09/03/31 第2回企業年金政策研究会議事録             第2回企業年金政策研究会          日時 平成21年3月31日(火)          15:00〜          場所 厚労省共用第7会議室(5階) ○西村課長 時間になりましたので、本日はお忙しい中、ご参集いただきましてありがとう ございます。時間の調整が遅くなりましてご迷惑をかけました。申し訳ありません。今日、 ご発言される際に、マイクはボタンを押してお話いただければと思います。それでは、森戸 座長、よろしくお願いします。 ○森戸座長 それでは、時間がまいりましたので、ただいまより、第2回企業年金政策研究 会を始めさせていただきます。  まず、企業年金政策研究会から委員にご就任いただいています嵩委員に、本日からご参加 いただいています。よろしくお願いします。また、本日は篠原委員が所用によりご欠席とな っていまして、篠原委員の代理として、日本労働組合総連合会生活福祉局、竹詰部長がご出 席されています。  本日は、3名の委員の方に企業年金の意義等についてというテーマでご報告をいただくこ とになっています。  では、早速、菊池委員からご報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○菊池委員 それでは、報告をさせていただきます。私、企業年金の専門家ではありません ので、些か場違いですが、私の立場から若干のお話をさせていただきます。  私、専攻が社会保障法学という分野ですので、どちらかといえば、社会保障との視点に留 意した報告になると思います。  まず、お手元に4枚のレジュメを用意しています。  資料1の1「はじめに」のところですが、私が理解しますに、本研究会の設置目的は、前 回配付いただいた資料によりますと、「中期長期的な企業年金の姿」をどのようなものとし ていくのかについて、老後保障全般に及ぶ広範な視野で研究していくこと、とされているよ うです。これに対し、平成19年に企業年金研究会がまとめた「企業年金制度の施行状況の 検証結果」によれば、今後の企業年金制度の方向として、2つの方向が提示されています。  1つは、労使合意を基本とした、企業や従業員の実情及びニーズを踏まえたできる限り自 由な制度です。ここから、例えば確定給付型企業年金における選択一時金の上限額の緩和や 確定拠出年金における中途脱退要件の緩和などが導かれるとされています。  もう1つの方向性として、公的年金との関係を重視した、従業員の老後の所得保障機能を より強化した制度です。この線からは例えば、給付水準の目標の設定であるとか、終身年金 の原則化、選択一時金の廃止などが導かれるとされています。  その上で、結論的には、「企業年金については、その果たす役割が大きくなると期待され てきたことにかんがみ、公的年金との関係を重視した制度中心から、労使合意を基本とした 自由な制度中心へと変化してきた歴史があるが、現時点において、企業年金の今後の方向と して、さらにどのような方向を目指すべきかについて、関係者間でコンセンサスがある状況 にはない。」とされているようです。企業年金制度の歴史的経緯や実態を踏まえれば、企業 年金の多くは広い意味での労働条件の一環と捉えられることは否定できないわけです。  他方、最近の制度改革が公的年金制度の改革と連携してなされてきたことからすれば、公 的年金との兼ね合いを無視することもできないわけです。その意味では、この2つの方向性 は一方が論理的に間違っているとか否定されるべきであるという関係にはないように思わ れます。  その点を意識した上で、社会保障を専攻分野とする法学研究者の立場から、若干の、非常 に雑駁ですが、考察を行ってみたいということです。  まず、2「社会保障の意義と目的」ですが、企業年金を巡る私たち、社会保障法研究者の 関心としては、従来その社会保障的性格の有無が、とりわけ厚生年金基金との関連で論じら れてきたという経緯があります。最近では、受給権保護のあり方についても検討が行われて います。この点は、アメリカのエリサ法や最近多くなっている企業年金の給付額減額などに 係る裁判例の分析などにも及ぶものです。ただ、この点は、むしろ森戸座長が第一人者とし てここにいらっしゃいますが、法学の分野では基本的に多くの企業年金は、従業員の労働に 関連した給付制度であることから、労働法学が主として関心の対象としてきたのであって、 社会保障サイドからの企業年金に対する関心は、それほど高かったとは言えないと思われま す。このことは、次に述べますように、従来の我が国における社会保障の捉え方に起因する ところが大きかったように思われるわけです。  これに対し、最近、社会保障を巡るパラダイム転換とも言うべき法現象が顕著になってお り、そこから企業年金のあり方も、社会保障制度本体のあり方と同じ土俵で、議論すべき状 況に立ち至っているということです。つまり、社会保障法の側でも企業年金を本格的に検討 対象にする必要が高まっているということです。  社会保障の中にどういった制度を含めて考えるかについて、世界共通の定義があるわけで はなく、国によってかなり異なるというのが実態です。我が国では、国立社会保障・人口問 題研究所の分類によれば、部門別、制度別、機能別のそれぞれの分類がなされています。大 まかに言って、これらの制度が社会保障に含まれると理解していいように思われます。  法学的な立場からの社会保障の通説的な捉え方でも社会保障というのは、「国が、生存権 の主体である国民に対して、その生活を保障することを直接の目的として、社会的給付を行 う法関係である」とされています。ここに見られますように、社会保障というのは、基本的 に国から国民に対する給付の体系として捉え、その目的としての国民の生活保障にあると捉 えてきたわけです。国からの直接的な給付という点からすれば、いわゆる企業年金が社会保 障の一環に位置づけられることは、基本的にはない。厚生年金基金の位置づけは微妙ですけ れども、基本的にはない。したがって、社会保障を研究対象とする者の関心の的にならなか ったというのも、理由のないことではないわけです。  しかしながら、少し年金から離れることになりますが、こうした伝統的な見方を大きく変 える政策動向が最近顕著になっています。典型的には、年金そのものではありませんが、例 えば、社会福祉といわれる領域などにおいて顕著です。例えば、介護保険や障害者自立支援 法による、いわゆる措置から契約への移行によって、国や自治体は、従来のように直接福祉 サービスを現物で給付する責任を負うのではなく、基本的にはサービスに要する費用の給付 を行い、合わせて行政計画、行政規制、最低基準の設定など、間接的な関わりも含めた多様 な役割を担うことにより、公的責任を果たすようになってきています。  例えば、先日発生した群馬県渋川市での「静養ホームたまゆら」の火災にもありましたが、 あれは介護保険施設でもないのですけれども、その意味では、社会保障の給付が直接関わる 場面とも言えないわけですが、にも拘らず、規制行政的観点から、福祉行政の対応のあり方 が問題となっています。  こうした公的責任の多様化ないし公的主体の役割の変化という状況の下で、社会保障の目 的である、先ほど申しました国民の老後生活保障という観点からすれば、それを厳密な意味 で社会保障の一部というかどうかはともかくとして、国が直接支払を約束した給付でないか らといって、社会保障の関心の外に置くことは妥当ではないということになります。また、 実務的にも、国による直接的給付でないからといって、公的な関心や助成の関心の外に置く、 あるいは私的自治の下に委ねるべきということにもならないわけです。  このことを企業年金法制について当てはめた場合、従業員の老後生活保障ないし老後所得 保障という制度目的の共通性から見た場合、公的年金と連続的に規制や助成のあり方を考え ていくべきという視角が導かれるかと思います。こうした観点は、どちらかといえば、従業 員の老後所得保障の側面を重視した、最初に述べました報告書の2つの方向性のうち、1つ の見方に繋がるものであると言えるかもしれません。勿論、このことはもう1つの報告書に おける方向性、即ち従業員の労働に関連した給付制度の一環としての歴史的、現実的性格を ただちに否定するものでもありません。ただし、レジュメにありますように、現行各法の目 的規定を見た場合、既に高齢期における給付を念頭に置いていること、公的年金と相まって 国民の生活の安定と福祉の向上を図るとの趣旨が明文で組込まれている点は、改めて確認し てよいと思われます。  次に3ですが、公的年金などの社会保障制度との関連で、企業年金のあり方を見ているわ けですが、その際、私のよってたつ立場、法学者的と言いますか規範的な視点から、関連し てくると思われるいくつかの点について検討しておきたいと思います。  まず、特定の法制度のあり方を構想するにあたっては、その制度を基礎づける基本的な理 念や原理を明らかにし、そこから制度のあり方を論じるという作業を、それで全て語り尽せ るわけでは毛頭ありませんが、無意味ではないと思われるわけです。その点で、社会保障制 度の根本的な存在意義ないし目的を少し掘り下げて考えてみたいわけです。  先に述べましたように、社会保障の目的は、一義的には国民の生活保障であると捉えられ ています。この点を更に掘りさげて考えてみると、何のために生活保障を行うのかと言えば、 より根本的には個人の自律の支援にあると捉えられるというのが、私のよってたつ立場です。 すなわち、社会保障の目的を単に金銭、その他の財の移転による物質的ニーズの充足という 面でのみ捉えるのではなく、自律した個人の主体的な生の追求、すなわち自己決定による人 格的利益の実現、つまり平たく言えば、自分が選択した生き方を生きられる、そのこと自体 に価値があるという考え方でありますが、社会保障というのは、その意味での自律した個人 の主体的な生き方の条件整備のための制度だと捉えるわけです。このことは、社会保障の規 範的な根拠というのは、憲法25条に「生存権」規定がありますが、より根源的には憲法13 条に規定する「幸福追求権」あるいは「人格的自律権」に求めるという考え方です。  現実の政策動向を見ましても、介護保険法あるいは社会福祉法であるとか、障害者自立支 援法とか生活保護自立支援プログラムなど、自立の「立」と「律」は違いますけれども、自 立支援が法目的に掲げられることが、非常に多くなっています。こうした憲法上保障された 利益の実現を図るため、国家には社会保障制度を整備し、一定の財・サービスの供給を確保 する責任を負わされているわけです。  こうした見方は、国家による国による国民のパターナリスティックな保護という視点では なく、あくまで個人ないし市民の視点から主体性を持った制度への関与のあり方を望ましい と考える視点を提供するものです。  このことは、基本的には企業年金においても同様であり、加入者の視点を重視することに 繋がると思います。こうした、個人を軸に据えた視点から見ますと、個人の自主的な選択権 の確保や制度の設計、運営への参加権の確保といった価値が重要であることになります。  その意味では、確定拠出型も含めた老後所得保障のための多様な手段を設けること自体、 基本的には積極的に評価すべきであると思われますし、ポータビリティー確保のための方策 を広げていくということも、評価すべきであると思われるわけです。できるだけ多くの制度 において、加入員の意思を反映させる、参加型の仕組みが設けられることが望ましいという ことになろうかと思います。  企業年金における労使自治、別の言い方をすれば、顔の見える連帯という側面は、こうし た制度の仕組みに反映させていくという方策があり得ると思うわけです。また、こうした個 人を軸に据えた視点からは、給付のための制度であってもそれが国民生活へのパターナリス ティックな介入という側面を持つという点にも若干留意する必要があると思います。  それは、例えば、これも制度が違いますが、今般の医療保険制度改革によるいわゆるメタ ボ対策に見られますように、例えば国が予防医療に強制力を持って、どこまで踏み込むか、 あるいは年金などの社会保険料を強制加入、強制徴収の対象になっていることの意味をどう 考えるのかという局面で、問題になってきます。  こうした観点から見ると、企業年金においても、例えば老齢給付金は60歳まで受給でき ない、選択できないこととしている、確定給付拠出型と同様、確定給付型についても、こう した老後所得保障の方向性を徹底していくかどうかについては、企業年金の退職金的性格あ るいは労使自治という論点とは別に、国が個人の生き方にどこまで介入すべきか、そして先 に述べたことの関連では、個人の選択の幅をどこまで制約することが許容されるのかという 視点でも検討しておく必要はあるのではないかと思われます。  ただし、この点については、次に述べますように、そもそもその老後所得保障における国 家の役割をどう考えるか、それをどのような形式で実現すべきかという問題と密接に関連し ています。  ところで、国家が社会保障制度などを通じて国民に保障すべき水準について、なんらかの 規範的な基準があるとすれば、もっとも強力な基準となるのが、憲法25条1項で保障され た健康で文化的な最低限度の生活水準であると思います。実体法上は大まかに言えば、生活 保護基準がこれに当たると考えていいかと思います。  最近、老齢基礎年金の給付水準と生活保護基準との比較が問題にされることがありますが、 企業年金のあり方を巡る議論は、一般的、抽象的に言えば、おそらくこうした最低生活水準 を超えたレベルでの老後所得保障のあり方が、念頭に置かれているのではないかというよう にも思われるわけです。民間労働者を対象とした厚生年金の給付水準は、一般的には基礎年 金のような最低生活水準の保障ではなく、現役時代の従前生活水準の一定部分の保障という 考え方に立っている、理念的にはですが、そういうことに注意する必要あると思います。そ の意味では、憲法25条1項と直接関連性を持つ、最低生活保障水準と比べた場合、従前生 活保障まで国家が責任を持って保障すべきという規範的要請の度合いは、相対的に弱いと言 わざるを得ません。  公的年金の給付水準の引き下げ自体が、そのやり方によっては社会保障の向上増進義務を 定めた憲法25条2項や、とりわけ既裁定年金につき、財産権保障を定めた憲法29条との 関連で、憲法違反にならないかという問題も生じ得ますけれども、少なくとも2000年改正 以後における、厚生年金の給付乗率の引き下げやマクロ経済スライドによる将来的な給付水 準の引き下げが、ただちに憲法違反ということはできないように思われます。ただし、企業 年金の制度設計のあり方を考えるに当たっては、こうした最低生活水準の保障、あるいは従 前生活水準の保障、既裁定年金の引き下げといった基準とは別に、公的年金で賄うべきもの とされている保障水準をどのように設定するかに際しての基準が、1つの規範的意味合いを 持つ可能性があると思います。  例えば、2004年の年金改正によるマクロ経済スライドの導入により想定された所得代替 率50%の年金額で、平均的にカバーされるべきものと考えられたのは、生活費のうち、ど の部分なのか、またその水準がマクロ経済スライドにより更に引き下げられていくとすれば、 そこで保障される平均的年金額でどこまでカバーされるものと想定されているのかという ことを考えることで、最低生活水準とまではいえなくても、いわば基礎的な生活が公的年金 で確保されるのであれば、基本的にはその上乗せの企業年金には労使自治の余地を認めてい く方向もあり得るのに対し、仮に基礎的生活部分の一部の確保まで、企業年金で担うことが 念頭に置かれているとすれば、そこでの企業年金の制度設計はおのずと公的性格の相当強い 準公的年金といってもよいようなものとならざるを得ない面があるのではないかと思いま す。その意味では、もう少し公的年金の改正を巡る、どのような議論がなされていたのかと いうのを、丹念に検証していく必要があると思います。  なお、現在、我が国の公的年金には、従前生活保障の報酬比例年金が置かれています。そ うである以上、公平の見地からしても、その給付を労働者全体に及ぼすべきことは、当然で あります。この点で、厚生年金基金制度が、事実上総合型に限定されてきている点が若干気 になります。さきほども述べましたように、一般論として、企業年金の労使自治の側面を無 視し得ないとしても、少なくとも代行部分の給付の公的保障という意味では、中小企業が母 体である点で、国が保険者である厚生年金本体と別個の制度として、存続させることの意義 を再考すべき余地はないかどうかということです。  2000年以降の公的年金制度改革では、今後、老後所得保障に占める企業年金の果たす役 割への期待が条文上も表明されていることは、先に述べたとおりであります。ただし、この ことは、企業年金のあり方を巡る議論と直接関わりませんが、本来的には先ほど申しました ように、個人あるいは国民の視点から見た場合、老後生活保障のあり方は、本来、社会保険 と社会手当あるいは公的扶助との役割分担をどうするかという問題。それから、福祉・医療 などのサービス保障法制における給付と負担のあり方との関係をどうするか、更に税制と所 得保障法制の総合的な検討をどうするかといったことと、セットで議論する必要があります。 所得保障を相対的に手厚くし、そこから医療や介護などのある程度の負担を行っていくとい う将来像を描くのか、あるいは、所得保障は基礎的部分+αに集中し、医療介護などにかか る負担を軽くし、サービスの普遍化を図っていく将来像を描くのかによって、老後所得保障 のあり方に係るイメージも相当な違いが生じてくると思われます。  ただし、我が国では、こうした全体像を見据えた議論がなされているとはいいがたいです し、そもそもそうした議論を行う場さえ存在しないという状況にあります。また、公的年金 との関係を意識し、企業年金のあり方を議論するとした場合、そもそも公的年金、特に基礎 年金の性格や枠組自体について、現在、相当激しい議論がなされているというのも気になり ます。すなわち、我が国の社会保障制度の基礎を築いたと言われる、1950年の社会保障制 度審議会勧告以来、公的年金の財政方式として社会保険の仕組が一貫して支持されてきたに も拘わらず、次第に税方式への支持が高まり、先ごろの社会保障国民会議の最終報告では、 従来繰り返し、政府が支持を表明してきた社会保険方式の維持を少なくとも、明示的には謳 っていないという状況にまで立ちいたったという現状に留意する必要があります。中長期的 に企業年金のあり方を議論する際にも、こうした公的年金の基本構造を巡る不確定要素を全 く無視するわけにはいかないと思います。  最後に公的年金の体制、方式を巡る議論とも関連して、現在、社会保障を支える社会的・ 市民的な基盤が、大きく揺らいでいることをどう考えるかという視点も提示しておきたいと 思います。すなわち、最近、社会保障の持続可能性という観点に着目した議論が、少子高齢 社会の到来を控えてなされていますが、現在言われている持続可能性とは、一般的には財政 面における持続可能性であります。こうした財政の視点が重要であることは言うまでもあり ませんが、私の立場からすれば、財源の問題よりも根底にあるかもしれない視点として、社 会保障制度を支える市民的・社会的な基盤が揺らいでいるという意味で、市民意識での面の 持続可能性の再構築が、同様に重要な課題となっていると思われていることです。この点は、 さきほどの社会保障の組替えで念頭に置かれている点です。レジュメに抜粋してあります。  こうした中で、社会保障の基盤となり得る相互扶助的な支え合い(連帯)意識を、大きく 損ねないのみならず、より積極的に連帯意識を涵養するような方向に社会保障制度を設計し なおす必要があるのではないか。その延長線上で、老後所得保障という点で、共通の制度目 的を有する企業年金も公的な制度としての性格に濃淡があるとはいえ、ポータビリティーの 確保などに個人の選択の面から留意しながらも、お互いの顔が見える連帯の制度として、よ り積極的な公的助成や受給権保護のための措置を講じるとともに、公的規制を強化していく という方向性もあり得るのではないかということです。だだ、ここで念頭に置いているのは、 主として確定給付型の制度であり、この連帯意識の涵養という面から見た場合に、確定拠出 型をどう見るかという点があると思います。  他方、国民の老後所得保障という側面から見た場合、企業年金の対象となるのは企業従業 員であり、その中でも企業年金に加入できるのは一部に過ぎないことからすれば、公平の見 地からその他の国民に対する公的助成措置を講じていくことも不可欠ではないか。この観点 から、国民年金基金制度の充実や個人型確定拠出年金の適用範囲の拡大や公的な助成などが 検討対象になると思われます。ただし、その際、どこまで公的規制の強化を行うべきかは、 やはり中長期的な公的年金の役割や機能をどう設定するかによるところが大きいのではな いかと思います。早口で申し訳ありませんが、以上です。 ○森戸座長 ありがとうございました。現在の社会保障法学をリードされている菊池先生に、 非常に示唆深い、議論のきっかけとなるようなご報告をいただいたと思います。皆さん、い ろいろとご質問、ご意見があるかと思うので、早速そちらのほうをいただきたいと思います。 いかがでしょうか。どなたからでも、ご意見、ご質問等があればお願いいたします。 ○藤井委員 3頁のいちばん下、(2)「所得保障における国家の役割」という所は非常に重 要な気がして、実は、いずれ私が発表するときにこの辺を言おうかと思っていたわけです。 それはそれでいいのですけども。50%がどのような意味を持つかとか、そのことから思索 を巡らせておられて、国の役割と企業年金の役割と、違いが生ずる可能性があるというご指 摘で、まったくそのとおりだと思いますが、そこから一歩先に踏み込んだ場合、この国にお いてどのような状態がフィット感があるのか、然らばどちらがよろしいかなどについて、ご 意見があれば伺いたいと思います。 ○菊池委員 私も年金改正の議論をきちんとフォローしていないので、そもそもどういう事 実認識に立ったらいいのかというところで、確たることを申し上げられないのです。仮に、 将来的な基礎的生活保障といいましたが、実に曖昧で懐疑的な概念で、おそらく生活保護ギ リギリの水準よりは高いが、生活、身の回りのことはそこで賄われるという、非常に大まか な水準と考えます。そこを公的年金で賄えなくて、企業年金で補完すべきものだという制度 設計に立つのであれば、そこでの企業年金の役割はかなり公的な色彩を帯びたものになって くると思います。そこでは、労使の自治で自由に変えられるというような、裁量の余地はか なり狭くなってくるのではないかと思いますし、逆に、公的年金の役割は、基礎的な部分は やるのだと、モデル年金ベースでやることになりますと、やはりそれを超えた部分は個人の、 あるいは集団的な自治に委ねて、ひき続きある程度自由な設計を維持するという方向になる かと思います。 ○藤井委員 多分、その議論の行きつく先は、厚生年金保険を国がやるべきなのか、民間が やるべきなのかという議論に到達するテーマだと思いますが、結局、そこが企業年金と公的 年金の役割の線引きの難しい所だと思います。とりあえず以上です。 ○森戸座長 他に、いかがでしょうか。 ○嵩委員 いまの件と関わるかもしれないのですが。そもそも先生が考えておられる、自律 した個人の主体的な生の追求とあるのですが、これにかなう、合致した水準は、具体的にい くつか、保障水準、最低生活とか従前生活、基礎的生活保障とかがあります。どこを公私で やるかはまた別の問題として、どのあたりとお考えですか。 ○菊池委員 その部分で述べた、個人中心、個人を軸にして考えていく部分から出てくる、 規範的な要請というのは、今日の話の中では、例えば、選択権があったほうがいいとか、参 加できたほうがいいとか、主としてその部分で、そこからどこまでの保障水準があるべきか はあまり関係ないかもしれません。 ○嵩委員 条件の整備が社会保障の役割ですよね。 ○菊池委員 敢えて言えば、それは現行制度から離れてしまいますけれども。私はどちらか と言えば、条件整備のための実質的な平等が大事だと思っています。そうすると、所得保障、 さらに、報酬比例年金まで保障する形の所得保障よりは、医療や介護とか、誰にでも生じ得 るリスクに対して手厚く保障しようという、そちらのほうが重要ではないかと思います。 ○嵩委員 そうすると、老後の所得保障との関係では、少なくとも最低生活水準は必要なわ けですね。 ○菊池委員 そうですね。最低か基礎的かは別として。 ○嵩委員 ああ、そうですね。 ○菊池委員 基礎年金の水準は低いと思っていますが、基礎的な部分が所得保障として公的 に保障されていれば、そこからプラスアルファの部分については、いろいろな保障のあり方 があるのではないかと。 ○嵩委員 いま、厚生年金のように強制的に加入させるのは、むしろ自己決定という観点か らするとマイナスの状態になっているわけですか。 ○菊池委員 そういう要素も出てくるかということですね。 ○嵩委員 わかりました。強制的ですね。 ○菊池委員 ただ、私は別に民営化論者ではありませんので、そこは誤解のないようお願い します。 ○嵩委員 はい。 ○森戸座長 菊池先生も影響力が結構ありますから、いろいろなことを言うといろいろな波 及があるかもしれませんので、差支えない範囲で。ここでは別に何主義か決定しなくても発 言できます。  他に、いかがでしょうか。私もいま、やはり菊池委員のお話で、水準の所ですね。3頁の (2)と、それから、次の頁の(3)所得保障重視か医療重視かという全体像、この辺りを非常に 興味深く伺っていたので、関連して聞かせていただきます。  藤井委員もおっしゃいましたが、仮に最低生活よりもうちょっと上の基礎的生活保障とい うレベルがあるとします。でも、それは基礎的生活なのだから、本来は公的年金でやるべき だと言ってしまえば、藤井委員がおっしゃったように、それはそれということになるのでし ょうが、そうではないと、企業年金でここをカバーしなければいけないのだけど。でも、そ こは基礎的生活保障だから、公的な性格が相当強いことになるとすると、もしかしたら、厚 生年金基金とかにそういう面があったのかもしれません。企業年金だけど、この水準までは すごく規制がかかって、その上はもうちょっと労使自治に任せられるとか、水準で線を引い て、規制が違ってくるようなイメージになってくるのかと伺っていたのですが、そういうこ とですかというのが、ここに関するまず1つ目の質問です。  それから、4頁のほうに関しては、所得保障重視か医療・福祉重視かは確かに重要な視点 で、企業年金だけの話ではないと、老後所得保障だけ、年金だけではないことは考えなけれ ばいけないと思って伺っていたのです。そうすると、どちらのパターンでいくか。つまり、 所得保障重視型だと、企業年金をちゃんとしようという話になって、医療・福祉重視だと、 所得保障は公的年金で最低の所はやるから、その上の部分は、やりたい人はやってねと、そ んなに優遇もしないし、規制もしないよというような感じで、医療・福祉のほうにもうちょ っとお金なり規制が回ると、そういうイメージで捉えていいのか。2点伺いたいのです。 ○菊池委員 どちらかしかないのか、両方が充実するという選択肢はあり得るのか、ないの かということですが、それは財源の問題もありますし、どちらかといえば、やはりサービス 重視型にいかざるを得ないのではないかと思います。ただ、その場合に、直接給付すべき公 的年金を超えた部分を自由に行っていいというわけではなくて、まさにそこで、制度に対す る公的な助成のあり方とか、あるいは、規制のあり方はきちんと考えていかなければならな いと思います。労使自治と公的な規制は別に二律背反ではないと思います。 ○森戸座長 ざっくり言うと、基礎的生活保障に関わる企業年金の部分には何か規制がかか って、そうではない所は、好きにやってねというように、水準で差がつくような、公的な規 制のようなイメージなのでしょうか。 ○菊池委員 そうです。本当にざっくりしたイメージなのです。私の認識は間違っているか もしれませんが、資料をいただいて、どうも厚生年金基金の実態が本来の成立ちの部分と変 わってきているのではないかと、そうすると、いま非常に多く入っている厚生年金基金の総 合型の部分、そのままでいいのかというのが1つ。私のイメージとしては、公的年金があっ て、それとが、自由な部分の年金の間に、何か準公的年金のような、従来厚生年金基金が果 たしてきたようなものがあるという意味での、三層構造のようなイメージがあります。 ○森戸座長 ありがとうございました。他に、いかがでしょうか。 ○駒村委員 3頁の所で、国家権力による国民生活への介入と、このパターナリスティック な介入に関して研究されていますが、政府による介入の根拠について、完全に自由に任せる 部分についてはまったく介入することはできないという見方について、2つぐらいの視点か らコメントをいただきたいのです。  1つは、自由な選択ができるようにしても、投資教育のような形で、ある一定のものがな ければ自由な選択ができないのであれば、そこに対して何らかの公的な介入をすることは問 題ないのかということです。それから、ちょっと性格は違うかもしれませんが、経済の変動 や経済成長、あるいは、社会全体の寿命の延びのような、市場ではなかなか対応できないも のに対して何らかのサポートをするような介入の方法、あるいは、個人の選択そのものが、 必ずしも後悔しない選択かどうかわからない可能性もあるわけですね。いわゆる経済学のあ れで、行動経済学と言われている分野です。そういうふうに、十分な知識がなかったり、あ るいは、思い込みで判断している可能性がある場合に、そこについては政府が介入してもか まわないと考えておられるのかどうか、その辺を教えてください。 ○菊池委員 前段部分の、自由な選択をする前提の条件を作ることが重要ではないかと。投 資教育とか、それはまさしくそのとおりだと思います。そのために、単に規制をかけるだけ でいいのか、何らかの助成等を考えていくのがいいのかという問題があると思います。その 点は非常に重要であると認識しています。後半部分では、経済変動の中で、不安定要素があ ると。先ほど、三層構造のイメージと申し上げましたが、現在の制度を前提にした場合には、 やはり支払保証制度などが必要ではないかと思います。その意味での受け皿は必要だと思い ます。  それから、もう1点。ただ、公的な助成、あるいは公的な規制をどこまで行うかは、話が 戻りますが、どこまでの水準を保障するのか、最低ライン、ベースとして保障するのかと、 その上での議論だと思います。その範囲内であればかなり公的な関与が強くなければいけな いし、それを超えた分まで、すべて国がガチガチに規制をかけるのは必要ないし、そこは労 使自治に、あるいは個人の選択に委ねるべき部分もあるのではないかと。ですから、やはり 水準の問題をどう考えるのかが非常に重要なわけです。 ○森戸座長 ありがとうございました。他に、いかがでしょうか。 ○小野委員 4頁にお書きいただいたことについての感想なのですけれども。最後から5行 目の所に「お互いの顔が見える連帯の制度」とあって、私は非常にいい言葉だと思って気に 入った次第です。本当に感想なのですけど。  それから、社会保障を支える、市民的、社会的基盤の揺らぎというのは、私も本当に同感 で、昨今の情勢を見ていると、ある種の階級社会のような話がいろいろな事件で出てくるな と、まさに指摘のとおりかと感じております。そこで、企業年金のほうに話を戻します。然 はさりながら、企業年金というのは。私は少し前にアメリカの企業年金の歴史を勉強したの ですが、基本的にはやはり、経済的なり経営的な視点でもって導入するのが圧倒的に多いと。 世界には、マンダトリーな、補足的な年金制度と、それから、ボランタリーな、補足的な年 金制度がありますが、アメリカはご承知のとおり、ボランタリーな国ですので、そういう意 味では、経営者の判断なり何なりがあるなり、あるいは、賃金統制令的な税制のインセンテ ィブがないとなかなか成立し得ない、という点が印象深かった次第です。然はさりながら、 世界の企業年金の設計を見てますと、日本の制度と比べると、やはり常識が大分違うと感じ ております。例えば、OECDの分類とか、条件を見ても、あなたの国の年金制度は終身で すか、といった項目は多分ないかと思いますが、その辺りで、先生が日本の企業年金に感じ られている印象とかあれば頂戴したいと思います。 ○菊池委員 そうですね。いわゆる年金制度というか、所得保障制度として捉えていくので あれば、それはやはり終身であるべきだと思いますし、一時金よりは年金であるべきだと思 います。では、そこで社会保障的にすっぱりと割り切るかというと、日本の制度がそうと割 り切ることもできないのだろうということでして、何を社会保障と考えるかが各国でバラバ ラなわけですし、その意味で、我が国における、所得保障をどう考えるかという場合には、 直ちにそこまで割り切れないのが正直なところです。 ○森戸座長 ありがとうございました。他に、よろしいでしょうか。 ○石田委員 4頁の所に、公的年金の性格や枠組みを巡る議論ということで、これまで社会 保険方式への支持が表明されてきたと言われています。一方で、社会保険方式というのは、 あくまでも国民全体を対象とする普遍性を前提にして成立しているわけで、そういう中で、 逆に、選別性とか選択性を設けていってしまうと、これがイギリス型のコントラクトアウト のようなシステムに変わってきてしまうと、こういう印象を持ちました。これから先の話に なると思いますが、企業年金との役割分担の上でも、社会保障法学者の方から見た、今後の 公的年金の大まかなイメージが現段階であれば教えていただきたいです。 ○菊池委員 先生が最初におっしゃられた、普遍的という部分ですが、趣旨はややそうかな というのがあって、いわゆる被用者年金ですので、そこには被用者という限定がありますし、 さらに、被用者でありながらそこで加入している人も、限定されているという意味では、そ れ自体かなり問題を抱えていて、さらに、企業年金加入者は被用者ないし労働者全体とは言 えない。そういう、所得保障全体のうち、企業年金の対象になる層の部分に対する助成とか 規制を考える際、実際にやはり、他の部分をどうするのかという議論ですね、特定の部分に 何らかの助成措置を講じていく場合には、本来であれば、その他の部分への助成とか関与も セットで考えていくことを議論すべきではないかと思います。ちょっとご質問の趣旨と違っ ているかもしれません。 ○石田委員 わかりました。何となくイメージするのは、アメリカ型の、やや低所得者に厚 く、社会保障年金を充実して、一方で、企業年金についてはやや自由な仕組みにしていくと いう現状ですが、その企業年金について、規制などをやや強めることによって、多くの人に 普遍的な制度に変えていくと、こういうようなイメージなのかなと私は受け取りました。 ○菊池委員 おっしゃるとおりです。私はアメリカ型の、低所得者に少し手厚い、ベンドポ イント制の公的年金を前提にした上で、そこで基礎的な部分をしっかりした上で、企業年金 等を充実させていく、そういうイメージです。 ○野村委員 非常に興味深い話で、ありがとうございました。といいますか、私の頭の中で モヤモヤしていたかなりの論点が今日はすっきりした気がしております。従前よりこの会で、 企業年金の税制などの中で必ず出てくる、望ましい水準というのがありまして、これに達す るまでは、基本的には、企業年金には税制措置を付与してもよかろうとなっているわけです。 さらに、厚生年金基金の場合は、そこまでの間であれば特別法人税はかからないという建て 付けになっていることとの絡みで、どう考えればいいのかと、一生懸命考えたりもしていた のですが、いまの時点では頭の中でうまく整理がつかない感じです。おそらく、特別法人税 の扱い方とか、また、厚生年金基金が偉いとはいっても、まさに先生もご指摘のとおり、多 分、現状は昔とはかなり違う姿になってしまっています。はっきり言って、代行返上などが こんなに進んでしまう、多くの企業が返してしまったのは事実としてある、というのをどう 考えるかだと思います。また多分、これを言うと座長を困らせるかもしれませんが、先生の 論点として、企業年金と公的年金の関わり、役割分担は3頁の下の所にあり、さらに拡大し て、本当は医療や介護などとの関わりも踏まえなければいけないというご指摘があります。 多分ここをある程度、例えばこの研究会として、こういうスタンスに立った上で企業年金を 論じようと進むのがロジカルかと思います。これをなかなかこの場で、みんなで投票して決 めるというのは難しくても、そうなると結構面白いなと思ったりします。そこのスタンスを 揃えて、本当はある程度固めたほうが、この後の議論を進める上でもいいのかという気がし た次第です。以上です。 ○森戸座長 事務局は困るかもしれませんが、私はそうでもないという感じです。でも、そ れは検討しなければいけないと思います。まだいろいろご質問があるかと思いますが、時間 も大分経過しているので、私も本当はもっと聞きたいのですが、とりあえず次の方にいきた いと思います。菊池委員、ありがとうございました。  続きまして、連合の竹詰部長よりご報告をいただきたいと思います。よろしくお願いしま す。 ○竹詰部長(篠原委員代理) 篠原委員の代理でお話させていただきます。竹詰です。よろ しくお願いします。  手前どもが用意した資料は非常に簡潔に、シンプルに書かせていただきました。主に企業 年金の位置づけを中心に、それと、適格退職年金制度から他の制度への移行の取組み、あと、 企業型DCの課題などをお話したいと思います。  資料の、パワーポイントの2つ目でございます。年金に入る前に、退職金の位置づけです が、退職金というのは、労働条件の1つとして「賃金の後払い」と位置づけております。賃 金の後払いというのはこの後何度も出てきますが、それが基本であると。また、「老後の生 活保障」の性格もあります。退職金は「賃金の後払い」として、労働を提供した時点で支給 が確定するものと考えております。  パワーポイントの3つ目で、退職金の年金化という所です。「企業年金」は歴史的に、退 職一時金の一部、または全部を横倒しして、年金として発展したもの。「老後の生活保障」 の観点から、従業員へも年金化、企業年金は十分に浸透していると考えております。各企業 においては、労使合意に基づく「退職金・年金規定」が定められ、変更の必要が生じた場合 は労使合意による変更が必須です。  3つ目ですが、退職一時金・退職年金の支給です。退職一時金が確定給付であるのと同じ く、退職年金(企業年金)も確定給付が基本であると考えております。他方、就労の多様化 時代に対し、これまでも確定給付企業年金の通算制度を求めてきました。これについては、 平成17年10月から通算制度が開始されています。  パワーポイント、5つ目にいって、新型企業年金制度の導入及び適格退職年金の廃止につ いてです。「賃金の後払い」であることから、企業年金は給付建て(確定給付)が基本と考 えていますが、会計基準の変更、景気の動向、運用環境悪化による積立不足問題、あるいは、 私たち働く側、従業員側の変化、例えば(就労の多様化、資産形成・運用の考え方)なども あり、確定拠出企業年金制度もある程度普及していると認識しております。  もう1つ、財産権保護の観点から申しますと、適格退職年金制度から他の企業年金制度、 (DB、DC、中退共)などへの移行促進が重要と考えております。連合としても、NPO法人 金融・年金問題教育普及ネットワークを作りましたが、そこと共同で積極的にPRしている 次第です。  事務局からカラー刷りのチラシをお配りしています。タイトル「税制適格年金制度は2011 年度末で廃止されます」と、こういったチラシを作っております。内容についてはご案内の とおりですが、これは労働組合役員向けに作った資料です。中を開けていただくと、企業年 金制度の移行では、こんな労働組合の取組みが必要ということで、例えばステップ1〜4、 「現状分析」それから「労働組合としての方針決定」3つ目は「労使交渉」最後には「事後 フォロー」とあります。それと、スケジュールですね。移行するまでには最低でも1年間は 必要ということで、警鐘しています。  裏面には、労働組合としては、これだけは絶対に避けようということで、5つ掲載してい ます。企業年金制度の廃止は避ける、あるいは、社内の退職一時金制度、それだけに移行す ることは避ける、あるいは、退職金の前払い制度の移行も避ける、あるいは、養老保険等保 険商品への移行も避ける、最後には、期限切れで何もできなかったということは避けようと、 警鐘しています。このチラシについて、昨年10月に1万6,000部刷りました。春期生活闘 争が本格的に始まる前の3カ月間は集中的なPRということで、組合員に1万6,000部配布 しています。  資料をパワーポイントのほうに戻します。パワーポイントの6番目ですが、受給権につい てです。繰返しになりますが、企業年金は「賃金の後払い」として確定しているものであり、 受給権の保護は最重要課題と認識しております。企業側、あるいは受託者については、確定 した年金を支払う責任があると考えております。企業年金については、公的年金の補完とし ていく性格を強めており、そういうことであれば何らかの支払い保障制度が必要だと考えて おります。  パワーポイントの7番です。制度設計についてですが、企業年金では「賃金の後払い」で あるから、企業年金の制度設計は賃金と同様に、基本的には労使合意に基づく、自由度のあ る制度設計であるべきと考えております。他方、「年金」は老後の所得保障機能であること から、「保障」にならない要素は極力排除すべきだと考えています。企業型の確定拠出年金 におけるハイリスク商品の採用、あるいはハイリスク商品で運用しないと目標金額に達しな い想定利回りの設定などは「保障」にはならない要素と考えております。また、労使合意に ついては、労使が持つ情報に格差がないことが前提と考えております。  次はパワーポイントの8番、企業型の確定拠出年金制度の課題の(1)です。退職時の受取金 額が、本業ではない「運用」や「市場環境」によって“未達”になる事態は本来好ましくあ りません。企業型の確定拠出年金は、従業員が“未達”という不幸な状態で退職年齢を迎え ることがないよう、企業は最大限の努力をすべきです。企業型DCにおける事業主責任を明 確にしていくべきだと考えております。例えば、各種手続に対する知識、情報の提供、ある いは運用管理機関の設定、運用商品の選定と評価、ガバナンス体制の構築などが考えられま すが、例えばガバナンス体制ですと、運用管理機関に任せっぱなしにせず、事業主または労 使による評価委員会の設立などを考えております。  (2)です。事業主の責任については、退職金規程におけるDCの割合が大きいほど、事業主 の責任も大きいと考えるべきだと思います。またDCの割合については、例えば50%など と上限を設けることを検討してはいかがかと思っています。  従業員に対するライフプラン教育は不可欠です。「老後の所得保障」の観点から、例えば 退職前の10年間はリスク商品から元本確保商品へ運用をシフトする個別指導の仕組みづく りなども検討に値するのではないでしょうか。  最後の頁にはその他として、この政策研究会には直接関係がないかもしれませんが、手前 どもの課題としてあります、雇用労働者に占める非正規労働者の割合が3分の1を超えてい る状態です。労働時間の要件、正規社員の4分の3以上ということ等から、多くの非正規労 働者が厚生年金の適用から除外されております。連合といたしましては、厚生年金の適用拡 大が必要と考えます。なお、当面は雇用形態にかかわらず、週の労働時間が20時間以上、 又は年収65万円以上を適用することを目指し、さらには企業年金の加入者も増大させたい と考えております。簡潔でございますが、以上です。 ○森戸座長 ありがとうございました。ただいまのご説明に関するご質問、ご意見は後ほど まとめてお伺いすることとしまして、高瀬委員にも続けてご報告をいただきたいと思います。 よろしくお願いいたします。 ○高瀬委員 東京電力の高瀬です。今日は「企業年金の意義」というテーマですが、折角実 務をやっている会社の一員として来ておりますので、最初に東京電力の企業年金の型といい ましょうか、新しい年金制度に移行する際の概要と苦労した点について簡単にご紹介させて いただいた上で本題に入っていく、そんな構成にしております。  お手元の資料の1頁は、東京電力の企業年金制度の概要について紹介したものです。東京 電力では昭和41年に、税制適格年金を導入しております。そのときにどんな趣旨で導入し たのかということを、念のために今回もう一度確認したのですが、1つは、退職後の生活保 障を充実させるという社会保障的な要素があって年金に踏み切っているといった趣旨があ りました。その後いろいろな制度調整等がありましたけれども、ご存じのとおり、平成13 年以降の年金関係の法整備を前提としまして、税制適格年金の廃止という流れの中で、さら に、高齢者雇用安定法に基づいて、改正により65歳雇用が視野に入りましたので、制度設 計を変えなければいけない。そして、資産運用が困難化しているという状況下で、長期的に 持続可能な年金制度に移行しようということで、平成19年10月に、真ん中の体制に移行 しました。  このうち確定給付年金につきましては、キャッシュバランスプランを採用しておりまして、 この時点で加入者に、前払い退職金との選択制を採用しております。現在東京電力は約3 万8,000人おりますので、交渉力という点では規模の経済が働くということで、現在実現し ております運営コスト、特に確定拠出年金に関する運営コスト等のメリットをグループ会社 のほうにも展開するため、今「連合型」の準備を進めております。4月以降に規約変更をす るという状況です。  2頁に移ります。この移行に関して何がいちばん大変だったのか担当者と議論したのです が、煎じ詰めていきますと、確定拠出年金の導入時教育がいちばん大変でした。準備を含め て2年ぐらいかかっているというのが実態です。もちろん確定給付年金、確定拠出年金の制 度設計そのものの議論もありましたけれども、実務で最も時間をかけたのがこの投資教育と いうことになります。  具体的には平成19年の10月に制度移行ということで、その半年前から、セミナーを2 回に分けて行いました。加入する際に前払い退職金制度との選択をどうするか、具体的に商 品をどう購入し、その配分をどうするか、また、運用商品の特徴などを2回に分けて説明を 行いました。当社の場合ですと、関東を中心に、いろいろな所に職員がいるということだけ ではなくて、24時間電気を送るということで3交代制を行っていますので、全員に行き渡 るには時間がかかりまして、大体3,000回セミナーを実施しております。  併せまして、そのセミナーを行った後にeラーニングでその内容を普及させたり、専用の コールセンターを設けたり、個別の相談会、あるいは当社専用のガイドブックを作って配付 するといった準備を行いまして加入手続を選択してもらったという状況です。  3頁は導入後の教育です。関心が薄れていくことが最も心配ですので、年度展開で、新入 社員が入ってきた以降、新入社員のセミナーの中で必ず説明をする。中途採用の方には専用 のDVD等を配付する。退職される方につきましては、年間で4回に分けて退職後の取扱い について説明をする。3頁の中に☆がありますが、青い☆は、今の市況についての情報冊子 を必ずこの時点で送付して注意喚起をする。赤い☆は、自分の確定拠出年金の運用実績につ いての報告を送付する。こういう形で投資について注意喚起をするという努力をしておりま した。  4頁は、そのような教育と注意喚起を行った結果といいましょうか。左の円グラフが、当 社における加入者全体でのDCと前払い退職金の選択状況です。先ほどの連合からの報告に もありましたが、税金がかかってしまうこともありまして、DCの選択率が、前払い退職金 と併せて選択している方も含めて98%という状況です。ごくわずかですが、年齢が高い方 ほど前払いを選択する傾向でした。  5頁は、具体的にどういう商品を購入しているかという比率を分析したものです。左の円 グラフは人数ベースで、どんな商品選択をしているのかということです。  投資教育の結果として、緑の部分、元本と投資信託の商品を併用している方が60%でい ちばん多くて、その次は元本確保型、保守的な運用になりますけれども、その方が24%、 合計で84%になっております。導入後経済不況に入っておりますので、どちらかというと 元本確保をベースとした保守的な運用傾向が見て取れるという状況です。  右側の棒グラフは商品別の比率です。元本確保型がトータルで7割、投資信託型が3割。 一方この比率は、年齢が高くなりますと元本確保型のほうが多くなっているという傾向です が、これも投資教育の中で、運用年数等に応じてこういうやり方があるということを教育し た結果です。  6頁は、実際に導入後1年間加入者の方がどういう運用をしているかということです。毎 月の掛金をどういう商品に充てるか、その割合を変更するかというのが1つ。それから、す でに購入済みの商品、例えば元本確保型を投資信託に変えるとか、そういう買換えをやって いるかということを示したものです。折れ線グラフが株価の推移、棒グラフがそのような配 分変更、スイッチングをどれぐらいやったかという数字です。3万8,000人の社員ですが、 平成20年1月でマックス800人ということなので、これが多いのか、少ないのかという議 論はありますが、株価の下落と連動して、反比例で運用者が増えるという傾向ですので、一 応ある程度は市況を見ており、そしてそれに対して反応しているという実態でありました。 ただ、その詳細なデータ分析まではまだできておりませんので、そこは今後の課題になりま す。  7頁は、当社の確定拠出年金のポータルサイトにどの程度アクセスしているのかを示した ものです。棒グラフの左側が個人別の運用実績、右側は商品情報に関するアクセスの状況で す。制度を導入しました10月に爆発的に増えているのは、手続をやっている関係で、1人 の方が相当回数見ている。11月以降が運用ですが、いずれにしても、だんだん減少傾向に あります。落ちついたのか、あるいは関心が薄れているのかということもありますので、そ の後のルーチンの投資教育をもう少し工夫して、ここは刺激を与えていくべきだということ で対応中であります。ここまでが東京電力の実態です。  ここからが本題の「意義」です。私どもの会社の立場ですが、まず、企業年金そのものは、 本日の議論の中でも出ているとおり、退職一時金の原資を一部移行して実施しているもので す。当社も実際にそのとおりやっているわけなのですが、そもそも、企業年金が成り立つま でどんな経過で来たのか。これは、いろいろなものの本を整理したものですので、ある意味 陳腐な内容も入っていると思うのですが、簡単に申し上げます。  8頁でいきますと、江戸時代の「暖簾分け」という報奨制度が退職金の原点だと言われて いるようです。その後明治に入りますと、近代化に対して労働力不足ということで、どちら かと言うと労働力確保の側面が加わってきました。  昭和に入って、いろいろな経済状況の変動もあるのですが、昭和19年に厚生年金保険法 が制定されております。しばらくは厚生年金制度がまだ未成熟だということもありまして、 企業側は労働力を確保する際の差別化ということで、まだ退職一時金制度が中心なのですが、 そこを充実して、当社のほうが非常に魅力的だということを行ったわけです。ここでは、労 働力確保という側面にプラスして、厚生年金との兼ね合いで社会保障といった面が顔を出し 始めています。昭和20年代以降は物価上昇等がありまして、労働者不足、賃金大幅上昇と いうことで、一時金ではなく、給付の平準化ということで、年金といった形が増えてきまし た。  9頁に移ります。昭和37年に税制適格年金が出来まして、急速に普及いたしました。最 終的にはその後いろいろな時代、バブルの時代も経て現在の新しい年金制度に移行するわけ です。  全体を通して企業年金の意味合い、これは退職一時金の系譜から出てくるのですが、それ はいちばん下の2つです。(1)優秀な人材の確保、労働力の確保・流出防止のための人事・ 福利施設として企業が自由な判断でやっているということ。もう1つは(2)厚生年金との絡 みで、従業員の老後の生活を充実させるという社会保障上の意義、この2つがどうも伝統的 な年金のベースになっている企業側のニーズとしてあるというポイントではないかと考え られます。  そこで、これが今日的にどうかということを念のために検証しようということで、10頁 の1つのアンケートを紹介いたします。これは平成19年の社会経済生産性本部によるアン ケート結果「働くことの意識」調査です。これは就職活動で企業を選ぶ際に重視した項目と いうことで新入社員に対してアンケートをした結果ですが、いちばん上の3つ、「自分の能 力、個性を活かせる」「仕事が面白い」「技術が覚えられる」、これで合わせて64%というの が実態です。「給料が高い」「福利厚生が充実している」というところは合わせて5%ぐらい というのが実態でありまして、ここではまだ従業員、雇われる側の立場から見て労働力確保 といった側面があまり見えていないという実態があります。  11頁は、実際に雇用で入って会社の従業員になった後の方々が仕事に対する意欲が高く なる項目は何だろうというのが左側のグラフ、低くなるというのが右側のグラフで示されて いる構成になっています。これについては先ほどのグラフとそれほど結果は変わっていない のですが、左側で意欲が出るという項目としては、「自分を成長させるような仕事がある」 「責任のある仕事を任されている」「仕事の達成感がある」、こういうところが中心でありま して、賃金や福利厚生という部分については、相対的に5%程度というのが実態です。  右側のほうは、ここでは「賃金が低いから」というのが47%程度になっているのですが、 年金といった項目について意識してここで回答しているかというと少し疑問であります。そ うでないと左側との整合がつかないということもありますので、どちらかと言うと月例給与 あるいは賞与、年収といった観点でお答えしています。  10〜11頁を通じて、どちらかと言うと労働力確保といった側面が従業員側では薄れてい るという傾向があることが分かるのではないかと思います。  次は社会保障のほうはどうだろうということですが、1つのシチュエーションで、老後の 生活費について12頁で少しまとめてみました。厚生労働省のホームページから、標準的な サラリーマン家庭がもらえる公的年金が22万3,000円。ここから税引きで17万8,000円 というのが実態です。これに平成20年、金融広報中央委員会の調査結果であります「老後 に必要と考える最低生活費の平均」がデータとしてあるので、それを加えたものが27万円。 それから、年金受給開始時に必要な最低貯蓄額として示されているのが2,100万円という数 字になっております。  そこで、仮にこの2,100万円という数字を、利息は抜きにして、65〜85歳までの20年 間で均等に分配していきますと8万7,000円という数字になりますので、17万8,000円と 合計しますと大体27万円ということで、一見すると、最低生活費平均に大体合致するよう な数字になるのです。  下のほうは日本経団連の2006年の調査で、一般的な管理・事務・技術労働者の退職一時 金と年金の合計額を示したものなのですが、それが大体上と同じぐらいの数字になっており ます。したがって、ここまで見ますと何とかなるのかなというような数字になっているので すが、13頁を見ていただきたいのです。  これは退職金のうちどこまで、どうこれを運用するのか、活用しているのかという円グラ フです。これは平成18年のある民間企業の実施したアンケート結果なのですが、一時金の うち、貯金や資産運用で使うのは5割ぐらいという実態でありまして、先ほどの一時金の使 い方の前提が崩れてしまう。どちらかというと住宅ローン、あるいは旅行や趣味の世界等、 それ以外のものにどうしても使う。  それに加えまして、最近の傾向ですと晩婚化あるいは少子化、高学歴化ということになり ますので、住宅ローンの返済はもちろんここに入っているのですが、それ以外に、子どもの 教育費といった側面も今後は増えてまいります。したがって、どうも、一時金をある程度回 すのはなかなか難しくなっていくのではないかということであります。以上を考えると、企 業年金の社会保障上の意義というのがここに加わってこないと、なかなか厳しい。  13頁の右側は金融広報中央委員会の「老後に対する不安」に関するアンケートですが、 80%以上が心配だと言っております。ここは公的年金と貯蓄の取り崩しだけではなかなか 難しいのではないかというベースがあるのではないかと考えられます。そういう意味で、社 会保証の側面というのが非常に高くなってきているのではないかと考えます。  14頁に移ります。では東京電力としてどうかということです。真ん中の四角い所だけ申 し上げますが、我が社としては24時間体制で電気の安定供給を行うという使命感を持って 仕事をさせていただいているわけなのですが、こういった使命感というのは短期の雇用では なかなか醸成できない。長期の雇用の中で出来上がったものを引き継いでいるという傾向が ありますので、そういう従業員に対して、老後の不安がない形で与える企業年金というのは、 社会保障的な意義があるのではないかと考えております。  一方、先ほどのアンケートにもありましたように、従業員が年金を意識するというのは現 実的にはなかなか見えにくい。ただ、四角の上にあるように、実際に退職前のセミナーをや ってみますと、公的年金の支給額がこんなに少ないとは思わなかったとか、企業年金のあり がたみが分かったといった意見が多数出ております。そういう意味で、従業員側も、老後の 社会保障的側面である企業年金に期待する量というのは大きいと考えております。  そこで15頁の、今後の進むべき方向ですが、やはり法の理念にもなっている「高齢期の 国民の生活の安定と福祉の向上」、社会保障の側面というのが企業年金の性格としては相当 強くなってきているのではないか。ただ、もう1つの要素がありまして、企業年金は、本来 各企業が任意で実施する制度です。成り立ちも企業の自由な意思で作られている。労使の合 意によって自由に設計する、そういう経過の中で作ってきております。したがって、年金制 度の維持が経営に相当の影響を与えるということであれば、過去もそれを給付減額等企業と してマイナス方向に選択せざるを得ないといった事情もありましたが、そのバランスをどう とっていくかということが非常に大事だろうと考えております。そういう前提で、税制、規 制といったところについて国のほうからご支援をいただくのがいちばんいいのだろうと考 えております。  16頁以降は、経団連からすでに要望等を出している内容が主になりますが、2、3点だけ 触れます。例えば17頁の特別法人税に関しましては、確定給付企業年金の場合ですと、そ の運営がきちんとできているかどうかについて継続基準、非継続基準といった2つの基準で 財政を検証する仕組みになっております。企業は、非常に経済が悪い中で努力して、この額 を上回る運用を頑張ってやっているのですが、現実に、仮に特別法人税が入ってしまいます と、それを下回ってしまうことがあり得ます。そうすると、企業の意欲そのものを削ぐよう なことが考えられますので、特別法人税そのものも、社会保障法の理念から言えば是非とも 廃止という要望を再度出したいのです。  18頁は確定拠出年金のほうなのですが、ここのグラフにもありますように、現実の運用 というのはブルーの所、0〜1%未満がいちばん多いというのが実態です。ここに仮に特別 法人税が入ってくると、今度は個人の投資意欲が削がれてしまうことになりかねませんので、 ここは是非とも撤廃をお願いしたいと考えております。  19頁は拠出限度額の引き上げ、20頁は加入対象者の拡大ですが、この趣旨は同じであり まして、できるだけ選択肢を広げていただくということが年金制度そのものをいろいろな方 に適用できるという点で是非お願いしたいことなのです。  最後に1点申し上げます。21頁に退職金・企業年金に関する政府統計の実施要望があり ます。我々サイドから申し上げますと、ベンチマークデータが非常に欲しい。確定拠出年金 や給付年金の運用に際しても、従業員にとって今ベストの選択ができているのかどうかを示 す統計データが欲しいわけです。個別に集めようと思っても限度がありますので、企業年金 法の趣旨、国民の生活の安定と福祉の向上という点では、是非国のほうでもそういうデータ を整理していただいて、ディスクロージャーをしていただく必要があるのではないかと考え ます。この点を最後に申し上げて発表を終わらせていただきます。 ○森戸座長 連合の竹詰部長、それからただ今の高瀬委員のご説明に関して皆様からご質問、 ご意見をいただきたいと思います。 ○駒村委員 途中で失礼させていただきますので、私がかねがね悩んでいることをご相談し、 併せて意見をいただきたいわけです。  お二人のご報告はそれぞれ、かなり理解できるところはございます。連合のほうも、5頁 目に「企業年金は公的年金の補完としての性格を強めており」「何らかの支払い保障制度が 必要」となっていますが、この保障というのはギャランティーのほうなのかどうか、正確な ところは分かりませんが、公的な関与が必要だという理解だと思います。高瀬さんのご報告 も大変よく分かるわけです。そこでお二人方にご質問させていただきたいのは、公的な支援 あるいは税制上の優遇というのも、ある意味財政支出であるわけです。企業年金に入れるの は特定の労働者の方たちですから、この特定のグループの方たちにこういう税制上の優遇や 公的な応援をする必要性について、公共政策上、あるいは公的年金との関わりでそれを正当 化できる理由や根拠を挙げていただきたい。前回の私の報告も、実はそれで迷っていたわけ ですが、労使それぞれがどのようにその点を理解されているか教えていただきたいと思いま す。 ○森戸座長 では竹詰部長からお願いします。 ○竹詰部長 いま駒村委員からお話いただいた点ですけれども、企業年金に入れる方自体が 特定のグループであるというのはそのとおりと認識しております。これまで連合としてはそ ういった特定グループにかなり重点を置いた政策を行ってきたというのは、実際に反省して いることもございます。したがって、非正規労働者が増えており、企業年金どころか厚生年 金からも外れている人がいるということで、こういったところは問題があるのではないかと いうことで、最後にそのことを加えさせていただいたわけです。  確かに、特定の方に財政支出がいってしまうというところはそのとおりですが、そこは私 たち自身も悩んでいるところです。企業年金は、自由な制度設計でいい。しかも、賃金の後 払いであるし、その賃金というのは、会社あるいは働く者によって全然違います。従って、 企業年金をもつ特定のグループの方に財政支出がいってしまう。そのこと自体に反対はない のですが、行きすぎてはいけないということです。これまで個人型のマッチング拠出に連合 としてはあまり賛成してこなかったというのはそういうところです。 ○森戸座長 高瀬委員、お願いします。 ○高瀬委員 あまり細かい勉強をしてきたわけではないのですが、共通する面もあると思う のです。  今日の報告の中では割愛しておりますが、いまの公的年金が将来減っていくという流れの 中で、企業年金をどう位置付けるか。今日の資料の中には個人型年金の加入対象者の拡大に ついては触れておりません。これも経団連から要望として出しているわけですが、極力加入 対象者も広げて、そこに国の財政を投入していくことで、実際に公的年金だけでは補えない 部分を補充していく。したがって、加入対象者の拡大も当然織り交ぜる。対象になる方をで きるだけ拡大しつつ、そして、大多数の国民が入っている企業年金のほうにそれをシフトし ていくことが制度として良いのではないか。決してそれがごくわずかな方々だけに対する財 政的出動ではないという前提でやるべきではないかと考えます。 ○森戸座長 よろしいでしょうか。では、どなたからでも、どうぞ。 ○島崎座長代理 竹詰部長にお伺いします。5頁で、受給権の保護について、賃金の後払い として確定しているので、受給権のほうは最重要だという書き方をされています。ここで言 う「受給権の保護」という意味は、いわゆるベスティングという意味でしょうか。つまり、 それまで労働した過去分についてはこれを変更してはならないという意味を含んでおっし ゃっているのでしょうか。もっと言えば、いま給付減額を、いろいろな制約は付いているに せよ、一定の条件下では認めているわけですが、それはまかりならんという意味まで含んで いるのか、そこをお聞かせいただけますか。 ○竹詰部長 例えば減額の場合、減額対象者が自分で納得してサインをして認めますと言っ て本人が認めているのに、それもいけませんとまでは言う必要はないと思うのですが、制度 として減額というのはあるべきではない。いま委員がおっしゃったように、働いた時点で確 定しているものなので、過去分についてそこを変更することは基本的にはないという認識で ございます。 ○島崎座長代理 併せて伺いますが、将来分についてはどのようにお考えになっているので すか。それともある程度労使の自由に任せてもいいという考え方なのでしょうか。 ○竹詰部長 この資料の中にもありますように、連合としては、確定給付が基本であろうと 今でも思っています。とは言っても、働き方の環境あるいは私たち働く側の考え方も変わっ てきておりますので、確定拠出であってもそういった制度に加入している方、あるいは加入 している企業があるということ自体は十分認識しておりますので、そこはある程度認めて、 自由であるということはそのとおりなのです。ただ、基本は確定給付であるべきだと考えて おります。 ○島崎座長代理 前者の部分なのですが、現実問題として、運用環境は非常に厳しい。また、 従業員とOBのバランスも相当崩れています。そうしますと、現実に企業年金はとてもやっ ていけないということも生じえます。もちろん、給付減額がいいとは私も全然思ってはおり ませんけれども、企業が倒産するかどうかという瀬戸際になったときにも、給付減額という のはまかりならぬということなのか。そこはいろいろな条件、給付減額が認められている条 件次第だ、条件の問題だということなのか。こういう場であまり詰めた質問をしてはいけな いのかもしれませんけれども、この点は重要な点なのでお聞かせいただけますでしょうか。 ○竹詰部長 企業年金にかかわらず、賃金交渉でもそうですけれども、私たち働く人間が企 業を潰してまで何か取らなければいけない、というところまでは考えてございません。そう いう意味では、絶対に駄目だということでなく、ほかの労働条件と同じように、条件交渉と いうことになると思います。 ○森戸座長 それに関連して、私もちょっとお聞きしたいのです。基本的に賃金の後払いで 確定しているので、一定の受給権保護は大事であるということは分かるのですが、連合とし ては、これは企業年金の話だということなのか。そうすると、そもそも退職金制度の不利益 変更なども許されないというお立場なのでしょうか。それとも企業年金は、ということなの でしょうか。その辺りは何か整理されているのですか。 ○竹詰部長 私たちは働く人間、要求する側ですので「不利益変更は結構です」ということ にはならないわけです。したがって、そういうものも含めて条件次第ということになると思 います。 ○森戸座長 わかりました。 ○臼杵委員 お二人方に一点ずつお伺いしたいのです。まず高瀬さんです。スライドの14 番で企業年金を実施することの意義ということをお書きになっています。特に、真ん中に赤 い囲みがありまして、従業員が勤務中に老後の心配をすることなく電気事業に邁進してもら うことに企業年金の意義があるというお話なのですが、これは一時金では駄目なのか。退職 金だって老後の保障をしているわけで、特に、東電が退職金を払えなくなるとは誰も思って いないような状況で、なぜ企業年金でなければいけないのかという点です。何枚か後のスラ イドにも、一時金を取り崩して老後に充てるというようなことも想定されたスライドもあり ましたが、その辺のことをお伺いしたいのです。  竹詰さんに伺いたいのは、スライドの3で通算制度をお書きになっています。特に年金間、 DBの通算制度というようなことを強調されていたと思うのですが、DBだって元々は一時 金ですし、確定拠出も一時金です。この前の制度改正の時の通算では、DB間だけではなく、 DBからDC、DCからDB、実例があるかどうかは別にして、そういうものも認められたよ うな記憶がありますけれども、それなら元々の一時金まで通算してしまえばいいではないか という発想もありうる。要するに、もらった一時金をDBに入れるとか、もらった一時金を DCに入れるられるようなことがあればいいと思っているのです。例えば適年が存続すれば いいのですが、やむを得ず亡くなってしまったようなときに一時金が出てきたものを、会社 ごと移行するのではなくて、個人単位で移行できてもいいのではないかと思っているのです が、そういうことを連合として良いと評価されるかどうかということをお聞きしたいのです。 ○森戸座長 先に高瀬委員、お願いします。 ○高瀬委員 1つは13頁でざっとご紹介したことですが、現実的な話として、退職一時金 の役割分担と企業年金の役割分担は、個人の方から見て、ある程度区分けしているという実 態があるのです。当社の場合でも、統計を取ってみると、住宅ローンが残っていて退職金の ある程度の金額(ここでは5割となっていますが)、それを一時清算するというパターンが 多いということ、これは現実的な理由です。  もう1つは、退職一時金を本人にお支払いして、本人が在職中はその運用というのを意識 しないで、突然そこでお渡しして運用するよりは、ある程度会社が制度設計をして、ある程 度の運用期間を持って、特定の機関との調整もした上で有利な条件を勝ち取って、そこで運 用してあげたほうが安心感は増すだろうと。その2点で区分けをする。2つのパターンでや ったほうが、現実に社員の退職時の安心感がどうも違うようだ、そういうことかなと思って います。 ○森戸座長 竹詰部長、よろしいですか。 ○竹詰部長 正直に言いまして、いま臼杵委員からご指摘いただいたことについて、そこま で踏み込んだもの、どうだという政策は連合内では持ってございません。ただ私個人的には、 今おっしゃったような、一時金をDB、DCの通算制度に入れる。選択肢の1つとしてそう いうことができるということであれば、それを否定するものではないと考えます。 ○臼杵委員 税の優遇とか通算とかいうのを制度に対して与えるのか、あるいは、企業単位 で与えるのか、個人に対して与えるのかということがあって、個人に対して与えるほうが、 駒村委員がご指摘のように、できる企業と、できない企業とで違いがあるという問題を、完 全ではないと思いますが、ある程度避けられるのではないか。その意味で、個人で一時金を もらっても入れられるようにすればいいのかなと思った次第です。 ○森戸座長 前の企業年金研究会の報告書にも、個人別の税制優遇アカウントを持つような ことを検討したらどうかという議論があったと思うのですが、その話の関連ですね。ありが とうございます。ほかに、いかがでしょうか。 ○藤井委員 いま述べられた点は私も思っています。駒村委員がおっしゃったのは特別法人 税も関係すると思うのです。実際に普及するかどうかは別にして、アクセスできるかどうか というのは非常に重要です。企業年金にアクセスできない人が個人型DCにアクセスできる とすれば、道が開かれているというのは最低限重要なことで、そこが1つのヒントになるの かなという感じがしています。  話がそれますけれども、支払保証について政府が政府のバジェットを以ってやっていると いうのはあまり聞いたことがなくて、大体は保険料を基にやっているので、参加している企 業が自ら相互扶助的にやっているのが普通かなという感じがしますので、その辺りに解決策 があるのだろうと思うのです。  ただ、両者とも個人型DCあるいは国民年金基金への加入促進というようなことをおっし ゃるのですが、現実の問題は、アクセシビリティーもさることながら、私の知見によれば、 個人型DCも、国民年金基金も極めて低調であるということです。したがって、アクセシビ リティーのほかに、現実問題として、とてもうまくいっているとは思えない感じというのは どうか、そういう課題があるのかと思います。これは別にお二人方への質問ではないのです が、いろいろな方の意見を聞いていて私が思ったことです。  質問という点で言いますと、連合のパンフレットのいちばん後ろ側のいちばん左上のコメ ントで「企業年金の廃止は阻止しよう」「積み立て不足や財政悪化は経営責任であります」 とお書きになっているのです。私も、どちらかというと、実はこう思うのですけれども、企 業年金を論ずる方々の中には、労使が参加して企業年金を互いに相談して実施すると、より 良くなる的なご意見の方も中にはいらっしゃるわけなのです。そういうご意見と、このご主 張は対立するかのように感じられるわけです。東京電力のほうのご意見も、特別労使協調型 の企業年金運営ということは想定しておらず、経営者の側から、従業員とどう接するかとい う観点から述べておられると思うので、いずれにしても、経営責任の問題として捉えておら れると思うのです。そして、これが我が国におけるごく自然な理解の仕方だと思うのです。 労使で相談して運営していくということを是とする意見も中にはあろうかと思うのですけ れども、その辺りについて、何かお考えやご意見等があればお二人に伺いたいと思います。 ○森戸座長 竹詰部長、いかがでしょうか。 ○竹詰部長 このパンフレットにもございますように、連合としては経営責任であると。こ れは私たちの資料にも書きましたが、企業型のDCにおいて、労側がもっと参加して制度の 検証をするとか、運用商品の評価をするとか、そういったところではもう少し労側が入って いくべきだ、企業型DCについてはそう思います。ここで念頭に置いているのは「適格退職 年金制度からの移行」ということでパンフレットを作らせてもらっているので、それについ ての経営責任は会社側にあるということで作らせていただいた次第です。 ○森戸座長 高瀬委員、お願いします。 ○高瀬委員 私どもの場合ですと、会社のほうで評価委員会というものを設定しております ので、そこで、本来は会社のほうで運営して、今後の運用をどうするかということも決定す べきだという考え方でやってはいるのです。ただ、この年金を入れる過程で、すべての企業 が全く同じように経営だけで全部ということがあるのかどうかと考えますと、たぶん、いろ いろなパターンがあるのではないかと思います。仮に労使の合意事項として、いま私どもが やっているような委員会のようなものを会社側で持つという選択肢に合意できるのであれ ば、労使として全くない話ではないと思っております。 ○森戸座長 藤井委員にお聞きしたいのです。藤井委員の言い方は、はっきりはおっしゃっ ていないのですが、労使協調とかいうものはどうかと思う、という感じでおっしゃったかな といま聞いていたのですが、DBもDCも、制度設立なり規約変更のときに、制度上労使合 意みたいなものが必要ですね。それを越えて、もう少し労働者が参加するような制度のイメ ージを誰かがおっしゃっていて、それに対して藤井委員は否定的だということなのか。その 点をもう少し説明していただければありがたいのです。 ○藤井委員 おっしゃるとおりです。例えば連合のパンフレットですと、積立不足や財政悪 化は経営責任だと主張しておられます。いま座長がおっしゃった点は非常に重要で、大きく 2つに分けられると思います。1つは、給付の条件だとか、算定式を上げる・下げるという 話。これはある意味協調というか、合意をしたり、あるいは事業主側が従業員に対して条件 を求めたりして、合意して実施していくということだと思うのですけれども、ここに書かれ ているのは、積立不足や財務悪化ということで、いわば運用成果の問題だとか、それに対す る掛金の拠出の速度などの問題だと思うのです。それで、そういうものの責任がどこにある のかと。責任があるということは決定権の問題でもあるわけで、そういった側面のことにつ いて労使で相談することに、いかなる意味がありや無しやという問いであります。 ○森戸座長 わかりました。ありがとうございます。ほかに、いかがでしょうか。 ○島崎座長代理 高瀬委員にお伺いします。東電のように大企業の場合と中小企業の場合で、 移行の体制も全然違うでしょうし、期間とか対象者も全然違うでしょうから、なかなか一概 に言いづらいところだと思うのですが、例えば、東電という個別企業でも構いませんし、あ るいは経団連に入っていらっしゃる企業全般のイメージでも構いませんが、現実問題として、 適年から企業年金に移行するに当たりましても、厳しい経営環境とか、諸々の条件を考えざ るを得ない。そうしますと、単に労使の問題だということではなく、人事部門だけではなく て実際に財務部門も相当コミットしてこざるを得ないだろうと思います。現実問題として、 例えばキャッシュバランスプランと確定拠出のコンビネーションでいかれたというのも、純 然たるDBは非常にきついというご判断もあったと思うのですが、それはどういうプロセス で意思決定がされていくのか。それから、労使交渉というのはどういうタイミングで行うの か。これはかなり立ち入った話かもしれませんが、ある程度段階を踏みながら、打診しなが ら積み重ねていくような形をとるのか、その辺をお聞きいただければと思います。  何のために聞いているのかと言うと、税制適格年金の移行問題を考えると、連合のパンフ レットにも、最低でも1年かかりますと書かれているのですが、その辺はどの程度見ておけ ば現実的なのかなということでお伺いしている次第です。それに限らず、そういう観点から 参考になるようなコメントを何かいただければと思います。 ○高瀬委員 参考になるかどうか分かりませんが、冒頭に申し上げましたように、私どもは 平成17年に経営として意思決定をしてから準備に入って、2年ほどかかっています。大企 業でスタッフが当然多いかというと、決してそういうわけでもないのです。私ども人事の中 の給与を専門にするチーム、それから経理部で財務をやっている連中との間で協議をしなが ら、どういう選択肢がいいかというようなことを議論してきました。ただ2年前でしたので、 規約を作るときも、ある意味ゼロから相当突っ込んで「東京電力バージョン」という個別バ ージョンを作り上げることができました。従業員に示す参考書のようなものも、通り一遍の ものではなくて「東京電力バージョン」を作らなくてはいけない。そういう意味では相当重 厚な対応が必要であったと思っております。  その後、例えば規約に関しましては簡易型を進めるとか、そういう意味で、私どもが直面 した時期に比べると、時間的にはそれほどかからなくて済むような方向、それも簡易に厚生 労働省とご相談できる。それから運用機関のほうもいろいろなパターンが出来ていますので、 その中から典型的なものをご提供できるといいましょうか、時間軸的にはだんだん短い対応 になっているのかなと、私の実感としてはそんな感じです。  組合との関係は、たぶんいろいろな変化型がありまして、正式な交渉をいきなりやったの か、あるいは事前にご相談をしているのか分かりません。ただ、実施する直前、従業員に投 資教育を実施する直前に正式に提案をして、これは初めてのケースでしたので、若干時間を かけて合意ということになったと記憶しています。  実は今、グループ型のものを適用しようとしているのですが、そこでやはり、確定拠出年 金がこの市況の中ではなかなか。個人の立場から見ると非常に自信がないとか、そういう不 安感が先行してしまっておりまして、そこを40年ベースあるいは20年ベースぐらいで、 つまり過去のトレンドから見てどう評価すべきか、ここを静めるのに相当努力をしてあげな いと従業員の不安感が相当増すのではないかと思われます。グループ化しようとしていると きに、我々はできるだけ利益、我々が合意をして得られた低いコスト、手数料もできるだけ 安くしていただくとか、そういうものを適用したいのですが、やはり入口のところでなかな か踏み切れない。そこは初めてのことで経験がない。いかにも煩雑だ。規約というもののイ メージが沸かない。それから、どう見ても確定給付のほうが、会社が責任をとってくれそう に見える。確定拠出は自分で運用する自信がないと。そこがネックになっているようですの で、ここをご理解いただく。それは企業としてもやるべきなのですが、国ベースでも、情報 をできるだけ出していただいて安心感を持たせる。今後の市況がどうなっていくのかという のが非常に心配ではあるのですが、そこが大事だろうと思っています。答になったかどうか 分からないのですが、私はそういう感想です。 ○小野委員 お二人方に一点ずつご質問申し上げたいのです。最初に竹詰部長に質問させて いただきます。1頁に、退職金は労働条件の1つとして後払いだ、労働を提供したときに支 給は確定するものだというようなお考えが書かれておりますけれども、私の理解するところ によると、それを移行した年金も含めて、法律はそうはなっていないというところが現実問 題としてあるのではないかと思います。少なくとも、退職しないと権利義務関係は確定しな いようなところがあるかと思います。  過去の給付を守るとか、そういったことも基本的にいいとは思うのですが、アメリカの例 でよくごっちゃに議論されているのは、ホワイトカラーの年金とブルーカラーの年金とは違 うのだということです。ホワイトカラーの年金は、経営が圧迫されてしまうと即座にフリー ズして、将来分の支給は止められてしまうという格好になっていまして、労使交渉が必要な のはブルーカラーの年金だということになっているのではないかと思うのです。  そういう意味で日本の年金はと考えると、基本的に企業年金は受給権があればいいのです が、ないので、間接的な表現で法律を決定しているわけです。その一方で、労使交渉をして、 減額のときには必ず同意が必要だとか、そういった仕組みを組み込んでいまして、そういう 意味では日本のやり方も結構いいのではないかという気がしています。先ほどのご発言も聞 いていますと、そういう意味での給付を守るというご趣旨もあるのかなと受け止めまして、 そんなところでよろしいのかというのが質問です。  高瀬委員に確認させていただきたいのは、12頁で、公的年金で手取り17万8,000円だと 書かれております。そして、最低の生活水準は27万円ということで、2,100万円取り崩し てもかつかつで、退職金をここに持ってくれば、それなりに水準は確保できるというような ことのように伺いました。然はさりながら、退職金は借金の返済などに充てないといけない ので、それを考えるとというようなお話だったと思います。結局、退職金から必要な額を取 り崩したとしても、退職金なりを年金に移行したとしても、基本的に最低生活水準というの は満たされないというのが現実問題なのかなと受け止めてしまっていいのか、そういうご認 識の確認なのです。  関連して伺います。何回か前の研究会の中でも質問したのですが、退職金・年金調査にお ける2,400万なり2,100万円なりという数字の中に、果たしてDCの給付が含まれているか どうかというのは私にはよく分からないのです。もしそれでDCが外されているとすれば、 もともとのファンドはもう少し大きくなって、また少し違った絵が描かれるのではないかと いう気がしておりまして、その辺がお分かりになったら教えていただきたいのです。 ○森戸座長 竹詰部長、先にお願いいたします。 ○竹詰部長 いまのお話は委員からのご意見ではないかと思いました。質問としては、法律 は違うのだがということでしょうか。私たちとしては当然、働いたものは確定する、要求と してはそういう要求です。今の法律が違うからそれは通らないのではないかということでは なくて、働く側としての要求ということでは、働いた時点で確定するものと考えております。 ○小野委員 今はその辺りの法律の裏付けがない部分なので、DB法の規定がああいう表現 ぶりになっている。それが適当かどうかは分かりませんが、それをある意味補うような形で 労使交渉が1つの枠としてはめられているというところで、そういうアプローチもあってい いのではないか。それは私の感想でもあるのですが、ご発言の中でそういうご意見なのかな と承ったわけです。 ○高瀬委員 ご指摘のように、手取りの年金月額17.8万円には企業年金の原資は含まれな いという前提で作っております。最低保障プラス企業年金をこれとは別にという作り込みで やったと考えております。 ○小野委員 それはある種退職金の上乗せで企業年金をやっていきますという意向表明の ようにも聞こえたのですが、そういうことですか。 ○高瀬委員 ここでは最低限必要な貯蓄という観点で2,100万円という数字をとってしま いましたが、退職金・年金の平均水準2,400万円(大学卒・男性)は、記載の通り、退職金・ 年金両方を含む水準です。退職一時金と企業年金両方を仮に貯蓄したというシミュレーショ ンでいったらどうか、そういう前提であり、DCは企業年金ですからここに含まれます。 ○森戸座長 ありがとうございます。野村委員、どうぞ。 ○野村委員 1つコメントめいたことと、そのほかに質問がお二人方にあります。  まずコメントのほうは、竹詰部長のほうで、企業型確定拠出年金のガバナンス的なところ は事業主又は労使による、というようなことを書いておられます。これは個人的な意見です けれども、「労使」のほうがいいだろうと思います。導入のときも労使の合意の上で入れて いるので、そのほうが自然かなとも思います。また、運用のリスクを従業員が負うという制 度の性格上、会社だけではなくて、労働側のコミットメントも継続的にあっていいのではな いかと思います。  質問なのですが、先ほどの駒村委員のコメント、また他の方々も、いわゆるカバー率、企 業年金がどれだけのサラリーマンの人たちに適用されているかというのが、非常に重要なポ イントだということがあるかと思います。ただ、一方で、たぶんこれはこの研究会のコンセ ンサスだと思うのですが、企業年金を入れる、入れないは任意です。強制されるものではな くて、会社ごとにお考えがあっていいということではないかと思うのです。強制するわけに いかない以上、なるべく入れてくださいという話になろうかと思うのです。一方で、先ほど の臼杵委員のご指摘にありますように、従業員の側も多様化しておりいろいろな考え方で動 くという現実があるので、税制のほうは個人別で考えたほうがカバレッジが広いのではない でしょうか。この場合のカバレッジというのは、企業年金そのものというよりは、何らかの 税制措置を得つつ、老後のために頑張って何か積み立てている。そういう大きな括りでの資 産形成制度に関わっている人を増やすことですが、仮にそこに目標を置くとしますと、税制 は個人別で捉えたほうがカバレッジは広くなるのではないかという気がいたします。  私の質問は、一方で個人別に考えてしまうと、もう企業年金はいいから個人でやってくだ さいという考え方が懸念として持ち上がってくるというご指摘もあるので、やはり心配だと 捉えられるのかというのがお二人方への質問なのです。  これはマッチング拠出を入れるときの議論にも関わると思うのですが、税制の考え方がわ りと個人別であっても、企業がまとめて場を提供するだけでも、企業年金というのは極めて 意義が深いと思うのです。税制が仮に個人別のように考えられたとしても、企業年金の意義 が損なわれると考える必要はないと個人的には思っているのですが、お二人方のコメントが いただければと思います。 ○森戸座長 国民がどこに勤めていようが1人100万円とか枠があって、その枠を、企業 年金でこれだけ使ってしまったら残りは使えないけれども、企業年金がない人は100万円 税制優遇の貯金ができるとか、そういうふうに個人別にするのはどうかと。これは臼杵さん が先ほどおっしゃったことです。しかしそれだと「じゃあ、もう個人でやって。そもそも企 業年金は要らない」という話になるのではないかという意見もあるけれども、ということで すね。竹詰部長、いかがですか。 ○竹詰部長 委員の質問が高度なもので完全に答えることができないかもしれませんが。労 働条件の1つと考えていますので、ベースは個人でなく企業でやっていただく。そこに従業 員が加入していくというのがベースではないかと考えております。 ○高瀬委員 企業年金と個人型の確定拠出年金の選択肢が今でもあるわけですが、これはあ る意味企業の量の力といいましょうか、交渉力といいましょうか。実際に商品として年金を 扱われるという立場で契約という点で申し上げれば、個人に比べますと、そういうメリット があることは事実です。税金については個人別、企業年金の場合には個人対応で、限度まで は課税ということで個人と企業年金の公平を図るということですが、交渉力その他の点で企 業年金そのもののメリットが消えるわけではないのではないかと思います。これは個人的な 意見になりますが、それは税の話と切り離すことも可能なのかなというのが今のイメージで す。 ○竹詰部長 高瀬委員の資料の中にあることで頁がいま分からないのですが、要は、従業員 にはできるだけ仕事に専念してもらいたいという話があったかと思うのですが、そこについ ては私も同じ考えです。結局、運用するとか年金は、ある意味本業ではない。企業に就職し たからには一生懸命企業の発展に努め、あるいは自分のことも発展に努める。そこに労働条 件として付帯するということであれば、そのほうがいいと思うのですが、あまり年金のこと を心配しながら働くというのは、本来の姿ではないのではないかという気がします。 ○森戸座長 もう時間がないのですが、ほかにありますか。 ○石田委員 コメントだけなのですが、確かに今の労働市場の動向を見ていきますと、企業 が従業員の生活保障自体を抱え込んでいかない。要するに、個別の従業員がいろいろな企業 を渡り歩きながらもキャリアを形成していく。このような発想から言うと、個人別の勘定は 是認いたします。そして、それに対して税制の上の優遇を設けたり、一方で、ちょっとした ペナルティーを設けたりするというのも、あり得る選択肢かとは思います。ただ、企業年金 には確定給付にしても、確定拠出にしても、先輩を見ると、将来的にどのぐらいの年金がも らえるのだというような確実な受給額の情報もありますし、運用その他に関するスケールメ リットもあるわけです。それから、労使は運命共同体のところがありまして、そういうとこ ろを提供する年金だからこそ意味がある、こういう考え方もあります。そういう意味で言う と、個人型も1つの選択肢としてはあり得るのだけれども、純粋な企業年金というものも依 然として意味を失っていないのではないかと考えます。 ○森戸座長 まだご意見等あるとは思うのですが、時間ですので、本日の議事はこれで終了 いたしたいと思います。今日は3人の方に非常に充実した報告をいただきました。また議論 も非常に活発で、レベルの高いものができたと思います。時間が足りなくて残念ですけれど も、本当に3先生、それから皆さん、ありがとうございました。次回の日程については、別 途事務局からご連絡いたしますので、本日はこれで終了いたします。ありがとうございまし た。 (照会先) 厚生労働省 年金局 企業年金国民年金基金課 企画係 (代表)03-5253-1111(内線3320)