05/03/04 国際協力事業評価検討会(第1回分野合同)議事録 1 日時 平成17年3月4日(金)14:30〜16:36 2 場所 厚労省共用第7会議室 3 出席者 【会員】         (保健医療分野)青山温子会員(名古屋大学大学院)               上原鳴夫会員(東北大学大学院)               小林廉毅会員(東京大学大学院)               田中耕太郎会員(山口県立大学)               中村安秀会員(大阪大学大学院)       (労働分野)  吾郷眞一会員(九州大学大学院)               中村正会員(日本ILO協会)               松岡和久会員代理(小野修司)(国際協力機構)       (水道分野)  金近忠彦会員(横浜市)               北脇秀敏会員(東洋大学大学院)               国包章一会員(国立保健医療科学院)               眞柄泰基会員(北海道大学創成科学研究機構)               村元修一会員(日本水道協会)               山田淳会員(立命館大学理工学部)       【専門会員】       (保健医療分野)柳孝専門会員代理(荒井寛)(文部科学省)               石川典子専門会員(国立国際医療センター)               野崎慎仁郎専門会員(国際厚生事業団)       (労働分野)  西田和史専門会員代理(田口勲)(厚生労働省)               縄田英樹専門会員(厚生労働省)               三富則江専門会員( 〃 )               片淵仁文専門会員( 〃 )       (水道分野)  土谷武専門会員(国際協力銀行)       【オブザーバー】       (保健医療分野)建野正毅(国立国際医療センター)       (労働分野)  山崎一雄(厚生労働省)               田代治徳(雇用・能力開発機構)               中井修(海外職業訓練協会)               鍋島由美(ILO駐日事務所)               湊直信(国際開発高等教育機構)               平野綾子(中央労働災害防止協会)       (水道分野)  江夏輝行(横浜市水道局)       【事務局】   村木国際課長、福田国際協力室長、今井補佐、釜石補佐、               吉川専門官、細川専門官、北村専門官 4 議事 ○今井補佐  定刻になりましたので、国際協力事業評価検討会(第1回分野合同)を開催させてい ただきます。初めに、村木国際課長からご挨拶を申し上げます。 ○村木課長  国際課の村木です。皆様には常日ごろから私どもの国際協力事業に大変ご指導、ご理 解をいただいておりますこと、就中、それぞれの専門分野で各分野の検討会議、評価会 議にご出席を賜り、ご意見を頂戴していることを、ここで改めて厚く御礼を申し上げる 次第でございます。  さて、今日は各分野で行われております議論を、一度持ち寄って、合同で情報を共有 し、意見交換をしようという趣旨で、開かせていただきました。この評価検討会を私ど もが昨年始めました趣旨は、もう各分野の会議においてご説明を申し上げたとおりです が、改めてごく簡単に申し上げますと、日本において国際協力事業というものが、ちょ うど曲り角というか、見直しの時期にきていることが1つございます。ODA全体につ いても一昨年の8月に新しい政府開発援助大綱ができました。こうしたものを踏まえ て、厚生労働省の非常に広い国際協力の事業についても見直しをしていこう、そのため にはまず現状の事業の評価を出発点にしようということで始めたわけです。  各分野の第1回の会合のときに私からも申し上げておりますが、事業の評価をまず土 台に据えることは、これからの国際協力事業を進める上で非常に重要なことだと思って おります。2つございます。1つは説明責任、アカウンタビリティの観点として、一般 国民にはなかなか見えにくいこの国際協力事業というものに、税金を使っていくに当た って、どうやって国民の皆さんのご理解を得るかということ、どういう目的で何をやっ ているのか、そして事業の結果をどう評価するかということをきちんと示すことは大変 重要なことだろうと思っています。  第2点は、これからの事業を企画し、進めていくにあたって、まず現在の事業につい ての評価をきちんとし、その反省の上に立って進めていく、民間企業でいうプラン・ド ゥー・シー・アクションの「シー」の部分が非常に重要であろうと考えているからで す。こうした考え方に基づき、現在のところ3つの分野でご検討を進めていただいてお ります。保健医療分野と労働分野においてはそれぞれ早く立ち上がり、計5回ずつの検 討会が開催されました。また、お忙しい中、ワーキンググループも随分たくさん活動を してきていただいております。水道分野については昨年10月に第1回を開催し、その議 論に基づく検討を進めているところです。  このように各分野においてさまざまな議論を進めていただいております。お聞きして おりますと、分野によってもちろん課題、検討の進め方にそれぞれ特徴があるわけです が、例えば人材育成の重要性といった共通する問題意識、あるいは共通する今後の方向 性といったようなものも出てきているような気がしています。したがって、本日の合同 検討会において、それぞれの問題意識、検討のポイント、あるいは今後の方向性につい て情報を共有し、ご意見を交換いただき、今後の分野ごとの検討に、さらに資するもの にしていただきたいと考えているわけです。  一方、最近政府としてもさまざまな動きがあり、今年の2月には大綱に基づくODA 中期政策が新しく策定されました。また、国別援助計画においても、インドネシア、ベ トナムなどについて策定、あるいは改定が行われています。この新しく作った中期政策 については後ほどご説明申し上げたいと思っております。  以上のように本日は中期政策の説明と、各分野ごとの報告、それに基づく情報共有、 意見交換を予定しております。さまざまな角度からご意見、ご提言を頂戴できれば、大 変ありがたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○今井補佐  ありがとうございました。続きまして、委員の先生方の名簿は今日お手元の資料でお 配りしておりますが、現在ご出席いただいている委員の皆様のご紹介をさせていただき ます。労働分野座長の吾郷先生、水道分野座長の眞柄先生、保健医療分野座長の中村先 生です。続いて会員の先生方のご紹介をさせていただきます。まず、保健医療分野です が青山先生、上原先生、小林先生、田中先生。労働分野の会員の先生は中村先生、松岡 先生の代理で小野先生。水道分野で金近先生、北脇先生、国包先生、村元先生、山田先 生です。続きまして専門会員の皆様のご紹介です。柳様の代理の荒井様、石川様、野崎 様。労働分野の西田専門会員代理の田口様、専門会員の縄田様、片淵様。水道分野の専 門会員の土谷様。事務局では村木国際課長、福田国際協力室長、国際協力室の釜石補 佐、吉川専門官、北村専門官、細川専門官、それから私今井と申します。よろしくお願 いいたします。  続きまして配付資料の確認をさせていただきます。国際協力事業評価検討会(第1回 分野合同)の議事次第です。次頁に先生方の名簿、座席表です。資料1−1、「新OD A中期政策の策定」、資料1−2「政府開発援助に関する中期政策」、資料2「国際協 力事業評価検討会(保健医療分野)中間報告について(概要)」、資料3「国際協力事 業評価検討会(労働分野)中間報告」、資料4「国際協力事業評価検討会(水道分野) 進捗状況報告」、以上です。 ○村木課長  本日の議事進行は各分野の座長の先生方にご説明をお願いし、それに基づく意見交換 を主にしており、全体の座長がないので、誠に恐縮ですが、私が司会進行を務めさせて いただきたいと思います。なお、重ねて誠に恐縮ですが、私、所用で途中抜けることが ございますので、その際には福田が代わって司会進行役を務めさせていただきますの で、よろしくお願い申し上げます。  それでは、まず議事次第の最初の説明ですが、政府開発援助の最近の動きについて、 事務局からご説明申し上げます。 ○今井補佐  資料1−1と1−2ですが、ODAに関する最近の動きとして、新たなODA中期政 策の策定について、ご存知の先生方も多いと存じますが、簡単に厚生労働省関係部分を 中心にご説明させていただきます。まず、資料1−1が外務省からいただいた新ODA 中期政策の策定という資料です。資料1−2が2月4日付の政府開発援助に関する中期 政策の全文です。資料1−1に沿ってご説明します。まず、ODA中期政策改定の背景 ですが、平成15年8月にODA大綱が改正されたこと、旧ODA中期政策が策定後5年 近くを経過していること等を踏まえ、ODA中期政策が抜本的に見直されることにな り、平成16年7月からODA総合戦略会議における議論や関係省庁間の調整、パブリッ クコメント等が行われ、本年2月4日に取りまとめられたという状況です。中期政策の 骨子ですが、大きく、中期政策の位置付け、人間の安全保障の視点について、重点課題 について、効率的・効果的な援助に向けた方策について、この4つの項目から構成され ています。第1項目の中期政策の位置付けですが、ODA中期政策はODA大綱の下に 位置付けられるもので、向こう3〜5年を念頭において、ODA大綱のうち考え方、具 体的取組を内外に対してより具体的に示すべき事項を中心に記述したものとなっていま す。  次頁をご覧下さい。第2項目の人間の安全保障の視点についてですが、人間の安全保 障の視点はODA大綱の基本方針の1つです。ODA中期政策においては人間の安全保 障の考え方、人間の安全保障の実現に向けた援助のアプローチが記述されています。人 間の安全保障というのは一人ひとりの人間を中心に据えて、脅威の下にある個人及び地 域社会の保護、能力強化を通じて、人々が尊厳ある生活を全うできるような社会づくり を目指すという考え方です。厚生労働省関係では感染症の蔓延といった恐怖や貧困、保 健サービスの欠如、水の欠乏といった脅威から個人を保護し、人々が自ら選択・行動す る能力を強化するということが挙げられると思います。また、人間の安全保障の実現に 向けた援助のアプローチの1つとして、保健などの社会サービスの提供だけではなく、 職業訓練等を通じて、生計能力の向上を図ることなどにより、人々の自立を支援するこ とが記載されています。  1枚めくっていただき、第3項目の重点課題です。4つの重点課題として、ODA大 綱に掲げられている課題で、貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組、平和 の構築について、考え方やアプローチ、具体的取組が記述されています。厚生労働省関 係の保健・医療、福祉、上水道、労働分野はこれら4つの重点課題すべてに関係してい ます。貧困削減については、例えば貧困層の生活の質の向上を図るための保健、安全な 水等の基礎社会サービスの拡充支援、保健医療システムの強化支援、貧困層の生計能力 強化のための貧困層に対する技能訓練などの職業能力開発の実施などが挙げられていま す。持続的成長については、生活環境インフラなどの経済社会基盤の整備の支援、開発 途上国における職業訓練の充実、専門家の派遣や研修制度を通じた人づくり支援が挙げ られています。  地球的規模の問題への取組については、感染症、人口、麻薬など地球規模の問題に対 する貢献が謳われています。平和の構築については、例えば紛争直後の水、衛生、保健 などに関する緊急人道支援の実施、雇用創出を通じた除隊兵士の社会復帰の支援などが 挙げられています。  最後に第4項目の効率的・効果的な援助の実施に向けた方策については、政策立案及 び実施体制の強化のため、現地機能の強化に向けた具体的取組などが記述されていま す。特に現地ODAタスクフォースが明確に位置付けられ、現地ODAタスクフォース は、開発ニーズなどの調査分析、援助政策の立案検討、援助候補案件の形成、選定、現 地援助コミュニティとの連携、我が国の援助のレビューなどにおいて積極的な参画・提 言を行い、東京はこうした現地タスクフォースの提言を尊重するということが期待され ています。新たなODA中期政策の策定については以上です。 ○福田室長  課長が中座しておりますので、当面の間、私が進行を務めさせていただきます。ただ いま新中期政策についてご説明がありましたが、検討会委員の皆様方の中にもODA総 合戦略会議のメンバーの方もいらっしゃいますし、いろいろな角度からこの策定にかか わられた方もいらっしゃるかと思いますので、ただいまの事務局からの説明は事務局の 説明として、そういった観点から、いまの説明に追加したり補足したりするようなこと がありましたら、先生方からお願いできればと思いますが、いかがでしょうか。青山先 生はODA総合戦略会議のメンバーでもあられるので、差し支えない範囲で結構ですの で、この決定に至ったプロセスなどについて、行間から読み取ってほしいような分野が ありましたら、教えていただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○青山会員  行間というか、配布資料にある三角形の図が示しているとおり、大綱の下に位置づけ られていると思います。中期政策を定めるにあたって、大綱を解説するだけなら要らな いのではないかというご意見もあったと思います。外務省の方からは、大綱の課題の中 で具体的にもう少し説明を加えたいものについて詳しく書きたいという説明があり、特 に「人間の安全保障」と「平和構築」について書き込まれたと思います。人間の安全保 障の観点は、私どもが取り組んでいる保健医療の分野、特にMDGのことなど考えて も、非常に重要な視点なので、このことがODA中期政策に盛り込まれていることは重 要であると思います。  一方、人間の安全保障という概念は、まだ少し難しいというか、専門家の中でも一人 ひとり微妙に解釈が違うようなところがあります。戦略会議で私が意見として申し上げ たのは、これまでの人間開発という視点だけでは落ちこぼれてしまう人たちがいるの で、そういう人たちに対してもきめ細かい支援ができるようにすることではないかとい うことです。こういったことを考えますと、厚生労働省の関わっている保健医療も水道 も労働も、ODAの中で大変重要な役割を果たしていくのだろうと実感いたしました。 ○福田室長  貴重な補足をありがとうございました。そのほか、何か事務局の説明に対して補足と いう観点からご説明、ご意見はありますでしょうか。ないようでしたら、議題の後ろの ほうで相互に意見交換の場もありますので、その中で補足なりご意見をいただければと 思います。それでは議題の3に移りたいと思います。各分野の進捗状況の報告等です。 各分野の座長の先生から進捗状況及び今後の検討の方向について、ご紹介いただければ と思います。議事次第に則り、最初に保健医療分野について、中村座長にお願いいたし ます。 ○中村座長(保健医療分野)  保健医療分野の中間報告について、簡単に報告させていただきます。資料2です。保 健医療分野の中間報告はもう本当にアネックスなしの本文だけで、非常にコンパクトに なっています。保健医療分野では2003年の8月以降、いままで5回検討会を開催しまし た。初めのころはこの広い分野を限られた乏しい人数の会員で考えるのか、本当に茫漠 とした分野でしたが、リトリートに近いフリーディスカッションをする中で、3つの 柱、3つのテーマが浮かんできました。それは国際協力に携わる人材の養成、国際協力 データバンクの構築、国際協力の将来あるべき方針ということでした。それでワーキン ググループを立ち上げ、会員がワーキンググループに属して、この検討会とは別に会 員、また専門会員の方々のご意見を借りながら、各々ワーキンググループでテーマごと に整理していくというやり方をとらせていただきました。  以下、初めてこの中間報告を見られた方もいると思うので、この中間報告に沿って、 ザッとお話をしていきたいと思います。初めは国際協力に携わる人材の養成です。これ に関しては資料2の5頁です。人材養成に関する主な論点は3つあり、人材開拓のニー ズ、すなわち、どういう人材がどれくらい求められ、そのためにはどういう訓練が必要 かというクエスチョン、そして人材の募集と供給の不一致、すなわち、人材を募集する 側の条件と人材を供給する側の条件の乖離はどうしたら解決できるのか。3つ目が人材 の養成方法で、人材をどのように養成し、活用したら本人のキャリアパスの構築につな がっていくのか、こういう観点で種々検討を行いました。  その結果、6頁(1)、人材の開拓、定量的なニーズを把握し、関係省庁が連携し て、保健医療分野の国際協力にどういう人材がどれくらい必要か、という中長期的な戦 略を作っていく必要がある、7頁に(2)、人材の需要と供給のミスマッチをどうした ら解決できるのか、そして、(3)、人材の育成とキャリアパス、人材をどういうよう に活用していくのかということが問題になりました。それで、結局こういうことを解決 していくためには、国際保健医療協力にかかわる人材連絡会議を設置し、そこで人材の 需要予測の検討、人材の検索と質の評価、定期的な情報交換と発信の場などを実務的に 協議、調整することが必要だろうとして、こういう提言をまとめました。  今後、私たちの事業評価検討会では、従来もこの分野、特に保健医療分野は10年ぐら い前からいろいろな検討会、報告会で提言がなされています。人材の養成に関しても、 いままで随分たくさんの提言がありました。しかし、その提言が実際に実施されたかと いうとかなり別で、提言で止まっていて、私たちはこれを実施できるようなことを考え たいと思いました。現在聞くところによると、今回のスマトラ沖地震の際などでも、必 要な人材が必要な機関から必要なときに現地に出ていくということになって、前とはか なり情報の人材に関するネットワークの動きが変わってきているように思います。た だ、これも従来のような、何かどこかに人材の登録をしておいただけでは駄目で、それ が何か事があったときにダイナミックに動いていくというシステムが必要ではないかと いうことで、これに関しては今後残りの期間で検討していくことになっています。特 に、国際医療センターの国際医療協力委託研究費などでも、新規課題として人材養成が テーマとして上げられていると聞いていますので、そういう枠組みを利用するなど、い ろいろな形でオペレーショナル・リサーチみたいな形で、こういう仕組みが動いていけ ばと現在考えています。  9頁、国際協力データバンクの構築です。最も重要な私たちにとってのクエスチョン はデータバンクの整備は過去に提言されたにもかかわらず、なぜ今日まで実現されてい ないのか、皆さんが必要だと言い、一部はできているけれども、実際にはあまり動いて いない。この部分で種々の検討を行いました。細かいことは今日は省きますが、9、10 頁でかなり細かいデータの分類を行いました。過去5年間の無償資金協力案件をすべて データに入れる、人材のデータもJICAなどで使っているデータベースを作ってみる などいろいろなことをした結果、12頁に、国際協力データバンクの設置要項(案)があ りますが、過去の事業の評価と今後の事業への活用という両方を目的として、ODA案 件の情報を集計するデータバンクが必要ではないかということを一応提言させていただ きました。  具体的な主要目的としてはセクター別、プログラム別、案件発掘・形成など、いろい ろな参考情報が得られて政策提言につながるようなものにしたいということで、具体的 には14頁、15頁に雛型があります。14頁が簡易情報データベース、15頁は技術協力に関 する雛型を作って、今後データベースを実際にパイロット試験を行って、平成18年度以 降に本格的に稼働していきたいと考えています。これも国立国際医療センターの研究班 とリンクして、具体的に仕事を進めていく。そのときに現在個人情報保護法との関連も あり、情報公開できる部分と情報公開できない部分とをきっちりと分けた上で、初めか ら情報を収集して、情報公開のことも考えて、同時にデータバンクを設置運用していき たいということを考えています。これはかなり具体的にオペレーショナルな話で動いて いると考えています。  16頁です。国際協力の将来あるべき方針に関してのワーキンググループで、いろいろ な検討をしました。ここでは厚生労働省が保健医療に関する責任官庁として保健医療分 野の国際協力の将来あるべき方針を決めていく。その方針を決めるための軸として目 標、システム、リソースに関する各軸に大別していろいろなディスカッションをやって いきました。この辺のディスカッションは紆余曲折というとあれですが、ストレートに 初めから結論があってそちらへ向かっていったのではなく、本当に試行錯誤、トライ& エラー、いろいろな意見が出た中で、現在でも完璧にまとまったものではありません が、21頁までにプロセスと基本方針の案を出しました。  基本原則の(a)と(b)は先ほどお話したことですが、1つずつの軸について論点 を特定し、提言に結び付ける。また、我が国だけではなく、ほかの国や機関の方針と比 較して、日本と世界の位置関係の中で考察していく。そういう意味では今回の新ODA 中期政策なども大いに今後反映していく必要があると考えています。そういう意味では 戦略もあまり1つのものを長期間使うのではなく、何年かしたら更新していくことを考 える必要があるだろうということです。  22頁に戦略を書いています。基本的な戦略としてMDGsの達成が優先課題となるよ うな国では、幼児死亡率の減少、妊産婦の健康改善、感染症対策が中心になるだろう し、国内の経済格差の解消が優先課題となるような国では、もう少し包括的な地域開発 が必要だろう、ODA卒業間近のような所では保健、社会保障システムが必要だろう と、いろいろなレベルごとに目標が変わっていくのではないかということも考えまし た。  23頁ではシステム論としてニーズ、スキームをいろいろ書いていますが、中期、長期 的なヘルスシステムの強化支援のニーズに対応するためには、政策アドバイザーの投入 が必要ではないかということも議論しました。また、スキームの点ではNGOや国際機 関との協力、マルチ・バイの連携、企画実施体制の面ではプロセス重視なのか、成果重 視なのかという基本的評価の点などに関しても種々議論をしています。今後、ここで行 われた種々の議論と、現在いろいろ進んでいる新ODA中期政策の話、今度外務省を中 心にミレニアム・ディベロップメント・ゴールに関する中間報告など、いろいろな外的 な要因も考えながら、今後保健医療分野のイニシアティブの内容に反映させていきたい と考えています。  また、先ほどの話にもありましたように、今度国別援助の中、あるいは現地ODAタ スクフォースという中にこうした議論をどのように活かしていくのかというのが、今後 の大きな課題だろうと思っています。  以上がおおまかないままでの説明ですが、何回かこういう形で検討会で議論し、大き く人材の養成、データバンクの構築、国際協力のあるべき方針といったワーキンググル ープの成果が、単なるここでの中間報告や提言だけでなく、かなり厚生労働省が具体的 にいろいろな関係省庁と連携して、あるいは研究班などと連動して、オペレーショナル ・リサーチみたいな形で、実際にいま少しずつ動きつつあるというのが非常に大きなこ となのだろうと思います。こういう部分はまだまだトライ&エラーの部分があるので、 少し走りながら、十分柔軟に考えていって、いい形を作っていくという姿勢で、現在ま でもやってきましたし、今後の残りの期間もやっていきたいと考えています。 ○福田室長  ありがとうございました。保健医療分野については一昨年の夏から検討が始まり、昨 年の秋にこの中間報告をまとめたわけで、1年強くらいでこれだけの成果をまとめてい ただいたわけです。大変熱心な議論があったと記憶していますし、またこの中間報告の 内容については先ほどご説明があった新中期政策の各省協議の中で、十分に活用させて いただきました。それが必ずしもすべて文言が盛り込まれたわけではありませんが、そ の考えを説明し、お互いに意見のキャッチボールをする中では、十分に活用させていた だき、この中の成果も一部取り込まれているというところです。  この場でほかに2分野がありますので、意見交換については最後にまとめてやらせて いただきたいと思います。ただいまの報告について保健医療分野の先生方から補足です とか、他分野の先生方からご質問がありましたら、受けたいと思いますが、いかがでし ょうか。時間の都合もありますので、すべてを含めて最後でまとめてさせていただきた いと思います。それでは労働分野について、吾郷座長からよろしくお願いいたします。 ○吾郷座長(労働分野)  九州大学の吾郷です。労働分野のいままでの活動について報告します。労働分野につ いての検討会は昨年3月に第1回の会合を開催してから本検討会を4回、分科会を2回 開催して、前半の検討結果を取りまとめたものが、お手元の検討状況中間報告です。1 回目の3月に行った検討会ではこの会に期待されるアウトプット、活用方法、検討事 項、必要情報についての決定があり、同時に分科会の設置を可能とすることと、ケース スタディ実施のための関係者からのヒアリングを可能とするという権能が与えられまし て、3年間の検討スケジュールを決定したということで始まっています。  2頁の(1)のロにあるようにいろいろな意見が出て、それを踏まえて6月11日に第 2回の検討会でさらに検討が進められました。第1回の検討会で出た黒ポツでいくつか 書いてあるいろいろな意見に対する事務局側の説明があった後、専門的な関係者からの ヒアリングの第1回として、国際開発高等教育機構(FASID)の開発した政策・プ ログラム手法のLEAD手法というものの紹介がありました。これはある意味では、会 員自身が評価方法について勉強するという目的が一部あったと思われます。  第2回検討会で労使関係・労働基準分科会及び雇用・能開分科会の2つが設置される ことが決定されました。その決定に基づき、雇用・能開分科会は昨年9月22日に第1回 の会合が開かれました。野見山会員が分科会の座長で、主としてFASIDのプロジェ クト・サイクル・マネジメント(PCM)手法で、政策・プログラム・レベルの事業は LEAD手法によって評価の試行を行うということで、現実に行われていた中国の雇用 開発プロジェクト(PEP中国)を題材として、その手法を使って評価を試みることを やったわけです。  その直後、今度は本会議というか、第3回検討会が9月末にあり、ここでも引き続き 前回と同じように、検討会で出されたさまざまな問題点について事務局からの回答があ り、それについての質疑応答を行った上、第3回の検討会では関係者からのヒアリング 第2回として、前ILOアジア太平洋地域総局長をお招きして、日本のマルチ・バイ・ プログラムの実施状況とさまざまなご経験を伺いました。同時に人材の育成についてと いう新しい問題点についても着手し、これも検討会で取り上げていくことになったわけ です。  2つ設けられた分科会のもう1つ、労使関係・労働基準分科会は第1回の会合を11月 に開き、中村会員が座長として取りまとめをしました。ここでも同じようにASEAN の労使関係プロジェクトを1つの題材として実質的に評価手法をそこで当てはめて試し てみる目的で、それを評価の対象として実際の評価を行う作業をしていただきました。  そして、第4回目の検討会が12月24日に開かれ、ここでも同じように前回の検討会で 出たさまざまな疑問点、質問点について事務局からの対応があった後、事務局よりIL O/日本マルチ・バイ・プログラムの問題点と対応の方向についてという説明があっ て、労働分野の国際協力事業の改善の方向性について論点案の議論がなされたという経 過を辿って今日まできています。  後ろの、6頁からがそれぞれの検討会の中で議論されたことのまとめですが、詳しく 述べていると時間を超過しそうなので、それは後の議論で質問があれば補うとして、非 常に大ざっぱにまとめると、当面労働分野の検討会においては、何度か出てきているよ うにJICAの用いているプロジェクト・デザイン・マトリックス(PDM)という手 法とか、FASIDのPCM、あるいはLEAD手法という評価方法を具体的に当ては めて、試行してみるという、主としてどのように評価をしたらよいかというところに焦 点を当てた検討をしています。先ほど伺っていた保健医療分野では実際の提言をだいぶ なさっているようですが、そうではなくて労働分野では当面かなり評価の方法というと ころにこだわった形の検討をこれまでしてきたと考えてもいいかと思います。  そういうことで全体で3年計画の検討なので、当面は試行としていろいろな評価のや り方をやってみて、どれがいいかというものを探し出すところに重点が置かれたわけで す。今後どういう方針でこの検討会は進めていくかといいますと、14頁、今後の検討の 方向というところにまとめて書いてあります。労働分野の国際協力事業予算は減少傾向 にあります。後ろの資料に円グラフや棒グラフが付いていますが、それらを見ると歴然 なのですが減少傾向にある。今後、どの国に対してどの協力分野に重点を置いて協力す るか、優先順位を決定して取り組んでいく必要が当然生じてくるわけです。それには協 力の基本方針の決定、あるいは地域別、国別の方針の検討も必要なのではないかと考え られ、来年度議論を深めることにしています。その際に考慮に入れる点としてイ、ロ、 ハとあり、ODA大綱や新しいODA中期政策で先ほど説明のあったもののうち、イは 「人間の安全保障」の視点からの協力のあり方とはどういうものか。先ほど青山先生が 言われた概念がもうひとつはっきりしないというところは、我々にとっても興味深いと ころではあるのですが、ロは協力分野と協力手段の関係、各協力手段の連携をどうした らいいか。ハは発展段階に応じた協力のあり方に注目しながら、今後の検討を進めてい くべきだということです。  次に評価の改善とありますが、前記4(4)とありますが3(4)の間違いのような 気がします。4は(3)までしかないので、多分3の(4)だと思います。3の(4) に指摘がありますが、試行の取りまとめを踏まえ、枠組みと実施主体、手法のあり方に ついて検討をさらに続けるということです。  2回目の検討会で出てきたこれからの人材の育成について、この辺からだんだんと評 価を超えて提言に向かっていくわけですが、どのような人材がどのくらい求められてい て、どうやって育成するか。そういうことについて叩き台としての論点が資料15に付い ています。これも来年度以降、さらにやっていこうということです。  最後に調査研究とあり、対象となる開発途上国がどのような状況になって、どういう 課題を抱えているか。相手を知らなくて協力はできないだろう、それを解決する上でど のような対策が必要とされている調査・研究することが重要ではないか。そして、その 一貫として厚生労働省国際課のほうからJILPTに政策研究を要請して、一定の研究 をしていただいているわけですが、これも検討の対象になるということが書いてありま す。これが労働分野における検討会のいままでの活動の報告です。 ○福田室長  ありがとうございました。昨年のいまごろからこの労働分野の検討会がスタートした ように思いますが、1年間、特に評価を中心とする議論の中から、14頁で説明いただい た形で、いくつかの論点というか、方向性をお示しいただきました。非常に膨大な資料 に基づく緻密な議論が毎回行われていたと記憶しています。労働分野の他の先生方から の補足、もしくは他の先生方からいまのご説明に対するご質問などございましたら、お 受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。それではまた最後のところの意見交換の 中で含めてさせていただくことにして、水道分野の報告を眞柄座長にお願いしたいと思 います。 ○眞柄座長(水道分野)  資料の目次にあるように、10月に第1回の検討会を開催し、その後2回にわたり主と して人材確保・人材育成についてのワーキンググループを開いていただき、検討を進め ています。中期政策にもあるように水道の分野は貧困の問題と公衆衛生の向上という生 存権の問題、都市活動を支えるという社会基盤施設としての役割と、大きく3つがある わけで、その3つをいかに融合していくかということが課題なわけです。世界レベルで いうとミレニアム・プロジェクト等で、あるいは水フォーラムなどで言われているよう に、安全な飲料水にアクセスできない人口が11億人、衛生的に屎尿が処理されていない 人が20億人現在いるわけです。その人たちに最低の生存権を保障するために世界レベル でいうと数十兆円の資金が要るといわれています。また、世界の人口、特にアジアでの 人口はまだまだ増加の傾向にあるので、安全な飲料水の供給と衛生施設の整備というこ とに関しての緊急性は下がるどころではなく、ますます高まるというのが実情です。  そういう観点から見ると、ODAでバイの形で行われている水道と衛生分野はODA の中で大変高いシェアを占めています。借款を入れて年間2億ドルぐらいになっている のではないかと思います。世銀等への資金の拠出額も世界の中で突出をしていますが、 実際にそういう資金が開発途上国で使われているのですが、施設を整備する段階までは それなりの効果をいままでは出しているし、被援助国側からもそれなりにアクノレッジ されているわけです。作られた施設を管理したり、水道の場合だと開発途上国であって も独立採算性をベースに運営されているわけですが、その運営の部門に対してODAが これまで重視してこなかったということ、その運営自体が相手国側が行うのではなく、 フランスやヨーロッパの民間企業が運営にあたるのが実情です。そういう意味からいう と、我が国の水道分野がある意味では、ビジネスチャンスをなくしているということが いえるのではないかと考えています。  ごく最近、新聞で報道されたタイ国のバンコク地域に水道を供給している首都圏水道 公社の施設の95%が円借款で整備されてきた施設です。その首都圏水道施設がタイ国政 府の政策で、民営化されて株にして市場に出すことが報じられていますが、これまでの 経緯を見ると、これまでのタイの首都圏水道公社の筆頭株主はフランス国の民間会社が なるだろうということになると、まさに日本国政府が施設を整備して、おいしいところ をフランス国が取っていくという状況が生まれつつあるという問題も、水道分野は抱え ているということです。  1頁です。そういうことなどいろいろあるのですが、昨年の6月に厚生労働省の健康 局水道課が水道ビジョンという水道分野の政策目標と、その達成のための政策、施策を 取りまとめています。これについては資料9頁から、水道ビジョンの抜粋が掲げられて います。10頁で水道ビジョンは日本の水道は世界のトップランナーである。トップラン ナーというと英語でいうと「ランナーズ」でトップランナーを走っている者たちの1人 だということだと思いますが、そういうランナーであり続けるということが、国民が安 心して日常生活を暮らせるというのが目標で、具体的にいうと「安心」、「安定」、 「持続」、「環境」及び「国際」という5つのキーワードの下に、水道分野での政策課 題を提起しています。  このビジョンの中で国際ということが謳われており、国際についての長期的な目標は 10頁の下段に、「長期的な政策目標」としては、我が国の水道整備、あるいは水道事業 の経験を海外に移転して国際貢献を図ろうというのが1つです。さらに、もう少し具体 的に言うと、11頁に、技術移転の問題ともう1つはそれを展開することを保障する国内 体制の整備を図ることが求められています。  もう1つは先ほど申し上げたことと関連するわけですが、いわゆる日本の水道分野そ のものが国際競争力をさらに強めなければならないという認識です。具体的には、最 近、ISOで水道サービスに関する国際規格が検討されています。今年の秋に、水道サ ービスについてのISO規格が定まることになります。世界の水道事業はISOの規格 を満たすように、事業展開をするということが求められるようになります。  違う表現をすると、ISO規格に合う水道を整備するのが言わば国際標準になる。我 が国を含めて、いわゆる援助側がISOを使って援助の内容を定めるということになる わけです。しかし、実態を言うと大変曖昧な国際規格で、それぞれの国ごとに定める水 道サービスの規格を持って、援助の内容を決めるということが可能なISO規格になっ ています。  そういうこともあり、我が国の水道事業に対する国内規格を作成しました。この国内 規格を活用することによって、特にアジア地域の都市水道に関しては日本の国内規格を ベースに援助を行うのが、ある意味では都市水道の持続性を保証するものになるだろう と考えています。既にいま申し上げた国内規格について、出されてから1カ月ぐらいし かたっていませんが、中国と韓国がもう翻訳作業に入っています。彼らが日本の水道を できるだけ学ぼうということをやってきています。そういう意味では、その次に書いて あるように、国際貢献の推進と国際調和という観点から、水道分野の事業を展開してい かなければいけないということです。  もう1つは、具体的には水道分野の人材確保、人材育成のためにODAベースで10年 間に約600人、専門家を10年間で400人派遣しようというのが水道ビジョンでの長期目標 の1つに掲げられています。  もう1つはいわゆる国際機関との連携をどう進めるか。厚生労働省内のほかの分野も そうですが、我が国の水道も含めた、保健医療分野のさまざまな政策や基準などはWH Oの出すさまざまなガイドライン、あるいはヘルス・クライテリアを活用しており、水 道分野も水道水の水質基準を改定する際、常にWHOの「飲料水水質ガイドライン」を 参考にしています。  これまでは厚生労働省から専門家がWHOに派遣されていましたが、現在は派遣され ていない状況にあります。専門家は行っていませんが、情報の連絡、あるいは我が国の 実情に応じた水質ガイドラインを作成するに当たって、今後ともWHOを中心として、 国際機関との連携をさらに強化していきたいというのがビジョンの中に掲げられていま す。  こういう背景のもと、検討会が発足いたしました。2頁に戻って、いろいろな観点か ら議論がなされています。これまでの水道分野のODAの多くは、地方自治体、都市の 水道事業体の中から専門家が派遣されています。その意味では、主要都市の水道局がこ の分野の援助のキー・プレイヤーとも言えるわけです。  しかし、地方自治体から出ておられる専門家に対するサービスが必ずしも十分ではな いのではないか。もっと、喜んで専門家を派遣していただけるような枠組みを考えるべ きではないかということから、人材バンクを含め、人材確保と育成について検討するた めの分科会を作っていただきました。  また、今日もご出席になっていらっしゃいますが、横浜市ではベトナムの都市とある 種の提携をされています。横浜の水道技術をベトナムの都市水道へ効率的に移転をする 仕組みを展開されていらっしゃいます。そういう事柄をさらに促進するにはどうしたら いいか、ということも検討していただきたいということで作業を進めていただいていま す。  資料1−2「中期政策」の6頁にあるように、いわゆる民間資金と公的資金を融合し て、特に水道のようなインフラを整備する「官民パートナーシップ」と呼ばれています が、この官民パートナーシップが実は水道の分野で積極的に行われています。世界銀行 などは官民パートナーシップを条件に融資する、というようなことを行っています。そ ういう意味では、水道分野でも従来のODAの枠を超えるかもしれませんが、官民パー トナーシップをもっと積極的に活用したらいいのではないか。そのためにはどういう問 題点があるか、ということを検討していただく分野も設置しようということになってい ます。これについては、まだ具体的な活動が行われていない。来年度以降、この分野も 作業が進められるようになるということかと思います。  そのあといくつかの問題が指摘されました。中期政策で現地タスクフォースをこれか ら強化し、それを活用していくという政策が展開されています。実際、専門家を派遣し ていただいている地方自治体の方々からすると、現地タスクフォースが力を持つという ことは現地の情報と派遣側との間の物理的な距離が情報距離にもつながる。どういう所 へ、何のために行くかという情報が現地から入ったとしても、多分A4で2枚ぐらいだ ろう。これでは大事な技術者を派遣するのに躊躇されるところが出てくる可能性があ る。プロジェクトを進める、あるいはプロジェクトを起こすためには現地タスクフォー スの方式が良いのはわかっていますが、専門家派遣をするという立場から言うと、現地 タスクフォースだけではなくて、現地の情報を派遣先に的確に提供していただけるよう な仕組みも必要ではないかということが議論されています。  それから、先ほど課長が言われたように、派遣する側にとってみれば、例えば横浜市 の職員を、なぜベトナムに派遣しなければならないかを市民に説明しなければならない わけです。その意味では、それぞれの事業に対するアカウンタビリティが派遣先にしっ かり伝わるようなことも検討していく必要があるのではないかということです。  もう1つ、人材育成というのは、日本の専門家を育成するということではなくて、実 際整備された水道施設を運転管理、あるいは水道事業をマネージメントする人間を開発 するということが必要です。これまで、そういう意味での事業が展開されていませんで した。そういう意味で、いわゆる高等教育に類するところから職業訓練に類するところ まで、水道事業というのはさまざまな人間によって運営されています。そのような人間 を例えばタイで集約的に育成する。あるいは、我が国の大学のどこかと提携していただ いて集中的に人材を開発する。今後、そのような仕組みも考えていく必要があるのでは ないかということが議論されています。  人材育成のワーキンググループでは、水道事業体に対してアンケートを行い、人材派 遣の問題点やいわゆる人材バンクをどのような形で整備していったらいいかについて調 査を行っています。詳しくは14頁以降、さまざまな資料が準備されていますので、あと からご覧いただきたいと思います。テーマが違っているだけで、根幹、あるいは主要な 課題は先ほどご説明いただいた2分野と同じです。言ってみれば、PCMやPDMを水 道の分野でこれからどうやって活用していったらいいか。あるいは、どのような考え方 で人材育成をしていったらいいかということが議論されています。そこから浮かび上が った内容は、ほかの分野とそれほど変わっているものではないという印象を持っていま す。  私は昨年5月、国連の「持続可能な開発委員会」で我が国の水道、あるいは屎尿の衛 生処理の歴史と、どういう時点でその効果が現れたかということをお話いたしました。 そこで申し上げたのは、水道と屎尿の衛生処理が普及率で言うと70%に達したときに、 我が国における全国の赤痢の患者発生数が1,000人台になった。その10年前だと普及率が 50%ぐらいでしたが、そのときは1万人ぐらいというお話をしました。  同じことをユニセフのタイにいる専門家が、タイで水道と屎尿の衛生処理をもう30年 ぐらいずっと続けてきた、感染症のデータも取って、そのデータと合わせて見せてくれ ましたが、タイでもやはり水道と屎尿の衛生処理率が70%程度になって初めて感染症が 少なくなったということが、国民の実感として受け取られるようになったということを 話してくれました。  そういうことから申しますと、いちばん最初に申し上げたように10億、あるいは20億 の人たちが待っているわけです。そのためには息の長い援助をしていかなければいけな いだろう。「70%まで上げるのか」と言われるかもしれませんが、少なくともどこかの 段階で途上国の人たちが自力で施設をマネージメントできる。その水準までフォローア ップしてあげなければいけないだろうというのが私の認識です。検討会とワーキンググ ループは合わせて3回しか開催していませんので、ほかの分野の方々と比べると一生懸 命あとから追いかけているところです。来年の合同のときにはもう少し、皆さんにキャ ッチアップできるようなご報告をしたいと思っています。よろしくお願いします。どう もありがとうございました。 ○福田室長  どうもありがとうございました。眞柄座長は水道ビジョンの取りまとめ役でもありま すし、また水道分野については過去にJICWELSを中心とした検討も行われていま す。そういったことを土台にして、先ほど眞柄座長が「開催の日数が浅い」とおっしゃ っていましたが、内容についてはかなり深い議論がもう既に始まっているというように 事務局としては感謝申し上げているところです。ただいまの眞柄座長からのご説明に対 して、水道分野の委員からの補足、もしくはそれ以外の先生方からご質問などありまし たらお受けしたいと思います。特にこの場でなければ、最後にまとめてということで進 めたいと思います。  実は現在立ち上がっている分野は、いまそれぞれご紹介いたしました3分野です。あ と、厚生労働省の国際協力分野としては社会福祉分野があります。これは一昨年に改定 されたODA大綱においても、新しく「福祉」という分野を入れたこともあり、厚生労 働省としてもこれから進めていかなければいけない、非常に重要な分野であると認識し ています。ODA大綱にも約2年ほど前に書き込まれたということもあり、本分野につ いては私ども自身の実績も必ずしも多くないということもあり、まずはさまざまな知見 の蓄積から始めていきたいと考えているところです。今後はそのような知見を踏まえな がら研究などを行い、検討を進めていきたいと思っています。関係機関、既にいろいろ 実績のあるところに教えていただきながらやっていきたいということで、まだ検討会と しての形を取るまでには至っていないというのが現状のご報告です。  4分野についてひととおりのご紹介が終わったということで、これから先ほどのいろ いろなご説明なども踏まえ検討の状況、また今後の方向性について、先生方の間で自由 な意見交換をしていただければと思います。私ども事務局で感じているのは、先ほど眞 柄座長のお話にもあったのですが、会議に参加しているとそれぞれの分野がいろいろな 意味で実に違うのですが、議論を深めていくとある意味では非常に共通したものが見え てくる。ただ、そこへのアプローチが共通になるのかどうかというところは、事務局と してわからないところもあります。いまいろいろなご説明がありましたが、そういった 点も含めて今後どういったところに力を入れていったらいいのか、相互のご質問や意見 交換の中で私どもも学んでいきたいと思います。先生方の間でよろしく意見交換を進め ていただければと思います。  実はここから先が進め方が難しいのですが、どなたかご発言いただければいちばんあ りがたいと思います。何かございますか。 ○眞柄座長  水道分野のODAで具体的なことを申し上げたいと思います。無償資金援助で水道の 水をきれいにする、浄水場を整備する。それは言わば、箱を作ったわけですが、水を浄 化するためには薬品が要るわけです。この薬品が実はODAの対象にならない。という ことは、施設を作っても、その施設の機能を十分発揮させるためには薬品が要るわけで す。例えば、塩素消毒をしようと思ったらさらし粉が要るわけです。これが無償資金協 力、あるいは援助の対象にならない。それは自助努力でやれということになる。施設を 作っても、それが有効に活用されない例が非常に多いわけです。ほかの国ですと施設整 備のあとまで、例えば5年分のメインテナンスは援助の対象にするというようにしてい るわけです。  私はほかの分野のことがよくわからないのですが、例えば医療分野で医薬品がもし無 償の対象になっていたとしたら、水道の分野で使う薬品も言うなれば無償の対象にして くれてもいいではないかと感じています。「そのようなものは要らない」と言われる か、あるいはもうやっているから「なぜ水道分野はそういうことをもっと声を大きく言 わないのか」というようなご叱声でもほかの分野からいただければ幸いですがいかがで しょうか。 ○福田室長  いかがでしょうか。例えば、医療分野はワクチンなどにしてもさまざまなルートでや っていると思います。 ○小林会員  眞柄座長のお話を聞いていて、医療分野でも例えば予防接種、プライマリ・ケアのサ ービスなど、初期投資とマネージメントと2つに分けようと思えば分けられると思いま した。マネージメントはある意味で継続的に出てくるものを扱うので、それを受益者に 負担してもらうのか、負担してもらうのであれば保険でいくのか、あるいはユーザー・ フィーでいくのかという議論は医療分野でかなり前から議論されていました。  これに関して、まず正解は1つではないと思います。その国の発展段階、あるいは理 念みたいなものも絡んできますし、援助するにしても永久という形は無理だと思いま す。実際、日本のスキームがどのような形で援助をしているか知りませんが、海外のド ナーがどのような姿勢で臨んでいるかを広く調べてみるというのも1つの方法だと思い ます。医療分野ではかなりその辺のレビューが進んでいますので、むしろ水道分野で海 外の援助機関がどのようなスキームで臨んでいるかをお伺いしたかったというのが、逆 に質問になりますが、思ったことです。 ○北脇会員  実は私も眞柄座長と同様の分野で仕事をやっています。今後、援助スキームをかなり いままでと変えて、例えば維持管理の部分もODAで見られるようにとか、そういうこ とは是非必要だと思っています。  それから、先ほども出てきたODAで作ったものの、維持管理を民間の会社が引き継 いでやる。こういう部分はおそらく対外務省、場合によっては対経産省というところに もどんどん働きかけていって、初めてスキームを変えるというところまで行くのではな いかと思っています。この委員会の中でほかの省庁との交渉に臨めるような結論をどん どん出していければと思います。スキームはかなり変えていく必要があると思います。  それから「自助努力」という言葉は外務省用語だと思います。引き渡して終わりとい うのではなくて、そのあとが本当に大事である。それをフォローするのはこういうライ ン・ミニストリーの仕事である。そのためにはスキームを変えていく呼びかけをしてい く必要があると思っています。 ○上原会員  医療のほうで私の考えをお話させていただきます。多分、一般的な認識だと思いま す。リカレント・コスト、薬のような消耗品を出すか出さないかということについて は、開発援助の中では私の認識だと、ドナーも依存性をなくすという意味で、そこは向 こうが持つという建前です。日本もそれに従って、向こうが出せないのをわかっていな がら無理矢理「出せます」と一筆書かせて、結局機械も病院も動かないという状態に過 去こりてきているわけです。それに関しては他の国も同様だと思います。  もう一方で、例えばサブサハラ・アフリカもそうですし、南アジアもそうですが、低 開発途上国に対してそういったものを保証しろということが無理である。おまけに、昔 のように大きい病院を建てて、無茶苦茶な援助をしている時代というのはむしろかえっ て向こうに負担をかけてしまっているわけです。かといって予防接種など、もう少し保 健センターレベルの本当に必要なものであってもなかなか向こうでできないわけです。 そういったところについては、ヒューマニタリアン・アシスタンスという考え方で一定 期間提供していくということも必要で、ようやくそういった考え方がEPIの薬、結核 など、限られたものについて認めようではないかというニュアンスになってきていま す。いまの人間の安全保障という考え方は、そこのところをきちんとコンセプトとして 出し得るフレームワークになると思っています。ただ開発援助なのか、ヒューマニタリ アン、あるいは人間の安全保障というコンセプトに基づいたものなのかということで仕 分けがあり得るということが1つです。  開発援助であった場合でも、例えば病院など本当に必要なものを日本が援助して、あ とは向こうがリカレント・コストを持つことが本来期待できるものであったとしても、 やはりイニシャル・コストというのはかかりますし、生産しているものがリカレント・ コストを賄えるだけの収益を上げるまでには時間もかかります。それを例えば3年、5 年ときちんとプランニングして、それを評価の対象にして、それを提供していくという ことはしないといけないのではないか。病院の場合、もともとは商社の方、機材屋に持 ってもらって、1年、2年、彼らに含んでもらって、やってもらう格好だったのです が、それをもう少し表に出して、きちんとサポートしていく必要があるのではないか。  ただ、ちょっと懸念するのは、水道というのはかなり収益を上げながらやっていく形 になるものが多いわけです。そういったものに関して、リカレント・コストを維持でき るだけのプランが作れないとか、主体がいないところにそれを入れて、3年、5年で果 たしてうまくいけるのかどうか、わからない点があります。ルーラルや南アジアなどの レベルだと、そういったレベルの水道まではまだ必要がない所に持っていった場合に は、かなり無理が出てくることがある。やはり、プランニングと評価をきちんとするこ とが重要になってくるのではないかと、医療の経験から思います。 ○眞柄座長  ありがとうございました。いま先生がおっしゃったように、すべてのところで必要で あるというわけではなくて、レベルに応じてということだろうと思います。ご存知かと 思いますが、バングラディシュやインドの東部は飲料水が砒素で汚染されているわけで す。日本ではまだ具体的に、政府援助はごく一部しか入っていないのですが、NGO、 あるいはほかの国が施設を整備しても、それを運転するための薬品費が出ず、半年ぐら いで放棄されている。薬品があれば動く。ただ、それが最貧国、特に地方へ行くとそれ すらも出せない。言ってみれば、デッドしているものが非常に多い。それを活かすため にどうしたらいいか。  日本のODAで砒素を除去するための施設整備をしようということを考えても、実際 は動かせない。だからやめよう、という結論にもなりかねない。もう少し、柔軟なスキ ームを是非国として考えていただけるといいのではないかと思っていました。ありがと うございました。 ○上原会員  医療分野として、病院に関しても日本政府に考えてほしいと思うことが同じようにあ ります。もともとのデザインとして、財政的にマネージできる能力に応じたテクノロジ ーを作っていき、こちらの援助能力を高めていくことが1つある。  もう1つ、それでもそういった病院とか、もう少しお金のかかるものに関して、アメ リカなどは病院を作ってしまって、「やめます」と宣言したときに何をしたかという と、多くの場合に基金を作って、エンドースメントをやって、ある程度のお金をポンと 置いて、その利子で運営していくための運営能力に関する技術移転をやって、その公団 やNPOみたいなものを作り、そこが利子でうまく回していけという形を取りました。  日本も自分たちが作った病院でずるずる引きずっているものがいっぱいあります。私 はそろそろそういったことを考えて、あまりいつまでも永遠に引っ張らないほうがいい のではないか。医療のほうもかなりそういう問題を抱えているように思います。 ○福田室長  どうもありがとうございます。先ほどの眞柄座長の問題提起に対して、労働分野では それに類したような課題、それにレスポンスするようなご経験がもしありましたら教え ていただければと思います。何かありますでしょうか。 ○吾郷座長  いままでの議論を伺っていて、ずいぶん違うなと感じているのは、私どもに法律専門 の方が多いせいかわかりませんが、かなりマンデートに忠実に、事業評価・検討してき て、そのための手法を勉強するというところから始めて、3年がかりで大がかりにやろ うということをやってきました。  他の分野ではかつてこうやっていて、それが駄目だからこうすべきだという議論展開 になっています。そこに当然評価は入っていますが、かなりプランニングの提言的要素 があるように思います。私たちはいまのところ、それは一切しておりません。皆さん、 ご専門の方々がずいぶん揃っていらっしゃるのですが、おそらくかなり堪えていらっし ゃると思います。つまり、こういうことをやりたいといろいろ内容を持ちながら、「い やまだ」と思っている。先ほど、課長が言われた説明責任、アカウンタビリティを全う するために、いままでやってきたことが本当に正しいのか、正しいかどうかを評価する 方法はどうかを勉強してきたので、こうするとこうなるというところの議論はあまりや っていません。その点、少し違うかなという感じを持ちました。 ○福田室長  どうもありがとうございました。ある意味では実施手法というところもあります。も し知見がいただければ、小野委員から少し教えていただければと思います。 ○小野氏(松岡会員代理)  プロジェクトと実際、現場で動かしているJICAの立場からすると、先生が言われ た水道事業のような例、そうしたものが無償でなかなか出ないということでした。  例えば、JICAが厚生労働省の協力を得て行っているベトナム、ハノイの工科短大 など、実際の学生を育てるコースを設立しています。コースの中に民間との連携を入れ ていて、何をやっているかというと、例えば民間企業から本を入れる棚を実際にそのコ ースの中で作ってしまう。そういうことによって収入を得るという、収入向上のプログ ラムを最初から組み込んでいます。したがって、プログラムが終わったときに初期投資 は日本側のプログラムでいろいろな機材が入っているのですが、終わったあとにもそれ を活かして収入を上げられるようにする。上げた収入でまたコース運営の材料を買うと いう1つのサイクルを作る。  同時に、これはベトナム・ハノイの場合ですが、日本の民間企業が多く進出していま す。その中で生徒の就職の面倒を見るという、国策的な背景もあとになって出てきます が、そのような連携をなるべく取るような、そういうサステイナビリティを考える授業 を、プロジェクトを始めるときになるべく入れ込もうという工夫を労働分野ではしてい ます。 ○中村座長  少し話題が変わってもよろしいですか。 ○福田室長  結構です。 ○中村座長  3つの分野の報告を聞いて、ちょうど1986年から1988年まで北スマトラにいたときの ことを思い出しました。そのときは地域保健医療プロジェクトだったのですが、その中 に北海道、札幌市の水道局の人が来ていて、私も一緒にフィールドを回っていました。  去年、17年ぶりに村に行ったのです。ずっとフィールドにしていたティンギラジャ村 という村に行って、私はそこの保健所のことをいろいろしていました。そのとき、向こ うの人が、17年前に建ててあげた水道タンクがあるのですが、「お前が建てた水道タン クが壊れている」とか言われました。17年前ですから壊れて当然なのですが。村の人は 私が建てたと思っていたのですが、「違う、あれは水道チームがやった」と言いまし た。別に言い訳しても仕方ないですね。  そういうように、ずっと一緒にやっていたので、私が母子保健をやって、水道チーム が水をやったのですが、村の人のイメージからしたら、何か知らないがJICAの人が やってきて、水も良くしたし、母子保健も良くしてくれた。そういうインパクトで、17 年たってもイメージは残っているのです。  これが多分、JICAがまだまだ評価なども言わずに、実は大変いいかげんだったか らできた。そこでは水道チームの人と同じ場所でやろうか、私がティンギラジャ村だか らじゃあ北海道の彼もそこに水道を建てようと。現地で話し合って建てられた時代なの です。  そういう意味で、プリミティブなときには、そのようなインテグレーションというの は実は結構できやすい。ところが今回のように3分科会に分かれて、評価などといって どんどんやればやるほど、実は同じ厚生労働省の中の分野であるにもかかわらず、この 十何年間かで水道や労働の方とずいぶん距離が離れたなと話を聞きながら思っていまし た。もう1度、それをかなり人工的に、どこかで乗り入れして、インテグレーションす る仕掛けを作らない限り、このまま行けば全部バラバラになってしまう。水道がやって いらっしゃる隣の町で保健医療が一生懸命やっている。水道の方は水を良くして、感染 症が下がったと言っているけれども、隣町では今度マラリアのことを何の関係もなく一 生懸命やっている。こういうことがこれからどんどん起こり得るのではないか。  先ほど労働の研修を見たら、研修コースの中には産業医学というものがあるわけで す。これと保健医療の研修コースはリンクしているのかというと、おそらくしていない と思います。もう1度、研修プロジェクトのリンクの仕組みを考える必要があるのかな というのがお伺いしていた印象でした。印象だけですみません。 ○青山会員  いま、中村先生のご意見を伺っていて、私もインテグレーションの大切なことを考え ておりました。保健医療分野の課題は各国の発達段階によっていろいろ異なり、例えば ある程度発達した中進国レベルになってくると社会保険の問題などが出てきます。中進 国でもう1つ問題となっているのが、労働安全衛生の問題であると思います。感染症対 策等がある程度達成された国に行き、いま何が必要かと尋ねましたところ、労働安全衛 生や交通事故といった問題について協力してほしいと言われたことがあります。この、 労働安全衛生は、まさに保健医療と労働の両分野がインテグレーションするべき分野だ と思います。  今回の中期政策でも、平和構築が大きく取り上げられています。例えばアフガニスタ ンでは、まず日本とUNDPが共同で、現地の人を雇用して道路整備や清掃等を行い雇 用を創出しながら環境衛生活動をしています。また、緊急時には人道援助としての保健 医療も必要ですし、復興開発を進めるには、保健医療の人材を養成しなくてはなりませ ん。それから、安定した雇用を創っていかなければ絶対に平和は定着しません。水につ いても、緊急時には自衛隊がやっているような給水活動も必要かとは思いますが、現地 の人は、本当はちゃんとした水道が欲しいのだろうと思います。平和構築といったテー マのもとで、保健医療、労働、水道の3分野を一緒にやっていくような仕組みが、これ からますます必要になってくるのではないかと思いました。 ○福田室長  ありがとうございました。ただいまインテグレーションという観点からお話がありま した。それに関連して、先生方で追加の意見がありましたらお願いしたいと思います。 ○山田専門会員  いまの議論はもっともだと思います。私も水道分野ですので、1つの切り口として都 市と村落、地方という切り口が必要かと思います。都市のほうは非常に高い技術力が要 求されて、施設を作るという意味ではかなり難しい問題がある。3分野が協力するとい っても、情報交換としては非常にいいと思うのですが、すべてを包括することはできな いと思います。  これがまた村落、地方という問題になると、この3つの関連性が非常に強い。私も実 は今月、スリランカのプランテーションの生活改善ということで、JBICの仕事の一 部で行きます。これはまさに、先ほどからご報告があったものが全部入ります。これは 3つの分野なり、4つの分野が協力をしてやるべきプロジェクトだと思っていますの で、こういうところはかなりインテグレーションがしやすいのではないか。これはコメ ントだけです。  JICAの人材養成とかかわって、最近私どもの大学も大学院教育でその国に有能な 人材を育てて帰すということを始めています。実は今年、その担当をやったのですが、 ほとんどの国のニーズがいわゆるIT、情報分野なのです。相手国側がみんな要求して くるのが、情報分野の養成を日本でやってほしい。我々は狭い領域で考えていますが、 建設や衛生といった分野の希望者が全然出てこない。相手国に任せっきりになっている 欠点ではないか。むしろ、そういうところでその国の行政をきちんとやっていくような 人材を、まず養成すべきだと私らは思っているのですがなかなか出てこない。全部情報 分野だった。  ただ、ラオスだけが環境や建設が大事と言ってきたので、行って良い人材を発掘しよ うと思ったのですが、JICAは「ラオスは衛星テレビ網が発達しているから、東京と ラオスのJICA事務所でやれ」と言われて、この間1人30分ずつたくさんの人と面接 して候補者を決めました。この辺も省庁との関係を改善すべきではないか。  ついでですからもう1つ言わせていただきます。無償と有償という話がありました が、水道分野ではまず無償でパイロット的な事業をやって、その延長線上で有償の大き なプロジェクトに結びつけようというものが結構多いのです。最近、私の経験したもの で言うと大きな有償の中で、例えば村落でもパッケージでたくさんの地域を一遍にやる という有償があります。その中で、今度は無償のプロジェクトを支えていくというか、 フォローアップがかなり最近入ってきている。私もスリランカでそういう経験をしまし た。やはり、有償と無償の関係は排他的でもいけないし、順序的でもいけない。むし ろ、包括した全体の中できちんと有償と無償の役割を位置づけていくべきではないかと 思いました。コメントばかりで申し訳ありません。 ○福田室長  大変貴重なコメントをありがとうございます。特にテーマにこだわりません。時間も 限られてまいりましたので、各先生方、ご意見をいただければと思います。いかがでし ょうか。 ○上原会員  先ほど、水道からお話がありましたように、水道というのは自治体の水道局が非常に 活躍されている姿を見せていただいています。例えば、救急で消防が非常に活躍してく ださっています。ここにも挙がっていますように、行政のことや政策マネージメントと いったことになってくると、やはり自治体の持っているノウハウがむしろ活きやすいも のがずいぶん多いことをいつも感じています。このヘルスに関しても全くそう思いま す。  ただ、お話があったように地方自治体にとって、国際というのは基本的に国の任務で あるという認識が一般にありますので、自治体がなぜ国際をやるのか。緊急援助隊もず っと前からその議論があり、なかなか自治体の人が出られなくなっているということが ありました。これについて今後、例えば地方自治体が、これこそ交付金的なテーマでは ないかという気がする国際のところに、自治体の持っているリソースをもう少しモビラ イズしやすくなるような可能性というのはございませんでしょうか。あるいはいま、む しろ逆の方向で出にくくなっているような気がします。 ○金近会員  それに関連して申し上げます。水道事業というのは市町村営という形に水道法でなっ ていますので、運営するノウハウは基本的に自治体にあるわけです。特に途上国などで すと、実際は漏水の調査、水が漏れているかどうか。あるいは盗水、水が盗まれるとい うようなことが多いそうです。  そういうものを実際にいろいろ調べなければいけないわけですが、そういうものは直 営でやっている技術があるわけです。実際に全部やれる現業の技術も要るわけですが、 いま自治体でもいろいろな意味で民間委託や民営化をやってきているから、自治体にも 技術者、あるいは技能者がなかなか育ってこないし、そういう分野がだんだん嫌われて いく。技術を持った人はみんな卒業していって、団塊の世代が卒業していってしまっ た。だから、自治体自体が人材育成で困っているというか、自分の事業を将来継続して いく技術力が果たして確保できるのかが、特に中小の日本の水道事業体にはいまそれぞ れあるのです。余力のある大都市の事業体が海外の国際協力の支援、人材を派遣してい るということなのですが、それもいま言ったようにだんだん先細りなのです。  その上で先ほど言った人材バンクなど、そういう人たちを育てていかなければいけま せんが、あるインセンティブのようなものがないと、本人もやはりそういうことをやっ たら、自分のキャリア形成の上で損をすると思って、なかなかそういうことを目指して いかないということがあります。  自治体そのものにも経営がいま、いろいろな意味で厳しくなっているものだから、そ れをやる大義名分がなくなっててしまう。我々は議会で予算を通さなければいけないも のですから、そのときに「なぜ予算がないときにやるのか、そのような余裕があったら 料金下げろ」などと言われてしまうわけです。そこら辺、我々も非常に苦しいところが あります。そこをクリアできるような、国のほうでもスキームをいろいろ考えていただ けるとありがたいという感じがしています。 ○福田室長  自治体の実態をいろいろ教えていただき、どうもありがとうございました。自治体の リソースのモビライズということですが、そのような観点から、もし追加の意見があり ましたらお願いします。 ○田中会員  3分野のお話、とても面白く聞かせていただきました。インテグレーションが必要だ ということはそのとおりだと思うのですが、ちょっと別の観点、いままさに議論になっ ている専門人材の確保と供給をどういう組織でどうやっていくかは最も大きな共通の課 題かなと思っています。  医療の分野について言うと、これまでは日本に大きな現場を持っているという意味で は国立病院・療養所、文部科学省の傘下関連で大学、この2カ所が最大の供給源でし た。  水道について言えば、厚生労働省の水道課を中心というか、中央レベルでは水道課が あり、各自治体に非常に巨大な足腰を持った事業体がある。さらに援助の関係で言えば コンサルタントの問題もあるし、ゼネコンもある。ある意味、水道というのは非常にコ ンパクトに、しかしプランニングから国内での実際の現場、国際協力のさまざまな必要 専門分野からひととおりワンセットで、言い方はおかしいですが良い意味で「水道マフ ィア」であったのがこれまで強みだったと思います。  しかし、まさにいま議論が起きているように日本の水道事業体をなぜ市町村がやるの か、あるいは水道料金が高いではないか、民間を入れたらどうかという議論がかなり激 しくなってきている。先ほどお話に出ているように、やはり市町村としても効率、ある いはなぜこれが必要なのかを市民に説明しなくてはいけなくなってくる。その意味では 大変厳しくなってきている。  おそらくは事情は国立病院・療養所なども一緒で、本来は地域の医療を担うために作 られている病院が医療センター以外のところについて言えば、本来以外の業務でなぜ出 てくるのかが、今回の独法化に関連して厳しく問われてくるだろうと思っています。お そらく、労働分野も共通の課題があるのかと思うのですが、量的な必要性、実際のいま の受け皿がわかりません。共通している課題というのは、言わばこれまで大きな事業体 の現場におんぶさせて、その余力の中で国際協力も頼むと言って、霞ヶ関の指導力で無 理をお願いしてやってきた現場で3分野非常に親しくなっていると感じていました。  労働のところで、人材の点検リストなども資料で付いていますけれども、やはり3分 野共通で国際協力に当たる実際の専門家をどうやって現場で確保していくか。その事業 体にとってそれがどういう意味を持ち、実際の派遣に当たってのコーディネート、全体 のトータルなインテグレーションをどうやっていくかを共通で考えていかないと、この 先非常に厳しくなるのかなという気がします。医療センターの数字を見ただけでやって いけるわけではないし、日水協の関係部門だけでこういうものをやれるはずがないわけ です。この巨大な事業体をどう考えていくかという、共通の問題があるかと伺っており ました。 ○福田室長  どうもありがとうございました。後半での検討に資するご意見をいただけたと思いま す。 ○国包会員  いまのご指摘は全くそのとおりだと思います。水道以外の分野でも同様のお悩みをお 持ちだと知り、ある意味では心強く思った次第です。  先般も水道分野の人材確保のワーキング・グループの議論の中で、人材を登録するた めの「人材バンク」を独自に作ってはどうかという検討を事業体の方も含め、かなり突 っ込んで行いました。最終的な結論というわけでは決してないのですが、その中で独自 で人材バンクを作るというのは、やり方にもよるのですが、かなり難しい面があること がだんだんわかってきました。実際には既に人材バンクと言えるようなものがいくつか あるのですが、それとは別に、特に厚生労働省の水道関係で1つ独立したものをという ことだったのです。やはりネックになるのは個々の人材と、それぞれの人材が所属する 組織との関係をどのように整理するか、どう調和させるか。問題点はおそらく、結局ほ かの分野でも同じだろうと思います。厚生労働分野だけではなくて、ほかのセクターで も同様なことがあるのではないかと思います。  関連してもう1点、これはむしろポジティブな面なのですが、例えば横浜市にしても 独自に、かなり主体的に国際的な協力を行っておられます。これにはJICAを通して というケースもあります。そういったものはむしろ、国にやってくれ、あるいは人を派 遣してくれという、むしろ消極的、受け身の形で動いていただいているケースよりは、 ずっと良い取組ができていると私は思います。もちろん、横浜市という顔が見えるよう な援助になっているからです。実際、効果も上がっていると思います。そういったこと も考えると、もう少し人の確保、あるいはプロジェクトの継続、組織的な取組のスキー ムといったものを分野ごとに重要度は多少違うかもしれませんが、見直していく必要が あると思っています。 ○福田室長  どうもありがとうございました。司会の不手際もあり、予定された時間からちょっと 超過しています。各先生にはこういった天気の悪い中をおいでいただいていますので、 もしさらにどうしても、この場において意見をということがあれば教えていただければ と思います。いかがでしょうか。よろしいですか。  どうもありがとうございました。ひととおり意見も出されたと思います。我々にとっ ても参考になる意見を本当にありがとうございました。今後の議論にまたそれぞれ活か していくことになると思います。私が何より懸念していたのは、事務局にいろいろ文句 が来るのを懸念していたのですが、そういったこともなく非常に建設的な会議であった かと思っています。  議事次第4に移ります。「今後の進め方について」ですが、事務局よりご説明いたし ます。 ○今井補佐  今後の開催予定ですが、保健医療、労働、水道、各分野ごとに状況に応じて検討会を 開催したいと考えています。日時等につきまして、後日改めて調整させていただきま す。また会期の最後、来年度になりますが、最後の検討会につきましては、今回のよう な分野合同の検討会の開催を考えております。最終的な提言、報告などにつきまして は、各分野ごとに取りまとめる形になろうかと考えています。以上です。 ○福田室長  どうもありがとうございました。ただいまの説明にご質問がありましたらお願いいた します。また、ご質問については個別に事務局で受けていますので、メールなりお電話 なりで追加していただければと思います。本日の議事については以上でひととおり終了 いたしました。  本日は皆様方から大変貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。先ほど説 明がありましたように、この合同検討会はまた最後にもう1度行いたいと思っていま す。今日の議論がまたうまく活かされていることを、そのときに期待できればと思いま す。その日程については、後日調整をさせていただきたいと思います。今後とも是非、 ご協力をよろしくお願いいたします。  以上で終了したいと思います。本日はどうもありがとうございました。 (了) (照会先)  厚生労働省国際課国際協力室   室長補佐   今井   協力企画係長 吉村   03-5253-1111(内線7305)