06/01/31 第8回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会の 議事録について     第8回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会       日時 平成18年1月31日(火)          15:30〜         場所 厚生労働省6階共用第8会議室 ○西村座長  ただいまより、第8回「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研 究会」を開催いたします。本日は小畑先生、宍戸先生、柳川先生が所用によりご欠席さ れております。本日の研究会では、前回に引き続きまして、事務局で用意した資料を基 に、投資ファンド等により買収された企業の労使関係上の論点について議論をしていた だきたいと思います。最初に、前回の議論を踏まえまして、事務局で資料の修正を行っ たとのことですので、その点についての説明をお願いします。 ○金谷参事官補佐  資料の説明をさせていただきます。ただいま座長からご説明がありましたとおり、前 回、これまでの議論及び論点の整理につきまして資料を出しました。今回出しました資 料については、前回ご議論いただいた点も踏まえまして事務局で修正したものです。そ れでは、修正した点を中心に説明いたします。1頁です。I「本研究会開催に至る経緯 」ですが、これは前回出したものからの修正はしておりません。平成8年12月の「持株 会社解禁に伴う労使関係専門家会議」報告書から一昨年12月の東急観光労働組合がAI P社の団体交渉拒否は不当労働行為にあたるとして、東京都労働委員会に救済申立てを した、ここまでを時系列で並べております。  2頁ですが、II「本研究会での議論の整理」ということで、1つ目にヒアリングの結 果についてまとめております。これは過去4回にわたって行いましたヒアリングについ て簡単にポイントをまとめたものです。なお、前回同様、4回のヒアリングにつきまし ては資料のいちばん最後に一覧表のような形で結果をまとめておりますので、適宜ご参 照いただければと存じます。  3頁ですが、アメリカの調査結果についてです。前回の研究会において立教大学の奥 野先生及び労働政策研究・研修機構の呉研究員よりご報告をいただきました。その報告 を踏まえまして事務局で一部修正をしております。具体的には3つ目のポツの部分です 。アメリカにおいて使用者性を判断する際には「単一使用者」及び「共同使用者」の法 理があるわけですが、投資ファンド等の使用者性が問題となるとすれば、「単一使用者 」に該当するかどうかの判断をすることになるとNLRB(全国労働関係局)は考えて いるところです。この「単一使用者」の要件としては、一方が他方の日常の事業運営ま たは労働関係について、現実的または積極的な管理を行っていくことが必要となってお りますが、投資ファンド等が被買収企業の労働関係の集中的管理を日々かつ具体的・日 常的に行うことはあり得ないと認識されていますので、これら「単一使用者」の法理に 照らして、投資ファンド等の使用者性が認められることは考えられない。また、「共同 使用者」の要件としても、日常的な労働関係についての現実的な管理が必要と、このよ うにされていることについて記述いたしました。  III「論点の整理」です。ここについては、前回お示しした論点について、ご議論いた だく際に参考となりそうな過去の裁判例・命令例、あるいはヒアリングにおいて伺った ポイントについて簡単にまとめております。今回追加したのは、具体的には矢印で網掛 けをしている部分です。まず、投資ファンド等の労働組合法上の「使用者性」の判断に ついて、朝日放送事件で示された判断基準が妥当するか。こういう論点についてですが 、朝日放送事件においては労働組合法上の使用者性について一般論が示されたわけです 。朝日放送事件自体は請負契約の発注元の使用者性にかかる事件でしたが、その後、徳 島南海タクシー事件において、徳島県の労働委員会から親子会社間の親会社の使用者性 についても判断基準が示されております。4頁のいちばん上に掲げましたが、「親会社 が子会社の経営を支配下に置いて、子会社従業員の労働条件について現実的かつ具体的 な支配力を有している場合には、労働契約上の使用者である子会社のみならず、親会社 も団体交渉上の使用者たる地位にある」このような命令が出されているところです。  朝日放送事件の判断基準が妥当するとすれば、具体的判断にあたって特に考慮すべき 要素があるか。また、株式保有割合、取締役会の構成によって使用者性を判断できるか 。こういう点については、前回の研究会において、こうした株式保有割合に基づいて一 律に使用者性を判断するのは困難ではないかというご意見もいただいたところです。過 去の裁判例・命令例を見ると、例えば徳島南海タクシー事件あるいは宝塚映像事件にお いては、親会社が子会社の資本金を全額出資し、かつ親会社の役員が多数子会社の役員 を兼務している場合であっても親会社の使用者性は否定されております。こうした命令 例も参考になるのではないかと考えております。  それから、具体的な判断にあたって特に考慮すべき要素として参考となりそうなもの が雪印乳業事件ですが、ここでは「子会社の従業員の労働条件について実質的な支配力 を有していたことを推認させる具体的事実、例えば、子会社の従業員の賃金水準を指示 ・命令していた事実、過去に親会社と子会社の労働組合が団体交渉を行っていた事実な どの疎明がない」として親会社の使用者性が否定されております。また、ヒアリングの 結果を見ますと、一部を除いて、被買収企業における労働条件は被買収企業の内部の組 織、つまり取締役会とか経営会議で決定されておりまして、投資ファンド等は関与して いないと回答されておりました。また、投資ファンド等と被買収企業の労働組合が団体 交渉を行ったことはありませんでした。  我々がヒアリングをした中では、一部において被買収企業の労働組合が、投資ファン ド等が団体交渉を行うべきであるとしていたケースもありましたが、このケースにおい ては投資ファンド等の保有する被買収企業の株式が3分の2を超えておりました。ただ し、同様に、投資ファンド等の株式保有割合が3分の2を超えているケースでも労働組 合が被買収企業とのみ団体交渉を行って労働条件を決定しているケースも見られており ます。  それから、投資ファンド等に使用者性を認める場合があるとすれば、どのような例が 考えられるかということですが、ここについては、前回同様、純粋持株会社の報告書か ら2類型を挙げております。5頁ですが、2として、良好な労使関係を構築するポイン トです。1つ目の矢印からですが、過去の裁判例・命令例を見ますと、直接の雇用主以 外の者であっても、労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる 地位にあれば、労働組合法上の「使用者」に該当する、こういうことについても投資フ ァンド等が留意する必要があるのではないかと考えられます。2つ目ですが、これは当 然のことですが、投資ファンド等に買収された企業であっても、誠実に団体交渉を行う 必要があります。ただし、この誠実に団体交渉を行うということは、必ずしも団体交渉 に役員が出てこなければならないというものではない。例えば、支店長、人事部長、人 事部係長など、役員以外の職員が団体交渉に対応した事案について、「交渉事項につい て必要な知識と情報を持ち、交渉権限の委任を受けて、会社としての確定的な回答をな し得る事項については責任をもって回答するとともに、即答できない事項についても、 持ち帰って、会社としての回答を行っている。こういう交渉について使用者としての誠 意を欠くものと言うことはできない」とする命令例もあります。  また、ヒアリングにおいては、被買収企業の労働組合から、投資ファンド等によって 企業が買収されることについて不安があったとの報告がなされているところです。これ を受けまして、買収後の経営方針について被買収企業から労働組合に情報提供がなされ ていた例もありました。買収後の経営方針を含めまして、労働組合や労働者に情報提供 することが望ましい事項があるかと、こういう点も論点になるのではないかと考えてお ります。また、あるとすればどのような時期に行うべきか。これも前回の研究会におい て山川先生からご示唆がありましたが、買収前に労働組合に情報提供を行うことについ てはインサイダー取引の関係で困難との指摘も一部の被買収企業からなされていました 。なお、その企業においては、買収することを公表した直後に労働組合に対して情報提 供を行っております。  それから、「持株会社解禁に伴う労使懇談会」の中間取りまとめにおきまして、「純 粋持株会社は経営戦略を通じて子会社の経営に影響を及ぼすと考えられるが、純粋持株 会社と子会社の労働者との間で何らかの意思疎通の手段を有することが有用」と述べら れております。また、ヒアリングにおきましても、投資ファンド等、被買収企業及び被 買収企業の労働組合の三者で投資ファンド等の被買収企業の経営に関する考え方等につ いて意見交換を行った例もありました。  最後ですが、本研究会の2回目のときに、日本経団連及び連合からもヒアリングを行 っていますが、その際、連合から投資ファンド等においても、被買収企業と労働組合と の間の労使関係、具体的には労働協約とか従来の労使慣行といったものにつきまして尊 重することが重要ではないかという指摘もなされております。以下6頁以降は前回もお 示しした過去の裁判例・命令例を掲げております。投資ファンド等の使用者性の判断の 部分に係って参考としていただければ幸いでございます。 ○西村座長  ただいまの説明につきましてご意見がありましたらお願いします。 ○山川先生  5頁の矢印で示された2段落目で「投資ファンド等に買収された企業であっても、誠 実に団体交渉を行う必要があるのは当然である」の次のなお書きで、このようなことで あるのはもちろんなのですが、このなお書きの意味は、この中で出てくる命令は会社内 部での支店長、人事部長などと会社の意思決定の関係だと思いますので、投資ファンド 等に買収された企業と投資ファンドの関係についてそのまま妥当するものではないので はないかと思いますが、示唆として、いわば、同じような発想が成り立つということな のでしょうか。もし何らかの形で書くとすれば、このなお書きの意味をもう少しクリア ーにできるのであれば、したほうがいいと思います。 ○金谷参事官補佐  ここにつきましては、我々のヒアリングの結果では投資ファンド等から被買収企業に 対して取締役等の派遣がかなりなされていたところです。一部の労働組合につきまして はその取締役等に対して団体交渉に出てきてほしいという意見も見られたところですが 、必ずしもそこまでは必要ないという趣旨で書かせていただいております。 ○山川先生  つまり、現実に団交に登場するのが支店長であった場合を考えて、投資ファンドから 派遣された取締役までは出てこなくても適法とされているということでしょうか。 ○金谷参事官補佐  はい。 ○荒木先生  これは、普通の企業における団体交渉でも、団体交渉権限を与えられているかどうか として問題となることなので、ここでこう書くと、投資ファンドと被買収企業特有の関 係として読んでしまい、どういう関係になるのか、私も同様の疑問を抱きました。「な お」以下は削除したほうが適切ではないかという印象を持っております。 ○太田政策統括官  そうですね。ある意味では当然のことなので、投資ファンドが絡まない話であっても 当然の話ですから、投資ファンド等の関係もそのように推測されるとかえって適当では ないということがありますので、そこは少し整理させていただきます。 ○荒木先生  後のほうで、過去の裁判例・命令例として挙げてあり、かなり命令例が多いのですが 、これらについて取消訴訟とかで判断が下されたものもあるのでしょうか。どのように 引用するかですが、命令例で引用するのか、命令が取消訴訟でも維持されているという ことがあればそういうものがあってもいいと思いましたが、そこはどうでしょうか。も う1点は、3頁から4頁にかけて、徳島南海タクシー事件が引いてありまして、一般論 は確かにこのように書いてあるのです。一般論だけを見ますと「株式所有とか役員の派 遣、下請関係などにより子会社の経営を支配下に置き」、その後に「労働条件について 現実的かつ具体的な支配力を有している場合には、団体交渉上の子会社と並んで親会社 も団体交渉上の使用者たる地位にある」と。この一般論だけを見ると2通りの解釈のイ メージがあり得て、そういう外形的な関係から親子会社関係にある場合には、当然に使 用者たる地位にあると読むのか。それとも、そういう親子会社関係にあって、かつ現実 的・具体的に支配力を有している場合にはそうなるということなのか。両方のイメージ が湧くのですが、実際の判断では外形的な関係があっても、現実かつ具体的な支配力が ないから使用者にあたらないとした例ですよね。ですから、一般論だけ引くよりも、株 式所有とか役員とか下請関係など、そういう外形的関係だけでは足りないということを 言った命令例だと思いますので、そのことが何かわかるような工夫をしていただいたほ うがいいのではないかという印象を持ちました。 ○金谷参事官補佐  いま荒木先生からご指摘いただいたところの1点目ですが、今回の裁判例はなるべく 新しいものということで、特に朝日放送事件が出た以降のものについて探すようにして おりましたが、正直な話、取消訴訟でめぼしいものが見つからなかったということもあ ります。2点目につきましては、書き振りにつきましてはまた工夫をさせていただきた いと思います。 ○川口参事官  この命令が確定したものが取消訴訟に係っているものかというご質問です よね。 ○荒木先生  具体的に言うと、命令はこう言っているけれども取消訴訟で取り消されたりしたもの を引用しているとちょっと。 ○川口参事官  そこはよく調べてみます。 ○荒木先生  確認していただければと思います。 ○毛塚先生  何から議論していいかわからないので、本日の会議の趣旨を明確にしていただけます か。 ○川口参事官  私どもの考えとしては、今回はまだフリーディスカッションのつもりでございます。 ただ、何も材料なしにフリーディスカッションといってもあれなものですから、論点を 少しまとめたり、裁判例を議論の素材としてお出ししているという趣旨でございます。 これはまだ報告書の案とか、そういう段階ではありませんので、これを参考資料として ご議論いただければという趣旨でございます。したがって、ここに書いてない論点もあ ろうかと思いますし、基本的にはフリーにディスカッションしていただければと。 ○毛塚先生  現実的にはタイムリミットがあるでしょうが、この研究会では従来の使用者性に関す る基準を使って投資ファンドに対してどう対応できるかついて何も議論していませんよ ね。ヒアリングを行っただけで取りまとめるというのはよくわからない。 ○西村座長  ヒアリングの結果をどのように我々がまとめるかということも含めてですね。 ○毛塚先生  はい。 ○太田統括官  投資ファンド等の使用者性について、まだ先生方からも必ずしも十分な議論はしてい ただいていませんので、それも含めて幅広にご議論いただければと思っています。参考 までに今までの考え方を整理させていただいただけの話ですので、先生方の考え方を示 した上でご議論いただいて結構だと思っております。 ○毛塚先生  ただ、研究会が今日でおしまいということになると、議論するといっても難しい。 ○川口参事官  今日でおしまいということではございません。 ○太田政策統括官  我々としては年度内、あるいは4月ぐらいまでにはと思っております。今日は少なく とも幅広にご議論いただいてよろしいのではないかと思っています。その上でまた次回 、さらに絞ってご議論いただくということを考えています。 ○毛塚先生  わかりました。 ○西村座長  むしろ今日は、東急観光労組が投資ファンドに買収された後、投資ファンドの団交拒 否は不当労働行為だということで訴えたことがきっかけになって、こういう研究会が設 けられるに至ったわけでありまして、そういうことから投資ファンドは少なくとも団体 交渉の対象になるのだとか、そういう話をヒアリングの結果として、あるいは自分の見 解として展開されるのであればここでやってもらったらいいと思います。 ○毛塚先生  例えば、4頁に従来の持株会社のときの判断基準が参考として出されてありますが、 持株会社と投資ファンドの差はどの辺あると見るのか、少し議論をする必要があるので はないかと思うのです。投資ファンドの研究会ですので、投資ファンドそれ自体の特性 というものをある程度明確にして書く必要があるのではないでしょうか。折角、ヒアリ ングでいくつかの事例を聞いたのですから、投資ファンドが具体的にどういう形で企業 に対して対応しているか、ケースが多様だから一概に言えないのはよくわかりますが、 その辺の特徴をまとめる。現実に、執行役員を送り込んだりして経営に関して積極的に 関与するようなケースもあったわけですから、従来の基準で結構ですというにしても、 投資ファンドのタイプや投資ファンドが持っている特性を書いておく必要はないのでし ょうか。  あと、アメリカについては、これは山川先生に補足していただきたいのですが、前回 の議論で団体交渉の仕組みが交渉単位制のもとで違うので、日本とストレートに対比で きないというようなことがあったと思いますが、比較の前提としてその辺の記述はあっ たほうがよろしいのではないかと思います。 ○山川先生  前回申し上げたのは朝日放送に相当する判例がない、その辺りが違いではないか、と いうことであったかと思います。 ○荒木先生  使用者の属性といいますか、確かに、いろいろな役員を送り込んでいるということが ありますが、それは、おそらく、親子会社関係でも全く同様の問題が生じているので、 それ以外に法的な違いがあるのかなと。いろいろとヒアリングをお聞きしていても、基 本的には共通しているのではないか。ただ、投資ファンドの場合は、言い方は悪いです が、被買収企業を1個の商品みたいにして、そして株価を上げて売り抜けることによっ て利益をあげるということから、特殊な行動をするのかどうかということをヒアリング でも聞いたのではないかと思います。それをどのように評価するかは人によって違うか もしれませんが、私が受けた印象は、確かに、戦略的にはそういうことがあるかもしれ ないけれども、あくまで株主として関与していて、具体的な経営自体は経営者に任せて 、自分が見つけた経営者か従来の経営者かということはいろいろありますが、経営問題 については被買収企業と従業員の問題として処理していく。それに対するいろいろな影 響力がありますが、それは株主としての影響力であって、親子会社関係とか純粋持株会 社傘下の関係とか、それは共通の問題ではないかという印象を受けました。もし仮にそ うだとすると、従来の親子会社とか純粋持株会社についての使用者性判断とほぼ共通の 枠組みで処理できるのではないか。もしこれを変えるとすると、逆に、今までの親子会 社とか純粋持株会社の関係についても問題が波及していって、株主としての行動の何か を捉えて労働法的に介入をするという提言になるのかなという印象を持っております。 ○西村座長  私も、ヒアリングを聞く前は、投資ファンドというのがどういう行動のビヘイビアを 持っているのかよくわからなかったのですが、いくつかのケースを聞いてみますと、事 業の成長あるいは再生のために、ある程度中長期的に成長、再建を図って企業価値を高 める。労使関係は、あまりそれに手を触れて物事を起こすこと自体が企業価値を下げる ことになるということで、むしろ、あまり触らない、良好な労使関係を維持する方向で 行動しているケースが多かったように思うのです。そういう対応から考えると、従来の 親子会社とか持株会社の考え方、あるいは最高裁の判例で提示された考え方や判断基準 を、これで全く変えて新しい考え方を提示するのはなかなか難しいなというのが印象な のですが、毛塚さんはその点はどうですか。 ○毛塚先生  私も、この研究会は使用者性に限定した研究会ですので、従来の判断の枠組みで対応 することは了解しております。ただ、1つは、報告書としては投資ファンドの使用者性 に関して、従来の判断基準を並べるだけという書き方はどうなのかなと思っただけです 。従来の持株会社なり親子会社の関係と使用者性の判断の枠組みで言えば対応を異にす る理由はないというにしてもその前提として、投資ファンドの特徴をまとめておくこと は必要ではないかと思うだけです。2つには、良好な労使関係を構築するポイントとあ りますが、ここの部分は今後の課題なわけですから、説明義務とか、いろいろな形での 対応の方法はいくらでもあると思うのです。ですから、今後の課題で言えば、そこはも う少前向きに書いてもいいのではないかという感じを持っています。 ○西村座長  2つの問題のうちの後者のほうは、従来から営業譲渡などの場合でも説明をきっちり する。被買収企業の労働者あるいは労働組合は、随分不安を持つのはある意味で当然の ことで、その不安を解消するために、どういう方針でどういう方向でやっていくのか、 という情報を提供してその不安を解消するようなコミュニケーションを図ることは非常 に大事な点で、それも報告書の趣旨の一つなのでしょうね。交渉の主体になるかならな いかというだけの問題ではなくて。 ○荒木先生  5頁のいちばん下に「労使関係を尊重することについての重要性」というのがありま すが、これは広い意味で言うとコーポレートガバナンスの問題で、株主と会社の経営の 関係として労使関係の問題も、今いろいろなコーポレートガバナンスで議論があります が、重要なステイクホルダーである従業員の扱いについて十分配慮するということは、 ここで書き込むことも十分できるのではないかという気がします。 ○小林調査官  いま、買収後の説明義務の話が出ていて、多分、論点整理の5頁の下から2番目に、 「持株会社解禁に伴う労使懇談会」の中間取りまとめで、純粋持株会社の場合ですが、 純粋持株会社と子会社との労働者の間で何らかの意見交換の手段を有することが有用だ ということが書いてありまして、これが投資ファンド等の場合も該当するのかどうかと いう話だと思うのです。一方で、先ほど、投資ファンドと純粋持株会社の違いも議論し なければいけないのではないかとおっしゃっていましたが、この純粋持株会社というの は企業グループ全体の経営戦略をつくるので、当然、子会社の経営に影響を及ぼして、 その結果、労働条件にも影響を及ぼす可能性があるので意見交換が有用だと書いていた と思うのですが、必ずしも投資ファンドと被買収企業の経営方針をつくるものでもなか ったのかなとヒアリングで思ったものですから、そことの関係でその買収後の話はどう 考えるべきかということもご議論いただければと思っております。 ○毛塚先生  実際、投資ファンドといっても多様で全部つかみきれないので、一概に言えなくて難 しいのですが、現実にヒアリングをした会社は比較的コンスタントに企業に対してコミ ットするタイプですね。そういう役員の派遣も含めて行っているときには、従業員から すれば自分たちの会社を支配している会社の話が聞きたいというのは素直な気持だと思 うのです。先ほど役員に対する交渉の話がありましたが、団体交渉のテーブルで話をす ると難しいにしても、ある程度具体的に投資ファンドにその考え方の説明を従業員が求 めていくことはごく自然なことだと思うのです。 ○神作先生  私は商法、会社法を専攻しているので本研究会とのテーマから的外れなことを申し上 げるかもしれませんが、純粋持株会社の場合と比べて投資ファンドは何が違うかと言わ れたときに、会社法の観点から大きく違うと思うのは、純粋持株会社を通じて子会社に 投資している場合は、グループ全体として子会社を通じて事業を行っている。そういう 意味では、純粋持株会社は、事業者だと思うのです。これに対して、ファンドというの は基本的には投資である。投資と事業の区別がまた厄介なのですが、非常に抽象的な言 い方をすると、ファンド の目的は投資である。投資のプロですから、事業のプロに経営を任せることによって初 めてうまくいく。逆に言うと、所有と経営の分離が想定されているのではないかと思う のです。  他方で、投資ファンドの非常に難しい点があって、投資ファンドの後ろに誰が金を出 しているのかというのがなかなかわからないという実態があるわけです。そうすると、 実は、この裏にいる投資家が事業者であるという場合は、投資ファンドというファンド を組成しても、実際には投資ではなくてそれを通じて事業を展開しているという可能性 を全く否定しさることができないと思うのです。そういう意味では、投資ファンドの中 にも、純粋に投資を目的としているものから事業に非常に近いものまで、スペクトラム の間に多様なものがあって、投資ファンドについての規律は大変難しいというのが会社 法的な観点から見た場合の感想です。  御質問として、本研究会の範囲、射程について伺いたいのですが、専ら団体交渉の相 手が誰かという観点からこれまで論じられてきていると思うのですが、例えば商法的な 観点からは、次のような論点も生じます。たとえば、ファンドが買収をして、立て直し を図ったけれども、結局、うまくいかなくてその会社が倒産をしてしまう。そのときに 、例えばその従業員に対する未払いの賃金債権をファンドまたはその背後にいる投資家 にまで請求することができるのかといった論点も抽象的にはあり得ると思うのです。そ のような問題というのは全くここでは議論しないで、専ら労使関係といいますか、団体 交渉の問題に焦点を絞って議論をするのか。おそらく、問題となっている事柄やシチュ エーションによって、責任を負うべき要件や条件が違ってくるような気がするのです。 ファンドが非常にリスクのある事業をしろという意向で経営をさせたところ破綻してし まった場合には、ファンドには何の責任もないのか。こういう論点も抽象的にはあり得 ると思うのですが、これなどはこの研究会の範囲外という理解でよろしいのかどうかと いうことを教えていただければと思います。 ○西村座長  使用者性の判断の問題ですから、広い意味では、いまおっしゃったこともあり得るの ではないかと思いますが、そこまで使用者性を問えば難しいのだろうという感じはしま す。 ○太田政策統括官  我々が当初お願いしたときの問題意識のメインは労使関係、団体交渉や労使協議なり の使用者性の範囲内でどう考えられるかということです。神作先生がおっしゃったよう なことまでは想定しておりませんでした。団体交渉や労使協議の当事者がどうかという ことが我々の問題意識でございました。 ○川口参事官  私どもが今日出したペーパーの中でも、単に「使用者性」と書いてしまった部分と「 労組法上の使用者性」と慎重に書いている部分と、表現がばらばらになってしまって申 し訳ないのですが、「労組法上の使用者」と基準法その他あるいは契約関係での「使用 者」とはかなり違うものという理解でよろしいのでしょうか。 ○山川先生  一般には、むしろ、「労組法上の使用者」のほうが広い。基準法上の刑罰を科するの は例えば会社内の課長や部長でも足りるという問題は別個ありますが、契約がなくても 使用者に該当するというのが労組法の考え方なので、賃金支払義務を負うのは雇用主と いうことになりますから、むしろ狭くなるのではないかと思います。神作先生にお伺い したいのは、いま少し興味をひかれたのは、ときどき、労働関係の判例を見ていると、 会社を破綻させたことに対して、商法第266条の3で取締役の個人責任を追及して認 められているケースが出ているのですが、そういうことは倒産した会社なり破綻した会 社の取締役ということで、一般的に認められるような感じなのでしょうか。 ○神作先生  取締役の対第三者責任というのは、有限責任を濫用することがないように、会社に対 する任務懈怠に故意または重過失があったときに第三者に対しても責任を負わせるとい うものですので、そういう意味では、実際問題として、無責任な経営に対する歯止めに なり得る規定なのですが、問題は業務執行の責任ですから、そこに本件のような株主と いいますか、エクイティホルダーの責任が入ってくるとは普通は考えてこなかったと思 うのです。 ○山川先生  被買収企業の取締役としての責任を問題にするということですか。 ○神作先生  はい。 ○毛塚先生  実際に執行役員はファンドの方が選んだ場合でも。 ○神作先生  当該取締役の個人責任は問われるのですが、当該取締役を派遣した株主の責任につい て取締役の第三者責任にかかる規律は規定するものではないということです。 ○西村座長  いまのお話でしたら、非常にリスクの大きい事業をあえて踏み込んでやった責任は免 れないということなのでしょうね。 ○神作先生  おそらく、そのときの理屈は取締役の対第三者責任ではなくて別の理屈になると思う のです。いわゆる支配株主の責任、大株主の責任ということになるのではないかと思う のですが、それは日本では判例上なかなか認められていないところです。 ○荒木先生  そういうことを認めるような議論もあるのですか。 ○神作先生  いわゆる法人格否認の法理と呼ばれている理論により、認められる余地はあります。 もっとも、「法人格が否認される」ための要件を満たせばということです。 ○毛塚先生  例えば支配株主といったかなりの影響力を持つような株主に対して不法行為責任を追 及するような事件はあるのですか。 ○神作先生  これまで、日本は株主は無責任だと言われてきまして、権利はあるけれども義務はな いと考えられていたのです。理論的には、その権利の行使が権利濫用になると損害賠償 もあり得るのですが、権利濫用であることを主張立証しないといけない。 ○太田政策統括官  それは使用者としての責任ではなくて株主としての責任ということですよね。 ○神作先生  はい。今回の研究会の議論の射程が使用者としてのファンドの責任に限定されたもの なのかという点にもかかわってくると思うのですが、それはそういう理解でよろしいわ けですね。 ○太田統括官  そうですね。出発点としては、私どもはその範囲内で考えていたのですが、先生方が もっと範囲を広げるべきだということでしたら、それはまたそういう議論もあると思い ます。少なくとも、出発点では使用者としての責任の中で何が問われるのかということ で私どもは考えておりました。 ○神作先生  先ほどの説明義務のような話になってきますと、使用者性によらなくても出てくる可 能性があると思いましたので、そのような質問をさせていただきました。 ○太田政策統括官  良好な労使関係の構築ということだともう少し広がってくるということですか。純粋 持株会社の場合と投資ファンドの場合と、先ほど毛塚先生が言った問題意識はなかなか うまく書けなかったのですが、我々の中で議論していて、先ほど神作先生がおっしゃっ たこととも関連するのですが、純粋持株会社の場合、成り立ちを考えると、例えば別の 会社が経営統合して持株会社をつくるようなケースとか、1つの会社が事業部門を事業 会社にぶら下げるケースとか、いくつか考えられるのですが、基本的には事業を統一的 にやっていくという意味でかなり長期の継続性があるのではないかと考えております。 一方で、投資ファンドは、いろいろなケースがあるのですが、聞いてみると、かなりの 部分を投資対象として考える。しかし、ごく短期ではなくて中期的ぐらいの感じでいず れは解消するということで、少し性格が違うのではないか。そういう意味では、投資フ ァンドのほうが一般の株主とある程度似通った性格を持つのではないかという感じもし ております。そうすると、団体交渉の面においてはそんなに違っていませんが、労使関 係を構築していく上でかなり長期の継続的なものと、中期的にいずれは解消するものと 、この辺は同じように考えられるのか、あるいは違うのか。その辺を含めてご議論なり ご示唆をいただければありがたいなという議論をしていたのです。 ○毛塚先生 ヒアリングしたのは、どちらかというと、ある程度入り込んでというタイプです。事業 再生ファンドは、ある程度継続性をもって対応するから持株会社と同じような議論で対 応することは可能ですが、ヘッジとか、ほかのファンドだとなかなか難しいことはある のでしょうね。だから、ファンドのいろいろな類型を考えてイメージをつかまないとど こまで救えてどこまで救えないのか、難しい。 ○西村座長  投資ファンドと持株会社の違いはあるからこういう議論になってきているのは間違い ないのですが、投資ファンドにしても、事業グループを再生させる、あるいは成長させ るという点では、狙いはよく似ていて、長期的か中期的か短期的かという点は違うかも しれませんが、ともかく、成長させる、あるいは再生させるというところに大きな重点 があると、事業とのかかわりを抜きには考えられないですよね。そういう場合に、その 中の非常に重要な要素が労働関係である。したがって、潜在的に持っている力をどのよ うに発揮させるかという形で関与してくるわけです。そういうときに、今までの判例で もしばしば出ていますが、具体的な労働条件について現実的な支配力を具体的に行使す れば使用者とみなされる。しかし、それ以前の段階で方針なり目標なりを提示して、あ とは具体的な事業のプロに任せる、専門家を連れてきて任せる、それは被買収企業の問 題になりますよね。このヒアリングを聞いているだけでは、従来の使用者性の判断の枠 組みで捉えきれないような新たな現象が出てきているという感じはあまりしなかったの です。 ○神作先生  全く素人なのですが、純粋持株会社と少し違うと思うのは、先ほど申し上げたことと 重なるのですが、ファンドの後ろに本当の出資者がいて、それがファンドに対して指示 をしているときに使用者概念だとどちらが使用者になりますか。ファンド自体なのか背 後にいる真の出資者なのか。純粋持株会社の場合には、法人格を有しており、しかも自 らが子会社を通じて事業をしているからこの問題が起こらないと思うのです。ところが 、ファンドというのは、場合によっては法人格すら有しない場合がありますので、後ろ に実質的な所有者がどんどんつながっていく可能性がある。そのときにはどのような解 決がなされることになるのでしょうか。 ○西村座長  そういうブラックボックスみたいなものがあるということは我々も認識しておかなけ ればいけないということなのか。 ○毛塚先生  我々がヒアリングをした会社は、先生がおっしゃった中で言うとある程度出資者と見 られるタイプなのですか。 ○神作先生  ヒアリングをしたのは、どこからお金が出ているということが明らかなケースだと思 いますが、仕組みによっては全く背後にいる者がわからなくなる場合もあると思います し、特に今後日本でも信託が柔軟化されると、信託を使ってファンドを組成するという ことが広く行われることもあろうかと思います。 ○山川先生  出資者がいろいろあるという点で特色があるとしても、労働組合法上の使用者概念の ところまで左右することはそんなにないのではないかという感じがあります。つまり、 現実的かつ具体的な支配力という基準を前提とすれば、単なる株主権をどのように行使 するかということだけでは、いろいろな意思決定の仕方というか、方針があるとしても 、それによって使用者性が直接左右されるということは、いまの最高裁からすると難し いのではないかという気がします。あまりに短期的な収益を求めすぎるとすると具体的 な支配決定をしがちであるとか、もしかしたらそういう傾向はあるかもしれませんが、 一律にファンドだからどうだというのは、労組法上の概念としては難しいような感じが するのです。それにしても、どういう場合に使用者性が認められるかというのを、この 持株会社の際の懇談会以外にも何かあり得るかとか、逆に、判例・命令から見てこの場 合は認められないという消極的な例も含めて、より具体化するという作業はあり得るの ではないかという気はします。  もう1つ別の点ですが、先ほど神作先生がおっしゃった説明という点からすると使用 者性とは全く別の点も考えられるということで、EUでの公開買付規制では労働者の影 響を買収企業が説明しなければいけないということになっているようです。EUの特殊 性みたいなことがあると思いますし、労使関係とは少し別の話なのかもしれないのです が、インサイダー取引という問題はあまり表に出ない場合の話であって、公開買付とい うことだと情報は比較的開示しても差し支えない。あるいは、ここ1日2日辺りそうい うTOBの話が出てきていますが、例えば投資ファンドであってもそうでなくても構わ ないのですが、うちの会社では買収した後にこういう労使関係を考えているという情報 はあったほうが望ましいと言えるのではないでしょうか。労働者側として見れば、買収 しようとしている企業がどういう方針をとるかということがわかれば、使用者性という 問題とは別に、それなりに意味があるのかなという感じもするのです。 ○毛塚先生  買収した後の話はどうでしょうか。説明という話で言うと、本当に取締役が自分の判 断でできる場合もあれば、できない場合もある。その場合、どういう方針なのかは取締 役会に聞けばいいというだけで終わるのか。それとも、投資ファンドにも説明を求める ことができると考えるのか。 ○神作先生  私の理解が間違っているかもしれませんが、EU法、あるいは私が多少勉強している ドイツ法では、ファンダメンタルチェンジズと言われる、会社の基礎的変更と訳される ことが多いのですが、合併や分割、それから、支配株主が変わるというのもその一環で すが、そのようなファンダメンタルチェンジズが起こるときにはそれが労働者にいかな るインパクトを与えるのかについての予測ないし推測を述べさせるというのは、企業買 収のところだけではなくて、一般的に置かれている制度だと理解しております。 ○太田政策統括官  それは事前にそういう説明責任があるということですか。 ○神作先生  はい。ですから、普通の合併や分割をするときには当該会社の経営陣に課されますし 、支配株式を買収する場合にはそちらに課される。 ○山川先生  先ほどの毛塚先生の質問からすれば、むしろ、買収された後は取締役が現に入ってい るとすれば、その企業の内部の問題で、どういう経営方針をとっているのかを議論して いくのが本筋ではないかという気もするのですが、むしろ、そういった組織変更の場合 にはある意味では特殊な考慮が働くのではないかという感じがします。 ○荒木先生  そういう買収をするにあたって基礎的な変更が従業員に与える影響について説明させ ているのは何のためなのでしょうか。つまり、ヨーロッパは団交義務、不当労働行為制 度がありませんから、団交を拒否した場合に団体交渉をせよという命令を国が出すこと はないわけです。団体交渉はすべて力関係であって、経済的なプレッシャーをかけて団 交のテーブルにつきなさいということなのです。あるいは、だからこそ、そういう情報 ぐらいは与えなさいということなのか。情報をもらったからとして、具体的に従業員が どういうことを言う権利があるのかというと、団交を求める権利はない。従業員代表制 度がありますが、これも、特にドイツ以外の国では単に情報を得るだけのことなのです 。ドイツでも共同決定事項というのは非常に限定されておりまして、企業家の決定は尊 重する。そこに労働法の介入はないという原則を貫いておりますので、そういう情報を 与えるという規制の趣旨がどういうことなのか。もしその辺がおわかりになればという 気がするのです。 ○神作先生  そういう意味では、法的な効果に期待しているというよりも、事前に労働者に対する 影響についても配慮しなければいけないという事前抑止的なものを狙っているというこ とがあろうかと思います。もう1つは、あまりいい加減なことを書くと後で虚偽記載の 責任が出てくる可能性がある。不実表示といいますか、もちろん計算書類の不実表示な どと比べると、そもそも不実であったのかどうかというのは実際には責任を問うのが難 しいと思いますが、理論的にはあまりいい加減なことを書けばその記載自体についての 責任を問われる可能性はあると思います。 ○山川先生  私もあまりよく知らないのですが、先ほど荒木先生がおっしゃられたように、EUの 労働法はそれでなくても情報提供みたいなものを重視しているので、労働法の観点から すると、労働法の分野の問題ではないのかもしれませんが、同じような発想で、情報提 供だけでもさせるといいますか、そういう趣旨があるのではないかと推測します。 ○西村座長  3頁の「論点の整理」、「投資ファンド等の使用者性について」というところは、い まの議論も踏まえまして、持株会社との違いが明らかになればいいですよね。新しい現 象だと。だけど、従来の使用者性の判断基準の枠組みを変える必要があるのかないのか 、その点はいかがですか。毛塚先生は何か工夫をしたほうがいいという感じなのですか 。 ○毛塚先生  いや、この研究会でそこまでやれとは言いません。ある程度、従来の判断基準で対応 できることとできないことなど、課題も含めて確認ができたらいいと思うだけです。個 人的には従来の判断基準が悪いとも思っていませんが、もう少し使い勝手がいいように する必要があるとは思っています。それをここでやるというのは、研究会の任務を超え たものになるのかと思いますので、従来の不当労働行為制の枠の中で解決できる問題の 限定性とこれからの課題だけは明らかにしておけばよろしいのではないかと思います。 ○神作先生  同じことを繰り返して恐縮なのですが、持株会社の場合は法人格が確実にあるのです が、ファンドの中には法人格がないものもたくさんあると思うのです。そのように法人 格がないものについては、使用者性の判断はどのようになされることになるのでしょう か。ファンドの使用者性というときに、例えば民法上の組合あるいは信託のように、法 人格をもたないファンドの場合のとき、使用者は、だれだと判断されることになります でしょうか。 ○西村座長  そういうものはヒアリングの対象にならなかったですよね。 ○毛塚先生  それを運営している人は誰だか特定できるのですか。 ○神作先生  表に出てくる人はわかるのですが、その裏に何があるのかというのはなかなかわかり づらいですし、少なくとも信託自体とか民法上の組合には法人格がないので、そういう ものに対して、これまでの純粋持株会社と同様の議論が当てはまるのかという点に、法 律論としては少し形式的な議論かもしれませんが、やや詰めるべき点があるのではない かという気がしております。 ○山川先生  よくわからないのですが、民法上の組合でしたら業務執行権を持つ組合員が現実かつ 具体的な支配力を行使していたという場合は、現に業務執行を行っている自然人を捉え ることは可能なのでしょうか。 ○神作先生  それは可能だと思いますが、そのような考え方でいいのか。それとも、後ろにいてそ れに対して指示を与えている実質をもう少し探っていくのか。 ○山川先生  おそらく、そこまでいくと現実かつ具体的なという要件自体が満たされにくくなるよ うな感じもしますが、信託などだと受託をしている機関といいますか、そういう人だっ たら業務執行組合と同じになるかもしれませんが、その裏にあるのは信託受益者という ことになると同じような問題が生じるような気がします。話がさらに変な方向に行くの かもしれませんが、そうなると親会社が株主で法人格を持っている場合も、現実に業務 執行にあたっているのは取締役だったりするので、それとどう違うのかという問題も出 てくるわけですね。 ○神作先生  もちろん、相対的な問題とは言えると思うのですが、もし法人格があるものだけを規 律するというルールだとすると、それだったらファンドは法人格のないもので組成しま しょうという話になってしまうと思いますので、それはあまり望ましくないのではない かという気がしているわけです。 ○荒木先生  基本的に、ファンドだから難しいということはないのではないかという気がしている のです。要するに、ファンドの特性として長くて5年ぐらいのうちに企業価値を高めて 買却する。そのために具体的な労働条件に実質的に介入しがちであるという、そういう 現象を捉えることはできますが、そういう場合はあくまでもこれまでの実績、現実的か つ具体的に支配していたという要件を満たすことによって使用者性を負う場合があると いうことになる。そうでなければ、あくまで株主として経営自体は被買収会社に任せて いる。それも、経営者を連れてきたかもしれないけれども、それは連れてきた人の経営 に任せているということであれば、それ以上の責任、株主以上の責任ということにはな らないのではないか。そうしますと、ファンドであるが故に、親子会社とか持株会社と の関係ではうまく処理できない新たな問題があるかというと、私はあまりないような気 もするのです。それから、神作先生がおっしゃった、ファンドの後ろにまた別の事業者 がいるという場合も、現に実質的、具体的に労働条件を誰がコントロールしているかの 問題であり、そういういくつかのクッションがあることによっても直接的ではないとい うことになれば、それはそれでやむを得ない。何らかの影響力ということになれば、個 人の大株主だって、そういう意味では最終的にある会社を買却するかどうかということ まで捉えていけば際限がないことになりまして、現在の親子会社でも、日常的な労働条 件について具体的に関与しなければ、そこには及ばないということです。そうすると、 これまでの法理で対処できる問題ではないかと思っています。 ○毛塚先生  例えば、東急観光事件のような形では和解しましたが従来の枠組みではでどういう解 決になりますか。 ○荒木先生  あれは和解になってしまったので事実認定自体が何ともわかりませんが、要するに、 具体的な労使関係に介入していた。つまり、ファンドとして介入していたという認定が なされればそれなりの責任は生ずるのでしょう。そういう認定ができるかどうかの問題 ではないでしょうか。 ○川口参事官  1つの論点として、ファンドが送り込んでいる取締役が被買収企業の取締役であるわ けですから、被買収企業の取締役としての言動なのか、ファンドとしての言動なのかと いうところが、明確に区分けできるのかどうかという問題はいかがでしょうか。さらに 、問題となった事案では、ファンドから単に取締役を送り込んでいるだけではなくて、 ファンドの代表者自らが被買収企業の取締役になったわけです。そこで、その取締役の 言動というものがファンドと切り離して考えることができるのかどうか。そういう論点 はいかがでしょうか。 ○荒木先生  それは、まさに、その取締役の行動や意思決定自体がファンドのものと認定できるの かどうか、送り込まれた被買収企業のものと認定できるのかどうか、そこで線を引くし かないのではないでしょうか。実際、その取締役の一員として意思決定しているのでは なくて、全部持ち帰ってファンドの意思決定をそのままということになれば、そういう 認定ができれば、それはファンド自体が、現に具体的な労働条件を支配決定していたと いうことになる場合もあるのではないでしょうか。 ○神作先生  荒木先生がご指摘された視点と、もう1つ、会社法的に重要なのは、取締役が専ら監 視を役割として大所高所から社外取締役に期待されるような発言や意思決定をしている のか、業務執行そのものに深くコミットしているのか、その取締役がどういうポジショ ンで入っているのかという視点も非常に重要だと思うのです。私が出席してヒアリング を伺ったケースでは、取締役を派遣していてもほとんど社外取締役的といいますか、専 らモニタリングで大所高所から発言をする人たちが多かったかと思うのです。ただ、フ ァンドはいろいろなものがあり得るので、もっと業務そのものに口を出す取締役が現れ ないとは決して言えないのではないかと思います。 ○小林調査官  それは、会社法上、社外取締役で入って業務執行に口を出すのは制度的に変だという ことでもないのですね。 ○神作先生  もちろん変ではないのですが、自分で業務執行をやっていなければ情報がそんなにな いはずですので、具体的なことをそんなに言えないはずなのです。 ○小林調査官  その社外取締役の方が、被買収企業に社外取締役として入って、具体的に例えば人事 制度をああしますとかこうしますというふうになると、それは投資ファンドとしての意 思になるのか、被買収企業取締役としての行動になるのかという線引きには役に立つと いうことになるのでしょうか。 ○神作先生  そこはまた難しい話で、派遣された人物と派遣したファンドの間のその会社の外での 関係とか、そういうものに立ち入らないと、ファンドに指図されて行動しているのかそ うではないのかというのはわからないと思います。それは非常に難しい判断になると思 います。ただ、社外取締役という言葉を用いましたが、むしろ、業務担当取締役か業務 非担当取締役かという、そういう言葉を使ったほうが適切だったかもしれません。それ も本当にいろいろなケースが考えられて、人事担当の取締役という形で派遣しているけ れども、逆に、ファンドからは人事分野だけに詳細に口を出そうとしているだけで、ほ かの経営事項については生え抜きに任せているというケースと、人事も含めて全部を統 括して経営しようとしているケースも、論理的には考えられないわけではないので、線 引きはなかなか難しいと思います。 ○山川先生  そうしますと2つの要素を考える必要がありそうな感じなのですが、1つは、取締役 が送り込まれた先で、どのような行動をとっているか。もう1つは、これはファンドで も親会社でも同じかもしれませんが、その行動に対してどのような影響というか、ある 意味では拘束のような指示のようなことを親会社ないしファンドから受けているのか。 その2つが考慮要素みたいになるということでしょうか。場合によって、取締役として 送り込まれていても、単に取締役会に参加するだけだと、結局は決めたのは取締役会だ ということで、そこはある意味ではワンクッション入ってくるわけですよね。 ○神作先生  会社法の発想としては、取締役は自然人に限られていますので、登場してくる自然人 を、先ほどの取締役の対第三者責任と、会社法が用意している義務と責任のガバナンス 体系で、いわば、自己完結的に処理しようとしていると思われます。逆に言うと、背後 にいる者については基本的にはシャットアウトしようという考え方に立っているかと思 うのですが、ファンドの場合には、会社法に相当する規律が置かれていない場合が少な くないでしょうから、どうやって背後にいるものを捉えるかが問題となるわけです。 ○山川先生  その意味で、命令なり判例なりがあるように、兼務というだけでは難しい。おそらく、 何をやっているかというのはわりとわかりやすいかもしれませんが、親会社やファンド との関係とか指示とか拘束とか、その辺りが同一人物が出てくるとなると、先ほど荒木 先生が言われたような点で、認定が難しい面が出てくるかもしれないですね。 ○荒木先生  最初に言った3頁から4頁の徳島南海タクシー事件も親会社が役員を派遣しているわ けですね。でも、子会社の経営を支配下に置いたというだけでは足りなくて、その後が 「かつ」でつながっていて、現実かつ具体的な支配力を親会社が行使しているという認 定ができないといけないので、ファンドがいくら取締役を送り込んでいても、それから はオートマティカリーに使用者性が導かれるということにはならないのではないかと思 います。 ○毛塚先生  4頁の下の「参考」に出ている2つの要件というのは、いま荒木先生が引用された朝 日放送事件なり、従来の裁判所が言ってきたこととの文脈ではどういう関係があるので しょうか。この「純粋持株会社」の部分は、従来の朝日放送事件の枠組みとは別な枠組 みで考えるということなのですか。 ○小林調査官  これは平成11年12月に出たものですが、それ以前の判例、命令例をまとめると、とい うことなので、それは朝日の考え方に則して個々具体的にいろいろ判断するのだけれど も典型例を拾い出すとこれになるという整理で書かれているので、朝日放送事件が基本 にあることは確かです。 ○太田政策統括官  これは現実的かつ具体的な支配力を有しているというのを基準にして、そういう使用 者性が推定される可能性が高いという要件を分析したということではないかと思います 。 ○毛塚先生  しかし、これは投資ファンドには適さないような気がしますが。 ○太田政策統括官  純粋持株会社が取締役会に送り込むというケースもあるわけです。そのケースと投資 ファンドが送り込むケースと、事実認定でどっちの意思でやって動いているのか推定が 難しいというのは、同じようなケースとして考えればいいのですか。むしろ、違いはな いと。 ○山川先生  投資ファンドだから特にというよりも、投資ファンドの方針によっては労働条件に対 する関心が極めて強くて、例えば賃金を下げますと言っていたりしていると、投資ファ ンドの方針で被買収会社に対して何らかの拘束をかけている。あまり具体的な推認の根 拠事実は挙げられませんが、投資ファンドの方針あるいはやり方によってはというぐら いかと思います。 ○神作先生  また外在的な話で恐縮ですが、会社法的な観点からすると、少なくとも一定規模以上 の大きな会社では、親子会社関係について健全に子会社が運営されていることについて も親会社は留意すべきことになっておりまして、そういう意味では、会社法的に親会社 、子会社のことはきちんと見る。例えば、子会社で労働法に違反しているようなことは 、コンプライアンスがどこまで含まれてくるかはわからないところがありますが、少な くとも親会社は子会社がきっちり運営されていることに配慮しなければいけないという ことは、会社法では、ほぼ認められていると思うのです。ファンドについては、そうい う規律はいまのところないのではないでしょうか。そこは外在的には大きな違いになる かという気がしています。実態としてどのぐらい違うかわかりませんが、少なくとも規 範としては違うような気がします。それが投資家の無責任と、事業をやっている以上出 てくる責任との違いなのではないかという感じがしております。 ○川口参事官  先ほど神作先生がおっしゃったのはファンドというのは実態がいろいろで法人格がな いものもあるというお話だったのですが、そうしますと、親会社あるいは純粋持株会社 の場合は実態がはっきりしていますので、そこの意思を何らかの形で推認することはで きると思うのです。ファンドの場合は、そこが実態がはっきりしない場合はファンドの 意思というのは一体何なのかというのはなかなか難しいなと、お話を聞いていて思いま した。そこも1つの違いなのかなという感じがします。 ○太田政策統括官  別の論点で、先ほど議論があった点ですが、投資ファンドの買収があるとすると労働 者が非常に不安になる、そういう意味では事前に説明するなり情報提供をしておくこと が適当である、という考え方があるとして、その場合に、5頁に書いてある買収前の情 報提供とインサイダー取引の問題がありますね。その関係はどのように整理すればよろ しいでしょうか。先ほどお話があった例えばEUとかドイツとか、その辺はどうですか 。 ○神作先生  おそらく、適用除外にしていると思います。法律の規定に基づき情報提供をしている わけですから、インサイダーの規定の適用を除外するという形にしていると思います。 ○太田政策統括官  インサイダー取引にならない範囲でという形ですか。ただ、買収をしますよというこ とを発表すると必ず株価などに影響がありますね。そうすると、インサイダー取引にな らない範囲での情報提供というのは実際に可能なのかという感じもするのです。 ○荒木先生  インサイダー取引の規制をかけないということなのか、情報開示がインサイダー取引 にならない範囲でやれというのか。どっちですか。 ○神作先生  多分、インサイダー取引にはかからないということではないか。法律上要求されてい る開示ですので、そちらのほうを優先しないとおかしいのではないかと思います。 ○太田政策統括官  むしろ、ある意味でのステイクホルダーとしての労働者に対する情報提供のほうが優 先するということですか。 ○神作先生  確認してみますが、おそらく、そうでないとワークしないのではないかと思うのです 。 ○太田政策統括官  そうですよね。 ○山川先生  神作先生へのご質問ですが、公開買付規制、いわゆるTOBの場合はインサイダー取 引とはどういう関係になるのでしょうか。公開買付の場合は、むしろ、情報は開示する ことを前提にしているわけですね。そうでない例えば営業譲渡とか、公開ではない買収 はいろいろな形があると思いますが、それはインサイダー取引という観点からは違って くるのでしょうか。 ○神作先生  少なくとも、公開買付をしようという事実は、株価に非常に重大な影響を与えるので 、それ自体、インサイダー情報なのです。 ○山川先生  買付する意思を公表する前は、インサイダー取引の問題になるということですね。 ○神作先生  はい。 ○太田政策統括官  EUなどは指令なり法律でそういう形のものがありますね。日本の場合は、例えば買 収前に情報提供あるいは説明をしたほうが望ましいですよと言った場合に、法律上の話 ではないとすると、インサイダー取引の関係がEUと違うのかなという感じもするので す。 ○神作先生  おそらく、その説明義務というものが法律に基づいて出てきたものだとすると、イン サイダー規制はかからないという解釈が十分出てくると思うのですが、そうではなくて 、全く任意にやっている、あるいは合意に基づいてやっているという話だとインサイダ ー取引規制との抵触は免れないと思います。その説明義務の根拠が何かということを詰 めていく必要があると思います。 ○太田政策統括官  そういうことですか。 ○神作先生  使用者性から導くと、それは単なる契約に基づいて出てきているにすぎないので法律 上の義務と言えるのかどうか、少し議論があるかもしれません。 ○山川先生  時期的な観点で、株式を買い付けますという意思表示の時点であれば、ある意味では 問題がなくなるということでしょうか。 ○神作先生  それを公表していれば問題ないのではないでしょうか。 ○太田政策統括官  買収前であっても、その情報がオープンになっていればいいという整理もできるわけ ですね。 ○神作先生  はい。 ○太田政策統括官  いま、情報提供なり説明ということで、この5頁の良好な労使関係を構築するという ことをご示唆いただいたのですが、ほかに、幅広に何かこういうことをすれば円滑にい くという論点はありますか。 ○荒木先生  新しいことではなくて現行法でもそうだと思うのですが、被買収企業がファンドに買 収されることになると、おそらく、事業再生とかいうときには新しい経営陣に刷新され ることがある。その新しい経営陣がどういう雇用管理をしようとしているのかというこ とについては、組合は当然に団体交渉を申し入れて、自分たちの将来の労働条件につい て説明しろと言うことはあり得ることであって、それは現行の枠組みの中で、つまりこ れはファンドの問題ではなくて、経営陣が替わったような場合の労働条件の問題ですか ら、そういうことについては組合は完全な団体交渉権を持っていて、経営側は誠実に応 じなければいけないということは明らかですので、そういうことは当然なのですが、確 認しておく必要はあると思うのです。  逆に、例えば事業再生使用の場合に、我々もここでいろいろヒアリングをやりました が、相当危なくなっている企業を資金を注ぎ込んで再生しようというところに、これは 営業譲渡などのときも同じですが、いろいろなファンドがそういうアクションを起こす ことに過剰な規制をかけると、再生すれば良い企業になるところへ、どこにもファンド が手を出さない。そういう副作用もありますので、そこら辺は両方を考えながら議論す る必要があると思っています。 ○西村座長  いま、いちばん最後の資料を見ていたのですが、ケース2の最後の「買収後の経営方 針の説明」の所で、買収前に投資ファンド等、被買収企業及び労働組合の三者で会談を したと。買収前というのはどのぐらい前だったのですか。 ○金谷参事官補佐  実際に買収される2週間程度前だったと記憶しております。 ○西村座長  これが5頁の最後の所に出てくるのですね。 ○太田政策統括官  そうです。意見交換でということです。 ○西村座長   ただ、本文では時期は買収前となって、その時期のことは書いてない。2週間前に神 作先生のそういう問題は出てくる可能性はあるのですか。 ○神作先生  理論的には風説の流布等の不公正取引になる可能性はあり得るので、それを用いて売 買を実際にしたりすると問題になり得るケースもあると思います。 ○西村座長  だから、微妙な問題なのですね。 ○太田政策統括官 そういう意味では、ケース1は買収を公表した段階でやっているということで、これは 事前でしょうね。公表して、買収する前という。 ○西村座長  公表の後だからいいのですね。 ○金谷参事官補佐 ケース1については買収を公表した次の日にやっていたと記憶しております。ケース2 は買収することを公表して、実際に買収される前であったと記憶しております。 ○太田政策統括官  そういう意味では、ケース1とケース2では時点が同じなわけですか。買収を公表し た後だけれども買収をする前という時点で。 ○西村座長  これだけ読むと、何か、全然違ったイメージにとれる。 ○太田政策統括官 その辺は整理します。そういう意味では、ケース4も買収の前日ですから、おそらく公 表の後だと思います。 ○西村座長  我々がヒアリングした中でインサイダーが問題になるようなケースはなかったですよ ね。だから、買収前というのは、要するに公表後なのですね。 ○金谷参事官補佐  そういうことです。 ○太田政策統括官  ケース3も含めて、いまの考え方で全体を整理します。 ○川口参事官  5頁の論点ペーパーも買収前かどうかということで論点に書いてしまっていますが、 買収前後というよりも公表前後が問題ということでよろしいのでしょうか。公表前とい うことはあり得ないということですね。 ○太田政策統括官  むしろ、公表の後だけれども買収の前にやることに意味があるということでしょうか ね。労働者なりの不安を押さえるためにはきちんと説明をする。ですから、ある意味で は、公表したら直ちに説明するのが望ましいということなのでしょうか。 ○西村座長  ここら辺は少し整理をしておいていただきたいと思います。 ○山川先生  この後者の良好な労使関係という点から言うと、使用者性の判断は法的な問題なので すが、こちらは自主的な労使関係の問題であるとすると、ケースがまだ少ないので難し いのかもしれませんが、最近、いろいろな分野でベストプラクティスという話が出てき まして、そういうことが整理できる段階かどうか難しいかもしれませんが、「こういう ようにやってうまくいっている場合がありますよ」とか、積極的な方向に誘導すること が望ましいのであれば、そのようなベストプラクティス的な発想が盛り込めるかどうか 検討してもいいのではないかという感じがあります。 ○西村座長  神作先生がおっしゃった法人格がないファンドについて、どのようにここで取り上げ ていきますかね。ファンドの実態調査などがあるわけではないでしょうから、法人格の ないファンドのほうが圧倒的に多いのですか。 ○神作先生  実態がよくわからないのですが、そもそも、全世界のヘッジ・ファンドの95%は、オ フショアで組成されるていると言われていますので、日本法上の法形態でないことすら 多い。そうすると、非常に難しい問題がまた出てくるかと思います。でも、実態は日本 の誰かがお金を出していると。 ○西村座長  だから、報告書に何らか書く場合でもファンドの実態について我々が全部わかってい るつもりで書くことはできないのでしょうね。そういうことを踏まえた上での話ですね 。 ○川口参事官  例えば4頁のいちばん最後の参考で、純粋持株会社で使用者性が推定される可能性が 高い例と書きましたが、この純粋持株会社を単純にファンドと書き替えるのはなかなか 難しいのではないか。ファンドの同意というのはどういう意味になるのかということを 、少し慎重に考えなければいけないのではないかと感じました。 ○毛塚先生  おっしゃったような意味で具体的、現実的に支配していると思われるようなものが類 型化できればいいのでしょうけれども、そこはなかなか難しい。 ○太田政策統括官   投資ファンドの場合は、法人格もない、実際に現実かつ具体的に誰がファンドの資金 を動かしているかがわからないケースも多いのですか。 ○神作先生  多いわけです。 ○毛塚先生  事業再生ファンドは比較的明確ですよね。 ○神作先生  そうですね。 ○毛塚先生  とりあえずは事業再生ファンドに限定をしたら。 ○太田政策統括官  我々はそういうものをつかまえてヒアリングできませんので。どうしても事業再生フ ァンドみたいなものをヒアリングしたいのですが。 ○神作先生  新聞報道によりますと、投資サービス法でファンドもある程度規制しなければいけな いということで、少なくとも届出義務は課される方向で議論されているようです。実態 の把握も、すこしづつ可能にになってくるかもしれません。ただ、現状では非常に不透 明な部分が多いと思います。 ○太田政策統括官  そうすると、そういう問題があるということを指摘しつつ、こういう整理をしたとい う形で。 ○西村座長  そう思います。いま神作先生がおっしゃったようなことも含めまして、そういうこと を全く視野に入れていないということになると、問題がありますね。我々はファンドの 実態を全面的につかんでいるわけではないということは、残念ながら認めなければいけ ないですね。それで、意思決定というのは、どのようにされるのですか。何か、決めな いと、お金だけ集めても仕方がないと思うけれども、それはどうなのですか。 ○神作先生  これも本当に背後が見えなくて。 ○西村座長  見えないけれども、どこかでやっていることは間違いないですね。 ○神作先生  それこそ、議決権を行使する者として誰かが出てくるのですが、その背後に誰が指示 を与えて決定をしているかというのは、非常に不透明になるケースがあるということだ と思います。その点、会社形態のファンドは、明確性という点では優れていると思うの です。 ○太田政策統括官   ただ、実態とすると、こういう労働条件などに現実かつ具体的な支配力を及ぼす可能 性のあるものは事業再生ファンドで、そういう実態のはっきりしない投資ファンドは、 ある意味では株主とほとんど変わらないという理解でいいのですか。 ○神作先生  そうだと思います。 ○西村座長  それだから、今まで使用者性云々という議論に株主が登場したことがないのと同じよ うに、そういうファンドは使用者性が認められないと言っていいのかどうか。 ○神作先生  抽象的に申し上げると、ファンドの最大のメリットの1つは匿名性にあると言われて いますので、そのファンドの匿名性と使用者性をどう折合いをつけるか。 ○太田政策統括官  だから、一般的にはそういう匿名性のある人間が、労働条件がこうだとかいうことは 可能性が少ないと思いますが、その辺をどう整理してどう表現するかということでしょ うかね。こういう問題は残ると言いつつ、こういうように考えられるという形の整理が できるかどうかですが、そこは工夫をしてみてご相談させていただきます。 ○西村座長   工夫をしていただきたいと思います。株主に非常に近い存在であるファンドもあると いうことですね。そういうものが具体的にこの労働条件の決定について、現実的かつ具 体的な支配力を及ぼすことはあり得ないというか、極めて難しいと思います。毛塚先生 、どうですか。 ○毛塚先生  実態がわからないけれども、そういう具体的な細かいことにはあまり関心がないので はないでしょうか。神作先生がおっしゃるように、継続性がある程度出て事業性を推定 される背景にあるのでしょうから。 ○西村座長  日常的に業務を見ていてはじめてできることがありますから、それがないのに単に支 配力ということはあり得ないですね。 ○神作先生  大部分は投資家としてのファンドだと思うのですが、そう言い切れないところがある のが難しいところで、逆に、そう言い切ってしまうと、純粋持株会社が自分の持ってい る株を全部ファンドに出して、ファンドを通じていろいろなことをやろうということも 理論的には可能ですので、是非、そこは非常に慎重にお願いします。 ○太田政策統括官  書くときには慎重に、よく相談させていただきます。 ○西村座長  ただ、いまの話で、非常に匿名性が高いファンドで、存在自体がはっきりつかめなく て、行動は株主に非常に近いというのが現実的だというのは確かにそうかもしれないで す。 ○毛塚先生  役員を派遣するという形で、コミットしているのが我々のヒアリング対象で共通して いた部分なので、そういう事業再生ファンドを対象にして当面は議論をしたということ でしょう。 ○西村座長   今日はこれぐらいにしておきましょうか。こういうことを踏まえて、次は報告書の素 案みたいな形で出てくるということでしょうか。あと2回ぐらいはあるのですか。 ○太田政策統括官  一応、骨子案的なものをお示ししてご議論いただきます。ただ、まだこういう論点も あるのではないかということがあれば、もう少し幅広にご議論いただくということにさ せていただきたいと思います。 ○西村座長  それでは、今日の研究会はこれで終わらせていただきます。次回の第9回の研究会に ついて事務局からお願いします。 ○金谷参事官補佐  次回第9回につきましては現在日程調整中ですが、2月下旬から3月中旬を目途に開 催したいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。具体的な日時及び場所に つきましてはまた後日ご連絡させていただきます。 ○西村座長   ありがとうございました。                 照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第四係 山本                TEL 03(5253)1111(内線7748)03(3502)6734(直通)