05/03/17 最低賃金制度のあり方に関する研究会第9回議事録          第9回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                        日時 平成17年3月17日(木)                           10:00〜11:35                        場所 経済産業省別館825号会議室 ○樋口座長  ただ今から、第9回最低賃金制度のあり方に関する研究会を開催いたします。本日 は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。本日は、古郡先生、 渡辺先生が欠席です。  早速議題に入ります。報告書の取りまとめに向けて検討していきたいと思いますの で、ご協力のほどよろしくお願いいたします。それでは、まず事務局から説明してくだ さい。 ○前田賃金時間課長  資料1ですが、これはこれまで研究会においてご検討いただいてきた論点を改めて確 認の意味で出しています。資料2は、資料1の論点に沿って、これまでの研究会での議 論を整理したものです。  まず「総論部に対応」と書いてあるのが、論点でいきますと1の「意義・役割」のと ころです。「最低賃金制度の意義・役割」ですが、(1)は最低賃金法の目的です。現 在の最低賃金制度第1条で目的を規定しておりまして、「賃金の低廉な労働者につい て、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労 働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正 な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」 という規定になっています。この規定の解説等によれば、最低賃金法の第一義的な目的 は、低賃金労働者に賃金の最低額を保障し、その労働条件の改善を図るということであ ります。第二義的な目的として、労働者の生活の安定、労働力の質的向上、事業の公正 な競争の確保の3つがあります。それらを合わせて、究極的には国民経済の健全な発展 に寄与するということを目的としているというような解説になっています。  (2)は、最低賃金制度に関する経済的な理論です。最低賃金制度は、労働需要曲線 と労働供給曲線がともに右下がりであるような中で、さらに労働供給曲線の傾きが労働 需要曲線の傾きより緩やかな労働市場において生じるおそれがある賃金の際限のない下 落を防止する下支え効果を果たすということです。さらに、需要独占的な労働市場を考 えると、買い手企業における買い叩きを防止して、適正な賃金及び雇用の水準を達成す るということで、経済全体で見た厚生損失を減少させるという効果を有しているという ことです。  (3)は、最低賃金制度の意義・役割に関して講学的な整理ということで、ILO事 務局のスタールの整理が一般的です。主に4つの意義・役割で、そのうちアとイが産業 別最低賃金あるいは職業別最低賃金に特にかかわり、ウとエが一般的最低賃金にかかわ るものということです。  アは弱い立場にある集団の保護。特殊な性格のために労働市場において特に弱い立場 にあるもの、例えば団体交渉が欠如しているとか非常に低賃金であるといった、いわゆ る苦汗労働というものの保護ということで、最低賃金を設定する。ILO第26号条約が その考え方に近いものです。ここでは、団体交渉類似の手続によって最低賃金を決定す ることによって、団体交渉の発展を奨励するといったような目的も併せ持っているとい うことです。  イは公正な賃金の決定。特に産業別なり職業別で個々の産業や職業の最低賃金を決定 する。アの場合には、特に賃金が低廉な苦汗産業というものを主たる対象としているわ けですが、イは公正な賃金の決定ということで、アとは異なって少数で未組織の労働者 に限定されることはなくて、比較的高い賃金の労働者も含めて公正な賃金を決定してい くという可能性をもっているということです。目的としては、労働者の賃金の不当な切 下げによって競争することを防ぐという公正競争の確保という役割や、労使紛争を減少 させて安定した団体交渉関係の発展を促進させるというような目的を有しているという ことです。  ウ、エが、いわゆる一般的最低賃金に関わるものです。賃金構造の底辺の設定という ことで、あらゆる産業に従事する労働者を容認しがたいと考えられる低賃金から守るた めに、一般的に適用できるような最低限度を定めるというのが、ウの賃金構造の底辺の 設定です。ILO第131号条約という新しい方の最低賃金の条約は、この考え方に立っ ているということです。  エ、マクロ経済政策の手段としての最低賃金。賃金の一般的な水準と構造を国家の経 済的安定、成長、所得分配といった目的と調和のとれたものに変えるということです。 特に開発途上国において重要な役割として考えられてきたものです。  これら意義・役割を整理しますと、最低賃金制度の発足当初は苦汗労働の防止という 考え方であったわけです。その後、我が国の最低賃金制度に求められる第一義的な役割 は、すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網としての「一般的最低賃金 」、上の(3)のウの役割であろうということです。さらに、最低賃金制度の公正な賃 金の決定というイの役割を担わせるとしても、それはあくまで二義的、副次的なもので あろうということです。また、マクロ経済政策の手段というのは、主に開発途上国にお いて用いられるものであるということではないかと思います。  次にこうした最低賃金制度の意義・役割に照らして、現行の最低賃金制度についてど ういった問題点があるかということです。3頁の(1)産業別最低賃金についての問題 点。最低賃金法の制定当初は業者間協定方式を中心に産業別に最低賃金を設定してい き、できる限り適用労働者数の拡大を図っていったということです。そういった当初の 最低賃金制度というのは、特に低賃金のところから産業別に設定するという意味で、苦 汗労働の防止という意味がありますし、業者間協定ということで、そこには公正競争と いうか公正な賃金決定という役割もある。さらに、できる限り適用労働者数の拡大を図 っていったということで、そこはできる限り多くの労働者に適用していこう、賃金構造 の底辺の設定という役割もあったということで、そういったいろいろな役割を併せ持っ たものであった、ということではないかと考えられます。  その後昭和43年の最低賃金法改正によりまして、業者間協定が廃止されました。考え 方としては、産業別、職業別、地域別という3つが設定の方式としては考えられている わけです。いろいろな方法ですべての労働者に最低賃金の適用を図っていこうというこ とで、そこではすべての労働者について賃金構造の底辺を設定していくという一般的な 最低賃金としての役割を果たした。ですので、産業別最低賃金についても、そこは一般 的最低賃金についての役割が最も重視されているということではないか。さらに、その 後、地域別最低賃金についても、徐々に拡大を図っていったということで、昭和51年に は、全都道府県に地域別最低賃金が設定されたということです。  そういう意味で、地域別最低賃金がすべての労働者に適用されるという段階になっ て、そこで産業別最低賃金との役割分担ということが問題としては出てきたということ です。その段階で、産業別最低賃金は、その後公正な賃金決定あるいは公正競争の確保 という役割を果たすものとして、そういったものを目指すということで、新産業別最低 賃金は小くくりの産業において基幹的労働者を対象とするものとして設定することに改 められたということです。しかしながら、この産業別最低賃金の現状を見ますと、基幹 的労働者というのが大部分は18歳未満と65歳以上を除くというような形、それから、清 掃・片付け等をする軽易な業務に従事する者を除くというような形で、ネガティブリス トで基幹的労働者を定義している。実態としては、その産業における基幹的労働者とは なかなか言い難いようなパートタイム労働者なども対象になっているということです。 さらに、その水準については、平均で見て地域別最低賃金をわずかに14%程度上回って います。比較的賃金水準の高い基幹的な労働者の賃金の不当な切下げによる競争を防止 するという本来の役割を果たしているとは言い難い面がある。ということで、役割的に は産業別最低賃金と地域別最低賃金との役割が重複している面が多くなっているのでは ないか。さらに、産業別最低賃金は、そもそも労使イニシアティブにおいて設定すると いうことですが、現行の方式での国の関与というのが、労使の自主的な取組みを基本と するものであると言い切れるかどうかというような問題もあるのではないかと。  (2)労働契約の拡張適用による最低賃金。これは、最低賃金法第11条で、労働協約 が労使の大部分(解釈上約3分の2といっていますが)に適用された場合に、その労働 協約による最低賃金額の定めを拡張適用するという仕組みであります。これも、役割的 には公正な賃金の決定の役割を果たすものであろうと考えられます。ただ、実際の我が 国の労働組合の組織状況など労使関係の実情からみて、活用が非常に難しい状況にある ということと、産業別最低賃金においても労働協約ケースということで、労働協約を基 本に最低賃金を設定するという仕組みがありますので、それとも役割的に重複している という問題があります。  (3)地域別最低賃金については、最低賃金法第3条の決定基準ということで、労働 者の生計費、類似の労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力、この3つの要素に基づ いて設定するということが規定されているわけです。それに基づいて、特に昭和53年か らは全国的な整合性を確保するという観点から、目安制度というものが導入されて、そ れによって改定を行ってきたということです。ただ現状を見ますと、一般的賃金水準と 比較した最低賃金の比率や低賃金労働者の賃金水準と比較した最低賃金の比率といった ものについて、地域的にみて不均衡がみられる。都市部が若干低くなっていて地方に行 くと高いというようなところがあり、一般的最低賃金として適切に機能しているかとい う観点から、問題があるのではないかということです。以上が、意義・役割に照らした 問題点です。  さらに3は、その後、経済社会情勢の変化の中で様々な問題が生じてきているという ことです。(1)が産業構造の変化。特にサービス経済化が進展しているということ で、研究開発やマーケティングなど非生産部門のウエイトが高まっている。産業別最低 賃金は製造業において設定されている例が多いわけですが、直接生産部門のウエイトが 低下して非生産部門のウエイトが高まっているということは、製造業に独特の業務とい うウエイトが低下しているというような面があろうかと思います。さらに、企業間の競 争の激化ということで、業種転換や業種転換には至らないまでも、新規事業への重点の 移動といったものが頻繁に行われて、産業のボーダレス化が進展している。  このような状況の中で、現在の産業別最低賃金は、産業分類の小分類を基本に小くく りで設定しているわけですが、さらにそれを地域別に設定しているということです。先 ほど、生産部門のウエイトが低下しているということで、本来対象とすべき基幹的労働 者層のウエイトが減少している、あるいは事業転換などで産業分類等も転換することが ありうるわけで、そのような本来対象とすべき労働者が対象外となったり、別の産業に 変わってしまうということもあります。そのような小くくりの産業でやって、しかも地 域別でやっているということで、公正競争の確保の面においても、あるいは公正な賃金 の決定の面においても、存在意義が低下しているのではないかというような問題がある ということです。  (2)が就業構造の変化。パートタイム労働者、派遣、請負といった就業形態が多様 化している中で、賃金の下支えを最低賃金によって行われるべき労働者が増えている。 さらに、派遣や請負労働者が増加しているわけですが、これも特に産業別最低賃金につ いて、小くくりの産業で基幹的労働者を対象にしているということで、同じ産業で同じ ような仕事に従事していても、派遣など就業形態が異なるというだけで適用される最低 賃金が別となるといったような事態が生ずるなど、従事する職務に応じた公正な賃金の 決定という面からも、困難な面が増えているということです。そういうことで、産業別 最低賃金のあり方の見直しを含めて、最低賃金制度が適切に機能していくような見直し が必要ではないかということです。  (3)が賃金構造や賃金制度の変化。まず賃金構造について、時間当たり賃金ごとの 雇用者の分布をみますと、パートタイム労働者が増えている。さらに、パートタイム労 働者と一般労働者の賃金格差が拡大する傾向にあるというような中で、分布が二極化し ているということです。それから、年齢、階級別の雇用者分布をみても、高い層と低い 層の両極に分散する傾向が拡大している。その中で、低賃金労働者の安全網として、最 低賃金制度の真価を発揮すべき時期にあるのではないか。  さらに、賃金制度について、仕事給の導入が進んで、職務や職種などの仕事の内容と か業績・成果に対応する部分が拡大している中で、最低賃金の決定に際して、そういっ た要素をどのように考慮して反映させるかということも課題になるのではないかという ことです。  (4)で労働組合の組織率については長期的に低下しているわけですが、現在20%を 切るような状況になっています。賃金決定において、団体交渉でカバーされない労働者 が増加しているということで、最低賃金制度がそのような労働者の最後の安全網という ことです。特にパートタイム労働者等については組織率が著しく低いということで、最 低賃金制度が安全網として果たすべき役割がますます必要になっているのではないかと いうことです。  6頁からは、各論の部分に対応するところです。1が「最低賃金の体系のあり方」で (1)が地域別、産業別、職業別といった設定方式のあり方です。現在の最低賃金法第 16条で、「一定の事業、職業又は地域について」ということで、産業別、職業別、地域 別という3つの最低賃金の設定方式を並列的に書いている。さらに「賃金の低廉な労働 者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときは、最低賃金の決定をすること ができる」という規定になっています。必要があると認めるときにできるという規定で あるということです。  しかしながら、最低賃金制度の第一義的な役割として、すべての労働者を不当に低い 賃金から保護する安全網を設定するという、いわゆる「一般的最低賃金」であると考え られます。現在すべての都道府県において地域別最低賃金が設定されて、その役割を果 たしているわけです。そういったことを考えるとこの第16条については、まず、地域別 最低賃金についてすべての労働者に適用されるようなものを各地域ごとに決定しなけれ ばならないといったことを、法律上明確にすることが考えられるのではないか。それと の関係で、現在の第16条は、地域別、産業別、職業別というのは同列に扱っているわけ ですが、一般的最低賃金としては、地域別最低賃金の他に多元的に産業別や職業別に最 低賃金を設定することを前提とする必要はないのではないかということです。  (2)が産業別最低賃金のあり方。問題点のところは、総論部分と大分重複していま す。先ほどの産業別最低賃金の経過で、小くくりの基幹的労働者について、地域別最低 賃金よりも高い水準のものを必要と認めるものに限定して設定するという役割を目指す ということになったわけです。しかし、現状は先ほど申し上げたように、基幹的労働者 の定義がネガティブリストになっているとか、水準も地域別最低賃金とそれほど変わっ ていないような形になっていて、本来の目的どおりに必ずしも機能していない。むし ろ、産業別最低賃金が設定されている産業のパートタイム労働者などの下支えとして、 地域別最低賃金と重複してしまっているという問題があります。それから、先ほどの経 済社会の変化の中で、小くくりの産業別でやっていくということが、公正な賃金決定と か公正競争の確保という意味からも機能しなくなってきている面があるということで す。  7頁は、そういった産業別最低賃金に係る問題の中で、産業別最低賃金について見直 しを図ることが必要であるということです。ただ、見直しの中身について、これまでの 研究会の議論の中で様々な意見がありました。まず、1つは、そもそも産業別最低賃金 は廃止すべきであるという意見です。その内容としては、最低賃金の第一義的な役割が 賃金の低廉な労働者に対する一般的な最低賃金という意味であるので、それについては 地域別最低賃金があれば十分である。それから、産業別最低賃金の役割として、労使自 治や団体交渉の補完、促進ということが言われているわけです。そういったことは、本 来労使が自主的に取り組むべきもので、そこに国が最低賃金として関与する必要はない のではないか。さらに、なぜ特定の産業についてのみ高い最低賃金を設定する必要があ るのかがわかりにくく、むしろ産業別最低賃金が設定されていないように、産業につい ても保護されるべき労働者がいるのではないかといったような観点から、産業別最低賃 金については廃止すべきというのがこちらの意見です。  一方、公正競争ケースについては、より高いレベルの公正競争の確保ということで、 賃金格差に着目して設定することになっているわけです。そこはなかなかわかりにくい 面があり、それについては廃止せざるを得ないが、労働協約ケースというものについて は、賃金の最低額に関する定めが労使交渉の結果、労働協約として具体化されている中 で、それを尊重して最低賃金を定めるということです。それは、労使交渉とか労使自治 の補完、促進という積極的な意義もあるということで、労働協約ケースがより有効に機 能するようにしつつ、現在は運用で、労働協約ケースというのは、第16条の4、労使か らの申出の1つの形としてやっているわけですが、それを明確に最低賃金法の中に位置 付けるべきであるという意見があったということです。  さらに、そういった労働協約ケースによる産業別最低賃金について、現在小くくりで 基幹的労働者が、先ほど申し上げたネガティブリストでやっているわけですが、産業構 造の変化とか就業形態の多様化、あるいは職務に応じた処遇ということを踏まえます と、公正な賃金決定という役割を担うためには、もう少し大きなくくりの産業で、基幹 的労働者の定義についてももう少し整理して、例えば職種に応じた最低賃金を目指すと いったことがいいのではないかという意見がありました。この場合に、特に基幹的労働 者の最低賃金ということで、最低賃金法第1条の、賃金の低廉な労働者について最低額 を保障するというような目的との関係の整備も必要ではないかという意見もありまし た。  なお、産業別最低賃金の廃止を仮に行うという場合においても、現に存在する産業別 最低賃金が一定の影響力を有しているということで、廃止に際して一定期間の経過的な 措置を講じたうえで対応する必要があるのではないかという意見がありました。  8頁の(3)の最低賃金の決定の方式について、審議会方式と労働協約の拡張適用方 式、それから国の関与のあり方という問題です。1つは、産業別最低賃金について意見 として、廃止というものと存続というものがあります。仮に産業別最低賃金を存続する 場合に、労働協約の拡張適用というのは、そもそも本来的には労働協約の維持あるいは 団結権の維持という労働組合法の制度であるわけですが、そうではなくて、最低賃金に ついての規定だけを取り出して、最低賃金法の中で最低賃金制度としてやるということ であれば、特に労使交渉の補完、促進という趣旨からしても、審議会の意見を聞いて決 定するというシステムを採らざるを得ないのではないかという意見です。  一方、労働協約の拡張方式という最低賃金法第11条については、先ほども申し上げま したようになかなか活用が困難な面があるということで、現在2件あるのみです。仮 に、この労働協約ケースを独立させて最低賃金法で明確に位置付けるというような形を 採るとすれば、役割的にはそれと重複するということですので、第11条の労働協約の拡 張適用については廃止してもよいというような意見があったということです。  2が「安全網としての最低賃金のあり方」で(1)が決定基準のあり方。最低賃金法 第3条に、最低賃金の決定の原則として、「労働者の生計費、類似の労働者の賃金、通 常の事業の賃金支払能力」という3つが規定されているということです。これまで目安 制度によって、特に類似の労働者の賃金の引上げ率というものを重視して改定審議が行 われてきたわけですが、安全網としての一般的賃金として適切に機能するという観点か ら、様々な要素を今まで以上に総合的に勘案することが必要である。  類似の労働者の賃金について、これまで賃金改定状況調査ということで、小規模企業 の賃金改定率を重視して改定を行ってきたわけですが、安全網としての機能あるいは賃 金格差の是正といったようなことも考慮すると、低賃金労働者の賃金水準のみならず、 一般労働者の賃金水準もより重視することが考えられるのではないかという意見もあり ました。  それから、決定基準の中にも「通常の事業の賃金支払能力」という規定があるわけで すが、これについては個々の企業の支払能力のことではないことは、一応規定からは明 らかです。雇用に影響を与えない、あるいは生産性を考慮したといった観点で、マクロ 的な意味で通常の事業に期待することのできる賃金の負担能力のことであるということ です。ILO第131号条約でも、経済的要素ということで、生産性の水準あるいは雇用を 達成することの望ましさというような規定がなされています。支払能力という表現が個 々の企業の支払能力という誤解を招きやすい面があるということで、そういった観点か らは生産性や雇用の確保といった趣旨であるということを明確化することも考えられる のではないかという意見がありました。  (2)が水準とその考慮要素。地域別最低賃金については、一般的最低賃金というこ とで安全網として適切な機能を果たすにふさわしい水準とすることが必要である。これ まで、第3条の決定基準を基本としつつ、特に目安制度というもので類似の労働者の賃 金引上げ率を重視して全国的な整合性を図るために目安を提示して、それに基づいて各 地方で具体的な金額審議を行ってきたということです。目安が引上げで目安を示してい たということで、そもそも絶対的な水準についての議論がなされてこなかったのではな いか。したがって、セーフティーネット本来の役割を考え、適切に機能するようにする ために、絶対的水準についても議論すべきではないかという意見です。さらに、その際 に、賃金分布あるいは雇用への影響といった様々な要素をこれまで以上に勘案して、改 定審議を行うべきであるというご意見です。  一方、最低賃金というものが生活保護のように絶対額を決めるというものではなく、 賃金というのは、一般的に団体交渉の際に引上げについて決めていくようなものである ということです。従来の目安制度による引上げという手法の枠内でも、一定の改善は可 能ではないかという意見もありました。  ただ、あるべき絶対的水準を具体的にどう決めるかというのは、非常に困難な面があ るということです。しかしながら、地域別最低賃金の水準について、地域の一般的賃金 水準や低賃金労働者の賃金水準に対して、最低賃金がどのぐらいの割合になっているか といった点についてみますと、地域的に不均衡があるというような点があることから、 地域的な整合性を保つということ。あるいは経年的にみて、ある程度それが安定的に機 能するようにというようなことは重要ではないか。今、特に地域的に不均衡がみられる ということで、そういった点について見直しが必要ではないかということです。  生活保護との関係についてですが、最低賃金というのはあくまで賃金でありますの で、生活保護の水準から直接的に最低賃金が機械的に決められるような直接的なリンク は必ずしも適切ではないわけですが、最低生計費という観点あるいはモラル・ハザー ド、さらに生活保護制度の中でも自立支援という方向性がより重視されているというよ うなことから考えますと、単身者について比較をせざるを得ないと考えられますが、単 身者でみて、少なくとも実質的に生活保護の水準を下回らないようにすることが必要で はないかということです。  ただ、生活保護と具体的に比較する際に、最低賃金は今地域別最低賃金が都道府県で 設定されているのに対して、生活保護は市町村単位で設定されているとか、あるいは住 宅扶助をどのようにみるか。生活保護の場合に税金等がかからないということで、そう いう課税の関係等について、技術的にどう比較するかさらに検討が必要ではないかと考 えるということです。  (3)減額措置等について。諸外国においては、生産性や雇用への影響ということ で、若年者や訓練中の者について、一定の減額措置を採っている国が少なくないという ことです。我が国においても地域別最低賃金について、一定の年齢区分等を対象に減額 措置を採用するということも考えられるのではないかということです。ただ、これにつ いて、そもそもの最低賃金の水準との関連が問題であり、今の水準の中でさらに減額す るということがなかなか問題なので、地域別最低賃金の水準の見直しと併せて検討する 必要があるという意見です。対象者については、さらに具体的に検討する必要があるの ではないかということです。  (4)履行確保について。最低賃金法第5条1項で、最低賃金未満の額を支払った場 合の罰則が規定されています。それが、昭和34年の最低賃金法制定以来変わっていませ ん。罰金等臨時措置法で2万円となっているわけですが、最低賃金の実効性確保という 観点から、この地域別最低賃金に係る罰則については、引上げが必要ではないか。一 方、仮に産業別最低賃金を存続させるとしても、その産業別最低賃金に係る罰則につい ては、民事効化してもいいのではないかという意見がありました。  その他の問題として、最低賃金の設定単位のあり方。現在、基本的に都道府県単位で 地域別最低賃金あるいは産業別最低賃金についても設定されているわけです。労働市場 の状況、あるいは近隣の都道府県の最低賃金額とそれほど差がないようなところもある ということで、より労働市場に合ったような形も考慮しますと、産業別最低賃金につい ては存続するということですが、地域別最低賃金については、より広い単位で設定する ことを検討するというような意見がありました。  それから、就業形態の多様化に対応した最低賃金の適用のあり方。1つは、派遣労働 者に対する最低賃金について、派遣法の施行時から派遣元の事業場に適用される最低賃 金を適用しているわけです。その後、最初は派遣法においては、対象業務がポジティブ リストであったものが、ネガティブリストになった、さらに、物の製造業務への派遣も 解禁されたというようなところで、派遣先が製造業で産業別最低賃金が設定されている ような産業であったとしても、現在派遣業がサービス業に分類されることから、派遣労 働者にその派遣先の産業別最低賃金が適用されないといったような問題が生じているわ けです。  派遣等についても、現に業務に従事しているのが派遣先で、どこでどういう仕事をし ているかを重視すべきということから、派遣労働者について地域別最低賃金、産業別最 低賃金を存続する場合には産業別最低賃金も含めということになりますが、その最低賃 金の適用については、派遣先の最低賃金を適用する必要があるのではないかということ です。  最後に、最低賃金の表示単位について。これについては、現在は運用上、地域別最低 賃金は時間額に一本化され、産業別についても時間額一本化が進んでいるということで す。法律上は、時間、日、週、月といったような設定単位がありまして、その辺の整理 というものも課題としては提起されています。ただこれについて、前回十分議論がいた だけなかったという点もありますので、そこは改めて本日議論いただけたらと思いま す。  資料3。これは、最終的にこの研究会の報告書を取りまとめる際の報告書の構成の案 です。基本的には、この論点ごとのこれまでの議論の整理というものがベースになろう かと思いますが、若干まだ構成等は工夫する必要があると考えています。  「序」のところは、今回の検討の経緯等について記述します。IIは「総論」というこ とで、今回の「総論部に対応」というところに対応しているわけです。最低賃金の意義 ・役割。最低賃金制度のこれまでの変遷。意義・役割に照らした現行の制度の問題点。 さらに、最低賃金を取り巻く環境変化に伴う問題点。そういったことを踏まえて、我が 国の最低賃金制度に求める役割をまず総論的に整理してはどうか。  IIIは「各論」。1が最低賃金の体系のあり方ということで、地域別、産業別、職業 別といった設定方式のあり方についてどう考えるか。(2)が産業別最低賃金のあり 方。(3)が決定の方式として、審議会方式か労働協約拡張方式か、それから、国の関 与ということです。  2が安全網としての最低賃金のあり方。(1)が決定基準のあり方。(2)が水準と その考慮要素のあり方。(3)が減額措置や適用除外のあり方。(4)が履行確保とい うことで、罰則等が問題です。  3、その他が、最低賃金の設定単位のあり方と、就業形態の多様化に対応した最低賃 金のあり方。こういった形で報告書として整理してはいかがかということです。説明は 以上です。 ○樋口座長  ありがとうございました。皆さんのご意見をいただきまして、事務局を中心に取りま とめてもらいました。この議論に入る前に、前回積み残しであります最低賃金の表示単 位について、まずご意見をいただきたいと思います。本日配付された資料2ですと、11 頁、一番最後が今のところブランクになっていまして、そこに入れる予定のものです。 ○前田賃金時間課長  前回、第8回のファイルにあると思いますが、それの資料13に対応する中で、表示単 位のところ、資料13の2頁以下のところです。 ○樋口座長  第4条に書いてあることと実態との間に、今乖離が生じてきているということです ね。 ○前田賃金時間課長  はい。第4条では、時間、日、週または月という様々な表示単位を前提にしているわ けですが、就業形態の多様化の中で、賃金支払形態とか所定労働時間が異なる労働者に ついて、適用の公平あるいはわかりやすさというようなことで、時間額に地域別最低賃 金は、平成14年度から一本化されました。産業別最低賃金においても、大部分が今時間 額に移行しているということで、そういう運用上時間額に一本化されてきているので、 この法律の規定についても整理をするかどうかというような問題です。 ○樋口座長  いかがでしょうか。 ○今野先生  それでいいんじゃないですか。 ○樋口座長  運用に併せて法律を改正したらどうかという意見ですね。よろしいですか。                 (異議なしの声) ○樋口座長  では、それはそのように書き直していただきます。  それでは、全体に戻りまして、本日お示しいただいた資料2についてご意見いただけ たらと思います。 ○大竹先生  いろいろな意見を非常にうまくまとめていただいたと思いますが、問題点は7〜8頁 辺りだと思います。産業別最低賃金のあり方について、7頁では、廃止すべきであると いう意見と残すべきであるという意見と2つある。そして、残し方については労働協約 ケースを重視するという形でまとめられていると思います。議論をまとめていただいた 流れは、基本的には、産業別最低賃金について、公正競争ケースは意味がないだろうと いうことで一致していて、労働協約ケースについてどうするかという議論が残っている ということだと思うのです。  報告書のあり方として、両論併記してしまうと何も決まらない可能性が非常に高いの ではないかというのが私の印象です。今までヒアリングをしたり、ここにおられる最低 賃金審議会の委員の方々の意見を聞いてみても、産業別最低賃金について、廃止論を出 された方は大体、公益委員の方と使用者委員の方です。そして労働者委員の方は存続と おっしゃったのですが、おそらく労働者委員の本音は、地域別最低賃金が現状レベルの ものだと産業別最低賃金が必要だ、という条件付きだと私は理解しています。現状の地 域別最低賃金の決め方では産業別最低賃金が必要だろうということで産業別最低賃金存 続論を出したというのが本音ではないかと思うのです。  そうすると、地域別最低賃金のレベルの決定の仕方についてしっかり議論をするとい う条件のもとであれば、ほとんどの人たちは、産業別最低賃金の存続意義はなくなった ということに賛成するのではないかという印象を持っております。そうしていく方が、 最低賃金法のあり方として、第一義的にセーフティーネットとして最低賃金を位置付け るということを打ち立てていくというもとで、非常にすっきりした体系になってくると 思うのです。現在の下だと、労使交渉を補完するという二義的な側面が残ってしまうけ れど、実はそれは全く機能していないわけです。基幹的労働者についての最低賃金を決 める、という当初の産業別最低賃金の役割は機能していないにもかかわらず、それが残 っているという形になってしまうのです。だから、第一義的な役割に最低賃金法を集中 させて、より有効に機能させるという意味では、一本化するのが非常にすっきりした法 体系になって、セーフティーネットの目的を達成する上では有効ではないかと思いま す。 ○樋口座長  いくつかの所で、「一定の見直しを検討する必要がある」という表現が出てくるので すが、「一定」とは何かが読み手によってみんな違ってくるので、もう少し方向性を出 した方がいいのではないかというご意見だろうと思うのですが、今のご意見について、 いかがですか。 ○今野先生  役割をどう考えるかですが、一番重要なところは今大竹先生が言われたところではな いかと思います。それで、二次的な役割ということで、基幹的労働者の問題を考えてち ゃんとやれというのは、私はどうも捨て切れないのです。7頁目で一番重要なのは、下 から2つ目の○の辺りです。一義的ということは私も賛成です。ただ、二次的な機能と してルールどおり、つまりもともとの理念どおりにもう一度やってみたらというのは、 どうしても捨て切れないのです。  今思ったのですが、廃止論については大竹先生が言われたようなことが1つのコンセ ンサスに近いのですが、7頁目の最初の○の「この点について」の中には、そういうニ ュアンスは入っていませんね。これだと単に捨てろ、廃止しろということになっている ので、そういう条件とセットであるというのは入った方がいいかなと思います。  本当は他にもあるのですが、ここだけについて言うと、いずれにしても廃止論と、基 幹的な労働者ということをもう少し考えて再構成しろという2つの意見があるのです が、ここの場合では両方しかないですね。そうしたら、この頁の一番上は全体的に文章 がクリアではないのですが、最初の2行でそういうことをはっきり書いてしまう方がい いのではないかと思います。 ○樋口座長  どこの2行ですか。 ○今野先生  7頁目の先頭で、「一定の見直しを行う必要がある」と抽象的に書いてありますが、 中身はこうだと、ちゃんと書いてしまった方がいいのではないかと思うのです。 ○石田先生  2つの方向が考えられる、2つの道が考えられるとか。 ○今野先生  そう、例えば廃止と、基幹的労働者をもう少し重視した再編成という2つの方向が考 えられるというように明確に書いてしまう方がいいのではないかと思います。 ○樋口座長  プライマリーな目的ではない、あるいは機能ではないというご指摘の第2の方です が、意見が分かれるのは、これに国が関与する必要があるのか。これについては労使の 自主的な取組みで考える、国はあくまでもそれをサポートするだけである、直接関与と いいますか、一プレーヤーとして参加する必要があるのかどうかについては、皆さん意 見が異なるのかと思います。これは後に出てくる、国の果たすべき役割という所と関連 してくるわけですが。 ○石田先生  今野先生の後段の議論は、考えると非常に難しい議論です。副次的というか、第二義 的な、つまり基幹的労働者の職種別の賃率設定、これは最低賃金法という議論よりもレ ーバーマーケットの整備、具体的に言えば、これも今野先生の専門の公的資格というも のをリンクさせて、その資格に応じた賃率形成を促すような国の関与のあり方を考える べきだと思うのです。それはいわゆる最低賃金という概念なのかというのが私もまだ未 整理なのですが、最低賃金法かどうかという整理を外して言えば、国の関与のあり方は 違う論法で必要な事柄であると思っています。日本の場合、特に職業訓練とか労働市場 が流動化したとか、横断的と言いながら手立てがないのです。 ○大竹先生  私も石田先生のご意見に賛成です。今野先生が言われたとおり、基幹的労働者のマー ケットを整備するために何らかの目安のようなものが必要であるというのは、おっしゃ るとおりだと思うのです。そういう人たちも、買い叩かれている人たちがいますから。 しかし、最低賃金法の今の枠組みを何か変えて、そこまですべて整理していくというの は、かなり距離があるというのが率直な印象なのです。それを最低賃金法の改正の所で 入れてしまうと結局決まりそうもなくて、全く決まらない可能性の方が大きいような気 がするのです。石田先生が提案された方法の方が、別の仕組みとして基幹的労働者のマ ーケットを整備するための仕組みを作っていくというのを別立てで何か書けるのであれ ば、書いた方がいい。戦略上その方がすっきりする気がするのです。 ○石田先生  職種別という目的はどこから出てくるのか。 ○今野先生  もともと法律にはそう書いてあるし。 ○石田先生  それを利用しない手はないということですね。 ○今野先生  そういうことです。プライマリーな機能というのは、もうここで一致していると思い ます。ですから、そこについて私の気持としては、削るよりも、そういう意見もすごく あった。プライマリーではないと本人も思っているけれど、そういう意見もあったと。 つまり、最低賃金の機能としてはあれなので。ですから、ここに意見と書いてあるので す。 ○樋口座長  今のものだと並立して書いてあるような感じがするわけですが、色を付けることはあ り得るかということですね。 ○今野先生 この段階では並立して書いてありますが、優先順位はあるのだと、ここに も明確に書いてあるのです。一般最低賃金もそのようなあれだと、再度はっきりしなく てはいけないと。 ○樋口座長  そうですね、だからここももう少しはっきりさせるということですね。だから問題 は、見直すにしても方向性です。先ほど出てきたような職種別という方向を残すのであ れば検討する、という石田説を入れるかどうかです。 ○橋本先生  今の議論で、基幹的労働者というのは、具体的にどういう労働者像をイメージされて いるのでしょうか。職種別という意味ですか。 ○石田先生  私はよくわかりませんが、例えばソフトウェア・エンジニアなど、非常に流動的にな っているのだけれど、必ずしもそこに賃率設定がなくて混乱が起きている部分がありま すね。それは最低賃金法の概念というよりは、資格認定をきちんと社会的に公示し、労 働市場を整備する。そういう意味合いで、ある種の賃率設定というものがあってもいい のかな、国の関与があってもいいのかなと思うのです。 ○橋本先生  その人たちが組合をつくって産業別最低賃金を。 ○石田先生  組合がつくれないわけですよ、簡単に言うけれど。 ○樋口座長  職種別でやっていく場合には、審議会とか三者構成ではなくてという話でしょう、た ぶん。 ○今野先生  具体的なイメージは、現実があまりないからできないけれど、職種ルールと厳密に言 わなくても、企業の実態を考えると、パートタイム労働者などではどの会社も業務の構 造は一緒です。そうすると、パートタイム労働者の一番下の品出しみたいな非常に単純 な人よりももう少しランクの高い基幹的なパートタイム労働者というのもいるわけで す。そうすると、そこはこのランクだと、お互いに合意すればいいわけですね。 ○石田先生  業者間協定、産業別最低賃金の出発点も同じで。 ○今野先生  そう、業者間協定、組合がもちろん関与しています。まあ、組合があれば当然関与し ますけれど。だからそのときに、何か特定の細かい職種と言わないで、このバンドの中 に入る仕事でもいいわけですから、そこはいろいろなものが考えられるわけです。最初 に基幹的労働者、産業別最低賃金と言ったときには、何かそれに近いことをイメージし ていたのでしょう。 ○石田先生  そう、イメージはヨーロッパ型賃金です。 ○樋口座長  運用が違ってきたのですね。 ○石田先生  ええ、全然運用の実態と合っていなくてね。 ○樋口座長  運用が地域別最低賃金とダブルスタンダードになってしまったという。 ○今野先生  ええ。ただ、私の気持の中で、状況が昔とだいぶ違うのです。 ○石田先生  そうです、今新たに職種別の市場形成の萌芽があるし、それをある程度後押しする価 値はあるのです。 ○奥田先生  並記がいいかどうかというのは、報告書としてはあると思うのですが、この間の研究 会の議論としては、少なくとも産業別最低賃金に関しては、廃止すべきだという考え方 と、やはり存続させるべきだという考え方があったというのは基本的には事実ですの で、その方向で書かざるを得ないのではないかと思います。といいますのは、今回頂い たまとめを読んでみて、非常にクリアにまとめられていると思うのですが、何人かの方 からヒアリングをしたことを前提に考えますと、私の最初の印象では、産業別最低賃金 がこんなに問題があって、廃止すべきだということがこんなに強く出ていたかなという 印象を非常に持ちます。履行確保の方法をどうするか、地域別最低賃金との関係をどう するかというような論点がいろいろ出たことは確かですし、一定の検討が必要であろう ということは出ていたと思うのです。ただ廃止すべきだという考え方と、現在ある産業 別最低賃金の意義というものをきちんと再評価していくべきだという意見とが並存して いたように思うのです。先ほどの2つの選択肢でいうと、後者の方がトーンが落ちてし まうというのは、研究会の議論が正確に反映されないような気がしますので、やはり、 そこは並存にならざるを得ないのではないかと思います。 ○樋口座長  研究会の目的がここへ参加した人それぞれの意見を羅列する、並存するということで あれば、もちろんおっしゃったとおりになるかと思うのですが、研究会として、どちら の方向をとるのだという議論を今していて、そこでプライオリティーをつけるのだとい うことが多数から支持されるのであれば、その方向になると思うのです。 ○奥田先生  プライオリティーという点では、確かにおっしゃった意味はわかるのです。ただ、プ ライオリティーというのは、産業別最低賃金の今後のあり方に関してはっきりとはつか なかったのではないでしょうか。つまり、先ほどおっしゃった、見直しを廃止論として 考えていくのか、あるいは存続として考えていくのかというところのプライオリティー というのがちょっと。 ○樋口座長  ですから、今それをどうするかということを議論しているのです。 ○奥田先生  そうなのです。それで、それに関して、それは今回は並存とならざるを得ないのでは ないかというのが意見なのです。 ○今野先生  私は中間ですね。 ○奥田先生  最低賃金に関する国の政策としての関わりについてですが、確かに、交渉や労働協約 などによって労働条件を労使自治でやっていくということは基本ですし、非常に重要だ と考えています。ただ、その中でも賃金というのは、労働条件の一番基本になるもので すので、それに対して労使が合意したものを国家のサポートで何か設定していくという こともあるわけで、労使の自治だから関与できないということにはならないと思いま す。特に最低賃金というのは、地域別最低賃金だけではなくて、労使が設定したもので あっても、一定のサポートがあってもよいのではないかと思っています。履行確保を含 めて、あり方を検討するということはあり得ると思いますが、その点はもう少し検討が 必要なのではないかと思いました。 ○今野先生  この2つの点についての優先順位なのですが、一般最低賃金の場合は、本当に一番下 側をやるわけですが、産業別最低賃金の改革の方向というのは、基幹的労働者だから、 少し高い所をやるわけです。 ○樋口座長  もともとの趣旨はね。 ○今野先生  ええ、だから食えない所をやっているわけではないので、そういう点では優先順位が あるかなと、私の考えはそういうことなのです。 ○奥田先生  私はそこの優先順位を否定しているわけではなく、地域別最低賃金が第1にあって、 その上で産業別最低賃金のあり方を考えていくということは否定しているわけではあり ません。産業別最低賃金について廃止するか存続させて再編を考えるかについて、報告 書での優先順位はないのではないかということです。 ○樋口座長  産業別最低賃金は今のままでいいとは思っていらっしゃらない。それとも、今のまま でもいいのではないかとお考えですか。 ○奥田先生  そこを検討していくべきだということは必要だと思うのです。 ○樋口座長  検討というのは、改善する方向に検討するということですか。 ○奥田先生  そうです。実際に機能していない側面というのもかなり指摘されていましたので、と にかく何も考えずに続けていくということではないのです。前々回も申し上げたと思う のですが、機能していないから廃止の方向に持っていくのか。ただ、機能しているとい う意見もあるわけですから、仮に実際に機能していないということを前提にするとして も、そこをもう少し検討して、どこが機能しないのかを見ていくべきではないかと思い ます。 ○樋口座長  機能しているという意見はありましたか。 ○奥田先生  地域別最低賃金に対して産業別最低賃金がそもそも屋上屋を重ねているという意見も ありましたが、一方で別個の機能を持っているという意見はあったと思うのです。だか ら、そこをどう評価していくのか。 ○大竹先生  その点については、せいぜい地域別最低賃金の14%しか上積みされていないというの が産業別最低賃金の実態なわけですから、本来の趣旨の基幹的労働者の最低賃金を決め るということから見ると、一切機能していないというのは自然な考え方です。 ○奥田先生  数値でいえば、そうなのです。 ○大竹先生  数値がすべてだと思うのですが、実態は機能していないとしか考えられない。そうす ると、地域別最低賃金のレベルが低すぎるから問題だというのであれば、そこを上げて やれば、産業別最低賃金の現状の役割はもう全くなくなってしまうはずです。例えば14 %地域別最低賃金を上げるということにしてしまえば、あっても仕方がない。私は、地 域別最低賃金を14%上げろということではないのですが、仮にそういうことになれば、 現状の産業別最低賃金の存在意義はないという形になるわけです。だから、地域別最低 賃金のレベルの決め方の問題であって、現状の産業別最低賃金が本来の趣旨で機能して いるとは全く言えない。 ○今野先生  そういう点からすると、皮肉なことには、一般最低賃金として機能しているわけで す。 ○大竹先生  そういうことです。 ○今野先生  片方で地域別最低賃金は低すぎると思っていれば、そういう点では機能しているので す。 ○大竹先生  そういうことです。だから最初に私も申し上げたとおり、地域別最低賃金のレベルの 決め方をきちんとするという条件の下であれば、現状の意味での産業別最低賃金制度と いうのは全く意味がなくなってしまうだろう。だから、条件付きで廃止というのは、現 状の産業別最低賃金の役割がなくなってしまうのは自然であると。  今野先生がおっしゃるとおり、本来の意味での基幹的労働者の最低賃金制度をどうす るかというのは残ってくるとは思うのです。しかし、それは全く違うものなのです。現 在行われている産業別最低賃金の位置付けは全く違う、そういうことですね。だから、 そういう制度を何か作るべきだということは報告書に入れるべきだと思うのです。 ○今野先生  職種別最低賃金。 ○樋口座長  の方向を検討したらどうかと。 ○大竹先生  産業別最低賃金という言葉を残してしまうと、現在の産業別最低賃金をまた残す、全 く同じものを残すと捉えられるわけです。 ○今野先生  選択肢は、産業別の廃止か、少し変えて残すか、今までのとおりかなのです。今まで のとおりが駄目だというのは、前までは合意なのでしょう。 ○奥田先生  それはそうです。 ○今野先生  そうすると2つが分かれているわけです。あと、どう変えるかということについて は、今のところ1つのアイディアしかなくて、もし他にアイディアが出てくれば別です が、こんな方向で検討するということで。ですから、全体としてはこういう感じでいい かなと思うのです。ただ、しつこいようですが、廃止論の中には地域別最低賃金の水準 の改善がセットであるというのはちゃんと入れておいた方がいいと思うのです。 ○石田先生  今野説はいいのですが、最低賃金というより、どちらかというと資格認定、賃率決定 の問題だと思うのです。だから、むしろそれはそういう文脈で、課題があるというニュ アンスが残っていればいいと思うのです。つまり、最低賃金の問題として残っているの ではないということです。  それからもう1つ、大竹先生がおっしゃったことで言うと、今回ずっと述べられてい るように、地域別最低賃金の水準引上げというのは、言うは易いですが水準論は決めが たい。ただ、いくつかのヒントがありまして、1つは、もっと類似労働者以外の一般労 働者を見ろと。改定調査のときに100人未満だけ見ていたわけですが、もっと一般水準 を見なさいとか、企業の支払能力は雇用に対する影響というように法律上はっきりさせ るとか、そういうことによって相当議論が変わると私は思っているのです。しかしその 場合でも、水準論をどういう仕掛けで議論するかについていうと、おそらく中賃の審議 会でやれば決まらないと思うのです。決まらなかったから目安があるわけです。だか ら、それは循環論なのです。どういう手立てがあれば水準論が立ち得るのかということ は、すごく知恵が要ることだと私は思っています。 ○今野先生  実務的にはよくわかりますが、ここでは地域別最低賃金が低すぎるという合意が何と なくあって、それとの関係で現行の最低賃金の機能を考えているわけです。だから、こ の中に、廃止についてはそういうことがセットであるというのは入った方がいいのでは ないかと思います。 ○石田先生  単に廃止するというよりは、入った方が良識的だと私は思います。 ○樋口座長  今までの最低賃金法の目的としてここに書いてある所から、どうして産業別最低賃金 がジャスティファイされるのかということは読み取れないのです。それで、もし産業別 最低賃金を残す理由を考えるということであれば、公正競争なのですが、公正競争とし ては役立っていないと、ここでは否定したのです。それを否定した途端に、産業別最低 賃金の存続理由は何かと。 ○今野先生  それは7頁目の下から5行目に「したがって、最低賃金法第1条の目的との関係を整 理する必要がある」とあって、もしこういうことをやるとしたら、第1条を変えるとい うことです。 ○樋口座長  そう、これを残すならね。ただ、これ変えようがないのです。 ○石田先生  議論の筋は、公正競争ケースでジャスティファイできるかどうかと検討したら、でき ないと。どこでジャスティファイできるかというと、地域最低賃金が低すぎるので、そ れをもう1段支えているのだと。つまり、地域最低賃金の補完機能としてあるというの が今回の整理の説明で、私は、それは非常に納得がいくのです。 ○今野先生  現在はね。 ○石田先生  もしそうだとしたら、議論の筋は大竹説になるのです。 ○今野先生  優先順位をつけて両論並記しかないということでしょうか。 ○大竹先生  最低賃金の中で基幹的労働者でやるというのは、かなり先が遠い目標のような気がす るのです。まず資格というか、どういう労働者を設定していくかという所から始めて。 ○石田先生  それは、いわば夢だから。 ○大竹先生  最終目標はよくわかるのですが。 ○石田先生  書いておいてください。 ○樋口座長  そちらへ向かってとか。 ○大竹先生  それを最低賃金の中でやりますということまで言っていいのかどうかというのも私 は。 ○今野先生  言っているのではなくて、これはそういう意見があるということです。ここは「すべ きである」と言ったら、それはね。 ○石田先生  意見もあったと。 ○今野先生  これを全体的に読んでみると、面白いのです。「意見がある」という表現と「すべき であると考えられる」と、「すべきである」は合意のレベルによって何段階もあるので す。 ○石田先生  そう、グレードがある。 ○樋口座長  よく読むとね。わかりました。では、ここについてはもう少しはっきりした方向性を 打ち出すということでよろしいですか。それとも、少数意見を付けますか。 ○奥田先生  今の点で言いますと、一応地域別最低賃金と産業別最低賃金との優先順位はあり得る と、まずそれが前提ですね。産業別最低賃金をどう扱うかということに関して、廃止す べきだという考え方と再編するという考え方があり得ると、そういう位置付けでという ことですか。 ○樋口座長  再編するという方がメジャーな意見ではないと。 ○橋本先生  再編された場合の最低賃金の存続意義というか目的は、どういう目的になるのでしょ うか。 ○樋口座長  再編した場合に、どういう方向に向かって再編するか。 ○橋本先生  地域別最低賃金だけでは足りないということですか。 ○今野先生  基幹的労働者について、もう少し真面目にやれと。 ○石田先生  それはむしろ最低賃金だと私は思っていないのです。それは労働市場の整備なので す。つまり、リストラがあったときに、私はこういう資格がある、グレードはこうです と。 ○橋本先生  それは国が関与すべきだというお考えですか。 ○石田先生  資格制度は国が関与しないと、日本では作れません。労使で勝手にやれと言ったっ て、それは作れないのです。 ○樋口座長  論文で言えばフットノートに、これを入れろと言っていることですよ。フットノート を付けられないからね。 ○今野先生  日本で、地域別最低賃金だって労働市場政策だから。 ○樋口座長  それは明らかにそうです。 ○大竹先生  おっしゃるとおりなのです。私の理解は、実際には買い叩かれている労働者がいろい ろなレベルにいるのだけれど、誰の目にも見えて、しかも社会的に問題が出てくる一番 下の層だけは法律でみましょう、他は、たくさんいるかもしれないけれど、その人が本 当に買い叩かれているのかどうかをいちいちチェックして法を整備するというのは不可 能に近いだろうというのが現状であろうと。そうすると、ここでの最低賃金というのは 一番下だけを考えるというふうにした方がいい。そして、他のレベルについては、例え ば石田先生が言われるような仕組みで買いたたかれている人たちをなくしていくという のはあるかもしれないけれど、法律で、この人は駄目というのを全部網羅していくとい うのは、かなり遠い目標になるのではないかという気がしているのです。 ○樋口座長  石田説を私もサポートするのですが、それは労働市場法を作るべきだという意見なの です。それについてはまた。最低賃金の果たす役割は大きいかもしれないけれど、最低 賃金はメインのプレーヤーにはなれないのではないかと。 ○石田先生  なりにくい、あるいは誤解を生む。 ○樋口座長  そういうことです。 ○石田先生  こだわるようですが、2つオプションがあって、まず廃止論というのがある。廃止論 といっても、先ほど言ったように、単純廃止論はあり得ないと私は思うのです。それは 地域最低賃金の水準論を議論できる仕掛けですが、それの保証がないのです。作文する のは楽ですが、結局中央でもみ合って、立たないとなることは目に見えるわけではない ですか。そのときに廃止だけ残るわけで、それだと私は乗れないです。 ○大竹先生  1つは、生活保護の水準と並ぶということを担保しておけば、そのレベルを必ず逆転 しないようにすることはできますが。 ○今野先生  この報告書の中で、もともと作った意図とは別にして、産業別最低賃金は一般最低賃 金として十分機能してきたという一文を、どこかに書いておいた方がいいでしょうか。 論理的に言うと、そうしないと、そういう議論にならないのです。 ○樋口座長  ここもいろいろご意見があると思いますが、他の所はいかがでしょうか。 ○今野先生  質問があるのです。就業構造の多様化の中で、派遣については、派遣元ではなくて派 遣先の条件が適用されると何カ所かに書いてあるのですが、これは産業別最低賃金につ いてのみ触れているのですか。 ○樋口座長  地域最低賃金もそうです。 ○前田賃金時間課長  11頁の(2)は、どこでどういう仕事をしているかということで、産業別最低賃金と 地域別最低賃金、両方とも派遣先です。「しかし」以下の所、地域別最低賃金について も触れており、地域別最低賃金も派遣先の地域別最低賃金を適用するという意見で書い てあります。問題点は産業別のことにしかなっていないのですが、「しかし」以下の所 は「派遣先の地域別最低賃金」と。そして括弧の中が、産業別を存続する場合は産業別 となっているのです。ですので、地域別最低賃金も産業別最低賃金も派遣先で適用する という意見としてここで整理しているのです。 ○今野先生  11頁の下から3行目に「産業別最低賃金を適用」とありますが。 ○前田賃金時間課長  産業別の前、下から4行目に、まず地域別というのがあって、括弧の中が産業別なの でわかりにくいのですが、両論になっているので、産業別については括弧の中にあるの です。 ○今野先生  わかりました。括弧がこんなに遠い所にあるんですね。先ほどの産業別最低賃金のこ とと関連して、11頁に罰則の議論がいろいろあります。合意としては、今の規範ではな くて、もう少し緩めてもいいのではないかということですが。 ○前田賃金時間課長  11頁の「また」という所ですか。 ○今野先生  そうです。「民事効化を含め検討する必要があると考えられる」と書いてあります が、弱いのではないか。もう決まったのではないかと思うのですが。 ○橋本先生  私も確認したかったのですが、派遣先の最低賃金が適用されるということは、最低賃 金法が労働者保護法だという罰則で担保する、労働者保護法だから、そういう解釈がと れると思うのです。だから、逆に民事効だと、契約上の使用者はあくまで派遣元になる ので、逆に罰則は必要なのではないかと思うのですが。派遣や請負の従業員と派遣先の 正規従業員との均等待遇原則はまだ確立していませんから。そう思って、ずっと考えて いたのですが。 ○石田先生  派遣先を法的処罰の対象にする場合に、お金を払うのは派遣元だから、民事効化とい うのは派遣元に適用できるのであって、もし派遣先のマネジメントを罰するのであった ら、刑事罰以外にないと、こういう言い方ですか。 ○橋本先生  そういう問題でもあると思いましたが。 ○前田賃金時間課長  賃金は派遣元が支払うものですので、いずれにしても派遣先に責任はいかないので す。 ○樋口座長  派遣元の責任なのだけれど、支払う最低賃金は派遣先のレベルに合わせるという話で す。 ○前田賃金時間課長  適用の基準が派遣先の産業なり地域であるというだけで、あくまで責任は、派遣元が 賃金を支払いますので、それを払わなければ、刑罰の面でも民事的にも派遣元が責任を 負うことになるのです。 ○樋口座長  今回のものはすっきりしていると私は思います。もっとすっきりさせた方がいいと思 っているのは、やはり雇用形態が多様化し、その一方で格差の問題が浮上している。そ こでセーフティーネットとしての最低賃金制度の機能が十分達成されているのかどう か、あるいは、達成させるためにはどうしたらいいのかということで首尾一貫した議論 をしてきたのではないかと思うのです。 ○石田先生  その議論からすると、地域最低賃金の水準論というのはますます大きくないですか。 ○樋口座長  そうです、これは労使両方にとってかなり大変です。 ○大竹先生  必ず生活保護の水準を考慮するということを最低賃金法の中に入れれば、生活保護水 準の決定にもかなり影響すると思いますし、これが引っくり返ってしまうと、前提が成 り立たないと思うのです。モラル・ハザードというのか、そもそも最低賃金は生活保護 より高いということがない限りは、法律として矛盾する問題があると思うのです。です から、それは必要な担保ではないかと思うのです。 ○樋口座長  10頁の最初の○で今の点に触れているのです。「実質的にみて生活保護の水準を下回 らないようにすることを検討する必要がある」と書いてありますが、持って回った言い 方をしないで「下回らないようにすることが必要である」ともっとダイレクトに言った らどうかという気がします。 ○石田先生  それでいいと思います。 ○大竹先生  こちらで入れてしまうと、生活保護の水準決定のときにも、最低賃金はどうなってい るのだというのは必ず検討しなければいけない問題になってくると思うのです。 ○奥田先生  私は前回欠席したので確認したいのですが、その場合の生活保護というのは、生活扶 助を対象にしているのですか。 ○前田賃金時間課長  その点については前回の資料7の18頁以下に「生活保護制度の概要」ということで書 いてあります。体系でいくと資料7の20頁です。そこで生活扶助、あとは住宅扶助をど うみるかというのがありますが、生活扶助は基本的に入ってくる。あとは住宅扶助につ いて、特別基準額と実際の額をどうみるか。具体的に何と比べるかというのは技術的に 問題があるのですが、入れるとすれば、生活扶助と住宅扶助ではないかということで す。 ○石田先生  それはそうですね、住宅がなかったら働けないですから。 ○今野先生  先ほどの説明では出ていたのですが、ここで単身者を前提にやるということまで書き 込めないですか。 ○石田先生  それは当然だから書いていいと思いますね。 ○大竹先生  生活保護と比較するときということですね。 ○今野先生  そうです。 ○前田賃金時間課長  10頁の2つ目の○の4行目で、「単身者について、少なくとも実質的にみて生活保護 の水準を下回らないようにする」と整理しています。 ○今野先生  そこは頂いたものと変わっているのですね。 ○前田賃金時間課長  意見を事前に頂いた分で修正しております。 ○今野先生  内容ではなくて表現について伺います。全体的にここでコンセンサスがあるものは、 できる限りそれをはっきり出すような表現をした方がいいのではないかと思います。回 りくどいことを言わなくてもいいのではないかという所がいくつかあったので、私の気 が付いた点だけ述べます。例えば6頁の1つ目の○、下から5行目ですが、「地域につ いて一般的に適用される地域別最低賃金を設定すべきことを明確化することが考えられ る」とありますが、これは「設定することを明確にすべきである」とする。これはもう 合意があるでしょう。 ○樋口座長  事務局が出してたたいてもらって、そうしろということでしたら、そのようにという ことですか。ダイレクトに言ってほしいと。 ○今野先生  「設定することを明確にすべきである」。「考えられる」も要らないのかもしれませ ん。そういうことがたくさんあるのです。同じ頁の下から5行目で、「一般的最低賃金 として地域別最低賃金と重複した役割を果たしてしまっている面があるのではないかと 考えられる」と書かれていますが、その辺は「面がある」ではないのですか。ちょっと 読み直して、そういうことをいくつか提案させてもらっていいですか。 ○樋口座長  はい。 ○今野先生  生活保護との関係を明確にするとすれば、今は生活保護の基準を下回らないというこ とですが、上回るのもおかしいのかと。 ○大竹先生  上回ってもいいのではないかと思いますが。 ○石田先生  「上回るべき」なのでしょう。 ○青木労働基準局長  産業別最低賃金の議論であるように、レーバーマーケットをつくるということならと もかく、最低水準であるということを強調すれば、あるいは生活保護とのリンクという ことを極めて理論的に追求すれば、違っているのはおかしいのではないかということに はならないでしょうか。 ○大竹先生  同じだったら、生活保護をもらえる。働かなくてもよければ、それで同じ額をもらえ るのであれば。 ○石田先生  家にいる人と働きに行く人の消費エネルギーが同じだと言われた。ごく普通の常識で 考えれば。 ○樋口座長  皆さんが気にしてきたのはモラル・ハザードの問題だったわけですが、最低賃金の方 が高い場合にはモラル・ハザードはまず起こらない、ということなのではないですか。 ○橋本先生  絶対的水準とも関係するのですが、どういう基準が望ましいかという、一定の定式の ようなことはここで目指すのでしょうか。例えば、ちょっと議論があったかと思うので すが、フルタイムで働いて生活できる水準とか。 ○大竹先生  それは、生活保護と比較するときには必要になってくるのではないですか。週1時間 働いて生活保護より高くしろと言われても、それは無理だと。 ○樋口座長  いろいろなことを考えて総合的に判断する必要がある、とどこかに書いてありました が。 ○今野先生  今の所は石田先生と私と言うことが一緒で、「上回るべき」と書きたいのだと思うの だけれど。 ○石田先生  家にいる人と同じ消費エネルギーでもないでしょう。私はそれ勉強したことはないの ですが。原理は、働けないから生活保護なのでしょう。 ○樋口座長  それはそうです。仕事に伴って発生するコストはいろいろありますからね。エネルギ ーだけでなくて、自分で啓蒙しなくてはいけないとか、そういったコストまで考える。 ○大竹先生  「上回る」と書いても別に。極端な話、1円でも上回っていれば「上回る」というこ とで、そんな本質的な話ではないような気がしますが。 ○石田先生  いえいえ、語感が全然違います。 ○樋口座長  「下回ってはならない」というのと「上回らなくてはいけない」というのは違うんで すね。 ○今野先生  下回らないようにということは、一緒でもいいということですね。文章としてはイコ ールですか。 ○樋口座長  禁止はできるけれども、「上回らなければならない」というのはちょっと違います ね。下回ってはいけないというのは禁止事項です。上回らないケースはいけないという のは‥‥。他に是非ここは議論したいということはありますか。 ○石田先生  地域別最低賃金の水準論を実のあるものとするということが基本的精神で、それをい かに実現するかについて詰めた議論はないのですね。今の議論は、生活保護という支え を、法律に入れるというわけにはいかないのでしょうが、どこかに置くということであ って、それはそれでいいのでしょうが、結局、政労使の審議会方式、それが決まるかと いう問題があります。目安がたたなかったりする。上げ幅だって成り立たないものが、 水準論でどうして成り立つのですか。  私はあまり勉強していないのですが、イギリスではGNPの割に結構高い水準になっ ているのです。また、フランスはどうしているかと検討してみると、諮問して委員会が 決めるというのと、諮問して折り合うまで延々とやるというのと、審議会でも違うので す。私はもっと勉強する必要がありますが、イギリスのロー・ペイ・コミティーです か、そこでは諮問して決めているのではないですか。そうでなかったら決まらないと思 います。水準論がすごく重要な議論だと思います。 ○樋口座長  構成メンバーが誰であるか、労使が入っているかどうかがもう1つありますね。 ○石田先生  そうです、決定権をどうするか。 ○大竹先生  審議会で決めてないし。 ○石田先生  その議論は大本ですね。 ○奥田先生  先ほどからの議論では、地域別最低賃金の水準やレベルを基本的にきちんとしてい く、その上で産業別最低賃金を考えていく。ここの辺りは一応合意事項だと思うのです が、その際に、報告書を読むときには、その問題点がどこにあるかを明確にした方がい いと思うのです。3頁、現在の最低賃金制度の問題点の(3)に当たるのですが、地域 別最低賃金の問題点については、影響率の問題等もっといろいろな議論があったように 思うのです。だから、ここはもう少し問題点を明確に書いていただいた方が、なぜ方向 性として地域別最低賃金を第1に考えていくのかがもう少しはっきりとわかると思いま す。総論の部分は、読んだ方がもう少しわかりやすくした方がいいように思います。 ○樋口座長  そうですね。 ○大竹先生  地域別最低賃金の下支えは、生活保護としてレベルを考えましょう。そして上の方 は、全体の雇用に悪影響を与えない。個別の企業ではなくて、マクロの雇用に影響を与 えないということ。その両方がカップルになっていないといけない。 ○石田先生  それはそうです。 ○大竹先生  仮に、生活保護の水準が非常に高いので、ここだけ決めてしまう、生活保護はまだ対 応していない。インセンティブのことを考えた制度にまだ生活保護は変わっていないと いう段階で、最低賃金だけを生活保護より上回る状況にしてしまったときに、それは雇 用にものすごい悪影響を与えてしまう、そういう状況になるのはまずいと思うのです。 ですから、上も抑えて下も抑える、両方を明確にすることが法律改正を目指すときには 必要だと思います。 ○樋口座長  高ければいいというものでもないわけですね。 ○石田先生  前回大竹先生が、最低賃金の数字がこうであるということを、府県別の分布を見なが ら議論したのですが、その読み方が私にはほとんど理解できなかったのです。もし雇用 に対する影響を、ある経済学的な手法で、これは明らかに影響が出ているとか出ていな いとかということをある程度説得できるとしたら、きちんとそういうことを取り入れて 決めないと、まずいですね。レクチャリングしてもらわないと駄目ですね。 ○樋口座長  他によろしいですか。 ○今野先生  私は、帰るときに書いて置いていきます。 ○樋口座長  他の委員の方も、意見がありましたら事前に提出していただきたいと思います。次回 までに私と事務局で相談してたたき台を用意いたします。それを皆様に事前に送付させ ていただきます。次回はそれに基づいた意見交換をし、そして報告書を取りまとめたい と考えております。少しメリハリのついた方向性をはっきり書くようにということです ので、方向性を示すものにしたいと思います。事務局から次回について連絡して下さ い。 ○前田賃金時間課長  次回は3月31日(木)午前10時から、厚生労働省の17階専用第21会議室で開催致しま すので、よろしくお願いいたします。 ○樋口座長  本日はどうもありがとうございました。以上で終了致します。 (照会先) 厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)