06/09/19 第4回臓器移植に係る普及啓発に関する作業班議事録 第4回臓器移植に係る普及啓発に関する作業班 平成18年9月19日(火) 共用第6会議室 ○矢野補佐 それでは定刻になりましたので、ただいまより第4回臓器移植に係る普及 啓発に関する作業班を開催いたします。初めに、厚生労働省に人事異動がありましたの で、ごあいさつをさせていただきます。厚生労働省臓器移植対策室長の原口でございま す。 ○原口室長 原口でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○矢野補佐 ただいま席を外しておりますが、新しく主査として丹藤が赴任しましたの で御紹介させていただきます。  本日は阿部委員、金井委員、田中委員から欠席の御連絡を受けております。また、本 日は議事の即しまして、静岡県疾病対策室の金子博之主任、高知県医療薬務課の家保英 隆課長、福岡県小文字病院脳神経外科部長の吉開俊一先生を参考人としてお呼びしてお ります。どうぞよろしくお願いいたします。  次に、資料の確認をさせていただきます。議事次第がありまして、資料1が静岡県の 資料で、「臓器等移植対策の取組み」。資料2が高知県の資料で、「高知県における臓 器提供の普及啓発活動について」。資料3が吉開参考人の資料ですけれども、これは後 ほど配付させていただきます。資料4が「移植医療の普及啓発の推進について(これま での議論のポイント(案))」でございます。不備等ございましたら、事務局へお伝え ください。  それでは議事の進行を大島班長にお願いしたいと思います。 ○大島班長 ウイークデーのお忙しい中、どうもありがとうございます。前回までの議 論では患者団体あるいは学会、海外、厚生労働省で行った調査の結果等、あわせてヒア リング等を行ってまいりました。今回は都道府県が具体的にどんな普及啓発を行ってい るかという取り組みの現状について、静岡県、高知県からお話をしていただきまして、 院内の取り組みということで、前々回杉谷先生に来ていただいた関係もありますけれど も、福岡県の小文字病院の吉開先生からお話をいただくことになっています。後で、こ れまでの議論を踏まえて今後一体どうしていったらいいのかということについて、残り の時間で御議論いただきたいと考えております。  それでは早速議事に入りたいと思います。議題1、都道府県における普及啓発に関す る取り組みについて、最初に静岡県の金子参考人から説明をお願いいたします。本日は ありがとうございます。 ○金子参考人 静岡県の金子でございます。本日はお招きいただき、ありがとうござい ます。静岡県の臓器移植の取り組みについて、資料に沿って御説明させていただきます。  静岡県についてはごく一般的に意思表示カード等の配布を行っております。比較的静 岡県が頑張っているところは、院内コーディネーター等の設置及び臓器移植推進協力病 院の指定というところがございます。それについては腎臓バンクと組んで、院内におけ る普及啓発促進や臓器提供の情報を早期収集できる体制の整備のため院内コーディネー ターを設置するとともに、推進協力病院を指定しているということで、現在15病院が指 定されております。  院内コーディネーターの数は、17年度36病院で52人となっております。本年度も人 数は変わっておりません。18年度にアイバンク、腎臓バンク、骨髄バンクを推進する会 にそれぞれ委託している予算がこちらでございます。こちらだけでは足りない部分もご ざいますので、それぞれの団体の方で努力していただいている部分も多々あるんですけ れども、県としてはこれだけの額を委託あるいは補助金として支出させていただいてお ります。  本年度から臓器移植推進協力病院の指定を行うようにしました。昨年までの3カ年は 臓器移植モデル病院ということで3年間で15病院を指定させていただいておりました。 推進協力病院との違いは、院外啓発活動を加えさせていただくようにしました。以前か ら院内での啓発活動としてはビデオを流していただいたり、ポスターを掲示したり、院 内移植推進委員会を開催したり、いわゆる体制づくりをお願いしていたところだったん ですけれども、それに加えて、地域の住民の方に対して院外の啓発をお願いすることで、 約100病院に募集をかけて今回15病院から手を挙げていただいて指定させていただくこ とができました。この中にはモデル病院から継続して行っていただいている病院もある んですけれども、新しく入られた病院もございますので、これから体制づくりをしてい くところもございますが、県の移植コーディネーターの委託を腎臓バンクの方にしてお りまして、そちらの方で各病院を回って体制づくりの指導、助言をお願いしております ので、病院の方でも体制をつくっていただいて円滑な普及啓発を行っていただけると思 います。  詳細については県の方で設置要綱をつくらせていただきまして、そちらを各病院に配 付させていただいております。ですから御理解は得られていると思いますが、病院自体 での体制づくりとなりますと、昨今医師の不足等がございまして、今回もモデル病院か ら推進協力病院に移行する際に、先生が不足しているということで外れてしまったとこ ろもございまして、いろいろな要素が重なって進めていくことが難しいと感じておりま す。  この中で、費用については県の方でも予算がかなり厳しくなっている状況から、広報 素材の提供、院外啓発活動の中で講演会などを行う場合は県から派遣するということで、 その他の経費、例えば委員会開催にかかる経費等については病院の御負担ということに なっておりますので、病院の方でも人的な面、経費の面についてかなり御負担をいただ いているものですから、御理解が得られている病院が15病院あったということは大変あ りがたいことだと思っています。  病院について、指定しただけでははっきりわからないものですから、県のホームペー ジに病院の名前を公表させていただくということと、指定書をお配りさせていただいて 院内に掲示していただくということと、腎臓バンクと合わせましてポスターをつくらせ ていただいて院内に臓器移植推進協力病院ということで指定を受けているというポスタ ーを、色は黄色で目立つような形でつくらせていただいております。それ以外に、患者 様あるいは患者の御家族様に御説明する、提供をお願いする際に説明するお知らせをつ くりまして、その中に推進協力病院であるということをうたって御説明できるような形 で、後ろ盾になるかどうかわかりませんけど、県としてもこの病院を指定しております ということでお知らせの紙に入れさせていただいております。あと表彰制度です。移植 の推進について多大な貢献があった病院等について部長名で表彰するということで、今 回モデル病院からの意向もありましたので、表彰状ではないんですけれども、指定書に 感謝のお気持ちを伝えるような文面を入れさせていただいて、病院の労に報いるという 形をとらせていただきました。  県の委託事業とは別途に腎臓バンクの方で、患者様あるいは患者の御家族様に御説明 していただいた病院には、こういった形で文書にさせていただいておりますけれども、 5ページ以降にありますけれども、これは移植につながらなくても意思の確認をしてい ただいた病院に腎臓バンクの方で助成していることになりますが、あくまでもこれは患 者様あるいは患者の御家族の意思を尊重するという前提で行っておりますので、そこは 注意して行っております。  以上が静岡県の取り組みになります。どうもありがとうございました。 ○大島班長 ありがとうございました。静岡県は院内コーディネーター発祥の地と言っ てもいいところかと思いますけれども、行政が非常に積極的に関与している県の一つだ と思います。地域で移植関係者だけじゃなくて提供病院、コーディネーター、行政、メ ディアなど、地域全体を挙げて取り組むという姿勢がないとなかなか進まないというこ とで、そういう意味で行政が県の事業だということをはっきりと表明してやっている数 少ない県である静岡県から御発表いただきました。何か御質問、御意見等あれば。  特にございませんようでしたら、次に高知県を伺って、また後で一緒に御意見を伺い たいと思います。  それでは次に高知県の取り組みについて、家保参考人からお話を伺いたいと思います。 よろしくお願いします。 ○家保参考人 高知県医療薬務課長の家保と申します。静岡県さんのようにシステマテ ィックにやっているわけではございません。高知県から1例目が出たきり、あとはなり を潜めているというような状況で、移植に関しても角膜で3、4年前にNPO法人でア イバンクがようやく県内にできたという状況で、移植については余り目立った活動はし ておりません。その中で高知県の取り組みということで若干お話しさせていただきたい と思います。  主な事業については、ほかの県と同様に臓器移植普及推進月間のキャンペーンとか各 種イベントでの啓発など、腎不全の患者さんを対象にした勉強会、関係者と連携したキ ャンペーン活動、大学・短大での講演、病院の啓発などを主な事業としております。  具体的に普及啓発としましては、県民への普及啓発ということで、なかなか県民の方 は脳死や臓器提供の理解が余り深くないということでございますので、高知県では腎バ ンク協会が啓発資料を作成しました。これは一般県民を対象に、脳死とはどういうもの なのか、臓器提供を受けるとどうなるのか、臓器の希望者についてなど、カラー刷りの 冊子を作成し、講演やイベント会場などで配布してきたというのがございます。  それらの場では、よく臓器移植と骨髄移植が混同されてしまっているという部分がご ざいます。啓発の際にも基礎的な質問が寄せられることが多いということで、臓器移植、 角膜移植、骨髄移植についての基本的な事柄を理解できるようなモノクロ版のリーフレ ットを作成して配布し、理解を得ているような事業を地道に行ってまいりました。  これらの事業の結果、意識はどうなっているのかというのを知るために、臓器移植に 関する県民調査を行っております。これは無作為抽出を行ったものではありませんで、 年に1回、臓器移植普及推進月間に街頭でキャンペーンを行います。その際に街頭でア ンケート協力をお願いして、本人の記載もしくは聞き取り調査を行ったものでございま す。無作為抽出ではありませんのでバイアスがすごくかかっているというのは事実だと 思います。ただ、このかかり方は、関心のある方は答えていただけますので、そういう 意味では関心のない方はもっと後ろ側にあるんだなというデータの見方をしていただけ ればいいのかなと思います。唯一言えることは、同じような方法で11年からずっとやっ てきておりますので、その経年比較はこのデータからある程度見えるのかなと思ってお ります。  意思表示カードの周知度ということで問うてみました。11年度から16年度までが県 の調査、その上の4項目が全国の内閣府等の調査、17年度の高知県の調査ということに なっております。先ほど申し上げましたようなアンケート調査ですので、知っている方 は非常に多いということでございます。11年の2月に国内初の脳死下臓器提供が行われ た直後の調査から、大体同じような割合で、最近少し下がりぎみになってきているとい うことが見えます。このあたりは国の調査でも同じような結果が出ているのかなと思っ ております。  意思表示カードの所持率でございます。11年度が20%くらい、そこから年々少しずつ 増えてきておりまして、大体今30%くらいということでございます。ただ、この中で増 えてきておりますのが、所持はしているが記入はしていない方の割合が多いということ がございます。この理由については直接項目としては調査しておりませんけれども、聞 き取りでは、どのような意思を記入していいのか迷っている、いざ書こうとすると書き 切れない、もう一歩踏み込みづらいという意見が多々出たと聞いております。また、自 分は提供してもよいと思うけれども家族が反対しているなどが多いようで、臓器提供に 関心を示しつつも提供に対する迷い、戸惑い、家族の反対などが自己決定の妨げになっ ているという部分が見受けられます。  臓器提供意思表示カードを持っていなくても心停止後の腎臓提供が可能であることを 知っているかということに対しましては、アンケートに答えてくださる方でも7割近く が知らないという状況でございます。おおむね国の調査でも3割程度しか理解していな いということがございますので、このあたりは大体同じではないかなと。臓器提供の手 続を正しく理解しているとは言えないような状況にあるのではないかと思っておりま す。  臓器提供の意思を、カードの所持とは無関係に調査しました。平成11年度では48% の方が臓器提供してもよいという回答をしていました。それが17年度では38.9%と下 がってきています。一時期16年度には30%を下回るという格好で低下傾向が出ており ます。国の調査結果と比較しても、したくないという方が高知県では17年度非常に多く なっておりまして、このあたりはどういうことかなというのは少し検討してみないとい けないのかなと思っております。  家族が従前より提供の意思を表示しており、その方が蘇生不能になった場合どうする のかという問いに対して、これは15年度からとりましたけれども、自分から申し出ると いう方が3割どまり。それに対して医療者から話があれば提供するというのが3割くら い。どちらとも言えない、提供しないを足しますと大体37%という格好で、遺族なり御 家族の感情としては、積極的にはなかなか提供を申し出づらい状況があるんだというと ころで、このあたり、医療機関からどういうふうにアプローチしていくのかというとこ ろは大きな課題であろうかと思っております。  一方、私どもの課で医療相談の窓口などをやっておりますと、患者さんからいろんな 問い合わせが参ります。その際には十分説明をしてくれないというお話もございます。 医療機関側からすると、きちっと面接をしてやっているという話もあります。よくよく 考えてみると、医療関係者の方はきちっと説明されているんですが、当事者の方になる と半分もわかっていない、目の前に差し迫った現実に対してどう対応していいかわから ないという中で非常に混乱しておられるという部分があるので、このあたり、実際に脳 死の判定をされるなり、そういう情報提供をされる医療機関がしやすいような環境整備 を考えていきませんと非常に難しいのではないかと思います。医療側からの説明次第で いろいろトラブルになることが多々ありますので、その点がこれからの大きな課題にな るのかなと思っております。  そういうことで、高知県の方では医療施設への啓発を10ページに書いてありますよう な観点をもとに、こういうことを留意してくださいということで啓発を行っております。 まずはだれのための臓器提供かということを基本に置いて、御家族を亡くす方への視線 を大切にして、提供者家族の価値観を大事にする。家族が温かみを感じることができる 終末期医療の実践につなげていくという観点をもとに、同時に提供病院にとってのメリ ットを重視するという部分で、家族ケアの充実なりを図るために納得度を向上させたり、 病院にとってはリスキーな臓器提供を確実に行うためにはどうしたらいいのかという部 分の啓発を行ってきたところでございます。  県内主に2つの病院で行っております。1つ目は第1例が出ました高知赤十字病院で ございますけれども、研修医、今後医療を担っていく方、医師臨床制度のもとでも回っ てまいりますので、この方々への医師教育の一貫で移植医療を取り上げていただいて、 移植コーディネーターが講演を行ったり、救命救急を担当している救急部長から研修医 に向けて、家族との信頼関係をつくっていくことが重要であって、その上に臓器提供の 話もできるようになるべきだというような、実務にのっとったような話をさせていただ いている部分でございます。また、病院の職員の方と一緒に学会発表なり、これまで取 り組んだことをまとめるという作業をすることにより、再度自分らの行動についても考 えていただくような部分があります。マニュアル改正などは当然のことでございます。  もう一つは高知医療センターです。昨年3月に開院した、県立中央病院と高知市民病 院が合併した病院でございますけれども、開院に当たってこのような取り組みをずっと 行っております。判定委員会の開催、提供マニュアルの作成、症例検討などを随時行っ ているところでございます。その中で、外来患者の意思表示カード所持率調査なども行 っております。これは救急患者における調査などを見ますと、2005年9月1日から2006 年4月30日の間で15歳以上の救急外来患者さん6115名の中で、1275名から回答をい ただきました。持っておられた方は3.8%。ほとんど持っていないということで、いざ というときにはなかなかわからないという状況が出てまいります。  また、職員に対する意識調査等も行いましたが、脳死判定ができる病院ですけれども、 院内の職員の意識統一もなかなかできないということで、結果はちょっといただけなか ったような状況になっております。  そういうことで、病院からの問題としまして、カードの所持者自身が少なく、また医 療者から臓器提供の話をしても断られることが多いという話がございます。現実に脳死 判定をする病院では多々こういうことがあるかなと思います。そういう状況の中で家族 の方に臓器提供に関する情報提供を継続していくような医療関係者のモチベーション維 持を図っていかないと、進まないことが続きますとどうしてもできない部分があります ので、このあたりは何らかの方法を考えないといけないということで、医療関係者にあ わせて一般への啓発もしていく必要があるのではないかと思っております。  全般的に、一般の方の認識で申しますと、移植については渡航移植のニュース報道な どもあったり、ある程度理解はされていると思います。脳死、臓器提供という言葉は知 っておりますが、現実にはほとんどその正確な理解がされていないのが実状ではないか なと思います。これは現実に移植をやっておられる医療機関以外でも同様の状況が考え られます。脳死を人の死と考える方が多いという結果を見ることが多くございますけれ ども、脳死についての理解をされていない方に回答を求めていた結果になりますので、 このあたりを十分に考えていかないといけないのかなと思います。  また、移植という言葉は知ってますけれども、身近になった提供というものと結びつ かない。いかに結びつけていくかという部分が非常に大切になるかなと思いますので、 県の立場で申しますと、一般の県民の方々へいかに正確な知識を理解していただけるか、 それらをいざそういう場面に遭ったときに判断することへのサポートをどうしていくの か、脳死判定をするような場面に立ち会われている医療関係者に対してどうサポートし ていくのかという両面をしていきませんと、片一方だけではなかなか進まないのではな いかと思っておりまして、県単独ではしづらい部分がありますが、できるだけそういう ことに努めていきたいと思っております。  以上でございます。 ○大島班長 ありがとうございました。高知県は脳死移植の1例目が出た県ですけれど も、メディアの大騒ぎである部分トラウマ的なところがあって、その後さっぱりという 県ですけれども、何か御意見、御質問等ございますか。 ○原口室長 いただきました資料の中で、高知赤十字病院と高知医療センターを特に取 り上げていただいていますけれども、この2つの病院は高知県の移植医療の関係で何か 特に位置づけをお持ちとか、そういうことがおありなんでしょうか。 ○家保参考人 2つにつきましては救命救急センターを設置している病院ということ で、脳死に該当するような判定を要する患者さんが多数集まるというところで、とりあ えずデータとして出させていただきました。それ以外に基幹的な病院にはきちっとコー ディネーターが定期的にお話しに伺っていますので、事業としてはやっていますが、今 回ここで発表させていただくのはこの2カ所ということで出させていただきました。 ○大島班長 ほかにいかがでしょうか。 ○篠崎班員 一つ質問よろしいですか。行政として向かうときに、都道府県によっては 県知事の委嘱状が出せるとか何かあると思うんですが、静岡県の場合には功労があった 病院には表彰があるということだったんですが、知事名での委嘱状とかいう形はおやり になっているんでしょうか。 ○金子参考人 院内コーディネーターについては知事名で委嘱をしておりますが、感謝 状を知事名というふうになりますとなかなか難しいところがあったものですから、モデ ル病院から推進協力病院に変えるときに感謝状を出すかどうかという話もあったんです けれども、継続して推進協力病院で協力していただけるということが多かったものです から、部長名で指定書を出すときに文言を入れさせていただくということで行いました。 院内コーディネーターについては知事名で委嘱状は交付しております。 ○篠崎班員 病院ではなくて、院内コーディネーターさんにはやっていると。医療機関 に関しては部長名でやっていると。高知に関しては何かそのようなシステムはおありで すか。 ○家保参考人 高知の方はそういうことはございません。腎バンク協会の方の臓器移植 ネットワークのコーディネーター1人でほぼ賄えるくらいの人口規模ですので、いろん な場面で各病院に入ってやるようにしていますので、病院ごとのというのはないです。 ○篠崎班員 わかりました。 ○大島班長 ほかにございますか。  それでは先へ進ませていただきたいと思います。院内における普及啓発に関する取り 組みについてということで、きょうは福岡県から吉開先生においでいただいております ので、よろしくお願い申し上げます。 ○吉開参考人 本来ならば起立してお話すべきところですが、座って失礼いたします。 私は、北九州市にあります救急病院の小文字病院脳神経外科部長の吉開です。小文字病 院に赴任しまして4年間の内に10例の腎移植ドナーを提出しましたが、最初は移植事業 に関わるつもりは全くありませんでした。他の施設のドナー提出には無関係で私の施設 だけでも提出すれば良いというつもりでした。しかし徐々にデータが集積され、発表す る度に、今度はここで次はあそこで発表との依頼が重なり、本日は厚生労働省まで来て 発表する事になりました。  これは重症くも膜下出血の方の脳ですが、私はこちらの方を本業にしております。こ のような方が亡くなった際に腎臓を提供していただく、この事は我々脳神経外科にとっ ては副業です。脳神経外科学会において現在腎移植の関与が評価される事は全くないと いうのが現状です。  腎移植の現状ですが、年間3万人が新規透析導入されています。そのうち年間2万人 が亡くなっています。即ち計1万人の透析症例が増加しています。一人に年間500〜700 万円が必要ですので、年間5億〜7億円という医療費が必要となります。人工腎臓治療 即ち透析治療を受けている方は身体障害1級ですので本人は支払わずに全額国が支払う 事になります。現在全国の腎移植希望者は1万1000人で九州地区にはその内の1割がい らっしゃいます。  腎臓移植には生体腎移植と死体腎移植と2通りがありますが、生体腎移植は1人から 1個の腎臓を提供しますが、死体腎移植は2個提供できるます。ここにメリットがあり ます。移植を受けた方々の数では、日本では圧倒的に生体腎移植が多く、全体の8割を 占めます。例えば2004年では生体腎移植727例、一方死体腎移植167です。167を2で 割りますと約80人の方から160個の腎臓が提供されていることになります。即ちレシピ エント側では8:2であっても、ドナー側からでは8:1です。この1の部分が今後開 発すべきポテンシャルドナーです。  2004年と2005年では心停止と脳死を合わせて186例333個の腎臓が提出されていま す。186を2倍すると333にはなりませんが、これは場合によっては1人から1腎のみ 提供される場合もあるからです。関東甲信越地方では東京が多く57例、東海北陸が地方 で80れ例の腎提供がありました。しかし6県では0例、14県では1例と非常に少ない 県もあります。その中で福岡県は12例29腎を提供しています。これで12例を2倍する と24腎となり、残る5腎は他の県からの提供があったことになります。人口比では福岡 県は腎提供が多い県であり、その中で当院では4年間で10例提供しています。  ドナーとなりうる条件には以下の項目があります。脳死あるいは脳死に近い治癒が不 可能な致死的な状態であること。年齢は75歳以下・一般的には70歳以下です。そして 全身性活動性感染症がないこと、エイズ・成人T細胞白血病・B型肝炎感染が無いこと です。ここでC型肝炎と梅毒は移植に支障がないということも重要です。それから入院 時に高度の腎機能障害が無いことも大切です。そして腎移植を進めるに当たり、第1の ハードルはご家族の同意が得られるか否かにあります。本人の直筆ドナーカードが不必 要な移植臓器や細胞には腎臓と眼球(角膜)と膵島があります。腎移植は本人直筆のド ナーカードがあればそのまま認められます。しかし一方、本人が臓器移植に明確に拒否 しているわけではないという状況下にご家族の同意が得られるかという非常に特殊な事 情があります。即ちドナーカードが絶対に必要な臓器であれば事情は単純明快ですが、 ドナーカードが不必要でも移植が可能という点に様々に工夫する余地があります。  心停止献腎ドナー、これはcontrolled non-heart beating donorと言いますが、入院 後しばらく時間が経て心臓が停止した後に腎臓が提供される状態です。その際最も重要 な事は出来るだけ早く腎臓を冷却し専用の灌流液を注入することです。このために脳死 状態となった時点で、その事をご家族に正確に説明し、献腎の同意をいただいた後にカ ニュレーション即ち管を入れておきます。そして心停止での死亡宣告後に直ぐに灌流液 を注入します。ところがカニュレーションを行うには規程があり、脳死状態の確認後に のみ可能となります。ですから数時間血圧が安定した脳死状態を経ない状態であればカ ニュレーションが不可能であり、カニュレーションから保存液を注入することが出来ま せん。  当院の献腎10例を表にまとめました。ここで死亡時に検視が必要となる4名の脳挫傷 症例にもご留意下さい。さてはまず待機時間、即ち献腎の同意後どれくらいで腎摘出に 至るかです。結果は概ね1−2日で腎摘出に至っています。そして腎臓の個数ですが、 1人から必ず2腎提供されるとは限りません。例えばこの1例は交通事故で片方の腎臓 が損傷されたために1腎のみを摘出しました。この方は摘出後両腎ともにblue kidney 即ち保存液の灌流が不良であったため結果的に移植されませんでした。この例では移植 された2腎の内1腎は機能廃絶となりました。結局10症例中20腎の内、17腎がレシピ エント移植され、16腎が良好に機能しています。即ち20腎中16腎80%の結果は良好で した。  これがblue kidneyです。一方こちらが保存液の灌流が良好な腎ですので、灌流良好 と判明しますと我々は安心できます。blue kidneyでは血管内残留血液が血栓化してい ます。この状態では移植することができません。実際に腎動脈から注射器で強めに保存 液を注入しても静脈から保存液が出てこず、血管が完全に詰まっている状態です。 そこで1腎が廃絶したドナー例、blue kidneyのドナーの症例が、他の移植成功のド ナーとどのように異なるかを解析しました。 まず人口呼吸器による呼吸補助の有無で す。この1例はAmbu Bagによる補助呼吸を行いました。これは腎臓摘出医師チームの 到着が遅れましたので、20分ほど用手補助を行いました。この場合は人口呼吸器の補助 なしで自発呼吸が停止した時点で心停止に至ります。即ち自発呼吸が停止した後に安定 した時間が無く、カニュレーションをする事が出来ません。この際はヘパリンを心停止 時に1回静脈注射します。こちらの症例は心停止後に注射しました。心停止後に注射す る事は一見妙ではありますが、実はその後に心臓マッサージをするように進められてい ます。即ち理論的には心臓マッサージによりヘパリンは血液の中を回り、腎臓の中での 血液凝固が防がれます。さらに検死の問題があります。外傷即ち脳挫傷の症例には死亡 直後に行うこととされます。即ち心停止から手術室に搬入すう間に温阻血時間の延長が あり得ます。まず第1に年齢ですが、75歳はやはり高齢の限界の様です。高齢ドナー は避けるべきでしょう。しかしこの75歳の女性からの2腎臓の内1腎は現在も機能良 好ですので、絶対に避けるべきとは言えません。第2に呼吸器装着に関してはやはり装 着すべきと思われます。死戦期血圧が低下してきても酸素飽和度を高く保つ事が腎臓の 状態を温存することにつながると思われます。ところが一旦呼吸器を装着しますと主治 医には病院から20分以上離れた場所に行くことも憚れ、予定も立てにくくなります。 24時間拘束が何日続くか分かりません。スケジュールも全てキャンセルとなってしま います。そうであってもやはり呼吸器は装着すべきであろうと思います。第3に血液を ヘパリン化する事も必要かと思われます。脳死状態を経ない場合でも心停止後にヘパリ ン投与し心臓マッサージを入念に行うことでblue kidneyにならずに済むと思われます。 しかし臨終を宣告した後になで心臓マッサージをするのか、ご家族には非常に奇異に映 る行為ではあります。  他の問題点として温阻血時間WITがあります。先ほどの症例表にてWIT1分あるいは 8分などのデータがありました。これは心停止から保存液を注入するまでの時間。しか しこの時間がいつ始まるかの問題があります。即ち血圧モニターが0mmHgを示してから と、もう一つは心電図モニターが平坦になってからの2通りがあります。血圧モニター 0mmHgとなっても心電図モニター上は波形が動いている場合がほとんどです。ご臨終の 場でご家族はずっと心電図モニターを見つめていますから、心電図モニターの波形があ る時に血圧が0mmHgだからと臨終宣言はできません。血圧が0mmHgを示した時点で腎血 流が停止します。その後心電図モニターにてゆっくりと波形が徐脈となり最終的には平 坦波となり臨終となり、カニュレーションから保存液を注入しますので、その間場合に よって10分・15分・20分と実質的WITが延長することとなります。ところが記録 上は1分あるいは3分と短いWITがありました。これはおそらく心電図モニターにて平 坦波となった時点でWITを計測し始めているのであろうと思います。それでは真の腎血 流停止時間を計測しているのかという現実的な問題が残ります。されに死戦期に血圧が 50-60mmHgとある程度腎臓に血流が保たれている状態から急激に心停止の至る症例もあ れば20mmHg程度で腎血流が有効に保たれているか不明の状態で半日ほど続く場合もあ ります。この場合もWITだけでは腎血流停止時間を評価できるのかという問題がありま す。  一方脳神経外科医にとっては、腎臓は非常に強い臓器であると感じるデータもありま す。死亡直前は当然血圧が下降し、排尿量が少なくなります。無尿あるいは乏尿の状態 が延々と続きます。移植後腎機能が正常に復したドナー9例中、7例は死亡前の半日ほ どは殆ど尿が出ない状態になっていました。特にこの53歳女性の場合は死亡前1日以 上尿量がなく、1時間に数滴の排尿程度で、移植後腎機能は大丈夫であろうか心配にな りました。しかし移植時に腎動脈血流を開始するとすぐに排尿が現れ、その後1日 1500ml以上の排尿が見られました。無論死亡直前の無尿・乏尿に関して全く問題なしと は断言できませんが。また当然ながら乏尿時には腎機能のデータが悪化しますがこれに 関しても移植後腎機能は保たれています。そしてもう一つは死亡日の体温です。脳死状 態では殆どの症例で39度・40度の高体温になります。このデータは腋下体温ですので、 深部内臓温度はさらに1度ほど高いと思われます。組織は42度を超えますと細胞が死滅 します。結局9例中死亡日に6例に高体温が見られましたが、それにもかかわらず移植 後腎機能は大丈夫でした。最後に検死の件があります。外傷死・特に交通事故死の場合、 即ちこれら脳挫傷死亡の場合は管轄警察による検死が必須です。しかし十分にヘパリン 化してあれば移植後腎機能には問題がないようでした。このように心停止後の移植が可 能である腎臓とは数分の廃血にも弱い脳と比べ非常に強い臓器だとの印象があります。  さてここから少し話が変わります。献腎症例をいかに増やすかを考えてみました。私 がここで述べます事の中に、今後の献腎事業発展に関しある程度の参考となる意見があ るのではないかと思います。まず臓器移植には2つのファクターがあります。1つは一 般の方々に死後腎臓提供すなわち献腎の尊さを知っていただくことです。この仕事は日 本臓器移植ネットワークの範疇であろうと思います。もう1つは救命救急に関わる脳神 経外科医に献腎の意義とノウハウを教えることでしょう。これは一体誰の仕事の範疇で しょうか。この2点が広まらないとドナー数の増加は望めません。  私たち脳神経外科医は主に脳動脈瘤、脳挫傷、脳梗塞などの種々の救急医療に携わっ ています。どうにかして救命したいと願う重傷例が遂には致命的経過となった際に、ご 家族の同意が得られれば腎臓提供側の中心的な役割を果たす仕事内容に変化します。即 ちtreat・治療からorganize・取りまとめへと、全く別の業務となります。これは非常 に難しいことです。本人が臓器移植・献腎を嫌がっていた場合は移植が当然不可能です。 それ以外の場合はいかに家族の同意を得るかが主題となります。緊急入院後その当日に 死亡する・あるいは1-2日後には死亡する様な、今朝まで元気であったのに急変に家族 が駆けつけてみたらもうダメだと言われる、そのような天から地に落とされた精神状態 で如何に同意を得るかが問題です。即ち入院から臓器移植のオプション提示までの短時 間にご家族から全幅の信頼を得ておく必要があります。そして、動揺・悲観・絶望の場 でいかにオプション提示を切り出すかが問題です。まず病状説明を何度も繰り返しどう 手段を尽くしても救命できないことを御納得していただきます。そして、病状・病態に 納得されて初めて腎臓提供の道がありますという言葉を聞き入れる気持ちの余裕ができ ます。例えばわだかまりが残っている場合があります。家族が「自分が1-2分でも少し 早く発見していれば、防げていたのではないか」、「前日口論したことが悪かったので はないか」など、そのようなわだかまりが心に残っていますと献腎のオプションを聴く 余裕はありません。そのような事も含め、私は献腎を視野に入れて病状説明をしていま す。そして徐々に家族が集まる中でキーパーソンを把握します、一度献腎の同意を得ら れても、後に到着した遠い親戚の方が「そんなことはするな」と一言言われ、あっとい う間に献腎が中止になることもありました。  そこで私自身はどのようにオプション提示をしているかです。先程述べましたように まず病状説明をします。脳の機能はもう失われていますが、他の臓器は非常に元気なん ですと。そこまではご理解いただけます。しかしその後、「実は私は院内移植コーディ ネーターを兼任しています」と述べますと、えっと驚いてご家族の表情は変わります。 そしてオプション提示をします。その際はご家族の気持ちを十分に忖度し礼を尽くして 腎移植を説明します。その際、「そういえば本人は以前から移植に関して前向きな事を 言っていた。そこで我々家族も同意します」という流れであればよいのですが、そうで はない場合は、私は「腎臓を提供していただければ、この広い空の下で腎不全で悩まれ ている2人に方が非常に助かります。ご本人は亡くなっても腎臓は移植された先で役に 立ちながら生き延びることができます」というお願いの仕方をしています。決して家族 の意向の無視とか、献腎の強要等は一度もありません。しかし主治医がその場でどのよ うなオプション提示をするかによって移植数は非常に増加することも確かです、私のオ プション提示だけでは決断がつかない場合には、「結論は急がれなくて結構です。県の 移植コーディネーターを呼びますのでお話を聞いていただけますでしょうか。そのお話 を聞いた後に合否の結論をいただければ結構です」と申し上げます。その様にお話しま すとたいては「分かりました」とおっしゃいます。  連絡しますと県コーディネーターは夜中でもすぐ来てくれますが、それでも約1時間 半はかかります。その間に家族はすでに相談をします。結果的にオプション提示後の合 意と拒否にいくつかのパターンが現れます。まず主治医のオプション提示時に「本人直 筆のドナーカードを持っています。どうぞ移植へ進んでください」あるいは「カードは ありませんが以前より移植への意向があります。」これは最も良い場合です。あるいは 私が説明してその場で同意いただく場合もあります。これらが即同意のパターンです。 逆に拒否されたり、場合によっては「亡くなる人から腎臓を取り出すなんてそんなこと はとてもできない」と私が叱られる場合があります。それが全体の5-6割です。その時 点で県コーディネーターの呼び出しの道はなくなります。この時、「自分は一体何をし たのだろうか」と疑問がわきます。私自身が移植をお勧めしその場で拒否されるあるい は叱られる。私以外誰もそのことは知りません。移植学会の記録にも残りません。次の オプション提示後に決心がつかず少し保留させてほしいと言われる場合があります。こ の際は県コーディネーターを呼び出します。福岡県は岩田さんという男性です。その際 の合否は実際は以下の通りです。待ち時間に身内で相談して即同意を得られる、あるい は県コーディネーターの説明で十分に理解されて同意される場合もあります。ところが、 一方、県コーディネーターの到着前に拒否の結論が出て、コーディネーターの到着と同 時に「そんな話は聞かない。帰ってくれ。話を聞いたら断れなくなる。腎臓提供はしな い。」と拒否されることもあります。あるいはコーディネーターの説明をほんの数分聞 いただけで、「すでに提供はしないと結論が出ている」との拒否も1-2例ありました。 結局献腎の条件に該当する症例中3割ほどに献腎の同意が得られます。しかしその後の 検査でHTLV-1陽性あるいは亡くならずに植物症へ移行する場合があり献腎に至らない 場合もありました。  そうすると当小文字病院の現状では、脳神経外科症例でICUにて入院2週間以内で死 亡する症例が約30例です。その中で献腎条件に該当する症例は半分以下です。殆どは 高齢で除外されます。そして私は該当する場合には必ずオプション提示をしています。 その際献腎を勧めお願いする場合もありますし、意思の有無の確認だけの場合もありま す。いずれにしても即拒否でなければ12例中4-5例で合意があります。その中で腎摘出 に至らない場合を除外すると年間3-4例の提供となります。この数字は当院では今後ど のようにしても増やすことはできません。年間20-30例の提供などはありません。  オプション提示の他にも脳神経外科医の取りまとめ役としての仕事があります。まず 病状の経過を観察しつつ腎摘出への準備をしなければなりません。そしてこれが非常に 苦痛な業務ですが、手術室にいつ亡くなっても対応できるように数分で手術の準備をス タンバイしておくよう命じます。手術室勤務看護師は病院から5分以上離れることはで きません。場合によっては一晩中控え室に待機しています。そしてもう一つは手術室1 室をずっと空けて待つことです。これは他の外科系の意思にも多大な迷惑・苦痛になり ます。脳外科はなぜ空室を占拠しているのか、通常の予定手術ができないとのクレーム がでます。そして移植医師団のスタンバイです。経過が長くなる場合は一旦大学へ戻ら れる場合があり、血圧が下降してくると、いよいよかと判断し、「早く来てください、 間に合わないかもしれません」と連絡します。ところが医師団の到着した後も低い血圧 で長く経過することもあります。また医師団はまた出直せばよいのですが、冷却用の氷 の問題もあります。血圧低下の連絡で手術室にて手術の準備を始め冷却用の氷を出しま すが、すぐに手術に至らなかった場合は氷が溶けてしまいます。ですからまた新しい氷 をたくさん調達しなければなりません。そして最後に検死のスタンバイのお願いの件が あります。通常は死亡後に管轄警察署に検死の件を連絡しますと30分以上かけて準備し て来院されます。そしてまた30分ほどの検死をされます。移植医師団の待機はやむを得 ないところがありますが、警察官をお待たせするのは非常に心苦しい面があります。私 は腎摘出が控えており検死を3分程度でお願いしますと申し上げていますが、検死の最 中にも急いでいただくようお願いしています。  啓蒙のもう一つは移植ネットワークからの報酬があることを周知させることです。献 腎ドナー側の病院は、機械は使う・人を使う・超過勤務代金を払うなどで、経営面に疑 問を持つことが殆どです。そこで移植に関してはドナー側病院にも正当に報酬があるこ とを説明することで事務的に納得を得ることができます。しかしこの報酬の件を知らな い施設が殆どであろうと思います。  そこで今度はオプション提示の意義についてもう少し詳しく説明します。我々共通の テーマは「献腎してほしい」です。この図は現実的ではありませんが、左が透析患者さ ん、右がドナー候補症例の家族だと仮定し、この間で直接相談できるとします。透析患 者さんの強い移植希望熱意がどの程度、このご家族に伝わるでしょうか。半分か3-4割 か分かりませんが、個人と個人の話し合いであればある程度の頻度で献腎に到達するで しょう。  ところが現実はこうではありません。多仲介の間接交渉です。透析患者さんの熱意、 次に腎専門医・ネットワークコーディネーターの熱意がどの程度脳神経外科主治医に伝 わっているのでしょうか。殆ど0に等しいと思います。その中でされにオプション提示 をしても、最初の透析患者さんの希望・熱意がどれだけドナー候補家族に伝わるもので しょうか。  現実には腎臓疾患専門医の中で全く移植に興味がない医師もかなりいらっしゃいま す。例えば開業医師は、透析医療でその病院の経営が成り立っている場合もあります。 その際腎移植にて患者さんが透析離脱したら経営が困窮するなどの話も聞こえてきま す。例えば私が勤務する小文字病院にも泌尿器科があり腎臓専門医がいます。約50症例 の透析医療を行っていますが1人も移植候補の登録していません。なぜなら高齢者や合 併症が多く誰1人も移植適応が無いそうです。いずれにしても腎臓疾患医療に関しては 一枚岩ではないと言えます。透析治療医と移植医の間にも温度差があります。このよう な混然とした事情の中で、この遠くに離れている脳神経外科医にどの程度移植の熱意が 伝わっているのでしょうか。  実際には透析患者さんにも温度差があります。例えば他病院で透析治療を受けている 患者さんが脳卒中で当院で入院します。その際私は必ず患者さんに移植に登録している か尋ねてみます。すると殆どの方が登録していないと返事されます。このような状態で 移植を希望する患者さんの熱意が途中でどのように減衰しているか、最初の熱意を100 %と仮定したら、ドナー候補家族に到達する熱意は1%も無いのではないでしょうか。  では私が年間3-4例を提供するのはどのように熱意を伝えているかです。私は全くレ シピエント候補には面識はありません。しかし仲介なしに候補患者さんの熱意を考えお そらくこのような熱意だろうなと想像し、礼を尽くした説明とお勧めをしています。こ の方法と熱意でオプション提示を年間10-12回行って、結果はやっと3-4例の提供です。 おそらくこれが本当の限界であろうと思います。  例えば当院の院長は移植に関しては乗り気ではありません。即ち腎提供の件が広まる と、「あの病院に行ったら死んだ時に腎臓をとられるぞ」と言った風評は非常に困りま す。そのような多様な実情の中で献腎を広めるために各個人・組織・団体が何をすべき でしょうか。まず第一は献腎意志を持つ母集団を増やすことだと思います。これは絶対 に必要でしょう。現在は人口の7-9%だそうですが、献腎意志を持つドナーカードを保 持する母集団が一層増せば、脳神経外科医の如何に関わらず献腎は必ず増えます。とこ ろがもう一つ問題があります。脳神経外科医が献腎に必要性とノウハウを知っているこ とが重要です。これもボトムアップ方式ではあります。当院からの10例中カード提出1 例と本人と家族が元来移植に積極的であった1例を除き、オプション提示が献腎の意志 の有無確認だけでは8例は同意されなかっただろうと思います。そして同様の脳神経外 科への啓蒙としてのトップダウン方式として学会レベルで交渉することが考えられま す。  私は献腎8例を脳神経外科学会九州地方会で発表しました。その際、脳神経外科の興 味が集中する脳動脈瘤・脳腫瘍・様々な手術の発表が行われたのちに、私は最後に「そ の他セクション」での発表となりました。殆どの方がその時間帯には学会から帰ってい ます。私の演題発表は午後5時ごろで聴衆はわずか10名程度でした。さらに今秋の脳神 経外科学会総会に同様の演題を提出しました。その結果は「不採用」でした。私が演題 を提出してもそれを当てはめる場所がない、即ち脳神経外科学会は移植には全く興味が ない・そのセクションすらない状態です。それならば最後の手段としてこの10例の献腎 の論文を書き始めています。しかし学会発表ですら不採用ですから、論文ではAccept どころかSubmit「預かり」ですら不可能ではないかと危惧しています。  最後に私が申し上げたい事は、この献腎事業は現在脳神経外医師のとっては全くメリ ットが無い事です。提供時にただ疲労困憊するのみです。献腎が決定しますと、2-3日 は外来でも気になり、緊急手術にはいることも控え気味で、入浴のためのみ帰宅する程 度で、非常に疲れます。そのような事情において献腎事業を進める、脳神経外科医にそ の必要性を知らせるのは一体誰でしょうか。やはりこの件に関しては学会レベルで周知 させる、トップから働きかける事でしょう。脳神経外科学会の中に移植のセクションを 設ける程の強い働きかけが無ければ、脳神経外科医師は眼前に移植候補になりうる症例 がいなくても全く上の空で過ごしてしまうでしょう。以上私が常々考えている事をお話 いたしました。ありがとうございました。 ○大島班長 どうもありがとうございました。何か御質問、御意見、非常に率直にお話 しいただいたと思います。  現場で本気で、法律の第2条の、臓器を提供したいという意思は尊重されなければな らないということを、どういう医療の立場であっても、それに関与する人間がその精神 を尊重しようという立場で医療を行い始めると、吉開先生が提示されたような問題とい うのは一挙に噴出してくるわけですね。幾らペーパーを重ねて、あれがいい、これがい いと言っても、損得勘定だとか、本来の役割だとか、いろんなことがあるんでしょうけ ど、本気になって、国が認知した移植医療を推進するためには、大きなマイナス部分を 正面から解決していくような方策を打ち出して、それを具体的な形にしていかないとむ つかしいですね。こういう形にするのがいいですよ、こういうやり方をやっているとこ ろがあるから参考にしましょうよというようなやり方では恐らく限界がある。それを突 き詰めていくと、それを理解した現場の一握りの医者の善意に支えられて行われるしか ないという形に集約しちゃうわけですけど。何か御意見、御質問。 ○吉開参考人 結局、腎移植を進めたいとの大きな目標がある際に、種々の条件・方針 がありますが、言葉・用語で規定しすぎると動きづらくなる事があります。私の業務は 主に脳出血・脳梗塞・脳挫傷などに対する治療が8-9割を占めます。個々の患者さんが 重症で搬入されます。あるいは重症ではない場合でも手術が必要となる場合があります。 その際ご家族と相談します。その時の説明の内容はその主治医の裁量に完全に委ねられ ています。その内容を後で部外者が確認する事はありません。例えば仮に100人の脳神 経外科医中、90人は手術するべき、残る10人はするできではないと思うような症例も あります。この時に90人が残る10人をおかしいと決めつけることはできません。結局 医療現場では、主治医が責任を負い全てに裁量権を持って覚悟して治療を行っています。 このような事情がある中で、説明に関して予めこの様に言え、あのように言え等と文面 での決めごとがあると、最初からそれに関われなくなります。細かい決まり事を作れば 作るほど、その決まり事によるハードルが10も20も先の1ハードルであっても、最初 のハードルを越すことができなくなります。ですから文面での細かい制約があるほど、 この献腎事業は進まないものと理解しています。 ○大島班長 いかがでしょうか。 ○秋山班員 どこをどう発言していいか悩んでいたんですが、もしずれたら申しわけな いんですが、今日お三人の参考人の先生方の話を聞いてますと、医療は社会活動だなと いうふうなことが一つ言えて、行政と医療の現場が密接に、一般の人、医療人という感 覚での話からいいますとそういうことだろうと僕は99年からずっと論文でも書いてご ざいますけれども、ただ、吉開先生のお話をお聞きしてる中で2点ほどあったんですけ ど、福岡は物すごく地域システムづくりで注目を浴びている地域ですが、私は新潟なん ですけど同じような地域であって、先生のお示しの、手術室のスタッフに声をかけるの は非常にストレスであるとか、あるいは先生自身がオプション提示から始まるお仕事に ついて縛られてしまうという話があったわけですけど、院内に主治医をサポートするシ ステムをどうしようかとか、そういった病院全体の動きというのはないものなのかどう かということが一つ。  もう一つは、そういった地域でシステムを積み上げるのに、いわゆる悲嘆家族のケア というのも私たちは推奨してるんですけども、先生の御報告ではまさにそれを実践され ているところがあって、精神医学の中で喪の仕事というパターンを先生御自身が個人の 力で頑張られている姿、これによってオプション提示の可能性が高くなってくる。承諾 率を上げるための、つまり信頼関係を結ぶきっかけづくりをなさっている。先生の御努 力としては最高のものだけど、これが全体としてどういうふうに生きているか、こうい うことが普及啓発という今回のお題からいうと重要なのかなとお伺いしていました。 ○吉開参考人 質問の第一は院内システムで、第二はグリーフケアのことです。  まず院内システムに関してですが、チームを仮に作っても運営が難しいです。先程申 し上げました様に、患者さん一人一人で全く同じパターンの方はいらっしゃいません。 当院には脳外科医は3名、10月からは2名となりますが、普段かなりの仕事量を行って います。しかし仕事量が多いから移植でより多忙になることが嫌だと言っているのでは ありません。先の連休中夜中に手術をし、徹夜でここに来ていますが、それが嫌だとい う意味ではありません。その脳神経外科の業務に関しては、我々脳神経外科医になると 決心した当初から非常に困難な仕事であることを承知しています。移植に関与する場合 我々の苦労をサポートしていただく院内チームがあれば良いのですが、それはやはり10 個くらい先の ハードルです。やはりまずはオプション提示で同意していただく事が最初のハードルで あろうと思います。そのオプション提示の前にカードの提出があるとか、提示をしただ けで同意を得られその後が一様に全てうまく進むようなシステム作りは必要であろうと 思います。実際にはご家族が悲嘆した状態でシステムを作動させることは困難です。ご 家族の中のキーパーソンが拒否されてもその周囲の親戚の方々が実は賛成であった事も ありましたし、結局は多様なパターンがありシステム化はしづらいと思います。逆に主 治医の裁量権が非常に大きい場合もあります。いずれにしてもドナーカードを保持して いる人が多いとその分我々主治医の苦労も少なくなります。私が最大限努力しても年間 3-4例ですから、今後当院で年間30-40例を提出することは不可能です。しかし例えば 福岡県で何百とある救急病院から年間1例でも献腎があれば全体で年間100-200例とな ります。そしてその中で一部の脳神経外科医が最大限努力すれば年間300-400例となり ます。一般的な脳神経外科医に献腎を啓蒙することがまず第一であろうと思います。そ して個々の病院で各々の脳神経外科医が工夫するでしょうし、全ての病院をまとめるよ うなマニュアルを作って渡すことにはならないと思います。  次にグリーフケアに関してです。私が経験した例ではご家族が心停止の直前になって 家族の1人に臨終に間に合わないから献腎は嫌だと言い始めました。この際私はご家族 が間に合うまで心臓マッサージを行ってその場で説明説得して献腎にいたりました。そ の際息子さんを亡くした母親は悲しんでおられましたが、後に移植のために献腎をした 事を非常に喜んでおられ感謝のお手紙が来たことがあります。即ち「あの時一度は献腎 は嫌だと思ったけれど、やはりやって良かった。亡くなった息子の腎臓がこの空の下の どこかで誰かの体の中で役に立っているかと思うと、自分の気持ちも救われる」旨のお 手紙でした。他に、最近の5例は連続して経験したことです。つまり病態自体が非常に 納得しづらい、朝行ってきますと出かけたのに夕方にはなくなってしまうくらいの激し い経過ですから非常に受け入れづらい。その受け入れづらさを乗り越えて献腎に至りま す。その後病院から送り出す際にご家族が「良いことをしてくださってありがとうござ いました」とおっしゃることがありました。しかしグリーフケアをまず第一に全面に出 して脳神経外科を啓蒙することは無理でしょう。やはり献腎の必要性を啓蒙することが 大切であろうと思います。 ○大島班長 ほかにいかがですか。 ○篠崎班員 先生のお話を聞いていて、情熱というところがキーポイントかなと。日本 においては臓器移植というのは不幸な歴史があって、粛々と始めるということで臓器移 植ができて、日本臓器移植ネットワークかなり公正にやってきたんだと思うんですが、 逆にその公正という部分が移植医療現場から排除する形になり、逆に移植医の先生のと ころに直接行ってコミュニケーションをとりというような、世界中で行われている移植 医療が日本では行えなくなったというのが御不満の発端になっているということは、こ の場所にいる全員が理解しているし、何とか変えなくちゃいけないと我々も思っていま す。  これは単なるコメントなんですけど、非常におもしろいと思ったところは、先生の言 った、情熱が落ちていくファクターがありました。これ実は既に研究報告がございまし て、コミュニケーション関係の先生方が行ったデータで、ある程度の意思を伝えた場合、 人間が平均どのくらいいくのかというのをコミュニケーション大学が調べまして、6割 くらいかなと思ったんですが、残念なことに、一般的な人間が話をして伝わるパーセン テージが7%ということになってますので、先生はあれでもかなり温情を持って書いて いただいたのかなと。実際は恐らく10分の1以下ずつ落ちていって、数%というのは恐 らく0.0何%というレベルになってしまうというところで、厚生科学研究でやらせても らってるドナーアクションの方でもデータが出ておりまして、どういう形でだれがオプ ション提示するかによって、スペインとかヨーロッパのデータを見ても、明らかに10% ずつくらい、だれがどの時点でするかによって承諾率が変わってきますので、先生がお っしゃっている情熱、信頼関係というのは何なのかというところは我々ももう少し真剣 にとらえていく必要があるのかなと思ってお話を伺っていました。  一つ大事なポイントとして考えられるのは、人間性というのもすごく大事で、主治医 の先生だから信頼できるというところもあるでしょうが、先生方によってもばらつきは 当然出るでしょうし、家族の信頼、コミュニケーションというのはすごく大事だと思う んですね。こういうのはどちらかというと個人的な能力に左右されるところで、これか ら社会的にはシステムじゃなくて個人もというんですが、個人の秀でた能力をベースに、 ある程度システムづくりというのも考えていかなくちゃいけないところかなと考えてお りまして、先生が大変なお仕事の中でやっている仕事の一部、特に臓器提供あるいはオ プション提示、いろいろ作業があると思うんですが、そういった部分をシステムとして サポートできる、当然クオリティが大事だというのはわかってるんですが、そういった ところでもう少し国なり何なりがサポートできるというところが実際何なのかと。そこ で担当するコーディネーターの技術とか人間性、知識、そういったものも上げていく必 要があると思うんですけれども、そういったところで何かこんなところがあればという のをお聞かせいただければと思った次第なんですが。 ○吉開参考人 正にその事が重要な問題でしょう。熱意とか情熱と言っても、それを人 に押しつけたり広げたりはできません。それらは自然に芽生えてくるものでしょう。私 も最初の1-2例目の献腎では何の興味もないな、疲れるだけだと思いました。しかし献 腎症例を提出すていく間に県コーディネーターの方や移植医師団とも知り合いになりま す。その間に日本の腎移植事情がどのようになっているかを少しずつ伺うことができ徐 々に私の熱意も芽生えてきました。またその他のグリーフケアなどの、目には見えない 良いことをもしているのであろうとも思うようになりました。しかしやはり人には熱意 が芽生えるようにと強制することはできません。結局、献腎などあまり興味がないと思 う医師には絶対興味がわかないと思いますし、一方徐々に興味がわいてくる場合もある と思います。しかしそのためにはやはりまず、救命救急に携わっている脳神経外科医が 「一様に」献腎を提案するようにというシステム作りが必要でしょう。そのシステムが あればそのうち何パーセントかの医師がそのやりがいに気づくでしょう。あるいは医師 には全く興味が無くても、家族がオプション提示を聴いて初めて「そういえばカードが あったようですが」と提出したり、「本人が以前から移植に関して同意の意向があった から」と同意されることが献腎を進めることでしょう。システムのまず最初は、全国の 脳神経外科医に「一言でいいから腎臓提供の話をしてくれ」と言うことから始まり、後 に自然にのびていくであろうと思います。  ○大島班長 ありがとうございました。歴史的に数十年という時間もあるんですが、 そのところでずっと見てみますと、提供のあるところというのはほとんどパターンが決 まってまして、本当に情熱を持って移植医療をやろうという移植医がいるということ、 これがまず第一条件です。それをサポートするコーディネーターが寝食を忘れて、本当 に人柄のいいコーディネーターが同時に活躍している。そして、その周辺のところで、 大したことはないかもわからないけれども、そのプラスアルファのお金の問題だとか、 システムの問題だとかというのをサポートするような仕組みが何らかの形でできてい る。日本の中で成功しているというのはこの条件ですね。ただ諸外国はちょっと違って いまして、このパターンが必ずしも諸外国ではないんですが、ベースには同じようなも のがあるということについては、やはり同じような感じじゃないかなと。国のシステム だとか何かがはっきりとインセンティブがつくような流れ、見方によっては制度そのも のが根本的に違うんですが、提供施設にはっきりと一定の条件を要求として要求すると いうようなものがそこにぶら下がってるというのが大きな違いなのかなという感じがし ます。  それで、あと残り30分ですが、今までいろいろヒアリングしてきて、問題は一体何な のか、それを解決するために一体どういう事例があってどうなのかというようなところ で、幾つか整理がついてる部分があると思うんですが、整理をつけるという部分につい て事務局から説明をいただいて、その後で、ただ整理をつけただけでは意味がありませ んから、具体的に日本の実状、いろんな制約条件が当然あります、日本の前提条件、法 律の問題もありますし、制度の問題もありますし、我々が現実的に持っている資源も限 られていますから、そういったものを全部ひっくるめた上で、しかし、それらの条件の 中で一体どう変化させるのか、変えることによって具体的に臓器提供がふえていく方向 に向かっていくという提案をするのがこの委員会の役割だろうと思っていますので、そ ういった方向へ向けての御意見をいただきたいと思います。  まず事務局から今までのまとめについて話をいただけますか。 ○矢野補佐 それでは資料4を御覧いただきたいと思います。移植医療の普及啓発の推 進について、これまでの議論のポイント(案)ということで整理させていただいており ます。これまで6月、8月、本日と計3回作業班を開催しまして、日本臓器移植ネット ワーク、学会、医療機関、海外の状況、行政の状況についてヒアリングをしまして、意 見交換をしてきていただいておりました。  まず普及啓発推進の趣旨ですけれども、移植医療に関する国民の理解を深めるととも に、臓器提供に関する本人の意思がより尊重されるよう、移植医療に関する体制整備等 を進め、普及啓発の推進を図るというものです。  視点としては大きく2点あるということで、1点目が国民への効果的な普及啓発の推 進。内容としましては、移植医療に関する理解の促進、臓器提供に関する意思表示の促 進ということがあろうかと思います。もう一点は施設における取り組みの促進というこ とで、臓器提供に関する施設の体制整備の促進、オプション提示の促進という点につい てご議論いただきました。  続きまして、普及啓発を進めていくための取り組みについてでございます。移植医療 関係機関の取り組みとして、まず移植実施施設の取り組みということで、施設内におけ る普及啓発を進めていく必要がある、市民に対する普及啓発を進めていく必要があると いうことで、まずは移植医が所属する施設の中の取り組みから進めていく必要があるの ではないかという御意見をいただいておりました。  次に学会の取り組みですけれども、臓器提供施設に対する支援、学会としての取り組 みの検討ということで、支援としましては、例えば救急医学会が提供施設に対して支援 しているというお話がありましたし、学会としての取り組みの検討ということでは、前 回秋山先生から学会の取り組みの状況についてお話がありましたけれども、移植実施施 設の取り組みとも関連しますけれども、学会としても移植実施施設における取り組みを 進めていくための方策をもっと検討する必要があるのではないかという御意見をいただ いておりました。  次に臓器提供施設の取り組みについてですけれども、施設の体制整備、普及啓発、臓 器提供に関する本人意思の確認方法の工夫ということで、これまで福岡県、新潟県、藤 田保健衛生大学病院からヒアリングをしました。今ほど吉開先生にも取り組みについて の御説明をいただきました。  次に臓器あっせん機関、腎臓バンク等の取り組みですけれども、一つには、コーディ ネーターに対する研修の充実が必要であるというお話がございました。また、臓器提供 施設に関する支援、市民に対する普及啓発の現状につきましては、日本臓器移植ネット ワークで現状の取り組みについて説明をいただいたところでございます。  その他の機関の取り組みでございますが、患者団体、日本移植者協議会から、市民に 対する普及啓発の現状についての説明がありました。また、行政の取り組みとして本日、 静岡県、高知県からお話をいただきました。これまでの議論でも、臓器提供施設に対す る支援の現状について事務局から御報告させていただきました。また、これまで作業班 の中で先進的な取り組みに関する情報収集、還元を進めていく必要がある、移植医療の 関係機関の間の連携サポートを行政が行っていく必要があるといった御意見をいただき ました。  最後に「その他」として書かせていただきました。臓器提供者、ドナー側に対する視 点でございます。これは患者団体からのヒアリングの際に、患者団体がドナーに対する 感謝の催しをことしから御家族と共同で実施しているというお話がありました。ドナー 側に対する必要な視点ということで、議論のポイントとして記載させていただいており ます。  以上でございます。 ○大島班長 ありがとうございました。というようなことを踏まえて、臓器移植に関す る法律ができてから既に10年たっているわけですけれども、その間に、それに関連する いろんな規則、諸制度が作られた、公平性を担保するためにネットワークができた、ド ナーカード等の配布、そのやり方も随分いろいろ多方面にわたって、1億2000万以上、 人口以上のものが既に配られている、提供病院の要件というのも決められた、脳死判定 方法についても十分に行われている、お金の面では診療報酬ということも決まった、ア ロケーションの方法も随分議論されてまた新しいものに変わってきた。これほど周辺が 整備されているのに一向に効果があらわれない。推定すれば、脳死だけでも少なくとも 100例くらいは年間に出てもいいという状況が無視されている、生前の意思が無視され ているという状況がいろんなところで証拠が挙がっている。心臓死で提供してもいいと いうような生前の意思をいろいろ推定していくと、1000例出ても決して不思議ではない という客観状況があるにもかかわらず100例に満たないというのが今の日本の状況で す。このギャップをどう埋めるのかというのが具体的な提案になってくると思うんです が、少なくとも、いきなりこれだけのことをやるからあと10億金が要るなんていうこと を言ってもどこからもお金は出てきませんので、今我々が持っている資源あるいは制度、 施設というものを十分念頭に置いた上で、まず何から手をつけていって、どう変えてい けばいいのかという、具体的な提案でも構いませんし、余り抽象的な話はこれからは意 味がないと思いますので、御意見を伺いたいと思います。一人ずつ、秋山さんから、お 願いします。 ○秋山班員 私が今まで歩んできて効果的だったなということについて、抽象的じゃな く述べてみたいと思います。一つは、先ほどもありましたけども、移植医療の尊さをど ういうふうに地域に伝えるかということと、地域というのは県民の医療機関ということ ですが、具体的には官民一体の取り組みが大切だろうと思います。官でいいますと、幾 つかは県単独事業でこのことを推進しております。疾病予防という観点からも臓器移植 医療は重要だというふうにとらえなくては行政面から見てもおかしな話になってきてい るという昨今もございますので、これはいろんな角度から必要なことであって、僕らが 地域開発で病院に整備を加えるときに、新潟のような田舎ですと、葵の紋所といいまし ょうか、やはり行政が支援するというものほど大きなものはございません。これをどう いうふうに資源として一緒にやっていくかということを実践してきて、現在、新潟では 成功しているということが一つあります。ただ官だ、民だということではなくて、総合 的にこういう取り組みでいきましょうということを具体的に言う必要があるだろうと思 います。  また、医療機関のシステムづくりについても、篠崎班で今やらせていただいておりま すが、ドナーアクションで個別に病院へ展開する。ただ臓器提供を増やすということで はなくて、臓器提供ができる病院というのはすなわち高機能病院であるということが言 えると思います。つまり、医師個人の努力でやっていると、その医師がいなくなればそ の病院は努力が終わってしまうという矛盾もあります。ですので、個別のシステムをつ くるとブレーキになるという参考人からの御意見がございましたが、その部分ではなく て、病院として全入院患者さんに意思表示カードの所持を聞いていきましょうとか、こ ういう患者さんが出たらこういう委員会が主導して主治医をサポートしましょうとか、 こういう具体的なことで1病院、2病院、3病院とふやしていくことによって、地域の 医療機関のシステムづくりが成功していくんだろうと思いますので、私はその2点で地 域開発という観点から強く今後発言させていただきたいなと思います。 ○大島班長 ありがとうございました。菊地さん、いかがですか。 ○菊地班員 お話を伺いまして、情熱は自然に芽生えるものであるという言葉に非常に 感銘を受けました。確かにおっしゃるとおりだなと思います。  具体案としましては、ある一定のパターンがあれば臓器提供が増えるということを班 長がおっしゃっていました。情熱のある移植医、人柄のよいコーディネーター、行政な どのサポートシステムがあれば、ある程度提供数が増加することが既にわかっているわ けで、実績を上げている都道府県等も昨今出てきています。一つぜひ提案として本委員 会に取り上げていただきたいと思いますのが、都道府県コーディネーターの雇用体制で す。十分に動ける都道府県コーディネーターというのはごくわずかです。十分に動ける 方は実績を上げていると思います。正職員ではなかったり、パート的な扱いの者があま りにも多く、コーディネーターの雇用体制は根本的、抜本的に見直し時期にきているの ではないかと私は考えております。例えば将来的なネットワークに雇用体制を一本化す るのか、このまま都道府県のコーディネーターとして務めていただくのか、将来の体制 を明示してもう少し雇用体制を確立して、動けるよいコーディネーターを集めていただ くというのが一つの臓器提供増加の形につながるのではないかと思っておりますので、 どうぞよろしくお願いいたします。 ○大島班長 ありがとうございました。篠崎先生は厚生労働省の班会議で全体をまとめ てますし、最後にコメントをいただくことにして、その前に土方さん、お願いできます か。 ○土方班員 まず国民への効果的な啓発ということにつきましては、厚生労働省が定め ております10月の推進月間ですとか、成人式でのカード配布などにつきましても、県の 方でもそのようなことに努めてやっていこうという姿勢はあるんですけれども、実働的 な面を見ますと、県の方から腎バンク等にその業務がおりてきている。さらに、事務サ イドではなくて県のコーディネーターがそれをすべて行っているという実状もございま すので、病院啓発に力を入れたいという気持ちも県のコーディネーターにはありながら、 一方そのような一般啓発に県の方で力を注いでくだされば、より病院啓発の方に力を入 れられるということがあるんですが、両方を並行してやっていかなきゃいけないという こともありますので、もう少し国、県の方の実働に力を入れていただきたいということ が一点。  あと、1月から保険証の裏面に意思表示欄が設けられるということをお聞きしており ますけれども、各種保険証への導入ですとか、免許証への導入ですとか、免許センター の教官によっては意思表示シールが張れますということを言ってくださってる教官もい らっしゃるようですけれども、ほとんどがそういうインフォメーションはなくて、免許 センターの窓口にカードが置いてあるというところでとどまっておりますので、そうい うところでのインフォメーションを強化するということも一つ活動としてはやっていけ ればいいのかなと思います。  それから、病院啓発の取り組みとしましては、ドナーアクションの活動に県のコーデ ィネーターが関与して、移植医も関与して頑張っているところではありますけれども、 県の担当の方もその中に入っていって一緒にそういう活動に対しての理解を得ながら、 また病院へのアプローチを行政と一緒にできればより効果的ではないかなと考えており ます。 ○大島班長 ありがとうございました。それでは篠崎先生、お願いいたします。 ○篠崎班員 幾つかポイントをまとめたいと思うんですが、国際的にも、よく海外から 質問を受ける答えにくい部分として、自由配布制カードでありながらカードがなければ 脳死下での臓器提供ができないカードが、なぜ自由配布制だと言われたときに、私は答 える答えを持っていない。これは国際倫理的にも問題があるので、これをどうやって皆 さんに持っていただけるのかというところをやるべきであろうと。アメリカでも運転免 許にドナーって書きますけれども、免許証から提供につながる確率というのは多くて7 %、低い地域ですと3%ですので、一般的な普及啓発でしかないという前提じゃなくち ゃいけないんですが、日本の場合は必要十分条件になってますので、ここに対する方策、 アメリカでも州によって異なりますが、裏側にサインをする状態から、ちゃんと印刷で 免許証の中でドナーって書いてくれるまでに大体15〜25年かかってます。日本ですと 10年近くシールをやってきてるので、何とか公安にお願いして、それをちゃんと印刷で 中に入るようにすると、これは非常に大きな効果があると思いますので、そういったと ころが一つ。  もう一つは、脳死ということをちゃんと国民が理解して、先生方が救急の現場でも普 通に臨床的にお話しできるような状況に持っていくというのはすごく大事なことだと思 うので、臓器提供を理解する、プラス、脳死がもうちょっと医療の現場でやりやすい、 それは保険点数のこと、いろいろあるんだと思いますが、同時に日本臓器移植ネットワ ークでの普及啓発をもうちょっとプロモーションをかけられるような体制で一般に知ら せていく、この2本立てが必要だと思います。  あと、日本での矛盾点というのは、規制と推進、アメリカでいうところのFDAは規 制をかけながらHRSAでプロモーションをかけている。政府の2つの別の機関でやっ ているということでスムーズに動いている面があります。規制をかけているところとプ ロモーションをかけているところが同時にやりますと、ブレーキかけながらアクセル踏 めという状況になっているところでの矛盾点がありまして、日本臓器移植ネットワーク がやりにくくてジレンマに遭ったり、動きが鈍かったりするのもその辺にあるんじゃな いかという気がしますので、公正・公平にやっていく部分は本部でかなり国民からの信 頼も得られていると思いますので、推進部分をどうするのかということを明確に出すべ きであると。幸い日本臓器移植ネットワークには支部という制度がありますので、3支 部が数値目標を設定するなりということで明確な目標とそれに対する予算立てもしっか りあるような形を国がつくってあげて、それを粛々と進めていくと。それについて本部 はしっかり規制をかける、あるいは管理するということができるような体制が必要なん じゃないかと。支部の下に何があるかというと、都道府県のコーディネーター、その先 にいる院内コーディネーター、あるいは救急の現場、脳外科の先生方というところが、 もう少し個々に動けるような、もう少し緻密に動けないと、21人しかいないネットワー クのコーディネーターで全部やるというのは到底不可能な話ですので、マネージメント ができる人を支部に置くということは非常に重要なので、そういった形ができるような 体制をつくっていくということが非常に重要であると思います。その中でコーディネー ターも、とにかく数がいないわけですから、数をしっかり得ることと、その中での指揮 命令系統がちゃんと直線でいくような形にしていくということ、あるいは、それをやる には当然社会的な評価も受けなくてはいけませんので、個々のコーディネーターの評価 も行えるような体制をちゃんとつくり、かつ、できが悪いからだめということではなく、 ちゃんと教育も、マネージメントもしっかりできるような体制を支部に持たせるという ことを明確に出していかないと、ブレーキとアクセルの関係がいつになっても、片足で ブレーキとアクセルを両方踏んでるような状況になっていますので、せめて右と左を別 々にしてあげるくらいの体制で支部機能を明確にしていくということで、そろそろ国民 の理解も得られるのではないかなと思いますので、その辺の体制づくりが重要かと思い ました。  以上です。 ○大島班長 ありがとうございました。残り5分くらいですが、何か御発言があれば。  考えてみれば、臓器提供がなければ移植医療は成り立たない、これは当たり前なんで すけど、臓器提供を推進する、増加させるという役割を持った機関というのは日本に一 つもないのですわ。ネットワークがその役割じゃないかと私も一時ずっと思い続けてた ことがあって、時々頭にきてネットワーク何やってるんだと、コーディネーターはその 役割じゃないかというふうにずっと思い続けてたんですが、どうも日本の場合、コーデ ィネーターに臓器提供を推進させるというミッションが、正式にはない。個人的には違 いますよ。個別のコーディネーターにはそれを進めないとだめだと強く思ってるコーデ ィネーターもいるんですが、全然そんなこと思ってないコーディネーターもいたりして、 国がコーディネーターにそれを役割としてはっきりと要求している状況というのは制度 的にはないというのが現状じゃないでしょうか。そのことを篠崎先生がはっきりと、そ の区別をしないとだめだという形で表現されたんじゃないかなと思います。  今コーディネーターの数が20数人ですね。これで約100の臓器提供ですから、1人当 たり5つ、1人で5回のあっせんという格好になるわけですね。1年間で1人5回だと いう話になると一体なにやってるんだと、莫大なお金をつぎ込んでそれでは全然だめじ ゃないかという意見がすぐ出てくるし、私もそう思うんですが、ところが1000の臓器提 供を目指しているということをはっきり言ってますし、もし1000の臓器提供が現実にな ったときに20何人でそれを賄えるかといったら、これは不可能ですよね。今は100だか ら何やってるんだという話になりますが、もし1000が具体的に動き始めるような状況に なったときには、難しい。何が言いたいかというと、臓器提供がふえるに従ってコーデ ィネーターもふやしていくとか、それにかかわる費用もふえていくという構造になって ないんですね、今は。そこが非常に大きな問題で、提供が増えるに従って人も必要だし、 いろんなものが必要なんだということで、それが傾斜して増えていくような構造をつく っていかないと、どこかで間違いなく、今はいろんなところでコーディネーターを増や せなんていう話があると、年間こんな提供数で何をばかなことを言ってるんだという話 になりますが、これが本当にふえ始めたら、現実問題としてとてもじゃないということ になります。そういった財政的な措置というのは今の状況ではそれをカバーするような 仕組みになってないというのが非常に大きな問題かなと思います。 ○篠崎班員 その点についてコメントがあるんですが、逆にある程度の整備をしてない から増えないという、逆もまた真なりだと思うんですね。じゃあどうするのか、数だけ 増やして増えるのを待つと、いろんなやり方あると思うんですが、日本の状態から見て それは厳しいと思いますので、ある程度成果が出た、提供も順調に伸びていったところ に対して、都道府県単位なのか、病院なのか、支部単位なのか知りませんけれども、そ こに対して体制整備ができるような余裕を持たせておかなくちゃいけないのかなという 気がしますので、その準備と、個々の評価ということを明確にしていくことがすごく大 事なんだろうと思うんです。この10年間、中にいた人間で移植の現場にいて、非常にセ ンシティブになり過ぎて、発言も控えてと、プロモーションということを余り口に出し ちゃいけないような雰囲気できたんですが、10年たってどうなんでしょう、人の命を救 うことですから、もう少し勇気を持って推進ということを現場の人間が言えるというこ とが、国民から一番期待されてることだと思うんですね。そういう意味で、我々は国民 の期待を裏切った部分が、言いたいことを言わずに飲み込んできた部分というのがあっ て、10年間で信頼をいただけるような状況にきたんじゃないかと思うんですね。人の命 を救うということの尊さを恐れずに声に出して言える状況をつくり、かつ、粛々と規制 を、厚生労働省も含めて、ネットワークの中でも公正に行われているということを担保 するということを、もう少しプロフェッショナルに明確に区分する時期がきてるんじゃ ないかと思うので、もう少し恐れずに声を出すことをしていきたいと考えるんですが、 いかがでしょうか。 ○大島班長 ありがとうございます。全く同感です。国際的に見ても、特に中国の問題 などで、死刑囚からどうのこうのだけでなく、そのレベルを超えた信じられないような 話まで飛び交っていますので、こういった状況の中で日本の国民がなりふり構わずに臓 器を求めて世界中に行ってるというような言い方を外でされるというのは非常に大きな 問題につながる可能性もあります。そういう意味では日本の中で具体的な整備というの を、少なくとも社会あるいは世界が納得する形で真剣に取り組んでるという姿を見せて いくというのは非常に重要だろうと思いますし、そういう時期にきている、あるいはそ れだけの積み重ねもあるんじゃないかなと私も思います。  次回は今日までの議論を踏まえまして、具体的にこの委員会として何を提案するのか、 基本部分はこんなやり方もありますよというようなレベルではなくて、具体的に臓器提 供を増やすためにはどういう提案ができるのかというところまで踏み込んだ提案を出し たいと思います。  今日は金子さん、家保さん、吉開先生、ありがとうございました。最後に事務局から 今後の予定等あれば。 ○矢野補佐 次回は報告書(案)という形で御議論いただきたいと考えております。日 程につきましては調整しまして、決まり次第文書で御連絡させていただきます。お忙し いところ恐縮ですけれども、日程の調整の御協力をお願いいたします。 ○大島班長 それではどうもありがとうございました。これで終わりたいと思います。 (終了) 照会先:健康局臓器移植対策室 矢野 内 線:2366