10/03/12 第2回慢性の痛みに関する検討会議事録 第2回 慢性の痛みに関する検討会 日時 平成22年3月12日(金) 10:00〜12:00 場所 厚生労働省共用第8会議室 ○渡辺課長補佐   定刻となりましたので、ただいまから第2回「慢性の痛みに関する検討会」を開催 いたします。委員の先生方におかれましては、お忙しい中をお集まりいただきまして ありがとうございます。本日は安達委員、真田委員から欠席のご連絡をいただいてお ります。片山委員はまもなく到着されます。以降の議事進行は葛原座長にお願いいた します。   ○葛原座長   これから12時ぐらいまで、できるだけ話を詰めていきたいと思います。まず、事務 局から配付資料の確認をお願いいたします。   ○渡辺課長補佐   配付資料を確認させていただきます。議事次第、検討会構成員名簿、座席表。資料1 は「『慢性の痛み』を取り巻く課題の整理」という事務局が準備したもの。資料2は「 プレゼン資料」として、柴田委員の資料。参考資料として、第1回「慢性の痛みに関す る検討会」議事録です。   ○葛原座長   資料の参考のところに、昨年の12月10日に行われた第1回検討会では、主に痛みとい うことについて、3人の先生方から講義のような形で我々が伺ったわけです。それに基 づいて、本日は資料に沿って具体的な話を詰めていきたいと思います。全体の日程とし て本日が第2回ということで、あと1、2回で最終的な取りまとめをして、答申か提言を してこの会は終わりになります。本日はできるだけそこに近づくような形での論議をお 願いいたします。議事の1番目は、「『慢性の痛み』を取り巻く課題について」事務局 から説明をお願いいたします。 ○渡辺課長補佐   資料1に基づいて説明させていただきます。この資料は、第1回議事録を基に、事務 局で整理したというものとご理解ください。1枚目は「本検討会の役割」です。1番目 は慢性の痛みに関して、現状認識、問題点を整理する。2番目は慢性の痛み対策はどう あるべきか。3番目は国として何をすべきか、国民、社会、医療関係者に何を呼びかけ ていくべきかということを、本検討会の役割としたいと考えております。  2枚目は「慢性の痛み対策に必要な考え方」です。この資料も先生方の議事録の発言 を基に作成しております。痛みをゼロにすることは非常に理想的であるが、患者さんの 生活の質を高めることに支援のポイントを置き、痛みや苦しみを和らげるためにそれぞ れの立場で計画的かつ協力的に、痛み対策に取り組んでいく。次に、診療科や診療部門 の枠組みを超えた総合的、集学的なアプローチが求められる。そして、患者さん個々の 背景にあわせた診療を行う。以上のことを、痛み対策に必要な考え方として挙げさせて いただいております。  3枚目です。「慢性の痛みを取り巻く課題の整理」として、1つ目は「痛み」を対象と した医療と体制の確立。2つ目は「痛み」に関する正しい情報の提供。3つ目は「難治性 の痛み」への対策。4つ目は臨床現場での問題点の解消。痛みを取り巻く課題の整理と して、この4項目を柱として挙げさせていただきました。本日の検討会では、痛みを取 り巻く課題の整理のところで挙げております課題について、深掘りしてご議論いただき たいと考えています。最後に、慢性痛を来す疾患として、第1回検討会でのプレゼン資 料の中で、柴田委員に発表していただきました慢性痛を来す疾患の分類案を参考で付け ております。事務局からの説明は以上です。 ○葛原座長   かなり要領よくこれまでの痛みに関する、特に第1回検討会での討議の内容をまと めていただきました。慢性疼痛ということは、要するに治らないから慢性になってい るということです。痛みは非常に辛いもので、しかも自覚症状は強いけれども、ここ の課題に挙がっているようなのは、検査とか診察所見のような他覚的な所見ではほと んど何も異常がない。しかし患者さんは非常に苦しんでいるというような痛みをどう するかということです。第1回検討会のときにも、完全に治すことは難しいけれども、 どういう具合にそれを軽くするか、あるいは注意とか、いろいろなものでほかに振り 向けることによってそれが軽くできないかということで、いろいろな方面からのレク チャーもいただきました。  本日は後ろから2つ目の「慢性の痛みを取り巻く課題の整理」ということで4つの課 題が載っております。それぞれ関連があるのですけれども、大きく分けると、第1は 「痛み」を対象とした医療と体制の確立ということ。第2は、正しい情報の提供、こ れは患者さんにもそうですし、一般医と痛みの専門医との間のコミュニケーションも 含めて、本日は討議をしていただきます。第3の難治性の痛みについては、この前の レクチャーにもありましたけれども、生理的・薬理的、あるいは最近の脳画像などを 使った検討もありますが、なんとかそういうものに客観的なアプローチができないか ということと、また治療効果の判定ができないかということ。これは、もう少し突っ 込んだ研究体制が必要かと思います。第4は臨床現場で、特にこれはいま使われてい る薬、あるいは外科的治療法もありますが、現在保険には採用されていないようなも ので、すぐに実用可能なものもあるのではないか。こういう点について、本日はでき るだけ論議を絞って、まとめの方向に持っていきたいと考えております。  いま、数枚の資料に従ってやっていただきましたけれども、追加とかご質問はござ いますか。この前のプレゼンテーションとか、問題提起してくださった先生方も、大 体こういうところに沿っていけばよろしいでしょうか。これに従って討議をしていた だくということで、基本的には後ろから2枚目のプリントにフォーカスを当てながら、 それまでの痛みの対策、問題、疾患の種類を念頭に置いて討議していただきます。 ○渡辺課長補佐   第1回検討会での議論の中で、神経障害性疼痛の薬物治療で保険の適用外使用が話題 になりました。それから、アメリカの痛みの10年の話題等がありましたので、その辺 の説明を少し柴田先生にお願いできればと思います。 ○葛原座長   ここの4番目の臨床現場ということに関して、日本でもいまはそうだと思いますけれ ども、抗うつ薬とか、抗てんかん薬の新しい薬というのは、随分痛みによく効くもの もあるのですが、保険収載されていないということがあります。渡辺さんとの打合せ のときにも話をしたのですが、今度保険の明細で出てくると、患者さんにはてんかん 、うつ病、統合失調症というのがずらっと並んだのを貰うようなことになって、びっ くりするのではないかと思うのです。いまは保険適用の病名で処理していると思うの ですが、そういう問題をどうクリアするかということについてよろしくお願いいたし ます。 ○柴田委員   資料2の図に示しましたのは、2005年に『Pain』という雑誌に掲載されていたもの です。神経障害性疼痛と申しますのは、慢性疼痛の原因の大きな1つです。帯状疱疹後 神経痛や、糖尿病性神経障害にはじまり、手術の後の末梢神経損傷の痛み脊髄障害によ る痛み、あるいは卒中後痛と言いまして脳卒中後の患者さん10〜20人に1人ぐらいが慢 性の痛みに苦しむと言われています。そのように、神経に障害が起きた後に、一部の患 者さんが慢性の痛みに移行します。慢性の痛みの中でも、特に対応の難しい病態と言わ れています。  神経障害性疼痛を例に取って、どういう薬がエビデンスがあるかというのをこのグ ラフにまとめてあります。横軸のNumber Needed to Treat(NNT)というのは、最近医学 界でよく使われている指標です。効果が出るのに、何人の患者さんに1人効果があるの かを数字で表したものです。つまり、これが5だと、5人に1人の患者さんがこの治療法 で効果があるということが言えるわけです。したがって、数字が小さいほど効果的であ ると言うことができるかと思います。  神経障害性疼痛に対してエビデンスがある薬剤というのは、上から三環系抗うつ剤 、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ラモトリジン、フェニトインと続きまし て、ずっと下まで書いてあります。このデータの基になっている症例数、これは薬剤 によって大きく異なり20〜30例のものから1,000例を超えるものまでいろいろですの で、研究の信頼性にはばらつきがあります。  左の縦軸にいろいろな色の字で書いてありますけれども、赤字のものが多数あるの がご覧いただけると思います。この薬剤が、先ほどお話にありました適用外使用です。 日本で発売されているのだけれども、痛みに対しての適用がないのでうつ病だとか、 てんかんといった病名を付けて使うか、自由診療で使うしかないという種類の薬剤で す。黒字のものが、痛みに関する対して適用のある薬剤です。これも、すべてに適用 があるわけではなく、オピオイドに関してはがんの痛みに対して適用があります。が ん以外の痛みに対して適用があるのは、従来はモルヒネの徐放性でない錠剤、粉薬、 コデインのようなものしかなかったのですが、ごく最近経皮吸収型の麻薬性鎮痛薬も 適用になりました。  あらゆる痛みに適用があるという意味ではオピオイドしかありません。カルバマゼ ピンは適用があるといっても、これは三叉神経痛だけです。メキシレチンは、糖尿病 性神経障害に対してだけ適用があります。それ以外の神経障害性疼痛に対して薬物に よる治療をおこなうとなると、オピオイド以外に使う薬がないということになってし まいます。ですから、現場ではいろいろな方法でこれに対応せざるを得ません。しか し、現状ではこれらを保険適用にするには治験というステップが必要で、ここ数年い ろいろな薬剤が製薬メーカーから臨床治験が実施されています。青字のトラマドール プレガバリンというものは治験中あるいは治験が終了していて発売待ちの状態です。  海外で新たに導入されたものに関しては、薬価も期待できますので、治験をやって 世の中に出るという現状の方法でいいかと思うのですが、三環系抗うつ剤のように昔 からあって、薬価も非常に安く、NNTに関してはよく効くことが既に証明されているも のもあります。こういう薬剤を新たに臨床治験を行うということは、製薬会社の立場 からするとなかなか困難であろうと思われますので、こういう薬剤は将来が見えませ ん。私からは以上です。 ○葛原座長   柴田先生どうもありがとうございました。何か質問はございますか。   ○牛田委員   薬の使用状況などの現状についての補足ですが、最近のトピックで問題になってく るのは、オピオイドのパッチ剤が導入されてきたということです。効果と同時に依存 症などの問題もあると思いますので、ここもまた検討していかなければいけない課題 になってくるのではないかということです。  また、NNTというのは最近よく使われる指標ですけれども、今回使われたデータの 基になっている論文で使われているものは半分以上良くなったものです。例えばVAS で80のものが、40以下にならないと駄目なので、少し良くなったというようなものに 関してはこれに入らないです。そうなってくると、この並びが本当に効く順番かとい うことについての議論は、また検討しないといけないものと考えられます。 ○葛原座長   柴田先生、ここの丸の大きさというのは使われている頻度を表しているので すか。   ○柴田委員   先ほど20〜1,000と言いましたけれども、その数字のことを申し上げているの です。この根拠になった症例数で81というのがいちばん最小です。   ○葛原座長   現在の痛みに使用可能な薬について非常に詳しく説明していただきましたけれども 、ご質問はございますか。   ○柴田委員   この問題は厚生労働省ということで、労働災害も関連するのかと思うのです。労災保 険のアフターケアというシステムがあります。労災中は普通の保険診療と同じように対 応するわけですが、アフターケアになると、その該当した疾患にだけカバーされること になります。外傷ですので神経障害を伴う痛みが、症状固定の後にも続くことが多いわ けです。現在、アフターケアでカバーされているのは、鎮痛薬と、月に決められた回数 の神経ブロック、必要な場合の検査に限られています。  鎮痛薬に該当するのは、消炎鎮痛薬と麻薬性鎮痛薬ですが、消炎鎮痛薬は、神経障害 性疼痛に対して効果があるというエビデンスがありませんし、オピオイドに関しては先 ほどお話しましたように、モルヒネのうち徐放性でないものしか適用がありません。実 際には三環系抗うつ薬や抗てんかん薬で管理するのが望ましいのに、アフターケアのシ ステムではそういうものがカバーされていないという問題があります。保険病名は使っ てはいけないものなのでしょうけれども、アフターケアではそれさえも使えないのです 。 ○葛原座長   先生、この中にはNSAIDsが入っていないのですが何か理由があるのですか。    ○柴田委員   効果がないのです。   ○葛原座長   普通の鎮痛薬は効果がないということで、もとから除いてあるということなのですね 。   ○柴田委員   そうです。   ○葛原座長   いま柴田先生がおっしゃってくださったことは非常にわかりやすいと思うのです。 ここの横に並んでいる数字の中で、黒い字だけは、いま日本で使える薬です。保険適 用はカルバマゼピンは三叉神経痛だけ。オピオイドは、がん性疼痛なのですが、今回 の検討会はがん性疼痛は除かれています。これは、原因がはっきりしているからです 。メキシレチンは、糖尿病性の末梢神経障害に伴うしびれとか痛みだけ。ですから日 本で慢性疼痛に使える有効な薬は、いまのところ保険適用されているものはないと言 ってもいいという状況だということです。いま使われているのは、全部自費で使われ ているか、本当の病名とは別の保険適用病名で使われているかということになります 。厚生労働省でこんなことを言ってはなにですけれども、そういうことになります。 こういうのが現状だということで、どう打開するかということも考えていただきたい のです。  あとは、下の段のゼロから始まっているNNTというのは、先ほどご説明がありまし たように、何名の患者さんに使えば効果があるかということで、ここに書いてある10 以下というのはものすごく良いのです。皆さんが使われているような高脂血症の薬と か高血圧の薬というのは、50とか30という感じですから、30人に使えば1人には効果 があるというようなのをみんなが飲んでいるわけです。そういう点でいうと、これは 非常に良い成績の薬ばかりだということです。だから、薬を飲めば何でも効くわけで はなくて、30人に1人当たるか、10人に1人当たるか、そんなのが治療だということも 認識しておく必要があると思います。  片山先生がいらっしゃいます。ここは薬だけなのですが、片山先生は昔から脊髄と か脳の手術で疼痛の治療をよくやっておられます。外科的なことも一緒にご紹介して いただけますか。 ○片山委員  外科的治療でいま大変大きな変化を見せておりますのは、脊髄刺激療法です。これ は、比較的歴史の長い治療法なのですが、刺激方法が大変大きく変わってきました。 今から30年ぐらい前は、電極1本で脊髄を刺激していたのですが、今は電極を8極とか リードを2本入れたり、刺激装置を2個使ったりと、大変幅広く刺激の方法がバリエー ションを持つようになり、治療効果の評価をやり直している段階です。この3年ぐらい 治療効果の見直しをしてきて現在持っている印象は、20年前、30年前に我々が持って いた脊髄刺激療法に対する印象とは全く違うということです。  幸いなことに、脊髄刺激療法は保険適用になっておりますので使いやすいのですけ れども、問題が2つあります。1つ目は、これを使う患者さん側、あるいは病院側にと ってペイしないところがあります。2つ目は、アフターケアをするときに、何の経済 的保障もない、管理料がないということです。この2つの問題が現在あります。 ○葛原座長   これは、疼痛なら基本的にかなりのものに適用があるのですか。   ○片山委員   神経障害性疼痛で、最近出ている数字では、「ある程度満足」「かなり満足」という 答えを引っくるめますと80%ぐらいに有効だったという結果が出ています。   ○葛原座長   やればやるほど損になるということとか、いろいろな問題があるわけです。ただ、 こういう方法があるということで、資料2のほうはお考えいただければいいと思いま す。   ○片山委員   その結果として、脊髄刺激療法が使われている頻度は、アメリカの10分の1ぐらいと ものすごく少ないのです。有効性が高いので、欧米では非常によく使われる治療法なの ですが、日本では全国で年間数百にもいっていないのではないかと思います。そんな状 況で活用されていないということだけ申し上げておきます。   ○葛原座長   刺激のレベルと、電極を脊髄に入れるわけですから薬よりも合併症は高くなるので すか。   ○片山委員   脊髄の硬膜外に入れますので、それほどの合併症はないと思います。入れる場所は、 痛みの場所にパレステジアが起こるように設置すればいいということで、ケース・バ イ・ケースです。   ○葛原座長   資料2とそれに随伴しました現在やろうと思えばできる治療法に関して、いまお話 をいただいたのですが、こういう手段は現時点ではあるということですが、よろしい でしょうか。  これに関して慢性の痛みの対策ということで、先ほどの4項目を順番にやっていき たいと思います。話のついでに、いちばん下からやっていくのも1つの方法です。臨 床現場での問題点の解消ということで、現在こういう治療をやろうと思えば日本でで きないことはない。手術については先ほど片山先生がおっしゃったように、手術すれ ばするほど赤字が出る。しかも以後の管理料がない。合併症の問題は薬よりも大きい とは思うので、適用はきちんと分けなければいけないと思います。ですから損が出て もあまり文句を言われない病院でしかやらないということになります。 国立病院か、公立病院か、大学病院という大体赤字を出す病院でやることになります。  もう1つは、いま実際に使える薬に関しては保険適用がないので、自費でやってい ただく。でも混合診療と言われると困るわけですから、別の病名でやむを得ず対応す るという形で、たぶん現場ではそうなっていると思うのです。そういうことに関して こういう治療法以外にも、この前は認知行動療法などのことも出ておりました。特に うつ的な、気分も伴ったような方にはかなりいいというお話も現在あると思います。 そういうことも含めて、いちばん下の、先ほどの薬の話と、手術的なこと以外にこう いうのがあるのではないか、あるいはどうしたらいいかということについてご討議い ただきたいと思います。この前、牛田先生は認知行動療法のことを言われていました ね。 ○牛田委員   いま片山先生がおっしゃったような治療をやってもなかなか良くならないという患 者さんも結構います。他人の目から見て、この人はなかなか治らないというような器 質を持っている方については、カウンセリングなどのアプローチをしていかないとど うしても痛みのことばかりで毎日すごしているような人に対しては、どうしようもな いようなところがあります。  私の所では、臨床心理士がかかわったり、精神科医がかかわったりします。これは 体制の問題もあると思うのですが、そういう職種の専門家にも診てもらうことで、患 者さんが持っている問題を把握し、それを基に認知行動療法を導入しています。この ような考え方をしなさい、こういう考え方でこういうふうに生きていきなさい、とい うガイダンスをしっかりしていきます。“痛みが完全に取れるというのはなかなか難 しいですけれども、痛みのことばかり考えていても何の得にもならない”、というよ うなことの指導をしてあげたり、痛み行動をとらない様な行動づけしてあげるような ことをやっております。 ○葛原座長   内山先生も、割合こういう点にかかわっているのではないかと思うのですがいかが でしょうか。   ○内山委員   認知行動療法にはいろいろな捉え方があると思いますが、実際の行動変容を促す視 点から取り組むことも重要です。機能障害に対して日常生活での活動や社会参加、特 に労働との関係と乖離に対する介入が考えられます。それらの悪循環といいますかギ ャップをどのように改善していくかということが、1つの大きなポイントになろうかと 思います。慢性痛の場合には、特に運動器疾患や神経障害性の疼痛では、いろいろな 労作をするときに痛みが憎悪する可能性があるので、それが要因で不活発になって、 さらに悪循環で家の中に閉じこもりになったり、うつ的症状がさらに増悪するという ことにもなります。  もう少し、各利用者の生活というところの実践場面の中での具体的なアプローチと いう意味では、看護学的なアプローチですとか、理学療法も、この大きなスキームの 中に入るかと思っております。 ○葛原座長   1対1のことが多いのですか、それともある程度集団のグループ的な形でも可能なの でしょうか。   ○内山委員   両方が重要だと思います。日本ではわりと個別療法に重きが置かれておりますが、 ヨーロッパなどでは、集団的な取組みを幅広くしています。対象者同士相互理解や 関係性もありますし、慢性化しないという意味では、対象者をリクルートして、一定 期間介入をして、それで職場復帰ができないような状態の場合には、介入を打ち切り また次のステップを講ずるという考えのようです。要するにずうっとやってしまうと 慢性痛が文字通り慢性・固定化してしまう側面も考えられます。長期にかかわらなけ ればいけないという考え方と同時に、ある一定のところで集中的に、そのような行動 療法をして職場復帰、あるいは一定の成果が上がるかどうかということを、対象者に 対しても目標を持ってやっていただくということで、成果を上げているという報告も あります。   ○葛原座長   宮岡委員のほうで、認知行動療法というのは、たぶん精神科では結構やられている と思うのですが、これも精神科の先生が関与していないと点数が付かないというよう な、いろいろな問題も一緒にあるのではないかと思うのです。今どのぐらい応用がで きていて、保険制度ではどういう問題があるかということについてお話いただけます か。   ○宮岡委員   認知行動療法については、いま精神科で注目されているのはうつ病です。今回の診 療報酬の改正で、うつ病の認知行動療法に点数が付いたといってみんなが大喜びして いる状況です。痛みに対する認知行動療法を精神科の中でやるということは少ないと 思います。むしろペインの先生がいる所でそういう治療が多くやられているのではな いでしょうか。  もう1つはいま話を伺っていて、非常に難しい、例えば補償とかいろいろな問題が 絡むようなタイプの痛みの人や、明らかに心理的な問題が見えているにもすぐ認知行 動療法でいいかどうかという問題があります。認知行動療法と、カウンセリングや精 神療法というのは、ある意味で対極にあるものですから、心理内面をあまり深く診な いのが認知行動療法で、心理面を解決するのが精神療法なのです。痛みの性質によっ て、どちらかを使い分けるという適用の検討がもうちょっと必要なのだけれども、そ の辺りの良いテキストがない気がします。アメリカはなんとなく合理主義で、全部C BTというか、認知行動療法をやればいいみたいな流れで一気に行っています。その辺 りの整理は、私は個人的にはもうちょっと患者さんとの面接によって治療を使い分け るというか、適用を検討することができるのではないかと考えています。当然、痛み の場合、認知行動療法というのが、かなり強い柱になってくるとは理解しております 。 ○葛原座長   先生のご意見ですと、いちばん最初の痛みセンターということも関係するのですが 、まず慢性の痛みのある患者さんの場合、私たちは普通は器質的な病気で起こってい る2次的なものなのか、それともそういうものがはっきりしないのかという辺りで分 けてしまいますが、器質的な原因がはっきりしないものでも、心理的な要因のほうが 強い方と、うつ的なもの、あるいは認知行動療法のほうがよいか、心理的なものとか 、カウンセリングのほうかというのは、かなりはっきり分かれなければいけないとい うことになりますか。   ○宮岡委員   先生がおっしゃったように、もし非常に抑うつ感が強い、うつ病という診断を付け てもいいぐらいにうつが強い方の場合は、むしろ積極的に抗うつ薬で治療した方がい いでしょう。抑うつ感が良くなるとともに、痛みが取れてくる方はいますから、この ような場合は積極的に抗うつ薬を使うべきです。抑うつ感があまり強い方に、いきな り認知行動療法というのはふさわしくないと思います。だから、そこの使い分けは不 可欠と思います。  先生がいまおっしゃったことに関係して、身体のほうの先生が、この痛みをどこま で身体の病気で説明できるかということは、意外と慢性痛では難しいと思うのです。 例えば、どの程度の糖尿病のニューロパシーがあったらこの痛みが出るのだろうかと か、この程度の病変でこんなに痛いはずはないとか、この骨の変形でこんなに痛いの だろうかなどと医師自身が疑問に感じるような患者さんは結構多いと思うのです。精 神科医から見ると、そういう方へのアプローチのどの段階でメンタルのことを考える か、前回もお話が出ましたけれども、全部身体治療をやり尽くした後で、それではメ ンタルな面を考えましょうというと、まずうまくいかないと思います。  それのためには診断、即ち客観所見と自覚症状の乖離をどう評価するかという問題 と、それに対して治療をどの程度までしていいと判断するのか。身体への治療をどこ まで繰り返していいのか、あるいはどこまでは踏みとどまって、その段階でメンタル な面のことも考えるのかというところは、慢性の痛みにかかわっているとき、常に我 々が気にしている部分です。 ○葛原座長   先週だったか先々週だったか、別の研究費の審査で、ここにいらっしゃった方かも しれませんが、整形外科のほうで腰が痛いという主訴で2回、3回と手術をして、もう どうにもならないからとペインクリニックとか神経内科に回される例が紹介されてい ました。そこまでに3回も手術して治らない人を、いまさら回されても絶対に治らな いと。むしろ手術する前に回してほしかったというケースも結構多いとおっしゃって いました。やはり、これは入口の整理も非常に大事だということになります。   ○宮岡委員   「頸椎症がこのぐらいだとこの痛みが出るのか」という判断、それを整形外科とか 内科の先生にしていただくというのも、かなり難しい作業の場合もあります。我々も 依頼されると、その先生と膝を突き合わせて、心理所見も説明しながら、精神科医も MRIの所見を見ながら一緒に議論するぐらいの作業をしているのです。非常に時間の かかる作業ですから、赤字になりますが。   ○葛原座長  いま4番目の点で、薬の問題と手術の問題、ここは私もちょっと認識不足でしたが、 整理上は精神・心理的なアプローチ、これはカウンセリングのほうだと思うのですが 宮岡先生のお話だとこれと対極にあるのが、認知行動療法とか認知運動療法というこ とになるわけですか。   ○宮岡委員   認知行動療法も精神療法に含めてよいのですが、実際の内容はかなり違うと考えた ほうがよいかもしれません   ○葛原座長   含めても構わないけれども、かなり違うということですね。   ○宮岡委員   はい。   ○葛原座長   確かに片やカウンセリングということ、片や認知行動療法というのはかなり対症も 違うでしょうし、方法も違うと思うのです。ここの点に関してもうちょっと整理して 終わりにしたいと思うのですが、どなたかご発言はございますか。   ○戸山委員   私も整理したほうがいいと思います。私は整形外科なのですが、基本的に患者さん 側から入ってきて、痛みがあって、医療側がそれを受ける。そうすると、当然画像で あるとか、神経学的にどうであるとか、機能的にどうであるとかをチェックして、そ れがわかればそれに対応する痛みに対してはやります。そうではない、慢性になった というものがあるわけです。それが、手持ちの、我が国で使える、いわゆる痛みに対 する治療というのはものすごくあると思うのです。それが、実際にいわゆる痛みの研 究会、学会でもたくさん出ていると思います。もう1回整理して、それがどのぐらい あって、どのぐらいのエビデンスがあるのか。  それから、実際は保険では使えないのだけれども、いろいろやっている所も多々あ ると思うのです。それがどうかというものは1回表にというか、洗ってみるのは非常 に必要ではないか。その中で、痛みに関するガイドラインみたいなものは難しいかと 思うのですが、認知行動療法とか脊髄の刺激がどの程度のところに位置してどうだと いうものが、もし出せれば素晴らしいことだと思うのです。医療側もその手持ちの中 でやろうとしても、たぶんいろいろ違うと思うのです。それが整理できればいいなと 。非常に難しいディスカッションに入ってしまうのは恐縮なのですけれども、そんな 感じがいたします。 原点に返ると、我が国で痛みを患者さん側から見た場合に、ど の程度辛い思いをしていてどうなっていて、どこに行って、それがどういう治療をし て、患者さんが今度はあそこでは効かないからまたどこかへ行くというような形がた ぶん多いと思うのです。その辺のところが明らかになると、そこの問題点をピックア ップして整理できるのではないかという感じがします。 ○葛原座長   いま戸山先生がおっしゃったように1回整理をして、これは少し腰を据えた調査も しないと駄目だろうと思うのです。いまおっしゃっていただいたところは、非常に 大事な点を突いていただいていると思います。慢性疼痛の患者さんがどのぐらいいる かわからないというのは、日本の医療システムだと思うのです。厚生労働省の統計な どは保険病名から出ているのが結構あると思います。ところが、慢性疼痛の人は、先 ほど柴田先生がおっしゃったような薬を使っていると、医療保険上の病気としてはほ とんどの方がうつ病に入っているか、てんかんに入っていますので、日本の保険制度 では痛みというところでは挙がってこないのです。  日本の医療保険制度のレセプトドは、本当の病名を問うているわけではなくて、治 療とか検査の適用病名を書かせる保険制度ですから。これは、日本の国民皆保険の矛 盾というのがこういうところに出ているわけです。使えないというだけではなくて、 本当の病気と保険病名が全く別だという問題も一緒に出てくるわけです。そこまで手 を付けるかどうかは別としても、いま戸山先生がおっしゃったように、いまの保険病 名から拾う病気では、頻度はもちろんわからないでしょうし、どういう治療がいちば んいいかということも、結局表には出てこない形になっているので、それを一度調べ る。  例えば、痛みセンターなどを持っている所で、焦げ付いたような患者さんを診てい ただくと、大体何科を経由して来られるかなどというのも比較的よくわかるかもしれ ないです。10カ所ぐらいを転々と回っている方はたくさんいると思います。私どもの 所では大体3回目か4回目ぐらいで、整形外科とか、あるいはペインクリニックから回 ってくるのも結構ありますけれども、そういうのも含めて、これは調査研究の課題と いうことでメモしておいていただいて、後でまたどうするかを少し掘り下げてみたい と思います。 ○戸山委員   痛みセンターのお話が出ましたが、私たち整形外科が入口としますと、患者さんが 来ていろいろな治療法、場合によっては手術になることもありますが、なかなか治ら ない。先ほどの話のように、それではということであれば、例えばペインクリニック とか痛みセンターへ行って、そのフィードバックで、それを入口の所の診療科に幅広 く伝えるという形が非常に大事で、我々もそれがどうだというものを全部は理解して いないと思うのです。それも、何かで形ができるとすごくいいなと思います。  そうすると入口のほうで、これはそこまででなくて、1回痛みセンターのほうへ行っ て、またフィードバックして返ってきてくださいみたいな形ができれば、また少し救 われる人もたくさんいると思います。その辺のところがまだ足りないのではないかと いう感じがします。これは、1番の医療と体制のところにちょっと踏み込んでしまいま すけれども、それも何か構築できればと思います。 ○葛原座長   いまは、1番目も2番目も一緒に話していることになっているので、一緒に関連づけ られると思うのです。内田先生、例えば家庭医では、痛みというのはいちばん多い自 覚症状の1つだと思うのです。先生は保険審査にも関係していらっしゃると思いますが 、患者さんが医師を選ぶときに、こういうのはどういう形の治療を、あるいはどうい う診療科にかかっている方が、いちばん多いのか。その辺は医師会のほうである程度 把握はしているでしょうか。   ○内田委員   日本医師会もそうですが、各地域の医師会でも把握できていないと思います。現状 では情報もほとんど入っていないと考えます。痛みを専門的にやっていた医師は、ま ず開業医の中ではペインクリニックを標榜している医師ぐらいしかいません。要する に、自分の経験の中での痛みに対する治療法しか取り扱っていないというのがほとん どだと思います。   ○葛原座長   やはり、治療もNSAIDsが中心という形になるのですか、あるいは湿布という形にな るでしょうか。   ○内田委員   はい。   ○葛原座長   そうすると、効かない薬を使っているということになってしまうのでしょうか。   ○内田委員   まったく効かないということではありませんが、他の対処、たとえば向精神薬を使 ったりというようなことはほとんどないのではないかと思います。   ○葛原座長   そういう点で言うと、2番目のテーマの患者さんと一般医、一般医と専門医との間 のギャップも相当あるということになりますね。確かに現在のEBMという形から見ても まだまだ日本の痛みの治療というのは、アメリカなどと比べると入口にも足元にも達 していないということにもなりかねないですね。そういう点では、こういうことで討 議するのもやりがいがあるかもしれません。認知行動療法に関して、ほかの委員の方 々からご意見はありませんか。   ○竹内委員   私はリウマチと膠原病が専門なのですけれども、痛みと一言で言ってしまったとき に、特に器質的疾患がある病気と、そうでないものを最初の入口のところで分けてお かないと、痛いということで痛みだけをケアしていて、後で器質的な関節リウマチが わかって骨が壊れてしまったということになってはまずいので、その辺りの、いちば ん最初の取っかかりのところで、その疾患が器質的な障害から来ている痛みなのかそ うでないのかをまず区別した上で、器質的疾患がなければ、それは精神的なケア、あ るいは認知行動療法等が必要であるというふうに入っていかないと本質を間違えてし まう可能性があるのかなというのが危惧した点です。   ○葛原座長   4枚目に一覧表で出していただきましたけれども、比較的はっきり原因としてわかっ ているものはこういうものがあるわけです。これ以外にも特に骨関節、あるいは結合 織の病気というのは、ほとんどが痛みのないものはないわけです。ですから、そうい うところが入口で、これは割合わかりやすいガイドラインとか、あるいはフローチャ ートなどで、痛みがある人はまずその辺を分けて、リウマチ系の病気か、本当の整形 学的な病気か、あるいは末梢神経の病気か、筋肉痛か、あるいは精神的、うつ的かそ の辺をはっきり分けるということです ね。   ○竹内委員   そうです。そこが分けられないと、トータルとして痛みということで、すべて痛み センターでケアというのはなかなか難しいのではないか。   ○牛田委員   結局のところ慢性痛という、本検討会での議題になってくる痛みになると、もとも とあった痛みの病態とは異なるものと言うことになります。例えば、椎間板ヘルニア があって痛くても、痛くて何回も手術をしているうちに、痛みの病態それ自体が別の ものに変わってしまっているようなことであります。そうすると、骨などの変形によ る痛みに本人は固執しているわけですが、実際には痛みの存在に困っていて、それに よって二次的に生活が困っているような格好に変わってしまっているわけです。  我々は器質的なものを主に最初に見ていきますので、器質的なものがこのぐらいは あるというのはある程度判断しています、しかし慢性痛では必ず精神・心理的因子が オーバーラップしてきていますので、そのウエイトがどう変わっていくのか。最初の ところでどちらかということをフローチャート的にやっていくとしても、後に再度評 価するようなシステムや、先ほど戸山先生がおっしゃったようなフィードバックを他 科にしながらやるようなことをしないといけないと思っています。特に認知行動療法 を行うケースということになってくると保険の問題、交通事故の問題、訴訟が関与し ていたり、あの先生にこんなことを言われたというようなことを引っくるめて、患者 さんを困らせているようなことが問題になってきます。例えば、膝のこの部分だけ治 したらそれで済むというようにはなっていないことが多いということです。 ○竹内委員   それは白黒付けるわけではなくて、当然100%割り切れない部分がありますから、お 互い協調していかなければいけない部分だと思います。痛みということで、痛みだけに いってしまうと、その時点で痛みのケアはできていても、5年先に生命予後にかかわる ようなイベントが起こることが十分あるので、その辺りを考えておかないとまずいか なという気がしました。   ○牛田委員   そういうことだろうと思います。   ○葛原座長   ここで検討するのは、いま竹内先生がおっしゃったような病気をきちんと鑑別して 、それの治療をちゃんとして、こんなに痛むはずはないのに、なんでこんなに続くの だろうというようなものをどう対応するのかということが、たぶんいちばんの課題で 、例えば原因がはっきりしていて、そこにアプローチしたら、それなりの効果がある ものというのは、これはこれでいちばん良い結末だと思うのです。   ○竹内委員   そこのところが区別できないので、困っているのではないかと思います。   ○牛田委員   そういう点もあるかもしれません。   ○竹内委員   ですから、それをトータルとして考えていかないと、これだけで慢性疼痛で器質性 疾患がないものという括りだけではいけないのではないか。   ○葛原座長   ここにいろいろ挙がっているのも、原因がはっきりしていてもなかなか治らないも のもあるわけです。   ○竹内委員   原因がわかっていても、治らないものはあります。   ○葛原座長   どこを調べても原因はわからないけれども、すごく痛むというものもある。 渡辺さん、ここでは両方やらないといけないのですか。   ○渡辺課長補佐   そうですね、この分類案のそれぞれに対してどういうものが要るかというのは変わ ってくると思います。   ○柴田委員   ですから、病気で括るとどうしても無理がある。病気という軸と痛みという軸と両 軸で見るという方向性が重要だと思います。   ○竹内委員   そうです。   ○葛原座長   竹内先生、あるいは戸山先生がおっしゃったこととも関係するのですが、これは慢 性疼痛を考えるときには、痛みの患者さんが来たら、まずどういうことから、最近は やりの仕分けをやっていかなければいけないのかという、それなりにわかりやすいチ ャートのようなものも必要かもしれません。特に内田先生が先ほどおっしゃったこと で、痛みというのはまずかかりつけ医の所へ行くと思うのです。  そこへ行ったときに、そこではどういう治療をやっていただければいいかとか、こ の辺は専門医に紹介したほうがいいという判断もある程度していただく。 要するに焦げ付く前にどうするかということだと思います。そういうことをどう作る かということが必要だろうということです。これは4つの括りでいくとどこになるで しょうか、むしろ1番目に入るかもしれませんか、1番目でもないですか。  痛みへの対策ということでもないですから、要するに痛みの患者さんをそういう症 状から捉えたときに、どういう医学的な対応をしていくかという、最初の入口につい てそれなりのちゃんとした、わかりやすいフローチャートを作る。 それは、患者さんの教育ということも含めてやっていくということで、まずは治療の 前の診断ないしは振り分けだと思うのですが、それが必要だというのが、まず痛みの 入口だというのはそれでよろしいですか。これは、まだまだちゃんとできていないこ とになります。これを1つの課題としてやっていくということです。  次の課題としては、割合結論を付けやすいところで、ある程度現場でいま使える薬 あるいは治療法を今後どういう形で取り上げていくかということに関しては、先ほど 戸山先生がおっしゃったように、現在、日本で慢性の痛みの患者さんがどのぐらいい て、どういう治療を受けていて、しかもどういうのが比較的効果があるのか。これは 、とてもエビデンスというレベルではないでしょうけれども、経験的なものであれ、 それがどのぐらいになっているかということはきちんと調査する必要があるだろう。  先ほど申し上げましたように、一般的にはNSAIDsというのでしょうか、非ステロイ ド系の消炎鎮痛薬がすぐ処方されやすいと思うのです。むしろそこで治らない人がこ ういう形で、慢性疼痛ということになっているのでしょう。こういうのは先ほど柴田 先生がおっしゃったように、欧米では消炎鎮痛薬ではなくて、抗うつ薬とか抗てんか ん系統の薬が主流になっているわけですから、そういうものが現にどういう所で使わ れているかということも含めて、その実態を調べていく。  その中で経験的にも効果がありそうなものがあったら、それが医療経済学的に収支 が合うような医療に持っていかなければいけないということもあるわけです。先ほど からお聞きしていても、これは適用外医薬品、あるいは赤字の出る手術、保険適用に なっていない認知行動療法という、要するに一切赤字を出すことが黙認される病院で しかできないというのがいまの医療の現状だと思います。患者さんのニーズがあって も、経済を考えたらこんなのはやるべきではないということになってしまいます。そ の辺をどう解決していくかということは、ある程度そういう調査に基づいて厚生労働 省にお願いしていく。 柴田先生がおっしゃっていましたけれども、需要がありそう だということになると製薬会社が治験してくれるかもしれませんが、もう認可されて 使われているものに関してはおそらく色気を示さないというときに、それを実際の治 療の中にどのように組み込んでいくかということ。これは行政的な話になるかもしれ ませんが、そういう形になるのではないかと思います。戸山先生、もしまとめていく とすると先ほどの話はそういう形のことでよろしいですか。 ○戸山委員   私も同じように考えていて、入口は内科にしろ整形にしろ、痛みというものに関し て第一線の入口の方々に、よりいまの痛みの日本で使える現状はこうだああだという のを、よりもう少し教育というか、知ってもらうようなものを1つ作ることが大事だ と思います。そこを踏まえて、患者さん側にも痛みというものはどうだという啓発・ 啓蒙が大事だと思うのです。 そこでなかなか難しいものを、その次のステップに送 るのが、ここに書いてある痛みセンターかもしれないし何かというものがある。そう すると、そういう人たちは全部そこに行っていいのかということもあります。いまの 入口の議論は、それがいちばんいい方法だと思います。 ○葛原座長   いくつかのものは調査チームなり、研究班なりをつくらないと解決しないものがあ るだろうということですね。辻本委員は、どちらかというと消費者というか利用者の ほうから出ている委員でしょうか。もう皆さんにご発言いただいたので、この話はこ こで一応終わりにしたいと思うのですが、そういう立場からご意見がありましたらお 願いいたします。   ○辻本委員   20年間電話相談を続けてきた現在はNPOです。痛みの方の相談というのは非常に 多く届くことと、特徴としては長い電話になることです。正直担当者も「またあの 方ね」というようなリピーターという層が一定数これまでも続いておりました。た だ、その方たちにはその方たちの言い分があります。例えば、医療の限界とか不確 実性が理解できていない。やはりインフォームド・コンセント不足があります。先 ほどどなたかが、痛むはずはないのにとおっしゃいましたが、医療側の視点が、向 き合ったときから患者さんの心理的なところにも影響を及ぼしていて、扱いにくい 患者さんというふうに分類されていて、向き合ってもくれないという主治医の愚痴 などが延々と続きます。ただ、ドクター1人が対応する問題では決してない。やはり 、チームアプローチということで、言ってみれば患者さんのヒストリーまでじっと 耳を傾けてくれる役割など。それがカウンセリングなのか、上から目線ではない、本 当に必要なときに背中に回り、適切なひとことをかけて支えるようなシステムをきち んと構築してほしいということが、こういう患者さんの声の中には非常に多いです。  大学病院などで、文部科学省からの研究費で臨床試験や創薬に患者さんの協力を仰 ぐことで患者の教育・啓発にもつながっていくということ。もう1つは、小さな社会貢 献という役割認識が患者さんの気持をサポートすることにもなります。先ほどの入口 の一般開業医の所へ行って、痛みセンターに紹介されてそういう役割を務め、その上 でまた一般開業医の所へ戻るというような図式の中に、何か「あなたしかできないこ と」という仕掛けというのでしょうか、仕組みというのでしょうか、患者の医療参加 が医学の発展にも寄与することだと思いますので、組み込んでいただきたいと思いま す。 ○葛原座長   治験のボランティアと言ったら変ですけれども、そういうことにも積極的にそうい う方に関与していただくということですか。   ○辻本委員   はい、そうです。そのためにはCRCなどドクターだけではなくという、その人材育 成ということと、システムの構築が必要になると思います。   ○葛原座長   前に柴田先生のレクチャーでおっしゃっていましたが、痛みというのは主観的なも のであって、客観的には測れないということです。痛いはずがなくても、とても痛い んだというのが慢性疼痛だと思うのです。どちらかというと検査の異常、所見の異常 器質的な異常というので組み立っている医療の中で、どういう形でそういう患者さん たちを受け止めていくか。たぶん話を聞いてあげるだけでも。家でももう聞きたくな いと、職場でもそう言われているような方たちの話を聞くだけでも良くなる方はいる のではないかということも、NPOなどでは体験していると思うのです。そういうこと も含めて、いちばん下の問題は、先ほどのような形でまとめて終わりたいと思います。   ○宮岡委員   直接いままでの流れではないのですけれども、私は歯科・口腔外科領域の先生と一 緒に仕事をする機会が多かったのですが、「『患者さんが歯が痛いと言っているとき に、根の治療をして、それでも痛みが取れないから抜いて、とにかく徹底的にやるだけ だって、それでも痛みが残るときまでメンタルなことは考えてはいけない』と大学で教 えられた」と若い先生に言われたことがあります。 実際はそこまで診断的治療をやり尽くしてこられると、なかなかメンタルな面の治療に 進めないという面はあると思います。  2番目に、一般医と専門医の認識のギャップと書いてありますけれども、実は専門医 と専門医の認識のギャップというのもかなりあるような気がします。その辺りは、き っと議論をしていると怪しい部分や厳しい部分が出てくるでしょう。 ○葛原座長   自信が強い分だけ、専門医と専門医のギャップのほうが結構埋めにくいかもしれな いですね。いま私が申しましたのは、いちばん下の問題は先ほどのような形で括って あとは1番目、2番目、3番目のことをやっていきたいと思います。  比較的に、4番目の問題からすっと移りやすいのが2番目の「『痛み』に関する正し い情報の提供」ということで、先ほどから宮岡先生あるいは内田先生辺りからも出て いました患者さんと一般医、辻本委員もそうですね、それから、一般医と専門医のこ のギャップをどう埋めるか、あるいはここのところをどうやっていくかと、これは教 育のことも含めて大事なことだと思うのですが。これはたぶん患者さん自身の啓発と いうこともある程度大事なことだと思うのです。  これを今後どうやっていったらいいか、あるいは、その前に現在どういう問題点が あるかと。内田先生から先ほど、いままで、痛みということに関しては大学医学部の 講義でも、あるいは一般的な話でも、どちらかと言うと非ステロイド系の消炎鎮痛剤 とか、いわゆるあの痛み止め、消炎解熱剤のような治療あるいは湿布のような物が中 心で、これは我々もそうだと思うのですが、やられてきただろうということで、特に 慢性疼痛には少し新しい視点が必要であろうということと、いま薬だけでは治らない 痛みがかなり増えているということ、あるいは、ちょこちょこ話題になりますが、線 維筋痛症のような、昔はこういう病名というか症状というのはほとんど見たことがな くて、最近、かなり激しい全身痛ということで結構若い患者さんを拝見することがあ ります。  そのようなことも含めて患者さんの啓発、あるいは専門医ではない医師とか医療従 事者の啓発、それから、さっきの専門医同士もやはり隣のことはまずわからないと、 しかも、専門医であると自分のことだけはとにかく徹底的にやるというようなことに もなりかねませんので、その辺をどうやったらいいかということで、まず問題点、大 体出ていたと思うのですが、いままで言っていただいた以外に、先生方の目で見てい てこういう問題があるのではないかというこ とは何かございましょうか。 ○牛田委員   病名を付けてしまったために起こる問題点というのがあるのではないかと思うのです 。例えば「鞭打ち症と言われました」と。そうすると、「あなた、首が痛いでしょう」 とか医師からいわれて、その結果として毎日首を触っているような人はずっと痛みを 抱え込むようになっていく可能性が高くなると考えられます。おまけに、訴訟だとか が絡んできたりするとほとんどなかなか治りにくくなります。これは鞭打ち症という 病名を最初に付けたことにも問題があることを考えさせられる事柄です。どのような 病名を付けるかというのはすごく大事なことかなと思ったりするのです。  あるいは、「神経に傷が付いていますよ」などと医師から告げられたような人はずっ とそのことを言い続ける傾向があります。少なくとも痛みセンターに来るような方には そういう方が多いです。「そのような病態ではありません」と1つずつ長い時間をかけ て説明しても、次に来たらまた同じことを言っていることになったりします。同じよ うなことは、線維筋痛症などにもおそらくあるのではないかと思います。 ですから 妥当な診断名を付けてくれと患者さんは言ってくるわけですが、付けたことによって 起こる問題点を考えながらお話をしていかないと、最初にいきなりすごい病名を付け てしまうと問題になることがあります。例えば後縦靱帯骨化症であっても、今はイン ターネットなどで情報がものすごく氾濫しているので、「私、こんなになるのでしょ うか」というような感じで、「違う、違う」と言ってもなかなか理解してもらえない ことがあります。インターネットのほうが私たちよりも信用されるということが多い ので、情報のコントロールを考えないといけないと思います。ただ、今のインターネ ット時代、情報が色々出てくることをコントロールするのはすごく難しいので、もっ と強力に発信するようなところがないといけないと思ったりします。 ○葛原座長   牛田先生がおっしゃったのは、たぶん病名の弊害と、もう1つは検査所見の弊害だと 思うのです。いまおっしゃった後縦靱帯骨化症はたぶん日本の健康人の10%近くにあ るのではないですかね、ある年齢以上では。それから、変形性頸椎症は50歳以上です と50%以上。ですからこれは、検査の異常であっても、ほとんどが症状とは関係ない わけです。しかし、手にしびれがあると、これは後縦靱帯骨化症のせいだとか信じて 疑わない。目に見えるものは強いですから。  ですから、その思い込みを解くのはとても大変だというのを私などもよく感ずるこ とです。結局、日本はMRやCTなどの検査が安いということもあって、バンバン撮ると 大体5割の人は異常が出る、こういう痛みが出る人にはみんな出てくるわけです。 ですから、検査の異常は病気ではないと言っても、私が言うことよりはインターネッ ト、私が言うことよりもMR画像のほうがよほど信頼度が高いということになる。です から、家庭の医学書とインターネットにはまった人はどうやっても治らないというの が私の考えなのです。  そういう時代ですから、やはり検査所見などの説明の仕方と、もう1つは病名。これ も、いま牛田先生がおっしゃいましたが、私もいつも困っているのは、症状名でレセ プトに書いておいても、必ず返ってきて病名を書いてくれと言うのです、そうでない と保険が通らないと。病名を書くと、いい加減な病名では使えませんからかなりのも のを書かないと駄目で、今度は患者さんがその病名を見て自分はその病気だと信じ込 んでしまうと。保険病名は本当の医学的病名を反映していないと言っては変ですが検 査や薬に対応した保険適用病名を付けないと保険が下りないというのは、これは患者 さんにはいくら説明してもわからないことですよね。厚労省の前でこんなことを言う のは何ですが、現実はそういう問題が起こっているわけです。牛田先生がおっしゃっ たのも、たぶん病名にとらわれるというのはそういうことだと思うのです。 難波課長などに もこういう現実を聞いていただきたいと思うのですが。  ですから、そういうことも含めてやはり患者さんへの説明、あるいは病名の説明の 仕方、あるいは、これは学校などでやってほしいと思うのは、日本の医療保険制度が どういう形でお金が支払われるか。要するに、とにかく検査とか薬の、この病名なら 保険が下りますという形の病名でないとお金が支払われないと、それ以外のことはい くら本当のことを書いても払われない制度だということを国民によく教育していただ かないと、こういう医療は成り立たないだろうという気がするのです。あとは、患者 さんが要求していらっしゃる通りの治療をすると、保険適用でなければ、一切、これ は病院からの持出しになっているということです。その辺のことも含めて、教育とい うのはいろいろ大きいですが、患者と一般医、一般医と専門医は、とにかく今のとこ ろは理解は低いと、コミュニケーションは乏しいと、やることはいっぱいあるという ことになりましょうかね。 ○戸山委員   2番目の「正しい情報提供」というのは、医療側にも患者さん側にもものすごく大事 なことだと思うのですが、特にその「痛み」、慢性疼痛でどこでもなかなか取れない というのは、先ほど話しましたように、民間も含めて、自分がプロだと言って、もの すごい数あると思うのです。本当はその正しい情報が出せればいちばんだと思うので すが、非常に難しいテーマにはなると思いますし、すごくあると思うのです。そこの ところ、先ほど話しましたように、我が国で手持ちで使える治療がどうで、それがエ ビデンスがどうだというようなものが、正しい情報としてはいちばんよろしいかなと いう感じはいたします、非常に難しいと思いますが。   ○辻本委員   確かにエビデンスも大事ですし、ガイドラインも必要だと思うのですが、それがす べてではないと思うのです。先ほどカウンセリングの中でのフローチャートというお 話もありましたが、こういうところに出ていらっしゃるお医者さんたちは意識高く、 それだけではないよとご認識くださるのですが、やはりいろいろな方々の中には、そ れさえやっておけばいいのでしょうというような、既成の枠にはまってしまうような 医療になると、今度は患者さんがはじき出されてしまう危険性。例えばそのフローチ ャートどおりには語れない患者の気持ちだったりとか、フローチャートどおりに痛み が進んできたわけではない患者さんとか、外れる人はいっぱいいると思うのです。  ですから、エビデンスやガイドラインにも実は限界があるのだという上で作ってい ただかないと、引出しに納められてしまう患者は非常に切ない気持を抱きますので、 その辺も加えてご議論を進めていただきたいと思います。 ○宮岡委員   今の問題に関係して、ガイドラインも含めた、一般医・専門医も含めた医師の啓発 というか、そういう面と、実際に痛みを持っておられる方に対する情報提供という面 で、私の個人的な考えなのですが、むしろ患者さんに対する情報開示や情報提供に力 を入れたほうがよいような気がしています。できるだけ情報がディスクローズされて 、「患者さんが医師を選びやすいように、あるいは選べるように」というところに持 っていったほうが何か戦略としていいのではないかと思えるのですが・・・。  我々の領域でも、最近、軽いうつとかで、本当に薬が必要でない人にもどんどん薬 を出すような先生がいたりして問題になっています。自覚症状に対する治療に関する 医師の啓発というのはかなり難しいことだと思うのです。むしろ患者さんに選べるよ うな情報をきちんと与える。医者がこんなことを言うとよくないのですが、何かその ほうがむしろお金の使い方や力の入れ方としては正しいような印象を最近持っている ので、一言申し上げました。 ○柴田委員   教育に関連してですが、前回の検討会のときにアメリカで行われた痛みの10年とい う問題がありまして、これがどういう内容だったのかということを調べました。どな たに聞けばいいかなと迷いましたが、私も訪問したことがあるアメリカ、ワシントン 州にありますペインセンターの元責任者のロージャー先生、この方がアメリカの痛み の10年の重要な役割を果たした方で、国際疼痛学会の会長でもあったということで適 任だろうと思い、厚労省の渡辺さんを通して聞いていただきました。それがこの資料 です。  質問の内容は、1頁にありますように、痛みの10年、アメリカ議会がどのような活 動をなされましたか、どのような分野の方が参画されましたか、何か変化がありまし たか、当初の計画はどのようなものでしたか等々とお尋ねしました。ロージャーさん からのメッセージは非常に驚くほど丁寧に書かれておりまして、私も感動いたしまし た。p英文が最後の資料に載っていると思いますが、このA4の用紙でぎっしり4枚書 かれてきています。この内容は、政府として何か具体的なアクションというわけでは ないのですが、アメリカというのはある宣言をして、プロモートするというやりかた がよくとられます。オバマ大統領の“Yes,We Can.”ではないですが、そのような呼 掛けだったかと思われます。こういうことに啓発されて痛みに関する臨床医あるいは 基礎医学者、学会レベルでいろいろな活動が行われたということが書かれています。  日本でこういう検討会が始まって、これに対してのメッセージを寄せてきていただ いています。がんでない慢性の痛みの問題は、やはりそれぞれの国の文化と関連して います。アメリカは公的な保険がないという特殊な状況にあって、どうしてもお金の 動くところに人が動くという問題があります。しかし、ヨーロッパや日本は行政がも う少しレギュレートできるシステムで、そういう意味で、痛みの治療に行政の果たす 役割は大きく期待している、というような励ましのメッセージだったかと思います。 訳も付いていますので、是非、ご覧いただければと思います。このようなことが痛み の専門医あるいは研究者だけではなくて、そこから通して一般の患者さんにもそうい う痛みというものがどういうものであるか、どのようにしていくのがご本人にとって 長い目で見ていちばんハッピーかというようなことが書かれています。 ○葛原座長   アメリカの医療制度の議論を見ていると、オバマさんのあの医療改革に関して、自 分で払わない人に税金を投入することに対して、良識ある国民の相当数が反対する国 なのだなと思ってびっくりしているのです、日本とは考え方が随分違うのだなと思っ ています。そういう点で言うと、ここの渡辺さんの5頁の訳の所などには、アメリカに は医療システムが政府としては欠如しているということですが、日本ではきちんとあ るわけで、こういうことを政府がやっているわけですから、それをうまく活用すると いうのは非常に大事なことかもしれません。   ○辻本委員   もう1つよろしいですか。   ○葛原座長   はい。   ○辻本委員   20年間電話相談をお聞きしていて、いま、これはデータも何もない、根拠に乏しい お話かもしれませんが、患者さんの世代によってその納得の基準が違っていたりとか 、要求というものが微妙に違うということを学んでまいりました。 私自身もそうなのですが、団塊の世代の患者さんがやはり電話の相談の層にも非常に 厚いものがありまして、1つ、この世代特有の心理という側面があると思うのです。  例えば、先般も団塊の世代特有の医療ニーズについてリハビリ学会でお話したら、 ある方が、この世代の人は1つおへそを曲げるとモンスターになり得るけれど、そう だよねと納得ができると、例えばリハビリについても、ものすごく積極的に一生懸命 自分の問題として引き受けてやっていくと。その辺りが扱いにくい世代ではあります が、この団塊の世代辺りが、これから患者の層としてもこの領域にもどんどん増えて くる現実があると思いますので、そうしたものもどこか研究ということでご興味をい ただける方を巻き込んで、少なくとも80代の高齢の方へのアプローチとは違う支援策 などもお考えいただきたいと思います。 ○葛原座長   年齢と性によっても訴える内容がかなり違うということですかね、あるいは納得の 仕方とかも含めて。   ○辻本委員   そうですね、社会的な参加ということを一応持っている人とそうでない人とか、い ろいろな分類はできていくかとは思うのですが、大まかな見方として私たちは、やは り高齢者と団塊の世代とセンター試験・共通一次試験世代とマニュアル世代というよ うな4分割。ただ枠にはめて患者さんをみてはいけないのですが、逆に、ああ、やっぱ りねというようなことをこの20年学んでまいりました。いよいよ700万人のこの団塊の 世代が医療現場の患者としての主役を位置する時代に流れてきますので、その辺りも どなたか、興味、関心を持っていただけたらありがたいと思います。   ○葛原座長   団塊の世代というのは、昭和20年代の前半ぐらいに生まれて、いま60歳前後になっ ている人たちですね。    ○辻本委員   はい。   ○葛原座長   ここにも、私も含めてこの世代の人がいらっしゃいますが。   ○辻本委員   堺屋太一さんのネーミングなのですが、22年、23年、24年生まれということで、 現在、800万人生まれて700万人に淘汰されているそうです。   ○葛原座長   やはりいろいろな形のアプローチが必要だということと、どうですかね、やはりこ れは、痛みに関する情報提供は単なる医学的な情報だけではなくて。しかし、これは、 具体的にやろうとすると難しいですね。あるいは、逆に、先ほど牛田先生がおっしゃ ったように、ちょっとした医療現場のことが痛みを慢性化させているようなことも、 病名とか検査所見で往々にしてあり得るのではないかということですね、先生がおっ しゃったのは。ですから、そういうことに関してはやはりインフォームド・コンセン ト、あるいは病気の説明、あるいは検査の説明も、患者さんに誤解されないというか、 情報が正しく伝わるような説明が必要ですし、また、それができるような医師の教育 も必要だと。  宮岡先生に言わせると、医師の教育よりも患者さんの教育をしたほうが有効なので はないかと、やはり両方が必要だろうということなのです。専門医と一般医というも のの橋渡埋まっているとは言いがたいと。これをどういう情報提供をやっていくかと いうのが、1つの方法でできるかどうかということも、あるいは、もうちょっとアプ ローチが違うのではないか等もありましょう。 ○柴田委員   専門医同士の意見の違いはやはり学会レベルでの話ではないかと思うのです。行政 でどうこうなるものではもちろんありませんので。ですから学会レベルで、世界的な 視野から言いますと、痛みの問題を大きな枠で取り上げているのは、先ほどお話した ドクター・ロージャーなどがやっていた国際疼痛学会という枠組みです。その学会は、 学会ではありますが、世界の痛みをプロモートするような非常に懐の広い活動をして いて、WHOのがん性疼痛プログラムの作成などにも寄与したのですが、いろいろな立場 を認める寛容性と言いますか、そういうものが大事だと思います。  ですから、痛みに関して何が正しいかというのはなかなか言えないですから、専門家 の中にもそれぞれの立場があるので、そういう寛容性と言いますか、学会の中ではそう いうものがやはりある程度の、こういう行政の提言にも関与するような形で関わってい って、偏ることなく進めていくということが大事だと思います。非常に抽象的で恐縮で すが。 ○葛原座長   これはたぶんかなり専門的な形の痛みということになると思うのですが、もう1つは 、実際にある患者さんにどうアプローチするかというときに、専門医間のコミュニケー ションをよくするというようなことが、たぶんここの話題になるだろうと思うのです。 先生のいまおっしゃった専門医のほうは、むしろ3番目のほうのもう少しレベルの高い 話になるのかと思うのですが。 さて、大体、いま皆さんからご意見をいただいたよ うな形のことで特に大事なのは、まずは患者さんの側と医療従事者側で1つ痛みとい うことに関して、ある程度の共通した認識を持っていただく必要があるということと 、もう1つは、痛みの質の変化です。痛みの内容は昔とかなり変わっていて、昔はたぶ ん消炎鎮痛薬でよくなるような痛みがかなり多かったのだろうと思うのですが、その辺 は今はかなり治ってしまって、それでは治らないような痛みが残ってきているというこ とと、昔はどういう病名になっていたのか知りませんが、今は痛みという主訴を窓口に して、いろいろな訴えで病院に来られる方がかなり増えていると、しかも、それがな かなか治りにくいというような状況があるということで、これは我々のほうも整理し ないと、とても啓発などはできないような気もするのです。そういう点での啓発活動 が必要で、それは患者さんにも必要であるし、一般医の方にも必要であるし、また専門 医と一般医あるいは患者さんとをつなげるようなアプローチも必要であろうと。これ以 上深入りすると、 またちょっと次の論議に行けませんが。 ○柴田委員   どうしても話題になりますのは、従来の方法ではうまくいかない患者さんをどうす るかという議論になるかと思うのです。しかしそのような患者さんばかりではなくて 、前回のときに私、ちょっとお話したかと思うのですが、乳がんの患者で手術したあ との傷の痛みの調査しますと、かなりの数おられることがわかりました。しかしなが ら、乳がんの執刀をした医師は、そんなに多いとは全然想像もしていなかったのです 。これは何が起こっているかと言うと、やはり自分の命を助けてくれた外科医に、1 回ぐらいは痛いのですということを言っても、執拗には言えないという心情をお持ち の日本人、いわゆる古典的な日本人といういい方が多いようなのです。  そういうかたに対して、今はいろいろな消炎鎮痛薬以外のお薬も効果のあるものも あります。そのようなものが効果があるという情報が、患者さんにも医者にも行って いないのが現状でありまして、治り得る痛み、軽減され得る痛みが情報不足のために 我慢を強いられているという状況にも目を向けなければなりません。こんなに長い間 我慢していたのは何だったのかなとおっしゃる方もおられます。ですから、そういう 難しいものばかりではなくて、治り得るもので医療機関にたどり着いていないという か、そういう現状もあるかと思います。 ○葛原座長   ということは、そういう事例が多ければ、例えば乳がんの患者さんの手術のあとに は例えば質問項目で痛みがありませんかということをきちんと入れるような、アフタ ーケアと言うのですか、術後の管理の中にそれを入れておくとか。あるいは、日本人 はとかく、「主治医には訊けない」とよく私のところにも質問が来るのですが、「私 は知らないのだからご本人がまず聞いたら」と言うのですが、それが日本の現状だと すると、看護師なり何なり、医者でない人にそういうことをきちんと質問項目で取り 上げてもらえば割合早く解決するものがあるのではないかという、そういうご提言で しょうか。 ○柴田委員   先ほどの痛みの10年の話ですが、その1つのキャッチフレーズが「痛みは第5の バイタルサイン」と、そういう言葉があります。患者さん側からはなかなか言いに くい方もやはり日本にはおられるので、むしろ医療者のほうから「痛みはどうですか 」と聞くと、あっ、聞いていただけるんだということで非常に不安も取れますし、そ れで軽減する方も結構おられると思うのです。ですから、言われる前に聞くというや り方を医療のコモンセンスにするような方向でいければとは思います。 ○牛田委員   そのことに少し関係するのですが、緩和のほうはいろいろすごく進んできていて、 昔よりはオピオイドを使うような量もすごく増えてきています。患者さんのアメニ ティも上がってきていると思うのですが、それに関わる教育システムが1つモデル になっていくのではないかと思うのです。いま緩和ケアの研修会というのがあって、 モデルケースを使ったスライドなどで最低限の、このぐらいは知っておかないとい けませんよというようなものを学んでいくようなシステムが2日間かけて行われてお ります。  いま話を聞いていると、1つは一般のドクターのレベルを少し上げていくということ 、もう1つは柴田先生や私たちで困っている、どうしても焦げ付いたような症例にど のように向き合っていくかということ。その2つだと思うので、少なくとも先ほどの “抗てんかん剤が少し効きますよ”などということについては、痛みに関わる教育シ ステムを作っていくと、少しずつ治療の効果が改善 していくのではないか、そういうものが一般の先生に広がっていくことで患者さんに も啓発・啓蒙されていくのではないかとも思ったりするのです。 ○葛原座長   わかりました。これも啓発の中で実際に簡単に今でもできることになろうかと思い ます。これはその気になれば具体的で、例えばいろいろな生涯教育などの中にも取り 入れていただくと、非常に有効かもしれませんね。   ○辻本委員   実は私自身も乳がんの患者で、センチネルリンパ節生検の後、大きくえぐっており ます。術後の痛みということが、おっしゃられたように、やはり言えなかった。私だ けなのかと思っていた。そうしたら、同じような手術をした人が、あら、私もよとい う。そういうことからも、ここで今あまり話題になっていないのが患者会のサポート システムです。患者同士の支え合いをもう少し、社会的認知と言うのでしょうか、 厚労省がどんな支援ができるのかはわからないのですが、NPOも含めたこの患者会の 中で、やはり協働のアプローチも是非加えていただきたいと思います。   ○葛原座長   おそらく乳がんの治療をやっている、最近は乳がん専門医というのはたくさんいら っしゃいますが、手術で取るにしても、あるいはそれ以外の非手術的な方法であれし ても、とにかくがんが押さえ込めた、除かれてこれでもう安心だというのが、たぶん 医者にとっての治療目標だと思うのです。  しかし、患者さんにとってはきっと、元の形を保ちたいとか、あるいは服を着たと きにこうありたいとかというようなことですね。手術のあとのニーズは、医者は、た ぶんうまくいったらそこで終わりになるのではないかと思うのですが、患者さんは、 またそこから新しいニーズが生まれる。これは医療関係者ではなかなかわからない 点もあろうかと思いますし、そのようなものがあって、うつうつとして、また痛みの 原因で傷跡がつれているような感じとかということにもなっているかもしれないので 、それは確かに患者さんのほうからそれぞれの病気で、医療側とはまた違った面での 、自分の関心事で何がいちばん困っているかということはやはり挙げていただければ 、医療側と患者さん側とのコミュニケーションも、もっともっとよくなるし、解決も 早いかもしれないのです。これは是非、むしろ辻本さん辺りに頑張ってもらわない とできないことかもしれません、これはこちら側であまり言うことではないかもしれ ませんが。 では、そういうことも含めて慢性の痛みに関するものは、もう少し整 理する必要があるかもしれません。情報提供、教育ということがもっともっと必要で あるし、実際の臨床の現場で解決できることもたくさんありそうだということが2番目 の結論だろうと思います。  では、時間の関係がありますので次に進みます。これは先ほど柴田先生が少し言い かけてくださったことなのですが、難治性の痛みへの対策ということで、やはりこう いう、痛みに対しての調査研究について、やや疫学的なことでは先ほど戸山先生もお っしゃいましたが、これに関しては先ほどのような疫学のこと以外にどういうテーマ があるかと。これは例えば今年から、研究班も多少走りだすようなところもあると思 うのですが、そういうところにはむしろ注文ということもあるかもしれないので、も し、柴田先生、もう一度こういう感じでの調査研究というのである程度専門家を集め て、時間もお金もかかるようなものというテーマですと、具体的にどういうものが挙 げられるかということで何かご意見をいただければ。 ○柴田委員   疫学調査的なものに関してのご質問ですか?   ○葛原座長   いいえ、全部です。別に疫学だけでなく。例えば最近はPETとかファンクショナル MRIを使って。ファントムペインのときには脳のどこで痛みを感じているかを画像化 しています。私もこの前ちょっと外人さんの講演を聞いて、感心しましたが、いろ いろな痛みというのが、新しい研究は進んでいると思います。それも含めてお願い します。   ○柴田委員   痛み研究のうち基礎医学の部分では、日本も世界的な業績がたくさんあります。 痛みのエネルギーを末梢神経を伝わる電気信号に変える仕組みを担うタンパク質を 同定したのも日本人ですし、痛みを感じない患者さんの遺伝子のどこに異常がある か、を解明したのは日本人です。そういう意味では、日本にはいい研究者がたくさ んおられます。しかし、臨床的な部分では、先ほどお話したように、治療に関して もデータに関しても極めてお粗末な状況ですので、まずは日本の現況と言いますか、 そういう意味で、疫学的な部分をやっていかなければならないのではないかと思い ます。  一方で、日本が得意ということかもしれないですが、世界と同じレベルである、 むしろある部分では進んでいる、基礎医学的な部分、そのようなところはなお一層 進めなければならないと思います。また、断面、断面を取れば、例えば片山先生の やっておられるような外科的な治療、あるいは麻酔科医がやっているような神経ブ ロック、戸山先生がやっておられるような脊椎そのものを治すような、個々のレベ ルでは優れたドクターはたくさんおられると思うのです。しかしながら、ソフトの先 ほどの疫学的な部分は極めて欠如しているというところかと思います。  それから、先ほど機能画像の話が出ましたが、痛み研究、そういう基礎医学の部分 では、末梢神経のレベル、脊髄のレベル、それから、最近で動物実験、人も含めた脳 のレベルと広がりを見せています。そういう意味では日本も世界的な研究者がいます ので、その辺のところはなお一層の進歩というか、期待できるかと思うのです。そう いうもので括れる神経障害性疼痛のような痛み病態のメカニズムの解明、あるいは侵 害刺激、竹内先生がご専門の炎症のもののような痛みのメカニズム、新しい治療薬の 開発、より副作用の少ないもの、そのようなものも方向性としてはあるかと思います し、線維筋痛症、あるいはCRPSタイプ1のような、あるいは器質的原因がない歯科・ 口腔外科領域の痛みとか、そのような他角的なものでは捉えられないような状況であ るにもかかわらず、痛みが慢性的にあるような患者さんの病態が、どこがどうなって いるのかというようなことに関しての研究はこれから手を付けていかないといけない のかなと思います。 ○葛原座長   先生、例えば厚労省の研究ということですと、文科省的な基礎的な痛みのメカニズ ムというよりはたぶん現実的に痛みで、例えばリウマチの病気とか関節の病気という のでは、どうもわからない痛みを客観的にどう捉えるか、あるいはそういうものが治 療でどう反応しているかというのは自覚症状以外にも。痛みは自覚症状だと言えばそ れまでなのですが、何かそういう形のアプローチというのは、いま何か方向性はある のでしょうか。   ○柴田委員   いまおっしゃったように、私も少しはやっているのですが、脳機能画像研究という のは、この痛みの研究に世界中でやられはじめています。PETとかfMRIとか脳磁図とか 、そういうものを使ってやっていまして、健康成人に実験的な痛みを与えて行う場合、 病気の患者さんに何かをして行う場合があります。しかし、治療の反応性をそういう もので示すという段階にまでは進んでいないのが現状です。   ○葛原座長   精神科の病気などですと、脳のレセプターにくっ付くような薬でもって薬の効果や 力価の基準を作るとか、とてもそこまで痛みはいっていないことになるのでしょうか ね。   ○柴田委員   痛みという言葉で括れるさまざまな病態があるので、その病態をいろいろな分子レ ベルで、レセプターとか物で括る部分と、やはり人が痛いと言っているわけですから、 そういう精神科疾患的な切り方もあれば、その環境因子的な疾病利得とか、そのよう な切り方もあって、痛みに関しては切る軸がいっぱいあるわけです。ですから、それ を上手に切らないと、患者さんは、何か場違いな方向に連れていかれるということに なってしまいます。    ○葛原座長   あと、痛みを慢性化させない取組みについて事務局のほうでまとめてくれているの ですが、これも、メディカルな処置で慢性化させない、先ほど竹内先生がおっしゃっ たような、救命も後遺症も早く良くするということもありましょうし、先ほど牛田先 生がおっしゃったような、説明の仕方で慢性化させてしまうようなものをどう防ぐか ということもあるので、慢性化させないと言っても、範囲はかなり広いのです。牛田 先生がおっしゃったようなことは、むしろ教育とか啓発運動とかで、説明の仕方をこ ういう具合にすべきだという教育でもって、ある程度は防げるかもしれないですね。   ○柴田委員   考え方として、痛みがあれば何々してもらう、治してもらうというような考え方を どうしても、すべての人が持っていると思うのです。私も医者でなかったら、多分そ うだったと思うのです。しかしながら、この痛みの問題は、がんの痛みであるとか神 経障害性疼痛の大部分のものなどは、何か痛みの軽減でいいと思うのですが、中には やはり、ご自身も痛みの軽減ないしは痛みによって障害された活動の改善に責任を持っ ていただくような、そのような医療者の対応もやはり不可欠だと思うのです。軽減だけ では限界のある患者さんもおられるのは事実だと思います。   ○葛原座長   私なども神経内科が専門ですから、根治する病気はほとんどないので、症状や苦痛 を軽くすればいいと。あとは、病気との平和共存をどうしていただくかということを 納得していただくと、ADL,QOLとも結構良くなる方もいらっしゃるのです。ですから、 私などは、いま、この病気との平和共存教育を外来でやっている状況ですが、治らな いものは治らないのだということを理解し、納得していただくということです。「何 で私だけが」とよくおっしゃるのですが、「確率の問題です」と答えて説明していの です。そういう種類の教育も、日本人にはもう少しドライに考えていただく必要はあ るかもしれないです。  ということで対策は、そういう形のことを調査研究と言っても、こういう生物学的 なこと、あるいは医学的なことと疫学的なこと、あるいはもう少し現場での対応とか 手技的なこと、いくつかあると思いますので、その辺をもう1回整理し直したいと思 います。  最後は、あと5分ぐらいで、いちばん上の「『痛み』を対象とした医療と体制の確立 」ということで、医療体制、教育、QOLです。QOLがものすごく障害されて、命に関わ らなくても仕事ができないという方がたくさんいらっしゃるので、これは調査するか しないかは別として、これはもう自明の理で、今日皆さんに集まっていただいている のも厚労省がこれを認識したかということですから、それでいいと思います。また、 教育のことも、大体先ほどから出ているのですが、1つは、宮岡先生がおっしゃったよ うな、医学教育の中に少しこういう痛みということのアプローチをきちんと入れて いただく必要があります。これは自覚症状の中では非常に多いものだと思いますので、 例えば文科省あるいは全国医学部長会議など、教育のコアカリキュラムの中に、1コマ でも2コマでもこういうことを入れてくれと提言はできるのではないかと思います。  教育というのは、医学教育とか、あるいは看護師さんとか保健教育、あるいは、広 い意味では国民に対する教育も、こういう慢性疾患については昔の急性疾患とは違う ということも含めて必要なのだと。ですから、医療的な教育だけではなくて、こうい う保健衛生、あるいは医学教育の中にもそういうことを入れていただくことが必要で はないかと思います。  医療体制に関しては、問題点はいろいろ出ているのですが、こうやったら解決する というものが今ひとつなのです。痛みセンターに関して、この前、順天堂大学や愛知 医大のご経験なども話していただきましたが、これはどうなのでしょうか。厚労省と しては、痛みセンターをいろいろな所につくるということで、何かサポートでもする ような方向は考えていらっしゃるのでしょうか。あまりそこまではいっていないです か。 ○渡辺課長補佐   そこは全く白紙です。   ○葛原座長   こういうところで、やはり個々の診療科に任せずに、こういうものを作ったほうが いいというような形になれば、またそれなりのリアクションは何かしていただけると いうことになるのでしょうか。昔、総合診療部というのがいろいろなところに出来た ときには、痛みからプライマリーケアとか、いろいろなものが集まったのですが、大 学などを見ていると、最近、総合診療部は何か縮小傾向のような感じもありますよね 。ですから、漠然としたものだけではなかなか続かないということもあるのかもしれ ないので、痛みセンターのような形が見えるものをつくっていくという方向性もある と思います。今後の討議の中で総合的に、患者さんは、まず専門家のほうか、あるい は一般医に来ていただいて振り分けていくほうがいいのか、それとも、痛みセンター のようなところが最初のトリアージのほうを受け持つのか、それとも痛みセンターは 難渋したものを受け持つ方がよいのか。きっと痛みセンターは、両方なのでしょうか。 牛田先生、やっていらっしゃったご経験からいかがですか。   ○牛田委員   基本的には、私たちのところは、整形外科から送られてきたり、麻酔科から送られ てきたり、あるいは難渋ケースが多いです。ただ、基本的なスタンスは、私自身も整 形のカンファレンスにも出るようにしますし、自分たち自身が麻酔科とか脳神経外科 などと一緒に横のつながりをつくっていくところの核になっていかないといけないと 思っています。もちろん、いちばん最初に全部のものを総合診療部のように請け負う ということになると、人数的にもなかなか難しいでしょうし、そのような人材を育成 するシステムが出来るところまではまだまだ来ていないと考えております。   ○葛原座長   ということで。どうぞ。   ○内田委員   治療、痛みセンター、それから、2番目の「正しい情報の提供」という所にも少し関 係すると思うのです。例えば、患者さんではなくて一般の国民に対して情報提供をす るというのは、ほとんど効果が期待できないと思うのです。多くの情報を求めている方 は何らかの痛みに悩まされている方だと思いますので、情報センターあるいは相談セン ターのようなものを設置するという方向性は、厚労省が取り組む事業としては非常に意 義があるのではないかと思います。もう1つは、ドクターに対しても対応を相談できる ようなシステムがあればいいと思います。まさに痛みセンターのようなところの役割が 非常に大きいと思います。そういう考え方はどうでしょうか。   ○葛原座長   年金相談の電話みたいなあんな感じではないですが、何でもとにかく対応してくれる と、どうしたらいいかを。そういう感じになるのでしょうか、電話だけですので。   ○戸山委員   せっかくこういう形で痛みというようなものを厚労省のほうも取り上げるというこ とになると、私はやはり、アメリカの痛みの10年を真似しろとは言いませんが、何か 大きなアドバルーンというか、キャッチフレーズが、医療側にも患者さん側にも国民 にも見せられるようなものを何かお考えいただいて出したほうが、メッセージとして はいいと思うのです。   ○葛原座長   たぶん、ここで最後に4月か6月ぐらいにまとめるときにそういうものを出せという 形で言えば、今日は疾病対策課の難波課長も来ていらっしゃいますが、では、そうい うことも必要かなということもお考えいただくかもしれませんので、その辺も含めて 。 本当に痛いと何もできなくなるというのは、私なども歯が痛んだときなどを見る と、毎日が暗い気分になりますから、みんな、困っていらっしゃるというのは確かだ と思いますので、それを現実的に解決できるような施策を1つでも2つでもやっていっ て、また日本の医療のレベルもよくなりますし、無駄なお薬とか処置が減るというよ うなことになれば、医療経済にもいいでしょうし、国民の健康にもいいと、あるいは 産業構造にもいい影響があろうかと思います。団塊の世代にこういうことで患者さん が増えるというのは日本の大問題ですから、そういうことも含めると、本腰を入れて 取り組んでいただいても決して損なことではないという具合に思います。 ○宮岡委員   先ほど牛田先生がおっしゃったように、痛みが極端に慢性化してからセンターなど が対応するとなると、患者さんの数がとんでもないことになります。私は、慢性の痛 みの初期はいつかと言ったら非常に難しいですが、できるだけ早い時期にアクセスす るようなところをつくってほしいと考えます、医者も患者も。とにかく初期対応がも のすごく大事なような気がするのです。ですからいまお話があったような、例えば電 話での相談センターでもいいですが、何かとにかく早く対応できれば、その後の治療 の混乱はだいぶ防げるというような感じします。そのあたりは是非、この会合の視点 に入れてほしいという気がします。   ○内山委員   いままでに出てきたところで、コミュニケーション、理解、連携を実現し、包括的 に早期に対応するという意味では、やはり共通の評価表のようなものを作成する必要 がると思います。各専門領域においては、すでにそれぞれ特異的なものがあるかと思 いますので。 いままで議論に出てきたのは、順位に優劣はないのですが、器質・身 体機能を1つの軸、2番目にはメンタル、3番目には、対象者自身の受け止めと理解、 4番目には動作や生活の支障度、5番目にはその環境因子というようなところで評価表 を構成していけば、各専門家は自分で埋められない所はコンサルトすることにもなる と思います。また、対象者自身も、そういうレーダーチャートみたいなものが出来た ら、ご自身の理解が進みます。対象者によって、この人の全体の痛みは器質的な対応 をすることによって解決しやすいものかもしれませんし、逆に、ほかの軸のところが 大きいかもしれないとなったら、次の専門的な治療や手段に流れていくというような ものが出来るのではないかなと思いました。 ○柴田委員   同じです。   ○葛原座長   わかりました。では、今日議論していただくところは、要するに、問題点を出して いただいて、次の会のときまでにどういうことを整理しておけばいいかということで 、大体これで出していただいたのと、12時の時間にもうあと一歩ということになりま したので、そろそろこれでまとめたいと思います、繰返しになりますから。これ、ど うせ記録を取っていらっしゃるわけですね。 それから、日本の保険医療などの問題 点、実際に有効な薬が使えないというようなものも、実は日本の国民皆保険の当然派 生してくることなのです。それから、いま、きちんとした医療をすれば、全部病院持 ちで、全部持出しで一銭も保険点数にはならないというのも現実ですから、そこもや はり解決していただかないとなかなか、一般医にこんなことをやれというのは無理だ ということにもなるかもしれませんし。  ただ、1つだけ救いなのは、最近、私はまた薬の副作用不服審査というのもやってい るのですが、例えば先ほどあった抗けいれん薬のガバペンチンのような薬などで何か 副作用が出たケースでは、欧米では1つの標準医療になっているから、副作用に関して は保険の適用でないけれども救済の対策に含めるという、1つの基準が出ていました. やはり現実の医療制度の中でも救い道は、厚労省のほうでも考えてくれているところ もあると思います。そんなことも含めて、今日の議論いただいたことでいろいろなこ とをご提言いただいたと思うのですが、その中で、次の会ぐらいでそれなりの結論を 出して、例えば、次の委員会で検討してもらうもの、調査研究班のようなものを立ち 上げたほうがいいこと、マニュアルや評価表を作るような研究班などについて、事務 局のほうで相談して整理したうえで,次の会に臨みたいと思います。  それから、もしその中で、先生方にこういうことで資料をお願いしたいというよう なことがありましたら、また、事務局のほうを通じてお願いすることがあるかもしれ ません。ということで、今日は大体これで終わりにしようと思うのですが、何か最後 に発言しておきたいということがございましたらお願いしたいのですが、竹内先生、 こんなところでよろしいですか。 ○竹内委員   私も評価が非常に重要だと思います。先ほど内山先生からご提言いただいたような 内容の評価を是非広めていっていただければと思います。   ○葛原座長   もしかしたら、先ほどのような参考資料もいいものがあれば、資料としていただき たいとお願いするかもしれませんが、そのときは、よろしくお願いします。それでは 事務局のほうからお願いします。   ○渡辺課長補佐   委員の先生方、本当に長時間にわたりまして活発なご議論をありがとうございまし た。痛みの話をするのは本当に興味深いのですが、事務局としても、できるだけ整理 して今後どういった対策が必要なのかということを、あと1、2回でまとめていきたい と考えておりまして、3回目の開催に向けて、先ほど座長からお話があったように、 各委員の先生方にいろいろお願いすることも出てくるかと思いますが、その節はご協 力をよろしくお願いいたします。今回の議事録についても、また先生方に確認させて いただいた上でホームページ上に公開したいと考えております。  次回の日程につきましては、私の今の頭の中では4月か5月か、その辺になるかなと 思っているのですが、そこについても、後日、先生方に日程調整の連絡をさせていた だきますので、よろしくお願いいたします。今日は長時間にわたりましてありがとう ございました。 ○葛原座長   どうもありがとうございました。 【照会先】  厚生労働省健康局疾病対策課  代表 : 03(5253)1111  内線 : 2354