05/03/18 「第1回医療安対策検討WG」議事録           第1回 医療安全対策検討ワーキンググループ                        日時 平成17年3月18日(金)                           13:00〜                        場所 はあといん乃木坂ソレイユ ○事務局  定刻になりましたので、ただいまから第1回「医療安全対策ワーキンググループ」を 開会させていただきます。委員の皆様方におかれましては、お忙しい中ご出席ください まして誠にありがとうございます。本日は14名の出席をもちまして、本ワーキングを開 催いたします。本来であれば初回ワーキングでもあり、委員の先生方のご紹介をすべき ところでございますが、議事進行の関係上、席上にお配りしております名簿と座席表で 代えさせていただきます。  まず、医政局総務課医療安全推進室長より開会の挨拶を申し上げます。 ○北島医療安全推進室長  本日は年度末の大変お忙しい中、また、急な日程調整での開催にも関わらず、多数ご 出席をいただきましてありがとうございます。本来であれば総務課長から挨拶をすべき ところでございますが、急な国会用務が入りましたので、代わりまして私の方からご挨 拶を申し上げます。  本ワーキンググループは医療安全対策検討会議の下に設置いたしまして、今後の医療 安全対策の方向性について集中的にご議論をいただき、検討会議に諮る原案を作成して いただきたいと考えております。  医療安全対策検討会議におかれましては、平成14年4月に「医療安全推進総合対策」 として、医療安全対策を進めていくに当たっての基本的な考え方と、そのための関係者 が担う基本的な役割等について取りまとめを行っていただきました。厚生労働省では、 この推進総合対策に即して、これまで各般の施策を実施してまいりましたが、医療安全 に関する新たな課題への対応等を含めまして、さらに一歩踏み出した対策を実施するた め今般、検討会議において報告書の取りまとめをお願いすることといたしました。  現在、社会保障審議会医療部会におきましては、平成18年に予定されている第5次医 療法改正に向けまして、医療提供体制の改革に関する議論が行われております。その中 でも医療安全対策は大きな柱となっております。医療安全対策に関する医療部会と、当 検討会議との役割分担についてですが、当検討会議で具体的な議論を行い、取りまとめ られた報告書を医療部会へ提出し、医療提供体制の改革全般の議論に資するという整理 にさせていただきたくといった形を予定しているところでございます。  本日ご参集いただきましたワーキンググループの委員の皆様には、医療提供体制の大 きな改革に向けて、今後の医療安全対策の基礎となる報告書の原案を作成いただくこと となるわけでございます。それぞれのお立場とご専門を活かし、忌憚のないご意見と活 発なご議論をお願い申し上げる次第です。また、ご多忙のところ今後の会議開催につき ましては、大変ハードなスケジュールとなっておりますが、このワーキンググループの 役割、会議の趣旨等をご理解の上、ご協力を賜りますよう重ねてお願い申し上げ、開会 の挨拶とさせていただきます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 ○事務局  議事に入ります前に、本ワーキングの進行をお願いする座長の選任について事務局か らご提案をさせていただきます。ヒューマンエラー部会の会長であります東海大学の堺 委員にお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。                  (異議なし) ○事務局  ありがとうございました。それでは堺委員に座長をお願いすることといたします。堺 委員には座長席においでいただきまして、以後の進行をよろしくお願いいたします。               (堺委員、 座長席に移動) ○堺座長  ご推薦をいただきました堺でございます。いま室長からお話がございましたように、 大変お忙しい中、しかもタイトなスケジュールで誠に恐縮でございますが、今後の方針 を検討する非常に大事な時期、局面と思いますので、どうかよろしくお願い申し上げま す。  時間の関係もございますので早速議事に入らせていただきます。まず事務局から資料 の説明をお願いいたします。 ○事務局  資料の確認をさせていただきます。第1回医療安全対策検討ワーキンググループ議事 次第を頭紙に、その後、座席表、資料1から5まで、参考資料1から7まででございま す。傍聴の方には一綴りになっていますが、委員の先生方にはそれぞれ別様になってい るかと思います。ご確認くださいまして、落丁等がございましたらご連絡をいただけれ ばと思います。 ○堺座長  それでは議事に入らせていただきます。議事次第の1番から5番までありますが、1 番の「医療安全対策検討ワーキンググループについて」と「本ワーキンググループにお ける主な論点について」、これが相互に関連しますので、一括して資料の説明をお願い します。 ○事務局  資料1「ワーキンググループ運営要綱」にあります「目的」に関しては、総論的には 先ほど室長から説明のありましたとおりです。医療安全対策検討会議における議論に資 するため、医療安全対策の今後のあり方にについて具体的な検討を行うことを目的とし ています。2頁に本ワーキンググループの委員名簿が記載されています。  資料2、「主な論点項目と医療安全対策検討会議の主な意見」です。横表になってお りカラムが3つあります。いちばん左が医療部会における論点、真ん中がワーキングで 検討を行う主な論点、右端が医療安全対策検討会議意見(事務局作成)となっていま す。医療部会における論点は、本年の2月2日に既に開催されています、社会保障審議 会医療部会でお示しいただいている医療安全分野に関する論点になっています。これを 踏まえて真ん中の段は3月4日に既に開催されています医療安全対策検討会議で、医療 部会における論点を踏まえて、こちらのワーキングで具体的にどういったことをご議論 していただきたいかということについて示して、ご承認いただいた内容です。右側にな りますが、その会議の際に、検討会議の委員の先生方から、さまざまなご意見が寄せら れました。それについて個別にご意見を記載しているという構成になっています。  大きくは左端になりますが、6つの論点、分野の形になります。(1)医療安全対策 における国、地方の役割、(2)医療機関における安全管理体制、(3)苦情や相談へ の対応体制、(4)医療事故や医療関連死の報告・届出に関する制度、(5)医療事故 をおこした医師等への対応、(6)その他となっています。  これらの個別の論点については、この後説明いたします資料3で個別の論点、1枚紙 となっているところで詳しく説明いたします。 ○堺座長  本来ですと、ここで直ちに討議に入るわけですが、本日、稲葉委員が13時30分にご退 席になられますので、まず稲葉委員から資料4について報告をいただきまして、ご討議 をいただきたいと思います。 ○稲葉委員  私自身はもともとが裁判官をやっておりまして、法務省の局付検事という中で、裁判 官として、それから当事者の代理人として15年ほど勤めたことがありますので、医療に 関する法的な問題についていま研究をしたり、さまざまな所で実践しているわけです。 今日はその全般的な問題点について、今後の議論に資するような範囲でお話をしたいと 思っております。パワーポイントはかなり大部になっていますので、そのうちの一部を かい摘んで約15分間ぐらいで話させていただこうと思います。  これはインシデントとアクシデントの数を、私たちが単純計算をするとどれぐらいあ るかというと、非常にたくさんあるということを、まず見ていただいたらいいと思いま す。アクシデント数を単純に東京都立のものから推定すると、62万とかという数字にな ります。先進国を経験的に見ますと、亡くなった方々というのは、たぶん5%以上とい うことなので、推して知るような数になると思います。  この点、医療に関連して亡くなる、これはもともとの疾患がそのまま増悪したものは 基本的には除くということですが、ご存じのようにアメリカ、カナダ、イギリス、オー ストラリア、さまざまな所であります。今日ご出席の長谷川敏彦委員の推計でも5万人 ぐらいは日本にはおられるだろうという推計が出ています。そういう意味で、医療に関 連する死亡、つまりドクターであるとかナースとかという者の過失が、もしかすると問 われるかもしれない対象となるものというのは、実は非常に多いということを、まず念 頭に置いておかなければならない。これは医療自身がリスクの多いという基盤にもあり ますし、私たちはこれを念頭に置きながら、これからの対策を考えなければならないと 思っています。  しかし、医療事故がすべて紛争になったり民事訴訟になったりするわけではないとい うことも、しっかりとわきまえなければなりません。この訴訟の外のことを実は「裁判 外の紛争の解決のシステム」と通常呼んでいます。この中には当然、事件が外に露見し ないで寝ている事件も当然ありますし、泣き寝入りと言われている領域もあると思いま すが、これを最近は裁判所ではなくて裁判所の外で紛争解決をする。これを英語では Alternative Dispute Resolution (ADR)と言います。今日の冒頭のところに「裁 判外紛争解決制度」と書いて「ADR」と書いているのはその趣旨です。これからお話 するのは私の経歴とは逆に、裁判というものの持っているさまざまな限界をしっかりと 理解しながら、それでは裁判以外の所でどういう解決の手続があるのかということを、 少し模索してみようという試みです。  医療における個人の責任ですが、これは通常、行政的なもの、刑事的なもの、民事的 なものと分かれています。しかし、これは特にそれぞれが連動しているものではもとも とないわけで、いちばん悪い場合は刑事的な責任を追及される上に、損害賠償義務を負 って、そして免許が停止されるということも実はあるわけです。  それぞれ個人責任の根拠と言われているものが「過失」という要素になっています。 このそれぞれの行政のシステムとか刑事のシステムは、もともと持っている主たる狙い が少し違いまして、行政というのは免許制度等と関連して事前抑制する。つまりミスを 起こさないようにするための、もともとのシステム、あるいは資質向上のためのシステ ムと言われています。刑事というのは制裁的なシステムで、民事は事後的な救済、それ が将来に結びつくようにというような、それぞれのシステムに主たる狙いがあります。  ところがこういうさまざまな法的な責任には、つとに言われておりますように、個人 が責任を負うことで特に刑事・行政の問題です。これはこれまで刑事の議論だけされて いたようですが、行政責任についても同じように当てはまると考えていいだろうと思い ます。非難の応報が前向きにつながらない。医療というのは本来は前向きにつながらな ければならないところが、過去にあった過失というものを中心にして、あったのか、な かったのかということで、お互に非難の応報になってしまう。特にこれは裁判に顕著に 表われます。仮に裁判で勝ったとしても、決して関係者の満足につながらない。あるい は刑事裁判で被告人と言われている人たちが、刑罰を科せられることにしても、被害者 の方々の満足につながらず、むしろ疲弊してしまうのが実態である、という指摘がされ ています。この法的な責任はシステムのエラーを問えないということで、医療の改善の ためには一定の限界があるということも踏まえなければならないと思っています。  医療とか看護とか、薬剤の事故の特殊なところですが、もともと医療事故機会の絶対 数が多い。医療行為は危険を内包していますし、同時に悪い結果惹起のリスクが高い。 つまり、疾患を有する患者に対して医療行為をするのですから、それがミスマッチする と、リスクが顕在化することは避けて通ることはできないと思います。ただし、これを 当然のように患者に伝えるわけにはいきませんが、最低限、私たちやるべきリスク回避 の手段をとっても、なおかつリスクは顕在化するということは、しっかりと受け止めな ければならないと思います。  このような中で「過失」ということを法的に少し考えますと、過失というのは通常結 果予見と結果回避から構成されると言われています。難しく言いますと「結果予見の可 能性があって結果回避義務に反する」、あるいは「結果予見義務に反する」、それから 「結果回避可能性があって結果回避義務に反する」という言い方をしますが、ここでは 予見と回避を中心に考えますと、医療行為は多くの場合、結果の予見の可能性があるわ けです。悪い結果が惹起することは、あると言えばあるわけです。それから社会的有用 性を理由に許容する、許されている危険なのだということは、やはり社会の中でまだコ ンセンサスがとれていないと思われます。信頼の原則というのはお互いが、例えばドク ターは看護師を、看護師はドクターを信頼すれば、そこのミスは問わないというような 原則は採用されていないわけです。昔、千葉の事件であるとかさまざまな議論をされた ことはご存じだと思います。  生じた結果が重大である、つまり患者が亡くなるというほど、実は結果責任的な色彩 が強くなって、本来過失というのは道徳的非難をするための根拠と言われていたもの が、医療ではそれが薄くなっているのではないか、という指摘ができるのだろうと思い ます。  医療事故の回避といいますと「法的には過失あり」というのは回避ができるという判 断です。しかし、実際に医療の個人のレベルでこれを戻してやると、当該病院に戻して やると、本当に回避ができたのかということについては、非常に疑義がある場合があり ます。ある種の法的な回避義務というのは、ある種のフィクションであるかもしれない というぐらいのものかもしれません。ただし、これは伝統的に過失がこの概念でずっと きておりますので、過失概念を変えることはたぶんできないだろうと思います。  実際、民事事件を平成5年から平成15年を見ていますと、ほぼ1.2倍少しになって ます。通常の事件が1割も増えていないのに、医療の関係訴訟が非常に、つまりこれは 民事なので損害賠償が増えています。この過失の立証構造というのは過失と損害と、そ の間にこれがなければあれがないという因果関係の関係を、原告と被告が立証活動をし て、最終的には裁判官がその心証に基づいて、高度な蓋然性があると判断した場合に は、加害者の責任が認められるという構造です。  ところがこの証明は裁判官の心証なので、非常に揺れます。実際に私たちが裁判をし てみても、非常に揺れることがあります。そういう意味では原審と控訴審の意見が違う ことはままあるわけです。そういう意味では民事裁判というのが非常に危うい制度の中 で、しかし、裁判はその後がないのでこういうシステムをとっているということです。 しかし、医療過誤制度をこういう中で本当に解決することがいいのかどうかは、もう1 度考える必要があるだろうと思います。いまは民事責任の話をしました。  その中で刑事のことを申します。異状死については医師法21条の届出によって、警察 に24時間以内に届けることになっています。これについては広尾最高裁の判決が昨年度 の4月13日にありました。これは黙秘権の関係では憲法38条に違反していないのだとい うような判決が出ましたので、医師法21条は生きているわけです。しかし医療の現場で 何を「異状死」とするのかについては、未だに議論が残っています。そこで私たちが病 院の中で通常の医療の過程で起こった、亡くなったことというのを、仮の名前として 「医療関連死」という名前を付けて、第三者機関に届出るようなものはできないかとい うのが、この数年間の厚生労働省を巻き込んだ議論の中です。これがまず新しいシステ ムになると思います。  刑事裁判、あるいは刑事的な刑罰を加える手続というのは、結果(実害)の発生を防 止しようと思うと、結果(危険)の発生まで防止しなければならない。そうすると遠い 初期の危険行為を本来はつかまえなければならないということになるわけです。ところ が刑事手続というのは予見であるとか回避を持っているので、近い危険行為しか捉えら れません。つまり、刑事裁判というのは、もともとシステムを問いにくくて、個人の責 任しか問えないような仕組みになっています。すると、刑事責任は病院にとってはある 種のトカゲの尻尾切りのような形で出す。刑事的な手続も検察庁であるとか警察が社会 的な議論の高まりの中で、誰かに責任を持ってもらわなければならないというプレッシ ャーがかかるのは、推して知るべしだと思います。  私たちが少し考えましたのは、責任の追及ということから事故原因の究明をすること には限界があるだろう。つまり民事裁判も刑事裁判も実は責任の追及の手続なのです。 例えば刑事裁判では不起訴の場合の記録の開示には当然限界があります。不起訴になっ た人たちの情報まで開示するのは、被告人の人権に関わることなので開示には限界があ る。主として個人責任の立証に必要な範囲内での究明になってしまいます。このことを 如実に物語っているのは、京都大学でありましたエタノールの事件で、大阪高裁に「シ ステムエラーを問うことは裁判所はできないのだ。」というような主張があったのです が、まさにそのとおりだと思います。そこで事故原因の究明をする中で再発予防をしよ う、医療の質の向上を高めようというシステムは作れないのかというのが、この数年 間、非常に議論されました。しかし、必要な範囲での責任の追及は残さないといけない のではないかという議論も残っています。  次に行政的な責任について申します。これは医師法とか、歯科医師法の中の相対的欠 格事由を受けて、7条に規定があります。これは私が申すまでもないと思います。  だいぶ医道審議会の議論も行政処分については積極的になってきているのが見えるわ けです。その中で出てきたのが、2004年2月の4学会共同声明です。その中で、中立的 な専門機関、これを第三者機関と言いますが、民事とか刑事とかというものが高まって くる背景には、医療者として何もしてこなかったのではないか。医療者が実質的に動い て何か受け皿を作る必要があるのではないかという、第三者機関による裁判外紛争解決 機関(ADR)の思想、考え方です。実際には昨年9月30日に19学会の共同声明で、日 本医師会等にもご支援をいただきながら、私自身も合同ワーキンググループに入りまし て、厚生労働省のモデル事業としてこの4月1日から始めることになりました。モデル 事業に至った経緯を簡単に説明いたします。  この中で事故原因の究明結果をどう利用するのかが、今回の議論でもいちばん大きな 問題になるだろうと思っています。そのような中で第三者機関の構想をするときに、ま ずいくつかのことを、これは私が内科学会とかで申したものをこのようにリバイスした ものですが、やはりいろいろ作っても透明性がなくて、国民にわかりにくいものは駄目 だ、あるいは信頼のおけない公平性のないものは駄目だということです。もう1つは当 面の医療者の利益保護、例えば最初から免責の議論を出すような議論は、とうてい今の 世の中は伝わらないだろうということを申しました。  もう1つはこれとの裏返しなのですが、誠実にこのシステムにのった医療者というの は、誠実な医療者だと思いますが、その方々が不当な扱いを受けないという担保も必要 だろうと思います。いちばん大事なことは医療の質向上に結びつけるためのシステム で、同時に医療側が積極的に関わる必要があるだろうということを申しました。  中間的なコンセンサスは現在の裁判制度では限界があるし、医療関連死は全国で起こ るし、異状死の届出制度は最高裁が合憲だと言いましたので、これを無視するわけには いかない。第一段階では医師が関わって、そしていろいろな専門家の関わり、各学会の 関わりだと思います。そして、機関が公正かつ中立で、そして何よりも遺族等の意思を 尊重するシステムでなければならない。特に、亡くなられた後、遺族の方々のお気持ち に関わるときに、死因の究明をするということだけではなくて、しっかりとそこで受け 止めるということをしなければならないと思います。それから、既存の解剖のシステム を見直す必要もあります。  そのような中での構想は、先ほど言いましたように医療関連死という概念を使ったA DRシステムと、届出・調査・提言をするシステムとを連携したプロセスとして、全国 でのシステムを将来的には見据えなければならないし、このような市民・法律家の関わ りとか、媒介の専門家の育成などが方策として考えられました。実はモデル地区として 次のような形になりました。  いまのところまだ構想なので、私もその一員であるモデル事業の検討班で検討をして いることを申します。医療機関の中で、先ほどのような診療行為に関連して亡くなりま すと、家族の方、あるいは遺族の方々の同意を得て、モデル事業地区に対して解剖の依 頼をします。病理、法医、臨床医、専門学会の関わりの中で、その調査をし、最終的に は医療機関と患者ご遺族に評価結果報告書を返すシステムです。ただ、この評価結果報 告書をポッと返したら紛争が解決するかというのは、私はADRの研究をしていますの で、そうではなくてむしろそこからが紛争解決の始まりだと思っています。  そういう意味で色を変えて書いている総合調整医であるとか、調整看護師の方々をど うやって育てるかというのは、モデル事業の検討班でも非常に大きな議論になっていま す。これは中央とモデル地区ですが、中央が東京にできると思いますが、地方としては 例えば名古屋であるとか大阪であるとか、いまモデル地区の最終的な選考の段階に入っ ています。  しかし、いくつかの課題がありまして、当面の問題としては病理と法医と臨床の連携 の問題であるとか、スタッフの育成であるとか、評価結果報告書を単純にドクターの責 任追及のような形で作るとなれば、あまりほかのものと変わらなくなってしまうので、 この結果報告書の内容をどうするのかとか、地方と中央ではどういう住み分けをするの か、そして医師法21条がある以上、現行法上でのモデル事業であることから、警察への 連絡を抜きにするわけにはいかないのではないかという議論が残っています。  いくつかの課題で、その後の問題としては、この中でも議論があると思いますが、一 応医師法21条の異状死届出との関係、それからモデル事業を全国展開する際の受け皿の 問題、そして第三者機関への届出義務の問題、それから届出に伴う行政処分等の連動の 問題です。行政処分と連動することによって、医療者が本当にこれを使いやすいものと して見てくれるのかどうかということも、現実問題としては考えなければならないと思 います。  同時に病院内における死亡は健康の危機管理にとっては非常にいい情報だと言われて います。現実に病院内で起きた死亡事故が、最寄りの保健所の公衆衛生の端緒にいまは まだなっていません。しかし、これは連動させる必要があるのではないかという議論 は、このワーキングを越えるかもしれませんが、1つ視野には入れておかなければなら ない。  資料の最後に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」があります。これを 通常ADR法と言いまして、昨年の11月に制定されました。聞くところによりますと、 2009年に全面施行される予定の法律です。そういうふうに法律の世界でも実はADR法 についての整備ができています。これは何を考えているかというと、民間型の、こうい うADR機関のようなものが調整的に、つまり調停的なことをするための指針となる法 律とご理解いただければいいと思います。同時にこういう問題をやっていくと民事賠償 との関係の連動を考えなければならない。患者が亡くなっているということの、究明を すればすべて終わりということではまずありません。これは名古屋の加藤先生が言われ るように、やはり被害者救済のシステムとどう連動させるのか、いまでなくてもいいか ら、しっかりとその道順だけは付けておくべきではないかと、こういう議論があると思 います。  これから以降のところは、実は事実を明らかにするいまのシステムだけでは万全では ないとか、Medical Conflick Management、つまり「危険は起るから危険をコントロー ルする。」これがリスクマネージメントの第一世代だとすると、実際そのリスクは顕在 して、紛争が起こるのだということ、Conflick Managementと私たちは呼んでいますが、 こういうシステムを少し考えるべきではないのかということです。  ただ、時間の関係がありますので、これ以降のことについては事後の会でご質問を受 けまして、私のほうで詳しくご説明させていただきたいと思います。いまのところはこ の程度でお願いしたいと思います。 ○堺座長  ありがとうございました。本来、稲葉委員にご質疑をお願いするところですが、時間 の都合がございますので、その機会を改めて持ちたいと思います。稲葉委員のご退席 後、いま伺いましたことについて委員の方々のご意見がもしおありでしたら承って、今 後この問題について討議をするときにそれを続けたいと思います。どなたでも結構です が何かご意見がありましたらどうぞ。 ○長谷川(敏)委員  大変クリアなご説明でわかりやすかったのですが、諸外国の例を見ますと、この制度 と、もう既に稲葉委員からもご指摘がありましたが、補償制度がカップルにして出来て いる。端的には無過失補償のシステムと、それからこういう原因究明が1セットになっ ているような傾向が見られたので、その辺を少し考えていく必要があるのではないかと いうコメントです。 ○堺座長  ほかにどなたか稲葉委員の提起されましたことについて、何かご意見がありましたら 承っておきたいと思いますが、いかがでしょうか。これは是非議論を深めて、それから 進みたいと思います。私は座長役でいきなり委員の方に振りますが、この問題について はいきなり振らないで、じっくり煮詰めてから振りたいと思っておりますのでご了解く ださい。よろしければ、元に戻らせていただきます。この論点整理のところの説明を続 けてお願いいたします。 ○事務局  論点整理あるいは医療安全対策の方向性ということで、資料2と3について説明いた します。基本的には資料3を中心に関連のあるところは、資料2に戻る形で説明いたし ます。  資料3「医療安全対策の方向性」です。これから3頁分が全体の方向性についての概 念整理のペーパーになっています。4頁目以降が各論の形になります。先ほどの論点で 挙げられていた個別の論点項目の主なものに対して、1枚ずつの形で現状、課題、検討 の方向性等がまとめられているという構成になっています。 ○堺座長  この総論部分をまず説明していただいたところで、一旦ご質疑をいただいて、それか ら各論のところでご質疑をいただくことにしたいと思います。 ○事務局  3頁「医療安全対策の今後の見直しの方向性」ということで、基本的考え方、医療安 全推進総合対策の中で「医療安全の確保」と「医療における信頼の確保」が大きな2本 の柱になっています。それに加えて「医療の質の向上を図る」という視点を重視するこ とによって、医療安全の一層の向上を図るのが今回の基本的な考え方です。医療安全対 策の柱として、3つほど掲げています。I.医療の安全性の向上、II.医療事故等事例 の原因究明・分析に基づく再発防止対策の徹底、III.患者への情報提供・共有と患者 参加の促進となっています。それ以下はI.II.III.についての個別項目になります。 これは後ほど各論ペーパーで説明いたします。  1頁めくりまして、これは従来の流れについての流れ図、概念の説明になります。左 側、「医療安全推進総合対策」これは平成14年4月に医療安全対策検討会議でまとめて いただいています。医療安全の確保、医療における信頼の確保ということで、2本柱に なっています。個別の内容として4つほど掲げています。こういった内容についての記 載がありました。  次に平成15年8月に「医療提供体制の改革のビジョン」が示されています。この中で は患者の視点の尊重、あるいは質が高く効率的な医療の提供、医療の基盤整備といった ものが謳われています。それから中ほどに「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」 が、平成15年12月に出ています。これは当時「青戸事件」等深刻な事件等が重なってい たことを踏まえ、当時の坂口大臣から「人」・「施設」・「もの」の3つの柱に関し て、新たな取組や対策の強化について関係者に対し安全管理対策の更なる推進を依頼い たしました。  それらの流れを踏まえて、右側が今回の「今後の医療安全対策」ということで、上2 つが従来の流れ、それに医療の質の向上があって、新しい3本柱ということで、先ほど の医療の安全性の向上等の3点で、構成をしていきたい、整理をしていきたいという話 になります。  3頁目、これは概念整理図になります。今、ご説明した内容を平面図に落とした形に なっています。3つの課題が「安全性の向上」「原因究明・分析、再発防止」「患者へ の情報提供・共有、参加促進」という内容になっています。  下に書いてあるのが、個別の項目になります。国・第三者機関の役割、あるいは都道 府県の役割、医療機関・薬局が担う部分といった形で、それぞれ該当する論点を整理し ました。いちばん右の記載が責務・役割の明確化ということで、これは国、都道府県の 役割分担についてです。  以上が総論ですが、これ以降に各論点ごとに資料をつけています。大きな流れ、概念 の説明については以上です。 ○堺座長  一旦ここで総論的なところについてご意見を伺いたいと思います。1頁目がこれまで に挙げられた論点の列記、2頁目がこれまでにいろいろな所でまとめられたものの流れ が書いてあります。それらを平面図にまとめたものが3頁目です。いま事務局から説明 のありましたように、安全の確保と信頼の確保、これに加えてそれらを包括するような 形で医療の質の向上ということが、ここで提言されているわけですが、この全体の流 れ、総論的な部分についてご意見がありましたら承りたいと思いますが、いかがです か。 ○長谷川(友)委員  総論的にはこのとおりでよろしいと思います。先ほどの稲葉委員のご発表とも少し関 係しますが、物事というのはすべてを同時に満たすのは難しいのですね。ほかの国を見 ても優先順位を設定するというのが通常行われています。例えば、報告システムを機能 させる、調査システムを機能させる、再発予防システムを作る、あるいは被害者救済を 作るという一連のプロセスにおいて、医療関係者にどうやって心安く事故の報告をして いただくかという、この1点がいちばん大きな問題です。  そのために、諸外国では、守秘、免責、監督官庁ではなく第三者機関への報告、自発 的報告という、他の産業分野での経験を基にした原則が確立しています。  これは、個々の被害救済だとか責任ということよりも、社会としていかに情報・知識 を共有して、再発予防に当てるかということが、優先されるべきであるという考え方に 基づいています。確かに、あってはならない事故であるとか、これはある種の罰則があ ってもやむを得ない、あるいは明らかな故意によるルール違反といったものは、この制 度の保護の対象ではないのですが、比率的には大体99対1ぐらいです。だから99に関し ては社会としてどういう形で情報を作って共有して活用するかというのが趣旨なので、 その辺りのバランス感覚が日本の過去の経緯を見ると、十分に理解されていないという 印象を持っております。免責の要求は医療者側のわがままみたいな形で、受け取られる とすると、これは社会全体としても建設的な議論の妨げになり、再発防止策を講じるこ とを妨げることになるわけで非常に残念です。  この総論では、優先順位を設定することが必要であり、これは、どうやって社会全体 として知識を作って、情報を作って、これを共有して活用して、最終的に医療全体の安 全性と質の向上につなげることであることを、もしよろしければこの場で確認させてい ただきたいと思います。 ○堺座長  いまの総論部分、それから長谷川友紀委員のご発言、本日はさまざまなお立場の委員 の方がおられますが、看護の方のご意見も伺いたいと思いますが、楠本委員いかがです か。 ○楠本委員  どこに入っているのかなと思いながら見ていましたが、マンパワーの問題です。「人 ・もの・お金」ということで、医師会等の緊急アピールの中にも少しありますが、貧困 の医療提供体制、特に急性期の、夜間は医師と看護師とで医療が行われているという状 況の中でということが。私がヒューマンエラー部会の委員になったときから、ずっとこ のことは申し上げ、部会の意見としてもずいぶん出てきたと思いますが、やはり根本的 な議論の中に、どうしてこのマンパワーということが盛り込まれないのか実に問題だと 思っています。医療法の改正にも関わっていくことなので、抜本的に医療安全の確保の ための「人」の問題ということを、私は強く議論をお願いしたいと思っています。 ○堺座長  総論部分というのは、全体の枠組みが大事な部分ではないかと思いますので、日本医 師会、日本歯科医師会及び薬の分野、最後に法律的なご見地という順番でご意見を伺え ればと思いますが、野中委員いかがですか。 ○野中委員  いま楠本委員も言われましたが、医療安全という部分ではどうも何か先ほどの稲葉委 員のお話からも考えますと、どうも結果から考えているので、自分たちが提供する医療 はどうしたら安全に提供できるのだろうか、という部分の入口のほうがいままで欠けて いたのではないだろうかと私は思います。  もっと言えば、もともと医療というのは医療従事者と患者との共同作業であって、不 幸にも病気を抱えた患者とともに病気に立ち向かっていこうということが、本来は医療 従事者の原点ですから、そのために診療所・病院がつくられているはずです。どうやっ て安全を守るかどうか、そして治療を受けていただくことが原点、当たり前の話なので すが、それがいまは、楠本委員も言われたように、当たり前のように話されていない。 その結果、先ほど長谷川委員が言われたように、例えば何が事故の原因であったのかと いうことがきちんと反省材料というか、そういう部分として検討をしていく仕組みが今 までなかった。それが犯人探しであり、それが原因究明につながったかということが、 私は大きな問題だろうと思います。確かに医療安全の確保と、医療における信頼の確 保、それから医療の質の向上という部分では、適切な考え方であろうと思います。  こういう発言をすると、いつも診療報酬の額が多ければというようにとられてしまう ので、問題が前に行かないわけです。私は例えば地区の医師会でいろいろ活動をしてい ますが、やはり地域保健医療計画とか、地域の医療資源の部分で、患者たちが地域でど うやって病院に行くかというときに、医療を資源として捉える視点がいままでなかっ た。それが本来は医療の安全の確保、質の確保の部分で欠けていた視点ではないだろう かと思っています。何か抽象的な話で申し訳ないのですが、今後委員の方々といろいろ 討議をさせていただきたいと思います。 ○堺座長  歯科医師会のお立場からご発言いかがでしょうか。 ○高津委員  日本歯科医師会の医療事故に関するものは、現場の歯科診療所から、都道府県の歯科 医師会の部門に情報が入ってしまい、そこで大体止まっている。都道府県の全体の数と か内容がはっきりつかめていないのが現状です。こういう機会に、どちらかというと医 療関係者、歯科医師等従事者がどうやったら報告しやすいか。それが都道府県に報告を して、ただ、事故の内容だけではなくて、その原因を本来は本人がきちんと反省してい きながら、自分も含めて業界が二度とそういうことが起きないような教訓にしていく か。先ほど情報と知識といったものを共有して活用するかという、そこの後半の部分が どうしても抜けているのが現実です。そういったものを含めて歯科医師会全体像として 捉えていかないといけないのかと常々思っています。 ○堺座長  医薬品・医療機器のところで土屋委員にこの後、資料の説明をしていただきますが、 その時でよろしいですか、それともいま何かご意見があればお願いします。 ○土屋委員  後ほどお話しますが、医薬品といいますと、まさに「もの」、それを扱う「人」、そ してまたその「仕組み」という3つのものがうまくいって、始めて安全が保たれるとい うことになってきます。そういった中で、「ものはもの」、「人は人」ということで、 いままでさまざまなことが言われていましたが、今回その「仕組み」ということも含め て、そういう対応をとっていくことが必要だという話をこれからさせていただきたいと 思っていますのでよろしくお願いします。 ○堺座長  あと、法律的な部分、このADRに必ずしも捉われるものではないので、総論部分の 法律のご専門の見地から、どのようにご覧になられましたでしょうか。 ○川端委員  先ほど長谷川委員が言われた件については、医師にとって非常に届出がしやすいとい う制度と免責というのが、どうしても結びついて語られてきたわけですが、ただ、私が 患者側の代理人として、いろいろな医療事件を取り扱った関係からいうと、被害者の救 済に役に立たない制度になってしまった場合に、患者側にとってはメリットがないわけ で、ここでそれを届出がしにくくならないようにし、かつ、単に事故原因の究明だけで はなくて、被害者の救済にもつながり得る制度を考えられないか。そこはバランスの問 題だと思いますが、そこはもう少し考えたほうがいいのではないかと思います。  医療の安全という点については、既に楠本委員も言われましたし、医療安全対策検討 会議でも出ているようですが、やはり「人」の問題が本当は総論的にはいちばん重要 で、その「人」の問題を支えるのは結局どれぐらいの医療費をどういう配分で使うかと いう問題が、実はあるのではないかと思うのです。私は患者側の代理人で医療訴訟をや るわけですが、本当に真面目でかつ優秀で熱心なお医者さんが現におられて、そういう 方がいちばん現時点で苦労をしている。本当に夜もよく寝ないで働いて、よくやってい るなという感じの人が病院におられるわけです。それでいて、医師は余っているから数 を減らそうという議論が出てくるというのは、それは分配の問題が間違っているのでは ないかという気がどうしてもするのです。もし本当に総論をやるならば、そこも考えて いかなければいけないのではないかと私は思っています。 ○長谷川(友)委員  確かに被害者救済というのは重要です。しかし訴訟システムには限界があります。ア メリカの場合ですと100人の方が入院されて4人がなんらかの形の有害事象に遭うと推 計されています。そのうちの半分、すなわち2人は医療過誤です。その方々が実際に訴 訟をしたかどうかというと、実際に訴訟を起こすのは50人に1人です。では医療訴訟を する方はみんな医療事故に遭っておられるかというと、遭っておられた方は6人に1人 しかいないと報告されています。だから訴訟というのはある種の限界がある。  医療訴訟以外の手法、例えばADR、あるいは無過失の補償制度など、同時に考えて いったほうが本当の意味では被害者の補償になるのではないかと思います。是非裁判だ けではなくて、別な手法もこの会の検討事項ということでお願いしたいと思います。 ○川端委員  いまの長谷川委員の意見は私は全然反対ではありません。もともとそういうものが出 来ればいちばんいいなと。大部分の医療事故にとっての本当の救済というのは無過失責 任の保険が出来ることで、いわば全国民が保険料でたまたま事故に遭った人の被害をあ る程度支える、という構想ではないかというふうには思っています。ただ、現時点でそ れは全然見通しがないわけで、その辺のことを抜きに話を進めて、被害者救済の役に立 たない制度を作ってしまってはいけないというふうには思うのです。 ○長谷川(敏)委員  いまのお2人の議論に少しコメントをしたいと思います。やはり医療界もほかの産業 と同じようになろうという決断をしたいと思うのです。つまり過去の飛行機事故とか、 船の事故とかから学んで、安全性を高めていこう。これは実は国際的につい最近起こっ てきた流れで、国際的にもこれまでリスクマネージメント、つまり患者が訴えることを 避けようという考えから、先ほど野中委員が言われたように、むしろ安全性を積極的に 作って、システムを考え出す。これは世界的に見てもそんなに古いことではない。私の 理解はこの安全対策はそのためにあると考えているので、救済とはまた違うのだろう。 もちろん救済制度がうまくいかないようなことを、この安全対策でやるということはい けないのでしょうが、長谷川友紀委員のポイントは、そういう新しい、やっと医療界が 決断したことを、いかに進めていくかということにプライオリティを置くのだというご 意見だと思います。  もう1点、基本的な方向性は大変いいのではないでしょうか。先ほど申し上げた新し い安全対策は、実は質の向上とコインの裏表みたいな関係になっているので、そこで安 全の確保、信頼の確保と、医療の質の向上ときちんと方向性を定めることが、大変いい のではないかと思っています。 ○堺座長  総論部分についてはほぼご賛同をいただけたと思いますので、事務局から4頁以降の 各論部分の説明をお願いします。 ○事務局  各論について説明いたします。時間の関係もありますので、今後ワーキングで、それ ぞれの個別の項目についてテーマごとにご議論をしていただくことになると思います。 詳細はそちらで説明をさせていただきます。それから後ほど土屋委員からご説明いただ く予定となっている薬に関連するところを中心に説明いたします。  まず、この資料の構成を先に説明いたします。資料の3頁目、I.安全性の向上、II. 原因究明・分析、III.再発防止、IV.責務・役割の明確化のそれぞれについて4頁目、 9頁目、12頁目、13頁目にインデックスペーパーの形でまとめたものがあり、それ以降 に個別の論点ペーパーが入っている構成になっています。薬の関係が4頁目、安全性の 向上のところに入っているので、構成と中身の説明をいたします。     4頁「安全性の向上」ということで、基本的考え方については「医療安全推進総合対 策」に記載されている内容をそのまま記載しています。最後のところにありますが「安 全文化」を醸成して、それを医療現場に定着させていくという考え方です。主な課題と 見直しの方向性としては、「安全文化」を醸成・定着させる観点から、下のような5つ の項目についての方策を検討してはどうかということです。この論点についてが5頁以 降です。  薬の関係が6頁目、Iの2.「医薬品の安全使用体制について」の頁になります、 「現状」ですが、医薬品に起因する医療事故防止対策の強化が求められている。これは 医療事故の中で医薬品に関連する事故が多いという実態を踏まえての話です。○の3つ 目になりますが、外来患者の調剤が薬局で行われる機会が多くなってきている。  2番目の「課題」になりますが、○の1つ目、医薬品の安全使用体制の充実というこ と、○の2つ目、病院と薬局、医療機関と薬局の連携、いわゆる「病薬連携」の強化の 話、○の3つ目、薬局においても調剤事故が起こり得るということから、なんらかの対 策が必要ではないかといった問題点が指摘をされています。それに対して「検討すべき 方向性」ということで、○の1つ目、医薬品の安全使用体制の充実ということで、ポツ が3つありますが、法令上位置付ける必要性について議論をしてはどうだろうかという ことです。1つ目は責任体制の整備、2つ目は業務手順書の整備と、定期的に遵守され ているかどうかの確認、3つ目が医療機関と薬局における連携という内容になっていま す。  ○の2つ目、抗がん剤など「特に安全管理が必要な医薬品」について、これに対して は更に上乗せした対策が必要ではないかといった論点です。これに関しては資料2の5 頁(6)です。委員意見で井上委員からの意見です。「安全管理上厳重な取扱いが必要 な薬剤」として新たに分類をしてみて、それに対する対策を構じてみてはどうかといっ た意見が検討会議でも出されています。  資料3○の3つ目になりますが、疑義照会をより円滑に進めるため医療機関における 運用方針の整備。○の4つ目、薬局における安全管理体制の整備、調剤事故やヒヤリ・ ハット事例の報告制度のあり方が、論点になるかということです。  次頁Iの3.「医療機器の保守点検と安全使用について」です。医療機器に関しては 「現状」としては保守点検が適切に行われていない現状が※などが示されています。  こういった中で「課題」ですが、医療機器の効率的かつ確実な保守点検の実施や、安 全使用のための情報収集や院内への周知等を行う体制を構築する必要があるのではない かということで、「検討の方向性」も、そういったことについて明確化していってはど うだろうかといった論点です。  ほかの内容については、それらの項目の議論の際に詳しくご説明させていただきま す。 ○堺座長  いま説明がありましたように、論じるべきことは非常に多岐にわたります。議論があ まり拡散してもいけませんので、本日はこの後の土屋委員からの説明にも関連し、主に 医薬品・医療機器のところでご意見を伺っていきます。事務局の説明に対し、質問はご ざいませんか。                  (発言なし) ○堺座長  それでは、土屋委員の報告を承り、それを踏まえて土屋委員への質疑、医薬品・医療 機器の問題の検討を行います。 ○土屋委員  資料5です。多少アニメーションが入っている関係で資料は一緒になっていますが、 基本的に2頁以降は左側に通常の流れがあり、それに対してこういう対応をとると安全 が保てるのではないかという形のスライド構成になっております。いま話がありました ように、薬というものはさまざまな問題がありますので、それをこれから説明していき ます。  「医薬品をめぐる事故」ということですが、最近「医療安全」という話のときには、 取り違え事故のほうにフォーカスが当たりがちです。医薬品そのものに起因した有害作 用、副作用ということについて安全を確保するというのは、医療安全において極めて重 要なことです。  しかも、最近承認され、いま議論されているイレッサというものもありますし、分子 標的薬という新しいメカニズムのものが出てきました。これに対しては、さまざまなコ ントロールが必要なわけです。こういうものの市販後の調査を含め、切れ味の鋭い新し い薬に対しての扱い方をきちんと議論していかないと、折角の薬が逆にまずい面で出て きてしまう。そもそも、薬が危険物であるというのは当たり前とはいえ、そういうとこ ろをきちんとしていく仕組みが必要ではないかということは考えなければいけないとこ ろだと思います。  それに対して一方では「ヒューマンエラー」ということで、実際とは違ったことがさ まざま起きているというのが昨今いろいろ話題になっているところです。  これは、医薬品そのもの、いわゆる検討会でいえば「物」の安全ということがありま したが、物の安全ではなく、使用の安全といったところで、例えば名称が似ているとか 外観が似ているということをはじめとして、医薬品を取り巻く環境的要因によってエラ ーが起きているということです。医薬品の安全を考えるときには、必ずこの両方を考え ていかなくてはいけないことになるかと思います。  「ヒヤリ・ハット報告」では、約その4割が薬関連だと言われております。それは、 医薬品に関連する人々が、すべての段階でさまざまなことが起きるわけです。例えば処 方時、調剤時、注射与薬時、患者においても服薬時というようにさまざまなことが起き る。人との接点はさまざまな面がありますので、そういうそれぞれの段階で、さまざま 起きることをどのように防いでいくか、という総合的な仕組みが必要になります。  例えば「もの」を直したらいいではないかということは、通称モノの部会といわれて いる医薬品等安全部会で検討がされ、実際に包装を変え、名前を変えたこともありま す。そういう物そのものの対策がとられているわけです。一方、ヒューマンエラー部会 においては、さまざまなヒューマンエラーに関する問題をどうしたらいいか、というこ とがいままで取り上げられてまいりました。それから、楠本委員が言われたように人の 数の問題も当然ありますので、そういうところをどうやってやっていくのかということ があります。  実際に起きた事故、あるいはヒヤリ・ハット事例の中で重大なものを考えると、これ から示すような対応策をどうやってとっていくかということになると思います。これか らのお話は、現実にどこかの医療機関で実施しておりますが、すべての医療機関でこれ を全部やっているわけではありませんので、それは誤解のないようにしていただきたい と思います。  本日、私は病院薬剤師会の立場です。日本薬剤師会の井上委員は欠席ですので、薬局 の部分については井上委員から報告があると思います。とりあえず、医療機関を対象に 基本的な話をしていきます。  処方せんを受け付けてから処方をチェックします。これは薬剤師法第24条に、疑わし い点があった場合には、疑義照会をした後でなければ調剤をしてはならないという法律 があります。それから薬袋を作成し、調剤行為を行い、それをチェックして、情報提供 しながら患者に交付するという一連の流れです。  ここに「ハイリスク薬」と書きましたが、医薬品の中には誤まって調剤した、あるい は誤まって患者に渡った場合、患者への影響が極めて重大な医薬品があります。そもそ も、薬そのものがリスクだろうというのはもちろんあるわけですが、したがってハイリ スク薬という言い方をここではさせていただきました。  極めて重大な影響を及ぼす医薬品、例えば抗悪性腫瘍剤、糖尿病用薬、ジキタリス製 剤ワーファリンというものも、病院薬剤師会でも注意をするように言っております。こ ういうものについては、特別の方法をとるべきではないかということです。処方チェッ クをする場合には、処方せんだけではなく、薬歴等チェックをすることにより、この患 者には前どの薬がどの量出ていたかをチェックすることにより、例えばアルマールとア マリールのように名称が類似している糖尿病の薬が出たとして、もしそれがアルマール とアマリールの処方違いであったとして、もしこの患者に前に出ていなければ、そこで 問合せということになります。  そういうことを含めてチェックをする。薬歴に従った調剤をしようということです。 一般の薬局においては当たり前となっておりますが、病院の薬剤部では、外来患者の薬 歴を見ながら調剤するのは難しいのです。そういうこともあり、特にこういう患者につ いてはチェックをしようということを提言しております。  先生方には迷惑な話かもしれませんが、初回投与時に医師に確認をする。これは実際 に起きた話として、選択エラーで初診の患者に抗がん剤がいってしまった事例もありま す。そういうものを防ぐためには、初回投与時に、もし薬歴がないときには確認しよう ということを推奨しているわけです。そういう薬は目立つように、薬袋にも表示をす る。一部、抗悪性腫瘍剤をどうするかというのは別の問題がありますが、そのほかのも のについては、患者にとっても目立ちやすい形にしたいということで現在調剤を行って おります。薬剤交付時に、きちんと情報提供しながら、患者に再確認しながら行うとい うことで、全体としてハイリスク薬による事故を防止していこうということです。  次は先日も問題になりましたが「入院時持参薬」です。そもそも、入院患者が入院時 にさまざまな薬を服用しているということがあるわけです。そのときに病院で、いまど ういう薬を飲んでいるのかを知るために、入院時に患者に薬を持ってきていただくこと があります。従来だと、持ってきた薬を薬袋等の情報に基づいて服薬していたのが現状 です。  大きな病院では持参薬は使わない、というルールを作っていたことも事実です。しか し時代の流れで、患者が薬を持ってきたときに、経済的な問題もありますので、そうい うものをなるべく使うようにしようということも最近は出てまいりました。自分の所で 持っている薬だけでいろいろなことがあったわけですが、患者が持ってきた薬を使うこ とになると、さまざまなことが出てまいります。  例えば、自分たちがよく知っている薬、自分の病院で採用している薬と成分は同じで あっても、名前が違うものが来たときに、それが同じであるかどうかを判断しなければ いけないということがあります。先日のものは、1週間に1回飲む薬を4回分、即ち1 カ月分の処方であったわけですが、それを4日連続投与してしまって患者が亡くなった 事故が発生しています。  自分の対象としている以外の薬で、さまざまな事が起きることもあるわけです。そこ で、その医療機関が持参薬を使うのか使わないのか、あるいは診療科によって使うか使 わないかということがあるのかもしれませんが、そういうことをきちんと決める必要が あるだろうということです。  使うということになれば、薬剤師がきちんと調査をし、そして報告書を出すことによ り、そういう情報に基づきこの薬の使い方ということをやっていく。そのときには、薬 剤師による調査、処方医あるいは薬局がどういう情報を持っているかということで連絡 を取って調査をするわけです。ここで、医療機関と薬局の連携という話が出てきます。  患者が退院するときには、薬剤情報を出さなければいけません。なぜかというと、今 度は逆の持参薬の形になります。入院中に持っていた、あるいは退院時処方で出た薬 を、今度は患者が自宅に持ち帰るわけです。そうすると、普段飲んでいた薬との兼合い をどうしたらいいのか。ここは説明もするわけですが、患者が次の所へ行ったときに、 きちんと情報提供する、という仕組みを作らないとなかなか難しいことになると思いま す。持参薬については、医療機関と薬局、あるいは診療所との間の情報提供を十分でき るようにする仕組みが必要であろうということです。  次は「抗がん剤」です。従来、抗がん剤については処方監査をし、調剤をし、薬剤部 から病棟に薬を払い出し、そして病棟で混合を行って実施する、というのが多くの病院 での実例かと思います。しかし、さまざまな事故等が起こり、いま進められている話は レジメンといいますか、事前に投与計画をきちんと登録しておこうということで、その 評価を行って登録するということを事前に行い、そしてそのレジメンに従った処方、調 剤をやっていくのが、事故を防止する点でいいだろうということです。  処方せんというのは、点の情報しかないのですが、レジメンとなると期間が見えま す。例えば、休薬期間などを鳥瞰図的に見ることができます。こういう中で調剤をやっ ていこうということです。その場合に、そのまま元のものを病棟へ払い出してというの ではなく、ここでは無菌調製をします。なぜ無菌調製が必要かというと、患者は免疫機 能が落ちていますので、無菌調製をすることが抗がん剤の場合には必要になります。こ こでは、薬剤師が調製をして、すぐ実施できる形のものを最終形態として出そうという ことです。  これは入院患者だけではなく、外来化学療法ということで、外来患者に対しても、極 めて危険性の高い薬については、薬剤師がきちんと関与することによって事故を防いで いくことが必要ではないかと思います。  先ほどの論点にもありましたが「疑義照会」です。従来、医療機関が処方せんを交付 すると、保険薬局に患者が来て、保険薬局の薬剤師が、薬剤師法第24条の疑義照会を行 います。  しかし、そこにはさまざまな問題があります。医療機関によっては行っております が、まず院外処方せんをチェックするということがあります。これはチーム医療の一員 として、当該医療機関で、1枚の処方せんの中に不備がある場合には中でチェックをし て、その段階ですぐにやってしまう。これは、薬剤師法第24条の疑義照会ではなく、チ ーム医療の一員として、時間的に可能であればそういうことをやる形になっています。 しかし、現実としては、多くの所では院外処方せんのチェックはなかなか行われていな い現状にあります。  今度は保険薬局へ行き、疑義照会が行われます。疑義照会によって処方に変更がある ことがあります。これは複数の医療機関にかかっていて薬がダブっているとか、相互作 用があるということで、1枚の処方せんでは見つからないチェックが保険薬局といいま すか、かかりつけ薬局といいますか、薬剤師の所でチェックが可能になるものですか ら、そこで起きた疑義照会によって処方変更があるのは結構なパーセントです。  疑義照会で処方変更になった後、病院の診療録がなかなか直りにくい、あるいはオー ダリングシステムのデータが直りにくい構造にあります。それはなぜかというと、疑義 照会を受けたときには別の患者を診ている、あるいは患者が移動で時間がかかっている と時間がずれてから起きるものですから、そのときにはカルテが手元にない状況が多々 あります。そうすると、処方内容が変更になったにもかかわらず、コンピューター上は 前の処方のままということがあるわけです。  処方せんというのは、原本が変更されるにもかかわらず、その所在を医療機関は知る よしがないところです。これは、保険医療養担当規則の中で、薬局へのフリーアクセス ということがあるものですから、医療機関がどこどこの薬局へ行きなさいと指定するこ とは法的に禁じられていますので、どこにあるかは知らないことになります。原本の元 になるもののコピーはあるけれども、原本の存在はわからない状況です。  これは、現在そういう仕組みはありませんが、処方変更があった場合には、チーム医 療をうまく使って、病院薬剤師に薬局から連絡をいただき、そこで今度は病院の中で、 カルテやオーダリングシステム情報がちゃんと変更されているかどうかを確認する。こ のようなことをすると、次回再処方をしたときに、前のとおりだとまた同じことが起き てしまい、また疑義照会をしなければいけないということで、先生方にとっても非常に 迷惑な話になるわけです。その辺をうまくこういう仕組みを作ることによって減らすこ とが必要ではないかということです。  そういうことでいくと、医薬品を安全に使用するためには、管理体制の整備というこ とで、新薬における有害事象のチェックの強化というのは最初に申し上げたとおりで す。ハイリスク薬については、調剤方法を変える等の業務手順書の更なる確立。薬剤師 による抗がん剤の無菌調製の推進。病棟への医薬品の供給体制といいますが、現在薬剤 管理指導業務があります。これは、個人ごとにセットをしましょう、ということが算定 の要件になっています。これをさらに推進するということで、医薬品の供給体制を変え ることにより、病棟における事故発生のチャンスを減らすことが必要かと思います。  また、現在は人の問題もあって、夜間や休日に薬剤師がいないと言われましたが、我 々のチーム医療は午後5時をもって終わってしまうというのが厚生科研の報告でした が、そのようなことではなくて休日体制を確立していく必要があるだろうということも あります。  薬学教育も、平成18年度入学の人からは6年制になり、ここで臨床実習が義務化され ます。そういうことで、薬剤師がいままでとは違うものを学ぶことになってまいりま す。そういうときに新たな展開、例えば副作用防止のために薬剤師ができることがもう 少し増えてくるのかという気がします。現在においても、チーム医療の中で薬剤師の役 割として、病院薬剤師を活用しようということになると、有害事象の早期発見・重篤化 防止は、病棟に常駐していれば可能かもしれません。しかし、現状として薬剤師が常駐 化していない中でも、少なくとも医師・看護師へ副作用の有害事象の初期症状その他を きちんと伝えることにより、副作用の早期発見・重篤化防止を図ることは必要かと思い ます。持参薬や疑義照会において、特に処方変更時ですが、こういうときに医療機関と 薬局間の連携を強化することが、医薬品を安全に使用する上においては必須であろうと 思います。  そう考えると、従来薬物の安全性を考えてさまざまな仕組みができています。しか し、医療事故を中心として問題になったのは、まさに名称や容器といった、薬物を取り 巻くさまざまな環境のところが問題になり、そしていま問題になっているのは法律や制 度、あるいはコンピューターによる誤処方ということもあります。医薬品の安全を患者 安全の観点から考慮すると、最後は法・諸制度を含めた仕組みまでを考えないと、医薬 品そのもの単独だけではなかなかできないことになります。外観が似ている、名称が似 ているというのは、言い方を換えれば、名称の相互作用でありますし、外観の相互作用 ということになります。そういうことを防ぐ手立てを、大きなシステムの中でやってい かなくてはいけないということからいうと、このように大きく捉えて、その安全を確保 する手段をどうとるかを検討することが必要で、まさにここのワーキンググループでの 話になるのかと思います。 ○堺座長  土屋委員の説明に対し、ご意見、ご質問をいただきます。本日まだご意見を伺ってお りません、日本医療機能評価機構の木村委員からは、ヒヤリ・ハットレポート、あるい は事故情報の届出等、その中に薬に関するものが多数含まれていると思います。機構と しての報告ではありませんが、実際にそのレポートを取り扱っていて、いまの土屋委員 の報告を聞かれてご意見がありましたらお願いいたします。その後、宮本委員と寺井委 員からご意見を伺います。そのほかの委員はその後ということで、特に診療現場の方々 からご意見を伺います。 ○木村委員  現在、ヒヤリ・ハット報告等で報告していただいている医療の現場の問題点で、医薬 品に関わるところを非常によくまとめていただいております。本当にこのとおりだと思 いながら見せていただきました。各医療機関で、実際に行われている各々の手順は、業 務手順を作りましょうとか、マニュアルを整えましょうという形でかなり整ってはきて います。  それぞれの医療機関で行われていること自体が、適切で安全なものなのかどうかの検 証は、個々の医療機関が各々にやっているわけです。いまは、ゼネラルスタンダードは ない状態です。そこのところを、本当に共通で標準化していかなければならない部分 を、もうそろそろ検討する時期に入っているのではないかと考えております。  そういう意味で、ハイリスク薬の調剤の薬歴を参照しましょうとか、入院時の持参薬 の取扱いというのは非常に深刻な問題がありますので、こういう取組は是非進めていか なければならないのではないかと思うのです。  もう一方で現状を見ると、どこの医療機関でも薬歴が参照できる形になっているのだ ろうかというと、医療機関の情報の流れはまちまちだという現状があります。そういう ことも含めて、今後検討する必要があるのかと感じました。 ○堺座長  土屋委員への質疑でも結構ですし、薬について診療の現場からのご意見でも結構です ので宮本委員お願いいたします。 ○宮本委員  いま聞かせていただき、具体的にまとめていただいておりましてわかりやすかったで す。私がおります病院では、ここで具体的に挙げられた、入院時の持参薬、抗がん剤の 調製の問題とか、既に数多くのヒヤリ・ハットの事例から、こういうところにリスクが あるということで具体的に取り組んでいるようなことになります。  私がおりますのは大学病院ですので、木村委員からもありましたようにコンピュータ ーシステムもかなり良いものが入っておりますので、できることもあります。これを、 幅広く医療機関に広げていってリスクを減らしていくというのは、現場の取組として重 要ではないかと思います。  ただ、最後に土屋委員がおっしゃったように、現場の取り組みでできることと、そう でないことがあります。名称の類似であるとか、外観の類似というのは以前から言われ ているわけです。その部分については、現場の取り組みでは解決できない問題ですか ら、その辺についてはもう少し大きな枠組みで考えていく必要があると思います。 ○堺座長  寺井委員お願いいたします。 ○寺井委員  私は、医療機関のリスクマネージャーをしております。本日のお話は大変わかりやす く、また非常に問題点を突いておられて、これが実現したら医療機関はどんなにいいだ ろうと思いました。  優先順位というお話がありましたが、いくつかご説明いただいた中で、いま医療機関 で急務であろうと思われるものとして、1つは抗がん剤に関することであるかと思いま す。これについては、土屋委員が考えてくださったシステムの実現をできるような検討 を進めたいと思います。  外来においては、点数化ということもあり診療報酬制度が確立しておりますが、入院 中に行われる抗がん剤の投与に関しては、そこが非常に薄いと思いますので、それも含 めたことが1つ必要かと思いました。  もう1つは、患者への説明について、抗がん剤の服薬指導ということはありますけれ ども、抗がん剤投与に関する患者への情報提供という指導について、もう少し強化でき るような体制が必要かと思いました。  2つ目は、持参薬に関してです。これも非常に手間がかかり、かつ労力をかけている わりに何ら報酬システムがないということで、システム化しにくい医療現場における特 徴があり、そこからさまざまな事故が起きていると思います。昨年あった医療事故もそ うですので、医療機関内における持参薬を安全に服薬管理するようなシステムを確立す ることが必要かと思いました。  3つ目は、あまり土屋委員は触れておられなかったのですけれども、病棟薬剤師に関 することです。医療機関といいましてもいろいろな性質があると思います。例えば、急 性期に関する施設、抗がん剤を頻繁に使用するといった所などの特性を加味した病棟薬 剤師を常駐するといった体制も今後は検討することが必要ではないかと思います。 ○堺座長  この後は、日本医師会、日本歯科医師会及び看護の立場のご意見も伺いたいと思いま すが、薬に関して野中委員はいかがですか。 ○野中委員  土屋委員から、適切な表明をいただいたと思います。考えてみると、もともと薬は危 険なものなのだから、その危険なものをどうやって安全に使うかという視点から入って いくことがいま言われたことだと思うのです。私も、薬事審議会に参加したことがあり ます。  例えば、取り違えしそうな薬というものは、本来承認の時点からわかるはずでありま す。医療安全の視点でこういう薬が考えられて承認されていたかというと、私の経験で は、副作用はこうあります、この作用をどう考えるか。でも、添付文書の中で、そうい うものが適切に表現できるかどうかというと、そこで現場の薬剤師から始まって、医師 や看護師といったさまざまな人たちが、そのことを十分に共有できるかという部分が、 まだまだ現場の人たちの負担を軽減するシステムになっていないと思います。  もう1つ私がいま担当しているのは介護保険です。介護保険から病院を見ると、チー ム医療といいながらも、多職種の連携が病院の中でもできていないということをいちば ん感じます。確かに、医師が病気を治すということは、医師が中心となって指示を出す わけですけれども、病気を治すだけではなく、改善に向かってどういうプロセスを追う か。そのことは、各々の医師だけではなくて役割分担があるわけです。その役割分担が どうやって連携していくかどうかという視点になったときに、私も病院にいたときに、 各々の役割分担をしているか、即ち情報を共有しているかというとしていない。みんな 自分の目の前の情報を、ただ単に受けとめてしかいないのです。本来は、重なり合う部 分によってミスは軽減できるはずです。結果からものを考えるのではなくて、どう作る かという部分の考え方が、今後は重要だろうという感想を持ちました。 ○堺座長  高津委員いかがですか。 ○高津委員  歯科診療所での病診連携で、病院の口腔外科に患者をお願いし、こちらの医院に返っ てきたときに、薬を真面目に服用している人と、途中でやめている人の2通りありま す。言われたとおり、真面目に飲むために湿疹が出てもしかたがないのか、あるいは、 胃に潰瘍が起きても平気で言われたとおり飲む、という人たちと、それから自分で判断 して、日にちの半分しか飲んでいないという人が非常に多いです。現場では患者の服薬 について、教育を徹底しておかないといけないのかと常々感じています。 ○堺座長  看護の立場から、楠本委員いかがですか。 ○楠本委員  与薬の事故は、看護の中でも約7割が与薬関係です。最近はKCL関係で、京都で実 刑という重い刑事裁判の結果が出ましたので、大変憂慮しているところです。土屋委員 の報告が実施されると大変いいと思いますが、速やかに体制がとれて情報が末端まで行 っている所と、なかなか行っていない所があります。特に、KCLはここ数年でかなり の事故報道がなされております。それでも、日本医療機能評価機構の認定病院への調査 でも18%から40%ぐらいの所しか、日本医療機能評価機構や厚生労働省が提示した適切 な取扱いをしていないという報告が出ております。この情報をどうやって共有していく のか、少なくとも過去に繰り返し起こされている危険医薬品に関しては、適正に取り扱 われているかという監視システムが必要なのではないかという気がして仕方がないで す。  持参薬に関してはきちんとしたフォローをしているわけではありませんが、いまは個 人情報保護の関係で全国に伺い、管理部長の会議等で聞くと、こういう通知が出たこと を知らない看護部長が3分の1ほどおりました。施設の中での連携が取られていない状 況が多々見られております。標語にも掲げて横の連携を、ということが繰り返し言われ てきているわけですが、実態としては本当に取り組まれていないことを残念に思ってい ます。看護は、薬剤師が病棟に参入していただいて、一緒に薬剤業務に双方の観点から 取り組んでいくのが大変望ましいと思っております。 ○堺座長  私からの要望を申し上げ、ほかの委員のご意見も伺い、最後に土屋委員からご意見を 伺います。  私からの要望は、医療制度の変化に伴い、病棟の医療がますます重症化しておりま す。それから、医療の現場が病棟から外来、外来から在宅へのシフトも起こっておりま す。どの局面でも医療の安全、質の確保、そしてその薬の安全は担保されなければいけ ませんので、病棟、外来、在宅のすべての局面での安全をお願いしたいと思います。 ○森口安全使用推進室長  医薬食品局安全使用推進室の森口です。医薬品の話が中心になっていますので、いま までにとってきた対策の状況をご説明いたします。医療安全が薬事法の中で取り上げら れるようになったのはここ数年の話で、それまではあまりなかったわけです。はじめ て、最初はヒヤリ・ハット等で規格を取り間違える、名称類似で取り間違える、という ことに対して対策の緊急性がありました。  土屋委員にご協力をいただき、既存薬との間で類似名称検索システムを開発していた だきました。これは、既に医薬情報センターで、製薬企業なり外部からの注文に応じて 検索し、その結果を返すことで、スコアとしてどのぐらいの類似性がそれぞれの間にあ るということを示すシステムができております。  新薬として申請してきた場合には、そのスコアを付けて類似性がない、ということを 示していただかないと承認は出さないようにしております。つい最近も、外国から持っ てくる医薬品がありまして、外国ではアルファベットで書いてあるから類似性がないと いうことだったのですが、片仮名に直すと非常に類似性があるという薬剤がありまし た。これは、メーカーは非常に嫌がったのですけれども、名称を変更するよう指導をし ておりますので、名称に関する対応はだいぶとれてきています。  ところが、既存薬については名称が承認事項ですので、承認事項の一変申請をしなけ ればいけません。それは手数料もかかりますし、期間もかかるということで、ここはな かなか進んでいないところがあります。日本製薬団体連合会を指導し、その対象となる のが規格等が入っていないものを含めて5,000品目ぐらいあったのですが、それについ ては申請の手数料も下げる方向で調整しておりますし、薬価収載に関しては後発品並み の年1回の収載が通常だったところを、来年度からは年2回迅速的に収載をしていくと いう措置をすることにより、あと4、5年の間に全品目切り換えられるのではないかと いう状況にあります。  3月4日の会議で、楠本委員、井上委員からも言われたように、医療安全上の観点か らの薬の分類というのは、基本的にいままで薬事法ではありませんでした。毒薬、劇 薬、向精神薬、麻薬といった薬理作用による安全性の分類しかなかったのですが、今後 はそういう観点で何らかの情報発信をしていかなければいけないと思っています。  いままでの薬事法での医療安全の取組は、あくまでも物の点でした。物を、医療現場 でどう使うかというときの観点がいままでは足りなかったと思っていますので、これに ついて今後は取り組んでいきたいと思っております。 ○堺座長  ほかにどなたかご発言ございますか。 ○長谷川(友)委員  医薬品の安全対策というのはボリュームが大きいですし、全体の安全対策を考えるす ごく良い領域かと思って聞いておりました。もはや一個一個の物とか人というのではな くて、システム全体で考える必要があると思います。医薬品の場合には、購入する、処 方する、そして最後に患者の体に入るまでにたくさんの職種がかかわりますので、個別 の課題ではなくて、システム的課題を取り上げるというのは良い例かと感じました。  後で議論があるのでしょうけれども、いちばん最後に服薬するのは患者なので、患者 本人が参加するという意味でも好例です。非常に良いサンプルだと思いながらお聞きし ました。 ○堺座長  委員の方々からいろいろなご意見がありましたが、土屋委員からご意見をお願いいた します。 ○土屋委員  さまざまな場所、例えば病棟なら病棟で直接関与しようということになると、どうし ても病棟に常駐していることが必要になってまいります。したがって、そういう体制が とれることが必要ということになるわけです。今後、そういうところの検討がどうなさ れていくのかということもあります。私としては、いまこういうプロセスを出し、医療 機関もそれに向けて努力しておりますので、大きな仕組みを作っていく必要があるだろ うと思います。  医薬品の安全な管理をどうしていくのかについての仕組みが必要だろうと思います。 先ほどありましたが、例えばKCLは劇薬でも毒薬でもない普通薬です。通常イメージ を抱く話と、現場での危険性が別にあるものですから、そういう点を今後どう捉えるか というのは、まさに使用の面から見た安全性をどうやっていくのかということになるの かと思います。  長谷川委員からありました、患者を含めてということでいえば、患者を含めた医薬品 に関係する人たちすべてが協力し合って、とにかく事故を防止していく体制が必要です ので、そういうためのさまざまな仕組みを作っていくことが必要かと思っております。 ○堺座長  いま、薬についてのいろいろなご討論をいただきましたが、本日は第1回目ですし、 論点整理と今後の方向性を最後にまとめたいと思います。事務局からインデックスのま とめを先ほど伺いましたが、さらに追加がありましたらお願いいたします。 ○事務局  次に資料3の9頁のII.原因究明・分析、再発防止についてご説明いたします。「基 本的考え方」については、「医療安全推進総合対策」から該当部分を記載しておりま す。稲葉委員のご意見にもありましたが「誤り」に対する個人の責任追及よりも、起こ った「誤り」に対しての原因を究明し、その防止のための対策を立てていくことが極め て重要である、という考え方が示されております。  「主な課題と見直しの方向性」ですが、これまで集められたヒヤリ・ハット事故等事 例の詳細な分析を行うとともに、具体的な活用方策を検討する。原因究明や分析、再発 防止策の検討のための、新たな制度に関する検討を行うということで、医療関連死の届 出制度、中立的専門機関による死因究明のための制度、医療分野における裁判外紛争処 理制度ということで、下の3点については稲葉委員のご議論のほか、川端委員、長谷川 友紀委員の議論の中でもあった内容です。  1つ目の、ヒヤリ・ハット事故等事例の詳細な分析等については、資料2の3頁(4 )医療事故や医療関連死の報告・届出に関する制度の(1)事故事例の報告・届出という ことで論点が掲げられております。いちばん右側の委員のご意見という中でも、情報提 供の方法を再検討する必要がある。改善、対策を踏まえ、それをアウトプットとしたも のが適切に出るような報告の内容、集める項目の検討が必要であり、根本的な対策を講 じる時期にきている等のご意見が寄せられております。こういうことを踏まえ、いまま でに集まってきた事例をいかに活用していくかということを今後の検討課題としており ます。  12頁のIII.患者への情報提供・共有と医療安全への患者の参加促進についてです。 「基本的な考え方」は「医療安全推進総合対策」の中から、その趣旨を記載しておりま す。2つ目の○に、患者の医療への参加が必須となっていること、情報の共有が医療安 全対策の一つの鍵であることが示されており、こうした観点からの「見直しの方向性」 です。  1つ目の○が、患者ニーズへの対応、医療安全への患者の参加の促進という観点か ら、患者の苦情や相談を受け付ける機能の充実を図るべきではないかとなっており、具 体的には、医療機関での相談受付体制の一層の整理、医療で受け付けた苦情や相談につ いては、医療に適切に反映、活用されるような方策を推進していくこと、患者への情報 の提供と共有を図るということをどのように進めていくか。  下の2つは行政側の窓口です。医療安全支援センターが各都道府県に1カ所ずつ設置 が既にされておりますが、その役割や機能等を明確化すること、医療安全支援センター に対して、患者による医療の選択を総合的に支援する機能が付与できないかという論点 です。  13頁はIV.医療安全に関する法律上の位置付け及び国と地方の役割についてです。 「医療安全推進総合対策」の中では、国と地方自治体それぞれの役割分担が触れられて おります。「現行制度の課題」にありますが、医療法上それぞれの責務又は役割が規定 されておりません。また、医療施策の最重要課題の一つである「医療安全の推進」とい う内容について、医療法上明確な規定が存在していません。  こういうことを踏まえて「見直しの方向性」です。医療安全対策について、医療法上 明確に位置付けていくべきではないか。「医療提供の理念」としての「医療の安全な提 供が不可欠」である旨を明文化したらどうか、国や地方公共団体の医療安全対策におけ る責務や役割を明文化したらどうかということが論点として掲げられております。 ○堺座長  先ほど、論点整理の総論部分はご賛同いただきました。各論部分については、これか らのシリーズのご審議をいただいていくわけです。いまの事務局の説明に対し、ご質問 はございますか。                  (発言なし) ○堺座長  それでは、議事5「その他」で、今後のスケジュールについて事務局から説明をお願 いいたします。 ○事務局  今後スケジュールについてですが、本ワーキンググループにおいては5月の連休明け を目処に報告書案の作成をお願いしたいと考えております。このため非常にタイトなの ですが、毎週1回のペースでテーマを決め、そのテーマに関係の深い委員を中心にお集 まりいただき、集中的なご議論をいただきたいと考えております。  あらかじめ委員の皆様からいただきました日程調整表を基に、事務局で開催スケジュ ールを作成したものを配付させていただきました。なるべく多数ご参加していただける ようにと思っておりますが、ハードなスケジュールになりますので、毎週委員の皆様全 員にご出席いただくのは非常に困難であると思っております。できるだけご都合のよい 日を中心にご参加いただける日を、25日を目処に事務局までご連絡いただければと思い ます。  公開で行います正式なワーキンググループは5月中旬ごろに開催し、報告書案につい て取りまとめのご議論をいただきたいと考えております。これらスケジュールの詳細に ついては、委員の皆様のご予定を整理した上で、後日改めてご連絡させていただきま す。  また、資料及びファイルについてはそのまま置いておいていただければ、事務局で保 管いたします。最後に、医政局総務課長から挨拶を申し上げます。 ○医政局総務課長  本日は、急な国会用務が入り、遅参いたしまして大変申し訳ございませんでした。本 日は大変有意義なご発表、またご議論をいただきまして誠にありがとうございます。医 療安全推進総合対策がまとまりましてから4月で3年経過します。医療安全の問題はま すます大きな位置付けを占めてくると思います。しかし、一方ではまだまだ取り組まな ければならない課題も多くあるということです。  私ども、いま社会保障審議会医療部会において、医療提供体制全般の見直しをしてお ります。できれば、来年の通常国会に法律改正という形で、合意を得たものは出してい きたいと思っております。そういう意味で医療安全は、即座にやれるものはどんどんや るというのが基本だと思います。したがって、これが法律改正につながるかどうかは別 にして1つの機会であると思いますので、今般医療部会でのご議論も踏まえ、専門家の 先生方に、具体的で掘り下げた議論をしていただき、ご提言等をとりまとめていただき たいと考えており、それを社会保障審議会医療部会でご議論いただければ大変有意義で はないかと考え、今回のワーキンググループの発足ということになった次第です。  したがって、どうしても医療部会のスケジュールをにらみながらの審議スケジュール ということで、ただいま事務局から申し上げましたように、誠にご無理な日程を提示さ せていただいています。ゴールデンウィークを挟んで、皆様方もご予定があろうかと思 いますけれども、そうした趣旨でございますので、その点ご理解を賜りましてご協力い ただければと重ねてお願い申し上げまして、挨拶に代えさせていただきます。どうぞよ ろしくお願い申し上げます。 ○堺座長  ありがとうございました。本日はこれにて閉会いたします。                      【照会先】                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                        電話 03-5253-1111 (内線2579)