07/03/22 第3回医療費の将来見通しに関する検討会議事録 第3回医療費の将来見通しに関する検討会                        日時 平成19年3月22日(木)                           10:00〜12:00                          場所 厚生労働省専用第17会議室 ○飯野座長 委員のメンバーが全員そろいましたので、早めに始めさせていただきます。 ただ今より第3回医療費の将来見通しに関する検討会を開催いたします。メンバーの出 欠状況ですが、御覧のとおり全員御出席です。  議題に入ります。まず事務局から資料1から4までの説明をお願いいたします。 ○真鍋数理企画官 前回までにいろいろ議論が出ましたことに関して、関連する資料を 少し用意させていただきましたので、私から資料1から3までを説明いたします。  資料1ですが、「高齢者の受診動向等について」です。1ページ目は、年齢階級別の 1人当たり医療費ということで、16年度の医療保険分だけですが、左の方が1人当たり 医療費の年齢階級別の医療費です。見ていただくと分かりますように、子供は別として 年齢が高くなるに従って、かかる費用が徐々に高くなっていくことが見て取れます。65 歳から74歳が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者です。この辺りからググッと特に増え ていきます。  右側がそのうち入院と入院外の比率を見たものです。若いときは外来の方がもちろん ウエイトが大きいわけですが、前期高齢者ぐらいで大体半々になって、後期高齢者にな ると入院の方が比率が高くなるといった結果です。その結果、高齢者になればなるほど 医療費が必要になるということが分かるわけです。  高齢者の医療費がなぜ高いかを分析したのが2ページ、3ページです。2ページが入 院についてのものです。左が受診率、つまりかかる頻度のようなもので、真ん中の1件 当たり日数が1月に行く日数、入院では何日間入院しているかです。一番右が1日当た り医療費で単価です。これを見ると分かりますように、まずお年寄りになると頻度が高 くなるということと、若干日数も長くなります。日数が長いこともありまして、単価で は、受診率のように高齢者になったからといって高いわけではなくて、むしろ入院では 逆の要素もあるといったことが分かります。  3ページが同じことを外来で見たものです。基本的には受診率が非常に高くて、85歳 以上になると入院との兼ね合いもありますので、後期高齢者になると少し下がっていま すが、基本的には年齢が高くなるにしたがって、かかる頻度が高くなり日数もやや長く なる。ただ、単価はそれほど大きく変わるわけではない。つまりかかる頻度が高くなる ことによって、高齢者の医療費が高くなっているということが分かります。これは、高 齢者の心身の特性を反映しているということになるかと思います。  4ページは、まず、医療保険の世界ではレセプトのデータが主ですから、基本的には 患者を捕まえるのはなかなか難しくて、患者単位で一体世の中のどのぐらいの人が医療 機関に行っているのかは分からないのです。このデータは老人分の被用者保険分だけな のですが、言わば名寄せをして、1人、どこに何件行っているかが分かるようなデータ になっています。老人の被用者保険分だけなので、老人保健のうちの約18%の方々のデ ータではありますが、そのデータについて、1人の人に着目した、患者を捉えられるデ ータでございます。  このデータによると、一番上の表ですが、1カ月の間に老人の被用者保険の被保険者 及び被扶養者の方々で医療機関にかかった人が一体どのぐらいの割合でいるのかという と、86%の方々が医療機関にかかっています。入院している方が大体7%、外来に行っ ている方が81%、歯科の方が12%ぐらいです。逆に言いますと、14%の方々は1月に医 療機関に全然行っていないということですが、86%の方々は何らかの形で医療機関にか かっておられます。  真ん中は、医療機関にかかった者1人当たりの医療費ですが、入院でいうと、かかっ た方の医療費の平均額ですが、48万円、外来で4万円弱、歯科で2万円弱です。  一番下の表ですが、入院外で医療機関にかかった者の受診頻度といいますか、要する に人に着目しているので、同じ方が1件だけ行っているのか、2件の医療機関に行って いるのか、3件の医療機関に行っているのか、という意味で分布が取れるわけですが、 1件の方が大体半分です。2件の方が22%で、いわゆるはしご受診をされている方は少 ないということになります。  一番下が1カ月の受診日数です。同じ方が何日行っているかという分布です。5日以 下の方が7割弱で、大体の方はそんなに長い日数行っているわけではありませんが、20 日以上の方も1%弱おられる、という分布になっています。  5ページも、これと同じデータから作ったものです。先ほどのは平成17年11月のデー タでしたが、これは時系列で見ることができます。大体、患者割合といいますか、被用 者保険の老人のうち医療機関にかかっている人の割合が85%から86%で安定しており、 そういう意味では、お年寄りになると大体の方は何らかの形で医療機関にかかっておら れます。  世の中にある医療保険の統計では、1人当たり医療費と言った場合には、対象人数で 割っているので、この真ん中には老人1人当たりの医療費を書いていますが、例えば入 院では3万3,000円とかいうのが出てくるわけですが、これは対象人数で割っているか ら、医療機関にかかっている人もかかっていない人も含めて割っているので、非常に少 ない額に見えますが、医療機関にかかっている患者だけで割りますと、1カ月に48万円 といった額がかかっていることが見て取れます。  6ページはちょっと視点は違うのですが、終末期における医療費の推計値を用意しま した。終末期に医療費が非常にかかっているのではないかという議論もありますので、 どのぐらいかかっているかを出したものです。これは平成14年度の額ですが、1年間の 死亡者数が約100万人弱、そのうち医療機関での死亡者数が80万人ぐらいです。ここで終 末期と言っているのは死亡前1カ月としてその平均医療費から出していますが、それが 112万円ということで、約9,000億円となります。平成14年度の国民医療費は31兆円なの で、その3%くらいの額です。これは、全年齢の方々を対象とした約9,000億という推計 であり、平成14年度の老人医療費が11兆円ですから、もちろん終末期の医療費をどう定 義するかに問題はありますが、そのぐらいの規模であるということを示すための資料で す。  資料2は、前回、医療費の実額とか、GDPなどの推計だけではなくて、財源の推計が必 要であるというお話がありました。私どもでも、ある程度、既に出している資料があり ますので、それについて用意したものです。1ページについては第1回目に説明したのと 全く同じ資料なのですが、これを再度用意した理由は、例えば2015年度で改革後37兆円 という数字が出ており、これの内訳を次のページから用意しておりますので、御確認い ただくためです。  2ページが、例えば2015年の37兆円、これは給付費ですが、これの財源といいますと、 保険料で負担しているか、公費で負担しているかです。医療の所で右から2つ目のブロ ックですが、37兆円のうち、保険料負担で21兆円、公費負担で15兆円といった内訳にな っています。括弧内は改革前で、右側にNI比が出ています。NI比では医療の給付費では 8%であり、保険料で4.6%、公費で3.4%を賄うということです。実額で見ますと2006 年度に比べて1.3倍ぐらいですが、NI比で言いますと1倍強です。高齢化しますと、高齢 者にたくさん公費がついている関係で、公費のシェアが高くなります。NI比では、公費 は1.1倍強、保険料は1.1倍弱という形で増加するという見通しを立てています。  3ページは、経済成長が低めのケースです。実額は同じですが、NI比が変わっている ということです。  4ページは、被用者保険については保険料率がどうなるのかということも、1つの大 きな視点だと思います。それに関して出しているものです。ただ、これは2025年度の保 険料率を示しているわけですが、やはり20年後のことで、かつ財源の予測をするために、 どの制度がどういうふうに人が変わっていてというような推計を一応やっているわけで すが、そこはいろいろ予測を重ねているということで、その辺のことに関しては御留意 いただきたいわけです。  医療保険でいいますと、2006年度保険料率、被用者保険7.7%ぐらいですが、それが 2025年度、経済成長の前提によっても違いますが、普通のケースで8%ぐらい、低めの ケースで8.5%という見通しを立てています。参考までに政管と健保組合の別に推計を示 していますが、経済前提が普通の前提であれば、0.3%ぐらいしか上がらないという結果 になっています。  資料3、これは前回、医療費のうち、人件費で大体5割ぐらい、過去安定的に使われ ているということを説明したわけですが、私どもの推計は1人当たり医療費を基本にし ていますので、言わば需要の方から推計しているようなものですが、供給という意味で、 例えば医師数の見通し等が出ているので、そういったものを見て、どういう関係になっ ているのかを簡単に示したものです。2ページは、私どもの立てている見通しで、改革 実施前で34兆円が65兆円になる、改革が実施された後は33兆円が56兆円になるという見 通しを立てていて、20年間で、実施前で大体1.9倍、実施後で1.7倍に増えるという見通 しを立てているわけです。  ここで、医師の需給に関する検討会の報告書で医師の供給数が推計されているわけで すが、それによりますと、今の大学の入学定員を基本に推計しますと、今26万人弱の医 師が31万人強になるという推計が立てられていて、医師数だけでいうと、1.2倍になっ ている。もちろん20年も経ちますと、当然ですが賃金の上昇もあるわけで、今までいろ いろ説明してきた経済前提に沿った前提とすると、賃金の伸び率は年率2.4%程度という ことですから、大体1.6倍になります。この賃金上昇と医師数の増加を掛け合わせると 1.9倍弱になります。つまり医療費は19年間で、改革実施前で1.9倍、改革後で1.7倍にな ると見込んでいるわけですが、これは医師数の増加と賃金の上昇で、供給の面から見て もそれほど過大な推計ではないと、そういった検証ができるのではないかということを 資料で用意しました。 ○西岡課長補佐 資料4について説明させていただきます。資料4は「医療費の伸びと 経済成長率について」ということで、過去の実績を分析した結果をとりまとめました。 1ページ目はこれから説明する内容を文章でまとめたものです。  2ページのグラフを御覧ください。これは1975年から直近までの国民医療費の対前年 度伸び率と名目経済成長率を、単純にプロットしたものです。グラフの真ん中に斜め線 がありますが、これはY=Xということで、経済成長率と国民医療費の伸び率がイコールに なったということで、プロットがこの線より上にあるときは、国民医療費が経済成長率 を超えて伸びているときで、下にあるときは国民医療費の伸びが経済成長率を下回って いることになります。  このプロットの概略を眺めてみると、1970年代の後半は、当時まだ経済成長率が非常 に高かったのですが、医療費についてはそれを超えて伸びていた時期であった。その後 1980年代に入り、経済の伸びが鈍化するとともに、制度改正の効果もありまして、国民 医療費の伸びはどんどん小さくなってきたのですが、1990年ごろに、いわゆるバブル経 済の時期で、この当時は経済成長率よりも国民医療費の伸びが小さくて、このY=Xの線よ りも一時的に下側にきています。その後バブル経済が崩壊して、経済成長率がぐっと小 さくなっていく中で、医療費はそれほど落ちなかったのですが、最近だと患者負担の見 直しで診療報酬改定のマイナス改定を行ってきたという流れになっていると思います。 ちなみに最後のプロットで言いますと、経済成長率が1.5%程度、平成18年の4月から9 月の医療費の伸びがゼロパーセント程度かと思うので、この時点ではY=Xのグラフよりも 下になっています。  3ページのグラフは、2ページのグラフをもう少し拡大したグラフです。2ページの グラフの左側の丸で囲んだ辺りの部分が集まったグラフ、というように御理解ください。 このプロットは1992年以降のものです。その中で、私どもが過去に行ってきた医療費の 将来見通しの前提となった、将来の経済成長率の仮定と、将来見通しの結果出てきた、 2025年までの医療費の伸び率を3つプロットしています。  一番右にあるのが、平成6年3月の将来見通しで、141兆円になりますが、そのときの 経済成長率は3.4%、医療費の伸び率は5.6%になっています。12年10月については、経 済成長率は2.2%に対し、医療費の伸び率は4.2%。平成18年1月の将来見通しでは、経 済成長率2%に対して、医療費の伸び率は3.5%となっています。ざっと眺めてですが、 おおむね経済成長率+2%程度となっていることが分かったと思います。  4ページです。少し視点を変えてということになるのですが、ここからは診療報酬改 定率と経済成長率の関係を試行的に見たものです。第1回の資料で、私どもは医療費を 要因分解して、人口増減、高齢化とか、あと、いわゆる自然増の部分については、過去 から安定して推移してきたと解釈しています。その一方で、診療報酬改定の影響は、経 済の伸びの鈍化とともに伸び率が小さくなってきた、ということを説明しています。  4ページのグラフは、診療報酬改定率と経済成長率を単純にプロットしたもので、最 近だと2年に1回しか診療報酬改定が行われていないので、X軸上のプロットが多くな っていますが、このグラフから言えることとしては、例えば同じ2%程度の経済成長率 があった1992年のときには+2.5%になっているのですが、直近の2006年だと−3.16% で、その時々の様々な事情によって、診療報酬改定に対して政策判断がなされてきたの かと考えているところです。  5ページ、1970年代は医療費の伸びが高くて、90年代以降、それは低く推移している という長期のトレンドを見ると、診療報酬改定率と経済成長率の間に、全く関係が無い とは言えないということで、ここからは機械的に診療報酬改定と経済成長率の間の関係 を見るために、例えば2006年については2005年と2006年の平均、2005年については2004 年と2005年の平均の形で、診療報酬改定率の方は2年平均を取って、経済成長率との相 関を見ています。これについては、単純な相関を見たものですが、相関係数については 0.5と、それほど強くはないのですが、一応、正の相関があることが確認できるかと解釈 しています。  6ページ、さらに診療報酬改定が、改定率決定時における過去の経済動向を踏まえて 決めていっているのだと仮定すると、両者の関係に一定のタイムラグがあると考えられ る。そこで経済成長率を1年ずつ過去にずらして、相関を見るという試みを行っていま す。  そちらの結果を表にまとめたのが6ページの表です。タイムラグがゼロ年のときより も1年、1年のときよりも2年のときの方が、だんだんと相関係数が高くなっていて、 4年をとったときに、相関係数は0.9と最も高くなっています。  7ページですが、この4年のタイムラグをとったときにおける診療報酬改定率と、経 済成長率との相関を見ると、グラフからもある程度強い相関が見られることが分かるか と思います。この結果、得られた直線というのはY=0.25X-0.0067となっていることが分 かります。我々の解釈として、当然のことながら、その時々の診療報酬改定は、経済の 動向を考慮しつつ様々な要素を取り込んで決まるものと考えていますが、ここで議論し ていただいている将来見通しについて、長期トレンドを考える上では、この分析結果は 1つの視点になるのではないかと考えています。私からの説明は以上です。 ○飯野座長 どうもありがとうございました。続きまして諸外国の医療費の将来見通し について、資料5−1、スウェーデンについては私から、資料5−2、フランスについ ては事務局から資料の説明をいたします。  資料5−1にスウェーデンの「医療費」と「医療資源」という言い方がしてあります が、これら2つを必ずしも正確に使い分けているわけではありませんので、医療費と同 じに考えて良いのではないかと思います。この報告書を作成したのがSveriges、これは スウェーデン語のスウェーデンの、という意味です。Kommunerというのが地方自治体と いう意味で、Landstingというのが医療を専ら提供する自治体、日本で言うと大きさから すると県に相当するものです。Kommunというのが日本で言うところの市町村に相当する ものでありまして、Halso och sjukvardenというのは医療という意味です。したがって この報告書の表題は、スウェーデンの2030年までの医療という意味です。  報告書の目次を御覧いただきますと、スウェーデン医療モデルの大きな挑戦というこ とから始まります(第1)。続いてスウェーデンの医療がどのように発展してきて現状 はどういうところにあるかということが書いてあります(第2)。さらに、歴史と現状 を踏まえて2030年までの医療資源がどれぐらい必要になるかというのが第3のテーマで す。第4は2030年までの医療資源の必要を賄えるための経済的発展のシナリオがどうな っているかということがテーマです。第5は医療における人的必要性が増加するけれど も、供給との関係で、どれぐらいその必要性を賄える可能性があるかがテーマです。第 6は医療においても財政上の制約がありますので、そういう制約がどうなっているかと いうことです。7はまとめです。  一番最初に書いてあるのは、スウェーデンの医療に関する現在の問題点です。日本で は、スウェーデンは福祉国家ということで、皆さんやや錯覚をお持ちだと思うのです。 スウェーデン医療の問題点は、住んでみた人はよく分かるのですが、患者が診療を受け ることができるまで待たねばならないウエイティングタイムが非常に長い、つまり、医 者に会うためにえらく時間がかかるということです。昨年の政府の医療に関する公約が、 病院に電話をかけたらその日のうちにとにかく処理をしてくれること、1週間以内にプ ライマリケアの医者に会えるようにすること、そして、90日以内に専門医に会えるよう にするということ、この3つが公約です。つまり、そのような公約をしないといけない くらい医者に会うのが難しいという意味で、非常に待ち時間が長いのがスウェーデン医 療の問題点だと思います。  ただこうしたことも、ものは考えようで、今我が国ではタミフルのことが問題になっ ていますが、日本の医療は少し薬を出し過ぎという意見もあります。確かにスウェーデ ンでは、インフルエンザですと効く薬は無いということで、医者に行っても会ってもく れませんし、会ってくれたとしても「家で寝ていろ」と言われるだけです。そういう医 療環境の下ですので、1週間以内であったら医者の診断書無しであっても電話をするだ けで会社を休んでも給料の8割が保障されるという社会保障が完備されています。  とすると、スウェーデンの医者の数が人口当たり少ないかというとそうでもありませ ん。日本とあまり変わらないのですが、要するにスウェーデンの医療は、ほとんどが Landstingという自治体によって提供されておりますので、医者はほとんどが公務員なの です。公務員ですから、日本の医者みたいに休みを削って働くということはありません。 したがって、相対的に医者が不足するということが起こっています。  そういった医療問題がある一方で、他方では、スウェーデンでは腰と関節の手術を受 けた患者数が10年間で3倍になったとか、そこひの手術者が1990年の3万人から2003年 の8万2,000人に増えたということも報告されています。また、がん手術後の平均余命が 1960年代と比べると7年も延びた、乳幼児の死亡率が低下し続けている、50歳の人の平 均余命が1910年と比べて2、3年延びた、といった医療の成果もあって、国民の医療に 対する信頼感は極めて高いと思います。日本の医療に慣れた人から見ると非常に利用し づらいスウェーデンの医療ですけれども、スウェーデンの人にとっては別にそれが普通 だということです。  スウェーデンの医療の目標は何かといいますと、支払能力、住んでいる所、社会的地 位、年齢、その他医療以外の要素とは関係なく、すべての人に同じ条件で良い医療が提 供されるということです。したがって、そういう目標を達成するために医療が税金によ って提供されているわけです。それは何を意味するかというと、高所得者が低所得者よ りも多くの税金を払うということで、日本の健康保険も若干そういうところはあります が、一種、医療目的税としての所得税のような形になっているわけです。  スウェーデンでは、従来はLandstingが医療を提供する自治体、Kommunが高齢者福祉を 含む地方サービスを提供する自治体というように分かれていたのですが、エーデル改革 によって高齢者の医療の提供がLandstingからKommunに移ったものですから、Landsting は高齢者以外の医療を提供する自治体、Kommunは高齢者の福祉も医療も提供する自治体 という風に変わってしまいました。その結果、高齢者について、医療だけを抜き出して 医療費を計算することが難しくなってしまいました。したがって以下では、医療費の中 に高齢者介護のコストも含まれているとお考えいただいた方が良いと思います。  この報告書の問題意識は、現在の医療に関する原則、すなわち先ほど申し上げました ように、すべての人に同じ条件で(平等に)医療を提供するという原則ですが、そうい う原則を守って医療を提供し続けていくと、医療のための資源はどれぐらい必要になる かという問題が第1のテーマであり、第2のテーマは、そういった医療資源を提供する ために必要なお金はどれぐらいかかり、それを賄うため何が必要かという問題です。  私たちは一般に、医療の必要性という言葉と医療に対する需要という言葉を大体同じ ように考えているのですが、この報告書ではわざわざ分けて考えるよう主張しています。 すなわち、医療の必要性というものは客観的な医学的根拠に基づく判断によって必要と されるものであるのに対して、医療に対する需要というものは、各個人がそれぞれ持つ ところの、極めて個人的な医療に対する好みである、としています。  3ページには、医療の必要度に影響を与える要因が挙げられております。まず第1に、 人口要因というのがありまして、具体的には人口数と年齢構成という2つの面から人口 要因を見ています。日本の場合は人口が減り始めておりますのでその面からの医療に対 する需要増という点は考えられませんが、スウェーデンの場合には人口がまだ増えてい ます。そして、高齢化も進んでいるので、2つの面で医療に対する需要増が考えられま す。  2番目に書いてある社会的条件とは、高齢者単独世帯が増加したとか、赤ちゃん数が 減ったとかといった条件です。次に労働の形態あるいは生活スタイルの変化という要因 が書かれています。労働の形態が変化した結果、何が起こっているかと言いますと、従 来の肉体的な病気の人よりは精神的なストレスを受けている人が非常に増えているとい った医療の変化が起こっております。生活のスタイルの変化では、喫煙者は減少しまし たが、肥満の人が非常に増えて、現在では、糖尿病、心臓病、血管病が非常に増えてい るといった変化があります。  次に病気に対する考え方と知識が変わったことによる変化については、「健康」と「 病気」の区分が昔と大分変わってきて、従来は医療の出番がなかったところに結構医療 の出番が出てきた。つまり、難病が治療可能になったところから医療に対する需要が増 えてきている。また、病気についての知識や情報が増えることによって、医療に対する 需要が変わってきた。また、それが医療の実践面にも変化を引き起こしてきているとい うことです。  管理体制と組織というのは、よく医療経済学でも言われますが、医療は経験が支配す る世界なので、供給が需要を作り出す可能性がある。ですから、医療機関自身が必要で もない医療需要を作り出すかもしれないので、やはり医療はコントロールしなければい けない、組織をコントロールしなければいけない、というのがスウェーデン的な発想で す。  医療の進歩ですが、医療の進歩には2つの要素があって、1つは新しい薬が出てきた ことであり、もう1つは新しい技術が出てきたことです。そして、それによって多くの 疾患と患者が扱えるようになったことです。1人当たりGDPと医療費の関係は先ほど出て きましたが、スウェーデンの場合にはGDPが1%上がると、医療資源は1.1%増えるとい うのが図2に示されております。  4ページには、縦軸に1人当たり医療費をとり、横軸に1人当たりGDPをとったとき の、世界各国の置かれた位置が示されております。従来からよく引き合いに出されてい たUSAは多くの国とはかけ離れた所にある医療制度でありまして、日本とスウェーデンと いうのはそこに印がしてありますが、ほとんど似たような状況にあるように思います。 図の左下に「Ungern」と書いてありますが、Ungernというのはハンガリーのことです。  医療の分野では資源の効率的使用ということが非常に重要なことですが、報告書では、 資源の効率的な使用と医療が高い生産性を持つということとは、必ずしも同じではない ので注意して使うように言っています。資源を効率的に利用することと高い生産性とで はどこが違うかというと、高い生産性というのは、より少ない資源でとにかく医療をや ることを高い生産性と言うけれども、健康回復がなければ高い生産性を挙げたと言って もあまり意味が無いので、というのがこの報告書の主張であります。  スウェーデンの医療費の動向については5ページに書いてありますが、1950年から 1980年の間に対GDP比で大体3倍になりました。1980年以降はあまり変わっていません。 ただ、医療費が増えたからといって、必ずしも医療資源が増えたとは言えません。ただ 単に医師・看護師のコストが高くなっただけかもしれないからです。したがって、一般 物価と医療物価の動きをフォローしなければいけない。ここで、以前に話題に上った医 療物価の必要性が主張されております。  6ページの表1の前半には、実質医療費の伸び率と、実質GDPの伸び率と、医療費の価 格と一般物価指数の相対比が書いてあります。表1の後半には、医療費によるGDPの伸び 率の割合と、そのうちどれぐらい医療の量が変化したことによる医療費の伸び率か、あ るいは医療の価格が変化したことによるGDPの伸び率かという数値が書いてあります。で すから、最後の2つの数値を足すと前列の数値になります。人口要因のみによる医療費 の伸び率を見ますと、表2に書いてありますようになり、だんだん鈍ってきているのが 分かると思います。  7ページには、年齢別1人当たりの医療費が載せられております。男と女の若干の違 いはありますが、先ほど真鍋企画官からお話がありましたように、やはり高齢になると 医療費がよりかかるというのは万国共通であると思います。それと9ページにあります 年齢階層別の人口動態と掛け合わせると、将来の医療費が出てまいります。  8ページには、スウェーデンの医療改革では今までものすごくドラスティックなこと をやってきたのですが、それが書いてあります。1番目は救急病院を半分にしました、 そして高度医療を少数の病院に集中しました。入院医療を少なくして、外来医療を多く しました。つまり、1960年代に12万のベッド数がありましたのが、現在では2万7,000に 削減されておりますし、入院期間がただでさえ短くて日本の半分以下だったのが、更に 25%短縮されました。その結果、ベッドの利用率が30%良くなりました。また、医療の 中心を大病院から近くの病院ないし自宅での療養に切り替えました。つまり、自宅での 療養が1992年の3万5,000人から2002年の8万人に増えました。それをスウェーデン的な 言い方をすれば、それだけ自宅での医療サービスが行き届くようになったということで す。プライマリケアを充実させると同時に、病院とプライマリケアの連携のために、近 くでの医療を拡充しております。また、患者の流れをスムーズにするための情報とコミ ュニケーション技術を開発してきております。  10ページには要因別実質医療費の伸び率が載せられております。2003年までのデータ は実数で、その下の部分は推計値です。11ページを見ると、医者は2002年にはスウェー デンでは2万8,800人いることが分かります。スウェーデンでも医者は65歳定年なのです が、その前に辞める人も多く、常に不足気味です。ところが国内で教育できる医者の数 は限られているので、人数でいうと引退する医者の方が多くなって、2030年には2万 7,000人に減ってしまいます。それに対して、現在の人口当たり医師数を維持していくの に必要な医師数は、2030年では3万2,000人であり、人口要因も含めたときに必要となる 医師数は3万4,000人であるのに、国内で教育を受けた医師数は2万7,000人しかいない ので、そのギャップをどうして埋めるかということが問題になっています。今のところ、 この問題は外国で教育を受けた医者にライセンスを与えることで解決する予定です。と いうのは現状でも毎年350人ずつ外国人医師が増えているので、これぐらいはカバーでき るでしょう、というのがスウェーデンの見通しです。  図7には、看護師数の予測が示されています。看護師数は現在9万6,200人なのです が、これから少し増えていったとしても、人口当たり看護師数を維持していくのに必要 な看護師数+人口要因を加味すると、ずっと足りなくなっていくことが分かります。  13ページには、そういう公的に資金調達される医療の財源が書いてあります。地方税 として集められる税金が75%、国から来る一般国庫補助金が5%、薬に対する補助金が 9%、その他補助金があって、その他の中に患者の払う医療費が含まれています。それ を見ますと、総医療費の中に占める患者の払う医療費は3%にすぎません。ですから医 療費のほとんどは税金で賄っていると考えていいのではないかと思います。  図9には、そういう医療需要を賄っていくのに、どれぐらいこれから税金を上げてい かなければいけないかということが書いてあります。結局、人口要因のためだけだった ら税率を1%上げるだけで賄えるのですけれども、新しく生じてくる医療資源に対する 必要性をすべて賄うためには、5%以上税率を上げなければいけないとなっております。 ちなみにスウェーデンの地方税はLandstingとKommunを合わせて現在31%ですので、それ に5%を加えると36%ということになります。  図10を見ますと、医療費の対GDP比と必要な医療資源の予測が示されており、他方では 財政上の制約が示されております。前者が後者を大きく上回っておりますので、これか らそれをどう賄っていったらいいのだろうということで、最後のページに結論と提言が 書いてあります。  これはある意味では誰でも分かっていることで、特に目新しいことはほとんどありま せん。具体的には、雇用と成長を高めて財政上の余裕を高めること。生産性と効率を高 めて必要な資源量を小さくする一方で、医療にその多くを割くこと。医療のどの部分が 公的システムを通じて提供されるべきか、あるいは医療のどの部分が別の形態で提供さ れるべきか、つまり今度は医療のどの部分が民間のシステムを通じて資金が調達される べきかに順位をつけること。税率の引上げと患者負担を増やすこと。それから、医療と 介護の間における公共部門の資金の再配分。以上のことをこれからやらなければいけな いというのが結論です。以上、スウェーデンの医療費見通しについて説明しました。次 は、フランスについて事務局からお願いいたします。 ○武藤課長補佐 資料5−2、フランスの医療費の将来見通しについて説明させていた だきます。まず概要です。フランスの医療制度を担当する保健連帯省に今回調査をしま したところ、社会保障局(DSS)という部局の研究財政予測課及び調査研究政策評価統計 局(DREES)という部局の、総合研究政策評価課より回答が得られました。フランス政府 が行っている主な医療費の見通しですが、例えば以下のような2つのものが存在します。  まず1点目、各年の社会保障予算法(LFSS)における今後4年間の社会保障医療保険 部門の歳出見通しがあります。これは国会で採決される翌年の医療保険歳出目標(ONDAM) と接続しているようでして、法律上、義務的にDSSが行っています。  もう1つありますが、これは法律上、義務的に行われているわけではないようですが、 20年以上にわたる長期の将来推計があります。これはDREESが独自に行うもの、大臣など の要請によるもの、OECDや欧州委員会による推計と関連して行っているものがあるよう でDREESが行うようです。  2ページ、まず社会保障予算法(LFSS)における社会保障医療保険部門の歳出見通し についてです。  2ページ下に結果表がありまして、主なポイントを上に書いています。下に書いてい る結果表が直近の結果です。昨年の年末に2007年のLFSSの採決の際に公表されたものと 聞いていますが、2007年から2010年における収支見通しが出ています。収入の見通しと 支出の目標が書かれていて、その収支差が書かれています。上にポイントは書いていま すが、この歳出見通しについては、毎年作成されていて、翌年以降も含めて今後4年間 が対象になるということのようです。 この歳出見通しにおいて用いられる手法ですが、基本的に以下のとおりです。1番目に 医療保険歳出目標(ONDAM)が、この全体の見通しの中に内包されていまして、その大半 を占めるようなので、その仮定が最も基本的な仮定です。 2番目に、翌年、予算年のONDAMの伸び率ですが、非常に詳細に設定しているようです が、以下の構成要素があります。予算の手法というのはこういうものかなとも考えてい ますが、まず、細分化された医療項目ごとに直近の年まで含めた過去の実績により導出 される歳出の推移を見ています。また、新たな医療関連施策の実施に向けた財政上の措 置が織り込まれている。次に診療報酬、高額な医薬品や医療行為に対する償還などのコ ストの推移の考慮。更には最後に医療保険部門収支の目標と整合性のある歳出水準を達 成するために、政府が実施する歳出抑制のための措置の効果を見ているようです。  3番目に、翌年以降の4年間のONDAMの仮定ですが、政府が対象期間にわたって設定す る医療保険部門の収支目標、これは例えば欠損を減らすなどという目標があるようです が、それと整合性を持つように策定されるということで、下の結果表においても、収支 差が徐々に改善していくことになっています。これは予測による純粋な見通しというよ りは、課された見通しという色彩が強いようです。  3ページ、4番目はやや補足的な部分になるとは思いますが、ONDAMでカバーされない ものについては、過去の実績や複数年の財政規定をベースに計測するようです。  (2)、20年以上にわたる長期の推計の部分についてです。これは法律上、義務的に行わ れているわけではないということで、先ほども申し上げましたように、いろいろなもの を行っています。今回OECDや、欧州委員会が行っている医療費の長期見通しの1例とし て、報告書の送付がありましたが、この報告書は、別途当方でも入手していた、昨年公 表されたOECDのレポートと同じ結果です。  OECDや欧州委員会の報告書においては、ほぼ同様の予測が行われているとのことです が、OECDワーキングペーパーによる予測手法のイメージは、例えば次ページのとおりで す。  4ページです。まず最初に過去の1人当たり医療費の成長率を人口要因、所得効果に よって説明するということのようです。まず人口要因ですが、ここに書いてある3つの 要因がありまして、pure aging cost、年齢別の医療費を考慮した場合の、人口高齢化に 伴う医療費の増大、この効果が最も大きくなっているようですが、こういうものがあり ます。  次の2つの要素は相互に関連しているのではないかと思っていますが、healthy aging effectとdeath-related costがあります。前者の方は平均寿命の増加に伴う一生に占め る罹患時期の割合への影響です。2番目については年齢別の終末期にかけての医療費の 増大が占める割合を考慮している。これらによって調整する必要があるとのことです。  2点目に所得効果ですが、これについては、ここでは医療費の所得弾力性を1という 制約を置いているようです。3点目に書いていますが、これらから得られる残差があり まして、これは医療価格の相対価格及び技術進歩を説明するようです。  5ページ(2)です。今申し上げましたaccounting approachの外、別のアプローチで過 去の1人当たり医療費の成長率を、人口要因、所得効果、タイムトレンドで説明する別 アプローチの推定も行っているようですが、以上を踏まえた上で、(3)に書いてあるよう に、1人当たり医療費の成長率に関する予測を行います。1人当たり医療費の成長率を 人口要因、所得効果、上述で得られた残差によって説明するということですが、具体的 には6ページに書いているようなイメージです。  6ページの右にポイントを書いていますが、人口要因については、pure aging cost、 healthy aging、death-related costの3つの側面を考慮するということのようです。 左にイメージ図が3つありますが、一番上がpure aging effectのイメージです。年齢階 級別の1人当たり医療費が書かれていますが、人口構成が変化して、医療費の平均値が 2000年の平均から2050年の平均にかけて上昇するというイメージです。  2番目がdeath-related costと、healthy aging effectの効果のイメージ図です。平 均寿命が増加して、かつ終末期にかかる医療費が右にシフトするというイメージ図が書 いてあります。  3番目の図が残りの人口要因以外ということで、所得効果とか、残差ということにな ると思いますが、これらについては、年齢階級別にかかわらず一様に上昇するというイ メージ図が書かれています。これらを合わせて基本モデルができるようです。  最後の点に追加がありますが、これらの基本モデルを発展させて、人口要因や所得弾 力性などに異なった仮定を置いたり、また、残差についても別の仮定を置いたりするこ とによって様々な予測結果を得るということのようです。残差を別の仮定によって置き 換えるのは政策効果の影響を考慮するためである、というコメントもあります。  最後に7ページです。これは前回アメリカの医療費の見通しを御説明した際に、短期 見通しにおける手法は、最近の動向や法令の規定の影響等を反映したものということで したが、権丈先生から医療費の伸びと所得の伸びの関係について質問がありましたので、 やや細かいところまで調べたものということです。下に結果表があって、上にポイント を書いております。まずポイントの1点目ですが、メディケア・HI病院保険のうち、約 68%を入院医療費サービスが占めるようですが、その場合ということで説明いたします。 入院医療サービスのほどんどすべては、DRG/PPSで定額支払方式によるということです。 その入院の償還額の変化率は、病院入力物価指数の伸びと等しくなるように現行法で規 定されているということです。下の表に書いてあります真ん中辺りの列の水色で色を付 けている所がそれです。これがサービスの単価に当たるのかなと思っております。原則 として、その入力物価指数に、表で言うとその右の1つ先に書いてあるサービス量の増 加、更にその右にあります、その他の要因が合成されて、これらの合計が、一番右にあ る赤い網を掛けている列の数字であります、サービスの支払増加率の合計になるようで す。  入力物価指数について、やや細かく見ていきますけれども、左の2つの要素の加重平 均ということです。左半分にあります労働要素の中の一番右にある病院勤務者の時間給、 あと、右にあります非労働要素のうちの病院の物価について、その加重平均になってい るということです。 ○飯野座長 これまでの説明について、御質問や医療費の将来見通しについての御意見 を伺いたいと思います。 ○権丈氏 第2事務局みたいな仕事として、私が委員の中で一番若いので資料を縦断的 に補足させていただきます。  まず、資料1です。これは危ないなというのがありますので言っておきますと、終末 期における医療費というのがあり、1年にかかる終末期医療費が約9,000億円。これだけ がデータとして動き始めるとちょっと危ないので言っておきますと、終末期1年という ところ、いずれ死ぬぞということは事前には分からないわけです。だから、それを事前 に予測して、終末期の医療費がこれだけあるから、これだけの医療費を抑制することが できるのではないか、無駄ではないかというような議論につながっていくことはおかし なことなわけです。その辺りのところはよくよく考えた上で、この終末期というものを 考えないと危ない議論になります。  末期のところでかかる医療費は日本が急激に高いわけでもないということもあります ので、石井暎禧先生のホームページを御覧になられれば、その辺りのところは広井良典 さんの報告に対する石井暎禧先生、滝上宋次郎さんの批判、「みなし末期論争」が載っ ておりますので、是非その論争を見て、終末期医療の話が一人歩きしないようにと思い ます。この論争を見る限り、広井さんは石井先生や、滝上さんから完膚無きまでに論駁 されているように思えます。それと一言、全年齢階層を足し合わせても終末期医療費は 9,000億円。今日の報告では、この値の小ささも特記すべきことだと思います。  もう一つは、「社会保障給付に係る内訳」というところは、これは給付です。医療費 ではなくて給付です。この辺りのところも、いつの間にか給付だけにこの国の関心がき たと。先ほどのスウェーデンの話だと、自己負担のところはほとんど無いという議論に なるのですが、自己負担のところが上がるのは一向に構わない、問題はこの給付のとこ ろだけなのだという具合に給付のところだけに関心が移ってきて、日本ではここしか議 論しなくなってきたというのが最近出てきている動きだ、ということを御理解いただけ ればと思います。  それと、医療費の伸びと経済成長率についてのところですが、これについては飯野先 生が説明されましたように、1人当たり所得と1人当たり医療費は相関するというのが、 こういう形で示されるわけです。これは医療経済の世界では当たり前の話です。ゲッツ ェン(Getzen)という医療経済学者は、単年度の医療費と単年度の経済成長率を取って 見ると相関しないことをまず示します。この謎をどう解けばいいかと彼は2つの問いを 立てます。1つは、なぜ、医療費の水準は所得によって決められるのか、そして今1つ は、なぜ、医療費の伸びは、現在の所得の増加率ではなくて、過去数年間の所得の平均 増加率によって決まるのかと。だから、単年度の医療費の伸びと単年度の経済成長率の 伸びを見ると相関しないのです。  そこでゲッツェンは、過去6年間の所得増加率の平均と医療費の単年度増加率を取っ てみます。そしてやってみると、ちゃんと相関するのです。それは一体なぜなのかを彼 は問うて、「医療費は、個人間の売買ではなく、グループでプールされた売買、より包 括的には社会全体(普通は、国家を意味する)でプールされた売買である。医療費は、 あたかも家計における医療費が家族のメンバーの間でシェアされるように、市や県の間 でもシェアされる。その結果、国内で利用される医療費総額の予算制約は、州や市や家 計の所得ではなく、国の総国民所得になる」という形で、まず所得によって医療費が決 まっていくということを言い、次に彼は「医療制度に関する一連の意思決定は、政府、 医療専門職者、使用者、国民の間でのある種の暗黙的長期契約(implicit long-term contract)である。国民医療費をどの程度にするべきかという計画は、現在の収入に関 する期待に基づいてなされる。そうした計画は、前年になされた意思決定、例えば累積 した黒字・赤字や賃金の変化率や生産費とか技術などを反映することになる。しかし、 実際の支出は予期せぬインフレーション、不景気、ストライキ、伝染病などのために、 計画水準から乖離する。計画と実際の支出額のギャップが、状況の変化にどれだけ早く 調整され得るかということは、組織のダイナミックスに依存する。つまり、官僚的硬直 性の程度とか、予測能力がどの程度あるかということです。そして、個人の行動、組織、 財政メカニズム、政府の政策などには惰性はつきものであり、そのために、意思決定が なされる時期と、そこで決定した意思が国民医療費に影響を与える時期との間にラグが 生じる。経験的には、現行の医療費は、数年間にわたるGDP成長の遅延関数(delayed function)になる」ということです。これは1995年の論文にゲッツェンが書いていて、 日本では私が1996年に紹介しているのですが、売れない本にずっと書いていたので、誰 も世の中知らなかったのです。それを西村先生の編集された本の中に、これをダイジェ スト版として載せておりますので、是非御覧になっていただければと思います。  そして、この中でも「個人の医療費を見れば医療ニーズが最も重要な要素となる。し かし、医療ニーズが決定するのは、個人間への分配の問題のみであり、どれだけの額を 医療費として利用するかという問題ではない。仮にニーズが医療費総額を決めるのであ れば、バングラディッシュの人々は、ボストンの人々よりも医療費を多く消費すること になろう。しかし、事実はそうではない」という形で論じられていて、高齢化に関して も、「一見して、高齢化の高まりは医療費を高めるような関係を示す。しかしながら、 高齢化と医療費とのプラスの相関は、1人当たり所得の増加や他の変数の変化を真の原 因とする、見せかけの相関にすぎない。所得をいったんコントロールすると、もはや医 療費と高齢化との間には相関は認められない。高齢化は、年齢間の医療費分配の在り方 には影響を与えるが、医療費総額には影響を与えないのである。医療費の増加は、人口 構造の問題ではなく、極めて政治的・行政的な問題なのだ」というように、これも1993 年のゲッツェン論文にありますが、そういうものが根底にあって、今日示された医療費 と所得の関係が出てくる。これは面白いほどに、どの国にも成立する法則のようなもの です。  アメリカも医療費はパブリックが半分ぐらいで、プライベートが半分ぐらい占めてい るのですが、GDPに占めるパブリック部分が日本よりも大きいので、かなり政治の影響を 受けて医療費総額が決まっていくのです。ですから、そういう関係が根底にあることを 補足させていただければと思います。 ○飯野座長 ありがとうございました。橋本委員どうぞ。 ○橋本氏 まず1つ、ゲッツェンのペーパーだという出所を教えていただいてありがと うございました。去年でしたか、ゲッツェンは、ミクロレベルで見た医療費とマクロで 見たのでは違うので、従来、医療経済が個人の所得で伸び率を説明しようとしているの には無理があるという総説論文を出されていましたので、ある意味、それの延長線上と いうか、それの基になったものだということで理解させていただきました。ありがとう ございました。  私は権丈先生と同じで、先ほど死亡医療費のところが少し気になっていましたが、2 点問題があると思います。1つは、死亡医療費の推計そのものの問題です。もう一つは、 これと高齢者医療費の推計の問題です。ある意味でうまくまとめていただいたのが、先 ほど御提示があった、フランスの医療費の将来見通しのaccounting approachではないか と思って見ていました。この3つをつなげた意見をさせていただきたいと思います。  まず1つは、死亡医療費の9,000億円という推計に関しては、2000年の医療経済研究機 構のものを基にしていて、これがその後の在宅医療の推進の話であるとか、末期医療に 関する方針の推進であるとか、今回の地域医療計画系の話を進める際の根拠になってい たということでは、既に一人歩きをしてしまっているというのがあります。この点、実 はもう少しナイーブな議論があるということを、できればこういうパブリックの所で、 御存じいただければなと。  まず第1に、死亡前の医療費の推計に関してはかなり年齢の影響を受けている。一番 早くは、確か94年に発表されて、その後98年に本になりました、社人研の府川先生が出 された論文で、92〜3年のレセプトデータを用いた推計で死亡前医療費、高齢者になると ガクンと下がる。したがって、その部分の影響を入れないと過剰推計になっている可能 性があるというのがありました。  いずれにしても、85歳を過ぎると、65歳ぐらいをピークにして、死亡前1年間の医療 費は半額ぐらいまで落ちると大体言われているのではないかと思います。むしろ死亡前 1年間の額として一番高いのは、諸外国の例などを見ても、大体40代から50代、大体壮 年期でがんなどで亡くなられる方に高度医療がされていてというものが大きく、それを ピークにして大体下っていって、85歳以上は現場でかなりラショニングされているとい うのが、どの国でも表われているかなというように思います。そういう部分を含んで考 えなければいけないかなと思います。それが第1点です。  第2点として、先ほどの高齢者医療費の推計に関しては、難しいのは、高齢者という のはいろいろな病気にかかっていて、いろんな医療機関にもかかっているけれども、そ れは、ある意味外来で、言ってみれば薄利多売的な領域で稼いでいるということ。一方 で、ガツンとお金が上がっているのは、実は入院で、この死亡前医療費も影響を引っぱ っている。最近高齢化してきたお蔭で、皆さん亡くなる年代が70代、80代になっている ことによって、死亡前医療費の影響をかなり反映している部分があるということです。 この2つは、ある程度分離して推計しないと、これもまた高齢者医療費といったものの 中身を全部、年をとっていると医療費が高いという形で被せてしまうのは、やや分析が おかしいかなと。  その点で、先ほどのフランスのaccounting approachは死亡前医療費の影響も加味しな がら、ピュアなエイジングも入れているし、さらには、平均寿命の延びも入れたりとか、 あと、実際の推計結果ではやっていないかもしれませんが、研究的には、プラス疾患の 罹患率を主だった新生物、循環器関係については、その罹患率がどう変化するかをモデ ルに入れて、また、利用するしないなども入れたツーパートモデルみたいな形にした推 計という、かなり厳密なことをやっています。そこまでやれば、それを推計というより か、むしろシミュレーションといいますか、これがこう動いたら、これぐらいウエイト があるというものを数値化して出すという形では、非常に良いモデルも作っていらっし ゃるのではないかなと。それはすごく参考になろうかと思います。以上、死亡医療費に ついての話をさせていただきました。  最後にもう一つだけコメントします。資料3の医療費の供給体制の話について、ドク ターの人件費、人数の伸びを見ると、1.7倍はそれほど外れてないのではないかという話 でしたが、これに関しては若干付け足しということで、実は結構、もともとガテン職場 だったお医者さんの世界でも、かなり女性の進出が目覚しくなってきております。特に 今、20代、30代は30%を超えてきています。実は、産休に入られたりとかして頭数ほど 実労働者がいない状況があって、それがある領域、例えば産婦人科、小児科などは結構 顕著に出ているという研究結果が、そろそろどこかから出てくるという噂を聞いており ます。そういう影響なども考えると、頭数だけで人件費に伸び率があるので、1.7倍はそ れほど外れていないというのは少々乱暴な議論である可能性があるので、ちょっと注意 した方がいいかなと思います。 ○飯野座長 ありがとうございます。そのほかに、井原委員どうぞ。 ○井原氏 今の権丈先生や橋本先生の続きになろうかと思いますが、フランスの報告を 見ましても、非常に繊細に設計されて細分化されたデータをきちんと出しているのだと いうことが書かれています。毎月、日本のレセプトを見ているときに、最初のころは自 然増のことがありましたし、今の死亡統計のことも考えます。こういう問題は国民の皆 さんにきちんと理解してもらう必要があるということが最初の議論にあったと思うので す。これを解析するのに、以前橋本先生も言われましたが、DPC病院の急性期入院のデー タというのは、7月分から12月分までは全部、保険局の方にDPCの基礎データのために来 ているわけです。総出来高データは行っているはずです。  問題なのは急性期入院だけではなくて、全体を見通さないといけないだろうというこ とになってきますと、現実的に最も役立つのは、IT化といいますか、レセプト電算シス テムだと思うのです。今、東京都の支払基金は月に450万件ぐらい医科のレセプトを見て いるのですが、そのうちの20数パーセントがレセプト電算になっています。ここに表が ありますが、全国平均でも20%を超えてきています。多い県では50%、半分弱がレセプ ト電算で来ているという都道府県もあります。こうなってきますと、御存じのようにCSV 方式という変換ソフトで来るわけですから、データの処理は非常にしやすいのですが、 そのロジックをしっかり理解していないと、このデータから即、何かが作れるというこ とではないわけです。  先ほど申し上げた東京都の支払基金は、1年で大体5,000万件ぐらい見ているうち、 近々25%くらい電算になる予定もあります。東京だけでも1,000万件ぐらいあります。 これは病院もあれば、診療所、入院、外来など、あらゆるパターンの診療行為がかなり 平均的に、大量にデータで来ています。これを我々が審査をする際にいろいろなテクニ ックを使うのですが、現在抽出条件が画面で、これをペーパーで打ち出して審査したの では何もならないのですが、コンピューターを使って画面で審査するときには、抽出条 件がいろいろかけられるように工夫されています。これは「AND条件とOR条件」と言うの ですが、「AandBandC」が何だというのも出せますし、「AorBorC」も出せます。 そうすると先ほど言われたように、こういう条件があって、こういう病気を、例えば糖 尿病という条件があって、そして、こういうものと、こういうものがどうなっているの かと、先ほど言われた死亡例の場合も使えます。高齢者の場合は、療養病棟に入ってお りますと、最初から包括点数になっておりますから、さほどの医療費の上昇にならない。 それでは急性期の方の場合は、どういう医療行為が、例えば救命装置とかいろいろなも のが使われている率は何がどのぐらいあるのだとか、検査とか、薬剤、材料、病名とい ったものを、いろいろと組み合わせてかなりきめ細かく抽出できます。  患者さんの個人情報はレセプト電算の場合、患者名は番号になっていますから、そう いう心配も要らない。よくいろいろな所で議論になるものとして、CTとかMRIが出てくる のですが、MRIにしてもMRIという方法と、脳の血管を診るMRAというのと、それから造影 剤を使った管腔描出などをする特殊MRIなどいろいろなものがあります。こういったもの を組み合わせている医療機関がどれだけあるとか、それに使っている薬剤と同時抽出を すれば、それが診療行為にどう反映しているのか、その結果、アウトカムがどうなって いるのかという分析もできる。  今、レセプト電算情報を使いますと、かなりそこに人的に考える要素が必要なのです。 データを生かすという意味で、こういう機能を使いますと、かなり今より細かい分析が 可能になるのだろうという気がします。そういうものをきちんと積み立てて、国民の皆 さんに明示して、こういうことですと。また、逆に言えば、そこに多少無駄というのも、 もしかしたら解かってくるケースがあるかもしれない。それは適正化していかなければ いけない。  こういうことが積み重なった結果、国民の皆さんへの医療に非常に貢献していて、そ れでいい結果が出るというのならそれは正しく開示して、必要な財源は政府の方で確保 しなければいけないという議論になっていくと思います。やはり、今よりきめ細かい分 析や情報提供の仕方は、調査課としても必要で、こういうものは使えるのではないかな という気がしたので、ちょっと話をしました。 ○飯野座長 では、鎌形委員どうぞ。 ○鎌形氏 資料4の所でコメントをしておきたいと思います。西岡さんの資料は非常に いい分析で感激しております。2ページの医療費の伸びと経済成長率という所でブロッ ク分けにしまして、医療費が伸びた右の上の所。それから、そうではなくて、逆の真ん 中の下の所、これについて言いますと、古い話で恐縮ですが、経済成長率よりも医療費 の伸びが非常に高かったというのが、皆保険以降で見ますと2回あるのです。第1回が 皆保険直後、1961年から1965年ぐらいまでの間です。これは経済成長率よりも医療費の 伸びがものすごかった。その次の第2回の医療費が急増して経済成長率よりも高かった というのは、1974年から1978年までです。第2回目の残差が2ページの上の方にきてい るのだと思うのです。  というのは、1973年1月に老人医療の無料化がされた。これは東京都の美濃部さんが 最初にやって、それを全国的に広めたのが1973年1月です。それと1973年10月からは、 5割給付だった家族を7割給付にした。それから、1979年に医療費改定のものすごい改 正があった。それがじわじわ効いてきて、ここの経済成長率よりも医療費の伸びが非常 に高かったという、このグループにきているのだろうと思います。その下の方の1980年 代後半というのは、経済成長よりも医療費の伸びが非常に小さかったというのは、老人 医療の圧力を何とかしなければならないということで老人保健法を作った。それが1983 年2月です。それから、本人1割負担を入れたのが1984年10月です。そういう努力をし た結果、経済成長よりも医療費の伸びが少なくなった。こういう結果だろうと私は見て おります。  6ページの経済成長率と医療費改定の所ですが、確かに目から鱗というか、なるほど と思った資料です。確かに2、3年のタイムラグは当然あると思っていたのですが、4 年のところに0.9という、医療費改定と経済成長率の相関係数が0.9になるというのは、 非常にびっくりいたしました。そう考えると、医療費の将来推計、今、調査課でおやり になっているところを見ると、診療報酬改定は一般の伸び率の中に入っているのは第1 回の資料にありましたが、そこのところは分けて考えるべきではないかなと私は思って いたのです。これを見ると、やはりそんな感じがして、経済成長に合わせるところです ね、どういうように合わせるかはよく分かりませんが、診療報酬改定のところは別のフ ァクターとして捉えた方がいいのではないかと思います。  それで、人口の変化、高齢化の変化のところは、ほぼ、今考えられるようなところは、 すべて要素の中に入って追求しておられると思いますが、分からないのは、前回も言い ましたが、自然増というものを説明できるかどうかにかかっているのではないかと思い ます。 ○飯野座長 権丈委員、どうぞ。 ○権丈氏 今のお話に付け加えますと、1970年代の初期にこれだけ、GDPの伸びよりも、 名目経済成長率よりも医療費の伸びが高かったのは、1960年代後半に経済成長率が高か ったから、それに合わせた制度を作っていったからなのです。先ほどのゲッツェン流の 解釈でいくと、経済成長率が高いときには、それに合わせた制度を作っていくのです。 その後、経済成長率が鈍化したりして予測に誤りが出てくると、今度は政治的調整に10 年ぐらいかかるのです。ずっと調整していって、私はそのプロセスを再分配政策の政治 的調整過程と呼んでいるのですが、そうした調整の結果、所得が動きます。この調整は ものすごく難しく、時間がかかる。だからタイムラグがどうしても生じてきます。  例えば、飯野先生が出されました資料5−1の4ページを見ますと、1人当たりGDPと 1人当たり医療費は相関しています。だけど、単年度の経済成長率と単年度の医療費の 伸び率はなかなか相関しないのです。こうした問題に対して私はどういうことをやった かというと、1960年から2000年ぐらいまでの、細かく出てくる国のデータを全部プール して、そして固定効果推定法で各国の切片がどうなるかというようなことを観察してい くと、日本はGDP伸びの弾力性1のところから、もう少し下にくるのです。したがって、 飯野先生が示された図を見て思うことは、日本がこの水準にいるときは、日本では相当 下方に医療費を引き下げようとする圧力が働いているというように見えるのです。例え ば政治的には、この図にある2002年だったら相当医療費を下げようとする圧力が働いて いたはずである。2002年から少しでも後になってくると、今度は急激に医療費が下げら れはじめます。GDPの伸び以下に下げられてきます。だから、どこをポイントとして取る か、クロスセクションの1点だけを取ってしまうと、なかなか難しく、傾向が読み取れ ない。  やはり、全体的なタイムスパンを取った形での分布図を描いていかないと政治的に安 定したところは把握できない。日本が安定した位置は、飯野先生が示された図の中の日 本の位置よりもちょっと下なのです。だから、これを見た瞬間に上方へ圧力がかかって いるか、下方へ圧力がかかっているかというと、日本は下方に圧力がかかってきて、そ の下方圧力が実現してくるようなポイントを取った日医総研は、厚労省よりも医療費を 少なめ予測する。昨年末でしたか、国会でも議論されていた、厚労省が作為的に医療費 を高く見積っているのではないかというような議論というのは、私は、そんなことはな いのではないかと。どこを取ったか、直近5年間ぐらいのGDPが一体どのような変化をし ていたのか、そこが重要だと思っています。  これは1977年のニューハウスの論文にあるわけですが、医療費の伸びを決めていく制 度、医療費制度そのものは内生変数だと。経済の状態に関する内生変数であって、経済 の元気がいい国は医療費がかかってもいい制度を作っていくし、経済が危うくなってき たぞというと、それから5年から10年かけて、医療費がコントロールされるような制度 を作っていくのだと彼は言っている。逆に言うと、医療費は、実はコントロールできる のだと。  日本はGDPに占める医療費の割合は、ある程度安定している、若干高くなってきたら今 度は抑えていこうという形になっていくのは、長期的に見れば、制度というのはそうい うように出来上がっているのではないかというのが、1977年のニューハウスの論文にあ って、私は、かなりそうではないかなという気がしております。 ○飯野座長 西村委員、どうぞ。 ○西村氏 大部分賛成ですが、ちょっと違う点だけを申し上げます。この西岡さんの話 は非常に興味深いのですが、私は前から申し上げているように、診療報酬改定率と医療 費もやってほしかった。医療費と経済成長率と診療報酬改定率、この3つの関係をもう 少し正確にやってほしいのです。特に医療費に関して政治的な話というのは、2つ大事 な、これからも非常に大事なことがあって、社会保険料と、それから公費負担の割合、 特に公費負担の圧力が相当抑えていくという可能性があります。だから、ここはもう少 しやってほしい。  特に、今私が深刻に考えているのは、労働分配率の低下がありますから相当下がりま す。賃金はあまり増えません。そうすると社会保険料収入は、経済成長率の伸びに対応 して伸びないという可能性があります。これは日本の特殊性ですが、政治的に社会保険 料収入と公費負担は、相当政治的に意味合いが違うので、そこまで厚労省がやっていい かどうかしらないけれども、ちょっと社会保険料収入の伸びと、それから医療費の伸び、 答えは分かっていますが、過去に関しては公費負担が随分下がったという辺りの関係も 出していただくといいのではないかと。特に直近のを。  私は勉強していないので分かりませんが、事業年報等々で最近の月別の社会保険料収 入など分かっておられると思いますので、それが今後の医療費に随分影響するような気 がしております。その辺りをもうちょっと、権丈先生の仮説は正しいかどうか、反対は しませんが、まだ仮説の域でしょうという話で申し上げたいと思います。  あと、細かいことでいいますと、今の話との関連で、少し大きな話で恐縮ですが、前 回頂いたアメリカの話を勉強して、私も最近いってもらったのですがショックを受けた ことがあります。権丈先生が先ほど言われたように、1人当たり公的医療費の額は、ア メリカは日本を超えております。公的だけです。つまり、公的負担の額でさえアメリカ を下回っているという現状が、今あります。1つはっきりしていることは、今GDP14%ぐ らいです。武藤さんから頂いた資料で、2015年は医療費はGDPの20%と。  経済が駄目になるかどうか分かりませんが、私は駄目にならないと思う。そういう発 想は入れる必要がある。ただ大事な点は、先ほどの話とも関係しますが、全体的に間違 いなくアメリカの単価が高いです。つまり、医師の所得が高い。頭数だけではなく1人 当たりの単価が高い。薬も、かつては日本が高いと言いましたが、最近はアメリカの方 が、このデータは難しいですが、加重平均するとかなり高くなっている可能性がありま す。ジェネリックのことがあるので分かりませんが、それを置いていたら結構高い。そ うした医療単価を分析しないと、アメリカのようになったらいいという話は良くないと 思います。  前回チラッと遠慮がちに申したのですが、医療費物価指数がやっぱり、実は、技術進 歩のところは非常に難しいと思うのです。ですから、それは物価指数でもヒローニック とか、いろいろなことをやっていますが成功していないと思うのです。例えば、看護師 の賃金等々、人件費にかかる部分、それと薬価です。薬価は技術進歩が入りますから難 しいですが、そのことを総合的に考えないと。可能性としては、やはりアメリカは、今 までの私の考えを変えますが、アメリカの医療費をめぐるダイナミズムというのがあっ て、どんどん支出が増えると、それを公的な支出が追いかけているという、これは仮説 ですが、その可能性があります。  ですから下手をすると、このままいったら2015年ごろ、日本人の20%ぐらいはアメリ カで医療を受ける可能性もあるのではないかと思ったりするので、単価の話は頑張って やってほしいと、前回遠慮がちに申しましたが、今日の意見です。  あと、細かい話ですが最近、厚生科研で、分担研究でたばこのことをやっているので す。これは恐らくJTの方ではないかと思いますが、寿命が延びると医療費が上がると。 しかもそれは、さも悪いことのように言われる。たばこを吸うと早く死んで、医療費が 少なくて済むというような、このようなニュアンスのことを言われて、厚労省の方が、 それに対してどういうように答えるかという研究をしろという、そういうことを言われ て思ったのですが、先ほどのフランスの話は寿命が伸びると、その分、ちょっと後に医 療費が増えます。寿命の延びによる医療費増というか、それも計算した方がいいのでは ないか。 ○鎌形氏 それは入っています。 ○西村氏 いや、寿命の延びの。 ○鎌形氏 人口に反映しているわけだから入っています。 ○西村氏 いや、高齢化の要因だけではありません。特に乳児死亡率のところと、真ん 中と、私の仮説では、ちょっと正確な数字ではないのですが、65歳以上の方の寿命の延 びがすごく著しい。それは高齢化という要因では。コホート的に議論をしないと駄目な ので、今の議論では、ちょっと正確ではないと思うのです。寿命の延びは単純なもので はない。 ○鎌形氏 私は、当然入っていると思います。 ○西村氏 もちろん入っています。入っていますが、高齢化要因の中の。 ○鎌形氏 死亡率の改善があるわけだから。 ○西村氏 いや、それは解釈が難しいです。 ○橋本氏 違う理由は、平均寿命の延びそのものプラス健康平均寿命なんです。 ○権丈氏 そうです。 ○鎌形氏 今のは、死亡率の改善も入っているかどうかという。 ○橋本氏 医療費を使うタイミングが後ろにずれるという効果があるという。 ○権丈氏 今進んでいるメタボリックシンドロームとか、いろいろな形で健康になりま しょう、成人病をなくしましょうと。なくすのはいいのだけれど、人はみんな死にます。 だから、それをどうカウントしていけばいいのかという問題がある。1997年のNew England Journal of Medicineにあったと思いますが、禁煙の効果も、大体15年ぐらいま では医療費が下がるけれど、そこから先は総医療費が上がっていく。医療費だけではな く年金まで計算していて、禁煙が本当に社会支出の削減効果があるのかどうかを検討し たのもあったりします。 ○西村氏 入っているのですが、純粋寿命の延び効果がどれだけかという議論が無いと いうことを言っているわけです。 ○鎌形氏 議論が無いということを言いたいわけですか。 ○西村氏 つまり、遅れがあるのですよ。寿命の延びによって医療費は、例えば60歳で 死ぬ、先ほどの終末の話は1例で、この数字はいい加減ですが、仮に亡くなるときに、 この数字では倍ぐらい医療費がかかっています。かかるとしたら、65歳でみんな死ぬと、 そこの医療費がボーンと高い。それが80歳で死ぬようになったら65歳のところの医療 費は、そんなに高くなくて減るわけです。ところが、こっちで増える。ただ時間に15年 のずれが生じます。その辺りの時間的なずれを考えないと、たばこの影響は計測できな い。 ○権丈氏 フランスのモデルのようなものがほしいですよね。 ○西村氏 そうです。シフトしたのがほしいのです。 ○真鍋数理企画官 補足させていただいてよろしいでしょうか。資料1を用意したのは、 説明があまりよくなかったかもしれませんが、まず6ページの終末期における医療費と いうのが、そもそも終末期というのは何だという話もありますし、そんなのは後からし か分からないとかいろいろあって、これを確たるものとして出したというよりは、全年 齢でも9,000億円程度だということです。何を申し上げたかったかというと、これは全年 齢ですから、先ほど言われたように、中壮年でがんの場合はお金がかかるというお話が 橋本先生からありましたが、そういったものも入った上でのことです。ですから、老人 分だけを取り出すとかなり少ないはずです。かなりかどうかちょっと分かりませんが。  一方、老人医療費は11兆円弱、この当時かかっています。終末期に老人が多額の医療 費を使っているというよりは、老人は大多数の方が医療機関にかかっているわけで、先 ほど前のページで申し上げましたが、86%の方々が医療機関にかかっています。要は、 そういうところで、確かに健康であって、20年前の65歳の方より今の65歳の方が、多分 健康度は高いのでしょうけれども、それでは医療機関に行っていないのかというと、そ うではなくて、やはり医療機関にかかっていて、そういうところで医療費はかかってい るのです、ということを申し上げたかったのです。  例えば、寿命が延びたら医療費がかからない期間がキュッと伸びるわけではなくて、 やはりそこでは医療費がかかるわけです。そういった意味で高齢化というのは、医療費 の絶対額には、かなり大きな影響を与えるということを申し上げたかったのです。これ が、資料1を用意したイメージです。  もう一つ、資料3で橋本先生から医師数について、女性の場合、途中でリタイアする 期間もあるのだからというお話はありましたが、もちろんそうなのですが、それを踏ま えた上で、要するに、労働力としての医師数をここに出しているわけでして、医師免許 取得者数はもっと多いわけです。労働力として見ても1.2倍ぐらいになっているというこ とで。 ○橋本氏 それはどうやって推計するのですか。 ○真鍋数理企画官 それは医師の需給に関する検討会の方でやっておりますが。 ○橋本氏 3師調査のデータですか。 ○真鍋数理企画官 いや、検討会で、医師の資格を得て1年目にどのぐらい離脱したと か、そういうのはすべて設定しています。 ○西村氏 2006年から2025年の19年間で1.2倍ということは、年率に直すと、わずか1% ぐらいです。だからウエイトはそちらではなくて、人件費の伸びが大きいということだ と思います。 ○真鍋数理企画官 そうです。正しく1.6倍、1.2倍の関係です。仮に世の中の成長率に 合わせて賃金が伸びていくのであれば、賃金が伸びる要素の方が大きいということです。 ○石原調査課長 今の論点ですが、例えば、今回の将来推計のベースになったのは7年 から11年です。健康な老人が増えていくからこそ入院患者は増えていないわけですが、 でも高齢化はどんどん進んでいます。普通、高齢化が進めば入院患者も増えるのが当然 です。それがなぜ増えないで済んでいるかといえば、健康な老人が増えているから入院 患者は増えない、ベット数も一定で済む、という状態になっているわけです。そこで自 然増を測っているということ自体が、要するに、健康な老人が増える効果が入っている という理解をしている、ということを御理解いただきたいのです。 ○西村氏 私は、入っていないとは言っていません。そこをピュアーに取り出していな いと言っているのです。 ○真鍋数理企画官 分解はしていません。 ○石原調査課長 分解自体は難しいので、正確に測れませんので、そこは御容赦いただ いている。 ○松山氏 先ほど議論になった医師数のことでコメントさせていただきます。私は今総 務省の関係で自治体病院の経営アドバイザーをしていて、いろいろな所からお話を伺っ ている感触から申し上げますと、医師数が1.2倍になるからこれで十分かというと、ちょ っと疑問かなと思います。OECDが出した統計で、例えば、人口1,000人当たりの医師数で 見ると、日本は2.0でアメリカは2.3で、アメリカと大して違わないではないかというこ とが言われています。それでアメリカの2.3はどうやって計算したのかと思って元のデー タを調べたら、アメリカの医師数は、確か直近のデータで88万人いて、うち66万人がア メリカの医科大学を卒業した人で、22万人は外国の医科大学を出た人です。そして外国 でライセンスを取った方を計算に入れていないわけです。そこで、88万人の医師数を使 って人口1,000人当たり医師数を計算するとアメリカは3.0であり、これは日本の1.5倍に なります。  それと日米では医師の働き方が違うと思うのです。日本の場合、病院で働く医師は直 接雇用の先生がほとんどです。一方、アメリカの場合、病院が直接雇用する医師は非常 に少なく、地域の独立開業医が、その施設を利用するという形態のオープン方式です。 日本もアメリカも開業医の先生の働き方は自由ですが、地域にある施設をみんなで使う という仕組みから判断すると、アメリカの方が実は全体ではコントロールはできている と思います。  アメリカと日本以外の国については、公務員であることが比較的多いので、そこでも 働き方についてはコントロールができている。日本のような仕組みだと一番コントロー ルができていない上に医師数が少なくて、今大変な状況に陥っているのではないかと思 われるのです。  最近の話ですが、ある自治体病院で泌尿器科のかなめの先生が辞めるというので、給 料を倍にする、3,000万円出しますから居てください、と言っても辞められました。別の 自治体病院で、麻酔医がいないので4,000万円で募集しましたが来ないのです。つまり、 今の状態を放っておくと、多分医師の報酬というか、単価は上がっていくのではないか。 あと、診療報酬改定の在り方として、ホスピタルフィーとドクターフィーを分ける方向 にあろうかと思います。ドクターフィーを分離して価格を決めていくことにすると、恐 らく今よりも上がる要素が強くなるのではないかというのが私の感想です。 ○井原氏 当たっているかどうか分からないのですが、今松山先生が言われたとおり、 現在、日本の保険点数の中で、医師数とか医師の給与の問題が出ていますが、これが診 療報酬のどこに入っているのかというと、明確にはどこにも入っていないのです。初診 料、再診料、それから、あえて申し上げれば入院基本料でしょうか。DPCだと、それも含 めたDPC点数の中に入っている。手術料といっても、英国では手術を行うドクターフィー、 手術室の使用料、麻酔科のドクターフィー、麻酔の費用、薬剤の費用等となるのですが、 日本の場合は、手術料という名目の中に、実はドクターフィーも入っている。ですから、 医師の給与のアップダウンというのは、それを反映した点数改定になっていなければ、 実は医師の給与と医療費の伸びは、ほとんど関係ないようにも見えるのです。  先ほどの話のように、3,000万円出しますと言った病院は、それはどうやってその収入 を得るのだろうということになってしまいます。結局は別の財源、公的な自治体から助 成をするとか。これは医療費とは別のお金から医師の給与が出ていってしまうのだろう と考えられますから、そこのところは、実際に現場で医療を行っている医師としては、 今、先生が言われたように、きちんとドクターフィーと、そうでないものは分けていく のが本来は筋なのだろうと。今のままですと、審査委員の3分の2ぐらいが勤務医の先 生なのですが、医療費の伸びのことを話していると、我々の給料は全然上がってないか らね、という議論が大半になっているのが現状です。 ○権丈氏 私がよく、医療費は長期的に見ればコントロールは可能なのだ、という言葉 が危なっかしく伝わる可能性もあるので、ここで弁解させていただきます。世の中の人 たちは、医療費はコントロールできない、だから、今絶えず、出来る限り医療費を抑制 していかないと将来が危ないのだと言う。私が言っているのは、いや、そうではない、 仮にGDPに対して10%まで引き上げましょうと、政治的に実行したとする。その10%を維 持することは可能なのだと。だから、そう恐れることもなく、今、目標水準としてヨー ロッパ水準にしようとか、G7平均値にしようというようにして、来年から引き上げた としても、だから20年後の医療費がコントロールできなくなるという話ではなく、その 水準を維持することはできる。今までだって、ずっとその目標の低い水準で政治的に決 めて、それで低い水準を維持するために絶えずいろいろやってきたわけです。それと同 じことをもう少し高いところでやればいいではないかと、そういう意味が、私の言う「 政治が決める」ということなのです。そういう意味でコントロールは可能だと言ってい ます。だから、議論をしていつも噛み合わなくなってしまうのは、将来を憂いて今の医 療費を抑える人たちの議論なのです。  フランスは所得弾力性を1と設定する。フランスはその水準で設定してもいいと思う。 でも日本を1と設定して、永遠に今のGDPに占める医療費の割合のままで良いと考えるの はおかしいだろうというのがあるので、将来の予測、見通しというときに、これは「成 るものとしての将来」ではなく、するものというか、「意思を持った将来」の見通しみ たいなものがあっていいのではないかというのが、随分前から私が言っていることです。 まず決めるのは政治的意思を決めましょうと。その政治的意志によってGDPに占める医療 費の割合を決め、そこから先は医療費をどうコントロールしていくか、どう分配をして いくかなどの建設的な仕事を厚労省の中でやってもらいたいと思っているわけです。  ところで私が根本的に疑問なのは、20年後の医療費を予測しなければいけないのです か。しなければいいのではないかと思うのです。 ○西村氏 それは国会で質問があるからでしょう。 ○権丈氏 内閣府がやれ、やれと言うのでしたら、内閣府でやってくださいと言えない のですか。 ○真鍋数理企画官 見通しを出して、先ほど申し上げたような財源を出して、持続可能 性を検証していくこと自体は大事なことだと思うのです。そういうときに名目額に意味 があるかと言われると、確かに比率ということが大きな意味があるのだと思います。 ○権丈氏 フランスでこれをやっているのは、DREESとかがやっていますが、これは厚労 省なんですか。 ○武藤課長補佐 一応、医療制度の担当省と聞いております。 ○権丈氏 医療制度の担当省庁が20年後のことをやっているわけですか。 ○武藤課長補佐 はい。 ○権丈氏 私は年金の方でも将来推計とか何かにも関わっているのですが、可能な限り 内閣府がやっているのを使うのが、やはり向こう側の意思なのだから仕方ないだろうと いうことになってきますよね。だから、専門的見地から見れば20年後の医療費の予測な ど無理だということは自明なのですから、内閣府という素人集団にまずやってもらって、 そこで厚労省が専門的見地から批判をしていくというポジションでいいのではないかと いう気がするのです。 ○石原調査課長 なぜ将来推計をやるかということですが、医療費はなぜ増えるのか。 高齢化で増えます。あと、診療報酬の改定、それから自然増と、大きなところはこの3 つだと思います。診療報酬改定は別にしまして、高齢化とか自然増、自然増は大体安定 的に推移しますから、これは政治的な意思とそれほど関係あるのかと言われれば、そう はないのかもしれない。でも伸びは高いかもしれないと思いますと、その2つでどれだ け伸びるかというのは、ある程度お示しすると、要するに、このままにしておいてもこ のぐらいになるというのを、ある程度お示しするのは政府としても1つの義務という面 もあるかなとは思っています。 ○橋本氏 今の議論とは別の言い方になるのかもしれませんが、先ほど御報告いただき ましたフランスの制度、今ここで議論されたのは、法律上義務化されていない長期予測、 OECDの方に報告する手前のものになっていたかと思います。フランスの場合はジュペプ ラン以降、ONDAMを計算するのがすごく重要で、ただし、計算はしているけれど、毎年オ ーバーになってどうしようかとなっている。  先ほどから権丈先生が使っているキーワードで「コントロールが可能かどうか」と。 これに関しては、実際にそれを抑える力を持っているかどうかだけではなく、予測可能 性が範疇にあるのかどうかがすごく大きいことです。このONDAMの計算で、来年これだけ 使うはずだと言っていたのが、翌年、突拍子もなく飛び出たと「何でや」って言ったと きに、それがバードフルのせいだと説明がつけられれば、それはコントロールの範囲内 だし、いや、そうではない、全然予測範囲外のことが起こったし、それは政策的に抑え る有効手段は我々は持っていないとなったならば、これはアンコントローラブルになっ てしまうのではないかと思います。  その点、今、日本の医療費推計の方は、どうしても長期推計の話にすごくいっていま す。短期の場合、確かに、大きな、余程の変動がなければ伸び率を去年のをパッと当て はめて、大体これぐらいの範囲といって、プラス・マイナス1%に入っているからコン トロール範囲内だという言い方もできると思うのです。ONDAMの場合は、もうちょっと中 味、内訳をものすごくきれいに出している部分があります。まさに、そのベースになっ ているのがフランス版診断群分類(GHM)、日本のDPCと同じです。そういうものに基づ いたもの、あと、病院会計情報なども含めたかなり系統的なデータを集めたことによっ て、綿密に計算しているというのがあろうかと思います。  ある意味、医療費推計の議論で、むしろそちらの方の話をもう少し固めた方がいいの ではないかなと。要するに、20年先はなんぼになるかの話の前に、来年いくらぐらいの はずだと。私はこう言ったからといって総枠予算制の推進者ではないのですが、要は、 これぐらいになるはずだと言っていたものが、翌年、蓋を開けてみたらどれぐらいずれ たのか、その原因は何なのかを1個1個示していくことが国民の御理解をいただいたり、 内閣の方に総額何パーセントを占めろというマクロな乱暴な話を、もう少し交渉しやす い格好にしていく上で重要なデータになるのではないかなと。そういう形のものも是非。 まさに井原先生が、最近電子レセプトなどのデータも含めて、詳細なものが手に入って くるようになったということなので、ある面、医療費の新しい推計は、長期ではなく、 来年、再来年を、いかにきっちりやるかという方向にウエイトを移していただくことも、 併せて御検討いただければと感じました。 ○権丈氏 橋本先生と全く同じ意見です。例えば年金だと、100年後までを5年に1回見 直していきましょうというルールを作る。それはどのような意味を持つかについてはい ろいろあるわけですが、20年後ということではなく、フランスのところでもありました が、例えば5年後みたいなところを毎年見直していく、そのときに政治的にいろいろや っていく、そこに政策が入ってくるときには、こういうふうに変動していく、選択肢と してこういうのがあるというような。何を推計するかというところの、原点のところを ある程度押さえていただければと思っています。20年後はどうのこうのというのは、私 はあまり意味がないのではないかと、この検討会に参加するときから言っておりました ので、そうしたことを申し上げました。 ○飯野座長 アメリカの薬価を調べろということですが、アメリカでもリスト価格と実 売価格がかなり違います。実際、州によっても違うので、なかなか調べられないのが実 情だと思います。  医療の供給側の話をする場合には日本の場合は、医師数はあまり重要ではないように 思います。というのは、日本の医師は医療の供給に非常に弾力性を持っていて、患者が たくさん来たらたくさん診てしまう。ところが、外国の公務員としての医師は、ある一 定数の患者しか診ないというわけですから、とにかく供給側の医師数は需要との関係で ものすごく重要な要因だと思います。  私の報告しましたスウェーデンもそうなのですが、技術進歩による経費増というのは、 実体は、ほとんど分からないというのが結論です。結局いずれの国においても、人口要 因による経費増を除いたものが「技術進歩、その他」による経費増という形で測られて いるようです。  ほかにはよろしいでしょうか。それでは、ちょうど時間になりましたので、本日はこ こまでにしたいと思います。次回の開催日程について事務局から何かありますか。 ○真鍋数理企画官 ただ今日程調整中ですので、改めて御連絡申し上げます。 ○飯野座長 それでは、そういうことで。本日はありがとうございました。                                     (了)                     [照会先]厚生労働省保険局調査課                         電話(代表)03(5253)1111                           武藤、村木(内線3295)