09/03/02 第10回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会第議事録 第10回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会権利 条約研究会議事録 1 日時  平成21年3月2日(月)16:00〜18:00 2 場所  厚生労働省共用第6会議室(2階) 3 議題  主な論点ごとの検討  第3 職場における合理的配慮の提供  第4 権利保護・紛争解決手続 4 資料  資料1 これまでの整理  資料2 論点ごとの検討 ○座長  それでは、第10回の労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関 する研究会を開催いたします。本日は、花井委員がご欠席です。あと、田中委員の代理 として平田さんにお越しいただいています。今回は、前回に続いて、残された論点につ いて、職場における合理的配慮の提供と、権利保護の在り方について、詳しく議論をし ていただきたいと思っております。まず、事務局から説明をお願いいたします。 ○事務局  事務局でございます。それでは、資料1に沿ってご説明をさせていただきたいと思い ます。資料1は、これまでの整理というところで、残された論点、第3の職場における 合理的配慮、それから、第4の権利保護、紛争解決手続きの在り方についての整理を試 みたものでございます。  まず、第3職場における合理的配慮、1合理的配慮の内容についてであります。まず、 合理的配慮の基本的考え方についてのこれまでのご意見についてです。  合理的配慮を使用者の義務と捉えるのか、労働者の権利と捉えるのかについては、民 間企業には経営権や株主への責務もあることから、まずは使用者の義務と捉えるべきで はないかとの意見がありました。また、実際には大がかりな改正となるが、個人の権利 として認めるような仕組みへの転換が必要ではないかとの意見がありました。  次に、これは前回の議論を踏まえたものですが、合理的配慮は差別禁止の構成要素の 1つとしての位置づけだけではなくて、雇用側と障害者側が歩み寄って、障害者の社会 参加を促進するためのアプローチとしても位置づけるべきとの意見がありました。  次に、合理的配慮について、労働者本人の要望を受けて、直ちに提供できるようにす べきではないかとの意見がありました。  また、合理的配慮の立案の仕方についてのご意見ですが、合理的配慮の概念は法律で 定め、その具体的な内容については、実際に配慮するに当たって、どのくらい費用がか かるか、負担がかかるか等を検討し、ある程度時間をかけて、指針で定めるのがよいの ではないかとの意見がありました。  次に、合理的配慮の基本的な内容についてのご意見でございます。合理的配慮の内容 としては、障害の種類や性質ごとに、重点といいますか、特に重要な点というのは異な りますが、大まかに言えば、(1)通訳あるいは介助者等の人的な支援、(2)定期的通院、あ るいは休暇、休憩を認めるといったような医療面での配慮、(3)施設、あるいは設備面で の配慮が必要であるという意見が大勢でした。  障害の種類、性質ごとに特に必要な配慮として、様々なご意見がありましたが、簡単 にまとめますと、1つ目は、視覚障害者、聴覚障害者及び盲ろう者の方にとっては、点 字、拡大文字、補聴システム等の機器、あるいは通訳者、援助者等による情報保障、コ ミュニケーション支援が挙げられるのではないか。それから、内部障害者、あるいは難 病のある人にとっては、定期的な通院を認めていただくなどの配慮、あるいは休憩・休 暇、疾患管理への配慮、それからフレックスタイム等の柔軟な勤務態勢、こういうもの が必要ではないか。それから、知的障害者、あるいは発達障害者にとっては、身近に気 軽に相談できて、または苦情を訴えられるような窓口がある、あるいはそういう支援者、 サポーターがいるということが重要ではないか。精神障害者にとっては、対人関係、コ ミュニケーションが苦手である、あるいは疲れやすい等々の特性がありますので、それ を踏まえて、グループ就労でありますとか、短時間労働等による仕事の確保、あるいは、 そのための職場環境の整備、こういったものが特に必要ではないかとの意見がありまし た。  次に、合理的配慮の中でも、採用試験の際の配慮としての意見がありました。採用試 験の際には、コミュニケーション支援が必要との意見がありました。また、採用基準そ のものを緩和する必要はないが、長時間の試験を避ける、あるいは休憩を間に入れると いった形で、能力を正しく判定できるような環境を整えることこそが合理的配慮ではな いかとの意見がありました。  次に、通勤時の移動支援、あるいは身体介助についてのご意見として、通勤時の移動 支援や身体介助は、企業の合理的配慮というより、むしろ福祉的サービスとして行うべ きではないかとの意見がありました。また、労働災害では、通勤も対象となっていると いうことから、通勤も職務と連動するというふうに捉えて、今後は労働政策として行う べきではないかとの意見がありました。  それから、相談窓口に関してのご意見としましては、障害者が気軽に相談できて、あ るいは苦情を訴えられる、そういう窓口が必要ではないか。現行の障害者職業生活相談 員の機能を見直したり、この相談員の選任義務のない中小企業でも同じように相談ある いは苦情処理の窓口を整備するということも必要ではないかとの意見がありました。  また、この相談に関しては、専門家というよりも、合理的配慮としての適切な変更、 調整を行える、身近にいる支援者、いわゆるナチュラルサポーター、こういう方を育て ていくというか、支援していくことが必要ではないかという意見がありました。  次に、第3の2、過度の負担に関してでございます。過度の負担の基準としては、企 業規模でありますとか、業種、従業員数、環境の特性、あるいはその企業の地域的な文 化・慣習等を参考にして判断すべきではないかとの意見がありました。  また、現行の裁判例、特に長期に療養している、休んでいる方に対する解雇に関する 事例を見ても、企業規模を考慮して判断しており、今後、過度の負担の判断に当たって も、事業規模というものはある程度考慮せざるを得ないのではないかとのご意見があり ました。  この過度の負担については、過度の負担の基準が低い基準で設定されると、合理的配 慮が役に立たなくなるので、配慮をすることが極めて困難な場合に限定した上で、具体 的な指針を定めるべきとの意見がありました。  この過度な負担と公的助成との関係についてのご意見がいくつかありました。現行の 納付金制度に基づく助成金、作業設備の助成金とか職場介助者の助成金がございますが、 こういった助成金は、まさに合理的配慮を具体化したものとなっており、適宜この助成 措置を見直すことによって、合理的配慮を実効あるものにしていくべきとの意見があり ました。  また、フランスのように、納付金制度に基づく助成金を活用して、企業による合理的 配慮に必要な経費をカバーするためには、現行の法定雇用率1.8%では賄えないのではな いかとの意見がありました。  これは、前回の議論を踏まえたものですが、雇用率制度の対象でない事業主も含めて、 全事業主を対象とする場合、その合理的配慮というものを、全事業主を対象とする場合 には、合理的配慮に対する財政支援をどのような形で行えるのかが問題になるとの意見 がありました。  それから、現行の雇用関係の助成金あるいはその他の支援には、一定の期限がありま すけれども、合理的配慮の前提となる仕組みとして、期限のない支援制度を確立すべき との意見がありました。  続きまして、第4の権利保護、紛争解決手続きの在り方についてでございます。  まず、1、外部機関等による紛争解決手続きについてでございます。具体的に差別が あった場合に、個別に訴訟を起こさないと解決しないような仕組みというのは適切では なく、外部の機関に救済や是正、是正勧告のようなものも含めて、是正を求められる仕 組みが必要との意見が大勢でありました。  あるいは、その紛争を処理する委員会というものを国や行政から独立した機関、第三 者機関として新たに設ける必要があるのではないかとの意見がありました。その際、新 たな機関というより、既にある労働審判、あるいは紛争調整委員会、あるいは実現可能 性が比較的ある人権委員会、これはかつての人権擁護法案で規定されていたものであり まずが、この人権委員会等を活用した方がいいのではないかとの意見がありました。  次に、人権擁護法案のように、判定機能だけではなくて、労働法の専門家であります とか、障害者のことが分かる方も入って、調整的な機能を果たすような形が、この紛争 解決手続きとしてはいいのではないかとの意見がありました。  次に、企業内での紛争解決手続きについての意見としましては、紛争といっても、必 ずしも事業主、社長さんが直接差別をするというような場合ではなくて、労働者間の問 題もあるということで、紛争に持ち込まなくても、つまり外部に持ち込まなくても済む ような企業内で、当事者による問題解決を促進するような枠組みも必要ではないかとい う意見が大勢でありました。この論点については、先ほどの合理的配慮の相談窓口との 点と重複する部分もあろうかと思われます。  最後に、第4の2としまして、ガイドラインということで、一体何が差別であるのか、 あるいは何が合理的配慮であるのか、その法律的な基準を示すことが必要との意見が大 勢でありました。また、このような国のガイドラインを作ることによって、個別企業の 中で障害者がサポートを求めていく上でも必要ではないかという意見がございました。  資料の説明は、以上でございます。 ○座長  ありがとうございました。この資料2の説明はいいですか。 ○事務局  資料2につきましては、前回あるいは前々回もお配りした主な論点毎にどんな意見が あったかということを列挙したものに、前回の第9回の意見をいくつか、下線部を付し ているところを追加したというものでございますので、これは適宜ご参照していただけ れば有り難いと思います。 ○座長  ありがとうございました。それでは、これまでの議論を整理していただきましたので、 それを踏まえまして、前回と同じように、たくさんの意見を出していただければと思い ます。いかがでしょうか。前回、こういうことを発言したのに、まとめでは入ってない ぞということでも結構です。どうでしょうか。はい、どうぞ。 ○今井委員  今井です。合理的配慮を使用者の義務とした時に、労働基準法との関係をお聞きした いのです。労働基準法の中に、配慮すべき人として、年少者や妊産婦が書かれています が、同じように、障害のある人という項目を設けて、その中に、合理的配慮の義務を入 れること、つまり、基準法の中に合理的配慮の義務を位置づけるということは、原理的 には可能なのでしょうか。 ○高齢・障害者雇用対策課長  どこで何ができる、できないということについて、どういう判断するかというのは難 しいと思いますから、仮に労働基準法というのが刑罰法規という意味でおっしゃってい るとした場合に、これはある程度罪刑法定主義という考え方で、明確に企業側に何を義 務づけるかが明らかにならなければいけないだろうと思います。その場合に、今ある合 理的配慮の概念で義務づけた場合に、それを検察官が適用できるものかどうかというこ とについては、これはご議論があれば議論をお願いしたいと思いますが、これはなかな か難しいのではないかと、私は個人的には、直感的に思いますが、もし岩村先生から何 かコメントがあればお願いしたいと思います。 ○岩村委員  事務局は答えにくいかなと思っていたので、発言しなければと思っていましたが、労 働基準法の場合は、今、部長がおっしゃったように、結局、これは刑罰法規の体系にな っているので、従って、規定の内容というのは、明確かつ要件等が厳格に定まっている ということが必要になります。もちろん、誰がその規定の対象かということから始めて、 非常に明確性、厳格性が要求されます。さらに、もう1つの問題は、合理的配慮の問題 を労働基準監督官が刑罰という制裁を背景にしてやるというのが適切なアプローチなの かどうかということが、もう1つの問題としてはあるだろうと思います。そこは、結局、 政策判断、価値判断の問題なんですが、直感的には、そっちに持っていってしまうと、 多分動き難くなるだろうというようには思います。やはり、労働時間とか何かでも、結 構事実認定とか何とかということになると、かなり難しい問題もあるわけです。さらに これが合理的配慮というような形になると、法律で要件を書き切れないので、そして、 刑罰法規の場合は、下部の、例えば政省令にその要件を落とすということは基本的にで きません。そんなものですから、全部書き切るというのは、やはりちょっと無理ではな いかという気がいたします。事細かに書かなくてもいいんですけれども、やはりさっき 部長がおっしゃったように、要件を刑罰法規としてできるような形で設定しなければい けないということがあるものですから、その点からも難しくて、そうなると、合理的配 慮の範囲というのは、結局刑罰で制裁するようなものに縮減されてしまうということに なってしまうのではないかという気がいたします。それが、いいんだという考え方もあ るでしょうし、それではやっぱりちょっと本来の考え方とは違うところに行ってしまう のではないかという見方もあるのではないかと思います。 ○座長  今井さん、よろしいですか。 ○今井委員  労働基準監督署が動くと、その命令には企業は従うんですね。こういう法律を作りな さいとか、こういう社内規定を設けなさいというのは。だから、その方が効果的かなと、 思ったものですから。言いたいことは、企業内にある行動を起こさせようと思った時に、 社内規定に具体的に書かれて始めて実行されます。大手企業だとそうだと思いますマニ ュアル化するという会社は全部ではないかも知れませんが。男女雇用機会均等法の時に は、その法に沿って社内規定を見直すという作業がされたと思います。そう考えると合 理的配慮というのは、各会社の規定の中に、どのように入れていったらよいかなと思っ ていたのです。 ○座長  基準法の中にですか。 ○今井委員  はい。それが現実的ならですが。私は法律上の仕組みをよく知っているわけではない ので、他の法でも構わないのです。何故基準法を出したかというと、妊産婦のところの 項目を見ると、具体的内容が明確ではないような項目もあったので、それでも可能なの かなと感じただけなのです。 ○松井委員  今、今井委員がおっしゃったことは分かりますけれども、なかなか例示といっても、 一体具体的に何をイメージするかということを定義した場合に、例えばガイドラインを 作るにしても、そこから落ちこぼれていくものがいっぱい出てきますね。だから、岩村 先生がおっしゃったように、全てを網羅できるわけではないから、一応は大枠を示して、 あとは本当に、後で出てくる紛争処理というか、もちろん紛争処理に行くまでに、社内 で十分そういう話し合いがあって、個別に必要な配慮が出せればいいでしょうけれども、 なかなかそれは期待できないとなると、やっぱり外部に判断を求めて、言うならば、判 例を積み重ねて、こういうものだという形にするしかないのかも知れませんね。 ○高齢・障害者雇用対策部長  今の件で、若干付言したいと思いますが、おそらく合理的配慮をしなければいけない ということを義務づける。あるいは、それに応じて企業が、うちの企業は合理的配慮を しますよと、就業規則に書かせるということが目的であれば、そういう制度を作らなけ ればいけないという書き方がないわけではないと思います。合理的配慮の本質というの は、そうではなくて、合理的配慮をしますよということを企業が制度化するのではなく て、具体的に個々の障害のある方々の個々の状況に応じて、個別具体に、こういうこと をする、ああいうことをするということになってくる。そうすると、こういうこと、あ あいうことということ自体を、法律で明確に義務づけるというのは難しいですし、それ を就業規則に書くというのも難しいのではないか。だから、例えば、この障害のこうい う方については、必ずこういうことをやりますということを、いくつか就業規則に書く ということはあり得るかも知れませんが、いろんな障害のいろんな方々がいて、その方 がどの仕事に就くかも分からない状況の中で、それを義務化していくというのは、相当 難しいような気がします。  それから、先ほど、今井さんの方から妊産婦等の話がありましたけれども、基準法で 妊産婦について書いているのは、産前産後休暇を取らせなければいけないとか、妊娠中 はこういう仕事に就かせてはいけないとか、明確になっている規定だけだろうと思いま す。あとは、均等法なり、育児介護休業法の中で一定の配慮規定はありますけれども、 あれは罰則が付いていない規定になっているということでありますので、やっぱりそこ は、岩村先生からもありましたように、義務の内容を明確に書けない部分を、刑罰法規 にというのはあまり例はないのかなと思います。 ○岩村委員  今の部長の発言に関連してですが、私もちょっと同じイメージといいますか、若干議 論についての違和感がありまして、合理的配慮といった場合に、私のイメージでは、あ る個々の障害者の方について、その方がある仕事をできるようにするために、何か配慮 をする。例えば、その方が、ある職場で仕事をしようとするためには、一番簡単なのは、 身体障害者の方であるとすれば、例えば車椅子の方であれば、車椅子の方が職場にアク セスできるようにするとか、あるいはトイレを整備するとか、化粧室が使えるようにす るとか、というようなことが、多分その人についてということで、合理的配慮というふ うに考えるんだと思うのです。ただ、私の誤解かも知れませんが、今日ご説明いただい ている中で、基本的な考え方としていろんな意見が出ているという中には、個々の労働 者との関係での合理的配慮ということでは必ずしもなくて、例えば、知的障害者なら知 的障害者の方全体についての何か制度的なものをというのを、何か合理的配慮というふ うに見ているような部分も入ってしまっているような気がしています。実は、そこが多 分今後議論を詰めて行くに当たっての大きなポイントで、その個々の労働者との関係で 具体的なケースについて、その仕事を行っていく上で必要な環境整備なり何なりという ようなものを考えるというアプローチで行くのか。それよりも、もっと広くて、例えば、 今、障害者雇用施策の中でやっているいろいろな、いわば知的障害者のための支援の枠 組みとかというものまでも含めて、何か合理的配慮というような形になるのか。それは、 結局、もう1つ言えば、どちらを採るかということが、結局一番出発点である合理的配 慮が、使用者の義務と捉えるのか、権利と捉えるのかというところに、実は結びつくよ うな気がして、さっきもちょっと考えていました。  ある一定の制度なり、何かそういう仕組みを導入しなさいというような話になってく ると、それが合理的配慮の内容なんだということになると、まず、第一に、そもそも権 利だというアプローチというのはかなり難しくなるだろうという気がします。義務だと いうのも、それもなかなか厳しいところが出てくるのかなという気がします。それは、 さらにもう一歩戻ると、要するに、合理的配慮を欠くことというのを、今回の議論の中 で、先ほどの資料2の中でも整理されて出ていましたけれども、直接差別、間接差別な らぬ、もう1つの差別形態というふうに考えるのかどうかという、そこにも最終的には 結びついてくる話だという気がします。ですので、この先まだいろんな議論をしていく のでしょうけれども、合理的配慮というものとして、一体どういうものを具体的に想定 しているのかということを、もうちょっとイメージを明確化するなり、あるいは共有化 を図るなり、ということがちょっと必要なのかなという気がしていました。  私自身は、何となく、例えば、先ほどの例のように、ある障害をもった労働者の方を、 Aという職場からBという職場に配転を命令した。ところが、Bという職場では、その 人がそもそもアクセスできないということで、その労働者が配転命令を拒否した。とい う時、それで懲戒処分なり何なりがあったという時に、それが要するに障害を理由とす る差別になるのかどうか。その時に、まさにそこで合理的配慮の有無ということが、お そらく問題になる。法律問題としては、そういう起き方になるのかなという気がしてい ます。  そこをどう考えるか。そういう捉え方でいいのか。それとも、知的障害者なら知的障 害者の方がいれば、それは知的障害者の方が請求をすると、例えば、サポーターとかと いう方を、要するに企業の側は合理的配慮として置かなければいけないということにな り、そして、そのサポーターを置かないこと自体が、もう既にそれで独立した差別だと いうふうに構成するのか。そういう問題なのかなという気がするんですね。だから、そ の辺をどう考えるのかというのがあります。要するに、そもそも企業でそういう何かサ ポーターというようなものを、具体的な問題が起きる以前からそもそもやらないと、も うそれで差別が成立するということに構成するのかどうかという、その辺の問題になっ ていくのかというような気がします。  例えば、逆に言えば、知的障害者の方について、今まで問題なく就労できていたとこ ろに、何かトラブルが起きた。それでもって、その人を解雇してしまったといった時に、 それはサポーターというのを置くということによって、当然配慮できる問題なので、そ れをせずに解雇したということが、それは差別なんだということになるのか。要するに、 どこで差別の問題というのを捉えるのか。そういう問題になっていくんだと思います。 ちょっと、そこのところの議論が、やや抽象度が高くて分かりにくいかも知れませんけ れども、その辺は少しイメージを考える必要があるかなという気がしています。 ○座長  どうぞ。 ○松井委員  岩村先生がおっしゃったので、なかなか反論しにくいんですけれども、基本的に権利 か義務かということでは、少なくともこの条約からいえば、権利として認められている のではないかというふうに思います。これまでは、福祉の反対給付的な形で様々なサー ビスが提供されてきたわけですが、この条約によって、そういう権利として、働く権利 が与えられて、それに必要な働く条件を配慮するという意味で、合理的配慮があると思 うのです。おそらく、もう1つ難しい問題は、これだけ配慮すれば、期待された能力が 十分発揮し得るのかどうかというところですが、そこは過度の負担の問題と関わってく るのでしょうけれども、それをどう証明できるのかということは、誰がそれをジャッジ ファイするかということも含めて、一番難しい問題ではあると思いますね。 ○座長  先ほど岩村さんが、配置転換をした時の例で、あるいは、今は普通に働いていて、何 か起きた時に対応できなくなった時にというような例で説明されたのですけれども、で も、その配置転換の例でも、今度は採用の時から考えると、結局、同じ議論になってし まうのではないかと思うのですが。 ○岩村委員  実は採用差別をどうするかということの方が、もっと難しくなるんですね。ですから、 ちょっとそこは、とりあえず横に置いておいて、職場に入ってからの話の方がまだ考え やすいので、そういう話をしました。  それから、もう1つは、松井先生のお話しの関係でいうと、権利として設定したとい っても、その権利にはいくつかのレベルがあるんですね。もし法律で書くということを 考えれば、一番徹底した立場であれば、例えばですよ、障害をもった労働者が、その職 務の遂行に必要な合理的配慮を求めた場合には、使用者はこれに応じなければならない。 ただし、その合理的配慮を行うことが過度の負担になる場合は、この限りでない。そう いう条文を書くと言うことがあるんですね。これは、おそらく権利としては、一番徹底 した形態になります。  ただ、そうなると、おそらく、それでもいいんだ、ある意味では権利が充実して発展 していっていいんだという考え方がある。でも、そうなると、多分、今日のもう1つ先 の議論である、紛争処理をどうするのかというところを相当考えないと、ありとあらゆ るこの合理的配慮を巡る紛争が出てくるということになるだろうと思います。しかも、 合理的配慮を欠くこと自体が、直接差別、間接差別とは別のもう1つの差別だというこ とになると、要するに、使用者が拒否したこと自体で差別だということになりますから、 今のような条文を書くと、ものすごい強い効果をもつので、逆に言えば、それだけ非常 に社会的インパクト、影響が大きいということで、それはプラスの意味での影響もある でしょうし、マイナスの意味での影響もあるでしょうということになると思います。だ から、いわば仮に権利というふうに設定したとしても、それはどういうレベルの権利と して考えるのかというのも、もう1つのポイントになるというように思います。 ○松井委員  岩村先生がおっしゃったことは非常に分かるんですけれども、先ほどの、いわゆる差 別の直接差別、間接差別、合理的配慮がそれに入るのかどうか分からないというか、必 ずしも明確には先生は断定されていませんけれども、少なくともその権利条約の中では、 合理的配慮をしないことは差別に当たるということで、差別のカテゴリーの中に含めて いますよね。そこは先生は、別にそういうふうにはお読みにはなっていないんですか。 ○岩村委員  そこは多分、解釈がいろいろあるんだと思います。日本の今までの差別についての議 論というのを前提とすると、多分合理的配慮をしないということは、要するに、障害者 の方を健常者の方と別異に扱う。あるいは、障害者の方を別の障害者の方と別に扱う。 ということについての合理的理由がないというところに、今までの議論だと入るんじゃ ないかと、私はイメージとしてはもっていたんですね。だから、合理的配慮をしないこ とも差別に当たるというのは、結局、いわば直接差別、あるいは間接差別の何れかを構 成する事情として、結局合理的配慮をしないということは、いわば別異の取り扱いをす るということについての、そもそも合理性がないという、そちらに働くことによって、 差別を構成するという読み方もできるのかなという気はちょっとしていました。ここは 国際条約との関係で、日本法がそれに沿った形になっているかどうかということの議論 になります。直接差別、間接差別と、もう1つというのを立てるのか、あるいは、要す るに合理的配慮をしなかった場合には合理性の抗弁は立たない、合理性の主張はできな いという形で、国内法を整備するのかという話になるのかなという気がします。  それで、立法論、政策論としては、先ほども申し上げたように、非常に徹底した立場 を書けば、要するに、それだけでもって差別なんだというふうに考えるという議論も、 当然モデルとしては考えられます。ただ、それが本当に立法政策として妥当かどうかと いうのは、考えなければいけないところだろうと思います。とりわけ、紛争処理との関 係を睨みつつ考えなければいけないし、もっているインパクトの大きさということから すると、後で出てくる過度の配慮、過度の負担の問題とか、そういった、いろいろな企 業側の負担の問題、それから、行政側から行うバックアップなり支援の問題、といった ものも全部含めてそこを議論しないといけない。法律を書いてしまったのはいいけれど、 その後、全然対応ができないというようなことになりかねないかなという気がします。 ○座長  1つだけお断りしておきたいんですが、お二人とも、過度の負担は後でとおっしゃっ ていましたけれども、今でもいいんですけれど。残りもひっくるめて議論したいと思い ますので、気にしないで意見を出していただければと思います。 ○今井委員  岩村先生がおっしゃったことのうち、合理的配慮をどう捉えるかということについて。 私自身は個別具体的な場面で内容が決まるものだと、思っています。つまり、A君のそ の場必要とされること。ですから、一般的な、例えば知的障害者だったらこういうもの をやりましょうとかという話とは、元々違うと考えていました。だからこそ、具体的内 容を法律で決めることが難しい。妊産婦であったら、何日間休みとか、休暇を取らせな ければいけないという、具体的な内容を決められるけれども、そういう性格のものをど うやって法律の中に入れていくか。繰り返しになりますが、合理的配慮とは、個別具体 的な、しかもその場面でどういうことをやるかということなので。  その時に、企業は、配慮を通常の健常者といいますか、労働者に対しては、すでにし ていると思うのです。例えば、溶接工なんかをとってみても、大体、目がしっかりして、 手がきちっと動くというのは、若くないと難しいと言われています。そこで年齢が増す と別の仕事をしてもらうとかですね。あるいは、今、定年が65歳ぐらいまでになると、 やはりそれに応じた職場を用意をしています。つまり、マイノリティーに対してまでは 配慮しないんだけれども、大半の人がそうであるということについては、既に企業は習 慣的にやっているわけです。だから、合理的配慮とは、それを障害者に対してもやるの だというふうに私は理解しています。少数の人のためにわざわざするのかという企業側 の論理もあって、障害についてはそういう対象の外になっていると感じます。 ○松井委員  岩村先生はある意味ではキーパーソンなので、先生は合理的配慮を日本の法律の中で 読み込むことの難しさということを非常に強調されるのは分かりますけれども、先生も よくご存知のように、この権利条約のキーポイントというか、まさにキー概念が合理的 配慮というふうに言われているわけですね。これは別に今回の権利条約で初めて導入さ れたわけではなくて、アメリカにおいても、イギリスにおいても、あるいはEU諸国等 においても、既に実践されています。法体系が違うから、日本の法律とは違うから無理 だということかも分かりませんけれども、別に全く新しく発明されたわけではなくて、 既に実績があります。欧米諸国において実施されていることが、何故日本の法律の中で 導入することが難しいかというところは、そこはもう少し、我々素人に分かりやすく教 えて欲しい。言いたいことは、やはり、これをどうしたらちゃんと日本の法律の中に読 み込めるようにできるのか。そのために、こういうことが必要である。ということをむ しろおっしゃっていただいた方が、我々としても納得がいくと思うのですね。 ○岩村委員  別に私はできないと言っているわけではありません。ただ、私もアメリカとかヨーロ ッパのことについても、法律論としてはそれほど詳しいわけではありませんが、要は、 まさに技術的になるんですけれども、紛争になった時に、その労働者が一体何を主張し、 使用者が一体何を反論するのかという、その組立の問題でもあるんですね。先ほど今井 さんがおっしゃったように、例えば健常者に対しては、aという配慮をすることによっ てある仕事ができるようにしている。しかし、障害者の方については、aという配慮す らしないというのであれば、これはやはり、多分そもそも合理的配慮自体がないので、 従って、健常者とは別異の扱いをしているということになるから、これはもう当然合理 的配慮をするしないとは別のレベルで差別になるということなんですね。 ただ、もう一歩、そこから先の話としては、そういうレベルの話ではなくて、先ほど申 し上げたように、ある特定の措置なり何なりを採りましょう、採りなさいということを、 権利として労働者が請求できる、あるいは義務として使用者にかけるということを考え ていった時に、それをしなかったこと自体が差別だというのは、今まで議論していた差 別ということからすると、やや距離があるのかなと思います。つまり、差別というのは、 あるAというカテゴリーの人と、Bというカテゴリーの人とを、違う取り扱いをすると いうことであり、かつ、その違う取り扱いをするということについて合理性がないとい うことが、通常差別として、おそらく私たちは考えている。そこは、欧米もアメリカも あまり変わらないんだと思うのですね。  そうしますと、例えば、ある障害者に対して合理的配慮をしないということ自体が差 別だということになると、多分、差別ということの概念自体が出発点から変わるという 話なんだと思うんですね。そこが多分、もし突き詰めて議論していくと、事務方が法律 を書くときに非常に苦労することになるのではないか。要するに、差別概念をどう捉え るのか。つまり、多分、今までの差別の概念とは違う考え方を採ることになる。そうい う議論になるのかなと思います。  いや、そうなんだということであれば、それはアメリカでもヨーロッパでもそういう ことですねということであれば、それはそれで行きましょうという結論も、もちろんあ るでしょう。ただ、私は別にできないとか駄目だと言っているわけではなく、ただ、概 念そのものの問題と、差別というのは何かという概念そのものの問題、特に法的な概念 としての差別、法律で書く上での差別というもののかなり根本に関わるところなので、 第三の類型の差別ということなのか。あるいは、どうなのかというのが、ちょっとまだ 私の頭の中ではあまり整理できていないということではあります。 ○座長  私も法律のことはよく分からないんですけれども、例えば、男女差別の場合は、男性 と女性という比較ですよね。今、今井さんがおっしゃられたのは、健常者と障害者の比 較ですよね。それで差別しているかどうか判断しましょうという1つの考え方と、もう 1つは絶対基準を入れてしまう。これになっていなければ、何でもかんでも、とにかく 差別というようにやる考え方の2つあって、今、岩村さんのお話しは、ずっと差別とい う概念は前者でやってきた。今度、合理的配慮という時に、絶対基準をいくつか入れる と、その絶対基準に反していれば差別ということになる。こういうことになってくると、 従来の差別の考え方とも基本的に違うというふうにおっしゃられたのかなと思ったので すが。 ○岩村委員  非常に今分かりやすく説明していただいたんですが、要するに差別といった場合、普 通比較対象があって、あの人と違う、あのグループと違うという、そういう話での議論 として、おそらく少なくとも法律の世界ではそう考えているんではないかと思います。 それを第三の類型の差別だという話になって、合理的配慮を欠くことが差別だというこ とになると、今、座長がまさにおっしゃったように、要するに、あることをしないこと 自体が、比較対象者がいるかどうかとは関係なく、もうそれ自体が差別なんだというこ とになるので、かなり今までの考え方とは違うだろうなという気がします。 ○座長  ただ、片方では、ちょっとそこが何か僕も整理ができていないんですけれども、合理 的配慮というのは、例えば何か配慮すれば健常者と同じぐらいの仕事ができるようにな るじゃないかということですよね。ということは、健常者と比較していることでもある のかも知れないんですよね。 ○岩村委員  だから、そこのところが多分、もう1つの捉え方で、結局、要するに合理的配慮をす れば、健常者の方と障害者の方も同じような仕事ができるのに、障害者の人についてだ けまさにそれを拒否するわけですね。ただ、健常者にはその配慮は必要ないんですが、 しかし障害者の方については、その配慮を拒否する。そうすると、要するに、権利条約 がもっている意味というのは、おそらく、まさに合理的配慮をしないというのは、それ は障害者であることを理由とする差別だというふうに構築しましょうというのが、多分 権利条約のもっている合理的配慮についての一番大きな意味です。そういう意味では、 今までのような比較の問題ではなく、ある合理的配慮をしないということ自体で、それ は障害をもっていることを理由とする差別だというふうに構成します。ただ、それは別 異の差別になるのか。それとも、それはまさに直接差別だというふうに考えて、直接差 別の中に組み込んで考えるのかということでも議論できるところではあるんですね。  だから、障害者の方としては、要するに障害を理由とする差別なんだということで考 えて、合理的配慮をしたかしないかというところで争いになる。企業の側は合理的配慮 をしたと言い、障害者の側からすると、合理的配慮はしていないという話になり、最終 的には、それをどっちが立証責任をもってやるかという、そういうところでのレベルの 話かも知れません。だから、そこは直接差別の中に組み込むという形にしても、あるい は、立証責任をどうするかということによっては、結局第三の類型という形とそれほど 変わらないかも知れない。そこは、かなり技術的ではありますけれども、法律を書く上 での根幹に関わるし、それから、どういう規定を作るかということの根幹にも関わり、 規定を作るためには、やっぱり先ほど挙げたような例の規定を作るとすると、周辺の整 備を相当大がかりにやらないと、規定は作ったけれども動かないということになってし まう。  それと、もう1点、やはり今井委員がおっしゃっていただいて、私もそれならばと思 ったんですが、もし個々の方との関係で合理的配慮というのを考えるんだということに なると、結局、今までの障害者雇用施策、政策の枠組みとは動き方が180度変わるんで すね。つまり、今までは行政がお世話をして、特に企業に対していろいろな助成をする という形で物事を進めるというアプローチがどちらかというと大きかったんですが、権 利条約で、かつ合理的配慮というのは、まさに個別の労働者との関係で問題になるんだ という話になると、結局、個別の労働者がアクションをしない限りは何も動かないとい うことになるんですね。そこが、今までの考え方と180度変わるところなんですね。そ のためには、結局、1つは、要件をどう設定するかということもありますけれども、と にかく個々の障害者の方が権利要求なり何なりをしないことには、この制度というのは 動かないということなんですね。かつ、要するに、どっちにしろその合理的配慮を巡っ てトラブルが起きますから、そこをどこでどういうふうに解決するのか。それが例えば、 障害者の方にとって一番いいトラブルの解決の仕組みというのは何かというのを考える。 実は、今日出ている紛争の解決というところが一番そういう意味では重要なんですね。 ○松井委員  確かに岩村先生がおっしゃるように、ADAはまさに差別禁止一本でやっているわけ ですから、そういう意味では、ADAと同じような形にするとなると180度ですけれど も、ドイツにしても、フランスにしても、この議論の中でも既に出ていましたけれども、 いわゆる雇用率制度と、言うなれば補完関係なんだということで、片方をやったから片 方は要らないということではなくて、当然両方必要だろうということです。  その前に、直接差別か間接差別かというのはちょっと難しいところですけれども、元々 合理的配慮が出てきた背景というのは、結局障害をもった人たちが、この社会の仕組み が障害をもった人たちにとってアクセスシブルではない、インクルーシブてはないとい う、言うならば、社会から排除されてきた。その排除をされないための条件をどういう ふうな形で整備するのか。だから、社会にいかにして言えるかというような観点から、 これは出てきているわけです。そういう意味では、むしろ直接差別ということなんでし ょうか。 ○岩村委員  すみませんが、一言だけつけ加えさせていただくと、私は別に障害者差別の禁止に統 一すべきだというアプローチをとるのではないので、特に過度の負担との関係では、や はり公的な助成なり支援というのを事業主に対して行わない限りは、実際にはうまくい かないし、それは、やっぱりドイツやフランスも現実にやっているわけだし、アメリカ はよく分からないんですが、どうもやっているらしいということで、やっぱりそこの組 み合わせで初めて動く仕組みなのではないかなというふうなイメージはもっています。 ですから、そこは事業主に対する様々な助成というものと差別禁止というのが、いわば 車の両輪みたいな形で回っていくという仕組みにしないと、実際には動かないでしょう。 ただ、事業主に対する助成というのを動かすためには、今までの枠組みで、もちろんそ れが残るとすれば、それは行政の職安を通してのアプローチで行くという部分と、しか し、過度の負担ということが現実に問題になるようなケースというのは、実際には個々 の障害をもった労働者の方がアクションを起こさない限りは動いていかないということ になるので、そういう意味では、今までとは違った形でのアプローチというのを、むし ろこれは考えなければいけないし、障害者団体の方も考えていかないといけない。特に、 その紛争解決ということになると、例えば、知的障害者とか精神障害者の方になると、 そもそも何をどうしていいか、紛争の所在自体が分からないとか、そういう健常者だっ て難しい時があるので、そこのところの、要するに紛争解決のための支援というのをど うするかということ自体から、実はもう少し考えなければいけないという、別な問題が 出てくるということです。 ○松井委員  先生は何回か出ていらっしゃらなかったので、この中の議論としては、今井さんが今 強調されたわけなんですけれども、いきなり紛争解決というか、第三者機関に行くのは、 日本の仕組みからいっても難しい。これは部長からも、いわゆる苦情申し立てを外部の 機関に出してしまうと、おそらくその方は継続してそこで働けないだろうということで、 そうであれば、やっぱり企業の中に、あるいは組織の中に、そういう苦情処理に対応す るなり、あるいは権利擁護をしてくれるような仕組みをもたない限りは、本人が自ら直 接経営者側に直接苦情申し立てをするということは、日本の中では非常に容易ではない。 ですから、そういう企業内の、言うならば苦情処理の窓口は一体何なのか。たまたま障 害者職業生活相談員というような制度もありますので、そういう制度を有効に機能する ような形にどう転換していけるかというようなことも、議論としてはこの中でありまし た。 ○座長  今、岩村さんがおっしゃられたように、個々によってみんな事情が違うんだというこ とを強調すればするほど、個々がきちっと言わない限り、何が問題で、何をすべきか分 からない。その時に、その個人の人が言うのか、あるいは周りの人がサポートするのか、 いろいろありますけれども、とにかく多様性を強調すればするほど、個人が言わないと、 何も始まらないということは、それはそうかなと思いました。  もう1つは、今井さんが言われたように、確かに普通の健常者の社員だっていろいろ 配慮をしているわけですよね。ですから、そういうことからすると、実は障害者に対す る合理的配慮も、配慮の程度の連続性の中にあって、ところが企業の論理からしたら、 当然のことながら、マイノリティーということもあるかも知れませんが、金がかかると かという話もあるわけですよね。そうすると、そこに過度の負担ということが出てきて、 この過度の負担というのは、言い方を換えれば、コストとベネフィットを考えるという ことですよ。そうすると、今度は、コストとベネフィットでどういう線切りをするのか ということなんですよね。だから、その問題も結局合理的配慮の問題を考える時に、一 種のコストとベネフィットの線切り問題というのが非常に大きな問題かなというふうに 思いまして、それは、実は健常者も同じことをやっているということかなと思ったので すが。他にいかがでしょうか。どうぞ。 ○川崎委員  今、先生方の大変難しいお話を聞いていましたけれども、私は精神障害者の家族とい たしまして、今回のこの委員会における合理的配慮を考えた時に、合理的配慮から紛争 解決というようなところではなくて、精神の障害をもちながらいかに雇用ができるか、 ほとんど福祉的就労に甘んじておりますので、いかに雇用の方に結びつけられるか、そ このところの合理的配慮を考えていました。基本的な考え方の2つ目のところなんです けれども、差別禁止の構成要因だけでなく、雇用側と障害者が歩み寄って、障害者の社 会参加を促進するようなアプローチとしての位置づけということを私は大変強く感じて おりまして、その場合に、やはり精神の場合ですと、他の障害の方からも、合理的配慮 の中には人的支援と環境整備と言われておりますけれども、それは個別支援なんですね。 そこのところと過度の負担をどのような形で解決していけるのかが課題と考えておりま す。ですから、これが過度の負担だからといって合理的配慮ができなかったら、それは 紛争になってしまうのかなと。何か単純に、そんな思いで聞いておりました。以上でご ざいます。 ○座長  どうぞ、今井さん。 ○今井委員  配慮が個別具体的なものであるとなると、前もって配慮すべき内容を決めることがで きない。しかし、合理的配慮の義務付けはやりましょう。であると、あり得ると私が思 ったのは、合理的配慮をするための仕組みを何らかの形で義務づけるということは可能 なのではないか。つまり、場を設定する。今だとそういう場がなかなかない。訴えるか、 訴えないというレベルになってしまうと、それは今お話しがあったように、本当の意味 での解決にはならない。紛争解決というよりも、歩み寄るということを実現たらしめる ことを何か法律上の仕組みでできないのかなというふうに思いました。アイディアをい ただけたらありがたいのですが。 ○岩村委員  そこは、要するに、結局のところ、紛争解決という言葉をどう見るかということでも あるんですが、仕組みをどう構築するかということもあります。いわゆる我々法律家的 にいうと、権利紛争というのですけれども、要するに、法律を適用して、白黒で決着を つけるというのではなくて、今おっしゃったように、一種の調整の中で、例えば、こう いう場合については、こういう助成金が使えて、それをやれば、それにプラスアルファ ーでこれぐらい出していただければ、こういうことまでは可能ですよという形で、いわ ば合理的配慮の具体的中身について、話し合いと調整と、それから助言をするというよ うな場を、仕組みとして考えるということは多分十分にあり得るだろうという気がしま す。ただ、おそらく、今までは行政が職安を通じて個々の事業主なりに働きかけて、そ して、こういう助成がありますよとか、という形でやっている。そこに障害者団体の方 が何か絡むことによって、精神障害者の方なら精神障害者の方、知的障害者の方なら知 的障害者の方が入っていくことによって、いわばインフォーマルな形で場が設定されて、 多分、そこで助成をこういうふうに使って、組み合わせてという話になっていく。ただ、 おそらくイメージとしては、ややそれとは結局違ってきて、個々の障害者の方について、 ではどうしますかということになるのでしょう。ここで問題となるのは、採用と、採用 の雇い入れ前の話と、雇い入れ後で、レベルが違ってきてしまうことで、そこがちょっ と難しい。その個々の労働者である障害者の方について、そういう一種の話し合いの場 と、要するに仕組みをどう構築するかというのを支援・アドバイスする場というのを、 何らかの形で、いわば制度的に構築する。だから、ガチガチの紛争解決というのとはち ょっと違った仕組みというのを構築するということは、考えることはできます。ただ、 そうなると、金はどうするかとか、いろいろな話が出てきますが、それはとりあえず考 えなければ、そういうことは十分考えられ得るだろうと思います。 ○今井委員  そう考えた時に、A君ならA君が、私に対してこういうことをしてもらいたい、ある いは、そこまで具体的にはっきり分からないけれども、今のままでは勤務継続が困難だ というような時に、特に発達障害系の人について言えば多くの人は自分のことを第三者 に分かるように説明することそのものに困難性を抱えています。自分と他人との関係と いうことの調整そのものに困難性を抱えるために、自分のことを分かってくれる第三者 に説明をしてもらいたい。つまり、外部機関であるかどうかは別として、自分を説明し てくれる人を必要とすることを制度にビルトインしないといけないと思います。本人が 主張してくださだけでは、配慮を欠くと考えています。 ○大久保委員  前半の議論で相当頭が混乱してしまった感じがしてつらいところですけれども、1点、 まず確認しておきたいのは、権利条約というのはどういうふうに考えたらいいのかとい うことです。さっきの話で、差別の概念とかいろいろあってですね。どういうふうに合 理的配慮も考えた方がいいのかなということになったわけですけれども、重要なのは、 権利条約で障害をいわゆる個人に帰するものではない、つまり環境上の障壁との相互作 用であるというところです。働く権利ということを考えた時、社会的に障壁を取り除く 義務があるんではないか。こういう流れかなと、まずその辺は押さえておきたいという ことがあります。  それから、合理的配慮については、障害者個々人が働く上で必要とする具体的な配慮 ですよね。そこにやはり客観性が必要だということになった時に、先ほどの制度、仕組 みとか、個人と企業という関係の中で、合理的配慮というのはどういうふうに客観的に 分かるのかというと、かなり難しい。これは今思いついただけですけれども、福祉の世 界だったら、ケアマネジメントないしケースマネジメントがあるわけですね。そうする と、こっちの世界は、ボケーショナルマネジメントというのかどうか分からないですけ れども、何かそういう形で、雇用される時に、ひとつのアセスメントではないですけれ ども、そこから何かニーズが拾えて、そういった中で、その提供義務というようなもの がチェックできると仕組みも考えられるかなと思いました。 ○座長  他にいかがでしょうか。 ○岩村委員  紛争解決のところなんですが、いくつか論点を出していただいて、なるほどと思って 読んでいました。おそらくいくつかポイントがあって、書かれていないものがあって、 1つは、アクセスの支援、アクセスのしやすさというのがあるんですね。それは、裁判 所が敷居が高いとかという話ではなくて、要は、それほど手間暇かけずにいけるかとい う話です。ですから、地理的な問題とか、そういったことがあります。  それと、最近は裁判所も大分敷居が低くなっているので、そこまで敷居が高いかなと いうのもちょっと個人的には思います。新しく機関をつくるというのは、今は非常に困 難ですから、既存のものを活用するという方が通りやすいだろうというのはあります。 ただし、既存のものは、ここで挙がっているのは、人権委員会は別とすると、労働審判 とか紛争調整委員会というのは、全部三者構成なんですね。つまり、労働審判だと、裁 判官と労使の審判員ですし、紛争調整委員会も公益と労使です。従って、今ほど、今井 委員とか他の方からも発言があったように、要するに障害者の方の場合は、1つはサポ ートなりが必要であるということと、やはりその障害者の視点から見るというものも必 要です。例えば、合理的配慮の中身を考える時に、やはり知的障害者のことが分かって いる方が入っていないと、多分分からないだろうということがあるので、そういう意味 での組み替えなり何なりということが多分必要になるので、それを含めた実現可能性と いうのを考えないといけません。  それと、紛争調整委員会の難点の1つは、県庁所在地にしかないというのが難点です。 つまり、何かあると県庁所在地まで行かなければならないという問題もあります。だか ら、ちょっとその辺で、さっき言いましたが、アクセスがよいかということとの関係で、 その問題もあるのかなと思います。  もう1つは、紛争解決のイメージというのを、先ほど申し上げたように、もう少しソ フトなものとして、要するに相談、助言というようなレベルのものまで含めて考えた方 がいいのかなということがあります。それと、もう1つは、これは法律論として厳密な 話になってくると、要は、例えば、差別があるとか、合理的配慮を欠くとかということ を、手続きが厳格になればなるほど、実は証拠で証明しなければいけないという、非常 にリジットな面があります。だから、裁判というのは、そういう意味ではリジットにな るので、非常に難しいという部分があります。いや、そこまで厳密に考えないんだとい う考え方もあります。そんな証拠を出してどうこうというところまでやらないというレ ベルで考えるのか。また、もう1つは、そこの手続きの厳格さ、証拠の採否その他の厳 格さというのをどこまで求めるかということがあります。もちろん、最終的には裁判所 に行かざるを得ないというのは当然出てくるんですけれども、それは非常に厳格な手続 きで、ちゃんと証拠もやってということなのですが、その裁判所に行った時の手続きに ついても、一番やっかいなのは、証拠の立証の問題です。最後には、そこでもやっぱり それをどうするかというのが出てくるということになります。そういったことも、実は 紛争解決の制度設計に当たっては、多分考える必要が出てくるのかなというふうに思い ます。 ○座長  他にいかがですか。 ○松井委員  過度の負担の問題ですが、既に岩村先生も指摘されていますし、これにも書いてあり ますけれども、やはり事業主の自助努力で全て対応するということは不可能でしょうか ら、いわゆる助成金なり補助金なりをどの程度充当し得るのかということによって、可 能な範囲がかなり違ってくるのではないか。ですから、そういう意味で、もちろん財源 の問題があるので、しかも今のような、いわゆる一定レベルの、56人なら56人以上の、 将来的には56人以上から徴収するにしても、やはり納付金だけで対応するということ は難しいでしょうから、そこはどういうふうに財源を確保するのかということの議論は、 片方でやっておかないといけないのではないかと思います。  それから、もう1つは、さっき岩村先生がおっしゃった紛争処理の問題ですが、もち ろん最終的には裁判に行かなければいけないにしても、その前の段階で、できるだけそ れは当事者間でできればいいんでしょうけれども、それができないという場合には、ヨ ーロッパでは、例えばフランスにしても、あるいはドイツにしても、行政機関がそうい う調整機能を果たしています。岩村先生は今の紛争調整委員会というか、労働審判制度 は、そのままの形ではもちろん問題に対応できないわけでしょうけれども、しかし、限 定があるにしても、今のところ手っ取り早いのはそれかなということでこの前に議論し ました。しかし、県庁にしかないとなると、もっと身近なところで実効が上がるという か、機能できるようなものとして、先生は何か具体的にイメージされているものはある んでしょうか。 ○岩村委員  すみません。ありません。結局、既存のものはみんな県庁所在地なので、そこがネッ クなんですよね。 ○今井委員  紛争まで行くのが、どのぐらい現れるかというのは、私もなかなか予想ができません が、さほど増えないのではないかと思います。そこまでやるなら、別なところの就職口 を見つけたいというほうに、大半の人はいくんじゃないかなという気がします。紛争に 持ち込むというのはもう切れたという状態ではないか。しかし、そうであっても、紛争 解決手段の仕組みを設けることは要るのだろうと思います。  その時に、紛争解決の機関を新しくつくらなければいけないとは私も思いません。き っと今のものを、さっき先生がおっしゃったように、当事者団体とか障害者のことを代 弁できる人をうまく活用するというようなことをやっていけば、ある役割は果たしてい けるのではないかなと思っています。絶対新設でなければ駄目だというふうには私も思 いません。 ○松井委員  我々の間でも、なかなか合理的配慮を明確には言えないように、ましてや企業関係者 にしても、あるいは一般の社会の人たちにはなかなかその必要性というか、これを本当 に盛り立てて是非サポートしていこうという形には現状ではなりません。だから、そこ はやはり教育というか、企業サイドにこれは大変なことではなくて、こういう工夫をす れば十分やれるという、そこを十分教育することをしない限りは、とんでもないものが できたということになるでしょうから、そこは是非そういう啓発というか、あるいは教 育というか、是非考えていただきたいと思います。 ○大久保委員  紛争解決とか、いろいろそういった仕組みも十分議論しなければいけないですけれど も、やはり最も重要なのは、この権利条約を契機に、この合理的配慮という非常に難し い概念ですけれども、こういうものが現実的に実効性ある形で、障害者の採用、あるい は職場定着、こういったところに少しでも結びついていく。そういうところで、どうい うことを実際に企業側に求めるか。求めなければいけないか。そして、それに対して、 どこまでが過度の負担なのかという問題も出てくるでしょうし、あるいは、公的な助成 ということも出てくるでしょう。そういった具体的な部分を、もうちょっと詰めて、そ の辺から、過度の負担とか、そういったところも見えてくるかも知れないかなという感 じがしています。  これによって、一人でも多くの方が就労というところに結びついていくというか、そ の辺の実効性というか、その辺のところで、いろいろ議論したいという感じがあります。 ○今井委員  今の過度の負担の問題なんですけれども、従来の雇用の体系に合わないということが 雇用側にとって負担になるのではないでしょうか。金銭的では無くて。つまり、社内規 定で従業員との間で約束している体系と合わないんですよ。障害がある人を雇うために、 ものすごく、お金がかかるとか、そういう話ではなくて、ある種、面倒なんですね。だ から、きっと金銭的にものすごく大変なことは、実際には起こらないのではないか。だ から、おっしゃったように、障害がある人を雇うということは、その人に合った配慮を することが当然なんだ。そして、それが雇用主側にとって、その配慮が分からない場合 には、外部の力を借りるサービスがあるんだ。そういう体制を整えれば、まずある段階 までは行くのではないかと私は見ているのです。 ○平田氏(田中委員代理)  まず、合理的配慮ですけれども、過度な負担との関係でということですけれども、先 ほど仕組みをつくるとかご指摘もありましたが、例えば、ちょっと他の制度が非常に気 になっています。例えば、高齢者は高年齢者雇用確保措置ということで、企業に対して 制度を作れと、そういう義務をかけているということで、ただ、そこには罰則はないん ですね。だから、そういうことも参考になるのかなと思います。では、どこまで配慮す べきなのかなというのは、非常に企業との問題で、先ほどコストとベネフィットという ご指揮もありましたけれども、非常に難しいなと思っています。1つ考え方として、経 済的負担が本当に必要なものと、そんなに必要ないというか、制度的措置というんでし ょうか、そういうことも含めて、それによって、当然違ってくるのだろうなというふう に思っています。制度的措置であれば、何か具体的な事例を、もしかしたら知識がない のでできないというのもあると思いますので、それはガイドラインで努めるとか、ばっ と羅列するのがいいのか、それは分かりませんけれども、そういうのがいいのかなと思 います。  あと、負担がかかるものについては、ではどこで線を引くかというのは、非常に難し い。ちょっと答えは今ないんですけれども、今、納付金制度の中では、特別費用という 計算がありますけれども、そこしかアイディアがないんですけれども、何かそういうこ とも参考に考えないといけないのかなということを、率直に思います。それが1つ目で す。  あと2つありまして、2つ目は、紛争処理については、正直知識がないので分からな いんですが、岩村先生もご指摘があったように、どういう仕組みにするにせよ、きちん と機能しなければ意味がないなというふうに思いますし、あと、法律的に、新設するの かどうか、既存のものを使うのかどうかということも含めて、そこはちゃんと考えない といけないと思っております。新しくつくっても、非常にコストがかかって、あまり使 われなかったとか、そういうことだと無駄だろうなと思います。  それから、最後3つ目ですが、前回来、気になっているんですけれども、前回、間接 差別は非常に難しいということを申し上げて、それは男女雇用機会均等法のところでも 概念上は入りましたが、非常に限定的に入ったという中で、今その合理的配慮を欠くと、 その3番目の差別になるということであると、非常に難しいなと思っています。現行の 法体系との関係というんですか、非常に専門的で難しいのかも知れませんけれども、他 のマイノリティーというんでしょうか、女性とか、若者とか、高齢者というところの仕 組みがどうなっているのかというところを、きちっと事務局に整理していただいて、こ の部分はこうやっているというふうに、横を並んで見ないと、日本の法体系、制度の中 に埋め込んでいく時に、ここだけ突出するという考え方もあるんでしょうけれども、現 実的にどの辺なんだろうなというのは、そういう観点でも考えなければならないと思っ ています。  それから、直接差別、間接差別、第3の差別も含めて、私も法律は詳しくないので分 かりませんが、障害者雇用促進法との関係は、補完し合いながらということなのでしょ うけれども、本当に差別を全面的に非常に強い形で禁止するのであれば、そこは納付金 制度との関係というんでしょうか、雇用義務制度との関係というんでしょうか、積極的 にやってくださいというのは、ポジティブアクションみたいな形でやるんでしょうけれ ども、何か納付金を納めなさいというのは、それは入り口のところできちんと平等にし ているんだから、それはなしという考え方をとるべきなのかどうか。ちょっと答えはな いんですけれども、ちょっと素朴に疑問に思いました。何か全体像というんですか、そ ろそろ項目の議論も全部行きわたりますので、既存の日本の仕組みも含めて、そこはち ょっと資料を容易していただきたいなというのが、率直な希望というか、感想です。以 上です。 ○座長  最後のところで何か事務局に宿題が出ました。それはいいんですけれども、何か事務 局として、こういう論点は議論しておいて欲しいとか、あるいは、こんな点は皆さんは どう思うんだというようなことがあったら、お聞きしておいた方がいいと思います。何 かございますか。 ○事務局  事務局でございます。まずは、確認といいますか、今日は前半に非常に難しい議論が 出ていましたが、この合理的配慮というものを個別的に捉えるのか、もう少し、こうい う障害の人はこうだと、包括的といいますか、定型的に捉えるのかという論点に関して は、全体としては、それは非常に個別具体的な概念という捉え方で議論がなされていた のかなと思いますので、そういう理解で整理してよいかということを一応確認をさせて いただきたいと思います。 ○座長  多分、現実は組み合わせではないですか。と思うけど、ただ、個々の事情によって、 これは全部対応が違うということは非常に重要であるという視点は、非常に重要です。 そういう視点は非常に強調されたということだとは思いますが、では、実際には、全く 制度的な対応が必要ないかということでもない。実際には、最適な組み合わせです。 ○平田氏(田中委員代理)  今の事務局からの指摘が、個別的に捉えるというのは、それは障害がいろいろあると 思いますので、皆さんそれぞれ専門的にというところなんでしょうけれども、そういう ふうに捉えれば、当然にその対応というのは、岩村先生がおっしゃったように、本当に 採用まで考えれば、どこまで配慮するのかということはあると思いますので、そこの組 み合わせでちゃんと考えていかなければならないというふうには思います。 ○座長  どうぞ。事務局、何かありましたら。 ○高齢・障害者雇用対策部長  では、まだ若干時間がありますので、今日のテーマの紛争解決手法との絡みでもある のですけれども、それぞれ合理的配慮をする場合に、ある程度、こういう障害の方には 概ねこういうものというのは、ある程度出てくるだろうし、そうは言っても、人によっ てそれぞれ違う部分について、あるいは、その職務との関係でというのについては、あ る程度、最後は個別に判断をしなければいけない。そこはそうだと思います。ただ、ど ういう配慮をするかということについては、ある程度、最初から紛争だということには どうもならないのではないか。むしろ、ある程度、サジェスチョンするような形を含め て、これは企業内だけではいいアイディアがなければ、外側からある程度ノウハウを提 供をしながらというのは、そこの部分については、最初からそんなに争いが山ほど出る ような形にならない制度設計の方がいいのかなと思っています。ただ、一方で、いわゆ る本当の差別事案というのはちょっと変ですが、どういう配慮をするかしないかではな くて、うちの企業は障害をもっているから絶対雇いませんとか、そうではないにしても、 障害をもっている方は正社員にはしませんとか、いろんな事例があるのではないか。そ うすると、そういうものについては、ある程度、調整的な手続きではなくて、判定的な 手法も組み合わせていかないと、うまくいかないのかなと思っています。今までの議論 は、どういう配慮をするかという方に流れているんですが、そうではない、いわゆる差 別事案というみたいなものもあるということを前提にした場合に、紛争解決を含めてで すが、もう少しどういうスキームがいいのかということ。それから、更に言うと、差別 といった場合に、障害者はみんな嘱託だとか、期間採用だみたいな流れというのは、ど う思われているか。そういったことを含めて、もう少しご意見をいただいておければな と思います。 ○座長  はい、どうぞ。 ○今井委員  大変重要なご指摘だと思います。企業が何故嘱託という形式を多く採るかというのは、、 最も契約条件に自由度があるからなのではないでしょうか。逆に言うと、普通の正社員 の制度は、入社してから大体何年で係長だとか、非常にがちっとしていて、極めてある 標準パターンが強いんですね。そういう中で、ある意味で、本人に合わせたことをやろ うと思うと、嘱託という雇用形態が便利だとなっているのではないでしょうか。しかし、 それは、あまりにも極端です。男女共同参画の時もそうでしたけれども、やっぱりきち っと正社員側のルールに規として、障害者についても構えるということを、法律的にも 後押しするということが必要だろうと思います。  そこで、先ほどの過度の負担問題について、それが理由で障害者雇用が進まないとは 思えないのです。私自身は雇用してもそんなに過度の負担にはならないだろうと思いま す。というのは、何故かというと、給与の減額を実際には嘱託でやっているんですね。 それはよくお分かりだと思うんですが、普通であれば、このぐらいなんだけれども、大 体3分の1とか、そうなっているんですよ。つまり、企業側は負担を軽減している。し かし、その構え方として、嘱託ばかりだというようなことや、給与の水準は、やはり明 らかにおかしい。嘱託というような形ではなく、正社員の制度の中に包含させることが 重要ではないかと私は思います。 ○松井委員  今度の権利条約の中では、あらゆる事項というか、これには言うなれば職業生活全て のキャリアを考えているわけですが、そういう意味で、そこをどうフォローできるのか。 例えば雇用率制度であれば、どれぐらい足りないかということであるとか、給料のレベ ルは職安に報告するので分かるでしょうけれども、でも、本当にちゃんとした機会が与 えられているのか。あるいは、キャリアプランがちゃんとされているのか。あるいは労 働条件も含めてどうなのか。やはり、そのようなことをチェックするような仕組みをつ くらない限りは、なかなかこの精神には合わない。さっき部長がおっしゃったように、 そこを含めて、この仕組み作りを検討すべきだと思います。 ○座長  今、おっしゃられた中で、キャリアプランがどうなっているかというのは、正社員に もないんですけど。つまり、ここで、先ほどの岩村さんの意見に戻るんですけれども、 つまり、正社員と比較して、キャリアプランが非常に手を抜かれているという話だと非 常に分かりやすい。でも、キャリアプランだけの例でいえば、別に正社員にもないし、 何となくやっているという感じです。今井さんに怒られそうですけど、僕は、日本の人 事は今井さんがおっしゃられているように、多様な人を入れにくい仕組みになっていま す。そこは今、非常に問われています。今、賃金が3分の1という話がありましたけれ ども、そうすると、正社員には無理ですよね。あるいは、もっと分かりやすいのは、短 時間で働きたいというと、もう無理ですよね。だから、そこら辺の人事管理の多様性を もたせて、柔軟性をもたせるにはどうしたらいいかというのは、今非常に大きく問われ ています。別に障害者の方の雇用だけの問題ではないんですね。ですから、そういう問 題はあるかなといふふうに思います。 ○今井委員  さっき平田さんがおっしゃったのは、障害者雇用と似たケースとして、高齢の方とか、 妊産婦の問題とか、一定の配慮をすることを構えているから、そういう意味でおっしゃ ったのだろうと思いました。 ○平田氏(田中委員代理)  高齢者もやはり嘱託みたいな形が多くて、では、それはどう捉えるんだろうとか、そ こは難しいなと思います。労働条件が低かったりとかですね。そういう実態も確かに出 ていますので、全体としてはそういうことなんだろうというのは思います。 ○岩村委員  さっき部長がおっしゃっていた、直接差別事例などの場合の、その判定機能をどうす るかというのは、なかなか難しくて、私もそうですし、今野座長も経験があるので、労 働委員会が判定機能をもっているわけです。あんまり関係者がそんなことを言ってはい けないんだけれども、では、うまく動いているかというと、それはいろいろな問題があ って、あまり胸を張って、ちゃんと動いていると言える状態ではありません。それはい ろんな原因があるので、そう単純ではないのですが、行政機関タイプの判定機能をもた せたものを考えるのかというのは、かなり考えなくてはいけなくて、下手をすると、行 政タイプのところでやって、うまくいかなくて、結局また裁判所にもっていってという ことになる。だから、二重の手続きをやるようになってしまうという可能性がある。た だ、今、裁判所も手続き自体、判決が出るまでは非常に早くなっていますので、余程の 複雑な事件でない限りは早くなっていますので、昔、労働委員会について議論してきた ような状況とはちょっと変わってはいますが、何れにしろ、そこの問題があります。そ うすると、仮に行政機関タイプ、例えば紛争調整委員会に判定機能を持たせるというよ うなことをもし考えるのであれば、相当その紛争調整委員会における手続き自体が早く 終わるというような構築にしないと、救済の実効性が図れない可能性が大きくなってし まう。そういう点で非常に工夫してあるのは、労働審判で、これは3回で終わります。 大体標準的には、3カ月でやってしまいます。ただ、実態で話しを聞くと、相当強引と いうか、それはまた語弊があるので怒られるのですが、相当強力に手続きをやってしま うみたいですね。最終的に駄目だということになれば、あとは裁判でやって頂戴という 割り切りなので、そこのところをどう組み立てるかというのが一番大きなポイントにな るのかなと思います。あと、ちょっと申し上げますと、一番やっかいなのが採用だと言 ったのは、結局何故かというと、採用について差別があったという時に、その救済をど うするかというのが一番厄介です。つまり、採用命令を出すのか、それとも、それはも う採用まではやらないで、損害賠償なり何なりで、金銭的な解決に留めるのかという、 そこの選択の問題があります。  それと、もう1つは、最高裁は採用の自由を金科玉条の如く考えていますので、採用 を違法にする、従って、採用命令を出す、損害賠償だというふうに、はっきりと効果を 持たせるのであれば、相当明確な規定を書かないと、最高裁は乗ってこないという可能 性があります。そういう意味では、採用についてはかなり難しい問題がある。それだけ に、こんなことをあんまり言ってはいけないのかも知れないけれども、企業側もおそら く採用のところになると、相当強く抵抗する可能性はあるかなという気がします。これ は男女雇用均等法の時でもやはりそうですから、そこが一番難しいかなと思っています。 それも含めて、実は判定機能を持たせる場合にどうするかということを考えなくてはい けないということになります。 ○座長  判定機能のところもありますけれども、一番ちゃんとしたいのは調整機能のところと いう感じですかね。調整機能というのは、半分指導機能みたいなところもありますから ね。 ○今井委員  通常、職場での調整機能は一般労働者の場合、会社によって名前は違うと思いますが、 毎月、労使が参加して確か労働安全衛生法で決められた委員会をやって、その中でいろ んな問題を話し合っています。しかし、マイノリティーである障害者の職場での問題を 話し合う場はありません。そこで、何かそれに似たような仕掛けを制度化できないでし ょうか。大きな溝ができる前に、雇用側も、障害者も、互いの困り感を出せる場を設定 し、時には、それに代弁してくれる社内もしくは外部の人が参加できるというようなこ とができないかなと思います。 ○座長  他にいかがですか。 ○今井委員  採用の方は確かに難しいと思います。採用時の差別というのは、実態的な差別と形式 的な差別とが、なかなかその区別がつきにくくて、そこはやっぱり前にも議論がありま したように、雇用割当制とかというのをきちっとやっていかないと、配慮の義務化や差 別禁止ということだけでやっても、なかなか実効は上がらないと思います。 ○松井委員  さっき今井さんが3割ぐらい引いてという話をされましたけれども、それは障害をも った人は全てそういう形にされているんですか。 ○今井委員  語解があってはいけません。採用した後、明らかに障害があるということが出た場合 に、企業側は何をやっているかというと、昇進を遅らせているのです。だから、既に調 整しているのですよ。それが、適正かどうかは別ですよ。何とか雇用を続けたいという ところは、妥協点を見いだす作業をやるわけですね。正社員の規定内の、どこでアジャ ストできるかというのは非常に悩ましいんだけれども、そうやって、何とか雇用継続し ているということです。更にその外に嘱託があります。規定外の給与を決められるとい うことで、3分の1が先にあるわけではありません。全部がそうだというわけでもあり ません。全て個別ですが、個別の対応は嘱託という制度のほうがやりやすいと考える会 社もあるのではないかという意味でした。 ○座長  他にいかがですか。そろそろ時間も近づいたし、いいかなという感じなんですけれど も、発言されていない方がいらっしゃいますので、もしよろしければどうぞ。事務局は よろしいですか。 ○岩村委員  前半でしゃべり過ぎたので自粛していたのですが、1点だけです。合理的配慮の過度 の負担との関係で、事業主に対する助成をどうするかという話の財源について、もしそ れを納付金制度というようなことで事業主の負担を考えるということになると、多分、 今の納付金制度の論理では説明できなくなるので、そこは制度設計を含めて基本的な考 え方を再度整理しなくてはいけないということになると思います。 ○座長  他にいかがでしょうか。 ○今井委員  その負担の1つだと思うのですが、イギリスの例を見ると、その人にあった雇用上の 配慮を知るために外部の機関を利用できます。その費用は公的な費用を使える。そうい う費用は発生するだろうけど、それはものすごく過大なものにはならないだろうと思い ます。 ○座長  ちょっと蛇足なんですけど、先ほどもフランスの例が出ましたけれども、フランスは ちょっと日本とは違っていて、私の知っているのは教育訓練なんですが、教育訓練費用 はかなり税金として取るんです。総賃金の2%以上取るんです。それを取って、その会 社が行った企業教育のお金を全部還元をする。ですから、先ほどのお話しを聞いて、障 害者でもそれに近い形でやっているのかなと思いますけれども、そうすると、かなり高 いですよね。教育訓練で、多分トータルすると5%ぐらい取っているんじゃないかと思 います。そうすると、岩村さんが言われたように、今の納付金制度とは全く考え方が違 う仕組みになってくるだろうというふうに思います。  それでは、今日は大変熱心なご議論をしていただきました。最初、僕は心配していた んですけど、どうやって時間をつぶそうかと。大変熱心な議論をしていただきまして、 ありがとうございました。それでは、今日の議論は事務局でまたもう1度整理をしても らって、今後の議論に繋げていきたいと思います。それでは、次回の日程等について、 事務局からお願いします。 ○事務局  事務局でございます。次回第11回ですが、前回と今回のご議論を踏まえて、中間的 な整理、とりまとめを行いたいと考えております。次回の日程と場所については未定で ございますので、速やかに確定の上、後日改めてご連絡をいたします。 ○座長  それでは、今日は終わります。ありがとうございました。 【照会先】   厚生労働省職業安定局   高齢・障害者雇用対策部 障害者雇用対策課   電話 03−5253−1111(内線5855)