05/12/21 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会 第2回議事録       石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会(第2回) 1 開催日時及び場所  開催日時:平成17年12月21日(水) 午後3時30分から午後5時30分まで  開催場所:三田共用会議所講堂 2 出席者  医学専門家:審良正則、井内康輝、岸本卓巳、        神山宣彦、三浦溥太郎、森永謙二  厚生労働省:森山寛、明治俊平、只野祐、天野敬他  環 境 省:滝澤秀次郎、俵木登美子、天本健司他 3 議事内容 ○職業病認定対策室長補佐(天野)  ただいまから、第2回「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」を開 催させていただきます。本日ご参集いただきました委員の皆様方におかれましては、大 変お忙しい中お集まりいただき、感謝を申し上げます。当検討会は、原則として公開と しておりますが、傍聴される方におかれましては別途配付してあります留意事項をよく お読みの上、会議の間はこれらの事項を守って傍聴いただくよう、よろしくお願い申し 上げます。それでは、森永座長お願いします。 ○森永座長   まず、事務局から今日の配付資料の確認をお願いします。 ○職業病認定対策室長補佐   それでは配付資料の確認をさせていただきます。議事次第の項目の4に、提出資料と してNo.1からNo.12まで掲げてあります。No.1は、前回第1回検討会でも提出いたしまし たが、本検討会での検討事項の項目を掲げたものです。No.2は、前回第1回検討会での 議論を取りまとめたものです。No.3からNo.12については、国内あるいは海外の文献をま とめたものです。各委員の皆様方、ご確認をいただきたいと思います。 ○森永座長   委員の先生方、揃っていますか。よろしいですか。前回の検討会でまとめたことを確 認するという作業をお約束しましたが、その点について事務局のほうからお願いします。 ○保健業務室長(俵木)   資料No.2に従って、前回第1回検討会のご議論の概要について報告させていただきま す。1つ目として、前回は中皮腫について中心的にご議論いただきましたので、中皮腫 と石綿との関連性、石綿以外の原因についてのご議論ですが、最終的には、中皮腫の大 多数は石綿由来であり、一方、石綿によらないことを医学的所見から明らかにすること は困難であるとの結論であったと理解しております。ご議論の中ですが、これは本日資 料No.9として配付されておりますが、ヘルシンキで1997年に開催された国際会議での Consensus reportの中で、グレートマジョリティ(大多数)の中皮腫が石綿ばく露によ るものであるということで、中皮腫患者のおよそ80%は何らかの職業上のアスベストば く露があって、そのほかは誤診、または環境経由によるものということが報告されてい るということで、ご紹介がありました。  三浦先生から横須賀共済病院での臨床経験のご報告があり、中皮腫患者の少なくとも 90%以上は石綿によるものと考えていいのではないかというのが経験例ということでし た。また、岸本先生から40年〜50年前の石綿ばく露歴をきちんと聞くのは非常に難し いということで、本当は石綿ばく露職業歴があるのに十分聞き取れていないのが実態で はないかというご発言がありました。石綿以外の原因については、戦時中まで使用され ていたトロトラスト、放射線、人工気胸術やウィルムス腫瘍の治療、遺伝によるものな どが報告されているということですが、これらを原因とするものである、または石綿に よるものではないということを医学的に明らかにすることは、特別な場合を除いては困 難であるというご報告をいただきました。かつてポリオワクチンの中にSV40というウイ ルスが混入していたことがあって、欧州における中皮腫の増加はそれが原因ではないか と言われたこともあったということですが、現在はSV40ウイルス説については否定的と いうことです。  2つ目の議題の確定診断の方法についてです。中皮腫は診断が難しい疾患であり、確 定診断を適切に実施すべきであるということと、その確定診断に当たっては、原則とし て病理組織学的検査を行うことが必要であるという結論であったと理解しております。 細胞診や画像だけで、簡単に中皮腫と診断している例が散見されるということですが、 がん助成研究(森永班)で127例の中皮腫診断例について、詳しく調べ直したところ、 そのうちの11例は中皮腫ではなく、その11例のうち4例は胸膜炎であったことが判明 したというご報告があり、診断は正確に行う必要があるということでした。その確定診 断に当たっては、原則的には病理組織の診断が必要ということで、病理組織を採取して 調べることが望まれる。CTや超音波ガイド下の生検、または胸腔鏡下の手術によって 生検を実施することになりますが、患者の病態によっては病理組織の採取が実施できな い場合もあるかもしれないということがありました。  細胞診についていろいろご議論があって、上皮型については単なるパパニコロウ染色 による細胞診ではなくて、経験ある医師による免疫組織化学染色や電子顕微鏡による観 察を行えば、細胞診だとしても中皮腫の診断をかなりの確率で行うことができるだろう ということでしたが、上皮型以外のタイプの中皮腫については、細胞診だけでは診断が 難しいのではないかということでした。  我が国の病理診断の結果についての検討の報告があり、上皮型と診断されたものは 47.3%という報告があったものを研究班で再検討した結果、それが62%であることが判 明したとのご報告がありました。日本の病理医の傾向としては、二相型と診断を付けが ちであり、病理診断の精度を向上させるために、医師の教育・研修が必要である。また、 今後、病理診断困難例については、病理による病理パネル(症例検討会)の全国的な実 施が望まれるというご発言がありました。  また、胸膜中皮腫以外の心膜、腹膜、精巣鞘膜などの稀な部位の中皮腫については、 どちらかというと、欧米に比べて我が国に報告が多いということで、中皮腫以外のもの が混ざってきている可能性があるのではないかというご指摘があり、特にこれらの稀な 部位の中皮腫については確定診断をきちんとするべきであるということです。中皮腫の 診断の指針についてですが、厚労省のがん助成研究(森永班)で研究が行われており、 近く案がまとめられるというお話がありました。  3つ目として石綿ばく露の特徴的な医学的所見との関係ということで、石綿ばく露の ある中皮腫では、おそらくほぼ全例に胸膜プラークができていると考えられて、これが 特徴的な医学的所見といえるだろうということではありますが、画像では必ずしも確認 することができないということです。胸膜プラークについては、ばく露してから15年か ら30年と、かなり長い期間を経て出現してくるということで、若年齢で気胸を起こした 25歳の方に、胸腔鏡をしたところ画像では見つからないような小さなプラークが確かに 見つかったという事例があるということもご報告いただきました。したがって、潜伏期 間の長い中皮腫であれば、ほぼ全例に胸膜プラークがあると考えられますが、HRCT という診断精度の高いCTを用いても80%しか捉えられないのが実態で、剖検でないと 確認できない例もあるということでした。  4つ目の潜伏期間ですが、我が国の労災例では、潜伏期間は平均で約40年、最短で 11年6カ月ということがご報告されました。一般的にばく露濃度が高いほど潜伏期間は 短いといえるだろうということでした。17歳の中皮腫例の報告があるということをご報 告されて、また資料において人口動態統計でも10代の例が認められていることが報告さ れましたが、潜伏期間を考慮すると、30歳以下の中皮腫症例については特に確定診断を きちんと行うことのほか、胸膜プラークや石綿小体を確認する、または石綿ばく露可能 性の検討など、慎重に評価するべきであるというご意見をいただきました。  5つ目の予後についてですが、中皮腫は非常に予後の悪い病気であるということです。 中皮腫の2年生存率は30%、平均余命の中央値が15カ月、平均値が21カ月というご報 告をいただきました。手術をしても、おそらく同じぐらいの成績にすぎないだろうとい うことです。ただ、上皮型でI期(早期)のような例については、手術でうまく摘出で きれば予後は比較的良いということがご報告されました。上皮型の予後としては12カ月、 肉腫型は6カ月であると言われているとご報告いただきました。抗がん剤については著 効する例は少なく、その延命効果は小さいということでした。  最後にその他ですが、将来の治療または予防に役立てるために、患者の職業歴やばく 露歴などの情報を蓄積していくようなシステムが必要であるというご意見をいただきま した。 ○森永座長   前回の検討会の概要は、一応、委員の先生方には事前にお送りしていますので特に議 論はないかと思いますが、このことに関連して井内委員のほうから資料が出されていま すので、簡単に説明をお願いします。 ○井内委員   資料No.3は本当に出たばかりの病理のテキストですが、まとめた中心の人は、資料の いちばん上に書いてあるFrancoise Galateau-Salleというフランスの病理医です。この 『Pathology of Malignant Mesothelioma(悪性中皮腫の病理)』は、1冊の本を作ろう ということで、数年をかけて多くの議論をしてきたものです。その中に私の名前も入っ ていると思いますが、International Mesothelioma PanelというのはWHOのブルーブ ックで世界的に診断を統一しようという会議を行ったときにこういうパネルを作りまし た。ちなみに、Brambillaはフランス、Cagleはアメリカ、Churgはカナダ、Colby、Gibbs はアメリカ、Hammarもアメリカ、Hasletonはイギリス、Hendersonはオーストラリア、 私、Praet、Roggliはアメリカ、Travisもアメリカというように、世界で中皮腫の診断 に携わってきた人たちがみんなで集まって、病理についてまとめたものです。  1枚めくって、第1章がEpidemiologyということになっております。そこにさまざま なデータが書いてありますが、3頁にAsbestos Exposure and Mesotheliomaという標題 があり、そこの文章の1行目に「In national registries, about 90% of male mesothelioma patients have a history of asbestos exposure」と書いてあります。日 本ではありませんが、フランスを中心にして、フランス・ドイツ辺りでは国レベルのレ ジストレーション(登録)が行われており、それで見ると90%の男性患者はアスベスト ばく露歴がある。それは特に胸膜中皮腫についてである。腹膜中皮腫では、少しそのパ ーセンテージが低くなって約6割ということです。前回、我々が議論した内容は、まさ にこれと合致するもので、我々のいま持っている情報というのは世界レベルでコンファ ーム(確認)されるものであるといってよいと思います。  あとは女性のことが書いてありますが、アスベスト関連の中皮腫は女性では少し少な い。国によって少しばらつきがあるということが書いてあります。それから、 non-occupationalなexposure、いわゆる職業ばく露以外の中皮腫例は女性では少し大き な割合を占めてくるということが指摘されております。  その頁のいちばん下の段落ですが、中皮腫の頻度、あるいはリスクというのは、 「dose-response relation to cumulative asbestos exposure」ということで、やはり 量・反応関係というのがあるので、アスベストのばく露の蓄積が非常に重要だというこ との指摘もあります。  5頁に「Other Factors」ということで、中皮腫の発生の原因としては他に何が考えら れるかということでまとめております。いちばん最後の段落の所にイタリックで書いて ありますが、例えば放射線はどうか、ラジオアクティブなトリチューム・ダイオキサイ ト、いわゆるトロトラストはどうかということが書いてあります。結論的には放射線に よる中皮腫はあまり多くないという書き方がしてあると思います。  次の頁ですが、SV40ウイルスのことが書いてあります。前回もお話に出ましたが、ヒ トの中皮腫の60%ぐらいにはSV40のDNAが認められます。あるいは胸腔の中にウイ ルスを直接的に投与するという動物実験をやると中皮腫が発生するということで、SV40 の関与が随分疑われたわけですが、最後の文章に書いてあるように、可能性はゼロでは ないけれども、関連性は低いであろうというのが最近の結論かと思います。  次に「Familial Factors」と書いてあり、前回、問題になった遺伝的な要因というこ とについて言及があります。2行目にあるように、「which has suggested a genetic susceptibility to the tumor」ということで、腫瘍を起こしやすい状況をつくるという 意味でのジェネティック(遺伝的)なファクター(要因)というのは可能性としてはあ ると考えられますが、4行目のように、アスベストに関連している中皮腫とアスベスト と関連しない中皮腫との間で別々の遺伝的な背景、あるいは遺伝子上の異常、または分 子・生物学的な違いがあるかということについては、まだ不明です。そういう意味で、 遺伝的な要因についても、これからの研究の大きなテーマになるだろうというところに とどまっています。  まとめると、前回、議論しました中皮腫の原因等については、いま世界的に認知され ている、あるいは理解をされている内容とほぼ合致するということを、つい先ほど出た この本で確認ができるということですので、ご報告申し上げました。 ○森永座長   資料No.3について、何かご質問はありますか。ないようでしたら、今日の検討の議題 にある肺がんについて、これから議論を進めたいと思います。実は平成15年度の労災認 定基準の改定の際に行った検討会では肺がんについて突っ込んだ議論はしておりません。 今回、特に全文献を調べるという時間的な余裕もありませんでしたので、とりあえず国 際的なレベルでまとまっている意見を調べて、今回はそれを基に議論を進めたいと思い ます。今日は資料No.4、資料No.5、資料No.9以降がそれになるかと思いますが、この文 献について、これを参考にしながら議論をしていきたいと思います。  初めに石綿のばく露があると肺がんのリスクが高くなるかどうか、こういったことに ついては既にいろいろな所で議論されております。資料No.4は、平成12年に日本産業衛 生学会の「許容濃度等に関する委員会」で、石綿について取りまとめたときのレポート です。このレポートでは、肺がんのリスクは直線的に増加するというモデルを使ってい るわけです。その記載は資料No.4の181頁の表2に肺がんのモデルとして式(1)とい うものがあるわけです。詳しくお話すると、f×dとありますが、このf×dのfが職 場大気中の石綿濃度、dがばく露年数です。したがって、ばく露年数とそのときのばく 露濃度の掛け算に比例するという形のモデルが一般的に理解されている、というコンセ ンサスが既に国際的に認められているということで、このモデルを使っているというこ とです。  これをもう少しシンプルに書いたものが資料No.11の3頁ですが、こちらにはRR=1 +K×Eということでまとめられております。今日のお手元の資料(「石綿による健康障 害に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和53年9月))にもあり、これは昭和53 年にまとめたものですが、アスベストと肺がんのことについて、113頁から当時に出版 された疫学調査についてまとめられております。128頁に当時の主な疫学調査の一覧が あります。そこで見ると、例えば表6のいちばん上のBraunらの報告では、肺がんでは ありますが、ここでは呼吸器がんになっていますが、呼吸器がんの相対危険は1.5倍で ある。次の方Dunnのは3.6倍、Enterlineになると1.3倍や1.2倍と報告しています。 したがって、低いのは1.2倍、高いのになると9.2倍となっており、疫学調査の集団全 体について言うと、非常に低いものから、中には高いものもあれば、非常にばらつきが あるというような結果が出ております。このことについては、各委員の先生方は特にも う議論する必要はないということでよろしいですね。  次にタバコの問題が1つあると思います。資料No.5は、IPSC、WHOなどが取り まとめたレポートで、37頁の疫学調査が有名などこにでも引用されている論文ですが、 HammondやSelikoffらのグループの調査です。このデータでは、タバコは肺がんの発症 に相乗作用を示しているという結果です。36頁の所に要約が書いてありますが、相加的 なモデルに合致するデータもあれば、相乗作用を示すデータもあるということです。「The weight of evidence」でいくと、どちらかというと相乗作用のモデルを支持する結果で ある、ということが書いてあります。同時に、肺がんにおけるアスベストは、どちらか というとプロモーターの役割をしているのだということが書いてあります。ですから、 タバコとアスベストは、大体どちらかといえば相乗的に作用するという意見を支持する 専門家のほうが多い、という結論でいいと思います。これがWHO、IPSCの報告書 の要約です。  タバコの問題もあるわけですが、先ほどのアスベストのばく露量が多ければ、当然肺 がんのリスクも高くなるということで、石綿による肺がんの場合、いったいどの程度の ばく露をもって、あるいはどの程度のリスクの大きさをもって補償の対象にすればいい のかという議論が当然出てくると思います。そちらに関する資料は事務局でも用意して いただいていまして、資料No.6、資料No.7、資料No.8ですか、これは事務局のほうから 説明していただけますか。 ○職業病認定対策室長(只野)  よくまとまっているのが資料No.7ですが、248頁の(2)で、「数学や論理学ではいか なる疑いも超えた証拠が求められ、通常の科学的知見や刑事裁判では“妥当性のある最 もな疑いを超えた”証拠が用いられており、また通常の民事裁判では“証拠の優位性” の有無で判断されることが多い。この証拠の優位性は、“あったということが、なかった ということよりも、よりありそうである”とか、“50.1%以上の確率”とか、“確率のバ ランス”と呼ばれ、証拠から判断して少しでも真実に近いほうを採用しようというもの である。疫学的には寄与リスク率(=相対リスク−1/相対リスク)が50%以上、すな わち相対リスクが2以上の場合、採用しようということになる。ただし、我が国の公害 関係の司法の判断基準は、法的因果関係という名の下に、“高度の蓋然性”という言葉を 用い、裁判官の心証により判断が行われており、その心証度は定量化できないが80%以 上とされ、すなわち相対リスクとは5以上ということになる」ということが書かれてお ります。  下から2行目はシリカの検討を行った際の議論で、「シリカないしじん肺症と肺がんと の関連性を判断する目的が補償や認定であれば、(1)に該当するものとなり、より強い証 拠が求められることは当然であるが、“妥当でもっともな疑いを超えて”か、“50.1%以 上の確率”とするかは行政の判断による」ということで、アメリカの民事裁判などでは 50.1%の理論は定着しており、そういう形で補償などの議論もされているということで す。  同じことが資料No.6のIIAC、これはイギリスの補償制度の関係ですが、6頁の11 の段落の所に書かれております。「In practical terms」以降の部分に、2倍だというこ とが書かれております。これについては、日本語訳がついていますので、ご参照くださ い。  資料No.8は浜島論文で、最初の頁の左側で“Preponderance of evidence”ということ で書いており、なぜそうするか、「その理由は」ということで、「真の寄与危険度割合が 50%以下の場合には、その要因のばく露を受けた後に発生した健康障害者から1名を無 作為抽出すれば、その者の健康障害の原因は当該要因である可能性よりも、当該要因以 外の要因である可能性のほうが大きいからである」というような説明をされております。 ○森永座長   アメリカとイギリスの考え方が資料No.6と資料No.7、資料No.8で示されたわけですが、 肺がんのリスクが2倍という目安といいますか、1つの考え方があるというご紹介だっ たと思います。具体的な議論をするに当たって、今日は肺がんが2倍のリスクというの はいったいどういうことなのかということをベースにして、議論を進めていきたいと思 いますが、それでよろしいでしょうか。一応、肺がんのリスクが2倍となる考え方が書 いてあるのはどこか、事務局のほうで紹介していただけますか。 ○職業病認定対策室長   先ほどのConsensus reportで、資料No.9の314頁の3行目、「With the use of the upper boundary of this range, a cumulative exposure of 25 fiber-years is estimated to increase the risk of lung cancer 2-fold」、ここの部分が25 fiber・年の記述となっ ています。 ○森永座長   ほかにも、資料No.9のConsensus reportにも載っていますね。 ○職業病認定対策室長   載っています。他にも、資料No.10の11頁の第2段落の中ごろに、これはドイツの研 究の中で出てきますが、「this documentation is used to assess the cumulative lifetime exposure of patient when occupational disease can be suspected. A dosis exceeding 25 fibre-years/cm^3 has been estimated to cause two-fold risk of lung cancer」 と載っています。 ○森永座長   他の国の補償の認定というのはどのようになっているのか、ここに書いてありました ね。 ○職業病認定対策室長   これは例えば資料No.10の10頁のいちばん最後の段落に、「フランスでは」ということ で、「a work duration of 10 years in the manufacture of asbestos products, insulation work, asbestos removal, construction and shipbuilding industry have been considered」という部分がフランスの部分ですし、そのあとのフィンランドで「The Finnish compensation criteria」ということで、これは職業のばく露期間ということで、 「at least one year of heavy exposure」と、吹き付け作業や断熱作業の話ですが、あ るいは「at least 10 years of moderate exposure」ということで、建設作業が挙げら れています。  ほかの国の基準とすれば、資料No.11の6頁に1、2、3、4、5という認定基準があ るということで、ベルギーは1が石綿肺かびまん性胸膜肥厚、あるいは25fiber・年以 上のばく露、Asbestos Body(石綿小体)とBALのことも書いてありますし、4は10年 以上の石綿ばく露作業、5に潜伏期間の話が書いてあります。今日の資料で書かれてい るのは以上のところだと思います。 ○森永座長   現在の肺がんの労災認定基準は、石綿肺があるか、石綿肺がない場合は、アスベスト のばく露期間が10年以上と胸膜プラークがあるか、石綿小体があるか、石綿繊維がある か、こういう条件できているわけです。まず、このことについて委員の先生方からそれ ぞれご意見を伺いたいと思います。いままでのところは特に石綿小体の濃度等について は特にガイドライン的な数値は示されていないのですが、神山委員はいかがですか。 ○神山委員   私の研究的な経験にすぎないのですが、繊維が残された肺組織の中を電子顕微鏡で検 索するというのが、経験的にはいちばん正確にできるだろうと思っております。いかん せん電子顕微鏡できちんと定量的にアスベストを計数するというのがかなり専門的にな っており、日本のどこででもできることでもないということで、途中からちょっとした 病院、あるいは検査機関のような所で、光学顕微鏡を使って肺組織の中に残されている ばく露量を、ある程度正確に表しているものはAsbestos Body(石綿小体)であろうと、 世界的な潮流もそういうことなのです。  そういう見方で、日本の数多い症例、中皮腫、肺がんを扱って、特にいま問題になっ ている肺がんに関しては、我が国の例を200数十例経験して、平均3.5%ぐらいが乾燥 肺1g当たり5,000本以上のファイバーを持っている、というのが結果として出ており ます。それは一部は、お手元に配布してある『職業性石綿ばく露と石綿関連疾患』(三信 図書)の中にも紹介しております。その場合、5,000本以上が明らかに職業ばく露を受 けているということで、この当時はある程度労災認定に使えるのではないかという提案 をしたわけです。数多い肺がんの中で、石綿に由来する石綿肺がんを識別するのにはど ういう指標があるかというのは、いま事務局のほうからご紹介いただいたように、各国 でいろいろ取りかかっているわけです。  その1例として、ベルギーの例で同じく5,000本以上であればアスベスト関連肺がん と言っていいだろうとされています。もちろん、そのほかにもorでしょうが胸膜プラー クがあるか、肺内というか、蓄積ばく露量として25fiber/year、それ以上のものが肺内 証明されればという、いろいろなデータが積み重なってこの5つのファクターに集約さ れているのだと思います。私の経験から言っても、5,000本というのが3.5%とすると、 いま日本で年間6万人から7万人、新たな肺がんで亡くなっている方がいらっしゃいま す。それの3.5%というと2,000人ぐらいに相当して、中皮腫の2倍程度にもなります ので、これは単なる数字合わせかもしれませんが、そんなにおかしい数字ではないのか とは思っております。  最初にも申し上げたように、あくまでもAsbestos Body(石綿小体)、石綿小体による 指標というのは便宜的な面があって、正確には繊維を直接定量するというのが理想的で あると、いまでも思っているのですが、どこでも測れる方法ではないというので、ちょ っと躊躇しているところがあるというところです。 ○森永座長   実はいままで私どももいろいろAsbestos Body(石綿小体)の測定をやってきた場合 に、どちらかというと、リスクが2倍という観点で見てきているわけではないですよね。 ○神山委員   疫学のほうのデータは、それが揃ったもので症例を扱うというようになっていないの が、ちょっと残念なところなのです。 ○森永座長   2倍という観点を外して、どの程度あれば職業ばく露によるものと考えるかについて は、いろいろ研究されてきているわけですね。井内委員はどうでしょうか。 ○井内委員   私たちが行った研究というのは、大学の付属病院で手術をされた肺がん患者をすべて 対象にして、その中に石綿小体がどのぐらいあるか、石綿繊維がどのぐらいあるか、定 量化を試みたわけです。細かい話は抜きますが、84症例中の7症例、ですから、10%い かないのですが、8ないし9%ぐらいの症例が、病理学的に明らかにアスベストによる 肺の障害がある人だということが証明できた、という論文を発表しました。それは石綿 繊維、あるいは石綿小体の定量だけではなくて、呼吸細気管支周囲に線維化があるとい うような、普通の光学顕微鏡で見ている所見もみた結果です。そうして見ると、これら の肺がん患者の多くがアスベストばく露の可能性のある職種についていた、ということ が分かりました。それから、胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)を持っている人が50%以上で あったので、その当時、私たちがその研究で示したことは、アスベストに関連して起こ った肺がんというのはこんな例かなというように思っていたわけです。  ただし、そうは言っても、それが直ちにアスベストだけで本当に起こった肺がんであ るかどうかを決めることはできないというコメントも付けています。当然、ほかの発が ん因子の除外は大変だということになります。ですから、正確にある一つの肺がんがア スベストによって起こった肺がんであると証明をすることは大変難しい。しかし、全体 のリスクとして判断することと、いま私が発言していることは少し別だとお考えいただ きたいと思うのです。救済制度の中に、全例についてそうした研究の結果を反映させる ことは難しいので、先ほど議論がありましたように、25fiber×年という状況におられた ということや肺組織の検索ができた場合は、私が述べたような条件が備わっていれば、 その方の肺がんはアスベストによって生じたということを言ってもいい、そういう条件 をいくつか並列してあげていくというような議論をしなければいけないのではないかと いうように、いま考えております。 ○森永座長   ほかに肺組織内のアスベスト小体の濃度について、何か意見がありますか。 ○岸本委員   私も2003年に「Clinical study of asbestos−related lung cancer」という論文を 『Industrial Health』に書いております。いま神山委員がおっしゃられましたように、 最近は乾燥肺重量1g当たり5,000本というのが、職業性のばく露の1つの基準という ことになっておりますが、私どもが昔研究したのは、湿重量5g当たりということで、 Churg、Warnockらが500本というのを職業性ばく露ということで言っておられて、湿重 量5g当たりが500本以上あれば、職業性ばく露というクライテリアでした。日本の基 準では、富山医科薬科大学にいらっしゃいました北川先生らは、150本であれば日本で いう職業性ばく露ではないかと実際におっしゃられていて、150本を超えた人を職業性 ばく露ということで、120例ほど集めて研究したことがあります。ただ、この基準にす ると職業性ばく露がはっきりしないような方もいらっしゃる、ということも現実ではあ りました。  この論文で、150本以上ということになると、120例中35例が石綿肺というじん肺が あって、77例には胸膜プラークがありました。その中の22例は胸膜プラーク+石綿肺 でした。どちらがいいのか、私もよくわかりません。ただ、湿重量5gでやって、まず いなと思ったのは、肺組織がホルマリンに漬かっている場合と、そうでない場合があり、 それで誤差が出てくるので、神山委員がやっておられるような乾燥肺でやりますと、き ちんと1gが定量できます。方法論としては神山委員がやっておられるこの方法がいい のではないかと思います。  やはり150本とすると、本来の職業性ばく露なのかどうなのか、疑問な症例も混ざっ ていたという経験があります。ですから、ヘルシンキクライテリアでも5,000本という ことが言われていますし、現在、我々は乾燥肺でやっておりますが、職業性ばく露があ った方は5,000本ぐらいです。1,000本以下だとどうなのかということで、実際にクリ ソタイル(白石綿)を吸っていると患者本人が言われるような建設業をやっている方に は、1,000本未満の方もいらっしゃるという現実があるので、神山先生がおっしゃられ ましたように、本来は繊維を見るべきであると思います。Asbestos Body(石綿小体)を 見ると、Asbestos Body(石綿小体)をつくりにくいクリソタイル(白石綿)を見落とす 可能性はあるというように思っております。 ○森永座長   ちょっと外で聞いている方に誤解を与えるといけませんので、湿重量と乾燥重量とは、 だいぶ異なるということを説明しておく必要があると思います。 ○神山委員   乾燥重量は湿重量の10分の1、逆に言うと10倍になるのです。ウエットは乾燥させ ると肺1gは0.1gぐらいになりますから、湿重量は乾燥重量の10倍になります。です から、例えば500Asbestos Body/5g wet lung(湿重量5gあたり500本の石綿小体) は、1g dry lung(乾燥重量)に換算すると、1,000本Asbestos Body/1g dry lung (乾燥重量1g当たり1,000本の石綿小体)になりますね。  追加なのですが、先ほどの発言の中で石綿小体が5,000本以上あったのは、3.5%と言 ったのですが、1,000本以上で東京近辺の肺がん患者、ランダムに200数十例の方を1,000 本以上で切ってみると、約30%の人が1,000本以上のAsbestos Body(石綿小体)を肺 に持っているのです。東京が少し大気汚染やばく露が高いかもしれませんが、全国平均 と同じだと仮定すると、6万人×30%だから1万8,000人ぐらいになって、それを石綿 肺がん由来というようにはちょっと多すぎるようなイメージもあります。労災認定のと きに、一応1,000本以上5,000本までをグレーゾーンに考えていますが、5,000本以上 はこのヘルシンキクライテリアで「significant occupational」と言っているように、 確実にoccupationalであるのは5,000本以上というクライテリア。その辺のものを1つ の指標として採用するのがいちばんはっきりとした指標かなと私自身は思っているので すけれども。 ○森永座長   井内委員がやったのは乾燥重量肺ですか。 ○井内委員   あのときは湿重量5gの肺を対象としています。その場合は岸本先生がご紹介になっ たように、500本、150本、40本というような段階分けになります。それから数値を全 部忘れたのですが、電子顕微鏡で絶対量は測っておりますが、いまの神山先生のやり方 とは違うので、単純に比較はちょっと難しいと思います。 ○森永座長   日本は昔から北川先生らがやってきた方法に準拠して、5gの湿重量肺で行うことが 多かったわけですが、最近国際的な比較という意味でも、乾燥重量でやるべきだという 意見を外国からもだいぶ言われていて、最近は日本でも乾燥重量でやるようになってき ているというのが実情だと思います。資料No.11の6頁にベルギーの認定の事例が書いて ありますが、いちばん最初の昭和53年当時の石綿肺がんの認定基準の際には、石綿小体 というのはどこに見つかってもいいという表現にはなっていたわけですが、平成15年の 認定基準の改正ときには一応、肺組織という形で限定をしたわけです。というのは、実 際上、喀痰の中のAsbestos Body(石綿小体)というのはあまり調べることがないとい うことで、それも入れなかったわけです。現実にベルギーでは、気管支肺胞洗浄液(BALF) のデータも入れているわけですが、このことについて岸本委員から何か意見はあります か。BALの話なのですけれども。 ○岸本委員   私たちはこのクライテリアをしばしば使っております。アスベスト肺というじん肺と、 特発性びまん性間質性肺炎の鑑別というのは、胸膜病変がない場合、非常に難しいとい うのが現状です。気管支肺胞洗浄(BAL)というのは、経気管支肺生検に比べると非常に 安全に行うことができます。特に右肺の中葉でやると回収率も非常に良いので、このク ライテリアである1ml当たり5本以上あれば、職業性ばく露としていいという基準を使 っております。アスベスト肺かびまん性間質性肺炎かわからない場合は現実にあります。 職業歴を聞いても、濃厚なばく露はそれほど長くない。ただ、アスベスト肺である場合 には、ばく露作業従事期間にかかわらず、労災補償等が受けられる。肺がんの認定基準 では、石綿肺PR1/0以上あって原発性肺がんが発症した場合は、業務上の疾病として労 災補償が受けられることになりますので、労災申請を希望をされる患者もおられます。  胸膜病変、胸膜プラークがない場合に、この気管支肺胞洗浄(BAL)をやっております。 通常の方法で150mlを肺の中に入れて、それを回収するという方法でやっております。 回収率は確かに悪い場合もありますが、我々のデータとしては石綿肺とした症例は5本 以上あったという例が多いです。ただし、1本の場合どうか、0.5本の場合どうかとい うようなケースもあり、その辺りは詳細な職業歴を聞いて判断するという対応をしてま いりました。 ○森永座長   BALFは、少なくとも私はあまり経験がないのですが、三浦委員はどうですか。 ○三浦委員   いま岸本委員が言われたように、石綿ばく露を証明するためにやるという場合には良 い方法だろうと思うのです。ただ、BALは日常的な検査でよくやっていまして、例えば いま話題になりましたびまん性間質性肺炎と特発性肺線維症を調べるときに、BALをや りますが、そのときはそこにある細胞の種類やリンパ球の種類やマーカーを調べるのが メインの仕事になりますから、いちばん大事な、一口にBALFと言っても、最初に得られ た液体というのはそんなに診断価値がないのです。普通は2回目のものが肺胞から出て くるものが多いものですから、2回目のものの試験管を大事な試験のほうに回します。 そうすると、私たちは病理の所にそれがいくということはチャンスとしては非常に少な いわけです。分抽しますが、ましてや1ml当たり5個などという数ですと、必ずしも Asbestos Body(石綿小体)が均等に分かれていくという保障は全くありません。そうす ると、どちらかに偏ってしまったりすることは結構ありますから、いままでの資料とし て見たときにはあまり価値がない。ただ、逆に言えば、もしそこにあればきちんとした 証明になる。私はそのように考えています。  いま岸本委員が言われましたように、それを目的としてやっても必ずしも検出されな いことがあります。BAL液の回収率、あるいは肺胞からどれだけ出てくるかによるので、 本当は石綿にばく露しているが、そこには石綿小体があまり出てこないという場合も当 然あります。ですから、1ml当たり5本見つかれば、職業的ばく露に等しいと考えてい いと思っております。  少し戻りますが、先ほどの組織内の石綿小体の数も同じようなことで、特に検出され るのはアンヒボール(角閃石族)でクリソタイルではない繊維のほうが圧倒的に多いわ けですから、職業ばく露であっても、必ずしも1g当たり5,000本のアスベスト小体が 見つかるという保障はないわけですが、あれば、職業ばく露の証拠となると考えていま す。すべてorで、どれか1つあれば職業ばく露の証明になると私自身は考えております。 ○森永座長   ベルギーにBALが入っているのは、ベルギーでは、きちんと検査を行うことができる 先生と分析できる先生がペアでいる。人口の多くない国で、ブリュッセルで大体できる という特殊な事情があると思うのです。問題はBALFでのAsbestos Body(石綿小体)の 検出方法で、これは肺組織と大体同じで行えるのですか。 ○神山委員   方法的には肺組織よりやや簡単にできます。同じようなダイジェッションの溶液で BAL液をダイジェッションして、フィルトレーションですからほぼ同じ、あるいは組織 より時間を短縮してできると考えていいと思います。 ○三浦委員   大きな違いは、組織を採るには手術が必要だということです。気管支ファイバーでち ょっとかじってくるような小さなものでは検出率が悪いですから、少なくとも胸腔鏡の 外から手術して組織を採っておかなければいけない。それに対して、BALは臨床的に気 管支ファイバースコープができさえすれば出来る検査です。 ○神山委員   そのような意味では優れている。要するに、亡くなった方ではなく、いままさに治療 中という方にとっては非常に優れた方法だと思います。 ○井内委員   少しでも患者に対する侵襲性を少なくするということでは非常にいい方法だろうと思 いますが、技術的な差が出やすいのではないかという気がするのです。例えば、臨床の 先生からよく質問されるのは、BALをやるとき、中葉は非常にやりやすいが下葉は難し い、中葉と下葉を比べてアスベストの沈着の度合いは違わないのかということです。こ のような形でアスベストへのばく露を証明していこうとするならば、一定のマニュアル をつくるとか、方法を全国で統一して行うのがいいのではないかと思いますが、その辺 は難しいのですか。 ○岸本委員   井内委員が言われたとおり、確かに、下葉はアスベストが沈着しやすいということで、 アスベストが多いと言われていますが、下葉にウェッジをしてやるというのは回収率の 点で難しい。ただ、三浦委員も言われたように、肺胞領域にどれだけ生理食塩水が入っ て、肺胞領域をどれぐらい取ってこられるのかというのが、アスベストの回収率にかか ってきますので、回収率の悪い下葉をやるよりは、回収率のいい、ウェッジしやすい中 葉、もしくは舌区をやるようにしたほうがいいのではないかということで、我々の所で はそのようにやっております。  万が一、BALFでAsbestos Body(石綿小体)を5本にするか1本にするのか、これは 議論があるところですが、そのような基準を作った場合は、井内委員が言われたような マニュアルで、ここではこのようにやりなさいといったものを作ったほうがいいと思い ます。ある人は下葉でやり、ある人は中葉でやるということになると、技術的なものも ありますが、どこの気管支を使ったかによって変わってきますから、中葉なら中葉と決 めてやったほうがいいのではないかと思います。 ○三浦委員   陽性に出れば、私はいいと思うのです。出ないから職業ばく露はないとか、そのよう な証明には使えないと思います。いずれにしても、false negativeがありますので。も う1つ、下葉がBALに適さないのは、生理食塩水を入れるので非常に重くなり、下に沈 みます。それを吸い上げて、肺胞は直径0.5mmの細気管支の向こう側ですから、そのレ ベルから回収してくるというのは至難の技で、回収率が非常に落ちてしまいます。です から、下葉はBALF採取にはあまり適した場所ではないのです。中葉をやるとして、そこ で規定の数以上のものが見つかれば、職業ばく露に匹敵すると私はいつも考えておりま す。 ○神山委員   私もそう思います。石綿小体が出れば確実な証拠として使えるでしょうが、大昔のば く露の場合などは、肺胞間質などに石綿小体が動いてしまい、肺胞に小体がなければ、 いくら洗っても出てこないことになるでしょうし、ない場合でも過去のばく露があるか ないかというのは否定できないでしょう。BALFの場合は、まさに石綿小体が出たときに はっきりとした指標として使えるということだと思うのです。石綿小体、最もいいのは 繊維という順位がどうもありそうな感じがします。 ○三浦委員   all or nothingではなくて、5本と言った場合、1.5本とか0.9本などというのは回 収率で変わりますから、そのような場合どのように考えるかが問題になります。5本以 上あれば問題ないのですが、例えば50cc回収されてその中に5本あったとか、10本あ ったとか。50ml回収して5本あったら、1ml当たりは0.1本になりますか。 ○岸本委員   基準1ml当たり5本ですから、50mlだと250本になります。 ○三浦委員   250本あれば職業ばく露ですが、50本だと職業ばく露ではないのかというところです。 石綿小体は出てくるのだが、この基準に合わないというのが、実際にやっていてそのよ うな例があるのです。1ml当たりにすると0.9本だったり、1.5本だったり、アスベス トは吸っているのだが基準に満たない人たちはどのように解釈するのかが問題になって くるのではないかと思います。実際、私の所でやっていてそのような事例があります。 胸膜プラークもない肺がんがあり、手術はできないという方ですが、BALでAsbestos Body (石綿小体)を見てもらえないかという事案がありましたのでご紹介いたします。 ○森永座長   いま議論しているのは職業ばく露かどうかではなくて、肺がんのリスクが2倍になる 程度のばく露の指標として、Asbestos Body(石綿小体)がどのくらいあるかという議論 をしたいので、ここでは職業性か非職業性かを議論するつもりはないということでお願 いしたいと思います。 ○三浦委員   わかりました。資料No.11の6頁に従って、職業ばく露を2倍と言い換えます。2倍で あることを証明する手段としていくつかあって、その1つがBALF液で1ml当たり5本 以上の石綿小体が見つかれば、2倍以上のリスクがあると考えますが、ただ、見つから ないからといって、BALF液という観点では証明はできないと考えます。 ○岸本委員   いま私が言ったような数であれば、肺がんのリスクを2倍にするほどのばく露量では ないと考えざるを得ないとも言えません。というのは、1ml当たり5本以上あれば職業 性ばく露があると考えられますが、そこに達しないからといってアスベストばく露がさ れていないとは言えない。ただ、肺がんのリスクを2倍にするほどのばく露量ではない という形で考えなければならないでしょうね。 ○三浦委員   職業性ばく露があるという証明はできないということですか。 ○岸本委員   そうです。 ○三浦委員   証明ができなければ。 ○岸本委員   他のもので証明するという形でしょうか。 ○森永座長   石綿小体の測定を行うときは必ず精度管理という話が問題になるわけですが、資料No. 9の312頁の上から2つ目のパラグラフに、Each laboratory(どの研究室)も自分の所 のレファランスのバリューをきちんと持っておくべきだ、いろいろな研究室での肺分析 の方法の標準化を推奨するという表現となっています。フィンランド、スウェーデン、 ノルウェーなどというのは国の人口が少なく、スウェーデンの人口は大阪府と同じわけ で、極端なことを言えば、1つの検査機関でカバーできるわけですが、日本の場合はそ ういうわけにはいかない。大阪府800何万の人口はスウェーデン一国と同じですし、ノ ルウェーはその半分強ぐらいの人口ですから、1つの研究室で大体対応できるわけです が、日本はそういうわけにはいかない。そうなると、標準化というか、マニュアルがあ って精度管理がきちっとできているところでの検査でないと、大気中のアスベスト濃度 の測定も最初のころはそうだったと思うのですが、非常にリライアブルなデータが得ら れないという問題があるのですが、神山委員のほうはどうなのでしょうか。 ○神山委員   石綿繊維を電子顕微鏡で見るとなると、やはり分析者の技術によって相当なばらつき が出ることが予測されますが、Asbestos Body(石綿小体)の場合、位相差顕微鏡という 一般的なもので見るので、ある程度試料処理の統一的なトレーニングを受けて、Asbestos Body(石綿小体)もこれをbody(小体)と見るべきか、そうでないかというのが、いろ いろな職業やものによって変わってくるので、その辺はある程度統一的に一度見ておけ ば、それほどばらつきは多くないと思っています。「含鉄小体」という表現が正しいです が、だんだん経験を積んでくると、例えば溶接でヒュームを囲んだbody(小体)様に見 えるようなものをbody(小体)と間違えて計数することなどが除外されてきますので、 ちょっとした精度管理を何回か繰り返すことによって、研究室ごとの差はなくすことが できると思っています。最初白紙状態で、石綿小体を見たこともない場合は、それはそ れで問題でしょうが、病理あるいは検査技師が常に切片でbody(小体)というものを経 験していればあまり大きな問題にはならないだろうと思っています。 ○森永座長   現在は東西2カ所、岸本先生がいらっしゃる岡山労災と東京は中央労働災害防止協会 でできるようになっているわけですが、これはもう少し広げる方向で事務局のほうで検 討しているのですよね。 ○職業病認定対策室長   いま労災病院に22のアスベスト疾患センターを設置しておりますが、そこでは計測で きるような体制を整えようと思っており、神山先生に指導いただき、そういったスタッ フを養成する計画を持っております。 ○森永座長   そうすると、肺組織中の石綿小体の計測については標準化された形でやれるようにな るという理解でよろしいですね。 ○職業病認定対策室長   精度管理がされた機関で実施されるということであるならばです。 ○森永座長   BALFのほうはいままであまりないので、マニュアルを早急に作らないといけませんね。 ○神山委員   ベルギーの5本/mlとか、カテゴリーがいちばんの問題だろうと思うのです。それを そのまま採用するということであれば、方法はそれほど難しい問題ではない。私自身、 何百例集めてきて5本なのか3本なのかという経験がないものですから、その場合のカ テゴリーあるいは水準は5本/mlBALFが5,000本に相当するとか、そのまま採用するか どうかに係るのではないかと思います。 ○森永座長   わかりました。25fiber×年という概念があるわけですが、これはドイツ、デンマーク で提唱されて、それが資料9のConsensus reportにも取り上げられているのです。 25fiber・年という疫学調査から導き出された結論は、ほぼ国際的なコンセンサスが得ら れていると実感しておりますが、かつては日本の職場も非常に良くない状況がありまし た。極端なことを言えば、20fiber/ccぐらいの事態も1950年代ではあっただろうと思 いますが、少なくとも特定化学物質等障害予防規則ができて、規制が始まっていくと、 ばく露濃度そのものがどんどん下がってきていることは事実だと思うのです。ですから、 トータル25fiber/yearとした場合、50年後はどうなるのかという話も出てくると思う のですが、そのようなことについてどのように考えるか、意見があればお願いいたしま す。 ○三浦委員   肺がんの要因となるものが他になくなればなくなるほど、相対的に25 fiberが下がっ てくるはずです。アスベスト以外の発がん物質が世の中にどんどん浸透してくれば、逆 に25 fiberでは2倍のリスクではないということに当然なってきて、50年後はどちら になるかはわかりませんが、増えると予想しています。アスベスト以外の肺がんを起こ す物質がたくさん出てくれば、アスベストの危険性は相対的に下がってくるという勘定 になりますから、果たして50年後はどうなるかはわかりませんが、少なくともいまある データでは、1ml中25本で、1年間で2倍になり、1ml中1本の所で25年間仕事をし ているのと同じということです。 ○森永座長   資料No.9の313頁の右下のところですが、例えばアスベスト製品の製造、アスベスト の吹き付け、断熱作業、古い建物の取り壊しはheavy exposure(高濃度ばく露)であり、 造船や建設といったものは中等度のばく露だと書かれており、その場合は5〜10年で肺 がんのリスクが2倍になり、heavy exposure(高濃度ばく露)の場合は1年でも肺がん のリスクが2倍になると書いてあるのですが、日本でもこのような形で物が見られるか どうかですが、どうでしょうか。私はちょっと無理ではないかという気がします。 ○三浦委員   職業別のアスベストの濃度が、日本ではこれだけきれいに分類できないと思われます。 大工というのは電動のこぎりで珪カルボードなどを切り、粉じんがもうもうとする中で 結構吸っていますし、必ずしも職種では分けられないですが、もともとの考えは高濃度 ばく露であれば、少ない年数で2倍に達するという勘定ですからそれはそれでよいと思 います。ただ、日本の場合、座長の言われるように職種では分けられないような気がし ます。 ○岸本委員   いま三浦委員が言われた、ボードを10分間電動のこぎりで切った場合、大工がどれぐ らいアスベストを吸うかという実験をやったことがあります。そのデータが0.2fiber/ ?というもので、意外にアスベスト自体はそれほど吸いません。日本のボード等には白 石綿(クリソタイル)が使われているのですが、濃度的にアスベストのパーセンテージ がそんなに多くありません。10年前は5%でしたが、最近では大体1%程度ですから、 意外に吸っていません。これはエクセルボードでも波型スレートでもほぼ同様のデータ が出ています。ただ、三浦委員も言われたように、日本では職場でどれぐらいのアスベ ストばく露があったかということは、実際にあまり測った経緯がないので、座長が言わ れたように、25fiberというのはなかなか難しいのではないかと思います。特に、アス ベストの原石で糸や布などを作る作業、アスベストの吹付け作業は高濃度ばく露だとい うことはわかりますが、例えば造船や建設にしても、本当に中等度のばく露なのかどう か、この辺りは私もよくわかりません。三浦委員もそうですが、我々は造船をずっとや ってきた人たちを診てきたわけですが、ある方は非常にたくさんアスベストを吸ってい ますし、同じような作業をしてもそれほど吸っていない方もいるといった経験はありま す。 ○森永座長   造船という職種だけでは、高濃度ばく露か中程度か低濃度かはわからないですね。も し職種でいくのであれば、もう少し詳しい情報がないと、判断の材料にはならないとい うことです。ただ、特定化学物質等障害予防規則が施行され、作業環境測定法で定めら れ、作業環境濃度が測定されるようになってからの、少なくとも石綿製品製造業につい てのデータはありますし、その後どんどん良くなってきていることは間違いないわけで す。 ○職業病認定対策室長   中央労働災害防止協会でその辺のところはまとめられており、いま手元に資料がない のですが、コンマいくつ、0.1だとか1cc中といいますかml中のいまの職場の基準が 0.15本となっていますが、1980年代には既にそのようなレベルになっている。これは作 業環境測定をやるということで少し構えてやったことのせいかもしれませんが、いずれ にしてもそのようなレポートがあります。400カ所ぐらいで測ったかと思います。 ○森永座長   1980年以降ですから、いま我々が見ている事例は、むしろそれ以前のばく露だったと いうことになりますね。 ○職業病認定対策室長   これについては先般の国会などでも答弁させてもらっていますが、例えば中皮腫につ いて分析したのですが、労災認定事例の9割以上が法施行以前、これは昭和46年の粉じ ん障害予防規則の中に石綿の部分を入れたわけですが、法施行以前の最初のばく露がそ のようにあったところだということで答弁させてもらっています。つまり、昭和46年以 前の何も規制されていない当時は、たしか昭和46年のときも、最初は33fiber、これは ちょっと基準が違うのですが、fiberに換算するとたしか1ml中33fiberという基準で したが、昭和48年には通達レベルで5fiberということで指導し、それが一定受け入れ られてきているというところで、昭和50年には、座長が先程言われたように特定化学物 質等障害予防規則の施行とともに告示で5fiber、これは抑制濃度と言いましたが、局所 排気装置のダクトの周辺での濃度ということですが、抑制濃度を5fiberとするとされ ました。これは昭和63年までそのような状況が続き、昭和63年以降、また2fiberに 下げられております。現在は先ほど述べたように0.15fiberで、作業環境の管理される べき濃度ということで変遷されており、作業環境自体は年を追うごとに良くなってきて いるのかなという印象は持っています。 ○森永座長   石綿製品製造工程については改善してきているのは事実だろうと思いますが、むしろ 問題は、アスベストはそうではない所にたくさん使われていて、そこでのばく露という のが意外とあるのですが、そちらのデータがほとんどないことです。それがアスベスト が非常にコントロールしにくい問題でもあり、だから管理して使えば安全だということ にはならないわけで、結局禁止するしかないという話になると思うのですが、製造工程 に関しては、25fiber×年というものを考えるに当たる資料は、1980年以降はあると考 えていいという判断でよろしいですね。 ○職業病認定対策室長   はい。 ○森永座長   いままでは職場の労災関係、どちらかと言うと労災の観点からの議論になっていたわ けですが、環境のほうで、果たして一般環境大気中のアスベストを吸って肺がんのリス クが大きくなるのか、2倍以上になるのかということも今日は議論しなければなりませ んので、いまから議論に入りたいと思います。  資料10の11頁のAsbestos fibres in tissue samplesの1つ上のパラグラフのとこ ろですが、一般大気の濃度というのは大体0.1〜10fiber/litre以下のところにあり、ど ちらかと言うと、工場の近くなどのいちばん高い値だろうが、職場の環境から言うと、 比較すればnegligibleなレベルであるという記載があるわけで、それ以上突っ込んだ議 論はここではしていないわけです。1987年に『石綿・ゼオライトのすべて』というレビ ュー本が環境庁(現:環境省)から出されたときには、一般環境大気で肺がんのリスク が上がるようなデータはなかった。たしか南アフリカではちょっとややこしい例があり ましたが、そのときも85年ぐらいまでの文献のレビューであり、その後のレビューはし ているわけではありませんが、『石綿・ゼオライトのすべて』には書かれていますが、85 年までのレビューではそのような結果だったわけです。そのようなことから、基本的に はある程度のばく露がないと、肺がんのリスクはアスベスト由来とは考えづらいという ことになります。その場合も、肺がんのリスクが2倍で、2倍以上のばく露があれば、 ばく露の原因が職場であれ、環境であれ、アスベスト由来だと考えて救済すればいいと いう考え方でいけばいいのかどうかということですが、委員の皆様ご意見ございますか。 ○神山委員   資料No.10の11頁で、一般環境0.1〜10fiber/litreぐらいの範囲というのを、先ほど の職業ばく露というか25fiber×yearでいけば、例えば10fiberでも0.01本/ccですか ら、200年以上の年月が必要になってきて、まずあり得ないことになるわけです。これ は、ごく一般の大気で肺がんが2倍に上がるということはあり得ないということを読み 取るべきで、いま中皮腫が右肩上がりで上がっていて、職歴がほとんど見つからない人 が多くなっているというのは、たぶん、アスベストが吹き付けられたり、あるいはボー ドがある所で本人が気が付かないで作業するなどといった使用先でのばく露だと思うの です。ですから、ごくごく一般環境でのばく露の問題はまずないと考えるが、作業者の 使用先でのばく露が25fiber×yearを超す可能性はあるかもしれないと考えていくべき だと思うのです。そのときに、25fiber×yearの使用先でのばく露濃度のデータなどは ほとんどないではないかということになってくるので、ヘルシンキクライテリアでも何 でも、肺内に残されたデータからいろいろと苦労して推計しているわけで、500万 fiber/g dry lung(乾燥重量肺)とか、肺内に残されているデータで2倍になるレベル をまず求めているようです。  アスベストの種類、クリソタイル(白石綿)とクロシドライト(青石綿)ではだいぶ 違うと思うのですが、いちばん基準になる数字として25fiber×yearというのをまず置 いて、肺がんが2倍になるのがこのレベルだとすれば、胸膜プラークでどうなのか、あ るいは石綿肺がどのくらいの可能性であるのか、あるいは石綿小体が何本なのか、繊維 なら何本なのかといった展開にヘルシンキクライテリアはしていったのだろうと取りあ えずできるのです。逆に、or〜or〜or〜となっているのは非常に意味があり、そこが重 要な表現ではないかと思っているのです。我々が使えるのはこのうちどれかと考えると、 プラークやレントゲンの石綿肺の徴候とか、石綿小体あるいは石綿繊維というのが指標 として使えるということで、この辺は委員の方々は異論はないのではないかと思います がいかがでしょうか。石綿肺がんを識別するものとして、他に何か指標として考えられ るでしょうか。 ○森永座長   他にご意見はありますか。資料10の12頁の真ん中辺りに「More than 80%」で始ま る文があり、100万本の石綿繊維を持っている人は80%以上がプラークがあると書かれ ています。最低限の評価として大きな胸膜プラーク、広がっているような胸膜プラーク の43%と書いてあるわけですが、いままでの労災の認定基準では胸膜プラークをアスベ ストのばく露の非常に重要な所見だという扱いをしてきたわけです。胸膜プラークがあ る人はどれぐらいの肺がんのリスクがあるかについてレビューしてあるのが資料12で す。  資料12の表2と表4ですが、表2は胸膜プラークだけがある人の場合の肺がんのリス クを見た調査で、右側がRelative Risk(相対危険)です。これで見ると2.4、2.4、3.0、 3.7、2.8、1.4、1.3、3.3と一番低いもので1.3、いちばん高いものが3.7という報告が 出ております。もちろん、コホート調査ですから観察期間、観察対象数などの吟味をし ないと個々の成績の厳密な評価はできませんが、少なくとも1.3〜3.7倍のリスクがある という結果が出ております。表4は亡くなられた場合の解剖あるいは手術から、胸膜プ ラークがあり・なしのケースコントロール体研究ですが、これでいくと、Relative Risk (相対危険)は1.2〜2.9という報告が出ていることから、胸膜プラークのある人は肺が んのリスクはやや高めだという結果が出ているわけです。  胸膜プラークを使えないかということについて、やはり議論をしたほうがいいだろう と思うのですが、日本では、肺がんの患者でどれだけ胸膜プラークがあるかといったデ ータを国全体として調べた報告がありませんので、どうしてもこのようなレビューに頼 るしか仕方がないというのが実状だろうと思います。三浦先生の経験ではどうでしょう か。 ○三浦委員   職業的ばく露で胸膜プラークがあればそれでいいのですが、環境だけで実際にばく露 があるかないかはわからないわけです。しかし、胸膜プラークが認められたときに、仮 に1.2倍だとすると、非常に難しいと思うのです。その人がもしたばこを吸っていたら、 たばこの影響のほうが遥かに大きいでしょうし、その辺もちょっと直ちに石綿による肺 がん肺とは言えないと思います。 ○岸本委員   表3には、私が1992年当時に発表した92例のデータが載っています。胸膜プラーク がある人でAsbestos Body(石綿小体)が多ければ多いほど、lung cancer(肺がん)の 発症率が高い、Pが0.01でというのが当時の私のデータです。胸膜プラークだけがあっ て肺がんがある人は、石綿肺がんかと言うと、やはり中皮腫とは異なると思っておりま す。いまこのようなことで、我々の所にも胸膜プラークがある人がかなりたくさん診察 に来られます。いま三浦委員が言われたように、肺がんの場合、喫煙によって肺がんの リスクが高まります。アスベストの吸入量が多ければ多いほど、リスクは高くなります。 アスベストの量と喫煙の2つの因子を言い忘れてはいけません。胸膜プラークがあって も、その中でもアスベストをよりたくさん吸ったであろう何らかの因子、いまの労災認 定基準でいけば、10年以上の石綿ばく露作業があるというのは、ある程度の一定のばく 露でも/yearですから、年数が上がれば上がるほど危険率が高まります。昭和53年のク ライテリアというのは、非常によく出来たクライテリアではないかと考えております。 万が一、たばこを吸わない人であれば、例えば5年がいいかどうかわかりませんが、ア スベストをたくさん吸ったために出たということは言えますが、アスベストも吸ってた ばこも吸った人をどのように考えるかが難しいのではないかと思います。 ○森永座長   資料12の97頁の右側の下から3番目の段落ですが、多くの調査では、胸膜プラーク は一般の方より肺がんの患者に、普通のレントゲンで2倍ぐらいよく見られると報告さ れています。日本ではなかなかこのようなデータがないので残念ですが、多くの欧米の データでは、このようなことが言われていることと、確かに、胸膜プラークのある人に 肺がんのリスクが高いかどうかいろいろ議論がありますが、リスクはやや大きい、2倍 弱ぐらいだということで一応はまとめられるのではないかと思うのです。表2の Hillerdalの1.4倍というデータも、胸膜プラークの患者を追跡していくと、レントゲ ンにより、中には軽い石綿肺が出てくる、そのような人たちはもっとリスクが高いとい う結果が出ているわけです。レントゲンで胸膜プラークが確認でき、しかしよく調べた ら、CTでは石綿肺の所見に合致するようなものが見られるというのは稀ではないので はないかと思うのですが、審良先生は経験がたくさんあると思うのでご意見をお願いい たします。 ○審良委員   確かに、胸部エックス線ではほとんど映らないようなものも、CTでは非常によく確 認できます。胸膜プラークだけしか胸部写真で映らなくても、胸膜プラーク自体が胸部 写真に出ている率が半分弱なので、CTを撮ればそれの倍以上のものが見つかりますし、 早期の間質性肺炎は胸部写真では半分以下だと思います。 ○森永座長   井内委員、病理のほうではどのような経験がありますか。 ○井内委員   Hillerdalの論文にもありますが、胸膜プラークの有無に関しては、手術についても 剖検についても、観察者がそのことを知っているかどうかが非常に大きな要因となって おり、手術時に見逃している場合もあります。例えば剖検のときですら、病理医が知ら ないで全く見逃している場合があります。日本の場合、見逃しがかなり多いのではない かと思います。つまり、いままで中皮腫に対する知識が普及されていないということも あるし、ましてや肺がんということになると、肺がんとアスベストばく露の関係につい て深い知識がある人はあまりいないのではないかと思うので、そのような意味でのバイ アスはかなりかかっている可能性が日本の場合は大きいと思っております。  胸膜プラークというのはアスベストばく露以外では起こらないわけですから、胸膜プ ラークがあれば、程度はわかりませんが、何らかのアスベストばく露があるということ は間違いない事実なので、胸膜プラークがあるということがもう少し評価されてもいい のではないかという気がします。ここでHillerdalが報告しているリスクが1.4という 数値よりも、実際にはもう少し大きいのではないかと思います。個別のデータがないの で印象です。 ○森永座長   表2のHillerdalのデータは、レントゲンで石綿肺は厳しく除外している調査だった と思うので、かなり厳格な条件で、診断基準もかなりきついものでやっていると思いま す。三浦委員、胸膜プラークについて何かありませんか。 ○三浦委員   現実に、環境ばく露で胸膜プラークがあるかないかがわかるのはどのようなときかと 言うと、1つは健康診断で胸の写真を撮っていたり、病気で入院して単純写真を撮って 明らかに胸膜プラークがある、CTを撮って明らかな胸膜プラークがわかる場合、オー トプシー(剖検)で胸膜プラークが見つかる場合、このくらいだろうと思うのです。そ うすると、単純写真で胸膜プラークが見つかったから、アスベストによる肺がんだとい うのが頻度的にはいちばん多いと思われます。単純写真で見つかるぐらいの胸膜プラー クだと、結構しっかりした胸膜プラークでないとわかりませんから、先ほどのHillerdal の報告にある1.4倍より遥かに多いのではないかと思います。座長が先ほど話されたの は、石綿繊維が100万繊維で、胸膜プラークが80%以上あるということと、肺がんのリ スクが2倍になるのが、クライテリアでは200万繊維というのがどこかにありましたの で、胸膜プラークが出るほうが肺がんが2倍になるよりは頻度が多いと、現実にはその ようなことだと思うのです。ただ、臨床的に考えて、一般の人が、あるかないかわから ないような胸膜プラークをつぶさに証明するために検診を受けるということはまずない と思うので、明らかな胸膜プラークの所見があれば、100万繊維以上、200万繊維ぐらい はあるかなと考えると、臨床的に明らかなプラークが証明されれば、肺がんの発生リス クも2倍になると考えてもいいかなとは思うのです。厳密にいくと非常に難しいところ がありますが、臨床的にはそうです。どのようなときにわかるかということを考えると、 明らかな胸膜プラークが証明されていれば、2倍に相当すると考えられます。 ○岸本委員   三浦委員が言われるように、胸部レントゲンではっきり胸膜プラークがわかる場合と、 CTで見てようやくこれは胸膜プラークかなという場合とでは、おそらく石綿の吸入量 が違うのではないかと思います。胸部レントゲンで胸膜プラークが確認される場合です と、特に石灰化がある場合は非常によくわかりますが、そのような場合は、いま三浦委 員が言われたような200万本ぐらいあるのではないかと考えられます。というのは、レ ントゲンで確認できる胸膜プラークというのは胸膜プラークを持っている人の中で多い かというと、多くない、むしろ少ないとなると、その辺りが1つの判断基準になるので はないかと思いました。 ○三浦委員   Hillerdalのデータは、厳密な判断をすると1.4。これはコントロールはどうでしたか。 ○岸本委員   コントロールはない人ではないですか。 ○三浦委員   単純写真ではない人ですか。 ○岸本委員   単純写真ではない人ですね。 ○三浦委員   単純写真でない人というと、ばく露はしているが見えない人も入っているわけですね。 ○岸本委員   そうです。私が1989年に書いた論文は、当時はCTが簡単に使用できなかったもので すから、胸部レントゲンで見ていました。そのときにprobable plaque(おそらく胸膜 プラークであること)とdefinite plaque(胸膜プラークと明確にされていること)で は、明らかに肺内から出てくるAsbestos Body(石綿小体)の数が違いました。レント ゲンで明らかにわかる人は、そうでない人よりも明らかに石綿小体数が多いということ を書いております。『CHEST』に書いたと思いますが、いまそれに則って言えば、三 浦委員が言われたように、胸部レントゲンでわかるようなはっきりした胸膜プラークと いうのは、やはり石綿ばく露量も多いのではないかと思います。 ○森永座長   そこのところは本当はもう少し議論したいのですが、今日は5時半までですので次回 に回すとして、取りあえず今日議論したことをもう一度まとめて、本日は終わりにした いと思いますが、よろしいですか。今日議論したことをまとめて、確認した上で、引き 続き次回どのようなテーマで議論をするかを決めて、今日はこれで終わりにしたいと思 います。  まず始めに、肺がんと石綿ばく露との関係については、基本的には石綿ばく露量が多 いほど肺がん発症のリスクも高まるという直線的な関係にあり、ばく露量というのは、 ばく露期間掛けるそのときのばく露濃度という概念で、これは国際的に認められている ということでした。個々の集団によっては、全体の肺がんのリスクというのは1.2倍と いった非常に低いものもあれば、高いものもある。それについては、神山委員から石綿 の職業、産業別、あるいは石綿の種類の問題もあるのではないかという話がありました が、今回はそれには触れませんでしたので、次回に積み残しということにしたいと思い ますが、神山委員、それでよろしいですか。 ○神山委員   結構です。 ○森永座長   少なくとも量−反応関係は、直線的な関係があるということです。肺がんのリスクに ついては、たばことの関係は概ね相乗作用があるというほうに「weight of evidence」 があるという考え方が、少なくとも相加作用よりは上だと、どちらかと言うと相乗作用 に近いという、たばこの問題もあるということです。それが2点目です。  3番目に、たばこの問題もあるが、どの程度の肺がんのリスクがあれば補償の対象と すべきかについては、アメリカの考え方、イギリスの労災補償の考え方は、2倍という リスクの概念が出されているし、Consensus reportについても、肺がんのリスクは2倍 ということで議論をしている。国際的には、肺がんのリスクが2倍というのが非常に大 きな議論の的になっています。そのような考え方があることを紹介し、欧米ではそのよ うな考え方がconsensusになっているというのが第3点目の確認だったと思います。  肺がんのリスクが2倍となるばく露程度はどの程度かということですが、ドイツやヨ ーロッパ、ベルギーの認定基準等の話もありましたが、累積ばく露量が、25fiber/cc× 年というのが1つの基準としてあります。石綿小体が5,000本/乾燥重量肺。BALF(気管 支肺胞洗浄液)では5本/ccが基準になっており、アスベストの繊維でいけば、200万本 というのが一応の目安としてConsensus reportにも出されており、そういった考え方が ヨーロッパでは認定基準の理解にも利用されているということでした。6番目ですが、 そのときに、石綿小体の測定についてはマニュアル化して、きちっとした評価ができる ことが大事だろうという話がありました。  次に、一般環境のレベルでは、少し古いデータでは、肺がんのリスクが2倍になるよ うな報告はないが、これについては、もう少し最近の報告がないかどうか調べてみる必 要があると思いますが、過去においてはそうだったということが議論されました。  最後に議論があったのは、胸膜プラークと肺がんのリスクの問題で、2倍以下だが少 し高いと。レントゲンで明らかな胸膜プラークがあるというのは、印象でしかありませ んが、大体200万本以上ぐらいのばく露があると考えていいと経験上は言えるのではな いかということでした。今回は、肺がんのリスクが2倍というのが妥当な考え方ではな いか。そのときの指標としては、25fiber/cc×yearという概念で、それに代わるものと してor〜or〜or〜の概念で考えたらいいのではないか、そこまで今日は議論をしたわけ です。しかし、それを実際に日本においてどのように実際に考えればいいのかというこ とは、今日は時間がきましたので次回に回し、次回にその議論を深めて、肺がんについ てある程度の方向性を出したいと思います。特に、石綿小体と石綿繊維の問題について は、先生方の経験が深いですから、意見をお聞きしたということだけで深い議論は行い ませんでしたが、次回はそこの議論も含めて、実際にいかに適用するかについての議論 をしたいと思います。  以上、座長としてまとめましたが、委員の方々、そのようなまとめでよろしいでしょ うか。それでは次回の日程も含めて、事務局から何かあればお願いいたします。 ○職業病認定対策室長補佐   次回の日程は1月11日(水)、17時から開催する予定となっております。場所につい ては、追ってご連絡いたします。 ○森永座長   以上で終了いたします。皆様、どうもありがとうございました。 ○職業病認定対策室長補佐   これをもちまして、本日の検討会を終了いたします。どうもありがとうございました。                 【照会先】                  労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室                  職業病認定業務第二係                   TEL03−5253−1111(内線557 1)