09/06/26 第3回企業年金政策研究会議事録             第3回企業年金政策研究会              日時 平成21年6月26日(金)                 15:00〜              場所 はあといん乃木坂413号室 ○森戸座長 皆さんこんにちは。時間がまいりましたので、ただいまより「第3回企業年金 政策研究会」を始めさせていただきます。本日は、菊池委員、駒村委員、嵩委員が所用によ りご欠席となっております。  最初に、本日は有識者からのヒアリングということで、神戸大学法学研究科で税法をご専 門にしていらっしゃいます佐藤英明教授をお招きしまして、ご説明いただきたいと思います。 佐藤教授、よろしくお願いいたします。 ○佐藤英明様 こんにちは。神戸大学の佐藤です。専門は租税法で、特に個人所得税法など を勉強しております。お手元には、事務局から資料1を作って配っていただいているかと存 じますので、それに沿って簡単にお話を申し上げたいと思います。  企業年金と所得税制という題で、確定給付型と確定拠出型の年金について、少しお話をし たいと考えています。企業年金と税制というテーマは、ちょっと住み分けが難しくて、おそ らく分野ごとにシュリンクするところがあるのだろうと思うのです。税の側からいうと、ど ういう所得税制になるかという話はいたしますが、ここをこう変えれば年金もよくなるのに と思っても、なかなかそこは言いにくいところがありますし、あるいは口を出すと荒唐無稽 なことになるということもあります。それから、おそらく年金制度のほうを勉強なさってい る方から見ると、「税制はこうすればいいのに」というものが、そちらが正しいという主張 なのか、それとも税制改正要望になってしまうのかよくわからないというような、たぶんお 互いシュリンクしているところがあるのだろうと思います。今日は、少し無礼なことを申し 上げるかもしれませんが、そういう意味では折角の機会ですので、一言申し上げたいと思っ ていることがあります。  まず、よくご承知のところから始めたいと思います。「企業年金をめぐる所得課税」と書 いていますが、確定給付型と確定拠出型をご覧いただきますと、従業員の拠出部分について は、確定給付型が生命保険料控除になっていて一部控除であると。それから、確定拠出型は、 いまは個人型のみが小規模企業共済等掛金控除になりまして、こちらは全額控除であるとい うことがご承知のとおりです。いまの改正案を拝見しますと、確定拠出型に従業員拠出部分 がつくられますと、これも小規模企業共済等掛金控除の対象になる予定だと承知しています。 間違っていたら、またあとでお教えください。  その給付がそれぞれ年金となったときに、公的年金等として雑所得課税があると、公的年 金等控除の対象になるというようなことは、ご承知のとおりであります。わりあい、我々か ら見て、見過ごしがちなのが、一時金の扱いでして、これが確定給付型だと法の第38条第 2項、確定拠出型だと第35条の第2項で、予め定めておくと一時金選択ができるというこ とになっていて、それは税法上は退職所得として扱うということが、きちんとルールとして は決められているところです。ただ、この辺りは数字がわかれば教えていただきたいのです が、平成13年改正前に私が見ていたものによると、かなりの適年などは4分の3や8割と いうのが一時金選択ができて、かつ相当割合いで一時金が選択されているということをかつ て勉強したことがあります。いまどのぐらい、確定給付、確定拠出で一時金が選び得る、ま た現実に選ばれているのかということは、大変興味のあるところです。  一時金の話は後でもう一度戻ってくることにして、別の見方をしますと、非課税部分の拠 出から給付時の課税へと時間が動くということは、もうご承知のとおりです。この間の運用 益、利子、配当等については、所得税法の第176条第2項で、源泉所得税を課さないとい うことになっています。ただ、これは結局給付時に課税をするということですから、非課税 ではなくて課税繰延という効果をもつかと思います。このタイムラグ部分に対して、いわゆ る特別法人税が課せられているというのがつくりであるということで、ここまでは復習であ ります。  復習のもう1点ですが、課税繰延というのがなかなか法律をやっている人間にはピンとこ ないので、経済の先生方にはもう当たり前のことですが、一応まとめておきます。表1が本 則というかデフォルトルールです。1年目に働いて100稼いで、税引き後の利益を2年目の 1年間は預金に預けたというイメージで見ていただくといいのですが、1年目に所得が100 あると課税されるので、課税所得が100で税が20、期末資産が80ということになります。 この80を期首に、収益率10%で預け入れると、所得8、課税所得8、税が1.6で、期末に 86.4になる、これがデフォのルールになります。課税繰延をするとどうなるかというと、1 年目は所得は100で課税所得はありません。したがって、税も0で期末資産は100のまま 残ると。これを期首に放り込んで10%で運用すると、所得が100です。前の年に繰延べて いた100と合わせた110が課税所得になりますから、税が22で期末資産は88となりまし て、86.4との差額部分がいわゆる課税繰延益ということになるわけですが、有名な書き換 えをやると表3のようになります。即ち、1年目課税で2年目の収益を非課税にするという ことです。こうしますと、1年目は表1と同じ80が残ります。即時課税です。しかし、2 年目の収益を非課税にすると、80から出てくる8に対して課税がありませんので、期末資 産が88になります。これが、表2と表3の結果が一定になるというのが普通知られている 定理でありまして、要するに課税を繰延べるということは、即時課税とその課税済み所得か ら発生する収益を繰延期間中非課税にするのと同じ効果を持ちます。これは、3年モデル、 4年モデルでやるとすぐおわかりになりますが、8の部分がずっと抜けていくという構造に なるわけです。  したがって、課税繰延というのは、待ってもらっているというだけのイメージよりも、い わば拠出時に即時課税をして、そこから出てくる収益を連年非課税にしていくのと同じ。簡 単に言うと、このまま放っておけば表3の形というのは、拠出時に課税をしておいて、あと は年金マル優のようなものをつくるというのに等しい効果をもつのではないかと考えます。 そこで、税の人間はかなりここに神経を尖らせているということです。  こういう税金の、税制のあり方のポイントは、2つあるのだろうと思います。1つは、拠 出時の課税から受給時への課税へと転換されていること。その仕組みは、拠出時控除と運用 益の取得時非課税という2つから成り立ちます。それから、仮に特別法人税を課税しないと するならば、そこに課税繰延益が供与されている。言い換えれば収益非課税と同じ構造を持 っているということになります。ここは気にしていただきたいところなのですが、本来は拠 出時課税と運用益取得時課税が行われるというのがデフォルトのルールだということであ ります。拠出時課税という言葉がわかりにくければ、これを税引後拠出と申し上げても同じ ことになります。  そこで問題領域ですが、常識的に2つ取り上げたいと思います。1つは、年金税制として の性格付けです。これは、森戸座長が最近書かれましたジュリスト論文で挙げられている「企 業年金の2つの方向性」との関係があろうかと思います。即ち、企業年金には労働条件的性 格と、老後所得保障的側面の2つの側面があるとまとめていらっしゃるところです。私自身 は、この企業年金に関わる税制というのは、従属的に提供された人的役務の対価としての整 理が第1段階であって、そこはベースラインという意味での中立性確保。そして、第2段階 目に進んで、社会的政策考慮からの優遇措置を構じることを検討するのだというように、同 じ支払的側面でア、イに分かれるというよりは、1を前提にして2というイメージではあり ますが、考え方としては森戸先生と同じ方向を取っているつもりですので、この論文のお考 えには大変心強く、また賛成させていただきたいと思っています。  それから2つ目の領域は、年金税制の中に位置付けられたとして、その中でどういう扱い を受けているかということに関わる問題です。この順番でお話をするのがよろしいかと思い ますので、恐縮ですが2頁をご覧ください。  年金税制としての性格付けについては、ここではとりわけ退職所得課税との関係を取り上 げてご指摘を申し上げたいと考えます。この点が、あまりこれまで議論されていなかったと いうこと、それから退職所得のほうに実はいろいろな議論がいま行われていまして、退職所 得課税の従来の考え方に寄っかかって企業年金の議論をすることは、もはや不可能に近いと いうことを懸念するからです。  退職所得の課税関係は、あるいはあまりご興味がないかもしれませんが、非常に優遇をさ れているということで、退職所得控除がある。それから、その控除後の半分しか課税対象に ならない。そして、その年度に他の所得があっても、分離をして累進税率の適用が行われて いるという、非常に優遇がなされているわけです。  この点については、臼杵先生の資料3に詳しく取っていらっしゃるのと、私の資料がかな りかぶっているのですが、資料3の1頁に引いていらっしゃる昭和58年9月9日の最高裁 判決は、退職所得の機能を老後の糧であると。したがって、社会政策的な考慮が必要なのだ と。これを立法趣旨として説明をしているところであり、学生が全部覚えるいちばん肝の所 の判示であります。  この退職所得控除に関する経緯は、少しお話する価値があるかと思うのですが、結論から いうと現行法に至っている基本的ポリシーは、平均的な退職所得には課税をしないものであ ると申し上げてよいと思います。現行制度を当てはめますと、40年勤続の場合、2,200万 円までの退職所得、退職一時金が非課税になりまして、概ね平均的な退職金の額をカバーし ている、これを超えてもらえる人はある程度裕福であって、課税をしてもいいというレベル なのではないかと思います。  退職所得に課税を始めたのは、そんなに昔のことではありませんで、昭和13年に課税が 開始されます。5,000円の控除付きでスタートしまして、ちなみに昭和13年の給与世帯の 実収入合計というのが、1カ月111円4銭だったそうでして、平成20年の勤労者世帯の平 均月収48万6,800円をベースに計算すると、5,000円というのは大体2,192万円と、いい とこいっているなという数字ではなかろうかと思います。このあと、戦中はいろいろありま すが、戦後落ち着くのが昭和25年の15%控除で、昭和26年には既に「控除+2分の1課税 +分離課税」という姿が確立をしまして、累次控除が引き上げられていく。  そして、注目をしていただきたいのが、昭和41年の中間答申で、この控除の金額という のは、退職金の額が退職時の給与水準と勤続年数によって決まるということを前提に、その 控除額を定年退職者の平均的な退職所得の水準にまで思い切って引き上げるということが 必要とされ、その根拠がまさに老後の生活保障だというところにあった点であります。昭和 41年の最終答申はこれをこのまま受け入れ、昭和46年には、「昭和42年度において引き上 げられたところであるが、その後の平均的な退職所得の水準、物価水準を考慮して、見合っ た見直しを行うという」ことを提言し、これも受け入れられることになります。この後、累 次引き上げが続きまして、このようにクリアに明言されることはありませんが、逆に言えば このポリシーを手放すということも話が出ているわけではありませんで、現在のところまで は引き上げというのがおそらく平均的な退職所得水準を考慮したものであると申し上げて いいと思います。  企業年金における一時金の選択可能性というのは、税の面から見ると選択によって、年金 課税を受けるか、それとも退職所得課税を受けるかということで、相当に実は結果が変わる という可能性があることは確かです。ただ、退職所得課税をベースラインとするなら、面倒 ではありますが、不均衡の是正は技術的には可能であろうと、これは私個人としては考えて いるところです。  退職所得についてのこういう考え方が変化をてきていると考えるのが、平成12年ぐらい からの様相です。平成12年の中期答申では、退職金の支給形態が一時金から年金方式に移 行していると。現行の退職所得課税の仕組みを考えると、「長期勤続の場合を優遇していく のが適当かどうか検討する必要がある」というぐらいから始まりまして、平成15年には「多 様な就労に対して中立的な制度とする必要がある」と。企業年金の普及等の状況を踏まえて、 過度な優遇を是正する。それから、給与、退職一時金、年金の間で課税の中立性の確保、と いうように文言が変わってきていて、大分強くなっていることがおわかりだと思います。  平成17年の論点整理では、2行目に線を引き忘れていますが、「退職一時金に替えて退職 年金を支給する」というように、支給実態の多様化が指摘をされ、そして同じことですが、 退職金については「全体として多様な就労選択に対する中立」ということが言われていると ころです。平成19年については、臼杵先生の資料に載せてくださっていますので、そちら をご覧いただければよろしいですが、基本的には平成17年の論点整理から変わっていない という状況であろうと思います。  整理しますと、給与、退職所得、企業年金の課税の中立性確保の必要性が主張されている という点が、これまでの平成12年以前とは大きく異なる状況にあります。その主眼が、退 職所得課税の強化、行き過ぎた優遇の是性という言葉ではありますが、退職所得課税を強化 するということは間違いありません。これは違う言い方をすれば、老後の糧なんだから優遇 しておくのだという「老後の糧」論による退職所得優遇税制の論理が破綻してきていること を示していようかと思います。  さらに詳しく言えば、この破綻というのはおそらく2つあって、1つは現在の退職所得の すべてが老後の糧とはいえないではないかという範囲問題。それから、仮に真に老後の糧で あっても、他の所得との課税上の不均衡が大き過ぎるという考え方、おそらくこの2つがこ の辺りの議論の基礎にある考え方であろうと思います。  しかしながら、ではどうなるのですかと言われると、これが極めて不透明だということが 問題であろうかと思います。というのは、このあとすぐ出てまいりますが、企業年金を含む 年金所得課税への強化が1つの道筋ですが、そのことと平均水準の退職所得への非課税とい うのは、これは原理的に両立不可能であります。制度あるいは制度の設計、利用上選択性が あれば、要するに安いほうに流れるということは止められないはずでして、原理的にはこれ は両立をしない。ということは、退職所得課税の強化というのは、極端なもの、濫用的なも の、異質なものに限定しての強化ではなくて、いわば平均的な部分を含む課税強化でないと、 中立な不正な確保という論点には対応できないということを示しているわけです。  他方で、退職金受給時における課税の急速な強化というのは、これは社会的に見て極めて 困難です。社会、人生設計上の期待というような言葉を、平成17年、平成19年と税調は 使っていらっしゃるかと思いますが、もっとありていに言えば、多くは1回切りの受給であ ると。そうすると、ある年の受給から前の年の受給と全然違う税制になるというのは納得感 を得がたいという点が、大きなポイントになるだろうと思います。また、退職金について、 実際の現実の受給時以前の課税という選択肢が日本の場合はほとんどないだろうと。労働法 の先生方の前で申し上げることではありませんが、自己都合によって、あるいは会社都合に よっていろいろ内容が変わる、あるいは懲戒免職のときに変わるというような退職金につい て、受給時以前に課税ポイントを設けるというのは実態に合わないということが言えます。 これも連立方程式は解けます。私の考えでは解けるのですが、一度真面目に考えた経験から 言うと、極めて大変です。日本版個人退職口座みたいなものを想定して、優遇を非課税から 課税繰延に切り替えるというようなことを試みないとできない、ものすごく大がかりな改正 しかおそらくないだろうというのが、私の個人的な考え方であり、そう簡単ではないという ことです。  退職所得について延々喋ってまいりましたが、企業年金制度にどうフィードバックされる かというと、これは一時金選択可能制度がいまでもかなり使われているならば、そこに関わ るということです。即ち、一時金として受給可能な企業年金というのは、先ほどの2つの方 向性という観点からいうと、どういう性格付けが与えられるのか、老後の所得保障という優 遇措置を向いた方向に位置づけること、整理することがうまくできるかどうか。それから、 年金課税が若干ずつとはいえ、課税強化として先行する可能性は、これは個人的には否定で きないと思うのですね。年金課税のほうはカレントの所得でありますから、少しずつ締める ということは、そんなに難しくはないと。そうなると、このあと出てまいります年金の給付 時課税の徹底との関係も問題になると。即ち、年金として位置づけて拠出時控除をつくって おきながら、もらうときは一時金として課税が抜けるという制度では、税制のほうから見る と、やはり困るという問題が出てくるのではないかという点です。  さて、そこで年金としての性格付けですが、これはもうご承知かと思います。昭和61年 の抜本答申におきましては、控除の水準の問題が当時の現行水準の維持に出てきています。 公的年金については4頁ですが、給与所得控除の適用がよくないというので、第29条から 動かした。みなし給与からは動かしたわけですね。公的年金の項について、当時の現行制度 の控除水準にしてもいいと言っておいて、企業年金についてはそれぞれの企業年金が複数種 類あるではないかということを前提として、企業年金の性格を踏まえてということと、公的 年金に準じるということが指摘されています。即ち、企業年金について、年金制度の枠内で の検討が考えられていて、この時点では退職所得との中立性というような論点が出てきてい ません。したがって、その比較の対象は、公的年金に限定されていたということがわかりま す。  しかしながら、平成15年の中期答申でしたでしょうか、税制のあり方になると、はっき り年金制度の中に含めてこれを議論するということがわかってまいります。即ち、年金課税 の整合性の観点から見ると、拠出、これは社会保険料控除等で拠出段階が抜けていて、給付 も実質的には通常の水準まで非課税としているというのはおかしいと。方向は、給付段階で の優遇の適正化で、としながら、企業年金について拠出時控除・給付時課税の仕組みの徹底 というのが、税制適格な私的年金なのだという指摘をしているところです。  平成17年には、公的年金等と入れて、公的年金の話をしながら、年金所得について独立 の所得区分を年金の側から括っていく考え方を示していて、これは私的年金でいえば括弧書 きで税制適格なはずですが、その部分が年金として括られていく。控除としては、引き続き 見直しというのが、控除の縮小による年金課税の強化を示していることはご承知のとおりで あります。  次に5頁ですが、整理しますと、企業年金上の税制上の位置付けというのは、年金の中に 公的年金と企業年金があるという発想から、公的年金等として集めるグルーピングの中に、 税制適格な企業年金を含んでも考えるのだと。中が2本立てになっているという発想ではな いと言ってよいと思います。そのようなところに含まれる税制適格な企業年金課税というの は、拠出時控除・給付時課税の枠組みを徹底すべきであるというのが打ち出された方向性に なると思います。  そうなると、再び企業年金の2つの方向性との関わりで、この問題を考えることになると 思います。この「賃金後払い的側面」、即ち私流に言うと人的役務の対価に対する課税の中 立性の要請、というこの視角からは、当然ですが企業年金を取り上げて優遇税制の対象にす るという考え方は導かれてこないわけであって、老後の所得保障制度の側面をどのように具 体的な税制と結び付けていくかということが問題になるわけです。また、税制適格な私的年 金が、拠出時控除・給付時課税の枠組みの徹底と結び付けられているところですが、この「税 制適格」は読み方が2つあると思うのです。踏み込んで読めば、優遇措置を含めて税制適格 という読み方であり、そうであればこの枠組みの徹底は非常に重要な前提問題となります。 そこまで踏み込まなくても、おそらく拠出時に原則として課税をするというポイントから、 受給時への課税、即ちより関係者が利用しやすい普及の後押しをする、ここまではかたく読 めると思うのですけれども、そういう受給時課税を取る、それ以上の優遇はともかく受給時 課税のやり方を取るということを税制適格と読むならば、そこに例えば課税繰延益を与える 優遇措置をセットするというようなつくりになるはずですから、やはり優遇措置をセットす ることとの関係で重要な前提となるという点では、変わりがないと思われます。  そうなると、最初にご紹介したように、受給時に課税をされずに給付時に課税をするとい う転換の問題と、さらに課税上の優遇の問題の2つに分かれるわけなので、そこを考える必 要があるということになります。第1点が、給付時課税への転換で、これは拠出時全額非課 税の徹底という方向性を目指すべきであるという問題提起になろうと思います。ここで気に なりますのは、拠出時控除について、理由の整理がなされているのかという問題です。  現行の所得税法の第75条の第2項で、個人型の拠出、確定拠出の掛金について全額控除 になっている支出というのが、このように説明がされています。本人の任意であって掛金の 枠も本人が決定をしている、厚生年金基金や国民年金基金のように公的部分を代行するとな っていないと。したがって、社会保険料控除ではなくて、小規模企業共済等掛金控除になる、 と説明をされているわけです。ご承知のように、これは社会保険料控除の対象とするよりも こちらがいいという理由にはなっていますが、では何で生命保険料控除ではないのですかと いうことについては、必ずしもきちんとした理由があるわけではないのです。それからそも そもこの小規模企業共済等掛金控除というもの自体が、昭和42年にこの共済の給付の基礎 となっている法律の改正によって、加入は任意だが、しかし社会的、保険的色彩が濃いとい うような制度が作られたことから作ってみたというので、要するに、普通の言葉で言えば何 となく似た性格を持っているということで、ここに入っているというイメージになっている わけです。しかし、今度は確定給付はどうなっているかというと、これにはあまりクリアな 説明が私の見る限りではなされていません。適格退職年金契約と同様にというので、今度は 確定給付は適格退職年金契約と似ていて、適年のほうは従業員拠出の部分が生保でしたから、 だから生保控除だという話で、要するに何とどのように似ているかというところをつかまえ ていって、控除は拠出の部分を当てはめているのではないかというような印象を強く受ける わけですが、その結果、仮に今度の改正案のとおり確定拠出について従業員拠出部分が認め られ、それが小規模企業の共済等掛金等控除に入れば、確定拠出と確定給付で扱いが変わる という、そこは似ていないのですか、という疑問が当然生じるわけで、どういう理由で拠出 時に控除をするのか。いま打ち出されている方向は全額控除なわけですから、トータルに全 額控除の方向に向ける論理というものを構築する必要があるのではないかというのが、問題 提起です。  それから、給付時課税は徹底されているのかということですが、これは年金に載っている からいいだろうという話ではなくて、多くの公的年金は一時金選択ができないのに、なおこ こには一時金選択、そして退職所得として軽い課税という道が残されるならば、給付時課税 の徹底という観点からも考慮すべき問題点はあるだろうということです。  (3)ですが、資料をお送りしたあと考えまして、最初の「運用期間中における」という所 を「課税上の」と書き換えていただいたほうが正確かと思います。課税上の優遇については、 方向性としては老後の所得保障制度の側面を徹底するしかない、言い換えれば社会政策的に 望ましい年金としての要件を、社会政策的にここでお考えいただくしかないということで、 あまり租税法のほうからどうこう申し上げることではありません。しかしながら、一時金の 選択、可能性について、退職所得との関係で整理が必要であるということは、申し上げてよ ろしいかと思います。この選択、可能性というのは、森戸論文にある賃金の後払い的側面と、 老後の所得保障的制度の側面のどちらに、より強く当たっているのだろうかという辺りの整 理の問題です。これまでは、老後の糧なのだから、退職所得と同じ方向でも、老後の所得保 障制度の側面ということで受け入れられてきやすい措置があったと思うのですね。しかしな がら、老後の糧だから退職所得は優遇、という論理が受け入れられなくなっているときに、 なおこの一時金選択は老後の所得保障制度の側面として整理できるのですよということに 本当になっているのだろうかと。これは、賃金の一括後払いということを昭和59年最高裁 も言っているわけですが、その側面がクローズアップされてくると、むしろ年金としての性 格の純化の方向性のほうが、ここで老後の所得保障制度の側面の徹底という観点からは望ま しいのではないかというような疑問も持たれるところであり、この点についてもお考えをお 聞かせいただければと思っているところです。  最後にまとめておきますと、私としては給付時課税への転換として、掛金の全額控除につ いてどういう方向をどういう理由での給付時全額控除という理屈付けを付けfるのか。それか ら、今度は給付時課税の徹底の点について及び、老後の所得保障制度の側面として、さらな る優遇措置を獲得するという戦略があるならば、一時金選択可能性をいかに整理するのかと いう点について、是非お考えいただきたいという問題提起です。以上です。どうもありがと うございました。 ○森戸座長 ありがとうございました。  ただいまのご報告に関してのご質問、ご意見を受けたいと思います。短い時間で非常に内 容深くかついろいろな点に触れていただいたと思うのですが、皆さまからいかがでしょうか。 どなたからでも、お願いいたします。 ○藤井委員 質問とご意見を承りたい点があります。1頁のところですが、(2)のポイント で、「優遇」ということをお書きいただいておりますが、前回というか、企業年金研究会の ときから私はこれがちょっと気になっており、お書きの内容は、何がどう「優遇」かという ことが重要かと思うのです。2行目に特別法人税を課税しない場合と書いてあるのです。こ れは非常に重要なポイントだと思いまして、現在は、たまたま特別法人税は停止されていま すけれども、本則上は課税されているわけです。従って、1つご意見をいただきたいのは、 特別法人税を課税する場合は「優遇」には当たっていないとお考えかどうかということです。  さらに、現在の特別法人税は停止していますが、課税される場合には1%強が課税される わけですが、これはむしろ「優遇」どころか、重大な、大いなる課税になってはいないかと。 そうであるからこそ停止されているわけでしょうけれども。すなわち現状は「優遇」という 観点は、実際には入り込んでいないと。厚生年金基金の場合に一部優遇があるかと思います けれども、全体としては「優遇」ではなくて、特殊な課税システムを取っているということ ではないかと私は思っていますが、その点についてが1つと。  課税の効果、経済的に及ぶ主体はどこかという問題があるかと思うのです。特別法人税に ついていうと、その効果は事実上、事業主が掛金の増減を通じて、効果を受けるということ で、しかしながら、税理論上はあたかも本人の個人所得税上のロジックで構成されているが、 この点はどうかということについて感心があります。  次に最後の頁の、4の若干の問題提起の中で、先生が主にお考えの点ではないところばか り申しているようで申し訳ないのですが、4の(1)の(ii)の、税制適格な私的年金に関する税 の枠組みということで、原則として「拠出時控除、給付時課税」の枠組み、これに加えて「優 遇」についてどうかと、このようにおっしゃっておられるのですが、ここで言っている税制 適格の内容として求められる要件はどのようなものか、ということがあろうかと思います。 それは税制適格年金というのは廃止が決まっていて、それに変わって確定給付企業年金など が登場しているわけですけれども、これらについては要件が異なっているわけです。この異 なっている要件は、何故存在しているのか。そのことと、課税の論理とはどのように結びつ くのか。どのような課税の体系は、どのような要件と適切に繋がりあるのか、その点が次の 疑問です。  最後に、終わりのほうで問題提議されている点に関係あることとして、最近現場で問題に なっている点として参考までに申しますと、退職金の前払いが、昨今というか数年前から横 行しているわけですが、この場合、前払いしたら給与としての取り扱いを一般的には受ける。 かつ社会保険料についても適用を受けると、然るに、まとめて最後に支払うと、これは退職 所得控除になって、年金と一時金という問題よりは給与と退職金の問題だと思うのですが、 まとめて最後に一括して払いますと、社会保険料の適用も受けなければ、退職金ですから税 制上も格段に優遇されるということで、退職金の前払いとのバランスという点でも、相当考 慮すべき点があるのではないかと思いますけれども、その点についていかがでしょうか。 ○佐藤英明様 最初は、優遇税制の中身ということです。「優遇」というのは言葉の使い方 の問題としか申し上げようがないと思います。それは課税繰延がなかったら全く原則どおり ですかというと、原則は「本来は」というところに書いたやり方で、明らかに原則とは違う やり方を取っているということでは間違いない。その意味では藤井先生がおっしゃいました ように、特殊な課税ルールだと言われれば特殊な課税ルールで、その中に「優遇」があるか どうかというのは、ある種言葉の問題であり、原則と違うやり方を何らかの理由で当てはめ ているというところは、特殊だと言われれば特殊です。「優遇」というかどうかについては、 これは、言葉の問題だと思います。特別法人税を課税するのが本則であるというのはまさに そこまでの「優遇」はないと。課税ルールの切り替えのレベルに留めるのがまず第一歩であ ろうと、そういう理解でいまの形は作られているのだというふうに思います。  残高の1%が適切であるかどうかというのは、これはどれくらいの運用利回りで、どれく らいの、特に税制の所得税の上乗せ部分ですね。多分最初に作ったときは12%で計算して いたように記憶していますが、それがいまの税率表の下で平均的な上乗せ税率がどのくらい になっているかということから割り出されるべき問題であって、それが特に重い税負担にな るというのは、私は明らかに適切ではないと思います。それは技術的に可能な限り課税繰延 益を奪うだけの範囲に留められるべきものである。従ってもしも凍結が解除されるのであれ ば、現在の所得税法や経済環境に応じた税率の設定を考えるべきである。それを計算する能 力は私にはありませんが、基本的にはそういうふうに考えております。  3つ目は4頁の税制適格の理論であったかと思いますが、ここで言う税制適格というのは もちろん適年でないことはたしかであり、税制適格というのが、いま先生から正に出ました 特殊な課税ルールの適用対象というレベルの税制適格という考え方と、さらなる優遇を得る 税制適格という考え方の2つ、両方の読みはあると思うのです。しかしそのいずれについて も本則の課税ルールとは違う課税ルールを当てはめると、そうだからこそ本来の給与所得が、 例えば年金所得、いまで言うと公的年金等にかかる雑所得という、所得類型の転換を受けて 課税対象になるわけですので、税制適格というのはおそらくダブルミーニングで一番かたく 読めば受給時課税への転換というところまでしかないだろうと。そことの関係で言うと、老 後の所得保障制度的側面、社会政策的な考慮の入っている制度がある程度以上望ましいとし たときに、おそらくそこにランク付けというのか、色合いの差というものがあり、この程度 揃っていれば、これは普及を後押しするというのか、こういう言い方をしていいかどうかわ かりませんが、適年のときのことを考えるとおわかりのように、本来は拠出時に全部の課税 関係を起こすというのが正しいだろうと。しかしながらそういう拠出時課税を貫くと、これ は企業年金の普及を妨げることになると。そこで「その後押し」と僕らは言いますが、少な くとも妨げないためには適年というような制度を作って、有利にしすぎないために特別法人 税を作ると、そういう昭和36年改正の枠組みを考えるならば、受給時課税というのも本則 のとおりに課税をするとうまくいかないところがあるから変えてあげているということが あると思います。その意味では全くもって当事者が自由に、賃金の一部として払っている企 業年金というのはこの対象にならない。それよりもう少しがっちりと枠の決まったものにつ いては、僕ら流に言うと「後押し」をする程度の特殊な課税ルールの適用財産にする。さら により望ましい内容をもった租税から出てくるのではなく、特別措置というのは常に考慮は 租税の外側にありますから、その外側の考慮から望ましいものについて合理化できる範囲は より強力な推進措置としての特別措置、普通に言えば特別法人税の課税対象から除くという ことを行うことになるのだろうと思います。  最後の論点で、退職金の前払いというのは松下が最初に始めました。そのあと労働力の流 動化の激しいところで通常使われていると聞いていますが、税調としてはここをつついてい ることはご指摘のとおりで、1つの考え方は退職金の前払いと、退職金そのものとの課税の 中立性はどうするのかということであり、正に出てきている問題です。もう1つの考え方は 退職金の前払いというのは、退職金廃止制度に伴うある種の単なる現在給与の給与体系の変 更であり、それ自体中立性を考える余地が本当にあるのかと、そういう検討の比較もあるこ とも存じていないわけではありません。私自身は途中で申しましたように、そういうものを ひっくるめてすべて望ましいという範囲で、限度で拠出時に非課税にして、これに課税繰延 をするという制度を作ることを、技術的には考えたことがありますので、長い目で見るとそ ういう方向に向かってくれると良いのではないかと考えております。  すべてお答えいたしましたでしょうか。取り敢えず以上です。 ○藤井委員 私が意図していたことをおっしゃっていただいたのでよかったかと思います けれど、特殊な税制を用い、特別法人税を適用しているというこの体系において、適格年金 は当時この体系を取ったいわれとして、普及ということが意図されていたかどうかについて はちょっと疑問があるところです。何らかの公平という基本的な理念の下に特殊な税制こし らえて、暗に普及するといいと思っていたぐらいというのが正しいのではないかと、私はな んとなくそう思っているという点と、そのときの税理論としては、一応、受益者が特定して いない金銭の固まりという、そういうロジックもあったかという気はいたします。以上です。 ○佐藤英明様 すみません、1つ落していました。事業主負担になっているにもかかわらず という点の答えを落しておりました。そこは先生がおっしゃるとおり、2つの見方があると 思うのですが、おそらく私はいまの理屈、すなわち個人所得税で整理できるという理屈は成 り立つのだろうと思っております。それは繰延べた最後の行った先について言うと、それは 従業員のものになっている。事業主に出されていながら、現実にはその人のところにいって いないではないかという議論は結構ありました。中途退職したりして、権利が確定しないと いうパターンですが。しかしもらった時点から後を振り返って見るとその課税関係はどうな るのかというと、あなたはいまこれだけのものをもらいました。その拠出は事業主の拠出で あり、拠出されていたときのタイミングで課税されていないということを、いまどんなふう に受給期に視点を置いて、その課税関係を合理的に説明できるかという観点から言えば、い ま普通に言われている個人をベースにその給与所得課税への繰延べだという考え方はそれ なりに成り立つのかと、思っております。この問題はAとBとCのために出したのに、A は中途退職して結局受け取らなかったという発想から言えば、難しいのはわかりますが、も らう時点に視点を置いて考えるのかと思っております。  あと普及の点は言葉がすぎれば申し訳ありませんが、阻害しないというイメージだと思い ます。原則課税であればこれはおよそ多くのところでうまくいかないだろうと。そこで税制 としてはそれを阻害しないという観点で、「普及」というのは言いすぎだったかもしれませ んが、特殊ルールを作ったのだということです。この特殊ルールは変えても結局同じだけ税 収が取れるのだろうという目で見られると説明が難しいのですが、かなり異色のルールだと いうことは間違いないというふうにお考えいただかないと、変えただけでは優遇ではないと 言われれば、経済的にぎりぎりそうかもしれません。アバウトにやっていますからわかりま せんが、しかし課税ルールを受給時から変えるというのは相当大きな変更であるということ を、ぜひご理解いただければと思います。 ○藤井委員 大体私の考えと一緒です。 ○森戸座長 ほかの方、いかがでしょうか。 ○野村委員 大変示唆深いお話をありがとうございました。いまの質問を別の角度からもう 1回確認させていただくような形になってしまいますが、先生のお話を私が正しく理解して いれば、仮に給付時の退職所得の優遇をあきらめたとしても、特別法人税を課税すべきでは ないという理屈にはならないという理解で正しいですか。 ○佐藤英明様 すみません。いま何と何を比べていらっしゃるかがよくわからなかったので すが。 ○野村委員 よく言われることは、特別法人税を廃止したほうがいいのではないかです。運 用がマイナスでもかかる、といったことも踏まえて実際問題としてかなり難しい税だという こともあるかと思うのですが、それはさておき、特別法人税を戻すべきではないというと、 しばしばそれに対する反論として、拠出時も運用時もまたそして給付時までも税制のそれな りの措置があると言われます。拠出時はその時点では非課税で、繰延べでもいいのですが、 給付時にしっかり課税するということになれば、特別法人税をなくしてもいいですかと、そ ういう理屈をときどき聞くのです。これは私は果たして税の理論からしてもつのかというこ とがとても気になっておりまして、もつのであれば、ただいまおっしゃったように給付時の 課税を通常の所得課税にするのも難しいというのはご指摘のとおりですが、理屈としては成 り立つ。ただ理屈としてそもそも成り立たないのであれば、この主張をすること自体が意味 がないのかという話になりかねませんので、ちょっとその点を確認 ○佐藤英明様 はい、わかりました。  答えは、それはとおらないです。給付時に100%課税をしても、1頁の表で示したように、 途中の運用益部分が抜けますので、仮に拠出時全額非課税にして、完全に繰延べた上で受給 期に完全に課税をすると、そして特別法人税を抜けば、即時課税をプラス、収益非課税と同 じになりますので、いわば年金マル優を作っているのと同じ経済効果だという反論が必ず出 てくると思います。従って総合課税で決定をするという結論を出しても特別法人税を廃止す るためには、もう1つさらに社会政策的な理屈がいると考えます。 ○藤井委員 何度も言うようで、発言するのは申し訳ないですが。私ども信託銀行が、昔ビ ックというのをやっておりまして、これは途中の配当をすべて元本に繰り入れて、本人が取 り崩さないことを前提に、途中の運用益に課税をすることなしに、最後一括課税することで 実質それをやっているではないかというのがありました。ビックとかワイドとかがあります けれど、それら税法上フェアな取り扱いかどうかという論点と、そこに優遇という観点を盛 り込んでいるからそうなっているのだという観点と、両方あるかと思うのです。 ○佐藤英明様 いまおっしゃっているのは重要な論点で、我々のほうから見ると収益を元本 に組み入れて5年満期収益一括受け取り方式ですか、あれはおかしいというのが普通の考え 方だと思います。私が最近書いた教科書にも、そこはまずいというのを書いているところで、 平成7年ぐらいでしたか、記憶が確かでありませんが、元本組み入れ方については、いまは 15プラス5の20%を引き上げるということを主税局は考えていたけれど、経済環境からう まくいかなかったということがあったと思います。内々は考えているところで、むしろそっ ちがおかしいというのが我々の発想だと思います。ただそういうものが市中にたくさんある のに、というお考えはわかります。あとは20年もの30年ものの課税繰延はあるのですか、 というような段々レベルの低い議論になりそうですのが、実態はそうだと思います。 ○臼杵委員 どうもありがとうございました。  いまお話がありましたように、最初の掛金が事業主から見て損金算入され、それはとりも なおさず加入者から見ると所得控除に実質的になっていることに関連してお伺いします。、 この会の前の回でも議論になったと思うのですが、所得控除というものは、年金に限らず一 般的には課税所得の限界税率が高い人ほどメリットがあるということで、平たく言えば金持 ち優遇的な側面があり、その一方で最近はその財政学では所得控除ではなく、税額控除、そ れも給付つき税額控除の方が良いという主張も出ているようですが、税法の観点からも、所 得控除の所得再分配への影響で、税額控除と所得控除とどっちがいいのか、そういうような 議論はありますでしょうか。 ○佐藤英明様 はい、あります。ただ、まず人的控除についてその議論はほぼ集中している ところがあろうかと思います。  それからいま所得控除として構成しているのは、企業年金と代わるもので言うと、先ほど 出てきた生保控除と小規模企業共済掛金等控除ですね。その所得控除と、先生がおっしゃい ましたような損金算入されているにも関わらず課税されていないという意味での、実質的な 所得控除というのは、少し制度的な意味合いが違うと思います。  所得控除というのは何でするんですかということについては、多分相当争いがあると思う のですが、おそらく私が一番右派で、所得計算という意味では終わっている総所得金額から 様々な政策的考慮により課税対象とすべきでない部分を除く、そういう措置だと私は書いて いるのですが、そう考えるとその部分はいま課税しないほうがいい。あるいは、担税力を減 殺しているからAに課税しないという考慮からなされているものであって、従って税額レ ベルでのベースの計算という意味で企業年金に関連して税額で調整するという議論はあま りないと思います。  人的控除に関して配偶者控除や地租控除を税額控除に切り替えるほうが、満遍なく同じ経 済的効果を与えるという議論はもちろん多いわけで、それはご承知のとおりです。 ○高瀬委員 企業年金に関する税について整理したご説明をいただき、ありがとうございま した。運営している企業側からの意見ということで、予想もされているかもしれませんけれ ども、1つはやはり導入していくという点で、この特別法人税を掛けられるということにつ いて、最終的に必要な給付を本当に確保できるのかということを企業側として考えた場合に、 非常に不安になるということで、基本的には廃止していただくのがいい。加えて実際に確定 給付企業年金を導入しているのですが、運用利益が全く出ていない中で、新たに適格年金か ら転換しようとしてもなかなかこの制度に移行しづらいといった面もあり、現実にもなかな か難しいのではないかと思っております。先生のおっしゃっている5頁の拠出時控除と給付 時課税の枠組みの徹底と言いますか、この路線で行っていただければ一番いいのかというふ うに思っております。  年金所得より退職所得の方が所得控除の関係で非常に不均衡だという点について、これも 先生のご説明はよくわかるのですが、実際に従業員のことを考えた場合に、最後は退職金で ある程度支払うという前提で、退職を迎えることを考えている従業員が実際には多いという ことも事実です。そうなると年金と退職金全体を見た上で、従業員が所定の時期から必要な 生活費、一般的に言われている20何万とか、余裕のある40何万とかという数字がありま すが、それを確保できるという見通しを立てる。ある意味そうなると税に対する社会保障的 な要素が入ってくることになるかもしれませんし、そこは抵抗あるかもしれませんが、そこ までご検討いただかないと、我々運営サイドは非常に不安になるという意見です。 ○佐藤英明様 ありがとうございます。企業年金について一時金の選択可能性というのは現 実にどれくらいあるのかとか、どれくらい使われているのかは本当に存じません。企業年金 白書というのがありましたが、あれを見ていたころにはかなり高い割合で選択されていたこ とは知っておりますが、新制度でどうなっているかを、本当はぜひ知りたいところです。  本日、ここで申したかったのは、拠出時全額控除と給付時課税を徹底することにより、特 別法人税も、という議論は当然必要として出てくるだろうと思いますし、そのときの徹底と いうときには、こちらサイドでものを言えば、足をすくわれることがありますよという話な のです。退職所得でもらえば課税関係はほとんどありませんという制度を残しておいて、給 付時課税の徹底という理論が本当に成り立つのかというのが、こちらサイドに立てばとても 気になるところです。それと税の人間として見ると、一時金の選択可能性を廃止ができるの だろうか。これはおそらく実態の問題でいま高瀬先生がおっしゃっいましたように、本当は できないということであれば、できないものはできないわけです。退職所得への二元的所得 税の話が出てきたころに、私が言っていたのは、税というのは実態のほうが先にあり、勤労 性の所得と金融系の所得に分けるという議論をするときに、勤労系に入ったから、退職金の 全部を根っこから同じように課税するというならいいけれども、結局できませんよね。それ はなぜかというと、日本に退職金という制度があって、それをみんなが期待しているときに、 ゼロベースで議論するということではなくて、そういうものがあまりなくて、かつ年金で多 くの人が老後を賄っているという国は、それはできるでしょうという話をしたことがあるの ですが、そのようにみんながいろいろな意味で退職金に頼らないといけないという状況があ れば、企業年金は一時金選択可能性を手放せないのだと思うのです。  そこで、企業年金の側から、これは手放せないというサインが出されるということは、我々 にとっては、本腰を入れて退職所得について手を出さなければいけないということを意味し ています。  もしここで一時金の選択可能性を手放してもいいということであれば、逆に我々としては、 退職所得というのはおそらく消えゆく所得であって、どうだこうだ言っているうちにどうに かなるから、年金のところだけを考えておけばいいかなという、そういう駆引きではないけ れども、サインのような、私たちにはわからないところがあって、ここでどのようにお考え になるかを承ると、またどのくらい、何を、向こうでやらなければいけないのかがわかると いう、そのような関係かなと思っています。 ○森戸座長 1点よろしいでしょうか。いまの話にまさにかかわるのですが、レジメの3頁 の真ん中の辺りの(3)整理(2)「不透明な方向性〜どのような課税が可能か」のところで、退 職所得の平均的な水準と企業年金所得が原理的に両立困難というところです。  これは要するに、退職金が、いま一時金で2,200万円ぐらいだったらこのような優遇があ ると。これに相当する企業年金はこういうものだから、それに同じような優遇をしようとい うような中立的な制度を仕組むことが困難という意味で捉えてよいのか。  そうだとして、そうなのだけれども、しかし制度を組むと、下の中立性を害するというと ころにあるように、選択制になっていると、個人個人はどちらが有利かは自分の状況に合わ せて選べるから、それだと問題だという理解でいいのですね。  つまり、どちらを選んでも同じような税制という制度に仕組むのは難しいのだけれども、 個人で見るとどちらが有利かはわかるから、有利なほうを選んでしまうとなると、それが問 題だということをおっしゃったと伺っていいのかどうか。 ○佐藤英明様 もともと昭和61年ぐらいから考えていたときの年金の控除というのは、平 均的な公的年金の水準は年金の側でも非課税というところにあったと私は理解しています。 4頁の中頃に「制度変更の効果」と書いていますが、昭和62年の最低限230万円から昭和 63年の242万円で、平成元年のモデル年金受給額が、236万8,800円で、大体このぐらい までは年金も非課税でいいというのが、水準を維持するという議論につながっていたのだと 思うのです。  ところが、今度は公的年金等を含めて、これに対する課税が甘すぎるというのが、最近の 発想です。つまり、モデル年金、それから企業年金も含めた平均的な年金に対して、かなり しっかり課税をしていかないとおかしいではないかというのが、平成12年以降に出てきて いる考え方だと思うのです。同じ4頁で、拠出段階を非課税としたまま給付段階も実質非課 税もおかしい。給付段階での優遇の適正化というのは、明らかにそのようにつくってきた水 準を、年金側は切り下げるということを意味していると思うのです。  退職金の平均的なところは非課税、年金も平均的なところは非課税だったら、それはある 程度どうにかなるし、そこに凹凸があれば、そこをどうにかするということは技術的にでき ると思うのです。5頁の4の1-1に、優遇されている退職所得と中立、そのような優遇を作 るということ自体は難しくないということは、そのような意味です。  しかしながら、普通というレベルについても、ある程度課税をしないとおかしいだろうと いう話が進んでいるときに、今度は普通の退職金というものについては、相変わらず非課税 だという制度をそのまま置いておくことはできないだろう。その理由は、年金制度を導入す るということを先ほどおっしゃいましたが、その時点で退職金でもらえば税金がかからなく て、年金でもらえば税金がかかるという制度を導入されるのかというと、そこでの大きな考 慮要素になることは明らかです。  それから、いま座長がおっしゃいましたが、いざもらうときに自分がどうなるかというの は、いい会社ならちゃんと計算してくださるでしょうから、わざわざ税金を払って年金にす る人はそんなにいないだろう。そうなると、制度の設計時、利用時の両方において、中立性 を害することになるという趣旨で申し上げました。 ○森戸座長 わかりました。ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 昔に勉強したときには、1頁の表1の課税の仕方というのは、「包括的所得課 税」というやり方ですが、それに対して表2、表3は、例えば「支出課税」というような言 い方をされると勉強しました。  これは結局優遇というのは何かという話で、表2、表3もそうなのですが、利子率を10% として、88というのを1.1で割れば、現在価値になるので80になります。そうすると、当 初の課税後80と同じになるという意味では、いま使っても、あとで貯めてから使っても、 価値としては基本的に同じだという意味で、貯蓄と消費ということに関して、中立的な税だ ということが言われていたと思います。  それに対して、その観点からいうと、包括的所得課税というのは、どちらかというと、い ま使ってしまったほうが得だという意味では、貯蓄を奨励しないというような指摘が、年金 周りの議論ではよくあるのですが、何を中立的な基準とするかというところが、よくわから なくて、例えば利子率を課税後の8%として、1.08にすると、包括的所得課税は当初の80、 現在価値になるとイコールになるといったところで、先生のおっしゃったように、優遇して いるかしていないかの基準について、そのようなことをいろいろと考えていると、よくわか らなくなってきてしまいまして、その辺りのご示唆をいただけることがありましたらお願い したいです。 ○佐藤英明様 これは結局枠組みの問題で、小野先生のご指摘のとおり、もともとの所得税 がどのような形になっているかということで、優遇であるか優遇でないかというのは決まる と、私は単に法律屋ですので、そのように考えています。  本則だと申し上げたのは、表1のやり方がほかの多くの所得について、このような課税の 方法をしている、あるいはしようとしているというのが大前提でありまして、そのような課 税の仕方をしようとしている中で、表2や表3のような課税の仕方をするというのは、優遇 になるということで、あくまでも比較の問題として取ってくださればいいと思います。  この金融収益非課税で、現在一括と将来消費を等価にしようというお考えはよくわかりま すし、そのような所得税を仮に構想するならばできるのかもしれませんが、現在はそうなっ ていません。  立法論ですから、どこまで変えるかですけれども、所得税の根っこから変えるのではない とすると、おそらく表1がデフォルトのルールで、これよりも2年目の終わりにたくさん期 末資産が残るというのは、優遇として捉えるというのが、比較の問題としては正しいだろう と申しました。 ○石田委員 いまの小野委員の意見とも関連しますが、税法、税のあり方というのは、例え ば企業年金の性格、貯蓄をどのように将来的な経路に持っていくか。そういった外的な要因 によって決まってくるという話だったと思います。  そうすると、例えば財制枠で言われているところの税資質の議論というのがありまして、 税を一定程度優遇することによって、これがどのような効果を生んでくるのか。その効果に ついては、先ほど藤井委員もお話しましたように、事業主、個人について、それぞれ効果が 生まれてくる。そういった議論が、OECDを中心として、少しずつ精緻化されてきていま す。それを税法上は、どのように取り扱われるのか。それとも、そういったことについては 予見として考えられるのか。その辺のお考えをお聞かせください。 ○佐藤英明様 難しい問題ですが、制度を扱っている法律屋としては、与件なのかなと思い ます。ただし、今日はわざと外しているところですが、日本の所得税は本当に包括的所得税 なのかという問いが、おそらくベースにあって、二元的所得税化しているそのコンテクキス トの中で、ある種の金融所得として扱うとしたら、企業年金所得はどうなるかというような 位置づけの仕方はあり得るわけで、ベースになっている所得税の扱い方次第だというのが、 私の基本的な答えになります。  違う分野でも、本当に徹底的にやるとこうなるのだけれども、しかし二元的所得税の中で 金融所得類似と考えられればこのようなやり方もある、という制度論を役所などではするこ とがあるので、なお所得税の変容を受け止めて、そこに何かアクセスしていくという議論は、 十分にまだあると思います。 ○石田委員 企業福祉のあり方として、変容はかなり大きくなっていると思うのです。いわ ゆる金融商品化というか、そういったものが大きくなっているので、そこをどのようにこれ から取り扱おうとされているのかについて、展望があればお聞かせいただきたいと思います。 ○佐藤英明様 それは本当に人によると思います。私はいまの日本の税制がそうかどうかわ かりませんが、二元的所得税がセカンドベストだと言いながら、それを強力に推し進めよう という考えもあることはよく承知していますし、その声が大きいことも事実だと思います。  ただ、セカンドベストと言いながら、本当のベストというのがなく、できることがセカン ドベストだという議論が、本当にギリギリに成立するのかということを、私自身は相当に疑 問に思っているという意味では主流派ではありませんので、やや筋立てて考えていくほうが いい結論が出るのではないかと思っています。変容が非常に大きいという点は、石田先生が おっしゃるとおりだと思います。 ○石田委員 よくわかりました。 ○森戸座長 非常に濃いご報告でしたので、まだ聞きたいことはあるのですが、時間がまい りました。佐藤先生、どうもありがとうございました。 ○佐藤英明様 今日はありがとうございました。                 (佐藤教授退席) ○森戸座長 このあとは私と臼杵委員の報告を続けて行いまして、まとめて質疑応答にしま す。まず、私から資料2を基にご報告します。  私の報告は、以前に菊地委員が社会保障法学の視点からということで、企業年金の位置づ けの話をされましたので、対抗するわけではありませんが、労働法学の視点からの企業年金 に関する法政策のあり方を考えるという切り口で、お話をさせていただきます。あまり深味 のあるものではないのですが、私なりの分析というか、視点を示すことができればと思いま す。  ちょうど佐藤先生からもお話があったのですが、最初に労働条件としての企業年金という ことから入ります。企業年金というぐらいですから、年金制度の一部で、いわゆる3階部分 であるということはたしかなのだと思います。しかし、労働条件でもあるだろうと。今日、 佐藤先生からまさにそのような話があって、一応そこは考えが一致しているのかなと伺って いました。私は労働法学者ですから、そのように捉えたところからアプローチしているのは 当然なのかもしれません。  企業年金を勉強し始めて、まさにここにいらっしゃるいろいろな皆さんとご一緒させてい ただくようになって、そういう労働条件ですという視点に立っているということを申し上げ たときに、あまりそのような見方をしていなかったということをおっしゃる方もいらっしゃ いまして、それは私としては少し意外な部分もありました。  企業年金は労使間の合意、労働契約です。それに基づいて、任意に導入、実施されること はたしかだと思います。任意だという点では、公的年金とは異なるわけです。ただ、同じ任 意でも、個人年金とか自助努力の貯金のように、個人の意思だけで始められるものでもない と言えると思います。  自分を雇っている事業主との間の合意によって、開始されるという意味での任意性、職場 労働契約にベースを置いた任意性というところに、個人の自助努力、個人年金、公的年金と も違う、その間にあるというのは、そのような意味なのだと思います。  そこの1から4までは、各制度を法的に細かく分析した場合に、労働条件、労働契約に位 置づけられていると言えるのかという分析をしています。ここは細かいことなのでざっと省 略して申し上げます。  最初に適年とか、規約型DBです。要するに事業主が実施主体となっているような制度で す。これは法的にも、文字どおり労働契約によって規定される労働条件と言えるのではない かと思います。例えばバイエルンの事件を引用しておきましたが、その判例も「年金契約は 労働契約の一環である」ということを言っています。結局法的にいうと、規約型DBであれ ば、制度規約は法的性質は何かという話はあまり議論はないのですが、基本的に事業主が作 るものだと考えると、法的には就業規則の一部を構成すると考えていいのだろうと私は思っ ています。就業規則の一部であれば、労働契約の内容になるというのが労働法のベースとな る理論に話を持っていけると思います。  確定拠出も基本は同様だと思います。こちらは給付というより、掛金を拠出することが労 働契約上の義務になるのかなと思います。  これに対して3ですが、基金型はDBは別法人ができていますので、少しややこしくなり ます。つまり、法律上の仕組みも、給付を行う、支給する、受給権の裁定をするのは全部基 金でありまして、基金というのは事業主とは別個の法人です。したがって、年金支給契約の ようなものは、加入者、受給権者と基金の間にあるのだろうと。契約の主体は事業主ではな いので、直接労働契約だということは法的には言えないと思います。制度を創設したところ は労働契約に基づくものなのでしょうけれども、一旦制度が始まると、別法人との間の契約 で話が決まる。  そうすると、法律的な意味で、いま労働契約に基づいて何か給付が決まっているというこ とは言えないと思うのですが、実質的には労働条件という性格があるということは疑いのな いことではないかと思います。  厚生年金基金も別法人がやっているのですから、同じと言えば同じなのですが、厚生年金 基金については、さらにもう1つ厄介な問題がありまして、代行があるので厚年基金は行政 庁であると。公権力の行使をしているのだという考え方を法的にはするものですから、給付 の裁定ですとか、やっていることは基金型DBと同じことを基本的にはしているので、厚年 基金についても年金契約のようなものが成立していると見てもよさそうなのですが、裁判所 の判断ですと、りそなの事件やほかの事件も大体そうですが、厚年基金を代行しているので、 公的な役割をしているので、裁定というのは行政処分であるので、契約の申込みや承諾とい うレベルで捉えられる問題ではないという判断がなされています。  しかし、これも実質的には厚生年金基金であっても、労働条件だということは否定はでき ないのだろうと思っています。それですが、ここの3、4に関しては、厳密な意味では法的 には労働契約というものはベースではないかもしれないけれども、全体として実質的に労働 条件だということは否定できないのではないかということを、まず1で申し上げました。  そうだとしますと、企業年金は少なくとも実質的な意味では労働条件だとすると、労働条 件ですので、それを実施するかどうか、その具体的中身というのも、基本的には労使が決め る。労使自治、集団的あるいは個別の交渉で決まることになるのだと思います。要するに契 約自由の原則です。  この観点を強調すると、契約自由なのだから、一切規制はしなくてもいいというリベラリ ズム的な主張になってしまうのですが、しかし労働条件にも労働法が規制をしているわけで すから、それは私の教えていることなわけです。何でもすべて契約自由ということではなく て、労働条件も労働者保護の観点から、一言で言えば一定限度労働法が修正をしているわけ です。企業年金だって労働条件なのだから、それに応じた規制は当然あるのだろうと。  その規制のあり方、パターンのようなものを考えてみました。現在の労働条件に関する労 働法上の規制とは、どのようなものがあるのかというのが2頁のまとめです。ラフな分析で 申し訳ないのですが、絶対的な規制というのは、いくら何でもこれ以下はまずいというのは、 最低基準を直接定める介入です。最低賃金760円以上とか、労働時間は8時間、休暇は何 日とか、そのようなことです。最低基準を設定するような絶対的な規制です。ただ、少なく とも日本法ではご承知のように時間外労働とか、36協定などの集団的な合意があると、そ のような最低基準から外していいという例外は許容されるのですが、絶対的な規制の仕方と いうのはあります。  それとの比較で、相対的規制という言葉は思いついて使っているので、あまりないのかも しれませんが、これは何かの値段はいくらというような介入はしないけれども、ほかとの比 較において公平、平等さを確保せよという規制はあるだろうと。差別禁止などもそういうこ とかと思います。人権保障の規制だと言えばそれまでですが、最近はパート労働法とかが強 化されたりして、例えば雇用形態に基づく差別も一定の範囲ではいけませんという方向に政 策は動いていますので、相対的規制というのもあり得る。  それから、説明や情報開示をちゃんとしなさいという規制です。要するに、労働条件の約 束の中身がちゃんとわかるようにしてくださいと。それは就業規則をきちんと周知しなさい とか、契約条件を明示しなさいとか、そのような規制があるだろう。  約束の中身がわかったら、今度は約束がちゃんと果たされるようにしてください。「履行 確保規制」と書きました。これもその場で造った言葉なので、あまりこなれていないのです が、約束したこと、労働条件をちゃんと履行するようにさせましょう。もちろん、約束した 労働条件を履行しないのですから、債務不履行なのですが、それに加えて例えば労基法など は、賃金支払い3原則で、直接通貨で全額払えという規制をしていて、それをちゃんとやら ないと罰則だという規制をしています。法的義務があるというだけではなくて、払わないと 駄目だということを規制上特別に強化しているわけです。  それと少し話は違いますが、労働基準監督行政できちんと取り締まるとか、賃確法で、こ れは賃金の支払保障みたいなもので国の肩代わりで、どうしても企業が払えない場合には国 が肩代わりもするということです。企業年金も労働条件なのだから、このような規制がいろ いろあっていいのだろうと思います。  ただ、絶対的な規制というのは、労働者の最低生活とか、生命や身体にかかわるから法的 に介入するという理屈ですので、そうすると企業年金に関しては、公的年金の上乗せ、補完 という話なのですから、基本的には1のような規制を当然行うという話ではないのだろうと。 企業年金が労働者の最低生活の一部を担うものだと位置づけられるのだというなら(1)の話 が出てきてもいいのでしょうけれども、しかしもしそうなのだったら、それは任意の制度で はなくて公的年金でやればという話になるのではないかと思います。  そうすると基本は(2)以下かなと思うのです。情報を開示しろとか、(3)のような規制は、も ちろんいまもあります。ただ、(3)について思うのは、各制度ごと、例えばDB法上の情報開 示はこれ、基金をやっている場合は、例えば基金だよりで情報を出しなさいというのはある けれども、退職給付制度全体としてどのような約束をしてるのかはきちんと説明しなさい、 という発想はない気がしますし、先ほど出た年金と一時金の選択のメリットとデメリットと か、予定利率がどうかとか、そのようなことも説明、開示の中に入るべきなのかなと思いま す。履行確保規制というのは少し広くなりますが、積立ての規制、受託者責任、支払保障の 議論なども、この辺りに入り得るのかなと思います。  こうして見ていくと、相対的規制というか、(2)はいままで議論がないような気がしていま す。もちろん、企業年金で男女差別とか、明らかなものはいけませんし、そのような制度は ないとは思いますが、男女の平均寿命の違いというのは、将来微妙な話になってくるかもし れません。現行法上も、不当差別禁止ルールのようなものがあって、掛金について不当に差 別するなとか、加入資格について、職種、勤続期間、年齢などで不当な制限をするなという ような制度にはなっていますが、それほど厳しいものではないというのが私の印象で、結局 基となる退職金制度がそうなっているならそれでいいと。退職金が正社員だけの制度だった ら、企業年金だってそれでいいと。単純に言えば、そのような形で仕組めると思います。  少し大風呂敷になるのですが、企業年金における平等とか、公平ということの意味を、今 後議論していかなければいけないのかと思います。つまり、もとは退職金で、退職金制度が そうなっているならそれでいいという話なのか、それとも企業年金である以上違うルールな のかという話です。  先ほど雇用形態の差異という話も出ましたが、厚生年金、公的年金の加入者であるような ことが前提の制度の組み方でいいのか。先ほど申し上げたパート労働法の改正などで、政策 全体としては、正規と非正規の格差を埋める方向に動いているところはあります。それだか ら単純に企業年金もそうだという話ではありませんが、そのような流れも注意しなければい けないのかなと思います。  IIIの法規制の手法ですが、似たような話ではあるかもしれませんが、少し視点を変えまし て、いまのIIは、労働条件をどのような観点、どのような目的で規制するかということをお 話しました。IIIは、一言で規制といっても、いろいろな法的介入のあり方があるのだと。労 働法上もいろいろなパターンがあると言われているのですが、企業年金に関してはどうだろ う。労働条件なのだから、それも敷衍して考えてみようということで、少し無理矢理なとこ ろはありますが、少し広げてみたということです。  すでに出た話と重なりますが、強行的に規範を設定する。このような契約はしてはいけま せん、無効です、罰則ですと、行政が取り締まります。労働基準法のような、いちばんわか りやすいもので、規制というとこのようなものがイメージされると思います。  ただ、労働法がやっていることはいろいろありまして、例えば(2)は規制とは言えないので しょうけれども、実際上このような発想があるなと思うのは、「労働者寄りの契約解釈」で す。一応契約ですから、当事者意思を尊重して契約解釈をするのですが、そこで意思が明確 でないような場合は、労働者保護の観点から労働者寄りに解釈するというパターンはあるの ではないかと思います。権利濫用とか、信義則という一般的なルールというのも、実質的に は(2)のようなところで使われているのではないかと思います。  (3)のソフト・ローによるアプローチです。これも最近の流行りかもしれません。要するに、 努力義務、行政指導、勧告などで、ソフトに物事を誘導していこうという発想です。かつて の均等法、高年齢者雇用安定法などにもありました。それは通達行政だとか、曖昧だという 批判もあり得るのですが、労働法上は(1)の規制にいく前に(2)で様子を見ていくパターンはよ く使われたと思います。  (4)の手続的規制です。東大の労働法の水町先生などが、わりと主張されています。立法論 になると思いますが、差別禁止法などについて典型的に言われていることですが、企業年金 についても排除はしないと思います。画一的に基準を決める現代の社会なり、仕組みは複雑 になっているので、単純に基準を決めるというような発想ではなくて、もう少し当事者参加 的なルールを考えていこうと。問題解決のルールを主体的に定めていく、プロセスを重視し た規制などと言うのですが、私は募集採用時の年齢制限禁止に関して、年齢制限を単純に禁 止するのではなくて、年齢制限はしてもいいけれども、理由を説明しろという規制のほうが いいのではないかという主張をしているのですが、そのようなものも少しこれに発想は近い のかと思います。いろいろな就業規則のルールなどに関しても、労働者側への説明、協議を 要求するというのも、わりと手続き重視のところは判例上にもあると思います。  (5)の税制優遇による誘導です。「優遇」という言葉は、簡単にいろいろな意味を含み得る というのは、まさに先ほど勉強したところですが、労働法上あまりこのような発想はないの ですが、障害者雇用についての納付金とか、そのような金銭的インセンティブを使うルール はなくはないかなと思います。労働法上、この(5)というのはあまり議論にはなりませんが、 これまで(1)(2)が原則、(1)(2)しかないというような世界だったのが、(3)(4)も活用していったら どうかという議論がされているのが現状かと思います。  現状の企業年金法というところに戻ると、税制優遇と言っていいかは別として、基本的に は(5)をベースに規制ができているのではないかと私は思っています。異論はあるかもしれま せん。承認、認可の要件という形で規制が出来ているので、労基法のように最低基準を設定 するというようなルールとは違うのではないかと思います。ここは長くなるので省略します が、認可とか承認というのは、極端な話で認可はなければ効力はないという規定があります が、承認などは典型です。承認されれば税制上の適格と言えるけれども、承認のない制度を やってはいけないというルールはありませんので、そういう意味では強行的に規制されてい るとは言えないのではないかと思います。要するに、ここでは企業年金に関する規制におい ても(1)(5)だけではなくて、間のようなルールも考えたらいいのではないかということでした。  IVは集団性・組織性・継続性です。ここもこの一言だけにしますが、企業年金が労働契約 に基づく労働条件だとした場合、労働契約は集団的な契約だということは重視しなければい けない。概念的には一人ひとり別の契約なのですが、大量処理、画一的処理の必要な集団的 な契約だということは無視できないということです。簡単に言えば、多数決原理とは言いま せんが、集団の意思を全く無視しては話が進まない。それは就業規則の変更法理などでも、 労働法上できているわけです。  「内田」と書いてあるのは、いま法務省にいる民法の内田教授です。内田教授などが、関 係的契約、制度的契約ということで、このような集団的あるいは継続的な契約に関しては、 このような理論で説明できるのではないかということを言っています。それを基本的にはご 紹介した上で、現在の企業年金法は、実は受給者減額の判例などでは、直接的にこのような ルールに近いものが利用されていると思うのですが、そうではなくても、例えば外部積立型 の制度でも、労使合意があれば過去分に相当するような部分でも減額できると。受給者減額 も一時金清算を認める限りはできるというルールになっているというのは、集団的な合意が あればある程度の柔軟性を認めるという意味では、このような発想が現在の企業年金法にも 入っているのかなという気がします。  最後に若干の考察です。どのような報告であったかというと、企業年金の労働条件的性格 を忘れないで、法政策を考えましょうという思いからの報告のつもりだったのですが、改め てこうして分析をしたら、日本の企業年金法は忘れないでというか、労働法理論そのままで、 むしろ労働条件だという前提で規制ができているのではないかという気がしました。それは 先ほど言ったように、労使合意で過去分の削減ができるとか、悪く言えばいい加減な給付減 額ルールだとなりますが、労働条件だと考えれば、そんなにおかしくないわけです。集団的 合意にキャスティングボートを握らせて、集団的合意を担保に基準から逸脱を認めるという 意味では、極めて労働法的な扱いになっている、労働条件的扱いになっていると思います。  そうすると、これは老後保障の制度なのだから、労働条件的性格を薄めて、例えばエリサ 法のような方向で整理していくか。まさに企業年金研究会でも議論したことですが、そこは 労働条件としての性格というのは、完全には消し去れないのだろうと思っています。つまり、 消し去ったら老後所得保障、公的年金の補完だけになるわけで、そしたらそれは公的年金で やればいいという話にまた戻ってきてしまうと思うのです。ただ、もちろん労働条件であっ たら、だから労使自治だから何も規制するなという話ではなくて、労働条件であってもそれ に応じた規制はなされるべきだということも言いたかったことです。  そうすると、企業年金と労働条件の約束自体に踏み込むというよりは、約束の中身を明確 にすることと、約束をちゃんと履行するように、できるような仕組みを作りましょうという 方向が、規制のあり方の方向だと思うのですが、ざっくりした言い方で、それ以上詰めきれ ていない部分はあります。  強制加入の制度ではない、しかし個人年金とか完全な自助努力とも違う、労使合意に基づ く労働条件なのだ。そのベストな規制のあり方というのを、労働条件を規制している労働法 を参考に考えてみるというつもりで報告の準備をしたのですが、考えるまで至らずに、その ような視点を少し意識したらどうですかというぐらいで終わってしまうのですが、私からは 以上です。続いて臼杵さんにお話をしていただいて、まとめて質疑応答にします。 ○臼杵委員 資料は3つあります。本文が4頁ありますが、時間もありますので、これを一 つひとつはやりませんで、主に図表を説明します。本文は適宜参照ください。  私のプレゼンは、退職給付と老後の所得保障ということで、いまの退職給付を基に、それ をどうすれば老後の所得保障あるいは公的年金を補完するようなものに使えるのか、あるい は使えるものになるのかという問題意識で作りました。  大きなポイントとしては、いまの退職給付の現状、特にカバレッジの問題です。2つ目と しては、先ほど佐藤先生からもかなりお話がありましたが、退職給付を公的年金を補完でき るようなものに変えるような、仕組みとしての税制として、どのようなものが考えられるの か。3番目としては、公的年金を補完するようなものの条件づけです。  図表1が退職給付の普及状況です。退職給付というのはご案内のとおりで、退職一時金と 年金の両方を含めて、退職を理由にしてある時点以降に事業主が支払う給付ということです。 図表1を見ていただくとわかるように、2007年で退職給付のある企業が83.9%で、特に大 企業で多く見られます。企業年金の場合は、1,000人以上では76.8%、平均すると37.5% ですので大企業ほど普及しているということです。  図表2は、いま働いている人のどのくらいが、退職給付あるいは企業年金の恩恵に与って いるかを試算したものです。仕掛けとしては、退職給付というのは基本的には正社員にしか 適用されないということで、労働力調査から正社員の数を持ってきて、上の就労条件総合調 査で普及率が出ているので、その数を掛けて足し上げました。  30人未満のところは、就労条件総合調査では出ておりませんので、30人から99人と同 じ導入率という前提の下で、計算したものです。  そうすると、退職給付を適用されているのが2,610万人、企業年金を適用されているのが 1,440万人です。次の頁の図表3をご覧いただきますと、去年の日本の働いている人の大枠 です。民間の正規の労働者が3,000万人いて、いわゆる正規雇用です。退職金や年金のない 人が400万人で、適用されているのが2,600万人で、そのうち企業年金が1,400万人ぐら いだろうということになります。  そうしますと、企業年金に加入している人を正規労働者で見れば、約50%弱、民間全体 で見ると30%ぐらいで、決して高くはない状況です。これは1993年で同じ試算をしてみ ると、民間の雇用者が4,000万人ぐらいで、企業年金加入者が1,700万人ぐらいありました ので、その当時は40%ぐらいがカバーされていて、10%ぐらいがこの10年ちょっとの間 に下がっているということです。  先ほど佐藤先生から一時金と年金という話がありまして、それは図表4にあります。一時 金と年金について制度の振分けは図表1にあったのですが、年金の中でどのくらい一時金で の受給を選択しているかで見ました。真ん中にある退職年金だけの企業、これは主に大企業 だと思いますが、大体6、7割で、場合によっては8割ぐらいが一時金受給を選択していま す。右の両制度併用ですが、これは中小企業もかなり入っていると思うのですが、その場合 には一時金選択が5割前後ということで、年金の中で見れば、おそらくこの場合でも、年金 の7、8割を一時金受給しているのかもしれません。合計したものが計にあります。今日は 退職給付と老後保障ということで話をしていますが、もともとは一時金が最初で、年金は昭 和40年頃にできたということです。いまでも一時金の選択がかなり多いというのが現状で す。  その退職給付を老後保障にどのように使われているかですが、そもそも退職給付がなぜ出 てきたのか、もっと言えば一時金がなぜ出てきたか。これは皆様ご案内のとおり、もともと は長期雇用慣行のために出てきているもので、功労報償とよく言われています。戦前にもあ ったわけですが、戦後になってかなり長期雇用の1つの部品として普及してきたわけです。  今日はグラフは出ていませんが、S字カーブと言われているように、40歳ぐらいからぐ っと支給額が上がるような、いわゆる最終給与比例の計算式によりまして、早く辞めるとあ まり退職金がもらえないので損をするという仕組みを利用して、長期雇用を促進してきたと いうことが言えます。  ただ、昨今では老後保障ということ、前回高瀬委員からもお話がありましたが、老後保障 という意味も出てきているわけで、例えば図表5を見ていただきますと、これは国民生活基 礎調査の高齢者世帯の所得の内訳です。  いちばん右に、仕送り、企業年金、個人年金、その他所得の欄がありまして、これらの合 計で収入の5%ぐらいということで、フローで見た割合は非常に低いわけです。  これは先ほども、一時金選択が多いという話を申し上げましたし、厚生年金基金でも、年 金額は月額2万円ぐらいだと言われています。そもそも年金に入っている人が少ない上に、 一時金でかなり取っているということから、フローで見れば非常に少ないです。ただ、スト ックで見ると、貯蓄額が、50代、60代でぐんと上がっていて、どうして上がっているかと いうような統計はないわけですけれども、その多くの部分が一時金を選択した退職給付によ るのであろう。あるいは住宅ローンが減っているということも言えるかと思います。したが いまして、フローでは非常に少ないのですが、ある意味では自分で年金化と言っては言いす ぎかもしれませんが、自分の貯蓄を取り崩して老後に充てている。  図表7です。これはいま現役の人に対して、老後を何で賄うかという予定の部分です。こ こで見ると、もちろん公的年金がいちばんで、その次が預貯金なのですが、企業年金、退職 金が3番目ぐらいには入ってきています。もともとは長期雇用の1つの部品であるわけです が、一時金であっても、実態としては老後の生活資金になっているということが言えます。  ただ、先ほど退職給付のカバレッジが下がっているというお話をしました。図表8は特に 企業年金に絞って、制度数、加入者数を見たものです。厚生年金基金の代行返上、解散、適 年の廃止等の要因があった中で、小計が企業年金の加入者の状況ですが、2007年度で、2001 年の2,019万人から、1,699万人になっています。ただ、これは重複も含んでいますので、 少し多目に評価されています。いずれにしても減っているということは言えます。  理由としては、1つは、一時金も含めて、1993年に89%、2003年には92%の企業が退 職給付制度を持っていたのが85%。したがいまして、これは特に中小企業で長期雇用を維 持するのが難しくなっていることがあるのではないか。企業年金についても同じようなこと が言えます。  雇用者全体について言えば、ご案内のとおりで、正社員の数、正社員の割合が減ってきて います。1993年頃は雇用者の80%を超えていたのが、現在は70%ぐらいで、年々正社員 の割合は減ってきていることがあるかと思います。  さらにその背景を言えば、経済構造の変化、企業年金だけに言えば、会計上、財務上の問 題等もあり、少しずつではありますが、カバレッジが減ってきています。その中で冒頭に申 し上げたように、老後の保障あるいは公的年金の補完というものを目指すのであれば、そこ のカバレッジの問題をどのように考えていくかというのは、問われていると思います。  次に税制です。この点は佐藤先生が非常に詳しく、そして示唆に富んで話をいただきまし たので、私は簡単にしたいと思います。図表10です。課税繰延が優遇かどうかということ は言葉の問題になってくるので、現実にどの程度税収に影響するかを計算しました。(1)は、 すべて20%の税率で、拠出時、運用時に税金を掛けています。利率は下にあるように2% で計算しています。そうすると10年後の支給額は、93.8になります。  2番目が特別法人税を0.4%にしています。この0.4%は、2%の利率に20%の税率を掛け たということで、0.4の課税をする。支給時に、最後に20%をかけたというところでいくと、 支給時課税をした、その代わりに拠出時は非課税だということになりますと、(2)にあるよう に、やはり93.8です。(1)が佐藤先生のおっしゃっている本則で、包括所得課税になるかも しれません。ところが、本則と(2)は全く同じ結果で、そういう意味では支給時に同じ税率で 課税されるのであれば、さらに特別法人税がかかっていれば、タックスロスは全く生じてい ないということです。  ただ(3)になると、支給時の税率を20%から10%に下げたという場合で、そうすると手取 りの最後の額は105.5になるので、93.8との差額として税収のロスが出てきます。ですか ら、拠出時と支給時の限界税率が同じであれば、税収ロスは出ないのだけれども、いまのよ うに例えば公的年金控除とか、退職所得控除があると、税率の差の分だけが出てくるという ことです。  (4)は、仮にそれを(1)と(2)と同じような金額にするために、特法税をどのくらいの税率にす るかということを試算したもので、答えは1.6%です。ここはこれだけです。  次に図表には出ていないのですが、私なりに考えると、退職給付税制にどのような課題が あるかです。佐藤先生のご指摘とも共通するのですが、同じ老後の所得保障、あるいは担税 力が低いという課税の扱いがあっても、制度間でいろいろな差があります。例えば一時金と 年金で差があるとか、あるいはDBとDCで差がある。例えばDBについては拠出や給付の 上限はないのだけれども、DCについては上限があるとか。それから厚年基金とそれ以外、 これについてはいろいろ議論があると思いますが、いろいろ差があるということです。  2番目の課題は、一体その優遇というか特別な取扱いをする目的は何かということであり ます。資料のほうのいちばん最初に、吉牟田先生が昔、厚年基金としては特法税を掛けない ことについてお書きになったものがあります。もちろんそこで書かれているように、老後の 保障であって、かなり国の年金とも近いというのは、優遇される場合のいちばん理想的な例 だと思います。  ただ、例えば資料のいちばん後ろに出ていますが、賃金の支払の確保等に関する法律とい う法律があります。これは、退職一時金であっても積み立てているということを、ここでは 奨励している、あるいは努力義務としている。逆に言えば、積み立てることに一定の社会的 意義をこの法律では認めているということであります。  先ほど申し上げましたように、一時金でも老後の糧になっていないわけではないというこ とを考えると、理想的な厚年基金と同じような税法上の扱いにするかどうかという点はいろ いろ議論があるとは思うのですが、少なくとも積立を促進するというような措置が税制上、 あってもいいというような考え方もあるのかと、個人的には思っています。  3番目として、これも先ほど佐藤先生にご質問申し上げたのですが、所得控除をすると、 当然ながら限界税率の高い人ほど結果的に優遇されます。図表11は、アメリカにおける企 業年金のカバレッジです。真ん中の左から3番目の「民間雇用者」のところを見ると、42% のカバレッジというのが最近の数字です。これもおそらくは実際に税のメリットのある人ほ どこれを使った結果という意味で、金持優遇にはなっているのかと思います。あるいはイギ リスとか、後で申し上げるカナダでも、OECDの統計などでは、実際に入っている人は3 割、4割であるけれども、一部そういう税の特別な措置を認めています。  先ほど質問しましたように、所得控除なり、人的控除なり、あるいは当然別に配偶者控除 だろうと何だろうと、高所得者に結果的には有利になるわけです。企業年金が公的年金の補 完ということであれば、例えば公的年金と併せて十分な所得再分配が行われていれば、企業 年金においては、ある程度金持優遇的な側面があってもやむを得ないというような議論もで きるかもしれないと思っています。  図表13は、ドイツのリースター年金です。リースターの場合は、その点を少し考慮した んだと思います。インセンティブとして、低所得者にもインセンティブがつくように、補助 金。要するに、低所得者、税率が低い人にはその補助金を出して、高所得者に対しては税の 還付をする。いわゆる、完全なそれかどうかわかりませんが、先ほどお話出ました、給付つ き税額控除に近いのでしょう。ただ、これをやるとなると、相当実務的には大変かという気 はしています。  税金の4つめの課題は、企業単位でやるか、個人単位で優遇するです。いままでは企業単 位が普通なのですが、その場合はいまの制度を前提としますと、その企業がどういう制度を やるかによって、働いている人がどういう優遇を受けられるかが変わってくる。一時金を出 す企業なのか、年金を出す企業なのか、制度を持たない企業なのかという問題が出てまいり ます。  また、企業単位ですと、例えば倒産の問題ですね。積立不足のまま倒産する、あるいは先 ほど話がありました就労形態の多様化等への対応も、比較的難しい面があるということです。  図表14はカナダの例です。カナダの例では、すべての老後の退職所得を1つの枠で管理 することをやっていて、企業が制度を実施したら、その企業の出した拠出分を2008年です と2万カナダドルですか、150、160万円の大枠から控除して、残りについて自分で自助努 力で何らかの制度、老後のための制度、このRRSPの適用を受ける制度にお金を出して控 除を受けられるという仕組みです。これですと、正社員でも非正社員でも、会社がやろうが やるまいが、理屈の上では公平に税のメリットがあるということになります。  その上で、退職所得控除の問題にしましても、賃金からだけでなく、退職所得をここに入 れた場合に限って控除できるようにすることが考えられます。ですから、退職金は支給され るのではなくて、むしろ拠出するものだという考え方をとれば、かなり退職所得控除と年金 の扱いに差があるという問題点は解決できるわけです。これは実際におそらく大変でしょう が、理屈としては非常にすっきりします。レジュメにも書きました、佐藤先生も同じような 構想で、日本版のJIRAをお書きになっています。昔、木村陽子先生も、同じようなことを お書きになっていまして、こういう形を検討する意味はあるのかと思います。  最後になりますが、本文のレジュメにお戻りいただき、前々回ですか、駒村先生から、包 括性、年金性、実質価値の確保というような話がありまして、何を公的年金に補完として必 要かということをご提示いただいたと記憶しています。同じようなことを言っているのに、 ちょっと古いのですが1992年にOECDが出している小冊子がありまして、そこでは Adequacy、Equity、Securityということで、十分性、公平性、確実性と訳しましたが、同 じようなことを言っています。  ここで問題なのは、あくまでこれを全部満たせば理想なのですが、例えば駒村先生で言え ば、年金制・実質性・価値の確保あるいは十分性とか確実性をぎりぎりやるということは、 企業が制度を作ることを前提とした場合には、企業のリスク、すなわちコストになるという ことですので、非常に先ほどのカバレッジの問題から言えば、もちろん個人でやればいいの だというのは1つの考え方なのですが、企業がやりにくくなり、カバレッジの問題では逆に マイナスに出てきてしまうということです。  それを補う方法としては強制してしまうのがいちばん簡単なのですが、それはちょっと難 しいだろうということであれば、税の優遇ということでしょう。ただ税の優遇がどのくらい 本当に効果があるかは、我々は決して知っているわけではなく、まだ未知数のところがある ということです。  レジメの4.(3)(4)(5)は具体的な内容として、そうい理想は追いつつも、どこかで妥協も 必要かなというようなことを書いているわけです。(5)に書きましたように、いちばんた ぶん問題になるのは、水準ですとか、インフレスライドですとか、あるいは終身年金という 給付の内容です。終身年金については、アニュイティパズルという言葉が示すように、実際 には任意の終身年金は、世界中探しても非常に売れ行きが悪いのです。それはなぜかという ことはわからないのでパズルになっているわけですが、合理的な理由で売れていないのであ れば、強制するのはどうかということになります。逆に、非合理的な理由で売れていないの であれば、何らかの方法で終身年金を促進する必要があるだろうと思います。ただ、その場 合でも企業が余命のリスクをすべて負うのではなくて、国がサポートするとか、あるいは一 部最近の議論ですと、平均寿命の延びについては公的年金のマクロ経済スライドのように、 ある程度従業員にもリスクを負ってもらって、その平均寿命と従業員個人個人の差異の分だ け、企業が負担するとか。そういうリスクシェアリング的な方法も、考える必要があるのか なという気がしております。以上です。 ○森戸座長 ありがとうございました。私の報告と、いまの臼杵委員の報告に関して、皆さ まからのご質問、ご意見を残りの時間で受けたいと思いますが、いかがでしょうか。どなた からでも、では藤井委員、お願いします。 ○藤井委員 例によって最初にお聞きします。非常に日頃思っていることと同じようなこと をお二人もおっしゃっていて、そうだなと思うことが多々あります。森戸さんのほうで言い ますと、大きなII番で述べておられること、大きなIII番の終わりに、(1)、(2)は原則で、(3)、 (4)は活用する流れで、(5)が企業年金法なのでしょうかねというところで、さらにおっしゃり たかったのだけれども、少し省かれたということなのですが。ここが非常に私も気になって おりまして。一言で言いますと、そもそもいま存在するDB法とかBC法というのは何なの かというところだと思うのです。なぜDB法やDC法の中には、かくも盛大なる規制が存在 しているのかということは、よくわからないと思うのです。先ほど、税の話で、佐藤先生の ところでも、ちょっとそういう話を私はしたかと思うのですが、現状、税の優遇があるとは 必ずしも言えない、特殊な税制のもとに置かれている。たまたま特法税が停止されているの で、優遇があるように、まあ見えなくもないというわけです。元来、優遇は特にあるとは言 えなくて、特殊な税制です。  いま臼杵さんが図表10で計算されたように、全くフェアである場合も考えられるし、そ うでない場合も考えられて。それはケースバイケースで、現状は何なのかは、それは考えて みなければわからないというようなことだと思うのです。だから、現状、特に優遇されてい るとはやはり言えないとは思いますし、元来そういう意図があったとも言えないし、普及さ せようという意図があったということもたしかではない。せいぜい邪魔しない程度にしよう ということだったのかと思うのです。  そうである場合に、DB法、DC法にかくも盛大な規制がある理由は何なのかという場合 に、まず問題になるのが、しからば税の優遇を設ければよいではないかというところがあり ますね。それは、そうだと思います。  一方、その税の優遇があまり大してないという前提に立つとすれば、そもそもDB法とか DC法とは何なのかと。ここで言う、絶対的規制、相対的規制あたりを述べているというの であれば、しからばDB法、DC法によらない不認可の企業年金は野放しなのか。それは何 によって制御されているのかというのがよくわからないということです。適格年金が駄目だ と言われた理由も、よくわからない。要するに、税の問題だけであれば、あの程度でいいの ではないかということも考えられるわけです。結局、この森戸先生の提言は極めてファンダ メンタルのところに直ちに行き着いてしまって、DB法は何なのか、DC法は何なのか。そ ういう法律がこの世に存在する理由はそもそも何なのかということが、よくわからないとい うことを言っておられるのかなと思い、私は常々思っている疑問と一致するのかなと。  その点の1つの示唆が、臼杵さんのおっしゃった中で、これは私は前からそう思っている のですが、企業年金と退職金とを比べた場合の本質的な違いは1点であって、それは積立金 を持っているかどうかということだと思うのです。  一時金で払うか、年金で払うかという問題はむしろあまり重要ではなくて、社外に積立金 を有するかどうかということが、極めて重要な違いだと思います。そこには、いくばくかの 優遇を与えてもいいのではないかと思います。これは意見です。  税の問題を考えるときに、フェアな税とする場合にどうかという疑問と、優遇ということ を与えるとするとどうかということは、やはり分けて考える必要があって。優遇のことを議 論しているときに、それは税理論上おかしいと言うのはおかしいのであって、優遇するなら 優遇すればいいだけの話です。どの程度どこを優遇するかが問題だということだと思うので す。  優遇すると腹を決めた場合にはわりかた簡単で、どういうことを優遇されるのかという話 だと思います。基本的には、社外に積み立てるというのは極めて重要なポイントです。それ を除けば、年金であれ、一時金であれ、労働法レベルにおいて約束は守れ、ひどい約束はす るなというようなことに尽きるのではないかと思うのです。  積み立てるのに当たって、積み立てるのだったらきちんとやって、そのきちんとやる分に ついて手をつけてはいけないよとか、社外に積み立てるのだからその分十分確保してねとい うような、その積立に関する規制というのですか、あり方論というのですか、それが非常に 基本的なものとして存在するのかなと。特に、日本の場合の年金は一時金から発していると いう点もあって、積み立てるということの重要性は極めて大きいのかなと思います。  それと、普及ということはとても重要で、臼杵さんがご指摘になっているように、適用率 がどんどん下がっているということで、全体として国民の福祉が向上しているのかというと、 低下しているのではないかと感じられるわけですが。それが良いことだとはとても思えない のであって、「普及」というキーワードはとても重要で、そこに向かってどういう施策を講 じるべきかという視点もキーワードになってくるかと思いました。 ○森戸座長 私、では一言だけ。藤井委員おっしゃるように、飛ばした承認認可の話で、究 極的にはちょっと申し上げましたが、現在の企業年金法は何かこう税制適格要件を定めるも のになっているという理解で、法的には。認可は法人を認めるので、その認可との絡みで、 認可というのは少し承認より強い効力になっているのかと思うのです。承認に関しては全く、 承認がなくても同じ制度やりたければどうぞという。適年のときには、非適格というのがあ ったと思うのですが、そういう仕組みになっていると思います。その意味はたぶん、だけど この要件を満たさない制度やってもいいけど、この要件満たす制度をやると、税制、税金が 得するよというはずで組んだのだけれど、何かそんなに優遇はないのではないかというのが、 藤井委員がおっしゃるところ、私もどちらかというとそういう感じはしています。結局、何 が優遇かということを考えないといけないというのは、そのとおりだと思います。何か藤井 委員にかかると、全部藤井委員の味方になってしまう気はするのですが、この点に関しては いいかと思っております。臼杵さんからいま何かコメントはよろしいですか。味方というこ とでいいですか。 ○臼杵委員 いや、味方ということでは。 ○森戸座長 ほかに、臼杵さんの報告、私の報告について何かありますか。 ○野村委員 まずは、貴重なプレゼンテーション、お二方ありがとうございました。どちら に当ててということでもなく、あえていうなら臼杵先生かもしれないのですが、私もやはり さっきの佐藤先生と重ねて、この図表10を見ておりました。佐藤先生のお話だと、何しろ 仮に給付時課税をフルにやったとしても、特別法人税撤廃というのは理屈の上ではつながる 話ではないわけです。ただ、さはさりながら、私は個人的にはいま藤井さんもおっしゃった ように、優遇するという理屈をきちんと付けて、EETでもTEEでもいいのですが、普及促 進等々も全部含めて、やはり何かいわゆる優遇というものを付けるべきだとは、思っていま す。  ただ、そのことをさて置いても、この特別法人税の残高に掛けるというやり方、方法をも うちょっとこの時代にあっては議論すべきではないかと思います。この特別法人税が入った ときに、どういう関係だったのかなという感じなのですが、数年間マイナスというのは、何 の異和感もない世界になっていますね、日本では。しかも、上がったり下がったりローラー コースターのように、一応いまは100年に1度ということになっていますけれども、また 数年経ったら、どうだということを真面目に考えざるを得ないのが実態だと思うのです。  そういう中で、臼杵先生が用意してくださった表なども、これはプラス2%と置いていら っしゃいますが、マイナスが続くと、やはり本則である(1)と特法税を掛けた場合とで、同じ ではなくて差が出ると思うのです。  なぜならば運用益に対して2割掛けるのであって、それが0以下だったら掛からないわけ ですね。ところが、特法税は掛かるわけです、本当に掛けてしまえば。この差はやはり少し 方法論として考えていただく必要があるのではないかなというのが、現場ではないのですが、 やはりその運用とかそういうところに近いところにいる人間としては強く感じるところで す。ただ、それが、例えば税法とかそういうところの理屈にどうつなげていけばいいのかと いうのは、すみません浅学なので、うまくいまは思いつかないのですが。この点は是非ポイ ントとして押さえていただく必要があるかなと思います。以上です。 ○臼杵委員 2つありまして。1つは、特法税がかからない制度が、どういう制度かには、 まだ議論の余地があるかと思います。それについては、私はだから先ほど申し上げましたよ うに、レジュメの4番でいろいろ考えてみたということです。必ずしもいまの制度全部に、 全く本当に掛けなくていいかどうかについてはもうちょっと考えたいとは思っています。も う1つは、掛けるとしても、おっしゃるように1.173%をその資産に掛けるというのは重た いというか、やり過ぎだということです。設定当時の経済的根拠は、先ほどの限界税率17% (12+5)に対して、日歩2銭の金利か何かだったと思うのです。ですから全然いまの状況 と金利も違います。私は、例えば公定歩合×15%を毎年掛けるとか、そういうような方法 かなと思っていました。それから、いま野村先生に言われるまであまり考えていなかったの ですが、通常の法人税には例えば繰越損失とかそういうものが認められていますから、法人 税という名前がついている以上は特別法人税もロスの繰越とか、実際にあがった収益に対し て掛けるという方法もあるのかなと、いま思いました。 ○森戸座長 私もちょっと申し上げると、話がちょっと前後してしまうのですが、さっき藤 井委員がおっしゃった、その一時金か年金と言うより、その積み立てがあるということをも うちょっと重視して考えようと言うのは、それはまさにそのとおりだと思ったということを、 一言つけ加えます。  いまの話ですが、佐藤先生の報告で、本来は拠出時課税、運用益取得時課税だと、それが デフォルトだと。最初伺ったとき、何でデフォルトなんだろうと思って聞いていたら、結局 ほかが皆そうだからという話でしたね。この場合の、でも運用益取得時課税というのは、こ の表にあるように、収益に掛けるという意味なのですか。特法税みたいに、全部掛けるとい う意味ではないですよね。 ○野村委員 受取配当に名前とか、そういう範囲。 ○森戸座長 だとしたら、その議論するときには、本来これだということからスタートすれ ば、その特法税もイレギュラーな掛け方なのでしょう、たぶん。であれば、その議論してい く上で、このデフォルトから始めてどういう制度に組んで、どういう優遇的なものがどうい う目的で必要かという議論をしていく中で、特法税もいずれにしてもデフォルトとは違うル ールになっているのだからということで考えれば、その特法税が当然だという話にはたぶん ならないのかと思って伺っていたのですが。そういう理解でいいのかどうかわかりませんが、 それは一言申し上げておきます。 ○島崎座長代理 まず、森戸座長に確認の質問をします。3頁目の(5)の税制優遇による誘導 の部分がありますね。確認なのですが、(1)から(4)までは労働条件の法理から演繹されること だけれども、この(5)は別にそういう意味ではないですよね。 ○森戸座長 そうですね。口では言ったのですが、要するにこれは(5)とは書きましたけれど も、あまりないですねという話をして。障害者雇用の納付金とかが若干近いですかねみたい な、無理やりですけれども、そういう話をしたのです。 ○島崎座長代理 わかりました。次に臼木委員に対する質問ですが、例えば自社年金ですと、 いろいろな規制は、法律上基本的にはないですね。もちろん一種の労働契約として、労働法 なり、あるいは労働判例から積み上げてきた法理なり、一定の制約があるにしても、基本的 には自由ですね。ところが、DB法やDC法に基づく企業年金では法規制がかかる。そして、 その裏腹として一定の租税上の「優遇措置」が講じられていると思うのですが、そもそも何 で企業年金を設けることを国が奨励するのか。さらに言えば、「税による支出」をしている こととの関係で言うと、なぜ高所得者なおかつ大企業のその人を対象に、そういう税制上の 「優遇措置」、優遇ということに議論の余地があるのであれば、カギ括弧付きでも構わない のですが、「優遇措置」がされるのか。そのことの合理性は、これまでの会議の中でも議論 されていますが、今日の話の中だと、そこだけ見るのではなくて公的年金も併せてセットの 中で見るべきという、そういうことをおっしゃったと思う。私も、基本的にはそうかなとい う気もしますが、もっと立ち返って考えると、そもそも公的年金の2階建ての厚生年金の部 分で全部やってしまうのと、何が一体違うのか。むしろ、再分配をもっと強化していくべき だ、あるいは公平性を担保していくべきだと言うのであれば、2階建ての厚生年金で一元的 に処理をするほうがよほど公平ではないかという議論もある。これは「ためにする議論」か もしれませんが、その点については、どうお考えなのか。私自身が明解に回答を持っている わけではないのですが、お聞かせいただければと思います。なお、もし藤井委員もご意見が あれば、お聞かせいただきたいと思います。 ○臼杵委員 これは非常に難しい質問だと思うのですね。それはやはり税金のところがとて も複雑になっていて、何が優遇なのかについていろいろな考慮が入っているから、余計難し くなっているのかなという気がします。それで、例えば掛金の損金算入とか、昔は一時金に も退職給与引当金というのがあったと思うのですが、その辺に関しては本来は藤井さんのお 話にあったように、本来はそれは別に優遇ではないとは思うのです。ただ、実際には後ろの、 さっき私が申し上げた公的年金等控除とか退職所得控除とか、そちらが付いてくるために実 質的に優遇になってしまっていて。おっしゃるように、金持優遇的な考慮色彩が出てきてい るので、話がとても複雑になってきている。だから、そういう意味では、私は逃げかもしれ ませんが、公的年金の所得再分配と併せて考えることで、ある程度そういう金持優遇的なも のは仕方ないのかなということを、取りあえずいまはちょっと申し上げたわけですね。  もし優遇されていないと考えた場合には、優遇についていろいろ議論あることは私も承知 していますが、森戸先生の規制の中では労働法的な規制はやはりかかると思うのです。それ は税の優遇があろうとなかろうとかかるでしょうし、それから受託者責任みたいな信託法的 な規制もたぶんかかるのだと思います。あとはその社会保障法的な規制というのがあるのか どうか、例えば終身年金を強制するとかいう規制は、もし優遇されていないというふうに割 り切ることができればですが、なくてもいいという結論もあり得るのかなと思います。何が 優遇されているかどうかをよく考えてみたいと思いますが。 ○藤井委員 いまおっしゃった点は、島崎さんが指摘された点は非常に重要なポイントで、 実は昨日ある席でそのような話で私がスピーカーでだいぶある方々と話をしたテーマであ って、いずれ私はそのテーマをここでやろうかなと思っていたところなのですが、極めて重 要なポイントだと思いますね。それは、公的年金と私的年金の役割分担とか、住み分けの問 題で、それは公的年金にすればすべてうまくいくというのは、おっしゃるとおり、ためにす る議論だと思うのです。それはうまくいかないし、いま我が国も、公的年金は非常に苦しく なっているし、それで強制してもまた脱落者が出てきて、結局どうしていいかわからないと いうところもあります。社会全体がうまくいくにはどうしたらいいかというのが一番重要な 視点で、そのためのツールとか道具立ての問題だと思うのです。特に英米のアングロサクソ ン的な国々は、大陸と欧州と若干違うという話。いつも思っているのですが、社会保障が後 付けだし、特にアメリカはそうだと、私はつたない知識で思いますが、公がやるよりはプラ イベートでやっているほうがいいと。なぜそう思うかというのも、私の個人的な感想を言い ますと、大企業は、国民全部を公的にカバーするとなると、所得再分配機能のためにコスト がかかってしまってしょうがないということで、自分たちだけは得しようと、こういうこと を心では思いながら、そうは公には言わずやっているということかなと思うのですね。公の ほうは、その落ちこぼれた人を救うと。こういう基本的なシチュエーションがあると思いま す。これは決してワールドワイドにスタンダードではなく、そういうふうなポジションをと っている国と、そうでない国があって。それも非常にラベル貼りで、いや、そんなことない と言う人がいるかもしれませんけれども、そういう傾向かなというような気はして。そのこ とは悪いことではなくて、それは結局バランスの問題だと思うのです。そういうことをやっ ていると、個別企業としてはリスクを取り過ぎることになって、最近ではなかなかDBも立 ち行かないということで。コストの問題とリスクの問題が、その国の成長過程と経済のその 関数によって違ってくるのではないかと思うのですね。だから、全体としていちばん適度な リスクと、適度な負担が国全体にうまくこうバランスして、力いっぱい効果が発揮できると き、その国は強くなるのかなということで。それはやはりいろいろなものの関数なのではな いかなと思っているのですね。結局、活力がなくなってしまえば、どんなに良い制度を作っ てみても、その国の経済全体がよぼよぼになってしまって、うまくいかない。ということで、 ある程度うまくいっている人が得するというのは必要なことではないかなと思います。  一方、その税の理論とかを言う場合には、前回も申し上げたと思うのですが、アクセサビ リティだと思うのです。例えば、企業年金にだけ優遇するとなると、企業年金のカバー外の 人はその税のメリットを受けることができない、どのように工夫してみてもできないという のは、最低限駄目で、まずは、それはやはり変ですよねと。結果としてうまく活用する人は 得するかどうかというのは、また次の次元の問題だと思うのです。次の次元のことはどうで もいいかと言うと、どうでもよくなくて、やはり普及促進というテーマが重要で。やりたい 所だけ勝手にやっていればよくて、やりたくない会社はやらないのは勝手だし、それも労使 自治だから放っておけばいいんだというのは、これは原始的にはたしかにそうで、なのだけ れども。そうであるということは大前提としながらも、そこにおいて普及促進というねらい を持つということはやはり重要で。結果として、実際上普及しているという状態ができ、か つ、それでもそこにアクセスできない人たちが自分で日常のコストを何とかするということ でないと、やはり変だと思うのですね。大企業だけが何か得しているというのは変だし、そ んなものは結局あってもなくてもどうでもいいということになるし。でも、なくてもいいか と言うと、そんなことはなくて。頑張った人が報われるというのは、ある程度必要なことで。 そう思うから、社会が伸びるという点もあるので。結局それは全体の関数だろうなと思いま す。 ○島崎座長代理 今日ここで議論するつもりはないのですが、拠出に応じた給付というイン センティブを与える貢献原則みたいな考え方がある一方、、老後の生活の最低保証するとい う考え方は、いまの公的年金の中でもあり、双方のバランスをとっているわけです。ご承知 のとおり、報酬比例の部分は貢献原則というか、従前の生活を保障するかという説明ぶりは ともかくとして、そういう考え方がみられるということだろうと思います。そうだとすると、 企業年金を別の制度として設けて、カギ括弧付きの優遇、あるいは特殊な税制を講じてまで、 企業年金の普及を図るという意義は何なのか。言い換えれば、それは公的年金のその仕組み の中でもいろいろな算定式を操作することにより可能なわけで、なぜ二元的に行う必要があ るのか。そこは制度の基本的な立て方に即関わる問題なのだということだけ、今日ここで申 し上げさせていただきます。 ○森戸座長 そういう議論もまたしたいと思います。私、聞かれてないのですが、一言だけ 申し上げると、藤井委員が、普及促進も大事だと。そうなのですけれども、島崎委員が、何 で普及促進を国としてやらなきゃいけないかを考えないといけない、そのとおりだと思うの ですけれど。私はわからないのですが、税制の話は置いといて、公的年金でも老後を所得保 障を考える、国民のですね。個人の自助努力も考えると。それでわからないのですが、藤井 委員が言った関数ということなのかな、何の経済的バックグラウンドもないので適当なこと を言うと、個人と公的年金でやると。あとは個人でやるよではなくて、その間に企業の力を 借りてその制度を仕組んだほうが、結果的に全体としてより良い老後所得保障制度ができる よという説明ができれば、おそらくいいのですよね。その解はわからないのですが、企業が 労働条件としてある程度自由にその制度を組んで、労働条件という、言ってみれば労働者を うまく働かせて儲けてもらって、会社も良くなろうという、そのインセンティブなり努力の 上にうまいこと乗せた制度として組むことが、結果的に国民とか従業員全体に良くなるとい う説明が、何かできればいいのだと思うのですけれども。それは何なのだろうと言われると、 また島崎座長代理の話に戻るということかなということだけ言っておきたいと思います。次 回、また以降に議論していただければと思います。 ○臼杵委員 絶対こうだと言うつもりは全くないのですが、例えばこの企業年金の場合、 DBであれば、1つの保険集団を企業が作るということもありますし、実際運用をまとめて やると。個人というのはそんなに運用をきちんとできないと最近わかってきています。それ からDCであっても、一種の強制貯蓄のような形である程度パターナリズムかもしれません が、老後の準備を会社、企業としてやるということに、それが積立ということなのかもしれ ませんが、少しは意味があるのかなと思います。 ○森戸座長 その議論もまたしたいと思いますが、ほかに小野委員。 ○小野委員 1つだけなのですが、ちょっとこの場で申し上げるのが適当かどうか、質問か どうかということも含めてよくわからないようなコメントをさせていただきます。今日のよ うな労働法制からのご指摘、また、佐藤先生から税法の関係からのご指摘、それからその前 にされた社会保障法学からのご指摘というような観点から、いろいろ企業年金制度を考える というのは、非常に多面的で、よろしいかなと思うのですが。私、最近専門家でないながら も考えるのは、やはり企業年金というのは金融商品として考えるという側面もあるのではな いかなという気がしていまして。一般の金融商品と比べると、メンバーシップがあって、そ のメンバーシップの中で特殊な分配の約束があるような制度だというふうに見れば、見れな くもないと。すると金融サイドから、金融行政のサイドから、やはりその企業年金にとって それなりにものを言うという観点というのが、たぶん出てくるかもしれないなと。というの は、やはり特にヨーロッパの大陸とかを中心として、銀行とか保険とか証券とか年金とかと いうのは、それなりに包括的に規制監督していくという流れが少しあるような気もするので す。その辺りというのは、コメントがもしございましたらということでお願いします。 ○森戸座長 それは臼杵先生。 ○臼杵委員 いや、おっしゃるとおりだと思います。そういう意味では受託者責任だって、 ある意味では例えば投資信託とか、最近の金融商品取引法にも出ていますから、森戸先生に あえて楯突くつもりはないのですが、レジュメの中で、受託者責任も労働法のような感じで お入れになっていますが、これは少しわかりかねるところがあります。 ○森戸座長 ボロが出るのであんまりは。 ○臼杵委員 金融法的な側面もあるだろうと思います。それから実際に欧米、ヨーロッパで もあるいは、オーストラリアなどでも、金融監督当局が企業年金を監督するような、あるい は検査に入っているようなこともありますから、金融商品としての側面は避けて通れないと 思います。 ○森戸座長 ほかにいかがでしょうか、篠原委員、お願いします。 ○篠原委員 今日は本当にありがとうございました。非常に私も勉強になりました。1点だ け感想を申し上げたいと思うのと、あともう1点、本当に簡単なご質問を先生のほうにさせ ていただきたいと思います。  今日、資料3の図1、図2のところで、カバレッジの関係の表を出していただいたのです が、やはりこの加入率が下がっているということは、改めて聞いてみますと、非常に働く立 場からすると残念だなという印象を受けました。森戸先生のお話にあったように、やはりこ の企業年金というのは労働条件の1つでもあるということになっておりますので、カバレッ ジが下がったということはやはり労働条件も下がってしまったということにつながるので はないかと思います。  そこで1つ質問なのですが、臼杵先生の資料3の図表の1のところで、企業年金制度のあ る企業の2003年、46.4%から2007年で40%ということで、非常に下がっているなという ような印象があるのですが、この部分、やはり適年の廃止というようなことが非常に多くあ るのかというところをお聞きしたいと思います。 ○臼杵委員 この統計自体には、企業年金の中身はちょっと出ていないので、絶対100%そ うだということは申し上げられませんが、次の図表8で見ていただくと、適年の加入者数が やはり2003年で800万人だったのが、2007年で442万人になっていますので、これはか なり大きかったのだろうなというふうには考えております。 ○篠原委員 ありがとうございました。 ○石田委員 すみません、飛行機の時間があるのに、自分で自分の首を締めるようですが、 コメントだけさせていただきたい。いまの篠原委員とも関連するのですが、これだけカバレ ッジが下がっていると。中小企業で長期雇用が困難になっているとか、正社員の割合が減っ ているだとか、こういう要因を分析されていたのですが、その適年の廃止その他も含めて、 これ規制環境が変わっていると。そういう意味で言うと、量的なものではなくて質的なもの が変わっていると。こういう環境変化もあるのではないかと。その質的なものの変化の中で 言うと、ある意味で規制が厳しくなってと。そうすると、アメリカのように規制が厳しい、 その規制のコストが出てくる。企業にとっては利益が下がってくる。こういうことによって カバレッジが低下していると。こういうような立論もできるのかなと思いました。  もう1点は、私がアメリカのIRAその他をちょっと勉強したところ、やはりこれはあく までもポータビリティの1つの制度であって。本格的に老後の所得を保障するものとは、若 干違うのかなと。  それで言いますと、逆に言うと、アメリカのエリサ法のように、受給権の確保と、受給権 の強化とこちらのほうが優先課題なのかなという印象を持ちました。 ○森戸座長 ありがとうございます。コメントはありませんか、よろしいですか。 ○臼杵委員 私もアメリカのIRAをそんなに支持・主張するつもりはありません。個人勘 定は主張しますが、どちらかというとIRAはちょっと違うかなという気がします。 ○森戸座長 ほかによろしいですか。もう、あっという間に時間ですので、まだご質問、ご 意見とあるかもしれませんが、時間ですので、本日の議事はここで終了したいと思います。 私が言うのも何ですが、非常に内容の濃い会だったと思います。次回の日程については、別 途事務局のほうからご連絡いたします。本日は、ありがとうございました。 (照会先) 厚生労働省 年金局 企業年金国民年金基金課 企画係 (代表)03-5253-1111(内線3320)