08/01/31 第11回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録について 第11回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等のあり方に関する検討会 議事次第  ○ 日  時 平成20年1月31日(木)10:00〜12:00  ○ 場  所 厚生労働省 省議室(9階)  ○ 出 席 者    【委 員】  前田座長           鮎澤委員 加藤委員 木下委員 楠本委員 児玉委員 堺委員           高本委員 辻本委員 豊田委員 樋口委員 南委員  山本委員   【議 題】     1.医療安全調査委員会(仮称)における調査について     2.院内の事故調査について     3.医療安全調査委員会(仮称)への届出範囲について     4.その他   【配布資料】     資 料 1   医療安全調査委員会(仮称)における調査について     資 料 2   院内の事故調査について     資 料 3   医療安全調査委員会(仮称)への届出範囲(案)          参考資料1  医療安全調査委員会(仮称)への届出範囲等について            (第10回検討会資料)     参考資料2  第10回検討会議事録 ○医療安全推進室長(佐原)  定刻になりましたので、第11回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在 り方に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、ご多用の 折、当検討会にご出席をいただきまして誠にありがとうございます。本年もどうぞよ ろしくお願いいたします。  委員の出欠状況等についてご報告いたします。本日は、山口委員より欠席のご連絡 をいただいております。外口局長と木倉審議官は、国会用務その他の用務のために欠 席させていただきます。また、オブザーバーでご出席いただいております法務省で異 動がありましたのでご紹介させていただきます。法務省刑事局刑事課の片岡弘課長で す。  配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿のほかに、本 日は資料1、2、3と、参考資料として1、2があります。なお、委員の皆様の机上に は参考資料集もお配りしております。  以降の議事進行につきましては前田座長にお願いいたします。 ○前田座長  本日もお忙しい中をお集まりいただきましてどうもありがとうございます。早速議 事に入ります。本日は3つの議題を予定しております。新しい議題として、前回の検 討会での議論、それから先般の第二次試案に対する意見募集、また、前回この場でも ご紹介いただきました自民党の「診療行為に係る死因究明制度等について」において もご指摘がありましたけれども、制度の細部を詰めるべきであるということで、今回 は「委員会における調査に関すること」「院内の事故調査に関すること」の2つに分 けて論点を整理した資料を事務局に準備していただきました。それを基にご議論いた だきたいと思います。  もう1点は、前回の継続になりますけれども、「医療安全調査委員会への届出範囲」 です。これについても、前回の議論では不十分なところが残りましたので、追加の資 料を準備していただいておりますので、引き続きご議論いただければと思います。そ れでは、事務局から、いま申し上げた3点の資料を、特に新しいこと2つについての 説明をお願いいたします。 ○医療安全推進室長   資料1は、「医療安全調査委員会(仮称)における調査について」です。1は病院か らの届出、あるいはご遺族からの調査依頼に当たっての相談についてというものです。 届出あるいは調査依頼に当たっては、遺族及び医療機関からの相談を受け付ける体制 を整備することとしてはどうか。その具体的な内容について、(ア)、ご遺族からの相 談については、調査依頼の手続や医療安全調査委員会による調査の手順について必ず 丁寧に説明することとしてはどうか。(イ)は医療機関からの届出の手続や、調査の 手続等に関する相談を受け付けることとしてはどうか。  2で、こうした相談の届出・調査依頼受付後の取扱いについてということで、届出 や調査依頼を受け付けた後、例えば以下の(ア)〜(エ)と判明した場合は、原則と して委員会による解剖を伴う調査は行わないこととし、必要に応じて当該医療機関に おける調査・説明や、民間の裁判外紛争処理機関を活用するなど、当事者間の対応に 委ねることについてどう考えるか、ということをご議論いただきたいと思います。  (ア)〜(エ)の4つの場合と仮に想定いたしましたのは、(ア)委員会及び医療 機関が解剖の必要性について、遺族に丁寧に説明し納得が得られるよう努めたにもか かわらず、ご遺族からの解剖の承諾が得られない場合。(イ)既に火葬等をしてしま った後でご遺体がない場合についてはどのように考えていくのか。これについては矢 印を2つ書いてありますが、(ア)(イ)のような場合は解剖所見が得られないことに なります。そうすると、医学的な観点からの正確な死因の究明が困難であるために、 委員会としての報告書を責任もって作成することができないというご意見があると 思います。  この点につきましては、この資料の8頁を見ますと、本検討会の第4回目に、モデ ル事業からの提言をいただきました。四角の中のa)のところですけれども、より正 確な調査・評価を確保するためには、原則として全事例について解剖を実施すること が望ましいという提言をいただいております。  資料の1頁に戻ります。そのようなご意見がある一方、矢印の2つ目で、(ア)(イ) のような場合でも、委員会が調査の必要性を認めた場合には、診療録等の評価等によ り、当該医療事故の発生に至った原因の分析を行うこととしてはどうかというご意見 もあるかと思います。これが、(ア)(イ)(ウ)(エ)の4つのうちの2つです。  次の頁になりますが、(ウ)行った医療の問題ではなく、疾病自体の経過としての 死亡であることが明らかになった場合。(エ)行った医療に起因して長期間の入院が 必要となった。例えば、年余にわたる入院が必要となったのだけれども、その行った 医療に直接起因しない死亡であることが明らかになった場合。例えば、植物状態にな って何年間もそういう状態が続いた後、最後に肺炎等でお亡くなりになったというよ うな場合についてどのように考えるのか、ということについてご議論いただきたいと 思います。  3は、調査委員会が調査をしていくわけですが、この委員会から捜査機関に通知を 行う必要がある場合について、以下のような場合は委員会から捜査機関に通知を行う 必要があるのではないか。(ア)故意や重大な過失があった場合。(イ)過失による医 療事故を繰り返しているなどの悪質な事例、いわゆるリピーター医師など。(ウ)は 診療録等を改ざん・隠匿するなど非常に悪質な場合といったものです。  資料2は、いわゆる院内事故調査委員会についての資料です。これまでも、院内事 故調査委員会のことは重要であるというご指摘をいただいております。1として現状 はどうなっているかということです。医療安全調査委員会による調査等とは別に、医 療機関自らによる原因究明・再発防止等の検討の実施について、その重要性が指摘さ れてきたところです。現在では、医療法及びその施行規則により、病院又は診療所の 管理者については、医療に係る安全管理のための委員会、いわゆる安全管理委員会を 設置すること、及び医療機関における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とし た改善のための方策を講じる。こういう安全委員会をつくり、院内で事故報告を行う ことが義務付けられているところです。  さらに、医政局長通知において、重大な医療事故に係る場合には、原因分析とか再 発防止策の検討等をやっていくべきである旨通知しております。具体的な事故調査の 仕組みについては、法令上の義務にはなっていないという状況です。  2.主な論点を、これまでの議論の中から整理いたしますと、総論的な事項として、 1)一定の規模や機能を持った病院については、安全管理委員会の業務として、医療 事故調査を行うこととし、弁護士など医師以外の専門家等の外部の委員の参画を得る。 また、調査結果の患者・遺族への説明を義務付けてはどうかということがあるかと思 います。  2)中小病院や診療所については、自施設での事故調査にはさまざまな困難がある と考えられますので、その支援体制についてどうしていくのかということが論点かと 思います。  次の頁で、この院内の調査をやっていく場合に、医療安全調査委員会との役割分担 をどのようにしていくのかということです。3)(ア)委員会において調査が開始さ れた事例についても、委員会の調査を丸投げするのではなくて、院内で事実関係の調 査・整理を行い、委員会に報告するとともに、自らも原因究明・再発防止策の検討を 行うこととしてはどうかということです。  (イ)また委員会は、院内にて調査・整理された事実関係について、委員会におけ る諸調査との整合性を検証した上で、審議の材料とすることとしてはどうかというこ とです。ちなみに現在のモデル事業では、院内の事故の調査というのを必ずやってい ただくことになっているわけで、その際の雛型も作り、病院に依頼しているというこ とです。  (ウ)委員会は、委員会による解剖の結果について、院内の事故調査に活用できる よう、できる限り速やかに当該医療機関に情報提供することとしてはどうか。これま でに、司法解剖になってしまった場合には、速やかに病院にその結果が返るというこ とは難しく、院内の事故調査がやりにくいということが指摘されています。委員会に おける調査にあたっては、このような点についてどのように対処していったらよいの かということです。  4)なお委員会で取り扱う事例は、原則死亡事例となっております。死亡に至らな い事例については院内で対応することとしてはどうかということです。  その下に<その他>と書いてありますが、これは院内調査とは直接関係するわけで はないのですがここに書かせていただいております。5)死亡事故か否かに関わらず、 医療事故発生時の、医療機関から患者・遺族への事故の経緯や原因等についての説明 の在り方について明確にすべきではないか、ということです。この点については、次 の頁のいちばん上に、12月にまとめられた自由民主党のペーパーからの抜粋がありま す。3の(11)でも、医療事故発生時には、医療機関からご遺族に、事故の経緯や原 因等について十分説明がなされるようにすることと。こういうことについて、政府の ほうでもきちんと検討せよということです。  資料3は、届出範囲のことについて流れ図を作ってみました。資料3については、 その後に参考資料1を付けております。参考資料1が、前回ご議論いただいた資料で す。前回ご議論いただいた中で、特にこの四角の囲みの中で、若干わかりにくいので はないかというご指摘がありましたので、まずこの流れ図を作ってみました。上の四 角の中に書いてあることと、下の流れ図と判断の仕方が違うということではなくて、 わかりやすくしたというものです。  誤った医療を行ったことが明らかか否か。明らかであるという場合には上の文章で いくと(1)のことになりますし、明らかでないということになりますと上の文章でいく と(2)になると思います。その後、仮に左へいって明らかであるといった場合には、次 にその行った医療に起因して患者が亡くなったのかということで、起因する、起因し ないと。起因するということであれば届出範囲の(1)に該当するということで届出をす ることとしてはどうかということです。  前回、山本委員からご指摘をいただき、いまの左に流れていくところになりますが、 誤った医療を行ったことは明らかであるのだけれども、それに起因して患者が死亡し たかどうか、次の分岐点のところで、そこが明らかではないと疑われる場合はどうな のかということでした。その点が明確ではなかったと思いますので、今回このフロー チャートでいくと、届出範囲(1)に該当するというところのすぐ上に「疑いを含む」と いう文章を付けております。本文のほうでいくと、(1)の括弧の部分を付け加えており ます。「その行った医療に起因すると疑われるものを含む」というふうにして再度ご 議論いただきたいと思います。 ○前田座長  前回の流れからいくと、3の届出範囲のところを先に議論するというのが筋なのか もしれませんが、新しい問題のほうをどうしても本日ある程度目処をつけておきたい ということがあります。もちろん、必ず届出範囲は後で時間を取らせていただきます。 議事としては、医療安全調査委員会の調査について、資料1からご意見を頂戴したい と思います。それに続いて資料2、そして最後にいまの届出範囲で前回からの継続部 分についてご議論いただきたいと思います。  資料1、調査についてです。委員会の中身を具体化していく上でどうしても議論し ておかなければいけない主要なポイントだと思います。ここに論点を整理していただ いておりますが、両論併記になっているような部分もありますので、是非ご意見をい ただければと思います。 ○加藤委員  個別の論点に入る前に、少し総論的な意見を述べるように準備してきました。人々 は、安全で質の高い医療を願っていると思うのです。医療従事者がその力を発揮し、 いきいきと働いていけるという状況を願っているだろうと思います。医療従事者には、 安全で質の高い医療が実践できるような環境のもとで働く権利があると私は思いま す。いま議論している第三者機関もそのような環境の1つであると考えますし、そう した環境づくりに貢献するものとなってほしいと思っております。  この検討会では、医療事故によって患者が死亡したときの届出先となるような第三 者機関が必要だということで検討されていますけれども、一部に届出を限定しようと いう意見もあるように思います。その背景には第三者機関と捜査機関に対する不信感 等があるかと思います。正直者が正直に届け出たら、なるべく寛大に取り扱っていく というような政策が必要でしょうし、警察検察は謙抑的であるべしという意見に私は 賛成するわけです。そのためには、医療界が自浄作用、公平で公正な調査があって、 説明責任が尽くされて、人々の信頼が生まれるということが絶対的に必要だと考える わけです。  具体的には、院内で医療事故の事実関係を認識できる仕組みが必要だと考えており ます。その背景には、数年前に特定機能病院でおざなりな院内医療事故調査の例があ ったということを現実に見ていますので、特にそういう思いを強くします。この検討 会では、単に医師法第21条の代替のために何かをつくるというのではなくて、安全 な医療を構築するために、事故から学ぶ営みとして設計されるべきだということを 常々考えながら、そのような基本的な認識を踏まえて各論の議論をしてほしいと思っ て本日は参りました。 ○前田座長  非常に重要なご指摘です。私も医療の世界の雰囲気が読めていないのかもしれませ んけれども、いまご指摘の第三者機関、それにつながるシステムにある捜査機関に対 して、医療現場の不信というのはかなり誤解に基づいているところがあるというか、 説明不足とか意見交換の場が足りないことによって生じている部分がほとんどだと 思っています。それを埋めていかなければいけない、埋める努力をしていかなければ いけないというのはおっしゃるとおりです。それから、院内の調査委員会の重要性と いうことはご指摘のとおりで、これは2番目のテーマで是非具体的にご提案いただき たいと思います。  まず、第1の調査委員会の調査、いま出た言葉では第三者委員会の仕事の中身とい うことで、1番目に相談、2番目に受付後の取扱いで、一部は委員会の調査から横に ドロップアウトさせていくものを考えておいたほうがいいのではないか。これは仕事 量が自ずとやれる限界があるということを踏まえたものだと思います。3番目は、委 員会から捜査機関に通知を行う場合の類型というふうに論点を整理していただいて いるわけです。ここについてお気づきの点、ご意見がありましたらお願いいたします。 ○堺委員  資料1について申し上げます。その前に、加藤委員がおっしゃいました、この仕組 みは医療安全の推進に資するために作るのだ。国民の安全・安心のために作るのだ。 そこのところは全く賛成です。そのために、医療に従事する者あるいは機関が、自分 たちもその一翼を担っていかなければいけないということだと思っておりました。し かし自浄作用という言葉が使われますけれども、医療界全体が汚濁しているわけでは ないと思っております。自浄作用という言葉を使うと、全体が汚れきっているという 印象を受けますので、そこのところはご配慮いただければと思います。  資料1に入りますが、2点あります。1点は1番目の相談のところですが、これは 是非必要なことです。ただ、これを行うためには365日・24時間対応しなければいけ ないということで、相当な制度設計が必要になります。自明のことですが、これを念 頭に置いて今後のことを進めなければいけないと思っております。  2点目は、資料1の2枚目の3、委員会から捜査機関に通知を行う必要がある場合 についてのところです。これは、これまでにもいろいろな議論がされておりますが、 委員会から(ア)(イ)(ウ)については捜査機関に通知を行う。これについて、原則 的に異論はありません。ただ、医療界の人たちが心配していますのは、これ以外に、 これの有無に関わらず捜査機関が捜査に着手するのではないかという点をかなり心 配しております。この辺のところは、これからさらに議論を深めていかなければいけ ないと思います。特に、ご遺族からいろいろな相談が捜査機関にあった場合に、捜査 機関がそれをどう取り扱うのかというようなことも、これから制度設計の中に入れて いかなければいけないと考えております。この(ア)(イ)(ウ)で留まるのか、ある いはそれ以上のことがあるのか、この辺は今後明らかにさせていただきたいと考えて おります。 ○前田座長  いまのことに関連してというか、第2の点は特に重要で、1頁の下の取扱いの問題 にもつながってくると思うのです。 ○高本委員  2番目の問題でありますけれども、ここは解剖のことについて述べられていると思 います。モデル事業をやっていた経験から言いますと、この制度設計のいちばん最初 の段階では、解剖があるという条件のもとで始めたほうがいいのではないか。この制 度が十分成熟して、それだけのキャパシティを持つような組織になれば、こういう解 剖がない症例も入れたらいいと思います。  現在のところは、解剖がある症例という形でやっていったほうが、私のモデル事業 の経験から言いますと、いいのではないか。解剖で所見があるものもあるし、ないも のもある。ないと言っても、それはそれなりに意味があるということですし、それが いろいろな臨床経過の評価の中にも非常に大事な位置を占めますので、死因究明とい うことに関しては解剖はともかくあるほうがいいのではないか。  最後の(ウ)とか(エ)という長期の経過の症例の場合に関しては、後にあります 院内調査委員会、あるいは学会の調査委員会というものも使えるのではないか。ここ では、解剖があるものから始めたらいいのではないかという感じがいたします。  3番目の、捜査機関に通知を行う必要がある場合ということについてですが、最近 の新聞で、点滴の中に防虫剤が入っているという報道がありました。医療者の中で刑 事免責を認めろというような意見もありますが、刑事免責を法律としてちゃんと認め ている国は世界にないということも聞いております。このような故意の犯罪と考えら れる事例もあるのですから、医療者としても刑事処分もある限られた事例に関しては 受け入れなくてはならないのだろうと考えます。  故意というのは犯罪ですから当然委員会から捜査機関への通知に入ります。改ざ ん・隠匿は犯罪ですので通知の範囲に入ります。行政処分後の度重なるリピーターは 悪質ということで我々も納得できます。(ア)に書いてある「重大な過失」の「重大」 というのはどういう意味を持つのか、というのは医療者にとってはかなり大きな問題 であろうと思います。どの事例も患者は亡くなっているという状況のもとで、重大と は何かということは議論する必要があると思います。  どの事例に関しても、この背後にはシステムのエラーというものが、多かれ少なか れあると思います。そのようなことを含め、これが重大かどうかということを判断す るのは、医療安全調査委員会が判断すべきではないか。アプリオリにこういう症例は 重大だ、ということはなかなか言えないのではないかという感じがするものですから、 この重大な過失と委員会が判断する場合は、委員会が最終的な結論を出してから捜査 機関に通知するという形がいいのではなかろうかと考えます。 ○辻本委員   1、2、3に関連してということですが、1番に相談を取り上げていただけて大変う れしく思っております。その点について、先ほど堺委員から、制度設計というお話が ありましたので申し上げます。相談を受ける人の人材育成にはお金がかかるというこ とを十分に議論していただきたいと思います。例えば、医療安全対策のほうで、保健 所など自治体機能で、地域の患者の不信・不安を受けとめているという活動が既に広 がってきています。そこのスタッフの人材育成ということが、一時、医療機構の仕事 ということで、私たちも多少関わらせていただきました。  ところが、いまは自治体に任されてということで、その教育システムということが トーンダウンしてしまっています。現実に自治体の中でその役割を務めている方たち が、拠り所のない不安を私たちの所に訴えてこられるような現実が一方にあります。 是非、この人材育成についての議論も加えていたただきたいと思います。  なにより、第三者的なスタンスの確立ということは容易なことではないのです。こ ういう仕事をさせていただいていて、第三者とは一体何なのだろう、誰のことなのだ ろうといまでも疑問に思っています。答えを見出せない難しい問題だけに、3年やっ たからいいとか、5年やったからもういいでしょうという問題では決してないという ことを踏まえていただきたいと思います。  さらには、マニュアルの対応を求められることの一方で、マニュアルの対応だけで 相談機能が果たせるか、相談した人が満足するかというと決してそうではない、とい うところも大変大切なポイントだと思います。許すという気持で、誠意をもって、し かも忍耐強く相談に当たるというような、決して振分けだけの役割で、この相談機能 が果たせるとは思わないので、その人材育成ということについて取り上げておいてい ただきたいということを申し上げておきます。 ○前田座長   先ほどの高本委員のご発言に対して私が質問するというのはあれなのですけれど も、ご趣旨には全く異存はないのですが、その2つのことのつながりなのです。解剖 についたものに限るということと、重過失の判断はこの委員会でやると。この制度は そこがいちばんの核心部分だと思うのです。捜査機関は医療のことが全然わからない ので素人だ、という言い方は失礼になってしまうのですけれども、医療の場から見る と十分でない判断で刑事システムに入っていく。  それに対して今回の制度設計というのは、まずはこの委員会で原則として医療が選 り分けるということがいちばん核にあると思うのです。その意味で、前回事務局が苦 労していろいろ集めて整理していただいた塩化カリウムを静脈注射した、消毒薬を静 脈に入れた、人工呼吸器のつなぎミスといった重過失については、おそらく新しい委 員会で送るというような基準で、そこをどこまで広げるかというのは明確にはできな いけれども、医療の側が中心になって決めていく、というのはいいと思うのです。  そのことと、先ほどの解剖の話なのですが、先ほどご議論がありましたように、遺 族からの申し出が非常に強くなってくる。その中に解剖の対象がないものがあったと きに、その部分はいままでどおり捜査機関が判断し、その捜査の着手の段階に医療機 関が噛まなくていいのかということなのです。  むしろ、いままでの流れからいいますと、特に紛争があってもめるようなものに関 して、それは仕事が増えて大変なのはわかるのですが、カルテとかその他の事情を見 て、これは捜査に回すかどうかのフィルタリングをこの委員会でやるということが、 先ほどおっしゃった、ここに限られたもの以外にも捜査が着手するのではないかとい うご指摘がありましたが、それとまさにつながるのです。やはり、事務的に不可能な 範囲まで広げるのは無理なのですが、可能な限り医療の世界での第一次的な関与を認 めておくほうが、医療の現場の方にも納得いただけるのではないかという考え方を私 は持ったのですが、それに関して高本委員はどのようにお考えですか。 ○高本委員  理想的には、そういう形が将来できるのはいいと思うのです。でも、あと2、3年 後にこれが制度化されるとして、全国一律に一斉にやるというのはなかなか難しい話 が現実的にはあるのではないか。私は、それができることになるのがいちばん理想的 だと思うのです。まず一歩は、解剖がある症例から始め、それを広げていくというス キームで持っていったほうがスムーズにいくのではなかろうか。  調査委員も、モデル事業をやって我々自身が絡むわけです。それなりの医学知識だ けではなくて、一般的な調査そのものに対する認識だとか技量といったものも要るわ けです。そういうものの人材養成をしていかなければいけませんので、もっとわかり やすい解剖があるところから始めるのがいいのではないか。将来は、先生が言われる ように、そういうことに全部広げるような形に持っていければいいのではなかろうか と思います。 ○前田座長   それは遺族側の納得もそうなのですけれども、医療の現場の納得を得るためにも、 解剖しなければ全部警察へ行ってしまうという形に取れてしまうと、この委員会を通 さないで、いままでどおり医師法第21条の届出なり、その世界が残ってしまうとい うことはなるべく少なくしたほうがいいという1つの意見を持っています。 ○木下委員   いま前田座長がおっしゃったことは極めて大事なことだと思います。高本委員が言 われたこと、つまり理想的には解剖を前提にしたものを対象にするというのは当然だ と思います。ご遺族の依頼で警察に飛び込んだときには、ご遺体がないという状況の 場合が多いかと思いますが、そういう場合でもこの調査機関は機能するということ、 医学的に判断していくということ、鑑定的なことも含めて担当することは、大事な役 割になっていくのではないかと思います。  その意味では、この調査委員会の機能を最初から広げていくことは運用しづらくな るということがあるかと思います。しかし、基本的にこの仕組み自体は、医学的な判 断をしていくということを大前提としていますので、いま前田座長がお話になりまし たような方向性を是非残していただきたいと思います。私どもでもこの問題はいつも 議論になりまして、ご遺体がない場合に、遺族が警察へ届けた後のことはどうなるか という問題です。いままでの医師法第21条と同じように、警察の方々が、捜査機関 が動くのだということになると、医師法第21条が診療関連死の場合に、やはり残る ことになりますので、その辺を明確にする必要があります。 ○樋口委員   いまのを含めて、本日は加藤さんの話から入っているわけです。第1点はいちばん 最後に申し上げることなのかもしれないのですが、一体この検討会はどこへ向かって いるのかという話なのです。医療安全のための第三者機関を作るという目的が設定さ れましたが、それについていろいろな論点を提示されたので、一つひとつ詰めている という地道な作業をやっているのだというかと考えています。その経緯の1つはいわ ゆる10月案、第二次試案です。  いちばん最初に前田座長がおっしゃったように、それに対してパブリックコメント でいろいろなご意見がある。その中には、我々からするとこちらの説明不足で理解し てもらえなかったところがあるのだろうということもあります。しかし、いくつかの 重要な論点が詰めきれていないので、まさにうまくわかってもらえないというか、ペ ナルティの内容も後で出てくると思いますが、そういう点がわからないのでは話にな らないではないかというごもっともな話もあるわけです。  そこで、いくつかの論点をさらに詰める作業を行ってきたわけです。しかし、この 検討会があと何回ぐらい続くものかというものも含めて、そんなに長くはやっていら れないのかもしれません。ところが第二次試案が生きている限り、あのほうがペーパ ーとしては残っているものだから、あれでこの検討会以外の人はいまだに議論を続け ることになっている。本日のような議論を含めて、既にいろいろな点で詰まっている というのか、説明不足のところが明らかになっているところもあるので、やはり、第 三次試案を明文化し、もう一回皆さんに提示するというのを目標にし、我々はそれで いまやっているのだという新たな目標を与えてくれると一層元気が出るというのが 第1点です。  その上での話ですけれども、本日の医療安全調査委員会における調査についての2 番目のところで、高本先生がおっしゃるように、モデル事業の経験からしても、第三 者機関が客観的な評価を下すというときに、エビデンス・ベイスト・メディスンです から、やはりエビデンスがなければいけない。そうすると、死亡事例ではなんとして も解剖をする。解剖すればわかるのかというとそうでもないのだけれども、しかし、 わからないということがわかるということも非常に重要なことになる。  そういう客観的なデータというのか、客観的なものがあって第三者機関はやってい くのだということが原則になります。もちろん事務量の話もありますから、たくさん のものがやってきてパンクしてもしようがないので、まずそこで信用を得て、だんだ ん広げていくというのは十分ありうる考え方だと思います。  一方で、何であれ調査依頼がやってきたときにどう答えるか。やはり理由は要ると 思うのです。うちでは受け付けられませんというのではしようがないわけです。その ときに、ご遺体がないからですということになります。いまこの議論の上で想定して いるのは、主としてはご遺族からのということを考えておられると思うのです。ご遺 族は、身内の方が亡くなられて、特に予想外だった場合にはショックを受けて、24時 間以内とか何とかというので、すぐ届けられるかというとそんな話はないのです。お 葬式が終わって、なんというか心が残るという話で、これはそのままで終わっていい のだろうかというようなときに相談に行きたい。相談に行ったら、申し訳ないけれど も、うちでは(もはや遺体は火葬されたので)そういうことは受け付けられないと言 われるというのはどうかという話はあると思うのです。  そうだとしても、ここにあるように当事者間の対応に委ねるという言い方ではあま りにも冷たい。その前に、当該医療機関における調査・説明というところが重要なの です。本日の第2の議題の、院内調査委員会というのもこれと同じで重要だというこ とがあるわけですから、院内調査委員会を、第三者機関としては何らかの形で指導・ 助言をして、そこがまず機能してもらうようなことを考えていくのですという説明を してあげたほうが丁寧だと思うのです。  さらに、院内調査委員会が全く動かないような事例で遺族が納得できないというよ うな場合には、「話を聞いただけでも、遺族側であまりに邪推をしていて、普通の医 療死亡の例だとわかるような場合」は別として、何らかのことはしてあげざるを得な いのかもしれません。だから、そこへ「原則として委員会による解剖を伴う」という ように、「原則として」というのが入っているのはそういうようなことなのかと考え ているのです。はっきりした意見になっていないのかもしれないのですけれども、も う一回繰り返して申し上げます。「当事者間の対応に委ねる」というような取られ方 によっては非常に冷たい、という扱いをするのではなくて、こういう場合については まず院内調査でやってもらう。その院内調査の在り方については、既にいろいろ客観 的な院内調査が行われるようなルール化はしておいて、本当にそれが実践されるかど うかについて、第三者委員会は関係ない、当事者間に委ねるのだという話ではないと いう姿勢を見せる。それは何のためかというと、ご遺族のためだけではなくて、同じ ような事故が起きたときの再発防止といいますか、その後の処理を含めてですが、医 療安全のためにという大義名分のために第三者委員会が立ち上がったのだからとい うように考える。  第3点は刑事司法との関係についてなので後でまた申し上げるほうがよろしいでし ょうか。 ○前田座長   いまは、ご遺体のない場合をどうするかというところで議論がありましたので、そ こで一旦切っていただけますか。 ○鮎澤委員   2回続けて欠席しました。しばらく在野におりました。在野におりましたけれども、 この委員会の委員として、委員会でどのような議論がされて、社会でどのような議論 がされているかということを見ていました。第二次試案について、曖昧だったところ が議論され、議論された点を広く周知していこうとする努力がされている中で、これ から詰めていかなければいけないところがあらためて見えてきたりもします。3点お 話をさせていただきます。  1点目は、樋口委員が最初に言われたことです。いまなおあの第二次試案について、 いろいろな方からいろいろなご意見をいただきます。でも、発表以来、実際はこの検 討委員会でいろいろなことが整理されてきている。それが、必ずしもほかの皆さんに 十分伝わっていないように思います。  この委員会以外の所でも、いろいろ書かれるものが出てきたり、議論される場がも たれたりして、整理されて来ている点が少しずつ伝わってきてはいますが、なるほど 第三次試案という手もあるのだと思いました。どこまで議論され整理されてきている のかということがもっとわかる形で、この委員会のアウトカムとして出していくこと はとても大事なことだといま改めて気づかせていただきました。  2点目は、いまお話が出てきている解剖の件です。いま議論しているこの制度とい うのは、患者や家族にとっても、医療側にとっても2つの大きなハードルがあると思 います。死亡しないと調査してもらえないのか、解剖しないと調査してもらえないの かという話です。もちろんそうではない、死亡しなくてもやっていこう、解剖がなく てもやっていこうということは、たぶんここの総意だと思うのです。ただできるとこ ろはどこからなのか、という議論から始めると、まずはこの2つのハードルを設定し ていこうということになる。  将来この制度を広げていくことを視野にいれるならば、解剖しなくても議論すべき は議論しましょうという方向に持っていくことが大事なことなのでしょうか。再発防 止につながっていくということを考えるならば、せめて2つのハードルのどちらかを 低くしたい。それならば、解剖のことを、いまお話が出ているように低くしてみたら どうだろうかと思います。  もちろん、そうすることによって、2つのハードルを掲げるよりもたくさんの案件 が集まってくるかもしれませんが、「いまできることからやるとする」ということば かりを言っていては、いつまで経ってもこれらのハードルは低くならないように思い ます。再発防止に本当に必要ならば、それをやるだけの資源をちゃんと投じていただ く。そのことも含めて、解剖しなくてもやっていきませんか、ということを私は意見 として述べさせていただきたいと思います。  3点目、いただいている1、2、3の3番目ですが、先ほど何人かの委員からご指摘 があったように、もう既にここに「重大な過失」とか、「非常に悪質」といった記述 が出てきます。この辺りを具体的に示していくことが、第三次試案として誤解や不安 を解いていく、とても大事なポイントになるのだと思います。  なお、ここに「リピーター医師」とありますけれども、リピーター医師の情報とい うのを、この委員会がどのようにつかんでいくのだろうか。実務的にはいろいろ考え なければいけないことがあると思っています。 ○前田座長   解剖のことについては明確なご意見をいただいたわけです。3番目に話がつながっ てきておりますので、解剖抜きの事案についても、この委員会が扱うかどうかという ことでご意見があれば、その方の意見を先に伺います。 ○豊田委員   届出と調査依頼の相談についても、辻本委員がおっしゃるように私もどんなことを してでも、この相談の体制をきちんと作っていく必要があると思っています。実際に 事故が起きると、医療機関も遺族もものすごく動揺します。そんな中できちんと話を 受け止めて、振り分けをしてくれる場所というのは今現在ないわけですから、これを しなければ、その後にいくら良い機能があっても、そこの入口を作ってあげなかった ら、その後の機能の意味がなくなってしまいますので、これは絶対に整備して作って いくべきだと思います。  それから解剖の話についてですが、体制的に無理だということを言い切ってしまえ ば言いようがないのですけれども、遺族の立場としては、遺体がない場合でも、まず は調査できるかどうかということだけでも受け付けてもらいたいと思います。事例の 中には、資料等で事故の分析をできるものも中にはあると思います。それも、すべて 遺体がないという理由だけで受け付けないということにしてしまいますと、後々いろ いろな問題につながっていくと思いますし、再発防止のためにもならないと思います。  特に、先ほど樋口委員がおっしゃいましたように、事故直後に遺族が気づかないこ ともたくさんあります。その後、どうしても納得できないという思いになったり、も しくはお葬式が終わった後に、内部告発等で事故が発覚することが実際に起きていま す。そういうときに、遺体がないからということで、全くこういう調査ができないと いうことになってしまうと、最終的に裁判に行くしかないという考えになり、遺族は 裁判に訴え出るという手段しかなくなってしまう可能性が高くなってしまいます。  これは、事例にもよるということで振り分けるのか、その辺はまた議論が必要だと 思います。いまの段階で、遺体がない場合には受け付けられないという形で決めない でいただきたいと患者側は思います。 ○前田座長   第3点の、委員会から捜査機関に通知を行う必要がある場合についてということで、 樋口委員からご発言があるということなのでお願いいたします。 ○樋口委員  第3点は、委員会と捜査機関との関係ということで、これまた非常に重要な問題だ と思います。そこへ、次のような場合ということで3つの類型があります。(イ)と (ウ)は当然なのかと思っていましたが、鮎澤さんのご意見だと、リピーター医師と いう情報はどうやって得るのかというような論点がありそうですね。それぞれ基本的 な問題があるということです。  高本先生がおっしゃったように、医師が見ていちばん気になるのは「重大な過失」 というのは何なのだということだと思うのです。結果的にこれは全部死亡事例ですか ら、これ以上重大なことはないのです。結局委員会に届けると、全部が警察のほうへ 通知が行って、警察のもとで医療が行われるというのか、検査がされるというのか、 そういう状態が一層強まる、広がるという話なのではないかという懸念を持っている 人がいます。それに対しては誤解だと思っているので、誤解を解きたいという趣旨で 申し上げます。  ここまでの議論で、医療事故と刑事司法との関係については、少なくとも二歩は前 進しています。現状よりどういう形で前進しているかというと、第1点は警察ではな くて、届出は第三者機関という話ができてきた。これは大きな一歩だと思うのです。 2つ目は、重大な過失がある場合だけ刑事事件のほうへつなぐのだという話になって います。これは法律的には大きな話なのです。刑法上は業務上過失致死罪というのが 問題になるわけです。業務上過失の業務上というのは、医師は業務上手術しているの に決まっているから必ず業務上には当たります。その後に、業務上重過失罪になって いないのです。過失という概念しかないので、普通の過失でも業務上過失だという話 だと考えておられる法律家が少なくない。  この検討会の場でも法務省、その他の方が参考人として来ておられて、しかも率直 に語ってくださったのは、警察、検察の意識としては、普通の過失で刑事事件にして いることはない。重大な過失だけしか、いままでだって運用上扱っていないというこ となのです。ところが、とにかく、業務上過失致死罪の条文のところで、医療事故に ついて刑事側はそう思っているかもしれないけれども、法文上は普通の過失しか書い てない。  それから、医療以外の所で本当に重大な過失だけでということで謙抑的に刑事司法 が動いているかというとそれはないのです。普通の過失で動いています。だから、医 療の所では謙抑的にやってきているのです、ということを刑事司法を担当する側も言 っておられるのですが、1つ、2つ本当に謙抑的だろうかと思われるような事例があ る。しかし、それを医療者側、あるいは一般国民側は、1つ事例があると警察全体が そういう姿勢なのだと誤解する。そういう言い方をするといけないかもしれない、あ まりに率直すぎるかもしれませんが、警察も医師が間違えるように間違えるわけです。 そういう1つの間違いの事例で、警察全体がとんでもないことをしていると考えるの はそれこそ間違っていると思うのです。  しかし、こういう形ではっきり、重大な過失、医療事故の場合には重大な過失があ った場合に限るのだということを明文の形で示すというのは大きな一歩なのです。こ れで二歩みたいなものですが、二歩にもう少しアルファがあって、第三者機関でとい うのは、医療の専門家が考えて重大だと考える場合だけ警察へ通知することになって います。これは専門家からみてもあまりにひどいねと思うような場合、それは仕方が ないから警察へつなごうという話なのです。それは、数え方によっては二歩どころか 三歩前進しています。  そのときに専門家が判断してその中身を吟味します。これはいい例かどうか私も素 人なのでわからないけれども、ここで何が重大な過失と考えられるか、具体例を1つ 2つは事例を示してあげることは重要だと思うのです。薬剤を間違って入れたとしま す。そのときに従来、刑事裁判になっただけの事例ではなくて、実際に有罪になった 事例がすぐ出てくると思うのです。従来、刑事事件になっただけでなく、有罪になっ ていて犯罪ですから、それはここでいうところの重大なということに一応当たりそう です。しかし、医療の専門家が第三者機関でやれば、単純に、薬を間違って投与した という、それはないだろうというかもしれないのですが、その医療機関の環境で看護 師が、あるいは医師がどういう状況にあるかという、その薬の管理についてどういう 状況かを含めて専門家で判断して、それはまさにその人のミスなので、それ以外には 考えられない、システムエラー等の話はないのだということになったら、それでよう やく今度は警察につなぐという話なので、単純にいままで有罪になった事例が、すぐ に全部いくという話ではないと私は思っています。ともかく医療専門家からすると、 同じ同僚たちが考えて、これはひどいと思うような事例が、警察に行くということな のだから、それが、第三者機関が置かれることによって明文化されるわけですから、 これは2歩も3歩も前進だと思います。  もう1点だけ申し上げますが、そのときにそういう人をただ罰すれば世の中は平和 になるか、つまり排除してしまえばということなのですが、そうではなくて、しかも 刑事処分という形ではなくて、人が貴重な資源だというと、それだけで怒られそうな のですが、折角、長年の教育、経験を経た医師が、何らかの初歩的なミスをしたとき に、もう1回立ち直るチャンスを与えるための行政処分を、再教育等を含めてまず考 える。重大な過失ですから、単純に再教育では済まないかもしれないのですが、そう いう行政処分もしてという話になれば、一層刑事司法は後ろに引いて、いわゆるよく ある言葉ですが、社会的制裁その他を全部受けているからというので、刑事で捜査に 入っても立件するには至らないということまで今度の体制を作っていけばありうる のです。だから、第三者機関から警察に通知することがありうるという趣旨もそうい うものだと、ここの重大な過失が明記してあるのは、そのような趣旨だと理解してい ただくといいのではないかと思っております。 ○前田座長  ありがとうございます。私も全く同じ考えですが、重大な過失といえば、要するに 悪辣性というのは、意図はむしろ情状とか量刑とかでこういう悪辣なというのがある のですが、本体は過失の大きさなのです。そうすると、注意義務違反の程度が大きい ということになるのですが、それは予見可能性の程度が高いのにということが1つと、 注意義務基準行為からの逸脱の程度が大きいということなのです。それを基準行為か らこんなにずれたから、重大な過失だというのを医師が決めるということです。医療 水準の中で「とてもこれは医師と呼べないよね」というのに近いものをグルーピング して出していく。実際にいままで有罪になったのはそういうものだけですし、先ほど 樋口先生のお話にありましたように、医師に対しては重過失でもほとんど有罪になっ ても罰金なのです。それから執行猶予が付くのです。その意味で非常に謙抑的にやっ ていたということなのですが、それを決して変えるものではなくて、むしろ逆にもっ と納得のいくものになっていく。だから、医療の現場の中では、いまの現状のままの ほうがかえっていいのではないか。今度新しいものが入ると厳しくなるのではないか という議論をしている方がいらっしゃるということでびっくりしたのですが、いま樋 口委員のおっしゃるとおりであって、これは大野病院とかいろいろありましたが、そ れは外から見て非常に医療から見たら理不尽な基準をなくそうという制度なのです。  第三者委員会にはもちろん法律家にも入っていただきますが、先生方を中心にそこ で議論をして、これは日本の医療水準からいって重大な過失だ。それは結局は重大か どうかはいまの水準からいくと、どれだけ逸脱しているかなのです。わずかに下手だ ったとか、評価を誤った、診断を誤ったというものを刑事責任を問うていくことはお そらくあり得ないのだと思うのです。切る位置をちょっと間違えた。血管を刺してし まった。これはならないのだけれども、具体例で出てきていますが、人工呼吸器の管 を全く間違えたとか、麻酔のガスの種類を間違えて刺した。そうなってくると、具体 的にはそのレベルの話も先ほど樋口委員のお話にありましたように、医療の現場の感 覚で、チーム医療の中でどうなのかということも入れて考えていくということなのだ ろうと思うのです。  ですから、どうしても外から見ると不安感を持つのは当然なのですが、1歩も2歩 もこれだけ議論してきたのは、医療崩壊につながるとか、医師に成り手がいなくなる という問題を本当に危惧しているからやっているわけで、ただ、片一方で患者の側の 不満も、もちろん解決するシステムを作っていかなければならないということの調和 点として、このシステムは、自分がコミットしている制度がいいというのはあまりよ くないのかもしれませんが、非常に前進だと思っているのです。そのためには実際の 肉付け、いま議論しているような枠組み、相談のことなどいろいろなもの、次に議論 していただく院内調査委員会とのつながりとか、そのようなものをうまくつなげて、 国民に納得してもらえる、医師に納得していただける制度ということでなければ機能 しないと思っています。私が話しすぎて申し訳なかったのですが、以上で大体資料1 のところはよろしいでしょうか。 ○堺委員   資料1の3のところで1つ追加させていただきたいと思います。重大な過失のとこ ろですが、委員会の医療の専門家たちがそれを判断することは、専門性という点から どうしてもそういうことはあると思うのですが、やはりどういう判断をしたか、それ をご遺族にどう伝えるか、そういうところは医療の専門家ではなく、法律の専門家で もなく、公益的という言葉が該当するかどうかわかりませんが、一般の医療や法律の ことをご存じない方から見ても頷けるものだというような委員会の構成にしていた だきたいと思っています。 ○前田座長   よろしいでしょうか。それではご議論があればまた戻ってご発言いただいてもいい のですが、資料2についてご意見を頂戴したいと思います。いかがでしょうか。先ほ ど総論としてはお話いただいたのですが、加藤委員から具体的にこのペーパーに関し てのお考えを伺えればと思うのですが。 ○加藤委員   院内の事故調査というものが、きちんと公正に公平に客観的に自律的にできるとい うのが極めて大事だということは、かねてより申し上げてきたところです。併せて論 点として落ちているのではないかと思うことを指摘しておきたいと思います。資料2 の総論的事項の1)に論点が(1)(2)とあります。各医療機関は院内で事故調査の結果、 報告書がレポートとなりますが、プライバシーに十分配慮した上で公開していく。公 開原則をきちんと意識的に制度設計の中に入れていく必要があるだろう。それはある 医療機関で起きたことが、よそでも同じようなことをやっている以上は、そこでも当 然起きうることで、教訓化したものをきちんと活かしていくことが1つです。もう1 つは、とかく死因究明ということばかりに目がいくようなところがないわけではなか ったのですが、システムエラーとかいろいろ制度的に改善しなければいけない問題な どが、実は1つの事例を丁寧に分析・検討していくと出てくるわけです。その中には、 当然厚生労働省の行政施策に対しても、ものを言わなければいけないし、よその、例 えばメーカーに対しても言わなければいけないとか、いろいろなことがありうると思 います。そういうことまできちんと院内事故調査委員会であっても、言っていく努力 をしている実績は既に発生しているというか、そういう例があるので、そういうこと をより積極的に進めていくことが安全につながる事故調査のポイントになるだろう。  例えば、具体的に言いますと、先ほど解剖の話にもいろいろありましたが、最近、 名古屋で起きたブルーラインウルトラ気管カニューレというもののスピーキングバ ルブの扱いをめぐって、窒息死したケースがあります。もし、このようなことが起き たときに仮に解剖がなされていなくても、そのスピーキングバルブの蓋をしてしまう ことによって窒息が起きやすいということがあるとすると、その医療現場では危ない ことがいっぱい起きているのではないか。あるいはきちんとそういうことが改善され ないとまた被害が拡大するのではないかという視点で、1つの医療機関は事故調査を 仮にするとします。その結果をきちんとそうした国の第三者機関にも情報が即座につ ながっていくような、各医療機関ごとの院内における事故調査と連携しながら、第三 者機関が広く社会に発信していく、あるいは改善の必要なことについては各省庁にま たがって、きちんと建議なり勧告なりがしていけるような仕組みにしていく必要があ るのではないか。  食の安全についていま中国産ギョーザとかいろいろ出ていますが、食品安全委員会 が内閣府にあるわけです。そういう意味で、医療の安全についても国家的な極めて重 要な課題だと思っていますので、医療安全委員会のようなものに、将来的には発展し ていってほしいなと思って、これまでも発言してきたわけです。 ○前田座長   ほかの委員の方は、院内調査委員会に関していかがでしょうか。 ○辻本委員   これまでいくつか社会をにぎわせたような事件も含めて、院内調査委員会というと ころに連なった経験を持たせていただいています。調査委員会の顔ぶれを見て、中に は誰が選んだのだろうかと疑問を抱くことがあります。例えば弁護士というと病院の 顧問弁護士が座っていたり、外部の組織の専門家、例えば麻酔の事故であればその地 域のいちばん大きな大学病院の麻酔科教授というようなことで、常に同じリスキーな 場にいて、医療側を擁護するような発言に終止してしまうとしか見えない方が一緒に 並んだりしています。私のような素人がものを言えば専門用語を駆使して、それは医 療現場ではそうではないのだと説得されてしまうなど、そういう経験も少なからず持 っています。先ほど加藤委員が「おざなりな調査の現実を見ている」とおっしゃいま したが、おざなりな調査もさることながら、議論そのものが方向づけられ、言いたい ことが言えないという場面もかつてありました。  そうすると、この院内調査委員会は一体誰が招聘して、どういう組織にするか。そ の辺りが患者の側としては不安な要素を含んでいます。そして、主な論点の1)にあ る(2)遺族への説明は当然のこととして義務付けていくべきだと思います。これまで関 わった調査委員会の調査報告書を見ても、本当に患者や遺族が理解できるかと不安に なるような、モデル事業のときもそうだったのですが、専門家にとっては日常な当た り前の用語の1つひとつが患者側には理解できないというようなこともありました。 そうした専門家主導の組織だと客観的な視点がどうしても欠けてしまうのです。先ほ ど堺委員があくまでも第三者、これが非常に難しいとは思うのですが、この1)ひと つをとっても、一体誰がどのように組織立てるのか。その結果を誰がどう評価するの か。その辺りも問題が非常に多く含まれているなと思いますので、議論を尽くしてい きたいと願っています。 ○前田座長   ありがとうございます。ほかにどなたかいかがでしょうか。 ○堺委員   院内の事故調査委員会のことですが、ある程度大きい病院や、このごろはかなり小 さい病院でも院内の安全管理委員会があります。事故調査委員会はこの安全管理委員 会とは独立した存在であるべきだと思います。自分たちがやった安全対策が破綻した わけですから、それを同じ人間が調べるというのはおかしいのです。実際には人手の 問題等々がありまして、同じ人が何人か入るということはあろうかと思いますが、建 て前としては独立していなければいけないと思います。  外部の方の評価も是非必要ですが、この辺は最初から外部の方に入っていただいて その委員会を構成するか、あるいは院内の調査委員会の結論を今度は外部の別の委員 会に評価していただくとか、いくつかのやり方があろうかと思います。そうすると、 当然時間がかかります。しかし、外部の方のご評価、ご意見をいただく仕掛けは何通 りか作らなければいけないだろうと思っています。 ○前田座長   ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○楠本委員   私も辻本委員と同じように外部委員を何度か引き受けたことがありまして、最近は 多角的に調査をすることと、すべてを公表する、そういう条件でなければ引き受けて おりません。というのは辻本委員がおっしゃったような状況が本当にたくさんあるか らです。そういった意味で論点にありますように、事故が起こったときに一定規模の 病院に関しては事故調査をきちんと外部評価委員を入れて行うことを義務付ける必 要があると思っています。  前段の資料1の議論とも重なるのですが、重大な過失があったということで、先般 の検討会の事例に出てきたことのほとんどは看護職が関わっていて、その事例がその まま警察へ届け出るという、いまの実態から看護の世界は何も救われない状況があり ます。何が起こったのかということをシステム的な観点からきちんと見ていくことが 必要だと思います。その行為を行ったことが故意や重大な過失であったかどうかを専 門職の目で、きちんと判断して、警察に届けるべきということが行われていけば、い まの状況はかなり打開されて、樋口委員や前田座長がおっしゃったようなことにつな がっていくと思っていますので、是非院内での事故調査委員会を義務付ける方向で議 論をしていただきたいと思います。 ○前田座長   ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。素人といいますか、医療の外 にいる人間から見て、いちばん気になるのは1頁の下の2です。大病院は不祥事はあ ったかもしれないですが、今回こういうことで1歩前に出て、外部の委員を入れると か、公開性を徹底することで前に進んでいけるところはあると思うのですが、それ以 外に中小、診療所で、診療所の数の多さなどを踏まえたときに、もちろん支援体制を 考えるのは正しいと思うのです。それに関してお願いいたします ○堺委員  そこの部分ですが、これまで一部の県では県医師会が組織を持っておられます。ほ かにも県としてのものがあります。ごく部分的にはそういうものがあります。これか らはこれまでになかった医療安全委員会ができて、院内の事故調査についても評価を する形になると思いますので、いま現在あるものは是非活用して、出てきた報告書を 医療安全調査委員会が評価するというアプローチのほうが現実的かなと考えていま す。 ○豊田委員   私は中小病院に勤務しているので感じていることですが、こういった議論のときに 随分多くの病院で医療安全の取組みを行っているとか、院内事故調査を始めていると いう声がよく聞こえてくるのですが、実際は病院によって全く違っていると思います。 私はいくつかの病院で勤務してきましたので内情をよく知っていますが、やりたくて も何をどうしていいか全くわからないと困っている人も多いと思います。大きい病院 だと安全担当者になる人たちが「あなた勉強してきなさい」と言われ、外部の研修会 に参加したり、いろいろな方たちにお会いして、院内事故調査について情報を知り得 ることができますが、小さな病院の中でいっぱいいっぱいで勤務している人たちは、 外の場で医学的な勉強をすることはできても、医療安全の観点で勉強するまでの機会 がありません。実際に事故が起きたときに、何をどうしたらいいかわからないという のが現状だと思います。たとえば東京都でも、相談をしても何か雛型ができていて、 はっきりとこうしてくださいと指導を受けられている状況ではないので、それをきち んと指導、助言、あるいはかかわってもらえるような機関がないと、いまのままでは 真面目に取り組まなければとあせってはいるけれども、少しも前に進めないと感じて いる病院がたくさんあるのではないかと思います。そのような病院に対して、何もし ないではないかと攻めるだけではなくて、第三者機関などが一緒にかかわっていくこ とで、院内調査が進むようなシステムを作っていくことを視野に入れていただきたい と思いますし、そこを何かしらで明文化して指導します、助けていきますということ がないと全ての医療機関が実行することは困難だと諦めたままになってしまうので はないかと思います。 ○木下委員  中小病院や診療所の医師は当然対象になってくるので、このシステムでいまは勤務 医の先生方がいろいろと誤解も含めてこの制度そのものについてご意見がたくさん あることは知っています。しかし、診療所も外科系であれ、産婦人科であれ、産科も そうですが、多くの入院施設を持っていますので、不幸な事例は起こりえます。その 場合に、大病院等のように自分の院内調査委員会はつくれません。先ほど堺委員がお 話になりましたように、ある県では、診療所で起こった事故でも、県医師会の調査委 員会等を開いているというところもあります。九州のほうでは死因究明のためのモデ ル事業に積極的に県の医師会として参加するというところも出てきています。今後の 在り方としては診療所や中小病院も含めてすべての医療機関に対して係る問題です ので、具体的に積極的にこのような院内調査委員会に匹敵するような仕組みを県の医 師会、あるいは郡市医師会でも結構ですが、きちんとした院内調査委員会に準ずるよ うな形として機能していくようなシステムを作っていくことは、私たちがやらなけれ ばいけないと考えていますので、前向きに対応したいと考えています。 ○楠本委員  資料2の2の2)に関連してですが、看護のところでは都道府県看護協会にまず専 門の相談の窓口を置いていることと、地域単位で相互支援することで地区別ブロック の協議会があります。そこでリスクマネージャーの養成をして、その人たちに地域的 なネットワークを作って、何かありましたらお手伝いしましょうかという相互支援で、 分析からお手伝いをしたり、事故の情報収集からお手伝いをしたり、そういった活動 もかなり広がってきています。職能団体が連携してかかわっていくことも大事でしょ うし、地域評価委員会のところに何かそういう仕組みや医療安全支援センターなど、 既存にあるものを活性化していくことも必要ではないかと思います。 ○南委員  院内委員会の2頁の「その他」にある部分ですが、だいぶ前に山口委員がおっしゃ ったように、死因究明はサイエンティフィックに死がどうして起こったかということ と同時に、その経過がどう患者に説明されて、どう理解されていたかという部分につ いての経緯の究明も非常に大きいという現実があります。先ほど堺委員もそういうこ とが大きいからこそ、医学の専門家だけでなく、安全調査委員会には公益的な立場の 方を入れるべきというお話がありました。まさしくそこの部分が、院内調査委員会で も非常に大きな部分を占めるのではないかという気がします。医療事故のことなどが いろいろ取り沙汰されるとき、辻本委員もいわれた通りに第三者は本当に難しいと思 います。身近に一緒に働いている人であるからこそわかるその医師の熱意や誠実さも あれば、逆に第三者であるからこそ判断できる部分もあるわけで、第三者というのは 必ずしも関係ない者という意味ではないわけです。特に院内の調査委員会に関しては、 医療が公正に守られて、熱意のある医師がきちんとした仕事ができるようにすること が大切です。安全委員会そのものの意味、医療そのものを守られた環境できちんとで きるようにするという意味では、この院内委員会も同じように問題になると思われる ので、5番のところは十分に検討していただきたいと思います。 ○前田座長  この5番に関連しては、鮎澤委員が何回かおっしゃった死亡事故以外に関しても、 ちょっと手を出しているところなのです。患者の側から見ると、必ずしも遺族になら なくても医療に対して説明を求めるニーズはかなりあると思います。これを明確にす べきというのは、今回どうしても死因究明が中心ですが、その中に先に延ばしていく 継ぎ手としてどこまでのものが埋め込んでいけるかがあると思うのです。ここで事務 局で5番を出していただいたのはそれなりの意味でご意見を踏まえたものですので、 具体的なご提案などを出していっていただければと思います。全体として資料2に関 してご意見はいかがでしょうか。なければ資料3に移ってまいりたいと思いますが、 よろしいでしょうか。それでは資料3ですが、これは山本委員のご指摘で直させてい ただいたわけですが、その辺について一言、問題があればご指示いただければと思っ ています。 ○山本委員   特にございません。大変わかりやすくなったなと思います。 ○前田座長   では事務局にはご苦労をいただいて、チャート図みたいなものも付けていただいて、 これに肉付けして具体的に運用していくということにイメージとしてはなるわけで すが、これについて、それから前回の議論の積み残しも含めてご発言があれば頂戴し たいと思います。 ○木下委員  資料3の枠の中に書かれている医療法施行規則の第9条23というものをもとに、 誤った医療を行ったことが明らかとか、明らかでないという分類で書かれていると、 前回説明があったと思います。その医療法施行規則第9条23では、そうした事例が 発生した場合には届け出るという書き方になっていると思うのです。届出の場合に条 文を書くときには、そういう事実を知った場合には届け出るというような書き方をし ておくほうが良いと思います。要するに1または2のいずれかに該当する場合として はどうかと端的に書いておいてほしいと私は思います。  死亡を予期しなかったものに限るという(2)の話ですが、下のフローチャートを見ま すと、医療を行った後に死亡することを予期していたかというところで、予期してい たら全部届出は不要になるという形になります。この予期する、予期しないというも のの考え方なのですが、ある手術をするときに、死亡率は統計的には0.1%程度であ る場合は、これはとても死亡することを予期して手術をしているとは一般には思えな いわけです。死亡するかもしれないというのが例えば10%ぐらいあるとか、かなり危 険性の高いものだという話になってくると、それは一か八かやらなければいけない場 面には、予期していたと考えられます。その辺のところはフローチャートの中の流れ で、共通の認識になりうるのかどうか心配です。折角の制度がたくさんの事例を集め て原因分析をし、医療安全につなげていこうとする営みがさまざまな考えから、なる べく届出の範囲を限定しようという方向にいくことによって、本来の機能が損なわれ ることになると大変残念なことではないかと思います。要するに一つひとつの尊い事 例を活かし切る制度として第三者機関の調査等がなされるということであれば、なる べく届出は多くなされるような方向にしておく必要があるだろうと考えます。 ○前田座長   先ほどの議論とつながるのですが、高本委員がご指摘になったように、委員会に上 がってきても、その中でほかの方も加わりますが、医師のスタンダードでこれは医療 から見たらとんでもないことで警察に通報しなければいけないことはあると。ただ、 それは外部の警察、検察が決めるのではなくて、医師が主体となって決めているとい うことのご理解をいただけるようになっていけば、いまの流れとしてはどうしても届 け出たら即警察につながってしまうのではないかという不安感が相当強くあって、こ の委員会は前から皆さんの合意として警察に届けるものを選り分けるためのではな くて、事故から学んで国民全体の医療をより高めていくためという柱が重要であると。 そこのところをどれだけ太らせていけるかは第三者機関に対しての医師側の信頼感 です。そこに出しても、我々から見ても我々の仲間の学会や医師がきちんと判断した ので信頼できるのだというところがうまくいけば、加藤委員がおっしゃったような方 向性で、予期できるできないの幅も、おそらくガイドラインなどを作っていかなけれ ばいけないとは思うのですが、それをどうするかというときにも、より多くを取り込 んでいける。ただ、多くを取り込む場合の問題点としては、この組織の人的・運営的 なコストの問題がありますので、それをどこまでやれるか。先ほど出てきた院内調査 委員会との振分けとかがあると思うのです。是非、なるべく加藤委員がおっしゃるよ うなことが、実現できるような形での信頼感を持てるような第三者委員会ができてい くことが望ましいと思うのです。 ○高本委員   第三者委員会とか、医学会の中立的専門機関とか言っていましたが、地方の医療安 全調査委員会ができます。委員会の中にそれぞれ調査するチームは別にできるわけで す。そうすると、その間に委員を選任しなければならない。どうしてもタイムロスが ある。ところが届出がある場合には、解剖を前提とするとなると、24時間とか、それ 以内にいろいろと判断をしなくてはならないわけです。10人とかそれぐらいの委員が 全員集まって、ディスカッションできるような時間的余裕はとてもないわけです。で すから、いまのモデル事業でやっているのは総合調整医というのがいろいろな準備を したり振り分けたりしているのです。この前もありましたが、スクリーニングは院内 調査委員会に任せようとか、これは実際は解剖はいらないのではないかというように、 いろいろな判断が行われるだろうと思うのです。それをやるのは1人か2人で総合調 整医的な方で、かなり見識を持った方がやる必要があるのではないかと思います。そ れぐらいのスピードを持たないと、次々と事態は進展しますので、そういう人がこの 制度を動かすためにはキーだと思うのです。そういう意味で総合調整医という、アメ リカではメディカルエグザミナーという名前で呼ばれている人が、かなりな権限を持 って、みんなからリスペクトされるようなポジションに各地方それぞれに必要ではな いかと思います。 ○前田座長   ほかにもう、全体としてどの問題でもよろしいです。1回離れてしまったので前回 の届出範囲の議論はつながりにくいところがあるかもしれないのですが、まだまだ予 期した、しない、明確にならないという問題、同じように重過失をどうするかという こともあるのですが、初めからかっちりとしたガイドラインみたいなものがこういう 委員会のときにできるというのは、ちょっと不可能に近いのです。だんだん固まって いって、また動きながら固まっていくところもあると思います。ただ、現場の医師か ら見るとそこが明確にならないと、とても賛成できないみたいなお気持もわからない ことはないのです。ですから、事務局も大変だとは思うのですが、具体的な基準を示 せるところはなるべく出していっていただきたいと思います。全体としていかがでし ょうか。 ○木下委員  今回の取り組みは、医師すべてにとって極めて大事な制度になると思うのです。し かしながら、最初の議論でありましたように誤解やご心配があると思います。先ほど 樋口委員が極めて明快に、みんな心配しているものの一つとして、「重大な過失」と はどういうものかを説明されました。重大な過失」という言葉があるということは普 通の過失もあるのだということも、ご説明いただきますと非常にわかりやすくなりま した。さらに、加藤委員がおっしゃったように医療安全のための大きな制度の1つで あるという視点を踏まえたご議論がありまして、そのことに関して前田座長も、全く 同じような考え方で制度の設計を進めているというお話がございました。  そのお話からしますと、刑事罰は重大な過失に特化していった以上は、軽度の過失 や普通の過失の場合は、今までとは違って、再教育も含めた再び立ち直る機会を与え る対応で臨む方向でいくということをお話しされました。これは行政処分とか刑事罰 に代わるものとしての在り方が問題になると思いますが、その辺のところが明確にな れば、この新しい死因究明制度は、もっと理解されやすいのではないかと思います。 今回の論点から少し離れますが、刑事罰に代わるものとしてどういう組織が、行政処 分、あるいは再教育などの指導をしていくのか議論をしていただきたいと思います。 それだけのことを踏み込んでやるのだということを明確にすることで、国民も納得す ると思います。その辺、是非お願いしたいと思います。今度、第三次試案を作ってい ただくとすれば、例えば今回のように、調査機関から捜査機関に通知をする事例を3 つだけを並べて、このようにしましたという試案では、また同じような問題を指摘さ れて騒がれることになると思います。従って、是非解説と申しますか、この意味はど ういうことなのだというところまで踏み込んだ試案を出して、医療界の皆様方が本当 に納得して一緒になってこの制度を作っていこうという気持ちになっていただきた いと思います。 ○前田座長   ありがとうございました。ご指摘のとおりだと思います。行政処分の問題は医道審 とかいろいろ絡んで難しい問題も超えていかなければいけないかもしれませんが、や はりご準備いただいて、お考えいただければと思います。いま盛んに第三次試案とい うことが出てきていますが、事務局のほうではこの次の進め方として、その点はどう お考えになっているのか、もし可能であれば総務課長からお願いします。 ○総務課長(二川)  二次試案を10月に出しまして、それをたたき台に自民党で議論され、それに対し ていろいろ意見が出てきている。それからこの検討会での意見もあり、またパブリッ クコメントでもいろいろなご意見をいただいているということがあります。最終目標 は法案化することですが、一度に法案までいくということは少し考えにくいかと思っ ておりますので、どういった形の仕切り方をしていくのがいいか、今日いただいた意 見も含めて十分検討したいと思っています。 ○前田座長   前向きに検討していただけるということです。ほかにいかがでしょうか。 ○堺委員   全体にかかわることですが、医療安全調査委員会が医療の安全、質の向上に資する ためということは大前提です。そこで 医療安全調査委員会に届け出られなかったも のを、医療安全の向上のためにどう使うかというところですが、現在ではまだ限定的 ですが、一部の医療機関がそういう情報を出してはおります。こういう届け出られな かったものも含めて、どういう全体の全国の医療機関の情報を収集するか。これはこ の会議体で論じることかどうかわかりませんが、それをできるだけ並行してやってい ただきたいと思っております。 ○前田座長   これも可能な範囲でということですね。ほかにいかがでしょうか。特にご意見がな ければ当てるというのもあれなのですが、児玉委員、今日のことで全体に関して何か ご発言があれば恐縮ですがお願いします。 ○児玉委員   ご指名ですので。今日一般的な政策的な議論に気持がうまく入れずにいたのは、昨 晩も深夜に1本、深夜から明け方にかけて1本お電話の相談を受けました。具体的な お話はしにくいところがありますが、かい摘まんで言えば、最初の深夜にあった電話 は、私がお話をお聞きしている限り、まさに診療していた医師にとっても、ご家族に とっても予期できない急死の事案で、おそらく医薬品副作用被害救済が適切な解決法 ではないかと思われるような事案ですが、なかなかご遺族が納得してくださらない。 院長先生は本当に真剣に医療機関の運営をし、管理をしておられる非常に良い院長先 生です。また、スタッフも真剣に医療をやっているわけですが、ご遺族としては急死 について納得がいかないとおっしゃっている。この場面で院長先生がおっしゃるのは、 医師法21条によれば異状死は届出ですね、とおっしゃる。そのとおりだとお答えせ ざるを得ない。そして、日本法医学会異状死ガイドラインでは、診療行為に関連した 予期しない死亡及びその疑いのあるものについては、注射、麻酔、手術、検査、分娩 など、あらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡、 診療行為自体が関与している可能性のある死亡、診療行為中または比較的直後の急死 で死因が不明な場合、診療行為の過誤や過失の有無を問わずに、すべて警察に届け出 ろと言われていますね、と院長先生はお聞きになるわけです。  私はどうしたらいいでしょうかとお聞きになる。こういうことが年に1回ぐらいの ご相談であれば、私もこんなにくたびれないで済むのですが、この年末年始だけで一 体何件あったことかというほどあります。もちろんこの問題について議論を積み重ね てきた議論の現状ということもあるかもしれません。しかし、法的には医師法21条 という条文があり、そして、異状死は24時間以内に警察に届け出よという非常に厳 しい縛りがあり、そして、その異状という概念については法務省刑事局長もまた厚生 労働大臣も、国会で一般論を述べるのが難しいとお答えになっているような実情にあ る。これが私どもの現状です。良心的な医療機関の関係者の方々が、あれもこれも警 察届出なのだろうか。その先に一体何が待っているのだろうかという、大きなストレ スの下で日々が過ぎていっています。この10年、医療安全対策や院内調査委員会や モデル事業、さまざまな取組みが前進してきていましたが、医師法21条の警察届出 に関しては、時計は止まったままだということを強く感じます。  もう1つ、もちろん「I have a dream」という話を自由にできたらどんなにいいか なと思うわけで、医療事故がゼロになるために「I have a dream」という話をいくら でもし続けることが私にもできるかと思うのです。しかし、いま、例えば医療機関で 亡くなられる患者さんだけで、年間100万人近くおられるのです。非常にファジーな 限定ではありますが予期しない死亡という範囲に、限定したとしても、それが全体の 1割と考えても年間10万人、全体の1%と考えても年間1万人、全体の0.1%と考え ても年間1,000人です。死亡事案に限っても解剖して事実を前提としながら議論でき るだけのマンパワーと足場が我々にはどれほどあるのだろうか。  とりわけ昨日深夜まで現場の深刻な嘆きを聞き続けていただけに、「我に支点を与 えよ、さらば地球も動かさん」というアルキメデスの言葉をふと思い出しておりまし た。 ○前田座長   ありがとうございました。非常に重いお話でしたが、ただ、そういう大きな課題の 中でも、いまの議論は前には進む話で、それを乗り超えるために、解決するために少 しでも可能なことからやっていく。医師法21条の問題もこれができますと、条文が なくなるとか、改正があるということとは関係なく、実質は大きく動いていくと思い ますので、そのためにも是非、座長としてはこの会を早くまとめて、何か具体的な法 案になっていっていただければありがたいとは思っております。法案はまだすぐには とてもと課長がお話したとおりで、第三次試案と呼ぶかどうかは別として、外に向か ってもう少し説明を、いままでのものをまとめたものということなのかもしれません が、まずいまの段階で医療界のご理解をいただくということに向けての作業は、是非 進めてまいりたいと思っております。  今日はまだ時間は少し残っておりますが、これで閉じさせていただきたいと思いま す。次回の予定に関して事務局から何かお話いただくことはありますか。 ○医療安全推進室長  どうもありがとうございました。次回の検討会の日程は2月の中旬を目途に調整を させていただきたいと思っています。調整がつき次第、ご連絡をさせていただきます。 本日はどうもありがとうございました。 ○前田座長   どうもありがとうございました。 (以上) (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 24