06/03/10 第1回人材養成分野の国際協力のあり方に関する検討会議事録 人材養成分野の国際協力のあり方に関する検討会(第1回会合)                   日時 平成18年3月10日(金)                        14:40〜                   場所 厚生労働省共用第8会議室 ○釜石補佐 定刻になりましたので、始めさせていただきます。初めに奈良 海外協力課長よりご挨拶申し上げます。 ○奈良課長 本日は大変ご多忙の中お集まりいただきまして、まことにあり がとうございます。人材養成分野の国際協力のあり方に関する検討会第1回 目の検討会の開催に当たり、一言ご挨拶申し上げます。現在、人材養成分野 を含めて、国際協力はさまざまな課題を抱えております。例えば外務省JI CAベースの協力案件の減少とか、我が厚生労働省独自事業の予算額の減少、 援助の更なる効率化、援助の必要性と我が国の国益との関係、また協力事業 における客観的な評価の導入と政策立案への反映というようなことです。  このような状況に対処するために、特に評価の充実の観点から大臣官房国 際課が、平成15年度より国際協力事業評価検討会を開催しておりまして、先 日、報告書が取りまとめられたところです。これを受けて、職業能力開発局 海外協力課としても、これまで実施してきた人材養成分野の国際協力の実績 や問題点、更には今後対応すべき課題について検討を行い、中期的な国際協 力の方向性を見出したいと考えて、本検討会を設置したところです。本検討 会には、今ほど申し上げた国際課の国際協力事業評価検討会会員であられた 学習院大学の今野教授、国際労働財団の野見山副理事長のお二方にご参加い ただけることとなりました。  さらに、人材養成分野の国際協力において、民間セクターの果たす役割の 重要性ということから、デンソーの国内外工場における技能者育成の指導を 行っておられるデンソー技研センターから、鈴木技能研修本部長にもご参加 いただいております。  近年、グローバル化に対応した自国産業の国際競争力強化のため、発展途 上国においては、これまでになく人づくりを重視するという気運が高まって きておりまして、今後の国際協力においては、経済発展の基盤となる労働力 の育成確保のためのシステムづくりに重点を置きつつ、各国の経済の発展段 階に応じた協力を効果的、効率的に進めていく必要があるだろうと考えてお ります。  これは非常に抽象的なお話ですが、実際にこういう仕事をしていて、我が 国の能力開発分野におけるプレゼンスを高めていくためには、従来の国際協 力、結果的にはモノ・金といったものを中心とした協力から、我が国がこれ まで人づくりの面で、民といわず官といわず蓄積してきた知恵、ノウハウと いうものを伝えていくことが重要なのではないかと考えております。  また、システムづくりということに関しては、各国において、東南アジア、 技能検定に限ると、おそらくシステムとしては30年ほど前に各国で導入はさ れましたが、実際上、企業段階で活用される状況には残念ながらなっていな い。  これを翻ってみると、やはりそういうシステムが企業に活用され、また企 業の協力を得て維持できるというような状態で運用されてこなかったことに 原因があるのだろうと考えておりまして、これからの協力においては、企業 にきちんと活用される、企業との連携の下で長期的に維持運用されていくよ うなシステムづくりについて協力していく必要があるのではないかと考えて おります。  特に、経済の連携が深まっている東アジアの地域においては、企業という と、日系企業との連携が重要であろう。また、こういう国際協力の場を通じ て、日系企業とそれぞれの国の政府の間の距離がより縮まるというようなこ とが重要な視点になってくるのではないかと考えております。  この検討会においては、外務省でまとめられたODA大綱等、それから人 材養成分野の国際協力との関係も明らかにする形で整理ができたらと考えて おります。また、本検討会の成果については、今後の政策立案に反映させて いただきたいと考えております。  なお、現在労働政策審議会職業能力開発分科会では、平成18年度から22 年度までを計画期間とする第8次の職業能力開発基本計画の検討がなされて いるところですが、本会での検討結果は、同計画期間中の海外協力の指針と なっていくものと考えております。  会員の皆様は、人材養成分野における国際協力分野に深い造詣を持ってお られると認識しておりまして、活発なご議論をよろしくお願い申し上げます。  また、専門会員の皆様におかれましても、国際協力事業に関して専門的な 視点からご議論にご参加いただければ幸いです。本検討会は、年度内、3月 に入っておりますので、わずか3週間ほどの間に3回開催させていただきま す。その中で報告を取りまとめる、非常に忙しい検討会になっております。 本日は皆様の忌憚のないご意見を頂戴できれば、誠に幸いでございます。  それではどうぞよろしくお願い申し上げます。 ○釜石補佐 続いて本日の出席者をご紹介いたします。まず会員のほうから ご紹介させていただきます。学習院大学経済学部の今野浩一郎教授です。  次に財団法人国際労働財団の野見山眞之副理事長です。次に株式会社デン ソー技研センター技能研修本部鈴木正泰本部長です。  次に専門会員にまいります。コンサル・ジョイン代表コンサルタントの牛 山勝様です。中央職業能力開発協会国際協力部の川上光信国際協力課長です。  独立行政法人雇用・能力開発機構企画部田代治徳国際協力課長です。  次に厚生労働省内で、大臣官房国際課国際協力室の搆健一室長補佐です。 職業能力開発局から、総務課の基盤整備室長補佐の小泉潤一にも専門会員に なってもらっているのですが、本日は所用により欠席になっております。  次にオブザーバーです。独立行政法人国際協力機構(JICA)人間開発 部第二グループ技術教育チームからですが、渡辺元治技術教育チーム長にオ ブザーバーになっていただいておりますが、本日は所用のため欠席で、代理 で山田智之様に出席いただいております。それから財団法人海外職業訓練協 会事業部の金丸順夫事業課長です。同じくOVTAの経理部経理課予算・決 算係員の田邊崇洋さんです。  次に事務局にまいります。先ほどご挨拶申し上げた、奈良海外協力課長で す。同課課長補佐の佐藤まゆみです。外国人研修推進室の田中正晴室長です。 同室の山崎一雄室長補佐です。  海外協力課に戻って、協力係長の島崎祐希です。外国人研修推進室外国人 研修係長の高村亜紀子です。海外協力課センター班係員の山川敏彦です。海 外協力課開発計画係員の森貴昭です。協力係員の高橋智子です。  最後になりましたが、私は海外協力課課長補佐の釜石です。よろしくお願 いいたします。  続いて配布資料の確認をいたします。1枚目は議事次第です。次に検討会 の出席者一覧と座席表があります。資料1として、人材養成分野の国際協力 のあり方に関する検討会の開催についてです。資料2は検討会の会員及び専 門会員の一覧です。資料3として、検討会の運営についての案です。資料4 がODA関係政策の状況です。資料5がこれまでの各種調査報告書の概要で す。資料6が職業能力開発局の国際協力事業の実施状況です。資料7が人材 養成分野における国際協力の課題です。最後の資料8が企業活動の国際化と それに対応した人材養成支援事業の実施状況です。不足などありましたら、 お知らせいただければと思います。よろしいでしょうか。  では次に座長を選出させていただきたいと思います。事務局としては、今 野先生にお願いしたいと考えておりますが、会員の皆様、いかがでしょうか。 (異議なし) ○釜石補佐 ありがとうございます。それでは今野先生、よろしくお願いい たします。 ○今野座長 よろしくお願いします。奈良課長からお話がありましたように、 年度内にやれということで、3月から始まるとんでもない委員会で、大変短 い期間、しかも少人数ですので、活発に議論をしていただきたいと思います。  私は司会をさせていただきますが、混乱のうちに終わったら大成功だと思 っています。あとは事務局で一生懸命まとめますので。ですから、活発に、 かつ混乱のうちに終わるを目標に司会をさせていただきたいと思いますので、 よろしくお願いいたします。  それでは早速ですが、議事次第の2に入ります。まず事務局から資料の説 明をしてください。 ○釜石補佐 それでは資料1から説明いたします。資料1の「人材養成分野 の国際協力のあり方に関する検討会の開催について」ということで、先ほど 課長のほうからかなり詳しく申し上げたとおりですが、趣旨を書いておりま す。2番目は会期として、平成17年度中ということで3回程度ということに しております。  3番目が、「期待される成果」として、(1)に間違いがあって、「これまで の」というのを消していただければと思います。「人材養成分野の国際協力の あり方」というものが出てくればと考えています。それから(2)として、 人材養成分野の国際協力の理念というものを明らかにできればということで す。このような成果を得るために、4番の「検討事項」として、現在実施中 の人材養成分野の国際協力の評価、課題及び今後のあり方というものを検討 していきたいと思います。ただし、国際協力の中で、人材養成分野では「技 能実習制度」というものがありますが、これは現在別途検討されていて、こ の場では検討しないことにしたいと思っております。  (2)の人材養成分野の国際協力の理念ということで、目的、方針、重点 といったものを検討できればということです。  (3)の人材養成分野の国際協力における官民協力の推進のための方策と いうものも検討してまいりたいと思います。以下、会員、専門会員、事務運 営ということで記載しております。  資料2は、一覧ですので飛ばして、資料3です。「人材養成分野の国際協力 のあり方に関する検討会の運営について」ということで、まず位置付けを1 番に書いてありますが、本検討会の提言は、「今後の人材養成分野における国 際協力政策に反映されるべきもの」ということです。基本的には海外協力課 の検討ですが、大臣官房国際課からも専門会員として参加していただいて、 厚生労働省全体の方針と調和する形で検討を行っていきたいといったことを 書いております。  2番目は、期待される成果、検討事項ですが、会員の合意に基づけば変更 もあり得るということです。3番目は検討会の会員、座長です。4番目が専 門会員、オブザーバー、それぞれの位置付けということを書いております。  次の頁に移って、開催場所、議事録の公表です。それから、できるかどう かまだ不明ですが、ヒアリングというものも一応書いております。スケジュ ールは、8番にあるように、非常にタイトなスケジュールで大変恐縮ですが、 10日、22日、31日ということにしております。その関係で、議事録がすぐ に次回までには間に合わないと思いますので、議事要旨というものをまとめ て、次の検討会に資料として出させていただくような形にさせていただけれ ばと思っております。とりあえず、趣旨、成果、検討すべき事項、今後の進 め方についての説明です。 ○今野座長 検討の進め方について、何かご質問ご意見ございますか。 ○鈴木会員 資料1の、先ほど話が出た「技能実習制度は別途検討」、これは どう捉えたらよろしかったのですか。 ○釜石補佐 この場では検討しないということです。 ○鈴木会員 具体的にはどういう意味ですか。何を指しているのですか。技 能実習制度ですが、例えば技能検定はそこの中に入るのか、入らないのか。 ○釜石補佐 入りません。 ○鈴木会員 入らないのですね。 ○釜石補佐 はい。 ○鈴木会員 何が入って、何が入らないのかが、ちょっとピンとこなかった ものですから質問しました。。 ○釜石補佐 後で、資料6ですが、当課で所掌している事業の実施状況をご 説明申し上げます。 ○今野座長 外国人技能実習生制度でしょう。 ○釜石補佐 はい、外国人の研修です。 ○今野座長 そうですね。 ○釜石補佐 はい。 ○今野座長 一般的な技能実習ではないですね。外国人技能実習生制度です ね。 ○釜石補佐 説明不足で、申し訳ございません。 ○今野座長 それではよろしゅうございますか。次に参りましょう。次の議 題は、お手元にありますように、議題が長いですね。「国際協力をめぐる最近 の動向、人材養成分野の国際協力の実施状況と課題」ということですが、ま ず前半の「国際協力をめぐる最近の動向」について、事務局から資料でご説 明願って議論をして、後半の半分の議論をしたいと思いますので、よろしく お願いします。 ○釜石補佐 それでは資料4についてご説明いたします。資料4は、いくつ かの資料を束ねてあるものですが、まず政府開発援助、ODAに関する最上 位の政策という位置付けになる政府開発援助大綱、すなわちODA大綱につ いてです。4−1に、項目の一覧ということで、1枚めくっていただければ と思いますが、一覧があります。本文のほうは4−2に付けております。  項目一覧のほうを参照いただければと思いますが、大きく4つに分かれて いて、それがローマ数字で書かれております。Iが「理念」ということで、 その要素として目的、方針、重点というものが書いてあります。目的のほう は、我が国のODAの目的は、「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じ て我が国の安全と繁栄の確保に資することである。」ということで、「国益に 資する」ということが明記されております。  2番目として、「基本方針」が5つあります。1が「開発途上国の自助努力 支援」、2が「人間の安全保障の視点」、3が「公平性の確保」、4が「我が国 の経験と知見の活用」、5番目が「国際社会における協調と連携」となってお ります。  3番目の重点課題については4つあって、「貧困削減」、「持続的成長」、「地 球的規模の問題への取組み」、「平和の構築」となっています。重点地域はア ジアということが書かれています。  IIが「援助実施の原則」ということで4つあります。1番目が「環境と開 発の両立」、2番目が「軍事的用途及び国際紛争助長への使用回避」、3番目 が「開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の 輸出入などの動向への十分な注意」が書いてあります。4番目として、「開発 途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力、基本的人権及び自由の 保障状況への十分な注意」というものが記載されております。  IIIとして「援助政策の立案及び実施」ということで、細かくさらに分かれ ておりますが、その最初が援助政策の立案及び実施体制ということで、一貫 性のある援助政策の立案とか、関係府省間の連携、政府と実施機関の連携、 政策協議の、これは相手国との政策協議の強化、政策の決定過程・実施にお ける現地機能の強化、内外の援助関係者との連携となっております。  2番目が、国民参加の拡大ということで、その中には人材育成と開発研究、 開発教育、情報公開・広報というものもあります。  3番目として、効果的実施のために必要な事項として4つ挙げられていま す。評価の充実、適正な手続の確保、不正、腐敗の防止、援助関係者の安全 確保というものです。  最後にIVで、「ODA大綱の実施状況に関する報告」というのが、ODAの 白書を公表して実施状況を開示するというものです。  これが基本政策ということになろうかと思いますが、この中で、下線を引 いている所が、注にあるように、ODAの中期政策、政府開発援助に関する 中期政策で、さらに細かく具体的に書いてあるものです。そのODAの中期 政策については、その項目の一覧が資料4−3、本文が4−4にあります。  4−3をご覧いただければと思います。項目の一覧ですが、ODA大綱の 項目で、Iの理念の基本方針のところですが、「人間の安全保障」の視点とい うことで詳しく書いてありますが、人間の安全保障の考え方というのは、恐 怖、欠乏といった脅威から人々を保護する、それから、人々が自ら選択・行 動する能力を強化することであるといったことが書いてあります。  それから、人間の安全保障の実現に向けた援助のアプローチとして、人々 を中心に据えて、人々に着実に届く援助をする。それから地域社会を強化す るような援助をする。それから人々の能力強化を重視する援助ということで、 職業訓練というものも例示されて、職業訓練等を通じた生計能力の向上とい うことも書いてあります。以下、脅威にさらされている人々とか、文化の多 様性等書いてあります。  次に、ODA大綱の重点課題に対応するものとして、(1)の「貧困削減」、 (2)の「持続的成長」で、「地球的規模の問題」というのは、環境問題で、 労働問題からはちょっと遠いかなということで省略させていただきましたが、 (4)の「平和の構築」というのがあります。  貧困の削減の中で、ずっと、考え方とかアプローチなどが書いてあります が、(b)の「貧困層を対象とした直接的な支援」の中に、「基礎社会サービ スの拡充」というのがあって、教育とか保健医療とか、そのような基本的な サービスのことが書いてありますが、この中にも職業訓練的な要素が入って くると考えております。  (2)の「持続的成長」ですが、持続的成長のアプローチ及び具体的取組 の(c)で、「人づくり支援」というのが明確に出てきているということです。 開発途上国の基礎教育、高等教育及び職業訓練の充実に向けた支援、それに 加えて留学生の受入れなどの人材育成の支援を実施するといったことが書か れております。  「平和の構築」については、職業訓練関係のことは、具体的には書いてあ りませんが、「紛争前後の段階に応じた支援」ということで、紛争直後、それ からその後の復興支援、中長期的な開発支援という事項が書かれております。  IIIで「援助政策の立案及び実施」、効果的実施のために必要な事項というこ とで、特に強調されているのが、現地機能の強化ということで、その具体的 取組というものが、4の(2)の(イ)から(ト)まで書いてあります。現 地機能強化のための体制の整備というのも、(3)で書かれています。このよ うに、中期政策のレベルになると、職業訓練と人づくり、人材育成といった ことが出てまいります。  この政策レベルのものでは、最上位がODA大綱で、次がODA中期政策、 その次が国別の援助政策というものになるのですが、それとは別に、重点課 題別援助政策というものもあって、その例として、4−5の「成長のための 基礎教育イニシアティヴ」というものを掲げさせていただいております。資 料4−5の2枚目から、具体的なイニシアティヴとなっていますが、平成14 年6月に取りまとめられています。最初に「米百俵の精神」ということから 始まっております。見ていくと、2頁目に、支援に当たっての基本理念とい うことで、途上国政府のコミットメント重視と自助努力支援、あるいは文化 の多様性への認識・相互理解の推進、国際社会との連携・協調(パートナー シップ)に基づく支援、地域社会の参画促進と現地リソースの活用、他の開 発セクターとの連携、日本の教育経験の活用というものが示されています。  3番目に、重点分野として、教育の「機会」の確保に対する支援、教育の 「質」の向上への支援、教育の「マネージメント」の改善といったものが示 されております。こういうものは非常に参考になると考えているところです。  次に、国連レベルでの目標ということで、資料4−6に「ミレニアム開発 目標」というものを付けさせていただいています。ご承知のことと思います が、2000年の国連ミレニアムサミットで採択された、開発途上国の貧困削減 に向けた開発目標ということで、教育とか貧困削減、保健、環境、市場アク セスといった18の開発目標、それから48の指標から構成されているもので す。  労働分野があまりないのですが、3頁目のターゲット16というのが、一応 「開発途上国と協力し、適切で生産性のある仕事を若者に提供するための戦 略を策定・実施する」ということで、指標としては15から24歳の男女別及 び全体の失業率といったことが書かれているという状況です。これは参考程 度ですが。  資料4の一番最後に7番として、「国別援助計画の策定状況」という一覧表 があります。平成17年まで、19カ国策定されているということで、新規策 定中というのがインド、ラオスなど5カ国、改定作業中がバングラデシュほ かで5カ国という状況です。このような形で、ODAに関する政策というの が体系付けられて実施されていると考えております。  次に資料5に参ります。これは、最近の各種調査報告書の概要、人材養成 分野を含んだ各種調査報告書です。1番目が、労働政策研究・研修機構の報 告書で、労働分野の国際援助動向等に関する調査研究報告です。これは平成 17年度の厚生労働省要請研究で、1年間検討がなされて、報告が取りまとま っているものです。内容は5−1を見ていただければと思いますが、その2 頁を見ると、国際的な援助の趨勢、それから3頁で(2)の国際機関による 労働分野の援助動向、世界銀行、アジア開発銀行、ILOといったものが書 かれています。それから(3)として、大きなドナーである米国、イギリス における労働分野の援助の動向が書いてあります。  提言としては、3頁のいちばん下のほうにありますが、(4)の(1)に技術協 力のあり方が書かれています。専門家の不足とか育成とかいろいろ書かれて いるのですが、(2)として、NGO、あるいは労働組合の援助とその位置付け があります。  具体的な提言としては、社会・労働分野における開発協力基本指針の策定 とか、独自性をもつ主要プレーヤーとしてNGO、労働組合を位置付けて、 官民のパートナー・シップを形成する。あるいは政府・公的機関や使用者と 合同で、援助活動の企画・調整等を行う場を設置するといったことが書かれ ています。  (3)として、日本人としての国際援助に関する意識を醸成していくといった ことが書かれています。これが、労働政策研究・研修機構の報告書です。  次に2番目として、国際協力機構の国際協力総合研修所で取りまとめた、 「中所得国への産業人材育成支援のあり方」というもので、要約部分までを 抜粋して付けさせていただいております。昨年12月に取りまとまったもので、 新しいものです。  ASEANのいくつかの国を題材に、現状、課題などを分析して、それか ら結論、提言ということで、8頁目になりますか、第5章が書かれておりま す。5−1としては、支援の全体的な方向性、(1)として「新型」産業人材 の戦略的な育成ということが指摘されています。  (2)として公的部門と民間部門の連携、それから(3)各国事例の「産 業人材育成モデル」としての活用というものがあります。次の頁で、5−2 として、支援ニーズの高い領域ということで、政策枠組みづくりへの支援、 公的教育・訓練機関への支援、教員・講師の教育・訓練への支援といったこ とが書かれております。  協力のアプローチについては、多様なアプローチが必要である、また我が 国人材をさらに活用するということが書かれており、留意点として5−4、 前提条件の把握とか一貫性の確保等が書かれております。  3番目として、この資料5の表紙がちょっと間違っているのですが、平成 16年度の要請研究である「アジア諸国における職業訓練政策−若年者を中心 に−」というものです。  5−3のほうに、サマリーの要旨というか、ごく簡単に1枚にまとめたも のを付けてあります。ざっとこちらを見ていくと、アジア諸国の職業能力開 発施策が再編されているけれども、その背景には経済危機というものがあっ て、それが再編の必要性が増している理由というもので、職業訓練実施体制 のタイプとして、公的訓練機関中心型、外部委託型、公的訓練・外部委託混 合型というのがある。それから技能検定のタイプとして、スキルベースとい うものと、コンピテンシーベースというものがあって、アジア各国で分かれ ているということです。それから、若年者向けの訓練プログラムを行ってい る例ということで、(1)から(6)まで書かれております。「アジアの訓練政策の新 しい動き」ということで、エンプロイアビリティの向上のための能力開発強 化、教育と訓練の融合、教育・訓練と雇用の融合ということが書かれていま す。今後の課題ということで、また5つほど書かれていて、このような形で 研究がなされたということです。  資料5の最後ですが、外務省の報告書ということで、これも昨年12月にま とめられた新しいものです。「ODAの点検と改善」ということで、より質の 高いODAを目指してというもので、目次の次の頁にポイントが書かれてお ります。そちらをご参照いただければと思いますが、第1に、戦略性の強化、 選択と集中ということが書かれてあります。2番目として、効率性の向上、 コストの縮減、3番目として、チェック機能の強化ということで、特にPlan Do Check Actionという、PDCAサイクルの確立というものが強調されている ということです。非常に雑駁ですが、以上が資料5です。 ○今野座長 かなりたくさん資料があったのですが、最近の国際協力の動向 についての資料を説明していただきました。何かご質問ご意見がありました らどうぞ。詳しくは持ち帰って読めということだと思いますが。でも、今の 段階で、ここはどうなっていますかということ等ありましたら、遠慮なくど うぞ。 ○今野座長 よろしいですか。もしお帰りになってゆっくり読まれて、また 質問があれば、次回でもいいと思いますので、それでは次にいきますか。次 は先ほどの議題3の後半部分です。「人材養成分野の国際協力の実情と課題」 ということで、今日のいちばんの本題だと思いますが、お願いします。 ○釜石補佐 それでは資料6からまず説明申し上げます。「職業能力開発局の 国際協力事業の実施状況」ということで、事業の概要と実績も入れておりま す。まず全体を見る一覧です。大きく分けて5つに分かれると考えておりま す。まず政府ベース、外務省JICAベースの技術協力、2番目として、外 国人研修生の受入れ、3番目として、外国人留学生の受入れ、4番目として、 国際機関等を通じた技術協力、5番目として国際協力に係る調査研究という ものです。  上から見ていきますと、政府ベースによる技術協力としては、職業能力開 発施設の設置・運営に対する開発途上国への協力ということで、さまざまな 技術協力プロジェクトを実施している。その関係で、相手国に個別の長期専 門家というものも派遣しているということです。  それから、受入れの方ですが、海外の職業能力開発関係の研修員の受入れ ということで、我が国の職業能力開発施設などにおいて、技術研修などを集 団あるいは個別に実施しております。それから、開発途上国の中で進んだ国 を活用しての第三国研修の実施という協力もあります。  次に、2番目、外国人研修生の受入れということで、事業としては、「国際 技能開発計画」を実施しております。これは将来指導的立場に立つ技能労働 者を開発途上国から受け入れて、一定期間訓練をして国に帰ってもらうとい うものです。  次が「技能評価システム移転促進事業」の実施ということで、開発途上国 の職業能力開発団体、あるいは業界団体などの技能評価の担当者を受け入れ て、技能評価に係るノウハウを移転する研修を行って、その後現地でトライ アル検定、さらにはその普及活動を行うというものです。  次は、今回の検討会での検討事項から外れてくるものですが、「外国人研修 指導、援助事業」というものも実施しています。それから「技能実習制度推 進事業」というものもあります。  3番目として、外国人留学生の受入れということで、職業能力開発総合大 学校における国費外国人留学生の受入れという事業を実施しております。こ れは開発途上国における質の高い職業訓練指導員を養成確保することへの協 力というものです。  4番目が、国際機関等を通じた技術協力ということで、全体として「アジ ア・太平洋地域人材養成協力事業」というものに集約していますが、東南ア ジア諸国連合(ASEAN)、アジア・太平洋経済協力(APEC)、国際労 働機関(ILO)、それとアジア太平洋地域技能開発計画(APSDEP)、 このような国際機関等を通じた各種研修事業というものを実施しております。  具体的には、日・アセアン人材養成協力事業というもの、これはASEA Nの中でも後発加盟した、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムとい う、いわゆるCLMV国のレベルをアップして、ASEANの全体的な統合 に協力しようというもので、CLMV国の政策担当者、それから経済団体の 指導者を日本あるいはASEANの先発国に招いて研修を行って、その後そ の人たちが国に帰って国別セミナーを開催することによって、学んだことを 広めてもらうという事業です。  次がAPEC技能研修というもので、APECに加盟している国の中には、 開発途上国があるのですが、そちらのほうに協力するということで、現地に 進出している日系企業に対して補助金を出して、日系企業が現地住民、周辺 住民に基本的な訓練をすることを促進するというものです。  次が、APEC−IT研修ですが、これは日系企業などはIT化が進んで いるのですが、現地企業はなかなか進んでいないということで、現地企業の 研修担当者あるいは管理者を日系企業、あるいは経済団体に呼んで研修を行 うことにより、現地企業でのIT化を進めようという事業です。  次はAPECフォーラムということで、APEC加盟国の代表、政策担当 者あるいは研究者などを招いて、人材養成上の共通の課題というものについ て意見交換を実施するという事業を、年に1度ですが、実施しております。  最後が、ILO/APSDEP支援事業ということで、アジア太平洋地域 技能開発計画(APSDEP)の活動を支援するために、日本でセミナーあ るいはワークショップを開いております。そのAPSDEP自身への協力と いうことで、基本的な活動に資するための拠出金をずっと出しております。  5番目は、国際協力に係る調査研究ということで、2種類の調査研究をし ております。それを束ねて、「国際協力基盤整備事業」といっておりますが、 まず主要先進国の職業能力開発分野の国際協力施策、戦略はどうなっている かを調査するもの。それから、職業訓練に関する指導技法、あるいはカリキ ュラム開発ということで、協力のツールを開発するという調査研究もしてお ります。これは成果としてはマニュアルとか事例集といったものになります。  ざっと見てこのような協力を行っております。それを分類してみると、次 の頁にありますが、これもどこかで見たと思われるようなものかもしれませ んが、縦の分類のほうが実施機関別ということで、JICAを通じた協力、 それから民間団体を通じた協力、それから国際機関を通じた協力となってお ります。  横のほうが、行って技術移転するのか、それとも受け入れて技術移転する のかということで、派遣、受入れ、あるいは現地機関の活用という3つに分 かれているということで整理させていただいております。  最近の事業は、割合とコンビネーション型で、受け入れて研修を実施した 後、現地でのセミナーとかにまた人も派遣するといったものを実施したりし ております。あるいは、現地の機関を活用して、現地の日系企業あるいは経 済団体を活用しての事業の実施というものをやっております。そのようなも のを示したイメージ図です。  次頁は、JICAを通じた職業能力開発分野における国際協力案件の概要 表ということで、これは平成11年度以降に協力を開始した案件で、長期専門 家を派遣したもの、あるいは現在派遣しているものということで、平成18年 1月31日現在ということで整理しております。全部で28件あります。非常 に多様な国に多様な協力をしていることがわかるかと思います。  次に6−4は、JICAを通じた能力開発分野の研修生受入状況表です。 コース名を見ると、1から15までありますが、14については、これは平成 12年度から平成16年度まで記載してあるのですが、もうなくなってしまっ ているものがあって、14番はもう平成12年度の時点でなくなってしまって いるものです。分かりにくいですが、5番から13番が、いろいろな分野の職 業訓練指導員の研修コースですが、統合あるいは廃止ということで、平成16 年度は2つのコースに減っております。ですから、平成16年度時点であるの は、機械工学と情報工学ということになります。それぞれ平成16年度の実績 は11人と8人ということになっております。  次の頁の6−5です。これは職業能力開発分野の協力のレベルに応じた協 力ということで、いくつかの国に着目して、協力が段階を追ってレベルも上 がっていることを示している図です。例えばマレイシアですと、最初のほう は養成訓練、中卒2年程度の協力を実施したということです。2つの場所で やっていて、その後、職業訓練指導員の向上訓練になって、さらには高卒2 年の養成訓練を実施する日本・マレイシア技術学院(JMTI)のプロジェ クトが実施されたということで、マレイシアの場合は3段階くらいで、段階 を追って協力しています。  インドネシアについても、最初はスラウエシの工業職業訓練センターで中 卒半年とか高卒半年程度の中堅の技能者訓練への協力をしていたものが、次 には職業訓練指導員の養成への協力、それも高卒2年から高卒3年というふ うにレベルを上げて実施したというものです。  インドネシアのあと2つは、身体障害者のリハビリテーションに係る協力 というもので、これも2カ所で段階を追ってやっているということです。  次の頁の6−6ですが、これが最近の個別専門家の活動内容例ということ で、職業訓練センターに配属された専門家では、機械制御に係る助言、第三 国研修に関する協力、全般的な協力をしているとか、具体的な活動内容をか なり詳しく書いております。参考ということで付けさせていただきました。  次の頁の6−7です。これは厚生労働省における人材養成分野のODA関 係予算の一覧表ということで、予算項目別に整理したものを平成11年度から 平成18年度まで一覧にさせていただいております。事業の統合とかあって、 少し動いていますが、計のほうを見ていただくと、平成11年度は32億7,965 万8,000円あったものが、平成18年度は11億7,372万9,000円ということ で、ざっと3分の1、大幅に減少していることがわかります。  1番から16番までありますが、その内容については、次の頁をめくってい ただいて6−8に、ずらっと書いております。見にくいのですが、ちょっと 色が付いているという、1番とか3番、4番、6番、7番というのは、現在 も実施しているものです。2番は統合されてしまっています。  6−9以降は、先ほどざっとご説明した事業をもっと詳しく書いているも ので、後で見ていただければと思います。実績について、6−9の別紙3の 2枚目、海外協力課所管APEC関連事業実績というのがあります。APE C技能研修事業の実績は1番に、APEC−IT研修事業が2番で、3番と して、平成15年度、16年度、17年度のフォーラムの実施状況を書いており ます。  APEC技能研修事業については、平成9年度から連綿と実施しておりま すが、一度に全部のAPEC加盟開発途上国での実施は予算の関係でできな いということもあって、ゼロになっているところもありますが、着実に実績 を上げていると考えております。  APECのIT研修についても、これは対象10カ国を一度に全部実施して いる事業ですが、これも民間企業、あるいは経済団体の研修施設、人を活用 するものですから、非常に効率良くたくさんの人を研修していることが分か るかと思います。  次に「日・アセアン人材養成協力事業の実績」が載っています。これは平 成16年度から4年間の限定的な期間の事業で、平成16年度は職業能力開発 制度ということで、インドネシアと共同で事業を実施しております。そして 平成17年度、本年度についてはタイの産業リハビリテーションセンターと協 力して、「障害者の職業能力開発及び雇用促進」をテーマに合同研修を実施後、 国別セミナーを実施しました。国別セミナー参加者の合計は、16年度は300 人強、17年度は400人弱でした。  次頁はアジア太平洋技能開発計画(APSDEP)への協力です。日本は、 拠出金の拠出と支援事業の実施ということ協力を実施しております。3の (1)拠出金については昭和55年度から拠出しておりますが、平成16年度 と17年度は13万ドルを拠出しました。支援事業については、OVTAのセ ンターを活用してセミナーやワークショップの開催協力を昭和60年度から実 施していますが、平成16年度までに80回開催し、回数としては非常に積み 重なっています。その状況ということで、何人参加したか、何カ国参加した か等の活動の推移が次頁にありますが、これはごく参考として見ていただき たいと思います。  6−10では、国際協力に関する調査研究ということで、なぜそのようなこ とを始めたのかについて書いてあります。第1に、「戦略的なODAの実施の 必要性」が強調されていることを受けて、主要先進国の状況を十分把握した 上で、我が国の援助を見直すために、まず先進国の調査をしなければいけな いと書いてあります。第2に、貧困削減のためにはNGOの活動が大事で、 その側面支援が国に求められているのだろうということで、特に、指導技法 やカリキュラム開発の部分で支援していくための研究をするものです。  実施状況について、平成16年度はドイツとカナダ、平成17年度はアメリ カとオーストラリアを対象に実施しております。  NGO等の援助人材の支援について、平成16年度の成果としては国際協力 プロジェクトの事例集ということで1冊の報告書を取りまとめました。また、 本年度については、その成果に基づいて、現場で使える国際協力のQ&A事 例集ということで90いくつかの事例を集めた事例集が出来る予定です。この ような調査研究も比較的新しい活動ですが、実施しております。  次の頁は国際技能開発計画ということで研修生の受入れについて書かれて いますが、下のほうに実績があり、合計で5,000人近くになっております。  次の頁の6−12は技能評価システム移転促進事業です。実績については次 の頁で3つに分けて書いておりますが、「技能評価技法研修」の受入実績とし て、2002年度から2004年度までで合計130人、「技能評価者講習」というこ とで2003年度、2004年度に合計128名、「トライアル検定の実施」が2003 年度、2004年度で合計すると、34回、1,723名という大きな数になっており ます。  最後の6−13は、外国人留学生受入事業です。これは相模原の職業能力開 発総合大学校の長期課程に開発途上国の留学生を受け入れて、半年間の日本 語教育を行った後4年間、日本人と一緒に勉強してもらい、指導員として、 あるいは母国の国家公務員になってもらおうというものです。当初はフィリ ピン、タイ、インドネシア、マレイシアの4カ国を対象に10人でやっており ましたが、その後人数が増えて、今は16名、国も、17年度は9カ国になっ ております。雑駁ですが、これが当課関係の国際協力事業の実施状況です。  資料7は「人材養成分野における国際協力の課題」ということで論点をい くつか挙げたものです。【1】は、JICAベースの技術協力における問題・ 課題の認識として、(1)近年のJICAベースの技術協力は政府間協力の枠 組み内にとどまっており、日系企業における人材確保、育成にもつなげると いう日本の職業能力開発行政の視点が入ってこなかったのではないか、とい う問題提起です。  (2)は、技術協力の相手国で、日本の体系と異なる職業資格制度、技能 検定にないような制度が導入されたために、技術協力に外国人専門家を活用 しなければならなくなった。そのため、日本の訓練基準や評価制度をベース とした協力を実施するだけでは済まなくなってきているのではないか、とい う問題意識もございます。  【2】は、国際機関等の枠組みでの国際協力における問題・課題意識です。 (1)は、ドナーとして感謝されているだけではないかということです。A PECあるいはASEAN+3等といった枠組みで首脳宣言や要請が出てく るわけですが、そういうものに沿って新たな事業を開始するという先進国と しての外交的な取組の視点以外に、厚生労働省職業能力開発局として、一定 の政策的意図を持った協力をする必要があるのではないか。また、その際に は、東南アジア各国の政府機関において、現地の日系企業に対して能力開発 分野の貢献を期待する声が強いというようなことにも留意する必要があるの ではないかということです。  (2)の人材開発分野における最近の国際協力では、各国ともNational Qualification SystemやQuality Assuaranceに関心が高く、日本がそういう ものに対してシステムとして提供できるもの、主導権を握れるものが何かあ るかどうかという問題提起です。  【3】は、企業活動の国際化に対応した国際協力・海外支援における問題・ 課題の認識です。これは先ほどの(2)にも関連しますが、東アジアあるい は南アジア地域では近年、オーストラリアによるNational Qualification Systemの移転が進みつつあり、日本国内のシステムを活用して人材の社内養 成を進めてきた日系企業にとっては、国の制度と自社の制度が違う、という ダブルスタンダードとなる危険性をはらんでいる。少なくとも、日系企業の 能力開発・評価に関するシステムが各国の制度の中でも正当な評価を受ける ようにする必要があるのではないか。同時に、各国の制度が日系企業にとっ て効率的に活用できるようなものであることも重要ではないかという問題意 識です。  次頁に移って、【4】に、国際協力全般に共通する問題・課題認識というこ とで3点挙げてあります。(1)は、今回の検討会開始の契機ともなっている 問題意識として、職業能力開発局が行う国際協力・海外支援、これら全体を 貫く行政としての基本方針というものが明確になっていない。(2)として、 我が国の能力開発関係施策・制度・ツールについての外国語による情報発信 が少なく、日本は何をやっているのかを分かってもらえていないということ が挙げられています。(3)として、国際協力関係予算が大きく削減されつつ ある。また、ODA一元化の動きも急となっていると述べております。この ほかにもあると思いますが、そのようなことについてご指摘などいただけれ ばありがたいと思います。 ○今野座長 ありがとうございました。それでは、自由に議論をしたいと思 いますので、ご質問でもご意見でも結構ですので出していただきたいと思い ます。 ○野見山会員 資料6−1、能力開発分野における国際協力の所で意見があ るのです。少しマクロ的な話になるのですが。これは5つの柱ということで 挙げられていますが、特に1、政府ベースの場合、中身を見ると、施設の運 営設置等とあります。「等」の中にいろいろあると思うのですが、いわゆる能 力開発政策についてのあり方に対する国際協力、という国のシステムづくり に対する協力です。後を見ると、カリキュラムと並んで、政策をやっている 専門家もいたようですが、単にカリキュラムがどうだとか、訓練コースがど うだとかという具体的な開発計画にとどまらない、もう少し大きな政策ある いは行政全体のあり方についての協力もあると思うのです。それをどこに入 れるかは別として、そういう角度の協力もあったし、これからも必要な分野 ではないかと思いますので、その辺も検討していただいたらいいのではない かと思います。 ○釜石補佐 多少書き方の問題もあると思いますが、個別長期専門家という のは、大体、相手国政府の能力開発部署に派遣され、政策アドバイスを行う ことになります。したがって、6−3の案件概要表の13番などは、職業能力 開発行政、11番は職業能力開発政策について政策アドバイスを実施している ということが入っています。 ○野見山会員 行かれた専門家がどういうバックグラウンドの方かよく存じ ませんが、例えば訓練校の指導員をやっておられたとか、訓練校の校長をや っていたとかというレベルの訓練計画のアプローチもあるでしょう。また、 政策をやっていた人の立場からアプローチしていくアドバイスというものも あるでしょう。角度がいろいろ違ってくるのではないかと思いますので、そ ういう分野もあり得るということを考えていただいたらいいかと思います。 ○釜石補佐 どのような協力を行ってきたのかということをもう少し分けて、 分かりやすくしてみることを考えたいと思います。 ○今野座長 鈴木さんの所は民間ですので、こういう分野にはあまり馴染み がなさそうですが、何でも結構ですのでご発言ください。 ○鈴木会員 民間の代表としては、いま係っているのが先程来話がありまし た技能評価普及関係です。これに関しては6−12ですが、我々はASEAN 関係で、ODAの援助をいただきながらやらせていただいて大変喜んでおり ます。  実は、先日もタイのほうで、ここにいらっしゃる山崎さんや川上さんも一 緒だったのですが、アシア技能競技会を開催しまして、8カ国、18拠点から、 選手が100名ほど、技能評価普及のために来ていただいた方たち50名ぐらい で競技会を開催しまして、みんなに大変喜んでいただいております。山崎さ んには開会式でご挨拶をいただきましたから、ご感想を述べていただくとあ りがたいと思いますが、どうですか。 ○山崎補佐 現地のトライアルという形で数年前からJAVADAを通じて 行っております。当然と言えば当然なのですが、実際に現場に行ってどうい う活動が行われているかということを見てみないと、おそらく我々もわから ないでしょうし、いろいろな評価という意味での事業全体の関係する人たち も、なかなか分からないだろうと思います。現地に行って見てきたというこ とは、私自身も非常に勉強になりましたし、実際にその事業がどのように現 地の役に立っているかということは、現地の関係者の声や意見も聞かないと 分かりません。そういう声も聞くことができましたし、個人的には非常にい い経験もさせてもらったし、現にどのように活かされているかが分かったと いうことでは良い機会であったと思っております。 ○今野座長 いまおっしゃられた競技会というのは、日本企業の中だけでは なくて、もっと広く開いているのですか。 ○山崎補佐 今回は、D社のアジアの各拠点の方々を一堂に集めての初めて の試みでした。 ○鈴木会員 これまでは3種目で各国の拠点ごとに実施していたのを、3年 目の今年度、初めてアジア競技会にして、言葉の問題等はありましたが、ま あまあ良い成果だったかなという感じがしました。 ○野見山会員 タイはもう数年前から国際的な技能競技大会をやっています。 私も出たことがあるのですが、非常に大きな講堂で大々的にやっています。 そういう意味では、タイの技能評価システムというのは、かなり熱心にやっ ているような感じがします。 ○今野座長 資料7の【2】の(2)の中で、National Qualification System の後のQuality Assuaranceがどういう意味なのか、よくわからなかったので す。人のQuality Assuaranceですか。 ○奈良課長 それは制度としての能力評価全般についてのQuality Assuaranceです。具体的には、スキル・スタンダードのQuality Assuarance もありますし、実際に評価をする人間(assessor)のQuality Assuaranceも ありますし、結果そのものについてのQuality Assuaranceもある。だから、 評価システム全体を動かす上での質の管理ということで、極めてイギリス的 なもの、マネジメント・システムの中で同じような考え方のものだと理解し ています。 ○野見山会員 資料4−3のODAの項目の中に、私が必ずしも同意しがた い所があるのです。要は、能力開発、人材養成というものの1つの視点の当 て方が貧困削減と言いましょうか、そういう辺りから雇用創出、あるいは先 ほどご説明がありました(d)の基礎社会サービスといったところに人づく りが当てられているということですが、どうも、私は、そういう視点という のは消極的で、もっと積極的な位置づけをすべきであると思います。サステ イナブルな成長(持続的成長)、いわゆる能力開発、人材養成が社会の成長を 支え、促進するというプラス要素が非常に大きいと私は思うのです。そうい う意味で、持続的成長の中の(c)の人づくり支援を強め、これから人づく りや人材養成を考える場合には、視点を置くべきである。  結局、貧困削減ということによる人づくりというと、全く基礎的な訓練か ら始めていくということになるわけです。特にアフリカなどでやる場合には、 いわゆるインフォーマル・セクター辺りから始めていくことになりかねない のです。しかし、今後アジアを重点にすべきだという中期的視点からいけば、 もう貧困削減というよりも、成長促進のための人材づくりというようなプラ ス要素の視点を入れたらどうかと思うわけです。これを直せと言うわけでは ありませんが。  そういう視点に立って見ると、資料7で書かれていることに、私は基本的 に賛成します。いいと思うのですが、【2】の能力開発局としての一定の政策 的意図を持った協力というのは、そういう観点からいくと、単に貧困抑制と かそういうことではなくて、むしろ雇用政策と一体化したような形の能力開 発政策というものが醸成されてくると思うわけです。言い直せば、良質な雇 用機会のマッチングを図っていくという視点です。だから、開発途上国にお いて良質な雇用機会をまず提供するという側から言えば、企業がその能力を 十分活用できるような労務管理あるいは能力開発政策というものを持たなけ ればいけない。また、労働者側、供給側からいけば、そういう良質な雇用を 提供できるような体制づくりというものをしなければいけない。そのために は、企業が使いやすくするための国家資格制度をつくる。ここにはオースト ラリアがやっているというQualification Systemによる国家資格のことが書 かれていますが、これもある程度共通性のあるものを開発していく。日本的 なやり方はもちろん大事ですが、日系企業においても、単に日本の企業でと っている社内制度をそのまま使うのではなくて、国際的な状況を加味したよ うなものを入れていく。そういう要素を入れていけば、十分通用できるので はないかと考えるわけです。  そういう観点から、最後の問題提起と言う場合も、国際協力のあり方につ いて言えば、ODAをベースにした国際協力だけではなくて、雇用三事業で やっている国際協力。あれを国際協力と言うと、かえってまずいかもしれな くて雇用対策という観点に立つかもしれませんが、そういう面からいけば、 総合的な雇用政策の展開の中で人づくりを進めていくことが、単にODAと いう協力のみならず、日本国内にとってもプラスになっていくのだという主 張をもう少し打ち出さないといけないのではないかと思っています。ちょっ と抽象的で誠に申し訳ないのですが、後でよく読んでから、もう少し具体的 な提案ができればいいと思います。  それに関連して、【2】に戻ります。いわゆる国際協力に対する一貫性が必 要だということが先ほどありましたが、まさに、そうだと思うのです。私が タイにいた経験でいくと、例えば、ウボンに訓練センターを日本が一生懸命 お金をかけて作った。ところが、それから10年ぐらい経ってから私が訪ねて みたら、そこの所長はドイツに留学した人だったので、訓練カリキュラムや 進め方がみんなドイツ風になってしまっているのです。入れ物は日本だけれ ども、運用はドイツ・スタイル。よく見たら、「5S」だけが残っていたので、 それだけでも良かったと思ったのですが、結局、入れ物を作って魂が生きて いないというところもあるので、やはり継続してフォローしていく。もちろ んプロジェクト協力だから5年で終わるでしょうけれど、その後、訓練校に 対してやるのか政府に対してやるのか、その辺は難しいと思いますが、そう いうことが必要ではないかと思います。  もう1つ極端な例を挙げますと、これも同じ東北部の訓練校だったと思い ますが、シニアボランティアとして、ある訓練校のカリキュラムづくりに行 っている人の話を聞くと、中にある機械はみんなドイツ製だと言うのです。 ドイツ製の訓練用機材に対して日本のシニアボランティアが行っていろいろ 教えようとしても、これはなかなか難しいと。  何でドイツ製の機械が入っているかというと、ワールドバンク(世界銀行) がタイで実施していた能力開発のプロジェクトがありました。これはほとん ど日本の金らしいのですが、ワールドバンクの専門家として来た人がドイツ の専門家で、彼がドイツの専門家がドイツの機械を入れてしまった、そして 後のカリキュラムづくりは日本のシニアボランティアに任された、という首 尾一貫しないやり方です。  国際機関を通ずるというのは何もILOだけではなくて、ワールドバンク やアジア開銀、また、最近はいろいろな機関がセーフティネットを重視して きているから、社会開発部門の協力が増えてきているのです。逆に言うと、 日本の能力開発行政がやっている国際協力に対する競争相手、重複相手がか なり出てきているわけです。ですから、そういうものの情報を常に入れて、 それと整合性が取れるような形、あるいは、相手がやっているのだったら相 手に首尾一貫してやらせる、日本がやるのなら日本が首尾一貫してやるとい うようなことをしないといけない。今まずい例を2つ挙げましたが、首尾一 貫性に欠ける面があるので、そのことに十分留意する必要がある。思いつき で申し訳ありませんが、そのことを申し上げたかったのです。 ○釜石補佐 先ほど、総合的な雇用政策の一環として人材養成を打ち出して いくべきだという話がありましたが、それは確かにごもっともと考えており ます。我々は、ともすれば良い人材を養成すればいいのだということに考え が行きがちですけれども、その先のことをきちんと考える部署ときちんと連 携をとらなければいけない、というのは心しなければいけないことだと思っ ております。 ○今野座長 資料7の論点メモの【1】の(1)について。これは今触れら れた点と関係するのですが、日系企業における人材育成確保につなげるとい った日本の能力開発行政の視点が入ってこなかったのではないか、とありま すが、この心はどういうことなのでしょうか。何か一般的にさらっと書いて あるのですが、こういうことが必要なのではないかと考えていらっしゃるこ とが何かあるのではないかと思うのですが。 ○奈良課長 端的に申し上げますと、特に東アジアのような所を考えた場合 に、これまで長い期間にわたって職業訓練分野の協力を行っているのですが、 訓練校の運営一つ取ってみても、実際に運営をするシステムの中に日系企業 との連携ということをあらかじめ仕組んでやるような取組をしてきたかとい うことになると、必ずしもそうはいっていなかったのではないか。とかく、 これまでのJICAベースの技術協力の場合に、相手国政府との間のやり取 りはありますが、実際その国々にある日本人関係者あるいは日系企業との連 携というのは、正直に言って、あまり活発にはなされてこなかったのではな いかという気がしております。折角日本の予算でやる協力ですし、現地に日 本人関係者や日系企業があるのだったら、そういう方々にとってもより使い やすいものになるように、最初の段階からきちんとそのように仕組んでいく 必要があるのだろうと考えて、このようなことを書いてみたわけです。  ただ、最近におきましては、JICAベースの協力においても、日系企業 に限らないわけですが、現地での企業の方々に計画段階から入っていただい て、最終的にそのプロジェクトが終わった後も、そういう企業の方々の協力 を得ながら運営していけるようにという視点での取組は今既に始まってはお ります。ただ、今後進めていく場合には、こういう点は常に考えておかない といけない。訓練をやる場合には、最終的には就職率なので、きちんと就職 につながっていく、ということまで見据えたプロジェクト運営をやっていく 必要があるのだと考えています。 ○今野座長 そういうことを前面に出すというのは、かなり発想の転換では ないのですか。つまり、こういうことをやってしまうとODAではない、そ れは日本のためにやっているのではないかという批判が、少し前だったらガ ァッと来そうだけれど。 ○奈良課長 アジアの中ですと、経済的には日本企業がかなりの貢献をして いるわけでして、例えば技能評価みたいなことをするような話になってまい りますと、企業がそれを使ってくれるかどうかという話になった場合に、日 本企業が使ってくれないと、どこが使ってくれるのだろうということがあり ますね。 ○今野座長 鈴木先生は自動車関係でいらっしゃいますけれども、自動車関 係の人材を養成しましょう、あるいは技能評価制度を作りましょう、では現 地の人に協力をいただきましょうと言って現地の企業の人を集めたら、実は タイには日本企業しかいないから、集まったら結果的に日系企業だったとい うのと、最初から日系企業を狙い撃ちというのとは違いますが。 ○奈良課長 説明ぶりとしては、集まっていただいたら日系企業だったとい うイメージなのだとは思います。ただ、これはプロジェクトに限らずなので すが、アジアの政府の方々からよく言われるのは、能力評価の面などで日系 企業の協力を得たいのだが、なかなか得られない、あるいは、国としてシス テムは作ったのだけれど、日系企業のほうでなかなか活用してもらえないと かという話を現地でこれまで聞いておりまして、仮に日系企業が実際に入っ て活用をするような状態でありますと、そういうシステムそのものがかなり 有効に維持できるのではないかというような考え方がありまして、こういう ことを問題意識として書いているわけです。 ○川上専門会員 この資料7の【2】(1)の今お話にあった点について、私 どものJAVADA(中央職業能力開発協会)で実施している技能評価シス テム普及促進事業、ペーパーでは、予算上「移転事業」という名前をいただ いているわけですが、この事業を実施するに当たりまして、実は、いろいろ 悩ましい問題も周辺にございます。先ほどご紹介のありましたように、いま 何とか年間2,000人近くの方が参加するような形態で事業が進んでおります が、その入り口のところで非常に悩ましかったことと今起きていることを、 いくつか事例として申し上げたいと思います。  当初考えましたのは、こういった国際協力事業というのは、必ずやその着 地点を設けなければいけないものなのか。必ずやピリオドが付くものなのか どうか。と言いますのは、私どもJAVADAとしては、こういった大きな 視点ではないのですが、いくつかの国と国際協力を交流という形で行ってお ります。人づくりというのは人から人への伝達ですから、必ずや伝達してい く時間と、その成果が有効的に働く期間があるわけです。伝達が終わると、 だんだん自然消滅していく。また人づくりのために伝達をしていくと、それ が有効的に働く期間がサイクルとして出来ていく。そういうことをずっと思 い浮かべております。こういうプロジェクトとして、どこか着地点を見出す としたら、どこを着地点にしなければいけないのだろうかということは非常 に難しい問題で、答えをクリアに申し上げるようなことは私にはできないの ですが、いちばん迷う点はこの点です。  2つ目は、伝達の手法として何を媒体に各国に対して、例えば日本の経験 やノウハウを供与していくのかということを考えます。やはり、先ほど奈良 課長からお話がありましたように、多くの政府の方がおっしゃるのは、自国 の経営者といいますか、企業というのは人材育成を「投資」としてではなく 「コスト」として見ている、日系企業とは違うのです、ここを変えていくに は、どうしたらいいのでしょうかと言うのです。まず、そこに大きな違いが ありました。  訓練をベースにした検定にしても、競技にしましても、産業界が動かない と、どうにも普及促進しないという状況がございます。私どもがまず日系企 業にアプローチしたのは、最初はそういった取組の好事例を紹介していこう、 日系企業がいろいろ周辺の企業と連携しながらその取組の普及を図っていた だくことで、いずれそういった取組が国の人材育成計画なり職業訓練政策に 合致したという認識が得られれば、今度は国と産業界、私どもはそれを「官 と民の連携」と呼んでいるのですが、そういった姿で何か事業が進展してい くのではないか、そういうところを1つ目標にしようと。  私が今このことから申し上げたかったことは、私どもが取り上げている材 料というのは、実は技能というレベルです。企業にとっては、訓練をしてい けば、一定年数が経ったところでそれなりのレベルに上がるというものです。  今日鈴木先生がこちらにおられて、以前私は鈴木先生にもお尋ねしたこと があるのです。この内容を他の企業に知らせていいのですか、あるいは、こ のことが国に提供されていいのですかと。そのことをいつも気にしながら申 し上げてまいりました。そうすると、お答えは、技能なら大丈夫ですという ことなのです。ですから、技能をベースにしたもので移転を図るとか普及促 進するというのは、意外にやりやすい面がございます。  ところが、いろいろな国から特に声が出てきますのは、まだ技能もしっか りしていないのだけれども、高いレベルの技術について、何か指導者を支援 していただけないかと。例えば、先般経済産業省のサイド、JETROなり AOTSから金型工業会に支援があって、やっと工業会が出来ました。それ について、今度は企業からの協力でいろいろ技術支援がほしいと。そうなる と、私どもがいまコミットしている企業の皆さんに、企業の中から技術的な 要素で指導・支援していただけますかと言った場合に、かなり難しい問題が 出てくるのではないか。  遠回りになりましたが、私が申し上げたかったのは、ここで能力開発分野 と言っても、いろいろな技術のレベルがありまして、まさに高度な技術にな ってくると、なかなか企業の支援を引き出しにくくなっていくのではないか。 現実、経済産業省のほうではどういうふうに進めておられるのか、むしろ私 が知りたいという関心はございます。今お話を伺いまして、バラバラではあ りますが、そのようなことを感じました。 ○鈴木会員 技術と技能をどう捉えるかは非常に難しくて、いろいろな捉え 方があると伺っております。特に技能で申し上げるのは、「技能は個人に宿る」 とよく言われますので、今日あるいは明日訓練したからといって技能がすぐ に伝承できる、ということはあり得ないのです。技能五輪の例で申し上げる ならば、新しく技能五輪の職種にチャレンジする企業があって、ある程度紹 介しながらいっても、だからといって直ぐ負けてしまうということではない のです。技能は比較的基礎技能から始まって高度技能まで、なかなか時間が かかる。一般的な調査では15年とか16年とかと言われるぐらい時間がかか るのです。そういう意味では、ベース的なこと、例えば検定の2級、1級レ ベルの技能を本当にASEANや中国にも伝承しないと、自動車産業として 各拠点でのものづくり、良いものを速く作るということは、なかなか難しい のではないか、これは非常に感じております。 ○今野座長 先ほどの奈良さんの話は、今の話との関連で言うと、2級、1 級を上手に作れるようなODAのプロジェクトを何か作って、そこから養成 される人材は2級、1級も出て、2級や1級を持っているのだったら、日本 システム上の2級や1級だから、日系企業にはスーッと入っていくだろうと、 そんなことを考えていたわけですか。 ○奈良課長 イメージとしてはそうなのですが。しかし、あくまでも一般論 的に申し上げたので、必ずしもこの評価システムだけという話ではないので す。もし、雇用能力開発分野で何かやるのだったら、折角作り上げるのだっ たら、日系企業を含む企業にとって使いやすいものとしていくのだという意 識をしっかり持った上でやっていかなければいけないのかなということです。 そして、評価システムにおいては日本の技能検定の1級とか2級に相当する レベルのものが個別に評価できるものであれば、それに合格した方は、確か に日系企業はすごく採用しやすいでしょうし、能力開発も1つのターゲット として明確に定めて使っていくこともできるようになるのだと思っておりま す。 ○今野座長 ただ問題は、2級とか1級というのは日本人しか知らない。だ から、中国の自動車産業でもいいですけれども、日系企業は「おお、それは 素晴らしい」という話になるけれど、アメリカ系企業は「何それ、2級って」 という話になる。 ○奈良課長 その辺は難しいところが多分にあるのですが、日本のシステム をそのまま持っていってその通りに、というのは、実際問題としてはなかな か難しいのだろうと思うのです。それぞれの国の中で似たような、といいま すか、その国のシステムの中で、例えば日本の技能検定の1級なら1級のレ ベルというものが相手国の中ではどういうところに位置づけられるのかとい うところをよく比較検討の上で、相手国のシステムの中で同じようなレベル のものを見出して、それを日系企業で実際上使っていけるということになれ ば、それはそれでいいのだとは思うのですけれど。 ○今野座長 私の認識では、どの国も、技能者だったら大体3ランクでしょ うと。特に製造業のメーカーの場合には技術は共通だから、3ランクに割っ たら、大体どこの国も一緒ではないのかという気持が他方であるのですが、 どうでしょうか。 ○鈴木会員 3ランクというのは何ですか。 ○今野座長 例えば日本の企業でいくと、高卒でもいいのですが、最初に正 社員でポッと入って、少し訓練をして一人前になって、リーダークラスにな って、最後は監督者クラスになっていくとすると、監督者クラスを除くと3 ランクです。単純にアシスタント、一人前、リーダーとすると、3級、2級、 1級。あるいは2級、1級、特級でもいいのですが。韓国とか他の国でも、 クラスはみんな3ランク。NVQも3ランクでやっているのです。 ○鈴木会員 技能レベルでは確かにそう言ってもおかしくないかもしれませ んが、ものづくりの世界で、技能だけではなくて、例えばQCD(Quality Cost Delivery)を守るためには、技能とはもっと別の技能が要ると私は思っていま すので、それらについて日本の国家検定で全てを補完することは不可能です。 その関係でいけば、ゆくゆくは、そういう国家検定がある程度定着するぐら いになれば、社内検定ですとか、その国に合ったQCD等々についての教育 や検定制度なども検討する必要はあると思います。  日本でも、国家検定でものづくりに全て役に立っているかというと、とん でもない話です。例えば当社の場合ですと、国家検定を受験する人は約20% でありまして、80%は社内検定を受験して、国家検定と同じレベルの技能と QCDなどのレベルアップにつなげているわけです。ですから、その辺を今 後海外でも、もう早い時期に必要だと思います。 ○今野座長 そうすると、少なくとも技能レベルだったら大体似ていますか。 ○鈴木会員 そうですね。例えば自動車を造るといったら、大体一緒ですか らね。むしろ今はQCDをいかに強くするかというのがいちばん大きな課題 で、そのための人材育成をどうしていくかというのが重要です。QCDと言 うと少し語弊がありまして、そこの後ろにS(safety)があるのです。そうで ないと、例えば中国ですとV社が非常に強いのですが、いろいろな国がもの づくりをやっていますので、そういう競争になかなか対抗できないというこ とはあると思います。 ○今野座長 このペーパーにもありますし、野見山さんもちょっとおっしゃ られていたのですが、日本で言う国家検定、英語で言うNational Qualification Systemを日本から持っていこうとしたときに、それが売り物 になるか・ならないか。もとの出来が悪いのに持っていっても売れないから、 そこはどうですか。日本の国家検定というのは、向こうの文化と合うとか合 わないとかということは除いて、システムとしては大体良い商品だとお考え ですか。 ○鈴木会員 実は先回川上課長と一緒に、D社とは別で、タイ(労働省)の DSD(Department of Skill Development;技能開発局)で旋盤の国家検定 の検定委員養成プログラムに協力させていただいたのですが、結構役に立つ のではないかと私は思います。それはどういうことかと言うと、ものを作る には、基本的には設備があり、その代表的なものが旋盤なのですが、そのレ ベルを評価してあげるというのは非常に重要なことだと思います。ですから、 今回やってみて、タイではもう少し改善して良いものにしたいと思っており ます。 ○牛山専門会員 今の各システムの基準などを見ていますと、日本の場合に は検定に力を入れていますが、技能基準、それからその前の各仕事の枠組み、 そういうものが確かに日本では一貫してあるのですが、それも世に出ていな い。そうすると、今言われるタイやASEANなどで、いわゆる技能検定だ けを取り上げてやろうとしても、自分たちの持っている職域や技能基準にな かなか合致しないということで、結局ILO/APSDEPなどで一貫した ものを作り上げてくれと要請がありました。ILO/APSDEPは地域の ためOccupational Skill Standard、そして検定、その後の査証の制度を一貫 して協力していました。日本は今までこういうものを別段世に出す必要はな かったのですが、最近の傾向を見ますと、オーストラリアでいろいろなシス テムを作っているし、英国ではNVQを作っています。それからISOシリ ーズも出しているということで、今後は日本のシステムは総合的な制度とし てこういう形で動いているというものを出すことが必要ではないか、私はそ ういう気がします。  最近アメリカのODAの調査に行きまして、これは日本側に出された課題 だったと思うのですが、やはり同じようなことをアメリカ側から言われたの です。いろいろな制度など日本にも確かに良いものがあるはずなのだが、我々 にはそれがなかなか見えない。それから、制度や戦略がきっちりと我々のほ うに情報として伝わるような形を取ってくれないか、そういうことを言われ ました。ということは、アメリカなども、日本といろいろな分野で協調した いという場合に日本のことをより理解して歩調を合わせるというときに、や はり情報が必要であると言っていました。 ○今野座長 今おっしゃられたのは検定技能基準。その前にもう1つおっし ゃられたのは何でしょうか。 ○牛山専門会員 仕事の職域と区分です。例えば旋盤工だと、旋盤工という のはどういうものを指すか。作業の基準に計算まで入れるのか、またその他 安全等の知識まで入れるのか。 ○今野座長 そこの区分方法は、日本はだいぶ違いそうですね。 ○牛山専門会員 韓国と日本は大体同じような形です。韓国が日本の制度を 真似したのでしょうけれど。 ○野見山会員 いま技能検定の話が出ていますが、日本の場合はマニュアル にしていません。例えばワークスタンダードはこれだというものを、はっき り文章にして残していません。先ほど先生からPDCサイクルの話も出まし たが、安全衛生のマネジメントシステムと同様、仕事の段取りも、旋盤とい うのはこういう仕事をするものである。何のために何をやって、それにはど ういう留意点があるかとか、そういうものがあって初めて検定の基準が出て くるのですが、検定という制度が先にあって、その基準は何かというところ が、どうも明確になっていない。会社によって社内検定をやっているのは、 会社によって仕事の進め方が多少違うところがあるからだと思うのです。だ から、旋盤工としての仕事のワークスタンダード、基本的にはこういう仕事 をするものだ、そして、規格に合ったものをちゃんと作れるように、精度の 高いものを作れるようにするのだとか、そういうものがないと国際的にはち ょっと。先ほど先生がおっしゃった1級の旋盤工といっても、それは何だと いうことになるので、やはり、1級旋盤工というのは、こういう仕事に対し てこういう遂行能力を持っているものだということが全部書きものになって いる。ISOでもそうですが、とにかく文書化をしておかないと立ち往生し てしまうのです。  オーストラリアでは、言ってみれば自動車でものすごく優れた技術を持っ ているわけではない。ただ文書化をする技術です。安全衛生でもそうです。 すぐに文書化していくこと、方針だとか実行、検証とか、いわゆる仕事をシ ステム化することが非常に上手、と言っては何ですが、かなり進んでいると 思うのです。  東南アジアの人はやり方だけをすぐに導入して、「ああ、こういうシステム のやり方ならいいや」と言って、中身自体というよりもシステムという1つ のものにすぐに引かれてしまう。そういう点からいけば、まず日本の中身を 国際的に通用するような形で売り込んでいくと言いましょうか、そこで初め て検定制度も一緒にくっついてくる、私はそう思います。 ○鈴木会員 どちらかというと、検定で技能のほうに話題が集中するのです が、もう1つ方向を変えて見ますと、いわゆる監督者訓練の支援をきちっと してあげることも重要かなと、私は非常に強く思っています。日本にはTW IのJI、JR、JMがあり、まず第一はJIだと思っていますが、この監 督者を養成しないと、いくら技能を高めても、ものは良いものにならないの です。ですから監督者に対する人材育成も注目の1つではなかろうかと思い ます。 ○今野座長 ただ、もし監督者訓練を頑張ってやったとして、でも、いつも 拠点、補給ラインが点でポッポッと行くから。先ほどのタイのウボンの話で はないのですが、しばらくしたらガラッと変わっていたとか。そういう点、 オーストラリアのやり方は、大したことはないけれど、仕組みで売り込むか ら残ってしまう、そういうところはありますね。オーストラリアのあのシス テムも、ベースはNVQだから、イギリスで全部元を作って、それを持って きているだけでしょう。NVQのシステムの記述量というのは膨大なもので す、使えるのかと思うけれど。向こうはああいうのが上手なのですね。 ○奈良課長 ご承知のように、日本においても職業能力の評価基準、コンピ テンシー・スタンダードみたいなものを作りつつはありますが、言ってみれ ば、それがある職務の段階に応じて、この職務のこういうレベルの人だった らこういうことができなければいけないということで、何々ができること、 みたいなことがずっと書いてある基準はJAVADAにお願いして作ってい ただいているところですが、そういうものが1つのベースになる可能性があ るのかと思っております。ただ、スタンダードがあったからと言って、本当 にそれですぐ評価ができるかと言ったら、決してそういうことではなくて、 その評価基準、何々ができることと書いてあるものを評価するための評価ツ ールが次の段階として必要になってくる。そういうことがありまして、いま 日本の場合ですと、まだそこまで展開されていないというのが実情だと思い ます。それで、オーストラリアではそういうところがどこまで具体的になさ れているのかということが、ホームページなんかではなかなか調べることが できなくて非常に残念なところはあるのです。 ○今野座長 コンピュータで言うと、OSはアメリカに握られて、Windows。 そして日本は一生懸命小さいアプリケーションソフトを作って、良いものを 作っても、いつもアメリカのOSの中という、そんな感じになるかもしれな いですね。だから、日本も検定制度として良いものを入れても、基本設計部 分のOSはオーストラリア版とかイギリス版、その上にいつもちょこっちょ こっと載っかる、そうなってしまう心配はありますけどね。だから、そのO Sの出来が悪いかどうかなどというのは、良いほうがいいのですが、できて しまえば関係ないのです、コンピュータのOSと一緒で、日本はまじめだか ら。  先ほど野見山さんが、貧困対策とかセーフティーネットからポジティブ政 策に行きましょうとおっしゃいましたが、ボジティブ政策に行ったときには、 もう従来の協力という感じではないのではないかと思うのです。つまり、向 こうはレベルが上がってきたということが前提なので、上から下に流すとい う感じではない。例を挙げると、この検定制度でもいいのですが、日本のを 持っていくというよりは、日本と韓国とで組んで日韓版を作るとか、そんな 感じになってくるのではないかと思うのです。なぜかというと、向こうのレ ベルが上がってきているから。 ○野見山会員 ですから、日本のシステムを持ち込むというよりも被援助国 の国にふさわしいもの。例えば経済社会発展計画というのがありますね。そ うすると、その経済社会発展計画の枠組みの中で、どういう雇用・就業構造 を展望しているか。それにプラスになるような人材養成を企業側も心がけて いくし、協力側も心がけていく。そういう意味で、日本版を持ち込むという よりも、むしろ、それぞれの国の経済社会発展計画に合った姿で協力してい くということではないかと思うのです。そこで日本で役に立つものは持ち込 みますが、レベルが上がってくればくるほど、すべてを持ち込むようなこと は非常に難しいと思います。私はレベルがある程度上がった対象国を見てい て、アフリカのような所には目が回っていないものですから、ちょっと視点 が偏っているかもしれませんが、そう感じております。 ○今野座長 今日はこのぐらいにしたいのですが、何かほかにありますか。 ○釜石補佐 資料8が残っているのですが、それは次回に説明させていただ きます。次回の日程については、先ほど資料3で説明したように、3月22日 (水)14時30分から、この共用第8会議室で開催させていただくというこ とで、よろしくお願いいたします。 ○今野座長 今日はどうもありがとうございました。 【当文書の照会先:職業能力開発局海外協力課協力係(内線:5957)】 1