05/11/16 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会 第1回議事録       石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会(第1回) 1 開催日時及び場所  開催日時:平成17年11月16日(水) 午後3時30分から午後5時30分まで  開催場所:経済産業省別館第1014会議室 2 出席者  医学専門家:審良正則、井内康輝、岸本卓巳、        神山宣彦、三浦溥太郎、森永謙二  厚生労働省:森山寛、明治俊平、只野祐、天野敬他  環境省  :滝澤秀次郎、寺田達志、俵木登美子、天本健司他 3 議事内容 ○水・大気環境局総務課長補佐(天本)  それでは、第1回「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」を開催い たします。私は座長が選任されるまでの間、進行を務めさせていただく環境省の天本と 申します。どうぞよろしくお願いいたします。  本日ご参集いただいた皆様におかれましては、大変お忙しい中お集まりいただき、誠 に感謝申し上げます。まず最初に、本検討会の参集者について、五十音順にご紹介いた します。  独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター、放射線科医長の審良正則先生 です。広島大学大学院、医歯薬学総合研究科病理学教授の井内康輝先生です。独立行政 法人労働者健康福祉機構岡山労災病院、副院長の岸本卓巳先生です。東洋大学経済学部 経済学科、自然科学研究室教授の神山宣彦先生です。社団法人地域医療振興協会横須賀 市立うわまち病院、副院長の三浦溥太郎先生です。最後に、独立行政法人産業医学総合 研究所、作業環境計測研究部長の森永謙二先生です。  会議の開催に当たり、環境省の滝澤部長及び厚生労働省の森山部長よりご挨拶申し上 げます。 ○環境保健部長(滝澤)  先生方にはお忙しい中、ご参集いただきましてありがとうございます。6月末の新聞 報道により、アスベスト問題が改めて社会問題化いたしました。その後、政府一丸とな りまして、7月の下旬、8月の末、9月の末と3回にわたり、関係閣僚会議の検討結果 を逐一取りまとめてきております。3回目の9月29日に開催された閣僚会合において は、基本的枠組みということで、石綿による健康被害の救済に関する基本方針が取りま とめられたわけです。  その基本的枠組みの中で、救済対象者の医学的な認定基準として、「石綿を原因とす る疾患であることを証明する医学的所見があること」という表現が出てまいります。そ うしたことを受けて目下、救済制度について、政府内で調整を進めているところです が、健康被害者を隙間なく救済するという基本的な枠組みの考え方を踏まえ、どのよう な所見があれば、石綿を原因とする疾患であると判断していいのかというのが、まず重 要なポイントになります。  私どもの救済に関する制度の対応としては、次期通常国会を目指して、早い時期に法 案を提出し、スピード感を持ってこの問題に対応していこうという段取りを考えており ますが、先ほど申し上げた医学的な認定基準についても、前もって専門的なご検討をし ていただく必要があります。先生方には第1回の会合で、基本的なスケジュールなどを ご相談させていただきますが、かなり急いだ形での取りまとめをお願いすることになる のではないでしょうか。  また、スケジュール的には検討会の取りまとめを踏まえて、然るべき審議会のご意見 も踏まえ、さらに最終的な行政判断基準というものにまとめていくというプロセスが、 年度内を目途に進められるのではないかと考えております。そうしたことで、かなりイ ンテンシブな、あるいは実質的な持回り的なご検討も含めて、頻繁に先生方にご協力い ただくことになるわけですが、目下、政府が急いで対応しなければならないという考え 方に、是非ともご協力いただきたいと考えております。  大変恐縮でございますが、今日私は挨拶ということで、中座せざるを得ない状況にあ ります。今日は第1回目です。引き続きご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げる次 第です。今日はありがとうございました。 ○労災補償部長(森山)  本日は大変ご多忙の中、先生方にはご参集いただきまして、感謝申し上げる次第で す。また先生方には日ごろから労働基準行政、とりわけ労災補償部行政について、格別 なるご協力を賜っているところで、まずもって御礼申し上げたいと思います。  さて、石綿による健康障害については、今ほど滝澤部長からもお話がありましたが、 現在環境省、厚生労働省をはじめとして、政府一体となって取り組んでいるところで す。この政策はご案内のとおり、厚生労働省では石綿ばく露作業に従事した労働者につ いて、昭和53年に石綿にさらされる業務による肺がん及び中皮腫を、業務上疾病の範囲 を定めた労働基準法施行規則の別表に掲げるとともに、認定基準を定め、さらに平成15 年には専門の検討委員会の報告を受けて、認定基準を改正し、その新たな認定基準に基 づき、業務上外の判断を現在行っております。現在検討を進めている新たなる法的措置 の中において、救済の対象となる方々を判定する基準の策定が必要になるということ で、本日も専門家の皆様方にご参集いただき、検討をお願いすることにしたわけです。  現在、私どもが運用しております労災の認定基準についても、今回の検討結果を踏ま えて、新たな法的措置における認定基準と労災の認定基準が、整合性の取れるものにし たいと考えています。皆様方には大変お忙しい中恐縮ですが、石綿による健康被害が増 加してきているという事情を踏まえて、集中的にご検討いただき、早期に結論が得られ ますよう、ご尽力をお願いしたいと思います。  簡単ではございますが、最初のご挨拶とさせていただきます。よろしくお願いいたし ます。 ○水・大気環境局総務課長補佐  次に、事務局のご紹介をさせていただきます。まずは環境省側からご紹介します。大 臣官房審議官の寺田です。環境保健部企画課保健業務室長の俵木です。次に、厚生労働 省側をご紹介します。労災補償部補償課長の明治です。労災補償部補償課職業病認定対 策室長の只野です。労災補償部補償課職業病認定対策室長補佐の天野です。  続いて、検討会の座長の選任に移ります。開催要領では参集者の互選により座長を置 くこととしておりますが、いかがいたしましょうか。 ○岸本委員  2年前のこの検討委員会も同じメンバーでやっており、その際座長をやっていただい た森永謙二委員がいいかと思いますが、いかがでしょうか。                  (異議なし) ○水・大気環境局総務課長補佐  それでは座長は森永委員ということで、この後の進行をお願いしたいと思います。 ○森永座長  先ほど岸本委員からもお話がありましたが、平成14年から15年にかけて、石綿の労災 補償に関する検討会をこのメンバーでやらせていただきました。今回、石綿による健康 被害を受けられた方を、環境ばく露も含めて救済するということで、新たな法的措置の 法案を、次期の通常国会に提出するということですので、かなり急いでやる必要があり ますが、私どもが平成14年から1年間かけて検討した成果もあります。そのときは労災 補償だけでしたが、環境ばく露問題も含めて改めて検討していくということで、皆様の ご協力をよろしくお願い申し上げます。  まず、はじめに事務局から配布資料の確認と、アスベスト新法の概要を説明していた だけますか。 ○水・大気環境局総務課長補佐  まず私から、資料の確認をさせていただきます。机上に配布した資料のいちばん上に 議事次第があり、次の頁に資料1があります。その裏には先生方の名前を配した参集委 員名簿が、別紙として付いております。さらに資料2の「石綿による健康被害の救済に 関する基本的枠組み」、資料3の「石綿による健康障害に係る医学的判断に関する検討 会検討事項」、資料4の「石綿による疾病の認定基準について」ということで、平成15 年9月19日付の厚生労働省労働基準局長通知、資料5の「石綿による疾病の認定基準の 運用上の留意点について」ということで、平成15年9月19日付の厚生労働省労働基準局 労災補償部補償課長通知、別添として「石綿ばく露歴のチェック表」、資料6の「石綿 にさらされる業務による肺がん・中皮腫の労災補償状況」、資料7の「肺がん・中皮腫 の死亡者数の推移」として、人口動態統計より取った推移の一覧表があります。また先 生方には参考資料としてNo.1、No.2ということで、平成15年及び昭和53年の検討会報 告書があります。 ○保健業務室長(俵木)  続いてアスベスト新法についてということで、資料2の「石綿による健康被害の救済 に関する基本的枠組み」について、この検討会との関連も含めてご説明いたします。資 料2は9月29日の関係閣僚会議において決定された、石綿による健康被害に対する救済 に関する枠組みの基本です。「目的」にもありますし、先ほど滝澤部長からもご説明が ありましたが、石綿による健康被害者を隙間なく救済する仕組みを構築するという目的 で、救済を考えることとされております。  2番目の「対象者及び対象疾病」が、本検討会に深く関連する部分です。医学的な知 見に基づいて以下についての検討をするということで、対象者としては2の(2)にあ ります対象疾病、石綿を原因とする中皮腫、石綿を原因とする肺がんに罹患した者及び その遺族を対象として考えております。その他の石綿関連疾患については、発症の状況 や石綿等の関連について、医学的な知見を十分に整理して検討する必要があると考えて おります。  (3)の認定基準にアンダーラインで、特に強調して記載しております。もともとの 基本的枠組みにはこのアンダーラインはありませんが、本検討会用に引かせていただき ました。「石綿を原因とする疾病であることを証明する医学的所見があること」をもっ て、対象者を判定していきたいと考えています。今回の新法の対象となる方々は、労働 者の家族または一般住民とされております。ただ、ばく露から発症までの潜伏期間が極 めて長い中皮腫、肺がん等の疾患ですし、職業歴のない方々であるために、どこでばく 露したのか、どこからばく露したのかが明らかでなく、明らかにすることも非常に難し いということですので、これらの対象者については労災認定とは異なり、石綿のばく露 歴の確認を求めることは難しく、医学的な所見をもって石綿を原因とする疾患にかから れているのかどうかを判断していくことが必要という考えです。したがって、この検討 会では石綿を原因とする疾病であることを証明する医学的所見を整理するために、先生 方にご検討をお願いしたいということです。  3、4、5にありますように、「給付金の内容」、「給付金の財源」、実際の「救済 措置の実施主体」については、ご覧いただいておりますような状況です。現在、環境 省、厚生労働省を中心に、関係省庁で検討を進めているところです。また6にあります ように、「労災補償を受けずに死亡した労働者の特例」、いわゆる時効により労災補償 を受けられなかった方々についても、新しい枠組みの中で措置を講ずる予定としており ます。 ○森永座長  配布資料と基本的な枠組みについて、どなたかご意見、ご質問はありますか。なけれ ばこの検討会の進め方について、事務局から何かお考えがありましったらどうぞ。 ○職業病認定対策室長(只野)  資料3「石綿による健康障害に係る医学的判断に関する検討会検討事項」で、検討項 目を挙げてみました。「検討対象疾病の範囲」をどうするか、「石綿ばく露に特徴的な 医学的所見」としてどういうものが考えられるか、そしてその程度はどうかということ について、ご検討をお願いしたいと思います。また「中皮腫の取扱い」をどうするかと いうことで、石綿との関連性についてもご検討いただきたいし、確定診断の方法等につ いても、突っ込んだご検討をお願いしたいと思います。「肺がんの取扱い」について も、石綿との関連性、あるいは石綿ばく露に特徴的な医学的所見との関係ということ で、なかなか難しいテーマではありますが、ご検討をお願いしたいと思います。「その 他の疾病の取扱い」として現在労災認定基準では、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸 膜肥厚を挙げているわけですが、これらについても最新の医学的知見を検討していただ ければと思います。  いずれにしても今回、環境省と厚生労働省が合同で検討会を開催する趣旨は、労災補 償制度の中で救済すべき対象となるのか、そうではなくて環境省の公害補償という形で 救済すべき対象となるのか、この仕分けもしていく必要がありますので、その辺の議論 もお願いしたいと思います。冒頭の滝澤部長、森山部長の挨拶にもありましたように、 新法の準備その他でいろいろ急いでいる事情もありますので、できれば4回程度の検討 で結論を得たいと考えております。非常にスケジュールがタイトですが、よろしくお願 いしたいと思います。 ○森永座長  事務局からこの検討会の進め方の説明がありましたが、労災の、つまり業務に起因す る石綿ばく露に関する認定基準の改定で、中皮腫については私どもも平成14年から15年 にかけて、かなり突っ込んだ議論を行いました。その結果は今日のお手元の参考資料に もありますが、それらを検討会報告書として、このメンバーでまとめております。した がって中皮腫については2年ほど前に行ったものに、今度は環境のばく露という観点を 付け加えて検討するというイメージで、議論をしていきたいと思いますが、それでよろ しいですね。  肺がんについては、2年前はあまり突っ込んだ議論はしていません。もともと昭和53 年に、初めて石綿による肺がんの認定基準ができたわけですが、正直言って非常に立派 な内容であったと、私どもは理解しております。昭和53年の報告書も参考資料としてあ りますが、平成15年のときは、あまり突っ込んだ検討をしていなかったので、今回改め て環境ばく露という観点も含めて、これから検討することになると思います。ただ、こ れはなかなか大変な作業になりますので、とりあえず本日、第1回目としては中皮腫に ついて議論をしていきたいと思います。  まず資料3の3、「中皮腫の取扱い」ということで、石綿との関連性、石綿以外の原 因について、委員の先生方のご意見をお伺いしたいと思います。今までのところ、8割 が石綿ばく露が原因であるという話がありますが、三浦委員のご経験ではどうでしょう か。 ○三浦委員  前に私が勤めていた横須賀共済病院の中皮腫症例の4%は、石綿ばく露歴がわかりま せんでしたが、96%は根掘り葉掘り聞いたり、住んでいた家まで行ったり、ご家族に聞 いたりしたものを含めて、ばく露歴がありました。現実にそれ以外の発がん物質に出会 うチャンスは、残りの4%の方もほとんどありませんでしたので、私の感覚では90%以 上、もう少し多く95%は、石綿によると考えていいと思います。むしろ石綿が関係ない としたら、それは1例1例きちんと、なぜそうなったかというのを決めなければいけな いというつもりで、いつも診療しています。岸本委員はどうですか。 ○岸本委員  実は、我々は三浦委員のように家まで行くとか、家族にきちんと聞くようなところま では力がありませんでした。私の例を見ると、7割ぐらいかなと思っています。我々も 職業歴を聞くようにはしていますが、三浦委員とは違って家族内ばく露、近隣ばく露と いう、いわゆる低濃度ばく露までは聞けなかったというところは、反省しなければいけ ないと思います。  やはりポイントは、40年を経て出るということです。40年、50年前の職業歴等を聞け ば、1年とか2年間という短期間の職業性ばく露がわかるという例は、実際にありまし た。しかし今回のように、いわゆる家族内ばく露や近隣ばく露がこれほどあるとは、私 どもも思っていなかったのです。私の所で家族内ばく露をした方というのは、この5年 間で言えば1人いらっしゃったぐらいで、近隣ばく露でというのも、私が呉にいたとき に1例あったぐらいで、三浦委員の所に比べると少ないのが現状です。むしろ職業によ って起こった中皮腫のほうが多く、総じて言えば7割程度です。最近の患者でも、実際 にいくら聞いてもわからない例があります。それは本当の意味での環境ばく露なのかも しれません。三浦委員は9割以上とおっしゃいましたが、私の所ではやはり7割ぐらい ではないかということです。 ○森永座長  むしろ石綿以外の原因ということで話をしていくと、事例報告はありますよね。 ○三浦委員  今はもう全くありませんが、昔はトロトラストという発がん物質を使った検査があり ましたので、トロトラストによる発症、また日本では職業ばく露として、放射線技師が 腹膜中皮腫を発症した例があります。あと、かなり昔は透視をしたりしていますので、 人工気胸術をやるときにかなりの放射線を浴びている可能性が考えられます。外国で は、子どものころに腎臓がんでウィルムス腫瘍というのがあるのですが、その治療とし て化学療法をしたり、放射線療法をしたりした後、無事に助かっても、その後中皮腫が 発症してきたという報告があります。いずれも何らかの原因がはっきりしているという のが特徴で、アスベスト以外のどこかに発がん物質との関わりがあるのではないかと、 私自身は考えております。ただアスベスト以外の一般人口からの自然発症というのは、 たしか100万人に1人ぐらいと言われていますので、その辺はゼロではありませんが。 ○岸本委員  最近、この症例報告はあまり見ないのですが、10年前から15年前までは、遺伝的な要 因のある疾患ではないかということで、私の所でも母と息子で中皮腫が出たという例が ありました。実際に、ある染色体、ある部分の遺伝子に変異があるということは知られ ていますので、これはあるだろうと思うのですが、実際の報告はあまり聞いていませ ん。  また昔言われていたのは、胸部を強く打撲した後に出るということです。私は職業歴 のない女性で、そういう例を見たことがあります。胸部を強く打撲した後に出ると言っ ているのが本当かどうかはわかりませんが、そういうことも原因ではないかと言われて います。  最近いちばんホットな話題になったのは、SV40(Simian Virus 40)というもので す。実は我々の研究グループでも、20例ほど中皮腫の組織内にSV40があるかないかと いう検討をやり、2例だけあったというデータを持っています。ただ、この2例はどち らもアスベストばく露のあった方で、SV40だけに中皮腫を発がんする作用があるの か、それともアスベストの発がん性を誘導するのかという2つの議論があります。それ とSV40は関係ないと言っている国々もあるので、国によってこれがイエスだとかノー だとか分かれています。日本ではどちらかというとネガティブなデータではないかと思 います。本当にSV40が中皮腫の原因になるかどうかは、まだ議論の多いところではあ りますが、我々のデータから言えば、そういう例も確かに存在したということは言える と思います。ただ多施設での大きなスタディというのは、日本ではないというように今 でも思っております。  あと、三浦委員がおっしゃった例ですが、トロトラストも戦後間もなく使っていた放 射線の造影剤なので、これによる肝臓がんというのは非常に問題になったのですが、本 当にこれで中皮腫が発生した人は、現段階ではほとんどいないのではないかと思ってお ります。 ○井内委員  SV40について言えば、人の中皮腫のがん細胞からDNAを取り出して調べると、確 かにSV40がつくる、あるいは持っている抗原が証明されるのです。ですからウイルス のゲノムが中皮腫のがん細胞の中に入り込んでいるのではないかというのが、10年ぐら い前にたくさんの論文に出たわけです。それと1960年代に北ヨーロッパで、ポリオのワ クチンの中にSV40ウイルスの汚染があったという事実があって、そのことがヨーロッ パにおける中皮腫の発生と関係があるのではないか、という疑いが持たれたことがあり ます。3つ目は、ハムスターを使った実験でSV40を胸腔内に入れますと、確かに中皮 腫ができますので、そういう事実を重ね合わせて一時、ウイルス説というのが出たわけ です。  いま岸本委員も調べたとおっしゃいましたが、我々も調べました。私たちの場合は20 例調べて、確かに4例ほどゲノムが入っております。しかしSV40というのはご存じの ように、非常に広く体内に分布しているウイルスですから、特に中皮腫だけにあるもの ではないので、その特異性という面から考えて問題があろうと、私自身は思っていま す。またSV40だけで中皮腫が起こることはないにしても、SV40というのは、細胞を 不死化する、インモータライゼーションと言って、細胞が死なないようにする1つの作 用がありますので、それとアスベストばく露の協調作用みたいなものも、考えておく必 要はあろうと思います。しかし自分自身のいままでの経験では、ウイルスだけで中皮腫 が起こるというのは否定的だと思っております。  遺伝要因については、トルコのカッパドキア地方でのエリオナイトの話で言われてい ることは、同じばく露があってもなる人とならない人とがいる。なる人はわずか5%ぐ らいで、中皮腫になる人の数も少ないのではないか。だから遺伝要因があるのだと言い ます。私自身は単純に遺伝性腫瘍という意味ではなくて、例えば同じアスベストにして も、エリオナイトみたいな繊維にしても、入ってきたときの感受性と言いますか、アス ベストならアスベストが入ってきて中皮細胞が、がん化するメカニズムの中で、たくさ んの遺伝子が動くと思うのです。その動きやすさというか、そういうことに遺伝的要因 が関係する可能性が大きいと思っております。これは証拠があって、言っているわけで はないのですが、中皮腫は遺伝性の腫瘍だという考えは、今のところ除いておいてもい いのではないかと思っています。 ○森永座長  精巣鞘膜の中皮腫というのは、少しは症例報告があります。ですから精巣鞘膜の中皮 腫や心膜の中皮腫というのは、胸膜中皮腫に比べると、若干アスベスト原因以外のもの も混ざり込んでいる可能性はあります。部位別に考えるとどうでしょうか。 ○三浦委員  数が少ないですから、原因を論ずるほどの症例数はないと思います。心膜中皮腫で は、遺伝性のものは報告例があります。また、いまは手術をするので、そんな治療はや らないのでしょうけれども、手術ができないころの時代は、心嚢内にタルクを注入して 部分的にくっ付けて、外から血管を誘導していくという考えらしいのです。しかし後に なって、タルクに入っていたアスベストが原因で心膜中皮腫が出ると。これは報告例が あります。それも遺伝性とはいっても、やはりアスベストに起因するということですの で、ほかにもあるかもしれないけれど、特定するのはなかなか難しいと思います。むし ろ心膜までアスベストが到達して、そこで心膜中皮腫を発生する頻度というのは、胸膜 中皮腫に比べれば非常に少ないというように、私は解釈しています。 ○森永座長  どちらかというと日本は心膜中皮腫が多すぎるのです。ですから1つには診断の問題 がありますね。どうですか。 ○井内委員  心膜と胸膜のどちらが原発かという判断に困る例は、たくさんあります。実際に中皮 腫というのは進展、浸潤の早い腫瘍ですから、気付いた時点で、もし心膜と胸膜の両方 にあった場合、どちらが原発でどちらが進展巣であるかというのを決めるのは、ある一 時点で診るのは大変難しいというのは事実です。特に縦隔寄りに出た場合は、大変慎重 な原発巣の推測が必要だろうと思います。例えばまだ全然胸水が溜まっていない段階で 心嚢水が先に溜まったような、きちんとしたエビデンスがあれば、心膜原発だと言えま すが、そうでなければ、やはり常識的には胸膜のものが心膜に波及する確率のほうが高 いと考えて、どうしてもそちら寄りの考え方から攻めていくようになるのだろうと思い ます。ですから心膜中皮腫と言うための診断のほうが、より厳しくやるべきだという考 えでおります。 ○三浦委員  まさしくそのとおりです。CPC(臨床病床カンファレンス)でひっくり返った症例 があります。担当の臨床医と病理医がたまたま若い先生で、剖検したときは腫瘍が心膜 にガッチリありましたから、心膜中皮腫という診断を付けたのです。しかし、そのとき にカンファレンスの結果は完全に胸膜中皮腫だったのです。なぜかと言いますと、明ら かに胸水が先に溜まっていて、その時点では心嚢には何もなかったのです。画像上その 経過を追えますから。ところが剖検時には心膜の所がいちばん厚いということで、心膜 中皮腫と付けられたのです。診断に当たって特に心膜中皮腫のようなものは、臨床経過 が非常に大事です。診断をするときに珍しい疾患のほうに持っていくというのも、あり がちなことだと思うのです。やはり井内先生がおっしゃるように、頻度の少ない疾患の 診断は慎重にする必要があると思います。 ○岸本委員  そうですね。私も典型的なものは1例だけありました。やはり原則的には心嚢に水が 溜まって胸水は溜まらないというのが、本当の意味での心膜中皮腫だろうと思うのです が、三浦委員が今おっしゃったような症例は結構多いみたいで、最終的な解剖のとき に、心膜があたかも腫瘍の主だというような事はあります。病理の先生は「心膜中皮腫 だったのではないか」と言われて、それを説明したら、「それでは胸膜ですね」という 例は、私の所でもありますから、その辺りは診断が難しいのではないでしょうか。 ○森永座長  私どももがん助成の研究班でやっていますが、中皮腫と言ってもいろいろなタイプが あるわけですから、中皮腫の確定診断はなかなか難しいです。しかし上皮型は、かなり の診断ができるようになってきているわけです。 ○井内委員  最近の免疫組織化学染色による検討は、たくさんの症例を用いて研究班でやらせてい ただいているので、精度は少しずつ上がってきていると思いますし、全国の医療機関の 病理医にそういう情報を流すことも、一生懸命やっております。実は明後日も病理学会 のほうで話をいたしますが、一生懸命啓発活動をして、正しい診断に至るようにやって いくべきだと思います。  以前の中皮腫はどうだろうかということで、厚生労働省のがん研究班で、最初にアン ケート調査をして、856例を集めさせていただきました。そのうち組織ブロックを貸し てくださいと言ったら、127例貸していただけたので、それを詳細な免疫染色での検討 をさせてもらって、診断を全部やり直しました。そして難しい症例は、いわゆる専門の 病理医の何人かに集まってもらって検討会をやった結果、127分の11が除外されました。 つまり中皮腫だと診断されているけれども、11例は違うということがわかったというの は初めてのデータで、大変興味深いと言うよりも、非常に重要なことだと思います。つ まり10%ぐらいは診断的に危ないものがあるのではないかということです。確かに診断 の精度はどんどん上がってきてはいるけれども、まだ100%ではないというところを、 我々としては是非覚えておいていなければならないことだと思っています。  森永座長が今おっしゃったように、上皮型はかなり精度が高くなってきたと思いま す。しかし二相型を誤解している場合、あるいは肉腫型と言ってほかの肉腫との鑑別が 必要な例は、実はまだ正しい診断に至っていない、誤診がまだありそうな気がします。 その辺はもう少し皆さんの、パネルと俗に言う症例検討会で詰めるようなシステムを是 非つくっていく必要があるのではないかと、日ごろ感じています。 ○岸本委員  井内委員が言われたとおり、臨床医が腫瘍組織まで採って、免疫組織などで検討され ている例はいいのですが、そうではなくて、細胞診だけということがあります。例えば ヒアルロン酸がいま非常に感度が上がってきて、10万ng/ml以上あれば、中皮腫として ある程度の診断意義があると言われているのですが、これが5万とか8万というように 高いから中皮腫だ、というような具合で診断を付けていらっしゃる臨床医がおられま す。上皮型も非常に診断精度が高いというようにおっしゃっていますが、実際の労災認 定の事案を見ても、肺がんと中皮腫との混同があるというのが現実です。  臨床医が中皮腫だと診断している例が、本当に中皮腫であればいいのですが、いま井 内委員もおっしゃったように、明らかに127例中11例は違う病気を中皮腫と診断されて いるというのが、一般臨床ではあるのです。組織を診ても127分の11ですが、画像で胸 膜だけが厚くなっているから中皮腫だとか、細胞診もスクリーナーの方が、「これは中 皮腫だ」と言ったのを鵜呑みにして、それだけで中皮腫だという診断が実際にあるので す。中皮腫がアスベストによって起こった確率が非常に高いというのは、それはそうで すが、その診断に至る過程というのを、医学的にきちんと確立させていかないと、そう でない方を中皮腫だということで補償の対象にする可能性があります。これを機会にそ の辺を日本全体で統一していく、中皮腫パネルや登録制度といったものを確立させてい き、本当に中皮腫だと診断された方を、きちんと補償していく制度にしていただきたい と思っています。  実際に中皮腫というのは、三浦委員や私たちはかなり昔からやっていましたが、今回 こういうことがあって非常にクローズアップされたのです。それまでは診断の基準とい うのが非常に確立されていなかったので、これは非常に予後の悪い病気だから、組織を 採っても採らなくても長く生きられない。だったらもう肺がんであっても中皮腫であっ ても、どちらでも治療はないというようなニュアンスで受けとめられていたというの も、私は決して大げさではないと思います。これを機会に是非、診断的な指針というも のをきちんとして、どの臨床医にもわかるような形で確立していけば、より精度も上が るし、本当に補償される方は補償されて、そうでない方はそうしないということになる のではないかと思っています。 ○神山委員  中皮腫の診断がなかなか難しいというのはよく分かりますし、そういう意味では岸本 委員の、確定診断の技術、レベルを上げるという意見も大賛成ですが、井内委員の先ほ どの紹介について質問があります。127例のうち11例が免疫染色で中皮腫ではなくなっ たというのは、非常に貴重なデータだと思います。併せて石綿繊維の定量とか、中皮腫 でないならば肺がんとなるのかどうかという点については、いかがだったのですか。 ○井内委員  これは全国、北海道から九州までの医療機関の材料のうち、腫瘍のブロックだけをお 預かりしているので、非腫瘍部の所見についての検討は全くされていません。 ○神山委員  ばく露データはないのですか。 ○井内委員  ばく露データは裏付けとしてはありません。一応臨床的には、「アスベストばく露歴 あり」「なし」ということは書いてあるのですが、それが確かかどうかというのは全く わかりません。 ○神山委員  職歴的にも何もないのですか。 ○井内委員  実は、アンケートは病理中心にやりましたので、そういうところはあまり詳細に取っ ていないのです。ほかの所でやられているような職歴の確からしさというのは保証でき ません。  除外したのはどういう例かということですが、たしか11例のうち4例は、いわゆる線 維性胸膜炎というもので、炎症を繰り返したために肥厚した胸膜の所を小さく生検をし て、肉腫型あるいは線維形成型という、線維性の結合組織の増生の非常に強いタイプの 中皮腫という診断をしてあるということです。病理で中皮腫を多く経験をした人がみて みると、どうみても違う、やはり免疫染色をしても中皮腫だとは裏付けられないという 例があります。それ以外に他の型の肉腫であるというのが2例です。また上皮型は大丈 夫だと言いましたが、実は卵巣がんと腹膜原発の乳頭状がんというのが1例ずつありま した。確かに肺がんも2例あったと思います。非常に多様です。  ですから、その辺りの情報をきちんと我々が流して、今後中皮腫の診断をしてもらう 場合に注意しなければいけない点というのを、まとめておく必要があるのではないかと 思います。それがいま岸本委員がおっしゃるガイドラインという格好になるのでしょ う。こういうものが間違いやすいから、このときは是非こうしてほしいというのを、で きるだけ早くまとめてみたいなと思っております。 ○森永座長  その話はこの検討会とは別の話で、できるだけ早く、とりあえずは胸膜中皮腫の診断 指針を作るということで、いま我々もがん助成の研究班のほうで努力しております。皆 さんの意見をまとめてみると、やはり病理診断の難しい事例については、パネルでの検 討が必要というようにまとめてもいいのかと思います。もう1つには、非常に予後がよ くないという病名の診断が付くということは、患者さんにとってはかなりショッキング なことになりますよね。いままで岸本委員や三浦委員の所で、かなりの症例を診られて いるわけですが、予後についてはどうでしょうか。種類のタイプ別にもよるとは思うの ですが。 ○三浦委員  この本(産業保健ハンドブック「石綿関連疾患」)のどこかにグラフを載せておりま すが、うちでは2年生存率が大体30%ぐらい、中央値が10数カ月ということで、非常に 悪いのです。ただ昔は、2年以上長生きしたら中皮腫ではないと言われていた時代もあ ったのですが、今は診断技術がだいぶ進歩しましたので、それはよくなっています。一 応中央値が15カ月で、平均が21カ月ぐらいですから、やはり予後は非常に悪い。また手 術をしても、やはり同じようなことが言えます。  いま東邦大学の外科におられる高木先生が、国立がんセンターの土屋了介先生たちと 一緒にアンケート調査をやっているのですが、その調査でも手術をしてよかったのは、 たしか上皮型です。手術には、全部を取ってしまう方法から少し残ってしまう方法まで あるのですが、術式では予後は変わりませんでした。アメリカのルーシュさんたちも上 皮型がよいというデータを出しています。それから1期がよくて、2期、3期、4期と 行くにつれて、手術をしてもあまりよくないわけです。ただ最近の手術は、胸腔の中に 入らないで、外側から一塊として取る術式がだいぶ浸透しましたので、うまく取れさえ すれば、かなり望めるところまではきています。いっぱいやっておられるのは岸本委員 の所ですが。 ○岸本委員  私どもの所では、アスベストばく露歴のある方で、胸膜中皮腫は7割から8割が胸水 を伴ってきます。画像上、中皮腫だと診断できない場合も、積極的に胸腔鏡をやりま す。CTで診るよりも胸腔鏡で診ると診断がしやすいので、積極的にやろうということ でやっております。いま三浦委員がおっしゃったように、ステージ1、もしくは悪くて も2のものを手術すれば、非常に長く生きていらっしゃる方もおります。いちばん長い 方で5年生存率の方も出ております。  このように手術のできる方は非常にいいのですが、そうでなければ上皮型で大体12カ 月、肉腫型で6カ月という生存期間になっております。手術ができた方はよかったけれ ども、そうでない方には、悲惨な病気であるということは間違いないと思っています。 化学療法はビノレルビンとジェムシタビンというのを使っています。確かに上皮型の方 で効果のある方は、2年以上生きていらっしゃる方もいます。  アリムタ(ペメトレキセド)とシスプラチンで併用療法を行っている方が5人いらっ しゃいまして、評価できる方で2人ほどは効いていらっしゃる方がおられますが、アメ リカのデータの220数例の比較試験を見ても、シスプラチン単剤で9カ月ぐらい、アリ ムタを入れて12.1カ月ぐらいのデータしか出ていません。唯一エビデンスがあって効い たという併用療法でも、この程度でありますから、この病気が現段階では非常に悲惨で あると言えるのではないかと思っています。  私のところで治療した肉腫型というのは、ほとんど奏効していないという現状であり ますから、このタイプは半年という結果が出ています。ですから、重篤な病気で、予後 も非常によくないと。であれば、早期の症例を早く見つけてあげて、肺胸膜全摘術がい いのかはわかりませんが、我々のところではこれをやった方でいい結果は出ています。 ○森永座長  それぞれの病院の中でのタイプ別の成績で見ると、大体上皮型のほうがよくて、肉腫 型のほうが悪いというのは共通して出ています。ですけれども、タイプ別の分け方その ものが全く同じような基準で分けているわけではないので、その成績をそのまま比較す ることは現時点ではできない、というのも事実だと考えていいのでしょうね。 ○井内委員  先ほど言った127例の検討で、タイプがオリジナルな診断と、我々が検討した後の診 断でどう変わるかというのをやってみたのですが、上皮型の割合がオリジナルの診断だ と47.3%ぐらいだったのが、62%ぐらいに上がりました。というのは、ヨーロッパで大 体60%ぐらいが上皮型と言われていて、それに近づいたと思っています。別にそれに合 わせたわけではなく、結果的にそうなったということは、少し日本の医療機関の病理医 の診断がばらついているので、統一するための作業が必要だろうと思いました。  どうも日本の病理は二相型が好きで、二相型にしやすい傾向を掴んでいます。これは いまからきちんと診断の質を上げると同時に、型の診断も一致するようにしていかない といけないと思っています。 ○森永座長  それはもしかして二相型だから、逆に中皮腫と診断を付けやすくなっているわけであ って、病理の捉え方で、これくらいの程度であれば上皮型に分類したほうがいいのだと いう目合わせができていないことも原因ではないのですか。 ○井内委員  おそらくそうで、先ほどの127例のうち11例が違う病変だったと言いましたが、逆に 肺がんや肉腫だという診断の中に、実は中皮腫例がある可能性もあるわけです。それは 拾っていないわけで、森永座長が言うように二相型だと中皮腫から考えるから、結果的 にはそうなったという見方はできるわけです。  ですから、我々がやらなければいけないのは、もしこの環境ばく露の患者がおられた として、その人に他の診断が付いていても、中皮腫であるのかどうか、診るべきものは 診る必要があるだろうと思っています。その中に中皮腫だという診断を付けられるべき 人が外れている場合もあると思いますので、ぜひ組織の検索はやらせてもらいたいとい うか、救済の前提としてやったほうがいいのではないかと思っています。 ○森永座長  本当に診断が難しいので、診断が間違いない事例で、しかも三浦委員、岸本委員のよ うにアスベストのことがよくわかっている先生が、いろいろばく露歴を聞いていくと、 本当はアスベストのばく露有りの方がかなり見つかるだろう、ということぐらいしか言 えないですね、今のところ。  ヘルシンキで、フィンランドの研究所がやったミーティングがありますが、そこのコ ンセンサスレポートを読みますと、グレートマジョリティ・オブ・メソテリオーマ(中 皮腫)がアスベストに関連があるという表現になっています。要するに、診断が間違え なければ、かなりの例はアスベストのばく露があるということだろうと思います。そこ で中皮腫とアスベストばく露との関連を考えると、手元の資料にあるように、もう1つ は潜伏期間という問題があります。資料3の検討事項には、石綿との関連性、石綿以外 の原因、確定診断の方法、石綿ばく露に特徴的な医学的所見との関係、潜伏期間、予後 と書いてあります。  潜伏期間については、すでに平成15年の検討会のときに、私どもも過去の認定事例を 検討すると、潜伏期間は大体40年と出ています。最少が11年と6カ月となっています。 これは三浦委員の経験された方です。私どものいままでの事例の中では、11年6カ月が 最少となります。そうすると、11歳未満の中皮腫はどうなるのかという、ややこしい問 題が出てきます。  事務局で用意している資料7ですが、下段のほうに「中皮腫の死亡者数の推移」があ ります。平成7年以降がICD-10による数字で、「悪性中皮腫」の死亡数の推移があ ります。その裏に、年代別の死亡者数の推移がありますが、これでいくと平成7年から 平成15年までの間に、15歳から19歳までの方が5人おられます。20歳から24歳までの方 が7人おられます。25歳から29歳の方が16人おられます。私どもが平成15年に検討した ときに、最少のアスベストばく露による中皮腫の方は30歳で発病されているということ ですので、30歳未満の方はどのようなばく露があったのか、少しややこしい話ですが、 そのような問題になります。ここの扱いについても問題になってくると思います。若年 の方の中皮腫というのは、病理パネルにかけるほうがいいのでしょうね。 ○井内委員  そうでしょうね。先ほど言いました127例全部を統一的にやらせてもらった中の最少 年齢が17歳でした。この前の研究班で質問されましたが、どのようなばく露なのですか と。実はこれはブロックだけ借りている症例ですので、どういうばく露なのか実際にお 尋ねするのがいいのですが、いろいろな立場で、個人情報保護の立場で、「これは組織 の検討だけさせてください」ということでお借りしていますので、尋ねていません。し かし、現実には中皮腫であることは間違いないと皆で決めたわけですから、そのような 事例は、中皮腫の診断を確定することと同時に、ばく露状況を1例1例確認していく作 業が必要なのだと思います。 ○森永座長  それについて他の委員からご意見はありますか。 ○三浦委員  難しいですね。若い方は必ずしもアスベストによらない可能性もあるので、まず中皮 腫を確定して、数は少ないですから、若い方はアスベストばく露の状況などを全例調べ ることしかないのではないかと思うのです。現行の方法のように、例えば胸膜プラーク があるかないかとか、肺内にアスベストの繊維がどうだとかを調べる必要があると思い ます。子どもの頃から住んでいたご家族やご近所の方が中皮腫だといえば、かなり濃厚 にはなるのですが、私が経験した、1歳から4歳ぐらいまでの子どもの頃に真っ白にな って遊んでいたという方が発症したのは、40歳近くです。アスベストだとすればある程 度年数が経ってからという感覚はあります。若い方はアスベスト以外の可能性もありま すから、そこだけはきちんと決めなければいけないと思うのです。 ○森永座長  ばく露濃度が高いと比較的若い間に発症するような印象はないですか。 ○岸本委員  あります。私のところはクボタの症例もいただいて検討しましたが、森永座長がおっ しゃられるように大体50歳代で発症されます。私の病院の造船関連の方というのは、む しろ70歳代にシフトするということで、私も論文に書いたことがあるのですが、ばく露 濃度が高いと潜伏期間が短いのではないかという印象がありますが、三浦委員はいかが でしょうか。 ○三浦委員  その辺に目を向けて検討したことはないのですが、メカニズムとしては、ばく露濃度 が高ければ壁側胸膜あるいは腹膜にいくアスベストの量も多くなります。そこに到達し たアスベストの量と年数により確率的に発症してくるわけですから、当然濃度が高けれ ば若く発症する可能性は十分にあると思います。 ○森永座長  三浦委員が先ほどおっしゃられた胸膜プラークとの関係ですが、これは平成15年の労 災の認定基準のときには、中皮腫については職業ばく露期間が1年以上で、かつ、胸膜 プラークの所見があるか、または石綿小体あるいは石綿繊維がある場合に労災の補償に するとしています。どちらかの医学的所見がない場合、あるいはばく露期間が1年未満 の場合は、本省に協議するということで、それだけで業務外にしているわけではないわ けですが、今まではそのような基準でいっているわけです。その辺についてご意見はご ざいますか。私は丁寧に調べれば、ほとんどの中皮腫の患者は胸膜プラークがあると思 うのですが。 ○三浦委員  私も多分あると思います。普通に臨床的に画像でとらえられるのは、いまのHRCT で80%ぐらいだろうと思うのです。ついこの間も剖検して初めて胸膜プラークが確認で きた症例がありました。  小さなものは組織を採らないとわからないのですが、見ればほとんど全ての症例に胸 膜プラークは証明できると思います。ですが、そこをどうするかです。いまの労災認定 でも、剖検させていただいたり、手術して外科の先生にきちんと記載していただいてい ればわかるのですが、手術はしているけれども壁側の胸膜を全然見ていないということ も結構あります。特に、中皮腫の場合は片側を全部取ってしまうので、反対側を覗くわ けにはいかない、反対側の胸腔にカメラを入れて覗くというのは危険を伴います。それ ができないので、胸膜プラークを証明しなければいけなくなると、かなりきつい作業に なると思います。 ○森永座長  胸膜プラークを画像で把握するいちばんいい方法は何ですか。 ○審良委員  HRCTだと思います。いま三浦委員がおっしゃったように、それでも80%です。組 織(で診断される中皮腫)の20%は無理という可能性があります。 ○森永座長  いま中皮腫の患者さんについてどこまでやってくれているかということもありますよ ね。 ○岸本委員  いまは家族を含めて患者側が、労災認定してほしいという要望が非常に高まっている と思います。私のところもこの間あったのですが、画像で胸膜プラークがないというこ とで、職業歴は疑われるが明確ではない例で、亡くなったら解剖してきちんと診てほし いというご遺族の方も増えていることは間違いないと思います。私の例は解剖しても胸 膜プラークはないということで、結局アスベスト小体の数で労災認定の方向に向いた方 はいらっしゃいますが、そこまできちんとやってほしいという患者側、ご遺族の要望は 確かに高まっていますが、どこでも解剖ができるのかというと、それもなかなか難しい という現実があります。肉眼的に胸膜プラークを確認するのが一番いいのですが、果た してそこが全てにできるかどうか疑問があります。  いわゆる近隣ばく露でも、家族内ばく露でもなくて、本当の意味の環境ばく露があっ て発症された方の場合に、剖検させていただけるかどうかがいちばん難しいかと思いま す。解剖させてほしいということは臨床側にとっても言いにくい面は現実問題としてあ るかと思います。 ○井内委員  この前の奈良の研究会で三浦委員もお聞きになったと思いますが、25歳ぐらいの若い 男性の胸膜プラークの症例を本田先生がご提示になりました。私はあれを見てびっくり したのですが、小さいサイズの壁側胸膜のプラークでしたが、何せ年齢が若いです。い ままでに労災の認定のときもそのような議論をしましたが、10年未満ではまず胸膜プラ ークは起こりません。潜伏期間が少なくとも15年とか30年で起こるものだと思っていた ので、25歳の方が胸膜プラークを持っていることはちょっと考えにくかったのです。実 際にあるのだなとびっくりしました。  そのときに、例の中学校の吹付けアスベストの話もされましたが、まだ確証はありま せんが、そのような形でも胸膜プラークは起こるのかなと私は思いましたが、三浦委員 はそのときにどう思われたかなとおたずねします。 ○三浦委員  たまたま自然気胸を起こされたので、胸腔鏡で覗かれました。あの先生は胸膜プラー クを数多く見ておられるので、わかったのです。最初のばく露から10何年ぐらいは経っ ているわけですから、起きてきても不思議はないと思います。画像上でわかってくるの は大体15年ぐらいと言われていますから、その前の段階かなと、あのときはそのように 思いました。 ○井内委員  環境ばく露でも、たまたま気胸を起こしたために胸腔を見るチャンスがあったので見 つかったけれども、実際にあのような症例がある可能性は高いからということになりま すかね。しかし、それを画像上で見つけるのは難しいですよね、そこをどうするかとい う問題があります。 ○森永座長  それは肉眼で確認したということですか。 ○井内委員  そうです。胸腔鏡で小さな白い結節が確認されました。 ○森永座長  おそらく画像ではまだ発見できないですね。 ○三浦委員  生検をしています。 ○森永座長  おそらく10数年前のばく露でしょうね。 ○岸本委員  切開すればわかりますけれども。 ○神山委員  20匹、30匹くらいのラットの動物実験ですと、6カ月、12カ月ぐらいは全く出ないで す。そこから急激に出てきますから、なぜそれ以前に出ないのかのケース、潜伏期間中 に何が起きているのかは解明されていないと思うのです。それを解明すれば、人間の場 合でも潜伏期間の長短はあるのでしょうが、短いケースの人が特殊なのか、統計的に起 き得るのかはわかるのではないでしょうか。 ○森永座長  いろいろ議論をいただきましたが、整理をする上でいちばん大事なことは、中皮腫と いう診断がいちばん大事だという話はコンセンサスとして得られたとは思うのですが、 中皮腫の診断について、いまのところWHOなどの国際機関でのガイドラインはありま せん。ですから、私どもの研究班としては早急に診断指針については出せるように努力 します。これは疑わしい事例についてはパネルで検討することが必要で、病理組織診断 でそのようなパネルを設けて検討すべきだ、というまとめでよろしいですか。 ○井内委員  できるだけ病理組織が採れるように努力していただく、それは大変難しいことを臨床 の先生にお願いすることになるのかもしれませんが、そこのところが採れない、患者が 大変苦しんでおられるのに組織を採るなんて、そのようなことはできませんと言われる と、非常に困ってしまいます。そこをどうするか。 ○三浦委員  疑わしい症例をどこで決めるかです。原則的には組織標本、どうしてもない場合には 細胞診標本は最低限必要です。検討する必要が生じたとき、何かの疑問が出たときに は、検討できる材料があることが大事ではないかと思うのです。そうしないと診断の確 かさがかなり曖昧な集団が出来上がってしまいます。中皮腫は病理診断がないと、いま のところ100%診断できない病気です。肺がんなどは画像診断だけで手術してしまって も大丈夫ですが、中皮腫の場合には病理診断がなければ診断できない疾患です。  診断の根拠となる標本は、複数の目で見ることをいつでも可能にしておかないといけ ないと思うのです。いかがでしょうか。 ○森永座長  そうしますと、しかし中皮腫という診断が間違いなければ、これはほとんどは石綿と 関係があると考えていいので、幅広く救済するという考えから言えば、大体それはいい のではないかと、そういう考えでよろしいのでしょうか。 ○岸本委員  そうですね、アスベストでないと診断するのはいちばん難しいと思います。これはア スベストでなくて、これが原因だと断定できるものとして、いま三浦委員が言われたよ うなトロトラストとかがはっきりすればよいと思いますが。アスベストでないという診 断がいちばん難しいとなると、何らかの形で石綿にばく露したということで発症したと 考えなければなりません。三浦委員の所がきちんと聞けば90%以上というデータもあり ます。ですから、診断さえ間違えなければ、まずアスベストと考えていいのではないか と思いますが、いかがでしょうか。 ○井内委員  そのときに中皮腫であっても、先ほどの年齢の問題です。30歳以下であったら、そこ は念押しというか、ばく露の状況を聞くことをより詳細にしないといけない1つの要素 があります。中皮腫であれば99%間違いないので救済ということで、私も基本的にはい いと思うのですが、年齢のことだけは少し気になります。 ○森永座長  心膜中皮腫とか、精巣鞘膜中皮腫とか、非常に稀な部位の中皮腫、これは欧米ではほ とんどないです。日本では中皮腫全体の罹患率が高くないのに結構あるのですが、こう いうのも一応は確認をしてみる必要があるかと思います。 ○井内委員  そうですね。他のものがより混じっている可能性があります。 ○森永座長  胸膜中皮腫であればというような考え方で。女性の腹膜は私も疑問があると思ってい るのですが。 ○岸本委員  そうですね。日本は女性の中皮腫が外国と比べて多すぎますよね。 ○森永座長  しかし、中皮腫と診断が付くからには、主治医なり患者には、どこでアスベストのば く露があったかの自己申告はしてもらって、それはデータとして今後に活かすようなこ とはしないと駄目でしょうね。 ○職業病認定対策室長  中皮腫患者の何割ぐらいが手術されていますか。つまり細胞診程度ではどうもという 話があって、組織診断をしなければならないとなりますと、手術した患者の分について は可能になってきますが、手術適用なしの方については剖検まで待たなければならない ということになりますが。 ○井内委員  生検というものがあります。胸腔鏡といって、穴を開けてファイバーを入れて、小さ く組織を採ってくるというのは確定診断を付けるためによくやる方法ですから、決して 手術ができなかったら全然材料が採れないということではありません。 ○職業病認定対策室長  生前の患者にも全てそのことは可能だということですか。 ○井内委員  そういうことではないのです。例えば胸水がたくさん溜まっていて、呼吸不全の強い 方にはしませんよね。どのくらいの方が生検になっているかは、実際は岸本委員や三浦 委員のほうがよくご存じかもしれません。組織を採れる率というか。 ○森永座長  胸腔鏡で肉眼的に観察するということは、肉眼的な所見も他のがんとの鑑別に実は非 常に重要なのですよね。 ○岸本委員  いま局所麻酔下胸腔鏡というのがあります。全身麻酔下胸腔鏡、いわゆるVATSと いうのはかなり患者さんに苦痛を強いるのですが、中等度、胸水の溜まっている患者 に、局所麻酔だけを打って、そこに穴を開けて中に気管支ファイバーのようなものを入 れて中を見て、組織を採るというのは、それほど患者に苦痛を強いることはありませ ん。これだと肉眼で見て、異常なところを採ってくるということで、非常に診断の率も いいし、患者にもあまり苦痛を与えないのでいいかと思います。井内委員の言われたよ うに、患者の一般状態が非常に悪いのに、中皮腫の診断をするためにやるということは いたしませんが、それほど重症でない方には極めて安全にやれる方法だとは思います。 ○職業病認定対策室長  そうしますと、半数以上の患者については治療中に確定診断を付けることができる と。 ○岸本委員  この病気をきちんと診断しようと臨床医が思えば、胸水が溜まっている患者、もしく は胸水が溜まらなくてもCTガイド下やエコーガイド下で針生検をすることができま す。組織学的に確定診断をやろうと臨床医の先生方が思えば、それはそんなに難しいこ とではないわけで、来られたときの一般状態が非常に悪いとかを除いて、胸腔鏡はそん なに難しいことではないと思います。  胸腔鏡もできない方だと、三浦委員がおっしゃられた細胞診という方法で、それもパ パニコロウ染色をしただけで中皮腫だと平気で診断をされているところもあるのです が、それをきちんと免疫染色までやって、他の病気ではなく中皮腫細胞が出ているとい うような、より精度の高い診断方法は目指すべきではないかと思います。そうすれば、 中皮腫のグループが明らかに狭まってきて、間違いないです、ということになると思い ます。細胞診のデータに胸水中のヒアルロン酸値とかを傍証としてデータも入れていく と確診率が高まります。ただ、いちばんいいのは井内委員がおっしゃられたように組織 を診る方法です。病理組織標本を後から他の専門の先生方もレビューできるというシス テムがいちばんいいのではないかと思います。 ○三浦委員  細胞診についてですが、いま日本では細胞診で中皮腫の診断が付きます。付くのです が、出てくる細胞はほとんど上皮型の成分ですから、細胞診で中皮腫と診断が付いても タイプは分けられません。ですから、通常、年齢が若ければ手術適用があるかないかを 知るために、必ず組織を採ることになります。  もう1つは、岸本委員がおっしゃっていたように、普通の細胞診だけで大胆に中皮腫 と診断してくるレポートは非常に多いのです。それだけでは私たちは全く信用できませ ん。何となくそれらしい雰囲気を持っていても、それだけで中皮腫という診断はプロ中 のプロでもできないという話を聞きました。必ず特殊染色をするとか、私たちがよくや っている方法は電子顕微鏡で中皮細胞の特徴をとらえるとか、あるいは細胞がたくさん あれば、それをブロックにして普通の組織と同じように染色すると組織の破片が出てき たりしますから、それで診断が付くなど、いくつかの方法があります。  単純な細胞診だけでは診断は付かないのです。本来の細胞診はがんか、がんでないか だけを決めることが目的なのですが、それから一歩進んで、どんなタイプの悪性腫瘍か まで踏み込む診断技術も開発されています。ですから、全く細胞診だけでは駄目という ことではないのです。往々にして、全くいままでの細胞診だけ、その標本だけで中皮腫 と付けてくることがかなりありますので、細胞診だけの場合にはきちんと手順を踏む、 あるいはもう1回見直すということが必要です。 ○井内委員  原則は組織がいいと思います。しかし、患者の状態によって細胞しか採れないという 場合はそれでもいいけれども、それには単にパパニコロウ染色ではなくて免疫染色その 他の方法で、中皮腫であるという確認が取れること、というような表現を入れておいて いただくと、私としては中皮腫という診断を付けやすくなります。胸水の溜まる患者が ほとんどでしょうから、細胞診をやることは只野室長のおっしゃるところで言えば、 100%近く採れる可能性があります。しかし、易きに流れてしまうと、それで全部中皮 腫になってしまう可能性も無きにしも非ずですから、そこだけは避けておきたいと思い ます。 ○三浦委員  胸膜中皮腫の場合に、胸水が溜まっていても細胞診陽性率は50%強ぐらいなのです。 ですから、残りの半分は細胞診では全くわかりませんので、わかる部分だけですが。 ○岸本委員  それと三浦委員がいつも言われるように、胸水が溜まったすぐのところを採らない と、なかなか細胞診はとらえられないという、それはありますね。ですから、溜まった すぐの細胞を採れば診断の率は上がりますが、そうでないと出てこなくなってしまって 診断が難しいというのはあります。 ○森永座長  そういうことをしていただいている機関は、概ね組織診もしていただけるような医療 機関です。だから、細胞診だけの場合は、これはいろいろな他の検査も含めて総合判断 するしかないということですね。原則は病理組織診断があって、初めて中皮腫と言える わけです。しかし中皮腫といえば、30歳以前の若年者とか、心膜や精巣鞘膜といった稀 な部位、女性の腹膜中皮腫以外であれば、診断さえ確定していればアスベストによるも のだと、ほぼ同義的に考えられるという判断でいいということでしょうね。 ○職業病認定対策室長  そうしますと、細胞診ですと、上皮型は大体6割ぐらいかと思うのですが、二相型、 肉腫型が、細胞診によっては逆に見過ごされるということになるわけですか。 ○森永座長  細胞診はできないのです。 ○職業病認定対策室長  つまり現れないからでしょうか。 ○井内委員  細胞が出てこないので、要は細胞診に頼っていると、中皮腫なのに中皮腫でないとい うことになってしまうわけです。ですから、それだけに頼っていると、そういう方が落 ちてしまうので、それはぜひチャンスを見付けていただいて組織診をやっていただく方 がいいのです。 ○森永座長  いま若年者の問題を言いましたが、そういう方は本当にアスベストばく露が小さな頃 にある事例が見つかってくれば、これは非常に大事な話です。そういうばく露歴につい ては確かに難しいわけですが、これは自己申告するような形で、そういうものはきちん としたサイエンティフィックなデータも集められるようなシステムを作らないと将来に 活かされないですよね。そういうことは事務局も考えていただけるのでしょうか。 ○大臣官房審議官(寺田)  この点につきましてはサイエンティフィックな話としてどういうことが必要かという ことと、制度としてどのような作り方をするのかの両面があろうかと思っております。  制度的に見た場合ですが、この制度は基本的には隙間なく救済するという考え方で、 隙間なく救済するためには非常に長い潜伏期間があることを考えて、どこでばく露した かとか、どういう職歴であるかなどは基本的に問わない設計にしているわけです。そう いう観点からも、費用の負担にしても公費によって負担する部分も検討するような構造 になっているので、制度として見た場合に、これから詰めていきますが、どこまで証明 を要するのかは法律全体の中で判断されるところだと思っています。  長い潜伏期間がありますので、どうしてもはっきりしない部分がある。それはもうア スベストによる健康被害の特性として呑み込んだ制度を作るというのが基本ですが、ど こまで呑み込めるかという話については少し幅がある議論かと思いますので、これから 制度全体の設計をしていく中で判断していかなければならない問題だと思っています。 ○森永座長  いや、私どもは中皮腫はアスベストによって起こるから、それを証明せよと言ってい るわけではないのです。でも、折角そういう機会があるのなら、これから国民の皆さん もアスベストのばく露についてはだんだん注意するようになってきて、そういうことを 思い出す方も出てくるかもしれません。そういう貴重な情報を今後に活かすためには、 ぜひそれも併せて提出してもらうほうが、さらなる施策に役立つのではないかと言って いるのです。だからそれも合わせて出していただくようにすればいいのではないかと。 別に証明せよと言っているわけではないのです。そこのところは他の先生方はどうなの でしょうか。 ○井内委員  いま隙間なくとおっしゃった意味は、ばく露を証明してこいという労災のやり方とは 違いますよということですね。ただ、中皮腫だという診断を付ければ、先ほど議論した ように、我々の気持では90%以上はアスベストによるものなのだから、どこでばく露し たとか、いつばく露したということの証明は要らないというところは納得しているので す。 ○大臣官房審議官  ですから、そこは制度の話と、サイエンティフィックにこれから中皮腫の研究をする 上で、あるいは制度全体を運営していく上で、どこまで追加的に情報を取ったほうがい いのかという話だと思うのですが。 ○井内委員  研究の面もあるかもしれないけれども、これから20年、30年この問題は継続してやっ ていかれるはずでしょうから、そのときの我々の判断がより確からしくなっていくため には、そういう情報は行政的には取っていただけないものだろうかと思っているという ことです。 ○森永座長  今日は中皮腫の議論をするということで、大まかにまとまったような気はするのです が、これは今日の議事録を基に、第1回目のコンセンサスはここまで得たということを 箇条書きにでもしてまとめて、次回検討会の冒頭に確認をするという作業でよろしいで しょうか。 ○神山委員  最後に確認ですが、先ほどの隙間なく救済するとの議論の関連で、職歴は問わないと いうのはよくわかるのですが、いまここで議論した医学的な面で中皮腫の確定診断がな かなか難しい、ばく露がないあるいは全く不明なケースも救済対象に入ってくるだろう し、逆に中皮腫を見落としているケースもあるということになります。その辺のところ も走りながら精度をあげていくということにして、今後、医学サイドではもう少しその 確定診断の精度アップに向けてパネルを作るなり、マニュアルを作るなりして努力が必 要であり、そのためにどのようにしていくかというところがいまのレベルでは残ってい ると思います。 ○森永座長  いまのレベルでは、少なくとも病理学的な確定診断については、疑わしいものはでき るだけパネルを設置してやろうという話です。 ○神山委員  いまの段階では診断が出て、挙がってきたら、それは一応認めて、そして将来、より 容易に確定診断ができるために、医学的な診断を進めていく、並行していくよりしょう がないような気がするのですが。 ○森永座長  それは来年の通常国会で出して、来年の4月を目指して施行するということですか ら、それ以降の事例については、できるだけこういう方法でやっていきたいという形で 取り入れていただければ、この検討会の意義があると思うのです。過去の例について我 々はどうこう言えないと思うので、それは我々の意見を参考にして事務局で判断してい ただくというスタンスでしょうね。そういうことでよろしいのでしょうね。4月以降、 できるだけ早く我々のほうも診断指針を作り、パネルのほうも政府のほうで尽力してい ただいてやっていく方向が、私としては望ましいと思います。 ○職業病認定対策室長  別な研究班でやられている診断指針の結論は、来年度ですか。 ○森永座長  来年の2月にでも提案したいとは思っています。 ○井内委員  今後のために、中皮腫となられた方の病理学的な所見だけではなく、臨床的な情報 も、ばく露の情報も、データベースとして記録していく中皮腫登録というものができれ ばと思うのですが、これは個人情報の問題もあって大変難しいとは思うのです。これが 何年続くかはわからないので、将来のためにより精度の高い診断と救済措置をやるため の基礎データとしては必要になると思うのですが、そこはいかがなものでしょうか。 ○岸本委員  そうですね。井内委員がおっしゃられるとおりだと思います。グレーゾーンにしない で、どういう所で、どのような形でばく露をした人が中皮腫になっているとか、予防の 意味を含めて、一つひとつの症例をきちんと積み上げていって、将来に資するような形 を取っていただきたいです。医者としてそれは必要なことになりますし、実際にいまの 建物、ビルの解体というのは2030年ごろに日本では最大になると予測されています。新 たなアスベストの使用はないにしても、解体等で本当にアスベストは飛散しないのか。 もちろん高濃度ばく露はないにしても、低濃度ばく露は必ずしも否定できないとなった 場合に、一つひとつの例をきちんと解明しておくのは医学的には大切なことだと思いま すので、隙間のない救済というのはよくわかるのですが、それは補償の意味であって、 医学的な見地からは井内委員が言われたような形で、努力をしたほうがいいと思いま す。いま努力をしておけば、多分将来いろいろな情報が役立つのではないかと思ってお ります。万が一、亡くなった方に関しては、いわゆる個人情報の適用のない場合もあり ますし、医学的な国レベルの研究になれば、その適用はないのではないかと思います が、いかがでしょうか。 ○森永座長  パネルと登録は両輪で動かさないといけない話です。それをどういう形で検討会の希 望として反映させるかということは相談させてもらいますが、とりあえず今日議論し て、こういうコンセンサスがあったということを次回に確認をして、次に進めていくこ ととします。次回については、今日はほとんど議論していませんが、肺がんについて議 論をすると。肺がんとアスベストのことについては、職業ばく露との関連についての論 文はたくさんあると思うのですが、環境ばく露と肺がんについてのことを論じたような 疫学論文はあまりないようには思うのです。そのような石綿と肺がんに関する最近のレ ビュー論文を中心に、事務局で早急にメドライン等で検索をしていただいて、関連分野 の先生方に目を通していただいて議論をする。次回はそのような方向でよろしいでしょ うか。  今日検討すべき話は概ね出たと思いますので、事務局から次の日程等をお願いいたし ます。 ○水・大気環境局総務課長補佐  委員の先生方、誠にありがとうございました。本日のご議論では、中皮腫と石綿ばく 露の特異性について、特にヘルシンキ・クライテリアにおいて石綿由来がほとんどであ り、約8割が職業上の石綿ばく露としていることであるとか、中皮腫の確定診断がある 場合には現在医学的な所見、特に胸膜プラークについて、そのようなものをいまどのよ うな医学的な判断をしているかとか、中皮腫において石綿以外の原因、ウイルス説や遺 伝性の話も出ました。あとは中皮腫の確定診断、年齢の問題、鑑別診断の話がありまし た。それに当たって病理的な診断、特に組織診や細胞診の重要性についてもディスカッ ションいただき、中皮腫の重篤さ、予後についてもご議論いただいたかと思います。最 後には将来の治療、予防のための基礎データの収集のために、情勢に鑑みてその集積も 必要ではないかというご提言もいただきました。次回に向けて論点整理をするようにと いうご指示もありましたので、そういった旨も事務局のほうで検討したいと思っている ところです。  なお、次回は12月21日(水)の15時30分から開催する予定となっています。場所につ いては追ってご連絡させていただきたいと思っております。 ○森永座長  どうもありがとうございました。今日の議論を踏まえまして、また12月21日以降の検 討を進めていくことにしたいと思います。議事進行を事務局へお返しします。 ○水・大気環境局総務課長補佐  本日はどうもありがとうございました。これをもちまして本日の検討会を終了いたし ます。なお、机上の参考資料につきましてはお持ち帰りいただいても結構ですが、重い ので置いていただいても結構でございます。お持ち帰りの際は事務局に一言お声掛けい ただければありがたいと思っております。               【照会先】                労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室                職業病認定業務第二係                 TEL03−5253−1111(内線5571)