09/11/29 医薬品の安全対策等における医療関係データベースの活用方策に関する懇談会〜勉強会〜 医薬品の安全対策等における医療関係データベースの活用方策に関する懇談会〜勉強会〜          日時 平成21年11月19日(木)          18:00〜20:00          場所 厚生労働省共用第8会議室(6階) ○安全対策課長補佐 定刻になりましたので、医薬品の安全対策等における医療関係データ ベースの活用方策に関する懇談会の勉強会を開催いたします。本日の懇談会は公開で行うこ ととしておりますが、カメラ撮りは議事に入る前までとさせていただいておりますので、マ スコミ関係者の方々におかれましては、ご理解とご協力のほど、よろしくお願いします。ま た、傍聴者は、傍聴に際しての留意事項、例えば「静粛を旨とし喧噪にわたる行為はしない こと」「座長及び座長の命をうけた事務局職員の指示にしたがうこと」などの厳守をお願い いたします。  本日の議題に関係する専門家としまして、ハーバード大学のDr.Chanにご出席いただい ております。  これより議事に入りますので、カメラ撮りはここまでとさせていただきます。よろしくお 願いいたします。 ○座長(永井) まず事務局から、本日の配付資料のご確認をお願いします。 ○安全対策課長補佐 本日お配りしました資料ですが、まず最初に「座席表」がありまして、 次に「議事次第」の1枚紙、次が「配付資料一覧」、そして、「開催要綱」「構成員名簿」、 資料1としまして、本日のDr.Chanのプレゼンテーション資料、最後に参考資料としまして、 “Striking the right balance between privacy and public good”、プライバシーと公益 に関する資料、英文ですが、これを資料としてお付けいたしました。 ○座長 ありがとうございます。では議題に入ります。最初にDr.Chanにプレゼンテーシ ョンをしていただきまして、そのあとで質疑応答に移りたいと思います。本日は通訳が付い ておりますので、プレゼンテーション及び質疑応答は、通訳を介して行います。発言の場合 には日本語でお願いいたしまして、Dr.Chanには、通訳が英語でお伝えするという形をと りたいと思います。それでは、お願いできますでしょうか。 ○Dr.Chan 本日は、座長の先生にはご紹介いただきまして、ありがとうございました。こ ちらにご招待をいただきまして光栄です。本日、専門家の懇談会のメンバーの方々に対して この発表をする機会を与えられたことを光栄に思っておりまして、是非、皆様からのコメン トを頂戴したいと思います。  アメリカにおきましては、特に医薬品関連の仕事をしている人物は必ずこの利益相反の宣 言をしなくてはいけませんので、自己紹介を兼ねて、それをこのスライドにまとめさせてい ただきました。皆様も新聞でご承知とは思いますが、ハーバード・メディカル・スクールの 教授なども、公的にあるいは私的にいろいろと資金の提供を受けているということなどがよ く知られていると思いますので、このような宣言もしなくてはなりません。大学のほうから も、厳しくこの利益相反についてのお断りをするように言われています。  まず、ハーバード公衆衛生大学院の準教授として勤務しています。また、i3 Drug Safety という民間企業でもパートタイムで働いています。本の編集をしておりますが、ロイヤリテ ィは受け取っておりません。また、私の今までのキャリアとして、私は自分自身をパブリッ クヘルス、公衆衛生に携わる者として考えています。もちろん賃金をもらわなければ家族は 養えませんので、賃金はいただいております。しかし、公衆衛生が私の人生の情熱です。 20年以上前に医学部を卒業しました。したがって、医師の資格は持っておりますが、20年 間、ずっと公衆衛生の仕事をしてきました。  いままで長々と自己紹介をしてきたのは、今日のお話のさわりとしてです。そして、今日 のお話は、大規模なデータソースをいかにして使っていくかということです。そして、その 使用の目的は公衆衛生です。データベースはいろいろな用途で用いられます。例えば製薬企 業では営業マーケティングのために使いますし、また、大学関係者、研究所の研究員は、自 分たちのキャリアのために論文を書くのにデータベースを用います。しかし、我々の研究は、 そのような目的でのデータの使用ではありません。これから、いくつか、それらの使用方法 について例を挙げてお話します。即ち、公衆衛生、また、パブリックヘルスの向上のために いかにしてデータベースを活用するかという例をお話したいと思います。それらの研究の中 にはFDAが資金を出しているものもあります。今日のお話の2番目のトピックとして、生 命医学の研究における倫理の原則についてもお話します。私はアジア人です。しかし、欧米 で教育を受けました。したがって、このような背景を持つ人間として、やはり倫理はかなり 進化したお話が必要だと思います。次に、他国における医療データベースの利用についても お話したいと思います。そして、結論として私見を述べて終わりにしたいと思います。  私が関与した発表論文の1つの例をここに挙げています。先ほども利益相反の宣言をいた しました。そこで、ここでも資金を提供している企業を明らかにする必要があります。この 研究の資金を出しているのは製薬企業です。このメーカーが生産している製品がexenatide という医薬品です。ただ、この論文を引きましたのは、別にこの薬剤が安全であるかどうか ということではありませんし、本当に安全かどうかも、私自身、知りません。その安全性は あくまでも規制当局が決めるべきものだと思っています。この例は、データソースをいかに して効率的に利用するかという例として挙げています。即ち、公衆衛生の疑問点に答える上 でどのようにデータソースを利用したかということです。  このexenatideは、米国において2006年ぐらいに承認されました。糖尿病薬です。とこ ろが、承認されてしばらくして、急性膵炎のレポートがありました。したがって、この研究 の目的は、この薬剤の利用によって急性膵炎のリスクが上昇するか否かを見極めることにあ りました。そして、その当時、この製薬企業でも、「アクティブ」と呼ばれるサーベイラン スシステムを導入したときでした。この「アクティブなサーベイランスシステム」は、レセ プトの情報を基にしていました。そして、このシステムについての論文については、1年ぐ らい前に私が書いています。久保田先生が招聘されましたので、日本でも紹介しています。 東大でこの発表をいたしました。また、PMDAに対しても、このシステムについての紹介 をさせていただきました。  即ち、今までは、安全性情報は自発的な報告を頼りにしていましたが、そうではないとい う意味で、「アクティブなサーベイランスシステム」と呼んでいます。即ち、この会社は、 米国中で出ている新薬のデータを使ってサーベイランスをするというシステムを作成した わけです。即ち、この「アクティブなサーベイランスシステム」を利用することによって、 実際に急性膵炎の自発報告が出る前にそのリスクについての評価を可能にします。このよう なことができるという意味で、データを積極的に利用するという意味で「アクティブなシス テム」と呼んでいます。もちろん、研究は実際に行わなければなりません。しかしながら、 このような「アクティブなサーベイランスシステム」があるということで、実際にこのよう な研究を行うに当たっても安全性データをより効率的に取ることができます。つまり、この システムを持っているが故にこの会社は、我々のところに来て、「もうデータはありますか ら是非研究を」と言ってきたわけです。そして、実際に我々が評価する上で、アウトカムの 一部として急性膵炎を入れておりました。つまり、安全性が確保されたということをこの論 文で言おうとしているわけではありません。つまり、メーカー側ではほかの研究を行ってお りまして、その経過についてはこの論文ではなくて、近い将来、公表される論文になります。 つまり、私がこの論文をまず最初に引用しようと思いましたのは、データを効率的に利用す ることが可能であるという例を示したかったからです。しかも、重要な公衆衛生上の問題に 答えるためにそのデータを効率的に利用することが可能であるシステムがあるかもしれな いということです。  こちらは、現在進行中の研究です。ですから、結果は何もありません、まだ出ていません。 こちらの研究については、FDAが資金を出しています。即ち、あるクラスの薬剤について の懸念事項に答えるためにこのファンドを出しました。つまり、このような問題であると、 単一の製薬メーカーだけでは安全性の評価がしきれないと思ったからです。つまり、メーカ ーでありますと、自分のところで出している製品の調査だけを行うからです。つまり、この FDAが資金を出している研究では、ある疾病の治療に用いられるすべての薬剤の中での1 つのクラスの中のすべての薬剤を評価したいと思ったわけです。いままで、このクラスの薬 剤の研究としては、最大規模かつ最も複雑な研究になります。来年の初頭にはこの研究が終 了する予定です。そして、その結論が出れば、この薬剤のクラスについての強力なデータと なると考えられています。また、このクラスの薬剤は、米国の特に小児に用いられることが 多いので、これも非常に重要な公衆衛生上の疑問を解明するための研究と言えます。  別の研究です。FDAが資金を出しています。この研究は、セリバスタチンの市場撤退後 に行われました。そして、この研究の契機となりましたのは、かなり多くの安全性自発報告 が出たからです。そして、FDAでは、この脂質低下薬が契機となっていると考えられる非 常に重篤となり得る有害事象の特徴を見極めたいと考えました。そこでFDAは、ヘルスケ アのデータベース、11のデータベースからデータを取りました。そして、この11のデータ ベースから取ったデータを基に横紋筋融解症の発症率を推定したのです。  FDAの資金を出したもう1つの研究です。ここでも、特徴として大規模なデータベース を利用しています。この前まで3つの研究についてご紹介しましたが、これらはすべて、医 薬品の安全性についての論文でした。例えば、急性膵炎等の有害事象です。次が心臓血管系 の有害事象。そして、横紋筋融解症という有害事象でした。ところが、今回ご紹介している 研究の目的は医薬品の安全性ではありません。実際にこの研究の目的は、リスク・コミュニ ケーションの効果を調べることです。  さて、医薬品についてのリスク・コミュニケーションに使う規制機関の手段は添付文書で す。また、ディア・ドクター・レターも、米国の規制当局ではリスク・コミュニケーション のツールとして使っています。即ち、この研究では、それらについて大規模なデータベース を使って評価しました。つまり、cisaprideについての添付文書、また、ディア・ドクター・ レターがどれぐらいの効果を持っているかどうかということを評価するのがこの研究の目 的でした。そのために大規模なデータベースを使ったのです。このcisaprideはddIが非常 に多くありまして、その結果として不整脈を引き起こすことがありました。このような有害 事象を避けるためにメーカー側では、添付文書あるいはラベリングを変更し、それとともに、 ディア・ドクター・レターも送りました。このような手段が実際に功を奏したかどうかとい うことを調べるのがこの研究の目的でした。そして、その結果、残念ながら、効果はなしで した。  ここで使ったデータは異なるデータベースです。即ち、添付文書、ラベリングでcisapride の禁忌条項について新しいやり方でリスク・コミュニケーションをしたわけなのです。薄い 棒グラフのほうは、このようなリスク・コミュニケーションをする前の状態です。そして、 黒い棒グラフのほうは、実際に新しいアクション、禁忌のアクションをとったあとに、実際 に禁忌であったにもかかわらずこの薬が処方されてしまった割合を示しています。つまり、 このブラックボックスとかディア・ドクター・レターの禁忌のリスク・コミュニケーション が効いていれば、この黒い棒のほうは、薄い棒よりもずっと低い値であるはずです。しかし ながら、このデータで見られるように、実質的な差はほとんどありませんでした。  さて、いままでご紹介してきた論文、また、その例ですが、特定の目的を持って行われた 研究です。また、使われた方法も、伝統的な医学研究に使われる手法を使って行われた研究 でした。しかしながら、現在、利用可能なデータベースを使えば、ほかのことも可能です。 そこで次の論文に移ります。  この論文、また、次のスライドにある論文は、どちらかと言うと、方法論を開発するため の研究と言っていいと思います。つまり、いままでの通常のやり方で研究を行うときにデー タベースを利用するやり方ではないやり方です。即ち、データベースをサーベイランスに利 用するその新しい方法を探った研究です。  まずサーベイランスという概念ですが、これは、公衆衛生の面では非常に深いルーツを持 っています。つまり、そもそもデータベースそのものが公衆衛生に応用するのに非常に適し ている所以です。2年前に発表された論文の頁をここに示しておりますが、これは、統計手 法であるsequential testing methods(逐次検定法)を用いることによって有害事象をモニ ターしようとしたものです。また、FDAのほうで、最近レポートを出しています。数日前 に久保田先生がレビューされたものです。このレポートの中でも、sequential testing法に ついて、FDAがよい方法であると言っています。  それでは、医薬品からちょっと離れまして、今度はワクチン、しかも、安全性のサーベイ ランスについての論文をお見せします。FDAが資金を出した研究です。FDAは、現在もこ れと同じ方法でサーベイランスを行っています。つまり、H1N1のインフルエンザワクチン についての安全性サーベイランスは、現在、FDAとして、この方法を用いています。紙で の論文はありませんが、オンラインで入手可能です。  おそらく皆様、多くの方も、米国で現在進行中のThe Sentinel Initiativeはご承知だと思 います。FDA修正法(FDA Amendment Act)の結果として、このInitiativeが生まれまし た。このレポートは、2008年5月に出されました。このように公表は早かったのですが、 その後の政治的な理由によりまして、現在、このInitiativeは、迅速に実行されているとは 言えません。  この前のスライドでご紹介したSentinel Initiativeレポートの中から取った図です。この Initiativeが実行された暁にはどのような流れ、どのような組織で行うか、という概念を示 しています。いちばん下にデータソースがありまして、それぞれのデータベースはデータオ ーナーが所有しています。  データオーナーとしては、例えば保険会社もあると思います。あるいは、連邦の官庁であ る場合もあります。例えば、軍の医療制度がオーナーである場合もあると思います。また、 Veterans Administrationもオーナーかもしれません。VAも軍のシステムも、非常に大規 模なEHRを持っています。また、連邦の保険であるメディケア、メディケードがデータオ ーナーである場合もあると思います。このSentinel Initiativeでは、しかしながら、これら の多くのデータベースを1つの一本化した形でスーパーのデータベースを作ろうという試 みではありません。そうではなくて、ITを利用してこれらのデータの利用法を考えます。 先ほど、前の2つのスライドで現在の「アクティブなサーベイランスシステム」についてご 紹介しましたが、それらに利用するようなITの利用方法、そして、データの利用法を実行 していくのがこのInitiativeです。  このペーパーのシニア・オーサーがMark McClellanです。FDAの長官であった方です。 また、ファースト・オーサーのRichard Platt先生は、ハーバード・メディカル・スクール の教授です。ただ、このように経歴はそうなのですが、連邦政府の人間としてではなく、プ ライベートの研究者としてこの研究に参加しました。Dr. McClellanは、長官としてブッシ ュに仕えましたが、オバマ政権では働いていません。つまり、あくまでもこのような私個人 としてのこれらの研究者が、Sentinel Initiativeはどのような形で実行されるべきか、また は実行されるであろうということをこの論文で述べているわけです。したがって、これはそ この研究者の意見であって、最終決定をするのはFDAです。  さて、今までのところ、お話してまいりましたのは、非常に最近までいかにしてデータを 作成しようとしてきたか、そして、どのようにして研究を行ってきたかということについて でした。先週の木曜、金曜のことですが、ワシントンD.C.で会合が開かれました。その話 合いは、Sentinel Initiativeをサポートするためのデータはどのように作成しようかという ことについてでした。この会合でPMDAの遠藤さんが発表されています。つまり、この Sentinel Initiativeについては、現在進行中ということで、非常にエキサイティングな、有 望なInitiativeであると考えています。  ということで、次にお話したいのが私の好きなトピックです。公衆衛生の研究にデータベ ースを利用する際に、いかにそれを利用するかという点です。私もハーバードの公衆衛生大 学院でデータベースを公衆衛生のリサーチにどのように利用するかというクラスを教えて いたことがあります。そして、そのクラスでは、全体の大体10から15%の時間はここに挙 げたようなトピックを話さなければいけないということになっていました。そこで、米国で はこのトピックについてどのように考えているかをご紹介します。  あくまでもアメリカの視点ということですが、3つぐらい強調したいことがあります。ま ず、倫理として、人を利用するような研究における一般的な倫理の原則として重要なのは、 人としての自律性、自主性を尊重することです。また2番目は、「常に善をなせ」「有益であ ることを目指せ」ということです。あるいは、欧米でよく言われているような「害をなして はいけない」と。次の3番目の倫理の原則は、公正であることです。つまり、参加する者、 そして、その研究を行う者自身も、その研究に参加することから益を得るべきであるという ことです。いま申し上げた3つの大原則に基づいて、さまざまな法律あるいはガイドライン が作成されています。もちろん、治験に関するガイドラインについては皆さんのほうがよく ご存じではないでしょうか。GCPがそれに当たります。また、それに関連しての規制、あ るいは、いろいろな実施上のルールがあります。しかし、このような介入試験だけではなく て、観察研究と呼ばれる種類の研究に対しても同じ倫理の原則が当てはまります。観察研究 と呼ばれる種類の研究ですと、一次データを収集するということがあります。あるいは、主 として二次データを利用することによってリサーチを行うというような観察研究もありま す。つまり、この2つの種類、即ち、治験と観察研究の2つの種類の研究方法ですが、これ らを行う際の倫理の原則は同じです。しかしながら、その倫理をいかにして担保するかとい う点については全く違います。私はヒューマン・サブジェクト・コミッティの委員でもあり ますが、長年の間、保健関係でこのヒューマン・サブジェクト・コミッティの仕事をしてき ました。そして、GCPと観察研究の間では、その実施のやり方がかなり違います。  つまり、原則は同じでも、研究のタイプが違うと、倫理を担保するためのいろいろな考慮 すべき点も違ってきます。また、欧米では、人に関わる試験、研究だけではなく、動物を使 った試験についてもこの倫理観が問われています。したがって、ハーバードでも、研究を行 う際にはそれを気にしなければなりません。実際に実験動物が飼育されている場所などは、 非常に厳しいセキュリティが敷かれています。そうでないと、動物愛護協会の活動家が侵入 して動物を逃がすとか、そういうことをするからです。ただ、これはデータベースと何の関 わりもないので、割愛します。  さて、研究のタイプが治験である場合、その場合に自主性を尊重しなければいけないとい う倫理の基準ですが、これは同意説明文書が当たります。そして、同じ倫理の原則、即ち、 自主性が、今度は研究のタイプが変わって観察研究になりますと、データベースの利用につ いてということになりますので、その場合には、認可というか、許されている人だけがその データにアクセスすることができるというオーソライゼーションが言葉として使われるこ とになります。また、最後に指摘したい点として、やはり倫理について述べる際には必ず文 化的な側面もあるのではないかと考えています。例えば、東というか、アジアの文化ですと、 公益を重視するということが文化的な側面だと思います。それに対して米国の文化ですと、 個人を重視するという建前です。  皆様のお手元の資料に『Lancet』の2006年に発表されたエディトリアルがコピーとして 入っていると思います。非常に素晴らしい論文です。ここの文章をまとめて言いますと、要 は、医学研究という公益に対してプライバシーがある、その2つの間の正しいバランスをと るべきである、ということをこのエディトリアルは言っています。つまり、先ほど倫理の基 準として3つの原則があると申し上げましたが、そのバランスをとるということは、即ち、 自主性と有益性の間のバランスです。そして、重要なのは、この2つの間に正しいバランス をとるということです。この倫理の3番目の基準が公正さでした。これからはデータベース の利用についてさらに向上させていかなければならないということはあるわけですが、その 理由として、この公正さが挙げられます。即ち、すべての人に有益であるという公正さを維 持することができるようなデータベースの利用が不可欠です。例えば、exenatideが急性膵 炎のリスクを上げるかどうかということを知りたい場合なども1つの例として挙げられま す。そして、その結果がわかれば、すべての人に有益となります。  『Lancet』の先ほど申し上げたエディトリアルの背景をここに挙げています。この背景 となったレポートは、Academy of Medical Scienceが出しました。英国でAcademy of Medical Scienceと言えば、非常に高い評判を持っている組織なのですが、このAcademy of Medical Scienceの出した報告が「公益のための個人データ」、“Personal data for Public good”と呼ばれたタイトルが付いています。そして、このレポートでは、ここに1から5 まである勧告を推奨しています。これは、このレポートから取ったものなので割愛したいと 思いますが、最後の点だけが重要だと思います。つまり、我々は、民主国家に居住する者と して、必ず意思決定に国民を参加させなければいけないという点です。  さて、そこまで話してきましたが、ほかの国の例をご紹介します。データベースのシステ ムという点から言えば、何と言っても、北欧の諸国が世界で最も優れたデータベースを持っ ています。即ち、国民がそれぞれ、IDとリンクすることによってわかるようなポピュレー ション・ベースのレジストリーを多く備えています。また、これらの北欧諸国では国民のコ ンセンサスが出来ていて、データベースは公益に利するものであると考えられています。例 えば、『Science』がこの報告を2003年に掲載しています。つまり、デンマークではデータ ベースを利用して公衆衛生の問題に対処しようとした、ということをここで報告しています。 昨年のことでしたが、今回お集まりの先生方の中にもこの学会に参加された方はいらっしゃ ると思います。つまり、その講演者はデンマークの疫学者で、いかにデータベースが科学的 な研究に資したかということを報告されました。同じ会議、昨年の会議ではシンポジウムも ありました。5カ国からの参加者がこの報告をしています。フィンランド、デンマーク、ノ ルウェー、スウェーデン、アイスランドです。アメリカ人はこの5カ国をスカンジナビア諸 国と呼んでいますが、彼らは自分自身をNordic Countriesと呼んでいますが、その5カ国 が集まってコーホートとしての報告をしています。つまり、このNordic Countriesの5カ 国が協力してデータベースを利用して公衆衛生の研究ができるというところです。WHOの オブザーブメトリックセンターのシグナルとして使われています。この筋萎縮性側索硬化症、 ALSとスタチンの関わりについての分析でした。つまり、各国がそれぞれ持っているデー タベースを利用することによって迅速にラピッド・レスポンスの解析ができる、というとこ ろを報告したわけです。  次にアメリカの例です。時間をかけるつもりはありません。その理由は、アメリカは、デ ータベースの利用という点で世界で最も優れているとは言えないからです。その中で米国で データベースを使ったリサーチをする場合には、関連したトピックが3つ挙げられます。ま ず自主性を重んじるというプライバシーの問題、次は機密性、最後にITの技術関連で、デ ータ・セキュリティがあります。  アメリカには関連法として2法ありまして、HIPAAが1つです。研究目的でデータベー スを利用する上で、治験担当医に法的な根拠を提供しています。2番目の法律ですが、非常 に変わった名前で、“American Recovery and Reinvestment Act”と呼ばれています。実際 には金融危機を契機に作られた法律です。つまり、米国政府自身が経済活動の中でいろいろ なセクターに投資をしていたわけです。そして、この法律の下で、今後、Eの医療協力に対 してもっと資金を出そうということでこの法が出来ました。ただ、このような電子的な記録 には非常に高いセキュリティの基準が必要になります。そこで、この法ではさまざまなIT のセキュリティの基準を定めています。例えばこのようなドライブですと、暗号化しなけれ ばいけないとか、そういう基準が定められています。タクシーでホテルに行く間に機密情報 が漏れないようにということです。  ここに示しておりますのは、それでは、一般国民はどのような見方を持っているのか、と いうことです。まず、“U.S.Consumer Reports”の論文を1つ挙げました。一般消費者を 代表するものと考えられているのがこの“U.S.Consumer Reports”です。そして、この “U.S.Consumer Reports”では、独立した立場で大規模データベースは利用価値があると 言っています。  ただ、条件としては適切なセーフガードがとれていること。そうすればこれらの大規模な 医療データベースは公衆衛生の面で益になるという意見です。  HIPAAについては数年前から実施されています。ただ、HIPAAのプライバシールールは ベースのシステムとは考えられていません。そこでここに私がいま持っていますが、 Institute of Medicineが、このHIPAAのプライバシールールについて、このようなレポー トを出しました。つまり、HIPAAは欠陥があるということを示唆しており、改善方法を提 案しています。  それでは、最後の2枚のスライドになりました。ちょっと挑戦的な言葉ですがご紹介しま す。データベースを使おうと思う場合に、よく陥りがちな間違いがあります。それはデータ の質です。つまり、データベースには完璧なデータを入れるべきだという考え方があります。 そこで、それは間違っているということを示すためにアメリカでよく言われている言葉をこ こに挙げました。  赤ちゃんを風呂桶で洗ってあげます。そして、そのあとお風呂の水(お湯)が汚れたので 捨てようと思います。ただ、そのときに「赤ちゃんも一緒に流しては駄目よ」とよく言われ ています。もちろんデータベースにはあまり質の良くない悪いデータも入っています。つま り、GCPの治験に求められるようなデータの質になることはあり得ません。  したがって、データベースを利用するときに重要なのは、いいデータと悪いデータを見極 めて、その2つの間を区別して良いデータだけを引き出して使うということです。つまり、 データベースに悪いデータが入っていたとしても、それを捨てるのは馬鹿げている。やはり データベースは宝の山であるという考え方です。ただ、きちんと使おうと思っても、FDA であったとしても、なかなかうまく使いこなすことはできていません。というのも、当局と してはGCPの概念に非常に強い影響を受けているからです。  そこでそのラインに沿ってVandenbroucke教授の言葉を引きたいと思います。オランダ のライデン大学の教授です。彼はこのような疑問を投げかけています。「安全性の研究にお いてエビデンスにはどのような階層があるのか」ということです。有効性の研究については、 我々は治験がこのエビデンスのトップにくると認めます。そして、それは認めるわけですが、 しかし、Vandenbroucke教授は安全性の研究では、そうではないのではないかと言ってい ます。その辺にしておきます。  ここに挙げたのが私の最後のスライドで、私なりの倫理の原則を実施する上での私見を述 べたものです。読み上げませんが、これで最後となります。皆様ご清聴ありがとうございま した。 ○座長 質問に移りたいと思いますが、いかがでしょうか。私からお聞きします。「ヘルシ ンキ宣言」に「Well-being of the subject must take precedence over other interests」と いう言葉があると思います。そのことをどのように考えたらいいのか。つまり、研究の被験 者になるということで個人情報を利用される立場の人は、公衆の利益よりももっと配慮され なければならないというのがヘルシンキ宣言にもありますが、日本では、それがかなり個人 情報を使う制限の1つの根拠になっています。それについてアメリカではどのように考えら れていますか。 ○Dr.Chan それでは、15のスライドをもう一回お見せしますが、よろしいですか。まず、 個人の権利については自主性を重んじる、尊重することが基本となっています。そして、そ の原則を担保するために治験においては、同意説明文書をとらなければなりません。つまり、 いままでまだ確認されていないような効果を持っている薬剤で治療されるわけです。そして、 その予期されない効果が患者さんに起こった場合には、患者さんが身体的に害を受けるわけ です。しかし、データベース・リサーチの場合には、このような身体的な、あるいは物理的 な害を及ぼすことはありません。ただ、害がないわけではなく、20枚目のスライドにそれ を挙げています。  つまり、ここにあるように金銭的、社会的な差別といった心理的、社会的な害はあるかも しれませんが、身体的な害はないわけです。私見ですが、データベース・リサーチにおいて は、このような心理的あるいは社会的な害を避けるためのセキュリティの基準を守ればいい と思います。このIOM(Institute of Medicine)のレポートにも、この概念がよく説明されて います。つまり、自分のデータが使われるということになりますと、国民としても非常に怖 い気持になると思います。しかし、それを担保するための非常に高いITの基準、スタンダ ード、そしてまたしっかりとしたそのデータの利用に対しての監督がなされればいいと思い ます。  “U.S. consumer Reports”にブレットが2つありますが、この2つ目の所です。米国の 一般の消費者は、ここに書かれている意見を持っていると思います。つまり、データベース の利用に対して適切なセーフガードがあればいい。それからまた、データベース・リサーチ は正しい目的を持っていればいい。そしてプライバシー・ボードが、そのオーソライゼーシ ョンを一般国民に代わって行うようにすればいいと。 ○佐藤委員 データベースの話を聞いたのですが、前回のこの懇談会で、私は韓国のHIRA データベースに関する質問の中で、フェニルプロパノールアミンと出血性脳卒中、ヘモラジ ックストロークの関係のスタディの紹介をしました。あれはHIRAのデータベースを使っ たスタディであるかのように話してしまったのですが、それは間違っていまして、フェニル プロパノールアミンはOTC薬を含んでいますので、データベースを使わないスタディだっ たのです。どういうときにデータベースを使って、どういうときには使えないのか、どうい うときにデータベースを使うのが適しているのかということについて教えていただけます でしょうか。 ○Dr.Chan 私は今日、データベースについてお話したわけですが、しかし、そうだからと いって、データベースですべてが片付くとは思っていません。つまり、優れた公衆衛生のシ ステムでは、あらゆるすべての利用可能なデータベースを活用すべきだと考えています。  そして、異なるデータベースを利用し、またそのデータベースの利用方法についても異な る手法を用いて、それぞれの異なる手法、異なるデータベースを補完し合うべきだと思いま す。例えば、11枚目のスライドにありますが、このSentinelのシステムは、既存のシステ ムと置き換わるつもりはありません。つまり、既存のシステムを補完するためのものが Sentinelのシステムです。医薬品のリサーチもそうでしょうが、そのような場合には、治 験のデータも必要ですし、疫学のデータも必要ですし、それからまた自発性安全報告も使う と思います。 ○佐藤委員 私の質問の最後のところが伝わっていなかったかもしれませんが、どんなとき にデータベースを使うのがいいのかというか、データベースに含まれているデータと、含ま れていないデータがあると思いますが。つまり、こういうときにはデータベースを使うのが いいのだが、こういうときにはデータベースは使えない、むしろデータベースを使わないス タディのほうがいい場合もあります。 ○Dr.Chan 私は、もう国際的にもデータベース人間として知られていると思います。した がって、いろいろ問合せも来るし、質問もよく受けます。ただ、そうだからといって、私は すべての質問に対して、データベースを使って答えるというアプローチはとっていません。 データベース人間ですが、こういう質問にはデータベースは使うべきではないとよく言いま す。  疫学ではエクスポージャー(曝露)とアウトカム(結果として起こる疾患)という言葉を よく使います。まずアウトカムからです。あるアウトカムについては、データベースは使わ ないほうがいいというのがあります。現在、アメリカにおいて医薬品安全性の観点から、非 常に大きな問題になっているのが自殺念慮です。その結果として、すべての経口剤に対して の添付文書の修正を行って、そこに自殺念慮の項目を加えました。  ただ、問題は自殺念慮を持っている人たちをいかにしてキャプチャーして、その人たちを 診断するかについてです。というのも、このような診断が一旦出されてしまうと、社会的に 烙印を押される可能性が高いからです。したがって、保険のレセプトのデータベースがあり ますが、それを使ったのであると、このようなマイナーのアウトカムはなかなかキャプチャ ーできません。  それから、また悪夢という有害事象のあるような薬剤もあると思います。これもやはり保 険関連のレセプトのデータベースではキャプチャーできません。EHRのシステムであれば キャプチャーできるかもしれません。アウトカムの中でデータベースの利用に資さないもの についての例をご説明しましたが、次にエクスポージャーのほうです。  ここでもデータベースとしては保険のレセプトを挙げます。しかし、定義からいってもこ れはOTCのエクスポージャーについての補獲はできません。例えば、FDAが昨日だったと 思いますが、クロピドグレルの添付文書を変えました。オメプラゾールとの薬剤の相互作用 があるという修正だったと思います。ただ、この問題については米国のデータベースでは取 れません。その理由は米国ではオメプラゾールはOTC化しているからです。  また、データベースでの研究に合わない種類の薬剤があると思います。それは頓用で使わ れるものです。PRNと呼ばれる薬剤です。つまり、実際に処方箋と実際の薬剤の使用率の 間に相関がありません。したがって、処方のデータがあったとしても、実際にその薬剤がど う使われたかはわかりません。それから、病院で主として使われる薬剤の場合にもレセプト ベースのデータベースではなく、病院が持っているデータベースが必要になると思います。 プロトニンの薬剤がそれに当たると思います。 ○座長 1つ非常に難しい問題ですが、個人識別番号というのはアメリカのデータベースに アタッチしているか。アイデンティフィケーション・ナンバーについて教えてください。医 療用のアイデンティフィケーション・ナンバーがあるのか、ソーシャル・セキュリティ・ナ ンバーが使われているのか、その辺の状況を教えてください。 ○Dr.Chan まず、米国は全国的に使われているIDはありません。もともとソーシャル・ セキュリティ番号をナショナルのIDとして使うべきではないという考え方です。つまり、 名前が示しているように、これは年金関係のための番号です。ただ、国として個人の番号が ないので、年金のために作った番号をほかの目的に使ってしまっています。  それも理由で米国のシステムはベストではないと申し上げました。このソーシャル・セキ ュリティ番号には非常に多くの問題があります。先生がおっしゃるように、実際に民間のメ ディカルHMOなどでは個人のIDとしてソーシャル・セキュリティー番号を使っています。 医療分野では非常に厳しい規制が敷かれています。したがって、それぞれ異なるデータベー スが同じIDを使ってデータのリンクを張ることは許されていません。 ○座長 FDA Sentinel Initiativeでは、いろいろなデータベースを統合していますが、どう やって重複を避けるのですか。 ○Dr.Chan 実際に答えはありません。実際に先週ワシントンD.C.で行われた会合、ここ にはPMDAの石黒さん、遠藤さんが出席されたのですが、そこでも同じ質問が出ました。 私が聞いたのと同じお答えを聞かれたと思います。データを統合させ、併合させた場合に、 それぞれのIDを明確にして重複を避けようという試みは考えられていません。そして、こ れらの重複を明確にするために統計手法を用いることが行われます。ただ、Sentinel Networkは重複をどう避けるかという話についてはまだ手を付けていません。  それから社会保険番号についてはもう1つコメントがあります。いま医療分野で状況を説 明しました。金融セクターでは話が違いまして、すべてのデータが共有されています。すご く恐ろしいと思いませんか。つまり、銀行に私自身の資金のデータが全部詰まっていて、そ れがすべての金融機関に共有されてしまうわけです。 ○木下委員 20年間にわたってこういったデータベースのスタディのリサーチをなさって きて、でもアメリカのシステムが完璧ではない。一方、Nordic Countriesでは、比較的ま とまったことができていて、しかし、アメリカではまだ難しい。我々は先生のお話を聞きな がら、我が国でも同じような方向を考えている場合に、アメリカの法律でもHIPAAであれ、 ARRAでも完全ではない。我々は今度新しくこういったことをしていくのに、まだ国民の 理解も得なければいけないし、医療界の理解も得なければいけないという、さまざまなハー ドルがあるわけですが、そういう所で20年間、ご苦労をしてこられて、どういうステップ で何を押さえていくべきかという点でお知恵を拝借願えたらと思います。 ○Dr.Chan 実際に使うチャンスのなかった最後のスライドに触れることができましたの で、いまのご質問に感謝します。これからのブループリントを私が完全に描けるとはとても 思えません。しかし、ここに私のいくつかの私見をまとめてみました。私は、どのようなス テップというような順番は、重要ではないと思っています。私がまずやるとしたら最後から 始めます。つまり、先生がいみじくもおっしゃったように、一般国民と医療従事者と話すこ とから始めます。例えば公聴会を行う、あるいは調査を行う、インタビューを行う、それか らまたオープンなディスカッションをするという方策をとります。つまり、米国ではすべて の人が共通の理解を持つと言っておりますが、それを目指すわけです。  次に、この項目で3番目が大切だと思います。私が大学院で教えているからかもしれませ ん。つまり、教育家としての私見です。私も東洋出の人間として教育が大切である。何をや るにもいちばんの基本となるのは教育であると信じています。つまり、ここの3番目で言っ ているように、例えば治験責任者であれば、その人たちに対してデータベースを正しく利用 するやり方を検証する必要があります。このような検証を行う際には実際の研究を行う上で のトレーニングというよりも、そのデータベースの利用に当たっての実施面、倫理面につい ての教育も必要です。  上から2番目の項目です。現代社会においては、すべて法的な枠組みがないと存在し得ま せん。もちろん私は弁護士ではありませんので、詳しくは申し上げられませんが、そうだと 思います。そして、法的な枠組みを作るためには1番目も大切です。つまり、その法的な枠 組みがきちんと機能するように、コンピテント・プライバシー・ボードというか、レビュー・ ボードが必要です。  私は8年以上、IRBのメンバーです。それもきちんと機能する有能なボードでなければ いけないと思います。つまり、患者あるいは被験者の安全性を守り、また彼らの権利を守る ことを委託されているボードとして機能しなければいけないと思っています。IRBは、治 験の責任を負うわけですが、データベース・リサーチの場合には、プライバシー・ボードと いう言い方を使っています。それは通常のIRBとは違います。通常のIRBだと無作為化を どうするかとか、治療割付けなどの面での監督を行うわけですが、データベース・リサーチ の場合には、要はプライバシーになりますので、プライバシー・ボードという名前を使いま す。この言葉は、カナダから出てきた言葉です。  それからもう1つ、何といっても肝要なのはITです。すなわち暗号化の技術やパスワー ドでのデータ保護、そしてコンピュータシステムもフェイルセーフのシステムにすることに よってデータの漏出をなくす、あるいは最小限にとどめるというITの基準を守らなければ ならないと思います。 ○木下委員 ありがとうございました。 ○副座長(山本隆) スライド22の2つ目のパラグラフで「With proper safeguards against re-identification」。これについて、アメリカ国民は、誰がこれを保証すれば満足するのでし ょうか。 ○Dr.Chan 実際にHIPAAの条項によりますと、データオーナーがこのセーフガードを提 供しなければいけないことになっています。ただ、HIPAAが定めているセキュリティの標 準は最高水準ではありません。実際に非常に有能なコンピュータサイエンティストであると、 ここで言っているre-identification、すなわちデータから、もともとの個人データを引き出 すことは可能です。したがって、このコンシューマ・レポートでは、HIPAA以上のセキュ リティ・スタンダードの強化を求めているわけです。HIPAAによりますと、統計家 (statistician)が、このデータセットのidentifierを認定することになっています。 ○我妻委員 最後のところで「情報を使う人については教育が大事だ」とおっしゃったのが 印象的でした。最初のところで、先生はPotential Conflict of Interestのことをおっしゃっ ていました。主に今日のお話は、データを提供する側をどのように保護するかという観点も あったのでしょうが、もう1つ、データを利用するとか、収集する人について、どこまで利 益相反を考えたほうがいいのかという辺りを、簡単でも結構ですので、教えていただけたら と思います。 ○Dr.Chan 私も弁護士ではないので詳しいことはわかりませんが、まず法律によりますと、 データプロバイダ側が、データの漏洩に対して、それを担保する義務を負っています。デー タプロバイダというのは、データを収集する側ということですが、例えば、データが漏洩し た場合には、それに対して刑罰が加えられるので、そのデータについては漏洩しないことを 担保する責任を負います。もちろん重罪に付せられることにはなりません。ただ、それらの データを利益目的で売ったりすると重大罰となりますが、そのような事例は非常に稀です。  この報告によりますと、実際に述べているわけですが、オーナーのほうがそういう義務を 負っているがゆえに、オーナーとしてはそれらのデータをオープンに使わせるのにはあまり 乗気でないとも言っています。つまり、そのデータは研究には使ってはいけないと言ってい れば、自分が責任、義務を負わなければいけないリスクがなくて済むわけです。だからこそ、 このレポートが結論づけているのは、こういう義務を負わされているからこそ、データベー スを使ったリサーチが進まない、障害になっていると言っているわけです。そこで、このレ ポートではこのようなルールは改正すべきとしています。 ○生出委員 先ほど、このデータベースの活用化については北欧が進んでおり、国民にも理 解されていて、公益に資するというお話があったと思いますが、それはどういう理由からで しょうか。 ○Dr.Chan その質問には先ほど引用したカロリンスカ研究所のブルックバン先生が答え られると思います。臨床薬理の先生です。もちろん彼の代わりに答えるわけではないのです が、おそらく彼の答えは一部はわかっていると思います。北欧の人たちは非常にユニークな 世界観を持っているのではないでしょうか。データは公益に有用であるという考え方です。 アメリカの考え方とは違います。アメリカは個人主義的な考え方を持っています。つまり、 アメリカ人の考え方は自分だけが大切、世界がどうなろうと知ったことかと。私はもちろん 北欧人ではないということで、彼らの代わりに答えられるわけではありません。やはり Lancetのエディトリアルが鍵となるのではないでしょうか。ここで言っていることは大切 だと思います。 ○川上委員 教えていただきたいことがあります。コストに関して今日はあまり議論になり ませんでした。データベースを安全対策等に利用することに異論がないことを前提としまし て、例えば、病院のデータベースであれば、データベースを作ったり、維持・管理したり、 入力したりというところには、それぞれの病院が費用を負担しています。ある病院はものす ごく費用をかけている一方で、別の病院はそれほどかけていないなど、病院間での差もある と思います。各病院のデータベースを調査で使う場合に、もちろん使用料を払うとか、大き な研究プロジェクトであれば研究費で支援するとか、いろいろな考え方があるとは思います。 私はデータベースを維持・管理したり使うときに、それにかかわる経済的な努力や要したコ ストを誰がどう負担するのかということも知りたいと思います。アメリカの場合、例えば、 いろいろな所にあるデータを利用して調査をされていますが、そのデータベースを維持・管 理するためにかかっているコストを、誰が、どう負担しているのか、興味がありますので教 えていただきたいと思います。 ○Dr.Chan アメリカではデータベースのリサーチは非常にお金がかかります。またコスト 比較も難しいです。ここのいちばん小さい所が読めるかどうかです。あるいは、紙で見てい ただいたほうがもっといいのかもしれませんが、非常に良い質問をいただいたと思います。 18枚目のスライドです。例えば、デンマークですと、国を挙げてデータベースを作ったと いうことで、社会コストでデータベースができたわけです。実際にここでそのデータベース のお金が書いてありますが、アメリカではこんなものでは済まないわけです。その理由は効 率が悪いからです。つまり、医療制度も分断化されていますし、データベース自体も分断化 されているからです。ですから、アメリカではお金がかかります。おそらくアメリカよりも 他国のほうがずっとコスト的にはうまくやると思います。  5番目のスライドです。例えばこの試験でも数百万ドルかかっています。実際に比較とい うよりも、どちらが得かというようなものです。このように既存のデータベースを使うので はなくて、治験をやるとなると、その治験で一次データが出るわけです。ところが、そのよ うな治験を5頁にあるような試験でやろうとすると、数億ドルぐらい簡単にかかります。で すから、私の考えではインフラ投資をしたほうが効率が良いし、また見返りもいいと思いま す。 ○山本(尚)委員 いまのChan先生のお答えの中で各種データベースが分断されているか ら、それにプラスの作業、例えばインテグレートすることで、コストがかかっていくという ことだと思います。一方で、北欧のように、国民レジストリー型にして、常にインテグレー トして、クォリティも高いものを保持するというのは、それを維持するお金がかかります。 二次利用のそもそものコンセプトは、一次的な利用によって自動的に集まってくるものを二 次利用するのが、最も自然だと思います。  ただ、我が国で考えた場合は、かかりつけ医制度がなく、特にEHRの観点でいうと、デ ータが散在しているという状況になるので、なかなか大きな単位での集合された診療情報と か、電子カルテのデータウェアハウスを持つのはとても難しいと思います。我々の国でその ような国民レジストリー型を目指すのは極めて難しいと思うので、日本で何からできるかに ついて、ここは議論する場でもあると思います。  Chan先生に例えばの話を伺うとすれば、USなどではロチェスターのデータベース、地 域的にその州のデータウェアハウスを実際に組まれていて、それが有効活用されています。 我が国でも地域単位のものを作ることによって、そこでEHRを活用した研究をやって、そ れが国民全体の代表制、少なくとも日本で一般化されるものであるかというところを目指す ため、ナショナル・クレーム・データベースでの一般化の可能性を検証しておくことが可能 になる。それによって代表制を持ったエビデンスが検討可能であると思ったのですが、それ に関して、少しご見解を伺えればと思います。 ○Dr.Chan 北欧諸国について1つ言わなかったことかあります。それは北欧諸国の税率は 世界で最も高いということです。つまり、税金を多く払ってあれだけのインフラを作ったと いうことです。そうだからといって、日本政府に税金を上げろと言っているわけではありま せん。  そのように、アメリカで優秀というようなベースの、地域のデータベースから始めていく というやり方は妥当だと思います。特に人口が安定している地域から始められるといいと思 います。アメリカではそういうことは無理です。アメリカ人は非常に引っ越しが好きだから です。例えば、インディアナ州などでは、先生がいまご指摘になったようなアプローチを使 っています。この地域にはインディアナ大学のメディカル・インフォーマティックスの研究 所があるからです。したがって、そこで州の医療データはすべて単一のデータウェアハウス に収納されています。こういう例もあるし、可能なアプローチではないかと思います。ご興 味があれば、是非、このInstituteに直接お問い合わせになったらいかがかと思います。 ○座長 最後に、インフォームドコンセントについてですが、アメリカのデータベースの患 者さんは、どの程度インフォームドコンセントをされているのか。個別に書面で同意してい るのか、あるいは包括的な同意なのかについて教えてください。もう1つはオプトアウトで す。 ○Dr.Chan 例えば、データベースで大きいものの例を挙げますと、50万の小児のデータ が入っているデータベースがあり、かなり大規模です。実際に50万の家庭から1個1個イ ンフォームドコンセントは取れません。そこで法律がプライバシー・ボードあるいはヒュー マン・サブジェクト・コミッティが、これらの被験者の代わりに承認をすることを許してい ます。したがって、例えば、そのプライバシー・ボードなり、コミッティのメンバーが私だ とすれば、そのデータを使う治験医師が十分な研修を受けているかどうかの資格などについ ても調査します。  また、プライバシーのセーフガードが取れるようなコンピュータシステムを備えているか の調査も行います。そして、これらの要件を満足していることが確認できたら、それぞれの インフォームドコンセントを取らなくてもいいという権利放棄の許可を与えます。それでも、 それぞれの個人がオプションとしてそこから除外される権利は認めています。除外してもら おうと思えば、それを言えばいいだけで理由は何でも構わず、理由を述べる必要はありませ ん。  自分のデータを外してもらいたいと思う人は無料のトールフリーの電話番号にかけます。 そうすると、そのデータはリサーチから除外されます。こういうことをやる場合にもITが 進歩しているので前よりも簡単になりました。  私はここで利益相反の宣言をしなければなりません。私が働いている会社の親会社がIT の関係だからです。実際にその会社の同僚が、それぞれの個人が、先ほど先生のおっしゃっ たオプトアウトをしたいときにそれができるプログラムを開発したからです。  それからまた、グラニュール化もできるようになっていますので、それによってそのデー タの種類についても特定できます。例えば、私の個人情報の中で身体検査の項目は見ていい、 精神衛生の項目については除外してくれという指定もできるようなプログラムです。利益相 反のお話をしたので、公平を期するために言っておくと、こういうプログラムについては、 IBMも開発しています。 ○座長 よろしいでしょうか。いろいろご議論はあるかと思いますが、時間になりましたの で、この辺で終わらせていただきたいと思います。今日のご意見を次回からの懇談会に活か せるように事務局でとりまとめをお願いしたいと思います。 ○安全対策課長補佐 本日は活発な議論をありがとうございました。本日の議事録について は、皆様の了解を得た上で公表させていただきますので、よろしくお願いします。次回の懇 談会は12月14日の18時から20時を予定しております。また2週間前に厚労省のWebサ イトに掲載することとしております。以上です。 ○座長 それでは、本日はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございました。 照会先:医薬食品局安全対策課 電話番号:03−5253−1111