05/06/20 労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあり方検討会第3回議事録      第3回労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあり方検討会                       日時 平成17年6月20日(月)                          15:00〜                       場所 経済産業省別館825号会議室 ○工藤座長  定刻になりましたので、「第3回労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあ り方検討会」を開催いたします。本日は坂谷委員が所用により欠席となっておりますの で、よろしくお願いいたします。藤村委員、矢野委員は少し遅れておりますがご参加の 予定です。議事に入る前に、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。 ○中央じん肺診査医  山本診査医の後任で、井戸田と申します。よろしくお願いいたします。  それでは配付資料の確認に入ります。資料1は「これまでの議論」と書かれたものに なります。資料2は「結核予防法改正に伴う労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検 査の見直しについて」です。資料3は「老人保健事業について」と書かれたもので、4 枚綴りになっております。資料4は「胸部エックス線検査対策検討委員会報告書」とい う見出しから始まるもので、矢野委員の資料です。  資料5は「第2回検討会における配付資料5について」です。資料6は「胸部エック ス線検査の必要性について」です。資料7は「じん肺対策に関する論点(案)」で、1 枚紙のものです。資料8は「じん肺法令概略」で、3枚綴りになっています。資料9は 「結核罹患率」、資料10は検査の流れ図が書いてある1枚紙のものです。次の頁に横書 きの表が書かれておりますが、これが資料11で、紙の左端に記載されております。次が 第2回検討会資料4と打ってある小冊子で、「胸部エックス線検査対策検討委員会報告 書」です。最後が「第2回検討会資料5」と右肩に書いてあるものになります。 ○工藤座長  早速、議事に入りたいと思いますが、事務局のほうでこれまでの議論の内容をまとめ ていただいておりますので、資料1にありますが説明をお願いいたします。 ○労働衛生課長  資料1に基づき、これまでの議論の概略をまとめておりますので簡単に説明いたしま す。1ですが、これまで、則第43条の雇入時の健康診断について議論をいただきまし た。基本的にはいちばん上の○の最後に記載されているように、「従来どおり、胸部エ ックス検査を一律に実施すべきである」という結論になったと思います。○の2つ目で すが「健康診断で胸部エックス線を実施することは海外の結核蔓延地域に居住していた 等のリスクの高い労働者を雇入れる場合の結核対策も有効である」という議論がありま した。  2番目は海外派遣労働者の健康診断についてで、これも則第45条の2です。最初の○ の部分の真ん中からやや下の部分の記載のように、派遣前の健康診断実施を事業者に義 務づけております。また、帰国後の健康診断の実施も則第45条の2で事業者に義務づけ ているわけですが、これについて議論していただいた結果、従来どおり、胸部エックス 線検査を一律に実施すべきであるという結論になったと思います。  3番目は則第46条の結核健康診断についてですが、改正前の結核予防は、原則すべて の労働者に対して年2回の結核健康診断ということでしたが、改正後は学校、医療施 設、福祉施設等において業務に従事する者に対して、年1回の実施を事業者に義務づけ ているわけです。現行の労働安全衛生法は改正前の結核予防法を踏まえて、定期健康診 断等において結核発病のおそれがあると診断された者に対して、6ヶ月後の胸部エック ス線検査の実施を事業者に義務づけているわけです。健康診断の結果、結核の発病のお それがある者については、確実に医療機関を受診するよう事業者は配慮すべきであると いう意見がありました。結核予防法において、医療機関への受診を前提として、結核発 病のおそれがあると診断された者に対して、6ヶ月後の胸部エックス線検査等の実施に 係る規定がありました。これが改正で廃止されましたので、労働安全衛生法におきまし ても、同趣旨の規定を廃止すべきであるという結論になったと思います。  4番目の則第44条の定期健康診断には、則第45条の特定業務従事者の健康診断を含ん でいますが、これについては未だ議論をいただいているところで、いままでの意見の内 容をここに記しておきました。まず結核対策としては、基本的には結核予防法の改正内 容に基づいて対応することとし、結核対策以外を目的とする胸部エックス線検査等のあ り方について検討をするべきだという意見がありました。また、じん肺有所見者等の労 働衛生の観点から、独自に結核対策を講じる必要がある労働者については、別途検討を 行うということです。これは本日の議題にお願いしたいと考えているところです。学 校、医療施設、福祉施設等の改正結核予防法で定める施設の労働者、じん肺有所見者、 及び職場で結核感染の危険が高いと考えられる労働者等の労働衛生の観点から独自に結 核対策を講じる必要がある労働者以外の労働者の場合でも、医師の判断により胸部エッ クス線検査を実施できるようにしておくことが必要であるという意見がありました。  (2)の肺がん対策の部分ですが、事業者に特殊健康診断としてがん検診の実施を義 務づけております。これは発がん性を有する有害物を取り扱う業務の場合ですが、当該 労働者以外の労働者については、業務起因性等が認められないことから、従来より事業 者に一般健康診断において、大腸がん検診、乳がん検診等のがん検診の実施を義務づけ ているわけではないということです。さらに、主に結核対策として胸部エックス線検査 を実施していく中で、肺がんが発見されることもありますが、従来より労働安全衛生法 に基づく一般健康診断では、肺がん対策を目的としてきたわけではないということで す。他に、保健事業として医療保険者等が任意にがん検診を行っている場合もある。こ れらの検診については、老人保健法に基づく健診、あるいは健康保険の保険者が被保険 者、並びに家族を対象とする健診について、今回報告をするようにという宿題をいただ いております。  3頁の上の業務起因性ですが、作業関連等が認められない肺がんを対象疾病として、 労働安全衛生法に基づく定期健康診断等において、事業者に胸部エックス線検査等の実 施を義務づけることは適切でないという意見がありました。また、肺がん対策として胸 部エックス線検査の有効性については、現在評価が分かれており、十分な有効性が確立 しているわけではないという意見もいただいたところです。(3)は結核、肺がん以外 の疾病の対策としてですが、結核、肺がん以外の疾病については「業務起因性」「作業 関連性」「業務起因性は明確でないが、労働することによって増悪する可能性のある 」、また「健康診断としての胸部エックス線検査等の有効性」等を考慮して、事業者に 胸部エックス線検査等の実施を義務づける必要性を十分に検討する必要があるという意 見です。  また、これまで一律に胸部エックス線検査を実施してきた結果、有所見率が高く、さ まざまな所見、疾病が認められているという意見がありましたが、次の○で、反論では ないのですが相対する意見として、結核と肺がんを除く胸部エックス線検査で発見され る所見、疾病のほとんどが特異性は高くない、治療の必要性が乏しい、自覚症状のほう が先に出現する等の理由によって、発見する意義に乏しいものであるという意見陳述が ありました。仮に、一律に実施しないとしても、例えば未規制の物質を取り扱う等の有 害性がはっきりしない業務に従事している労働者については、業務歴、年齢、生活歴等 を考慮して、医師の判断によって胸部エックス線検査を実施できるようにしておくこと が必要であるといった意見をいただいているところです。  前回までは大体そのようなところですが、今回はこのようなご意見に基づき、意見陳 述をいただいた上で、事務局としてはさらにじん肺を対象とした胸部エックス線の取扱 いについて議論いただきたいと考えております。以上です。 ○工藤座長  ただいま説明をいただきましたが、資料1の1の雇用時の健康診断、2の海外派遣労 働者の健康診断については、従来どおり実施する。3の結核健康診断の中で、結核発病 のおそれがある者に対する6ヶ月後の胸部エックス線検査の実施については、結核予防 法の改正を踏まえて必要はないと、これは医療のほうに委ねるという意味ですが、これ が予防法の改正の趣旨ですので、そのようなことで必要はないと。この3点について、 前回の検討会において議論がすでに取りまとめられたと理解しております。  本日の主題になってくる前回から引き続く定期健康診断の問題ですが、これについて はいま説明があったように、従来どおり実施すべきだという意見と、労働安全衛生法の 趣旨、あるいは健康診断としての胸部エックス線検査の有用性の両方を考慮しますと、 一律に実施する意義は乏しいのではないかという両方の意見が出ていたように思いま す。議論を進めていく中で、一律に実施するというよりも、胸部エックス線検査が必要 でないものについては医師が個別に判断するという考えもあっていいのではないかとい う意見が出ておりました。今日は、この点についてさらに議論を深めていきたいと思い ます。いままでの取りまとめのところで、何かご質問等があればお願いいたします。 ○堀江委員  誤植だと思いますが、2頁のいちばん下の「保険事業」は、健康の「健」だと思いま す。 ○工藤座長  「増悪」のところは憎しみを増すような言葉になっていたものがあります。3頁の結 核、肺がん以外の疾病の対策としてのところで、「憎悪する可能性」の「憎」が間違っ ていますのでご訂正をお願いいたします。  次に、関係団体ということで、日本呼吸器学会と日本肺癌学会から連名の意見書を資 料2としていただいておりますので、事務局から紹介させていただきたいと思います。 ○労働衛生課長  資料2ですが、日本肺癌学会、日本呼吸器学会の会長、理事長から厚生労働大臣宛に きたものです。紹介ということで全文を読み上げさせていただきたいと思います。  結核予防法改正に伴う労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検査の見直しについ て。結核予防法の改正に伴って、労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検査の見直し が検討されております。もとより、労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検査は、労 働現場における結核感染を防止することを主たる目的としたものであり、近年の結核罹 患率の減少の下で、本来の意義が著しく低下していることは十分承知しております。し かしながら、胸部エックス線検査が、労働安全衛生法において呼吸器系疾患を対象とす る唯一の検査であることから、結核発見率が低下した今日でも、肺がんをはじめとする さまざまな呼吸器疾患の早期発見と、国民の中核をなす5,000万労働者の呼吸器疾患に 対する予防意識の喚起に重要な役割を果たしていることも事実であります。  私どもは、今回の見直しによって、労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検査が廃 止もしくは著しく縮小された場合、国民の呼吸器疾患の早期発見と予防意識に後退が生 じかねないことを危惧しており、何らかの代替え策の導入が必要と感じております。  今日、我が国では年間約5万8,000人が肺がんによって死亡しており、男性ではがん による死亡の第1原因となっています。また、最近の調査では500万人を超える慢性閉 塞性肺疾患(COPD)患者の潜在が推定されており、現在、すでに10万人を超えてい る在宅酸素療法患者の約半数はCOPDによっております。重要なことは、これらの疾 患は早期発見によって、救命あるいは進行を阻止し得るだけでなく、予防し得る疾患で あることであります。  私どもは、今回の見直しにおいて、5,000万労働者の呼吸器疾患の早期発見と予防の ために、一定年齢以上及び喫煙者に限定した胸部エックス線検査や、スパイロメトリー の導入、また、でき得ればヘリカルCT検査など、時代に即した積極的な施策への転換 を図っていただきますよう、切に要望いたします。以上です。 ○工藤座長  事務局から紹介いただきました日本呼吸器学会、日本肺癌学会の連名による意見書に つきまして、何かご意見、ご質問等があればお願いいたします。特にないようですの で、このような2つの呼吸器の中心的な学会から厚生労働大臣宛に、このような要望書 が出ているということです。前回の検討会において、老人保健事業における健康診査に ついて、事務局から紹介していただくことになっていましたのでお願いいたします。 ○労働衛生課長  前回、いわゆる国民の健康診査、健康診断ですが、これをいろいろな所でやっている という話があり、特に老人保健事業について、どのような健康診断が行われているかと いうことで報告するように宿題をいただいたわけです。資料3に基づいて、ざっと説明 させていただきます。老人保健事業についてですが、制度概要で老人保健法に基づく保 健事業として(1)〜(7)の事業があり、(4)に健康診査があります。これらの老 人保健事業は、健康診査も含めて、実施主体が市町村です。対象者はその他の保健事業 のところに入るわけですが、40歳以上の者(職域等において、これらの事業に相当する 事業の対象となる場合を除く)ですから、労働安全衛生法による職域保健の部分はここ で除かれるということになり、大体1,800万人の方々が老人保健事業の医療を除く部分 の保健事業の対象者ということになるわけです。  費用負担について、医療の部分はちょっと別ですので除いておきますが、その下の 「その他の保健事業」については、国、都道府県、市町村がそれぞれ1/3ずつ負担し てやっていくことになっております。後ほどまた詳しく説明しますが、基本健康診査、 歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、肝炎ウイルス検診については、費用の一部を対象者から 徴収することができるということです。  保健事業の概要のところで、表の左側の上から「健康手帳」「健康教育」「健康相談 」とあり、真ん中に「健康診査」というのがあります。これが老人保健事業に基づく健 康診査、いわゆる健康診断事業です。その基本をなしているのは、上の部分の「基本健 康診査」というところで、対象は40歳以上の者。訪問基本健康診査については40歳以上 の寝たきり者等。介護家族訪問健康診査については、40歳以上で家族等の介護を担う者 となっております。受診者数は平成15年度の実施実績ですが、1,294万人となっていま す。全体受診率では44.8%という数字が出ているところです。この他に、歯周疾患検 診、健康度評価、受診指導、これは基本健診の結果で要療養と判定された方々について です。肝炎ウイルス検診は節目検診として5歳刻みで、基本健康診査の受診者に行って いるということです。節目外検診として、肝機能異常や外科的処置を受けたハイリスク な方々にやっているということです。  この中にはがん検診はないのですが、これについてはまたちょっと変わっていますの で3頁をご覧いただきたいと思います。平成9年まで老人保健法に基づき、老人保健事 業として実施されていたわけです。この時代は老人保健事業ですので、国、都道府県、 市町村がそれぞれ1/3ずつ費用を負担して行われておりました。平成10年から、がん 検診の部分についての財源が地方交付税となったと同時に「市町村事業」となり、「老 人保健事業」から外されてしまったということになるわけです。ただし国はがん検診実 施のための「がん予防重点健康教育、及びがん検診実施のための指針」を示しておりま して、その実施基準を示しているわけです。  このようなことですので、現在では、費用負担については市町村が地方交付税等を充 当してやっているわけですが、個人費用の負担は、市町村ごと完全にばらばらに定めら れております。いちばん下のところですが、胃がん検診では無料の市町村から2,500円 程度取る市町村まで、かなりのばらつきが出ております。現在、国のがん検診の指針で すが、ここで示しているがん検診はここに挙がっている6つのがん検診です。肺がん検 診では、問診と胸部エックス線検査、喀痰細胞診が必要な場合にはこれに加わっている ということで、受診者数が784万人、受診率は23.7%ということです。自治体において は、昨今これにヘリカルCT等を入れて行っている所もあります。  子宮がん検診は20歳以上の女性で、受診者数は409万人ということです。子宮頸部の 細胞診、必要に応じてコルポスコープ検査というものがなされています。乳がん検診 は、平成15年度の実施実績が349万人で、40歳以上の女性が対象で、ほとんど視診、触 診ですが、自治体によってはマンモグラフィーによる検診を取り入れている所も出てい ます。胃がん検診は定着している市町村が結構ありまして、40歳以上の方々に対して実 施されております。実績として451万人です。大腸がん検診は、便潜血反応検査、これ は2日法でやるのがほとんどであり、640万人の実績があります。これらを組み合わせ て直腸検査を入れているところで総合がん検診というものが指針に示されており、40 歳、50歳の方々ということであります。その他に、自治体によっては前立腺がんを加え ている所もあるという状況です。  次頁には、労働安全衛生法と老人保健法の健康診断項目の比較表が出ています。かな り重なっていますが、老人保健法における40歳以上のものの中に視力、聴力はありませ ん。胸部エックス線検査が指針の中で必ずやるというものではありません。やっている 自治体もありますが、肺がん検診と一緒にやっておりまして、そのような運用がなされ ていると聞いております。貧血検査等については、医師の判断に基づいて老人保健法の ほうではやっております。肝機能検査はなされており、血中脂質、血糖は空腹時血糖。 尿検査も老健のほうではなされております。心電図などは、一般的に老人保健法ではな されていないようです。  もう1つ、保険者には各健康保険組合、社会保険センター等によって行われているも のがあります。これは健康保険法の施行規則によって行われている健診です。施行規則 第155条に、健康保険組合に関して厚生労働大臣が行うことを命ずることができる事業 は次のとおりであるということで、その中に健康診断に関する事業があります。これに 倣いました社会保険センター、各組合健保でも健康診断、健康診査のサービス提供を行 っているわけで、調べましたが取りまとめた資料を入手できませんでした。各組合ごと にどのくらいの方々が、どのような項目でやっているのかということを取りまとめた資 料が、厚生労働省内にありませんので今日は提供できないわけですが、一応このように なされております。これらの健診については、一般的な健診項目を網羅した健診と、一 部個人負担を導入した人間ドック等もサービスとしてなされているということです。 ○工藤座長  老人保健事業、がん検診を中心に紹介していただいたわけですが、労働安全衛生法に 基づく健診項目と老人保健法での健診項目の比較等にも触れていただきました。老人保 健事業においては、医療については75歳以上ということですが、その他の保健事業とし ての健康診査に関しては40歳以上ということで、このような内容のことが行われている というご紹介でした。何かご質問等があればお願いいたします。 ○土肥委員  いま説明していただいたがん検診の対象は、特に労働者以外を示すものではないとい う理解でよろしいのでしょうか。働いているから対象ではないか、あるかという判断基 準がないものであるという理解でよろしいということですか。 ○労働衛生課長  基本的にはそうです。 ○土肥委員  実際の指針の中でそのようにきちんと書かれているものがなくてよろしいのですか。 ○労働衛生課長  がん検診の対象は、ただ40歳。 ○土肥委員  肺がん検診の対象者の所は、全く空欄になっているのですが、誰でも全員受けられる がん検診であるという理解でいいのですか。 ○労働衛生課長  それはそうです。 ○土肥委員  労働者かどうかという基準も別にないということでよろしいのですね。 ○労働衛生課長  はい。 ○工藤座長  受診率はかなり低いのですが、もし100%になると、相当な数に及ぶはずですが、本 来の母数は非常に広いと考えてよろしいのですか。 ○労働衛生課長  そうです。肺がんで780万、800万人弱で23%ですから、4倍で、3,000万人ぐらいに なるかと思います。対象者としてはそのぐらいになるということで、各自治体ごとの受 診者の対象者数と、それの受診率とを出していきますので。 ○工藤座長  江口委員は肺がん検診のご専門ですので、お答えいただければと思います。 ○江口委員  対象者の欄が空欄になっている所というのは、老健法のときの年齢基準をそのまま踏 襲しているということですか。 ○労働衛生課長  そのままです。 ○江口委員  そうすると、40歳ですか。 ○労働衛生課長  40歳です。 ○江口委員  ここが空欄になっている意味がちょっとわからなかったのです。 ○労働衛生課長  わかりました。基本的には労働者であって、労働安全衛生法の健診を受けていても、 そこの住民として住民登録されていれば、がん検診の通知は全部くるというのが普通の はずです。 ○工藤座長  他に何かご質問があればお願いいたします。なければ、本日は矢野委員、柚木委員の お二人方から、第2回に引き続いて意見陳述を行いたいという希望が出ていますので、 説明をお願いしたいと思います。矢野委員は到着されたばかりで恐縮ですが、よろしく お願いいたします。資料4、5になるかと思います。 ○矢野委員  他の所用で遅くなりまして、大変失礼いたしました。帝京大学の矢野でございます。 資料4、5を提出していますが、前回私が出しました資料の一部訂正の内容を含みます 資料5からお話させていただきたいと思います。 ○工藤座長  後ろに付いている資料5とは違います。第2回のときに資料5として添付されており ます。 ○矢野委員  今回の資料5は、表題が「第2回検討会における配付資料5について」というもので す。全部で3頁、後ろの2頁が細かい数値の表になっているものですが、私が前回提出 した資料の中で、胸部レントゲン検査を実施する目的とその有効性の中の、直接数値化 できる利益と不利益について議論しました3番のところですが、会議の後で放射線医学 を専門とする委員のほうから、いろいろな議論があるという指摘を受けまして、私なり に前回の資料を取りまとめるにはかなりいろいろな角度から分析している中で、この部 分については比較的数値ではっきりするにもかかわらず、たまたま手元にあった資料等 でやってしまったということがありまして、関係の資料をもう一度洗い直すということ をしたわけです。検査に伴う放射線被曝量と、その被曝に伴う健康影響の両方向ともい ろいろな議論、データ、1つは私の記載の誤りというのがありましたので、それをお話 させていただきます。  1番目に、検査に伴う被曝線量ですが、一方で全衛連の柚木委員から出された数値と 私の数値がほぼ同じ範囲。柚木委員の数値ですと0.22〜0.31mSvで、大本は同じかもし れませんが、私はたまたま手元にありました0.26mSvという数値を使わせていただきま した。ところが、2000年に行われた放射線の健康影響に関しての国連科学委員会での表 というもの、これには各国別に実際に使われている検査の様子に基づいての国別のデー タが出ております。表15というタイトル、これは国連科学委員会のタイトルの表が15だ ったものですからそのままコピーしておりますが、その中程に「日本」というのがある と思います。日本の所の放射線の被曝量、胸部レントゲン検査、その他の検査に伴う被 曝量について、単位は同じくmSvですが、これですと直接撮影が0.057、間接撮影が0.053 です。間接撮影のほうが直接撮影よりも低くなっているのは私もここで初めて知ったの ですが、前回、私もしくは柚木委員が提出したものよりは、1回の検査に伴う被曝線量 が大体1/4まで下がってきている、これは大変結構なことではないかと思います。そ のような意味で、1回の検査のリスクの見積りを1/4で考えたほうがいいということ が、現在の日本の機械では言えるということがあります。  ただ、最近急速にコンピューティッドラジオグラフィと言いますか、デジタル化が進 んでおりまして、これはもう少し感度が悪く、別なことがあるようですが、具体的な数 値を持っておりません。一方、逆側に同じ被曝線量に対してどれだけの生涯過剰発がん 死リスクがあるかについては、前回出した1990年の国際放射線防護委員会(ICRP) の数値というものがかなり大きな基礎になっておりまして、その後も国連科学委員会な どでも基礎の数値として使われているわけです。  前回、私は白血病の数字をもって全部のがんであるかのように言ってしまい大変失礼 いたしました。結果として1/10のリスクという言い方をしてしまった格好になってい ます。被曝量が1/4、リスクとしては10倍ということで、2.何倍ぐらいのところに あったということになります。前回、10万人中に500人と言いましたが、1万人中500人 で、1回の検査1Svの被曝で500人が生涯ならなくてもいい過剰のがんになるという計 算ですが、これが他の見積りではどうかということで、国連科学委員会ではそれの2倍 の1,200という数字を挙げているということが表1に出ています。  表1では、上から下に向かってだんだん時代が新しくなってきて、それはそれだけ議 論を経て踏まえたものであると理解しておりますが、下から3番目に、前回から引用し ているICRPの1990というのがあります。「赤色骨髄」と書いてあるのが白血病で、 これを前回使ってしまったのですが、正しくは全がんの500。10-4即ち1万人当たり に500であるということであったわけです。国連科学委員会では、その倍以上の1,200と いう数字を使っております。このようなことを見ても、前回私が申し上げた数値という のは、決して過大な話ではなく、むしろ過小な見積りであったのではないかとは思って おります。  ただ、ここまでいろいろデータを見てきますと、特に国連科学委員会などでは何百頁 にも及ぶドキュメントで、その中で実際のデータがあるのは広島・長崎、最近ではチェ ルノブイリの事故などの数値を使い、当然ながら、そこでは大変高い被曝線量のところ で計算をしている。それに対して、この検討会で問題にしている1回の胸部レントゲン 検査というのは、それの1/1,000とかそれよりもずっと低い数字での議論をしている。 そうすると、大きいところの数字から低いところの数字へどう持っていくか、ここがい ちばん大きな問題になるかと思います。  これについてはこの領域で、いわゆる白内障、皮膚が赤くなるといったものはある敷 居値があるのに対して、がん、白血病、遺伝的な毒性については敷居値がない。頻度は それだけ減っていくが、どこまでいっても可能性がある、確率的な影響だという議論が ずっと続いておりますが、そこにどのようにして低いほうで値を求めるかについては、 文献などを見ると、線形二乗式で当てはめるとか、逆に少し増えていくとか減っていく などのいろいろな議論があって、決して落ち着いていることではないということが第1 点。  第2点に、そのようなレベルでの議論は、言うならば、かなり科学者たちがいろいろ な予測も入れてやっている議論なので、本検討会は極めて具体的な課題の場であり、あ まりそれをやってしまって、しかも数字が具体的なものですから、その数字だけが独り 歩きするということは、他のことの議論に悪い影響を与えるのではないかとちょっと懸 念をいたしました。  例えば、放射線の検査一般について、これで国民が危険だと思ってしまうと、医療上 大きな問題がありまして、ICRPも常に放射線の被曝はできるだけ少なくしなくては いけないが、医療上の有用性があるときには十分に、妙にちょろちょろ考えないで十分 な検査はする必要があるという考え方をしておりますので、私がこの前の議論で提示し た数値、その数値自身は専門家の中で言われている数値よりもむしろ控え目の見積りで はありましたが、やはり数値でうっかり出して独り歩きしないほうがいいのではないか という意味において、前回の私の資料の中の「3.胸部レントゲン検査の実施の利益と 不利益」という部分については、お詫びして削除させていただきたいと思います。どう も申し訳ありませんでした。これが前回の訂正の部分です  ちょっと長くなってしまい申し訳ありませんが、今回の資料4は「胸部エックス線検 査対策検討委員会報告書(平成17年4月 社団法人全国労働衛生団体連合会)で示され た胸部エックス線検査有効性の論拠について」というタイトルで私の名前で出させてい ただいたものです。これは前回柚木委員から提出され、今回別の委員会と重複して、右 肩に「第2回検討会の資料4」と書いてあるものを、前回の会議ではその場で拝見しま したが、詳細に見ることがなかなか難しかったものですから、帰宅後拝見させていただ き、それに対してのコメントをしたものが今回の資料4の内容です。  前回の柚木委員の全衛連の報告書は2〜6頁に概要がありますが、主にIの「胸部エ ックス線検査の意義と有効性に関する検討」について述べさせていただきます。第II項 の点というのは、胸部エックス線検査を廃止することに伴う、例えば健康診断事業体、 診療放射線技師の生活の問題など、これ自身決して無視できない重要な問題であるとは 考えていますが、取りあえず、まず医学的に有効かどうかということに限定させていた だきたいと思います。私の資料の2番目に書いてある有効性と有用性ということは前回 も述べましたが、最近EBMということが言われまして、医療行為の根拠というものを きっちりさせていこうというときには必ず出てくる、避けて通れない問題ですが、必ず しも日常会話の言葉で「有効」ということと、「有用」ということが分けられていな い。厳密に議論する上では、有効と有用は分けなくてはいけないということは、一種の 常識かと思います。  簡単に言いますならば、実験室で非常にいい薬であったというものが、実際にマーケ ットに出て広く国民に使われるというのは1/1,000以下だというのが、実験室的に有 効であっても、副作用があったり、高かったり、思わぬ別の作用が出てきて有用ではな い。まず有効であるか、有効の中のごく一部が有用であるというのが、薬などの例では あるわけです。敢えて繰り返しますが、有効と有用を分けて述べさせていただきたいと 思います。健診に関連して、これは私が労働衛生の分野に入って最初に先輩から教わっ たこととして、膀胱鏡検査は大変有効な検査ではあるが、一次スクリーニングとしては 有用でないという例を勉強した記憶がありますので、それをちょっと紹介させていただ きました。  全衛連の報告書では、どうも有効性と有用性という使い分けがはっきりしていないよ うに窺えます。言葉としては有効性しかないのですが、私なりに有効性と有用性を、使 われている文脈から分けながら読み取らせていただきました。有効性と読み取れる内容 として、全衛連の前回の報告書の中では、有効性というと、まず病気のある人をどのく らい異常と言えるかどうか、これが感度です。病気のない人をやたらに陽性とせず、陰 性とできるか、これが特異度ですが、それを調べた数値、これが有効性の検査、あるい はスクリーニング検査において最も基礎になる指標になるかと思いますが、万を超える 大きな数字のデータをいくつも出しているにもかかわらず、このような検査の感度、特 異度ということについて示した数字が残念ながらないように思われます。感度・特異度 のことは教科書に必ず出ていることですが、念のため、私の今回の資料の3頁目の最後 の所に、表で示していますのでご確認いただければと思います。そのような意味で、有 効性ということの議論の素材が、残念ながら、全衛連の報告書のどこにもあまり具体的 なものとして提示されていないと思います。  有効性はわからないが、実は有用だということを必ずしも否定はしないわけですが、 有用性の根拠としてどのようなことが言われているかを検討したのが、2頁目です。有 用性として資料の流れの大きなものでは、資料1として、安西弁護士の意見というのが 示されております。安西弁護士の意見というのは、文字どおり意見であって、あまり根 拠を提示しているようには思えないわけですが、加えて医学の専門家である柚木委員か ら、医学が専門ではない安西弁護士の論拠を使われるということ、私には理解しがたい ところで、まず医学の専門家としてこの有効性あるいは有用性を十分検討した上で、そ れが法律的にどうであるか、社会的にどうであるかという素材に乗せるのが順序ではな いかと考えるわけであります。  次に、3カ所の事業所健診の実際の追跡結果等を使っての数値の中、これは有効性の 根拠ではないと先ほど申しましたが、有用性の根拠としてどのようなのがあるかという ことを見たわけです。2頁目の真ん中、資料7(1)(2)(3)に当たる、前回の柚 木委員の資料のかなりの部分を占めている表についてですが、非常にいろいろな種類の 疾患が見つかっていること、有所見率がそこそこあるということですが、実際にどのく らいの病気が見つかっているかということで言うと、必ずしも高い疾病の発見がなされ ているわけではない。見つかったというのをよく見てみると、瘢痕所見、昔病気があっ たが治った所見があったといったものも含めての数字であって、これがどのような意味 においても有用性の根拠となる数字であるとは理解できないものでした。  全衛連報告書の有用性の根拠の1つが、我が国ではこの分野で大きな権威がある日本 呼吸器学会、日本肺癌学会の見解、米国の専門委員会の紹介、これは世界的な一種の権 威であるからだろうと思いますが、そこの紹介があります。ただ、残念ながら、学会の 中で、あるいは学会の幹部からの意見ということで、結論として廃止反対という直接最 終的な行政施策についての意見表明ではあっても、根拠の提示という形にはなっており ません。これは詳しくわかる方がいましたら、それについて教えていただければと思う のですが、結果だけある団体がこうであると言われて提示していただいても、有用性の 根拠にはならないと思います。  そのような意味では、かなり詳細にいろいろな分野について学術的な検討をしている 米国の専門委員会(US Task Force Preventive Medicine)から出ている評価、これ は肺がんのスクリーニング検査について胸部のレントゲン、CT、ヘリカルCT等も含 めて議論をしているということ、それの要約部分が前回の全衛連報告書の中にもコピー されておりますので、それをよく拝見すると、結局肺がん検査をやることの根拠が不十 分であると書いてあります。これは柚木委員が前回の全衛連の報告書の紹介に当たっ て、前は根拠がないという表現であったのが、不十分になったということで、これは根 拠があるという方向に、ちょっと誤解をするような表現があったのではないか。あくま で結論は、現在、それをやるといいことがあるという根拠がないと。前回申しましたよ うに、法律で強制される、行わなければ罰則がある検査について、少なくとも米国の専 門家は膨大な文献の検索として、根拠不十分という結論を出しているということがある と思います。これもそのような意味では、この検査の有用性の根拠を提示しているもの にはならないのではないかと思います。  2頁の最後、健診の対象疾患については、私が来る前にまとめていただいたようです が、すでに健診の対象疾患として肺がんは含めないということが確認されております し、それ以外の疾患について個々に考えていきますと、かつての結核というのはそのよ うな意義を持っていたのですが、それ以外に、何のためにという具体的な疾患はなかな か挙げづらいと思います。以上を見てきますと、残念ながら、前回全衛連報告書として 提出されたものの中に、この形での現時点で胸部レントゲン検査を一律に、義務、強制 でやっていくだけの根拠となるもの、それが有用だとするところのもの、有効だという ことも有用だということも、見られる根拠を認めなかったわけです。  実際の職場のほうはどうかということを考えてみますと、健診について必ずしも世の 中は万全な体制ではなくて、法律でこのように規定されていても、5年ごとの厚生労働 省の調査によれば、健診を行っていない事業所というのが、結構存在するのです。 5年前に比べて、健診の費用のことを問題にする事業所の数が2割から3割近くに迫っ てきて、増えてきている。特に、現在受けていない、健診も行っていない事業所では、 この費用のことを大きな問題にしているという現実があるわけです。健診もやればい い、絶対やるということを言うだけでは事業所のほうがついて来にくくなっている現状 があるわけです。このようなことをお金のことだけで考えていいかと言いますと、私も 産業現場に関わっている中で見ていると、現実に職場の中では健康障害が非常にあるわ けです。過重労働などのようなことで、つい先日の新聞でも労災認定される過労死の人 が増えているということが出ておりましたし、産業医学、労働衛生が取り組まなければ いけない課題というのは非常にたくさんある。それを単純に機械任せ、数値任せでやれ ることではなく、もっと現場に入り込んだ丁寧な対処ということが求められている、そ のような時期ではないかと思います。  そのような時代の変化を見ながら、いま現場の労働者たちの健康を守るということで 最も必要なものにシフトしていく、そのような検討、これは現在の日本の産業構造社会 の中ですべてのセクターでなされていることであって、特に人間の健康ということに、 ポジティブにもマイナスにも関わり得る分野で、このような見直しということが不断に なされていかなければ、健診事業自身が国民から、あるいは労働者から見放されてしま うのではないかと考えております。長くなってしまい失礼いたしました。 ○工藤座長  ただいまの矢野委員のご意見に対して、いろいろと質疑があろうかと思いますが、そ れらは次の柚木委員のご発言の後一括して行いたいと思います。ただ1点だけ、矢野委 員の資料の2頁のところで、日本呼吸器学会と日本肺癌学会の見解は、廃止反対という 意見とあります。前回もその点について間違いを指摘しておりますが、いまの矢野委員 のご意見をいただく前に、両学会からの要望書の全文を読み上げていただきました。こ れは、いわゆる廃止反対という単純なものではありませんので、この点だけは訂正して いただきたいと思います。これはおそらく全衛連の報告書がそのように解釈をしたとい うことだろうと思います。  引き続き、全国労働衛生団体連合会より別の観点から意見陳述を行いたいという要望 がございます。柚木委員から説明をお願いいたします。 ○柚木委員  全衛連の柚木(ゆき)です。矢野委員がしばしば「ゆのき」と言われていましたが、 名前の確認はきっちりとお願いいたします。私は柚木(ゆき)です。工藤座長からは学 会の件がありましたが、6月18日(土)に日本呼吸器学会定例総会がありまして、当日 は工藤座長、江口委員が出席され、トミタ先生からいろいろな意見が出たと思います。 今日そのペーパーを持って来ましたが、部数が間に合わないということですから、次回 コピーをしてお渡しするように事務局にお願いいたしました。過去2回の検討会を踏ま えて、我々全衛連としても、資料6にあるような意見をまとめてきましたので発表させ ていただきます。ちょっと長くなるかもしれませんが、読ませていただきます。  まず、胸部エックス線の必要について、これは前提条件を1と2に分けて出しており ます。まず、事業者責任の下で実施する一般健診の検査項目では、業務起因性のある疾 患を発見すべきとする従来にない考え方に基づいて、検討会での議論を展開しているよ うです。現行の労働安全衛生法では第66条第1項に基づいて、一般健康診断の実施に関 する事項は規定されており、同条第2項に基づいて特殊健康診断の実施に関する事項が 規定されています。業務起因性のある疾患の予防は、特殊健診に求められているもので あり、定期健康診断等の一般健診については職域で負担する業務起因性のない一般疾患 の予防、早期発見とか早期治療を含んで一般疾患の予防を目的として定められているも のであり、過去、2度にわたる規則改正で労働者の健康確保のために必要な生活習慣病 の予防健診項目が追加されています。今回の胸部エックス線検査のあり方の検討課題 は、安全衛生規則の見直しに至るので、規則レベルでの検討段階で現行法を否定した行 政見解はあり得ないだろうということを前提条件にして、まず申し上げておきます。  2番目ですが、一般健診、雇入時の健診であるとか定期健康診断、特定業務従事者の 健康診断及び海外派遣労働者の健康診断について、検討に先立って雇入時の健康診断と 海外派遣労働者の健康診断の胸部エックス線検査は、結核も含めて胸部疾患の診断に役 立つ。本日の冒頭にありましたが、これは衛生課長から説明のあったとおりですけれど も、 結核予防を踏まえたものではないということを、工藤座長が紹介しています。  そして定期健康診断における胸部エックス線検査だけは、改正結核予防法との関連で 見直すとして、検討会の審議が進められているようです。しかし、労働基準法に基づく 安全衛生規則の時代、当時は海外派遣労働者の健康診断はなかったわけですから、昭和 47年に労働安全衛生に引き継ぐとともに、政令の整備をした当時及び現代における一般 健診の趣旨について調べたところ、いずれの健康診断においても胸部エックス線検査は 結核蔓延時代には主に肺結核を、また近年は肺結核、その他の疾患病群を発見するもの とされています。ここで重要なことは、一般健診における胸部エックス線検査の対象疾 患は職域の疾病発生対応等の変化に応じて変わっていくものとして、法の運用がなされ ているということです。したがって定期健康診断の胸部エックス線検査だけを、結核予 防法の改正に伴って見直しの対象とするのは適当でないと思われます。  2番の胸部エックス線検査の必要性について、先ほど矢野委員からもありましたが、 この中にも回答らしきものに触れています。これは1番目に産業医学的見地からの意 見、放射線医学的見地からの意見、3番目として社会政策的見地からの意見の3つで発 表させていただきます。  産業医学的見地からの意見です。現行の定期健康診断の一般健診の検査項目と、その 構成の意義ですが、アとして現行の定期健康診断等の一般健診は労働安全衛生法上、す べての労働者を対象として実施する制度ですから、検査項目とその構成は簡便・低廉 で、検査技術の安定性、安全性、有用性などの面で利用可能なものであるのに加えて、 健康診断サービスの供給体制、企業内における結果の活用、これは職場における適正配 置であるとか、保健指導などの事後措置の実施等を含めています。総合的な観点からそ の妥当性について、もう既に国民的合意が得られているものと考えるべきであると考え ています。言い換えれば検査項目では、それぞれの目標疾患と、そのスクリーニング制 度及び有効性を個別に検討して、有効性の優れたものを統合して規則にしたものではな いということ。  イとして、定期健康診断等の一般健診の項目は、すべての労働者が均一に発症する疾 患に焦点を当てたものではなく、第二次予防の役目とともに、健康サーベイランス並び に産業保健における第一次予防の役割を併せ持っている。もちろん肝疾患など特定の目 標疾患スクリーニングの役割もあるわけですが、しかし、業務起因性疾患のスクリーニ ングには目的に含まれていないわけです。  ウですが、定期健康診断等の一般健診の目的は、産業構造や国民意識、疾病構造、医 療供給体制と関連して変化しており、固定的に捉えられない側面も有しているというこ とです。最近の約20年間は、肺結核等の感染症の減少、がんや生活習慣病に循環器疾患 の増加が注目され、しかも循環器疾患が労働態様と関連づけられていますが、この状況 はあくまで現在の日本の社会的繁栄を背景とした現象で、普遍的、永続的な状況とは言 えないわけです。したがって、昔は肺結核が胸部エックス線検査の主要な対象疾患では ありましたが、現在は肺結核、肺がんを含む肺野の病変のほか、胸膜、縦隔・横隔膜・ 胸壁、心臓・大血管の病変など多種に及んでいる。これは厚労省労働衛生課の「一般健 康診断ハンドブック」にも書かれています。少なくとも定期健康診断における胸部エッ クス線検査の目的疾患は肺結核で、その他の疾患は偶発的な発見であるとの見解は、行 政のハンドブックでも一般の産業医学専門家においても採用されていないものです。ち なみに厚労省労働衛生課が発行している「一般健康診断ハンドブック」というものは、 我々産業医学を扱う者にはバイブルと言えるような存在であります。  2番ですが、胸部エックス線検査の有効性に関する評価について、胸部エックス線検 査の有効性を肺結核、肺がん等の特定の胸部疾患と1対1に対応させても、疾患の発見 の検査法という狭義の指標で評価すると、必ずしも優れた検査法とするには根拠は乏し いと思われます。しかしながら、1つの検査法で胸部全体の概要を知り得るという簡便 ・安価な検査法であり、この検査法の有効性が低いとする根拠は確立されていないもの であります。  イ、胸部エックス線検査は我が国の産業保健領域や地域医療で実践活動している医師 にとって、聴診器などの道具に匹敵する手慣れた検査として定着しています。人間ドッ グのようなCTが用いられたり、胸部疾患専門医が共存する環境下においても、その役 割は決して失われてはいないものです。  ウですが、仮に胸部エックス線検査を定期健康診断の必須項目から除外し、医師の選 択等の特定条件下でのみ実施する項目に改定されたとすると、定期健康診断における胸 部疾患あるいは呼吸疾患の検査は、医師の問診と聴診のみに委ねられることになってし まいます。これは診断技術の後退、受診者の不安や不満、医師や看護師等の負担、責任 の増加をもたらす可能性が大きいものと考えています。  エ、定期健康診断は我が国では労働条件の1つになっている側面があり、法的には労 働者の「健康保持請求権」を担保する制度と位置づけられているとされています。また 現実の産業現場では、定期健康診断結果の伝達やその後の事後措置の過程で、受診者と 産業保健スタッフとの相談や対話は不可欠となり、それによって労働者の勤労生活や老 後生活のQOLの向上に貢献していることを見逃してはなりません。胸部エックス線検 査はその要の検査なのであります。  オですが、胸部エックス線検査の有効性は、実社会ではそれを有用に適用する目的と 社会背景、産業保健の文化的背景など、幅広い視点に立った評価資料に基づいて検討さ れるべきです。第2回検討会に矢野委員から提出された資料5に基づく胸部エックス線 検査の有用性に関する評価は、限られた視点に基づいてなされており、しかも有用・無 用を断定するには十分とは言えない根拠に基づいて結論を導いていると思われるのでは ないかということです。  2番目の放射線医学的見地からの意見です。まず1番目として胸部エックス線写真を 基軸とした我が国の定期健康診断制度の特徴点ですが、アの胸部の病変や異常の有無は 写真を撮らないとわからない。ホールボディ診断を行う健康診断の検査の中で、胸部エ ックス線検査が中核になって構成されている由縁であり、血液検査、超音波検査、内視 鏡検査などは補助ないし部分確認の検査である。また現行の健康診断では胸部エックス 線フィルム等の結果記録により、個人認証がなされていることも重要なことです。  イ、胸部エックス線写真は胸部の病変や異常所見だけでなく、正常と言われる所見が 得られることの重要さが認識されるべきだと思います。労働者をはじめ国民の健康の保 持・増進に果たした貢献の第一は、異常よりも正常の人を正常と判断することができる ようになったことであって、このほうが従来の異常を発見することに比べて、より優れ た技術が要求されるものです。  ウですが、この放射線医学上の成果は、過去17年にわたる全衛連の総合精度管理事業 のエックス線写真専門委員会で蓄積してきました。その結果、国内の医療関係者に対し て豊富な教育資料を提供し、生涯教育のための貴重な教材となっているのです。  上述した成果は、また行政の施策、医学教育、国民の健康増進のモデルとして役立っ ているほか、国際交流の重要なテーマにもなっており、特に後発の国にとって非常に参 考になっています。放射線医学を基礎として実践してきた日本の労働衛生ないし産業医 学は、他の国の借り物に依存するほど粗末なものではないと言われています。  2番に、胸部エックス線写真の精度管理の技術向上ですが、Aのアで、全衛連におい ては国からの委託事業である総合精度管理事業の一環として、上述したように過去17年 にわたってエックス線写真の専門委員会が中心となって、胸部エックス線写真の精度管 理指導を行っています。平成16年度エックス線フィルム評価対象機関は297機関、これ は我が国における中規模以上の健診機関の大多数を占める数です。  イ、胸部エックス線検査は1枚のフィルム上に異常や病像を簡単に描出し得る大きな 利点があります。適切な写真か否かははっきり病巣を描出し得るか否かに関わるもので すが、全衛連ではここに重点を置いて、会員以外の健診機関をも対象としてフィルムの 審査・評価を行ってきています。参加機関の精度管理技術水準は完全とは言えません が、一般的な健診には十分な域に達したと言えるのではないかと思っています。  ウですが、全衛連エックス線写真専門委員会におけるエックス線写真の評価は、大別 して解剖学的指標による評価、すなわち肺野の血管影が詳細に観察できるかどうか、縦 隔部の気管などがほどほどに見えるなど、診断する医師の立場からの評価と物理学的要 素についての評価、すなわちエックス線写真の濃度やコントラスト、あるいは粒状性な どが適当であるかどうか。撮影技師の技術側面からの評価から成っています。この評価 を客観化するため、米国のBRHの評価基準を活用しています。  エ、平成16年度の評価結果の一部を8頁の表1、表2に示していますので、後ほどご 覧ください。  総合精度管理事業に参加していない健診機関の問題は残ってはいるのですが、このデ ータだけを見ても疾患発見の頻度が少なくて、有所見の誤判断の可能性が非常に高いと いう第2回の検討会における矢野委員の発言は、一般論として言えないのではないでし ょうか。  また3番ですが、胸部間接撮影の損益、アの放射線被曝線量の健康影響に関しては、 国際的にICRPの勧告により評価限界が示されています。健康診断における放射線被 曝線量の蓄積ですが、胸部間接撮影の被曝線量は自然放射線の10分の1程度に抑えられ ています。イの胸部エックス線検査における有益性と有害性との関係に関する研究報告 は多数ありますが、古くからベスト選択の決着は付いていないのではないかと言われて います。また国立がんセンターのがん予防・検診研究センターにおいては、国家プロジ ェクトとして肺がん予防のための検査手法として、胸部エックス線検査、喀痰検査、ヘ リカルCTの費用対効果を含めた研究が行われているところです。  しかし、胸部エックス線検査は比較的放射線被曝によるリスクが低くて、ある程度の 感度ではあるがその機能を発揮できるものであるため、近代医療の中では国内外におい て広く使用され、その有益性の部分が健康の保持・増進に寄与していると評価されてい ます。したがって「百害あって一利なし」というような検査では、決してないというこ とを強調しておきます。  ウ、結核予防法が改正されましたが、我が国では結核緊急事態宣言、これは平成11年 に宣言されていますが、まだ閉塞宣言はなされていません。むしろ短期的には肺結核の 罹患率が、ここ数年再び上昇してきており、結核に関しては日本は先進国ではないとい うことが言えると思います。特に職域においては外国人労働者の増加や、免疫力の弱い 若年の短期雇用労働者が増すなどの社会的背景があるので、肺結核の感染源の存在が無 視できないような状況にあります。  他方、肺がんは増大を続け、簡単なエックス線検査でも50%は早期発見で発見され、 完全治癒が期待されるわけです。すなわち全受診中、1期が3分の1を占め、検査未受 診の2倍の治癒率に相当しています。また症例対処研究に関する厚労省研究班は、全国 的研究で肺がん死亡が健診群で28%低下すると報告されています。その後の神奈川県の 研究では47%の低下、宮城、岡山、新潟、群馬などの研究でも、ほぼ50%の低下がある としています。これらの研究成果はいずれも世界に認められており、健診を否定してき たアメリカでも非常な関心を持っているようです。肺がんの早期発見の効果は本人の生 命の維持にとどまらず、事業所での作業能率の確保が可能となることにも及び、重要な ことは肺がんが65歳以上の高年齢群だけに集中して起こるのではなく、20歳〜64歳まで の就労年齢階層の労働者群においても発生しているところです。  なお、米国には集団健診制度はありませんが、個人的な健診受診率を上げて、肺がん などのがんをなくす「がん対策運動」が推進されており、NCIの最近の報告では全が ん、とりわけ肺がんが著しく減少していると報告しています。また、このがん対策の利 益として、生存した個人の社会復帰にとどまらず、復帰後のQOLによる経済効果をも その根拠に算定しています。  以上のように肺結核、肺がんの2疾患について見ただけでも、既に胸部エックス線検 査は十分なメリットがあり、他の疾患について理論的利益を個別に算出する意味は存在 しないわけです。むしろ発見されること自身がプラスと考えなければならないでしょ う。基礎医学である放射線医学の観点から、胸部エックス線検査の対象疾患には、どう いうものがあるかについて強いて言えば、上述した行政の「一般健康診断ハンドブック 」に占めている、胸部エックス線検査で発見される主な疾患を挙げれば十分であると考 えています。  次に社会的な見地からの意見です。1番目として定期健康診断と労働条件の法的な関 係ですが、労働安全衛生法に定める定期健康診断は、今日では結核予防という公衆衛生 上のものと次元が異なるものとなっていて、憲法上の労働者保護基準としての最低労働 条件の1項目となっています。すなわち胸部エックス線検査は、立法当初はその主目的 が結核予防だったとしても、その法的根拠は現在では、それと異なる労働者保護基準と しての最低労働条件の1項目となっています。したがって、冒頭に胸部エックス線検査 のあり方の検討における前提条件について述べた事由に加えて、この労働法の解釈か ら、結核予防法が改正されたからといって、直ちに定期健康診断の胸部エックス線検査 の見直しを行う必然性はないと考えています。  2番ですが、健康の保持・増進のための健診コストの医療費抑制効果について、胸部 エックス線検査を省略して事業者の費用負担を軽減する旨の考え方が行政側から示され ていますが、予防医学分野に一定の経費投入をして医療費抑制効果を上げているという ことが、我が国では国民的合意となっています。むしろ事業者に義務づけている定期健 康診断における胸部エックス線検査を廃止ないし縮小して、今国会に提出中の労働安全 衛生法改正法が成立した場合に、医師による個別の面接指導に要する財源確保を図ろう としているのではないか。これは平成17年2月22日、中災防主催の都道府県労働基準協 会等連絡会議、また5月23日に日本労働安全衛生コンサルタント総会において、安全衛 生部長から発言があったと聞いています。  3番、我が国の労働人口の推計から大幅な雇用減少が見込まれ、2025年には現在の15 %、780万人の減少、2050年には現在の36%、1,850万人の減少が見込まれます。こうし た労働力不足の大半を開発途上国からの労働力移入に頼ることになってしまうと、外国 人労働者は現在の数十万人のオーダーから、数百万人以上のオーダーとなることが予想 されています。雇入時の健康診断により感染症等の疾患の予防を図ることはもちろん必 要ですが、この水際健診に随伴する受診率の問題のほか、例えば肺結核の潜伏期間も考 慮すると、定期健康診断の胸部エックス線検査の存続がますます重要になってくるので はないでしょうか。  4番ですが、結核予防法の改正に伴って、労働安全衛生法に基づく定期健康診断項目 の胸部エックス線検査を廃止することには、健診業界のみならず日本医師会も反対して いるのであります。また日本呼吸器学会、日本肺癌学会、日本産業衛生学会も重大な関 心を払っていると聞いています。また、これまで長年にわたって積み上げてきた労働衛 生行政施策、例えば先ほどから何回も出ていますが、「一般健康診断ハンドブック」に 基づいて胸部エックス線検査の指導がされていますが、大学、学会、民間企業において 蓄積された産業保健活動の継続性という観点からも、検討する必要があるのではないで しょうか。  第2回検討会でも申しましたように、性急な規則改正が行われると健診業界にとって 大きな経済的打撃となり、診療放射線技師等の雇用管理上の問題が生ずるおそれも出て きます。それのみならず、これまで資本投入と技術レベルの向上によって培ってきた極 めて優れたものであり、巡回健診に見られるようなきめ細かく実施できる健診システム が崩壊してしまうおそれがあります。代替措置なしに定期健康診断の胸部エックス線検 査を廃止すれば、特に中小企業における受診率は低下し、職域における健康管理水準の 低下は火を見るよりも明らかであります。また、一旦崩壊してしまったシステムの再構 築は、ほとんど不可能になるだろうと考えています。この影響は決して中小企業にとど まらず、日本の産業構造から見て、間接的には大企業に及ぶことも明記すべきものだと 考えています。  最後に、胸部エックス線検査のあり方に対する要望ですが、1番、現行の定期健康診 断等の一般健診における胸部エックス線検査は、胸部全体の概要を知り得る簡便・安価 な検査法であり、この検査法の有効性が低いとする根拠は確立されていません。加えて 冒頭に申し述べましたように、胸部エックス線検査のあり方に関する検討会は、前提条 件に立ち返って審議検討していただきたいと要望いたします。このような私の意見をご 理解いただきましたら、当面、規則改正は結核健診の範囲にとどめ、定期健康診断にお ける胸部エックス線検査は従来どおりとする方向での、意見の取りまとめを行うことを 望むところであります。  今後、定期健康診断等の一般健診における胸部エックス線検査の見直しをする場合に は、この検査の有効性の有無に関する委託研究を行い、その成果が得られた後にデータ を公開し、広く国民の納得のいく手続を踏むといった配慮が必要である旨も、検討会の 意見として取り入れてほしいと思います。なお、研究成果として十分な確定根拠を得る こと、改正結核予防法の影響を見極めることのほか、健康診断事業に及ぼす影響を調べ るためには、少なくとも5年間ぐらいの猶予期間が必要だと考えています。  長時間ありがとうございました。これで私の意見発表を終わりますが、この検討会の メンバーの先生方は産業医学であるとか胸部疾患の専門の先生ですので、どうぞ働く人 々の観点から、働く人々の健康を守り増進をしていくならば、謙虚な気持で良識ある判 断をお願いしたいと思います。以上です。 ○工藤座長  ありがとうございました。いま、お2人からご意見を述べていただいたわけですが、 ここでご質問、ご意見等をいただきたいと思います。最初に矢野委員のご意見を中心に 何かご質問等ございましたら、お願いしたいと思います。 ○藤村委員  矢野委員のお話ですが、スクリーニング検査の評価ということで言葉の問題を取り上 げて、これを科学的な論議において検討していかなければいけないということなのです が、この矢野委員のおっしゃる科学的論議でやった場合、医療のかなりのもの、あるい は検査のかなりのものが有用性なしと判定されるおそれが非常にあるのです。要するに 発見率が多いか少ないかでなくて、もし科学的な論理というものがあるのだったらば、 これは本当はヒューマニティだとか愛だとか、そういうものが必要なのです。  つまり、労働者のうちに肺がんの初期がんを見つけたのが仮に1人でも2人でもい て、そのためにその人の人生が変わったり何かした場合、それを全然率が少ないからそ んなものは無視しろというような論理では、これはもう愛がない。するに科学的論理は 本当は愛がなければいけないのです。  科学的論議は発見率とか何とか数字だけに頼るものでなくて、例えばネガティブデー タが得られたときに、それを被験者が「ああ、よかった」と安心する気持、こういうも のを理解しなければ、この状態でやっていたら医療はできません。医療というものはも う少しヒューマニティ、愛、そういうものがなければ存在し得ないものだと思います。  いま、国の保健行政としては生活習慣病の予防等に非常に力を入れて、なるべく早期 に対応することによって、将来の医療費を抑制していこうという方向になっていること は、皆さんご承知のことと思います。ちょうど今日出た「骨太の方針2005」にも、結局 は経済本位でGDPの伸びに関連して、医療費の伸びを抑制していこうという、マクロ 主張に伴った医療費抑制策は盛り込まれなかったですよね。盛り込むことができなかっ た。それは人間性がないからなのです。だからヒューマニティがないから、そういうよ うなことが政府の方針でも盛り込むことができなかったわけです。  つまり、これからはいかに人間に対して愛情をもって見るか。労働者をどうやって愛 情をもって見るか。だんだん減るとはいえ6,000万人の労働者の健康を守ることが、日 本国民の健康を維持する上にどれだけ大切なことかということを、もっとよく考えても らいたい。何らかの最初からの意図があって、それに話を持って行くような分析の仕方 というのは好ましくない。  例えば、科学的論議で物事を全部言っていたかと思うと、高額の費用が健診にかかる ことが問題であるという発言がある。これは経済的な問題で全く別レベルの問題であっ て、もしそういうことがあるのだったらば、その費用は国が何とかすればいい。厚労省 が一生懸命考えればいい。それを飛び飛びにこういうようなことを言って、このような 論議でもってすべてを解決していこう、つまり事業者が費用負担をするという意識がど こかにあるのではないか。それがあっては本当はいけないのです。日本国民の健康を将 来、どうやって維持していくかということが問題であって、ほかのことは考えるべきで はない。そういうことで矢野委員のご発言に反論させていただきます。 ○工藤座長  矢野委員、それから他の委員の先生方でも結構ですが、いまの藤村委員、それから柚 木委員のご意見もオーバーラップするところが多少あるかと思います。何かご意見はご ざいますか。 ○矢野委員  いま直接、私の発言に対してありました。まず経済のことは私の論理が終わったとこ ろで、まとめとして述べましたので、経済の議論は簡単にやってはいけないというのは おっしゃるとおりだと思います。私も国全体が、医療にかけるべきお金はもっとかけな ければいけないという意味においては全く同感です。これは1つの側面を最後のまとめ のところで申し上げましたので、経済的な分析というのは、それ自身が1つの科学とし てまた丁寧に展開されなければいけないと思っています。  いま、前半のほうで言われた愛に関連して、ネガティブデータ、正常でよかったねと いうところのことの愛ですが、実は私、今日取り上げなかったのですけれども、先回の この全衛連の報告書の最後に表の6というのがあります。これは数万人を対象に胸部の レントゲン検査をして、その一部は直接撮影、一部は間接撮影で検査をした結果、表の 6で肺がんの発見は、間接でやった場合のほうが多くて0.003%に発見され、直接でやっ た場合には0.03%に発見されています。  たまたま間接を受けた人は肺がんが少なかった。たまたま直接を受けた人は肺がんが 多かったとは、何万人もやっているので考えにくい。おそらく両方同じぐらいいたので はないか。そうすると間接で肺がんがある人たちに、「肺がんがなくてよかったね」と 言った可能性があるかと思います。もし率が同じですと9倍の人にそういうことを言っ たことになる。もしこういう方々が、その後に咳が出てくる。あるいは血痰を吐いて も、ついこの間の健康診断で胸のレントゲンまで撮って異常がなかったので、ちょっと 様子を見ようかということで受診が遅れてしまう。こういうことが起こってしまう。そ ういう懸念が非常にあるかと思います。  健診が必ず愛情をもってなされるためには、まず病気の人をしっかり見つけて、それ を治療につなげるということが必要なわけですけれども、この同じ検査の体系の中で10 倍も違う。おそらく大変な数の見落しをしておいて、愛をもって「なくてよかったね」 ということが果たして本当の愛情であるのか。これは専門家として、まず見つけるもの はきっちり見つけるということが前提になるかと思います。  そういう意味で、本当にいま労働者の健康を損なっているところの疾患をしっかり見 つけられるのか、それに見合うものなのか、これがベストな方法なのかということを考 えないといけない。だから、ただ単に愛があるということは、こういう論理を無視する ことではないのだろうと思います。専門家としてのきっちりした計算、それをどっちに 持って行くか。これを単に節約のためとか、事業所がお金がもったいないと言っている のを応援するためにやっているのでなくて、いま厳しい中で少しでも有効なものを選ん でいくという意味において、私は愛をもって、ただ単に同じようにやっていけばいいと いうことは言えないのではないかと考えています。 ○江口委員  いまの話と違うのですが、資料6と資料4について、肺がんの検診をやっている人た ちの考え方というか、事実、どういう評価をしているかに関しての一般的なことを追加 してお話したいと思います。  例えば資料6の5頁の下のほうです。先ほど少し言われたところですが、NCIが最 近の報告で、全がん、とりわけ肺がんが著しく減少してきていると報告しています。こ れは健診の受診率を上げて、結果として肺がんが著しく減少してきたということではな いと米国では考えられています。これは、むしろ禁煙活動の一次予防が20年経って、そ の効を奏してきたということが、向こうの一般的な見解で、二次予防としての健診が有 効だったから肺がんが減ってきたということではないのです。ここら辺の文脈でいく と、何か健診が非常に有効であったということで減少してきたような文面なので、これ は見解が違うのではないかという気がします。  資料4ですが、これで有用性ということなのですけれども、これは数少ないエビデン スなので、日本の厚生労働省の研究班からいくつかの英文のペーパーが最近出され、そ れではケースコントロール・スタディで、レトロスペクティブな研究ではあるのです が、肺がん検診を受けた人たちのほうが肺がんによって死亡するリスクが減少してい る。特に複数のグループで検証していて、その中で多くのグループでは統計的に有意な 差をもって、簡単に言えば健診を受けていたほうがリスクは低いというデータが出たと いうことです。  これについて2頁の下にいくつか書いてありますが、米国の専門委員会の評価では証 拠不十分ということで、否定する根拠から少し評価が変わったということです。これは 確かにそういうことなのですが、例えば米国でも、そういう検討というのは全く行われ る余地がなかったものですから、世界の中で出てきたエビデンスというのはこれが初め てと言ってもいいほどなのです。要するに日本では胸部健診が長年行われていて、そこ のいくつかのグループが、こういう結果を独立して出してきたということなので、エビ デンスの質は低いとはいえども、これは世界の中では評価すべきエビデンスではないか なと我々は考えています。  エビデンスの質という意味では、メタアナリシスがいちばん上で、その次に無作為化 比較試験が何本かあってということです。無作為化比較試験の結果というのは確かにバ イアスを減らすことにはなるのですが、実際に例えば相反する結果が出た場合に、それ をメタアナリシスで解析したらある結論が出たという、これがいまエビデンスの質とし てはいちばん高いということになっています。相反する結果も出せないような、要する に研究の数が非常に少ない。あるいはレトロスペクティブなものしかないという段階で の最も高いエビデンスとしては、日本から出たこの報告があります。現状では健診は日 本でしか行われていなかったものですから、私たちとしては、エビデンスの質は低いか もしれないけれど、出てきたエビデンスとしてはある程度評価すべきではないかと考え ています。 ○工藤座長  いま先生が言われた肺がん検診を受けた者と受けない者と、これは年齢とか対象群は 絞っているのですか。 ○江口委員  はい。いわゆる老健法で行われていたところの対象の解析例です。 ○工藤座長  40歳以上ですか。 ○江口委員  はい。ケースコントロール・スタディで検出しています。 ○工藤座長  それは喫煙とか何かは関係なくですか。 ○江口委員  関係なくというか、喫煙者、被喫煙者も含めてです。 ○工藤座長  少ない人も含めてということ。 ○江口委員  はい。 ○工藤座長  ほかに何かご意見、ご質問はありますか。 ○堀江委員  先ほどの矢野委員の資料ですが、確かにこれだけ見ると10倍違う肺がんの発見率にな っている。表の1で対象者の年齢構成がかなり違うように思いますので、おそらく間接 レントゲンでは若い方を対象にしていたというのが、ひとつ発見率の違いになってい て、検定にはなかなかならない数字なので、10倍という意識で受け止める必要はないの かなと思いました。  それと、別の意見ですが、議論として肺がんの有用性の話もしてみたり、肺がんは安 衛法ではやらないという話もしてみたりしているわけですが、これはどちらかに決めて 議論しないとなかなか話がまとまりにくいのかなと思います。その点に関して弁護士さ んの意見、その他がありますが、産業医学の現場というか産業保健がやっている中で は、確かに労働者が老人保健法を受ける権利があるからといって、職域の健診なしにそ ちらにいくというようになるとは、とても思えないような現実であって、かなりの部 分、職域の健診で実際には一般的な健康管理を期待しているという部分はあるように思 います。  また、本来の目的ではなく、また発見の意義があるかどうかもわかりませんが、肺が んがないのかあるのかを判定することについても、興味を持って受けているというのも 事実だろうと思います。その点は現場の感覚からすると、確かに本来の目的ではないに しろ、肺がんあるいは生活習慣病といったものを全く無視して、職場の健康診断をやっ ていくというのは、急にこのことを労働者に正しく伝える活動をするというのも、なか なか現実的には難しい面があると思います。さまざまなことを総合的に考えれば、肺が んを完全に無視して今後の議論を進めるのは、私は問題があると思いました。  そうなると次に問題になってくるのが、いま有用性という話もありましたけれども、 一方で、やめることの問題というのも本来は検討しなければならないし、またやってい ることの有害性というか、このこともきちんと問題にしなければいけないわけです。少 なくとも今までの議論では、若干の放射線被曝によるさまざまなリスクがあるというこ とはわかっていますので、おそらく積極的にやめなければならない意見としては、いち ばんこれが問題になるのではないかと思います。  経済的な問題ということではなくて、放射線による発がんを起こしてしまうのであれ ば、それは一律にやるということは問題であると言うべきであって、そこのところはリ スクを減らす努力をしていくべきです。  次に有用であるのかないのかが、いまのところ私はどっちとも言えないのかなと思っ ているのです。十分なエビデンスがないということであれば、激変というのは避けなが ら必要な検討をしていって、今後、有用性があるかないかを決めていくということがい いのではないかと、現時点では感じています。 ○工藤座長  いま、議論の進め方の問題も含めてお話をいただいたところですが、結核に関しては 結核予防法のほうの議論の中で、一応、厚生科学審議会の感染部会及び結核部会のほう で十分な議論の末に、今回の改定がなされています。その中で出されている結論は尊重 していきたいと考えて、よろしいかと思います。ここでは主として結核以外の問題につ いて、むしろ議論をやっていただいたほうがいいのではないか。  資料6の5頁の上から何行目でしょうか、短期的には肺結核の罹患率は、ここ数年再 び上昇しているというのは、緊急安全性情報が出される前の状況の話をされているので はないでしょうか。 ○柚木委員  どれですか。 ○工藤座長  5頁です。緊急安全性情報以降は、年間10%台の減少率になって、それが3%ぐらい に少しカーブが緩やかになってきました。それが更にいま少し下がって、安全性情報時 代は大体35ぐらいでした。いま24ぐらいに下がっていますので、いま逆転しているとい うことは聞いてはいないですけれども。 ○柚木委員  いま、細かいデータがないのです。 ○工藤座長  わかりました。結核のことは置いて、肺がんの問題について、どうぞ。 ○安全衛生部長  いまの結核の罹患率の話も事実誤認があると思います。最近は明らかに減少してきて いるので、平成11年、12年ぐらいの話をされているのだと思います。5頁の8行目で す。これは間違いです。先ほどの喫煙率のNICの話も、喫煙率が下がったというふう にアメリカのほうでは評価しています。  若干、事実誤認があると思いますので申し上げておきますが、6頁以降で、以前もそ うですけれども、例えば6頁の(2)です。「胸部エックス線検査を省略して事業者の 費用負担を軽減する旨の考え方が行政側から示された」とありますが、こういったこと を私どもから示したことはありません。そのためにこういう会で議論をしてもらってい ることは再三、この委員会で申し上げたとおりです。  要するに論点をもう1回整理しますと、結核健診が廃止された。この労働安全衛生法 のいわゆる一般健診というのは、かつて結核が主な対象であり、今でも基本的にはそう いったところがターゲットになっているわけですが、そういった点において結核をター ゲットとした健診としての必要性がまずあるかどうか。これは結核予防法のほうである 程度勝負していますので、さらに職域として追加してハイリスク者を容認する、あるい はハイリスク者を加える必要があるかどうかというのが1点です。  もう1つ、いちばん大きな点は、そういったものを除いた場合に、一般健康診査とし て肺がん等も含めて疾患発見の有用性はどうか。ここをいちばん議論していただくとい うことです。いろいろ書いてありますけれども、非常に議論が散漫になってしまうの で、そこのところの議論を進めていくべきだろうと思っています。  私自身のことを真ん中に書いてありますけれども、「安全衛生部長が、このような趣 旨の発言をしたと聞いている」とあり、「聞いている」と非常に微妙な書き方なので、 こういう無責任なことを公の場にペーパーとして出してほしくない。こういったことを 私は基本的に言っていません。  私が申し上げているのは、こういった全体の会議ですので、1つは結核予防法が胸部 エックス線写真の撮影を廃止したということで、労働安全衛生法上、その有効性等につ いて議論して、どうするか決めるための検討会を発足する。あるいは、いま発足してい るところであるということが1点です。  もう1点は、一方で安全衛生法の改正があって、改正案をいま出していて、面接指導 を過労死対策としてやっていくということを、最近の情勢として報告しただけであり、 それを聞いている人がどのように取ったかわかりませんけれども、こういったことを私 個人としてお話するということはありません。特に財源がどうだとか、それは基本的に 初めから申し上げているように、財源云々の話とは関係ないわけですので、そういった ことを申し上げるということはありませんので、それは是非ご確認をいただきたいと思 います。 ○柚木委員  無責任に言っているわけではなくて、いろいろなところから衛生部長がこういうお話 をしましたよというのは入ってきます。それが真実かどうかは私は出席していないので わかないのです。 ○安全衛生部長  そこが無責任だと思います。聞いておられれば、そういうふうに私は言われても。 ○柚木委員  1人2人でないところから入っていますので、それを言っているわけです。 ○安全衛生部長  それは、だから聞かれた方がその2つを評価して、どのように解釈されるかはわかり ませんけれども、私としては事実として現在、こういうことをお願いしている。あるい は安衛法ではこういうことを改正しているということを申し上げただけであって、それ 以上のここに書いてあるような趣旨のお話はしていません。 ○柚木委員  この点で争う気持はありませんので、これで収めておきたいと思います。 ○工藤座長  ほかに何かご意見はございますか。 ○土肥委員  今日の最初にご説明があった資料1の3頁のいちばん最初のところに、「業務起因 性、作業関連性等が認められない肺がんを対象として、労働安全衛生法に基づく」云々 という文章があります。堀江委員の意見と同様で、ここの部分をこの会議で議題として 今後やっていくのか。いままでの考え方としては、適切ではないと皆が認識しているの だと議事録としてはなっていると理解するのですが、この点についてはいかがなのです か。 ○工藤座長  それについては、このように座長としては考えています。ここの議論は基本的に、労 働安全衛生法66条第1項に関する部分については定期健康診断が関連してくると思いま す。労働安全衛生法の総則第1条に目的があります。その労働安全衛生法の目的との関 係で、正確に理解しておかなければならないので、これは議論の前提になる部分です。 この検討会での議論は、本来、その枠を超えた議論だと私は理解しているのですが、そ れにもかかわらずこれは議論の前提ですので、次回の検討会において事務局から、特に 柚木委員の出された新たな見解に関して、それに対してはどういう考え方であるかを示 していただくことにして、今日はこの議論はしないことにします。  始めてから2時間経ちました。終了は5時と考えていますので、これからの進め方と して今日、実はこの後で具体的な問題として、じん肺法に関連する管理区分1の取扱い 等について提案して、また議論をしていただこうと考えていたのですが、時間的に足り ませんので、これも次回にご検討いただくことにしたいと思います。そういう扱いでよ ろしいですか。  なお、次回は第4回になりますが、この労働安全衛生法に係る定期健康診断の義務化 というのは、事業者にも義務でありますけれども労働者にも義務であり、そういう意味 では非常に重要な構成部分となります。そういうことから日本労働組合総連合会のほう から、意見陳述を行いたいという申入れがきています。これも次回に意見陳述をお受け したいと思いますが、いかがですか。よろしいですか。                  (異議なし) ○工藤座長  それではそのようにさせていただきたいと思います。  今日は大変に重要なご意見の陳述をいただきました。さらに議論を続けていかなけれ ばならないのと、また具体的な問題についても検討してまいりたいと思っていますの で、そういうことで今日はここで終了させていただきたいと思います。そのほか事務局 から何かございますか。 ○安全衛生課長  特にありません。次回の日程は私どものほうから各委員の先生方にご照会をして、あ まり長くインターバルが空かないように設定させていただきたいと思いますので、よろ しくお願いします。 ○工藤座長  本日はありがとうございました。 照会先:労働基準局安全衛生部労働衛生課(内線5493)