07/10/29 第3回原爆症認定の在り方に関する検討会議事録 第3回 原爆症認定の在り方に関する検討会         日 時:平成19年10月29日(月) 12:55〜14:54         場 所:九段会館 桐の間(4階) 1.開 会 2.議 事  (1)認定の在り方に関する論点整理  (2)論点に係る意見発表  (3)その他 3.閉 会 ○金澤座長 委員の先生方が幸いにも時間前に、皆さん、お集まりいただきましたので、 傍聴の方には悪いんですが、始めさせていただきたいということでございます。  さて、本日は第3回目の「原爆症認定の在り方に関する検討会」でございます。  本日の御出席の状況でございますけれども、大変ありがたいことですが、8名全員の 御出席をいただいております。当然ながら会は成立をしておりますことを申し上げたい と思います。  それでは、議事次第に沿って進めたいと思いますが、本日は、いよいよ個別の論点に 対しての御議論をいただくことになります。  そこで、まずは、認定の在り方に関する論点整理と、論点に関わる意見の発表をいた だくことにしております。  それでは、資料の確認を事務局からお願いいたします。 ○佐々木課長補佐 では、資料の確認をさせていただきます。  資料は、まず、議事次第、それから座席表でございます。資料一覧に沿って御説明い たします。  資料1「原爆症認定の在り方に関する検討会 論点メモ」でございます。1枚もので ございます。  資料2「第2回検討会における意見陳述者 沢田昭二氏の意見陳述に対する質問及び 回答について」でございます。  資料3「靜間委員説明資料」ということでございます。  資料4「甲斐委員説明資料」「原因確率について」でございます。  参考資料「靜間委員説明参考資料」でございます。  資料は以上でございます。 ○金澤座長 ありがとうございました。資料の不足はございませんでしょうか。  ないようでしたら、早速議題1にございます「認定の在り方に関する論点整理」であ ります。  前回の会の後に、あるいは前回の会でも多少御議論をいただきましたが、皆さん方か ら御意見をちょうだいしております。それを基にいたしまして、丹羽座長代理と御相談 いたしまして、資料1のようなものをとりまとめました。  勿論、いろいろ御意見をいただいておるんですが、それをすべて盛り込んだかどうか は多少疑問はないわけではありませんが、表現は違っても大体は載せてあるかと思って おります。  何かこの論点メモはおかしいということがございましたら、どうぞ、御意見、御発言 をお願いしたいと思います。おおよそ、このようなことでよろしいでしょうか。  鎌田委員、何かございますか。 ○鎌田委員 原爆症認定となる病気については、どこに検討されることになるのかなと 思います。どの項目ででしょうか。 ○佐々木課長補佐 事務局から御説明いたしますと「3 放射線起因性・原因確率につ いて」のところに相当するかと理解します。 ○鎌田委員 わかりました。 ○金澤座長 ほかにございますでしょうか。ありがとうございます。  それでは、今回の検討会におきまして、これらの論点について、各項目についてきち んと議論をしていきたいと思っております。  なお、話は少し変わるのですけれども、先ほど資料2で御説明がありましたように、 今回、御意見を皆さん方からいろいろいただく中で、前回の検討会で御発言いただきま した、沢田昭二先生の御発言の中身に関して確認したいということを、いろいろお考え の方がいらっしゃるようでありまして、私の方からも少しお伺いしたいことがあって、 事務局を通じて、後で事務局から説明があるかもしれませんけれども、資料2の1ペー ジ目の裏側から2ページ目、3ページ目にかけてですが、こういう内容でお伺いをいた しました。  その結果でありますけれども、委員の先生方には、既にお配りはしてございますが、 4ページ目以下に、大変御丁寧な御回答をいただきました。この御回答に関しまして改 めて御意見などがございましたら、どうぞ、御発言をお願いしたいのですが、いかがで しょうか。  ここには放射線科あるいは影響の御専門の方が多いのでお伺いしたいのですが、ちょ っと私は不勉強で知りませんでした。43ページから始まる、メディシン・コンフリクト・ アンド・サバイバルというジャーナルというのは、どういうジャーナルなんですか。ど なたかご存知ないようですね。  そのことは別として、何か御意見はございませんか。  どうぞ。 ○丹羽委員 沢田先生の御回答、非常に丁寧に答えてくださっておるんでありますが、 多分これは個々のことは、どうせ今日の議題の中で嫌でも立ち入って議論しなければな らないと思いますので、1つはそのように考えて先に進めたらとは思います。  それから、ジャーナルについては、私はこのジャーナルを知らなかったんですが、23 巻まで出ているということで、ある程度しっかりした歴史があるようにも思いますが、 ただ、これがレビューとして書かれたものなのか、投稿論文として書かれたものなのか、 どうも前者のような、書いてみないかというような誘いがあって書いたという意味のこ とをどこかに書いておられたと思いますので、前者のような立場でお書きになったんで はないかと理解いたします。 ○金澤座長 わかりました。ありがとうございます。  今、丹羽先生からもお話がございましたが、中身については、また、いずれ個別の論 点の中で取り上げることになるだろうという話でございますので、もしよろしければ、 次に進めたいと思いますが、よろしいですか。 (「はい」と声あり) ○金澤座長 ありがとうございました。それでは、引き続きまして、議題の2に移りた いと思います。  これについては、先ほど論点整理をさせていただきましたけれども、被爆線量につい ては、論点としてはかなりいろいろな御意見をいただいております。  こちらの方から、靜間先生に最新の知見も踏まえた上で御説明いただくことをお願い してございますので、特に被爆線量についてということで、御説明をいただけますか。  どうぞ、よろしくお願いします。 ○靜間委員 それでは、資料に沿いまして説明させていただきます。  1ページ目のところに、本日、事前にこういった内容について説明するようにという ことを言われておりましたので、それについて準備いたしました。  まず、最初が「1.DS86とDS02について」ということでして、これは非常に大き なテーマでありまして、どこまでしゃべったらいいのか、自分でも苦慮したんですけれ ども、なるべく手短に話をしていきたいと思います。  2番目としまして「線量評価に追加すべき知見」というテーマをいただきまして、こ れは(1)〜(3)まで「初期放射線」「誘導放射線」「放射性降下物」につきましては、 現行の線量評価で用いられているものでありますけれども「(4)内部被曝」につきまし てはないのではないかと思いまして、追加すべき知見として挙げてみました。  それでは、最初に1番目としまして、DS86とDS02についてということで、説明さ せていただきます。  資料として付けましたものは、私が大学の方で学生に話をするときにつくっている資 料を持ってきましたので、ちょっと専門の方にはわかっていることとか、足りない点と か、いろいろあると思いますけれども、要点だけを、これで説明させていただきます。  DS86とDS02についてでありますが、やはりそれ以前にT65Dというのがありまし て、それについても、やはり少し見ておかないと、DS86に入っていけないという気が いたしますので、ごくごく簡単でありますけれども、それ以前の原爆線量について説明 させていただきます。  DS86の前に出ましたのが、T65Dですが、それが出るまでの過程といいますのは、こ れは御存じのとおりで、1946年にABCCが広島、長崎に設立されます。  そこで行われましたのは、原爆の人体に及ぼす生物学的並びに医学的影響について長 期的・継続的な研究を行うということで、そういった被爆生存者の調査が始まったわけ ですけれども、影響についてはわかっても、その被爆者がどれだけの放射線を浴びたか ということがわからないわけでして、それを決めるための実験が、そこに書いてありま すが、1956 年から極秘のプロジェクトとして「ICHIBAN」計画と呼ばれておりますけれども、そ れが始まります。  大変なお金をかけた実験だったわけですけれども、この実験では、ネバダの核実験場 で実際に原爆を爆発させて、その放射線をはかるということが行われております。  更に、大気圏の核実験の中止ということになりまして、その後は次のページに出てお りますが、原爆を実際に爆発させることができないので、地上に500メートルのタワー を建設して、裸の原子炉をつくる、あるいはコバルト60をつり下げてガンマ線をはか るという実験が行われます。こういった状況の写真がそこに付けております。  次の5ページに行きまして、そういった線量測定の結果、1965年の暫定線量として、 そこに書きましたように、横軸に距離を取って、縦軸が中性子、ガンマ線の線量です。 下の方は、広島、長崎について、そういった線量が出されます。  これで一旦暫定でありますけれども、線量が決まっていったわけですが、1974年ぐら いから、アメリカでは中性子爆弾の開発の研究が進みます。  その中で、中性子の出力について、コンピュータで計算するということが行われまし て、それを広島、長崎の場合に当てはめてみると、どうも計算結果が違っていたという ことがありました。  それと、先ほど言い忘れましたが、T65Dのときに一番問題になりましたのは、原爆 の、例えば広島の場合でしたら、鉄のケースの中で核分裂が起こったわけですけれども、 中性子は、爆弾のケースを抜けて出てきておりますので、そのケースがどういうものだ ったかというのがわからないという点では、一番大きな問題でした。  その点が、6ページに書きましたように、1981年にロスアラモスの倉庫から原爆のモ デルが出てきたということがありまして、これを基にして中性子がケースの外でどうい うふうな形になっていたかという計算が行われます。  7ページ、DS86といいますのは、そういった前段階はありますけれども、1981年に 広島、長崎、日米の合同のワークショップの第1回が開かれます。  それから、そこに書きましたように、1986年までの4回、全部で5回の会議を通して、 1987年にはDS86の最終報告書が出されたという経緯があります。  したがいまして、DS86というのは、実際のデータではなくて、ほとんどがスーパー コンピュータを用いたシミュレーションから計算されたものだということでして、それ がどう変わったかというのは、次のページに載せております。  点線が、T65Dですが、それに比べて中性子は約1けた下がった。ガンマ線は広島の 場合は、わずかに増えたということがあります。長崎の場合は、それほど大きな違いは なかったというのがDS86ですが、中性子が下がったというのは、非常に大きな違いで ありました。  9ページ、人体影響とか、その辺は、私、専門ではないので置いておきますけれども、 このDS86が出まして、その線量というのは、その後のUNSCEARとかICRPの基礎デ ータとなりまして、実際の公衆の年線量限度より厳しくなる。あるいは職業人の線量限 度、これも年50mSvから5年で100mSvというふうな値に、より厳しい方向に変更さ れたという経緯がございます。  DS02に続きますこととしまして、次の10ページのところに、そのときのDS86は計 算によって出されたものでありますが、実測データとの比較はどの程度あったかという のをまとめておりますが、熱ルミネッセンス、これはガンマ線のですけれども、これは 大体合っていることがわかります。  32Pはデータが少ないので、しかもこれにも誤差が入っておりませんけれども、誤差 の範囲では何とも言えないということであります。  それと、ユーロピュームの測定というのが、1980年ごろからできるようになりまして、 まだデータが十分ではありませんでしたけれども、広島の場合は、金沢大学の中西先生 のデータというのがありまして、これを見ると、大体合っている。  長崎の場合は、データがかなりありましたけれども、ばらつきが大きくて、何とも判 断できないという見方をされておりました。  次に行きまして、11ページのところは、DS86の出たすぐ後から未解決問題というの が言われておりまして、それは放医研の橋爪先生たちの取られたコバルト60のデータ が、計算と実測データとが合わないということがわかっておりました。コバルトのデー タは、そんなに多くはなかったんですけれども、その図の右側の方が、これはちょっと 小さいんだけれども、測定値と計算値の比を取ったものでして、合っていれば、横軸は 距離でして、すべての距離で1になるのが合っている場合ですが、そういうふうに左側 が1より高くて、右側で1より低いという違いがあるということがわかっておりました。  これは、爆心の近くで計算値の方が過剰になっていて、遠方で計算値の方が過少にな っているということを表わしていたわけです。  それで、DS86を検証するには、実際の広島、長崎の残留放射能をはからなければな らないということでありまして、我々も1984年ぐらいから残留放射能の設定というこ とに関わってきました。  それで、どんなものをはかりましたかというと、12ページのところに書いております ような大きな岩石の中での深度分布というものを測定いたしました。  それと、今のユウロピウムにつきましては、爆心から半径2キロ以内で岩石とかタイ ルとか、そういったものを集めて、被爆資料を集めてはかるということを行いました。  また、ユウロピウム以外に、アメリカとかドイツあるいは後では日本でもできました けれども、塩素36の測定ということもできるようになりましたので、そういったサン プルも集めて、外国のグループに送っております。  それと、被爆鉄材も集めまして、コバルト60の測定を行いました。被爆建造物とい うのは、広島、長崎ともどんどん取り壊されていきましたけれども、その取り壊しの前 に、屋上に残っている避雷針とかはしごとか、そういったものを集めてきております。  我々がサンプルを集めるときには、必ず爆心から直接当たっているということ、物の 影になっていないということと、場所が移動していないということを条件にして、サン プリングを行っております。  4番目に書きました、銅サンプルでありますけれども、これも大分後になりまして、 原爆の速中性子についての評価をニッケル63というものを測定することによって、可 能であるということがわかりまして、銅の中の速中性子反応で、ニッケルができますの で、そういった銅の被爆資料の収集ということを行いまして、測定を行っていきます。  長崎につきましても、同じように、被爆鉄材とか、岩石資料を集めてきました。  13ページ、これは我々がつくりました測定装置でありまして、低バックグラウンドの 装置が必要でありますので、そういうものを新たにつくったということです。  14ページの方は、全サンプル73か所から、サンプル数にしますと、150サンプルぐ らいございます。岩石資料についてです。  15ページは、被爆鉄材でありまして、爆心の原爆ドームあるいは講堂、国民学校、市 役所、キリンビヤーホール、日赤、信用金庫、そういったところの鉄材を集めておりま す。  一番下の方にありますのは、比較資料としまして集めた鉄材です。  16ページは、長崎につきましても、放衛研の方と共同でサンプリングを行いまして、 そこにありますように、岩石試料につきましては、1〜9まで、被爆鉄材につきまして は、長崎大学の方で集められておられた鉄材を使わせてもらいました。  結果でありますが、17ページの方が、広島の我々がはかった結果でありまして、上の 方がユウロピウムでありますが、こういう結果にありまして、黒い方は私どものデータ ですが、白い方は金沢大学の中根先生の結果であります。  これを見ますと、横軸がSlant rangeといいまして、爆風を爆発点からの距離を取っ ておりますが、1,200メーターぐらいから計算とずれが見えるわけですけれども、これ につきましては、この後の論文におきまして、検出限界につきまして、私どもの考察が やや足りなかったということがわかりまして、その後の論文で、遠方のデータにつきま しては、検出限界以下ということで、制度がここまでないということは報告しておりま す。  したがいまして、沢田先生の意見にありました遠方のデータを切り捨てているという のは、切り捨てているわけではなくて、検出限界以下であって、制度が足りないという ことであります。  下がコバルトのデータですが、コバルトも同じように、やはり1,200ぐらいからずれ てくるわけですが、この場合には、検出限界よりも、超えてデータ点が出てきましたの で、これは疑問が残るところでありますが、その後、同じサンプルを金沢大学の方で測 定していただいて、もう少し誤差が大きいということで、DS86に近いような結果も得 られております。  長崎について、ユウロピウム、コバルトは、これは我々の測定と中西先生の測定だけ を載せておりますけれども、ほぼDS86に近いという判断をしております。  以上、我々の測定ですが、元に戻りまして、次の19ページにおきまして、DS02につ きましては、DS86が出た後から日米で実際の測定とかを行っているものが、ずっと討 議を続けてまいりまして、そこに書きました、1960年から2002年まで実務者の会議が 行われて、アメリカで行ったり、広島で行ったりしてきております。  そして、2003年に、日米の上級委員会というものが設けられまして、丹羽先生はその 委員でありましたけれども、これがアメリカと東京でも開催されまして、最終的に合意 されたということであります。  しかしながら、合意はされたんだけれども、報告書が出るまでに、なかなか時間がか かりまして、実際、アメリカ側は、もう報告書を書くのをやめるんではないかと思って いたんですが、放影研の前のベネット理事長とか、現在の大久保理事長が非常に精力的 に動かれまして、これは後で2005年に報告書が出ております。  それで、合意内容、先ほどの中性子のデータでありますけれども、SRで1キロです から、いわゆる地上距離で1,200メートルくらい。それより遠くではばらつきが多いと いうことで、1,200メートル以内で合意ということになっております。  それ以前は、実測データで確かめるということができないので、計算値を使うという ことになっております。  20ページの方は、変更された点でありますが、たくさんありますけれども、1つは[5] の爆発高度が580メートルから600メートルに変更されたということ。  [7]の残留放射能の測定データにつきましては、細かい計算が行われまして、吸収とか、 そういったものも補正を入れた計算というものが行われております。  長崎の三菱兵器工場の生存者についての遮蔽計算というのが、非常に精力的に行われ ております。  一番最後に爆心が15メートルほど西に変更になるということもあります。  その変更の結果、どうなったかというのが21ページ以降でありますが、21ページは、 上が広島、下が長崎で、TLDの測定、ガンマ線の測定でありますが、こういったように、 ほぼDS02の計算と合っているという結果になっております。  次のページは、広島のユウロピウムの測定データですが、たくさんありますけれども、 グラウンドレンジで1,100メートルぐらいまでが取られております。  緑色の破線がありますが、これがDS86でありまして、赤い方が変更されたDS02で あります。  爆心の方でDS02は高い方にいっていたわけですが、それは後のコバルトのところで また説明いたします。  その下が、コバルト60の測定値との比較であります。  次の23ページが、上の方がコバルト60の近距離のデータを並べたものでありますけ れども、我々は測定データとDS86を比較してみますと、どうしても爆心では実測デー タの方が低く出るということがわかりました。  これを説明するために、爆発コードを580から600に上げるという変更が行われてお ります。これだけではないんですけれども、ほかの要因も含めて爆発コードを変えたと いうことです。  下の方の図は、塩素36の測定データでありますが、これは花崗岩をはかるか、コン クリートをはかるかでデータが違っておりまして、外国のグループがはかったデータと いうのは、ちょっとサンプルがよくなくて、かなりずれているという結果があります。  また、1,200メートルぐらいからは、バックグラウンドの係数とほぼ同じになります ので、それ以遠は決まらないということになっております。  24ページは、ニッケルのデータでありまして、これも速中性子のデータが幾つか出て おりまして、遠距離につきましても、誤差は大きいんですけれども、ほぼ合っていると いう結果であります。  その下は、リンの32のデータでありまして、これは新しいデータが加えられたわけ ではなくて、計算との比較だけであります。  少し長くなりますが、次の25ページは、長崎のユウロピウム、コバルト、塩素36の データです。  DS86からDS02にどう変わったかというのが、26ページのグラフでありますが、ま ず、広島につきまして、横軸に距離を取って、縦軸に線量を取りますと、変更はなされ ているわけですが、実際にこういうグラフにすると、ほとんど見えない程度であります。  それの比を取ったのが下の方でありまして、全域で一応というわけではなくて、大き いところで、1,000メートル近辺で、大体10%ぐらい変更になっているということがう かがえます。  次の27ページが長崎の場合ですが、長崎の場合は、中性子の方で多少ずれが出てお ります。それも比較しますと、下の図のように、ガンマ線では10%程度の増加。中性子 ではやや低くなってきております。  28ページに、特に中性子線量についてまとめたものでありますが、DS86からDS02 への変更というのは、[4]のところに広島の場合で10〜15%程度中性子は増して、ガンマ 線も10%。長崎では10〜20%程度減ってガンマ線は10%程度増しているというのが、 この比較の結果出ございます。  29ページは、2006年に発行されたDS02の表紙の写真であります。  以上がDS86とDS02の比較についてであります。  続けていってよろしいでしょうか。 ○金澤座長 ちょっと間を入れましょうか。今のDS86とDS02についての御説明、大 変よくわかったように思いますけれども、いかがでしょうか。スペシフィックな御質問 はございませんでしょうか。よろしいですか。  どうぞ。 ○丹羽委員 1.2キロとか、特定の距離以遠で検出限界以下、その検出限界以下の線量 というのは、どれぐらいの線量ですか。 ○靜間委員 線量は、最後のところのグラフを見てもらえば、1.2キロぐらいだったら、 特に中性子の場合ですので、その下のグラフから数値を読んでもらえば、一応、線量に はなる。0.1ぐらいですかね。 ○丹羽委員 わかりました。 ○靜間委員 それで、実際の線量は、γ線の線量と中性子の線量を加えますので、中性 子の方が少し増えても、トータルにはそんなには影響がないことになります。 ○金澤座長 ほかに御質問はございませんか。ちょっと教えていただきたいんですが、 26ページ、27ページにDS86とDS02の比較が広島と長崎とであるわけですが、それ ぞれのページの下の方に違いを比で表わしておられて大変わかりやすいんですが、この 違い、つまり広島ではどちらかというと、割に中ぐらいの距離の場合は、むしろ線量が 上がっていくように思われます。  ウラニウムとプルトニウムの違いではないですか。そう単純なものではないですか。 全然パターンが違う。 ○靜間委員 違いが出たのは、1つは爆発点を上げて、原爆の出力を15キロトン、広島 でしたら16キロトンに上げるということをしております。  そうしますと、爆心での値というのは少し下がって、遠距離を少し。 ○金澤座長 私が伺いたかったのは、中性子の違いなんです。 ○靜間委員 何でかと言われると、ちょっと、中性子の輸送計算に使う断面積とかそう いったところが新しくなっておりますので、そういうものを入れた結果ということで、 広島と長崎の違いというのは、勿論、ウランとプルトニウムの違いです。 ○金澤座長 やはりそうなんですか。わかりました。その違いを知りたかったんです。  ほかにいかがでしょうか。  それでは、次に続けてお願いします。 ○靜間委員 2番目の方は、線量評価に追加すべき知見といたしまして挙げております けれども、まず「(1)初期放射線」については、これは特に新しい、現在、DS02以降 で新しい点というのはございません。  そこに書きましたのは、中性子の放射化のデータとDS02の計算との間に違いがある ということであれば、これは爆発モデルの検討が必要になっていくというふうに思って おります。  といいますのは、DS86からDS02に行くときに、爆心での違いというのは、我々と しては非常に測定はしやすかったんですが、爆心には勿論生存者がいないわけですけれ ども、爆発のモデルでありますので、モデルが違っているということ。モデルといいま すのは、爆発の高度でありますけれども、そういったところの再検討がDS02では流れ たという経過があります。  ユウロピウム、コバルトについは、多少疑問が残っているんですけれども、その辺り で、もし新しい知見があれば、あるいは広島の場合でしたら、中性子が放出する前に爆 弾が割れたのではないかという説もありまして確かめるところまでは行っていないんで すけれども、そういうモデルがもし適用ということになれば、また少しは変わってくる 可能性はありますけれども、そんなに大きくは変わらないと思っております。  2番目の誘導放射線でありますが、これについて、DS86での誘導放射能の計算とい うのは、広島、長崎の土壌についての計算であります。  実際には、建物の鉄筋とか瓦礫とかそういったものが散乱しているような状態ですの で、土での計算がそのまま当てはまるとは言えないということが言えると思います。  そこにつきましては、資料で少し説明させてもらいますと、資料の2−1につきまし ては、後ろの方にまとめたものがあります。  まず、参考資料の「資料2−1」としてありますが、これは2004年にこういった実 務的な仕事が済んだときに、京都大学の原子炉の方で専門研究会を行いまして、そのと きの報告書からもってきておりますが、その中の今中先生の計算結果の報告であります。 資料150ページ、そこのところに表1がありまして、これが誘導放射能の計算に用いら れております、広島、長崎の土の成分であります。  これを使って、DS86のときは、グリッツナーらが計算をしております。  DS02になって、今中さんが改めて計算をされたというのは、この報告でありますが、 次の152ページ、図2が広島の場合、図3が長崎でありますが、残留放射能の時間変化 というのは、こういうふうに大きく3つの山ができてきます。  1番目のところは、短寿命のアルミの2.2分ぐらいの半減期のものが減っている。  次に、30分ぐらいから1週間までが、これは主にナトリウム24、15時間とマンガン 56の2.6時間、こういったものが主に聞いてきますので、2番目の山ができてきます。  3番目のところは、鉄の59とか、Scの46で、44日とか83日の半減期のものが消え てくる。こういう時間経過になっていきます。  次の153ページの上の図は、これは爆心からの距離で線量がどう減っていくか、広島、 長崎の結果であります。  これを用いれば、入市した人の被曝線量の計算ができるということでありまして、そ の計算をした例を紹介いたしますと、資料の2−2でありまして、入市被爆者の方で、 資料の2−2が入市の経路であります。  これは、8月6日に己斐駅から入られて、電車の軌道に沿って入って、土橋、十日市 を経由して、爆心付近にありました銀行の警備等にうかがった。その間に遺体処理など をされたということであります。  その日に広島駅まで行かれたということですので、その経路も入れてありますが、8 月6日は、その後は寺町の方に戻って泊まられて、翌日に爆心付近まで入られて、そう いった遺体整理等をされております。  2日目の夕方には、また己斐駅の方に戻られたという経緯でありますが、では、実際 にこのときの被曝線量がどれぐらいになるかというのを計算コードは、これも京大の今 中先生のつくられたものを私が借りまして、実際の入力データをインプットした結果で あります。  次の資料の2−3に付けておりますのが、これは非常に大きなファイルですので、一 部だけ取っておりますが、横の方が距離でありまして、縦軸は10分ごとの時間であり ます。そこまで正確にはいかないんですが、大体の経路から算出いたします。  そうすると、これを2日分について計算しますと、左の上のところに線量が出てまい ります。これが18.55センチグレイという線量を得ることができました。  ただ、これは先ほども申しましたように、土についての誘導放射能でありますが、実 際の市内の様子というのは、資料の2−4、次のページに付けましたが、これは我々もよ く見かける写真でありますが、広島、長崎とも一様な土とは言えないような、こういう 状況であったということがわかります。  もう一度元の方に戻ってもらいますと、32ページのところで、今、言いましたように、 DS02について、外部線量を計算すると、入市の方で18.6センチグレイという非常に微 量な被曝線量となりますが、実際には土以外の誘導放射能の影響とか、これは後でも述 べますが、β線による被曝あるいは飲み水とか、呼吸を通しての内部被曝、そういった ものも入ってくるんではないかと思います。  次に、DS86の誘導放射能では、被曝の計算というのは、先ほど言いましたように、 γ線についてのものだけであります。実際には、β線の影響も考える必要があるという ことで、これにつきましては、原医研の田中憲一先生が、現在、論文準備中であります けれども、先日、私どもが主催いたしました、原子力学会の支部の発表会において、こ の発表がありましたので、それについて紹介させていただきます。  次の資料2−5´にアブストラクトを付けておりますが、どういう計算をされたかと 言いますと、放射化した地面、これは爆心の土を考えておられるんです。その地面から の土が舞い上がって、それが人体に付着した。その場合に、皮膚にどれぐらいのβ線の 線量があるかということを計算されまして、結果としましては、1メートルの高さで 0.84グレイ、これの大部分はγ線で、皮膚についた土壌のβ線というのは1%程度であ ったということで、この誘導放射能によるβ線というのは、余り大きくないというのが、 まず、この研究の報告ではあります。  コメントとしましては、どれぐらい土が付いたかというのは、これも簡単なシミュレ ーションをされていますけれども、実際に付いた差とか、内部被爆があったのではない かということの評価も必要だろうということを言われておりますが、誘導放射能につき ましても、γ線だけではなくて、β線についての考慮も必要だということです。  次に34ページ「(3)放射性降下物」についてであります。  これは、資料として付けましたのは、私どもの論文をまとめて京大の専門研究会で発 表したもの、これが資料の2−5であります。  この中で言いたいこととしましては、現在の審査の方針では、放射線降下物の被爆線 量というのは、己斐、高須あるいは長崎の西山地区、その地区に長期に居住した場合と されておりますけれども、核分裂のフォールアウトの効果範囲というのは、もっと広い ということ、これは我々の測定から確認しているということであります。  資料の2−5を見ていただきまして、これも要点だけ行きますと、158ページ、図の 1がこれまで知られております宇田雨域と言われているものと、図の2は、1987年に増 田先生がアンケート調査をされた。その結果、決められた降雨地域の図でありますが、 ちょっとスケールが違っておりますけれども、実際の降雨地域は、もっと広くて複雑だ ったんではないかと言われております。  宇田雨域というのは、116のアンケートから決められたものですが、増田先生の方は、 宇田雨域のアンケートに加えて、更に170のアンケートを追加されたということで、ア ンケートの数としては多いんですが、いかんせん時間が経っておりますので、多少記憶 について定かではない点もあるかとは思います。  我々が測定しましたのは、次の159ページに図を載せておりますが、上の方は、広島 大学の理学部の岩石学教室の方の被爆資料というのが、原爆が落とされました、10月か ら12月にかけて集められたサンプルが理学部の方に残されていたというものでありま す。  これは、同じ時期に東京大学の渡辺先生たちも岩石の調査で来られているわけですが、 そのときに一緒に集められた資料ということです。  なぜこういう資料に注目したかと言いますと、やはり原爆の後のフォールアウトとい うのは非常に大きいので、現在では原爆の痕跡はとてもはかれない。原爆にあって、そ のまま保存されているような資料を集めるということで、こういった資料を集めており ます。  これと、図の4は、8月の原爆のすぐ後で、仁科芳雄先生が広島に入られて、そのと きに集められた土の資料というのがありまして、これが図4に示しておりますサンプリ ングの1であります。  実物の写真を、次の資料で付けておりますので、ちょっと紹介しますと、資料の2− 6がほんの一部ですが、理学部の岩石学教室の収集資料でありまして、地学の人ですの で、サンプリングのフィールドノートが残っておりまして、番号も付いていて、どこで 集めたという記録を確認することができます。  次の2−7の方を見ていただきますと、仁科芳雄先生によって集められた資料であり ますが、仁科財団から出ております原子爆弾の本の中の写真で、こういう資料を集めて、 広島から東京に送ったという写真が載っているのを見て、こういう資料はないかという ことで、一生懸命探しまして、これは実際には理研の方で保存されていて、その後、岡 野先生が持っておられるということで、それを1992年に返還してもらったものです。  それが、右の方の写真でありますが、同じ使い古しの封筒というのがたくさんあると いうことがわかりました。  土の資料は、ペニシリンの瓶の中に保管されておりましたので、これについて、我々 の方で測定を行いました。  それで、元の専門研究会の報告書の160ページに戻っていただきますと、図5のとこ ろに我々の測定データで数値がわかったものは、○の印を入れております。それと、宇 田雨域、増田雨域と比較しますと、我々の測定データ、これはセシウムをはかっており ますが、それが宇田雨域の外にも広がっているというのがわかりました。  それを増田雨域の方と比較しますと、増田雨域の方ではちゃんと説明できるというこ とで、我々の測定では、黒い雨の全域ではありませんが、旧市内につきましては、増田 雨域のような降り方をしていたのではないかということで、己斐、高須だけよりは、も っと広いということを実測から確認しております。  もう一回元の方に戻ってもらいまして、34ページで、放射性降下物につきましては、 まず、効果範囲が広かったということと、もう一点は、各分裂フォールアウトだけでは なくて、核分裂を起こさなかったウランが含まれていたということがあります。  これは、その後、我々が原爆資料館に保管されております、有名な壁に黒い筋が付い た壁がありますけれども、それについての微量なサンプルを採取させてもらいまして、 それについて、ウランの分析とセシウムの分析を行いました。  それも次の資料2−7´に付けておりますが、これは京都大学の藤川先生の方から ICP−MSの分析を行ってもらいまして、165ページのところに、黒い雨のサンプルにつ いての分析結果が出ております。これはウラン235と、238の天然比というのは、0.0726 でありますが、そこの表の赤い数値は天然比を超えております。というのは、地球上ど こに行っても天然存在比というのは一定のはずですが、それを超えているというのは、 黒い雨には、核分裂を起こさなかったウランの成分が入っているということでありまし て、こういったウランが入っているということと、ほかにも、ここには書かれておりま せんけれども、鉛の含有量が非常に高いということもわかっております。  というわけで、放射性降下物につきましては、降下範囲と含まれているものについて ウランとか、そういったものも入っていたということが、新しい知見としてあります。  続いていきますと、黒い雨に関しましては、更に非常に大規模なシミュレーションが 行われておりますので、それについて紹介いたします。  資料2−8でありますが、これは昭和63年8月に広島県広島市に黒い雨に関する専 門家会議というものが設置されております。  そもそもは、当時の中曽根首相が広島に来られて、そういう科学的な合理的な証拠が あれば、補償の範囲を広げるという発言をされたことを受けて設けられたものだと思い ますが、そのときもいろんな、柿木とか、そういったものの年輪をはかったりとか、い ろいろな実験がされましたけれども、その中で、気象シミュレーションが、放医研の丸 山先生と、気象研の吉川先生によって行われております。それを簡単に紹介いたします。  資料2−8を見ていただきますと、研究会で丸山先生が発表された内容ですが、この 元になっておりますのは、黒い雨専門家会議の報告書というのがありまして、その中に 載っております。  187ページを見ていただきますと、これがシミュレーションに使われたものですが、 一番上、雲について原子雲、これは要するに火の玉が上昇してできた雲です。幅が4,000 メートルから4,500メートルで一番上空にある雲です。  その次が、衝撃塵でして、これは爆発による衝撃で、地上の粉塵が舞い上がったとい うものが、その次の雲になっております。  一番下に火災煙、これは火災を起こして、それが舞い上がったものとされておりまし て、これらがいかに地上に落ちたかというのをシミュレーションで計算されております。  このときに、一番上の原子雲には核分裂生成物が含まれているというのはわかります が、次の衝撃塵については、中性子の誘導放射能が含まれていた。これはマンガンとか ナトリウムであります。  火災煙で火事の煙には放射能はないかというと、そうではなくて、その灰の中にもマ ンガンとかナトリウムが含まれていますので、そういったものが、やはり煙に含まれて いて、それが降下しているとシミュレーションが行われております。  その結果が、次の193ページを見ていただきますと、図の3aというのは、これは一 番上の原子雲からの塵と雨で降下したという灰のシミュレーションでございます。その シミュレーションの図の1、直線の位置については、その後にいろいろクレームが付い たようでありますが、それは置いておきまして、まず、原子雲からこの方向から落ちた ということ。これは、己斐、高須より多少ずれてはおりますが、この方向に落ちたとい うことであります。  図3bが衝撃塵からの塵ですので、地上の土ほこりとか、そういった舞い上がったも のがこの範囲に、雨ではなくてほこりとしてこの範囲に降下したわけでございます。  次の194ページ、これは衝撃塵から雨として落ちたものというのが、これはかなり東 の方、北東の方向にも広がっているというのがわかります。  図3dは火災煙から塵として落下したものです。  更にその次の図3eは、火災煙から雨として落下した範囲、かなり広くなっておりま す。  これを見ますと、塵とかほこりが、これはシミュレーションではありますが、いわゆ る己斐、高須だけではなくて、かなり広範囲に落ちていったというのがわかります。  それと、我々はセシウムをはかったわけですが、それが原子雲だけから落ちたとする と、この結果とは少し違ってくるんですが、その意味で、このシミュレーションも100% というわけではないけれども、大部分の様子は表わしている。かなり広い範囲というこ とは言えると思います。  あと、もう少しあるんですが。 ○金澤座長 ちょっと急いでいただいて、最後までお願いします。 ○靜間委員 次に、β線による被曝と内部被曝の件でありますけれども、β線による被 曝は資料2−9として付けておりまして、これは前回のときも簡単に紹介いたしました けれども、β線の影響が、これは簡単に言いますと、数十倍、何日経過後かということ でありますので、それと地面からの高さでどれぐらいというのが決まってきますけれど も、数十倍のβ線の影響、これはフォールアウトの場合ですが、あるということの論文 が出ております。  実は、この論文が元になっているものがありまして、それが資料2−10に付けている ものでありますが、これはインターネットに載っているものですけれども、よくよく調 べましたら、これはアメリカの核実験に参加した退役軍人の被爆認定の問題が議論され ておりまして、それの報告書が2003年に出ております。  それは、まず、ネバダとか太平洋で核実験の練習に参加した退役軍人、それと広島、 長崎で捕虜となっていた兵士あるいは広島、長崎に駐留していた兵士、そういった人た ちへの補償の問題でありまして、10万人というふうに言われております。  これは、80年ごろから退役軍人にそういったものが出始めたということで、それの補 償問題が決められてきたわけですけれども、何度か見直しが行われておりまして、2000 年に21種のがんにつきましては、被曝線量にかかわらず、補償の認定の適格者とする と、アメリカの場合はなっております。  それで、その報告書の中で結論が出されています。その一部を見ますと、2)としま して、γ線による外部線量の上限値の見積もりが過少であるということ。  3)として、中性子の上限値が3〜5倍程度過少に評価されているということ。  更にβ線による皮膚と目の線量については信頼性がないということが言われておりま して、これを受けて、Heath Physに載りました論文が書かれたものと思います。  そのほか挙げてありますが、この報告書につきましては、厚生労働省の方は御存じな んだろうと思いますけれども、米国の場合の補償の問題というのは、日本の原爆の線量 の再評価とほぼ並行したような時期に行われてきていたということがわかります。  38ページ、最後でありますが、内部被曝についての資料でありますが、これにつきま しては、現在は難しいんですけれども、広島大学の原医研の方では、これは平成9年か ら10年ころでありますが、現在も続けておりますけれども、セミパラチンスクでの核 実験場の調査というのが行われております。  これも結果だけ、報告書は、最後の資料2−11でありまして、これは鎌田先生も調査 会に入っておられますが、この表の中のテーブルの1と5というのがございます。大き な表ですが、この中に、セミパラチンスクの8地区についての住民の外部線量と内部線 量の評価をしたものが出ております。センチSvが出たという値になっておりますが。  外部線量というのは、建物のレンガとか、そういったものの熱ルミネッセンスの測定 の方から決められていると思います。  内部線量の方は、食物とか水の摂取、そういったところから決められていると思うん ですけれども、この結果を見ますと、外部線量と内部線量というのは、ほぼ同程度の数 値になっております。これは、広島あるいは長崎の内部線量被曝を評価する上で、まず は、外部線量と内部線量というのは、ほぼ同程度というのは、一つの参考データとなる んではないかと思います。  長く説明しましたが、まとめたものを一番最後に付けておりますけれども、今の誘導 放射能及び放射性降下物の降下範囲の問題、それとβ線の影響と内部被爆について、や はり現在の審査基準に更に加えるべき知見ではないかと思います。  以上です。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。大変詳細な御報告をちょうだいしたわけ でありますけれども、かなり大事なところなので、しばらくの間お付き合いいただきま して議論をしたいと思います。  いろいろな問題点を御指摘いただいたわけでありますが、順番にやっていくべきかど うかわかりませんが、まずは皆さん方から御自由な御意見、御質問をちょうだいしたい と思いますが、どうでしょうか。  甲斐委員、どうぞ。 ○甲斐委員 幾つか質問させてください。まず、誘導放射性についてなんですけれども、 多くの計算が均一土壌で計算されている。  先生御指摘のように、レンガであるとか、コンクリートであるとか、実際には不均一 であったということ。  例えば、レンガだとか、コンクリートの組成にした場合に、どの程度影響が変わって くるのか、その辺りはいかがなんでしょうか。 ○靜間委員 なかなか場所場所によって違いますので、なかなか難しいと思うんですが、 結果が必ずしも高くなるわけではない場合もある。  それは、かなりモデルを入れた計算ということになれば、誘導放射能ですので、実際 にとどういうものがあったというモデルを記載すれば、計算は可能だと思います。 ○甲斐委員 わかりました。第2点がフォールアウトの降下範囲なんですけれども、先 生御指摘のように、従来の宇田雨域説、それに対して増田雨域説というのが非常に靜間 先生たちの測定とも近いということで、それに対して、いわゆる気象のシミュレーショ ンをやられた丸山先生と吉川先生がやられている、これでは増田雨域に近いと考えてよ ろしいわけですかね。いわゆる広い範囲ということで、シミュレーションと前に分析さ れているものと対応でいくと、増田雨域の方に近いのがシミュレーションと合っている ということでしょうか。 ○靜間委員 私自身がサンプルとして実際にはかったのは、いわゆる旧市内であります ので、旧市内について見れば、宇田雨域よりは増田雨域の方があっていると思います。 ○甲斐委員 そうしますと、このシミュレーションで起きたような範囲で降下物が落ち ているというふうにしたときには、問題になるのは、被爆の大きさはどの程度かという ことになると思うんですが、そのときにシミュレーションで線量が計算されていますね。 これと、ポイントではあると思いますけれども、フォールアウトの降下物、例えばセシ ウムというものが測定されていらっしゃるわけですね。そういうものとの対応というの は、できるんでしょうか。ですから、どの程度矛盾があるのか、矛盾がないのか、フォ ールアウトの測定データの、それから推定される、いわゆる放射能汚染濃度と、こうい う線量率の比較からどの程度シミュレーションというのは妥当性があるのか、どう考え られますか。 ○靜間委員 1つは、雨で降下した範囲が示されているんですけれども、雨の降下だけ ではなくて、塵として空気中に漂ったということは、そこにいたそういう人たちは、そ ういうのを呼吸として取り込んでいる。あるいは雨水をどういうふうに飲んだというの があると思うんですが、その辺に影響してくるというのが1つ。  それと、今のシミュレーションでは、核分裂生成物は原子雲に入っています。そうい うことで、我々がはかりましたセシウムというのは、原子雲の方でして、誘導放射能と か、そちらではないんですが、それの降下範囲は、このシミュレーションとは少しずれ ているんです。  その辺りで、今の原子雲の降下、シミュレーションそのものがどの程度正しいかとい うと、やはりシミュレーションが100%正しいとは言えないんではないかと思います。  ただ、塵とか火災煙がどう落ちたというのは、今までの評価に全く入っていませんの で、そういうものも数値としてはそんなには大きくならないかもしれませんが、考慮す る必要があると思います。 ○甲斐委員 いずれにしても、こういうシミュレーションと測定されているようなデー タ等も組み合わせて、確かにここでは計算されていないという御指摘なんですが、それ は計算をすることは可能だろうと思うんです。それだけを入れるだけですので、そこを きちんとすれば、それが正しいかどうかは確かに別に問題でしょうけれども、一定の手 順で評価をすることはできるんではないか。その上で、それが妥当かどうかを検証する ということを行えばいいのかなと、そうしないとあいまいさばかりを残してしまって、 何を検証すべきなのかということがわからないというふうに私は思いましたので、そう いうのは可能かなという印象を持ちました。  第3点の質問なんですけれども、先生は最後に、セミパラチンスクが参考になるんで はないかと言ったんですが、これは私は意見が違うんでけれども、センパラチンスクは 御存じのように、地下核実験をやっておりますので、当然土壌等の汚染が非常にあるわ けですね。非常にクロニックな被爆もありますから、その状況の中で、当然土壌の汚染、 それが仮に地下水等へ移行して、そういう内部被爆は当然起こり得るわけで、その場合 の内部被爆と外部被爆がほぼ等しいという状況と、広島、長崎に適用はできないんでは ないかという印象を持ったんですけれども、いかがですか。 ○靜間委員 私もこの点は、そんなに専門ではありませんので、1つのデータとして、 セミパラは確かにそういう事情もあると思いますが、あるいはチェルノブイリは勿論原 子炉事故ですので、多少違いはあるんですけれども、参考にはなるんではないかと思い ます。 ○金澤座長 私も同じセミパラチンスクのことを伺おうと思ったんですが、コンパティ ブルなんでしょうかということを伺いたかったんですが、今のお話でよくわかりました。  ただ、これをどの時点ではかっていらっしゃるんですか。 ○靜間委員 この報告書がまとめられたのは、割と最近です。平成10年ぐらいですか。 ○金澤座長 つまり、どっちかの核実験からかなり経った時点での測定と考えてよろし いですね。それはどれぐらい経ってからなんですか、それはいろいろなんですか。つま り、地下水を通してというからには、相当時間がかかると思いますが、それはそういう 時間が経ってからなんですね。 ○甲斐委員 50年以上。 ○金澤座長 わかりました。ありがとうございました。  どうぞ。 ○丹羽委員 先生がコンパラブルであるとおっしゃった、テーブルの1−1と1−2で、 1−2方はヨードの被爆でエスティメーションしていて、そういうことですね。そのド ーズと全身被曝のセンチグレイが等しいということですか。大体等線量ぐらい外部と内 部で受けたというお言葉の中身ですか。 ○靜間委員 それは、この表の数値をそのまま読んだときの印象として言ったものなん です。 ○金澤座長 どうぞ。 ○丹羽委員 多分甲斐先生の御質問に似たような質問なんですけれども、研究、今の DS02の線量を大幅に改めなくてはならないかどうかということで、個々のフォールア ウトのスポットとしては、実際に高いところはあろうかと思いますが、その高いところ がどれほど高いのかということと、それからそれを全面的に、例えば塚田先生の御議論 の場合、それは一律に、それほどに線量の全体を上げなければならないというようなこ とがフォールアウトなどであったかどうかということが1つ私としてすごく気になって おります。その点は、いかがでございますか。 ○靜間委員 では、具体的に今言ったような話でどれだけの線量が出るかというのを評 価せよといわれると、これは私としては、今回は、今のDS02の線量に加える要因とし てはち、こういったものがあるということでありまして、それが実際にどれだけかとい うのは、これはなかなか科学的に出せと言われると、かなり難しいと思います。私一人 でとてもできる仕事ではありません。 ○丹羽委員 勿論、当然、こんな短い時間で、片やDS02が多分数十人から数百人レベ ルの研究者が多分数十年かけてやったことなので、それプラス、今の私の質問の内容か ら言えば、それはとてもじゃないが、十分時間をかけてやらなければいけないはわかっ ています。  ただ、研究者としてのガッツフィーリングとしてどのようなものかなということを、 ちょっとお聞きしたかったのが1点ございます。 ○靜間委員 確かに、我々が意外と思ったのは、やはりβ線の線量とかかなり大きいの で、それは地上に降り積もった場合はそうですけれども、そういったものを体内に呼吸 等を通して取り入れ込んだ場合に、どれぐらいの線量になるか。これはちょっと予想が 付かないんですが、むしろそちらの専門の先生に見積もりして、できれば、もう少し詳 しいデータが出るかと思うんですが、その辺はかなり大きいんではないかという気はし ます。 ○金澤座長 その計算は可能なんですか。 ○靜間委員 呼吸でどのぐらい取り込むということは、モデル計算とか、そういうのが あると思いますので、ある程度可能だと思います。 ○金澤座長 どうぞ。 ○鎌田委員 鎌田ですが、今、丹羽先生と靜間先生の議論を伺っていますと、ではどれ ぐらい線量として見積もればいいのだろうかということなんですけれども、初期放射線 に関しては、大体個人に対して可能なんです。ところが、誘導放射線とか、今の黒い雨 とか、そういうものについて、では線量はどうなんだ、一定の方程式みたいなものをつ くって、上乗せするようなことができるのかというふうな議論になりますと、個人のど こで何をしてどうしておったかということになるんです。そうしないと、計算できてこ ない。  基本的には、私は物理の考え方というのは、すべてイーブンにして、すべての条件が 同じ範囲内に同じように降ったというようなことを条件にして、だからこうだろうとい うことが考えられるけれども、医学の考え方は、例えば同じ量のものがあったとしても、 それが実際にはあちこちばらばらに、濃いところもあれば、薄いところもあるという状 況なわけです。  ですから、そういうふうなものの結果として、例えば線量をたくさん浴びた状況の人 は病気が出てくるわけです。ですから、それを押し延べて線量的にこうするというのは、 誘導放射線とかあれでは計算できないと思うんです。ですから、それは一方の方で、や はり病気になった結果としてそういうものがあった可能性というものを考えていくとい う方法が必要ではないかと思います。 ○丹羽委員 おっしゃることはよくわかるんですが、1つ私が申し上げたかったのは、 特定の場所、ここにおられたらこれぐらいというのは、特定の場所においてはできるわ けです。それで、靜間先生がおやりになったように、Aさんという方について、ずっと 移動していかれて、2日間の線量のある程度の見積もりはできるわけです。それだけに ついてです。  ただ、フォールアウトの混ざった水をどれだけ飲んだかとか、そんなことに関しては その計算からアセスメントは勿論できない。ただ、その中から誘導放射線でどれぐらい あったかということは、ある程度我々としては知りたいということで、そういうふうな 方法論というのは、私は非常に貴重であると思っております。  それで、これは私が申し上げていいかどうかわからないんですが、原爆の被災された 方々の疾病というのは、非常に多様なものを含んでいると私は思っております。  それで、これは実際放射線というものの起因性、プラスそれ以外のものは当然たくさ んあると私自身は理解しております。  ですから、それの中で放射線というものの関与を、これは物理的な方法論から可能な 部分がありますので、それでどこまで放射線の線量というものをもっていけるかという のは、ここの場でできる限り明らかにしていただければ、それからそれ以外で何がある のかということが、またより明らかになる。  もう一つは、疾病というものから、逆にさかのぼっていくという方法は、当然臨床科 の先生は非常にある、人間を見ておられるからですね。それで、疾病からさかのぼって いく場合に、疾病というものが、さまざまな要因から成り立っているということを私は 素人ですけれども、そのように思っておりますし、そうすると、その中から放射線と放 射線ではないものを切り分けるという作業も必要であろうし、原爆というのは、単なる 放射線の問題ではない部分もあろうと思われる。そういうことも我々は十分勘案しなけ ればならないんではないかと思っておりますので、逆の方から進んでいく、先生の立場 論であろうと思いますけれども、元の物理からどのように行けるかということも、やは りこの委員会の中では十分検討しなければならないと思っております。 ○鎌田委員 わかりました。 ○金澤座長 ありがとうございました。どうぞ。 ○靜間委員 今、先生は2つのことをお話しされたと思うんです。  1つは、Aさんの線量に関連しての誘導放射線について、何らかのものを求めたい。  もう一つは、病気の方は病気の方からいろんなものを取り除いて、ある程度のものを やっていきたいということ。  私、前の方のことについてお話ししたいんですけれども、Aさんの線量が18ぐらい になっていますけれども、あれは今中先生の計算そのものを誘導化した、放射化した主 に土、そういうものをやりながら、だけれども、実際にはあのAさんが歩いていたとき に、そこに行って鉄筋があったとか、あるいは自分が15分休んでいる間に、たまたま 鉄の上に寝ていたとか、そういうようなことはない、覚えていないと思います。  ですから、普通に計算する、今中先生の計算方式でいったらこうなります。18という 数字が出たけれども、それ以上のものがあった可能性も十分あるわけです。  というのは、例えば電線がボンボン壊れているわけです。それが固まって落ちている わけです。そこに放射化した硫黄があるわけです。そういうところの近くで作業したり、 何かしたということはあるわけですから、18という数字はあくまでもミニマムというか、 平均化された値から得られたものであって、本当は体には、プラスαのものがあったと 理解する方がいいんではないかと私は思います。  以上です。 ○金澤座長 ありがとうございました。どうぞ。 ○靜間委員 今の議論、丹羽先生の質問もそうですが、これも参考として、先ほど申し ました、アメリカの退役軍人への被曝線量の再構築で、どんなことが考慮されているか というのが、先ほどの報告書に載っておりまして、それを少し紹介しますと、外部被曝 の経路としては、核爆弾からの初期放射線、これは広島の場合もわかっています。その ほかに、放射線で汚染された空気による被曝、汚染された水に触れた際の被曝、地表や 水面の放射性物質による被曝、皮膚や目など、体の表面に付着した放射性物質による被 曝、これだけのものを外部線量として考えるということをうたわれております。  それと、内部被爆の方ですが、これは放射性物質の吸入、地表とかに降った放射性降 下物と、放射性物質の経口摂取、食物、水、土、それと皮膚や傷口からの放射線各種の 吸入といったことまで、内部被曝としては考えるということが挙げられておりますので、 先ほどのβ線の被曝影響というのは、その1つでして、アメリカは今後そういう内部被 曝についても、いろんな評価をしてくるのではないかと思います。  以上です。 ○金澤座長 ありがとうございます。どうぞ。 ○甲斐委員 今の鎌田先生のお話に対してなんですけれども、確かに、こういう物理的 な評価というのは、いわゆる平均化した、何らかのモデルでもって評価されているとい うことは、確かに事実だと思います。  ただ、そこで医学的な知見と物理的な知見の大きな違いというのは、そこで勿論一定 の過程はあるわけですけれども、その過程からいろいろ論理的に推論された上での結論、 素の推論のところでのプロセスは、それなりに信頼ができる。問題は過程のところだろ うと思います。  そうしましたら、過程のところを、いろいろ条件を変えることによって、どの程度結 果に影響するのかということは、物理的にはより信頼する方法として、いわゆる方法論 としては確立しておりますから、そういうことを、むしろしていくことが必要なんだろ うと思います。  恐らくいろんな研究である程度のことはされてきたんだろうと思います。問題は、ポ イントとして、勿論1個の数字で表現するのは、非常に不可能なことだと思いますので、 問題は、今、この前から問題になっているのは、遠距離の地点で、果たして脱毛が生じ るような高いグレイオーダーの被曝が本当にあったのかどうかということが非常に大き なポイントでありますので、ここについては、十分それを検証することは、いわゆるい ろんな条件を変えることで、本当に起こり得るのかどうかという議論はできるんではな いかと、私は思うんですけれども、そうしないと、分析的なことをやることで、初めて 信頼ある知見が得られるんではないかと、分析的な方法です。そういう分析は当然必要 だろうと思いますけれども、その手順を示していかなければ、ただ、可能性だけの議論 をしてしまうと、ここから議論が進んでいかないのかなと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。今、甲斐先生がおっしゃった急性症状に関して は、恐らく次回にまた議論をさせていただくことになるだろうと思いますが、ほかに何 か御意見はございますでしょうか。  もし、ないようでしたら、この議論はとてもすぐ終わるわけがないので、また改めて といいましょうか、随所に出てくるのではないかと思いますので、とりあえず、被曝線 量ということに関しては、この程度にさせていただきまして、次に、甲斐先生のお話を 伺おうと思っております。  次回が御出席になられないということなので、先生のお話を是非伺いたいと思ってお ります。原因確率の取扱いですね。よろしくお願いします。 ○甲斐委員 それでは、資料4を用いまして御説明させていただきます。  原因確率というのは、現在の原爆症認定の中で使われているわけですけれども、改め て御紹介するまでもございませんが、原因確率は、そこに書きましたように、特にがん に注目しておりますけれども、がんの原因となるものを放射線と放射線以外というふう に考えますと、放射線と放射線以外の原因によるがんの確率を分母としまして、そのう ち放射線が原因と考えられる確率、その割合をPCというふうに定義しているわけでご ざいます。  これは、国際的にもこういうPCというものが定義されております。当初、補償に使 われるようになったのは、アメリカではないかと、私は理解しているんですけれども、 アメリカの核実験参加者の電離放射線の起因するがんの補償要求を合理的に対応するた めに、アメリカ政府は1985年にNIH、国立衛生研究所が作成した、この原因確率とい うものを使って判断するということが行われたのが最初ではないかと思っております。 その後もアメリカ等でいろいろ動きがございます。もともと原因確率というのは、定義 自体は、いわゆる疫学で使われております企業リスクという言葉の概念と評価の方法自 体は同じものであります。  ただ、疫学と原因確率の違うところは、疫学は集団を表現するための指標として用い ているわけですけれども、この原因確率は、個人に当てはめようということで言葉を変 えているわけですが、結局、集団の特性でしかはかれませんので、これは疫学データを 使いますので、その疫学データの集団の特性をある個人に適用できる、この前提がまず 成り立っているということが、PCを使うときの大きな前提となります。それが第1点 であります。  もう一つは、過去にいろんなPCについて御指摘があるわけですけれども、特に確率 という言葉を使っておりますが、上の定義式からわかりますように、統計的な確率とい うものを直接は意味しておりませんので、集団の特性を利用して、ある割合を求めたと いうことで、アメリカ等でもPCという言葉ではなくて、アサインド・シェアーですね。 割当制度のような言葉を最近は呼び変えております。2003年以降、通知の見直しと同時 に呼び変えておりますけれども、基本的な考え方自体は変わっておりません。  そこで、こういう原因確率をどのように評価するか。そして、その評価したものをど ういうふうに解釈するのかということが大きな問題となるわけですけれども、国際的に はPCは原爆被爆者の疫学調査結果を利用しております。  ですから、現在でしたら、DS02で求められている疫学研究結果を基礎に求めており ますので、国際的にはすべてこういう形で行われております。  御存じのように、原爆被爆者は疫学調査は現在も継続して調査が行われておりますの で、アメリカにおいても最終の知見に基づいて更新されてきております。最初は1985 年につくられたんですが、最近は2003年に、そこに書いてありますけれども、NCI-CDC のワーキンググループが改定版を出しております。これが、現在、アメリカにおいて新 しく利用されているのが現状であります。  現在、原爆被爆者の研究は、新しくDS02に改定しまして、更にDS02以外のものと しまして、最新の疫学調査結果、1998年まで、それもがん死亡率ではなくて、がん罹患 率のデータが最近は報告されました。放射線影響研究所がまとめた論文でございますけ れども、ここに記載されています疫学研究の知見というのは、単にDS02に変えたとい うだけではなくて、そこに書きましたように、3つの大きな地点で、従来の評価とは変 わっております。  第1点は、線量評価が変わったということですから、これは先ほど靜間先生からも紹 介がありましたように、γ線の線量でも10%程度増えたということで、大きくリスクに 影響しているわけではございません。  2番目が、これがむしろ大事な点でありますけれども、従来の報告よりも11年追跡 調査が延びましたので、原爆被爆者全体の中ですけれども、これは被爆をしていない、 疫学コントロールとされているものも含めてですけれども、全体で34%のがんが増えて 追加されております。  したがいまして、疫学調査結果そのもののデータが変わってきておりますので、それ を更に解析をしているということであります。  解析のポイントでありますけれども、解析の仕方というものが、やはり最初の知見を 入れて少しずつ変わってきております。最新の2007年の論文では解析モデルは拡張さ れておりまして、昔から被曝時年齢というのが、非常に重要なパラメーターですので、 これは考慮されていったわけですけれども、最近では、言わば到達年齢ですね。何歳の 時点でがんになるのかということも、がんのリスクに大きく影響するということがわか ってきておりますので、こういう知見が、最近のリスク解析には反映されております。  ということで、こういう3つの変更要因が関係しまして、更に示しました原因確率の 定義式に基づいて計算をしますと、当然いろいろ変わってまいります。それが図1に参 照させていただいたんですけれども、これは私の方で今回の新しい論文の下に知見を入 れるとどんなふうに変わってくるだろうかということを研究させていただいた結果でご ざいますけれども、横軸に到達年齢ですね。がんになった年齢でございます。  実線で示しました赤いものが0歳で被曝をしたということで、青が10歳で被曝をし て、緑が20歳で被爆をしたということですけれども、このように、縦が1グレイのと きの原因確率となっております。これは必ずしも比例にはなりませんので、1つの地点 でということで書いております。  被曝時年齢、到達年齢とともに減少する傾向があるということは、ずっと10年、20 年来、相対リスク等の傾向はこうだと言われておりますので、それを反映した形で、原 因確率もこんなふうに到達年齢とともに下がってまいります。  従来、到達年齢の評価というものは入れないでモデル解析されてきましたので、到達 年齢によらず、一定だとしますと、従来の評価としますと、いわゆる女性の胃がんに関 してのサンプルでございますけれども、そこの横軸にまっすぐなっているものです。到 達年齢に依存しないものですけれども、こんなふうになっております。こういうふうに 違ってまいります。  結局、先ほどの3つの要因でもってモデル解析等のモデルが違ってまいりますので、 単にDS02の影響というよりも、使っているモデル解析によってこれで変わってくると いうことがこれからわかるんではないかと思います。  そうしますと、問題はこういうふうにモデル解析等で変わってきたということになる わけですけれども、これは今始まったことではなくて、例えば図2を見ていただきます と、これは2000年の国連科学委員会報告というのが世界中の放射線に関する知見を集 めたレポートが定期的に出ますけれども、そこに載っているモデルでございます。これ は原爆に対して、2つのモデルの考え方があったわけですけれども、1つは被爆時年齢 モデルということで、被曝時年齢を固定して、被曝時年齢に依存している。あとは到達 年齢には依存しないという考え方のモデルで、上の方は、被曝時年齢には依存しないで、 到達年齢だけに依存する。これは両極端なモデルなんですけれども、こういうモデルが 両方とも比較的原爆被爆者には適用可能なのだという議論が国連科学委員会でされてい たわけですけれども、こういうふうに見ていただきますと、どういうモデルを使うかに よって当然違ってまいります。  そうしますと、これだとどういうふうに考えるのかということになるわけですけれど も、原因確率は、これだけモデルによって違ってくるということになると、どういうふ うに考えるかというのがありますけれども、こういうふうに不確かさがあるということ は、こういうことからわかるわけですね。つまり、そういう意味で、推定値自体不確か さを持っていますので、不確かさを持った、前のページに戻っていただきまして、一番 最後のパラグラフの真ん中ぐらいですけれども、不確かさを持ったPCの比較に、常に 比較に平均値だけを使うというのは、ある場合には適切ではない場合が当然生じてまい ります。  そういう意味で、不確かさを考慮した形で比較をするということを、やはりPCを使 う場合にはやらざるを得ない。こういう不確かさをもっておりますから、そういうこと が契機としまして、アメリカ等でも不確かさを考慮した比較ということが行われており ます。  アメリカで行われておりますのは、99%信頼限界を使っておりますけれども、米国の 例というふうに書いておりますが、問題となる事例、例えばあるがんが発症したとしま すと、その被曝線量が幾らだったとしますと、PCの推定値を求めますが、そのときに、 いわゆる上の式で平均値を求めるのではなくて、いろんなモデルで求めますと、いわゆ る統計的な不確かさというものを推定することができます。その推定の99%信頼限界上 限値ですから、非常に高い方、不確かさを考慮しても、99%のところを拾ったとしても、 例えば50%、アメリカでは50%使っておりますけれども、50%超えないということで あれば、この場合は新のPCが50%を変える可能性がほとんどないということを意味す るということで、起因性が否定されている。アメリカではこういうふうな考え方をとっ ているということであります。  そういう意味で、こういう新しい知見を入れてきますと、それなりの不確かさはどち らにしても出てまいりますので、こういう不確かさに伴う分布、PCの不確かさの分布 です。幅といったものをある程度考慮するということは、こういうPCを使う場合には 必要であろうというふうに考えるわけでございます。  こういったことをやりましても、先ほどの問題にもありましたけれども、やはりこう いうPCが集団とあくまでも反映しているのであって、本当に個人に適用できるかとい う問題は確かに残ります。ですから、必ずしも個人にすべて適用できるのかという問題 が残るわけですが、ただ集団の特性ということで、確率としては、かなりの確率として 個人に適用することは間違いはないわけですけれども、勿論非常に少ない確率で個人に 適用することは間違いが生じる可能性が出てくるということにはなりますので、そうい った点からも推定の幅を考慮した上で判断するということは、少しでもそういう集団の 特性からのずれというものを考慮するということにもつながるんではないかと、私たち も考えています。  そういうこともありますし、いずれも原因確率というのは、非常にいろんな問題もあ りますが、1つの集団影響の目安として使うというのは、1つの合理性はあるんではな いかというふうには考えております。  以上でございます。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。大変有意義なお話をいただいたように思 いますが、いかがでしょうか。御意見をいただければ幸いです。  鎌田委員、どうぞ。 ○鎌田委員 今、原因確率の中の何%ということに対しての不確かさについての考慮が いろいろなされているということをお聞かせいただいたと理解します。  私がお伺いしたいのは、個人の人の確率が、例えば30%あったような場合に、向こう の方では、どのように結果の利用といいますか、運用といいますか、されているのでし ょうか。30%でしたら、あなたの確率は30%ですというふうに本人に知らせる。知らせ るだけではなくて、何らかの行政的なものが行われると思うんです。それは、どのよう になっているんでしょうか。30%なら30%補償がなされるんでしょうか。 ○金澤座長 これは、甲斐先生。 ○甲斐委員 私もそんなに詳しいわけではございませんけれども、私の知っている範囲 で答えを出しますと、アメリカでは先ほどいいましたように、50%判断基準に用いてお りますので、それに満たない場合には、均一性がないというふうに、いわゆるオール・ オア・ナッシングで評価をしていると、私は理解しております。  ただ、アメリカではなく、これはイギリスの例ではありますけれども、イギリスなど では段階的な、限界率の値に応じた、例えば50%を超えれば、100%の補償だとすると、 30%とすると、それをもう少し減らした補償といった段階的な補償と、そういったもの も考慮されている国もあるようでございます。それは全く政府の考え方だと思いますけ れども、いずれもこういう形で使われているということでございます。 ○鎌田委員 原因確率論で言った場合には、いろんな使い方があっていいわけですね。 今のお話からするとね。アメリカで50%で1あるかないか。でもイギリスではいろんな 段階に応じてということがある。そういう理解の仕方で、同じ原因確率論でもいろんな 使い方があるということですね。 ○甲斐委員 はい。 ○鎌田委員 わかりました。 ○金澤座長 ほかに、いかがですか。  どうぞ。 ○靜間委員 私もちょっと専門外なんですけれども、原因確率を出すに当たっては、原 爆被爆者の疫学調査結果を基礎にしているというのがありますけれども、その場合の被 爆者の被爆線量、それを結局DS86あるいはDS02の初期放射線だけが考慮されている と思うんですけれども、そこのところが生存者でしたら、ある程度爆心地から少し離れ ていて、そこでその人が浴びた放射線というのは、初期放射線だけではなくて、今のよ うなフォールアウトとか、その中にいろんな影響があると思うんですけれども、それを 入れると、現在の疫学調査の結果の線量の軸がずれてくるんではないかという気がする んですけれども、その点はいかがですか。 ○甲斐委員 今の御意見はPCの問題ではなくて、いわゆる疫学研究のリスクの知見と いう質問と理解してよろしいでしょうか。 ○靜間委員 その点については、当然原爆被爆者の疫学調査で、より横軸の線量がどの 程度正しいか、不確かさをもっているかという問題になるんだろうと思います。それに ついしては、私の理解ですけれども、横軸の線量は確かに不確かさを持っているわけで すけれども、それは、今の原爆被爆者の解析ではポイント、ポイントの評価というのは、 どうしてもあいまいさを持ちますので、全体の統計的な傾向というものを重視している と私は理解しているんです。そのことは、若干横軸の不確かさがあまり影響しない解析 を用いているということだろうと思います。  いわゆるシステムエラーという形で大きく線量がずれてしまう、そういった場合には 勿論話は別ですけれども、今、私が申し上げているのは、いわゆるランダムエラーのよ うな形ですね。そういったものは、十分それで吸収できるというふうに私は理解してお りました。システムエラーとなれば、また話は別になりますから、それが本当に正しい かどうかというのは、むしろ原爆以外の疫学研究データというのがたくさんございます ので、そういった知見と原爆データとが比較的コンパラなのかどうか。つまり、大体似 たような知見なのかどうかということがポイントになるんだろうと思いますけれども、 それは私の知る限りは、比較的そういう検証をされているんではないかと思います。 ○金澤座長 よろしいですか。どうぞ。 ○丹羽委員 私が靜間先生から、先ほどからお聞きしていたところと関係するんですけ れども、甲斐先生の話にちょっと私自身補足いたしますと、実際の個人個人の染色体線 量なんかは、特定の距離の方で随分ばらついているわけです。  ところが、一応真ん中の線を取った場合には、1つ線を書けて、それで九十何%の信 頼限界の方と、それから外れる方、どちらにも両方ともに外れている。片方にずれるこ とは余りない。  そうすると、一応、その線量が、普通我々の血を抜いて調べた染色体異常とどうかと いうことは、既に検証されているわけなんです。  ですから、骨髄に到達するような線量について、DS02の線量が大幅に揺れる。全体 として、非常に考えにくいんではないか。  しかし、個々の方々については、状況がまた変わっている可能性があるので、それか らは言えない。  もう一つの点は、一応、そのような線量評価でなされたリスク評価の線量効果関係は、 広島、長崎のは世界で一番しっかりしているんですが、ほかのところでなされているも のについては、それほどたくさんの線量の点があるわけではない。その点のおのおのが 広島、長崎から大幅にずれているかということになると、それも余りないようであると いうコンセンサスであると、私自身は理解しておりますので、線量の軸が相当ずれると いうことになると、これは相当大変なことになるんではないかと思っております。 ○金澤座長 いかがでしょうか。ほかに御意見はありますでしょうか。  どうぞ。 ○鎌田委員 今の丹羽先生の御意見について、コメントしておきます。染色体の件で、 大きなずれはないだろうと、私もそんなに大きくずれることはないんではないかと思い ます。問題は、広島の染色体のY軸接点が3なんです。というのは、ほかの土地で調べ た研究者のデータと、広島で調べた研究者のデータを比べますと、全然放射線を受けて いないというような状況の人たち、すなわちXが0のところで、広島が高いということ を指摘しておきます。ですから、それは残留放射線とか、そういうものの影響というも のも考慮にいれなければいけないんではないかというところがあると思うんです。 ○丹羽委員 ちょっと、私も染色体の専門家ではないので、放影研から発表されている ような論文を見ての理解で、実際のY軸の接点が3であるとか、そうではないという議 論については、多分どのデータか私は十分把握しておりません。ですから、余り私自身 がそれについて御専門の先生に、それこそ先生の方が御専門でありますので、これにつ いては、多分放射線影響研究所の御専門の方なんかの御意見なんかを伺うとか、そうい うことが一番正しいことではないかと思いますので、私自身は、それに対してのコメン トを控えさせていただきますけれども、一応、ドーズレスポンスは、私自身は先生のお っしゃるとおり、大体いいんではないかなというのは、世界的にコンセンサスが得られ ていると理解しております。 ○金澤座長 ありがとうございました。問題であれば、また次回にでも御報告をいただ くことにしましょう。  本題に戻りまして、甲斐委員が御提言になっておられる平均値で今までやっているわ けですが、幅を持った推定値の90%信頼限界を1つの指標とすることもあり得ることで あろうという御提案なんです。  これをやるには計算し直さなければいけない部分があるわけでしょう。これは、やは りやっていただかないと間に合わないからということがありまして、いかがなものでし ょうか。原因確率を最初の知見で見直すための作業、ただし放射線影響研究所の御協力 をいただかないといけないので、甲斐委員にお願いいたしまして、研究所と御相談の上、 作業を始めていただけたらと思いますが、いかがでしょうか。1つの方法だと思われま すので、よろしいでしょうか。お認めいただき、ありがとうございました。  次回も、恐らくこの点については、丹羽座長代理とも御相談をしなければいけません が、この点について御発表いただく委員の方を御指名させていただきたいと思いますの で、お許し願いたいと思います。  よろしいでしょうか。 (「はい」と声あり) ○金澤座長 それでは、この件について御発表いただく委員は、後日御連絡をいたしま すので、よろしくお願いしたいと思います。  そろそろ予定していた時間も近づいてまいりましたので、もしもここで改めて御意見 ということでなければ、終わりの方向でと思っておりますけれども、何か御意見はござ いますでしょうか。よろしいでしょうか。  それでは、次回のことにつきまして、事務局からお願いします。 ○北波健康対策推進官 次回の開催につきましては、11月12日月曜日、13時から15 時を予定しております。場所につきましては、追って御連絡をいたしたいと思っており ます。決まり次第、御案内等、報告したいと思いますので、よろしくお願いいたします。 ○金澤座長 ありがとうございました。いかがでしょうか。何か御質問等、もう一度改 めてお伺いしますが、いかがですか。次回甲斐先生はお出になれないと伺っていますの で、もしも甲斐先生に対する御質問がございましたら、今のうちに、いかがでしょうか。 別につるし上げるわけではありませんから。よろしいですか。  それでは、本日はどうもありがとうございました。少し早目でございますが、終わら せていただきます。次回、第4回目は、11月12日月曜日でございます。  どうぞ、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。 (了) 1