10/06/18 第10回ナショナルミニマム研究会議事録 ナショナルミニマム研究会(第10回)議事録 1.日時 平成22年6月18日(金)17:30〜19:00 2.場所 厚生労働省 省議室(9階) 3.出席者 雨宮委員、岩田委員、貝塚委員、菊池委員、駒村委員、竹下委員、橘木委員、湯浅 委員、阿部国立社会保障・人口問題研究所部長、長妻厚生労働大臣、山井大臣政務官、 清水社会・援護局長、間杉政策統括官(社会保障担当)、三石社会・援護局保護課長、 伊奈川参事官(社会保障担当) 4.議事内容 ○伊奈川参事官 事務局でございます。  ちょっとまだ遅れておられる先生がいらっしゃいますけれども、ほぼ定刻になりましたので、 第10回のナショナルミニマム研究会を始めさせていただきたいと思います。  参加者の先生方には、お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。  本日は長妻厚生労働大臣にご出席をいただいておりますので、冒頭、大臣のほうからご挨拶を いただきたいと思います。  大臣、よろしくお願いいたします。 ○長妻大臣 どうも皆様、こんばんは。  本当に連日ありがとうございます。ちょうど今日で第10回ということになりまして、本当にお 忙しいところをありがとうございます。  政権といいますか、総理が代わりまして初めてのナショナルミニマム研究会でございます。新 総理である菅総理大臣は「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」ということで、経済成長の 基盤をつくっていくという趣旨の発言も申し上げているところであります。その中で、このナシ ョナルミニマムあるいは貧困問題、格差、これらについてのこの政権での取組というのはさらに 重要性が増してきているというふうに考えておりますので、ぜひ皆様方の今後とものご指導をい ただきたいと思います。そして、少子高齢社会の日本モデルというものを1年かけて議論してい こうと、絵姿を国民の皆さんにお見せしていこう、2020年には日本がどういう姿になっているの か、ほかの国の手本となるような少子高齢社会の社会モデルというのをつくり上げていきたいと いうふうにも考えております。その中でもナショナルミニマムは大変重要な課題だと思っており ます。  今週初めに福岡高裁で、生活保護の老齢加算の廃止は生活保護法違反であるという判決が出た わけでございます。その前の東京高等裁判所では同じような判決で、また逆の判断が示されたわ けでございます。この自治体から厚生労働省に対して、控訴するかしないか、どういう判断が適 当かということで意見を求められておりますので、我々としても期日までに慎重に議論をして判 断をしていきたいというふうに考えております。  いずれにしましても、このナショナルミニマムということについて、我々として研究を重ねて いく必要があるというふうに考えておりまして、今日は中間報告ということでありますが、岩田 先生に主査となっていただいて、低所得者の消費の実態から見た最低生活費の分析ということも 報告がございます。そして、神野先生が主査となっていただいた貧困格差に起因する経済的損失 の推計ということもご議論いただくというふうに聞いておりますので、私も事前にその中身を詳 細に拝見いたしました。また皆様方のご議論をよろしくお願いいたします。  どうもありがとうございました。 ○伊奈川参事官 大臣、ありがとうございました。  カメラの取材はここまでとさせていただきたいと思いますので、退室のほうをお願いいたしま す。 (カメラ退室) ○伊奈川参事官 引き続きまして、議事のほうに移りたいと思います。  本日は、お手元にございますけれども、「ナショナルミニマム研究会中間報告(案)」、そし て、その関係での岩田先生、阿部先生からの資料の説明という構成になっております。  まず、研究会の中間報告の関係でございますけれども、前回の研究会の後、各先生のほうから さらにご意見をちょうだいいたしましたものにつきまして、事務局のほうで先生方とご相談しな がら適宜修正を加える形で本日お出ししております。これにつきまして取りまとめのご確認をい ただければと思っております。この内容につきましては予めお送りしているものでございますの で、これにつきまして特段のご意見なければ、これで取りまとめということにさせていただきた いと思いますけれども、いかがでございましょうか。  よろしゅうございますか。特にご意見がないということで、これで中間取りまとめとさせてい ただきたいと思います。どうもありがとうございました。  それで、続きまして、今申しましたように、本日は、最低生活費の作業チーム中間報告につい て岩田先生から、また経済的損失推計作業チームの関係につきましては国立社会保障・人口問題 研究所の阿部部長のほうからご説明をいただくことになっております。  まず、岩田先生のほうから最低生活費の作業についてということでご説明をいただき、そして ご意見、ご質問等をちょうだいできればと思います。  先生、お願いいたします。 ○岩田委員 この資料の別添1というものをお開きいただきたいと思います。  最低生活費ワーキンググループは、6名のメンバーで発足しまして、現在のところ、最低生活 費をどう算定するかというその方式の検討をしております。今後、実態生活費(家計調査)に基 づくアプローチと、もう一つは新しい理論生活費アプローチである合意基準または合意形成アプ ローチの2つの可能性を検討したいということで、7月までに、私たちが現在科研費で行ってい る家計調査結果に基づく実態生活費アプローチによる最低生活費の試算、それからちょっと古い んですけれども、日本でこういう最低生活費の議論が一番たくさん出たのは1950年代なんですね。 その実態生活費アプローチの手法の検討をする。それから3番目に、慶應義塾大学で行われた調 査票ベースの合意方式による分析、4番目に、社人研で行われた2003年の保護世帯の家計簿と低 所得層の生計簿調査分析の既になされた分析の検討を行います。そして8月に、先ほどちょっと 申しました合意形成アプローチとして、現在イギリスでミニマム・インカム・スタンダードとい う、これは一回ご報告しましたけれども、この作成がなされているわけですけれども、それを実 際やっているラフバラ大学から実際のテクニカルなことが分かっている人を招聘しまして、3日 間のトレーニングを受けることになっています。このトレーニングの後で、日本でMISアプロ ーチというものができるものかどうかということを検討して、今年度中に、小規模ですけれども、 どこかで試みたいとは思っていますが、ちょっとこれはまだはっきりはしていません。  今日は中間報告ということで、一回こちらで報告しました若年単身世帯の試算例を、少しケー ス数を増やしてみて、そしてやり方を若干変えましてやったものをお示ししています。前回報告 しましたのは、2008年11月の若年単身世帯47のケースについてですけれども、今回お持ちしたの は、これにプラス2009年6月に、TOKYOチャレンジネットという、元ネットカフェで寝泊ま りをしていて不安定就労状況にある人たちへの相談・支援あるいは貸し付けをしている相談機関 があるわけですけれども、ここの利用者に対して34名の家計調査をしまして、そのうち24ケース を加えまして、71の有効票でやってみた結果になります。詳細はそこに書いてありますので、そ れはちょっとご覧いただくということにしまして、算定のやり方を変えた点を申し上げます。  1つは、私どもがやったのは1カ月の家計調査なものですから、その月の収支だけを調査して いるわけですけれども、当然、私たちの生活というのはある程度、例えばボーナスが入るとか、 あるいは貯金を引き出すとか、借金するとか、借金を返すとか、そういうある長期の収支の見込 みというものを視野に入れて家計運営を行うわけですが、1カ月の家計調査というのはこの点で 非常な限界があるんですね。そこで、その調整をしてみようということで、可処分所得に実収入 外収入というのを足して実支出外支出を引くというちょっとややこしいことをやりまして、調整 可処分所得というものをつくりました。  それから、住宅費と光熱費を合計したものを生活基盤費と名付けます。これは前回と同じです。  それから3点目は、家賃を支払わないといいますか、非常に安い、あるいは会社から補助され ているとかルームシェアとか、そういう層がかなり存在していますので、その影響を排除するた めに、先ほどの調整可処分所得から生活基盤費を除いたものを可処分所得Cとして、同様に消費 支出から生活基盤費を除いたものを消費支出Bとして、その伸びを見るということをしています。  それから4点目は、家計費目というのは例えば住宅費のように5万円前後というような単位も あれば、もうちょっと何千円という単位もありますので、散らばりを見るときに変動係数という 標準偏差を平均値で割った係数を利用すると、こういうことを考えました。  そこで、まず71世帯のうち最低生活費算定の根拠となる生活構造を確認しようということで、 モデルとして自立賃貸層というのを抽出しました。これは前回と同じ考え方です。こうしますと、 モデルとなる世帯が41世帯になります。その可処分所得B―これは調整可処分所得ということ ですが―と消費支出の関係を見ますと、次のページの図のようになります。これも前回と非常 に似た傾向になりまして、17万5,000円を真ん中に、消費支出は右肩上がりにというよりは上下 に分布するという、こんなような状況があります。  この17万5,000円の上か下かということで、非常に大ざっぱにそれぞれの消費構造を見たのが その次のページの、ちょっと見にくいんですけれども、表です。ここに変動係数をちょっと入れ ていますけれども、その下の図で見ていただくように、家賃、住居費というのが一番変動係数が 小さくて、しかも平均値で見て大体5万円台で余りぶれないんですね。食費よりも変動係数がち ょっと小さいという形、散らばりが少ないということになります。前回申し上げたように、首都 圏の若年層は、まず自立生活を行うためには住居費を確保すると。これがですから6万円弱あっ て、そこに光熱水費、これはある程度幅があるんですけれども、住宅費とくっつけておきますと (これを生活基盤費とします)、前回申し上げたように、それ以外のところが倍ぐらいの違いに なって平均値で出てきます。したがいまして、最低生活費を算定するときに、この生活基盤費以 外のこの倍ぐらいの違い、つまりプラス7万かプラス14万かという、そのどこに線を引くかとい うのがポイントになってくることになります。  そこで今回、前回とちょっと変えまして、生活基盤費を除いた消費支出Bというのと、可処分 所得Bから生活基盤費を除いた可処分所得Cというものをつくりまして、今度は賃貸自立層以外 の世帯を、住居費の影響を除いていますので、ケースを増やして、若干いろんな記入漏れが疑わ れているケースを除きますと、66ケースを対象にして、その関係を見たのが図3なんですね。こ の青いのが消費支出Bの動きです。ちょっとこれを見ていただくと、10万から15万円で少し高く なるんですけれども、大体この15万から20万円未満層から5万から10万未満層ぐらいまで、点線 がその平均値になるんですけれども、これが10万6,327円という線のところで少し寝た感じにな るんですね。ちょっと上がるんですけれども、寝た感じになって、ここを一種の抵抗水準という ふうに考える。抵抗というのは、収入が下がっても所得を減らせないという意味です。ですから、 この辺に一つの最低限界というのを見ることができるんじゃないかというふうに考えました。  黒字額というのをちょっと出しているんですけれども、これは、理論上、赤字になるというの はちょっと可処分所得Cという考え方からはあり得ないんですけれども、実際上、調査で手持ち 金や何かまで、繰越金や何かをきちっと調査していませんので、実質的にはゼロ以外が若干出て います。この赤字になって、ゼロから下になっているんですね。若干出ているんですけれども、 これは理論上ちょっとうまくないので、次のページに同じような図があります。図4というのが ありますけれども、これは普通の可処分所得に戻しまして、そこから生活基盤費を引いたものと 消費支出Bというのを今度比べています。これで見ますと、大体この5万から10万未満と10万か ら15万未満のところで赤字になっていくという。分岐点が大体どうもその辺にありそうだという ことで、これが平均値で見ますと大体9万8,482円という線になって出てきます。  そういうことを少し考えますと、これは家計の費用の動きから判断するということですけれど も、先ほどの平均値、10万6,327円を採用した場合は、最後のページにありますように、生活基 盤費の平均の5万9,218円プラス今の10万6,327円、つまり消費支出が16万5,545円に税金・社会 保険料というような形になっていく。それからもう一つは、調整前の可処分所得の黒字赤字分岐 点をもし採用するとすると、これより若干減って、15万7,700円プラス税・社会保険料という辺 りが、これは首都圏の若年の単身世帯の場合の最低限というふうに算定できるだろうということ です。もちろん、この数値はあくまで今回調査の試算の範囲内ですから、もっと大きな調査によ って確かめられる必要があるということになります。  最後に、これを仮に地域的に展開する場合、地域差は生活基盤費に最も大きい。これは家賃だ けじゃなくて、前に貝塚先生もご指摘くださったように、光熱費というのは自治体によって非常 に違いますので、その地域ごとの差はそこに出るとすれば、上記の消費支出Bプラス税金・社会 保険料と地域ごとの生活基盤費という展開で把握できるかもしれないということになります。こ の場合は消費支出のレベルに地域差がないということを前提にするわけですけれども、それはも しかしたら違うかもしれないので、この点については、今後さらに検討が必要だろうということ です。  以上です。 ○伊奈川参事官 先生、ありがとうございました。  それでは、岩田先生のプレゼンテーションに対する討議に移りたいと思います。  どなたからでも結構でございますけれども、ご発言いただけますでしょうか。  湯浅先生。 ○湯浅委員 ありがとうございました。  消費支出Bの平均額10万6,327円とするのは、水光熱費を入れていないから、本来、生活保護 の一類よりも少ないはずですよね。生活保護の生活扶助費の水光熱費を抜いたお金と比べるとや っぱり相当高い金額だと思うんですけれども、この試算の範囲ではどこら辺に原因が、あるいは こういう違いが、今の生活保護水準の生活扶助費とこの実際の最低ラインの違いが出るのは、一 番どこら辺に原因があるとお考えですかね。 ○岩田委員 これは現行の生活保護ということを全く考えないでやっているわけですけれども、 そして私たちの考え方は、まず世帯モデルをつくろうというところから出発していますね。だか ら、最初からこういう単身世帯で、しかも若年というようなモデルをつくって、若年というのは ここは40代まで含んでいますけれども、つくってやっております。それが生活保護の場合は標準 3人世帯で展開していきますので、基本的には標準3人世帯で勤労者世帯全体との比較をするわ けですけれども、ここではまずモデルをつくっちゃうということですね。  それから、今回の私たちの調査は、先ほどのチャレンジネットなんかの利用者まで含んだとい うことから推しても、通常、全国消費実態調査なんかの対象にならない人たちが相当入っている ということなんですけれども、さらにそこでモデルを自立賃貸層という形でつくって見ていきま すと、この自立賃貸層というのは典型的に1Kですね。ないしはワンルームです。だから、住宅 の最低限としては本当にぎりぎりの、健康で文化的かどうかもしかすると疑わしいというような 場合もあるかもしれませんけれども、1Kないしはワンルームになりますね。それでもこのぐら いかかっているということになるだろうと思います。 ○伊奈川参事官 湯浅委員、いかがでございますか。 ○湯浅委員 これぐらいかかっちゃっているんですよね、現実は。 ○岩田委員 そうですね、実際かかっている金額ですから。  そしてもちろん、家計というのは、さっきこの散布図で見ていただいたように、実際は非常に 散らばっているわけですね。その階層ごとの平均を出しますとある程度それが収斂して5万幾ら ぐらいになるんですけれども、非常に散らばっているんですね。さっき言いましたように、例え ば変動係数で見ますと、うんと変動が大きいものがあるわけですね。  こういう実態家計から見るやり方の利点というのは、マーケットバスケットのような理論生計 費にすると、1個ずつ積み上げていきますから、これが入る、これは入らないとやるんですけれ ども、実際の生活というのは、やはり個々人の生活のスタイルというのがあったり、趣味嗜好が ありますから、こっちは出すけれども、これは我慢するというような多少いろんな入れ替えをや っているわけですね。そういうものが見えるわけです。そういうものを見た上で、しかし金額と して最低限はどれかというのを出そうという、そういうのに比較的実態生計費アプローチという のは向いているなという感じはしています。  さっき言った抵抗というのがどのぐらい意味あるのかということも一つの問題になりますけれ ども、見ていくと、やっぱり台形になっていくというか、ずずずっと下がらないんですね。ちょ っと横ばいになっていくんですね。そこをとらえると、何とかそこで踏ん張っているという感じ が見えるわけです。 ○湯浅委員 今回は71ケースということですけれども、岩田さんの感覚だと、これがどれぐらい のケース積み上がると、ほぼこれで間違いないだろうと言える数字になるんですかね。 ○岩田委員 いや、それはちょっと分かりませんけれども、これは、一つは地域と世帯、だから 世帯モデルをどういうモデルを幾つつくって、それから地域をどのぐらいつくってやるかという ことになりますから、家計調査ですから、やっぱり実態家計でやる場合は全国消費実態調査プラ スそこから漏れそうなのを補充するような形で全国消費実態調査のような調査も使わないと難し いかなと。 ○伊奈川参事官 ほかの先生方、いかがでございますか。  貝塚先生、お願いします。 ○貝塚委員 いや、別に私は統計学は半ば素人に近いのであれですが、要するにある種のサンプ ルなんですよね、これ。だから、要するにもともとあるものがどういうもので、それをうまく代 表していればいいわけですよね。だから、その辺のところが多分、これは統計学の先生に聞かな いと。いつでもそういう問題は起きるんですが、代表的なサンプルであれば、大体これで見て、 およそこういう感じだというと、どこか偏りがあるかもしれないか、あるいは要するにこういう 調査をしたときに、調査というのはやっぱり相手があるわけだから、その反応というのが、変な 表現をすれば、正直にあれするか、多少バイアスがあるかということもあって、だから自分が困 っているというのは余り言いたくないというとすれば、そうすると少し情報のバイアスがあるし、 逆のケースは逆のケースであったりして、多分その辺のところもやや煩わしい問題であると言え ばそうなんですが、その辺のところが……。  だから、別の言い方をすれば、この数字で大体、大ざっぱに言えば、よさそうだということで あれば、判断の一番基準として、政策のあれとして、その辺の判断で大体適切らしいということ であれば、この指標として、出発点としてとって、これからの議論の基礎にできるという感じな んじゃないかなと。  やや外からのコメントに近いんですが、その辺を大体セットとして、今後の議論するときに、 このエビデンスは、証拠は大体大丈夫ですよというところであれば、それはそれという、そうい う感想を持ちますということで、別にコメントじゃなくて、今後どの程度活用していくかという 話と関係するということ。とりあえず。 ○伊奈川参事官 岩田先生、何かございますか。 ○岩田委員 今、サンプルについてお話があったのですけれども、今回調査は正規、非正規、失 業の3種類が入っているんですけれども、圧倒的多数は非正規の就労者なんですね。そして、非 正規就労者というのは、その収支の伸びが正規労働者に非常に近い人たちと失業者に近い人たち に非常に大きく分布しているんです。こんな小さいケースでもそれがとてもはっきりする。だか ら、一口に非正規労働と言っても、もうちょっと大量に調査すると、平均値からいうとかなり違 ってくるかもしれませんが、このぐらいの量の調査だと、その中心にある非正規労働者の生活と いってもかなり幅があるんですね。そういうサンプルだということは言えるんですけれども、前 の47でやったときと今度は71でやったときに、でも余り差はなかったんです。大体形がいつも一 緒で、大体17万ぐらいを真ん中にしてこう開くんですね。  何かいいところかなとちょっと思ってはいますけれども、ただそれはきちっとみんながそうだ と思うような形にしていかなきゃならないと思いますけれども。 実は、今日はそこまでやっていないんですけれども、社会的参加指標というのを別につくりまし て、そのスコアをつくって、これとこういう収支がどういう動きをしているかというのを見たん ですけれども、それはちょっと失敗してうまく出なかったです。それは、ここの家計調査に参加 してくれた人たちがいろんな団体を介して応募してくれたので、非常に生活はぎりぎりなんだけ れども、仲間がいる人たちなんですね、割合。それから、制度に乗っている人たちなので、そう いう意味で社会参加の指標はフラットになっちゃうんですね。そっちがうまく出れば、実態生活 費を別の指標によってジャッジメントするということはできるんですけれども、ちょっと今回ケ ースではそれはできなかった。 ○伊奈川参事官 駒村先生、お願いします。 ○駒村委員 必ずしも正確に理解していないわけで、この抵抗線というのは、支出から生活基盤 費を抜いたところで、ここのところで頑張っているという感じで、これを各支出項目別に、Aか らIですかね、並べていったときには、それでその各費目別の抵抗線みたいなものは見て、それ をすくっていくという方法はないんでしょうか。すみません。 ○岩田委員 それが、さっき言いましたように、例えば女性だとやっぱり被服費みたいなのを食 費を削ってもいくとか、男性は逆に食費にいくとか、かなり差があるんですね、費目ごとに抵抗 線はでてこない。  さっきのああいう変動係数みたいにすると少し落ちついた感じになるんですけれども、単純な カーブで書くとすごいめちゃくちゃになりますね。 ○駒村委員 めちゃくちゃになっちゃうんですか。というのは、それ以下だと人間として我慢で きない費目別の構成を足していくとというのも一個のアプローチかなと思った。ただ、もちろん 費目ごとで、服と食費をどっちを選ぶかというのは個人の選考の問題でありますけれども、もう 一つの発想としては、我慢できる最低限をつなげていったらどうなるのかなと思ったんですが、 やっぱりばらつきが大きいわけですね。 ○岩田委員 そうですね。  生活基盤費のように、社会参加費とか、いろんなのをつくってみたんです、いわゆる十大費目 とは別に。だけど、そこもちょっと今のところうまくいっていなくて。  ただ、少しグループ化して見てみるというのはあるかもしれないですね。今後ちょっといろい ろ考えて、そういう手法をいろいろ考えていけば、大きな調査に、例えば全国消費の個票を借り て分析するときに当てはめるとかできますので、少しいろいろやってみたいとは思っています。 またいいアイデアがあったらぜひご示唆いただければと思います。 ○伊奈川参事官 竹下先生、お願いします。 ○竹下委員 非常に、この数字を見ていて、実感といいますか、実態に何か合っているような印 象があって、とりわけこの地域展開のところに興味を持ちまして、これまでマーケットバスケッ トでやってくるときに、昭和20年代にやったものがそのまま尾を引いているんでしょうけれども、 そういう意味で都会と田舎、一級地と三級地とで、消費支出のところも差が当時はあったのかな というふうに、私はそのころのことを知りませんけれども、想像するわけですが、今回の先生の 出し方が、消費支出をとりあえずほぼ同じと見た場合に、生活基盤のところでの地域差を考慮し てまずは考えようとしているということで、物すごく実感に合っているのかな。  といいますのは、僕なんかはこの間にそれこそ北海道から九州まで歩いていまして、生活費の 中の食料費であるとか日用品費はほとんど差はないと言い切ってもいいと思っているんですね、 実際。それに対して住宅費なんかを見ていると、例えば京都、東京と青森とでは間違いなく違う。 そのくせ、じゃ単純じゃないのは、光熱費で言いますと、水道代で言うと京都に比べると青森は ほぼ倍なんですね、びっくりするんですけれども。それと、今度は灯油なんかを見ていますと、 青森で言いますと、11月から3月までは灯油が保護費に加算されるわけですけれども、現実に青 森なんかの実態で見ていると、4月から灯油代のつかない10月の間も、実際に灯油を使わないの はせいぜい一、二カ月しかないというのがどうも実態のようなんですね。  そういうところを見ていると、まさに生活基盤費というのは地域によってその特性というか特 徴を見ておかないと、適正な最低費というものははかれないのかなという印象があるので、この 表をさらに客観性を持たせるような何かたくさんのケースを地域ごとで抽出する何か方法を続け てほしいなというのが印象です。 ○伊奈川参事官 岩田先生、何かコメントは。 ○岩田委員 なるべく地域展開できるような、ここにその地域のを入れれば出ますよみたいにし たいなと思っているんですけれども、それには、今、先生がおっしゃったような前提で、通常の 生活費、フローの生活費というのは比較的類似なんだというように前提するかしないかというの は非常に大きいんですね。ですから、この辺も先ほどの、個々の違いはあるんだけれども、地域 差がどのぐらいきいているのかということは少し調べないと分からないと思いますけれども、そ れは確認した上で、これでいけるのか、そうではなくて、やはりそこに何か係数みたいなのを掛 けなきゃいけないのかというのはちょっと考えてみたいと思います。 ○伊奈川参事官 ほかの先生、いかがでございますか。  とりあえず、そうしましたら時間の関係もございますので、よろしければ、引き続きまして阿 部先生のほうからのご発表をいただき、質疑に移りたいと思います。  阿部先生、お願いいたします。 ○阿部部長 国立社会保障・人口問題研究所の阿部と申します。  神野先生を主査としております「貧困層に対する積極的就労支援対策の効果の推計」というこ とで、今日は中間報告をさせていただきます。  お手元にお配りしております色のついているパワーポイントの資料と、報告書の「中間報告」 と書いております別添2−2という資料がございますけれども、主にパワーポイントのほうの資 料を見ながら説明させていただきます。  まず、1ページめくっていただきまして、今回、私が課された一つの目的というのが、貧困層 の若者に対するインテンシブな職業訓練プログラムの費用対効果を推計することでございます。 具体的には、就労支援を行った場合の費用と行わなかった場合に関わる費用とを、生涯にわたる 納税額・社会保険料額、生活保護費などを加えて推計し、それを比較いたしました。  1ページめくります。3ページになります。  想定されるシナリオといたしまして、幾つかの今既に日本で行われている職業支援プログラム 等を参照したんですが、想定されているような非常にインテンシブなものがなかったということ と、データがそろっていないということから、これは、アメリカのJob Corpsプログラムという 非常に研究者の間でも注目されているプログラムなんですが、実績も非常にあるプログラムを参 照といたしました。  Job Corpsプログラムについては、その下の黄色く囲ったところに簡単に概略を書いておりま す。既に約200万人の若者がこのプログラムに参加しております。これは、アメリカは高校まで が義務教育ですが、高校を中退したいわゆるドロップアウトの16歳から24歳の若者で、うち3割 は公的扶助の受給者を対象としているものです。ほぼ全寮制で、高校を中退しておりますので、 高校時代からの再教育、職業訓練プログラムというのを非常にインテンシブに行います。  最高3年間までの訓練期間をやっておりますけれども、プログラムの内容といたしましては、 ただ職業訓練等だけではなく、その人の医療ですとか、そのほか対人スキルですとか、心身の疾 病の治療ですとか、コミュニケーションスキルの訓練ですとか、非常に包括的なプログラムを行 っております。ですので、このようなプログラムを日本で行った場合に、やはりどれぐらいの費 用効果が推計されるだろうかということを推計いたしました。  4ページ目です。  プログラムの就労に関して幾つかのシナリオを設定しなければいけませんでしたので、このよ うに設定しています。  就労した後に、正規就労で65歳まで就労した場合、それから非正規就労で65歳まで就労した場 合、それからこれは現時点でのデータに基づくものですけれども、非就労を含めた平均的な人生 を歩んだ場合という設定をしております。3つ目の想定を含めましたのは、例えば女性なんかで は、今実際にはM字カーブと言われるように、出産や結婚を機に就労をやめたり、労働市場から 脱退することも非常に多いわけですけれども、就労支援をしたからといって、この人が65歳まで ずっと働き続けるという過程が一番いいシナリオとしまして、そうでない場合、普通の場合とい うのもやはり出してみようというもので出してみました。  就労しない場合には、ワーストシナリオとしましては65歳までずっと生活保護を受給すると。 そうでない場合は、生活保護を受給しないものの、非課税以下の所得の労働者であり、住民税・ 所得税の納付はゼロ円、保険料は免除というシナリオになっております。  それを図式化したものがスライドの5になります。2つ、シナリオ1とシナリオ2を想定して おりまして、1つ目は18歳から2年間の就労支援プログラムをした場合、それからこれはロスト ジェネレーションと言われるような30歳代の人、30歳から35歳の5年間の就労支援をした場合と いう非常にインテンシブなものをした場合にどうなるかということになっています。  経済前提としましては、経済前提Aというのが全て調整しない場合、賃金・物価上昇率、割引 率もゼロ%としたものです。経済前提Bというのは年金の財政のシミュレーションのときに使わ れる経済前提でありまして、割引率が4.1%と非常に高く設定されております。稼働所得という のは賃金上昇率で調整、生活保護費、プログラムの費用は物価上昇率で調整しております。  次、推計の留意点ということで2点申し上げたいと思います。  まず1つは、推計というのはあくまでもシミュレーションでありまして、用いたデータが平成 19年のものですので、あくまでも平成19年の今の日本の人口の就労状況、例えば20歳、21歳、22 歳、23歳と65歳までの就労状況や賃金を出してきているわけですけれども、それがこの人の20歳、 21歳、22歳というこれから40年間、50年間というものをあらわしているという仮定に基づいてお ります。ですが、もちろん経済状況や就労状況や賃金の分布というのは年とともに変わっていき ますので、そこのところはあくまでも今の現在の状況がこのまま伸びた場合どうなのかという前 提になります。  もう一つが、この推計はプログラムを行った場合と行わなかった場合の就労率や賃金の違いを 考慮するものではないということです。  これをスライド8を見ていただきたいんですが、先ほど申し上げましたJob Corpsプログラム では、研究者の推計では投資率が10.5%というふうな計算がなされております。これはもう既に 実際にそのプログラムを出た人のそのフォローアップを行った実際値を使った計算なんですけれ ども、そこで効果として挙げられているものには、この中では、この図で示しましたピンクの部 分とオレンジの部分だけになります。つまり、就労支援をすることによって今まで就労しなかっ た人が就労しなくなったという就労率の違い、それがオレンジの部分です。それと、就労支援を することによって、今までもし就労支援をしないでいた場合よりも高い賃金を得ることであるだ ろうというピンクの部分、この2つの部分を足したところがプログラムの効果となります。  今回もこの2つの差というのを出せるかどうかと。これは日本ではまだ行っていないプログラ ムのものですので、あくまでもこれは仮定値になりますけれども、この仮定が置けるかどうかと いうことをJob Corpsの実際の状況からとってみようと思ったんですが、それをめくっていただ きますと、9のスライドのところにありますように、実際にはこのJob Corpsプログラムであっ ても、就労率というのはプログラム・グループで71.1%、コントロール・グループで68.7%と、 ほんの少しの違いしかないんですね。これはもちろん、その時期の景気の状況ですとか労働市場 の状況ということによってこの差は出てきます。どこでその10.5%という投資率が出てくるかと いうと、これは賃金の違いなんですね。賃金率の違い、ここにあらわしたように、プログラム・ グループとコントロール・グループでは、6カ月目ぐらいからだんだんプログラム・グループの ほうが高い賃金を得るようになってきて、これが一生続くことによって、この差が出るというと ころです。  ただ、この違いを日本にこのまま当てはめるというのはちょっと無理がありますので、今回は あくまでも、もし成功した場合、もしこの人が就労した場合でどうなのか、就労しなかった場合 はどうなのかという、確率ではなくて、イエス・オア・ノーという100%かゼロ%とかいう数値 となりますので、本当の意味での費用対効果ではないということはご了承いただきたいと思いま す。  用いましたデータは、スライド10にありますように、国民生活基礎調査と賃金構造基本統計調 査を主に賃金の稼働所得の推計に使っております。それから、生活保護費としては、62回被保護 者全国一斉調査を使っております。  推計方法のほうにまいります。  ここはかなりテクニカルになりますので、ちょっと飛ばしながら説明させていただきたいと思 いますけれども、稼働所得は先ほど申しましたように正規と非正規を想定しております。国民生 活のほうは学歴がとっておりませんので、全ての正規の職員、それと全ての派遣社員と契約社 員・嘱託の2つの加重平均ということで正規と非正規を設定しました。賃金構造基本調査のほう は学歴をとっておりますので、それにさらに高卒という一つのものを付けた場合で、高卒の常用 雇用者の正社員、それと高卒の常用雇用の正社員以外の人たちということをとっております。仮 定としましては、単身世帯、扶養家族はゼロ人という仮定を置いております。  それともう一つ、実際に払われている納税額・社会保険料額を参照する方法といたしまして、 これは国民生活基礎調査のほうの生データを使っております。先ほど申しましたように、1番の 方法でやる場合には、あくまでも単身世帯ですとか、どのような厚生年金に入っているかですと か、そういうことを仮定しなければならないんですけれども、2番の方法での実際の納税額・社 会保険料額を参照する場合には、その人は例えば、平均的には結婚したり子どもが生まれたりし て、扶養人数が増えることによって納税額というのも減りますし、どのような保険に入っている か、社会保険に入っているか、国民年金なのか、厚生年金なのかというようなことも大分関わっ てきますので、それを今の人たちの平均を使ったということになります。  生活保護費のほうは、単純に保護基準から積み上げる方法というのもあるんですけれども、こ こでは実際のデータを使っております。というのは、実際にはこの年齢の人たちが全く働いてい ないと仮定するのはかなり無理がありまして、生活保護を受けながらでも働いておりますので、 満額支給されているとは限らないわけです。ですので、今の被保護の人たちの平均的にどれぐら いの受給額があるのかということを想定しています。  プログラム費用としましてはスライドの14になります。  日本の現行の職業訓練のいろいろな費用を1人当たりで計算いたしますと21.4万円、これが公 共職業訓練ですけれども、それからジョブ・カードですとか就職安定資金融資などとあります。 かなりの幅があります。ですけれども、やはりこのJob Corpsと同じようなプログラムでやって いるというのがなかなかありませんでしたので、これはアメリカのJob Corpsで大体どれくらい かかっているかということを参照しております。これが1人当たり年間96万円の費用がかかって います。これに、職業訓練期間中は生活保護で生活は全て丸抱えするという仮定に置いています。  その結果がスライドの17、18になります。  表の第8−1表というのを見ていただければと思います。これは「経済前提A」と「経済前提 B」とありますけれども、Aのほうでご説明させていただきますと、例えばこれはシナリオ(1)の 男性、18歳の若者を2年間職業訓練し、それから20歳から64歳まで働いた場合、もしその人が正 規で勤めることができるのであれば、一生の間にこの方は4,000万円から5,000万円の社会保険 料・税金納付をするであろうというふうに推計されます。ですので、推計2のほうが生活保護費 を含めない場合ですけれども、それに就労支援の費用、約458万円と推計されますので、それを 引きましても約4,000万円の政府のお財布から考えてもプラスの収益になるということが考えら れます。  もしこの人が職業訓練を受けなくて、生活保護費が一生かかることになるといった場合には推 計1のほうになりますけれども、それにさらに5,000万円から6,000万円のお金がかかることにな りますので、この推計としては9,000万円というような大きな数値になります。  もしこの人が非正規の場合は、この数値は若干正規の場合よりも少なくなりますし、経済前提 Bというふうになりますと、後ろのほうのが割引されますので大分目減りしますけれども、それ でも生活保護費を含めない場合でもかなりの大きな、1,000万円、2,000万円というような形での プラスになるということがあります。これはあくまでも、先ほど申しましたように、もしこの人 が100%就労することができた場合という仮定の下になります。  下は女性になります。  女性は正規も非正規も男性よりも賃金が少ないですので少なくなりますけれども、それでも一 番最悪の場合、経済前提Bでの非正規の場合でも、600万円から800万円のプラスということが推 計されます。  ただ、この真ん中のほうに就労しない場合というものを含めております。これは、特に男性で はそれほど大きな差はないんですけれども、女性ではこの推計は少な目になります。というのは、 今現在の女性の年齢別の就労状況を見ますと、かなりの人が労働市場から途中でドロップアウト、 ドロップアウトという言い方は悪いですが、途中から退出することになっています。ですので、 これを勘案しますとこの数値は少なくなります。  その次の表を見ていただければと思います。  これがシナリオ(2)ということで、30歳の方々を5年間就業支援した場合ということで、まず就 労支援の費用が2年間から5年間になりますので大きくなります。それから、生涯得られるであ ろう社会保険料・税金というのも、年数が大分少なくなりますので、少なくなるということが確 認されます。  それでも、男性で見ますと全ての場合がプラスとなりますので、これは経済的にもプラスにな る、そういう政策であるということが言えるのではないかなと思います。  ただし、一部の場合、シナリオ(2)の女性の場合は、就労しない場合も含めた平均等も考えます と、マイナスになる場合もあるというふうに考えられます。ただし、30歳の女性を5年間就労支 援して35歳から働き始めたときに、その人が日本の一般女性と同じようなM字カーブをたどるか というと、それは余り考えられないシナリオと思いますので、これでマイナスとなるというのは 非常に特殊なケースだけであるんではないかなというふうに思われます。  就労支援に関する推計はここまでとなります。  それから、あと4枚ほど、格差・貧困と経済成長に関するものの実証研究のレビューを行いま したので、ご参考までに付けさせていただきました。これの実際のレビューのリストが資料2− 2のほうの34ページのほうにありますので、ご興味のある方は後で見ていただければと思います。  簡単にご説明いたしますと、ほとんどの1990年代以降の国別のクロス・データの分析では、成 長と格差というのは負の関係にあるというような関係が出ています。これはあくまでもある一時 点での国を何十カ国もとってきて、それの成長と格差というのの相関を見てみたというものにな ります。  ですけれども、2000年以降になりますとパネル・データというのがそろってきますので、パネ ル・データの分析が活発になってきます。そうしますと、国ごとの特徴など全てコントロールさ れて、また初期状況というのもかなりコントロールされてしまうんですが、見てみますと、経済 成長率と格差の関係は正の関係にあるというのも出ています。  これはあくまでも経済成長率の変化と格差の変化の違いですね。格差の変化ですので、最初か ら例えば格差が高いところにあるというのは、それの負の影響は出てしまいますので、このクロ ス・データでは負の関係にありますが、パネル・データでは正の関係にあるというのは別に矛盾 した結論ではありません。  ですけれども、近年分かってきているということは、格差指標で見ますと、格差のどの部分が 不平等なのかということによって大分違う結果が出てくるというようなことです。ですので、例 えば中間層と上の層との格差があると経済成長にプラスには影響するけれども、中間層と下の層 との格差が大きいと負に影響するというようなことが出てきております。  理論的には、格差ではなくて貧困は成長に負の影響を及ぼすということが、これはアメリカの 米国会計検査院の報告書にも書かれていることでございます。近年のもう実証研究も、それに付 いてきた結果を出しておりまして、例えば中間層の所得シェアというのは成長に寄与するですと か、貧困率は格差とは独立して成長に負の影響を及ぼすというような結果が出ておりますので、 現在のところ分かっているということは、格差ということに関しては、その形状ですとかその初 期状況がどういうふうにあったかということによってプラスにもマイナスにもなるということで すけれども、貧困という観点から見ますと、これは経済成長にマイナスの影響を及ぼしていると 言えるのではないかなというふうに考えます。  私からの報告は以上です。 ○伊奈川参事官 ありがとうございました。  阿部先生のご説明は大きく2つに分かれておりますけれども、通しでご質問、ご意見いただけ ればと思います。  同時でしたので、橘木先生、お願いします。 ○橘木委員 阿部先生らしく非常にすばらしい研究で、学ぶこといっぱいだったと思います。  これはアメリカのJob Corpsという制度を日本に応用して考えたらどうなるかというようなこ とをやられたと思うんですが、あなたのやられたこととちょっと違う視点で、あなたのやられた ことへの直接の質問にはなりませんけれども、これは、高校を卒業して、そして職業訓練を受け た人の効果ですよね。その人がどれだけ賃金が上がって、どれだけ税金や社会保険料を払うよう になったかという。 ○阿部部長 いえ、高校中退者です、高校を中退した状態。 ○橘木委員 ああ、中退者。日本での高校中退者ですか。 ○阿部部長 いや、日本では設定が18歳としておりますので、高校を卒業しているか中卒なのか と、そこまでは限定しておりません。 ○橘木委員 ああ、そういうことですか。  いや、ちょっと私の考えていたのは、学校を中退か卒業してから職業訓練をやるのがいいのか、 学校在籍中に職業訓練をやったほうがいいのかという案もあり得ると思うんですよね。というこ とは、もう卒業してすぐ就職が見つかる可能性は高くなるじゃないですか。それで、私、最近教 育のことをやっていて、日本の教育というのは、高等学校は普通科ばかりで、職業科が物すごく 衰退しているということに気がついたので、こういうような中退なり卒業してから訓練をやるん じゃなくて、高校にいるときからもっと職業科の数を増やして訓練をやったほうが、もっと効率 的ではないかという意見を持っているんですが、あなたのこの発表への直接のコメントではなく て、あなたのこういう研究をやられて印象をお聞きしたいんですが。分かりますか、私の言って いること。 ○阿部部長 分かります。  橘木先生の視点は、日本の今の高等教育の現状に関して非常に鋭いところがあるかと思います。  私の推計では、あくまでも20歳から働くということをシナリオ(1)では推定しておりまして、今 の20歳の若者がどれぐらいの賃金を得ているかということを基に、そのデータを基に推計したも のですので、今の20歳の若者で働いている人というのが、多分高卒がほとんどだと思いますけれ ども、中卒の方もいらっしゃるだろうし、いろんな学校を出ていらっしゃる方もいると思うんで すね、普通科ですとかそうでない学校とか。  なので、あくまでも今の現状そのままというふうに考えておりますけれども、それをもし高校 時代からもうスキルアップをして人的資本に投入するというシナリオに変えた場合には、もう出 たときに、もう18歳のときから高目の賃金になりますので、より違う賃金カーブが描けるのでは ないかなというふうには思います。  でも、実際にその職業訓練を高校教育に組み込むことによってどれぐらい賃金が上がるのかと いうところは、まだ私自身も余り日本での研究を見ておりませんし、これから研究なされる分野 でないかなというふうに思います。 ○伊奈川参事官 先に湯浅委員が手を挙げておりましたので、最初、湯浅委員、その後、駒村委 員、そして竹下委員という順番でご発言いただければと思います。 ○湯浅委員 こういう試算を見るのは初めてなものですから、今日こういう報告があったよとい うことをほかの人にしゃべるときに、こういう言い方ができるのかということをちょっと確認し たいんですけれども。要するに458万の、18歳から2年間ですよね、20歳から64歳までずっと働 かれたとしてといういろんな条件はあるでしょうけれども、いわゆる社会保障が投資だというよ うな話をする文脈で言うと、458万の就労支援の投資というのは最大で1億のリターンがある可 能性がある、そういう報告だったと言っていいんでしょうか。 ○阿部部長 はい、可能性ということでいただければ、それは正しいと思います。  先ほど留意点のところで申し上げましたように、職業訓練したからといって100%全員就労す るわけではないわけですね。また、職業訓練しなくてもその人は就労する可能性というのももち ろんあるわけです。ですので、その差分を見なければいけないんですけれども、今回は一番ベス トケースで、もし何もしなかったら1円も社会保険料も税金も払わないようになる人が、もし正 規になったらどうとか、もし非正規になったらどうかというベストシナリオではこうなりますと いうことを申し上げていますので、最大でこれらの可能性がありますという言い方は正しいと思 います。 ○湯浅委員 ありがとうございます。 ○伊奈川参事官 駒村先生。 ○駒村委員 いや、もうまさに今のところを聞きたかったので、マックスの推計に近いのかなと いう、そういう意味では。  だから、例えば正社員になったとしても、例えば今の失業率は5%ぐらいですから、人生の 5%ぐらいの期間で失業するとか、非正規になったとしても、例えばどのくらいの非正規の方が 失業しているとか、仕事から離れている確率があるか分かりませんけれども、例えば15%ぐらい の期間を失業しているとかいう形で多少修正したり、ただ一方で、もう少し効果が出てくる可能 性があって、これは単身で終わっちゃうケースですけれども、きちんと結婚して家族を持ってい ただければ、今度は世代間での貧困の連鎖みたいなものを逆に止めることによって、中長期的に はまたもっと大きい可能性もあるので、幾つかまたそのバリエーション、推計をやれというのは 難しい話ですけれども、付属のものとしてはマックスの推計であるけれども、いろいろ考慮する 部分というのは今みたいな確率的な部分があるし、ただ次世代まで考えるともっともしかしたら 効果があるかもしれないねという話がつくれるのかと思います。  いや、コメントというか、そんな感じです。 ○阿部部長 ありがとうございます。  今の失業に関しては、就労しない場合も含めた平均というのは、就労していない人も全て含め た平均値を使っているんですね。どれぐらいの税金を納めているか、どれぐらいの保険料を納め ているかということなので、それは一応、今のデータですけれども、考慮をしていると。特にこ れは女性だとすごく小さくなってしまうわけです。というのは、就労をやめてしまう可能性もす ごく、今の一般女性ではやはりまだ今でも高いですから、なのですけれども、それでもプラスに なるというのがシナリオ(1)では出ておりますし、シナリオ(2)でも男性のほうでは必ずプラスにな るということはあるかとは思います。  ただ、本当にこれはやはりベストのシナリオというところはあるかと思いますし、逆に世代間 の連鎖ですとか、そのようなエクスターナリティーというんでしょうか、そちらのほうは全くま だ考慮していない状況ということになります。 ○伊奈川参事官 竹下先生、お願いいたします。 ○竹下委員 多分、算数も数学も分からなければ、この表をちゃんと読めていないから、ピント が狂っていたらすみませんなんですが、非正規のままでずっと65歳まで推移した場合と、それを 職業訓練によって正規雇用になって、それだけ所得が向上した場合との差をこれで出したことに なっているのかどうか。  すなわち、非正規で低所得で推移するというのは、ど素人的に考えても、当然それによって家 計支出も抑制されるだろうし、その結果として当然消費購買も伸び悩むでしょうし、その当該労 働者にとってみても働く意欲も喪失していくでしょうし、それと比較して、社会保障あるいは生 活保護の適用によって非正規化に切り替えていく、職業訓練を加えて正規化していくことによっ て、そこのもたらされる経済効果の違いをこれで出したということになるんですか。 ○阿部部長 厳密には、非正規というのは、先ほど岩田先生もおっしゃっていましたように、非 常に大きなバリエーションがありますので、ここで想定しているのは、非正規かどうかというこ とは言っていませんけれども、課税最低限以下の所得しか得ないで保険料も免除となるような働 き方をしている場合と、そうでなくて、正規雇用になったり、非正規でも税金を払う一般的な非 正規で、ここで出しているのはそれでも一生涯では1,000万とか税金を払っているわけですけれ ども、その場合との違いはどれぐらいになるかということですので、比較の対象を、下をどこま で見るかということになるかと思いますけれども、ここでは納税も保険料支払いもできないよう な状況で一生を過ごす人というのをベースラインとしています。 ○竹下委員 もう一つ、ごめんなさい。ちょっと関係あるのかどうか、もう一つ。これは逆に、 僕が間違っていなければ、ちょっとひらめいたことのコメントになるんでしょうけれども、例え ばそのまま生活保護を受けて65歳までいった、その社会保障費がいわば国庫負担として重荷にな っている、無駄だという印象があって、そうなのかなと。それが例えば非正規で65歳まで推移し たような人が想定された場合と、そういうワーキングプアですね、そうではなくて、社会保障の 充実によって生活保護の適用等も含めて一定の所得保障をした場合の経済効果というものもこれ で見たことになるんでしょうか。 ○阿部部長 生活保護費はここでは全てマイナスというふうに計上しております。もちろん生活 保護を結局するようにその人も消費することになり、経済的にはプラスになるかと思いますけれ ども、そのようなマクロ計算はしておりません。 ○伊奈川参事官 湯浅委員。 ○湯浅委員 確認ですけれども、見ているのはあくまで本人の所得とかいわゆる生産とかではな くて、国とか行政が出したお金と国とか行政に入ってくるお金の変化だけですよね。 ○阿部部長 そうです。 ○湯浅委員 いわゆる交通事故なんかのときの逸失利益みたいな、そういう本人所得ベースでの 計算ではないですよね。 ○阿部部長 そうですね。本人所得を推計して、そこからどれぐらい税金を払うか、保険料を払 うかというところですけれども、あくまでもプラスマイナスの収支のところは政府のお財布から 見てという観点です。 ○伊奈川参事官 ほかにいかが、橘木先生。 ○橘木委員 私ばかりですみませんけれども、後半の部分の格差・貧困と経済成長、経済効率化 の関係の話なんですが、まず、ここでは格差というのはいわゆる再分配後ですか、それとも再分 配前ですか。その区別がはっきりしないと、これはもう一つの研究課題が出てくるんですよね。 どれだけ政府が社会保障なり再分配にコミットすることが経済成長にどれだけプラスかマイナス かという話も非常に重要なテーマなので、その点に関して、阿部さん、何か…… ○阿部部長 再分配後です。 ○橘木委員 これは全部再分配後。 ○阿部部長 はい、後です。 ○橘木委員 ああ、分かりました。  じゃ、どれだけ再分配をやっているかということまでは関心外なわけね、その国が。 ○阿部部長 論文によっては、格差が大きいところはそれだけ再分配への支出も多いところが多 いので、その再分配の支出がマイナスになっているのか、つまり政府がいっぱい貧困対策やいろ いろ格差防止策をやらなきゃいけないから、それが経済を鈍化させているのか、それとも格差自 体が悪いのかというように分けて考えている論文もありますけれども、全てではないですね。二、 三の論文はそこのところも入っていたと思います。 ○伊奈川参事官 ほかの先生、いかがでございましょうか。  よろしゅうございますか。  阿部先生、ありがとうございました。  あと、本日でございますけれども、お手元に雨宮委員のほうからご要望がありました統計資料 でございます。資料2という形で配布させていただいております。ほかにもいろいろと雨宮委員 からご要望をいただいたんですけれども、年齢別あるいは男女別といったような形で必ずしもデ ータ数がないような場合が、あるいは国籍別とかといったようなことについても必ずしも統計と して出ませんので、私どものほうで今でき得る限り整理をさせていただいたものでございます。 ご覧いただきまして、何かありましたらまた対応させていただきますので、よろしくお願いいた したいと思います。 ○雨宮委員 ちょっと。これの3番なんですけれども、「パート女性のうち、シングルマザーな ど家計を担う女性の割合を把握できる統計について」というところなんですけれども、この3行 目の「平成19年国民生活基礎調査の推計値では」というところの「母子世帯(現に配偶者のいな い65歳未満の女と20歳未満のその子のみで構成している世帯)」なんですけれども、シングルマ ザーの親と同居している同居母子世帯というのは入っていないんですかね。 (「入っていない」の声あり) ○雨宮委員 じゃ、このうちに同居…… ○伊奈川参事官 入っておりません。これは国民生活基礎調査の定義上こういうふうになってお りますので、こういう形でしか出てこなかったということでございます。 ○雨宮委員 何か同居母子世帯の人の数が分かる統計というか、そういうのってあるんでしょう か。 ○岩田委員 それは、厚生労働省がやっている母子世帯の調査は分かりますよね。 ○伊奈川参事官 少なくとも公表されております基礎調査では分かりませんけれども、ほかにあ るかないかについてはちょっと探してみたいと思います。 ○岩田委員 いや、それはあります。厚生労働省がやっている母子世帯、それは両方やっていま す。 ○伊奈川参事官 はい、分かりました。  では、探して、そして雨宮委員のほうにお送りするようにいたしますので。 ○雨宮委員 はい。  ほかによろしゅうございますでしょうか。  はい。 ○湯浅委員 もう全体的な話でいいですか、今のこの雨宮さんのこれに関さなくても。 ○伊奈川参事官 はい。 ○湯浅委員 いいですか。 ○伊奈川参事官 一応、予定しておりましたのは以上でございますけれども、ほかに何か。 ○湯浅委員 いや、この中間報告というのは、取り扱いなんですけれども、これは結局、今日こ れで文面が確定して、岩田さんと阿部さんの資料を付けて、これで中間報告書ということになる んですよね。これというのは、これで大臣に提出したことになるわけですか。 ○伊奈川参事官 はい。ご了解いただければ、これで確定したということで大臣にご報告すると いうことにしたいと思っております。 ○湯浅委員 それで、これにいろいろ提案とか書いてあるわけですけれども、それについては厚 労省のほうで検討していただいて、何かここはこうするみたいなことが、いつか返答というんで すかね、何か方針みたいなのがあるんでしょうか。 ○伊奈川参事官 今後の進め方というご質問だと思いますので、事務局のほうから説明させてい ただきたいと思いますけれども、今、岩田先生、阿部先生のほうからいろいろと調査の中間的な ご報告をいただいております。さらに、いろいろとデータをそろえて研究を進めていただくとい ったようなことを考えておりますので、そういった進捗状況なんかも見ながら今後の対応につい ては考えていきたいというふうに考えておりますので、この中にいただいております提案という ことについても、そういった中で考えていくということになろうかと思います。 ○竹下委員 ちょっとよろしいですか。 ○伊奈川参事官 はい、竹下先生。 ○竹下委員 同じ流れの質問だけど、それこそ中間取りまとめというから、多分その後も続くん だろうなという、機械的にというか、理解をするんですが、やはりここの中間取りまとめ、それ なりに皆さんのすばらしい意見が集約されているとは思うんですが、それをさらに具体化してい くということがこれから本当に大事なんだろうと思っていて、僕なんか、勝手に人の本を使って 怒られますけれども、駒村先生の書かれた「最低所得保障」という本を読んでいると、非常に示 唆に富んでいるわけですよね。具体的に雇用保険、あるいは最低賃金の水準の考え方、あるいは 生活保護の生活扶助費の考え方、それの役割、それでそのことが就労扶助との関係等も含めて、 非常に立体的というのか重層的に最低所得保障ということを提案されているわけですので、こう いう具体的な議論にまで発展させ、この研究会で論議していただける、あるいはそれを深めてい ただけるということで受け止めてよいわけでしょうか。 ○伊奈川参事官 今回の中間まとめの中にも非常に積極的ないろいろなご提案をいただいており ますので、そういったものも含めまして、引き続き検討させていただくということで考えており ます。  よろしければ、今後の進め方につきましてはまた追ってご連絡をさせていただくということで、 本日はこれで閉会としたいと思いますけれども、よろしゅうございますでしょうか。  ありがとうございます。  10回にわたるご検討をいただきまして大変ありがとうございました。本日もまた貴重なご意見 をいただきましたので、引き続き検討させていただきたいと思います。どうもありがとうござい ました。 照会先 政策統括官付社会保障担当参事官室 政策第一係 代)03−5253−1111(内線7692) ダ)03−3595−2159