07/06/27 第4回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会の議事録について    第4回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 日時 平成19年6月27日(水) 14:00〜 場所 厚生労働省省議室9階 ○医療安全推進室長  定刻になりましたので、第4回「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方 に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方にはお忙しいところ、お集まりいた だきましてありがとうございます。  初めに本日の委員の出欠状況についてですが、本日は全員の委員の方からご出席とい うお返事をいただいております。若干の方が遅れておられるようですが、ご出席という ことでございます。  次にお手元の配布資料の確認をさせていただきたいと思います。「議事次第」「座席表」 「委員名簿」のほかに、3つの資料があります。資料1-1は「診療行為に関連した死亡 の調査分析モデル事業」から、資料1-2は同モデル事業の事業実施報告書、参考資料と して参考資料集です。以上です。資料の欠落等ございましたらお知らせいただきたいと 思います。ないようでしたら、以降の議事進行について前田座長によろしくお願いいた します。 ○前田座長  本日は、本当にお忙しい中、ありがとうございました。それでは、早速、議事に入ら せていだきたいと思います。本日は前回、山口委員からご発言がありましたが、平成17 年より厚労省の補助金事業として日本内科学会が主体となって実施されている診療行為 に関連した死亡の調査分析モデル事業に関して、その経緯を踏まえたご報告をいただけ るということです。まず、そのご報告をいただいて、それを踏まえてご議論いただけれ ばと思います。それでは山口委員、お願いいたします。 ○山口委員  それでは「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」からの提言と題して提出 した資料について簡単に説明をしたいと思います。  診療行為に関連した死亡調査分析モデル事業(モデル事業という)は、2005年9月に 開始しており、日本内科学会が医学会の中で代表するような形で引き受けた補助金事業 で、基本領域の19学会と内科学会のサブスペシャリティー13学会、外科学会のサブス ペシャリティー5学会、日本歯科医学会等合わせて38学会のご支援をいただいて実施し ているものです。  2005年9月に開始し、現在まで55件の調査依頼を受けておりまして、その結果、6 月初めまでの時点で22件について評価結果報告書が完成しております。依頼があった病 院及びご遺族にご説明申し上げ、了解の得られた18件については、現在、このモデル事 業のホームページに概要が掲載されております。  最初の事例は2005年11月1日だったと思います。最初の結果報告書が出たのが昨年 4月で、最近になってからまとまった形になり、少し軌道に乗ってきたところです。こ のモデル事業は、もともとは診療行為に関連した死亡を専門家に委託して、その解剖結 果、臨床評価に基づいて診療行為と死亡の因果関係を明らかにして再発予防策を提言す るというのがいちばんの目的です。したがって、その目的に沿った形で現在まで運営さ れてきましたので、その経験で明らかになったことを提言としてまとめてここに示した 次第です。  3部に分かれており、Iは「調査・評価の実態とコスト」、IIは「調査によるベネフィ ットと調査の活用」、IIIは「事例受付と対象:刑事司法との関係」です。それぞれのまと め的な提言が、二重の四角になって示されていますし、それぞれの項目については四角 の中にまとめ的なものが提言されています。この提言集は、モデル事業の運営委員会が 中央に設けられていますが、その運営委員会の中から最後の頁に示したような課題整理 のワーキンググループの先生方にお集まりいただきまして、まとめていただいたものを 運営委員会の各委員の先生、現在7地域でこのモデル事業が行われておりますが、その 7地域の代表及び調整医師、さらに既に評価が終了したそれぞれの地域の評価委員会の 委員長の先生方にそれぞれご意見を伺い、その意見も取り入れる形でまとめたものです。  最初は「調査・評価の実態とコスト」です。実際にどのように運営されてどうだった かということですが、「中立的専門機関においては、人員及び予算の十分な確保を行うと ともに、法的根拠に基づいて、専門的な調査を行うことができる体制を確保する必要が ある」ということが1つのまとめです。  まず調査の権限についてですが、このモデル事業は現行法の下で行われておりますの で、モデル事業自体には調査権限等はなく、しばしば問題にされている患者遺族からの 訴えで、このモデル事業が事例を取り上げるということは原則としてできない。あくま で病院の依頼があって、病院の協力を得て資料の提供をいただいて行うことになってい ますので、ご遺族から依頼があった場合には病院のほうにその旨を是非申し出てくださ い。必要なら事務局から病院のほうにこのモデル事業にご参加いただくように説得して みますということは申し上げますが、直接遺族の申し出を受けることはできないという ことで1つの限界だったと思われます。  ほとんどの病院は、もちろん依頼をいただいたわけですから、それなりの協力があっ たと思いますが、非常に詳細なところについては評価委員会と病院の調査委員会とやり 取りが頻回に行われるわけです。中には少数ですが、院内調査委員会からの回答が不十 分でもうひとつよくわからないということもありました。そういうことを踏まえますと、 調査・評価の質をある程度確保するためには、どうしても病院にご協力をいただいて病 院から正確な情報をいただく。その情報の細かいところは、評価委員会が立ち入って全 部を調べ上げることは事実上、不可能であろうと思いますので、病院の調査委員会のご 協力が必須だと思います。そういう意味で将来作ろうとしている中立的専門機関と病院 の調査委員会との非常に密接な協力関係がなければいけないと思いますが、場合によっ ては法的根拠に基づいて中立的専門機関に調査をする権限が与えられなければいけない のではないかと思っています。  2の「解剖の意義」について、今回のモデル事業は解剖を遺族に承諾いただいた事例 について調査を行ったのですが、実際に解剖の結果を踏まえて正確な死因を究明し、そ れに加えて臨床経過をさらに評価していくことになりますので、こういう調査をちゃん と行うためには解剖が前提ではないか。解剖結果を踏まえて初めていろいろ細かい検討 ができると思います。確かに事例によっては解剖結果から直接的な死因に関係する所見 が得られない場合もありますが、解剖データはネガティブな意味でもポジティブな意味 でもいろいろな形で、事例の死因究明という点では必須の項目だろうと思われます。今 回、この解剖は病理及び法医の先生方が共同してやるという形で、非常に効果的にでき たと思っています。  それに加えて関連する臨床医の立会いがあったことが、解剖の質をさらに上げたと思 っています。今回は法医の先生にご協力いただくという形だったため解剖のほとんどは 大学病院で行われておりますが、大学病院で行われた解剖は肉眼的評価あるいは病理組 織学的な検査が行われ、時に非常に法医学的な特殊な検査も行い、非常に効果的に行わ れたと思っています。  まとめに書かれていますが、事例としては全例解剖することが望ましいと考えます。 我が国の文化的背景を考慮しますと、中には解剖の承諾をいただけない場合があります ので、遺族に解剖を受け入れていただくための努力が必要なのではないか。その中には 死後のCTによる画像診断等で解剖の必要性を遺族に理解していただいて、何とか解剖を させていただくような試みも必要ではないかと思います。  このモデル事業の臨床評価に関しては、臨床の各学会から推薦していただいた先生方 に評価をいただいております。臨床評価の先生方は事例毎に交代しますが、解剖のほう は限られた大学病院の施設で行われていますので、解剖に参加された法医・病理の先生 方は同じ先生が何度も立ち会うということで、そのご負担は臨床の先生方に比べて非常 に大きかったと思いますので、その点については大いに感謝を申し上げたいと思います。  解剖への臨床医の関与については、法医、病理の先生ともに解剖に立ち会っていただ いて、非常に効果的であったという評価をいただいております。従来の病院における解 剖を考えますと、病理解剖の場合には、通常は主治医が立ち会い、その事例の全経過の 詳細な報告を受けつつ、解剖を行うわけですが、今回の場合には当該の病院の関係者は 立ち会わないということでしたので、事前に来ていただいた主治医にいろいろと経過を 伺って、それに基づいて専門医がいろいろアドバイスする形で解剖が行われたわけです。 全経過を完全に承知している主治医とは少し差がありますので、必要によってはもう一 度主治医から事情を伺って解剖を続けることもありました。臨床の経過を理解している、 承知している医師が立ち会っての解剖は、法医、病理の先生だけとは違って非常に効果 的だったと思っていますので、場合によっては、患者遺族の心情に配慮して中立性・公 平性の確保に十分配慮する必要があると思いますが、事例によっては主治医の立会いが あったほうがより効果的な解剖が行える可能性がありますので、その点についても検討 する必要があるのではないかと思います。  人材確保についてですが、今回モデル事業でなかなか事業が軌道に乗らなかった最大 の理由は、調整看護師をはじめとする事務局の職員、解剖を担当する法医・病理及びそ の臨床の立会医等のマンパワーが足りないということでした。臨床の立会医は非常に効 果的であったと申しましたが、こういう事例はたいてい突発的に起こりますので、その ときに各学会から推薦いただいていた先生に実際に立ち会っていただけたのは極めてわ ずかで、多くは解剖が行われる大学の臨床科の先生の協力をいただき、立ち会っていた だいたというのが実態でした。  そのほか総合調整医、評価を行う各学会から推薦いただいた臨床評価医、法律関係で 弁護士にも必ず加わっていただくようにしましたので、場合によっては、評価委員会は 10数名からなる大きな組織となり、それだけの人員を確保してこの報告書が作られたの ですが、調整するのに非常に時間を要した、あるいはそれだけの人員を確保するのに非 常に時間がかかったという問題もありました。今後は必要な人員の確保、予算の補助が 非常に重要なことと同時に、もう少し少ない人員でこういう評価ができないか。そうい うことについても今後検討する必要があるのではないかと思います。  いずれにしても実際に事例を24時間受け付けるような専門組織ができるためには、専 任の職員をかなり要しますし、医師も含めて専任の担当者がいなければできない。今回 のモデル事業もその意味で平日は稼働ができていますが、土・日はなかなかできないと いう実状があります。幅広く受け付けることができるような第三者機関としては、相当 な職員が必要であろうと思っています。  院内調査委員会との関係については、今回のモデル事業では院内の調査委員会での報 告を非常に重視しています。この評価委員会が出向いて、病院で事情を聴取して、資料 を集めるというわけにはいきませんので、院内の調査委員会のご協力をいただいて必要 な資料を提示していただく、あるいは院内の調査委員会が積極的に評価していただく、 ということがモデル事業の評価委員会にどうしても欠かせない大きな要素でした。その 意味で将来も、第三者機関単独ですべてをやるのは不可能に近いと思いますので、院内 の調査委員会の活動が非常に重要な意味を持ってくると思います。院内の調査委員会が 積極的に第三者機関の活動に参加できるような仕組みを考える必要があるのではないか と思います。  6の「評価の着眼点と調査目的の関係について」。今回のモデル事業は、その事案の法 的評価は行わないで純粋に医学的に死因を究明して、それと臨床的な臨床行為との因果 関係を評価して、そこから再発予防に向けて提言をし、それを遺族、依頼病院に話すと いうのがスキームでした。実際には、どこまでが法的評価で、どこからが医学的評価な のかは実に微妙でした。評価する医師のほうが慣れてないということもありますが、事 例が起こった時点でどのような診療行為が適切であったかということと、あとから振り 返って、それを防ぐためにあらゆる可能性を考えた場合に、どういうことが考えられる かという再発予防の視点で見るというところでは、おのずと違うところがあります。そ ういう意味では、今回のモデル事業は再発予防に視点を置いて行われたわけです。従っ て、その報告書の有り様については慎重に取り扱う必要があるのではないかと思います し、その意味で診療行為を評価する基準をどう考えるかということについても検討する 必要があります。また、評価をする医師についても、均質な評価ができるためには、そ れなりの研修が必要だと思われます。報告書では評価の視点を明確に区別することが必 要だろうと思いますが、実際には事例ごとには非常に難しい問題をはらんでおり、この 点は将来、報告書がどのように活用されるかにも密接に関係すると思いますので、是非 慎重な取扱いをお願いしたいと思います。  7の「再発防止の提言について」は、いろいろな視点から提言が行われます。個々の 事例では、その病院においてだけ有効な提言もあれば、さらにそれから引き出されて一 般化できるような提言もありますので、その辺はどのように情報が開示され、どのよう にそれが病院で実行に移されるかとも密接に関連していると思います。ただ、単に個々 の医療者に向けた話ではなく、病院の医療システムを含めた評価、再発防止への提言が 重要なのであって、またそれを個々の病院で実行していただかなければいけないので、 第三者機関からの提言は病院のそういう活動をサポートするような形であってほしいと 思います。  IIの「調査によるベネフィットと調査の活用」です。中立的な専門機関によって死因 究明が行われたからといって、これが直ちに患者遺族と医療機関の信頼回復に結び付く とは限らないということは、まだ少数ですが、その後に行った聴取り調査によりますと、 いずれも第三者機関で評価をしていただいたことについては満足いただいておりますが、 かといって遺族の、例えば依頼医療機関に対して否定的な感情がある場合には、即病院 に対していい感情に変わったかというと、そこはなかなか変わらないという話もいただ いています。こういう中立的機関の存在価値は十分にあるとは思いますが、調査報告書 だけで直ちに患者遺族と医療機関の信頼関係の回復に直接結び付くわけではないので、 この点を踏まえて、遺族と医療機関の信頼関係をさらに回復するような働きかけは、別 に努力をしなければいけないと思います。  しかし評価結果報告書で公正な判断をしてもらったという結果は出ていますので、そ れを踏まえて遺族と病院とで話し合うチャンスは十分あると思われます。是非そこでは 報告書を活用していただきたいと思います。ただ、当初はこの報告書がなかなか出なか ったということがありました。結果報告が出るまで7〜8カ月ぐらいかかっていましたが、 最近では6カ月以内に出そうということで、ほぼ軌道に乗ってきたと思います。報告が 遅いために遺族との関係が悪化したという報告も一部にはありましたので、進捗状況を 遺族、依頼医療機関へ報告するようなシステムも必要かと思います。  2は「評価結果報告書の活用について」です。今回のモデル事業では、評価結果報告 書を再発防止に役立てていただきたいということで、その報告書の活用についてはそれ ぞれの医療機関にお任せています。現在まで22例の報告書がありますが、報告書をお渡 ししてから半年以上を経過した事例は10例にも満たない数ですので、まだ十分なフォロ ーアップはできていません。今後は、実際にそれがどのように活用されて、当事者間の 紛争解決に役立ったのか否かを検証しなければいけないと思います。また、病院の中で の再発防止に向けて具体的にどういう形の取組みとして実を結んでいるかについても、 将来は第三者機関はある程度チェックをする必要があるのではないかと思います。  IIIの「事例受付と対象:刑事司法との関係」ということでまとめています。これはな かなか難しい問題を含んでいると思います。診療関連死については、専門的な調査・評 価を行う必要性が極めて高い。その意味では犯罪の取扱いを主たる業務とする警察・検 察機関ではなく、第三者から構成される中立的専門機関において、まず届出を受け付け、 調査が開始されることが望ましい、とまとめられています。  実際にこのモデル事業は現行法下で行われていますので、どういう事例を異状死とし て医師法21条で届け出て、どういう事例をこのモデル事業で行うかが問題です。原則と しては、21条によって届け出なければいけない異状死に相当する症例は届け出て、相当 しない事例をモデル事業で取り扱うという棲み分けですが、個々の事例においては異状 死として届出を要するかどうかは非常に微妙な判断です。また、その事例が勃発した慌 ただしい中で、簡単に短時間で評価ができるものではないこともしばしばあります。  それから個々の所轄警察、あるいはモデル事業の直接的な窓口となった総合調整医、 多くは法医の先生あるいは病理の先生に行っていただきましたが、総合調整医と解剖医 の間でも、必ずしも意見が一致しない場合もしばしばありました。一応警察に相談をし て、それからモデル事業をやりましょうと言ったら、そのまま司法解剖になってしまっ たという事例もありました。しかし結果として55例の受付中34例は、医療機関から一 旦は警察に相談や届出がなされて、その結果、警察から医師法21条でいう異状死に当た らないからとモデル事業を勧められ、モデル事業に回されてきたという経過でした。  このような混乱のいちばん大きな原因は、届け出なければいけない異状死について、 もう1つ明確になっていないことと、一方依頼機関は警察への通報を怠ったために後で 責任を追及されたくないということで届け出た、という二つの理由があったと思います。 モデル事業としては、受付け窓口のところで届出が必要と思われるものについて届出を 勧め、あるいは解剖で異状死の疑いが生じたら、その時点で警察に届け出るという2通 りの道を定めてやってきたのですが、実際のところは、異状死かどうかという判断は極 めて難しい問題で、窓口や解剖時の短時間に的確に判断することは難しかろうと思いま す。実際にそのようにしてモデル事業で解剖された事例と、警察に届け出られて司法解 剖に回った事例とうまく線が引けているかというと、司法解剖に回った事例については 詳細が公表されていませんので比較ができませんが、相談事例で司法解剖になった事例 とモデル事業に残った事例との比較では、相当にオーバーラップがあります。その意味 でその辺の判断はかなり専門性を要し、慎重な判断を要する問題で、短時間に的確に処 理できる問題ではないと認識すべきものと思います。である。従って、将来の第三者機 関においては、まず専門的な中立的第三者機関に届け出て、そこで専門家の判断を待つ のが基本だと思います。最初の受付時点に適切な判断をすることはなかなか難しいと思 われますので、第三者機関で十分に検討して、その結果として最終的に警察への届出を 検討することがあってもいいのではないか、と私は個人的に思います。少なくとも受け 付けた時点で簡単に右、左を決めることはなかなか難しいというところだけは申し上げ ておきたいと思います。モデル事業からの提言としては、第三者からなる中立的な機関 にまず届け出ることが必要であろうということです。一部落ちたところもあるかと思い ますが、簡単に説明いたしました。以上です。 ○前田座長  非常に詳しい説明をいただいてありがとうございました。この会の目標である組織づ くりの核の部分はモデル事業を発展させること以外あり得ないと思いますので、何卒よ ろしくお願いします。今の報告に対して不明な点等がありましたら、是非ご発言いただ きたいと思います。  それからモデル事業に携わってこられた方も多数いらっしゃいますので、補足的なご 発言も含めてお願いします。何か質問があれば先に出していただきたいと思います。 ○堺委員  どうもありがとうございました。このモデル事業はこれから制度設計を私どもが考え ていく上で、またとない貴重なご経験とご意見と思っております。モデル事業は今後も 3年間継続いたしますので、その間にさらに貴重なご経験やご意見が伺えると思ってお ります。  過去3回の討議を通じてちょっと感じていますのは、どうしてもこういうものを論じ ますと、医療と法律についての議論が主だったと思います。それは確かに必要なことで すが、家族、遺族について論じることも、今後、制度を設計して、その制度を広く国民 に信頼していただく上では、是非必要なことではないかと思っています。  それを踏まえてお尋ねするのですが、今回のモデル事業は学会の事業ですので、学会 関係の方々と、一部国立の関係の方がおられたかと思いますが、医療とも法律とも関係 のない方も委員にはおられましたか。 ○山口委員  地域によっては市民の代表的な方が入っている所もありますが、多くは医師と弁護士 という構成の委員会がほとんどです。 ○堺委員  もう一点、関連してお尋ねします。途中経過あるいはモデル事業の最終的な結論の報 告書について家族に説明したと思いますが、そのときに病理学会からはメディエーター という考えも出ていますが、特に専門に担当する方が説明をされたかどうか。  これは難しいのですが、説明の結果、家族が確かに中立的な機関であると思っていた だけたかどうかはいかがでしょうか。 ○山口委員  説明のところで一部飛ばしたかもしれませんが、説明は通常は評価委員会のいちばん 評価の中心になった医師が説明をします。評価結果報告書もほとんどが医学用語で書か れていますので、それを最終的に遺族と依頼のあった病院の両方に対して、同時に同じ ようにわかりやすく説明することに心がけてはいます。最終的な報告書は難解でわかり にくいというお叱りを受けていますので、もう少しちゃんとわかりやすく説明する人が いる必要があるだろうとは思います。一部では調整看護師がその辺について少し説明を したりしていますが、専門的なメディエーター的な存在が必ず説明会にいるというスキ ームには現在のところはなっていません。 ○堺委員  調査機関への中立性に関する信頼性についてはいかがでしょうか。 ○山口委員  結果に満足、不満足は別として、中立的な判断をいただいたということに関しては、 あまり数は多くありませんが、遺族への聴取り調査等でも満足をいただいていると思い ます。 ○前田座長  ほかにご意見、補足的な説明はありませんか。モデル事業に関連してのご発言をお願 いしたいと思います。 ○鮎澤委員  本当に貴重なご提言をありがとうございました。これから検討しなければいけない課 題を的確にお示しいただいたと思います。全部で3点質問させていただきたいと思いま す。まず1点目。報告書を作成するまでに時間がかかったと言われていました。いくつ かの原因は資料の中にも書かれていますが、いくつかある中で、時間がかかっている一 番の原因は何でしょうか。例えば、これから先、こういったことが専門化されてきて、 担当者のスキルが上がってくればスピードはもっと上がってくるとお考えでしょうか。 全体的にどの辺りが問題になるのでしょうか。 ○山口委員  最初は報告書をどういう形でまとめるかがなかなか決まらない。何を書くべきか、ど ういう形でまとめるかというフォーマットが大体決まるのに、かれこれ1年ぐらいかか りました。それがだんだん固まってきてからは、それについてはだんだん早くなりまし たが、実際にディスカッションしますと、たくさんの意見が出ますので、まとめるのに すごくかかります。なかなかまとまらない1つは判断基準というか、ディスカッション のまとめの基準がどこにあるかが、その都度新しい専門家が集まっていますので、なか なかその辺が定まらない。そのことについては専従の人がいて、ある程度研修を受け、 一定の基準で判断できれば短縮できるかと思います。  あとは評価委員会が多いときには十数人の場合があります。同じ評価委員会を開くの にも時間の調整にすごく時間がかかります。それは今後外部の専門家がどのぐらい関与 するかによって、少なければ時間調整は簡単だと思います。そういう意味では当初7〜8 カ月かかったものが、現在は6カ月以内にほとんどができるようになっていますので、 もっと時間を短縮することは可能なのではないかと思います。そのためにはある程度核 になる専従の人が必要で、評価のスタンダードが決まっていて、研修が必要なのではな いかと思います。 ○鮎澤委員  いまの話に関連して2つ目の質問ですが、専任の方をということが4頁に出ていると 思います。例えば専任の業務を行う専門職員というのは、医師も含めてですか。 ○山口委員  そうだと思います。 ○鮎澤委員  そういった「専任」を考えるときによく出てくる議論ですが、専任になった瞬間から 現場から離れてしまいます。検討の対象となる当該医療機関、当該医師からは、いまの 現場がわからない、いまの臨床がわかっていないという不満が出てくることにもなりか ねない。その辺りの兼ね合いはどのようにお考えですか。 ○山口委員  専従の医師だけでやるのは無理だと思います。当然専門家が入らなければ、専門家の 意見を聞いてほしいということになると思います。例えば、報告書をある一定のフォー マットにしてまとめるとか、こういうものはこの辺の基準で判断するというのは、それ なりのトレーニングを受けた専従の人が、その評価委員の中にいるということは非常に 重要なことかと思います。そういう意味でその都度専門家の参加もあるが、専従の人も いる。ただ専従の人はどういう格好がいいか、本当にそこに専従でずっといるのがいい のか、あるいはある病院から出向で2年間出て、またローテーションするのがいいのか。 確かにおっしゃるように臨床とある程度密接に感覚がずれないようにする工夫が大切だ ろうと思います。 ○鮎澤委員  最後ですが、モデル事業で出された報告書の結論と、当該医師、当該医療機関の見解 が異なることは、これまでありましたか。 ○山口委員  ありました。その点でやり取りをすることはありますが、評価委員会の結論としては こうですということで、病院のほうでご検討くださいと投げかけています。現在のとこ ろはそれを追いかけて議論をするというところまでは踏み込んでやっていませんが、当 然見解が微妙に異なることはありました。 ○前田座長  ほかに質問という形でなくても構いませんので、何かご発言があればお願いします。 非常に具体的で、まさに中立機関をつくる上での骨格の部分ですので、是非具体的にご 指摘いただくことがあればお願いしたいのですが、いかがでしょうか。 ○辻本委員  私も地域の評価委員ということで議論に参加させていただいております。1つは、患 者の立場という市民の側から参加していることが、ある意味でその議論の監視役という と生意気かもしれませんが、そういういい意味の役割も痛感。そうした体験から考える と、どこにも必要かなと思いました。  6頁にもありますが、報告書をまとめる方が高い専門性を持った方ですので、議論し ている中でも専門用語の羅列で、私などはいちいち「それは何ですか」とお尋ねし、患 者には理解できないことをわかっていただくことを役割の1つと認じておりました。  そして客観的に拝見していて思うことは、第三者的な立場でその診療科の専門の方が 報告書をまとめる役割を務めるのですが、その方自身も高いリスクの上に身を置いてい る立場なのです。そうすると、少し腰が引けていると見受けられるという懸念もありま した。いかに中立公正という立場が困難か、ということだと思います。  もう一点は、私が参加した評価委員会は、3回ぐらい集まる調整をしているというこ とで、夜11時すぎまでの議論もありました。忙しい人の集まりだけに少し慣れてくる中 で、メーリングリストでやり取りしましょうという話になってくるのです。そうすると、 顔を合わせて議論をしていると思い付きも含めて率直な意見が交されますが、メーリン グリストの意見交換となると、私などは慣れないせいもあって、温度差という問題がか なり浮き彫りになってきているという印象も持っています。参加させていただいた立場 として報告をさせていただきました。 ○前田座長  どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。私がいちばん気になるの は、コストというか、これをどのぐらいの規模にまで広げられるかです。問題点として いろいろご指摘いただいているところで、スタッフの確保はもちろんご指摘になってい るのですが、これをある程度近い将来広げていくときに、いまの我が国の医療の資源の 中であらゆる不信死に関するようなものにまで。これは先ほどの中立性に対しての評価 があるということは、これでやっていただくことに越したことはないのですが、どのぐ らいカバーができるかというおおよそのところ、感覚論というか。もうイメージしかな いと思うのですが、山口委員のお考えを聞かせていただきたいのです。 ○山口委員  なかなか難しい問題で、実際にそういい事例がどのぐらいあって、解剖の承諾をいた だいて、実際に相談に来るという事例はどうでしょうか。多少トラブルがありそうな、 あるいはそのような事例をも含めて、検討の対象になるのはその3分の1ぐらいかなと いう感じがします。これを全日本に広めると、相当の数になるだろうとは思います。現 在も途中で司法解剖になったり、あるいは遺族が解剖を承諾できないということでやめ た事例はかなりありますので、そういうものも含めて積極的に勧めて評価するというこ とになった場合にどのぐらいになるか、なかなか予測しにくい問題だと思います。 ○前田座長  ちょっと無理なことを聞いて申し訳ございません。ただ、1つのモデルとして今回や っているようなものをボディに、日本の8カ所なら8カ所に置いていけるかどうか。そ れに対する国民の期待に応えられるかどうか。また逆に応えなければいけないといえば、 いけないのだと思うのです。ほかにいかがでしょうか。 ○児玉委員  いまの数字の問題について補足をさせていただきたいと思います。病院で死亡される 方を出発点にして考えると、亡くなられる方の9割以上が医療機関で亡くなられるわけ ですから、大ざっぱに90万〜100万人ぐらいの方が医療機関で亡くなられています。そ のうちの何割に対応しようかという発想で外側から数字を詰めていきますと、例えば、 医療機関で亡くなられる方の10件に1件を対応しようとするだけで年間10万件対応し なければいけなくなります。現状でモデル事業が目標としている数が年間80例ぐらいで すので、100例まで頑張ったとしても、なお1,000倍の開きがある。外枠から詰めてい くとなかなか難しい問題がある。  他方、現在の警察への医療事故届出件数の推移という数値の側から見ますと、医療機 関側から届け出た数、遺族側から届け出た数、その他を合わせて警察庁の平成19年3 月7日の発表資料によりますと、総合計のピークが2004年だったのですが、年間255 件という数字です。2004年をピークとして次第に減ってきて2005年が214、2006年が 合わせて190件です。そのうち医療機関からの届出数が全国で163件ということで、現 在警察に届け出られて、果たして医療として適正であったかを問題にされている件数の 側から見ると、モデル事業はだいぶ頑張ってきて、そこに手が届き始めているなという 評価もあると思います。以上です。 ○前田座長  非常に大事なご指摘だと思います。警察に届けられているものと、それとは違うタイ プに対応しているという面もあるので、そこのずれがどのぐらいあるかで、この報告の IIIにある刑事司法との関係も問題になってくると思うのですが、もしよろしければ警察 庁、法務省からもこのモデル案に関してご意見があればご発言いただいて、さらにそれ に対して医療の側からの議論もしていただけたらと思います。 ○ 警察庁刑事局刑事企画課長(太田)  オブザーバーで参加させていただいております。なかなか発言する機会がありません でしたので、今までの経緯も含めて私どもで考えていることなり事実認識について申し 上げさせていただきたいと思います。  先ほど来、出ておりますように、警察に届けが出ている医療事故関連の件数は、平成 16年の255件をピークにしており、それ以前は本当に数件だったわけですが、平成12 年に都立広尾病院事件があり、それを踏まえて国立医学部附属病院院長会議の見解等も 出されて、平成12年以降、数がぐっと増えるという形になっています。平成11年が41 件だったのが平成12年には124件ということで大きく増えました。その後、平成13年 は少し減ったのですが、また平成14年に185件ということで、これも女子医大の事件等 が影響しているのかと思います。1つ1つの事件をきっかけとして増えてきており、平 成16年は255件ということですが、平成17年は214件、平成18年は190件とだんだん 減ってきています。  私どもとしては、増えた原因は先ほど申し上げたような点にあろうかなと思うのです が、減ってきたことについては現場の捜査官の感覚というか話の中で、病院側がいわゆ るリスクマネジメントに気を遣うようになってきて、リスクマネージャーという形で患 者側との対話が進んできているのではないか。それで警察に持ち込まれる件数が減って きているのではないかと思います。  そういう意味で、実は警察に持ち込まれている件数は医師法21条に基づくか、基づか ないかはっきりわかりません。いわゆる事前の相談みたいなものもありますし、病院に よってよく届け出られる所もあれば、そうではない所もある。したがって、警察に届け 出られている件数が、果たしてイーブンの条件で全国一律的に出てきているのかどうか はよくわからないところがあります。ただ、実際に来ている数字から見ると、そういう 感じなのです。  この前までの議論の中で、「警察が一生懸命医療関連死について捜査に力を入れてきて いるのではないか」という発言も若干ありましたが、私どもはそういう認識を全く持っ ていません。届出が多くなれば、当然それに対して人の死があるわけです。家族の方、 遺族の方の思いもあります。そういうものを踏まえて、きちんと捜査、調査をしなけれ ばいけない。それによって送致をしてはいけない、送致すべきであるというのが増えて くるということで、そういう意味で届出が増えれば、当然それに対応する形で送致して いくものも増えてきているという形になっています。したがってしゃにむに警察が医療 現場に手を突っ込んで乗り込んでいくという認識は、私どもは全く持っていないという ことです。  現実問題、逮捕の事案等もいろいろ出ていますが、平成9年以降、ここ10年間を見ま すと、いわゆる逮捕事案3件のみです。のみと言って、それが多いか少ないかは議論が あると思いますが、医師が逮捕された案件は3件だけです。  それから医師法21条に基づいて届け出なかったから事件になったというのは7件あり ますが、これはすべていわゆる業務上過失致死が付いています。どちらかというと医師 法21条は変な言い方ですが、当然過失致死等で立件にふさわしい案件に合わせて、21 条の届出がなされていなかったから立件しているのだということで、届け出なかったゆ えに、そのことをもって立件しているという21条だけのケースは1件もありません。そ ういう意味で21条の届出のあり方というのは、そういう事実も踏まえつつ、ご議論いた だければというのが私どもの考え方です。   次に、いま議論になっている第三者機関等に対して、どう対応していくのかという ことですが、私どもは基本的には第三者機関というものには賛成です。というのは、現 場の警察の中でも、非常にいろいろな事件の取扱いがあります。先ほど来申し上げまし たように、患者側、病院側等からのいろいろな届出も増えています。どちらかというと 病院側からの届出のほうがぐっと増えているのですが、そういうものにきちんと対応し ていこうと思うと、警察官で専門的な知識を持っている者はほとんどいるわけではあり ませんので、そこではほかの先生方、医師にいろいろご指導を乞い、また鑑定をお願い するという形できちんと調査をしていかなければいけません。現場にとっては大変な労 力の多い仕事になるわけです。一方できちんと届出を受けている以上は対応しなければ いけません。そういう意味では明らかに刑事事件として追及されるべき事件である、例 えば患者を取り違えた、それから薬を間違って入れてしまった、また1日分のはずが1 カ月分入れてしまった、また中に何かを置き忘れたといったものについては、私どもと しては証拠保全を早急にしなければいけないという観点からも、警察として21条に基づ いて届出を受け、それをきっかけとして事件捜査をしなければいけないと思いますし、 また遺族・家族もそれを求めていると思います。そうではないいわゆる専門的な知見で、 これがどうなのだという議論をされるものについては、我々に相談に即持ってこられる よりは、第三者機関できちんと判別をしていただいて、その過程の中で、これは刑事事 件の追及が必要であるというものについて、第三者機関から届けていただくという形の 枠組みができれば、実務的にも非常に効率的であるし、また病院側と患者側とのいろい ろな議論の中でいい形になっていくのではないか。その辺の枠組みができればいいなと。 そういう意味で第三者機関の価値は高いのではないかと思っているわけです。   繰り返しになりますが、すべての案件について第三者機関経由でなければいけない かという点については、若干私どもはそうでもないのではないかと思います。これは明 らかに刑事事件を追及するについては、早期の段階で対応していく必要があるし、また そういうものについては患者の方々、遺族の方々も第三者機関というよりも警察にとい う話になってくる可能性も強いだろう。そこの段階ですべからく第三者機関ということ になっていけば、逆に患者側からの警察に対する告訴なり告発なりが増える可能性も出 てくるかなと。そういう意味で仕分けができる、しなければいけないのかなと思います。 ここも難しい問題がありますし、この前から議論があって、では、何が明らかに刑事責 任を追及するべき事件なのかどうかということなのですが、これは今まで裁判例も相当 ありますし、実務の中で積重ねられてきたものもありますので、そういうものが参考に なっていくのかと思います。これは厚労省のほうで21条に基づくガイドラインという言 い方よりも、何をもって追及責任が問われるべきものか問われないべきものかの仕分け のほうがいいのかもしれませんが、そのようなものが出ていけば、これから運用の中で 落ち着いてくるのではないかと感じているところです。  先ほど議論になりましたモデル事業についても、私ども担当の地元の警察は、緊密に 連携をとりながら、対応しているわけです。ただ実際問題、各地域によってかなり警察 との関係が違うというか、すべからく警察にご相談いただきつつ、一緒に対応している 所もあれば、私どもの全く承知しない所で運営されているものも県によってはあるとい うことなので、逆にいえば、いろいろな形があって、それはまさに継承されていくのだ ろうと思っております。是非モデル事業についても、今後の第三者機関の有り様につい て議論する重要な材料になっていくのだろうと思いますので、私どもとしてもこの成果 については注目をさせていただいている次第です。 ○前田座長  どうもありがとうございました。今の発言にご質問、ご意見があろうかと思いますが、 併せて法務省からご発言いただいた後にまとめてお願いしたいと思います。 ○法務省刑事局刑事課長(甲斐)  最初に医療事故に対する刑事罰の適用という面について、一般的なことを申し上げた いと思います。私ども法務省、検察庁の立場としては、警察から事件の送致を受けて起 訴・不起訴を決定していくのを主な職務としているわけですが、全体として、司法の側 から見て医療事故をどう扱うのかという問題があろうかと思います。今回の検討会では、 むしろ医療の側からこれをどう扱うかをご議論されていると思いますが、その背景には 刑事司法との関係を非常に意識されているのだろうと思います。  もう少し言うと、医療と司法との間での相互的な理解が、これまで十分なされてきて いないのではないかと感じることもままあります。ただ、いま警察庁の太田課長からも お話がありましたが、現実の刑事司法の分野における取扱いは、非常に謙抑的な姿勢で 臨んでいると私どもは思っています。よく言われているところでは、医療事故で人が亡 くなれば、何でもかんでも起訴しているのではないかという印象を受けているお医者さ んもたくさんいらっしゃるように見受けられますが、それとはほど遠いのが実際です。  私どもでは、医療事故による刑事事件の全国的統計を把握しているわけではありませ んが、卑近なところで見ると、東京地検、本庁で取り扱った事件を見ると、ここ数年で は毎年10数件から30件程度の医療事故を処理している状況です。ただ、このうち起訴 をしているのは、1年で数件未満です。もちろんゼロの年もありますが、1件とか2件と いうオーダーの数で、全体の処理件数から見ると1割弱程度です。そのほかはどうなっ ているかというと、みんな不起訴になっているわけです。不起訴の内容は、起訴猶予の 犯罪は認められるけれど、起訴する必要はないものもあるでしょうし、嫌疑不十分で犯 罪が成立するかどうかは、証拠上十分ではないとの判断を下したものも多く、それが相 当程度を占めています。  先ほど起訴しているものと申し上げましたが、内容的には正式の起訴と略式の起訴と 2種類あって、正式な起訴をしているのはその半分ぐらいで、かなりの部分は罰金だけ で終わっています。このような状況なので、相当絞り込んだ運用をしているのが実情で す。  他方で、医療事故について、過失があってもおよそ刑事責任を取るべきではないのだ という議論も当然あろうかと思いますが、我々が事件を処理したり、その過程で遺族か ら話を聞いたりした状況では、そういった考え方までは国民の理解は得にくいのではな いかと思います。ですから、現場の検察では、医療の特質も含めて起訴・不起訴の判断 をしていて、最終的には相当謙抑的な対応をしているのが実情だと思います。  また一般的な話になりますが、同種案件が数多く起こり得る、いろいろな社会的に問 題となり得る事象があって、それをどう統制していくのか、刑事罰がどういう役割を果 たすのかは非常に大きな問題ですが、一般的に刑事罰はワン・オブ・ゼムで、行政的な 措置や民事的な救済が用意されていることが多くあります。私どもの考えは、刑事罰は 非常に強力であるがゆえに、謙抑的でなければいけないとの考えでとらえています。例 えば、交通事故では警察で免許制度を備え、違反があれば取消し処分をする、あるいは 保険制度を整えるといったことで対応しているのがほとんどで、事故があったらすぐ刑 事罰になるのかと言われれば、そうなっていないわけです。  また、独占禁止法違反でいろいろな事件がありますが、これは公正取引委員会でいろ いろ調査されて、課徴金命令や排除措置命令といった行政的措置が取られ、告発まで至 るのは非常に限られた数です。脱税事件についても、重加算税等を取られることもあり ますが、告発まで至るものは非常に限られています。  医療事故についてはどうかというと、そういった中間的なものがないのが現実です。 本当に刑事的に罰してほしいという気持ちで言ってくるものもあるかもしれませんが、 それがないがゆえに本当の真相はどうだったのか、それを知りたいということで刑事司 法に訴え出る、あるいは民事裁判を訴える事例も多いのではないかと思います。そうい うものについて、最終的に先ほど申し上げた捜査を経て不起訴になることも多いと思う のですが、きちんと死因究明ができて、遺族に説明ができて相互の納得が得られれば、 刑事司法にまで到達する必要性はないものが多いのだろうと思います。今回検討会でご 議論いただいている内容も、そういう意味では非常に意義が大きいのではないかと考え ております。そこは、医療と刑事が相互に理解をしながら、適切なところで処理ができ るようにしていただくのがいいのではないかと思います。  制度設計上の問題については、あまり時間もないので1、2点だけ意見を申し上げます。 1つは、調査については中立・厳正が非常に大きなポイントになると思います。患者さ んのご意見を聞くと、トラブルになったあと来られることが多いわけですが、非常に不 信感を持っていることがあるので、そこは中立的な運用がなされる必要があります。  その関係で何を知りたいかということがあります。どうしてこうなったのか、何が起 こったのかを知りたいと考えるのが普通だと思います。ややもすると、解剖が先に立っ て、解剖すればある程度のことはわかるだろうと思うわけですが、それだけでわからな いこともたくさんあります。関係者からの聴取りやカルテの精査といった面での調査が 必要で、そのための十分なスタッフが必要だと感じております。  2つ目は、先ほど申し上げた経緯からすると、第三者機関に患者や家族に十分な説明 をしていただくのが、いちばん大きいのではないかということです。  3点目は、死因究明について単発で終わるのがいいのかどうかです。先ほど申し上げ たように、いろいろな事象との関係でそれだけで終わる場合もあるでしょうし、必要で あれば行政処分や民事的救済といった組合せが適当な場合もあります。委員の皆さんも よくご存じかと思いますが、この分野では刑事処分があったら行政処分がなされると、 普通の行政と刑事の関係と逆になっているので、行政処分があったらそこまでいく必要 はないというのがほとんどです。それでもひどい場合は刑事に行くのが、本当のあるべ き姿ではないかと思っています。  4点目は、証拠の確保の問題があります。医師法21条との関係もあって、こういった 機関を作って報告のルートをどうするかが次に問題になると思います。さはさりながら、 調べてみてもひどい事件だから、刑事に持っていかざるを得なくなったときに、その時 点で全然証拠がないと言われると非常に困るので、そういった面での配慮もお願いでき ればありがたいと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。流れがモデル事業の話から広がってしまった面があって、 私の言い方が悪くて申し訳なかったのですが、いまのお二方からのご説明に関して何か あれば先に出していただいて、それを踏まえてこの会の全体の流れとしての診療行為に 関連した死因究明の在り方の検討の方向性資料2に従って、順にご意見を伺っていきた いと思います。 ○児玉委員  先ほどのご説明の中で、明らかな刑事事件の例として薬の間違い、取違え、置忘れと 3つ事例を出されたと思うのですが、大きな違和感があったので、実態と少し違うご発 言をされたのではないかという点を指摘します。  というのは、1つ目は薬の間違えですが、1,000床の病院で一生懸命ヒヤリ・ハットレ ポートを出すと、大体病床数の3倍ぐらいは容易に事例が出てきます。1,000床の病院 では年間3,000件ぐらいの事例が出て、いろいろ揺らぎはありますが、大ざっぱに言っ てそのうち3分の1ぐらいは薬の投与を間違えたという報告なのです。つまり、1,000 床の病院で年間1,000件ぐらいの薬の取違えがあるという実情の中で、極めてまれな死 亡に直結する薬の取違えの事故、法的に見ても死亡と因果関係があるものについて、し かもそれが病院側からきちんと報告されたものについて処罰されてきた経過があるので はないかと思います。およそ薬の取違えが刑事事件だと言われると、おそらくこの会議 に注目している多くの医療従事者は大きくショックを受けると思います。  2つ目は取違えですが、私は取違えで業務上過失致死事件を知りません。横浜市大の 事件は、取違えで業務上過失致傷で、致傷なのにあれだけの人数が刑事立件されたとい う非常にまれなケースだと思っております。よく明らかな過失の例として、ガーゼや鉗 子等の置忘れなどの事例を挙げられますが、これも民事事件としてミスを認めて訴訟に なる前に和解をしたり、なってから和解をしたりする事例、判決に至る事例もあるとは 思いますが、置忘れ事例で明らかな刑事事件に該当すると言われると、これも医療従事 者に対する萎縮効果は非常に大きいものがあるのではないかと思います。  例を挙げておっしゃったお気持ちはよくわかりますが、事ほど左様に何が明らかな刑 事事件なのかは、例を挙げるのもそれほど容易なことではないのではないかと思うので す。むしろ、先ほどのご発言の中にあった専門的判断にわたる部分で刑事立件がされて いる事例が、まま見られるのではないかという点を指摘します。 ○前田座長  確かに、おっしゃるとおりだと思うのです。ただ、有罪になった事件でいちばん多い のは、やはり投与ミスなのです。かなりあるのですが、それは死に至る量の投与ミスで あることは間違いないので、およそ薬の投与ミスが全部刑事過失になると発言されたと すると、それはミスリーディングです。ただ、注射や薬の量の間違いなどで刑事過失を 問われた件数は、かなりあるのは事実だと思います。 ○警察庁刑事局刑事企画課長(太田)  私の言い方が誤解を与えたのかもしれませんが、私は基本的に裁判例を前提に考えて いて、平成10年以降、私どもで把握しているケースが数十例、略式を含めてあります。 その中から、いまお話に出た死に至る事例や取違えなどがあって、それらの積重ねの中 から類型化ができないのかという趣旨で申し上げたわけです。ですから、ここは議論を 重ねなければいけない部分があると思うのです。  ただ、病院側からもこれはまずいというものについて、先ほども少し出ましたが証拠 保全の関係で、明らかに第三者機関からも警察に通告が来ると思われる案件を時間をか けてするとなると、現場としてはやりにくい部分があります。また、第三者機関の体制 がどのような形になるかですが、証拠保全等の観点から言うと、24時間、365日で対応 していただくのが前提で、それができないのであれば、なおさらそのようなものはきち んと保全する必要があるのかなと思います。  ここで数字を申し上げるのは適当ではないのかもしれませんが、先ほど法務省のほう からもお話があったように、刑事事件として立件されている数は、略式も含めて起訴ま でいくものは非常に少ないのです。私どもも、略式を含めて起訴までなるようなものは 直接届け出て来てほしいと思います。それ以外の専門的な判断を要するものは、第三者 機関の判断を尊重しなければいけないし、将来どういう形になるか、今後の組立てです が、私どもが捜査をするには鑑定などを嘱託するわけですが、第三者機関に嘱託するこ とができるのであれば非常にいい形になるでしょうし、そこから出てきた調査報告書を そのまま証拠資料として使うことがいいのかは議論があると思いますが、そういう形に なれば公平性、中立性の観点からも保てた資料になっていくのではないかと考えており ます。 ○前田座長  いまのお話も、かなり具体的な制度設計の話になると思いますが、いまのご議論にも 象徴されるように、わずかですが、どちらから見るかでずれがあるのです。置忘れとい っても、我々はカテーテルやガーゼの置忘れなどまであまり考えないのです。カテーテ ルや鋏をお腹の中に置き忘れるという刑事事件はあるわけです。そういうものまでヒヤ リ・ハットの一部というのではなく、そこである程度ディスティンギッシュできるので はないかと思います。  ただ、それは医学的に調べてみないとわからないとか、切分けの問題はあると思うの です。そこはだんだん両方がすり寄っていって、そんなに距離はないと思うのです。も ちろん、医の側と法の側、患者遺族の側と完全に一致はないと思うのですが、今日の話 を伺っていると、キーワードとしてお互いが安心し、信頼して任せられる。法の側は、 医療のギリギリのところは医に任せざるを得ないのです。そこの判断に従うと思うので す。ただ、先ほど言ったように、それ以前の明々白々のものが証拠保全されなくて消え てしまうのは困るというのが、いちばん強いのだと思います。  そうは言っても、まだまだ議論は残ると思うのですが、今日のところいまのご発言に ついてご意見があれば伺って、あとは医療組織を基本的に作っていくということで動い ていると思いますし、そこは総意ができていると思うので、それを具体的にどう作って いくか、そこで具体的にしていく中で、いま言ったすり合わせの部分もやっていくほう が合理的だと思います。 ○高本委員  私も太田さん、甲斐さんと同じで、共通する点はかなり多いのではないかと思います。 特に、調査は中立・厳正でなければいけないとか、患者に十分説明するとか、死因究明 もちゃんとしなければいけないとかです。証拠の確保もしなければいけないと思います が、患者さんが亡くなった場合の証拠で、いちばん大きいのはご遺体だと思うのです。 これは、解剖して死因がはっきりしない場合もありますが、かなりのことがわかるし、 カルテや周りの人の聴取り調査なども証拠になると思うのです。ですから、ここで警察 が介入しなければならない証拠は、極めてわずかなのではないでしょうか。残された薬 剤量がどうだとか、カテーテルがどこにあったとか、それはカルテやレントゲン検査な どでかなりの程度カバーできる領域ではないかと思うのです。だから、警察を通さなけ れば証拠保全が利かないのではないかというのは、飛躍した議論ではないかと思うので すが、残さなければならない証拠とはどんなものと考えているのですか。 ○法務省刑事局刑事課長(甲斐)  太田課長がおっしゃっていることと私が言っていることが、本当に同じなのかは相当 疑念があって、考え方として一応全部第三者機関を通してこちらで検討していただいて、 問題があれば連絡していただくという考えももちろんあるでしょうし、先ほど太田課長 がおっしゃったようなお考えもあり得ると思います。  ただ、実際の捜査をしていく場面では、ときどきあるのが全然その場で連絡がなくて、 民事的にもめ始めて、いちばん後になって刑事に持ち込まれるのです。そうすると、解 剖もしていないし、検査もしていない、カルテもどこまで手を入れたかわからない、あ るいは薬も保管していないといった話になりかねないことが現にあるようです。そうい ったことにならないようにしていただく必要はあると思います。第三者機関でそれなり の対応をされるでしょうが、第三者機関の必要性において対応されるのが第一に来るは ずです。そうすると、その限りでも必要ないと思ったら、全部捨てる、あるいはご遺体 も返す。レントゲンなども必要最低限のところしか撮らないことも当然あり得るわけで す。そのようなときに、争点がそれだけにとどまるのかどうかはわかりにくく、また議 論が拡散してしまうところがあるので、これは刑事にまでいかなくていいということに なれば、そちらで処分することもあり得るでしょうが、可能性が相当ある事案であれば、 先ほどおっしゃったように解剖の状況や、投薬がどこにどのように保管されていたかと いった証拠保全的な観点も、加味していただく必要があると思っています。  ただ、だからと言って、最初の時点で警察が行って押さえてこなければ全然駄目かと いうと、そんなことはないと思います。むしろ、そこを気をつけていただけるなら、お 任せしてもあり得るのではないかと思います。 ○高本委員   その辺は協力し合うというか、やり様があるのではないかと思います。もし、わずか な危険性、刑事事件になる可能性があるとするならば、1年間の病院での70万の死亡も 全部処理する覚悟がおありならかまわないですが、たぶんほとんどはその可能性はない わけです。効率の面、あるいは死因究明がいちばん大きなことですから、いちばん大き な証拠のご遺体と記録が残るわけで、第3者機関で十分に対応できるのではないかと思 います。そういうことから言うと、刑事事件として警察が絡まなければならないのは全 くゼロとは言いませんが、極めてまれと言えるのではないかと思います。 ○警察庁刑事局刑事企画課長(太田)   そういう意味で、私も極めてまれなのだろうと思うのです。基本的に警察に直接いっ ていただきたいと思う、明らかに刑事訴追が必要なケースは、先ほども言ったように年 間数件程度の話になってくるだろうと思いますし、当然このようなケースも第三者機関 も再発防止の観点からの検証が必要なわけで、おそらく航空機の事故調のように同時並 行的に進む形になろうかと思うのです。その過程で、再発防止のためにいろいろと調査 しなくてはいけないものは、警察が仮に刑訴法に基づいて押収等をしても、それはお互 いに融通し合う形になっていくかと思うので、航空機事故を例に出すのは変ですが、そ ういう制度に近いものになってくるのかなと思います。  ただ実際問題、証拠保全の観点から言うと、刑事事件として立件されるべきものであ れば、早いほうがいいのは間違いないと思います。 ○山口委員   先ほどの報告の中でも述べましたが、実際やってみて、大きな役割を果たすのは院内 の調査委員会活動です。また、院内の再発防止に向けての提言を受けて実行するのも病 院ですから、院内の委員会活動なり病院の活動に水をかけるような話になるのは、折角 やっている第三者機関の活動の意味が非常に少なくなると思うのです。  その意味で、証拠保全が大切なのはよくわかりましたが、いま同時並行とおっしゃい ましたが、証拠保全があって、事情聴取があって、捜査が同時並行する。それと並行し て、院内では事故の原因を追求して、再発防止に向けて検討してくださいということが 現実的に可能でしょうか。片方で事情聴取され、業務上過失致死を追求されている職員 が、片方の委員会に出てきては業務改善のためにはどうすればいいか、再発防止をする ためにはどうすればいいかと意見を述べる。同時並行と言われても、現実的には非常に 難しいシチュエーションだと思います。その辺りをどう運用するか、どういう制度設計 をするかによっては、折角の再発防止の主体を担う病院の中の活動が、完全に抑えられ てしまう。このことは、モデル事業をやってみて、院内の自主的な活動が非常に重要だ ということを実感していますので、それを阻害しない形で、どうしたら証拠保全ができ て、刑事処分が必要なら同時に立件することができるかを考えないと、単純に証拠保全 が必要で同時並行というのは、現実的には極めて難しいシチュエーションではないかと 思います。どういう事例を対象とするかによりますが、むしろ非常に過誤が明らかな事 例のほうが、再発防止のためにいろいろ検討しなければならないことがたくさんあるわ けですから、そういう事例に限っても同時並行で、警察の調査も同時に進んでというこ とでは、現実的に本当に第三者機関による調査がうまく機能するのか危惧しています。 ○前田座長   おそらく、その辺りは最後の詰めでいちばん微妙なところだと思うのですが、現実に 院内の委員会などがどう機能しなくなるかも、もう少し具体的に詰めてみないといけな いところはあると思います。いまのところでは、そういう事案をモデル事業ではやって こられなかったし、また先ほど堺委員がご指摘になった明白なもので、その判定も難し いので微妙なのですが、それに対して遺族の感情やマスコミの評価などもあろうかと思 うのです。  ただ、はっきりしていることは、できる限り真相を究明して、遺族も刑事も考えるけ れど、できる限り再発防止につながるシステムを作っていくことは間違いない。それと 矛盾しない範囲、なるべく両立する範囲で、システムとして刑事責任の道も確保してい く。そこのすり合わせのところですので、こういう問題は我々法律家はそうですが、ど ちらが原則か、どちらを取るかというよりは、ある程度ざっくりと決めておいて、具体 的に事例によって、ただ、とんでもない事件が起こることもあるのです。それが安全対 策の視点だったということで落ちてしまうこともあり得なくはないのです。逆に、刑事 を優先しすぎて、再発防止がうまくいかないこともあり得ると思います。その辺りも詰 めていかなければいけないことは、核心の部分だと思います。  前回ある程度見えてきたと思うのですが、今日の話でポイントの距離はかなり詰まっ た感じはするのです。今日の段階では、資料2で参考資料に付けていただいている「全 体の方向性」の中で、あと何回かのこの委員会で方向性をまとめていかなければいけま せん。少なくとも、いまのようなぎりぎりのところが残るとしても、合意できるもの、 先ほど室長からご案内いただいた参考資料1「診療行為に関連した死亡の死因究明等の あり方に関する課題と検討の方向性」の概要について、ご発言があれば出していただき たいと思います。もちろん、次回、次々回と、ご発言があればそれに応じたテーマで議 論をしていきますが、策定の背景として、医療は安全・安心であることが期待される一 方で、診療行為には一定の危険性が伴う。これはどなたもご異論のないところで、「医療 事故が発生した際に、死因の調査は臨床経過の評価・分析・再発防止策の検討等を行う 専門的な機関が存在せず、結果として民事手続きや刑事手続きに期待されるようになっ ているのが現状である」と。ここは、事実としてそんなに刑事は増えていませんが、民 事の話は出ていなかったので、こういうものができれば民事の紛争もかなり片づく面は あろうかと思います。3番目に、「患者にとって安全・安心な医療の確保や不幸な事例の 再発防止等に資するために、以下の提案」とつながっていくわけです。  私は今日の議論を聞いていて、この委員会ができる1つの大きな仕事として、微妙な 部分を刑事に回すか回さないかの判断を行う機関を用意する必要があると感じました。 確かに、刑事の現場からいって、明々白々なものは回してほしいと。明々白々とは何か という議論は、もちろん詰めていく必要はあるのですが、逆に医療の側で懸念されてい た合併症はどうなのかなど、非常に難しい問題があるではないかと、それはそのとおり だと思うのです。その辺りの仕分けは、まずこの機関で分けるという機能は期待される べきなのではないかと思います。それは、全部その機関を通さなければならないのでは なく、本当に微妙で議論が分かれるものについては通す。ですから、医療的に専門家で ない警察が、微妙な灰色の部分にまでズカズカ踏み込んでくるのは困るということは、 策定の背景としては入れていただいたほうがいいのではないかと感じるのですが、警察 はいかがでしょうか。 ○警察庁刑事局刑事企画課長(太田)   繰返しになりますが、私どもは灰色の部分にズカズカ入り込んでいっているつもりは あまりないのです。先ほど来申し上げているように、なぜ警察が現場に入っていってい るかというと、病院側からも患者側からも、我々に相談や告訴、告発が来るわけです。 それを踏まえて仕事をしなければいけないのです。これは1人亡くなられている背景が あるわけで、それを医療ではグレーゾーンだから、私どもではできませんと言うことは できないので、いまはそれしかないのです。第三者機関でグレーゾーンをきちんと仕分 けしていただくということですが、第三者機関でこれは刑事事件には相当しないと言っ ても、納得しない患者さん方は告発や告訴の手段がありますから、そういう形で刑事に 来る可能性は十分にあるわけです。そこまでは、刑訴法では排除できないだろうと思う のです。  そういう意味で、患者側に対するきちんとした説明等も、当然そこに至るまでにやっ ていただかなければいけません。そのために第三者機関が中立・公正であれば、その機 能も十分に果していただけるわけで、そのような趣旨では非常に期待しております。し かし、現状として、灰色の部分に私どもがズカズカ入り込んでいるという意識は持って いないということだけ申し上げます。 ○前田座長   私の言葉が悪くて申し訳ありません。どう書くかよりは、今日はご議論いただいて、 文章をまとめ直すのは事務局にお願いしたいと思います。ここは背景のところを議論し ても仕方ないのかもしれないので、組織のあり方について具体的な方向性を事務局から 示していただいているのですが、いかがでしょうか。先ほどの議論があるので、それに 加えて何か発言があればお願いします。 ○木下委員   いままでのご意見とそう変わらないのですが、検察や警察の皆様方のお考えは、わか りました。明らかな過失と思われる事例は警察へ届けるようにということですが、当事 者自らが届けなくとも、家族側からの告発はあるわけです。しかし、我々、当事者とし てはどういう原因であれ、モデル事業の実績からしても、第三者機関に届けることに問 題はないと考えています。  そういった特殊なものに対しては警察にというお考えの根拠は、証拠保全のことだと 思います。医療行為の証拠保全については、殺人事件のような犯罪のときとは違うと思 います。先ほど高本委員からお話があったように、臨床の現場における証拠は、必ずし も捜査をして指紋を取るような種類のものではないことが圧倒的に多いと思います。そ ういう意味での捜査の遅れを心配なさっておりますが、一般的な臨床の現場を知ってい るものにとっては、それは本質的な問題にはならないのではないかと思います。たびた び申し上げるように、過去の判例からしても、医療事故のすべてが免責であることはあ り得ないと思います。極めてまれな特殊なケースについても、先ず第三者機関に届け出 る方向で対応していただき、どういう運用をするかという観点でご議論をしていただき たく思います。  医療界にとって社会的な問題を考えると、患者さんの意向は当然あるにしても、いま の刑事司法の介入が明らかに多いという現状をいかに改善していくか、という大きな目 的があります。そのような視点からすると、刑事事件の端緒となる警察への届出の仕組 みを改めて、警察も捜査の点では証拠保全の問題はあるにしても、第三者機関に、まず 届けた上で判断する仕組みができたほうがよいと思います。 ○加藤委員   医療事故については、第三者機関にまず届け出る仕組みを作ることは賛成なのですが、 そのときに第三者機関が速やかにどのような方針を立てるのかが必要になってくると思 うのです。そのときの現実の考え方としては、当該医療機関ですぐに院内の事故調査委 員会を開きなさいという指導のあり方も、山口委員の報告を踏まえてありなのだろうと 思います。そういう意味で、院内事故調査委員会がどのような機能を果たすのか、どう いう構成でなされるべきものなのかが、第三者機関のイメージづくりと併せて、十分な 機能を果たさせる意味でも重要な意味を持ってくるのではないかと、かねてから感じて おります。  先ほど、現場保存や刑事の捜査と院内事故調査とが同時並行というお話がありました。 基本的には、きちんとした公正さが保たれる具体的な担保がなければいけませんが、院 内の事故調査が一定の期間きちんとされる間は、関係者の取調べ等は、警察は謙抑的に 対応する余地はあるのだろうと私は思っています。  2002年8月に、名古屋大学の腹腔鏡を使っての手術で腹部大動脈を損傷した事故のと きに、警察が病理解剖の際に刑事訴訟法に基づく検視の手続きに入ったけれど、院内の 事故調査をする間捜査を待ったことがありました。この1つの有り様は、リーディング ケースとして尊重されていいのではないかと思います。そのときには病理解剖されてい るので、状況としてはきちんと残っているわけだし、そういう意味での再発防止や真相 究明の営みをある期間、名大の場合は2カ月間、かなり精力的にその間聴取り等をして 事故報告書を取りまとめたわけですが、事故から学ぶという基本的な営みをその医療機 関が誠心誠意やろうとする、あるいは執刀医が自分しかわからない事実も全部開陳して、 きちんと記憶も共有化しようとするとき、その営みは非常に医療の質を高めていくため にも大事なものになるだろうと思うのです。  そのような営みが、ひいては遺族にも誠実さとして伝わって、あるいは院内の事故調 査報告書が、結果として1つの資料となって示談が成立するようになっていくと、告訴 等への発展が見られない例も出てくると思います。そうすると、問題の解決のトータル な道筋も見えてくるのかなと考えているので、第三者機関にまず届け出ることの意味合 いは、そんなに異論はないと思うのですが、それを受けた第三者機関はどういう規模に なっているかと、そのときにどういう振り方をするのかの問題があります。  今日の山口委員の報告の中に、4頁で院内調査委員会の関係に触れられていますが、 一口に医療機関といっても、特定機能病院のような地域における模範的な機能を持った 所から、比較的病床数の少ない医療機関まであるわけで、自前で院内の事故調査ができ ない所でも事故は起きるわけです。そういう医療機関の場合どうするのかまで考えてい かないと、第三者機関に全部一旦届けることはよいとしても、その先はどうしていくの かというところでディスカッションが深まればいいと、私は思っております。 ○前田座長   いまの点も非常に重要なご指摘で、いまのご議論も皆さんはご異存ないと思うのです が、逆にその先で真相究明が全部できない場合どうなるか、また先ほどの木下委員のお 話も全くそのとおりだと思いますが、それを国民の側から見て、この第三者機関がやっ たのだから信頼できるという関係ができることが大前提なのです。第三者機関に回さな いで、刑事機関に回らないと真相解明できないのではないかとの懸念が残ってしまうと、 やはり問題です。このような立法をしていくときには、議会ということになるでしょう が、国民のコンセンサスがどちらを重視するか、どちらが信頼できるかという勝負にな ってくると思うのです。そのときには、先ほどご質問したどの程度の真相解明能力があ って、公平性のある機関が作れるかにかかってくると思うのです。  警察がやるといっても、医療の部分は医療に頼まざるを得ないのです。警察がかむか ら信頼性があるといいますが、医療の中身はそんなに変わらない。ただ、第三者機関は 自分たちは絶対にきちんとやれるとのご判断だと思うのですが、それが外から見て、国 民一般から見て納得のいく概観が作っていけるかどうかだと思うのです。 ○児玉委員   モデル事業に2年足らずの間関与して、課題として内容についても手続きについても、 いま分かりにくいものをもっと分かりやすくしなければいけないと、私自身は学んだと 思っております。内容については、もっと一般の方がわかるように、遺族がわかるよう にどう話したらいいのかを工夫していかなければいけないし、審議に参加するメンバー をどう設定していくかも重要な問題だと思います。私自身は、実際に評価委員会に評価 委員として、東京地区の第1例に関与したわけですが、こんなに医療関係者やモデル事 業関係者が集まって真剣に討議をしている様子を、どのように社会一般に知らせていく のかと、私は本当にこの討議を皆様に見せたいという思いさえ持っております。  手続きの点ですが、いまいちばんわかりにくいのは、例えば本日3時50分に1人の患 者さんが亡くなられたとします。モデル事業で死因を解明するのか、司法解剖をするの か、行政解剖をするのか、そこには真実を知りたいと思っている遺族と、真実を語りた いと思っている医療従事者がいるのです。それが、一体出口はどこかわからないという 状況の中で、司法解剖か行政解剖か承諾解剖か病理解剖かモデル事業か、何かわからな いまま10時間や12時間、夜が明けて24時間、本当にヘトヘトになるのです。現場にと って、いま真相解明する手続きはどんなものか、非常にわかりにくい。何とかわかりや すい制度を作っていきたいと思っております。 ○高本委員   真相解明というのは、非常に大きな我々の義務だと思うのです。これは、司法にとっ ても第三者機関にとっても非常に大事な義務だと思います。2つのルートがあるとすれ ば、いままで刑事事件で処理されて司法解剖されたものは、本当に真相解明になったの かどうかに関しては、非常に疑問があると思うのです。最後の下手人が誰だったかに関 しては、刑事事件で問われることはありますが、本当の真相はわからないというのが現 実ではないでしょうか。  ですから、証拠保全は最後の下手人が誰だったかのための証拠であって、本当の真相 究明の証拠保全ではなかったと思うのです。だから、唯一警察が刑事事件として絡まな ければならないのは、証拠保全だろうと思いますが、本当に真相を解明し、再発防止の 真相究明をする証拠保全は、第三者機関が代行できるのではないかと思うのです。最後 の下手人がどうこうというのは、真相解明と再発防止にとって大きな問題ではないと思 うのです。もっと、この事故が起こった真相は何なのかという観点に立っての証拠保全 ならば、第三者機関が代わってやるべきだろうし、やれるだろうと思います。  そのようなことで、第三者機関が真の真相解明の方向に向かえば、私はいまの警察に 届出はなくして、必要があれば第三者機関から警察に届けても十分やれるのではないか と感じます。 ○前田座長   ほぼおっしゃるとおりなのですが、1つだけ、刑事だと医学的にどういう経路かも解 明しなければいけないのは大前提なのですが、誰が下手人かがいちばん大事になります。 そこは矛盾は必ずしもしないと思うのです。ただ、誰が下手人かがうやむやになっても いいから、原因が解明して再発が防止できればいいとは、法律の世界は考えないのです。 下手人がうやむやになってもらっては困るというのは、絶対に譲れない線として残ると 思います。そこは、わずかな差を強調する必要はないのです。だから、かなりの部分は 一致できるのですが、これから何回か詰めていって、最終的にあらゆることの届出が第 三者機関だけで済むか済まないかの問題は、第三者機関がどういう機能を持ち得るか、 どれだけのキャパがあるか、国民がどう信頼するかにかかってくると思うのです。でき る限り医学的な究明をし、しかも刑事で漏れなくその情報を保存できるものを作ってい くこと自体は異論がないので、あとはかなり具体論で、どういう機関が作れて、ただ刑 事などの場合その中に遺族が一方当事者として入ることの意味が、難しい問題として出 てきます。いろいろな問題があり得ると思うのです。 ○警察庁刑事局刑事企画課長(太田)   先ほど、加藤委員から名古屋の事例のお話がありましたが、警察も知っている、現場 には行っている、しかし病院側の院内調査機関の判断を尊重する。これは警察もその段 階で認知しているわけですから、同時並行という認識なのです。要するに、そこで問答 無用で証拠を押さえて調べるケースを念頭に置かれているのであれば、必ずしもそうい うものではないということだけ、一言申し上げます。 ○前田座長   だいぶ無用な溝は埋まってきているとは思うのですが、ほかに今日のところでご発言 があればお願いします。 ○堺委員   先ほど、真相究明を求めて警察へ届け出る事例があるということでしたが、確かにそ のとおりだと思います。これが起訴公判になると、法廷の場でいろいろなことが遺族に もわかると思うのですが、不起訴になった場合、遺族に現行制度から開示ができるのか。 前回の参考人のご意見では、法医解剖の結果は現行制度下では開示できないとのご説明 をいただいているので、現時点での司法制度で、不起訴事例を家族に詳細に開示できる のでしょうか。 ○法務省刑事局刑事課長(甲斐)   いま現在のプラクティスとしては、不起訴にした場合には、もちろん被害者の求めに 応じてになりますが、相当程度詳細にご説明するようにしております。このことは、医 療事故についてどの程度ご説明するかと比例する部分があるかもしれないのですが、昔 は検察庁では、不起訴になった場合にはいろいろな関係者のプライバシーの問題もある ということで、あまり説明はできないという立場を取っていたのですが、被害者保護重 視ということもあって、私どもも考えを改めてできるだけ丁寧にご説明するようにして います。ですから、何があったのか、本当は病院からご説明いただけばそれで済んでい たかもしれないのですが、検察庁でご説明をされているのだろうと思います。そのため に、遺族の側で不満を持ち、なぜ起訴してもらえないのだということであれば、これは 医療事故に限らずですが、数時間にわたって、夜中までご説明する事例もあります。 ○樋口委員   いまの点に関して、私もモデル事業に関与して、いろいろな所で感銘を受けました。 今日は山口委員から初めにお話があったように、19学会とか38学会とか、医療者がま とまってこれをやろうと、実際にその会合に当たるのも、複数の大学が協力をし、病理、 法医、臨床医という組合せでやっているのです。  いま真相解明の話がありましたが、真相とはなかなか難しい、そう簡単にはわからな いものだと、関与してみて素人なりにわかりました。しかし、相対的な話になって、司 法解剖では法医、犯罪の有無だけを考えて解剖する場合と、いまのような複数の、私は 法学部ですが、一般論として法律学も我が国では分断されていて、非常に専門分化が細 かいのですが、医療者もそのようで、こういうモデル事業がなければお互いに一緒に何 かをすることがなかった方もいらっしゃいます。真相が100というのはないのでしょう が、専門家同士の間で学び合い、近づく努力が行われています。  先ほど児玉委員もおっしゃいましたが、このモデル事業はまだ数が少ないので、それ だけで大言壮語することはできないのですが、実際に預かった事例でどれだけ努力をし て、調査報告書を真剣にまとめているかは事実なのです。つまり、目的は医療への信頼 で、医療安全のために刑事司法もやっているし、委員の方々もそのような形でやってい るので手段の相違だけなのですが、そうすると手段のあるべき姿が自ずから総体比較、 比較優位が出てくるのではないかという気がするのです。かつ、モデル事業では解剖結 果の報告書も遺族の方にすぐ提供しておりますし、できる限りご説明するということで、 刑事司法サイドでも近年いろいろな努力をされているとは思いますが、原資料、解剖報 告書そのものをご提示していることだけ申し上げます。 ○前田座長   ありがとうございます。いまのご指摘も非常に重要で、医学会がそれだけ集まって1 つの方向にいくことは大変大事なことです。それが絶対無にならないように前に進めて いくことが、何より重要だと思います。その意味で、調査機関を作っていくこと自体は 全く異論がないと、それをどう作っていくかです。その中で、ある意味では瑣末かもし れませんが、最後現実に動かすときに棘が残らないようにするということで、この会議 はそれを全部取り除いて制度設計をする会ではないので、できるだけ議論をして、こち らとしてはこう考えるというのはぎりぎり出して、両方ぶつかるところがあれば詰めて 議論をしたいと思います。  私のさばき方が悪くて、予定の時間が過ぎてしまって申し訳ないのですが、これまで 多岐にわたるご議論を出していただいたので、先ほどお示しした参考資料1の方向性に 従って、事務局で少し整理していただいて、次回もう1回議論をしたいと思います。次 回の予定をお願いします。 ○医療安全推進室長   次回の検討会は、7月13日(金)午後2時から4時までを予定しております。 ○前田座長   では、今回のように山口委員に報告をお願いして、今日の延長としてこの方向全体に ついて議論を深めていくということでよろしいですね。 ○医療安全推進室長   はい。 ○前田座長   それでは、これで今回の会は終了いたします。どうもご協力ありがとうございました。   (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579)   2