04/11/12 最低賃金制度のあり方に関する研究会第3回議事録          第3回最低賃金制度のあり方に関する研究会議事録                         日時 平成16年11月12日(金)                            16:00〜18:20                         場所 厚生労働省専用第21会議室 ○樋口座長  定刻になりましたので、ただ今から「第3回最低賃金制度のあり方に関する研究会」 を開催いたします。本日はお忙しいところ、お集まりいただきまして誠にありがとうご ざいます。  早速議題に移ります。本日の議題は「最低賃金制度のあり方に関するヒアリング」で す。まず、事務局から、簡単にヒアリングの概要について、ご説明をお願いします。 ○前田賃金時間課長  資料1は、今日のヒアリングをお願いしております方々です。学識経験者として、神 奈川地方最低賃金審議会会長の松田先生です。使用者側として、日本経済団体連合会の 川本労働政策本部本部長、全国中小企業団体中央会の原川調査部長です。労働者側とし て、日本労働組合総連合会の須賀総合労働局長、と全日本電機・電子・情報関連産業労 働組合連合会の加藤賃金政策部長です。  資料2に「ヒアリング項目」をそれぞれお願いしておりますが、これはこの研究会の 検討事項として、研究会開催要綱に掲げてあるものです。最低賃金制度全般について、 ご意見を伺おうという趣旨です。  あらかじめ、各ヒアリングの対象者から資料3以下に、それぞれの意見を簡単にまと めていただいております。この意見に基づいて簡単にご意見を伺い、その後、参集者の 皆様と質疑等をしていただければということです。  時間的に、松田先生から約30分程度、その後、使用者側、労働者側からそれぞれ約40 分程度といった感じで、お願いできればと考えております。 ○樋口座長  それでは、神奈川地方最低賃金審議会の会長でいらっしゃり、また、横浜国立大学名 誉教授の松田先生からお話を伺います。よろしくお願いします。 ○松田様  私は、30年近く最低賃金審議会でお世話になっており、我が国の最低賃金制度の紆余 曲折を経験してまいりましたが、今日ほど大きな曲り角に差し掛かっているのはないの ではないか。もちろん、業者間協定から産業別最低賃金に至る過程での、法改正も含め た変化はありました。  同時に、最低賃金が本来のセーフティネット的に労働者の労働市場における需給関係 を反映した賃金協定に対する下支えとしてのセーフティネットの役割を、今日ほど果た し得るようになった時点はないのではないか。今まで、最低賃金制度はほとんど名目的 であった、とまでは申しませんが、その折り、その折りでの役割を果たしていたと思い ますが、本来欧米での最低賃金制度というものが、今ここで、日本の市場の変化等によ って初めて生まれようとしているのではないか、というのが率直な印象です。  これからはレジュメに従って申し上げたいと思います。必ずしもこちらの研究会の項 目に忠実にフォローしているわけではありませんが、大きく、現行の地域別最低賃金と 産業別最低賃金の制度のあり方について、簡単にお話を申し上げます。  まず、地域別最低賃金です。ここ数年来の改定状況を見てもお分かりいただけますよ うに、ほとんど名目的な改定しか行われていません。有り体に言えば、0か1か2かと いう。私どもはこの数字自体に大して意見を持たせていないわけで、むしろ現状、もし くは、それを引き下げるなら0と、現状なら1、少しは上げるなら2というような、い わばデジタル化された感じでの審議をしておりますが、果たしてそれでいいのかという 問題はあります。もちろん、それは目安制度が発足して以来ですが、ほとんど目安が引 上額、ないしは、引上率という形で示されています。その根底にある賃金改定状況調査 の第4表の、昨年6月から1年間における、有り体に言えば、中小・零細企業における 人件費の増減を反映した形で、その目安が出されています。それに従って中央最低賃金 審議会が、その金額を決定するという仕組みであったわけです。  それが一昨年の地域別最低賃金額改定の目安に関する公益委員見解にも出されており ましたように、もう一度見直しをする必要がきているということは、中央最低賃金審議 会の場においても異口同音に言われているところであります。一口に言うと、こういっ た引上額ないしは引上率を目安として示す方策から、絶対額の形で目安を示す方向に転 換すべきではないか、というのが率直な意見です。  さらに言えば、毎年改定をしているという現在の仕組み、これは言うまでもなく賃金 交渉と連動させて、最低賃金の引上率が翌年の賃金闘争に何らかの影響がある、あるい は、1年間の賃金交渉の間の10月の時点で、それをもう一度、未組織労働者、零細企業 等に波及するという意味があったわけですが、その意味はほとんど薄れてきている。同 時に、今指摘されておりますように、低成長の下で第4表方式をとる限り、0.1%マイ ナス成長という形でしか根拠が示されていないということになれば、欧米で多くとられ ているインデクゼイションの手法をとる時期が、すでにきているのではないか。絶対額 で目安を示すと同時にインデクゼイション、要するに額において何パーセントかを検討 する必要があろうかと思いますが、上昇した関連数値が上昇したことを受けて、必要性 の諮問をするという状況に変えていく必要があるのではないかと思っております。  私は今年でこの最低賃金制度とお別れをするつもりでおりますので、地方最低賃金審 議会に帰って、同士からのリアクションを気にする必要はもうありませんので、言いた い放題、今まで溜まり溜まったことを全部、言わせていただきます。毎年改定は、もう ほとんど意味を失っています。毎年改定をするのなら別な形で最低賃金制度のあり方を 考えていくことが必要ではないかと思っております。  神奈川労働局ではすでに、一昨年あるいはその前から確認していたことであります が、現実には、今の地域別最低賃金の対象者はパートタイム労働者をはじめとする非典 型労働者であるということをもう少し、しっかり考えておく必要がある。統計その他 も、いわゆる非典型労働者、要するに市場の需給関係に著しく影響を受ける方々を中心 として統計を立てる。特にこれから重要だと思うのは、最低賃金については、今までは 各1年間における経済指標その他を受けて、それを反映する形で決定しておりました が、これからは、決めた最低賃金は一体どういう影響をもたらすかという形で、フォロ ーアップといいますか、決めた最低賃金の後の調査研究が、より一層重要になってくる のではないかと考えております。いずれにしろ、地域別最低賃金を毎年改定する際の議 論が極めてノミナル化し、無用な軋轢を生んでいると申し上げたいと思います。  産業別最低賃金については、有り体に申しますと、現行の産業別最低賃金は廃止する か、もしくは抜本的に見直しをする必要があると思っております。賃金交渉が極めて盛 んな産業別の最低賃金を決めることによって、それを賃金交渉に跳ね返えらせるという 意味があったのですが、それがもはや意味を持たなくなってきたということです。地域 別最低賃金がくまなく普及した段階で旧産業別最低賃金の廃止が何回か検討されました が、結局新産業別最低賃金に移行した過程で、その存在意義として、協約最低賃金制度 を普及することを通じて団体交渉制度を当時から少し低迷を続けていた、団体交渉制度 を活性化するという狙いがあったというように聞いております。金子美雄さんあたり が、そういう基調をし、それが最終的に今の産業別最低賃金に生き残った理由になって おります。これも現実的に考えてみますと、ほとんどその効果を表しておりません。  ちなみに、今の産業別最低賃金では、いわゆる協約ケースと公正競争ケースの2つの ケースがありますが、協約ケースが全国的に公正競争ケースを押しのけて普及したこと もありませんし、賃金交渉を通じて最低賃金協定が広く普及し、あるいは、組織率が伸 びるということも全くありませんので、当初の目的を達せられなかった以上、そういう 意味での新産業別最低賃金制度も見直しが必要になってきているのではないか。特に、 先ほど来から申し上げております労働者の多様化、特に非典型労働者の増大、そういっ た方々を、これは地域別、産業別を問わず対象とするわけですが、そういった方々に産 業別最低賃金を適用することの矛盾が多く出ております。  まず第1は底辺の職種、最低賃金を適用される労働者が従事している職種というのは 極めて、私どもの神奈川県の産業別最低賃金で言えば電気機械関連が極めて多いわけで すが、共通しております。にもかかわらず、所属産業が違うということだけで、産業別 最低賃金に違いが生ずる。そういった不熟練、単純職種を除くことをしたとしても、な おかつ多くの矛盾を生むことになっております。  例えば、部品の組立て等というのは、今は自動車の末端であっても、電機の末端であ っても全く同じような仕事をしている。あるいは、プラスチック成形などは、それが自 動車産業の末端であっても電機であっても同じようなことをやっている。それを所属す る産業が違うということだけで区別することは、現実に合っておりませんし、また、そ ういったことが、実は最低賃金制度の実効性を著しく損ねていて、経営者にとっても、 今働いている人たちが、どの産業に属しているかということが明確にされていないまま に、産業別最低賃金でなく地域別最低賃金を守っていた結果、実は産業別最低賃金に違 反しているということも生じております。  特に大きいのは派遣労働者が派遣先の産業のいかんを問わず、派遣元、いわゆる雇用 主である派遣業の最低賃金、すなわち地域別最低賃金で適用を受けることのもたらす矛 盾は、極めて大きいものがあろうかと思っております。したがって、産業別最低賃金に ついては現在の産業別最低賃金の意味は全く失われた以上、また、毎年改定することも 意味が失われた以上、でき得れば廃止するべきではないか。特にこういった思惑もあっ て、産業別最低賃金の当懇の決定、審議会における決定は、常に使用者側の強力な反対 があって、なかなか1円、2円が決まらないという、極めて妙な軋轢を生んでいるのが 現状であります。こういった三者構成の審議会方式をとるからには、一方の場が決定的 に、その存在すらを否定をしているような制度は、運用上あまり好ましい結果をもたら さないのではないかと考えております。  こういうことで産業別最低賃金については、もし仮に当初の協約最低賃金制度、協約 の普及を図るということであれば、より要件を厳しくしていく、公正競争ケースという ようなものはなくし、協約ケースのみにし、それも要件を厳しく絞ると同時に、現在の 協約は、いわゆる正職員、非典型労働者を除く正職員、組合員の最低賃金であって、現 実の産業別最低賃金とは100円以上の差が生じているのでは、ほとんど意味がない。し たがって協約ケースの場合には、少なくとも最低賃金が実質的に対象としている非典型 労働者、パートタイム労働者といったような人たちを含んだ協約最低賃金でなければな らない、というように要件を改正すべき、これは運営上でよろしいと思いますが、変え ていくことが必要ではないかと考えております。  もしくは、これが私のいちばん言いたかったことですが、産業別最低賃金を何らかの 形で残すというのは、あらゆる制度がそうでありますように、一旦生まれたものを根底 がゼロにするのは難しいし、新たな役割をそこに担わせる。それは産業別最低賃金、地 域別最低賃金を共に表示単位が日額から時間額になったということが象徴的に表してい るように、1時間働いたらいくらになるか。今就いている仕事は1時間でいくらになる か、という職種最低賃金の導入を考える時期にきているのではないかと思います。欧米 においては、これが当然のこととされておりますが、我が国ではまだ年功制の残渣が残 っていることもありますが、何よりもその職種、職務評価というものに対する研究が著 しく遅れております。そういう点からいって、国が率先して研究機関を動員して職種、 職務評価を厳密に行った上で、横断的な職種最低賃金というようなものを設けることに よって、パートタイム労働者であれ、正職員であれ、1つの仕事に就いている以上は、 最低賃金をもらうというような考え方が徹底する。職種最低賃金制度を通じて、身分の いかんによってではなく、職種のいかんによって、自分たちの仕事、能力、経験といっ たようなものを集大成した形で最低賃金が決定される仕組みを誘導することにもなるの ではないかと考えております。以上、極めて言いたい放題言わせていただきました、ご 質問があればお受けしたいと思います。 ○樋口座長  それでは質問させていただきますので、参集者の皆さんよろしくお願いいたします。 ○奥田先生  今松田先生がおっしゃった点で、1−(2)の所で、非典型労働者の増大に伴う矛盾 という点で、所属産業によって最低賃金が異なってくるというところを指摘されていま して、例えば、これが産業別最低賃金制度の廃止、ないしは抜本的改正の理由であると すれば、そのことがこれの廃止によって有益に作用するというのは、結論的には、どう 理解すればいいのでしょうか。 ○松田様  今は世界的に、特にイギリスの新しい最低賃金制度などはそうですが、一体自分は 今、どこでどういう仕事をしているかということによって最低賃金を決定すべきであっ て、自分が誰に属しているかということだけで決めるという、いわゆる雇用関係を前提 として最低賃金額を決めるのは、もう時代遅れになってきているのではないか。現にど ういう仕事に従事しているかということが大事だと、そういう意味での職種ということ を申し上げたのです。  ですから、派遣労働者であれ何であれ、例えば出先で組立ての仕事をしていると、こ の組立ての仕事の最低賃金、職種の最低賃金はいくらであるという形で決まっていくの が筋ではないかということです。 ○奥田先生  産業ではなくて、職務でということでしょうか。 ○松田様  そういうことです。 ○石田先生  地域別最低賃金で引上額ではなくて絶対額、これは抜本的な考え方だと思うのです が、その目安というのは大論議を呼ぶと思うのです。先生に何かアイディアがあれば。 ○松田様  ここにいろいろ書いておきました。今、議論としては平均賃金との比較、よく40%が 妥当であるとかというものです。よく出てくるのは生活保護費です、時間割りにすると か。もちろん、最低賃金決定3要件の1つである支払能力があります。私は、支払能力 は一体何で表すのかよく分からない。日本の制度をコピーして作った韓国へ行って調べ たことがあるのですが、こればかりは、どうも、真似ようがないというのでやめて、生 産性という基準に変えたそうです。議論をしていても倒産件数がいくつあるからどうで あるとか、あるいは、通常のと言っているにもかかわらず、極めて経営の困難な企業を 出して、そんなことではつぶれてしまうという形で、これが一人歩きをする。法律にそ う書いてある以上なくすわけにはいきませんが、それを間接的に反映するような方策を 考えざるを得ないと思うのです。  プリべイリングエイジというのは、実は会社の支払能力も加味されているのではない か。支払ったらつぶれてしまうようなプリべイリングエイジなんてできるわけないはず ですから。そういう意味で言えば、第1の要件の中に第3の要件も含まれている、とい うぐらいに考えるべきだし、第4表も、おそらくそういう考え方に基づいていたのでは ないかと思います。ですから、そこを基準にして。現在30%そこそこということです が、その辺、私は専門ではありませんので、労働経済の専門家の方にお調べいただい て、最低賃金額が特に雇用に与える影響を予測なり、現実の調査をするなりして。これ は広範囲にする必要はなく、最低賃金がそのまま、もろに響いてくるのはファーストフ ードチェーン、コンビニといった多くのパートタイム労働者を雇用している所ですか ら、そういう所に与える影響などを考えながら、どの辺のパーセンテージを考えるかと いう1つの参考になると思います。  いちばん具体的には生活保護費で、これは連合はじめ組合が主張していることですか ら、今さら言うまでもありません。それも私から考えれば、1,800時間という実働時間 にプラス有給で与えられる時間を加味した形で計算すると、そこそこ800円のところに 落ち着くので、そういうところに説得力のある数字が見い出せるのではないか。  第3は、これは最も重要なことですが、適用除外といいますか、2段階設定といいま すか、別な設定の仕方をする労働者の群が最近増えていると思います。1つは、言うま でもなく学生がアルバイトをしているとか、要するに20歳未満の人たちです。もう1つ は年金受給者です。年金受給者に今の最低賃金をそのまま適用すると、ああいった人た ちの雇用を非常に厳しくしているという指摘がありますが、年金受給者は、いくらでも いいから働かせてくれという感覚でいることもあり、その2つのグループは、例えば 800円という、1,800時間プラス有給時間を加えて標準生計費といいますか、生活保護費 で計算した額を出した場合であっても、そうした2つのグループについては、2段階の 設定をする。昔、風鈴という言葉がありましたが、そうした形で行うことによって、い わゆる最低賃金で生活をしていかなければならない、特に非典型労働者、子供を抱えて いる母子家庭の母親というような人たちが、最低賃金制の恩恵に十分に浴するようにす るべきではないかと考えています。 ○樋口座長  若者というのは学生を想定しているのですか。 ○松田様  学生だけではなくて、これがいつまで続くか分かりませんが、いわゆる親がかりで暮 しているような年代層があると思うので、それをきっちり分けるとすれば大学生、本当 は22歳と言いたいところですが20歳とか18歳というところで切ると。20歳がいちばん適 切ではないかと。これもすべて私は思いつきで言っているわけで、現実には、きちんと した調査研究機関で調べていただいて、自分自身で生活を立てていく必要のない人が圧 倒的である年齢層を設定する必要があろうかと思います。ただ、これも現実に指摘され ているように、「十分お小遣いもらえばいいのだから」と言って生きている人にも、今 の最低賃金で働かせるとなると大変であるとか、あるいは、最低賃金未満でも喜んで働 く人がいくらでもいるというようなことを言われ続けておりますので、そういった点に 留意して。この点については、もう少し慎重な、現行の適用除外というか、全く適用除 外するのではなくて2段階設定という、下段の設定を1つ設けるというぐらいのことで 考えていくべきではないかと考えております。 ○古郡先生  先生の描いている最低賃金制度というのは、地域別最低賃金があり、職種別の最低賃 金があり、若い人、年金生活者、あと母子家庭を対象にした階層に分けて最低賃金を設 定する。今よりもさらに複雑になるのではと思いますが。 ○松田様  いや、そうではなくて、私がもし思いきって言わせていただくなら、地域別最低賃金 一本にして、地域別最低賃金に2段階設定、65歳以上の年金生活者、もしくは学生であ るというか、自分で生活を立てる必要のないグループを除く。要するに、今の地域別最 低賃金を2段階設定にするということです。産業別最低賃金は、簡単に言うとなくした 方がいいのですが、そうも言えないとする場合には、協約要件を厳しくするということ です。一遍に職種別に切り替えるのは難しいと思いますが、パートタイム労働者を含ん だ協約、最低賃金が少なくとも過半数と言いたいところですが、半数程度に達するとい うような要件を設定することが、何よりも必要ではないかと思っております。 ○樋口座長  先生は神奈川県でずっとやっていたわけですが、地域間の差の問題は、例えばプリべ イリングエイジと比較したときに存在するのではないか、という言い方をする方もいま すが、その点はどういう感じになっていらっしゃるでしょうか。 ○松田様  実は、私あまり考えていないことの1つがそれなのです。確かに目安制度によって地 域間格差をできるだけ縮小しようという目的があったわけですが、それが必ずしも思っ たとおりにいっていないことは事実です。ただ、今のような低成長になると、低賃金の 押し上げによって、比較的最上位と最下位との格差が縮まりつつあると言えるのではな いかと思います。ただ地域間格差については、今の最低賃金制度をもってして、仮に目 安制度をより強力に推進するとしても、これを是正していくことは極めて難しいのでは ないかと思っております。  これも不思議な話と言えば不思議な話ですが、今の最低賃金の決め方の中には、地域 間格差というか、あるいは同種の地域との比較というようなものが一定の要素になって いる場合が極めて多いわけです。例えば、自動車で言えば、愛知県には負けたくないと か、いわば三要素とは少し違った要素で、現実には決まってきている面が非常に多い。 これは基本的な問題になるのであまり言いたくありませんが、三者構成をとる限りは、 いわば非経済的なというか、メンタルな要素が極めて大きな役割を果たすし、また、地 域別最低賃金制度を維持する限りは、地域性というか、地域の持っている特殊性、これ は大都市圏と地方によって違うかもしれませんが、それが最低賃金決定のプロセスに大 きく反映していることは事実です。  おしなべて言えば、地域別最低賃金制度と三者構成によって、日本の最低賃金が非常 に穏やかなものになっていることだけは言えるわけです。いちばん言いたかったのは、 最低賃金制度の審議を通じて、地域における日の当たらない中小・零細企業に、毎年き ちんと調査をし、その実情を調べる。同時に労使が1つの机に着いて、情報を共有し、 共通の認識を持つという、そういった副次的な要素は極めて大きかったと。最低賃金が いくらになるかということもさることながら、それを通じて、日頃こういった場で発言 できなかった小さな企業を代表してきた人たちが、これは産業別最低賃金の場合です が、発言をし、同時に、そういった企業における賃金、その他の経済指標を細かく国の 力で毎年調べられていくのは大変なメリットであって、そういう意味では、この制度を なくしたくないという気持ちは持っております。  地域間格差について抜本的な対策があるかと言われると、私はちょっと。現実には大 きな作用をしている。これが審議会方式でないとすれば、地域の持っている特性が、ど こそこと比較して、神奈川県で言うと東京都、大阪府のAランクを横目で見ながら決め ていくことは、あまり必要なくなるのかもしれませんが、現行制度を前提とする限り は、それはそれなりの意味を十分に持っているのではないかと思います。ですから、思 い切ったところで目安の絶対額を決めていただき、かつ、地域では、今言ったような現 実的な配慮で穏やかな決まり方をしていくというやり方がふさわしいとすれば、目安も 絶対額を一本化で決めるのではなく、ある程度幅をもたせるという形で提示するほう が、現実には効率が高いというか、可能性が大きくなるのではないかと思っておりま す。 ○樋口座長  他にないようでしたら松田先生のお話は、ここまでにしたいと思います。どうもあり がとうございました。                  (松田様退場)                (川本様・原川様入場) ○樋口座長  続きまして使用者側代表として、日本経済団体連合会川本労働政策本部長、全国中小 企業団体中央会の原川調査部長から、お話を伺います。よろしくお願いいたします。 ○川本様  資料4にポイントを書いておきましたので見ていただければと思います。  1の「最低賃金制度に求められる意義・役割」です。ここに書いてあるとおりです が、あらゆる労働者について、労働の対価としての賃金の最低保障として機能をしてき たということで、国民経済の安定、健全な発展のために重要な役割を今日まで果たして きておりますし、今後も果たしていくのだろうと思っています。  2つ目の○、実際最低賃金は都道府県別ですので、各地域において公労使の話合いで 決定してきたということです。そして、その労使が真摯に議論することは、最低賃金を 決めるという効果だけではなく、地域労使の意思疎通、相互理解の観点からも、非常に 重要な役割を果たしてきたと考えており、意義は大変大きいと思います。  2番目の項目、「安全網としての最低賃金のあり方」ですが、地域別最低賃金は社会 保障制度、例えば生活保護費などのように一定の基準に基づいて決められるものとは異 なって、各都道府県別の労働者の生計費、類似の労働者の賃金、通常の事業の支払能力 という要素だけでなく、他の様々なデータを総合的に勘案しながら、社会経済情勢も踏 まえ、公労使の話合いの中で適宜、時宜にかなったものを決めてきたということであろ うと思っております。特に地域の特性、そして現実に即して決定する、それを積み上げ てきたことによって、非常に守られてきて、浸透されているということで、未満率も低 い結果になっていると思っています。そういう意味で、安全網として、きちんとした役 割を果たしてきたのだと考えておる次第です。  3番目は、「最低賃金制度の体系のあり方」です。産業別最低賃金も含めてですが、 まず地域別最低賃金が各都道府県別に現在設定されて普及をしてきた、非常に浸透して いるということですので、罰則規定を伴う産業別最低賃金を別途二重に設定する必要は ないと考えております。屋上屋を架して産業別最低賃金を設定することは、グローバル 経済化が進展し国際競争の厳しさを増す中で、産業活動に支障を来すばかりでなく、雇 用にも悪影響を及ぼすということで、もはや産業別最低賃金は維持する時代ではなく て、廃止すべきであるという考え方です。これは長らく私ども団体として、ご主張をし てきたものということになるかと思います。  4「その他」についてですが、実は、この地域別最低賃金については、近年影響率が 非常に低くなってきているということ、例えば、一般労働者の平均賃金と比較して低位 にある。いろいろな統計を見ればそのようなことがあるわけですが、そこで問題だと、 最低賃金が低いのではないかと問題視する意見があるわけです。しかしながら、影響率 は最低賃金を引き上げた場合にどれだけ違反が出るか、つまり、引き上げなければいけ ない所があるかの割合ですので、ここのところ非常に少ない引上率という状況が続いて おりますので、結果としての影響率は、当然低いものになっていると思っております し、これはあくまでも結果にすぎないと。仮に影響率を一定の水準にすべきということ になれば、これを目標としてしまえば、これは三要素、または他のデータに関係なく、 とにかく毎年引き上げていくということになってしまうわけですので、制度の根幹が崩 れる問題だろうと思っています。  また、一般労働者の平均賃金の比較ですが、これも平均という数値自体が高いもの、 低いものと、様々なものをがっちゃんこして、平均して、真ん中の数値を出していると いうことであり、そのものと、全体の安全網としての最低保障ラインを決めております 最低賃金と比べることの意義は薄いのではないか、意味がないとは申しませんが、薄い ものではないのかと考えております。特に我が国の場合、いわゆる正規従業員型ですと 年功賃金制度を採っている。あるいは時間制、その時間のときだけ来ていただく方だ と、ここは需給関係による仕事賃金の時間給という考え方がとられているわけです。  そういう中で、平均賃金水準と比較することはあまり意味がないと考えています。ち なみに、正規従業員にしても、今新入社員の初任給と50歳ぐらいの賃金を比べますと、 これも平均で比べたときの意味合いですが、50歳代で2.5倍ぐらいです。勤続年数の基 軸で例えば切ったとしても、実際はかなりの開きがある問題だと考えております。私か らは以上です。 ○原川様  私は、主に中小企業の立場ということで、意見を申し述べたいと思います。お手元の 資料5にまとめをしております。  まず、「最低賃金制度に求められる意義・役割」ということで2つ書いております。 1つは、これは言うまでもないことですが、最低賃金制度はあくまでも労働者の賃金の 最低保障を行うものとして、セーフティネットとしての役割を果たすところに意義があ ります。平均賃金でも標準賃金でもなく、これは賃金の最低保障なのだという意義づけ が適当だと思っております。  第2番目ですが、最低賃金決定の三要素がありますけれども、その中で類似の労働者 の賃金、あるいは通常の事業の賃金支払能力ということは、もちろん生計費ということ もあるわけですが、最低賃金という以上は重要な要素であろうと考えます。現在も中小 ・零細企業の実情を勘案して決定されているわけですが、引き続き、こういう考え方は 必要ではないかと考えております。  2の「安全網としての最低賃金制度のあり方」ですが、ここでは4つほど書いてあり ます。最初は、これは安全網としての最低賃金制度という場合に、地域別最低賃金がす でに全国的に適用されているということで、これが安全網としての役割を果たしてい る。しかも、すでに定着をしているということです。2つ目は、現在の地域別最低賃金 は、地域別最低賃金の金額の問題等、いろいろとこれまでも議論が出てきているわけで すが、各地域のそれぞれの特性や実情を踏まえて、これまで公労使が積み上げてきたわ けですので、こうした事実を重く受け止めるべきではないかと考えます。3番、4番は 建設的な意見としてお聞きしていただきたいと思います。社会経済の動きとは関係な く、毎年諮問・改定が行われています。半ば慣習化されたような感があります。現在の 方式は、1つは下方硬直的な面を持っている。もう1つは、非常に非効率です。例えば 行政コスト、制度の効率化といった面で問題があるのではないかと考えております。賃 金は、最近は大きく右肩上がりで上がるということはほとんど考えられない、賃金決定 機構の変化がありますので、よほど大きく変わる年は別として、何か基準を作って、賃 金が大幅に変化しない場合には、中央、地方ともに、例えば毎年行うのを「2年に1度 」の諮問とする。諮問の原則的な年をルールによって決めることも考えるべきではない かということです。  下のほうに黒ポツで理由を書いておりますが、下方硬直的の説明が最初の黒ポツで、 我々中小企業や中小企業団体の声を聞きますと、毎年改定するということになると、引 上げということを非常に意識して審議が行われる。最低賃金制度という観点からそうな るということでしょうけれども、そうした上昇志向的な考え方がどうも強く働いている ようだという指摘があります。2つ目の黒ポツの所では非効率を説明しているわけです が、ここ近年は「0円」、あるいは「1円」の攻防を繰り返しているわけです。先ほど 言いました経済情勢の変化とか、賃金決定機構の変化の流れを見た場合に、毎年やる必 要は検討し直したほうがいいのではないかということです。そういうことで行政コスト の大幅な削減、あるいは制度のスリム化が結果として期待できるのではないかというこ とです。  次の黒ポツでは、もう1つ中小企業者が不満に思うことは、ここ何年か非常に景気が 悪かった。現在も回復していると言っても、まだ全体的に回復軌道に乗っているという わけではありません。そういう中で据え置きという目安も出しているわけですが、しか し、改定と言えば「引上げ」「据え置き」、通常は「引下げ」という意味を含めて改定 と言うと思うのです。この最低賃金制度では、引下げということができるかどうかはっ きりしない。これは民間の経済あるいは賃上げというようなものを考えれば、当然、下 げることもあって然るべきだと思うのですが、ここ何年か下げるという主張をしてきま したが、それができるかどうか明確になっていないので、ここで明確にしてほしいとい うことを書いておきました。その下の黒ポツが理由です。  3の「最低賃金制度の体系のあり方」ですが、これは川本氏も言われたように、我々 長年にわたって産業別最低賃金制度、地域別最低賃金制度が定着していることにかんが みて、役割として存在する意義も薄れているのではないか。屋上屋という言葉をずっと 使ってまいりましたが、そういうことで廃止すべきである。2番目の黒ポツにあります が、地域別最低賃金が罰則付きで、強行規定であるわけですが、もう1つの産業別最低 賃金は、すべて決まっているわけではなく一部に認められているわけですが、これも罰 則付きの強行規定が適用されるというようなこと。これを法律的な裏付けで認めること はいかがなものかということです。  最後の3番目の黒ポツですが、セーフティネット機能が地域別最低賃金で、役割とし ては果たされているという認識の下に、それを上回るものについては個別労使間の協約 ・協定で自主的に定める、民間に委ねることにすべきではないかということです。以上 です。 ○樋口座長  ただ今の説明につきまして、ご質問をお願いいたします。 ○大竹先生  お二方にお聞きします。統計で見る限り、最低賃金、未満率、影響率、あるいは最低 賃金周辺にいる人たちの比率は非常に低いと出ています。「企業経営に影響がある」と いうお二人の主張と、統計のどちらが本当なのかがよく分からないのです。例えば、パ ートタイムの実態調査では、パートタイム労働者の採用時に最低賃金を考慮するという 企業は10%ぐらいしかいませんし、「引上げに影響する」と答えている所も10%以下の 数字が出ています。お二方が言われたことと統計との乖離は、どこにあるのかを教えて いただけないでしょうか。 ○川本様  今お話になった未満率、影響率周辺の方たちがほとんどいない、というお話自体の統 計がどのようなものか私は存じ上げていません。ただ、企業の実態として、支払能力に 絡むかもしれませんが、どのような実態なのかと言いますと、例えば労働分配率という のもありますが、これは規模別に数字としては、その部分は把握できます。財務省の 「法人企業統計」でつかめます。非常に中小・零細の、規模が小さくなればなるほど分 配率は、80%、90%と上がっていって、これは平均の数字ですが、ほとんど課税前利益 がない、又は赤字という状態が、ここ何年も続いていることかなと思っています。  今言った最低賃金がどの程度及ぼしているのかという話になりますと、多分、各地域 によって相当違いがあるのかなと。地域によっては、その周辺にかなり貼り付いてい て、最低賃金が維持される、または上がることによって大変影響を受けている地域もあ ると聞いておりますし、一方、そこまでの議論を聞いていない地域もあると、このよう なことかなと思います。私のお返しはこの辺の範囲でございます。 ○渡辺先生  未満率は現在の改定前の最低賃金に違反している労働者の数で影響率は、最低賃金を 上げた場合に、それに従って上げなければならない人の数であって、最低賃金の額に近 い人たちは何百人、何千人いるかということは分からないのではないか。 ○大竹先生  ただ、前回の報告でもいろいろと研究の成果があって、パートタイムの実態調査で最 低賃金前後にいる人たちの比率がどのくらいかは既に明らかにされています。確かに都 道府県によっては10%程度もあるのですが、大都市圏では、少なくともパートタイムの 実態調査で把握されている労働者に関しては、非常に低いと出ています。 ○川本様  それは割合が低いということですか。 ○大竹先生  はい。 ○川本様  もう少し申し上げますと、率が同じだとしたときは、大都市圏になれば、今度かぶっ てくる人数はものすごく多い。地方の県であれば、同じ率であれば、最低賃金近辺にい る方の人数は少ないと見れるわけで、率と絶対数の両方を見ていかないと、その辺のこ とは、物は言えない話なのかなと考えます。何を言いたいかと言うと、最低賃金近辺の 人が少なそうだと、率は少なそうだということですけれども、絶対数で見れば大変なこ とで、例えばサービス業の所にそういうパートタイム労働者が多いとすれば、実はその パートタイム労働者が中心になっている業界にとっては大変な話になるということだと 思います。要するに地域別最低賃金は誰にもかかってきますので。 ○原川様  今のに関連して、確かに、例えば高校生のアルバイトなどは750円というような、ある いはもっと低いものもあるかもしれませんが、そういった値段も出てきたわけです。だ んだん今コスト競争などが非常に激しいですから、大企業も中小企業もこのコスト競争 に勝つということが生き残る条件になるということで、正社員をアルバイトに替えた り、年齢の高い給料の高い人を若年者に替えたりしているわけです。だからそういうよ うなコスト管理でやっているということで、だんだんと全部とはいきませんけれども、 仕事の内容等を相談して、代替できるものについてはどんどん安い所をねらってきてい るということは、近年の動きとしてあると思います。  ただ、これは私の個人的な考えといいますか、意見ですが、影響率はそういう所では 高まりつつあると思うのですけれども、全体としては労働市場での評価というのはある 程度最低賃金よりも高いところにある。それを、最低賃金が安いと見るか、その労働市 場は健全だと見るか、そういう問題でもあるかと思います。ですから影響率が少ないか らといって、必ずしも最低賃金が低いという理屈は、それは事実ではないとは言いませ んが、そういう労働市場の価値によって賃金が決まるという健全な市場性というもの が、日本では維持できているということもあるのではないかと考えています。 ○樋口座長  他に、今のところで。 ○今野先生  今の大竹先生の質問は、たぶん最低賃金を決める要素というのはいろいろあります が、その中の支払能力に焦点を当てた議論ですね。最低賃金周辺に人がいないのだか ら、最低賃金をガッと上げても支払能力に影響ないではないかという、そういう議論だ と思います。その辺とやはり支払能力論との話のギャップが何となく、今のお話を聞い ていてもしっくりいかないという感じはあります。その辺はどうですか。  川本様がおっしゃられたように、特定産業についてはやはり全体としては少ないけれ ど、特定産業は多いのだから、ここで影響を及ぼすとなると、それだけを持って今度は 支払能力を重視して最低賃金決めようとなると、では産業別で最低賃金を決めるかと、 支払能力の面から見るとです。実際には他の要素もいろいろありますからそうはなりま せんが、いずれにしても支払能力から見ると、少し統計の数字とかいろいろなものを見 るのと、おっしゃられている支払能力に与える、何といいますか、最低賃金の影響のお 2人の議論はちょっとしっくりしない。 ○川本様  ご免なさい、分かりづらい。 ○今野先生  要するに、最低賃金近辺に人がいないのだから上げたって支払能力関係ないじゃない か。極端なことを言うと、そういうことです。 ○川本様  要するに今まで中央最低賃金審議会、中央においても目安審議等々の過程の中でいろ いろなデータを出しながら、そのときに生計費と類似の労働者、それから支払能力と出 しながら、他のものも出しながら、少なくてもいろいろなデータで把握できるものは事 務局にもご努力をおかけしながら出して、審議をして決める、目安は目安として出して きている。地域は、より一層実際に決めなければいけませんので、実態をお互いに踏ま えた上で、公労使で話合って決めてきたと考えています。 ○今野先生  いや、そういうふうだって、ただ理屈で考えているだけなのです。しかも支払能力に だけに焦点を当てて考えたら、少し分かりにくいなという話です。これも、実際にはそ の他の要素も考慮しながら決めなさいという話になっているので、もっと総合的に議論 していると思います。支払能力説だけにグッと焦点を当てて、そこだけでもし判断する と、最低賃金近辺にあまり人がいないんだから、上げたって関係ないではないかという 議論があったときには、何となくそんな気がするなというか、そういう話なのです。 ○渡辺先生  最低賃金近辺に人がいないと言うのは、どういう資料で分かるのですか。 ○今野先生  賃金データの分布がありますから、それを見れば。 ○渡辺先生  パートタイム労働者3業種と言われている、製造業、サービス業、卸売業・小売業と いった形で、第4表を作るときに5万人以下の中小都市というような形で統計を取りま すね。そういう所に焦点を当てて、見て、最低賃金近辺に人が多いとか少ないとかい う、その統計資料みたいなものが今あるのですか。 ○大竹先生  少なくとも今までこの研究会の資料として提出された、賃金センサスを使った推計と か、あるいはパートタイム実態調査からの推計ですと、都道府県によっては10%程度、 パートタイム労働者等10%程度いる所もありますが、全体で見ると非常に低いというの は出てきています。ただ、それらのデータは低賃金労働者を十分カバーしていないた め、それは信頼できないとなると、データを作らないと仕方がないです。 ○渡辺先生  座長、1つよろしいですか。その産業別最低賃金について都道府県の地域別最低賃金 と比べて、大体大きい所では2割以上の最低賃金額の差がある。ぱらぱらと見ている と、1割から1割5分の差がついている所が相当数である。現在246件のケースがあっ て、約3分の1、87件は協約ケースで、残りの159件は公正競争ケースです。  いずれにしても労使のイニシアティブということで、労働組合あるいは使用者団体が 改定のイニシアティブを取って、上げる必要があるかどうかという必要性の審議も、必 要性があるとき、ではいくら上げるかという金額の審議についても、行政が無理して引 き上げるというよりも、労使が合意をして、この地域のこの産業については地域別最低 賃金はあるけれど、それより15%高いものにしましょうとか、そうやって決めているわ けですね。  そうすると不必要という場合に、公正競争ケースというのは概念がよく分からなく て、どうも今までの行きがかりで、あるものだから審議をすると、下げるという方向に は行かないから、少し上げましょうということで、どうも惰性があるということは分か るのですが、廃止ということがどこから出てくるのか。つまり使用者側が反対すれば、 出来ないもの、現実的には。 ○川本様  制度的には。 ○渡辺先生  そうそう。しかし、これだけ民主主義社会の中で労使が合意をして、行政、事務局、 労働局がお手伝いをして、必要のあるものについては、協約ケースにしても公正競争ケ ースにしても、労使のイニシアティブ方式で現在のものがあるというときに、廃止とい うのはどういうもめ事が出てくるのか。屋上屋を重ねると言っても、15%から20%とい うかなり実効的な格差を持って、ある産業のものが決まっているとなると、それなりの 当該産業の労使の存在意味観というものがあって、ずっと継続されてきているものなの ではないかなという感じはするのです。そこが、私はいまひとつ分からない所なので す。  最低賃金法の第16条の4という労使イニシアティブ方式にもともと制度的欠陥があっ て、なかなか現実は労使の本当の合意でいっているというものでもありませんというこ とであるならば、その運用を直していくという方法はあると思うのです。産業別最低賃 金自体を廃止するということの決定的な理由というか、何がいちばん大きな理由なのか というのは、いろいろな機会にご意見をお聞きしているのですけれども、よく分からな い。 ○川本様  とにかく一言で言ってしまえば、法律で規定して守るというものに、セーフティネッ トとして線は1本でよろしいのではないですかという意味であると、受け取っていただ ければいいです。  もう1つ、それが実態としていろいろゴタゴタしたような経緯もずっと踏まえてき て、それで全員協議会でも何度もやっていますけれども、本来の制度趣旨に戻って、よ り労使のイニシアティブということで、なるべくちゃんと出すところから労使でまず話 し合って、そして新設なり改定するときでもよく話合って、そして合意についても全会 一致になるべくなるように話し合ってと。普及徹底もまた労使で、なるべくお互いに徹 底して努力をしてと、こんな話になっているわけです。  逆に言えば、実質的なものとして定着していくならば、個別企業労使又は産業労使と いう所で任せておけばいい話なのかなというふうに考えています。ですから法律的に二 重規制というのは必要ないというのが、いちばんのまず理屈の上での考え方ということ であります。 ○樋口座長  今の点、理屈上の話というのは十分理解できましたが、もしこれが法的に担保されな いものになったときに、現実的な影響というのはどのようなことが起こるとお考えでし ょうか。例えば、同一産業内におけるオーダリングですね。企業間のオーダリングが変 わってくるとか、あるいは他の産業との間の産業間のオーダー、そこら辺にも影響が出 てくるというふうにお考えですか。 ○川本様  もしも影響が出るとしても、長い時間をかけてになるのではないかなという気はいた します。つまり、今非常にグローバル競争もしておりますし、産業によってはたぶん非 常に厳しい。そういう所ではたぶん改定交渉についても必要性なしだとか、また労働者 側の方が、その実態を踏まえている所は改定要望は出さないで、ずっと出さないもので すから凍結が続いているような所も当然ある。従って、その辺は自然に国際的な経済と の関係も含めて、それぞれ適正な所になっていくのではないかという気がいたします。  一方で、労働協約ケースというのが今漸次移していくべきだという話になっているわ けですが、逆に企業内最低賃金の協定というのが結ばれていくということになれば、そ れはそれでこの法律とは関係なく、きっちり1つの線が、要は、民間労使自主の原則の 中で、ある程度浸透していくと考えています。 ○樋口座長  それと、先ほど松田先生がこちらにいらっしゃるとき、座っていらっしゃるのでお分 かりかと思いますが、適用除外の話が出ました。若者と年金受給者についての適用除 外、この点については、いかがお考えでしょうか。 ○川本様  これは大変難しい話になってしまうのですが、まず欧米、特に欧州の諸国とは賃金の 生い立ちが違うと思っています。ヨーロッパではやはり職種別賃金、それから職務給付 概念というのが早くから定着をし、合わせて職種別組合、そして職種ですから産業別の 労使交渉の中で決まってきたというのが歴史的に根づいている。したがって、1つはそ ういう概念の中で、非常に最低賃金というのは決められる。その中でイギリスみたい に、除外というような概念も出てくるのだろうなと。  一方日本は、その辺が企業内でも年功型を採っている。一方で、例えばアルバイトで すと、それは需給関係の、また仕事賃金であるという、そういう矛盾もある程度抱えて いる中でやってきている。そこに20歳とか、年金ですから65歳とかになるのかもしれま せんが、年齢概念で切るということがそぐわないのではないか、難しいのではないかな と考えています。  ただ地域別最低賃金ですので、例えば分かりやすくないと浸透しない。変な除外規定 を作れば作るほど複雑になってしまいますので、分かりやすいのがいちばんいいのかな という意味で、私は現行のやり方というのがいちばんいいのかなと考えています。 ○原川様  若者は、例えば産業別最低賃金ですと18歳未満とか、65歳以上の人を除外していま す。イギリスなどもそういう減額するというようなことがあるらしいのです。18歳未満 で、なぜ切れるのか、なぜ65歳以上は減額されなきゃいけないのか。その年に、体力的 な年齢が必ずしも比例するとは限らない。今いちばん良い例が、フリーターとかニート というような人は30代にさしかかっていますね。だからそういう人たちで、ろくにスキ ルを持ってない人も、もし差をつけるとしたら、一般的な労働者の雇用で預かるという ことにもなる。  では、どこでどういう基準がいいのかということは、非常に難しいと思うのです。公 平性とかいうような観点からも問題を多く含むのではないかと思います。ですから、地 域別最低賃金のセーフティネットとして位置づけて、これで安全網としての最低賃金法 を整備するという形が、私はいちばん良いのではないかと。 ○川本様  本来、仕事の価値として賃金が決まるとすれば、年齢で別に決めているわけではなく て、若い人にも結構高度な仕事をする方もいらっしゃれば、中堅の30代、40代でも非常 に単純的な仕事やアルバイトをされている方もいらっしゃるということであろうかと思 います。 ○樋口座長  たぶん先ほどのご説明ですと、生活費を考慮しろというご主張の中から出てきたのか なと思います。親から援助を得られる、あるいは年金から援助を得られるということで あれば、生活費がそれだけ少なくて済むのであって。低くして、雇用を拡大したほうが いいのではないかという趣旨だったのではないかと、私は受けとめました。 ○石田先生  非常に耳の痛い質問かもしれませんけど、安全網かどうか。制度が定着しているから 安全網だと言うのと、賃金水準で暮らせるかどうかというのは、やはりかなり大きな論 点なのです。たぶん労働者側は、先ほどの松田先生の話でも、やはり絶対額が安全網に 値する金額かという問題意識が常にあると思うのです。地域別最低賃金一本でいったと きに。 ○川本様  私どもは、安全網として機能していると思っているのです。中央では目安というのを お出ししているわけですけれど、それを踏まえて地域では、本当にこの絶対額を最後決 めなければいけませんので話し合っている。したがって、いままでどういうことが行な われてきたかといえば、目安を出したものとおりに各地域が決めているわけではなく て、本来その目安を参考にプラスマイナスアルファする。実態としては、マイナスアル ファはなく、プラスアルファで決めてきていると思っていますから、実態は実態として 地域で十分話合って決めてきているだろうと。 ○石田先生  「引き上げろ」ですね。 ○川本様  はい。それはそのときに当然、要するに生計費も何もその地域はその地域としての話 合いをした上でやっている話ですから、そういうのは全くかけ離れてきた所でやってき たとは思っていません。  もう1つ付け加えて言いますと、賃金実態というのを当然把握しているわけです。こ れについては、先ほどから言っているパートタイム労働者が増えてきているという話の 中で、実は今第4表という賃金実態をまとめた表が、毎年の目安の審議でも参考にして いるわけですが、この中でパートタイム労働者の増えてきている影響をどうするのかと いうことで、従来のやり方を今変えようかという審議中であります。まだ決定していま せんが、この12月中に、目安のあり方に関する全員協議会で一応まとめていく流れにあ るということを、申し上げておきたいと思います。 ○原川様  安全網ということは非常に重要なことだと思うのですけれども、ではそれで暮らせる かどうかという議論は、非常に漠とした議論だと思うのです。別に3万とか4万で暮ら せなんていうことは言いませんけれども。しかし、いくらなら暮らせるのか。例えばテ レビがなくてCDがなくて、いくらなら暮らせるのか。あったらいくらなのか。そうい うような議論をしたら、永久に結論は出ないと思うのです。 ○奥田先生  ちょっと話が戻って申し訳ないのですが、さっきの産業別最低賃金のところで、結論 的には、法定のものは2つはいらないというのが基本的な考え方だという趣旨は分かる のですが、法定のものが2つあるというのではなくて、例えば一定の産業の中で、1つ の企業ならかなり小さいですけれど、一定の産業の中で合意されたものに、それこそ公 的な一定の助力を与えるというふうな考え方というのは。 ○樋口座長  エンフォースメントですね。 ○川本様  法律的な担保を与える。 ○奥田先生  それは、何か従来の制度で問題があったのでしょうか。 ○川本様  もしもそういうことであれば、逆に今はだんだん労働協約による協定方式というもの に移行していこうと、これは全員協議会等の中央最低賃金審議会の場では、そういう報 告を出してきているわけです。要するに労働契約を結べば、それは守らなければいけな いので、それは法的担保が、最低賃金ではなく、あるわけだろうと思います。 ○奥田先生  それは私法的効力ですね。 ○川本様  はい。 ○奥田先生  それは分かるのですけれども、それではなく、従来の制度で公的な助力を与えてき た、そこに何か問題があったのでしょうか。 ○川本様  だから1つは、私は直接産業別の最低賃金の交渉に加われる立場になく、各地域でや っているものですから、地域から上がってくる声ということで申し上げれば、要するに 例えば、改定を経営側としてはする必要性がなくて、今非常に競争が激しい中で、上げ るつもりはないのだけれども、そのために、すごく審議をしなければいけないというの にものすごく縛られていくとか、それで結果的に上がってしまう場合もあるとか。それ から「必要性なし」ということを使用者としては言えるシステムに実はなっているので すけれども、日本の労使ともにやはり話合いは尊重したいという気持ちがあって、なか なか思っていても、「なし」とつっぱれないような状況です。この実態があって、皆、 苦しいと。苦しい中でやってきているのだけれども、もう勘弁してもらいたいのが非常 に強いというのが、実態の方の話です。さっきの理屈とは違いまして、これがあると言 う中で、とにかくもう廃止してくれという要望が地域からたくさん出てきているという ことで、私どもは廃止論ということを言ってきているということです。 ○樋口座長  まだあるかと思いますが、そろそろ時間がきておりますので、使用者側からのヒアリ ングはこれで終了したいと思います。  川本本部長、原川部長、本日はお忙しいところをどうもありがとうございました。                (川本様・原川様退場)                (加藤様・須賀様入場) ○樋口座長  どうもお待たせいたしました。続きまして、労働者側の代表としまして、日本労働組 合総合連合会の須賀総合労働局長、全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会の 加藤賃金政策部長にお願いします。どうぞよろしくお願いいたします。では、須賀さん からお話をいただけますか。 ○須賀様  もう大分時間も経過されて、皆様方もお疲れのことと思いますが、是非よろしくお願 いいたします。私の方で全体的な総括的な話をし、加藤からは産業別最低賃金に関する 話をということで、進めさせていただきたいと思います。ヒアリングの趣旨に沿い、私 どもの意見の概要を、お手元の資料にまとめておりますので、ご覧いただければありが たいと思います。  まず、意義と役割について申し上げます。3つの視点でお話をさせていただきます。 1つはご承知のように、最低賃金法の第1条に目的が明記してあり、「事業若しくは職 業の種類又は」云々と、こう書いてあります。そういう面からいきますと、この最低賃 金法に期待されていることは、最低賃金水準に満たない賃金の支払を許さないというの が本来の趣旨であり、その結果において低賃金を解消することが期待されている。そう 私どもは考えています。最低賃金の水準が、労働者の生活の安定に資する水準でなけれ ばならないと考えますし、そういう意味からいきますと、この最低賃金制がもっと有効 に機能する制度として拡充される必要があると考えています。  一般論で大変申し訳ないのですが、労働条件の改善というのは労働者の生活水準の向 上を担保するものであり、その家族の健康あるいは文化的な生活を含めて、質的な向上 に改善がつながっていくというふうに、私どもは考えています。そのことがひいては我 が国の将来的な発展に寄与すると考えており、そうした意味でもこの最低賃金制度とい うのは重要な役割を担っていると考えます。またこのことを産業内、企業内に置き変え てみますと、労働条件の高まりが労働者の意識を高めますし、その結果として能力発揮 につながっていくわけです。そのことが企業の底力となるというふうに考えますし、経 営の改善あるいは生産性の向上にも十分寄与し得るものと考えます。したがって、そう した中で最低賃金制度が果たしている役割というのも非常に大きいと思います。また、 その1条に記載をされている内容に沿った形で、現実は進行していると考えられるわけ です。  そして、現在の市場経済の下での企業活動を見ますと、企業はそうした状況の中で激 しい競争を繰り返しています。しかし、この企業競争は、私どもなりに考えますと、経 営あるいは営業等の戦略を駆使して、公平な競争をする。そういう必要があると考えて いるのですが、一方で、低賃金を武器にしたような、そうした競争にしてはならないと 考えています。このことを最低限担保する仕組みとして、最低賃金制度が重要な役割を 果たしていると考えます。賃金引下げ競争に見られるような、底なしの不公正な競争を 防止をしていくと、そういった意味でも有効に機能しているのではないかと考えていま す。また一説によりますと、その最低賃金制度そのものが積極的な役割あるいは効果と して、低所得者層への有利な再配分ということを、国全体で実現をしていく。そうした 意味も込められていると考えます。結果において、そのことが国全体としての消費性向 の向上なり、有効需要の拡大に資するものと、指摘できると考えています。  2つ目に、賃金決定メカニズムとの関わりで、若干ご紹介を申し上げておきたいと思 います。日本の労働条件決定システムは、企業内での決定ということが一般的であり、 欧米に比べると波及力が弱いと指摘がされています。さらに、それを裏付けるように、 労働組合の組織率も大変に低くなっており、20%を切る状況にあります。ひとえに私ど も連合を含めた組織労働者の対応のまずさもあるのでしょうけれども、残念ながら残り の8割の皆さん方はそういう状況にはないわけです。結果的に、その企業内で決めてい る枠組というものの中身を見ますと、労働組合を組織された所のみがそうした対象にな っています。裏を返せば、大半の8割の人がそういう労働条件決定の埒外に置かれてい るという状況にあると思います。そうした状況は、中小零細に特に集中をしておるとい う実態にあります。  そういう観点からしまして、この最低賃金法そのものは、基準法の第2条の労働条件 決定、あるいはそうしたものの決定に際しては、本来労使が自主的に対等な立場で話し 合って決めるとうたわれているわけですけれども、そうした原則の適用を受けていない 未組織労働者がたくさんいるということを、私どもは考えなければならないと思ってい ます。それを地域別あるいは産業別という形で底支えしているのが、唯一無二の最低賃 金制度の機能であろうと考えてあるわけです。また、こうしたことについては菅野先生 の論を借りれば、日本的な労使関係が全体に波及をしていくということについては、非 常に困難を伴っている。学者の皆様方もおっしゃっているとおりで、まだまだこの産業 別あるいは地域別の最低賃金のナショナルミニマムとしての役割を、もっともっと広め ていく必要があるのではないかと考えているところです。  そして釈迦に説法ではありましょうけれども、フランスやドイツの最低賃金制度は、 ご案内のように、地域あるいは業種ごとに最低賃金額が設定をされており、その額が労 働協約の拡張適用という形で、あまねく広く労働者に適用されておるというのが一般的 になっています。日本の最低賃金制度はそうした状況にないわけでありまして、非常に 私どもとしても歯がゆい思いをしています。また拡張適用は確かに11条に定義がしてあ ります。しかしながら、その拡張適用を受けている産業別最低賃金は、全国でわずか2 つしかありません。そんな状況を踏まえても、問題があると考えています。  もう1つは、これもご承知の話で大変申し訳ないのですが、雇用の多様化が進んでき ています。その雇用の多様化の中で、私どもは最低賃金が果たすべき役割があるのでは ないかと考えていますので、このことについて紹介をしておきたいと思います。  著しい雇用の多様化が進んでおり、このことがある意味いろいろな労働条件の二極分 化を生むという結果をもたらしています。労働力調査の直近のデータでいきましても、 30%を超える形で非正規従業員の割合が高まってきており、この傾向は今後とも一層強 まっていくと考えています。その際に、非典型労働者の皆さん方にもいかに公正な処遇 を担保してあげるのかが重要であろうと思っていますが、なかなかその状況が改善でき ていないというのが実態であろうと思います。  その結果として、先ほど紹介いたしましたような雇用の二極分化だけではなく、賃金 所得の二極分化ということも招いています。経済的に自立のできない人がかなり多くな っている、そのことに警鐘を鳴らす必要があろうと思います。それを支えるという意味 で、セーフティネットの役割としての最低賃金制度が十分な機能を持てるように、改善 をしていかなければならないと考えています。  この3つの点で意義と役割について主張させていただきました。セーフティネットの 関係についても若干入りましたけれども、改めまして安全網としての賃金制度のあり方 について、考え方を紹介したいと思います。影響率が1%程度という、私どもとしては 非常に歯がゆい状況にある最低賃金制度ではありますけれども、これから実効性のある 制度に高めていかないと、安全網としての役割が果たせないのではないか。つまり安全 網としての役割という意味では、現行の最低賃金制度はその役割を果たしていないとい うのが、私どもの結論であります。全国の平均は、ご承知のように、加重平均で665円 です。これを1カ月間、法定労働時間目一杯働きましても、11万5,700円という水準に なります。私どもが昨年、マーケットバスケット方式でさいたま市で実際に1年間かけ てやらせていただいた調査によりますと、生計費という意味で比較をしていく上では、 単身労働者ということをベースにおけばいいと考えて、その必要最低生活費は14万6,000 円という水準の把握をしました。必要最低生計費を満たさないような最低賃金、これが 果たしていいのかどうかということを、セーフティネットという意味で問題意識を持っ ています。  先ほども少し出ていましたけれども、実勢賃金での比較の面でいきますと、2003年の 賃金構造基本統計調査によりますと、女子のパートタイム労働者の平均受給金額は893 円です。パートタイム労働者全体でも915円です。しかし先ほど紹介したように、最低 賃金水準は665円。いかにもこの開きは問題があると考えていまして、先ほどの生計費 との関わりも含め、そうした賃金構造の実態の底辺を成しているパートタイム労働者・ アルバイトあるいは初任賃金、こうしたものと比較をしても、いかにこの最低賃金が低 いか、あるいは機能を果たしていないということの証左がここにあると考えています。  さらにヨーロッパとの最低賃金とも比較をしています。イギリスは、全国一律4.5ポ ンド、直近のレートで直すと904円。フランスが全国一律7.61ユーロ、直近で直すと1027 円。これと比較しても、いかに日本の最低賃金が低いかということがお分かりいただけ ると思います。先ほど紹介したように雇用の二極分化あるいは多様化が進んでいる中 で、働く現場でやはり最低賃金の果たす役割は非常に大きいと考えていまして、またま だ機能を強化していく必要があると考えています。  少し余分な視点で申し上げますと、毎年の最低賃金の改定水準は0円、1円、2円と いうところが中心になっています。最近の1円という状況をよく考えていただきたいの ですが、100年間毎年上がったとしても100円しか上がらないわけです。先ほどの生活水 準の実態からしますと、1時間当たり賃金とはいえ、わずか100円しか上がらないよう な状況で、100年かかるわけです。私どもはこういうことの問題意識を非常に強く持っ ており、この目安制度のあり方も含めて、最低賃金制度の果たす役割をもう一度見直し ていただいて、真の意味で最低賃金制度としての役割を果たすべきだと、そのための改 善が必要だと考えていることを最後に申し上げておきたいと思います。全体の意見とし ては、これで終わらせていただきます。 ○加藤様  私は、中央最低賃金審議会の委員であると同時に、長年にわたって電機産業の産業別 最低賃金を創設して、毎年金額改正をするという取組みを行ってきた立場から、少し私 どもの取組みの事例も紹介しながら、なるべく簡潔にご報告をしたいと思います。結論 を申し上げますと、産業別最低賃金はやはり必要であって、むしろ継承発展させるべき だというのが、私どもの立場といいますか、考え方です。いくつか今日の資料にも記載 しましたけれども、考え方を申し上げさせていただきたいと思います。  1つは、賃金水準そのものは、産業の特性を反映して産業や職種ごとに相場が形成を されている。そんな見方ができるのではないかと思います。結果、様々なデータなども 見てまいりますと、明らかな産業間の賃金の違い、差異が生じていることも確かであり ます。そして地域別最低賃金があるからいいではないかという意見もありますが、最低 賃金制度全体としての実効性を確保するためには、すべての労働者に共通した賃金のセ ーフティネットである地域別最低賃金に加えて、産業別最低賃金は必要ではないかなと 思っています。  今須賀さんのお話にもありましたように、日本の場合労働条件決定は、企業内労使交 渉、企業内労働協約、企業ごとの賃金体系に基づいた企業内賃金決定といった形が、い わゆる基本的なパターンだろうと思っています。そういった意味では、欧米のような産 業別労働協約による労働条件の社会的な規制、広がりや外部労働市場での職種や職務に よる賃金相場の広がりというものが、希薄ではないかなと思っています。もちろん日本 の春闘というのは、来年の春闘でどうやら50周年を迎えるようですが、日本の春闘が賃 金相場の形成に果たした役割というものは大きいわけですが、それはどちらかという と、企業別労使交渉の中で引き上げてきた平均的な賃上額なり、平均的な賃上率を波及 させていくといった形で、社会的な広がりを生んできたのではないかなと思っていま す。  そうした中で産業別最低賃金は、私どもの評価をすれば、「わが国唯一の企業の枠を 超えた産業別の労働条件決定システム」、このようにも言えるのではないかと思ってい まして、こうした制度は、非常にむしろ大事にすべきではないか、育てるべきではない かなと思っています。  3点目に記載してますが、産業別最低賃金は、繰り返しになりますけれども、こうし た日本特有の労使関係の土壌といいますか、賃金決定メカニズムの土壌の上に、当該産 業における労使協議の補完的な機能を持った産業ごとの最低賃金決定システムと言える だろうと思っています。具体的には、企業内最低賃金協定の締結などの合意形成を、取 組みのきっかけといいますか、取組みの基礎としながら、当該産業労使の話合いあるい は地域における審議会での労使合意。地域における審議会での労使合意というのは、具 体的には申請した産業別最低賃金の設定であるとか、金額改正の必要性については、ご 周知のように審議会による全会一致が求められているわけですし、また必要性が認めら れた場合には、金額審議は当該産業労使が入った専門部会で審議をすると、こういうこ とになっているわけです。そうした労使合意を前提とした決定を行っていまして、こう した取組みが地域や当該産業における労使関係の安定、また事業の公正競争確保に果た している役割は大変大きいのではないかなと思っています。  時間の関係もありますので、長く説明するつもりはありませんが、せっかくその他私 どもの事例の資料を用意しましたので、1点ご紹介させていただきたいと思います。ど んな取組みをしているかということですが、電機連合のケースです。他の産業の場合 も、ほぼ同様の取組みをしているというようにご理解を賜ればと思っています。私ども の電機連合の場合には、年中行事になりますけれども、1月に春闘方針を決めますが、 春闘方針と合わせて、最低賃金についてのこの1年間の取組みも機関決定をするわけで す。そして電機連合本部としては、要求に当たって私どもの産業の業界団体であります 電経連という組織がありますけれども、電経連に協力要請をする、話合いをするという ことからスタートいたしまして、春闘の中で具体的な要求を行い、そして最低賃金の締 結をする。あるいは最低賃金協定がどうしても結べないケースの場合には、産業別最低 賃金が必要だという機関決議などの合意形成の取組みを行うということになっていま す。そうしたことで春闘が終わった後、最低賃金協定の集約などを本部が行っていま す。なお、加盟組合は春闘で要求をし、回答を引き出すわけですが、春闘要求に当たっ ては必ず最低賃金の要求も行って、その最低賃金協約も締結をしています。  なお、「地協」と書いています一番下の欄は、県レベルの取組みでありまして、私ど もは基本的に県単位に地方組織を持っています。それが地協ですが、地協の場合も地協 単位に労使会議が作られており、労使会議の元々の設立の目的は、産業政策課題につい て労使が話し合うということが目的でありますが、近年はその場を活用して、最低賃金 の必要性や最低賃金のあり様についても労使で話合いを進めています。そんな労使での 協議などもベースにしながら、地方組織としては申請の準備を4月から6月ぐらいにか けて行って、7月に具体的な金額改正の申出を行う。そんな流れになっていますことを ちょっと申し上げておきたいと思います。  なお、本来は労働協約ケースが望ましいということが言われていますけれども、16条 の4項の場合には、労働協約が望ましいことは当然でありますが、組織率の現状などか ら、すべての最低賃金を労働協約ケースで申請をするということが非常に困難さを伴っ ている面もあります。16条の4項で申請をする場合には、労働協約もあるいはその他の 機関決議や個人合意も、いわゆる申出に当たっての必要性の合意形成、合意の役割とい う意味では同じ役割を担っているわけです。ちょっとご理解を是非いただきたいのは、 もちろん努力いたしますけれども、公正競争でやっている場合は非常に組織率の低い県 での取組みでして、労働協約ケースで取組んでいる以上に、大変な思い、大変な努力を しているということです。  今日も参考までに、宮城県の事例ということで、ビラを1つ入れさせていただきまし た。宮城県の場合には組織率が低いわけでありまして、県内にある下請企業や、労働組 合のない中小・零細企業など、約500事業所ぐらい、電機産業でもあります。そこを組 合役員が手分けをして、事業所訪問をし、経営者の皆さんとも話し合いながら、経営者 のご協力がいただければ、個々の労働者に個人合意の取組みに対する協力要請を行い、 出た結果については皆さんにお知らせをしながら、地域別最低賃金はこのように決まり ました、産業別最低賃金はこのような額に決まりましたという、いわば厚生労働省の仕 事の役割も担っているのではないかなと思いますが、そういった周知徹底の取組みも合 わせて行っていることを、最後に申し上げまして、私からの報告とさせていただきたい と思います。 ○樋口座長  ありがとうございました。それでは質問させていただきます。 ○大竹先生  最後のところでご説明された点についてお聞きします。非典型雇用が多かったり、あ るいは組織率が低下してきているから労働協約だけでは駄目で、産業別最低賃金という のは必要だという話だったと思います。しかし、逆に言うと、産業別最低賃金があるか ら、皆が組合に入らないという可能性があるかもしれない。この可能性についてご意見 を伺います。産業別最低賃金がなくなると、労働者の間に労働協約の必要性が高まって 組合への加入率が高まるという可能性はないでしょうか。非典型雇用が増えている、あ るいは、組織率が低いことに対して労働組合が組合員を増やすという努力をするのでは なく、産業別最低賃金で対応しなくてはならない理由を教えてください。 ○須賀様  本筋は先生のおっしゃるとおりだと思います。やはり労働組合の仲間に、メンバーシ ップに入れて、そして労働協約の傘をかけてやるというのが、本来のあるべき姿だろう と思います。しかしながら、なかなかそれが進まないというのが現実でして、進まない 中で手をこまねいてほったらかすわけにいかない。そうするときちんとした対応をしな がら、この産業別最低賃金なり、あるいは地域別最低賃金でその人たちに向かっての役 割を果たしていくということも、労働組合の重要な役割ではないかという、そういう視 点で必要性を言っているわけです。 ○加藤様  須賀さんのおっしゃったとおりでありますが、本来はやはり労働組合の組織率を高め ることによって、冒頭申しましたとおり、日本の場合は企業内労働条件決定であります から、組織率を高めるということがその企業内の労働協約の適用労働者を広げるという ことにも、つながるわけでありますけれども、今組織率が2割程度であります。そのよ うな中で産業別最低賃金の果たす役割が重要だと申し上げたのですが、今先生がおっし ゃったことで申し上げますと、産業別最低賃金が、組織率を高めることを妨げていると いうことではないと思っています。あまりにも組織された労働者の労働条件、とりわけ 賃金で申し上げますと賃金水準と、未組織労働者の賃金水準とは格差が大きすぎるとい うのが現状であります。私どもの電機産業の事例で申し上げますと、労働協約ケースで 申請している割合が、5割を超えて約6割近くまできているのではないかなと思いま す。企業内最低賃金協定の水準が、18歳ポイントで15万円です。それを労働時間も含め た協定にしてますので、時間当たり換算をしますと、約950円です。未組織労働者の場 合には、同じ電機産業で同じような仕事をやっている労働者であっても、相当賃金水準 は低いというのが現状であります。とりわけ非典型雇用の場合にはそんなことが言える のではないかなと思います。したがいまして、950円の組織労働者のミニマムとの格差 を、やはり縮めていく。労働協約の拡張適用でないにしろ、それを改善をしていくとい うことが必要で、そこに果たす産業別最低賃金の機能というのはやはり重視をしてもい いのではないかなと思っています。なお、企業内の非典型雇用の問題については、それ は企業内ですから、私どもが結んだ最低賃金協定を、時間当たり賃金で企業内の非典型 雇用、例えばパートタイム労働者であるとかアルバイトがいれば、そこに適用させてい くような取組みは、労働組合運動として当然行っていますし、どれほど十分に行われて いるか分かりませんが、労働組合のある企業における非典型雇用への取組みということ では、それなりの役割を担っているつもりです。 ○樋口座長  ちょっとよろしいでしょうか。宮城県のパンフレットを見せていただいたときに、例 えば電機連合に入っている人、電機産業で働いている人は普通の617円ではなくて、う ちは697円、高めに設定されているんだと感じると思います。その一方で、電機産業以 外の産業の人たちは、何で電機産業だけ高く設定されるのかと思う人も、中には出てく ると思います。そうした場合に、なぜ特定の産業だけが、その地域の最低賃金より高く 設定されるのか。しかも産業によってそれがばらばらに決まってくるのかということに ついて、どのようにお考えかとご質問したいのです。特に公正競争というふうになった ら、その地域の中に置ける同一産業に、今産業がボーダレス化してきて、なおかつ、最 低賃金の適用労働者というのはその産業によってそれほど特性が違うわけではない。に もかかわらず、ある産業だと高くて、ある産業は別となってきたときに、公正競争とい うものが、その都道府県の中ではなくて、いまやまさにグローバル化の中で決まってく るわけで、それで公正競争が維持できていますと果たして言えるのだろうかということ についてはどのようにお考えか。その2点を教えていただけますか。 ○加藤様  では私のほうから最初にちょっと申し上げて、あとで須賀さんのほうから補足があれ ばお願いしたいと思います。連合は産業別最低賃金の取組みをしたときに、できるだけ その産業ごとの賃金実態を踏まえて、それを波及させていく、そんな意味で産業別最低 賃金をできるだけ多くの産業に創設をしていこうという取組みをしてまいりましたが、 いかんせん、その申請要件があります。新設の場合には、協約ケースで申し上げますと 2分の1でありますし、設定された以降も3分の1の合意形成が必要ですので、組織率 も低い産業に、なかなか産業別最低賃金を創設するということは、少し立ち後れている という問題があって、そこはちょっと歯がゆい思いがしております。できるだけそうい う取組みをしていこうということで、たしか宮城県の場合は、3件か4件の産業別最低 賃金は作られているのではないかなと思いますが、条件のある所は7つや8つの産業別 最低賃金は作られているだろうと思います。先生のおっしゃった公正競争、地域におけ る公正競争という意味は、おっしゃっていることはよく理解できますが、もう1つは、 例えば同じ産業における産業構造というか、企業構造というか、例えば電機産業で申し 上げますと、親企業があって、子会社があって、あるいは下請が、一次下請二次下請と あるわけで、その中で、電機産業は電機産業、他の産業は他の産業なりに、産業構造あ るいは企業構造が違うのでしょうが、1つの生産工程が分割されて行われているわけ で、同じような仕事をやっているケースも非常に多いわけです。そんな中で産業内の公 正競争が図られるということは非常に重要なのではないかということを、とりわけ私ど も産業別の労働組合としては、産業政策と同じ位置づけで、片や産業政策、片や産業内 の労働条件の公正のあり方、これをセットで進めていくことが産業民主主義につながる のではないかなという思いで取り組んでおります。 ○須賀様  ボーダレス化と公正競争の関係ですが、確かにマクロ的な視点で見ていくとボーダレ ス化は進んでいますが、現実の問題として産業・業種の壁が壊れているのではなくて、 いろいろな企業が従来やっていた世業でない業種に出ていっている。私は実は新日鉄の 出身ですが、新日鉄といったら、鉄を作る会社であったものが、今は鉄でないものもか なりいろいろな形で作っています。そういう意味でボーダレス化が進んでいるのであっ て、産業・業種の壁がなくなっているという意味ではないと思います。それから、その 中で厳正な事実として二重構造、三重構造、四重構造と、いろいろな呼ばれ方はします が、そういう多重構造の産業の実態というのは変わっていない。そしてその中のトップ 水準にあるのが、俗に言われている大手企業の賃金水準だろうと思います。それを二重 構造、三重構造、四重構造の中で日本は支え合っている。これはどこの国でも同じ構造 なわけですが、そのときに、いかにして低廉な労働条件、先ほども紹介しましたよう に、労働条件切下げ競争をさせるような中での産業の生き残りあるいは企業の生き残り をさせてはならない。経済の原則は一方でありながらも、もう一方で人権としての最低 限の生活保障権があるわけですから、そういう視点からしましても、企業競争は自由だ とはいえ、一方的にそういった方向に走らせるわけにはいかない。それをきちんと制御 していく役割という意味では最低賃金という制度が機能を果たしている。しかしなが ら、あまりにもその水準が低すぎて、本来果たすべき役割を最低賃金制度として果たし ていない。その果たしていない原因に、先ほども紹介したような目安制度の問題があっ たり、あるいは、データの引き方があったりするのでしょうが、私どもは絶対水準とし てこの法定の最低賃金水準を定めていく必要があるのではないかと、そんなスタンスに 立っております。そういう問題意識を持ちながら、いろいろ是正の努力をさせていただ いてますが、なかなか全体の合意には至らないという状況です。 ○樋口座長  地域別最低賃金の引上げに全力を尽くすというのは、まさにその生活費との関連でよ く理解できるのですが、例えば先ほどの要求で、派遣請負労働者にも働く現場でという ことは、これ、派遣先の産業によってその最低賃金を適用しろという要望ですね。 ○須賀様  そのとおりです。 ○樋口座長  そうしますと、その派遣元、同じ派遣会社でありながら、その派遣している産業によ って最低賃金が変わってくるというような問題が起こってくると思うのですが、その点 はどうお考えでしょう。例えば、たまたまある人は電機産業に派遣されました。ある人 は別の産業に派遣されました。そのときに最低賃金は違いますと。同じ派遣会社に働い ている人であるにもかかわらず、そういった問題が起こってくるというような感じがす るのですが、その点はどういうふうにお考えですか。 ○須賀様  それは当然なのではないですか。どういう仕事をしたかによって賃金は決まるわけで すので。派遣会社の企業籍で賃金が決まるわけではなく、派遣された先でその人がどう いう仕事をしたかによって賃金は支払われるべき性格のもの。 ○樋口座長  ですから、まさに一般事務職である人は同じ仕事です。同じ仕事で電機会社に行って ます。例えば片方は別の産業に行ってますと。これ、同じ職種ですね。にもかかわらず その最低賃金が違ってくる。仕事が違えばもちろんそこの所は違ってくるということは あり得ると思うのですが。 ○須賀様  それは産業別最低賃金の中をご覧いただくとよくわかると思いますが、基幹的労働者 に限定がしてあって、事務職であったら、これは全然、適用外に入ってますよね。 ○樋口座長  今度の要求は派遣労働者に適用ということですね。 ○須賀様  はい。産業別最低賃金の現場で製造ラインに対する派遣もOKになりましたので、例 えば電機産業の製造ラインに派遣されている人は電機産業の最低賃金を適用させなさい と、そういう趣旨です。つまり事務職の人までそれを適用させなさいということを言っ ているわけではありません。 ○樋口座長  物の製造の派遣に限定しての話ですか。 ○須賀様  そうです。派遣の現場。つまり、その人が実際に働いている先がどの業種の産業別最 低賃金に当たるのか。当たるのであれば派遣会社の中で同一にする必要はないのではな いかという、そういう主張です。 ○樋口座長  ちょっと確認なのですが、これは物の製造について限定している話ですか。 ○須賀様  いや、それだけではないのですが、特徴的なことでそういうふうに申し上げました。 ○加藤様  ちょっと私の方からも。派遣やあるいは請負の場合には、日本の産業別最低賃金は、 職種別最低賃金ではありませんので、日本標準産業分類に基づいて事業所がどの産業に 分類されているかによって適用されるということになります。現状で申し上げますと、 派遣業やあるいは請負業の場合には、サービス業に分類されているケースがほとんどで はないかなと思っております。そうすると、サービス業の分野には、産業別最低賃金 は、組織率の関係もありますが、我々労働組合の組織率が相当低いこともあって、産業 別最低賃金は作られていない、地域別最低賃金の適用を受けているわけです。ところ が、彼らが電機産業なら電機産業に来て働いた場合には、その電機産業の正規従業員、 あるいは正規従業員でなくてもいいのですが、直接雇いの雇用労働者と、処遇上の不公 正が生じる。そこは是正しなければいけないという思いがあります。 ○奥田先生  今の点に関連して、派遣よりもう少し一般的なのですが、最初にヒアリングでお話を いただいた松田先生が、例えば産業別といっても、別々の産業でも実際に同じような職 務に就いている労働者がいる場合に、たまたま所属している産業が違うことによって適 用される賃金が異なるのは矛盾があるのではないかというお話をされていたのですが、 こういう点はどういうふうにお考えになられますか。例えば同じようなプラスチック加 工の仕事をしていたとしますね。それがたまたまある産業でそれをやっているのと、別 の産業でそれをやっていることによって、同じ職務であるのに産業ごとで違ってくると いうのは矛盾があるのではないかというお話をされていたのですね。だから産業別では なくて職務でやるべきではないかというふうなご趣旨だったと思うのですが、そういう 点はどういうふうにお考えですか。 ○加藤様  その最低賃金のあり方については、1つは職種別の最低賃金という、そういう設定の 仕方も、あるいはそういう作り方もあるのではないかなと思いますが、残念ながら日本 の場合には、職種や職務をベースにした最低賃金というのは作りにくかったのだと思い ますね。そこで産業別最低賃金という形になったという面があるのだと思いますが、こ のことに関して言えば、今後の課題だろうというふうに思っております。たぶん当時、 昭和61年当時に、新産業別最低賃金の議論をしたときに、日本の場合には、職種別の採 用をするわけではない、あるいは、職種別に賃金決定をしているわけではないという中 で、新卒者を企業が採用して、大括りの職群と見れば、生産労働者なのか、あるいはホ ワイトカラーなのかという違いはありますが、そこからブレイクダウンして職種別にこ の職種の採用という形で決めているわけではないし、職種別に賃金を決めているわけで はない。したがって、職種別の最低賃金を作るというのは到底日本の土壌に合わないと いうことがあったのではないかなというふうに思います。ただ、今後のあり方としては 非常に大事なポイントだと思っております。少し労働市場の変化などを見ながら対応を 考えていく必要があるのではないかなと思います。 ○橋本先生  先ほどの使用者側のお話では、国際競争の激化による労働コスト削減の必要性という 点が強調されていまして、この産業別最低賃金の審議会でも、国際競争が厳しい産業で は、あまり要望も出て来なくなってきているというお話があったのですが、電機産業は 非常に国際競争厳しい産業だと思いますが、そのような実態は本当にあるのでしょう か。 ○須賀様  ちょっと質問の趣旨がよくわからなかったのですが、結局例えば電機産業は国際競争 にさらされている産業だと思うが、そこでの申請がどんどん減ってきているのではない かという。コスト競争に重点を置いて。 ○橋本先生  はい。 ○須賀様  使用者側が合意をしなくてはいけないわけですね。 ○橋本先生  審議会に要望を出すわけですよね。 ○加藤様  はい。改正の申出は、労働者又は使用者ということになっておりますが、すべて労働 者側からの申請になっておりますので、ただ電機に限定して申し上げますと、沖縄と和 歌山を除く45の都道府県に作っておりまして、それは当初から数は変わっておりませ ん。ということでよろしいのでしょうか。 ○橋本先生  毎年改定の申出を。 ○加藤様  毎年改定の申出をしております。 ○橋本先生  最低賃金についてですね。 ○須賀様  正確な数は、私、しばらくやってませんからわかってないのですが、鉄鋼の産業別最 低賃金は、先ほど出てました転換の時期からすると、徐々に徐々に増えてきて、その数 は今増やそうとしてまして、これはもちろん労働者側からの申請をベースにおいており ますが、減ってきているなどという話は聞いたことがありません。 ○橋本先生  ありがとうございました。 ○樋口座長  ほかにどうですか。 ○渡辺先生  16条の4の方式、要するに労使のイニシアチブ方式の中に、協約ケースと公正競争ケ ースがあって、今公正競争ケースとはいえ、個別の事業所の労働者の合意あるいは経営 者とのさまざまな機関による会議での承諾を得るという、いわば実質的な労使合意とい うことに非常に努めているんだというお話があって、それと別個に、協約ケースで2分 の1ということであるのですが、須賀さんは連合という非常に大きな日本全体の労働法 制を見る立場にあるのですが、それと別個に最低賃金法では11条に、一定の地域の大部 分の同種の労働者について、1の協約、又は2以上で実質的な内容の最低賃金協定があ る場合には、拡張適用方式で、もちろん自動的ではなくて一定の手続が必要なのです が、協約ケースが二重になっているわけですね、16条の4のケースと。11条方式は2件 しかなくて、適用も日本全国で1,000人いくかいかないかということですが、その11条 の3分の2、16条の4のほうでは2分の1、あるいは改定申出は3分の1ということで 要件が緩和されているのですが、11条の方は3分の2必要だということで、11条の本来 の労働協約による最低賃金決定のこれほど停滞をしている。16条の4の方は、少なくと も246件中87件は全体として協約ケースになっているということですが、本来の拡張適 用方式のほうが、2件で1,000人近くということで、制度があってもなくても同じよう なことで、制度として死んでいるというふうに思うのですが、これは今後もこの方式は 存続の価値があるとお思いでしょうか。 ○加藤様  大変難しい質問ですが、私なりに少しいくつか考えてみると、労働協約の拡張適用方 式がなかなか根付かない背景の1つには、申出要件がヨーロッパの拡張適用などに比べ ると大変厳しいということにあるのではないかなと思っております。例えば労働組合法 の18条などを活用するとすれば4分の3ですし、最低賃金法の11条でいくと、今言った 3分の2ということになりますので、日本の組織率からいって大変厳しいハードルだと いうのが1つあります。  もう1つは、ヨーロッパの場合には産業別の労使交渉、それから、産業別の労働協約 という労働条件決定システムが、日本とちょっと異なっているのだろうと思いますが、 日本の場合には協約は原則として企業内が適用範囲です。元来労働協約を結ぶときに、 それを地域や産業レベルに広げていこう、適用を拡大していこうといった発想というか 土壌がないのだろうというふうに思います。  もう1つは、協約の当事者である業界団体ですが、日本の業界団体は、地域単位に存 在するケースというのはまず稀です。先ほどいらっしゃった原川様の中央会とか、日本 経団連の経営者協会とかは地方組織ですが、産業別の業界団体が地方単位に存在すると いうケースは本当に稀です。中央にはあります。例えば鉄鋼連盟や、電機だと電経連。 ただしこの役割は労働条件決定をする役割ではありません。どちらかというと産業政策 にかかわる情報交換なり、あるいは、労務政策にかかわる情報交換をする場ということ が中心であり、はっきり申し上げて、協約締結のための当事者能力を持ち合わせていな いのだろうというふうに思います。したがって、その11条が存在価値があるのかという と、それはそれなりに今後のためには残しておく必要はあるのだろうと思いますが、こ れを活用するためには、少し労使関係の土壌、インフラの整備をする必要があるのかな というふうに思います。 ○渡辺先生  無理なことをお聞きしまして。 ○樋口座長  よろしいですか。先ほども経営側に聞いたので、同じような質問をしたいと思います が、適用除外の話で、若者あるいは年金受給者、この人たちに適用除外で例えばイギリ スでやっているような一般労働者の最低賃金の何パーセントというようなことで、総体 的に低い最低賃金を設定する。これによって雇用機会を増やすことができるのではない かというような意見がありますが、その点はどうお考えでしょうか。 ○加藤様  いわば地域別最低賃金という意味ですか。 ○樋口座長  はい。 ○須賀様  地域別最低賃金を低くすれば、その分だけ雇用機会が増えるという趣旨ですか。 ○樋口座長  増えるかどうかはわかりませんが、そういった制度を設けてはどうかというふうな意 見があるわけです。一律の最低賃金ではなくて、年齢。今の例で言えば、例えば学生ア ルバイトとか、あるいは年金受給者でボランティアというかそれに近いような働き方と いうのもあるわけで、そこに労働者性を認めたときの最低賃金の適用のあり方ですか、 というようなことについて考えることもできるという、そういう提案があったのです が。 ○加藤様  ちょっと私の個人的な意見ですが、地域別最低賃金を多段設定するとか適用除外を設 けるというのは非常に難しいのではないかなと思っております。イギリスなどでは年齢 などで多段設定するケースもあるようですが、もともとはいわゆる訓練と資格と公的に リンクしているということが前提であって、日本の場合、年齢で例えば適用除外も受け たとか、年齢によって多段設定をするということになりますと、それはどういう意味な のかということで、ちょっと難しいのかなと、そういう思いは持ってます。 ○須賀様  そうですか。年齢別の所はたぶんそういうことになるのでしょうし、そういうおっし ゃられたような形で最低賃金が設定されると、今ある最低賃金制度そのものの性格を根 底から変えるということになるのではないでしょうか。そうすると、変えた後の姿がど うなるかというのが問題になるのでしょうが、もともと私どもはこの最低賃金制度に基 づいて決まっています地域別最低賃金は、これはナショナルミニマムの役割を果たして いるわけですから、その水準そのものに問題意識を持っている中に、さらに改めてそう いう課題を与えていただいて検討するということにはならないと思います。それ以前に 水準をまず全体として有意なものにしていくことのほうが大事なのではないかと。 ○樋口座長  ナショナルミニマム、まさにコスト・オブ・リビングですね。それを考えたときに、 例えば年金である程度保障されているではないかと。あるいはアルバイトであれば、親 が生活を補助しているというようなことがあって、そのナショナルミニマムの本人の給 与に対するナショナルミニマムは、もう少し低くてもいいのではないかというようなご 意見だったと思うのですね。 ○須賀様  考え方としてはわからなくはないです。論理としてそれが正しいとか正しくないとか いうつもりはないのですが、果たしてそれが日本全体のためになり得るのかどうか。つ まり今でさえもフリーターの問題、最近ではニートの問題という形でいろいろな指摘が されていますが、賃金を世帯で考えるということになるのではないでしょうか。そのこ とが本当に日本の将来にとっていいのかどうか、あるいは、今ある問題はいかにその若 者を自立させるのか、つまり親離れをどうさせるのかということが、私どもにとって も、あるいは日本全体にとっても喫緊の課題だと考えておりまして、そういう意味から 見ても、その論には、私ども労働組合は乗れないと思います。 ○樋口座長  そうですか。わかりました。 ○今野先生  先ほど松田先生が産業別最低賃金はいらないと言った最大の論拠は、これだけ非典型 労働が増えて、非典型労働は単純な仕事をやっていて、単純な仕事をやっているのだか らどの産業だって一緒で、どの産業だって一緒なのに何で賃金が違うのかと、そういう 論拠だったと思うのです。ただそのときに、ちょっとこれ、実態との関係でお聞きした いのですが、非典型が単純労働といったときに、最低賃金というのは基幹労働者適用と いう話と合わなくなりますよね。そうすると、基幹労働者というのは何なのかという話 になってくるので、その辺は産業別最低賃金の実態ではどういう議論をされているのか をお聞きしたいのです。 ○加藤様  要するに非典型労働が増えたということは、単純労働が増えたということではないと いうふうに私どもは思っておりまして、非典型雇用の基幹労働化が非常に高まってきた のではないかなというふうに思います。私どもの産業の場合には、パートタイム労働者 はほとんどいないのですが、パートタイム労働者がいるような第三次産業分野などでも そういう話を聞きますし、私どもの場合も、非典型労働という場合には、もう製造現場 での派遣や請負でありまして、かつて正規従業員が基幹的な労働者として働いていた分 野を、ライン丸ごと請負で稼働するといったようなケースが増えているわけで、それは それなりに公正な均衡な処遇ということをやはり考えざるを得ないのではないかなと思 っています。 ○今野先生  そういうことがあったとしても、私のお聞きしたい点は、基幹労働者というのはどの 範囲かということについて、どういう議論がされているのだろうという話です。 ○樋口座長  定義がどうなっているかと。 ○今野先生  定義です。ここには文章上いろいろ書いてありますが、よく分からないから。 ○加藤様  よく分かりにくい面がありまして。分かりにくい面があると言ってもちょっと語弊が あるのですが、要するに職種別に賃金を決めたり、あるいは職種ごとに一定の職務上の 序列やあるいは資格とリンクしているということではなかったものですから、基幹的な 職種を、あるいは基幹的な労働をポジティブに決めるということが非常に難しかったの だと思います。したがって軽易な業務を労使で話し合って除外をしていこうということ で軽易業務を除外していったということで、適用除外への方式を取ったということで す。だからかなり、別表欄見てもらえば分かりますとおり、どのぐらい適用除外労働者 がいるか、実際私は分かりませんが、適用除外業務の指定が、結構数があるなという感 じはしてます。 ○今野先生  これはちょっと実態を私はわからないので、論理的に考えると、この基幹労働者の定 義の仕方によって、松田先生の議論は全部飛ぶわけです。つまり松田先生の議論は意味 がないという話になってしまうのです、この基幹労働者の定義によって。例えば極端に 考えて、かなりレベルの高い所をもし考えたとすると、スキルは企業産業特有なのだか ら、それは産業を越えて違うのは当たり前ではないかという話になるし、すごく軽易な 所まで考えてしまうと、それはみんな産業を越えても一緒だよということになってしま いますよね。ですから、この基幹労働者の考え方によって全然、松田先生の言われる議 論がどの程度正当性があるかどうかというのもかなり影響受けるかなとちょっと思った ものですからね。 ○須賀様  松田先生のお考えが正当か正当でないかはちょっと別にしまして、先ほど加藤のほう からも申し上げましたように、今特に派遣あるいは請負の部分で増えているのは、やは り基幹的な部分まで広がってきているのですね。単純労働ばかりにシフトしているのだ ったら、こんなに比率は上がってこない部分もあると思うのです。もちろん企業がコス ト競争のために非典型化していっているということもあるのですが、従来基幹的な位置 づけをされていた職務まで、パートタイム労働者はちょっと別ですが、派遣請負でやれ るようになってきた、そのことに関して、逆に言うと、最低賃金制度、今の形の基幹的 労働者がまるっきりマッチングしてないと。そこに対して問題意識を持って、だから意 味がないというのだったら、ちょっとそれは、私は論理矛盾なのではないかなと思いま す。同じ基幹的労働者という位置づけをしたとしても。そういう職場の実態をもう少し よくご研究なさったほうが、ちょっと言いすぎかもしれませんが、よろしいのではない かと私は思います。 ○今野先生  少なくとも、私がパッとここで基幹と聞いたときにイメージすることと、最低賃金の ここで基幹といっているのと、それから、皆さん考えている基幹というのと、さっき座 長が事務職といったことを基幹とイメージしているのと、これはみんなたぶん違いそう ですね。 ○須賀様  最低賃金法上で言っている基幹的労働者というのは、それこそ職務配置あるいは職種 別というような形の労働条件決定ではない中で、やむなく選択していった結果として、 軽易な業務以外の人を一応基幹労働者と呼ぼうと言っただけであって、今問題になって いる基幹的な労働者という意味とはまるっきり性格が違うと思います。 ○樋口座長  労働者派遣法における均衡処遇を求めていくというのならわかるのですが、産業別最 低賃金にそこを求めていくという所で、かなり難しさがあるという認識ではないかと思 いますね。ほかにいかがでしょうか。それでは、ちょっと時間も過ぎましたので、労働 者側からのヒアリングを終了したいと思います。須賀局長と加藤部長、本日はお忙しい ところ、どうもありがとうございました。 ○須賀様  どうもありがとうございました。 ○加藤様  どうもありがとうございました。 ○須賀様  すごく長かったですね。 ○樋口座長  使用者側と労働者側をイーブンにするために、向こうが10分延びたのでこちらを10分 延ばして、結局20分延びたということになりましたので。 ○須賀様  ありがとうございました。                (須賀様・加藤様退場) ○樋口座長  それでは予定の時間を過ぎておりますので、本日の会合はこれで終わりたいと思いま すが、事務局から次回の会合について連絡をお願いします。 ○前田賃金時間課長  次回の会合は12月7日(金)の午後3時15分から5時15分までの予定で開催したいと 思います。また正式には追って通知をお送りします。次回は慶應義塾大学の清家先生、 社会経済生産性本部の北浦部長からのヒアリングと、あと前回までの議論の中の宿題と か、あるいは今後の論点整理に向けた意見交換等をしていただければと思います。以上 です。 ○樋口座長  それでは本日はどうもありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省労働基準局賃金時間課政策係・最低賃金係(内線5529・5530)