08/02/20 第12回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録について 第12回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会 議事次第  ○ 日  時 平成20年2月20日(水)14:00〜16:00  ○ 場  所 厚生労働省 省議室(9階)  ○ 出 席 者    【委 員】  前田座長           鮎澤委員 加藤委員 木下委員 楠本委員 児玉委員 辻本委員           豊田委員 樋口委員 南委員  山口委員 山本委員    【参考人】  矢作直樹参考人            東京大学大学院医学系研究科救急医学講座 教授            診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業 東京地域代表   【議 題】     1.行政処分について     2.届出について     3.その他   【配布資料】     資 料 1   行政処分について     資 料 2   届出について          参考資料   医療安全調査委員会(仮称)における調査について            (第11回検討会資料) ○医療安全推進室長(佐原)  定刻になりましたので、第12回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在 り方に関する検討会」を開催させていただきます。委員の皆様方におかれましては、 ご多用のところ、当検討会にご出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  はじめに、本日の委員の出欠状況等についてご報告いたします。本日は、堺委員、 高本委員よりご欠席の連絡をいただいております。また、警察庁刑事局刑事企画課の 北村課長の代理として、吉越課長補佐にご出席をいただいております。  なお、外口医政局長は、若干遅れる予定でございます。また、木倉審議官は他の用 務のため、本日は欠席をさせていただきます。  次に、お手元の配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名 簿のほかに、資料1「行政処分について」、資料2「届出について」。参考資料として、 前回の資料ですが「医療安全調査委員会(仮称)における調査について」の3つがあ りますでしょうか。  また、委員の皆様の机の上には、参考資料集もお配りしております。以上です。資 料の欠落等がございましたら、ご指摘をいただきたいと思います。ないようでしたら、 以降の議事進行につきましては、前田座長、よろしくお願いいたします。 ○前田座長  本日もお忙しい中、お集まりいただきまして、どうもありがとうございました。そ れでは、早速、議事に入るところですが、1つお断りを申し上げたいと思います。本 日、参考人をお招きしております。東京大学大学院医学系研究科の救急医学講座の教 授矢作直樹先生でございます。矢作先生は、救急医療の第一線で活躍されておられ、 幅広い診療科の知識をお持ちであるとともに、平成19年4月より行われている「診 療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の東京地域の地域代表として、モデル 事業が調査対象としている、いわゆる診療関連死等について、医療機関から相談を受 けてこられたというご経験もお持ちです。  本日の議事では、あとで議論をしていただくわけですが、かなり具体的な事例を取 り上げて議論してまいりますので、是非参考人としてご参加いただいて忌憚のないご 意見をいただければということで、ご参加をお願いしました。お諮りしないで、今回、 先にお呼びしてあるという形で、本当に恐縮ですが、よろしいでしょうか。本当に恐 縮ですが、何卒お許しいただきたいと思います。  それでは早速ですが、議事に入らせていただきたいと思います。本日の議題は2点 です。資料が2つに分かれておりますが、1点目が行政処分です。これについては、 今まで議論してまいりませんでした。ただ、非常に重要なことですので、今日活発な ご議論を賜ればと思っております。  2点目の届出については、前回、前々回と特に届出の範囲について議論を重ねてま いりましたが、参考人にも来ていただいて、事務局からより具体的な材料を出してい ただいておりますので、ご議論をしていただきたいと思います。  それでは、まず事務局から資料に基づいてご説明をいただければと思います。よろ しくお願いします。 ○医療安全推進室長   それでは、事務局から両者一括して20分ほど時間をいただきまして、説明させて いただきます。まず、資料1「行政処分について」です。こちらは医療安全調査委員 会の報告書が出たあとの行政処分の在り方について、どのようにしていくのかについ て、ご議論をいただきたいという趣旨で作らせていただきました。  まず大きく1と2があり、1は「現状」、2は「今後の基本方針(案)」です。1の1) ですが、医療事故は、システムエラーによって発生することが多いことが指摘されて いる中で、医療事故に対する行政処分は、原則として、医師法等に基づく医療従事者 個人の処分のみが行われているという現状にあります。2)また、医師法等に基づく 処分の大部分は、刑事処分が確定した後に、刑事処分の量刑を参考に実施されている のが現状です。  3)一方、平成18年の医師法改正で、これまでは医業の停止あるいは免許取消し という処分しかなかったのですが、新たに戒告、再教育研修の導入などがなされ、行 政処分の在り方が見直されたところです。  2.「今後の基本方針(案)」です。1)医療安全調査委員会(以下、委員会)は、責 任追及を目的としたものではないことから、医療事故に対する行政処分は、委員会と は別の組織において行うこととしてはどうか。2)委員会では、医療事故におけるシ ステムエラーの観点からの調査が実施されることから、医療事故に対する行政処分は、 委員会の調査結果を参考に、システムエラーの改善に重点を置いたものとしてはどう か。  3)は、具体的にはということで、(ア)システムエラーの改善を目的とした医療機 関に対する処分類型を、医療法上で新たに創設してはどうかということです。矢印の ところは、具体的には医療機関に対して、医療の安全を確保するための体制整備に関 する計画書を作成し、再発防止策を講ずるよう、業務改善命令を行うというものです。  こちらに関しては4頁のいちばん下に「参考条文」があります。現在、医療法では どういうものがあるかというと、第二十八条に、知事は、管理者に犯罪又は医事に関 する不正行為があり、その者が管理をなすに適しないと認めるときは、開設者に対し その変更を命じることができる。いわゆる管理者の変更命令でありますとか、次の頁 は、第二十九条知事は、開設の許可の取消あるいは期間を定めての閉鎖命令、と非常 に厳しいものがありますが、一歩手前にあって、医療安全を確保するための体制整備 を命ずるようなものというのは、現在の医療法にはないという状況にあります。  2頁です。(イ)医療事故がシステムエラーだけではなく、個人の注意義務違反等も 原因として発生している場合は、医師法等に基づく医療従事者個人に対する処分を、 医道審議会の意見を聴いて実施する。その際、業務の停止を伴う処分よりも再教育を 重視した方向で実施してはどうかということです。  この際の論点として、最低2つあるかと思っていますが、(a)処分の対象となる事 例の判断をどのように行っていくのかということで(案1)(案2)を記載しています。 (案1)は、どのような事例を審議するかについては、公表された医療安全調査委員 会の報告書の内容を確認した上で判断することとするという案と、(案2)は、どのよ うな事例を審議するかについては、医療安全調査委員会からの通知の有無によって、 この判断をしていくということかと思います。  (b)で、処分の対象となる事例の範囲を、どのように設定するのかということで、 (案1)は、以下のような事例(捜査機関への通知の範囲と同様)を対象として行政 処分を行ってはどうかという案と、(案2)は、対象となる事例については、捜査機関 に通知される事例に限らず、医療従事者の注意義務違反の程度のほか、医療機関の管 理体制、医療体制、他の医療従事者における注意義務の程度等を踏まえて判断をして はどうかということです。以上が行政処分に係る論点についての説明です。  続きまして資料2です。資料2は8頁にわたる資料ですが、3部構成になっており、 I「これまでの議論」ということで、12月、1月に提出した資料から抜粋しておりま す。  3頁にII「届出義務の範囲に該当するか否かを医療機関において判断する際の考え 方」を記載しています。5頁には「具体的な事例」ということで、届出範囲[1][2]ある いは「不要」について、具体例を挙げています。これらの事例はモデル事業の事例な ど、実際の事例を参考に、事務局で多少修正をさせていただき、提示しています。た だ、厚生労働省として事故の詳細を知ることはなかなかできませんので、数行で記載 しています。  また、具体的な事例の作成に当たっては、実際には数行だけの情報ではなく、それ ぞれの患者には、それぞれ特有の病歴、置かれた医療環境など、いろいろなことがあ りますので、それらを勘案して考える必要があるかと思いますし、また一概になかな か判断できないものかとは思いますが、そう言っておりますと、届出範囲の議論もで きませんので、今回はあえてご議論いただきたいということで提出しています。  1頁に戻り、Iこれまでの議論について、簡単におさらいをさせていただきたいと 思います。1)ですが、届出範囲は、以下のようにしてはどうかということで示して います。四角の中の文言については、次の頁のフローチャートを前回の検討会のとき に出しております。  2頁のフローチャートを見ますと、例えば、致死量の薬剤を誤って投与してしまっ た場合には、このフローチャートで、「誤った医療を行ったことが明らかか」、致死量 の薬剤ということなので「明らか」。「その行った医療に起因して患者が死亡したか」、 起因したということで届出範囲の[1]に該当。  逆にリスクの高い手術を行って、手術中に患者が亡くなってしまった、その手術の 手技に問題はなかったという場合であれば、このフローチャートでいくと、まず手術 自体はちゃんとやった、誤った医療を行ったことは明らかではないが、これに起因し て患者が亡くなった。左へ行き、これを予期していたか、予期していなかったかが、 非常にリスクの高い手術だということで予期していたということであれば、届出不要 の(b)に該当するのではないかと一般的には判断されるのではないかと考えていま す。  1頁に戻って、このような判断は、四角の中に書いてありますが、このフローチャ ートに従って、以下の[1][2]のいずれかに該当すると医療機関において判断していただ くということで、これに該当しないと医療機関が判断した場合は、届出をする義務は 発生しないということで提案しています。  3)は、遺族からの調査依頼です。もし医療事故による死亡、あるいはそれを疑わ せることがあった場合は、医療機関は通常は遺族に対して、何があったのか、医療機 関としてそれをどう判断したか、したがって届出をすることにしたのか、しないこと にしたのかを説明をしていただくことになると思いますが、医療機関としては届出の 義務の範囲に該当しないと判断したが、遺族としては調査をすべきであるということ で考えれば、3)に書いてあるとおり、遺族から委員会への調査を依頼することを可 能としてはどうかということでした。  4)については、医療機関においては、届出の範囲に[1][2]に該当するとは判断しな いが、遺族が調査を望む場合には、医療機関からの届出ができることとしてはどうか。 これは義務ではないが、できるという規定で、してはどうかを議論していただきまし た。  5)は、いわゆる届出のペナルティのことですが、届出範囲[1][2]に該当すると医療 機関において判断したにもかかわらず、故意に届出を怠った場合又は虚偽の届出を行 った場合は、何らかのペナルティを科すことができるとしてはどうかということです。 何らかのペナルティについては、どのようなものが適当なのかという議論はこちらで もありましたが、現行の医師法第二十一条のような刑事罰ではなく、行政処分でまず は対応してはどうかと厚生労働省としては考えております。ただ、医師法第二十一条 のように、刑事罰が直接適用される仕組みが必要というご意見もありますので、さら に慎重に検討していくことではないかと考えております。行政処分の場合であれば、 具体的には届け出るべき事例がきちんと届け出られなかったということであれば、医 療機関の管理者に対して、届出がきちんとできる体制、整備を命じるといったことが 考えられるのではないかと考えております。以上がこれまでのところです。  続きまして3頁のII「届出義務の範囲に該当するか否かを医療機関において判断す る際の考え方」で、新たにたたき台を作ってみました。まず1.「届出範囲[1]に該当す るか否かの判断」です。1)は、フローチャートをそのまま書いてあるだけですが、 誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して患者が死亡した 場合、届出範囲[1]に該当するとして扱うということです。5頁の事例1を見ますと、 がん患者に化学療法(抗がん剤による治療)を開始した際、2日間かけて持続的に抗 がん剤を投与するべきところ、2日分の量を数時間で急速に投与した。投与判明後、 副作用に対する治療を行ったが亡くなったという場合であれば、届出範囲[1]に該当す るのではないかと判断されるのではないかと思われます。  一方、3頁の2)ですが、(ア)に、血管内カテーテル治療中の血管の損傷あるいは 穿孔で孔があいてしまったという場合、どのように考えるのか。一般的に血管カテー テル治療を実施した場合には、一定の確率で穿孔というか血管に孔があいて、そこか ら出血して死亡してしまうことはあり得るわけです。  そのような場合に、どのように考えていくのかについて、7頁の事例12を見ますと、 高度の動脈硬化があり、心機能低下を認め、さらに、両側の腸骨動脈が完全閉塞した 患者に対して、血管内カテーテル治療により、閉塞部分の血管拡張を行っていた際に、 動脈が穿孔してしまった。緊急手術を実施し、止血をしたが、出血が多く、出血性シ ョックで亡くなってしまった場合に、どのように考えていくのかということです。  この際、2頁のフローチャートを見ていただきますと、カテーテル検査をやって孔 があいてしまい、亡くなった場合、一般的に医療者以外の方はどのように考えるかと いうと、誤った医療を行ったことは明らかだ。カテーテルで孔があいてしまったとい うこと自体、そもそも誤った医療ではないか。したがって、届出範囲の[1]に該当する と考える方が多いのではないかと思います。  逆に、医療者の場合はそうではなくて、手技自体はきちんとやっている。したがっ て誤った医療を行っているわけではなく、ただ、これに起因して患者が亡くなったこ とは確かにそうだろう。でも、死亡することを予期していたかというと、ハイリスク な医療行為であり、ある程度予期していたということであれば、このフローチャート の「届出不要(b)」になるということで、おそらく同じ行為の同じ結果を見ても、患 者サイドと医療者との間の認識のギャップがあるのではないかと思います。言ってみ れば、行った医療の結果を見て誤りというのか、それとも過程が誤っていたのかどう かを、どのように考えていくのかによって、このフローチャートはどちらにでも流れ るのではないかと思います。  しかし、事務局の案としては、3頁の2)を見ますと、例えば以下の(ア)〜(ウ) のような結果が生じた場合でも、医療を行った過程に誤りがなく、侵襲的な医療を行 う際のやむを得ず発生した事象、いわゆる合併症として、合理的に説明できる場合に は「誤った医療」に該当しないという整理にしてはどうか。同様の事例は(イ)の外 科手術中の癒着組織の剥離のケースや消化管の内視鏡をやったときに孔があいてし まったといった場合についても同様ではないか、という提案をさせていただいており ます。  もちろん届出義務の範囲の[1]に該当しないと医療機関が判断した場合でも、遺族か らの調査ルートはあるわけで、先ほどの血管のカテーテルの場合でも、医療機関とし ては届出範囲に該当しないと判断した場合でも、遺族が望めば調査をすることができ るということではないかと思っています。  3頁の3)は、「誤った医療」ということには重大な検査結果等の見落としなども含 まれるのではないかということで、例えば事例の3を見ますと、朝、突然頭痛を訴え、 受診した患者に対してCTを撮影し、主治医は放射線科の医師の読影結果を読まずに、 くも膜下出血ではないと判断して、帰宅させた。翌日、意識消失発作で緊急搬送され、 亡くなった。CT画像に関する放射線科の医師の読影結果を見直してみると、「くも膜 下出血」と記載されていた。こういう重大な検査結果の見落としがあれば、届出範囲 の[1]に該当するケースとして扱ってはどうかということです。  4)は、例えば事例4とか、5のような結果が生じた事例については、どのように考 えていくのかということで、事例4というのは、看護管理の中でよくあることかと思 いますが、気管内挿管し、人工呼吸器による管理を行っていた。呼吸状態が安定して きたため、気管内のチューブを抜去し、簡便な鼻マスクによる在宅人工呼吸療法に移 行する方針としていた。人工呼吸器の離脱を開始していたが、深夜、病室で人工呼吸 器の異常アラームが鳴っていることに長時間気づかず、看護師が巡回した際に人工呼 吸器の管が外れているのを発見し、心肺蘇生を開始したが死亡したといった場合で、 このような場合には届出範囲の[1]に該当することとして扱うことについて、どう考え るかということです。  5)は、誤った医療を行ったことは明らかであるが、その行った医療に起因した死 亡ではないと判断した場合には、届出不要(a)に該当するのではないかということ で、具体的には事例の6を見ますと、腎不全、DICなどの非常に重症な患者に対して、 胃粘膜保護剤を1日量を1回量と誤って3倍量投与してしまった。その後、容態が進 行して多臓器不全で亡くなったという場合には、投与量を間違えたということ自体は 「誤った」ということですが、これで患者が亡くなったとは判断できないということ であれば、フローチャートで言うと、届出範囲不要の(a)に該当するということで はないかということです。  なお、届出範囲の[1]については、誤った医療を行ったことが明らか、という条件に 該当するわけですが、これがすなわち捜査機関に通知する範囲ということではないと 考えております。前段の行政処分で説明したとおり、原則としてシステムエラーであ るのかどうか、あるいは故意や重大な過失があるかどうかを医療の専門家を中心に構 成される委員会での判断を仰いでいくことになるのではないかと思います。  2.「届出範囲[2]に該当するか否かの判断」ということで、まず1)は、誤った医療 を行ったことが明らかではないが、行った医療に起因して予期せず患者が死亡した場 合は届出範囲の[2]に該当するということで、フローチャートの文言をそのまま書いた ものです。  2)は、心臓血管カテーテルの例で申し上げたことの裏返しの議論ですが、行った 医療に伴う合併症に起因する死亡については、現在の医療では不可避なものも含まれ ており、合併症に対する標準的な処置を講じていて、死因が合理的に説明可能であれ ば、予期される死亡として届出不要(b)に該当するのではないか。  フローチャートでいきますと、(c)というのがありますが、これは行った医療には 直接起因しない死亡、例えば病態が悪化して亡くなった、あるいは別の疾患が発症し て亡くなったという場合には、届出不要(c)に該当するのではないかということで す。  最後に、3.「その他」です。1)は、患者の状態に合わせた標準的な看護を行って いたにもかかわらず、誤嚥、転倒、転落などによって患者が死亡した場合は、標準的 な看護を行っていたのであれば、届出不要(c)又は(b)に該当するとして扱うこと としてはどうか。  2)自殺については、従来どおり警察へ届け出ることとしてはどうか。3)医療を行 った過程に誤りがなく、適切に医療機器を管理していたにもかかわらず、医療機器の 不具合に起因して患者が死亡した場合には、従来どおり、薬事法に基づく対応。具体 的には製造販売業者からの(独)医薬品医療器機総合機構への報告になりますが、こ れをすべきではないか。  4)の院内感染に起因する死亡については、現在の医療では院内感染を完全に防ぐ ことには限界があり、標準的な院内感染対策を講じており、死因が合理的に説明可能 であれば、予期される死亡と判断し、届出不要(b)に該当するとして扱うこととして はどうか。  5)は、他院から搬送されてきた患者が死亡した場合、前の医療機関において行わ れた医療に起因すると判断した場合、届出範囲[1][2]に該当するとして扱って、死亡を 確認した転院先の医療機関が届け出るということにしてはどうか、ということをたた き台として書きました。  以上、29例を提示しましたが、冒頭に申し上げたとおり、それぞれの事例に書かれ た3、4行で直ちに判断することなく、実際には各患者の病態あるいは置かれた医療 環境等でいろいろ変わってくると思います。それらの要素を勘案して、届出義務の範 囲として、届け出るのかどうかは、各医療機関で判断をしていただくことではないか と思っています。  繰り返しますが、届出義務の範囲に該当しないと医療機関が判断した場合でも、遺 族からの調査依頼ルートはある。また、医療機関が遺族の意を受けて届出ができると いう仕組みもあるということです。これらの事例は、厚生労働省としては、ない知恵 を絞って作成してみましたので、不十分な点も多々あるかと思います。いろいろな視 点からご議論いただきたいと思います。以上です。よろしくお願いします。 ○前田座長   非常に具体的な例が出てきて、今までの議論からさらに一歩具体化するということ で、今の2番目の議論にすぐにご意見をという方もおられるかもしれません。議事の 整理の仕方がまずいかもしれませんが、行政処分のほうから先にご議論いただきたい と思います。そうしないと、行政処分の時間がなくなってしまう可能性があります。  行政処分に関しては、この委員会を作って、医療の質を向上させていくというとき に、病院に返していくだけではないし、刑事に送るだけでもない、その中間という言 い方が妥当かどうかは別として、行政処分をもう少し前に進めるべきであるという流 れが厚生労働省の中にもあって、その中で資料1で提示いただいたような案を出させ ていただきました。こちらは届出に比べればまだ抽象度の高いレベルで止まっている わけですが、是非忌憚のないご意見をいただければと思います。委員会と別の組織で 処分する。では、その組織はどうなるのかと、いろいろまだ不確定な部分があります が、ここで出された範囲で、また「ここをもっと確定してくれ」でもよろしいのです が、是非、委員の方から積極的なご意見をいただければと思います。 ○山口委員   行政処分の話がようやくここで取り上げられて、非常にうれしく思っています。い ろいろ届出制度の話が出てきてから、どういう事例が捜査機関に通知されるのかとい う話ばかりに、いつも話が行ってしまいました。、欧米で行われているように、こう いう事例があった場合、行政処分が先にあって、極めて例外的に刑事処分がとられる という日本のシステムができればと思っています。警察にどういう事例が行くかとい う話だけに終始している大きな理由の一つは、やはり行政処分の話が全然検討されな いで、行政処分の話が具体的に出てこないことではないかと思っています。その意味 でいうと、行政処分の話に踏み込んでいただいて、具体的な話が出てきたのは非常に うれしく思っています。  ただ、行政処分が実際にどういう形になるにしろ、行政処分の検討は、今検討して いる検討会とは別に、独立性の高い検討会で検討されなければいけないものだと思い ます。それから、ここで行われた指導なり処分が、各医療者に受け入れられるかどう かは、この調査を行い、こういう行政処分を検討する組織が、それなりに権威があっ て、医療者がその決定を受け入れやすい組織でなければいけないと思います。、そう いう意味で、行政処分の検討会は独立性が高く、医療界あるいは医学界が総力を挙げ て、従来からいろいろ言われているように、プロフェッショナリズムに則って、こう いう処分を行うようなシステムを構築していくことが肝要で、医療界・医学界を巻き 込んだ形で、この検討会が組織されることがいちばん必要なのではないかと思ってい ます。  最終的に行政処分というのは行政がやるのでしょうから、そういう所へ答申をする ような形になるのだろうと思いますが、その専門家集団によって検討された答申が十 分尊重され、迅速に実施されることを期待しています。  あとは具体的な話ですが、その審査の過程において当事者や対象病院と十分な事情 聴取のやり取りをして、処分が納得がいくような形となるようなプロセスが必要だろ うと思います。書類だけで中央で一括して処分が決まるということではいけないと思 います。各ブロックに医療安全調査委員会ができることが想定されていますから、そ れから言いますと、各ブロックにそれに対応するような形で、行政処分に関する組織 もできていくという形が望ましいのではないかと思っています。  実際にその中でシステムエラーを中心にとか、どういうものを、どの程度やるかは、 まだこれからの話かと思いますが、独立性を保って各学会なり、医療界なりが全面的 に協力できるような組織ができることを期待していますので、よろしくお願いしたい と思います。 ○前田座長    ほかの委員はいかがでしょうか。 ○樋口委員   私はこの間、ある会合に呼んでいただいて、いまこういう所で議論されているもの について、少し話をするような機会がありました。そこに集まられた方は、今回の案 については反対であるという人が何人もいらっしゃって、いろいろな形で説明をして もうまくこちらの意図が伝わらないということがありました。  私は改めて考えてみて、ここで医療事故あるいは診療関連死を我々は問題にしてい るわけですが、そこで何が問われているかというと、いろいろな問題が問われている 中の1つとして、事故があったときに、あるいは診療関連で人が亡くなったときに、 一体どういう形で責任をとらせるのか、あるいは責任をとるのかということの意味を 問い掛けているというか、つまり、責任のとりかたの意味自体をここで考え直すのを、 最大の課題の1つにしているのではないかと思うのです。  医療事故があった場合、それに関連した人が、誰かがハッピーになっているか、幸 せになっているかというと、そういうことはないのです。あるわけがないと私は思う のですが。そうすると、加害者と被害者という形はとっていますが、結局、両方マイ ナスなのです。プラスにはなっていないのです。マイナスとマイナスがいて、普通の 考えだとマイナスとマイナスを足すことしか考えていない。そうすると、マイナスが 増えるだけです。だから、医療安全を考えるというのは、思い切ってアクロバット的 な思考を要求するのです。  私は昔、算数も数学も得意ではなかったのですが、あっと驚いたのは、マイナスと マイナスを掛けるとプラスになるということです。私たちの眼前にある医療安全につ いても、そのぐらいの発想が必要なのです。そして、マイナスとマイナスを掛けてプ ラスにするためには知恵が必要です。つまり、マイナスの事象が出てきたときに、そ の中で組織でもいいし、個人でもいいし、誰でもいいのですが、1人、とにかく悪い 奴を見つけて、あるいは捕まえてターゲットにして「こいつが悪者だ」というのは、 あえていえば大して知恵もいらないということです。ところが、こいつに悪い者とい うレッテルを貼って、それで終わりにすると、みんなが幸せになるかというと、マイ ナスが増えるだけです。だから、何らかの形で知恵を絞る必要がある。その知恵の絞 り方の1つが第三者機関だ、医療安全委員会だと私は信じていますが、信じてくれな い人がいます。とにかく知恵が必要であり、さらに当然コストがかかるのです。もち ろん悪い奴を見つけてレッテルを貼るにも手続が要りますから、警察の方や検察の方 にはご苦労をかけていますが、相対的に見ると、本当の医療安全を追求するのに比べ れば、やはりコストはかかっていないと思います。マイナスとマイナスを掛けてプラ スにするような話を考えるためには、もっとコストがかかります。しかし、その覚悟 を持ってやらないといけないような話なのだと思っています。これが前置きです。  そこで行政処分のところですが、資料1の1頁に、平成18年の医師法改正で戒告や 再教育研修の導入など、行政処分の在り方が見直されとありますが、この3年前の検 討会に私はたまたま関与した関与者の1人です。医師だけではありませんが、医師を 中心とした医療従事者に対する行政処分の制度を何らかの形で改善しようというこ とに関わりました。  その点について述べる前に、まず行政処分の意味について申し上げます。しかも、 この点は重要です。どういうことかというと、法律家は、少なくとも行政法の専門家 は行政処分を通常いわれているのとちょっと違う意味で使ったりするのです。行政処 分というのは、国民の権利義務に関係するような国家の行為は、全部行政処分なので、 この検討会の関連で言うと、医師に免許を与えるのも行政処分なのです。それから、 医療法人にちゃんと病院を開設させるのも、それを認めてあげるのも行政処分なので すが、一般的には処分というと、悪いことしか連想しないのです。我々はここでも行 政処分というのは、そういう意味で、悪いほうの意味だけで使っているわけです。そ れが前提です。  資料1のそのあとの「今後の基本方針(案)」に、医療安全調査委員会は、責任追及 を目的としたものではないことから、行政処分は別の組織で行うとあって、これで間 違いはないのですが、これも考えてみたいと思っています。つまり、これだと行政処 分は責任追及、制裁のためだという発想になっています。悪い者をガンとやっつける という発想です。刑事処分ではないのだが、行政で処分するという発想なのですが、 それは診療関連死の場合、そこから医療安全につなげようという場合にはむしろマイ ナスを増やすだけになると私は思っているのです。  かつての行政処分の改善のための検討会の中で、私の同僚の1人で宇賀先生という 行政法の大家がいるのですが、宇賀さんが言われたことで宿題になって、その後も難 しくてやれない課題がありました。それというのは、行政処分についても不利益処分 という意味で用いているのですから、デュープロセスという適正な手続である事前聴 取やいろいろなことが必要になるのですが、医療の場面だけではなく、あらゆる行政 処分の、悪い意味での行政処分のところでは、事前に、どういう行為をやったら、ど の程度の行政処分になるかということを、それこそ今日、あとのほうで届出の事例と いうのが出てきていますが、あのぐらい詳しいかどうかはわかりませんが、何らかの 形で基準というものを明らかにしておいて、その基準を適用して処分するのですとい うことをやらなければいけないと言われているのです。ところが、医療者についての 行政処分については、実際上、相場観はあると思いますが、従来はそれを明らかにし てという話にはなかなか行っていない。そこでそれが宿題になりました。  そことの関連で今回、行政処分についてもさっき申し上げたアクロバット的発想か もしれませんが、思い切った発想の転換が必要だと考えるのです。いまここで言って いるのはいわゆる診療関連死の場合だけなので、医師で行政処分に遭っている人の中 には、患者は麻酔をかけられているから何をしてもわからないという状態にもなりま すから強制わいせつであるとか、医療と全く関係のない殺人事件を犯したというので 医師の資格剥奪というケースは、ごく稀ですが、あるのです。そういうのは論外なの で、これは責任追及、制裁で当たり前なのです。しかし、診療関連死の場合は、第一 次的には行政処分も制裁ではなくて、医療安全に資するための行政処分をやるのだと いうことを、まず明らかにする。そうすると、先ほどの宇賀説になるのですが、通常 の診療関連死では、そこに過失がある場合だと思いますが、戒告と再教育が原則です よとはっきり基準として明らかにすることになります。さらに戒告もなくて再教育だ けということもあり得るということをはっきり明らかにしたほうがいいのではない かと思います。  しかし、同じような事故を繰り返すようなことがあったら、それは医師を続けても らうのはどうなのかという話になるから、一旦は停止とか、それ以上の免許取消しと いうことはあり得ると思いますから、全く制裁的な要素を外すことはないと思います が、第一次的には医療安全策につなげるようなものとして行政処分を位置づけるとい うことです。過失によって事故が生じ患者が死亡した場合、例えば、私が遺族だった として、その担当した医師のことが憎いと思うかもしれない。やっつけてもらいたい と思うかもしれませんが、一方で時間が経ってくると、そういう形で自分の気が晴れ るだけで済むかというと、そうではなくて、医師が例えば、私の親族が亡くなって、 その命日に、1年に1度、その病院から、この医師は今年何人の命を助けました。あ なたのご親族と同じような手術で今回は成功した事例が何例ありましたという話を メールであれ、何であれ伝えてくれる。そういう形で責任をとってくれるのだったら、 そちらのほうがうれしいと思いたいと思うのです。本当に自分がそうなってくるのか どうかは仮定の例ですが、それにつながるための戒告とか、再教育という話で、行政 処分も利用するのだという形のことをどこかで原則として宣言していただくことの ほうが、先ほど言ったマイナスとマイナスを掛けてプラスに転じるという発想で制度 を運用していくことになるのではないかと思います。  そうすると、組織についても、組織を閉鎖されたのでは、病院閉鎖命令とか何とか 言われたら、ほかの患者が迷惑なだけなのですから、第一次的には何らかの業務改善 の勧告でも助言でも、そちらを中心にして、それを何度も何度も繰り返すような病院 だったら閉鎖しなければいけないという話になるという、段取りを明らかにしてもら う。  行政処分と医療安全のための調査について、組織は別にしなければいけないという のは、実は、行政処分も医療安全の目的遂行の手段ということなら一緒でもいいよう な感じもしますが、そうは言っても、戒告を受けるというのは名誉なことではなく、 不名誉な話なので、医療安全だけを考える医療安全委員会とは別の組織でやってもら うほうがいいと思います。  さらに、医療安全調査委員会では、とりあえず解剖をやって、今回のことはこうで したよという結果報告でその役目を終えるはずです。再発防止策としてはこういうこ とを考えてくださいというところまでで終わるのではないかと思います。しかし、こ ちらのほうの行政処分の組織は、再教育につなげたりすることになるのですから、そ の後のことも見ることになると思うのです。継続的な、それを監視というかどうかわ かりませんが、モニタリングみたいな話をするというのですから、一応役割も分けて やっていただくことになります。  ともかく、行政処分について、制裁ではないという方向性を、この行政処分のとこ ろでも思い切って出してみたらどうなのだろうか。医療事故については、何でも制裁 というだけで世の中が平和になって、うまくいくかというと、うまくいかないという 経験を、この何年か我々はしてきたと思うので、その経験に学んで、思い切って少し 考え方を変えてみる。厚生労働省の提案の中には実はすでにそういう考え方が入って きていると私は思うのです。だから、それを真正面からもっと明らかにして認めたほ うがよろしいのではないだろうかと考えてみました。 ○加藤委員   いまの樋口委員の発言にそのまま関連するわけではない点も含めて、この行政処分 に関して、私の意見を若干申し上げたいと思います。  まず、厚生労働大臣が行政処分として、例えば業務停止を何カ月か命じたとしても、 医療の安全にとって、果たしてどれほどの意味があるのだろうかと考えますと、その 後に復帰して医療をする以上は、教育なり研修なりに重点が置かれなければ、医療の 質の向上なり、患者の安全の確保にはつながっていかないだろうという点は、そのと おりです。  ただ、厚生労働大臣が行政処分をするという1つの権力的な作業の前に、私自身は プロの集団としての内部的な自律的なサンクションといいましょうか、あるいは教育 プログラムとか、そうした医療界・医学界の内部的な自律的な公正、客観的な同僚評 価、同僚批判、再教育という文化の土壌を形成するように政策を進めていくことが何 よりも大事なことなのではないかと思っています。  医学会は、学術研究団体としていろいろな専門医認定などもしたり、ルールやガイ ドラインを学会として定めたりしているのですが、必ずしも実効性という点でどうな のかなという事例もあるわけです。医師会においてもリピーターのドクターに対して、 どういう対応をするのかということは、それぞれの医師会で苦労をしている部分があ ると認識をしております。  そのような点で、前回、私は自浄作用という言葉を言ったのですが、医療界全体が 汚れていると思われたくないので、堺委員から自浄作用という言葉を使わないでほし いという意見がありましたが、私は、いま言ったような意味での専門家集団としての 自律的同僚評価、同僚批判、そして問題のある医師に対しては再教育、再教育が不能 な者に対しては排斥をするというプロとしてのけじめの付け方が、本当は大事なので すということを、ここで強調しておきたいと思います。  その次に、それでは不十分な部分を行政処分というものが担うという構造なのだろ うなと。行政処分の本命は、再教育をきちんとする仕組みを徹底して、その再教育に 馴染まない者は医師免許の取消しということにもなるだろうと思います。その究極は 医療の質の確保あるいは国民の医療を受ける権利、あるいは安全の確保のための営み であると理解をしています。  今日の事務局からの報告の1頁の下に、業務改善命令というのが出てきますが、医 療の安全を確保するために1つの医療事故をきちんと根本原因にまで遡って分析し、 再発防止につないでいこうという医療事故調査委員会の活動を通して見てみますと、 体制の整備の中には、例えば、人員の配置をきちんとしなければいけないということ などが出てきます。あるいは勤務体制の設定の仕方などを考えますと、実はコストの 問題とか、いろいろなことに医療安全の確保ということはつながっている部分が相当 色濃いということが見えてくるわけです。  そういう意味では、再発防止策を講ずるように業務改善命令を行うと書いてありま すが、私はかねてから言っているように、厚生労働行政の施策の問題点にまでかかわ ってくるので、業務改善命令ももちろんしなければいけない場面はあるでしょうし、 それだけでは足りない質量を持っているという事例も出てくるだろう。そういう視点 は落とさないでほしいと思いました。 ○前田座長   あと、こちらから指名というわけではないのですが、事務局の案でシステムエラー ということに関して強調されて、今までのご議論の中でも刑事処分に対して、システ ムエラーというのは我々の業界では監督過失が何だとか、チームの過失というのはな いことはないのですが、むしろこの案の中には、行政処分のほうが馴染むのではない かという発想も入っていると思います。その点について、今までの議論の関連で楠本 委員、何かございましたらお願いします。 ○楠本委員   後ろのほうの事例にもいくつかあるわけですが、看護の場合は先ほど加藤委員から もご発言がありましたように、標準的な看護を提供していても、やはり及ばない状況 がたくさんあります。特にこの検討会の中で議論されていることは医学(医術)に関 しての部分が圧倒的にあって、実は医療という、たくさんの職種、人々がかかわり合 って行っている営みに対して、どう見ていくかという見方に関して、今まで議論がさ れていなくて、システムエラーという観点で見ていただいて、1頁の3)にあります ように、システムエラーの改善を目的とした医療機関に対する処分類型が是非必要で す。たぶん1人の人を罰したところで医療の質向上、安全確保にはつながっていかず、 むしろシステムを、報告や連絡やシステムはどうだったか、指示受けから流れていく 実施までの状況、患者がそれを受けられる状況にあったかどうかということも含めた、 説明や同意を受けるような体制がとられていたか。さまざまな観点から見ていく必要 がありますので、体制整備に関する計画書の作成と再発防止を講ずるという、ここは 外してはならない視点だと思います。 ○鮎澤委員   実はいま言われたシステムエラーについて書かれている2)を拝見していて、あれ っと思いました。「委員会では、医療事故におけるシステムエラーの観点からの調査 が実施されることから・・・」という文章を読むと、個人の問題はどうなってしまう のだろうと気になります。たぶんこれは、これまでシステムエラーの観点からの調査 が必ずしも十分ではなかったことや、組織に対する業務改善命令などが議論されてこ なかったことから強調されているのだと思いますが、1)、2)3)とするならば、2)で はシステムエラーの観点だけを強調するのではなく、例えば、書きぶりはともかくと して、「委員会では、防止、再発防止、安全の向上、質の向上・・・どの言葉を用い るかは検討することとして・・・の観点からの調査が実施されることから、医療事故 に対する行政処分は、委員会の調査を参考に、改善に重点を置いたものにする」とし て、次の3)の(ア)で、システムエラーについては業務改善命令、(イ)で、個人の 問題については斯く斯くしかじか・・・というほうがバランスがとれるのではないか と思います。  こうすることで、先ほど樋口委員が言われた、何のために行政処分をするのかを2) で述べることができるようにも思うのですが、いかがでしょうか。 ○前田座長   私も同感です。事務局のほうも2)の書きぶりはそんなに意図して書いたわけでは ないですよね。いまおっしゃったようなニュアンスを含み得る。ですから、次回まで にそういう方向で修正していただく。確かにちょっと誤解を招く表現だとは思います。  もう1つの 2の議論をしなければいけないので、今回はちょっとまだ消化不良とい うところはあろうかと思うのですが、行政処分というのは、刑事とか民事の損害賠償 などに比べれば、よりはっきり医療を良くするということに向いているであろうと思 います。  それから、最初に山口委員が言われたのは、ある意味でいちばん重要で、ここのと ころでもまた医療側で処分されるのだから、これは規制が広がるのではないかみたい な発想になってしまうと全く逆になってしまいますので。先ほど山口委員が言われた ように、こういうものがあることを前提にサンクションが弱まっていくというか、狭 めることができるという問題です。  それとこういう処分は医療改善に向きやすい。どう見ても刑罰というのは、改善に 向けてと言っても、やはり処罰ですから、本質的に合わない、そちらの方向には向か ないベクトルだと思うのです。時間の関係がありますので、このぐらいで次に移りた いと思います。事務局から何かご指摘いただくことはありますか。  それでは、今日の中心は今まで積み上げてきましたので、だいぶ具体的な議論を煮 詰めて、事務局は大変なご苦労だったと思います。具体例を出していただきました。 これについてはご専門の立場から、それから被害者・患者の側からも個別の問題に関 していろいろご意見があろうかと思うのです。これについては、ちょっと順に整理を して、資料2に移ってまいりますけれども、3頁の届出範囲1に関する部分、それか ら2に関する部分、その他の3つに分けてご議論いただいたほうがいいかと思います。 どうしても全部つながるというご意見があればそれに従いますけれども、まず3頁の 届出範囲1について、ご意見、ご質問を頂戴できればと思います。 ○加藤委員   3頁の1の2)の(ウ)で、消化管内視鏡検査中の消化管穿孔、事例では16という のが出てきます。合併症として届けなくて済むかどうか、という議論がこの辺りで出 てくるところかと思います。例えば、16番の事例でいうと、内視鏡検査で消化管が穿 孔したからといって、普通すぐには死亡にはいかないです。その発見、その後の対応 がどうであったのか。さまざまいろいろな段階を経て、ついに死に至るというプロセ スをとっています。  そういう意味で言うと、消化管内視鏡検査中の消化管穿孔だから、それは合併症な ので届けなくてもいいというような判断にならないように考えていく、ということが 基本的に必要なのではないかと思っています。基本的には届けるということで考えて いる例なのかどうなのかと見てみると、事務局としては届出不要の、先ほどのフロー チャートの(b)に入ってくるという設定になっています。こういう考え方でいくと、 届出される例は非常に限定的な、といいましょうか、せっかく教訓を引き出して医療 の質の向上につないでいこうという尊い犠牲から教訓を引き出して、過ちから学んで、 医療をより良いものにしていく視点から見ると、大事なものが落ちていく危険性があ るのではないかと感じました。 ○前田座長   まさにそこのところなのです。広く委員会に持っていって、そこから教訓を拾い上 げていくという考え方もあるでしょう。届出をある程度明確なものに絞り込んでおか なければ医療行為はやりにくいという判断。まさに、本日初めてそこのところに突っ 込んだ議論をさせていただきますので、いろいろな立場から意見を頂戴したいと思い ます。ピンポイントで、この点までがマルで、この点からはバツということはおよそ あり得ないのですが、おおよその合意形成です。また、それを聞いて届出の範囲は大 体医療の現場にいる人間ならわかる、ということが重要だと思います。いまの点に関 連する発言だとありがたいのですがほかにいかがですか。 ○山口委員   今、加藤委員が挙げました、事例の16番を見ますと、確かにご指摘のように死亡に 至るには、どこか何か不適切な処置があった可能性を否定はできないと思います。こ れでいくと、穿孔を起こすまでのところはしっかり書いてありますけれども、加藤委 員からご指摘のあったようなところは、適切な処置をしたが亡くなったと一言で書い てありますので、肝心なところはわからないことになります。  ここで厚労省が言いたかったのは、いちばん最初のところの診療行為が、標準的な 診療行為として、それが適切だったかどうかというところで届出を判断する、結果で はなくて標準的な診療行為が行われたかどうかというところで評価し、問題ないとい う判断なら届出不要でいいという例に挙げられたと思います。その後の治療経過が、 今度は標準的にちゃんと対応できていたかというのはもう1つ別にあって、そこも含 めて本来は院内の委員会で検討し、最終的に適切であったかどうかという判断をして、 届け出るか否かを決める話かと思います。ここに書かれていることはこれでよろしい のかと思いますけれども、実際に亡くなっているということであれば、本当は検討す る範囲はもっと広いのだと思います。そういう意味では、例示をすることの難しさが あるのかと思います。 ○前田座長   まさに例示をすることの難しさで、判決の文言みたいに長いものだと議論しにくい ので、無理して詰めていただきました。山口委員がおっしゃったような趣旨も含め、 その後の部分についても適切であったことを前提に届出をしないという趣旨なので す。そうでなければ、患者側の意見としてはおかしいということになろうかと思いま す。それは私どもの責任で、ちょっと言葉が足りませんでした。  そうは言っても、加藤委員のようなニュアンスで、なるべく多く入れておいたほう がいいという考え方と、医療の常識からいったらこれは届け出る必要はないと。その 辺のすり合わせで、先ほど佐原室長がおっしゃったように、パッとこういうものを見 たときに、医療の現場にいる方と、患者、国民一般との間のギャップがあろうかと思 うのです。ここの議論で、そこが少しでも埋まればと思います。最後は、立場の違い とかいろいろ残るとは思うのですが、より一歩でも明確にできればということです。 せっかくこれだけ具体例を出していただいていますので、いまのような議論がいちば んありがたいのですが、疑問でもいいですのでほかの委員からもご指摘いただくこと があればお願いいたします。 ○木下委員   16番の内視鏡の事例もそうですが、15番の子宮がんの手術で、リンパ節を取るとき に大量の出血の結果として不幸なことが起こったという事例です。こういうものを、 第三者機関としての調査委員会で検討すべき事例かどうか疑問です。死因究明を行い どうして防げなかったか、どうすれば予防できたかに関して、担当する診療科でもそ うですし、院内での事故調査委員会できちんと対応することが当然である事例である と思います。  この届出の際に、相談するとか、スクリーニング的な役割機能を持つことを考えな ければいけないと思います。第三者機関に調査を依頼して、少しでも再教育につなげ ていくようなもの、あるいは刑事罰を考えなければいけないのか、犯罪に近いような ものではないか、という視点から調査していくというものとは違うと思います。  調査委員会へ届けないということは、全く調査をしないということではありません ので、その意味ではこのような事例というのは、院内の今申し上げたような調査委員 会で検討すべき事例であろうと思います。この事例は第三者機関に届けるようなもの ではないと思いますので、そのような仕分けをしていくと納得いくと思います。 ○前田座長   先ほどの議論と組み合わせるとちょっと錯綜してしまうのですが、再教育の問題、 それをこの委員会を経由して行政処分で再教育というだけではなくて、院内の委員会 からの情報で改善・再教育というルートもあるということですね。その辺の整理は 我々の責任でもうちょっときっちりしなければいけないと思うのです。  この委員会が受け入れるべきというか、ここに届け出るべき異状死の範囲という観 点でもう一回整理し直さなければいけない局面が出てくるかもしれません。いまの木 下委員のお話は15番と16番のことを具体的におっしゃったのだろうと思います。原 案を作った側でも、15番、16番はこの委員会に届け出なくてもいいのではないかと。 患者遺族の側から見てどうなのだろうかというところで、15番、16番辺りについて、 豊田委員、杉本委員のご意見を頂戴いたしたいと思います。 ○豊田委員   確かに全体的に患者の立場からみると、過った医療を行ったことが明らかか、明ら かでないかという最初のスタートの時点から、明らかという方向に考える事例が多い ように感じます。それでも私は遺族としての立場だけではなく、病院の中でさまざま な事例を見たり聞いたりしてきていますので、先生方がおっしゃられていることも理 解できる部分はあります。  院内できちんと調査しなければならないと思う事例が、届出不要だと現在考えられ ている事例の中に多くありますので、院内との連携が大切だと思います。実際にすべ ての医療機関が院内で調査委員会をきちんと立ち上げられるかというと、いまの段階 では立ち上げられる状況ではない病院がたくさん存在しています。やはり、第三者機 関と連携し、相談に乗っていただけるような体制であってもらいたいと思います。  よく医療現場の中の会話で、我々としてはそういう届出をする必要はないと思うけ れども、家族の立場だったらそう思うだろうなという声が出てきます。遺族や家族か ら見て、届出が必要だと思われているのではないかというものに対しては、なぜ届け 出ないのかということをきちんと伝えないと、そこから誤解を招くことにもなってし まうと思いますので、届け出ないことについて説明をする。これは、ペナルティなど の問題ではなく、むしろ遺族のほうが届け出てほしいということであれば、遺族から 届け出るなり、遺族が医療機関に依頼し、当該医療機関から届出をするという形を考 える。そこの部分はつなげておいていただきたいと思います。  相談体制をきちんとしていただきたいというところでは、たぶんこれは医療機関も 同じ気持ちで、実際にはかなり戸惑ってしまうと思います。、届出をする必要がある かどうかというのは、いくら議論しても必ず悩むと思いますので、そこは、自分たち の力でここはきちんと振り分けしていくという力も付けなくてはいけませんけれど も、受け入れるほうの体制も整えていかなければ機能しませんし、繰り返しますが、 患者の立場からすると、これは明らかではないかという考えになることが多いと思い ます。 ○前田座長   システムとしては、医療側が届け出なくても、遺族から届けることはできるという システムを採っています。ただ、医療の側でも、遺族というか患者の側の立場に立っ て出すか出さないかを判断していただきたいというのが重要なのだと思うのです。 ○辻本委員   基本的に、私も豊田委員がおっしゃっていることと全く同意であるということを前 提にお話をさせていただきます。先ほど来お話が出ているように、こういう事例が出 てくると一人歩きしていくので本当に難しいと思うのです。例えば、患者の年齢構成 とか、それまでの病歴、病態といったことによって中身も随分変わってくるというこ とが1つあります。  もう1つは、いま国民すべての患者が不信感の塊になっている人ばかりではない、 医療者とコミュニケーションをとることで冷静な判断ができる人だって一方にはい ます。ある意味では、そういうことがどう努力してもかなわないという医療側の対応 に不満を募らせる思いが患者側の現実の問題でもあると思うのです。  そこで、16番の事例云々ということ以前に、届出について資料2の2)、3)、4)、5) を見て1つ欠落していることについて。その前に届出範囲の中の2)で「合理的に説 明ができる場合には」という一文がありますが、これがまさに大きなポイントであり ます。その「合理的」というのは何をもって合理的とするかはまた別の議論だと思う のですが、それまで十分なケアが尽くされていて誠意を感じ、なおかつその後予期せ ぬ事態が起きた後の問題について、遺族側が納得できる対応がなされている上でコミ ュニケーションが図られた場合。病院側はこのマニュアルに即せば届けるべき問題だ けれど、遺族側がそれは結構ですという場面だってないわけではないと思うのです。 それが、届出についての中にはないということが気がかりです。  それから、いま申し上げましたように、合理的に説明できる場合にはというところ の問題は非常に大きい課題であること。即ち、この事故調というのは、日本の医療を いまより少しでも良くしていこう、患者側と医療者側がたとえ半歩ずつでも歩み寄っ て新しい関係をつくっていこう、という狙いが大きいと思うだけに、患者と医療者と の信頼関係の再構築をもう少し重点的に議論を尽くしていかないと、この、事例だけ で一人歩きしていくことの恐ろしさということをすごく感じました。  豊田委員がおっしゃるように、そういう状況の中で相談機関というのは、以前から 私も主張させていただいているのですけれども、不満も不安も引き受けて、その上で 積もる気持ちを吐き出した後に冷静な自分に戻り、本当に何を考えていくかというこ とを自分の問題として引き受けられるような患者の支援のシステムが、同時並行的に 整備されていかないと、この事例だけで云々していいのかどうかということは非常に 疑問だということを感じながら、すべての事例について読ませていただきました。 ○前田座長   出し方がまずかったのですが、ただ運び方によってはその事例だけで形式的にガイ ドラインづくりになってしまう可能性もあるので重いご指摘だと思います。  患者が、委員会に届け出なくてもいいと、ただ医療の側は届けたほうがいいという 事例をどうするかというのはちょっとご議論いただいておいたほうがいいと思いま す。将来の医療の改善のために、日本の医療をより良くするためにということでいく と、いくら患者遺族が納得したからといっても、将来これを貴重な材料として活かし ていくという議論はあり得ると思うのです。  ただ、相談的な側面を充実させていかなければいけない、ということは一貫してい ます。そこの部分について、今回は限界を切るガイドラインの方向にちょっと焦点を 当てて書いていますので言葉が足りなかったことはお詫びいたします。私の整理の仕 方がちょっと悪くて、届出範囲2についても、つまり4頁も含めてこれから先ご議論 いただきたいと思うのです。ほかの委員でご議論していただければということと、適 宜矢作先生からも、この事例に関して医学的な観点からご指摘いただくことがあれば ご発言いただきたいと思います。  この例の仕分けの仕方で、明らかに「届け出る」「届け出ない」で、一応仮の振分け が書いてあるわけです。この例は明らかにおかしいのではないか、というご指摘があ れば是非出しておいていただきたいと思います。先ほど山口委員がおっしゃった、後 半の部分の、処置がきっちりしているかどうかということは非常に大事なことです。 それは先ほどご説明のあった、合理的に説明できるかどうかということも、まさにそ こにつながっていますのでそれは踏まえていきます。今回出された範囲内で、この結 論はちょっと承伏できない、これは届け出なくていいのではないかとか、逆に届け出 ないとおかしいのではないかということはいかがでしょうか。  今回これで固めてしまうという意味ではありませんで、先に進めるためのご意見と してお聞かせいただきたいということなのです。矢作先生から何かご発言いただけま すか。 ○矢作参考人   個々の事例ではなくて、制度設計の問題で質問させていただきます。この医療安全 委員会を、いわゆる医療安全の向上に資するということであれば、医療現場が届け出 るか出ないか迷うような事例のときに、届け出られるようなほうに流れやすいように するというと、入口部分と出口部分の両方が問題になってくると思います。  入口の部分で言いますと、どうしても医療現場というのはペナルティという言葉に 過剰反応してしまいます。実際にはそういう厳しいことにはならないというのがわか るとホッとするところなのです。基本的には、こういう届出を多目にして、医療安全 に資するということであれば、入口のペナルティのところはなるべく抑えてというの が1点です。  出口のところでは、先ほどのも行政処分になると思うのですけれども、そこのとこ ろも社会常識的なところに落ち着く。つまり殺人とかカルテ改ざんしてしまったとい うようなもの以外はこの委員会で法的な判断、例えば重過失であるとかないとかとい うことを判断せずに、結果を出す。その結果が弁護士、あるいは国民が入ることで今 のモデル事業から演繹すると妥当なところへ行くのではないかと予測します。そうい う形に行くようにということが、もう少し表に強く出るといいかと思うのです。  このフローチャートと、それから実際の具体事例とでは少し乖離があります。厚労 省の事例というのは、届出不要が多くなりそうな感じがするのです。そういうのは先 ほど話題に出ていました、事例の12番とか16番というのも、迷ったら一応届けて、 良い審議をしてもらい、結果も公表され、これでよかったねという方向へ行くことが よいのではないかと個人的には思っています。 ○前田座長   非常に大事なご指摘です。いままでも少しは意識しているのですけれども、出口と 入口の差の問題です。入口をもうちょっと広く、それは先ほど加藤委員がご指摘にな ったことともつながっているわけです。原案を作る段階では、特に届け出ていただく 医療の側に対し、基準を明確に示さなければいけない。気楽に出して、というのが最 も怖がられるのではないか、という感覚がちょっとあります。  制度設計としては先生のおっしゃるとおりで、入口でたくさん入ってきて、中で医 師の代表がそれをチェックするわけですから、そこを信頼していただいて、そこで警 察へ送る部分は医師が決めるという制度設計でいっていただく、というのが本来望ま しいことです。それによって多くの事例が入ってきて、将来の医療の発展のために材 料がたくさん得られる、というのも1つの考え方だと思うのです。高本先生などは、 解剖の数とかそちらの縛りはおっしゃっていて、数値としてはそうだと思うのです。  その辺を含めて、このチャートで分けていったときに、厚労省側としては、これは 出してもらわないと困る。医療現場で迷うときは出さなくてもいいですよ、というニ ュアンスをちょっと入れながら作っている感じがするのです。私がしゃべりすぎて申 し訳ないのですが、いまの点でどなたかご発言いただけますか。  それからペナルティの問題は、ここに書いてありますように届出をしなかったとき にペナルティというのは、故意にやったときなのです。そうすると故意の立証が要る わけです。明らかにこれは届けなければいけないという認識があったのに出さなかっ た。それは、私は届出をしなくてもいいと思いましたと言えば故意が全部否定される わけではありませんけれども、客観的に医療の常識として、これは届け出なければい けないよねと、固まったことを認識しながら出さなかった場合しか立件できないのだ と思います。  しかも、今回は刑事罰を考えるわけではないので、我々法律家はそんなに厳しいこ とを言っているつもりはないのですが、やはり医療の側からはペナルティという言葉 に対して相当強く反応されます。ただ、これがなくなると材料が集まらなくなる、と いう感覚がどうしてもあります。出す先生と、出さない先生の差が広がりすぎてしま って、そこのところをどうしたらいいかということで、何らかの意味でペナルティを 付けておかないと、ある程度の量は出てこないのではないか、届出はいただけないの ではないかというシステム設計になっています。 ○矢作参考人   それは、現実的には豊田委員もご指摘されていましたように重要なことだと思うの です。それは、家族側が医療安全機構のほうに相談できるルートがあることで随分変 わるでしょう。  もう1つは、隠してしまったという気持があったとすると、今度は逆に後で漏れて しまったときに、当然しっぺ返しを強烈にくらいます。善良にきちんと審議してもら うと、どう考えても、警察・検察の方がいる前で恐縮なのですけれども、我々よりも 素人の人が審議していたときよりは必ずよくなるはずであります。少なくとも真理に は近いと思うのです。そういうものを経るわけですから、とんでもなく悪くなろうは ずがないと思います。 ○前田座長   新制度に行けば、とんでもなく悪くなるはずはない、というのは私もそう思ってい ます。私が申し上げたいのも新しい制度で、できれば入口のところでペナルティなど 科さなくて、こういうのは異状死に当たるかもしれないから調べてくださいと。委員 会でチェックし、遺族には不幸であったかもしれないけれども、これはやむを得ない ことだったのだということになります。  ただ、その中で将来の医療の改善につながるものが出てくればいい、それが多いほ どいいと思うのです。現実の制度設計として、いままで提示してきたような議論で動 かせないか。本日のテーマは、届出をしていただく範囲について具体的にこういう例 を出したわけです。加藤委員や矢作参考人のような意見があって、ただ木下委員のご 意見を伺っていると、医療の常識からいってこれが納得できる線だと。豊田委員は、 この中身よりは相談のほうをもっと充実することが本質的に重要だというご指摘だ と思うのです。事例に関してはよろしいでしょうか。 ○辻本委員   言葉に引っかかってしまいました。先ほど座長が、そうしないと材料が出てこない という表現をされたのですが、患者の遺体は「材料」ではありません。先ほど、私が ここの中に欠けていると言った1つは、多くの場合、遺体解剖ということが前提にな るわけです。そうすると、日本人の国民感情の中には、遺族の中には解剖までという のはどうしても回避したいという思いというのは、良いとか悪いという議論ではなく てしっかりとあるわけです。そこが、「材料」を集めるためにそういう人の気持まで 無視する、という新しい仕組みが横行してしまうことは、決して患者の視点という立 脚点が評価される問題ではなくなってくるように思いますので、その辺を踏まえてい ただきたいということをあえて申し上げておきます。 ○前田座長   ご指摘をいただいて、言い訳をするつもりはありません。「材料」という言葉は不適 切でした。そういう資料ということも含め、そういう言い方はお詫びして訂正させて いただきます。解剖を絶対的な前提にするかどうかというのは、この委員会として別 の問題がありますが、その問題を置いたとしても私の表現が悪かったのでお詫び申し 上げます。  残された時間を、3の「その他」のところで、標準的な看護を行っていたにもかか わらず、患者が死亡した場合とか、自殺の場合とか具体的に考えられる異状死の問題 が挙げられています。これをどうするかというのは、原案を作る段階でもペンディン グにせざるを得ないというか、委員のご意見を伺いたいということです。この部分も 含めてご意見、ご発言をいただければと思います。前の1と2の部分でもよろしいで す。 ○鮎澤委員   3のところに入ってというお話でしたが、1と2のところにも少し絡んでお話をさせ ていただきます。私も事例を拝見して、ここまで書かれたかという思いがありました。 仕事をしていれば、こういう事例を3行、4行でまとめることの難しさとはわかりま す。たぶんこの会議が終わった瞬間から、個別の事例について、これはこっちなのか、 あっちなのかという議論がドーッと湧き起こるのでしょう。そして、これがあっちな のか、こっちなのか、つまり届け出るのか、届け出ないのかということについては、 一般の方と医療界の方だけではなくて、おそらく医療界の中でもいろいろな議論が出 てくるのだと思うのです。ただ、これについてはそういうことを議論できるいい機会 になったと思って、前向きに議論していくしかないと思います。おそらく、どんなに 事例あげても、どんなに枚数を費やしても、きっちりなど書ききれるものではないと 思っています。だからこそ、そこを考えていくのがいままさに検討している委員会の 大事な仕事になるだろうし、それを託される医療界が中心になってしっかり考えてい こうということになる。この制度設計そのものの前提なのだと思っています。  その上で、先ほどから議論されている事例16の消化管の穿孔の事例を使って改めて 確認しておきたいのです。ここで議論されていることは、まず、「悪い結果、つまり 穿孔が起きたからといってすべて届け出るという話ではないですよ」ということが1 点、そして、「だからといってすべてが届け出なくていいわけではなくて、防げる穿 孔、防げない穿孔があるわけですから、そこのところはきっちり議論しますよ」とい うことが1点、だと思っているのですが、よろしいでしょうか。 ○医療安全推進室長   まさに、そういう点をご議論いただきたいと思っています。医療行為には必ずリス クが伴うわけです。いわゆる合併症が起きてしまったそのことの結果を以て、イコー ル過った医療だと言って進んでいくのか、それともプロセスなりをもっと大切にして いくのかということによって、この届出の仕組み、あるいは制度全体、さらに言うと いまの医療訴訟での患者と医師との間の関係もそういうところに根本があるのでは ないかと思いますので、非常に重要なことではないかと思ってご議論いただきたいと 思いました。 ○鮎澤委員   このことは、すべての事例の読み方としてきちんと押さえておかなければいけない ことだと思っているので確認させていただきました。  3の「その他」に、4)院内感染の話が出てきます。アンダーラインの引いてあると ころ、「死因が合理的に説明可能であれば」とありますが、死因が合理的に説明可能 なことはいろいろあるわけです。ここでおっしゃりたいのは、「対策を講じていて、 院内感染が起きたことに過失がない、ということに合理的な説明ができれば」という ことなのではないかと思うのですが、いかがでしょう。  例えば、3頁の2)では「やむを得ず発生した事象として合理的な理由があれば」と いう書き方になっています。死因に対する合理的な説明ができることは、過失があろ うがなかろうがいろいろな状況ででき得ることなのだと思うのです。ここは「死因」 ではないのではないでしょうか。 ○前田座長   これも、短く書いたことの弊害みたいなことがあります。死因が説明できてしまえ ばそれでいいということの趣旨で書いているのではなくて、その前の文章と合わせて 読んでいただくとあれなのですけれども、標準的な感染対策がされている、それなの に起こったということは、死因について病院側に過失がないということが合理的に説 明可能であるという趣旨なのです。  3の部分は、今後ご議論いただく材料として出しております。ちょっとドキッとす るのはこれが厚労省の見解として、この事例そのままで届け出ていないとかそういう 評価をしたということではないのです。例えばこのように割り振って、委員の方、専 門の方に集まっていただいてご議論いただいて、これをリファインしながら基準を作 っていく、丸めていく。  それとお断りしておかなければいけないのは、繰返しですけれども、短くまとめた 関係でほかの条件が加わる。だから、後半の部分にも「過失がなければ」というのは、 そういうところも含めてなのです。初めに申し上げたように大変なご苦労というか、 私のほうで無理をお願いして出していますので、そこはちょっとお汲取りいただきた いということです。 ○加藤委員   資料2の3頁の1の2)のところに「該当しないのではないか」という書き方にな っています。そして(ア)(イ)(ウ)と例が出ているわけです。それを考えますと、 7頁に「届出不要と判断される可能性が高いと考えられる事例であろうか」と。本来 タイトルをそのようにしておかないと、これは固まったものと誤解されることはとて も問題ではないかという気がします。  例えば、7頁にある中身の術者が、ほとんど未経験というか、経験の浅い人がこう いうことをして、そのときに指導・監督する人もいなかった、これは教育に非常に問 題があるというような場合ですと、完全に届けなければいけないという方向へ傾くこ とだってあり得るわけです。  数行の事例で書いてあることの難しさ。患者側のハイリスクの要因も、医療側の術 者の方がリピーターだった場合どうだとか、いろいろな問題が出てくるわけです。「考 えられる事例」というふうに断定的な表題にして流れていくことに対しては大変な問 題があるのではないか。  8頁も同じで、「届出不要(c)と医療機関において判断される可能性が高いと考え られる事例であろうか」という書き方をここでもきちんとしておかないといけない。 例えば20番は妊娠中毒症のケースですが、「母体の危険性が高まったため、帝王切開 にて分娩を行った」と書いてあります。これは、もっと早くに帝王切開していればど うだったのかとかいろいろなことが考えられて、帝王切開のタイミングだとか、妊娠 中の管理の問題だとか論点があるはずの領域です。  そういうことを抜いて、これは届出不要、そのフローチャートの(c)に該当すると 判断される可能性が高い、と厚労省見解のように出してしまって一人歩きすることは とても問題ではないかと考えたので、「事例であろうか」という文言が、本来事務局 としては付けておくべきことではないかと思います。 ○医療安全推進室長   加藤委員ご指摘のとおり、ほかの委員からもご指摘のとおり、この数行ではなかな か判断できないものだと思っております。したがって、我々としては「判断される可 能性が高いと考えられる」というのは、わりとぼかして書いたつもりなのですが、十 分でないところがあるのかと思って反省しております。  いずれにしろ、個々の患者によっていろいろ条件が違います。3行では書けず、何 十頁も必要でありますので、それをサッと切ることはできないのではないか。12月以 来提案させていただきましたのは、この届出範囲に該当する事例かどうかというのは、 医療機関の専門的なご判断でしていく仕組みではどうかということです。そのことに ついては、患者にもきちんと説明していただいて、患者がさらに望む場合には調査の 扉をもう1つ開いておくということではどうかと提案させていただいているというこ とです。 ○木下委員   ここに挙げられた事例は、いくつかご意見がありましたように、すべて分類したよ うにしなければならないということではなくて、例えば、ここに示された事例は、こ のように対応したらよいのではないかという意味であると思います。医師会では会員 に説明に参りますと、具体的にどういう事例なのか何も書いていなくてよくわからな いと言われます。  当然の話なのですが、すべての事例を出すことは出来ません。加藤委員のご指摘の ように、背景を考えれば未熟な者がやった場合もあり、妊娠中毒症でしたら長い間入 院させて診ていても、突然こういった合併症はおこり得る話です。したがって、背景 を含めて、その原因究明をしていく必要はあることは当然なのです。参考までとして、 例えばこういうものであるということです。  その意味は例えば救急医療の現場であるとか、矢作先生がいらっしゃるのでおそら くその辺のご意見も伺えると思いますが、あるいは手術場における死亡例はすべて届 けるのか、という質問が必ず返ってまいります。  我々としてもいかに同僚に説明し、納得していくかということのためには、例えば このような場合は届けなくてもいいだろうけれども、状況によっては届けるべき場合 もあり得ることになります。それから、先ほど豊田委員がおっしゃったように、本来 であるならば、常々言われているように、この調査委員会というのは、医療安全に資 するために、原因を究明していくのだということであるならば全例届け出て調査した らよいではないか、ということもあり得る話であります。  しかしそうはしなくても、先ほど来申し上げておりますように、第三者機関として 調査するまでもなく、再発予防として医療界は、何か起これば教室なりあるいは病院 等で、どうして起こったかということは究明して努めるわけですから、院内で調査し て、患者家族に説明していくのだという流れは当然あっていいわけです。  今回出された事例に関して、これはどうだこうだということよりも、およその概念 としてはこういうものが対象になるのだ、ということの理解をしていくことが大切だ と思います。しかし、これはおかしいというものがあればまた話は別であります。そ のような受け止め方をしていたものですから、これで十分尽くせたとは思いませんが、 それなりの参考になったと思います。 ○樋口委員   この具体的な事例集には29例出ていて、これが一人歩きする危険とかいろいろなご 意見が既に出ています。これをどう読むかというのが大事なことなのです。第1点は、 佐原室長の説明の中にもあるのだけれども、繰り返し押さえておかなければいけない のは、遺族については私を含めて医学の素人が、この29例の3行だけの説明が10行 になろうと2頁になろうと実はその意義は十分にはわからないです。これが、4つの 分類でどうのこうのなどと言われても、それで素人のほうにどういうご意見がありま すかと言われてもわからないのではないかと思うのです。  だから、遺族には、敢えて家箱の事例集は大きな意義はもたない。遺族はいつでも、 こういう事例も何であれ、医療安全調査委員会に調査を依頼しようと思えば依頼でき る。遺族には別ルートで第三者機関に行けるという原則がまずある。だから、これは 遺族向けではないということです。この事例集は病院向けなのです、医療者向けなの です。医療者向けになぜこんなのが必要になったかというと、なんでも届出する話を 考えているわけではないのですから安心してくださいという、その趣旨だけわかって くれればいいだけなのです。  ただ、加藤委員もほかの先生もおっしゃったように、医療安全のためには、私は単 純ですから本当は何でも届出してもらって、第三者のいろいろな目で見て、そこから 何かの教訓が得られるのならそっちへ行ったほうがいいではないかと思うのです。し かしそうはいかない。なぜかというと、忖度して言うだけなのですけれども、医療者 側の発想としては、なんでも「はいはい」と言って医療安全のために届け出るとどう なるかというと、何らかの問題がありますねということになると行政処分が待ってい る。場合によっては、そこからすぐに通知が行って、刑事司法が結局は待っているで はないか。なぜノコノコと全部届け出ないといけないのだろうという懸念、不安、疑 心があります。しかし、届け出ないと今度は別のペナルティがあるということで、こ んなのたまったものではないですよということにもなります。そこで、そうではない ですよ、ということをここで言おうとしている。  こちらの制度設計側は、前田座長がはしなくもおっしゃったわけですが、しかしそ うは言っても何らかのペナルティを、義務を課しておかないと、医療者というのは医 療安全のために結集しなくて、事例が出てこないのではないかと心配になるという話 です。医療者のほうも、これを届け出た結果、先ほど言ったマイナスとマイナスを掛 けてプラスの方向へ転化するような話で方向が行くのではなくて、自分の所へただマ イナスが行くことをおそれる。人のいい病院、人のいい医師だけが馬鹿を見るような 方向へ行ってしまうのではないか、という不信感があるわけです。  制度設計の側でも、とにかく何か義務化、制裁を付けておかないと、病院の医師た ちは何もやらないようなものだと考える。つまり相互不信の構造なのです。それで、 せめて折衷で、「全部ではないのです、この程度のものだけは義務化するというだけ の話なのですから安心してください」という発想で今度の事例集が出てきているわけ です。  だから、その相互不信の構造自体をなんとかしない限り、この中でこの事例まで出 すのか、この事例は出さなくてもいいのかなどという細かな議論のところで一つひと つについてどうのこうのと、専門家同士が争うのだから一層血みどろの闘いみたいに なる。素人だとわからないから、しようがないなという話になる。医療者同士で争う と、それぞれが専門家ですからとんでもないことになる。この事例についても、16で あれ12であれ何であれ、あまり利益のない、意味のないような議論が今後展開され る可能性すらある。  繰返しになるのですけれども、いちばん大きいのは行政処分のとらえ方、理解の仕 方になります。医療安全調査委員会へ届出を出した場合も行政処分が待っている可能 性があり、出さない場合もペナルティとして行政処分が待っている。しかし、その行 政処分というのは先ほどから言っているように、そんなにとんでもない行政処分を課 すものではない、ということをもっとはっきり言わないと、そもそもこの制度の医療 安全への方向性を信じてもらえない。  こちら側としては、太陽政策と同じなのですが、甘い態度でいて、行政処分が結局 のところ勧告であったり、戒告程度のものであるのでは、医療者が(甘く見て)全然届 出を出してこなかったらどうするのだ、という心配をいつまでもしているのでは結局 同じことなのです。とりあえずは諦めて、不信の構造をやめて、片方で行政処分と言 っていますけれども、今回行政処分は飴です、鞭ではありませんということをはっき りさせたほうがいいのです。それだったら、届出についても躊躇なくという話になり ます。  最後に刑事司法の話があります。佐原さんがはっきりおっしゃってくださったので すが、聞き落とした人もいるかもしれません。29の具体的な事例の中で、例えば1番 は「2日間かけて持続的に抗がん剤を投与すべきところを、2日分の量を数時間で急 速に投与した」というものです。これを届け出たら、第三者機関から直ちに刑事司法 へ、警察のほうへ通知が行くのかというとそうではありません、ということをここで ははっきりと言っているわけです。  専門家の目を通して、ここで、システムエラーであれ何であれ、あるいは抗がん剤 の保管の仕方とか、これは量だからちょっと問題が違うのかもしれませんが、その量 についての使用の注意書きというのがもっと大きな形で表示してあるとか何とか、ほ かの病院だったらやっているのに、ここではやっていないとか、いろいろなことを専 門家の目を通して調べた上での判断がなされるのであって、直ちに刑事につながるよ うな話はなくて、そのまま刑事へつながらないこともいっぱいあるのだという話を明 らかにしてくださらないと、不信の思いに懲り固まった一部医療者には理解してもら えないのだろうと思います。そしてここでいろいろな事例を出しても、またその事例 をめぐって細かな議論だけが行われるようなことにならないかと私は憂慮したとい うことです。  もう1点ですが、座長が「その他」で4頁の例を挙げて、そこはどうでしょうかと いう問いかけがありました。例えば、ベッド等から転落して死亡した場合。先ほど問 題になったのは院内感染で何とかという事例です。そこには、もう1つ別の観点があ って、第三者機関で届け出られて、うまく解決できるかどうか、そこの能力の問題も あるかもしれないのです。しかし、たとえばその設例では、「標準的な看護を行って いたにもかかわらず」とありますが、そもそも本当に標準的な看護が行われていたの かどうか素人にはわからないから、こういう問題もそこのところを第三者機関で何ら かの形で判断してくれるような機関があるのだったら、それはそれでありがたい。  本当はその病院で、院内調査委員会を立ち上げて、そこのところを確認しますよと 説明してくれればそれを待っているという話です。「標準的な院内感染対策を講じて おり」というところもそうで、こういう文章としてはしようがないと思うのですが、 本当にそうだったのかということを説明してくださると、まさに院内でもう一回チェ ックがある。院内ではどうもというのだったら、第三者機関のほうで相談に乗ってく れるということがあったらいいと思うのです。  一方でその第三機関を立ち上げると何でもやれるのかというと、万能の機関ができ るわけでもないから、そういう制約があるということも十分理解しなければいけない だろうとは思っています。 ○児玉委員   2点お話させていただきます。1点目は、事例が挙げられていることについての読み 方の問題です。これは例示列挙されているものですので、一つひとつ書かれた事例に 問題点を付け加えて読むのは適切な読み方ではないのではないか。すべての事例に 「極めて未熟な医師が」という言葉を添えたり、「何の説明もなく」という言葉を添 えたりしていくだけで、全部の事例について問題があると言えるようになるかもしれ ない。そういうことを議論しようとして例を出しているのではなくて、むしろそのほ かには何らの問題点は指摘されていない場合にどう分類するのだろうか、という事例 として挙げているのではないかと理解いたしました。  2点目も例で恐縮なのですが、スポーツになぞらえて言いますと、どうも医療界か ら「行政処分」という言葉に対して反発が出てくる1つの理由は、例えば打率3割5 分の素晴らしいバッターでも6割5分は凡打だ、トリプルアクセルを狙うから転倒し てしまうのだ、チームが弱いから勝ち星が上がらないピッチャーなのだ、というよう にさまざまな背景要因がある中で、現場でさまざまな医療従事者が苦労している。そ ういう部分を理解されていないのではないかという懸念があるために、当初樋口委員 のご発言の中にもありましたとおり、もともと資料1のタイトルになっている「行政 処分」という言葉は、権利・義務を形成し又は範囲を確定するあらゆる行為が含まれ ている広い概念だという説明を樋口委員がなさったと思っております。そういう意味 で、これが単なる処罰や制裁を含むだけのものだということでは、いささかその理解 が得られにくいのではないか。 ○豊田委員   樋口委員の意見は、私たち遺族が感じている点をたくさん含んでいる発言をしてい ただいていると思うことがたくさんありました。行政処分という言い方自体が厳しく 感じてしまうということはあるかもしれないのですが、言い方に対して配慮するとい うことについては、遺族である私自身はそこまでの思いやりを持つ気持にはなれない です。  息子の事故が起きたときというのは、同じ地域で3カ月違いで医療事故が続けて起 きて、大きく報道されました。その地域は、その時期パニック状態になってしまって、 救急車を呼んでも、その病院には行かないでほしい、別の病院に行ってほしいという ことで、地域の住民が動揺していたということを後で聞きました。  私はそれでものすごく心を痛め、私たちが騒いだのがいけなかったのではないか。 ほかにも犠牲者が出てしまうのではないか。私たちがいけないのだという気持ちで、 ものすごく自分自身を責めたことがありました。そういう状況というのはすごく悪循 環だと思います。地域の方たちにもすごく迷惑をかけてしまったと思いました。  だからといって、きちんとした体制・制度がなければ、遺族が伝える手段がないの で、いろいろ主張したりしていくうちに、どうしても噂が立ったり悪循環なことにな ってしまいます。そういう意味でも、やはりきちんとした制度が必要だと思うのです。  息子は誤診と申し送りミスによって最終的に亡くなっています。病院の不備という のは1つの問題点だけではないと思います。例えば誤診に関して言えば、経験が少な かったから仕方がなかったということで終わってしまうことがあります。申し送りミ スに関してはシステム的なエラーも含まれると思います。  そういう観点からしても、行政処分というのはどういう形があったらよかったのか というところで考えさせられます。誤診については遺族としてはどうしても個人を責 めてしまう部分があります。システムエラーについては、病院全体でチーム医療を考 えてもらいたいと思うのです。私が思うのは、事故を起こしてしまった当事者という のは、もちろん絶対に自分は悪くないと言って、100%反省していない人は別ですけ れども、そうでなければ事故を体験した人のほうが、医療安全に対しての意識を高く 持っていると思うのです。  そういう人たちに対しては、やはりきちんと再教育を受けるなり、何かしらの形で 現場に復帰してもらいたいと思います。事故直後の遺族はそんな気持ちにはなれない かもしれませんけれども、多くの遺族がいつしか必ず医療の安全を願えるようになっ ていくと思います。事故をきちんと受け止め、医療安全への意識を持っている当事者 には復帰してもらいたいと願っていますので、処分をそんなに悪い方向に受け止めな いでいただきたいと思います。  樋口委員が提案してくださいましたように、例えば遺族に対して病院が報告をして いくようなことを義務づけていく、ということをある程度強制的なことを含めて行っ ていくことにより、最初は病院や関係者が遺族に連絡しづらくて辛いと思っていたと しても、報告を続けることによって連絡を取りやすい状況、コミュニケーションをと りやすい状況をつくっていかれると思うのです。連絡を取り合わない状況がこれまで 続いてきてしまったからこそ、遺族は見えない相手ですから、何も考えてくれていな い、この死は無駄になったままではないか、再発防止の取組みなど何もしてくれてい ないのではないか、自分たちのことなど全く何も考えてくれていないのではないかと 思ってしまうのだと思います。これでは想像してしまうだけの世界になってしまいま すので、行政処分の在り方をよい意味、よい方向に検討していただきたいと思います。 ○南委員   私も感想を2点述べさせていただきます。この例示は皆様ご指摘のとおり、どのよ うに読むかということは難しいということで、この事例は届出不要と思われると言っ た段階でそれが方向を持ってしまうということの怖さみたいなことを感じました。  例えば先ほどの15番、16番もなのですが、私で気になったのは14番の、手術で開 いてみたら癒着が高度で、非常に大量の出血をしたという事例です。お産などではよ くあるということを聞きます。急なとき、1人の医師が全部やらなければならないよ うなときに、こういうことが起こると死に至るようなことがあるといいます。このと きには届出不要といいますが、これは医療的に間違いがないものであれば、医療者と しては届ける必要はないと判断されるのだということなのですが、患者側の立場にし たら、届出不要とは思いがたい状況なのです。これ1つを取っても、判断は難しく、 届出妥当か、不要かとは簡単には言えないと感じました。それが1点です。  2点目は、4頁の「その他」のところです。これは、「医療安全に資する」というこ とを本来の目的にするのであれば、これはすべて医療安全に資することですから、届 け出ることに入ってくるのだと思うのです。現実にここまでこの委員会に求めるのか、 ということはちょっと議論の余地があるのではないか。  例えば、2番の入院している患者が自殺したというようなときに、それは診療関連 死に入れるのかどうか。あまりにも無理な量をこの会に求めても難しいのではないか ということを感じました。 ○前田座長   時間が過ぎてしまいましたが、有効な議論ができたと思います。行政処分について は本日初めてお出ししましたので、これからという面があると思います。この会自体 が行政処分まで視野に入れてということはあまり考えていないのです。行政法の先生 にも入っていただいていないところがあります。  ただ、全体の流れとしてそこも視野に入れてこの委員会は制度設計をしていくこと が重要なのでご議論いただいて、最終的に行政処分まできっちりとセットにしてこの 委員会の報告として出していけるかというのはちょっと微妙な問題があります。でき る限り本日のご意見を踏まえ、前向きに検討し、具体化していきたいと思います。  本日はこれで閉じさせていただいて、次回以降さらに残った部分の議論を進めてい きたいと思います。次回以降の予定を事務局から説明してください。 ○医療安全推進室長   次回の検討会の日程はまだ調整中ですので、出来次第ご連絡させていただきます。 本日はどうもありがとうございました。 (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 28