09/07/29 第3回内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会議事録       第3回 内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会                      日時 平成21年7月29日(水)                         14:00〜16:00                      場所 合同庁舎5号館6階共用第8会議室 ○佐々木医療安全推進室長 定刻になりましたので、ただ今から第3回「内服薬処方せんの記 載方法の在り方に関する検討会」を開催いたします。委員の先生方におかれましては、ご多忙 のところ、本検討会にご出席いただき誠にありがとうございます。  まず、先週、7月の人事異動がございましたので、事務局の人事異動があった者をご紹介さ せていただきます。医政局長ですが、外口から阿曽沼が着任いたしました。 ○阿曽沼医政局長 阿曽沼でございます。よろしくお願いします。 ○医療安全推進室長 総務課長ですが、深田から岩渕が着任いたしました。 ○岩渕総務課長 岩渕でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○医療安全推進室長 医薬・食品局の安全対策課安全使用推進室長が倉持から佐藤に代わって います。 ○佐藤医薬・食品局安全対策課安全使用推進室長 よろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長 私ですが、医療安全推進室の佐原から佐々木に代りました。どうぞよろ しくお願いいたします。では、以降の進行を楠岡座長によろしくお願いいたします。 ○楠岡座長 本日は非常にお暑い中お集まりいただきましてありがとうございます。資料につ きまして、事務局から確認をよろしくお願いします。 ○医療安全推進室長 お手元に配付しております資料を確認していただきます。まず、議事次 第、座席表、委員名簿が各1枚あるかと思います。その次に資料1としまして、前回第2回の主 なご意見をいただいたものをまとめた資料がございます。その次、資料2ですが、「分量記載 を1回量とする必要がある例」という資料を提出しています。その次、本日3名の委員、参考人 の方からプレゼンテーションをしていただきます。資料3-1が佐相委員の提出資料、資料3-2が 大原委員の提出資料、資料3としまして橋詰参考人の提出資料があります。 以上ですが、資料の欠落等ございましたら、進行中でも結構ですのでお手を挙げていただけれ ば、すぐ事務局が対応いたします。今の時点で欠落している資料がございますか、よろしいで すか。では、座長お願いいたします。 ○楠岡座長 それでは議事に入らせていただきます。活発なご議論をお願いしたいと思います。 前回の会議では委員の皆様方からいろいろご意見をいただきました。本日の予定といたしまし て、まず資料1及び資料2につきまして、事務局よりご説明をいただきます。その後、安全工学 の立場から佐相委員、医療情報システムの観点から大原委員、医療情報システムのベンダーの 立場から保健医療福祉情報システム工業会の橋詰参考人より、1人20分程度で現状の課題、論 点を踏まえたご意見をいただきたいと思っております。  まず、最初に事務局から資料1と2のご説明をお願いしたいと思います。なお、資料2に関し ましては、前回の議論の中で、「1回量記載」が必要であるという場合に関しましていろいろ ご意見をいただいたわけですが、その具体的な事例をお知りいただいたほうがいいということ になりまして、事務局に作成をお願いしたものです。それではよろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長 それぞれ手短にご説明いたします。資料の1につきましては、前回も第 1回の検討会のご意見をまとめさせていただいたものを提出いたしましたが、今回も前回第2 回の際に委員の先生方からご発言・ご指摘をいただいた内容についてまとめたものです。それ ぞれ1頁目が「1日量、1回量に係る処方せんの記載方法について」、2頁目が「オーダリング システムについて」、3頁目が「処方に関する通知等について」、4頁目が「プロセスについて」 、5頁目が「その他」という形でまとめさせていただいています。後ほどの議論の参考等にし ていただければと思います。  資料の2につきましては、先ほど座長からありましたとおり、前回の検討会の際に中盤より 少し後ぐらいだったかと思いますが、岩月委員、隈本委員、齊藤委員のご発言、ご議論の中で、 分量記載を1回量とする必要があるのではないか。例えばリウマトレックスがそうではないか ということをご指摘いただきました。それを踏まえて作成した資料です。  資料2を1枚開いていただきますと、例を2つ用意しています。まず例の1つ目として、「不均 等投与の場合」、パーキンソン病治療薬のレボドパを例にしております。そこにありますよう に1,250mgを1日4回に分けて、朝500mg、昼250mg、夕方250mg、就眠前250mg、それを14日間処 方する場合ということで、その下に2つ事例を示しています。上のほうがこれは1日量として書 いた場合は、大体こういう記載の仕方をされているのではないかということで、「ドパストン カプセル250mg、5カプセル(2-1-1-1)、朝、昼、夕食後及び就寝前の14日分」。  それに対して、下の網掛けのほうは1回量であればこういう記載をされているのではないか ということで、「ドパストンカプセル250mg、1回量として2カプセル、1日1回朝食後14日分」。 「ドパストンカプセル250mg、1回量として1カプセル、1日3回、昼、夕食後及び就寝前14日分」 という書き方をされているのではないか。例1の場合は、それぞれ1日量1回量の事例として書 かせていただいています。  例の2、これは前回ご指摘いただきましたMTX、メソトレキサートのリウマトレックスカプセ ルの場合ですが、「休薬期間がある薬剤」の場合です。このケースにつきましては、「リウマ トレックスカプセル2mgを原薬料として6mg1週1クールで月曜から火曜にかけて12時間間隔で服 用し、残りの5日間は休薬として、2クール処方する場合」です。  同様に下の2つの事例で、上のほうが1日量として書いてる場合、こういう記載をされている のではないか。下の網掛けのほうは1回量として記載されている場合は、こういうふうに記載 されているのではないかというものです。上のほうでは「リウマトレックス2mg2カプセル分2、 月曜日9時、21時、2日分」。「リウマトレックス2mg1カプセル分1、火曜日9時2日分」。1回量 だと「リウマトレックス2mg、1回量として1カプセル、週3回月曜9時、21時、火曜9時服用を1 つの周期として、2周期分(14日分)」ということで、前回ご指摘の具体的な事例として、この2 つをそれぞれ1日量の場合、1回量の場合の記載事例と合わせて示したものです。以上でござい ます。 ○楠岡座長 ありがとうございました。ただいまのご説明に関しまして、何かご質問、ご発言 がございますでしょうか。従来のような1日3錠分3、食後とかいうのであれば、1日量であろう が1回量であろうが、あまり大きな誤解は生じないところですが、このような不均等投与とか、 あるいは休薬期間があるという、非常にイレギュラーな投与になってまいりますと、どうして も誤解を避けるためには、何らかの対策が必要ということになるかと思いますが、ご発言があ りますか。  ○岩月委員 資料2のご説明の頭書きの部分が、分量記載を1回量とする必要がある例というこ となのですが、前回の私の発言も、1日量か1回量かというように決めないで、両方併記したほ うがいいのではないかということを申し上げたつもりなのですが、まさにこの例1のドパスト ンカプセルにおきましては、1日の量として分量と、それから1回に服用する量が両方記載して ある例ですので、ただちにどちらがいいとかということでお話し申し上げるのではありません が、分かりやすさという点では、たぶん上の書き方でも十分要件を満たした上で理解ができる だろうと。現状のやり方がそうなので、いや、あなたは慣れているからそう思うのでしょうと いうことがあるかもしれませんが、現状ではこの書き方が今のルールに則った書き方であると いうことは、まず確認をしておきたいと思います。  その上で例2ですが、いわゆる周期分という書き方が例1の表記ではしにくい、1日量分量で あると表現しにくいということを、指摘をするときの例だろうと思いますが、1回量と1日分量 のどちらに優劣があるかという、例としては少し不適切かなという気もいたしますので、そこ は十分、土俵をそろえた上で表記をしていただいたほうが分かりやすいのかなという気がいた します。以上です。 ○楠岡座長 ありがとうございました。ほかにございますか。 ○土屋委員 ついでに申し上げますと、例えば上の中で、5カプセル(2-1-1-1)とありますが、 これは前回の分量のところ(前回資料2の6頁)で、(2)と(3)で分量では1日量だけれども用量 のところで1回量を書くという現実として、今はこういうような書き方をしている実例です。 たまたまこの括弧の中が4つありますと、朝、昼、夕、寝る前だという医師・薬剤師間の共通 認識があるのです。3つあると朝、昼、夕だというのが業界といいますか臨床での常識という のがありますが、括弧の中の数によって服用時期が自動的に指定されるのが、今まで常識とし て使われているやり方だということです。   休薬期間のあるほうですと、これは保険で実質投与日数を書くという話がありまして、それ で2日間と2日分となっていますが、投与日数といいますか、実質日数、飲む日は2日間なので すが、投与されている期間で言えば、休薬期間もゼロ飲んでいるということで言うと2週間。 そういうルールを今こういうふうに書いているところで、いろいろな意味で齟齬が生じている ことがあるということです。 ○齊藤委員 多くの人には誤解なくいくだろうというわけなのですが、大体、毎年新しい医師 が国家試験を受かって8,000人出てくるのです。  私も医師の国家試験問題を作って、受験者に出すことを長い間やってまいりましたが、8,00 0人の中には、思いも掛けないような取り違いをする人が必ず大勢いるのです。どうしてそうい うふうに読めるかということで、多くの人は問題ないと思っても、8,000人という数になると、 そこで重大な事故につながるエラーをする人が1人いれば、そのために重大な事故につながり 得るということで、事故を未然に、しかも完全に近くゼロに近く防ぐにはどうしたらいいかと いうことです。  もう1つは、今の法規には合っているかもしれないけれども、場合によってはその法規を見 直してでも、医療事故の発生を防ぐシステムをこの検討会では、是非、議論をしていただきた い。法規があるからそのとおりやっていればいいのだというのではなくて、医療事故を起こさ ないようにするには、法規の形をどのように考えたらいいのかと、そういうことがとても重要 な議論かなと思います。 ○嶋森委員 私は看護師なのですが、今、土屋委員が上の質問で、5カプセル4回と書いてある ので、朝、昼、夕、寝る前というふうに読めると言われまして、私もそのように頭に入ってき たのですが、確かにこれが分2だったら、一体、朝飲めばいいのか夜飲めばいいのか、分から ないなと思いました。今のように説明をされてから見れば分かるのですが、これと違うものに なると、また分かりにくくなると思います。やはり上の事例の上の書き方だと、分かりやすい 書き方だと思います。この5カプセル、分4といういい方では分かりにくいというか、この表記 だと、いつ飲めばいいか分からないので、今まで議論してきたことと同じで分かりにくいと思 います。  下の例だと、2周期という周期をどういうふうに捉えるか。今座長がおっしゃったのですが 分かりにくくて、どちらを見ても分かりにくいなと思います。どうしたら間違いなく飲めるよ うになるかということが大切だと思います。リウマトレックスという薬は非常に重大な事故も 起きている薬なので、こういう事例は記号ではなく、きちんと言葉で書くなどの工夫が必要で はないかと、改めて認識しています。 ○土屋委員 今例えば分2であってもカッコ内は3つのスペースが表示され、通常は1-0-1とか、 そういう書き方をする人と、分2で不均等であれば2-0-1とか、そういう0を書く施設もありま す。そして、これはシステムにもよりますが、カッコ内のスペースが4つ出てきてしまって、 2-0-1-0と入れるようなシステムもあれば、分2だと括弧の中は2つしか出てこなくてとか、こ れまたいろいろですが、そこは時期とかそういうのを見ながら判断しているのが現実で、ただ、 この括弧の中が3つになったり4つになったりするのは、それぞれの医療機関でそれぞれルール があって、そこで間違わないように一生懸命しているのが現実です。 ○隈本委員 1つ申し上げたいのは、分量を1日量で書くのがいいのか、1回量で書くほうがい いのか、そのどちらが分かりやすいかという比較ではなく、いろいろな書き方があるほうがい いのか、それとも統一したほうがいいのかというのが、この検討会の論点だと思うのです。要 するに、別に1日量が分かりやすいのだったらそちらにしていただいてもいいのですが、患者 の立場からすると、いろいろな書き方があって、いろいろな読み方がある現状がいいのか、そ れとも完全に統一したほうがいいのかという議論だと思うのです。だから、どちらが分かりや すいという比較をしてもあまり意味がない。  齊藤先生のご指摘は非常に重要だと思うのです。統一ルールがない限り、どんなに素晴らし い慣習があっても、そのコミュニティに入っていない人が転勤して来たら一発で事故につなが るわけですよね。もっと勉強をしろというふうに言うことは簡単ですが、ルールが決まってい ない以上、ここの決まりはこうなんだよということを、必ずそういう通過儀礼の勉強をやらな いとそのコミュニティに入れないというのでは、やはり不安です。できればちゃんとしたルー ルを決めていただいて、それに決める。新人が来ることもありますが、みんな転勤もしていま すよね、そうやって職場が変わったらルールも変わるというのでは、それは患者の立場から言 えば非常に不安です。 ○岩月委員 私がしゃべると反対みたいにとられるので、そこはそうではなくて、1日量がい いか、1回量がいいかということでなくて、まさに今隈本委員がおっしゃったように、安全性 をどう担保するかという意味でいうと、前回も申し上げましたが、資料1の主な意見ではなか ったので書いてないかもしれませんが、現行でも1日量を記載して分量を書け。分量には1回量 の服用量も書きなさいと書いてあるので、それはルールがないということではなくて、今徹底 されていないのだという状況だと思うのですね。したがいまして、この例1の例で申し上げれ ば、これは上の四角に書いてある1日量と1回に服用をする量の両方書いてある。  そういったことであれば、たぶん安全性もいちばん担保しやすいだろう。1日の総量も書い てあるし、なおかつ1回量も書いてある。下の例ですと、休薬期間の問題なので分かりにくい かもしれませんが、今あるルールの中でも徹底をすれば、例の1の上の段の書き方であっても 十分に安全性は担保されるのではないかということが申し上げたかっただけですので、決して 1回量反対ということではありませんから、それは誤解のないようにしていただきたいと思い ます。 ○楠岡座長 よろしいでしょうか。これはこの検討会の最後の結論につながっていくところだ と思うので、これからもいろいろ議論があろうかと思います。それぞれの例のいちばん上に書 かれているのが、いちばん間違いない書き方で、ただ、この書き方では確かに非常に手間もか かるし、システムの対応もなかなか難しいので、これをいかにルール化して、誤解のないよう にするか、先ほど隈本委員がおっしゃったような、どういう形にするのがいちばん妥当なのか、 かつユニバーサルであるのかというのが、最終的な結論として得たいところかと思います。一 応こういう例があるということを頭に置いていただいて、今後ともご議論を進めていただきた いと思います。これに関しましては以上にさせていただきまして、次の、本日のご意見の表明 に移らせていただきます。  まず最初、佐相委員から現状の課題、論点を踏まえた上でご意見をいただきたいと思います。 少しご紹介させていただきますが、佐相委員は人間工学を専門とされておりまして、「電気事 業におけるヒューマンエラー防止」のための研究をずっと行っておられています。医療の分野 におかれましても、日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の運営委員会のメンバー としても活動をされています。本日は電気事業等での安全管理、あるいは人間工学の観点から、 「内服薬処方せんの記載の方法の在り方」についてプレゼンテーションをしていただくことに なっております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐相委員 電力中央研究所の佐相と申します。よろしくお願いいたします。私の所属が示し ますように、私は医療とは全然関係のない分野で仕事をしているのですが、電力会社のヒュー マンエラー対策に関する研究をやっています。  8年ぐらい前なのですが、当時の厚生科学研究に誘っていただきまして、そこで嶋森委員か ら、この処方せんの書き方に関する問題というのを初めて聞きました。そのときに「なんで統 一しないのですか」と、簡単に言ったのですが、統一するのが難しいというのが、過去2回の 議論の中でよく分かってまいりました。今日は、過去2回の議論と資料で、私が考えたことを ご説明させていただきたいと思います。パワーポイント、スライドの2頁目をご覧ください。  「議論の出発点となった問題点」、そもそもの内服処方せんの書き方が千差万別であって、 しかも曖昧であるということです。もう1つ、これは後で私の提案に絡んできますので、あえ て書かせていただきましたが、処方せんの記載につきまして医師法とか、歯科医師法の施行規 則が、十分守られていなかったという問題点があったと思います。  まず、表現方法が千差万別であるということなのですが、それに関しましてお話をしたいと 思います。集団の中にはやはりルールがあります。規範と言ったりルールと言ったりします。 そのルールを集団の全員が暗黙の知識として共有しています、例えば極端な話ですが、人を殺 してはいけないとか、日本では麺類とか、汁類を食するときは音を出してもかまわないとか、 こんなことがあるかどうかは分かりませんが、A科では3回に分けることを「3×」と書いて、 B科では「分3」と書くとかそういうのがあるのかもしれないと思います。  そういう規範なのですが、同じ規範を共有できている人同士の中では、何と解釈するか分か っていますから何ら問題はないのですが、そこでその規範を知らない人が入って来ると失敗を することになると思います。  その規範ですが、その世界の中、閉じた世界の中では、わざわざ明文化しなくても、きっち り定義しなくても理解できてしまうことが多々あるかと思います。また、そのルール自体も曖 昧であってもそれなりに理解できるということだと思います。例えばこのスライドを読んで気 がついたのですが、日本では麺類、汁類を食するとき、皆さん日本食を食べることを想定して これを聞いていただいていると思うのですが、これ日本食とはなっておらず、曖昧です。です が皆さんなんとなく分かっていると思います。規範というものは、きっちり定義しなくても曖 昧であってもそれなりに分かってしまう面もあります。  過去2回分の資料をこのプレゼンのためによく読んでまいりました。その中で気がついたこ とがあるのですが、「分量と用量」という言葉、何を定義しているのかなと思いまして、いろ いろ読んで、またほかの方にもいろいろ情報をいただきました。「診療報酬請求等の記載要領 等について」の別紙1、(21)「『処方』欄について」というところでは、ア、用量(内服薬に ついては1日用量)等と書いてあります。これ別紙の2にまいりますと(2)、分量は内服薬につ いては1日分量、内服薬用滴剤等々と書いてあります。これアンダーラインを引いている所な のですが、同じことを書いているのですが、片方は用量ですし、片方は分量となっているわけ ですね。しっかり定議されていないと言ってしまえばそうですが、定義しなくてもこれを読む 人にしてみれば、それなりに理解できる。ですけれども、医療に関する規範を持っていない私 にしてみれば、少しも分からないということになります。  スライド5頁目にまいりますが、コミュニケーションをする上では、送り手が自分自身の知 識とか経験とか、それぞれの規範に基づいてメッセージを発することになります。聞き手のほ うは、自分の知識、経験、状況、規範に応じてその言葉を解釈する、声、文字を解釈するとい うことになります。けれども、ここで同じ規範を持っているとは限りませんので、非常に曖昧 な情報ですと、当然のことながら間違える可能性が出てきてしまうということです。この処方 せんの書き方につきましては、共通の規範、ルールがないということで、現実、いろいろなト ラブルが起きているということかと思います。  まず第一は、1日量でも1回量でもいいのですが、まずは共通のルールをきちんと作りましょ うということになると思います。研究班の提示されました1回量を記載にした方法は、確かに 誰にでも分かる書き方だと思います。患者さんに説明するときの書き方なので、これは極めて 誰にでも分かる書き方になっているのだろうと思います。  医療者でもやはり最初は一般人からですので、患者さんが分かるような書き方しておいたほ うが、読み方に関する教育をあえてする必要がなくなってくると思います。私自身はこういう ことで1回量に変えてしまったほうがいいと思うのですが、でも、1日量を基本としたいろいろ な仕組みがあるようなので、そう簡単にはいかないということかと思います。  言葉を変えることになりますから、ほとんど文化を変えるようなことなので、そう簡単には いかないかと思います。ですが、時間はかかるでしょうが、向かうべき方向は明白であって、 その第一歩をどうやって踏み出すかがポイントだと思います。第一歩を踏み出しにくくしてい るのは、今まで皆さんの仕事を便利にさせてきたコンピューターが、逆に足かせになっている 部分があると思います。  ここで規則の話に飛びます。医師法・歯科医師法施行規則が守られていなかったということ ですが、処方せんに分量・用法・用量を書きなさいということですね。これは処方せんの備考 欄にも書いてあるのです。ですから、今ある処方せん、私の理解では、真っな白な処方せんの 中にご自由にお書きくださいと、そして、備考欄にこういうことが書いてある。ちょっとこれ では読まないし、必要なことが書かれないと思います。  それから規則自身も守りやすい規則、守りにくい規則が当然ございまして、8頁、「診療報 酬請求等記載要領について」の所の、別紙2の(2)のところ、「分量は」のところですが、 これ、もともとは文章として書いてあったのですが、箇条書きにしてきました。「分量は」と いうところ、内服薬は1日量、内服用滴剤は投与総量、注射薬も投与総量、屯服薬は1回量、こ のように薬の形態によってみんなバラバラです。これを書く側はいちいち考えないといけない ので、非常に守りにくい規則だと私は思います。  この資料の続きに(3)、用法・用量とあります。ここは1回当たりの服用量、1日当たり服用 回数、投与及び服用時点、投与回数、注意事項となっていまして、これは薬の形に関係なく統 一された書き方を求めている部分がございます。このようにやはり規則を制定して守ってもら わなければいけないのですが、守りやすいような規則にしてあげないと、なかなか守れないと 思います。  9頁、立教大学の芳賀先生がルールが守られない理由をいくつか挙げておられます。まず1つ 目、「ルールを知らない」、医師法等の施行規則について知らなかったということになるかな と思います。2番、「ルールを理解していない」。あまりルールを理解していないというのは ないかと思うのですが、分量か用量か非常に曖昧に書いている状態だったと思います。「ルー ルに納得していない」、片方を書けば掛け算か割り算すれば分かるだろうと当然思ってしまい ますので、あまり納得していないのでしょう。「誰もルールを守っていない」。ほかのドクタ ーが書いた処方せん、たぶん見ることはないと思います。見比べることがないから、他人がど うだか分からないのかなと思います。5番目、「守らなくても注意や罰がない」。記載がちょ っと足りなくても、薬剤師側で適切に解釈してくれまして、疑義照会もきませんので、結果ち ゃんとルールを守らないのかなと。あと「破るだけの価値がある」、忙しいと思いますから、 ちゃんと全部書かないのかなと思います。ですから、守れるルールとか、守らせる仕組みとい うものを考えてあげないと、ただ守りなさいと言われても、ちょっと難しいと思います。  もう1回ここで「1回量記載のメリット」について戻ります。まずこれのメリットなのですが、 お話を聞くところによりますと、1回量記載が世界標準ということです。今外国人ナースの方 もどんどん入って来て、これから先どうなるか分からないということを考えると、やはり世界 標準にしておいたほうが安心だと思います。それから注射薬等、ほかの薬剤と同じ表現方法に なります。これはつまりルールがシンプルになるから、より守りやすくなると思います。しか し、導入には前途多難と、特にお金がかかってしまうところが足かせになっているようです。  いろいろな周辺の制約条件があるのですが、今回いちばんの問題は、医師が書く処方せんを 薬剤師の方がちゃんと読めるかどうか、そういうことがポイントになってきますので、まずそ こをスタートに考えていきます。突然、1回量記載の処方せんが現状の中で紛れ込んだにして も、今いろいろな書き方で混在している状況に、明確ではっきりした処方せんが紛れ込んでも、 私は何ら問題がないと、薬剤師の方は見やすい、分かりやすいだけではないかなと思います。 紙に書かれた処方せんの内容を理解するだけだったら、1回量に突然なっても問題ないだろう と思います。でも、そこから先、今度は1日量を換算していろいろ処理をしなければいけない ということで、そこで計算を間違えたらというような危惧もあると思います。  医師のほうですが、今まで1日量でやってきたのが3で割るとか、そういう作業が出てきます ので面倒という部分があると思います。折角2とか3で割ったものを、今度は診療報酬、あれは どうも1日量が基準のようなので、もう1回、掛け算をしなければいけないというような、割っ たり掛けたりしている非常に面倒な状況になりそうです。  こういうことを考えますと、1回量と1日量の両方の記載がちゃんと書かれた処方せんであれ ば、このあたりの問題は解消されると思います。つまり、まずは、規則どおりにちゃんと書き ましょう、ということになると思います。では、どうしたら規則どおりに処方せんを書いても らえるかということになるのですが、12頁目です。まず、処方せん記載方法に関する規則等が ありますが、まずそこを整理していただく必要があると思います。スライド12頁の枠に括って あるところ、「第5 処方せんの記載上の注意事項」のところに、用法及び用量ということで、 研究班の提案されていることと全く同じ内容がこれ書かれていますので、全体をこういう表現 で統一したほうがよろしいと思います。その上で1回量、1日量、その他必要な情報をきっちり 書くということを守ってもらうことを徹底することが1つ目だと思います。  ただ、守れ、守れと言っても、なかなか守りませんので、守らせる仕組み、守っていないこ とが分かるような、仕組みを考える必要があると思いまして、12頁の下半分にあります「書式 を変えたらどうでしょうか」ということを考えてみました。薬名、1回量、1日回数、1日量、 日数(回数)など、必要な情報を記載する欄を設けます。一面真っ白な処方せんのフォーマッ トですと、まさに「ご自由に」になってしまいます。何を書かせるべきか、何を書いてもらい たいかをはっきりさせたほうがいいと思います。  さらにその先になりますが、今度は1日量ベースのシステム、これを順次更新していく必要 は当然あると思います。世界標準にそろえるという意味では、これは時間がかかっても順次や らなければいけない部分だと思います。ここ、当然お金がかかる話です。そういうコンピュー ターのシステムを既に入れている所と、これからの所といろいろあるかと思いますが、1回量 ベースのソフトウエアに更新するような部分だけは、国からの支援で加速してあげて、5年、 10年ではなくて2、3年とか、長くても5年とかいうふうにすることが必要だと思います。  最後、1日量記載、12頁のスライドには入っていますので、ここを削れば比較的抵抗がなく 切り替わるのではと考えました。以上です。 ○楠岡座長 どうもありがとうございました。ただ今のご発表に関して何かご質問とかコメン ト等がございますか。 ○齊藤委員 大変明解なご説明をありがとうございました。厚生科学研究の4年にわたる医療 事故を防ぐための調整のあり方の検討でも、最終ゴール、これは例えば1回量が世界標準でよ いのかもしれないのですが、それがいいとしてもそこに至るまでのプロセスで、かえって事故 が起きるのではないかとか、混乱が起こるのではないかという指摘がたえずあって、それも研 究班としてもまさにそうだと考えているのです。  そのことを考慮すると、やはりある時期、並行方式みたいな、どちらでもよいが、まあ、決 められた書式をみんなで守るという時期があってもよいのではないかなという意見がコンセン サス。例えば車の右側通行と左側通行は、沖縄はアメリカの占領地から日本の統治に入ったと きに、ある日突然、左側通行になってというふうな切り替えはちょっと、この1日量1回には馴 染まないだろうという意見が多かったのです。そういうことで、今のお話を聞いても、やはり ある期間同時、双方並行、並列しようと、そのように理解してよろしいのでしょうか。 ○佐相委員 そうですね。車の場合は車線のどちらを走ってもいいよというわけにはまいりま せんから、ああいうことだと思うのですが、この件に関しては、必要な情報さえ記載しておけ ば、ある猶予期間の中で、対応できると思っています。 ○齊藤委員 今のご発表で、規則が守られない理由というのも、大変興味深く読んだのです。 守らなくても注意や罰がないと、これがまさに今の処方せんのありようだと思うのです。「処 方せんには決まりがあるのだよ」と岩月委員なども言っておられて、それを守られていないと ころが問題なのだとおっしゃるのだけれども、確かに、例えば日本医療機能評価機構の立入り 検査とか、それから私どもの新宿区の区からの医療監視というのがきて、病室の出入口に手洗 いが置いてないとか、何とかの記述がはっきりしないというような、非常に細かいご指摘はい つも受けているわけなのですが、「処方せんの書き方がきちんとしていない」というご指摘は どなたからも、誰からも言われたことがないのです。  そういうことをきちんと徹底するように指令するのは、これは行政の務めではないかなとい う気がするのです。おそらく新宿区の医療監視は厚生労働省の委託を受けてやっているのだけ れども、処方せんに関する限り、はっきり言うと、どう書いてというのも極端だけれども、皆 さんの今までの慣習にしたがって書きなさいということを、皆さん是認してくださるのですね。 監視員のMDの方も事務系の方もですね。その辺をやはりきちんとした書式を求めることも、と ても大事かなと。そうでないと、1回量か1日量かという議論をしても、守らないルールをコロ コロ転がしても何の足しにもなりませんので、その辺は確かにとても大事なことなのかなと思 いました。以上です。 ○佐相委員 注意や罰がないからって、注意や罰をつけましょうという話では決してなくて、 いってみれば何を書かなければいけないのか、はっきりしていない部分があるから、それをは っきりさせて守りやすくしましょうということが趣旨です。ヒューマンファクターの対策の1 つとして、罰というのは私の考えにはありません。規則をしっかり明確にしましょうというこ とです。 ○楠岡座長 ありがとうございました。ほかにございますか。この12頁の下の段に出されてい る薬名、1回量、1日回数、それからたぶん、ここに用法、1日どの時点で服用するか、そして 1日量と、日数(回数)、これらのファクターは全部記載されるというのがいちばん望ましい 形で、それだと問題が少なくなっていくと思います。ただ、先ほどの例で出ましたリウマトレ ックスのように、1日量が変動していくような形とか、間に休薬期間が入っていくような形に 関しては、この様式ですと、やはり外れてしまうところがあるので、ここにさらにどういうも のを加えればいいのかということになると思います。ほとんどというか、本当は全部カバーし ないといけないのですが、なかなかカバーしきれないものが出てくるかもしれません。大体9 割9分はカバーできるようなところをどうするかと、あと、どういう投与がそれでも残るかと いうのがこれからの検討事項になってくるかと思うのですが、いかがですか。 ○佐相委員 そうですね。私の知っている範囲では、これで十分だったのですが、飲み方の変 則的な薬もあるかと思います。変則的なものに対しても、可能なかぎりルールというか書き方 を明確にする必要があると思います。 ○楠岡座長 別に議論を複雑化する意図はないのですが、医療安全上からいうと、どこかで1 日量も押えておかないと、1剤1剤書いていって、実は1日3錠ぐらいが大体普通なのに対して、 知らない間に5錠投与になっていたとか、6錠投与になっていたということもあるので、どこか で1日量を押えるシステムもやはり必要なのです。そうすると、薬で整理しながらこういう書 き方をすると、最終的に1日量がどこかにその合計として出てくるので、それも見えるという 意味では、より安全な書き方かと思います。  ほかにご意見はございませんか。よろしいですか。 ○江里口委員 検討会のときから気になっていたのですが、「世界標準」という言葉を使われ ているのですが、この世界標準というものが、実際に処方せんにあるのかどうかという調査を 実は研究班でしなかったので、その辺も今度厚生労働省にちょっと。それから外国、今外国で の処方せんの書き方のサンプルみたいなもの、各国のものを少し調査してもいいのではないか なというのが1つです。  それから、不均等投与と休薬期間のある薬品よりも、ほとんど、たぶんですが、90%以上は 均等投与あるいは屯用だと思うのですね。その部分をまずしっかり押えて、今回、研究班でも そうだったのですが、こういう例外事項ばかり先に出てきて、これの議論から入っていくと、 先へ全く進まないのではないかと思うのです。  この部分は実は薬品の添付文書の中に、こういう不均等投与をしなければならない場合は、 その製薬会社でこういうことがもし決まったとすれば、先ほどの2-1-1-1とかという書き方で、 1日量はやるのだという、何か添付文書にでも付けておけば、全員がそういう書き方をすれば 全国一定になる。それで、先ほど示した12頁のところにそれを当てはめるとか、何かそういう ルール作りをすれば、こういうミスがなくなる。それを学生にもしっかり教育をすれば間違い ないのではないかと思うのです。  ○隈本委員 私も9割9分が均等投与ということであれば、それをルール化することをやったほ うがいいと思います。それは、現実に今起きている事故のほとんどが、投薬のしかたがものす ごくややこしいときに起きているのではなくて、ごく普通にやってきた処方せんを読み間違え て、ごく普通のつもりで間違えているもののほうが多いはずなのです。  現実に医療機能評価機構で集めているヒヤリ・ハット報告を見ても、薬剤師さんのほうから 疑義照会をしなければいけないような処方せんではミスが起きなくて、ごく日常的に処理され る中にうっかりが入っています。一見してこれは注意しなければいけないというような、何か 注意信号を発しているような処方せんではなくて、ごく普通の処方せんで起きているのです。 とすると、この基本ルールを大事にして、例外についてはまた別途考えるというのがいいよう な気がします。 ○土屋委員 世界標準かどうかは別としまして、HL7というものにおきましては、1回量を書き 1日の回数を書くと、1日量は自動的に計算機が出す仕組みになっているということがございま す。ただ、日本がそれに合わないものですから、1日量を書いて、1日回数を書くことによって、 1回量を割ってもいいかということで、現段階では特別に許可をもらっているようなところが ございます。ですから、それが世界標準かどうかは別としまして、基本的なルールとしては、 1回量、1日回数で、1日量はわざわざ書くのではなくて計算で自動的に入ってくるということ です。  先ほど江里口委員からございました、特殊なときの書き方については、既に今添付文書では ないのですが、製薬企業がパンフレットといいますか、特別なそういうのを作って、これを処 方で出すときにはこうお書きくださいとか、あとはそういう判子を作ったりとか、そういうよ うな対応を実際とる。これはルールがあるわけではないのですが、企業のほうでそういうこと をやっているという事例はございます。 ○森山委員 処方せんを書く立場からすると、私は齊藤先生と同じように、1回量を書くのを 優先する派なのですが、これは、どちらが優先するかということで、片一方がなくなってもい いという話ではないと思います。それは座長が言われたように。1回量を優先してもいいです が、1日量あるいはものによっては1週間量、不均等投薬というのは1週間量は、どこかでやは り押えておかないといけないと思います。医者からすると、ほとんどの薬は1回量よりも1日量 のマックスというのを我々はかなり気にしますから、そこのところはどこかで押えておかなけ ればいけないので、どちらが優先するかということだけであって、どちらかがなくてもいいと いう話ではないと思うのです。ですから、やはり1回量を書いて、できれば1日量も書く。ただ、 手書きだと、そこでまた医者の負担が増えてしまって、今オーダリングで全部発生源入力なの で、つまらないことまで全部医者が書くのですね。  ですから、私からすると、医者の負担が増えると逆にまたほかのリスクが高まるということ なのです。これからオーダリングがどんどん導入されると思いますので、オーダリング上でう まくその辺がきちんとできれば、1回量を書いて、1日量も絶対書きたい。あるいはものによっ ては1週間量を押えておく。そうすると、パッと見たときに、ああ、これ1週間量、多いなとか、 この予定だと、1日量のマックスをオーバーしていると、あるいは少ないというのが分かると いうことだと思います。 ○嶋森委員 90%が規則的に服用する薬で、そこでつまらないことで事故が起きていることは たしかです。看護職の起こすヒヤリ・ハットで見ると、誤薬は服用時間が不規則的な薬に事故 が起きていて、重大な事故もあります。もちろん基本的なルールを作った上で、今土屋委員が おっしゃったように、添付文書で書かれているようなことをきちんと書くということもルール に含めて最後まできちんと押えていただければと思います。 ○花井委員 今皆さんのお話を聞いていて、私も最初から処方せんというのは、そもそも専門 家が書いて専門家が読む。これがある種、難解な記号になる場合は非常に、典型的には数式で すが、専門家同士であれば速やかに表象がブレなく理解されるという構造が必要なわけです。  今回の議論を聞いていますと、いろいろなルールを決めていても、結局は患者が見るという ことは、そもそも前提とはしていないのですが、実は患者が普通に読み下せるものが、実は専 門家同士でもいちばん合理的であるということが理解されましたので、この機会に基本的には、 私は1回用量を先に書くべきだと思うのですが。やはり読み下して分かる。  先ほど特殊な例とおっしゃいましたが、おそらく専門家間でもその特殊な例はお互い理解、 了解をするための記号というのは、実は普通の散文的な記述なのではないかと思うのですよ、 今見たところによると。専門家同士が了解し合える特殊な数式によって瞬時にそれが合意でき るような記号というのは、どうもこの業界全体に通用していないということであれば、基本的 には特殊なものはちゃんと添付文書によって分かるように書く。  もう1つは別の問題ですが、そうしたものを誤訳・誤読しないということはまた別の問題で、 了解してちゃんと処方せんに書かれて出された薬が、今度はちゃんと患者が服薬するかどうか は、医療サービスの中で薬剤師さんが投薬指導料がどのぐらいもらえるかとか、そういう問題 もあるのですが、患者さんにちゃんと説明をするシステムはまた別途充実させるべきだと私は 思います。  したがいまして、基本的にはいわゆる用法及び用量というところで、全部書くべきことは記 載されているし、それを今回の例外の例でいえば、例えば5カプセル(2-1-1-1)、これは患者か ら見たら実はそんなによく分からない。それから、分いくつというのは、私もHIVに感染し てから分5とか分3というのを普通に使うのですが、これも普通は了解していなくて、かなり複 雑な服用をして専門家かぶれでいろいろマスターしたのですが、これは何回、朝、食後で食間 にとか、そういうことで、1日20何錠になったことがあるのですが、それはかなり細かく説明 して理解しないと飲めないというのが現状ですので、一般が分かる記述も専門家が分かるとい う方向だと思うので、是非その方向で進めていただけたらと思います。  ○楠岡座長 ありがとうございました。よろしいですか。 ○土屋委員 処方せんというものが交付義務が定められているということは、患者さんに分か らなくていいということではなくて、処方せん交付の意味は患者さんに対してこういう薬物療 法をしますよという情報開示にもなっているので、そこが今まではどちらかというと専門家同 士が分かればいいではないかという解釈があったと思いますが、原点に戻れば、やはり患者さ んにも分かっていただくような記載方法が求められているのではないかという気がいたします。  ○隈本委員 この処方せんとかカルテ、検査データすべて、その患者さんの病気を治すための 目的の記録であって、かつ、本人のプライバシーですから、そういう意味ではご本人が自分で 知る能力があって、そして、医療安全の立場から見ても、これ違うんじゃないということに気 づくことは、良いことです。 最近、私が耳にした例ですが、トランサミンを処方しようとし て、うっかりトラベルミンを処方した先生がいらして、その患者さんが「トラベルミン、私は なんでもらうんでしょう」と薬剤師に言っていたというのですね。現実にもし処方せんを見て 患者さんが理解できる処方せんであれば、自分が今まで飲んでいた薬と違うのではないかとい う、非常に重要な気づきが、医療安全上の重要な気づきがあると思うのですよ。ですから、分 からなくていいではなく、分かるように書いたほうが安全になって得と思ったほうがいいので はないかと思います。 ○齊藤委員 今いろいろな委員のお話を伺って、私が大学を出た昭和30年代のころをみると、 患者さんには飲んでいる薬を分からせないほうがいいという文化があったのですね。だから、 ラベルなどはわざと剥がしちゃったり、ましてや処方せんなんか読めるように、患者さんに理 解できるように書くなんていうことは滅相もないと。なぜかというと、そんなことをしている と癌だということが分かっちゃうだろうと、そういう発想の土壌から由来した文化なのですね。 けれども、もう今は患者さん自身がすべてインフォームド・コンセントと納得によって、予後 の悪い病気でも深く理解しながらそれに前向きに立ち向かうという文化になっているわけです から、昔ながらの処方せんの書式というのは、患者さんの文化に照らしても、大きく見直すべ き時期にきているのかなと、そういう気がいたします。 ○楠岡座長 ありがとうございます。患者さんにも参加してもらうのは、医療安全の基本で、 非常に大事なことで、そのために顔見知りの方もわざわざお名前を聞いたり、生年月日を聞い たりしています。それから、点滴をするときに患者さんから瓶に書かれている名前が違う、昨 日のものと違うという指摘を受けてインシデントで止まったとかいうのもありますので、患者 さんにも参加していただくことが重要です。そのためにはどうやったら患者さんにも処方の内 容が伝わるかということも含めて、検討をすることが非常に大事なことかと思います。この議 論に関しましてはここで終わらせていただきます。  次にシステムの話に移りたいと思います。まず最初に大原委員から、医療情報システムの観 点から、現状の課題・論点につきまして、ご意見をいただきたいと思います。どうぞよろしく お願いいたします。 ○大原委員 筑波大学の大原でございます。私の資料を見ていただきたいのですが、まず最初 に情報システムについて、私がどう考えているかということを述べさせていただいて、そのあ と、現在、病院情報システムにおいて、今回、話題になっている処方せんのデータがどう流れ ているかというお話をさせていただきます。最後に一応、医療情報を預かっています私からの 提案という形で、お話を進めさせていただきます。  1枚めくりまして、私は医療情報システムの仕事をするようになってまだ10年ぐらいで、そ れまでは消化器内科医でして、0.3とか、0.9とか、今日話題になるような、非常に割り切れな い粉の薬を、しかも私はドイツ語で書くという時代、大学で育ちましたので、すべてドイツ語 で書くという処方せんを発行していた人間です。  その医者から見て、今医療情報でやっているということなのですが、これはあくまでも道具 なのですね。ですから、まずシステムありきではないという立場に私は立ちたいと思います。 ですから、この議論において、直すべきところがあれば直していくのが当たり前の姿であると いうことを、まず申し上げておきたいと思います。  では、処方せんがどういうふうに病院で流れているかですが、スライドの4枚目、下のほう を見ていただきますが、外来患者さんの場合です。医者はオーダリングでこれまで議論があり ましたように、処方せんを入力するわけですが、ここには分量が書いてありますが、1日量と いうことで入力をいたします。そうすると、部門システムである薬剤部門システムにその情報 が流れる。多くの場合、病院は1つの、ベンダーと言いますシステム会社のシステムを使って いるわけではありませんで、薬剤部門システムは、薬剤に特化した会社が作成したシステムを 使っているのがほとんどです。  1日量で処方された情報は、部門システムに届きまして、1回分量に分割されます。これは各 メーカーのそれぞれのロジックによって1回分量に分割される。そして、その調剤実施情報が 医事会計に飛ぶ。オーダリングから受診情報が飛び、薬剤部門から調剤情報が飛びますと、医 事会計システムでは、前から議論がありますようにレセプトという所は、1日分量で記載せよ となっていますので、また1日分量になりまして、これが記録されていく形になります。  そして、病院において処方が院内処方と言いまして、その病院で患者さんに処方される場合 は、薬剤部門システムで1回分量になった情報で、薬剤師さんが調剤をいたしまして患者さん に薬を規定の日数分渡す。大学病院などですと、ほとんどが院外処方せんといいまして外の調 剤薬局に薬を出していただくことになります。この場合はオーダリングから発行されました処 方せんが印字されます。それに医師は署名、捺印をして、院外処方せんという紙媒体を介して 調剤薬局に持ち込まれる。そこで調剤薬局はその情報を見て調剤をするというふうに情報が流 れていくことになります。  入院患者さんの場合ですが、医師がオーダリングを出すところは同じです。院内の薬剤部門 システムが1回分量に変換して受け取るというところも同じです。ただもう1つシステムが存在 します。この場合は、看護支援システムと書いてありますが、いわゆる医師の指示を受ける看 護師の部門システムということになります。ここは内服薬の場合は私の知っているかぎり二通 りございます。それは医師が出したとおり1日分量で指示を受け取っているシステム、あるい は1回分量に、薬剤部門システムと同じように変換をして受けるシステムです。  この絵の左側のように、いちいち看護師が患者に薬を飲ませているような場合には1日分量 ではできませんので、1回分量に看護部門システムでオーダーを分割しているという現状です。  私が前に勤めていたこども病院でも、ほとんどの患者様には看護師が直接与薬をしますので、 1回分量に分割をしておりました。最近の情報システムでは、その処方が内服されたかどうか、 実施入力ということをやる場合があります。これは注射においてはほとんどの施設でやられて いるのですが、内服薬で実施されているところはまだありません。ただ、行っているところで は毎回の内服、実際に患者様が飲まれたかどうかを確認して入力を行うことになりますので、 必然的に1回分量に情報を分割するということが行われています。  次は6頁です。医者のオーダー画面から見ますと、まず薬剤名を入力しますが、現在のシス テムでは、ワープロ的に自由に入力するということはありません。マスタ管理と言われまして、 病院で採用された薬剤を一覧表の形でシステムの中に情報として持っています。それを選択し て選ぶということが薬剤名の入力です。そして、分量は1日量で入力するのです。  その単位について、これは筑波大学の例ですが、システムの中に複数の単位を持っていまし て、混乱しないように、製剤量単位、成分量単位というのがあります。第1単位を製剤量、第 2単位を成分量と院内すべての薬剤を統一して、混乱が起きない運用を我々はしています。  用法ですが、これは各ベンダー、各システム開発会社の独自の用語設定で、独自の通信コー ドをもって入力する、そして日数を入力するということが行われています。屯用の薬もほとん ど似たようなことなのですが、違うのは分量が1回分量になっているということと、日数では なくて回数で処方するということを医師は行っています。  画面を見ていただきたいのです。下の「薬剤名、用量、単位」という画面ですけれども、当 院では薬剤名のところに全て、薬剤の規格も登録してあります。そして、第1単位は何か、第 2単位は何かということをきちっと記録しております。例えばガスター錠というのが出ており ますが、これは3種類あるわけです。「ガスター」と選ぶと「ガスター錠10mg」と表記される ものと、「ガスター散20mg/g」と表記されるもの、もう1つは注射薬で「ガスター注20mg/2mL」 と、すべての量まで出すことで誤薬を防ぐ仕組みを採っております。そして単位は、第1単位 が製剤量ですべて表記されるというシステムになっています。  次は9頁です。薬を選びまして、数量のところには日数分の1日量を入れる。そして用法を選 択するという形になります。この用法は、均等分布の場合は下にこのようにカラムが出ます。 10頁。不均等分布の場合は、それぞれの不均等の回数に応じて、先ほどから議論になっている ように、朝・昼・夜・就前、4回だとこの4つに分割されまして、どの1回量かということをそ れぞれに入力する画面が出て、現実的には1回量の入力を行う仕組みが今は出来ています。  11頁。これが実際に当院で登録されている用法のマスタ、つまり一覧表記の例です。いちば ん左から1日分1、次のカラムが分2、以下分3、分4と書いてありますが、約6カ月間のすべての 処方を検索して頻度別に並べてあります。つまり、1日分1では朝食後の用法がいちばん多くて、 6万6,465回処方がされている。1日分3では毎食後というのがいちばん多くて、7万4,827回処方 されているということになります。何が言いたいかといいますと、用法というのはマスタ化さ れているのではなくて、各病院独自で決まっているのです。 突き詰めて言えば、均等分布はこれぐらいの数にほとんど収まってしまう、そういうことが言 えるということです。  12頁は屯服の用法です。これも頻度別にすべて並べてあります。いちばん多いのは痛いとき、 つまり疼痛時に飲んでくださいということですが、これが9,534回処方されておりました。以下 一応作ってあるのだけれども、半年間に1回も処方されていない用法も存在するという形にな ります。  13頁です。大学病院のすべての用法を洗い出しますと557通りの用法があり、実際に使ってい るものを先ほどお見せしましたが、それよりもはるかに多い数になっております。これはどう してかと言うと、過去にオーダリング導入以前から医師が使用した用法を引きずって、とりあ えず登録しておこうということで、そういうふうになったという現状です。コンピューターで すので、たかが500、600を登録しておくことは何でもないので、最大公約数で、1回でも使わ れた用法をすべて登録するということが過去に行われて、数回のシステム更新のときにも全て それらを継承してきているという現状です。  ただ、ここに記録してあるものがすべてではないということも事実です。これは何かと言い ますと、フリーコメント欄というのがありまして、医師がそこに、ワープロで打つように自由 に文章を入れることができるという余地を残しております。ですから、その部分は全く独自マ スタという形でもマスタ化、つまり事前登録されていないということになります。  この数は非常に多いのかどうなのかということが気になりまして、近隣の約400床規模の病院 の情報部と協力して調べていただきました。そうすると、やはり500通り以上の用法がありまし た。ただ驚くべきことに、うちの病院とそちらの病院の文言は全く異なっていました。つまり、 医師が最初に書いた文言を基本にして、標準的であるというものがないために、独自の文化と してそれらがコード化されているということになると思います。この事実を考えましたが、定 型的な3回、4回、5回、6回、こども病院の場合は、私の前の例ですと8回まであったと思いま すが、それは共通化、もっと言えば標準化ということで決められた文言にすることは、使用頻 度の分析から見て可能だと思います。そして、屯用も実際には非常に少ない言葉、そして医師 のコメントをもう少し精査することによって、ほとんどの場合は足りるのではないかという意 見を個人的には持っています。  次は14頁です。こういったことで採用薬剤を選択することによって、薬剤名だけではなく、 規格、剤形が表示されるようにする。そして、それらが処方せんにきっちり記載されるシステ ム、そして用法用語を、3×とかという紛らわしい用法を排除して、かなりの文章をきちっと まとめることによって誤読がないシステムにする。そして、単位もきちっと統一することによ って、かなりリスクが減るシステムを構築することが現状においても可能であろうと考えてい ます。当院のシステムは昨年の4月に更新いたしまして、今回この発表のために、1年数カ月分 のヒヤリ・ハット事例をすべて調べましたが、少なくとも本検討会の議題になっているような、 内服処方せんの記載という観点においてのヒヤリ・ハット事例は1例も出ておりません。ここ のところがポイントになるのではないかと思います。  15頁。そういった点を踏まえまして、分量を今の1日分から1回分へ変更した場合、システム ではどのような対応が必要になるであろうかと考えてみました。まずオーダリングシステム上 では、分量の入力量を変更する必要があります。そして、用法用語を、今は1日量を3回とか4 回に分けるという表現になっていますが、それを全部、何回分と登録し直さなければなりませ ん。あとは、普通の病院でも、オーダリングから薬剤部門、看護支援部門、医事会計部門と複 数の部門に情報が飛んでおりますので、ここの連携をもう一度組み直す必要が発生します。あ とは過去の薬歴について、オーダリングシステム上ではその日のオーダーだけすることになっ ていますが、後ろのデータベースには、その患者様に出されたすべての薬歴が保存されていま す。それを引っ張ったり参照したりするときに、それが1日分なのか、1回分に直っているのか をきちっと整理する、という必要が発生してくるのではないかと考えております。  次の16頁ですが、ドラスティックに1回分へ「えい!」と変えたらどうなるかということを システム屋の面から考えてみました。1つは、用法用語を「1日分」から「1回分」に変更しな ければならない。これは変更が必須になります。それとともに、これは私の経験で、前にいた 病院もそうなのですが、特に小児領域では、1日の極量という考え方をなさったり、1日どれぐ らいの薬をこの患者様に与えるのかという思考で医者は考えておりますので、1回どれぐらい 与えるかという思考方法にはなっていないのです。ですから、その部分の計算を補助する機能 をかなり付けてあげないと非常に危険が伴うのではないかと考えます。そういったことも含め て、操作教育・研修が必須になります。それと、各部門との連携がありますので、オーダリン グだけを直すだけではなくて、連携のテストあるいは、それに係る費用。いろいろなシステム 会社にまたがっておりますので、どのように費用負担をするのか、このようなところが現実に システムを預かるほうからすると頭が痛いということになります。  現実的には、実際の病院のシステム運用を止めないと、「1日分」から「1回分」を基準にド ラスティックに変化させることはかなり難しいのではないかと考えています。そうなると、5 〜6年置きのシステム更新の機会を狙って「1日分」から「1回分」に変えるということが唯一 変更するチャンスではないかと考えています。  これはあくまで病院の場合でして、もっと小さなクリニック、開業医レベルでは、いわゆる オーダリングと医事会計が一体になったレセコンと言われるもので計算をしているわけですが、 これは病院の5〜6年の更新期間よりも一般的には長いと言われておりますので、もう少し時間 がかかるのではないかと思います。  そうなりますと、いきなり「1日分」から「1回分」に変えると、移行期間は最低でも5年は かかる。そして、その間混在することによるリスクは避けられない。また、院外処方せんを出 しておりますので、複数の医療機関から処方せんが集まる調剤薬局においては、より混乱する のではないかと考えられます。オーダリングで運用しているところは、変えてしまえば必ず1 回分になります。ただ、手書き処方せんの部分、例えばオーダリングで運用している病院でも、 麻薬処方せんは手書きであったり、臨時は手書きであったり、手書きが混在する施設あるいは、 そもそも手書き処方せんで運用している施設に徹底をするということは非常に難しいのではな いかと思います。  現時点で、医療安全も考えて、そう放置はできないという現状を鑑みて、速やかに対応する にはどうすればいいのかというのが17頁の私の案です。それは、医師の処方オーダーは従来通 り1日量で処方する。ただし、定められた規則にのっとって、用法として1回服用量をきちっと 処方せんに明示させる。計算機上のロジックを使って1日量だけ医師が入力すれば1回量を出さ せる、ということはできるのではないかと思っています。「2.0・分3」といった形ですと、0. 66、0.66、0.67なのか。総計が2.0にならなくて2.01になるかもしれないが、その辺りはルール を決めて、それは容認するといった調整は必要だと思いますが、医師の入力は今までどおりで 1回量を表示させるのがよいのではないかというのが1点目です。  2点目は、リスクのほとんどは1日量とか1回量ではなくて、紛らわしい用法にこそその原因 があると私は思っております。それで、×3だとか、3×だとかといった、一部の医者にしか理 解できない用法をやめる。「分3」がいいのか、「1日に3回に分けて」と書くか、それは今後 議論して統一していけばいいと思うのですが、少なくとも紛らわしい用法はやめる。各病院の 独自マスタからも排除する。そういうことは比較的容易にできますので、これが最も有効では ないかと考えます。不均等処方は、この用法の部分をきちっと書き込むことによって、現状の システムでもクリアできるのではないかと考えています。そして、手書き処方せんについては これまでの議論と全く同じで、そもそもの規則を遵守させる、それがいちばんではないかと思 います。  18頁です。この方法で、医師は従来どおりの処方オーダーができます。そして、そもそもの 規則が遵守されます。1日量プラス1回量が表記されることによって、情報量が増えるだけで何 ら混乱は起きない。しかも、複数の施設から集まる調剤薬局でもリスクは回避されるのではな いか。そして、1日量で情報は従来どおり部門に飛ばすということができますので、部門との 連携の再構築といった多大な費用発生と期間、テストを必要とすることを回避できるのではな いかと思います。それであれば、現在2年に1回行われている保険の改正と似たような作業で、 何年の4月1日をもって「1日量」に「1回量」を並記せよという指示を出すだけで行けるのでは ないかと個人的には考えています。  19頁。この問題点ですが、この方法では、先ほどから議論になっている国際標準からは外れ る。また、紛らわしい用法を避けることを第一に考えれば、用法は標準化されません。ですか ら、その辺りをどうしていくのかということが今後の議論ではないかと思います。あとの費用、 手書き処方せんの対応についてどうしていくのかということは、これまで皆様からたくさん意 見をいただいたとおりです。  最後です。システム的にあるべき姿というのは、分量1回の記載に統一し、HL7の標準に直し て、注射と内服薬の差をなくす。それと、用法の紛らわしい言葉を排除した標準マスタを作成 して、それを全医療機関に配付する、そのことが素晴らしい結果を生むのではないかと思いま す。ただ、現実的には、この2つをやるにはシステム更新を待たなければなりませんので、移 行期間は5〜10年。しかも、その間のシステム変更、教育の徹底、それと、1回分量表記によっ て新たに発生するリスクの検証作業も並行して進めていかなければならない。つまり、あるべ き姿にするには、工程表を作成して、きっちりとした計画のもとに粛々と進める。ただ、現時 点で速やかな対応は、用法で紛らわしいものを排除する。そして1日量と1回分の並記、こうい うことではないかというのが私の意見です。 ○楠岡座長 どうもありがとうございました。引き続いて橋詰参考人より、医療情報システム ベンダーの立場からご意見をいただきます。 ○橋詰参考人 ただ今ご紹介にあずかりましたJAHISの橋詰です。今までの皆さんのご議論、そ れから大原委員のところとオーバーラップしている部分が多いのですが、もう一度復習という 意味で簡単な説明と、我々のスタンス、考え方を説明したいと思います。  スライドの2は、大原委員の病院の情報システムの外来と入院を一緒にしたような絵です。 大原委員から説明のありましたマスタというものがどういうものかというのを、たった一言で (個別)という書き方をしてしまったのですが、今までのマスタは、用法のマスタも含めて、 病院ごとに記述の仕方が違っているということも含めて、ベンダーとしては、フレームを作る 仕組みをご提供して、実際のコンテンツは病院ごとに入れていただくというのが実情です。  医薬品マスタが個別だと書いてあるのも、病院のシステムですと、採用薬をマスタとして登 録するというのが従来からのやり方でした。ですから調剤薬局のように、いろいろな所から来 るので、全件マスタを持つという立場とは少し違っており、病院ごとに採用薬も違っていると いうことも含めて、変わっています。もう1点は、ベンダーとしては画面展開だとか、いろい ろなことをするための項目を設定していますが、それが各ベンダー間で完全に一緒ではありま せん。ですから、枠組みがベンダーごとに微妙に違っているということ、それから採用薬が病 院ごとに変わる、その両方を兼ね備えたような格好で個別のマスタを各病院が使うという形に なっています。  1日量、1回量ということについて、先ほど大原委員からは、看護部門の場合にはケースによ り1回量であったり1日量であったりするという説明がありましたが、ここでは多いほう(マジ ョリティー)を取るような形で、ここは1日量で記載されていますとか、ここは1回量で実際に はやっていますというようなことをキーワードとして書かせていただきました。ここはすでに 大原委員からありましたので、細かい説明は省略したいと思います。  次の図のスライドには、マスタ、マスタと今までは言っているのですが、具体的なイメージ が湧かないということも含めて1例を表示いたしました。  次頁のスライド3は医薬品マスタの1例です。マスタと言っているのは横軸に本来欲しい要件 項目があって、縦軸にシリアル番号ないしは医薬品のコード等があるというマトリックスにな っています。そして、オーダーや電子カルテで処方オーダーを出す場合には、例えば横軸に1 日供給量だとか1回量の供給量だとかを全部持っていて、オーダーを出すときには使用量のチ ェックをする、そういう機能を持っています。もう1つは、ここに実は検索をするときのコー ドの欄もありまして、ある頭文字を入れる。先生によっては英語、アルファベットで入れるこ ともありますので、アルファベットの検索文字を入れると、ここで言う漢字名称あるいは仮名 の名称が表示されるという形の参照マスタという使い方をいたします。それ以外にもいろいろ あるのですが、こういう形でマスタを持っており、そのマスタが病院ごとに異なるということ です。  もちろん異ならないコードはございます。ここに書いてある医薬品コードですが、実はレセ のマスタを持ってきまして本来保険請求をするときの番号ですので、これは各社各病院全部共 通である。そういう意味では標準のマスタに必ず含まれるコードであるということになります。  次はスライドの4です。先ほどの病院のシステム図はご理解いただけたかと思うのですが、 これは診療所等のレセプトコンピューターでやっている1例です。実際にはレセプトコンピュ ーターで処方内容の入力、あるいは患者さんが来たときに前回処方のものをあらかじめ出して おいて変更しなければ、そこに用法だけを記入して出す。用法をわざわざ記入するのは、レセ コンの場合、用法を持っていないものが多いと思うからです。調剤薬局のレセコンは当然持っ ていると思いますが、医師の所にある診療所のレセコンは、用法を必ずしも持っていません。 そういうことで、仮に出したものにドクターが手書きで用法を再度付け加える。工夫されてい るレセコンですと、用法までどこかに持っていて、それを出せと言われたときに、それをサポ ートしているレセコンもあるかと思いますが、基本的には処方せんの元ネタを出しておいて、 担当医が用法等を補記し、署名して出すという形になります。  レセプトの発行のところは1日量という形で、病院も診療所も基本的には様式は同じなので、 こういう形で出すことになります。  次頁のスライド5は、岩月委員のところに関係する院外処方せんの流れです。病院ないしは 診療所から1日量という形で薬局に持ち込まれる。そして、薬局のほうでそれをベースにして 入力画面を叩きながら1日量を入力する。それをベースにして調剤機器に渡すと割り算される。 不均等であれば不均等に応じたような割り算をして1回量を算出して薬の袋に入れるという形 になります。この場合、記録類、お薬手帳や調剤録、それから薬歴簿に関しては1日量を記載 してあります。薬袋等には医薬品情報といいますが、患者さんに渡すものには1回量を記載す るという形になっています。  今説明した3つのシステムの大体の普及率がスライド6にあります。オーダエントリーシステ ムは、400床以上の病院ですと全国で592病院がすでに導入しておりまして、導入率が2008年時 点で71%強、全体では2003病院で22%強という形になります。電子カルテシステムは400床以上 の内数になるのですが、電子カルテシステムを入れて、オーダエントリーシステムを入れてい ない病院は基本的にないと思っています。そういうことで、313が電子カルテシステムも入れて いて、約37%の導入率。全体で見ると929病院で、10%強。診療所の場合ですと、1,0016施設で、 10%。  それから、薬局の調剤薬局という観点でレセプト電算に参加している機関数は、2009年6月 の数字で4万6,400。88.5%が導入している。こういう普及率になっています。 概要のフロー を説明し、かつ大原委員の資料説明の場合にもありましたけれども、スライド7。処方せん記 載方法の変更に伴うシステム上の課題、ということで今までのこの検討会での議事録を見てい ますと、ドクターが入力する画面のところに議論が集中しているような気がしていたのですが、 実際にはそこだけではない。いろいろなシステムに関与している。大・中規模病院のシステム だけではなくて、診療所や調剤薬局にも多岐にわたって影響する、ということが1点目です。2 点目として、調剤薬局側には、混在するということも含めて、いろいろな形で混乱を招かない ような様式とか用法表現が要るということ。それから過去データの取扱い。これは大原委員か らご紹介がありましたが、前回処方あるいは過去の処方を参照する、そういう類のところで問 題があるということです。  「その他」のところでは、漢方生薬等の対応ということで最大量のチェックをしよう。それ から、1日量が1回回数で割れないということ。先ほどの0.66、0.66、0.67にするのか。そうし ないと2.0にならないというような問題です。それから、診療報酬との関係で、1回量だけにす ると、掛け算と割り算だからどうということはないだろうと言われそうなのですが、そういう 問題も生じます。もう1つは開発期間と費用ということで、1回量に一気に切り替えるのはかな り厳しい状況になるだろうということで、システムの改修時でなく、システムの更新の時期、 ダブルでシステムを持っている段階で、1回量に切り替えたらこうなるということをきちっと 検証しないと、病院内でもトラブルが起きるのではなかろうか、そういうことを言っています。  その下のスライドですが、実際の先ほどの説明の中に「1日量」と書いたり「1回量」と書い たキーワードがあちらこちらに混在していたと思うのですが、現実、今の世界はそれが混在し た格好になっています。それから、実際の不均等投与の場合は1回量も、先ほど土屋委員等か らコメントがありましたが、2-1-1-1と書くとかという形で1回量も記載されています。現状は 混在されている。そういう意味では皆さんのコンセンサスになりつつあるので、それをまずは 徹底するのが第一ステップではないだろうか。そういう類のことが現状できることなのだろう か。今でも混在しているということを、あえて書かせていただきました。  医療安全の観点で2枚スライドを用意いたしましたが、現状の対応案。1日量指示に1回量を 並記するという案と、1回量の指示への一斉の切り替えという2つだと想定した状態で書いてい ます。そして、対応案と実現に際しての課題ということで、1日量指示(現行記載方法)に1回 量を並記するというのは、ある意味で比較的速やかな対応が可能である。先ほどの不均等投与 の手段を使うことも含めて、対応は比較的簡単にできるのかなと思います。ただ、1回量で書 くことが最終目的だとすると、そこには届かないのです。  それに対して、1回量に一気に切り替えることが最終型だとすると、目指すべき姿には近づ くのですが、影響範囲が広い。ただ単に掛け算、割り算だけの問題ではない。調剤局に出すと ころ、画面入力の変更、それから表示の仕方、いろいろなところに絡んできます。それから、 大原委員からあったように、ほかの部門とのインターフェースの絡みも出てきます。そういう ことを含めて、そう簡単にはいかない可能性があるということです。また、そのうちの1点と いうことで、調剤薬局には混在した状態があるが、それはどうしようかという話があります。 これも、本当に一斉にドンと変われば調剤薬局側は問題がないのですが、いろいろな理由で一 気にはいかないでしょうから、何年間かは混在するということです。  もう1点は、医療安全上の観点で「標準化への取組み」ということを、あえて書かせていた だきました。これは我々にとって負荷の重いところもあるのですが、処方の入力方法や画面構 成等を標準化していただいて、各ベンダーがそれに準じた形にする、ということも想定しない とまずいだろうと思っています。  それと並行して、用法マスタだとか、いろいろなものを標準化していただく、あるいは医薬 品マスタ自体を全件マスタ風に持っていって、そこで採用薬と非採用薬の区別だけをする、そ ういうマスタを用意していただくことで、病院がマスタを作る労力も含めて、楽にするような やり方も考えるべきではないだろうかと思っています。それができることによって、先生方の 新人対応や転勤のときの病院の運用も平準化されると考えています。 最後はただ単に意思表 明だけなのですが、JAHISとしては標準化に貢献すべく取り組んでいきたい。結論がきれいに出 てきた場合には、それにきちっと準じてやっていきたいと考えています。 ○楠岡座長 どうもありがとうございました。それでは、大原委員並びに橋詰参考人からのご 意見に関して、ご質問、またコメント等がありましたらよろしくお願いいたします。 ○齊藤委員 橋詰参考人に伺いたいのです。スライドの4などを拝見すると「レセプト発行、1 日量」と書いてある。これは現行の診療報酬の制度から言えば当然だと思うのですが、用量は、 内服薬については1日用量、と診療報酬明細書の書き方に書いてあるので、この記載が「1回量 と1日回数」というふうに言葉が変わると、こちらにもかなり影響してくるのでしょうか。 ○橋詰参考人 2つ考え方があると思っています。レセコンあるいは医事会計のシステムで1回 量から割り算ができるなら掛け算ができるだろう、という論理で掛け算で出す。そこまで医事 会計のシステムができれば、後ろの支払い等のシステムは、実は変わらない。しかし、それを 変えないとすると、後ろのシステムにまで影響を及ぼす。どちらにするかということになるの だと思います。 ○齊藤委員 この委員会の委員としても、最後のレセプトの段階でそれが1日量に換算される ことを否定するものではないと思うのです。ただ、最初の医師が処方する段階で漠然と「1日 量」と書き続けることに、さまざまな弊害が内在しているということなので、その間をどう落 とすか。それから、診療報酬のレセプトの書き方についての法令にまで手を加える必要がある のかどうか。その辺は。別に、1日量が出てくることはさして害ではなくて、1回量がすっこ抜 けて分からない格好のレセプトが飛び回る、ということに現場の混乱があるのだと思うのです。 ○橋詰参考人 たぶん病院の中での運用と、診療所のレセコンを使っている場合、それから院 外処方せんを出して調剤薬局へ行く所と、それぞれシステムの絡みがあります。今の場合 ですと、例えば調剤薬局ですと1日量をベースにして、その中で割り算をして渡しているとい うことを考えますと、1回量で出てくると、1回量入力用の画面が必要になってきて、それを掛 け算してレセプト請求する。単なる掛け算だけではなくて、入力画面や入力方法から変わって しまうので、たぶんスムーズには。ベンダーとしてここまで言っていいのか分からないのです が、1日量と1回量が並記されていれば、今のシステムに準じて、改修なしで1日量も入る。そ して、そのまま従来の流れが流れる。1回量が入ってきても、それはある意味でコメントとし て入力する。あるいはそれは了解した上で、システム上は別の格好で出しているのでいいでは ないかというところまで認めていただくと、システムの改修は少なくなるのかなと考えていま す。 ○隈本委員 質問です。大原さんと橋詰さんのお話を聞いて、すっきり分かりました。ありが とうございました。  つまり、薬剤部門のシステムとか、医事会計のシステム、それから薬局部門に影響を与えな いでオーダリングシステムのほうだけ変えるのだったら比較的楽にできると受け止めていいの でしょうか。つまり、大原委員のスライドの4頁で言う処方せん情報、受診情報、院外処方せ ん情報の矢印情報は変わらないようにして、最初にオーダリングシステムで入力するときに、 1回分にすることは簡単なのではないですか。医師は1回分を入力して、コンピューターにとっ て掛け算は簡単ですからそれを1日量に換算して、ほかのシステムに今までどおりの情報を送 る。しかも、その情報には1回量と回数が書いてあるわけですから、1日量をこれで割りなさい という情報も一緒に行っているわけです。だから、矢印の部分を全然変えないでオーダリング システムだけ、マイナーな改修で1回量入力に標準化して、手書き処方せんも全部標準化する。 そうすれば他のものには影響を与えないということができるのではないでしょうか。 ○橋詰参考人 そこそこ入力の負荷が増えるので、そこのところは本当にドクターがやれるか どうかです。先ほどの会話でありましたように、均等で飲む薬が90何パーセントある。それに 対して1-1-1と入れるのかどうか。あるいは分3と見たときに、先ほど大原委員は、そこを自動 的に計算して表示しろと言ったのかなととったのですが、そういう論理が簡単に組み込めるの であれば、今おっしゃられたようなことができるということになるのです。  たぶん今すぐできるのは、不均等であれ、均等であれ1-1-1と入れてくださいと、そういうや り方だと思います。その次は「分3」と書いてあったら、2錠とか3錠であれば1-1-1を計算して システム側が表示する。これはロジックを。本当に加えたら他に影響がないかどうかも含めて、 きれいに検証しないと。意外と、そこだけ直したら他のところがトラブってしまったという可 能性はあると思います。 ○大原委員 私の意見は、医者は1日量を従来どおり入れる。つまり、医者の思考回路は変え ない。それで、コンピューターの技術をもって1回量を表示させる。ただ、1回量の表示は処方 せんのみであって、情報の連携はこれまでどおり1日分で飛ばす。そうすれば、連携に対して はほとんど影響はない可能性が大きい、そのような考え方です。  ただ、自動的に割るということは、割り切れないものをどうするのだとか、その辺のルール はきちっと考えなければならない。意外に困難です。例えば2.0、分3だったら「1.8、分3」と 医者に入れてもらうというのが簡単なような気もするのですが、それはなかなか難しいだろう。 また、極量を変えて、2.0の薬を2.1にするということになると、添付文書を全部書き直さなけ ればならないので、それは難しい。だからコンピューター上の計算ルールを決めて、0.67、0. 66、0.66とかと、その辺りを機械でやっていただきたい。医者の負担を増やさないというのが 基本的によろしいのではないかと思っているわけです。 ○齊藤委員 大原委員に教えていただきたいのです。1回量がいいのか、1日量がいいのか、ま た、どういうふうに表示するのがいいのかという問題があるのですが、全国誰が見ても分かる 処方せん書式の標準化が必要であるかどうかということについて、大原委員はどうお考えです か。 ○大原委員 必要だと思います。私も医療情報の世界に入ってきて、標準化の検討会にも入っ ているのですが、総論は誰も反対しないのに、非常に困難なのです。今やっと普及してきてい るのは標準病名集ぐらいではないでしょうか。ですから、実際に患者さんに不利益が生じてい るので、速やかな対応をするのであれば、まず紛らわしい用法を潰すということが各医療機関 の責任においてできて、最も有効ではないかと私は思います。ただ、それだけで終わりにする のではなくて、工程表を作って、将来的には標準処方せん、そういったものを目指して各パー ツのものをそれぞれ標準マスタ化する、そういうことがよろしいのではないかとは思います。 ○土屋委員 現行のマスタでいちばん問題になるのは、大原委員の資料でいけば14頁にありま す、第1単位を製剤量にして、第2単位を成分量にする。これは実はすごく大事なことなのです が、現状は、これがバラバラなのです。まさに薬によって、第1単位が原薬の成分量になって いたりするのです。私も実は前の病院でこれを統一して、その間3カ月全数モニタリングをし、 なおかつ、成分量を第1単位で入れていない先生に対してはそれを全部メールを出して、そこ のところを徹底的にチェックすることを事故防止対策として行いました。マスタのメイン単位、 サブ単位というものをどう決めるかということは極めて重要なことです。このことは、実は、 1回量であろうが、1日量であろうが、今でもやらなければ。前回「1日3回」という言葉もまず いということがありましたが、現行のシステムでやらなくてはいけない話は、こういうマスタ の統一部分なのです。  用法も、検討班で調査しましたら本当に1,000以下です。3桁の用法が登録されているのです が、同じ用法が3回登録されていたりする。過去のものを引きずるために、用法のマスタに入 っている用法数だけは目茶苦茶多いのです。ですから、こういったことをきちんとマッピング をしてやり直すことによって、用法のところをきちんと直す。そのときのルールをきちんとす る。「朝・昼・夕」と「朝・昼・夜」は違うのか、違わないのかというのが昔からあるわけで す。「食事」を付けると、夜食と夕食は違うから「朝・昼・夕」と「朝・昼・夜」は違うとい う解釈を昔はしていた。でもコンピューター化と同時に統一した所もあれば「朝・昼・夜」も 残した所もあるというのが現状ですので、そこの統一を図ることが極めて重要なのです。まず メインとなる単位決めること。単位をきちんと、メイン単位、サブ単位が病院によって違わな いようにする。このことは医療事故から見たときに、その防止ということから言っても、極め て重要な意味を持つのです。  検討班でも、もともと言っておりましたのが、各ベンダーによって違いが出る、あるいは各 病院で違いが出ることが問題なので、処方せんの入力方法についていえば、そこはきちんとル ールを決める、やり方を決めるということが必要であろうということです。  もう1つ。検討班の話でも、もともと、将来の姿を決めた上で、その過渡期についてどのよ うに過ごしていくかがすごく大事である。ただし、将来的な姿をどうするのかということは、 きちんと決めておくべきであろう。そういうことがございましたので、そういった点を検討し ていただいたらいいと思います。  あとは、検討班のときに大手のベンダー4社に対して、入力方法をもし1回量にしたらどうす るかと聞いたときには、1回量を入れて1日の用法が入ると、自動的に「昼・夜」という所に数 字が入り、なおかつ1日量も示されるような方式を各社で出しておりましたので、割るかどう かは方法論だと思いますが、そういう対応はできるということは確認しております。 ○森山委員 大原委員も言われたのですが、医者の思考回路というのは、抗がん剤は1回量と かというのはあるのですが、通常の薬で1回量で頭からスタートするというのは、ほとんどな いのです。ドクターのその思考回路を変えろと言うと、これはかなり複雑になってしまうので、 医療そのものが成り立たないと私は思うのです。ですから、ドクターのその思考回路を変えな いで、なおかつ入力するときも変えないようにしないといけません。いきなり1回量から入力 しろと言ったら、とんでもないことになってしまうので、ますますリスクが高まると思うので す。今委員が言われたように、ミリグラムかグラム、製剤量か成分量かということはあるので、 それはそれで直したほうがいいと思うのですが、基本的に医者の思考回路と入力の手順などは 絶対に変えないほうがいいと思います。 ○土屋委員 先ほど大原委員のお話にもございましたが、薬剤はいろいろな製剤が出てきたの で、全体の3〜4割は今でも、1日量なのだけれども、その服用回数が1日1回であるため、現行 においても記載量が実質1回量になっているという事実があるのです。これは各病院で調べま したところ大体共通です。これがもともと均等でなくなってきたのは、薬剤にいろいろな剤形 が出てきて工夫がされて、昔は粉薬で均等に分けるとかという話があったのが、そういうこと で変わってきたという現実です。そういうことは調査としても一応は行っています。 ○楠岡座長 調剤薬局あるいは診療所のレセコンのことも関わってくると思いますが、この点 に関して、ご意見はあるでしょうか。 ○岩月委員 前回から盛んに申しておりました、1日量と1回量を両方書けば済むのではないの かという話。当初の目的は、世界標準とかという話もあったのですけれども、現実問題として 考えていくと、できることから進めていくということも、かなり重要だろうと思います。その 中で、今の仕組みの中で1日量と1回量が両方書いてあれば、どんなにシステムが多岐にわたっ ていても今のままで対応できる。表記の仕方をどうするかということに関して言うと、いちば ん大事なことは、用法などのマスタを統一することです。全国どこに行って、どんなふうに端 末を叩いても、同じ操作で同じ答えが出てくる。そして同じ画面表示ができる。それは、それ こそこの機会にやっていただかないと、できなくなるのではないかということを危惧します。 まさに、どんなシステムであっても、使っている言語は同じにする。そこを押えていただける と大変助かるのです。 ○楠岡座長 具体的な問題として、調剤薬局に来られる患者さんが複数の病院から処方せんを もらっておられて、ある病院の用法の記載と別の病院の用法の記載が違うので戸惑われたりし て服薬指導上いろいろ工夫しなければならない、そういう問題も具体的にございますか。 ○岩月委員 疑義が発生した段階で調剤できないことになっていますので、それは疑義を解消 して調剤に移る。したがって、患者さんに薬を渡す段階で「あっ、違うよ」ということには、 ほとんどのケースはならないのです。 ○楠岡座長 私がお聞きしているのは、例えば、ある病院は「食後2時間」と書いて、ある病 院は「食間」と書くと、それは一緒に飲むのかどうかという問題です。 ○岩月委員 それはまさに添付文書と保険の適用の話になりますので、そこも全部確認をする ことになります。よく指摘をされるのは、食直後に服薬しなければならない薬が処方せん上「 食後」と書いてあれば、当然、薬剤師は疑義照会をします。それはまさにルールが守られてい ないのです。隣に飯沼委員がいらっしゃるので言いにくいのですが、疑義を確認するシステム があれば、違う表現であっても、どこかに収斂するような仕組みは今でもあります。 ○楠岡座長 飯沼委員、クリニックのほうは、いかがでしょうか。 ○飯沼委員 診療所の話はよく分かりませんけれども、個人的には、並存するというシステム はよくないと思います。1、2、3ドンで、何年何月、それも、わりに短い時間でこちらに切り替 える。そういうことを大号令を発して一気にやる。それをやらないと、また同じ議論をするこ とになるのではないかと思います。  我々の仲間の多くはしばらく手書きでしょうから、委員の皆さん方が今おっしゃっている話 に乗れない部分もあります。それから、院外処方の人たちは今の議論に乗れるかもしれないけ れども、ご自分で処方されている先生は結構ありますし、薬も出されている先生もありますか ら、その辺のところの兼ね合いは、難しい問題が少し残ると思います。 ○永池委員 今まで意見を聞いていて、私が本検討会に最初に参加したときに、根本対策をす るためには標準化が必要である。その標準化には、内服処方に対しては1回量がよろしいので はないかというご提案があったように受け止めていました。また、それが世界標準の標準化で あるというご説明がありましたので、世界的にそれができているのであれば、日本もできない ことはないだろう。そのほうが医療安全の観点においてより有害事象を減らすことができると 言うのであれば、その方向に何とか進めないだろうかという視点で私もこの会議に参加をして おりました。  今いろいろ聞いていきますと、まず、処方せんに正しく処方内容が記載されるということ。 そしてその記載が、情報の伝達エラーなく、患者さんに届くまでの薬剤の準備ができること。 準備されたものがなおかつ患者さんに、きちんと間違いなく与薬されるということ、大きく分 けるとこの3段階があると思います。今いろいろな視点でお話が来ているので、なかなか整理 がしにくいのかなと感じていましたので、こんなふうに整理をしていったらいいのではと思っ たことをお話させていただきたいのです。  例えば、もう規則があったのだとすると、それがある種の日本における標準化なわけです。 それが本当にそれでいいのかどうか、まずそこから。処方せんをいかに正しく書くかというと ころをもう一度議論し、それが紙ベースなのか、システムベースなのか。いずれにせよ、それ が標準としてできていない背景に、例えば×3と書く事を直せばいいだけであれば、通達のレ ベルでこうしましょうで終わるのではないか。それ以降は、システムをどう作るか、開発して いくかなので、問題がないとなれば、次のことはもう話し合わなくてもいいのかもしれません。 このように、第1段階から1つずつ潰していくというやり方で標準化はどうあるべきなのかとい うことをお話されるのはいかがなものでしょうか。今そう感じております。 ○望月委員 私も、最初の議論では1回量という非常に分かりやすい話だと思いました。けれ ども、前回の岩月委員のお話と今日の佐相委員、大原委員のお話を伺っていまして、移行期の 混乱ということを考えたら、ここで事故を起こすわけにはいきません。まず今あるルールをき ちんと守って、佐相委員の資料の中の11番と12番にあるように、1回量と1日量、両方が記載さ れた処方せんが規則どおりの処方せんであることを医療従事者で徹底する。それを皆さんが守 って、薬剤師さんが全部正しく読める。それをまずやってみて、それが十分に行き渡った段階 で「1回量」に変えるのだったら、それは「1日量」を書き換えればいいので、自然に変えられ ると思います。そういう形に持っていくのが、今の段階ではいちばん行きやすいのではないか と思うのです。  私が特に今の段階にこだわるのは、薬学教育で4年制が6年制に変わりました。4年制はもう 終わった、と言っても、まだ何人かは残っているのですが。今は6年制の学生が4年生になって いて、その学生の多くは9月から、実務実習事前学習ということで模擬処方せんを使って学び ます。そのときには、現場の薬剤師さんのお手伝いもしていただくのです。9月から12月まで 事前学習をした後、共用試験というのが12月から3月まであるのですが、模擬処方せんを使っ て試験を受けます。そのとき、共用試験のOSCEにおいても薬剤師さんの指導を受けるので す。  その後は来年の5月から再来年の3月にわたって実務実習をして、現場の薬剤師さんに教わり ます。今1万人の学生がそういう準備をしております。学生が1万人に対して、病院薬剤部と薬 局を合わせて約2万人の薬剤師さんに、実務実習モデル・コアカリキュラムにそれに沿って指 導をしていただきますが、そのときに、処方せんというのはこういうものだということをお互 いに理解し合えば、そこで合わせて何万人かの薬剤師さんと学生の教育が一度にでき上がって しまうのです。  最後の仕上げとして、薬剤師国家試験の中にも処方せんが出てくるのです。ですから、その 処方せんがルール通りのきっちりした処方せんであるということは非常に大切だと思うのです。 その先、タイミングを見て、5〜10年の間に徐々に変えるか、一挙に変えるか、それはその情 勢でできると思うのです。そういう体制でまずは今、規則に合った処方せんを書くこととし、 いずれは理想的なものに変えるという形が薬学生の教育上ではいちばんいいと思いますし、教 育する立場からもありがたいと私は思うのです。 ○伴委員 今、確認しておかなければいけないのは、将来どこを目指すのかということを明確 にした上で、transitionalにこうする、ということでやることです。私も昔アメリカで診療し ていて、日本へ帰ってきたら、静脈注射は1回量で出すのに、何で経口薬だけ1日量で出さない といけないのか。ややこしいシステムだなと思いました。おそらく、初めて接する人は、内服 薬は1日量とかと統一されていないところに非常に混乱を招くというのは間違いないのです。 ですから注射も、屯用も、内服薬も将来的には1回量で出すということは明確に、メッセージ として伝えながら移行期を進める。将来的にはというところを強調しながら進むというのが大 事かと思います。 ○齊藤委員 今、望月委員が非常に重要な指摘をなさったのですが、実は、私も大学に30年近 く奉職していて、処方せんについて教えようと思っても教える中身が決まっていないのです。 だから、患者の名前と年齢を書くこと、それぐらいしかなくて、あとはもう、良きに計らえと。 卒業したら、医者がいるから背中越しにのぞき込んで真似ればいいのだと。それから医師の国 家試験。伴委員とも一緒にやったのですが、そこで処方せんに関した出題を考えようとすると、 これは正解がないのです。どういうふうに書くのが正しい処方せんの書き方なのかという正解 がないから、これも出しようがない。教えようもなくて、出しようもないところで教育された 薬剤師や医師は、非常に妙な教育背景を担っているなという気がするのです。この委員会の前 の、私たちの厚生科学研究の研究班でも、1つは、医師が卒後臨床研修で2年ごとにほうぼう動 いたりするので、施設ごとに統一されていなければいけないということ。もう1つは、薬剤師 の教育が6年制になって、臨床でどんどん服薬指導とか、いろいろなことをされるのに、全国 的に決められた処方せんの書式がないということは、薬学教育の上でも大きな問題だろうとい う意見が主体だったのです。その点で是非、今、望月委員が言われたようなことがこの検討会 の考え方として定着すればいいなと思いました。 ○楠岡座長 そろそろ予定の時間になってまいりましたので、いろいろご意見をいただいたと ころで、本日は終了にさせていただきたいと思います。次回は、これまでの議論を踏まえて論 点の整理をしていきたいと思いますが、今までの中から抜けていて取り上げるべき事項はござ いませんか。もしお気付きの点がございましたら、後ほど事務局のほうにご連絡をお願いした いと思います。次回の日程につきまして、事務局からご説明をお願いします。 ○医療安全推進室長 先生方、2時間にわたりご議論をありがとうございました。次回は9月14 日(月)の午後5時から7時までを予定しております。 ○楠岡座長 本日はこれで閉会にしたいと思います。お忙しいところご出席いただきまして、 どうもありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579、2580)