07/06/08 第3回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会の議事録について 第3回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会              日時  平成19年6月8日(金) 14:00〜                  場所 厚生労働省専用第15会議室 ○医療安全推進室長(佐原)  定刻になりましたので、第3回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関 する検討会を開催いたします。委員の皆様方には、ご多用中当検討会にご出席をいただき、 誠にありがとうございます。  はじめに、本日の委員の出欠状況について報告いたします。楠本委員が20分ほど遅れる とのことですが、全員ご出席です。次に、お手元の配付資料を確認いたします。議事次第、 座席表、委員名簿の他に、資料1−1として中園一郎参考人と福永参考人からの提出資料、 資料1−2として深山参考人からの提出資料、資料1−3として飯田参考人からの提出資料、 そして参考資料集となっています。以上ですが、資料の欠落等ありましたら、ご指摘くだ さい。もしないようでしたら、以降の議事進行については前田座長によろしくお願いいた します。 ○座長(前田)   今日も、お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。さっそく 議事に入らせていただきます。本日も前回に引き続いて、関係分野の方々のご意見を伺い たいと思います。まず、今日おいでいただきました参考人の先生をご紹介させていただき ます。死因究明の鍵となります解剖を担当される医師の立場から、日本法医学会を代表し て、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の社会医療科学講座法医学教授の中園一郎先生で す。それから東京都監察医務院長の福永先生です。病理学会の代表として、東京大学大学 院医学系研究科人体病理学教授の深山先生です。検察OBの立場から、元福岡高検検事長、 長年、刑事の医療過誤の研究をされている弁護士の飯田先生です。順にご意見をお伺いし たいと思います。質疑ですが、10分ずつご説明いただく予定ですので、進行の関係もあり ますし、話が全部つながっているということで、まとめて後でご質疑、それからご意見を いただきたいと思っています。話の流れで、どうしてもというご質問とかがあれば、お手 を上げていただければと思います。順序としては、先ほどご紹介した順にご説明をいただ きたいと思います。まず法医学の立場から中園参考人及び福永参考人、お二方で本当に恐 縮ですが、一応10分ということで。もちろん、それを越えては一切まかりならんというこ とはないのですが、よろしくお願いいたします。先に中園参考人から、次いで深山参考人 の順でお願いいたします。 ○中園参考人   長崎大学の中園です。日本法医学会からのパブリックコメントを中心に説明したいと思 います。その後、日本での監察医制度がいちばんしっかりしております東京都の監察医務 院長の福永先生から、監察医制度について補足の説明をしていただこうと思います。  最初に、皆さんご存じとは思うのですが、法医解剖鑑定の基本理念といいますか、法医 解剖鑑定が誤解されているところがあります。確かに警察・検察庁からの嘱託を受けて、 私たち法医学者は解剖をしていますが、公正中立な立場に立ち、解剖検査の所見のみから 死因究明をしているのが、法医解剖鑑定です。そういうことをまずご理解いただきたいと 思います。  今回、そういうことを含みまして、診療行為に関連した死亡に係る死因究明等にあたっ て、調査組織を設置することは日本法医学会としては賛同をしています。しかし、その調 査組織の透明性、公平性がどう確保され、またある程度強制力のある調査機能を有し、特 に監察医制度に準じた剖検センターなどの機能を有する機関が必要であると学会としては 考えています。3番目として、医療関連死の届出はやはり義務化が必要であろう。そのた めには届出ガイドラインを明確に設定した上で、現在法医学会が10何年前に出した「異状 死ガイドライン」と整合性を持たせる届出制度としたいと考えています。特に、この制度 を維持するためには、やはり人材育成が急務であると思います。人材育成のための支援策、 サポート策が重要かと思います。繰り返しになりますが、調査組織の在り方としては、や はり透明性・公平性がいちばん重要なポイントになるかと思います。そのことも含めてあ る程度調査機能を有していなければ、この調査組織はうまく機能しないのではないかと思 います。剖検センターの機能を有する機関として、行政機関内に設置することを強く望ん でいます。  新たな調査組織と現行制度の関係については、4頁の附図で、まず調査組織にすべて届 出をし、その中で診療関連死及び疑いのものを、Aとして明らかな過失・故意が疑われる 症例、BとしてはA以外の症例、Cとして明らかな病死、大きくこの3つのパターンに分け られると思います。対象範囲をこの3つに分類するためには、しっかりしたガイドライン が必要だと考えています。そして明らかな過失・故意が疑われる症例については現行法、 従来どおり警察に届け出て、検視、検案後に司法解剖、あるいは監察医による行政解剖と いう流れになるかと思います。A以外の症例の場合は調査受付をし、そして仮の名前です が医療調査解剖、そして調査・評価委員会を開き、再発防止のために、医療事故を今後ど う予防していくのかといったことが必要と思います。もう一つ言い忘れましたが、この法 医解剖あるいは司法解剖の一つの欠点は、鑑定結果がスムーズに病院側、あるいは遺族側 に開示できないという事情があります。警察・検察庁に、この点はやはり司法解剖でも開 示できるような何かシステムを考えてほしいと、法医学会としても訴えたいと思います。  明らかな病死については、従前どおりの病理解剖で結構かと思います。そのためには調 査組織の構成について、これはやはりスクリーニングというとおかしいですが、受け付け てスムーズに解剖までもっていくためには、いろいろな人材を配置する必要があると思い ます。そういうことも含めて、この調査組織を透明性があって、公平性があって、然るべ き人材で、しっかりと構成する組織作りをするべきだと思います。  2頁、今後の調査の在り方の具体化についてです。先ほどから剖検センターという言葉 を申していますが、この4の(1)の(1)のように、死因調査のためには、解剖やCT、尿・ 血液などの検査とかいろいろな検査室、あるいは薬毒物のそういう検出機器類が必須です。 それにプラスし、解剖補助者も必ず必要ですので、そういうものを含めた剖検センターを お考えいただければと思います。4の(2)の(3)ですが、電話受付からこの解剖実施の判断、 解剖担当医の派遣調整等を迅速に行うためには、やはり原則365日24時間体制が当然だと 思います。そういう体制の確立のためにも、繰り返しになりますが、剖検センター的な施 設が必要だと思っています。この調査報告書で医療従事者の過失責任をすべて免責すると いうのは、やはり一般国民にも理解が得られないものと思います。国として何らかの行政 処分といいますか、そういうことも含めた検討をしていただければと思います。  最後に、先ほど申しましたように、日本の死体検案システムは監察医制度のある所、例 えば東京と、大阪あるいは神戸。それ以外のその他の地区は、死体検案システムが全く異 なります。そういうことも含めて、福永先生からご説明願いたいと思います。 ○福永参考人  東京都監察医務院の院長をしております福永と申します。法医学会の理事という立場と、 東京都のこういう異状死を取り扱う行政機関の長としての意見をここに述べさせていただ きます。現在、東京都23区では年間1万2,000件の異状死体が発生いたします。そのうち 診療行為に関連します死体は、200件をこえるわけです。大体、すべての異状死の2%とい うことになります。そのほとんどを監察医務院のほうで解剖して、死因を究明していると いうことになっています。  このモデル事業が始まりまして、平成17年からは、そのうちの20体余りが、このモデ ル事業のほうに流れたことになるわけです。モデル事業のほうに回っていくのは、ほんの ごく一部であります。土曜・日曜に発生するもの、あるいは遺族の同意がなかなか取れな いもの、病院がこのモデル事業についてよく知らなかったものというのは、ほとんど私た ち監察医のほうへやってまいります。私たちもこの事業に協力しまして、本当にこの臨床 側の情報を得ながら、豊富な情報のもとに解剖することの有益性も随分感じました。ご家 族に剖検所見を説明するというのも、非常に理解を得やすいものであって、再発防止につ ながるものであることを信じております。ただ、いろいろな場所から忙しい先生たちを集 めてやっていくということで、報告に非常に時間がかかるという難点もありました。これ と並行しながら裁判が進むということで、評価委員の先生たちに戸惑いが生じるというよ うな問題点も発見しました。  そこで、私たちはこういうモデル事業のようなことを原則的に、中心となってやってい くのは365日検案解剖を行っており、そして検査も行い得る、そういう施設を行政機関が しっかりとしてつくることである。これは元々監察医が行っているものでありますから、 60年前にこの監察医制度が始まって、これをどんどん全国に広げていくべき制度であった にもかかわらず、徐々に縮小されてきた。今もう一度見直して、この制度を全国に広げて いくという形にしていくのが、最も重要なのではないかと思っています。大体人口100万 の所に1人の監察医を1日必要とします。それを雇おうと思えば、常勤の監察医、人口100 万に対して3人ずつ雇えばいいわけです。それに合わせて臨床検査技師、あるいは調整看 護師にあたるような者、あるいは事務職員という者を設定していくことによって、この現 在法医学会の回答書の中には、「剖検センター」という言葉を使いました。これは、言い返 せば、監察医制度に準ずる組織を全国に広げていただきたいという、私たちの気持ちの現 れです。以上です。 ○座長   どうもありがとうございました。先ほど申し上げたように、もし今のお二方に、特に是 非この場でというのがなければ、続けて病理学会の深山参考人にご発言をいただければと 思います。よろしくお願いいたします。 ○深山参考人  病理学会の深山です。資料1−2をご覧ください。日本病理学会は病理医を代表しており ます。病理医は患者の死、病死に際して病理解剖を通して医療に貢献しており、その立場 から今回の提言を行いたいと思います。また多数の学会員が、現在進められているモデル 事業での事例の解剖、評価に献身的に貢献している経験も踏まえ、発言させていただきた いと思います。  最初の頁の下段の図です。通常の病死の場合、生前の診断を確認し、治療行為などを反 省する目的で、教育研修病院などでは病理解剖をお願いしています。10%から20%程度で 了解が得られ、病理医による病理解剖が主治医の立会いのもとに行われています。解剖の 後は、組織学的な検査を行い、報告書という形にまとめます。これをもとに、各科の臨床 医・研修医と病理医が合同で、臨床病理検討会CPCを持ち、検討します。最終的な結果に ついては、主治医ときに病理医が遺族の方にご説明申し上げ、病気経過についてご理解を 得ているわけです。今回の提言は、CPCを通して病死の分析を日常的に行っている立場か らのものであるという点を強調したいと思います。  2枚目です。提言は4つの基本原則と7つの提言から成っています。下段に、その概要 を図示してあります。これは現行法にとらわれずに、あるべき姿を考えたものであること をお断りしておきます。まず基本原則の1は、診療関連死の届出に係ることです。診療関 連死は、すべて速やかに調査機関に届出を行うという枠組みです。次に基本原則の2です が、診療関連死のうち医療事故死、過誤死の疑いのあるものは、原則として病理解剖に基 づく調査を行うということです。第3第4は、評価後の事柄です。調査機関の報告書を懇 切に遺族に解説する医学アドバイザーを配置する。そして調査機関の中央組織として、事 例収集・分析センターを設置し、再発防止のための提言を行うということです。以下、各 原則と提言の内容についてご説明します。  3枚目、第1の原則です。現代の医療では疾患が複合的で、診断、治療行為は複雑なも のになっていることを痛感しています。したがって死亡時に、即座に合併症死、事故死、 過誤死に振り分けるのは難しいことが多い。まして警察がこれを適切に振り分けることは 不可能に近いと考えています。このため、区別なく診療関連死はすべて地域ごとに設けら れた調査機関に届出を行うべきであると考えます。診療関連死調査組織は届出を受け付け、 調査の必要について判断し、医療事故死、過誤死の疑いのある事例、遺族が強く調査機関 での調査を希望する場合は、死因究明の調査に進むべきであると考えます。この判断につ いては、調査機関の病理医、臨床医が合議によって決定することを想定しています。その 中で、明らかな過誤に基づく医療過誤死と判断された事例については、異状死として警察 への届出を行うわけですが、これについてもちゃんと調査機関で調査をし、その上で届け 出るのが望ましい。それは、司法解剖となると医療評価、情報開示が難しくなることか予 想されるからです。また死亡診断書については、調査機関への届出が明らかになる、そう いう項目を設け、医療機関が死亡診断書を発行できるようにするのが望ましいと考えてい ます。  4枚目は、調査機関の在り方に深く関わる事柄です。私どもは、死因を究明するために は病理解剖が基本になると考えています。死因究明による病理解剖の意義についてですが、 下段のグラフは、モデル事業東京地域で受け付けた27例について、解剖の意義を検討した データです。東京地域では複数の大学、病院の病理医が中心となって行っています。7割 の例で、解剖によって新たな所見が見出され、死因の分析に有効であった。2割が、死因 の確定に役立ったという結果を得ています。つまり9割の事例で、病理解剖が有効だった わけです。  5枚目です。よく誤解がありますのは、病理解剖も法医解剖も同じではないかと混同さ れている点です。表では、モデル事業における解剖と病理解剖、司法解剖、行政解剖を比 較しています。特に左の欄の項目で、解剖担当者、臨床医の関与、情報開示の形態、遺族 への説明の部分をご覧ください。診療関連死の評価に用いる解剖は、従来から行われてき た病理解剖あるいはその延長線上にあたるもので、医療機関外で発見された不審死に対し て行われている法医解剖ではありません。また、現在の高度化した医療において、疾患の 病理について実出している病理でなければ、診療関連死の分析は難しく、これに加えて、 臨床専門家が参加できる形でなければ、評価は不可能である。また評価には、病院の調査 機関からの報告が必須なものになります。誠意ある対応を確実にするために、調査に際し 誓約を行うなどの必要があると考えます。一方、調査機関の運営、法律上の問題について は法医学専門家及び司法関係者によって監査していただく仕組みを提言しています。解剖 を行う場所としては、現在のモデル事業のように、事例の発生した医療機関以外の病院の 病理施設を想定しています。例外として、提言の3の項目を設けてありますが、これにつ いては例外であって、あくまで実施上の補足とお考えください。  6枚目です。医学の述語や表現には説明に多くの時間を要するものがあり、遺族が評価 報告書の内容を理解するにあたって、大きな障壁になることが予想されます。この障壁を なくすことが遺族の理解のために必須であり、裁判外紛争解決が求められた場合にも有用 であると考えます。医学アドバイザーについては、掛かり付け医のような方が適切かもし れませんが、経験を積んだ看護師の方にも資格を与えるという考えもあります。いずれに せよ第一義的な役割は、仲介、メディエーションというよりは、遺族の求めに応じて報告 書の解説を行って、理解を補助することにあります。第4の原則として、調査機関の中央 組織として、事例収集・分析センターを設け、事例を類型化し、積極的な再発防止策を提 言し、一般に公開する。さらに医師を対象とした医療評価のための研修、教育プログラム を開発、提案する。そういう機能を持たせる必要があります。  さて7枚目では調査機関の設置、その現実可能性について検討したいと思います。当然、 人、財政基盤という点が大きな問題になります。これらは実際のところ、調査を要する診 療関連死がどのくらいの数にのぼるのかによって大きく左右される問題です。モデル事業 の東京地域では年間20例を受け付けましたが、その間、司法に回ったと推定される事例と 合わせ、かつ人口比を掛けると、全国の数字は400になります。当初はこの程度の数で出 発したとしても、将来的にはかなり増加することが予想されます。人の問題では、解剖評 価を担当する病理医、臨床評価を担当する臨床医の問題です。まず臨床医の場合は、いか に各学会から評価を担当する医師をリクルートするかが問題です。一方病理医に関しては、 病理専門医は1,928名でして、日常の業務があることは臨床医と同様ですが、その中の4 分の1の病理医が参加し、年間2例行いますと、何とか最初のスタートを切ることは可能 であるかと思います。なお、歯科医である口腔病理専門医にも、当然協力をあおぐことが できます。下段では、評価を行う病理医、臨床医における教育について触れました。病理 専門医には実地試験を含めた厳格な資格審査が、現在行われています。これに診療関連死 の取り扱いに関するプログラムなどを取り入れることが考えられます。一方、臨床評価医 の教育が重要で、このような取組みに病理学会として協力することができると考えます。  説明の最後の8枚目です。何とかスタートを切りましても、予想される事例数の増加に 対して長期的に問題になるのが、人材です。ご覧のように、病理医は麻酔科医と比べると、 3分の1以下しかいません。病理医へのリクルートを促す支援策が、是非とも必要です。 下段の図をご覧ください。今回問題になっている、診療関連死の根っこには、高度な医療 が行われる時代に生まれた医療不審というものがあります。これは同時に、病死における 病理解剖の減少という形でも現れています。医療不審という違和を抱くには、医療関連死 の問題に取り組むと同時に、病死における病理解剖、CPCなどを充実させることが重要で あり、こうした点での政策的な誘導も必要であると考えます。  最後に、病理学会は国民の期待に応えて、責任ある医療を推進するため、今回の診療関 連死の死因究明制度を全力で支えていこうと考えています。本委員会におかれましては、 今後の審議の過程では我が国の病理解剖の状況を十分にご勘案いただきますよう、そして その上で、真に国民のためになる制度を設計していただきますようお願いしたいと思いま す。 ○座長  ありがとうございました。それでは飯田参考人、お願いいたします。 ○飯田参考人  飯田です。私は今弁護士ですが、長年検事をやっていました。その中で刑事を専門の医 療過誤の研究をしていました。弁護士になってからは特段訴訟を取り扱っているわけでは ありません。東京女子医大の事故外部評価委員として6件の医療事故調査に関与している ほか、合わせると10件ぐらいの医療事故調査に関係したという、わずかな経験ですが、そ ういうものを踏まえて、個人的意見として申し上げるものです。私が申し上げたいのは、1 つは最近の医療過誤、刑事医療過誤というのがどういう状況にあるのか。これは公式統計 がないために、医療者の間では不正確な情報が飛びかっているのが実情です。是非これを 正確に理解していただきたいというので、まず第1点として申し上げ、その後で第三者機 関どうあるべきかという観点で、私の意見を申し上げたいと思います。  まず刑事医療過誤事件の最近の動向です。最初に書いてあります、警察への届出件数は 既に資料が配付されていますので、省略します。検察庁の起訴件数がどうなっているのか は、昨年私がとりまとめて出版した『刑事医療過誤(II)』という本でまとめたとおりです。 平成11年1月から平成16年4月、5年ちょっとで合計79件です。年間平均すると、15 件ぐらいしか起訴されてないということです。このうち公判請求が20件で、4分の1です。 略式命令で、罰金になっているのが59件で、4分の3です。これが起訴事件の実態です。 なお、非常に特徴的なことなので1点指摘しますと、この5年間の事故の中身を見ますと、 大学病院が11件、国公立病院が40件、合わせるとこの大規模病院で51件、63%です。6 割強がこういう大きな病院で起きた事故であることが、非常に特徴的です。この点につい ては、また後ほど申し上げます。  これらを勘案しますと、結局刑事医療過誤事件として実際に処罰されているのは、警察 への届出件数をもとにして考えると、この数パーセント程度である。なぜ数パーセントか 事務局からのご指摘をいただきましたが、これは正確な計算はできません。私の計算根拠 は、まず届出件数は警察の発表によると、平成11年から平成16年までに合計960件ある。 その間の起訴件数が79件である。これを単純に割れば8%という計算になるわけです。こ れはもちろん届出件数と起訴事件とが照合しているわけではありませんから、一応の推定 根拠ということです。それ以外にも、平成9年から平成17年まで、警察が発表している届 出の全体が1,226件です。そのうち検察庁に立件送致した事件が405件です。これを見ま すと、届出を受けた事件の33%が送致されていることになる。感覚的に、私は起訴率およ そ10%ないし20%、それ以上ということはないだろうと考えていますので、それを勘案す ると、届出件数の3%ないし6%程度が恐らく起訴されていることになると考えているわけ です。むしろ上のほうではなく下のほうに真相があるのではないかというのが、私の個人 的な感想です。  結局この大規模病院の事故が63%を占めているわけですが、なぜこういう本来事故が起 きるとは思われないような大規模病院の事故ばかりが摘発されているのかを考えてみます と、警察の届出の内容を見ましても、医療機関からの届出は全体の6割強を占めているわ けですから、これは厚生労働省が平成11年に連続して起きた横浜市大、都立広尾病院事件 を受けて、届出をきちんとやるようにという指導をされた。その後、その指導が徐々に定 着していった成果といいますか、そういうことかなと推測しているわけです。これは医療 側がしばしばおっしゃっているように、捜査側が何か医療を目の敵にして摘発しようとし ているなんていう、そういうことでは全くないということを十分ご理解いただく必要があ ると思います。それに関連した刑事処分に対する非難については、後で述べます。  第2点として、第三者機関はどうあるべきかという私の考え方です。この第三者機関の 問題が検討されるに至った経緯としては、広尾病院事件で医師法21条違反で病院長が起訴 されたことが契機になって、医療側からこういう考えが出てきたということがあったこと もあるとは思うのです。何のために第三者機関を設けるのかという点について、それをや らないと医師側はたまらない、みんな警察に介入されたのでは医療は安心してやっていら れないのだという、そういう日本医師会的なご意見が強く出てきたことが根源にあるよう です。今の医療過誤訴訟の激増は民事訴訟を見れば明らかなわけですが、「何でこういう状 況になってきたのか」ということを基本的に踏まえた上で、「第三者機関がどうあるべきか を考えるべきではないか」というのが、私の考え方です。  やはり医療者と患者間の信頼関係が崩壊してきているということが、この医療過誤訴訟 の増大につながっていることはまず否定できないだろうと思うわけです。したがいまして、 この問題を解決するためには、どうしても崩壊した信頼関係というものを再び回復するこ とが不可欠です。そのために、医療者が第三者機関を設置して、自らの手で死因を解明し よう、真相を解明しようという、初めての作業をやろうとしていることを高く評価してい るわけです。これまでいろいろ他に対して文句は言うけれども、自らは何をやったかと言 われたら、恐らく医療者の側からも反論の余地は少ないのではないかと思うわけですが、 今回の医療者が自分たちでやろうとしているという、本来あるべき姿に初めて立ち戻って、 第三者機関を作ろうとしているという観点から考えるべき問題であろうと思うわけです。 このことは同時に、患者側がいちばん希望している、一体なぜうちの子どもは死んだのか、 うちの親が死んだのか、その真相を知りたい。これが患者側に言わせると、いちばん希望 していることです。そういう患者側の要求にも応えるものではないかと思うわけです。そ う考えますと、これがうまく機能して真相解明がここで行われるということになれば、現 在いちばん医療者にとって頭の痛い、頭痛の種である医療過誤訴訟の増加というものは歯 止めがかかる。あるいは、私は非常に減少することに向くのではないかと期待しているわ けです。  そういう観点から考えると、第三者機関の問題点の1つは、先ほども法医学会の先生が おっしゃったように、中立性・公正性・透明性は今最も求められている最優先課題であろ う。組織的には、医療者だけの組織ではなく部外の第三者を参加させる。特に患者側代表 という形で、それは遺族本人ではなくていいわけです。患者側の推薦する方、そういう医 療者であればいちばんいいと思いますが、そういう方々を組織に参加させることが、医療 者と患者間の信頼関係を回復することにつながっていくのではないか。そうなれば多少は 不満があっても、調査結果を患者は受け容れていくという。そういうあるべき解決につな がっていくことが期待できるのではないかと思うわけです。  これは、私が実際に自分で経験した東京女子医大の患者側を含めた調査というものの実 態をずっと見ていまして、確かにいろいろ問題があることは事実ですが、そういうことが 将来の1つの姿として期待できるのではないかということを強く感じているわけです。  もう1点は、調査報告書はもちろんですが医療情報等を公開して、これを活用していく ことも必要であろうと考えています。以下に簡単に申し上げます。(1)第三者機関の目的は 再発防止ということが重要だというのは、医療者がおっしゃるのはよく分かるのですが、 この機関は今言ったような目的からすれば、まず医療事故の真相を究明、解明すること、 それが第一義的に求められていると考えるべきではないかというのが、私の考え方です。 もちろんそれが再発防止につながっていくということは、当然のことです。それをなぜ強 調するかというと、再発防止が目的だと限定して考えると、当然その調査結果を他の目的 に活用する、あるいは公開することに対する消極的態度につながっていきかねない。そう いうことを考えているためで、真相究明を目的とし、引いてはそれが再発防止につながっ ていくと、こういうような位置付けが必要であろうと思います。  (2)は、事故の範囲は当面は死亡事故あるいはそれに含めて重症事故とせざるを得ないだ ろうと思います。将来的には、またいろいろな考え方があり得るだろうと思いますが、そ れ以外にも、患者側の要求がある場合には取り上げるという道を開いておくということも 必要だろうと思います。  (3)第三者機関の構成については、先ほど申しましたように、要するに医療関係者以外の 患者代表的な、そういう立場の人の参加を検討する必要があるだろう。  (4)今度は病院の内部調査はどうするのかという問題が出てきます。私は、病院の内部調 査を病院に義務づける必要があると思います。小規模病院の場合、負担が大きくて大変で はないかというご意見はもちろんわかりますが、自分から身を削って内部調査を行い、痛 いところを削り出して、その原因を解明するという、そういう病院の自浄作用というもの が、いちばん期待されているところではないかと考えているわけです。  第三者機関が調査を行うとしても、一体どの程度の事実調査をする組織を設けることが 可能かはまだわからないわけですが、病院側にそういう事実関係の調査を相当程度させる ことによって、両者の連携の道が開けてくると思うわけです。  (5)報告書の公開・活用は、先ほど申しましたとおりです。ただ、いちばん心配なのは、 第三者機関にお願いしたから、後は第三者機関でやってくださいというように、病院が丸 投げして、自分の責任はそれで済んだという形になることだけは避けなければいけない。 そういう意味で、実際にそれを患者側に説明するのは、医療側の責任とすべきではないか という、1つの提案をここでしているわけです。  行政処分及び民事・刑事訴訟における調査報告書の活用というのは、医療側からは大変 反対論が強いようですが、これは当然のことであります。今行政処分が刑事処分に連動し ているという、そういうあり方自体が非常に不自然なわけですから、これは行政当局が自 らの手で行政処分を行うためには、こういう第三者機関の調査結果を使えば道が開けてく るわけです。適正な行政処分を行うためにも、これが必要であることは明白であると言わ ざるを得ないと思うわけです。すぐ訴訟になるということを医療側は心配されるわけです が、私は必ずしもそうはならないのではないかと思います。むしろそうならないような道 を、この第三者機関が開いていく、そういう可能性を探ることが可能ではないかと思って いるわけです。  (6)医療事故の届出を医療機関に義務づける、これは極めて重要なことです。例えば、今 日本医療機能評価機構が行っている事故調査のプロジェクト事業があるわけですが、この 報告書を拝見しますと国公立、要するに報告義務対象医療機関の場合には相当数、はっき り言えば1,100数十件の報告がなされているのに対し、病院数はほとんど変わらない任意 の参加申請登録機関ではわずか150件ぐらい、1割強ぐらいしか報告がされていない。こ れをどう見るのかというのは極めて重要だろう。任意に任せておいて、きちっと事故報告 がなされるかに対する1つの答が、私はここに出ているのではないかと思います。正確な 調査を行おうというのであれば、まず正確な届出が必要なわけですから、これは義務づけ る以外にないのではないかと考えているわけです。資料にあります日本医師会の報告書を 拝見しますと、医師法21条が問題だから、まず、これを改正するというお考えのようです。 私の考えでは、医師法21条の問題というのは所詮、本来医療過誤訴訟をどう解決するのか という基本問題から考えれば、枝葉の問題ではないかと思います。この届出制度というも のをきちんと確立すれば、医師法21条の問題は自然に解決する道が開けてくると考えてい るわけで、医師法21条の改正が先行するということではないだろうと思います。  その他の関連問題ということで、若干申し上げますと、(2)第三者機関と刑事責任の追及 は別ものですということを強調しておきたい。何か第三者機関を設立することが、即医療 行為をあらゆる処分から除外する、そういうものになるかのようなお考えが、どうもある のではないかという感じを受けるわけです。刑事処分の目的と、この第三者機関が目的と するところとは、自ら重なっている部分ももちろんありますが、目的が違うわけですから、 刑事処分は刑事処分を担当している部署が、その観点から考えることであって、第三者機 関で真相を解明すれば、後は医者はみんな免責されるということにはならないというのが、 私の考えです。  刑事処分がなぜいけないかという、先ほどもちょっと申し上げた点ですが、処罰される ことになると医者が協力しないから、真相解明の妨げになるとか、萎縮診療を招くとか、 そういういろいろな批判があるわけですが、私はそういう批判は必ずしも的を射たもので はないと思っているわけです。医療者の気持ちがわからないわけではありませんが、刑事 処分があるからといって、真相解明に協力しないのであれば、それは民事であろうが、行 政処分であろうが同じはずです。しかし、刑事処分がそこを打ち破って何とか真相解明に 努力をしているというのが、今の実態です。私はそれでいいと言っているわけではないの ですが、今はそういう状況にあるということではないかと思います。刑事処分というのは、 医療事故のほんの一部を処罰しているだけです。年間わずか15件程度の処罰しか求めてな いわけです。むしろ医療界は、医療者を刑事免責するとか言う前に、刑事処分の対象にな っているような未熟な医療者を医療界できちんと排除するなり、あるいは矯正するなり、 どういうことをやるのかを考えるべきであって、そういうことを何もやらずに、丸ごと医 療者は全部免責するというような道があり得ることは考えられないと思うわけです。時間 もまいりましたので、その辺で終わらせていただきます。 ○座長  ありがとうございました。全体として予定した時間よりも押してしまって申し訳ないの ですが、今の4人の参考人の先生のご説明、ご発表にまず質問をどうぞ。この機会ですか ら、相互に法医学会、病理学会ちょっと議論もずれるところもあるかもしれないので、ご 質問があれば遠慮なく出していただければ、そのほうが生産的にいいと思います。もちろ ん他の委員の方からもご質問をいただければと思うのですが、いかがですか。 ○堺委員  どうもご意見の発表ありがとうございました。3つのご意見があったと思いますが、そ れぞれについて1つずつお尋ねさせていただきたいと思います。最初の法医学会のほうで すが、福永参考人に教えていただきたいのですが、東京都の監察医務院でモデル事業に関 連した事業でご経験を重ねられますと、従来の監察医務院の機能に何か付け加えるべきも のがあるかどうか。例えば、臨床上の検討とかそういうことがあるかと思うのですが、そ のところはいかがですか。 ○福永参考人  医務院としてこれまでモデル事業で扱ってきたものは4件ですが、いずれも従来の業務 と違うところは臨床の第三者の専門家の立会いを得たところです。それ以外は、従来の解 剖とは大きく変わりません。あとの説明は、普段は医務院の医師がやっているのが、この モデル事業の調査機関としての説明になるというところです。 ○堺委員  ありがとうございます。 ○深山参考人  モデル事業の件が出ましたので簡単にコメントさせていただきたいのですが、モデル事 業の枠組みは解剖だけで評価が終わったということではなく、その解剖結果をもとにして、 臨床専門家が2名、別々の角度から評価をすることが加わっています。ですから、この枠 組みは従来の行政解剖にはなかったはずだと私は思っています。この点が、医療界の中で も十分納得のいけるところではないかと私は思います。付け加えさせていただきました。 ○堺委員  深山参考人にお尋ねします。アドバイザーの重要性についてお話になられたと思います。 アドバイザーの機能ですが、このアドバイザーは解剖あるいは臨床的な検討の結果のご説 明も担当するとお考えですか。それとも、そうではなくて患者さん、ご遺族側のほうに立 って、調査機関のほうにいろいろ質問をされる、そういう機能をお考えですか。 ○深山参考人  この機能についてはよく検討していただきたいと思うのですが、ご遺族に病状を説明す る際にもいろいろな単語といいますか、医学の単語をご理解いただくことにかなりの時間 がかかることがありまして、その解説ということを主な目的としています。医学アドバイ ザーと私は仮称して置かしていただいたのですが、それはモデル事業の説明のときもそう ですし、通常の病死のときもそうですが、医学用語というものを明確にお伝えすることが 重要なのではないかと考えました。そういう解説者ということを想定しています。 ○堺委員  続きまして、飯田参考人にお尋ねします。ご提出いただきました資料3頁目、いちばん 上の(6)医療事故の届出を医療機関に義務づけること。この2つ目のポチですが、医師法21 条の問題は、第三者機関設立の前提として、医療事故の届出制度が整備されれば、自ら解 決の道筋がつく問題でありと記されていますが、法律の素人ですのでお教えいただきたい のですが、この届出制度の整備というのは法体系を整備なさるというように私は理解して おります。その中では、医師法21条に全くさわらないのではなくて、他の法体系の整備に 伴って21条も変化する可能性もある。その21条を含めた法体系の整備と理解したのです が、それでよろしいですか。 ○飯田参考人  お答えします。21条の問題というのは医療側でおっしゃっているような見方と、我々法 律家の見方とで違っているということは分かるわけですけれども、一応解釈論としては、 最高裁の判決が出たことによって解決したわけです。そうすると、この後どう処理するの かという問題になってくるのだろうと思います。これはご承知のように、都立広尾病院の 事件が起きるまで、医師法21条が現実に使われた事例というのはほとんどないわけです。 私の知る限りでは、ほとんどないと言っていいと思うのですが。だから医師法21条がある から、刑事訴追側がこれを活用して、どんどん医師法21条違反で訴追していくという考え 方はそもそもこれまでの経緯から見てもなかったわけです。ですから、これはどう運用す るかという運用の問題ということになるかもしれませんが、たまたま、あの事件で使われ たために表に出てきてしまったということではないかと、私はそう理解しているわけです。 だからこの医師法21条をどういうふうにすれば、この第三者機関が機能するかとか、そう いう問題ではないのです。要するに、第三者機関を設立するにあたって、届出自体をきち っと整備すれば、医師法21条活用の余地というのは相体的になくなっていくわけですから、 非常に低下していく。かといって、これは要らないかというと、必ずしもそうとは言えな いわけで。置いておいても使われなければ、実質的には問題はなくなってくる。そういう 解決法もあるでしょうし、あるいは届出制度がきちんとできたのだから21条は廃止すると いう考え方もあるでしょうし、いろいろな道がそこでは出てくるだろう。 ○堺委員  そうしますと届出制度の法体系が整備されれば、21条はそのまま置いておいてても構わ ない、そういうお答と理解しましたが。 ○飯田参考人  そのまま置いておいても、それが実際に活用される場面というのは極めてわずかなもの になってくるのではなかろうかという意味では、そのまま置いておいてもいいだろうとい う意味です。 ○堺委員  最後に、素人なものですから、法律というのは、そのまま置いといて、いいものだろう かという気がするのです。やはりできるだけ厳密に規定していなければいけなくて。こう いうものはこうします、こういうものはこうしますということが、完全にはいきませんが、 できるだけ明解に区分けされていてほしいなと。法律の素人はそういうように思うわけで すが。 ○飯田参考人  それはおっしゃるとおりかもしれませんが、法律というのはすべてをこれで解決すると、 あらゆる社会事象を対象にしているわけですから、全部を要件に書き込むということは不 可能なわけです。どうしたって相当程度抽象化したものにならざるを得ないし、だからこ そそこに運用という問題が出てくると我々は理解している。だから運用が間違っていれば、 それは運用される当事者が非難されて当然だというように思うわけです。 ○樋口委員  まず法医学会の中園先生、ちょっとお願いいたします。法医学会とか病理学会の深山先 生からのご報告と合わせて、第三者機関の設立に関して今日の参考人の方々からも、いろ いろな注文はつけながらも非常に積極的なご意見を伺いました。どう考えていったらいい のだろうかと考えています。その中で、まず、どういう事例を対象にするかという話があ って。法医学会のほうのいちばん最後の図がありますね。そこへ、「診療関連死及び疑い」 からスタートしていて、法医学会の前のガイドラインでは、この診療関連死あるいは異状 死という概念を極めて広く取っていたのですが、そういうものはすべて取りあえず警察の ほうへつなぐべきであるという立場を、かつて法医学会は明らかにしていたのですが、今 度第三者機関調査組織を作ったからには、そこを通してスクリーニングをするということ が書かれてあります。ここで、診療関連死及び疑いの中で、調査組織に全部つなげて、い ちばん右に明らかな病死というのがあります。ところが、病理学会のほうは、診療関連死 というのは通常の病死以外のものを指す、と言うのですから、明らかな病死は始めから除 いているわけです。  この図で2つ質問があります。つまり病院で、あるいは病院に関連して、医師が関連し て何らかの形で死亡が起きる。80万件とも、100万件とも言われていますが、それはすべ てとりあえず調査組織に報告するというお考えなのでしょうかというのが第1点です。  第2点はそのあとの註4、調査を受け付けた事例は原則とあるので、そこがちょっと微 妙なのですが、全例解剖を実施するというのは、例えば遺族の方で実際にモデル事業に関 与していると、中園先生もご存じだと思いますが、解剖までは望まないという遺族の方も たくさんおられますね。全例解剖を原則にして、遺族の方の意向とは関係なく死因調査に 協力してもらう、というところまで法医学会としては考えておられるかどうか。この2点 をまずお伺いしたいと思います。 ○中園参考人  A、B、Cの3つのパターンに分類したのは、まず調査組織に届け出るガイドライン、ど ういうものを調査組織に届け出るべきか。明らかな病死と流れは書いていますが、解剖し ないとわからないこともあるわけです。調査して、解剖して、初めて明らかな病死に流れ る場合もあるわけです。  そうすると、樋口先生が言われたように、何万件というものをすべて調査組織に届け出 るといったらまずパンクします。スクリーニングすること自体でまずパンクしますので、 まずどういう事例を調査組織に届け出るべきかというガイドラインをきちんと決めるべき だろう。  その中で調査して、解剖検査してと言うとおかしいですが、スクリーニングする時点で 明らかな過失行為が疑われる事例は、やはり調査組織から当該病院のほうに警察に届ける ように、左の流れ図のほうに行ったほうがいいのではないだろうか。スクリーニングする 段階で、いまの現行法上での警察との連携、註2の相互の連携としています。これは警察 に届け出るというよりも、何か別な方法での連携も取れないものかという矢印です。だか ら、A、B、Cのパターン化というのがいちばんポイントになってくるのではないかと思い ます。病院での死亡例すべてとは考えておりません。 ○座長  解剖する割合はどのぐらいと考えていらっしゃるのですか。やはり、全部解剖しないと いけない。先ほどの樋口先生の質問をもう1回確認します。 ○中園参考人  福永先生も一緒だと思うのですが、私たち解剖をやっている者と言うとおかしいですが、 自分のメスで開いて、自分の目で、あるいは顕微鏡で確かめたものしか信用しないという 点があります。一応、言葉としては原則解剖と言いたいです。 ○座長  樋口委員に対するお答はよろしいですか。 ○加藤委員  中園参考人、福永参考人、深山参考人にお尋ねします。いまの樋口委員からのこととも 関連するのですが、対象範囲をどうするかという問題と連動して、なかなかお答が難しい かと思います。きちんとした調査組織、診療関連死を解剖していくという方向で見た場合 に、専門家の育成というのは当然非常に切実な、緊急の課題になってくるだろうと思いま す。どのぐらいの不足が予測されるかという問題と、法医、病理の専門家をどういうよう に確保していくのか、要するに育成していくのか。具体的なプランについて、それぞれの 学会として検討されていることがあれば教えていただきたいということです。 ○中園参考人  法医学会では10数年前から、法医病理研究会を立ち上げています。そこで、いわゆる Forensic Pathologistの育成に力を入れつつあります。地方の医者、産婦人科のドクター も少ないと言っていますが、基礎系を専攻する医者というのははっきり言ってそれよりも っと悲惨なのです。しかし、努力します。具体的には夏休みにセミナーを開き、リクルー トではありませんが、医学生の時代からそういう形で一生懸命育てようと思っています。  法医の場合、もう1つの問題点は、法医病理学をずっと続けたいと思っても、ご存じか と思いますが、いまは国立大学が法人化になり、毎年1%の定員削減が来ています。長崎 大学は地方大学ですが、5年間で大体20名近くの定員削減が来ています。私の教室も1人、 教員のポストがなくなりました。  そういう意味で、大学以外でForensic Pathologistとして仕事を続けていこうとすれば、 いまあるのは東京都の監察医務院だけなのです。そういう意味も含めて、是非、剖検セン ターを立ち上げてもらって、その大学以外の施設でも法医の仕事ができるようにしてほし い。病理の場合はまだ病院病理とか、大学以外でも勤務できるポストがあります。そうい う願いも込めています。  もう1つは昨年、今年ぐらいから、何も法医だけの問題ではなくて、病理も含んで、法 医と病理でどうやって人材を育成していこうか。今年の秋に合同のシンポジウムとかを開 き、出来るだけ卒業生に我々の道にも入っていただきたいと一生懸命努力はしています。 ○福永参考人  追加で、医務院長の立場からお答えします。中園先生がおっしゃったように、全国の大 学で法医学の教官のポストというのはどんどん削減されている現状があります。ですから、 大学院を終わっても就職先がない。法医学を続けようと思ってもポストにつけないという 現状がありました。  しかし、昨年度から、東京都監察医務院のほうでは、いままで23区内だけを業務区域と していましたが、将来的に多摩地区を含めて、東京都全域を監察医制度の下に置きたい。 医務院の機能を強化し、拡充の方向に進めとていくという方針が今年度からスタートしま す。したがって、1万2,000件の取扱い数から約1万8,000件の取扱い数になりますので、 そのために定員の補充をやろうとしています。  私たちがやっている監察医解剖というのは、単に法医学の知識だけでなく、法医病理に もわたった知識を持った専門家を育てて、育成するというところに本来の業務の目的があ ります。それにしたがって若手の医師、あるいは全国でこういう仕事を希望する人たちに どんどんチャンスを与えていきたいと考えてます。  現在、法医病理研究会、これは法医学会の下にある研究組織なのですが、平成17年度ま での会長が中園先生で、そのあと私が会長を引き継いでいます。この会を通じて、病理学 会との連携も深めていきたいと考えています。以上です。 ○深山参考人  参考資料の27頁と28頁に、厚生労働省の方が用意されている病理数と法医解剖に関わ る医師数があります。そこを見ていただくと、病理学会の専門医というのは、先ほど言っ たように臨床経験1年を含めて5年以上の経験を持つ医師、それを条件に資格をいろいろ 作って認定しているわけです。1,928名います。こういう方たちがいる施設が678施設で す。後ろを見ていただくと、法医解剖にかかわる医師数とあります。これは私が言うべき 点ではありませんが、法医認定医が119名ということになります。  私の資料の7頁をご覧いただきたいと思います。調査件数の予測が一体どの程度になる か、ということがこの制度設計において、かなり重要な問題になってくると思います。病 理専門医は1,928名いて、そのうち1回更新された方、つまり10年選手以上という方は 1,640名います。  病理業務は非常に忙しいわけですが、年間、その中から数例ずつ解剖していただくとし て、2,000件程度のものまでは耐え得るのかもしれません。これについては病理専門医と いうか、こういうことに参加する人間のインセンティブがかなり必要だと思われます。教 育の面をちょっと見ていただくと、診療関連死解剖に関するプログラムの必修化を専門医 の認定に取り入れることによって、参加していただくというように考えています。  法医学会との関係ですが、大学院の法医学関係で4年進んでいる方がいらっしゃると思 います。そういう方たちの2年を病理では経験年数としてカウントして、そういう方たち から病理の専門医を取れるような道も残しています。僻地医療が問題になっていますが、 病理や法医というのは医療における僻地になってしまっている、そういう点で僻地医師対 策と同様の措置を取ることも考えることができると思います。以上です。 ○座長  加藤委員、よろしいでしょうか。ほかにどなたか、ご質問はありますか。 ○木下委員  飯田参考人から、日本医師会のこともいろいろお話がありました。医師会提案をこの問 題に関していたしました。私たち医師だけが、例えば医療事故に対して刑事免責をという ことを申し上げているわけではありません。当然、我々としても、何か起こったときに、 これは問題であるということがあるわけです。然るべき判断をされて当然というものに対 しては、私どもは当然受けるわけです。しかも、刑事免責をということを言っているわけ ではありません。それは大前提です。  しかし、この流れの中で真剣に、真面目にやっている人たちでも思いがけないこともあ るわけです。そういうときに、刑事訴追に向かう短所としては、本来、法医学的な問題で あった異状死の届出先が警察であることを診療行為によって死亡した例も含まれるという ことから、すべてそのような流れになっていく結果としては、まず医療事故に対する死亡 に対して刑事事件、警察を通すとやはり刑事事件になります。そういう流れになっていく ということが現実にあります。結果として、起訴される件数が非常に少ない。我々として は、これはいろいろご配慮いただいているのだなとは感じます。  それと同時に、やはり刑事罰を受ける前に検察、警察の方々の捜査がありということに なると、我々、刑事司法に全く未熟な者に関して、結果悪かろうともかなり大がかりな捜 査になると、やはり診療現場が混乱するという事実がございます。  若い者たちがこれから医師を目指し、なおかつ外科系というのは僅か数ミリのことで事 故が起こることがあるわけです。どうあれ、結果が悪いとなると、刑事事件を想定した調 査がされるわけです。そういうことからすると、リスクをとりたくないといういまの若い 医師の考え方からすると受けいれがたいことと思います。今年も外科系の志望者は極めて 少なくなっています。こういう流れは医師のみならず、国民にとって不幸なことであると 思います。従って最初の段階で、先ほど来、話がありましたように第三者機関というのは 方向性は望ましいことだと思っています。是非、そうしていただきたいと思いますが、第 三機関以外に医療問題を担当している厚生労働省関係のところがいちばんいいかと考えて います。  そういう方向性は運用でどうにでもなるではないかというお話がありました。しかし、 なかなか、新たなガイドラインで決めづらいこともできるわけですから、本来の医師法21 条そのものを変えることは出来ないとしても、医療関連死に関してはこのような方向にす ることのデメリットは内容に思います。届け先を警察にしなくても原因究明に対して、当 事者たちに対する姿勢は変わらないわけです。従って新たな手続きの仕組みを作ることの ほうがより確実なのではないかと考えています。その辺、是非、お考えを伺いたいのです が。 ○飯田参考人  飯田です。どちらが先かというのは、鶏が先かたまごが先かという話にもなってくるの で何とも言えない部分があります。日本医師会がご提案になっているような、但し書きを 設けるというような案になると、医療関連死がすっぽりそこから抜け落ちて21条の対象外 になってしまう。嫌でも応でもそうなるわけです。そうすると、先ほどおっしゃったよう に、実際に刑事事件の対象になっているようなひどい事例は外れるというのは読み込めな いのです。 ○木下委員  私共の考えていることは、医療関連死の場合は警察の他に保健所に届けてもよいとした もので事例によっては警察へ届けることを否定していません。しかし、まず届けるところ は警察ではないということを是非お願いしたい。その結果として、届けたあと、本当に問 題であるのはそこから警察に届けるというルートを取っていれば1つも問題がないわけで す。深山先生がおっしゃったようなことは1つ、合理的な話ではないかと考えています。 ○飯田参考人  おっしゃることはよくわかります。規定がなぜ置かれたのかと沿革的なことを考えてみ ても、絶対警察でなければならないという理由も私はないように思うわけです。だけど、 あれはもう既に存在する規定なのですから、これを変えるためにはまずちゃんと受皿を先 にお作りになることを先行すべきではないかということを申し上げているだけです。それ がきちんとできれば、何も警察でなくてもいいのではないかというのは、国民の中でも説 得力を持って受け入れられる可能性がないとは言えないでしょう。まず、21条を変えろと 言っても国民の反発は大きいですから。そんな馬鹿な話があるかということになりかねな い。かえって第三者機関がおかしくなってしまう。まず、きちんとした制度を作っていた だきたいということを申し上げているわけです。 ○座長  司会が質問するのはいけないのですが、先生のお話は非常にわかります。私も法律屋で すから、曖昧なものがそのまま生き残っているというのはあるし、刑法の中でも実際全然 動いていない、例えば堕胎罪などというのはあっても処罰など、年に1件もしていない。 だけど、なくすということにもならない。  ただ、医療の側で事件がいろいろあり、相当ご心配が高まっていることも事実なのだと 思います。ですから、まず21条を変えることありきではないというのは先生のご指摘のと おりなのですが、やはりお互いの無用な疑心暗鬼をなくすためにも、この範囲は刑事は医 療の判断を優先して、そこから先は粛々と刑事手続に入りますという入り口として、例え ば法医学会が出していらっしゃる組織に入れてから、明らかな過失行為から疑われる場合、 このガイドラインは厚生労働省が頑張って作らなければいけないと思います。これがあれ ば警察につなぐ、という道を付けること自体は先生のお考えではないわけですよね。 ○飯田参考人  はい、そのとおりです。私が申し上げているのは、きちんとした方向性が明らかになっ たあとで、それでは21条はどうしますかという順序でしょう、ということを申し上げてい るだけです。 ○座長  わかりました。それなら非常によくわかるのですが、21条をあまり変えないということ を言い過ぎても逆に医療の側も不安感を持たれる。やはり、先生のご発言にあるとおり、 刑事の側も医師を狙い撃ちしているというよりは、むしろ起訴の率など異様に低いと思い ます。ただ、医療の側としてはいままでどおりの謙抑的な態度を維持してほしいし、おそ らく刑事もその方向性は考えているのだと思います。その誤解を取り除くためにも、法医 で作られた案も医師会などの案も非常によく出来ていると思うのですが、あと僅かなとこ ろを詰めて、全員がほぼ同じ方向に向いていると思います。あと、細かいところの詰めは きっちりやっていただけたらと思います。  余分なことをしゃべり過ぎましたが、委員の方、ご質問の点はいかがでしょうか。  あと、1つ法医と病理の代表の方にご質問します。ちょっと温度差があるのかなという 極面と、一緒にやれるという感じがあるのではないか。剖検センターに当たるものを作っ ていく上で、病理の参加のようなものを法医学の場合にはどのぐらい考えていらっしゃる か。要するに、両方の思いはこの組織ができる予定調和的に、法医と病理は利益、利益と 言ってはいけないのですが、一致してうまくまとまるというようにお考えなのか。  逆に言うと、法医の側から見ると、いまのモデル事業に対して、病理がかんでいるもの に対してどう評価されているか。どこを変えれば第三者機関としてパーフェクトなものに なっていくか、簡単にご説明いただけるとありがたいと思います。 ○中園参考人  法医学会としては、先ほど深山先生が説明された解剖ができるパワー、マンパワーが法 医学会としては150人、病理学会の大体1割の人数しかおりません。  いま、1人の法医学者が年間どれぐらいの解剖をやっているかというと、年間50から100 やっています。これはある意味、医療関連死を含めてですけれども、法医解剖自体が年々 増えているのです。行政解剖も含めると、もう1万3,000件ぐらい法医解剖を全国でやっ ています。全力で協力はしますが、可能なと言うとおかしいですけれども、協力できる範 囲は私はまだ法医のほうが人的パワーは低いと思っています。その中で、できる限りの協 力は行いますとしか答えようがありません。それよりも、いまから出来るだけ若手のパソ ロジストを育成していく。深山先生も言われましたが、最初は400〜500かもしれない、将 来は何千になるかもしれない。そうすると、解剖に対応できる体制を法医と病理で共同し てやるしかないと思っています。 ○深山参考人  病理学会の立場から、私の用意した資料の5頁を見ていただくと、「医療における解剖の 比較」があります。現在進められているモデル事業における解剖の場合、法医学の方も参 加していただく。あるいは、地域によって、むしろ病理医が参加するという形になってい ます。ここに臨床立会医が加わって、臨床医の医療評価も行っています。  こういう形態に最も近いのは病理解剖です。司法解剖、あるいは行政解剖とは非常に異 なった面を持っていることを強調しておきたいと思います。ただ、これで法医の方を全く 排除するとか、そういうことを言っているわけではありません。むしろ、こういう調査組 織の監査というか、それが適切に行われているかどうかの評価という形で加わっていただ くのが人数的にも問題ないのではないか。  それから、よく病院にはDeath on Arrivalというか、cardio-pulmonary arrest、心肺 停止状態でいらっしゃる方がいます。そういう方の解剖であるとか、在宅で亡くなった方 の解剖というようなところも重要な問題としてある。そこに法医学の方は集中して、そこ を充実させるようにしたらいいのではないかと考えています。診療関連死における解剖は、 むしろ病理医が主体となって行うべきだと考えています。 ○福永参考人  私は監察医の立場で申し上げます。モデル事業の病理も、法医とも、両方とも協力して 行っているというのが平素の解剖から監察医の解剖なのです。昭和21年にGHQが指令を出 したときも、7つの都市にある法医学、病理学の医師に協力を求めて監察医業務をスター トしなさいということがもとで始まっています。  監察医務員には11名の常勤医と39名の非常勤医がおりますが、そのうちの1割か2割 までは病理医なのです。  もともと半々でスタートしたものがなぜこうなったかというと、異状死の中にはたくさ んの犯罪死体もある。腐った死体もある。そういうものがあるからだんだん病理医が少な くなってきただけで、私たち監察医が行っている解剖の3分の2は病死です。モデル事業 にいかなかった、年間180例の診療関連死の解剖は医務院で行っているわけです。本来、 グレーゾーンにあるようなものを解剖して、明らかにしていくのが私たち監察医の仕事で あると思っています。ですから、法医学と病理学のいちばん接点にあるところが私たちの 仕事であると思っています。 ○深山参考人  法医学からの参加者が2名いて、病理学は1名です。声の大きさに違いが出てはいけな いので追加発言させていただきます。グレーゾーンとおっしゃる、「グレー」というところ が実は問題であります。そこを診療関連死というところで切り分けて、その部分は第三者 機関でやったらいいのではないか。そういう形のことを私どもは言っている。それを担う のは病理であるという話をしているわけです。 ○座長  ほかにいかがでしょうか。 ○加藤委員  先ほどの専門家の育成のところと関連するのですが、今日お答えをいただいた3人の参 考人は少し遠慮されているのかなという感じがしました。ある意味では法医、病理の数を 増やすためには、それぞれの学会の努力というのは限界にあるのではないか。ある意味で はもっと大きな、政策的なダイナミズムが導入されないことには根本的に解決が行かない のではないか。  そこで少しご紹介しておきたいことがあります。昭和35年、厚生大臣の諮問により、医 療制度全般についての改善の基本方策をめぐる、医療制度調査会ができたことがあります。 それが医療制度全般について、改善の基本方策に関する答申を昭和38年3月23日に出し ている。  その中に、医療事故の処理があります。そこに関連して、死因調査を効果的に実施でき るよう、現行の解剖に関する制度の整備も合わせて考慮する必要があるという趣旨のこと が入っていたと思います。だから、ある意味では厚生行政の中で、その種のことが精力的 な検討会の末に提言されていたものが活かされていない。その付けがいま来ているという 感想を持つのですが、先生方、いかがでしょうか。 ○中園参考人  最初の説明でも申し上げましたが、本来は監察医制度を全国に設置してほしいという要 望があります。法医学会では昭和30年代から言い続けているのですが、現実は縮小、ある いは廃止になった地区がどんどん増えているというのが事実です。その意味も含めて、遠 慮深く、剖検センターと言わせていただきました。 ○深山参考人  私どもも監察医制度の重要性もよく理解しています。一方、病理医の不足ということも 非常に重大な問題だと思っています。  私が用意しました8頁には、病理医と麻酔科医の人数の比較を載せました。また、二次 医療圏は人口30万、半径16キロぐらいを想定しているようですが、ここに病理医は5名 しかいない。医師数688名のところが麻酔科医17名で病理医は5名である状態です。こう いう状態ですから、非常に不足しているということはご指摘いただいたとおりです。学会 でも努力をしておりますし、そこに限界があるのではないかということも痛感しています。 ですから、何らかの形での政策的な誘導を取っていただくと大変助かりますので、こうい う場所で提言する機会を与えていただいたことを感謝いたします。 ○座長  もしよければ、いままでの議論をまとめながら、委員のご意見を伺っていきたいと思い ます。  まとめるというのは、いままでの点を整理することという程度なのですが、やはり厚生 労働省が試案を出して、委員の方にお配りしています。あの流れで順に検討していくとい うか、確認をしていきたいと思います。  まず診療関連死の死因究明について、組織を作るということについてはご異論はない。 組織の在り方についても、今日、各委員、特に飯田参考人から強くご指摘がありましたよ うに公平・透明なものでなければならない。これも異論がない。設置単位の議論は出てき ていませんのでこれからですが、届出に関しては義務化ということで、これも異論はほと んどなかったし、今日、逆に飯田参考人、3人の先生方からもそうだったと思います。義 務化への強い議論があった。  届出先なのですが、もちろん従来の21条を変える、変えないという議論は置いといて、 まずは医療の専門家がスクリーニングをする場に届け出ることは大体、今日の議論でも異 論はないかと思います。そこで最終的な決定をするかどうかは別として、確実に刑事に回 る部分を公明・公正に出して、より分けていただけるという意味ではほぼ方向性はあるか と思います。木下委員の出されたものの中には保健所を使う。医師会などのペーパーでは 保健所を使う。  ただ、これはこれから議論する点なのですが、第三者機関の機能をイメージとしてどう とらえるか。特に今日来ていただいている参考人から今日、剖検センターという言葉が出 ましたが、全国に作っていくとしてどのようなものが可能なのか。ご意見があれば、是非 イメージを出していただきたいと思います。ここまで固まってくると、やはり何らかの第 三者組織は作る。それがいかに国民から見て公平性があり、透明性のあるものにしていく か。そして、技術性の高いものにしていくかということになってくると思います。アイデ アがまだ煮詰まるという段階ではないと思います。  病理、法医の先生も来ていらっしゃっていますので、ご議論があれば出していただきた いのです。 ○山口委員  法医学会と病理学会から、第三者機関のイメージをお出しいただきました。いわゆるグ レーゾーンのところを第三者機関で扱うというところは何も問題がないと思います。  法医学と病理学会のご提案の中で明らかに違うのは、明らかな過失を伴う、従来21条の 異状死の届け出をしていたという事例の位置づけがちょっと違うように思います。そこも お伺いしたいかと思います。例えば、「明らかな過失というのは何ぞや」というのはなかな か難しい問題だろうと思います。明らかな過失というのは、多くは解剖して初めてわかる というものでもまずないわけです。おそらくは臨床行為の、診療行為の中での明らかな過 失、これがおそらく明らかな過失の事例であろう。例えば、誤って薬を投与した。患者を 取り間違えた。誰が考えても明らかな過失だろうと思うのです。こういう事例を例えば法 医学会のように、警察に行って司法解剖というようになると、明らかに診療行為でこうい う問題があった場合には、いちばんの問題点は診療のところにいちばん問題があります。 むしろ臨床的な行為の検討、そこから何を学ぶかがやはりいちばん大きいと思います。  それから言うと、その前に警察に届け出て司法解剖というのではなく、すべて臨床医を 含めた検討が終わったあとで、それを踏まえて警察に届けるなり何なりというほうがいい のかなと思います。この点、明らかな過失の事例に対する対応が病理学会のご提案と法医 学では大きく違うかと思います。これが1つ、この第三者機関の含める、あるいは警察へ の届出のタイミングという点ではちょっと違うかと思います。それについて、参考人の先 生方にご意見を伺いたいと思います。 ○座長  ある意味では、この第三者機関を作るときのいちばんの核のところの議論なのです。参 考人としていらっしゃって、いかがでしょうか。次回以降はおいでいただけないかもしれ ませんので、是非、いまの山口委員のご質問にお答えいただければありがたいと思います。 ○深山参考人  病理学会からお答えしたいと思います。私どもの参考資料3にそういう点について書い ています。現在の医療で、疾患が非常に複合的になっていて、診療行為・治療行為をコン テクストで理解しないといけない。単発的にその場面だけをとらえるだけではなく、その 前に至る医療行為や考え方をエバリュエーションしない限りは評価できないものと考えて います。  ですから、死亡直後に、合併症死、事故死、過誤死を振り分けるというのは非常に困難 である。もし、ここで一旦過誤と判定される事実があっても、そのあとそれがどうして発 生したのか。あるいは、それがどれだけの影響を与えたのかを詳しく分析しなければなら ないだろうと考えます。警察への通報をどの時点で行うかということは、警察の方との問 題にもなるかと思います。最終的にこれを異状死として認定し届け出る、あるいは報告を するというのは、医療評価が定まったあとにすべきであるというように私どもは考えてい ます。 ○座長  法医の先生方、特に何かご発言はありますか。 ○中園参考人  我々の分野で、現状で法医解剖に回ってくる事例というのは、診療関連死の中でも特に 遺族の方が強い疑念を持っておられる。そして、警察に告発されて、司法解剖になるとい う流れが多いのです。  実際、私も3カ月近く前、そういう事例を解剖いたしました。解剖し、鑑定書も書きま した。そうすると、先ほどもちょっと言いましたけれども、司法解剖をして鑑定書を作成 しても、いまの法体系ではその鑑定書が遺族の方にも、病院側にも開示できない。ゆえに、 解剖結果がフィードバックできないというジレンマに陥ります。  先ほど、深山先生はすべて解剖をやって、臨床評価など全部やらないと過誤かどうかわ からないというお話でしたが、そうではなくて、入院後、1日か2日で急死する。こうい うケースが割と多いのです。そうしますと、治療する前にというものはやはり警察に届け 出て、司法解剖したほうがいいのではないかという意味で出しています。合併症とか、そ ういう意味ではありません。 ○座長  私なども刑事で、医療過誤の事件をずっと研究しています。重大な過失でも「故意に限 る」というのは、私たちとしては考えられない。過失の中でも一見明白で、麻酔で酸素と 笑気ガスを間違えたりという事件が起きる。先ほど、飯田先生がおっしゃったように、未 熟な云々というのが起訴される刑事事件のほとんどすべてなのです。  そういうものまで含めて、全部解剖しないと刑事に回せないかというと、私よりは飯田 先生のご意見をお伺いしておきたいと思います。いまの議論に関してどういうお考えを持 っていらっしゃるか。 ○飯田参考人  明らかな過失というのは、この本をお読みいただいたらわかりますけれども、この本の 中に登載されている刑事判決が出ているものの半分以上、7、8割ぐらいは明白な過失に該 当するものだろうと思います。そういうものまで病理の先生に解剖していただいて、しか も死因調査まで全部やらないと警察は手出しできないのか。その辺、恐らく遺族側から非 常に大きな反発が出てくるのではないか。実際の事例を見ていると、遺族側が不審に思っ て、医療側に対していろいろ診療中から働きかけをしているにもかかわらず、医療側がこ れに応じないで結局亡くなってしまった。残念でした、病死です。と言われても納得でき ない、というケースは結構多いわけです。そういうようなケースになぜ、直ちに警察が介 入できないのかを患者に説明するのはなかなか難しいのではないかという感じがします。  大部分の刑事過失というのは、大部分はちょっと言い過ぎかもしれませんが、相当部分 は一見して明らかな形のものが刑事過失の対象になっているという前提で考えれば、あま り入り口を狭めてしまい過ぎるというのもどうかなという気がします。 ○深山参考人  私どもが言っているものと法医学会、あるいは飯田先生がおっしゃっているものとはず いぶん質が違う話をしているのだと思います。例えば患者を取り違える、違う経路のもの、 栄養剤を口に投与しなければいけないものを静脈に投与する。それから、抗がん剤を大量 に投与する。あるいは、異型輸血をするといった、4つのことというのは、誰が見ても、 医療側が見ても当然明らかなことだと考えております。いま、ここで私どもが議論してい る診療関連死で問題にされているものはそれ以外の、もう少し複雑なコンテクストのあと に亡くなった例が多いということです。私どもがここで強調しているのは、そういうもの に対して先ほど言ったような明らかなものと同列の議論をしてはいけないのではないかと いうことを言っているわけです。 ○座長  これは非常に大事な議論です。私も飯田先生のもとで勉強しているわけですが、イメー ジするのはいま深山先生がおっしゃった、医療の側も認める明らかなものを主として考え た過失を考えているわけです。それが判例のかなりの部分を占めている。それまで、全部、 第三者機関を通さなければ警察がコミットできないことに対し、刑事は不安感を持ってし まうわけです。そこの疑問が解ければかなり違う。  合併症の問題などに関してまで、刑事の人間がずかずかと踏み込んで、まず身柄を取っ てなどあり得ないと思います。ただ、逆に言うと、医療の側は「いや、やるのではないか。 大野事件があるではないか」という感じを持っていらっしゃると思います。その辺を議論 すれば、ゼロにはならないと思いますが、かなり問題の区分けができるのではないか。今 日の議論でも非常に勉強になりました。  ほかに、いまの関連でいかがでしょうか。先ほど山口委員から出ましたが、モデル事業 に関してどういう順でやっていくかというのはこの次にじっくりご説明いただいて。 ○山口委員  いま、ワーキンググループで、いままでの1年半を踏まえて中間的な取りまとめを行っ ています。この次までに何かまとめを提出したいと思っています。よろしくお願いいたし ます。 ○座長  そこのところで、明らかな過失みたいなものがガイドラインとして出来れば、21条を残 す、残さないは別として、少なくとも第三者委員会を通して明らかな過失と認定されたも のが警察に行く、という手順を事実上運用としてある程度固めることができれば、それを 法文化する、しないということよりも、基準ができて運用されることのほうが重要だとい うのは飯田先生のご指摘のとおりだと思います。  あと、いま議論になった具体的なタイミング等、それから刑事の側から見ると証拠をき っちり残していただけるかどうか。決して疑うからということではないですが、あとで被 害者の側から何か出たときに、何も残っていません、というのが何より困るのです。疑っ ているということではないのですが、それこそ透明性の原点はエビデンスが残っていると いうことだと思います。そういうことも含めて徐々に議論をしていきたいと思います。  エビデンスである意味、最も重要なのは解剖なのかもしれないのですが、先ほど議論で ご質問いただいたことでの回答の中にも明らかにならないのは、どの程度ぐらいのものま で解剖しなければいけないかという、医療の世界で温度差がまだ残っているのではないか。 また、それがコストの目途も含めてどのぐらい出来るのか人的資源のことも含めて、動き 出す以上、そこはちょっと見極めておかなければいけないような気がします。  これに関して、ほかの医療の先生方、何かご意見があればお願いします。解剖だとどう しても法医、病理の先生方の領域となってしまうのかもしれません。 ○堺委員  先ほどの山口委員のご意見に私も賛成です。解剖をしなければならない、あるいは解剖 をしなければわからないケースと、このようなことを申し上げるとご専門の先生方に大変 恐縮なのですが、解剖というのは現時点ではものの形の変化を見るのが主流かと思います。 それでわかるものとわからないものとがあるというのが臨床側の人間が持っている感じな のです。ですから、解剖の先生と臨床の病気の経過や検査の結果を付き合わせて協議する ことが必要ではないかと考えています。 ○深山参考人  私もまさにそのように思います。臨床病理カンファレンス(CPC)というのは、そういう 形で解剖結果と臨床の評価とを付き合わせるような会でございます。恐らく、調査機関で の評価というのは、解剖を基盤にして医療評価をする。ですから、この部分で臨床医の評 価医が非常に重要なポイントになってくるのだろうと思います。  これは高本先生がモデル事業などで、外科学会の評議委員は全員評価医である義務を持 つということをおっしゃっていらっしゃいます。ただ、なかなか、現実的には円滑な評価 というのは難しいこともあります。医療者が別の人の医療を評価するという、なかなか難 しいこともあります。解剖はネガティブな所見であっても、そこにネガティブだというこ とがあって安心して評価することができます。そういう意味での解剖の意義というのもあ る。 遺族感情というものがあって、解剖を承諾されない場合もあるかもしれませんが、是非と もその辺のところはご理解いただきたいと思います。日本の国民は、韓国や台湾の国民よ りははるかにこうした解剖に対する理解があると考えています。韓国、台湾では事実上、 病理解剖はゼロです。 ○豊田委員  私は被害者遺族ですので、その立場からお話いたします。いま、病院の中で仕事してい ますので、先生方のおっしゃることはとてもよくわかる部分があります。実際に医療安全 の仕事をすることになってずいぶん私の意識も変わりました。  先ほどから出ている明らかな過失に関しても、多くの被害者の方から自分自身の体験だ けではなく、いろいろな方からのお話を伺っています。遺族から見て明らかに過失だと思 われるケースについても、病院側が認めないということがあり、そのために解剖を希望さ れる、警察に届け出たい。そういう気持ちになられる方が非常に多いかと思います。  私自身、息子を亡くしています。少し、息子のことをお話させていただきます。息子の 場合、診療行為を一生懸命やっていただいてミスをしてしまったというケースではなくて、 逆に診療行為をしていただけなくて、病院でそのままになっている間にショック死してし まったケースです。そういったケースのときに、どこでそれを明らかにしてくれるかとい ったときに、病院はその事実を認めませんでした。それでも死因が分からないとのことで、 病院は警察に届出をしました。  そのときに、これは事件性がないのではないかということで行政解剖になりました。私 たち遺族は行政解剖と司法解剖の違いもあまりわからないまま、行政解剖を受けたわけで す。  それと、先ほどから先生方が開示がきちんと行えるシステムを望まれているとおっしゃ っていましたが、これについても遺族は知らずに、とにかく解剖すれば本当のことがわか るのではないかという思い、その一心で解剖を希望したわけです。ただ、最終的には2、3 行の病名と、息子は腸閉塞だったのですが、どこがどういうようにねじれていたかが書い てある点以外のことについては全くわかりませんでした。  4年たった今も、息子の事故がどういったもので、どういうミスでこういうことが起き たのかが未だにはっきりしない。そういった辛い思いをしている被害者の方たちがたくさ んいる、という事実は是非知っていただきたいと思います。ですので、今日、開示できる ようなシステムをと法医学の先生方がおっしゃってくださったことは、私はとても心が救 われた思いがしました。それから、やはり、病理医の先生方の熱いお気持ちも伝わりまし た。  ただ、そうであるならば、やはり臨床医の先生方との連携が重要ですし、遺族として中 立・公正・信頼の置ける形でなければ、どうしても遺族としては警察にという気持ちにな ってしまう。それから、どうしても行政処分とセットのような形になっています。私の息 子の場合、不起訴になっていますから行政処分も一切ない形で、再教育も受けることもな く、現場で普通に勤務しています。私はその医師をつぶそうとか、2度と医者として働け ないようにしようとか、そう思ったことは一度もありません。でも、それでも、再教育を きちんと受けていただかなければやはり不信のままですし、国民も不信感でいっぱいのま まではないかと思います。  そういった遺族の気持ちをもう少し汲み入れていただいた形で制度づくりをしていただ かないと、国民は納得いきません。それを汲み入れた形をやっていただければ、飯田先生 がおっしゃられたように、最終的には医療者のことを理解して、遺族からも再発防止を願 えるようになっていかれるのではないかと思います。是非、その点、もう少し被害者の声 を聞き入れていただけるようにお願いします。 ○座長  ありがとうございました。いまのお話にお答いただくというよりは、関連して質問しま す。先ほど委員の中でも出てきましたが、調査過程に遺族ないし遺族の推薦する医療機関 の方が入るということは、いまやっている解剖とか何かから延長して考えたときにリアリ ティーのある議論なのか、可能性というのはどう考えるのでしょうか。 ○飯田参考人  もちろん、解剖などと直接つながるわけではなく、そのあとのことを想定しているわけ です。要するに、臨床経緯を調査する過程で、患者側が知りたいと思っていることがその 調査の中で徐々に出てくるだろうことを想定しているわけです。調査過程というものを重 視した委員会ということになれば、是非、そういう形にすることが望ましいのではないか という考えです。 ○座長  私の言葉が足らなくてすみません。執刀のところに立ち会うということではなくて、そ のあとの調査過程、情報開示も含めてということですね。委員会を作ってくれという観点 も非常に重要、おっしゃるとおりだと思います。多岐にわたるご発表があったのですが、 ご発言いただかなかった委員も含めていかがでしょうか。 ○鮎澤委員  議論がこの委員会が機能していく最初のところに集中しているのに対して、ご質問させ ていただきたいのはもう少しあとのほうになります。折角、参考人の皆様におこしいただ いているのでお聞きします。調査結果の説明なのですが、飯田参考人は組織に調査結果の 説明を任せるのはちょっと違うのではないかというご意見に対して、深山参考人は、メデ ィカル・アドバイザーという方を設置して、どちらかといえば組織がやるべきではないか というご意見だったと思います。それぞれのお立場で、もう少しこの辺のお話を聞かせて いただけますでしょうか。 ○飯田参考人  私の考えは、別に調査委員会がやってはいけないというものではありません。調査委員 会の役割というものをどう考えるべきか、それを明確にしておく。調査委員会に求められ るのは、何といっても中立性・公正性である。客観的に見て、そういうものが明らかなよ うにしておく。当事者に対して説明義務を調査委員会が負うことになると、当事者との間 でのいろいろなやり取りの過程で、例えば患者側から見て果たしてそういうものが維持で きるのかという問題が1つです。  もう1つ、病院側は自分が当事者なのに、全部調査委員会に丸投げしたような形で、自 分は第三者みたいな顔をしていることになりかねないという問題です。それでは、どうい う結果になっても、病院側の改善に役立てていこうという意識にはやや遠いのではないか という発想です。 ○深山参考人  私がこのようなものを提案したのは、やはり専門家と一般の方との医学知識の中には思 った以上に隔たりがあるのではないか。1つの用語にしても、注釈なしで使いながら評価 されているわけです。そういう形で報告書が出てくる。これをかみ砕いて、しっかり理解 していただくというのがまず基本ではないかと思うので、こういう方を設置すべきである。 評価に加わった委員がそのまま説明するのがいちばんいいのかもしれませんが、時間的な 制約、やさしくかみ砕いてしゃべるトレーニングにはなかなか難しいものがある。そうい うところの要素の方を作ったほうがいいのではないかということを提案したわけです。  恐らく、そのあと、私どもが話すことではありませんが、実際上裁判外紛争処理制度な どが活用されて、病院側とご遺族の方とが納得のいけるところに達すればいいのではない かと考えています。ただ、これは病理学会のコメントする範囲を超えていると思っていま す。 ○辻本委員  法医、病理の方にお願いということで聞いていただきたいと思います。実は、私もモデ ル事業に患者の立場で参加しています。ある意味、議論を監視している存在がいるという ことだけにも非常に意義があるのかなと実感するなど、いろいろ勉強させていただいてい ます。  ただ、今日のご発表、4頁、深山参考人の中にもありますが、解剖の有用性というとこ ろで、新たな所見が得られた(70%)とあります。裏づけられた新所見はなかったという ことも含めて、私ども患者たちが医療の限界性、不確実性をもう少し引き受けていかなけ ればいけないことが、この問題から1つ明らかになっているようにもとらえました。  しかし、一方、病理や法医という方の存在そのものを患者、国民は本当に知らないので す。もっと言えばやはり病院側の人なのです。そうすると、こういうところで新たな所見 がなかった、やむを得なかったという結果だけが出てくると、結局医療側を守るためだけ の論理ではないかという疑問も払拭できないのが、患者だということをご理解いただきた い。また、1頁のところ、遺族への説明に病理が参加することのご意見がここに出ていま す。もちろん、当然に説明責任を果たしていただきたいという思いがあります。  それから、いまおっしゃっているアドバイザーですが、モデル事業において調整看護師 が疲弊し切っています。言ってみれば、遺族との間に入って非常に疲れ切ってしまってい る。その辺の現実も解決していかなければいけない問題だと思います。病理の方、逃げな いでいただきたい。もっと、国民の前に出ていただきたいということをお願いしておきた いと思います。これは法医の方にも申し上げておきます。 ○座長  一言、何かありますか。 ○深山参考人  おっしゃるとおりです。非常に重たく受け止めています。私どもの病理学会でも、病理 医による解剖の説明、あるいは病理医による病理診断の説明ということを推進しています。 ○中園参考人  法医学会でも従前の司法解剖の欠点というか、いわゆる法医解剖で得られたものを医療 側や遺族にフィードバックするように、いまから積極的に活動しようと思っています。 ○福永参考人  私たちも検案するたび、あるいは解剖するたびに、必ずご遺族の方には直接説明をする。 モデル事業の場合、解剖が終わったときの説明だけで終わり、あとの評価全体は第三者機 関、モデル事業に任せているという形になっています。  ただ、どの解剖にしても、解剖結果に関しては死因情報の提供に関する要綱があります。 東京都の要綱になっていますので、それに従って請求していただいたら解剖の結果など、 あらゆる情報はすべてご遺族には、三親等以内のご家族にだけは提供できるようになって います。  これは一般の病院の診療情報の提供と全く同じ法律で、「診療」が「死因」に変わってい るだけですので、出来るだけご活用いただきたい。私たちも、一般に診療される医師が患 者に説明するのと同じように、死因の内容、剖検結果については必ず説明するように心が けています。以上です。 ○座長  ほかによろしいでしょうか。また不手際で、もう時間が過ぎてしまいました。申し訳あ りません。ただ、非常に有意義というか、届出制度を設けること、それを義務化すること、 その中で明らかな過失、これを詰めるのはもう少し先になりますが刑事にしっかりかかる。 逆に言うと、医療の側が心配するグレーゾーンの区分けはやはり医療がまずかむことであ る。  その中で、次回からは先ほど出た中で起こっていた院内調査委員会とのつながりをどう するかを含めて、より具体的に、明らかな過失の実態基準以上にどういうタイミングで届 け出るか。もう一歩突っ込んだ議論につながる上で、先ほど山口委員からもご発言があり ましたが、モデル事業でのいままでのご経験なども踏まえて、より具体的な肉づけをしな がら、この制度の完成に向けて一歩前に出ていきたいと考えています。参考人の先生方に は、大変お忙しい中を非常に有意義な議論をしていただきました。本当にありがとうござ いました。  今後のことについて、室長からお願いします。 ○医療安全推進室長  どうもありがとうございました。次回の検討会についてですが、6月27日(水)、午後2 時から4時までを予定しています。詳細については後日、決まり次第、ご連絡いたします。 本日はどうもありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 28