05/05/27 第1回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会議事録     第1回投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会                        日時 平成17年5月27日(金)                           14:00〜16:00                        場所 厚生労働省9階省議室 ○熊谷労政担当参事官  ただいまから、第1回「投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研 究会」を開催いたします。本日は、皆さん大変ご多忙のところ、ご参集をいただき誠に ありがとうございます。私は、当研究会担当の参事官の熊谷です。座長が選任されるま で進行を務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。最初に、厚生労働 省政策統括官の太田よりご挨拶を申し上げます。 ○太田政策統括官  本日は、先生方誠にお忙しい中ご参集いただきまして、ありがとうございます。純粋 持株会社の解禁に伴う労使関係のあり方に関しましては、これまでも平成8年に花見先 生を座長とする専門家会議、平成11年には山口浩一郎先生を座長とする懇談会が開催さ れまして、それぞれ報告書もとりまとめられております。しかしながら、近年の投資フ ァンド等による企業買収の状況を見ますと、短期間で企業価値を高めて収益を上げるこ とを目的としまして、被買収企業の労働条件の決定につきましても、純粋持株会社と異 なって、積極的に関与しているのではないかと思われるケースも見受けられます。こう いった形で、当初持株会社の姿として想定されていたものとは異なる企業行動を取る会 社が出てきたことに伴い、従来からの集団的な労使関係のあり方も変化していくことも 考えられるわけです。国会におきましても、東急観光における労使紛争に関連して、労 使関係の実態やその使用者性の判断について、さまざまな議論や指摘が行われたところ です。  こういったことを踏まえて、投資ファンド等が企業買収を行った場合における労使関 係の実態を把握するとともに、新たな対応を行う必要性について検討するために、今 般、本研究会を開催させていただくこととしたわけです。検討事項としましては、投資 ファンド等による被買収企業の労働条件決定への関与等その労使関係の実態、あるい は、投資ファンド等の団体交渉当事者としての使用者性の判断のあり方等を予定してい るところです。皆様方におかれましては、大変お忙しいところ恐縮ですが、精力的なご 検討をいただきまして、来年の1月を目途に一定のとりまとめを行っていただきたいと 考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。以上挨拶とさせていただきま す。 ○熊谷労政担当参事官  当研究会にご参加をお願いしたメンバーの方々については、資料No.1にご参集いた だいた先生方のお名前を記しておりますので、これをもってご紹介に代えさせていただ きたいと思います。なお、本日は小畑先生と宍戸先生が所用のためご欠席です。  次は本研究会の座長の選出です。大変僭越ではございますが、私ども事務局といたし ましては、座長を西村先生にお願いしてはいかがかと考えておりますが、どうでしょう か。                  (異議なし) ○熊谷労政担当参事官  異議がないということですので、西村先生に座長をお願いすることとしたいと思いま すので、先生、進行をよろしくお願いいたします。 ○西村座長  私が当研究会の座長を務めさせていただきます。大変難しいテーマを対象にした研究 会でありまして、研究会の円滑な運営につきまして皆様のご協力をよろしくお願いいた します。  議事に入らせていただきます。まず、当研究会の開催に当たり、開催要綱、会議の公 開等について事務局から説明をお願いいたします。 ○熊谷労政担当参事官  私のほうから、資料に沿って説明させていただきます。資料No.2は当研究会の開催 要綱ですが、この趣旨は、先ほど統括官から説明したとおりです。これまで、独禁法の 改正によりまして純粋持株会社が解禁されます際に、労使関係のあり方に関して2回に わたって検討が行われてきたわけです。特に2回目の労使関係懇談会の中間とりまとめ が平成11年12月に行われておりますが、こちらの方では、団体交渉当事者としての純粋 持株会社の使用者性の問題については、基本的にこれまでの判例の積み重ね等を踏ま え、現行法の解釈で対応を図ることが適当であるとされておりますが、併せて、純粋持 株会社の今後の動向を見つつ、引き続き検討していくことが必要であるとされていま す。  しかし近年、新たな類型の投資ファンド等による企業買収による持株会社というもの が出てきておりますので、このように企業買収を行った場合における被買収企業の労働 条件の決定に関する投資ファンド等の関与その他の労使関係の実態を把握することと合 わせて、新たな対応を行う必要性についてご検討をお願いしたいと考えているわけで す。  具体的な検討事項は、2の(1)と(2)にあるとおりです。1つは、投資ファンド 等による被買収企業の労働条件決定への関与等労使関係の実態です。ここでは、労働条 件決定への関与のほかに、労使関係全般についても併せてご検討をいただければと考え ております。  もう1点は、投資ファンド等の団体交渉当事者としての使用者性の判断のあり方で す。基本的には、先ほど説明申し上げたような国会での議論等を踏まえて、投資ファン ド等が株主となっている場合の団体交渉当事者としての使用者性の判断のあり方につい てご検討をお願いできればと考えています。  今後のスケジュールについては別途ご説明を申し上げますが、来年の1月頃を目途に とりまとめを行っていただけるとありがたいと考えております。  引き続き会議の公開の取扱いについて説明をさせていただきます。会議の公開につい て、近年の状況を踏まえた案を資料No.3という形で私どもで整理させていただきました が、議事録及び資料を公開とすることを原則としたい。ただし、以下に該当する場合に は、この会議の決定をもって非公開とすることができるということで、個人に関する情 報を保護する必要がある場合等4つがそこで定められております。これが最近の一般的 な会議の公開についての取扱いのルールです。したがって、個別の労使等からのヒアリ ングを行う場合等については、個々の情報が出てこようかと思いますので、このルール によりまして非公開とすることができることになると考えています。以上、よろしくお 願いいたします。 ○西村座長  ただいまの事務局の説明について、ご意見やご質問がありましたら、どうぞお願いい たします。特になければ、当研究会の運営及び会議の運営については、ただいま事務局 から説明があったとおりとさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。                  (異議なし) ○西村座長  それでは、そのようにさせていただきます。続いて、これまでの検討経緯等について 事務局から説明をお願いいたします。 ○熊谷労政担当参事官  資料No.4に沿って、純粋持株会社の労使関係に関する検討の経緯を簡単に説明申し 上げます。  まず1枚目に全体の経緯がございます。平成9年に、独禁法の改正によって純粋持株 会社が解禁されたわけですが、それに先立って、学識経験者の皆様にお集まりいただき 「持株会社解禁に伴う労使関係専門家会議」で検討をお願いした経緯がございます。そ のメンバーは3頁に書かれていますが、労働法と商法の5名の先生方にご検討いただい ておりまして、今回ご参加いただいております荒木先生も当時参加されておられまし た。  この専門家会議の報告、結論の概要は2頁にありますが、基本的には、持株会社と現 在でもある親会社とでは子会社の労働問題に対する関係は同じであり、新たな法的問題 は生じない、ということがポイントかと思います。  併せてこの報告書では、現在の親子会社においても労使関係上の問題が生じている例 はあり、持株会社解禁により親子会社関係が増加すると予想されるので、適切な対応は 必要、ということで、対応の例を4点整理しております。  その1つは、持株会社が子会社の労働者に関して雇用主と同視できる程度に現実的か つ具体的に支配、決定できる地位にあれば、「使用者」としての責任を負うことになる ことの周知が必要となっています。これは朝日放送事件の最高裁判例あるいは通説でも あろうかと思いますが、その考え方の周知等が必要であるということが示されたわけで す。  その後平成9年の独禁法の審議の際に、衆参の商工委員会で、「持株会社の解禁に伴 う労使関係の対応については、労使関係者を含めた協議の場を設け、労働組合法の改正 問題を含め今後2年をメドに検討し、必要な措置をとること」という附帯決議が付され たわけです。  これを受けて新たに労使も含めた協議の場が出来たわけで、6頁に名簿があります が、山口浩一郎先生を座長に研究者の方々と労働者側、使用者側にそれぞれご参加をい ただきまして検討が行われたわけです。  この懇談会におきましては、4頁の別添2にあるように、平成11年12月に中間とりま とめが行われております。この中間とりまとめの概要を簡単にご説明申し上げますと、 まず、純粋持株会社のあるべき姿について、純粋持株会社に対する基本的な認識を整理 しております。純粋持株会社設立の趣旨は、企業グループの経営戦略と子会社の日常的 経営判断・事業活動とを分離するということで、中長期的視点に立ったグループの経営 戦略を純粋持株会社が決定できるようにする、と整理されております。したがって、労 働関係についても、純粋持株会社がグループ全体の経営戦略の一環として子会社の人事 労務に係る目標を示すことはあるとしても、子会社の労働条件の決定にまで介入するこ とは本来の姿ではないという認識です。  こういった認識を前提として、団体交渉当事者としての純粋持株会社の使用者性です が、そういったあるべき姿からすると、純粋持株会社においては、子会社の労働組合と の関係において問題を生ずることは一般の親子会社等との関係に比べてより少ないと考 えられるが、可能性は否定できない。そしてその場合には、これまでの判例の積み重ね 等を踏まえ、現行法の解釈で対応を図ることが適当であると考えられるとなっていま す。なお、この判例の考え方は、先ほどの専門家会議のところで紹介した、朝日放送事 件を中心とする判例かと思います。  使用者性が推定される可能性が高い典型的な例として2つ例示されております。1つ は純粋持株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して参加してきた実績がある場合、 2つ目は、労働条件の決定につき、反復して純粋持株会社の同意を要することとされて いる場合です。  3点目として、企業グループにおける労使協議制について言及されておりまして、5 頁で、持株会社を頂点とする企業グループにおいても労使自治の下で労使協議が行われ ることが望ましいという認識が示されています。  4点目はフォローアップとして、これがとりまとめられた時点では、純粋持株会社の 設立がまだあまり進んでいなかったのですが、純粋持株会社の今後の動向を見つつ、引 き続き検討をしていくことが必要であるということで中間とりまとめが行われたわけで す。  その後平成15年9月にJIL(当時の日本労働研究機構)において、「純粋持株会社 企業グループの労使関係」ということで研究が行われております。この研究のポイント を7頁から資料添付いたしておりますが、9頁に相対比較ということで純粋持株会社4 グループの概要が出ています。銀行、証券等の企業グループ(H、R、W)、それから 製造業(S)の4つの純粋持株会社のグループについて比較をしております。  そうした中で、どういうふうに労使関係が動いているかという点について、7頁の中 ほどに下線が引いてありますが、H労働組合とS労働組合は、要求書をそれぞれの事業 会社に提出し、それぞれの会社から回答を受けている。W労働組合は、事業会社と持株 会社を含めた企業グループの要求書を持株会社に提出し、回答も持株会社から受けてい るという実態にあるようです。  8頁で、Rグループは持株会社の発足に伴う労働組合の組織や団体交渉などの労使関 係上の変化は見られないとあります。その他いろいろまとめてありますが、こういった ことを総括して、純粋持株会社の使用者性は、4つの企業グループにおいてそれぞれ特 徴があるものの、持株会社の解禁の際に憂慮された労使関係上の問題は生じていない。 その意味では、純粋持株会社の設立に伴う労使関係上の問題を解決するために、持株会 社に使用者性を強制的に持たせるような追加的措置をとる必要性は、現在のところ基本 的にないと考えられるというのが日本労働研究機構の平成15年9月の調査研究の結果と してとりまとめられております。以上がこれまでの純粋持株会社の労使関係に関する検 討の経緯です。  今回検討をお願いする契機になりました東急観光の不当労働行為審査の申立ての概要 について、私どもが連合の方からいろいろ教えていただいた内容を基にして資料No.5 として整理しておりますので、これを説明させていただきます。ただ、あくまでこれは そういった情報源を基に作っているということでご留意をいただければと思います。  問題となる東急観光株式会社(左下)の株式は、昨年3月以前は東京急行電鉄株式会 社が100%所有していたのですが、昨年3月に、東急電鉄が東急観光の株式の85.03%を 投資ファンド会社に譲渡したのです。そのため、この株式は、JPE.LtdとAF2. Ltdという会社に株式の所有権が移っております。なお、これらの会社はそれぞれ、 本社をケイマン諸島に置く投資ファンド会社です。そしてJPE.LtdとAF2.Lt dという2つの会社は、ファンドの運営を受託している日本法人、アクティブ・インベ ストメント・パートナーズ(AIP社)に東急観光の株式の運用運営も委託したものです。  この会社は1999(平成11)年、6年前の設立で、ファンドの規模は今はもっと増えて いるかもしれませんが、100億といわれている会社で、青松さんという方が代表者を務 めております。イギリスのロスチャイルドや三井物産、国内生損保、都銀等から資金を 募りましてプライベート・エクイティーによる運用を行っている会社です。  東急観光の役員は全体で7名おりますが、そのうちの5名がAIP社から選任されて いるということです。東急観光の社長は金子さんという東急観光出身の方ですが、それ 以外に東京急行から1名、AIP社から5名ということで、AIP社の青松さんも非常 勤の取締役として取締役会議長に就任しております。  昨年3月にそういう役員構成になって以降、東急観光にあった東急観光労働組合、こ れは以前は1,700人ほどの組合であったと聞いておりますが、こちらと東急観光の関係 で様々な問題が起きているわけです。  真ん中下ほどの矢印の下に書いてありますが、労働組合の側からは、一時金の支給等 について会社側が誠実に交渉しない、あるいは、昨年12月にできた第2組合を支援して いる、第2組合である「社員会」の会員にのみ一時金が支給され、東急労組の組合員に は支給されないのは不当労働行為ではないかということで東京都労働委員会に申立てが なされております。  右側にございますが、昨年6月にその不当労働行為の救済申立てがなされておりまし て、その後都労委のほうで和解に向けた取組みが行われたようですが、その辺が順調に 進展しなかったということで昨年11月に、東急観光労働組合は、実質的に労働条件を決 定しているのはAIP社であるということで、AIP社に対して団体交渉の申込みを行 ったわけです。その後12月に入りましてその申込みをAIP社が拒否しておりまして、 東急観光労組は都労委に対して、AIP社の団交拒否が不当労働行為に当たるというこ とで救済申立てを行っております。  同じく昨年12月に「社員会」という第2組合ができたわけでして、今年の1月、この 「社員会」に対して2004年度年間業績賞与として一時金が支給されたが、東急労組の組 合員には支給されなかった、あるいは、東急労組を脱退して第2組合「社員会」のほう に入ると支給されるというような脱退工作を行ったという主張をいたしまして、東急観 光労働組合が都労委に対して追加の救済申立てをいたしております。本年2月、都労委 は、一時金の支給とAIP社に対する救済申立てを取り下げる方向で検討することを内 容とする和解勧告を両者にしておりますが、会社側がこれを拒否した。続いて3月に、 都労委が一時金の支給等の実効確保措置を勧告しておりますが、これも会社側が拒否し た。その後東急観光労組は東京地裁に、一時金の支払いと、団結権侵害についての損害 賠償、更には団体交渉を求める地位保全の仮処分命令を申し立てたということで、3つ の訴訟なり仮処分の申立てをしております。なお、東急観光労働組合は、平成17年3月 現在、組合員数が758名に減少し、東急労組の脱退者で結成されている「社員会」の方 は約900名の会員を擁しているというのが私どもが話を伺っている事実関係の概要です。 ○西村座長  いまの資料のご説明について、ご質問やご意見が何かございましたらお願いいたしま す。 ○毛塚先生  投資ファンドがたくさん手掛けていると思うのですが、投資ファンド関係の労使関係 でほかに問題になっているところは、特に情報としてはないのですか。 ○熊谷労政担当参事官  現在のところ、投資ファンド会社が同じようなことで問題になっているという事例は 承知いたしておりません。投資ファンド会社で、労働組合があるような企業がその対象 になっているケースばかりではないのです。むしろAIP社の場合は、組合のある会社 という点では初めて行き当たっているわけで、組合がない会社を買うケースが多いと思 うのです。いずれにしましても、現時点で私どもは承知しておりませんので、何か具体 的な情報がありましたら、ご教示いただけると大変ありがたいと思います。 ○西村座長  それではそのようにさせていただきまして、次に、これからの検討を進めるに当た り、投資ファンドや企業買収の現状等について柳川先生からお話をいただきたいと思い ます。柳川先生、よろしくお願いいたします。 ○柳川先生  いまご紹介いただきましたように、投資ファンドの現状と、どういうことを行ってい るのかということに関しまして簡単に概要をお話しさせていただきたいと思います。も ちろん、私は実際に自分でファンドをやっているわけではございませんので、実際のと ころは、後で予定されております実務の方の詳しいお話を聞いていただくことにして、 私は外側から、研究者の立場として見た情報をお伝えするということにさせていただき たいと思います。  お手元の提出資料の「投資ファンドと事業再生」、これは最近私が自分のところの学 生と出した本の一章なのですが、そこで投資ファンドの概要を説明しているものですか ら、これを参考にしながらお話をさせていただきたいと思います。  まず、実際に投資ファンドと呼ばれているものが現状でどのぐらいあるかということ がたぶん皆さんのご関心だろうと思うのですが、実は、これはあまりはっきりしないの が現状です。はっきりしたデータがどこかの公式統計で記載されているというわけでは ございませんので、実態としてどのぐらいの数があって、どのぐらいの投資枠なのかと いうのがなかなか分かりにくいというのが現状でございます。  いくつかの資料があるのですが、昨年末頃に日経ビジネスから出た資料によります と、いわゆる投資ファンドといわれている中で、ファンドの持っている投資枠、つまり ファンドの規模は1.3兆円ぐらいと書かれております。またファンドの数は200以上今の ところあるようです。それから、いわゆる投資実績ということでいきますと既に1.2兆 円ぐらいの規模の投資がされているということですが、私の印象ですと、これがまだま だ今後増えているということになります。  こういう現象は日本だけではございませんで、世界的にもかなり増えております。昨 日5月26日の日本経済新聞の夕刊の見出として、ブラックストーンというアメリカ最大 の投資会社が買収ファンドで100億ドルの調達をしたと出ていました。それから、最近 の買収ファンドの資金調達でいくと、ゴールドマン・サックスが85億ドル、カーライル ・グループがアメリカで78.5億ドル、ヨーロッパで22億ドルとありました。  その記事によりますと、2004年で世界の買収ファンドによるM&A、これはM&Aの 規模だと思いますが、それが3,000億ドルぐらいということが書かれております。もち ろん、海外の企業を買うケースを想定した買収ファンドも多いですから、これが全部日 本に来るわけではありませんが、日本をターゲットにしないと言っているわけではあり ませんので、当然、かなりの数が来るということになります。  最近話題になったライブドアのケースも、事業会社ではありますけれども、実態とし てはかなり投資ファンドに近いと言われています。そこに集まっている資金をいろいろ な会社に投資をするということです。そういう意味でいきますと、ソフトバンクという 会社も、実態としては投資ファンドなのだという極論を言われる方もいます。  ここで言っているファンドというのは、ファンドと言われる形式で資金調達をして、 それで企業の買収等にお金を使う会社のことを指しますが、資金調達の仕方には、実は いろいろなパターンがあります。株式会社形式で集めたけれども非常にお金があったと いう会社も、買収をする、あるいは投資をするという観点からすると、実はファンドと あまり変わりがないという形になります。そこまで含めてしまいますと、かなり規模の 大きい話でありまして、世界的に見ても、今後かなり増えてくるだろうといわれている ものでございます。  どこまで詳しくお話をしていいものか、少し迷うところではあるのですが、手元の資 料の3枚目と4枚目の、ファンドとは何かというところを見ていただきたいと思いま す。ここで通常いわれている話は、プライベート・エクイティー・ファンド、普通で言 うと未公開株式に対する投資と言われていたわけです。しかしながら、当初の未公開株 式に対する投資というものからかなり実態が変わってきているというのが現状ですの で、いまのところでいきますと、ファンドという形で、いわゆる投資組合的な形で資金 調達をして、それを様々な形で投資していくという形のものが最近で言うと「投資ファ ンド」とか「企業ファンド」といわれております。  資料の182頁に書かれているものを見ていただくとよろしいかと思いますが、日本で は、この種の話はいわゆるベンチャー・キャピタルといわれているものが当初は主流で ございました。これは、資金調達をしたファンドから新興企業にお金を投資して、その 会社が伸びていったときにそこからリターンを得るというタイプの話です。この種のも のがジャフコや東京海上キャピタル、それから、ここに独立系と書いてありますが、M KSなどはかなり老舗と言われている会社です。  日本で比較的注目を集めるようになってきましたのは、事業再生とかバイアウト・フ ァンドと言われているものです。会社が不振になり、倒産寸前であったり、倒産してい るような会社をファンドが買収をして、それを建て直して、うまくいけば新たに上場し たり、あるいは他の事業会社に売却するという形で資金を回収する。こういう形のもの が、近年非常に増えてまいりました。  この裏側には当然不良債権処理という政府の目標があります。銀行の側が不良債権を 売却する。不良債権の債権の債務者というのは倒産しそうな会社です。銀行から売却さ れた倒産しそうな会社の債権をファンドが買い取り、これを事業再生していって儲ける という形になっております。  ですが、事業再生が一段落してきたこともありまして、ここに書いてあるフェニック ス・キャピタルや日本みらいキャピタル、ユニゾン、リクルートなども、最近では事業 再生ファンドと名乗らないケースですし、新聞などでも、事業再生ファンドという形で 紹介されないケースが増えてまいりました。そして、広い意味の投資ファンドという形 で行われています。実態は事業再生もやっていますが、もっと広く会社、あるいは会社 の部門ごとを売買する、あるいは売買のアドバイザリーをするということで業務範囲を 広げている。そして、先ほどのライブドアのケースではないですが、その過程で最近増 えてきた日本のM&A、こういうものの仲介をしたり、途中で一旦自分が買い取って別 の会社に売るというようなことで進めていくというのが実状です。  表6−1に独立系でユニゾン・キャピタルというのがありますが、その中でうまくい ったケースですと、アスキーという会社があります。アスキーという会社は西さんとい うカリスマ性のある人がかなり業務を拡大していったわけですが、その過程で会社がう まくいかなくなった。これをユニゾンが買い取る形をとって再生させて、たしか角川だ ったと思いますが、そこに売却をした。結局その過程で、アスキーはコンピュータ関係 のいろいろなことをやっていたのですが、出版業だけに特化していくという形にして角 川に売却をして、ユニゾンは大きなリターンを得たという形になりました。ファンドの 1つの特徴は、こういう形で経営を今までとは違った形に変えていって、収益の上がる 形にしていくことですので、場合によると、その過程で今回テーマになっているような 労使関係のいろいろな関係と深いつながりが出てくるということなのだと思います。  ファンドということでいきますと、別の官庁の話で、私はあまり承知していません が、今日5月27日の日本経済新聞の朝刊によりますと、投資サービス法というものを金 融庁が考えていて、その投資サービス法の枠の中にこういうファンドを全部取り込もう という動きがあるようです。そうしますと、ある程度金融サイドからの監督が投資ファ ンドに及ぶので、その過程で、先ほどなかなかわからないと言っていたようなデータな ども出てくる可能性があるのかなと思います。  184頁にあるように、ファンドにはまず資金を集めないといけないという部分があり ます。実際に資金を集める際にどういう人たちからお金が出るかというのは、あまり明 らかにされていないのですが、海外の投資家機関や投資家、あるいは銀行等を含めて、 最近は随分いろいろなところからお金が入るようになってきているというのが実態で す。こちらの方は後でご質問があれば少し詳しくお話をしたいと思います。本筋は、フ ァンドが会社の経営にどういう形でタッチしているのかということだと思いますので、 そちらのほうを少し詳しくお話させていただこうと思います。  先ほど、不良債権を買い取って会社の経営に関与すると申しましたように、事業再生 の場合は、多くの場合、債権を買い取ることが多いです。その段階では、時には銀行の 代わりの債権者として登場することになるわけですが、多くの場合は、その過程で株主 になります。したがって、債権を買い取るだけではなくて株を買う、あるいは新しく発 行された株式を買うという形で、株主としてかなり行動することが多い。  これは事業再生だけではありませんで、例えばM&Aの過程においても、一時的には 株主としてかなりの会社の株を回収して筆頭株主になるというような形で、多くの場合 は株主として行動するというのが1つの特徴です。もちろん債権者として行動する場合 もありますので、そこはバラエティーがいろいろありますが、完全な株主であるケー ス、あるいは株主でもあり、債権者でもあるケース、あるいは債権者だけのケースとい う形で、多々バラエティーはあるということになります。  そういう中で、実際にはMBOといわれているような形で株主から株式を買い取っ て、現経営陣と組んで会社のオーナーになるというようなパターンも、日本でも少しず つ増えております。そうしますと経営陣がそのまま残るというケースもあるということ になります。  重要なのは193頁に書いてあります経営の関与ということだと思います。実はファン ドと一口に言いましても、経営にどの程度関与するかということに関しては千差万別で あります。これはそれぞれの投資ファンドのポリシーであるとか、フィロソフィーであ るとか、こういうものにかなり依存しますし、その会社の実情によるということもあり ます。ですので一概には言えませんが、ここで書いてあるような、いわゆる事業再生と 言われている案件の場合には、かなり経営に関与しないと、うまくいかないと言われて います。それはなぜかといいますと、そもそも経営がうまくいかなくなったので事業再 生だということになったわけですから、経営を刷新しないといけない。そうしないとリ ターンは上がらないという実情があるわけです。そうでありますと、新たな経営のスタ ッフを用意しないといけないということになります。  これはM&Aの場合においても、多くの場合そうであります。例えば今流行の敵対的 買収であれば、今の経営陣の首をすげ替えて、そこでリターンを得ようということにな りますので、この場合も比較的経営の刷新を行うということになります。  経営の刷新を行う場合には、先ほどの東急の例ではありませんけれども、ファンドの 側から何人かのスタッフが取締役として送り込まれて陣頭指揮をとるというのが通常の パターンです。ただしこの場合でも、実はいろいろなパターンがあります。先ほど申し 上げたMKSの有名なパターンですと、ファンドの運営会社のほとんどトップだった人 が事実上会社に乗り込んでいって陣頭指揮をとって、実質的な社長として活動をしたと いうケースであります。  有名になったので皆さんもたぶんご存じだと思いますが、同じMKSでも、福助のケ ースというのがあります。このケースでは、伊勢丹でカリスマ・バイヤーといわれてい る藤巻氏、彼を最初から社長として連れてくるという形で福助を再生することにしたの です。ファンドの運営者のほうは、会長という形では当初入るわけですが、大まかなア ドバイスはするが実質的な経営のトップは外から連れてきた藤巻さんであるというケー スです。最初に申し上げたユニゾンとアスキーのケースも、某コンサル会社にいた人を 最初からヘッドに連れてきてその人にやらせるという形でした。経営に関与はするので すが、ファンドの運営者が直接経営をやるかというとそうではなくて、多くは同業他社 であったり、その分野の専門家を連れてくるというのが割合としては一番多いパターン だろうと思います。この種の形が、直接ファンドの運営者が運営する場合に比べるとハ イブリッド型の形になります。  もう1つのパターンとして、ほとんど経営に関与しないケースがあります。先ほどの MBOというのは究極的にはそうなのですが、今の経営陣と今の株主とを切り離すため に自分たちが登場するだけで、経営陣にはそのままやらせる。自分たちはそれを評価し てお金を出しているケースなどというのは、現経営陣にそのまま経営を任せたまま、自 分たちは投資家としてその会社に関与していく。もちろん株主でありますから、何かあ れば口を出すという権利は持っていますが、実態としては、ほとんど現経営陣に任せて いるケースです。あるいは、現経営陣のまま転売を狙っているケースであれば、経営に は何も関与せずに、要するに、単なる株式売買で儲けるのと同じように、何も行動せず に売買で儲けるというパターンもございます。そういう意味では、経営への関与の仕方 は千差万別であり、この辺が実態として、労使関係の問題を考えるときには悩みの種に はなるのだろうと思います。  そうは言いますが、先ほど申し上げたように、多くの場合は株主として登場する。こ の東急観光のケースも、一応実態としては、東急から買い取った株をファンドが持って いるわけですから、株主としてのポテンシャルはあるわけです。そういう意味では純粋 持株会社のケースと同じように、ポテンシャルとしては法的権利として口を出す権利を 持っている会社がほとんどであるということが実態としてはあり得るのだろうと思いま す。  今の関連で、労働組合云々という話をします。私の印象ですと、東急観光のようなケ ースが今まであまり出てこなかったのは、この種の会社に関してファンドがあまり関与 してこなかったからだと思うのです。それは、先ほど申し上げたような歴史的な経緯か らしますと、まず最初はベンチャーだと。ベンチャーですからそもそも大きな労働組合 があるような会社ではなくて、最初からファンドの人たちと一緒になって、とにかく盛 り上げていきましょうというような形で会社がスタートする。そういう中で大きく成長 したものも無くはないのですが、それが一部上場して、大きな労働組合が出てきてとい うものは、私の知る限りはほとんどありませんで、まだまだこれからだろうということ が1つあります。  もう1つは事業再生の場合です。こちらの場合は、実は労働組合があるような、かな り大きな会社である場合もあります。しかし、ほとんどの会社が存亡の危機に立ち至っ ている。そういう意味からしますと、従業員の方たちにもかなり危機意識があって、場 合によると、この中でかなりの人たちが解雇されても仕方がないというような覚悟をそ もそも持っているケースが多い。そういう意味からいきますと、組合の側であっても従 業員の側であっても、多くの人たちが解雇を粛々と受け入れる。あるいは、どこかに行 くことを受け入れるというケースがかなりあります。  実際を言うと、経営に大ナタを振るわないといけませんから、かなり人員削減をして いるケースが多いのですが、私の知る限りは、大きなトラブルがなかったのはそういう 状況だったからではないかと思います。場合によりますと、いくつかの会社がありまし て、やや会社の箱を変えて、元々あった会社の大部分のところを別会社にする。そして 別会社にファンドがお金を入れて、実質的にはその別会社で回す。そうすると、残った ほうはある意味でもぬけの殻になるので、だんだんと解散・清算をしていくという形に する。そのように会社を移すことによって、いろいろな中身の部分を引きずらなくて済 みますから、再生はしやすいわけです。雇用の関係からすると、こちら側に誰が移るの かというのは問題として出てくるのだろうと思います。  しかしながら、これから出てくるのは、先ほど申し上げたようなM&A案件です。さ ほど小さくもなく、かつ、さほど事業が悪くもない会社でファンドが大株主になり、後 から別の事業会社に売却されて上場を目指す。そのようなパターンが今後増えてくるだ ろうと思いますので、おそらく東急観光のようなケースは増えてくることが予想されま す。またM&A案件は投資ファンドにとってはかなり大きなマーケットですので、この 種の問題が増えてくるだろうと思います。  では、どうやって投資ファンドは儲けているのかということになりますと、199頁の還 元ということになるわけです。ファンド側は当然、投資家からお金を受け入れてファン ドを回しているわけですから、ある期限が来ればリターンを返さないといけない。もち ろん、こういうファンドというのはかなりリスキーな投資をしていますから、お金を出 している方もハイリスク・ハイリターンだと思っている。そういう意味ではかなりのリ ターンを出して投資家にお金を返さないといけないという状況になります。そのうち投 資家にかなりの率で配当をして、残った分をファンドの会社で働いている人が受け取る というのがストーリーです。  しかし実態ではそうではありませんで、ファンドの会社で働いている人たちは、残っ た分を取ると同時に、そこまで行く前からある種の経常的なフィーとしてお金をもらっ ているのが現状です。これが数パーセントといわれていますが、結構な高額になります ので、相当大きな額で回していると、これだけで相当お金がファンドの運営者に入って くることになります。ファンドが増えている理由の1つはこういうところだろうと思い ます。しかし、この辺のフィーが高すぎるのではないかという議論もあって、ファンド はだんだん増えてきていますがフィーは抑え気味の傾向にあるということになります。  ファンドの期限が来たときにお金を返さないといけないわけです。これが5年だとか そういう単位になっていますが、実は、日本でこれだけ多く出てきたファンドの多く は、まだここまで至っていません。ファンドが成功していると言われているものでも、 こういう案件が出てきて、その案件ではある程度リターンがあったと言われているもの ですので、トータルにファンドを5年なら5年で運営して、最終的に投資家に還元する 時点で投資家にちゃんとたくさんのお金が還元できているかという部分でいきますと、 実はここまでヒストリーがないものがほとんどであるということになりますので、今の ところ、ある意味ではベンチャー的なファンドが多いということになります。もちろん 事業会社であるライブドアやソフトバンクのような会社であれば、株価が上がっていま すから、その部分で投資家の方は既にリターンを得ていることになるかもしれません が、ソフトバンクにしても、先に累損を返していくには結構時間がかかるといわれてい ます。それと同様に、ファンドの側も、受け入れた投資をちゃんとリターンとして返し ていくのには、今後の投資運営次第といわれているようなファンドも多くあるというこ とが実情です。駆け足になりましたが、概要はこんなところです。詳しく承知していな い部分も多々ありますが、ご質問があれば、少し端折ったところも含めて説明させてい ただければと思います。 ○西村座長  ありがとうございました。ただいまのご説明について何かご質問等がありましたら、 お願いいたします。私から1点質問させていただきます。先ほどの東急観光のケース は、柳川先生からご覧になったら、事業再生でも何でもないということでしょうか。ど ういうタイプなのでしょうか。 ○柳川先生  いわゆる事業再生というときには、たぶん、いろいろなレベルがあると思うのです。 本当に法的整理に行くしかないという会社であったり、行ってしまった会社であった り。それで、そういうものを建て直すというときには、もう事業再生以外の何物でもな いのだと思うのです。ただ、実際問題として、多くの会社では、そこまで行く前にもう 少し早く治療をしたい、改善をしたいと思う会社が増えていますので、そういう形から しますと、そこまで行く前にいろいろなファンドの支援を仰ぐという形が増えていま す。そうしますと、悪いといえば悪いけれどという形になりますので、それを事業再生 と呼べるのかどうかという部分がかなり増えてきています。そういう意味では、半分は 事業再生であり、半分は投資ファンドであるという形が増えていると思うのです。  あえて理論的に区切るとすると、どれだけ経営改善をファンドに頼んでいるかという ことに、かなりかかってくるので、経営改善を頼んでいる度合が高ければ、事業再生フ ァンド、事業再生案件と呼ばれる可能性が多いのかとは思います。  この東急観光のケースは、私が実態をよくわかっていませんので、どの程度ファンド に東急観光そのものの経営の改善を期待して売却をしたのかがよくわからないのです が、東急観光というよりは、むしろ東急(電鉄)側の事情で、資金負担を軽くしたいと か、グループ経営の負担を軽くしたいということがあったように思いますので、そうい う意味でいきますと、部門のある種のM&A案件であるという理解の方が正しいのかな と。全く理解していませんので感想だけなのですが、事業再生案件というよりは、もし かすると、このファンドは次の同業他社に売る可能性もあるでしょうし、あるいは、こ こである程度リターンを得るということもあるのでしょうが、そういういろいろな可能 性を含めて、東急の側が売却、買ってくれるものなら売りたい、というように買ったと いう現状ではないかと思います。 ○山川先生  大変興味深いお話を伺ったのですが、まず言葉の質問が若干あります。182頁の1行 目に「バイアウト・ファンド、投資ファンド、買収ファンド」というのがあります。こ れはいずれも事業再生ファンドとは違うもののようですが、それぞれ何か違いがあるの かどうかということが質問の第1点です。若干関係するのですが、ファンド会社という ものの形式は、株式会社が通常なのかどうか。ファンド会社への投資を行っている投資 家というのは、ファンド会社の株主になるのか、あるいはその匿名組合とか、何か特別 な形で別個の投資形式をするのか。そのあたりをお伺いできればと思います。 ○柳川先生  最後のところはおそらく私よりも神作先生にお伺いした方がいいかと思いますので、 最後のところはごく簡単なことだけにさせていただきたいと思います。バイアウト・フ ァンドと言われているものは、バイアウトですから安く買い取って高く売るというよう なことがそもそもであったんだと思います。事業再生と言われているものは、そういう 意味では単に買って持っているだけでは駄目で、かなり経営に手を突っ込んで事業を再 生させるという目的にかなり使われている。投資ファンドと言われているものは、これ もいろいろな形があるのですが、もう少し幅広くいろいろやっているということで、こ の辺のところの定義は曖昧だと思っていただくのが、いちばん正確ではないかと思いま す。みんな言っているところも、ホームページを見るとこの辺なんかは事業再生と書い てあったりとか、自分たちでいろいろな言い方をする。だからそれは、やっていること の実態がかなり変わってきているということだと思います。投資ファンドというのは、 M&Aとかそういうようなところもやるよというのが、ウエートとしてはかなり大きい 場合に使われることが多いようです。この辺は新聞記事などでもかなり迷っているとこ ろが多いようで、そういう意味ではやや、曖昧な定義ということだと思います。  資金調達、どういう形式かということになりますと、そもそもファンド運営会社とい うのがあって、そのファンド運営会社がファンドを回すわけです。ですから、ファンド 運営会社にまずお金を出してもらわなければいけない。ただ運営会社ですから、そんな にたくさんのお金が要るわけではない。それとは一応独立にファンドというものがあっ て、ここはそこの投資組合ですが、東急の例にありますようにケイマンとか、こういう ところでチャリタブル・トラストというような形でつくる、ペーパーカンパニーですが つくる、というような形でファンド自体は運営するというのが実情と思いますが、ご専 門の神作先生に補足していただきます。 ○神作先生  ファンドの法形式はいろいろあると思います。信託の形式だったり会社の形式だった り、あるいは匿名組合、民法上の組合等々、法形式はいろいろあると思います。  ついでにご質問させてください。ファンドによる事業再生にしてもM&A買収にして も、例えばこの東急の場合にはファンドが既存の株主から、当該株主に対して対価を払 って自分が支配株主になっている。その後、株式保有に基づき経営者を送り込むという 構図なのですが、そのファンド自身から直接、当該企業にお金が投入されるというよう なことがどのくらいあるのかどうか。つまり、株主になって、まさに株主としての権利 と地位だけで企業経営に関与しているのか、それだけではなくて、実際に企業自身に対 し追加的にお金を出すというケースもかなりあるのか。例えば新株発行だとか、会社が 新しく発行する社債を引き受ける等々、そこの実態がどうなっているのだろうかという ことが興味深かったので、もしご存じであれば教えていただければと思います。 ○柳川先生  お答えも含めてありがとうございました。これも千差万別ではあるのですが、神作先 生のご質問のようにファンドから追加でお金が出ている。企業の側からすると、ファン ドから追加でお金を得てというケースが多いように思います。特にこの事業再生の場合 は多い。なぜかと言うと、結構資金繰りに困っている、お金に余裕がないという形があ りますので、新たな、例えば新株発行、普通の人は買ってくれませんから、ファンドの 人たちが買うという形で、既存の株と新株を発行しますから、会社の側からすれば、そ の純増のお金がくるというような形でやっていることが多くて。これは株とは限りませ んで、別途借入れで回すケースもありますが、追加でお金を出しているケースはかなり あると思います。こういうような形で株主が変わるというケースもあるのですが、特に 業績が悪くなっているケースの場合は、追加で資金を投入するケースがかなりあると思 います。 ○荒木先生  事業再生などの場合は典型的にファンドが、経営を立て直すためにいろいろとテコ入 れをするという中で、いろいろな形態があるというご紹介がありました。ファンド自身 が乗り込んで経営者となって経営を立て直す。これは、経営者になるわけですから明確 なんですが、外部の専門家を投入するケースとか、従来の経営陣に任せるが、口は出 す、いろいろな形態があるとおっしゃいました。最初の、ファンドが経営者になればそ れは、直接の経営者ですから経営者の労働法上の責任も負うということだと思うのです が、そうではない場合に、株主として口は出すという、そのあり方がおそらく労働法の 観点からは問題となってくると思うのです。事業再生ファンドのような場合でも、労働 条件などに相当口を出すのが通常なのか、それとも、株主としての口の出し方には一定 のパターンがあって、通常の株主の行動なのか、それとは相当違うような口の出し方を するのか。その辺はいかがでしょうか。 ○柳川先生  いろいろなケースがあると思いますが、事業再生のケースに関して言えば、やはり、 大きく変えていかなければいけないということが、大前提としてあると思うのです。そ ういう意味では、むしろファンドの人たちに、例えばアドバイスなどをするときに言っ ている、あるいはファンドの人たちから、やっぱりこうしなければいけないと思うとい うように経営が話していくと、やはり経営にかなり関与しなければいけない。そこはお そらく雇用条件もいろいろなものを含むと思うのですが、経営に関与して中身を改善さ せてこそ、会社も生き残るし、投資家もリターンを得るということなんだと思います。 そういう意味からすると、経営にかなり関与すべきだろうと思うのです。事業再生とい う立場からするとそういうことになります。ただ、そこはあまり関与していないケース もあるだろうと思います。  株主としてというように申し上げたのですが、株主としてという場合でも、いわゆる 伝統的な日本の株主というものとはだいぶ違うのだろうと思っています。経営者として 乗り込まないときにでも、口を出さない株主ではなくて、積極的に口を出す株主として 行動するケースが多くあります。実はそれはどこの会社でも株主の権利なので、今後ほ かの会社でも増えてくると思いますが、法的な権利をそのまま行使する形での、きちっ とした発言をもって株主として行動する。例えばあるケースだと、その送り込んだ経営 者は、経営のプロですが、その人から、例えば1カ月に1度、きちんとその経営方針な り、そういうものを報告させて評価をする、というような形で口を出すという人も多い ように思います。だからその範囲が、いわゆる労働法でいったときの雇用主として行動 しているのかどうか。たぶんここが実態としてはかなり微妙になってくるのだと思うの です。それはある意味で、今まで日本経済、企業はあまりやってこなかったけれども、 株主として当然あるべき権利であり、その発言を行使しているだけだと考えれば、あく まで雇用主はその経営者ということになるのでしょう。しかし実態としては、そこはか なりバラエティがあるのではないかという気がします。  もう1つ言えば、これは実体論というか、半分は先ほどの経営に関与すべきだったと いう理想論なんですが、現実論として言えば、やはり自分が入り込まない限りは、なか なか経営まで口を出せないということがあると思いますので、口はいろいろ出すんだけ れど、株主である以上はやはり株主としての口の出し方になってしまうというのが、印 象論で恐縮ですが、いわゆる雇用主としてちゃんと経営に関与して、雇用主として従業 員に向き合うためには、自分が経営人として入っていない限りはなかなか難しいのでは ないかというのが私の印象です。 ○山川先生  先ほどの質問と若干関連して、いまのお話で伺いたい点が1点だけあります。ファン ドとファンド運営会社が別だとしますと、通常の場合、ファンドそのものが株主になっ て、例えばいまお話に出ていた経営陣を送り込むという場合には、ファンド運営会社の 方が経営陣、あるいはそのファンド運営会社で選定した第三者が経営陣として、そうい うことをする場合には、実際には役員になる、そういうパターンが多いという理解でよ ろしいのでしょうか。 ○柳川先生  私もそこは区別して申し上げなかったので、やや舌足らずだったのですが、基本的に いまファンドからと申し上げたのは、厳密には全部、ファンド運営会社からということ になります。ファンド自体はお金の塊で、そこに人はいませんから、法的にはそういう 意味では別に切れていますが、要するにファンドの会社が、ここで言っているアクティ ブ・インベストメント・パートナーズとか、こういう会社がファンドという形でお金を 持っていて、運営会社に人が張りついているという形になります。そして、そこの人た ちから人が派遣されたり、そこの人たちが人を捜してきたりということになります。 ○山川先生  そうしますと、株主はファンド自体ということはよろしいのでしょうか。ファンド運 営会社が株主になるということもあるのでしょうか。 ○柳川先生  ファンド運営会社が株主になることもありますが、お金を持っているのは圧倒的にフ ァンドですので、ファンドが株主ということになります。半分余談ですが、例えば、世 界中で本当の株主は誰かという話になると、最近はこういうファンドとか機関投資家が 大株主になるケースが多い。その人たち、そこには株主としての実体はないわけです。 例えば生保が持っているけれど、生保の社長は株主ではないわけです。生保のお金を出 している人は誰か、それが本当の株主になるわけですが、そうすると、生保はミューチ ュアルファンドですから、誰も株主ではないということになってしまうではないかとい うような。半分冗談ですが、実態としてはそういうことで、結局、ファンドにお金を出 した人ということになるのでしょうが、株主としては、そういう意味では、発言をする のはファンドの運営者だけれど、法的にはファンドが株券の所有者ということになると 思います。 ○西村座長  まだよく分からないところがあるのですが、先ほどのお話で、うまくいった場合には 会社も再生して生き残り、投資家もリターンを得る。それがいちばんいい形なのでしょ うが、それを短期間、3年とか5年ぐらいの間でやるということでしょうか。そのあと は一体どうなるのでしょうか。再生して例えば価値が上がって売り払ったら、モーター がついていてそのままテイクオフして離陸、さすがだということになるのか。グライダ ーと同じで、手を離れたらあとは知らないよということになるのか、というのが労使関 係にとっては重要なポイントかなと思うのです。その後の姿というのは一体どうなのか ということですが、柳川先生がご覧になった範囲では。 ○柳川先生  比較的成功した事例の後の姿ということでよろしいですか。多くの場合はある程度、 いろいろ問題があったところを切り取ってしまったり改善してしまえば、そこでうまく いくというケースが多いように思います。その意味では手術と一緒で適切に、例えばが んを取り除くことができれば、その後はある程度、医者の手を離れてもうまくいくとい うケースがかなりあると思います。取ったつもりが再発をするといったこともあります ので、また駄目になるというケースもなくはないです。取った後でも、経営陣として入 っていく以上は、例えば、非常に優秀な経営者を連れてきたから、それでうまくいった という場合だと、その人に残ってもらうというケースが結構あります。だから、ファン ド自体はもう手を引くわけですが、連れてきた経営者はずっとそこでやっている、ある いはしばらくやっているというケースは結構あります。  ただ、そういう人たちもある意味そこで名が売れますから、また別の所に行くという ケースもあるようで、先ほどの福助の藤巻さんも今度別の所に行かれるとかいうことで すので、そこで本当に手を離してしまって安心かと言うと、座長がおっしゃいますよう に、やや不安が残る場合もありますが。多くの場合はそういう患部を切り取って、来た トップが持ってきたノウハウですね、こういうものはやはり、トップはそれだけではう まく回りませんから当然、普通そういう外からパラシュートでやってきた救援部隊のト ップは、あまり名前を出してしまうとあれですが、大体、その会社でふてくされていた 優秀な人たちを自分のスタッフに呼ぶわけです。能力はあるが、いまのオーナー社長の 三代目に嫌われてどこかに左遷されたとか、そういうような人たちを連れてくる。そう いう人たちとチームを組んで再生をする。ですからそういうチームの人たちに全部そう いうノウハウを流すわけです。そういう人たちがうまくやっていって、実際にそのトッ プがいなくなってもうまくいくケースということになります。  再生ファンドのケースでないのですが、こういうケースでうまくいったと言われてい るのは、皆さんよくご存じの日産のケースです。あれはそういう意味で、ファンドが経 営者を連れてきたのと同じようなパターンで、ゴーンさんという方を連れてきたわけで す。彼の評価はいろいろあると思いますが、重要な点は、今度いなくなりますが、いな くなってもたぶん大丈夫だと言われている。それはなぜかと言うと、やはり「ゴーン・ チーム」があって、ゴーンさんの薫陶を受けて、心酔している人がいるのかもしれませ んが、彼のノウハウを受け継いだ日本人がずいぶんいる。そうすると、ゴーンさんがい なくなっても同じことができるということになる。そういう形でいけば、手が離れても うまくいくということになると思います。ただ、うまくいかなくなったケースもあるこ とはあります。 ○毛塚先生  少し関連するのですが、これも実態を教えてください。例えば、ファンドを運営する 会社が経営陣に送り込むときには、トップだけ送り込むのですか。それとともに、ある 程度経営陣の意を受けて、実際に動いてくれるようなマネージャークラスを新しく採用 して連れて行くとか、そういう具体的な運用はどういう形が多いのでしょうか。 ○柳川先生  トップだけ、本当に一人だけ連れてくるケースもありますが、おっしゃるとおり、か なりスタッフを連れてくる場合があります。その意味ではいろいろなバラエティがあり まして、多くのケースは数人。このAIP社からも5名という東急観光のケースがあり ますが、ファンドから何人か来て、ファンドの側は会計がわかるから経理の専門家が来 て、産業のことはよくわからないから、同業他社の、どこかで工場長までやってきた人 をトップで連れてくる、その人が、自分の部下だった人をそれに連れてくるという形で やる。ただ、そこで本当にそのマネージメント部門を全部、ファンド出身の人とファン ドが連れてきた外側でやれるかと言うと、私が知っている限りこういうケースはほとん どありませんで、実際にはいま申し上げたように、その会社に元々いた社員とか、元々 の取締役とか、そういう人たちも入って新たにスタートするというのが普通です。なぜ かと言うと、外から来た人が全部マネージメントをやるんだと、やはり分からないこと が多いからだと思います。アメリカの場合だと比較的そういうケースがあるように思い ます。上の総取っ替えみたいなことですね。しかし日本の会社の場合はやはりそこ出身 の人たちであったり、重役でなかった人が、ファンドがきたことによって重役になった りというケースはありますが、そこ出身の人がかなり入って、それと、ファンドが連れ てきた専門家集団とファンドの集団、このくらいでやるということだと思います。 ○毛塚先生  事業再生のときによくターンアラウンド・マネージャーとか、ある程度再生を専門に してやれるような人材を育成しましょうという話がありましたが、そういう人たちとい うのはどういう層なんですか。 ○柳川先生  事業再生のスペシャリストを育成しましょう、と先生おっしゃるように「育成しまし ょう」ということなので、現状としてはほとんどいないのです。そこのパターン、現状 でいきますとやはりファンドの運営に携わっている、私が運営者と呼んできたような人 たちが、いわゆるターンアラウンド・マネージャーであって、その業種のことはよく分 からないかもしれないけれども、うまくいった会社のコスト削減の仕方とか従業員を鼓 舞する仕方とか、そういうことは分かっている。現状でいくと、そういう人たちは今ほ とんどファンドの運営をやっている人たちということになると思います。ただ、そこは 少ないのが現状で、もう少し我々の期待することからすれば、先ほど言ったような同業 他社で、経営の専門家としてくるような人たちが、ターンアラウンドの知識をかなり身 に付けているというのが理想だと思うのですが。何人かそういう人がいて、そういう人 はある意味で再生のプロフェッショナルと言われる経営者の人たちで、昔だと、造船を いくつも再生していったという話がありますね。ああいう話と同じように同業関連業種 で、不採算会社の社長を渡り歩くというようなことが起こるのだと思いますが、現状で はそういう人たちはまだほとんどいないというのが実情です。 ○毛塚先生  ファンドがそういうふうに投資をして、当然それはリターンを期待していると思うの ですが、どのくらいのタームで立て直さないといけないのか。つまり非常に短期でやろ うとすると、売り抜ける方は、あとは野となれ山となれで、とにかく株価を高くして売 り抜けるのが合理的だということになると思うのです。どのくらいのタームで、そのリ ターンを期待して行動しているということになるのでしょうか。 ○柳川先生  この辺は案件によってだいぶ違うと思うのですが、事業再生と言われている分野に関 しては、そのタイムスパンは結構短いと思います。それはなぜかと言うと、事業再生で 立て直すという話は、勝負は結構短期決戦なんです。何年もやったらうまくいくという 話ではなくて、要するに立て直しなので、どこをどう変えるかというのが、すぐ変えら れなければ駄目なんですね。その意味では、事業再生の場合は短期決戦で。もちろん、 短期決戦ですぐワァッと業績が上がるかというと、そうではなくて、短期決戦で患部は 手術してすぐ取り除くのですが、手術した後回復するまでに時間がかかって、本当に一 本立ちするまでには時間がかかりますので、それまでにはだいぶ時間がかかるのです が、本当のそういう意味での再生のタイムスパンはすごく短いです。立て直した結果ど うなるかということに関しては、やはり3年とか5年のタームで見ないといけないんだ と思うのですが、現状として、本当に一本立ちして元と同じ姿に戻らなくても、結構い ろいろなところが買ってくれるというケースが多くて。買ってくれさえすれば売却でき ますから、ファンドが儲かるわけですね。3年とか5年といったケースで聞くと、例え ば一流企業で、事業再生まで落ちていった。3年、5年で元に戻るかと言うとそうでは なくて、全然違った姿で、ある程度のところまでいく。それでもう売却してしまいます から、ファンドは儲かる。  先ほどのアスキーのケースは典型的で、そういう意味では、昔のような大企業には戻 っていないわけです。あるいは、戻す気もなかったし、戻すのがベストではなかったの だと思います。ファンドは、非常に小さな組織だけど、お金の儲かる組織に仕立て上げ て、その時点で、本当に仕事は全部終わったと言えなかったのかもしれませんが、そこ で角川が、結構高い値でほしいと言ってくれましたから、それでお金が儲かるという形 になりますので、事業再生のパターンはそういうパターンになります。そうしますと大 体、事業再生の場合はそんなに大儲けしないのです。コストカットをしてどのくらい儲 かるかと言うと、本当にジャブジャブやっていた会社ならいいのですけれど、そんなに 儲かるわけではないので、当初のリターンの何倍もというリターンではないのです。で すから事業再生の場合は、わりと小さな利益の積み重ねをたくさんやることで、お金を 儲けるというようなパターンになります。  これが例えばベンチャーなどになると状況はだいぶ違ってきます。ベンチャーの場合 は先ほどのように短期決戦ではなくて、じっくり待つということになります。何か開発 している、やる気のある人たちがやっている、これが何か製品を開発すれば大化けする ぞという話で投資しているとすると、なかなか予想どおりにはいかないということにな ります。そうすると場合によると5年、10年待つというようなケースも、ケースによっ てはあります。ただ、そんなことでずっと待っているとファンドは枯れてしまいますか ら、ファンドの側とすれば、いろいろなポートフォリオを組み合わせるわけです。大化 けしないけれど短期に利益が出そうなものと、大化けするかもしれないがいつになるか わからないみたいなものと、いろいろなものを組み合わせて、それで例えば先ほど言っ たようなファンドの最後の期限に間に合うようにもっていくという、この辺の作りにな ります。  ベンチャーの場合はそういう意味でいきますと、事業再生に比べて非常にハイリス ク、ハイリターンで、大化けして本当に上場までもっていくと、最初の投資はすごく小 さいけれどものすごく、場合によると何十倍のリターンが得られるという可能性もあり ますが、そういうケースは例えば100分の1とか1,000分の1とかいう話で、あとの部分 はほとんど、結果的には失敗をして会社は清算してしまうというケースも山ほどありま すので、そういう会社の場合はある程度どこかで見切りをつけて清算をしてしまって、 たぶん、当初の10分の1とかを回収して、これは駄目だったねというようなことでや る。ベンチャーというのはそういう性質のもので、ベンチャーと事業再生の場合はちょ っと性質が違うということになります。 ○神作先生  ファンドからマネージャーが送られたときに、マネージャーの報酬はどこから支払わ れているものなのか、ご存じだったら教えていただけますか。 ○柳川先生  そこはいろいろなケースがあるようですが、ファンドから出ているケースがありま す。その人に高額な報酬を会社から出してしまうと、そもそも駄目な、うまくいかない 会社からどんどんお金を取ってしまうということになりますので、ファンドから出てい るケースが多いように思いますが、ちょっとその辺、正確に実態を把握しているかどう かはわかりません。たぶんいろいろなケースがあるでしょうし、表側と裏側と違う可能 性もありますので、その辺は、正確な情報ではないかもしれないということになりま す。 ○西村座長  そのほか何かありませんか。なければ次に移りたいと思います。柳川先生、どうもあ りがとうございました。  次に今後の研究会の進め方について、事務局から説明をお願いいたします。 ○熊谷労政担当参事官  今後の進め方についての案、資料No.6で説明させていただきたいと思います。  まず、今回の研究会の検討の対象となる投資ファンド等は、1にありますように、い わゆる投資ファンドを運用運営する会社と、これまで若干話が出ていましたがライブド アのように、企業買収によって事業拡大を行う事業会社、ライブドアがそうなのかとい うことも問題なのだろうとは思いますが、そういったものも含めて、これらを投資ファ ンド等ということで、これらの労働組合法上の使用者性の有無について、最終的にはご 検討をお願いしたいと考えております。  進め方ということで2ですが、具体的にはまず投資ファンド等の現状です。今日、柳 川先生のほうからいろいろご説明をいただきましたが、次回、有識者から概況説明をお 伺いできれば有難いということで考えております。この場合、どういう人や団体から聞 けばいいのかは、またご意見があれば是非お聞かせいただきたいと思います。私どもが 今勉強している中では、シンクタンクには今お話をお聞きできそうな所がない、それ以 外の所ということで、例えば日本政策投資銀行みたいな所もあるのかなと思ってはいま すが、次回、どういったところからお話を聞くかについて、後ほどご意見を頂戴できれ ば有難いと思います。  次に、投資ファンド等と被買収企業の労働組合との労使関係について、労使団体の考 え方をお聞きする機会を設けたい。これも第2回目ということで考えていまして、そこ にありますように労使それぞれ、連合と日本経団連からお話を伺うこととしてはどうか と考えております。その場合、どういったお話を聞くかということについても、今日ご 議論いただければと思っておりますが、私どもの方で思いつくものを整理して挙げてお ります。投資ファンド等による企業買収についての現状認識と評価、あるいは、投資フ ァンド等による経営への関与についての現状認識と評価、投資ファンド等による労働条 件決定への関与についての現状認識と評価、投資ファンド等と被買収企業の労働組合と の関わり方についての現状認識と評価、それらのものがどうあるべきと考えるかという 点、投資ファンド等の労働組合法上の使用者性についての考え方、ということで考えて みましたが、この辺もご議論をいただいて、それを踏まえて労使団体に説明をお願いし てはどうかと考えております。  3回目以降は2頁ですが、できれば具体的な事案について、労働条件決定への関与そ の他の労使関係の実態をヒアリングしてはどうかと考えております。この場合、株主た る投資ファンド等と被買収企業及びその被買収企業の労働組合の三者、できれば同一の 事案の三者においでいただいて、そこにありますような事項、例えば投資ファンド等で あれば経営への関与の実態、あるいはその投資の期間、買収後の労働条件決定に係る意 思決定の実態、労働組合との関わり方等について伺ってはどうかということです。被買 収企業の関係では、これも労働条件決定に係る意思決定の実態、あるいは、その買収前 後での変化、労働組合との関わり方、これも買収前後での変化等も含めて伺うことにし てはどうかと考えております。労働組合には買収後の労働条件変更の有無、あるいは被 買収企業との団体交渉や労使協議の実態、投資ファンド等との関わりの実態等について 聞くことにしてはどうかということです。この3回目以降、具体的なヒアリング事項に ついて、今日できるだけご意見を頂戴できれば有難いと思いますし、3回目以降の話で すので、今日のお話、ご意見を踏まえて整理したものをまた先生方にお目通しいただい た上で、ご意見を頂戴するようにしたいと考えております。  どういった所から話を聞くかという点について、私どももいまいろいろ勉強している ところですが、先生方のほうから、是非こういった所から聞いてみたらどうかとか、あ るいは、こういった所があるんだがというような情報がありましたら、この席でも結構 ですし、別途事務局の方へご教示いただくという形でも結構ですので、ご意見を頂戴で きれば有難いと考えております。  4つ目に海外の実態調査です。海外の同じようなケースについて、どういう実態にな っているか調査をしてはどうかということです。3頁目にかかりますが、日本と同じよ うな不当労働行為制度がある国という前提で考えますと、アメリカにおける投資ファン ド等の実態等を含めて、調査をすることにしてはどうかと考えております。投資ファン ド等がどういう活動をしているか、あるいは、どういう形で経営に関与し、どういう形 で労働条件の意思決定に絡んでいるか、あるいは、労働組合との関係はどうなっている か、投資ファンド等の団体交渉当事者としての使用者性に関する制度あるいは裁判例と いったものがどうなっているかを調査して、この検討の参考にしてはどうかと考えてお ります。もしこの調査をやるということになれば、この調査については別途の主体にお 願いして実施したいと思っております。私どもとしては、労働政策研究・研修機構とい う所に、もしお願いすることになった場合には、この研究会での問題意識を十分お伝え して、そういったものも含めて調査していただくようにお願いしたいと考えておりま す。  その後、実態を踏まえた論点整理、報告の取りまとめということで考えておりまし て、スケジュールとしては、資料No.7にありますが、次回は先生方のご都合を調整さ せていただいて、ご都合の悪い先生もいらっしゃったかと思いますが、7月5日の10時 から12時ということで予定させていただきたいと考えております。その際には先ほどご 説明しましたような有識者からの概況説明を伺い、労使団体からお話を聞き、個別の事 案の対象、ヒアリングの対象項目等についてご議論をいただければと思っております。  その後は、8月はお休みにしても、月に1回ぐらいできれば、具体的な企業等からの ヒアリングを3回程度していただいて、その後、海外の実態調査の結果も報告させてい ただいた上で、報告のとりまとめに移っていただき、できれば1月ぐらいにとりまとめ ていただければというスケジュールで、私どもとしては考えております。以上です。 ○西村座長  いまの「今後の進め方(案)」についてのご意見等ありましたらお願いいたします。 有識者、誰がいいかというのは今ですか。 ○熊谷労政担当参事官  今お伺いできることがあれば。 ○西村座長  それも含めてですね。 ○熊谷労政担当参事官  はい。 ○西村座長  それとヒアリング項目ですね。特に第2回のヒアリング項目について、これでよろし いですか。何かつけ加えるものがあれば。 ○毛塚先生  何点か確認です。検討事項として使用者性のあり方の問題と労使関係の実態。これは 実態を調べるということで、課題とすれば、この研究会では基本的には使用者性の方だ けを対象とするのか、それとも、投資ファンドにおける労使関係のあり方みたいな、も う少し幅の広い取り方ですか。その辺の研究会のスタンスはどうなのでしょうか。 ○熊谷労政担当参事官  私どもとしては当初からご説明しましたように、今回の経緯からすると、こういった 場合の団体交渉当事者としての使用者性が、どういうふうに考えられるのかというとこ ろについて、私どもも国会等の議論の中で宿題を頂戴していると考えておりますので、 まずその点についてご検討をお願いしたいと思います。それ以外の、労使関係のあり方 をどうするかという問題もあるのではないかというご趣旨だろうと思いますが、そうい ったものも実態把握の中では十分把握していただきながら、ご議論もいただきながら、 そこは、この研究会の議論の中でまた、そういったところをどう扱っていくかというこ とは、ご議論していただければとは思っております。現時点で予断をもって申し上げる のはあれですが、かなり難しい、あるいは、いろいろ議論のあるテーマになっていくの かなあと思いますので、その辺については、当面、限られた一定の期間で考えておりま すので、どう扱うかということについてもまた、おいおいご議論をいただければ有難い と考えております。 ○毛塚先生  ついでに、これは今日のお話を伺って柳川先生にお願いしたいのですが、ある程度そ の事業再生型とM&Aと言うのか、あるいはバイアウト型とか、ある程度類型的な違い が分かったのですが、もう少しいくつか類型化していただけるような形でしていただく と、議論がしやすいのではないかと思いました。その辺をよろしくお願いします。 ○柳川先生  わかりました。 ○西村座長  ヒアリング項目についてはこれでよろしいですか。 ○毛塚先生  そうしますと、関連するのですが、ある程度、事業再生型は今回は外すのか。例えば 先ほどの話ですと、プロセスとして事業再生型のようなものより別な類型のほうが、今 回の労使関係の検討の対象なのか、それともそうでないのか、その辺をちょっと詰めた いので。そうするとヒアリング対象も、再生型のときのプロセスの労働組合なんかの話 とか、あるいはそうでない場合とか、分けてヒアリングしたほうがよろしいのかなとい う気がしていましたので、その辺の整理をしていただければということです。 ○熊谷労政担当参事官  その辺については、先ほどご説明をいただいたところによれば、事業再生型とかベン チャー型とかあるんだろうと思いますので、その両方。この研究会としては全体につい てご検討をお願いしたいと思っておりますので、そういった点も踏まえてヒアリング対 象はご議論いただけると有難いと考えております。 ○西村座長  今の段階でその事業再生型は除くとか、M&Aだけに限るとかいうことではなくて、 広く投資ファンドということでやっていこうということですね。それはそれでいいので すが。 ○毛塚先生  ヒアリングのときもいろいろあるのかなと思いまして。対象とか。 ○西村座長  連合及び日本経団連からのヒアリングですから。彼らがどういうような。 ○毛塚先生  投資ファンドのヒアリングもあるのかなと思ったのです。そうではなくて。 ○西村座長  これは第3回のケースですね。第3回は、もう少し先。2回が済んでからでいいので しょうか、それとも。 ○熊谷労政担当参事官  次回のご議論も踏まえて最終的に、だんだん決めていければとは思っていますが、今 日の時点でいただけるご意見があれば、いただきたいと考えております。 ○柳川先生  先ほど申しましたように、事業再生と言ったときに、どこまでが事業再生かという線 引きは難しいところがあると思うのですが、1つ、私、この労使関係の分野は不慣れで すので、お伺いしたいのは、いわゆる法的整理に入ったあとの企業の労使関係は別に扱 うのか、それともそこは一緒なのかというところがどうなのか。もし別であるとすれ ば、その法的整理後のファンドの関与の仕方のところは、少し別の話にしたほうがいい のかもしれない。そこを教えていただければ。 ○荒木先生  倒産したような場合の労使関係、これ自体が1つ、非常に難しい、検討しなければい けないテーマなのですが、今日のお話を聞いていて、事業再生型みたいなものは、通常 の労使関係と違う場合を考慮しなければいけないという気がしました。したがって、そ ういう場合にはどういうルールが必要なのかということは、まさにこの場で議論しなけ ればいけないのかなという気がしています。EC指令などでも、倒産企業の場合に、営 業譲渡等について特別な規定を置くなどの対応をしており、こういう投資ファンドの行 動も、いろいろな類型に応じて特殊な対応が必要かどうかということを議論しなければ いけないので、先ほど座長がおっしゃったように、この場では全体を議論すべきではな いかと思います。法的整理に入った場合に、破産管財人に対して団体交渉を要求できる かとか、そういう細かい議論はありますが、この場では広く対象として、その中で問題 点を詰めていくのがいいのかという気がしております。 ○柳川先生  ありがとうございます。その辺全く不勉強でよく分かっていなかったものですから、 確認させていただいたのと。それに関連しますと、最近だとファンドの側は、法的整理 を使うのか、それとも使わないでやるのかは、ある種選択なんですね。これは、どこか になったら法的整理になってしまうとか、自動的になるというものではなくて、ある意 味で、お金を出すファンドの側が選べる話で、これは労使関係だけではなくて、例え ば、いろいろな企業に関する法律に絡むのですが、ファンドの側からすればある意味 で、どちらが得かということを考えて、法的整理と私的整理みたいなものを使う。そう なったときにこの2つに差があっていいのか悪いのかとか、企業の側からするとこうい う問題が出てくるということで、例えば今問題になっているのは破産法制で、会社更生 法でできること、できないことと、こちら側の通常時の会社法でできることと、できな いことに違いがあった場合に、極端に破産法制にいってしまったりいかなかったり、と いうことが起きないかどうかという議論があるわけですが、それと同じようなことが労 使関係の場でもあるような気がしまして。そういう、今は昔と違って、法的整理に入っ てしまった、直ちに潰れてしまうというわけではなくて、まっとうに営業していて、そ こでいろいろな人が働いているのだけど、形の上では法的整理だというような例もたく さん増えてきていますので、その狭間のところの労使関係をどういうように扱っていく かということが、少し問題になるような気がしたものですから。  そうなってきますと、これは本当は、ファンドだからという話ではないと思うので す。どんな雇用者であっても、どんな株主であってもそういう狭間のところはあります から、事業再生絡みで何か労使関係で問題が起こるという今の大きな括りでいきます と、こちら側の主体は別にファンドとは限らない。ファンドだから今そちら側が見えて いる部分があるのですが、事業再生関連に関する労使関係の問題ということになります ので、そういうところに焦点を当てる話なのか、こちら側がファンドだからという話に なると、いま申し上げたような話だけではなくて、もう少し平常時の話だとか、もっと 景気のいいときの話にもなるというような整理だと思います。私のほうとすれば実態に 合わせて、あるいは理論に合わせていろいろ整理することはやぶさかではありませんの でやらせていただきますが、そういうところの問題点の違いが少しあるように思いま す。 ○西村座長  そういうことになりますと有識者としてどういう人を選ぶか、なかなか難しいかもし れません。事務局の方で選んでいただいて事前に教えていただければと思います。ほか にご意見ご発言がなければ、時間もまいりましたので今日の研究会はこれで終わりたい と思います。最後に事務局から次回の研究会についての説明をお願いします。 ○松永参事官補佐  7月5日の10時から12時までで予定しております。場所は追って連絡させていただき ます。よろしくお願いします。 ○西村座長  それではこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。             照会先 政策統括官付労政担当参事官室 法規第三係 幸田               TEL 03(5253)1111(内線7753)、03(3502)6734(直通)