09/02/18 第1回企業年金政策研究会議事録         第1回企業年金政策研究会議事録          日時 平成21年2月18日(水)          13:30〜          場所 はあといん乃木坂6階 ソレイユ ○西村企業年金国民年金基金課長 定刻には少し早いのですが、皆さまお揃いですので、 第1回「企業年金政策研究会」をはじめさせていただきます。私は厚生労働省企業年金 国民年金基金課長の西村でございます。当研究会の事務局でございます。どうぞよろし くお願いいたします。  本日は資料1としまして、「企業年金政策研究会開催要綱」がございます。これまで企業 年金研究会において、「企業年金制度の施行状況の検証」をしていただいていたところでご ざいますが、今般これを改組いたしまして、装いも新たに企業年金政策研究会ということ で研究を進めていただくことで、発足をさせていただいたところでございます。進め方な どについては後ほど、ご相談をさせていただきたいと思います。  メンバーについては、企業年金研究会のメンバーに、新たに研究者4名の方に加わって いただいております。時間の関係上ご紹介はこの名簿の頁をもって代えさせていただきま す。なお本日は嵩先生がご都合により欠席になっております。本研究会は、中長期的な企 業年金の姿について広範な視野で研究していくということで、当面、主に委員の先生方を 中心に御報告していただき、いろいろと勉強していくという形式で始めさせていただけれ ばと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。  座長は、企業年金研究会のときにも座長を勤めていただきました、上智大学の森戸先生 にお願いをいたします。以下の進行を森戸先生、よろしくお願いいたします。 ○森戸座長 森戸でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  早速ですが、本日は議論の初めとして、まず公的年金と企業年金の役割分担について、3 名の方にご報告いただいて、そのあと今後の研究会の進め方などについて御相談したいと 考えております。  最初に有識者として、日本年金数理人会副理事長、三菱UFJ信託銀行専門顧問でいらっ しゃいます、佐野邦明氏をお招きしております。諸外国の年金制度における役割分担を中 心にご説明いただくことになっております。佐野さん、どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐野 ご紹介いただきました佐野でございます。本日はお招きいただきまして誠にあり がとうございます。私のほうから諸外国の年金制度について、簡単にご紹介をさせていた だきたいと思います。  主に、ヨーロッパの企業年金制度と公的年金制度がどのようなものかという点について、 ドイツ、フランス、スウェーデン、オランダ、イギリスの5ヶ国の状況を説明させていた だきます。  個別の国の状況をお話する前に、資料2頁に記載した3-PILLARの原則を紹介いたします。 本日ご説明する5ヶ国に共通する要素として、公的年金、企業(職域)年金、自助努力の 三本柱で老後の所得を賄う3-PILLARの原則があります。ただし、国によってどの柱の比重 が高いのかは異なっており、企業年金と位置づけられていても、公的年金とほとんど同等 と思われる企業年金もあれば、任意で実施される企業年金もあるという状況です。  三本柱の役割の大きさを示したものが資料3頁です。公的年金のウエイトが高いのが、 ドイツとスウェーデンです。企業年金については公的年金の補完の役割であり比重はそれ ほど高くありません。フランスの場合でも公的年金と企業年金がありますが、企業年金制 度は強制適用であり実質的には公的年金であるという見方もあります。オランダでは、公 的年金は定額給付で比重が低く、法的に強制されていませんが、実質的に強制適用に近い 職域年金が存在し、その適用率は95%以上になっています。イギリスの場合、企業年金の 実施は任意で、老後の所得確保が充分かどうかという指摘があり、強制適用の拠出建年金 制度を導入してはどうかという議論が今起きています。  次に各国の状況を簡単にご紹介させていただきます。  ドイツでは資料4頁のとおり、公的年金、企業年金、自助努力の三本柱で老後の所得を 保障する仕組みです。特徴は、公的年金のウエイトが高いという点です。平均的な高齢者 は収入の8割程度を公的年金に依存している状況です。資料5頁のとおり、公的年金の給 付水準は45年加入で平均手取り所得の70%です。ただし、2010年から給付水準を段階的 に引き下げて2030年には、67%程度の水準とすることになっています。企業年金のウエイ トが低いと申し上げましたが、老後の収入に占める企業年金からの収入は5%程度です。 また、公的年金の給付水準の引き下げを補う目的で任意の個人年金(リースター年金)と いうものが導入されました。  資料6頁にドイツにおける年金改革の状況をまとめています。2001年の改革では、日本 と同様に少子高齢化が進展していることを踏まえて、公的年金制度に大きく依存している 状態からの脱却がテーマになっていました。この改革で公的年金の所得代替率の段階的な 引き下げが決定され、あわせてその補完としての個人年金(リースター年金)が導入され ました。続いて2004年の改革では、公的年金のスライド部分に対する持続可能性要素を導 入しリースター年金と同様な仕組みの自営業者を対象にしたリューリップ年金の導入が実 現しました。2007年の改革では、支給開始年齢を現在の65歳から段階的に67歳まで引き 上げることが決定されました。  次にフランスの状況ですが、資料7頁に図示したとおり、企業(職域)年金としては強 制適用の補足制度があります。民間被用者には公的年金と企業年金を合わせて、退職時給 与の75%程度を支給するのが目標となっています。見方によっては、補足制度は、実質的 には公的年金のような位置づけですので、補足制度を公的年金と分類をしている資料もあ ります。各制度の特徴を資料8頁にまとめてあります。民間被用者は、一般制度、補足制 度、任意の追加補足制度の対象となります。  改革の状況ですが、2003年の年金改革法で満額年金獲得までの拠出期間が40年から 41.75年の2020年までの間に段階的に延長することが決定しています。また、フランスの 場合、年金の支給開始年齢は60歳と若い年齢から支給されます。その理由は、失業率が高 かった時期に、高齢者の引退を促し、若年齢層の雇用を促進するために支給開始年齢を60 歳に引き下げたということです。この年金改革では、公的年金制度の財政事情から60歳前 の早期退職を抑制し、60歳から65歳は年金と賃金を併給し、65歳以降は就労期間に応じ て年金額を加算する、という長期間の就労を促進する施策を打ち出しました。また、積立 方式による私的年金が導入されました。なお、補足年金の財政方式は賦課方式で積立金は 保有していないのも特徴といえると思います。  今後の課題として、2003年年金改革法で改革が図られましたが、高齢者の雇用をどう促 進していくのかという点、公的セクターを優遇している官民格差の解消などが挙げられて います。  スウェーデンでは、資料10頁のとおり、1999年に公的年金の大改革が行なわれ、最低 保証付の概念上の拠出建制度が採用されました。ホワイトカラーとブルーカラーの職域年 金が分かれており、ブルーカラーの年金はもともと拠出建制度でしたが、ホワイトカラー の年金も2007年1月から拠出建制度に変わっています。具体的には、1978年以降に誕生 した人が拠出建制度の対象者となります。公的年金制度と変更前のホワイトカラーの制度 をあわせて退職時所得の70%程度を給付目標としていたようです。ブルーカラーの職域年 金制度は保険料を全額事業主が負担する拠出建制度です。  資料11頁にそれぞれの制度概要を簡単にまとめています。公的年金の保険料18.5%は 16%部分と2.5%部分に分かれます。16%部分は概念上の拠出建制度が適用され、賃金指 数で再評価されます。2.5%部分は個人が運用する拠出建制度です。  資料の12頁に改革の状況を簡単にまとめました。先ほども触れたとおり、1999年に公 的年金制度の大改革が行なわれ、さらに2007年1月からはホライトカラーの職域年金も拠 出建に切り替えられています。  資料13頁にオランダの状況について簡単にまとめてあります。公的年金は定額の基礎年 金(一般老齢年金)です。基礎年金の水準は労働者の平均賃金の50%程度で、職域年金と 合わせて退職時所得の70%程度の給付水準を確保するのが目標です。資料14頁に基礎年 金と職域年金についてまとめさせていただいております。職域年金で特徴的なのは、給付 建制度が主体の国である点です。統計によりますと給付建制度が82%、拠出建制度が8%、 ハイブリッドプラン(給付建制度と拠出建制度の併用)が10%となっています。積立水準 が厳格な財務規制のため極めて高いことも特徴です。2007年末の平均の積立水準は、発生 済債務に対して144%となっており、2008年9月末では121%になっています。  資料15頁に改革の概要をまとめています。2007年1月から新年金法に基づいて制度が 運営されています。新年金法の最大の特徴は、積立基準を厳格化したことです。通常は、 我が国でもそうですが、発生済債務を積立目標としますが、オランダの場合はさらに、ソ ルベンシー・マージン(支払い余力)を確保するという年金制度に対する財務規制があり ます。1年後に97.5%以上の確率で発生済債務に対して105%以上の積立水準を確保する という要件があるため、高い積立水準を維持する必要があります。細部で違いはあります が、これは保険会社とほぼ同様の財務規制です。  最後にイギリスですが、資料16頁のとおり、複雑な制度体系になっていて、かつ、毎年 のように年金制度の改正があり、分かりにくい状態になっております。公的年金は基礎年 金と付加年金(国家第2年金)の二階建てです。基礎年金は定額制で全国民に適用され、 付加年金は一定の基準を満たす職域年金のない企業の従業員に対する公的支援という位置 づけです。職域年金を実施している企業は付加年金の適用対象外(適用除外)となります。 しかし、職域年金の適用率が非常に低く老後の所得が不十分になることが懸念され、2012 年から個人勘定(Personal Accounts)を導入しようとしています。個人勘定は従業員が自 動加入する強制適用の拠出建制度です。  資料17頁のとおり、公的年金の水準は付加年金を含めても平均給与の48%程度と低い 水準です。基礎年金の水準は労働者の平均賃金の20%程度です。職域年金の問題点は、加 入率が低下をしていることです。1991年には民間の被用者のうち40%が職域年金の適用者 でしたが、2005年では25%まで低下しています。これは老後の収入が公的年金水準のみで、 平均給与の48%程度の民間被用者が75%もいるということです。これでは不十分であると いうことで個人勘定の創設の契機になりました。  資料18頁に改革の状況をまとめております。先ほど申し上げましたが、毎年のように年 金改革があります。まず2004年年金法のポイントは、年金保護基金(支払保障制度)の創 設、年金監督機関の強化、積立基準の変更の3つです。2007年年金法では、公的年金の支 給開始年齢の段階的な68歳までの引き上げ 拠出建制度への加入による付加年金の適用 除外の廃止、が主要なポイントです。2008年年金法では2007年年金法をフォローする改 正が行われ、拠出建制度による付加年金の適用除外を2012年から廃止し、あわせて強制加 入の拠出建制度である個人勘定を創設するための細目を定めています。  各国の類似点と相違点を資料19頁にまとめてあります。共通している部分は公的年金と 企業年金の合計で退職時の収入の一定割合を保障することを目標とする点です。目標とす る水準は国により差があるようですが、公的年金と企業年金との合計で保障するという概 念が定着しているというのが類似点です。また、ヨーロッパ各国とも公的年金のスリム化 (支給開始年齢の引き上げなど)が日本と同様に図られている点も共通しています。さら に、企業年金あるいは個人の積立を優遇することによって、所得保障を充実させようとす る方向性も共通点です。  相違点は公的年金のウエイトです。ドイツとスウェーデンは公的年金のウエイトが高く、 企業年金の役割は限定的です。フランス、オランダ、イギリスでは公的年金のウエイトが ドイツ、スウェーデンほどは高くありません。フランスの補足制度を公的年金と見なすと、 フランスは公的年金制度のウエイトが高い方に分類されますが、職域年金と見なすと低い 方に分類されます。企業年金の実施が強制か任意かという点も相違しています。任意であ るのがイギリスとドイツで、実質的に強制されているのがスウェーデンとオランダ、法的 に強制されているのがフランスということになります。企業年金の実施が任意のイギリス とドイツでは適用率は低く、強制または実質的に強制されているスウェーデン、オランダ、 フランスは適用率が高くなっています。イギリスの適用率は、民間被用者の25%程度とい われています。ドイツも最近は少し上がっているようですが、2004年のデータでは民間被 用者の46%がカバーされている状況です。以上で報告を終わらせていただきます。 ○森戸座長 ありがとうございました。ただいまの御説明に関して皆様から御質問、御意 見をいただきたいと思います。佐野さんは、時間の関係で2時10分ぐらいには必ず出なけ ればいけないということですので、御質問ある方はお早めにいただきたいと思います。で は、藤井委員どうぞ。 ○藤井委員 お聞きしていて気になった点が2つあります。フランスの制度は私的、公的、 どちらともとれるということだったと思いますが、これは確かに公的か私的かの定義の仕 方次第だと思います。もう1つは社会という言い方があって、ソーシャルセキュリティと いう場合、それはパブリックかプライベートかという問題もあると思うのですが、それは 国によってかなり異なると思います。ソーシャルセキュリティをパブリックで担っている 場合と、プライベートで担っている場合があって、ソーシャルといっても、必ずしもパブ リックではないということだと思うのです。現実に、フランスの方と話をすると、どなた に聞いても、フランスの賦課年金というのは私的な年金であると断言されます。彼らがど う思っているかというと、とにかく制度の運営やその確保というか、責任を政府が担って いない。あり方については、注文をつける場合はあるが、最終的に、その担うとか保障す るとか面倒を見るという位置付けにないから、明らかにプライベートであると。  だから研究上、どう分類するかという問題と、その国の人がどう思っているかという視 点があるのかなと1つ思いました。  それから英国の場合ですが、これは強制加入という分類方法もあるかもしれませんが、 彼らがどう思っているかというと、自動加入です。なぜかというと、拒否ができるからと いうことで、強制と自動は全く別ものだと理解していると思います。これはほとんどの国 がたぶんそうだと思います。もちろんオランダのように、実質強制となっていて、個人単 位での拒否ができないという場合には、その意味で強制かなと思います。自動と強制は、 たぶん全く別ものと彼らもそう思っているし、研究上の分類としてもそういう分類がよい のかなという気がしました。 ○佐野邦明様 ご質問ありがとうございます。フランスの補足制度はフランスでは私的制 度とされていますが、OECDの資料では公的制度に分類されています。何らかの基準で分類 したのだと思いますが、私にも違和感があります。そのため、本日の資料では私的制度と しています。  それからPersonal Accountsの点はご指摘のとおりです。言葉足らずで申し訳ありませ んでしたが、事業主はPersonal Accountsを実施することを強制されますが、個人は自動 的に加入しその後に脱退することもできる制度です。事業主に実施が強制されるという意 味で、「強制」といたしました。 ○森戸座長 私も藤井委員と同じで、やはり企業年金をどう定義するか、どう考えるかに よっていろいろ話も変わってきて、佐野さんの一定の整理はわかりやすくお聞きしたので すが、まさに藤井委員がおっしゃった、実際にその社会でどう考えられているかというこ とも含めて、この場で議論するときに何を公私と、企業年金の何を公的年金と呼んでいる のかということを常に意識して議論しないと、何か違う話になってしまうという可能性は あるかと思います。私は、企業年金というのは会社、使用者のイニシアチブでやるもので あるというように一応考えており、だから労働条件としてやりたい会社が、やれるものが 企業年金という整理をしているのですが、それはもしかしたら研究上の整理なのだろうと 思います。  フランスなどは、たぶん完全にプライベートではない、国がやっているわけではないが、 例えば労使自治でやっているというものを、そのプライベートと見るのか、公的な性格強 いよと見るのか。それによっても何か違うのかなという気もします。いずれにしても、い まお二人のやりとりにあったように、何を企業年金、何を公私と考えるのかを常に意識す る必要があるかなとは思いました。ありがとうございました。ほかにいかがですか。 ○藤井委員 いまの言葉遣いもちょっと気になって、「公」という言葉が非常に曖昧です。 たぶん彼らは「国家の」と、「国営の」、あるいは「そうでないの」と言っていると思うの です。だから、公的と言う場合には、社会の、即ちほとんどが複数事業主のことを指しま すが、何かの団体、その団体は必ずしも政府の一部ではない。そういう場合には、政府が、 即ち税収の財源をもって何かをするかしないか。あるいは法の規制でコントロールをどこ までするかということにおいてですね。だから、公というのは曖昧な概念であって、国や 政府なのか、そうでないものかと思っている国が大半だと思います。公でないものの中に、 たぶんソーシャルなものと、完全なコーポレートなものがあるのだと思っています。 ○森戸座長 私が言い出すと長くなるので、また別なときにやりたいと思います。ほかい かがでしょうか。 ○野村委員 大変興味深いお話をありがとうございます。2点お伺いしたことがあります。 どの国についても、必ず数値で退職所得の何割と最後にまとめていただいています。大体 退職時の収入の65%から75%ぐらいの間というわけですが、日本の場合と比較した場合を 考えたのですが、日本は、前の企業年金研究会などでも、ある種の望ましい水準、目標み たいな形で出てきた数字が60%ではなかったかと思います。何の60%といった定義とか、 諸々言い出したら大変なことになるのですが、その意味では、必ずしも日本の目標が、今 日お話いただいた国々に比べて非常にオーバーシュートして高いということでもない、場 合によっては名目的な数字と見ると、低いとも言えます。まずこの理解が正しいかどうか というのが1つです。  もう1つ、同じような話ですが、公的年金の比重というところで、例えばイギリスは48% ぐらいということでしたが、日本の場合もまだ改革の途中ということかとは思いますが、 最終的には50%は厳守するという目標があったと思います。これもまた、何の何パーセン トという話になるかとは思うのですが、そうすると、一般的には日本の公的年金はわりと 手厚いという認識が国民の間ではあると思っていたのですが、必ずしもそうではない。欧 州諸国と比べてという理解は、どうなのだろうと。以上です。 ○佐野邦明様 まず、最初の質問にお答えします。ご指摘のとおり、何に対する比率かと いう点が問題になりますが、それは国によって相違があります。対象とする給与が資料に 明示されていない国もあります。例えば、対象とする給与が、名目の賃金なのか、税引き 後なのか、社会保険料も控除した後なのかなど、不明な国もあります。退職時の給与の65% から75%の水準が高いのか、低いのかを一慨には言えないと思います。日本おいてどれぐ らいの収入があれば一定の生活レベルを維持できるのかを考える必要があると思います。 イギリスの公的年金の所得代替率が48%というのも、平均的なブルーカラーの給与に対す る比率のようです。ですから、ホワイトカラーにとっては不十分なレベルになるのだろう と思います。将来の日本の水準とあまり差がないように見えるのですが、各国それぞれ事 情が違いますので、表面的な所得代替率の数値だけではどちらが手厚いかという単純な比 較は難しいと思います。 ○森戸座長 よろしいですか、ほかいかがですか。では、課長どうぞ。 ○西村企業年金国民年金基金課長 すみません。私が質問するのも恐縮ですが、いくつか お伺いします。今日はヨーロッパを中心にご紹介いただいたのですが、アメリカについて は企業年金がよく言及されることがあります。アメリカについて、特に19頁の各国の位置 づけみたいな所でいうと、どこに位置づけられると考えられるのでしょうか。  もう1つ、私的年金といった場合には企業年金と個人年金の2つがあると思うのですが、 例えばドイツのリースター年金やイギリスのステークホルダー年金などが言及されるとこ ろですが、ここでは「個人年金」と書いてあったり、あるいは個人年金を企業が義務づけ られているというような場合もあると思うのです。この諸外国の制度を比較した場合、そ の企業年金を主に私的年金と考えている場合と、個人年金を主に私的年金と考えている場 合というのは、どのような感じですか。 ○佐野邦明様 最初の質問については、アメリカでは公的年金の比重が低く、企業年金の 実施は任意です。  後半の質問は難しいのですが、個人年金はかなり広い概念だと考えています。イギリス のPersonal Accountsのように、制度として事業主には強制されているが、アメリカの 401(k)制度のように運用は自分が行うものもあれば、日本の財形のような企業が用意する 任意の制度、個人が自分自身で税の恩典を享受して積み立てを行なう制度などいろいろな 制度があります。各国それぞれの事情を反映した様々な制度があるので、単純に整理する のは難しいと思います。 ○森戸座長 よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 どうもありがとうございました。感想だけですが、確かに公私の年金制度の 定義や、範囲といったものについてのいろいろな議論があるかと思います。個人的には、 確定拠出年金というのが公的、職域、個人と、いろいろな場面、いろいろな層において入 りつつあるような気がしております。この例で言うと、スウェーデンがそうなのですが、 労働者の立場から見ると、公的な確定拠出年金のAccountsとともに、今度はITPが確定拠 出になるとすると、職域のAccountsがもう1個ありますよと。そのほかに、自分で積み立 てて、例えばその投信なら投信というのを運用すると、何か同じような目的で複数の Accountsをマネージしないといけない状況になるということが、果たして個人から見たら、 いいことなのかというのは非常に疑問に感じました。  もう1つは税の点です。税というのは、企業年金がボランタリーなケースにおいて設立 のインセンティブになるというような意味で、ある程度影響するということで考えていま した。適用率との関係でいうと、おそらく強制だとか実質強制だとかという制度において、 税の恩典を与える必要はまずないですよね。ボランタリーの場合にはあるかもしれないの ですけれども、このボランタリーが例えばその25%とかとなってしまうと、これは結局の ところ恵まれた大企業の優遇税制ではないかという話がまた出てきて、どの辺でもってイ ンセンティブと折り合いがつくのかというところが、非常に難しいバランスかなというの は私の感想です。以上です。 ○森戸座長 佐野さん、何かそれについてはございますか。 ○佐野邦明様 私もおっしゃるとおりだと思います。拠出建という概念も広い概念です。 注意しなければいけないのは同じ拠出建と表現していても、国によっては内容が違うもの が存在しているのが実態です。例えば、スウェーデンの賦課方式部分は、賃金指数で再評 価される拠出建とされていますが、指数がマイナスとならないため、最低保証のついた給 付額の安定性という面からは給付建制度とも見なせる制度と考えられます。ドイツにも拠 出建と整理されている制度がありますが、イメージとしては保険会社の据置年金を買うよ うな、最低保障がついている制度です。拠出建制度の内容を吟味しないと、総合的な評価 というのは難しいと思います。  また、イギリスのように職域年金の適用率が下がっているという状態の中で、税の優遇 は政策的にどういう意味があるのかという点は、私も同感です。ただし、そのような状況 の中で、老後の所得が不十分になることを懸念して、職域年金に替わるものとして強制適 用のPersonal Accountsという制度を用意していると考えられます。拠出建制度による適 用除外の廃止も充分な水準の老後所得を実現するための政策であると理解しています。 ○森戸座長 これでちょうど時間ですので、まだ皆さんご質問あるかと思いますが、ここ で一旦切らせていただきます。佐野さん、本当に本日はどうもありがとうございました。 ○森戸座長 では続きましては、駒村委員より御報告いただくことになっておりますので、 よろしくお願いします。 ○駒村委員 私はパワーポイントを使わずにメモを配付させていただきました。今の議論 を聞くだけで、私も用語、特に私的年金、企業年金に関する定義が少し曖昧で、ちゃんと 言葉を使い分けていないということを反省しております。私は、公的年金をずっと研究し ておりましたので、見方としては公的年金の動きを見て、企業年金がどのようにそれを受 けていくのかという文脈で、報告させていただきたいと思います。そういう意味では少し 踏み込んだタイトルにしておりまして、皆様からとんでもないことを言っているといわれ る心配はあります。連携が必要であるようなことをもう既に言い切ってしまっていますの で、それはちょっと先走っているかもしれませんが、私は連携、公的年金の、特に日本に 引き寄せた場合には今後その質的、量的な連携というのが求められていくのではないかと 思っています。  最初に、今の公的年金に対する私の評価、そして諸外国について。諸外国のお話は佐野 先生からあったので、私はそれほど申し上げることはないかもしれませんが、公的年金を 見ている立場から見ると、こう映っているのだということを申し上げます。そして最後に、 その公的年金をカバーしていくと仮に位置付けるならば、これはこの研究会の前の研究会 の報告書でも2つの考え方が整理されて、関連性をどうするかということと、労使の自由 な仕組みとの考え方という、2つの考え方が提示されていたと思います。仮に、その関連 性を強めていくとするならば、どういう特性を持ったところにどういう応援をすればよい のかという構成でお話をさせていただきたいと思います。  先ほども藤井委員からお話があったように、「公的」というのは、私のこのメモの中では、 賦課方式にかなりの比重がある、国が経営している年金と考えております。老後の所得保 障ですが、私も社会保障の専門でございます。先ほどの柱の数え方もまた違っており、こ れは日本の場合は、生活保護と書いておりますが、日本では生活保護の受給者にしめる高 齢者の割合もたかいので、実際は1つの柱になっています。ドイツでは、この社会扶助と いうものがその高齢期の最低所得保障で重要な部分を占めているわけです。税を財源にし た最低保障年金というのも、事実上の年金というよりは社会手当的な性格が強いと思いま すので、これを1本と数えています。あとは、先ほど申し上げた拠出保険方式に基づく公 的年金とそれ以外の組合わせによって維持されている。  諸外国について、今も御報告があったように、諸外国のコンビネーションというのはそ れぞれあると思っております。  私も経済学で入ってきましたので、経済学の中から見ると、「賦課方式の年金というのは 当然不安定になっていくということで、当然積立方式に替えるべきだ」というような議論 があるのです。これはそういう一本道なのかというのは、この検証1の中で少し、これは 経済学者の中でも評価が分かれている。ここでは、英国LSEの教授ニコラス・バー氏の要 約を簡単にさせていただくと、賦課方式、日本の場合は完全賦課方式にはなっておりませ んが、その保険料とそれから年金の保険料収入と年金の支出額がイコールになっていて、 保険料を左辺にしてまとめていきますと、扶養率と年金の代替率の積になっていくわけで す。結局、経済成長があまり見込まれていない中で賦課方式を維持するとなると、少子高 齢化、要するに労働者に占める年金受給者の人口、これは非常に数式化、単純化していま すので細かいところは実際には違うわけですが、速度に連動して保険料を上げ続けるとい うことを選択するか、あるいはその高齢化の速度に連動して、その賃金に対する年金を徐々 に下げていき、保険料をどこかで抑さえていくという縮度を採らなくてはならなくなるわ けです。これが従来は(1)の保険料調整方式が2004年改革前だったわけですが、2004年以 降はこのマクロ経済スライドのもとで、実質価値も下げながら保険料をあるところから頭 打ちにして、実質価値も下げていくという方策を採ったわけです。  では、これを積立方式に替えたらうまくいくのかというのは、これは経済成長がなけれ ば実は積立方式も切り替えたところで全く意味がないというのが、このバー氏、あるいは その関連の研究です。当然のことなのですが、例えば高齢者が年金資産を銀行預金や国債 で保有しているとします。経済成長が非常に低い状態であって、その人が老後になれば、 この人たちは貯蓄を取り崩して、財サービス市場でものを買う。現役の労働者の生産性が 上がっておらず、人口が減少しているわけですから、過剰需要になって、当然価格は上昇 して、高齢者の実質年金価値は下がる。では、高齢者が株式投資で年金資産を保有してい た場合はどうなるか。この場合も、経済成長が低ければ、高齢者グループが株式を売却す るときには、現役グループがその株式を購入するだけの十分な所得がないわけですから、 株価は暴落し、資産デフレが発生する。そういう意味では、経済成長がなければ賦課方式 でも積立方式でもそれはあまり大きな差は出てこない、という話をしているわけです。  したがって経済成長があるケースになれば、どうなってくるかというと、実は賦課方式 でもその保険料を下げることも上げることもなく、それから実質の年金額も維持しながら、 成長で吸収できることになる。経済成長がたかければ、積立方式でも財市場で超過需要が 生まれないわけですから、インフレも起きません。若い人の生産力が上がっているので、 財市場で超過需要が発生しない、あるいは、同様に高齢者が、その資産売却をしても、若 いグループがそれを購入するだけの所得を持ってきているので、経済成長があれば、資産 デフレも起きないということです。経済成長があれば、賦課方式でも積立方式でもうまく いくという話になるわけです。  したがって賦課方式でも、積立方式でも経済成長が必要だということで、今後の年金制 度においては、2頁目の暫定的な結論はそういうことになると思います。ただ、そうする と経済成長率を高める必要があるので、1)資産投資の増強、生産性の引き上げ、あるいは 人的資本投資の投入、3)としては既婚女性の労働力率。これは今回の新雇用戦略の中でも 提案されていますし、さらに遡れば、新待機児童ゼロ作戦の中でも提案されていますが、 ほとんど上がっていない。4)有配偶女性の労働力率です。出生率を下げないで、労働力率 を上げる。2009年の経済前提で織り込まれています。4)の退職年齢を引き上げて、労働 者の引退を遅くする。そのほか5)移民政策。あるいは6)海外への投資ということであり ますので、政策的にはこの2)の教育訓練から5)をやる。これは賦課方式でやろうが、積 立方式でやろうが積立方式に直接絡む話ではなく、政策的にやっていかなくてはいけない。 賦課方式というのは1)と、積立方式に替えれば1)と6)というところが密接に関連をし てくるだろうと思います。  その上で、ではなぜ今後賦課方式のウエイトを下げて、積立方式の部分、つまりもう積 立方式になってくれれば、これは企業年金部分ということになってくるだろうと思います が、主に企業年金になるウエイトが増えてくると思います。そういう人が出てくるかとい うことになると、その賦課方式の今後上がっていく高い保険料がいつまでも上がっていっ ては、当然労働インセンティブには何らかの影響を与える可能性がある。これがどのくら い影響を与えかは、予想ほど大きくないのではないかというような研究も出てきています。 働くか働かないかに与える影響と、既に働いている人がどのくらい保険料が上がることに よって就業インセンティブが下がるかということについては、実はパラメーターがかなり 違うという研究も出てきております。  あるいは保険料の帰着と転嫁の問題も考えて、国際競争力、企業の保険料が上がると社 会保険料が上がる、企業の国際競争力にも影響力を与えるのではないかという話もありま すが、これも保険料の企業主負担部分が誰に帰着しているのか、帰着と転嫁の話、これは 負担と給付の関係の強さによって分かれていくというのが、ローレンス・サマーズの89 年の論文です。それもなかなかわからない部分もあるわけです。  だから簡単に積立方式にすれば、経済成長がよくなるという話ではないだろうと思いま す。賦課方式の部分を小さくすればいいという話でもないと思います。ただ、少なくとも 現行の公的年金のウエイトを下げていると、どれだけ貯蓄が増えるのかというのはわかり にくい。可能性としてはさまざまな賦課方式と家計貯蓄の関係というのは、フェルドシュ タインほかいろいろな古典的な論文があるわけですが、それほど国によってかなりの代替 関係、資産形成ですか、方式が資本形成に与える影響はそう大きくないのではないのかと いう研究もありますが、それでも積立方式にいけば、その部分は少なくとも資本が増強す るだろうということを考えると、この貯蓄が増えた分として増えて、それがさらに投資に つながって、将来生産性につながっていけば、これはある程度経済成長にアクセルを吹か す部分もあるかもしれないということです。  ただ、もちろん貯蓄された部分が開放経済の場合どう考えていくのか、バブル経済にな った場合は本当にその資産、実質経済成長に寄与していくのかどうかというのは、また実 態経済でわからない部分もあるわけです。  あともう1つ、一番大きいのは、世代間の公平性。その賦課方式の年金を上げるために、 そして実質価値を下げないためには、いつまでも保険料を上げ続けて若い世代に負担を押 しつけるのかという、世代のバランス論もあります。やはり各国とも、保険料を上げ続け るという選択肢はもう取っていない、あるいはある所で止めるという、日本が取ったよう な選択をしてきているのではないかと思うわけです。  そういう意味では、公的年金の守備範囲の低下を補う必要があるだろう。そういう点で、 3頁の、これは企業年金という、積立方式の部分の年金のウエイトが伸びてくるのかとい う話につながってくるのではないかと思います。そういう意味で、先ほど佐野さんがおっ しゃった話と、公的年金の方から見ていても、水準論、それから支給開始年齢、交替の実 態、政策という2つの点から見ても、公的年金の守備範囲の低下分を積立部分である程度 埋め合わせていく必要がある。  ここではスウェーデンとかドイツとか英国と書きましたが、英国は先ほどのお話にあっ たように、もともと公がかなり貧弱で、それを支える基礎年金がうまくいっていなかった、 加入者が少なかったというところで、今回の国民年金貯蓄制度という強制加入型の仕組み が、入ってくることにもつながったのだろうと思います。スウェーデンは先ほどもお話が あったように、2.5%の個人部分の積立部分を作る。先ほどもドイツについてはお話があっ たように、公とこのリースター年金の大きさが調整されながら、制度拡充がされていくと いうことです。公的年金の守備範囲をある程度一定に押さえて、それを補うように積立あ るいは私的年金を充実していくというのが、これはEUの年金のさまざまな改革の意見レポ ートでも、全面的に積立というわけにはいかない、しかし今の賦課方式の年金を今後も維 持できるわけではない。そのミックスで世代間の人口のリスクと、市場のリスクを一方に、 制度にリスクを背負わすのではなく、この2つの組合わせで人口リスクと市場リスクに対 応しようというのが現状ではないかと思います。  それを見て、日本の仕組みに振り返り、日本の改革を振り返って見ていくと、当然2004 年の年金改革では、先ほど申し上げたように、給付抑制が今後も進んでいくだろうという ことです。ただ、60歳台前半の就労が長期的に拡大していけば、そのことによってある程 度補う部分もそれはそれであると思いますが、長期的には40年間加入での守備範囲、給付 水準というのは下がっていくだろう。いずれは65歳の支給開始年齢というのも、少しこれ だけ早い高齢化の中では見直さなくてはいけない時期も出てくるかもしれないというとこ ろで、どんどん隙間が広がっていく。  それを埋めるべく、企業年金を充実していく。これには一定の経済の加速効果も期待で きるでしょうし、公的年金の守備範囲の低減分を補っていくべきだろう。  2.の1)の現状においては、下がった分の代替措置としてまずは税制上の優遇の幅が拡 大されていく、さらにはその隙間部分を全部企業負担のみで埋めるわけではなくて、労働 者負担も入れたマッチング拠出の許容も進んでいくということです。ここにおいては、現 時点では、公私の関係性というのはまだ明確には踏み込まれていないわけです。今後の展 望はどう考えていくのかというと、私はこの辺の連携を強めて、2つの仕組みで、先ほど も議論があったように一定量の、公私で一定の老齢、老後の所得保障を行っていく必要が あると思うわけです。  この際に、では公の守備範囲が下がっていくにあたって、その私の部分を広げていくの に、どういう部分を着目して広がっていく私の部分を応援すべきかということを考えてい かなければいけないと思うわけです。  公については、繰り返すまでもなく世代間で助け合うという仕組みはあるわけですし、 さらに平均寿命が伸びていくことは吸収可能な仕組みにはなっていきますし、包括性もあ ります。所得再分配性も、現実にあるのだという利点はあるが、一方、人口変動のリスク に弱い。  企業年金の方は、経済成長を加速させる可能性もありますし、加速すれば高齢化の影響 は中和できる部分もありますが、問題点としてはその普遍性、包括性はないわけです。そ れから、積立方式では、日本人全体の平均寿命が伸びるリスクについては、必ずしも対応 できないところもあるわけです。  この両者に、それぞれ利点、弱点がある中で、どこに着目していくのかというところで すが、そこは、今の私的年金、企業年金の方が、完全に個人がばらばらで、市場のリスク を負う個人型拠出か、企業がリスクを負う確定給付型、あるいはオランダ型と言われてい るように、拠出型であるけれども分配時は給付型類似で、リスクを企業、労働者、受給者 で分担していくような仕組みがあるわけで、いろいろな選択肢があります。  その中で、どのようなタイプであれば、公共政策上、公的年金の質的、量的な連携とい う形で応援する根拠があるのか。しかし、そこまで踏み込んでくると、当然特定の企業年 金モデルに対する政策誘導ということになってしまっているわけで、ニュートラルではな くなるという批判は当然受けるわけです。しかし、公共政策上の理由をもって、どこに着 目して政策的に優遇をするのかとなってくると、1つは包括性ではないかということです。 アクセスの保障はできているのか、低所得や中小企業、非正規というグループでも、いず れはこういうものにアクセス可能な、低コストでアクセス可能な仕組みになるような部分 に着目する。それから、安定的な長期受給という点で、個々人が直接市場リスクに直面し て、過度に老後に不安を持ったり、資産選択に過度に慎重にならないようなことです。受 給権の調査は、検証報告書で書かれていますし、私はそれについてはそれほどわからない のですが、受給請求権は当然保障されなくてはいけません。あるいは母体企業が傾いたと きの支払保障も必要だと思います。  そのほか、物価の変動に対するもの、終身性も注目すべきだとおもいます。これは日本 人全体が伸びていく長生きリスクは実際には難しいと思いますが、公的年金の質的な部分 で連携する、そしてそこを応援する価値のあるものだと思います。あるいは量的な部分で、 どの水準を合計で応援するのかとなってくると、税制上の幅も出てくるだろうと思います。 ただ、こういういくつかの条件を持たせていけば、制約条件としては、労使の自由な設計、 裁量制に障害を与えるだろうし、一種の規制となってしまうので、これについてはまた大 きな議論になってくるだろうと思います。公的年金から見て、このような切り口もあるの ではないかという話をさせていただきました。以上です。 ○森戸座長 ご質問、ご意見は後ほどお伺いすることにします。続けて石田委員からご報 告をお願いします。 ○石田委員 山口大学経済学部の石田です。「公私役割分担の考え方と年金政策」と題して、 レジメに沿って話をしていきます。  まず、報告の大雑把な内容です。これまで私自身は、経済的保障という市場において、 そのワーキングについて、情報や不確実性の経済学を基に研究をしてきました。そうした 観点から、そうした市場の有効性及び限界を考察しました。そこから、公の領域、政府の 役割はどういったものであるかについて、考察してきました。こうした観点から、公私役 割分担に係る視点及び切り口についてお話をします。  また、こうした公私役割分担の考え方から、また現在の環境の変化、すなわち就労形態 の多様化や家計貯蓄率の継続的な低下といったことから、今後の企業年金の方向性及び年 金政策のあり方について、お話をします。  まず、私自身の基本的な立場として、「成長と福祉」という枠組み、すなわち成長と福祉 というのはトレードオフという関係に立つのではなく、福祉は成長を促進する、下支えす るという観点から、公私の役割分担というのは、公私の年金がさまざまな形態で、所得移 転の役割を果たしている。そのことに基づいて、成長の達成・促進を行っていると位置付 けています。  このように、公私の年金について、2期間ないし多期間の所得の移転ということになる と、両者は代替の関係に立つことになります。  例えばこうした代替の関係について、経済学ないしは財政学の観点からは、クラウディ ング・アウトということがよく言われます。つまり、公的な領域が大きくなると、私的な 領域を駆逐してしまう、もしくは排除してしまうと言われることがあります。郵政の民営 化に関連して、公的金融が私的ないし民間の企業を圧迫するという議論もあったところで す。  ところが、これまでの情報や不確実性の経済学という観点からは、こうしたクラウディ ング・アウトの可能性は否定をされていて、公と私の年金が両立することによって、社会 全体の構成水準、人々の生活水準を引き上げていくことが、理論的には確定しています。 もちろん経済学の考え方ですから、一定の前提、仮定を設けて、こうした結論を導き出し ているので、現実に即して、きちんと検証する必要があると思います。  次に公私の年金ということで言うと、その補完関係ということが言われます。多くは、 私的年金が公的年金を補うという関係です。これについては、企業年金等の私的年金のつ なぎの役割、上乗せの役割が指摘されます。  公的年金には支給開始年齢というものがあります。その結果として、現在の日本の例を 見ると、60歳代の前半については、就労と公私年金の組合せで生活保障が行われています。  これからこの支給開始年齢が引き上げられていくことは、個別経済主体、家計や企業に 対して、政策的に「自助努力」を要請していくことになるわけです。その意味で、私的年 金は公的年金の一部補完の役割を果たしているといえるかと思います。  しかし、上乗せの役割については、先ほど来お話がありますように、企業年金、私的年 金の種別によって、かなり相違があります。しかしながら、多くの年金について、終身化、 元本の保証、実質価値の維持という観点からは、かなり不完全であることが指摘されてい ますし、ざっくりと言うと、老後・退職後の生活費というよりは、あくまでも予備資金、 バッファー的な資金になってしまっています。さらに、有期年金が多いこともあり、老齢 期の年齢階層が上がるに従って、世帯収入に占める割合が減っていく、フェードアウトし ていくというような状況があるわけです。  そういう意味で言うと、こうした役割というのは、現状ではかなり不完全であります。 そうすると「代替関係」にはなっていないから、消極的な意味で補完が成立していると規 定できると思います。  次に公私の役割分担に関する考え方について、量的な側面、質的な側面ということでも 整理できます。個別経済主体にとって、給付と負担の両面ないしは給付と拠出の両面で、 量的な関係に立つことはお分かりいただけると思います。  一方で公私の年金というのは、対象リスクないしは内在するリスク、さらには財政方式 や加入形態による給付・負担構造の相違、さらに社会保険料控除、その他の私的年金に対 する優遇政策、優遇措置、総じて「税支出」とまとめられますが、こうした税支出によっ て、公共投資のように、プロジェクト投資のようなものを行っていると公私年金を捉える こともできるわけです。これは先ほどの駒村先生のお話の中にもありました。  そうすると、公と私という年金では、創出していく価値も異なっていきます。そうする と、こうした質的に異なるものをどう節結していったらいいのか、これは私の大学院の時 代からの悩みです。  それを図にしたものが、ここの概念図です。ここでは、主に公的年金について被用者年 金、企業年金については確定給付企業年金のようなものを想定しています。そして、それ ぞれの拠出の段階、給付の段階、それぞれで量的な関係に立つわけですが、先ほどお話を したように、各種の税の優遇措置を受けて、拠出と給付を対比してみると、1つのプロジ ェクトのように捉えることができます。  そして、公的年金にしても企業年金にしても、拠出がそのまま老後の給付になるのでは なく、公的年金では所得階層、世帯類型等によって読替が行われています。企業年金につ いては、職能や勤続ポイントによって読替が行われています。さらには受給の資格要件な どがあります。  そして、これが公的年金であると、内部収益率によって回されています。企業年金につ いては市場収益率、運用の収益率によって回されています。そして、最終的に公的年金で あれば稼得収入という形の貢献によって、年金給付が決まってきます。一方企業年金につ いては、より直接的に、拠出に結び付いた貢献に基づいて、年金給付は決まってきます。  そうしたことによって、公的年金では、公平・効率に基づく経済的価値、すなわち所得 の平準化等による有効需要の創出等が考えられます。一方で企業年金については、組織の 中の価値、いわゆる企業価値といったものを創出しています。このように考えることがで きると思います。ただ、この経済的価値と企業価値というのは、全く分離されるものとい うことではなくて、両者の相互作用、関連性はあります。こういったところに、公私の役 割分担を考える1つの鍵があると考えています。  下には、個別経済主体にとって、それぞれが「分散投資」という、やや比喩的な言葉を 使っていますけれども、公と私というものにお金を拠出している。そうすると、その投資 というものの成否の鍵というのは、1つはそれぞれがうまくリスクを軽減できる、もう1 つはリターンで、価値を大きくすることができます。こういうことにかかっているのかと 考えています。  なお、ここに(補足)とあるのは、企業年金が企業という組織の中における価値の創出 の経路を書いています。有り体に言いますと、自分のところに望ましい従業員を引き付け て、その従業員の行動を監視する、そのコストを引き下げて、長期勤続による人的投資を 活発化して労働生産性を高めていく、さらには良好な労使関係をつくる。さらには、こう いった制度があることによって、そこで働く賃金(留保賃金)を引き下げることができて、 短期的な人件費の節約ができ、さらには税制も加味して、キャッシュ・フローの節約がで きます。このようなルートによって、価値を創出していくと考えています。  また、企業年金の場合には公的年金と違って、制度設計にかなりの柔軟性が考えられる ので、それぞれこうした工夫を凝らすことによって、より機能を高めていくことができる というような特徴があります。  さて、そうしたことから、公私の役割分担をベースにして、企業年金の方向としてどの ようなものがあるのかを考えたいと思います。それについては、前回の研究会の報告書で 2つの大きな方向性が打ち出されています。  1つはここに書いてあるように、「労使合意を基本とした、両者の実状・ニーズを踏まえ た制度設計」という考え方です。もう一方では、「公的年金との関係を踏まえた老後所得保 障の役割の強化・向上」ということです。それぞれにおける効果ということと、課題です が、ここに整理をしてあるとおりです。  ただし、ここで1つ考えなければいけない重要なことは、駒村先生のお話のいちばん最 後にあったのですが、公私の役割分担を考えるときに、公的年金と私的年金の関係という ことだけではなくて、公ないしは政府が果たす役割をもう少し広く考えていく必要がある のではないか。  つまり、1つは政府が自ら強制加入の制度を提供していく、公的年金を提供していくと いうやり方があります。これが老後の経済的保障に関する直接的なやり方です。もう1つ は、低所得者ないしは比較的働いているときの賃金の低い人や、アンペイド・ワークに従 事している人たちに対して、国庫負担を用いて適当な年金を提供することです。国庫扶助 による援助、補助ということがあると思います。  3番目に、先ほどお話をした税支出です。さまざまな形で税の優遇措置を取ることによ って、例えば企業年金のアクセスビリティを高めるといったような、いわゆる政策誘導の 手段があります。  最後に、ある程度民間の市場に任せるのですが、それに対して受給権の保護その他の、 政府ないしは年金の規制を行って、市場のワーキングを適正な方向に誘導するといったこ とが、すべて政府の役割になってきて、こういったことを考えることによって、初めて公 私の役割分担の考え方が完結するのではないかと考えています。  具体的に考えていきますと、現在労働市場の二極分化が発生しています。こういったと きに、低賃金の就労や「アンペイド・ワーク」を経験した人たちに対して、国庫負担によ って公的枠内で補助、援助を行う、これが1つの考え方です。  もう1つは、企業年金ないしは私的年金のアクセスビリティを高めることです。特に現 在、家計の貯蓄率の継続的な低下傾向が見られます。そうした中で、資本形成、蓄積とい う観点から、税支出を拡大していくことが考えられるかと思います。税支出の考え方にも いろいろありまして、例えば租税特別措置のように優遇措置を取る。そのほかにも税率を 軽減する、さらには税額控除を行うなど、さまざまな形での税支出が考えられています。  ただ、現在までの税支出に対する考え方というのは、歳入減少法といいまして、税の支 出を行ったことによって、税収がこれだけ減ってしまった。そのことによって得られる便 益というのは主に高額所得者の方に向かっていく。このような議論が一般的であったと思 います。それですが、別の考え方として、歳入増加法というのもありまして、ある税支出 その他の措置を取ることによって、納税者の行動や意識が変わる。そのことによって税収 が増えていくという考え方もあるのです。そういう意味で言うと、歳出の減少法と歳入の 増加法のバランスを取って考えていく必要があると思うわけです。ほかの人はあまり言っ ていませんが、私自身はこういうことを「税支出のテコ効果」と称しています。  しかし、先ほど佐野先生からもお話があったところですが、ドイツや英国といったとこ ろでの税制優遇付きの私的年金というのは、なかなかプリベーリングしていないという現 状もあります。実際に高所得者優遇に陥っている例もあるので、ここはきちんと諸外国の 事例も含めて検証していく必要があると考えています。  最後に、やや現実的な問題として、適格年金からの移行を取り上げています。言いたい ことは、年金の規制も政府の1つの大きな役割で、ある程度私的年金に役割を権限移譲し ている場合にも、私的年金の市場を適正に育成していくという発想が大事です。そうした 中によって、受給権の保証、保護ということ以外にも、例えば競争によって手数料その他 を軽減させていくということ、さらには商品性の魅力を高めることを、政令やガイドライ ンによって進めていくことが、年金規制の大きな役割になってくると考えています。現実 的には、ここに2つほど年金規制のあり方によって、商品性をどう改善したらいいのかと いうことをあげています。  以上、縷々お話をしてきましたが、これからの老後の所得保障、生活保障を考える中で、 公私役割分担論があるわけですが、それについては公的年金と私的年金の関係、公的年金 と企業年金の関係ということだけではなくて、政府が果たしていく役割、先ほど言いまし たように直接年金への強制加入の制度を提供する以外に、国庫による補助、今度は税制優 遇措置などによる税の支出による政策誘導、さらには年金規制による、市場の私的保障市 場の健全育成といった方策を、総合的に検討し、ないしは同じ目標を達成するものについ ては、それぞれのコスト・ベネフィットを考えて、そうした中で初めて公私役割分担論と いうものが完結すると思いますし、そうしたものが実りある年金政策に結実していくもの と考えています。以上です。 ○森戸座長 以上、駒村委員、石田委員の御説明に関して、皆様から御質問、御意見を受 けます。 ○藤井委員 いくつかあります。まず、駒村先生のお話の中で、年金資産の積立ての意義 に関する御発言がありました。御指摘になっていないことの中で、国の年金についていう と、人口構成の歪みの補正という観点があると思います。「世代間のバランス」の中に含ま れることかもしれないとは言うものの、特に我が国の場合では、他国比でも著しい人口構 成の歪みというのがあって、単純な賦課方式にしてしまうと、次第に保険料が上がるとい うわけでもなく、上がったり下がったりを繰り返しかねないということもあって、そのた めのバッファーとしての意味は相当程度重要なのではないかと思います。そのために積み 立ててきたというより、今後付けでそう解釈している気がしないこともないですが、現実 問題としては、そういう有用性があるなと感じています。  それから、私的年金の場合の年金資産の意義ということで、御指摘になったこと以外に 私が感じるのは、倒産への備えです。従業員及び受給権を得た者に関する保護のために、 年金資産を持っていることが主なのかなと思うのです。年金資産を持たなくてもそのこと がほかの方法で達せられれば、年金資産を持たなければならないというわけでもないと思 います。  例えばドイツのブック・リザーブ方式のように、他の何者かが保証してくれれば、年金 資産がなくても同じ効果が得られます。そのことを指して積み立てていると言えないこと もないので、積立てという概念も、広く捉えるといろいろと取り得るところで、他の誰か が保証してくれるための保険料を払っている状態は、手元に資産はないですが、同じ効果 は得られます。すなわち、私的年金の場合に、私企業の倒産あるいは経営の行き詰まり、 逼塞への備えの観点が、極めて重要なポイントになっているのだろうと感じます。  その流れでいきますと、日本語でいうところの公的年金のようなものであって、しかし 例えばスウェーデンの公的DCのように、彼らは公的年金の一部だと思っているわけです。 歴史的観点からもそう思っているわけです。個人で積み立てて、その保険料率を法律が決 めていて、強制加入とあまり変わらないということで、我々から見ると私的年金にしか見 えません。  そういうものが何故存在するか。公的年金の場合、我が国では人口構成の歪みはポイン トとして挙げておく必要はあると思いますが、それは置いておいて、そもそもなぜ積立て をするのかを考えてみると、セルフファイナンスな状態を強制するというか、将来にわた っての国の税財源へのストレスを予防的に排除する基本的な仕組みという捉え方もできる のではないかと思うのです。それが1点でも欠きますと、いずれどうにかしてくれる必要 が出てくることになるので、そこの切り目が視点としてあるのかなと思います。そのよう なことを感じました。まず1つ目です。 ○駒村委員 賦課方式と積立方式の本質的な距離間とはどういうものかという話を最初に したのですが、正確に言うと、藤井先生がおっしゃったように、公的年金でも160兆円ほ どの積立金があることはあるわけですから、先生がご指摘のように完全に賦課方式にして しまえば、毎期の調整をしなければいけないということになりますので、今の公的年金を もって積立金というのは、先生の御解釈のとおりの人口構造変動のバッファーだろうと私 も思っています。そこの辺りを少し単純化してお話をしました。 ○森戸座長 ほかにいかがでしょうか。 ○島崎座長代理 お二方に同じ質問をしたいのですが、公私の役割分担といったときに、 公的年金の2階建て部分つまり厚生年金の部分と企業年金との関係をどう考えるのかとい うのは、公私の役割分担の議論をクリアにするためには分かりやすいのではないかと考え ます。その点について、どのようにお考えになっているでしょうか。  これが質問なのですが、その背景をもう少し説明しますと、公的年金にせよ、企業年金 にせよ、老後の所得保障をきちんとしましょうという目的は一致しているわけです。もち ろん老後の所得保障といったときに、長生きするリスクをどのくらいカバーしようか、あ るいは実質的な価値をどうやって担保しようとか、やり方や規制の強さというのはいろい ろあるにしても、老後の所得保障という目的は共通しているわけです。  その次に、実際にその中のどれをカバーするのかといったときに、先ほどおっしゃった ような企業年金には税支出をしているわけです。つまり、企業年金はそれぞれの企業が勝 手にやるべきもので、それに対して公は何も関与しないという形を取っているわけではな くて、税制上の優遇措置、しかもそれは微々たる額ではなくて、拠出時、運用時、給付時 のそれぞれについて、相当手厚い税制上の優遇措置を行っているわけです。  それでありながら、日本の場合、企業年金を設けるか否かは各企業の自由なわけです。 そうすると現実問題として、非常に恵まれた企業、しかも高所得者に税制上の恩典が及ぶ ことになる。そうすると所得の再分配がされていないどころか、むしろ相当強く逆進性が 働いていることになる。  私は企業年金に反対しているわけではないのですが、一種「税支出」という形で逆進性 に「加担」しているとみえなくもないわけです。そうすると、企業年金の正当性というか 税による優遇措置の正当性はどこにあると考えるべきなのか。逆に言えば、公的年金の厚 生年金の仕組みを変えることで、企業年金のない労働者の老後の所得保障を手厚くすると いう選択肢もあるわけです。そういう選択肢を採らずに、なぜ企業年金を優遇するという 措置がジャスティファイされるのかということについては、どのようにお考えになってい ますか。 ○駒村委員 2つの話がありました。1つは厚生年金の部分に対する評価と、企業年金の拡 充に関する部分の話でした。  公的年金の2階部分については、今の制度を所与として考えるのか、そもそもどうなの かという2つの見方があって、そもそもどうなのかということになってくると、基礎年金 というのが、仮に最低保障部分、若いときの生活保護に対する対応関係があるという役割 を果たしたときに、この2階部分の公的年金というのが必要なのかどうなのかも含めて、 どうなのかとなってくると、1つは生涯にわたっての消費の平準化のような機能は持つわ けですし、人間の合理的な判断についても限界があるわけですから、その辺を考えると、 公的なものとして何かしらの2階部分はあってもいいと思います。これは白地に絵を描く という話でいったとしても、いまの大きさは別として、報酬比例部分はあってもいいと思 います。  現行制度を所与に考えてみると、現行厚生年金はすでに所得再分配効果は持っています。 定額部分を出すことによって、応能負担で定額給付部分が下にあるので、これをもって所 得再分配機能は一定の役割を果たしています。  それから、すでにあるものをやめて移行するためには、コストがかかります。移行する ことによって、積立方式になること自体が制度の安定性につながるわけではないと思いま す。移行することによって資本蓄積が進んで、それが実際に実態経済成長を上げて、初め てその効果が出てくるわけであり、そういう意味ではもう1つクッションが間にあります。  それを考えると、公的年金は縮小はせざるを得ない状況になってきます。要するに、高 齢化という実態に合わせて、ある程度の縮小化はしなくてはいけないだろうと思いますが、 最終的には老後の所得水準を公がどのくらい支援するのかというところで、下がらざるを 得なかった部分、例えば代替率が60から50に下がりましたというときに、社会的なコン センサスとして60というのが、本来老後の安定所得保障として必要なのだということであ れば、60から50に下がった10については、「突っかえ棒」として企業年金というものを 使っていけばいいのだろうなと私は整理をしているところです。  その上で、企業年金が特定の正社員とか、有利な人しかアクセスできないという問題が あれば、マクロ経済スライドの影響は全国民が受けているわけですから、本来は全国民に 対して企業年金というもう1つの柱のメリットが受けられるような新しい仕組みを考える ことによって、特定のグループだけに対する補填措置と言われないような仕組みを同時に 考えなければいけないと思っています。 ○石田委員 私も今の駒村先生の意見とほとんど同じで、企業年金というものがあるのは、 現場でどういう保障が必要か、どういうニーズがあるのかということがよく分かるわけで すから、そういったところに任せるのが、より効率的な保障を達成することになるのでは ないか。そういうことから言うと、税の補助ということを受けても、企業に一定の保障部 分を任せることは、私はそれなりの意義はあると思っています。  ただ、それが今言われるように逆進的な形態になっていることは大きな問題で、それに ついては、中小企業に対していかに企業年金を普及させていくかということで、事業主等 の負担を軽くするような、例えば総合設立ができるような措置を取るとか、そういったよ うなことによって事業主の負担を軽減していくことによって、中小企業に普及促進を図っ ていくことが不可否だと思います。  さらに言うと、DCプランというものの場合には、所得が変動していきますと、若いとき の貯蓄を増やす効果が低所得者層に強いことも言われています。そうすると、確定給付企 業年金プランに加えて、DCプランについて税支出を行って、中小企業の従業員、比較的所 得の低い人にも、DCプランの税支出の恩恵を広げていくことが重要ではないかと思ってい ます。  それから、厚生年金と企業年金の関係については、駒村先生とほとんど同じですが、公 的年金で一定の所得代替率を保障しておくことは、働いているときの拠出意欲、さらには 労働意欲にも影響してくると思っていますので、そういう意味で言うと、厚生年金の報酬 比例の部分は重要ですので、企業年金と報酬比例部分というのは両立していくべきものだ と考えています。以上です。 ○森戸座長 今お話を伺っていて、島崎座長代理がおっしゃったのは、同じタックスエク スベニチャを企業年金に課しているが、他方で厚生年金のカバレッジから外れているよう な人がいるから、もっとそっちに回すことはできないかという感じだったのですが、お2 人は、むしろ企業年金のカバレッジ自体を広げて、逆進性はそこで解決したらいいという 御意見だったかなと思うのですが、いかがですか。 ○島崎座長代理 私が伺いたかったのは森戸座長のいうとおりです。もちろん、だからと いってそうすべきだということではなくて、1つの議論としてはそういう立論もあり得る のだと思います。  違う言い方をすれば、フランスの企業年金というのは、本当に企業年金なのだろうか、 あるいは日本的には公的年金なのかということを考える意味でも、それはかなり重要な意 味をもっています。つまり、フランスの企業年金は実質的には強制されている、なおかつ 賦課方式です。そうでありながら、国家が直接運営を行っているわけではないから、それ は企業年金だと言うのだとすると、それは公私の役割分担論の議論との関係で、どのよう に整理できるのか。  例えば仮に厚生年金のところに全部寄せてしまって、その中で一部分を賦課方式にし、 一部分を積立方式にする、例えばスウェーデンの公的年金のような形も考えられるわけで す。私はそれがいいと言っているわけではなくて、日本の制度の沿革は考えなくてはいけ ないにしても、公的年金と企業年金の存在意義とは何か、両者の切り分けの基準は何か、 公平性とは何か、社会的な合目的性は何かというのは、絶えず問われなければいけないと 思います。私が言いたかったのはそのような趣旨です。 ○森戸座長 何か補足はありますか。島崎座長代理の御指摘は重要な点もありまして、次 回以降、税の話も誰かに報告していただこうと思っています。島崎座長代理の前提は、拠 出時も、運用時も、給付時も、企業年金は非常に税制優遇されているという前提でしたが、 そこもどのくらい優遇されているのかも議論しないといけないと思うので、そういうこと も含めて次回以降にも話をしたいと思います。ほかにありますか。 ○野村委員 駒村先生のレジメの最後のところが重要なテーマだと思いました。税制優遇 の根拠は何か。ここでおっしゃっているところでは企業年金の方に対すると理解しました。 ここでは公的年金の機能をどのように補完するのかといった点を整理されていると思いま す。  その一方で、最後に重要な点として労使の自由裁量制があり、その制約条件としてとい うか、そこを両立しなければいけないということかと思ったのですが、現在、おそらく企 業年金の内容の自由度と同時に、そもそも導入するかどうかという部分が、より重要なポ イントかなというときに、「包括性及び年金性」というところのコメントを見ていると、厳 しい内容が並んでいるというのが正直な感想です。  例えば脱退一時金のようなものも現実にはあります。そうすると、この一時金の制限も ありますし、終身性というのは確定拠出年金にはその機能は難しいと、よく言われること ですが、確定給付型であっても、厚生年金基金は終身とはっきりしていますが、企業年金 は、どのぐらい終身化されているのか。  ですので、論理立てはわかりやすい一方で、現実にはかなり難しいのではないかという ときに、このアプローチはどう考えたらいいのだろうというのが、この税優遇の根拠は非 常に重要なポイントだと思いました。 ○森戸座長 もし経済学的に、税制優遇するためにこういうことが必要だということにな るのであれば、現実的に厳しそうな要件が多いのだけれども、どうですかという御質問で すかね。 ○駒村委員 書いている自分がそう思っておりまして、税制優遇、公的支援の代わりに、 規制をたくさん作ってしまうことになるわけですから、明日の企業年金の話というより、 明後日以降の企業年金の話になるかもしれません。あくまでも論点として出させていただ いたわけで、これを全部クリアできるというわけではないと思うので、企業年金の専門の 皆様に、公的年金で負えるリスク水準というのは、今このくらいまで出てきているわけで、 もう少し考えると、2009年の年金財政検証というのが、2004年年金体制の完成版として求 められているわけですが、財政の将来を考えれば、考えておかなければいけない問題はあ ると思うのです。  私は「公的年金の2004年体制」と呼んでいますが、この際、「ポスト2004年体制」とい うものも視野に入れておかなければいけません。そのときに公的年金というのは、支給開 始年齢や給付水準はこのくらいまではできる。それに対して私的年金の方で無理強いする かといったら、技術的に皆さんの知っている知識の中で、このぐらいの設計だったら何と かできるというものが出てきて、その中で、これは十分連携性というか役割分担としては、 公的に応援し得るものだという範囲が、具体的には議論されていくのだろうと思っていま す。ないものねだりを書いているのは私もわかっていました。 ○森戸座長 はい。石田委員、何かありますか。 ○石田委員 アメリカの確定拠出年金などは野村先生の論文を読んで勉強させていただい ているのですが、昨今確定給付企業年金から確定拠出年金への動きはかなり加速化してい るところがありまして、そうすると、確定拠出年金の確定給付企業年金化というか、自動 加入などによって加入率、普及率を高めていく、さらには標準投資プランのようなものに よって、一部終身化を図っていくと。このようなこともできますので、確定拠出年金では 必ずしも終身化は難しいということはないと思うのです。ただ、コストが非常に高くなる ので、この辺を政府の役割としてどのように考えていくかということがあると思います。  もう1つは、例えば中途引出しを認めていくことになると、これは老後所得保障の役割 の後退だと取られかねないのですが、私は必ずしもそうは考えておりません。例えば中途 で教育支出、医療支出、住宅支出を認めることになると、そのことが基本的にその方の将 来的な後見を作っていくことができるとしたら、それは公的年金にも私的年金にもプラス になることだと考えていくと、税支出の効果をもう少し幅広く考えると、例えばそういう ことは公的年金の補完にならないからやめたほうがいい、制約したほうがいいということ にはならないような気がしています。 ○森戸座長 まさに税制優遇のあり方というのは、今後この研究会でも重要なテーマにな ると思いますし、また議論する時間はありますので、そのときにお願いします。ほかにい かがでしょうか。 ○菊池委員 今回から入れていただいたので、これまでの議論の流れはわからないのです が、今の御議論を聞かせていただいた上での感想めいたことでもあるのですが、駒村先生 の最後の部分がきついという話がありましたが、石田先生にも、誤解があれば御指摘いた だきたいと思います。  私の理解ですが、この問題に対してどこから議論を始めるかというところで、違いがあ るのかなと思っています。例えば石田先生のタイトルで「公私役割分担」でお話がありま した。私の理解では、老後の所得保障のあり方をどうするか、生活保障をどう構築してい くか、そこからがベースで議論を構築されておられて、それは駒村先生も同じではないか と思います。そこから駒村先生の最後の頁の話になりますし、石田先生についても、例え ば10頁で「年金施策への示唆」とされていますが、それを踏み越えた広い視点からご議論 を展開されているので、これ以外にいろいろアイディアをお持ちだと思います。  そういう老後所得保障のあり方をどうするかという視点から議論を始めていくのと、年 金における公私の役割分担をどうするのかという視点から考えていく。  そうすると、随分、議論の立て方が違ってくるような気がしていまして、それは私も今 回入れていただいたので、これは次の議題になるのかもしれないのですが、どういう射程 で、どこまでを議論するのか。それは公私の年金のあり方だと思います。  私はどちらかというと社会保障が専門なので、老後の所得保障のあり方をどうすべきか という視点ですので、そうすると、年金制度だけではなくて、老後の所得保障が公私年金 と生活保護だけでいいのかというところまで関心としてはいきうるわけしてで、これは両 先生に対する質問というよりも、事務局に対するということになるでしょうが、その辺の 整理というか、私も報告義務がありますので、そこは御示唆いただければと思います。 ○駒村委員 遡っていけばそうなのです。老後の所得保障政策から解きほぐしていって、 年金やその他の所得保障政策の状況と、対応できる範囲が決まって、公的年金でできる範 囲がこのぐらいになっているので、最後に私的なり企業年金の応援を組んでいかなければ ならないというロジックにつながると思うのです。話は逆転してしまっているわけですが、 企業年金という守備範囲に制限されているというのが1つあります。  それから、公的年金がこれからどのように動いていくのか、ほかの所得保障制度がどの ように動いていくかというのも見えない部分もありますので、そういう意味では、先ほど 申し上げたように、数年後の公私の役割は、もう少し次のステップが視野に入った議論で はないのかなと思います。  そのときに、どこかで社会的なコンセンサスがあって、老後の所得保障としては、ある 程度安心してもらえるのが、例えば50%ぐらいは公的年金が安定していると。企業年金部 分で10%、合わせて60%、10%についてはある程度の範囲で変動しているかもしれないけ れども、50%前後のところはある程度安定していると。そういう守備範囲の新しい10%の 私的年金については、どういうリスクについてまで、公で応援する年金の性格として考え るのか、それが保険料ベースでいうと何パーセントぐらいなのかということが出てくるの だと思うのです。  最初のコンセンサスの老後の所得保障の水準がどのくらいで、それに対してどのくらい の比重で市場リスクなり、公的年金の方が人口リスクにさらされるわけですから、それを 社会が許容するかというのは、どこかでコンセンサスがなければいけないと思います。  議論は企業年金から始まっていますが、先生のおっしゃるように、本来は広い所得保障 の中でこれが位置付けられるわけで、企業年金だけ取り出してというのは、議論している 我々としてはしんどいという感じは持っていまして、先生のご指摘のとおりだと思います。 ○石田委員 1つは、企業年金のあり方を考える上で税をどうするかということは、間違 いなく重要なのですが、それだけではなくて、これからの老後保障の全体像ということで いうと、社会保障と税全体の関係です。こういったものについても考えて、そこから還元 をする形で企業年金のあり方といったものを考えていく方法もあるのではないかと考えて います。  ですから、最終的には企業年金の具体的な政策水準適用範囲を、例えば普及促進させた り、制度を改革したりするのにどうしたらいいのかということに、最後は落とし込んでい く必要があると思いますが、当面は幅広い視点から、社会保障全体ないしは税との関係と いったこととの中で、議論を深めていく必要があるのではないかと感じています。 ○藤井委員 今の点で、お2人の議論は誠にそうだなと思うのですが、もう1個の視点と して石田先生が指摘されているように、前回の企業年金研究会のレポートの中にもあった ように、我が国の企業年金は、少なくとも明らかに2つの側面を持っていて、社会保障と しての流れのほかに、企業の従業員処遇という明らかなもう一面があって、それはもう否 定できない事実です。むしろ歴史的経緯からいうと、そちらが企業年金の本流であって、 社会保障的な観点というのは、後付けではないかと思います。  現時点では税制のあり方やいろいろな観点から、そちらの社会保障的な観点が相当色濃 くなりつつあることも事実ですが、歴史的経緯からすると退職金も由来していて、それは 企業内の福利厚生制度の一個であって、職員を基本的には引き止める。なるべく長期的な 視点で見ると、ひょっとしたら石田先生が御指摘のように、安上がりにうまくいろいろな 福利的な効果を含めて、相当うまい具合にアレンジされた巧妙なシステムであると言えな いこともないわけです。それが年金の方に転じてきたという歴史的経緯があって、この視 点は、我が国において企業年金を論ずる場合には、絶対に欠かすことはできないと思いま す。これは国によってそれぞれ違うので、そういう経緯を踏まずに社会保障の1つの形態 として、いわゆる民間型の年金というか、プライベート ソーシャル セキュリティーとい うのが発展した国は明らかに存在していて、大陸ヨーロッパでは非常に多いと思いますが、 そういう経緯とは全く異なるということは、踏まえておく必要があると思います。だから といってそちらだけが重要だというつもりはないですが、そういうポイントがあるという ことです。 ○森戸座長 今の藤井委員の御指摘はそのとおりです。研究会の菊池先生の御質問に戻り ますが、研究会の進め方に関しては事務局があとで説明する時間がありますので、そこで 事務局からお話をいただきます。  私から一言申し上げますと、企業年金政策研究会なので企業年金の話でもちろん議論し ているのですが、今回、石田委員、臼杵委員という企業年金の専門に近い方に入っていた だいたのと同時に、菊池先生と嵩先生という社会保障を広くやっていらっしゃる先生に入 ってもらったのは、企業年金の話ですが、そこだけではなくていろいろな老後所得保障な り社会保障全体もちゃんと勉強しようという趣旨でこういう会にしたので、是非発表のと きもあまり気になさらず、菊池先生の全体的なビジョンを示していただいて、その中で企 業年金に関わる話はこうですねという話で、今日のまさにお二人の報告のようにやってい ただければと思いますので、そこはご心配なくということです。  まだもう少し時間があるので、臼杵委員お願いします。 ○臼杵委員 いろいろあるのですが、あまりたくさんは無理なので次回以降に少し残させ ていただきます。  駒村委員や最後に、野村委員からも話があったように、税の優遇の条件が何かというこ とと、今藤井委員からお話があったように、もともと出自が企業のある意味福利厚生から 出ていることを合わせて考えると、もちろんいろいろな理想はあるのでしょうが、公的年 金と企業年金は、そこは役割分担というか、優遇される企業年金が全く公的年金と同じで ある必要はないのかなと。もちろん税の優遇ということについては、税の優遇はどのぐら いあるのかという議論にはまたなると思いますが、それはそれで後に置きます。  例えば包括性というところについて言えば、強制すればもちろん包括的にはなるのでし ょうが、そこまではちょっと無理というか、それですとほとんど先ほどの定義の話になっ てしまって、ここは公的年金とも言えるようなことになりますので、税の優遇のような形 でインセンティブを与えると。  低所得者についてはいろいろ難しいところはあるのですが、1つはリースターのように 低所得者で税率の低い人には補助金を出すということもあり得ないことはないでしょうが、 むしろ私は、厚生年金ないし公的年金のほうで、もっと所得再分配のところを強化すると か、実際財源がだんだんなくなってきたら、そのようにならざるを得ないような気もして います。  今の公的年金も、基礎年金があるので所得再分配ということにはなっていますが、例え ば社会保険料控除というのは、ある意味で高所得の人しか使えないものですし、そういう ことからすると、もっとそこの所得再分配を強化して、高所得者はそちらで低所得者と助 け合う。一方で、自分である程度税の優遇を得て、私的年金、定義はいろいろあると思う のですが、それを活用するという方向にならざるを得ないのかなというのが、現時点での 私の考えです。  1点だけ駒村先生に質問させていただきます。これはちょっと細かいかもしれませんが、 保険料で給料にどのぐらい転嫁できるかという話ですが、これは公的年金と企業年金で違 う可能性があるのかとか、企業年金でも確定給付と自分の口座にどんどん毎月入ってくる 確定拠出とで、転嫁という言い方がいいのかどうかはわかりませんが、その分賃金を引け るような形というのは、もしかしたら違うのかなと思うのですが、その辺について御意見 があればお願いします。 ○駒村委員 社会保険料の企業負担分というのは、実質誰が負担しているのかというのは、 経済学的には非常に大きな話である割には、日本では実証研究が少ないわけです。結局、 価格弾力性によっても影響を受けてしまう。  一方で、例えば税と保険というのはどう違うのかという議論をしているのがローレン ス・サマーズで、先ほど論文を紹介したものですが、給付と負担の多様関係が明確であれ ば、労働者は、実質的に転嫁されてもそれは引き受け得るのだという研究が出ているわけ です。そういう意味では、今のお話ではなかなか広い話につながっていって、企業年金は 誰に転嫁しているのという話になってしまうわけです。そうすると、本当にこれは給料の 後払い云々という話にもつながってきますし、難しい話です。給付と負担の対応関係は、 分かりやすい方が理屈上はそうだと思うのです。ただその場合、確定確定拠出年金、確定給 付企業年金では、一見確定拠出年金の方が何となく分かるような気がしますが、確定給付 企業年金がもし終身雇用企業長期雇用モデルで、自分が将来このポイントで年金がもらえ ると見えていれば、これはこれでまた別の話になってしまうだろうなと思います。  先ほどお二方が議論で御指摘された、日本の企業年金の源流がそもそも特殊というのが あって、途中で厚生年金基金のような形で乗り込んできたのが、社会保障性を言い出した ものが途中からきたわけです。そういう意味では本当に、最後に私は付け足しのように制 約条件と書いていますが、実はこの話の中で1つ悩ましいというか、そこの問題をどの辺 のところで折合いを付けていくのかというのは、本当にじっくり考えてみたいと思ってい る点です。 ○森戸座長 ありがとうございます。もうだいぶ予定の時間が迫っているのですが、もし もう一人ぐらいどうしてもあれば。では、藤井委員お願いします。 ○藤井委員 全体の論旨とあまり関係ないことなので申し訳ないのですが、オランダ人の 名誉のためにちょっと言っておきたいことがあります。  オランダの方に何人かお話を聞く機会もあるのですが、日本ではオランダでは確定給付 企業年金と言いながら実質、運用が悪かったら減額するような制度があるらしいといわれ ているよと言うと、みんな非常に変な顔をされて、とんでもない話だというように反応さ れる。何でとんでもないように反応されるかというと、いくつか理由があって、集団型DC (コレクティブDC)というのは名前がDCと付いていますが、明らかに確定給付企業年金 であって、かつそれを採用している企業は、オランダというのは全体的には、集団型の制 度が多いですが、中にごく一握りの大企業が単独型、あるいは連合型のようなことをやっ ていて、その中にごく一部、主に会計の理由などもあって、新発明の集団型DCを取り入れ た会社があるけれども、それ以外では取り入れられてはいないということがまずある。そ れが普及の状況です。  内容はどうかと言いますと、運用が悪かったら減額するかというのはラストリゾートな のです。先ほど佐野先生から説明があったように、基本的にオランダの積立水準というの は120%強ぐらいを目指しており、歴史的にずっとそれは維持されていて、例えば昨年度 の市場混乱でだいぶ駄目になったのかと直近に聞いてみても、ほぼ大丈夫だ、100ちょっ とくらいは残っているよと言うのです。だからもともと積立水準が非常に高い状態を維持 していて、去年の混乱ぐらいでは大体のところは割合平気な感じです。  もともと政府コントロールが強い年金で、企業がやることは掛金を出すだけなのです。 それが非常に安定的な掛金であることが予定されていて、それは高い積立水準を当初から 維持することによって、維持されているということなのです。  なぜ減額することを取り入れたかというと、いろいろな説がありますが、結局最終的に 会計上DCと扱ってほしいという1つの思いがあって、取り入れたという面が相当強いよう に思います。それが曲解されて伝わっていることが相当あると思います。そもそもオラン ダの企業年金は今まで1回も減額したことはなくて、歴史的に1件だけ減額という例があ るということをある人が言っていましたが、まず減額はないと。ただ一応規定上そのよう に書いているだけなのだと。そういうのが実態、リアリティーのようですね。名称からく る印象などから、曲解して大げさに捉えられているという面があるのではないかというよ うな気は相当します。別にそうだからといって、我々が新発明のものを作っても悪くはな いのですが、オランダ人の名誉のために、誤解は問題かなと思ったので、ちょっと言って おきたいと思います。 ○森戸座長 コレクティブDCの話に限らず、最初に藤井委員がおっしゃったこともそうで すが、公的や私的、企業年金という言葉を使うときに、特に国際的な比較などをするとき に、正しく状況を掴まなければいけないなというのは全体に言えることだと思いますので、 この研究会でもきちんとそこは留意してやりたいと思います。ありがとうございました。  まだいろいろ御質問、御意見等、せっかく非常に中身の濃い御報告をいただいたのであ るとは思うのですが、もうだいぶ時間も迫ってきておりますので、申し訳ないですが、先 に進ませていただきたいと思います。  次は、「本研究の今後の進め方について」ということで、まず事務局から説明をお願いし ます。よろしくお願いします。 ○西村企業年金国民年金基金課長 資料1に、「企業年金政策研究会開催要綱」が付いてお ります。この研究会の前身である企業年金研究会におきましては、平成19年7月に検証結 果というものをまとめていただいております。  この研究会での検討は、企業年金2法、つまり確定給付企業年金と確定拠出年金の施行 後5年後の検証をするということでしたので、基本的にはこの2法について、具体的にど こを改善すべきかということを中心に、御議論していただいたところです。その各論、特 に確定給付企業年金、確定拠出年金各2つの制度について、各論的にどう対応すべきかと いうことについては結論を出していただき、それを踏まえて法案の提出など、行政として も対応をしてきているところです。  検証報告の目次を見ていただくとわかりますが、2.企業年金の性格、3.企業年金との税 制、7.企業年金のリスク管理といった総論に関わる部分についても、論点を出していただ いております。この中には、なお、引き続き検討が必要である点、なお、整理が必要であ るといった点もあったわけです。そういうことで、こういった引き続き議論をすることと された、特に総論的な検討事項については、なお、宿題になっている部分があるというこ と、確定給付企業年金、確定拠出年金の2つに限らず、その他厚生年金基金も含めた企業 年金の全体のあり方についても御議論をいただきたいと思っているところです。  具体的には、中長期的な企業年金の姿ということを念頭に置きつつ、御議論をいただけ ればと思っているところでして、例えば特別法人税の凍結期限であるとか、適格退職年金 の廃止といったものが3年後ぐらいにはきて、その後のあり方というのがそろそろ議論に なってくる時期だという背景もあろうかと思います。  中長的な企業年金の姿を御議論いただく際に、先ほど菊池委員からも御指摘がありまし たが、年金ないし企業年金だけからの議論では限界があるということで、広く老後保障全 般に及ぶ議論をまず広げる方法で、御議論をいただきたいと思っております。特に企業年 金だけでなく公的年金との関係、あるいは社会保障全体の中での位置付け。もう1つ重要 なのは、労働政策的な観点で、退職金ないし賃金政策の一環としての企業年金というよう な視点もあろうかと思います。切り口はいくつかあるのではないかと思いますので、そう いう意味で広範な視野で研究をいただければと考えております。最後には特に企業年金制 度をどうするか、政策をどうするかというところにもちろん収斂していただく必要はある わけですが、当面は広範な視野で研究をしていくというようなことで、御議論をいただけ ればと考えております。  2の「研究事項」の例として、(1)から(8)まで掲げています。これは必ずしも事務局とし てこういった事項に絞る趣旨ではありません。広く老後保障ということから企業年金を考 えた場合には、こういったものがあり得るのではないかというものを挙げているところで す。今日は(1)の公的年金・私的年金の役割分担というところから入っていただいているわ けですが、その後、(2)企業年金の意義や水準、(3)データでは現実の企業年金がどのように なっているかというような、大きな話があろうかと思います。  また(4)以降にありますように、企業年金の歴史から見たあるべき姿、(5)企業の人材管理 から見た退職金としての役割というのがあろうかと思います。企業の人材管理というのは、 必ずしも人材を管理する方のみならず、管理される側という労働側の視点もあろうかと思 います。  それから、(6)税制の問題。(7)、(8)ぐらいになると、ややテクニカルな話にもなってきま すが、確定給付と確定拠出の関係や、受給権保護の問題といったようなことにも及んでく るのではなかろうかと思います。  当面事務局としては、委員及び外部有識者の方のレポートを中心に、この研究会で研究 を行っていくということでお願いできればと考えております。(1)は誰さん、(2)は誰さんと いうよりも、それぞれの委員の先生方が御関心の点を中心に、当面はいつまでに何をまと めるとか、こういう方向でということは決めずに、広く先生方のレポートを中心に勉強を していくというようなことで進めさせていただければというように御提案させていただき ます。 ○森戸座長 ありがとうございました。ただいまの事務局からの説明につきまして、皆様 から御質問、御意見があればいただきたいと思いますが、何かございますか。よろしいで すか。  では、次回以降の進め方については事務局と相談して、皆様からもここ以外の場でもい ろいろ御意見をいただいていると思いますが、相談して整理をしていきたいと思います。  最後に、事務局から報告事項がありますので、それをお願いしたいと思います。 ○西村企業年金国民年金基金課長 資料の5として、参考資料を付けています。これは主 に企業年金研究会の検証報告で、御検討いただいたことのその後の結果、あるいはこの研 究会の議論の参考に供するということで、基礎的な資料を提出させていただくという趣旨 でして、これについて御議論をいただきたいというよりも、この研究会での研究の参考に なるものとしてお出しするものです。  1頁は、企業年金等の状況でして、企業年金改革がおよそ7年前に始まって以来、厚生 年金基金と適格退職年金という二本立てできた企業年金の体系は、新しくできた企業年金 2法、確定給付企業年金と確定拠出年金を含めまして、多様な姿として展開してきている ところです。  また適格退職年金につきましては、受給権の保護という観点から平成24年3月一杯で廃 止するというような方針になっておりまして、現在のところ、およそ6割程度が移行して いるということですが、なお、4割程度が残っているところです。これが現在の企業年金 の体系です。  数字などについては、できる限り直近のものに直させていただいております。現在のと ころ厚生年金基金がおよそ500万人、確定給付企業年金が550万人、確定拠出年金が300 万人、また適格退職年金が400万人ということで、この4つの企業年金の制度がおよそ拮 抗するような形で、企業年金の体系が作られているということですが、このあと適格退職 年金の移行ないし厚生年金基金の今後のあり方によっては、まだ変わる可能性があるとい った状況であろうかと思います。  2頁は、厚生年金基金の推移です。現在の企業年金の体系というのは、厚生年金基金を 中心とした法体系になっている現状にあるわけですが、厚生年金基金については平成14 年度、15年度というところに単独と連合と書いてありますが、大企業の厚生年金基金の代 行返上をということで、厚生年金基金から企業年金基金に変わりまして、その分厚生年金 基金が大幅に減少をしているところです。総合設立と書いてあるのが、今は8割型を占め ているという状況でして、600ほどある厚生年金基金のうちの500ほどは、中小企業の集 まりである総合型の厚生年金基金になっているということでして、現在厚生年金基金は、 中小企業を主とした制度に変わっているというグラフです。  前の企業年金研究会では、厚生年金基金のことは所轄範囲に入っておりませんでしたの で、今回は改めてこれも含めて御議論をいただきたいということで、資料を出させていた だきました。  3頁は、厚生年金基金と書いてありますが、厚生年金基金に限らず、企業年金全体にお いてこういったような利回りの推移を、大体こういった線を描いているということだろう と思います。  昨年度、平成19年度には、サブプライムローン問題をきっかけとした金融市場の混乱も あり、平成19年度末の利回りは、マイナス12%ということになりました。平成20年度に おいても金融市場の混乱が続いておりまして、こういった状況が続いた場合には、何らか の対応が必要なのではないかという要望を、各方面からいただいているところです。今日 のテーマでもありましたが、企業年金は積立方式ですので、こういった市場での利回り、 運用環境の変化によって、かなり大きく影響を与えられるわけで、これに対してどのよう に対応すべきかということも中長期的な観点からも大きな問題、課題になろうかというこ とです。  4頁は、確定拠出年金に関する税制改正、法改正に関する予定についての御報告です。 この研究会の前身である企業年金研究会におきまして、確定拠出年金制度の改善について 御提案をいただいた中で、現在企業の確定拠出年金については事業主拠出しかできないと いうものに関して、個人拠出、いわゆるマッチング拠出を認めるべきであるということに ついて、御提案をいただいているところでした。これにつきましては、年末の税制改正の 議論の中で、平成21年度税制改正ということで、マッチング拠出を導入するという方針が 決まりました。これは法律事項ですので、現在この法案を国会に提出すべく、準備をして いるところです。この赤で括ってある所が、法律改正事項です。  (2)の拠出限度額の引上げ、これについても研究会の検証報告で御提案をいただいている ところですが、これについても5,000円アップということで、政令改正を予定しています。 いずれも施行時期は、現在のところ平成22年1月ということで予定しています。また、研 究会でもかなり御議論をいただきましたが、事業主拠出と個人拠出の合計が、拠出限度額 の範囲内である、個人拠出が事業主限度額を超えないということで、マッチング拠出を認 めることによって、事業主の拠出を従業員の拠出に転嫁することがないようにという配慮 もしている制度改正案ということで、現在準備をしているところです。事務局からの報告 は、以上です。 ○森戸座長 では、本日の議事はここで終了したいと思います。次回の日程は、3月31日 (火)、13時30分から16時ということで予定しております。本当に年度末で恐縮ですが、 御予定の方をよろしくお願いいたします。では、本日はこれで終了いたします。ありがと うございました。 (照会先) 厚生労働省 年金局 企業年金国民年金基金課 企画係 (代表)03-5253-1111(内線3320)