01/12/04 第1回社会保障審議会児童部会議事録         第1回社会保障審議会児童部会議事録 時間   平成13年12月4日 15:30〜17:38 場所   厚生労働省共用第7会議室(本館5階) 出席委員 岩男部会長 阿藤委員 網野委員 遠藤委員 大日向委員 服部委員      柏女委員 堀委員 松原委員 無藤委員 山崎委員 渡辺委員 次第  1.開会  2.委員及び事務局紹介  3.部会長選出及び部会長代理指名  4.部会の公開について  5.部会の進め方について  6.委員自己紹介(児童問題に対する見解)  7.子どもの福祉を巡る状況に関する自由討議  8.閉会 1.開会 ○皆川総務課長  定刻になりましたので、ただいまから第1回の社会保障審議会児童部会を開催させて いただきます。  本日は、ご多忙中のところ、ご参集いただきまして大変ありがとうございます。とり あえず、私が口火を切りますが、事務局を担当しております雇用均等・児童家庭局総務 課長の皆川と申します。よろしくお願いいたします。 2.委員及び事務局紹介 ○皆川総務課長  それでは、初めに委員の皆様方のご紹介をさせていただきたいと存じますが、資料1 に委員の名簿がございます。この順に事務局からご紹介させていただきたいと思います 。  まず、阿藤誠委員、国立社会保障・人口問題研究所長でございます。  それから、網野武博委員、上智大学教授でございます。  岩男壽美子委員、武蔵工業大学環境情報学部教授でございます。  遠藤俊子委員、山梨県立看護大学看護学部教授でございます。  大日向雅美委員、恵泉女学園大学人文学部教授でございます。  服部祥子委員、大阪人間科学大学人間科学部教授でございます。  津崎委員は本日ご欠席です。  柏女委員は遅れておいでになります。  それから、堀勝洋委員、上智大学法学部教授です。  松原康雄委員、明治学院大学社会学部社会福祉学科です。  無藤隆委員、お茶の水女子大学生活科学部教授です。  山崎高哉委員、京都大学大学院教育学科研究科教授です。  渡辺久子委員は少し遅れておいでになります。  以上、13名の方々のこの部会の委員にご就任いただいております。なお、辞令につき ましては、大変恐縮でございますが、皆様のお手元に席上配付という形で置かせていた だいておりますので、どうかよろしくお納めいただきたいと思います。  それでは、事務局を代表いたしまして、私ども局長の岩田からごあいさついたします 。 局長あいさつ ○岩田局長  雇用均等・児童家庭局長をいたしております岩田と申します。諸先生方におかれまし ては、それぞれ大変お忙しい立場でご活躍でございますが、このたび、社会保障審議会 児童部会の委員あるいは臨時委員を快くお引き受けいただきまして、大変ありがたく思 っております。  まず、簡単に、この児童部会設置の経緯をお話しさせていただきたいと思います。  今年1月に中央省庁の再編成がございましたが、そのときに関係の審議会の再編もご ざいまして、従来、旧厚生省サイドでは8つの審議会がございましたが、それを統合し て社会保障審議会に一本化されたわけでございます。そこでは、社会保障に関係する重 要事項を審議していただくという位置づけになったところであります。  この審議会のもとに、部会の設置ができるということになっておりまして、今年7月 に開かれました第3回の社会保障審議会で、児童部会を設置するということをお決めい ただいております。ここで児童対策、家族対策を議論していただくということになった ということでございまして、きょう第1回目の児童部会の開催を迎えることができたわ けでございます。  子どもを取り巻く環境は、少子化の中でもいろいろな意味で大変変化いたしておりま す。それに対応して、政府といたしましては、もう2年になりますけれども、平成11年 の年末に少子化対策推進基本方針を政府全体で定めまして、それに基づきまして、具体 的な政策として数値目標を含めた新エンゼルプランという5カ年計画を策定し、今、こ れをベースにさまざまな施策の推進に当たらせていただいているわけでございます。  今年度のテーマだけをごく簡単に紹介させていただくとして、一つ大きな問題として は保育所問題、放課後対策というものがございます。子育てをしながら働くことを希望 する女性が大変増えている一方で、保育所の整備、そして小学校に上がった後の放課後 児童の受け入れ体制の整備が十分でないというようなことから、待機児童などの問題が あるわけでございます。これについては総理自ら旗を振っていただいておりまして、14 年度の概算要求あるいは今年度の一次補正、二次補正でもしっかり手当てをしていただ いたところでございます。  また、もう一つには、子育て自体が非常に孤立化して、負担感が大きい中でやられて いるということで、その極端な現象が児童虐待というようなことであらわれてきている わけでございます。この児童虐待については、各都道府県の児童相談所を核にいたしま して、関係機関とネットワークをつくっていただき、予防から早期発見、そして傷つい た子どもたちの、特に心理面を含めたケアですとか、加害者である親に対するカウンセ リング相談、こういう一連のことを総合的に対応していこうということで取り組んでい るところでございます。  また、もう一つ、例を挙げさせていただくとすると、母子家庭対策のあり方について 議論しておりまして、離婚が大変増えてきているということの中で、どういう形で母子 家庭のお母さんたちの自立促進ができるかということで、子育てをしながら再就職をし て、しっかり自立していただくための対策を総合的に見直しをして、強化したいという ふうに思っております。  これらが現下の課題であるわけでございますが、この部会におきましては、そういう ことももちろん視野に入れて、念頭に置いていただくわけでございますけれども、目先 の個々具体的な懸案事項をどういうふうに処理するかということよりは、むしろ、もう 少し基本的に子どもが置かれている状況、家族が置かれている状況から、対策はどうあ るべきかということについて、ぜひ大きい、重い議論をしていただきまして、それらを 私どものこれから先10年、20年の児童福祉行政のベースにさせていただき、これに基づ き個々の対策を展開していきたい、そういうような議論をぜひこの部会でお願いしたい と思っているわけでございます。  本日は、この後、部会を立ち上げていただくに当たっての手続面で幾つかお決めいた だくことがございますが、それらをやっていただいた後、皆様方から自己紹介も兼ねて 、先生方お一人お一人が現状をどういうふうに見ておられるのか、何が課題であるのか といったようなことをご披露していただく、そこがきょうの会議の一番大事なところで あるというふうに思っております。そういうところから、この部会の議論をスタートし ていただければ大変ありがたいと思っております。  どうぞ今後、息の長いご審議をお願いすることになりますので、よろしくお願いした いと思います。本日はどうもありがとうございます。 ○皆川総務課長  渡辺久子先生、慶應義塾大学医学部小児科学教室選任講師でいらっしゃいます。ご紹 介を申し上げます。 3.部会長選出及び部会長代理指名 ○皆川総務課長  私の方から事務的なご説明をさせていただいて、それから部会長を選任していただい て、審議に入っていただきたいと思います。  資料の確認ですが、資料1〜5まで、それから参考でいろいろつけてございますが、 参考1〜参考6まで、それから阿藤委員から本日ショートプレゼンテーションをされる ということで資料が出ております。何かありましたら、また事務局にお申し出いただき たいと思います。  部会の位置づけだけ、最初にご紹介したいと存じます。  社会保障審議会については、資料3の2枚目に、先の厚生省には8つの審議会があっ て、その中で下から3番目、中央児童福祉審議会を55人の委員等で運営していただいた 全体が統合されまして社会保障審議会になった訳です。社会保障審議会は30人以内とい うことで、岩男先生をはじめ30人以内の委員で構成されているということでございます 。  そのもとに部会が位置づけられているわけですが、部会の位置づけについては資料2 で簡単にご説明申し上げたいと思います。  厚生労働省設置法7条2項、社会保障審議会を決めた根拠条項ですが、「前項に定め るもののほか、組織、所掌事務その他については政令で定める」ということになってお りまして、資料2の3ページの下の方に第6条「部会」がございます。「審議会及び分 科会は、その定めるところに部会を置くことができる」。3項でございますが、「部会 に部会長を起き、当該部会に属する委員の互選により選任する」、これは委員の互選と いうことでございます。  5項でございますが、「部会長に事故あるときは当該部会に属する委員又は臨時委員 のうちから部会長があらかじめ指名する者が、その職務を代理する」ということになっ ております。  それから、その資料の5ページでございますが、後ほどまた議論と関係しますので、 ご紹介させていただきたいと思いますが、5条に「会議の公開」がございまして、「審 議会の会議は公開とする」とあります。それから、議事録についてのご議論は後ほどし ていただきたいわけですが、6条の2項「議事録は公開とする。ただし、会長は、公開 することにより公平かつ中立な審議に著しい支障を及ぼす恐れがあると認めるとき等は 一部を非公開とする」といううことになっております。  さらに、将来の話でこういうことがあるかもしれませんが、6ページでございますが 、「委員会の設置」ということで、 「分科会部会長」−−この部会でございますが、 「必要があると認めるときは、部会に諮って委員会を設置することができる」というふ うになっております。  それでは、大変恐縮ですが、この部会を進めるに当たりまして、部会長を選任してい ただきたいと思います。今、ご紹介申し上げましたように、6条第3項に「部会に部会 長を置き、当該部会に属する委員の互選による選任する」という規定になっております 。つきましては、委員の皆様方に部会長のご選出をお願いしたいと存じますが、どなた かご推薦がありましたら、お願い申し上げたいと思います。 ○阿藤委員  岩男委員を推薦いたしたいと思います。 ○皆川総務課長  阿藤委員から岩男委員のご推薦がありました。ほかにご意見ございませんでしょうか 。  それでは、本部会の部会長を岩男委員にお願いしたいと存じます。  恐縮ですが、岩男先生、部会長の席におつきいただけますでしょうか。 ○岩男部会長  岩男でございます。皆様のご協力を得まして、この会を実りの多いものにしていきた いと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。  先ほど局長から、「これから10年、20年先までもこの部会のアウトプットが、ある意 味で政策の基本となる、あるいは指針となるようなものを」というお話がございまして 、責任重大だと思っておりますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  社会保障審議会第6条第5項で、「部会長に事故のあるときは、当該部会に属する委 員又は臨時委員のうちから、部会長があらかじめ指名するものがその職務を代理する」 という規定がございますので、私から部会長代理を指名させていただきたいと思います 。  ご苦労さまでございますけれども、阿藤委員に部会長代理をお願いしたいと思います 。阿藤さん、こちらにお移りいただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします 。 4.部会の公開について ○岩男部会長  それでは、事務局から本部会の公開についてご説明をお願いいたします。 ○皆川総務課長  先ほど申し上げましたように、部会の公開については原則公開ということでございま すので、お諮りをしたいと思います。それから、会議資料は公開とする。議事について は、部会の発言を要約して、議事要旨として公開する。この場合、発言者のご氏名も掲 載させていただきたいというふうに思います。  それから、議事要旨については、委員に議事要旨案を送付してごらんいただいて、折 り返し了解を得た上で公表させていただきたいというふうに存じます。これでいかがで しょうか。 ○岩男部会長  いかがでございましょうか。今、皆川課長のご説明がございましたように進めてよろ しゅうございますでしょうか。               〔「はい」という声あり〕 ○岩男部会長  では、そのように決めさせていただきたいと思います。  続きまして、部会の進め方等基本的事項についてご説明をお願いいたします。 5.部会の進め方等について ○皆川総務課長  それでは、私の方から資料4に基づきまして、私どもの期待、希望、それから事前に 先生方の意見交換をした上で、こんな感じで運営していただけないだろうかということ でご説明させていただきたいと思います。  資料4『社会保障審議会児童部会について』ということでございますが、まず設置の 趣旨でございます。1つは、子どもや家庭を取り巻く社会環境の急速な変化に対応して 、子どもが健やかに育成される社会を構築するために、児童部会を設置し、今後の子ど もの施策等の推進に係る基礎的で広範な検討を行っていただきたいという趣旨でござい ます。  個々の事業とか、制度改正というご議論もあろうかと思いますが、私どもとしてはい ろいろな議論の中で、本当に基本的な情報となる、あるいは本当に基本的な政策の立案 の基礎となるような議論の整理とか蓄積あるいは検討をこの部会で行っていただいて、 まとめていただきたいと思っております。  審議内容でございますが、一つ、基本的な考え方として児童部会においては歴史的な 経緯を踏まえて、子ども、家庭、地域をめぐる現状の把握・分析、そうした上に子ども の健全育成や家庭支援のための方策に関しまして、10年、20年使えるような、あるいは 私どもが政策立案する際に活用させていただけるような中長期的かつ総合的な基本的な 方法をご議論し、審議していただければありがたいと思います。  そういう意味で、個別の制度改正の利害関係の調整とかということは、基本的にはこ の場の対象とするものではないと。もう一つは、後でまたご議論いただきたいのですが 、こうした審議結果を私どもだけではなくて、世の中に広く活用していただけるように いろいろな形で取りまとめると。一つは文章の形であるだろうし、データベースの形で もあるだろうと思いますが、何らかの形で、きちんとした形で取りまとめていきたいと 思っております。  それから、開催の頻度でございますが、特定の目的、政策のたびに議論するというこ とではなくて、長期的・継続的、定期的にご議論いただきたいと思っておりまして、私 どもの準備あるいは先生方のいろいろなお考え方によるのですが、当分、2カ月に1回 くらい開催させていただければと思います。その際に、先ほど部会のもとに委員会が設 置できるとか、必要に応じて、あるいは必要な非公式ミーティングを含めていろいろな 方からお話を伺うとかいうことを含めて定期的・継続的に2カ月に1回くらい開催して いただいたらいかがだろうかというふうに思っております。  それから、主な審議事項でございますが、例でございまして、むしろここで先生方に どんな切り口でご議論していただくか、あるいはどんな形で議論していただくかという のはむしろ議論の上でお決めいただきたいと思います。そういう意味で、きょうを含め ていろいろな検討の中で、こうした審議事項に膨らみを持たせていただきたいと思うわ けですが、とりあえず一つ大きな柱としては「現状の把握・分析」ということが挙げら れるのではないかと思います。子どもあるいは家庭、地域の実態、特徴、経緯や地域特 性を踏まえながら、把握・分析し、現状認識を整理する、これが一つ大きな仕事だろう というふうに思っております。  中身ですが、子どもの発達とか、家庭機能とか、地域それぞれの育成環境とか、社会 構造の影響、あるいは子ども・家庭・地域のニーズなどを私どもとしていかに把握すべ きかということについての現状把握・分析をお願いできればというふうに思っています 。  そうした上で、いろいろな課題があると思うわけですが、例えば次の課題があるので はないか。一つは、「子ども」と一口に言うけれども、子どもって一体何なのだろうと 。年齢によっても違うし、環境によっても違うし、発達過程によっても違う。それなり に政策の実態も違う、やっている役所も違うという中で、子どもをどう育むかというこ とを課題としてどう認識するか。それから、子どもを社会的にどう位置づけるか、経済 学的にも社会学的にもいろいろあるのでしょうが、今後の政策立案の中で、どういう形 でどういう切り口で認識して位置づけるかということ。  それから、こうした認識の上で、子どもの発達は一番大事なので、そういう発達を保 障するための理念とか、具体的な指針とかいうものがあるのか。あるのであればどうい うものか。その中で、例えば子どもの発達課題、子どもを取り巻く家庭あるいは社会の 育成の責任、それから子育て、社会観という言葉で言われているのは一体何なのかとい う中で課題をどうとらえているか。  それから、今度は具体的な、私ども政策課題になってくるのですが、子どもあるいは 家庭支援のためのサービスのあり方がどういうものか。一つは、いろいろなところでい ろいろなサービスが提供されていますが、そのサービスの体系とか提供組織、それから いろいろな課題に即してこういう形があり得るとか、それからもちろん子どもだけでは なくて、家庭の状況とサービスの在り方、それから子ども自身の状態、特に養護という 面からの在り方。  それから、いろいろな施設があるわけですが、施設におけるサービスの在り方。そう したサービスについて、質の向上の仕方、内容ということがあるわけですが、例えば施 設等におけるサービスの質の向上についてどうか、人材の確保、専門性の向上、それに はいろいろな資格制度とか、行政の制度、研修の制度がありますが、現状認識をしなが らどんな課題があるのか。それから、ケアマネジメント、老人の分野ではかなり確立し ていますが、この分野のそうしたものをどうとらえて確立していくのか。  それから、これも例ですが、行政としてどういう関わり方があるだろうか。児童福祉 法は昭和23年の法律でありまして、行政との関わりもかなり歴史的なところがあります 。そういう意味では、いろいろな問題が非常に広範になっておりますので、都道府県だ けではなくて市町村の役割分担、その中で従来から位置づけられている行政機関として の児童相談所あるいは福祉事務所、こういった行政の組織、機関の役割は何か。  それから、行政だけではなくて、民間、NPO、そういった個人の活躍というのはこ ういう育児の分野では最近相当広がっております。お手元に配付したピンクのをごらん いただくと、いろいろな広がりが市町村レベルで出てまいりまして、一律的な制度的な 行政ではとらえられないほど、市町村レベルではいろいろなことが起きてきている。そ うした中での行政と民間のパートナーシップとのとらえ方。こうした一連の、ちょっと 考えられるだけでもいろいろあるわけでございまして、私どもとしてはこれを少し体系 的に整理していただいた上で、個々必要な分析をする、あるいは必要な検討をする、あ るいは必要な肉付けをしながら、どういった順番、方法論でまとめていくかは先生方と ご相談したいと思うわけですが、冒頭申し上げたような、目的としては子どもをめぐる 、少し中長期的、体系な議論をできるような基礎をここで議論し、生み出してほしいと いうことでございます。  3ページにございますが、審議のイメージの流れですが、これも先生方のご議論の中 でお決めいただきたいと思います。ただ、今申し上げましたが、課題の整理が必要では ないかというふうに思っておりまして、これからいろいろご紹介いたしますが、私ども の施策の現状とか、いろいろな統計調査とかあります。これはご要望に応じ、あるいは 私どもからご報告させていただきたいと思います。  それから、もう一つ、私どもで把握できていないこんな調査があるとか、既存のこう いった項目がある、あるいはその成果はどうなんだという検証なども先生方で行ってい ただきたいというふうに思っております。  そうした上で、最後の政策立案につながる前の基本的な理念、この辺についても私ど も定見があるわけではないのですが、いろいろな議論の中で、今後の子ども、今後の子 育てと地域をどういうふうに切り口で、あるいは理念の中で考えるか。こういうものを 議論の中で確立しながら、課題に応じたり、あるいはもう少し課題から離れてもいいの ですが、審議成果をとりまとめて、生の形でもいいし、あるいは具体的・直接的な政策 提言になってもいいのですが、私どもいろいろ形で政策に反映できるような議論、デー タあるいは蓄積をこの場でしていただければというふうに思っております。  そういう意味で、一番下に書いてございますが、短期的な視野だけではなくて、2〜 3年かけて、子どもの問題を本格的に掘り下げ、21世紀のこれからの仕事のやり方、特 に私ども行政ですから、行政のやり方を方向づけていただけるような議論を当面この部 会にはお願いしたいと思います。  子どもの話は昔からいろいろな議論を長期的な視野に立った議論もされていますから 、当然、参考に私どもしたいと思います。一方で、お手元の参考1ですが、『最近の児 童家庭対策に対する各種審議会等からの指摘事項』というのがあります。参考1は政府 ・与党社会保障改革協議会ということで、縦書きの1ページをお開けいただきたいと思 いますが、年金とか医療とともに少子化というのを大きな柱になっていまして、1ペー ジの左側に改革の基本的な考え方の一つに、「子育てと仕事が両立できるよう、総合的 な少子化対策を進める」等々、いろいろな具体的事項が書かれています。  それから、次のページの総合規制改革会議とか、4ページ「仕事と子育ての両立支援 策の方針」とか、さらには9ページの「総合雇用対策」とか、これは岩男先生も一緒に 我々とご議論いただいた部分もあるのですが、非常に短期的な視野で、保育所を幾つつ くるとか、そういう話がどちらかというと中心で、あるいはこういう方のために保育所 をつくるとか、逆の発想からアプローチがあるとかいうことがあって、「子どものため 」というのは一体何なんだという議論が実はあまりされていなくて、この1年間、いろ いろなところで保育所の整備とか、児童館整備とか、放課後児童館の整備、現象的ある いは具体的プログラムレベルが走っているという現象があるわけです。  例えば4ページの「仕事と子育ての両立支援策の方針」など最初から5行目なんです が、そういうムードを心配される方々も多くて、あえて閣議決定には「実施に当たって は子どもの幸せを第一に考える。いろいろな人の意見を聞く」ということで、本当に子 どもの幸せは何だという議論が足りないのではないかというようなことがあって、こう いう文章が入っているということでございます。  これは一つの足元の例ですが、私どもこういう動きは動きとして一生懸命一緒にやっ ていかなければいけないと思うのですが、それとあわせて本格的に子どものために、そ れから子どもの視点に立った議論を長期的にできる場をつくっていただいて、常にそこ に立ち返って、この問題を投げていくという政策をしていきたいと思っているわけであ ります。  以上、いろいろ申し上げましたが、本部会の設置の趣旨でございます。よろしくご審 議いただきたいと思います。 6.委員自己紹介 7.子どもの福祉を巡る状況に関する自由討議 ○岩男部会長  ありがとうございました。次に、委員にご就任になった先生方の自己紹介をお願いし たいと思います。今、皆川課長の方でいろいろとイメージなどについてもご説明がござ いましたし、審議事項についての例示がございましたけれども、ただいまのご説明にと らわれることなく、全く自由な発想で結構でございますので、今後、どういう切り口か らどういうテーマを取り上げていったらよろしいのか、あるいはどういう方法で取り上 げていったらいいかといったようなことについて、それぞれの委員のご関心の事項を4 〜5分以内でお話しいただければありがたいと思います。  なお、堀委員は途中でご退席になるということでございますので、まず堀委員にお願 いいたしまして、そしてあとはご着席の順にということで、また柏女委員は遅れておい でになりますので、私が最後になると思いますけれども、あるいは柏女委員が最後にな られるか、おいでになった段階で自己紹介をしたいと思います。 ○皆川総務課長  お手元に次回の2カ月後の先生方のご都合の紙が入っております。自己紹介をやられ ている最中に担当者が集めますので、恐縮ですが、お書きいただき手元に置いていただ きたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○岩男部会長  それでは、堀委員、お願いしたいと思います。 ○堀委員  上智大学の堀でございます。  私は、法学部で社会保障法を教えています。また、ちょっと変わっているのですけれ ども、生活環境法ということで、ごみとかリサイクルの法制を教えております。  専門は社会保障法あるいは社会保障論ということです。最近は年金問題に関心があり ます。社会福祉に関しては少し遠ざかったのですが、十数年前は保育所の問題とか、シ ルバーサービスとか、そういう問題についてもいろいろ書いたりしゃべったりしており ました。  保育所について、措置制度の問題とか、改革案だとか、あるいは費用徴収制度とか、 民間事業の参入とか、そういった問題に関心がありす。現在、厚生労働省の「女性と年 金問題の検討会」に参加しています。これがそろそろまとめの段階にあるのですが、そ こで痛感させられているのは、やはり女性の年金問題の一番の根底にあるのは、「仕事 と子育てが両立できない」というようなことです。それさえ解決できれば、女性の年金 の問題は大幅に改善できるのかなというふうな感じを受けまして、そのためにはどうし たらいいのかなということを考えております。  また、児童福祉の理念とかそういうことよりも、むしろ私は政策論、制度論が得意な 分野と申しましょうか、従来から研究しているところであります。実施体制とか、そう いった点で何らかお手伝いできることがあればなというふうに思っております。以上で す。 ○岩男部会長  ありがとうございました。  それでは、松原委員、お願いいたします。 ○松原委員  明治学院大学の松原です。  私は、大学では児童福祉論を教えておりますが、もともとソーシャルワークという社 会福祉の援助技術を研究していて、その実践のフィールド、研究対象が児童福祉分野と いうことで、研究者としての生活をしてきました。  そういう立場ですので、どうしても現場とはなかなか縁が切れないということで、十 数年にわたったかと思うのですが、定期的に児童相談所の方に通わせていただいて、実 際の関わりのお手伝い等もさせていただいたのですが、その中で当初感じていたのは、 いろいろな施策があっても、その施策が一定の要件で利用者あるいは対象者を定めてい ても、そこになかなかコミットしてくれないというのでしょうか、要件はあるんだけれ ども、利用者にならない方−−児童虐待等が典型例だと思うんですが、その入り口の部 分で、どうやって施策というものを利用していってもらえるのか、そこのところを一番 の関心にしておりました。  例えば、乳児を扱うショートステイをやっても、施策として準備をしても「そういう ところに子どもを預けるのはね」というと、どうしても利用者数は伸びないことについ て、どうやったらいいんだろうかということも考えてくる中で、今申し上げました児童 虐待を含めた要養護児童に関する研究、それから旧母子寮、現母子生活支援施設ですが 、そこを中心にした母子世帯への援助というのを勉強してきました。  かなり長い研究者としての生活がある中で、最近、考えているのは、もちろんそこで 利用者になられた方にどう援助を展開していくかということ、このこともすごく関心が あるのですが、それに加えて、当初、私がやりはじめたとき、入り口のところに関心が あったんですが、出口のところはどうなんだろうかと。  平成9年でしたか、児童福祉法改正の中で、「自立」ということが一つのキーワード になりましたけれども、施策としての対象あるいは利用者からどういう形で離れていく ことができるのか、あるいはそこをどういうふうに援助ができるのか。例えば、施設に 入って一定の年齢までいて、そして社会に出ていくということでいいのかどうか、その 間をどこかのところで出口がないのだろうかという、つまり援助の評価と、そしてその 援助を利用した方たち−−子どもを含めてですが、その方たちの今の政策でいえば「自 立」をどういふうに考えていくことができるのかというのが最近の自分の一つの研究課 題になりつつあります。  それと、もう一つ、切り口は違うのですけれども、そういった中で現場の方とお話を していますと、子育て支援のすそ野の広がりを今感じています。かつてのように何らの 問題を、生活課題あるいは養育課題を抱えた方だけではなくて、子育てをされている家 庭全体が施策の利用者になるし、それだけの広がりも今持ってきているだろう。一方で 、ケースマネジメントというような集約的なサービス提供をしなければいけない人たち も増えてきていて、両極は見えてきているのですけれども、それが本当に一つの水平線 上でつながっているかどうか、どこかでプツンと切れているのではないか。  そんなことも最近の研究関心になっていて、点としての援助ではなくて、子育てされ ている家庭であれば、子育ての期間ということになるでしょうし、子どもということで あれば、一定の年齢の中で線としてどういう援助ができるのかというようなこと、そし てその援助を展開しながら、もう一回元に戻りますけれども、その施策の援助の出口を どういうふうに今考えたらいいのか、そんなことを最近は考えております。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは、無藤委員、お願いいたします。 ○無藤委員  無藤でございます。  私の専門は、いわゆる発達心理学というもので、乳幼児から大人までの生涯発達とい うことでいろいろなことを手掛けておりますが、この何年かは大きく言うと2つの柱で やっておりまして、一つは主に小中学校と学校教育の問題ということで、新しく学習指 導要領が改訂されて新しい教育課程になっていると思いますけれども、それに伴っての 調査等をやっているわけです。  もう一つ、多分、この部会にも直接的に関係がある一つですが、保育の問題とか子育 て支援あるいは臨床心理的な側面などです。私はお茶の水大学ですが、ご存じかもしれ ませんが、幼児教育の伝統がありまして、保育を扱うところに私がおりまして、かつ最 近、いわゆる臨床心理士という資格の養成のコースにもなりましたので、特に親あるい は保育あたりをめぐっての心理臨床的な援助と、それを私は発達心理学の立場でどう考 えているかというのが一番大きな仕事になっております。  具体的に言うと、私は特にここ5〜6年は子どもの生活状況、さまざまな実態調査を して、その上でそれについてどういう援助ができるかを考えるということをやっており ます。例えば、2年ほど前に、これはベネッセの教育研究所と一緒に乳幼児の調査を割 と数千人の大きなものをやりましたけれども、そこで生活状況等、またそこからどうい う援助が可能かという問題をやっておりますし、もう一つ、これはもっと大きな年齢で すけれども、小学生から中学生にかけて、これは岩男先生も関わっていらっしゃいます が、親子1000人ほどの調査を開始して、これは1年近く前に第1回を調査して、その子 どもたちを4年間かけてフォローするという、かなり大きなものですが、そういうよう なことが主なものです。  もう少し直接的には、どういう援助かということで、この資料にもいろいろ出ており ますけれども、特に私は今まで幼稚園あたりをいろいろやっておりましたので、昨年度 まで2年間のところで、横浜市で「預かり保育」を幼稚園でやっておりますが、それの 調査をいたしました。これは既に報告書が出ておりますが、どういう状況にあるかとい うことの詳細な観察、インタビューや親のアンケートなどがあります。そこで目指して いるのは、例えば「預かり保育」というものの質をどう確保できるかというような観点 ですね。まず、私が知る限りはそういうものが出ていないので、ちょうど厚生労働省も 関わって、「保育所の質の評価」というのがある程度できてきたと思いますけれども、 似たものをつくりたいというもくろみがあります。もう少し、それに類したことをほか でもやっていきたいというふうに考えているところです。  それから、もう少し実践的な部分では、特に本年度は「幼保小連携」と称しますけれ ども、幼稚園、保育所、小学校の保育教育をつなげていくというようなことで、厚生労 働省も多少関わっているかもしれませんが、主に文部科学省の指定その他で全国幾つか やっておりますので、そういった現場で直接関わりながら、今、資料を収集していると ころです。  私は研究及びこういう場でできることということで考えておりますのは、一つは特に 保育所、幼稚園というのが私のメインのフィールドですから、そのあたりで質、レベル をどう改善していくか、あるいは悪くならないように歯止めをかけるかという問題が1 点。  それから、もう一つは、幼稚園、保育所その他で子育て支援をさまざまに展開してお りますので、それをもう少し何らか整備できないかということや、いろいろやっている けれども、本当に有効性があるのかないのか、もう少し評価できないのかということで す。どれが有効か有効でないか見当もつきませんけれども、もしかしたらお金の無駄遣 いだってあり得るわけで、それはどうなるのかということですけれども、恐らく相手に よってといいますか、援助される側の抱える問題とか、リスクの程度とかによって、本 来、援助の種類や方法は変わるはずだと思いますけれども、そのあたりまで何とか立ち 入れないか。つまり、もっと別の言い方をすれば、子どもなり、親が持っているリスク を何らかで評価するなら、リスクの度合いでもう少し組織的に変えるようなことができ ないのか。それは私個人の研究者としての仕事ではありませんけれども、それに対して 何らかのご示唆が得られるようなことに何か関わっていきたいということが基本でござ います。以上です。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは山崎委員。 ○山崎委員  山崎でございます。私は、現在、京都大学大学院研究科の教授とそれから大阪市教育 委員会の委員を兼務いたしております。  私の専攻分野といいますのは、教育哲学と教育史でございまして、ちょっとこの分野 とあまり関係がないかとは思いますが、しかし私が主に研究しておりますのは、20世紀 初頭のドイツで学校改革運動の指導者の一人として活躍しましたゲオルク・ケルシェン シュタイナーという人を研究しておりまして、この人がいろいろな学校改革をしたわけ です。例えば、ペスタロッチーの精神を小学校によみがえらせる。そのために書物中心 、詰め込み主義の学校を労作だとか作業、あるいは行為だとか体験を中心とした学校に 転換したり、義務教育修了後、実務に従事している青少年の働きながら学ぶ施設として 実業補習学校を整備したり、さらには幼稚園と保育所の公立化ですね。その場合、小学 校と同じ敷地の中に施設を設けるという、先ほどお話が出ましたが、「幼保小の連携」 というようなこと、さらには働いておられるお母さんの子どもたち、6歳から10歳まで の子どもたちのための学童保育所への公費助成ということを世界に先駆けまして、手掛 けた人であります。  彼の影響は、日本におきましては、明治の末期から昭和初期にかけまして、かなり大 きな注目を集めたものでありますが、私はケルシェンシュタイナーのそういった学校改 革活動とその教育学的な理論づけに注目いたしまして、彼の業績の今日的意義を明らか にする研究をしてまいりました。今日の日本の教育改革におきましても、例えば体験学 習だとか、問題解決学習の強調というようなことが言われていますし、それから、総合 的な学習の時間の創設、こういったことですとか、あるいは生涯学習とか継続教育とい うようなものの制度的な保障だとか、それからこの部会と関係あるわけですが、女性の 社会的進出の増加に伴います子育て支援、それから放課後児童健全育成事業、こういっ たものの充実などに彼の考え方が一つのモデルとして十分生かせるのではないかと考え ております。  また、私は教育学の研究というのは実践と離れてはあり得ないと思っておりまして、 そういう点で大阪市の教育委員会とのご縁ができまして、各種の審議会の委員だとか、 会長を経まして、一昨年4月でございましたが、大阪市教育改革懇話会というものがで きまして、その座長を務めさせていただきまして、昨年2月に提言をまとめました。教 育長から「提言の具体化を見守ってほしい」というようなお話しがあり、昨年11月から 大阪市の教育委員に就任しているわけでございます。  この1年間、教育現場の生々しい現実に触れるようなことが多くございまして、教育 改革の必要性というものを痛感しているわけでございますが、そういった改革を進めて いくにつきまして、やはり子どもとともに現場の先生方も輝いてやる気を出していただ く改革にするにはどうしたらいいかというようなこと、それから日本ではよく「出る杭 は打たれる」と言われますけれども、出る杭でもきちんと評価されるような、そういう 適正な学校評価だとか、教員評価というものをどういうようにしたらいいか、さらには 、学校と家庭と地域社会の連携をどういうようにやっていくか、そしてその中で教育委 員会がどういったコーディネーター役を果たしたらいいのか、こういったところをぜひ 工夫してみたいと考えているわけです。  それから、子どもの問題をどう考えるかということでございますが、これにつきまし ては、今後いろいろご議論があると思いますけれども、私自身は伊藤忠記念財団から2 年間の研究援助をいただきまして、この春に『21世紀を展望した子どもの健全育成に関 する総合的研究』という、大部な報告書をまとめさせていただきました。その中で、今 日の子どもを取り巻く状況の変化、そして子ども自身の変化、そういったことについて 調査を土台にしましたようなものをまとめておりますし、私なりの見解というものを展 開しております。  きょう、そういうお話をさせていただきますと長くなりますので省略させていただき ますけれども、しかし、児童虐待のような悲惨な事件、こういったものがしばしば起こ るにつけまして、どうも日本という国は「子ども嫌い」といいましょうか、あるいは「 子ども憎悪」の社会になっているのではないかというような憂慮さえ抱いているわけで ございます。これの原因はどういうようなところにあるのだろうかということも私は常 々考えてはいるのですが、一つ挙げろと言われますと、やはり日本の社会のプライバタ イゼーションといいましょうか、私事化が進んだ結果、大人も子どもも自分のことしか 考えない、あるいは考えられなくなっている、こういったところに大きな原因があるの ではなかろうかと思ったりしております。  確かに、戦前、我が国では「滅私奉公」というようなことが強調されまして、その反 動で戦後は「滅公奉私」になったというようなことがよく言われますけれども、どうも 、今日、その極に達したのではないかという気もしないわけではありません。  そういう反省も踏まえまして、私は「活私参公」と言いまして、私を活かしつつ、公 に参画するというようなことの重要性を唱えているのですが、こういったアイデアがこ の部会でお役に立つのであれば展開してみたいと思っております。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは、渡辺先生、お願いいたします。 ○渡辺委員  渡辺でございます。現在、慶應義塾大学の小児科の病棟で外来治療をやっている臨床 医でございます。専門は小児精神医学です。小児科から精神科医になりまして、そして 神経内科の研修を経て、小児精神医学を学びました。4年前に英国の精神分析的なトレ ーニングを受けて帰ってきました。  私自身は戦後のベビーブームの世代なのですけれども、戦後の日本の再建を子ども時 代に過ごし、思春期には高度経済成長、オリンピック、新幹線など、まばゆい日本の復 活を目の当たりにし、そして医者になってからはそういった新しい時代の新しい女性の 生き方に自らチャレンジしてきたわけです。そして、実際には28年間、ずっと働き続け ながら、働く母親として、子どもは育ってしまいましたけれども、やってまいりました 。  恐らく、日本の歴史にかつてない、女性の生活の変化、女性のライフスタイルの変化 を自ら経験しながら、子どもの精神科医になってきたのだろうと思うんですけれども、 私自身は高度経済成長の日本の工業化の過程の中で、日本が長年育んで大事にしてきた 社会の持つ"親心"というものがきれいに破壊されている事実にショックを受けておりま す。  それはまさに私たちの世代が破壊したわけですから、大人として責任を感じて、今、 小児科の病棟や外来でそういう個々のケースに当たっているわけですが、それは子ども たちの発達環境を破壊しただけではなくて、大人たち、私や私たちの上の世代、つまり 老若男女なく、すべての日本の一人ひとりの子どもの真心とか、自分の思いとかが後回 しにされて、全体のために、例えば世間の尺度とか、そういうものの中に個人が本当の ハピネンスの意味を確かめ損なっている状況があると思います。  私は個々に症例を見ておりますので、あくまでも臨床家として子どもさんの苦しみや 親御さんの苦しみから学んだものからしか発言できませんけれども、例えばきのうもき ょうも接しているお母さんは、夫の我が子への虐待に苦しむわけですね。かわいい女の 子が4歳、3歳でいるけれども、夫がどうしても可愛がれない。自分が留守の間に子ど もを骨折させてしまったり、脅かしてしまう。その背景には、夫自身が自分の母との関 係が厳し過ぎて、その母への恨みが妻や我が子へのジェラシーに向かうということを若 いお母さんがちゃんと理解しているんですね。その若いお母さんが、自ら「うちは子ど もが3人います。一番手のかかるのが夫です」といっているような状況に対して、いい とか悪いとかではなくて、そのように一人の成長しようとしている、パートナーを育て ようとしているお母さんにどのように人間的な尊敬と尊重と支援をしていくかというの は、その状況を見抜いて、その家族に一番いいやり方でやらなければいけないという、 家族の資質、子どもの資質、そしてお父さん、お母さんの資質を見抜いた援助というの が必要だと思うんです。  日本はおかげさまで、戦後五十数年たちまして、ここまで社会がいろいろな問題を抱 えながらも安定してきて、私は今こそ「心の問題」に取り組むべきだと思います。「心 の問題」に取り組むということは、人の心の中に立ち入っていじくり回すのではなくて 、それこそ専門家にならんとする人たちが、自らの家族の歴史、家族病理−−どこの家 でも家族病理が必ずありますから、特に戦争をくぐり抜けた家族はみんなトラウマを受 けていますから、自らの家族病理を見つめて、そして深い人間理解の中から新しい時代 に新しいバージョンで育児をしなければいけない方たちの資質を、その方たちと共に見 抜いてあげて、育児も教育も、その子どもとその家族に合った家族の資質とか、子ども の資質に合った教育や育児というふうにしてやっていかなければいけないと思うんです 。  例えば私自身は卒業してすぐ結婚しました。当時は働く女性が決して歓迎されない時 代の中で、「はて、私は子育てができるだろうか?」という大きなクエスチョンマーク の前で、一つの仮説を立てました。私がとった仮説は、日本古来のお百姓さんのような 形でやればいいと。お百姓さんの場合は、ずっと共働きできたわけですね。ですから、 私自身は無認可の保育園を母屋として、我が核家族を離れのような感じで、そして病院 で診療しておりましたけれども、野良仕事だと思って、朝、日が出ると野良仕事に夫と 出ていくようにして、医療現場を耕し、帰ってきたら子どもと安心した生活を過ごすと いうような形でやってまいりましたけれども、やはり日本古来のいいものをもう一度復 活して、そして"親心"を家族のレベルから地域社会の、そして行政のレベルというふう にして、もう一度ハーモニーのあるものを取り戻していくということで、私自身は日本 はまだまだやっていけるのではないかという希望を持ってやっています。以上でござい ます。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは、阿藤委員、お願いいたします。 ○阿藤委員  阿藤でございます。私自身は、現在、国立社会保障・人口問題研究所におりますが、 前身の旧人口問題研究所以来、専ら社会学の観点からの人口研究というもので、結婚、 出生の日本の実態を調べてまいりました。  私がこの研究をはじめましたのは1972年の同研究所の第7回出産力調査というデータ の分析だったのですが、それは今の日本の少子化がはじまる直前のデータでありまして 、それ以前の日本は極めて結婚・出産が安定している状態であったのですね。しかし、 ご承知のように、それ以来、いわゆる出生数の低下が急激に進行するという事態を迎え たわけであります。当時、そのデータを分析していたときには、そんなことが起ころう とは全く予想もつかなかい、そういうところで、そういう研究をはじめたわけでありま す。それ以後も、そういう出産力調査のデータ分析とか、少子化の要因分析、国際比較 研究ということに携わってきております。  私自身は既に生まれている子どもの福祉でありますとか、権利とか、健全育成とか、 そういうことへの関心よりは、むしろまだ生まれていない子どもといいますか、子ども を産む環境あるいは育てる環境の変化ということに関心を持っております。実は、昨日 、事務局の方から資料を用意してこいというようなことがありまして、名刺代わりとい っては変ですけれども、そうしたものを少しお話しさせていただきたいと思って、一番 最後のところに私個人の配付資料がありますが、それをごらんになっていただきながら 、話をしたいと思います。  私が今考えている、少子化の世界全体における状況がどういうものかということをお 話をしたいと思います。  図1にございますように、少子化というのは先進国、ここには東ヨーロッパが入って ございませんけれども、東ヨーロッパも含む先進国全体の現象でございまして、子ども が2.1人以下すなわち、人口置換水準以下の出生率が先進国あるいはアジアNIES全 体を覆っているといって過言ではないと思います。この少子化というのが本当に必然的 なものなのか、あるいは人口置換水準を維持できるのかどうかということが一つの関心 事であるわけですね。  次の図2ですが、「少子化はある程度先進文明の必然なのだ」ということで、ヨーロ ッパの学者が「第2の人口転換」というような考え方からでています。出生と死亡の差 がいつもマイナスで、人口が自然増加でいうとずっとマイナスが続く、人口減少基調に なるという考え方も出てきているということであります。  しかし、そこで出生率が一体どれくらいかということはもう一つ重要ではないかと思 います。つまり、少子化が必然であるにしても、どの程度の出生率が考えられるかとい うことです。例えば先ほどの図1でいうと、アメリカや北欧などの国では出生率が1.7 から2.1くらいですね。英語でいうとlow fertility(低出生率)ですが、日本や南ヨ ーロッパなどの国ですと1.1から1.4くらいで、英語でいうとthe lowest low fertilit y、あえていえば超低出生率なんですね。この2つの違いは私は大変大きいのではない かと思っています。  ですから、低出生率は必然であるにしても、超低出生率も必然として甘受せざるを得 ないのか、何かそこには別の理由があって、必然的ではないのではないか、これが私の 考え方の出発点になります。  この2つの違いは、図3や図4に示しましたように、マクロ的には大変大きな違いを もたらします。図の3は、実は日本の人口推計の過去の経緯を示しているのですが、よ く批判される人口推計の図を並べたのですが、私は実はそういうふうに考えておりませ んで、1976年のまだ日本の出生率が安定していた時点の、人口置換水準を維持できると いうところで、例えば図の3は人口の規模ですが、これはどこかで人口が安定して、そ のまま変わらないという予想です。図4ですと、高齢化の割合(65歳以上人口割合) が20%に満たないでずっと安定する、あえていえば、高齢社会ではあるけれども、超高 齢社会ではない。そして、人口は比較的安定している、そういう姿が描ける。あるいは 、やや出生率が下がったにしても、それほど急激な減少にはならない、高齢化もそれほ ど進まない、そういうことなんですね。それがいわば出生率が1.7以上維持できればそ ういうことになるんだけれども、日本を含むような超低出生率国の場合には、図3の一 番下とか図4の一番上とか、まさに人口が急減し、そして超高齢社会が訪れる、こうい うことがいわば必然的に伴ってくるといいますか、そういう問題としてあるわけでござ います。  少子化の背景は一体何なのかということなのですが、これも先進国全般に共通して言 えることでありまして、一言でいえば、どの国でも未婚化、未婚率が上がり、そして結 婚が遅くなる晩婚化、そして出産が遅くなる晩産化ということがこの30年間くらい、と うとうと続いているということが何といっても最大な理由なわけです。  では、それは一体なぜ起こったのかということでありますが、さまざまな理由がある わけであります。しかし、それをもう本当にいろいろなものを省いてしまって、一つだ け言えと言われば、やはり私は先進文明全体に共通していることは、女性の社会進出、 英語でいえば女性のemancipationとこの伝統的な性別役割分業システムとのコンフリク トといいますか、不調和ということに尽きるのではないか。そのことが少子化を招いて いるのもあり、さて、我々はそれに対してどうすべきかという政策的な問題を投げかけ ているのではないかということであります。一口でいえば、少子化問題はまさにジェン ダー問題であり、男女共同参画の問題ではないか、こんなふうに私自身は考えておりま す。  ですから、問題としては女性のemancipation、社会進出に即して、性別・役割分業シ ステム、これは特に雇用の場、それから家庭の場におけるそういうシステムをいわゆる 男女共同参画のシステムに変えていくことができるかということが少子化問題解決のカ ギであろうというふうに考えております。それは、例えば図5とか、図6とかに示しま したように、実際に北欧社会や英語圏の社会あるいはフランスの社会の方が、どちらか というと女性の社会進出と出生率が両立傾向にあるというふうなことから、ひとつ言え るのではないかというふうに思うんです。  これは、決して私だけの意見ではなくて、図の中にありますように、オーストラリア の学者がこういう図を出しています。要するに、男女平等ということがだんだん進んで くる。それは、最初は家庭の例で緩やかに進んでくるので、そのことが子どもが5人か ら子どもが2人に変わるような、いわゆる人口置換水準への変化をもたらしたというわ けでありますが、現在起きていることは、それに対してIndividual-oriented 、つまり 特に雇用の場において急激に男女平等の方向で進んでいる。そこだけが、あえていえば アンバランスに進んでいる。そのことが非常に低出生率をもたらしているのではないか 。それに合わせて、ファミリーの方がもっともっと男女平等型に変わっていかないと、 この問題の解決はないのではないか、こういうふうな考え方を提示しておりますが、私 もそれに近い、そういう考え方を持っているわけでございます。  そういう意味で、日本の少子化対策をどういうふうに評価するかということからいい ますと、私は90年代の日本の少子化対策は、基本方針というのは適切ではなかったかと いうふうに思っております。きょう、ここにいっぱい資料がございますけれども、そう いうものを見ても、基本的な方向としてはいわゆる男女共同参画社会をつくる中で子ど もの問題を解決していこうという姿勢がはっきり打ち出されている点で私は大変評価し ております。そのほかにも保育政策などについて、さまざまな日本流の工夫があるよう でございますが、このあたりも大変評価しております。  にもかかわらず、少子化対策が90年代、あえていえば効果が上がっていない、つまり 出生率は回復していないのはなぜかということが、私にとって最大の問題になります。 ここでは、特に子どもの問題が中心になると思いますけれども、少子化の問題の裏にあ る家族、家庭の問題をマクロの問題と関連づけながら、いろいろ考えていきたいと思っ ております。  あえて疑問符を並べさせていただければ、そうはいいながら、少子化対策の基本方針 が一体良かったのか、あるいは別の全然違った考え方が必要だったのかというふうな問 題提起も可能でしょうし、方針は適切だけれども予算や施策がそれに伴っていない、不 十分だったという見方もあるかもしれません。あるいは90年代いろいろやったけれども 、予算や施策が非常にピースミールといいますか、漸進的でいっぺんにやっていない。 だから、これから効果が出てくるのだという言い方もあるかもしれません。  それから、まだまだできることがあるのに行われていない。例えば児童手当ての拡充 などはまだ本当はすべきなのかもしれないけれども、十分ではない。そういうことの結 果として、効果が出ていないのかもしれないですね。あるいは、そもそもこういう少子 化対策を超えた経済社会構造の変革、そのために政策の必要性、例えば東京一極集中を 緩和するとか、長時間労働を何とかするとか、そういうふうな少子化対策を超えた部分 で何かが起こらなければなかなか難しいのかというふうな問題もあるのかもしれない、 そのようなことを考えていく必要があるのではないかというふうに思っています。  最後に、婚外子割合と出生率というグラフがございます。これはまことに見事に相関 していまして、そういう意味では同棲や婚外子の比率の高い国ほど出生率が高いという 傾向が見られるわけでありますが、一体こういう問題がそもそも文化、伝統に関わるよ うな問題なのか、また別の観点があり得るのかということも考えていく必要があるとい うふうに考えております。問題提起も含めて、以上でございます。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは網野委員、お願いいたします。 ○網野委員  網野でございます。私は、名刺代わりに何の資料も用意しておりませんで、事務局の 方から、「自己紹介を兼ねて、最近のご自分の見解を」と言われておりましたので、最 近、考えていること、関心を持っていることを含めてお話ししたいと思います。  私は、今、大学で児童福祉と福祉心理学を担当しておりまして、心理学は非常に進歩 した学問となってはいますが、福祉心理学はまだ確立されていないというふうに思って おります。何とかこの分野をもう少し学問としても広げることが社会的にもいろいろな 形で貢献できる一つの部分かと思っておりますが、この前途は極めて多難かもしれませ ん。  もう一つ、児童福祉に関しても必ずしも十分学問的に位置づけられていない部分が多 く見られます。私自身、大学を出てから今日に至るまで、「子どもの発達と福祉」とい う分野で常にいろいろ関わってきまして、行政とか臨床とか、研究とか、教育とか、い ろいろ経験させていただきました。やはり、児童福祉学を学際的に、さまざまな分野に 関わっているものとしてもう少ししっかり位置づけられないだろうかということで、そ のために少しでもエネルギーを注げればと思いはじめています。  私自身のこれまでの経験を踏まえて一言で申し上げますと、やはり20世紀は「子ども の発達と福祉」という点では非常に画期的な時代に、間違いなくそうであったと思いま すけれども、ウエルフェアとしての福祉の進展は大変なものであったと思いますが、先 ほど来、委員の何人かの先生もおっしゃっていますような、子どもが生きていくことが ときどき苦しくなったり、窒息してしまいそうになっている。これは歴史の進歩なのか 、停滞なのか、退歩なのか。あるいはむしろ人間観そのものや文化、価値観が変わりつ つある中で出来事なのか、これは非常に私も関心を持っている一人です。  特に、2つの面で、このような中でこれから何が必要かということを思っていたので すが、一つは子どもという時期あるいは子どもという特徴をもっとしっかり大人が、私 たちがとらえ直す必要があるのではないかと思っています。人間としての子どもという 部分と大人と異なるということが浮き彫りになる子どもという部分でいえば、どうも私 たちは大人と異なるという部分をあまりにも誇張し過ぎてきた歴史があるのではないか 。だから、本来、もっと自立したり、責任を持ってもいい部分まで囲い込んで、子ども 期を延長する方向で何かが20世紀に変化してきたのかもしれないと思っている一人です 。  例えば、子どもの年齢の範囲につきましても、児童福祉は18歳未満を対象としていま すが、子どもの権利条約が18歳であるのと同じわけですけれども、実際には子どもとい うのは20歳になるまでの範囲で大人は受け止めています。特に、自立とか義務とか、責 任ということでいうと、ひょっとしたら保護し過ぎたために、あるいは制度も大人の子 ども観も「保護し過ぎたために」という部分を抜けきれなく思っていますので、具体的 にいえば、例えば18歳選挙権などというのは本格的に私は検討した方がいいと思ってい る一人です。少年保護法を18歳に引き下げる−−それも100 %反対ではありませんが、 なぜああいうことだけで引き下げをという話が出てくるのか。やはり全体的にとらえた 場合に、子どもというのは何なのだろうということを受け止める必要がある。例えば、 そういうふうに思っています。  それから、先ほど来、阿藤先生の話もありましたが、いわゆる出産という段階でも、 胎児期に対するとらえ方を児童福祉でどう受け止めているのか。子どもの権利条約は、 相変わらず、一応、解釈としては胎児期を玉虫色にしていますけれども、実際には人工 受精、対外受精、ここまでいろいろなことが起こってきて、いろいろ議論されている。 例えば夫婦の間だったら認められることでも、それ以外の女性だったら、女性は産む道 具だというような受け止め方で否定される部分がありますが、そういうことも全部包み 込んだときに、子どもという点から見たときに、例えば極端な言い方かもしれませんが 、私は胎児期の養育親とか、里親的な受け止め方を含めながら、そして生まれた後のフ ォローも児童福祉がもっと関わる必要があるのではないか、そういうふうに思ったりし ています。  そういう意味で、子どもって何だろうということを一つのテーマとして私はいろいろ 考えております。  それから、もう一つ簡単に申し上げますと、やはり子どもが育つ、大人が育てるとい う関係でいうときに、しばしば「社会的親」という言葉を使わせていただいていますが 、これほど閉鎖的で孤立してしまった子育て環境の背景に、あまりにも長い歴史で見ら れた子育て環境、子育ち環境が何やら方向が少し見えなくなってきている。そういう意 味では、実の親だけではない、すべての大人たちがもっと子育ちに関心を持ったり、あ るいは子どもを産み育てている人に感謝できる社会をもっとつくれないのだろうかと思 っています。この点では、多分、この審議会でもいろいろ議論がなされると思いますが 、例えば一つの実証的な内容として、これからできれば3年間進める予定ですが、ゼロ 歳から保育を受けた子どもたちが小学校へ入り、中学校、高等学校、そして思春期や青 年期を過ぎ、今、成人期に達している方がたくさんではじめています。特に、かなり早 い時期から乳児保育を進めていた保育園を経験した方たちが、もう50代に入ろうとして いる方も何人もいます。  そのような方々を含めての縦断的なアプローチをしながら、最適親ということ、それ から例えば保育があまりにも乳幼児時期に限定されているといいますか、幼児期に限定 されている。これを小学校に入ってからも、本当に保育は必要とするのではないか。先 ほどの学校教育との関係もそうですが、そういう中で社会のシステムや私たち大人がど ういうふうにこのことを受け止めていったらいいか。そういう意味では、子育ての社会 化という方向でたくさんの課題があるかと思っております。その点も非常に大きな関心 事であります。以上です。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは遠藤委員、お願いいたします。 ○遠藤委員  現在、山梨県立看護大学で勤務しております遠藤俊子と申します。  私は、母性看護学並びに助産学という領域で、現在教育活動を中心として臨床に1年 のうち3分の1くらいは周産期病棟に学生を連れて一緒に出ておりますので、そういっ た実践活動、それから山梨県という一地方のさまざまな母子ケアシステムに関わってい る立場から、この会に参加させていただこうというふうに思っております。  先ほど、1年のうち3分の1くらい臨床の中で生活をしているというふうなことを申 し上げましたので、そういう意味では、私も個々のケースを通じながら、本当にさまざ まな人がいらっしゃると。外国人の方も非常に増えていらっしゃいますし、昔でしたら3 0歳過ぎると外来カルテに桜のマークがついていたんですね。それはハイリスクで、年 齢的に30歳で桜だったわけですが、現在はもうとてもとても、本当に30代で初産という のはたくさんございますので、そういう状況であるとか、非婚のお母様であるとか、あ るいはとても大きな合併症を持っていらっしゃるんですけれども、妊娠することができ たあるいは不妊で子どもを得ることができないと思っていたけれども、努力のかいがあ って妊娠はしたけれども、出産にまで気持ちが結びついていないんだというふうなお母 様方との出会いの中から、個々に応じたケアというのが求められているんだなというこ とをつくづく子育てにおいても感じております。  先だって、私どもがやりました研究の中では、現在、新生児訪問という制度があるわ けなんですけれども、お母様方が親になっていくときに、子どもを持つということが一 つのきっかけになって多くの制度と関係を持ってこられるんですけれども、ただ新生児 訪問という制度をご存じない方が非常に多いのですね。4割くらいの方しかご存じない 。実際に、病院は早期退院という形で、4日とか5日で退院をされるわけなんです。そ うすると、ようやっとおむつを替えて、授乳も何とかできるようになるかなと。母乳の 方も生理的にいってもまだ4日5日というところは本格的に出る時期ではございません ので、そういう状況で帰られた人を学生と一緒にフォローを、家庭訪問を繰り返しさせ ていただくと、どういうことが本当に困っていらっしゃるかというと、「赤ちゃんが泣 く」ということがお困りなんですね。泣くということは、だれが考えても、それは子ど もは泣くだろうというふうに思われるわけです。泣くには必ず原因があるし、原因のな い泣きもあるかもしれないけれども、それは落ちつくよというのは一歩離れた立場で分 析できるのだと思うのですが、実際にお母様方は、泣いているその子と対峙している自 分がどうしようもなくて、思わずベッドに上にボンと、「もう泣かないで」という形で 落としてしまうといいますか、それは虐待というふうにとるのかどうかという問題なの ですが……。  今いるお母様たちに、さまざまな制度は用意されていますけれども、先ほどもある委 員の先生がおっしゃっていましたが、それにアクセスする方法というのを本当にわかっ ていないというか、わかるような仕組みを持てていないという方がいいのかもしれませ んが、これだけ目も見えるし、IT、それからテレビ等のいろいろなものがあるんだけ れども、そこにはなかなかアクセスできていっていないという実態を我々はもう少し本 気で考えていかなければならないだろうというふうに感じております。  それから、もう一つは、私は看護という立場で、そういう方々と出会っておりますが 、なかなか福祉の方々との連携というのが、連携とか、ネットワークというのは、確か にシステムとして構築されつつありますが、実質的に中身できちんとネットワークを生 かせるような、本当の意味のつながりはまだまだだというふうに感じております。ケア マネジメントの例がございましたけれども、もう一歩、突っ込んで、一つ一つの具体の 例からそういったシステムを実質的に構築していきたいというふうに思っていることと 、子育て支援ということでは、私は山梨県内で幾つか行政のお手伝いで、子育て支援コ ースを持たせていただいているのですが、まだまだ行政指導というところでは、本当に お母様方の主導に切り換えていくところがうまくいっていないなということを肌で感じ ています。  例えば、お母様のするところには予算がなかなかつきにくくて、行政はあるとき、フ ッと結構予算がついたりして、「さあ、この予算をうまく使おう」ということでいくん ですが、それが継続的に線になっていかないというお話がございましたけれども、線に ならないような実態もあるのではないかと思っております。  私はどうしても医療の場が中心なものの見方になってしまうかもしれませんが、この 機会を活用させていただいて、もっと広げた意味で「子育て支援」を考えてやっていき たいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩男部会長  ありがとうございました。それでは、大日向さん、お願いいたします。 ○大日向委員  恵泉女学園大学の大日向と申します。専門は心理学でして、大学ではジェンダー論と あわせて親子問題、家族問題を担当しております。  具体的には、母性をメインテーマとして70年代前半から約30年余り、特に、母親の育 児不安、育児ストレスをずっと見てまいりました。この30年間、母親の育児不安、育児 ストレスにどういう変化が起こってきたかについてお話しいたしますと一つは育児不安 、育児ストレスの強度が強まってきたことがあげられます。そして、もう一つは育児不 安や育児ストレスの内容が複雑化・多様化してきていることです。それを私はここ2〜 3年、特に虐待を切り口として見ておりますが、ただ、ここで私が扱っている虐待とい いますのは、児童相談所の方あるいは警察の方々が対応なさるようなレベルの虐待では ありません。その一歩も二歩も手前で、まだ事件とはならないものです。たとえていう と、先ほど山崎先生がおっしゃいました「子ども嫌いの母親」というような、一見、そ んな現象も大分増えていると思います。  しかし、よく見ていくと、中には育児熱心な母親も非常に多く、育児熱心でありなが ら、一つ間違うと虐待に陥ってしまうような事例、あるいはグレーゾーン的なところで 苦しんでいる母親、また、虐待を心配する程度ではないのに、ニュースなどで虐待を見 ると人ごととは思えなかったり、自分がちょっと手を挙げただけで、これも虐待ではな いかと怯える、「恐怖の子育て」をしている母親たちが急増していると思います。その くらい、今、子育ては闇が深まっているというふうに申し上げていいと思います。  ですから、なおのこと、子育て支援の充実の必要性が言われなくてはならないと思い ますが、ただ30年前に比べますと、この子育て支援はすそ野も本当に広がってきており ますし、行政はじめいろいろなところが熱心に取り組んでくださっていると思います。 それでいて、なお問題点もまだ残っている、これからの課題があると思います。  2つ、私は指摘させていただきたいと思います。  1つは、子育て支援の対象は主に母親ですが、お母さんというものを一括りに見過ぎ ているのではないか。非常に多様な女性がいるにもかかわらず、子育てに直面した女性 は「お母さん」というラベルをつけることによって、一様な子育て支援で終わろうとし ている嫌いがあります。  それから、2つ目は、子育て支援というのは、私はある意味で「親育て」ではないか というふうに考えているのですが、「親育て」の視点が必ずしも十分ではないことです 。それでは、親育ての視点をどういうふうに展開していくべきかということに関して、 2つ考えております。  1つは、今のいろいろなお母さんたちの息苦しさ・ストレスを見ていますと、社会と の接点がないこと、そして夫との協力体制が家庭の中で維持されていないことが主な原 因の一つになっています。それは別の言い方をしますと、男女共同参画が家庭でも職場 でも地域でも、まだまだ成立していない、実現されていないということです。男女とも に就労と家庭との両立支援は実現からほど遠い現状にあります。今、構造改革というこ とがよく言われていますが、この構造改革を男女共同参画の視点から、あるいは子育て 支援の観点から進めていくということも一つの方策ではないかと思います。  それから、「親育て」の2つ目ですが、「あすの親育て」ということも長い目で考え ていきたいと思います。今、苦しんでいる、戸惑っている親を支援することはもちろん 大事な課題ですが、例えば思春期の人、青年期の人たちを対象とした「親育て」という ことも大切な子育て支援だろうと思います。  私の大学では、この4月から人間環境学科というのができまして、心理学を核として 環境問題と園芸の三領域からの人間形成を試みています。その中で、私は親子相談セン ターを担当させてもらっているんですが、そこには地域で子育てに悩んでいるお母さん 、お父さんに来ていただきカウンセリングをしたり、学生も一緒に子どもと遊ぶ行動を 共にしながら、親も子も学生も育ち合うことを目指しています。それをやったからとい って、保育の資格がとれるとか、そういうことでは決してないのですが、「あすの親」 として広く人間関係能力を育てていきたいと思っています。  最後になりますが、先ほど就労と子育ての両立支援に関して、「子どもの立場に立つ 重要性」を皆川課長さんがご指摘くださって、そのとおりだと思います。親を育てる、 親の就労支援ということと、子どもの立場に立つということは、一つ間違えるとかつて の3歳児神話の罠にはまってしまう恐れもあります。しかし、そういう言いつつ、今の 就労の現場を見ていますと、どんどん親が長時間勤務を余儀なくされて、それで果たし て本当に子どもの健やかな環境が整っていくだろうかという問題も指摘しなければなら ないでしょう。親の立場に立ちつつ、かつ子どもの立場に立った両立支援ということを 考えることが、本当の意味での男女共同参画の視点に立った構造改革ではないかと考え ております。以上です。 ○岩男部会長  ありがとうございました。服部委員、お願いいたします。 ○服部委員  大阪人間科学大学の服部でございます。  36年前に精神科医としてスタートいたしましたが、この春、新しい大学に移りました ので、経歴を眺めてみましたら、7つの職場を転々と歩いておりました。大変忙しく、 目まぐるしい日々であったように思います。大学病院を皮切りに児童相談所、保健所、 それから心の健康総合センター、精神保健センターあり、ほとんど教育医療関係、それ から教員養成系大学、看護者を養成する大学、そして現在は社会福祉士養成系の大学と いうことで、その点だけは誇りにしておりまして、ありとあらゆる職場を見せていただ いたという気がいたしております。  私個人は、一貫して、子どもと若者そしてその家族を中心とする職場に身を置かせて いただいたこと、大変幸運だったと思っております。このように動き回りました理由の 一つは、夫の仕事の関係で外国に3回まいりました。それもばらばらの3回でございま して、その都度、退職、再就職という、女性の持つ問題の切り口のようなところを自分 も経験いたました。外国はアメリカが3年と、旧ソ連時代が2回ございまして、合計5 年でございましたが、異文化という切り口とそれから全く専業妻、専業母を外国でやり ましたこと、大変おもしろうございました。  何もかも大変浅く、さまざまにという経験が、今、自分自身では大変おもしろく思わ れているわけでございますが、本業が児童思春期の精神科医でございますので、お客さ んがほとんど思春期の若者、それもほとんど不登校。そしてその不登校もかつての葛藤 の強い神経症タイプよりも、もっと違う、内面の未熟さ、発達の未熟さ、あるいは情緒 的な問題、疲労感とか、抑うつ感とか、空虚感とか、あるいはPTSDのような幼き日 のトラウマのようなものを引きずったというような内面の問題が非常に多うございます 。  そういう子どもたちの診療を今も病院でも見ますし、教育センターの教育相談という あたりに来る子どもたち、児童相談所の事例も見させていただき、それぞれの場所で出 会う子どもたちが少しずつ違うというのもなかなかおもしろうございます。  そういう中で、私なりに児童福祉といいましょうか、医療といいましょうか、子ども をめぐる問題に今後どういうアプローチをしたらいいかなと思いますときに、幾つか私 なりの考え方でございますが、まず第1は必要なときに、的確に、迅速に、支援援助が できること、それはどうしたらいいだろうか。これは虐待に関する、大阪府の審査部会 というのがございまして、7つの児相からあがってくる虐待の事例をどうするかという ような、弁護士も入りまして5人ほどで対応させていただくというあたりに座っており まして、本当に的確にしないと命が危ないという時代でございます。しかし、必要のな い者にまで重病人扱いをしてはならぬということも片方では常にあります。つまり、元 気な子に病院食を与えたら危ないわけでございますから、それが発達を悪くする。その あたりのジレンマの中で、どのように的確に支援・援助ということができるだろうかと いうことを常に考えていることが第一でございます。  第2は、どのようなこともチーム、連携が要るということでございます。例えば、幼 児教育に関する協力者会議の会長をしておりましたが、教育委員会発の集まりでござい まして、これがまた雑多な人々を集めまして、公私保育所・幼稚園、そして小学校も中 学校の先生も集まっていただく、幼児教育だからといって幼稚園だけはなくて、教育委 員会が主催でありながら「子育て支援」という言葉がどんどん出てきて、福祉の方々が どんどん加わってくださってという……。どうもこれからはチームビルディングの妙味 がいかに生かされねばならないかということかなと。国にせよ、どこにせよ、特に一番 働く市町村レベルあたりは横がどうつながれるのか。縦ではなく横につながるチームの 組み方が今後の福祉のありようの大きな力の出所の違いになるのではないかという気持 ちが大変強うございます。  3番目は、民間のパワーをどれだけうまく使うかということで、これはNPOのよう なもの、私もたまたま「大阪 心の子育てインターネット関西」というのをつくってお りまして、精神科医、社会学者あり、ありとあらゆる人々が集まって、後ろから支援す る。あくまでも家庭で子育てをしているお母さん自身が中心になって立ち上がって、自 分たちで何かをしていくのを支援するというような、あるいは大阪府で、私は青少年問 題協議会の座長をしているのですが、そこで地域コーディネーターを1000人ほど5年間 につくろうというものを出しまして、どんどん民間の方々が動き出すと。それは子育て を終えた方も含めまして、民間や地域のパワーをどれだけうまく活用できるのかなとい うことが今後持っていく方向性に重要かなと思います。  そして、4番目は大日向先生や皆さんおっしゃいました、やはり教育ということ。子 どもは親になる過程を歩き出しています。教育を親から教えるのではなく育てるという 、そのあたりをゼロ歳から親になる準備がはじまっているわけでございますから、豊か な体験をしながら、人間性の発達をどう促せるのか、そのような教育のシステムをどう したらいいのかなということと、それから「親育て」。支援というよりも、私は「親育 て」だと。私の会っている思春期の危なっかしい若者たちが2〜3年後には親になるわ けですから、それはもう危ないだろうといつも思うわけです。  ですから、最初から親であるなんて思わないで、あるいは人間としてまだ未熟なんだ けれども、それから出発をするんだという前提に立って、親自身が、親であるとともに 個人の人生の中の、まだまだつぼみから花になるかならんの時間ですから、親になった 彼女や彼らが、母も父も含めまして、人間として発達していく時間とその思いの深さの ようなものをなるべく伝えてあげる。「だめなんだ」と言わないで、「これからなんだ 」「これから伸びるんだ」という、親が自分自身の人生も育てていく、そういう支援と か教育のシステムがどのようにできるのだろうかというようなことを日ごろ考えつつ、 全くの現場の人間でございますので、現場で走り回りながら、そんなふうに考えたりし ております。ありがとうございました。 ○岩男部会長  それでは、柏女委員、お願いいたします。 ○柏女委員  遅くなりまして、申しわけございませんでした。淑徳大学の社会学部で児童福祉を中 心に授業をしております柏女と申します。よろしくお願いいたします。  5分ほど時間をいただいてよろしいのでしょうか。  今、私なりに感じていることをお話しさせていただきますが、私自身は振り出しが児 童相談所で、心理職の仕事を10年間しておりました。その後、厚生省にまいりまして、 8年間、政策立案のお手伝いをさせていただくという仕事をさせていただきました。そ ういう中で、今現在は児童福祉の全体構造を少し明らかにしたいなという思いを非常に 強く持っています。利用者サイドの声はいろいろお話がございましたけれども、私自身 はサービスの供給者サイドの方から見ていきたいというふうに思っています。  具体的には、児童福祉援助が効果的に展開されるためにはどのような仕組みがあった からいいのか、あるいはこういう一つの仕組みができたら、その仕組みのもとで援助を 効果的に行っていくためには、どういう臨床方法があればいいのか、そのつなぎの部分 を明らかにしていきたいなというふうに思っております。  そして、網野委員の方からも少しお話がございましたけれども、社会福祉全体の動き と児童福祉固有の動き、これを明らかにしていきたい。児童福祉の中での社会福祉とし ての普遍性と、子どもという特性が持っている、あるいは子育てが持っている固有性の 問題を明らかにしておきたいという思いを持っています。  そのフィールドはどこでもいいんですけれども、保育であったりあるいは虐待であっ たり、社会的養護であったりするわけですが、私自身が最もフィールドとして関心を持 っているのは相談という部分です。例えば、相談というフィールドでは4つのサブシス テムが必要ではないかというふうに思っています。  1つは、子ども虐待に代表されるような、保護者が介入を希望しない分野で、子ども の最善の利益を確保するためにスムーズな介入ができるシステムが一つ必要ではないか というふうに思います。  2つ目は、そうして切り離した子どもと保護者の心理的な援助、心のケアを十全に行 っていくためのサブシステムが必要ではないかと思います。  3つ目は、これは地域に関わる分野でありますが、地域で親たちが集える「居場所機 能」といいましょうか。そうしたサブシステムが必要なのではないか。  4つ目は、それらを使いながら、市町村レベルで例えば虐待の問題、あるいは不登校 の問題でも非行の問題でも何でもいいんですけれども、そういう問題についてケースマ ネジメントをしながら、援助を調整していくシステムが必要なのではないか。  この4つのシステムをつくっていかなければならないだろうというふうに思っていま す。今、この辺がゴチャゴチャになっていますので、あるところが欠落していたり、あ るところが重複していたりしているというのが現状ではないかと思っています。これを 整理するためには、それぞれの相談機関がどのような問題に、どのように対応している のかという実態を明らかにしていかなければならないだろうということで、この10年く らい、児童相談所の運営実態ですとか、あるいは福祉事務所、家庭児童相談室、児童家 庭支援センター、あるいは地域子育て支援センター、現在は市町村保健センターの運営 実態調査をさせていただいておりますが、それぞれの分野がどのような相談に、どのよ うな援助方法を用いて対応を行っているのか、それをタイムスタディですとか、運営実 態調査、質問紙調査を使いながら、明らかにしていきたい。その上で、専門職同士のチ ームワークの組み方とか、あるいはネットワークのつくり方等々について検討を進めて いきたいということで今ずっと続けております。  こうしたことを続けながら、主として相談の分野でいえば、いわゆる分権化の問題と サービス供給主体の多元化の問題が恐らく検討課題としてあがってくるのではないかと 思います。現在の児童相談所という、都道府県が責任を持っている体制のもとで行って いることのメリット・デメリット、それからサービス供給主体がいわば社会福祉法人と か、そうしたところが中心となって、あるいは行政が中心となって行っていることのメ リット・デメリット、NPO等々、あるいは株式会社等がどうこれに組み合わさってい けばいいのか。そして、その専門職同士のチームワークや専門機関同士のネットワーク 、これがどう組み合わさっていけばいいのかといったようなことをやっていきたいと思 っています。  まだまだ道半ばということではありますけれども、幸い、利用者サイドの声はいろい ろな方がご研究されていらっしゃいますので、私は主として供給者サイドから見ていき たいということで続けております。そんなところで、私のご紹介とさせていただきたい と思います。ありがとうございました。 ○岩男部会長  ありがとうございました。  それでは、私のご紹介をさせていただき、また簡単にまとめさせていただきたいと思 います。  私は、実は最初は臨床を主専攻にし、発達心理学を副専攻という形で出発いたしまし たけれども、アメリカの大学におりましたものですから、1年生のときに州立の精神病 院に研修に行っていて、そこで幼児体験を共通にしない人を担当するということのいろ いろな問題を考えさせられて、それで社会心理学を主専攻にというふうに専攻を変えま した。  アメリカで子どもを産むというような経験をしておりますので、先ほど異文化経験の お話もございましたけれども、何事もあまり絶対視しないというか、常に相対的に物事 を考えるというような習慣がついたような気がします。  日本に帰りましてからは、99年まで慶應におりましたけれども、一つには自分の子ど もを育てる過程で、発達心理というのは外に置いておいた方が子どもの手前、都合も良 かったものですから、それは隠して、社会心理を表看板ということでやってまいりまし て、主として態度研究という中で、例えば価値観の問題であるとか、偏見の問題である とか、ジェンダーとか、そういったような問題を切り口として研究を続けてまいりまし た。  あわせて、92年から国家公安委員をしている関係で、非行であるとか、虐待の問題も 特に極端な場合を私は考えてきたというふうに申し上げたらよろしいと思います。  それから、少子化の問題を阿藤先生もお話になりましたし、いろいろ皆様からお話が ございましたけれども、「少子化への対応を考える有識者会議」の座長をしておりまし た関係で、それ以前から、少子化の原因であるとか、結果、あるいは少子化が親子関係 にどういう影響を与えるのかといったようなテーマにも取り組んでおりましたので、少 子化の問題にずっと関わってまいりました。現在は少子化への対応を推進する国民会議 の委員を務めさせていただいております。  現在は、慶應の不妊治療の先生と組んで、妊娠、出産の問題といいますか、「産みど きの問題」というふうにいったらちょっと誤解を招くかもしれませんけれども、産みど きの問題が例えば子どもに対する期待、それ自体がキャリア形成を含め親にどういう影 響を与えるのかといったような研究を今年度しております。  あるいは、無藤先生とご一緒に、子どもを取り巻く社会的な要因の一つとして、マス メディアの影響というようなことで、メディアが子どもに与える影響といったようなと ころも取り組んでいる一つでございます。先ほどから両立支援のお話がいろいろ出てお りましたけれども、私が子育てをしながら仕事をしていたころは、あまりそういう人は いなかったものですから、子どもの学校に行くたびに、先生から「お母さんが働いてい るから、あなたの子どもは困ったものだ」ということを何回も言われまして、問題児だ ということをいやというほど聞かされました。私はもともと実証研究をしている人間で すので、それではデータでどういう影響があるのかということを見せなければいけない ということで、リサーチを非常に古くからはじめました。それが84年に『働く母親の時 代〜子どもへの影響を考える〜』という本になったわけですけれども、男の子と女の子 とお母さんが働いているということに対しても随分違う受け止め方をするのだなという あたりをいろいろな形で分析したりしておりました。  それから、家庭における暴力とか攻撃性ということにもずっと関心を持っておりまし て、父親、母親、それから小学校5年生という一つの世帯の3人をランダムを選んで、 どのような場合に、だれがだれに対してどういう暴力をふるうのか、あるいはふるわれ る側はそれをどういうふうに受け止めているのか。その状況を父親、母親あるいは息子 、娘、それぞれ非常に違った受け止め方をしておりますので、そのあたりの調査をした りしております。  私はとりあえず2つくらいの視点でこの子どもの問題を考えたいと思ってけれども、 一つはいろいろな方がおっしゃいましたように、子どもの問題は親の問題である、大人 に起因しているということで、誤解を招く部分もあるかもしれませんけれども、私は「 子どもを社会化する責任がある」というふうに考えていて、その責任がいろいろな形で はき違えられたり、あるいは非常に曖昧になっているというふうに現状認識しておりま す。つまり、「親の子育て力」というものが低下しているということで、その実態把握 あるいは「親の子育て力」をどのようにしてつけるかという「親育て」の部分と、それ から日本古来の、「親心」というお話もありましたけれども、かつてあったものが今な くなっているという意味での回復をどういうふうにするか。あるいはもし低下している のをある程度仕方がないといいますか、容認し、なかなか改善も難しいというときに、 どういったような形で補完していくかという問題ですね。  ですから、子育ての社会化ということもその一つだと思いますし、地域での問題、い ろいろな形での補完の問題。さらに私は「子ども自身の力をつける」という、そこを考 えていかなければいけないのではないかというふうに考えております。  もう一つは、先ほど大日向委員からもお話がございましたように、今、ストレスを親 だけではなくて子どもも非常に感じているんですね、生きていく上でのストレス。いろ いろな形でその問題を取り上げることはできると思うんですが、日本の国として、これ から「多様性」ということは非常に大事なことであり、価値があることであり、いいこ とであると。あるいは個性豊かな人を育てるということを言っているわけで、それにも かかわらず、何かにつけて日本は伝統的に非常に画一的な社会であったと思うんです。 相対的に見てそういう面が多いように思いますけれども、何かにつけて平均で話すとい うか、例えば「健診」というものがお母さんたちにとってすごくストレスになるんです ね。それはある意味で平均値を示されるということなんですけれども、やはり能力とか 発達のプロセスは非常に幅があって、早いからいいというわけでもないし、いくらでも おいつけることもあるし、多様なものだということを、私はある意味で目に見えるよう な形で示す必要があるのではないか。そうでないと、つい、平均値に依拠するというよ うなことで、それで遅れているの、進んでいるのというような形で子ども自身、親にと ってもストレスにつながるような気がしております。  皆様方のお話を伺いまして、本当に経験豊かな委員の方がお集まりになっており、ま た地域も東京だけではなくて、たまたま住んでいらっしゃるという方もいらっしゃると 思いますけれども、常に中央から見るという視点ではない視点で見たいと、自戒を込め てそういうことができると思いますし、切り口も非常にマクロな形でとらえる方もいら っしゃれば、ケースということで非常にミクロなとらえ方をなさる先生もありという、 大変多岐にわたる問題点のご指摘があったように思います。  例えば、施策の有効性であるとか、あるいは利用者の問題、評価の問題とか、あるい はさまざまな機関等の連携の問題であるとか、調整の問題、そういった施策だけではな くて心の問題というようなこともございますし、日本に比較的特徴的に見られるような 問題というものも、日本の戦後の経済成長の中で、効率追求で、私たちは子どもを忘れ てきてしまったといいますか、子どもの視点をなおざりにしてきたように思います。  そういう中で、非常にきめの細かい配慮をしないと、例えば利用者が要件を満たして いても利用できないといったようなことにもつながるのだと思いますけれども、そうい ったようなことが今後この部会でもいろいろと議論されなければいけないし、あわせて 非常に総合的な視点といいますか、総合的に本当に問題が多岐にわたりますから、それ をどういう整理をして、どういう優先順位でアプローチしていくのか、なかなか難しい とは思いますけれども、これまでの施策が限界があったというのは、どなたかおっしゃ いましたけれども、一部分のみをとりあげ、総合的な取り組みにならなかったというこ とではないと思うんです。  私個人としては、皆様のご発言を実は大変うれしく伺っておりましたけれども、男女 共同参画社会づくりにずっと関わってきた者として、この男女共同参画社会という言葉 をほとんどの方がご存じなかったときからそれほど時間もたっておりませんのに、先生 方が「男女共同参画社会づくりがある意味で私たちが目指す大きな目標である」という ことをお示しくださいましたし、また両立をするということ自体が問題ではなくて、両 立は当たり前というか、両立ができるということが前提だという共通のご認識があった と伺いました。若干、自分の希望的観測を入れましてそのようにとらえたかもしれませ んけれども、小泉総理も「構造改革」とおっしゃるときに、「男女共同参画社会の実現 は、社会の構造改革である」とはっきりおっしゃっておられますので、そういう意味で 、今ここで取り上げていく問題というのは、社会の構造自身との絡みで取り上げていく 、そういう非常に基本的な、また息の長い問題ではないかと認識しております。  私たちは常に「子どもの代弁者」という視点だけは失わない。先ほどからたびたび出 ております両立支援の報告書も、親のニーズが延長保育というようなことで親への支援 が前面にでております。私は「子どもだって疲れるのに」ということを申し上げました けれども、子どもの視点というのがつい忘れられてしまうということを念頭に置き、私 たち自身、そこへ引き戻しながら議論を進めていきたいと考えております。  既に時間が過ぎておりますので、きょうは第1回ということで、このような形で委員 の皆様方のお考えをご自由にお伺いいたしましたが、次回以降、また積極的にご発言を いろいろお願いしたいと思っております。  事務局の方から次回の日程について何かございましたら。 ○皆川総務課長  お手元に配付させていただきました予定を集計しまして、今のところ2月13日の午前 中と。ご出席いただけない方は大変恐縮ですが、2月13日の午前中が一番多いというこ とです。  それから、私どもの事務局を1分でご紹介させていただきたいと思います。  審議官水田でございます。向かって皆様方の右側で総務課の少子化対策室長の吉野で す。児童福祉調査官の宇佐美でございます。DVや虐待を担当する家庭福祉課長の中村 でございます。名前そのものの虐待防止対策室長の藤原でございます。放課後児童クラ ブ等を担当しております古川課長でございます。母子家庭問題とか児童手当問題を担当 しております蒲原と保育課長の高井は他の用で出ております。それから、母子保健課長 の谷口でございます。あと関係の児童福祉専門官がおりまして、いちいちご説明しませ んが、皆様方と一体となってこの会の運営をさせていただきます。よろしくお願い申し 上げたいと思います。 閉会 ○岩男部会長  時間も過ぎておりますので、本日の会合をここで終了させていただきたいと思います 。本日はお忙しい中をありがとうございました。                                     −了− (照会先) 厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課総務係 (代)03−5253−1111(内7823)