05/08/26 第26回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会議事録         第26回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会                       日時 平成17年8月26日(金)                          15:00〜                       場所 厚生労働省5階共用第7会議室 ○菅野座長  ただいまから「第26回今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」を始めます。本 日は、お忙しい中をお集まりいただき誠にありがとうございます。本日付けで厚生労働 省の人事異動がありましたので、事務局から御紹介をお願いします。 ○労働基準局監督課調査官(秋山)  本日付けで、労働基準局監督課長が交代いたしまして、新たに大西が担当課長に着任 しておりますが、本日は都合により欠席しております。 ○菅野座長  本日からいよいよ最終報告書について検討したいと思います。中間取りまとめ以降の 議論を踏まえて、資料1のとおり事務局に最終報告書の案を作成してもらいました。あ らかじめ参集者の皆様方にはお配りしておりますので、お読みいただいたことと思いま す。まず、これについて中間取りまとめからの変更点を中心に、事務局から簡単に説明 をお願いします。 ○労働基準局監督課調査官  資料1の「報告書(案)」について、中間取りまとめからの変更点を中心に簡潔に説 明いたします。中間取りまとめ以降、意見募集しまして557件の意見を頂戴いたしまし た。全体的な変更は、寄せられた意見と、それをもとに第2ラウンドの研究会の議論を 踏まえた修正になっています。基本的に中間取りまとめで、例えば何とかする方向で検 討することが適当だとなっていた所については、第2ラウンドで、そのことは適当だと いう議論になりましたので、「何々することが適当だ」という確定的な表現に変わって います。  中間取りまとめで提案したことに対して、労使から、「これについては違うやり方も あるのではないか」といろいろな意見もあったわけですが、それについて考え得る指摘 と、それに対する考え方を補充したということで、厚みを出した形になっています。デ ータについては必要に応じてアップデートしたというのが全体の変更の趣旨です。  「報告書(案)」の1頁、中間取りまとめでは「序」でしたが「はじめに」にして、 若干の整理を行っています。2頁以下、中間取りまとめでは「序」の後に「総論」がき ていましたが、第2ラウンドの議論の中で、労働契約法制を構想するに当たり、どのよ うに基本的な考え方に立つのかまで議論する必要があるだろうということで議論をいた だいて、それをもとに2頁以降で「序論」を加えています。「序論」の構成は、1「現 状認識」として、雇用システム・人事管理制度の変化。就業形態が多様化している。ま た集団的な労働条件決定システムの機能が低下している。個別労働関係紛争が増加して いる。こういった4つの現状認識に立って、2「検討の基本的な考え方」、どういう考 え方に立ったかというので、(1)〜(4)まで書いております。(1)労使自治の尊 重は当然重要ですが、やはり自主的な労使間の対等性を確保する必要がある。4頁、 (2)労働関係の中でどうやって公正さを確保するか。(3)就業形態の多様化にどう 対応していくか。5頁、(4)紛争の予防と紛争が発生してしまった場合、どう対応す るか。この4つを基本的な考え方として「序論」で位置付けています。  6頁から第1の「総論」になります。1「労働契約法制の必要性」については、中間 取りまとめに添った形で記述しています。10頁、「総論」の二つ目、「労働契約法制の 基本的性格と内容」では(1)基本的性格を追加しています。第2ラウンドの議論の中 で、菅野座長からも御指摘がありまして、労働契約法制として労働分野の民法の特別法 を作る、民事ルールを作ると言ってもなかなかその性格は世の中に浸透していない、理 解をされにくいのではないかという御指摘もあり、(1)基本的な性格として、例えば 民事法規としての性格。(2)労働基準法との関係はどうか。(3)そのほかの労働関 係法令との性格はどうか。こういった項目を基本的性格として加えています。  12頁、(3)総則規定の必要性ということで、労働契約法制を制定するに当たり、や はり基本理念などを定めた総則規定がいるだろうということで、労使対等の立場で締結 すべきことや、信義誠実の原則、また均等待遇を総則的・理念的な規定として掲げてい ます。  (4)労働契約法制において指針の定める意義はどういうことなのかということにつ いて御議論をいただきましたので、それを踏まえて盛り込んでおります。13頁、4番 「労働契約法制の対象とする者の範囲」という点についても、更に第2ラウンドで議論 をいただきました。(1)労働契約・労働者の範囲ということで、この第2段落では、 労働契約法制の対象とする者の範囲には、少なくとも労働基準法上の労働者は含まれる と考えられると記述しています。(2)として、最近は雇用と自営の中間的な働き方が 増えていて、中には一つの相手方と専属的契約関係にあって、いろいろトラブルがある というデータもありましたので、(2)として、そういった方にはどう対応していくか という問題意識を持って御議論いただきました。  14頁、(3)の上、労働基準法の労働者以外の方については、「いずれにしても」の 段落で、労働契約法制の対象を広く検討する場合には、どのような者にどのような規定 を適用することが適当か。これについて、こういった方の働き方の実態を踏まえて十分 な検討をしていく必要がある、という記述になっています。(3)では、使用者の範囲 についての御意見も記載しています。  15頁、5「労働者代表制度」と労使委員会制度の必要性については、16頁の(3)労 働契約法制の中で、労働組合がない所も増えておりますので、労使委員会制度の設置を 活用していこうということが書いてあります。16頁、アの「そこで」の段落、労働契約 法制において、労使委員会が設置されて、協議を行うことを促進することが適当である と書いてありますが、その下の2段落の記述を加えています。例えば「また」の段落 で、過半数組合がある事業場でも、労使が対等な立場で労働条件について恒常的に話し 合えるようにすることは意義がありますので、過半数組合が存在する場合にも、その機 能を阻害しないような形で労使委員会の設置を認めてもいいのではないか。なお書きで は、労働契約法制の中で、労使委員会をデロゲーション的な形で活用することが考えら れるのではないか。こういう意見を書き加えています。  16頁〜17頁にかけて、イの労使委員会制度の在り方では、17頁、3行目の「そこで」 の段落で若干記述を加えています。例えば、17頁の4行目、労使委員会の委員の選出手 続については、できる限り多様な労働者の利益を公正に代表できるような委員の選出方 法とすべきと考えられる。次の段落で、選出された労働者委員は当該事業場のすべての 労働者を公正に代表するようにしなければいけないこと。労使委員会の決議の有効期間 をあらかじめ定めておくことが考えられる。こういった記述を加えています。  ウの2段落目では、労使委員会の設置促進のための一定の効果の与え方として、就業 規則の変更の際に5分の4以上の多数の決議があれば、就業規則の変更の合理性を推定 することが考えられるとしてあります。その下、なお書きの段落を付け加えてありま す。労使委員会の決議に一定の効果を与えるならば、決議は全会一致であることが必要 であるという指摘もありました。これに対して、「しかし」で考え方を書いておりま す。理想としてはそうであっても、現実に多様な労働者がいる中で、常に意見が一致す ることは現実的ではないということで、全会一致を要件とすると、活用しにくいものに なることが多いことを付け加えています。  18頁の6行目、「もっとも」で、労使委員会の決議に、例えば就業規則の変更の合理 性の推定の効果といったものを与える場合には、労使委員会が労働組合の団体交渉を阻 害すること、その決議が労働協約の機能を阻害すること。こういったことがないような 仕組みにする必要がある、ということを加えています。  その下の段落、「このほか」の2段落も加えています。労使委員会を労働契約法制の 中で創設する場合には、労働基準法の企画業務型裁量労働制との関係として、その決議 に代替することが考えられるということと、36協定等の労働基準法上の労使協定の代 替効果も考えられる。こういうことを加えています。  18頁の真ん中から下の第2で各論に入りまして、「労働関係の成立」です。1「採用 内定」では、19頁の(2)採用内定取消について記述しています。20頁の3行目から始 まる段落で、ここは中間取りまとめに比べて、「そこで」に書いてある採用内定取消に ついて、一般的な解雇権とは別個の留保解約権が認められるためには、それを行使する 事由を採用内定者に対して書面で明示すべきだとしました。こういった趣旨がより明確 になるために、この段落の記述を修正しています。  21頁、2つ目の「試用期間」ですが、これは22頁の3行目から4行目で、中間取りま とめにおいても、労働契約において試用期間を設ける場合の上限を定めることが適当だ としております。こういう方向で提案をいただいたわけですが、それに対して2つの段 落を加えています。従事する業務の内容によって、労働者の適格性判断に必要とされる 期間が異なり得るということで、一律の上限を設定することは難しかろうという指摘も あります。これに対して、次の「しかし」の段落の2文目、「また」で、試用期間の上 限を設けつつも、その上限を超えた勤務でなければ労働者の適性が見分けられないよう な特別な理由がある場合については、この上限を超える試用期間を設けることを認める ことも考えられるだろう、ということで御議論をいただいたことを書いております。  23頁から第3「労働関係の展開」です。まず「就業規則」の関係で、ア就業規則の規 定の民事的効力。秋北バス事件判決の法理などを法律に明確化するかどうか。  24頁、中ほどの「そこで」の段落です。中間取りまとめの段階では、就業規則の内容 が合理性を欠く場合を除いて、労働者と使用者の間に労働条件は就業規則の定めるとこ ろによるという意思があったものと推定する、といったことが書いてありましたが、第 2ラウンドの議論の中で、それは単に意思があったということではなくて、労使間に労 働条件は就業規則の定めるところによるという合意があったものと推定することが適当 だろうという御議論がありましたので、その旨を直してあります。  次にイ就業規則の効力発生要件、拘束力を認めるための要件です。ここでは24頁から 25頁にかけて周知が必要だということ、過半数組合等からの意見聴取が必要だというこ と、届出が必要だということと3つ書いてあります。25頁の6行目、周知が必要だとい うことについては、「なお」で、就業規則の交付を拘束力の発生要件とすべきだという 考え方もありますが、やはり重要なのは労働者が就業規則の内容をいつでも知ることが できることなので、それが実現できれば使用者の負担を考慮して、周知を要件としてい いのではないかということで書いてあります。  27頁から就業規則の変更法理です。28頁にかけて、就業規則の変更法理を、法律でど う明確化するかということで、案(1)、案(2)という提案を中間取りまとめからいただい ています。就業規則変更法理を法律で明らかにする意味というか、重要性について、28 頁の最初の6行を補っています。労働契約は継続的な関係であることから、事情の変更 に応じてある程度労働条件が変更され得ることは労使ともに前提としているものと考え られる。また、変更が合理的であれば、継続的な関係を望む労使双方にとってメリット がある。さらに、労働条件の変更の過程で、労働者の集団的な意思を反映させるように することが適切である。このような観点に立って、就業規則変更法理を法律で明らかに する必要があるというように記述を充実させています。具体的な案として、案(1)、 案(2)ということで、中間取りまとめのとおり提案をしています。  29頁からは、イとして就業規則の変更による労働条件の不利益変更ということです。 30頁の「そこで」の段落では、中間取りまとめの段階でも、一部の労働者に対して大き な不利益のみを与える変更の場合を除いて、労働者の意見を適正に集約した上で、過半 数組合が合意した場合、または労使委員会の委員の5分の4以上の多数によって変更を 認める決議があれば、合理性を推定するということを提案していただいていましたが、 この前の段階で、どういう理由でこういうことを提案するのかの記述を充実させていま す。  「確かに」の段落で、多数組合の合意があることのみによって変更後の就業規則の合 理性を直ちに認めることは適当ではない。けれども、企業における多様な労働者の意見 の適正な集約によって労働条件を決定することを促進すること、また合理性の判断につ いては予測可能性を高めることが必要である。こういった観点から、適正な意見集約を した上で過半数組合の合意、または労使委員会の委員の5分の4以上の賛成の決議で、 合理性を推定していいのではないかということにしています。30頁の「ここで」の以下 の段落については、合理性の推定について提案した内容に関して、いろいろ第2ラウン ドで御議論がありました。例えば使用者が手続的な要件を証明すれば、すべて立証責任 が労働者にいくのは労働者の負担が大きすぎるのではないか。31頁の「他方では」の段 落では、「一部の労働者に対して大きな不利益のみを与えるものではない」といった内 容に関する事項を、推定が働くための要件として求めることは適当ではないという御意 見もありましたが、これに対する考え方、研究会での御議論を踏まえて、その意見と考 え方を書いております。  32頁の3行目の「さらに」の段落では、過半数組合の合意を推定要件とすると、少数 組合の意見が反映されなくなるという懸念もある。ただ、ここでは過半数組合が全労働 者の意見を適正に集約することが推定の前提となっているので、少数組合の労働者にも 意見表明の機会が与えられるのではないかということで記載をしております。  次の段落では、過半数組合が合意していれば合理的なものとみなしていいのではない かという指摘もあるが、これは強すぎて反証を認めないのは行き過ぎではないかという こと。次の「また」の段落では、労使委員会の決議で推定するということについては、 労働者委員に対する使用者からの支配介入の余地があるために適切ではないという指摘 がありました。これに関しては、決議の効力はあくまでも合理性の推定ということで、 反証を許すということですし、労使委員会について法令で規定する委員の選び方、意思 決定方法等が遵守されていて、さらに使用者からの不当な支配介入がない場合に限って 推定が働くということで対処できると考えられる、と記述を付け加えています。  33頁では、労働関係の展開の2番目として、「雇用継続型契約変更制度」を提案して います。34頁、(2)検討の方向で、第2段落目では、結論として、労働契約の変更の 必要が生じた場合、労働者が雇用を維持した上で労働契約の変更の合理性を争うことを 可能にする制度を設けることが適当だという記述がありました。次の2段落を付け加え て、これに対して、就業規則の変更法理で対応できるのではないかとか、労働者に提訴 を強いるか、労働者が解雇を恐れて労働契約の変更を受け入れざるを得なくなるかで、 結局、使用者にのみ利益を与える。こういった指摘、反論があるということです。  次の段落に書いてありますが、就業規則の変更法理では、まさに対応できないものが ある。「まず」の段落の5行目の「そこで」から始まる部分ですが、使用者は、個別に 労働契約の変更を提案して、労働者が応じない場合には解雇する。そして労働者に受諾 を迫ることになる。この場合、ここで提案しているような制度を設けなければ、労働者 は解雇されて雇用を失った上で提訴するか、あるいは、そのような事態を恐れて労働契 約の変更の提案に同意してしまい、変更については争い得なくなるかのいずれかであ る。こういうことで、やはりこういった制度も設けることが必要ではないかということ で書いております。  34頁からは、雇用継続型契約変更制度を設ける場合、案(1)、案(2)の考え方があるの ではないかということで、この2つを維持しています。  36頁の4行目以下、いくつかの段落を補っています。案(1)と案(2)の2つを提案して おりますが、変更に必要な手続や、変更が認められるための経営上の合理的な事情と か、変更の内容の合理性が違うかどうかについて議論をいただきました。  次の段落で、「したがって」と書いてありますが、案(1)、案(2)はいずれであって も、整理解雇が認められる場合と均衡のとれた要件が必要であるということが書いてあ ります。4行後に、労働契約の変更の合理性については、一定の判断基準を示した上 で、判例の集積を待って逐次整理・追加して充実を図る、ということを追加していま す。  3番目の「配置転換」の関係については、37頁の3行目以下、記述を充実させていま す。3行目以下で、配置転換について権利濫用法理を法律で明らかにする場合には、厳 格な規制とすべきだという指摘とか、特に転居を伴う配置転換について、その要件や使 用者が講ずべき措置を法律で定めるべきであるという指摘があります。一方、配置転換 というのは使用者が経営上の必要性を踏まえて行う人事管理上の事項で、使用者の専権 事項だから、法律の規制はなじまないという指摘もあるということです。これについて 考え方を次の段落で書いております。  4行目、雇用関係における権利濫用法理を一般的に法律で規定しながら、具体的な使 用者の講ずべき措置は指針で対応することが最も適切だ、という記述を充実していま す。  38頁からは、4「出向」です。出向に関しては、38頁の下から9行目、「そこで」の 段落で、提案が書いてあります。ここでは使用者が労働者に出向を命ずるためには、個 別の合意、就業規則または労働協約、少なくともこういった根拠がいるということを書 いています。  次の段落、「これについて」から始まる部分を補強しています。出向については労働 者の個別の同意を得る必要があるのではないかという指摘が考えられる。ただこれにつ いては、出向というのは雇用の維持、労働者のキャリアの形成・発展を目的として行わ れる場合もありますし、出向中の労働条件に配慮がなされている場合も多いことから、 一律に労働者の個別の同意がいるということは適当ではない。むしろ、あらかじめ出向 の可能性が分かっていることが大事なのではないか、ということで記述を補っていま す。  39頁(2)出向をめぐる法律関係として、推定規定を、出向中の賃金について出向労 働者と出向元の間で別段合意がなければ、出向前の賃金水準をもって出向元と出向先が 連帯して支払う義務がある、ということで書いてます。  「これについて」の段落と、その次の段落も補っています。例えばこういった任意規 定を置くと、出向元が出向直前の水準で賃金の支払いに連帯責任を負うというのは、出 向先でしか現実には就業していないのだから、出向元の負担が大きすぎるのではないか という指摘もありますが、これに対しては、「しかし」で、個別の合意や就業規則等の 定めがない場合に限って適用されるような規定であれば、使用者の負担は大きくならな いし、40頁に進んでいただいて、むしろこのような規定は、使用者自身による出向期間 中の労働条件の明確化を促すのではないか。こういったことを補っています。  40頁、5「転籍」については、40頁のいちばん下の段落で、転籍させようとする際に は、転籍先の名称、所在地、業務内容、財務内容、労働条件については書面を交付し て、説明しなければならないということが書いてあります。これに対して、41頁の最初 の段落を付け加えています。転籍先の財務内容まで転籍元に明示させることは過重な負 担を課しているのではないかという考え方もありますが、転籍というのは、転籍元が一 方的に転籍先を指定するものですから、やはり転籍元のほうがしっかり労働条件を説明 する必要があるのではないか、ということで書いてます。  42頁の7「服務規律・懲戒」の関係です。(2)懲戒および服務規律の内容では、43 頁の上から9行目の「また」の段落を加えています。ここでは、懲戒解雇の際に退職金 の不支給・減額という問題をどう考えるか、ということについて記述を加えています。 (3)のすぐ上に、結論としては、懲戒に伴う退職金の減額・不支給は、それが労働者 に与える影響と労働者の非違行為との均衡を考慮して決定すべきであり、これは指針等 で規定すれば足りるのではないかということで書いております。  (3)懲戒の手続に関しては、2段落目、懲戒解雇といったような不利益が大きい処 分については、書面で内容や非違行為、適用する懲戒事由を通知させる。それがなけれ ば無効と提案しています。「これについては」の段落で、書面通知を行わなかった場 合、懲戒が無効になるのは不適当ではないかということに対して、「しかし」の段落 で、それに対する考え方を書いております。  44頁の5行目では、懲戒解雇、停職、減給といった重い懲戒処分以外についても書面 通知をしていいのではないかという意見があったことについて記述しています。ただこ れについては、やはり使用者の意図として口頭注意を懲戒として行う場合に書面通知さ せることの整合性や、法的意義がわかりにくくなるということ。また使用者の負担など を考慮すれば、やはり重い、不利益が大きい明確な懲戒処分に限って書面通知を求める ことが適当ではないか。こういったことを付け加えています。  45頁、9「労働契約に伴う権利義務関係」です。46頁、(2)のア兼業禁止義務につ いて、アの2段落目、労働者の兼業を制限する就業規則の規定や個別の合意について は、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当であるという中間取り まとめでの提案で引き続き書いております。やむを得ない事由というのはどういう場合 か、ということをここで具体的に例示しています。兼業の制限がやむを得ない場合とし ては、兼業が不正な競業に当たる場合、労働者の働き過ぎによって人の生命、健康を害 する恐れがある場合。また兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合。こういっ たことが含まれるべきだと書いています。  47頁、イ競業避止義務については、48頁の5行目以下の段落では、退職後の競業避止 義務の根拠がある場合には、その要件について、中間取りまとめの段階では引き続き議 論を深めるべきとなっていました。これを受けて、48頁の上から9行目の「そこで」 で、契約による退職後の競業避止義務を認めつつも、「競業が使用者の正当な利益を侵 害すること」、「侵害される労働者の利益と競業避止義務を課す必要性との間の均衡が 図られていること」。この2つを要件とすべきである、ということを明確に書いていま す。  ウの秘密保持義務の関係については、49頁の下から6行目、労働者が退職後の秘密保 持義務を負う場合には、秘密保持義務の内容と期間を使用者が退職時に書面で明示する ことが必要とすることが適当であると書いています。ここも中間取りまとめに比べて、 その書面で明示しなかった場合の効果をもう少し明確に書いています。  最後の3行、使用者がその明示を行わなかった場合には秘密保持義務を課す合意等を 無効として、退職後の秘密保持義務を労働者は負わないとすることが適当であると若干 記述を改めています。  52頁では、留学・研修費用の返還です。53頁、その業務とは明確に区別された留学・ 研修費用について、留学・研修後の一定の期間、勤続期間を経過したことを条件とし て、返還を免除することがある。中間取りまとめでは、民法の626条との均衡を考慮し て5年以内でいいのではないかということでしたが、53頁の12行目ぐらいまで記述を加 えておりまして、2行目ぐらいから、労働基準法において、契約期間の上限は原則3年 とされていることから、その留学・研修費用の返還免除の条件の勤務期間も3年までと すべきではないかという指摘もあり得るということです。その下の段落で、労働基準法 14条にいう契約期間と、本来労働者が負担すべきであった費用を返還すれば退職できる 期間というのは違うのではないか。むしろ企業の実態では5年、返還免除条件を5年と している企業は多いということで、やはりこれは5年でいいのではないか、ということ で書いてあります。  53頁の下のほうからは、「労働関係の終了」です。1の(1)解雇権濫用法理につい て、基本的には中間取りまとめのとおりの整理になっています。  56頁から「整理解雇」の関係で記述があります。整理解雇の四要件、または四要素を 法律でどう位置付けるかということです。57頁の最初の6行ぐらいを補っています。整 理解雇がどのような場合に有効となるかの判断基準というのは、経済・社会情勢の変化 に応じて変化していくもので、また、最近の裁判例は四要件、四要素にこだわらずに判 断するものもあるから、整理解雇の濫用判断について法的規制を設けることは適当では ないという指摘もある。ただこれに対しては、逆に四要素にこだわらない近年の裁判例 というのは、裁判所ごとの解雇権濫用の判断にばらつきを生じさせて、結果として紛争 が長期化する一因となっていることから、予測可能性を向上させて紛争を予防・早期解 決するためには、やはり整理解雇の判断に当たって、考慮に入れるべき事項を法律で示 すことが必要である、ということで四つを挙げています。  57頁のいちばん下、3の「解雇の金銭解決制度」です。58頁、(1)の上の2行、解 決金の性質について第2ラウンドで御議論いただいて加えています。解決金の性質は、 雇用関係を解消する代償で、和解金や損害賠償とは完全には一致しないと考えられると いう記述を追加しています。  59頁の3行目、「一方」の段落も加えています。労働者からの申立てについては、裁 判上の和解や労働審判制度で金銭解決を求めることができるため、労働者側に金銭解決 のニーズはない。こういった指摘もあります。これについては、解雇された労働者が解 雇には納得できないが職場には戻りたくないと思った場合、解決金を請求できる権利が 保障されるというメリットがあるのではないか、ということが書いてあります。  アの一回的解決に係る理論的考え方も、最後の段落、3段落目を加えています。これ は労働者が解雇の無効、地位の確認を求める訴えと併せて、辞職の申出と引換えに解決 金給付を命ずるような判決を求める仕組みですが、労働者がその判決確定からずっと辞 職、退職の申出をしないと使用者の地位が不安定になるということです。「なお」で始 まる部分において、上記のように整理した場合には、金銭解決を認める判決確定の日か ら一定期間、例えば30日以内に労働者が辞職の意思表示をしなければ金銭の請求権を失 う。この場合、辞職の意思表示をしていないので、当然、労働者の地位はあるというこ とを追加しています。  イの解決金の額の基準ですが、いちばん下の2行ですが、中間取りまとめでは、金銭 解決の申立てを、額の基準について個別企業の事前の集団的な労使合意がなされた場合 に限ると書いてありました。この事前の集団的な労使合意をもう少し明確に括弧で、労 働協約や労使委員会の決議と書いております。  60頁、(2)使用者からの金銭解決の申立てです。これは3段落目、4段落目を追加 しています。違法な解雇を行った使用者に金銭解決の申立てを認める必要はないという 指摘もあるとしています。また、どんなに使用者からの要件を限定しても、職場復帰を 望む労働者がその意思に反して職場に戻れなくなるケースがあることは妥当ではないと いう考えもあります。これについては違法な解雇は無効とされて、判決時までの違法状 態は是正されること、これを前提とした上で、その後の問題として、現実に職場復帰が できない労働者にとっては、違法無効な解雇を行った使用者からの申立てであっても解 決金をもらえるほうがメリットがある場合もあり得るということです。また、それは紛 争の早期解決にも資するのではないかということが書いてあります。  60頁のいちばん下、アです。これは61頁の3行目、金銭解決が認められる要件を法律 で定めておけば、裁判でなくても労働契約の解消を認めていいのではないかという意見 もありましたが、使用者による安易な金銭解決を防止するとともに、金銭解決について 労働者が納得するための適正な機会を確保するためには、やはり裁判を必要とすること について検討を深めるべきである、ということです。  次の「また」の段落では、金銭解決が認められない場合として、中間取りまとめで は、差別的な解雇、ここでは人種、国籍、信条、性別等を理由とする差別的解雇の場合 は認めないと書いてありましたが、それに、労働者の正当な権利行使を加えました。例 えば使用者に対してセクハラを受けたという申立てに対して、解雇されてしまった。使 用者がもう職場復帰は困難だからという考えで金銭解決をするということを認めること は適当ではないだろうということで、正当な権利行使を理由とする解雇についても除外 する、ということを加えています。  62頁、(4)有期労働契約について、これは本来期間満了で終わるもので長期継続雇 用は予定しないため、雇止めをめぐる紛争については金銭解決がなじむからこれを導入 すべきではないかという指摘がありました。これについては、雇止めは客観的に合理的 な理由を欠いて社会通念上相当と認められない場合は無効という取扱いを先行させない と、雇止めについての金銭解決制度の導入は理論的に難しいのではないか、と書いてあ ります。  62頁の下の方、使用者の働きかけに応じてなされた労働者の退職の申出等。クーリン グオフですが、63頁の8行目、クーリングオフを認めることについて「これについては 」の段落で、労働者の合意解約の申込みや辞職の意思表示については、使用者の働きか けがなくても、一定期間撤回できるようにすべきではないかという指摘がありますが、 これについては一律の撤回を認めると、完全に自由な意思で申し出た場合でも撤回を認 めることにならざるを得ず、経営の安定を阻害するために適当ではないということで す。  次の段落で、逆に労働者の真意によらない退職の意思表示については、詐欺、錯誤、 強迫などは、無効・取消制度がすでにあるので、これとは別に撤回権を与えると、その 使用者にとって不利ではないか。これについては錯誤、詐欺、強迫までいかない場合で あっても、使用者から心理的な圧力を受けて退職の申出をすることがあり得ること、ま た、労働者は収入の途を失うという重大性を考えれば、やはりクーリングオフはよいの ではないか、ということが書いてあります。  63頁、(3)は新たな項目の追加ですが、労働者が退職を申し入れた場合、民法627 条の規定によれば2週間の経過によって雇用契約は終了するとされていますが、担当業 務の引き継ぎなどを考えれば、これでは短すぎるのではないか。労基法20条と合わせ て、30日前に予告をすべきではないかという指摘があります。これについても、労基法 の解雇予告期間というのは、労働者にとっては突然解雇されれば賃金が得られなくな り、生活ができなくなるという重要性にかんがみて必要とされているものであるから、 同列には論じられないのではないか、ということです。  第5の「有期労働契約」ですが、65頁、1行空いたあとに2段落ほど付け加えていま す。有期労働契約についてはそもそも正当な理由がなければ締結できないとすべきでは ないかといった御指摘や、その下では、有期労働契約とすべき理由の明示を必要とすべ きではないかという御指摘があり、これに対する考え方を書いております。  66頁の2番、(1)契約期間の書面による明示です。この1段落目では、契約期間を 書面で明示しなければ期間の定めのない契約とみなすということで、中間取りまとめの 方向で書いてあります。次の2つの段落を追加しています。労働者が有期契約だと認識 していた場合でも、期間の定めを書面で明示しなければ無期契約だとみなされるのは行 き過ぎではないかという指摘があります。これについては、契約期間というのは非常に 重要な労働契約の要素であり、また労働基準法で書面明示が義務付けられていることも 考えれば、期間の定めが書面で明示されていなければ効力を生じないとしても、特段重 大な問題はないのではないか、としております。  (2)労働基準法に基づく雇止めの基準、大臣告示がありますが、これを契約法制の 観点からも求めるということ。これについては、67頁の最初の段落を追加しています。 使用者が手続を踏みさえすれば雇止めを有効とすることにつながり、現在の判例法理よ りも労働者が不利になるのではないかという懸念があるということです。これについて は、現在の判例法理を変更するものではないので、労働者が不利になることはない。契 約締結時に更新がないと明示されていれば、原則として労働者側にも更新に対する期待 が生じないと考えられますし、予測可能性が高まるのではないかという趣旨を付け加え ています。  1行空いた次の段落は、契約を更新することがあり得ると明示されていた場合には、 中間取りまとめでは年次有給休暇の取得など、正当な権利を行使したことを理由とする 雇止めはできないということを提案しておりましたが、これに加えて差別的な雇止めに ついてもできないこと、と書いてあります。  68頁、3の(1)試行雇用契約、トライアル雇用です。(1)の3段落目、「これに ついては」という段落を付け加えています。ここで神戸弘陵学園事件の趣旨を踏まえ て、試行雇用契約と試用期間との区別を明確にするために、有期契約が試用の目的を有 する場合には、期間満了後に本採用としての期間の定めのない契約の締結がない限り は、期間満了をもって契約が終了することを明示するなど、一定の要件を満たしていな ければ試用期間とみなすことが適当だということを追加しています。  次の段落について、試行雇用契約について、試行雇用契約である旨と本採用の判断基 準を併せて明示させることとしました。そのあと、差別的な理由によっても本採用の拒 否はできないということを加えています。  69頁の最初の段落ですが、試行雇用契約が法制化されれば、若年労働者に対して一斉 に利用され、適当ではないという指摘があります。これについては現在でも有期契約を どのような目的で利用するか制限がない中で、試行雇用契約、トライアル雇用というの は、常用雇用につながる契機として労使双方に活用されている。上記のこれらの提案 は、神戸弘陵学園事件の判決に添った形で、トライアル雇用、試行雇用契約を法律上位 置付けるもので、試行雇用契約で雇用された労働者について、通常の有期契約労働者と 同じように差別的な理由や正当な権利行使を理由とする本採用拒否から保護する規定を 設けることを提案しています、ということを補っています。  「また」の段落では、「本採用の拒否はできない」ことの法的効果をどう考えるかと いうことは、中間取りまとめで検討事項となっていました。ここでは第2ラウンドの議 論を踏まえて、労働者が使用者に対して、差別的な取扱いや正当な権利の行使によって 不利益を受けたことに対する損害賠償を求めることができることとすることが適当だと してあります。  70頁、第6「仲裁合意」。71頁の「労働時間法制の見直しとの関連」。ここは中間取 りまとめと変わっていません。説明は以上です。 ○菅野座長  それでは中間取りまとめからの変更点を説明していただきましたので、報告書案につ いての議論をお願いします。時間の制約がありますので、まず重要な項目から議論をし ていただきたいのです。10頁の「労働契約法制の基本的性格と内容」、13頁の「労働契 約法制の対象とする者の範囲」、15頁の「労働者代表制度」、23頁の「就業規則」、33 頁の「雇用継続型契約変更制度」、53頁の「解雇」および「解雇の金銭解決制度」、64 頁の「有期労働契約」ということです。重要な項目だけでもたくさんありますが、これ は必ず御意見をいただかないといけないと思います。ひととおり御意見をいただいて、 また次回に修正の必要があれば、修正したものをお出ししたいと思います。それでは10 頁の「労働契約法制の基本的性格と内容」について、御意見、御指摘はありますか。 ○内田先生  細かな点ですが、12頁のいちばん最後から13頁にかけて、指針についての記述が「ま た、実際には指針の内容が裁判所において斟酌される場合もあると考えられる」とあり ます。この指針の性格については、ここでも議論しましたようにいろいろ問題はあるか と思いますが、「斟酌される場合もあると考えられる」は、あまりにも消極的な感じが しましす。せめて「その内容が合理的なものである限り、裁判において斟酌されること が期待される」とか、もう少し積極的な書き方はできないかという気がします。 ○菅野座長  これは筒井参事官、いかがですか。そういうことでも差し支えないですか。 ○筒井参事官  一方的に期待しているだけですから。この前にそれ自体では法的拘束力はないという ことを断った上での議論ですので、それで差し支えないと思います。 ○菅野座長  そうですか。いま御提案のように、「その内容が合理的なものであれば、裁判所にお いて斟酌されることが期待される」とします。そのほかはありませんか。 ○西村先生  11頁の下の段落2つです。「労使当事者の行動規範」という言葉があり、その2行下 にも「行動規範」という言葉があります。ところが、12頁のいちばん下に「行為規範」 とありますので、統一したほうがいいのではないか。また、総則規定の必要性で、基本 理念などを定めた総則規定が必要だということで、信義誠実の原則に従って権利を行使 するということが書かれているのですが、後のほうを見てみますと、雇用関係における 権利濫用法理、出向についても権利濫用法理とか、いろいろな話で権利濫用法理が出て きます。それでしたら総則規定に、そのような意味での雇用関係における権利濫用法理 の位置付けみたいなものがあってもいいのではないかと、通して読んでみてそんな感じ がいたしました。 ○菅野座長  それは検討させてください。先ほどのは「行為規範」でいいですか。ほかに御指摘を お願いします。よろしいですか。次に13頁の「労働契約法制の対象とする者の範囲」に ついてはいかがですか。よろしいですか。次の15頁の「労働者代表制度」についてお願 いします。 ○曽田先生  18頁の「さらに」で始まる段落ですが、「労使委員会に事前協議や苦情処理の機能を 持たせ」云々と書かれており、最後から2行目、「労使委員会における事前協議や苦情 処理等の対応を、配置転換、出向、解雇等の権利濫用の判断基準の一つとすることも考 えられる」と書かれていますが、配置転換や出向等を見ると、配置転換は36頁以下に書 かれており、出向については38頁以下に書かれており、解雇等の権利濫用の判断基準、 権利濫用に関しては、52頁以下に書かれているのですが、そこの部分で、事前協議や苦 情処理等の対応をしたことを、権利濫用の判断基準の1つとするというところが触れら れていないので一貫性を欠くのではないか。解雇に関しては、「整理解雇」の要件の中 に、57頁で労使委員会での事前協議ということが書かれていますが、権利濫用との関係 でいうと、解雇に関しては、54頁の段落、「ここで」で始まる文章の中の4行目から、 「その際、社会的相当性の判断に関して、解雇に際して労働組合や労使委員会への事前 協議など一定の手続を踏んだ場合には解雇権濫用の判断の際に考慮されるという手続的 な規定が必要との意見があった」という紹介に留まって、逆に、54頁の下から3行目、 「また解雇に当たって労働組合や過半数代表者から説明・協議を求められた場合にこれ を尽くすこと」についてどうかということに関しては、解雇される労働者の個人情報の 保護などの観点から問題があるということで、ここではむしろ否定的に結論づけてい る。いまの18頁の「さらに」の段落の下2行は整合性を欠くと思うのです。 ○菅野座長  18頁の「さらに」の段落の「判断基準の一つとすることも考えられる」というのは、 「一つとすることも今後の検討課題である」という感じですね。 ○労働基準局監督課調査官  将来的には労使委員会を育てていき、そういうことができるようになることも期待さ れるという程度ですね。 ○菅野座長  今後さらに検討すべきであるということですかね。そういうことであれば、曽田先生 よろしいですか。これは後ろのほうに出てくるような具体的な提案にまでいっていな い。労使委員会制度の在り方とか、活用の仕方についての今後の検討課題であると。 ○曽田先生  それならば、そういうことが分かるような書き方をしたほうがいいのではないです か。「将来的に判断基準の1つとして活用することも考えられる」とか。ただ、具体的 にどうかなという気はするのですよね。配置転換に関して36頁でまとめているところを 見ると、そういうことはあり得るのかなという気もするのですが、どうなのでしょう か。将来的にそういうことがあり得るのでしょうかね。 ○菅野座長  それは労使委員会などをちゃんと仕組んでいく中では、機能としては考えられないこ とはないと思います。「一つとすることも考えられ、今後さらに検討すべきである」で はいかがですか。 ○曽田先生  将来検討するということでまとめれば、矛盾はないと思いますが。 ○菅野座長  ありがとうございます。 ○村中先生  17頁、選出方法、選出手続の問題。3行目の「そこで」以下で、「できる限り多様な 労働者の利益を公正に代表できるような選出方法」という書き方をしていますが、労使 委員会の、特に労働者側の委員の選出については、もう少し選出手続の透明性を確保し たり、それをきちんと選出させる。要するにかなりいろいろな権能を与えていきますの で、その手続面を強化することを考えたほうがいいと思うのです。ですから、そういう 書き方を加えたらどうかと思うのですが。 ○菅野座長  どういう表現がいいですか。「透明性を確保する」でしょうか。 ○村中先生  「手続をより厳格なものにする」という書き方でもいいでしょうし。 ○菅野座長  「より厳格な」というのは、何と比べてですか。 ○村中先生  現在よりもです。過半数代表と考えていいですね。 ○菅野座長  そうすると、現在の過半数代表。 ○村中先生  例えば4行目の「労使委員会の委員の選出手続については、透明性を確保するととも に」という一文を入れていただいてもいいと思いますが。 ○菅野座長  「透明性を確保するとともに、できる限り」云々でいいですか。 ○村中先生  それでよろしいです。 ○菅野座長  そういう修正でよろしいですか。 ○山川先生  16頁の(3)、アの1段落目で表現の問題ですが、4行目後半から、「労働者が集団 として使用者との交渉を行うことができることとすることが必要である」は、「交渉」 という言葉だけが出ているという点と、「することが必要である」というと、労使委員 会自体の設立を義務付けるように読める恐れがなくはないのですが。例えば、「労働者 が集団として使用者との交渉、協議等を行うことができる場が存在する必要がある」と か。 ○菅野座長  「交渉、協議等を行うことのできる場が存在することが必要である」ということでよ ろしいですか。細かいことですが、16頁の上から3行目の「保証」の字はこれでいいの ですか。 ○労働基準局監督課調査官  気をつけて調べてみたつもりですが。 ○菅野座長  これでいいのですか。 ○西村先生  これでいいのじゃないでしょうか。 ○土田先生  前にも議論したと思いますが、労使委員会制度を活用した場合、労働契約法上どうい う効果が生ずるのかということが、これを読んでもよく分からないのです。まず、例示 として「変更の合理性を推定する」と17頁の下のほうにありますが、その後はいきなり 全会一致が必要かどうかという話に飛んで、そして18頁のいちばん上では、先ほどの 「さらに」の文章になって、結局、これは将来こういうこともあるのではないかという 話で終わっています。労使委員会制度は中間取りまとめの中では相当大きな柱であっ て、かつ、労働契約における交渉力の格差を是正するための重要な機関だという位置付 けだと思うのですが、そのわりには、確かに選出手続や制度設計のほうはかなり書き込 まれていますが、この機関は法的にどういう意味があるのかということがやはり書き込 まれていない、不十分だという印象が拭えないのです。  ですから、ここはどう書くのか。前回の議事録がありますので、それを見れば同じよ うな発言を私がしていて、それに対して座長からいろいろな仕組み方があり得るという まとめ方になっているのですが、それでいいのかなという疑問があるものですから、少 し議論をしたほうがいいのではないかと思います。  先ほどの18頁の上の権利濫用の判断基準、要は手続の重要な一つである、対等な交渉 力の確保を図って、かつ、人事異動や解雇の権利濫用の判断基準にすることは、積極的 に打ち出したほうがいいと思うのです。そうだとすれば、要は契約法と接合すると思い ます。個々の法律行為の効力を判断する際に、こういうものは要素になる。先ほどの曽 田先生の議論と出発点は同じなのですが、ベクトルが違うのかもしれませんが、私はむ しろそういう方向を出したほうがいいのではないかと思います。仮にそういうことを考 えますと、先ほど御指摘のあった配置転換や出向との整合性は問題になってくると思い ます。 ○菅野座長  そこは非常に基本的な点として、この研究会でも議論があったところです。それは16 頁のアのいちばん下の段落に書いてある。これはデロゲーションのことだと思います が、「労働契約法制の一定の規定について、当該規定と異なる取扱いを認めるための要 件として労使委員会の決議を要求することも考えられ」という意見は、その場で関連し て出てきたと思います。 ○曽田先生  労使委員会がどういう機能を持つか、具体化していないのです。ですから、先ほど申 し上げたところも、書き込めれば書いたほうがいいのではないかと思いましたが、なか なかそこに書き込むのは難しいという感じです。 ○荒木先生  例えば18頁の労使委員会での手続を判断要素の一つとすることは、十分あり得ること で、この記述自体はこれでいいと思います。次に、54頁のいちばん下のように、労使委 員会からの意見聴取を必要とするという議論になってくると、これは判断要素の一要素 ではなくて、意見聴取をしなかった場合には当然解雇を無効とするという議論までいく かどうかというと、そこまではなかなか厳しいという議論だろうと思います。  したがって労使委員会での手続をきちんと踏んで、当該使用者の措置をどう評価する かという場合に、配転もそうですし、もちろん解雇もそうかもしれませんが、さまざま な使用者の権利行使の濫用判断において、労使委員会の手続が考慮されることは大いに あり得ることで、総論部分でもともとの18頁のような議論をしているということは、私 は意義があると思います。そういう手続をすべての場面で取らなければ、当該使用者の 行為が当然無効になるかというと、必ずしもそうは言えないだろうということであれ ば、各論とも矛盾しないので、私は総論部分でこのような考慮要素の一つとして、労使 委員会の手続を挙げておくこと自体はいいのではないかと思います。 ○菅野座長  18頁の書き方としては、「解雇等の権利濫用の判断における考慮要素の一つとする」 とか、そういうことですかね。「判断基準の一つ」と言うと、要件の一つのようにも読 めるから。それはちゃんとした労使委員会があって、労働者代表がちゃんと選出され て、そこでちゃんと議論がなされて、個別の配転が決められたり、配転の制度が作られ たり、その後の苦情処理もそこでなされたりというのであれば、法律上何も規定されて いなくても、それは自然に考慮されると思うのです。そういうレベルのことなのか、特 に法制化するようなことなのか。 ○土田先生  今回の労働契約法制の柱の一つには、しばしば出てくる公正な契約の運営というのが あって、そのときに権利濫用はいけませんというメッセージを打ち出すわけです。権利 濫用はいけないというのは、契約法上の効果ですから、まさに契約法なのですが、その ときにここで提案された労使委員会というものにおいて、どのような手続が取られたか ということを考慮要素にするという方向性は、非常に正しいと思うのです。かつ、実質 的にも今回の契約法制の方向性にも合っているし、労使委員会が行った決議の効果を明 らかにするという点からも妥当だと思います。そうすると今おっしゃったように、法律 に書かなくてもやっていれば考慮されるだろうという方向より、その方向性を打ち出し て、企業がそれを活用するような方向に、インセンティブを与えるような書き方にする ほうが、私はむしろ妥当ではないかと思っております。  ですから一つには、情報格差を是正するために労使委員会を位置付けるのだから、そ れを権利濫用の要素の一つにするという実質的な方向性と、もう一つは、労使委員会と いう大きな機関を打ち出したわりには、法律効果が明らかでないので、それをもう少し ちゃんと書いたほうがいいと思います。16頁の下のほうにあるイの直前も、意見があっ たという紹介に留まっているわけですし、17頁のウも非常に例示的な書き方で、効果の 一般理論というか、一般的な内容にはなっていないのです。考えられることは、もし書 けるならデロゲーションを書くし、権利濫用の判断要素とすべきであるというようなこ とを、もう少し打ち出したほうがいいのではないでしょうか。 ○菅野座長  この点について、ほかに意見はありますか。 ○村中先生  意見が噛み合うかどうかは自信がないのですが、労使委員会で期待されることは、基 本的には集団的な利益調整の部分だろうと思うのです。そういう面では今回の就業規則 の変更に関して、かなり重要な権能が与えられたということで、それはそれで非常に大 きな意味があるのだろうと思います。しかし配転や出向というのは、個別の人事措置で すよね。そういうものに労使委員会をどういうように噛ませるのかというのは、また別 の考慮も必要になってくるのではないかと思うのです。労働者のほうが労使委員会に助 けを求めるという形での噛ませ方であれば、それは交渉力を高めるという方向に作用す るかもしれません。ところが労使委員会の決議で権利濫用かどうかが決まるという方向 で噛ませてしまうと、労使委員会というものが個別の人事についての判断を、本当に適 正にできるのかどうかということは、やはり改めて議論しないといけないと思うので す。ですから私は、そこはやはり区別が要るのではないかという気がしております。 ○土田先生  もちろん区別をした上で言っているのです。ですから考慮要素だか判断基準だか分か らないけれども、その一つであるということで、それで決まるなどとは誰も言っていま せん。考慮要素の一つというのは、そういう趣旨です。 ○山川先生  それぞれのことが成り立つと思うのです。考慮要素にするというのは、たぶん放って おいても裁判所はそうするでしょう。契約法制として考えるとすれば、指針の中にこう いうことも考慮の要素として入るというのを、書くか書かないかということくらいは、 そう難しいことではないかもしれないのですが、それを超えたものを盛り込むかという ことについては、それほどの議論はしていなかったと思います。ですから考慮要素とす ることと、それ以上の契約法制における効果とを分けて、後者については「なお検討を 要する」としてもいいのではないかと思います。  その場合の視点は、下のほうに権利義務関係を直接設定するものではないということ は書いてあるのですが、やはり一定の利害調整を果たしたことを、例えば使用者責任に ある程度反映するということは、あってもいいのではないかと思います。まだ決まって はいないのですが、アメリカの雇用法リステートメントの案では、使用者が苦情処理措 置を適切に取ったことが、使用者の責任を切断するということが提案されています。た だ、それをやるには相当の体制や、具体的な対応をしたということが必要になってきま すので、それを書き込むべきだという趣旨ではありません。  18頁の文章で言いますと、2行目に「対等な交渉力の確保を図ることや」と書いてあ ります。むしろ、これは前半は理念の話なので、「対等な交渉力の確保を図ることを促 進するため」というようにして、後者は具体的な効果として、それがさらに二つに分か れて、考慮要素となるということとし、それ以外の契約法制の位置付けについては検討 するというような整理はできないでしょうか。 ○菅野座長  考慮要素と「する」のか、「なる」のかです。労使委員会というものが必置だった ら、指針でも法律でも考慮要素とするということが考えられますが、必置ではないので す。それが設けられているときに、そこでちゃんと行われていれば、考慮要素になると いうことなのかという気がするのです。 ○山川先生  意味論的な範囲ですが、位置付けるとか、もし色を取るとすれば、「なる」ですが、 そうすると、先ほどの内田先生のお話ともかかわって、あえて書くまでもないような気 もするのです。 ○菅野座長  しかし実際上の機能や効果として考えられますということでは、意味があるわけで す。 ○山川先生  いわば「なることが期待される」とか、そんな感じですか。 ○菅野座長  そういう書き方かもしれません。 ○山川先生  「する」と言うと、確かに法律でそれを要求しているような感じがありますからね。 ○菅野座長  少し考えさせてください。書く場所として、今ちょっと見たのですが、17頁の「例え ば」の後に持ってきてしまって、決議が全員一致などというのは、その後でいいのでは ないかと思います。そうすれば効果として何を考えているかが、よりはっきりしますか ら。その表現については、ちょっと考えさせていただいて、次回にまた出させていただ きたいと思います。ほかにいかがでしょうか。  それでは23頁の「就業規則」全体について、気が付いた点をいただきたいと思いま す。 ○西村先生  24頁のイで25頁のウの上の所に、「93条に規定する就業規則の最低基準効を認める」 という話があって、後でそれが出てきますね。この就業規則の効力発生要件と最低基準 効というのは、荒木先生などの比較的新しい議論で、こういうものを区別するというこ とは、どこかに書いておいたほうがよく分かるのではないかという感じがしました。教 科書的と言えば教科書的かもしれませんが、こういうものが区別されるということは、 報告書のどこかにあったほうがいいのではないかと思います。 ○菅野座長  24頁の下から2行目の「まず」の前に、こういうものを区別する必要があるというこ とを書いておきますか。 ○西村先生  そのほうが分かりやすいのではないですか。全く説明がなく二つが出ているよりも、 いいのではないかという感じがします。 ○菅野座長  それを区別する必要があるということをまず書いてね。 ○西村先生  はい。 ○菅野座長  そうすると順番ですが、ウの中に入ってしまうのがいいのか。 ○西村先生  場所はどこか適当な所を探して。 ○菅野座長  この点についてさらに御意見がなければ、また考えさせていただいて、次回に整理し たものを出したいと思いますが。では今いただいた御意見を踏まえて、また考えさせて いただきます。ほかにいかがでしょうか。 ○内田先生  24頁のイの前、「なお」という段落の前の部分です。「そこで」という段落の後半部 分に「また」とあって、「当事者双方において内心の意思があったのみでは契約となら ないことから、意思表示の合致としての合意があったと推定するものである」という文 章があります。この文章が入るに至った経緯にはいろいろあって、何を推定しているの かということでもめたあげく、この文章になったのです。しかし、前段で「合意があっ たものと推定する」と書いてありますので、結果としてこのように入りますと、「また 」の部分が当たり前のことを書いているようで、あまり意味をなさないように思えるの です。その経緯を知らない人にも分かる文章にするためには、例えば「推定は反証を挙 げて覆すことができるが、推定と異なる内心の意思があったというだけでは反証になら ない」とか、そういった文章に変えたほうが分かりやすいのではないかと思います。 ○菅野座長  いまの点はそれでよろしいでしょうか。「できるが、推定と異なる内心の意思があっ たということだけでは反証にはならない」という文章でいいですか。 ○山川先生  別の点ですが、31頁の1行目に、「使用者は労働者の意見を適正に集約した」とあり ます。この表現ですと、使用者が集約したというようにも読めるので、ここは過半数組 合または労使委員会の労働者代表が集約したということになると思いますから、それを 明確にしてはいかがでしょうか。内容的にこれを今から書くのは難しいのかもしれませ んが、「適正に集約した」というのは一体何かという問題が、いろいろ起きそうな感じ もするのです。かといってケースはさまざまですから、それを法律に書くわけにもいか ない。何か例みたいなものをどこかで示したほうがいいのかという気はしていますが、 それは今後の検討で、盛り込むということにはこだわりません。  以上との関係で、32頁の真ん中辺りに「また」というのがあります。労使委員会の選 出方法、意思決定方法等について、法令上の選出方法、意思決定方法等が遵守されてお り、使用者からの不当な支配介入がない場合に限って推定が働くというのは「遵守され ている場合に限って」ということではいけないのかどうか。遵守されていることと不当 な支配介入がないことの二つを立証して、初めて推定が働くということまでは、どうも 考えられていなかったのではないかという感じもするのです。つまり不当な支配介入が なかったということを、独自に証明することが適切かどうか。 ○菅野座長  そこまでの議論はね。これはどの段階で入ったのですか。この「支配介入がない」と いう言葉は、今回入ったのですか。 ○労働基準局監督課調査官  労働者側が不当な支配介入があったということを証明すれば、その推定が働かないと いうことだったら考えられますが。 ○山川先生  その場合、推定ということが逆に反証になってきてしまうような気がします。一定の 事実があれば、初めて推定が働くという文章ですから。だとすると支配介入があったと いうことは別として、法律上の要件が満たされていれば、推定が働くということでもよ さそうな気がします。ただ、それだけでいいかどうかは、今ふと思い付いたことなの で、自信が持てないので細かくどう表現するかまでは言えませんが。 ○労働基準局監督課調査官  この段落の最初の所ですが、労働組合はともかく労使委員会については、使用者側の 不当な支配介入の余地があるから問題があるのではないか、という指摘があり、これに どう応えるかという問題意識として書き込んだのです。 ○山川先生  ちょっと検討していただければと思います。 ○菅野座長  では「遵守されていれば推定が働く」ということで十分か、ここは検討させていただ きます。 ○山川先生  あと、31頁の4段落目の「また」という所で、「裁判官によってはこのような事情を 全く考慮せずに合理性を認めるおそれがある」とありますが、この「裁判官によっては 」というのは、いかがなものかと思います。この裁判官ならいいけれども、あの裁判官 なら駄目だということではないと思いますので、これは取ってしまってはどうか。 ○菅野座長  「このような事情を全く考慮せずに合理性を認める判断がなされる恐れがある」と。 ○山川先生  そうです。 ○土田先生  質問です。32頁の真ん中より少し下に、「最後に、仮にこのような推定規定を定めた 場合においても、推定が働かない」とあります。この推定が働かない場合というのは、 その前の頁の一部の労働者に対して大きな不利益を与える場合には推定が働かないとい うことですが、そうでない場合で、かつ労働者への不利益が非常に大きい場合には、推 定が反証できるというような議論が、前にあったと思うのです。それはどこかに書かれ ているのですか。 ○労働基準局監督課調査官  そのようなことをどこかに記述したかということですか。 ○土田先生  していましたか。 ○菅野座長  推定が働いても、そういう反証がありますということですね。 ○土田先生  はい。それはどこかにありますか。 ○労働基準局監督課調査官  一応31頁では上から4行目にあります。 ○土田先生  わかりました。結構です。 ○曽田先生  32頁の上から1段落目の「さらに」で始まる最後の所、「少数組合の労働者にも意見 表明の機会が与えられる」というのは、どういう形で与えられると考えているのでした か。 ○労働基準局監督課調査官  意見を適正に集約したということも要件にしますので、少なくとも意見を実際に言う かどうかは別として、意見があれば何か言ってくださいという機会を設けることは必要 ではないか、という趣旨から書いております。 ○菅野座長  それに独自に交渉もできますし。 ○曽田先生  要するに過半数組合は同意したけれども、仮に対立するような立場にある少数組合の 意見表明の機会というのは、直接使用者に対して意見表明の機会を与えると。 ○菅野座長  団体交渉権は保障されていますし。 ○曽田先生  そういう所でということですか。 ○菅野座長  ええ。 ○土田先生  この書き方だと、団体交渉権が独自に保障されているということとは別に、過半数組 合が適正に集約することが前提だから、その際にということですよね。 ○菅野座長  少数組合に置かれている団体交渉権をにらんで、そこにおける主張内容などとのすり 合わせとか、そういうプロセスが必要になってくるのではないですか。 ○土田先生  そうすると、これは単に少数組合の団体交渉権が保障されているということ以上の意 見の表明の機会を与えているということですよね。 ○菅野座長  はい。 ○土田先生  先ほどの山川先生の意見ではないけれども、そういう意味ではこういうのが適正な集 約だというのが、もう少し必要かもしれませんね。 ○菅野座長  もう少し分かりやすく書いておくということですか。 ○山川先生  先ほど言ったのは、適正な集約ということについて、報告書と言うよりも運用上、よ り分かりやすいものが何か必要ではないかということです。 ○菅野座長  解説ですね。どういうイメージですか。 ○土田先生  解説です。いまの段階では必要ないと思うのですが、将来は必要です。それは指針で はなくて、例示集みたいなものです。 ○菅野座長  「注」か何かを付けなくてはいけなくなると大変ですからね。  ほかになければ、33頁の「雇用継続型契約変更制度」について、いまお気付きの点を 御指摘いただきたいと思います。 ○内田先生  36頁の配置転換の直前の「さらに」というパラグラフです。ここは民法628条を挙げ て、「契約期間中の労働契約の変更についても、おのずからこれが認められる場合は制 約される」とあるのですが、ここのパラグラフの意味が、それ以前までの記述との関係 でよく分からなかったのです。変更が合理性を持ったものでなければいけないというこ とは、それまでにもずっと論じられていて、変更に応じない場合に解雇したらそれが有 効かどうかということは、そこまでの記述の内容でもって判断されてくるのではないか と思うのです。しかし、ここに628条を挙げて「おのずから」というように書かれてい る趣旨が、私はよく理解できなかったのです。  一つ考えられる書き方としては、民法628条もあるので、「同条の法理にかんがみれ ば、労働契約の変更に基づく解除が認められる場合というのは、おのずから制約される と考えられる」というような趣旨であれば、分かるかなという気はするのです。 ○菅野座長  「やむを得ない事由が必要とされていることから」の後に、「同条の法理にかんがみ れば」ですか。 ○内田先生  結局、それまでの記述と重なった内容ではあると思うのですが、よりそれを強める理 由として、民法628条の趣旨を援用しているというように理解されます。 ○菅野座長  「変更はおのずから制約される」と。 ○内田先生  このパラグラフの趣旨を、私が正確に理解しているかどうかというのは自信がないも のですから。 ○菅野座長  これを簡単に言えば、期間の到来を待っていればいいじゃないかということでしょ う。 ○労働基準局監督課調査官  一応中間取りまとめでも、そういう考えでこれがあったと理解しております。 ○菅野座長  いまの御意見を踏まえて修文させていただきます。ほかにお気付きの点はあります か。  もしなければ、今回はこのくらいにして、53頁の「解雇」および「解雇の金銭解決制 度」の件にまいります。「整理解雇」も入れて1、2、3の部分でお気付きの点を、是 非お聞かせいただきたいと思います。  61頁のイの二つ上の段の「また金銭解決を認めることは」云々の中に、「労働者の正 当な権利行使を理由とする解雇を行った使用者」というのがありますが、正当な権利行 使を理由とする解雇というのは、どこかに例示がありましたか。 ○労働基準局監督課調査官  有期労働契約の雇止めができないというところでの例示では、年休の取得というのを 例示しておりますが、そこだけです。 ○菅野座長  それは何頁ですか。 ○労働基準局監督課調査官  67頁です。 ○菅野座長  後ろのほうで出てくるのですね。これがちょっと漠然としているから、何かここに例 示があったほうがいいかなという気がするのです。よろしいですか。 ○土田先生  確認ですが、57頁のいちばん上の「ここでは」の段落の最後には、「考慮に入れるべ き事項を法律で示す」とあります。その次の段落ですと、「考慮に入れるべき事項とし ては、具体的には、人員削減の必要性」云々とあって、その次の段落で、「講ずべき措 置を指針等で示すことが適当である」とあります。これは中間取りまとめのときからこ うだったので、これでいいのですが、改めて読むとここの関係が、ちょっと分かりにく いというか。つまり考慮に入れるべき四つの事項として、削減の必要性、解雇回避措 置、選定方法、手続というのがあって、これらは法律で明確に示すと。この法律で明確 に示した事項を考慮に入れ、予測可能性の観点から具体化するものとして、次の指針で こういうことを示すという、そういう位置付け、イメージでよろしいのですね。 ○菅野座長  基本的な事項は法律で書いて、さらにもっと具体的なものは指針で書いておこうとい う流れは、あまり出ていないですね。もう少しそれが分かるようにしましょう。 ○土田先生  両者の関係を、もうちょっと書いたほうがいいですね。 ○荒木先生  表現だけの問題ですが、57頁のいちばん上の「ここでは」の段落の5行目から、「し かし、四要素にこだわらない近年の裁判例は、裁判所ごとの解雇権濫用の判断にばらつ きを生じさせ、紛争が長期化する一因ともなっている」と書いてあります。これに対応 しているものとして、56頁の2の「整理解雇」の最初の段落に裁判例の動向についてま とめたところがあります。議論をしていたときは四要件説があったけれども、それをと らない裁判例が出てきた、しかし現在では四要素説に収斂してきている、ということを 議論したと思います。ここでは四要件説をとらないナショナル・ウエストミンスター銀 行事件のような裁判例が出てきたが、現在は四要素説に収斂した、という四要素説を離 れた叙述があるというのが抜けているので、私はやはりこれを書いたほうがいいと思い ます。「収斂」という言葉を使う以上、「四要件説があったけれども、それをとらない ものが現れた、しかし現在では四要素説に収斂した」と書いたほうが、分かりいいので はないかと思います。 ○菅野座長  ちょっと作ってください。 ○荒木先生  簡単に言いますと、「(四要件説)をとったと解される」の括弧の後に、「ところ」 として。 ○菅野座長  何頁ですか。 ○荒木先生  56頁のほうです。「(四要件説)をとっていたと解される」で括弧があって、「が」 を取って「ところ」として、「近時四つの事項を離れた判断を下す下級審裁判例が見ら れたが」とし、「最近では」につなげていただければ、「収斂した」という言葉にも対 応するのではないかと思います。 ○菅野座長  「最近ではこれら四つの事項を離れた下級審裁判例が現れた」ですか。 ○荒木先生  「見られたが、最近ではこれらを解雇権濫用を判断する四つの重要な要素であるとす る立場」として、後はこのとおりです。 ○菅野座長  いまのを参考にして、さらに修文させていただきます。 ○山川先生  いまの点を前提にしてのお話ですが、57頁の5行目の「四要素にこだわらない近年の 裁判例は」というのが、いま御指摘のあったナショナル・ウエストミンスター銀行事件 の第3次決定だとすると、それは1件か2件しかないくらいの話ですので、「紛争が長 期化する一因ともなっている」と一般現象みたいに言うのは、ちょっとどうかと思いま す。例えば「しかし四要素にこだわらない近年の裁判例のような立場では」云々とし て、「紛争が長期化する一因ともなり得る」とか、「おそれがある」とか、そんな形で いかがでしょうか。 ○菅野座長  「一因となるおそれがある」ですね。 ○土田先生  先ほどの57頁について述べたことと同じですが、54頁の普通解雇のほうも、もし57頁 のような形で明確化するのであれば。真ん中の段落の6行目辺りに、「解雇権濫用法理 を具体化するに当たっては、客観的に合理的な理由となり得るような解雇事由の類型を 法律で示しつつ」とあって、「使用者が講ずべき措置を指針で対応する」というのがつ ながることはよく分かるのですが、ここで言う客観的に合理的な理由となり得るような 解雇事由の類型を法律で示すということのイメージ、例示のようなものが必要ではない かという気もするのです。その次に講ずべき措置の例示が挙がっているのですが、客観 的に合理的な理由となり得るような解雇事由の類型というのは、非常に分かりづらいの です。もちろん就業規則上の解雇事由ではないわけですよね。 ○労働基準局監督課調査官  イメージとして書いたのは、53頁でまさに中間取りまとめで挙げていただいた、労働 者側に原因がある理由か、企業の経営上の必要性によるものか、ユニオン・ショップ協 定かというこの三つという趣旨で書いておりますが、分かりにくいということであれ ば。 ○土田先生  そういう非常に大雑把というか。しかし、それは客観的に合理的な理由なのですか。 客観的に合理的な理由というのは、さらにそこから絞り込むわけでしょう。 ○労働基準局監督課調査官  この三つ以外では、やはり客観的に合理的な理由にはならないだろうということで す。 ○菅野座長  これを取ってしまって、「解雇事由の大きな類型を法律で示す」とやってしまうと、 意味がなくなってしまうでしょう。 ○土田先生  ないですね。 ○菅野座長  しかし類型というのは、細かな類型というようにも取られるから、「代表的な大きな 類型」と書いておいたほうがいいのではないですか。このイメージで言う解雇事由の類 型というのは、もっと細かく分類する人がおられる。土田先生などはそうでしょう。 ○土田先生  53頁の労働者側に原因がある、企業の経営上の必要性による、ユニオン・ショップ協 定によるというのは、要するに解雇事由の話で、客観的に合理的という評価はもちろん 入っていないわけです。54頁で書いているイメージは、むしろ客観的に合理的な理由と はこういうものだと。労働者の行動を理由とする解雇の中でも、こういうものは客観的 に合理的な理由だというものを、少し法律で類型を書いて、さらにそれを具体化するも のが指針だという、そういう位置付けかと思ったのですが、そうではない。 ○菅野座長  労働者に重大な非違行為がある場合とか、重大な信義則違反がある場合とか、勤務成 績の著しい不良とか、そういうものではないのですね。 ○土田先生  しかし、そうしないと客観的に合理的な理由という絞りはかからないのです。 ○菅野座長  そういう問題がちょっとね。しかしここでの結論は、法律では53頁に書いてある程度 のことしか書けないだろうということかもしれません。逆にそれをどう表現するかで す。あとは指針で書いてもらうほかはないだろうと。 ○土田先生  分かりました。 ○菅野座長  まずは54頁の「解雇権濫用法理を具体化」より、「明確化」でしょうか。「具体化」 と言うほどではないですね。 ○労働基準局監督課調査官  その「具体化」という言葉ですが、53頁の(1)解雇権の濫用法理のいちばん最初の 文章で、「解雇権濫用法理については、予測可能性を高める観点から、要件をより具体 化すべきであるとの意見が出された」と。「そこで」ということで、一応今回の回答と しては、この3つのどれかでなければならないことを明らかにするということで出発 し、一応ここでは「具体化」ということを受ける答えとして書いているのです。 ○菅野座長  もう1つ文章が要るのです。しかしながら実際にそういう具体化は、法律レベルでは 難しいのです。法律レベルではこの程度をやるべきだと、こういう説明がないと。 ○労働基準局監督課調査官  ではちょっと文章を補ってみます。 ○菅野座長  解雇事由は必ず「その他の前各号に準ずる重大な事由」などというのが出てくるわけ で、就業規則でなら書けますが、それは法律ではないですからね。いまの土田先生の御 指摘を踏まえて、また検討させてください。 ○春日先生  手続的な問題です。59頁の真ん中辺りの「これについては」以下で、「従業員たる地 位の確認を求める訴え」と、それから「解決金の給付を求める訴えとを併合した」と書 いてあります。この趣旨は、おそらく58頁のかなり後半の(1)の少し上にある、「紛 争の迅速な解決の観点からは」ということで、要するに同一裁判所で解雇の有効や無効 の判断と、金銭解決の判断とを一まとめでやってしまえという趣旨だと思うのです。そ れはもちろんそのとおりで、大変結構だと思います。ただ、ここまで議論があったのか なかったのかは分からないのですが、従業員が地位の確認を求めて、従業員たる地位は 確認されたけれども、給付訴訟で給付の訴えも併せて提起しているとすると、提訴手数 料などは従業員が払うのかという話にもなってしまいます。したがって表現として、こ こまで言い切ってしまっていいのかどうか、これはちょっと考えていただけないかとい う気がするのです。 ○菅野座長  どういう代案があり得るのですか。 ○春日先生  おそらく代案としては、「従業員たる地位の確認を求める訴えの中で、解決金の給付 についても判断される」というように、少し表現を和らげておかないと、これだけパッ と読むと、原告たる従業員が両方負担するというのはちょっと。 ○菅野座長  それはやはり必然的なものになってしまいますか。 ○春日先生  この表現だと、何となくそう読まれる可能性があるような気がするので、もうちょっ と表現を。要するに一つの手続で一括するという趣旨が出ていればいいだろうと思うの です。 ○菅野座長  訴訟費用の特例みたいなものはあり得ないのですか。 ○春日先生  それはどうですかね。そこまではちょっと。 ○曽田先生  法理で特別規定をつくれば可能ではあるかと思います。 ○春日先生  これだと原告が単純併合で、確認訴訟も給付訴訟も求めているという形になっている だろうと思うのです。そうすると地位の確認は認められているけれども、なおプラスし て給付訴訟分についても、手数料まで払うのかという議論に行き着くと、ちょっと反応 が悪いのかなという気がするのです。 ○菅野座長  これは仕組みとして、ちゃんと整理できるということを書きたいと思うのです。そう いう意味で、わりと明確に書いておきたいと。 ○曽田先生  その給付判決で、強制執行ができないとまずいわけです。 ○春日先生  もちろんそうですね。 ○曽田先生  ですから地位確認の訴訟の中でやるというと、そこが曖昧な感じになるのではないで しょうか。 ○春日先生  今度は債務名義が取れないという話になりますから。 ○曽田先生  まず民訴法では、基本的にこういう訴訟は認めないですよね。 ○菅野座長  「なお訴訟法についてはこれを詰めるべきだ」にしたらいいか。 ○曽田先生  これはかなり民訴法も改正して、特別訴訟を認めないと。 ○春日先生  「検討を深めるべきである」と書いてあるから、今後の課題だと。 ○菅野座長  解説か何かで、そういう問題はなお今後も検討してほしいというくらいで、この二つ の訴えを同時にやってもらって併合するのだという仕組みは、やはりここに書いておか ないと、本当にそういうものが仕組めるのかということを問われてしまいます。春日先 生が提起された点は受けとめておくということで。 ○春日先生  私も基本的には、この方向でもちろんいいのです。 ○菅野座長  これも議事録に残るし、なお今後詰めていくべき点として。 ○労働基準局監督課調査官  まさに検討を深めるべき中身としては、そういうことになると思います。 ○山川先生  ここではあまり細かい議論をしなくてもいいのかもしれませんが、58頁の下から2段 目の「解決金の性質」では、「雇用関係を解消する代償であり」とあります。一方では 地位確認を求めていて、それが辞職の申出で終了するということは、ある意味で雇用関 係の地位確認の中に含まれている、と言えなくもないような気もするのです。専門では ないので分かりませんが、訴訟費用的な観点からすれば雇用関係は要らないけれども、 解決金を求めるということでしたら、雇用関係の地位確認訴訟の訴訟費用でカバーされ るという説明もありうるのではないか。 ○菅野座長  特例を求める理論的な根拠がね。 ○山川先生  何か入れると。 ○菅野座長  それでは春日先生の点は、そういうように受けとめさせていただいて、この他に何 か。 ○春日先生  あるいは58頁の「労働審判制度においては」以下も、これが非訟事件手続と言うので すが、実際には調停手続も含んでいるのですよね。それを一言入れておいたほうがいい かなという気はしたのです。 ○菅野座長  具体的にはどうするのですか。 ○春日先生  「労働審判制度においては、労働審判手続は調停手続をも含む非訟事件手続として位 置付けられていることから」として、後はそのままです。 ○菅野座長  それでは、そのようにさせていただきます。解雇、金銭解決関係について、ほかに御 指摘はありますか。 ○村中先生  先ほど問題になった61頁の差別的解雇と正当な権利行使についてです。こういうカテ ゴライズは一般的ですか。通常は公序良俗違反とか、法律上の禁止などですよね。それ だと広くなりすぎるという趣旨ですか。 ○菅野座長  それだと曖昧すぎるので、こういうようにしたのです。公序良俗違反というのはよく 分からないから。 ○村中先生  広くなりすぎるということですか。 ○菅野座長  広くなりすぎるというよりも、曖昧だということだったと思います。それで想定して いるのはこういうことなので、それならばこちらの表現のほうが分かりやすいだろうと いうことです。 ○村中先生  例えば労基法19条に違反しているケースなどは。 ○菅野座長  産前産後の休業のほうは、当然の権利行使になるのですか。 ○村中先生  それはそれでいいですね。 ○菅野座長  業務上の災害による療養期間というのは、権利行使とはちょっと違いますね。それを も入れるべきだと。しかし19条自体でそれがあるのだからいいということになりません か。 ○村中先生  よく見れば、19条の権利ということですね。権利行使をそう見ればいいという話です よね。 ○菅野座長  その場合も、解消の訴えができないようにしたほうがいいというのであれば書いたほ うがいいのですが。まだまだ未検討なところがありますから、「正当な権利行使を理由 とする解雇等」ということで、「等」を入れておきましょうか。  有期労働契約については、今日は検討できなかったのですが、あと2回しかないの で、この点は是非というものがあれば、事前にお知らせいただいて、それを私に任せて いただいて、皆さんに修正案を提示したほうがよければそうさせていただくということ にしたいと思います。時間がきましたので、今日いただいた御意見等に基づいて、事務 局案をどう修正するかについては、私のほうで調整させていただき、次回の研究会に提 出することにしたいと思います。次回は本日の議論を踏まえた修正点の確認と、本日議 論できなかった点の御検討をお願いしたいと思います。事務局から次回の研究会につい ての連絡をお願いします。 ○労働基準局監督課調査官  次回の研究会は9月8日の木曜日、10時から12時までです。場所は厚生労働省17階専 用第18から第20会議室にて開催したいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○菅野座長  特になければ、本日の研究会はこれで終了したいと思います。いろいろ貴重な御意見 をどうもありがとうございました。 照会先:厚生労働省労働基準局監督課政策係(内線5561)