04/12/15 職業がん対策専門検討会平成16年度第1回議事録              第1回職業がん対策専門検討会                                   日時 平成16年12月15日(水)                          10:00〜                       場所 厚生労働省専用第17会議室                    照会先:厚生労働省労働基準局安全衛生部                       化学物質対策課化学物質評価室審査係                    TEL03−5253−1111(5512) ○有害性調査機関査察官  本日はお忙しい中、職業がん対策専門検討会にお集まりいただきまして、ありがとう ございました。定刻になりましたので、ただいまより会議を開催いたします。初めに化 学物質対策課長の古川より、ご挨拶申し上げます。 ○化学物質対策課長  本日ご出席の委員の皆様におかれましては、化学物質による健康障害防止対策につい て、日ごろからご支援、ご指導を賜っておりますことに、厚く御礼申し上げたいと思い ます。また、この度は大変お忙しい中、本検討会の委員を引き受けていただきまして、 誠にありがとうございます。  最近の職業がんをめぐる動きとしては、石綿が挙げられるのではないかと思います。 石綿についてはすでに平成7年に、アモサイトとクロシドライトの製造と使用を禁止し たわけですが、昨年政令を改正し、本年10月1日から石綿を含有する建材、摩擦材、接 着剤の10種類の製品について、製造と使用を禁止したところです。  石綿というのは、これまでいろいろな用途があったわけですが、いちばん多かったの が、何と言っても建材です。このたび建材が使用禁止となりましたので、今後の石綿ば く露防止対策というのは、これまで多く使われていた石綿建材の解体作業が中心になる のではないかと思っております。そういうことから本年9月、新しく石綿障害予防規則 を作るということで、審議会のほうに諮問させていただきました。従来、石綿は特定化 学物質等障害予防規則の中で規制していたわけですが、石綿の解体作業に伴う規制の強 化と、石綿が特化則の中に入っていますと、わかりにくいということもありますので、 新しく石綿にかかる規制だけを抜き出し、石綿障害予防規則というものを制定しました 。まだ公布にはなっておりませんが、年明けぐらいにはなるのではないかと思います。 施行については、来年7月1日を予定しております。私どもはこの規制を活用して、今 後の石綿による健康障害の防止対策に万全を期していきたいと考えています。  また国外ではいろいろな情報がありますが、1つにはホルムアルデヒドの問題がある のではないかと思っています。IARCの評価がグループIに格上げになったという報告 がされております。現在ホルムアルデヒドについては、特化則の中の第3類物質として 規制されておりますが、今後はIARCの動きと相まって、ホルムアルデヒドの規則上 の位置づけも、検討していかなければならないのではないかと思っているところです。 その際はまた皆様方のご意見等を伺うことになろうかと思いますので、よろしくお願い します。  日本バイオアッセイ研究センターで実施したがん原性試験の結果、がん原性ありと評 価していただいた12物質については、すでに厚生労働大臣の指針を公表して、必要な対 策を講じていただくよう関係事業者に対して指導しているところです。  また昨年開催した検討会では、がん原性ありということで、いくつかの物質を評価し ていただきました。これらについては、まだ指針というところまでは至っておりません が、現在指針の策定に向けて、鋭意準備作業を行っているところです。  本検討会におきましては、日本バイオアッセイ研究センターが実施したアクリル酸= 2−ヒドロキシエチルを含め5物質について、がん原性の評価等の検討をお願いしたい ということで、今回の開催になったわけです。非常に限られた時間ではございますが、 何とぞよろしくお願い申し上げて、検討会の開催に当たってのご挨拶とさせていただき ます。 ○有害性調査機関査察官  続いて本日の検討会にお集まりの先生方を、五十音順でご紹介いたします。名簿は資 料2に付いております。中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長の櫻井先 生です。東京慈恵会医科大学環境保健医学教室教授の清水先生です。名古屋市立大学大 学院医学研究科・分子毒性学分野教授の津田先生です。大阪市立大学大学院医学研究科 教授の福島先生です。東京大学名誉教授の松島先生です。産業医学総合研究所有害性評 価研究部部長の森永先生です。また本日は、がん原性試験の結果の説明を行っていただ くために、日本バイオアッセイ研究センターの方々にも来ていただいております。  続いて事務局、厚生労働省側のご紹介をいたします。ただいまご挨拶申し上げた化学 物質対策課長、古川です。化学物質評価室長、角元です。私は有害性調査機関査察官を しております大淵と申します。  それでは検討会を開催するに当たり、この会議の目的等について、事務局から説明さ せていただきます。資料1の会議の開催要綱をご覧ください。              (資料1を読み上げ) ○有害性調査機関査察官  このうち2の検討事項については、昨年度の会議でも事務局からご説明しております が、この会議では日本バイオアッセイ研究センターで実施したがん原性試験の評価、い わゆるハザードの評価に中心を置いており、それを踏まえた上で労働衛生対策、行政上 の対応が必要かどうかというあたりのご判断をしていただくという形で、この会議を位 置づけております。よろしくお願い申し上げます。会議の目的、あるいは検討事項につ いて、ご質問等はございますか。  ないようですので、続いてこの検討会の座長の選出をしたいと存じます。昨年度の職 業がん対策専門検討会は、櫻井先生に座長をお願いしておりましたので、事務局として は今年度も櫻井先生にお願いしたいと思っておりますが、いかがでしょうか。                   (了承)                  ○有害性調査機関査察官  それでは櫻井先生に座長をお願いすることといたします。先生、よろしくお願いしま す。 ○櫻井座長  今年も座長をお引き受けすることになりましたが、本質的には大変困難な課題だと思 っており、私は力不足であると認識しております。幸い専門の先生方に委員としてご参 加いただいておりますので、先生方のお力添えをいただいて、本検討会における判断が 妥当で適切に行われますよう、努力してまいりたいと思います。どうぞよろしくお願い いたします。  最初に、配付資料の確認をお願いします。 ○有害性調査機関査察官  お手元に配付してある資料の1枚目が、議事次第になっており、2枚目に資料一覧が ありますので、それと照らし合わせながら、確認していただければと存じます。資料1 がこの検討会の設置要綱です。資料2が参集者名簿です。資料3から資料5が、本日検 討いただく3つの物質についての資料となっております。資料3がアクリル酸=2−ヒ ドロキシエチルの関係で、枝番号1が基本情報、枝番号2が日本バイオアッセイ研究セ ンターで実施したがん原性試験の結果です。資料4がアリルクロリドの関係で、枝番号 1が基本情報、枝番号2ががん原性試験の結果、枝番号3がACGIHの提案理由書、 枝番号4と5が、IARCのモノグラフということで、時代の古いものと新しいものを 載せております。資料5がο-フェニレンジアミンの関係で、枝番号1が基本情報、枝番 号2が日本バイオアッセイ研究センターでの試験結果、枝番号3がACGIHの提案理 由書、枝番号4が日本産業衛生学会の提案理由書となっております。 ○櫻井座長  それでは最初に、がん原性試験結果評価ということで、その検討を始めたいと思いま す。まずはアクリル酸=2−ヒドロキシエチルです。物質情報について、事務局から説 明をお願いします。 ○有害性調査機関査察官  資料3−1が、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルの基本情報です。物理化学的性質 から順に見てまいります。こちらに書いてあるような分子量、比重、凝固点、沸点、引 火点等を持つ物質で、常温での性状は透明な液体で、水や有機溶媒に溶解するものです 。生産量は平成14年において、約3,000tとなっております。メーカーは大阪有機化学工 業、東亞合成、日本触媒です。用途は熱硬化性塗料、接着剤、繊維処理剤、潤滑油添加 剤、コポリマーの改質剤です。法令による規制の現状ですが、労働安全衛生法の関係で いきますと、変異原性が認められた化学物質ということで、労働基準局長名の行政指導 の対象となっております。その他、消防法や海洋汚染防止法での規制があります。  続いてがん原性の評価ですが、IARC、日本産衛学会、ACGIHとも、いまの段 階では評価はありません。動物に対する評価は、ラットに対する急性毒性ということで 、LD50が548mg/kgとなっております。変異原性については、微生物を用いた変異原性試 験、ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験が、共に陽性となっております。ばく露限 界については特に定められておりません。ヒトへの影響としては、皮膚に付着した場合 、火傷の症状を起こしたり、液体や蒸気が目に接触すると炎症を起こしたりということ があります。 ○櫻井座長  ここまでで何かご質問はありますか。よろしければ、続いてがん原性試験結果につい て、日本バイオアッセイのほうから説明をお願いします。               (パワーポイント使用)               ○日本バイオアッセイ研究センター  先ほど化学物質対策課から説明いただいたように、被験物質はアクリル酸=2−ヒド ロキシエチルという、水に溶けるものです。このがん原性試験では水に溶解して試験を しております。物質情報は同じですので、割愛させていただきます。微生物を用いた変 異原性試験でも、ほ乳類の培養細胞を用いた試験でも、両方とも陽性という説明があり ましたので、こちらも同じということで進めさせていただきます。  まず試験のほうです。投与経路は物性を勘案し、飲水による経口投与試験を行ってお ります。動物種はラットF344/DuCrj、いわゆるFischerラットおよびマウスのCrj:BDF1マ ウスを使用しております。群構成ですが、1対照群、3投与群、1群当たり雌雄各50匹 で試験を実施しており、合計でラット400匹、マウス400匹を使用しております。  投与条件は飲水による自由摂取で、給水瓶で毎日投与しております。雌雄に安定性が 認められている期間の3日、4日で交換して2年間、つまり104週間の飲水投与を行って おります。  投与濃度ですが、ラットのほうは雌雄とも13週間の予備試験を実施して、濃度設定を 行っております。最低濃度が320ppm、次に800ppm、2,000ppmの濃度となっております。 マウスのほうには性差があって、雌雄で若干濃度が違います。予備試験の結果から、雄 は3,000ppmから750ppmの間で、雌は4,500ppmから500ppmの間で試験を実施しております 。  飼育環境ですが、温度は23±2℃、湿度は55±10%の環境設定をしており、バリアシ ステムで飼育しております。照明時間は1日12時間、換気回数は1時間当たり15回から1 7回です。飼料は固形飼料を自由摂取させております。対照群にはこの被験物質を溶かし た脱イオン水のみを、自由摂取させております。  続いて観察、検査の項目です。動物の一般状態の観察、体重・摂水量・摂餌量の測定 、血液生化学的検査、尿検査、臓器重量の測定、剖検、病理組織学的検査を実施してお ります。 ○福島委員  マウスの用量設定で、雄は公比2、雌は公比3ということで取った理由は何ですか。 要するに、用量が違いますよね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  マウスのほうですが、13週間試験の予備試験では雌雄とも最高用量の6,000ppmから 試験を実施しております。最高用量の6,000ppmで、前胃に潰瘍が頻発しました。また雄 では体重増加の抑制が3,000ppm以上の群で見られましたが、雌では最高用量6,000ppmの 群に、わずかに見られただけであったということです。体重増加の抑制率は、雄の3,000 ppmと雌の6,000ppmでは、ほぼ同じであったということで、最高用量は雌雄とも6,000ppm では、やはり前胃に潰瘍が起こったり、104週間連続投与には耐えられないと判断してお ります。そういうことで雄雌の最高用量は、若干の性差があるということで、それに対 応したものと見ております。  低用量の話では、雄では1,500ppm以上で腎臓に組織変化が見られ、尿中のケトン体が 増加し、雌では750ppm以上で腎臓の重量増加と尿中のケトン体が増加したため、最小用 量でがん原性に影響を与えるだろうという濃度は、やはり上が高いから下が低いとか高 いというわけではなくて、影響があったところを考慮して決めております。  続いて、ラットの試験結果に入りたいと思います。ラットの雄の投与群の生存率は、 対照群とほぼ同様でした。○がコントロール、△が320ppm、□が800ppm、◇が2,000ppm のマークですが、104週を経過する時点までは、生存率はコントロールと同じになってお ります。ラットの雌のほうは逆に投与群のほうが高いぐらいで、それほど大きな違いは ないと思われます。  次は体重推移です。ラット雄の体重推移ですが、投与濃度に対応した体重増加の抑制 が見られております。 ○福島委員  これには有意差がついていますか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい、付いております。ラット雌のほうも、やはり投与濃度に対応した変化が見られ ます。320ppmは対照群と同じような体重推移を示しております。  次に、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性試験の主な腫瘍の発生状況を説 明します。この表はラットの雄です。投与濃度は先ほど見たように320ppm、800ppm、2,0 00ppmで、それぞれ発生数を書いております。統計学的な検定は対照群との2群比較はFi sher検定で、Peto検定とCochran-Armitage検定は傾向検定です。ここでは主な腫瘍とい うことで、いろいろな腫瘍を挙げましたが、統計学的に有意であったのは、ラットの雄 では肝臓の肝細胞腺腫でした。対照群は1、320ppmは4、800ppmは4、2,000ppmは10と なり、2000ppmではFisher検定で有意でした。Peto検定とCochran-Armitage検定も有意で した。  その次の精巣の間細胞腫は統計学的に有意でしたが、ヒストリカルコントロールデー タの範囲内ですし、この系統の動物にはよく頻発する腫瘍ですので、被験物質のせいで あるとは断定できませんでした。甲状腺の濾胞状腺腫と腺がんを合わせたものの発生も 、同様の理由で被験物質のせいだとは判定しておりません。下垂体の腺腫ですが、カロ リー不足や体重増加の抑制等により、自然発生腫瘍の発生数が低下することはよく知ら れております。先ほどのグラフにもありましたように、今回も体重増加の抑制により投 与群で腫瘍が減るという統計学的な検定結果が出ましたが、これも被験物質が関与して いるものではありませんでした。  ラットの雌のほうですが、わずかに肝臓の肝細胞腺腫が0、1、0、3ということで 、Peto検定、Cochran-Armitage検定の傾向検定で増加傾向を示しております。一方、子 宮内膜間質性肉腫は、体重増加の抑制等の影響を受けたと思われる投与群での発生数の 減少と思われます。  これは先ほど説明したラット雄の肝臓の肝細胞腺腫の写真で、最高用量の2,000ppm群 です。  次に、マウス雄の説明をします。マウスの生存率は対照群とほぼ同様の生存率を示し ております。マウスの雌の生存率も対照群との大きな違いはありません。  マウスの雄の体重推移ですが、投与濃度に対応した体重増加の抑制が認められており ます。雌のほうもやはり体重増加の抑制が、投与濃度に対応して認められております。  続いて、マウスの雄の腫瘍発生の状況です。マウスの雄では悪性腫瘍、良性腫瘍とも 、顕著に増加したものはありませんでした。逆にCochran-Armitage検定で減っていると いう傾向が出ております。マウスの雌のほうでも、すべて減っております。ただ500ppm でちょっと増加というのが出ております。これも今までに1,200例ぐらいの動物を対照群 として飼いましたが、ヒストリカルコントロールが、1群当たりの平均発生率が3匹か ら4匹出る程度で、そう大幅に超えているとは思いませんし、用量に対応していません ので、被験物質のせいであるとは断定しておりません。  続いてアクリル酸=2−ヒドロキシエチルのまとめです。ラットでは雄に肝細胞腺腫 と前腫瘍性病変である好塩基性小増殖巣の増加が認められ、これらの結果はアクリル酸 =2−ヒドロキシエチルのがん原性を示唆する証拠と考えられました。雌にも肝細胞腺 腫のわずかな発生増加が認められ、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示 す不確実な証拠と考えられました。マウスでは雌雄共に腫瘍の発生増加が認められず、 アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示す証拠は認められませんでした。ア クリル酸=2−ヒドロキシエチルの説明は以上です。               (パワーポイント終了)               ○櫻井座長  ありがとうございました。 ○福島委員  好塩基性小増殖巣の発生例数を教えてください。 ○日本バイオアッセイ研究センター  雄のほうは対照群が9例、その次の群は8例、その次は22例が統計的に有意です。そ の次の最高用量群が23例で、かなり増えております。雌のほうは特に増えておりません 。 ○櫻井座長  いまのは表になかったですね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  ないです。これは非腫瘍性病変ということで、口頭のみで説明しました。 ○櫻井座長  わかりました。その他、ただいまのご説明に対する質疑とか、確認事項とか、最終的 にはがん原性試験の結果によって、どう評価するかということについて、ご審議をお願 いしたいと思います。 ○松島委員  ラットの場合は雄雌共に肝臓にターゲットがあって、雄のほうが増加傾向が顕著です ね。マウスの雌ではいちばん低い濃度である500ppmで、肝臓に腺腫が有意に増加してい て、ヒストリカルよりは高いと。投与量に対応していないとおっしゃったけれど、体重 の変化を見ると、濃度の設定のミスかもしれないけれど、抑制が効いている。先ほどか ら盛んに、成長が抑えられているときには、腫瘍の発生が低くなるとおっしゃっている けれど、投与量に応じていないという解釈は、少し言いすぎではないかという気がしま す。ラットもマウスも、肝臓がターゲットであることは間違いないのではないでしょう か。 ○櫻井座長  その点はいかがですか。福島委員はどう考えられますか。 ○福島委員  体重曲線を見ますと、確かに高用量のほうでは減ってきています。そうしたときにト キシックなエフェクト(毒性影響)というのを、この4,500ppmの頻度のほうにどういう ように反映させるかということで、松島委員はそういうことを反映させて、実際に発が ん性ありと言ってもいいのではないかというご意見ですね。そうは言っても1,500ppmと5 00ppmの体重を、雌のほうで見ますと、確かに用量相関しています。そうすると、それに 対して肝細胞腺腫の発生を見ていると大きな差があるというのは、トキシック(毒性) の影響ではなくて、むしろ500ppmのところに偶発的な所見として増えたのではないかと いう、データの取り方をしたのです。そういう意味からすると背景データ内にあるとい うのは、この場合は許容できるのではないかという取り方をしました。  背景データの取り方というのは、なかなか難しいのです。ただ雌のほうに6例も出る ということについては、松島委員の言われるように考慮する必要はあります。基本的に 雄のほうに強く出て雌のほうに弱いというのが、マウスの肝臓の発がん性の常識と言い ますか、一般的な傾向ですから、松島委員のご意見も十分考慮する必要があります。し かし用量相関がなく、体重の程度の差を考慮すると、むしろ今回は背景データの範囲内 として見ておいたほうがいいのではないかということです。 ○櫻井座長  津田委員、何かご意見はありますか。 ○津田委員  いま福島委員がおっしゃったことと基本的に同じですが、生存を見ると、マウスもラ ットも高用量で多くが死亡しているということはなく、低用量も悪くないですね。動物 数が少なくなってしまった原因が用量のみに起因するかどうかは、断定し難いという気 がします。肝臓の腺腫はこのストレーン(系統)ではどのくらいですか。 ○福島委員  自然発生の。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい。雌のほうですね。 ○津田委員  はい。 ○日本バイオアッセイ研究センター  肝細胞腺腫の発生は、インシデンス(発生率)としては5.2%、最初は1試験当たり2 %から最高は10%、約5例というあたりでそこら辺がギリギリのところです。 ○津田委員  この例ですと、10%ちょっとということですから、少し高い。 ○日本バイオアッセイ研究センター  6例ですから12%になります。ですから、そこら辺に入るか入らないかのところなの です。 ○津田委員  用量が高いほど生存率が良いというのは、どうしてですか。雄で高用量の3,000ppm、 雌ですと4,500ppmのほうが低用量群より生存数が多いということですね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい。 ○櫻井座長  生存ですね。なるほど、コントロールがいちばん悪い。 ○津田委員  これは腫瘍で死んだとか、そういうのではないですね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そういうわけでもないのです。 ○津田委員  そうすると高用量で発がんが減るということもありますが、断定しにくいという感じ がします。 ○櫻井座長  わかりました。教えていただきたいのは、例えば500ppm投与群は、最終的には50%し か生存していないのですね。途中で早めに死んでいるのか、死亡直前に屠殺して組織を 見ているのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  両方あります。当然夜間などに死んだもの(死後発見)もありますが、なるべくモリ バント(瀕死と殺)と言って瀕死状態で生きたサンプルを採取しようということで、瀕 死状態の動物を搬出して採っているのも入っております。 ○津田委員  摂餌はどうですか。例えば低用量のほうが多く食べているとか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そのとおりです。 ○津田委員  かえって毒性が出たということも、たまにはあるのですが。 ○日本バイオアッセイ研究センター  ケミカル・インテーク(化学物質摂取量)から見ると、逆転ということはありません ので、明らかな毒性がそれよりも多いという説明にはならないと思います。 ○津田委員  確かに高用量のほうがたくさん食べている。 ○日本バイオアッセイ研究センター  ちょっと待ってください。 ○津田委員  総摂取量。 ○日本バイオアッセイ研究センター  飲水は明らかに投与量に対応した、すごいレスポンスがあります。餌のほうもやはり 投与量に対応した現象が、高用量には見られております。 ○津田委員  結果的に高用量のほうの摂取が少ないということは起こっていないのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  それは起こっておりません。 ○櫻井座長  並行的にマウスの雌で悪性リンパ腫などが、非常に高用量ほど減っているわけですね 。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そうです。 ○櫻井座長  これと並行的なところから見ると、肝細胞腺腫も抑えられているというように見なく てもよろしいのですか。 ○津田委員  あるかもしれませんね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  その可能性はあると思います。 ○櫻井座長  これはつまらない質問で、皆さんはよくご存じだろうと思いますが、ここで発生が抑 制されているというのは、第1に早めに死んでしまって、十分腫瘍が成長していないか ら見つからないというファクターもあるのでしょうか。それはあまり考えなくてもいい のですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  今回の場合は死亡が。 ○櫻井座長  死亡が早めに起こっていますね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  マウスの雌のほうですね。 ○櫻井座長  要するに、その時点で組織を見るわけですよね。つまり少し落ちるというのは、がん の発生と成長の抑制ということだけでなく、別の理由で早く死んでしまうから、それで 見つからないということもあるわけですか。そういうことはあまり考えなくてもいいの ですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  Peto検定ではそれまでの発生例数と、生き残った場合に発生する確率を考慮した形で 検定している部分がありますので、その場合は死亡率の補正が少し出てきています。そ れはPeto検定で検出する可能性があるのですが、今回は検出されていません。 ○櫻井座長  この物質について、どう最終判断するかというのは難しいと思うのですが、清水委員 は何かお気付きの点はありますか。 ○清水委員  マウスの雌で500ppmで肝細胞腺腫が多くなっていますが、生存数から見ますと、実際 にはどの辺で肝細胞腺腫が見つかっているのですか。いちばん最後まで生き残ったもの たちに多かったのか、途中でもすでに発生していたのかどうか、その辺はわかりますか 。 ○日本バイオアッセイ研究センター  すみません。いまの時点でそこまで明確にお答えすることはできません。 ○福島委員  いまの可能性があったとしても、こういうことが言えると思うのです。肝細胞腺腫が 死因になったという例はないだろうと。それはどうも言えますね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい。死因を調べておりますが、事実的にこれが多いというものは、特にありません 。 ○櫻井座長  まとめの文で、「肝細胞腺腫と前腫瘍性病変である好塩基性小増殖巣の増加が認めら れる。これらの結果、アクリル酸=2−ヒドロキシエチルのがん原性を示唆する証拠と 考えられた」とまとめておりますが、「明らかな証拠」とは書いていないですね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい、そうです。 ○櫻井座長  このまとめは妥当なような気がするのですが、それでよろしいですか。 ○福島委員  私はこれで妥当だと思います。 ○櫻井座長  「マウスではがん原性を示す証拠は認められなかった」という所は、いま議論があっ たのですが、証拠とまではいかないだろうというご意見のほうが多いので、やはりこの まとめで。 ○福島委員  そういうことになります。 ○櫻井座長  そうしますと、行政的対応の必要ながん原性があったと判断するかどうかというとこ ろが求められているのかと思うのですが、その点はいままでの判断の前例との整合性等 を考えて、どうなのかということになろうかと思うのです。これぐらいの場合は対応の 必要ながん原性であるとは判定しなかったように思うのですが、何かいままでの事例は ありますか。その部分を十分検討してこなかったのですが。 ○松島委員  悪性は必ずしも進んでいませんし、発がん性があることは間違いないでしょうけれど 、弱い発がん物質という判断でいいのではないでしょうか。 ○福島委員  ええ。それを今までどういう言葉で表現しているかということになるのでしょう。そ このところは分かりません。 ○櫻井座長  IARCなどは発がん性の根拠の強さだけしか言っていないけれど、ここは発がん性 そのものの強さも考えないと、行政的対応という点ではピンからキリまでありますから 、全部同じような行政的対応というわけにもいかないと思うのです。 ○清水委員  染色体異常試験はかなり強いですね。 ○櫻井座長  染色体異常試験はわりあい強いですね。 ○福島委員  ただし発がん性ということになると、5段階なら5段階としても、定性的な分類で1 +にするのか、2+にするのか、3+にするのか。まあ、1+ではないかなというのが 私の個人的な意見です。 ○櫻井座長  投与量は随分多いですね。 ○福島委員  例えば3つに分ける場合にしても、5つに分ける場合にしても、1+ではないかなと いうのが、私がいま見させていただいた印象です。 ○櫻井座長  津田委員はどうお考えですか。 ○津田委員  ラットでは明らかなので、5段階にすれば、私は2+ぐらいだと思いますが、いずれ にしても動物においては非常に弱い発がん作用しかないと思います。 ○櫻井座長  松島委員も同じですか。 ○松島委員  はい。 ○櫻井座長  1+か2+ぐらいだろうということですか。動物において弱い発がん性が認められる と。それぐらいでよろしいですか。求められている答申はどういうものでしょうか。 ○化学物質評価室長  行政対応としては、発がん性閾値なしという前提で発がん性が認められれば、それな りの行政対応ということになります。全部は精査いたしておりませんが、これまでは多 分IARCのいわゆるグループ2A、2B相当で発がん性あり、それから行政対応とい うような。日本バイオアッセイ研究センターですと、2種類やっておりますので、2つ で両方出れば、実質IARCの2B相当ということでやられていたのではないでしょう か。今回、一方ははっきり出ているけれど、一方は先ほどのご議論のような状況なので 、私どももやや頭を悩ませているところではあるのです。 ○櫻井座長  それと投与量はppmの自由摂取で、mg/kgということで相当量が多いですね。大量投与 という点から考えても低いですね。 ○福島委員  低いですね。問題は、肝細胞腺腫での出現頻度が、例えば雄だったら雄で2,000ppmで 出ていて、肝細胞がんを見ますと出ていないと。そういうことから私は弱いと思います 。先ほど閾値論が出ましたが、閾値論については今いろいろな意見があって、私どもは 閾値の実験をやっております。個人的には遺伝毒性発がん物質でもプラクティカル(実 質的)には閾値があるというスタンスを、私は取っています。ただ、それで全体的なコ ンセンサスが得られたかというと、まだ得られていない状態であるのは事実です。そう いう閾値論を云々することは別としても、2,000ppmという高用量だと、実際に作業関係 でどれぐらいのばく露になるかというのは判かりませんが、それを考慮すると、これは 非常に弱い発がん物質であると考えてもいいだろうということです。それに対してまで 行政的な措置をするかというと、過去はどうでしたかということになってくるわけです 。 ○有害性調査機関査察官  行政対応の関係でいきますと、発がん性ということではありませんが、変異原性とい う観点からは、資料3−1でもご説明したとおり、変異原性の物質ということで、一応 行政指導は行われておりますので、行政として全く何も関与していないということでは ありません。変異原性ということで一応対応されているのであれば、今回のがん原性試 験の結果に基づいて大臣の指針ではなくて、通達レベルの対応で落ち着かせることも可 能ではないかと思います。 ○松島委員  以前にもあったのではないですか。弱い発がん性ではあるけれど、すでに変異原性の ほうで指針が出て行政対応をしているから、今回はそのままでいいのではないかという 物質が、何年か前にあったような気もするのです。 ○櫻井座長  私もそういう物質があったような気がするのです。前例に頼らないで、いま判断して も、先生方のご意見を総合的に考え、私自身もそう思うのです。これは指針による対応 までは不要で、変異原性物質としての対応で十分という判断にしたいと思いますが、そ れでよろしいですか。                  (異議なし)                 ○櫻井座長  では、そうさせていただきます。 ○松島委員  1つだけ確認したい。昨年、この検討会がどういう具合にしたかは忘れてしまったの ですが、ずっと前のがん委員会ですと、委員会の答申という形の文書を作っていたので す。この検討会になってからは。 ○化学物質評価室長  それは改めて次回に。 ○松島委員  そちらからお出しになると。 ○化学物質評価室長  本日の3物質については、本日の議論を踏まえ、次回に報告書案をお示しします。 ○松島委員  検討会からの報告ということですね。 ○化学物質評価室長  はい。 ○松島委員  わかりました。 ○櫻井座長  この物質についての今日の検討は、ご意見は十分し尽くしたと思います。この議論を 踏まえて事務局が、この物質の検討結果報告書案というのを作って、次回の検討会でそ れでいいかどうかをご検討いただくことにしたいと思います。よろしゅうございますか 。                  (異議なし)                 ○櫻井座長  それでは次に、アリルクロリドの物質情報について、事務局からお願いします。 ○有害性調査機関査察官  資料4−1に基づき、アリルクロリドの物質情報のご説明をいたします。データはそ こに書いてあるとおりで、物理化学的性質としては、常温での性状はニンニク臭のある 無色透明の液体で、ほとんどの有機溶媒に溶解するものです。生産量は平成13年度にお いて、約1万tから10万tの幅の中には収まっていますが、具体的な数字はこちらでは 把握が困難でした。メーカーは鹿島ケミカル、ダイソー、住友化学工業で製造しており ます。用途はアリル誘導体化合物の原料、除草剤・殺虫剤等の農薬原料、鎮静剤・麻酔 剤等の医薬品原料、香料原料、有機合成原料という形で、いろいろな化学物質の原料と なっている物質です。法令による規制の現状ですが、労働安全衛生法の関係では、変異 原性が認められた化学物質ということでの行政指導の対象となっております。また危険 物、MSDSの対象物質となっております。その他PRTR法、消防法等での規制もあ ります。  がん原性の評価ですが、IARCではグループ3、日本産業衛生学会では評価なし、 ACGIHではA3となっております。動物に対する評価は、ラットにおける経口の急 性毒性でLD50が460mg/kg、変異原性については、微生物を用いた変異原性試験、ほ乳類 培養細胞を用いた染色体異常試験共に陽性となっております。ばく露限界については、 ACGIHにおいてTWAが1ppm、STELが2ppmとなっております。ヒトへの影響 としては、眼・鼻などの粘膜を刺激する。繰り返し吸収すると胃腸及び肝臓に障害を起 こす。経皮吸収ありという状況です。 ○櫻井座長  いままでのところで、何かご質問はありますか。よろしければがん原性試験の結果に ついて、ご説明をお願いします。                  (パワーポイント開始) ○日本バイオアッセイ研究センター  アリルクロリドのラットとマウスを用いた吸入によるがん原性試験の結果を説明しま す。被験物質はアリルクロリドです。外観は無色透明の液体で、沸点は44〜45℃、水に 難溶な物質です。当センターで行った変異原性試験では、微生物を用いた試験、培養細 胞を用いた試験、両方とも結果は陽性となっております。  試験方法ですが、投与経路は全身ばく露による吸入試験です。動物種はF344ラット、B DF1マウス、群構成は1対照群3投与群で1群当たり雌雄各50匹を使用しました。吸入の 投与条件は、1日6時間で週5日間のばく露で、104週間のばく露を行いました。投与濃 度は、ラットは雌雄とも25、50、100ppm、マウスは雌雄とも50、100、200ppmです。吸入 チャンバー内の飼育環境は、温度23±2℃、湿度55±15%、12時間照明で、吸入チャン バーの換気回数は1時間当たり12回です。固形飼料と脱イオン水を自由摂取させて、検 査項目はこの前の経口の試験と同じです。  ラットの結果ですが、生存動物数は、ラットの雄では100ppm群で生存率が低下しまし た。死因としては、慢性腎症、白血病、下垂体腫瘍による死亡がやや増加しました。ラ ットの雌では、生存動物数にあまり変化は見られておりません。投与群が対照群より最 終週は少し低いようですが、投与群間では差はありませんでした。体重ですが、ラット の雄では投与群は対照群と同様の値で推移しました。ラットの雌は、投与群は対照群と 同様の値で推移しました。なお、一般状態の観察では、雌雄とも100ppm群で、失調性歩 行または麻痺性歩行が見られております。  主な腫瘍性病変としては、雄では膀胱と甲状腺にアリルクロリドのばく露によると考 えられる腫瘍の発生増加が見られました。膀胱では移行上皮がんの発生が投与濃度に対 応して増加傾向を示し、100ppm群で発生の増加となりました。膀胱の移行上皮がんは、 当センターのヒストリカルコントロールデータでは発生の見られていない稀な腫瘍です 。甲状腺では、濾胞状腺腫の発生が投与濃度に対応した増加傾向を示し、100ppm群の発 生率はヒストリカルコントロールデータの値を超えていました。濾胞状腺がんについて は増加は見られていませんが、濾胞状腺腫と濾胞状腺がんを合わせた発生数は、ヒスト リカルコントロールデータの値を超えていました。  その他では肺の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生が投与濃度に対応した増加傾向を示し ました。100ppm群の値はヒストリカルコントロールデータの値を超えていましたが、対 照群の発生率もヒストリカルコントロールデータの上限をやや超える値であったことか ら、肺の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生とアリルクロリドの関連は不明確と考えました 。また、皮膚の角化棘細胞腫、乳腺の線維腺腫、甲状腺のC−細胞がん、腹膜の中皮腫 の発生に増加傾向が見られましたが、それぞれの腫瘍の各群の発生率はヒストリカルコ ントロールデータの上限に相当する値、またはコントロールデータの範囲内であり、各 腫瘍の発生とアリルクロリドの関連は不明確と考えました。  次にラットの雌ですが、主に肺、下垂体、甲状腺、子宮、乳腺、包皮腺、脾臓に腫瘍 の発生が見られましたが、アリルクロリドのばく露によると考えられる腫瘍の発生増加 は見られませんでした。  写真1は、雄の100ppmで見られた膀胱の移行上皮がんです。これは稀な腫瘍です。写 真2は、同じく雄の100ppm群で見られた甲状腺の濾胞状腺腫です。  次にマウスについてですが、雄の生存動物数は、最高群の200ppm群で生存率が低下し 、投与97週までに全動物が死亡しました。一般状態の観察で雄の全投与群で失調性歩行 または麻痺性歩行が見られ、特に200ppm群では多くの動物に見られました。これらの動 物の腹部や外陰部には、尿による汚染などが見られ、剖検観察では膀胱に多量の尿の貯 溜が見られ、下腹部には皮膚の肥厚や糜瀾が見られ、病理検査ではこの皮膚には炎症が 認められております。膀胱に多量の尿が貯溜していたということで、死因は尿閉として 、この200ppm群では死亡動物の50匹中42匹が尿閉で死亡しております。  マウスの雌でも、200ppm群で生存率が低下しました。雌でも雄同様に、失調性歩行ま たは麻痺性歩行が100ppm以上の群に見られ、特に200ppm群では多く見られました。死亡 動物は雄同様、膀胱に多量の尿が貯溜しており、死因は尿閉としました。雌の200ppm群 の死亡動物数44匹中17匹が尿閉で死亡しました。  次に体重の推移ですが、マウスの雄では200ppm群は状態の悪化に伴い、体重が低下し ました。マウスの雌は、200ppm群の体重はやや低値でしたが、雄ほどの差は見られませ んでした。  次に腫瘍性病変ですが、マウスの雄ではハーダー腺にアリルクロリドのばく露による と考えられる腫瘍の発生増加が見られました。ハーダー腺では腺腫の発生が増加傾向を 示し、100ppm群の発生は増加となりました。また、100ppm以上の群の発生率はヒストリ カルコントロールデータの値を超えております。ほかでは、肺の細気管支−肺胞上皮腺 腫の発生が増加傾向を示し、50ppm群と100ppm群では発生の増加となりました。この50pp m群と100ppm群の発生率は、ヒストリカルコントロールデータの値を超えております。ま た、細気管支−肺胞上皮腺腫と細気管支−肺胞上皮がんを合わせた発生も、検定上は増 加傾向を示しております。しかし、細気管支−肺胞上皮がんの発生には増加は見られず 、細気管支−肺胞上皮腺腫と細気管支−肺胞上皮がんを合わせた発生では、最も発生の 多い50ppm群の17匹でも、ヒストリカルコントロールデータの上限に相当する値であった ことから、肺の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生とアリルクロリドの関係は、不明確と考 えました。その他には、腫瘍の発生増加は見られませんでした。  次にマウスの雌に移ります。雌も雄とほぼ同様の結果となっております。ハーダー腺 にアリルクロリドのばく露と考えられる腫瘍の増加が見られました。ハーダー腺では、 腺腫の発生が投与濃度に対応した増加傾向を示し、100ppm以上の群で増加となりました 。100ppm以上の群の発生率は、ヒストリカルコントロールデータの値を超えています。 その他では、雌でも肺の細気管支−肺胞上皮腺腫の発生が増加傾向を示し、100ppm以上 の群で発生増加となりました。しかし、100ppm以上の群の発生率をヒストリカルコント ロールデータの値と比較すると、100ppm群の6匹はコントロールデータをやや超える値 、200ppm群の5匹は上限に相当する値でした。また、細気管支−肺胞上皮腺腫と細気管 支−肺胞上皮がんを合わせた発生も増加傾向を示しましたが、100ppm群の7匹の発生率 もヒストリカルコントロールデータの上限に相当する値であったことから、肺の細気管 支−肺胞上皮腺腫の発生とアリルクロリドの関連はやはり不明確と考えました。ほかに 腫瘍の発生増加は見られませんでした。  写真3は、雌の100ppm群で見られたハーダー腺の腺腫です。  まとめに入ります。ラットでは雄の膀胱に移行上皮がんの発生増加が認められました 。この腫瘍の発生増加は、アリルクロリドの雄ラットに対するがん原性を示す明らかな 証拠であると考えました。また、雄では甲状腺に濾胞状腺腫の発生増加も認められまし た。雌にはアリルクロリドのばく露によると考えられる腫瘍の発生増加は認められませ んでした。マウスでは雌雄ともハーダー腺の腺腫の発生増加が認められ、この腫瘍の発 生増加はアリルクロリドの雌雄マウスに対するがん原性を示唆する証拠であると考えま した。                  (パワーポイント終了) ○櫻井座長  ご質疑をよろしくお願いします。 ○福島委員  私はむしろ腫瘍以外のところに興味を持ったのですが、麻痺性歩行を誘発する神経毒 性のほうは、特殊染色など、いろいろなことを調べたのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  ルーチンの病理検査では残念ながら何も見つかりません。 ○日本バイオアッセイ研究センター  特にアリルクロリドは神経毒性ということで、軸索の部分に物質が溜まる危険性があ るということが報告されております。今回、特に歩行異常がありましたので、あるいは 膀胱からの尿を排出させるということで、膀胱への神経にいっている腰椎の部分を数箇 所切って、検査しました。HE染色上、あるいは軸索染色を行いましたが、特に検出す ることは出てきませんでした。 ○日本バイオアッセイ研究センター  やはり神経の軸索での変化が本来起きているはずです。 ○櫻井座長  死因と考えておられる尿閉は、やはり神経原性だと思われますか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  非常に微妙なところで、歩行が異常になりますので、ケージに下腹部がこすられてし まい、腹部に糜瀾や炎症が起きるのです。排泄部に炎症が起きていますので、その結果 、尿が出なくなったのか、下半身の神経症状として尿が出なくなったのかはまだはっき りしません。 ○櫻井座長  尿閉だけで死ぬものですか。それに付随して腎が。 ○日本バイオアッセイ研究センター  マウスのほうの腎臓は、病理的には変化が見られておりません。若干、臓器重量が上 がるというのはあったのですが、マウスのほうでは腎に病理変化は見られておりません 。ラットのほうは神経症状が少なく、尿閉による死亡動物はいなかったのですが、慢性 腎症の増強が見られております。 ○櫻井座長  ほかにご質問はいかがでしょうか。まとめの部分で、ラットの雄の場合にがん原性を 示す膀胱の移行上皮がんの発生増加が認められた。これは「雄ラットに対するがん原性 を示す明らかな証拠であると考えられた」。これについては、特段ご異議はありません か。                  (異議なし)                 ○櫻井座長  稀ながんが明確に増えていると。ほかには何かありますか。 ○福島委員  もう1点、全体を通じて肺の変化で「不明確である」という部分がありますね。その 不明確という意味はどういう意味なのかということをお聞きしたいです。限りなく示唆 されるけれども不明確なのか、それとも全くわからないという意味なのか。というのは 、これは吸入試験ですね。そうすると、鼻腔のほうの変化はあったのかどうか。要する に気道性の変化ですね。その辺のところをもう少し詰めていただけるとありがたいです 。 ○日本バイオアッセイ研究センター  鼻腔・気道のほうは、鼻腔でエオジン好性の変化があっただけで、あとはないという ことです。 ○福島委員  炎症性もなしですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  はい。 ○福島委員  粘液の増加もないですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  特にないです。いちばん問題の肺の腺腫ですが、肺の腺腫だけの値は、アリルクロリ ドによって増加した可能性は、かなりあるのではないかと思います。ただ、このマウス の試験は、雄雌とも200ppm群が早期に多量に死亡してしまったので、肺の腫瘍の発生に 関してはマスクされてしまった可能性が十分あるのではないかと思っております。それ で、肺の腺腫は増えている可能性はあるのですが、細気管支−肺胞上皮がんは一切増え ていない。また両方足した場合の発生率もヒストリカルコントロールデータを超えなか ったということで、総合的に考えて可能性は十分あるのですが、アリルクロリドの関連 は不明確というのを結論にさせていただきました。 ○福島委員  過形成はどうですか。過形成の頻度、数が増えているということはありませんか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  マウスの場合、細気管支−肺胞上皮上皮過形成は、100ppm群でやや多いです。ただし 、いまの例数は個体の例数ですが、1個体当たりは特に増えたという印象はありません 。雌に関しては増えておりません。 ○福島委員  ラットはどうですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  ラットのほうは、少なくとも統計的に増えたというデータはありません。先ほどの呼 吸器への影響ですが、この用量設定のために行った実験からは、13週間試験では200ppm の濃度で、ラットでは気管支の炎症が出ております。マウスのほうでは、そうした呼吸 器への炎症等の変化は出ておりません。 ○櫻井座長  マウスの雄などは200ppmで割合早く死んでしまっている。全部前に死んでしまってい ますが、半分死んだのは大体56週ぐらいですから、これは何とも言えませんね。何があ とで起こっているか。 ○松島委員  いま福島委員が肺のことをおっしゃったのですが、労働環境を考えると、この吸入の 試験でラット、マウスとも肺に何らかの変化が出ていることは重要です。労働現場での ばく露を考えると労働衛生上はやはり肺にも影響が出るということは大切です。もちろ ん、明確な腫瘍が膀胱にも出ているわけですが、神経毒性の可能性も言われていること からすると、私はきちんとした行政対応をすべき物質だろうと考えるわけですが、いか がでしょうか。 ○福島委員  私は特に神経毒性が気になりますね。 ○森永委員  ラットの雄だけに腹膜に中皮腫が出ているのですが、アリルクロリドとの関連は不明 確という結果で書いておられます。このところで、もう少し詳しいことを教えてくれま せんか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  中皮腫が増加傾向となっております。50ppm群と100ppm群の発生数である4匹はヒスト リカルコントロールの上限であり、今回は明らかにアリルクロリドによって増加したと はしなかったということです。 ○森永委員  雄だけに出ている理由は何かありますか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  F344系では、ラットの中皮腫は少ないながらも自然発生いたします。自然発生は雄だ けです。雌はまずありません。 ○森永委員  部位的に精巣鞘膜に出るという意味なのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  部位的には精巣の鞘膜、陰嚢の部分の中皮です。 ○森永委員  ですから、一応ヒストリカルコントロールの上限なので、関連をすぐ結び付けるのは ちょっと言い過ぎだという意味ですね。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そういう意味です。 ○津田委員  膀胱はいきなりがんですが、その前のパピローマ(乳頭腫)などは、同じように増え ていますか。乳頭腫とその前のPN過形成があれば結果をコンファーム(確認)するた めのデータですけれども。 ○日本バイオアッセイ研究センター  移行上皮の過形成は、100ppm群では単純過形成が5匹、巣状の過形成が1匹見られて います。 ○津田委員  あとは100ppmでいきなり全部がんということですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そういうことです。 ○津田委員  巣状過形成というのはどういうものですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  結節状過形成です。 ○清水委員  失調性歩行や麻痺性歩行がマウスとラット、両方に出るわけですね。マウスのほうだ け尿閉が起こってしまうのですか。ラットではないのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  そうですね。発生例数自体がマウスのほうが圧倒的に数字が多いわけで、ラットのほ うは発生数が少なく、尿閉による死亡もありませんでした。 ○櫻井座長  ほかに特になければ、議論が尽きたと思います。この物質についてはがん原性物質で あるということで、全体としては行政的対応も必要だろうというご意見であったと思い ますので、そのようにまとめさせていただきます。 ○福島委員  その場合それに付記して、先ほどちょっと問題になった神経毒性を書くことはできな いのですか。これは発がん性試験ですね。その辺はどうなのですか。 ○櫻井座長  いまのところ、がん原性の指針の中で、ほかのことには全然気を配らないようなこと になっていましたか。 ○化学物質評価室長  指針自体は、予防対策としての後学的対策ということで、ベースラインとなる有害性 情報として、がん原性を主眼とした試験をやって、ここでその結果を先生方にご審議い ただいているわけです。がん原性が出たので、それを防ぐために、先ほど閾値の話が出 ましたが、一応閾値はない前提で、可能な限りばく露を低減するようにという対策をお 示しする。アウトプットの行政措置としては、そういう形になっております。有害性情 報として、こういうものもがん原性のほかにも見つかったということを、付帯情報的に 対象の所へお示しすること自体は可能です。 ○福島委員  私は是非していただきたいと思います。 ○櫻井座長  それは是非。たぶん物質ごとに、「がん原性が認められたので、次のような対策を」 という話になるのだと思うのですが、そこにさらに追記していただければ。 ○化学物質評価室長  最終アウトプットの姿としては、前段の「がん原性が見つかったので」という所に、 がん原性以外にも、神経毒性等の重篤な健康障害が動物実験ながら見つかったので、と いう形になろうかと思います。 ○津田委員  もう1つですが、前のIARCで3の評価を見たのですが、ほとんど高用量すぎて実 験に失敗しているのです。それで、この3というのはがん原性がないということではな く、情報が得られないという意味なので、前のことは考慮する必要は全然ないと思いま す。 ○松島委員  最初に基本情報で、「経皮吸収あり」と書いてありますね。やはり要注意物質ではな いかという気はしますね。 ○櫻井座長  今日の最後の1物質、ο-フェニレンジアミンについて、基本情報をお願いします。 ○有害性調査機関査察官  資料5−1に基づいて説明します。ο-フェニレンジアミンの物理化学的性質ですが、 データはお示ししてあるとおりです。常温での性状としては、白色の板状のものです。 空気中に放置すると、次第に紫褐色、あるいは黒色に変わるもので、エーテル、アルコ ール、クロロホルムに容易に溶けるもので、水にも可溶です。生産量は、平成13年度に おいて約1万トンから10万トンです。生産量とは書いてありますが、現在は国内では生 産されておらず、輸入の量ということです。輸入の業者としては、酒井興業、デュポン 、三井物産、クラリアントジャパンということです。用途としては、農薬、防さび剤、 医薬品、顔料です。  法令による規制の現状は、労働安全衛生法については「変異原性が認められた化学物 質」ということでの行政指導、MSDSの対象物質となっております。その他、PRT R法や消防法等による規制も行われております。がん原性の評価についてはIARC、 日本産業衛生学会はなく、ACGIHがA3としています。動物に対する評価について は、ラットにおける経口の急性毒性ということで、LD50が510mg/kgです。変異原性につ いては、微生物を用いる変異原性試験、ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験ともに 陽性となっております。ばく露限界ですが、日本産業衛生学会、ACGIHで共に0.1mg /m3です。人への影響については、特にコメントはありません。 ○櫻井座長  ここまでで何かご質問等ありますか。よろしければ、試験結果をお願いします。                  (パワーポイント開始) ○日本バイオアッセイ研究センター  初めに被験物質ですが、ο-フェニレンジアミン原体、フリー体で予備試験を行ったと ころ、忌避が相当強く出ましたので、以前当センターでm-フェニレンジアミンについて も二塩酸塩で行ったことから、二塩酸塩を使用して実験を行いました。変異原性ですが 、微生物を用いた変異原性試験、培養細胞を用いた変異原性試験でも、相当高い陽性の 値を示しております。  試験方法は、今までの2つの物質と同じように、ラット、マウスを用いた3投与群の 試験です。投与条件は、飲水の自由摂取を104週間通して行いました。投与濃度ですが、 ラットの雄は500〜2,000ppm、ラットの雌は250〜1,000ppm、マウスの雄は500〜2,000ppm 、マウスの雌は1,000〜4,000ppmと、公比は2ですが、段階的に非常にずれた値になりま した。これは主に13週間の予備試験の結果に基づくもので、体重の抑制、摂水量の関係 で、このような濃度になりました。飼育条件、その他、検査項目等も形どおりのもので す。  生存動物数ですが、ラットの雄はコントロール群が最後に少し下がっておりますが、 特に投与群と対照群の差は認められませんでした。ラットの雌も同様に、生存率等につ いての差は認められませんでした。体重ですが、特に最高投与量の2,000ppm群では抑制 が認められました。ラットの雌は1,000ppmで抑制が認められましたが、特に大きな差は 認められませんでした。  ここで発生した腫瘍は、肝臓の良性腫瘍で肝細胞腺腫の増加、膀胱で移行上皮乳頭腫 の増加、甲状腺で濾胞状腺腫の増加が認められました。一方、悪性の腫瘍では、肝細胞 がんの増加、膀胱の移行上皮がんの増加が認められました。これらの良性、悪性の腫瘍 をコンバインした検定でも、肝臓の肝細胞腺腫と肝細胞がんを合わせた検定、膀胱の移 行上皮乳頭腫と移行上皮がんを合わせた発生の増加が認められ、甲状腺の濾胞状腺腫と 濾胞状腺がんを合わせた発生も増加が認められました。  雌では、肝臓の肝細胞腺腫の増加、悪性で肝細胞がんの増加が認められました。下垂 体の腺腫は減少が認められております。また、良性、悪性を合わせた肝臓の腫瘍発生は 、増加が認められました。この写真が雌の1,000ppm群で認められた肝臓の肝細胞腺腫で す。次の写真が肝細胞がんの発生です。次に膀胱の移行上皮乳頭腫の例です。最後に膀 胱の移行上皮がんの写真です。  次にマウスに入ります。生存動物数ですが、マウスの雄は生存率に変化はありません でした。マウスの雌は、4,000ppmでやや高い傾向が認められましたが、検定等では5% ほどの有意差は付いておりません。体重ですが、マウスの雄については、投与濃度に対 応した抑制が認められました。マウスの雌については、4,000ppmを除いては、投与濃度 の抑制が認められたものの、それほど大きなものではありませんでした。  マウスでの主な腫瘍の発生ですが、良性腫瘍では肝臓の肝細胞腺腫の発生増加、胆嚢 での乳頭状腺腫の発生増加が認められました。悪性腫瘍では、肝臓の肝細胞がんの発生 が認められましたが、有意差等は認められませんでした。良性腫瘍、悪性腫瘍を合わせ た肝臓の腫瘍発生は増加が認められました。  マウスの雌ですが、肝臓の腺腫の発生増加が認められました。悪性腫瘍では、肝臓の 肝細胞がんの発生増加が認められました。悪性リンパ腫は、リンパ節全臓器においては 、発生の減少が認められております。良性腫瘍、悪性腫瘍を合わせた肝臓の腫瘍発生は 、1,000ppmから顕著な増加が認められております。この写真が雌の2,000ppm群で認めら れた肝臓の肝細胞腺腫です。肝細胞がんは、最高投与量4,000ppm群で相当細胞の異形化 等が認められます。また、雄の2,000ppm群で認められた胆嚢の乳頭状腺腫ですが、この ように見られました。  まとめをします。ラットでは、雌雄の肝臓で肝細胞腺腫および肝細胞がんの顕著な発 生増加、さらに雄の膀胱に移行上皮乳頭腫および移行上皮がんの発生増加が認められた 。これらの結果は、ο-フェニレンジアミン二塩酸塩の雌雄ラットに対するがん原性を示 す、明らかな証拠であると考えられた。マウスでは、雄の肝臓で肝細胞腺腫の発生増加 、雌の肝臓で肝細胞腺腫および肝細胞がんの顕著な発生増加、雌雄の胆嚢に乳頭状腺腫 の発生増加が認められた。これらの結果は、ο-フェニレンジアミン二塩酸塩の雄マウス に対するがん原性を示す証拠と、雌マウスに対するがん原性を示す明らかな証拠である と考えられました。                  (パワーポイント終了) ○櫻井座長  ご質問、ご意見を賜りたいと思います。あまり議論の余地もないかと思いますが。 ○清水委員  m-フェニレンジアミンと比べるとどうなのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  m-フェニレンジアミンは、投与濃度が比較的低かったので、腫瘍の発生増加が認めら れませんでした。 ○松島委員  動物の忌避が非常に強かったので、投与濃度が低くなってしまった。 ○櫻井座長  まとめの最後の文で、雄マウスに対するがん原性を示す証拠、雌マウスに対しては明 らかな証拠というので、ここに差を付けてあるのは、「示唆する証拠」とただ「示す証 拠」と「明らかな証拠」と、3段階にしておられるのですか。 ○日本バイオアッセイ研究センター  特にプラスの場合、3段階です。1つは「明らかな証拠」で、これは悪性腫瘍の増加 、その場合統計的に有意、かつヒストリカルコントロールを超えた場合です。そのほか の増加について、「示す」と「示唆する」と2つを入れてあります。「示す」場合は、 悪性腫瘍の増加はあるが、明らかと言うには不十分と考えられる場合。それから、良性 だけの増加も「示す」に入れてあります。ただし、良性だけの増加のときに、あまり強 く増えていない場合には、「示唆する」という用語を使っています。例えばヒトでの外 挿に不十分と考えられる場合、例えば特殊な部位の腫瘍、あるいはメカニズムを考えた 場合、不十分というときには「示唆する」という程度にとどめるようにしています。そ のほかは、先ほどのように可能性はあるけれども、まだ確実とは言い切れない場合に、 「不確実」という表現を使うようにしてあります。ただし、その場合ほかの腫瘍を「示 唆する」、あるいは「示す」という場合には、評価の言葉の中には入れないようにして います。 ○櫻井座長  4段階と「認められない」の5段階になっているわけですね。非常に明確にご説明い ただき、ありがとうございました。これについては、変異原性が非常に強いですね。関 連性も非常に強い。この物質はがん原性物質ということで、行政対応を必要とします。 今日の議題(2)の3物質についての検討を終わり、(3)のその他は何かありますか 。 ○有害性調査機関査察官  本日ご議論いただいた中身については、事務局で検討結果の報告書(案)という形で 作成したものを次回会議にお出しして、そこで最終的な整理をさせていただきたいと思 っております。次回については、その整理に加えて、5物質のうちの残りの2物質につ いて、新しく審査をしていただきたいと思っております。次回は、2月4日の13時から1 5時ということで予定しております。予備日を3月2日の13時から15時に入れさせていた だいておりますが、2回で議論が終了すれば2回でということです。 ○日本バイオアッセイ研究センター  バイオから一言だけご報告させていただきます。事務局の許可をいただいたのですが 、先にこの検討会でも審議した有機溶剤のN,N-ジメチルホルムアミドの吸入による発が ん実験の結果、日本産業衛生学会の英文誌である『Journal of Occupational Health』 の最新号に掲載することができました。この場を借りて、一言ご報告させていただきま す。 ○櫻井座長  先生方に別刷りをお送りしていただきますように、よろしくお願いします。 ○松島委員  N,N-ジメチルホルムアミドは試験を実施したのはかなり前の物質で、幸いにこの検討 会が中断していたときがあり、2001年に説明をしたのですが、評価をいただいたのは昨 年の11月だったということです。タイミングよくその間にまとめた論文が産業衛生学会 の欧文誌に出たということですが、行政としては現在、コメントを求めているという説 明を検討会にきちんとしていただきたかったと思います。N,N-ジメチルホルムアミドは 現在コメントを求めて、もうそれは終わって集計中なのだと思うのですが、パブリック コメントはどのような具合になっているのでしょうか。残念ながら、指針の案がホーム ページの上からは消えてしまうのです。締切りが終わると、どこを探しても出てこない 。 ○有害性調査機関査察官  ホームページ上ではそうです。 ○化学物質評価室長  11月の約1カ月間です。現在、パブリックコメントの回答を整理して、同時平行で最 終案をまとめて、これも年内を目途にしていたのですが、年明けぐらいになる予定です 。その他5物質については、先月、一定の作業環境管理をするための管理の目標とする 指針濃度の検討をして、そういった諸々の準備作業を経て成案をまとめ、パブリックコ メント、意見公募を経て最終的な指針をまとめるという段取りです。ですから、ほかの 5物質は半ばぐらいかというところです。現在が作業の半ばで、タイムスケジュール上 は、いずれにしても最終に上がるのは来年の半ばぐらいにならざるを得ないように思い ます。 ○松島委員  一度出したものをわざわざ消してしまう必要があるのですかというのが、私の意見で す。 ○有害性調査機関査察官  システム上はそうなってしまっているということですね。 ○松島委員  どうせ、そのコメントをまとめたものが出るときには、指針が出ていないと何のコメ ントだったかわからなくなるような気がするので、そういうシステムをきちんと考えて いただいたほうがいいのではないかと。折角出されたものが、見ようと思っても見られ ないことが起こります。 ○化学物質評価室長  それは全体共通的なシステムなので。 ○松島委員  窓口が電子政府とか書いてあるのです。ほかの省庁のものが入っている所に入るから 、そういうことになるのかもしれませんが、何かシステムがおかしいように思います。 ○櫻井座長  消してしまうというのは、確かにもう少し長く出ていたほうが。 ○化学物質評価室長  全省庁を跨ぐから余計、終わったものから消してしまうような感じではないかと思う のです。かつて省庁別にホームページ掲載をしていた時代は、終わったものもしばらく は過去のものとして残っていたように思うのです。 ○松島委員  JETOCの情報誌12月号に出て、わざわざ注で、「募集期間は11月30日までとなっ ていますから、ご留意ください」と言って、ホームページが書いてあるのです。12月号 ですから、11月の終わりごろにしか出ていないと思うので、見ようと思っても見られな いのは非常に残念な気がします。その辺の配慮を省庁間でしていただいたほうがいいの ではないかという気がしたものですから、一言。 ○有害性調査機関査察官  その辺の欠点もありましたので、今回パブリックコメントを募集するときには、こう いう形でホームページに掲載しますというのを日化協に直接ご連絡して、日化協から会 員に通知をしてくださいました。コメントについては1桁台ですが、メーカー等からい ただいて、いまその整理をしているところです。 ○化学物質評価室長  中災防の『安全衛生通信』は月2回だから、もう少し早めに記事に載っていたのでは ないかと思います。 ○櫻井座長  それでは、今日はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。