08/08/21 第8回今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会 議事録 第8回 今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会(議事録) 1.日 時:平成20年8月21日(木) 15:00〜17:30 2.場 所:航空会館7階 大ホール 3.出席構成員: 樋口座長、上ノ山構成員、尾上構成員、小川構成員、門屋構成員、坂元構成員、 佐藤構成員、品川構成員、末安構成員、田尾構成員、谷畑構成員、寺谷構成員、 長尾構成員、中島構成員、長野構成員、広田構成員、町野構成員、三上構成員、 安田構成員、山根構成員、良田構成員、田中参考人、廣江参考人   参考人(プレゼンテーション発表者): 伊藤参考人、岡崎参考人、佐藤参考人、西田参考人 厚生労働省: 木倉障害保健福祉部長、蒲原障害保健福祉部企画課長、藤井障害福祉課長、 福島精神・障害保健課長、塚本障害保健対策指導官、林課長補佐、野崎課長補佐、 矢田貝課長補佐 4.議 事 ○ 有識者からのヒアリング 5.議事内容 ○樋口座長  それでは、定刻になりましたので、ただいまより、第8回の「今後の精神保健医療福祉のあり 方等に関する検討会」を開催したいと思います。  構成員の皆様方におかれましては、御多忙のところ、また相変わらず暑い日が続いております が、その中を御参集いただきまして誠にありがとうございます。  まず、本日の構成員の出欠状況等について、事務局よりお願いいたします。 ○林課長補佐  まず、本日の構成員の出欠状況等につきまして御報告いたします。  本日、伊澤構成員、大塚構成員及び末安構成員より御欠席との御連絡をいただいております。  なお、事前に座長に御報告させていただきまして、伊澤構成員の代理として、全国精神障害者 地域生活支援協議会事務局長の田中参考人、大塚構成員の代理として、日本精神福祉士協会常任 理事の廣江参考人に御出席いただいております。  また、尾上構成員におかれましては、間もなくおいでになるという御連絡をいただいておりま す。  なお、所用により、阿曽沼社会・援護局長が欠席、木倉障害保健福祉部長が遅れて出席いたす 予定でございます。  本日の出欠状況等につきましては、以上でございます。  また、第6回、7回において御議論いただきました「これまでの議論の整理と今後の検討の方 向性(論点整理)」につきましては、現在、前回までの構成員の皆様の御意見を踏まえまして、 とりまとめに向けて座長と調整をさせていただいている段階でございます。とりまとまり次第、 こちらから各構成員の皆様に送付させていただいた上で公表させていただきたいと思います。公 表した論点整理につきましては、次回の検討会において御報告をさせていただく予定でございま すので、御了解をお願いいたします。  あと、今日、ヒアリングが予定されてございますが、プロジェクターが1か所、前の方になっ てございます。先生方、傍聴の方々、多少動いていただいて、見やすい位置でごらんいただけれ ばと考えてございます。  なお、スライドにつきましては、すべて印刷をしてお配りをいたしますので、御参照いただけ ればと思います。  以上でございます。 ○樋口座長  田中参考人及び廣江参考人の御出席につきましては、構成員の皆様の御了解のほど、よろしく お願い申し上げます。  また、論点整理につきましても、次回検討会において御報告させていただくということで、御 了解のほど、よろしくお願いしたいと思います。  それでは、本日の議事に入りますが、本日は、先ほど御案内がありましたように「有識者から のヒアリング」というテーマで、有識者の方々にこれからプレゼンテーションをしていただきま して、その後に質疑応答とさせていただきたいと思います。  まず、本日プレゼンテーションをしていただきます4名の方の御紹介を申し上げたいと思いま す。  まず「今後の精神保健医療福祉のあり方について」御説明をいただきます東北大学名誉教授、 現東北福祉大学大学院教授の佐藤参考人でございます。よろしくお願いいたします。  続きまして「英国の精神保健改革のエッセンス、わが国における精神保健医療改革への示唆」 について御説明いただきます東京都立松沢病院院長でおられる岡崎参考人でございます。よろし くお願いいたします。  財団法人東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所の統合失調症プロジェクト統合失調 症研究チームの研究員であられます西田参考人でございます。よろしくお願いいたします。  西田参考人におかれましては「今後の精神保健医療福祉における精神保健普及啓発及び早期介 入の意義」についても御説明をいただくことになっております。  そして最後に「ACT(包括型地域生活支援プログラム)のわが国における有用性について」 というタイトルで御説明いただきます国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰相談部部 長であられる伊藤参考人でございます。よろしくお願いいたします。  それでは、早速、佐藤参考人の方から、よろしくお願いを申し上げます。 ○佐藤参考人  ただいま御紹介いただきました佐藤でございます。座ってプレゼンテーションさせていただき ます。 (PP)  私は「今後の精神保健医療福祉のあり方について」というテーマで発表させていただきます。 (PP)  事務局から既に資料をいただき、また、これまであり方検討委員会で議論されました「論点の 整理」も読ませていただいております。御承知のとおり、平成16年に精神保健医療福祉の改革 ビジョンが出され、「入院医療中心から地域生活支援中心へ」を基本的な考え方として、3つの 柱が示されました。普及啓発活動と精神医療改革と地域生活支援の見直し、それから、精神保健 医療福祉施策の基盤強化を図ろうということでございました。 (PP)  その前期5年が終わろうとしている今、この改革ビジョンがどのように進んでいるのか、後期、 第2期の5年に向けて、どんな施策が必要であるかという見直しの時期でございます。これまで の5年の資料をいただいた中から要点をメモしたのが、このスライドでございます。  1つは、精神障害者が外来で増加している。平成11年に170万人であったものが、平成17年 には267万人で、1.6倍になっている。入院は31〜32万人で横ばい。こういったデータが出てお ります。  精神障害者が明らかに増加していること、入院患者の高齢化、統合失調症中心の地域移行がこ れから推進されるであろうという議論がありましたし、認知症患者への入院医療の在り方を検討 する必要があることも、これまでの議論で出されています。  また、入院期間の短期化が進んでいるということでございました。そして、長期入院には格段 の変化は見られていないということでした。  このような資料を見て私が思いますのは、1つは、精神障害者は明らかに増加し、6年間で1.6 倍になっているということで、これは由々しい問題でありまして、これからの精神保健医療福祉 の対策は、精神保健の重要性をもっと認識する方向で対策を講じるべきであるということです。  それから、入院期間の短期化が進んでいるとのことですが、では再入院はどうなのかというこ とが問題になってきます。そこで、今日は再入院のことについて少し述べさせていただこうと思 っております。 (PP)  「受け入れ条件が整えば」退院可能な患者さん、いわゆる社会的入院と呼ばれていたものであ りますが、これに該当する患者数は減少しないまま推移している。  該当する患者さんと入院期間とは余り関係がない。つまり、社会的入院イコール長期入院では ないということ。該当する患者さんは、55歳という年齢が少し関係しているのではないか。統合 失調症が60%で、認知症が18%ということも資料にございました。  病床調査では、現在の精神状態でも退院可能な患者数は16%にすぎない。精神症状の改善が見 込まれるので可能であろうというのが73%ですので、この「受け入れ条件が整えば」という前提 は、もう少し患者さんの特性や状態像を分析して精緻化する必要があるのではないか。つまり、 患者さんと受け入れる家族との関係というのは、発症にも関係しますし、入院にも関係し、再発・ 再入院にも関係してきます。家族療法は心理社会療法の主要な目的の1つでございますから、そ の関係がうまく調整つかない方々に対して、すぐそれをもって社会的入院というわけにはいかな いと思いました。 (PP)  こういうことで、前期5年には、長期入院や社会的入院に限って見ますと、目立った変化は見 られていないと思いました。 (PP)  したがって、これからは基本的な考え方を見直す必要があるのではないかと思い、今日は私な りの考えを述べさせていただきます。  御承知のとおり、障害者自立支援法が2005年に施行されまして、障害者施策における三障害 の一元化がなされたことは御承知のとおりでございます。しかしながら、先ほど申しましたよう に、その後余り大きな変化がみられていない。これはやはり精神障害の特性を踏まえた施策の立 案・見直しが必要ではないかということで、精神障害の特性ということを少し述べさせていただ こうと思います。 (PP)  精神障害の特性でございますが、これは皆様すでに御承知のことでございましょうが、身体障 害、知的障害の場合には病状がほぼ固定していて、医療から福祉へという一方向の対応が可能な 障害でございます。しかしながら、精神障害は障害が非常に不安定で、再発・再入院の繰り返し であるとか、難治性の病像も存在いたしますので、医療なくして福祉は語れませんし、福祉なく して医療も語れないという、医療も福祉も必要というところが、ほかの身体障害、知的障害と違 う特性だと考えています。 (PP)  もう一つ、今、非常に混乱しているのは「精神障害」という言葉が、保健医療施策での使い方 と福祉施策における使い方で大きく異なっていることであります。  保健医療施策では、国際疾病分類にございますように、精神疾患(disorder)を精神障害と呼 び、その患者さんのことを「精神障害者」と呼ぶと規定されております。  ところが、福祉の方は、「障害」のために長期にわたって日常生活や社会生活に相当の制限を 受ける者、つまりdisabilityをもって「障害」と呼んでいる。disabilityという点では三障害 一緒なのですが、「障害」のためにという障害のところが、精神疾患の場合は非常に病状不安定 ということで、disabilityの程度も病気抜きには一律には語れないということでございます。  外国でmental diseaseとかillnessというふうに呼ぶと、illnessにはかなり語弊があるよう でして、嫌な語感が含まれているので、いい言葉ではないけれどもdisorderと呼ぶと、ICD ―10の序文でサルトリウス先生が書いております。ですから、このdisorderの本来の意味は illnessとかdiseaseであり、精神疾患が「精神障害」と訳されているところに、同じ「障害」 という言葉が2つに使われている原因があるのです。ですから、精神障害の場合、「障害」は illness、diseaseという使い方とdisabilityという使い方があり、それを分けて考えないとい けない。disabilityだけに対する精神保健医療福祉ではなくて、病気を視野に入れた、つまり、 disorderとdisabilityの両方を視野に入れた精神障害対策が今後は必要だと思うのです。 (PP)  私は仙台市で精神保健審議会の会長を長く続けているものですから、ここ5年の見直しのため にワーキンググループをつくり、仙台の福祉施設を利用されている方々にご希望や満足度をアン ケート調査してもらいました。  今、どんなことを希望なさいますかという質問には、利用できる精神保健福祉施設については かなり満足度が高いのですが「病気と上手に付き合いたい」という回答がトップでした。つまり、 病気抜きには、患者さん、あるいは施設の利用者の不安が拭えないということが出てきました。  以上、精神障害と他の2障害との違いについて、少し述べさせていただきました。 (PP)  次は、入院医療中心から地域生活支援、つまり入院から退院へということでございます。現在 の全国の入院患者さんを見ますと、統合失調症が60%ですので、この19.7万人、平均56歳の方々 の退院をどうするかというのが、この検討会でも重視されているように見受けました。  しかし、それには、統合失調症という病気の治療転帰が今の医療状況ではどの程度なのか、良 いのか悪いのか、そうした現状を把握しておく必要がある。といいますのは、先ほど申しました ように、統合失調症という病気に伴うdisabilityを考える上で、まず病気の安定性、不安定性 ということを視野に入れておく必要があるからでございます。 (PP)  これは、アメリカ精神医学会が出しております2004年の治療ガイドラインでございますが、 このほかにもヨーロッパ、あるいは日本でも、講座担当者会議の治療ガイドラインがございます。 アメリカ精神医学会の治療ガイドラインもエビデンスベースドでございますので、この治療指針 の記載内容に基づいて、転帰と難治例、再入院の現状を述べたいと思います。 (PP)  それによると、7割〜8割の方々は寛解と再発、つまり、よくなったり悪くなったりしながら、 しかし、長い目で見ると、臨床的には悪化していく。病状不安定なまま経過しています。そして 15%は完全に寛解して再発はない。残る15%未満の人は重篤な精神病状態がずっと続くというふ うにエビデンスが整理されております。  また、地域・家族の保護、あるいは患者の安全・保護のために長期入院が必要な一群があり、 clozapineという、難治性の症例に効くとされている代表的な薬が登場する前は、アメリカでは 10〜20%、こういう方々がいたということも書かれています。 (PP)  御承知のとおり、今では統合失調症の治療は病相期対応の治療ガイドラインで行われておりま して、発病前、前駆期、精神病期に分かれ、発病後は、急性期、回復期、安定期に分けて、それ ぞれの医療的な対応がなされています。  早期介入というのは、お手元の資料の右側にある★印の3つです。  アットリスク精神状態への早期介入というのは、まだ診断はつかないけれども、心の危機状態 にある青年期、若者たちへの早期介入であり、これは主として学校精神保健や予防医療福祉の領 域でございます。医療よりもむしろ保健・福祉が中心となる領域かもしれませんが、この3領域 が連携して対応すべき問題です。アットリスクメンタルステート、ARMSへの介入です。  つぎは、早期精神病への早期介入。精神病症状が出たときの早期介入です。  もう一つは、精神病未治療期間です。発症なさっているけれども、治療を受けていない、その 未治療期間が長ければ長いほど、将来、disabilityを残しやすい、あるいは再発率が高いと報告 されておりますので、こうした3つの早期介入が必要だということが1点。  もう一つは、先ほど申しました重症難治例が実際にいるということ。この方々が適切な医療を 受けているかどうか見直す必要がありますし、こういった方々への救済は、医療面で是非対応し なければならない領域である。  3つ目は、再発予防です。再発・再入院をとにかく防ぎたい。再発する方の8割は発病して5 年間に起こりますので、この時期を臨界期と呼んでいますが、障害disabilityを残さないため にはこの時期に適切な治療をする必要があります。最近は、発病後の1〜2年が臨界期の中でも 特に大切な時期と考えられています。この時期にきちっと治療すると、再発率が下がる、あるい は障害が少ないというデータが幾らも報告されています。 (PP)  さて、その再入院の状況について少しお話ししたいと思います。つまり、長期入院だけでなく、 患者さんは、退院はするものの何回も再入院しているという現状があるからでございます。事務 局の方へ、今、入院なさっている統合失調症の方が、これまでに何回入院したことがあるのかと いうデータをいただきたいとお願いして、送っていただいたのが、この受療行動調査でございま した。これは1999年の全国調査でありますが、初回入院の人は大体34%である。つまり、66% は再入院で、3回以上入院したことがある方が4割となります。 (PP)  これは宮城県と政令都市である仙台市を合わせた2,723人を対象に調べた2003年のデータで す。やはり63%が再入院で同じ程度ですが、4回以上の頻回入院の方が32%もいる。多い人は 10数回とか、もっと多い人もいる。よく知られた回転ドア現象ですが、実際、患者さんやご家族 は非常に再入院を心配しているといいますか、現実不安として持っているわけです。ですから、 当事者のためには、やはり再入院を防ぐ手だてが是非必要だということであります。 (PP)  これは2008年の調査結果です。今年出されるもので、去年調査したものです。同じく65%が 再入院、頻回入院が33.6%。ですから、1999年当時とちっとも変わっていない。むしろ入退院 が短期間でもっと繰り返されているのではないか。この5年間を見ますと、入院期間は短縮して も4回以上の頻回入院が増えているのではないか。しかしながら、まだ事務局の方にはそれに答 える全国的な資料がない。これは大変残念なことでありまして、各県でこういう調査結果が出て いるのであれば、これをしっかり把握し、患者さんが今、苦しんでいる再入院への対応策を、こ の検討会で今後十分検討していく必要があると思うわけです。 (PP)  これは医学的に見た症状の再発状況ですが、このように2年間、完全に症状が取れて、機能も 回復したと思われる方も、服薬を止めると、その後2年間に4人に3人が再発を起こすことがわ かっています。薬を継続していると再発が防げるという医学的なエビデンスは幾らもございます。 (PP)  以上は再発状況でありましたが、もう一つ、我々が診療していて気の毒に思うのは難治例の 方々です。治療抵抗性の状態にある方の救済が必要です。アメリカ精神学会の治療ガイドライン でも、10〜30%の患者さんが抗精神病薬にほとんど無反応である。更に30%が不完全な反応しか 示さない。トータルで見ると、こう記載されています。そうした方には残遺症状が持続して、 disabilityが残る。こういう難治例の方は非常に重度な精神障害の方でございますので、医療観 察法に準じたような精神医療福祉システムの検討が必要であり、十分な手当てをして救済すると いう試みがなされるべきである。療養棟にずっといるという現在の医療体制で良いのかという問 題がございます。  以上、これからは精神障害者の特性、知的障害、身体障害とは違う特性を踏まえて、今後のあ り方に取り組まれたらどうかということを申し上げました。 (PP)  これは、以上のまとめです。  統合失調症の多くは再発を繰り返し、一部は重度の難治例という現状がある、65%が再入院し ており、約3割が4回以上の頻回入院となっている、そういう現状を認識すべきだということ。  再入院の予防、臨界期医療の見直し、難治例の医療を大幅に見直すことによって長期予後を改 善して、障害を軽減するということ。  3番目は、再入院・重症難治例の患者さんの現況を正確に把握して、その障害予防と難治例の 救済に向けた精神保健福祉対策が必要であるということです。 (PP)  次に、「早期介入について」でございます。早期に介入してdisabilityを軽減するという試み です。それが可能だという精神医学的な成績が次々と出てきております。WHOの2002年のヘ ルスレポートによりましても、現在の最新の薬物療法と心理社会的療法を行えば、初発の統合失 調症患者さんのほぼ半数に完全かつ長期的な回復を期待できると記載されています。  早期介入がなぜ必要か、そして発症して5年以内、特に1〜2年以内の医療がなぜ必要かとい いますと、初回の精神病エピソードでは、7割以上は少しの量の薬でよくなる。3〜4か月以内 に完全によくなり、その83%は1年後も安定して良いということですので、早期介入によって、 少ない量の薬で早くよくしてしまうということが非常に大切です。 (PP)  しかしながら、アメリカの場合、現在の医療体制では、8割ぐらいがよくなっていても、2年 以上よくなっているかというと、そうではない。その後、再発したり、いろいろなことがありま して、完全に回復した状態が2年以上続く人は13%しかいない。5年後の症状寛解となると、症 状は47%よくなっていますが、いわゆるdisabilityの方が74%になっている。ですから、初回 によく治療して、その後の臨界期の治療をしっかりやって、再発や、disabilityを減らす対策を 講じることが非常に大切だということでございます。  発病後5〜10年で疾患レベルと機能レベルはほぼプラトーに達するということですので、5〜 10年というのは、今後の退院基準とか、そういうことを考えていく上で1つの手がかりになるか もしれません。 (PP)  発病前の経過につきましては、先ほど話したような、まだ診断がつかない、心の危機状態、今、 社会問題化しております若者の行動障害の問題やARMS、アットリスクメンタルステートがあ り、早期精神病があり、発症しながら治療を受けていない期間(DUP)があって、そして発病 して入院なさるという経過であります。 (PP)  まず、DUPの短縮があります。精神病の未治療期間は1年3か月ぐらいですけれども、それ を短縮することで随分効果が現れる。これは東邦大の水野教授のデータをお借りしたのですが、 5か月以上DUPがある人と、5か月未満の人を比べますと、入院期間も明らかに短くて済んで いますし、1年後の処方量も非常に少なく済んでいる。つまり、精神病症状が出て治療を受ける までの期間が5か月以内であると、非常に予後が良いということであります。 (PP)  また、これはオーストラリアのメルボルンの早期精神病センターのデータですが、地域ケアを 中心とした早期発見介入サービスを受けると、DUPが短縮しますし、入院期間も短縮する、服 薬量も非常に少ないし、陰性症状、いわゆるdisabilityに関係する症状も少なく、QOLも高 い。医療経済的にも3割ぐらい軽減できるというエビデンスでございます。  こういうことを考えますと、患者さんのためにも、あるいは医療経済的な視点からも、早期介 入が非常に大切だということになります。 (PP)  2番目として、早期介入による障害の軽減が大切です。具体的には、DUPの短縮に加えて、 ARMSへの早期介入をする。そして、初発精神病エピソードの段階での十分な治療、それに続 く1〜2年ないし5年間の臨界医療をきちんとやることが大切なことは、先ほど述べた通りです。 (PP)  最後に、普及啓発についてお話します。私もアンチスティグマ研究会の代表世話人をしており ますし、あるいは精神分裂病を統合失調症に変えたときの精神神経学会の理事長をやっていまし たし、学会のアンチスティグマ委員会の委員長をやっていましたので、精神障害に対する偏見や 差別の解消にずっとかかわっておりますが、それが非常に大切であることは言うまでもございま せん。障害者の自尊心の回復や、障害者の社会参加、自立支援には欠かせないことでありまして、 回復した方が社会参加するときに、社会の側にある壁、それをセカンドイルネスといいますが、 そういう壁を取り払いたいという願いがあります。前期5年の施策に、バリアフリーが盛り込ま れていることも勿論、承知しています。  ただし、今、我々がやっておりまして、メンタルヘルスの重要性は勿論、精神的な病気に対し て一般の方々が余りにも知らな過ぎるということが浮き彫りにされております。ですから、精神 障害への正しい知識、あるいは精神障害者に対する適切な態度の普及啓発は精神保険医療福祉の 基本と考えています。 (PP)  諸外国に比べて、なぜこんなに理解が乏しいのかということで、中学校、高校の保健体育の教 科書の記載を調べてみました。すると、1963年までは、当時の精神分裂病、躁うつ病、てんかん は遺伝性疾患で、優生保護法による対策が必要というふうに中高生に教えていたのでございます。 そのころ、精神神経学会もこれを正そうという動きがございました。1975年〜1978年には、回 復可能な病気で、早期発見と早期治療が大切だ、偏見が社会復帰を妨げているというふうな記載 があらわれ始めたのです。ところが、1978年からは、学習指導要領により、精神障害は教科書か ら削除され、現在に至っている。ですから、1978年以降に中高を出られた方は、学校で学ぶ機会 はなかったということであります。 (PP)  そして今、アメリカでは学校精神保健が見直されておりまして、これはサウスフロリダ大学が 担当して、アメリカでのガイドラインを出したものであります。学生全体、まだ診断名のついて いない危機状態の人、診断がついて医療を受けている学生、こういう三群の学生に対する、それ ぞれの精神保健・福祉の取組みが検討されております。  また、学校内のスクールカウンセラーの対応だけはできない部分、むしろ家庭とか、精神科医 療機関とか、地域へ出向いていくスクールソーシャルワークが最近は重視されているということ がございます。この点については、日本ではまだ、学校の先生の自殺が多いとか、あるいは学校 で精神保健や病気についての教育が行われていないという現状でございます。 (PP)  高等学校の最近の保健体育の教科書を買って見ておりますと、平均寿命の推移であるとか、死 亡率であるとか、死因統計といった身体保健のことは書いてあるんです。しかし、メンタルヘル スの重要性はほとんど書かれていない。 (PP)  各国の啓発活動をみても、多くは学校でやっています。ところが、日本では余りなされていな い。 (PP)  少なくともWHOが2001年に世界銀行の支援を受けて大規模な調査をやって、健康寿命を損 なう年数の長い疾患、特に15歳〜44歳という、人生にとって非常に大切な時期に障害disability を抱えて苦しむ、その原因となる病気の上位5つのうち4つが精神疾患であることを数値で示し ている。これほどメンタルヘルスは重要なのだということを学校で教えるべきだと思うのです。 WHO Health Report 2001には、there is no development without health, and no health without mental healthと緒言に書いてあります。つまり、健康なくして国の進歩はないし、精神的な健 康なくして健康はないというふうなキャンペーンで、地球規模で啓発活動をしているのに、日本 ではこの統計資料が教科書にも載っていない、これはいけないということであります。 (PP)  正しい知識の普及啓発には、したがって、精神障害が健康寿命を損なう主要な原因であること を中高生に教えることが最小限必要なのではないか。うつ病、統合失調症、アルコール症という ような主要な精神疾患とはどんなものなのかを教える必要が生じた場合には、適切な教育資材を 用意してそれを提供する。そういうシステムを構築すべきではないか。  そこで、私どものアンチスティグマ研究会では統合失調症の教材の作成と普及に取り組んでい ます。それは昨日の読売新聞に取り上げられたようで、お手元にコピーを配ってあります。こう した学校精神保健システムの見直しやスクールソーシャルワーカーの養成を急ぐ必要がありま す。  スライドにはございませんが、この問題で私が最も強調したかったのは、当事者活動の支援と いうことであります。我々は普及啓発活動をやってきましたが、幾ら講演しても、幾ら第三者や 有識者が知識を与えても、1週間もすれば忘れてしまう人が少なくない。ですが、当事者が、回 復なさった方が自分の生きざまの中で病気について話しますと、皆さん納得できるのです。  当事者活動は国の支援なくしてはあり得ません。しかし、財源がどこにもない。今やっていま すようなアンチスティグマ活動というのも、ある企業の支援があってやっておりますけれども、 国からの財政的な支援はまるでない。イギリス、あるいはオーストラリアなどは、少子化を迎え て、国民の中からいい人材を育て上げるという意味でも、メンタルヘルスの重要性に国を挙げて 取り組んでいるところです。統合失調症の早期退院とか、そういうことは勿論大事なことですけ れども、精神保健対策の見直しは基本的なことであり、この検討会でよく考えていただきたいと 思います。 (PP)  以上を要約しますと、精神障害の特性を踏まえた精神保健医療福祉が基本となるということと、 disabilityの発生を防ぐための抜本的な取組みが急務であって、早期介入、あるいは初発精神病 エピソードから臨界期医療の改善と難治例の救済、あるいは再発・再入院、特に頻回入院の実態 把握と対策が急務である。それから、学校精神保健の見直し。ここには落としておりますが、重 要なことは、回復者のサポート、回復者のピアカウンセリングもそうでしょうし、スピーカーズ ビューローもそうですし、そういった活動を国が手厚く保護して伸ばしていくということが具体 的には必要である。 (PP)  問題点の病床の削減でありますが、社会的入院を対象にしている現状につきましては、社会的 入院イコール長期入院ではないこと、「受け入れ条件が整えば」という前提条件をもっともっと 精緻化して明確に規定しないと、数値化は無理であるということを指摘しておきます。  それから、長期入院患者の退院促進でありますが、これは諸外国と比べて日本は著しく長いわ けですし、できるだけ退院を促進するというのは必要なことです。病院内で安定して寛解状態に あって自立した生活が可能な人、あるいは病院以内に医療と福祉サービスが受けられる生活の場 を確保できない人については、病院よりもQOLの高い生活ができ、しかも適切な医療が保証さ れているような場を提供する必要があると思います。こういう方々がどれぐらいいるのか、そし て、それを明らかにして退院を促進することが必要ではないか。  障害を多少抱えていても退院可能というのは、ACTであるとか、精神医療の支援体制がどこ まで整うかということに関係してきます。退院してもよい地域精神医療体制の構築が先だという 町野先生の意見も拝見しております。受入先をきちんと整備することや、ACTのようにチーム で出向いていって地域でケアする、そういうことの兼ね合いの中で退院を促進していくという姿 勢が必要だと思います。  長くなりましたが、以上でございます。(拍手) ○樋口座長  佐藤参考人、どうもありがとうございました。  大変包括的でまとまったお話をいただきました。今の佐藤参考人のお話に対して、御質問等ご ざいましたら、時間は十分ございませんが、お願いしたいと思います。いかがでしょうか。広田 構成員、どうぞ。 ○広田構成員  幅広いお話を伺って、ありがとうございました。質問というよりも、今日、メディアの方も見 えていますけれども、22ページの行動障害というところで、昨今、社会問題化していると、そう いう人が何か行動障害、ちょっと私、聞き漏らしたんですけれども、そういう人が精神症状統合 失調症というような感じでお話しされたので、事件が報道されたときに、私たち患者は、これが 精神の人でなければいいなというふうに考えてしまう悲しい現状があるわけです。それをそうい うふうにお話しされると、まさに精神科医が現在起こっている若者の問題を、そういう傷害とい うんですか、社会的に起こっている、それを精神疾患というふうにお話しになってしまうようで、 本人を見ていないのにそういうお話をされることはちょっと問題だではないかなというのが1 点です。  それから、患者が増えていることは問題だというお話をされたわけですから、予防が大事だと 思うんです。その予防が精神保健ということですかということ。  こういう業界の集まりで話が出ると、セカンドイルネスですか、社会の壁が厚いと言うんです けれども、雅子様が精神疾患だということは日刊紙にもしょっちゅう出ていますし『AERA』 などにも出ています。安倍総理もうつだったような感じです。そういう感じで、先生と私が御一 緒した2002年の世界精神医学会からもう6年たって、社会が激変しているんです。そういう一 般の人の激変している姿がこの業界に反映されていないということで、絶えず外にばかり変わる ことを、変革を求めるのではなくて、まず自らの業界が変革をしましょうねということを、昨日 も今日も仲間と電話で話してきたんですけれども、その辺のところ。  それと、日本は早期発見、早期治療というけれども、現状は多量多剤だということが抜けてい たと思います。抜けていたというか、そこをまず変えなければいけないと思います。 ○佐藤参考人  わかりました。本当に大切な指摘をありがとうございました。  第1点の22ページのところ、行動障害と先ほど言いましたけれども、ARMSと横文字で書 いてありますが、これは、行動的には問題があるけれども、すべて精神障害ではない、つまり前 駆症状ではないという意味なのです。ですから、問題はあるけれども、思春期・青年期でこころ が揺れているだけの方も多いし、その中から統合失調症になる方も幾らかはいるかもしれない。 病気と診断されて、振り返ってみてやっとわかるのが前駆症状であり、それは病気を中心にした 概念なのですが、そうではなくて、思春期・青年期の葛藤や何かを抱えていて、そういうことを 一括して早期に心の危機に対応する必要があるのではないかという、疾病を前提にしない概念と して考えております。  もう一点は、内なる不安、スティグマというのが今、アンチスティグマでも問題になっていま す。学術会議から出ました報告書でも、精神科医自身、医者自身、あるいは医療従事者自身の中 にある誤解、偏見、そういったものが非常に大きい。外ばかり直せというのではなくて、まずは 自己点検をしなければいけない。これは私どもも随分言っているところであります。外国でもそ れは大事なことと思っています。ですから、このことについては、御指摘のとおり、外に向かっ てアンチスティグマと言うだけではなくて、自分たちも考えてみる必要があると思っています。  もう一点は何でしたか。 ○広田構成員  予防です。要するに、病気が増えていることは問題だとお話しされて、私も同じ考えなんです。 だから、精神保健が大事ですねということは、その精神保健ということは予防のためですか。 ○佐藤参考人  そうですね。例えば、思春期・青年期の、中学校、高校1〜2年の方が、学校でいじめられた とか、学校に行けなくなったとか、いろいろあって、不眠だけではなくて、ちょっと症状も出始 めていても、御両親にとっても、本人にとっても、精神科へ行くというのはすごく大変なことな んです。やはり逡巡される。敷居は低いと言われながらも、まだ高い。メンタルヘルス、精神保 健の大切さというものを学校教育ぐらいから教えて、そういうリスクには、病名よりも、こうい う状況にはこういう対応していいよというような、コーピングといいますか、対処能力を教えて いくような別の取組みも必要なのではないか、そんなふうに思っております。医療だけで対応す る問題ではなくて、教育も大事でありましょうし、疾患をにらんでやるよりも、そういう心のリ スクへどう介入するかということが大切かと思っております。 ○樋口座長  ほかにはいかがでしょうか。 ○広田構成員  ちょっといいですか。先生は現在の学校の状況を御存じですか。私はしょっちゅう町内をパト ロールしたりして、いろんな子に会っていますけれども、悪口言って幻聴だよとか、いじめてお いて妄想だよと、そういう現在の学校の学級崩壊、教師のうつ病もそうですけれども、そういう 状況を把握された上で、まさに社会現象を把握された上で、統合失調症の教育が必要だと思って おられるのかかどうかということをお聞きしたいと思います。 ○佐藤参考人  先ほど言ったように、疾患教育というのは、希望があれば、こういう資材、教材がありますよ と、提供できるようなものを整備する必要があるけれども、いきなり病気を教えることがいいか 悪いかというのは、これは問題だと思います。むしろ、心のリスクへの対応というのは人生にお いて非常に大事なんだというような意識を、学校の先生にも持ってもらわないといけませんし、 同級生にも持ってもらわないといけない、そういうふうな学校精神保健、精神保健の方が先だろ うと思っています。  障害を残す主要な病気について、どんな病気なんですかという生徒の要請があるときには、少 なくとも学校の先生はちゃんと知っておいて教える必要があろうと思うのです。これは症状とか、 精神医学の教科書的なものではなくて、回復した方が中心になった、人生の中でどんなふうに病 気が織り込まれていて、どういうふうに克服してきたかというような教材を我々はつくっており ますが、こういうものを何とか改良して、利用できるような形にしたい。ですから、当事者活動 というのは本当に大切でして、これから支援していく財源がないということ、これは国に是非お 願いしたいということだけは強調しておきたいと思います。 ○樋口座長  ありがとうございました。  まだ御質問あろうかと思いますが、予定の時間を少し超えてございますので、佐藤参考人、ど うもありがとうございました。  続きまして、岡崎参考人と西田参考人の御説明をお願いしたいと思います。初めに岡崎参考人 から、よろしくお願いいたします。 ○岡崎参考人  御紹介いただきました都立松沢病院の岡崎と申します。研究所の西田研究員とともにお話をさ せていただきたいと思います。  今日は恐らく厚生科研の心の健康科学という研究事業でやっている研究との関係でお呼びい ただいたのではないかと思っておりますが、私どもは、先ほど佐藤先生がお話しになりましたよ うに、統合失調症だけに限らず、精神疾患については、早期に発見をし、早期に治療的な手だて を講じることがその後の経過を改善するということはほぼ確認されてきたんではないかと思う んです。これは当たり前のことかもしれないですが、精神疾患においてはそれがはっきりしなか ったことが、1980年代中ごろからのいろんな研究で確認をされつつあると思っております。  それを踏まえまして、私どもは、それを現実に実現していくにはどうしたらいいかということ で、諸外国の取組みの経験を参考にしたりして、我が国でどういうふうに具体化したらいいかと いうことを考えておりまして、そのために研究班では、そういった問題は思春期、前思春期を含 めましてのころからの、今、先生お話ししましたARMSといった、前駆期よりももっと前から、 予防、早期治療、更に集中的な臨界期の治療、その後、再発の予防とか、それを一連の取組みと してやることがすごく大事だろうと考えております。我が国の実情はどうなっているかというこ とで、まず、思春期の心の問題がどうなっているかということをきちんと調査をすることを第1 目的にしております。  もう一つは、そういったことが大事だということを認識していただく啓発、どんな方法で、ど んな手段で、どんな内容でやったらいいかという啓発の内容を開発をする。  もう一つは、そういった問題を持っているお子さんや、あるいはそれを取り巻く人々、学校全 体、あるいは地域に、どういう方法で、どういう内容で啓発をしていったらいいか。「介入」と いう言葉はちょっと悪いんですが、働きかけをしていったらいいかということを、その方法を開 発しよう。しかし、そういったことを考えますと、日本の精神保健、あるいは精神科医療システ ムとぶつかるところがあるんです。そこを変えていただきたい。どういうふうにしたら変えるこ とができるかということも検討せざるを得ないということで、その4つの課題をやっております。  それについて、今日は特に啓発のところに重点を置きまして、思春期の実情とか、そういった ことを、主にオーストラリアとかイギリスが取組みが進んでおりますので、我が国でそのままそ っくりまねするのは不適切なんですが、参考になるところを踏まえて、それから我が国ではどう したらいいかといったことにつきましてお話をさせていただこうと思っています。  一緒に研究所でやっていただいている西田研究員が非常に詳しいので、主に彼に話してもらい まして、私は最後の方で少し付け加えたいと思っておりますので、よろしくお願いします。 ○西田参考人  よろしくお願いします。東京都精神医学総合研究所の西田と申します。 (PP)  お手元の資料を見ていただきながら進めさせていただきます。準備したものが少し多目になっ てしまったもので、途中幾つか省きますけれども、よろしくお願いします。  本日、私の方からは、今後の精神保健医療福祉対策の中で、早期発見、早期対応の取組みや、 精神保健普及啓発と呼ばれるものがどういった意義や役割を担っていくかということについて、 若干のお話をさせていただきます。それでは、早速始めさせていただきます。 (PP)  さて、あらゆる病気の予防的取組みにおいて、早期発見、早期対応や、そのための普及啓発活 動が重要であることは周知の事実であります。しかしながら、近年、先進諸国において、特に精 神疾患の早期対応や普及啓発が今後の国の健康対策の中で極めて重要な意義を持つことが改め て認識されるようになってきました。 (PP)  その背景には、少子・高齢化という各国が共通して抱える重大な問題があります。高齢化がよ り顕著になっていく今後の社会構造の中で、各国は持続可能な精神保健医療サービスの在り方を さまざまな角度から検討する必要に迫られています。少子・高齢化社会において最も重要なこと は、若者の健康を促進し、彼らの労働収益を最大限に高めることであります。すなわち若者の健 康を損ねたり、彼らの能力を阻害したりする要因を積極的に予防していくことが必要になります。  実は、90年代の後半以降、医療経済分析に関する研究の進展によって、若者の健康や、彼らの 経済的活動を最も阻害する要因が精神疾患、精神障害であることが明らかにされてきました。  そういった医療経済分析を踏まえて、例えば、オーストラリアなどでは、保健省と財務省が共 同して、若年層における精神疾患の頻度や、その社会的影響についての調査が行われています。 このグラフからもわかるように、高齢化社会においてより重要となる若年層の健康が精神疾患に よって大きく損なわれていることがわかります。こういった調査結果に基づいて、オーストラリ アなどでは、早くから若年層のメンタルヘルスを重視した精神保健医療対策が国家的に進められ てきました。中でも若者を対象とした予防的取組みには積極的な投資が継続的に行われています。 (PP)  こういった国家的な取組みは、オーストラリアに限らず、ブレア政権下のイギリスにおいても かなり積極的に進められてきました。 (PP)  御存じのように、サッチャー政権下で荒廃した保健医療サービスの立て直しを図るために、ブ レア政権下ではコストを抑え、かつ高質なサービスをいかに広く国民に提供するかという検討が 重ねられてきました。ブレア政権下では、精神疾患に関する対策をがんや心疾患と並ぶ国家的最 優先課題として位置づけて、精神保健医療対策費を1.5倍に増額してきました。特に臨床的に有 効で、かつコストを抑えられる新たなシステムの開発に巨額の資金を投入してきています。その ような大規模な精神保健医療福祉改革がこの10年間でかなり推進され、現在のブラウン政権下 においても、その政策的方針は継承されるに至っています。 (PP)  さて、つい最近、イギリスのKings’Fundという財団から、更にこの先20年後の精神保健医 療福祉サービスの在り方を分析した報告書が発表されました。この報告書は「PAYING T HE PRICE」と呼ばれるもので、20年後も持続可能な質の高いサービスの在り方を明確に するために作成されたものであります。  この報告書全体を通して繰り返し述べられていることは、サービスによる直接的なコストだけ でなく、病気や障害による労働収益の損失の度合いを含めて、そのインパクトを試算する必要が あるだろうということであります。すなわち、ある程度サービスコストがかかっても、労働収益 の損失が最低限に抑えられれば、トータルコストとしては割安というふうに考えられるわけであ ります。 (PP)  いずれにしても、直接のサービスコストのみをいわゆるコストとして検討しているだけでは、 長期的に持続可能な質の高いサービスの在り方が見えてこないという前提があります。 (PP)  さて、この資料はイギリスの20年後の精神保健医療コストを分析したものであります。細か くて見にくい表で恐縮ですが、その要点をまとめたものが次のページの資料になります。 (PP)  その要点としましては、幾つかのポイントがまとめられています。  まず、20年後の精神疾患の罹患率は、おおむね現状と変わらず横ばいという推定が出されてい ます。ただし、認知症に関しては例外で、精神保健医療コストが20年後に約1.5倍近くまで膨 らむ、その最大要因は認知症患者の増加によるものと考えられています。  一方、うつ病と不安障害による労働収益の損失が実はかなり膨大であることが明らかにされて います。うつ病と不安障害の未治療率が、英国の現状で、それぞれ35%と51%と推定されてい ますので、これらの未治療者の労働収益の損失が将来の高齢社会において非常に大きな問題にな ると推定されています。  一方で、エビデンスに基づいた有効な治療やサービスは、必ずしもそれ自体が安いものではな いものの、それらが適切なタイミングに提供されることで、労働収益の損失が減少し、トータル コストが削減できることも推定されています。  1枚飛ばしていただきます。 (PP)  さて、この報告書の中では、臨床的に質が高く、かつ将来の精神保健医療コストの削減に寄与 するサービスに対して、今後重点的な投資を行うことが提案されています。具体的には、うつ病 と不安障害の未治療者に対する早期発見、早期治療システムの構築。それから、統合失調症や双 極性障害に対しては、早期介入サービスと危機加入のための地域訪問型サービス、その2つのサ ービスの拡充が特に重要であると考えられています。 (PP)  この報告書のまとめとしましては、20年後に向けて重点的に取り組むべき、おおむね6つの課 題が提案されています。  1つは、認知症に対する有効な予防法の開発への積極的な投資。2つ目は、うつ病と不安障害 の未治療者の早期発見と、それに対するエビデンスに基づく治療の提供。3つ目は、稼働年齢に ある精神障害者の方に対する積極的な就労支援。4つ目は、危機加入、アウトリーチサービスに よって入院率の低下を目指すこと。5つ目は、早期介入サービスの拡充。6つ目は、若者を対象 としたメンタルヘルスプロモーションと、精神保健普及啓発の強化。こういったことが重点課題 として提案されています。 (PP)  このようなイギリスの将来を見据えた分析は、今後同様に超高齢社会へと進む我が国にとって も示唆に富む資料ではないかと思います。英国のデータが示唆するように、今後の精神保健医療 福祉対策の大きな柱が精神疾患の早期発見、早期治療であると考えまして、私どももこの点に注 目して、研究や予備的実践を進めているところでございます。 (PP)  特に近年、英国に限らず、多くの国々で精神病性疾患に介する早期介入サービスの導入が進ん でおります。  再度先ほど御紹介しました報告書のデータに戻りますが、イギリスで精神病の早期発見、早期 介入サービスが今後順調に拡充されていった場合、2026年の時点で、年間で最大250億円のコス トセービングを達成すると推定されています。これは主に初発エピソードの患者さんに早期サー ビスが提供されることで入院率がかなり低下すると推定されていることが要因です。  一方で、前駆期(ARMS)における介入のコストセービングも試算されていますが、そもそ も入院の必要性が低い群を対象としているため、初発エピソードの患者さんを対象とした早期サ ービスと比べると、コストセービングに関しては効果が弱いということが試算されています。そ のため、整備拡充の政策的な優先順位としては、まず初発エピソードの若い患者さんを対象とし た早期介入サービスを拡充すべきだと考えられます。 (PP)  また、イギリスでは、2000年に早期介入サービスの創設のために国が約100億円を投資したと されていますが、保健省関係者の話によると、既にこのサービスによるコストセービングの累積 が進んで、2年後の2010年には当初投資した100億円の回収が可能という見通しが出てきてい ると言われています。 (PP)  さて、英国の早期介入サービスとは具体的にどのようなものかというと、発病後3年以内の若 い患者さんを対象とした多職種チームによる訪問型のサービスが中心でありまして、そういうサ ービスを病初期の3年間ないし5年間継続的に提供することで、臨床的もしくは社会的なアウト カムを改善していくというものであります。 (PP)  ここ数年で、その臨床的な有効性に関する知見も増えつつあり、入院率や治療中断率、自殺率 が低下したり、また就労率の増加などの成果が報告されています。これにより、従来のサービス に比べ、入院率が低下し、直接サービスコストが低減されること、また回復率の上昇に伴って労 働収益の損失も低減されることが想定されています。 (PP)  さて、一方でこのような早期介入システムが地域で有効に機能するには、地域社会における普 及啓発が不可欠となります。先ほど御説明しましたように、精神病に限らず、うつ病や不安障害 の早期発見、早期治療も今後重要な課題でありますから、それにつなげるための普及啓発が今後 一層重要になってくるわけであります。 (PP)  さて、これは今後の普及啓発の在り方を考える上で重要な資料になると思われるものですが、 今年初めにノルウェーのグループが報告した知見であります。ノルウェーのある地区で早期介入 の取組みを始めたところ、当初16週程度あった精神病の未治療期間が、3年後には5週までに 短縮したというものでありますが、更に3年間、普及啓発活動を中止して早期介入サービスを続 けたところ、一度は5週まで短くなった未治療期間が再び15週まで長期化したという結果が報 告されています。このことから、普及啓発活動を抜きにしては、本質的な早期発見、早期対応の 成果は望めないということが伺えます。  2つほど資料を飛ばせていただきます。 (PP)  さて、早期発見、早期治療のシステムを有効に機能させるためには、特にどのような対象を意 識した普及啓発が必要になるかということを考える必要があります。精神疾患に罹患しやすいハ イリスクな対象は若年層であるため、若者自身や、その異変に気づきやすい周囲の大人を対象と した啓発が重要となってきます。そもそも予防を意図した啓発においては、その対象となるグル ープが本格的に当該疾患の発症期に入る前に情報を効果的に伝えておく必要があります。 (PP)  その時期がいつごろなのかを考える上で参考になるデータがこの資料になります。精神疾患を 罹患している成人の約半数は、既に15歳の時点までに何らかの精神科的な診断に該当していた という報告があります。 (PP)  統合失調症の患者さんについて限定してみると、既に15歳までに不安障害やうつ病、ADH Dや行為障害を罹患していたという方がとても多いことが示されています。  3枚ほど資料を飛ばしていただきます。 (PP)  このように、かなり早い発達段階から精神疾患を体験している子どもが存在するため、基本的 には、遅くとも15歳までに精神疾患や、その適切な対応について情報を伝えておく必要がある と言われています。近年、WHOと国際早期精神病学会が共同で採択した早期精神病支援宣言に おいては、世界中の15歳の生徒全員が精神病について教育を受けるべきことが盛り込まれてい ます。 (PP)  さて、実際どのような啓発形態が効果的なのかということについては、近年多くの研究がなさ れていますが、およそ若者を対象としたものでは、地域でキャンペーン的に行うものと、学校に おいて教育啓発的に行われるものとの2つのパターンに類型されます。 (PP)  先ほど御紹介したノルウェーの研究の知見からも言えることですが、啓発活動の継続性が非常 に重要になるため、継続的な教育システムの中で行われることがよりベストであろうと考えられ ています。実際、諸外国においては、学校における精神保健啓発教育がより戦略的、包括的に行 われるようになってきています。 (PP)  この図はWHOの学校保健部会が提唱している学校精神保健アプローチの概略図ですが、中学 校ではおよそ3%〜12%の子どもは既に治療が必要な精神的問題を抱えていると考えられてい ます。更に、最大30%の子どもたちは心理的な支援が必要なグレーゾーンの状態にあると言われ ています。そのため、地域の関係機関と連携して、治療提供を視野に入れた支援、カウンセリン グなど、追加的な心理的支援、そして健康な子どもたちが今後不調に陥らないための予防的・教 育的支援、そういった3つの段階のアプローチが今後必要になると考えられています。いずれに しても、ベースとなる精神保健啓発、教育の機会がすべての子どもたちに提供される必要があり ます。  1枚飛ばしていただきます。 (PP)  これはオーストラリアの8割以上の公立学校で使用されている精神保健教材であります。学校 生活を健康的に送るためのストレス対処技術やコミュニケーションの知識、また精神疾患の理解 について、優れた教材を使って、教員自らが教えるシステムになっています。 (PP)  これまで私たちは主に三重県において、教育委員会や学校保健会、保護者会や青少年育成協会 などといった組織と連携をして、まずは子どもたちの周囲にいる大人に対して、精神保健啓発や 早期発見のための研修等を行ってきました。特に学校内で問題を目の当たりにしている養護教諭 との連携は、早期発見をしていく上でとても重要であると感じております。 (PP)  また、保護者と一緒に行った昨年の調査では、保護者の統合失調症に関する認知度がほかの病 気に比べて著しく低いことが明らかになりました。 (PP)  また、保護者が子どもの精神的不調に気づいた際、最初の相談相手として学校関係者を多く挙 げていることがわかります。 (PP)  一方で、保護者が子どもの精神的不調に気づいた際に、最初の相談相手としてちゅうちょする、 抵抗がある機関はどこかということを聞きましたところ、やはり学校関係者が抵抗が少ないとこ ろの上位にたくさん入ってきます。 (PP)  こういった結果から、子どもたちの精神的不調に関する保護者の相談も、まず学校に持ち込ま れる可能性が高いと考えられます。そのため、学校と連携した啓発や早期発見システムの在り方 を検討する必要があると考えられます。そのようなシステムを構築すべく、現在私どもは三重県 と長崎県で学校や地域と連携して、普及啓発や早期発見のプロジェクトを試行しているところで あります。  今、映っている図は、ちょっと見えにくいかと思いますけれども、いろんな関係機関や、いろ んな人たちの力をかりながら動かしていく必要がありまして、まず私どもがやっておりますのが、 学校というのは先ほどお話ししていただきましたように、非常に大変な状況になっておりまして、 そういった学校を支えていくような、学校精神保健早期サポートサービスというものが恐らく必 要になるだろうと考えています。そういうサービスチームを今、県立病院の方で協力していただ いて組織して、学校のコンサルテーションにアウトリーチしていくというような形で、今、学校 の方と連携をしているところであります。  学校の中にも、学校精神保健を考える委員会というものをつくっていただいて、学校の中で、 校長先生、教頭先生、養護教諭の先生、カウンセラー等入っていただいた、学校精神保健特別委 員会というものをつくっていただいて、そこと我々が連携をしていくという形でサービスをスタ ートしています。養護の先生たちはいろんな情報を持っていらっしゃって、非常に苦しんでいる 子どもたちを見ておられるという状況があります。しかしながら、治療になかなかつなげられな いという状況もありますので、こういったサービスが非常に重要ではないかと考えております。  それから、学校の中では勿論、保護者の方や教職員の先生方を対象とした精神保健に関する啓 発を行ったり、地域に対しても、今後広く啓発を集中的に進めていく予定であります。  県立病院の中に早期支援センターをつくりまして、アセスメントチームと、先ほどお話ありま した臨界期の治療を担当するチームをつくって、そこが中心になってサービスを提供していくと いう仕組みをつくっていきます。実際に地域連携を進めていって、県内の内科や小児科をぐるぐ る回っていただいて、そこと早期発見のための連携をする。恐らく発症しているだろうという患 者さんが内科や小児科に来られた場合には、できるだけこちらの方から、そういった慣れた環境 に行ってアセスメントをしてくる。治療の必要性について相談しながら進めていくというような プロジェクトを現在始めているところであります。  また、啓発についてですけれども、学校で行う啓発、地域に対する啓発、いずれも効果がどう であるかという効果をきちんと見ることも重要になってきますので、そういったことを念頭に置 きながらプロジェクトを動かしているところであります。あと、定期的に地域の保健所や教育委 員会の関係者、児童相談所、医療関係者等集めて、早期支援地域懇談会というものを津で持って います。そういう懇談会を定期的に持つことで、地域のニーズを早期に拾い上げていくというよ うなサービスが今後必要になるのではないかなと考えています。 (PP)  最後に、今、津と大村で行っているプロジェクトについて紹介させていただきました。最後の 表は、今、お話しさせていただいたことをざっとまとめてあるものであります。  私の方から以上であります。 ○岡崎参考人  それでは、私の方から、お手元の資料を参考にして、若干追加をさせていただきます。一部重 複するところもございます。 (PP)  2ページ目に、先ほど経済的な分析をした英国の精神保健・医療改革の流れというのがござい ます。これは恐らく御存じだと思いますので省きますが、特に1999年、精神保健のための国家 サービス枠組み、この後にナショナルスタンダードというのがあるんですが、精神科医療という のは本来どういうもので、ファーストクラスの、最高のサービスを提供すべきである、ニーズの あるところには、待っているんではなくて、サービスをちゃんと届けなくてはいけないというこ とを原則にして、しかも24時間、週7日といいますか、1日も休まずやるべきだという原則を はっきりさせたものとして、やはり画期的なものだろうと思います。そういったものをやりっ放 しではなくて、2004年には、それがどれだけ実現されたかという数値目標も含めまして、きちん と検討して、進んだ点と遅れている点等も明確にして、今後どうやるかということで、2026年ま での20年間の計画を2008年に出しているということでございます。 (PP)  非常に大きな成果が上がったんですが、そういった出発になった当事者のRETHINKとい う団体がございます。3ページ目にございますけれども、ユーザーの視点から見た、早期相談や 早期治療を実現していく上で障害になっていた問題を明らかにして、それを取り除く、それを変 えるということをしっかりやったということが非常に大事だと思いますので、ここに紹介いたし ます。  全国的な調査をしたら、バリアが8つあった。システムが違いますから、3番目の治療へのア クセスについては我が国ではないと思うんですが、ほかの点は私どもが日ごろ痛感していること ではないかと思います。  具体的には「バリア4:初診において否定的な体験をすること」というのは、恐らく精神科の 医療に従事された方々は、患者さんからつらつらと聞かされることが多いことではないかと思い ます。  「バリア8:既存の治療は入院が主であったこと」は、残念ながら精神科医療を受けようとす るときの選択として、家庭を離れないといけないような状態になったときに、選択肢として入院 しかないという現実があると思うんです。そうではないんだということも明らかにして、それを 実現するにはどうしたらいいかということを検討されたというふうに、イギリスの経験では見え るんです。そういったことも含めて、非常に参考になると思っています。こういったことを具体 的に解決するために改革が行われたということであります。 (PP)  先ほどのNational Standards for Mental Healthというものですが、精神保健と精神科医療、 社会的施策が連続して取り組まれているということでありまして、精神保健と精神科医療は、我 が国では残念ながらかなり断絶があると思うんです。これは勿論、医療システムの違いがあるわ けでありますが、本来、改善しなければいけない対象の性格に沿って、先ほど佐藤先生もどうい う病気かということを統合失調症についてお話しになりましたけれども、それを改善しようとし たら、社会的な施策から、医学的なことから、保健的なことまで連続して、その一人ひとりの方 に最良の取組みがなされないといけないわけですが、そういったものを統合してやるべきだとい うこと、しかも国がそれを責任持ってやるということを明確にした、非常に重要な原則だと思い ます。ベストプラクティスの例も非常に具体的に示しています。 (PP)  そういった原則の上にイギリス精神保健のシステムはできているんです。伊藤先生も後でお話 しになると思いますが、地域精神保健チームが中心に座っていまして、それにいろんな機能が分 化して、危機解決家庭支援チームとなりまして、これは24時間常に急性の状態の方のところに は、その場に出向いて問題解決するために、休息アパートとか、必ずしも医療だけではなくて、 すべての生活の、経済的な問題から含めて、それを支援をする、家族をサポートする、そういう ことをやっています。  それと連携して、その対象が早期介入の対象でありますと、早期介入チームにバトンタッチを して行うというシステムができています。学校について言いますと、早期介入チームが学校と協 力をしてやるということになっています。  これらのすべての取組みで大事なことは、ケアプログラムをちゃんと立てまして、ケアプラン を立てて、対象福祉チームでしっかりプログラムに沿ってやっている。ですから、その方が場所 が移りましても、そのプログラムがちゃんと伝わりますから、責任を持ってチームとして行って いるという体制がすごく大事なんだろうと思います。 (PP)  6ページ目もほとんど同じでございます。そのほかに、周辺に書いてありますような精神療法 サービス、家族介入チームとか、自傷サービスとか、摂食障害サービスとか、物質乱用チームと か、それぞれ特化したチームを持っています。こういったものを総合的に組み合わせながら、な るべく地域で生活を継続しながら、入院しないでやっていくということを保証しようとしている わけであります。 (PP)  7ページ目もそのリストであります。 (PP)  こういったことで、参考になるイギリスの経験のまとめなんですが、第1に疫学調査を行いま して、どういった精神保健問題が、どういった質の問題がどれだけの量あるかということをはっ きり把握しているという点は非常に特徴だと思います。  具体例を申し上げますと、第二次大戦が終わった1946年の3月の1週間のうちにイングラン ドで誕生した全員を現在も追跡をしています。その研究での知見によりますと、何歳ごろ、どう いった精神保健問題がイギリスでは発生するかということをちゃんと把握をしているわけです。 それが本当に正しいかどうかということで、12年後にもう一度同じように、1週間に生まれた全 員のお子さんに協力してもらって追跡をしております。  更に、そういった研究の弱点を反省して、1972年ぐらいから、ニュージーランドの協力を得ま して、モーズレーの研究者が中心になりまして、1,000人強の人々をもっと厳密な方法で、既に 30年ぐらい追跡をしているといったことをやっています。  そういった努力を拝見しまして、どういった年齢に、あるいは男性に、女性に、どういった精 神保健問題が生じるかということを把握しまして、その上で政策を立てるというのが学ぶべき点 だろうと思っています。  そういった中で、精神障害については、青年期に発生する期限を持つ病気が非常に多いという こと、それから老年期、精神保健の大事な問題は、この2つに年代的には焦点があるんだという ことを明らかにしております。  もう一つは、家族の役割をはっきり位置づけたことが大きいんです。精神保健、あるいは精神 医療でやるべきことの約50%を家族がやっているということを明確にしまして、家族の精神保健、 精神医療における役割をコストで計算すると5割近くになるんだということを明確にしまして、 ここに対する支援を強化する必要がある。それが当事者に対する支援の非常に重要な内容を成す んだということで、向こうではcarerと呼んでいますが、日本で言うと、もう少し広い意味での 家族です。家族支援法という法律も成立させて、そういう支援をすることを明確にしてやってい るということが1つ大きい問題だと思います。  それから、精神保健や医療サービス提供の原則を明確化した。これは先ほど申し上げたとおり でありまして、入院をしないでやるということをはっきり目標にしていることは非常に大きい。 なるべく入院しないでやる。入院しても、隔離・拘束を最少にしてやるんだということを言って います。  それから、先ほど申し上げました家族です。  もう一つは、医学的にも重視しているんですが、救命するというか、自殺予防の精神科医療、 精神保健における重要性を明確に位置づけているということがありまして、これは数値目標を立 てて、非常に成果を上げているということが言えます。特に青年の自殺予防につきましては、こ の5年間だと思いますが、7%減少して、成果を上げているようです。 (PP)  「わが国の精神保健・精神科医療の特徴と課題」ということで、先ほどの英国の経験との対比 もしながら書いております。精神保健と精神科医療が断絶をしているというのが非常に大きな問 題だと思います。医療が受診出来高払いでございまして、非常に悪く言いますと、治らないで何 回でも受診される方が病院の経営上はいいという仕組みとも言えるわけでございまして、本来の 医療の目的や医療機関の役割からしたら、例えば、3年間に何割の人が再発したけれども、この 地域では再発率が減ったといった場合に、その医療機関の評価は高まって、医療費ももっとよく なるとか、再発を予防したら保険点数が高いものがつくとか、そういったものが本来だと思うん ですが、それが逆転しているわけでありまして、この問題が非常に大きな問題としてあるんだろ うと思います。  我が国は、治療へのアクセスは自由ですが、やはり啓発が、私どもの自覚も、その点、非常に 乏しかったなと今、反省しているんですが、乏しくて、待ちの医療になっている。受診された方 に対して提供するというのがまだ基本になっているわけであります。勿論新しい芽が出てきてお りますけれども、その結果としてもあると思いますが、啓発や待ちの医療のために、長いDUP、 未治療精神病期間が言われるというデータがあるということになっているんだろうと思います。  それから、診療所その他の医療は我が国では非常に普及しているわけでありますが、にもかか わらず夜間や休日の医療へのアクセスは極めて悪くて、御本人、あるいは御家族の不安の源の1 つにもなっていると思うんです。これは早急に改善する必要があるだろうと考えています。  それから、残念ながら、精神科医療の体験が否定的である場合が少なくないということがござ います。特に初診時の対応とか、診察環境の悪印象というのはよく聞かされまして、退院時まと めなどというのを、カルテをずっと読むんですが、非常に多いパターンは、思春期、中学生の14 〜17歳で受診をするんですが、そのときは必ずしも精神病症状とかではないんですけれども、そ こでの印象が非常に悪くて、もう絶対行かないぞと決めていたとおっしゃる方もいるんですが、 2〜3年、あるいは4〜5年受診しないでいる間にかなり病状が悪化して、統合失調症と診断さ れたときにはかなり病状が進んでいたというようなケースは非常に多いんです。こういったこと をなくす必要があるだろうと思っています。  それから、初回、薬を飲む、初めての体験というのはなかなか大変なことでありまして、いろ んな副作用も生じたりしますので、そういったことへの十分な配慮を持って、あるいはあらかじ めそういう説明が十分にあって、それで服薬をされるといいんですが、最初からかなりの量の薬 が出されて、非常に辛い体験をしたとか、そういったことも少なからず聞かされることでござい ます。  それから、先ほど申し上げましたが、自宅から離れる治療の場というのがほとんど入院治療で、 ほかの選択肢がないといったことがございます。  それから、家庭、学校、職場、一般医、保健師、精神科外来担当医等、関係者の早期発見や早 期の対処に関する啓発や教育や研修が、これは当然でありますけれども、まだ極めて不十分だと いうことがございます。  それから、精神科医療の多くが家族の犠牲の上に成り立っておりまして、家族への啓発・支援 は大幅に遅れていると思うんです。  それから、先ほど西田研究員の方からも非常に大事なものとしてありましたが、気分障害と不 安障害が激増しています。それに伴う社会的損失が、データははっきりありませんが、恐らく増 大しているんではないかと思います。  それから、精神科医療・保健における自殺予防の位置づけがようやく強まってまいりましたけ れども、まだ非常に弱いと思います。  それから、疫学研究が何しろ乏しくて、政策の立案の基礎になるエビデンスがまだ不足してい るということが言えると思います。 (PP)  「わが国の精神障害患者数の推計」でございますが、施策を考える上では1年有病率が有用だ と思うんです。これは川上先生らがなさった最近の研究しかきちんとしたものはないと思います が、それによりますと、不安障害5.5%、899万人と推計されます。気分障害は292万人、衝動 制御障害が89万人、物質関連障害が191万人、いずれかの障害に該当する方は10%となります ので、1,170万人と推計されるわけでございます。  そのほかは1年有病率のデータがないんでありますが、認知症は65歳以上で5%でございま すので、人口から計算しますと、恐らく1%ぐらいの有病率になるんだろうと思います。統合失 調症についてはデータがありませんが、発生率から推計をして90万人前後だろうと推計される わけでございます。そのほかの障害もございます。  すなわち、全人口1億2,700万人のうち、年間に10人に1人以上の精神科の患者さんがいる ことになりまして、実際に患者統計では302万人、2.4%になりまして、42人に1人がある時点 で受診をしておられるわけでございます。  1枚飛ばします。 (PP)  そういった背景で、我が国でも早期治療が必要だと考えるわけでありますが、その必要性と課 題の根拠を申し上げます。データは本当に少ないんですが、統合失調症の発症から受診までの期 間が我が国では長くて、長い人と短い人を比べますと、受診までの期間が長い方が転帰が不良だ という結果のデータがございます。  これは私どもが1988年にやったものでありますが、デイケア患者、外来の患者さんが主であ りますが、DUPは8.4か月になります。5年後の再発は、1年未満に受診した方よりも、1年 以上たってから受診した方の方が圧倒的に多いんです。ですから、早く受診した方が5年後まで の再発は少ないということは言えます。  慢性の患者さんでのDUPは13か月ぐらいとなっています。  うつ病の方についても、これは藤田保健衛生大学の奥田先生らがやっておりますが、治療開始 が4週間遅れますと、2年後の寛解率が10%低下するというデータがございます。うつ病の場合、 24週間未満の方が明らかに寛解率が高いということが出ております。  不安障害とほかの疾患についてのデータは我が国ではないと思います。受診しておられる患者 さんの数と推定の患者数を比べますと、気分障害は30%ぐらい、不安障害は10%弱ぐらいでは ないかと推測されます。先ほどイギリスの計算がありましたように、未受診者が非常に多くて、 この方々の早期の受診を促進することは非常に大きな課題だろうと思います。  このように、統合失調症、うつ病は、早期発見による早期治療が必要だということは言えると 思うんですが、不安障害についても恐らく同じだろうと思われ、受診の啓発が極めて重要だと思 います。 (PP)  次に「精神疾患の早期発見・早期治療のための課題」を書いてあります。早期発見の促進、早 期受診の促進、精神科初回受診印象の改善、初回治療から「臨界期」数年間の集中的な治療とい う課題をここに書いております。 (PP)  私どもが考えております非常にラフな考えなんですが、我が国でも早期治療の体制をつくって いくのに、どういったところから取り組んだらいいかということで、いろいろ考えたんですが、 まだ余り突っ込んだあれではないんです。最初から早期治療チームとか、特殊化したチームでは なくて、我が国に訪問型の診療を導入をしていき、それを根づかせる必要があるだろうと考えて おります。説明はその次に書いております。 (PP)  まず、疫学研究による精神保健問題の質と量をしっかり把握することと並行いたしまして、先 ほど来、西田研究員からも説明しましたが、学校精神保健システムをしっかり確立をして、理解 をした人、ほかの方に対する手助けのできるような人を養成していくことがすごく大事だと思い ます。教師と生徒自身が学校精神保健の担い手になり、かつ社会の精神保健の担い手になるよう な教育、あるいは研修の充実が必要だろうと思います。  それから、危機介入・早期治療・地域精神保健チームといったものを、これは厳密に考えたわ けではございませんが、当面50万人に1チームぐらいを導入していったらどうだろうかと考え ています。例えば、当面、公立精神科病院のベッドをダウンサイジングするときに、その削減す る費用が地域のセンター病院として位置づけ直して、その削減予算を危機介入・早期治療・地域 精神保健チームの創設に当てたりすることはできないかということを考えております。 (PP)  前のページのシステム図によりますと、昼間は主に学校精神保健であるとか、あるいは認知症 の御家族の支援とか、そういったものにして、夜間・休日は、先ほど申し上げました夜間・休日 のアクセスが非常に悪くて不安を持っていらっしゃる御家族、御本人に対する治療や相談に回る といったシステムが導入できないかと考えております。 (PP)  設置場所をどういうところにした方がいいかということも考えております。公立の病院とか、 あるいは精神保健福祉センターとか、そういったところが考えられるわけであります。 (PP)  経済的な基盤があるかどうかということで、幾つか計算しておりますが、そういったこともも っと検討していったらいいんではなかろうかと思っております。  ちょっと長くなりましたが、以上、追加をさせていただきます。ありがとうございました。 ○樋口座長  どうもありがとうございました。  大変広範な、イギリス、あるいはオーストラリア、諸外国の状況も紹介していただきまして、 更に、それをどのようにしたら日本に反映させることができるかという御提案までいただきまし た。  御質疑があると思うんですが、大幅に全体が遅れましたので、次の伊藤参考人のお話を先に続 けていただきまして、その後に残った時間で御質問をいただこうと思います。  それでは、伊藤参考人、準備がよければお願いいたします。 ○伊藤参考人  プレゼンの機会を与えていただいて、どうもありがとうございます。 (PP)  ACTについてを中心にお話しすることになっておりますが、キーワードとしては「ケアマネ ジメント」を表に出しております。今までの佐藤先生、西田先生、岡崎先生のお話にあった早期 介入などのことを考えるに当たっても、欧米を出すまでもなく、基本にケアマネジメントのシス テムがあって、それでもって早期介入など、多職種チームが動けておりますので、その辺り、す べての領域にケアマネジメントが必要であるという主張の中身になっております。  遠くてあれなんですけれども、一応、アニメーション付きでつくってはいるので、プレゼンは パワーポイントを見ながらにします。ただ、基本的な中身はお手元の資料ですので、遠くの方は そちらも御参照ください。 (PP)  基本的な認識は、ここら辺は釈迦に説法の領域でありますが、考え方として、佐藤先生がおっ しゃったことと同じであります。 (PP)  まず、精神障害を考えるときに、他障害と大きく違うのは、それが精神疾患、精神障害の複合 体であると、こういう考え方であります。このことは同じACTを京都でやっている高木俊介先 生が最近おっしゃっている言葉なので、使わせていただいています。  精神障害は疾患が治癒してから障害が残るという考え方は不適切だということは、皆さんはメ ンタルヘルスのプロフェッショナルですからおわかりだと思いますが、重度かつ継続的な精神疾 患、特に統合失調症や双極性障害などは常に、急性期であっても慢性期であっても疾病的な側面 と障害的な側面を同時に持っていると、そういう考え方でトリートメントに当たらなければ、方 向性を誤ってしまうということです。  具体的に言えば、常に医療的な関与が必要であるということは忘れてはならないし、生活支援 をするわけですが、それも常に、いわゆる心理・社会的と言われる治療的関与の側面があるとい うことで、福祉だけであって、そこにトリートメントの要素がないなどということはあり得ない ということであります。  ですから、福祉的サービスは常に医療的支援と結合している必要があって、これは縦割りの行 政の中でありながらも、そういう形を実現していくことを目指すのが我々の責務であろうと、こ んなふうに考えるわけです。 (PP)  「『地域中心』の具体的なすがた」ということで、実は国立精神・神経センター時代に属して いた国府台病院は、この4年間に病床削減がありまして、約350から150と、200床の病床削減 を経験してきました。その中で切実になってきたのは、今まで慢性病棟で診ていた患者さんを地 域で診なければいけないということでありました。そのための在り方をつくらなければいけない ということでありました。  また、今まで休息入院とか、家族の負担を軽減するために行っていた入院も、極力地域で診な ければいけないということが必然的に起きてきました。  これらの課題を実現するのに不可欠なものがありまして、1つは、適切な住居プログラムです。 岡崎先生もおっしゃったように、パーマネントに使う住居プログラムばかりではなくて、ちょっ とお休みのときに使えるような住居プログラムが絶対不可欠なわけです。もうひとつ必要なのは、 地域で支えるために、こちらから生活の場に出向く医療的な関与です。ちょうどこの国府台病院 の病床削減と並行するように私たちのACTの研究がありまして、つまり、そういう意味では、 研究は必要性を感じながらやることができたということが言えます。  ここのスライドで強調したいのは、受け皿論がよく言われますが、受け皿の中には医療が含ま れなくてはならない、生活の場での医療的支援が含まれなくてはならない。地域で医療的サービ スを供給する人がフットワークよく動くということが含まれなければならないということであ ります。 (PP)  実は、地域中心は今、金科玉条で、これこそが目指すべきだということになっております。し かし、地域中心のシステムにもリスクは確実にあります。欧米が一旦失敗をした時期を超えてA CTなどのサービスをつくってきたわけです。まず、リスクの1つとして、家族の負担が増える のではないか、だから家族の負担を増やしてはならないというのが地域中心の精神保健福祉をつ くるときの1つの重要なキーであります。  特に、なかなか陽が当たらない方々なんですが、病院には来るけれども、ふだんは自宅に引き こもっていらっしゃるという方々が臨床的な場面では非常にたくさんいらっしゃいます。積極的 に日中の居場所を利用したがらない、そんなところは行きたくないよということで自宅にいる場 合は、御家族だけがケアテーカーとなっていて、そこでの家族の過重負担がコミュニケーション のゆがみを生んで、家族と患者さんの間の葛藤を多くしているということは周知の事実だと思い ます。  そういうことを考えれば、日中、自宅を中心に引きこもり状態ですごして、不活発ないし家族 間の関係が混乱しているような状況に関しては、外来で診ているだけではやはり不足であって、 自宅や患者さんの生活圏にアウトリーチするような、訪問するようなサービスが必要だろう。こ れは医療だけではなくて、生活支援ということも込みでありますが、必要であろうということで あります。 (PP)  2番目のリスクは、地域中心というと、地域にいろんな資源ができるということになるわけで すが、その資源を一体、家族や御本人は知っているだろうかというと、知らないという現状があ ります。つまり、つなげる人がなければ人々は孤立してしまう。その孤立した人々を増やしては ならないというのは重要な課題としてあります。  特に重症で継続的な精神障害を抱えている人々は、その障害性ゆえに安全保障感がなかったり、 対人関係が難しかったり、疲れやすかったり、一度に複数のことをするのが難しかったり、そう いうことがあるわけですから、サービスを使うことがなかなかうまくいかない。よく「抱え込み」 という批判的な言葉で言われますが、これは、つながれない人をつなごうとすると、同じ法人の 中のサービスだけになってしまったという結果だとは思うんです。ですので、そうならなくて、 かつ孤立した人々を増やさないためには、行政や医療機関などの相談窓口にサービスにつなぐサ ービスが必要である。このサービスにつなぐサービスというのがケアマネジメントと呼ばれる技 法であると私は考えていて、これをさまざまな場でつくっていくことが重要ではないかと思うわ けです。 (PP)  更に、地域中心ということになりますと、地域の中でさまざまなことを当事者とともにしてい く。さまざまということの中には、勿論病気が安定するということは、基本的に大事なことです が、その先には、仕事をしたいとか、家族を持ちたいとか、何らかの社会的貢献や社会的役割を 果たしたいとか、そういう気持ちが当事者に当然出てくるわけです。  それを応援していくための支援というのは、決して医療だけではできない。あるいは精神科医 だけではできないわけです。生活支援や就労支援の専門家が必要になりますし、ピアサポートの 人々も非常に必要になってきます。そうすると、多職種でもってチームを組まなければいけない。 しかし、このチームを組むというのが、バックグラウンドが違うと、コミュニケーションの仕方 が違ったりしますので、非常に時間を要しますし、トレーニングを要します。  かつ現場に出てから練習をしていくPlace then train、あるいはOn the job trainingをし ていくということになりますと、それなりの力量が必要になってきます。一時、ケアマネとか生 活支援はだれでもできるというふうな言い方がされたときがあります。勿論そういう部分もあり ますが、それなりの専門性を持った人が地域に出ていって支えるということを考えなければいけ ないだろう。当然そこにコストが出てくるわけで、コストを使ってでもやっていくことが必要に なってくるということを考える必要があるかと思います。 (PP)  そういう意味で、小括になりますが、地域中心の精神保健医療福祉を展開する際には、通所型 のサービスに通えないような状態の人が必ず出てくる。特に引きこもり状態の人たちは日本には かなり多いわけで、その人々への支援を考えないわけにはいかない。そうしますと、アウトリー チ、ケアマネジメント、多職種のチーム形成がキーになるのではないかと考えております。 (PP)  さて、そういう文脈の中でACTを私たちは考えてきました。ACTの研究をしながら、そう いう文脈の中にACTを位置づけることがいいのだろうということを身をもって体験してきた というふうに言ったらいいかと思います。 (PP)  ACTの基本構造は、それこそアウトリーチを主体とするチームです。在宅にも訪問しますし、 生活の場に出ていって、例えば、スーパーで買い物をする練習をするとか、交通機関に乗る練習 をするとか、そういうことも込みのアウトリーチを主体にしております。  それをするために、看護師、PSW、OTなどの多職種がチームを形成しています。欧米では この中に当事者の方が入ったり、就労支援の方が入ったり、資格を持った方々以外も入りますが、 基本的には専門性を持った方が多職種を組むということであります。その中で、関係づくりから、 心理教育とか、服薬自己管理とか、危機管理のスキルトレーニングとか、日常生活自己管理等々、 日本の場合は家族支援が非常に重要になりますし、ゴールとしての就労支援も重要になりますが、 そういう多彩なサービスをこのチームで応援しながらやっていくということです。  かつ、重要なこととして、チーム精神科医がいて、このACTのチームの利用者の処方、危機 介入などをチームと密なコミュニケーションを取りながら行う、ここが医療的な支援が地域に入 っていくところの1つの大きなかぎとなると思います。そして24時間、週7日、原則として危 機介入にも対応する。  また、こういうサービスが御本人の希望や御本人のありたい姿に応じてできるように、過不足 なくできるように、ケアマネジメントの手法をスタッフが学んで、ケアプランをつくって、ニー ズに合ったサービスを展開していくというのがACTの基本になります。 (PP)  そういうことをやるチームがどのぐらいの大きさなのかということなんですが、標準サイズは スタッフが7〜10人と言われていまして、そこで70人〜100人の利用者の支援をすることにな っています。夜間や休日オンコール体制、夏休みを取ったりすることも考慮すると、このぐらい のスタッフが必要になるわけです。  それから、ケースロードといって、1人のスタッフが受け持つ患者さんの数は10人以内にお さえています。  対象者ですが、ある程度障害性が大きい方でないと、ここまでやると、かえって管理的という 形になるわけで、ACTの対象者は精神科医療のheavy userと考えていただけたらいいかと思 います。  具体的に言いますと、まず成人であること、主診断は、統合失調症であったり、双極性障害で あったり、重症うつ病であったり、重度かつ継続する障害を持っているという方です。そして、 そういう方がオフィスから車で30分以内のところに住んでいらっしゃることが前提です。  かつ、精神科のheavy userであるということは、過去2年間の間に、例えば、複数回の入院 をしていらっしゃるとか、あるいは一定日数以上、例えば、100日以上の入院をしていらっしゃ るとか、あるいは生活機能のレベルが一定以下で、過去1年間の最高のGAFが50以下である。 これは、仕事とかができていなくて、症状が必ずあって、家に引きこもっている、こういうよう な状態です。あるいはホームレスとか、医療中断とか、自傷他害の恐れとか、生活を維持する上 での大きな困難を抱えているとか、こういう方々が対象になります。 (PP)  これを図にまとめたのがこのスライドです。地域の中に障害を抱えて生活しづらさを抱えてい る人たちはたくさんいる、その中でACTの対象はどういう人たちなのかと聞かれたときに、一 番明快な事項は私は医療ニーズの高低だと考えています。つまり、スライドにありますように、 頻回入院の方とか、受療動機の低い方とか、服薬を自分で飲む動機の低い方とか、満足度の低い 方とか、症状が安定していない方とか、そういう方がACTの対象です。  そういうことがだんだん収まってきている方は、むしろ精神科の訪問看護でサポートできます でしょうし、医療ニーズが低くて、かつ生活のしづらさを抱えている方もたくさんいらっしゃる わけですが、そういう方は地域のケアマネジメントチームで、かつ生活支援がとても必要な方で あれば、訪問型の生活訓練とか、ホームヘルプサービスであるとか、居宅生活支援事業とか、こ ういうものを使って支援をしていくことになるかと思います。  ACTもこういうサービスを併用しても全く構わないんですけれども、ACTのチームだと、 それをチームの中でやるので、必要以上に盛り込まなくてもいいんではないかなと思うんです。 一番言いたいのは、医療ニーズを重要視した方がいいのではないかということであります。AC Tをやり始めて、ACTはやはり医療なんだなという感じを随分持っているからであります。 (PP)  次のスライドは、今年の春から、ACTが訪問看護ステーションという形で地域に出て活動し ているんですが、そこでのスタッフ構成です。看護師3、OT3、PSW1、このPSWは今、 ただ働きみたいな感じなんですが、それでチーム構成をしております。これが家賃7万円のスタ ッフルームでやっています。だから大きさが大体想像つくと思います。ただし、自動車を今、5 台持っていて、その5台でもってアウトリーチをしていますので、駐車場が必要になっておりま す。携帯電話、簡単な医療器具などを使っているところであります。 (PP)  後でまた説明しますが、基本的には今、病院に入院している方の退院促進というところからA CTはかかわりを持ち始めております。関係づくりや退院支援ができてから、地域に当事者の方 が出ていったときに、地域の方に出て、チームによるアウトリーチをしていくことになります。 そこでさまざまな支援をする中で、ゴールとしては、質の高い地域生活の実現を目指していると ころであります。 (PP)  ここから後は私見が入りますが、ACTというのはもともとは、欧米では、州立病院などを閉 鎖していったときに最後に残るような人たちをサポートするチームとして必然的に出てきたの で、一生診ていくというような形でありました。  私たちの場合は、今の日本の中でACTを始めますと、長期在院からの退院の方もいますけれ ども、一番のお客さんは頻回の入院の方なんです。自傷他害とかのリスクを抱えながら頻回に入 院をするような精神障害を持っている方々です。  そういう方々は、服薬中断をして再発をして、医療中断をしてしまうというような方々なので、 関係をよくして継続的にサポートをすることでかなりよくなりますので、私たちの体験では、A CTを卒業する、ACTのサービスが必要でなくなるときは来る方々がかなりいらっしゃるとい うふうな実感を持っております。  ですから、ACTというものは、卒業することを前提として制度設計していっていいのではな いか。特に都市部では、新たな対象者をACTのチームが次々と支援する必要が生じるわけで、 ACTを開かれたシステムにするためには、入口と出口を明確にする必要があります。そうしま すと、入口の部分である病棟の方にも、ケアマネジメントのシステムを持っていて、病棟から押 し出す力をきっちり持っていることが大事ではないか、また、出口のところは、地域の中にケア マネジメントのチームがあって、地域の中で、主として医療的なニーズが低くなった方々を支え ることができるといいのではないかと考えております。 (PP)  これは千葉県の市川市で国府台病院と連携しているACTの形なんですが、紫色の矢印が国府 台病院の精神科から太く入っていますし、松戸市の保健所と市川市の保健所から細く入っていま す。これがACT−Jの入口という形になっています。  出口のところは、国府台病院に精神科訪問看護を持っているんですが、そこに矢印が1つと、 市川市に今、ケアマネジメントチームと称しているんですが、相談支援を中心としたケアマネジ メントのサービスをプログラムとして展開しているんですが、そちらの方に出口を置いていると ころです。こういうものを使わないで自立している方もたくさんいらっしゃるわけですが、そう いうふうなシステムを一応考えているという形であります。 (PP)  研究結果を少々示しておきます。ACTというのは、さまざまな文献が出ていますが、入院日 数の削減に貢献したということが一番大きいかと思います。私たちの研究結果でも、入院日数の 減少分の比較として対照群と比較検討したところ、ACTの介入群は通常治療群よりも入院日数 の減少が大きかったという結果が出たことと、介入の前後で、ACT介入群においては入院日数 が介入後に有意に減少したが、コントロール群は減少しなかったという成果が、1年間のフォロ ーでですが、出ております。ACTを考えると、2年フォロー、5年フォローということがとて も重要だと考えているんですが、いままでの追跡期間でもますますの結果が出ております。 (PP)  就労に関しては、そういうわけで、2年追跡をしております。というのは、1年ではほとんど 結果が出ていなくて、パワーポイントで見ますと、右上がりの赤い線がACT群で、青い線がコ ントロール群で、ちょうど1年を過ぎた辺りから成果が上がってきまして、これは一般就労を目 指しての就労支援をしているのですが、週に5時間以上一般企業で働いたという経験を持つこと を就労と定義しまして、最終的には2年後に45%の方が何らかの形で就労を経験することができ たというグラフです。 (PP)  年間コストは、これも1年間ですと余り結果が出ませんで、社会資源は結構活用していますの で、社会資源のコストは余り変わらなくて、入院日数を削減した分、コストが減るんですけれど も、ACT自体にコストがかかるから、とんとんになっているという図です。しかし、これも2 年、5年というふうに見てみると、もう少し減るのではないかなという予測があります。欧米で は入院費が日本に比べてべら棒に高いですので、ACTを使って、こんなに医療費が削減されま したというきれいなデータが出ていますが、我々はそうまでは言えないということであります。 (PP)  これから日本におけるACTについての幾つかのモデルを御紹介しておきます。 (PP)  その前に、ACTの運用可能性はあるのかということなんですが、今、我々が始めたように、 ACTは訪問看護ステーションを活用することで運用は可能ではないかと考えます。しかし、今 の制度のままでは十分なことができません。  例えば、対象者が明確であって、この対象者にだけサービスをしますという姿勢が必要です。 それから、今の訪問看護ステーションというのは10人とか15人とか、さまざまな先生方から指 示箋が出ていますけれども、そうではなくて、この訪問看護ステーションのACTの利用者さん に関しては、この精神科医が責任を持つんだというチーム精神科医を持つということが必要です。 さっきの図ですと、私たちの場合は、国府台病院の精神科医の先生が1人、ACTのためにかな り貢献してくださっている。常に相談できるドクターを確保することが重要です。  地域資源の活用ということになると、精神保健福祉士がいないといけないだろうと考えていま す。  訪問回数にも縛りがあって、毎日訪問には限界があったり、1日複数回訪問は、診療報酬で評 価されません。入院中の利用者への訪問は複数のスタッフが同時に訪問する事も評価されていま せん。まとめてみますと、ACT−Jの活動のうち3割は診療報酬には乗らない訪問をしている、 その中で運営しているというところです。重症者、合併症を持つ者への頻回の訪問をもっと行っ たり、あるいは危機介入体制を組むために毎日の訪問を行ったりすることには、何らかの経済的 なサポートがあるとありがたいところです。  さらにいえば、チームの問題としては、ケアマネジメントということを我々が熟知していなけ ればいけない。それから、治療のゴールとして、単に病気が安定するだけではなくて、仕事がで きるとか、幸せな生活が送れるというような「リカバリー」という言葉がありますが、社会生活 の向上を治療のゴールとして掲げて就労支援などにも積極的に取り組むことが重要になります ので、この辺りの機能が訪問看護ステーションに付与される必要があるかと思います。 (PP)  市川モデルでありますが、これは今、お話ししたとおりでありますので省きます。  市川以外にACTと名乗ってやっているところが全国で10か所ぐらいあります。その中で代 表的なところを2か所御紹介しておきます。 (PP)  1つは、先ほど名前を出した京都のモデルでありまして、ここは民間の訪問型の診療所が訪問 看護ステーションを併設して、かつNPO法人も立ち上げて、いわば三位一体のような形でやっ ています。  診療所の方に精神保健福祉士を5名雇って、薬剤師さんも雇って、看護師と作業療法士をステ ーションに雇っています。  訪問型診療所と書いてあるんですけれども、ここは外来を持っていなくて、精神科医が診療す るのは全部訪問というふうに、かなり活動を絞り込んでこのチームをつくっています。  ですから、チームの精神科医は診療所の医師で、ここに利用者さんが入ってくる入口は、保健 所や、福祉事務所や、地域の精神科診療所、あと一部精神科病院のようです。  出口は、安定してきたら地域の精神科診療所に今、一部送り始めているところだと聞いており ます。  財源は、訪問看護ステーションの収益に加えて、訪問型診療所の収益で動いています。こちら は、医師の訪問による報酬と精神科訪問看護と訪問薬剤管理指導料なんですが、これは現行の制 度下では、医師が駆けずり回ることによって収益が上がるようなシステムなので、そうでない、 つまり精神科医はバックアップにまわるような形に何とかならないだろうか、そこが今、1つ、 葛藤状況です。 (PP)  岡山モデルというのは、設立主体が県の精神保健福祉センターで、これは画期的だなと考えて います。  常勤スタッフ1名のほかは残念ながら非常勤スタッフで、バイトで稼ぎながらやっているとい う状況でありますが、多職種チームを組んでいます。  チームの精神科医は精神保健福祉センターのドクターがなっておりまして、入口は保健所、市 町村、地域活動支援センター、精神科病院。  ここのチームの特徴は、医療にコンスタントにつなぐことをもってよしとする、あるいは退院 促進ができて地域の中で安定した生活を営めるようになったことをもってよしとするというと ころで、出口は通院の医療機関とか地域資源につながったところでACTとしての働きは終了と いう形になっています。どちらかというとイギリスとかカナダモデルです。  財源は県費となっております。 (PP)  以上、ACTのことをお話ししました。最後に、ACTが位置づくためには、ケアマネジメン トが重要だということで、医療機関の方でもケアマネジメント、それから、地域福祉のケアマネ ジメントチームを何とかしっかりできないかということを主張する、幾つかのスライドを用意し ましたので、ざっとお話しさせていただきます。 (PP)  1つは、医療は今までクリティカルパスを中心とした、つまり、病状によって治療を変えてい くという在り方が主流だったんですが、いわゆる社会的入院をこれからつくらない、ニューロン グステイをこれからつくらないということを考えた場合には、急性期病棟の段階から地域におけ る支え手をきちんと準備するためのケアマネジメントシステムが重要ではないかなというふう に私たちは今、考えています。  具体的には、急性期病棟に精神保健福祉士の方をきっちり配置して、退院後の心理社会的困難 が予想される患者さんには入院直後からかかわって、退院までに退院後のケアプランをつくると いう在り方です。一部の、もう既にスーパー救急とかを持っている病院では、こういうかかわり 方を持っていまして、今、その病院の方々と精神神経委託費で研究を始めているところでありま す。こういうことが病棟の方でもできますと、退院促進支援事業を出すまでもなく、退院前に病 院の方から地域のケアマネジメントチームやACTとケア会議を行う体制ができて、退院準備を 共同で進められるのではないかと感じております。  その場合、必要なのはケアの引継ぎであって、地域の中にケアマネジメントのチームとか、A CTとか、そういうものがあった場合には、退院後1か月以内に引継ぎを行うことで、病棟スタ ッフは新たな患者さんの方に自分たちの力を振り向けていくことができるということでありま す。 (PP)  図に示してありますのは、今、国府台病院でつくり始めている急性期ケアマネジメントのシス テムで、入院直後にプライマリーナースがアセスメントをして、ケアマネジメントが必要かどう かということについてのトリアージを行い、ケアマネジメントが必要があれば、今、ナースを少 しトレーニングしているんですけれども、ナースがケアマネジメントを頑張って、難しい場合は 精神保健福祉士の応援を仰いでという形でケアプランをつくろうとしているところです。今、研 究ベースでできないかどうかを検討しているところも込みで図には書いてあります。ケアプラン ができたら、地域のケアマネジメントチームやACTとのケア会議で修正、引継ぎをしていくと、 こんな流れです。 (PP)  それから、医療ケアマネジメントといったときに、もう一つ、デイケアにおけるケアマネジメ ントが重要なのではないかということで、書かせていただきました。基本的に私の概念は、デイ ケアはやはりデイホスピタルであるので、これだけ地域の資源が豊かになってきた場所が増えて いる中では、ありかたを考え直した方がいいのではないかということであります。  つまり、今まではデイケアでもって患者さんの再入院を支えるんだということがメインだった かもしれませんが、長期にわたる支援は自立支援法下のさまざまなサービスでやっていくという ことを考えて、デイケアはあくまでも医療的なケアである。デイケアも卒業していって、なるべ く地域のケアマネジメントへの移行を円滑に行われるようにすべきではないかということであ ります。ただ、このためには地域の方がしっかりしていなければだめだよという反論も勿論ある ので、地域も育つ中で、こういうことができるということは当然のことであります。  それができますと、デイケア利用中から地域の社会資源の利用を促進できるように、スタッフ がケアマネジメントを行って、つまり、漫然とデイケアをずっと利用するということはやめて、 定期的に見直しをして、早期退所というか、早期卒業をして、地域の資源を活用できる人を増や していきましょうというふうにデイケアのミッションを書き換えていくべきではないかという ことであります。  そのときもケアマネジメントが医療と生活支援の共通ツールになるのではないかと考えてい ます。 (PP)  最後に、地域ケアマネジメントなんですが、これこそが障害者自立支援法のことを考えたとき には、地域の中にしっかりつくっていただきたいものであります。これは、今の相談支援事業の より充実したものとして考えたいと思うんですが、介護保険のように、この相談支援員等による ケアマネジメントのチームというものは原則他のサービス事業から独立してケアマネジメント に専従できる、そういう人たちがいてこそ、いろんなことが動けるのではないかと考えます。ほ かと兼任ですと、利用者の方がタイムリーに利用したいときに利用できないということが起きて いますし、単価が安いサービスですと、サービス事業者がやる気をなくして、そちらに積極的に 動かないということも現実起きているので、ここが独立して専従でできるということが何とかで きないだろうかというのが私の主張です。  かつ、サービス利用計画作成ということが今、コストに絡んでいますけれども、それにつなが らなくても相談に乗るということがケアマネジメントの基本ですので、相談に乗るということが 評価されるようなことができないだろうかということであります。 (PP)  つまり、相談支援を考えた場合には、相談しましょうという契約ができたときからケアマネジ メントが始まるという考え方はできないだろうか。来た方と関係づくりをして、例えば、アウト リーチをして生活の場を見て、アセスメントをして、ケアプランをつくろうかという、その辺り も評価していただけるようなことはできないだろうか。そのためにケアマネージャーは一生懸命 地域で働きますからということです。  かつ、今は、訓練等給付等を使うと、サービス管理責任者の方にケアマネジメントの責任者が 移って、相談支援事業者の方はケアマネジメントをしなくてよいということになっているんです が、サービス管理責任者がきちっとやっているかどうかをモニタリングすることもケアマネージ ャーの仕事ではないかと考えますと、作成後の継続モニタリングを利用者のアドボケイトのため にしていくということができないだろうか。これをやりつつ、本当に1年ぐらい安定したときに はケアマネジメントは終了するという形になれるといいかなと、そういうことであります。この 辺りが現実的にできないか。 (PP)  パワーポイントの前の図で言いますと、紫色のところ、右側の3つ、サービス利用計画の作成、 サービス利用(の調整)、モニタリングのところが、実は今、指定相談支援事業者の仕事という ことになっていて、その前の黄色と赤のところは、市町村と委託相談支援事業者の仕事というこ とになっています。しかし、実際は関係づくりの部分、窓口に来た方々とコンタクトを取って、 どんなサービス、障害程度区分を受けようかねとか、そこら辺の相談かつアセスメントのプロセ スが、高齢者の方々と異なり大変時間がかかる。ところがそのプロセスに何ら評価がないので、 指定相談支援事業者がほとんどそこをやれていないということに大きな問題があるのではない かと、私は思います。もし、そこが評価できるような制度設計に今後変えていけたら、地域にお いても本当にケアマネジメントができるということが言えるのではないかと考えております。  この辺り、知的障害の方々というのは、子どものころからお子さんとお母さんとでずっとケア プランをつくるということをやってきているので、余りこれは要らないんです。ところが、精神 障害の方々というのは中途障害ですので、今までそういう情報が全くない中で病気になり、障害 を抱え、そこでどういうサービスを利用したらいいかがわからない中で地域で今後生きていく。 その場合にはケアマネジメントという制度がしっかりしていて、いろんなサービスの活用が出来 る、そういう姿が必要になるのです。 (PP)  特に引きこもり傾向が強い方に関しては、訪問型の生活訓練を何とか利用できないかというの が、もう一つ、我たちの主張にはありまして、そのことを述べたいと思います。ただ、この実現 のためには、自立支援法の相談支援事業、生活訓練事業の大幅見直しが必要になります。 (PP)  この図は、今、市川で厚労省の推進事業のお金をいただいて試みにつくっているところなんで すが、相談支援事業のスタッフに半専従のスタッフを3人ぐらい置いて、訪問型生活訓練の方も 専従のスタッフを3〜4人置いて動かしている。そうすると、今までサービスにつながらなかっ た引きこもり状態の精神障害を持った方々で、かつ医療的なニーズは余り高くない方々にも確実 に引きこもり状態から回復する支援が行われ始めていると、そんなことをあらわした図です。 (PP)  最後の図は、そういうわけで、通所できない、ニーズの高い人々のための訪問型のケアマネジ メントによるサービスのシステムをつくるということを、ケアマネジメントをとても大切に思っ ているサイドからは、是非皆さんにわかっていただきたくてプレゼンをしたということをまとめ させていただきました。  御清聴どうもありがとうございました。(拍手) ○樋口座長  どうもありがとうございました。  伊藤参考人から、ACTの経験を踏まえながら、アウトリーチの重要性と、その中にあっての ケアマネジメントの役割の大事なところ、そして多職種チームを構成して連携を強めていかない と、これはうまく機能しないというようなお話をいただきました。  5時半には終了となりますので、あと5分ほどしかございません。どうしても是非聞いておき たいという御質問がありましたら、簡潔にお願いいたします。広田構成員。 ○広田構成員  西田参考人の38ページの津市の早期支援事業概略図があるんですけれども、さっき佐藤先生 の方は、とても当事者をに応援されるお話もあっだったんですけれども、私、精神医療が国の社 会を担うのかと驚いているんです。何か東京ぼん太が風呂敷包んで担っているような感じで驚い ているんです。これが全国展開されたらば、まさに、今の精神疾患を治せない精神医療が国を担 うのかと驚いているんです。驚きは驚きとして、学校精神保健支援委員会というところに、いわ ゆる精神疾患の経験者、当事者が入っているのかということです。 ○西田参考人  大事な点だと思いますけれども、現状では、こういうシステムを地域の人たちと協力してつく り始めているところなんです。当事者の方のメッセージとか体験の話をきちんと入れていくとい うのは啓発の大事なコンポーネントということがどこでも言われていることですので、さっきお っしゃられたように、まず学校が抱えている精神保健的な問題にサポートしていかないと、授業 的な教育をやったり、話を聞いていただくということはなかなか難しい現状なんです。だから、 まず学校が安心して精神保健についての相談をできるような環境を整えて、それで大分落ち着い てきたところでそういった当事者の方を含む学校への介入というか、働きかけというものを今後 つくっていければいいなと思っています。 ○広田構成員  そういう意味ではなくて、何かを立ち上げるときに、経験した人が入ることが大事なわけです。 ピアが。そういう視点が欠けていると、いつも当事者が不在で、専門家、専門家と、今の伊藤先 生ではないけれども、話を聞いていると、社会的入院の患者がメインなのか、専門家が食べられ ることがメインなのか、どっちなのかなと思ったんですけれども、とにかく当事者不在なんです。 尊厳を持って多くの人から私たちが対応されていれば、それらしい人間になる。それが粗末に扱 われれば狼少年になるわけです。尊厳を持って当事者がきちんと、こういう委員会のときに最初 から構成のメンバーに入っているかどうかということです。そういう視点がなければ当事者不在 です。それと、こんな大がかりなことを東京や横浜でやったら大変なことになるということで、 感想です。  今、諸外国の話が出ましたけれども、私も10回海外に行かせていただいていますけれども、 海外のテレビと日本のテレビは違うわけです。世界から5番目に平和な国だと外国から評価を受 けているこの国の国民が、調べてみると、全然幸せを感じていない。不安なんです。先日もマス コミの偉い人と会ってきたら「こんな格差社会で、日本はどうなっちゃうんですか、広田さん」 と言うから「そういう報道で不安をあおっているのがあなたたちでしょう。まさに日本国民を不 安神経症にさせているのはマスコミ報道でしょう」と言って帰ってきたんですけれども、相談を 受けていても、不安障害がすごく多いです。そういうことで、常に絶えず当事者を入れる視点が あるかということで、西田参考人に伺いました。そういうことです。 ○西田参考人  ありがとうございます。津市の取組みというのは、こう書くと大がかりなんですが、非常に顔 の見えるところから始めているもので、地域や学校や保護者の方々のニーズとコンタクトを取り ながら進めているものなんです。顔の見える連携の中でこういうシステムをつくり始めていると いうような状況であります。 ○樋口座長  どうぞ。 ○谷畑構成員  今日のお話の中でのキーワードの1つが恐らく「学校」ということだったろうと思っておりま す。中学校と高等学校を一くくりで書いてありますが、都道府県教委と市区町村教委がそこまで 連携が取れているかというと、十分に取れていないように感じるわけです。  例えば、非行防止、または引きこもり防止ということで、市教育委員会は一生懸命、小学校、 中学校の間、対応するわけですが、その後、高等学校に行くと、大概が都道府県立高等学校とい うことになります。その中において中退をするというときには、情報としては市教委にフィード バックされてこないということで、いつの間にか社会のシステムの中から消えてしまっていると いうことが多々あるわけであります。  また、教育委員会と首長部局というものも、地方自治の中は多元主義ですので、十分に一体化 できているかどうかということもありますので、こういったことを取り組むには十分な法的枠組 みが必要になってくるのではないかなと思います。  その法的枠組みにつきましても、財政的な根拠、裏づけというものが必要ではないかなと思う わけでありまして、こういった場に、できれば文部科学省さんについてもお話を聞いておいてい ただけたらありがたいと思うわけであります。  発達障害者支援法につきましても、システムはできましたけれども、財政的な根拠、裏づけと いうものがまだまだ不十分だと思っておりますので、そういったところで財政の部分をきちんと 法律で押さえておくということは大事な視点ではないかなと思います。  それから、ちょっとだけ外れるんですが、次回の9月2日は9月議会で欠席をさせていただき ます。9月25日は、その10日後から市長選挙が始まりますので欠席をさせていただきますが、 落ちましたら来られませんので、今日は1つだけ申しておきます。  実は、地域生活に移行するためには、当然、精神科救急というのが非常に重要なんですが、今、 申しましたような法的枠組みを考えますと、精神科救急医療体制については要綱で実施をされて いると思うわけです。精神保健福祉法第47条第2項の紹介事務の一部を成すというような形で 取り組まれていると思うんですが、そういった中で、都道府県においてきちんとシステムをつく る、そして医療関係機関等々との連携を義務づけるということは、やはり要綱では少し法的なバ ックグラウンドが弱いのではないかなということで、できれば法の本条の方に位置づけた上で、 先ほど申しましたような財政的な裏づけも含めた形をとっていく必要があるのかなということ を、逐条解説とかを読んでいて気がつきましたので、指摘をさせていただきたいと思います。  以上です。 ○樋口座長  ありがとうございました。  時間がオーバーしておりますが、佐藤先生、最後に一言お願いいたします。 ○佐藤参考人  プレゼンテーションのときに最後の1枚を忘れておりまして、そこだけ追加させていただきた いと思っています。  36ページの「認知症患者の入院」というところでございます。認知症患者さんの入院で、周辺 症状、行動障害とか、せん妄状態とか、精神症状、そういうものだけが対象になるんではなくて、 やはり精神科医療の対象としては、末期の方も、あるいは重度器質性脳障害の方で寝たきりにな った方も、やはり精神保健福祉法の対象になるんではないか。したがって、身体合併症の医療も 含めて、医学的な身体管理を行えるような医療状況を精神科病床にも考える必要があるんではな いかということと、医療法入院の対象になりません。非常に難しいので、入院形態についても少 し工夫が必要です。  そういうことについてお話ししようと思っていたのを忘れていましたので、一言追加させてい ただきました。 ○樋口座長  ありがとうございました。  どうぞ。簡潔に。 ○中島構成員  わかりました。最後のページは自信がないから飛ばされたのかなと思ったんですけれども、そ うではなかったようなんで、一言お尋ねしたいんです。BPSDだけが精神科医療の対象ではな いということは全くそのとおりだと思うんですが、認知症だけで精神科病床に入院しなければな らない、年を取って認知症になった人は精神病床で最期を迎えるんだ、そのことがいいとおっし ゃっているわけではないですね。 ○佐藤参考人  いえ、それもいいと言っておるわけです。仙台の方でもBPSDだけに限ってやっていたんで す。ところが、それだけでは済まない状況が起こりまして、経過を診ていくと、大体末期に行く わけでございますから、寝たきりになって、精神機能はほとんどないにひとしいような状態にな る。だけれども、身体ケアは必要である。これをどこでケアするかという問題があるわけです。 ですから、現実を見据えて、一回この検討会で検討していただければいいということで、提案し ておきました。  とにかく現実にそうした患者さんがいて、BPSDがない場合、施設の方でケアしてはどうか ということで、そちらへ紹介していたんですが、そちらへ行くと医療サービスが十分受けられな いという現状もあるんです。受けられないことはないんですが、十分でないという現状がある。 福祉施設でみとりで亡くなられるのもよろしいが、精神科病床も医療ベッドですから、末期にな ったからといって施設へお願いするというのではなく、精神科医療の対象として精神科病院でも 十分医療の対象とできる入院形態やシステムを検討すべきではないか。 ○中島構成員  おっしゃっていることはよくわかりますけれども、1つは、一般医療の貧困ということもちゃ んと考えて、バランスを取っていかなければいけないんではないかなと思ったわけです。 ○佐藤参考人  それは当然のことで、それを検討してください。今はそれが十分でない、追い出すようなこと はしないようにということであります。 ○樋口座長  ありがとうございます。この点は論点整理の中でも1つの大きな課題として今後検討する課題 になりますので、また具体的なところの御登録を継続していただきたいと思います。  本日は4人の参考人の方々、大変貴重なお話をわかりやすくしていただきました。これからこ の検討会で議論をしていく上で、非常に示唆に富むお話だったと思います。改めて皆様で感謝の 拍手をして終わらせていただきます。 (拍 手) ○樋口座長  では、事務局から最後にありましたらどうぞ。 ○林課長補佐  どうもありがとうございました。事務局からも参考人の先生方に貴重なお話をいただいたこと を厚く御礼を申し上げます。  次回でございますが、第9回は9月3日水曜日15時〜17時30分、厚生労働省9階の省議室に おいて予定しております。  また、第10回は9月25日木曜日の10時からでございます。10月の日程も設定させていただ きまして、第11回は10月17日金曜日15時から、第12回は10月29日水曜日15時からを予定 いたしております。  事務局からは以上でございます。 ○樋口座長  どうもお疲れ様でした。これで終了いたします。御苦労様でした。 【照会先】  厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部  精神・障害保健課企画法令係  電話:03-5253-1111(内線3055、2297)