではないかといったことが2〜3年前までは言われていましたが、最近では否定的 な見解も多く、この点についてはまだ実証が得られてないということもお話しを一応す る必要があるだろうと思います。  (6) 提供者がその後自分で子どもを産みたい、またもう一人子どもを産みたいといっ たときに、卵巣刺激法を行ったことによって、提供者が妊孕性が低下することはないと いうことは一応お伝えしておく必要があると思います。 (3)同意の撤回について(時期と手続)  (1) 先ほど申しましたが同意の撤回ということについても必ずクライアント夫婦、提 供者に十分に伝えておかなければいけないことですが、インフォームド・コンセントを 得た後でも提供者の自由意思により、いつでもその同意を取り消すことができる。これ は注射を打ち出してからでも当然のことながら取り消すことができる。  (2) 提供を受ける者は、いついかなる場合でも、提供者の自由意思により提供が中止 されるということをクライアントの夫婦に伝えておかなければならないということであ ります。提供はいかなる場合でも本人の意思で中止することができますけれども、卵子 提供の場合、hCG 注射後に採卵をしないで中止いたしますと、hCG を注射した後に、私 は提供するのは嫌だと言われる場合もないこともないわけですが、採卵をしないでおき ますと、採卵をした場合に比べますとOHSSのリスクは当然のことながら高くなりま す。ですからこういったことも提供者に説明をしていく必要があるわけであります。 (4)卵子・胚提供に要する費用と支払い分担  もう一つ大切なことは費用と支払いの分担でございます。この場合には、ボランティ アベースの卵子提供者は、卵巣刺激法を受けるわけですし、ホルモン検査も当然いたし ます。超音波の検査もいたします。採卵、麻酔、投薬、通院、これに要する費用など一 切は提供者、胚の提供者はこれに加えて倍精・受精、こういったさまざまな費用がある わけですが、要するに提供を受ける者に負担してもらう権利を有しているのは当然のこ とであります。しかし、この委員会でもありましたけれども、対価としての謝礼を要求 することは提供者はできません。ボランティアベースの卵子提供者が本人の意思で、例 えば途中で中止いたしました。こういった場合も当然のことながら、それまでにかかっ た費用は提供を受けるものが負担する。  7)提供を受ける者に対するインフォームド・コンセント  (1)生まれた子どもに対する養育について  現在法務省で話し合いを持っておりますが、要するに同意を得て出産したとき、その 子の父は生殖補助医療に同意した夫であり、そして、分娩した人が母となるということ で、子どもに関する養育に関してはこのクライアントの夫婦が見るということになるの は当然であります。もう一つ大事なことは、提供者の生まれた子どもに対してはいかな る権利も義務もないことを明確に規定していく必要があると思います。  (2)非配偶者間体外受精に関する個人情報の保存・保護について  通常の生殖補助医療と異なりまして、提供者、提供を受ける者、生まれてくる子ども の医学的情報、個人の記録、カウンセリングの内容について恒久的な保存と適切な情報 開示が極めて重要になってくるわけでありまして、一般の医療施設でこれを行うことは なかなか難しい。ですから今後はこういったことは公的管理運営機関といったものを専 門委員会では考えましたけれども、こういったところに委託し、一元的に管理をする体 制が望ましいと考えております。これは70年にするのか80年にするのか、はたまた60年 にするのかということはついてはわかりませんけれども、かなりの長い期間の恒久的な 保存が必要となってまいります。適切な情報の開示が必要になってくるということ考え ますと、これは民間のこういった医療を行う施設ではなくて、公的管理運営機関に委託 することが必要になってくるだろうと思います。  (3)非配偶者間体外受精によって生まれる子どもの法的親子関係について  こういった提供者は生まれてくる子どもに対して、先ほど申しましたが一切の権利、 義務もないことを明確にすること。特に近親者あるいは友人間の提供の場合には子ども の複雑な立場、心理を理解して、子の福祉を最優先に考え、遺伝上の親としての権利や 利害をいかなる場合でも主張してはならない。  (4)非配偶者間体外受精によって生まれた子の出自を知る権利について  これは子どもの個人のアイデンティティにかかわる重要な権利であります。1989年で すか、国連で認められた大切な子どもの出自を知る権利ですが、本人が知ることを望む ならば、提供者が特定できる事実以外の情報開示は認められるべきである。ここの部会 の意見は少し違う意見も出ておりましたけれども、この研究ではこういたしました。  (1) 子どものアイデンティティの確立などのために、自分に関わる精子・卵子・胚を提 供した人に関する個人情報が重要であり、そうした希望にできる限り応えていく必要が ある。  (2) 自分が他人から提供された精子・卵子・胚で生まれたことを何らかの原因で知る 場合も当然のことながらあるわけですが、こういったことは家族全員に非常に緊張状態 をもたらすといったことが予想されるわけであります。  その子がこういった出自を知る権利、要するにアイデンティティを知りたいといった 場合には情報を提供するためのどのような対応策が考えるかということがこの部会での 大事のお仕事でありますが、対応策が講じられるべきであろうと。血縁者が提供者であ る場合には特に慎重になるべきである。イギリスのように近親婚にならないことの確認 を求めることができるということをしているわけですが、それ以上のことが必要なのか どうか。  最後に、提供を受けるクライアント夫婦が生まれてくる子どもに出自を知る権利があ ることを認識することがまず一番大切でありまして、この認識がないと、当然のことな がら子どもに対するテリングはないわけであります。テリングがなければ子どもは知ら ない。子どもはどこかからか知る可能性が出てくるわけですが、こういったことを一番 大切なインフォームド・コンセントとして最後に挙げておきたいと思います。  以上です。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。医療提供者としてのインフォームド・コンセントを メインにお話しいただけたかと思います。どなたかご質問あるいはコメントございます でしょうか。 ○澤委員  卵子提供者に配偶者がおった場合に、配偶者というのはICの対象にはなるのでしょ う。 ○吉村委員  なります。これはICの客体として当然のことながら配偶者は入ると思います。 ○矢崎部会長  今のご質問に関連しますが、5ページの上から3行目に、「説明を受け同意する客体 は提供者とその配偶者であり」と書いてあるということは、提供者は結婚した方を前提 としたということに。 ○吉村委員  これは卵子・胚ということで、卵子・胚に関しましては、子どもがいる方ということ が条件になっておりましたので、配偶者も必要でありますが、精子提供に関してはその 規定はありませんでしたので、これは提供者とその配偶者は、配偶者がいる場合は配偶 者という意味であります。 ○矢崎部会長  そのほかいかがでしょうか。 ○金城委員  大変詳細なインフォームド・コンセントをとらなければいけないわけですね。何か書 式みたいにしてずっととっていくとか、何枚も何枚もとっていくとか、どちらの方をお 考えでしょうか。 ○吉村委員  具体的な書式は考えてないのですけど、これは小冊子にならざるを得ないと思いま す。同意も、恐らく具体的に考えていくことは、提供者に関する同意書とインフォーム ド・コンセントの同意書とクランアント夫婦に関するものは分けてやるべきではないか と思っていますが、小冊子になって、その中には署名捺印していただく項目はたくさん の項目になってしまうと思います。着床前遺伝子診断などで私たちがつくった同意書 も、同意書は全部で8枚ぐらいいただくことになります。全25ページぐらいになってし まいます、どんなに短くしても。ですからこれになりますと、全20ページぐらいにはな るのではないでしょうか。これはやむを得ないと思います。 ○相良委員  提供者の子どもというのも問題になるかなとちょっと思っていたのですけど、多分提 供するときはまだ小さいと思うので、同意はとれないかもしれないのですが、その子が 大きくなったときに、そういう兄弟(姉妹)がいるということを教えることについては どうでしょうか。 ○吉村委員  その点についても委員の中で意見はあったのですが、恐らく生まれてくる子ども、ク ライアント夫婦にとっては出自を知る権利というものが非常に大きな問題となるだろう ということは予想できるのですが、提供者が自分の子どもに対してそれをテリングする ことはないのではないか。ですからイギリスなどで行っている近親婚が起こらないため にするときには、クライアント夫婦の子どもに対してどうなるかということをしている だけですので、一応イギリスと同じような方法がよいのではと思って、提供者の子ども に関しては何らか条件を設けませんでした。 ○鈴木委員  2つほどあります。吉村ドクター、ありがとうございましたというのがまず感想なの ですが、1つ目は、7ページ「心理スクリーニングとカウンセリングについて」のとこ ろなのですが、これも卵子・胚の提供候補者と提供を受ける予定者の人には心理スク リーニングを受けることが求められると書いてありますが、これは精子提供に関しては どのように。 ○吉村委員  一般的に行われている心理スクリーニングというのは卵子・胚、代理母などによく欧 米では行われているので、一応それに従っていました。これは絶対にこれをやらなくて はいけないのではなくて、欧米ではこういうことが行われているのでという項目として 私たちは入れましたので、精子に関しても本来必要であるということであるならば、こ れは必要になってくると思います。精子に関してカウンセリングとかスクリーニングを やっているところは世界では余りないように理解しています。 ○鈴木委員  吉村ドクターご自身はどのようにお考えになりますか、世界はともかく、仮にもし卵 子、スクリーニングテストかどうはともかくとして、先ほど福田先生もおっしゃってい たように心理カウンセリングというようなことも必ず行っていこうというようなことで あれば、精子・卵子・胚どれも必要かなというふうに私は受けとめていたのですが。○ 吉村委員  理想的にはその方がいいのではないでしょうか。私もそう思いますが。 ○鈴木委員  あと2つ目の質問なのですが、5ページ目、「予期しない生存児」というふうに今回 訳されました。これは生まれた子どもがどのような障害とかトラブルなどがあっても引 き受けていこうという意味だと思うのですけれども、ただ、これはいわゆる提供を受け たカップルが出生前診断を受けてはいけないということは全く意味してないわけですよ ね。 ○吉村委員  そうですね。 ○鈴木委員  もう一つ、減数手術に関しても受けないということも、ここでは全く触れられていな いわけですが、このようなことに関しては、この話し合いの中ではどのような意見が出 ていましたでしょうか。 ○吉村委員  この医療の場合に専門委員会で具体的な方法について出ているわけですが、理想的に は原則2つにすることに決めました。ですから場合によっては3つということももちろ ん専門委員会ではオーケイには一応はしたのですけど、原則は2個にするということに いたしましたので、減数ということは考えなくていいという理解でつくりました。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。 ○町野委員  2点あります。一つは、出自を知る権利についてですが、まだこれから議論されるこ とだろうと思いますが、もしそれを認めるという前提ですと、インフォームド・コンセ ントの対象はむしろ提供者の側にそれをしなければいけないということになると思いま す。 ○吉村委員  そうなると思います。その辺はこの委員会の結論によって随分違ってくると思いま す。これは大変難しくなると思います。 ○町野委員  もう一点よろしいでしょうか。先ほどのロングフルバースの問題ですが、これは受容 者側、つまり受けた側、生まれる側のご両親の方の権利を放棄させるといいますか、認 めないということにするのはいいのですが、生まれてくる子ども自身が訴えを起こすこ とも現在問題です。例えばアメリカなどではそのようです。それをここで全部放棄する ことはできるかという問題なんですね。子どもの権利はどうしてくれるかという問題が あるのですけど、その点はどのようにお考えになられたわけでしょうか。 ○吉村委員  その点については一切考えておりません。私、先生に今初めて聞いてそういうことが わかったのですが、生まれてくる子どもの権利というのは、具体的には先生どういうよ うな、例えば私はこの奇形で生まれたくなかったと、そういうことですか。 ○町野委員  そうです。簡単に言えば、現在アメリカなどである訴訟では、何で中絶してくれな かったという、それを認めるかどうかはかなり問題ですけれども、認めているところも あることは確かです。 ○吉村委員  私、そのことを知りませんでしたので申し訳ありません。そうですか。 ○金城委員  子どもの出自を知る権利についてなのですが、いろいろペンディングなところがある のはよくわかります。まず第1に、「故意にこの事実を本人あるいは第三者が漏洩した 場合には守秘義務違反……」、これはかなり難しいお話になるのではないかと思うんで すね。  それから「クライアント夫婦が生まれてくる子どもに出自を知る権利があることを認 識する……」、これはテリングを義務づけるということですか。 ○吉村委員  その点につきましては、まだここがどういうふうに結論になるかどうかわかりません ので、その点については、義務づけるというふうになればこうなるのではないかと思っ ただけです。ここの最後に関しましては、どういうような結論になるかによって随分イ ンフォームド・コンセント異なりますので、これは私自身、個人的には書くのをやめよ うかなと思ったのですが、これが入ってないと、どうするのかということもありました ので、一応入れただけでありまして、この辺はまだ全く白紙の状態、結論によってどう 違ってくるか、申し訳ありませんが。 ○金城委員  わかりました。 ○平山委員  心理スクリーニングのところなのですけれども、欧米ではリジェクトをされるケース があるわけですよね。特に提供者に対してよくあるわけですけれども、これをつくられ た段階で、日本でももし心理スクリーニングで、この方は提供者として不適当だという 判断を精神科医なり心理カウンセラーがした場合にそれをどういうふうに取り扱うつも りでつくられたのでしょうか。というのは、それはあくまで意見、1つの意見として総 合的な最終判断は医師がするととられておられたのか、それとも心理士や精神科医のリ ジェクトの判定というのを重要視して、それはリジェクトするというふうに。 ○吉村委員  後者です。これはなかなか医師が心理カウンセリングに、あるいはスクリーニングに 精通していればいいのですが、精通してない人が当然多いわけです。これは当然のこと ながら、臨床心理士とかそういった方にお任せすべき問題であると私は思います。 ○福武委員  ここでは精子・卵子・胚は同レベルに全部なっておりますけれど、実際の議論の中で はその辺で、例えば精子・卵子と胚とは取扱いも変えるべきではないかという意見では なかったのでしょうか。 ○吉村委員  当然ありましたけれども、それを書きますと非常に複雑になってしまいまして、です からインフォームド・コンセントの同意書をつくる場合には、そういったことも当然の ことながら、精子バージョンと卵子バージョンと胚バージョンというふうにして考えて いかないといけないと思います。 ○才村委員  前にも聞いた内容かもしれないのですけれども、子どもの出自を知る権利のところ で、こういう個人情報は公的管理運営機関で管理をすべきだということでなっているの ですけれども、10ページの下の方の、「その子がそれを求めた場合、情報を提供するた め対応策が講じられるべきである」と、その中身については詳しいことについてはまだ 言えないというようなことをこの間おっしゃったと思うのですけれども、サポートする とか、情報を開示する機関は今のところ公的管理運営機関というふうにお思いなのか、 それとも個々の医療機関とお思いなのか、その辺はどちらとお考えでしょうか。 ○吉村委員  これは委員の中でもさまざまな意見はあるのですけど、大勢を占めた意見は、公的管 理運営機関みたいなものに心理カウンセラーがおり、そしてコーディネーターも当然い ていただきたいのです。そういった状況の中で、その情報をまた、恒久的に保存してい く職員もいなくてはいけませんし、こういった医療に関してはカウンセリングその他、 心理スクリーニングテスト、こういったものをやっていただけると一番いいと思ってい ます。一般の医療機関でこういったことをすべてやるということはかなり難しいと思い ます。 ○矢崎部会長  そのほかいかがでしょうか。 ○鈴木委員  これは平原先生にもお伺いしたいのですが、仮に兄弟姉妹から、いわゆる近い親族か らの提供ということが実現した場合、この流れの中で遺伝カウンセリング、あるいはほ かの場面でも結構なのですけれども、遺伝カウンセラーの登場の場面というのはどのあ たりになってくるのでしょうか。あるいは兄弟姉妹の場合に、そういった遺伝的な話も 必要になってくるのかどうか。その辺はご意見としていかがでしょう。 ○平原先生  私もむしろそれが気になったのは、5ページ目のところに、(3)で(2)に「予備的な 遺伝医学的スクリーニングによって提供者として適切であるかの審査を受けることが前 提条件となる」となると、遺伝医学的スクリーニングによって適切かどうかというのは 物すごく難しいことだと思うのですね。多分今のような、これだけゲノムが次々と明ら かになってきますと、ゲノムのプロフィールそのものが遺伝的に情報としてひとり歩き していくような時代になってくると、適切であるよりも何よりも、それ自体が情報とし てもう既に求められるような時代になりつつあります。果たしてどのようにこれを考え ればいいのかというのは非常に難しいなと思いました。  今、先生ご指摘のような、兄弟(姉妹)というような話よりも、もっとむしろこちら の方が全面的に問題なのかなという感じがいたしました。以上です。 ○矢崎部会長  いかがでしょうか。この間の外国のお話では、例えばスウェーデンでは数少ない大学 病院でこのような医療は限って行うというようなお話を伺いましたですね。吉村委員の お話では、こういう非配偶者間の生殖補助医療を個人情報の保存・保護などを含め、あ るいは心理カウンセリング、コーディネーターなどのサポートシステムの整備というこ とから、ある程度限られ医療提供施設でやるべきだという、そういうお話と受けとめて よろしいでしょうか。 ○吉村委員  はい、そう思います。どういった関係にするか、実施機関と公的管理運営機関をどう いった位置関係に置くかということは大変難しいことだと思います。公的管理運営機関 と密接に緊密な連携をとれる場所であって、なおかつそれはそれほどたくさんの、30施 設とか40施設とかそういうものではなくて、5施設とか6施設とか、そういった限られ たところでやっていくべきではないかという意見が委員の中では大勢を占めました。な かなかこれは難しいのではないか。情報をどういうふうにして保存し、しかもプライバ シーを保護し、そういったことは大変に難しいところがあるのではないか。  ですから数多くの施設がこういうことをやってくると、情報管理ということも非常に 難しくなってくるということで、それほど多くの機関でこういった医療を行うべきでは ないという考え方が委員の中では大勢を占めました。 ○矢崎部会長  今のお話では、ある地域に1カ所に施設を決めるとすると、例えば卵子の提供ですと か継続的なケアとかそういうのが必要でございますですね。要するにそこの医療機関に 通院なりするための交通手段とか、あるいは泊まらなければならないという宿泊費と か、そういう費用が当然生じてくると思いますですね。 ○吉村委員  ただ、先生、提供を受ける側を考えますと、例えば具体的な例を出すとわかりやすい から言いますが、沖縄の方が受けたいと思われたとしますね。そして提供者は東京にい るということになりますと、提供者は毎日通わなくてはならないのですけれども、受け る側の方は胚移植のときに来ればいいということになりますね。そうやって考えます と、そういった地域性が、例えば中国地方に1個、九州に1個とかそういうことでなく ても、それは具体的には問題にならないのではないかと思うのですが、ただ、提供者が どこにいるかということは非常に大きな問題になりますよね。  例えば、全くの匿名の第三者からいただくということになりますと、提供者の方がそ こに行かなくてはいけない。そういった場合は、提供者はどこでとるかということにつ いては、提供者がどこにいるかということが一番大きな問題だと思いますね。ですから 受ける側・クライアントの夫婦はそれほど考えなくてもいいのではないですか。提供者 は少なくとも最低10回から15回ぐらいは通わなくてはいけないわけですから。 ○矢崎部会長  よろしいでしょうか。 ○岸本委員  10ページの下から2行目なんですけど、「生殖補助医療によって生まれた子どもは、 自分が結婚を希望する相手と近親婚にならないことの確認を求めることができる」とあ るのですけど、提供者の子どもさんも、例えば自分が結婚するときにひょっとして自分 の母親があげた人の子どもと近親婚になる可能性もあるということですよね。その辺も 自分の事実というのは知らせるべきなんですよね、その辺の。 ○吉村委員  提供者が……。 ○岸本委員  提供者の子どもさんが近親婚になる確率もあるということですよね、少ないでしょう けど。 ○吉村委員  あります。これは具体的にイギリスはどういうふうにやっているか、その辺はうまく やっているみたいですけど、どうやってやるか私もわかりません。一昨日の法制審議会 では物すごく多くのバージョン出てきたのですけど、血のつながりはないけれども、結 婚できないとか、そういうことも出てくるのですよね。血のつながりは全く関係なくて 結婚できるはずなのに結婚できないとか、逆の場合も当然出てきますので、その辺をど うやって考えていくかということは私には想像がつかないのですけれども、これはイギ リスなどはうまくやっているような感じしますけど。 ○相良委員  7ページの「心理スクリーニングとカウンセリング」のところなんですけれども、こ こで知り得た個人的情報が、医療チームのスタッフが必要と認めた場合に告知される可 能性があるということが真ん中辺に書いてあるのですが、これはよくわからないのです けど、どういう状況でだれに告知される可能性があるのでしょうか。 ○吉村委員  これはどこでしたか。 ○相良委員  (2)の「心理スクリーニングとカウンセリングについて」の2段落目なんですけ ど、「これらの心理スクリーニングとカウンセリングにおいて知り得た個人的情報は、 担当医師あるいはカウンセラーのもとに保存され守秘する義務がある。しかし……」の ところです。 ○吉村委員  これは提供者に対して知らせるべきだと思われた情報に関しては知らせる必要がある ということです。 ○相良委員  提供者個人に対して。 ○吉村委員  そうです。 ○相良委員  心理スクリーニングの結果ということですか。 ○吉村委員  そういうことです。 ○相良委員  わかりました。それからコストのことが下の方に書いてあるのですが、「提供される 予定者が確定していない場合は提供候補者自身が負担する……」ということになってい ますが、これは余り候補者の方に負担を求めるのはどうかなという気もするのですが、 そうせざるを得ないのでしょうか。 ○吉村委員  この文章は欧米からとってきたものですね。アメリカは当然商業主義ですから、提供 者になるためにお金をいただくわけですよね。そのために自分で払うということになっ ているわけですね。ですからこれは適切じゃないかもしれませんね。なりたい方がお金 をもらうために結構多いということが現実面としてアメリカなどはあるわけですから、 そうすると当然こういったスクリーニングは受けていただきますよということになるわ けですね。そのためのスクリーニング検査は自分で払いなさいよということになるわけ ですね。これはいかにもアメリカらしい考え方だと思います。 ○矢崎部会長  そのほかいかがでしょうか。 ○町野委員  施設限定の話ですが、これは先の話かもしれませんけれども、今までのような、行政 的な指導ということで済むかということについて、今のお話伺っていると疑問に思えて まいりました。つまりAIDなどのような場合に情報をどこかで管理するということに なりますと、そのためには管理がきちんとされなければならない。いろんな施設が乱立 してヤミでやられては困る、などということになりますと、恐らく法律でその施設でな ければやれないと、いうようなにしないとだめではないかという感じがします。特に出 自を知る権利だとか近親婚の防止だとか、そういう公的な問題が絡んでまいりますと、 到底今までのようにいかないと思います。 その辺の見通しというのはこれから議論されるのでしょうけど、どのようにお考えなん でしょうか。 ○矢崎部会長  それは事務局から、これは重たい問題ですが。 ○谷口母子保健課長  基本的にこういった問題につきまして、行為規制法として今議論していただているも のを取りまとめて法制化できないのかということを我々としても検討を今後していかな くてはいけないわけで、まさに先生ご指摘の点もその中にどこまで書くかということの レベルで今後検討すべき事項だろうというふうには考えております。 ○澤委員  今、町野先生おっしゃったことは非常に重要なんですけど、実際今回、11ページの一 番最後、先生が書かれていることが非常に真実を突いていて、皆さん生殖医療を受ける とそこでは絶対産まないですよね。妊娠したとわかった途端に別な施設に行ってしま う。だから下手すると流産したかどうかもわからないんです。これはどういうことかい うと、そういういくら法的なものをつくっても、とりあえずまずできないのではないか と思うんです。  産婦人科学会の方でAIDの追跡調査を何年か前からやっていますけれども、非常に 最後までトレースできるのは余りないんですね、AIDすら。最終的にどうなったかと いうのまでわからない。本当に子になって生まれているのか、途中でアボーションして いるのか、それすらなかなかトレースできないという現状が今のARTには間違いなく あるので、入り口を狭くするのも1つの方策なのですが、私はむしろこういうARTを 受けるのであれば、必ずテリングしなさいというこの教育が、吉村先生は書き過ぎかと おっしゃったけど、決してそんなことはなくて、これはすごく大事なことではないかと 思います。 ○平原先生  今の11ページの出自を知る権利ということにかかわるかと思うのですが、たしかオラ ンダで精子の提供者がのちに、遺伝性疾患があることが見つかって、提供したお子さん たちにも伝わっている可能性があるというので、それをどういうふうな情報の伝達しよ うかというのでもめたケースがたしかあったと思うんですね。同じようなケースは現実 に起こり得ることを前提に考えると、出自を知る権利、提供した人の、例えば遺伝子情 報なら遺伝子情報を何かが見つかったときにどういうふうに伝えるのかとか、そういっ た問題を考えていくと、どのような解決方法が出てくるのかなと非常に頭が混乱してき て、さっきから私も考えていてよくわかりません。それがもっと先へ行くと、恐らく個 人個人が遺伝子情報が、どのような親子関係とか抜きにして個人レベルですべてプロフ ィールがきれいにわかるような時代が来れば、別にそういう悩みはなくなるのかもわか りませんが、過渡的に今の時点でぽつりぽつりと遺伝子性疾患の遺伝子がピックアップ されて見つかってくるということを考えると、一時的にはそういった悩みをどこかで抱 えていくのかなという感じがいたしました。以上です。 ○矢崎部会長  極めて難しい問題。 ○鈴木委員  先ほど澤委員のお話を、これもきっと先々ここで話し合うことだと思うのですが、む しろこれの実施に当たってはトレースをするという前提で、私は行っていくのだろうと いうふうに考えておりました。例えば生まれた子が10人という限定も例えばつけている わけですし、それについて本当に生まれたのか生まれなかったのかということはきちん とフォローしていく必要があるし、何しろあとはもう一つは、その後の両方の家族の人 たちを支える体制、心理的に支えていく機関、相談機関であるとかサポートグループの 形成であるとか、そういうことが必要だというふうに私はイメージしておりましたの で、トレースできないというより、今後これを続けていく中で、もっとより良い方法、 より良いサポートとは何かというふうに考えていったときに確実に調査・フォローは必 要だろうとイメージして聞いていましたけれども。以上です。 ○矢崎部会長  ありがとうございました。いろいろな条件が加わると、従来のシステムではとても やっていけない、新たなシステム、それは環境整備であり、あるいは法制面の整備も必 要になってきて、これはいつ結論がつくかわからない状態で、私としても大変気がかり なんですが、極めて大事なことですので、せめて委員の中でも共通の理解のもとで、こ の話を詰めていきたいと思っております。  きょうは時間がまいりましたので、平原先生、福田先生、大変貴重なご意見をいただ きましてありがとうございました。厚く御礼申し上げます。  一応いろいろな方々から情報をいただきまして、ご説明を受けるのは今回で終了させ ていただいて、次回からは、今までのご説明とその後の討論を踏まえまして、大変です が、事務局の方で検討のたたき台をつくっていただいて、次回からそれをもとに議論を 進めていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。 ○金城委員  次回はどんな議題になるかというのは早めにお知らせいただきたいのですが。 ○矢崎部会長  大丈夫ですか。努力するそうですので、それではそれを含めまして室長から決意のほ どを。 ○桑島室長  決意はちょっと置きまして、次回の予定をご連絡申し上げます。次回の生殖補助医療 部会は7月26日、1カ月ございますので、ぜひ事務局として準備させていただきます が、7月26日(金曜日)14時から17時までの予定となってございます。場所は厚生労働 省の5階の共用第7会議室でございます。また、毎回でございますけれども、先生方か らのご意見をちょうだいするのは7月24日(水曜日)までの午前中までとさせていただ きたいと思います。事務局からは以上でございます。よろしくお願いいたします。 ○矢崎部会長  これはご意見の締切りだけお話になったのですが、たたき台をコンクリートなたたき 台ではなくて、一応事務局でつくっていただいて、ここで当然議論するわけですが、そ の前に送っていただければ大変ありがたいというお話ですので、よろしくお願いしたい と思います。よろしいですね。 ○谷口課長  努力いたします。 ○矢崎部会長  それでは時間が参りましたので、きょうは大変長時間にわたりまして熱心なご討論あ りがとうございました。これで部会を終了させていただきます。どうもありがとうござ いました。                    照会先:雇用均等・児童家庭局 母子保健課                          03−5253−1111(代)                              桑島(内線:7933)                              小林(内線:7939)