09/03/17 第7回高齢者医療制度に関する検討会議事録 平成21年3月17日 高齢者医療制度に関する検討会   第7回議事録 (1)日時    平成21年3月17日(火)18:00〜19:00 (2)場所    厚生労働省 省議室 (3)出席者   岩村委員、大熊委員、川渕委員、権丈委員、        塩川座長、樋口委員、宮武委員        舛添厚生労働大臣        <事務局> 水田保険局長、榮畑審議官、神田総務課長、吉岡保険局高齢者医療課長 武田保険局国民健康保険課長、田河保険局保険課長、佐藤保険局医療課長、 村山保険局調査課長、大西保険局総務課医療費適正化対策推進室長、 (4)議事内容 ○吉岡課長 本日は、御多忙のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。定刻 になりましたの で、ただいまより、第7回の高齢者医療制度に関する検討会を開催いたします。  本日は、岩本委員が御欠席でございます。  それでは、議事進行につきまして、塩川座長にお願いいたします。 ○塩川座長 本日は、お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。 今回で第7回目 の検討会になります。本日は、前回までの御議論を踏まえまして、本検討会の議論を整理し、 取りまとめ を行いたいと思います。  それでは、まず初めに、大臣からひとつ御発言いただきたいと思います。その後、事務当 局よりお配りし た資料について御説明いただきたいと思っております。 ○舛添厚生労働大臣 どうも、皆さんお忙しいところ、毎回ありがとうございます。  今、座長からありましたように、今日は、これまでの議論を整理して、一つのまとめを行 いたいと思ってお ります。高齢者医療制度をどうするかということで様々な御意見を賜りましたし、今後、国 民的な議論を喚 起しながら、具体化の取り組みを行いたいと思っています。  一方、与党におきましても、今、並行して、後期高齢者医療制度の見直しを含めての議論 を行い、検討 を行っているところですので、近々にこの両方の考え方の突き合わせをして、そして、政府 与党一体となっ た案に取りまとめたいというように思っておりますので、引き続き、皆様方の率直な意見を 賜ればと思いま す。よろしくお願いいたします。 ○塩川座長 それでは、吉岡課長から、論点を取りまとめいたしました原案を説明いたしま すので、皆様 のお手元に配ってある資料によってお聞き取りいただきたいと思っています。  吉岡課長。 ○吉岡課長 お手元に「高齢者医療制度の見直しに関する議論の整理」(案)をお配りいた しております。 前回までの議論を踏まえまして、また、改めて各委員の先生方の御意見を頂戴いたしまして、 案としてま とめたものでございます。  1ページ目をごらんいただきますと、まず「はじめに」でございます。高齢者医療制度、 昨年の4月から施 行されましたが、制度の検討に際して高齢者の意見を十分に聞かなかったこと、その結果と して、高齢者 の心情に配慮していない面があったこと、制度についての説明が不十分であったことなどに より、施行当 初は大きな混乱が生じ、強い反発も招くこととなったということでございます。  このため、昨年の6月、政府・与党として、様々な改善策を取りまとめ、逐次、実施に移 してきたところで ありますが、高齢者の心情にも配慮し、様々な指摘も踏まえて、更によりよい制度に改善す るために、昨 年9月にこの検討会が設置され、各般にわたる議論を行っていただいてきたところでござい ます。  そして、ヒアリングを交えながら7回にわたり議論を行ってきた結果、今般、これまでの 議論を以下のとお り整理したとしております。  2.が「見直しについての基本的考え方」でございまして。制度の施行から概ね1年が経 過している中で、 各種調査においては、制度に対する理解は一定程度進んできていることが伺えるものの、高 齢者をはじ め、すべての世代の納得と共感がより得られるものとなるよう、必要な見直しを着実に進め ていく必要が あるという原則を書いております。  見直すべきとの指摘があった事項については、速やかに対応することが可能な事項、更に 十分な議論 を経て結論を出すべき事項、今後の税制改正等と併せて対応を検討すべき多額の財源を必要 とする事項 があるが、こうした短期的な課題と中期的な課題を含めて、今後の国民的な議論に資するた めの論点を 整理した、といたしております。  3.が、制度の見直しに関する各論点でございます。  最初に「高齢者の尊厳への配慮について」でございまして。前回、岩本委員から、冒頭に 記載すべきと いう御意見があったことを受けたものでございます。「後期高齢者」あるいは「終末期」と いった名称は、速 やかに見直すことが必要ということでございます。また、「高齢者の医療を確保する法律」 は、本来、国民 の高齢期における適切な医療の確保を図ることを目的とするものであり、こうした法の理念 が理解される よう、樋口委員の御意見も踏まえまして、高齢者への敬意を具体的に示すべき、ということ を記させていた だいております。  また、2点目が、年齢で区分すること、制度の建て方であります。75歳という年齢で区 分して、公費5割、 支援金4割で高齢者の医療を国民全体で支える仕組みであるわけでございますが、このよう に、75歳で 区分することにはやむをえないという意見(岩村委員の意見)でございます。一方で、社会 保険の理念に 反するという意見(宮武委員の意見)でございます。そうした中で、特定の年齢で区分せず、 財政調整をし てはどうかという岩本委員の意見、あるいは65歳で区分してはどうかという、後ほど申し 上げますが、幾 人かの委員による意見がございます。また、65歳で区分してはどうかという点については、 都道府県単位 の国保を包含するという選択肢を併せて検討すべきという宮武委員の御意見がございます。 更に、少なく とも75歳以上の被用者保険の本人は被用者保険に残すべきではないかという、これは大臣 私案にも掲 げられた考え方でございますが、こうしした様々な意見があったわけでございます。  いずれも、現行制度の改善が図られる点がある一方で、更に検討すべき課題もあり、引き 続き議論を深 める必要があるという整理にいたしております。  その後が各論でございます。それぞれの案でございます。  まず、アが「年齢で区分せず、全年齢で財政調整を行うという考え方」でございまして。 改善点としては、 個別保険者の努力では回避できない加入者の年齢構成の相違による負担の不均衡を是正で きること、 また、これまでと同じ医療保険制度に加入できることがございます。  一方で、課題としては、所得形態・所得捕捉が異なる被用者保険、国保の負担調整の具体 的な仕組み をどう考えるかという点が挙げられるわけでございます。  また、2点目のイの「65歳で区分するという考え方」については、二とおりの考え方を お示しいただいて おります。(ア)が、権丈委員を中心に御指摘いただきました「前期高齢者の財政調整を後期 高齢者にも拡 大する」という考え方でございます。これまでと同じ医療保険制度に加入できることから、 前期の仕組みを 後期に拡大すべきという点でございます。  これについては、旧老人保健制度で行ってきた財政調整を実質的に65歳以上に拡大する ことになり、 同制度が抱えていた費用負担関係が不明確である等の点について、どのように対応するかと いったよう な課題があるということでございます。  それから、もう一つが、(イ)にございます、山崎委員、あるいは宮武委員を中心に御指摘 いただきました、 「後期高齢者医療制度の対象を65歳以上に拡大するという考え方」でございます。介護保 険や公的年金 制度との整合性がとれるという観点から、65歳以上に拡大すべきという意見でございます。  これにつきましては、現在の後期高齢者医療制度と同様の制度とした場合、多額の公費を 必要とする、 また、権丈委員から御指摘がありましたように、健保組合等の負担は大幅に軽減されるが、 国保の負担 はほとんど軽減されないといった課題があるわけでございます。  なお、この考え方については、介護保険制度との統合等を含めて検討すべきという、川渕 委員の意見も ございました。  また、3つ目の(ウ)でございます。「75歳以上の被用者保険の本人は被用者保険に残すと いう考え方」 でございます。  職業上の属性を加味できることから、75歳以上の被用者保険本人は、被保険者に残すべ きであるとい う意見でございます。これについては、75歳以上の被用者保険の本人に扶養されている被 扶養者などの 取扱いをどう考えるかを始め、(1)(2)(3)いったような課題があるわけでございます。  それから、5ページでございます。  一元化につきましては、各保険者間で所得形態等の状況や保険料算出方法等に大きな差異 がある状 況では、諸外国の状況を踏まえても困難であるというのが概ね各委員の共通の御意見でござ いました。  大きな3点目ですが、財源のあり方についてございます。後期高齢者医療制度は、高齢者 の医療費に ついて、国民全体で支える仕組みであるわけですが、まず、高齢者の保険料につきましては、 前回の全 国老人クラブ連合会から御発言がありましたように、高齢者からの応分の御負担をお願いし ていくことにつ いては、高齢者の理解が深まりつつあることをまず記載させていただいております。  一方で、現役世代からの仕送りである支援金、あるいは前期高齢者の医療費を支える納付 金について は、権丈委員あるいは山崎委員などから御指摘ございましたように、現行制度では、それぞ れの保険者 の加入者数等に応じた費用負担としているため、財政力の弱い被用者保険の保険者の負担が 過重にな っているということでございます。このため、国保と被用者保険の間は加入者数で均等に分 け、被用者保 険の中では、保険者の財政力に応じた応能負担による助け合いの仕組みにすべきと、こうい うことでござ います。  それから、「また」ということで、公費についてですが、後期高齢者医療制度は約5割の 公費負担、前期 高齢者医療制度には直接公費は投入されていないわけですが、今後の公費のあり方をどのよ うに考える べきか、引き続き検討していく必要があるということでございます。この際ということで、 重ねての記載です けれども、多額の公費を必要とする、また、国保よりも健保組合等の負担がより軽減される ことをどのよう に考えるかといった点を含めた議論が必要というふうに整理をいたしております。  それから、4点目の運営主体ですが、2つの考え方を整理しております。  1つは、広域連合の活動の展開はいまだ十分ではないことから、まずは、その保険者機能 を強化すべき という御意見、それから、都道府県を運営主体とすることが適当であり、そのための環境整 備を検討すべ きという御意見でございました。  また、後期高齢者医療制度と同じ地域保険である国保は、国民皆保険を支える重要な役割 を果たして いるという御指摘がございました。そうした中で、国保の運営主体について3つの考え方を 整理しておりま す。  (1)は、同じ地域に2つの地域保険が存在することは本来好ましくなく、市町村国保につ いてについて都 道府県単位化を図り、都道府県又は広域連合が後期高齢者医療制度と一体的に運営すべきと いうことで、 主に宮武委員から御発言があり,大臣私案に掲げられているものでございます。  また、(1)は、2次医療圏単位で市町村が共同で運営すべきという考え方。  また、(3)については、保険料徴収と給付の主体が一致していることが望ましいので、保 険者は市町村 のままとし、財政の共同化等により運営の安定化を図るべき。  ということで、(2)(3)については、山崎委員からの御指摘があった点でございます。  それから、7ページの(5)です。保険料の算定方法、支払方法等でございます。まず、 高齢者の保険料 については、施行後に、低所得の方に対する更なる軽減措置も講じられたところではありま すけれども、こ うした仕組みについてわかりやすく丁寧な説明に努めることがまず必要ということを掲げ させていただいて おります。  また、保険料の算定方法については、今回の制度により高齢者が公平に保険料を負担する ことになっ たという良い面があるという御指摘をいただいております。そうした中で、再び高齢者や市 町村に混乱を生 じさせないよう、当面、現行の方法を維持すべきという御意見がございました。  一方で、将来的なあり方としては、岩本委員から、均等割を廃止して、所得割のみを賦課 する仕組みを 検討すべきという点、あるいは、保険料の賦課限度額の上限を見直すことを検討すべきとい う御意見があ ったところでございます。  8ページでございます。第2段落のところで、更に保険料の支払方法についてということ で、来年度から、 年金からの支払と口座振替との選択制を導入することにしておりますが、社会保険料控除の 取扱いにつ いては対象者に更に周知を図るべきという樋口委員の御意見、あるいは川渕委員からも、資 格証明書の 発行については慎重な対応等を行う必要があるといったような御意見をいただいたところ でございます。  また、最後の「(6)医療サービスについて」でございます。介護保険制度を創設したと きと異なり、後期 高齢者医療制度の導入に当たりましては、新たな医療サービスの提供が十分でなかったこと が、高齢者 の不満の原因の一つであったということでございます。このため、高齢者が住み慣れた地域 や家庭で安 心して暮らすことができるように、様々なサービスをそれぞれの地域で具体的に提供してい くことが重要だ ということで、前回、樋口委員から具体的な姿をしっかりと明示すべきという御指摘をいた だきましたので、 「具体的には、」ということで、高齢者担当医、あるいは訪問医療、速やかに入院できる病 院の確保、退院 の支援といった様々な新しいサービスを普及・定着させる。併せて、切れ目なく必要な医療・ 介護が受けら れる体制を構築することを記述させていただいております。  更に9ページですが、また、医師不足への対応、救急医療の充実等、高齢者を含めた国民 全体を支え る医療提供体制の充実と、それを支える診療報酬の見直しを図るべきという御意見、それか ら、更に、高 齢者担当医等の75歳以上に限定された診療報酬体系には見直す必要があるという御意見、 または、前 回、老人クラブからの御意見もございましたように、75歳以上は保険者の努力義務とされ ている健康診査 について、実施義務にするなどの見直しを行うべきであるという御意見を整理させていただ いております。  最後に、「終わりに」という部分でございます。今回の議論の整理においては、制度の見 直しの選択肢を 具体的に示し、今後の国民的な議論に供することとしたというふうにした上で、今後、各方 面における議論 が更に進められるに際しての政府への3点の御要請をいただいております。  1つ目が、高齢者医療制度の仕組みなどを、改めて国民に十分周知すること。  2つ目が、当事者である高齢者の意見を聞く場を設けるという点。  3点目は、現役世代の支援も不可欠である中で、すべての世代の納得と共感が得られるた めの一層の 努力を傾注すべきという3点でございます。  また、高齢者が将来の不安を解消し、安心して生活できるようにするためには、社会保障 制度全体の改 革を進め、将来の姿を明らかにしていくことが必要ということでございます。  最後に、今回の論点整理をもとに、よりよい制度への改善に向けた幅広い議論が深められ ることを期待 するというような結びにさせていただいているところでございます。  併せまして、その次のページから、これまでの検討会でもお出しをさせていただいた参考 資料を整理し て、綴らせていただいているところでございます。  資料につきましては、以上でございます。 ○塩川座長 どうも御苦労さん。  ただいま説明がありましたように、議論の整理については、案として先ほど説明したとお りであります。 各委員の先生方には、あらかじめ発言していただいたことを取り入れておるとは思うのでご ざいますけれ ども。しかし、いろいろ御意見があると思いますので、この際、御発言いただければ結構か と思っておりま す。どうぞ。 ○川渕委員 我々が10時間も議論したことを、たった10分で吉岡課長から説明をいただ いて、さすがに 官僚は優秀だなと思いました。  私の意見も入れていただいたので感謝していますが、最後に2点意見を述べたいと思いま す。資料は配 布できないということなので読み上げます。  1つはデータのことです。従来、75歳以上の医療費は、75歳未満に比べると高いと言わ れてきましたが、 第4回目・5回目の検討会で、私が独自の試算結果を御披露しましたが、疾患によっては、 生存・死亡退 院問わず、むしろ逆転することが明らかになりました。これから与党でも議論がされると思 いますけれども、 同制度の見直しに当たっては、より詳細な臨床現場の個票データを使って医療の見える化を 行っていただ きたいと思います。そういうことによって政策立案・検証することが求められるのではない でしょうか。  第2点目は、この制度の持続可能性についてです。確かに、現行の長寿医療制度を変える リスクやコス トも多大なものがあるかと思いますが、その一方で、ハイリスクグループを分離したため、 同制度の持続可 能性は相当危ういものと言わざるを得ません。そもそも、なぜ75歳で区切ったかという論 証は、残念なが ら不十分で、唯一75歳独立説を主張した日本医師会の「高齢者のための医療制度の基本ス キーム」を 見ても、保障の理念のもと、医療費の9割は公費となっております。つまり、現存する長寿 医療制度は、 日医案と似て非なるものであります。   特に、第6回目の検討会で老人クラブの方からのヒアリングでわかったように、介護保 険と合わせて 年金と天引きで1万円を超えた保険料徴収は、給付費増加に対する耐性が小さいと言わざる を得ません。 一方、負担増に対する見返りは乏しく、医療・介護現場を見渡すと、療養病床再編問題、リ ハビリの不明 確な医療・介護保険適用区分、老健施設の医療給付の制限など未解決な部分が多々あります。 例えば、 老健は原則介護保険でありますので、医療が必要な場合は、「他科受診」と言って、バスに 乗って行かな ければいけないとか、あるいは抗ガン剤を投与するときには、施設が持ち出しでやっている などというケー スもあります。  今日、お手元に「朝日新聞」の記事がありますが非常に明確に現場の混乱ぶりをルポして います。今日 は介護保険の話は余りしたくありませんけれども、療養病床を巡っては、まだ混乱が続いて いるのではな いかと思います。  したがって、このまま行きますと、保険あるいは制度あってサービスなしというそしりを 免れないのではな いでしょうか。私が一番危惧するのは、大山鳴動してネズミ一匹式の議論ばかりを重ねて、 実際に行動に 移さないうちに、我が国の高齢化が加速度に進むことなんです。そうなると、天引き元の年 金財政が枯渇 することによって、なし崩し的に介護保険給付が、原則65歳から75歳に引き上げられ、 現行の長寿医療 制度との統合を余儀なくされるかもしれません。  最後でありますけれども、医療制度改革ひいては社会保障制度改革に残された時間は余り ないと考え ます。  以上であります。 ○樋口委員 私も実はA4版1枚に意見を書いてきたのですけれども、ペーパーとして配る ほどのものでは ないから口で言えということでございますので、お時間を若干頂戴してしゃべらせていただ きます。  議論百出の中で、方向性、選択肢を示して、よくまとめていただいたと思いますし。それ から、私は、基 本的に高齢者が何にでも口出すべきなどと一つも思っておりません。しかし、高齢者が政策 の対象となる 案件ぐらいに、高齢者当事者の意見、あるいは障害者の意見を聞いてほしいということを繰 り返し申し上 げておりましたら、その点はどうも御納得いただけましたようで、こういう合意ができただ けでも私は有り難 いと思っております。  そして、また今や日本が特殊な国であることを私は繰り返し申し上げてまいりました。最 高齢の高齢社 会であると同時に、これからも右肩上がりでいく国ですから、私は日本独自の負担の分かち 合いの制度 があったって、別に諸外国にないからいけないと言うつもりはございません。だとすると、 これから日本のよ うな生き方をする国は、基本的にアジアの国々でございます。ですから、ヨーロッパはほと んどある意味で 高齢化し切ってフラットになっているわけですね。ですから、これから韓国を含め日本型の 高齢化をしてい くアジアの国々に、一つのビジョンを示し得るような高齢者医療政策を是非少し打ち上げて いただきたいな と思っております。  それから、一番気になっているのは、果たしてこれで低所得者層の問題がうまくいくのだ ろうかなと思い ます。高齢者自身は、公的年金をもらっている限り、例えば1円でも負担し、医療保険とい う名前の一種の 国民クラブに仲間入りして負担していきたいという気概を実は十分持っていると思います。 それは、老人ク ラブの方のお話でもわかりましたのですけれど。しかし、いろいろな保険料の負担の仕方に、 世帯型とか、 個人型とか、あるいは私自身の話をいたしましたように、組合・国保と、今度、後期高齢者 医療になったと きは、大きな保険料の差があるとか、そういう世代間の不公平の問題に関しては、少し御検 討をいただき たいと思います。  一番問題にしていますのは低所得層高齢者の状況です。介護保険料も医療保険料も一生払 うわけです。 所得に応じてだからと言えば言うものの、先日、私はある人から「憲法違反という訴訟を起 こそうかと思っ ているのだけど、どうだろうか」と言われて、「私はちょっと賛同はできませんですけれど」 と答えておいた 件がありました。医療保険も介護保険も、保険料はほとんど天引きで払っているのに、現実 に保険サービ スを受けようとすると、1割負担ないし2割負担が払えないために、保険サービスを受けら れない人が現実 に身の回りで増えてきているというんですね。保険料は払っている。1割2割の負担料が払 えないために 保険サービスを受けてないとする。これが憲法違反かどうかというのは、私は疎くてわから ないのですけ れど、そういうことは本当に国民の間に対する信頼を損なうのではないか。介護保険の世界 で1割の負担 料が払えないために、サービスを自分の側で抑制しているという話は実によく聞いておりま すので、医療 の面でもこの低所得対策を是非講じていただきたいということでございます。  もう一つは、介護保険創設のときに、私たちは「介護の社会化」を一つのキーワードにし ておりました。今 進んでいるのは、再び「介護と医療の家庭化」であると言ってよろしいと思います。家族へ 地域へと言って、 現実には介護保険創設以来の10年間の間に、家族の形は大きく変化し、介護保険創立当時 は、まだ1 人ぐらいの家族はいると思っていてよかったのが、今やお一人様全盛時代で、その前のお二 人様が「認 認介護」「老老介護」という状況です。今、とうとうたる在宅へ在宅へという「介護・医療 の家庭化」で、果た して、これで本当に持つのだろうか。これは、今度の問題ばかりではなく、介護に関しても 同じなのですけ れど。この間、国会で大臣は「誰に介護してもらうか」と言ったら、「介護はプロに、心は 家族に」と持論を展 開なさってくださったそうで、誠に心強いところでございます。ですから、厚生労働大臣は、 「介護の社会化」 という旗印を決して下ろしてはいませんけれど、どうも、見ているところ、厚労省の政策自 身は、医療にお いても、介護においても、「社会化」という一つの方向性をなし崩しに今崩して、実は背負 うべき人も誰もい ない空の巣の家族の中へ下ろしていって、本当にひとり暮らしで、そして、切迫した状況が 起こったら、在 宅で死ねるのだろうか。あるいは1人ぐらい家族がいて、安心して死ねるのだろうか。  先だって、私は、富山県の例で、救急医療が前の年から5割近く増えていて、その増えて いるうちの9割 が高齢者だということをお話しました。そして、これは一体なぜだろうということを提起い たしました。各県 の似たような状況のデータは頂戴いたしましたけれど。その後、私も地方を少し回りまして、 なぜだろうと いうことを私なりに取材してみて、一つの答えが、結局「介護と医療の家庭化」が行われて いて、大して知 識のない、また、力のない1人ぐらいの家族しかいないので、呼吸困難になった、いくら在 宅診療料を保険 で高く付けているかと知りませんけど、そう簡単にお医者さんは夜来てくれないのです。看 護師さんも、特 に、特養や老健で看取りをやらせると看護師が退職するという話も随分聞きました。本当は 看取りなんか したくない、夜勤なんかしたくないから、特養に勤めたのに、老健に勤めたのに、死に水を とらされるので はかなわないという形で、中堅の看護師さんたちが辞めていく。  つまり、本当に在宅または特養・老健であの世まで送れるまでの体制を、わずかな家族で あってもでき るという体制をつくってからでなければ、つくらないでいると、結局、救急車を呼ぶ。ある 説によりますと、救 急医療でICUなどを備えた場合と、ただの病院にいる場合では、医療費は1:10だそう でございます。そう すると、在宅へ在宅へと帰すことは、結果として、救急医療を高齢者が独占し、若い人の医 療チャンスを奪 い、かつ、高齢者の医療費を更に暴騰させる。私は、これからの政策を立てますときに、「家 庭化」が果た してできるのか。家族でどれだけ医療が担えるのか。家族が担えなかったら、本当に在宅の 担当医とか、 かかりつけ医とか、あるいは、往診をしてくださる先生方とで担える体制を是非つくってい ただきたい。  これが申し上げたかったことで、以上でございます。ありがとうございました。 ○権丈委員 私は、この「高齢者医療制度に関する検討会」というところで、常に問題意識 として抱いてい たことは、今後の動態的な側面なのですね。今後の日本の医療というダイナミズムな側面を 考えるとき、 社会保険としての医療保険というのは、医療のための資源を社会から優先的に確保するため のツール、 チャネルなのでして、日本の医療保険には今後ますます働いてもらわなければならないのに、 今の日本 の医療保険はあまりにもポンコツ過ぎるんです。そのポンコツさはどこにあるかというと、 保険料率を上げ ようとすると低所得者問題にあっちでぶつかり、こっちでぶつかり。これでは、日本の医療 を再建するため の財源調達は到底できないのですけど、その陰で、大変な得をしているのは、大企業。とい うよりは、彼ら が、保険料率を上げようとすれば低所得者問題にあっちでぶつかりこっちでぶつかる、財源 調達力の極め て弱いポンコツな医療保険をねらって作ったわけです。この問題を何とかできないだろうか というのがあっ て、配付の参考資料の11ページにある資料を提出させていただいたわけです。  だから、健康保険組合の保険料率が3.12%の医療保険料率を払っている企業もあれば、 9.62%の医療 保険料率を払っている企業もある。ところが、9.62%というこの9%台のところの医療保険 料率を払ってい るところが壁となって、医療保険制度が身動きがとれない状況になる。そして、一方で 3.12%というような ところがある時に、健保組合全体に国庫負担を入れたらどうかという議論には、ちょっと難 しい話だよなと いうか、それはおかしいだろうというのがある。そういうことで、提案させていただいたの が、山崎先生、岩 村先生も、宮武先生も支持してくださった、5ページに出てくる、高齢者に要する費用を、 まず国保と被用 者では、加入者数で負担を分けて、そして、被用者のものはすべて総報酬で割る。つまり「応 能負担」、保 険者の財政力に応じた応能負担による助け合いの仕組みにすべきであるということで表現 させていただ いたんですね。  ただ、この「応能負担」という言葉については、例えば健保組合の人とかは『週刊社会保 障』とか『社会 保険旬報』とかで、彼らの文章や報告書とかを読んでみると、「応能負担」という表現を使 わずに「報酬按 分」とかいう言葉を使うんですね。どうしてこういう言葉を使うのかなと考えると、何とな く気持ちわからない でもない。応能負担と言うと、おまえお金をたくさん持っているみたいだから負担しろ!と いう感じになる。 一方、「按分」という表現はなんとなく助け合いのニュアンスが出てくる。ですから、これ まで私が言ってき た「応能負担」の言葉は「報酬按分」という表現に置き換えてもいいです。  そして、昔だったら、老人保健制度の拠出金とか、これは実に名前が悪い。あるいは「分 担金」も実に 名前が悪いの。「支援金」と言うと、少しはいいかな。助け合いという意味があるかなとい う感じになります ね。  私は、将来、5ページに書いてあるようなところでの保険料率が、例えば今回試算してい ただいたように、 65歳以上の高齢者医療制度に要する医療費を報酬按分で割ってしまうと、政管も組合健保 もみんな 3.3%払えばいいというような試算が出たわけですが、これについて、例えば、「高齢者医療 連帯保険料」 というような名前が欲しいなと思うんですね。だいたい、不況のときに再分配の強い制度が できます。アメ リカの年金などは、日本よりも再分配が強いのですけど、そういう制度は、大不況のときに、 持っている人 が持っていない人を助けるよというような仕組としてできるんですね。そういう意味で「高 齢者医療連帯保 険料」というような名前が、将来発想してもらえるように、5ページの最後の方で、「保険 者の財政力に応じ た応能負担による助け合い・連帯の仕組みにすべきである」というぐらいの表現にしていた だければ、私と しては有り難いと思います、というのがまず第1点。  もう一つは、公費をどういうふうに入れるかというところで、例えば4ページだったら、 上の方で、後期高 齢者医療制度と同様の制度とした場合には、「健保組合等の負担は大幅に軽減されるが、国 保の負担は ほとんど軽減されないという課題がある」とか、あるいは、6ページに、今度は、前期高齢 者医療制度に直 接公費を投入する場合には、次のところで「国保よりも健保組合等の負担がより軽減される ことをどのよう に考えるか」というような文章がある。公費を投入するときに、我々は、国保の被保険者、 先ほどの樋口先 生がおっしゃられました低所得者を本当に助けることができるのかというところで、良いと か悪いとかを判 断しているようなんですね。ですから、国保にダイレクトに公費を投入するということの優 先順位は結構高 いという評価が、みんなの中であったというような文言を入れていただければありがたいと 思います。  どうもありがとうございました。以上です。 ○大熊委員 権丈先生と樋口先生の応援演説をしたいと思います。「連帯保険料」という言 い方は、とても 大好きです。私、十数年前から、「国民負担率」ではなく「国民連帯率」という言葉を使う べきであると書い ていたんですけれども、「朝日新聞」で書くと、絶対「読売」も「毎日」も追いかけてくれ ないので流行ってお りませんが。「寝かせきり」は流行ったんですけど、「国民連帯率」はいまだに流行ってはお りませんけれ ども。要するに、福祉の進んだ国が、たくさんの税金を払うことについて、「持っていかれ る」とかいう表現 がしばしば使われますけれども、あれは連帯しているからこそ払うのだろうと思いますので。  それから、樋口先生がいろいろ直してくださった8ページ目の医療サービスのところで、 一か所だけ言葉 をもう少しわかりやすくしていただけたらなと思いました。8ページ目の下から4行目。「退 院が難しい高齢 者の支援」というのだと、何か全然イメージがわかないような気がしますので、例えば「安 心して退院し、 住み慣れた地域に戻れるよう、退院時にあらかじめ利用可能な医療と介護のサービスを提示 することがで きるよう」というような表現はどうかなと思います。これがちょっと安易な形を変えた療養 型をイメージされる と困りますので、住み慣れたところに戻ることができるような、そして、その退院のときに それが言われれ ば、この「朝日新聞」のような悲劇が起こらなくなる。ただ、それはお経のように唱えても だめで、それだけ の資源が存在しないといけませんので、先ほどの樋口先生のような「家庭化」に戻らないよ うに。これは 1979年には、「日本型福祉」という言葉で経済産業省の審議会が提言して、その当時は、「お 嫁さんに頼 る福祉」でしたけど、それが今は「認認介護」「老老介護」に形を変えておりますけれども、 また、臨調の昔 に戻ろうとしていることを反省するべきではないかと思います。  それから、9ページ目の1行目に、「他の医療従事者との役割分担」があるんですが、ど うも、役割を分 担してしまいますと、間に落ちてしまうということがあるので、むしろ、「連携」というよ うな言葉の方が、お 互いに補い合ってよろしいのではないかなと思います。先日、900人ぐらい集まって「日本 在宅医学会」が、 樋口先生も御参加で、あったのですけれども、そこは「多職種連携」というのが全体テーマ でありました。 歯科衛生士さんから栄養士さんから、いろいろな職種の人が一緒にやることによって、お医 者さんが1人 頑張るよりもずっと大きな効果を上げていることが演壇の上で実証されておりました。  以上でございます。 ○山崎委員 5ページですが、下から2つ目のパラグラフの3行目に「それぞれの保険者の 加入者数等に 応じた費用負担としているため」とありますが、この「等」は、医療費水準のことだと理解 してよろしいでしょ うか。 ○吉岡課長 前期高齢者の納付金の仕組みにおきましては、それぞれの保険者の医療費水準 も含まれ ているということで、「等」というものを位置づけております。 ○山崎委員 これはとても大事なことでございまして。前回、私欠席したんですが、当日の 朝、自民党の 医療委員会で発言したペーパーを配っていただいております。念のため、恐らく、プロ同士 で、権丈先生は 当然おわかりのことと思いますが、私、文章を直せとは言いませんけれども、前期高齢者医 療拠出金には 合理的な要素もある。それは老人保険制度と同様に、医療費水準は調整対象外とした上で、 高齢者の加 入率を調整していることで、疾病予防等による高齢者医療費の適正化とか、高齢者雇用の促 進による拠 出金の軽減など、保険者努力に対するインセンティブが確保されている。このことを踏まえ ると、現行の前 期高齢者医療拠出金のこのような合理性を残しつつ、費用者保険の保険者に限定して高齢者 医療拠出 金について、総報酬額に応じた按分負担の要素を組み込むという見直しを行うべきではない かとしており ます。つまり、前期高齢者の医療費のうち、被用者グループが持つべき部分の総額を総報酬 で割って、単 純に定率で負担させては不合理になるということでございます。これは恐らく権丈委員も当 然のこととして 考えておられるものとして、私はこの報告書でいいと思います。それが1点。  それから、先ほど来、多くの方は介護保険の推進者であったと思いますし、大熊委員や樋 口委員は特 にそうであったと思うんですが、今日先ほど、参議院の予算委員会がありまして、当面の社 会保障の問題 についていろいろ意見を述べさせていただきました。その中で、高齢者医療制度、特に後期 高齢者医療 制度の見直しについては、介護保険の教訓に学んでいただきたいと述べました。原稿があり ますので、そ の部分だけ読み上げます。  後期高齢者医療制度は、介護保険と極めて類似している。高齢者と現役世代を区分した高 齢者独立制 度であること。高齢者の一人一人を被保険者として適用し、応分の保険料負担を求めている こと。財源は、 公費と保険料が2分の1ずつであること。今では後期高齢者医療の方は見直しをされたが、 当初の制度 では、保険料は共に原則として年金からの天引きでした。そして、共に地域を基盤とした地 域保険である という点も共通点でありました。違いは、わずかに、65歳と75歳という年齢、市町村と広 域連合という保 険者の単位でしかなく、本質的な違いではないように思います。それにもかかわらず、介護 保険制度の基 本的枠組みについては、超党派の合意があり、これを廃止して、介護保険制度前の元の制度 に戻せとい う声は聞かれません。  一方、高齢者医療制度については、野党4党は、元の老人保健制度に戻すことを主張し、 与野党が激 突しています。なぜ介護保険制度で合意されたことが、後期高齢者医療制度では合意されな いのでしょう か。決定的な違いは、介護保険制度が国民的な広がりを持った市民運動や先進的な地方自治 体の市長 さんたちの運動の盛り上がりの中で生まれたものであること、政治家や厚生労働省の官僚や 地方自治体 の行政官が市民の中に入って、市民と対話をし、市民の声に耳を傾ける中で、地域に根ざし た市民参加 型の制度の創出に結びつけたことであります。  一方、高齢者医療は、今日まで市民不在、特に当事者である高齢者が不在の中で、専ら利 害関係者 の間での議論に終始してきたという問題があります。これが決定的な違いです。高齢者医療 制度の見直 しに当たっては、何よりも当事者である高齢者や地域の医療や福祉の担い手、更には地方自 治体の声に も耳を傾け、地域にしっかり根を張った制度として再構築していただきたいと思います。  以上でございます。 ○宮武委員 2ページの一番下でございますけれども、この検討会そのものの中で、私は、 75歳以上を区 切って独立型の制度にしたことが社会保険の理念に反すると、こう言ってまいりました。た だ、それはやむ を得ないという御意見も当然ながらあるわけで、それは主張の違いだと思います。  そして、更にこの会議では、65歳以上まで対象にしてという案が出ておりますが、それ は私の解釈では、 今の75歳以上の独立型制度を65歳以上に拡大して、巨大な独立型の仕組みをつくれと言 っておられる わけではないというふうに理解をしながら、ずっと論議に参加してきたわけです。もし仮に、 今の75歳以上 を単純に65歳以上に拡大していきますと、それこそ先行きの高齢化を考えると、町や村で は高齢化率が 現状でも40〜50%などという例があり、さらに急速に増えていく。そうすると、市町村の 国民健康保険は、 年齢だけでちょうど2つに分断されるような形の地域保険に陥る。64歳未満の市町村国保 自体が財政的 に破綻しかねない。それはあまりにも乱暴ではないか。議論の今までの脈絡でいけば、年齢 を区切るとき には、都道府県単位の集約の中で75歳なのか、65歳なのかということを論議してきたので はないかなと、 私はそういう解釈をしております。  それと同時に、4ページですが。それでは、65歳以上に拡大したときに、今の後期高齢 者の制度の仕組 みをそのまま65歳から74歳のところに持っていくという議論をしたつもりは私にはあり ません。シミュレー ションで、健保組合の負担は大幅に軽減されるけれども、国保の負担は軽減されないという ことが明確に なったわけですが、現状の仕組みのまま前期高齢者に対して公費を5割投入をすると、どう なるか、いうよ うなシミュレーションをやったわけではあります。しかも、それ以外に公費の負担割合を1 割とか2割とかに していった場合にどんな効果があるのか。そういう細部までは詰められなかったわけで、前 期高齢者に対 しては、いろいろな仕組みが考えられる。  そこまではここでは議論をするに及ばなかったわけでありますけれども、1つ言えること は、健保組合が 今の高齢者医療制度の仕組みの中では、自分の払う支援金なり、あるいは納付金という仕送 り額が、先 行きは自分たちの集める保険料収入の半分を軽く超えていくという、そういう状況にある。 それは、自分が 払った分を仕送りするのはいいけれども、私は半分が限度だと思うんですね。その辺の限界 を一つのポイ ントとして考えた上で、公費の投入はどれぐらいであるべきか。あるいは権丈さんのおっし ゃるように連帯 保険料的な取り方が可能かどうか、これから議論を詰めていかなければいけない点です。一 応申し添え ておきます。特にそれで文言を訂正しろという意味ではございませんので。  以上でございます。 ○岩村委員 今までの議論非常にきれいにまとめていただいて、そして、後期高齢者長寿医 療制度の見 直しを議論していく際の様々な論点、あるいは見方を一方では丁寧に、しかし、他方では非 常に明快に示 していただいたと思っております。そういう意味では、今後の高齢者医療制度の議論にとっ て非常に有益 な取りまとめになったのではないかと私自身は思っているところであります。  若干コメントをさせていただきますと、私のような法学者の場合も法理論で考えたときに どうなるかという のはいろいろあるわけでありますが、理論とか、あるいは理念で例えば高齢者の医療制度を 描くことはで きるのですけれども、実際には、今回のこの後期高齢者医療制度もそうですけれども、現実 に既に制度が 存在してしまっていて、それをどう手直しするかという話になりますので、実際には、多く の人たちの利害 が極めて複雑に絡み合っているというのが実情です。そして、今回の高齢者医療制度の改革 も、私自身 は医療保険部会の委員で関与していましたけれども、結局のところ最終的には、そうした多 くの利害関係 者の微妙な利益のバランスの上にこの議論が行われ、かつ、制度が最終的に出来上がるとい う形になっ ているのですね。そうしますと、勿論、問題があれば手直しをしなければいけないのですが、 その微妙な バランスの上に成り立っているのを手直しするのは意外と難しい話なんですね。他方で、先 ほど川渕先生 がおっしゃったように、非常に急速に進む高齢化の中で、制度をどうやって維持していくか ということは重 要なので、そういう意味では手直しもあんまりのんびりやるわけにはいかないのですけれど も。しかし、あ る日どんとできるかということになると、これは相当強い政治的な力がないと実際には非常 に難しいだろう と。それこそ革命に近いような、あるいはそれこそ選挙で衆参両院を3分の2以上とか、そ ういうような状況 にでもならない限りは、実際上はできないのではないか。そういう意味では当事者、利害関 係者の納得を 得つつ進めていく。ただ、そんなにのんびりはできない、そういう舵取りが今後与党、政府 に求められてく るのかなと思っています。  それと、先ほど、5ページの支援金の話とかということで権丈先生等がおっしゃったんで すが。実は、医 療保険部会で議論を始めたときの最初のころには、厚生労働省当局は連帯保険料ということ を言っていら したんですね。すみません、それは私も反対して結局つぶしてしまったのですが。それはな ぜかと言うと、 理論的に言ったときに、保険料をどう考えるかという問題があって、連帯保険料というのが 非常に説明しに くいことがあり、そういう意味で最終的にタームとして「支援金」という非常にうまいター ムを事務当局に考 えていただいて入ったという経緯があります。ただ、基本的な方向性自体は、私は、5ペー ジに書かれて いる応能負担という考え方で、基本的にはその方向がいいだろうと思いますが、これも結局、 健保組合内 部での今度は利害調整の問題というような非常に難しい問題にぶつかるので、そこは、政府、 及び与党 がどういう形でそこを調整されるかということになるのだろうと思います。  あと2点だけですが、この根幹にあるのは、結局、後期高齢者医療制度の問題ではなくて、 結局、医療 保険制度全体を一体誰が費用を出して負担するのかという話に終局的にはなっているわけ で、そうすると、 こういう高齢化が進んでいる状況の中で、みんな「私は出したくない」と言われると、にっ ちもさっちもいか ないのははっきりしていて、そういう意味では皆さんそれぞれ相応の負担をしましょうと。 それで御納得い ただくということなんだと思うんですね。私がやや懸念したのは、後期高齢者の制度がスタ ートしたときに、 今まで、社会保険で医療をやっていくことについて、みんながその費用を負担しなければい けないというこ とである程度話が進んできたのが、後期高齢者のスタートのところで、ややそれとは違う議 論があったよう な気もしなくもなくて、ちょっとそこは私は懸念をしています。そういう意味で、この医療 の制度を支えていく ことになると、全体で、みんなで負担していかなければいけないことについては、継続的に 理解を求めてい くことが必要だろうと思います。  それから、低所得者の方々の問題は確かにあって、私もたまたま入院関係などが中心です けれども、一 部負担金の不払いの問題について議論をしたことがあって、そこでいろいろ考えさせられた ことがあります が。1つは、一部負担金、その他についても、これは市町村によってばらつきがありますが、 減免が可能 なので、そういう情報の提供がきちんとなされているかどうかということが一つ重要だろう と思います。  それと、もう一つ、ここは非常にやっかいなのは、低所得者の方々の例えば保険料負担の 減免の問題、 あるいは一部負担金の減額の問題というようなことを、社会保険のメカニズムの中でどうい うふうに整合的 に入れていくのかというのは、原理的に考えると結構難しいところがある。所得だけ考えれ ばいいのか、 それとも、例えば金融資産を持っている人の場合はどうなるのかとか、その辺の線引きの問 題は結構あっ て、それを社会保険の中で整合的に取り入れていくのは、議論を整理していかないと、なか なかうまく落 ち着きどころがないような気がします。ただ、いずれにしろ対策を何らかの形できちんと整 理をして対応し なければいけないことではあるので、そこは今後の課題だろうとは思っています。  いずれにしろ、最初に申し上げましたように、今回の取りまとめ自体については、非常に 明快に今後議 論すべき点を取り上げてまとめていただいているので、大変有益なものだと考えています。 以上でございます。 ○権丈委員 5ページに書いてある「保険者の財政力に応じた応能負担」のようなことは、 今後政治的に 非常に難しいということと、健保連の中での調整が非常に難しいのではないかということが 言われていま すので、一言私からもコメントをさせていただきます。  例えばこういう5ページに書いてあるようなことを4、5年前に言っていたら、これは軽 くつぶされていたと 思います。だけど、去年、前期高齢者医療制度という一つの事件が起こるわけです。前期高 齢者医療制 度のせいで保険料率が高くなり、健保組合を解散して政管の方に移るとか、あるいは協会健 保の方に移 るという話に焦点が当たった。そして、私が健保組合の保険料率下位10組合とか、保険料 率上位10組 合というようなデータをお願いしたのは、保険料率に3倍以上の開きがあることを、この検 討会に注目して いる人たちに分かってもらいたかったからです。今まで医療保険の設計の議論をする際に、 この保険料率 格差のことに触れないままだったわけです。そして、ドイツとフランスの被用者保険の医療 保険料率を出し ていただいて、大体14〜15%ぐらいであること、日本よりも高齢化水準が非常に低い国で そういう水準で あるのに、日本のように世界一の高齢化水準を持っている国で、実は3%程度の保険料率し か負担して いないところがある。そういうようなことを、前期高齢者医療制度という事件の中で、表に 出しやすくなって きたんですね。だから、私は、去年2008年の動きは、テニスで言えばファーストボレーみ たいなものだと みているわけで、このファーストボレーがあるから、次のショットを打ちやすくなってくる という側面もあるわ けです。  今まで何十年間も、政治的には非常に高い壁があった。だけどこれまで、今日のフロアー にいるメディ ア関係の人たちを含めて、ほとんどの人が、組合健保の保険料率は最高9.62%、最低3.12% で、3 倍以 上の開きがあり、その差のほとんどが所得と年齢で説明できることや、協会健保の保険料率 が8.2%、組 合健保の平均保険料率が7.308%である一方、ドイツ被用者保険の医療保険料率は14.6%、 フランス 13.85%であることなどの事実を知らなかったと思う。  私は前々回の会議で、これらの事実を国民の常識にしてほしいと話しました。平均給与が 高いほど医 療保険料率が低くなる仕組みの下で、世界一の高齢国家である日本で3%台の医療保険料率 しか負担 していない企業があるという事実を国民の常識にしてほしいとも話をした。そしてこれらの 事実が国民の常 識にまでなれば、今度は、ゲームをするフィールドが少し変わってくると考えておりまして、 医療保険に関 わる利害関係者の力関係に変化が起こり、力の均衡として形成される制度は当然変わるので はないかと 考えております。  医療の再建、あるいは医療の機能強化を図るためには財源調達力の強い医療保険が必要な わけで、 それには低所得層に過重な負担がかからないようにするための改革を、今、しっかりとやっ ておかなけれ ばなりません。改革のカギは、医療保険制度の所得再分配を強化させること、つまり被用者 保険制度の 中での高齢者医療費の負担に応能負担、助け合い・連帯の原理を導入することでして、それ は今や不可 能ではないと思っております。 ○川渕委員 最終回なので、あえて大臣にお聞きしたいのですが、昨年9月の第1回目検討 会のときに 抜本的に見直すということでしたよね。1年かけて議論するとおっしゃったと思うのですけ れども、残念なが らこの3月で終わってしまうのは寂しい限りです。例えば今、宮武委員がおっしゃったよう な細かなシミュレ ーションとかはやってないんですよね。私は、何度も言いましたが、社会保障は白いキャン バスには描け ないと。台湾に行くと、日本を反面教師にして保険一元化をやっているわけですね。国民皆 保険を先に導 入した国としては悲しいなと思うんですけれども。後進性の優位は仕方ありません。そこで、 日本は、今の 制度を改良していくしかないと思うのですけれども、それがどうしてこの3月で終わってし まうのか。長寿医 療制度は今後どうなるのでしょうか。官僚の方には申しわけないけれども、多分何も変わら ないんだなとい う感じがするんですね。そんなことないですかね。どなたが国の高齢者医療制度をよくする ドライバーにな っていくのでしょうか。私は一抹の不安を感じますが、いかがでしょうか。 ○塩川座長 先生方の意見は、この6か月で十分な意見が開陳されておりますから、我々が 議論するの と全く違う高度な技術の開陳がございましたので、非常に効果があったと思っております。 ですから、6か 月を1年やったらもっといい案が出るかと言っても、そうでもないように思います。エッセ ンスは全部出たと 思っておりますので、そこらの点について御了解していただきたいと思っておりますが。  ついては、これで皆さんからいろいろな意見をいただいて、これをまとめましたので、大 体ですが、こんな ことでええやないかというふうなところではないかと思うんですね。そこで、今の御発言も ありましたから、 若干調整するところはあると思いますが、そこらは、事務当局が個々に先生方に当たって、 この表現の問 題等がございますから、お伺いすると思っております。ですから、そういう点について、ま た一層の御協力 をお願いしたいと思っております。  ついては、その総まとめを、最終的なまとめをできましたら、えらい不遜なことですが、 私にお任せしてい ただいたらどうかと思っております。よろしゅうございますか。 (「異議なし」と呼ぶ者あり) ○塩川座長 それでは、そういう手順でやらせていただきたいと思っております。  かえりみますと、川渕先生がおっしゃるように、これで6か月でございます。長いようで 短い期間でござい ましたから、非常に真剣に議論をしていただいて、私も感銘しておるところでございまして。 高齢者医療制 度の見直しという極めて難しい課題に対して、学識経験者としての御意見は十分に承りまし た。今後のこ の制度のあるべき姿についての理論的な整備を十分にいたしたいと思っております。今後も、 引き続き高 齢者医療制度を始め社会保障制度全般について様々な局面において、忌憚のない御意見をい ただきた いと考えております。これまでの御協力を心から感謝申し上げまして、この委員会を終わり たいと思ってお ります。  ありがとうございました。 照会先 保険局高齢者医療課 企画法令係     (代)03−5253−1111(内線)3199