06/12/21 自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会 第1回議事録 (第1回)自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会議事録 第1回 自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検討会議事次第  1.日 時  平成18年12月21日(木) 15:00〜17:00  2.場 所  三田共用会議所 3階 大会議室(A・B会議室)  3.議 事    (1)開  会    (2)中谷障害保健福祉部長あいさつ    (3)構成員紹介等    (4)座長選任    (5)我が国における自殺の現状について    (6)関連の厚生労働省科学研究について 自殺未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究 自殺対策のための戦略研究    (7)その他    (8)閉  会 ○鷲見課長補佐 それでは、委員の先生は何名か遅れられているようですけれども、定 刻となりましたので、ただいまより第1回自殺未遂者・自殺者親族等のケアに関する検 討会を開催いたします。構成員の皆様方におかれましては、御多忙のところ御出席いた だきまして誠にありがとうございます。  私、座長が決まるまでの間、進行役を務めさせていただきます精神障害保健課の鷲見 でございます。よろしくお願いいたします。  まず、資料の確認をさせていただきたいと思います。  1枚目が議事次第。  資料1が、開催要綱。  資料2が、構成員名簿。  資料3が、「我が国の自殺の現状等」。  資料4が、伊藤先生から提出していただいております「自殺未遂者・遺族ケアに関す る研究について」。  資料5が、平安先生から提出していただいております「自殺対策のための戦略研究の 成り立ち」。  最後に、「自殺対策基本法」をお付けしております。  資料の不足、乱丁等がございましたら事務局までお申付けください。  それでは、会議の開催に当たりまして、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長の 中谷よりごあいさつ申し上げます。 ○中谷障害保健福祉部長 障害保健福祉部長をしております中谷比呂樹でございます。 この検討会を開催するということが決まりましてから、各委員の皆様へのお願いに参上 いたしましたところ、快くお引き受けいただきましてまず御礼を申し上げます。  また、本日は年末の大変お忙しい中を、少し足場の悪い会場までお越しいただきまし て、これにつきましても御礼を申し上げます。  そこで、会議を呼び掛けた者といたしまして、私たちが何を期待しているのかという ことを率直に冒頭で申し上げたいと思っているわけでございます。  御案内のとおり、自殺の問題は大変な問題でありまして、年間3万人を超える方々が 命を失う。こういう状況を受けまして、昨年7月の参議院厚生労働委員会におきまして 決議が採択されたところでございます。そして、更に自殺対策基本法が成立をし、本年 10月から施行されております。  この自殺の問題を私が考えるに、医学、医療の問題に限らず、やはり社会の問題とい うことを考えながら対策を進めていかないとだめであると思っておりますので、まさに この自殺対策基本法によりまして内閣府が中心となって各省庁がそれぞれの力を出し、 そしてそれを政府全体でまとめ上げて総合的な対策をするんだということでありまして、 来年5月を目途に自殺総合対策大綱というものを策定することとなっております。  この中には、自殺未遂者に対する支援ですとか、自殺者の親族の方々に対する支援、 こういうことについても盛り込まれることとなっておりまして、この検討会におきます 論議というのは極めて大切なものであると思っております。  一方、厚生労働省はやはり保健、医療、福祉の専門エージェンシーでありますので、 そういう観点からの対策は非常に重要だと思って一生懸命やっておりまして、私たちは まずはどういうことをしたいのかという専門家の方々の御意見を聞こうというので研究 班を設けているところでございます。自殺未遂者、自殺者遺族等へのケアに関する研究 でございます。この研究班におきましては、遺族の皆様などに対してどのような専門的 な支援が必要なのかということについて今、研究を進めていただいておりまして、本年 スタートで3年計画で進めておるところでございます。  この専門家の皆様方による研究をどうやって社会に応用していくのか。私たちは、今 日このテーブルを囲んでおります実際に現場で自殺されました遺族の方に接しておられ る方々のお知恵は非常に重要だと思っています。研究班とここの検討会の相互のやり取 りの中でソフト面、それからそれを広げていく仕組み面、この両方についての論議を私 たちはしていきたいと思っているわけでございます。したがって、研究班とこの検討会 は屋上屋ではありませんで、こういうやり取りをしながらいい仕組みといい中身をつく っていきたいというのが私たちの希望なのでございます。  そしてその枠組み、時間的なフレームでありますけれども、研究班は今は同時並行で 進んでおりまして、その結果を受けながら論議をするという形になりますので、これか ら大よそ1年かけまして、逆に言えば来年度の末くらいまでに行政施策や民間団体によ る支援の方策についての御意見を提言として取りまとめていただけたら私たちは大変あ りがたいと考えております。  そこで、これが私たちの希望なのでありますけれども、今日はキックオフの会議でご ざいます。本日は、自殺対策に関しましてこれまでの経緯を事務局から説明をさせます。 それから、現在進めております研究の進捗状況につきまして、それぞれの責任ある立場 の方々からブリーフィングを伺うということでございます。これをきっかけといたしま して、これから1年を超えるスパンになりますけれども、お知恵を拝借しながらいい中 身、そしてそれを皆様方が社会で応用することによりまして自殺を私たちは防ぎたい。 そして、仮に自殺された方の場合にあっても遺族の方々へのケアを十分したい。こうい う気持ちで臨んでいきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鷲見課長補佐 それでは、次に事務局を紹介させていただきます。  新村精神・障害保健課長でございます。  染谷医療観察法医療体制整備推進室長でございます。  そして私、先ほど紹介させていただきました鷲見でございます。  私の左におりますのが黒木精神・障害保健課主査でございます。  よろしくお願いいたします。  続きまして、本検討会構成員の皆様から自己紹介をいただきたいと思います。お手元 の資料2に検討会構成員名簿がございますので、そちらを御参照ください。  なお、清水新二構成員につきましては少々遅れるという御連絡をいただいております が、西原構成員におかれましても少し遅れているようでございます。  五十音順に、伊藤構成員からお願いをしたいと思います。  なお、本検討会におきましては原則公開のため、検討会の審議内容は厚生労働省のホ ームページに議事録として掲載される予定でおりますので、あらかじめ御了承いただき たいと思います。  それでは、伊藤構成員よろしくお願いたします。 ○伊藤構成員 国立精神・神経センター精神保健研究所社会精神保健部の伊藤弘人と申 します。今回、資料4に基づきまして、今年度から始めました研究について御紹介を申 し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○五十子構成員 五十子敬子と申します。尚美学園大学総合政策学部の教授をしており ます。グリーフケア・サポートプラザなどでもいろいろと勉強させていただいておりま す。どうぞよろしくお願いいたします。 ○上田構成員 私、エイズ予防財団に勤務しております上田と申します。私は以前、精 神保健研究所に勤務しているときに、自殺に関する研究班に携わらせていただきました し、あるいは自殺対策支援ページ、「いきる」の立上げに参画した経験がございます。現 在はエイズということで必ずしも直接タッチしておりませんけれども、少しでもお役に 立てばということで参加させていただいております。よろしくお願いいたします。 ○川野構成員 国立精神・神経センター精神保健研究所の自殺予防対策センターの方に おります川野と申します。よろしくお願いいたします。 ○斎藤構成員 私は、日本いのちの電話連盟の常務理事の斎藤でございます。たまたま 自殺予防学会の理事長をしております。よろしくお願いをいたします。 ○清水(新)構成員 奈良女子大学の清水でございます。以前にも厚生労働省の科研の 方で自殺対策の関係の研究をしてまいりました。 ○清水(康)構成員 こんにちは。NPO法人自殺対策支援センターライフリンク代表 の清水と申します。隣の清水さんは清水先生で、私は清水さんになるかと思うんですけ れども、現場で感じていることはいろいろありますので是非その声を国の施策に反映さ せていただくように発言させていただければと思っています。よろしくお願いいたしま す。 ○西田構成員 分かちあいの会あんだんての西田と申します。5月に仲間と埼玉県の越 谷の方で分かちあいの会を立ち上げて遺族の分かちあいの場をつくっております。  それから、仕事としてはあしなが育英会というところに勤めていまして、遺児や遺族 のケアに6年くらい携わっているものでございます。よろしくお願いします。 ○町野構成員 上智大学法学研究科の町野と申します。刑事法をロースクールで教えて おりまして、こちらの仕事とは直接関係はないように思いますが、もともと犯罪被害者 に対するケアの問題、DVの場合の被害者の対応の問題、それから臓器移植に関係いた しまして遺族についてのグリーフィングの問題、それらの問題について接する機会があ りまして、この問題も非常に重大な問題だと思いますので、どうか皆さんよろしくお願 いいたします。○平田構成員 静岡県立こころの医療センターの平田と申します。つい 6月までは千葉県の精神科医療センターというところに勤めておりまして、主に精神科 救急医療の実践を行ってまいりました。日本精神科救急学会の理事も務めておりまして、 この分野の活動、研究には大変興味がございますので参加をいたしました。よろしくお 願いいたします。 ○平安構成員 横浜市立大学精神医学教授の平安と申します。今回は厚生労働省の自殺 対策のための戦略研究で救急介入班のチームリーダーをしております。救急の中で自殺 企図を行って搬送された方々は、次に自殺既遂をする確率が非常に高くなりますので、 ケースマネジメントをすることによってその方々の再企図を防ぐために支援していくと いった研究をしております。  今、ほかにも日本うつ病学会とか、日本精神・神経学会の方で評議員等をしておりま す。よろしくお願いいたします。 ○平山構成員 平山でございます。自死遺族ケア団体の全国ネットの代表をしておりま す。また、グリーフケア・サポートプラザの理事長、それから精神科医として臨床に携 わっております。そのほか、聖学院大学の人間福祉学科で教員として働いております。 ○渡邉構成員 青森県立精神保健福祉センターの渡邉でございます。青森県での自殺予 防活動に取り組んでおりますが、県の立場としてのみならず、地域住民の立場からの意 見なども述べさせていただければと思います。よろしくお願いします。 ○鷲見課長補佐 それでは、次に座長の選出に移らせていただきたいと思います。  座長は構成員の互選により決めることとしております。どなたか御推薦いただけませ んでしょうか。 ○渡邉構成員 上田構成員を推薦いたします。 ○鷲見課長補佐 他の構成員の方、よろしいでしょうか。               (「異議なし」と声あり) ○鷲見課長補佐 ありがとうございます。それでは、上田茂構成員を御推薦いただきま して構成員の皆様方に御賛同いただきましたので、上田構成員に座長をお願いしたいと 思います。  それでは、上田構成員、座長席にお移りいただけますでしょうか。  以後の進行につきましては上田座長にお願いしたいと思います。よろしくお願いいた します。              (上田構成員 座長席へ移動) ○上田座長 上田でございます。ただいま座長に推薦いただき、また皆様方から賛同い ただきましたが、私、先ほどお話をしましたように必ずしもこの分野での専門ではあり ませんので、少し自信がないところがございます。しかしながら、この会議には実際に 取り組まれている方、あるいは専門家の方、それぞれこのテーマについて熱心に考え、 そして取り組まれる方がいらっしゃいます。是非皆様方のいろいろな御意見をまとめて、 そして自殺対策基本法等で自殺未遂者あるいは自殺親族等のケアは大きな課題でありま すので、何とか具体的に一つの方向が出せるように、私なりに努力していきたいと思い ます。また、皆様方の御指導、御協力をいただきながら進めてまいりたいと思いますの で、どうかよろしくお願いします。  それでは、これから議事に入りますが、1点だけお願いがございます。私は座長を務 めさせていただきますが、私の座長の補佐役としてこの分野でも大変専門でいらっしゃ います平安構成員にお願いしたいと思いますが、皆様方よろしいでしょうか。               (「異議なし」と声あり) ○上田座長 ありがとうございます。それでは、平安委員よろしくお願いいたします。  それでは、これから議事次第に従いまして議事に入らせていただきます。それぞれ今 日予定されておりますが、まず初めに事務局より資料の概要説明をお願いします。事務 局、よろしくお願いします。 ○黒木主査 よろしくお願いいたします。資料3に沿って説明させていただきます。  まず資料3の2ページ目でございますが、「我が国の自殺死亡の推移」がグラフとなっ ております。御存じのように、平成9年から10年にかけまして3万人を超えまして、そ の後、3万人の辺りをずっと推移している現状がございます。  この数が国際的に見てどのような位置にあるかについて次の3ページ目となっており ます。国際的には、G8の中でロシアに次いで高い水準となっています。  その自殺の原因、動機がどのようについては、警察庁の統計から見ることができます。 警察庁の統計では、最も多い原因となっているのが健康問題、その次に経済・生活問題 と続いております。この警察庁の統計は、今後見直していくと警察庁から聞いておりま す。  このように日本では自殺が多いという状況が続いているのですが、5ページ目をごら んください。これまで、厚生労働省が中心となりうつ対策を中心に自殺対策に取り組ん でまいりましたが、現在までのところ、自殺は減少してきておりません。そのため、平 成17年7月に参議院厚生労働委員会で「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進 を求める決議」がなされました。この中で、自殺対策につきまして総合的に取り組むべ きだと決議がなされました。この最後の5番目のところに四角で囲んでございますが、 こちらに自殺をした人の遺族や、自殺未遂者に対して支援を行うべきであるということ が盛り込まれております。  この決議に基づきまして、次の6ページ目をごらんください。内閣官房副長官の下に 自殺対策関係省庁連絡会議が設置され、ここで政府がどのような自殺対策に取り組んで いくかということを昨年議論し、昨年の12月26日に「自殺予防に向けての政府の総合 的な対策について」を取りまとめました。  この資料の8ページ目と9ページ目になりますが、自殺未遂者のケアと、自殺者の遺 族等のケアにつきまして、厚生労働省が中心となり検討を行うこととなっております。  こうした政府の取りまとめに沿って、厚生労働省や関係省庁が自殺対策に取り組んで おりますが、今年の通常国会にて6月に議員立法で自殺対策基本法が成立しました。こ れが10ページ目となっており、10月28日に施行されました。この法律自体は、参照資 料をご覧ください。この基本施策の中において、7番目と8番目に線を引いております が、自殺未遂者に対する支援や、自殺者の親族に対する支援が盛り込まれております。  そして、11月に内閣府に自殺総合対策会議が設置されました。こちらが11ページ目 です。会長が内閣官房長官となっており関係省庁から大臣等が参画している会議となっ ています。  こちらの会議の中で自殺総合対策大綱の案を作成することとなっていますが、現在こ の作業を内閣府で行っていると聞いております。この中においても、7番目と8番目で 自殺未遂者に対する支援と、自殺者の親族等に対する支援が盛り込まれることとなって おります。  現在、内閣府で大綱作成を行うこととなっておりますが、厚生労働省においてはこの 検討会にて自殺未遂者に対する支援、自殺者の親族に対する支援につきまして議論を進 めてまいりたいと思います。以上となります。 ○上田座長 ありがとうございました。この検討会の要綱といいますか、目的は資料1 にありますし、先ほど中谷部長の方からもお話がございました。皆様方、これまでの御 経験や、お考えもあるでしょうし、そのことについてお話を伺いたいのですが、とりあ えずは議題の5の現状、それから6の科学研究、ここをそれぞれ御説明していただいて、 それに対する御質問をしていただき、今日は一応5時までを予定しておりますが、その 残った時間の中で皆様方の御意見もいただいて進めたいと思っておりますが、よろしい でしょうか。  皆様方はもう既に御承知かと思いますが、ただいま事務局の方から資料3に基づきま してこれまでの現状といいますか、経過の御説明がありました。何かこの説明につきま して御質問ございますか。 ○清水(康)構成員 私は、内閣府の「自殺総合対策の在り方検討会」のメンバーでも あるのですけれども、大綱案は来年の6月をめどにまとめると聞いています。先ほど中 谷さんのお話でも5月ということでしたが、ここの検討会の提言といいますか、議論し たことをまとめるのは来年度の末ということですね。てっきりここで議論されたことが 大綱の方に反映されていくのかと私は思っていたのですけれども、その辺りの関係とい うのはどういうことになっているのでしょうか。 ○上田座長 その点についてお願いいたします。 ○鷲見課長補佐 ありがとうございます。自殺大綱につきましては先ほど御説明させて いただきましたとおり5月から6月にかけまして大綱というものが策定されると聞いて おります。  それで、これにつきましてこの中身に先ほど御説明しましたとおり、自殺未遂者の関 係、それから親族等のケアに関する関係も柱として盛り込まれることになります。です ので、大綱の具体的な中身を充実させるというのがこの検討会の役割かと思っておりま す。  この大綱の中にどこまで盛り込むことができるのか。できる限りの範囲で、私ども基 本方針などについては盛り込みたいと考えておりますが、更にその肉付けというか、具 体的な実践的な内容について今後この検討会で詰めていただいて、来年度末までにそう したものを出したいというのが私どもの考えというか、お願いというか、そのような状 況でございます。 ○清水(康)構成員 確認させていただくと、大綱の中に盛り込まれている遺族支援、 未遂者支援の方向性を踏まえた上でこちらで肉付けをしていくということですね。 ○鷲見課長補佐 そこは当然そのようになると思います。この辺りにつきましてはまた 内閣府の方、そして内閣府の委員の先生方などともうまく連携をとりながら、具体的な 中身というものをきちんと詰めていきたいと思います。あくまでも大綱というのは政府 全体で取り組むものですので、その一翼を私ども厚生労働省、そして先生方の検討会が 担っているという認識であります。 ○上田座長 よろしいですか。そうしますと、そういう大綱の動きも見ながらこの場で もいろいろ話題にするというか、意見をいただきながら反映するというようなことを考 えていきましょうということですね。ほかにございますか。よろしいでしょうか。では、 また御質問がありましたら最後にいただきたいと思います。  西原さんがいらっしゃいましたので、自己紹介をお願いします。 ○西原構成員 大幅に遅れてしまいました。自殺防止センター東京の西原由記子でござ います。 ○上田座長 ありがとうございます。  それでは、続きまして、議事に従いまして「関連の厚生労働省科学研究について」の うち「自殺未遂者および自殺者遺族等へのケアに関する研究」と「自殺対策のための戦 略研究」がありますが、まず初めに伊藤構成員から自殺未遂者・自殺遺族等へのケアに 関する研究についての御説明をお願いいたしたいと思います。よろしくお願いします。 ○伊藤構成員 それでは、資料4に基づきまして御説明申し上げます。  先ほど中谷部長から御紹介がありましたように、本年度から厚生労働科学研究としま して自殺未遂者・遺族ケアに関する研究を開始いたしました。まだ今年度から開始した 研究ではありますが、この機会に進捗を御紹介申し上げるとともに、先生方の御意見を 是非お伺いをして進めていきたいと思っております。  既に厚生労働科学研究では、自殺の実態に基づく予防対策研究が平成16年度から行わ れてきました。また、平安構成員がリーダーのお一人となってお進めになられている自 殺防止対策戦略研究も17年度から開始されているという状況でありまして、私たちの研 究を開始した経緯はこのような研究を進める過程で遺族ケアにつながる方策や未遂者ケ アにつながる方策を検討する研究の必要性が指摘されていたことに始まります。今年度 10月からは、先に事務局から御紹介がありましたように、自殺予防総合対策センターが 設置され、関係者の御努力によって成立した自殺対策基本法も施行されています。  次に2枚目、3枚目にまいります。このような自殺対策の進展の中で、当研究班では 当初まず未遂者や遺族の方へ自殺対策に関するどのような情報が必要なのかを明らかに することから開始をいたしました。すなわち、内容やタイミング、または伝える方法な どをどのようにすればよいかという検討であります。また、情報を求めている未遂者、 遺族ケアの関係者は大変多様でございまして、御本人、御家族や御友人、そして医療提 供者、警察や救急隊員の方々も関係いたします。  このような検討を進める過程で、既に先進的なお取り組みをなされている事例を伺う ことができました。枚数がないので、回覧とさせていただきますけれども、クリアファ イルになっていて必要な情報をファイルすることができるものであります。  都道府県としましては、青森県や岩手県、秋田県などがリーフレット作成して既に配 布を始めていらっしゃいます。また、清水構成員のライフリンクの皆さんが、情報が身 近に保管されるという意味でクリアファイルにまとめたものを9月10日の自殺予防デ ーで御披露いただき、大変触発されました。  このような過程で始まった当研究班は、その後、遺族ケアに関する研究と未遂者ケア に関する研究を並行して進めることになりました。  それでは、遺族ケアについては分担研究である川野構成員から説明いたします。○川 野構成員 それでは、代わりまして私の方から遺族ケアの部分について御説明申し上げ ます。  めくっていただきまして4ページのところに「自死遺族ケア研究の必要性」というこ とで4点挙げられております。まずよく言われている通説とも言えますけれども、1つ の自殺に対してその周囲には何人もの強く影響を受けられる方がいらっしゃるというこ とで、その御遺族という方は本当にたくさんいらっしゃるということが1つあります。  第2点ですが、その中でも特に自殺ということをめぐってはさまざまな条件が絡まり まして、いわゆる正常悲嘆ではない複雑な悲嘆、悲しみを受ける方がいらっしゃる。そ の予防と治療でありますとか、あるいは精神身体的な健康の維持ですとか、あるいは社 会的な問題が絡んできますので特殊な支援が必要であるという点が挙げられます。  第3点は第2点とも結び付くことですけれども、自殺をめぐってそのことが御遺族の 方からなかなか発信することが難しい、あるいはつらいというようなこと。人と分かち 合うということがなかなか難しいということ。そのことが、逆に必要な情報が届かない ということと関わり合っているということで、その背景には御遺族が特殊に感じられる さまざまな心理的な経験でありますとか、二次被害でありますとか、あるいは偏見とい ったような問題があると考えております。  第4点は、少し特殊なこれまでの3つとは違うトーンになりますけれども、実は自殺 対策というものを通常プリベンション、インタンベーション、ポストベンションという ふうに分けるという理解がありますが、逆に言うとそれらは相互に深く関わり合ってい るわけですが、その意味で自殺対策を進めていく上で遺族を支援していくということの 重要性、あるいは御遺族が果たし得る役割ということは非常に大きく、例えば自殺予防 相談者センターの方で取り組んでいる心理学的剖検といった研究を進める上でも御遺族 の協力ということは不可欠ですので、この2つはあるいは3つのポストベンショ、プリ ベンション、インタンベンションといったものを切り離すべきではなく、それぞれが相 互に深く関連づいているという意味でも自死遺族ケアの研究を進めることの重要性はあ るのではないかと考えております。  1枚目めくっていただきますと、現在当研究班が取り組んでおります遺族ケア研究の 全体像を少し図式化しております。ちょっと見にくい形になっておりますが、5ページ にあります図式でまず黄色く色付いている三角形が御遺族を表しているわけですけれど も、大きな薄い三角形の方が正常悲嘆、いわゆる親しい者を亡くした人が通常経験する ようなプロセスというものがあるわけです。  その中で、先ほど申し上げたような特殊な経験あるいはある種の条件が結び付いたと きに正常悲嘆のプロセスをたどらない方たちのことをここでは危機群と呼ぶとして濃い 三角形で表していますが、全体の薄い三角形の中に専門的な支援を必要となさる方と、 それから正常悲嘆の見守りやサポートが必要な方たちとがいらっしゃるというふうにこ の三角形で表しています。  更にその外側に点線の三角形で表現していますのが、申し上げましたように分かち合 えない、言い出しにくいというような自死特有の状況の中でケアを受けていない方たち がいらっしゃる。  このように御遺族の理念を理念系ですけれども、大きく3つに分けてみる。そうする と、それぞれに必要なサポートというものが機能として出てくるのではないかというよ うな図式です。正常悲嘆群の方へは青い丸で書きましたように正常悲嘆への見守り、サ ポートといったものが必要で、そこのところは本日構成員の方々の中にもいらっしゃい ます自助あるいは支援グループといった方たちの力が必要になってくるところでもあり ます。  あるいは、危機群というところに関しては、より専門的な支援、特に心身の健康を含 めた、より専門的な支援というものが必要になってくるところがあり、ここはやはりメ ディカルな部分などが必要になってまいります。  更にその外側にある現在ケアを受けていない御遺族に対してどのように情報を提供し ていけばいいのかというような問題も出てまいります。  このような正常悲嘆へのサポート、専門的な支援、あるいは更に現在ケアを受けてい らっしゃらない方たちへの情報提供といったところから我々の研究は進めておりますが、 これらの全体を推進地域で推進していくエージェントとして各地域の精神保健福祉セン ターというものが位置づくとして、そこを中心に地域で活用できるケアガイドラインと いうものが最終的にできていけばよいのではないかというような方針で4つの研究、つ まり自助グループの状態、情報提供の方法、精神保健福祉センターに対しては研修案の 作成、それから専門的支援についての整理も含めた上で全体的なケアガイドラインとい うものを整えることで地域での遺族支援というものが推進できていくのではないかとい う形で、本研究は自殺予防総合対策センターの下に進めているという状況でございます。  1枚めくっていただきますと、6ページ目には現在各地域で先進的に進んでおります 遺族ケアの状況をおおよその様子がわかるように概念図でお示しいたしました。ここに 青森、秋田、岩手、宮城といった東北の先進の取り組みなどを書いておりますけれども、 もちろんそれ以外の地域でもさまざまな取り組みがございます。この日本地図の方が色 分けしてございますが、濃い青があるところは自助グループ、支援グループがあって直 接のケアに取り組んでいらっしゃるというふうに私どもが把握している都道府県でござ います。やや薄いブルーの方はそれ以外の、例えばシンポジウムですとか研修会を開催 している、あるいは今後そういうグループを立ち上げる準備があるという形で何らかの 動きがある都道府県、それから白いところは私どもが未確認のところでございます。こ れらの情報は先日、自殺予防総合対策センターと国立保健医療科学院と共同で開催され ました自殺対策企画研修に御参加いただいた現場担当の皆様からお聞きしてまとめたも のでございます。  全国ではさまざまな取り組みがあるというのが、このようにホットライン、講習会あ るいはさまざまな支援グループが立ち上がっているところ、そのグループ同士の連携が あるところなど、現在多様な取り組みとはいえ、まだまだ活動が動いていないところも あるというような実態が見えるかと思います。  もう一枚めくっていただきますと、7ページ目には先ほど本研究班が取り組んでおり ますうちの精神保健福祉センター職員へ向けて第1回の研修会を開催いたしました。こ れに関しましては清水構成員、渡邉構成員にも御助力いただきまして、この研修会を開 きながらよりよいモデルを開発することに取り組んでいるところでございます。都道府 県における遺族支援・ケア活動においては精神保健福祉センターの役割が大きいという のは先ほど申し上げたとおりですが、モデル開発ということで11月24日、25日に開催 いたしました。全国都道府県、政令指定都市から55名の方たちに御参加いただきました ので、かなりの地域をカバーした研修会になりました。  いわゆる自殺の問題から遺族支援、あるいは実際に必要なもの、あるいはワークショ ップのような形でどんなメッセージが必要かというようなことも含めて、かなり広範の プログラムを試してみたわけですけれども、感想としては自死遺族ケアで御遺族の心を 重視することの必要性であるとか、実際にどう動いていくべきかというためのワークシ ョップあるいは相互の連携といったものについて肯定的な評価をいただいたというよう な経緯でございます。  以上で、伊藤部長の方に戻したいと思います。 ○伊藤構成員 この研修会には平山先生にも講師として来ていただいており、ほとんど すべての皆様に御協力いただきながら企画運営をしています。  続きまして、未遂者ケアの研究に関して御説明をいたします。次のページであります が、大きく3つの柱で研究を進めています。既に戦略研究において未遂者へのケースマ ネジメントや専門家との連携に関する研究は進められていますので、当研究班では先行 している研究の補完をするという形で研究を実施しています。  まず(1)とあります、冒頭でお話をいたしました情報提供の内容や方法の開発でありま す。  第2は次のスライドでも引き続き御紹介をいたしますが、(2)としまして希死念慮者の 方への対応の方法に関する調査であります。  第3は(3)としまして、これらの成果を参考にしながら自殺未遂者のケアのガイドライ ンを作成していこうというものです。これからの研究の進捗につきましては、自殺予防 総合対策センターへ報告しながら進めております。本日は是非先生方の御意見をお伺い したいと思っております。  次のページ、最後でありますが、先ほど2番目で御紹介をしました希死念慮者への対 応に関する調査でございます。これは先ほど平安構成員も最初の御説明でおっしゃって いましたが、未遂者の方というのはその後また自殺企図をするリスクが高い。そして、 その背景には希死念慮、自分が死にたいと思われる方が少なくないということが一般的 に言われております。これまでの先行研究では、自殺された方々は亡くなる前に医療機 関に通院していることが多くあります。それは内科であったり、いろいろな科であった りするわけでありますが、医療機関にいらっしゃるということが言われております。医 療機関において希死念慮を持つ患者さんに接することは少なくないのです。  そこで、この研究の目的は、医療機関における現実的な対応を調査しまして、今後自 殺対策への示唆を得ようというものです。  調査対象は、約500の病院の内科救急診療科及び精神・神経科の医長を予定しており ます。今、臨床で現実にどのような対応をなさっていらっしゃるのか。その対応には、 臨床に根差した英知が含まれていると考えられます。調査により、希死念慮を持つ患者 さんの頻度、または自殺をしないようにとどめるために、ご本人へ伝えている具体的な メッセージを伺うことにより、これからの自殺対策への示唆が得られればと願っており ます。今月の初めに当センターの倫理委員会で承認を受けましたので、現在調査を急い で準備をしているところであります。  以上が、自殺未遂者・遺族ケアに関する研究班の現在の研究の進捗状況でございます。 ○上田座長 ありがとうございました。こちらの検討会との関連ということで、それぞ れの研究についての御紹介がございました。まず何か御質問はありますか。 ○平田構成員 今の伊藤先生の最後のスライドですけれども、これはこれから行う研究 ですね。 ○伊藤構成員 そうです。 ○平田構成員 調査対象がちょっと狭いかという気がするのですけれども、例えば現在 全国各地にものすごい勢いで広がっている精神科のクリニックの先生方ですね。日精診、 診療所協会などに問い合わせるとこの分野に非常に熱心な先生方がおられると思います。  それから、精神科の救急医療の現場でどれぐらい自殺未遂者、あるいは希死念慮を持 っている人がアクセスするのかということも、頻度を調べる上では有効ではないかとい う気がいたしますので御提案をいたしたいと思います。 ○伊藤構成員 どうもありがとうございます。対象医療機関をどのように考えるかは議 論して参りまして、当面精神科病床を持っている病院にいたしました。その意味で、平 田先生がおっしゃられた救急の病棟は対象になっていますが、診療所は今回のデザイン ではまだ入っておりません。今の御提案を伺いまして、これからの調査を改めて考えて いきたいと思います。どうもありがとうございました。 ○上田座長 ほかにございますか。  では、清水さんどうぞ。 ○清水(康)構成員 多分、この後のディスカッションのところでもう少し詳しくと思 っているのですけれども、問題提起も含めて3点申し上げます。  1つは、遺族支援に関してです。私は、「遺族支援」というふうに自分では使うんです。 余り「遺族ケア」という言葉は使わない。なぜかというと、遺族の方々はケアされる対 象というふうに見られることに対して非常に違和感を持つ方が多くて、実際に遺族の人 たちが必要としているのはケアというよりも、ご自身が持っている回復力を発揮させる ことのできる場だと思うんです。確かに、中には川野さんが御説明くださった三角形の 頂点のように「ケアを必要とされている方々」もいるんですけれども、基本的には遺族 の方々はある支援を必要としていて、それは自分自身で自分自身をケアするための場だ と、その場づくりを社会の支援として求めているのではないかということを感じたとい うのが1点です。  それから、4ページの「自死遺族ケア研究の必要性」で「心理学的剖検と遺族ケアは 車の両輪」とありますが、これは「車の両輪である」ということなのか、「両輪にすべき」 ということなのか、この文章のニュアンスとしてどちらかなのかはわかりませんけれど も、私はいろいろ現場の方たちから話を聞いていると、心理学的剖検に対しては遺族の 方々はかなり違和感をお持ちです。まず調査方法しかり、あるいはそもそも心理学的剖 検という用語自体、疫学的調査に対しての違和感を持っている御遺族の方が実際に多い というのが実情だろうと思います。  ですから、これは現状ではうまくいっていないのではないかというのが私の認識で、 むしろ心理学的剖検よりも自殺の対策に直接的につながっていくような予防対策調査み たいな社会的な調査が必要なのではないでしょうか。それに対しては遺族の方も、自分 の体験を語ることによって実際に対策が動いていくんだという感覚を持ちながらお話を してくださる。また、お話をすることができるだろうと思うので、疫学的な観点からよ りも社会的な対策につなげていくような観点に立った調査が必要なんだというところで 認識を持っていく必要があるのではないかということが2点目です。  3点目は未遂者の部分ですけれども、今回は医療の観点からということになるかと思 います。ただ、医療を入り口としない部分での未遂者の支援というのもたくさんあるの で、是非参考人の方とかを呼んでいただいて、多重債務者支援に関わっている方とか、 あるいは労働の現場にいらっしゃる方、これは医療と重なってくる部分はありますけれ ども、過重労働といった観点からも未遂者あるいは念慮者への支援というものはしてい けるだろうと思いますので、是非そういう部分を盛り込んでいただければと思います。 以上です。 ○上田座長 かなり基本的な御指摘で、ケアに関する検討会となっていますので、これ はかなりやり取りがあると思いますが、とりあえずここの時点では清水さんの方から基 本的な御指摘があったということで預からせていただきながら、折に触れてこれに関す る御意見をいただきたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。  また最後の方に議論をする時間を設けますので、それではもう一つの戦略研究につき まして、平安委員の方からお願いいたします。 ○平安構成員 資料5をごらんになっていただきながら説明させていただきたいと思い ます。  そもそも戦略研究とは、御存じの方もいらっしゃると思いますが、厚生労働省によっ て平成17年度に開始された研究です。戦略研究は研究結果を出すことが求められ、もと もとこういう結果を出しましょうということが示されていて、それに伴った研究計画が できて、その研究に参加したいという研究者が参加している研究でございます。  これまでのさまざまな科学研究などの助成と違いまして、ある程度枠組みが決まって いて、きちんとした条件の下で研究をして、その研究が社会に役立つものであるかどう かということを検証しながらやっていくということであります。  平成17年度は自殺対策と糖尿病に関して戦略研究がスタートしました。私どもの自殺 対策に対する研究の中には2つの研究の柱がございます。1つが地域に対する介入研究、 これは資料に目を通していただければよろしいのですが、慶応大学の大野先生を中心と しています。地域にさまざまな自殺予防対策をしていくことでその対策をした地域と、 通常どおりの地域活動をした地域で差が出るかどうかということを5年間の研究の中で 検証をする。したがって、きちんとした対策、プログラムが本当に実効性があって、今 後政策としてやっていく上で社会に役立つものかどうかということを科学的に検証する ということになります。  救急介入の方でも同じ目的で行うということです。先ほど来お話がありますように、 自殺未遂を行った方というのはその後、自殺既遂をしてしまう確率が高くなる。いわゆ るハイリスクということになります。現実に自殺を行った方々を検証してみますと4割 近い方が過去に自殺未遂の経験があったということも言われておりますので、やはり自 殺未遂者に何らかの関わりをしていくことによって次の自殺を防ぐということが一つの 戦略的な方向ではないかということで本研究が行われています。研究の実施に関しては、 研究グループ以外にもさまざまな委員会を設けて支援をしていただいております。  次のページをお願いします。私どもは救命介入研究班について今日は御説明させてい ただきます。研究参加施設は2ページ目のとおりなのですが、現在14の大学を中心とし た救命センター、あるいは救命救急センターを持つ関連の病院ということで、約20の救 命センターがこの研究に関わっております。同一の研究計画、いわゆるプロトコールに 基づいて介入研究を行っております。それ以外にも、研究者以外をサポートする団体と しまして日本救急医学会あるいは日本総合病院精神医学会等の学会に協力していただい ております。 3ページ目でございますが、救命センターがなぜこういった自殺企図者 あるいは自殺未遂者に対して一つの窓口になるか。先ほど清水さんからも、別な入り口 も当然あるのですが、自殺企図者にとって救命センターというのは一つの関わりを持つ 窓口になるということでございます。自殺企図を行われた方で当然そのことによって非 常に致死的な企図を行った方は救命救急センターへ搬送されます。そして、救命医によ って蘇生されて回復する。場合によっては、残念ながらその場で亡くなってしまう方も いらっしゃる。先ほどもありましたように当然御家族がいらっしゃいますので、そのと きには遺族ケア、私たちは病院ですのでケアという言葉をあえて使っておりますが、後 でまた御説明しますけれども、ここも一つの窓口になると考えております。  幸い助かって回復した方々は退院していく、あるいは転院していくということになる わけで、もちろんおうちに帰られる方もいらっしゃいますが、退院後も私どもの方でさ まざまなお助けをする、あるいは支援をするということを考えております。この右下に ありますようにもちろん危機介入ということを行っていくわけなのですが、私たちは精 神科医ですので精神医学的な評価を行って精神科的な治療に結び付けます。あるいは心 理社会的、先ほど御指摘のあったような経済的な問題でありますとか、医療以外、医学 以外のところも可能な限り評価をしていく。  これが、ケースマネジメントと言っている言葉でございます。つまり、ケアでもない。 ケア以上のことをしよう。ケアであれば単純に治療をしてそれでおしまいという考え方 もありますが、それだけでは全然足りない。上にありますように、私どものところは4、 5年前からこういった自殺予防に関しての研究を開始しまして、さまざまな形できちん と医療をして、かかりつけの先生がいらっしゃればそこにちゃんと情報を伝えたり、あ るいは医療にかかっていない方は紹介したり、あるいは私ども自身で退院後も診たりと いうことをやってまいりました。現実にそういった努力をしている病院も、あるいは救 命センターもあるのですが、日本の自殺者はもちろん減っておりません。やはり医学だ けあるいは医療だけでは足りないということもありまして、このケースマネジメントを 複合的に医療以外のところもサポートするという手法が大事ではないかということで、 こういった研究になっております。  この中で横浜市立大学附属病院の救命センターの特徴的なところは、救命センターに 現在2名精神科の常勤の医師がおります。ここは救命センターですからいわゆる救急の 蘇生をする現場に精神科医がいて、実際に救命蘇生も一緒に行っておりますし、患者さ んが目が覚めた段階で精神医学的な評価をしたり、あるいはもちろん精神療法等の精神 科的な治療を行ったり、初期から介入していくということをしておりますが、プラスし てその後のケースマネジメントもするということでございます。  次をお願いします。これは繰り返しなりますけれども、救命センターで介入を行う理 由はあくまでも医学とか研究の視点から見た観点が1つです。それから、その後のケー スマネジメントに直接つなげられる。要するに、タイムラグが非常に少なくて済むとい うことが利点かと思います。こういった利点を述べておるわけですけれども、直接御本 人からお話が、しかも専門家が聞くことができるというのがもう1つの利点です。それ から、直接本人に対して介入ができる。そして、まさにそれを科学的に解析することに よって、次の未遂者に対して、より効果的な方法を検証することができるということが 言えます。  次をお願いします。5ページ目です。では、実際に何をしていくかということなので すが、介入手法というものがございます。さまざまな精神療法的な介入手法がこれまで も行われてきたのですが、現在のところ、これをやればいいという決定的なものはまだ 見つかっておりません。これは非常に特殊な領域でもありますし、研究者の数も多くあ りませんので、自殺未遂を行った方に、これをすればもう二度と自殺未遂は起きないと いう効果的な方法は基本的にはまだわかっていないという現状がございます。この理由 は右に書いてあるようなことで、それぞれ研究デザインもばらばらですし、症例ももち ろん限られた患者さんに対しての効果ということになりますから、1つの施設だけでは なかなか難しいと言えます。  6ページ目です。では、実際にこれまでどんなことがされてきたかということで、私 どもは過去のケースマネジメントの報告、これは医療だけではなくてさまざまな公衆衛 生的なモデルあるいは民間団体が行ってきたようなことを踏まえて、確実にできそうな ものを考えてみました。  将来的には7ページですけれども、救命センターで今までも当然自殺企図の方がいて、 自殺未遂の方がいて、家族がいて、当事者の方病院との関係というものがあったのです が、それをもう少し拡大して、救命センターを中心としてケースマネージャーがいて、 その方を担当する精神科の先生、あるいは内科の先生、ほかのさまざまな社会資源等々 をして包括的にサポートをしていける仕組みをつくるべきではないかというのがこの研 究の趣旨になります。  8ページ目は研究の概要ですけれども、図のような流れで研究が進んでおります。  次をお願いいたします。そのほかにもこの研究をすることによって、ここに書いてあ りますようなさまざまな項目が調査できますので、将来的に今後役立つような情報が得 られるのではないかと思っております。  次の10ページには、研究の倫理性について書いてあります。救急で送られてきた自殺 未遂の患者さんに対して、ケースマネジメントをする方とそうでない方に分けるという ことの倫理性をかなり問われましたが、ここに書いてあるようなことで倫理委員会等に は了承をいただいております。通常介入群の方にも現在精神科医療の中で行われている よりは、もっと質の高い精神医療を行った上でかかりつけ医への逆紹介だとか、そうい ったことは当然行うわけです。  ただ、ケースマネジメントをすれば必ずしも自殺未遂が確実に防げるんだということ は実証されておりませんので、もしかしたら頻回にいろいろなことで来ていただくこと が逆に負担になるとか、そういうことももしかしたらあるかもしれませんが、あくまで も試験ということでございます。この辺の倫理性に関しては倫理委員会で検討いただき ました。  更に11ページ目は、病院とは言ってもこういったケースマネジメントをする中ではさ まざまな公的な団体等との連携が必要ですね。私ども横浜に関しましては、神奈川県横 浜市のさまざまな精神保健福祉医療機関とは既にこの研究に関しまして直接御説明をさ せていただいて協力をすることの許可をいただいております。  最後の12ページ目は補足ですが、先ほどありました遺族ケアの一つの窓口として救命 センターでの取り組みを行っています。あえてここではケアという言葉を使っています が、ちょっと字が小さくて申し訳ないのですが、残念ながら既遂された、あるいは搬送 されたけれども助からなかった患者さんの遺族の方にはこういったパンフレットをお渡 しして、家族の方から申し出ていただく。ですから、申し出ていただいてから私どもが お話をお聞きしたということですが、これはケアでいのかなと。パンフレットを渡すと いうのは支援の一つかもしれませんが、そういったことの窓口となっていけばいいとい うことで今、研究を進めている状況です。  駆け足になりましたが、以上です。 ○上田座長 どうもありがとうございました。  ただいま自殺対策の戦略研究について概要、内容のお話がありましたが、何か御質問 はございますか。 ○平山構成員 3ページと7ページとの関連性でございますけれども、この研究が退院 と転院というところでこの図は終わっているわけですが、実際に臨床をやっている立場 からですと、病院や大学病院から送られてきて、過去に自殺未遂歴がある。そして、そ れを見ているうちにまた何回も未遂をするというケースがかなりあります。  ですから、これは大変かもしれませんけれども、御研究の中に追跡調査ですね。すな わち7ページの精神科クリニックや内科のかかりつけ医あるいは家族の方々に対して今 どうなっているのかということをできれば追跡調査をしていただくといい。大変だと思 いますけれども、現場からはそういうような感じがいたしますが、いかがでしょうか。 ○上田座長 平安委員、いかがでしょうか。 ○平安構成員 ありがとうございます。先生の御指摘のとおりで、この研究自体が追跡 を行いながらの研究ということになっていますので、ケースマネジメントを行う方々に 関しましては救命センター退院後定期的に来ていただいて、あるいは来られない場合は 電話とか郵便物等で御本人と直接お話をするようになっております。ですから、そのと きに例えば主治医の先生となかなかうまくいかないとか、そういった場合は、こちらか らかかりつけ医に連絡することも含まれております。 ○平山構成員 こういうものを一つのモデルケースとして、各病院と、それからかかり つけ医あるいはクリニックの臨床医とのアフターケアといいますか、今どういうふうに なっているのかということの情報交換を将来していくと、かなり防げるというか、可能 性が出てくるのではないかと思いますので、よろしくお願いします。 ○上田座長 平安委員、よろしいでしょうか。 ○平安構成員 ありがとうございます。 ○上田座長 これは、1,120人を最大3.5年フォローされますが、関係者や、社会資源 等のかかわりはいかがですか。 ○平安構成員 そうです。目標は1,150人ですけれども、その半数がそういったいろい ろな介入をしていく群で、残りの半数は通常どおりといいますか、今までどおりの医療 の中で行われるグループということになりまして、一生懸命介入したグループで自殺予 防ができるのであれば、再企図の予防ができるのであれば、それは実効性があるのでは ないかというようなことを調べたいというのが目的でございます。 ○上田座長 ありがとうございました。それでは、斎藤さんどうぞ。 ○斎藤委員 自殺予防、そして遺族、未遂者へのケアといいましょうか、こういうこと は欧米では前から実施され、先行的な研究がたくさんあるわけでございまして、私はこ ういうことがどうして日本では今まで行われてこなかったのかといういらだちを感じて おりましたけれども、こういう包括的な一つの指針を出されたということに関して高く 評価申し上げたいと思います。殊に自殺のサイコロジカル・オートプシーといいましょ うか、これは自殺予防に関してこういうデータがあってこそ初めていろいろな予防策を 立てることができるわけで、大変期待をいたしております。  そこで2、3小さな質問ですけれども、スケールを用いた評価とありますが、実はこ れは私どもいのちの電話でも30年前から幾つかメジャーをつくって実施したことがあ るんですけれども、なかなかきちんとした評価が出ないということで今はしておりませ んが、これは何か一つのモデルをおつくりになるのか。殊に健康QOLとありますが、 これは自殺問題に特定して何かQOLに関する研究があるのかどうかですね。大阪大学 の学生から自殺者遺族に関してQOLの研究をしたいという問合せがありまして、多少 欧米では先行研究があるんですけれども、こういう研究がどこまで可能なのか。  それから、最後にケアグループについて御案内のリーフレットがあります。今、私ど もも各地でケアグループの立ち上げをしておりますけれども、まだそれこそ初めて試み ておるわけでいろいろ混乱がありまして、これは是非研究班でもつくってマニュアルづ くりというか、一つのガイドラインをどこかでおまとめいただけないかという期待を持 っております。とりあえず、このようなことでございます。 ○平安構成員 ありがとうございます。サイコロジカル・オートプシーとかケアグルー プに関しましては、私のところは多少副次的な問題ですので伊藤先生の研究班の方での 問題が大きいかと思います。  2番目のスケールを用いた評価に関しましては、私どもの研究の内容でございますの でお答えいたします。あくまでも警察の報告ではありますけれども、健康問題というこ とが先ほどありましたように一番多い自殺の原因になっております。健康状態を把握す るスケールがございますので、それが本当かどうかということを検証する。あくまでも これは副次的な問題でありまして、これだけのフォローアップ、経過観察をしていく中 で幾つかのものも一緒に調べましょうということの一つでございます。  もちろん欧米ではそういった先行研究はありますし、健康度の悪化というのは精神疾 患があれば精神疾患の状態も悪化させますし、その他、健康が悪くなれば仕事もできな い。二次的にさまざまな問題とも関連していきますので、大事な評価ではないかと思い ます。これはQOLを調べる尺度はたくさんございますし、先行研究もありますので、 その中で実効性のあるものを用いるということに決めさせていただきました。  ただ、自殺危険予測に関しましては、自殺者の場合は実際に希死念慮の強さというも のが実行した場合、あるいは致死率とかなり相関があるということも言われていますの で、本当に自殺をしたかったのかということを調べる上では一つの根拠です。それだけ ではないと思いますけれども、一つの根拠として科学的なものを少し残さないといけな いかなということで入れております。  ただ、患者さんに対して、あるいは対象者の方に対して負担をかけるような質問とか、 負担をかけるような時間がかかるようなものでありますと、かえって逆効果になります ので、それはかなり選択した中でやらせていただこうと考えております。以上です。 ○渡邉構成員 この間、自殺予防総合対策センターの開所式にWHOのベルトロートが 講演して面白かったのは、東南アジア、カナダ、幾つかの国々の1,000例くらいを集め て、一方は通常の未遂者のフォローアップをした。それで、もう一方は月1回くらいだ ったと思いますけれども、15回、毎回家庭訪問をして次の2つの言葉を伝えた。1つは 「こんにちは」「御機嫌いかがですか」ということと、もう一つは「何か困っていること はありますか」、その2つを徹底して聞いたということです。それで、かなり有意な形で 再企図が減少していたという報告があったんですけれども、そういうような家庭訪問な ども先生は考えていらっしゃるんでしょうか。 ○平安構成員 ありがとうございます。これはデザインの段階では非常に私たちとして もやりたかったんです。  ただ、これは予算と人の数、それから家庭訪問をするための資源も含めて、今回は見 送りました。本来はそこまでやりたいところなのですが、今回の中では現実的にできな かったというのが実情でございます。 ○清水(新)構成員 私も2003年に自殺研究班の研究の一環として、全国の精神保健福 祉センターと救命救急センターの全国調査をやりました。そのときに、やはりそこら辺 の領域の活動が非常に重要だということを痛感いたしました。そういった意味で、当時 からするとこの研究計画でもう少しきちんとしたアウトカムが出ることに対するすごく 大きな期待を持っております。非常に大事な領域で、いろいろな入り口があると思うん ですけれども、ここはしっかり医療だったら医療という自分の持ち場を固めてアウトカ ムを出していただきたいと思います。そこから学ぶものはいっぱいあるのではないかと 思います。  それから、実は構成員の皆様と認識を共有しておきたいことなのですけれども、7ペ ージ目の図で地域の包括的なサポートシステムというものが一応は指摘されていて三角 の矢印があるわけです。これはあくまでもトライアルスタディですけれども、その結果 を解釈というんでしょうか、評価するときにここが非常に重要だと思うんです。医療の 中でしっかりとしたアウトカムを出していただきたいという期待が1つですが、合わせ てそれを評価するときに医療の中だけで完結した評価ではなくて、それがこうした地域 の包括的なサポートシステムとか、医療と他の社会システムとの関係の中で評価をされ ていくべきかと思うんです。  ですから、仮にトライアルで余りいい結果が出なかったと思っても、ひょっとしたら 実はこちらのいい地域の側の資源とか、連携とか、その辺のものが効いているというこ とは、実は日本における黎明期の新潟県のああいう地域介入研究を見ると、結局メディ カルサービスだけではないですね。ソーシャルサービスが組み合って初めて高齢者の自 殺というのは劇的に減ったわけですね。ああいう黎明期の研究調査から学ぶものも多い と思いますし、先ほど渡邉先生がおっしゃったのは多分そういうこととも関連している と思うのですが、やはり地域あるいは社会的な環境の中で医学的な支援とかケアという ものが意味を持っていくというのが新潟県の事例、そして今、青森とか秋田などがやっ ている地域介入研究のレッスンだと思うんです。  今回の場合も、うつ対策の方の研究などを大野先生たちはやっていらっしゃいますね。 それとのリンクも考えると、やはり地域的あるいは医療を取り巻く他の部分の変数をど う読み込むか。これは、もちろんデザインとしてはできないと思います。ただ、解釈す るとき、評価するときにそういうものが一つあるぞということを頭に置いていただいて、 少し評価のところで工夫をした解釈をしていただければと思いますし、私たち自身もそ ういうメディカルセクターだけでこの問題を考えて評価するのではなくて、これは法律 の趣旨でもありますけれども、全体の中でできるだけ評価というものを議論していきた いと思っております。 ○上田座長 ありがとうございました。  では、部長どうぞ。 ○中谷障害保健福祉部長 清水先生はちょっと遅れて来られたので、私はそれに類する ことを冒頭言ったのですが、私よりうまく言っていただいてありがとうございました。 感謝いたします。以上です。 ○上田座長 これまでの議論で、この問題が医学だけではなくて社会的な視点も重要だ ということがありましたが、今、清水さんからかなり基本的な整理をしていただきまし た。そこをどどのようにトータルで考えていくかということは非常に大事だと思います し、この辺を議論していただいて整理していく必要があるのではないかと私も思いまし た。ほかにございますか。  それぞれの立場の方に参加していただいてこれからケアといいますか、その支援につ いての方向を出していきますが、今後の検討の一つのたたき台といいますか、あるいは かなり有機的につながるところもございますので、そういう意味で今日は2つの研究班 の御紹介をしていただきました。今の2つの研究班の説明につきまして、特に何かあり ましたら御質問を受けますけれども、よろしいでしょうか。 ○伊藤構成員 斎藤構成員が先ほど、ケアグループをつくっていらっしゃる過程で混乱 が起きているという御指摘をされましたが、具体的にどういうようなことを指していら っしゃるのでしょうか。 ○斎藤構成員 どこでも立上げは初めてですから、未経験というか、それこそいわゆる グリーフケアの専門家と言われる人でもサバイバーケアについては未経験である。その 辺からくる混乱もありますし、具体的には仙台で幾つかのグループが連携したとありま すけれども、連携というのは聞こえがいいんですが、やはり混乱があるわけですね。そ れはお互い未経験で、どこが悪いということではなくてコーディネートに何らかの問題 があったというふうに私は思います。ですから、ファシリテーターの役割とか、立ち上 げる場合のこの種のケアグループの在り方に関して何らかの一つのガイドラインが欲し いという思いでおります。  清水さん、西田さん辺りはその辺は今いろいろ検討をなさっていると思います。 ○清水(康)構成員 今の斎藤さんのお話の補足で言うと、混乱があったというのは具 体的に言うと、自死遺族支援のグループに自殺以外の病気とか、事故とか、そういう形 でご家族を亡くされたご遺族が参加してきてしまって、それで自死遺族の方々がなかな か分かち合いができなかったというケースが「仙台いのちの電話」が立ち上げたところ であったんです。自殺で家族を亡くされた方々というのは、自殺に対する偏見におびえ てご自身の体験を語れないということがありますから、だからこそ同じ体験をした自死 遺族同士による分かち合いが必要なわけですね。ところが、そこにほかの方が入ってき てしまって、それでなかなか分かち合いができなかったということはがあったというこ とです。  ただ、これは斎藤さんのおっしゃったとおり初めてのケースだったということが1点 と、あとは西田さんなどと連携しながら私たちが立上げ支援をするときには必ずファシ リテーター養成講座というものを受けてもらって、しっかりとそうした基本的なルール を御説明して、かつ立上げの最初の時期には我々が実際にその会に入ってファシリテー ションをしっかりして、ファシリテーションをしていく中で会の中心メンバーになるよ うな人たちにファシリテーター養成講座を受けてもらいつつ、その実務もしっかりそこ で学んでもらうというか、身に付けていただくという手法を取っているのですが、そう でないところもあるということです。もちろんマニュアルを行政というか、研究会でつ くるということもやるべきだとは思いますけれども、私も含めて西田さんが中心になっ てやっていらっしゃる事例もあるので、是非そういうところも参考にしていただければ と思います。 ○上田座長 ありがとうございます。  では、平田さんどうぞ。 ○平田構成員 自殺の予防ということで予防医学的に考えるのは、この研究はどちらか というと三次予防に重点があるわけですね。つまり、一度起きてしまった自殺未遂のエ ピソードに対して再発を予防するという立場から関わる。それに対して、一次予防、二 次予防という分野への考察もどうしても必要なのではないかと思います。二次予防に関 しては精神科の救急医療というものが早期発見、早期介入という意味では非常に役割が あると思いますので、いずれはそちらの精神病救急システムとか、救急病院の側から見 た二次予防的な介入ということも研究のテーマに含めていただきたいと思います。  それから、一次予防に関しては、これは医療の出番ではありませんで、社会経済的な ファクターというものから見ていかなくちゃいけないと思うんですけれども、最初に事 務局から御説明があったとおり、平成9年、10年を境に自殺者が急増しているというデ ータがありましたけれども、これは主として経済的なバブル崩壊後の失われた10年以降、 企業の中で非常にストレスの高まった中高年男性の自殺というものを引き上げていると 言われているわけですね。そういう現象が明らかにあるわけですから、そういう分野に 対するもう少し包括的な介入というのであれば、医学、医療だけではなくて先ほど清水 さんも御指摘されたとおり、労務管理であるとか、経済学者であるとか、あるいは社会 学者、社会心理学者といったような幅広い分野の専門家にも参加していただく必要があ るのではないか。これも一次予防的な観点から必要ではないかという印象を持ちました。 ちょっと議論を広げ過ぎてしまって申し訳ないです。 ○上田座長 ありがとうございました。今日は第1回目ですし、いろいろ御意見をいた だく中で方向を整理していきたいと思っております。何かございますか。  そうしますと、2つの研究班に関しては特によろしいでしょうか。では、どうぞ。 ○西田構成員 遺族のケアについてもそうですし、未遂者の方への支援というか、ケア もそうですけれども、私たちが聞きたいことを聞くのか、当事者の方がどういうふうに 自分の気持ちを伝えたいというか、話したい気持ちを持たれているのか。これを間違う と、私たちは聞きたいところだけを聞いて聞いたつもりになっているだけで、当事者が どういう気持ちを持っていらっしゃるのかをちゃんと受け取らないで終わってしまうの ではないかというところが必ずあると思うんです。  例えば、心理学剖検と言われる調査をするにしても、いろいろアンケート項目を出し ますけれども、その中で自由にお話をしていただくような時間もありますが、気をつけ ないといけないのはこちらが聞きたいことだけ聞いて、繰り返しになりますけれども、 それで聞いたような気分になっている。本当はもっと言いたいことがある。そのときに、 非常にエネルギーが言ってみれば弱いというか、下がっている人は、目の前にいろいろ な意味での専門家などと呼ばれる方が来ると、その一つの壁を乗り越えるのが非常に難 しいというか、ちょっとエネルギーが要ることで、言いたいことを言えないところもあ りますので、そこら辺をどう聞いていくかというのは非常に大事だと思うんです。  そのときに、分かち合いの同じような体験をした人たちがいれば、それは非常に話し やすいという大きなサポートにもなりますので、まずは一対一で話を聞くというよりも グループで遺族の方たちが何人か集まっている中で自由に話ができる雰囲気の中で話を 聞いていくということもそうでしょうし、今、隣に西原さんが座られていて、未遂者の 方へのケアを是非これからというふうにお話をされているときに、例えば未遂者の方へ の一対一の面接であれば、更にエネルギーがいろいろな意味で低くなっているときにど れだけ話を聞けるか。面接にしても、一つはあるかと思うんです。  そのとき、未遂者の方が2、3人集まられてそういうグループでお話をされるという ことが可能かどうかというか、その中で少しエネルギーを得られて今までなかなか話せ なかったことも話が出てくる可能性があるのかとか、そこら辺が今、思ったところなん ですけれども。 ○上田座長 研究を進めるに当たってその基本的なところを聞きたいということですか。 あるいは、こういう点を配慮してというか、こういう視点で取り組んでほしいという要 望的なことですか。それとも、少し御意見もいただきたいというところですか。例えば、 未遂者に対する研究をされますね。  平安さん、今の御質問に対して何かございますか。 ○平安構成員 非常に大事な視点の一つだと思います。  ただ、今回に関しては病院であれば患者さんですが、対象者の方のプライバシーとか、 いろいろな配慮もありますので、先ほどもありましたけれども、自助グループを紹介し たりとか、ケースマネジメントの中ではそういったものはあります。  ただ、では何人かの方に集まっていただいて一緒に話しましょうと、こちら側でアレ ンジをしてやるということまで積極的には今回は踏み込んではおりません。それをすべ きかどうかという議論までいっていないのですが、ただ、そういうことが必要であろう という方に関してはこういうグループがありますよとか、そういう形での御紹介に今の 段階ではとどまっているというところです。 ○上田座長 大変大事な御指摘です。今日はそれぞれ研究をされる方も参加されていま すが、研究をどういう形で取り組まれるか、あるいは、一定の限度の中で研究を行わざ るを得ないというところもありますし、今後どのように展開するか一緒に考えていく必 要があろうかと思っております。両研究に関してはこれでよろしいでしょうか。  ありがとうございます。5時までを予定していますが、残った時間でガイドラインの 話もありましたし、冒頭部長の方からこの検討会に対する期待などもございましたので、 今後2回目、3回目、どういう形で進めるか、その辺の進め方と先ほどの部長の御指摘、 お考えも踏まえながら、事務局としてこの検討会に対してこういうことを期待したいと いうか、次のスケジュールなども含めて何かありましたらお願いしたいと思います。そ れで、また皆さんの御意見をいただこうと思います。 ○鷲見課長補佐 次回以降の進め方なんですけれども、まず年度内に2回程度これから 予定をしております。それで、次はまずは自殺者親族等への取り組みということで、今 回は委員の先生方にいろいろな分野の方に入っていただいておりますので、その具体的 な内容について御発表いただきましてディスカッションいただきたいというのが次回で す。  次々回、第3回におきましては逆に未遂者の方を集中的にやるというようなことで、 またこれにつきましても今後はここの委員の方以外からヒアリングをするということも 視野に入れたいとは思っているのですが、まずはせっかく入っていただいている委員の 先生方から御発表、今、実際に取り組まれている中身であるとか、現状であるとか、そ ういったことについて御発表いただきましてディスカッションしたいと考えております。 そういうことを踏まえまして、次々回以降もどういった形で進めることが妥当なのか、 適切なのか。それをどういった形で最終的に来年度末にまとめるに当たって必要なのか ということを整理していきたいと考えております。 ○上田座長 今、事務局の方で進め方についての説明がありましたが、何か御質問など があればどうぞ。 ○渡邉構成員 ライフリンクの清水構成員の最初の3つの点ですね。やはりそれはとて も大事な御指摘だと思うので、私なりに思っていることをお話させていただきたいと思 います。  1つ目のケアと支援ということなのですが、私はケアというのは特に医学的な、例え ば治療というのはキュアですね。キュアということでなくてケアで、でもそのケアも医 学的なところだけに限定しては考えていないんですね。むしろケアリングとかという言 葉もありますけれども、気遣うとか、そういうような意味でケアというものを使ってい いんじゃないかと思っているんです。英語の得意な斎藤構成員などから是非御意見を伺 いたいと思うんですが、そういう意味ではむしろ支援という言葉よりももっと何かそう いう意味が入っているのではないか。気遣うとか、気持ちを聞くという意味が入ってい るのではないかと思ったんです。  それから、2番目の心理学的な剖検で、私も平成9年から秋田の旧由利町に関わって、 私自身は最初にそういう視点で医学的な情報か欲しいというアプローチだったんだけれ ども、それに対する住民の抵抗というのはとても感じていました。そうではなくて、自 殺とかうつとかを考えないで済むような心の健康づくりという視点で要因を把握しよう という関わり方で今までやってきたんですけれども、今回心理学的剖検に私も関わって、 確かに言葉の問題もありますね。だから、何か別の言葉があっていいかなと思っていま す。  それから御遺族のケア、御遺族の気持ちをあくまでも重視した上で情報提供してもら う。その辺で、余りにも情報提供だけにこだわると、やはり御遺族の気持ちがわからな くなってしまうというようなこともあるし、両方必要かなと。そういう意味で川野構成 員が両輪という言葉を使ったんだと思うんですけれども、私は青森県で数はまだ少ない ですが、何例か御遺族の調査をさせていただいた経験としては、御遺族が持っている違 和感が私たちが関わることで少しずつ変化していく体験をしたんですね。ですから、そ ういうプロセスが大事ではないかと思います。もちろん私たちもすごく学ぶことはあり ますし、私たちも変わっていくプロセスだと思うんです。そういうことを重視した形で の関わりであれば、私は有意義ではないかと思っておりますけれども、いかがでしょう か。 ○斎藤構成員 清水さんがおっしゃったように、確かに自殺問題を持つ人は自分がケア とか、まして治療の対象かと、そういう攻撃的な思いを持っておりますから、それはそ れこそ関わりの持ち方の問題だと思います。そして、清水さんの一つの目標としては自 助グループの形成でしょうか。自助グループということになれば、これはケア治療とは また違うわけですね。けれども、そこに至るまでにやはりケアとか治療というプロセス も当然あり得るわけで、それを私は必ずしも否定してはいけないという思いでいるんで す。清水さんとはちょっとスタンスが違うかもしれませんけれども。 ○清水(康)構成員 西田さんが先ほどおっしゃられたことに共通しているんですけれ ども、受け手側がどう感じているかということに私たちはまず耳を傾ける必要があるの ではないかと思います。  その意味で言うと遺族ケア、つまり渡邉さんは気遣うという意味があるんだというお 話をされていましたけれども、主体はだれなんですか。ケアというのはだれかがだれか をケアするということですよね。私はケアする人がいるとしたら、これは遺族の方御自 身が自分をケアするんだと思うんです。もちろん医療的な立場からケアする必要がある 場合もありますけれども、でもほとんどの方は遺族自身で遺族の方をケアする。自らの 経験を繰り返し物語ることで、辛い過去と向き合えるようになっていき、やがて回復し ていく。そのケアをする場をしっかりとつくっていく社会的な支援が必要なんじゃない かという観点からすると、遺族ケアという言葉に対して、もちろんそれは必要なことも あるけれども、でも大きく言うと遺族支援というくくりの中のケアになるのではないか ということです。 ○渡邉構成員 主体はその方でもあり、自分自身でもあるというか、気付き、気遣うと いうか、間主体的な間の主体性といいますか、そういう関係だと思うんです。 ○清水(康)構成員 今のことはわかったようでわからないので、それはさておき、心 理学的剖検のことで言いますと、調査が必要でないと言っているわけではないんです。 これは調査は必要なわけですし、そのためには遺族の方々の協力が不可欠だというのも もちろんわかっています。ただ、その方法ですね。どういう方法を取るのか。  1つには、さっき西田さんがおっしゃられたように分かち合いの場みたいなところで 語られること、自然とそれこそケアの現場で語りがあるわけですから、そうしたところ で出てくる体験としての情報にしっかりと耳を傾けて、それを対策につなげていくよう な形にしていく。その仕組みをつくるということが一つあると思うんです。ただ、これ は心理学的剖検でやろうとすると厳密性が担保されないですから、当然これはだめとい う話になりますね。それに加えて言えば、実際に渡邉さんは青森でやられてうまくいっ ているというお話でしたけれども、私のところには、調査を依頼されたけれどもその内 容がひどかったという声も挙がっているんです。  あとは、保健師さんが上司から言われて調査をしに行かなければならないんだけれど も、「2か月前に奥さんを亡くした70代の男性のところに行こうと思っている。あんな 分厚い調査項目を果たして1回で聞き切れるか不安だ、どうすればいいですか」と私の ところに連絡がありました。私は遺族の方に100人以上接していますけれども、私の常 識からするとなかなか考えられないことですね。まだ2か月しかたっていない方のとこ ろに保健師さん2人で行って、かなり分厚い調査項目を1回で全部聞き取ろうとしてい る、その試み自体が問題だろうということで。 ○渡邉構成員 それは青森の例ですか。 ○清水(康)構成員 青森ではないです。  もう一つのケースで言うと、調査項目がどういうものになるかということは説明を受 けずに、説明してもらえずに、「とにかく国のためだ、国のためだから協力してやってく れよというふうに頼まれた」というご遺族がいました。「清水さんもその調査のことは知 っているんじゃないですか」と私のところに聞きに来て、私はもちろん調査項目をつく る段階まではある程度関わらせていただきましたから、こういうものですよという御説 明をしたら、「それだったら私は受けないで断ろうと思いますとおっしゃって、結局その ご遺族は断られたんですけれども、そのアプローチの過程が、これはとにかく国のため になるんだから協力してやってくれよというふうに言われたなどというのは、これは理 想と現場の現実がこれだけ乖離しているわけですから、もちろん「理想」の部分につい ても私は異論がありますけれども、実際にそういうことが現場で今、行われているとい うことに対してどう改善を進めていくのかということは当然必要だろうと思います。 ○斎藤構成員 私は必要性と、それを担当した人のやり方とは違うと思うんです。たま たま実施した人の資質が問われるわけで、そういう手法までは私は否定できないと思い ます。○清水(康)構成員 でも、その手法の中に、亡くなってから1年以内というこ とがたしかありました。 ○斎藤構成員 例えば、救急医療の現場で医療スタッフがきちんとケアをしていると、 そこで遺族との信頼関係ができるんです。そういう中で、この研究は非常にいいデータ が出てくるわけです。だから、1年以内であろうとそれは可能なんです。  ただし、私も経験はあるけれども、この種の経験をしていると遺族に訪問をしたら、 場合によったらそれこそ塩をまかれるわけです。だから、そういう思いを尊重しない資 質を持った専門家がいるということで、その研究自体を私は否定すべきではないと思い ます。○清水(康)構成員 1つだけ補足しておきますが、私は研究の手段というのも、 研究で何を調べるのかということとあわせて極めて重要な部分だと思っております。特 にこのことに関して言うと、遺族の方々のケアにもつながる調査だと言っているわけで すから、手段は内容の部分と切り離しては考えられないと思います。 ○上田座長 私は最初に清水さんがおっしゃられた御指摘について、基本的なことだか ら今後議論の中で考えましょうと申し上げました。渡邉さんからお考えがありまして、 今、斎藤さんからも意見がありました。非常に大事なことですし、ケアは検討会の名称 もそうですし、そこら辺の考え方などについての御指摘もあって、随分議論があると思 います。  この点については整理をしないといけないし、確かに自殺の問題というのは精神医学 的だけではなくて社会的にもいろいろありますし、またいろいろな立場で参加されてお られますので、それぞれのお考えがあろうかと思います。そこで今後議論する中で、並 行的になるかもしれませんので、それぞれの御意見の中で共通的なところが出てくるか もわかりませんし、ここは会議を重ねる中で折に触れて深めたらどうかと思っておりま す。今日は皆様がいろいろお話をされて、それぞれ委員の皆様に考えていただく中で次 回以降も議論したいと思っておりますが、それでよろしいでしょうか。 ○清水(康)構成員 私も批判してばかりいて代案がないわけではないので、次回はし っかりとこういうやり方でやったらどうですかという提案を是非させていただければと 思います。その資料を今回は持ってきていないので、次回に用意したいと思います。 ○上田座長 このテーマは引き続き議論するということにさせていただきます。 ○伊藤構成員 心理学的剖検という言葉は、この活動を示す最も適切な言葉かどうかは これからまだ議論をしていく必要があります。ただ、それに代わる言葉が見つからない というのも実態でして、なかなか難しいところがあります。  また、先ほど斎藤構成員がおっしゃられたように、自殺に関連する要因としてどのよ うなものがあるかは、これからの対策を考える上で必要だと思います。例えば北欧の場 合にはナショナルポリシーを決める前にかなり大規模に同様の調査を行い、そのときの 参加率は9割以上という大変高いものでした。国の違いもあるのでしょうけれども、必 要であるというのは私もそのとおりだと思います。  忘れてならないのが2年前はこの調査の実施は難しかったということです。社会の考 え方が変わり、自殺に対する考え方や意識はここのところで本当に変わりつつある。そ の中でこういった調査の必要性が具体的に議論されて、昨年度は4例でありましたけれ ども、意義のある調査方法を開発することができたのです。伝え聞くところによります と遺族ケアにつながっているとも伺っておりまして、それで今年度、第2年度というこ とで調査がされていると聞いています。また、この調査を行う課程で、遺族ケアが不可 欠であるということが認識され、我々の研究班が立ち上がったというのも経緯としてあ ります。以上のように、研究も枠組みとして進化しているところがあり、その中で今の 課題を改めて考えながらこれからのことを考えていかなければいけないと思います。そ ういう意味で本日の議論は大変勉強になりました。 ○上田座長 先ほど言いましたように、引き続き皆さん方の御意見をいただきながら、 もう少し整理というか、一緒に考えていきたいと思っております。  それでは、次回は親族に対する支援のお話をその立場の方からしていただき、そして、 3回目は未遂の関係の支援について関係者からお話をしていただくということで提案が ありましたね。 ○鷲見課長補佐 ありがとうございます。今、上田座長からお話がありましたように、 次回はヒアリングをお願いしたいと思っておりまして、年内に依頼する先生にはお願い をしたいと考えております。また、日程につきましては今日、実は紙を配らせていただ いておりますので、今日予定がおわかりになる先生方におかれましては日程調整をして 事務局の方にお渡しいただければと考えております。 ○上田座長 今のような形で進めさせていただいて、先ほどのいろいろな課題はきちん と折に触れて議論をしていくということで進めますが、よろしいでしょうか。次回につ いては皆さん方に日程を書いていただいて、そこで後ほど御連絡するということですね。  今日はもう5時に近付きましたのでこれで閉じたいと思いますが、何か御質問がござい ましたらどうぞ。よろしいでしょうか。事務局も追加はございませんか。  では、これをもちまして第1回の検討会を閉じさせていただきます。皆様方、御協力 をいただきありがとうございました。また次回よろしくお願いいたします。 照会先:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課障害保健係 03-5253-1111(内線3069)