08/10/09 第14回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会議事録   第14回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会    議 事 次 第    ○ 日  時 平成20年10月9日(木)13:00〜15:00    ○ 場  所 厚生労働省 省議室(9階)    ○ 出 席 者      【委 員】  前田座長             木下委員 児玉委員 高本委員 豊田委員 樋口委員 南委員             山口委員 山本委員   【議 題】     1.「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」について     2.第三次試案及び大綱案に寄せられた主な御意見等について     3.その他   【配布資料】     資 料 1  医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案     資料1(別添)医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・            再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−     資 料 2  「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・           再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」及び「医療           安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に寄せられた主な御           意見と現時点における厚生労働省の考え ○医療安全推進室長(佐原)  定刻になりましたので、第14回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り 方に関する検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれましてはご多 用の折、当検討会にご出席いただきまして、誠にありがとうございます。  まず初めに、当検討会の委員の変更についてご報告いたします。楠本委員から辞任 の申し出があり、その後任は、本日はご欠席ですが、永池委員がご就任されておりま す。  次に、本日の委員の出欠状況についてご報告いたします。本日は、鮎澤委員、加藤 委員、堺委員、辻本委員、永池委員より、ご欠席との連絡をいただいております。南 委員におかれましては、若干遅れるとのご連絡をいただいております。  また事務局に異動がありましたのでご紹介いたします。医政・医療保険担当審議官 の榮畑でございます。本日は、他の公務により欠席しておりますが、医政局総務課長 に深田が着任しております。また、医政局医事課長の杉野、医政局総務課企画官の間 です。どうぞよろしくお願い申し上げます。  次にお手元の配付資料の確認です。議事次第、座席表、委員名簿のほかに、資料1 「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」、資料1(別添)のいわゆる第三次試 案、資料2、第三次試案及び大綱案に寄せられた主なご意見と現時点における厚生労 働省の考え、を用意しています。資料の欠落等がありましたら、ご指摘いただきたい と思います。ないようでしたら、以降の議事進行については、前田座長にお願いしま す。 ○前田座長  本日も大変お忙しい中、お集まりいただきまして、どうもありがとうございました。 早速、議事に入らせていただきたいと思います。本年3月の第13回の検討会の議論 を踏まえて、事務局において4月3日に第三次試案を公表するとともに、4月4日か ら第三次試案に対する意見の募集を行ってまいりました。その意見を踏まえて、6月 13日に医療安全調査委員会設置法案(仮称)の大綱案を公表するとともに、同日付で 大綱案に対しての意見募集を行いました。  さらに今回は、事務局には三次試案及び大綱案に寄せられた主な意見と、現時点に おける厚生労働省の考えを準備していただきました。そこで本日は、第三次試案及び 大綱案に寄せられた主なご意見と、いま申し上げた現時点における厚生労働省の考え について、まずご意見をいただくことにしたいと思います。  さらにそれを踏まえて今後の本検討会をどう進めていくかについての委員のご意見 を伺えればと思っております。それでは、早速ですが、まず事務局から、いま申し上 げた第三次案及び大綱案と、それについてのいろいろなご意見、またそれに対する厚 生労働省の考えについてご説明をいただければと思います。よろしくお願いいたしま す。 ○医療安全推進室長  それでは、事務局から説明をさせていただきます。順不同になりますが、まず資料 1の別添をご覧いただきたいと思います。これはいわゆる第三次試案で、昨年度3月 まで13回開催していただきました検討会でのご意見も踏まえて、厚生労働省の責任 でまとめさせていただいたものです。内容について、ここで詳細に説明することは省 略させていただきます。  13頁ですが、現行と新しい制度の概要ということでイメージ図を出しております。 また第三次試案については、4月に公表させていただいた以降、パブリックコメント 等の募集をさせていただいております。  そして、国民の皆様からいただいたご意見については、公表可とされたものに限定 しておりますが、5月21日に第1回目の公表、6月20日に第2回目の公表を行った ところです。そして6月にいただいたご意見も一部踏まえて、第三次試案を法案に近 い形で表現した場合のイメージである大綱案を作成し、公表しました。併せて現在、 資料1の別添としていますが、注釈付という形で、改めて第三次試案を別添として出 しております。  資料1は、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」です。最初の所を読みま すと、この大綱案は、本年4月に公表した第三次試案の内容を踏まえて、法律案の大 綱化をした場合の現時点におけるイメージであり、具体的な規定の方法については、 さらに検討を要するというものです。詳細な内容については、ここでは説明を省略さ せていただきますが、第三次試案で提案しているものを実際に進めていくに当たって は、法律の整備が必要になります。まず新しい法律として、医療安全調査委員会設置 法が必要なのではないかということで、そのイメージを1頁から書いています。  同時に医療法とか、医師法等についても改正をしていく必要がありますので、その イメージを示しております。資料1の7頁のVIの「関係法律の改正」ということで、 第32に医療法の一部改正があります。医療法の改正のイメージについて示している ものです。  10頁の第33に、医師法21条の改正のイメージ。第34に、保健師助産師看護師法 の改正のイメージといった内容の改正案のイメージを示しています。  この大綱案についても、パブリックコメントの募集をさせていただいておりますが、 6月にこの大綱案を公表した後に、国民の皆様からいただいたご意見については、こ れまで公表しておりませんでした。そこで昨日、公表可とされたご意見のみですが、 その全文を厚労省のホームページに改めて掲載をさせていただいたところです。振り 返りまして、4月からの合計で見ますと、9月末日現在、合計732件のご意見をいた だいております。  資料2です。資料2はこれまでにいただいたご意見のうち、事務局の判断で比較的 多くいただいたご意見を中心にピックアップし、それに対する現時点における厚労省 の考え方としてまとめたものです。本日はこれを中心に内容を報告させていただきた いと思います。  次の頁に「いただいた御意見の概要」ということで、合計732件のご意見をいただ きました。どうもありがとうございました。団体から82件、個人からは650件のご 意見をいただきました。その構成については、4のところ、医療従事者が504件、一 般の方が96件という状況になっています。  次にI頁からが主なご指摘です。事務局でピックアップしたご指摘の目次です。3 頁分ありますので、順番にご紹介させていただきたいと思います。  3頁ほど進んで1頁です。まずご指摘の1番目ですが、第三次試案と大綱案との関 係はどうなっているのか分かりにくいというご指摘をいただきました。また、第三次 試案に記載されていて、大綱案には記載されていない内容については、どのように取 り扱われるのか分かりにくい。また第三次試案に対する意見が大綱案に十分反映され ていないのではないか、というご指摘をいただきました。  本年4月に公表した第三次試案については、法律で対応するものだけではなく、政 省令、予算措置、運用面等で対応するものも含めた全体像を示したものです。第三次 試案を見ますと、各パラグラフの左肩にどういう形で対応したらいいかを記載してい ます。  他方、6月に大綱案として提示したものは、これら第三次試案の内容のうち、法律 で対応する事項について抽出して、それを法律案に近い形でとりまとめた場合のイメ ージを示したものです。このため、第三次試案において示されている内容が、大綱案 において示されてない場合であっても、それらの内容が削除されたということではあ りません。  また、大綱案においては、第三次試案に寄せられたご意見を踏まえて、第三次試案 の内容と比較して、より明確化を図るなどの対応を行っており、それらについては大 綱案の公表の際に、第三次試案に寄せられた主な意見と大綱案のポイントとしてとり まとめているところです。この資料については、18頁に別添として添付しています。  2頁です。医療安全調査委員会の調査結果が、結果として責任追及に使用される仕 組みになっているのではないか、というご指摘を多くいただきました。  本制度においては、安全調査委員会により、原因の究明とか、臨床経過の分析・評 価を行うものを提案しています。安全調査委員会は、医療関係者の責任追及を目的と するものではなく、医療関係者の責任については、以下にも述べますとおり、安全調 査委員会の専門的な判断が尊重される仕組み、安全調査委員会の判断は別のシステム で尊重していくという仕組みを提案しています。  刑事手続については、これまでは医療に関する専門家判断とは別に、捜査機関によ る手続が進められてきましたが、医療安全調査委員会による迅速、かつ、適切な原因 究明あるいは捜査機関への適時適切な通知が行われることになれば、捜査機関は、委 員会からの専門的な判断を尊重して、委員会からの通知の有無、あるいは行政処分の 実施状況を踏まえつつ、対応することとなります。その結果、刑事手続の対象は、故 意や重大な過失のある事例、その他、悪質な事例に事実上限定されるなど、謙抑的な 対応が行われることとなると考えています。  行政処分については、安全調査委員会の調査結果を参考にしたシステムエラーの改 善に重点を置くものとし、個人に対する行政処分は抑制することを提案しております。 個人に対する処分が必要となる場合であっても、業務の停止を伴う処分よりも、再教 育を重視した方向で実施することとなります。  その下に「参考」として書いてあるのは、第三次試案あるいは大綱案の中で、いま 申し上げたようなことについては、ある程度記載しておりますので、そこを改めて書 かせていただきました。  3番目です。WHOが平成17年に公表した「有害事象の報告及び学習の仕組みに関す るガイドライン案」に沿ったものとすべきであるというご指摘をいただきました。そ のガイドラインの概要は下に書いてありますが、各国の有害事象報告制度を紹介しつ つ、この成功例の特徴ということで、懲罰につながらないこと、懲罰を行う機関から 独立していること等の7点を掲げております。  現段階での厚労省としての考え方は、当該ガイドラインは、平成17年に原案として 公表されたもので、今後さらに検討される予定のものと聞いています。  また、我が国においては、WHOのガイドラインの中でも紹介されておりますが、こ のガイドライン案で示されている考え方に立った仕組みとして、平成16年から財団 法人の日本医療機能評価機構において、医療事故情報収集等事業を実施しております。 この事業においては、特定機能病院や国立病院機構の病院等から、患者に有害事象が 発生した事例(死亡に限らず)、さらには事故に至らないインシデントまで含めて、 幅広く事例の収集・分析を行い、医療安全対策に有用な情報を提供しているところで す。  このような仕組みを充実していくことは重要ですが、一方でそのような仕組みだけ では医療事故による死亡について、真実を知りたいという患者遺族の願い、あるいは 現在の医療事故死等に係る刑事責任との関係に関する問題等についての解決にはな らない、という意見もあります。このため、医療事故に係る原因の調査あるいは臨床 経過の分析・評価を専門的に行う機関の設置を提案しているものです。  4番目です。医療安全調査委員会を厚生労働省に設置することとすると、医療行政 を所管する厚労省の問題点の追及ができなくなったり、調査と処分の権限が厚労省に 集中したりするおそれがあることから、内閣府に設置するなど、厚労省外に設置すべ き、というご意見をいただきました。  この委員会の設置については、内閣府に設置すべきといったご意見がある一方で、 厚生労働省に設置すべきというご意見もいただいております。このため、6月に出し た大綱案においては、設置する府省は特定せず、さらに検討を進めることとしており ます。いずれの府省に設置された場合であっても、大綱案の中でも示していることで すが、安全調査委員会の委員は、独立してその職権を行うこととしています。  さらに、この委員会は関係の行政機関に対し、医療の安全を確保するため講ずべき 施策について勧告等を行うことができるとしており、設置府省のいかんにかかわらず、 厚労省に対しても勧告等を行うことができるという提案をしています。  また、行政処分については、安全調査委員会の調査結果を参考にしたシステムエラ ーの改善に重点を置くものとし、個人に対する行政処分を抑制することとなりますが、 この個人に対する行政処分は現在は厚生労働省がやっており、これが必要となる場合 であっても、当該処分は公表された報告書を参考に、別途医道審議会の意見を聞いた 上で、厚生労働省において判断するもので、委員会による調査とは独立して判断され、 実施されるものとなります。なお、第三次試案の中でも、医道審議会における審議に ついては見直しを行うことを提案しています。  5番目です。地方委員会は、地方分権の観点から、国の組織ではなく都道府県に設 置すべき、というご指摘をいただきました。  都道府県に設置することとした場合には、発生した医療事故死等について、同一都 道府県内において調査が行われることとなります。このため、中立性、公正性、専門 性の確保の観点から、調査チームの人材の確保が可能であるかという点については、 さらに検討する必要があると考えております。  6番目です。調査の対象には、死亡・死産だけではなく、障害が残った場合等も含 めるべき、とのご指摘をいただきました。  第三次試案及び大綱案においては、原則として調査は解剖を含めて医学的な調査を 行うことを考えており、まずは死亡事例の調査を確実に実施することとしております。  なお、重篤な後遺症が残った場合など、死亡に至らない事例についても、原因究明・ 再発防止の観点から、将来的な課題として、死亡事例の調査の実績等を踏まえた上で、 検討する必要があると考えております。  7番目です。医療事故死等の届出の範囲を明確にすべき、というご指摘も多くいた だきました。  大綱案においては、安全調査委員会への届出の範囲について、(1)行った医療の内容 に誤りがあるものに起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産。(2)行った医療に 起因し、又は起因すると疑われる死亡・死産であって、その死亡又は死産を予期しな かったもの。この2つとしております。この届出が適切に行われるようにするため、 医療事故死等に該当するかどうかの基準、ガイドラインを医学医術に関する学術団体 及び安全調査委員会の意見を聴いて、主管大臣が定め、公表することとしておりまし て、より詳細なガイドラインの在り方については、平成20年度の厚生労働科学研究 においても、研究課題として検討いただいているところです。  8番目です。医療事故死等の届出がされた後、安全調査委員会において調査を行う かどうか判断すべき、というご指摘をいただいております。  これは医療機関から届け出られた、または遺族から調査依頼があった事例の中には、 委員会による調査の継続を必要としない場合があることも想定されるため、届け出ら れた個々の事例について、安全調査委員会の中で、そのような事例か否かについて判 断を行う仕組みが必要になると考えられます。  第三次試案においては、医療機関からの届出又は遺族からの調査依頼を受け付けた 後、疾病自体の経過としての死亡であることが明らかとなった事例については、委員 会による調査は継続せず、医療機関における説明・調査など、原則として、医療機関 と遺族の当事者間の対応に委ねることを提案しております。  この具体的な判断の在り方や、その具体的な基準については、平成20年度の厚生労 働科学研究においても、研究課題としているところです。  9番目です。まずは院内の事故調査委員会が調査する仕組みとしてはどうか、とい うご指摘をいただきました。  医療死亡事故が発生した際に、医療機関においても、自らこの調査を行うことは重 要なことだと考えております。このため、第三次試案においては、一定の規模や機能 を持った病院(特定機能病院等)については、現在、医療法に基づき設置が義務付け られている「安全管理委員会」の業務として、地方委員会に届け出た事例に関しては 調査を行って、再発防止策を講じることを位置付けることとしております。  また中小病院や診療所についても、自施設での医療事故調査にはいろいろな困難が あることから、その支援体制についても、併せて検討することとしております。  一方で死亡事故等が発生した医療機関自らのみが調査を行うことは、中立性・公正 性が確保されないという指摘もあることから、院内において調査・整理された事例の 概要や臨床経過一覧等の事実関係記録については、地方委員会が診療録との整合性を 検証した上で、地方委員会での審議の材料とすることを考えております。  このように院内における調査と、医療安全調査委員会による調査は適切に連携しな がら行われることが必要であると考えています。  なお、院内の事故調査委員会の具体的な運営の在り方については、平成20年度の厚 生労働科学研究においても、研究課題としていただいているところです。  10番目です。調査チームについて、医療関係者のみで構成すべき、というご指摘も いただきました。  まず、このことについては、賛否両論も含めていろいろなご意見があるところです。 厚労省としては、医療安全調査委員会の透明性、中立性、公正性の担保のためには、 医療の専門家のみでなく、法律家や医療を受ける立場にある者等の参加も必要である と考えておりまして、医療の専門家以外の者も委員として任命することが必要と考え ております。  11番目です。解剖を行う医師を含め、調査に従事する医師の確保はできるのか、と いうご指摘もいただきました。  第三次試案においては、調査チームはその分野の専門の医師を含む医療関係者を中 心に構成することとしております。現在、日本内科学会を実施主体として行われてい るモデル事業においては、関係の38学会から、10地域で2,600名の医師の登録を得 て運用されているところです。このように本制度の確実、かつ、円滑な実施には、医 療関係者の関与が不可欠で、医学医術に関する学術団体のご協力を得られるよう努め ていきたいと考えております。  12番目です。遺族の承諾がなくても解剖することができるようにすべき、というご 指摘をいただきました。  大綱案においては、原則として、解剖は遺族の承諾なしには行うことは予定してお りませんが、確実な原因究明のためには、解剖を行うことが重要であると。そういう 解剖の重要性、有用性について、国民的な理解を深めていく必要があると考えており ます。  また「原則として」という所ですが、「医療事故による死亡の原因究明のために必要 である場合には、解剖について遺族の承諾を得る必要はない」というご意見もあって、 どのような場合に例外的に遺族の承諾を得ないで解剖を実施するかについて、引き続 き検討してまいりたいと考えています。  さらに、第三次試案においては、いわゆるオートプシーイメージングを補助的手段 として活用することを今後の検討課題としており、これも同様に厚生労働科学研究に おいて、研究課題としているところです。  13番目です。地方委員会の調査に関して、調査拒否や質問に対する虚偽の報告に対 する違反について、新たな刑罰が設けられているのではないか、というご指摘をいた だきました。  この委員会の調査は、医療事故死等に関する事実を認定し、これについて必要な分 析を行って、原因究明・再発防止を旨として行われるものです。地方委員会の委員に は、事故調査を行うために必要な関係物件の調査、関係者に質問すること等の権限が 付与されております。これらは医療事故死等の原因を究明し、医療事故の防止に資す るよう適切な調査を行うための権限と考えております。  この調査においては、相手方が関係物件の調査に応じない場合等には、刑罰が科さ れることとなりますが、このような仕組みは現行の医療法における医療監視等、既存 の法律・制度においても設けられているものです。  なお、大綱案において具体的に示している行政処分や罰則等については、第三次試 案の内容を法律案に近い形でとりまとめた場合に必要なものとして、医療法の既存の 法律・制度も参考にして記載しているものです。  第三次試案の中では、文言としては「調査等を行う権限を付与する」と記載されて いますが、これを法律に近い形で表現すると大綱案のようになるということです。  14番目です。第三次試案においては、「医療関係者等の関係者が、地方委員会から の質問に答えることは強制されない」とされているが、大綱案においては、これが記 載されていないのではないか、というご指摘をいただきました。  第三次試案における「質問に答えることは強制されない」という記述については、 大綱案では第30にあるように、地方委員会による報告の求めに対して、虚偽の報告 をした場合や検査を拒んだ場合には罰則を設けているのに対して、質問や報告の求め に応じなかった場合には罰則を設けていない。このような措置により、第三次試案に 書かれているものについては、基本的には同じ考え方で対応しているところです。  15番目です。地方委員会から警察へ通知するという仕組みに関してのご意見です。 ここはいくつかいろいろなご意見を一緒に書いています。まず通知を行う仕組みは削 除すべきというご意見。通知を行うことはいいのだが、通知は故意による死亡等及び 事実を隠ぺいする目的で関係物件を隠滅するなどの場合にのみ行うべきあって、「標 準的な医療から著しく逸脱した場合」や「類似の医療事故を過失により繰り返し発生 させた」場合については、通知は行わないこととしてはどうかという意見です。ある いは通知を行うことはいいのだが、通知がなければ警察は捜査に着手しないという仕 組みとすべきということです。  現時点での厚労省の考え方としては、医療事故死等の中には、刑事責任を問われる ことがやむを得ない事例が含まれていることは否定できないものと考えております。 また、これについて、医療行為を刑法の業務上過失致死傷罪の対象から除外すること に関して、現段階で国民全般の理解を得ることは困難であると思われます。  いま提案している本制度においては、医療事故死等については、安全調査委員会が まず調査を行い、刑事手続については安全調査委員会による迅速、かつ適切な原因究 明や捜査機関へ適時適切な通知が行われることになれば、捜査機関は委員会の専門的 な判断を尊重し、委員会からの通知の有無や、行政処分実施状況を踏まえつつ、対応 することとなります。その結果、刑事手続の対象は、故意や重大な過失のある事例、 その他悪質な事例に事実上限定されるなど謙抑的な対応が行われることとなります。  このような対応を行っていくことについては、本日も法務省、警察庁にもご出席い ただいておりますが、別添で6月に出した第三次試案の表紙にも記載しているとおり、 厚生労働省、法務省及び警察庁の間で合意したものです。  また地方委員会からの通知がなければ警察は捜査に着手しないとすることについて は、患者遺族の告訴に関する権利を奪うことになるとともに、医療安全調査委員会が、 医療事故死等に係る責任追及を行う役割をも担うこととなり、医療事故死等について、 その原因を究明し再発防止を図るという、安全調査委員会の本来の趣旨にそぐわない ものと考えております。  16番です。地方委員会から警察への通知を行うもののうち、「標準的な医療から著 しく逸脱した医療」の定義が曖昧なので、明確化すべき、とのご指摘をいただきまし た。  まず、これに該当するか否かは、大綱案にも記載しましたが、個々の事例ごとに病 院の規模や設備、地理的環境等を勘案する必要があると考えております。  例えば、緊急的に行う医療であって、専門外の医師が行わざるを得ない場合あるい は傷病の経過等の把握が十分にできない状況で行わざるを得ない場合など、医療が行 われた状況を十分に踏まえて判断する必要があるものと考えております。  今後、一定の指針を定めることを考えておりますが、このように、行った医療の評 価については、最終的には医療の専門家を中心とした地方委員会が個別具体的に判断 することになるのではないかと考えております。  17番です。地方委員会の報告書について、刑事裁判や民事裁判の証拠として利用さ れないこととすべき、というご指摘をいただきました。  第三次試案においては、報告書は、当事者である遺族及び医療機関に交付するとと もに、個人情報の保護に配慮しつつ、公表することとしています。委員会から捜査機 関に通知を行った事例において、捜査機関が公表された調査報告書を使用することを 妨げることはできないものと考えています。  また、第三次試案において、委員会による調査の目的にかんがみ、調査報告書の作 成の過程で得られた報告書以外の資料については、刑事訴訟法に基づく裁判所の令状 による場合を除いては、捜査機関に対して提出しない方針としております。  調査報告書は、地方委員会の専門的な判断による医療事故の客観的な評価結果でも あり、これが遺族と医療機関に交付されて、当事者間で使用されることは紛争の早期 解決にも役立つものと考えております。  18番です。医師法21条について、診療行為に関連した死亡については届出の対象 から除くべきとのご指摘をいただきました。  医師法21条に定める医師の届出義務については、診療中の患者であったか否かは問 わないものであることが、都立広尾病院事件の判決においても示されています。  大綱案においては、診療行為に関連した死亡の取扱いについて、同様の考え方に立 ちつつ、21条にただし書きを設けて、医療事故死等については、医師は医療機関の管 理者に報告すれば警察への届出の必要はないということにしています。この場合、医 師自らが管理者である場合、例えば、診療所の場合等は、主管大臣に届け出ていただ くことになります。この場合に医療事故死等の報告を受けた管理者は、必要に応じて 関係者と協議をして、直ちに主管大臣に届け出ることになります。  19番です。医療行為について、正当な業務であるので、刑法の業務上過失致死罪の 対象外とすべき、又は、遺族の告訴を必要とする「親告罪」とすべき、というご指摘 をいただきました。  さまざまな様態・分野のものがあり得る業務上過失致死罪の中で、医療事故につい てのみ、適用対象から除外したり、親告罪とすることについては、現段階で国民全般 の理解を得ることは困難だと考えております。  また親告罪は、公訴を提起して被害事実を公にすることによって、かえって被害者 の名誉等が害されるおそれがある犯罪、あるいは被害が比較的軽微で、公訴の提起を 行うか否かを被害者の意思に任せるべき犯罪に限られております。  このため、生命・身体に危害を加えるおそれが高い行為によるものであって、かつ 人の死傷という結果が生じた場合に適用される業務上過失致死罪を親告罪とするこ とは適当ではないと思われます。  20番です。諸外国においては医療行為について、刑事責任が問われることはないの ではないか、というご指摘をいただきました。  諸外国において、医療の過程において生じた死傷事故について、どのような法的な 扱いをするかについて、190カ国ほどありますので、網羅的に把握はしておりません が、例えば、ドイツやフランスにおいては、それぞれの刑法典において、過失行為に ついての広く一般的な処罰規定があって、医療の過程において生じた死傷事故に関す る特別の規定はないと承知しております。  また、文献によりますと、アメリカにおいては、医療の過程において生じた死傷事 故に関して、刑事訴追がなされる事例は少数ですが、あることは承知しています。こ のように少なくとも国レベルで医療行為について、医療関係者の刑事責任が問われな いという国は承知しておりません。  21番です。過失のない医療行為による死亡事故死等であっても、補償が行われる制 度を創設すべき、というご指摘をいただきました。  いわゆる無過失補償制度については、産科医療を対象として、通常の妊娠・分娩に もかかわらず、脳性麻痺となった場合を補償対象とした産科医療補償制度が、平成21 年1月1日から運用を開始することとしております。  産科医療補償制度の適用範囲の拡大については、今後の課題であると認識しており ますが、まだ始まるばかりの制度ですので、同制度の実施状況を踏まえて、今後検討 することとしたいと考えています。  22番です。裁判外紛争解決手続を整備すべき、というご指摘をいただきました。  医療機関と遺族との間では、紛争が解決しない場合の選択肢の1つとして、裁判外 紛争解決機関の活用等が考えられます。この場合、事実関係の明確化と正確な原因究 明が不可欠ですが、地方委員会の調査報告書は、第三者による客観的な調査結果とし て、早期の紛争解決や遺族の救済につながるものと考えられます。  厚生労働省としては、裁判外紛争解決制度の活用の推進を図る必要があると考えて おり、関係者からなる協議会を設置し、情報や意見の交換等を促進する場を設けるこ ととしております。そのための関係予算を平成21年度の概算要求において計上して いるところです。  23番です。法案の施行後5年を目途とした見直しの検討では遅すぎるのではないか、 というご指摘です。  大綱案においては、この法案の施行後5年を目途として、この法案の施行の状況を 踏まえて、必要に応じて見直しを行うこととしていますが、施行の状況によっては前 倒しで5年以内に見直すことも考えられると考えております。以上です。たくさんの パブリックコメント・ご指摘をいただきまして、どうもありがとうございました。あ らためてこの場をお借りしてお礼申し上げます。 ○前田座長  かなりさまざまな内容が含まれています。よくまとめていただいて、どうもありが とうございました。それに併せて厚生労働省の考えも、ここの委員会で検討してきた 議論を踏まえてのものだと思いますが、まとめていただいていると思います。まず、 ご質問、ご意見があれば併せて言っていただいても構いませんし、順にということで はなく、どの項目からでも結構ですので、何かご発言いただければと思います。いま ご説明いただいたばかりで、全体を統一的にご議論いただくということではなく、気 付いたところからご指摘いただくということでよろしいかと思いますので、よろしく お願いいたします。 ○高本委員  医療安全調査委員会のいろいろな仕組みの中に、行政処分がありましたが、この行 政処分が医道審議会において審議をして、意見を聞いた上で厚生労働省において判断 するというのは、非常に曖昧な形なのです。私は行政処分の在り方というのも非常に 大事なシステムだろうと考えます。刑事処分の代わりに行政処分、いわゆる再教育を 中心とした行政処分にしようというわけですから、こちらが十分にファンクションし ないと、医療安全調査委員会そのものの機能が半減すると言ってもいいぐらいだろう と思います。  医道審議会における審議について見直しを行うと書いてありますが、今の医道審議 会ではとてもこのファンクションは果たせないと思いますので、これを改革するなり、 これを見直す検討会を、この検討会とは別に設けて、しっかりと議論をして、このシ ステムを医療安全調査委員会と同じように立ち上げるべきではないかと思いますが、 いかがでしょうか。 ○前田座長   いまの点について何かありますか。 ○医事課長(杉野)  ご指摘の点については、非常に重要な点だと思っております。ご案内のとおり、現 在の行政処分については、基本的には刑事上の処罰を前提にほとんどの事例が、その 内容を勘案しながら、もちろん本人からの聴聞などもしますが、刑事上の処罰を前提 に、それを参考にしながら行政処分が行われるという実態が長らくありました。  今回こういった委員会が創設されると、行政処分のルート、中身が大幅に変わって いくのは当然のことです。そうしますと、現在は医道審議会の中の医道分科会で、各 県の協力を得ながら、処分の内容を検討しておりますが、この在り方については、新 しい委員会の仕組み、その流れを前提に大幅に行政処分の審議の方法そのものも見直 していくことになろうかと思っています。それが具体的にどういう仕方になるのかに ついては、まだイメージが実務的にも検討できているわけではありませんが、これま でのイメージとはだいぶ違うものになるだろうと思っておりますので、ご指摘の趣旨 は十分受け止めた上で、然るべき時期に然るべき方法で見直しをすべきだろうと実務 的には考えております。 ○前田座長  非常に大事なご指摘だと思います。ほかにいかがでしょうか。ご質問でも構わない のですが。 ○山口委員  いまのところにもかかわる話ですが、医療者の多くの関心は、やはり委員会に届け 出たものが、捜査当局へ通知されるところに大きな関心があると思います。その点で 届け出る範囲について、学会等の専門家集団に、どういうものがどうだという範囲を、 ある程度具体的に、ガイドライン的なものを作る事を依頼するという記載があります。 同じように、捜査機関へ通知する「標準的な医療から著しく逸脱した医療」という定 義も、医療専門家の見解を聞くべきだと思います。専門家の中でもいろいろ見解が違 うと思いますし、いろいろな状況下でこれを勘案してというところもありますが、本 当の多くの医療は、かなり全力を尽くして良心的にやられているはずですから、その 中でいわゆる刑事責任を問われなければいけないものというのは、非常に限られたも のではないかと思います。その意味で、委員会によって、あるいは地域の委員会によ って判断が大きく異なることは、非常に具合が悪い話なので、これについても1つの 基準的なものがあって良いと思います。そういう基準づくりみたいなものを、医療の 専門家の意見としてどうなのだというところを、学会等に投けかける作業は、届出と 同じように必要なのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 ○前田座長  いまの点について、これにはそれほど書き込んでいなかったのですが、いかがです か。 ○医療安全推進室長  届出のところについては、医学医術に関する専門集団のお力をいただかないといけ ないと思います。調査の出口の専門的な判断についても、役所だけでは決め切れない ところだと思いますので、アドバイスをいただきながら、一緒に作っていく必要があ るのではないかと思っています。 ○前田座長  今でも、数少ないわけですが刑事処分をするときに、当然の前提として鑑定という 形をとるかどうかは別として、医療者の判断を仰いでいくわけですが、出口のほうで も地域によって差が出るとか、大事な問題ですから、それがないように、何らかのガ イドラインを作る。ただ、入口とは違うので、医側、プラス法側も入った形での全国 統一的なガイドラインと。ただ、あくまでも基本は医だと思います。そういうことは 大綱案はもちろん整合性を持っているというか、それを含んでいるのだと思います。 大事なご指摘だと思います。ほかにご質問、ご意見はいかがでしょうか。 ○木下委員  いまのご質問に関連してですが、第三次試案では委員会から捜査機関へ通知する事 例に、重大な過失のある事例ということがありました。その後、大綱案では、この重 大な過失の代わりに、「標準的な医療から著しく逸脱した医療」に変わりました。  医療界に通知すべき事例について、説明するときに、「重大な過失の事例」と言いま すと、曖昧で、よくわからないというのです。我々医療界の大多数の者は、法律的な 表現に素人ですから、刑法上重大な過失ということの意味することは、よくわかりま せん。  しかしながら、司法界の先生にお話を伺いますと、刑法211条の前段には、業務上 必要な注意を怠るという、通常の過失と、それに並べて後段には「重大な過失」とい う表現があり、重大な過失というのは、故意に準ずるような本当にひどい過失を意味 するので、刑法そのものも重大な過失という表現で、わかるといわれます。  そうすると、重大な過失に代わって、標準的な医療から著しく逸脱したということ になりますと、標準的な医療は何かということで、医療界は、また大騒ぎするという 実情があります。そういうことから、山口委員のお話のように、本当にどういう事例 を標準的医療から著しく逸脱したものと判断するのかというのは、医療界の中で実際 に検討する必要がありますが、重大な過失ということの意味するところは、既に司法 界では当たり前の表現になっているものであるだけに、特に前田座長の教科書にも明 確になっていることもあって、標準的な医療から著しく逸脱した医療と表現するより も、重大な過失のままにしておいたほうがいいのではないかと思いますが、如何でし ょうか。  このことについてあちこちで説明しても、重大な過失ということの意味を説明をす るほうが、かえって理解をいただけることがあり、標準的な医療とすると、そのこと 自体の議論になってしまい、大変混乱している事実があります。そういった意味から 重大な過失の表現についても、再度、ご検討いただきたいと思います。 ○前田座長  この点については、大綱案を作られた側として、「重大な過失」に換えて「標準的な 医療から乖離の著しいもの、虚偽の」ということを使われたことに関しては、何かあ りますか。 ○医療安全推進室長  事務局から経緯も含めて説明させていただきますと、資料1の別添の9頁に「捜査 機関への通知」で、(40)項があります。ここにどういうものについて通知をするの かということで、以下のような悪質な事例に限定した通知だということが書いてあり ます。そのうちの(3)に「故意や重大な過失があった場合」と4月の第三次試案では書 かせていただきました。  そのあとに注釈があって、「なお、ここでいう『重大な過失』とは、死亡という結果 の重大性に着目したものではなく、標準的な医療行為から著しく逸脱した医療である と、地方委員会が認めるものをいう」ということで、重大な過失というのは「標準的 な医療から著しく逸脱した医療である」と書いて、ほぼ同じ意味で用いているわけで す。  「また」以下ですが、「また、この判断は、あくまで医療の専門家を中心とした地方 委員会による医学的な判断であり、法的評価を行うものではない」と書いたのです。 第三次試案を出したあと、重大な過失というと、法的な評価を意味するのではないか。 それを医療者を中心とした委員会で実施することについてはおかしいのではないか、 というご指摘もありました。あくまで医学的な判断を行うということであれば、標準 的な医療から著しく逸脱した医療という表現のほうが良いのではないかと判断をし、 大綱案では、そちらの表現を採らせていただきました。ただ、どういうものがいいの かというのは、いろいろなご意見がありますので、よくご意見を聴いてまいりたいと 思います。 ○木下委員  よくわかります。そういったことも知っておりますが、医療界のものが見たときに は、重大な過失というと、曖昧で、なかなか理解できないという事実はあります。  では、標準的な医療から著しく逸脱した医療としたときに、逆に今度は司法界の方々 にとっては、通知されたときに、今までのイメージとは違って、新しい概念になって くると思うだけに、それが本当に重大な過失と全く同じものとして受け取られるので しょうか。むしろ仮に重大な過失としたときに、その意味合いとしては、医療界が判 断するときには、標準な的医療から著しく逸脱した医療かどうかは、当然考えるわけ ですが、同時に、本当に故意に準ずるようなひどい過失かどうかという、前の委員会 でも説明があったとおりのこととして検討していくことにもなります。標準的な医療 から著しく逸脱した医療としますと、またそこで混乱が医療界にも、司法界にもどち らのサイドからも出てきはしないかという危惧があるだけに、今まで刑法の中で使わ れていた重大な過失という言葉としてあったほうが、よりわかりやすいと思います。 標準的な医療から著しく逸脱した医療行為に関して、あちこちで説明するときにも、 重大な過失の意味することを、説明しますと、かえって納得するだけに、是非その辺 のところはもう一度お考え願えればと思います。 ○前田座長  もうこの点は、そんなに差がないと思います。範囲を動かそうとして言い換えたの ではなくて、わかりやすくするために言い換えたのであって、わかりにくいのであれ ば、また直すことがあるかもしれません。  大事なポイントは、大野病院などでもそうですが、胎盤剥離のことを、ああいうこ とをすることが医学界から見て、著しく逸脱しているかどうかみたいなことを、基本 的には医師が判断して、基準としてそれが重過失に当たるか、呼ぶかどうかは別とし て、それに従って動かしていくということです。過失のいちばん核は注意義務違反の 程度ですので、ということはどうしても標準的な医療からどれだけ距離があるか。い ろいろな医師はいるだろうけれども、その中で標準というのをどう設定するかも医学 を中心に詰めていただいて、ここまでいったら医師としてめちゃくちゃだよねという ことですよね。めちゃくちゃだよねというのはくだけ過ぎた言い方ですから、これは 記録には残さないほうがいいかもしれませんが、そこを求める作業をしていかないと いけないということでは一致していると思いますので、どうするかはまた詰めていき ますが、もちろん言葉として重過失からこれに言い換えたということで、何か大綱案 で意図があったことでないことはお認めいただきたいということです。これに関連し て、法務省や警察庁のほうから、この問題でなくてもよろしいですが、何かあります か。 ○法務省刑事局刑事課長(片岡)  重大な過失と標準的な医療から著しく逸脱したという場合、射程という意味では、 いま座長からありましたように大きな違いはないと思っています。ただ、特に条文に 重大な過失と入れると、司法サイドとして混乱するかなと思っています。と申します のは、いま木下委員からもご指摘がありましたように、裁判でいろいろな分野で、重 大な過失というのは裁判例が蓄積されてきているわけです。その当てはめをこの地方 委員会が行うのかどうか。つまり、いままでの裁判例に照らせば、これは重大な過失 に当たるという判断を地方委員会がして通知される。そうすると、いわば裁判所の前 取りのような法的判断をされて、捜査機関側に通知してくる。そして、またその先か 検察のほうでは、それを裁判所に判断を仰ぐために、つまりあえて言うなら地方委員 会の法的判断が正しいかどうかの判断を裁判所に仰ぐために起訴をするような、目指 している方向と違うような制度設計になりはしないか。それよりも専門家がお集まり いただいた地方委員会で、専門的な判断をお下しになる、その表現をどうするか。で すから、司法サイドとは違う意味での重大な過失であってもいいかもしれませんが、 端的に標準的な医療から著しく逸脱したというほうが、現場の専門家のご判断に資す る、あるいはその土俵として、尺度として使いやすいのではないかと思って、そちら の表現のほうがよろしいのではないかなと思っているわけです。いま、座長からあり ましたように、ほかの表現がよりいいのであれば、そういうのも考えられましょうし、 私としては各方面の先生のご意見をお伺いしていると、標準的な医療から著しく逸脱 した行為というのはそんなにあるものではないといままでは聞いていましたので、木 下委員の重大な過失のほうが狭いよということについては、まだ私の理解不足かもし れませんが、そんなに射程は変わらないのではないかと思っている次第です。以上で す。 ○警察庁刑事局刑事企画課長(北村)  いま片岡課長がご指摘になったとおりではないかと思います。両者の射程行政委員 会として表現としては、中身的にはほとんど変わらないかと思いますが、ふさわしい 表現がいずれかということになれば、この書きぶりの方がむしろよろしいのではない かと斯様に考えています。 ○前田座長  あとでほかの部分も含めて、法務省、警察庁のご意見を時間があれば出していただ くとして、ほかの委員からいまのところと離れても構いませんので、何かご指摘、ご 疑問はありますか。 ○樋口委員  少しまとまらない話になりますが意見を申し述べます。まず、今日の資料2にさま ざまなご意見がパブリックコメントとして寄せられて、それに対して厚生労働省側で も丁寧に一つひとつ答えておられることに感銘を受けています。パブリックコメント は、いろいろなところでいま行政手続の中で制度化されてやっておられるわけですが、 なかなかパブリックコメントを取ったからといっても、それで大きく方針が変わった りしないものですが、ここはこうやっていろいろな形で大きな影響を与えるパブリッ クコメントが行われているのだと思います。そういう意味でも、非常にいいことでは ないかと思っています。その上で、今回ここにおられる委員の方も、こうやって意見 を寄せられている方も、明らかに大きな方向性では一致点がある。いま、座長がおっ しゃったように、その点はすでに一致しているのではないかと思います。それは、結 局のところ医療事故が残念ながら起きてしまったときに、そのあと我が国の社会でい ったいどういう対応をすべきかというのに、ものすごく単純化して言って2つの道が あり、繰り返し前から申し上げていることですが、1つが、事故が起きてしまって、 その過去に向いて、その過去の時点で「お前いったいどうしたんだ」という制裁型と か責任追及型です。そのときに、いちばん頼りになるのは例えば警察の人ですから、 刑事司法を使って過去に向いて責任追及を行う。もちろん、刑事司法も将来に全く関 係がないかというと、同じようなことを繰り返すなよという意図はありますが、主眼 は過去の時点においてどうだったのだという、過去に向いて話をするのが1つの対応 策です。それによって同じような事故が繰り返されないで、医療安全が高まっていけ ば、それはそれでよかった。しかし、必ずしもそうではないのではないだろうかとい う話と、逆にどうも思わしくないような結果が出ていると判断するような人たちが増 えてきた。  それで、もう1つのやり方を試みてみようという方向性が出てきているのです。そ れは結局将来型というか、この委員会の大綱案でも、はっきり第12にあるように、 責任追及を目的とするのではない委員会を作って、真相を尋ねてそこから再発防止に つなげていこうという話を作ろうというわけです。ただ、主たるものとして類型化し て23の形でいろいろなご意見をいただいていますが、将来型に向かうためには2つ の大きな問題があります。、第1に、いままでこの数年あるいは10年ぐらいの間だっ たと思いますが、刑事司法に以前よりも大きな形で寄りかかって、刑事司法の担当者 には大きな仕事をしていただいてきたということになりますから、あえていえば本当 に警察や検察の方にはご苦労をかけて申し訳なかったという感じすらします。しかし、 今後は、そうではなくて、新しい方向に舵を切るのだというのが第1段階です。だか ら責任追及は目的としない、もう少し将来に向いたようなことに舵を切るということ をどのような形で明確化するか、これが第1段階です。しかし、本当に大事なのは舵 をきった後の第2段階です。  それは、将来向けの医療安全調査委員会を作って、どんな調査をやれば再発防止が 本当にできるのだろうかということです。どんな調査をどんな人たちが関与して、ど んな仕組みを作ったらというのは残念ながらどこの国にも類例がどうもないような ので、極めて大きな改革です。日本が先頭を切ってやってみようという話ですから、 なかなかそんなに簡単に良いアイデアとか、実際にやってみてすぐにうまくいくこと はないかもしれないけれども、それはどうしたらいいだろうかという形の、第2段階 につながるような疑問が、この資料の23の中でどれだけあるかというと、まだ少数 です。作ってみないと結局わからないからということもありますが、いまだに第1段 階のところにばかり拘泥して、そこでまだ議論がどうしても「何と言っても責任追及 ではないか」という点に集中している。例えば、今日の資料の2番目。医療安全調査 委員会はそんなことを口では言っているし、いろいろな文書ではそう書いてあるけれ ども、結果として責任追及に使用される仕組みになっているのではないかという疑い がどうしても残る。残っても仕方がないのかもしれない。実際にスタートしてみない と本当にどうなるかはわからないということがあるからです。それはそうですが、そ このところばかりで議論がいつまでも行きつ戻りつというだけでは、本当に大事な第 2段階のところが忘れられてしまって、そこが本当に残念な気がします。これが大き な感想です。  そのうえで責任追及ということの意味についてですが、大きく言えば3種類。3種 類目は法律家ですので、刑事責任と行政責任と民事責任。行政責任といっても、厚生 労働省が責任を問われるという意味ではなく医師の懲戒処分という意味ですから、こ の場合は行政処分のことを言います。いわゆる、懲戒処分その他ですが、これらは「処 分」ですから、そもそも責任追及という感じがしますよね。3つ目の民事賠償という のも、賠償責任を取るというのも当然褒めているわけでもないですから、責任追及の 中では金銭の話だけになってしまいますから、いちばん軽いかもしれませんが、しか しそれもある。この3つを、どういう形で整理して、しかし医療安全の本筋としては 責任追及ではなく行う道を探る、というところへ当てはめていくか工夫が求められて いるわけです。刑事については先ほど来問題になっていますが、重大な過失に限ると か、それは故意に近いようなものだということで、きわめて限定的に利用するという ことをできるだけ説明をしていますし、刑事事件の担当者であるところの警察庁と検 察庁、法務省の方もそういう方針に則っていいよと言っておられるけれども、それが 具体的な大綱案でも、文言の形になるとまだまだ曖昧ということはどうしても言われ る。文言が完全に明確になることはないと思いますが、努力はしておく必要があって、 例えば厚生労働省の見解というか返答の中に、次のような注を入れ込むことが考えら れます。それが本当に良いことなのかどうかはわからないですが、この文言だけでは 実際にどうなのかが不安だということですから、1つのアイデアとして申し上げます。  それは直近の福島地裁判決を具体例として示すということです。この事件自体が不 幸な事例だったと思いますが、いま座長からもありましたが、この8月に福島県の大 野病院事件の判決が出て、その判決で裁判官が1つのルールというか規範というか、 ここで言うところの「著しく標準的な医療から逸脱した場合」の例をあげて、実際に はこの事件はそうではないと判断し、しかも検察も控訴せず無罪が確定しました。  もちろん、法律家から言うと2つ問題点があります。確定はしているけれども1つ の地裁の判決なので、それにどれだけの重きが置かれるかという点が第1。最高裁が 言ってくれる話と地裁が言ってくれる話は違うと法律家は思っています。しかし、具 体的な事件でこれは刑事事件に値しないという判断をして、そのための基準を示した という意味では誰にとっても、法律家だけではなくて医療者にとっても、あるいは患 者にとっても国民にとってもわかりやすいものです。これは、刑事事件にすべきもの ではないということを言っている。そのためのルールというのが具体的な事件を基に したうえで明らかになっています。刑事司法が出てくるための要件と言ったらいいで しょうか(検察が控訴をあきらめたという意味でも、実際上、1審判決でも今後に大 きな影響を及ぼすと考えられます。しかし、建前上は、地裁判決にすぎないわけです)。  2つ目の注意点は、先ほど法務省の方が言ってくださいましたが、今度の安全調査 委員会で通知するかどうかの基準は、医療的判断であるべきであって、法律にあまり 気兼ねをするような話になると、それは本末転倒ではないでしょうかというご助言を いまいただいたと思います。本当にそのとおりで明記すべきことであり、したがって、 医療安全調査委員会からの通知の要件と、刑事裁判にすべきかどうかの要件は区別す べきだという点が2つめの留意点です。しかし、それを前提にしたうえで申し上げま す、少なくとも刑事裁判所の裁判のほうで、こういう事件は刑事裁判にならないとい うことが明らかにされている。それは医療側ではずっと気にしていたことなので、参 考にはなる。  したがって、このような2つの点に留意しつつも、今度の地裁判決を参考にしてみ ることはできる。すると、今度の福島地裁の判決では、医療事故が刑事事件になるた めの第1の要件は、何しろ「ほとんどの医師」がやっているようなことというのを、 この医師だけはやっていなかったという場合でなければならないという話です。そう いう点から見ると、この事件はそうとは言えませんよねという話です。だから、まず ほとんどの医師がやっているのかどうかという医療水準というか基準というのを、こ れが民事裁判の過失になればまた別の話だと思いますが、刑事事件については少なく とも非常に高い基準を設定しているわけです。さらに第2の要件として、本件で問題 となったような治療や手技を続けていったら死んでしまうということが、いままで相 当数の臨床例でわかっていたにもかかわらず、やり続けたというような具体的危険性 のあるものでなければならないといっています。もしそうならそれは駄目ですよとい うことです。しかし、本件は相当数の臨床例を証拠として検察側が出しているわけで もないし、少なくとも証拠としては立証されていませんから、そういう例ではなかっ た。だから、これをやったら死んでしまうよということが相当数、いままで症例があ ったようなことまでやっているではないかというのが、刑事裁判上の過失ということ です。それがまさに重大な過失の意味だという結論です。  だから、この検討会での問題でいえば、著しく標準的な医療から懸け離れたものだ というものの例として挙げてくださったと理解することができる。例えば、福島地裁 の判決はこういうことを言っていますというのを注ぐらいで出していただくと、「標 準的な医療から著しく懸け離れているというのは、こういうものなのか」と誰でもわ かることになります。こんなに厳しい要件であり、だから刑事裁判ではなくて、いち ばん初めの問題ですが、そういう話ではない別の仕組みというので我々は頑張ろうと いう形で、医療者側に頑張っていただくのが本筋だと思います。  もう1つの責任追及は行政処分があって、行政処分についてはこういう文書の中で は繰り返し個人の責任を追及するのではなくて、システムエラー等、いったいどうし てこういう事故になったのだろうかということをもっと広い視野で、医療の仕組みの 中で考えていくようにして、処分という言葉は使うかもしれないけれども、その医師 あるいは看護師かもしれませんが、医療者個人にも問題があった場合であっても、個 人だけではなくて、問題がもっと大きなものだということがわかることのほうが多い からかもしれませんが、その個人にも反省すべき点があるというのだったら「反省し ます」というだけではなくて、その反省を形にする、実のあるものにするための再教 育を中心にしたものにするということが何度も書かれています。大綱案だけを見ると、 今回の提案で何が新しい法案で出てくるかというと、医療法のところでチームとして の、あるいは組織としての病院に、システムエラーについて改善しないといけません よという新しい形の、一種の行政処分を持ってきますというものだけが付け加わって いて、個人についての行政処分は責任追及を目的としないで、それこそ謙抑的に将来 に向けてその人に立ち直ってもらって、また医療に参加してもらう形にしていくので すということは、大綱案の中の表面では出てきていないのです。  これだけ何度も繰り返し、いろいろな所で公の場で言っていますから、誰も厚生労 働省のことを信用しないことはないと思いますが、実際に書かれているのは、今後の 医道審議会における行政処分の在り方を組織に厳しい形で持っていきますという話 だけです。そうすると、それではまだ信用できないという人がいるかもしれない。私 は信用しています。そうだとすると、例えば行政処分に関する規定というのは医師法 の中にあるはずなので、過失を伴う医療事故については、本当はそういう条文を入れ るのが簡単かどうかが分かりませんので、思い付きで申し上げていますが、ここに書 かれているようなものも行政処分の条文に入れましょうということがあってもよか ったかもしれない。しかし、条文に書くかどうかはともかくとして現実が大事なので、 実際は責任追及ではなくて、どうやって患者にとっても医療者にとっても良い調査が やれるだろうかという仕組みをどう作ったらいいかに、もっと関心が向くようになる といいかなと思います。長い時間をいただいて申し訳ありません。 ○前田座長  いまのは多岐にわたりますが、確かに過失の基準を明らかにし、特に医療側にもわ かりやすく書いていくというのは大事です。しかし、刑事の人間として引っかかるの は、大野病院は地裁判決ですので、あの判断が間違えている気は全くないですが、あ そこでの言回しとかその他は法律家の世界では、あまり重視できないです。最高裁判 例も刑事、有罪、無罪とたくさんあるわけで、その辺を踏まえて重大な過失は何かと いうのは、いろいろな類型によっても違います。ただ、それをわかりやすく示してい くことは重要だとは思います。そこのところは1つの判例だけで厚労省の中に書き込 んでしまうと、まずくなる可能性はある気がします。ですから、そこはまたいろいろ ご議論を踏まえてやっていきたいと思いますが、ほかの委員でご発言のある方、児玉 委員はよろしいですか。 ○児玉委員  ご指名ですので。この検討会そのものが刑事法の大家でいらっしゃる前田先生を座 長として、法務省、警察庁の方もご同席いただき、また医療界で責任ある立場でご発 言をされている方々も同席をしていただいて検討している以上、この場が医と法の交 差点として、社会に向けてきちんとしたメッセージを出していくことは大切な役割だ と存じています。議事録で、口頭のオーラルコンポジションだけで流してはいけない 非常に大切な、しかも医療関係者が医療安全調査委員会の設置について大変心配をし ている言葉が、まさにいまほど前田座長が触れられた過失、重過失、そして福島県立 大野病院事件判決などの問題だろうと思います。  私の目の前に、いま3つの言葉があります。1つ目は、第三次試案の9頁(39)項。 今更言わずもがなのことですが、厚生労働省、法務省及び警察庁の間で合意されたと される内容は、「医療事故による死亡の中にも、故意や重大な過失を原因とするもの であり刑事責任を問われるべき事例が含まれることは否定できない」という記載があ ります。ここでは通知の範囲について、明確に合意の内容として「重大な過失」とい う言葉が使われています。  私はそれを前提に考えていますが、そういうことにさえ神経を尖らせている例で2 つ目。前田先生の教科書で、重大な過失ではなくて重過失。重過失とは、注意違反の 程度が著しい場合を言う。先生の教科書の脚注で、東京高裁の昭和57年8月10日判 決が引かれまして、重過失とは僅かな注意を払うことにより、結果の発生を容易に回 避し得たのに、これを怠って結果を発生させた場合を言い、発生した結果が重大であ ることや、結果の発生すべき可能性が大であったことを要件としないとしている。こ れを先生の教科書でご紹介になっている。ここでおっしゃられている重過失という概 念があります。  3つ目は、先ほど樋口委員がご指摘になった福島県立大野病院事件の判決です。念 のため言葉をそのまま読み上げますと、臨床に携わっている医師に刑罰を科す基準と なり得る医学的準則とは、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合 に、ほとんどのものがその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の、一般 性あるいは通有性を具備したものでなければならない。いま私どもの目の前に、第三 次試案で示された重大な過失という言葉と、前田先生の教科書で示された重過失とい う言葉と、福島県立大野病院事件判決で示された業務上過失に基づき医師を処罰すべ き基準として、先ほどのほとんどの医師基準と相当数の症例で立証された具体的件と いう、非常に厳しい狭い基準を指摘されたと。これら3つの法的概念が我々の目の前 にある。これをどう説明するかということが、1つの課題だろうと思います。その上 で、私はこの3つの言葉を3つの目的から見直していきたいと思います。  1つ目は、これは法的な言葉ですので、法律の専門家からこれはどういうふうに考 えていくのだろうかということをわかりやすいメッセージとして解説する必要があ るのではないか。2つ目は、法の問題だけではなくて、いま議論しているのは現行法 の解釈論ではなくて立法論ですので、立法政策として医師を処罰する範囲をどうする のかと。そのすべてを検察官の基礎裁量を拘束するような議論をするのであれば、刑 事訴訟法改正ということでこの場で到底議論できるような話ではありませんが、少な くともこの検討会の守備範囲である医療安全調査委員会に関して、どういう基準で警 察への通知を行うか、行わないかの部分については、立法政策としてどういうメッセ ージを発していくか。3つ目は、もしこれから先、医療安全調査委員会が実施される とするならば、それを受け止めた現場の医師たちが自分たちでそれをどう咀嚼して、 どういう基準を作っていくかという医の側の理解と受け止めの問題の3つのレベルの 問題があると思います。  それを明瞭に噛み砕いてメッセージを発していくことによって、私は先般、この医 療安全調査委員会についてご懸念を表明される、医療界の大変立場のおありになる方 とお話をしたときに、「自分たちは医療安全調査委員会に反対していると言われるの は心外だ。心配しているんだ」というお言葉がありまして、私は大変感銘を受けたわ けです。そういう意味では、その心配の中身は第三次試案の重大な過失と先生の教科 書の重過失と、福島県立大野病院判決の3つの言葉を踏まえて、政策と法と医療現場 の受け止め方のメッセージを我々は発していくべきではないかと思います。以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。非常に鋭いご指摘ですが、まさに立法論と解釈論を分け なければいけないので、ここでは立法論をある程度提言していく。教科書みたいなも のは解釈論ですので、重過失というのは211条の中にある重過失という言葉の説明で す。ただ、ほとんどは重なっています。先ほども申し上げましたが、大野病院事件の 言回しというのはあまり独り歩きというか、法律家の間では重視されない。それは、 一審判決の地裁の判断でしかない。法律の世界ではそこは非常に厳しくて、最高裁の もの以外は原則として判例とは言わないわけです。ですから、そこは最高裁まで争っ て決まったものではないというか、一地方裁判所の判断だということはある。ただ、 これだけ多くの世論とかいろいろなものである程度評価されているものが、影響力を 持たないわけはない。どういうふうにパラフレーズしたり言い直していくかは別とし て、医療過誤に関しての最高裁の判断もあるわけです。ですから、そういうものとの 整合性を持たせつつ、児玉委員のおっしゃるとおりでそれを分かりやすく整理した上 で、何より重要なのは医療界の側で心配されていることを解けるかどうかです。医療 の側で、この範囲のものしか刑事の対象にならないし、こういう基準でやりますよ、 それは原則、医師が決めますよということを先ほどの樋口委員のご指摘もそうだと思 いますが、もう少しわかりやすく示さなければいけないということで、今後の作業の 中のいちばん重要な課題だとは思います。  けれども、片一方で、いまのシステムの中では医師に重過失だけを科すというのは 法解釈を誤ることになります。210条もそうですが、211条の主体というのは、あら ゆる過失を一般の人に処罰しているわけです。それに対して、医師だけは条文に書い ていないけれども、重過失しか処罰しないことを立法論として、ある意味では制度と してやろうとしている。特別枠を作ることになります。そこのところが、国民に納得 いくような形で合意形成をしていかなければいけない。医療というのは事故でけがを させたのとは全然違うのだと。病気を治すために一生懸命にやっていたので、よほど の普通の人ならやらないようなことをやったときだけ、刑事責任を問いますよという システムのところでは大方の合意はできていますが、それを法制度として国民の合意 を得て成り立てていくようにしなければいけないときに、もう少し議論を踏まえてい く。  正直に言うと、この委員会は先ほど樋口委員もおっしゃったように、パブコメにし ても非常に丁寧にやっています。この会も非常にたくさんやっています。かなり合意 形成ができて、その努力を厚労省はものすごく払われたと思うけれども、まだ医療界 での心配が残っている。それをなくすためには、先ほど樋口、児玉両委員がおっしゃ ったような努力がまだ足りない面があるのはそのとおりで、それを埋めなければいけ ないですが、もう1つは医療界のご意見をもう1回、特にご心配の部分を直接聞いた ほうがいいような気もします。おそらく、新聞論調などを見ますと、ここでの結論に 関しては国民全体としては非常に支持をしてくださっているように読めます。ただ、 医療界では全部ではないですが、非常に厳しいご批判がある。それを「エイヤー」と いってしまうのは問題があるので、なんとか分かり合う努力というか、先ほど言った 重過失の中身を分かりやすく噛み砕いた形で説明していくことも非常に重要だ。それ は、医療者の側に説明すると同時に国民、それから患者側にも納得いただけるような ものとして提示していかなければいけないということだと思います。  座長があまり喋ってはいけない。ほかの委員の方、それから先ほどお願いしておき ましたが、法務省、警察庁で全体に関して何かご発言があればお願いします。山本委 員お願いします。 ○山本委員  民事の観点から2点だけ。今日の資料2の14頁の17の項目で、1つは報告書を民 事裁判の証拠として利用されないこととすべきであるというご意見があったという ことですが、それに対しての厚生労働省のご回答で、その調査報告書が利用されるこ とは早期の紛争解決にも役立つと書かれています。これは全く賛成で、そのとおりだ と思います。そして、現実におそらく多くの紛争は、そのような形で解決されること になるだろうと思います。ただ、不幸にしてそのような形で早期に解決されないよう な紛争も一定の割合では残るだろうと思いますが、それが裁判になった場合に、この 地方委員会の報告書がその裁判の証拠として利用されることは非常に意味があるこ とであると思います。  現在の医療に関する民事裁判は、関係の皆様のご努力によって従来に比べて大変迅 速化して、また判断の内容も適正になってきていると思っています。ただ、それでも なお現在の裁判所の判断について、医療界を中心としてまだ医療的な観点から、医学 的な観点から見て必ずしも十分なものではないというご意見があると仄聞していま すし、最近でも医療鑑定の評価を巡って最高裁判所が原判決を破棄する事例も複数あ ります。そういう観点からすれば、医療界を中心としたメンバーで構成される地方委 員会が、事故が生じた早期の段階でこのような一定の判断を示す専門的な判断の報告 書が作成されているとすれば、それは将来民事裁判ということになった場合の訴訟の 適正、迅速な進行というものを可能にすることになるのではないかと思っている次第 です。そういう意味で、この厚生労働省のご回答というかお考えに補充するようなも のとして、私の意見を申し上げました。  もう1点は、17頁の22のADRの観点です。これについては、ここで何度か意見を 述べました。パブリックコメントの大方のご意見は、このような形でADRを整備すべ きであるということで、これは大変よかったのではないかと思います。樋口委員が先 ほど言われましたように、裁判というのはどうしても過去に目を向けたものであるの に対して、ADRというのは将来に目を向けた解決の可能性を持つ手続であると思いま すので、可能であればそのADRでできるだけ多くのものを解決していくことが望まし いだろうと思います。  ただ、そのパブリックコメント等を見た限りにおいては、同じADRという言葉を使 っていても論じられている方の抱いているイメージは、かなり違ったものである可能 性があるような気がしました。そういう意味で、特にADRの在り方についてコンセン サスを得る必要はないかもしれませんが、少なくともどのような医療について、どの ような裁判外の紛争解決が望ましいのかということを議論し、検討していくことは今 後も必要だろうという印象を持ちました。その意味で、ここで厚生労働省のお考えと して書かれているような場を設ける。協議会ということを書いていますが、そういう 意見交換、情報交換を促進する場を設けていく必要性は、今回のパブリックコメント からもさらに確認されたのかなというのが私の印象です。以上です。 ○前田座長   ありがとうございました。豊田委員、何かありますか。 ○豊田委員  今日は、医師の立場の方と法律家の委員が多く発言していらっしゃるので、いろい ろな意見を伺えました。私自身は、いま病院の中で医療安全の担当者として働いてい ますが、例えばCOMLの辻本委員のような形で相談窓口を設けて、外部からのご相談 をお受けするということは行っていませんが、それでも毎日のように問合せやご相談 の電話が来ます。今日の午前中もお電話がありました。病院がきちんと対応できてい ないということでとても傷付いてしまって、全く病院を信頼できないと思ってしまっ ている方のお話を毎日のように伺っています。今日も大野病院の話なども出ましたが、 大きな事件になってしまった医療事故のご遺族の方々の話を何度も伺うと感じるこ とがあります。私の自己体験でもそうでしたが、どうしても外側から評価される方々 というのは、一部の情報で判断せざるを得ないと思いますので、そういう中でこれは 刑事で問うべきなのか、どうなのかといったときに、遺族から見ると私たちが見たあ の日の、あのときのことというのはそういうことではないとか、このことも知っても らった上でそう思うのかということを思うわけです。だからといって、それを誰にで もお話できるわけではありませんし、そういうことを考えると、真相を究明する機関 を早く作っていただきたいというのが多くの遺族の願いだと思います。  そのような中で、一部かどうかはよくわかりませんが、いまの大綱案は謙抑的では ないのではないかとか、萎縮医療を抑えられるとは思えないという意見が私の所にも 聞こえてきますし、直接お手紙等が届いたりしています。そういう方たちがおっしゃ られていることももちろん分からなくはないですが、遺族としては私たちが感じてい ることというのはそういうことだけではないということ。私たちの思いをもう少し知 っていただきたいということをすごく感じていて、いまのままでは分かり合うのが難 しいのかなと残念に思う部分もかなりあります。法だけで責任追及しようとすること からスタートしている遺族はまずいません。あまりにも対応が不誠実で、個人を追及 するところまで、そういう思いにまで追い詰められていって、そういう手段しかない と思って行動に出られる方が多いと思いますから、最初の段階から何が起きたのかを きちんと医療者を中心として調査する機関を作ることに、気持を集中していただきた いと思います。  それに付随して樋口委員などがおっしゃられているように、何度も申し上げていま すが、行政処分も個人を追及することよりも、反省を形にということで再教育などの システムをきちんと作っていただいて、そういうことをやっていくことによって両者 の理解を得られるようになっていくのではないかと思います。そうは言っても、最初 の作る段階で反対してしまっているわけですから話が進まないので、座長がおっしゃ られているように反対される方々の意見をしっかり聞いて、その意見も受け止めた上 で考えていかなくてはいけないと思いますので、反対されたり心配されたりしている 医師の方々から是非、直接ご意見を伺わせていただきたいと思います。同時に遺族が 思っていることについても、もう一度聞いていただく機会を作っていただきたいと思 います。以上です。 ○前田座長   ありがとうございました。ほかの委員の方はよろしいでしょうか。 ○高本委員  3番目のWHOのガイドライン案がいろいろ議論になっています。特にNon-Punitive という、懲罰につながらないことが、この医療安全調査委員会の、捜査機関に通知す るということと反するのではないかという議論があると思います。これを調べてみま すと、2005年にこのWHOのドラフトが出ています。どうやったら医療事故報告制度が うまくいくかという7つの要素を書いたもので、Non-Punitiveの次はコンフィデンシ ャル、Independentと書いてあります。これはどこから出てきたかといいますと2002 年にThe New England Journal of MedicineのLeapeさんという方が、Health Policy Reportの中でReporting Adverse Eventsという論文を書いています。ここから引用 してこられました。表も全く同じです。Leapeさんの論文がオリジナルかといいます と、そうではない。アメリカでNational Quality Forumというのがあります。その コンセンサスリポートが2002年の初めに出ており、これがオリジナルと思います。 そこのプレジデントのKizerさんがSerious Reportable Adverse Events in Health Careというタイトルで、リポートのシステムがどうやったらうまい具合にいくかにつ いて書いていました。これを引用しています。だから、WHOは孫引きの孫引きです。 Kizerさんのいちばんのオリジナルにどう書いているかというと、違法なことに関し てはクリミナルジャスティスシステム、警察や検察にリポートする。それから、刑事 の事件に関してライセンシングボディー、アメリカでは州が医師の免許を発行するわ けですから、そこにリポートするとか、そういう形のレポートをすべきだということ を書いています。ですから、最初にそういう刑事事件や違法なことに関してのレポー トはするという前提でオリジナルができて、WHOの案は最後のところだけを引用して できているわけです。当然WHOの案はもともとの違法とか、どういうのを刑事事件に 相当するようなものに関しては然るべきところにレポートするのだということが書 いてありますので、Non-Punitiveとは全く懲罰をしないということではないというこ とになります。このWHOのガイドラインの案をこれだけで引用しますと間違って解釈 されますから、いちばんのオリジナルの2002年のNational Quality ForumのKizer さんのレポートを見ていただければと思います。そうなりますと、我々がいまやって いる医療安全調査委員会のやり方は、Kaizerさんのとほとんど似たようなところでは ないかと思います。刑事事件で処罰するものもある。警察に通知することもあるとい うことが前提になっていると思います。以上です。 ○前田座長   どうもありがとうございました。 ○警察庁刑事局刑事企画課長  これも何度も私どもから表明していることです。委員会については、その専門的知 見といったものを十分尊重した運用をしていかなければいけないと我々も思ってい ます。委員会の構成についても、したがいまして厚労省のペーパーに書かれていると おりですが、中立性、公平性、透明性といったものが国民の側から見ても明らかな構 成に是非していただきたいなと我々は斯様に思っています。  2点目は、やや委員会制度とは相反する部分ですが、どうしても合議性の委員会に ついては迅速性といった点について若干の問題なしとしないわけではありますが、被 害者の方々の立場等を考えますと対応についての迅速性、恒常性、即応性といったも のが確立されるだけの委員会の体制、または事務局も含めた体制の構築というものも 是非お願いしたいと斯様に考えています。以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。今後の進め方について委員のご意見を伺った上で、先に まいりたいと思います。 ○樋口委員  先ほど豊田委員、その前に前田座長からもお話がありましたが、今日の資料のよう に、いろいろなパブリックコメントという形で書面というか、インターネット上であ れ何であれ、書かれた言葉としていろいろなものを寄せていただくのも非常に重要な ことですが、直接に肉声を聞く機会もあったほうがいいのではないか。これについて、 先ほどの言葉で言えば心配をされている、大きな方向性については賛成していても、 こういう点が心配なのだということを肉声で語ってくださるような方を、何人もとい うわけには機会が限られていると思いますが、医療者であれ、患者であれ、遺族であ れ、そういうお話を聴く機会があると、この検討会の検討にも大きく資するのではな いかと考えます。 ○前田座長  ありがとうございました。ほかの委員の方は、ご異存ないでしょうか。よろしけれ ば、いま樋口委員のご提案のあったような方向で、事務局のほうにはご迷惑をおかけ することになって、出てくださるかどうか非常に難しい向きもあるかもしれませんが、 趣旨としてはできる限りいままで議論してきたことを実りあるようにするために適 した方を選んで、この場で直接意見を我々に聞かせていただいて、我々の意見も聞い ていただく場をご準備いただければと思いますが、そのような進め方でよろしいでし ょうか。ありがとうございました。それでは、これをどのぐらいのスパンでやるかと いうのは、国の全体の状況が非常に不透明というかあれですし、法案がどうなるかと いうことを考えるとわからなくなってしまいますが、ともかくここまでまとめ上げて いただきましたので、それを前に進めるためにというか、もちろん反対の方の意見は 当然十分に聞くという意味で、ヒアリングを次回以降に準備したいと思います。詳細 の予定とかは、いずれお知らせいただくことになりますか。 ○医療安全推進室長  ヒアリングの人選等もありますし、また先方のご予定等もありますので、開催の日 時については追って連絡を申し上げたいと思います。 ○前田座長  それでは、次回以降はそういう形で進めたいと思います。本日は本当にお忙しい中、 ありがとうございました。これで本会を閉じます。 (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579)