07/11/28 第5回原爆症認定の在り方に関する検討会議事録 第5回原爆症認定の在り方に関する検討会議事録             日 時 平成19年11月28日(水)15:00〜17:00           場 所 厚生労働省 省議室(9階) ○金澤座長 それでは、まだ定刻少し前でございますが、おいでになるはずの方がすべ てお見えいただいておりますので、第5回原爆症認定の在り方に関する検討会を開きた いと思います。  本日の御出席の状況でございますけれども、8名の委員の方全員に御出席いただいて おります。会議が成立していることを申し述べたいと思います。  それでは、議事に入りますが、次第に沿いまして進めたいと思いますけれども、本日 の議題は論点に係る意見発表及び意見交換とその他でございます。  議事に入ります前に、事務局から資料の確認をお願いしたいと思います。よろしくお 願いいたします。 (資料確認) ○金澤座長 ありがとうございました。何か資料が足りないようでございましたら、お 申し出いただきたいと思います。  それでは、議事1、論点に係る意見発表及び意見交換について検討したいと思います が、今、御紹介がございましたように、本日は放射線被ばくと疾病の関係について議論 していただきますために、財団法人放射線影響研究所の児玉和紀主席研究員と藤原佐枝 子臨床研究部部長をお招きしておりまして、早速御説明をいただきたいと思います。  まずは、児玉先生から、続いて藤原先生のお話を伺いまして、それから議論というこ とにさせていただきたいと思います。それでは、児玉先生どうぞ。 ○児玉氏 資料に基づいて説明させていただきます。私の部分は資料1、ページが打っ てございまして、1ページから16ページということになっております。最初に、資料 全体のあらましを見ていただくつもりで説明申し上げますが、1ページは、最近発表に なりました原爆被ばく者における固形がん罹患率、1958〜1998年についての説明です。 1ページ、2ページが、この論文について私なりにまとめた説明です。  3ページは、英語だけなんですが、論文の表紙部分、1ページ目を持ってきておりま す。何せ64ページもある膨大な論文なものですから、すべてをということが難しかっ たので御了解いただきたいと思います。  4ページ、5ページには、放影研として論文に日本語要約をつけておりますが、その 日本語要約そのものを持ってきております。  6〜8ページにかけては、本論文のキーになる図表を載せてございますので、これら を見ながら説明させていただきます。  9ページからは別の論文でございまして、原爆被ばく者の死亡率調査で、論文そのも のはがん、がん以外の疾患両方の死亡率についての報告なんですが、がん以外の部分を 主に説明させていただこうと思います。  9ページ、10ページに私の説明部分、11ページには論文の1ページ目を載せてござ います。この論文に関しては日本語訳がございますので、放影研の報告書ということで 12ページに日本語訳の1ページ目を載せております。  13〜14ページは、日本語の報告書の要約部分でございます。  15〜16ページに掛けては、この論文でがん以外の疾患に関する記述をしております部 分のキーになる図表ということで載せてございます。  以上の2つの論文について、これから順番に御説明申し上げようと思います。  それでは、1ページ目、原爆被ばく者における固形がん罹患率、1958〜1998年をご らんいただきたいと思います。「研究背景と目的」をごらんください。放射線影響研究所 では原爆放射線の健康影響を調べるために、約12万人の事業調査集団を設定して、1950 年から死亡率調査を行っております。それと並行して、広島・長崎のがん登録を活用さ せていただいて、1958年からがん罹患についての調査も行っております。今日はこの2 つの部分の新しい論文の説明ということになろうかと思います。  この後で、藤原部長から説明がございますが、放影研では死亡率調査とがん罹患調査 以外に、2年に一度健康診断を行う、いわゆる臨床的な調査も行っており、これは成人 健康調査という名前で呼ばれています。この部分の説明は後から行なわれる予定であり ます。  今回、寿命調査集団における固形がん、ちょっと聞き慣れない名前かと思いますが、 注釈をつけました。次ページの注1を見ていただきますと、白血病などの血液あるいは 造血器のがんと違いまして、がんというのは塊、しこりをつくる傾向にあるんですが、 そのようなものを固形がんと言います。定義的にはがんの中で白血病等の血液・造血器 のがんを除いたものと御理解ください。  固形がんに罹患率についての放射線の影響に関する包括的な解析が行われまして、論 文発表がされております。前回報告したものは1994年のものですが、調査期間が11年 間延長されております。それと前回の報告では旧線量評価システム、DS86を使用して いましたが、今回はDS02を用いて新たな視点を加えて解析が行われました。  研究方法です。1958年時点で生存されていて、それ以前にがんにかかったという病歴 がなくて、それから、DS02に基づいてお一人お一人の線量が推定される方等、合計10 万5,427 人について1958年から1998年まで、約40年間に診断された第一原発がん、1万7,448 例に基づいて解析が行われました。また、第一原発がんというのも聞き慣れない言葉だ と思いますので、2ページに注2ということで載せてございます。がんに関しては1つ だけではなくて2つあるいは3つと、幾つかのがんにかかられる方がございます。この 第一原発がんというのは複数の部位のがんを持った人でも最初に罹患したがんを申して おります。そして、原発ということは転移性のものではないという意味を持っておりま す。第一原発がん、1万7,448例について解析を行いました。解析の仕方は、すべての 固形がんを一つのグループとしてみるものと、19の特定のがん部位及び5つの組織型群 について、放射線に関連したリスク評価を行っております。また、組織型群というのが 耳慣れない名前かと思いまして、次ページに注3ということで書いてございます。がん あるいは悪性新生物という呼び名もよくしますが、発生の由来がいろいろ異なっており まして、うまく説明するのが難しいんですが、いわゆる上皮性のがんと言われるものは、 扁平上皮がん、腺がん、その他の上皮がんと分けまして、そうでないところから由来し ているがんは、非上皮性がんと言われていますが、肉腫、その他の非上皮性がんに分け ました。なかなかうまく説明できないので申し訳ないんですが、その5つの発生由来の 組織型に分けて会席を行いました。そのように分けた解析というのは、これまでされて おりません、今回が初めてです。  具体的にどのようにしたかというと、放射線関連のリスクの大きさ、放射線を一定線 量浴びると、例えば何パーセントそのリスクが増すかという意味の大きさ、それから、 線量反応の形状、これは被ばく線量が増していくとともに、リスクが直線的あるいは正 比例の形で増していくのか、あるいは別の形状で増していくのかといった意味合いです。  それから、性別によるリスクの変化といいますのは、男性と女性でリスクが異なって いるのか。それから、被ばく時年齢によるリスクの変化と申しますのは、若くして被ば くした方と、かなり高齢になって被ばくした方でリスクが同じか、違うかという意味合 いです。  がん部位間のリスクの差、先ほども19と申しましたが、いろいろな部位にがんは生 じますが、それぞれリスクが同じか、差があるのかといったことを調べております。  研究結果に移ります。前回の報告、1994年に報告されていますが、微妙に数値は違う ところはありましても、基本的に結果が追認されたものと、次のページには今回の調査 で新たに判明したものを分けて説明をさせていただきます。  まず、基本的にこれまでの結果が追認された部分ですが、まず1番目、寿命調査集団 では結腸線量、結腸というのは大腸の中で結腸とか直腸とか聞かれたことがあると思い ますが、その結腸部分です。結腸線量が0.005Gy以上の調査対象者の方から発生したが ん症例のうちの、約850例、約11%になりますが、原爆放射線被ばくと関連していると 推定されています。6ページ、これも英語で誠に申し訳ありませんが、一番上にTABLE 9とございます。左側から2列目の一番下、10万5,427という数字がございますが、こ の数の方の調査を今回解析いたしまして、それから、2つ右になります1万7,448とい う数字があると思いますが、これだけの数のがんの症例が特定されました。更に1つ飛 んで853、これが放射線に関連して余分に出ていると推定されるがんの数です。その部 分が約11%と計算で出てまいります。  もう一度1ページに戻っていただいて、(2)線量反応あるいは線量応答と呼ぶこともあ るんですが、線量反応曲線は0〜2Gyの範囲では線形である。線形というのは直線的 にリスクが増していくという意味でございます。あっちに行ったり、こっちに行ったり で申し訳ないんですが、7ページをごらんください。上にFIG3と書いてございます。 横軸が放射線被ばく線量、これは結腸線量で示してあります。縦軸が過剰相対リスクと いう形で示しておりますが、横軸の0〜2の間をごらんいただくと、見にくいかもしれ ませんが、太い線部分でリスクが直線的に増していっている様子がごらんいただけると 思います。  2ページに戻っていただいて、注4で過剰相対リスクをごらんください。これは何か というと、単位被ばく線量当たりのリスクの増加率、ある被ばく放射線、被ばく線量を 浴びるとリスクは何パーセント増すかというのが過剰相対リスクでございます。  ということで、1ページに戻っていただいて、今度は(3)です。30歳で被ばくされた場 合、70歳になった時点で1Gy被ばくするとどれくらいリスクが増すか。これは今申し ております過剰相対リスクということで示しますが、男性で35%、女性で58%、がん の罹患率が増す。男女合わせて解析しますと、約47%ということになります。  6ページの下の表、TABLE10をごらんください。これも英語で本当に恐縮なんです が、一番左の縦の欄にERRというのがございます。これが過剰相対リスクです。その 右の0.35というのが1Gy被ばくのときの男性の過剰相対リスク。1Gy被ばくすると 男性では35%がんの罹患が増す。その右の0.58というのが女性の場合で、1Gy被ばく すると58%リスクが増す。Sex−averagedと書いてあるのが男女合わせて見た場合には 0.47、つまり47%増すということでございます。これが1ページの(3)の説明でございま す。  1ページの(4)、固形がんの過剰相対リスク、これは先ほど申し上げました。これは被 ばく時年齢が10歳増加するごとに約17%減少した。これは言い換えると、高齢で被ば くされるとリスクはより低く出るけれども、若くして被ばくするとより高く出るという 意味合いでございます。  過剰絶対リスク、これは2ページの注の一番下ですが、単位被ばく線量当たりの罹患 率増加の絶対値、この部分は寿命調査に属された皆さんの年齢が増していくという状況 では、がんに罹患される方が年齢が増すとともに増えていく現象がございますので、被 ばくに関連して余分にがんにかかる部分というのも、調査期間を通じてだんだん増えて いくということでございます。これは7ページの下をごらんください。左側が被ばく時 の年齢、10歳、30歳、60歳が書いてございます。attained ageというのが何歳になっ たかという意味ですが、年齢が増すとともに過剰相対リスクは下がっていく傾向があり ますが、右のEARと書いてあるのが過剰絶対リスクですが、年齢が増すとともにリス クは増していっているという傾向がございます。  1ページの(5)です。今回の解析で口腔がん、胃がん、結腸がん、肝臓がん、肺がん、 皮膚がん、乳がん、卵巣がん、膀胱がん、神経系がん及び甲状腺がんについては、放射 線に関連したリスクの有意な増加、統計学的に増加していると言って問題がないレベル になりますが、増加が認められております。直腸がん、胆のうがん、膵臓がん、前立腺 がん及び腎臓がんについては、これまでのところ有意にリスクが増しているということ は見られておりません。この部分細かくは8ページのTABLE11、これも英語で誠に恐 縮ですが、ここにそれぞれの部位のリスクが書いてございます。一番上が固形がんすべ てをまとめたもの、All solidと書いてあります。そこからOral cavityと書いてある のが口の中、Esophagusが食道ということで、それぞれの部位のがんのリスクを書いて ございます。これがまとめの表になります。  さて、2ページにお戻りください。新たに判明したものという部分を説明いたします。  まず、(1)低い線量部分でリスクがどうであるかということは非常に重要なことでござ いまして、その部分の検討を行っております。被ばく線量ゼロから例えば0.05、0.1、 0.125、0.15と上げていって、どの部分から統計学的に有意なリスクの増加が見られる かという検討をしておりますが、今回の検討では0.15という数字がキーになりまして、 0.15ぐらいまで上げると、そこで有意な線量反応が認められるという状況です。  ただし、このことは0.15より下でリスクの増加がないという意味ではございません。 今のデータの範囲ではその部分に微妙な変化がもしあるとしても、検出できないという 可能性も十分ございます。  (2)ですが、これまでは食道がんのリスクは有意となっておりませんでしたが、今回解 析で有意となりました。  (3)ですが、これまで子宮がんに関してはリスクが増加していることが示唆されている ような所見はございませんでしたが、今回、若くして被ばくした方でひょっとしたらリ スクが増しているのではないかというのが見えましたので、その部分を詳しく検討いた しました。その結果、20歳未満で被ばくされた方の子宮体がん、子宮がんには子宮頸が んと子宮体がんがございます。聞かれたことがおありかと思いますが、その子宮体がん のリスクが放射線被ばくと関連して増しているかもしれないということが初めて示唆さ れております。  それから、先ほどがんの組織別と申しました。5つの組織型別に解析を行いましたが、 検討した5つすべての組織型群について被ばく線量とともにリスクが増すということが 判明いたしました。  そこまでが、今回の放射線被ばくとがんの罹患に関する部分の説明でございます。  引き続き、がん以外の疾患について説明させていただきます。9ページをごらんくだ さい。原爆被ばく者の死亡率調査、第13報、固形がん及びがん以外の疾患による死亡 率1950〜1997年というものでございます。先ほども説明をいたしましたが、約12万 の寿命調査集団を設定し、1950年から死亡率調査は行ってきております。この死亡率調 査に関しては、定期的にこれまでデータ解析を行い報告してきておりますが、第1回目 の報告が1962年で、第13報を含めて合計13回の報告がなされております。  この論文は2003年に発表されておりますが、その前の12報から調査期間を7年間延 長して、ただしこの時点ではDS86しかありませんでしたので、DS86を用いたリスク 解析でございます。先ほど説明いたしました固形がん、それから、がん以外の疾患、こ こに書くのを忘れて申し訳なかったんですが、ここで言うがん以外の疾患には、血液疾 患が含まれておりません。したがって、血液疾患を除くがん以外の疾患死亡率と原爆放 射線との関連性の検討を行ったものであります。  研究方法は、先ほど来申しております寿命調査集団のうちDS86による個人線量が推 定されている方8万6,572人について、1950〜1997年までの固形がんとがん以外の疾 患による死亡について検討がされております。47年間の調査になりますが、9,335人の 方が固形がんで亡くなっています。それから、それより数が多いんですが、3万1,881 人の方ががん以外の疾患で死亡されておられました。がんについては、先ほどと同じよ うに、すべての固形がんを一つのグループとして、また15の特定のがん部位について リスクの評価を行っています。  今日説明を申し上げますがん以外の疾患の部分では、すべてのがん以外の疾患を一つ のグループとしてまとめて、また、6つの疾患群について解析がなされました。疾患群 と申しましたのは、一つの疾患ではなくて幾つかの病気がグループとして入っていると 御理解ください。6つの疾患群は心臓病、脳卒中、呼吸器の疾患、肺とか気管支といっ たものになります。消化器の疾患、これは胃とか腸、それから、肝臓、胆のうといった ものがここに入ります。感染症は、結核とかその他がここに入っています。そして、今 の5つに属さないその他のがん以外の疾患ということで、6つの疾患群について放射線 に関連したリスク評価が行われています。  結果を申します。(1)〜(5)までですが、(1)寿命調査集団では3万1,881人の死亡のうち の約250例が原爆放射線と関連していると考えられています。15ページをごらんくだ さい。今度は日本語の図表になりますが、上の表10ですが、左から線量、死亡と書い てございます。一番下の合計を見ていただくと、3万1,881人亡くなっていまして、1 つ飛んで右、当てはめ過剰値という英語を日本語に余りきれいに訳されていないんです が、この部分が放射線と関連して余分に死亡されている、放射線と関連した死亡と推測 される部分です。250という数字がございます。  時間の関係で余り詳しく申し上げられませんが、1950〜1997年まの解析をしたので すが、その中でも最近の7年間に限ってみると、4,760人の方が亡くなっていて、その うち過剰に放射線と関連して亡くなっていると思われる部分が66人ということで、こ れは集団の高齢化を反映して、特に最近死亡が増えているということを表しているもの でございます。  9ページに戻ってください。研究結果の(2)、線量反応曲線、先ほどがんの場合には0 〜2Gyの間では直線、つまり水平の形で増していると申しましたが、がん以外の疾患 に関しては直線になっているのか、あるいは下に凸、つまり被ばく線量が増していくと 正比例ではなくて、たくさん被ばくすればするほど、更にリスクが増しているという形 の曲線の形状をしているのか、どちらかという判別はなかなか難しい状況でございます。  (3)、結腸線量1Sv被ばくすると、これはDS86ですので先ほどと表現が違うのですが、 約14%の割合で死亡率が増加すると推定されています。過剰相対リスクが0.14、これ はもう一回15ページにいっていただいて、表13、死因のところの一番上、がん以外の すべての疾患、1Sv当たりのERR、これが過剰相対リスクですが、0.14、1Sv浴び ると14%が死亡率が増すとお考えください。そういう結果が出ました。  (4)、先ほどがんに関しては0.15Gyと申しましたが、がん以外の疾患についてはもっ と上の0.5辺りまでは有意な死亡率の増加というのは解析の範囲では検出されていませ ん。繰り返しますが、増加がないという意味ではなくて、このデータの範囲では検出で きない可能性も当然ございます。  それから、(5)、疾患群、先ほど申しました6つの疾患群の中で、心疾患、脳卒中、呼 吸疾患、消化器疾患に放射線と関連して統計学的に有意な死亡率の増加が見られており ます。15ページに行っていただいて、表13をごらんください。先ほどがん以外のすべ ての疾患をまとめて説明しましたが、下に心疾患、脳卒中、呼吸器疾患、消化器疾患、 感染症、その他と6つについてリスクの評価をしてございます。心疾患のところを見て いただくと、過剰相対リスクは0.17、1Sv浴びると17%リスクが増すという意味合い です。脳卒中が0.12、12%増す。呼吸器疾患は0.18で18%で、その中で肺炎に関して は解析をしてございますが、0.16、16%という値が出ます。ただし、右をみていただく と、今まで一度も説明しませんでしたが、信頼区間が示してございます。この場合90% 信頼区間ということですが、1Sv 被ばくするとリスクが16%増す0.16ではあるんだけ れども、ゼロである可能性もあるし、もっと上の0.32である可能性もあるということが 示されています。、有意と有意でないところのギリギリ境目、あるいはギリギリ有意とい うレベルがゼロでございます。  それから、消化器疾患は0.15、これも先ほどと同じように、信頼区間の下限がゼロと いう状況です。肝硬変だけをそこに取り出して解析してございますが、これは信頼区間 の下がマイナスの方になっていまして、有意には出ておりません。  同じように感染症、その他の疾患も有意にはなっていないということになります。  次の16ページを見ていただくと、これががん以外の疾患の線量応答曲線ということ です。左上から心疾患、右に脳卒中、真ん中左が呼吸器疾患、右に消化器疾患、左下に 感染症、右にその他とあります。上の4つの疾患群、心疾患、脳卒中、呼吸器疾患、消 化器疾患で心疾患と脳卒中、呼吸器疾患では有意に、消化器疾患もぎりぎり有意と言っ ていいと思いますが、結果がそのように出ております。  心疾患を見ていただくと、一応この図ではリスクは放射線被ばくと関連して、正比例、 直線的にと線は引いてございますが、そこにある点をなぞっていただくと、ひょっとし たら下に凸でカーブしているかもしれないという感じがおわかりになると思います。そ の下の呼吸器疾患も、更に右の消化器疾患も同じような傾向がありまして、はっきりと 直線であるとは言い切れていないというのが今の状況ということになります。  もうすこしうまく説明でればよかった側面もあろうかと思いますが、一応、がんの罹 患に考えする最新報告の説明と、少し古くなりましてしかもDS86を使った報告ではあ りますが、がん以外の疾患の死亡率、寿命調査におけるこれまでの知見を報告させてい ただきました。  以上です。 ○金澤座長 どうも、児玉先生ありがとうございました。スペシフィックな質問も後で まとめてしていただくことにいたしまして、藤原佐枝子さんに説明を続けてお願いした いと思います。 ○藤原氏 私は、資料2に準じて説明させていただきます。最後に参考資料というのが ついておりますが、これは戸田先生、山下先生が放影研及びそれ以外の論文についても レビューされておりますので、時間がありましたら、こちらも説明させていただきます。  まず、資料2からです。「成人健康調査」と書いてありますが、まず、今日御紹介する のは原爆被ばく者におけるがん以外の疾患罹患率、この報告書は1958〜1998年までの 健康診断から得られた結果を包括的に解析したものです。その後、5ページから続いて おりますのは、各個別の疾患についての報告をまとめております。  まず最初のがん以外の疾患罹患率。この研究の背景と目的ですけれども、放射線影響 研究所では原爆被ばく者の健康影響を調べるために、約2万人の成人健康調査集団を設 定して、1958年に2年に1回の健診を通じて追跡調査を行っております。この論文は 1958〜1998年の追跡期間中のがん以外の疾患罹患率と放射線との関連を包括的に解析 したものであります。この前の報告としましては、1993年に報告されております。それ から追跡期間を12年延長して、DS86を用いて解析してあります。  研究方法といたしましては、追跡期間中に少なくとも2回以上健診を受けた約1万人 において、21の疾患について放射線被ばく線量との関連を検討しております。この21 の疾患というのは、3ページのTABLE3、上下になっておりますが、21疾患がどうい うものを取り上げたかというものはこれを見ていただけるとわかると思います。診断は、 これは健診という形になっておりますので、病歴聴取、診察、検査所見、健診における 検査所見に基づきICDコードがつけられております。先ほど児玉先生の方で疾患群と いう言葉が使われておりますが、これについても同じように、慢性肝疾患及び肝硬変の ICDコードに含まれている疾患は、アルコール性脂肪肝、ずらずらと書いてある、こ れらの疾患が全部このICDコードに含まれております。  次に、甲状腺疾患のICDコードに含まれる疾患、これも甲状腺腫からずらずらと書 いてある、これらの疾患をすべて含んで甲状腺疾患として解析しております。  心筋梗塞につきましては、1968年以前は心筋梗塞単独のICDコードが存在しなかっ たために、1968年以降を解析しております。心筋梗塞の診断は病歴に基づいております ために、心筋梗塞による死亡や無症状の心筋梗塞は含まれておりません。  線量はDS86を用いて、甲状腺疾患は甲状腺臓器、眼科疾患は目、肝臓は肝という形 で臓器線量を用いております。研究結果としましては、TABLE3に21疾患の1Sv当た りの相対リスクを示しております。3ページのTABLE3の一番右のカラムに書いてあ るんですけれども、Relative Riskと信頼区間という形で21疾患について書いてありま す。それらの中で線量性の関係を示したものといいますのは、4ページのFIG1を見て いただきますとわかりますように、子宮筋腫、それから、右に行きますと甲状腺疾患、 それから、慢性肝疾患及び肝硬変、白内障。尿路結石に関しましては、有意ではないん ですけれども、Pバリューが0.07ということです。これは後で説明します。  緑内障に関しましては、今度は線量と負の関係を示しております。この図を見ていた だくときにちょっと注意が必要なのは、横軸は同じような感覚になっておりますが、縦 軸の相対リスクが4になっていたり、2になったりしておりますので、目で見た感覚と は少しRelative Riskは違うはずです。  2ページ目の3になりますけれども、腎及び尿路結石は、男性では線量と正の関係が 認められておりますが、女性では関係が認められなかったという結果です。  4番目とましては、高血圧は線量の増加に対して直線的な関係が得られなかった。こ の直線的な関係が得られなかったというのは、4ページの下のFIG2を見ていただくと わかるんですけれども、線自体がカーブを持っています。つまり、直線的な関係という のは線量に比例してリスクが上がるのを直線的な関係と言いますが、二次式の線量反応 関係と言いますのは、線量が増えれば増えるほどリスクがより高くなるということを示 しております。このようなカーブの線量反応関係を二次式の線量反応関係と言います。 高血圧及び心筋梗塞も線量と直線的な関係は得られなかったが、被ばく時年齢40歳未 満では二次式の線量反応が得られたということです。  5番目に書いておりますのは、TABLE3の下の右のカラムに書いてありますが、これ らの疾患というのは喫煙とか飲酒という影響を受けますので、喫煙歴、飲酒歴を考慮に 入れても上記の結果は変わらなかったということです。  次に、5ページ目、広島・長崎の原爆被ばく者における甲状腺結節と自己免疫性甲状 腺疾患の放射線線量反応関係、被ばく55〜58年後の調査という論文を紹介させていた だきます。1984〜1987年に掛けて、やはり成人健康調査の長崎のみの受診者に対して 甲状腺調査が行われております。このときの対象者は、1,978人について甲状腺疾患有 病率と線量との関連が報告されております。  今回2006年に発表されました研究は、以前の調査から16年後の調査で対象者を広 島・長崎に拡大しております。対象者が約2倍の4,091人に対して調査が行われており ます。線量はDS02、甲状腺臓器線量を用いて解析されております。  研究結果は7ページの上のFIG2を見ていただくとわかりますが、一番上の列です。 全充実性結節、悪性腫瘍、良性結節、のう胞の有病率と線量との正の関係が認められた。 下の列になりますが、甲状腺の自己抗体陽性、甲状腺自己抗体陽性甲状腺機能低下症、 自己抗体陰性の甲状腺機能低下症、バセドウ病の有病率は線量との関係を認めなかった という報告になっております。  次に、8ページで紹介しておりますのは、副甲状腺機能亢進症に関する論文です。こ の研究背景としましては、良性疾患の放射線治療後40年以上経過して副甲状腺機能亢 進症が発生することが報告されております。この調査の目的は、原爆放射線被ばく線量 と副甲状腺機能亢進症有病率との関係を検討することです。この調査は1986〜1988年 に行われておりまして、広島の対象者約4,000人に対して副甲状腺機能亢進症を診断し ております。  線量はDS86の甲状腺臓器線量を用いております。副甲状腺というのは甲状腺の隣に ある臓器ですので、甲状腺臓器線量を用いております。  広島の対象者約4,000人のうちに、副甲状腺機能亢進症と診断されたのが19人、男 性3人、女性16人。副甲状腺機能亢進症は、70%ぐらいが良性の腺腫で、そのほかが 過形成で副甲状腺機能亢進症が発症します。良性の疾患のために必ずしも手術適用にな らないケースもあるということで、手術を受けられたのが9例です。副甲状腺腺腫が7 例で、過形成が2例であったということです。  副甲状腺機能亢進症の1Gy当たりの相対リスクは4.1。9ページのFIG1に書いてあ りますが、相対リスクが4.1、副甲状腺機能亢進症の1Gy当たりの相対リスクは被ばく 時年齢が若いほど大きかったという結果が得られております。  次は白内障に移ります。10ページです。広島原爆被ばく者の放射線白内障、1949〜 1964年ということで、成人健康調査が始まったのは1958年ですが、それ以前に既に眼 科調査というのがされておりまして、この論文はその1949〜1964年の眼科調査で得ら れた白内障のデータを使って、DS86線量を用いて、原爆被ばく者における白内障の線 量との関係を解析しております。  これはDS86の線量が得られた人、広島の2,249人について眼科調査で認められた後 嚢下混濁と放射線被ばくとの関係を見ております。放射線被ばくによる白内障の特徴的 なものが後嚢下混濁ということで後嚢下混濁を見ております。いわゆる老人性白内障に おきましてもやはり後嚢下が混濁いたしますし、老人性はどこを混濁してもおかしくな いんですけれども。放射線に特徴のある後嚢下混濁ということで、こちらの論文は後嚢 下混濁を見ております。  11ページの英語のサマリーの下から4行目に書いてあるんですが、DS86、目の臓器 線量を用いた場合の放射線白内障における閾値は1.75Svと95%の信頼区間が1.31〜 2.21と推定されるという結果が、この論文から述べられております。  次に、12ページの論文は、2004年に発表された論文で、この論文の目的は被ばく後 55年経過して眼科調査に基づいて診断された白内障の有病率と放射線被ばく線量との 関係を検討するということを目的としております。この調査の対象者は被ばく時年齢が 13歳未満あるいは1978〜1980年に成人健康調査、眼科調査を受け、かつ、2000〜2002 年の眼科調査を受けた広島・長崎成人健康調査受診者913人を対象としております。白 内障は眼科医によって診断されて、線量はDS86の目の臓器線量が用いられております。  13ページの図に示しておりますが、1Sv当たりの相対リスクは、核色調、ヌクレア カラーでは、1.07、これは放射線とは関係ないということです。次に、核混濁、ヌクレ アオパシティーのオッズ比は1.12で95%の信頼区間が0.94〜1.30ということで、これ も被ばくとの関係なし。それから、皮質混濁1.29、それから、後嚢下混濁は放射線との 関連が認められております。  2番としまして、前回の調査で後嚢下混濁が認められた13例を除いても同じ結果が 得られたというように、このアブストラクトに書いてございます。  最後も白内障の論文なんですけれども、これは原爆被ばく者において白内障手術後の 症例と放射線被ばくとの関連があるかどうかということを調べております。これは2000 〜2002年にAHSの検診を受けた3,761人で、診断は健診時に得られた白内障手術後の 病歴に基づいておりますので、この前の白内障の論文とは違いまして、核混濁とか皮質 混濁、後嚢下混濁というのは情報としては得られておらず、白内障を手術したかどうか ということに関して解析してございます。線量はDS02の目の臓器線量が用いられてお ります。  健診を受けた3,761人のうちで白内障の術後の人が479人で、白内障術後であった人 のオッズ比が1Gy当たり1.39、95%の信頼区間が1.24〜1.55であったと。この論文で は、有意でない線量閾値を認めたという結果になっております。  以上が、放影研から得られました論文を紹介させていただきました。  続きまして、参考資料です。これは肝機能障害、放射線起因性に関する研究報告書で、 これは戸田先生がまとめられた報告書です。2番目としましては、最近10年間の甲状 腺疾患と放射線との関連についての文献レビューということで、55ページから山下先生 を中心にまとめられた報告書です。 ○金澤座長 少しコンパクトにお願いしましょうか。 ○藤原氏 では、これは51ページ、この報告書は海外の先生のレビューを受けており ます。レビューを受けた後に、レビュー結果を検討した後の修正版というものがありま すが、要約が非常に長いのですけれども、要点としましては、最初に、放射線の肝障害 ということで、いわゆる医療被ばくなどの検討がされております。その結果としまして は、上か6行目に書いてあります10Gy以上の放射線に曝露された際に、肝内の血管系 の障害が認められるということです。したがって、原爆被ばく者において現在の診断技 術をもってしても原因が明らかにできない肝疾患を見た場合、放射線被ばくによる肝疾 患の可能性は完全に否定できない。それから、また、被ばくの慢性肝疾患へのかかわり については、肝炎ウイルスなどによる慢性肝疾患の交絡因子としての放射線という観点 からも検討すべきであろうということで、B型肝炎ウイルスに関しては、放射線がB型 感染後の持続感染に関与していると考えられる、しかし、キャリアにおける肝疾患発現 に関しては否定的な結果であった。  C型肝炎におきましては、一番下の行に書いてありますが、C型慢性肝炎成立に被ば くはかかわっていないと考えられる。  それから、肝硬変に関しましては、被ばく者の肝硬変進展にかかわるのは肝炎ウイル ス感染であり、被ばくではないと結論された。以上、肝疾患発症にかかわるさまざまな 交絡因子を考慮に入れた研究では、被ばく肝硬変進展への関与については否定的な結論 である。  それから、慢性肝疾患に関しましては、最初に御紹介したyamadaらの論文において は研究の評価が極めて困難であるという評価になっております。  今度は甲状腺に関しますレビュー、これは山下先生が最後のまとめのところにきちん と書いておられます。ちょっと時間がないようですので、これを読んでいただければと 思います。 ○金澤座長 65ページの結論ですか、ありがとうございました。  膨大な内容を限られた時間で御説明いただきましたので、わかりにくかったことがあ るかもしれませんが、むしろディスカッションの中で疑問を解いていただければと思い ますけれども、いかがでしょうか。児玉先生と藤原先生の両方のお話を伺ったわけであ りますが、がんに関することと、がん以外の疾患についてということでございましたの で、最初はがんに関してということで、主に児玉先生にお話をいただきましたので、御 質問・御意見などございましたら、どうぞ。 ○鎌田委員 固形がんは、血液疾患を除くということでありますが、不良性貧血とか再 生不良性貧血とか骨髄異形成症候群とかそういうものは白血病ではないし、それから、 固形がんでもないというと、このレポートには何ら載っていないという空白の部分があ るように思いますが、ちょっとお教えください。 ○児玉氏 実はその部分がこれまでの解析でも不十分になっています。白血病について はかなり古くからされているんですが、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群については、 寿命調査での大きな報告というのは、今のところありません。ごく一部について第何報 か覚えていませんが、骨髄異形成症候群に関しては、線量とともに増しているという可 能性があるというのが出ています。それぐらいで、、詳しい大規模な解析はが私の知る限 りでは少なくとも放影研の寿命調査という意味では残念ながらないという認識です。 ○鎌田委員 その辺が審議会ではそれなりの対応をされているのだろうと思いますけれ ども、データ的に見たときに後で疾患群としてまとめるときに今の名前は入れていいも のやら、悪いものやらということになりますので、ちょっとお伺いしました。  もう一つよろしいですか。児玉先生の方で、一番最初のページで第1原発がんと規定 されておられて、よく理解できたんですが、私が知りたいのは第2あるいは第3のがん が一体どれくらいの数あるのか。頻度なり数でもいいですけれども、教えていただけれ ばと思います。 ○児玉氏 今、手元にその数はございません。それと、先生の今の御質問は恐らく第1 原発がんのリスクというのは今までずっとされてきているけれども、被ばく者の方の中 で1つだけじゃなくて2つ、2つだけじゃなくて3つ、そういうふうに幾つものがんに かかられる方のリスクというのは増しているのではないかということだと思います。こ れは我々にとっても大変重要な研究テーマなんですが、それについては、今のところはっ きりとした報告がまだ出ていない状況です。どうにかしなくてはいけないと思っている んですが。 ○鎌田委員 その辺、私も理解しておりまして、数だけでも欲しいと。次回どこかで報 告をいただければと。正式な報告ではなくて、厚生労働省に数を渡していただければと 思います。  以上です。 ○金澤座長 ありがとうございました。  それはお調べいただければ出てくるものですか。 ○児玉氏 今ちょうど解析を進めようとしているところですから、検討会として御依頼 いただければ可能と思います。 ○金澤座長 ほかにございますか。 ○甲斐委員 今回新しく固形がんの罹患率が追跡調査が追加されて、またDS02という ことで大きく新しい知見が出てきたわけですけれども、そこで新たに統計的な有意性が 見つかったがんが増えたわけですけれども、では、逆に、有意でないがんについては、 実際には通常の自然発生が少ないなりのサンプルサイズが小さいといったことで統計的 に検出できないと考えてよろしいんでしょうか。つまり、こう考えることで放射線特異 的だなというものを限定することは困難であると、いわゆる非特異性という形で考えて いいのかどうかということについて教えてください。 ○児玉氏 これは、このデータそのものでは言えませんので、どう考えるかということ になろうかと思いますが、有意であると言えないということは、有意でないという意味、 要するにそのがんは放射線と関連して増えないがんであるということなのか、あるいは これまでの調査の範囲、期間、それから、対象集団の規模からして検出できない検出力 の問題なのか、どちらなのかというのは判別ができません。そこをどうにかしたいと思 うんですが、疫学調査だけでは無理かもしれません。 ○甲斐委員 少なくとも疫学的には線を引くことは難しいということですね。 ○児玉氏 はい。調査期間を伸ばし、それから、症例の数が増えれば、ほんのわずかの 差が検出できるということは十分あり得るので、検出できないのか、そもそも放射線の 感受性に差があって、あるがんは影響が見られない、あるがんは見られるのかどっちか 言えと言われても断定は困難です。見分けがつかないのが現状だと、私はそのように理 解しています。 ○丹羽委員 それに関連して。子宮頸がんは結構数は多いはずですよね。それはどうな んですか。 ○児玉氏 子宮頸がんは今の時点でもまだ有意がありません。 ○鎌田委員 今の質問に似ているんですけれども、今後の問題として聞いていただけれ ばいいと思うんですが、膵臓がんは今まで診断能力がなかったんですね。ところが、最 近は非常に検出力が強くなっていますから、どんどん早めに見つけて治療して、かなり よくなってきて死亡にまで至っていないことがある。ということから考えますと、今ま で検出できなかったものがこれから先、疫学的にプラスになってくる可能性もあります よね。 ○児玉氏 ありますし、さっき私が申し上げた両方の可能性がそのままあると思います。 ○鎌田委員 ですから、その問題についてはこの委員会の後でまとめのときにどこまで とるかということで、今はないよと、でも今後出るかもしれないというようなことまで おっしゃる必要はないわけで、私はそれでいいんじゃないかと思います。あとは委員会 の問題だと思うんです。 ○金澤座長 ありがとうございました。  先ほどの子宮頸がんについては、ほかに原因があり得るものなのではなかったでした か。そういうものについては、はっきりしにくいということで理解してよろしいんです か。ウイルスが関係していると言われておりますよね。 ○児玉氏 その意味では、環境性の発がん物質は幾らでもありまして、それが複雑に絡 み合ってがんが生じてきていますので、どれと特定するのは疫学的には、かなり難しい です。 ○金澤座長 わかりました、ありがとうございます。  ほかにどうでしょうか。 ○靜間委員 被ばく線量についてですけれども、DS86あるいはDS02で線量を出され ておりますが、これは爆心地からの距離によって中性子線及びガンマ線の線量か計算さ れて、あるいは屋内か屋外かとか、臓器でしたら更にそういう遮へい等の効果も入って いると思うんですけれども、その方が爆発の瞬間に浴びられた放射線だけでして、その 方が例えば屋内から市内に出てどういう行動をとられたかとか、そういうことによって は被ばく線量が変わってくるのではないかと思うんですけれども、そういった方のその 後の行動といったことについての考慮は入っているんでしょうか。 ○児玉氏 お一人お一人の細かい行動記録というのが不十分でして、数値化ができたら いいんですが、できないというのが現状です。ですから、今例えばDS02で被ばく線量 をこれと数値化していますが、その方々はそのDS02の与えた線量にプラスアルファの 被ばく線量がもしあったら、実際にはそれが加わっている方々なんですが、その部分の 数値化できないというのが困った問題になっています。 ○靜間委員 そうしますと、近距離でしたらやはり影響が大きいと思うんですが、それ がある程度遠距離になってきますと、影響は小さくても場所によっては例えばフォール アウトといったものの影響とか、あるいはその方がどういう行動をしたかによりまして、 フォールアウトの混じった水等を飲んだとかそういうことがケース・バイ・ケースにな りますけれども、あればまた線量が変わってくるかなと思っています。 ○金澤座長 では、今のことについての直接のお答えをいただいてから、丹羽さんの御 意見をお聞きします。 ○児玉氏 今おっしゃったのは、確かに線量が変わってきますから、被ばく単位線量当 たり幾らというリスクの表し方が変わるという可能性は十分ある。それは私どもも承知 しております。 ○丹羽委員 今のポイントなんですが2つございまして、1つは私は疫学の専門ではな いんですが、これまで放影研が出してきたデータのリスクにかかわる部分に関しては、 一応線量が振れるか振れないかという問題はあるとしても、縦軸の方は厳然としてその 人のリスクが出ているわけですね。それを足し算にしているわけで、そうすると、靜間 先生の持ち出された問題というのは、大体この距離で、この遮へいでというよりも、線 量は高く浴びている方がおられる。ただ、そのグループの中のリスクというのは、上の 特定の点に代表されていて、それが右に動くかどうか、あるいは左に動くかどうかの問 題である。だから、リスクそのものに関しては直線性を示す何なりは既にデータの中に 入っている。そうすると横軸がどちらにずれるかという問題で、これは前回、私が染色 体の問題で鎌田先生に質問させていただいたんですが、そのときの鎌田先生の御判断は、 DS02であるいはDS86で、基本的には大して問題はない。それから、これまでのこの 検討会で先生も物理関係で最初のAさんに関してずっとフォローして、線量がどれくら いというエスティメーションをやっておられますよね。そうすると、それでこれぐらい の幅があるであろうということは、先生のエスティメーションの中に既にある程度我々 としては意識として持っているものだと理解していたんです。だから、今の先生の御説 明は、横軸がどれくらい振れるかというのは、既に我々は先生のお話で聞いたように大 したことはないと理解しておったんですが、そこのところはすごく振れるとお考えなん でしょうか。 ○靜間委員 Aさんの計算は、残留放射線だけですので、それ以外のことについては特 に見積もりはしておりません。  先生の言われる横軸が触れるというお話ですけれども、均等に低い方と高い方に触れ るのであれば平均値は変わらないと思うんですが、そこのところはケース・バイ・ケー スで高い方に触れる場合もあるでしょうし。 ○丹羽委員 ただ、リスクそのものは既にデータとしてあるわけで、これは上下しない わけですね。だから、横軸がどうなるかというだけの問題なんですね、ここ場合は。だ から、それでよりリスクが高いとかそうではなくて、既にあるデータは使えると。縦軸 のデータは使えると。 ○靜間委員 使えると思います。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。 ○鎌田委員 今の問題ですが、だから、初期放射線を問題にしていると、丹羽先生が言 われるようにぶれることはないと思うんですけれども、放影研の扱っている例えば0.5 とか0.7Sv辺りとかそういうところに入市被ばく者群そのものは入っておりませんよね。 ですから、ぶれようがないんですよ。靜間先生はそこを言っておられるんですよ。だか ら、丹羽先生は初期放射線について横ぶれがあるんじゃないか、軸がずれるんじゃない か、ずれていいんじゃないか、幅があるんじゃないかと言われているのだと私は思った んです。だから、私はあくまでも初期放射線としてちゃんとした単位を使っている放影 研の仕事は、それとしていいと思うんですよ。だけど、現実に残留放射線という問題が あるということであれば、それプラスアルファすることをどこかでしなければいけない と私は思います。ですから、放影研のデータにそれを入れろというのは、彼らとしても ちょっと難しいんじゃないかと思うんです。それを今後この検討会で残留放射線の量を どこまで持っていくかということを考えればいいと私は思いますが、丹羽先生いかがで すか。横軸の問題ではないのではないかと。 ○丹羽委員 今の問題は、直爆の方も実際にその場で残留放射線なり何なりを受けてお られるわけですよね。だから、放影研のDS02の線量推定が結局どれくらいそのような 残留放射線によって左右がずれるか。だから、誤差がどれくらいの大きさであるかとい うのが、まず第1の問題。それから、フォールアウトの寄与というのはこの中にやはり 入っているわけですね、直爆の方にも。それで、直爆の方のドースにはフォールアウト と残留放射線の両方が入って、それにリスクが張りついているわけですね。そうすると、 DS02の推定線量がどれくらいずれているんだという問題になるわけですね。それは直 接の計測であるから、それプラス、例えば0.1あるいは0.2、距離によってはこうだよ ということになるわけです。だから、今のドースレスポンス、リスク評価の線量効果関 係に関しては、斜めの一本線が上によりきつくなるか、より寝るかということですね。 残留放射線があれば、それから、内部被ばくがあればより寝ることになるわけですね。 そういう問題を今ここで議論していて、少なくとも上の方に出てきたリスクに関しては 問題はない。残留放射線とフォールアウトの問題は、少なくともDS02の今のデータに 入っている、本当は。ただ、それが数値として正しいかどうかの問題を今言っているわ けです。だから、その辺りは今のデータはそういう意味では割と信頼に足ると私自身は 思っております。 ○鎌田委員 それはよく理解しています。だから、信頼限度があるわけですから、残留 放射線を考慮したのが上の方になっているととることもできるわけです、人によって違 うわけですから。ある人もいるし、ない人もいる。直爆被ばくについては残留放射線を 受けた人もいれば、受けていない人もいるわけですよ。そういう人たちが入っているわ けです。今問題にしているのは、後から入ってきた人たちについてどういうふうに考え ますかという質問があったんじゃないかと思うんです、違いますか。ですから、私はそ れは別個に考えたらいかがですかと言ったんです。だから、横軸については、直接被ば く者についてだけ放影研では解析されているわけですよね。線量を与えて。その人たち の中には、残留放射線を浴びた人もいるわけですよね。でも、それは線量としてはとっ ていませんよね、計算では。 ○児玉氏 それは、DS02で与えたものに恐らく加わっているんでしょうがそのプラス 部分が、数値化できない、一緒に加わっているという認識は当然あります。ただ、数値 化できませんから、もしその部分が数値化できれば、DS02にある線量を足すというこ とができるんですが、先ほどの靜間先生の御質問のように、一人一人の行動記録等が詳 しく記録されておらず、残念ながら情報が足りないので、数値はできないのです。だか ら、単位被ばく線量当たり幾ら、先ほど丹羽先生がおっしゃったように、スロープがど うなるんだろうかという細かい検討は今のところではなし切れないという意味合いです。 ○金澤座長 ちょっとかみ合わない部分があるんですけれども、固形がんに関する問題 の一つではあるかもしれません。まだがん以外のものが残っておりますので、そちらの 方にシフトさせていただきたいんですが、がんに関してはまたいずれ議論する機会があ ると思います。  さて、がん以外のことに関してもいろいろ情報をいただいたわけであります。新しい 知見も加わってきているわけでありますが、この件に関してはいかがですか。 ○鎌田委員 藤原先生の最後に戸田論文を言われて、肝硬変は放射線依存性がないよと いうことを紹介されたように思いますが、先生の提示なさった資料の3ページの上の表 3を見ますと、Chronic liver disease and ci rrhosisと書いてありまして、症例数 が1,774人、そして、有意が0.0010、エスティメイトが1.15で、これはいずれも有意 な放射線依存性を示すデータだと見られます。そうすると、先ほど紹介された肝硬変は 放射線に関係ないですとわざわざ読まれたものとこちらと、どちらが本当なのかと。 ○藤原氏 資料2の1ページにお示ししているんですけれども、慢性肝疾患及び肝硬変 というICDコードの中にアルコール性脂肪肝、急性アルコール性肝炎、アルコール性 肝硬変、アルコール性肝障害、慢性肝炎、これらすべてが入った結果が、先ほどの鎌田 先生の御指摘になったTABLE3です。本来ならば、例えば肝硬変、慢性肝炎、脂肪肝 と分けて解析するのが理想的なんですけれども、何しろ1958年からの解析ということ で、それを分けることが残念ながらできないので、こういうふうに全部まとめた解析に なっています。、肝硬変と書いてあるので誤解を生じやすいのですが、これはいわゆる慢 性肝疾患として解析してあると解釈していただいたらといいと思います。  戸田班の参考資料の52ページの下から4行目、Yamada論文となっておりますが、 最初に御説明しましたリサーチの最初の論文は、このYamada論文と同じものなんです けれども、Yamada論文によれば1986年以降の肝疾患患者の増加が見られたが、これ は腹部超音波の導入によるものであり、症例の69%が非アルコール性脂肪肝であった。 病名が明らかにされているのは、非アルコール性脂肪肝のみであり、検討の対象とする ことができるということで、その後に、脂肪肝の線量反応についてはという記述が続い ておりますが、最初に紹介したのはすべての慢性肝疾患を含んだコードと解釈していた だければと思います。 ○鎌田委員 では、我々はどうしたらいいんでしょうかね。どのような区別の仕方を。 ○藤原氏 この論文を読んでの区別の仕方ですか。 ○鎌田委員 だから、がんに関係しない病気というものを並べていかなければいけない と思うんですね。そのときに、肝疾患に関してはタイプ分けまでしていって病名を記載 しないといけないということになりますか。そういうことになりますよね。 ○藤原氏 サブタイプというのは、慢性肝炎とか肝硬変ですね。ただ、今持っている情 報では残念ながらそういう分けることのできる情報がなく、AHS結果のラディエー ションリサーチに載っている論文ではできないということです。 ○鎌田委員 ですけれども、今私が御指摘したように、今回新たにデータとして出され たものでちゃんと有意差が出ているわけですので、その辺は肝炎及び肝硬変という格好 で理解してもよろしいと私は思うんですが、それではいけないんですか。なぜそこで戸 田論文を持ってきたか、否定材料をわざわざ言われたかというのが私にはわからないん ですけれども。 ○藤原氏 戸田論文の方は、いろいろなものがレビューしてあって、戸田論文の最後の 53ページに、やはりこれも放影研から出たデータなんですけれども、最後に「*」のつ いているところがありまして、この報告によりますと、肝硬変進展についてHBV、H CV、喫煙、飲酒などについて補正して放射線の影響を検討した研究であると。下から 5行目に書いてありますが、肝硬変のオッズ比はいずれにおいても有意の線量反応は認 められないという結果も、放影研から出ております。 ○鎌田委員 タイプC、タイプBとか最終的に一番新しいデータとして出された論文を 我々は尊重したいと思うんですが、児玉先生そこのところは答えていただけませんか。 ○児玉氏 今議論されていることは、実は疫学調査で放射線被ばく線量に関連して病気 の頻度あるいは死亡率が増している場合に、そのことは解析の結果として事実そこにあ るんですが、がんと違って、放射線が引き起こしていると疫学調査で言えるかどうかと いう問題があって、その部分があるものですから、こちらも答え方が非常に歯切れが悪 くなるところなんです。がんに関しては、世界中いろいろな被ばくされた方々の集団が ありまして、どこでも大体同じような白血病とか乳がんとか結腸がんとか肺がんとか出 てきますし、更にそれ以外にもいろいろな疫学的に因果関係を判定する要因も十分ある。 更に、発生のメカニズムも説明できやすい。先生も放射線発がんの御専門のお一人です が、そういうこともあるんです。ところが、がん以外の疾患に関しては、疫学調査では ある調査では放射線と被ばくと関連して有意に出る、あるものでは出ないとか、そのよ うに必ずしも結果が一致しないものですから、しかも、集団の中でも一致しない、集団 の間でも一致しないということがある場合には、なかなか放射線が引き起こしていると 言い切れないというのが多分今はっきりとお答えできない理由の一つだろうと思います。 がん以外の疾患について、なかなかメカニズムまですっきり理解できないものですから、 実は我々は大変悩みを抱えているというのが実情です。 ○鎌田委員 わかりました。今の戸田論文について、レビューの意見書まで出ているん ですね。これは正論文になっているんですか。 ○藤原氏 ちょっと意味が。 ○鎌田委員  戸田先生の論文に関して、厚生労働省の報告書を英文にしまして、外国 人のレビューアーに見てもらっているんですね。そこまではわかります。そして、結論 は妥当である、掲載可能(acceptable)と書いてあるんだけれども、では、何の論文誌(研 究雑誌)に載ったのかなと思って探すんですが、雑誌名が出てこないので、どこに載っ たんですかということです。 ○藤原氏 これは、報告書だと思います。 ○鎌田委員 報告書を英語に直してレビューアーに見せてというのを、ここで出す必要 があるんですか。少なくとも、本論文にはなっていないんですね。レビューアーに見て もらったということですね。 ○藤原氏 これはレビューされています。 ○金澤座長 わかりました。ありがとうございます。  ほかにいかがですか。 ○鎌田委員 白内障の閾値の問題ですけれども、13ページの論文では1.75Svというの が出ていますね。ですけれども、ミナモト論文では閾値については今説明になかったん ですけれども、それを教えてください。2004年の分で閾値は幾らになるか。 ○藤原氏 このミナモト論文では閾値には触れていなかったように思うんですが。 ○丹羽委員 素人なんですが、私の理解では最初のシャル論文で我々は学生のころ閾値 があると教えられていたんですよね。それは特に放射線に関して顕著な後方のところが スター状の白濁になるタイプのものであって、最近のものはすべての白内障を調べたと ころということになって、閾値はないと私は思っているんですけれども。 ○藤原氏 そうです。 ○鎌田委員 そうすると、白内障についても正の相関があったということは、藤原先生 の1ページの一番下に、子宮筋腫、甲状腺疾患、慢性肝炎、白内障は線量と正の相関を 示したというのは、老人性白内障も含むんですね。 ○藤原氏 そうです。 ○鎌田委員 わかりました。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。ありがとうございました。  また、いつかこの手の話をしていただくチャンスはあろうかと思いますので、続きは またさせていただくことにいたしましょう。  それでは、児玉先生、藤原先生、どうもありがとうございました。    (児玉氏、藤原氏 退席) ○金澤座長 では、次に、青山委員から原爆症認定の在り方について、法律上の観点か ら御意見を賜りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○青山委員 これまでのこの検討会における議論とがらっと変わって、法律上の観点か らの意見を申し上げさせていただきます。  申すまでもなく、放射線起因性というのは原爆症を認定する上での法律上の要件とさ れているわけでございます。そして、厚生労働大臣が放射線起因性が存在しないという ことで認定の申請を却下いたしますと、申請者はその取消を求めて行政訴訟を提起する ことができ、行政訴訟が提起されますと、放射線起因性の存否について司法判断が行わ れるという構造になっているわけでございます。  そして、放射線起因性があるかないかについて司法が判断する場合の判断の枠組みに つきましては、いわゆる松谷訴訟の最高裁判決がございまして、その中で判断が示され ておりますけれども、その部分を読みますと、「訴訟上の因果関係の立証は一点の疑義も 許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の 事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、 その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであること を必要とすると解すべきである。」と言っているわけでございます。一読して理解しにく いかもしれませんけれども、少しかみ砕いて申し上げると、今の部分は次の3点を判示 しているわけであります。  第1点は、訴訟上の因果関係の証明というのは、一点の疑義も許されない自然科学的 証明とは違う。自然科学の証明というのは、完全な証明であれば、一点の疑義も許され ない証明ということになるのでしょうけれども、そういうものではないということであ ります。  第2点は、では、どうするのかというと、経験則に照らして全証拠を総合検討して導 くものであるということを言っています。つまり、「経験則に照らし」ということは、自 然科学の知見だけで判断するのではなくて、裁判に現れた認定に役立つ全資料を総合検 討して行うものだということです。  第3点は、その場合の証明の程度は、高度の蓋然性を肯定し得る程度であることを要 するけれども、ここで言う「高度の蓋然性」というのは通常人を基準として、通常人が 疑いを差し挟まない程度の真実性の確信を持ち得るものであれば足りるということでご ざいます。  つまり、この最高裁判所の判例は、原爆症の認定は、経験則に照らして全証拠を総合 検討して行われるべきである。だから、専ら科学的な知見だけで行うということではな くて、また、科学的に証明がされない限り認定してはいけないというものでもないとい うことです。勿論、この原爆症の認定判断に当たりましては、医学あるいは放射線科学、 その他の自然科学の高度な知見が必要であることは言うまでもないことであります。そ うであるからこそ、法律が、大臣が認定するに当たっては、原則として審査会の意見を 聴かなければならないとしているわけでございますし、現在の審査会の委員には、自然 科学の知見を有しておられる方々がなっておられるということでございます。  ですから、裁判所が司法判断するときに、自然科学の知見だけではなくて、経験則を 基にあらゆる資料を総合して検討すべきだということではありますけれども、事柄の性 質上、自然科学上の知見というものが非常に大事であり、自然科学的な知見を踏まえて 判断しなければならないということは当然のことでございます。  ただ、法律も審査会の意見を聴きなさいとしているけれども、審査会の意見をそのま ま受け入れて、そのとおり判断しなければならないとして審査会の判断に拘束力を与え ているわけではないのであって、自然科学による知見がすべてを決するという構造には なっていないのであります。  また、この判決の中で「高度の蓋然性」という言葉が使われておりまして、これが誤 解されているといいますか、実際の運用において最高裁の言っている意味と違う受け止 め方をされていはしないかということを、今までの検討会におけるほかの委員の方、あ るいは参考人としてお出でになった方のお話を聞いていてちょっと感じるんですけれど も、先ほど言いましたように、高度な蓋然性というのは、裁判官が経験則に基づいて総 合判断する際に、どの程度の心証を形成すべきかについての基準として言っているわけ でございまして、科学的に高度な蓋然性が肯定されるということが認定の要件であると 言っているわけではないのです。科学者の立場からすると、科学的に高度の蓋然性があ ると判断する根拠があるときに、科学的に証明されたと考えられるのだろうと思います けれども、最高裁の言っている高度の蓋然性というのは、科学上の判定について言って いるものではないということです。  この最高裁の判例が言っているのは、直接的には裁判になった場合に、裁判官がどう いう基準で判断すべきかということですけれども、訴訟になるとその基準に従って処理 されるということである以上は、そのことを踏まえて厚生労働大臣もあるいは審査会も 認定なり、審査をすべきであるということになると思うんです。原爆症の認定に関する 自然科学的な知見というのは、今までの検討会におけるいろいろなお話を伺ってきまし ても、これまでの研究の成果を基に著しい進歩・発展を遂げてきているということはよ くわかります。また、その判断のために必要となる資料も、いろいろな実態調査を行う などして収集し、分析することによって、非常に蓄積されてきているということが言え るのだろうと思うんです。しかし、同時に、今日のお話の中にも出てきましたけれども、 まだ解明し尽くされていない分野もあるように思いますし、事柄によっては学者によっ て意見が分かれていて、未だ決着がついていないというものもあるやに伺われるところ であります。そういうことでありますから、科学的な判断をする場合におきましても、 放射線起因性があるということがはっきりしている場合と、反対にないということが はっきりしている場合が勿論あると思うんですけれども、その中間に「あるとは断定で きないけれども、ないとも断定できない」という、言わばグレーゾーンに当たるような 分野があるに違いないと思うのであります。「ある」とはっきり認定てぎる場合、あるい は「ない」とはっきり認定できる場合の中には、先ほどの一点の疑いも許さないほどの 証明がある場合だけではなくて、高度の蓋然性があってこの場合は今の科学の水準から すれば「あると認めていい」、あるいは「ないと認めていい」という場合を含めて考えて いただいていいんですけれども、そうであっても、なおかつどちらにも属さないという グレーゾーンがあり得るだろうと思うんです。  そういうグレーゾーンに該当する場合は、自然科学的な判断としてはあると認められ ない、あるという証拠がないんだから、ないということと同じに扱わざるを得ないとい うことになるのではないかと思うんですけれども、先ほど御説明したように、裁判にな れば科学的にはグレーゾーンである、すなわち、あるという証明がないからといってそ こから直ちに結論が出るわけではなくて、やはり経験則に従ってあるかないかを判断し なさいということなので、自然科学の知見としてはあるともないとも断定できない、ど ちらとも決められないというときには、それ以外の資料も含めて総合判断して決めなけ ればならないということになるわけです。  一体そういう場合に何を判断の資料に追加できるのかということが非常に問題であり ますけれども、世の中には自然科学によって解明されていない事象というのはたくさん あるし、原爆症の認定についてもいまだ解明されいてない分野があるということを前提 にして考えますと、あるともないとも科学的には言い切れないからといって、当然に経 験則の世界でもそれは認められないということになるわけではなくて、認定に役立つあ らゆる資料を総合して判断しなければならない。その認定に役立つ資料として具体的に どのようなものが考えられるのかというと、これは今までの検討会においても残留放射 線とか内部被ばくとかあるいは急性期症状というようなことが議論されまして、それは 多分、被ばく線量の算定にそういうものをどのように反映させるかという観点から議論 されてきたと思うんですけれども、それを数値化して具体的にこのように線量に評価で きるということがはっきりすれば、それは一つの考慮の仕方であると思いますが、そこ までいかなくても先ほどのグレーゾーンに当たる場合について考えるときに、そういう ものどういうふうに評価すべきかということも、この検討会で科学の専門家のお立場か ら皆様にお考えいただければと思うわけでございます。  抽象的に言えば、自然科学上の知見によってはあるともないとも判断がつかない場合 に、因果関係を推認するに役立つあらゆる資料を総合判断して、最高裁が言っているよ うに、通常人が疑いを差し挟まない程度まで心証を形成できるかどうかという問題にな るわけですけれども、したがって、その資料というのは科学的な知見からは結論が出な いわけですから、そこに更に追加してそういう判断に供される資料というのは、科学的 に厳密性あるいは確実性を備えたものには限らないにしても、やはり経験則上はそれを 考慮することが合理的だというものでなければいけないわけですから、科学的に全く放 射線起因性と縁もゆかりもないよというものは勿論排除しなければいけないと思うんで すけれども、先ほど申し上げました内部被ばくだとか残留放射線とか急性期症状といっ たようなものは、場合によるとそういう科学的な証明まで至らなくても因果関係がある 可能性がある、そのための経験則による判断に供することが許される、という場合もあ り得るのではないかという感じがしております。  原爆が投下されて既に62年が経って、被ばく者の被ばくした当時の状況であります とか、その後の病状や治療の経過、その他の客観的な資料は非常に乏しいし、年々そう いうものも少なくなってくる。当時の状況を知っていて証人として証言できる人も亡く なったりして、どんどん減ってきているということから、被ばく者が客観的な資料をもっ て因果関係があることを立証しようとしても、その資料が非常に少なくなっているとい うことが言えると思うんです。そのことは被ばく者本人の責任ではない、被ばく者とし てはどうしようもない事情だということが言えると思うのですが、そうであれば、そう いう特殊な事情があるということを認定の際に考慮する必要があるのではないか。一般 論としては訴訟上立証責任を負う者は、当然持っているはずの立証手段を持っていない ために十分な立証ができなければ不利益を受けてもやむを得ないということが言えるん ですけれども、もともと立証する資料が客観的に少ないし、それが本人の責任ではない という場合には、乏しい資料の中である程度の立証があり、、他方それを覆すような反証 がないというのであれば、認定に働く資料と認定を打ち消す資料との相対評価において 認定していいということが、当事者間の衡平ということを考えて認められてしかるべき なのではないかと思うんです。  実際に具体的にどのような資料がそのような認定に供され得るか、というのは、個々 の事案ごとに判断するほかないと思うので、勿論抽象的な一般論として申し上げている わけですけれども、そう思うわけでございます。  レジュメの3に「例えば」ということで3つ書きました。これは、今まで御説明した ような考え方を踏まえて、私なりに提案として書いてみたわけですけれども、(1)は原 因確率が一定割合、ここでは「例えば50%」と書きましたけれども、必ずしも50%が 適当であるか、あるいは60%とか70%とすることも考えられるかもしれませんが、と にかく一定割合以上であれば反対の立証がない限り認定するというような考え方を取り 入れてはどうかと。つまり、一定以上の原因確率があれば、一応因果関係があると推定 して、その推定を覆すような立証があれば、それは存在しないということになるけれど も、そうでない限り認定してよろしいと。そして、その場合には、審査会の審査を経な いで認定することにして、処理の迅速化を図るということにしてはどうかというのが第 1点でございます。  第2点は、原因確率がその割合に満たない場合は、科学的知見によればそれは因果関 係はないということがはっきり断定できる場合は勿論否定の結論にならざるを得ないと 思うんですけれども、それが否定し切れない、つまり、科学的に証明はされないけれど も、しかし、否定もされない、先ほどのグレーゾーンに当たるということであれば、先 ほども申し上げましたように、何らかの補強証拠といいますか、因果関係があるという ことを推認させる一定の資料があれば認定すると。その一定の資料として何があり得る かということは、先程申しましたとおりみんなで議論しなければいけないという問題で あると思います。  つまり、原因確率が一定程度以下であれば被ばく者側に補強証拠の提出責任を負わせ て、提出があれば認定するけれども、そうでなければ否定するという使い方をするとい うことは考えられないかということでございます。  (3)は、これまでは審査会の判断というのは科学的な知見に基づく判断ということで やってこられたわけですし、それが中心になるということは当然なんですけれども、今 まで御説明したように、科学的な知見からは結論が出ないという場合には、経験則を適 用して判断すべきだということになる以上、審査会の体制を整備して、そういう経験則 に基づく判断も必要ならばすることができるというように変えていくことを考えるべき ではないかと。すべての事件についてそれをやる必要はないと思うんですけれども、グ レーゾーンに属すると認定された場合に、その後の議論をそういう経験則を適用するこ とに精通した委員を加えて議論してもらうというようなことを考えていただいてはどう かということでございます。  以上です。 ○金澤座長 ありがとうございました。  大変納得できる御説明をいただいたように思います。勿論いろいろ御議論はあろうか と思います。今後まとめる上で大変参考になります。 ○甲斐委員 こういう理解でよろしいかという確認という意味ですが、どうしても我々、 放射線分野では健康影響の唯一指標というのは被ばく線量であるという理解は、ここに おられる先生方皆さん共通しているはずなんですね。ですから、問題はその線量がどこ まで正しく評価されているか、または、評価できる情報があるか。先ほど先生が言われ たグレーゾーン、または立証できない状況というのは、それだけ数値的な情報を持って いないと、ある意味で不確かであると。そういった場合どう判断するか、つまり線量を どう見るかと、そのように経験上線量が有意な被ばくと見るのか、そういう被ばくはな いと考えるのか、そういうところを照らして考えるという理解でよろしいでしょうか。 ○青山委員 放射線を被ばくしていないことがはっきりしているということであれば、 考える余地がないというか、経験則上も当然因果関係はないということになるんでしょ うね。だけれども、その人がどの程度の放射線を浴びたのか、その量はどの程度かとい うことについては必ずしもはっきりしないという場合があり得るのだろうと思うんです。 資料が不十分であるがゆえに、そういう意味での放射線の影響がないとも言えないし、 はっきりあるとも断定できないという場合にどう処理するかということについて今お話 を申し上げたわけでございます。 ○金澤座長 どうでしょうか。非常に大事な御議論をいただいていると思いますが。 ○丹羽委員 まず第1点は、科学は高度の蓋然性を証明するような科学もありますが、 リスク評価の科学というのは、高度の蓋然性というところからは遠くて、経験則の積み 重ねであるということを是非とも御理解いただきたいと思います。だから、グレーゾー ンをどういうふうに追い詰めて小さくするかという努力は多分過去50年、放射線影響 研究所がやってこられたところだろうと私は理解しております。  第2点は、線量の上では絶対これがこうなんだということであっても生物サイドの生 の資料から見る限りにおいては、いろいろな難しい問題が見えてくる。それは物理では 正しいかもしれないけれども、前回のときに鎌田先生に御質問申し上げたように、広島 の被ばく者の方で横軸に線量をとって縦軸に染色体異常の頻度をとると、勿論中間点は きれいに線になるんですが、その両側がすごく広がりがあります。その広がりが何なの かということは、実はいろいろな説明がなされていますけれども、遠距離であるはずな のに、結構染色体異常の頻度が高い方が実際におられるんです。低い方も勿論おられる んですけれども、そういうことに関して我々はまだまだ問題があるということは、サイ エンスのサイドからも認識をしております。だから、経験則の塊みたいなところがあり ますので、逆にそのような不安定な部分を認識したときに、そういう方をどういうふう に評価するのかといったときに、やはりこれはもっと広げた方がいいんじゃないかとい うことは当然出てくると。これはサイエンスのサイドから実際にそう出てくると思いま す。  そういうことで、私自身はこれは単なるコメントでございますけれども、よろしくお 願いします。 ○金澤座長 ありがとうございました。  勿論これは議論し始めたら最終的なまとめに入ることになりますが、今どうしても 言っておきたいということがございませんでしたら、実はもう一つだけ甲斐先生に、第 3回の検討会で原因確率の作成のことをお願いしておいたので、ちょっとお話しいただ けますか。 ○甲斐委員 第3回のときに私は原因確率の問題点を含めて提案させていただいたんで すけれども、そこで提案した内容といいますのは、現在、原爆被爆者でそういう原因確 率を推定するためには、過剰相対リスクというものを推定して、それを利用するわけで すが、その推定そのものに不確かさを持っているということを考慮すべきではないかと いうことを御提案させていただいたわけです。そうしますと、それを考慮するとなると、 従来のような数値的なテーブルというのは難しいわけです。つまりコンピュータプログ ラムをつくって計算しなければいけないということです。更には、そのコンピュータも 非常にいろいろなケースについて計算をする必要がありますので、なかなか短時間でで きる作業ではないということを放射線影響研究所の先生方と議論いたしました。  その結果として、こういう最新の情報、アメリカでも現在、今日児玉先生に御紹介い ただいた論文を基に、こういう評価をしようという動きがございますので、やはり日本 でもしこれをやるのであれば、きちんとした作業チームをつくって行うべきではないか という私と放射線影響研究所の先生方との結論でございます。  その際に、できればこういう大きな問題ですので、第三者、例えばアメリカで中心的 に活躍されています国立がん研究所、NCIのランド先生とかそういう方をアドバイ ザーに入れて作業をするとか、そういうこと検討すべきではないかということが我々の 議論した経緯でございます。 ○金澤座長 そう簡単には出ないだろうということですね。 ○甲斐委員 時間が掛かると思います。 ○金澤座長 わかりました。そこは理解しましょう。  だんだんいろいろな議論が出てきておりまして、まとめに近づいているんですが、今 の甲斐先生について何か御質問ございますか。 ○鎌田委員 この間私は申し上げたんですけれども、確率論のところで、幾ら精密にあ るいは範囲を持たせたような格好でやっても、それは最終的な答にはならないと思うん ですよね。だから、私は今のを使うなら使ってもいいし、先生がこの間出されたものは もう論文の中に出ているんですよ。 ○甲斐委員 いや、出ておりません。 ○鎌田委員 いやいや、私は見ましたよ。 ○甲斐委員 結局、原因確率の不確かさを評価するためには、現在の論文だけからでは 無理なわけでして、そこから更に基のデータに戻って解析して、そこで到達年齢、被ば く時年齢、線量といった種々の条件で不確かさを評価する必要があるわけでございます。 ○金澤座長 いずれにしても、そう簡単に出ることではないということが今わかりまし た。時間が掛かると。時間ばかりではありませんね、知恵も要りますね。そういうこと ですので、先回、できるだけ早く計算し直してほしいと言ったのは、残念ですけれども、 無理だろうという理解だろうと思います。そういうことを踏まえた上で、そろそろ論点 の取りまとめをしなければいけないので、これは皆さん方から何回にもわたって議論し ていただきました。また、今日は青山先生から満を持してお話をちょうだいしましたの で、それも含めて取りまとめのたたき台をつくらなければいけません。それにつきまし て、座長代理ということでお話をいただいておりました丹羽先生に、たたき台の案をお つくりいただこうと思っておりますが、お許し願えますでしょうか。 (「異議なし」と声あり) ○金澤座長 ありがとうございます。それでは、丹羽先生にお願いすることにして、予 定の時間は過ぎていますね。次の会合についてよろしくお願いします。 ○北波健康対策推進官 それでは、事務局より次回の開催につきましては、12月10日 月曜日でございます。15時半から17時半を予定しております。場所につきましては追っ て御連絡させていただければと思います。決まり次第、御案内等について御連絡させて いただきます。よろしくお願いいたします。 ○金澤座長 ありがとうございました。  それでは、本日の会はここまでということで、12月10日にお会いしたいと思います。 ありがとうございました。 (了)