04/12/17 最低賃金制度のあり方に関する研究会第5回議事録          第5回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                        日時 平成16年12月17日(金)                           15:15〜16:50                        場所 経済産業省別館第827会議室 ○樋口座長  ただ今から第5回の「最低賃金制度のあり方に関する研究会」を開催いたします。本 日はお忙しい中をお集まりいただきまして、どうもありがとうございます。本日は、大 竹先生と奥田先生が欠席とのことでございます。それでは早速、議題に入ります。  本日の議題は「最低賃金制度のあり方に関するヒアリングと論点の整理」です。まず ヒアリングから始めたいと思います。横浜国立大学名誉教授で中央最低賃金審議会の前 会長の神代先生にお越しいただきました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神代様  今日は最低賃金のあり方に関する研究会ということで、十数年ぶりか数十年ぶりだろ うと思いますが、公開の形で最低賃金に関する研究会が開かれ、そこで意見を述べる機 会を与えていただき、大変ありがとうございました。  私が中央最低賃金審議会の会長をやっていた末期に、最低賃金制度の見直しをいずれ やらなければいけないということで、バトンタッチをした関係もあって、その頃からい ろいろ考えておりましたことを、昨年秋に社会政策学会という学会にたまたま頼まれ、 去年11月に下関であった時に発表しました。印刷が1年ほどかかり、やっと出てきたの ですが、今年の9月に出たものを、何人かの方には抜き刷りをお配りしましたので、お 目通しをいただいているかもしれません。書いたものの方では、あまり具体的に政策的 な判断はしておりませんが、今日はそこで書かなかったことというか書けなかったこと を含めて、もう少しざっくばらんにお話しし、私自身、まだ結論に至らない疑問点がい くつかありますので、率直に専門家の皆さんと議論をする機会を得たいと思い、メモを 作りました。表紙にあるような5つの論点についてごく簡単にご説明をしたいと思いま す。  2頁に辻村先生の有名な最低賃金制や労働基準法に関する経済学的な根拠を説明した 図式があって、私も長い間、この図式を頼りに、学生にはこういう説明をずっとしてき ました。よくよく考えてみると、こういう図式が当てはまった時代は確かにあったと思 いますが、50年、60年たっても、ずっとそういう図式がそのまま成立しているのかな と。特にグローバル競争が非常に激化し、我が国の賃金水準が、昔はアメリカの8分の 1と言われていた時代から、アメリカよりはるかに高い賃金水準に到達した半世紀以上 の間に、果たして今日でも右下りの供給曲線が労働需要曲線を下からよぎるような形 で、下方発散的な労働市場が存在する場合には、例えば、最低賃金制を設定する合理的 な理由があるという、非常に説得力のある図式ですが、果たしてこのとおりの考え方で いいのかという疑問です。  労働需要曲線そのものが右下がりらしいということは、3頁のごく簡単な、かつてダ グラスがやったのと同じような方式で日本のデータでやってみると、確かに右下がりの 格好が出て、軸の取り方が逆かもしれませんが、右下がりの労働供給曲線が出てきま す。  ただ、厄介なのは労働供給曲線は、非常にロングタームで考えますと、逆S字型をし ていると教科書に書いてあります。同じ右下がりと言っても、逆S字型の辻村図式の場 合は、たぶん下の方の逆S字型の状況で考えられていたと私には思われますが、そうい う時代はとっくに通り越して、供給曲線が右下がりだとしても、逆S字型の上の方のフ ェーズで起こっていることではないか。  そういう場合に、需要曲線との相対的な位置付けが、私には実証できるかどうかよく 分からないのですが、計量の人はいろいろやるから、場合によってはできるのかもしれ ませんが、直接的な観察は難しいように思いますので、論理的に推定をする以外にない かと思います。次の4頁で労働供給曲線はどうも右下がりらしい。右下がりだが、果た して、かつて辻村図式で考えられたような下方発散的な市場と言えるのかは、もう少し 吟味をした方がいい。  仮に供給曲線が右下がりだとしても、労働需要曲線を下から切るのではなく、上から 切るような状況もあるのではないか。逆S字型の上方部分の右下がりで、需要曲線を上 から切っている。そういう状況は5頁に絵にしてあります。そういう状況だとどうなの かということです。  法律的に設定される最低賃金水準が、経済学的に考えられた需給の均衡点の上にきて いることはないのか。もう1つ、需要曲線の方もグローバル競争の時代で、特に中国等 から非常に低価格の製品が流入してくるのに誘発されて、あるいは鉄鋼や電力でも規制 緩和によって製品市場での競争が激化しておりますから、製品市場の需要曲線そのもの が下方シフトし、かつ、弾力的になっている。それに誘発されて労働需要曲線も下方シ フトし、弾力的になっていることは十分予想されるわけです。  そうすると、5頁の当初D1であったような需要曲線がD2に。これは弾力性が大き くなった絵だけが描いてありますが、更に下げてもよろしいわけです。労働需要が減少 しながら、弾力性が高くなる状況で、供給曲線が上から切っている場合ということも理 論的には考えられるわけです。そうすると、最初の均衡点E1の点にあった場合に、例 えば、最低賃金をMW1という水準に設定したとすると、この状況では均衡点よりも高 い水準ですが、市場の動きそのものからいくと、供給が超過しており、さらに均衡点に 向かって賃金が下落するはずですが、それを最低賃金制で下支えすることもあり得るわ けです。  ただこの場合に、E1は安定均衡の水準ですから、安定均衡点よりも高い所で政策的 な介入をすることは、果たして経済的に合理的かという別の疑問が出てくると思いま す。仮に政策的配慮が貧困の防止、分配の公正など限界消費性向がなるべく大きくなる ようにした方がいいという意味で考えますと、そういう政策的配慮から、仮にMW1と いうレベルで最低賃金を設定することも、政策的にはあり得ることだろうと思います。  ただその場合に、安定均衡よりも高い水準で、そういう政策介入をしてもいいのかど うかという点は、私はよく分かりませんので、是非、皆さんで議論して教えていただけ ればと思います。  現状は需要曲線がD1からD2に弾力線が高まりながら、かつ下方シフトしていると いう状況で、仮に供給曲線が一定だとすると、均衡点はE2に更にずれてきます。した がって、もちろんMW1のままで置いてもいいわけですが、MW1よりも低いMW2の ような所で、もう少し低い水準でギリギリ下支えをしなければいけない市場の状態が発 生することもあるのかもしれません。理論的にどう考えるかを、いつまでも辻村先生に おんぶしないで考え直した方がいいのではないかと、日ごろ考えていましたので、いい 機会ですので、皆さんのご教授を得たいと思って、書いてみました。  もう1つは、6頁のアメリカの最低賃金制をめぐる議論は、エコノミストの間では、 Card & Kruger対新古典派のいろいろな人たちで、相当賑やかな論争がたくさんあっ て、事象的な研究もたくさん出ていますが、突き詰めるところ、需要独占的な搾取の幅 の範囲であれば、雇用にマイナスの影響を与えないで最低賃金の引上げはできるという クリントン政権にとって大変都合のいい研究が出たので、クリントンが利用したのだろ うと思いますが、あの研究は電話でデータを取ったとか、信頼性について、いろいろな 疑問も投げかけられています。それはともかくとして、ある程度の幅であれば雇用に大 きな影響を与えないで引上げができるということに、大体意見は一致し、その後OEC Dがフォローアップしましたが、なっているかと思います。  経済学者の議論というのは、ある意味ではつまらないレベルの議論が賑やかにお金を かけて、たくさん行われているわけです。たまたま私はそこに書いてある2冊しか読ん でおらず、他にも出てきているかもしれませんが、政治学の人たちの研究が出ておりま す。アメリカの連邦最低賃金に関しては、非常にポリティカルな制度だ。議員立法です から、大統領選挙のたびに、たくさんの最低賃金の改正法案が出てきますが、ほとんど 通らないわけです。既にクリントンが上げてから、もうかれこれ10年になりますが、 5.15から1度も上がっていません。あまり最低賃金は話題にならなかったのかなと。私 はあまり正確にフォローしておりませんが、今回の大統領選では、前回に比べると、最 低賃金はあまり話題にならなかったような気がします。政治的なシンボルだという解釈 が、政治学者の間では非常に強いと思います。ああいう非常に大きな全国的な、政治的 な争点が浮かび上がってきた時に、共和党か民主党のどちらかを選ぶ時の選択のシンボ ルとして、最低賃金は非常に分かりやすいものになっているわけです。そういう意味が あると言われています。  ご承知のようにアメリカは、連邦最低賃金と州最低賃金が並行していますが、連邦最 低賃金より低い水準を定めた場合は、連邦最低賃金が自動的に適用されます。ただ、民 主党に投票した多数の先進州は、大体連邦最低賃金より高い水準の最低賃金を設定して いますが、その場合は高い方が適用されるという形になっています。ですから、5.15が 単一の水準ではないのですが、連邦政府が5.15が最低賃金だということをアナウンスし ていることの社会的な影響力は非常に大きい。言ってみれば誰でも知っている。スイー パーやジャニターでも連邦最低賃金が5.15だということはみんな知っている。いちいち 法典を見なくてもいいということではないかと思います。結局それは政策的な必要性に 基づいて、シンボル操作しやすい制度になっている、単純明快で誰にでも記憶されやす く、履行しやすいという長所があります。  3番目の問題で7頁ですが、政府が権力で労働市場の賃金決定に市場介入をすること が、なぜ合理的に認められるのか、その政策目的は何かということです。辻村図式のよ うなことがぴったり当てはまっていた日本では昭和30年代までは、有名なダグラス・有 沢の法則の基になった研究論文なども出ておりますし、実感としても農民層の分解が相 当大規模に続いていた時期で、辻村図式で十分説明がつくような状況でしたから、それ に加えて政策的な目的を考える必要があまりなかったのかもしれません。  先ほどご説明したような意味で、あのまま行くのはちょっと無理があるのではないか と思っています。ああいう市場の状況が、既に今日ではなくなっているが、あえて言え ば、5頁で説明した図式で考えられるような状況で、もし仮に均衡点よりも少し上で政 策的な介入が必要だと判断されるとすれば、それはなぜかということです。それは社会 的な公正、あるいは分配の不平等の是正という意味はもちろんあると思います。より直 接的にはPoverty、生活保護というか貧困退治との関係で、アメリカやイギリスでFrom welfare to workというのは、この十数年来、一般的になってきています。日本でも業 者間協定の最低賃金制を作る当初に、まさに生活保護基準と最低賃金水準とのバランス はいかにあるべきかが、大きく議論され、辻村さんの論文などで残っているわけです。  生活保護基準そのものは、経済発展につれて、かなりそれ自身が上がってきています から、今日も地域的な格差、所帯類型による格差がありますが、仮に標準所帯、あるい は老人単身所帯なのかもしれませんが、そういうものを最低賃金で働いていても生活保 護基準に達しない最低賃金のあり方が、果たして妥当かどうかは、非常に厄介な問題 で、簡単に結論の出せる問題ではなく、それこそ労働市場の状況、経済情勢等をにらみ 合わせながら、政治的に決めなければならない問題だと思います。  現状もそうですが、生活保護基準を下回るような水準で最低賃金を設定せざるを得な いとすれば、その足りない分は共働きで補充するか、本当に困っていれば生活保護で補 給すればよろしいということで、最低賃金が何も最低生活の保障をする唯一の手段に使 われるべき理由はどこにもない。かつて辻村先生がおっしゃったことは今日でも生きて いると思います。ですから、povertyラインを下回るような水準で最低賃金を設定する こと自体は、経済情勢や政治情勢によって十分あり得ることです。どちらかというと、 欧米のというか、英米の流れは、一人前にきちんと働いたら、それで生活ができる方が 望ましいという方向にかなり流れてきているのではないかという気がします。これは地 域によって画一的にいきませんが、Povertyとの関係でどうするか。これは今生活保護 基準の見直しもいろいろ進められておりますし、生活保護世帯そのものが激増しており ますから、特に増加の状況のデータを拝見しますと、特に母子世帯、その他世帯など最 低賃金の対象になりやすい世帯の被保護世帯数の増加率が150%とか185%という非常に 大きな割合で伸びていますから、その辺の関係は、1997年不況以前とは違った問題が出 てきていることを考えるべきだろうと思います。  もう1つは、特に産業別最低賃金とのかかわりで問題になっている中央最低賃金審議 会と地方の最低賃金審議会では三者構成で労使が積極的に参加して決める制度になって いますから、労使関係上の配慮も、全く無視するわけにはいかないと思いますが、かと 言って、最低賃金の本来の目的ではないことは明らかで、あくまでも副次的な配慮のフ ァクターとして考えるべきで、労使関係上の配慮があるから、産業別最低賃金は今のま までいいとは考えない方がいいと思います。  8頁は、どこまで規制を及ぼすべきかという適用範囲の問題です。これは最近のアメ リカのWhite-Collar Exemption Rulesが8月に変更になっております。古いExemption の基準がかなり引上げになっております。その前の2002年に議会で証言されたものです が、Employment Policy Foundationという所のチーフエコノミストが、下院の委員会 で証言をしており、過去50年間のアメリカの職場のワークプレイスの変化を、非常に明 確に指摘しております。圧倒的にホワイトカラージョブが多くなった、サービス産業が 多くなった等々、問題を指摘しています。私は完全にアメリカの議論をフォローしてお りませんが、丁寧にフォローしていくと、ワークプレイスの50年間の変化があったのだ から、もう連邦労働基準法は必要がないのだ、という議論も一部に出てきているように 見受けます。  ただ私自身は、日本で労働基準法が必要ではなくなったとは思っていませんので、ア メリカの極端な議論そのものに、そんなに振り回される必要はないと思いますが、50年 間に規制の対象としていた労働そのものの態様が多様化し、変わったことは事実で、そ れに即してアメリカが行ったWhite-Collar Exemptionのような考え方、つまり最低賃 金と残業の割増しの適用を外すという意味ですから、White-Collar Exemptionの対象 職務の賃金は、サラリーベースウェッジアーナーではいけないわけです。サラリーをも らっている人で、そのサラリーフロアが155ドル以上という非常に低い水準になります が、新しくできた水準でも455ドルです。ただ455ドルという水準は、“well above minimum wages”と表現されているわけで、最低賃金とWhite-Collar Exemptionの水 準は連動しているところがあります。機械的な連動ではないが、関係があるわけです。 あとはDuty testでいろいろあります。  そういうことで日本は裁量労働制について、非常にティミッドで、逆に残業時間の最 高限は、いまだに規制しないという変な規制になっていると、私はかねがね思っており ます。どうしてILOの1号条約が、いまだに批准できないのか、片方で非常に疑問に 思いながら、しかし、労働組合がどうしてあんなに裁量労働制にしつこく反対するの か。サービス残業の問題がもちろんありますが、片方では残業の最高限をきちんと労働 基準法で定めて、他方では裁量労働制を大幅に認めるというので、働き方を変える方が いいのではないかと思います。そういう全体の流れの中で、労働基準行政全体を考える 中で最低賃金の問題は考える必要があるのかなという意味です。  最後に9頁で、これが本論です。現行の我が国の最低賃金制には政策手段として、ど こまで合理性があるかということを、正面から問い詰めてみますと、都道府県別の審議 会方式というのは、もちろん歴史的ないろいろなつながりがあることですから、そう簡 単に変えられるとは思いませんが、都道府県ごとに決める必要が本当にあるかどうか。 レーバーマーケットというのは、特に競争圏ということで考えれば、もう少し広域的な 括り方をした方がいいのではないか。南関東とか北関東などというぐらいの括り方の方 が合理的ではないのか。ただ行政的にそれがうまくいくかどうかは知りませんが、都道 府県というものにいつまでもこだわっていいのかということです。  ランク別は、私の時にもランクの見直しを従来どおりの方式でやり直したのですが、 基になっている20の指標は重復しているものが多く、労使の政治的な駆け引きの中で、 あちらを外すとこちらが立たずということで、結局妥協の産物ですから、別に理論的に 20でなければいけないというものではないと思います。仮に相関係数等が1に非常に近 いものがいくつかあるだろうと思います。地域の括りをやる指標として使うなら、もう 少し明確に単純化した方がいいのではないかという気がしています。これは私の時にそ ういう議論はしたのですが、あまり労使の賛成は得られませんでした。  全国一律か都道府県別かということですが、仮に地域別最低賃金は都道府県のままに しておくとしても、アメリカ式に、なおかつ全国一律の最低賃金はこの水準だと決める やり方も選択肢としてはあり得るわけです。だんだんそれを上げていくというやり方も あるのかもしれません。これもフィジビリティの判断は全然しておりませんが、理論的 には考えられると思います。  産業別最低賃金については、使用者の議論は非常にパワフルで、読むと、甚だもっと もだという感じがするわけです。ただ、本当に地方の使用者がそう思っているかどうか 確証がなく、トップの方はそう言っているが、下の方は案外そうではないのかもしれな いという疑念が拭えませんが、今の公正競争ベースの産業別最低賃金は、あまり有効で はないのではないか。仮に全廃しないで一部分を残すとしても、私の時に公益委員の中 ではそういう議論がかなりあったのですが、刑罰の対象にするのはどうか、地域別最低 賃金は違反すれば罰金2万円になるのはいいのですが、産業別最低賃金というのは、も ともと協約最低賃金の代替物みたいなものですから、本来は労働協約で組合が自由にや れるのなら、やればいいだけの話のものを、あのようにしているわけですから、刑罰は 外したらどうかという議論があると思います。  これは私の時の初期にたくさん計算をしていただいて、データがどこかに残っている と思いますが、分布をとってみますと、地域別最低賃金と産業別最低賃金の第10分位と か第20分位の下の方で重なっている所がたくさんあるわけです。ほとんどわざわざ産業 別最低賃金を決めても意味がないような、非常に低い水準の産業別賃金が決まっている 所があります。4割とか5割など明確に差があれば基幹労働者のための最低賃金という ことで、別に設定する意味があるかもしれませんが、5%の差もないようなものは作っ ておく必要があるのかということでやったら、統計的な議論でやるのはよろしくないと いう反論が強くて、これも日の目を見なかったわけです。  適用範囲は現行の最低賃金法第8条で身体障害者や試用期間中の者は除外しておりま すが、フランスでやっている未成年者の低い賃率や、イギリスのディベロップメントレ ートなどの決め方は、日本はしていないわけです。影響率、未満率は1、2%という非 常に低いところでずっとやってきていますが、それに対しては非常に一般的に評判が悪 いのです。悪口を言う人が、必ずしも正しいとは思わないのですが、非常に巧妙なモダ ンエコノミストの先生も、非常に怒りに満ちた顔で、低すぎるとおっしゃっている機会 が前にありました。影響率が1、2%がいいのか、4、5%がいいのかは、判断がなか なか難しいのですが、常識的に考えて、スーパーマーケットなどのフリーターやニート が働いている時間賃金率に比べて、法定の最低賃金が違反が依然として出るとは言いな がら、一般的に言うと、少し低いのではないかという感じを、私は個人的には持ってい ます。  したがって、先ほどの未成年賃率やディベロップメントレートを、別に安いものを設 定しながら、強制力のある地域別最低賃金、あるいは全国一律が、もしできるなら、そ れも含めて、そういう強制力を伴う最低賃金というのは、もう少し高めの水準に設定し て、つまりシンボルとしての再分配政策なり貧困政策とのリンケージも考えて、フェア な賃金決定の基準としてアナウンスメント効果を期待するのなら、もう少し高めの方が いいのかなという感じを個人的には持っています。それをやったからといって、雇用に 激甚なマイナスの影響はたぶん発生しないだろうと思います。これも論拠は甚だ薄弱な のですが、実感としてそうではないかと思います。あまり説得力のない議論かもしれま せんが、率直に日頃考えていたことを申し上げました。 ○樋口座長  ありがとうございました。それでは、ただ今の説明について、ご質問等がございまし たらお願いします。 ○古郡先生  不熟練労働に対する需要曲線が下方にシフトし、労働需要の弾力性が増大していると いうのは分かるのですが、もし労働需要曲線が下方にシフトしているとすれば、現在の 最低賃金の水準がちょっと高すぎるということも、この図からすれば言えると思いま す。 ○神代様  もともと低すぎましたから、ちょうどいいところにきているのかもしれません。 ○古郡先生  でも、下方にシフトしているとすれば、最低賃金のM1とMW2を比べると、MW2 になり得る。だから、最低賃金は低くし得るという議論になりますよね。しかし、お話 の最後の方では最低賃金は少し高くした方が実効性があるということですから、という ことになりますでしょうか。 ○神代様  矛盾していますよね。ただ理論的なレベルで考えれば、5頁のような図の状況だと私 は思うのです。外国人労働者を入れるかどうかという議論の時も、この辺の関係をよく 考えた方がいいかなとは思います。賃金時間課でやっている調査から、実質賃金で下が っていると言えるかどうかですね。あまり下がっていませんか。一般的には下がってい ますよね。少なくとも統計的なのは1997年以来ずっと下がってきていますから、本当の 下層労働市場がどの程度下がっているかというのを、分離してはなかなか見られないの ですが。 ○前田賃金時間課長  賃金改定状況調査、小規模の所の賃金の調査などでいきますと、マイナス0点いくつ という状況になっています。 ○神代様  そんなに下がっていませんね。 ○今野先生  均衡していく所の賃金によるか、最低賃金がもし高いと、実際の賃金は最低賃金の辺 りにすごく貼り付く人が増えるような気がするのですが、統計的に見ると、貼り付いて いる人は、非常に少ないということを、労働経済の人たちは一生懸命証明しています。 そうすると高すぎるということはないかなという感じになってしまうのですが、いかが でしょうか。つまり、実証のデータを見ると、均衡点より高いということは、なかなか 言いにくいかなと思ったのです。あれがもっと貼り付いていればいいのですが。 ○神代様  つまり、こういう図式は無理だということですか。 ○今野先生  図式自体はいいのですが、最低賃金のレベルが均衡点より高くあるということです。 もう少し最低賃金の辺りに賃金をもらっている人が、いっぱいそこで貼り付いていると いいのですがね。 ○神代様  ただ均衡点は何者ぞということがありますから、賃金の下方硬直制に基づくもので、 もともと賃金というのは均衡点まで下がらないから失業が増えるのだという古典的な議 論があるわけです。均衡点までどんどん下がってくれれば別の状況が出るかもしれない のです。 ○今野先生  違う点ですが、最低賃金を決める時、いつも支払能力が問題になってきますが、先生 のお話ですと、支払能力はもう考えなくていいと。今ではかなり重視した形にはなって いるわけですね。 ○神代様  いやいや、この需要曲線が下がってきて、弾力性が大きくなっているというのは支払 能力が大事だということなのです。 ○今野先生  私は全然違う頁のことを考えて、市場介入の政策的な目的ということで、いろいろお っしゃられた時に、貧困の問題との対応を考えるべきだということを、非常に重視され た、そうすると支払能力は。しかも最後は「上げてもいいんじゃないか。」とおっしゃ られたのですが。 ○神代様  矛盾したことを言っているのかもしれません。 ○樋口座長  それと関連して、私も同じような疑問を持ったのは、前半の部分では経済学的視点か ら見れば最低賃金は、もう要らないのではないかというご指摘があって、慎重でした が、というインプリケーションだったのかなと。 ○神代様  辻村図式的な状況ではないだろうということなのです。しかし、それに代わって5頁 のようなことで考えれば、そんなに変わるわけではありません。 ○樋口座長  5頁のような状況だと、例えば最低賃金がMW1のような、先ほどおっしゃったよう なところにあるとすると、逆に失業を生み出してしまう。本来、均衡賃金に達成すると ころを、賃金の下方硬直制を導入することで、むしろ失業を生み出してしまうというこ とですね。そういう意味では、先ほど政治的なシンボルとしては意味があるが、経済学 的意味はないとおっしゃったのかと思ったのですが、その点はどのように考えておられ ますか。  もしないとすると、逆に最後の結論である、もっと最低賃金を引き上げた方がいいの ではないかというのは、どういう意味で言われたのかというのが分からなかったので す。 ○神代様  理論的な考え方の整理と実態認識とが、私の頭の中でも、まだ一致していないので す。しかし、何となく両方あるのではないかなという、カオスの状態なのです。  5頁のような図だったら、政策介入はしない方がいいということになってしまいます よね。 ○樋口座長  そうですね。 ○神代様  放っておいた方がいいということです。ですから、そういう判断もあるかもしれない と頭の一部では思っているのです。つまり、アメリカの連邦労働基準法廃止論というの があって、その廃止論そのものは、まだ私は見ていないので、どのぐらい過激な思想な のかよく分かりませんが。 ○古郡先生  これは安定均衡水準があまりにも低ければ、政策介入してもいいということになりま す。 ○樋口座長  その場合は、雇用を犠牲にせざるを得ない。失った人はどうするかというと、普通は そこを雇用保険なりの給付で何とかしろとか、生活保護で何とかしろという別の代替案 が出てくるのだろうと思いますが。 ○神代様  中国やベトナムの滅茶滅茶に安い賃金で作ったものが入ってきているし、現に日本の 企業が向こうへ行って、そういう安い賃金で人を使っているわけです。そういう意味で は需要は外へ流れているわけです。ですから、理論上のポテンシャルな均衡水準という のはものすごく下がっているということはあり得ると思うのです。もともとフィジッシ ュガルでもそうだし、シテグリツの失業の説明などでもそうですが、賃金は、かつて1 度も均衡水準まで下がったことはないと言ってもいいわけです。ですから、産業革命の 初期の貧困の辻村図式で書いているような下方発散的なスパイラルで、マルクスが怒っ たような、ああいう時代はともかくとして、20世紀後半以降の福祉国家ができてからの 社会では、むしろ賃金は常に法的な介入はなくても、いろいろな力によって均衡水準に まで下がらない。だから、失業が必ず発生する。そういうことを前提に考えてもいいの ではないかという気が片方ではしているのです。そうだとすると、今の日本の、特にE 2のような想定される水準は、グローバル競争の中で新しく生じてきた事態ですから、 ものすごく低い水準なのです。そんなものにまで下げられるわけがない、片方で一国の 社会には、他の価値基準はたくさんあります。生活保護基準、文化的な最低限の水準、 社会保障の水準などいろいろなものがあって、生活保護基準というのは、その中で、特 に最低賃金と非常に関係の深いものです。 ○樋口座長  カードアンドクルーガーのは、メダルを出す時に、私もちょうどスタンフォードにい て、学会がサンフランシスコで開かれ、それのセッションに2日間出ました。その時の 議論で、彼らに「もし最低賃金が雇用に悪影響を及ぼしていないということがあるとす れば、どのような図式を描くか。」という質問が、フロアから出されたのです。その時 に、先生が出された労働需要と供給のこの図式は、「スタティックな議論なのだ。本当 はダイナミックなものを我々は考えている。」「それはどういう意味か。」というと、 「最低賃金を引き上げることによって、生活の安定や賃金の保障が派生する。それは実 はマクロ経済のコンサンプションの方にリターンし、益があるのだ。あるいは他の賃金 を引き上げるというダイナミックな波及効果を考えれば、このような図式でも、最低賃 金の引上げは、必ずしも雇用に悪影響を及ぼさない。」というモデリングを説明して、 そういう考え方もあるのかなと思いました。  そこまで考えると、経済学的にも最低賃金というのは意味がなくなっているとは言え ないのかなと思って、クルガーは知り合いなので議論した覚えがあります。 ○今野先生  そうすると、マクロの雇用とか、経済の全体のパフォーマンスの最適地を決めるよう な最低賃金のラインがあるということですね。 ○樋口座長  そうです。それで最低賃金を引き上げることによって、所得が逆に増えて、需要を増 やすのではないかという、有効命題的なものを最低賃金の引上げに。それを認めるとス タティックな議論とはちょっと違うぞということなのです。 ○今野先生  そういうことを言ったら、最低賃金を上げて、賃金を安定させると労働意欲が高まっ て、「頑張るぞ。」と言って、生産性が上がったとか、いろいろなシナリオが考えられ ますね。 ○神代様  ニューディールの発想ですね。だから、最低賃金だけでそういうことが起こること は、私はあまり期待しませんが、他のマクロ政策と一緒になって使われた場合には、そ ういう効果もあり得るかもしれませんね。 ○樋口座長  いろいろ議論があるところです。他にいかがでしょうか。 ○今野先生  もう1点ですが、先生が先ほど貧困退治との関係でいろいろおっしゃられ、チラッと 言って、サッと言葉が消えてしまったのですが、一人前の労働者という考え方が非常に 出てきている、それと最低賃金との関係があるのだと言われていましたね。 ○神代様  生活保護基準というのは行政的に決まっている水準で、それを割り込んだらすぐ死ぬ という水準ではないわけです。しかし、東京なら東京の1級地の1で決められているよ うな生活水準を最低賃金だけで達成することは、今の708円の水準ではフルに働いても できません。そのこと自身が間違っているとは簡単に言えないわけで、労働市場の方が そういう状況なら、それでしようがないではないか。本当にそれで足りないのなら、奥 さんも働きなさい、子供も働きなさい。それでなおかつ駄目だったら、生活保護で救済 しますからというのが現行の仕組みです。それはきちんとしたシステムなので、一人前 の賃金で生活保護基準をクリアしなければいけないという議論をする人も、いまだにい ますが、私はもちろんそんなことは考えていません。現実にはどこの国を見ても、ポバ ティーラインよりは最低賃金でフルに働いた収入の方が少ないのです。フランス辺りが ちょっと微妙で、よく分かりませんが、イギリスやアメリカは今でも少なく、日本もそ うなのです。貧困をどうやって減らすかを考える時に、最低賃金がどの程度のレベルだ ったらいいかということは、逆に考えられるかもしれませんが、最低賃金を設定する時 に、それにだけ引っ張られるわけにもいかない、もちろん考慮はしますが。 ○渡辺先生  E1、E2は、例えば2003年の一般労働者とパートタイム労働者、その他を2つに分 けるか合体するか、ともかく一定の前提の下で、需要曲線と供給曲線が安定的に均衡す る賃金は、日本の2003年何月においてはいくらだということは出てくるのですか。 ○神代様  これは理論的に想定されるだけで、数字でいくらというのは誰にも分からないのでは ありませんか。 ○渡辺先生  でも数字的に分からなければ、最低賃金のMWの線が高いか低いかも分からない。政 策的に上げるべきか下げるべきかも分からない無駄な議論になってしまうのではないで しょうか。 ○神代様  そう言えばそうなのですが、経済学というのは大体そういうものです。有名な辻村先 生の図式だって、そちらへ戻ってもそうなのです。それではEの水準がいくらなどとい うのはよく分からないのです。 ○樋口座長  まず市場を考える時に、渡辺先生がおっしゃったように、誰の市場を考えているの か。日本全体の平均値の話をしているのか、それともパートタイム労働者の特定の地域 における職種に限定して、この職種における労働市場を考えているのか、それによって だいぶ違ってくると思います。そういう範囲が狭くなれば狭くなるほど、たぶん供給の 方は右下がりになっている可能性が強いのではないかと考えます。 ○渡辺先生  産業別最低賃金が高いか低いかを考える場合にはかなり。 ○神代様  これは一番最低限の労働市場です。ですから、パートタイム労働者の中でも最下層の 水準をまず想定して考えているのです。外国人労働者がやっているような鋳物のバリ取 りなどの類の所の賃金です。 ○樋口座長  辻村さんの方は生活生存費を、逆に消費関数の方から測り出すわけですね。一人世帯 だといくらであると出すわけです。例えば、10時間働いたとすれば、それがクリアでき るかどうかです。そこでは賃金がいくらというのは、こういう限定した範囲ですが、そ の中では最低生存費を満たす賃金はいくらなのか。ところが、それに対して現行の賃金 はいくらである、したがって、現行賃金の方が下回っているか、逆に上に行っていると かという議論をするのだろうと思います。相当前に議論されたもので、今は覚えていま せん。 ○石田先生  経済学はあまりよく知りませんが、辻村図式の絵を掲載していただいていますが、こ れを簡単に説明すると、どういうことなのですか。均衡点が上にあって、最低賃金は下 にあるという世界なのでしょうか。 ○神代様  均衡点よりも下にいろいろな歴史的な事情から、急迫販売みたいな、過剰労働供給の 状態があって賃金が下がれば、更に供給が増えてくる。賃金が下がれば下がるほど、労 働供給が増えるという状況に陥っているのがE点から下の領域なのです。そういう状況 になったら、もう無限に賃金が下がって、非常に反人道的なことになるので、最低賃金 のところで国家が歯止めをかけなければいけないという考え方です。 ○石田先生  最長労働時間から規定するのでしょうか。 ○神代様  最長労働時間の方も、昔の大河内さんが牽制的労働関係と言ったような、長時間稼働 労働で肉体消耗的な労働に歯止るがかからない。だから、工場法で就業時間を10時間と する必要があるというように、労働基準法の8時間がそれに該当するかどうかは多少性 質が違うかもしれませんが、工場法的なレベルだと思います。 ○石田先生  いずれにしても需給関係の外からのある種の基準が立っていると。 ○神代様  そうしないと下方発散してしまう。この場合のいい点は不安定均衡点ですから、不安 定均衡より下で下方発散してしまうというところが味噌なのです。だから、やはり政策 的介入をせざるを得ないというので、これはものすごく説得力があって、私などはこれ で人生が変わったぐらい影響を受けたのです。 ○石田先生  5頁のような形になると発散しない。 ○神代様  これは放っておいても均衡点に行けばいいという話なのです。私は現実の労働市場 は、どちらかというと、5頁の図に近いのではないかという気がしているのです。しか し、昔からの行きかがりや政治的な理由があるにしても、各国とも最低賃金というのは やるわけです。ベトナムや中国でやっているからと言っても、いかにガリガリの人でも 賃金をベトナムの水準まで下げようと思う人はいないわけです。各国はそれぞれ別の価 値基準に基づいて社会保障などは考えているわけです。あまり極端に所得の格差が広が ることは、政治的な不安定要因にもなるし、まさにマクロ経済的に言っても、消費性向 を非常に下げて、景気を悪化させる危険もあることだし、所得の再分配というのは適当 にやった方がいいというのがケインズ以来の常識です。そういう意味では、樋口座長が 言われたところが、一番痛いところで、均衡点より上で介入すると、果たしてその合理 性はどこにあるかということです。  まず図式としては、一応の説明はできるにしても、安定均衡がE1であるのに、わざ わざそれより高い所で失業の発生を、理論的には失業発生させながら、より高い水準を 最低賃金で設けるということは、こちらの図式でやろうとしたら、合理的なのかという のが、一番大きな問題です。 ○石田先生  先生がおっしゃっている逆S字型の下の方のSのカーブを捉えているのか、上の方を 捉えているのか。経済学、あるいは統計学的に言ったら、何をチェックすることが、ど ちらの局面にあるかということは、あまり議論はないわけでしょうか。 ○神代様  私の知る限りありません。ある時辻村先生に私が茶飲み話的に言ったら、「何でも数 字で証明できるものではない。」と言われました。 ○樋口座長  私などは一生それを追っているわけで、逆にそれがいくらになるかということです ね。それとどの図式が現実妥当性を持っているかを、いまだに追っています。 ○神代様  辻村図式というのは、理論的に言うとロバシトですよね。だけど、エンビリカルにベ ースになっているのは、産業革命期の労働市場なのです。そういう非常に素朴な疑問に 樋口座長のような優れた労働経済学者が明快な答えを出してくれていないものだから ね。 ○樋口座長  私はまだ図の7−1のような状況が、職種においては発生しているということで、こ れは否定できないところだと思います。 ○神代様  そちらの方がいいということですか。 ○樋口座長  推定で逆に言うと、そういうのが所得効果、代替効果など、いろいろ計算していく と、アンスキルドワーカーの世界においてはありますが、全体的にはこうではありませ ん。労働市場全体ではアンスキルドワーカーにはなっていません。 ○神代様  アンスキルドワーカーで、もしそういうことが実証的に証明されるのだったら、それ は非常に大事なことだと思いますので、それがあったら是非教えて欲しいのです。 ○樋口座長  たぶん先生がおっしゃったSが右下がりだということはあると思いますが、問題は需 要曲線との傾きがどうかなのです。そこのところに行くと。すこぶる両方測らなければ いけないという問題になってくるのです。 ○神代様  需要曲線との相対的なものは、技術的には推定できるのですか。 ○樋口座長  それは理論的にはできるはずですが、実際にできるかという話は。 ○神代様  計量的に実証できますか。 ○樋口座長  それは目指すところは皆さんやろうとしているのではないでしょうか。 ○古郡先生  連立でではなくて個別にやるのですか。 ○樋口座長  いや。連立モデルから取ります。 ○神代様  慶應グループで、既にやっている人はいるわけですか。 ○樋口座長  あれは何年だったか、1990何年かのJILの雑誌に、何人かで書いたことがありま す。 ○神代様  樋口座長も入ってですか。 ○樋口座長  その1人です。何年だったかは忘れましたが、早見君とか宮内君といった若い人たち と、特にそこでは最低賃金の役割と労働時間の問題を、強く意識してやりました。最低 賃金ははっきり出してはいませんが、むしろ需要曲線と供給曲線がそういう状況になっ ていて、モデルの安定性がどうなっているのかということを。 ○神代様  ただ最低賃金制度の存在理由を世の中に分かりやすく説明するには、私に分かるくら いの説明をしてくれないと。これが合理的に存在し得るということが言えれば、何も変 える必要は全然ないのです。 ○樋口座長  正確に言えば市場によって、あるいは職種によって図7−1が成立するようなもの と、先生のもう1枚の5頁のものと、この両方があると思うのです。比率がどうなって きたかと言えば、明らかに図7−1のウエイトは下がってきていると思います。市場全 体から見れば、不安定均衡の市場というのは小さくなってきている。それが経済発展だ と思うのです。1つは資産ストックが増えることによって、労働の売り急ぎをしないよ うにするような状況が出てきて。 ○神代様  それはなくなってきていますね。社会保障もありますから。 ○樋口座長  社会保障も成立してきたわけですから、それは間違いないことですが、なくなったか というと、皆無とは言えないと言えるのではないでしょうか。 ○神代様  仮にそういうものがどこか最低辺の方に残っているとしても、最低賃金制度というの が、そんなマージナルな所だけを目標にしているものなのだろうか。 ○樋口座長  これは、それこそ影響率が1%しかないような所とも関連してくるかもしれません。 もっと上げたら影響率は高まるでしょう。 ○神代様  フランスの最低賃金制は、もう少し直立的ですよね。もともと組合は、むしろ賃金全 体を押し上げる効果を狙って、あれをつくっているわけでしょう。実際にそういう効果 はありますよね。 ○樋口座長  よろしいでしょうか。本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。 ○神代様  どうもありがとうございました。                  (神代様退場) ○樋口座長  次の議題は、論点整理を行いたいと思います。まず、これまでの議論を踏まえ、事務 局から論点整理についてのご説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  資料2をご覧ください。これまでの議論から、「最低賃金のあり方に関する研究会に おいて今後検討すべき論点」ということで整理いたしました。まず1の意議・役割で、 総論的な問題でございます。最低賃金制度の意義、労働市場で果たすべき役割について は、今日のお話にもありましたが、当然最低賃金法の目的もありますし、ILOの最低 賃金に関する条約等もあります。また最低賃金制度に関する、先ほどの辻村理論も含め た理論的な説明、あるいは役割についての様々な議論がありますので、そういったもの を整理したいと思っております。  あと、法律にもある公正競争の確保とは何かというのを、もう一度きちんと整理すべ きではないかといったご議論もありました。中央最低賃金審議会の方でも、かつてから 公正競争ということで、いろいろ議論をしてきた経過もありますので、そういったこと も含めて再度整理していただいてはどうかと。さらに最低賃金というものが、労使交渉 の補完や代替といった役割も持たせてきたという北浦部長のご説明もありましたから、 そういったところとの関係も考えるということで、そういうものも含めました。そうい う意義・役割を整理した上で、現在の最低賃金制度がその意義・役割に照らしてどう機 能しているかを検証すると。  それと共に3つ目の○にありますように、最低賃金制度を取り巻く環境にどのような 変化があるか。例えば産業構造の変化ということで、サービス経済化が進展していくと か、就業形態の変化の中で、パートタイム労働者が増えるとか、派遣が増えていくとい ったこともあると思います。さらに賃金構造の変化なども含めて、環境の変化というの を一度整理する。そこまでが総論です。  2が各論で、大きく「最低賃金の体系のあり方」「安全網としての最低賃金のあり方 」「その他」となっております。「最低賃金の体系のあり方」について最低賃金法の中 では、事業、職業の種類、地域別という法律的には3つの体系になっております。実態 上は現在のところ、地域別最低賃金と産業別最低賃金というのがあるわけですが、そう いった複数の体系で設定していくという考え方についてどうか。それとかかわるわけで すが、産業別最低賃金制度のあり方について、どう考えるか。そして3つ目が決定方式 についてです。現在ある最低賃金の大部分は、審議会で決定しております。地域別最低 賃金はすべてそうですし、産業別最低賃金もそうなっております。それとは別に最低賃 金法第11条に、労働協約の拡張方式というのが規定されております。ただ、これは実際 に全国で2つしかないという状況になっております。そういうことについてどう考える か。さらに労働協約ということからいきますと、労働組合法の労働協約の拡張適用にも かかわってこようかと思います。それらが決定方式についてです。  国の関与のあり方については、特に履行について、産業別最低賃金というのが労使の イニシアチブを基本にしているという中で、罰則が必要かどうかというご議論が、ヒア リングの中でも出されております。そういったことも含めて国がどこまで関与するか。 さらに労使イニシアチブという時に、労働協約なりで労使でやればいいのか、それとも またそこに国が審議会として、関与して決めていく必要があるのかどうかといったこと も含まれるかと思います。そこまでが体系のあり方です。  (2)の「安全網としての最低賃金のあり方」については、これも最低賃金法におい て最低賃金の決定基準ということで、労働者の生計費、類似の労働者の賃金、通常の事 業の賃金支払能力という3つの決定基準が規定されておりますが、前回の議論で支払能 力についてどう考えるかといったご議論もありましたので、そういったことも含めて決 定基準をどう考えるかというのが、1つの論点かと思います。さらに最低賃金の水準、 あるいはその考慮要素についてどう考えるかという中で、生活保護の水準との関係をど う考えるか、あるいは地域的に見て影響率や未満率も異なっているとか、実勢の賃金と の関係ということも含めてのご議論があったかと思います。そういったことも論点とな っております。  履行確保のあり方については、特に最低賃金法の罰則自体があるわけですが、2万円 と非常に低いという清家先生のお話等もありましたので、そういったことも含めて履行 確保のあり方についてどう考えるか。また減額措置・適用除外については、今日の神代 先生のお話の中にもありましたように、諸外国では若年者や訓練中の者には減額措置等 が設けられているわけですが、日本の現在の最低賃金は一部の適用除外のみになってい ます。そういったことについても一度考えてみてはどうかということです。  (3)が「その他」です。最低賃金の設定単位は、今は地域別最低賃金も産業別最低 賃金も大部分が都道府県で、かつ産業ということになっておりますが、そういった設定 単位がいいのか、あるいはもうちょっと広域化した方がいいのか。また就業形態の多様 化に応じた最低賃金の適用のあり方については、特に産業別の議論でしたが、連合や労 働組合側のヒアリングの中にもありましたように、派遣労働者が増えてきた中で最低賃 金の適用をどうしていくか。さらにパートタイム労働者が増えて時間給の方の割合も増 えてきている中で、今実態として地域別最低賃金が時間額に一本化されているわけです が、法律的には時間額日額、月額等がありますので、そういったことでの整理も考えら れるのではないか。これまでの議論から論点として整理すると、このようなところでは ないかということです。  11月にJILPTの方で事業主等に対して、最低賃金についての意識や実際にどう影 響しているかといったことを、最低賃金のアンケート調査という形で調査しておりま す。それらを今集計しているところですので、そういったものが今後まとまれば、お出 ししたいと思います。あと、私どもの方でやっている最低賃金の実態調査等を基に、一 般労働者とパートタイム労働者の賃金分布と、最低賃金との関係についても、今JIL PTの方に分析をお願いしております。そういったものも今後まとまれば、この研究会 に資料としてお出ししたいと思っております。そういうことも含めて今後ご議論いただ ければと考えております。 ○樋口座長  ただ今の説明にご質問、ご意見をお願いします。適用範囲のところで、少なくとも今 のところは賃金ということですから、労働関係にある労働者が想定されていると思うの ですが、一方でデペンデントコントラクター(従属的契約者)、在宅就労、昔で言う家 内労働との関係はどう考えたらいいのか。家内労働については、最低工賃がありますよ ね。仕事を発注する側からすれば、労働契約を結べばこれに従うし、これ以下の工賃で やってもらおうと思えば、デペンデントコントラクティブでいいのかということが起こ ってくるわけです。実は先ほどの労働供給云々というのも、そこのところが関連してい るのです。労働者として雇用関係を結ぶという供給を考えるのか、そうではなくて自営 業とか契約労働者という形まで含めて考えるのかで、全然違ってくる感じがするわけで す。その点はここではどう扱うことになりますか。 ○前田賃金時間課長  最低賃金制度というのは、本来は樋口座長がおっしゃるように、昔で言えば労働者か ら家内労働への代替というのがあって、家内労働についての最低工賃とのかかわりが非 常に深かったわけです。ただ最低賃金法自体は、労働者ということを前提にしておりま すので、この研究会の中ではどうしても労働者という前提で、とりあえず整理をしてい ただきたいと思っております。 ○樋口座長  現在そういう検討は、厚生労働省内で何かあるのですか。 ○前田賃金時間課長  在宅ワークなどのあり方等についての検討はされているところです。 ○青木労働基準局長  一方、労働契約法を作らなければいけないのではないかという議論があって、それで 今、主に法律の先生たちが中心になって、別の研究会で議論をしていただいているので す。今のところ、まだそこまでの議論はいっていないのですが、問題意識としては、そ ういったところもあります。従来のように実態を見て労働基準法上の労働者に入るのな ら、もうそれで十分ではないかという議論だけでいいのかどうかということで、そこま で少し議論していただきたいと思っているのです。まだそこまでの議論はいっていない のですが、一応私の方としては議論を提起して、とりあえず専門の先生方で議論してい ただこうかと思っています。 ○樋口座長  そうしたら、それをまたこちらでご紹介いただくということになりますか。 ○青木労働基準局長  そうですね。 ○樋口座長  他に生活保護等という話も出ていましたが。 ○古郡先生  このJILPTに頼んだ調査というのは、項目もみんな出来てしまっているのでしょ うか。 ○前田賃金時間課長  アンケート自体は既に送って、今回収しているところです。 ○古郡先生  それは私たちにも事前に聞いて欲しかったと思います。例えば最低賃金が毎年改定さ れているという状況を考えると、一般賃金が最低賃金に影響を与えるという側面と、最 低賃金が一般賃金に影響を与えるという両方の側面があると思います。地方の中小零細 企業の経営者からよく聞く話ですが、最低賃金が上がると大きな打撃を受けるとおっし ゃっているけれど、実感としてはよく分からないのです。支払能力との関係ですが、果 たしてマージンとか、生産とか、雇用とか、要するに労務コストにどのぐらいの圧力が かかるのかというところが、よく分かるような調査を、簡単なアンケート調査では、所 詮できないのかもしれませんが、そういうものが分かればいいと思っています。この項 目だと大体どんな感じですか。 ○前田賃金時間課長  例えば最低賃金がどのぐらい引き上がった時に、雇用を控えるか、あるいは最低賃金 の引上げと雇用の関係がどうか、最低賃金の引上げがどう影響しているかといったこと は、調査項目としては入れているのです。最低賃金が事業主なり労働者なりに、実態的 にどう影響しているかという観点の調査を実施したところです。 ○古郡先生  何か複雑な経営判断をする時には、最低賃金はいろいろな要素の1つでしかないか ら、所詮最低賃金の影響などは取り出すのが難しいということかもしれませんね。  もう1つは都道府県別の標準生計費と、最低賃金との関係です。平均値で見ると、ど うも11万円とか12万円ぐらい最低賃金の方が低いらしいのですが、都道府県別にどうい う差があって、それがトレンドとしてどうなっているかというのが、もう少し分かると いいなと思います。 ○前田賃金時間課長  標準生計費との関係ですか。 ○古郡先生  そうです。単身世帯の標準生計費です。 ○前田賃金時間課長  では、そういう資料を整理してみます。 ○石田先生  気付いた点を1つだけ申し上げます。最低賃金制度に求められる意義・役割と言った 時には、現行法にもありますように、労働者の生活の安定というのがあります。渡辺先 生を前にして言うのはアレですが、私の法の理解では、むしろ労働者の生活の安定を図 るのが軸で、公正競争とか労使自治というのは、その他にこういうこともあるという程 度なのです。やはり労働者の生活の安定です。その問題の難しさは、各論の方に出てく る安定みたいなものをどういう体系の中で具現化するか、どうしたらその水準が定まる かというのが、やはり意義の所にあるのかと思います。 ○橋本先生  今の石田先生のご意見に関連しますが、この検討会で産業別最低賃金制度のあり方を 見直すに当たって、初回にも詳しいご説明をいただきましたが、この制度の持っている 歴史的な意義というのを、もう一度検討させていただければと思っています。初回の説 明では、当初は一般最低賃金の適用が困難な低賃金職種について設けていたとありまし た。しかし、その意義が薄れてきて、昭和42年答申では業者間協定を廃止することが決 まったそうですが、昭和43年の法改正の際、現行の第16条の4が入ったというご説明を いただきました。できればこの辺の議論についてどういう議論がなされて、今の制度が 導入されるに至ったのか、そしてその議論が現在も妥当するのかについて、検討できれ ばと思っております。  あと、もう1点。この制度の意義についてですが、一番似ているのはフランスだと思 います。フランスでは一般最低賃金に加え、産業別の最低賃金制度がありますが、この 2つの制度が併存している理由について、フランスではどう理解されているのかという 比較法的な検討と、イギリスで低職種についてあった職種別最低賃金が、1993年に廃止 されたと教えていただきましたが、廃止された理由など、外国の制度変遷の歴史や産業 別最低賃金制度にかかわる議論について、もう少し勉強させていただければと思いま す。 ○前田賃金時間課長  調べられる限り整理したいと思います。 ○今野先生  論点としてはこれでいいと思っているのですが、産業別最低賃金に関連して、全回北 浦さんがおっしゃった中で、私が一番気になっているのは、一応建前上は基幹労働者と いうことになっていますね。それが企業内賃金とある種の連携を持っていて、適正な賃 金を決定する上では、非常に大きな機能を持っているわけです。かつ賃金決定をする 時、労使はそれを基準にやりますから、一種の交渉コストをすごく落としているような 社会だというのが、私はすごく気になっているのです。北浦さんに「それはどこかで証 明できるんですか。」と言ったら、「いや、それはそうなっているんです。」というお 話だったのです。つまり産業別最低賃金を考える時に基幹労働者と言っている以上は、 その辺をどう考えるかというのがすごく重要ではないかと思っていました。調べろと か、そういうことではなくて、すごく気になっていたのです。今回のアンケートなど は、専ら地域別最低賃金でしょう。 ○前田賃金時間課長  いや、産業別最低賃金のある業者には産業別最低賃金も含めて聞いています。 ○樋口座長  他にどうでしょうか。 ○渡辺先生  石田先生のおっしゃった生活を守るということですが、今橋本先生が言われたよう に、最初は業種間協定を中心にして、それができた業種が最低賃金制度を実施していく と。そういう点から考えると生活保護だけではなくて、産業秩序と言いますか、産業に おける賃金秩序という考え方が、労働者の生活保障に一体化するのではなくて、並列的 な最低賃金制度のあり方として最初から考えられていたと、私は考えていたのです。や はり最低賃金制度というのは、二重の存在意義があるのではないかという感じで、今ま でずっときておりましたので、意義・役割の所では橋本先生も言われたように、もう一 度歴史的にフォローしてみて、それを維持する必要があるかどうかを含めて、十分議論 すべきだと私も思います。 ○石田先生  これは産業別最低賃金にかかわっているのですよね。地域別最低賃金の公正競争とい うのは、日本と中国との公正競争という妙な話になるので。 ○渡辺先生  産業別最低賃金です。 ○石田先生  それはおっしゃるとおりだと思います。 ○渡辺先生  もう1つは現状の状態それ自体を取り上げて、もうちょっと存在感のあるものの方が いいのではないかとか、いやいや、今ぐらいがいいという影響率の経済学という点は、 私は少し議論してもらいたい感じです。これは(2)の「最低賃金の水準」で問題にな ることかと思います。ここでは生活保護との関係、いわゆる地域的なバラ付きを含むと いうことで、影響率の問題が頭にあって「水準」と書かれているのかどうか。どこかで 議論する必要があるかと思うのです。やはり(2)の2番目の○でしょうか。 ○樋口座長  そうですね。(2)の2番目の○の生活保護との関連で、神代先生はサラッとおっし ゃったけれど、どこの国でも生活保護の方が最低賃金より高い水準にあると。 ○今野先生  本当なのですか。 ○樋口座長  本当なのか聞けなかったので、調べて欲しいと思っています。もし働いた方が所得が 少ないとすれば、モラルハザードの問題が必ず出てきます。特に今度の生活保護のいろ いろな見直しをなさっている中で、モラルハザードの問題というか、インセンティブの 問題を検討していらっしゃるらしいですから、あれはちょっと気になったところなので す。 ○今野先生  ちょっとではないです。すごく気になりました。 ○渡辺先生  生活保護の水準といっても、生活保護の給付というのは8種類か9種類あって、最低 賃金と比べる水準がどの水準なのか。生活扶助、住宅扶助、教育扶助など、いろいろあ るわけです。その中のどれを取って合算して、最低賃金と比べるかという議論自体をし ないと。比較論を厳密にしませんと。 ○樋口座長  アメリカで言えばフードスタンプのレベルは、明らかに最低賃金より低いです。です から、これを給付するには所得がいくらというように、それぞれの基準がいろいろある と思うのです。それを全部1つにしないでいくつか出してもらうと、議論がしやすいの ではないかと思います。しかし、これは大変な作業かもしれないですね。 ○今野先生  清家先生が言うように、供給はもう家族単位で考える必要はない、個人だというのな ら、最低賃金はもう単身者だけを考えればいいわけです。 ○渡辺先生  単身者だけを考える場合に、住宅扶助も合算するのかという問題があるでしょう。生 活に必要な消費物資の価格だけを考えればいいのかどうか。今まで11万円とか12万円と いう差額が出たのは、18歳の住宅扶助と生活扶助の両方を合算した額なのです。しか し、それが正しい比較論なのかどうかというのは、私にはよく分からないので、ここで 議論する必要があります。 ○古郡先生  住宅扶助は要らないのかもしれないですね。 ○渡辺先生  やはりそこには理屈が付かないと。 ○石田先生  差額というのは成り立たないのではないでしょうか。 ○樋口座長  後段については所得の最低限はないのです。それぞれ自治体がやっている公的住宅サ ービスの時には、所得の制約があって、少なくとも入居時にはいくらかというのはやっ ているのです。それよりも最低賃金はどうなっているのかというのは、言われてみると 気になるので、そこら辺を。単に生活保護一本ということではなく、いろいろな保護規 定があると思いますので、調べてもらえると。  もう1つは、これは大変なことになるかもしれませんが、三位一体の改革ではないけ れど、地方分権との関連で国と地方のかかわり方、賃金制度のつくり方をどう考えてい くかです。特に職種別、産業別、特に産業別を考えると、実際に産業別と言っても地域 別産業別ですよね。産業別については国1つで決めるとか、逆に地方別はそれぞれの地 域で決めるとか、いろいろな仕組みがありそうなので、錯綜するかもしれないけれど、 議論しておいた方が後々いいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 ○石田先生  私が思い付く限りで言うと、地方最低賃金審議会について言えば、国と地方の関係を 実質的に規制しているのは目安制度です。目安が立てば各地方の審議会の自主性といっ ても、労使で意見が割れていますから、当然目安が軸になるし、その軸を慣行的に見て も、+1円か±0かという形で決まっているので、地方最低賃金審議会に即して地方と 国の関係を意味のある形で議論するとしたら、目安制度をどう考えるかということにな るのではないか。その箍が外れた時は、おそらく相当紛糾する基準のない世界になりま すが、それこそまさに地方分権なのだと。 ○樋口座長  そうですね。それぞれの地域で実態に合わせて。 ○石田先生  そういうのはあり得ると思うのです。 ○古郡先生  先ほどの神代先生の議論にあったように、シンボル的に国が最低賃金を決めて、あと は地方ごとに決めるということも考えられますね。 ○石田先生  それもありますね。 ○樋口座長  その仕組みをどう考えるかというのは、多分この最低賃金の(1)の1番目の○に入 ってくるのか。地方には自主性を求めるのですか。 ○石田先生  目安制度が出た時に、これを参考にしながら地方の自主性を尊重してやってください と、各地方の審議会に中央最低賃金審議会からそういう書類が届くのです。そうすると 自主性とは何だ、勝手に決めていいのか、そうもいかないでしょうということで、みん な議論になるのです。ですから目安が軸になるのです。 ○樋口座長  お互いに労使の主体性を尊重するということであれば、国は何のガイドラインも決め ないで、それぞれ労使で話し合ってくださいと。 ○石田先生  その目安自体は、賃金改定状況調査の第4表ですね。つまり現行の1から29人以下の 賃金がどう変わったかで、かなり統計的に出て、多少労使の間で匙加減をするという。 ですから水準は基本的に変わらないのです。つまりグラジュアルに実勢を追いかけてい るという、そういうところに。 ○樋口座長  多少のアップダウンは変わらないと。 ○石田先生  ええ。 ○樋口座長  それと履行確保のあり方が2万円というお話がありましたが、ちゃんと最低賃金が守 られているかどうかというチェックは、現在どういう形で行われているのですか。 ○前田賃金時間課長  主に最低賃金法違反が多いような業種や規模の所に、最低賃金主眼の監督ということ で、労働基準監督官が監督に行って、実際の最低賃金法違反があるかどうかをチェック しております。その状況等も整理して、また出させていただきます。 ○樋口座長  違反も出てくるのですね。 ○前田賃金時間課長  違反率がどうだとか、そういうのがあります。 ○樋口座長  また後でお気付きになった点がありましたら、ご連絡していただいて、さらにこうい ったものを調べた方がいいのではないか、分析した方がいいのではないかというものが あれば、自由にご意見をいただきたいと思います。とりあえず今日はこれでよろしいで しょうか。では事務局から、次回についての連絡がありましたらお願いします。 ○前田賃金時間課長  次回は年明けの1月7日の金曜日、午後3時半から予定しております。正式には追っ て郵送させていただきます。次回は今日整理していただいた論点整理に従って、最低賃 金制度の意義・役割とか、最低賃金制度を取り巻く環境変化について、事務局の方で資 料を整理した上で、ご議論いただければと考えております。 ○樋口座長  それでは本日の会合は、これで終了したいと思います。どうもありがとうございまし た。 (照会先)  厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)