08/10/16 第2回臨床研修制度のあり方等に関する検討会議事録 第2回臨床研修制度のあり方等に関する検討会   平成20年10月16日(木) 15:00〜17:00 厚生労働省18階専用第22会議室 ○高久座長  時間になりましたので、ただいまから第2回「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」 を開催いたします。本日は、ご多忙のところをご出席いただきまして、ありがとうござい ました。本日は、3人の先生方からお話を伺うことになっておりますが、その前に資料の確 認を事務局からよろしくお願いします ○田原医師臨床研修推進室長  それでは、事務局のほうで資料の確認をさせていただきます。まず、委員の出欠状況をご 報告いたします。本日は、飯沼委員、矢崎委員が欠席でございます。  資料の確認です。最初に「議事次第」「座席表」「検討会名簿」があります。資料1「事務 局提出資料」、資料2「前回検討会での主な意見」、資料3「嘉山委員配付資料」、資料4「武 藤委員配付資料」、資料5「今井浩三先生配付資料」、資料6「河野茂先生配付資料」です。 それから、富田勝郎先生の資料がありますので、後ほど席上で配付させていただきたいと 思います。  参考資料として、本日公表されております「平成20年度臨床研修マッチング 組み合わ せ結果」を配付しております。以上です。 ○高久座長  皆様方のお手元に資料があると思います。なければ事務局にお申し出ください。  本日の議題は、臨床研修に関する3人の方々からのお話をお伺いします。そのあとにい ろいろご議論いただきたいと思いますが、その前に前回の検討会で委員の方々から要望が あった資料を、事務局で用意していますので、事務局から説明をして、そのあとに先生方 からお話をお伺いしたいと思います。それでは、事務局、お願いします。 ○新木医学教育課長(文部科学省)   資料1に基づきまして、前回、OECDの高等教育への支出状況について資料を提出する ようにというお話がありましたので、用意してきた資料に基づきましてご説明させていた だきます。  資料1の5頁、6頁です。「OECD加盟国の高等教育に対する公財政支出の対GDP費(2005 年)」が直近のものでしたので、それを用意しました。OECD加盟国中、データのある28 カ国について比較をしたのがこの表です。ここにありますように、0.5ということで公支出 の部分は28位になっています。なお、具体的な数値については、6頁にもう少し細かいも のが初等・中等教育を含めてありますので、後ほどご覧いただければと思います。文部科 学省関係は以上です。 ○田原医師臨床研修推進室長  厚生労働省で用意している資料をご説明したいと思います。前回の委員会のご指摘を踏 まえて用意した資料です。説明はごく簡単になりますので、後ほど質問いただければ、そ れに答える形で補足をしたいと思います。  資料7頁は、OECD加盟国の臨床医の数、8頁は、OECD加盟国の医療費の状況、9頁 は、診療科別医師数の推移で、平成10年と平成18年の比較です。右側にありますように、 分類が若干異なり、研修医という項目がありますので、ご留意いただきたいと思います。 10頁は、診療科別医師数の推移を、平成6年を1.0とした場合の年次推移です。10頁が全 体で、11頁が病院従事者、12頁が診療所従事者です。13頁は、医師の地域偏在の実態が ありましたので、都道府県別に見た人口10万人対医師数を整理したものです。総医師数と 従事医師数を整理しております。14頁は、その県の中での分布です。二次医療圏別の人口 10万人当たりの従事医師数で、多い所と少ない所の比較を示しています。15頁、16頁は 前回にも示しておりました研修医の在籍状況の推移、研修医の定着率です。  17頁は資料2ですが、前回の検討会における主な意見を整理したものです。改めてご覧 いただきまして、修正が必要であれば、後ほどお知らせいただきたいと思います。事務局 で用意した資料は以上です。  このほかに別添として「医師臨床研修マッチングの結果」というのがあります。これに ついても大部ですので、後ほどご質問があればお答えしたいと思います。3頁の表4を見ま すと、平成19年度と平成20年度の臨床研修病院と大学病院の割合は、平成19年度と変わ らず、臨床研修病院が50.9%、大学病院が49.1%という状況です。このほかにも資料があ りますが、後ほど質問があれば、補足させていただきます。以上です。 ○高久座長  早速、3人の方からのお話をお伺いしたいと思います。最初に今井先生、お願いいたします。 ○今井先生  札幌医科大学の学長をしております今井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 皆様のお手元に書類があろうかと思いますが、25頁です。なお、スライドもそこに映って おりますので、見やすい方は、スライドのほうも見ていただければと思います。  私は、本日は学長・理事長と書かせていただきましたが、学長の立場、それから大学を 経営する立場でもお話をさせていただくという意味でございます。 ☆スライド  26頁です。私どもの大学は、札幌にある北海道立の大学ですが、昨年から法人化しており ます。そのときに理念をしっかりと定めることにして、医科大学として「最高レベルを目 指します」ということを掲げさせていただきました。  そして、それには3本柱がありまして、「人間性豊かな医療人の育成」。これは教育とい うことでして、医師、医療従事者になるために、こういった教育が重要であるということ。 2番目は、医療サービスの向上ということで、特に「道民の皆様に対する医療サービスの向 上に邁進します」ということを入れさせていただきました。これは、診療です。3番目に、 大学ですから、その診療を未来において支えるであろうと、「国際的・先端的な研究を進め ます」と書かせていただきました。 ☆スライド  27頁です。これは、文部科学省が出している科学研究費補助金の一覧表です。お手元の表 は細かいのでスライドを見ていただきたいのですが、医科系の公立大学は全国で8つあり ます。そのうち12番が京都府立医大、13番が札幌医科大学、14番が横浜市立大と3校並 んでいます。また38位に大阪市立大、39位が名古屋市立大、その下に40位が奈良県立医 科大となっています。これは何を申し上げたいかというと、研究についても公立医科大学 は、50位以内に8校中6校が入っています。つまり、中核的な位置にいるということを申 し上げたいわけです。 ☆スライド  札幌医大はこういう位置におります。ですから、私どもの大学は、そういう意味では研究 もしっかりやらせていただいている大学である。その立場からお話をさせていただきたい と思います。 ☆スライド  28頁です。最も重要な教育についてですが、スライドにも、28頁にもありますように、地 域医療に焦点を当てて、文部科学省のGPをたくさん応募して採択もされています。ここで 申し上げたいのは、教育において新たに地域密着型のチーム医療実習を、次々に進めてい るという点です。 ☆スライド  これは絵にしたものですが、右側に医学部があります。右側にあるのは全部実習で、地域 医療に密着した実習を1年生から展開している点です。同時に、チーム医療がこれから非 常に重要なものですから、看護師になるような保健医療学部の皆様とも一緒にチーム医療 実習をやっています。しかも地域密着型でやっています。これはおそらくほかの大学もた くさんやられていると思いますが、本学は北海道の地域医療を目指しておりますので、1つ の重要な柱で、このような教育を展開しています。 ☆スライド これが地域密着型チーム医療実習の中身です。実際に4学科合同で、北海道 の東部に別海町とか中標津町があります。そこに全部連れていき、私も一緒にまいりまし て、チーム医療実習を2回に分けて行うということです。詳細は省かせていただきます。 こういうことを通して、患者のニーズ、住民のニーズを、医療人が若いうちに知ることに なって、地域医療を目指す方が増えてくることを狙ったものです。 ☆スライド  これは昨年1月の北海道新聞です。このように1つの例ですが、市立根室病院では「内 科医不在の恐れ」ということで、なぜこういうことになったかを申し上げたいと思います。 これはたまたま旭川医大の先生方です。 ☆スライド  真ん中に絵が出ていて見づらいのですが、根室に限らず、昨年だけで新たに5カ所、江別 市立のような大きな病院もその前にありましたが、道立羽幌とか、道立江差、室蘭の病院、 羅臼町国保病院などは、ほとんど医師がいなくなってしまっているのが現実です。なぜそ うなったのかは左にも出ていますが、「新研修制度で大学人材不足」、これが1つの大きな 要因であることは間違いないと思います。 ☆スライド  その事実を述べたいと思います。まず市立根室病院の場合は、左側が平成18年11月の状 況ですが、常勤医が11名おりました、それが11月から数カ月の間に3名になってしまう という状況になり、住民も大変お困りになったという状況があります。詳細は省きますが、 これについては札幌医大も何とか応援を出さなければいけないということで、現在は少し ずつそういった方に行っていただいて、少しずつ持ち直している状況です。 ☆スライド 34頁です。これが最も重要な図です。札幌医大で初期臨床研修がどう推移し てきたかです。計を見ますと、平成16年度が70名、58名、50名、36名、47名と出てい ますが、残念ながら、このように少しずつ減ってきております。先ほど申しましたように、 教育に関しても、いろいろなGPを採ったりして、大学としても、全体を挙げて努力してい ますが、現実はこうです。  後期臨床研修というのは、初期が終わって2年間すぎて戻るところで、矢印で書いてい ます。これが非常に重要で、この研修制度は平成16年度に始まりました。そこは0人です。 その前までは106人、97人、97人、77人です。77人というのは、既に情報が入って、学 生たちが少し離れたということがあるのですが、その次が問題で、0人、0人です。ここが 深く、今に至るも非常に悪い状況を作る1つの根拠になっています。それは次にお示しし ますが、大学にいる医師を地域に順番に出していたわけですが、その循環がうまくいかな くなったということです。その2年後からは少しずつ戻ってきて、現在は70名前後で経過 しております。これは全国のレベルで言いますと、まあまあのほうです。名前は挙げませ んが、1桁の大学病院をたくさん知っています。そういう所は地方には多いと考えておりま す。私どもはたまたま札幌にあるということもあるのかもしれませんが、少しは努力して こういう状況になっています。 ☆スライド  道内に医師を派遣するシステムを、私どもは新しく平成16年から立ち上げて、大学全体で これを行うことにしました。下にありますように、それぞれの教室がやるのではなく、大 学全体として派遣するように新たに立ち上げたわけです。 ☆スライド  実際にこのようになっています。下のほうですが、地域の医療機関から要望があったら、 大学に来るわけです。私どもはいわゆる医局は廃止しております。いわゆる医局に来るの ではなくて、大学に要望が来ます。そうしますと、病院長を中心にして、おられれば、こ れを各教室にお願いするわけです。この中身は教室の人が、教授は委員長になれませんの で、教授を除いて審査をして、そういう方がおられれば返事をするというシステムになっ ています。さらに、これを全体として見るために、外部の委員が入って、私が委員長とな って、全体を統括しているというシステムです。 ☆スライド  これは今日、初めて示しますが、平成16年からこのようなことを行っておりまして、全道 に医師を派遣しております。継続的に出している数を見ていただきたいのですが、札幌医 大の病院から白衣を着た医師が、平成16年から427名毎年出ていたということです。この 前もおそらくこれと大きく変わりません。それが研修が始まると、344名、331名、318名 というように、精一杯出しても、これしか出せないというようにどんどん減ってきていま す。 ☆スライド  新しい要望があるのですが、新しい病院にはほとんど対応できず、水色の所だけです。 ☆スライド  合わせますと、このようになっていまして、残念ながら、私どもはそういうことで是非出 したいのですが、人がいないということで、このような状況になっています。 ☆スライド  今のは全部常勤です。ですから、1年以上行っている医師の数です。これは、そこを補うた めの非常勤です。すなわち助手、講師、准教授が土日を割いて、このように行っておりま す。教員以外の大学院生なども行っております。そうすると、この人数もだんだん辛くな ってきて、少しずつ下がっていきます。それでも延べ人数にすると、500人を超える人が出 歩いているわけです。 ☆スライド  これはどういうことかというと、月平均このぐらいの時間行っています。つまり、教員で も月に28時間行っています。平成16年は25時間でした。どういうことかと申しますと、 1カ月の土・日のほぼ半分は地方で当直したりして暮らしているということです。すなわち 人がいないことによって、このような労働過重がもたらされていて、若手の医師も1カ月 に7日外にいるという状況です。これでもギリギリ頑張っているのですが、これ以上この 時間が増えると、労働過重になって、非常に問題が起きてきて、だんだん疲れが出てきま すので、大学病院の患者にもご迷惑がかかるので、この辺がギリギリの所だと認識してお ります。 ☆ スライド  ということで、こういう状態が出てきた1つの理由は、大学に人がいない、少ないからで、 減ってきているというのは、残念ながら本当です。そして、それの引き金を引いたのは卒 後臨床研修制度ではないかと私は考えています。ほかにも要因がないとは言えませんが、 大きな要因はこれだろうと考えています。  何とかプログラムを良くしたり、いろいろなことで集めようとする努力はいろいろな角 度からやっており、手をこまねいているわけではありません。にもかかわらず、なかなか いらっしゃらないのは、最初の2年間ゼロであった。すなわち、北海道から3大学で300 人の医師が一瞬の間に消えたわけですから、これが2年間、すなわち600人が研修という ことでほとんど常勤のスタイルがとれなかったことが大きく響いていると考えます。 ☆スライド これは私のささやかな提案で、全くの試案です。いろいろなご議論があろう かと思いますが、これがいま行われている研修スケジュールで、1年目、2年目です。内科、 外科、救急/麻酔科、精神科、小児科、産婦人科、地域医療、自由A、自由Bとなってお りますが、現状に照らして考えますと、これをゼロにして元に戻すのは折角できた学生の 研修スタイルもありますので、あまり現実的ではない。そこも確保しながら、1つの案とし ては、2年目の地域医療も入っている自由選択というところを、言葉は地域医療枠ですが、 是非総合医療的なことをやっていただく。場合によっては内科、外科を分けていただいて もよろしいのですが、出身大学と同じ都道府県内に戻っていただいて、半分ぐらいずつそ の病院で研修をやっていただければ研修のためにもなりますし、同時に地元の患者のため にもなるということで、これは私個人の提案で、別に機関で話したわけではありませんが、 こういったことも考えてはいかがかと思いまして、ご提案をさせていただきました。 ○高久座長  いま両大臣が来られましたので、ご挨拶いただきたいと思います。最初に先月文部科学大 臣にご就任された塩谷大臣にご挨拶をお願いいたします。 ○塩谷文部科学大臣  ただいまご紹介を賜りました文部科学大臣の塩谷でございます。第2回目の「臨床研修制 度のあり方に関する検討会」、本当にご苦労さまでございます。大変大きな問題になってお りまして、舛添大臣に熱心に取り組んでいただいて、最初は、渡海大臣とお話をして、第1 回目は鈴木大臣が出席し、2回目は私ということで、いろいろ変わっておりますが、常に舛 添大臣にリードしていただいて、この問題に取り組んでいただくこと、そして先生方には、 是非とも十分な検討の上、しっかりとこのあり方について結論を出していただくことが大 事だと思っております。  いずれにしましても、特に産科、小児科をはじめとして、医師不足は地域医療に大変深 刻な状態を与えておりますので、私どもとしては大学病院のあり方等も含めて検討をして いかなければならないと思っているところでございます。  ちょうど河村官房長官と「大学病院を考える議連」ということで私が会長代行を務めて おりまして、前々からこの問題、大学病院のあり方について検討すべき点が多いというこ とで、私もこれに携わってきたわけでございます。やはり医学教育を通じて地域医療の担 い手としての活躍できる能力と志ともに高い医師を養成することと、地域医療の最後の砦 としての大学病院の機能を強化すること、こういったところをしっかりと捉えていくこと が必要です。  特に若手医師の減少を招いている臨床研修制度については、私としては当然初めから予 想ができたことではないかという気がするのですが、いざやってみて、このような深刻な 状態になっていることは、当然見直しを含めて、検討すべき問題だと思っております。是 非、できるだけ早い機会に、皆さん方のご議論をいただいて、結論が出せればと期待をし ております。私どもは舛添大臣と一緒になって、厚生労働省と文部科学省がしっかり協力 して行ってまいりたいと思いますので、何卒よろしくお願い申し上げる次第でございます。 どうもありがとうございます。 ○高久座長  どうもありがとうございました。それでは舛添大臣、よろしくお願いします。 ○舛添厚生労働大臣  皆さん、お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございます。いま塩谷文 部科学大臣からご挨拶いただきましたように、内閣は変わりましたが、麻生内閣の下にお いても、「臨床研修制度のあり方に関する検討会」は、両大臣の下で進めていくということ ですので、よろしくお願い申し上げたいと思います。  「安心と希望の医療確保ビジョン」のメンバーもここにおられますが、重点的に議論を する中で、今井先生のお話にもあったように、新しい研修制度が地域における医師不足に 拍車をかけているのではないか。いまデータでお示しくださったとおりだと思っており ます。  そこで、「安心と希望の医療確保ビジョン」の中でも、例えば「卒前の医学部教育と卒後 の臨床研修制度の教育内容が重複しているので無駄ではないか。いまさら外へ出てまで、 こんなことをやりたくない」という声も聞かせていただきましたし、こうして両大臣でや っているのは、1人の医師を養成するのは文部科学省だけでもできませんし、厚生労働省だ けでもできないので、この緊密な連携プレーが必要だということで、努力をしていただい ているところです。  その中で、いま今井先生から、2年目を地域医療に9カ月分ぐらい当てるという案をいた だき、私も非常にいいアイディアだと思いました。例えば、卒前・卒後の教育内容が重複 しているのなら思い切って2年を1年に短縮したらどうか。というのは、例えば、1.5倍に 医師の養成数を増やすと言っても「大臣、何言っているのだ、10年先の話じゃないか。目 の前のできることをやれ」と言われます。いろいろやっているつもりですが、各地で分娩 を取りやめる産科が増えたり、市立病院が閉鎖されたりというニュースが毎日のように起 きておりますし、予算委員会でもさんざんこの点を指摘されているところです。  仮に2年から1年にすると、8,000人ぐらい医師が増える形になるので、ある意味で即効 性はあると思います。ただ、これのプラス、マイナスもあると思いますので、是非、この 点も重点的にご議論いただければと思っております。  それから、釈迦に説法ですが、新しい研修制度がすべて悪いかというと、全体のレベル アップなど、制度の導入によって改善されたところもたくさんあると思いますし、私のそ ばに大熊委員が国民代表でいらっしゃいますが、病院のほうもしっかりしなさいと。そん な魅力のない病院をという意見もあります。札幌医科大学がそうだと言っているわけでは ありません。若い医師は設備のいい、臨床がたくさんできるいい所に行くのは当たり前で はないか、だから病院側にも努力しなさいと。これは嘉山委員から反論があると思います が、そういう活発な忌憚のない議論がございました。例えば医師が一人前になるときに、 プライマリ・ケアは、どの段階でやったらいいのかと。私などは専門ではないから卒前が いいのか卒後がいいのか、どこなのだろうという話もありますので、是非、こういう点に ついても、2人の大臣に遠慮する必要は全くありませんので、自由にご意見をいただきたい と思います。  こういう政局ではありますが、どういう内閣ができようと、どういう政党が政権を取ろ うと、これは国民に対してきちんとやらなければいけない改革ですので、ここで皆さん方 のお力を借りて、この検討会が両大臣の下できちんと1つの方向性を示すということは国 民にとって極めて重要だと思います。  時間は限られていますが、例えば、私がいま申し上げたように、2年を1年にすること、 プライマリ・ケアをどこでやるかという位置づけなどについて、例示をしただけですが、 年内ぐらいを目途に何らかの中間報告的なものが出ないかなと思っています。解散総選挙 がいつになるか、麻生総理と話をしても全くわかりません。この点はわかりませんので、 それにかかわらずやるしかないと思っています。  ちなみに今日の読売新聞の朝刊に、医療制度についての改革案が出ていました。いろい ろな団体、いろいろな方々が提言されるのは、私は大変好ましいと思っています。その中 に、研修制度のあり方に関してもありましたが、例えば計画的な派遣先の決定という、あ る意味での規制強化みたいなものがいいのかどうなのか。今の若い医師に「そんなことを するのなら、俺は医師になるのはやめた」と言われたらどうするのかと いうこともあります。あそこにも研修制度についての1つの新聞社の考え方がありましたの で、こういうことについても活発にご反論をいただいて、いい方向でご議論を進められ ればと思います。  長くなって恐縮ですが、塩谷大臣も公務で途中でご退席なさいます。我々はこのあと参 議院の本会議がございまして、補正予算の採決がございますので、私もちょっと早目に出 ますが、時間の許す限り、ご一緒したいと思います。本当にありがとうございます。 ○高久座長  どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、ヒアリングをしたいと思い ます。次に富田先生、よろしくお願いします。資料はいまいただきましたね。 ○富田先生  金沢大学からまいりました。急な呼出しで十分な資料も準備もしておりません。しかし、 頭 の中はこのことばかりを考えてきましたし、今も考えております。ですから、先ほどの質 問、舛添大臣の質問にもすべて答えたいぐらいの気持ですが、私はまず自分の任務を果た したいと思います。  と言いましても、私は北陸地方の惨状を訴えに来たつもりは全くありません。北陸地方、 金沢から見ていて、日本の医療をどのようにしたらいいかという答えを持ってきたつもり でおります。  先ほどからご説明もいろいろありましたように、この平成16年度からの5年間の初期臨床 研修制度が、現在の医療の混乱を招いたことは議論の余地がないと思っていますし、病院 長会議があるごとに、すべての病院長が「どうしてこんなことになってしまったのだろう」 「どうしてこれをやめないのだろう」「なぜみんなはわからないのだろう」といった会話 ばかりで、私は病院長になって3年ですが、この制度がいいと言った病院長に会ったことが 未だありません。この制度がいいという大学病院長はおりません。  そしてまた、このように大学病院関係の私どもを呼んでいただいたことは、おそらく行 政側も大学病院がキーとなって医療を支えていかなければならないということを理解して いただいているからだろうと思います。  この医療の混乱、この根源は初期臨床研修制度によりますが、ひがみではありませんが、 冷静に冷静に考えたところ、その根源は大学病院の医局制度の良さを適正に評価せずに、 医局崩壊、大学崩壊を図ったことにあると、私だけではなく、いや、私以上に大学病院だ けではなく、地域の病院もみんなそのように思っております。これが事実だと思います。 これを皆さんが認識するのは非常に辛いことだろうとは思います。しかし、それが事実だ と思います。  大学を中心とした医局制度は、日本が150年をかけて、木がだんだん枝を伸ばしてくる ように試行錯誤を繰り返して立派に育ってきたものです。そして、資本主義と社会主義の 中庸を行く日本ならではのいい制度になって、素晴らしいシステムだと思います。  もちろん山崎豊子さんのような観点もあったものですから『白い巨塔』のような、あの ような問題点が誇大・誇張されました。しかし、そういったことは相当改善されましたし、 これからも修正していけばいいと思います。私達国民の皆さんはそういう知恵を持ってい ると思います。  日本の大学では圧倒的にどの大学病院もそうですが、医の心及び倫理感を大切にして医 師を育ててきているはずです。なぜならば、大学病院だけは本来、病院の経営とか、この 患者を治すといくら儲かるのかを考えない、考えなくていい、いちばんいい治療は何かを しっかり考える病院です。そして、いま研修医がよく言いますように、どの病院に行った ら、どれだけ症例が積めるかという数を競っている研修医たちがいますが、それは大きな 間違いです。どの病院に行ったら、どんなことをさせてもらえる、どれだけをこなした。 これは私たちがゾッとするような言葉です。言ってはならない、患者にそんな気持を映し てはならないような医の倫理から外れた言葉ですが、そういったことが重要なポイントの 1つになっています。  患者を診るときには、ドクターには言う必要もないのですが、本来、1人の患者を真心込 めて徹底的に観察し、診て、そして考え抜いて最高の治療をすることこそが医師の教育な のです。数ではありません。させてもらえたということでもありません。危ないと思えば 指導医の下でしっかり上手な技術でやるのを見て、それをしっかり見て、頭に叩き込んで やらなければいけない。この医の倫理が、現在の研修医制度になってから、非常に若い医 師ゆえに心配しております。数、そしてさせてもらえた、しまいには「地域医療は若い医 師に回せばいい。研修医が終わった者が行けばいい」というようなことで、私の故郷は地 域ですが、地域の者にとってみれば、こんなに失礼なことはありません。医師になって1年 経ったか経たない者が、地域の医療へなら回してもいいと。 そんな者には私の家族は診てほしくない。危なっかしくて見ていられないのです。なぜそ のようなドクターを地域に回すのですか。悲しい悲しい言葉だと思います。  地域医療は本当のことを言うと、経験豊富なドクターあるいはリタイヤされたドクター が行く、あるいはヨーロッパのドクターがアフリカやアジア系に行っておられるように、1 年間のうちの3カ月とか、1カ月をボランティアとして行くとか、いろいろな工夫を考える べきです。1年経ったばかりの若い医師人が東京のここへやって来て医療を行っても、皆さ んはいいのですか。ここも地域だとすれば。私はそういう考え方に憤りさえ感じます。そ ういうのはいけないと思います。  とにかく、「医の倫理、医の心」をしっかりと植えつけることこそが、日本の医療とし て大事なのです。そのためには、経営というのはほとんど考えない、そして、どういう医 療がいちばんいいかを追求する指導をしなければいけません。これをしっかり叩き込んだ 上で、許される範囲で一般病院に行けば、経営も考えながら行っていくといった自然な教育 の姿が必要だと思います。  子供のときから悪いことや金儲けを教える親は全くおりません。それと全く同じことだ と私は思います。いまはどちらかというと、拝金主義、市場原理主義が非常に優先して、 また病院経営が地域医療の崩壊につながっています。  しかし、大学病院というのは、本来、臨床と医師の教育、そして研究です。研究があるか らこそ、新しい知識も生まれてきて、それが若い医師に当然の知識として教育、吸収され、 最善の臨床に結び付いていく。だから、結果として大学病院では新しい医療が次々と生まれ に実行されていくのです。  しかし、その医療も5年、10年経つと、古い医療になっていきます。ですから、リニュー アルし続けなければいけません。すなわち医師というのは、「生涯教育」が必要です。年を とっている医師だから、20年前の医療でいいという患者は全くおりません。私はドクターに なって35年経ちますが、35年経ってもブランドニューの医療をやらなければ患者は満足し てくれません。そういった医療をどの医師にも要求しているのが患者ですし、私たちもそ の要求に応えなければいけません。そのためには、医師は常に生涯教育なのです。この生 涯教育をやっていくには大学病院がキーステーションなのです。すなわち大学病院が各地 域の基幹病院となって、常に医師の生涯教育をリードしていく必要があると思います。  そういったことから含めて、大学病院をしっかり立て直せば、すなわち大学を中心とし た医局制度をしっかり支えていく体制を戻せば、大学病院中心とすれば、地域医療も必ず しっかり立ち直ります。大学病院がほかの一般病院と全く同じように競争させるようなこと になった今、地域医療も混乱していると私は思います。  しかし、幸いなことに、今年の7月の終わりに、急に非常に驚くような名案が厚生労働省、 文部科学省から共同だろうと思いますが、出ました。正式な名前は忘れましたが、「大学 病院重点型特別コース」を、医師不足の科だけに設けてもいいと。不足というのは産婦人 科、小児科、救急/麻酔科です。しかし、実際にはどの科も全部不足しています。いま言 った4つぐらいの科だけではありません。いずれにしても、大学病院特別コースというか重 点コースを全科に適用拡大させて、これを推進していくことです。そうすることによって、 既に方向を決めている研修医、研修医というのは、本来医学部で既に6年間医療の勉強をし てきています。本来ならば6年の間に、私どもはみんな外科になるのか、内科になるのか、 小児科になるのか、整形外科になるのか、私は整形外科を選びましたが、6年間にみんな選 ばなければいけないというので必死になって各科を見ているのです。これも6年の最後に決 めるということがなければダランとなってしまいます。ダランとなって、また卒業してから 同じベットサイドティーチングのようなことを繰り返しているのです。ですから、無駄に なっているのです。8割方のドクターは、6年の間に自分がどのコースを選ぼうか決めてい ます。ですから、それに合った大学病院特別コースを許せばいいわけです。  そうすると、実質的に研修期間が1年短縮したのと全く同じになります。卒業してから の1年目がプライマリ・ケアの基本的なことを、内科を中心に、あるいは外科を中心とし た、あるいは救急を中心とした現在やっているようなプライマリ・コースとしてやればい いわけです。例えば、自分は外科を選ぼうと思ったら、そのようなコースに合ったプライ マリ・コースを選べばいいわけです。内科へ行こうと思えば、内科に沿ったプライマリ・ コースを選べばいいわけで、それを1年間やればいいのです。2年目は特別専門重点コース に入る。すなわち自分の目指すコース、鉄は熱いうちに打てといった、そのままの気持で 選んでいただく、これでいいと思います。このようにしていただきますと、各大学病院の 科においても、実際に自分の科に来たのと同じ感覚で教育、指導にも力が入るわけですし、 本当の意味の指導になります。  本当の意味の指導というのはどういうことかと言いますと、失礼ですが、いま一般病院 では、胡麻すり教育になっているのです。自分たちの病院にいる2年間、あるいは半年だ けいい思いをしてもらって、評判をよくして次々と続けて来てもらえばいい。だから、患 者の数を競ったり、技術をさせてみたりすることになるのですが、そうではなくて、1つの 症例、例えば整形外科でも、単なる腰痛のように見えても、ぎっくり腰から、癌転移まで 考えながらしっかりと診ることによって、そしてその1人の患者を通じて、10の病気を覚 えるということをやっていくのが本当の教育だと思います。  そういったことで、この夏に提案されたあの大学病院重点型特別コースを全科に適用を 拡大していただきますと、結局は医学部教育と大学病院、臨床教育に一貫教育という流れ ができます。ですから、結果として卒業大学でそのまま臨床プライマリ・コース、専門医 コースになっていく率が高くなりますから、地域大学への定着率は元通りになると思いま す。  さらに、これまで叫ばれていなかった大学病院の任務についてですが、すなわち大学病 院の使命は本来、臨床、教育、研究でしたが、私どもはそれに地域医療をしっかりと改め て認識していただくべきではないかと思います。これまではそういった認識が行政のほう にはなかっただろうと思いますが、それをしっかり認識していただければ、もちろん大学 病院側はこれまでどおり、ほとんどの大学病院はほとんどの地域の病院と連携を持ちなが ら医療をやっておりますから、それを推進していくことになり、地域医療も回復確立され ていくと思います。  結論として「即効ある方法は何か」と聞かれれば、今年8月初旬に出されたあのプ ランは、非常にいいプランです。あれをこの4月からでも広く適用させることから始めな がら、マイナーなことはいろいろありますが、修正していけば、ぐんぐん立ち直ってい くと私は確信しております。 ○高久座長  塩谷大臣、どうぞ。 ○塩谷文部科学大臣  これで失礼いたしますが、今後ともよろしくお願いいたします。 ○今井先生  いまのお話の中で、地域医療にあたかも未熟な人が行くかのようなお話をされましたが、 それは全く違いまして、行くからには当然そこに指導医がいて、やる中身はプライマリ・ ケアになるわけです。そういうことを言おうとしているわけで、それは誤解しないでいた だきたいと思います。地域医療が非常に重要だというのは、誰よりも北海道にいる私ども がよく知っておりますので、若手をただやればいいなどということは、全く考えておりま せん。もちろんちゃんとした指導医の下に行くから、その人も勉強になるし、住民にも喜 んでいただけると考えております。 ○高久座長  それでは、最後になりましたが、長崎大学の河野先生、よろしくお願いします。 ○河野先生  長崎大学の医学部長の河野です。富田先生が150年経ったとおっしゃいましたが、昨年、長 崎大学は医学部創立150周年を迎えました。日本の西洋医学の発祥の地であります。63年前 には原爆で壊滅的な打撃を受けましたが、多くの先人の努力のお蔭で復興を遂げました。 先端研究として二つのグローバルCOEを獲得し、新しい教育の試みとして6個のGPを獲得し 高い評価を得ています。しかし、新臨床研修医制度が始まり、大学病院における三本柱の一 つの診療(地域貢献)に大きな支障を呈し始めています。  1枚目のスライドに示しますように、新臨床研修制度が始まるに際し、体制を整えるべく、 卒前・卒後の教育にそれぞれ専念する教員を張り付けて準備しました。  さらに、2枚目、47頁に示しますように、長崎にも五島、対馬、壱岐など多くの離島があり ます。学生時代から地域医療を学ばせるべく、新しい寄付講座を開設し教授と助教などが五 島に常駐し、5年生全員の臨床実習、6年生は希望者に長期間の実習をということで、すでに 5年間やってまいりました。全国の大学からも毎年30名ほどがこのコースへ参加し、薬学部等 との共修も既に行っております。そして、来年度から新しいGPのもと全学年を対象とした離 島での臨床実習が始まります。  48頁にお示ししますように、このような様々な試みにも係わらず、年々大学病院のマッチ ングは大変厳しい状況を呈しています。  49頁でお解りのように、大学病院だけではなく、県内の病院を見ても、なかなか地方離れ が止まりません。そのためさらに魅力的な研修プログラムを提案し、自助努力とともに近隣 の佐賀大学と一緒にプログラムを提案して、今年度も新しいGPを獲得しました。このように 様々な自助努力や仲間との協力を重ねていますが、厳しい状況であることは変わりません。  50頁を見ますと、研修制度が始まる前は、長崎大学は卒業生が100人で、90人近くが長崎大 学で医師として働いてくれていました。ところが、平成16年、平成17年は0名であり、そのあ とは50名、60名ということで、今後の傾向をマッチングから推定しますと、さらにこのよう に低下傾向が予想され、残念ながら、大変厳しい状況です。  51頁を見ますと、現在の臨床研修制度で必修科とされている小児科、産婦人科、麻酔科、 精神科などをローテートしましても、これらの科を目指す人は激減しております。  52頁です。さらにショッキングな情報です。長崎県の医師の個々のレベルが低いかという と、決してそうではありません。しかしこのように、乳児死亡率はワースト10の中の4位で、 新生児死亡率はワースト10の中の6位です。これらの結果は、救急、NICU等の不備、すなわち そこで働く小児科医の数が足りず、十分な機能が発揮できていないことです。一人ひとりの 医師がいくら頑張っても限界があるということが明らかになるデータです。このように単に大 学の医師数の量的不足だけでなく、地域医療における質の崩壊にも関連している大変厳しい状 況です。長崎大学の新卒者を見ますと、長崎県内に残る人は、残念ながら年々減少しています。  54頁を見ますと、長崎大学医学部では20〜30%が県内の出身者ですが、長崎大学の出身者で さえ、卒業後に長崎大学を離れています。しかし、都市部の福岡県出身は福岡に、九州以外の 都市部の人はそれぞれの出身地へ戻っています。これは何を意味するかというと、現在のこの 臨床研修制度では、若い人は地方を離れてみたいと考えるようです。今の制度のままであれば 地方離れを助長するだけであり、魅力あるプログラムの作成や研修体制の整備など様々の自助 努力だけでは、若い研修医の外に出てみようという気持を変えることはできないようです。  55頁を見ますと、他大学出身で長崎で研修した人は、長崎県の出身者が従来は多かったので すが、ここも残念ながら、最近は減っています。後期研修は平成18年までは増えていましたが、 これも今の状態では非常に危うくなることが推定されます。  最後の頁です。大学から派遣していた医師の数を減らしたり、撤退した病院数をお示しして います。このように地域医療は大変厳しい状況であり、これは北海道も金沢も、実情はほとん ど変わらないだろうと思います。  今後この状況を打開するためにどうすべきかという点を述べたいと思います。まずは、結果が 出るまでにしばらく時間はかかりますが、将来を見越して医学部の入学定員は絶対に増やす必要 があります。長崎大学医学部の過去の最高定員数は120人でした。来年は105名と5名増加しますが、 これでは焼け石に水であり、過去の最高数よりさらに増やして、地域実情を考慮し、特に医療崩壊 の著しい大学では、まず入学定員を増やしてほしいと思います。これは是非ともお願いしたいとこ ろです。  臨床研修制度を大きく変更することは難しいと思われますが、例えば、カナダの研修制度を見て みますと、1990年前後にカナダでも、スーパーローテーションを研修制度に取り入れたそうです。 そうしたところ今回の日本と同じく医師不足、地域偏在が起こったために、カナダは1年でスーパー ローテーションを廃止しています。カナダではマッチングは原則、大学のプログラムを基に、一般 病院もそこに入ったマッチングをして、希望科と大学を選んでいます。  そのため、できればアルゴリズムを調整して、都市と地方の病院になるべく適正に人が配置され るようなマッチングの制度を整備して欲しいと思います。これはマッチングシステムの変更ですか ら、極めて可能性の高い変革だろうと思いますので、地方と都市を十分に考えたマッチングの制度 を迅速に確立して欲しいと要望いたします。現状では多くの学生は講義を抜けてマッチングの試験 を受けに行っています。こういったことではなく、マッチングの期間は、例えば日本全国で2週間 どと決め、その間に自分の希望する病院にマッチングの試験を受けに行くなどの整備が不可欠です。 既にカナダではそのように全国で統一された期間(2週間ほど)で、学生はカナダ全土で平均10前 後の大学病院などを受験しています。日本よりかなり厳しい競争が課されています。  さらに言えば欧米など自由主義世界で、例えば志望する科を国全体として、家庭医協会、内科・ 外科協会などすべての専門医と称する協会でマッチングの枠を決めて、希望と成績により選択でき る合理的な制度が長年運用されています。家庭医を含めた専門性を明確にし、国全体としての専門 領域や地域性を考慮した医療のあり方を明確に打ち出した制度を既に持っているわけです。確かに すべて自由というのはありがたいことなのですが、現在の日本のように地域と診療科の偏在がここ まで進めば、何らかの手を打つ必要があることは明白です。押しつけでない極めて合理的な制度の 確立は可能であり、そのようなものを整備すれば、必要な科でありながら非常に医師が不足する事 態を是正でき、医師が余る科があるとすれば、そのような無駄はなくなるでしょう。  若い研修医に聞きますと、希望しない診療科を回るのは、本当に貴重な時間の無駄だと言ってい る者もいます。全員に総合医療が必要だとは思いません。やはり家庭医や専門医のバランスなどを 十分に考えて育てる制度が必要です。  富田先生もおっしゃった大学病院の従来の良さは、経済的なことをあまり考えずに教育に、研究 に、診療に専念できたところです。残念ながら、今は経済的なことも十分に念頭にいれてすべてを 行う必要に迫られています。将来の医療を支える研究を犠牲にして、現在の医療を支えるべく奮闘 しているという状況を、是非皆さんにおわかりいただきたいと思います。以上です。 ○高久座長  河野先生、1つだけお聞きしたいのですが、先生の所は入学者に地域枠を設けておられます か。 ○河野先生 昨年からAO入試で、5名の枠を設けました。今後、入学定員を増やしていただければ、20 名まで増やす予定にしています。新木課長には是非とも入学定員の増加をお願いしている ところです。 ○高久座長  河野先生、どうもありがとうございました。これで3人の方々からのお話を終わります。 あと、ちょうど1時間ありますので、この時間を皆さん方の自由なディスカッションに当 てたいと思います。どなたでも結構ですから、どうぞご意見をいただければと思います。 ○辻本委員  ごく素朴な質問です。いまお3人の話を伺って、大学病院は随分被害者意識を持っておら れるなというご発言に聞こえました。この制度が始まって、なぜそんなに大学病院が研修 医に嫌われてしまったのかということを、どのようにお考えになっているのか、まずお教 えいただきたいと思います。私は以前、大学病院で研修をしていたという人が、大学病院 における研修医の位置づけということで、こういうエピソードを語ってくれた、昔の話を 聞きました。婦長、看護婦、医師、プロパー、犬、猫、ネズミ、研修医という位置づけな んだという話を聞いて、ああ、なるほどと、妙に納得できたのです。その辺り、現実はど のような状況でしょうか。 ○今井先生  いま辻本委員のおっしゃった点は、非常によく言われていた話です。やはり大学というの は教育、研究、診療ということで、診療のところを「社会貢献」と言い直すこともできま すが、この3つの機能をやっているのです。大学病院もそのほとんど全部をやっているわ けです。ですから、かなり厳しい状態にあります。人的にも厳しいですし、今のお話はそ のことを示しています。人も足りないし、看護師もトレーニングをしなければいけないと いうことで、普通の病院とは異なる環境にあります。  その中で研修医というのは、いわゆる雑用が多いのです。ペーパーワークが非常に多か ったり、病棟クラークなどの補助の方はほとんどおりません。そういう厳しい予算環境の 中でやっていますので、勢い最下層のところでやらざるを得ないというのが現実だったわ けです。そこに対する反発というのがありましたし、時代も変わってきましたので当然で す。また、先ほどどなたかがおっしゃったように、若いときにはもっといい所でやってみ たいという気持がありますし、それはもっともだと思います。ですから古い医局制度だけ でそれを戻そうというのは、やはり私はちょっと無理があるように感じております。 ○富田先生  私も大学病院から逃れたい、逃れたいと思いながら教授になってしまった1人です。結局 はこういうことです。私の恩師の教授は「手術は教えない。盗め。泥棒になれ」と言って いました。つまり、大人になったら技術というものは、もう手取り足取りいちいち教える ものではなくて、自分は一生懸命、患者に向かって最高の医療をやっている、手術をして いる、その技術なり姿勢を見て育ってくれ、そういう知恵ぐらい持っているだろうという 意味です。犬猫よりも下というのは、ブラックジョークです。これは本当です。なぜかと いうと、私どもは犬や猫やネズミを研究材料として使って、そこからこれは臨床に使える という事実を見つけ出すまでのプロセスを理解しながら、汗水垂らしているのです。 「犬猫ネズミの貴い命の犠牲のもとに今の医療がある」そこがわからずに「犬猫より下だ」 と言って笑っているその浅さに、私は愕然とします。そういうように笑ってマスコミに取 り上げられて曲解されるというのは、私は非常に悲しいと思います。私たちは犬や猫など、 実験に使った動物はみんな墓に葬ってお参りしているのです。そういったことがわかって いない。雑用が多いということですが、雑用というのは何ですか。「雑」と書くけれども、 雑巾というのはそんなに役に立たない嫌なものですか。雑用とは一体何でしょうか。もし 皆さんがいちばん最初に、いい寿司ネタでおいしいものを食べさせる腕を磨きたいと思っ て、寿司屋に丁稚奉公で入っても、すぐに寿司を握らせたり切らせたりはしません。何を させますか。一生懸命テーブルを拭いたり、水を撒いて足元をきれいにしたり、茶碗を洗 ったりしています。そんなことばかりです。それが雑用ですか。そうではない。寿司屋で は一旦食中毒を起こすと、それで完全に店の命取りになるから、衛生観念をしっかり植え つけるのです。こういったことが分からずに、何もかもちょっと表面だけを見て「雑用」 と言って笑われることは、私たち大学病院で教えている者にとっては非常に悲しい。  私たちはすべてどんな作業であっても、そこには教育という姿勢があって、それを学ん でほしいからやっています。そういう深いところを理解してほしいのです。教育は厳しい のです。しかしその厳しさは、是非とも良医を育てたいと思うからやっているわけであって、 怒って怒鳴りつけているわけではない。愛情があるからこそです。もしそこに愛情がなけ れば、厳しく教える気もありません。下手に傷を縫っても何をしても、うん、上手に縫っ たね、昨日よりもうまくなったねで終わりでしょう。それがそうではなく、きちんとした 医者に育てようと思えば2mm、3mmの段違いであっても、これは縫直しをしなければいけな いとか、これをやると後で化膿する、1週間はいいけれど、おそらく8日目ぐらいには化膿 が始まるといったことを教えなければならない。  実は、そういった厳しいことを教えるのを若いドクターたちは嫌がるのです。そういう 本当の部分がわからずに、表面だけで「大学病院は厳しい」と言われると、本当に。「犬猫 以下」と言われると、「以下というような謙虚な気持を持たなければ研究はやれない」と言 っています。そこを解ってもらわないと、どうにもならないと思います。いちばん悲し いのは、給料が安いことだけです。 ○嘉山委員  富田先生と私と、どちらが年が若いかはわからないのですが、私は昭和25年生まれなの で、たぶん富田先生のほうが先輩だと思うのです。大学に問題があることは間違いありま せん。我々が若いときは牛に扱われたのかどうかは覚えていませんが、今日の資料に、全 国の高等教育を含めた教育費が、OECDでビリから2番という環境がまずあります。です から、先ほどのペーパーの仕事もメディカルクラークも全然いなかったわけです。それは 大学にそういう環境があったからです。我々がわざわざ大学でそういうことをさせたわけ ではなくて、やらざるを得ない環境があったのです。  ただ、最近は辻本委員もよくご存じだと思いますが、CBTなどが始まって、各大学の教 育が非常にモダンになってきました。従来は徒弟制のような面があったのですが、それに は問題もあったのです。日本古来の武道とか、いま問題になっているようなスポーツのジ ャンルもありますが、あれもやはり今の若い子供たちに合わせて教育しなければいけない ということで、我々も非常に変えています。しかし辻本委員がおっしゃったような面は、 10年以上前にはあったと思います。いまの辻本委員と富田先生のお話は、大学病院の問題 を表に出しすぎたので、私はこの卒後研修制度を国民の目線からいい制度にするというこ とで、問題を整理しておきたいと思います。  この卒後研修制度は、先ほど舛添大臣もおっしゃったように、旧来の教育と比べれば、 アドバンテージがあったことはありました。これはもうエビデンスなのでしょうがないの ですが、眼科や精神科、内科の一部、あるいは皮膚科等々は全身状態を勉強しないで、例 えば眼だけというようにやるので、心臓病などが起きたときに処理できなかったのです。 それでは困るということで、プライマリ・ケアを教えようということになったのです。そ れは心臓、循環、呼吸など、はっきり言えば生命に関係するものです。あとは脳ですね。 薬を飲みすぎると呼吸が止まってしまいますから、これも生命に関係します。あとは抗が ん剤の使い方などをきちんとやっておけば、生命に関係するような問題は起こさなかった のです。それが従来の医局制度では、すぐに入ってしまった者にはできていなかった。こ れは事実です。これが今度の制度では、眼科に行く人も精神科に行く人もそういうことが できるようになったということで、私はいいと思いますが、いくつかの点で問題が起きて しまっています。  1つは、子供たちにパンドラの箱を開けさせたということです。つまり、先ほど河野先生 が非常に強調された医の倫理です。お金に関係なく患者を診るという精神が、このマッチ ング制度でボタンを押すことによって、どこへでも行けるようになり、パンドラの箱が開 いてしまったのです。こう言うと、また「そうではないよ」という反論があるでしょうけ れども、医学部に来ていた子供たちが、一般社会の人間と同じような倫理観になってしま った可能性があります。やはり処遇の高い所に行っているのは事実です。上のほうの3分 の2は、教育として非常にいいと思います。ただ制度というのは、やはり全部がボトムア ップしなければなりません。上のほうがいいからこの制度がいいということではなくて、 下のほうも上げなければいけない。そういう目で見ますと、いま直さなければいけないの は、卒後研修制度の教育の質を担保しながら、どうやって直していくかです。  この制度の結果として生じた地域医療の崩壊がこれ以上進まないような工夫をすること です。それから、もう1つは科の偏在を何とか解消するような制度設計をし直すということ です。ただ、もう一度繰り返しますが、医師の絶対数が足りない中でそれをやらなければ いけない。また、今日も出ていますが、医療費が全世界でビリから何番という環境の中で やらなければいけません。それを教える大学の教育費が、OECDでビリから2番目です。こう いう環境でやらなければいけないということを前提に、これを話さなければいけないという ことになります。  まずは教育の質の担保です。私が提案したいのは全身状態、プライマリ・ケアという制 度を、ここに書いてあるように必修科でやってしまったからまずいのです。内科や産婦人 科でやってしまったからまずいのであって、人間の体を診るに当たって、プライマリ・ケ アは全部共通しているわけです。例えば呼吸や循環を診るのは外科でもやっていますし、 それこそ整形でもやっています。それはもう共通しています。心臓で心房細動が起きたと きにどうするかというのは、もうどこの科でもやっています。それを最低限勉強すればい いわけです。  ですから、それを獲得目標としますと、ある獲得目標を1年間なら1年間でつくって、 それをやればいいのです。機関についてはこの前もお話しましたが、高久座長がおやりに なっているCBT(computer based test)です。これは全国80大学がアメリカのStep1と同 じように、全部試験をやっています。これは隣を見ても、もうカンニングができないよう な非常に厳格な試験です。その試験をやっておりますので、そこでもプライマリ・ケアの1 回目はやっているのです。2回目は国家試験でもう1回、プライマリ・ケアの試験をやって います。3回目は2年間をかけて、同じことのノリッジ(知識)とスキル(技術)と実地を 教えます。つまり、舛添大臣が先ほどおっしゃったように、文部科学省と一緒にやるのが シームレスの教育をするということであれば、ノリッジに関しては4年生で1回終わって、 さらに国家試験で終わっていますから、あとは実地体験だけです。ですから私は、これは1 年間だけでいいだろうと思います。  私の資料として今回出させていただいたのは、大熊委員がよくお使いになるメールです。 大熊委員と同じように、私の所にもメールが参りました。プライバシーがありますので、 名前は消してありますが、群馬大学のある学生から私にきたメールです。今回の検討会の 資料3に入っています。この学生が見ているとおり、ただ見学型として見ていることが多 いということです。資料の20頁を見ていただきますと、これは学生から見たいまの現実の 研修制度の問題点です。結局、これでこの女子学生が何を言いたかったかと言いますと、 やはり無駄を繰り返しているのではないかということを、いま現実の5年生が感じている ということです。座学としてのプライマリ・ケアに関するノリッジはもういい、文部科学 省管轄の大学時代で終わっている、あとはスキルをやればいいだけなので、もう1回座学 と同じようなことをやることはないと、彼女は言っているわけです。  これは非常に大胆な提案で、この学生は5年生でスチューデントドクターとしての資格 を取らせろと。そうすれば厚生労働省で言う法令組が、資格があるので実技ができるわけ です。実は実技は24歳でやろうが、25歳でやろうが、26歳でやろうが、初めての場合、 その危険度は同じなので、何か起きたときの保証さえしておけば、あとはその責任の取り 方です。それさえ明確にしておけば、私はこの女子学生の案もいいかなと思っているので す。  結論から言いますと、ダブっているということです。舛添大臣のビジョンの会でも、私 は資料を出しましたが、プライマリ・ケアの内容は全部ほとんどダブっています。ですか ら、それを3回もやる必要はない。1年にして、内容も内科などではなくて、先ほど長崎の 河野先生がおっしゃっていたように科を設けないで、獲得目標をどこかの科に行って勉強 してくると。それがきちんとできたら、指導医がそれを保証するということをすれば1年 で済みます。  実は3分の1、つまり500ベッド以下の病院に行っている今の初期研修医がやっている のは、自己評価だけです。大学を含めた500ベッド以上の病院に行っている初期研修医は、 第三者、つまり指導者がちゃんと保証しています。ですから私が問題にしているのは、教 育の質を保証するとすれば、次はベッド数を制限するということです。現実では100ベッ ドまで許されていますが、それを500にするか、400にするか、300にするかは議論のあ るところで、ここでディスカッションをしなければいけないと思います。  100ベッドぐらいの所はお金が高いのかどうかはわかりませんが、いろいろな条件で学生 を引きとめます。そこに行っているのが、8,000人のうち大体2,000人前後います。これは 将来、私は非常に問題になってくるのではないかと思います。今までの医学教育の中で、 2,000人前後がフリーターのフローティングドクターになってしまうというのは、日本の医 療のボトムが非常に下がってしまうということです。文部科学省には申し訳ないのですが、 私は、これは厚生労働省がやったゆとり教育ではないかと思っています。非常にイージー なところに流れてしまったと思っています。ですから教育の質を担保するためには、ベッ ド数、つまり病院の質を担保するということです。  いま地域の崩壊を防ぐのであれば、地域の特性を考えてもいいと思います。というのは、 私たち新設医科大学は国家の法律で、1県1医科大学ということでできました。つまり、そ の地域の医療を守れということでできたわけです。東京や大阪は大学数が多いですから、 ちょっと違うと思います。ただし本当は1県1医科大学としてできたので、我々はやはり これを。大学が中心でやる必要もないのですが、実質的には大学のほうが教える人間が多 いのでやれるのではないかと思っております。  それから、これは齋藤委員がこの前ご提案になったことで、私も同じ考えなのですが、 国家が法律で縛っている制度であるにもかかわらず、その処遇が病院によって違います。 これは私も問題だと思います。北海道から東京、沖縄まで含めて全国同じ教育制度をする のであれば、処遇は同じにすべきであると考えております。司法研修生は全部同じですか ら。私が5年前に呼ばれたときも、この前にも木村副大臣にお話したのですが、その点は 聞いてもらえなくて、結局処遇が全部違ってしまったという非常に矛盾した制度になって います。  同じ勉強をするのに、なぜ処遇が違うのか、その辺が非常に問題だと思いますので、こ の3点を提案したいと思います。つまり期間がダブっているので、1年間でやるということ です。そのときは科ではなくて、獲得目標をきちんと設け、その獲得目標が獲得できた場 合は、指導医が責任を持って評価すると。それから教育の質を担保するためには、病院の ベッド数を制限する。小さな病院にたすきがけで行くということは可能だと思いますが、 基本的に中心の所はベッド数をある程度制限した、きちんとした病院で教育をするという ことです。あとは処遇を全国統一にするということだと思います。  もちろん、これは日本の医師の絶対数が少ない、医療費が最低、教育費が最低という中 で、少しでも医療崩壊を防ぐ、科の偏在を防ぐということでの絆創膏だと私は思っており ます。根本的な改革は、やはり医師数を絶対的に増やさなければいけないし、ここら辺で 医療費の閣議決定を外していただきたいし、教育費も国民の皆さんの理解で。これだけ物 のない国家で、セーフティーネットである福祉と教育費と医療費が、OECDで最低だとい う国家は、私はとんでもないと思います。ですから本来はそこが本丸ですが、現時点では 今の3つを提案したいと考えます。 ○齋藤委員  先ほど大学の方からのお話を伺って、大学病院が地域医療に対する学生の関心を持つよう に工夫されているというのは、よく理解できました。しかし一方で、学生が卒業後にそれ ぞれの出身地へ帰りたいというのは、極めて自然な気持です。したがって従来は多くの場 合、出身大学の医局の枠の外で医師としてやっていくのが難しかったので、それにとどま ったと思うのです。  今後、2年を1年に変えることで大学に人が集まるかどうかというのは、私は大変疑問に 思います。いまの若い人達の人生観や価値観というのは、かなり違いますから。しかしなが ら先ほどもお話が出ましたように、大学病院が地域医療のキーとなるのは確かで、やはり もう一度、大学を中心として各地域で地方自治体や病院を含めて、新しい医師の養成シス テムをつくらなければいけません。その中に初期の臨床研修制度を組み込んでいくしかな いと思うのです。その場合、もちろん質の担保をしつつ組み込むことは当然ですが、それ をやるためには、いまお話に出た研修病院による経済的インセンティブの差をなくすこと と、もう1つは各地域で研修医数の枠を決めてしまうということです。もちろん地域の枠 を決めるということで、地域の中だけでマッチングするのではなくて、枠を決めた上で全 国的にマッチングをすればいいわけです。そうすれば今の問題は、何とかほぼ解決するよう な気がしますが、ちょっと希望的すぎるかもしれませんね。 ○高久座長  齋藤委員は前回のときには、県内でマッチングをというご提案ではなかったですか。 ○齋藤委員  それは違います。各都道府県の枠や数は決めるけれども、マッチングは全国的にやればよい と思います。 ○高久座長  ほかにもどなたかどうぞ。 ○武藤委員  今日伺ったお話と、前にたくさん出ている資料を見てみると、やはりいちばん問題になっ ているのは、研修制度を前倒しにして医学部の5年、6年、あるいは6年だけかもしれませ んが、そこでどれだけ今の研修の1年目をやらせるかというのが、1つの解決策としての具 体的な案だと思うのです。このときにスチューデントドクターにどこまでやらせられるか とか、いろいろなことが言われています。これは、法律が変えられるところは変えなくて はいけないけれども、変えられないのだったら、やる処置の範囲を決めてやればいいこと です。そうすることによって、2年分出ているのが半分になるわけです。細かいことはいろ いろあると思いますが、まずはそういう大まかなところで決めておくことが大切ではない でしょうか。今のとおり2年間やるのか、あるいは今井先生がおっしゃったように、後半 部分をよりフリーなドクターとして使うかということです。私はむしろ前倒しにするほう がいいのではないかと思います。これはアメリカでやられていることです。  それから先ほどおっしゃった群馬の女性からのメールですが、実は私の所にも来ました。 言っていることは同じですから、おそらくほかの先生方にも言っていらっしゃるだろうと 思います。群馬にはそういう活発な人がいるのかもしれません。私が厚生労働省と文部科 学省にお願いしたいのは、やはり現場の人の生の声をもうちょっと集めていただきたいと いうことです。この方はそういうことに非常に意識があるから、こういうことを言ってい るのでしょうけれど、そうでない人もいるに違いないですし、現場で教える側のドクター の意見が全然出てこないのです。我々がいろいろ言っても、現場の人から、いや、それは 違うよということが後から出てきても遅いのです。それをもう少ししっかり集めてくる。 非常に医師の少ない所と充足している所というのは、サンプリングすればわかることです から、それをしっかりやっていただきたいのです。  もし前倒しにしますと、大学の教育の場面が増えます。もう現場の人は、とんでもない ということになりますから、時間的な余裕を与えてやるためには、やはりクラークをもっ とたくさん雇うことです。先ほど「雑用じゃない」とおっしゃいましたが、実は雑用がた くさんあります。「雑用」ではなくて、「事務的な仕事」と言ったほうがいいでしょうか。 この雑用をいかにやってあげて、本来の医師の仕事の時間を捻出するか、これが非常に重 要なことです。何でもアメリカと比較するのはよくないのですが、アメリカと比べますと、 そういう職種の人たちは日本の10倍います。医師も10倍います。ですから、それが非常 に問題なのです。医師はいきなり増やせません。しかしクラークは簡単に増やせますよね。 そういうところで何か手立てをしないと、「研修医のために、研修医のために」と言っても、 実際に現場にいる医師たちは疲弊しているというのが現場の声ですから、そこら辺のとこ ろも考慮が必要かと思います。 ○福井委員  マッチングについては、私も齋藤委員と同じ考えです。例えば今年のマッチングのデータを 見ますと、募集定員が1万1,290名、参加者が8,400名です。この募集定員を9,000名くらいま で絞る作業の中で、研修病院の質と分布を考慮して、できるだけ地域の偏在が起こらないよ うにすべきだと思います。これは私自身、当初から主張していたことです。参加者が8,000 名しかいないのに、1万1,000名とか1万2,000名募集するのは、やはりおかしい。そのことは 簡単にできるのではないかと思います。  もう1つは議論の中で、是非頭に置いていただきたいことがあります。平成16年から新しい 研修制度がどうして導入されたかというと、例えば卒業直後から血液の病気しか診ない、そ れ以外の領域の病気の人は最初から診られない、診たくないというタイプの医師があまりに も目立ってきたので、将来どのような専門分野に進む医師にも幅広い研修を最初に受けても らうというのが基本理念だったはずです。本当は1年ぐらいでよかったのかもしれないので すが、残念ながら卒前教育で、臨床実習が大学によって非常にバラつきがあって、アメリカ のようなクリニカルクラークシップ(診療参加型実習)は、実際ほとんどの大学でやってい ないということがわかって、私たちが最初に案を出したときには卒後2年間は必要ではないか ということになりました。  それが地域の医師不足の引き金になったというのは、私もある程度はそうだろうと思って います。ただ、ほかにもたくさんの要因がある中の1つだと思っています。しかしながら今回、 もしプログラムの変更を考えるということでありましたら、まず保証していただきたいのが、 卒前教育の改善です。そこのところは放置して卒後教育だけ1年にすればいいというのは、論 理が成り立たないと思います。卒前教育ではここのところまでやり、卒後教育も1年目、2年目 はこういうように変えようという論理構成にしないと、せっかく今まで多くの先生方がいい医 師をつくろうと思って何十年もかけて作った制度なのに、台無しになってしまいます。卒前教 育も是非十分検討した上で、卒後教育を変えていただきたいと思います。 ○能勢委員  卒前教育の話で、ついでに発言させてください。いままでの臨床研修制度、インターンか ら2年にしたときにも期間の議論があって、いろいろあった意見の中で2年に収まりまし た。その時には、まず2年は必要だというようになったので、今がそうかどうかというこ とを検証してみないといけないと思います。大体妥当なところだろうというのが、私の個 人的な考え方です。  それから、この検討会のいいところというのは文部科学省、要するに養成する所と研修 する所が一緒に入った検討会ということです。私は前回も申し上げましたが、前倒しで臨 床研修をして、先ほど舛添大臣も言われた、ダブっているところをどうするかということ です。この中で医師を養成する側、すなわち免許を取っていないときの医療行為について、 いろいろな議論があったわけです。特に危なっかしいものですから、最近では昔よりもさ せない方向に行ったと思います。以前は、もっと学生時代にいろいろなことをさせたので はないかと思います。その後は、いろいろな解決しなくてはならない課題があって、今日 のようになったと思います。  いま福井委員が言われましたように、卒前で免許を与えるかどうか、あるいは与えた場 合にスチューデントドクターとしての制限を持たせる資格を与えればある程度の臨床研修 ができるようになるのではないかと思います。ですから基本的に卒業は6年としますが、1 年間を研修期間にするという、いわゆる臨床実習を新しい形の臨床研修にしたらどうだろ うかと思います。研修の始まりはいつから始めても同じですから、1年早くなったから問 題だということはないと思います。問題点は、医学教育の中が1年間短くなりますから、ど ういう教育をやるかです。すなわち、カリキュラムをどうするかということです。  一方、私どもに課せられた問題としては、医師があまりにも人間性に欠けているという ことが社会的なブームになったことがあります。それで教養教育と称する部分をたくさん にしていくような、医学部のカリキュラムの変更をして、人間教育に努めるようになりま した。そのため、専門教育がどこかで圧迫されているような気がするのです。  もう1つ、医学教育の中で問題になってくるのが細分化です。大学の中で最先端まで教 えるかどうかです。その辺も大きな問題で、最先端は卒業してからやるというように決め ればよいと思うのですが、これが大学の中での一致した意見になりません。分野によっては 「もっと最先端を教えたい」と言われる所から、「基礎的な部分でいい」という所もありま す。  そして大学に課せられているもう1つの問題が、最先端の研究です。これをどこでどのよ うにするかです。いままでは学生にもそれに触れさせたわけです。触れることが学生とし ても、やはり楽しかった部分があります。ですので日本の医療水準をどこに持つのかとい う問題もかかってくると思いますので、とりあえずいまお3人の先生方が指摘された内容 は、全部もっともなお話をおっしゃったと思います。  しかし、それでは話は進みません。2年にするのか、臨床研修を前倒しにするのか。ある いは診療科の人員について制限するというのなら制限するという案で、とりあえず各種の 案を提案してみんなで検討してみて、どこまでが実現できるかということをやったほうが 早道ではなかろうかという気がいたします。もしよろしければ、そのように進めてやって いただければと思います。 ○小川委員  先ほどの福井委員のお話はよくわかりますし、臨床研修制度の発足の理念がそういうことだ ったというのは、私も理解しておりますが、歴史的なことを整理させていただきますと、そ れまで医学進学課程の2年間と、医学専門課程の4年間に分けて教育が行われてきた日本の医 学教育が、6年一貫教育になったのです。つまり医学教育の大綱の改正で、そういうように なったわけです。それがたしか平成3年だったと思います。それが何を意味するかというと、 いま福井委員がお話になったようなご意見があって、もっと実質的な医学教育をして、6年 間でちゃんとした医師を養成するという理念の下で、医学教育大綱の改編があって、6年一 貫教育になったというように私は理解しております。  一方で、これは当時の文部省の担当ですが、文部科学省から出てくる医師はまだまだ十分 ではないから、卒後臨床研修を必修化しなければいけないということを厚生労働省が法律で 決めたのが、たしか平成13年で、実施されたのが平成16年ということで、いまに至っている わけです。やはりここのところのいろいろな齟齬が、現在に至っているということを一つ理 解していただかなければならないのではないかと思っております。  それから先ほど辻本委員のほうから、なぜ大学は魅力がないのかというお話がありました ので、このことについて確認しておきたいと思います。戦後、日本の医療制度は国民皆保険 制度ということで、とても素晴らしい制度でした。しかし、その当時はメスと注射器と薬が あれば治療ができたというか、高額医療機器がなかったわけです。それが急激にCTスキャン ができて、MRIができて、SPECT-PETができて、さまざまな高額医療機器ができる中で、国民 皆保険制度の中に無理矢理閉じ込めてきたわけですから、当然、医療費抑制ということにも なりますし、医師の給与も抑制されてきました。  その中で一般職である看護師、その他のコメディカルの職種の給料はだんだん上がってき ました。現時点で大学病院では、若手の医師はこれだけ勉強させられているのに、給料は全 く逆転しているわけです。ご存じであるかどうかは分かりませんが、この1つには大学病院 の先生方、つまり附属病院で働く医師は、医師として認められていないということがありま す。教員なのです。教員ですから、文学部の教員あるいは文学部の助手と同じ給料をもらっ て、そして夜中まで働いているのです。当然、その中でのインセンティブというか、これだ け難しい学部に入ってきて、6年間一生懸命勉強をさせられて、あげくの果てに大学にいると そういう給料しかもらえないのだったら、ちょっといい所に行こうかなと思うのは当然です。 そういうこともちゃんとご理解いただいて、全体の医療体制の構造的な問題だということも ご理解いただいて議論をしていかないと、これは解決しないのではないかと思っています。 ○高久座長  私も意見を言わせていただきたいと思います。武藤委員と福井委員のほうから、学生の臨 床実習を変えなければならないと言われました。 確かにおっしゃるとおりです。文部科学省の医学歯学教育の改善に関する検討会には、 辻本委員も出ておられましたが、そのときの作業部会の臨床実習の報告では、能勢委員が おっしゃったように、臨床実習がどんどん後退しているということでした。  その1つに、患者が学生に診られるのを嫌がるということがあります。指導教官のほう も何か事故があったら困るということで、臨床実習が後退しているわけです。私の 大学では、学生がカナダやイギリスなどに行きますが、向こうでは患者が喜んで学生に診 てもらう、日本と全く違うということで、この事が大きな障害になっている と思います。  それから、イギリスやカナダには医師国家試験がありませんから、卒業のときの認定で 医師になれます。日本の医師国家試験は、今はかなり難しくなっています。 そうすると、ある程度集中して勉強しないと、医師国家試験に通らなくなります。ずっと 最後まで臨床実習(クリニカルクラークシップ)をしたら、国家試験の合格率は、非常に落 ちる可能性があると言えます。  それから、プライマリ・ケアは、解釈がいろいろあって難しいのですが、プライマリ・ ケア、イコール医師としての基本的能力ではないと思います。 長崎の大学や札幌医大でもやられているように、現場の診療所なり開業医の先生の所へ行っ て勉強しないと、本当の意味でのプライマリ・ケアの教育にならないと思います。学生の ときもそうですし、卒後でもそうです。私は、プライマリ ・ケア教育の中心は卒後だと思 います。そのときでも今のように専門科の教室をぐるぐる回っても、本当の意味でのプライ マリ・ケアの教育にはならない。 そこのところは大臣もよくご理解いただきたいと思っています。 ○西澤委員  いま高久座長がおっしゃったのは、全くそのとおりだと思います。基本的になぜこの臨床研 修制度ができたかということに返りますと、やはり1つには、卒前教育だけではすぐに臨床に 役に立つ医師ができないということがあったのです。しかも今は少子高齢化とか、いろいろ な変化の中で国民のニーズに応えられるようなプライマリ・ケアをやる医師も育てられない と。そういうことであれば最低2年間の研修は必要だということで始まったと思っています。 もし今後、その枠を大きく変えるのであれば、卒前教育をどうするかという前提がなければ、 1年、2年という議論はやりづらいと。卒前教育が今のままであれば、私は最低2年は必要だと 思っております。  実は、臨床研修が始まるときに、大学の医局が医師を派遣していることがいいのかという 議論があったのではないかと思います。それは正直言ってよくないだろうということで始め た記憶があります。今井先生のお話では、いま札医大では医局ではなく、大学でやっている ということで、非常にいいことだと思います。しかしもう一歩進んで、大学でするのではな く、その地域でやることが必要だと思っております。  今井先生もご存じだと思いますが、北海道では北海道医療対策協議会というのが、もうす でに数年前からできております。3大学医育機関と市町村の代表の方、それから地方病院の代 表、あるいは医師を派遣できるような大型の病院の方をまとめて、北海道の主導でやっており ます。実は各大学でやっていて、その上に今の協議会があって、そこでさらに調整ということ になっております。いままで大学にその役割を負わせてきたというのは、行政の責任だと私は 思っております。そういうことで行政主導でそのような仕組みを都道府県につくることによっ て、大学は非常に楽になるのではないかと思っております。そういうことも同時に検討してい ただいて、本当にいい臨床医を育てるためには、どうしたらいいのかということを考えていた だければと思っております。 ○永井委員  4点ほど私の考えをお話させていただきたいと思います。1つは大学の先生方 から、卒後研修制度が始まって、医師が年間8,000人減ったというご認識のご提案をいた だいたのですが、毎年、医師国家試験に合格している方は同じだけ出ておりますので、我々 大学以外の部分に属している者としては、8,000人も医師が減ったという感覚はないのです。 ただし、いま高久座長がおっしゃったように、臨床教育制度の後退ということで言えば、 臨床研修制度の2年間があるために、いままで国家試験をもって臨床に属していた処置が、 その足枷によって後退したことがあるとすれば、それは実質的な医師の減少という点でつ ながっているのかもしれません。ですから卒前教育の部分でも、しっかり議論をしていか なくてはいけないのですが、臨床研修制度の2年間がゼロになったとは、私自身は思って いないのです。そこの資格なり認識というのを、やはりもう一度見つけ直す必要があるの ではないかと思っております。  2番目として、国民あるいは私どもで言えば、県民の方々のニーズとして昔は内科や外科 だったものが、いまは多くの大学でも循環器科や呼吸器科というような、臓器を冠した専 門科の名前になっています。そうすると、びっくりしたことに卒後研修制度が始まる前に 関連病院の先生方に、「先生のご専門は何科ですか」と言うと、卒後2年目ぐらいの医師が 「循環器科です」という答え方をするわけです。そうすると、では循環器以外のものは診 てもらえないのかということになるし、診る側も循環器を診ればいいというような形にな っています。  今はいろいろな呼び方があると思いますが、国民、県民のニーズとしての救急、初動、 プライマリ・ケアをしっかり担保するという中で、初めの基本的な能力の部分と専門医制 度というのが、いいバランスになっているかというのは問題だろうと思います。ある病床 以上の研修病院でしっかり症例を診ながら研修することと、高久座長がおっしゃったよう に、そこでは得られないような、地域の中で診療科ではなくて、本当にその場で経験しな がらオンジョブで学んでいくこと、この両方が求められていることではないかと思ってお ります。  それから、2年を1年にというお話が舛添大臣からありましたが、2年を1年にするので あれば、まずはその1年間で何を期待されるのかというのがしっかり議論されないと、2年 が長いから1年ではないか、1年が長いからもういいじゃないかというような、拙速な議論 につながりかねないということを危惧します。この1年間については、今までいろいろな 意見が出てきましたので、やりながら直すという考えもあるでしょうけれども、いま皆さ んの中で2年を1年にすることによるメリットと、当然デメリットもあると思います。そ こをしっかり整理した上で次の段階に進んでいかないと、また同じような議論の混乱を招 いてしまうのではないかと私は思います。  私自身、初めの段階で初期研修制度を5年間経験してきた中で、屋根瓦制という使い古 された言葉ではありますが、1年生のときに直の2年生の方から、オンジョブでいろいろな ことを教えていただきました。そういう意味で、2年間のメリットはあると思います。また、 大学の先生方がそれぞれおっしゃったように、いまの日本の大学というのは、アメリカの 大学と比べると、おそらく教官数が桁違いに少ないだろうと思います。それであれば大学 以外の研修病院と、協調してやっていくというところがあってもいいのではないかと思っ ております。 ○大熊委員  短かく4点申し上げたいと思います。元に戻したい派の方々は、2つのことで人を差別してい るように思うのです。  1つは、学生という者はお金に目のくらむ存在であって、都会を好むと。事実はそうではな く、学生や研修医は、本当に真剣に自分の将来を考えて、選んでおられる。やはり一生の問 題ですから。もしも大学病院がとても素晴らしい研修をしているのだったら、少々の間はお 金が安くても、そこにとどまるだろうと思います。前にも申し上げて失礼をいたしましたが、 選ばれるような大学病院になる必要があると思います。  2つ目は、大学病院よりも一般の病院のほうが倫理的に劣っているというようなご発言があ ったのも、少しおかしいのではないかと思っております。特に金沢大学の先生からそのよう な言葉を伺うのは、私は非常に不思議です。金沢大学の産婦人科では、副作用を減らす薬の 研究をするために、わざとたくさんの抗がん剤を患者に無断で与えて、ご遺族から裁判を起 こされたということがあります。そして、そのことを注意した人を医局から乾すということ が行われて、これが毎日、朝日、北陸、中日などにとりあげられております。これに関して、 金沢大学は、ちゃんとしたことをしておられないというように思います。  3つ目は、2年か1年かという話です。欧州などの一般的なグローバルスタンダードは2年で す。例外的なのがアメリカの1年です。しかし今までにもお話がありましたように、アメリカ の場合は大学にいるときから、かなり濃厚な臨床の教育をしています。アメリカにならうの であれば1年でいいけれども、前からいろいろな先生がおっしゃったように、学生時代の教育 を変えないで1年にしてしまうというのは、患者にとっては危ない先生がいっぱい出てきて困 るというように思います。  4つ目は、ここでは臨床研修制度のことをやっているので、元の医師の数についてはあまり 論じられていないのですが、そもそも医師の養成数が少なすぎるということがあります。今日、 事務局からお配りいただいた資料13頁の「都道府県別による人口10万人対医師数」で見ますと、 千葉や埼玉といった急激に人口が増えた所では、人口10万人対の医師がすごく少ないわけです。 千葉の8つの県立病院が連携してしっかりとシステムをつくったら、そこにはいっぱい医師が 集まったということを、前回申し上げました。一方では銚子市立病院から日大が医師を引き揚 げてしまったので、大変なことが起きています。それには、ほかの県に比べて3倍ぐらいの600 万人の人口を抱えているのに、千葉大の医学部1つしかないという背景があるわけです。  これでは各医学部の定員を少しずつ増やすだけでは間に合いません。ほかの国のような、い わゆるメディカルスクール、社会人を4年間で医師にするような所を医師の少ない県に限って つくるとか、そういうことを文部科学省も一緒にやっておられるので、検討されたらどうかと 思います。私は、大学の医学部の機能評価委員として、いくつかの病院を回ったことがありま す。一度社会人になって、それでもやはり医師になりたいということで入ってきた方は、ほか の学生からも尊敬されるような存在になっています。よその国では当たり前で、日本にはまだ ない、社会人プラス4年というコースをつくったほうが、医師が早く世の中にも出ていきます。 この際、そういうものを2つ3つ増やすということも検討の中に入れていただきたいと思います。 以上4点です。 ○嘉山委員  いつも大熊委員とはディスカッションになるのですが、大熊委員の論理の使 い方は、常に特殊なものを一般化するという非常に悪い癖があります。私は金沢大学の問 題がどうかはわかりませんが、では一般の病院がちゃんとやっているという証拠はあるの ですか。医療事故の問題でも、そこは表にも出てきていないのですよ。要するに特殊論を 一般論にすり替えるという論理を常に使っていらっしゃるので、天下の大熊委員ともあろ う者がという感じがして、私は非常に残念です。大学が悪いと、常に大熊委員はおっしゃ いますが、うちでは医療事故を隠したというだけで懲戒にまでしていますし、処分までし ている大学もあるわけです。今後は、そういう大学もあるから大学は素晴らしいですよと いうように、大熊委員の論理を使っていただきたいと思います。  福井委員がご質問された、卒前教育がどうなっているかというと、東大以外は教養部が 解体されて、先ほど小川委員からもご発言が出ていたように、医学教育が前倒しになって 進んでいます。あと、これは高久座長のご努力だと思いますが、獲得しなければいけない コアカリキュラムとアドバンスドカリキュラムが、全国で凸凹のあった医学教育がかなり 均一化して、いま質の保証がされているのです。  先ほどコンピューターベースドテストのお話をしましたが、隣も全然カンニングできず、 データ管理は機械的にきちんとセンターでやっている、つまりアメリカの試験のような感 じになってきていますので、獲得目標は福井委員が京都大学におられたころよりは、かな りレベルが上がっているのではないか、全国のボトムが上がっているのではないかという 気がします。  あと大熊委員は、学生は全部お金のために動かないというようにおっしゃいました。そ ういう方が大部分ですが、学生の中にはそうでない方もいらっしゃいます。そういう人た ちも含めていい制度にしていくというのが、この改革案だと思います。そういう人全部が、 学生はお金に関係なく動いていますよという議論でやったら、何も改革することがなくな ってしまいます。現実に都市に集中したり、お金の高いほうに行ったりしているというの はエビデンスですから。そうではなくて、いい制度にするためにどうしたらいいかという スタンスで、ディスカッションされたらいいのではないかと思います。 ○小川委員  先ほどから大学と大学以外という議論の構築の仕方をされますが、これは是非やめていた だきたい。大学というのは医育機関であって、大学がなければ医師はできません。当然、 一般病院も医療を担っているわけですから、そちらも地域医療という意味では欠かせない わけです。ですから大学と大学以外というような議論の持っていき方はやめ ていただきたいと思います。 ○高久座長  吉村委員がまだ何もおっしゃっておりませんのでどうぞ。それで最後に舛添大臣からお願 いします。 ○吉村委員  この制度が入ったのは、専門分化が進みすぎたからプライマリ・ケアに対応できるような基 本的なものを入れようということだったわけです。これには誰も反対しないと思いますし、 皆さんも賛成だと思うのです。それをいつやるか、いまのようなシステムでやるかというこ とだと思います。というのは、2年間終わった人たちがプライマリ・ケアの、実際の診療を 担えるのだったら、私は今日のような医療崩壊というのは、そうは起こっていないと思いま す。むしろ、それが終わった後に各診療科ごとの標準的な医療ができるような、いわゆる専 門医に当たる方をいかに養成するか、そこをターゲットにして学部の教育と初期研修と後期 研修を考えるということです。初期研修はその中の一部ですから、それを卒後の2年間、い まのようなシステムでやるかどうかというところが、やはり議論になるのではないかと思い ます。  先ほど、大学の医師の派遣が問題だったと言われましたが、大学の派遣というのは、卒業 してから最初の5年間ぐらいでは派遣であると同時に、医師の養成の場でもあるわけです。 もちろん大学だけでは養成できませんし、一方、地域のいろいろな基幹病院だけでもできま せん。交代でいろいろな病院をローテートしながらキャリアアップしているわけですから、 最初の5年から10年ぐらいの派遣と、その後の就職とはやはり分けて考えていただかないと。 大学は派遣をしているから悪いのではなくて、派遣をしながら養成してキャリアアップをし ているのが崩れたところに、大きな問題があるのではないかと思います。是非、後期の研修 につながるという意味で、いま1人とか2人の研修医が在籍しているような中小の研修病院を 少し絞って、きちんとした各科の専門医が育つ所で、初期から後期につながる研修ができる ようなシステムにする必要があると思います。 ○高久座長  プライマリ・ケアも本来、後期研修の中に入るべきだと私は思うのです。それでは大臣、 お願いします。 ○舛添厚生労働大臣  先生方、今日はいろいろなご意見をいただきまして、本当にありがとうございました。 ヒアリングにいらした先生方もありがとうございました。  そこでひとつご提案というか、できれば厚生労働省と文部科学省でやってもらいたいの が、実態の調査とアンケートです。後期研修をやっている学生でもいいです。例えば金の ために動いているのかどうかとか、長崎は嫌だけれど、博多ならいいと思っているのかと かです。つまり私は今日、読売が提案しているような形、行き先を決めることにはあまり 賛成しないのです。例えば司法修習生と同じように、ペイを一緒にするというのは悪い話 ではないけれども、そのペイのためだけにやっているかというと、それはもちろん 都道府県による物価や生活費の格差も考えなければいけません。  しかし、そうではなくて「若干ペイが安くても、俺はどうしても東京が好きだ」と言う ようになったら意味がないわけです。ですから今日ご出席の先生方のご協力もいただいて、 国立大学や私立大学など、それぞれの連盟もあると思いますので、いま現場の学生がどう いう意識を持っていて、何を望んでいるのかを早急に知りたいと思います。まず、それが 第1だと思います。そうでないと今日の読売のような提案をしても、「そんなに規制される のなら嫌だよ」と言われたら終わりです。  もう1つは、今日も立派な先生方がお集まりですが、現場で研修を担っているプロフェ ッサーの方々は、教える立場からどういう意識なのだろうかということです。外口医政局 長、新木課長、両省の知恵を働かせて、先生方の各大学の研修施設にご協力いただいて、 早急にアンケート調査でもいいので、大体の感覚をつかんでおきたい、それを議論の出発 点にしたいというご提案を申し上げます。本当に今日はいいご意見をありがとうございま した。今後とも頻度多く活発に行いますので、よろしくお願いいたします。 ○高久座長  どうもありがとうございました。それでは、これで終わらせていただきます。 今井先生、富田先生、河野先生、どうもありがとうございました。 ○田原医師臨床研修推進室長  次回の日程ですが、11月18日の火曜日、14時から16時を 予定しております。今回同様に3名の方々をお招きして、ヒアリングをする予定です。ど うぞよろしくお願いいたします。 ○舛添厚生労働大臣  皆さん、ありがとうございました。またよろしくお願いします。 (照会先)                   厚生労働省医政局医事課                      医師臨床研修推進室                    (代表)03−5253−1111                   (内線4123)