04/11/09 第6回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会の議事録         第6回 職業能力開発の今後の在り方に関する研究会                        日時 平成16年11月9日(火)                           15:30〜                        場所 厚生労働省9階省議室 ○諏訪座長  定刻となりましたので、第6回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会を開催さ せていただきます。本日の出欠状況ですが、欠席が廣石委員、高橋委員、北浦委員、玄 田委員です。途中で上西委員は所用によりご退席の予定です。  本日の議事に入ります。これまで5回にわたって職業能力開発の現状に関する議論、 企業からのヒアリングを行い、職業能力開発の取組に関する実態調査を行ってきたわけ ですが、本日からは、そうしたこれまでの成果を踏まえ、今後の職業能力開発の在り方 について具体的にご議論をいただきたいと考えています。  本日は、論点整理を行うのが議論のポイントで、これを円滑に進めるため、委員の先 生方からこれまで出していただいたご意見を踏まえて、事務局に論点整理(案)を用意 していただきました。お手元に配付されている論点整理(案)の説明後に、意見交換を していただければと考えています。事務局から論点整理(案)及び参考資料についての 説明をお願いいたします。 ○総務課長(妹尾)  資料1をご覧ください。座長からのご説明にもありましたように、従来までのご議論 を踏まえ、今後のご議論をいただく際の一つの整理の形としてまとめたものです。  大きく1と2に分かれています。1は職業能力開発を取り巻く社会・経済情勢の変化 について、今後ご議論をいただく際に考慮に入れていただくべき要素、能力開発を考え る際に考慮せざるを得ないであろう要素としてどういうものを考慮するかということで す。  その1つが労働力の供給面の変化です。例として書いていますが、少子高齢化の進行 と労働力人口の減少、団塊の世代の定年時期の到来、いわゆる2007年問題があると考え ております。また、ものづくり技能の衰退、若年者問題の深刻化、フリーター、NEE Tの増加、労働者の意識の多様化、職業生活の長期化などが考えられるのではないかと いうことです。  労働力の需要面の変化の例としては、経済のグローバル化の進展、この裏側には国内 産業とのバランスがあります。また、IT化、技術革新の進展、サービス経済化の進展 に加え、企業行動の具体的な変化の内容として、即戦力志向、成果主義の広がり、人材 育成への投資の減少などがあろうかと考えています。雇用形態の多様化ということで、 例えばパート労働が増えている、派遣の形態が非常に普及している、そのような雇用形 態の多様化なども考えられると思っています。このような供給面、需要面の変化を踏ま え、あるいはその影響の中で、能力開発を取り巻くご議論をお願いしたいと思っていま す。  2点目が、以上のような社会経済情勢の変化の中で、今後能力開発の在り方としてど ういうご議論をいただくかということで、(1)と(2)に大きく分けています。(1 )は職業能力開発を巡る関係者に求められるそれぞれの役割について、ご議論をしてい ただきたいと考えています。能力開発の関係者ということで挙げると、労働者、企業、 教育訓練機関、教育訓練機関には専修学校、各種学校、大学、NPOもありますし、当 然公共職業訓練機関も入ってくると思っています。また、行政についてもご議論をいた だきたいと思っています。特に行政については、国と地方というのが行政機関として両 者あるわけですので、その両者の関係などについてもご議論をいただければと思ってい ます。さらに、「その他」ということで括っていますが、労働組合などの役割について も、ご議論いただければと思います。ヒアリングの際にも組合の方のご説明もあったと ころかと思います。  (2)は「必要となる施策の方向性について」ということで、(1)から(4)まで挙げて います。1つには、教育訓練自体の在り方がどうあるべきかということです。企業の教 育訓練、労働者個人が行う自己啓発の在り方、セーフティネットとしての訓練というこ とで、これは雇用対策の一環としてのセーフティネットとしての教育訓練がどういう形 であるべきかということです。それから中高年に対するリカレント教育の在り方はどう あるべきか、労働力の供給面の変化のところでも例として挙げていますが、職業生活が 長期化することなどに対応して、中高年の方のリカレント教育の重要性が増していくと 考えられますが、それについて、どういう考え方で臨むべきかというご議論をお願いし たいという趣旨です。  (2)は職業能力評価制度の在り方、(3)は職業能力開発を行うに当たっての相談・情報 提供の在り方です。(2)と(3)は教育訓練あるいは職業能力開発を円滑に進めるための基 盤の1つという考え方もできるかと思っています。さらに、「その他」ということで、 その他にも必要なものについてご議論をお願いしたいと思っています。概略、骨組です が、以上のような観点、論点で、今後のご議論をお願いできればと考えているところで す。  冒頭に申し上げた社会・経済情勢の変化等について参考資料を用意しています。研究 会の1回目などでお出しした資料もありますので、特にキーになるようなものを中心と して、参考資料の説明をしたいと思います。 ○総務課長補佐(佐々木)  参考資料は大きく3つに分けています。1つ目が経済社会情勢の変化で、2つ目と3 つ目は、1回目と2回目の会議で多くの資料を提出しているところですが、職業能力開 発の現状や現行の職業能力開発施策の概要について、資料として取りまとめたものを再 度お配りしています。特に関係する参考資料1の経済社会情勢の変化についてごく簡単 に説明させていただければと思います。  1頁は「総人口の動向」です。よくご承知のところだと思いますが、総人口について は2006年に1億2,774万人でピークに達した以後、長期的に人口減少過程に入ると予想 されています。  2頁は「生産年齢人口の動向」ですが、特に2010年以降に大幅な減少過程に入ってい くと見込まれています。  3頁は「労働力人口の動向」ですが、2002年7月に職業安定局で推計したものです。 2003年の労働力率が変化しなかった場合、2003年の6,666万人から2015年には6,300万 人、2025年には6,000万人と大幅に減少していくことが見込まれています。また、各種 対策を講じることにより2015年には6,600万人、2,025年には6,300万人と減少幅が縮小 すると推計しているところです。  資料Iの論点整理(案)のところで、団塊世代の定年時期の到来と書いておりますが、 4頁は「団塊の世代の高齢化」を書いています。団塊の世代、ここでは1947年から1949 年生まれの方を指していますが、2007年に60歳、2012年に65歳に到達するということを 表したものです。  5頁からは、論点整理(案)の「ものづくり技能の衰退」に関係するところです。も のづくり人材について、特に開発部門の技術者については、調査の中で約5割の企業が 不足と答えています。その他の営業部門、開発部門の研究者、製造部門についても、多 くの企業で人材が不足しているという状況になっております。  6頁は、「ものづくり人材の能力状況」です。営業、開発、製造部門で、ものづくり 人材の能力レベルについて過半数の企業で懸念を感じているという状況になっていま す。  7頁は、「ものづくり力の継承への危機感」という調査です。ものづくり力の源泉と なっている現場での技能の継承について、全体で63%の企業が危機感を有していると回 答しています。特に大企業では、85%の企業が危機感を有していると回答しています。  論点整理(案)において「若年者問題の深刻化」とありますが、こちらもいろいろと ご指摘いただいているところですが、9頁に年齢別の有効求人倍率と完全失業率を出し ています。平成16年8月のもので、年齢計の失業率4.6%、有効求人倍率は0.83倍に比 べて、若年者、特に15歳から24歳層について、有効求人倍率については1.47倍というこ とで、他の年齢層と比べて非常に高いのですが、失業率については9.4%ということで、 年齢計の全体と比べて倍程度の高い水準となっています。  10頁はフリーターの状況です。労働経済白書において推計しているものですが、2002 年には209万人、2003年には217万人と、1992年の101万人から倍以上に増加している状 況にあります。  11頁は新卒者の早期離職率の動向です。こちらもよく出されている資料だと思います が、卒業後3年以内に離職する方の割合は、中学卒で約7割、高校卒で約5割、大学卒 で約3割という状況となっています。  12頁は無業者の状況です。無業者について、1993年には通学も家事もしていない若年 無業者は40万人だったものが、2002年には24万人程度増加して、64万人となっていま す。参考としてNEETの数の推移を付けています。これは今年労働経済白書で推計し たものですが、非労働力人口のうち、特に無業者で、年齢が15歳から34歳、卒業した方 であり未婚の方で家事、通学をしていない方に限って集計したものです。そういう方が 平成15年では52万人と推計されており、去年と比べても約4万人増加している状況で す。  13頁です。論点整理の「労働者の意識の多様化」に関連しているところで、いくつか の意識の変化に関係する資料を付けております。1つは働く目的で、内閣府の「国民生 活に関する世論調査」というものから引用していますが、平成9年に同じような調査を したものと比べて、働く目的として「お金を得るために働く」ということを選択した方 の割合が上昇しています。一方で、「生きがいを見つけるため」「社会の一員としての 務めを果たすために働く」と回答されている方の割合は低下している状況です。  14頁、同じ調査で理想的な仕事は何かということを調査していますが、どのような仕 事が理想的だと思うかに関して、「自分にとって楽しい仕事」「失業の心配のない仕事 」を選んだ方の割合が上昇しています。一方で、「自分の専門知識や能力が活かせる仕 事」「健康を損なう心配のない仕事」を選んだ方の割合は低下しております。ただ、ど ちらの時点でもいちばん高いのは、「収入が安定している仕事」を選んだ方が最も高い 割合となっております。  15頁は収入と自由時間についての考え方で、こちらも「国民生活に関する世論調査」 によるものです。平成15年に調査したものと平成4年に調査したものを比べています が、「自由時間をもっと増やしたい」を選んだ方が上昇していますが、「収入をもっと 増やしたい」を選んだ方の割合は、平成4年と比べて低下しています。  17頁です。論点整理(案)において「労働力の需要面の変化」とありますが、このう ちの経済のグローバル化の進展という辺りに関連する資料になります。海外生産比率の 推移ですが、製造業の海外生産比率は上昇を続けています。2002年度には17.1%に達し ています。18頁に業種別のものを付けています。2000年度の時点のものですが、輸送機 械が最も高く、次いで電気機械、精密機械、非鉄金属、一般機械というものが、海外生 産比率が非常に高い状況になっています。  海外生産比率が高いということで産業の空洞化が進行しているのではないかといった ご指摘がありうるわけですが、その一方で、次の19頁に工場立地の推移とありますが、 対前年度比で立地件数が24.6%増の208件と、国内での立地件数が増えている状況です。 このような状況を踏まえ、製造業の中では国内回帰の動きも若干見られるのではないか というご指摘もあるところです。  21頁、名目GDPに占める第1次、第2次、第3次産業の割合の推移とありますが、 論点整理(案)では「サービス経済化の進展」に関係するものです。国内総生産に占め る第3次産業の割合は1990年代だけで10ポイント以上上昇しています。2002年時点では 69%にまで達しています。  22頁に就業者に占める産業別構成割合の推移を付けていますが、就業者で見ても、第 3次産業の就業者数が年々増加しています。第3次産業の中でも、特にサービス業の割 合が非常に高くなっています。このペーパーだけでは見えませんが、最近では医療や社 会福祉、情報サービスといった業種において、就業者数が増加している状況にありま す。  23頁は非正規雇用者数の推移です。論点整理(案)の「雇用形態の多様化」に関係す る部分です。アルバイト、パート、派遣社員といった非正規雇用者数が、1993年の986 万人から、2004年には1,555万人と569万人増加しています。24頁に産業別に見たものを 付けていますが、1990年代後半以降、どの産業においても非正規雇用比率が上昇傾向に あります。  25頁については、第1回、第2回の会議にも提出したものですが、企業行動の変化に 関連して、企業の即戦力志向に関連する資料として付けています。雇用管理調査による ものですが、中途採用者を採用した企業に対し実施した理由を調査したものです。特に 管理職、技術研究職については、中途採用を実施した理由として「即戦力として活用す るため」という回答が半数以上ということです。  26頁も以前提出したものですが、求められる人材能力を確保するためにどうするかと いうことですが、「内部社員の能力開発を強化する」「中途採用者の採用で対応する」 と回答した企業の割合が、非常に高い状況にあります。  27頁は年功賃金についての考え方を企業に対して調査したものになります。賃金体系 に関する年功について「重視している」「どちらかと言えば重視している」と答えた企 業が、それぞれ22.3%、49.9%と高い状況にありますが、5年後にはどうするかという ことについては、約6割の企業が「ある程度は年功的賃金体系を残す」と回答していま す。また12.8%の企業は、「年功的賃金体系については廃止する」と回答しています。  賃金制度に関連して28頁に、賃金制度の変更に関する調査を付けています。約7割の 企業が「賃金制度の変更を考えている」としています。具体的にどのような変更をする かについては、「昇給・昇格を能力主義的に運用する」という企業の割合が一番高く、 67.9%となっています。次いで「個人業績をボーナスに反映させる」「基本給の職能給 的要素を増やす」「個人業績を基本給に反映させる」という企業の割合が高い状況にな っています。  29頁は労働費用に占める教育訓練費の割合がどうなっているかというものです。労働 費用に占める教育訓練費の割合は低下傾向にある状況です。一番高い1988年頃の状況と 比べて、教育訓練費が約1,000億円ぐらい減少しております。  以上、特に論点整理(案)の経済社会情勢の変化関連するものを中心に資料の説明を させていただきました。 ○諏訪座長  ただいま事務局からご説明いただいた論点整理(案)について、質問あるいは追加し たほうがいいという項目、削除したほうがいいというもの、様々なご意見をいただきた いと思います。次回以降は各論の議論を行っていくので、その前提として、職業能力開 発を取り巻く社会経済情勢の変化というような、少しマクロの議論なども是非お願いを したいと思っています。どうぞよろしくお願いします。 ○佐藤委員  資料1の今後の職業能力開発の在り方を議論するときに、例えば労働力の需要面の変 化で、企業の即戦力志向というのがありますが、これが本当にそうかどうかということ はちゃんと議論しなければいけないのですが、もし企業が即戦力志向だとしたときに、 それに合わせて教育訓練のシステムを整備するという考え方もあります。企業の外で、 外部市場で人材が育成されて、企業は企業内で育成しなくていいようにしていくのだと いうような議論の仕方もあると思います。それともう少し別の視点で、企業が即戦力を 求めているとしても、中長期的な企業の競争力を考えれば、やはり企業内で育成するこ とが望ましいと考えて、企業は何らかの理由で即戦力志向になっているのだから、もう 少し企業の中で人的資源を誘導するような政策を考えて、それを前提とした能力開発の 仕組みを考えるという議論があります。  どのように議論をしていったらいいのか。政策としては企業の自由な選択に任せるよ うにするのか、多少価値判断を考えてやるべきなのかという気がしていて、その辺は経 済学者の考え方はどうなのかなとも思うのですが、その辺をどう考えるべきなのか。  私は人事管理という点からすると、企業は企業内で人材育成をしないと、基本的に企 業の競争力は維持できないと考えているので、外部市場での人材育成も整備しつつ、同 時に企業内で人材育成を進められるような仕組みを誘導するというか、企業内で人材育 成を阻害する要因があるとすれば、それを取り除くようなことがすごく大事だと思うの ですが、その辺はどのように議論するのかということです。  その上で、企業の即戦力志向があるというご紹介があったのですが、私は本当にそう なのかなと思います。ここに出ているデータでも、参考資料IIの職業能力開発の現状を 見ると、経営課題のトップに人材育成強化があります。もう1つ、今日ご説明いただい た参考資料Iの26頁でも、中途採用は当然するけれども内部育成はやると言っているの で、内部育成もやりながら、必要な者は外から採ると。外から採るときは当然即戦力で 採るわけだから即戦力を見るわけです。ですから、私は即戦力志向というときの評価の 仕方で、企業は内部育成を全部やめて、外で出来上がった人だけ採るということで企業 の人材活用方針が変わったのかというと、そうではないと思います。1つには、企業内 で育成はするけれども、従来よりも育成する対象を減らすとか、スピードの変化を考え ると外から採る人材も増やすといったことが考えられます。しかし企業内育成をやめて しまうということではないと思います。そうすると私が初めに言ったように、外での整 備と同時に中での育成を支援することも大事かと思います。 ○諏訪座長  口火を切っていただいて、次は経済学者の番だとおっしゃっていますから、どなたか いかがでしょうか。 ○樋口委員  団塊世代の定年のところ、2007年問題ということに大きなインパクトがあります。そ れは企業内部のミクロ的な影響もあるし、マクロ的な影響もあると思っています。詳し くは、もうすぐ出版される『団塊世代の定年と日本経済』という本の中でそれぞれの専 門家に議論してもらっているところがあります。人によって主張がかなり違うのです が、1つには2007年の団塊の世代の退職によって労働力人口が減少するのは間違いない です。退職者が出ることによって、企業のミクロ的な影響の1つは、賃金の高い高齢者 が減ることによって給与総額がどのくらい減ってくるのかということです。一方で退職 金は増加するわけで、退職金をちゃんと積み立てている企業ばかりであれば影響はない のですが、実態としては積み立てていないところがかなり多いです。その結果、退職金 は総額人件費をプラスにするだろう。おまけに一時金であれば3年間で、その後は、団 塊の世代が引退した後少しずつ退職金の総額は減るわけですが、企業年金をどう考えて いくかということで、総じて、企業における人件費構成に相当大きなインパクトが出て くるのではないかと思います。  これは企業収益にどう影響を与えるか。給与総額は削減、退職金は増額ということ で、きれいにいけば相殺されて何ら影響はないのですが、我々のシミュレーションだと 給与総額の影響の方が大きく出るということで、企業としてはコスト削減の方向を打ち 出すらしい。これが、例えば過剰雇用であったため、その人たちが辞めていく分の穴埋 めをしない、若年の方の採用には回りませんということになると、一体どのぐらいのコ スト減につながってくるか。その意味では競争力は企業では強化される面があります。  一方の問題が、今度はマクロの問題として起こってくるのではないかと予想していま す。それは、労働力人口が減少することで潜在GDPが落ちることはほぼ間違いありま せん。問題はパーキャピタルでどうなるかということ。  さらには貯蓄率のところが、今まで日本の貯蓄率は戦後ずっと高かったわけですが、 これは必ずしも日本人が倹約家であったから、消費を抑制したから高かったわけではな い。ある意味では成長率が高かったことによって貯蓄率が高い部分と、現役世代が多い ということによって、引退して過去の貯蓄の取り崩しによって生活に頼る人達よりも積 み立てていく人達の比率が高かったという、ライフサイクルモデル的な発想で説明でき ます。  すでに日本の家計貯蓄率は6%とアメリカ並みに落ちてきています。一時は17%ぐら いありました。これを短絡的に伸ばしていいのかどうかは議論があるのです。というの も、昔の若者に比べて最近の若者のほうが貯蓄率が高いということがあって、年金は期 待できないから自分で積み立てるのかもしれませんが、そういう変化があります。もし 仮に直線的に過去の貯蓄行動をギブンにして、年齢構成によって何が起こるかという と、2007年に日本の貯蓄率はほぼゼロになります。あるいはマイナス貯蓄率ということ で、過去の蓄積を食い潰す形で消費に当てていくという傾向が出てくるのではないか。 日本の貯蓄率が下がるということは、ある意味では国内での資金調達が難しくなってく るということになりますから、投資に対してどういうインパクトが出てくるのか。  今までは低金利政策ということで、投資のコストを抑制することができました。とこ ろが、これが難しくなってくると思います。財務省の総合政策研究所の仕事でやってい るので、国債の利回りにどういう影響が出るか、特に長期金利にどういう影響が出てく るかというのも関心のあるところですが、民間の固定資本係数、設備投資、こういった ものが、国内で資金調達が難しくなったときに、海外から調達してこないと難しいだろ うと。  それを考えていくと、いまの「経済のグローバル化」という項目でご説明いただいた ものが、日本の企業が海外直接投資をする、これによって雇用がどれだけ減るのかとい う議論が主になされていると思いますが、今後のグローバル化を考えると、逆に外資系 企業が日本でどれだけ投資していくのか、投資しやすいような環境を整備していけるの かどうか、これは相当労働市場に大きな影響を及ぼしてくると思います。  これは量的な側面だけでなく、質的な側面に対しても、雇用慣行を通じての変化とい ったところにも影響してくると思います。能力開発についても、日本企業が海外に出て いくだけのグローバル化ではなく、そういう量的な問題だけではなくて、日本国内の労 働市場にどういう質的な変化を与えるのか、これはかなり気にして見ていく必要がある ことではないかと思います。  予測は非常に難しいのですが、潜在GDPは、新聞発表をしているのでそちらをご覧 になった方がいいと思いますが、国調ベースでは、団塊の世代は2000年段階で人口が 691万人です。就業者が539万人で、全人口の5.4%、全就業者の8.6%が、この3歳に集 中しているということです。これが引退したときにどういうインパクトが与えられるか というのは、非常に大きな影響になると思います。中でも、実質国内総生産、潜在GD Pに与えるインパクトが、もし55歳から59歳の労働力率が60歳代前半でも維持された場 合と、今の労働力率は60歳ではこれが20%ぐらい落ちるわけですがその場合と比べる と、GDPに16兆円ほど影響が出るという、ここを強調するために発表したわけではな いのですが、かなり大きなものが起こってくる可能性はあるのではないかと思います。  そうしますと、ミクロの企業の中における変化というのもあります。もう1つはマク ロの影響もあります。ミクロでも、これも産業別、職種別に見ていただくと、団塊の世 代というのは特徴のあるところに集中していて、1つは製造業のものづくりです。この 人達が就職したのが1960年代から1970年代初頭で、高度成長期の最後に就職しているわ けです。そうすると、その後1975年から採用が抑制されて、急激に、特にものづくりの ところの採用が減少してきます。ホワイトカラーの方はその後も採用は減少しながらも 採っていたのですが、ブルーカラーのところが大幅に減少するということで、年齢構成 が非常に歪んできます。ものづくりにおいては、この団塊の世代に集中しているという ことです。  また、今までの高齢化との違いとして、地域の違いが非常に強く表れてくるのではな いかと思います。高齢化というと、これまではどちらかというと地方の問題、過疎化の 問題という色彩があったわけですが、団塊の世代は生まれた段階では3分の1しか四大 都市には住んでいませんでした。ところが、集団就職や大学進学ということで、人生を 通じてそれが都市に集中してくることによって、現在は2分の1が四大都市に居住して いるということから、大都市のホワイトカラーが就職しにくいだろうと。あるいはこう 言っていいかどうかわかりませんが、千葉、埼玉、神奈川といった所に住んで、今まで は東京に通勤していた人達が地元に帰って来る。帰って来たときの受け皿、特にコミュ ニティがないという問題が起こってくる可能性があるのではないかと思います。そうす ると、余談ですが「ワシモ族」が出てくるというようなことで、ここの活用をどうする かというのは非常に重要な問題になります。特に都市部でそうなってくるのではないか と思います。ですから、この団塊世代の定年の影響というのは、都市のホワイトカラー に強く表れてきます。企業ではものづくりの継承の問題が起こってくるというのがある のではないかという予測です。 ○諏訪座長  それでは、黒澤委員にも補足的に経済学者としてのご意見がありましたらお願いいた します。 ○黒澤委員  いま樋口委員からマクロ的な観点からのお話がありましたので、私はミクロというこ とでさせていただきます。いただいた経済・社会情勢の変化関係のいろいろな統計の中 で、もう少しこういうものも入れたほうがいいのではないかと思われるものに気付きま したので何点か申し上げます。  1点目は、フリーターなど若者の供給面での変化についてですが、現状ではフリータ ーがどのぐらい増えている、NEETがどのぐらい増えている、また仕事に就いてもす ぐに辞める人が増えているというような状況が示されています。これにもう1点付け加 えるとすれば、そしてまたこれは非常に重要な点だと思うのですが、新規学卒者が正社 員として就職している比率、いわゆるスクール・トゥー・ワークの、戦後の日本の非常 に特徴的だと海外から見られていた、中学卒であろうが、高校卒であろうが、大卒・専 門学校卒であろうが、新規学卒という段階でほとんどの人が正社員として職に就いてい たわけですが、その比率が1990年代初めに大学を卒業する世代から非常に低くなってき ていますので、その部分も能力開発の意味においては非常に大きな意味を持っているの ではないかと思いますので資料に含めてはどうでしょう。  特に豊富な企業内教育を行っている大企業への就職の場がなくなってきています。前 回の研究会でいただいた企業のヒアリングなどを拝見しましても、大企業の方で新規学 卒、特に高卒以下の採用を控え始めているという状況がありますので、そういった状況 も是非盛り込んだ方がよろしいのではないかと思います。  それに関連して、25頁「企業の即戦力志向について」ですが、やはり企業規模別でも どのような状況が起こっているのか、特に企業内訓練を豊富にやっていた大企業でそう いったことを控え、中途採用への即戦力のシフトというものが顕著に見られるのであれ ば、やはりそれは政策の面でも集中しなくてはいけないという議論につながることにな るのではないかと思います。  もう1点は、離職率の資料はあるのですが、やはり人的投資ということから考えます と、投資ですから離職をされると投資の期待収益が低くなってしまうわけで、そういう 意味においては転職率、離職率、それから平均的な勤続年数がどのように変化している のかを見る統計があってもいいのではないかと思います。特にここで気を付けなければ いけないのは、すべての人々の平均を取るのではなく雇用形態別というか二極分化して いる部分があるわけですね。いわゆる年功、終身雇用的な部分が進化している部分と、 非常に短期化している部分もあるので、そういった状況が見えるような形の情報を提示 していただけるとよろしいのではないかと思いました。 ○諏訪座長  いま経済学のお2人に伺いましたので、もう少し人的支援の観点から上西委員、何か ご発言をお願いいたします。 ○上西委員  この会の最初の方で話が出たような記憶もあるのですが、雇用形態の多様化に関連し て、非正規の就業者の能力開発が1つ論点になると思います。今回出していただいてい る資料1は、論点とは書いてありますが、どちらかといえば項目的なもので、その中で どこに論点を求めるかがこれからの議論になるかと思うのですが、1つの大きな論点は 非正規就業者の能力開発をどう考えるかということだと思います。  資料を拝見しましても、非正規就業者の数は増えていますし、一方で非正規就業者に 対する教育訓練はあまり行われていないというのが、例えば参考資料IIの4頁に出てい ます。能力開発の対象者として非正規従業員はあまり対象になっていないということで す。その一方で、非正規就業者の能力開発に対する意欲を見ますと、7頁ですが、就業 形態別に自己の知識・技能を高めたいと思うか否かを見ますと、確かに正社員と比べて 非正規従業員の方が多少意欲は低いようにも見えますが、それでも7割以上の方は自分 の能力を高めたいと思っています。しかし、なかなかその機会がないことに対して、ど のように対処したらよいかが、大きな論点となると思いますが、ここで用意していただ いているほとんどの資料はやはり正規従業員に対する能力開発の資料ですので、そこの ところの実情が分かりません。  ものづくりの技能に関しても、これは佐藤委員のほうがご専門ですが、高齢化の問題 とともにものづくりの現場はかなり外部労働力に依存しているわけですね。そうする と、技能継承を自ら放棄している可能性もあるので、その場合に、そこにどのように政 策的に介入するかということも問題になってくるかと思います。 ○諏訪座長  だんだん立体的にものが見えつつあると思うのですが、更にほかの意見はあります か。 ○山川委員  必ずしも法律的な観点ではないのですが、1つはこの論点整理(案)というものが今 お話にありましたように、報告書の項目のようなものになるかどうかということと関わ るのですが、参考資料2と3を考慮に入れると、考え方あるいは報告書なりの項目の流 れとしては「現状と課題」のようなことが入ってくるのではなかろうかと思います。こ こにも「役割」というのがありますので、これは現状分析とその上での課題を含んでい るのかもしれませんが、論点ということですと、そのようなことは明示的に議論された 方がいいのではないかと思います。これまでご指摘のあった点等が、すべてある意味で は課題になるのかもしれません。  その点に関連して先ほど佐藤委員からもありましたが、参考資料2で、企業としては 人材の育成強化を重視しているが、そのために掛けているコストは減っているというこ とは、1つはおそらくコストとベネフィットというか、あまりベネフィットがないと思 っているのかもしれない。本当かどうか分からないのですが、1つは教育訓練をするこ とが企業にとってメリットがあるかどうかという分析が可能であるかどうかです。既に なされていて私が知らないだけかもしれませんし、いろいろなタイプによって違うかと 思いますが、教育訓練が役に立つことを企業に説得できないようですと、何かやれと言 っても難しいのではないかと思います。もしかしたら個々の企業にメリットがなくて も、経済全体としてメリットがあるかもしれませんが、その辺はよく分かりません。  もう1つは、企業がいい人材をそろえることにどのような意味があるかということ で、仮にその企業自体がメリットを意識していたとしても、市場でそれが評価されない という問題があるかもしれないという気がしています。これまで能力評価を市場で明ら かにするというのは労働市場で議論されていたのですが、有能な人材をそろえた企業 が、金融市場での評価も含むかもしれませんが、評価されるという仕組みが、何か考え られないのかどうか。OECDで今年人材の評価を企業評価に組み込むという提案がな されて、これから検討されるそうですが、そのように企業自体が能力開発をすることを 評価に反映させられるような仕組みがあるかどうか、まだ具体的にアイディアがあるわ けではないのですが、視点としては少なくともあり得るのではないかと思います。  では具体的にということですが、それも結局は企業のニーズによって変わってくるよ うな気がしますが、ニーズを把握する仕組みが何かあるのかということが気になってい ます。つまり教育訓練には関心はあるし重要だと思っているものの、あまりコストを掛 けていられない現状があるとすると、企業がどの程度それぞれにおいて教育訓練がうま くいっているかいないか、あるいはうまくいっていないとすれば、それをどのように改 善していくかという場のようなものがどのぐらい現状であるかどうか。もしそのような ものがあまりないとすれば、自己分析ないしは自己評価の場を設定することに対して何 らかの支援がないか。おそらくいろいろ補助金等があって使われていないものと使われ ているものがあるのは、それだけニーズに差があるからではないかと思われるのです が、企業自体がどのようなニーズがあると把握しているのか。例えば組合があれば組合 と話し合うこともあるでしょうし、そういう場の設定の援助もあり得るのかと思ってい ます。 ○諏訪座長  論点整理の案は、いわば報告書の項目というか視点のようなものであって、視点だと すると非正規といったような雇用形態への対応が重要ではないかというポイントや、あ るいは団塊の世代が引退していくこれからの動きをもう少し織り込む必要があるのでは ないかなどが出ていました。その中で考えられることは、訓練がもし正社員中心型でな されていて、これから外資系が入ってくることになりますと、アメリカなどで見られる ような上層の労働者には相当手厚い訓練はするけれども、そうでない部分は放ったらか しという流れが日本でも出てくる可能性があります。非正規社員に対して現にやってい ないのは、そのような流れの1つだと思います。それをそのまま放っておいていいの か。放っておけないとなったら、どういう仕組みを考えたらいいのかということが、皆 さんの意見から出てきた重要な論点だろうと思われます。  そういう延長線上で考えていくと、職業訓練の対象をいろいろな属性ごとに見ない と、一般論で、勉強するのはいいことだ、自己啓発はいいことだなどといっても、なか なかコストベネフィットの観点からも、現実の当事者が抱くであろう気持ちからもずれ てしまいますので、そのような仕組みも必要だろうと思います。そうなると、女性も考 えられますし、ここでも若者、フリーター、NEETなども出ていますが、私は属性と いうことからいいますと、論点整理(案)にも中高年に対するリカレント教育とありま すが、中年が非常に重要ではないかといつも思っています。ある意味では、日本の中年 は世界的に見ても勉強をしない傾向があるのではないかと思います。例えば社会人大学 院への進学の状況などを考えますと、高齢者になってから訓練をするのは非常にコスト パフォーマンスが悪いですから、中年のときに長期化する職業生活との関係でもう一度 訓練をするシステム、あるいは機会をどのように保障していったらいいか、あるいは勉 強しなければいけないという気持にどうしたらさせられるかということも既に論点整理 (案)の中に入っていると思いますが、重要なことだろうと思います。  それから皆様の議論の中でものづくりの側面の論点が出てきましたが、もう1つ別に 考えれば第三次産業化してきている流れで、サービス業において日本は世界に誇れる質 を一体達成しているのかどうなのか。例えばソフトウェアなどの販売、輸出と輸入を差 し引けば、圧倒的に我々はあまり成果を誇れないのかもしれません。それから知識社会 化ということを考えますと、その点でもどうなのかといったような、もう少し産業別に も考えていく必要があると思います。とりわけ第三次産業にどんどんシフトしているの に、学校教育も含めてそこに関しての議論がほとんどないとなると、日本は将来的に駄 目になりそうだという気もしないでもありません。政策的にどういうことがやれるかと いう問題は別にしても、論点としては、このような産業の変化についてもどこかに織り 込まないといけないという気がしました。  そこでもう少し樋口委員からレクチャーをしていただくといいなという気がしますの で、先ほどの団塊だけの話ではなく、今の中年や全体に関して何かご意見がありました ら、更にご示唆いただきたいと思います。 ○樋口委員  台本も何もありませんが、山川委員がおっしゃった点は私も同感するところがありま して、人的投資をしたときのコストパフォーマンスを見たときに、パフォーマンスとは 一体何だろうということです。これは企業にとっても将来投資を考える上で重要な問題 でしょうし、もう1つは、社会的にこれをどのようにサポートしていくのかというとき にも非常に重要な論点になってくるのではないかと思います。  例えば最近では、経済産業省と厚生労働省共同で、人的投資減税の話が出ています が、ここでの論点についても少なくとも物的投資であれば物は見える形で投資されるわ けですので、機会ができ公認されます。ところが人的投資は分かるようで分かりませ ん。金がかかるのは間違いありませんが、ビジュアルに見ることもできません。そうか といって本当にパフォーマンスを減税することによって、ソーシャルコスト・ソーシャ ルベネフィットというような議論ができるのかどうか。これができない以上は、どうし ても効果が確定しているような物的投資に減税が行われやすい。一方において、人的投 資はおろそかになりがちだということで、やはりこの問題については何らかの形でその 効果を測定するなり、議論をするなりしていく必要があるのではないかと思い、触発さ れて申し上げます。  もう1つは論点整理(案)の今後の職業能力開発の在り方のところについてですが、 これは諏訪座長のご指摘で触発されたのですが、「(1)関係者に求められる役割」 で、労働者はすごく広いものです。どちらかというと企業以下は、あえていえば能力開 発の供給者側と分類でき、誰が教育訓練をするのだということです。ところが需要者サ イドでは、おそらく仕事によって能力開発の支援の仕方も大きく変わってくると思いま すので、需要と供給をマトリックスで考えていかないといけない時代になっているので はないかと思います。おそらくものづくりとゴールドカラーの人たち、専門知識を持つ 人たちの人材育成、能力開発については、やり方が違うのではないかと思いますので、 そこははっきりさせて、マトリックスのこの部分にはどういう支援が必要なのだという 形にしていかないと、能力開発という言葉が非常に広い意味で捉えられてしまい、具体 的イメージをつかみにくい。それに伴って具体策というものも出てきづらいのではない かと思います。  中年層については、むしろ諏訪座長の方がよろしいかと思いますが、単に座学のリカ レント教育だけではなく、社会の変化が非常に激しくなれば、ものづくりにおいてもそ うだろうと思いますが、若いときに身に付けた技能で一生通すということは非常に都合 が良過ぎる話で、次々に新しいものを吸収していくことが求められるのは当然のことだ ろうと思います。  したがって、そのようなものに対してどのように支援するのかは、誰がやるのかと似 ているところがありますが、私はやはり項目によって、かなり自己啓発的なものが求め られるような気がします。個人で努力しないと身に付かないものもかなり多くなってい て、個人に対する行政、国、地方のサポートが、単に行政が教育訓練を直接的に施すこ とだけではなく、その基盤をどう作るか、教育訓練を受けやすく自己啓発をしやすいよ うな基盤づくりをどうするのか。能力開発に対するいろいろな税制あるいは補助金など のサポートの仕方、もう1つはお金だけではなく、時間の問題が非常に中年層にとって は重要ではないかと思います。お金は何とか借金をするなり融資を受けるなりすればい いわけですが、忙し過ぎるということが能力開発ができない最大の問題になっています ので、そこのところを簡単にいえば、キャリアブレイク制度を入れるというような議論 があっていいのではないかと思います。 ○諏訪座長  私は、勤労学生は今どこにいるのかということをいつも思うのですが、実は大学の2 部などでも昔流の勤労学生はもうほとんどいません。今いるのは社会人大学院生ぐらい なのです。ところが社会人大学院生に対して、かつて勤労学生を社会が支援したような 体制になっているかといいますと、いま樋口委員がおっしゃったとおり、全然なってい ません。またそんなことが必要だとも思っていない。ここに、おそらく中年が、世界で もまれなぐらい勉強しなくなっているシステム的な原因の一つがあるのではないかとい う感じがしています。それは逆に言えば中年はあと少しで職業人生が終わりだから、今 までの知識のままでやれるという気持ちや、今さら勉強しても身に付くわけがないとい うような年齢による思い込みもあったのかもしれません。  いずれにしても、こうした課題にきちんと対応しないと65歳あるいはそれ以上まで働 き続けるというこれからの時代には、途中でもう、もたなくなってしまうのではないか と思います。昔なら折り返し地点が35、40歳だったかもしれませんが、今はもう少し先 になっていますので、是非議論をしていただきたいと思います。 ○佐藤委員  先ほど黒澤委員から企業の教育投資が落ちているという話があり、山川委員や樋口委 員から投資の効果と同時に減税措置等で企業への人的投資サポートのお話がありました が、確かにOff−JTのところの投資は落ちていると思います。他方でお金に換算で きないOJTのところも相当劣化しているだろうと思いますが、これは数字に出てきま せん。それをきちんと見ないでOff−JTにサポートすると、ますますOJTの劣化 が進む可能性があります。例えば減税などは、基本的にはOff−JTで教育訓練をす れば評価されるという形なので、OJTが社会的にますます評価されなくなる。そこを どうするかも、少し考える必要があると思います。  やはり企業内での人材育成というと、Off−JTももちろん大事ですがOJTがす ごく大事だと思います。これまで日本の企業が計画的にOJTをやっていたわけではあ りません。結果的にうまく育っていただけなので、以前うまくいっていた職場でのOJ Tの育成がなぜ崩れてきたのかをもう少し押さえた上で、どう再編するかということも 一方ではやらなければいけないと思っています。  もう1つ、リカレントのことでは、樋口委員の言われた時間の問題がありますので、 私は企業の投資を見るときには、お金だけではなく従業員にどれだけ訓練時間を与えた かを見る方がいいのではないかと思います。つまり能力開発はお金も大事ですが、やは り時間だと思います。時間さえあればできるということなので、教育訓練時間を従業員 1人当たりどのぐらい見てあげたのかを、もちろんそれは企業からすればお金ですが、 教育訓練にどれだけお金を付けたというよりは、1人当たり訓練時間をどれだけ提供し てあげたかを評価した方が、企業が訓練にどれだけお金をかけたかを見るよりはいいか なと思います。  もう1つは、少しずれてしまいますが、1と2の間に山川委員が言われたように現状 の課題のようなものがあった方がいいかなと思います。先ほどの、非典型の人の能力開 発ができていない、OJTが劣化している、Off−JTの訓練が落ちているなど課題 を並べて対応する方がいいと思い、そうするとこれまで挙がっていない課題ですと先ほ どの中高年にも関わるのですが、企業からすると、今日本に提供されていない能力開発 のプログラムというと、部長層以上をターゲットとした教育訓練です。もちろん社会人 大学院のような長いコースはあるのですが、それぞれの企業のニーズに合ったオーダー メードの教育でかなりレベルの高いもの、例えば慶応のビジネススクールがやっている ものだと思うのですが、ああいうニーズが特に大手企業ですごく高まっています。それ は日本の大学もあまり提供していませんが、多分提供できるのは大学だと思いますの で、社会人大学と同時にもう少し企業との連携で、今まで実務能力だけでやってきた人 達に少し理論的に企業経営できるようなものを教えるような。もちろんそれ以前にMB Aを取ってくる人が出てくるにしても、もう少し30代後半から40代の初めぐらいの人に 半年ぐらい、月に1、2回行うような教育は企業のニーズが高いので、そのようなこと が課題としてあるのではないかと思います。 ○黒澤委員  論点整理(案)の課題を含めて今後のセクション2に入ることは私も賛成ですが、こ のセクション2の(1)の「関係者に求められる役割について」のところで、2が職業 能力開発の在り方についてなのですが、ここのニュアンスに少し違和感があります。役 割についてというのは、労働者はこうあるべき、企業はこうあるべきということを言い たいのか、どのように解釈したらいいのかをお伺いします。国としてどのような介入が できるかを考えるときに、1つの理想型のようなものをいうのであれば、例えば企業と 教育訓練機関との間をつなぐ組織、企業でどういった訓練、技能を必要としているかと いうニーズを教育訓練機関が吸い上げるような組織というもの、海外ではいくつか例が ありますが、そういった組織があった方がいいのではないか。このようなことは1つの 政策として考えることはできると思いますが、それをここに入ってくるようなこととし て捉えてよろしいのかどうか。その辺りのニュアンスが分からないので教えていただき たいのが1点です。  それから施策の方向性についてですが、このまとめ方もこれから議論していかなくて はいけないと思うのですが、先ほどお話がありましたように属性別に自己啓発の支援を どうするべきなのかを議論する場合でも、支援の仕方ということでセーフティネットの 訓練にも関わってくると思います。いわゆる個人に支援をするのか機関に支援をするの か、公共という形で直接提供するのかによって、インプリケーションが違ってきます。 ですから、この施策の方向性の中でどのような形で分けていくのか、どういった観点か ら施策を考えていくのかについて、少し難しいとは思いますが、今のところどのような 考えがあるのかを伺いたいと思います。 ○総務課長(妹尾)  お答えになるかどうか分かりませんが、まず1点目の関係者に求められる役割につい ての整理の考え方ですが、ここで書きましたのは、能力開発を考える際に能力開発の舞 台の上にいるプレイヤーとして、一体どういう人が考えられるのだろうかと。当然労働 者があり、企業があり、訓練機関、行政、その他があるということで書いたものです。 職業能力開発ですので、究極の対象者が労働者であることは間違いありませんが、例え ば労働者について言えば労働者個人が自分の能力開発を進めるために何が求められるの かという切り口があり得るのだろうと思い、一応整理をさせていただいたところです。  黒澤委員が今おっしゃった、企業と教育訓練機関の間のニーズを把握し、教育訓練機 関に提供するような仕組みについてはどうかというご指摘がありましたが、もちろん教 育訓練、能力開発の舞台を考える際に必要であろうと思いますので、当然分析の対象に していくことを是非お願いしたいと思います。  それから施策の方向性や支援の対象をどういった観点から考えていくかですが、これ も非常に難しいご質問だと思います。事務局としては、こうあるべきだ、と方向性を縛 ったり狭くすることは議論の際には必要ないと思いますので、広い観点でいろいろな切 り口で議論していただければいいと思っています。それは企業についても労働者個人に ついても同じだろうと思いますので、是非幅広い議論をいただければと思います。 ○上西委員  私も今の黒澤委員のご指摘に同感でして、1と2の間に現状の課題が入るのであれ ば、3のところは今のそれぞれの課題に関係者や施策がどのように対応していくかとい う形で構成したほうがいいと思います。プレイヤーがあって主要施策があって、それを どうするかという発想ではなく、逆に今新たに起きているいくつかの課題に対して、既 存のプレイヤーや既存の施策をどう変えてどう対応していけるかという形の捉え方が必 要ではないかと思います。 ○諏訪座長  1つのお考えだと思います。これについては、今ここで事務局からお答えいただく必 要はありませんので次回までに少しご考慮いただくことにしまして、本日はいわば骨格 をつくる基礎的な作業ですので、これ以外に思い付かれたことがありましたらお願いい たします。 ○佐藤委員  (2)のところの施策の方向性で、教育訓練の在り方と並べて職業能力評価制度の在 り方が大きく挙がっているのは、1の社会情勢の変化と課題を踏まえて、職業能力評価 制度全般としてどのような見直しが必要かを議論した方がいいということですね。そう すると、公共職業訓練などもありますよね。担い手としては出てきますが、行政が既に やっているものも個人や企業のニーズに合わせてどうするかという議論はした方がいい のですか。 ○総務課長(妹尾)  その点についても是非お願いしたいと思っています。(2)の(1)の教育訓練の在り方 のところで、公共職業訓練について議論しないという趣旨ではなく、(1)のプレイヤ ーのところで行政(国、地方)と書いてあるように、国なり地方が直接プロバイダとし て作用している公共職業訓練についても、課題なり方向を是非ご議論いただきたいと思 っています。 ○樋口委員  論点整理の中で職業能力開発がなぜ必要かというフィロソフィーをどう位置づけてい くかとソフィスケートしたようなものがあると、なぜ今この職業能力開発に新たな視点 を求めていくのかがはっきりしてくるかと思います。その上でこのような社会環境の変 化があり、どこで今問題が起こっているのか、何が課題なのか。その課題は、多分ここ では職業能力開発ということで民間企業を想定して議論をしているのだろうと思います が、公務員は人事院で議論すればいいのでしょうが、最近ではNPOやNGOの問題が 出てきています。ここでの人材開発、職業とは何かという大論争から入ってしまうわけ ですが、その問題は従来と同じような民間に限定して議論するのか、それとも社会とし ての人づくりですか。結果としてそれが職業に結び付くこともあれば、中にはNPOの かなり高度な仕事をするようなボランティアに結び付けていくのかというようなところ で、書き方が大分違ってくるのではないかと思います。対象者をあくまでも民間企業の 雇用者あるいは経営者に限定していくのか。広く社会の人づくり、その結果として大部 分は役立つでしょうし、それだけではなく、必ずしもプライベートなプロフィットオー ガナイゼーションだけではなく、NPOやNGOでも活躍することもあるだろうし、と いうことにしていくのかはどうでしょうか。人数的にはすごく増えていますし、特に高 齢者の定年の問題を考えていくときにも重要なポイントになってくると思うのですが。 ○総務課長(妹尾)  その点についても、ここで委員の方々にご議論いただいてそれが重要だということで あれば、当然議論の対象にしていただいてしかるべきだと思います。今樋口委員がおっ しゃいましたように、NPOなりNGOが雇用の受け皿として拡大してきていますの で、職業能力開発と言う以上、日本人の相当の人がNPO、NGOで働くことが増えて きている現状を考えますと、当然そこでどのように能力開発が行われていくかというこ とも議論の対象として入ってくるのが当然ではないかと私は思っていますが、そこを含 めてご議論いただければいいのではないかと思います。 ○樋口委員  私の関心から言うと、入れたほうがいいのではないかという意見。もう1つは、非正 規社員といったときは、雇用者を想定しているのです。自営の開業に伴う人材のつくり 方というのも、当然職業能力なのですね。ここでは、昔から労働省マターとしては、労 働者というかエンプロイーを対象とするという限定があったと思うのです。ところが、 片方で自営の開業率が下がっていることを考えたり、あるいは、自営独立するための教 育訓練をやっておくと、1回開業してもそんな簡単には倒産しないという事例も出てき たりする中において、そこまで含めてやると。従来とはちょっと違う人づくりだという ようなところが出てくるのではないかと思います。 ○諏訪座長  今の点もおそらく妹尾課長に代わってお答えすれば、皆様が議論してくださるならば 入れるというふうにきっとなるのだろうと思いますが、私自身は、職業能力という以上 は、雇用者能力開発だけではないはずだと同じように思っておりますし、また、労働市 場としては、非常に近接している部分がいっぱいあるわけでして、その間をしかも人々 が行ったり来たりしている。  一生の間では、実はいろいろ部門を渡っていくということが、これからますます高ま ると考えますと、まさしく職業という視点でこれらを串刺しにするような政策を構想し つつ、厚生労働省では、そのうちのここを扱うという議論の仕方の方でいいのではない か。厚生労働省でも、例えば、在宅就業みたいな問題にはすでに施策に踏み込んでいま すから、テレワークだとか、一部のSOHOみたいなものも視点に入れてよろしいのか なという感じがしております。  ただ、公務員は直接は扱えませんが、全体の中ではやはり公的な部門をどうするか。 実は、特に地方公務員の場合は、公務員問題を議論しなければNPOの議論ができない のですね。どのように振り分けていくかという問題ですから、官の側が全部抱え込んで いて何もしないで、どこかから寄付金をもらってあなたたちNPOやってよと言った ら、いつまでたってもNPOは社会的に大きくなることは困難でしょう。雇用の受け皿 などと本当に言っていいのかというのが実情だろうと思いますから、NPOあるいはN GO、これを本格的に育てようと思うならば、実は相当程度踏み込んだ官の機能の見直 しということが反対側にあるのではないかと思っています。我々としては、職業能力と いう視点から少し全体を考えてみて、日本の国力を支える非常に重要な人的資源という 部分に関して、我々が1つのフィロソフィーを打ち出し、そしてその中における雇用者 の能力開発を中心に対応策を考えていく。このようになるのかなという感じがしていま す。 ○山川委員  付随的なことで、先ほど類型ごとの、ということがありましたけれども、やはり、か なり違う側面があるような気がしまして、社会インフラの整備みたいな意味での能力開 発を図る部分と、それから人材の高度化という意味での能力開発を図る部分と2つ、そ れだけではないのですが、単純に言うと例えばそういう異なる側面があり得るのではな いかと思います。先ほどのOJTのことが気になっていて、どちらかというと、それは 後者の高度化に資するものかと思うのですが、それは結局雇用機会均等法のときの話に もありましたように、人材の配置とか異動の問題としての側面が強いものですから、そ れも議論に入れるかどうかで、何らかの形で入れたほうがいいと思いますが、キャリア 権とか、すでに若干そういう発想に基づいた規定もできているので、それを更に具体化 するための措置としてどういうものがあるのか。OJTは確かに余裕も少なくなってい て、かつ人を減らすだけ減らしてしまうと、もうそういうことを考える間もなく配置を したりしていることがたぶんあると思います。若干、景気がよくなってきたので、その 辺りもうちょっとより良い方法があるかどうか考えてもよさそうな気がします。 ○佐藤委員  企業内の能力開発を考えるときに、能力開発だけ取り上げて議論できるかどうかとい うことがあって、上西委員が言われたことにも関わるのですが、企業の人材活用の在り 方とある程度併せて議論せざるを得ないかなという気がします。つまり、技能形成にも 関わるのですが、この仕事に必要な技能は、社内で蓄積していく必要があるのか。これ は、直用でかなり長期でやるとか、これは汎用的なスケールだから、例えば派遣でやる とかアウトソースするなどの判断があって、どういう人を人材育成しなければいけな い、人的検討をしなければいけないと決まるわけですね。ところが、今問題になってい るのは、人材活用の在り方が場当たり的なわけです。そこを見直さないと実は技能継承 をしてくださいと言っても、そうすべき人が外に出たりしているということがあるの で、どういう人材を社内で育成していく必要があるのかないのかということを考えなが ら、人材活用の選択肢を選んで、その上で社内で育成する、外で即戦力、あるいはアウ トソースするということを考えなければいけないので、もしかしたら、人材活用の在り 方とセットで考える。特に、今後は中で育てると言ったときに、OJTにすれば先ほど の異動の問題とか、あと管理職の部下育成のところの仕組みができるような、少し管理 職がゆとりを持った仕事のさせ方をするにはどうするのかというようなことまで議論し なければいけないので、能力開発からちょっと広げて議論をしたほうがいいかなと思い ました。 ○諏訪座長  非常に有益なご指摘だろうと思います。今日は、幸か不幸か委員の出席がやや少ない ので、1人頭の持ち時間がたくさんございます。この際、思いのたけをと思っておりま すので、よろしくお願いします。何か指名するのは、おこがましいですが、常日頃から の発言時間の少ない順に、この際は指名さしていただきまして、上西委員、何かお気づ きの点やお考えの点はありますでしょうか。 ○上西委員  ちょっと発言がしにくいなと思っておりますのは、この議論がどう収束していくのか というのが、よく見えないのですね。今回、論点を出してという話なのですが、では、 論点を出して、それについて今後どういう形で考えていき、最終的にそれはどう活かさ れていくのかというイメージが共有できてないのではないかと思うのですが。 ○諏訪座長  すごくいい質問だと思いますから、これはちょっと事務局側から今日段階で話してい ただけるような見通しをお願いいたします。 ○総務課長(妹尾)  いろいろご指摘をいただいた点について、論点整理(案)の中に織り込んでいくとい うことですが、少なくとも何点かいただいた中で、現状の問題点なり課題を整理し、そ れに応じた今後の議論をしていくべきだというご指摘があったかと思うのですが、そこ は盛り込んでいきたいと思います。  そういう現状の問題点などを、私ども事務局なりに整理をして出した上で、それにつ いても少し議論をしていただいて、その問題点についての問題意識が共有されれば、そ の問題点をクリアするための方向性なり、施策の在り方ということについてのご議論が していただきやすくなるのではないかと思っております。その問題点が明らかになれ ば、例えば先ほど言いました舞台の上でのプレイヤーのそれぞれの役割が、いま何が問 題であって、将来どうあるべきかということのご議論もしやすくなるでしょうし、その 企業、例えば労働者なり企業に求められる役割をより促進するという意味での政策の在 り方、直接的な助成金を出すのか、補助金を出すのかという在り方とか、それから直接 的ではない、よく私ども環境整備と言いますが、周辺的な環境を、社会的な環境をどう 整備していくかということについての政策の方向性などについてもご議論をしていただ きやすくなるのではないかと思います。  そのほか、そういうふうにできれば、今後もご議論をお願いしていきたいと思ってお りますが、そういうご議論により刺激をしていただくようなご指摘を今いただければ、 次回以降になるべく盛り込んでいきたいと思っております。 ○上西委員  論点は多分いくつかこの場で共有できると思うのですね。ただ、論点が共有できたと きに、現状認識まで共有できるかというと、そこはすごく難しくて、その論点に関し て、実際のところどうなのだろうというのは、それこそ調査をしたり、何年かかけて検 討したりしないと、ではその論点に対してどういう対策が必要なのだということは、簡 単には出てこないと思うのです。論点が明らかになったから、政策の方向性も明らかに なるとは、到底つながるとは思えないので、そこの間をどう埋めるのか、あるいは埋め ないで、とりあえずその論点を共有するところにとどめるのか、その辺りの収束が見え ないと思うのですが。 ○総務課長(妹尾)  仮にご指摘いただいた論点の中に、今日出した資料なり、それからいろいろな文献を 調査した上で、ある程度データが準備できお示しをし、いまそれに基づいた議論を動か していただけるようなものもあるでしょう。そういうものについては、議論していただ くことで、施策の方向性というものもおぼろげながら形が見えてくるのではないかと思 います。確かに上西委員がおっしゃいましたように、問題点なり現状の課題という中で は、さらに調査をし、もう少し議論を深めないといけないものもあろうかと思います。 そういうものについて、すぐに結論を出すというのは当然無理ですので、仮に報告書を まとめるということであれば、報告書の中で問題点として記述をしていくということ で、この研究会で議論をしていただく意義はあるのではないかと思っております。すべ てについて、すぐ施策的な結論を求めることは必要ないというか、それは当然無理では ないかと思っています。 ○諏訪座長  今のやりとりは非常に重要なやりとりだったと思うのですが、我々の研究会は「今後 の在り方に関する研究」ということですので、職業能力開発が抱える広がりとか深さ、 課題というものをまず描き出して、グランドデザインを描いてみる。その過程ではフィ ロソフィーみたいなもの、そうしたこれからの職業能力開発を貫く柱みたいなものを考 えてみる。しかし、それらは今直ちにすぐ施策につながるという、あるいは施策として できる問題ばかりではないので、そうしたものはそういうものとして、更に調査とか議 論を積み重ねる。しかし、今すぐやれるようなこと、あるいはやるべきものが浮かび上 がってきたならば、それについては行政側としても受け止めて考えてみるという、この ようなお答えだったのかと思います。  だとしますと、我々としては、単に言いっ放し議論しっ放しということでもないとい うことが期待できるわけですので、是非、先生方にはその必要最低限不可欠な喫緊の課 題というような問題、それから、もう少し1、2歩先へ進んだ課題などということも議 論していただくと同時に、更に今後10年、20年ぐらいを見通したような、やや長期の課 題といった点についても、今後ご議論をいただく、これらがうまく収まるように、報告 書では、事務局のほうに鋭意整理をしていただくということにしたいと思います。  となりますと、今日の議論だけでも、まだ足りないようなことがいくつもあるような 気がするのですが、いかがでしょうか。 ○山川委員  ある程度大きめの議論ができるとしますと、そもそも能力開発を国なりが政策として 実施する場合に、どういう手法があり得るのかという議論も入ってくるのではなかろう かと思います。先ほど、樋口委員から減税、税控除の措置という点もありましたが、こ れまではわりと補助金が中心で、あと1つ義務付け、あるいは努力義務という形が、こ れまでのスキームだったと思うのですが、それ以外にどういうスキームがあり得るか、 直接制度化するのが難しいようなものも含まれるとしても、そこでは上西委員はお詳し いかもしれませんが、外国における能力開発のスキームを整理して、広く見て能力開発 の手法にはどういうものがあり得るのかということを、基礎的な資料として検討すると いうことは、考えられるのではないかと思います。 ○諏訪座長  非常に重要なポイントだと思います。 ○樋口委員  教育訓練機関という項目が「関係者に求められる役割について」の中で挙がっている のですが、これに関して、従来想定されていたのが、例えば学校教育であれば、中学・ 高校・大学という配分、あるいは短大も入れるかもしれません。これに、プロフェッシ ョナルスクールをどう入れていくのかというのが、新しい問題として、専門大学院の役 割。もう1つ、これは関係者がいっぱいらっしゃいますので、ヒアリングするまでもな いかもしれませんが、どう考えたらいいのと、能力開発という意味ですね。  もう1つ、私がいつも統計を使う上で困っているのが、専門学校の扱いが、厚生労働 省の統計の中で、すっきりしないところがあるのですね。例えば、いただいたこの参考 資料Iの11頁、経済社会情勢の変化で、新卒者の早期離職率の動向、これも大体中・高 ・大となっていまして、専門学校というのは、どこに仕切られているかというのがわか らない。あるいは、これだけではなくて、賃金構造統計基本調査におきましても、短大 というのがあるのですが、専門学校というのは、相当数いると思うのですが、どこに行 ってしまったのかなというのが、説明を読んでもわからないところがあって、専門学校 という能力開発機関を、どう厚生労働省の施策として位置づけているのか。特に最近で すと、民間と公的部門の教育訓練のやりとりを見ていると、ここをかなり活用するとこ ろもあるわけですよね。そこはどうなっているのか、まずは事実問題として、統計上、 どう扱っているのか教えていただけますか。 ○総務課長(妹尾)  すみません、統計的な扱いの上では専門学校がどうなっているのかは、ちょっと調べ ないとすぐにはわからないのですが、考え方としては、教育訓練機関の中で、専門学校 なり各種学校もそうかもしれませんが、これらが非常に重要になってきていることは間 違いないと思っています。能力開発を進める上で、どういう役割を専門学校に求めるか ということは、今後是非考えていかなければいけないと思っております。 ○佐藤委員  今の、統計上難しいのは、企業がどう格付けているかというのがばらばらなのです ね。専門学校卒というのを全然見ていないところもあれば、あるいは高校を出て2年と いうと、高校卒2年目のところに格付けるとか、ばらばらなので、例えば賃金構造統計 基本調査で取ったときに、専門学校卒だけど、その人は高卒としてその企業は書いてな ければ高卒のところだけなのですよ。ですから、それは統計の方の問題はあるのです が、企業が企業内であるいは採用するときにどう扱うか、まだばらばらなのですね。そ れで取りにくいというのがあると思います。 ○樋口委員  ただ、我々がアンケート調査やるときには、専門学校という項目を設けるとちゃんと 答えてくれるのですよ。 ○佐藤委員  個人がね。 ○樋口委員  個人もそうですし、企業の方のアンケート調査でも答えてくれます。ところが厚労省 の統計になると、その項目がなくなってしまうという感じがしていて、多分、どこかに 入っているのですよ。 ○佐藤委員  雇用管理調査は聞いているのですよ。賃金構造統計基本調査はない。だからデータに よります。雇用管理調査は、いくつかやっていると思いますね。 ○樋口委員  賃金体系とかという話もわからないし、たぶん人数からして、これはどこかに入って いるのですよね。 ○佐藤委員  雇用保険上は取れないのではないですか。たぶん、そういう学歴は聞いてないのでは ないですか。専門学校卒というデータを取ってないのではないですか。 ○諏訪座長  これは宿題にしておいて、少し本格的にこの際調べてみて、どこに一体埋もれてしま っているのかということなど、わかる範囲で次回にでも、宿題をお答えいただければと 思います。 ○黒澤委員  先ほどの「必要となる施策の方向性について」の切り口をどうするかという話なので すが、いわゆる能力開発活動、全般への介入の在り方としてどういうものが考えられる か、という側面から入っていくのも、1つの在り方かなと。例えば、訓練を直接に提供 するというやり方がまず1つあって、いわゆる公共訓練ですね。それから、1998年まで ほとんどこれであった企業内訓練の促進という形で、企業内訓練の支援で、その中に先 ほどの減税の話も入ってくるだろうし、補助金の話も入ってくるだろうし、いわゆる努 力義務とかそういった規制で入ってくる可能性もある。  3つ目は、自己啓発の支援ということで、これは個人への補助ですよね。ここには、 時間の支援ということも考えられると思いますが、いわゆる教育訓練給付制度のような 形のものがここに入りうる。それをバウチャーのような形で発展させるという場合もそ こに入りうるということですね。  大きく分けると3つ目が一番大きくなると思うのですが、これが先ほど山川委員が 「社会インフラ」とおっしゃっていた情報整備に入ると思います。この情報整備の中に は、ここの(3)にあるようないわゆる職業能力開発を行うに当たっての相談・情報提供 という形でのいわゆる訓練プログラムについての情報。それと同時に労働市場の将来的 な需給情報、それからキャリア相談とか、そういったものが入ってくるような情報とい う枠組みが1つ、それからもう1つが能力情報の流通という意味での、ここで言った ら、能力評価制度の在り方になるのでしょうが、これはもうちょっと突っ込んで言え ば、別に資格化とかそういったことをしなくても、例えば民間の人材ビジネスを活用し た形での市場への流通のさせ方というのも、ここに入るという形で、そうやって見てい くと、案外包括的に見えるかなと思います。1つだけ、その枠組みの中でやるとして も、ちょっと是非組み込んでいただきたいなと思うのは、例えば、今やはり職業能力開 発ということだけと見ているような気がするのですが、それと職業紹介とのリンクのよ うなところも、非常に重要なポイントだと思うのですね。そういう角度からの見方とい うのも、必要かなと思いました。 ○佐藤委員  もう少し働く人からみて、それぞれの企業がどの程度能力開発に熱心なのかというの は、そういう情報は流通できないかなと思っていて、会社を選ぶとすれば、能力開発機 会というのは大事な労働条件だと思うのですが、非常に見えにくいです。ですから、先 ほど言ったうちは教育訓練投資どのくらい使っているのでは困るかもわからないけれど も、何か教育訓練の機会を社員にどのぐらい提供しているかというのを、外に見えるよ うな会社を選ぶときにわかるような仕組みを整備するのが大事で、例えば新卒の求人案 内にこんなものを載せるといいですよみたいなことをやるとか、あるいは、教育訓練熱 心な企業を表彰してあげてもいいと思うのですが、そのときに、どういう会社が熱心な のかということを少し考えなければいけないと思うのです。お金の問題もあるかもわか らないし、教育訓練時間の問題もあるかもわかりませんし、プログラムを評価するとい うのがあるかもわからないが、何かそのような工夫というのも大事なのかなと思いまし た。 ○諏訪座長  全く同感ですね。アメリカ、ヨーロッパでは、とりわけ若い人はどれぐらい教育訓練 をしてくれるかということで企業を選ぶ傾向がある。あるいは企業がリテンション方策 でせっかくいい人材がきたときに確保し続けておけるためには、その後のキャリア開 発。これも教育訓練の1つ、広い意味でなるのですが、その可能性、どんな仕事をいき いきとやれる、難しい仕事をやれるのかということで、人材が集まってくる。その場合 には、必ずしも給与みたいな直接的な処遇だけではないと言われている。例えば、基準 法の中には労働条件の開示というのがあるわけですが、中・長期的なキャリア展開だと か、キャリア発展の可能性、訓練の可能性、こうしたものを開示できるようになってき ますと、ずうっと企業を選びやすくなっていくわけでありまして、これは何も新卒だけ ではなくて、転職者だって一緒なのですね。  このような仕組みは、なかなか基準法サイドからの発想では出てきませんので、能力 開発といったようなこういう職業サイドから問題提起をしていかないといけないのでは ないかという気がしております。是非、このような視点も入れた報告書になればと思い ます。だんだん時間が迫ってまいりました。これ以外にもご指摘いただけたらお願いし ます。 ○樋口委員  私も財源のことがいつもすごく気になっておりまして、ほとんどが雇用保険財源に基 づいたものしか、能力開発に対して出されていないのではないか。自らそれの対象とい うものも、雇用保険に加入している人というのが制約として入ってくる。ところが、今 日の議論を聞いても、それ以外の人、非正規社員で雇用保険に入ってない人とか、ある いは自営として開業する人を支援するとか、あるいはプロフェッショナルスクールをど うするかという、このやり方ですね。厚労省は一生懸命一般財源を取ってこようと努力 しているのだろうと思いますが、そこに壁みたいなものがあって、いっこうに進んでい かないということがあるわけです。そういったところの問題点というのも、できれば指 摘してもらった方が、よろしいのではないかなということを痛感しております。 ○諏訪座長  これも全く大賛成です。これがネックになって、政策の手足が働かない。頭でっかち の議論だけをやってもしようがないわけでして、これまで中高年に相当のお金を注いで きましたが、ある意味で国の将来を担う若者に対して、十分に雇用政策ができなかった 理由の一つに、結局、財源の問題がございました。そういうのに比べますと、能力開発 というのは、よほどショッキングなことが何か起きませんと、例えば中高年世界ランキ ングをやりました、日本人の中高年の偏差値は37でした、こういう数字が何か出てくれ ばいいのですが、なかなかこれが出てきませんので、政治家などは動いてくれません。 それだけに、どういうふうに能力開発に向けた財源問題などを考えていくか。すぐには いい反応があるとは思いませんが、我々の研究会の中では是非忘れずに指摘をしたいな という感じがしております。 ○山川委員  先ほど黒澤委員のお話にあった職業紹介と能力開発のリンクというのは、私も非常に 賛成です。いま、お話のあった、例えば、この企業ではこういう能力開発プログラムを 提供しているということが、労働市場がだんだん好転するにつれて、かなり大きな要因 になることもあり得ると思います。1つの例は、やや余談になるかもしれませんが、弁 護士がどういう事務所に就職するか思うときに、海外に留学させてくれるというのは、 非常に大きな要因になっているのではないかと思います。それは職業紹介でそういうこ とをやるわけではなくて、弁護士会が紹介するときの情報に入っているくらいなのです が、そういうことを実現するのは、わりと簡単なような気もします。効果もあるのでは ないかということで、公共でやるのかということもありますが、もう1つの点は、民間 の能力開発ビジネスは、どれだけ活躍できる余地があるのか。その辺りは、政策の問題 にならないかもしれませんが、知識として、あるいは情報として知っておきたいなと思 います。ひょっとしたら、会社なり労働者なりでも、そういうのを知りたいと思う人も いるかもしれないので、どれだけビジネスとして有効かどうか、また、どういう企業が あるのかということも、情報としては有益かもしれないと思います。 ○黒澤委員  1点だけ。先ほど樋口委員がおっしゃった一般財源のお話なのですが、本当に私もそ う思っています。ここに「セーフティネットとしての訓練」と書いてありますが、私も アメリカなどの例を見ますと、本当に教育というのは、究極のセーフティネットだと思 うのですね。それを通して、どんな年齢でもどんな属性を持っている人間でも、やり直 しのきく社会にするということが、本当の意味での豊かな社会に移行する1つの条件で はないかと思います。そういう意味においては、まさにそういったことは是非盛り込ん でいただきたいと思っています。 ○諏訪座長  そういう関係では、例えば教育訓練機関のときに議論をすればいいと思いますが、日 本版のコミュニティカレッジみたいなもの、アメリカには1,000ぐらいあって、場所に よってはまさにセブン・イレブンみたいに一晩中やっている24時間365日やっているの があったりすると聞きますが、あのようなものを、日本の人口規模を考えれば半分に割 れば500ぐらい、国の大きさを考えればもうちょっと少なくてもいいのか。このような ものをどうやって作っていくか。いつでも、どこでも思いついたら短期のセミナー訓 練、あるいは場合によってはもうちょっと長期の、そしてそこから大学や大学院に編入 して行ったりとかいうような、こういう柔軟な形態を、職業能力開発という観点から、 どう提供できるか。しかも非常に安価ですし、また、最初にはキャリアカウンセラーな どがきちんと能力適性などを見たり、将来の仕事の希望などを聞きながら、こんな科目 を取った方がいいのではないかというアドバイスをしたりする。このような仕組みを日 本にもどうやって入れていったらいいのか。現在の雇用保険勘定だけを考えていたら夢 のまた夢になりますので、少し全体を描きながら問題提起をする。そして、当面何をす るかということで進めさせていただければと思っております。  それでは、ほぼ時間になりましたので、今日の議論はこの辺りにしたいと思います が、相当論点整理の考え方が出てきましたので、これを一度事務局で整理していただき まして、次回は「職業能力開発を取り巻く社会・経済情勢の変化」という1の部分を中 心にご議論していただく。当然、状況を議論すれば課題がそこから出てきますから、課 題にもある程度踏み込むということになろうかと思いますが、こうした議論をお願いし たいと思っております。  では次回以降の日程を事務局からお願いします。 ○総務課長補佐(佐々木)  次回の日程ですが、12月24日13時から予定させていただいております。場所について は、後ほどまたご連絡させていただきますが、それ以降の日程についても調整させてい ただきたいと思いますので、お手元の調整用のペーパーにご記入いただきまして、お帰 りの際に、また後ほど事務局のほうにお送りいただければと思います。よろしくお願い します。 ○諏訪座長  次回は奇しくもクリスマスイブの日でして、午前10時から研究会を開催させていただ きます。  それでは、本日は大変お忙しい中、ご参集いただきまして、随分立ち入った熱心なご 議論をいただきまして、ありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたし ます。